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特表2022-525300胃腸障害におけるWNTシグナル伝達の調節
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-12
(54)【発明の名称】胃腸障害におけるWNTシグナル伝達の調節
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220502BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220502BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220502BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220502BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220502BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220502BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220502BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P1/00 ZNA
A61P1/04
A61P29/00
A61P37/06
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K38/16
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K48/00
A61K31/713
A61K31/7088
C07K16/28
C07K16/18
C07K19/00
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021554693
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(85)【翻訳文提出日】2021-09-14
(86)【国際出願番号】 US2020022183
(87)【国際公開番号】W WO2020185960
(87)【国際公開日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】62/816,720
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/888,749
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519271621
【氏名又は名称】スロゼン オペレーティング, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リー, ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ルー, チェンガン
(72)【発明者】
【氏名】バリボールト, ヘレン
(72)【発明者】
【氏名】イェー, ウェン-チェン
(72)【発明者】
【氏名】シェ, リチン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, イ-チエ
(72)【発明者】
【氏名】メン, ウェイシュー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA18
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA22
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZC412
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB21
4C086ZC41
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、WNTシグナル伝達経路の調節因子を用いて胃腸障害を治療する方法を提供する。また、投与方法および医薬組成物も提供される。
【選択図】図19A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃腸障害に罹患している対象を治療する方法であって、前記対象に、操作されたWNTシグナル伝達調節因子を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記操作されたWNTシグナル伝達調節因子が、操作されたWNTアゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記操作されたWNTシグナル伝達調節因子が、操作されたポリペプチド、少なくとも一つのエピトープ結合ドメインを含有する操作された抗体、小分子、siRNA、およびアンチセンス核酸分子からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記操作されたWNTアゴニストが、一つまたは複数のFZD受容体(FZD1~10)に結合する一つまたは複数の結合組成物および一つまたは複数のLRP受容体(LRP5~6)に結合する一つまたは複数の結合組成物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記操作されたWNTアゴニストの前記結合組成物が、
a)
i)FZD5;
ii)FZD8;
iii)FZD1;
iv)FZD2;
vi)FZD7;
vi)FZD5およびFZD8;
vii)FZD1、FZD2、およびFZD7;
viii)FZD1、FZD2、FZD7、FZD5、およびFZD8;
ix)FZD4;
x)FZD9;または
xi)FZD10に結合する一つまたは複数の結合組成物;および
b)
i)LRP5;
ii)LRP6;または
iii)LRP5/6に結合する一つまたは複数の結合組成物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記WNTアゴニストが、FZD5およびFZD8に結合する一つまたは複数の結合組成物、およびLRP5またはLRP6に結合する一つまたは複数の結合組成物を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記WNTアゴニストが、FZD5およびFZD8に結合する結合組成物、およびLRP6に結合する結合組成物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記WNTアゴニストは、配列番号1、3、5、7、9、11、または13の重鎖可変配列;および配列番号2、4、6、8、10、12、または14の軽鎖可変配列を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記操作されたWNTシグナル伝達調節因子が、腸上皮を修復し、および/または発現炎症性サイトカインを低減する、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記操作されたWNTシグナル伝達調節因子が、組織標的化分子を含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記組織標的化分子は、組織特異的細胞表面抗原に結合する抗体またはその断片である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組織標的化分子が、GPA33、CDH17、およびMUC-13ポリペプチド、およびその機能的断片またはバリアントからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記WNTシグナル伝達調節因子が、炎症性分子に特異的に結合する結合組成物と共に投与される、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記炎症性分子に特異的に結合する前記結合組成物が、前記炎症性分子のアンタゴニストである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記炎症性分子の前記アンタゴニストが、TNFα、IL-12、IL-12およびIL-23、またはIL-23のアンタゴニストである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記胃腸疾患が、炎症性腸疾患である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記炎症性腸疾患が、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
胃腸障害に罹患している対象を治療する方法であって、前記対象に、組織特異的WNTシグナル増強分子を投与することを含む、方法。
【請求項19】
前記WNTシグナル増強分子が、
a.一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼに結合する第一のドメイン;および
b.組織特異的受容体に結合する第二のドメインを含む、操作された分子である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼが、亜鉛ならびにリングフィンガータンパク質3(ZNRF3)およびリングフィンガータンパク質43(RNF43)からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第一のドメインが、R-スポンジン(RSPO)ポリペプチドを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記RSPOポリペプチドが、RSPO-1、RSPO-2、RSPO-3、およびRSPO-4からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記RSPOポリペプチドが、第一のフューリンドメインおよび第二のフューリンドメインを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記第二のフューリンドメインが、野生型であるか、またはロイシンリッチリピートを含有するGタンパク質共役受容体4~6(LGR4~6)へのより低い結合を有するように変異される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記WNTシグナル増強分子が、組織標的化分子を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記組織標的化分子は、組織特異的細胞表面抗原に結合する抗体またはその断片である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記組織標的化分子が、GPA33、CDH17、およびMUC-13ポリペプチド、ならびにその機能的断片およびバリアントからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記WNTシグナル増強分子が、配列番号17、20、または23の重鎖配列および配列番号16、19、または22の軽鎖配列を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記WNTシグナル増強分子が、炎症性分子に特異的に結合する結合組成物と共に投与される、請求項18~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記炎症性分子に特異的に結合する前記結合組成物が、前記炎症性分子のアンタゴニストである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記炎症性分子の前記アンタゴニストが、TNFα、IL-12、IL-12およびIL-23、またはIL-23のアンタゴニストである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記胃腸疾患が、炎症性腸疾患である、請求項18~28のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記炎症性腸疾患が、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
胃腸障害に罹患している対象を治療する方法であって、前記対象に、操作されたWNTアゴニストおよび操作された組織特異的WNTシグナル増強組み合わせ分子を投与することを含む、方法。
【請求項35】
前記組み合わせ分子が、
a)FZD5結合組成物、FZD8結合組成物、FZD1結合組成物、FZD2結合組成物、FZD7結合組成物、LRP5結合組成物、LRP6結合組成物、およびLRP5/6結合組成物からなる群から選択される前記操作されたWNTアゴニスト;ならびに
b)一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼに結合する第一のドメイン;および組織特異的受容体に結合する第二のドメインを含む、前記操作されたWNTシグナル増強分子を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記E3ユビキチンリガーゼが、亜鉛ならびにリングフィンガータンパク質3(ZNRF3)およびリングフィンガータンパク質43(RNF43)からなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第一のドメインが、R-スポンジン(RSPO)ポリペプチドを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記RSPOポリペプチドが、RSPO-1、RSPO-2、RSPO-3、およびRSPO-4からなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記RSPOポリペプチドが、第一のフューリンドメインおよび第二のフューリンドメインを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記第二のフューリンドメインが、野生型であるか、またはロイシンリッチリピートを含有するGタンパク質共役受容体4~6(LGR4~6)へのより低い結合を有するように変異される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記組み合わせ分子が、組織標的化分子を取り込む、請求項34に記載の方法。
【請求項42】
前記組織標的化分子は、組織特異的細胞表面抗原に結合する抗体またはその断片である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記組織標的化分子が、GPA33、CDH17、およびMUC-13ポリペプチド、ならびにその機能的断片およびバリアントからなる群から選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記組み合わせ分子が、炎症性分子に特異的に結合する結合組成物と共に投与される、請求項34~42のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
前記炎症性分子に特異的である前記結合組成物が、前記炎症性分子のアンタゴニストである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記炎症性分子の前記アンタゴニストが、TNFα、IL-12、IL-12およびIL-23、またはIL-23のアンタゴニストである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記胃腸疾患が、炎症性腸疾患である、請求項34~42のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
前記炎症性腸疾患が、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
Frizzed 5(FZD5)およびFrizzled8(FZD8)に特異的に結合するポリペプチドであって、配列番号33~40のいずれかに記載されるか、または配列番号33~40のいずれかによりコードされる配列に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有する一つまたは複数の配列を含む、ポリペプチド。
【請求項50】
前記ポリペプチドが、抗体または抗体結合断片を含む、請求項49に記載のポリペプチド。
【請求項51】
前記抗体または抗体結合断片が、次の配列の組み合わせ:配列番号33および34;配列番号35および36;配列番号37および38;または配列番号39および40のいずれかに存在するCDRの少なくとも5つまたは全6つを含む、請求項50に記載のポリペプチド。
【請求項52】
前記ポリペプチドが、次の配列の組み合わせ:配列番号33および34;配列番号35および36;配列番号37および38;または配列番号39および40のいずれかに存在するCDRの六つを含み、前記CDRの一つまたは複数は、一つ、二つ、または三つのアミノ酸修飾、任意選択で、点変異、アミノ酸欠失、またはアミノ酸挿入を含む、請求項50に記載のポリペプチド。
【請求項53】
(a)FZD5およびFZD8に結合する一つまたは複数の結合ドメインであって、前記一つまたは複数の結合ドメインの少なくとも一つが、請求項49~52のいずれか一つに記載のポリペプチドを含む、一つまたは複数の結合ドメイン;ならびに
(b)LRP5、LRP6、またはLRP5とLRP6の両方に結合する一つまたは複数の結合ドメインを含む、操作されたWNTアゴニスト。
【請求項54】
配列番号7~14のいずれか一つに少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列を含む、操作されたWNTアゴニスト。
【請求項55】
(a)配列番号7に少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列および配列番号8に少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列;
(b)配列番号9に少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列および配列番号10に少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列;
(c)配列番号11に少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列および配列番号12に少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列;または
(d)配列番号13に少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列および配列番号14に少なくとも80%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項54に記載の操作されたWNTアゴニスト。
【請求項56】
a)請求項53~55のいずれか一項に記載の操作されたWNTアゴニスト;ならびに
b)一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼに結合する第一のドメイン;および組織特異的受容体に結合する第二のドメインを含む、操作されたWNTシグナル増強分子を含む、組み合わせ分子。
【請求項57】
請求項49~52のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項53~55のいずれか一項に記載の操作されたWNTアゴニスト、または請求項56に記載の組み合わせ分子を含む、医薬組成物。
【請求項58】
胃腸障害に罹患している対象を治療する方法であって、前記対象に、請求項53~55のいずれか一項に記載の操作されたWNTアゴニスト、請求項56に記載の組み合わせ分子、または請求項57に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項59】
前記胃腸障害が、炎症性腸疾患であり、任意選択で、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃腸障害、特に炎症性腸疾患の治療としてのWNTシグナル調節因子を提供する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月11日に出願された米国仮出願第62/816,729号、および2019年8月19日に出願された米国仮出願第62/888,749号の優先権を主張するものであり、各々、その全文が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
配列表に関する記述
本出願に関連する配列表は、紙媒体ではなくテキスト形式で提供され、参照により本明細書に組み込まれる。配列表を含むテキストファイルの名前は、SRZN_014_02WO_ST25.txtである。テキストファイルは、2020年3月11日に作成され、約102KBで、EFS-Webを介して電子的に提出されている。
【背景技術】
【0004】
成人の腸上皮は、5~7日間の腺窩-絨毛通過時間に生じる細胞分裂、分化、遊走および剥脱のステレオタイプサイクルによる上皮細胞の連続的な置換により特徴付けられる。成体腸幹細胞微小環境内での増殖を制御する推定上の成長因子は、まだ完全には同定されていないが、研究は、増殖性腺窩区画内のβ-カテニン/Lef/Tcfシグナル伝達の細胞固有作用を関係付けた。
【0005】
多数の病態が、腸の細胞に影響を及ぼす。炎症性腸疾患(IBD)は、小腸と大腸のいずれかまたは両方に関与し得る。クローン病および潰瘍性大腸炎は、IBDの最もよく知られた形態であり、両方が、その病因が不明であるため、病因は不明であるため、「特発性」炎症性腸疾患に分類される。「活動性」IBDは、急性炎症を特徴とする。「慢性」IBDは、腺窩歪みおよび瘢痕の構造的変化を特徴とする。腺窩膿瘍は、IBDの多くの形態で生じ得る。
【0006】
潰瘍性大腸炎(UC)は、遠位支配を伴うびまん性粘膜疾患として結腸を巻き込む。直腸は実質的に常に巻き込まれ、連続的なパターンで直腸から近位で拡張する結腸のさらなる部分が、巻き込まれる場合がある。UCの病因は不明である。拡張したUCを有する患者は、大腸癌を発症するリスクが増加する。UCを有する患者はまた、硬化性胆管炎および胆管癌を含む肝疾患の発症リスクも有する。
【0007】
クローン病は、任意の部分の胃腸管を巻き込み得るが、最も頻繁には、遠位の小腸および結腸を巻き込む。炎症は典型的には経壁的であり、リンパ濾胞(アフタ様潰瘍)上の小さい潰瘍から深部の亀裂性潰瘍、経壁瘢痕および慢性炎症まで全てを生じ得る。症例の3分の1が肉芽腫を有し、リンパ節、肝臓、および関節などの結腸外部位も肉芽腫を有し得る。経壁的炎症は、腸のループと他の構造との間の瘻孔の発生につながる。炎症は典型的には、巻き込まれた腸の巻き込まれていない腸分離領域を伴う区域である。病因は不明であるが、感染および免疫学的機序が提唱されている。
【0008】
WNTタンパク質は、胚発生中の細胞と細胞の間の相互作用を調節する高度に保存された分泌シグナル伝達分子のファミリーを形成する。WNT遺伝子およびWNTシグナル伝達はまた、癌に関与する。WNT作用の機序の見通しは、いくつかの系:例えば、ショウジョウバエおよび線虫における遺伝学;細胞培養およびアフリカツメガエル胚での異所性遺伝子発現における生化学からである。マウスの多くのWNT遺伝子が変異しており、非常に特異的な発生異常につながる。現在理解されているように、WNTタンパク質は細胞表面上のFrizzledファミリーの受容体に結合する。いくつかの細胞質リレー構成成分を介して、シグナルは、ベータ-カテニンに伝達され、次いで、核に入り、TCFと複合体を形成して、WNT標的遺伝子の転写を活性化する。WNTタンパク質の発現は変動するが、例えば、胚組織および胎児組織における発生過程に関連することが多い。
【0009】
成人の生物におけるWNTタンパク質の生理学的機能の探索は、機能的重複性と条件付き不活性化戦略の必要性によって妨げられている。Dickkopf-1(Dkk1)は、WNTシグナル伝達に強力に拮抗する分泌タンパク質ファミリーの設立メンバーとして最近特定された(Glinkaら、(1998年)Nature 391:357~62;Fediら、(1999年)J Biol Chem 274:19465~72;およびBaficoら、(2001年)Nat Cell Biol 3:683~6を参照されたい)。Dkk1は、WNT共受容体LRP5/6と膜貫通型タンパク質Kremenの両方と関連し、生じた三元複合体は、迅速なLRP6内部移行および機能的Frizzled/LRP6 WNT受容体複合体の不存在によるWNTシグナル伝達の障害を生じる(Maoら、(2001年)Nature 411:321~5;Semenovら、(2001年)Curr Biol 11:951~61;およびMaoら、(2002年)Nature 417:664~7)。
【0010】
Tcf遺伝子座のノックアウトを有するトランスジェニックマウスは、後期胚発生中の小腸における増殖性幹細胞区画の喪失を示す。しかしながら、ノックアウトは、致死性であり、故に、成人では研究されていない。成人の解析を可能にするキメラトランスジェニックマウスでは、構成的に活性なNH2切断型β-カテニンの発現は、小腸腺窩における増殖を刺激するが、NH2切断型β-カテニンまたはLef-1/β-カテニン融合物のいずれかは、同様に、腺窩アポトーシスの増加を誘発した。多様な因子が、非Frizzled GPCRおよびPTEN/PI-3-キナーゼを含む、β-カテニン/Lef/Tcf依存性転写を調節するため、腸幹細胞欠損の原因は分かっていない。腸上皮成長の制御のための薬理学的な薬剤の開発は、臨床目的にとって非常に興味深いものである。
WNTアゴニストの探索は、それらが、本来可溶性の拡散可能な分子ではないという事実によって妨げられている。本発明は、特定のFZD受容体を介して、操作された可溶性WNTアゴニストを用いてWNTシグナル伝達を特異的に調節し、特異的影響である上皮再生を達成する方法を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Glinkaら、(1998年)Nature 391:357~62
【非特許文献2】Fediら、(1999年)J Biol Chem 274:19465~72
【非特許文献3】Baficoら、(2001年)Nat Cell Biol 3:683~6
【非特許文献4】Maoら、(2001年)Nature 411:321~5
【非特許文献5】Semenovら、(2001年)Curr Biol 11:951~61
【非特許文献6】Maoら、(2002年)Nature 417:664~7
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、胃腸上皮増殖、特に、炎症性腸疾患における胃腸上皮増殖を制御するためのWNTアゴニストの使用に、一部、基づく。
【0013】
一実施形態では、本発明は、対象に、操作されたWNTシグナル伝達調節因子を投与することを含む、胃腸障害に罹患している対象を治療する方法を提供する。ある特定の実施形態では、WNTシグナル伝達調節因子は、操作されたWNTアゴニストである。さらなる実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、操作されたポリペプチド、少なくとも一つのエピトープ結合ドメインを含有する操作された抗体、小分子、siRNA、およびアンチセンス核酸分子からなる群から選択される。別の実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、一つまたは複数のFZD受容体(FZD1~10)に結合する結合組成物および一つまたは複数のLRP(LRP5~6)受容体に結合する結合組成物を含む。なおさらなる実施形態では、操作されたWNTアゴニストの結合組成物は、FZD5、FZD8、FZD1、FZD2、FZD7、FZD5、8、FZD1、2、7またはFZD1、2、7、5、8;FZD4;FZD9;またはFZD10に結合する一つまたは複数の結合組成物;およびLRP5、LRP6、またはLRP5および6に結合する一つまたは複数の結合組成物を含む。さらなる実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、FZD5および/またはFZD8に結合する一つまたは複数の結合組成物;ならびにLRP5および/またはLRP6に結合する一つまたは複数の結合組成物を含む。なおさらなる実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、FZD5およびFZD8に結合する結合組成物、ならびにLRP6に結合する結合組成物を含む。さらなる実施形態では、WNTアゴニストは、配列番号1、3、5、7、9、11、または13の重鎖可変配列;および配列番号2、4、6、8、10、12、または14の軽鎖可変配列を有する。別の実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、腸もしくは結腸における炎症性サイトカイン発現を低減し、および/または腸上皮を修復する。一部の実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、組織標的化分子を含む。さらなる実施形態では、組織標的化分子は、組織特異的細胞表面抗原に結合する抗体またはその断片である。一部の実施形態では、組織標的化分子は、細胞表面A33抗原(GPA33;代表的な配列は、NCBIポリペプチド参照配列NP_005805.1である)、カドヘリン-17(CDH17;代表的な配列は、NCBIポリペプチド参照配列NP_004054.3である)、およびムチン13(細胞表面関連(Muc-13;代表的な配列は、NCBIポリペプチド参照配列NP_149038.3である)、またはその機能的断片もしくはバリアントからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、WNTアゴニストは、炎症性分子に特異的に結合する結合組成物と共に投与される。さらなる実施形態では、炎症性分子に特異的に結合する結合組成物は、炎症性分子のアンタゴニストである。さらなる実施形態では、炎症性分子のアンタゴニストは、TNFα、IL-12、IL-12およびIL-23、またはIL-23のアンタゴニストである。ある特定の実施形態では、胃腸疾患は、炎症性腸疾患である。さらなる実施形態では、炎症性腸疾患は、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される。
【0014】
本発明はまた、対象に、組織特異的WNTシグナル増強分子を投与することを含む、胃腸障害に罹患している対象を治療する方法を提供する。ある特定の実施形態では、WNTシグナル増強分子は、a)一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼに結合する第一のドメイン;およびb)組織特異的受容体に結合する第二のドメインを含む。さらなる実施形態では、E3ユビキチンリガーゼは、亜鉛ならびにリングフィンガータンパク質3(ZNRF3)およびリングフィンガータンパク質43(RNF43)からなる群から選択される。別の実施形態では、第一のドメインは、R-スポンジン(RSPO)ポリペプチドを含む。さらなる実施形態では、RSPOポリペプチドは、RSPO-1、RSPO-2、RSPO-3、およびRSPO-4からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、RSPOポリペプチドは、第一のフューリンドメインおよび第二のフューリンドメインを含む。ある特定の実施形態では、第二のフューリンドメインは、野生型であるか、またはロイシンリッチリピートを含有するGタンパク質共役受容体4~6(LGR4~6)へのより低い結合を有するように変異される。ある特定の実施形態では、操作されたアゴニストまたはWntシグナル増強分子は、組織標的化分子を取り込む。さらなる実施形態では、組織標的化分子は、組織特異的細胞表面抗原に結合する抗体またはその断片である。ある特定の実施形態では、組織標的化分子は、GPA33、CDH17、およびMUC-13、またはその機能的断片もしくはバリアントからなる群から選択される。一部の実施形態では、WNTアゴニストは、炎症性分子に特異的に結合する結合組成物と共に投与される。ある特定の実施形態では、炎症性分子に特異的な結合組成物は、炎症性分子のアンタゴニストである。さらなる実施形態では、炎症性分子のアンタゴニストは、TNFα、IL-12、IL-12およびIL-23、またはIL-23のアンタゴニストである。一部の実施形態では、胃腸疾患は、炎症性腸疾患である。さらなる実施形態では、炎症性腸疾患は、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、対象に、操作されたWNTアゴニストおよび操作された組織特異的WNTシグナル増強分子を投与することを含む、胃腸障害に罹患している対象を治療する方法を提供する。操作されたWNTアゴニストおよび操作された組織特異的WNTシグナル増強分子は、同時または異なる時間に投与されてもよい。一部の実施形態において、対象は、重複する期間、有効量の両方を含む。ある特定の実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、FZD5、FZD8、FZD1、FZD2、FZD7、FZD5および8、またはFZD1、2、および7に結合する一つまたは複数の結合組成物、ならびにLRP5、LRP6、またはLRP5に結合する一つまたは複数の結合組成物を含み、一部の実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、組織標的化分子を含む。ある特定の実施形態では、組織標的化分子は、組織特異的細胞表面抗原に結合する抗体またはその断片である。さらなる実施形態では、組織標的化分子は、GPA33、CDH17、およびMUC-13、またはその機能的断片もしくはバリアントからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、操作されたWNTシグナル増強分子は、一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼに結合する第一のドメイン;および組織特異的受容体に結合する第二のドメインを含む。さらなる実施形態では、E3ユビキチンリガーゼは、亜鉛ならびにリングフィンガータンパク質3(ZNRF3)およびリングフィンガータンパク質43(RNF43)からなる群から選択される。一部の実施形態では、第一のドメインは、R-スポンジン(RSPO)ポリペプチドを含む。他の実施形態では、RSPOポリペプチドは、RSPO-1、RSPO-2、RSPO-3、およびRSPO-4からなる群から選択される。さらなる実施形態では、RSPOポリペプチドは、第一のフューリンドメインおよび第二のフューリンドメインを含む。なおさらなる実施形態では、第二のフューリンドメインは、野生型であるか、またはロイシンリッチリピートを含有するGタンパク質共役受容体4~6(LGR4~6)へのより低い結合を有するように変異される。さらなる実施形態では、WNTシグナル増強分子は、配列番号17、20、または23の重鎖配列および配列番号16、19、または22の軽鎖配列を有する。一部の実施形態では、操作されたWNTアゴニストおよび操作された組織特異的WNTシグナル増強分子は、炎症性分子に特異的に結合する結合組成物と共に投与される。さらなる実施形態では、炎症性分子に特異的な結合組成物は、炎症性分子のアンタゴニストである。なおさらなる実施形態では、炎症性分子のアンタゴニストは、TNFα、IL-12、IL-12およびIL-23、またはIL-23のアンタゴニストである。ある特定の実施形態では、胃腸疾患は、炎症性腸疾患である。さらなる実施形態では、炎症性腸疾患は、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、対象に、操作されたWNTアゴニストおよび操作された組織特異的WNTシグナル増強組み合わせ分子を投与することを含む、胃腸障害に罹患している対象を治療する方法を提供する。ある特定の実施形態では、組み合わせ分子は、a)FZD5、FZD8、FZD1、FZD2、FZD7、FZD5および8、またはFZD1、2、および7に結合する一つまたは複数の結合組成物、ならびにLRP5、LRP6、またはLRP5に結合する一つまたは複数の結合組成物を含む操作されたWNTアゴニスト、ならびにb)一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼに結合する第一のドメイン、および組織特異的受容体に結合する第二のドメインを含む操作されたWNTシグナル増強分子を含む。さらなる実施形態では、E3ユビキチンリガーゼは、亜鉛ならびにリングフィンガータンパク質3(ZNRF3)およびリングフィンガータンパク質43(RNF43)からなる群から選択される。一部の実施形態では、第一のドメインは、R-スポンジン(RSPO)ポリペプチドを含む。他の実施形態では、RSPOポリペプチドは、RSPO-1、RSPO-2、RSPO-3、およびRSPO-4からなる群から選択される。さらなる実施形態では、RSPOポリペプチドは、第一のフューリンドメインおよび第二のフューリンドメインを含む。なおさらなる実施形態では、第二のフューリンドメインは、野生型であるか、またはロイシンリッチリピートを含有するGタンパク質共役受容体4~6(LGR4~6)へのより低い結合を有するように変異される。一部の実施形態では、組み合わせ分子は、組織標的化分子を取り込む。ある特定の実施形態では、組織標的化分子は、組織特異的細胞表面抗原に結合する抗体またはその断片である。さらなる実施形態では、組織標的化分子は、GPA33、CDH17、およびMUC-13、またはその機能的断片もしくはバリアントからなる群から選択される。さらなる実施形態では、WNTシグナル増強分子は、配列番号17、20、または23の重鎖配列および配列番号16、19、または22の軽鎖配列を有する。一部の実施形態では、組み合わせ分子は、炎症性分子に特異的に結合する結合組成物と共に投与される。さらなる実施形態では、炎症性分子に特異的な結合組成物は、炎症性分子のアンタゴニストである。なおさらなる実施形態では、炎症性分子のアンタゴニストは、TNFα、IL-12、IL-12およびIL-23、またはIL-23のアンタゴニストである。ある特定の実施形態では、胃腸疾患は、炎症性腸疾患である。さらなる実施形態では、炎症性腸疾患は、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される。
【0017】
本明細書において開示される方法のいずれかの特定の実施形態では、WNTアゴニストは、次の:PCT出願公開第2016/040895号;米国公開第2017-0306029号;米国公開第2017-0349659号;PCT出願公開第2019/126398号;またはPCT出願公開第2020/01030号のいずれかにおいて開示されるものから選択される。本明細書において開示される方法のいずれかの特定の実施形態では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、次の:PCT出願公開第2018/140821号;米国公開第2020-0048324号;またはPCT出願公開第2020/14271号のいずれかにおいて開示されるものから選択され、その全てが、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0018】
別の実施形態では、本開示は、Frizzed 5(FZD5)およびFrizzled 8(FZD8)に特異的に結合するポリペプチドを提供し、ポリペプチドは、配列番号33~40のいずれかに記載される配列に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有する配列を含む。一部の実施形態では、ポリペプチドは、抗体または抗体結合断片を含む。一部の実施形態では、ポリペプチドは、配列番号33~40のいずれか一つに記載される配列のいずれかに存在するCDRの少なくとも5つまたは全6つを含む。一部の実施形態では、当該ポリペプチドは、配列番号33~40のいずれか一つに記載される配列のいずれかに存在するCDRの六つを含み、一つまたは複数のCDRは、一つ、二つ、または三つのアミノ酸修飾、任意選択で、点変異、アミノ酸欠失、またはアミノ酸挿入を任意選択で含む。
【0019】
関連する実施形態では、本開示は、(a)FZD5およびFZD8に結合する一つまたは複数の結合ドメインであって、一つまたは複数の結合ドメインの少なくとも一つは、配列番号33~40のいずれかに記載される配列に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有する配列を含むポリペプチドを含み、ならびに(b)LRP5、LRP6、またはLRP5とLRP6の両方に結合する一つまたは複数の結合ドメインを含む操作されたWNTアゴニストを提供する。一部の実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、配列番号7~14のいずれか一つに少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%の相同性を有するポリペプチド配列を含む。一部の実施形態では、操作されたWNTアゴニストは、配列番号7に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列および配列番号8に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列;配列番号9に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列、および配列番号10に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列;配列番号11に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列および配列番号12に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列;または配列番号13に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列、および配列番号14に少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列を含む。
【0020】
別の関連する実施形態では、本開示は、a)本明細書において開示される操作されたWNTアゴニスト;およびb)一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼに結合する第一のドメインを含む操作されたWNTシグナル増強分子;および組織特異的受容体に結合する第二のドメインを含む組み合わせ分子を提供する。別の実施形態では、本開示は、本明細書において開示されるポリペプチド、操作されたWNTアゴニスト、または組み合わせ分子を含む医薬組成物を提供する。
【0021】
関連する実施形態では、本開示は、Frizzed 5(FZD5)およびFrizzled 8(FZD8)に特異的に結合するポリペプチドを提供し、ポリペプチドは、配列番号33~40のいずれかに記載されるか、または配列番号33~40のいずれかによりコードされる配列に少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%の相同性を有する一つまたは複数の配列を含む。一部の実施形態では、請求項49に記載のポリペプチドであって、当該ポリペプチドは、抗体または抗体結合断片を含む。一部の実施形態では、当該抗体または抗体結合断片は、次の配列の組み合わせ:配列番号33および34;配列番号35および36;配列番号37および38;または配列番号39および40のいずれかに存在するCDRの少なくとも5つまたは全6つを含む。一部の実施形態では、当該ポリペプチドは、次の配列の組み合わせ:配列番号33および34;配列番号35および36;配列番号37および38;または配列番号39および40のいずれかに存在するCDRの六つを含み、CDRの一つまたは複数は、一つ、二つ、または三つのアミノ酸修飾、任意選択で、点変異、アミノ酸欠失、またはアミノ酸挿入を含む。別の実施形態では、本開示は、FZD5およびFZD8に結合する一つまたは複数の結合ドメインを含む操作されたWNTアゴニストを提供し、一つまたは複数の結合ドメインの少なくとも一つは、Frizzed 5(FZD5)およびFrizzled 8(FZD8)に特異的に結合するポリペプチド、例えば、本明細書におけるいずれかの開示物;およびLRP5、LRP6、またはLRP5とLRP6の両方に結合する一つまたは複数の結合ドメインを含む。本開示はまた、本明細書において開示される操作されたWNTアゴニスト;および一つまたは複数のE3ユビキチンリガーゼに結合する第一のドメインを含む操作されたWNTシグナル増強分子;および組織特異的受容体に結合する第二のドメインを含む組み合わせ分子を提供する。
【0022】
関連する実施形態では、本開示は、対象に、本明細書において開示される操作されたWNTアゴニスト、操作されたWNTシグナル増強分子、および/もしくは組み合わせ分子、または本明細書において開示される操作されたWNTアゴニストもしくは組み合わせ分子を含む医薬組成物を投与することを含む、胃腸障害に罹患している対象を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、胃腸障害は、炎症性腸疾患であり、任意選択で、クローン病(CD)、瘻孔形成を有するCD、および潰瘍性大腸炎(UC)からなる群から選択される。本明細書において開示される方法のいずれかは、本明細書において開示される操作されたWNTアゴニスト、操作されたWNTシグナル増強分子、および/または組み合わせ分子のいずれかを使用して実施され得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1-1】図1A~1Lは、RNAscope(登録商標)2.5HDアッセイ-レッドにより検出された、マウス小腸におけるFrizzled受容体(FZD)1、2、3、4、5、6、7、8、9および10の発現(図1A~1J)、ならびにヒト結腸におけるFZD5およびFZD7の発現(図1Kおよび1L)を示す。画像中の赤色の点の数は、FZD受容体発現レベルを示す。選択された領域の拡大図は、図1K(FZD5)および1L(FZD7)の挿入画において示される。
図1-2】同様。
【0024】
図2図2は、組織培養細胞における組み換え可溶性WNTアゴニストの活性を示す。WNTアゴニストのシグナル伝達活性を、Super TOPFlashルシフェラーゼレポーター(STF)アッセイによって試験した。R2M3-26、1RC07-03、およびR2M13-03ルシフェラーゼレポーター活性についての用量応答曲線を、グラフに示す通り、測定した。
【0025】
図3図3A~3Eは、マウス腸オルガノイド上の異なるFZD受容体特異的組み換えWNTアゴニストの活性を示す。マウス小腸オルガノイドを、R2M3-26(図3A)、18R5-DKK1c scFv(図3B)、C)R2M13-03(図3CおよびD)1RC07-03(図3D)を用いて、基礎培地中の1μM IWP2(ヤマアラシ阻害剤)の存在下で処置した。図3Eは、1μM IWP2のみで処置した対照オルガノイドを示す。F:基礎培地中で成長した通常のオルガノイド。図3A、3B、および3Eにおけるスケールバーは、200μmであり、図3Cおよび3Dは、400μmである。
【0026】
図4図4は、WNTアゴニスト処置時の細胞増殖を説明するための、抗Ki67(赤色)および抗E-カドヘリン(緑色)で染色した、100nM R2M3-26を用いた処置後のマウス小腸オルガノイドの免疫組織化学染色を示す。
【0027】
図5-1】図5Aは、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性急性大腸炎マウスモデルにおけるインビボ研究に使用される実験プロトコールの模式図を示す。赤色の矢印は、毎日の体重(BW)、糞便スコアおよび糞便潜血試験を示す。バー上にある上の矢印(4日目および7日目)ならびに下の矢印(4、5、6、7、8および9日目)は、それぞれ、週2回および1日1回の処置回数を示す。
図5-2】図5Bおよび5Cは、WNTアゴニストおよび/またはR-スポンジン2(RSPO2-Fc)の処置での経時的な体重および便スコアのグラフを示す。図5Bについて、9日目での上から下への線は、DSSなし、RSPO2-hFc/R2M3、26、毎日、RSPO2-hFc/R2M3、26、2回/週、R2M3-26(10mpk)、2回/週、RSPO2-hFc、3mpk、毎日、抗GFP、およびRSPO2-hFc、3mpk、2回/週に対応する。図5Cについて、9日目での上から下への線は、RSPO2-hFc、3mpk、毎日、RSPO2-hFc、3mpk、2回/週、抗GFP、R2M-26(10mpk)、2回/週、RSPO2-hFc/R2M3、26、2回/週、およびRSPO2-hFc/R2M3、26、毎日に対応する。週2回または1日1回のRSPO2-Fc/R2M3-26併用処置は、陰性対照と比較して、9日目にDAIを有意に改善した。R2M3-26単独および併用療法は、10日目に体重を有意に改善した(P値0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。
【0028】
図6図6A~6Eは、単独および組み合わせでのR2M3-26およびRSPO2-Fcの処置を用いた大腸炎モデルの病理画像解析を示す。
【0029】
図7図7A~7Eは、単独および組み合わせでのR2M3-26およびRSPO2-Fcの処置後の大腸炎の程度の半定量的解析を示す。R2M3-26処置は、10日目の粘膜びらん、炎症性重症度、腺窩過形成、および杯細胞喪失についての組織学スコアを有意に減少させた(P値0.05;**P値<0.01、***P値)。組織学的スコアリングを、例えば、Geboesら、(2000年)Gut 47:404~409において記載される通り、評価した。
【0030】
図8図8は、小腸の横断切片の組織学的画像を示す。R2M3-26単独は、小腸過形成を引き起こさず、一方、RSPO2-Fc単独およびR2M3-26の併用処置は、過形成を誘発した。
【0031】
図9図9A~9Jは、R2M3-26処置、RSPO2-Fc処置およびR2M3-26とRSPO2-Fcの併用処置が、IFN-γ、IL-1β、IL-12p70、およびTNF-αの血清炎症性サイトカインレベルを低減したことを示す(P値、0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。各グラフについて、左から右のバーは以下の通りである:青色-DSS処置なし;緑色-αGFP対照;紫色-R2M3-26(10mpk)、2×/週;橙色-RSPO2-hFc(3mpk)、2×/週;黒色-RSPO2-hFc(3mpk)、毎日;茶色-RSPO2-hFc(3mpk)+R2M3-26(10mpk)、2×/週;および濃青色-RSPO2-hFc(3mpk)+R2M3-26(10mpk)、毎日。
【0032】
図10図10A~10Bは、DSS誘発性急性大腸炎モデルにおける体重減少および糞便スコアを示す(4%DSS、7日間、続いて、終了まで1%DSS)。図10Aについて、10日目での上から下への線は、DDSなし、R2M3-26(10mpk)、2/週、R2M13-26(10mpk)、2/週、CO7-26 3mpk、2/週、RSPO2/R2M3-26、2/週、DSS PBS、および抗GFP。図10Bについて、10日目での上から下への線は、RSPO2/R2M3-26、2/週、抗GFP、DSS PBS、R2M3-26(10mpk)、2/週、R2M3-26(10mpk)、毎日、CO7-26、3mpk、2/週、およびR2M13-26 10mpk、2/週。DSS処置群の中で、週2回のR2M3-26、R2M13-26、および1RC07-26処置は、陰性対照(PBSまたはαGFP)と比較して、10日目に体重(図10A)および便スコア(図10B)を有意に改善した。(P値、0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。
【0033】
図11図11A~11Hは、WNTアゴニスト処置が、DSSモデルにおいて結腸上皮損傷を修復したことを示す。DSSモデルマウスの横行結腸の組織学的評価は、粘膜から漿膜まで延びる炎症、腺窩過形成、杯細胞消失および潰瘍を含む結腸上皮損傷を示した。R2M3-26、R2M13-26、および1RC07-26処置は、結腸上皮を効果的に修復し、上皮びらん、杯細胞喪失、および好中球遊走を減少する。
【0034】
図12図12A~12Hは、未処置、WNTアゴニスト、またはWNTアゴニストとRSPO2-hFcの組み合わせで処置したDSS大腸炎モデルマウスにおける小腸の横断切片を示す。R2M3-26、R2M13-26、または1RC07-3は、小腸過形成を引き起こさず、一方、R2M3-26とRSPO2-Fcの併用処置は、小腸の過形成を誘発した。
【0035】
図13図13A~13Fは、WNTアゴニスト処置が、血清および結腸組織におけるTNF-α、IL-6およびIL-8の炎症性サイトカインレベルを低減したことを示す(P値、0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。各グラフについて、左から右のバーは、以下に示される通りである。
【0036】
図14図14A~14Bは、R2M13-26処置が、DSSモデルにおいてDAIにおける用量依存性有効性を示したことを示す。週2回の0.3、1、3、10mpkでのR2M13-26処置、および週1回の1、3、10、30mpkでの処置は共に、用量応答パターンでDAIを低減した(図14B)(P値、0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。図14Aについて、10日目の時点における上から下への線は、上から下への図の凡例と相関する。図14Bについて、10日目の時点における上から下への線は、DSS抗GFP、10mpk、2/週、R2M13-26、1mpk、1/週、R2M13-26、30mpk、1/週、R2M13-26、10mpk、1/週、およびR2M13-26、3mpk、1/週と相関する。
【0037】
図15図15A~15Jは、DSSモデルマウスの横行結腸の横断面の組織学的評価を示す。結腸上皮損傷は、好中球浸潤、浮腫、腺窩過形成、杯細胞喪失および潰瘍を含んでいた(図15B)。異なる用量および頻度でのR2M13-26処置はすべて、DSS大腸炎マウスにおいて、結腸組織学の改善、上皮びらんの修復ならびに杯細胞消失および好中球遊走の減少を示した。
【0038】
図16図16A~16Cは、異なる用量および頻度でのR2M13-26処置はすべて、血清におけるTNF-α、IL-6、およびIL-8の炎症性サイトカインレベルを低減したことを示す(P値、0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。
【0039】
図17図17A~17Cは、異なる用量および頻度でのR2M13-26処置はすべて、結腸組織におけるTNF-α、IL-6、およびIL-8の炎症性サイトカインレベルを低減したことを示す(P値、0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。
【0040】
図18図18は、四つのFZD5、8特異的WNTアゴニストの活性。FZD5、8特異的アゴニストのシグナル伝達活性を、Super TOPFlashルシフェラーゼレポーター(STF)アッセイにより試験した。57SE8-26、57SB8-26、174R-E01-26および57SA10-26ルシフェラーゼレポーター活性についての用量応答曲線を、示した通り、測定し、同じアッセイにおけるR2M13-26の活性と比較した。
【0041】
図19A図19A~19Dは、急性DSSモデルにおける四つのFZD5、8特異的WNTアゴニストの有効性を示す。図19Aは、四つのFZD5、8特異的WNTアゴニストを用いた処置すべてが、DSSモデルにおいて疾患活動性指数(DAI;Geboesら、(2000年)、Gut 47:404-409)を低下させることによる有効性を示したことを示す。週2回の10mpkでのWNTアゴニスト処置は、抗GFP対照と比較して、DAIを有意に低減した(P値、0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。8日目の上から下への線は、抗GFP、57SE8-26、57SB8-26、174RE01-26、R2M13-26、57SA10-26、およびDSSなしに対応する。
【0042】
図19B図19B~19Dは、同じ用量のR2M13-26と比較した、四つのFZD5、8-特異的WNTアゴニストの処置はすべて、血清におけるTNF-α、IL-6、およびIL-8の炎症性サイトカインレベルを低減したことを示す(P値、0.05;**P値<0.01、***P値<0.001、****P値<0.0001)。
図19C】同上。
図19D】同上。
【0043】
図20図20は、MUC-13を発現するヒト腸HT29細胞株に結合する、IgG形式の抗体クローンC14(例えば、国際公開第2016168607A1号を参照)を示す。全長抗体としても発現した二つの追加のMUC-13結合剤C4およびC7(例えば、国際公開第2016168607A1号を参照)は、ヒト腸細胞HT29への特異的結合を示さなかった(図20A~20C)。非特異的結合を、MUC-13を発現しないHEK293細胞株(図20D~20F)を使用して評価した。MUC-13抗体の細胞表面結合を、FACSにより10nMで調べた。C14は、HT29細胞では明確なFACSシフトを示したが、HEK293細胞では示さず、これは、特異的結合を示唆している。
【0044】
図21図21は、MUC-13標的化変異体RSPO2(mutRSPO2)融合物のシグナル伝達活性を、HT29細胞またはHEK293細胞におけるSuper TOPFlashルシフェラーゼレポーター(STF)アッセイによって試験したことを示す。MutRSPO2は、フューリン2結合ドメインにおいてアミノ酸変異を有し、これにより、LGR1-4への結合を低減させる(例えば、国際公開第2020014271号を参照のこと)。C4-mutRSPO2、C7-mutRSPO2、およびC14-mutRSPO2ルシフェラーゼレポーター活性についての用量反応曲線を、グラフに示した通り、測定した。C14-mutRSPOは、野生型Fc-RSPO2に匹敵するEC50で、HT29細胞においてのみ、用量応答曲線の特異的な左シフトを示した。
【0045】
図22図22は、野生型RSPOを、培地中のC14-mutRSPOで置き換えたとき、ヒト小腸オルガノイドの成長を維持したことを示す。ヒト小腸オルガノイドを、RSPO-1を、示された連続希釈濃度の非上皮細胞(例えば、肝細胞)標的化mutRSPO1(ASGR1-mutRSPO1;例えば、国際公開第2020014271号;および国際公開第2018140821号を参照)(図22A~22C)または同じ濃度のC14-mutRSPO2(図22D~22F)により置き換えた基礎培地において成長させた。RSPOを含まない基礎培地中で成長させたときに観察されたものと同様に、ASGR1-mutRSPO1において成長させたオルガノイドは成長を停止し、変性し始める一方(図22G)、C14-mutRSPOは、野生型RSPOを含有するIntestiCult(商標)(StemCell Technologies)培地と類似するオルガノイド成長を維持することができた(図22H)。
【発明を実施するための形態】
【0046】
添付の特許請求の範囲を含む本明細書で使用される場合、文脈が別途明確に指示しない限り、単数形の用語である「a」、「an」、および「the」は、対応する複数形への言及を含む。
【0047】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、個々の刊行物、特許出願、または特許が、参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されたのと同程度に、参照により組み込まれる。
【0048】
I.定義。
分子の「活性」は、リガンドまたは受容体への分子の結合、触媒活性への結合、遺伝子発現を刺激する能力への結合、抗原活性への結合、他の分子の活性の調節などを記述する、または指す場合がある。分子の「活性」はまた、細胞間相互作用、例えば、接着を調節または維持する活性、または細胞、例えば、細胞膜または細胞骨格の構造を維持する活性も指す場合がある。「活性」はまた、比活性、例えば、[触媒活性]/[mgタンパク質]、または[免疫活性]/[mgタンパク質]などを意味する場合がある。
【0049】
本明細書で使用される場合、「投与する」、または「導入する」、または「提供する」という用語は、対象の細胞、複数の細胞、組織、組織オルガノイド、および/もしくは器官、または対象への組成物の送達を指す。こうした投与または導入は、インビボ、インビトロ、またはエクスビボで行われ得る。
【0050】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、抗原エピトープに特異的に結合するために必要な可変領域配列を含む単離した結合体または組換え結合剤を意味する。したがって、抗体は、例えば、特異的標的抗原に結合するなど、望ましい生物活性を呈する任意の形態の抗体またはその断片である。それ故に、最も広範な意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ナノボディ、ダイアボディ、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ならびにscFv、Fab、およびFab2を含むがこれらに限定されない抗体断片を、望ましい生物活性を示す限り、網羅する。
【0051】
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部、例えば、無傷の抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片、ダイアボディ、線形抗体(例えば、Zapataら、Protein Eng.8(10):1057~1062(1995年))、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、および抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。抗体のパパイン消化は、各々が単一の抗原結合部位を有する二つの同一の抗原結合断片、すなわち「Fab」断片と、容易に結晶化する能力を反映する意味である残留「Fc」断片を生成する。ペプシン処理は、二つの抗原結合部位を有し、なおも抗原を架橋結合可能なF(ab’)2断片を産生する。
【0052】
「抗原」という用語は、抗体などの選択的結合剤によって結合されることができる分子または分子の一部を指し、30の追加的に、その抗原のエピトープに結合することができる抗体を生成するために動物中でさらに使用することができる。一定の実施形態では、結合剤(例えば、WNT代替分子もしくはその結合領域、またはWNTアンタゴニスト)は、タンパク質および/または巨大分子の複合混合物においてその標的抗原を優先的に認識するときに、抗原を特異的に結合するとされる。
【0053】
本明細書で使用される場合、「抗原結合断片」という用語は、目的の抗原、特に、一つまたは複数のFZD受容体、またはLRP5および/もしくはLRP6に結合する、免疫グロブリン重鎖および/もしくは軽鎖、またはNanobody(登録商標)(Nab)のうち少なくとも一つのCDRを含有するポリペプチド断片を指す。これに関して、本明細書に記載される抗体の抗原結合断片は、一つまたは複数のFZD受容体、またはLRP5および/またはLRP6に結合する抗体由来のVHおよびVLのうち1、2、3、4、5、または6つすべてのCDRを含み得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「生物学的活性」および「生物学的に活性」という用語は、細胞中の特定の生物学的要素に帰する活性を指す。例えば、WNTアゴニストまたはその断片もしくはバリアントの「生物学的活性」は、WNTシグナルを模倣または増強する能力を指す。別の例として、ポリペプチドまたはその機能的断片もしくはバリアントの生物学的活性は、ポリペプチドまたはその機能的断片もしくはバリアントが、例えば、結合、酵素活性など、その本来の機能を達成する能力を指す。一部の実施形態では、機能的断片またはバリアントは、対応する天然タンパク質または核酸の活性の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%を保持する。第三の例として、遺伝子調節要素、例えば、プロモーター、エンハンサー、コザック配列などの生物学的活性は、調節要素またはその機能的断片もしくはバリアントが、それぞれ、それが動作可能に連結される遺伝子の発現の翻訳を調節、すなわち、促進、増強、または活性化する能力を指す。
【0055】
本明細書で使用される場合、「二機能性抗体」という用語は、一つの抗原部位に対する特異性を有する第一のアームと、異なる抗原部位に対する特異性を有する第二のアームとを含む抗体を指し、すなわち、二機能性抗体は二重特異性を有する。
【0056】
本書で使用される場合、「二重特異性抗体」は、クアドローマ技術(Milsteinら、Nature,305(5934):537~540(1983年)を参照)によって、二つの異なるモノクローナル抗体の化学的共役(Staerzら、Nature,314(6012):628~631(1985年)を参照)によって、あるいはFc領域に突然変異を導入するノブイントゥホール(knob into hole)または類似したアプローチ(Holligerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90(14):6444~6448(1993年)を参照)によって生成される完全長抗体であって、複数の異なる免疫グロブリン種をもたらし、そのうちどれか一つのみが機能的二重特異性抗体であるものを指す。二重特異性抗体は、その二つの結合アームのうちの一つ(一対のHC/LC)で一つの抗原(またはエピトープ)に結合し、その第二のアーム(異なる対のHC/LC)で異なる抗原(またはエピトープ)に結合する。この定義により、二重特異性抗体は、二つの別個の抗原結合アーム(特異性およびCDR配列の両方)を有し、それが結合する各抗原に対して一価である。
【0057】
「含む」とは、列挙された要素が、例えば、組成物、方法、キットなどにおいて必要とされることを意味するが、例えば、組成物、方法、キットなどを特許請求の範囲内で形成するためにその他の要素を含んでもよい。例えば、プロモーターに動作可能に連結された治療用ポリペプチドをコードする遺伝子を「含む」発現カセットは、遺伝子およびプロモーターに加えて、例えば、ポリアデニル化配列、エンハンサー要素、他の遺伝子、リンカードメインなどの他の要素を含みうる発現カセットである。
【0058】
「から本質的になる」とは、例えば、組成物、方法、キットなどの基礎特性および新規特性に実質的に影響しない、指定された材料または工程に記述された組成物、方法、キットなどの範囲の限定を意味する。例えば、プロモーターに動作可能に連結された治療用ポリペプチドをコードする遺伝子と、ポリアデニル化配列と「から本質的になる」発現カセットは、遺伝子の転写または翻訳に実質的に影響を与えない限り、例えばリンカー配列などの追加的な配列を含んでもよい。別の例として、列挙された配列「から本質的になる」、バリアントまたは突然変異体であるポリペプチド断片は、それが誘発された完全長無感作ポリペプチドに基づき、列挙された配列について、配列の境界部にプラスマイナス約10個のアミノ酸残基を有し、例えば、列挙された境界のアミノ酸残基よりも10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個もしくは1個少ない残基数、または列挙された境界のアミノ酸残基よりも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、もしくは10個多い残基数のアミノ酸配列を有する。
【0059】
「からなる」とは、請求項に特定されていない任意の要素、工程、または成分の組成物、方法、またはキットからの除外を意味する。例えば、列挙された配列「からなる」ポリペプチドまたはポリペプチドドメインは、列挙された配列のみを含有する。
【0060】
「制御要素」または「制御配列」は、ポリヌクレオチドの複製、重複、転写、スプライシング、翻訳、または分解を含む、ポリヌクレオチドの機能調節に寄与する分子の相互作用に関与するヌクレオチド配列である。調節は、プロセスの頻度、速度、または特異性に影響を与える場合があり、事実上、増強または抑制しうる。当該技術分野で公知の制御要素としては、例えば、プロモーターおよびエンハンサーなどの転写調節配列が挙げられる。プロモーターは、一定の条件下で、RNAポリメラーゼを結合し、普通はプロモーターの下流(3’方向)に位置するコード領域の転写を開始する能力を有するDNA領域である。
【0061】
「エピトープ」は、抗体が認識して結合する抗原上の特異的領域であり、また「抗原決定基」とも呼称される。エピトープは通常、タンパク質の表面上の5~8アミノ酸長である。タンパク質は3次元的に折り畳まれた構造であり、エピトープは、溶液またはその天然形態に存在するときのみ、その形態で認識され得る。エピトープが、三次元構造によって一緒にもたらされるアミノ酸からなるとき、エピトープは立体構造であるか、または非連続である。エピトープが単一のポリペプチド鎖上に存在するとき、それは連続的または直線的エピトープである。抗体が認識するエピトープに応じて、タンパク質の断片または変性セグメントのみを結合するか、または天然タンパク質を結合することも可能である。
【0062】
エピトープを認識する抗体またはその抗体断片の一部分は、「エピトープ結合ドメイン」または「抗原結合ドメイン」と呼ばれる。抗体または抗体断片のエピトープまたは抗原結合ドメインは、Fab断片にあり、エフェクターは、Fc断片において機能する。重鎖および軽鎖の可変領域(VおよびV)内の相補性決定領域(CDR)として知られる六つのセグメントは、抗体の残りのフレームワーク(FR領域)球状構造からループアウトし、相互作用して、分子の一端で露出した表面を形成する。これは、抗原結合ドメインである。一般に、CDRの4~6つは、結合抗原に直接関与するが、主要な結合モチーフを提供することができるものは少ない。
【0063】
「発現ベクター」は、本明細書に記載される、または当該技術分野で公知のベクター、例えばプラスミド、ミニサークル、ウイルスベクター、リポソームなどであり、目的の遺伝子産物をコードする領域を含み、意図された標的細胞における遺伝子産物の発現に影響を与えるために使用される。発現ベクターはまた、標的内の遺伝子産物の発現を促進するために、コード化領域に動作するように可能に連結された制御要素、例えば、プロモーター、エンハンサー、UTR、miRNA標的化配列なども含む。制御要素と、発現のために動作可能に連結される遺伝子との組合せは、時に、「発現カセット」と称され、その多数が当該技術分野で公知であり、かつ利用可能であり、または当該技術分野で利用可能な構成要素から容易に構築することができる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「FRセット」という用語は、重鎖V領域または軽鎖V領域のCDRセットのCDRの枠組みをする四つの隣接するアミノ酸配列を指す。一部のFR残基は、結合抗原と接触しうるが、抗原結合部位への、特にCDRに直接隣接するFR残基へのV領域の折り畳みは、FRが主に担う。FR内では、一定のアミノ残基および一定の構造的特徴は非常によく保存される。これに関して、すべてのV領域配列は、約90個のアミノ酸残基の内部ジスルフィドループを含有する。V領域が結合部位に折り畳まれると、CDRは、抗原結合表面を形成する突き出たループモチーフとして示される。正確なCDRアミノ酸配列に関係なく、CDRループの折り畳み形状に影響を及ぼす、一定の「正準の」構造に保存されたFRの構造的領域があることが一般的に認識される。さらに、一定のFR残基は、抗体の重鎖および軽鎖の相互作用を安定化する非共有結合ドメイン間接触に関与することが知られている。
【0065】
「個体」、「宿主」、「対象者」、「患者」という用語は、本明細書で互換的に使用され、ヒトおよび非ヒト霊長類(類人猿およびヒトを含む)、哺乳類競技動物(mammalian sport animal)(例えば、ウマ)、哺乳類家畜(例えば、ヒツジ、ヤギなど)、哺乳類ペット(イヌ、ネコなど)、および齧歯類(例えば、マウス、ラットなど)を含むがこれに限定されない哺乳動物を指す。
【0066】
「モノクローナル抗体」は、エピトープの選択的結合に関与するアミノ酸(天然起源および非天然起源)を含む、均質な抗体集団を意味する。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一のエピトープに向けられる。「モノクローナル抗体」という用語は、無傷のモノクローナル抗体および完全長モノクローナル抗体を包含するだけでなく、その断片(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)、一本鎖(scFv)、Nanobodies(登録商標)、そのバリアント、モノクローナル抗体の抗原結合断片を含む融合タンパク質、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、および免疫グロブリン分子のその他任意の修飾構成も含み、この免疫グロブリン分子は、本明細書に開示のWNT代替分子を含めた、エピトープに結合する必要な特異性および能力の抗原結合断片(エピトープ認識部位)を含む。これは、抗体の供給源または抗体が作製される様態(例えば、ハイブリドーマ、ファージ選択、組換え体発現、遺伝子導入動物などによる)に関して限定されることは意図していない。この用語は、免疫グロブリン全体だけでなく、上記で「抗体」の定義の下で記述されている断片なども含む。
【0067】
本明細書で使用される場合、「未変性」または「野生型」という用語は、野生型細胞、組織、器官または生物体内に存在するヌクレオチド配列(例えば、遺伝子)、または遺伝子産物(例えば、RNAまたはタンパク質)を指す。本明細書で使用される場合、「バリアント」という用語は、基準ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列、例えば、未変性ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の突然変異体を指し、すなわち、基準ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列との100%未満の配列同一性を有する。言い換えると、バリアントは、基準ポリヌクレオチド配列、例えば、未変性ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に対する少なくとも一つのアミノ酸の差異(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。例えば、バリアントは、完全長未変性ポリヌクレオチド配列と50%以上、60%以上、または70%以上の配列同一性、例えば、完全長未変性ポリヌクレオチド配列と75%または80%以上の同一性(85%、90%、または95%以上など)、例えば、98%または99%の同一性を有するポリヌクレオチドでもよい。別の例として、バリアントは、完全長未変性ポリペプチド配列と70%以上の配列同一性、例えば、完全長未変性ポリペプチド配列と75%または80%以上の同一性(85%、90%、または95%以上など)、例えば、98%または99%の同一性を有するポリペプチドでもよい。バリアントはまた、基準(例えば、未変性)配列の断片と70%以上の配列同一性、例えば、未変性配列と75%または80%以上の同一性(85%、90%、または95%以上など)、例えば、98%または99%の同一性を共有する基準(例えば未変性)配列のバリアント断片も含んでもよい。
【0068】
「動作するように連結」または「動作可能に連結」は、遺伝的要素の並置を指し、要素は、それらが予期される様態での動作が許容される関係にある。例えば、プロモーターがコード配列の転写の開始を助ける場合、プロモーターは、コード領域に動作するように連結されている。この機能的関係が維持される限り、プロモーターとコード領域との間に介在残基が存在しうる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。この用語はまた、修飾されたアミノ酸ポリマーを包含し、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、リン酸化、または標識化成分との共役を含む。
【0070】
「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはその類似体を含む、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含んでもよく、非ヌクレオチド成分によって中断されてもよい。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの組立の前または後に付与されうる。ポリヌクレオチドという用語は、本明細書で使用される場合、互換的に二本鎖分子および一本鎖分子を指す。別途指定または要求が無い限り、ポリヌクレオチドである本明細書に記載される本発明の任意の実施形態は、二本鎖形態と、二本鎖形態を構成することが既知であるか、または予測される、二つの相補的な一本鎖形態の各々との両方を包含する。
【0071】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、別のポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する一定のパーセントの「配列同一性」を有し、これは、二つの配列を比較するときに整列させると、その塩基またはアミノ酸のパーセントが同じであることを意味する。配列類似性は、多くの異なる様態で決定することができる。配列同一性を決定するために、配列は、ワールドワイドウェブ上でncbi.nlm.nih.gov/BLAST/で入手可能なBLASTを含む方法およびコンピュータプログラムを使用して整列させることができる。別の整列アルゴリズムはGenetics Computing Group(GCG)パッケージ(米国ウィスコンシン州マディソンにある、Oxford Molecular Group,Inc.の完全子会社)で入手可能なFASTAである。他の整列技術は、Methods in Enzymology、266:Computer Methods for Macromolecular Sequence Analysis(1996年)、Doolittle編、Academic Press,Inc.、a division of Harcourt Brace & Co.、San Diego、Calif.、USAにおいて記載される。特に興味深いのは、配列のギャップを許容する整列プログラムである。Smith-Watermanは、配列の整列のギャップを許容する、一つのタイプのアルゴリズムである。Meth.Mol.Biol.70:173~187(1997年)を参照されたい。また、NeedlemanおよびWunsch整列法を使用したGAPプログラムを利用して、配列を整列させることができる。J.Mol.Biol.48:443~453(1970年)を参照されたい。
【0072】
興味深いのは、SmithおよびWaterman(Advances in Applied Mathematics 2:482~489(1981年))の局所相同性アルゴリズムを使用して配列同一性を決定するBestFitプログラムである。ギャップ生成ペナルティは、一般に1~5の範囲であり、普通は2~4であり、多くの実施形態では3である。ギャップ伸長ペナルティは、一般的に約0.01~0.20の範囲であり、多くの事例では0.10である。プログラムは、比較するために入力された配列によって決定されるデフォルトパラメータを有する。配列同一性は、プログラムによって決定されるデフォルトパラメータを使用して決定されることが好ましい。このプログラムは、Madison、Wis.、USAのGenetics Computing Group(GCG)パッケージからも入手可能である。
【0073】
別の目的のプログラムは、FastDBアルゴリズムである。FastDBは、Current Methods in Sequence Comparison and Analysis,Macromolecule Sequencing and Synthesis,Selected Methods and Applications、pp.127~149、1988年、Alan R.Liss,Inc.に記載がある。配列同一性のパーセントは、以下のパラメータに基づき、FastDBによって計算される:不一致ペナルティ:1.00;ギャップペナルティ:1.00;ギャップサイズペナルティ:0.33;および結合ペナルティ:30.0。
【0074】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」は、RNAポリメラーゼの結合を指令し、それによってRNA合成を促進するDNA配列、すなわち転写を指令するために十分な最小配列を包含する。プロモーターおよび対応するタンパク質またはポリペプチドの発現は、ユビキタスであってもよく、これは広範囲の細胞、組織および種内で強力な活性であるか、または細胞型特異的、組織特異的、もしくは種特異的であることを意味する。プロモーターは、継続的活性を意味する「構成的」であってもよく、またはプロモーターが生物的要因または非生物的要因の存在または非存在によって活性化することも、または無効化することもできることを意味する「誘発性」であってもよい。また、本発明の核酸構築物またはベクターには、プロモーター配列と連続的であってもよく、または連続的でなくてもよいエンハンサー配列も含まれる。エンハンサー配列は、プロモーター依存性遺伝子発現に影響を与え、未変性遺伝子の5’領域または3’領域に位置しうる。
【0075】
ポリヌクレオチドに適用される場合、「組換え体」は、ポリヌクレオチドが、クローニング工程、制限工程またはライゲーション工程、および自然界に存在するポリヌクレオチドとは異なる構築物をもたらす他の手順の様々な組合せの産物であることを意味する。
【0076】
本明細書で使用される場合、「RNA干渉」とは、内因性遺伝子サイレンシング経路(例えば、DicerおよびRNA誘発サイレンシング複合体(RISC))を介して標的mRNAを分解することによって標的遺伝子の発現を減少する薬剤の使用を指す。RNA干渉は、shRNAおよびsiRNAを含む様々な薬剤を使用して達成され得る。「低分子ヘアピン型RNA」または「shRNA」は、RNA干渉(RNAi)を介して標的遺伝子発現をサイレンシングするために使用され得るヘアピンターンを有する二本鎖の人工RNA分子を指す。細胞におけるshRNAの発現は、典型的には、プラスミドの送達によって、またはウイルスもしくは細菌ベクターを介して達成される。shRNAは、比較的遅い分解速度およびターンオーバー速度を有するという点で、RNAiの有利なメディエーターである。小干渉RNA(siRNA)は、通常、miRNAと類似した20~25塩基対の長さの二本鎖RNA分子の一種であり、RNA干渉(RNAi)経路内で作用する。これは、転写後にmRNAを分解し、翻訳を防止することにより、相補的ヌクレオチド配列を有する特定の遺伝子の発現を妨害する。ある特定の実施形態では、siRNAは、18、19、20、21、22、23または24ヌクレオチド長であり、その3’末端に2塩基オーバーハングを有する。siRNAは、個々の細胞および/または培養系に導入され、標的mRNA配列の分解をもたらすことができる。本明細書で使用される場合、「モルホリノ」は、修飾核酸オリゴマーを指し、標準核酸塩基は、モルホリン環に結合され、ホスホロジアミデート結合を介して連結される。siRNAおよびshRNAと同様に、モルホリノは、相補的なmRNA配列に結合する。しかしながら、モルホリノは、分解のための相補的なmRNA配列を標的化するよりむしろ、mRNA翻訳の立体的な阻害およびmRNAスプライシングの変化を介して機能する。
【0077】
「治療」、「治療する」などの用語は、本明細書では、望ましい薬理学的および/または生理学的効果を得ることを一般的に意味するために使用される。効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に防止する、例えば、疾患またはその症状が対象者に発生する可能性を低減するという点で、予防的であってもよく、かつ/または疾患および/もしくは疾患に起因する有害作用に対する部分的または完全な治癒という点で、治療的であってもよい。本明細書で使用される場合、「治療」は、哺乳動物における疾患の任意の治療を網羅し、これには(a)疾患にかかりやすい場合があるにもかかわらず、まだ罹患していると診断されていない対象における疾患の発生の防止、(b)疾患の阻害、すなわち、その進行の阻止、または(c)疾患の緩和、すなわち、疾患の退縮の発生が含まれる。治療剤は、疾患または損傷の開始前、開始中、または開始後に投与されてもよい。治療が患者の望ましくない臨床症状を安定化または減少させる、進行中の疾患の治療は、特に興味深い。こうした治療は、罹患した組織における機能が完全に喪失する前に実施されることが望ましい。主題の療法は、疾患の症候期の間、および一部の事例では、疾患の症候期後に投与されることが望ましい。
【0078】
本発明の実施は、別途指示がない限り、当業者の範囲内にある細胞生物学、分子生物学技法、微生物学、生化学および免疫学の従来の技法を採用する。そのような技術は、文献中で、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2編(Sambrookら、1989年);「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait編、1984年);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney編、1987年);「Methods in Enzymology」(Academic Press,Inc.);「Handbook of Experimental Immunology」(D.M.Weir & C.C.Blackwell編);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M.Miller & M.P.Calos編、1987年);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubelら編、1987年);「PCR:The Polymerase Chain Reaction」、(Mullisら編、1994年);および「Current Protocols in Immunology」(J.E.Coliganら編、1991年)において十分に説明され、その各々が、参照により本明細書に明白に取り込まれる。
【0079】
本発明のいくつかの態様が、例示のための適用例を参照して以下に説明される。当然のことながら、本発明の完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細、関係、および方法が明記されている。しかしながら、当業者であれば、本発明を、特定の詳細のうちの一つまたは複数を用いずに、または他の方法を用いて実施することができることを容易に認識するであろう。本発明は、いくつかの行為は、異なる順序で、および/または他の行為もしくは事象と同時に起こる場合があるため、行為または事象の例示された順序付けによって限定されない。さらに、例示されたすべての行為または事象が、本発明に従って方法論を実施するために必要とされるわけではない。
【0080】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記述する目的のみのためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形(「a」、「an」、「the」)は、文脈が別途明確に示さない限り、複数形も含むことが意図される。さらに、「含む」(「including」、「includes」)、「有する」(「having」、「has」、「with」)という用語、またはそれらの変形は、発明を実施するための形態および/または特許請求の範囲のいずれかに使用される限りにおいて、こうした用語は、「含む」(「comprising」)という用語と類似した様態で包含的であることが意図される。
【0081】
「約」または「およそ」という用語は、当業者によって決定される特定の値について許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、値が測定または決定される方法、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、当該技術分野の慣行によれば、「約」とは、1以内、または1を超える標準偏差を意味することができる。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、さらにより好ましくは最大1%の範囲を意味することができる。あるいは、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、この用語は、値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。特定の値が明細書および特許請求の範囲に記載されている場合、別段の記載がない限り、特定の値に対する許容可能な誤差範囲内を意味する「約」という用語が仮定されるべきである。
【0082】
本明細書で言及される全ての刊行物は、その刊行物がそれに関して引用される方法および/または資料を開示および記述するために、参照により本明細書に組み込まれる。本開示は、矛盾がある限りにおいて、組み込まれた出版物の任意の開示に優先することが理解される。
【0083】
あらゆる任意的な要素を除外するように、特許請求の範囲を立案しうることが、さらに注記される。したがって、この記述は、請求項要素の列挙、または「負」の限定の使用に関連した、「単に」、「のみ」などの排他的用語を使用するための先行的基礎としての役割を果たすことを意図している。
【0084】
別途指示が無い限り、本明細書で使用される全ての用語は、当業者が使用することになるのと同じ意味を有し、本発明の実施は、当業者の知識の範囲内にある微生物学および組換えDNA技術の従来の技法を採用する。
【0085】
II.一般原則。
本発明は、クローン病、瘻孔形成を伴うクローン病、および潰瘍性大腸炎を含むが、これらに限定されない、炎症性腸疾患を含むが、これらに限定されない胃腸障害を改善するためのWNTシグナルを調節する方法を提供する。特に、本発明は、これらの障害による損傷の結果としての腸上皮の再生を強化するためのWNT/β-カテニンシグナル伝達アゴニストを提供する。
【0086】
WNT(「ウィングレス関連統合部位」、または「ウィングレスおよびInt-1」、または「ウィングレス-Int」)リガンドおよびそれらのシグナルは、骨、肝臓、皮膚、胃、腸、腎臓、中枢神経系、乳腺、味蕾、卵巣、蝸牛、肺、およびその他多くの組織を含む、数多くの不可欠な器官および組織の発生、ホメオスタシス、および再生の制御において重要な役割を果たす(例えば、Clevers、Loh、およびNusse、2014年;346:1248012によって概説される)。WNTシグナル伝達経路の調節は、変性疾患および組織損傷の治療の可能性がある。
【0087】
治療としてのWNTシグナル伝達を調節することに対する課題のうちの一つは、複数のWNTリガンドおよびWNT受容体、Frizzled 1~10(FZD1~10)の存在であり、多くの組織が複数の重複するFZDを発現する。正準のWNTシグナルはまた、FZDに加えて、様々な組織で広く発現される共受容体として、低密度リポタンパク質(LDL)受容体関連タンパク質5(LRP5)または低密度リポタンパク質(LDL)受容体関連タンパク質6(LRP6)にも関与している。
【0088】
R-スポンジン1~4は、WNTシグナルを増幅するリガンドのファミリーである。R-スポンジンの各々は、一方の末端に亜鉛およびリングフィンガー3(ZNRF3)またはリングフィンガータンパク質43(RNF43)を含有し、他方の末端にロイシンリッチな反復を含有するGタンパク質結合受容体4-6(LGR4-6)を含有する受容体複合体を介して作用する(例えば、KnightおよびHankenson 2014年、Matrix Biology;37:157~161により概説される)。R-スポンジンはまた、追加的な作用機序を通して作用する場合もある。ZNRF3およびRNF43は、分解のためにWNT受容体(FZD1~10およびLRP5またはLRP6)を特異的に標的化する二つの膜結合型のE3リガーゼである。R-スポンジンのZNRF3/RNF43およびLGR4-6への結合は、三元複合体のクリアランスまたは隔離を引き起こし、これが、WNT受容体からE3リガーゼを除去し、WNT受容体を安定化し、結果としてWNTシグナルの増強をもたらす。各R-スポンジンは、二つのフューリンドメイン(1および2)を含有し、フューリンドメイン1はZNRF3/RNF43に結合し、フューリンドメイン2はLGR4-6に結合する。フューリンドメイン1および2を含有するR-スポンジンの断片は、WNTシグナル伝達を増幅するのに十分である。R-スポンジン効果は、WNTシグナルに依存するが、LGR4-6およびZNRF3/RNF43の両方は、様々な組織に広く発現するため、R-スポンジンの効果は組織特異的ではない。
【0089】
RSPOまたはWNTアゴニストによるWNTシグナル伝達の活性化は、胃腸障害の治療に使用され得る。文献における従前の研究は、RSPOが実験的な結腸大腸炎の治療に使用され得ることを示唆している(J.Zhaoら、2007年)。WNTアゴニスト性分子は、胃腸障害の治療にも使用され得る。特に、活性WNTシグナル伝達は、主要な幹細胞維持シグナルをもたらすことができ、恒常性および損傷における腸上皮の再生を調節する上で重要な役割を果たしている。吸収型および分泌型の二つの腸上皮系統は、腸装置の二つの主な機能を定義し、分泌細胞は、ホルモンを分泌し、主に粘液および抗微生物ペプチドの分泌を通して、食物媒介性微生物、毒素、および抗原に対する重要なバリアを提供する。対照的に、吸収型の細胞は、主に小腸の絨毛の先端または結腸腺窩の先端に局在するため、食物栄養素の取り込みを行い、これにより、腸表面積にわたる管腔細胞の大部分を構成する(例えば、Santosら、(2018年)、Trends in Cell Biol.印刷中、https://doi.org/10.1016/j.tcb.2018.08.001を参照されたい)。恒常性条件下では、腸上皮内のすべての細胞は、3~10日で再生する。
【0090】
異なるニッチ因子は、ISC活性を維持し、別個の非上皮細胞および/または上皮細胞は、細胞微小環境を構成する様々なシグナルを作り上げる。このような微小環境因子には、WNT、R-スポンジン、ノッチ、および骨形成タンパク質(BMP)などの基準シグナルが含まれるが、炎症および食事の影響も含まれる。損傷時に、ISC微小環境は、その恒常性状態を超えて適応し、病原性刺激を解釈し、それらを上皮の再生へと解釈する。この再生は、生存しているLgr5+ISCまたは腸細胞、腸内分泌細胞、または上皮再生目的にLgr5+ISCに戻り得るパネート細胞などの他の成熟細胞のいずれかによって仲介される(BeumerおよびClevers、(2016年)、Development 143:3639~3649)。
【0091】
円柱基底細胞(CBC)としても知られる、腸腺窩底部の腸幹細胞(ISC)は、WNT分泌パネート細胞と共に挿入される(ChengおよびLeblond(1974年)Am.J.Anat.141:537~561)。腸上皮を取り囲む間葉細胞はまた、いくつかのWNTタンパク質を分泌し、これにより、インビボでの重複する幹細胞微小環境機能を果たす(Farinら、(2012年)Gastroenterol.143:1518~1529)。WNTシグナル伝達の存在下で、ISCは分裂して、自己再生幹細胞および機能的細胞タイプに分化する前に、まず数回の迅速な有限増殖(TA)分裂を経る、分化する娘細胞を生じる。また、腸腺窩において静止幹細胞集団である+4細胞が存在し、これは、CBCが損傷されたとき、上皮再生に関与し得る(Tianら、(2011年)Nature 478:255~259)。TA細胞は、WNT産生細胞から離れて、腺窩-絨毛軸に沿って遊走するため、個々の系統および末端分化への関与が生じる。
【0092】
一部の実施形態では、WNT/β-カテニンシグナル伝達アゴニストは、一つまたは複数のFZD受容体に結合し、WNTシグナル伝達を阻害または増強する結合剤またはエピトープ結合ドメインを含むことができる。ある特定の実施形態では、薬剤または抗体は、それが結合するヒトfrizzled受容体内のシステインリッチドメイン(CRD)に特異的に結合する。さらに、LRPに対するエピトープ結合ドメインを含有する結合剤も使用することができる。一部の実施形態では、WNT/β-カテニンアゴニストは、E3リガーゼZNRF3/RNF43に結合する結合剤またはエピトープ結合ドメインを保有する。E3リガーゼアゴニスト抗体またはその断片は、単一分子であってもよく、または他のWNTアンタゴニスト、例えば、FZD受容体アンタゴニスト、LRP受容体アンタゴニストなどと組合わされてもよい。
【0093】
当該技術分野で周知のように、抗体は、免疫グロブリン分子の可変領域上に位置する少なくとも一つのエピトープ結合ドメインを介して、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチドなどの標的に特異的に結合する能力を有する免疫グロブリン分子である。本明細書で使用される場合、この用語は、無傷のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を包含するだけでなく、その断片であって、エピトープ結合ドメイン(例えば、dAb、Fab、Fab’、(F(ab’)、Fv、一本鎖(scFv)、Nanobodies(登録商標)(Nab;sdAbもしくはVHHドメインとしても知られる)、DVD-Ig、その合成バリアント、天然起源のバリアント、エピトープ結合ドメインを含む融合タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、ならびに必要とされる特異性の抗原結合部位または断片(エピトープ認識部位)を含む、免疫グロブリン分子のその他任意の修飾構成を含む断片も包含する。遺伝子融合(国際特許出願公開第94/13804号;P.Holligerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90 6444~6448、1993年)によって構築される多価または多重特異性断片の「ダイアボディ」もまた、本明細書で企図される抗体の特定の形態である。CH3ドメインに結合されたscFvを含むミニボディも本明細書に含まれる(S.Huら、Cancer Res.、56、3055~3061、1996年)。例えば、Ward,E.S.ら、Nature 341、544~546(1989年);Birdら、Science、242、423~426、1988年;Hustonら、PNAS USA、85、5879~5883、1988年);PCT/US92/09965;国際特許出願公開第94/13804号;P.Holligerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90 6444-6448、1993年;Y.Reiterら、Nature Biotech、14、1239~1245、1996年;S.Huら、Cancer Res.、56、3055~3061、1996年を参照されたい。
【0094】
タンパク質分解酵素パパインは、IgG分子を優先的に切断していくつかの断片を産生し、そのうちの二つ(F(ab)断片)はそれぞれ、無傷の抗原結合部位を含む共有結合性ヘテロ二量体を含む。酵素ペプシンは、IgG分子を切断して、両方の抗原結合部位を含むF(ab’)2断片を含むいくつかの断片を提供することができる。本開示の一定の実施形態による使用のためのFv断片は、IgM免疫グロブリン分子、また稀にIgG免疫グロブリン分子またはIgA免疫グロブリン分子の優先的タンパク質分解切断によって生成することができる。しかしながら、Fv断片は、当該技術分野で公知の組換え技法を使用してより一般的に誘発される。Fv断片は、未変性抗体分子の抗原認識および結合能力の大部分を保持する抗原結合部位を含む非共有結合性VH::VLヘテロ二量体を含む。Inbarら、(1972年)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 69:2659~2662;Hochmanら、(1976年)Biochem 15:2706~2710;およびEhrlichら、(1980)Biochem 19:4091~4096を参照されたい。
【0095】
一定の実施形態では、一本鎖FvまたはscFV抗体が企図される。例えば、Kappa bodys(Illら、Prot.Eng.10:949~57(1997年));ミニボディ(Martinら、EMBO J 13:5305~9(1994年));ダイアボディ(Holligerら、PNAS 90:6444~8(1993年));またはジャヌシン(Trauneckerら、EMBO J 10:3655~59(1991年)およびTrauneckerら、Int.J.Cancer Suppl.7:51~52(1992年))は、望ましい特異性を有する抗体の選択に関して、本明細書の教示に従い、標準的な分子生物学の技法を使用して調製されうる。さらに他の実施形態では、本開示のリガンドを包含する二重特異性抗体またはキメラ抗体が作製されてもよい。例えば、キメラ抗体は、異なる抗体からのCDRおよびフレームワーク領域を含みうる一方、二重特異性抗体は、一つの結合ドメインを介して一つまたは複数のFZD受容体に特異的に結合し、第二の結合ドメインを介して第二の分子に特異的に結合するものが作製されてもよい。これらの抗体は、組換え分子生物学的技法を介して生成されてもよく、または物理的に一緒に共役されてもよい。
【0096】
一本鎖Fv(scFv)ポリペプチドは、共有結合したVH::VLヘテロ二量体であり、これはペプチドをコードするリンカーによって連結されたVHをコードする遺伝子およびVLをコードする遺伝子を含む遺伝子融合から発現される。Hustonら、(1988年)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 85(16):5879~5883を参照されたい。抗体V領域に由来する、自然に凝集したが、化学的に分離された軽鎖および重鎖のポリペプチド鎖を、抗原結合部位の構造と実質的に類似した三次元構造に折り畳むscFv分子に変換するための化学構造を識別するための、数多くの方法が記述されてきた。例えば、Hustonらの米国特許第5,091,513号、および同第5,132,405号、ならびにLadnerらの米国特許第4,946,778号を参照。
【0097】
一定の実施形態では、本明細書に記載の抗体は、ダイアボディの形態である。ダイアボディはポリペプチドの多量体であり、各ポリペプチドは、免役グロブリン軽鎖の結合領域を含む第一のドメインと、免役グロブリン重鎖の結合領域を含む第二のドメインを含み、二つのドメインはリンクしているが(例えば、ペプチドリンカーによって)、互いに会合して抗原結合部位を形成することはできない。抗原結合部位は、多量体内の一つのポリペプチドの第一のドメインと、多量体内の別のポリペプチドの第二のドメインとの会合によって形成される(国際特許出願公開第94/13804号)。
【0098】
抗体のdAb断片は、VHドメインからなる(Ward,E.S.ら、Nature 341、544~546(1989年))。
【0099】
二重特異性抗体が使用される場合、これらは、様々な方法(Holliger,P.およびWinter G.、Current Opinion Biotechnol.4、446~449(1993年))で(例えば、化学的に、または混成ハイブリドーマから調製)製造できる、従来の二重特異性抗体であってもよく、または上述の二重特異性抗体断片のいずれかであってもよい。ダイアボディおよびscFvは、可変ドメインのみを使用して、Fc領域なしで、構築することができ、抗イディオタイプ反応の効果を潜在的に低減する。
【0100】
二重特異性ダイアボディは、大腸菌中で容易に構築および発現することができるため、二重特異性の全抗体とは対照的に、特に有用でありうる。適切な結合特異性のダイアボディ(および抗体断片などのその他多くのポリペプチド)は、ファージディスプレイ(国際特許出願第94/13804号)を使用してライブラリから容易に選択することができる。ダイアボディの一方のアームが、例えば、抗原Xに対して向けられた特異性で一定に保たれる場合、他方のアームが変化し、適切な特異性の抗体が選択されるライブラリを作製することができる。二重特異性の全抗体は、ノブイントゥホール(knobs-into-holes)工学(J.B.B.Ridgewayら、Protein Eng.、9、616~621(1996年))によって作製されうる。
【0101】
一定の実施形態では、本明細書に記載される抗体は、UniBody(登録商標)の形態で提供されてもよい。UniBody(登録商標)は、ヒンジ領域が除去されたIgG4抗体である(GenMab Utrecht(オランダ)を参照、例えば、米国特許公開第20090226421号も参照)。この独自の抗体技術は、現在の小さい抗体フォーマットより長い治療ウィンドウが予期される安定したより小さい抗体フォーマットを作り出す。IgG4抗体は不活性とみなされ、それ故に免疫系と相互作用しない。完全ヒトIgG4抗体は、抗体のヒンジ領域を除去することによって修飾されて、対応する無傷のIgG4(GenMab、ユトレヒト)に対して別個の安定性特性を有する半分子断片を得てもよい。IgG4分子を半減させると、同種抗原(例えば、疾患標的)に結合できる一つの領域のみがUniBody(登録商標)上に残り、したがってUniBody(登録商標)は、標的細胞上の一つの部位にのみに一価的に結合する。
【0102】
一定の実施形態では、本明細書に記載される抗体およびその抗原結合断片は、重鎖および軽鎖のCDRセットを含み、それぞれが重鎖と軽鎖のフレームワーク領域(FR)セットの間に介在し、それらはCDRに支持を提供し、相互に対してCDRの空間的関係を画定する。本明細書で使用される場合、「CDRセット」という用語は、重鎖または軽鎖V領域の三つの超可変領域を指す。重鎖または軽鎖のN末端から生じるこれらの領域は、
【0103】
それぞれ「CDR1」、「CDR2」、および「CDR3」として示される。したがって、抗原結合部位は、重鎖V領域および軽鎖V領域の各々のCDRセットを含む、6個のCDRを含む。単一のCDR(例えば、CDR1、CDR2、またはCDR3)を含むポリペプチドを、本明細書では「分子認識ユニット」と呼ぶ。多数の抗原-抗体複合体の結晶解析により、CDRのアミノ酸残基が結合抗原と広範囲な接触を形成することが示され、最も広範囲な抗原接触は、重鎖CDR3との接触である。それ故に、分子認識ユニットは、抗原結合部位の特異性を主に担う。
【0104】
本明細書で使用される場合、「FRセット」という用語は、重鎖V領域または軽鎖V領域のCDRセットのCDRの枠組みをする四つの隣接するアミノ酸配列を指す。一部のFR残基は、結合抗原と接触しうるが、抗原結合部位への、特にCDRに直接隣接するFR残基へのV領域の折り畳みは、FRが主に担う。FR内では、一定のアミノ残基および一定の構造的特徴は非常によく保存される。これに関して、すべてのV領域配列は、約90個のアミノ酸残基の内部ジスルフィドループを含有する。V領域が結合部位に折り畳まれると、CDRは、抗原結合表面を形成する突き出たループモチーフとして示される。正確なCDRアミノ酸配列に関係なく、CDRループの折り畳み形状に影響を及ぼす、一定の「正準の」構造に保存されたFRの構造的領域があることが一般的に認識される。さらに、一定のFR残基は、抗体の重鎖および軽鎖の相互作用を安定化する非共有結合ドメイン間接触に関与することが知られている。
【0105】
「モノクローナル抗体」は、エピトープの選択的結合に関与するアミノ酸(天然起源および非天然起源)を含む、均質な抗体集団を意味する。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一のエピトープに向けられる。「モノクローナル抗体」という用語は、無傷のモノクローナル抗体および完全長モノクローナル抗体を包含するだけでなく、その断片(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)、一本鎖(scFv)、Nanobodies(登録商標)、そのバリアント、モノクローナル抗体の抗原結合断片を含む融合タンパク質、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、および免疫グロブリン分子のその他任意の修飾構成も含み、この免疫グロブリン分子は、本明細書に開示のWNT代替分子を含めた、エピトープに結合する必要な特異性および能力の抗原結合断片(エピトープ認識部位)を含む。これは、抗体の供給源または抗体が作製される様態(例えば、ハイブリドーマ、ファージ選択、組換え体発現、遺伝子導入動物などによる)に関して限定されることは意図していない。この用語は、免疫グロブリン全体だけでなく、上記で「抗体」の定義の下で記述されている断片なども含む。
【0106】
タンパク質分解酵素パパインは、IgG分子を優先的に切断していくつかの断片を産生し、そのうちの二つ(F(ab)断片)はそれぞれ、無傷の抗原結合部位を含む共有結合性ヘテロ二量体を含む。酵素ペプシンは、IgG分子を切断して、両方の抗原結合部位を含むF(ab’)2断片を含むいくつかの断片を提供することができる。本開示の一定の実施形態による使用のためのFv断片は、IgM免疫グロブリン分子、また稀にIgG免疫グロブリン分子またはIgA免疫グロブリン分子の優先的タンパク質分解切断によって生成することができる。しかしながら、Fv断片は、当該技術分野で公知の組換え技法を使用してより一般的に誘発される。Fv断片は、未変性抗体分子の抗原認識および結合能力の大部分を保持する抗原結合部位を含む非共有結合性VH::VLヘテロ二量体を含む。Inbarら、(1972年)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 69:2659~2662;Hochmanら、(1976年)Biochem 15:2706~2710;およびEhrlichら、(1980)Biochem 19:4091~4096を参照されたい。
【0107】
一定の実施形態では、一本鎖FvまたはscFV抗体が企図される。例えば、Kappa bodys(Illら、Prot.Eng.10:949~57(1997年));ミニボディ(Martinら、EMBO J 13:5305~9(1994年));ダイアボディ(Holligerら、PNAS 90:6444~8(1993年));またはジャヌシン(Trauneckerら、EMBO J 10:3655~59(1991年)およびTrauneckerら、Int.J.Cancer Suppl.7:51~52(1992年))は、望ましい特異性を有する抗体の選択に関して、本明細書の教示に従い、標準的な分子生物学の技法を使用して調製されうる。さらに他の実施形態では、本開示のリガンドを包含する二重特異性抗体またはキメラ抗体が作製されてもよい。例えば、キメラ抗体は、異なる抗体からのCDRおよびフレームワーク領域を含みうる一方、二重特異性抗体は、一つの結合ドメインを介して一つまたは複数のFZD受容体に特異的に結合し、
【0108】
第二の結合ドメインを介して第二の分子に特異的に結合するものが作製されてもよい。これらの抗体は、組換え分子生物学的技法を介して生成されてもよく、または物理的に一緒に共役されてもよい。
【0109】
一本鎖Fv(scFv)ポリペプチドは、共有結合したVH:VLヘテロ二量体であり、これはペプチドをコードするリンカーによって連結されたVHをコードする遺伝子および
【0110】
VLをコードする遺伝子を含む遺伝子融合から発現される。Hustonら、(1988年)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 85(16):5879~5883を参照されたい。抗体V領域に由来する、自然に凝集したが、化学的に分離された軽鎖および重鎖のポリペプチド鎖を、抗原結合部位の構造と実質的に類似した三次元構造に折り畳むscFv分子に変換するための化学構造を識別するための、数多くの方法が記述されてきた。例えば、Hustonらの米国特許第5,091,513号、および同第5,132,405号、ならびにLadnerらの米国特許第4,946,778号を参照。
【0111】
一定の実施形態では、本明細書に記載の抗体は、ダイアボディの形態である。ダイアボディはポリペプチドの多量体であり、各ポリペプチドは、免役グロブリン軽鎖の結合領域を含む第一のドメインと、免役グロブリン重鎖の結合領域を含む第二のドメインを含み、二つのドメインはリンクしているが(例えば、ペプチドリンカーによって)、互いに会合して抗原結合部位を形成することはできない。抗原結合部位は、多量体内の一つのポリペプチドの第一のドメインと、多量体内の別のポリペプチドの第二のドメインとの会合によって形成される(国際特許出願公開第94/13804号)。
【0112】
抗体のdAb断片は、VHドメインからなる(Ward,E.S.ら、Nature 341、544~546(1989年))。二重特異性抗体が使用される場合、これらは、様々な
【0113】
方法(Holliger,P.およびWinter G.、Current Opinion Biotechnol.4、446~449(1993年))、例えば、化学的に調製された、またはハイブリッドハイブリドーマから調製された、または上述の二重特異性抗体断片のいずれかであってもよい。ダイアボディおよびscFvは、可変ドメインのみを使用して、Fc領域なしで、構築することができ、抗イディオタイプ反応の効果を潜在的に低減する。
【0114】
二重特異性ダイアボディは、大腸菌中で容易に構築および発現することができるため、二重特異性の全抗体とは対照的に、特に有用でありうる。適切な結合特異性のダイアボディ(および抗体断片などのその他多くのポリペプチド)は、ファージディスプレイ(国際特許出願第94/13804号)を使用してライブラリから容易に選択することができる。ダイアボディの一方のアームが、例えば、抗原Xに対して向けられた特異性で一定に保たれる場合、他方のアームが変化し、適切な特異性の抗体が選択されるライブラリを作製することができる。二重特異性の全抗体は、ノブイントゥホール(knobs-into-holes)工学(J.B.B.Ridgewayら、Protein Eng.、9、616~621(1996年))によって作製されうる。
【0115】
一定の実施形態では、本明細書に記載される抗体は、UniBody(登録商標)の形態で提供されてもよい。UniBody(登録商標)は、ヒンジ領域が除去されたIgG4抗体である(GenMab Utrecht(オランダ)を参照、例えば、米国特許公開第20090226421号も参照)。この独自の抗体技術は、現在の小さい抗体フォーマットより長い治療ウィンドウが予期される安定したより小さい抗体フォーマットを作り出す。IgG4抗体は不活性とみなされ、それ故に免疫系と相互作用しない。完全ヒトIgG4抗体は、抗体のヒンジ領域を除去することによって修飾されて、対応する無傷のIgG4(GenMab、ユトレヒト)に対して別個の安定性特性を有する半分子断片を得てもよい。IgG4分子を半減させると、同種抗原(例えば、疾患標的)に結合できる一つの領域のみがUniBody(登録商標)上に残り、したがってUniBody(登録商標)は、標的細胞上の一つの部位にのみに一価的に結合する。
【0116】
ある特定の実施形態では、本開示の抗体は、単一ドメイン(sdAb)またはVHH抗体断片(Nanobody(登録商標)としても知られる)の形態を取り得る。sdAbまたはVHH技術は、当初は、ラクダ科(例えば、ラクダおよびラマ)が重鎖のみからなる完全機能性抗体を保有し、それゆえ軽鎖を欠くという発見および同定に続いて開発された。これらの重鎖のみの抗体は、単一の可変ドメイン(VHH)と二つの定常ドメイン(CH2、CH3)を含む。クローン化および単離された単一可変ドメインは、完全な抗原結合能力を有し、かつ非常に安定している。これらの単一可変ドメインは、その固有の構造的および機能的な特性により、「Nanobodies(登録商標)」の基礎を形成する。sdAbまたはVHHは、単一遺伝子によりコードされ、かつ例えば、E.coli(例えば、米国特許第6,765,087号を参照)、カビ(例えば、アスペルギルス属またはトリコデルマ属)、および酵母(例えば、サッカロミセス属、クルイベロミセス属、ハンゼヌラ属またはピキア属(例えば、米国特許第6,838,254号を参照)などほぼすべての原核生物および真核生物宿主において効率よく生成される。生成プロセスは、測定可能であり、複数キログラム量のNanobodies(登録商標)が生成されている。sdAbまたはVHHは、長い使用期限を有するすぐに使用できる溶液として製剤され得る。Nanoclone(登録商標)法(例えば、国際特許出願第06/079372号を参照)は、B細胞の自動化されたハイスループット選択に基づいて、望ましい標的に対してNanobodies(登録商標)を生成するための独自の方法である。sdAbまたはVHHは、ラクダ特異的重鎖のみの抗体の単一ドメイン抗原結合断片である。
【0117】
企図される別の抗体断片は、二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD-Ig)であり、これは二つのモノクローナル抗体の機能と特異性を一つの分子実体に組合わせる改変タンパク質である。DVD-Igは、各軽鎖および重鎖が、IgG中の一つの可変ドメインではなく、短いペプチド結合を介して縦一列に並んだ二つの可変ドメインを含有することを除いて、IgG様分子として設計される。二つの可変ドメインの融合の配向およびリンカー配列の選択は、分子の機能的活性および効率的な発現に重要である。DVD-Igは、製造および精製のための単一の種として、従来の哺乳類発現システムによって産生することができる。DVD-Igは、親抗体の特異性を有し、インビボで安定であり、IgG様の物理化学的および薬物動態学的な特性を示す。DVD-Igおよびその作製方法は、Wu,C.ら、Nature Biotechnology、25:1290~1297(2007年)に記載されている。
【0118】
一定の実施形態では、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合断片は、ヒト化される。これは、一般的に組換え技法を使用して調製され、非ヒト種由来の免疫グロブリンに由来する抗原結合部位と、ヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づいた分子の残りの免疫グロブリン構造とを有する、キメラ分子を指す。抗原結合部位は、定常ドメイン上に融合された完全可変ドメイン、または可変ドメイン中の適切なフレームワーク領域上に移植されたCDRのみのいずれかを含んでもよい。エピトープ結合部位は、野生型であってもよく、または一つまたは複数のアミノ酸置換によって修飾されてもよい。これはヒト個体における免疫原としての定常領域を除去するが、異質の可変領域に対する免疫応答の可能性は残る(LoBuglio,A.F.ら、(1989年)Proc Natl Acad Sci USA 86:4220~4224;Queenら、PNAS(1988年)86:10029~10033;Riechmannら、Nature(1988年)332:323~327)。本明細書に開示される
【0119】
抗FZDまたはLRP抗体のヒト化のための例示的な方法は、米国特許第7,462,697号に記載されている方法を含む。
【0120】
別のアプローチは、ヒト由来の定常領域の提供だけでなく、ヒト形態に可能な限り近づけるように再形成するための可変領域の修飾にも焦点を当てる。重鎖および軽鎖の両方の可変領域は、問題のエピトープに応答して変化する三つの相補性決定領域(CDR)を含有することと、所与の種において相対的に保存され、かつCDRの足場を推定的に提供する、四つのフレームワーク領域(FR)に隣接して結合能力を決定することとが知られている。特定のエピトープに関して非ヒト抗体が調製される場合、可変領域は、非ヒト抗体に由来するCDRを、修飾されるヒト抗体中に存在するFR上に移植することによって、「再構成」または「ヒト化」することができる。このアプローチの様々な抗体への適用は、Sato,K.ら、(1993年)Cancer Res 53:851~856;Riechmann,L.ら、(1988年)Nature 332:323~327;Verhoeyen,M.ら、(1988年)Science 239:1534~1536;Kettleborough,C.A.ら、(1991年)Protein Engineering 4:773~3783;Maeda,H.ら、(1991年)Human Antibodies Hybridoma 2:124~134;Gorman,S.D.ら、(1991年)Proc Natl Acad Sci USA 88:4181~4185;Tempest,P.R.ら、(1991年)Bio/Technology 9:266~271;Co,M.S.,ら、(1991年)Proc Natl Acad Sci USA 88:2869~2873;Carter,P.ら、(1992年)Proc Natl Acad Sci USA 89:4285~4289;およびCo,M.S.ら、(1992年)J Immunol 148:1149~1154によって報告されている。一部の実施形態では、ヒト化抗体は、すべてのCDR配列(例えば、マウス抗体由来の6個のCDRをすべて含有するヒト化マウス抗体)を保存する。その他の実施形態では、ヒト化抗体は、もとの抗体に関して改変される一つまたは複数のCDR(1個、2個、3個、4個、5個、6個)を有し、これはまた、もとの抗体からの一つまたは複数のCDR「に由来する」一つまたは複数のCDRとも称される。
【0121】
一定の実施形態では、本開示の抗体は、キメラ抗体であってもよい。これに関して、キメラ抗体は、異なる抗体の異種Fc部分に動作可能に連結された、または別の方法で融合された抗体の抗原結合断片を含む。一定の実施形態では、異種Fcドメインは、ヒト起源のものである。その他の実施形態では、異種Fcドメインは、IgA(IgA1およびIgA2サブクラスを含む)、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4サブクラスを含む)、ならびにIgMを含む親抗体とは異なるIgクラス由来であってもよい。さらなる実施形態では、異種Fcドメインは、異なるIgクラスのうちの一つまたは複数からのCH2ドメインおよびCH3ドメインを含んでもよい。ヒト化抗体に関して上述したように、キメラ抗体の抗原結合断片は、本明細書に記載される抗体のCDRのうちの一つまたは複数(例えば、本明細書に記載される抗体の1個、2個、3個、4個、5個、または6個のCDR)のみを含んでもよく、または可変ドメイン全体(VL、VHまたはその両方)を含んでもよい。
【0122】
免疫グロブリンCDRおよび可変ドメインの構造および位置は、Kabat,E.A.ら、Sequences of Proteins of Immunological Interest.第4編により確定されうる。米国保健社会福祉省の1987年版およびその更新版は、現在、インターネット(immuno.bme.nwu.edu)で入手可能である。
【0123】
一部の実施形態では、WNT代替分子は、一つまたは複数のFabまたはその抗原結合断片および一つまたは複数のVHHもしくはsdAbまたはその抗原結合断片(または代わりに、一つまたは複数のscFvまたはその抗原結合断片)を含む。ある特定の実施形態では、Fabは、一つまたは複数のFzd受容体に特異的に結合し、VHHまたはsdAb(もしくはscFv)は、LRP5および/またはLRP6に特異的に結合する。ある特定の実施形態では、Fabは、LRP5および/またはLRP6に特異的に結合し、VHHまたはsdAb(もしくはscFv)は、一つまたは複数のFzd受容体に特異的に結合する。ある特定の実施形態では、VHまたはsdAb(もしくはscFv)は、FabのN末端に融合され、一方、一部の実施形態では、VHまたはsdAb(もしくはscFv)は、FabのC末端に融合される。特定の実施形態では、Fabは、完全なIgG形式で存在し、VHHまたはsdAb(もしくはscFv)は、IgG軽鎖のN末端および/またはC末端に融合される。特定の実施形態では、Fabは、完全なIgG形式で存在し、VHHまたはsdAb(もしくはscFv)は、IgG重鎖のN末端および/またはC末端に融合される。特定の実施形態では、二つ以上のVHHまたはsdAb(もしくはscFv)は、これらの位置の任意の組み合わせでIgGに融合される。
【0124】
Fabは、例えば、Fc領域に融合された、Fabを含む融合ポリペプチド、すなわち、Fabが完全なIgG形式で存在する、を生成するための遺伝子操作を使用して、Fab断片とFc断片の両方を含む完全なIgG形式に変換されてもよい。完全IgGフォーマットのFc領域は、野生型もしくは改変されたIgG1、IgG2、IgG3、IgG4または他のアイソタイプ、例えば、野生型もしくは改変されたヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4、ヒトIgG4プロ(IgG4半分子の形成を妨げる中心ヒンジ領域において変異を含む)、ヒトIgA、ヒトIgE、ヒトIgM、またはIgG1 LALAPGとして言及される改変されたIgG1を含むが、これらに限定されない、様々な異なるFcのいずれかからもたらされ得る。L235A、P329G(LALA-PG)バリアントは、マウスIgG2aとヒトIgG1の両方において、補体結合および固定ならびにFc-γ依存性抗体依存性細胞介在性細胞毒性(ADCC)を除去することが示された。これらのLALA-PG置換は、結果物のより正確な翻訳が、マウスと霊長類との間の「エフェクターなし」の抗体フレームワークスキャフォールドを用いて成されることを可能にする。本明細書において開示されるIgGのいずれかの特定の実施形態では、以下のアミノ酸置換:N297G、N297A、N297E、L234A、L235A、またはP236Gの一つまたは複数を含む。
【0125】
一つまたは複数のFzd受容体とLRP5および/またはLRP6の両方に対して二価である、二価および二重特異性WNT代替分子の非限定的な例が提供される。VHHまたはsdAb(もしくはscFv)は、両方の軽鎖のN末端、両方の重鎖のN末端、両方の軽鎖のC末端、または両方の重鎖のC末端に融合されてもよい。例えば、VHHまたはsdAb(もしくはscFv)は、重鎖および/または軽鎖のN末端ならびにC末端の両方、軽鎖および重鎖のN末端、重鎖および軽鎖のC末端、重鎖のN末端および軽鎖のC末端、または重鎖のC末端および軽鎖のN末端に融合され得ることがさらに企図される。他の関連する実施形態では、二つ以上のVHHまたはsdAb(もしくはscFvs)は、一緒に融合されてもよく、任意選択で、リンカー部分を介して融合されてもよく、これらの位置の一つまたは複数でFabまたはIgGに融合されてもよい。関連の実施形態では、WNT代替分子は、ヘテロIgG形式を有し、一方、Fabは半抗体として存在し、一つまたは複数のVHHまたはsdAb(もしくはscFv)は、FcのN末端、FabのN末端、FcのC末端、またはFabのC末端の一つまたは複数に融合される。ある特定の実施形態では、Fabまたはその抗原結合断片(もしくはIgG)は、VHHまたはsdAb(もしくはscFv)あるいはその抗原結合断片に直接融合され、一方、他の実施形態では、結合領域は、リンカー部分を介して融合される。
【0126】
様々な実施形態では、WNT代替分子は、一つまたは複数のFZD受容体に結合する一つまたは複数のFabまたはその抗原結合断片、ならびにLRP5および/もしくはLRP6に結合する一つまたは複数のFabまたはその抗原結合断片を含む。ある特定の実施形態では、これは、一つまたは複数のFZD受容体に結合する二つのFabまたはその抗原結合断片、ならびに/またはLRP5および/もしくはLRP6に結合する二つのFabまたはその抗原結合断片を含む。特定の実施形態では、Fabの一つまたは複数は、完全なIgG形式で存在し、ある特定の実施形態では、両方のFabは、完全なIgG形式で存在する。ある特定の実施形態では、完全なIgG形式のFabは、一つまたは複数のFZD受容体に特異的に結合し、他のFabは、LRP5および/またはLRP6に特異的に結合する。ある特定の実施形態では、Fabは、一つまたは複数のFZD受容体に特異的に結合し、完全なIgG形式のFabは、LRP5および/またはLRP6に特異的に結合する。ある特定の実施形態では、Fabは、LRP5および/またはLRP6に特異的に結合し、完全なIgG形式のFabは、一つまたは複数のFZD受容体に特異的に結合する。ある特定の実施形態では、Fabは、IgGのN末端、例えば、任意選択的で、リンカーを介して、重鎖または軽鎖N末端に融合される。ある特定の実施形態では、Fabは、IgGの重鎖のN末端に融合され、軽鎖に融合されない。特定の実施形態では、二つの重鎖は、直接的にまたはリンカーを介して、一緒に融合され得る。両方の受容体に関するこのような二重特異性および二価の例を、図1Bの上部に示す。他の関連する実施形態では、二つ以上のVHHまたはsdAbは、一緒に融合されてもよく、任意選択で、リンカー部分を介して融合されてもよく、これらの位置の一つまたは複数でFabまたはIgGに融合されてもよい。関連する実施形態では、WNT代替分子は、ヘテロIgG形式を有し、一方、Fabの一つは、半抗体として存在し、他のFabは、FcのN末端、FabのN末端、またはFcのC末端の一つまたは複数に融合される。ある特定の実施形態では、Fabまたはその抗原結合断片は、他のFabもしくはIgGまたはその抗原結合断片に直接融合され、一方、他の実施形態では、結合領域は、リンカー部分を介して融合される。
【0127】
ある特定の実施形態では、本発明のWNTアゴニストは、表2、表4、表5、表6、もしくは表7において提供される配列、またはその機能的断片もしくはバリアントのいずれかを有するか、含むか、またはからなり得る。
【0128】
ある特定の実施形態では、アンタゴニストまたはアゴニスト結合剤は、約1μM以下、約100nM以下、約40nM以下、約20nM以下、または約10nM以下の解離定数(K)で結合する。例えば、ある特定の実施形態では、複数のFZDに結合する本明細書に記載されるFZD結合剤または抗体は、約100nM以下、約20nM以下、または約10nM以下のKでそれらのFZDに結合する。ある特定の実施形態では、結合剤は、一つまたは複数のその標的抗原に、約1μM以下、約100nM以下、約40nM以下、約20nM以下、約10nM以下、または約1nM20以下のEC50で結合する。
【0129】
本発明の抗体または他の薬剤は、当該技術分野で公知の任意の方法によって特異的結合について試験することができる。使用することができる免疫測定法としては、BIAcore分析、FACS分析、免疫蛍光法、免疫細胞化学、ウエスタンブロット、放射免疫測定法、ELISA法、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫沈降法、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散測定法、凝集測定法、補体結合測定法、免疫放射線測定法、蛍光免疫測定法、およびプロテインA免疫測定法などの技法を使用した競合および非競合の測定システムが挙げられるが、これらに限定されない。かかる測定法は、当該技術分野で日常的であり周知である(例えば、Ausubelら編、1994年、Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkを参照。この全文は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0130】
例えば、標的抗原への抗体の特異的結合は、ELISA法を使用して決定されてもよい。ELISA測定法は、抗原の調製と、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルの抗原によるコーティングと、抗体または他の結合剤(酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)などの検出可能な化合物に共役されたもの)のウェルへの追加と、一定期間の培養と、抗原の存在の検出とを含む。一部の実施形態では、抗体または薬剤は、検出可能な化合物に共役されず、代わりに、第一の抗体または薬剤を認識する第二の共役された抗体がウェルに追加される。一部の実施形態では、ウェルを抗原でコーティングする代わりに、抗体または薬剤でウェルをコーティングして、検出可能な化合物に共役された第二の抗体を、コーティング済のウェルに抗原を追加した後で、追加することができる。当業者であれば、検出されるシグナルを増加させるように修飾されうるパラメータだけでなく、当該技術分野で公知の他のELISA法の変形についても知識を有するであろう(例えば、Ausubelら編、1994年、Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley & Sons,Inc.,New York at 11.2.1を参照)。
【0131】
標的抗原に対する抗体または他の薬剤の結合親和性および抗体-抗原相互作用のオフレートは、競合結合測定法によって決定することができる。競合結合測定法の一例は、放射免疫測定法であり、この試験法は、非標識抗原の量の増加が存在する中での、目的の抗体を用いた、標識抗原(例えば、FZD、LRP)またはその断片もしくはバリアントの培養と、それに続く標識抗原に結合された抗体の検出とを含む。抗体の親和性および結合オフレートは、スキャッチャードプロット解析によってデータから決定することができる。一部の実施形態では、BIAcore動態分析を使用して、抗体または薬剤の結合オンレートおよびオフレートを決定する。BIAcore動態分析は、表面上に抗原が固定化されたチップからの抗体の結合および解離の分析を含む。
【0132】
本発明のWNT代替分子は、一つまたは複数のFZD受容体ならびにLRP5およびLRP6の一つまたは複数への結合、ならびにWNTシグナル伝達の不活性化において生物学的に活性であり、すなわち、WNT代替分子は、WNTアゴニストである。用語「WNTアゴニスト活性」は、frizzledタンパク質および/またはLRP5もしくはLRP6に結合するWNTタンパク質の効果または活性を模倣するアゴニストの能力を指す。WNTの活性を模倣する、本明細書において開示されるWNT代替分子および他のWNTアゴニストの能力は、多数のアッセイによって確認することができる。WNTアゴニストは、典型的には、受容体の天然リガンドによって開始される反応または活性と類似または同一の反応または活性を開始する。特に、本明細書において開示されるWNTアゴニストは、基準のWNT/β-カテニンシグナル伝達経路を活性化するか、強化するか、または増加させる。本明細書で使用される場合、用語「増強する」は、WNTアゴニスト、例えば、本明細書において開示されるWNT代替分子の不存在下でのレベルと比較して、WNT/β-カテニンシグナル伝達のレベルにおける測定可能な増加を指す。特定の実施形態では、WNT/β-カテニンシグナル伝達のレベルの増加は、例えば、同じ細胞タイプにおける、WNTアゴニストの不存在下でのWNT/β-カテニンシグナル伝達のレベルと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍である。WNT/β-カテニンシグナル伝達を測定する方法は、当該技術分野で公知であり、本明細書において記載されるものを含む。
【0133】
特定の実施形態では、本明細書において開示されるWNT代替分子は、二重特異性であり、すなわち、それらは、二つ以上の異なるエピトープ、例えば、一つまたは複数のFZD受容体、ならびにLRP5および/またはLRP6に特異的に結合する。ある特定の実施形態では、WNT代替分子は、FZD5および/またはFZD8、ならびにLRP5および/またはLRP6に結合する。
【0134】
特定の実施形態では、本明細書において開示されるWNT代替分子は、多価であり、例えば、それらは、各々が同じエピトープに特異的に結合する二つ以上の領域、例えば、一つまたは複数のFZD受容体内のエピトープに結合する二つ以上の領域、ならびに/またはLRP5および/もしくはLRP6内のエピトープに結合する二つ以上の領域を含む。特定の実施形態では、それらは、一つまたは複数のFZD受容体内のエピトープに結合する二つ以上の領域、ならびにLRP5および/またはLRP6内のエピトープに結合する二つ以上の領域を含む。ある特定の実施形態では、WNT代替分子は、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、2:3、2:5、2:7、7:2、5:2、3:2、3:4、3:5、3:7、3:8、8:3、7:3、5:3、4:3、4:5、4:7、4:9、9:4、7:4、5:4、6:7、7:6、1:2、1:3、1:4、1:5、もしくは1:6の、またはそれらと同等の、LRP5および/またはLRP6に結合する領域の数に対する一つまたは複数のFZD受容体に結合する領域の数の比を含む。ある特定の実施形態では、WNT代替分子は、二重特異性かつ多価である。
【0135】
ある特定の態様では、本開示は、組織特異的様式または細胞特異的様式でWNT活性を増強することができる新規の組織特異的WNTシグナル増強分子を提供する。ある特定の実施形態では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、一つまたは複数のZNRF3および/またはRNF43リガーゼに結合する第一のドメイン、ならびに組織特異的様式または細胞特異的様式で一つまたは複数の標的化組織または細胞タイプに結合する第二のドメインを含む二機能的分子である。第一のドメインおよび第二のドメインの各々は、それぞれ、リガーゼ複合体または標的化組織または細胞に結合することができる任意の部分であってもよい。例えば、第一のドメインおよび第二のドメインの各々は、以下に限定されないが、ポリペプチド(例えば、抗体もしくはその抗原結合断片、または抗体とは異なるペプチドもしくはポリペプチド)、小分子、ならびに天然リガンドあるいはそのバリアント、その断片あるいは誘導体から選択される部分であってもよい。ある特定の実施形態では、天然リガンドは、ポリペプチド、小分子、イオン、アミノ酸、脂質、または糖分子である。第一のドメインおよび第二のドメインは、互いに同じタイプの部分であってもよく、またはこれらは、異なるタイプの部分であってもよい。ある特定の実施形態では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、組織特異的表面受容体または細胞特異的細胞表面受容体に結合する。特定の実施形態では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、例えば、陰性対照と比較して、WNTシグナル伝達を少なくとも50%、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍増加するか、または強化する。
【0136】
組織特異的WNTシグナル増強分子は、異なる形式を有してもよい。特定の実施形態では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、ZNRF3/RNF43に結合する第一のポリペプチド配列および組織特異的様式または細胞特異的様式で一つまたは複数の標的化組織または細胞タイプに結合する第二のポリペプチド配列を含む融合タンパク質である。ある特定の実施形態では、二つのポリペプチド配列は、直接的またはリンカーを介して融合されてもよい。ある特定の実施形態では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、二つ以上の融合タンパク質を含む二量体または多量体などの二つ以上のポリペプチドを含み、各々が第一のドメインおよび第二のドメインを含み、二つ以上のポリペプチドは、例えば、リンカー部分を介してまたは二つ以上のポリペプチドの各々のアミノ酸残基の間の結合、例えば、システイン残基の間の分子間ジスルフィド結合を介して連結される。
【0137】
特定の実施形態では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、第一のドメインまたは第二のドメインのいずれかを構成する抗体重鎖および軽鎖を含む抗体(またはその抗原結合断片)であり、他のドメイン(すなわち、第二のドメインまたは第一のドメイン)は、融合タンパク質としてまたはリンカー部分を介して、抗体重鎖または軽鎖に連結される。特定の実施形態では、他のドメインは、重鎖のN末端、重鎖のC末端、軽鎖のN末端、または軽鎖のC末端に連結される。このような構造は、付加IgGスキャフォールドまたは形式として本明細書において称されてもよい。例えば、組織特異的WNTシグナル増強分子は、ZNRF3/RNF43に結合する抗体であってもよく、組織特異的受容体または細胞特異的受容体に結合する結合ドメインは、ZNRF3/RNF43に結合する抗体の重鎖または軽鎖のいずれかに融合されるか、または付加される。別の例では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、組織特異的受容体または細胞特異的受容体に結合する抗体であってもよく、ZNRF3/RNF43に結合する結合ドメインは、組織特異的受容体または細胞特異的受容体に結合する抗体の重鎖または軽鎖のいずれかに融合されるか、または付加される。
【0138】
特定の実施形態では、腸特異的WNTシグナル増強分子は、GPA33、CDH17、MUC-13に結合する抗体またはその抗原結合断片であり、ZNRF3/RNF43に結合する結合ドメインは、抗体またはその抗原結合断片の重鎖または軽鎖のいずれかに融合されるか、または付加される。特定の実施形態では、ZNRF3/RNF43に結合する結合ドメインは、Fu1ドメインおよびFu2ドメインを含み、Fu1ドメインおよびFu2ドメインは、任意選択で、本明細書において開示されるもののいずれか、例えば、F105Rおよび/またはF109Aを含む、一つまたは複数のアミノ酸修飾を含む。
【0139】
ある特定の実施形態では、組織特異的WNTシグナル増強分子は、ZNRF3/RNF43に結合する第一のドメイン(「作用モジュール」)および組織特異的受容体または細胞特異的受容体を、例えば、高い親和性で結合する第二のドメイン(「標的化モジュール」)を含む。ある特定の実施形態では、これらの二つのドメインの各々は、実質的に減少した活性を有するか、またはWNTシグナルを増強する際にそれ自体不活性である。しかしながら、組織特異的WNTシグナル増強分子が、組織特異的受容体を発現する標的組織と会合するとき、E3リガーゼZNRF3/RNF43は、組織特異的受容体との三元複合体に動員され、これにより、これらは、受容体介在性エンドサイトーシスを介して細胞表面から隔離および/または除去される。最終結果は、組織特異的様式でWNTシグナルを増強することである。
【0140】
ある特定の実施形態では、作用モジュールは、ZNRF3/RNF43 E3リガーゼの結合剤であり、R-スポンジン、例えば、ヒトR-スポンジン1~4を含むが、これらに限定されない、R-スポンジン1~4に基づき設計することができる。ある特定の実施形態では、作用モジュールは、R-スポンジン、例えば、野生型R-スポンジン1~4、任意選択で、ヒトR-スポンジン1~4、またはそのバリアントもしくは断片である。特定の実施形態では、それは、対応する野生型R-スポンジン1~4配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する、R-スポンジン1~4のいずれかのバリアントである。ある特定の実施形態では、作用モジュールは、ZNRF3/RNF43に結合する、R-スポンジン、例えば、R-スポンジン1~4のいずれかのフューリンドメイン1を含むか、またはからなる。フューリンドメイン1の拡張バージョン(LGR4-6にもはや結合しないか、またはLGR4-6への低減した結合を有する、変異フューリンドメイン2を有するものを含むが、これらに限定されない)、または操作された抗体もしくは任意の他の誘導体、またはZNRF3/RNF43に特異的に結合することができる抗体とは異なる任意の操作されたポリペプチドも使用され得る。ある特定の実施形態では、作用モジュールは、R-スポンジンの一つまたは複数のフューリンドメイン1を含む。
【0141】
ある特定の実施形態では、作用モジュールは、R-スポンジンのフューリンドメイン2を含まないか、またはこれは、R-スポンジン、例えば、野生型フューリンドメイン2と比較して低減した活性を有するフューリンドメイン2の改変またはバリアントフューリンドメイン2を含む。ある特定の実施形態では、作用モジュールは、R-スポンジンのフューリンドメイン1を含むが、フューリンドメイン2を含まない。ある特定の実施形態では、作用モジュールは、二つ以上のフューリンドメイン1またはフューリンドメイン1の多量体を含む。作用ドメインは、R-スポンジンの一つまたは複数の野生型フューリンドメイン1を含んでもよい。特定の実施形態では、作用モジュールは、例えば、野生型フューリンドメイン1と比較して、ZNRF3/RNF43への増加した活性を有するR-スポンジンの改変またはバリアントフューリンドメイン1を含む。ZNRF3/RNF43への増加した結合を有するバリアントは、例えば、R-スポンジンフューリンドメイン1のバリアントを含むファージまたは酵母ディスプレイライブラリーをスクリーニングすることによって、同定され得る。R-スポンジンフューリンドメイン1とは無関係だが、ZNRF3/RNF43への増加した結合を伴うペプチドまたはポリペプチドも、スクリーニングを介して同定され得る。作用モジュールは、追加の部分またはポリペプチド配列、例えば、作用モジュールまたはそれが存在する組織特異的WNTシグナル増強分子の構造を安定化するための追加のアミノ酸残基をさらに含んでもよい。
【0142】
さらなる実施形態において、作用モジュールは、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、短いヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、またはリボザイムなどの、ZNRF3/RNF43の活性または発現を低減するか、または妨げる核酸分子などの別の阻害部分を含む。本明細書で使用される場合、「アンチセンス」は、長さに関係なく、核酸配列に相補的である核酸配列を指す。ある特定の実施形態では、アンチセンスRNAは、個々の細胞、組織、または対象に導入され得る一本鎖RNA分子を指し、必ずしも内因性遺伝子サイレンシング経路に頼らない機序を介して標的遺伝子の発現の減少をもたらす。アンチセンス核酸は、修飾された骨格、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、または当該技術分野で公知の他のものを含有し得るか、または非天然のヌクレオシド間結合を含有してもよい。アンチセンス核酸は、例えば、ロックド核酸(LNA)を含み得る。特定の実施形態では、他の阻害剤部分は、ZNRF3/RNF43の一方もしくは両方の活性を阻害するか、またはZNRF3/RNF43の一方もしくは両方の遺伝子、mRNA、もしくはタンパク質発現を阻害する。ある特定の実施形態では、阻害部分は、ZNRF3/RNF43遺伝子もしくはmRNA、またはその相補鎖に結合する核酸分子である。
【0143】
ある特定の実施形態では、標的化モジュールは、細胞特異的表面分子、例えば、細胞特異的表面受容体に特異的に結合し、例えば、天然のリガンド、抗体、または合成化学物質であり得る。特定の実施形態では、細胞特異的表面分子は、標的器官、組織または細胞タイプ、例えば、疾患または障害を治療または予防するために、WNTシグナル伝達を増強することが望ましい器官、組織または細胞タイプで優先的に発現される。特定の実施形態では、細胞特異的表面分子は、標的器官、組織または細胞タイプ、例えば、一つまたは複数の他の非標的化器官、組織または細胞タイプと比較して、例えば、疾患または障害を治療または予防するために、WNTシグナル伝達を増強することが望ましい器官、組織または細胞タイプで増加または増強した発現を有する。ある特定の実施形態では、細胞特異的表面分子は、それぞれ、一つまたは複数の他の器官、組織または細胞タイプと比較して、標的器官、組織または細胞タイプの表面で優先的に発現される。例えば、特定の実施形態では、細胞表面受容体は、それらが、それぞれ、一つまたは複数、五つ以上、すべての他の器官、組織もしくは細胞において発現されるより、またはすべての他の器官、組織もしくは細胞の平均より、それらが、標的器官、組織または細胞において少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍のレベルで発現する場合、組織特異的表面分子または細胞特異的細胞表面分子であるとみなされる。ある特定の実施形態では、組織特異的細胞表面分子または細胞特異的細胞表面分子は、細胞表面受容体、例えば、細胞表面膜内に位置する領域および標的化モジュールが結合することができる細胞外領域を含むポリペプチド受容体である。様々な実施形態では、本明細書において記載される方法は、標的化組織または標的化組織を含む組織のサブセット上でのみ発現される細胞表面分子を特異的に標的化することによって実施されてもよく、またはすべて、大部分、または実質的な数の他の器官と比較して、標的組織でのより高いレベルの発現、例えば、少なくとも二個、少なくとも五個、少なくとも十個、または少なくとも二十個の他の組織より標的組織でのより高い発現を有する細胞表面分子を特異的に標的化することによって実施されてもよい。
【0144】
組織特異的細胞表面受容体および細胞特異的細胞表面受容体は、当該技術分野で公知である。組織特異的表面受容体および細胞特異的表面受容体の例としては、限定されるものではないが、GPA33、CDH17、およびMUC-13が挙げられる。ある特定の実施形態では、標的化モジュールは、これらの腸特異的受容体に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0145】
ある特定の実施形態では、WNT代替およびWNTシグナル増強分子の構成要素を組み合わせて、より多くの組織特異性を付与してもよい。
III.医薬組成物
【0146】
本明細書に記載されるWNTアゴニスト分子と、一つまたは複数の薬学的に許容可能な希釈剤、担体、または賦形剤とを含む医薬組成物も開示されている。
【0147】
さらなる実施形態では、本明細書に記載されるWNTアゴニスト分子をコードする核酸配列と、一つまたは複数の薬学的に許容可能な希釈剤、担体、または賦形剤とを含むポリヌクレオチドを含む医薬組成物も開示されている。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、DNAまたはmRNA、例えば、修飾mRNAである。特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、5’キャップ配列および/または3’テーリング配列、例えばポリAテールをさらに含む修飾mRNAである。他の実施形態では、ポリヌクレオチドは、コード配列に動作するように連結されたプロモーターを含む発現カセットである。
【0148】
一部の実施形態では、WNTアゴニストは、WNTシグナル伝達経路中の様々な分子に結合する様々なエピトープ結合断片を組み込んだ、改変組換えポリペプチドである。例えば、FZD抗体断片およびLRP抗体断片(例えば、Fab、scFv、sdAb、VHHなど)は、一つの分子上で、直接または様々なサイズのリンカーと一緒に結合されてもよい。同様に、RSPOなどのポリペプチドは、組織特異的細胞表面抗原、例えば、MUC-13に対する抗体またはその断片を含有するように操作されてもよい。RSPOはまた、E3リガーゼのエンハンサー、ZNRF3/RNF43と同時または順次投与されてもよい。E3リガーゼエンハンサーは、ZNRF3/RNF43に結合し、E3リガーゼ活性を増強するアゴニスト抗体または断片であってもよい。
【0149】
逆に、WNTアゴニストはまた、WNTシグナル伝達経路の様々な分子に結合し、かつWNTシグナル伝達を増強するエピトープ結合断片を組み込んだ組換えポリペプチドとすることもできる。例えば、WNT作動薬は、FZD受容体および/またはLRP受容体に結合し、かつWNTシグナル伝達を増強する抗体またはその断片とすることができる。FZD抗体断片およびLRP抗体断片(例えば、Fab、scFv、sdAbまたはVHHなど)は、一つの分子上で、直接または様々なサイズのリンカーと一緒に結合されてもよい。
【0150】
さらなる実施形態では、本明細書に記載されるWNTアゴニスト分子をコードする核酸配列と、一つまたは複数の薬学的に許容可能な希釈剤、担体、または賦形剤とを含むポリヌクレオチドを含む、発現ベクター、例えばウイルスベクターを含む医薬組成物も開示されている。
【0151】
本開示は、WNTアゴニストをコードする核酸に動作するように連結されたプロモーターと、一つまたは複数の薬学的に許容可能な希釈剤、担体、または賦形剤とを含む、ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む細胞を含む医薬組成物をさらに企図する。特定の実施形態では、医薬組成物は、WNTアゴニストをコードする核酸配列に動作するように連結されたプロモーターを含む、ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む細胞をさらに含む。特定の実施形態では、細胞は、治療される対象者から得られた異種細胞または自己細胞である。
【0152】
主題の分子は、単独で、または組み合わせて、一般的に安全で、非毒性で、かつ望ましい製剤の調製に有用な、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤、および試薬と組み合わせることができ、哺乳類、例えば、ヒトまたは霊長類の使用に許容可能な賦形剤を含む。かかる賦形剤は、固体、液体、半固体、またはエアロゾル組成物の場合、ガス状とすることができる。こうした担体、希釈剤、および賦形剤の例としては、水、生理食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。補助的な活性化合物も、製剤に組み込むことができる。製剤に使用される溶液または懸濁液は、無菌希釈剤(注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒など)、抗菌化合物(ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなど)、抗酸化物質(アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなど)、キレート化合物(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など)、緩衝剤(酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩など)、洗剤(凝集を防止するためのTween 20など)、および張度を調整するための化合物(塩化ナトリウムまたはデキストロースなど)を含むことができる。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調整することができる。特定の実施形態では、医薬組成物は無菌である。
【0153】
医薬組成物は、無菌注射用溶液または分散液の即時調整のための無菌水溶液または分散液および無菌粉末をさらに含みうる。静脈内投与のために、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。一部の事例では、組成物は無菌であり、かつシリンジに引き込むこと、またはシリンジから対象者に送達することができるように、流体であるべきである。一定の実施形態では、これは、製造および保存の条件下で安定であり、かつ細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護される。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒とすることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合に必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、糖、多価アルコール(マンニトール、ソルビトールなど)、塩化ナトリウムを含むことが好ましい。吸収を遅延させる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなど)を組成物中に含むことによって、内部組成物の持続性の吸収をもたすことができる。
【0154】
無菌液は、WNTアゴニスト抗体またはその抗原結合断片(またはポリヌクレオチドをコードするもの、もしくはポリヌクレオチドを含む細胞)を、必要に応じて、上記で列挙された成分の一つまたは組み合わせを用いて適切な溶媒中に必要量で組み込み、その後に濾過滅菌することにより調製することができる。一般的に、分散液は、活性化合物を、塩基性分散媒体と、上記で列挙したものから必要とされる他の成分とを含有する無菌媒体に組み込むことによって調製される。無菌注射用溶液の調製用の無菌粉末の場合、調製方法は、活性成分の粉末に加えて、前もって滅菌濾過されたその溶液から追加的な任意の望ましい成分をもたらす、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0155】
一実施形態では、医薬組成物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む、放出制御製剤など、身体からの急速な排除から抗体またはその抗原結合断片を保護する担体を用いて調製される。生分解性の生体適合性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などが使用できる。こうした製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。材料はまた、商業的に入手することもできる。リポソーム懸濁液は、薬学的に許容可能な担体としても使用できる。これらは、当業者に公知の方法に従って調製することができる。
【0156】
投与の容易さおよび用量の均一性のために、医薬組成物を単位剤形で製剤化することが有利でありうる。本明細書で使用される場合、単位剤形は、治療される対象者のための単位用量として適した、物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要とされる薬学的担体に関連して望ましい治療効果を生成するために計算された所定量の活性抗体またはその抗原結合断片を含有する。単位剤形の仕様は、抗体またはその抗原結合断片の固有の特徴、および達成されるべき特定の治療効果、ならびにこうした活性抗体またはその抗原結合断片を、個体の治療のために配合する当該技術分野に固有の制限によって決定付けられ、かつそれらに直接的に依存する。
【0157】
医薬組成物は、容器、パック、またはディスペンサー(例えば、シリンジ、例えば、プレフィルドシリンジ)内に、投与説明書と一緒に入れることができる。
【0158】
本開示の医薬組成物は、任意の薬学的に許容可能な塩、エステル、もしくはそのようなエステルの塩、またはヒトを含む動物への投与時には、生物学的に活性な抗体またはその抗原結合断片を(直接的または間接的に)提供することができる任意の他の化合物を包含する。
【0159】
本開示は、本明細書に記載されるWNTアゴニスト分子の薬学的に許容可能な塩を含む。「薬学的に許容可能な塩」という用語は、本開示の化合物の生理学的および薬学的に許容可能な塩、すなわち、親化合物の望ましい生物活性を保持し、かつそれに対して望ましくない毒性効果を付与しない塩を指す。様々な薬学的に許容可能な塩が当該技術分野で公知であり、例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,17th edition,Alfonso R.Gennaro(Ed.),Mark Publishing Company,Easton,PA,USA,1985(およびその最近の版)、“Encyclopaedia of Pharmaceutical Technology”,3rd edition,James Swarbrick(Ed.),Informa Healthcare USA(Inc.),NY,USA,2007、およびJ.Pharm.Sci.Sci.66:2(1977)に記載がある。また、適切な塩については、“Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use”by Stahl and Wermuth(Wiley-VCH、2002年)を参照されたい。薬学的に許容可能な塩基付加塩は、アルカリおよびアルカリ土類金属または有機アミンなどの金属またはアミンを用いて形成される。
【0160】
陽イオンとして使用される金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。アミンは、N-N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、およびプロカインを含む(例えば、Bergeら、「Pharmaceutical Salts」、J.Pharma Sci.、1977年、66、119を参照)。前述の酸性化合物の塩基付加塩は、遊離酸型を、従来の様態で塩を生成するのに十分な量の望ましい塩基と接触させることによって調製される。遊離酸型は、塩形態を酸と接触させ、従来的の様態で遊離酸を単離することによって再生されてもよい。遊離酸型は、極性溶媒への溶解性などの一定の物理的特性において、それらのそれぞれの塩形態とは多少異なるが、それ以外は、塩は、本開示の目的のために、それぞれの遊離酸と同等である。
【0161】
一部の実施形態では、本明細書に提供される医薬組成物は、治療的に有効な量のWNTアゴニスト分子またはその薬学的に許容可能な塩を、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、および/または賦形剤、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸塩およびアミノ酸、ポリマー、ポリオール、糖、緩衝剤、防腐剤、ならびに他のタンパク質と混合したものを含む。例示的なアミノ酸、ポリマーおよび糖類などは、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール化合物、ポリエチレングリコールモノステアリン酸化合物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、スクロース、フルクトース、デキストロース、マルトース、グルコース、マンニトール、デキストラン、ソルビトール、イノシトール、ガラクチトール、キシリトール、ラクトース、トレハロース、ウシまたはヒト血清アルブミン、クエン酸塩、酢酸塩、リンゲル液およびハンクス液、システイン、アルギニン、カルニチン、アラニン、グリシン、リジン、バリン、ロイシン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ならびにグリコールである。この製剤は、4℃で少なくとも6カ月間安定であることが好ましい。
【0162】
一部の実施形態では、本明細書に提供される医薬組成物は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはリン酸ナトリウム/硫酸ナトリウム、トリス緩衝液、グリシン緩衝液、無菌水、およびGoodら、(1966年)Biochemistry 5:467に記載のあるものなど当業者に公知のその他の緩衝剤などの緩衝剤を含む。緩衝剤のpHは6.5~7.75の範囲内であってもよく、好ましくは7~7.5であり、最も好ましくは7.2~7.4である。
【0163】
V.使用方法
本開示はまた、WNTアゴニスト分子および/または組織特異的WNTシグナル増強分子を使用して、例えば、WNTシグナル伝達経路を調節し、例えば、WNTシグナル伝達を増加させる方法、ならびに様々な治療的設定でのWNTアゴニスト分子および/または組織特異的WNTシグナル増強分子の投与方法を提供する。WNTアゴニスト分子および/または組織特異的WNTシグナル増強分子を使用する方法が、本明細書において提供される。本明細書に開示される方法のいずれかはまた、例えば、本明細書において記載される、WNTアゴニスト分子と組織特異的WNTシグナル増強分子の組み合わせ、またはWNTアゴニスト分子と組織特異的WNTシグナル増強の両方を含む組み合わせ分子(組み合わせ分子)を使用して、実施されてもよい。一実施形態では、WNT アゴニスト分子および/もしくは組織特異的WNTシグナル増強分子、または組み合わせ分子は、不適切または制御不能なWNTシグナル伝達が関与する疾患を有する対象に提供される。ある特定の実施形態では、本明細書において開示される方法は、それを必要とする対象に、WNTアゴニスト分子および/または組織特異的WNTシグナル増強分子を、単独もしくは組み合わせで、または組み合わせ分子を提供することを含む。ある特定の実施形態では、WNTアゴニスト分子および組織特異的WNTシグナル増強分子は、同じ医薬組成物または異なる医薬組成物において対象に提供される。一部の実施形態では、WNTアゴニスト分子および組織特異的WNTシグナル増強分子は、対象に同時または異なる時間で、例えば、一方が他方の前または後のいずれかで提供される。一部の実施形態では、方法は、対象に、有効量のWNTアゴニスト分子および/または組織特異的WNTシグナル増強分子を提供することを含む。一部の実施形態では、有効量のWNTアゴニスト分子および組織特異的WNTシグナル増強分子は、重複した期間、例えば、1日、2日、または1週間、対象に存在する。他の実施形態では、本明細書において開示される方法は、それを必要とする対象に、WNTアゴニスト分子および組織特異的WNTシグナル増強分子を含む組み合わせ分子を提供することを含む。
【0164】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示される方法のいずれかを実施して、炎症(例えば、胃腸管組織、例えば、小腸、大腸、または結腸などの、IBDと関連する炎症またはIBDが影響する組織における炎症)を低減するか、WNTシグナル伝達を増加させるか、IBDの組織学的症状(例えば、本明細書において開示されるもの)のいずれかを低減するか、炎症組織(例えば、胃腸管組織)におけるサイトカインレベルを低減するか、または本明細書において開示される疾患活動性指数を低減してもよい。
【0165】
ある特定の実施形態では、WNTアゴニスト分子もしくは組織特異的WNTシグナル増強分子または組み合わせ分子を使用して、組織または細胞におけるWNTシグナル伝達経路を増強してもよい。WNTシグナル伝達経路の作動作用は、例えば、組織または細胞におけるWNTシグナル伝達の増加またはWNTシグナル伝達の増強を含みうる。それ故に、一部の態様では、本開示は、細胞においてWNTシグナル伝達経路を作動する方法であって、組織または細胞を、有効量の本明細書に開示されるWNTアゴニスト分子および/もしくは組織特異的WNTシグナル増強分子、または組み合わせ分子、あるいはその薬学的に許容し得る塩と接触させることを含み、WNTアゴニスト分子および/もしくは組織特異的WNTシグナル増強分子、または組み合わせ分子は、WNTシグナル伝達経路アゴニストである、方法を提供する。一部の実施形態では、接触は、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで生じる。特定の実施形態では、細胞は培養細胞であり、接触はインビトロで生じる。
【0166】
WNTアゴニスト性および/または組織特異的WNTシグナル増強分子、または組み合わせ分子は、限定されるものではないが、クローン病、瘻孔形成を伴うクローン病、および潰瘍性大腸炎を含むが、これらに限定されない、炎症性腸疾患を含むが、これらに限定されない、胃腸障害の治療に使用され得る。特に、本発明は、これらの障害による損傷の結果としての腸上皮の再生を増強するためのWNT/β-カテニンシグナル伝達WNT/β-カテニンアゴニストを提供する。
【0167】
一実施形態では、WNTアゴニスト分子はまた、肺組織特異的受容体または細胞表面分子を認識する組織標的化部分、例えば、抗体またはその断片を組み込んでもよい。
【0168】
本発明はまた、既知の治療との併用療法を、胃腸障害、特に、炎症性腸疾患(IBD)に提供する。例えば、WNTアゴニストおよび/もしくは組織特異的WNTシグナル増強分子、または組み合わせ分子は、5-アミノサリチル酸塩(5-ASA);コルチコステロイド、アザチオプリンもしくは6-メルカプトプリン、メトトレキサート、およびシクロスポリン-Aもしくはタクロリムスなどの免疫抑制剤;インフリキシマブ、アダリムマブ、およびゴリムマブなどのTNF-α阻害剤;ベドリズマブなどの抗インテグリン;ウステキヌマブなどの炎症性サイトカインアンタゴニスト;トファシチニブなどのヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤;モンゲルセンなどのSMAD7阻害剤;ならびにオザニモドおよびエトラシモドなどのS1P調節因子を含むが、これらに限定されない、IBDのためのいくつかの既知の療法と組み合わされ得る。上記の治療薬は、本発明の分子と順次または同時に投与することができる。
【0169】
治療剤(例えば、WNTアゴニストおよび/もしくは組織特異的WNTシグナル増強分子または組み合わせ分子)は、疾患または損傷の発症の前、最中、または後に投与されてもよい。治療が患者の望ましくない臨床症状を安定化または減少させる、進行中の疾患の治療は、特に興味深い。こうした治療は、罹患した組織における機能が完全に喪失する前に実施されることが望ましい。主題の療法は、疾患の症候期の間、および一部の事例では、疾患の症候期後に投与されることが望ましい。一部の実施形態では、主題の方法は、治療的利益、例えば、障害の発症の防止、障害の進行の停止、障害の進行の逆転などをもたらす。一部の実施形態では、主題の方法は、治療的利益が達成されたことを検出する工程を含む。当業者であれば、こうした治療有効性の手段が、修飾される特定の疾患に適用可能であることを理解し、また治療有効性の測定に使用する適切な検出方法を認識するであろう。
【0170】
本明細書において参照される、および/または出願データシートに列挙される、上記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許文献の全ては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0171】
前述から、当然のことながら、本開示の特定の実施形態は、例示の目的で本明細書に記述されているが、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な修正がなされうる。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲による場合を除き、限定されない。
【0172】
本発明の広範な範囲は、以下の実施例を参照して最もよく理解されるが、これは本発明を特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【実施例
【0173】
I.一般的方法
分子生物学における標準方法が記載されている。Maniatisら、(1982年)Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.;SambrookおよびRussell(2001年)Molecular Cloning、第3編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.;Wu(1993年)Recombinant DNA、217巻、Academic Press、San Diego、Calif。標準的な方法は、Ausbelら、(2001年)Current Protocols in Molecular Biology、1~4巻、John Wiley and Sons,Inc.New York、N.Y.にも記載があり、これは細菌細胞でのクローニングおよびDNA変異原性(1巻)、哺乳類細胞および酵母でのクローニング(2巻)、複合糖質およびタンパク質発現(3巻)、ならびにバイオインフォマティクス(4巻)について記載されている。
【0174】
免疫沈降、クロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、および結晶化を含むタンパク質精製の方法が記載されている。Coliganら、(2000年)Current Protocols in Protein Science、1巻、John Wiley and Sons,Inc.、New York。化学分析、化学修飾、翻訳後修飾、融合タンパク質の産生、タンパク質のグリコシル化が記載されている。例えば、Coliganら、(2000年)Current Protocols in Protein Science、2巻、John Wiley and Sons,Inc.、New York;Ausubelら、(2001年)Current Protocols in Molecular Biology、3巻、John Wiley and Sons,Inc.、NY,N.Y.、pp.16.0.5~16.22.17、Sigma-Aldrich,Co.(2001)Products for Life Science Research,St.Louis,Mo.; pp.45~89;Amersham Pharmacia Biotech(2001年)BioDirectory、Piscataway、N.J.、pp.384~391を参照のこと。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の産生、精製、および断片化が記載されている。Coliganら、(2001年)Current Protocols in Immunology、1巻、John Wiley and Sons,Inc.、New York;HarlowおよびLane(1999年)Using Antibodies、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.;HarlowおよびLane、上記。リガンド/受容体の相互作用を特徴解析するための標準的な技法が利用可能である。例えば、Coliganら、(2001年)Current Protocols in Immunology、4巻、John Wiley,Inc.、New Yorkを参照のこと。
【0175】
蛍光活性化細胞ソーティング検出システム(FACS(登録商標))を含むフローサイトメトリー用の方法が利用可能である。例えば、Owensら、(1994年)Flow Cytometry Principles for Clinical Laboratory Practice、John Wiley and Sons、Hoboken、N.J.;Givan(2001年)Flow Cytometry、第2編;Wiley-Liss、Hoboken、N.J.、 Shapiro(2003年)Practical Flow Cytometry、John Wiley and Sons、Hoboken、N.J.を参照のこと。例えば、診断試薬として使用するための、核酸プライマーおよびプローブ、ポリペプチド、ならびに抗体を含む核酸の修飾に適した蛍光試薬が利用可能である。Molecular Probes(2003年)Catalogue、Molecular Probes,Inc.、Eugene、Oreg.;Sigma-Aldrich(2003年)Catalogue、St.Louis、Mo。
【0176】
免疫系の組織学の標準方法が記載されている。例えば、Muller-Harmelink(編)(1986年)Human Thymus:Histopathology and Pathology、Springer Verlag、New York、 N.Y.;Hiattら、(2000年)Color Atlas of Histology、Lippincott、Williams、and Wilkins、Phila、Pa.;Louisら、(2002年)Basic Histology:Text and Atlas、McGraw-Hill、New York、N.Y.を参照のこと。
【0177】
例えば、抗原断片、リーダー配列、タンパク質折り畳み、機能ドメイン、グリコシル化部位、および配列の整列を決定するためのソフトウェアパッケージおよびデータベースが入手可能である。例えば、GenBank,Vector NTI(登録商標)Suite(Informax,Inc,Bethesda,Md.);GCG Wisconsin Package(Accelrys,Inc.,San Diego,Calif.);DeCypher(登録商標)(TimeLogic Corp.,Crystal Bay,Nev.);Menneら、(2000年)Bioinformatics16:741~742;Menneら、(2000年)Bioinformatics Applications Note16:741~742;Wrenら、(2002年)Comput.Methods Programs Biomed.68:177~181;von Heijne(1983年)Eur.J.Biochem.133:17~21;von Heijne(1986年)Nucleic Acids Res.14:4683~4690を参照のこと。
【0178】
II.マウス小腸、ならびにマウスおよびヒト結腸におけるFrizzled受容体の発現。
マウス小腸および結腸上皮におけるFrizzled受容体のそれぞれの発現パターンを決定するために、個々のFrizzled受容体のmRNAを、RNAscope(登録商標)(ACD)により検出した。使用したRNAscope(登録商標)プローブを表1に列挙する。標準RNAscope(登録商標)2.5 HDアッセイ-レッドプロトコールに従った。
【表1】
【0179】
FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、およびFZD9は、マウス腸上皮において異なるレベルで発現する(図1)。FZD5は、腸腺窩および絨毛において最も高いレベルで発現した。腺窩において、FZD5発現は、有限増殖(TA)細胞が存在する尖端区画の近くではるかに高かった。FZD1を、腸上皮と、腸腺窩のすぐ周囲の固有層の両方において低いレベルで検出した。FZD4、FZD6、およびFZD7は、低レベルで発現し、腸絨毛と腺窩の両方において均等に分布した。FZD2、FZD3、FZD8、FZD9、およびFZD10の発現は非常に低く、主に、腸腺窩で検出した。
【0180】
FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、およびFZD9はまた、マウス結腸において異なるレベルで発現する。FZD5は、結腸腺窩で最も高いレベルで発現し、発現は、管腔側に向かい高くなった。FZD1およびFZD7を、結腸上皮において低レベルで検出した。FZD2、FZD3、FZD4、FZD6、FZD8およびFZD9を、低レベルで発現し、結腸腺窩に均等に分布した。腸においてFZD10の検出可能な発現はなかった。FZD発現のレベルは、マウスDSS大腸炎IBDモデルの結腸およびヒト潰瘍性大腸炎患者結腸において影響を受けた。
【0181】
ヒト結腸上皮におけるFrizzled受容体のそれぞれの発現パターンを決定するために、個々のFrizzled受容体のmRNAを、RNAscope(登録商標)(ACD)により検出した。標準RNAscope(登録商標)2.5 HDアッセイ-レッドプロトコールに従った。FZD5は、結腸腺窩において最も高いレベルで発現した。FZD7を、結腸上皮および結腸腺窩を包含する間質細胞において、より低いレベルで検出した。
【0182】
III.操作した可溶性WNTアゴニストの活性
三つのFrizzledバイアス型WNTアゴニスト、R2M3-26(FZD1、2、5、7、8およびLRP6結合剤)、1RC07-03(FZD1、2、7およびLRP5結合剤)ならびにR2M13-03(FZD5、8およびLRP5結合剤)の活性を、ヒト肝細胞株、Huh7細胞において調べて、WNTシグナル伝達を活性化する能力を決定した。三つのWNTアゴニストは、国際公開第2019126398号に既に記載されている。表2は、使用した三つのWNTアゴニストのLC鎖およびHC鎖の配列を提供する。
【表2】
【0183】
細胞を、1日目に96ウェルプレート当たり100万個で播種し、一晩成長させた。20nM R-スポンジンの存在下で、100nMから始まる10倍希釈で細胞にタンパク質をトリプリケートで加えた。ルシフェラーゼレポーター活性を、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いてウェル中でアッセイし、SpectraMaxプレートリーダー(Molecular Devices)上で読み取った。各タンパク質希釈液についてのトリプリケートの平均絶対RLU値を示す(図2)。R2M3-26(FZD1、2、5、7、8)は、最も高いレポーター活性を示した。R2M13-03(FZD5、8)は、STFアッセイにおいて最も低い活性を示した。
【0184】
IV.WNTシグナル伝達の活性化は、FZD5およびFZD8を介してマウス小腸オルガノイド増殖を特異的に刺激した
マウス小腸オルガノイドを、マウスIntestiCult(商標)オルガノイド成長培地(StemCell Technologies)においてで維持した。オルガノイド増殖についてアッセイするために、オルガノイドを、Gentle Cell Dissociation試薬(StemCell Technologies)を用いて10分間、振とうしながら解離させ、冷PBS(Gibco)中で2回洗浄し、氷上で、Matrigel(Corning)中1:1で懸濁した。Matrigel中の細胞再懸濁液25μlを、予め温めた48ウェル組織培養プレート上の各ウェルの中心に播種し、37℃で5分間固めた。基礎培地(表3)、基礎培地+IWP2または基礎培地+IWP2+代替WNTアゴニスト300μlを、ウェルに適用した。各条件は、5~6回の反復を含む。培地および処理を、播種後4日目に1回交換した。7日目に取得した3D培養オルガノイドの画像を図3に示す。Cell Titer Glow 3D(Promega)を、処理したオルガノイド上で7日目に行った。
【表3】
【0185】
腸オルガノイドは、WNTアゴニスト処理の存在下で、増殖し、形態学的に丸くなる。内因性WNT発現を、ヤマアラシ阻害剤IWP-2を用いたアッセイにおいて阻害した。R2M3-26(FZD1、2、5、7、8)とR2M13-03(FZD5、8)の両方は、オルガノイド増殖を強く刺激し、オルガノイドの数の増加および個々のオルガノイドの拡大によって反映される(図3Aおよび3C)。1RC07-03(FZD1、2、7)はまた、オルガノイドの増殖を刺激するが、程度ははるかに低い。すべてのWNTアゴニストは、18R5-Dkk1cよりも高い活性を示した(その構造は、Jandaら、(2017年)Nature 545:234~237)。FZDアンタゴニストを、オルガノイド培養物において同様に試験することができる。
【0186】
VI.マウスオルガノイド培養物のIHC解析
マウス小腸オルガノイドに対するR2M3-26の活性を、増殖マーカーKKi67染色を用いて示した。8ウェルチャンバースライド(Lab-Tek II、154534)において培地を浸漬させたMatrigelにおいて成長させたマウス小腸オルガノイドを、上述のように100nM R2M3-26で7日間処理した。次いで、オルガノイドを4%PFA中で固定し、PBS+0.2%トリトン中で20分間透過処理し、ブロッキング緩衝液(PBS+0.2%トリトン+3%BSA)においてブロッキングした。一次抗体ウサギ抗Ki67(Abcam ab15580、1:1000)およびヤギ抗E-カドヘリン(R&D AF748、1:2000)をブロッキング緩衝液中で混合し、オルガノイドに添加した。室温で一次抗体と1時間インキュベーション後、オルガノイドをPBS+0.2%トリトンで3回洗浄し、次いで、二次抗体ロバ抗ウサギ Alexa568(Abcam)とロバ抗ヤギAlexa488(Abcam)の1:1000希釈液と共に室温で30分間インキュベートした。次いで、オルガノイドをPBS+0.1%Tweenで3回洗浄し、ProLong(商標)Gold Antifade Mountant(Thermo Fisher)に入れた。Zスタック信号チャネル画像を、Zeiss DMi8蛍光顕微鏡で撮影し、デジタルデコンヴォルーションし、2D上に投影し、説明のため2チャネル合成した。WNTアゴニスト処理は、マウス小腸オルガノイドの増殖を刺激した。抗Ki67(赤色)および抗E-カドヘリン(緑色)で染色した100nM R2M3-26で処理した後のマウス小腸オルガノイドは、WNTアゴニスト処理の際に細胞増殖を示す(図4)。
【0187】
VII.インビボデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)IBDマウスモデル
6週齢のC57Bl/6Jメスのマウスを、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME、USA)から入手し、ケージ当たり4匹、収容した。すべての動物実験は、米国科学アカデミーが準備した「実験動物の世話と使用に関するガイド」の基準に従った。動物実験のプロトコールを、Surrozen Institutional実験動物委員会が承認した。実験開始前の少なくとも2日間、マウスを馴化させた。マウスは、30~70%の湿度環境および20℃~26℃の範囲にある室温において、12/12時間の明暗サイクルを維持した。
【0188】
急性大腸炎を誘発するために、7~8週齢のメスのマウスに、4.0%(w/v)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS、MP Biomedicals、MFCD00081551)を含有する飲料水を7日間、および1.0%(w/v)DSSを含有する飲料水を2日間自由に摂取させた(図5A)。DSSに供したマウスは、重大かつ持続的な体重減少(図5B)および血性下痢を特徴とする重度の大腸炎を発症し、これにより、糞便スコアによって表される、疾患指数の増加をもたらした(図5C)。週2回または1日1回のRSPO2-Fc(R-スポンジン2-Fc;配列番号24)とR2M3-26の併用処置は、陰性対照と比較して、9日目に疾患活動性指数(DAI)を有意に改善した。R2M3-26単独およびR2M3-26+RSPO2-Fc処置は、10日目に体重を有意に改善した。
【0189】
DSSモデルマウスの横行結腸の組織学的評価は、粘膜から漿膜まで伸びる炎症、腺窩過形成、杯細胞消失および潰瘍化を示し(図6A~6E)、対照的に、WNTアゴニストで処置したマウスの結腸は、ほぼ正常であり、すべての処置群の中で最も低い組織学的スコアであった(図6C)。RSPO2-Fcは、結腸組織の組織学的スコアに有意な陽性効果を有しない。RSPO2-Fc+R2M3-26併用群は、対照抗GFP群と比較して、結腸組織のより低い組織学的スコアを有する(P<0.0、図7A)。R2M3-26は、小腸腺窩または絨毛に影響を与えないようであり(図8C)、一方、RSPO2-Fcおよび併用は、絨毛および腺窩の過形成を誘発した(図8D~8E)。組織学的スコアリングを、例えば、Geboesら、(2000年)、上記に記載の通り、評価した。
【0190】
血清中の炎症性サイトカインを、炎症促進パネル1キット(Meso Scale Diagnostics、K15048D)により分析し、R2M3-26、RSPO2-Fc、およびR2M3-26プラスRSPO2-Fcの治療すべてが、IFN-γ、TNF-α、およびIL-1βのサイトカインレベルを低減する(それぞれ、図9A~9J、特に、図9A、9Jおよび9B)。
【0191】
RSPO2-Fc単独は、小腸過形成を誘発し、体重減少およびDAIに有意な利益をもたらさなかった。WNTアゴニスト/RSPO2-Fc併用治療は、疾患活性を低減し、損傷した結腸上皮を修復し、一方、小腸における過形成を誘発した。R2M3-26単独は、a)体重を改善し、b)損傷した結腸上皮を修復し、c)血清炎症性サイトカインマーカーを減少し、d)小腸過形成を引き起こさず、これにより、WNTアゴニスト単独が、上皮バリアを改善し、これによって炎症を低減することによって、急性結腸大腸炎を治療するために使用することができることを示す。
【0192】
VIII.腸の炎症および上皮組織の修復の改善
先行研究は、多特異性WNTアゴニストであるR2M3-26が、DSS大腸炎マウスモデルにおいて腸の炎症を改善し、上皮損傷を修復することができたことを示した。結腸におけるFZD5およびFZD8の選択的な発現を考慮すると、FZD5、8特異的WNTアゴニスト、R2M13-26、およびFZD1、2、7特異的WNTアゴニスト、1RC07-26のいずれかまたは両方が、マウスモデルにおいてDSS誘発性大腸炎を軽減できたかどうかを確認するために試験した。
【0193】
6週齢のC57Bl/6Jメスのマウスを、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME、USA)から入手し、ケージ当たり5匹、収容した。すべての動物実験は、米国科学アカデミーが準備した「実験動物の世話と使用に関するガイド」の基準に従った。動物実験のプロトコールを、Institutional実験動物委員会が承認した。
【0194】
急性大腸炎を誘発するために、7~8週齢のメスのマウスに、4.0%(w/v)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS、MP Biomedicals、MFCD00081551)を含有する飲料水を7日間、および1.0%(w/v)DSSを含有する飲料水を3日間自由に摂取させた。DSSに供したマウスは、重大かつ持続的な体重減少(図10A)および血性下痢を特徴とする重度の大腸炎を発症し、これにより、糞便スコア(図10B)および疾患指数(DAI)の増加をもたらした。週2回のR2M3-26、R2M13-26、および1RC07-26処置は、それぞれ、陰性対照(PBSまたは抗GFP)と比較して、10日目に体重(図10A)および便スコア(図10B)を有意に改善した。DSSモデルマウスの横行結腸の組織学的評価は、好中球浸潤、腺窩過形成、杯細胞消失および潰瘍を示した(図11Bおよび11C)。R2M3-26、R2M13-26、および1RC07-26処置は、結腸組織学を修復し、これにより、上皮びらん、杯細胞喪失、および好中球遊走の改善を示した(図11D~H)。R2M3-26、R2M13-26、またはC07-3は、小腸過形成を引き起こさず(図11Bおよび11C)、一方、R2M3-26/ RSPO併用処置は、小腸過形成を誘発した(図12D~H)。血清および結腸組織における炎症性サイトカインを、炎症促進パネル1キット(Meso Scale Diagnostics、K15048D)を使用して分析し、その結果は、R2M3-26およびR2M13-26処置が、血清中のTNF-αレベルおよびIL-8レベル(図13Aおよび13C)、ならびに結腸組織におけるIL-6およびIL-8レベル(図13Eおよび13F)を有意に低減したことを示した。
【0195】
上記の実施例IVで言及した通り、R2M3-26は、DSS大腸炎マウスにおいて腸炎症を低減し、上皮損傷を修復した。この研究はさらに、FZD5、8特異的WNTアゴニスト、R2M13-26、およびFZD1、2、7特異的WNTアゴニスト、1RC07-26が、DAIを改善し、小腸過形成を伴わないで損傷した結腸上皮を修復し、結腸および血清中の炎症性サイトカインレベルを低減することができたことを示した。
【0196】
IX.マウスDSSモデルにおけるR2M13-26の用量応答解析
IBDのDSSマウスモデルにおけるR2M13-26(FZD5、8結合剤)の最適用量を決定するために、6週齢のC57Bl/6Jメスのマウスを、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME、USA)から入手し、ケージ当たり5匹を収容した。すべての動物実験は、米国科学アカデミーが準備した「実験動物の世話と使用に関するガイド」の基準に従った。動物実験のプロトコールを、Surrozen Institutional実験動物委員会が承認した。
【0197】
急性大腸炎を誘発するために、7~8週齢のメスのマウスに、4.0%(w/v)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS、MP Biomedicals、MFCD00081551)を含有する飲料水を7日間、および1.0%(w/v)DSSを含有する飲料水を3日間自由に摂取させた。DSSに供した対照マウスは、重大かつ持続的な体重減少および血性下痢を特徴とする重度の大腸炎を発症し、これにより、疾患指数(DAI、図14A~14B)の増加をもたらした。
【0198】
0.3、1、3、10mpk、週2回のR2M13-26処置は、用量反応パターンでDAIを改善した(図14A)。さらなる濃度である1、3、10、30mpk、週1回のR2M13-26処置は、用量応答パターンでDAIを改善した(図14B)。DSSモデルマウスの横行結腸の横断面の組織学的評価は、好中球浸潤、浮腫、腺窩過形成、杯細胞消失および潰瘍を示した。異なる用量および頻度でのR2M13-26処置はすべて、DSS大腸炎マウスにおいて、上皮びらん、杯細胞消失および好中球遊走に対する改善を示した(図15A~15J)。血清および結腸組織における炎症性サイトカインを、炎症促進パネル1キット(Meso Scale Diagnostics、K15048D)を使用して分析し、その結果は、異なる用量および頻度でのR2M13-26処置すべてが、血清中のTNF-α、IL-6およびIL-8レベル(図16A~16C)、ならびに結腸組織におけるTNF-α、IL-6およびIL-8レベル(図17A~17C)を有意に減少したことを示した。
【0199】
R2M13-26は、広範な用量範囲で、大腸炎マウスモデルにおいて腸炎症を低減し、上皮損傷を修復し、これにより、腸上皮バリアの改善を介して急性大腸炎の治療におけるFZD5、8特異的分子(R2M13-26)をさらに検証した。
【0200】
X.急性DSSモデルにおける異なるFZD5、8特異的WNTアゴニストの有効性
四つのFZD5、8特異的WNTアゴニスト、57SE8-26、57SB8-26、174R-E01-26および57SA10-26の活性を、ヒト肝細胞株であるHuh7細胞において調べて、WNTシグナル伝達を活性化するそれらの能力を決定した。表4は、FZD5、8WNTアゴニストの構成要素の配列を提供する。これらのWNTアゴニストは、重鎖(HC)および軽鎖(LC)を含有するFabであるFZD結合ドメインならびにリンカーを介してLCのN末端でFZD Fabに結合したVHHであるLRP結合ドメインを含む。WNTアゴニストは、示したLC鎖の二つおよび示したHC鎖の二つを含む。
【表4-1】
【表4-2】
【0201】
FZD-VH配列を太字で示し、FZD-CH1配列を斜体で示し、ヒンジ配列を太字の斜体で示し、CH2配列を、下線付き斜体で示し、CH3配列を、下線付き太字で示し、リンカーを介してVLのN末端に結合したLRP(26)VHH配列を、下線付き太字の斜体で示し、リンカー配列は下線のみであり、FZD-VLは、網掛け灰色であり、FZD-CLは、網掛け灰色かつ下線である。
【0202】
FZD5およびFZD8に特異的に結合する(かつ他のFZDに有意に結合しない)FZD5/8特異的結合ドメインを表5に示す。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0203】
ある特定の実施形態では、本開示は、配列番号7~14または33~40のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する配列を含むポリペプチドを提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、配列番号7~14または33~40のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する配列を含むFZD結合ドメインを含むWNTアゴニストを提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、配列番号33~40のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する配列を含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、配列番号7~14または33~40のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する配列を含むFZD結合ドメインを含む組み合わせ分子を提供する。
【0204】
表6は、上記のFZD5、8結合ドメインのVHおよびVLのCDR配列を提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、FZD5、8結合ドメインのいずれかのVHおよび/もしくはVL CDR配列のいずれかまたは両方を含むポリペプチドを提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書において同定したFZD5、8結合ドメインのいずれかの重鎖(CDRH1-3)および/もしくは軽鎖(CDRL1-3)CDR配列のいずれかまたは両方を含むFZD結合ドメイン、例えば、57SE8、57SB8174RE、または57SA10を含むWNTアゴニストを提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、FZD5、8結合ドメインのいずれかのVHおよび/もしくはVL CDR配列のいずれかまたは両方を含む抗体またはその高原結合断片を提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、FZD5、8結合ドメインのいずれかのVHおよび/もしくはVL CDR配列のいずれかまたは両方を含むWNTアゴニストを提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、FZD5、8結合ドメインのいずれかのVHおよび/もしくはVL CDR配列のいずれかまたは両方を含むFZD結合ドメインを含む組み合わせ分子を提供する。他の実施形態では、ポリペプチド、抗体もしくはその結合断片、WNTアゴニスト、または組み合わせ分子は、結合ドメインのいずれかに存在する6つのうち少なくとも5つのCDRを含む。他の実施形態では、ポリペプチド、抗体もしくはその結合断片、WNTアゴニスト、または組み合わせ分子は、結合ドメインのいずれかに存在する六つのCDRを含み、CDRは、天然のCDRと比較して、一つまたは複数、例えば、一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ以上のアミノ酸修飾をまとめて含む。特定の実施形態では、WNTアゴニストまたは組み合わせ分子は、開示したCDRまたはそのバリアントのいずれかをまとめて有する二つの重鎖および二つの軽鎖を含む。
【表6】
【0205】
細胞を、1日目に96ウェルプレート当たり100万個で播種し、一晩成長させた。20nM R-スポンジンの存在下で、100nMから始まる10倍希釈で細胞にタンパク質をトリプリケートで加えた。ルシフェラーゼレポーター活性を、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いてウェル中でアッセイし、SpectraMaxプレートリーダー(Molecular Devices)上で読み取った。各タンパク質希釈液についてのトリプリケートの平均絶対RLU値を示す(図18)。R2M13-26を、比較のため同じアッセイに含めた。
【0206】
IBDのDSSマウスモデルにおける追加のFZD5、8特異的WNTアゴニストの有効性を決定するために、6週齢のC57Bl/6Jメスのマウスを、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME、USA)から入手し、ケージ当たり5匹を収容した。すべての動物実験は、米国科学アカデミーが準備した「実験動物の世話と使用に関するガイド」の基準に従った。動物実験のプロトコールを、Surrozen Institutional実験動物委員会が承認した。
【0207】
急性大腸炎を誘発するために、7~8週齢のメスのマウスに、4.0%(w/v)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS、MP Biomedicals、MFCD00081551)を含有する飲料水を7日間、および1.0%(w/v)DSSを含有する飲料水を3日間自由に摂取させた。DSSに供した対照マウスは、重大かつ持続的な体重減少および血性下痢を特徴とする重度の大腸炎を発症し、これにより、疾患指数の増加をもたらした(DAI、図19A)。
【0208】
10mpk、週2回のFZD5、8特異的WNTアゴニスト処置は、R2M13-26と同様に、DAIを改善した(図19A)。血清中の炎症性サイトカインを、炎症促進パネル1キット(Meso Scale Diagnostics、K15048D)により分析し、その結果は、58SE8-26を除く、FZD5、8特異的WNTアゴニストすべてが、血清中(図16A~16C)および結腸組織(図19B~19D)におけるTNF-α、IL-6およびIL-8レベルを有意に減少することを示した。
【0209】
FZD5、8特異的WNTアゴニストは、腸炎症を低減し、上皮損傷を修復し、これにより、DSS大腸炎マウスモデルにおけるDAIの改善をもたらし、これにより、腸上皮バリアの改善を介した急性大腸炎の治療において、本明細書に記載するFZD5、8特異的WNTアゴニスト分子をさらに検証した。
【0210】
XI.組織特異的WNTシグナル増強分子は、インビトロで、WNTシグナル伝達を有効に活性化し、腸オルガノイド成長を刺激した
MMUC-13結合剤C4、C7、およびC14(例えば、国際特許出願公開第2016168607A1号を参照)をクローニングし、完全長IgG形式で作製し、MUC-13に対するそれらの結合能力を、MUC-13を発現するHT29細胞に対するFACS分析により決定した。MUC-13非発現HEK293細胞へのそれらの潜在的な結合も、陰性対照として分析した。細胞を回収し、FACS緩衝液(PBS(-Ca2+、-Mg2+)、0.1%BSA、0.5%アジ化ナトリウム)を用いて2回洗浄し、10個の細胞/mlでFACS緩衝液中に再懸濁した。細胞懸濁液60μlを、96ウェルv底プレートの各ウェルに分注し、プレートを1500rpmで3分間遠心分離し、FACS緩衝液を除去し、その後、FACS緩衝液中で希釈した10nMの対応するMUC-13抗体または抗GFP対照抗体を加え、4℃で1時間インキュベートした。次いで、プレートを遠心分離して、一次抗体を除去し、FACS緩衝液で1回洗浄し、その後、Alexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗ヒト二次抗体(ThermoFisher Scientific)を加え、4℃で30分間インキュベートした。次いで、遠心分離後に、この培地を除去し、プレートを、FACS緩衝液中で1回洗浄した。次いで、細胞を150 FACS緩衝液中に再懸濁し、10,000現象でBD Accuri(商標)細胞アナライザー(Becton Dickinson)で分析した。HT29(図20A-20C)およびHEK293細胞(図20D-20F)についてのFACSプロットを比較すると、試験したMUC-13結合剤のうちの一つであるC14のみが、HT29細胞における特異的なFACSシフトを示し、これは、C14のMUC-13特異的結合活性を示している。表7は、試験したMUC-13結合剤の配列を提供する。
【表7-1】
【表7-2】
【0211】
上述のMUC-13結合剤が、腸特異的WNTシグナル伝達増強分子の組織特異性をもたらす役目を果たすことができるかどうかを調べるために、変異体(F105R/F109A)RSPO2(mutRSPO2、フューリン2結合ドメインにおけるアミノ酸変異を有し、これにより、LGR1-4への結合を低減する(例えば、国際特許出願公開第2020014271号を参照))を、15個のアミノ酸GSリンカーを用いてMUC-13 IgG抗体(または陰性対照としてのGFP抗体)の重鎖のC末端に融合させた。これらのMUC-13標的化mutRSPO2(mutRSPO)分子のこれらのシグナル伝達活性を、上述の通り、HT29細胞またはHEK293細胞におけるスーパーTOPFlashルシフェラーゼレポーター(STF)アッセイにより試験した。C4-mutRSPO2、C7-mutRSPO2、およびC14-mutRSPO2ルシフェラーゼレポーター活性についての用量反応曲線を測定した(図21)。再度、MUC-13標的化WNT増強分子の中で、C14-mutRSPO2のみが、HT29細胞における揚々応答曲線の特異的な左シフトを示したが、HEK293細胞では示さず、これは、野生型Fc-RSPO2(配列番号24)に匹敵するEC50を伴った。これは、IgGとしてのC-14のMUC-13結合活性と一致し、これは、MUC-13結合によって標的とされるとき、Lgr4-6結合能を欠くWNT増強分子は、天然RSPO2のように機能して、細胞においてWNTシグナル伝達を調節することができることを示唆している。
【0212】
MUC-13標的化WNTシグナル伝達増強分子のシグナル伝達活性も、ヒト小腸オルガノイドにおいて調べた。オルガノイド培養物の成長および維持を、上記に記載した。野生型RSPOを培地中のC14-mutRSPO2で置き換えたとき、ヒト小腸オルガノイドの成長を維持した。ヒト小腸オルガノイドを、示した連続希釈濃度の非腸上皮細胞標的化mutRSPO1(ASGR1-mutRSPO1、例えば、国際特許出願公開第2020014271号を参照のこと)(図21A~21C)または同じ濃度のC14-mutRSPO2(図21D~21F)によりRSPO-1を置き換えた基礎培地において成長させた。RSPOを含まない基礎培地において成長させたときに観察するもの(図21G)と同様に、ASGR1-mutRSPO1で成長させたオルガノイドは成長を停止し、変性し始めた一方、C14-mutRSPOは、野生型RSPOを含有するIntestiCult(商標)(StemCell Technologies)オルガノイド成長培地と同様に、オルガノイド成長を維持することができた(図21H)。このアッセイは、MUC-13標的化WNTシグナル伝達増強分子が、ヒト小腸微小組織において無傷の上皮上で機能し得ることを示した。
【0213】
上述の様々な実施形態を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。本明細書において参照され、かつ/または出願データシートに列挙される米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許文献はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。実施形態の態様は、
【0214】
なおさらなる実施形態を提供するために、様々な特許、出願、および公報の概念を採用するために、必要に応じて修正することができる。これらの変更およびその他の変更は、上記に詳述した説明に照らし、実施形態に対して行うことができる。
【0215】
一般に、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を、本明細書および特許請求の範囲に開示された特定の実施形態に限定するものとして解釈されるべきではなく、こうした特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲と共に、全ての可能な実施形態を含むものとして解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は本開示によって限定されない。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
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図19A
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図19C
図19D
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【配列表】
2022525300000001.app
【国際調査報告】