(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-13
(54)【発明の名称】フルオレセインエーテルリン脂質またはフルオレセインエーテルリン脂質前駆体と併用した抗フルオレセインCAR T細胞に対する拮抗薬としてのフルオレセインナトリウム
(51)【国際特許分類】
A61K 35/17 20150101AFI20220506BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20220506BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220506BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220506BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220506BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20220506BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20220506BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220506BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220506BHJP
A61K 47/66 20170101ALI20220506BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20220506BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20220506BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20220506BHJP
A61K 31/06 20060101ALI20220506BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
A61K35/17 Z
C07K14/725 ZNA
C07K16/28
C07K19/00
C12N5/10
C12N5/078
C12N5/0789
A61P35/00
A61K35/28
A61K47/66
A61K31/4188
A61K31/58
A61K31/352
A61K31/06
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555170
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(85)【翻訳文提出日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 US2020022130
(87)【国際公開番号】W WO2020185917
(87)【国際公開日】2020-09-17
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515045617
【氏名又は名称】シアトル チルドレンズ ホスピタル (ディービーエイ シアトル チルドレンズ リサーチ インスティテュート)
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,マイケル シー.
(72)【発明者】
【氏名】マッセイ,ジェイムズ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C086
4C087
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BC50
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC03
4C076CC50
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4C076DD59
4C076DD61
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE41
4C076EE59
4C086AA01
4C086BA08
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4C086ZB26
4C086ZC75
4C087AA01
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4C087MA02
4C087MA05
4C087NA06
4C087NA07
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4C206AA01
4C206EA03
4C206MA03
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4C206NA07
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4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、例えば、非結合型フルオレセインまたはその塩もしくは誘導体などの非結合型ハプテンを使用または投与することにより、例えば、抗フルオレセインCAR T細胞などの抗ハプテンCAR T細胞のシグナル伝達を調節することに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを治療、緩和もしくは抑制するか、またはがんを有する対象に治療法を提供する方法であって、
(a)標的部分としてのビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインなどに結合させた脂質を含む組成物を、がんを有する対象に投与する工程;
(b)前記標的部分に特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む細胞を前記対象に投与する工程;および
(c)脂質に結合していない前記標的部分として、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインの塩、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインのナトリウム塩、二ナトリウム塩またはカリウム塩などを前記対象に投与する工程
を含む方法。
【請求項2】
工程(b)の後に工程(c)を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂質に結合していない前記標的部分を投与した場合の前記CARまたはTCRを含む細胞のエフェクター機能が、脂質に結合していない該標的部分の非存在下における前記CARまたはTCRを含む細胞のエフェクター機能よりも低くなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
脂質に結合していない前記標的部分を投与した場合の前記CARまたはTCRを含む細胞からのサイトカインの産生が、脂質に結合していない該標的部分の非存在下における前記CARまたはTCRを含む細胞からのサイトカインの産生よりも少なくなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記標的部分が、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインまたはこれらの誘導体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記標的部分が、フルオレセインまたはその誘導体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記脂質が、エーテルリン脂質(PLE)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が前駆T細胞である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が造血幹細胞である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞が、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記がんが、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がん、肝臓がんなどの固形腫瘍;または白血病、多発性骨髄腫などの非固形腫瘍である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が哺乳動物である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象がヒトである、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
脂質に結合していない前記標的部分が、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインの塩、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインのナトリウム塩、二ナトリウム塩またはカリウム塩である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記標的部分がフルオレセインであり、脂質に結合していない前記標的部分が、フルオレセインの塩、好ましくはフルオレセインナトリウムまたはフルオレセイン二ナトリウムである、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記CARまたはTCRが、配列番号1~6からなる群から選択される配列を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月13日に出願された米国仮特許出願第62/818,030号に基づく利益を主張するものであり、この出願は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SCRI227WOSEQLIST.TXTのファイル名で2020年3月11日に作成された14,018バイトのファイルとして提供されたものである。この電子形式の配列表に記載の情報は、引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0003】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、例えば、非結合型フルオレセインまたはその誘導体(例えばその塩)などの非結合型ハプテンを使用または投与することにより、例えば、抗フルオレセインCAR T細胞などの抗ハプテンCAR T細胞のシグナル伝達を調節することに関する。
【背景技術】
【0004】
腫瘍細胞上に発現された表面分子に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように、遺伝子移入により遺伝子組換えされたヒトTリンパ球の養子移入は、効果的にがんを治療できる可能性がある。キメラ受容体は、細胞外リガンド結合ドメインを含む合成受容体である。この細胞外リガンド結合ドメインは、最も一般的には、モノクローナル抗体の一本鎖可変領域断片(scFv)が細胞内シグナル伝達部分に連結されたものである。細胞内シグナル伝達部分は、最も一般的にはCD3ζ単独であるか、あるいは1種以上の共刺激ドメインと組み合わせたCD3ζである。キメラ抗原受容体の設計に関する研究の多くでは、生体に重要な正常組織に対して重大な毒性を引き起こすことなく、悪性細胞を標的とするscFvおよびその他のリガンド結合エレメントを決定すること、およびT細胞のエフェクター機能を活性化することが可能な、細胞内シグナル伝達モジュールの最適な構成を決定することに焦点が当てられている。したがって、特定の標的に対して選択的であり、有害な副作用を最小限に抑えることが可能な、CAR T細胞を使用した治療法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、がんを治療、緩和もしくは抑制するか、またはがんを有する対象に治療法を提供する方法であって、
(a)標的部分に結合させた脂質を含むか、実質的にこの脂質からなるか、またはこの脂質からなる組成物を、がんを有する対象に投与する工程;
(b)前記標的部分に特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)もしくはT細胞受容体(TCR)を含む細胞、実質的にこのCARもしくはTCRからなる細胞、またはこのCARもしくはTCRからなる細胞を前記対象に投与する工程;および
(c)脂質に結合していない前記標的部分を前記対象に投与する工程
を含む方法、実質的にこれらの工程からなる方法、またはこれらの工程からなる方法を含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、工程(b)の後に工程(c)を行う。
【0007】
いくつかの実施形態において、脂質に結合していない前記標的部分を投与した場合の前記CAR T細胞のエフェクター機能は、脂質に結合していない該標的部分の非存在下における前記CAR T細胞のエフェクター機能よりも低くなる。いくつかの実施形態において、脂質に結合していない前記標的部分を投与した場合の前記CAR T細胞からのサイトカインの産生は、脂質に結合していない該標的部分の非存在下における前記CAR T細胞からのサイトカインの産生よりも少なくなる。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記標的部分は、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインまたはそれらの誘導体もしくは塩を含むか、実質的にこれらからなるか、またはこれらからなる。いくつかの実施形態において、前記塩は、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインのナトリウム塩、二ナトリウム塩、カリウム塩または二カリウム塩である。いくつかの実施形態において、前記塩は、カルシウム塩、マグネシウム塩、一リン酸塩、二リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、マレイン酸塩、クエン酸塩、メシル酸塩、硝酸塩、酒石酸塩、アルミニウム塩またはグルコン酸塩である。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、フルオレセインまたはその誘導体もしくは塩(例えば、フルオレセインナトリウムなど)を含むか、実質的にこれらからなるか、またはこれらからなる。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記標的部分は非結合型である。いくつかの実施形態において、前記標的部分は結合型である。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、核酸、DNA、RNA、ヌクレオチド、糖、糖鎖、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、ホルモン、脂質、エーテル脂質、リン脂質またはコレステロールに結合されている。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、エーテルリン脂質に結合されている。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記脂質は、エーテルリン脂質(PLE)を含むか、実質的にエーテルリン脂質(PLE)からなるか、またはエーテルリン脂質(PLE)からなる。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記細胞は前駆T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記がんは、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、神経膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がん、肝臓がんなどの固形腫瘍;または白血病、多発性骨髄腫などの非固形腫瘍である。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記対象は動物である。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象は、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ウマまたはニワトリである。
【0014】
本明細書で提供される実施形態を、付番した以下の実施形態により説明する。
【0015】
1.がんを治療、緩和もしくは抑制するか、またはがんを有する対象に治療法を提供する方法であって、
【0016】
(a)標的部分としてのビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインなどに結合させた脂質を含む組成物を、がんを有する対象に投与する工程;
【0017】
(b)前記標的部分に特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む細胞を前記対象に投与する工程;および
【0018】
(c)脂質に結合していない前記標的部分として、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインの塩、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインのナトリウム塩、二ナトリウム塩またはカリウム塩などを前記対象に投与する工程
を含む方法。
【0019】
2.工程(b)の後に工程(c)を行う、実施形態1に記載の方法。
【0020】
3.脂質に結合していない前記標的部分を投与した場合の前記CARまたはTCRを含む細胞のエフェクター機能が、脂質に結合していない該標的部分の非存在下における前記CARまたはTCRを含む細胞のエフェクター機能よりも低くなる、実施形態1または2に記載の方法。
【0021】
4.脂質に結合していない前記標的部分を投与した場合の前記CARまたはTCRを含む細胞からのサイトカインの産生が、脂質に結合していない該標的部分の非存在下における前記CARまたはTCRを含む細胞からのサイトカインの産生よりも少なくなる、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0022】
5.前記標的部分が、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインまたはこれらの誘導体を含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0023】
6.前記標的部分が、フルオレセインまたはその誘導体を含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0024】
7.前記脂質が、エーテルリン脂質(PLE)を含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0025】
8.前記細胞が前駆T細胞である、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0026】
9.前記細胞が造血幹細胞である、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0027】
10.前記細胞が、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0028】
11.前記細胞が、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0029】
12.前記がんが、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がん、肝臓がんなどの固形腫瘍;または白血病、多発性骨髄腫などの非固形腫瘍である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0030】
13.前記対象が哺乳動物である、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0031】
14.前記対象がヒトである、実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0032】
15.脂質に結合していない前記標的部分が、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインの塩、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインのナトリウム塩、二ナトリウム塩またはカリウム塩である、実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0033】
16.前記標的部分がフルオレセインであり、脂質に結合していない前記標的部分が、フルオレセインの塩、好ましくはフルオレセインナトリウムまたはフルオレセイン二ナトリウムである、実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0034】
17.前記CARまたはTCRが、配列番号1~6からなる群から選択される配列を含む、実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
【0035】
前述した特徴以外のさらなる特徴や変形例は、以下の図面の説明および代表的な実施形態から容易に理解できるであろう。以下の図面は代表的な実施形態を示しており、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1A】細胞へのFL-PLEの取り込みを調べたフローサイトメトリー分析を示す。
【0037】
【
図1B】エフェクターT細胞(CD8+ Mock T細胞またはCD8+抗FL(FITC-E2)CAR(Lg)T細胞)と標的細胞を様々な比率で混合したクロム放出アッセイを示す(エフェクター:標的(E:T))。標的細胞として、K562コントロール細胞、K562 OKT3+細胞または5μMのFL-PLEを加えたK562細胞を使用した。CD8+抗FL(FITC-E2)集団の1つは、50μMのNaFLに暴露させた。
【0038】
【
図1C】ヘルパーT細胞(CD4+mock T細胞もしくはCD4+抗FL(FITC-E2)CAR(Lg)T細胞)またはエフェクターT細胞(CD8+mock T細胞もしくはCD8+抗FL(FITC-E2)CAR(Lg)T細胞)と標的細胞を混合したサイトカイン放出アッセイを示す。標的細胞として、K562コントロール細胞、K562 OKT3+細胞または5μMのFL-PLEを加えたK562細胞を使用した。CD4+抗FL(FITC-E2)集団の1つおよびCD8+抗FL(FITC-E2)集団の1つは、50μMのNaFLに暴露させた。
【0039】
【
図2A】MDA-MB-231腺癌腫瘍異種移植片マウスモデルにおいて、全流束(光子/秒)で経時的に測定した腫瘍の進行を示す。eGFP遺伝子およびルシフェラーゼ遺伝子の付加により、腫瘍は生物発光を示した。
【0040】
【
図2B】MDA-MB-231腺癌腫瘍異種移植片マウスモデルにおけるサイトカイン放出症候群(CRS)の重症度および細胞傷害性の程度の経時変化を示す。
図2Bの下図は、
図2Bの上図の拡大図である。
【0041】
【
図2C】MDA-MB-231腺癌腫瘍異種移植片マウスモデルにおける生存率を示す。
【0042】
【
図3A】2人のドナーから得たT細胞集団に抗FL(Mut2)CAR(またはMockコントロール)をレンチウイルスで形質導入し、メトトレキサートで選択し、拡大培養した後のCD4+細胞とCD8+細胞の比率を示す。
【0043】
【
図3B】2人のドナーから得たT細胞集団に抗FL(Mut2)CAR(またはMockコントロール)をレンチウイルスで形質導入し、メトトレキサートで選択し、拡大培養した後の、CARの導入に成功した陽性率を示す。
【0044】
【
図3C】標的細胞としての、K562親細胞(コントロール)、K562 OKT3+細胞およびMDA-MB-231腺癌細胞におけるNaFL(0μMまたは5μM)のフローサイトメトリーによる検出を示す。
【0045】
【
図3D】
図3A~Bで作製したエフェクター細胞と
図3Cで試験した標的細胞を使用した、NaFL(0μM、1μM、5μMまたは10μM)の用量漸増法において、IL-2を測定したサイトカイン放出アッセイを示す。NaFLが抗FL(Mut2)CAR T細胞のサイトカイン活性を低減する効果は、用量依存的である。
【0046】
【
図3E】
図3A~Bで作製したエフェクター細胞と
図3Cで試験した標的細胞を使用した、NaFL(0μM、1μM、5μMまたは10μM)の用量漸増法において、IFN-γを測定したサイトカイン放出アッセイを示す。NaFLが抗FL(Mut2)CAR T細胞のサイトカイン活性を低減する効果は、用量依存的である。
【0047】
【
図3F】
図3A~Bで作製したエフェクター細胞と
図3Cで試験した標的細胞を使用した、NaFL(0μM、1μM、5μMまたは10μM)の用量漸増法において、TNF-αを測定したサイトカイン放出アッセイを示す。NaFLが抗FL(Mut2)CAR T細胞のサイトカイン活性を低減する効果は、用量依存的である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下の詳細な説明において、本明細書の一部を構成する添付の図面を参照しながら本発明を説明する。別段の記載がない限り、図面中の類似の記号は、通常、類似の構成要素を示す。詳細な説明、図面および請求項に記載の実施形態は例示を目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではない。本明細書に記載の主題の要旨や範囲から逸脱することなく、その他の実施形態を採用してもよく、その他の変更を加えてもよい。本明細書に概説し、図面に示した本開示の態様は、様々な構成で配置、置換、合体、分離および設計できることは容易に理解され、このような態様はいずれも本明細書に明示的に包含される。
【0049】
別段の記載がない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。本開示を目的として、以下の用語を以下で定義する。
【0050】
本明細書において、「a」および「an」という冠詞は、この冠詞の文法上の目的語となる1つまたは複数の(例えば、少なくとも1つの)ものを指すために使用される。例えば、「an element」は、1つの構成要素または複数の構成要素を意味する。
【0051】
「約」は、特定の数量、レベル、数値、数、頻度、割合、寸法、大きさ、量、重量または長さが、基準としての数量、レベル、数値、数、頻度、割合、寸法、大きさ、量、重量または長さと比較して、30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%の範囲で変動することを意味する。
【0052】
本明細書を通して、別段の記載がない限り、「含む」および「含んでいる」という用語は、本明細書に記載の工程もしくは構成要素または工程群もしくは構成要素群を包含することを意味するが、その他の工程もしくは構成要素または工程群もしくは構成要素群を除外するものではない。「からなる」は、この用語の前に挙げられたもののみを含むことを意味する。したがって、「からなる」という用語は、この用語の前に挙げられた構成要素が必要または必須であることを示し、その他の構成要素は含まれていなくてもよいことを意味する。「実質的に~からなる」は、この用語の前に挙げられた構成要素を含み、これらの構成要素の開示に関連して記載された活性または作用に対して妨害も寄与もしないその他の構成要素も含むことを意味する。したがって、「実質的に~からなる」という用語は、この用語の前に挙げられた構成要素が必要または必須であることを示すが、その他の構成要素は任意であり、この用語の前に挙げられた構成要素の活性または作用に実質的な影響を与えるかどうかに応じて含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
【0053】
本開示の実施にあたって、別段の記載がない限り、当技術分野で従来公知の分子生物学的技術および組換えDNA技術が使用される。
【0054】
本明細書において、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、ペプチド結合により連結されたアミノ酸で構成される巨大分子を指す。ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質の機能として数多くのものが当技術分野で知られており、酵素、構造、輸送、防御、ホルモンまたはシグナル伝達といった機能があるが、これらに限定されない。ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質は、核酸鋳型を利用したリボソーム複合体により生物学的に生成されることが多いが、常にこの方法で生成される訳ではなく、化学合成により作製することもできる。核酸鋳型を遺伝子操作することによって、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の変異を起こすことができ、この変異には、置換、欠失、切断、付加、重複、または2個以上のペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質の融合が含まれる。2個以上のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の融合は、同じ分子上で隣接して連結するように行うことができ、あるいは別のアミノ酸を間に挟んで連結することもでき、この別のアミノ酸としては、例えば、リンカー、反復配列、エピトープもしくはタグ、または1塩基長、2塩基長、3塩基長、4塩基長、5塩基長、6塩基長、7塩基長、8塩基長、9塩基長、10塩基長、11塩基長、12塩基長、13塩基長、14塩基長、15塩基長、16塩基長、17塩基長、18塩基長、19塩基長、20塩基長、25塩基長、30塩基長、35塩基長、40塩基長、45塩基長、50塩基長、55塩基長、60塩基長、65塩基長、70塩基長、75塩基長、80塩基長、85塩基長、90塩基長、95塩基長、100塩基長、150塩基長、200塩基長もしくは300塩基長のその他の配列もしくはこれらの長さのいずれか2つを上下限とする範囲内の長さのその他の配列が挙げられる。
【0055】
本明細書において、「アミノ酸」は、天然アミノ酸および/または非天然アミノ酸もしくは合成アミノ酸を指し、グリシンならびにその光学異性体であるD体およびL体、ならびにアミノ酸類似体およびペプチド模倣体を含む。
【0056】
所定のタンパク質に「由来する」ポリペプチド配列またはアミノ酸配列とは、そのタンパク質から得られたポリペプチドであることを指す。ポリペプチドは、所定の配列にコードされたポリペプチドのアミノ酸配列またはその一部と実質的に同一のアミノ酸配列を有することが好ましく、前記アミノ酸配列の一部とは、少なくとも10~20個のアミノ酸からなる部分、少なくとも20~30個のアミノ酸からなる部分、もしくは少なくとも30~50個のアミノ酸からなる部分、または所定の配列にコードされたポリペプチドで免疫学的に同定可能な部分である。この用語には、所定の核酸配列から発現されるポリペプチドも含まれる。
【0057】
本明細書において、「抗体」という用語は、エピトープに合致して、これを認識する特定の形状を有するポリペプチド鎖含有分子構造を包含し、1つ以上の非共有結合性相互作用によって、この分子構造とエピトープの複合体が安定化される。本発明において利用される抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましく、その理由として、モノクローナル抗体は、細胞培養または組換え技術により複製することができ、その抗原性の低下を目的として改変可能であることが挙げられる。
【0058】
免疫グロブリンの全長(またはその組換え物)に加えて、エピトープ結合部位を含む免疫グロブリン断片または「結合断片」(例えば、Fab’、F(ab’)2、一本鎖可変領域断片(scFv)、ダイアボディ、ミニボディ、ナノボディ、単一ドメイン抗体(sdAb)またはその他の断片)も、本発明における抗体部分として有用である。そのような抗体断片は、免疫グロブリンの全長を、リシン、ペプシン、パパインまたはその他のプロテアーゼにより切断することによって作製してもよい。最小の免疫グロブリンは、組換え免疫グロブリン技術を利用して設計してもよい。例えば、本発明で使用される「Fv」免疫グロブリンは、ペプチドリンカー(例えば、ポリグリシンや、αヘリックスやβシートモチーフを形成しない別の配列)を介して重鎖可変領域に軽鎖可変領域を連結することによって作製してもよい。ナノボディまたは単一ドメイン抗体は、ヒトコブラクダ、ラクダ、ラマ、アルパカ、サメなどの別の生物に由来するものであってもよい。いくつかの実施形態において、抗体は、例えば、PEG化抗体、薬物-抗体複合体、放射性同位体-抗体複合体または毒素-抗体複合体などの複合体であってもよい。特定のエピトープまたは特定のエピトープの組み合わせに指向性を有するモノクローナル抗体を使用することにより、マーカーを発現する細胞集団を標的として、かつ/またはこの細胞集団を除去することができる。また、モノクローナル抗体を使用した様々な技術を利用して、マーカーを発現する細胞集団をスクリーニングすることができ、このような技術として、抗体でコーティングした磁気ビーズを使用した磁気分離、固体マトリックス(すなわちプレート)に結合させた抗体を用いた「パニング」、およびフローサイトメトリーが挙げられる。
【0059】
非ヒト抗体(例えば、げっ歯類の抗体または霊長類の抗体)に対して使用される「ヒト化」という用語は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含む、ハイブリッドの免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその断片を指す。多くの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)(レシピエント抗体)の残基が、非ヒト生物種(マウス、ラット、ウサギ、霊長類など)由来の、所望の特異度、アフィニティおよび能力を有するCDR(ドナー抗体)の残基と置換されたヒト免疫グロブリンである。いくつかの実施形態において、ヒト免疫グロブリンの可変領域(Fv)内のフレームワーク領域(FR)の残基が、対応する非ヒト残基と置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、導入されたCDR配列やフレームワーク配列にも存在しない残基を含んでいてもよい。このような改変によって、抗体の性能をさらに改良して最適化することができ、人体に導入した際の免疫原性を最小限に抑えることができる。いくつかの例において、ヒト化抗体は、少なくとも1つの可変ドメイン(通常は2つの可変ドメイン)のすべてを実質的に含み、CDR領域のすべてまたは実質的にそのすべてが、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に相当し、FR領域のすべてまたは実質的にそのすべてが、ヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。さらに、ヒト化抗体は、免疫グロブリンの定常領域(Fc)(通常、ヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc))の少なくとも一部を含んでいてもよい。
【0060】
ヒト化抗体は、動物由来の抗体の相補性決定領域のみが組み込まれたヒト様免疫グロブリンドメインを含むように作製することができる。このようなヒト化抗体は、モノクローナル抗原結合ユニットまたはモノクローナル抗体の可変領域の超可変ループの配列を注意深く調査し、この超可変ループの配列を、ヒト抗原結合ユニットまたはヒト抗体鎖の構造に適合させることによって作製することができる。
【0061】
抗体の「可変領域」は、抗体の軽鎖可変領域または重鎖可変領域のいずれか1つまたはその組み合わせを指す。当技術分野で知られているように、重鎖および軽鎖の各可変領域は、超可変領域としても知られている3つの相補性決定領域(CDR)と、これを介して連結された4つのフレームワーク領域(FR)とで構成されており、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。目的とする可変領域のバリアントが所望される場合、特に、CDR領域の外側(すなわちフレームワーク領域内)のアミノ酸残基が置換された可変領域のバリアントが所望される場合、適切なアミノ酸置換、好ましくは保存的なアミノ酸置換は、目的とする可変領域と同じカノニカル構造を有するCDR1配列およびCDR2配列を含む別の抗体の可変領域と目的の可変領域とを比較することにより同定することができる(Chothia and Lesk, J Mol Biol 196(4): 901-917, 1987)。
【0062】
いくつかの実施形態において、CDRの明確な定義および抗体の結合部位を含む残基の同定は、抗体の構造および/または抗体-リガンド複合体の構造を解明することによって行うことができる。いくつかの実施形態において、CDRの明確な定義および抗体の結合部位を含む残基の同定は、X線結晶構造解析などの当業者に公知の様々な技術を利用して行うことができる。いくつかの実施形態において、様々な分析方法を使用して、CDR領域の同定または推定を行うことができる。いくつかの実施形態において、様々な分析方法を使用して、CDR領域の同定または推定を行うことができる。このような方法の例として、Kabatの定義、Chothiaの定義、IMGTアプローチ(Lefranc et al., (2003) Dev Comp Immunol. 27:55-77)、Paratome(Kunik et al., 2012, Nucl Acids Res. W521-4)などのコンピュータプログラム、AbMの定義、および立体構造の定義が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
Kabatの定義は、抗体の残基に番号を付けるための標準的な方法であり、CDR領域の同定に通常使用される。例えば、Johnson & Wu, 2000, Nucleic Acids Res., 28: 214-8を参照されたい。Chothiaの定義は、Kabatの定義に似ているが、特定の構造ループ領域の位置を考慮に入れたものである。例えば、Chothia et al., 1986, J. Mol. Biol., 196: 901-17; Chothia et al., 1989, Nature, 342: 877-83を参照されたい。AbMの定義は、Oxford Molecular Groupによって作製された複数のコンピュータプログラムを組み込んだソフトウェアスイートを使用しており、抗体構造のモデル化を行う。例えば、Martin et al., 1989, Proc Natl Acad Sci (USA), 86:9268-9272; “AbM.TM., A Computer Program for Modeling Variable Regions of Antibodies,” Oxford, UK; Oxford Molecular, Ltd.を参照されたい。AbMの定義は、知識データベースとab initio法を組み合わせて使用して、一次配列から抗体の三次構造をモデル化するものであり、例えば、Samudrala et al., 1999, “Ab Initio Protein Structure Prediction Using a Combined Hierarchical Approach,” in PROTEINS, Structure, Function and Genetics Suppl., 3:194-198に記載されている方法がある。抗原との接触に関する定義は、利用可能な複雑な結晶構造の分析に基づく。例えば、MacCallum et al., 1996, J. Mol. Biol., 5:732-45を参照されたい。CDRの「立体構造の定義」と本明細書で呼ぶ別のアプローチでは、抗原への結合に対してエンタルピー的な寄与を行う残基としてCDRの位置を同定してもよい。例えば、Makabe et al., 2008, Journal of Biological Chemistry, 283:1156-1166を参照されたい。その他のCDR領域の範囲の定義は、前記アプローチのうちの1つに厳密に従ったものでなくてもよいが、少なくともKabatによるCDRの定義と一部重複し、CDR領域の範囲は、特定の残基または残基群が抗原への結合に有意な影響を与えないという予測や実験結果に基づいて、縮小してもよく、拡大してもよい。本明細書において、「CDR」は、当技術分野で公知のアプローチ(複数のアプローチの組み合わせを含む)により定義されたCDRを指してもよい。本明細書で使用される方法は、これらのアプローチのいずれかに従って定義されたCDRを利用してもよい。2つ以上のCDRを含むいくつかの実施形態において、これらのCDRは、Kabatの定義、Chothiaの定義、拡張されたIMGT、Paratome、AbMの定義、および/もしくは立体構造の定義、またはこれらの組み合わせに従って定義されてもよい。いくつかの実施形態において、可変領域の残基の番号は、IMGTナンバリングシステムを使用して番号付けされる。
【0064】
当技術分野で知られているように、抗体の「定常領域」は、抗体の軽鎖定常領域または重鎖定常領域のいずれか1つまたはその組み合わせを指す。
【0065】
本明細書において、抗体に関連して使用される「競合」という用語は、第1の抗体またはその抗原結合部分が、エピトープへの第2の抗体またはその抗原結合部分の結合に十分に類似した方法でそのエピトープに結合し、第2の抗体の非存在下での第1の抗体とそのコグネイトエピトープとの結合と比較して、第2の抗体の存在下では、第1の抗体とそのコグネイトエピトープとの結合の減少が検出されることを意味する。第1の抗体の存在下で、第2の抗体とそのエピトープとの結合の減少が検出される場合もあるが、必ずしもこのような減少が検出されなくてもよい。すなわち、第1の抗体は、第2の抗体とそのエピトープとの結合を抑制することができるが、第2の抗体は、第1の抗体とそのエピトープとの結合を抑制しない。一方、複数の抗体が、別の抗体とそのコグネイトなエピトープまたはリガンドとの結合を抑制することが検出される場合、それらの抗体の結合が同程度でも、強くても、弱くても、これらの抗体は、そのエピトープへの結合において互いに「交差競合する」と言われる。競合する抗体および交差競合する抗体は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。当業者であれば、本明細書で提供される教示に基づいて、そのような競合抗体および/または交差競合抗体は、そのような競合または交差競合が起こる機構(例えば、立体障害、構造変化、または共通のエピトープもしくはその一部への結合)に関係なく、本発明の範囲内に含まれており、本明細書で開示される方法に有用な場合があることを十分に理解できるであろう。
【0066】
エピトープに「選択的に結合する」抗体またはエピトープに「特異的に結合する」抗体(これらの用語は本明細書において同じ意味で使用される)は、当技術分野でよく理解されており、そのような特異的な結合または選択的な結合を測定する方法も当技術分野においてよく知られている。ある分子が、別の細胞や物質との反応や会合と比べて、より高頻度に、より急速に、より長時間にわたって、かつ/またはより高いアフィニティで特定の細胞または物質と反応または会合する場合、その分子は「特異的結合」または「選択的結合」を示すと言われる。また、ある抗体が、別の物質との結合と比べて、より高いアフィニティで、より高いアビディティで、より容易に、かつ/またはより長時間にわたって標的に結合する場合、この抗体は、その標的に「特異的に結合する」または「選択的に結合する」。例えば、あるCFDエピトープに特異的または選択的に結合する抗体は、別のCFDエピトープまたは非CFDエピトープとの結合と比べて、より高いアフィニティで、より高いアビディティで、より容易に、かつ/またはより長時間にわたって、そのCFDエピトープに結合する抗体である。さらに、この定義を参照すれば、例えば、第1の標的に特異的または選択的に結合する抗体(または部分またはエピトープ)は、第2の標的に特異的または選択的に結合してもよく、第2の標的に特異的または選択的に結合しなくてもよいことが分かる。したがって、「特異的結合」または「選択的結合」は、必ずしも排他的な結合を必要としなくてもよい(ただし、排他的な結合を含んでいてもよい)。通常、「結合」は「選択的結合」を指すが、必ずしも「選択的結合」でなくてもよい。
【0067】
本明細書において、「実質的に純粋な」は、少なくとも50%の純度(すなわち不純物を含まない純度)、より好ましくは少なくとも90%の純度、より好ましくは少なくとも95%の純度、さらに好ましくは少なくとも98%の純度、最も好ましくは少なくとも99%の純度を有する材料を指す。
【0068】
「宿主細胞」は、ポリヌクレオチドインサートの組み込み用ベクターのレシピエントであってもよい個々の細胞または細胞培養、またはポリヌクレオチドインサートの組み込み用ベクターのレシピエントである個々の細胞または細胞培養を含む。宿主細胞は、単一の宿主細胞の子孫を含み、この子孫は、天然変異、偶発変異または意図的な変異により、(形態またはゲノムDNA相補鎖の点において)元の親細胞と必ずしも完全には同一でなくてもよい。宿主細胞は、インビボにおいて本発明のポリヌクレオチドでトランスフェクトした細胞を含む。
【0069】
当技術分野で知られているように、「Fc領域」という用語は、免疫グロブリンの重鎖のC末端領域を定義する際に使用される。「Fc領域」は、天然のFc領域配列であってもよく、Fc領域のバリアントであってもよい。免疫グロブリンの重鎖のFc領域の範囲は様々に異なっていてもよいが、ヒトIgGの重鎖のFc領域は、通常、アミノ酸残基の位置としてCys226またはPro230から重鎖Fc領域のカルボキシル末端までと定義される。Fc領域の残基は、Kabatにより報告されているEUインデックスに従って番号付けされる(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991)。免疫グロブリンのFc領域は、通常、2つの定常ドメインとしてCH2とCH3を含む。当技術分野で知られているように、Fc領域は、二量体または単量体の形態で存在していてもよい。
【0070】
本明細書において、「ベクター」は、1つ以上の目的遺伝子または目的配列を宿主細胞に送達できるコンストラクトを意味し、好ましくは、1つ以上の目的遺伝子または目的配列を宿主細胞に送達して、これを該宿主細胞において発現させることができるコンストラクトを意味する。ベクターの例として、ウイルスベクター、裸のDNAまたは裸のRNAを発現するベクター、プラスミド、コスミドまたはファージベクター;カチオン性縮合剤を使用したDNA発現ベクターまたはRNA発現ベクター;リポソームに封入されたDNA発現ベクターまたはRNA発現ベクター;および特定の真核細胞(例えば、産生細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
適切な製剤は、選択した投与経路に左右される。本明細書に記載の化合物の製剤化技術および投与技術は、当業者に知られている。当技術分野において、化合物を投与する技術には様々なものがあり、経腸送達、経口送達、直腸送達、局所送達、舌下送達、頬側送達、耳内送達、硬膜外送達、経皮送達、エアロゾル送達または非経口送達が挙げられ、非経口送達としては、筋肉内注射、皮下注射、動脈内注射、静脈内注射、門脈内注射、関節内注射、皮内注射、腹膜注射、髄内注射、髄腔内注射、直接脳室内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射または眼内注射が挙げられるが、これらに限定されない。医薬組成物は、通常、意図する特定の投与経路に適合するように調製される。「共投与」は、本明細書に記載の第2の化合物の投与と同時、その直前または直後に、本明細書に記載の第1の化合物を投与することを意味する。
【0072】
本明細書において、「治療標的」は、その活性を調節することによって(例えば、発現や生物学的活性などを調節することによって)、疾患表現型(例えば、線維症やがんなど)を調節することができる遺伝子または遺伝子産物を指す。本明細書を通して、「調節」は、本明細書に記載の現象の増加または減少を指す(例えば、生物学的活性の調節とは、生物学的活性の増加または生物学的活性の減少を指す)。
【0073】
「がん」、「新生物」、「腫瘍」および「癌腫」という用語は、本明細書において同じ意味で使用され、細胞増殖の顕著な制御不能を特徴とする異常な増殖表現型を示す比較的自律的な増殖を示す細胞を指す。通常、本願において検出または治療の対象となる細胞としては、前がん細胞(例えば良性細胞)、悪性細胞、前転移細胞、転移細胞および非転移細胞が挙げられる。本願は特にがん性細胞の検出を目的とする。「正常細胞」などの用語において使用される「正常」という用語は、調査が行われる組織において表現型が転換していない細胞または非転換細胞の形態を示す細胞を指す。「がん性表現型」は、通常、がん性細胞に特徴的な様々な生物学的現象を指し、このような生物学的現象は、がんの種類に応じて様々に異なりうる。がん性表現型は、通常、例えば、細胞の成長または増殖の異常(例えば、無秩序な成長または増殖);細胞周期の制御異常、細胞の移動性の異常、細胞間相互作用の異常または転移の異常などの様々な異常によって同定される。
【0074】
「免疫細胞」は、抗原の特異的な認識に関与する造血細胞由来細胞を指す。免疫細胞としては、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞(APC);B細胞;T細胞;ナチュラルキラー細胞;および単球、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球、顆粒球などの骨髄系細胞が挙げられる。
【0075】
「免疫応答」は、T細胞を介した免疫応答、NK細胞を介した免疫応答、マクロファージを介した免疫応答、および/またはB細胞を介した免疫応答を指す。典型的な免疫応答としては、B細胞応答(例えば、抗体産生)、NK細胞応答またはT細胞応答(例えば、サイトカインの産生および細胞傷害性)、ならびにサイトカイン応答性細胞(例えば、マクロファージ)の活性化が挙げられる。「免疫応答の活性化」は、当業者に公知の方法を使用した、T細胞を介した免疫応答レベルおよび/またはB細胞を介した免疫応答レベルの増強を指す。いくつかの実施形態において、この増強量は、少なくとも20~50%であり、あるいは、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも150%または少なくとも200%である。
【0076】
本明細書において、「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容される添加剤」は、有効成分と組み合わせた場合に、この有効成分の生物学的活性を保持することができ、かつ対象において免疫系の応答を誘導しないあらゆる材料を含む。薬学的に許容される担体の例として、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルション(例えば、油と水のエマルション)、様々な種類の湿潤剤、凝集を阻止するための洗浄剤(例えば、ポリソルベート20)、凍結保護剤としての糖類(例えば、スクロース)などの標準的な医薬担体のいずれかが挙げられるが、これらに限定されない。エアロゾル用または非経口投与用の希釈剤としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または生理食塩水(0.9%)が好ましい。
【0077】
本明細書において、「担体」は、細胞、組織および/または生体器官への化合物の移動、送達および/または取り込みを促進する化合物、粒子、固体、半固体、液体または希釈剤を指す。例えば、脂質ナノ粒子(LNP)は、オリゴヌクレオチドを封入することができる担体の一種であり、血流を移動する際にオリゴヌクレオチドを分解から保護し、かつ/または肝臓などの所望の器官への送達を促進することができるが、担体はこれに限定されない。
【0078】
本明細書において、「希釈剤」は、薬理活性を持たないが、薬学的に必要となったり所望されたりすることがある、医薬組成物中の成分を指す。例えば、希釈剤は、効力のある薬物の量が少なすぎるために製造および/または投与ができない場合に、このような薬物の体積を増加させるために使用してもよい。さらに、希釈剤は、注射、経口摂取または吸入により薬物を投与する際に使用される溶解用の液体であってもよい。当技術分野において一般的な希釈剤の形態は、緩衝水溶液であり、例えば、ヒトの血液の組成を模倣したリン酸緩衝生理食塩水などが挙げられるが、これに限定されない。
【0079】
「添加剤」という用語は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、体積、粘稠性、安定性、結合力、滑沢性、崩壊力など(ただしこれらに限定されない)を医薬組成物に付与することを目的として医薬組成物に添加される不活性な物質、化合物または材料を指す。所望の特性を有する添加剤としては、保存剤、アジュバント、安定剤、溶媒、緩衝液、希釈剤、可溶化剤、洗浄剤、界面活性剤、キレート剤、酸化防止剤、アルコール、ケトン、アルデヒド、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸、塩、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、糖類、デキストロース、フルクトース、マンノース、ラクトース、ガラクトース、スクロース、ソルビトール、セルロース、血清、アミノ酸、ポリソルベート20、ポリソルベート80、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、オクチルフェノールエトキシレート、塩化ベンゼトニウム、チメロサール、ゼラチン、エステル、エーテル、2-フェノキシエタノール、尿素もしくはビタミン類、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。医薬組成物中における添加剤の含有量は、0%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%(w/w)、またはこれらの数値のいずれか2つを上下限とする範囲内の重量%であってもよい。
【0080】
本明細書において、「アジュバント」は、免疫応答を刺激し、防御免疫の有効性を増強する物質、化合物または材料を指し、免疫原としての抗原、エピトープまたは組成物に併用して投与される。アジュバントは、抗原の連続的な放出、サイトカインおよびケモカインのアップレギュレーション、投与部位への細胞の動員、抗原提示細胞による抗原の取り込みと抗原提示の増強、または抗原提示細胞およびインフラマソームの活性化を可能にすることによって、免疫応答を向上させる役割を果たす。一般的に使用されるアジュバントとしては、アラム、アルミニウム塩、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化リン酸カルシウム、硫酸アルミニウムカリウム、油、鉱油、パラフィン油、水中油型乳剤、洗浄剤、MF59(登録商標)、スクワレン、AS03、α-トコフェロール、ポリソルベート80、AS04、モノホスホリルリピッドA、ビロソーム、核酸、ポリイノシン酸-ポリシチジル酸、サポニン、QS-21、タンパク質、フラジェリン、サイトカイン、ケモカイン、IL-1、IL-2、IL-12、IL-15、IL-21、イミダゾキノリン、CpGオリゴヌクレオチド、脂質、リン脂質、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、トレハロースジミコール酸、ペプチドグリカン、細菌抽出物、リポ多糖類もしくはフロイントアジュバント、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
本明細書において、所定の物質、化合物または材料の「純度」とは、その物質、化合物または材料の予想される存在量に対する実際の存在量を指す。例えば、物質、化合物または材料の純度は、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%であってもよく、これらの数値の間の小数値を含んでいてもよい。純度は、望ましくない不純物により影響を受けることがあり、望ましくない不純物としては、副産物、異性体、エナンチオマー、分解産物、溶媒、担体、ビヒクルもしくは不純物、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。純度は、様々な技術で測定することができ、純度の測定法としては、クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、分光分析法、紫外可視分光分析法、赤外分光分析法、質量分析、核磁気共鳴、重量測定もしくは滴定、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、例えばフルオレセインまたはその誘導体もしくはその塩(例えばフルオレセインナトリウム)などの非結合型ハプテンを使用または投与することにより、例えば抗フルオレセインCAR T細胞などの抗ハプテンCAR T細胞のシグナル伝達を調節することに関する。
【0083】
いくつかの実施形態において、抗フルオレセインCAR T細胞は、がん療法において、エーテルリン脂質に結合させたフルオレセイン(FL-PLE)やFL-PLEの前駆体(ProFL-PLE)などの二重特異性化合物と協働して作用することができる。FL-PLEおよびProFL-PLEはいずれも、スペーサーエレメントを介して連結された腫瘍標的化部分(PLE)とCAR認識/標的部分(FL)とを含んでいる。いくつかの実施形態において、ProFL-PLEが腫瘍微小環境において処理されてFL-PLEとなるまでに、抗FL CAR T細胞によるProFL-PLEの認識を阻止して安全性をより高めるため、前駆体部分を提供することができる。いくつかの実施形態において、FL-PLEは、以下の構造を有する。
【化1】
いくつかの実施形態において、ProFL-PLEは、以下の構造を有する。
【化2】
【0084】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、フルオレセインナトリウム(NaFL)もしくはフルオレセイン二ナトリウムまたはフルオレセインのその他の塩などの非結合型フルオレセインを使用または投与することによって、抗FL CAR T細胞の持続性を延長することができる態様を含む。いくつかの実施形態では、NaFL、フルオレセイン二ナトリウムまたはフルオレセインのその他の塩などの非結合型フルオレセインを使用または投与することによって、CAR T細胞療法の際の細胞傷害性事象を抑制することができる。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、非結合型フルオレセインは抗FL CAR T細胞と相互作用して、これに結合してもよく、非結合型フルオレセインが抗FL CARに結合すると、CAR T細胞のシグナル伝達が大幅に低下しうる。いくつかの実施形態において、非結合型フルオレセインは患者自身により体外に排除され、腫瘍内のがん細胞の細胞膜に埋め込まれた標的としてのFL-PLEに抗FL CAR T細胞が結合し、このFL-PLEにより抗FL CAR T細胞を活性化することができる。いくつかの実施形態において、非結合型フルオレセインが抗FL CAR T細胞に結合することによって、対象体内における抗FL CAR T細胞の持続性が向上する。
【0085】
いくつかの実施形態において、NaFLは、1pM、10pM、100pM、1nM、10nM、50nM、100nM、150nM、200nM、250nM、300nM、350nM、400nM、450nM、500nM、550nM、600nM、700nM、800nM、900nM、1μM、5μM、10μM、20μM、30μM、40μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、100μM、200μM、300μM、400μM、500μM、600μM、700μM、800μM、900μM、1mM、10mM、50mM、100mM、200mM、300mM、400mM、500mM、600mM、700mM、800mM、900mM、1M、2M、3M、4M、5M、10M、またはこれらの濃度のいずれか2つを上下限とする範囲内の濃度で投与することができる。
【0086】
いくつかの実施形態において、NaFLは、1ng、10ng、100ng、1μg、10μg、100μg、200μg、300μg、400μg、500μg、600μg、700μg、800μg、900μg、1mg、10mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mg、1g、2g、3g、4g、5g、6g、7g、8g、9g、10g、20g、30g、40g、50g、100g、1000g、またはこれらの量のいずれか2つを上下限とする範囲内の量で投与することができる。
【0087】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、国際特許出願公開WO 2018/148224および国際特許出願公開WO 2019/156795に開示されている態様を含む(これらの文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。
【0088】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象においてがんを治療、緩和または抑制する方法を含む。そのような実施形態のいくつかは、標的部分に結合させた脂質を含むか、実質的にこの脂質からなるか、またはこの脂質からなる組成物の有効量を対象に投与する工程;および前記標的部分に特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)もしくはT細胞受容体(TCR)を含むか、実質的にこのCARもしくはTCRからなるか、またはこのCARもしくはTCRからなる細胞(例えば細胞集団)を前記対象に投与する工程を含む。いくつかの実施形態は、非結合型の標的部分を前記対象に投与する工程を含む。そのような実施形態のいくつかにおいて、非結合型の標的部分を対象に投与することによって、CAR T細胞の活性を調節することができる。例えば、非結合型の標的部分は、CAR T細胞においてシグナル伝達を実質的に誘発することなく、CAR T細胞に結合することができる。いくつかの実施形態において、非結合型の標的部分の存在下でのCAR T細胞のエフェクター機能は、この非結合型の標的部分の非存在下におけるエフェクター機能よりも低くなりうる。いくつかの実施形態において、非結合型の標的部分の存在下での対象におけるCAR T細胞の有害な副作用(例えば、サイトカイン放出症候群)は、この非結合型の標的部分の非存在下における副作用よりも少なくなりうる。
【0089】
本明細書において、「% w/w」または「% wt/wt」は、本発明の組成物の総重量に対する成分または薬剤の重量の割合に100を掛けたものを指す。本明細書において、「% v/v」または「% vol/vol」は、本発明の組成物の総液体体積に対する化合物、物質、成分または薬剤の液体体積の割合に100を掛けたものを指す。
【0090】
用語の定義
本明細書において、「キメラ受容体」は、前記疾患または前記障害に関連する分子に結合する抗体配列やその他のタンパク質配列のリガンド結合ドメインを含む合成設計された受容体を指し、このリガンド結合ドメインは、スペーサードメインを介して、T細胞受容体またはその他の受容体の1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば共刺激ドメイン)に連結されている。キメラ受容体は、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、およびキメラ抗原受容体(CAR)とも呼ぶことができる。レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを使用してキメラ受容体のコード配列をT細胞に移入することによって、モノクローナル抗体またはその結合断片の特異性をT細胞に移植することができる。CARは、特定の細胞表面抗原を発現する標的細胞への標的指向性をT細胞に付与するために設計された遺伝子組換えT細胞受容体である。養子細胞移入と呼ばれる方法によって、まず対象からT細胞を得た後、抗原に対して特異性を発揮することができる受容体を発現できるようにT細胞を遺伝子操作する。次いで、このT細胞を患者に再導入する。再導入されたT細胞は抗原を認識し標的とすることができる。このようなCARは、免疫受容体を発現する細胞に、選択された特異性を移植することができる遺伝子組換え受容体である。研究者によっては、キメラ抗原受容体すなわち「CAR」は、抗体または抗体断片(例えば、抗体の結合断片またはscFvなど)、スペーサー、シグナル伝達ドメインおよび膜貫通領域を含むものであると理解されている。本明細書に記載のCARは、様々な構成要素またはドメイン(例えば、エピトープ結合領域(例えば、抗体断片、scFvまたはそれらの一部)、スペーサー、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインなど))が遺伝子組換えされており、これよって驚くべき効果が得られたことから、本明細書の開示を通して、CARの各構成要素は、それぞれ別個のエレメントとして明確に区別できることが多い。
【0091】
「CAR T細胞標的化薬剤(CTCT)」は、本明細書の記載に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、標的細胞の細胞膜に組み込むことが可能な組成物として説明することができる。本明細書に記載の実施形態において、CAR T細胞標的化薬剤(CTCT)は、標的部分とマスキング部分とを含む脂質を含むか、実質的にこの脂質からなるか、またはこの脂質からなる。いくつかの実施形態において、マスキング部分は、例えば、低pHまたはROS種の存在によって除去されてもよく、腫瘍微小環境内において除去されてもよい。いくつかの実施形態において、マスキング部分は、酵素またはその他のタンパク質によって除去されてもよい。いくつかの実施形態において、マスキング部分は、標的部分へのCARの特異的結合を抑制する。また、標的部分は、該標的部分に特異的なキメラ抗原受容体によって認識され結合されてもよい。本明細書に記載のいくつかの実施形態において、マスキング部分は、pH4、pH5、pH6もしくはpH6.5、またはこれらの数値のいずれか2つを上下限とする範囲内のpHによって除去される。
【0092】
「T細胞受容体」すなわち「TCR」は、Tリンパ球すなわちT細胞の表面に存在する分子であり、主要組織適合遺伝子複合体分子に結合した抗原断片の認識を担う。
【0093】
本明細書で述べる「標的部分」は、目的とする別の化学物質またはタンパク質の結合標的となる、特定の分子または化学物質上の特定の基または部位を指す。いくつかの実施形態において、脂質に結合させたキメラ抗原受容体(CAR)もしくはT細胞受容体(TCR)を含むか、実質的にこのCARもしくはTCRからなるか、またはこのCARもしくはTCRからなる複合体であって、前記脂質が標的部分を含み、前記CARが、該標的部分との相互作用を介して前記脂質に結合している複合体を提供する。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインであり、本明細書に記載の方法において投与される非結合型のハプテンは、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインの塩であってもよく、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインのナトリウム塩、二ナトリウム塩またはカリウム塩であってもよい。
【0094】
「一本鎖可変領域断片(scFv)」は、10~25個のアミノ酸からなる短いリンカーペプチドで連結された、免疫グロブリンの重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を含んでいてもよい融合タンパク質である。この短いリンカーペプチドは、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個または25個のアミノ酸を含んでいてもよい。リンカーは、通常、可動性を持つようにグリシンに富んでいるとともに、溶解性を持つようにセリンまたはトレオニンに富んでおり、VHのN末端とVLのC末端を連結することができ、あるいは、VHのC末端とVLのN末端を連結することができる。scFvは、定常領域が除去されており、リンカーが導入されているにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性が保持されている。scFvは抗原に特異的である場合がある。本明細書において、「抗原」または「Ag」は、免疫応答を惹起する分子を指す。この免疫応答は、抗体産生もしくは特定の免疫担当細胞の活性化、またはこれらの両方に関与していてもよい。抗原は、組換え技術により作製、合成および製造することができ、あるいは生体試料から得ることもできる。このような生体試料として、組織試料、腫瘍試料、細胞または体液(例えば、血液、血漿または腹水)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、本明細書に記載の実施形態による方法のいずれかによって作製された細胞を含むか、実質的にこの細胞からなるか、この細胞からなる組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞は、特定の抗原に特異的なscFvを含むか、実質的にこのscFvからなるか、またはこのscFvからなるキメラ抗原受容体を含むか、実質的にこのようなキメラ抗原受容体からなるか、またはこのようなキメラ抗原受容体からなる。
【0095】
本明細書で提供するいくつかの実施形態は、本明細書において抗FL(FITC-E2 TyrH133Ala)と呼ぶ(あるいは抗FL(Try100gAla)、抗FL(FITC-E2 Mut2)または抗FL(Mut2)とも呼ぶ)scFvに関し、このscFvは、CARに組み込むことができるとともに、本開示による方法において使用することができ、このscFvが組み込まれたCAR(配列番号1)は、SVLTQPSSVSAAPGQKVTISCSGSTSNIGNNYVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSKRPSGVPDRFSGSKSGNSASLDISGLQSEDEADYYCAAWDDSLSEFLFGTGTKLTVLGGGGGSGGGGSGGGGSQVQLVESGGNLVQPGGSLRLSCAASGFTFGSFSMSWVRQAPGGGLEWVAGLSARSSLTHYADSVKGRFTISRDNAKNSVYLQMNSLRVEDTAVYYCARRSYDSSGYWGHFASYMDVWGQGTLVTVSで示されるアミノ酸配列を有する。
【0096】
本明細書で提供するいくつかの実施形態は、本明細書において抗FL(4M5.3)と呼ぶscFvに関し、このscFvは、CARに組み込むことができるとともに、本開示による方法において使用することができ、このscFvが組み込まれたCAR(配列番号2)は、DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVHSNGNTYLRWYLQKPGQSPKVLIYKVSNRVSGVPDRFSGSGSGTDFTLKINRVEAEDLGVYFCSQSTHVPWTFGGGTKLEIKSSADDAKKDAAKKDDAKKDDAKKDGGVKLDETGGGLVQPGGAMKLSCVTSGFTFGHYWMNWVRQSPEKGLEWVAQFRNKPYNYETYYSDSVKGRFTISRDDSKSSVYLQMNNLRVEDTGIYYCTGASYGMEYLGQGTSVTVSで示されるアミノ酸配列を有する。
【0097】
本明細書で提供するいくつかの実施形態は、本明細書において抗FL(4420)と呼ぶscFvに関し、このscFvは、CARに組み込むことができるとともに、本開示による方法において使用することができ、このscFvが組み込まれたCAR(配列番号3)は、DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVHSQGNTYLRWYLQKPGQSPKVLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFCSQSTHVPWTFGGGTKLEIGGGGSGGGGSGGGGSEVKLDETGGGLVQPGRPMKLSCVASGFTFSDYWMNWVRQSPEKGLEWVAQIRNKPYNYETYYSDSVKGRFTISRDDSKSSVYLQMNNLRVEDMGIYYCTGSYYGMDYWGQGTSVTVSSで示されるアミノ酸配列を有する。
【0098】
本明細書で提供するいくつかの実施形態は、本明細書において抗FL(4D5Flu)と呼ぶscFvに関し、このscFvは、CARに組み込むことができるとともに、本開示による方法において使用することができ、このscFvが組み込まれたCAR(配列番号4)は、DYKDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQSLVHSQGNTYLRWYQQKPGKAPKVLIYKVSNRFSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSTHVPWTFGQGTKVELKRAGGGGSGGGGSGGGGSSGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYWMNWVRQAPGKGLEWVAQIRNKPYNYETYYADSVKGRFTISRDTSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCTGSYYGMDYWGQGTLVTVSSで示されるアミノ酸配列を有する。
【0099】
本明細書で提供するいくつかの実施形態は、本明細書において抗FL(FITC-E2)と呼ぶscFvに関し、このscFvは、CARに組み込むことができるとともに、本開示による方法において使用することができ、このscFvが組み込まれたCAR(配列番号5)は、SVLTQPSSVSAAPGQKVTISCSGSTSNIGNNYVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSKRPSGVPDRFSGSKSGNSASLDISGLQSEDEADYYCAAWDDSLSEFLFGTGTKLTVLGGGGGSGGGGSGGGGSQVQLVESGGNLVQPGGSLRLSCAASGFTFGSFSMSWVRQAPGGGLEWVAGLSARSSLTHYADSVKGRFTISRDNAKNSVYLQMNSLRVEDTAVYYCARRSYDSSGYWGHFYSYMDVWGQGTLVTVSで示されるアミノ酸配列を有する。
【0100】
本明細書で提供するいくつかの実施形態は、本明細書において抗FL(FITC-E2 HisH131Ala)と呼ぶscFvに関し、このscFvは、CARに組み込むことができるとともに、本開示による方法において使用することができ、このscFvが組み込まれたCAR(配列番号6)は、SVLTQPSSVSAAPGQKVTISCSGSTSNIGNNYVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSKRPSGVPDRFSGSKSGNSASLDISGLQSEDEADYYCAAWDDSLSEFLFGTGTKLTVLGGGGGSGGGGSGGGGSQVQLVESGGNLVQPGGSLRLSCAASGFTFGSFSMSWVRQAPGGGLEWVAGLSARSSLTHYADSVKGRFTISRDNAKNSVYLQMNSLRVEDTAVYYCARRSYDSSGYWGAFYSYMDVWGQGTLVTVSで示されるアミノ酸配列を有する。
【0101】
「抗原特異的結合ドメイン」は、低い結合親和性または高い結合親和性(fM~mMの結合力)で、タンパク質上のエピトープに特異的に結合することができるタンパク質またはタンパク質ドメインを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、免疫応答を調節することができるタンパク質またはその一部を含むか、実質的にこのようなタンパク質またはその一部からなるか、またはこのようなタンパク質またはその一部からなる。いくつかの実施形態において、前記タンパク質は、抗原特異的結合ドメインを含むか、実質的に抗原特異的結合ドメインからなるか、または抗原特異的結合ドメインからなる。
【0102】
本明細書において、「T細胞」または「Tリンパ球」は、どのような哺乳動物種から得られたものであってもよく、例えば、サル、イヌ、ヒトなどから得られたものであってもよく、霊長類から得られたものであることが好ましい。いくつかの実施形態において、T細胞は、レシピエント対象と同種(同種であるが別のドナーに由来するもの)である。いくつかの実施形態においては、T細胞は自己由来である(ドナーとレシピエントは同じである)。いくつかの実施形態において、T細胞は同系である(ドナーとレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。
【0103】
本明細書で述べる「個体」、「対象」または「患者」は、例えば、実験、診断、予防および/または治療を目的として、本明細書に記載の実施形態を使用または投与してもよいあらゆる生物を指す。対象または患者として、例えば、動物が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記対象は、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類またはヒトである。いくつかの実施形態において、前記対象は、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、霊長類またはヒトである。
【0104】
いくつかの実施形態は、腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)に関する。本明細書で提供される実施形態のいくつかは、ハプテンとしてのフルオレセインに繋留されたエーテルリン脂質(PLE)(FL-PLE)に関する。本明細書で述べる「フルオレセイン」は、水およびアルコールに可溶性の合成有機化合物である。フルオレセインは、蛍光トレーサーとして様々な用途に広く使用されている。本明細書に記載の実施形態において、フルオレセインは、脂質上の標的部分であり、フルオレセインに対して結合能または相互作用能を有するように設計および/または選択されたキメラ抗原受容体によって特異的に認識される。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。
【0105】
本明細書で述べる「ハプテン」は、タンパク質などの大きな担体に結合または付加させた場合にのみ、免疫応答を誘導することができる小分子である。いくつかの実施形態において、この担体は、単独では免疫応答を誘導できないものであってもよい。別の実施形態において、この担体は、単独で免疫応答を誘導できるものであってもよい。生体内において、ハプテン-担体付加物に対する抗体が産生されると、この低分子ハプテンも抗体に結合しうるが、通常、ハプテン自体は免疫応答を開始せず、通常、ハプテン-担体付加物のみが免疫応答を開始することができる。いくつかの実施形態において、ハプテンは、scFvもしくは抗体が結合することができる低分子結合部分、またはscFvもしくは抗体に対する特異性を有していてもよい低分子結合部分である。
【0106】
本明細書で述べる「がん」は、体内の他の部位に浸潤または拡散することがある異常な細胞増殖を伴う疾患群である。本明細書に記載の方法を用いて処置することができる対象としては、がんを有すると特定または選択された対象が挙げられ、該がんとしては、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がん、白血病、多発性骨髄腫、脳腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。がん患者の特定および/または選択は、臨床的評価または診断的評価によって行うことができる。いくつかの実施形態において、悪性黒色腫、乳がん、脳腫瘍、扁平上皮腫、大腸がん、白血病、骨髄腫、前立腺がんなどの腫瘍に関連する抗原または分子が知られている。前記がんとしては、B細胞リンパ腫、乳がん、脳腫瘍、前立腺がん、および/または白血病が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、1種以上の腫瘍形成性ポリペプチドが、腎臓がん、子宮がん、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がん、脳腫瘍、腺癌、膵臓がん、慢性骨髄性白血病または白血病に関連している。いくつかの実施形態において、対象において、がんを治療、緩和または抑制する方法であって、がんの治療、緩和または抑制を必要とする対象に、本明細書に記載の1つ以上のCARを投与することにより、がんを治療、緩和または抑制する方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記がんは、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、神経膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、肝臓がん、大腸がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がんまたは脳腫瘍である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療法のいずれかを受ける対象は、さらに、別のがん療法を実施するために選択され、この別のがん療法として、外科手術、がん治療薬、放射線療法、化学療法、標的療法、免疫療法、ホルモン療法またはがん療法薬が挙げられる。いくつかの実施形態において、提供されるがん療法薬は、アビラテロン、アレムツズマブ、アナストロゾール、アプレピタント、三酸化ヒ素、アテゾリズマブ、アザシチジン、ベバシズマブ、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カバジタキセル、カペシタビン、カルボプラチン、セツキシマブ、化学療法薬の組み合わせ、シスプラチン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、デノスマブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エリブリン、エルロチニブ、エトポシド、エベロリムス、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルオロウラシル、フルベストラント、ゲムシタビン、イマチニブ、イミキモド、イピリムマブ、イクサベピロン、ラパチニブ、レナリドミド、レトロゾール、ロイプロリド、メスナ、メトトレキサート、ニボルマブ、オキサリプラチン、パクリタキセル、パロノセトロン、ペムブロリズマブ、ペメトレキセド、プレドニゾン、ラジウム223、リツキシマブ、Sipuleucel-T、ソラフェニブ、スニチニブ、タルク胸膜腔内注入用懸濁剤、タモキシフェン、テモゾロミド、テムシロリムス、サリドマイド、トラスツズマブ、ビノレルビンまたはゾレドロン酸であるか、これらの薬物のいずれかを含むか、実質的にこれらの薬物のいずれかからなるか、これらの薬物のいずれかからなる。
【0107】
本明細書で述べる「腫瘍微小環境」は、腫瘍が存在する細胞環境である。腫瘍微小環境には、周囲血管、免疫細胞、線維芽細胞、骨髄由来の炎症性細胞、リンパ球、シグナル伝達分子または細胞外マトリックス(ECM)が含まれうるが、これらに限定されない。
【0108】
本明細書で述べる「サイトカイン放出症候群(CRS)」または「サイトカインストーム」は、T細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞、B細胞、単球、好中球、白血球、リンパ球などの免疫細胞が、疾患、感染症または免疫療法に応答して炎症誘発性サイトカインを無秩序に放出することを指す。CRSを起こしうる疾患または感染症としては、細菌性感染症、ウイルス性感染症、移植片対宿主病、サイトメガロウィルス、エプスタイン・バーウイルス、レンサ球菌、シュードモナス属細菌、インフルエンザ、H5N1、H1N1、痘瘡ウイルス、コロナウイルス、SARS、敗血症またはリポ多糖類が挙げられるが、これらに限定されない。CRSを起こしうる免疫療法として、リツキシマブ、オビヌツズマブ、アレムツズマブ、ブレンツキシマブ、ダセツズマブ、ニボルマブ、セラリズマブ、オキサリプラチン、レナリドミドおよびCAR T療法が挙げられるが、これらに限定されない。CRSは、抗炎症療法を用いて治療することができ、この抗炎症療法としては、抗サイトカイン抗体、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬、副腎皮質ホルモン、フリーラジカル捕捉剤およびTNF-α遮断薬が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
本明細書において、「サイトカイン」は、炎症性シグナル伝達に関与する小さなタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを指す。サイトカインとして、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、腫瘍壊死因子、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL17、CX3CL1、XCL1、XCL2、INFα、INFβ、INFγ、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35、IL-36、IL-37、IL-38、GM-CSF、TNFα、TNFβ、TNFγ、TNFSF4、TNFSF5、TNFSF6、TNFSF7、TNFSF8、TNFSF9、TNFSF10、TNFSF11、TNFSF12、TNFSF13、TNFSF13B、TNFSF14、TNFSF15、TNFSF18もしくは TNFSF19、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
治療方法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象において、がんを治療、緩和または抑制する方法を含む。そのような実施形態のいくつかは、
標的部分に結合させた脂質を含むか、標的部分に結合させた脂質から実質的になるか、または標的部分に結合させた脂質からなる組成物の有効量を対象に投与する工程;および
前記標的部分に特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)もしくはT細胞受容体(TCR)を含むか、実質的にこのCARもしくはTCRからなるか、またはこのCARもしくはTCRからなる細胞(例えば細胞集団)を前記対象に投与する工程
を含む。
いくつかの実施形態は、非結合型の標的部分を前記対象に投与する工程を含み、この非結合型の標的部分として、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインの塩などが挙げられ、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインのナトリウム塩、二ナトリウム塩またはカリウム塩などが挙げられる。そのような実施形態のいくつかにおいて、非結合型の標的部分を対象に投与することによって、CAR T細胞の活性を調節することができる。例えば、非結合型の標的部分は、CAR T細胞においてシグナル伝達を実質的に誘発することなく、CAR T細胞に結合することができる。いくつかの実施形態において、非結合型の標的部分の存在により、CAR T細胞のエフェクター機能を低減することができる。いくつかの実施形態において、非結合型の標的部分の存在により、対象におけるCAR T細胞の有害な副作用(例えば、サイトカイン放出症候群)を低減することができる。
【0111】
本明細書において、「治療する」、「治療」、「治療用」または「治療法」は、本明細書の記載に照らせば、一般的な通常の意味を有し、必ずしも疾患または状態の完全な治癒や排除を意味しない。また、本明細書において、「治療する」または「治療」は、(当技術分野でよく知られているように)対象の状態に有益な結果または所望の結果(臨床結果など)を得るためのアプローチを意味する。有益な臨床結果または所望の臨床結果としては、1つ以上の症状または状態の軽減または緩和、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(例えば悪化しないこと)、疾患の伝播または蔓延の予防、疾患の進行の遅延または疾患の進行速度の低下、病態の緩和または軽減、疾患の再発の減少、および寛解が挙げられるが、これらに限定されず、これらは、部分的なものでも全体的なものでもよく、検出可能でも検出不能でもよい。本明細書において、「治療する」および「治療」は、予防療法も含む。治療方法は、活性薬剤の治療有効量を対象に投与する工程を含む。この投与工程は、単回投与からなっていてもよく、一連の複数回の投与を含んでいてもよい。本発明の組成物は、患者を治療するのに十分な量および期間で対象に投与される。治療期間の長さは、病態の重症度、患者の年齢および遺伝子プロファイル、活性薬剤の濃度、治療に使用する組成物の活性、またはこれらの組み合わせなどの様々な要因に左右される。さらに、治療または予防に使用する薬剤の有効量は、特定の治療計画または予防計画の実施中に増量してもよく、減量してもよいことは十分に理解できるであろう。投与量の変更による結果は、当技術分野で公知の標準的な診断アッセイにより明らかにしてもよい。場合によっては、長期投与が必要となることがある。
【0112】
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、本明細書に記載の疾患または障害を治療、抑制、緩和、予防または遅延する方法に関する。いくつかの実施形態において、この方法は、本明細書に記載の疾患または障害に罹患していることが特定された対象に、本明細書に記載の細胞の有効量、または本明細書に記載の細胞の有効量を含む医薬組成物を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は、標的部分に特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)もしくはT細胞受容体(TCR)を含むか、実質的にこのCARもしくはTCRからなるか、またはこのCARもしくはTCRからなる。いくつかの実施形態において、前記方法は、非結合型の標的部分の有効量を前記対象に投与する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、非結合型の標的部分の有効量を投与することにより、前記CARもしくはTCRを含むか、実質的に前記CARもしくはTCRからなるか、または前記CARもしくはTCRからなる細胞のエフェクター機能またはサイトカイン産生が低下する。本明細書に記載の別の実施形態は、本明細書に記載の疾患または障害の治療用、抑制用、緩和用、予防用または遅延用の医薬品の製造における、本明細書に記載の細胞または標的部分の使用に関する。本明細書に記載のさらに別の実施形態は、本明細書に記載の疾患もしくは障害を治療、抑制、緩和、予防もしくは遅延するための、本明細書に記載の細胞もしくは標的部分の使用、または本明細書に記載の疾患もしくは障害を治療、抑制、緩和、予防もしくは遅延するための、本明細書に記載の細胞または標的部分の有効量を含む医薬組成物の使用に関する。
【0113】
本発明の様々な実施形態を説明するため、本明細書では概して肯定的な表現により本発明を開示している。本発明は、物質または材料、方法の工程および条件、プロトコルまたは手順などの、本発明の主題のすべてまたはその一部が除外された実施形態も包含する。
【実施例】
【0114】
以下の実施例において、前述した本発明の実施形態の態様のいくつかをさらに詳細に開示するが、以下の実施例は本発明の開示の範囲をなんら限定するものではない。本明細書および請求項で述べるように、その他の多くの実施形態も本発明の範囲内に含まれることを当業者であれば十分に理解できるであろう。
【0115】
実施例1-インビトロにおけるFL-PLEを介した抗FL CAR T細胞による認識およびその活性化と、遊離のフルオレセイン分子の存在下における抗FL CAR T細胞による認識の欠如とその活性化の停止
K562細胞(白血病細胞)をFL-PLEとともに一晩インキュベートした。細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した(
図1A)。5μMのFL-PLEとともにインキュベートしたK562親細胞では、コントロールとしてのK562親細胞からの明らかなシフトが見られた。このわずかなシフトは、CAR T細胞によって認識される細胞表面上に露出したFLの量に差があることを示している。これらの細胞を使用してクロム放出アッセイ(
図1B)とサイトカイン放出アッセイ(
図1C)を実施することにより、K562細胞に取り込まれたFL-PLEを介したCD8+抗FL(FITC-E2)CAR T細胞およびCD4+抗FL(FITC-E2)CAR T細胞の活性化が、フルオレセインナトリウム(NaFL)の存在下で停止するかどうかを調べた。いずれの条件でも、モデル細胞株としてのK562 OKT3+細胞を使用した実験において、CD8+抗FL(FITC-E2)CAR T細胞とCD4+抗FL(FITC-E2)CAR T細胞のTCRまたはmock T細胞のTCRを介して、T細胞が内因性に活性化されることが確認できた。これらの実験から、抗FL(FITC-E2)CAR T細胞が、細胞膜に組み込まれたFL-PLEのFL部分を認識して、活性化されたことが確認できた。一方、50μM NaFLの存在下では、抗FL(FITC-E2)CAR T細胞による認識と、その活性化を停止することができた。
【0116】
実施例2-インビボにおけるフルオレセインナトリウム(NaFL)の腫瘍内投与による、抗FL CAR T細胞の細胞傷害性の抑制
腺癌細胞(MDA-MB-231)を2群のマウスに皮下注射することにより腺癌腫瘍を確立し(マウス1匹につき2個の腫瘍、左右の脇腹に1個ずつ)、6日目に、抗FL(FITC-E2)CAR T細胞をマウスに静脈注射した。コントロール群には、抗FL(FITC-E2)CAR T細胞のみを投与した(薬物の投与なし)。コントロール群の腫瘍は、通常通りに進行した。第2の群には、6日目に、T細胞注射の前に1μgのFL-PLEを腫瘍内注射し、45日目に腫瘍の退行が確認されるまでFL-PLEの再投与を週2回行った(
図2A)。マウスのサイトカイン放出症候群(CRS)をモニターし、細胞傷害性を1(正常)~5(死亡)のスケールで評価した(
図2B)。17日目に、腫瘍1個あたりのFL-PLEの腫瘍内投与量を2μgに増やした。18日目に、マウスにおいて3~4のCRS/毒性レベルが認められ、この時点で0.56mgのNaFLを静脈注射により投与した。数分以内に細胞傷害性レベルが低下し、12時間後までには、注射を行う前のベースラインレベル程度にまで細胞傷害性レベルが低下した。その後のFL-PLEの投与量はいずれも腫瘍1個あたり1μgとした。この群のマウスはいずれも90日目まで生存した(
図2C)。さらに、
図2Aに示すように、90日目において腫瘍は認められなかった。この実験では、NaFLにより速やかに細胞傷害性が低下し、NaFLの投与後にNaFLが体外に排除されると、抗FL CAR T細胞が機能を発揮し続けることが示された。
【0117】
実施例3-インビトロでのNaFLの用量漸増に伴う抗FL CAR T細胞の活性化量の低下
2人のドナーから得た末梢血単核細胞調製物からCD4+T細胞およびCD8+T細胞をレンチウイルスで形質導入し、抗FL(Mut2)CARを含む長鎖CARカセットを発現させた。このCARカセットには、メトトレキサートを用いたポジティブ選択により、形質導入されたCAR発現細胞を濃縮するためのジヒドロ葉酸還元酵素二重変異体の遺伝子と、CARが陽性であることを示す切断型CD19(CD19t)表面マーカーの遺伝子とがさらに含まれている。次に、放射線照射したTM-LCLおよびPBMCをフィーダー細胞として使用した標準的な急速拡大培養法により、選択された細胞を培養した。14日間の拡大培養を行った後、抗CD4抗体、抗CD8抗体および抗CD19抗体で細胞を染色し、生細胞死細胞染色を行って、フローサイトメトリーにより細胞表面の表現型を評価した。2人のドナーから得たmock T細胞および抗FL(Mut2)CAR T細胞におけるCD4集団およびCD8集団のフローサイトメトリープロット(
図3A)と、CARの陽性率のフローサイトメトリープロット(
図3B)を示す。これらのエフェクター細胞を後述する実験に使用した。
【0118】
K562親細胞(ネガティブコントロール)、K562 OKT3+細胞(T細胞を活性化するポジティブコントロール)およびMDA-MB-231標的細胞を、5μMのFL-PLEを含むPBS溶液中で30分間インキュベートし、細胞を洗浄して、結合しなかったFL-PLEを除去した。次に、細胞を完全培地に戻した。細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した(
図3C)。5μMのFL-PLEとともにインキュベートした細胞では、FL-PLEの取り込み量に親細胞株からの明らかなシフトが認められる。このシフトの量は、細胞表面上に露出したフルオレセインの量に相当する(細胞表面上のフルオレセインは、抗FL CAR T細胞による認識に重要である)。TCRを介したT細胞の内因性の活性化を調べるためのポジティブコントロールとして作製したK562 OKT3+細胞は、K562親細胞株と同じ結果を示し、このことから、OKT3を付加しても、フルオレセインの検出には影響しないことが示された。これらの標的細胞を以下のサイトカイン放出アッセイに使用した。
【0119】
NaFL(0μM、1μM、5μMまたは10μM)の用量漸増法が、抗FL CAR T細胞の活性化にどのようなを影響を与えるのかを調べるため、サイトカイン放出アッセイを設定した。この実施例では、CAR T細胞として抗FL(Mut2)CAR T細胞を作製した。FL-PLE/NaFLとともに標的細胞を24時間または一晩インキュベートした。標的細胞の培養物からの培地上清を回収し、(例えば、Bio-Plexヒトサイトカインスクリーニングパネルを使用して)上清を構成するサイトカインを測定した。サイトカインとして、IL-2(
図3D)、IFN-γ(
図3E)およびTNF-α(
図3F)を測定した。抗FL(Mut2)CAR T細胞は、標的細胞の細胞膜に組み込まれたFL-PLEのフルオレセイン部分を認識することができ、FL-PLEが組み込まれたK562細胞とMDA-MB-231細胞の両方を活性化できることが示されたが、mock T細胞は抗FL(Mut2)CAR T細胞の存在下では活性化されないことが示された。試験した3種のサイトカインのいずれでも、その活性化量は溶液中のNaFL含有量に依存して直線的に減少することが、いずれのドナーから得たT細胞においても示された。したがって、インビトロにおいてNaFLを使用することによって、抗FL CAR T細胞によるサイトカインの産生をNaFLの用量の増加に応じて低減することができる。
【0120】
実施例4-インビボでのNaFLの静脈内使用による、抗FL CAR T細胞の細胞傷害性に対する拮抗
NaFLの腫瘍内投与(実施例2参照)に対して、NaFLの静脈内(IV)投与でも、抗FL CAR T細胞によるサイトカインの産生を低減できるかどうかを調べるため、マウスを準備した。
【0121】
A群-コントロール(5匹のマウス):MDA-MB-231腫瘍+抗FL(Mut2)CAR T細胞
【0122】
B群-NaFLの投与なしでのFL-PLE(5匹のマウス):MDA-MB-231腫瘍+抗FL(Mut2)CAR T細胞+1mgのFL-PLEの静脈内投与
【0123】
C群-FL-PLEおよびNaFL(5匹のマウス):MDA-MB-231腫瘍+抗FL(Mut2)CAR T細胞+1mgのFL-PLEの静脈内投与+(必要に応じて)0.5mgのNaFLの静脈内投与
【0124】
D群-腫瘍のないコントロール(3匹のマウス):抗FL(Mut2)CAR T細胞+1mgのFL-PLEの静脈内投与+(必要に応じて)0.5mgのNaFLの静脈内投与
【0125】
まず、FL-PLE投与マウス(B群、C群およびD群)に、FL-PLEを静脈内投与した。FL-PLEの投与後、抗FL(Mut2)CAR T細胞をすべてのマウスに2日間投与した。CAR T細胞の投与後の2日間において、いずれのマウスでもサイトカイン毒性は観察されなかった。この2日間の経過後、B~D群に2回目のFL-PLE注射を投与した。24時間経過後または一晩経過後、B~D群のマウスにおけるサイトカイン毒性による症状を観察した。NaFLを投与してから15分間以内に、C群およびD群のマウスにおいてサイトカイン毒性による症状の低下が観察された。1回目のNaFLの投与から2日後に、必要に応じて追加のNaFLを静脈内注射したC群およびD群のマウスは、ベースラインと同程度のサイトカイン濃度を示した。B群のマウスは、サイトカイン毒性による症状から回復しなかったため、安楽死させた。以上の結果から、NaFLはインビボにおける忍容性が高く、対象が腫瘍を有していない場合でも、NaFLの静脈内投与によって、抗FL CAR T細胞によるサイトカイン応答を低減できることが示された。
【0126】
前述の説明は、本発明のいくつかの方法および材料を開示するものである。本発明の方法および材料は、変更することができ、製造方法および器具も変更することができる。このような変更は、本開示または本明細書に開示された本発明の実施を考慮に入れて、当業者であれば容易に理解することができる。したがって、本発明は、本明細書に開示された特定の実施形態に限定されず、本発明の真の範囲および要旨において可能なあらゆる変更およびその他の態様を包含する。
【0127】
本明細書で使用されている実質的に複数形および/または単数形の用語は、当業者であれば、本明細書の記載および/または用途に適するように、複数形の用語を単数のものとして、かつ/または単数形の用語を複数のものとして解釈することができる。本発明を明確なものとするために、様々な単数形/複数形の用語が意図的に使い分けられている。
【0128】
当業者であれば、本明細書に記載の用語、特に添付の請求項(例えば添付の請求項の本体部)に記載の用語は、通常、「オープンエンドな」用語であることを理解できるであろう(例えば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、これらに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(include)」という用語は「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである)。さらに、特定の数が請求項に記載されている場合、前述のような意図も請求項に明確に記載されており、特定の数が記載されていない場合はそのような意図も存在しないことも、当業者であれば理解できるであろう。具体的に説明をすれば、例えば、後述の特許請求の範囲では、請求項を定義するために、「少なくとも1つ」や「1つ以上」といった前置きが記載されている場合がある。しかしながら、このような前置きが記載されているからといって、不定冠詞「1つ(aまたはan)」を使用して構成要素が記載された請求項を、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではなく、たとえ同じ請求項内に「1つ以上」または「少なくとも1つ」といった前置きと「1つ(aまたはan)」といった不定冠詞とが含まれていたとしても、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではない(例えば、「1つ(aおよび/またはan)」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈すべきである)。これは、定冠詞を使用して記載された請求項でも同じである。また、請求項に特定の数が明確に記載されていたとしても、「少なくとも」記載されたその数であるということを当業者であれば理解するであろう(例えば、修飾語を伴わない「2つ」という記載は、「少なくとも2つ」または「2つ以上」を意味する)。さらに、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つ」といった慣用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(例えば「A、BおよびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。また、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つ」といった慣用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(例えば「A、BまたはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。さらに、2つ以上の選択肢を表すための選言的用語および/または選言的語句は、明細書、特許請求の範囲または図面のいずれにおいても、記載された用語のうちの1つ、記載された用語のいずれか、または記載された用語の両方を含む場合があると当業者であれば理解するであろう。例えば「AまたはB」という表現は、「AまたはB」または「AおよびB」を含む場合がある。
【0129】
さらに、本開示の特徴または態様がマーカッシュ形式で記載されている場合、当業者であれば、マーカッシュ形式で記載された各メンバーまたはそれらからなるサブグループについても記載されていると理解できるであろう。
【0130】
詳細な説明の提供などの何らかの目的で本明細書に開示された範囲はいずれも、あらゆる可能な部分範囲およびその組み合わせも包含することを、当業者であれば理解できるであろう。本明細書に記載の範囲はいずれも、同じ範囲を少なくとも等分、3等分、4等分、5等分、10等分などに分割したものも十分に記載されており、このような分割された範囲で本発明を実施可能であることを容易に理解できるであろう。例えば、本明細書に記載の範囲はいずれも、容易に、低域、中域、高域といった3等分などにすることができるが、これに限定されない。また、「以下」、「少なくとも」、「よりも大きい」、「未満」といった用語はいずれも、記載された数値を含むとともに、前述したように、部分範囲に分割可能な範囲も指すことを当業者であれば理解できるであろう。さらに、当業者であれば、本明細書に記載の範囲は各メンバーを含むことを理解できるであろう。したがって、例えば、1~3つのメンバーからなる群は、1つのメンバーからなる群、2つのメンバーからなる群または3つのメンバーからなる群を指す。同様に、1~5つのメンバーからなる群は、1つのメンバーからなる群、2つのメンバーからなる群、3つのメンバーからなる群、4つのメンバーからなる群、または5つのメンバーからなる群などを指す。
【0131】
本明細書において様々な態様および実施形態を述べてきたが、当業者であればその他の態様および実施形態も容易に理解できるであろう。本明細書において開示された様々な態様および実施形態は本発明を説明することを目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではなく、本発明の範囲および要旨は以下の請求項によって示される。
【0132】
本明細書において引用された公開特許出願、非公開特許出願、特許および学術文献を含む(ただしこれらに限定されない)すべての参考文献は、引用によりその全体が本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する。引用により援用された文献、特許または特許出願が本明細書の開示内容と矛盾する場合、このような矛盾事項よりも本明細書の記載が採用および/または優先される。
【配列表】
【国際調査報告】