(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-16
(54)【発明の名称】特定の生物学的成分を誘引して破壊するためのマイクロ流体チップ
(51)【国際特許分類】
C12M 1/42 20060101AFI20220509BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20220509BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20220509BHJP
B81B 7/02 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C12M1/42
B01J19/00 321
B81B1/00
B81B7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555532
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(85)【翻訳文提出日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 FR2020050527
(87)【国際公開番号】W WO2020188198
(87)【国際公開日】2020-09-24
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515031137
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドュ モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE MONTPELLIER
(71)【出願人】
【識別番号】505045610
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(71)【出願人】
【識別番号】520307757
【氏名又は名称】エコール ナシオナル シュペリウール ドゥ シミ ドゥ モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE SUPERIEURE DE CHIMIE DE MONTPELLIER
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100219531
【氏名又は名称】南部 麻美
(72)【発明者】
【氏名】シャルロ,ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】ラミレズ,ジャン-マリー
(72)【発明者】
【氏名】メアンス,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ギャリック,グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ピネス,コリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ギロー,イザベル
【テーマコード(参考)】
3C081
4B029
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA00
3C081BA22
3C081BA23
3C081CA05
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3C081EA39
4B029AA09
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4G075AA22
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4G075DA18
4G075EB50
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4G075FA01
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB06
4G075FB12
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、特定の生物学的成分を誘引して破壊するためのマイクロ流体チップに関し、当該チップは、生物学的成分を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ(1)と、リザーバ(1)とチップの外部環境(3)との間に配置され、化学誘引物質化合物が当該環境へ移動し、かつ、当該環境に存在する生物学的成分がリザーバ(1)へ移動することを可能にするマイクロチャネル(2)の少なくとも1つのネットワークと、リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間、又はマイクロチャネル(2)のネットワークと同じ位置に配置された少なくとも1つの電極(4)であって、リザーバ(1)への生物学的成分の移動の間に生物学的成分を破壊するように電界を生成することが可能な電極(4)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の生物学的成分を誘引して破壊するためのマイクロ流体チップであって、
前記生物学的成分を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ(1)と、
前記リザーバ(1)と前記チップの外部環境(3)との間に配置され、前記化学誘引物質化合物が当該環境へ移動し、かつ、当該環境に存在する前記生物学的成分が前記リザーバ(1)へ移動することを可能にするマイクロチャネル(2)の少なくとも1つのネットワークと、
前記リザーバ(1)と前記マイクロチャネル(2)のネットワークとの間、又は前記マイクロチャネル(2)のネットワークと同じ位置に配置された少なくとも1つの電極(4)であって、前記リザーバ(1)への前記生物学的成分の移動の間に前記生物学的成分を破壊するように電界を生成することが可能な電極(4)と、
を備える、
マイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記リザーバ(1)の一部、前記マイクロチャネル(2)のネットワーク並びに前記電極(4)を備える下部(5)、及び、前記リザーバ(1)の一部を含み、前記下部(5)の上に配置されるのに適した上部(6)を備え、前記上部(6)と前記下部(5)とは互いに固定されている、
請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
前記リザーバ(1)、前記マイクロチャネル(2)のネットワーク及び前記電極(4)はリング形状であり、かつ、前記リザーバは前記チップの中心に配置されている、
請求項1又は2に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
前記上部(6)及び/又は前記下部(5)は、リング形状の空洞i)(8)、及びリング形状の空洞ii)(10)を備え、前記リング形状の空洞i)(8)は、前記外部環境(3)と連通し、当該空洞に開口する1つ又は複数の開口部(9)を介して前記化学誘引物質化合物を含む前記基質を受け入れることが可能であり、前記リング形状の空洞ii)(10)は、前記リザーバ(1)と前記マイクロチャネル(2)のネットワークとの間に配置され、前記外部環境(3)と連通し、当該空洞に開口する1つ又は複数の開口部(11)によって、前記化学誘引物質化合物の拡散が可能な液体を受け入れるのに適している、
請求項2又は3に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
前記上部(6)及び前記下部(5)は、生体適合性材料から構成される、
請求項2から4のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項6】
前記化学誘引物質化合物を含む前記基質は、生体適合性材料、好ましくは架橋ポリマーから構成される、
請求項1から5のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項7】
前記リザーバ(1)の化学誘引物質化合物/基質の質量百分率は、0.1%から20%の範囲、好ましくは0.5%から10%の範囲、より好ましくは0.5%から5%の範囲である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項8】
前記リザーバ(1)に含まれる前記化学誘引物質化合物は、以下の化合物:CXCL12、CCL5、CCL2、CCL3、CCL7、CCL19、CCL21、CCL22、CCL25、CXCL1、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CX3CL1、TGF-α、TGF-β、FGF、PDGF、EGF、及びVEGFのうちの少なくとも1つから選択される、
請求項1から7のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項9】
前記マイクロチャネル(2)のネットワークに含まれる各マイクロチャネルは、1μmから40μmの範囲の高さ、1μmから40μmの範囲の幅、30μmから250μmの範囲の長さを有する、
請求項1から8のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項10】
前記電極(4)は櫛歯型電極である、
請求項1から9のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項11】
前記電極(4)はワイヤレス電極であり、当該チップは第2のアンテナによって作動可能なアンテナを備える、
請求項1から10のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項12】
前記電極(4)によって生成された電界は、不可逆電気穿孔によって前記生物学的成分を破壊することが可能である、
請求項1から11のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項13】
前記電極(4)によって生成される電界は、1000V/cmから6500V/cmの範囲の電圧、好ましくは3000V/cmから5000V/cmの範囲の電圧、1Hzの周波数、及び100μsから200μsの範囲の持続時間のパルス電界である、
請求項1から12のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、特定の生物学的成分を誘引して破壊することが可能なマイクロ流体デバイスの分野に関する。より正確には、本出願は、原核細胞又は真核細胞などの特定の生物学的成分をインビボで誘引して破壊することが可能なマイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
フランスでは毎年、約40万の新しい癌の症例が確認されており、約15万人が死亡している。
【0003】
発生する組織によって、癌には様々な種類がある。癌細胞の局所的なクラスターを特徴とする固形腫瘍は、骨髄又は血液の中を循環する癌細胞とともに拡散する血液細胞腫瘍とは異なる。血液細胞腫瘍は、造血器癌とも呼ばれ、白血病及びリンパ腫などの血液又はリンパ系器官に影響を与える癌である。
【0004】
固形腫瘍に関して、癌腫は、上皮組織から生じる癌である腺癌とは異なる。また、骨肉腫、脂肪肉腫、筋肉腫など、いわゆる支持組織に現れる癌細胞である肉腫とも異なる。
【0005】
男性と女性の両方において、固形癌は癌の90%を占める。前立腺癌、肺癌、及び結腸直腸癌は、男性において最も一般的な3つの癌であり、乳癌、結腸直腸癌、及び肺癌は、女性において最も一般的な3つの癌である。癌による死亡率は1980年から2012年の間に、男性で年間1.5%、女性で年間1%減少しているが(標準化率)、これらの固形腫瘍及びその合併症を治療及び予防するための効果的な解決策が依然として求められている。
【0006】
現在までのところ、手術は固形腫瘍の主要な治療法の1つであり、可能な場合は腫瘍全体を切除すること、場合によっては切除端と呼ばれる腫瘍周辺の組織を切除することを含む。手術は、腫瘍が極めて局所化している場合、特に腫瘍が初期段階にある場合、単一の治療として用いられうるが、局所治療である放射線療法などの他の治療、及び/又は、身体の癌細胞の全てに作用する可能性のある全身治療である化学療法などの医学的治療と組み合わされることが多い。
【0007】
固形腫瘍の治療のための局所手術の利点は、可能な場合は腫瘍全体を除去して、癌細胞の影響を受けない器官及び解剖学的構造を維持できることである。また、火傷又は放射線誘発性癌の発生など、放射線療法に起因する副作用、及び皮膚反応、悪心、嘔吐、下痢、筋肉痛、倦怠感、脱毛、そして化学療法誘発性癌など、化学療法に起因する副作用が制限される。
【0008】
再発率を低下させるために、切除領域には、切除端に相当する腫瘍周辺の健康な組織の領域が含まれる。この段階では、いくつかの筋書きを検討する必要がある。第1の筋書きでは、原発腫瘍の腫瘍細胞が切除領域に含まれているので、再発は起こらない。第2の筋書きでは、切除領域を超えて局所的に又は離れた場所に腫瘍細胞があるので、その後、局所的又は離れた場所で再発により腫瘍転移、すなわち、初発腫瘍の影響を受けた器官から離れて広がり、かつ、固形腫瘍が位置していた器官以外の器官におけるいわゆる「転移性」癌の起源である癌細胞の二次コロニー、が形成される可能性がある。
【0009】
したがって、固形腫瘍の切除後の局所再発及び転移性癌のリスクを可能な限り予防する必要がある。
【0010】
化学療法は、腫瘍を切除するための局所手術後に使用でき、再発及び/又は転移性癌の形成を予防するための「補助化学療法」と呼ばれる。ただし、上述したように、この薬物治療は多くの副作用を伴う。化学療法の使用に関連する最も重大な副作用の中でも、化学療法誘発性癌を特に挙げることができる。化学療法誘発性癌は、定義によれば、初発の悪性腫瘍に対する細胞毒性薬で治療された患者に発生する新たな腫瘍であって、細胞毒性薬によって引き起こされる。癌細胞が化学療法治療に対する耐性を獲得し、これにより、当該細胞が排除される可能性が強く制限されるリスクも挙げることができる。
【0011】
このように、これまでに、局所再発及び/又は転移性癌の発症のリスクを予防及び/又は低減するために、固形腫瘍の切除後に残っている癌細胞を効果的に排除する解決策であって、効果的でかつ短期及び中期の薬物の副作用を示さない解決策はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これらの必要性に応えるために、本発明は、特定の生物学的成分、特に癌細胞などの真核細胞を誘引して破壊するためのマイクロ流体チップを提案する。当該チップは、残っている癌細胞をインビボで誘引して破壊するために、固形腫瘍の切除領域にインビボで移植されるのに特に適している。
【0013】
マイクロ流体デバイスは、癌治療の分野で使用される先行技術に記載されている。特にWO2018/089989 A1を挙げることができる。WO2018/089989 A1には、血液などの生体液を、標的とされるがん細胞の種類に特有な電磁放射に曝すことによって、そのがん細胞を破壊することが可能な癌の治療用のエクスビボのデバイスが記載されている。
【0014】
文献US2018111124 A1を挙げることもできる。US2018111124 A1には、1つ又は複数のマイクロ流体チャネル、及び1つ又は複数のワイヤレスバイポーラ電極アレイを含み、生体サンプルに40kHzの交流電界を印加することにより、イオン導電性溶液中を循環する腫瘍細胞の高スループットな捕捉が可能なマイクロ流体デバイスが記載されている。こうして捕捉された細胞は、癌を診断するために又は癌治療の効果を評価するために使用されうる。
【0015】
固形腫瘍の切除後に癌細胞を、好ましくはインビボで、誘引して破壊し、これにより局所的再発及び/又は転移性癌の発症のリスクを予防及び/又は低減するためのマイクロ流体チップを記載又は示唆している先行技術文書はない。
【0016】
より一般的には、特定の生物学的成分を、好ましくはインビボで、誘引して破壊するためのマイクロ流体チップであって、生物学的成分を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ、リザーバとチップの外部環境とを連通させるマイクロチャネルの少なくとも1つのネットワーク、及び生物学的成分を破壊するための電界を生成することが可能な少なくとも1つの電極を含むマイクロ流体チップを記載又は示唆している先行技術文書はない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、特定の生物学的成分を誘引して破壊するためのマイクロ流体チップに関し、当該チップは、
生物学的成分を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ(1)と、
リザーバ(1)とチップの外部環境(3)との間に配置され、化学誘引物質化合物が当該環境へ移動し、かつ、当該環境に存在する生物学的成分がリザーバ(1)へ移動することを可能にするマイクロチャネル(2)の少なくとも1つのネットワークと、
リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間、又はマイクロチャネル(2)のネットワークと同じ位置に配置された少なくとも1つの電極(4)であって、リザーバ(1)への生物学的成分の移動の間に生物学的成分を破壊するように電界を生成することが可能な電極(4)と、
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係るチップの断面図である。
【
図2】
図2は、上方から見たチップの上部(6)を示す。
【
図3】
図3は、上方から見たチップの下部(5)を示す。
【
図4】
図4は、本発明に係るチップの底部側から見た分解図を示す。
【
図5】
図5は、本発明に係るチップの頂部側から見た分解図を示す。
【
図6】
図6は、5:0.5cmの縮尺での本発明に係るチップの断面図を示す。
【
図7】
図7は、5:1cmの縮尺でのチップの断面図を示す。
【
図8】
図8は、マイクロチャネルのレベルでの5倍の対物レンズによる倒立型蛍光顕微鏡画像であって、勾配がない場合の乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)(14)を示す。
【
図9】
図9は、マイクロチャネルのレベルでの5倍の対物レンズによる倒立型蛍光顕微鏡画像であって、チップの外側の1%のFCSとリザーバの内側の10μlの原FCSとを有するウシ胎児血清(FCS)の勾配からチップに引き込まれた乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)(14)を示す。
【
図10】
図10は、マイクロチャネルのレベルでの10倍の対物レンズによる倒立型蛍光顕微鏡画像であって、勾配がない場合の乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)(14)を示す。
【
図11】
図11は、チップの中央リザーバのレベルでの5倍の対物レンズによる倒立型蛍光顕微鏡画像であって、勾配がない場合の乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)(14)を示す。
【
図12】
図12は、マイクロチャネルのレベルでの10倍の対物レンズによる倒立型蛍光顕微鏡画像であって、チップの外側の1%のFCSとリザーバの内側の10μlの原FCSとを有するウシ胎児血清(FCS)の勾配からチップに引き込まれた乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)(14)を示す。
【
図13】
図13は、チップの中央リザーバのレベルでの5倍の対物レンズによる倒立型蛍光顕微鏡画像であって、チップの外側の1%のFCSとリザーバの内側の10μlの原FCSとを有するウシ胎児血清(FCS)の勾配からチップに引き込まれた乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)(14)を示す。
【
図14】
図14は、マイクロチャネルのレベルでの10倍の対物レンズによる倒立型蛍光顕微鏡画像であって、化学誘引物質SDF-1(チップの中央リザーバに存在する1μgの化学誘引物質SDF-1)の勾配からチップに引き込まれた乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)(14)を示す。
【
図15】
図15は、チップの中央リザーバのレベルでの5倍の対物レンズによる倒立型蛍光顕微鏡画像であって、化学誘引物質SDF-1(チップの中央リザーバに存在する1μgの化学誘引物質SDF-1)の勾配からチップに引き込まれた乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)(14)を示す。
【
図16】
図16は、倒立型蛍光顕微鏡画像であって、電気穿孔がない場合における、5%のCO
2及び95%の湿度のインキュベーター内で48時間培養後の、櫛歯電極を含むスライドガラス上の乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)を示す。
【
図17】
図17は、d0及びd0+3時間で5V、100μs、1ヘルツの櫛歯電極による電界の印加による電気穿孔によって破壊された、櫛歯電極を含むスライドガラス上の乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)の倒立型蛍光顕微鏡画像である。
【
図18】
図18は、マイクロチャネルのレベルでの倒立型蛍光顕微鏡画像であって、勾配及びパルス電界がない場合における乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)を示す。
【
図19】
図19は、マイクロチャネルのレベルでの倒立型蛍光顕微鏡画像であって、パルス電界なしでSDF-1勾配(チップの中央リザーバに存在する1μgの化学誘引物質SDF-1)からチップに引き込まれた乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)を示す。
【
図20】
図20は、マイクロチャネルのレベルでの倒立型蛍光顕微鏡画像であって、SDF-1勾配(チップの中央リザーバに存在する1μgの化学誘引物質SDF-1)及び5V、100ms、1ヘルツのパルス電界からチップに引き込まれた乳がん腫瘍細胞(MDA-MB-231)を示す。
【
図21】
図21は、本発明に係るマイクロ流体チップに包含されたアルギン酸基質からのBSA-FITC(SDF-1を模倣)の50日間にわたる放出を示すグラフである。
【
図22】
図22は、アルギン酸基質からのSDF-1の50日間にわたる放出を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
出願人は、原核細胞又は真核細胞などの生物学的成分を誘引して破壊するためのマイクロ流体チップを開発した。このマイクロ流体チップは、局所的再発及び/又は転移性癌の発症のリスクを予防及び/又は低減するために、固形腫瘍の切除後にインビボで癌細胞を誘引して破壊するのに特に有利である。
【0020】
(定義)
「マイクロ流体チップ」は、マイクロチャネルのネットワーク、すなわち、所望の機能を実行するために、材料にエッチング又は成型され、互いに接続され、かつ、チップを貫通して開けられた入口及び出口によって、チップの内側をチップの外側に連結しているマイクロメートルサイズのチャネル、を備えるデバイスである。マイクロ流体チップは、堆積及び電着、エッチング、接合、射出成型、エンボス加工、ソフトリソグラフィー、陽極はんだ付け、又は他の任意の技術などの特定のプロセスによって得られうる。これらの製造プロセスは当業者に知られている。本明細書において、マイクロ流体チップの所望の機能とは、特定の生物学的成分、好ましくは癌細胞などの真核細胞、をインビボで誘引してインビボで破壊できることである。
【0021】
「マイクロチャネルのネットワーク」とは、チップを貫通して開けられた入口及び出口によってチップの外側に接続された複数のチャネルに相当する。マイクロチャネルは、例えば、型から作製されるか、マイクロ流体チップの材料に直接作製されうる。マイクロチャネルの数は、チップの直径、マイクロチャネルの幅、又は当該マイクロチャネル同士の間隔に応じて変化する。例として、直径が1センチメートルかつチャネル幅が10μmのチップの場合、マイクロチャネルの数はおおよそ1500でありうる。
【0022】
マイクロチャネルのネットワークを構成する各マイクロチャネルは、高さが数マイクロメートルから数百マイクロメートルであり、長さが数百マイクロメートルから数ミリメートルである通路に相当する。マイクロチャネルの断面は、正方形、長方形、円、又はこれらの組み合わせなど、原則として、任意の二次元形状を有しうる。マイクロチャネルは、直線状であってもよく、曲線状であってもよい。
【0023】
マイクロチャネルの幅とは、断面の対向する両縁部にあって、最も離れている2点の水平距離である。マイクロチャネルの高さとは、断面の対向する両縁部で最も離れている2点の垂直距離である。マイクロチャネルの長さとは、当該チャネルの2つの端部の間の距離であり、マイクロチャネルの長さは、最大寸法に相当する。2つの短い方の寸法は、一般に上述の断面を定義する。
【0024】
本明細書において、「電極」とは、電流を伝導することが可能であり、かつ、1μmから1mmの範囲の距離の空隙によって分離された2つの導体を備える任意の要素を意味する。本出願では、電極が電流を伝導できるように空隙によって分離された当該2つの導体で構成されていることを理解している当業者に対して、説明を分かり易くするために、電極を単数形で示す。
【0025】
マイクロ流体チップは、好ましくは「インビボで移植されることが意図」されており、すなわち、マイクロ流体チップは、生物、好ましくは哺乳動物、特に人間の内部に移植されうる。より具体的には、チップは、接触している組織を妨害又は分解することなく移植されることが可能であって、かつ、当該チップは、インビボで機能すること、すなわち、インビボで特定の生物学的成分を誘引して破壊すること、好ましくは、癌細胞などの真核細胞を誘引して、インビボで破壊することが可能であることを意味する。
【0026】
本発明の意味において、「生物学的成分」とは、RNA又はDNAの形態で遺伝情報を含み、かつ、生体、すなわち、原核細胞、真核細胞及び微生物など、の内部で、インビボで、発見される可能性が高い任意の成分を意味する。考えられる生物学的成分の中で、特に細菌などの原核細胞、動物細胞などの真核細胞を挙げることができる。
【0027】
「特定の生物学的成分」又は「標的となる生物学的成分」とは、チップの使用状況下における対象の生物学的成分、すなわち、インビボで誘引され破壊されることを意図された生物学的成分を意味する。リザーバの内部に存在する化学誘引物質化合物は、マイクロ流体チップの使用状況下における対象の生物学的成分を誘引するように選択される。
【0028】
「マイクロチャネルのネットワークと同じ位置に」とは、電極がマイクロチャネルのネットワークのレベルに、より正確にはマイクロチャネルのネットワーク上又は下に、配置されていることを意味する。好ましくは、電極は、マイクロチャネルのネットワーク上に配置される。
【0029】
好ましくは、本明細書において、対象の生物学的成分は、原核細胞又は真核細胞であり、より好ましくは、対象の生物学的成分は、真核細胞である。さらにより好ましくは、真核細胞は癌細胞であり、好ましくは転移性癌細胞である。
【0030】
「癌細胞」は、1つ又は複数の主要なDNA損傷が発生している細胞であり、それにより、正常細胞が、急速に増殖することが可能な癌細胞に形質転換して、同一の形質転換細胞のグループ、すなわち腫瘍、が形成される。特に、問題になっている細胞が、細胞増殖調整シグナルからの独立性、プログラムされた細胞死のプロセスから逃れる能力、及び無制限に分裂する能力などの多くの特徴を有する場合、細胞は癌細胞と呼ばれる。
【0031】
本発明においてより具体的には、「癌細胞」とは、固形腫瘍切除領域又はその近くに存在する、いわゆる初期の又は元の又は原発性の固形腫瘍からの細胞を意味する。
【0032】
本明細書において好ましくは、「癌細胞」はまた、「転移性癌細胞」、すなわち、元の腫瘍から血管又はリンパ管を介して身体を通って移動することが可能な又は移動している癌細胞であって、かつ、当該腫瘍の付近又は少し離れたところにある1つ又は複数の他の組織にコロニーを形成し、これにより、「転移性癌」又は「転移性腫瘍」の元で、転移を形成することが可能な又は形成している癌細胞を意味する。これに関連して、癌細胞は、いわゆる二次性又は三次性固形腫瘍に由来する細胞であり、初期の腫瘍の組織又は器官以外の第2又は第3の組織又は器官における転移性腫瘍に相当する。
【0033】
説明を分かり易くするために、「特定の生物学的成分」、「原核細胞」、「真核細胞」、「癌細胞」、「転移細胞」は単数形で示されることが参照され、本発明に係るマイクロ流体チップは、当該成分及び細胞のいくつかをインビボで誘引して破壊することが可能であることが理解される。また、本発明に係るマイクロ流体チップは、異なる性質を有していてもよいいくつかの特定の生物学的成分をインビボで誘引して破壊することが可能であり、当該成分は、リザーバに存在する化学誘引物質化合物の特定の選択によってチップに引き込まれることに留意するとよい。
【0034】
本明細書において、「予防する」という用語は、特定の病気又は疾患にかかるリスクの低減、その病気の症状の発現の低減又は遅延を意味する。例えば、本明細書において、「予防する」という用語は、生物学的成分が原核細胞である場合の感染拡大のリスクの低減に、あるいは、生物学的成分が癌性の真核細胞である場合の、癌の局所的再発のリスク及び/又は転移、より具体的には転移性癌、の出現のリスクの低減に相当しうる。
【0035】
本明細書において、「治療する」という用語は、特定の病気又は疾患、あるいは少なくとも1つの認識できる症状の改善又は回復を意味する。「治療する」という用語はまた、病気又は疾患の進行、あるいは病気又は疾患の症状の発現の低減又は遅延を意味しうる。例えば、本明細書において、「治療する」という用語は、生物学的成分が原核細胞である場合の感染の進行の減少又は遅延、あるいは、生物学的成分が癌性の真核細胞である場合の、転移、より具体的には転移性癌、の出現の減少又は遅延に相当しうる。
【0036】
本発明の意味において、マイクロ流体チップは、好ましくは、対象者にインビボで移植されることが意図されている。
【0037】
本明細書における対象者とは、生物、好ましくは哺乳動物、より具体的には人間、子供、男性又は女性である。
【0038】
「固形癌」又は「固形腫瘍」とは、皮膚、粘膜、骨、又は器官に存在するその他の組織などの任意の組織における癌細胞の個別化された塊、すなわち、皮膚、粘膜などの上皮細胞に由来する癌腫、骨、軟骨などの結合及び支持組織の細胞に由来する腺及び肉腫、を意味する。
【0039】
本明細書において好ましくは、「固形癌」又は「固形腫瘍」とは、乳癌、肺癌、前立腺癌、膀胱癌、唾液腺癌、皮膚癌、腸癌、結腸-直腸癌、甲状腺癌、頸癌、子宮内膜及び卵巣癌、口唇-口腔-喉頭癌、腎臓癌、肝臓癌、脳癌、精巣癌、膵臓癌、好ましくは乳癌などの癌を意味する。固形腫瘍のこれらの例は非限定的である。
【0040】
「化学誘引物質化合物」とは、生物学的成分、好ましくはその表面にこの化合物の特定の膜受容体を発現する細胞、を走化性によって誘引することが可能な任意の化合物を意味し、当該生物学的成分は、化学誘引物質化合物の濃度勾配に応じて移動する。本明細書において、化学誘引物質化合物は、正の走化性による当該化合物の濃度勾配に応じて、1つ又は複数の特定の生物学的成分の移動を誘導することが可能であり、生物学的成分は化学誘引物質化合物の濃度が最も高い領域に移動する。
【0041】
本明細書において特に、化学誘引物質化合物は、マイクロ流体チップの内部で、特に最高濃度の化学誘引物質化合物が発見される化学誘引物質化合物リザーバに向かって、特定の生物学的成分の移動を可能にする場合、当該成分を「誘引するのに適している」といわれる。当業者は、チップの内部で特定の生物学的成分を誘引するのに適した化学誘引物質化合物を選択するための対象の当該成分を特徴づける方法を知っているであろう。
【0042】
本明細書において、化学誘引物質化合物は、対象の特定の生物学的成分に基づいて選択される。
【0043】
生物学的成分が真核細胞である場合、化学誘引物質化合物は、この細胞が発現する膜受容体の種類に応じて選択される。
【0044】
より正確には、生物学的成分が真核細胞である場合、化学誘引物質化合物はサイトカイン、すなわち、細胞によって合成され、かつ、離れた状態で他の細胞に作用し、膜受容体を介してそれらの活性及び機能を調節するポリペプチド又は可溶性タンパク質、でありうる。サイトカインは、ケモカイン、M-CSF、G-CSF、CSF-1などの顆粒球系及び単球系コロニー刺激因子、TGF-α、TGF-β、EGF、ベータセルリン、アンフィレグリン、ヘレグリン、HBEGF、FGF、VEGFなどの成長因子及び形質転換成長因子、NGF、TNF-α、TNF-βなどの腫瘍壊死因子、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-λなどのインターフェロン、及び、IL-1からIL-38などのインターロイキンから選択される。
【0045】
好ましくは、生物学的成分が癌細胞などの真核細胞である場合、化学誘引物質化合物は、ケモカイン、成長因子、及び形質転換成長因子から選択される。
【0046】
ケモカインは、保存された位置に三次元構造の形成を可能にする4つのシステイン残基が存在することを特徴とする8から14キロダルトンの小タンパク質である。ケモカインは、N末端位置にある2つのシステイン間の間隔に応じて4つのサブファミリーに分類されうる。特に、CXC又はαファミリーを挙げることができ、つまり、CXC又はαファミリーの最初の2つのシステインは、任意のアミノ酸、CC又はβファミリー、CX3C又はδファミリー、及びC又はγファミリーによって分離されている。本明細書におけるケモカインは、例えば、以下のケモカインから選択されてもよい:間質細胞由来因子1(SDF-1)とも呼ばれるCXCL12、CCL5、CCL2、CCL3、CCL7、CCL19、CCL21、CCL22、CCL25、CXCL1、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CX3CL1。
【0047】
成長因子は、細胞増殖を刺激する低分子量タンパク質(30キロダルトン未満)であり、ほとんどの場合チロシンキナーゼである特定の膜受容体によって認識される。本明細書における成長因子は、例えば、TGF-α又はTGF-β(形質転換成長因子α又はβ)、FGF(線維芽細胞増殖因子α)、EGF(上皮成長因子)、ベータセルリン、アンフィレグリン、ヘレグリン、HBEGF、VEGF(血管内皮成長因子)、PDGF(血小板由来成長因子)から選択されてもよい。
【0048】
生物学的成分が細菌などの原核細胞である場合、化学誘引物質化合物は、N-ホルミルメチオニル-ロイシル-フェニルアラニン(FMLP)などのホルミル化N基を有するペプチド又はグルコースなどの炭水化物分子でありうる。
【0049】
本明細書において、化学誘引物質化合物は、本発明で定義されるような生体適合性材料から構成される基質に含まれる。基質の生体適合性材料は、化学誘引物質化合物、所望の放出プロファイルに加えて、マイクロ流体チップの使用状況に応じて具体的に選択される。
【0050】
本明細書において、「外部環境」とは、インビボで移植される場合にマイクロ流体チップの周囲に位置する組織であって、より正確には、チップの周囲の300mmまで、好ましくは150mmまで、さらにより好ましくは100mmまで、チップと直接接触して位置する組織を意味する。
【0051】
「固形腫瘍の切除」とは、例えば外科手術による、固形腫瘍の除去、アブレーション又は切除を意味する。
【0052】
このように、本発明は、特定の生物学的成分をインビボで誘引して破壊するためのマイクロ流体チップに関する。
【0053】
本発明の詳細な説明で使用される参照符号は、本発明を説明することを目的とする本出願の図面を参照するが、本発明はそれに限定されない。
【0054】
本発明の第1の主題は、特定の生物学的成分を誘引して破壊するためのマイクロ流体チップに関し、当該チップは、
生物学的成分を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ(1)と、
リザーバ(1)とチップの外部環境(3)との間に配置され、化学誘引物質化合物が当該環境へ移動し、かつ、当該環境に存在する生物学的成分がリザーバ(1)へ移動することを可能にするマイクロチャネル(2)の少なくとも1つのネットワークと、
リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間、又はマイクロチャネル(2)のネットワークと同じ位置に配置された少なくとも1つの電極(4)であって、リザーバ(1)への生物学的成分の移動の間に生物学的成分を破壊するように電界を生成することが可能な電極(4)と、
を備える。
【0055】
より正確には、本発明は、特定の生物学的成分、好ましくは真核細胞、を誘引して破壊するためにインビボで移植されることが意図されたマイクロ流体チップに関し、当該チップは、
インビボで生物学的成分を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ(1)と、
リザーバ(1)とチップの外部環境(3)との間に配置され、化学誘引物質化合物が当該環境へ移動し、かつ、当該環境に存在する生物学的成分がリザーバ(1)へ移動することを可能にするマイクロチャネル(2)の少なくとも1つのネットワークと、
リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間、又はマイクロチャネル(2)のネットワークと同じ位置に配置された少なくとも1つの電極(4)であって、リザーバ(1)への生物学的成分の移動の間に生物学的成分を破壊するように電界を生成することが可能な電極(4)と、
を備える。
【0056】
好ましい一態様によれば、本発明は、真核細胞、好ましくは癌細胞、を誘引して破壊するためにインビボで移植されることが意図されたマイクロ流体チップに関し、当該チップは、
インビボで当該細胞を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ(1)と、
リザーバ(1)とチップの外部環境(3)との間に配置され、化学誘引物質化合物が当該環境へ移動し、かつ、当該環境に存在する当該細胞がリザーバ(1)へ移動することを可能にするマイクロチャネル(2)の少なくとも1つのネットワークと、
リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間、又はマイクロチャネル(2)のネットワークと同じ位置に配置された少なくとも1つの電極(4)であって、インビボでリザーバ(1)への当該細胞の移動の間に当該細胞を破壊するように電界を生成することが可能な電極(4)と、
を備える。
【0057】
第1の特定の実施形態によれば、本発明は、特定の生物学的成分、好ましくは真核細胞、より好ましくは癌細胞、を誘引して破壊するためにインビボで移植されることが意図されたマイクロ流体チップに関し、当該チップは、
インビボで当該細胞を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ(1)と、
リザーバ(1)とチップの外部環境(3)との間に配置され、化学誘引物質化合物が当該環境へ移動し、かつ、当該環境に存在する当該細胞がリザーバ(1)へ移動することを可能にするマイクロチャネル(2)の少なくとも1つのネットワークと、
リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間に配置された少なくとも1つの電極(4)であって、インビボでリザーバ(1)への当該細胞の移動の間に当該細胞を破壊するように電界を生成することが可能な電極(4)と、
を備える。
【0058】
第2の特定の実施形態によれば、本発明は、特定の生物学的成分、好ましくは真核細胞、より好ましくは癌細胞、を誘引して破壊するためにインビボで移植されることが意図されたマイクロ流体チップに関し、当該チップは、
インビボで当該細胞を誘引することが可能な化学誘引物質化合物を含む基質からなるリザーバ(1)と、
リザーバ(1)とチップの外部環境(3)との間に配置され、化学誘引物質化合物が当該環境へ移動し、かつ、当該環境に存在する当該細胞がリザーバ(1)へ移動することを可能にするマイクロチャネル(2)の少なくとも1つのネットワークと、
マイクロチャネル(2)のネットワークと同じ位置に配置された少なくとも1つの電極(4)であって、インビボでリザーバ(1)への当該細胞の移動の間に当該細胞を破壊するように電界を生成することが可能な電極(4)と、
を備える。
【0059】
好ましくは、この実施形態では、電極は、マイクロチャネルのネットワーク上又は下に配置され、より好ましくは、電極は、マイクロチャネルのネットワーク上に配置される。
【0060】
化学誘引物質化合物を含むリザーバ(1)の基質は、生体適合性材料で形成される。
【0061】
リザーバ(1)の基質に含まれる化学誘引物質化合物は、正の走化性によってチップの内部の特定の生物学的成分をインビボで誘引し、生物学的成分は、化学誘引物質化合物の濃度が最も高いリザーバ(1)に移動する。マイクロチャネルのネットワーク(2)により、化学誘引物質化合物がリザーバ(1)からチップの外部環境(3)に拡散するとともに、特定の生物学的成分がチップの外部環境(3)からチップの内部に、リザーバ(1)に移動する。電極(4)は、特定の生物学的成分が、マイクロチャネル(2)のネットワークを通って外部環境(3)からチップに、そしてリザーバ(1)に入るとき、当該電極(4)によって生成された電界が、リザーバ(1)への生物学的成分の移動の間にインビボで生物学的成分を破壊するように、リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間に配置される。
【0062】
本明細書において、生物学的成分は、好ましくは癌細胞であって、特に癌又は固形腫瘍に由来する癌細胞である。チップの内部でのこの細胞の移動は、電極(4)が配置されている支持体への接着によって実行され、電極によって生成された電界は、その後、リザーバ(1)への細胞の移動の間にインビボで細胞を破壊できる。
【0063】
本発明に係るマイクロ流体チップのマイクロチャネル(2)のネットワークは、好ましくは、当該チップの外縁部に、すなわち、外部環境(3)と接触して、配置され、これにより、当該環境とチップの内部空間との間の連通が確保される。
【0064】
本発明に係るチップは、マイクロチャネル(2)のいくつかのネットワーク、例えば、マイクロチャネルの2つのネットワーク、を含んでいてもよい。好ましい一態様によれば、本発明に係るマイクロ流体チップは、単一の電極(4)を含む。別の態様によれば、本発明に係るマイクロ流体チップは、いくつかの電極(4)を含む。
【0065】
本発明の特定の実施形態によれば、電極は、より具体的には、
マイクロチャネルの少なくとも1つのネットワークの両側に、
マイクロチャネルの少なくとも1つのネットワークの内部に、
マイクロチャネルの少なくとも2つのネットワークの間に、又は
マイクロチャネルの少なくとも1つのネットワークに隣接して、
配置されてもよい。
【0066】
本発明の第1の主題に係るマイクロ流体チップは、下部(5)及び上部(6)を備え、リザーバ(1)は、化学誘引物質化合物基質、マイクロチャネル(2)のネットワーク及び電極(4)を備え、電極(4)は、当該チップの上部(6)及び/又は下部(5)に互いに独立して構成されることが可能である。
【0067】
マイクロ流体チップの上部(6)は、カバーを形成するように下部(5)の上に配置されるのに適しており、当該上部(6)と下部(5)とは互いに固定されている。
【0068】
特定の一態様によれば、本発明に係るマイクロ流体チップは、リザーバ(1)の一部、マイクロチャネル(2)のネットワーク及び電極(4)を備える下部(5)、及びリザーバ(1)の一部を含み、下部(5)の上に配置されるのに適した上部(6)を備える。当該上部(6)と下部(5)とは互いに固定されている。
【0069】
別の特定の態様によれば、本発明に係るマイクロ流体チップは、リザーバ(1)の一部を含む下部(5)、電極(4)、及びリザーバ(1)の一部及びマイクロチャネル(2)のネットワークを含む上部(6)を備える。当該上部は下部(5)の上に配置されるのに適しており、当該上部(6)と下部(5)とは互いに固定されている。
【0070】
電極(4)に関して、「に含まれる」とは、電極がチップの下部及び/又は上部に載置される及び/又は組み込まれることを意味する。好ましくは、電極はチップの下部に組み込まれる。
【0071】
下部(5)及び上部(6)に含まれるリザーバ(1)は単一のリザーバであり、その一部はチップの上部にあり、かつ、他の一部はチップの下部にある。
【0072】
本明細書において、「下部(5)の上に配置されてカバーを形成するのに適している」上部(6)という表現は、上部(6)の形状が、下部(5)を構成する各要素の機能性を妨げることなく、それが載っている下部(5)の形状に適合し、それにより、チップを閉じるカバーの形成が可能であるようなことを意味する。
【0073】
有利かつ好ましくは、マイクロ流体チップの上部(6)及び下部(5)は、チップが組織に損傷を与えることなくインビボで移植されうるように、丸みを帯びている。
【0074】
好ましくは、チップは丸みを帯びた形状であり、上部が下部の上に配置された場合にマイクロ流体チップが楕円又は球形となるように、例えば、上部及び下部はそれぞれ、半楕円球形又は半球形を有する。
【0075】
第1の主題に係るマイクロ流体チップのサイズは、インビボ移植に適しており、かつ、数センチメートル、好ましくは0.5から5cmの範囲、より好ましくは1から3cmの範囲、より好ましくは1cmのオーダーを有する。
【0076】
より具体的には、本発明は、リザーバ(1)、マイクロチャネル(2)のネットワーク及び電極(4)がリング形状であり、かつ、リザーバがチップの中心に配置されているマイクロ流体チップに関する。
【0077】
その名称が示すように、リング形状はリングの形状に相当している。この特定の構成により、リザーバ(1)の中央位置に加えて、マイクロチャネル(2)のネットワークのリング形状によって、特に、リザーバ(1)に含まれる化学誘引物質化合物の外部環境(3)への放射状の拡散、及び当該環境からリザーバ(1)への生物学的成分の均一な誘引が確保される。同様に、リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間に配置された電極(4)のリング形状は、任意の方向からチップを貫通する各生物学的成分の効果的な破壊を有利に確保する。
【0078】
マイクロ流体チップの下部(5)及び上部(6)は、インビボでの使用に適した任意の物理的又は化学的手段(12)によって互いに固定されうる。物理的又は化学的固定手段の例として、チップのインビボでの使用に適したねじ又は接着剤、あるいは下部と上部とを接合するための下部及び上部に存在する中空要素と対向するべき突起要素をそれぞれ挙げることができる。
【0079】
本明細書において好ましくは、上部(6)は、1つ又は複数のねじが挿入されうる1つ又は複数の開口部を備え、かつ、下部(5)は、当該ねじを受け入れるのに適した1つ又は複数のナットを備える。
【0080】
さらにより好ましくは、本発明に係るマイクロ流体チップの上部(6)は、ねじが挿入されうる中央開口部を備え、下部(5)は、当該ねじを受け入れることが可能な中央ナットを備える。この好ましい実施形態では、リング形状のリザーバ(1)は、チップの上部(6)に存在する中央開口部及び下部(5)に存在する中央ナットの周囲に配置される。
【0081】
特に、マイクロ流体チップは、チップを封止することが可能な1つ又は複数のシール(7)を備え、当該シール(7)は、マイクロチャネル(2)のネットワークより上で下部(5)と上部(6)との間に配置される。
【0082】
「チップを封止することが可能なシール」とは、血液など、外部環境(3)に存在する可能性のある流体がチップに入らないようにし、かつ、チップの内部に存在する液体及び物質が、マイクロチャネル(2)のネットワーク以外の位置を通ってチップから離れないようにするシールの特性を意味する。マイクロチャネル(2)のネットワークより上にあるシール(7)の位置は、化学誘引物質化合物の外部環境(3)への拡散も、当該環境に存在する特定の細胞のチップの内部でのリザーバ(1)への移動も妨げない。有利には、シールは、チップの上部と下部との間に支持エリアを作り出す。
【0083】
特に、本発明は、上部(6)及び/又は下部(5)が、化学誘引物質化合物を含む基質を受け入れることが可能なリング形状の空洞i)(8)、及び、リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間に配置され、化学誘引物質化合物の拡散が可能な液体を受け入れることが可能なリング形状の空洞ii)(10)を備えるマイクロ流体チップに関する。
【0084】
より具体的には、本発明は、上部(6)及び/又は下部(5)が、リング形状の空洞i)(8)、及びリング形状の空洞ii)(10)を備え、リング形状の空洞i)(8)は、外部環境(3)と連通し、当該空洞に開口する1つ又は複数の開口部(9)を介して化学誘引物質化合物を含む基質を受け入れることが可能であり、リング形状の空洞ii)(10)は、リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間に配置され、外部環境(3)と連通し、当該空洞に開口する1つ又は複数の開口部(11)によって、化学誘引物質化合物の拡散が可能な液体を受け入れるのに適しているマイクロ流体チップに関する。
【0085】
より具体的にはさらに、本発明は、上部(6)及び下部(5)が、リング形状の空洞i)(8)、及びリング形状の空洞ii)(10)を備え、リング形状の空洞i)(8)は、外部環境(3)と連通し、当該空洞に開口する1つ又は複数の開口部(9)を介して化学誘引物質化合物を含む基質を受け入れることが可能であり、リング形状の空洞ii)(10)は、リザーバ(1)とマイクロチャネル(2)のネットワークとの間に配置され、外部環境(3)と連通し、当該空洞に開口する1つ又は複数の開口部(11)によって、化学誘引物質化合物の拡散が可能な液体を受け入れるのに適しているマイクロ流体チップに関する。
【0086】
好ましくは、化学誘引物質化合物は、リング形状の空洞i)(8)に添加される前に、リザーバ基質(1)に添加される。あるいは、化学誘引物質化合物は、リザーバ基質(1)の同じ空洞への添加の前又は後で、リング形状の空洞i)(8)に添加されてもよい。
【0087】
化学誘引物質化合物、及び化学誘引物質化合物の拡散が可能な液体を含む基質は、当該開口部(9,11)をそれぞれ介して、好ましくは上部(6)が下部(5)の上に配置された後で、リング形状空洞i)(8)及びリング形状空洞ii)に添加される。
【0088】
化学誘引物質化合物の拡散が可能な液体は、好ましくは、生理食塩水などの水溶液、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む水溶液などの生理学的緩衝液である。
【0089】
当該添加後の各空洞の不浸透性は、例えばPDMS又はその他の適切な材料で作られたシールによって開口部を閉じることによって確保される。当該シールはこれらの開口部(9,11)の出口に位置し、外部環境(3)と連通する。
【0090】
好ましくは、リング形状の空洞i)(8)は、チップの上部(6)及び下部(5)に含まれ、この空洞に通じる開口部(9)は、チップの下部(5)に位置する。リング形状の空洞ii)(10)及びこの空洞に通じる開口部(11)は、チップの上部(6)に含まれる。
【0091】
本発明に係るチップは、生体適合性材料で作られている。特に、本発明は、上部(6)及び下部(5)が生体適合性材料から構成されるマイクロ流体チップに関する。
【0092】
より正確には、上部(6)及び下部(5)、それらが備える要素などは、生体適合性材料で作られている。より正確には、上部(6)、下部(5)、リザーバ(1)、特に化学誘引物質化合物を含む基質、マイクロチャネル(2)のネットワーク、電極(4)及びシール(7)は、生体適合性材料で作られている。
【0093】
「生体適合性材料」又は「生体材料」とは、人間又は動物の身体の内部組織及び体液との直接的又は間接的な、短時間の又は持続的な接触においてさえ、それが使用される生物学的環境を妨害又は悪化させない材料を意味する。本明細書において使用されうる生体適合性材料の例として、ガラス、アルミナ、ジルコニア、ヒドロキシアパタイトなどのセラミック、チタン、白金などの金属及び金属合金、コラーゲン、アガロース、キトサン、カラギーナン、キサンタン及びアルギン酸塩などの天然由来のポリマー、又はポリエステル及びポリ無水物などの分解性合成ポリマー、又はポリウレタン、セルロース及びその誘導体、ビニルポリマーなどの非分解性ポリマーを非網羅的に挙げることができる。好ましくは、本明細書において、合成由来のポリマーは、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)又はPDMS(ポリジメチルシロキサン)である。
【0094】
好ましくは、上部(6)、下部(5)、及びマイクロチャネル(2)のネットワークは、互いに独立してポリジメチルシロキサン(PDMS)又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの合成由来のポリマーで作られている。さらにより好ましくは、上部(6)、下部(5)は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で作られている。
【0095】
好ましくは、マイクロチャネル(2)のネットワークは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で作られている。
【0096】
好ましくは、電極(4)は、チタン及び/又は白金、より好ましくはチタン及び白金で作られている。
【0097】
好ましくは、リザーバ(1)、特に化学誘引物質化合物を含む基質は、コラーゲン及び/又はアルギン酸塩で作られており、より好ましくは、当該リザーバ、特に当該基質は、アルギン酸塩で作られている。
【0098】
特定の好ましい態様において、本発明に係るチップの上部(6)、下部(5)、及びマイクロチャネル(2)のネットワークは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で作られており、化学誘引物質化合物を有するリザーバ(1)は、アルギン酸塩で作られており、電極(4)はチタン及び白金で作られている。
【0099】
特定の態様によれば、本発明は、化学誘引物質化合物を含む基質が生体適合性材料、好ましくは架橋ポリマーから構成されるマイクロ流体チップに関する。好ましくは、基質を構成する架橋ポリマーは、天然由来のポリマー、特にコラーゲン及び/又はアルギン酸塩、好ましくはアルギン酸塩である。
【0100】
ポリマーの架橋は、化学的及び/又は物理的手段による、直鎖状又は分岐状ポリマーからの1つ又は複数の三次元ネットワークの形成に相当する。当業者は、検討されるポリマーに応じてポリマーの架橋を誘導する方法を知っており、一例として、架橋は、加熱によって、及び/又は架橋剤の使用によって実施されうる。「架橋」ポリマーは、その鎖のいくつかが強い結合又は弱い結合によって結びつけられているポリマーである。
【0101】
例として、コラーゲンは、室温でアンモニアガス、酸化糖又はアルデヒドなどの架橋剤を使用して架橋されることができ、アルギン酸塩は、室温下の塩化カルシウム浴中で架橋されることができる。
【0102】
さらにより好ましくは、化学誘引物質化合物を含む基質を構成する生体適合性材料は、好ましくは室温下の塩化カルシウム浴中で架橋されたアルギン酸塩である。
【0103】
化学誘引物質化合物を含む基質を構成する生体適合性材料の架橋により、有利にも、この化合物の徐放が可能になる。「徐放性」とは、ある期間にわたる化学誘引物質化合物の制御された連続的な放出動態を意味する。好ましくは、本明細書において、化学誘引物質化合物の放出は、3日から6ヶ月の範囲、好ましくは15日から3ヶ月の範囲で起こる。
【0104】
特定の態様によれば、本発明は、リザーバ(1)の化学誘引物質化合物/基質の質量百分率が0.1%から20%の範囲、好ましくは0.5%から10%の範囲、より好ましくは0.5%から5%の範囲のマイクロ流体チップに関する。
【0105】
当業者は、チップの使用の状況、対象の特定の生物学的成分、化学誘引物質化合物及びリザーバ基質を構成する生体材料の所望の放出時間に応じて、リザーバ中の化学誘引物質化合物中の含有量を特定する方法を知っているであろう。
【0106】
特定の生物学的成分が真核細胞、好ましくは癌細胞である場合、マイクロ流体チップのリザーバに、特にリザーバ基質に含まれる化学誘引物質化合物は、好ましくは、間質細胞由来因子1(SDF-1)とも呼ばれるCXCL12、CCL5、CCL2、CCL3、CCL7、CCL19、CCL21、CCL22、CCL25、CXCL1、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CX3CL1などのケモカイン、TGF-α又はTGF-β(形質転換成長因子α又はβ)、FGF(線維芽細胞増殖因子α)、EGF(上皮成長因子)、ベータセルリン、アンフィレグリン、ヘレグリン、HBEGF、PDGF(血小板由来成長因子)、VEGF(血管内皮成長因子)などの成長因子及び形質転換成長因子から選択される。
【0107】
より具体的には、本発明は、チップのリザーバ(1)に含まれる化学誘引物質化合物が、以下の化合物:CXCL12、CCL5、CCL2、CCL3、CCL7、CCL19、CCL21、CCL22、CCL25、CXCL1、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CX3CL1、TGF-α、TGF-β、FGF、PDGF、EGF、VEGFのうちの少なくとも1つから選択されるマイクロ流体チップに関する。
【0108】
別の態様によれば、特定の生物学的成分が原核細胞、好ましくは細菌である場合、マイクロ流体チップのリザーバ(1)に、特にリザーバ(1)の基質に含まれる化学誘引物質は、好ましくは炭水化物分子の中から選択される。
【0109】
化学誘引物質化合物は、単独で、又は上述のその他の化学誘引物質化合物の1つ又は複数と、及び/又は真核細胞、特に癌細胞などの特定の生物学的成分を誘引する当該化学誘引物質化合物の能力の直接的又は間接的な改善が可能な、例えば、生物学的成分の、特に真核細胞の、特に癌細胞の生存に必要なエネルギー(グルコース又は脂肪酸の分解後にATPの形で提供されるエネルギー)を提供することを可能にする炭水化物(グルコース)及び/又は脂質(脂肪酸)分子などのその他の化合物と組み合わせて使用されうる。酸素などのその他の分子は、化学誘引物質と組み合わせて使用されうる。酸素は、ヘモグロビンによって又は合成ヘモグロビンによって運ばれうる。酸素は、細胞、特に癌細胞の生存及び増殖に不可欠な分子である。好ましくは、化学誘引物質化合物は、1つ又は複数の炭水化物(グルコース)及び/又は脂質(脂肪酸)分子と組み合わせて使用される。
【0110】
当業者は、標的とされる特定の生物学的成分に応じて化学誘引物質化合物を選択するように注意を払うであろう。
【0111】
この目的のために、生物学的成分が真核細胞である場合、標的細胞によって発現された膜受容体の分析を事前に実施して、選択される化学誘引物質化合物の特異度を確保する必要がある。
【0112】
例として、特定の生物学的成分が、ヒト乳癌細胞などの膜貫通受容体CXCR4を発現する癌細胞である場合、選択される化学誘引物質化合物は、間質細胞由来因子1(SDF-1)である。
【0113】
同様に、特定の生物学的成分が、肺癌由来の癌細胞である場合、選択される化学誘引物質化合物は、上皮成長因子(EGF)又は形質転換成長因子α(TGF-α)である。
【0114】
本発明に係るマイクロ流体チップのマイクロチャネル(2)のネットワークを構成するマイクロチャネルは、平行六面体状、円筒状、鱗片状、円錐台状、又はこれらの形状の組み合わせであってもよい。
【0115】
本発明に係るマイクロ流体チップのマイクロチャネル(2)のネットワークに含まれる各マイクロチャネルは、1μmから500μmの範囲、好ましくは50μmから150μmの範囲の高さ、1μmから500μmの範囲、好ましくは50μmから150μmの範囲の幅、及び30μmから1mmの範囲、好ましくは30μmから500μmの範囲の長さを有していてもよい。
【0116】
特に本明細書において、マイクロチャネル(2)のネットワークに含まれる各マイクロチャネルは、1μmから40μmの範囲の高さ、1μmから40μmの範囲の幅、30μmから250μmの範囲の長さを有する。
【0117】
本明細書において好ましくは、マイクロチャネル(2)のネットワークに含まれる各マイクロチャネルは、5μmから20μmの範囲の高さ、5μmから20μmの範囲の幅、及び100μmから200μmの範囲、好ましくは200μmの長さを有する。
【0118】
マイクロチャネルのネットワークに含まれる各マイクロチャネルは、マイクロチャネルのネットワークに含まれるその他のマイクロチャネルの寸法から独立して、それ自体の寸法を有していてもよい。
【0119】
同様に、チップがマイクロチャネルのネットワークをいくつか備える場合、同じネットワークの各マイクロチャネルに加えて、マイクロチャネルの異なるネットワークに含まれる各マイクロチャネルは、互いに独立して独自の寸法及び形状を有しうる。
【0120】
好ましくは、本明細書において、マイクロチャネルのネットワークに含まれる全てのマイクロチャネルは、同じ形状及び同じ寸法を有する。
【0121】
特定の態様によれば、本発明は、電極(4)が櫛歯型電極であるマイクロ流体チップに関する。
【0122】
「櫛歯型電極」は、各導体が櫛歯形状を有する電極(4)に相当する。好ましくは、各導体は、200μmから400μmの範囲、好ましくは約315μmの直径を有し、かつ、各導体は、10μmから50μmの範囲、好ましくは約15μmの空隙によって他の導体から間隔を空けられている。
【0123】
さらにより好ましくは、電極(4)は、アンテナ(13)によって遠隔から電力が供給されるワイヤレス電極である。
【0124】
例えば、リモート電源は、例えば13.553~13.567MHzの範囲の周波数レンジを使用するISM(産業、科学及び医療)周波数バンドからのワイヤレス通信によって動作されうる。
【0125】
より具体的には、本発明は、電極(4)がワイヤレス電極であるマイクロ流体チップに関し、当該チップは第2のアンテナによって作動可能なアンテナを備える。好ましくは、第2のアンテナは、マイクロ流体チップがインビボで移植されることが意図される場合、エクスビボに配置されることが意図される。
【0126】
「アンテナ」とは、1つ又は複数の巻きを形成する導電性材料の巻き線からなる電子要素を意味する。このアンテナに電流が流れると、磁場が発生する。この磁場は、アンテナによって電気エネルギーとして放出されうる。こうして、アンテナにより、インダクタンスによって組織を介した送電が可能になる。好ましくは、本明細書において、アンテナはインダクタである。
【0127】
アンテナ(13)により、電極(4)の遠隔電源供給が可能になる。
【0128】
アンテナにより、遠隔での情報の送信も可能になる。
【0129】
エクスビボに配置されるべき第2のアンテナは送信器機能を有し、ワイヤレス電極に含まれるアンテナは受信器機能を有する。
【0130】
当業者は、送信されるべきワイヤレス電力の効率に応じて、共振周波数、距離、及び送信器と受信器との間の位置合わせを適合させるように注意を払うであろう。
【0131】
チップに含まれるアンテナ及び第2のアンテナは、生体適合性材料で、好ましくは電極(4)の材料と同じ材料で、好ましくはチタンで、作られている。
【0132】
さらにより具体的には、チップがインビボで移植されることが意図される場合、当該アンテナの直径は、インダクタンスによる組織を介した送電に十分な大きさであり、好ましくは、アンテナの直径は、通過されるべき組織の厚さと同じ大きさのオーダーを有し、好ましくは、当該アンテナの直径は、5mmから100mmの範囲、さらにより好ましくは10mmから80mmの範囲である。
【0133】
好ましい態様によれば、第2のアンテナは、皮膚への局所適用を目的としたパッチに組み込まれ、当該パッチは、局所適用のための生理学的に許容可能な、すなわち、皮膚、粘膜及び皮膚付属器に適合する担体を含む。
【0134】
第2のアンテナはまた、外部容器に配置されうる。
【0135】
特定の態様によれば、本発明は、電極(4)によって生成された電界が不可逆電気穿孔によって生物学的成分を破壊することが可能なマイクロ流体チップに関する。
【0136】
好ましくは、電極によって生成される当該電界は、パルス電界であり、短時間の、典型的には数マイクロ秒から数ミリ秒の選択的な非熱処理に相当する。
【0137】
特定の細胞にパルス電界を印加すると、膜表面に電荷が蓄積し、細胞膜の膜電位が上昇する。細胞膜の両側に蓄積された反対符号の電荷間の引力は、この電気的圧縮に対抗する傾向を有する弾性力を持つ細胞膜の圧縮を引き起こす。印加されたパルス電界が臨界値を超えると、電気的圧縮力が弾性力よりも大きくなり、細胞膜に細孔が出現する。パルス電界の強度が大きい場合、及び/又は処理の持続時間が長い場合、浸透性が増大し、細胞膜が不可逆的に破壊される。
【0138】
本明細書において、特定の生物学的成分に電極によって生成されるパルス電界は、当該生物学的成分の不可逆的な電気穿孔を誘発する。より正確には、生物学的成分が原核細胞又は真核細胞である場合、電極によって生成されるパルス電界は、細孔、特に細胞膜にナノ細孔を生成し、アポトーシス又は壊死によって、細胞の死をもたらす細胞恒常性の不可逆的な統制解除を誘発する。
【0139】
より具体的には、電極(4)によって生成される電界は、1000V/cmから6500V/cmの範囲の電圧、好ましくは3000V/cmから5000V/cmの範囲の電圧、1Hzの周波数、及び100μsから200μsの範囲の持続時間のパルス電界である。
【0140】
好ましくは、100μsから200μsの範囲の持続時間を有するパルス電界は、1日に数回、好ましくは少なくとも3回、チップの使用の状況に適した期間、電極によって生成される。
【0141】
本発明の特定の実施形態によれば、マイクロ流体チップは、マイクロ流体チップに入れられた特定の生物学的成分の数及び/又は電極によって破壊された生物学的成分の数を測定するための手段を備える。
【0142】
考えられる手段の中で、生物学的成分を破壊する電界を生成する電極を介した電気インピーダンスによる測定システム、又は当該測定に専用のその他の電極による測定システムを特に挙げることができ、それは、マイクロ流体チップの上部及び/又は下部に含まれうる。
【0143】
電気インピーダンスは、システムに電位差が印加されたときの電荷の移動に対するシステムの反対の尺度である。言い換えれば、それはシステムに印加される電圧と結果として生じる電流との比率に相当する。本明細書において、この測定は、マイクロ流体チップに入る特定の生物学的成分、電気インピーダンスの変化を誘発する支持体へのそれらの接着を定量化するために、さらに、電極によって破壊された特定の生物学的成分、これは電極から外れて、結果として電気インピーダンスの変化を誘発する、を定量化するために使用される。
【0144】
好ましくは、マイクロ流体チップに入った生物学的成分及び/又は電極によって破壊された生物学的成分の数を測定するための手段は、電気インピーダンス測定手段である。本発明のこの特定の実施形態では、情報は、ワイヤレス通信技術によって、例えば13.553~13.567MHzの範囲の周波数レンジを使用するISM(産業、科学及び医療)周波数バンドから収集され、かつ、送信されうる。
【0145】
本発明の第2の主題は、特定の生物学的成分を誘引して破壊するための、本発明の第1の主題に係るマイクロ流体チップの使用に関する。
【0146】
より具体的には、本発明は、本発明の第1の主題に係るマイクロ流体チップの使用、又はインビボで特定の生物学的成分を誘引して破壊するための方法に関し、当該チップはインビボで移植される。
【0147】
より正確には、本発明は、本発明の第1の主題に係るマイクロ流体チップの使用、又は対象者における、原核細胞又は真核細胞などの特定の生物学的成分の増殖及び播種を治療又は予防するための方法に関し、チップは対象者にインビボで移植される。
【0148】
一態様によれば、本発明は、本発明の第1の主題に係るマイクロ流体チップの使用、又は細菌などの原核細胞によって引き起こされる感染を治療又は予防するための方法に関し、チップは対象者にインビボで移植される。
【0149】
好ましい態様によれば、本発明は、本発明の第1の主題に係るマイクロ流体チップの使用、又は真核細胞、特に癌細胞の、好ましくは対象者の固形腫瘍の切除後における、増殖及び播種を治療又は予防するための方法に関し、チップは対象者にインビボで移植される。
【0150】
より正確には、本発明は、本発明の第1の主題に係るマイクロ流体チップの使用、又は対象者における癌の局所再発及び/又は転移性癌の発症のリスクを予防するための方法に関し、チップは対象者にインビボで移植される。
【0151】
これらの使用及び方法という観点から、マイクロ流体チップは、固形腫瘍の切除領域又は細菌感染の病巣から0.1cmから20cm、好ましくは1cmから10cm、より好ましくは5cmの距離で対象者に移植される。マイクロ流体チップは、好ましくは、固形腫瘍が除去されるや否や、好ましくは当該腫瘍の切除の直後に、切除領域のレベルで移植される。
【0152】
これらの使用及び方法という観点から、パルス電界は、好ましくは、電極によって1日数回、好ましくは1日3回、より好ましくは1日8回、チップの使用状況に適した期間にわたって生成される。
【0153】
「チップの使用状況」とは、標的とされる特定の生物学的成分の種類、すなわち、当該成分が細菌である場合には細菌感染の種類、又は標的とされる癌細胞の種類、特に除去された固形腫瘍の種類、及び当該成分が癌細胞である場合には当該腫瘍のステージ、を意味する。
【0154】
当該状況に応じて、パルス電界は、3日から6ヶ月、好ましくは2週間から4ヶ月の期間にわたって、休止期間の有無にかかわらずサイクルでの繰り返しが可能な治療の形態で生成されうる。
【0155】
例えば、除去された固形腫瘍が進行したステージにあった場合、パルス電界は、電極によって8週から16週の期間にわたって、少なくとも1日3回、好ましくは1日8回、生成される。例えば、除去された固形腫瘍が進行したステージにあった場合、パルス電界は、8週から16週の範囲の期間にわたって、少なくとも1日8回、電極によって生成される。
【0156】
上述の使用という観点から、マイクロ流体チップは、単独で、又は、特定の生物学的成分が癌細胞である場合には、化学療法及び/又はホルモン療法及び/又は免疫療法及び/又は標的療法の化合物及び/又は放射線療法の化合物を含む抗癌性化合物などのその他の薬剤化合物の同時又は連続的な投与と組み合わせて使用されうる。
【0157】
最後に、本発明はまた、インビボで特定の生物学的成分を誘引して破壊するのに使用するための第1の主題に係るマイクロ流体チップに関し、当該チップは、上述の実施条件に従って、インビボで移植される。
【0158】
より正確には、本発明は、対象者における、原核細胞又は真核細胞などの特定の生物学的成分の増殖及び播種を治療又は予防するのに使用するための第1の主題に係るマイクロ流体チップに関し、チップは、上述の実施条件に従って、対象者にインビボで移植される。
【0159】
一態様によれば、本発明は、細菌などの原核細胞によって引き起こされた感染症を治療又は予防するのに使用するための第1の主題に係るマイクロ流体チップに関し、チップは対象者にインビボで移植される。
【0160】
好ましい一態様によれば、本発明は、真核細胞、特に癌細胞の、好ましくは対象者の固形腫瘍の切除後における、増殖及び播種を治療又は予防するのに使用するための第1の主題に係るマイクロ流体チップに関し、チップは、上述の実施条件に従って、対象者にインビボで移植される。
【0161】
さらにより好ましくは、本発明は、対象者における癌の局所再発及び/又は転移性癌の発症のリスクを予防するのに使用するための第1の主題に係るマイクロ流体チップに関し、チップは、上述の実施条件に従って、対象者にインビボで移植される。
【0162】
これらの使用及び方法という観点から、特定の生物学的成分が真核細胞、特に癌細胞である場合、当該細胞は、好ましくは、乳癌、肺癌、前立腺癌、膀胱癌、唾液腺癌、皮膚癌、腸癌、腸-直腸癌、甲状腺癌、頸癌、子宮内膜及び卵巣癌、口唇-口腔-喉頭癌、腎臓癌、肝臓癌、脳癌、精巣癌、膵臓癌、好ましくは乳癌である。固形腫瘍のこれらの例は非限定的である。
【0163】
本発明は、以下の図及び実施例によってさらに説明される。ただし、これらの実施例及び図は、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0164】
実施例1:インビトロ構想調査のためのマイクロ流体チップの作製
インビトロ構想の実証を実行するための、化学誘引物質が配置されたリザーバをその中央に含むマイクロ流体チップ。
【0165】
a)微小電極の集積化
ガラス基板(寸法50mm×50mm)をいわゆる「ピラニア」溶液(H2SO4:H2O2,3:1)中に準備し、洗浄してその親水性を高めた後、ホットプレート上で、150℃で15分間脱湿し、ネガ型感光性樹脂(MicroChemicals社製,AZ(登録商標) nLOF 2020)の接着性を向上させる。
【0166】
遠心コーティング(3000rpm,30s)によって、2μmの厚さが得られるように基板上に樹脂を堆積する。ホットプレート上で110℃で1分間のアニーリングによって、溶媒を蒸発させる。フォトレジストの一部における架橋を開始するために、サンプルをUV光(70mJ/cm2)に曝す。この活性化により、樹脂の局所的な特性が変化し、ベーキング後、溶媒に溶解するか、又は溶解しなくなる。樹脂がネガ型であるため、UV線に曝された部分は固体になり、その他の部分は現像の間に溶解する。次に、UV露光によって開始された架橋反応を継続するために、プレートに露光後ベーク(PEB)を実施し、110℃で1分間のプロセスを完了するために必要なエネルギーを付与する。最後に、この現像により、樹脂の非架橋部分を水酸化テトラメチルアンモニウムベースの溶媒(MicroChemicals社製,TMAH, AZ(登録商標) 726 MIF)に希釈できるようになる。
【0167】
次に、チタン/プラチナ(20nm/200nm)の堆積物がスパッタされ、続いて、いわゆる「リフトオフ」(MicroChemicals社製,アセトン及びNANO REMOVER PG)によって樹脂残渣を除去する。このステップの最後で、電極はガラスプレート上に構造化される。
【0168】
導電性であるべきでない部分の電気絶縁を確保するために、窒化ケイ素(Si3N4)の微細構造化が実行される。この目的のために、上述のリソグラフィープロセスが、追加の位置合わせステップにより繰り返される。Si3N4の200nmの堆積は、PECVD(プラズマ化学気相堆積)フレームにおいて得られる。次に、樹脂で保護されていない領域が、反応性イオンエッチングプロセス(ICP RIE)によってエッチングされる。プロセスの最後で、デバイスはMicroChemicals社製のREMOVER PG及び空気プラズマで洗浄される。
【0169】
b)MicroChemicalsのSU-8感光性エポキシ樹脂におけるモールドの作製
シリコンプレート(直径76.2mm)を「ピラニア」溶液中に準備した後、15℃から150℃で脱湿する。遠心コーティング(3000rpm,30s)によって、所望の厚さ(使用されるSU-82010又はSU-82100の種類に応じて10μm又は100μm)が得られるようにシリコンプレート上にSU-8樹脂を堆積する。溶媒の蒸発は、樹脂における機械的応力(5℃/分)が最小限になるように、ごくわずかな加熱及び冷却勾配により行う。サンプルは、厚さ10μmの場合は125mJ/cm2、厚さ100μmの場合は250mJ/cm2の365nmのUV光に曝される。次に、プレートに露光後ベーク(PEB)を実施する(厚さ10μmの場合は95℃で4分間、厚さ100μmの場合は95℃で30分間)。最後に、この現像により、SU-8樹脂の非架橋部分を溶媒(主にPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)で構成される「SU-8現像液」)に希釈することが可能になる。このステップの終わりで、マイクロチャネルの構造化を可能にするパターンがシリコンプレート上に残る。
【0170】
c)マイクロチャネルの構造化及びチップの最終組み立て
モールドの作製に続いて、ポリジメチルシロキサン(PDMS)シリコーンポリマーをその硬化剤(ダウ社製のSylgard 184シリコーンエラストマーキット,比率1:10)と混合することによって準備する。混合中に形成された気泡は、デシケーター及び真空ポンプを使用して除去される。PDMSが脱気したら、ペトリ皿に置かれたSU-8モールドにPDMSを注ぎ、80℃のオーブンに少なくとも2時間入れて、架橋プロセスを完了する。冷却後、PDMSを剥がし、円形ブレードで切断して、円筒形状のデバイスを得る。次に、これらにパンチで穴をあけて、化学誘引物質を含むことになる中央のウェルを形成する。最後のステップは、ガラス基板にPDMSを接着し、チャネルをカプセル化することからなる。これは、表面を活性化して、O2又は空気プラズマ発生器を使用してPDMSのSi-CH3基をSi-OHに変換することによって実現される。ガラス(SiO2)と接触すると、永久的なSi-O-Si共有結合が生成される。
【0171】
d)電気計装
チップに、特定の細胞の不可逆電気穿孔を引き起こし、それにより、システムに浸透した細胞のアポトーシス又は壊死を誘発するのに十分な強さの電界(2000V/cmから5000V/cm)を加える櫛歯電極(距離:15μm)が装備される。方形波信号(電圧/周波数/ハイタイム:3Vから7.5V/1Hz/100μs)は、ファンクションジェネレータ(TG2511A TTi)によって送信され、オンチップ実施中にオシロスコープ(Tektronix社製,TBS1032B)によって視覚化される。オシロスコープの第2のチャネルは、電極(4)を流れる電流の画像を生成する高精度の分流抵抗器(0.1W,Vishay社製のLVR01R1000FE70)に接続される。実験を自動化するために、機器はUSBケーブルでコンピューター(Raspberry Pi 3 Model B+,オペレーティングシステム:Linux (登録商標) Raspbian 9 (Stretch))に接続される。「仮想計測器ソフトウェアアーキテクチャ」(VISA)通信は、「オープンソース」ライブラリPyVISAによって確保され、Pythonスクリプトはオペレーティングシステムのcrontabプログラムによって定期的に実行される。
【0172】
e)放出基質の製造
3%(w/v)のアルギン酸塩水溶液を、チップリザーバの形状を有する多孔質モールドに堆積させた。モールドを塩化カルシウム架橋浴に24時間浸漬させる。ミリQ水で3回洗浄した後、基質を-20℃で凍結し、その後、凍結乾燥する。
【0173】
次に、基質をチップに静かに配置する。
【0174】
実施例2:サイトカイン放出プロファイルの調査
(A)インビトロ及びインビボでの酵素によるタンパク質分解から保護するために、化学誘引物質化合物SDF-1は通常、1.51分子のBSA対10分子のSDF-1の比率でBSA(ウシ血清アルブミン)に複合される。BSAは6kDaの大きな子牛の血清タンパク質であり、SDF-1は8kDaの小さなサイトカインである。基質からのSDF-1の放出は拡散によるため、最大の流体力学半径を有する分子は、複合体、つまり、BSA、の拡散に最大の影響を及ぼす。そのような理由により、最初のステップとして、このモデルを使用して、実施例1に従って作製したマイクロ流体チップからのSDF-1化合物の放出プロファイルを調査した。ナノスケールの濃度の検出を最大限に引き出すために、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)と結合したBSAを、蛍光検出器と結合した高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によって検出することを選択した。
【0175】
サンプル準備:
・チップに含まれる凍結乾燥アルギン酸塩基質への3.2μgのBSA-FITCの堆積
・37℃で30分間のインキュベーション
【0176】
調査開始:
・密閉容器内の1.5mlのPBSへのチップの浸漬
・調査期間中、すなわち50日間、37℃で振とう下でのインキュベーション。
・HPLC(水/アセトニトリル)によって分析される750μlの放出溶液の異なる時間でのサンプリング。
【0177】
使用されたカラムは、BSA-FITCなどのタンパク質を検出するために設計されたカラムである。
・以前のサンプルを補うために、750μlの新しいPBSが放出培地に追加される。
【0178】
結果:
この調査により、本発明に係るマイクロ流体チップに含まれるアルギン酸塩基質からのBSA-FITCの50日間の徐放性が、50日後に99%の放出をもって達成されることが実証された(
図21)。
【0179】
(B)第2のステップでは、ELISA検出法を使用して、50日間にわたってアルギン酸塩基質からのSDF-1の放出を定量化した。
【0180】
サンプル準備:
・SDF-1とBSA(0.1%)との複合体形成
・凍結乾燥したアルギン酸塩基質への1μgのSDF-1の堆積
・37℃で30分間のインキュベーション
【0181】
調査開始:
・密閉容器内の1.5mlのPBSへの基質の浸漬
・調査期間中、すなわち50日間、37℃で振とう下でのインキュベーション。
・750μlの放出溶液のサンプルを異なる時間で採取し、サプライヤーの指示に従って、SDF-1の検出に固有のELISAキットで分析する。
以前のサンプルを補うために、750μlの新しいPBSが放出培地に追加される。
【0182】
結果:
この調査により、アルギン酸塩基質のみからのSDF-1の23日間の徐放性が、23日後に40%の放出をもって達成されることが実証された(
図22)。
【0183】
実施例3:マイクロ流体チップのインビトロへの組み入れ
A)チップの内部における細胞の誘引能力
マイクロ流体チップを乳房腫瘍の上皮細胞であるMDA-MB-231乳癌細胞を誘引する能力を試験するためにインビトロに組み入れた。化合物「間質細胞由来因子」SDF-1は、MDA-MB-231細胞を誘引することが可能な化学誘引物質化合物である。
【0184】
1)緑色蛍光タンパク質(GFP)で安定的にトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞は、D0でトリプシン処理される。次に、その中央にマイクロ流体チップを含む35mmペトリ皿に20000個の細胞を播種する。細胞は、ダルベッコの改変イーグル培地/栄養混合培地F-12(DMEM F12)+Glutamax+1%ウシ胎児血清(FCS)+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)で培養される。
【0185】
マイクロ流体チップの中央リザーバには、33μlのDMEM F12+Glutamax+1%FCS+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)(
図8)又は33μlのDMEM F12+Glutamax+10μlの原FCS+1%抗生物質ストレプトマイシン,ペニシリン)がロードされる(
図9)。5%CO
2及び95%湿度のインキュベーターで7日間培養した後、倒立型蛍光顕微鏡で写真を撮る。
【0186】
試験した両方の条件下で、細胞が特にリザーバに向かって移動すること、リザーバの内部に10μlの原FCSが存在する場合には大量の細胞が移動することがわかる。
【0187】
2)緑色蛍光タンパク質(GFP)で安定的にトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞は、D0でトリプシン処理される。次に、10万個の細胞を直径50mmのペトリ皿に播種する。ペトリ皿の中央には、マイクロ流体チップが配置されている。細胞は、ダルベッコの改変イーグル培地/栄養混合培地F-12(DMEM F12)+Glutamax+1%ウシ胎児血清(FCS)+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)で培養される。
【0188】
マイクロ流体チップの中央リザーバには、50μlのDMEM F12+Glutamax+1%FCS+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)(
図10及び11)、又は50μlのDMEM F12+Glutamax+FCS10μl+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)(
図12及び13)、又は50μlのDMEM F12+Glutamax+1μgSDF-1+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)(
図14及び15)がロードされる。
【0189】
5%CO2、95%湿度のインキュベーターで8日間培養した後、倒立型蛍光顕微鏡で写真を撮る。
【0190】
試験したすべての条件下で、特にウシ胎児血清勾配が存在する場合には(
図12及び13)、さらに著しくは化合物SDF-1勾配が存在する場合には(
図14及び15)、細胞が特にリザーバに向かって移動することがわかる。
【0191】
B)櫛場電極によって細胞を破壊する能力
1)MDA-MB-231細胞を破壊するための電界を生成する櫛場電極の能力を試験した。この目的のために、緑色蛍光タンパク質(GFP)で安定的にトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞をD0でトリプシン処理した。次に、60000個の細胞をスライドガラスに良好に固定されたPDMSに播種し、その内部に円形の櫛場電極を配置した。使用した培地は、DMEM F12+Glutamax+FCS10%+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)である。
【0192】
5%CO
2及び95%湿度のインキュベーターで48時間培養した後、櫛歯電極を含むスライドガラス全体を覆う細胞単層が得られる(
図16)。次に、スライド上に5V、100μs、1ヘルツの電界を印加して細胞を電気穿孔し、3時間後に倒立型蛍光顕微鏡で写真を撮る(
図17)。
【0193】
電気穿孔から3時間後に細胞の約70%が破壊されることが観察される。
【0194】
2)電気穿孔によってMDA-MB-231細胞を誘引して破壊する本発明に係るマイクロ流体チップの能力を試験した。
【0195】
この目的のために、緑色蛍光タンパク質(GFP)で安定的にトランスフェクトされたMDA-MB-231細胞は、D0でトリプシン処理される。次に、50000個の細胞を直径50mmのペトリ皿に播種する。マイクロ流体チップは、このペトリ皿の中央に配置されている櫛歯電極及び2つのマイクロチャネルネットワークを備える。
【0196】
細胞は、ダルベッコの改変イーグル培地/栄養混合培地F-12(DMEM F12)+Glutamax+1%ウシ胎児血清(FCS)+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)で培養される。
【0197】
以下の3つの条件が試験される。
・チップの中央リザーバには、50μlのDMEM F12+Glutamax+FCS1%(ウシ胎児血清)+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)が、勾配がなく、かつパルス電界なしでロードされている(
図18)。
・チップの中央リザーバには、50μlのDMEM F12+Glutamax+SDF-1 1μg+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)が、パルス電界なしでロードされている(
図19)。
・チップの中央リザーバには、50μlのDMEM F12+Glutamax+SDF-1 1μg+1%抗生物質(ストレプトマイシン,ペニシリン)が、パルス電界ありでロードされている(
図20)。
【0198】
3日間の培養後、5%CO2及び95%湿度のインキュベーターの内部で、7日間の培養期間中、3時間ごとに条件C(5V、100ms、1ヘルツ)で電気穿孔を施す。写真は、倒立型蛍光顕微鏡で撮影される。
【0199】
この調査により、MDA-MB-231細胞が中央リザーバに誘引され、化学誘引物質SDF-1勾配が存在し、かつ、電界が存在しない場合には、マイクロチャネルの2つのネットワーク間に位置する空間に局在したままであることが実証された。
【0200】
化学誘引物質SDF-1、及び3時間ごとに印加されたパルス電界(5V、100μs、1ヘルツ)が存在する場合には、細胞はマイクロチャネルの第1のネットワークを通過し、電気穿孔が形成される。
【0201】
全てのケースにおいて、細胞はマイクロチャネルの両方のネットワークを通過することはできない。
【0202】
これらの異なる実験により、生物学的成分を誘引して破壊するマイクロ流体チップの能力、特に、当該チップは、ウシ胎仔血清の勾配から又はさらに顕著には化学誘引物質SDF-1の勾配から、乳癌腫瘍細胞(MDA-MB-231)を誘引できるという能力、そして、パルス電界からこれらの同じ腫瘍細胞を破壊することが可能であるという能力が実証された。
【国際調査報告】