(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-17
(54)【発明の名称】化学発光を増強するための基板
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
G01N33/543 545A
G01N33/543 575
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021540800
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(85)【翻訳文提出日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 AT2020060112
(87)【国際公開番号】W WO2020198771
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518087627
【氏名又は名称】フィアノスティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】ミスビッヒラー,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ハワ,ゲルハルト
(57)【要約】
本発明は、化学発光反応において生成された1つまたは複数の発光団の化学発光を増強するための基板の使用であって、基板が、互いに離れた複数のくぼみを有する固体ポリマー支持体を含み、固体支持体が、少なくとも1種の金属で少なくとも部分的にコーティングされている、使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学発光反応において生成された1つまたは複数の発光団の化学発光を増強するための基板の使用であって、前記基板が、互いに離れた複数のくぼみを有する固体ポリマー担体を含み、前記固体担体が、金属で少なくとも部分的にコーティングされていることを特徴とする、使用。
【請求項2】
前記くぼみの互いの距離が0.2μmから2.5μmであることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記固体担体の前記くぼみが、長さおよび幅を有し、長さ対幅の比が、2:1から1:2、特に1:1であることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記固体担体の前記くぼみが、長さおよび幅を有し、前記くぼみの長さおよび幅が、0.1μmから2μmであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記くぼみが、本質的に円形であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記くぼみが、0.1μmから5μmの深さを有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記固体担体が、互いの上に配置された、1つもしくは1つ以上の金属層を少なくとも部分的に含む、および/または前記固体担体上の前記金属層が、10nmから200nmの厚さを有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記金属が、銀、金、アルミニウム、クロム、インジウム、銅、ニッケル、パラジウム、白金、亜鉛、スズ、およびこれらの金属の1つまたは複数を含む合金からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記固体担体が、熱可塑性ポリマーおよび重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含み、前記熱可塑性ポリマーが、ポリオレフィン、ビニルポリマー、スチレンポリマー、ポリアクリレート、ポリビニルカルバゾール、ポリアセタールおよびフルオロポリマーからなる群から選択され、前記重縮合物が、熱可塑性重縮合物、熱硬化性重縮合物および重付加物からなる群から好ましくは選択され、前記ポリマー固体担体の前記材料が、有機および/または無機の添加物および/またはフィラーを任意に含み、これらが、TiO
2、ガラス、カーボン、顔料、脂質、およびワックスからなる群から好ましくは選択されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記発光団が、酵素によって生成されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記酵素が、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼおよび加水分解酵素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記発光団が、ルミノールおよびその誘導体、1,2-ジオキセタン、アクリジニウムエステルまたはルシフェリンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記酵素が、前記基板に直接的および/または間接的に結合されることを特徴とする、請求項10から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
水溶液中の化学発光反応において生成された1つまたは複数の発光団の化学発光を増強する方法であって、前記水溶液を、請求項1から13のいずれか一項に定義された基板に接触させるステップを含む、方法。
【請求項15】
水性試料中の少なくとも1つの分析物を判定するまたは定量する方法であって、
a)試料を、直接的または間接的に基板に結合した分析物結合分子を含む請求項1から13のいずれか一項に定義された基板に接触させるステップ、
b)化学発光反応において1つまたは複数の基板から1つまたは複数の発光団を生成する、少なくとも1種の酵素が直接的または間接的に結合される、少なくとも1種の追加の分析物結合分子を加えるステップ、および
c)ステップb)における化学発光反応がもたらす光の放射を測定するステップ
を含む、方法。
【請求項16】
前記酵素が、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼおよびルシフェラーゼからなる群から選択されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記発光団が、ルミノールおよびその誘導体、1,2-ジオキセタン、アクリジニウムエステルまたはルシフェリンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記基板に結合された、前記少なくとも1種のさらなる分析物結合分子が、抗体、抗体断片、好ましくはFab、F(ab)'2またはscFv断片、核酸、アプタマー、およびそれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とする、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記酵素が、抗体、抗体断片、好ましくはFab、F(ab)'2またはscFv断片、核酸、アプタマー、およびそれらの組合せからなる群から選択される担体分子によって、間接的に結合されることを特徴とする、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ステップb)における前記光の放射が、280nmから850nmの波長で測定されることを特徴とする、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学発光を増強するためのナノ構造の表面を有する基板の使用に関する。この効果は、「金属増強された化学発光」(MEC)としてもまた知られている。
【背景技術】
【0002】
化学発光は、紫外線および/または可視光線域内の電磁放射線が、化学反応を通じて放射される過程である。通常、酸化感受性化合物が、その後の反応で光を放出するために、最初に酸化して不安定な中間化合物になる化学発光反応に関わる。かかる化合物は、発光団ともまた呼ばれる。周知の頻繁に使用される発光団は、ルミノールである。ルミノールは、血液残留物の検出を可能にするので、とりわけ、法医学において使用される。これは、ルミノールが、酸化体での酸化後に、青味を帯びた光を放射することによって反応するという事実に基づいている。しかし、触媒(例えば、錯体に結合されるFe3+)の存在下でのみ、この反応は十分な割合で起こる、つまり、触媒が不在の場合には反応は起こらず、従って化学発光は観察できない。発光団はまた、酵素の存在下、ある特定の化合物の反応を通じて生成され得る。酵素が発光団を生成できるという事実は、例えば、分析において使用される。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)アプリケーションにおいて、数回分析物に結合する分子は、発光団を生成することによって試料中のある特定の分析物の存在を判定するために、対応する酵素とカップリングする。
【0003】
特に分析手順において、試料中のわずかな量の分析物でさえも判定することは、非常に重要である。試料中の分析物を判定および定量する従来の方法は、たびたびナノグラムまたはピコグラム範囲で分析物濃度を検出することができないという不利な点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、前述の分析方法の感受性を上昇させることができる手段および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、化学発光反応において生成された1つまたは複数の発光団の化学発光を増強するための基板であって、基板が、互いに離れた複数のくぼみを有する固体ポリマー担体を含み、固体担体が、金属で少なくとも部分的にコーティングされている、基板の使用によって達成される。
【0006】
このような基板は、例えばWO2017/046320から、蛍光を増強することが知られている。これらの基板のナノ構造の表面によって、蛍光性化合物の蛍光収量を有意に増加させることが可能であり、いわゆるMEF(「金属で増強された蛍光」)効果を通じて蛍光測定の感受性を大幅に上昇させる。これは、非常に低いフルオロフォア濃度の測定を可能にする。しかし、この蛍光増強は、フルオロフォアが基板に近接近(50nm未満)の場合にのみ観察可能である(Hawaら、Analytical Biochemistry549(2018):39~44ページ)。このMEF効果が観察可能なのは、透明な基板を通じて、または表面に結合されていない、従って非増強フルオロフォアを含有する、存在するいずれの溶液も除去した後、直接表面で、蛍光が測定される場合のみである。従って、溶液中で遊離している分子のMEF効果を通じた増強は、不可能である。
【0007】
しかし、驚くべきことに、蛍光性材料の蛍光を増強することができる表面構造が、化学発光反応において生成された発光団の電磁放射を増強するのにもまた使用され得ることが示された。しかし、発光増強効果は、発光団が上述の基板に極めて接近している場合(すなわち、50nm未満)に、観察可能なばかりでなく、効果が溶液全体に広がることが、示された。従って、効果はまた、バルク溶液全体を通じて上から測定する場合、観察できる。固体担体に間接的に結合されたフルオロフォアの蛍光が判定される分析方法(例えば、ELISA)に反して、固体担体に間接的に結合された酵素によって生成される発光団は、溶液中で遊離していて、検査される水溶液中で自由に拡散し得る。結果として、反応セットアップ中のほとんどの発光団は、基板に近接近しておらず、基板から離れて拡散する。この拡散効果にもかかわらず、本発明の基板は、発光団の化学発光を予想外に有意に増強することが示された。Hawaらの研究結果(Analytical Biochemistry549(2018):39~44ページ)から見て、この公表文献の著者らは、蛍光を増強する効果は、発明の基板への近接近において観察可能なのみであったので、これは予期できなかった。
【0008】
くぼみを含む本発明の固体担体は、WO2017/046320にも提示されている通り、様々な方法によって基本的に生成され得る。
(a)くぼみを含む固体担体は、単一のステップ(例えば、射出成形)において製造される。
(b)くぼみは、さらなる方法ステップ(例えば、熱エンボス加工、電子ビームリソグラフィーまたは反応性イオンエッチングもしくはレーザーアブレーションと関連する「極紫外線」(EUV))において、存在する固体担体中へ導入される。
(c)固体担体へ、薄い構造化可能なポリマー層を適用し、その中へ、BD-50ブルーレイディスクの生産のときのように、くぼみを導入する(UVナノインプリントリソグラフィー)。
【0009】
いわゆるナノインプリントリソグラフィーは、これらの構造を生成するために、特に好適である(Chou S.ら、Nanoimprint lithography、Journal of Vacuum Science & Technology B第14巻、第6号、1996、4129~4133ページ)。ナノインプリントリソグラフィーを用いてナノ構造を生成するために、ポジ、通常モノマーもしくはポリマー、およびナノ構造のスタンプ(「マスター」)が必要とされる。スタンプそれ自体は、ナノリソグラフィーを用いて生成されてよい、または代替方法として、エッチングによって生成されてよい。ポジは、基板に適用され、次に、ガラス温度超まで加熱され、つまり液化され、その後、スタンプが押される。制御可能な(および短期の)加熱を達成するために、レーザーまたはUV光が、しばしば使用される。加熱の間のポジの粘度に起因して、スタンプの隙間は、完全に満たされる。冷却後、スタンプは、取り除かれる。ポジは、本発明の基板の固体担体を構成していて、スパッタリング法を用いて金属でコーティングされる。
【0010】
リソグラフィーのためのスタンプの構造化は、ナノインプリントによって、再び達成されてよい。ここで、使用される材料は、ガラスまたは光が透き通るプラスチックである。
【0011】
特に好ましいのは、射出成形による、くぼみを含む固体担体の生成である。ここで、金型インサートは、Ni電気メッキを用いてリソグラフィーで生成されたSiウエハーから典型的に取り出される。
【0012】
固体担体は基本的に、いずれの形(例えば、球状、平面)であってもよく、平面形が特に好ましい。
【0013】
「くぼみ」は、本明細書で使用されるとき、くぼみの周りの固体担体の表面のレベルに関係し、上昇部または隆起のように表面からではなく、担体の中へ広がる。本発明の意味するくぼみは、側壁によって限定された底を有する。従って、その深さは、表面からくぼみの底までの距離である。固体担体上のくぼみは、様々な形(例えば、円、卵形、正方形、長方形)であってよい。
【0014】
「複数の」くぼみは、本明細書で使用されるとき、本発明の担体が少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個、より好ましくは少なくとも5個、より好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも20個、より好ましくは少なくとも30個、より好ましくは少なくとも50個、より好ましくは少なくとも100個、より好ましくは少なくとも150個、より好ましくは少なくとも200個のくぼみを有することを意味する。これらのくぼみは、1000μm2、好ましくは500μm2、より好ましくは200μm2、より好ましくは100μm2の固体担体の表面積上に形成されてよい。代替方法として、くぼみは、好ましくは長さ1000μm、より好ましくは500μm、より好ましくは200μm、より好ましくは100μmにわたって広がってよい。
【0015】
「互いに離れたくぼみ」は、本明細書で使用されるとき、くぼみが、側境界によって互いに離れており、互いに連結していない、固体担体の表面でさえも連結していないことを意味する。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、くぼみの互いの距離(「間隔」)は0.2μmから2.5μm、好ましくは0.3μmから1.4μm、より好ましくは0.4μmから1.3μmである。本発明のさらなる好ましい実施形態において、くぼみの互いの距離は0.2μmから2μm、好ましくは0.2μmから1.8μm、好ましくは0.2μmから1.6μm、好ましくは0.2μmから1.5μm、好ましくは0.2μmから1.4μm、好ましくは0.2μmから1.3μm、好ましくは0.3μmから2.5μm、好ましくは0.3μmから2μm、好ましくは0.3μmから1.8μm、好ましくは0.3μmから1.6μm、好ましくは0.3μmから1.5μm、好ましくは0.3μmから1.3μm、好ましくは0.4μmから2.5μm、好ましくは0.4μmから2μm、好ましくは0.4μmから1.8μm、好ましくは0.4μmから1.6μm、好ましくは0.4μmから1.5μm、好ましくは0.4μmから1.4μm、好ましくは0.5μmから2.5μm、好ましくは0.5μmから2μm、好ましくは0.5μmから1.8μm、好ましくは0.5μmから1.6μm、好ましくは0.5μmから1.5μm、好ましくは0.5μmから1.4μm、好ましくは0.5μmから1.3μm、好ましくは0.6μmから2.5μm、好ましくは0.6μmから2μm、好ましくは0.6μmから1.8μm、好ましくは0.6μmから1.6μm、好ましくは0.6μmから1.5μm、好ましくは0.6μmから1.4μm、好ましくは0.6μmから1.3μm、好ましくは0.7μmから2.5μm、好ましくは0.7μmから2μm、好ましくは0.5μmから1.8μm、好ましくは0.7μmから1.6μm、好ましくは0.7μmから1.5μm、好ましくは0.7μmから1.4μm、好ましくは0.7μmから1.3μmであり、最も好ましくは、くぼみの互いの距離は0.2μmから1.4μmまたは0.3μmから1.3μmである。くぼみの間の距離(間隔)は、くぼみの中心から測定される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、固体担体のくぼみは、長さおよび幅を有し、長さ対幅の比が2:1から1:2、特におよそ1:1である。
【0018】
本質的に、固体担体上のくぼみは、いずれの形であってもよい。しかし、特に好ましいのは、長さ対幅の比が2:1から1:2、好ましくは1.8:1、好ましくは1.6:1、好ましくは1.5:1、好ましくは1.4:1、好ましくは1.3:1、好ましくは1.2:1、好ましくは1.1:1、好ましくは1:1.8、好ましくは1:1.6、好ましくは1:1.5、好ましくは1:1.4、好ましくは1:1.3、好ましくは1:1.2、好ましくは1:1.1、特に1:1を有するくぼみである。
【0019】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、くぼみの長さおよび幅は、0.1μmから2μm、好ましくは0.2μmから2μm、好ましくは0.3μmから2μm、好ましくは0.1μmから1.8μm、好ましくは0.2μmから1.8μm、好ましくは0.3μmから1.8μm、好ましくは0.1μmから1.5μm、好ましくは0.2μmから1.5μm、好ましくは0.3μmから1.5μm、好ましくは0.1μmから1.2μm、好ましくは0.2μmから1.2μm、好ましくは0.2μmから1.2μm、好ましくは0.1μmから1μm、好ましくは0.2μmから1μm、好ましくは0.3μmから1μm、好ましくは0.1μmから0.8μm、好ましくは0.2μmから0.8μm、好ましくは0.3μmから0.8μm、好ましくは0.1μmから0.6μm、好ましくは0.2μmから0.6μm、好ましくは0.3μmから0.6μm、特に0.2μmから0.6μmである。
【0020】
特に、本発明の固体担体のくぼみは、本質的に円形であり、「本質的に円」は、卵形および楕円体形もまた含む。くぼみの形は、固体担体の平面図で見られる。
【0021】
好ましくは、くぼみは、0.1μmから5μm、好ましくは0.1μmから4μm、好ましくは0.1μmから3μm、好ましくは0.1μmから2μm、好ましくは0.1μmから1.5μm、好ましくは0.1μmから1.2μm、好ましくは0.1μmから1μm、好ましくは0.1μmから0.9μm、好ましくは0.1μmから0.8μm、好ましくは0.2μmから5μm、好ましくは0.2μmから4μm、好ましくは0.2μmから3μm、好ましくは0.2μmから2μm、好ましくは0.2μmから1.5μm、好ましくは0.2μmから1.2μm、好ましくは0.2μmから1μm、好ましくは0.2μmから0.9μm、好ましくは0.2μmから0.8μm、好ましくは0.3μmから5μm、好ましくは0.3μmから4μm、好ましくは0.3μmから3μm、好ましくは0.3μmから2μm、好ましくは0.3μmから1.5μm、好ましくは0.3μmから1.2μm、好ましくは0.3μmから1μm、好ましくは0.3μmから0.9μm、好ましくは0.3μmから0.8μmの深さを有する。くぼみの深さは、固体金属化担体の表面からくぼみの底までの距離である。
【0022】
本発明によれば、固体ポリマー担体は、金属で「少なくとも部分的に」覆われている。「少なくとも部分的に」は、本明細書で使用されるとき、くぼみを含む固体担体のいずれかの領域の少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは100%が、少なくとも1種の金属で覆われていることを意味する。MEF効果は金属表面を必要とするので、固体担体の表面が、少なくともくぼみの領域中で少なくとも1種の金属で覆われていることが、特に好ましい。ここで、固体担体は、同じまたは異なる金属から作られた互いの上に配置された、いくつか(例えば、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4または少なくとも5)の金属層をまた含んでよい。固体担体上にいくつかの金属層を使用する利点は、最初の金属層(例えば、クロム)が、担体に直接適用されて、さらなる金属層の接着性を改善できることにある。
【0023】
用語「互いの上に配置された」は、本明細書で使用されるとき、金属層が、別の金属層上に直接的または間接的に配置されることを意味する。これによって、同じ金属または異なる金属の金属層の多層系がもたらされる。
【0024】
金属層は、好ましくは連続していて、不連続でない。しかし、本発明によれば、固体ポリマー担体上の金属層または複数の金属層は、蛍光を増強する効果を損なうことなく不連続であり得ることが分かった。例えば、不連続の金属層は、本発明の基板の表面の伝導率測定に起因する。伝導率がより低いこと、またはないことは、金属層(複数可)が、基板表面で不連続であることを意味する。例えば、不連続の金属層は、ある特定の時間(10~90分間)、好ましくは生理食塩水、例えば、150mM NaClを有する10mMリン酸緩衝液に、金属で本質的に完全に覆われている基板を接触させることによって生成され得る。
【0025】
本発明の固体担体は、「少なくとも1種の金属でコーティングされ」ている。好ましくは、金属層は、少なくとも2種、より好ましくは少なくとも3種、より好ましくは少なくとも4種、より好ましくは少なくとも5種の異なる金属を含む。金属は、最新技術から知られている方法を用いて固体担体に適用されてよく、スパッタリング(陰極スパッタリング)または熱蒸着、電子ビーム蒸着、レーザービーム蒸着、アーク蒸着、分子ビームエピタキシー、イオンビームアシスト蒸着およびイオンメッキが、好ましくは使用される。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、金属は、銀、金、アルミニウム、クロム、インジウム、銅、ニッケル、パラジウム、白金、亜鉛、スズ、およびこれらの金属の1種または複数を含む合金からなる群から選択される。
【0027】
本発明によれば、これらの金属またはこれらの金属の合金は、本発明の固体担体をコーティングするために使用されてよい。特に好ましいのは、銀または銀を含有する合金での固体担体のコーティングであり、その理由は、銀および銀の合金には、特に強い増強効果があるからである。特に好ましいのは、銀、インジウムおよびスズを含む合金である。銀含有合金は好ましくは、10%超、より好ましくは30%超、より好ましくは50%超、より好ましくは70%超、より好ましくは80%超、より好ましくは90%超の銀含有量を有する。
【0028】
固体担体を少なくとも1種の金属でコーティングした後で、または本発明の基板もしくは本発明の固体担体を使用する前に、固体担体または基板は、好ましくは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲンの少なくとも1種の酸または1種の塩を含む水性組成物で処理される。
【0029】
蛍光増強が、ハロゲンの少なくとも1種の酸またはその塩を含む水溶液(例えば、緩衝液)で基板または固体担体を前処理することによって、さらにもっと増強され得ることが示された。従って、酸を含有するまたは塩を含有する溶液で固体担体または基板を前処理することは、特に好ましい。代替方法として、ハロゲンの少なくとも1種の酸または塩を含む水溶液(例えば、緩衝液)は、他の溶液の代わりに、測定の間に使用されてもまたよい。本発明によれば、ハロゲン基のいずれかの酸またはそのいずれかの塩は、適切であるが、しかし、放射性ハロゲンは、実施には望ましくない。結果的に、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素のハロゲンの酸または塩が特に好ましく、塩化物、特に金属塩化物の使用が最も好ましい。特に好ましくは、本発明によって使用される酸または塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、特にナトリウム、カリウムまたはリチウム塩である。
【0030】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、水性組成物は、HCl、HF、HBr、HJ、NaCl、NaF、NaBr、NaJ、KCl、KF、KBr、およびKJからなる群から選択される少なくとも1種の酸または塩を含む。ハロゲンの少なくとも1種の酸またはその塩を含む水性組成物は、少なくとも1種の酸またはその塩に加えて、他の酸または塩などのさらなる材料を含んでよい。特に好ましいのは、緩衝作用を有する材料(例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸塩)である。
【0031】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、固体担体は、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも2分間、より好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間、より好ましくは少なくとも20分間、水性組成物で処理される。本発明によれば、少なくとも1種の金属でコーティングされた担体の蛍光を増強する効果は、固体担体が、好ましくは室温(22℃)で、ハロゲンの少なくとも1種の酸またはその塩を含む水性組成物で少なくとも1分間インキュベートされる場合、特に強いことが示された。インキュベーションがより高い温度(例えば、30℃から40℃の間)で実施される場合、インキュベーション時間は、それに対応して削減できる(例えば、少なくとも30秒)。その一方で、インキュベーションがより低い温度(例えば、10℃から20℃の間)で起こる場合、インキュベーション時間は、それに対応して延長してよい(例えば、少なくとも2分)。
【0032】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、固体担体上の金属層は、10nmから200nm、好ましくは15nmから100nmの厚さを有する。特に好ましくは、固体担体上の金属層の厚さは、10nmから190nm、好ましくは10nmから180nm、好ましくは10nmから170nm、好ましくは10nmから160nm、好ましくは10nmから150nm、好ましくは10nmから140nm、好ましくは10nmから130nm、好ましくは10nmから120nm、好ましくは10nmから110nm、好ましくは10nmから100nm、好ましくは10nmから90nm、好ましくは10nmから80nm、好ましくは10nmから70nm、好ましくは10nmから60nm、好ましくは10nmから50nm、好ましくは15nmから200nm、好ましくは15nmから190nm、好ましくは15nmから180nm、好ましくは15nmから170nm、好ましくは15nmから160nm、好ましくは15nmから150nm、好ましくは15nmから140nm、好ましくは15nmから130nm、好ましくは15nmから120nm、好ましくは15nmから110nm、好ましくは15nmから90nm、好ましくは15nmから80nm、好ましくは15nmから70nm、好ましくは15nmから60nm、好ましくは15nmから50nm、好ましくは20nmから200nm、好ましくは20nmから190nm、好ましくは20nmから180nm、好ましくは20nmから170nm、好ましくは20nmから160nm、好ましくは20nmから150nm、好ましくは20nmから140nm、好ましくは20nmから130nm、好ましくは20nmから120nm、好ましくは20nmから110nm、好ましくは20nmから100nm、好ましくは20nmから90nm、好ましくは20nmから80nm、好ましくは20nmから70nm、好ましくは20nmから60nm、好ましくは20nmから50nmである。
【0033】
本発明によれば、「固体担体」は、金属でコーティングできる限り、およびくぼみを産生できる限り、いずれかのポリマー材料からなってよい。例えば、固体ポリマー担体は、合成ポリマー、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルもしくはポリカーボネート、シクロオレフィン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアセテートまたはそれらの組合せを、含むまたはからなる。基本的に、非ポリマー担体、例えば、金属、セラミックスまたはガラスもまた、金属でコーティングできる限り、およびくぼみを産生できる限り、適切であり得る。
【0034】
固体担体は、熱可塑性ポリマーおよび重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種の材料を好ましくは含む。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、熱可塑性ポリマーは、ポリオレフィン、ビニルポリマー、スチレンポリマー、ポリアクリレート、ポリビニルカルバゾール、ポリアセタールおよびフルオロポリマーからなる群から選択される。
【0036】
重縮合物は、好ましくは熱可塑性重縮合物、熱硬化性重縮合物および重付加物からなる群から選択される。
【0037】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、ポリマー固体担体の材料は、有機および/または無機の添加物および/またはフィラーを含み、これらは、好ましくはTiO2、ガラス、カーボン、顔料、脂質、およびワックスからなる群から選択される。
【0038】
好ましい実施形態によれば、本発明の基板は、キャピラリー、マイクロタイタープレート、マイクロ流体チップ、試験ストリップ(「ラテラルフローアッセイ」用)、蛍光顕微鏡のための、特に、ポイントスキャナー原理による共焦点レーザー顕微鏡などの高解像度方法ならびに4Pi顕微鏡およびSTED(誘導放出抑制)顕微鏡、センサーアレイまたはその他のいずれかの光学検出器分野のためのスライド(例えば、対象物スライド)の一部である。
【0039】
特に好ましいのは、マイクロタイタープレートにおける本発明の基板の使用であり、マイクロタイタープレートは、6、12、24、48、96、384または1536のウェルを含んでよい。マイクロタイタープレートは、多様な測定およびアッセイのために使用され、これら測定およびアッセイは、しばしば、試料の蛍光の測定もまた含む。マイクロタイタープレートのウェルに本発明の基板を提供することにより、試料の蛍光収量を、有意に増加させ得る。基板を、多様な方法を用いてウェルに導入し、固定できる。ここで、基板は、接着、溶接技術(例えば、レーザー溶接)、および熱接合を用いてウェルに、好ましくは固定される。
【0040】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、固体担体は、シクロオレフィンコポリマーまたはシクロオレフィンポリマーを、含むまたはからなり、マイクロタイタープレートの一部またはマイクロタイタープレートのウェルの一部である。COP1060R(Zeonor○1060R)が、特に非常に適していることが示された。ここで、担体は、10から60nm、好ましくは40nmまでの金属(例えば、銀)で、好ましくはコーティングされる。
【0041】
フルオロフォアなどの蛍光性物質によるある特定の測定は、キャピラリーにおいて実行される。従って、キャピラリーに本発明の基板を提供することは、好ましい。1つの代表的アプリケーションは、サイトメトリーまたはフローサイトメトリーであり、蛍光性細胞または蛍光で標識された細胞の数もしくは種類もまた、蛍光測定を用いて判定される。
【0042】
多数の蛍光測定アプリケーションは、マイクロ流体チップで(例えば、「ラブオンチップ」アプリケーションとして)実行され、本発明の基板は、かかるチップの検出領域に提供されてよい。本発明の基板は、従来のキュベットにおいてもまた提供されてよい。これによってまた、蛍光測定において蛍光収量を有意に増加させ、その結果、試料中の蛍光性材料の非常に少量を測定できる。本発明によれば、いずれのキュベットの形も使用してよい。本発明の基板はまた、標識された分析物(例えば、蛍光で標識された抗体)の蛍光を増強し、その結果試験の感受性を上昇させるために、迅速試験または現場試験(ポイントオブケア)用に使用され得る試験ストリップシステム(「ラテラルフローアッセイ」)の検出領域(「検出ライン」)において使用されてよい。
【0043】
本発明の好ましい実施形態によれば、発光団は、酵素によって生成される。
【0044】
発光団は、ある特定の反応(例えば、酸素または過酸化水素での酸化)の場合に、反応して、生成物を産生する化合物である。かかる反応の間、紫外線および/または可視域内の電磁放射線が、放射される。本発明によれば、発光団は、1種または複数の酵素の助けを借りて生成されてよい。ここで、これらの酵素は、発光団の前駆体を高エネルギーで不安定な発光団に転換させるために、これらの前駆体を反応させることができる。
【0045】
好ましくは、本発明によって使用される酵素(複数可)は、ペルオキシダーゼおよびオキシゲナーゼの群から、好ましくは、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)およびルシフェラーゼからなる群から選択される。これらの酵素は、電磁放射線を放射するように、ある特定の化合物を反応させることができる。適切な化学発光化合物は、当業者にとって周知であり(例えば、「Chemiluminescence in Organic Chemistry」、Karl-Dietrich Gundermann、Frank McCapra、Springer-Verlag Berlin Heidelberg、1987、ISBN978-3-642-71647-8を参照)、酵素に従って選択される。
【0046】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、発光団は、ルミノールおよびその誘導体、1,2-ジオキセタン、アクリジニウムエステルおよびルシフェリンからなる群から選択される。これらの発光団の1つまたは複数に加えて、シュウ酸誘導体、好ましくはシュウ酸アリールエステル、例えば、シュウ酸ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)(TCPO)、シュウ酸ビス(2,3-ジニトロフェニル)(DNPO)またはシュウ酸ビス(2,4,5-トリクロロフェニル-6-カルボペントキシフェニル)(CPPO)が、使用されてよく、それらは、過酸化物、例えば、過酸化水素で反応させる場合に、不安定なペルオキシシュウ酸エステル、例えば、1,3-ジオキセタンジオンを形成し、分解反応の間に、例えば、UV光を放射し得ることが知られている。
【0047】
発光団を生成する本発明の酵素(複数可)は、基板に、好ましくは、直接的および/または間接的に結合される。従って、例えば、本発明の基板は、発光団を生成することができる酵素でコーティングされてよい。これは、表面上の分析物を判定する場合(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA))、特に有利である。
【0048】
アプリケーションの分野に応じて、酵素は、1種または複数のさらなる分子によって、直接的または間接的に基板に結合されてよい。かかる分子を金属構造に結合させる方法は、周知である。最も単純な場合において、結合は、金属表面へのタンパク質の(イオン性および疎水性相互作用により媒介される)物理化学的吸着を通じて達成される(例えば、Nakanishi K.ら、J Biosci Bioengin91(2001):233~244ページ)。金属表面の誘導体化後にタンパク質を固定化する共有結合方法もまた、知られている(例えば、GB Sigalら、Anal Chem68(1996):490~7ページ)。
【0049】
本発明の好ましい実施形態によれば、酵素は、抗体、抗体断片、好ましくはFab、F(ab)2またはscFv断片、核酸、脂質、ウイルス粒子、アプタマー、およびそれらの組合せからなる群から選択される担体分子によって、間接的に基板に結合される。
【0050】
本発明のさらなる態様は、水溶液中での化学発光反応において生成された1つまたは複数の発光団の化学発光を増強する方法であって、水溶液を上に定義された基板に接触させるステップを含む、方法に関する。
【0051】
本発明の方法において、水溶液中の発光団によって放出された光は、本発明の基板にこの溶液を接触させることによって増強され得る。これは、反応の感受性を上昇させ、例えば、発光団を生成することによって上昇させる。例として、ルミノールを用いる血液残留物の検出が、挙げられてよい。ここで、血液は、水性試料中で、または血液のごくわずかな量しか含有しない、水溶液ですすがれたもしくは溶解された試料中で、検出され得る。
【0052】
本発明のさらなる態様は、水性試料中の少なくとも1つの分析物を判定するまたは定量する方法であって、
a)試料を、直接的または間接的に結合された分析物結合分子を含む本発明の基板に接触させるステップ、
b)化学発光反応において1つまたは複数の基板から1つまたは複数の発光団を生成する、少なくとも1種の酵素が直接的または間接的に結合される、少なくとも1種の追加の分析物結合分子を加えるステップ、および
c)ステップb)における化学発光反応がもたらす光の放射を測定するステップ
を含む、方法に関する。
【0053】
水性試料中の少なくとも1つの分析物を判定するまたは定量する本発明の方法は、当業者に周知の検出方法(例えば、ELISA)に基づいており、判定されるおよび/または定量される分析物を有する水性試料を、WO2017/046320にもまた開示されている本発明の基板に接触させるという違いがある。この基板の存在によって、化学発光反応の過程において放出された光が有意に増強される。
【0054】
好ましい本発明の方法において、水性試料は、既知の方法を用いて基板に結合される分析物結合分子(例えば、抗体または抗体断片)に接触させられる。従って、水性試料中に存在する分析物分子は、基板表面に間接的に結合される。洗浄ステップの過程において、基板表面に間接的に結合されない分析物は、除去される。さらなる分析物結合分子を用いて、少なくとも1種の酵素もまた、本発明の基板に間接的に結合される。分析物に結合しないさらなる分析物結合分子が除去される、さらなる洗浄ステップの後で、酵素が方法の最終ステップの1つにおいて光を放出する発光団を生成できる基板を、加える。この光は、従来の方法で質的または量的に判定できる。
【0055】
発光団は、最初にすでに述べた通り、化学発光反応において酵素によって生成される。本発明の好ましい実施形態によれば、酵素は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼおよび加水分解酵素全般からなる群から選択される。
【0056】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、発光団は、ルミノールおよびその誘導体、1,2-ジオキセタン、アクリジニウムエステルまたはルシフェリンからなる群から選択される。
【0057】
酵素および基板の好ましい組合せは、西洋ワサビペルオキシダーゼ/ルミノール、アルカリホスファターゼ/1,2-ジオキセタンおよびルシフェラーゼ/ルシフェリンからなる群から選択されてよい。
【0058】
本発明の好ましい実施形態によれば、基板に結合された、少なくとも1種のさらなる分析物結合分子は、抗体、抗体断片、好ましくはFab、F(ab)'2またはscFv断片、核酸、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0059】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、酵素は、抗体、および抗体断片、好ましくはFab、F(ab)'2またはscFv断片からなる群から選択される担体分子によって、間接的に結合される。
【0060】
本発明の好ましい実施形態によれば、ステップb)における光の放射は、280nmから850nmの波長で測定される。
【0061】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、ステップb)における光の放射は、基板からの距離、40nm超、好ましくは50nm超で測定される。
【0062】
以下の図面を参照して本発明さらに詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】
図1は、金属層でコーティングされている固体担体を含む、本発明の基板を示す図である。固体担体は、深さ、幅および長さを有するくぼみを有する。くぼみは互いに、ある特定の距離(間隔)で固体担体上に位置する。
【
図2】
図2は、本発明の固体担体の平面図(A)および断面(B)を示す図である。固体担体上のくぼみは、幅、長さおよび深さにより特徴付けられ、互いにある特定の距離(間隔)にある。
【
図3】
図3は、抗体濃度に応じたMEC増強を示す図である。
【
図4】
図4は、MEFおよび標準MTP上の2ステップアッセイセットアップにおける信号対雑音比を示す図である。表2および以下の図は、コーティングされたヤギ抗体の濃度に応じて達成されたSNRまたはMEC増強を示す。
【実施例】
【0064】
後述の実施例を用いて、金属で増強された蛍光のために開発された基板が、化学発光測定の信号対雑音比を改善するのにもまた適切であるかどうか検査した。
【0065】
以下の実施例のために、底にAT517746に開示されている構造を有するマイクロタイタープレートを、使用した。特に、互いに離れた、直径0.4μm、間隔(すなわち、2つのくぼみの間の距離)1μm、および深さ0.7μmの複数のくぼみを有する、銀でコーティングされたポリマー担体を、マイクロタイタープレートの底に適用した。Greiner社(オーストリア)の市販のマイクロタイタープレートを、達成された増強効果の程度を判定するために、比較の目的で使用した。
【実施例】
【0066】
吸着された酵素標識抗体の直接検出
上述のマイクロタイタープレートの底へ酵素標識抗体を吸着し、洗浄ステップ後、それぞれの酵素のために化学発光基板を用いて結合された抗体を検出する、MEC(「金属で増強された化学発光」)増強効果を検出する最も単純な方法。
【0067】
手順
- 濃度10-9から10-15mol/Lの、50mMリン酸緩衝液/100mM NaCl中のロバ抗ヤギ抗体(Sigma、SAB3700287、1mg/ml)希釈液50μlを、MEFまたはGreiner1x8HBストリップMTP(VWR、737-0195)上で、暗所、室温で2時間インキュベートした。
- ウェル(マイクロタイタープレート上のくぼみ)の内容物を、廃棄し、プレートを、50mMリン酸緩衝液/100mM NaCl/0.1%TritonX100、200μlで3回洗浄した。
- 製造者の仕様書(BM Chemiluminescence ELISA Substrate Kit、Sigma、11759779001)に従って、化学発光基板10μlを、共にキットに含まれている、エンハンサー100μlおよびアッセイ緩衝液890μlと混合した。キットに含有されている基板は、CSPD(ジナトリウム3-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)フェニルホスフェート)であり、ALPにより不安定なジオキセタンに転換され、477nmで発光極大を有する。このキットにおいて量子収率を増すために使用されるエンハンサーは、Emerald IIであった。
- この反応混合物150μlを、MTP上にピペットで添加し、出現する化学発光信号を、TECANのSPARKマイクロタイタープレートリーダーでモニターした。
【0068】
結果
信号対雑音比(SNR、抗体を有するウェルの化学発光/抗体なしの化学発光)の経時的展開
表1に見られる通り、SNRは、最初に記載された構造をもつ底を有するマイクロタイタープレート(MEF-MTP)中で継時的に増加するのみであり、一方で、Greinerの標準マイクロタイタープレート(「Greiner MTP」)上では低迷するまたは減少さえする。
【0069】
【0070】
これは、量子収率を増加させるMECに起因して、発光団でそれ自体を濃縮するバルク溶液のクエンチングが、妨げられるという事実によって、説明され得る。結果的に、MEF-MTP上で吸着された抗体の検出は、標準MTPと比較して、時間の経過で益々感受性が高くなり、少なくとも10の累乗で検出限界を削減させる。
【0071】
濃度およびMECの程度への依存性
増強程度の定量を実行する最も単純な方法は、MEFおよび標準MTP上でのSNRを比較することによる。
【0072】
これは、
図3に示されている通り、濃度へのMECの程度の明白な依存性を示した(測定時間300秒後のデータ)。この増強は、1モルの抗体吸着溶液の10
-11の濃度まで、ほぼ100倍に増加したが、その後、再び減少が始まり、これはまた、おそらく、高まるクエンチングに起因する。サブピコモル範囲の低濃度によってさえも、標準MTPのSNRの明白な3から13倍の増強を依然として観察可能である。
【実施例】
【0073】
吸着された非標識抗体の間接検出
MEF(「金属で増強された蛍光」)効果の程度は、とりわけ、ナノ構造からのフルオロフォアの距離に強く依存する(Hawaら、Analytical Biochemistry549(2018):39~44ページをまた参照)。
【0074】
酵素触媒MEC試験の場合、例えば直接的蛍光標識抗体でのMEF試験に反して、生成された発光団は、表面から離れて拡散し、従って、表面上にある限りのみで、増強され得る。発光増強がまた、2つのタンパク質層(少なくともおよそ10~15nm)上でアッセイセットアップにおいて可能であることを示すために、実施例1に記載された実験を、変更して、最初に、ヤギ抗体を、MEF-MTPに適用して、次に、ALP標識抗ヤギ抗体でのブロッキングのステップ後に検出した。
【0075】
手順
- 濃度0~1μg/mlの、50mMリン酸緩衝液/100mM NaCl中のヤギ抗体(Jackson、111-005-008、2mg/ml)希釈液50μlを、MEFまたはGreiner1x8HBストリップMTP(VWR、737-0195)上で、暗所、4℃で一晩インキュベートした。
- ウェルの内容物を、廃棄し、プレートを、50mMリン酸緩衝液/100mM NaCl/0.1%TritonX100、200μlで3回洗浄した。
- 非特異的結合のブロッキングを、5%ポリビニルピロリドン(5%PBSPTx)を有する、50mMリン酸緩衝液/100mM NaCl/0.1%TritonX100、100μlで、室温、2時間のインキュベーションによって実行した。
- さらなる洗浄ステップの後で、プレートを、室温で、2時間、項目2においてもまた使用されたALP標識抗ヤギ抗体の30ng/ml溶液、50μlでインキュベートした。
- 最後の洗浄ステップ後に、実施例1に記載された発光団反応混合物150μlを、再度加え、出現する化学発光信号を、TECANのSPARKマイクロタイタープレートリーダーでモニターした。
【0076】
結果
増強の程度の定量を、MEFおよび標準MTP(Greiner MTP)上でのSNRを比較することによって、再度実行した。表2および
図4は、コーティングされたヤギ抗体の濃度に応じて、得られたSNR値およびMEC増強を示す。
【0077】
【0078】
増強効果は2つのタンパク質層上で観察可能でさえある。表面に結合されたフルオロフォアを用いたMEFと比較して、酵素で生成された発光団は拡散し、表面からさらに離れて動くので、これは驚きである。いずれの場合においても、20~30倍の感受性上昇は、コーティング濃度の上昇にともなって上昇するように見えるので、分析的に関連性があると考えるべきである。
【0079】
考察
従って、金属で増強された蛍光のために開発された構造は、金属で増強された化学発光にとってもまた適切である。
【0080】
効果の範囲は40~50nm(表面からの距離)のみであり、酵素によって生成された化学発光基板は表面から離れて拡散するので、このことは非常に驚きである。明らかに、増強が非常に強いので、時間の経過で平均すると十分な分子が表面の近くに存在する。また、MECの観察された程度は予想外であり、これまでのところ文献に記載されていない。
【国際調査報告】