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特表2022-525520誘導結合プラズマ質量分析のイオン源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-17
(54)【発明の名称】誘導結合プラズマ質量分析のイオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/10 20060101AFI20220510BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220510BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
H01J49/10 500
G01N27/62 G
H01J49/04 450
H01J49/04
H01J49/10
H01J49/04 630
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556213
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(85)【翻訳文提出日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2020057153
(87)【国際公開番号】W WO2020187856
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】19163530.9
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508092576
【氏名又は名称】エーテーハー チューリヒ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハッテンドルフ,ボド
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター,デトレフ
(72)【発明者】
【氏名】ボンデラーシ,トーマス
【テーマコード(参考)】
2G041
5C038
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G041EA03
2G041FA10
2G041FA16
2G041FA21
2G041GA20
2G041HA01
2G041HA10
2G041JA16
5C038EE02
5C038EF04
5C038EF33
5C038GG09
5C038GH05
5C038GH17
(57)【要約】
誘導結合プラズマを用いてイオンを生成するICP源(100)は、質量分析計(200)に接続するように構成されている。試料は、重力の作用下において鉛直方向下向き(G)にプラズマ内へ導入される。この方法により、試料は、その状態に関わらず、例えば、液滴又は粒子のサイズに関わらず、プラズマに到達することができる。100%に至る輸送効率を実現することができる。ICP源には、試料を含む連続的な流れを供給することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導結合プラズマを用いて試料からイオンを生成するICP源であって、該ICP源(100;500)は質量分析計(200;200’)に接続するように構成されており、該ICP源(100;500)は、鉛直方向下向き(G)に前記試料を前記プラズマ内へ導入するように構成されていることを特徴とする、ICP源。
【請求項2】
前記ICP源は、前記鉛直方向下向き(G)にイオンが前記プラズマから抽出されるように構成されている、請求項1に記載のICP源。
【請求項3】
プラズマトーチを備え、該プラズマトーチは、鉛直に配向された長手軸を規定する注入管を備え、該注入管は、前記試料を受けるように構成された上端と、前記試料を前記プラズマ内へ導入するように構成された下端とを有する、請求項1又は2に記載のICP源。
【請求項4】
金属冷却板(140)を備え、前記プラズマを維持することによって生じる熱から前記冷却板(140)の上方にある前記ICP源(100;500)の構成部品を保護するように、該金属冷却板(140)は、少なくとも部分的に前記プラズマトーチ(130;530)を包囲している、請求項3に記載のICP源。
【請求項5】
前記金属冷却板を通る、又は前記金属冷却板に接続された構成部品を通る、冷却流体の、あるいは特に空気又は水の強制流によって、前記金属冷却板(140)を積極的に冷却する冷却システムを備える、請求項4に記載のICP源。
【請求項6】
誘導結合によって前記プラズマを維持する電磁結合素子、あるいは特に誘導コイル又は環状共振器を備え、前記電磁結合素子は長手軸を規定し、該長手軸は鉛直に配向されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のICP源。
【請求項7】
イオン化システムであって、
試料をエアロゾル化するエアロゾル化装置と、
請求項1~6のいずれか1項に記載のICP源(100;500)と、
を備え、
前記ICP源(100;500)は、前記エアロゾル化した試料が前記鉛直方向下向き(G)に前記エアロゾル化装置から前記ICP源(100;500)へ移送されるように、前記エアロゾル化装置に接続されている、イオン化システム。
【請求項8】
前記エアロゾル化装置は、
液滴ディスペンサー(411)及び該液滴ディスペンサーに接続された鉛直に配向された落下管(413)を備え、該落下管(413)は、前記液滴ディスペンサーによって作られた液滴が重力の作用下において下方へ送られるようになっており、前記落下管(413)の出口は、前記落下管(413)を出る前記エアロゾル化した試料が前記鉛直方向下向き(G)に前記落下管(413)から前記ICP源(100;500)へ移送されるように、前記ICP源(100;500)の入口に接続されている、又は、
前記試料をエアロゾル化する噴霧器(421)及び該噴霧器(421)に接続された噴霧室(422)を備え、該噴霧室(422)は下方を向いた出口を有し、前記噴霧室(422)の前記出口は、前記エアロゾル化した試料が前記鉛直方向下向き(G)に前記噴霧室(422)から前記ICP源(100;500)へ移送されるように、前記ICP源(100;500)の入口に接続されている、又は、
レーザーアブレーションセル(430;440)を備え、該レーザーアブレーションセル(430;440)は下方を向いた出口を有し、前記レーザーアブレーションセル(430;440)の前記出口は、前記エアロゾル化した試料が前記鉛直方向下向き(G)に前記レーザーアブレーションセル(430;440)から前記ICP源(100;500)へ移送されるように、前記ICP源(100;500)の入口に接続されている、
請求項7に記載のイオン化システム。
【請求項9】
イオン化システムであって、
フローサイトメーター(310)及び/又は細胞選別機(320)と、
請求項1~6のいずれか1項に記載のICP源と、
を備え、
前記ICP源(100;500)は、前記試料が前記鉛直方向下向き(G)に前記フローサイトメーター(310)又は前記細胞選別機(320)から前記ICP源(100;500)へ移送されるように、前記フローサイトメーター(310)又は前記細胞選別機(320)に接続されている、イオン化システム。
【請求項10】
フローサイトメトリー情報を前記フローサイトメーター(310)から受信するとともに質量分析情報を前記ICP源(100;500)に接続された質量分析計(200;200’)から受信し、前記フローサイトメトリー情報を前記質量分析情報と関係付けし、個別の細胞又は粒子についてのフローサイトメトリーと質量分析を組み合わせた情報を得るように構成された関係付け器(315)を備える、請求項9に記載のイオン化システム。
【請求項11】
イオン化システムであって、
連続流試料供給システム(610,620)と、
試料導入システム(410)と、
請求項1~6のいずれか1項に記載のICP源と、
を備え、
前記試料導入システム(410)は、前記試料を含む連続的な試料流(Fsample)が前記連続流試料供給システム(610,620)から前記試料導入システム(410)へ移送されるように、前記連続流試料供給システム(610,620)に接続されており、
前記試料導入システム(410)は、前記鉛直方向下向き(G)に前記試料を前記ICP源(100;500)内へ導入するように構成されている、イオン化システム。
【請求項12】
前記連続流試料供給システム(610,620)は、連続流試料前処理装置(610)を備え、該連続流試料前処理装置(610)は、前記試料を含む連続的な流入流(Fin)を受けるように構成された入口と、前記試料を含む連続的な流出流(Fout)を提供するように構成された出口とを有し、前記連続的な流出流(Fout)の少なくとも一部は前記連続的な試料流(Fsample)を構成し、前記連続流試料前処理装置(610)は、前記連続的な流入流(Fin)に対してその組成の分析及び/又は変更のうちの少なくとも1つの動作を行うように構成されている、請求項11に記載のイオン化システム。
【請求項13】
前記連続流試料前処理装置(610)は、前記連続的な流入流(Fin)内の化学種又は粒状物質を、あるいは特に細胞を分離し、分離後に前記化学種又は前記粒状物質を前記連続的な流出流(Fout)内に溶出するように構成された、分離装置を、あるいは特に、クロマトグラフィ装置、電気泳動装置、又は細胞選別機を備える、請求項12に記載のイオン化システム。
【請求項14】
前記イオン化システムは、分析情報を前記連続流試料前処理装置(610)から受信するとともに質量分析情報を前記ICP源(100;500)に接続された質量分析計(200;200’)から受信し、前記分析情報を前記質量分析情報と関係付けるように構成された関係付け器(630)を備える、請求項12又は13に記載のイオン化システム。
【請求項15】
前記連続流試料供給システム(610,620)は、前記連続的な流出流(Fout)を連続的な試料流(Fsample)と残流(Fres)とに連続的に分流する分流装置(620)を備える、請求項12~14のいずれか1項に記載のイオン化システム。
【請求項16】
ICP-MSシステムであって、
請求項1~6のいずれか1項に記載のICP源(100;500)又は請求項7~15のいずれか1項に記載のイオン化システムと、
前記ICP源(100;500)からイオンを受けるように前記ICP源(100;500)に接続された質量分析計(200;200’)と、
を備える、ICP-MSシステム。
【請求項17】
質量分析の方法であって、
ICP源(100;500)を用いてプラズマを維持することと、
試料を前記プラズマ内へ導入し、前記試料からイオンを生成することと、
前記ICP源(100;500)に接続された質量分析計(200;200’)を用いて、前記プラズマから抽出されたイオンの質量電荷スペクトルを分析することと、
を含み、
前記試料は、鉛直方向下向き(G)に前記プラズマ内へ導入されることを特徴とする、方法。
【請求項18】
前記イオンは、前記鉛直方向下向き(G)に前記プラズマから抽出される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
エアロゾル化装置を用いて前記試料をエアロゾル化することと、
前記エアロゾル化した試料を前記鉛直方向下向き(G)に前記エアロゾル化装置から前記ICP源(100;500)へ移送することと、
を更に含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
液滴生成器を用いて前記試料をエアロゾル化し、前記鉛直方向下向き(G)に前記エアロゾル化した試料を鉛直方向に配向した落下管を通過させ、前記エアロゾル化した試料を前記鉛直方向下向き(G)に前記ICP源(100;500)の入口へ導入すること、又は、
噴霧器を用いて前記試料をエアロゾル化し、該エアロゾル化した試料を、下方を向いた出口を有する噴霧室を通過させ、前記エアロゾル化した試料を前記鉛直方向下向き(G)に前記ICP源(100;500)の入口へ導入すること、又は、
下方を向いた出口を有するレーザーアブレーションセルを用いて前記試料をエアロゾル化し、前記エアロゾル化した試料を前記鉛直方向下向き(G)に前記レーザーアブレーションセルの前記出口から前記プラズマへ移送すること、
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
フローサイトメーター(310)を用いて前記試料の少なくとも1つの特性を分析すること、及び/又は細胞選別機(320)を用いて試料液滴を少なくとも1つの特性に応じて選別することと、
前記試料を前記鉛直方向下向き(G)に前記フローサイトメーター(310)又は前記細胞選別機(320)から前記ICP源(100;500)内へ移送することと、
を含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項22】
前記試料を含む連続的な試料流(Fsample)を連続流試料供給システム(610,620)から試料導入システム(410)へ連続的に供給することを含み、
前記試料は、前記試料導入システム(410)によって、前記鉛直方向下向き(G)に前記プラズマ内へ導入される、請求項17~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記連続流試料供給システム(610,620)は、入口(611)と出口(612)とを有する連続流試料前処理装置(610)を備え、
前記方法は、
前記入口(611)において前記試料を含む連続的な流入流(Fin)を受けることと、
前記連続流試料前処理装置(610)において前記連続的な流入流(Fin)に対してその組成の分析及び/又は変更のうちの少なくとも1つの動作を行うことと、
前記出口(612)に前記試料を含む連続的な流出流(Fout)を提供することと、
前記連続的な流出流(Fout)の少なくとも一部に前記連続的な試料流(Fsample)を構成させることと、
を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記連続流試料前処理装置(610)は、分離装置を、あるいは特に、クロマトグラフィ装置、電気泳動装置、又は細胞選別機を備え、
前記方法は、
前記分離装置を用いて、前記連続的な流入流(Fin)内の化学種又は粒状物質を、あるいは特に細胞を分離し、分離後に前記化学種又は前記粒状物質を前記連続的な流出流(Fout)内に溶出することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記連続的な流出流(Fout)を前記連続的な試料流(Fsample)と残流(Fres)とに連続的に分流することを更に含む、請求項23又は24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計に接続するように構成された誘導結合プラズマ(ICP)イオン源に関する。さらに、本発明は、ICP源を備えたイオン化システム、ICP質量分析システム、及び対応するICP質量分析の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)は、試料における微量の元素及び/又は同位体比を検出及び定量化する分析法である。これは、誘導結合プラズマを用いてICP源内の試料成分を解離及びイオン化し、質量分析計を用いてイオンを分離及び検出することによって実現される。ICP-MSシステムは、1980年代初期に最初に商業的に導入された。
【0003】
ICP源は、通常、プラズマトーチを備え、方向付けされた気体流によってプラズマ放電を閉じ込めるとともに、解離及びイオン化のためにプラズマ放電の中心へ試料エアロゾルを輸送する。試料エアロゾルは、通常、トーチの中央注入管を通ってプラズマ放電へ輸送される。ほぼ全ての先行技術のICP-MSシステムにおいて、トーチ軸は水平に配向され、これにより、試料エアロゾルは、水平な注入管を通って水平に流れるキャリアガスを用いてプラズマ放電へ輸送される。キャリアガス流は、プラズマ放電への試料の輸送を最適化するとともに、可能な限り高いイオン収量で質量分析計システム内に試料を抽出できるプラズマ内の位置に試料が確実に到達するように、慎重に調整しなければならない。
【0004】
最適化されたキャリアガス流量でも、先行技術のICP-MSシステムにおいては輸送効率が非常に低いものとなり得る。これは、大きな液滴、粒子、又は細胞等の比較的大きな物体を含有するエアロゾルについて特に当てはまる。なお、これに関連し、先行技術における液体試料及び懸濁液用の試料導入システムは、一般的に、幅広い液滴サイズ分布をもたらす空気式噴霧器を備え、多くの場合、大きな液滴、例えば直径が10μmよりも大きい液滴を、エアロゾルから除去する噴霧室が次いで設けられる(例えば、非特許文献1参照)。このようなシステムによれば、ICP内への試料移送の効率は、一般的には、使用される噴霧器に応じて、3%~30%の範囲内となる。非常に低い液体流量(50μL/分未満)で動作する特定の噴霧器は、より高い効率を実現することができるが、詰まりやすいことから、低μm範囲内の粒子又は細胞を伴う希釈溶液及び懸濁液のみにおいて有用となる。
【0005】
ICP-MSシステムへの試料導入を向上させるために、様々な試みがなされてきた。例えば、単分散微小液滴生成器を用いた試料導入システムが、非特許文献2、非特許文献3、及び非特許文献4に開示された。これらの文献には、液滴がいわゆる落下管を鉛直に通過することができることが開示されているが、プラズマトーチの軸は依然として水平に配向されており、液滴は最終的に水平なキャリアガス流を用いて水平方向にプラズマへ輸送される。
【0006】
非特許文献5は、微小液滴をICP-MS内へ導入するマイクロ流体ディスペンサーを開示している。チップが、サイクロンアダプタ、加熱鋼管、膜脱溶媒和器(membrane desolvator)、及びICP-MSユニットと接続される。液滴は鋼管を通って鉛直に落下するが、ICP-MSユニットは通常の方法で水平に配向され、液滴は水平方向にICP-MSユニット内へ導入される。
【0007】
特許文献1は、ICP-MSシステムに接続されたフローサイトメーターを開示している。ICP源のプラズマトーチは、通常の方法で水平に配向されている。
【0008】
ICP-MSシステムにおけるプラズマトーチの通常の水平配向の例外が、非特許文献6で報告されている。著者らは、鉛直方向上向きのプラズマトーチの配向を提案している。プラズマからのイオンは、インターフェースがプラズマトーチに接続された、鉛直方向上向きに配向された質量分析計を用いて分析される。この構成は、先行技術のシステムよりも、液滴信号に関して良好な信号安定性及び再現性を実現するものであると報告された。しかしながら、鉛直方向上向きの構成では、液滴を正しくプラズマへ輸送するために、動作条件を非常に慎重に調整する必要がある。
【0009】
誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)との関連で、プラズマトーチの異なる配向が提案されている。例えば、上方に向けられたプラズマトーチが非特許文献7に開示されている。プラズマトーチは、発光分光法のみのために採用されており、質量分析計に対しては適合しない。特許文献2、特許文献3、及び特許文献4も上方に向けられたプラズマトーチを開示しており、発光分光法での用途に重点を置いている。
【0010】
非特許文献8は、マイクロ波周波数で動作し、飛行時間型質量分析計と接続される窒素維持型のICP源を開示している。プラズマ源は、「マイクロ波誘導結合大気圧プラズマ(MICAP)源」と呼ばれる。これは、工業用セラミック製の環状の誘電共振器を備え、誘電共振器は、マイクロ波場内に置かれると、マイクロ波の周波数で振動するリングの周りにバルク分極電流が生じる。誘電共振器のリングは、大きな正味電位を有さず、プラズマに結合するエネルギーは純粋に誘導的である。MICAP源のプラズマトーチは、水平に配向されている。特許文献5は、MICAP源をより詳細に開示している。
【0011】
特許文献6は、マイクロ波プラズマモニタリングシステムを開示している。このマイクロ波プラズマモニタリングシステムにおいては、プラズマフレームが導波管内でマイクロ波によって生成され、フレームからの発光が分光計によって調査される。1つの実施形態において、プラズマフレームは、鉛直下方向へ配向されている。液滴又は粒子等の異なるタイプの試料が、気体流を調整する吸引ポンプを用いて導入される。プラズマ源はICP源ではなく、システムは、光学分光法のみのために設計されており、質量分析計に対しては適合しない。
【0012】
特許文献7は、材料加工用、例えば、表面コーティングの塗装用又はパウダー製造用の、下方に向けて配向されたマイクロ波プラズマ源を開示している。材料加工用の下方に向けて配向されたプラズマ源は、特許文献8、特許文献9、特許文献10、及び特許文献11にも開示されている。これらの構成は、材料加工における工業的な用途のために設計されており、試料の元素分析には明らかに適していない。また、これらの構成は、質量分析計への接続にも適していない。
【0013】
特許文献3は、上方に向けられたプラズマ源を開示している。液滴は、上方に向けられた鉛直配向を有する単一液滴マイクロディスペンサー(SDMD)によってプラズマトーチへ供給される。この文献は、SDMDを水平又は下方に向けて配向することもできることに言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2008/080224号
【特許文献2】米国特許第4,766,287号
【特許文献3】米国出願公開第2015/255262号
【特許文献4】米国出願公開第2016/0270201号
【特許文献5】米国出願公開第2016/0025656号
【特許文献6】国際公開第97/13141号
【特許文献7】米国出願公開第2014/0287162号
【特許文献8】米国出願公開第2005/0211018号
【特許文献9】米国出願公開第2014/0217630号
【特許文献10】米国出願公開第2013/0270261号
【特許文献11】米国出願公開第2013/0118304号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J. Olesik and L. Bates, “Characterization of aerosols produced by pneumatic nebulizers for inductively coupled plasma sample introduction: effect of liquid and gas flow rates on volume based drop size distributions“, Spectrochimica Acta Part B: Atomic Spectroscopy, 1995, 50, 285-303, DOI 10.1016/0584-8547(94)00151-K
【非特許文献2】S. Gschwind et al., “Capabilities of inductively coupled plasma mass spectrometry for the detection of nanoparticles carried by monodisperse microdroplets”, J. Anal. At. Spectrom., 2011, 26, 1166-1174, DOI: 0.1039/C0JA00249F
【非特許文献3】S. Gschwind et al., “Mass quantification of nanoparticles by single droplet calibration using inductively coupled plasma mass spectrometry”, Anal. Chem. 2013, 85, 5875-5883, DOI: 10.1021/ac400608c
【非特許文献4】K. Shigeta et al., “Application of a micro-droplet generator for an ICP-sector field mass spectrometer - optimization and analytical characterization", J. Anal. At. Spectrom. 2013, 28, 646-656, DOI: 10.1039/c2ja30207a
【非特許文献5】P. Verboket et al., “A New Microfluidics-Based Droplet Dispenser for ICPMS”, Analytical Chemistry 2014, 86, p. 6012, DOI: 10.1021/ac501149a
【非特許文献6】I.I. Stewart and J.W. Olesik, “Time resolved measurements with Single Droplet Introduction to Investigate Space-Charge Effects in Plasma Mass Spectrometry”, J. Am. Soc. Mass Spectrom. 1999, 10, 159-174
【非特許文献7】A. Murtazin, S. Groh, and K. Niemax, “Measurement of element mass distributions in particle ensembles applying ICP-OES”, J. Anal. At. Spectrom. 2010, 25, 1395-1401, DOI: 10.1039/c004946h
【非特許文献8】M. Schild et al., “Replacing the Argon ICP: Nitrogen Microwave Inductively Coupled Atmospheric-Pressure Plasma (MICAP) for Mass Spectrometry”, Anal. Chem. 2018, 90(22), 13443-13450, DOI: 10.1021/acs.analchem.8b03251
【発明の概要】
【0016】
第1の態様において、本発明の目的は、質量分析計に接続されるように構成されたICP源であって、プラズマ放電内への試料導入を向上させることができる、ICP源を提供することにある。
【0017】
この目的は、請求項1に記載のICP源によって実現される。本発明の更なる実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0018】
本発明は、誘導結合プラズマを用いて試料からイオンを生成するICP源を提供する。ICP源は質量分析計に接続するように構成されている。本発明によれば、ICP源は、鉛直方向下向きに試料をプラズマ内へ導入するように構成されている。
【0019】
このため、プラズマ内への試料導入は、上部から行われる。試料は、重力ベクトルの方向にプラズマ内へ導入される。これにより、試料導入は、キャリアガス流量の影響を受けにくい。また、キャリアガス流を全く使用せずに試料を導入することも考えられ、プラズマ内への試料の進入前の試料の軌道は、重力によってのみ決定される。これにより、大量のキャリアガスを節減することができ、これは、キャリアガスがアルゴン又はアルゴンとヘリウムの混合気のような高額な貴ガスである場合には特にそれなりに重要となる。プラズマに到達することができる液滴又は物体(例えば、細胞)のサイズは、実質的には試料導入システムの寸法のみによって制限される。試料導入システムの壁に対する液滴又は物体の衝突を回避できることから、提案される構成は、100%の輸送効率を達成することができる。例えば、エアロゾル若しくは単一液滴、又は個体粒子や細胞等のような物体など、いかなるタイプ及びいかなる状態の試料も調査することができる。試料サイズ、エアロゾル湿度、及び試料量に関して高い柔軟性を得ることができる。例えば、直径が一般的に約10μm~150μmである真核細胞は、そのサイズ又は質量に関わらずプラズマに到達することができる。液滴は、キャリアガス内での輸送時に溶媒がどれくらい蒸発したかに関わらずプラズマに到達する。ICP源を通る試料の処理量は、先行技術の装置に対して大幅に増加させることができる。
【0020】
プラズマからのイオンの抽出も同様に、鉛直方向下向きに沿って行うことができる。そのために、ICP源は、下部に向かって開いた抽出開口を有することができ、抽出開口は、ICP源内のプラズマが形成される領域の下方に位置する。抽出後、イオンは、静電ミラー及び/又は偏向磁石等の既知のイオン光学素子を用いて、任意の配向を有する質量分析計へ移送することができる。
【0021】
通常、ICP源は、プラズマトーチ、すなわち、プラズマ放電の領域に気体を供給する(通常は少なくとも3つの同心の)管の構成を備える。これらの管のうちの1つは、通常、プラズマに試料を供給するように機能する。この管は、多くの場合、注入管と呼ばれる。注入管は、通常、プラズマトーチ内の中央に配置され、他の管に囲まれる。本発明において、注入管に長手軸が存在する場合、その長手軸は、鉛直に配向され、注入管の上端は試料を受けるように構成され、下端はプラズマ内へ試料を導入するように構成されている。そして、プラズマからイオンを抽出する抽出開口は、注入管の下端の下方に有利に位置することができる。
【0022】
本発明においてプラズマトーチはプラズマ放電の領域の上方に配置されることから、プラズマトーチに気体を供給する接続部等の構成部品は、プラズマ放電の上方に配置することができる。プラズマ放電を維持することによって生成される対流熱からこのような構成部品を保護するため、ICP源は、金属冷却板を備えることができ、金属冷却板は、少なくとも部分的にプラズマトーチを囲み、これにより、プラズマ放電による熱からこれらの構成部品を保護する。冷却板は、水平面において延在するのが好ましい。冷却板は、冷却板が設置される際にプラズマトーチを受けるように構成された切り欠きを有することができる。
【0023】
金属冷却板を通る、及び/又は金属冷却板に接続される追加の構成部品を通る、例えば、プラズマトーチを包囲するトーチボックスに冷却板を接続する1つ以上の金属パネルを通る、流体、例えば、空気等の冷却気体又は水等の冷却液体の強制流により、金属冷却板を積極的に冷却する冷却システムをICP源は備えることができる。そのために、冷却板及び/又は冷却板が接続される構成部品には、冷却流体(例えば、空気又は水)の流れを通過させるために冷却板又は追加の構成部品の面内に延在する1つ以上の穿孔を設けることができる。
【0024】
ICP源は、概して、プラズマ放電を維持するように、誘導結合によってプラズマにエネルギーを供給する電磁結合素子を備える。電磁結合素子は、特に、導電体を介してRF生成器に接続される誘導コイルとすることができる。このような誘導コイルは、通常、10MHz~100MHzの間の周波数範囲、例えば、27MHz又は40MHzで動作する。他の実施形態において、ICP源は、例えば磁電管によって生成することができる、マイクロ波場に置かれるリング形状の誘電共振器を採用することができる。マイクロ波場は、例えば1GHz~10GHzの周波数範囲内であって、一般的な周波数である2.45GHzとすることができる。例としては非特許文献8及び特許文献5に開示されたいわゆるMICAP源が挙げられ、「先行技術」のセクションを参照されたい。
【0025】
電磁結合素子のタイプに関わらず、結合素子は、有利に鉛直に延在する長手軸を規定する。結合素子は、プラズマトーチの下端部を囲むことができる。金属冷却板が存在する場合、結合素子は、冷却板の下方に配置することができる。
【0026】
ICP源は、電磁結合素子にエネルギーを供給するRF生成器を更に備えることができる。「RF生成器」の用語は、少なくとも10MHz~10GHzの周波数範囲内で動作する任意のAC生成器を包含するものとして広く理解される。
【0027】
電磁結合素子が誘導コイルである場合、水平方向に延在する少なくとも1つの金属棒(好ましくは、2つの平行な金属棒)を介して、RF生成器に誘導コイルを接続すると有利である。これにより、誘導コイルをRF生成器から水平方向に大きく距離を空けて設置することが可能となる。金属棒は、導電性の高い材料、特に、銅、銀、又は金から作製し、RF生成器と誘導コイルとの間の抵抗損を最小化することができる。
【0028】
ICP源は、エアロゾル化装置と組み合わせることで、バルク試料からイオンを得るイオン化システムを構成することができる。有利には、ICP源は、エアロゾル化した試料が鉛直方向下向きにエアロゾル化装置からICP源へ移送されるように、エアロゾル化装置に接続される。これにより、本提案のICP源の鉛直設計に関する上記の利点が、エアロゾル化された試料をICP源へ移送する際においても保たれる。
【0029】
試料のタイプに応じて、エアロゾル化装置を異なる方法で構成することができる。いくつかの実施形態において、エアロゾル化装置は、液滴を作ることによって試料をエアロゾル化する液滴生成器を備えることができる。鉛直に配向された落下管は、液滴生成器に接続することができる。落下管は、重力の作用下において液滴が下方に送られるようになっている。落下管を通過する際、液滴は、溶媒の蒸発によってサイズが減少し得る、又は完全に乾燥し得る。そのために、落下管は、試料入口、気体入口、及び出口を有することができ、落下管は、その試料入口において液滴生成器から液滴を受けるとともにその気体入口において気体流を受けるように構成することができ、これにより、液滴は、溶媒が気体流に気化することによってサイズが減少しながら、重力の作用下において下方へ移動することができる。落下管の出口は、先行技術においては必要であったキャリアガス流による水平な試料輸送を必要とすることなく、エアロゾル化した試料が鉛直方向下向きに落下管からICP源へ移送されるように、ICP源の入口に直接的又は間接的に接続することができる。
【0030】
他の実施形態において、エアロゾル化装置は、試料をエアロゾル化する噴霧器及び噴霧器に接続された噴霧室を備えることができ、噴霧室は下方を向いた出口を有し、噴霧室の出口は、エアロゾル化した試料が鉛直方向下向きに噴霧室からICP源へ移送されるように、ICP源の入口に接続される。
【0031】
更に他の実施形態において、エアロゾル化装置は、レーザーアブレーションセルを備えることができ、レーザーアブレーションセルは下方を向いた出口を有し、レーザーアブレーションセルの出口は、エアロゾル化した試料が鉛直方向下向きにレーザーアブレーションセルからICP源へ移送されるように、ICP源の入口に接続される。レーザーアブレーションセルの様々な構成が考えられる。
【0032】
他のタイプのエアロゾル化装置も採用することができる。
【0033】
更に他の実施形態において、別個のエアロゾル化装置は採用されない。代わりに、プラズマトーチの注入管は、プラズマトーチ内、すなわち、試料がプラズマに進入する直前に、バルク試料液体を液滴に分割する直接注入噴霧器を構成することができる。
【0034】
本発明のICP源は、フローサイトメーターと組み合わせることができる。一般的に、フローサイトメーターにおいては、試料はシース液の流れの中へ注入される。振動するノズルによって流れは分散し、各液滴は理想的には1つの細胞又は粒子を含有する。そして、フローサイトメーターは、ノズルから液滴が放出される直前又は直後に、細胞又は粒子の光学的特性を分析する。ICP源は、鉛直方向下向きに試料がフローサイトメーターからICP源へ移送されるように、フローサイトメーターに接続することができる。これにより、フローサイトメーターからICP源への最大限の輸送効率を確保することができる。全てのサイズの細胞/粒子は、ICP源内へ落下し、ICP-MSによって分析することができる。これにより、細胞又は粒子の分析がサイズ又は質量に対して偏ることが防止される。各個別の細胞又は粒子についてのフローサイトメトリーの結果は、その同じ細胞又は粒子についての質量分析の結果と関係付けることができ、これにより、単一の細胞又は粒子から得ることのできる情報が最大化される。そのために、ICP-MSシステムは、フローサイトメトリー情報をフローサイトメーターから受信するとともに質量分析情報を質量分析計から受信し、フローサイトメトリー情報を質量分析情報と関係付け、個別の細胞又は粒子についてのフローサイトメトリーと質量分析を組み合わせた情報を得るように構成された関係付け器を備えることができる。
【0035】
任意でフローサイトメーターを細胞選別機に接続することができる。この場合、細胞選別機を通過した物体(特に、細胞又はナノ粒子)は、鉛直方向下向きに細胞選別機からICP源へ移送される。特に、細胞選別機は、静電細胞選別機とすることができ、フローサイトメトリー分析の結果に応じて液滴に電荷が与えられる。そして、帯電した液滴は、電荷に応じて液滴を異なる容器内へ回す静電偏向システムを通って落下する。特定の帯電状態の液滴を収集する代わりに、これらの液滴は、液滴をICP源の入口へ鉛直に落下させることによって直接ICP源へ渡すことができる。
【0036】
フローサイトメーター又は細胞選別機は、ICP源に直接接続することができる。液滴がプラズマに進入する前に液滴のサイズを減少させるために、フローサイトメーター若しくは細胞選別機とICP源との間に、上記のような落下管を任意で設けることができる。
【0037】
先行技術の装置とは対照的に、本発明のICP源は、連続的な流体流の形態で試料をICP源の試料導入システムへ移送することを可能にする。特に、本発明のICP源の試料導入システムは、連続的な試料の流れを提供する任意のタイプの連続流液体試料供給システム、例えば、ポンプ又は連続流試料前処理装置に接続することができる。ポンプの場合、ポンプは、蠕動ポンプとすることができる。試料前処理システムの場合、前処理システムは、クロマトグラフィ装置若しくは電気泳動装置等の試料内の化学種を分離する装置、又はフローサイトメーターに接続された細胞選別機等の生物細胞の集団を分離するための装置とすることができる。先行技術の装置とは対照的に、本発明のICP源は、中間オフラインストレージを必要とすることなく、連続的な流体流の形態で試料を連続液体試料供給システムからICP源へ移送することを可能にする。
【0038】
包括的に言えば、イオン化システムが提供され、イオン化システムは、
連続流試料供給システムと、
試料導入システムと、
上記のICP源と、
を備え、
試料導入システムは、試料を含む連続的な試料流が連続流試料供給システムから試料導入システムへ移送されるように、連続流試料供給システムに接続され、
試料導入システムは、鉛直方向下向きに試料をICP源内へ導入するように構成されている。
【0039】
連続流試料供給システムは、連続流試料前処理装置を備えることができ、連続流試料前処理装置は、試料を含む連続的な流入流を受けるように構成された入口と、試料を含む連続的な流出流を提供するように構成された出口とを有し、連続的な流出流の少なくとも一部は連続的な試料流を構成し、連続流試料前処理装置は、連続的な流入流に対してその組成の分析及び/又は変更のうちの少なくとも1つの動作を行うように構成されている。
【0040】
本明細書において、分析は、例えば、蛍光検出、吸収測定、スペクトル分析等の任意の既知の手段によって実施することができる。同様に、流入試料流の組成の変更は、濾過、吸着による保持、電磁場の印可による修飾等の任意の手段によって実施することができる。重要なことは、試料前処理とICP源への導入との間に中間オフラインストレージが不要である点である。
【0041】
特に、連続流試料前処理装置は、連続的な流入流内の化学種又は粒状物質、特に細胞を分離し、分離後に化学種又は粒状物質を連続的な流出流内に溶出するように構成された、分離装置、特に、クロマトグラフィ装置、電気泳動装置、又は細胞選別機を備えることができる。
【0042】
流入流、流出流、及び試料流のそれぞれは、分散又は分解された形態で試料を担持するキャリア流体の流れとすることができる。流体は、液体又は気体とすることができる。
【0043】
分離装置からの流出流は、試料導入システムが受け入れることのできる最大流量よりもかなり大きい流量を有する場合がある。この状況に対応するために、イオン化システムは、連続的な流出流を連続的な試料流と残流とに連続的に分流するように構成された分流装置を備えることができる。
【0044】
イオン化システムは、試料分離情報を分離装置から受信するとともに質量分析情報をICP源に接続された質量分析計から受信し、試料分離情報を質量分析情報と関係付け、分離情報と質量分析情報を組み合わせた情報、例えば、LC/MS情報を得るように構成された関係付け器を更に備えることができる。
【0045】
また、本発明は、本発明のICP源と、ICP源からイオンを受けるようにICP源に接続された質量分析計とを備える、ICP-MSシステムを提供する。質量分析計は、空間内において任意の配向を有することができ、1つ以上のイオン光学素子は、ICP源からの抽出後にイオンを質量分析計内へ偏向させるために選択的に設けることができる。
【0046】
別の態様において、本発明は、質量分析の方法であって、
ICP源を用いてプラズマを維持することと、
試料をプラズマ内へ導入し、試料からイオンを生成することと、
ICP源に接続された質量分析計を用いて、プラズマから抽出されたイオンの質量電荷スペクトルを分析することと、
を含み、
試料は、鉛直方向下向きにプラズマ内へ導入される方法を提供する。
【0047】
好ましい実施形態において、イオンを質量分析計へ移送するために、イオンは、同様に鉛直方向下向きにプラズマから抽出される。
【0048】
方法は、
エアロゾル化装置を用いて試料をエアロゾル化することと、
エアロゾル化した試料を鉛直方向下向きにエアロゾル化装置からICP源へ移送することと、
を更に含むことができる。
【0049】
特に、方法は、液滴生成器を用いて試料をエアロゾル化し、エアロゾル化した試料を鉛直方向に配向した落下管を鉛直方向下向きに通過させ、エアロゾル化した試料を鉛直方向下向きにICP源の入口へ導入することを含むことができる。
【0050】
他の実施形態において、方法は、噴霧器を用いて試料をエアロゾル化し、エアロゾル化した試料を、下方を向いた出口を有する噴霧室を通過させ、エアロゾル化した試料を鉛直方向下向きにICP源の入口へ導入することを含むことができる。
【0051】
更に他の実施形態において、方法は、下方を向いた出口を有するレーザーアブレーションセルを用いて試料をエアロゾル化し、エアロゾル化した試料を鉛直方向下向きにレーザーアブレーションセルの出口からプラズマへ移送することを含むことができる。
【0052】
更に他の実施形態において、方法は、
フローサイトメーターを用いて試料の少なくとも1つの特性を分析することと、
鉛直方向下向きに試料をフローサイトメーターからICP源内へ移送することと、
を含むことができる。
【0053】
方法は、フローサイトメトリー情報をフローサイトメーターから受信するとともに質量分析情報を質量分析計から受信し、フローサイトメトリー情報を質量分析情報と関係付け、個別の細胞又は粒子についてのフローサイトメトリーと質量分析を組み合わせた情報を得ることを更に含むことができる。
【0054】
更に他の実施形態において、方法は、
細胞選別機を用いて、少なくとも1つの特性に応じて、特に、光学特性に応じて、試料液滴を選別することと、
鉛直方向下向きに試料液滴を細胞選別機からICP源へ移送することと、
を含むことができる。
【0055】
更に他の実施形態において、方法は、
連続流試料供給システムから、試料を含む連続的な試料流を試料導入システムへ供給することを含むことができ、
試料は、試料導入システムによって鉛直方向下向きにプラズマ内へ導入される。
【0056】
上記で概説したように、連続流試料供給システムは、入口と出口とを有する連続流試料前処理装置を備えることができる。このとき、方法は、
入口において試料を含む連続的な流入流を受けることと、
連続的な流入流に対してその組成の分析及び/又は変更のうちの少なくとも1つの動作を行うことと、
出口に試料を含む連続的な流出流を提供することと、
連続的な流出流の少なくとも一部に連続的な試料流を構成させることと、
を含むことができる。
【0057】
上記で概説したように、連続流試料前処理装置は、分離装置、特に、クロマトグラフィ装置、電気泳動装置、又は細胞選別機を備えることができる。このとき、方法は、分離装置を用いて、連続的な流入流内の化学種又は粒状物質、特に細胞を分離し、分離後に化学種又は粒状物質を連続的な流出流内に溶出することを含むことができる。
【0058】
方法は、連続的な流出流を連続的な試料流と残流とに連続的に分流することを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明の実施形態に係るICP-MSシステムの概略図である。
図2】フローサイトメトリーに基づく細胞選別機の非常に概略的な図を付けた、図1のICP-MSシステムの一部の拡大図である。
図3図1のICP源の冷却板の平面図である。
図4】直接注入噴霧器として構成されたプラズマトーチを示す図である。
図5】落下管に接続されたプラズマトーチを示す図である。
図6】全量消費型試料導入システムに接続されたプラズマトーチを示す図である。
図7】第1の実施形態に係るレーザーアブレーションセルに接続されたプラズマトーチを示す図である。
図8】第2の実施形態に係るレーザーアブレーションセルに接続されたプラズマトーチを示す図である。
図9図1のICP源に接続するのに適したTOF質量分析計を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係るMICAP源を示す図である。
図11133Csを含有する単分散液滴の時間分解ICP-MSピークトレースを示す図である。
図12232Thを含有する単分散液滴の時間分解ICP-MSピークトレースを示す図である。
図13133Csを含む液滴についての検体質量に対するイオン信号の依存性を例示する較正曲線を示す図である。
図14232Thを含む液滴についての検体質量に対するイオン信号の依存性を例示する較正曲線を示す図である。
図15】Cdを多く含んだチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のリン酸緩衝生理食塩水懸濁液についての時間分解ICP-MSピークトレースを示す図である。
図16】Pbを多く含んだチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の水懸濁液についての時間分解ICP-MSピークトレースを示す図である。
図17】試料前処理システム、分流装置、及び試料導入システムの非常に概略的な図を付けた、図1のICP-MSシステムの一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明の好ましい実施形態は、図面を参照して以下で述べられる。図面は、本発明の現在の好ましい実施形態を示すためのものであるが、それを制限するためのものではない。
【0061】
図1は、本発明の例示的な実施形態に係るICP-MSシステムを非常に概略的な態様で示す図である。ICP-MSシステムは、アルゴンプラズマを生成するICP源100と、ICP源の出口端に接続された質量分析計200とを備える。
【0062】
本例において、ICP源100は、質量分析計200に対して高さhで調整可能となるようにエレベーター150に取り付けられたRF生成器110を備える。RF生成器110は、一般的に10MHz~100MHzの周波数範囲、例えば、27MHz又は40Mhzの交流電流を、コンデンサ112と誘導コイル115とを備えた共振回路に供給する。コンデンサ112と誘導コイル115の一端とは、鉛直な金属棒113及び水平な金属棒114を介して電気的に接続されている。金属棒113及び金属棒114は、銅、銀、又は金等の導電性の高い金属から作製されるのが好ましく、PTFE支持部116によって支持される。同様に、誘導コイル115の他端は、別の水平な金属棒114及び別の鉛直な金属棒113を介してRF生成器に電気的に接続されている。水平な金属棒114を用いることによって、RF生成器110から横方向に十分に大きな距離を空けた箇所に誘導コイル115を配置することができ、RF生成器110と干渉することなく誘導コイル115の下方に質量分析計200が配置され得る。水平な金属棒114の一般的な長さは、10cm~15cm、特に約20cmである。
【0063】
ICP源100は、トーチボックス120を更に備える。トーチボックス120は、その内部を電磁的に保護するために、導電性の金属から作製されたハウジングを備える。図2とともに以下でより詳細に説明するプラズマトーチ130は、誘導コイル115、水平な金属棒114、及び鉛直な金属棒113とともに、トーチボックス120内に配置されている。誘導コイル115は、プラズマトーチ130の下部を包囲する。誘導コイル115の上方には、水平な冷却板140が配置されている。冷却板140は、2つの鉛直な流体冷却金属パネル141(例えば、水によって、又はエチレングリコールと水との混合液等の冷却液によって、冷却される)によって、トーチボックス120内で支持される。冷却板140は、誘導コイル115の上方に配置されたトーチボックス120内の構成部品を、ICP源の動作時に生じる対流熱から保護する。通気グリッド121は、気体及び熱をトーチボックス120から逃がす。
【0064】
出口端122において、トーチボックス120は、下部へ向けて開いており、質量分析計200にICP源100を接続するための抽出開口を形成する。質量分析計は、図2とともに以下でより詳細に説明する真空インターフェース210と、次いで、イオン光学ユニット215、入口バッフル220、四重極型質量分析器230、出口バッフル240、及び検出器250とを備える。機械式ポンプ261は、真空インターフェース210の領域を排気する。ターボ分子ポンプ262は、イオン光学ユニット215、質量分析器230、及び検出器250の領域を排気する。このようなタイプの質量分析計の構成は、当該技術において既知である。しかしながら、通常、イオン源からのイオンの抽出は水平に起こるが、図1の構成におけるイオン抽出の軸は鉛直下向きに配向されている。
【0065】
図2は、プラズマトーチ130と、質量分析計200に対するインターフェース210とをより詳細に示す。プラズマトーチ130は、当該技術において既知の態様で構成されている。プラズマトーチ130は、3つの同心の管131、132、133を備える。プラズマを形成する気体(一般的にはアルゴン)の流れは、一般的には12l/分~17l/分の流量で外管133と中管132との間を通過する。第2の気体流は、1l/分の流量で中間管132と中央管131との間を通過し、プラズマを維持するとともにこれらの管の端部に対するプラズマの基部の位置を調整するために使用される。多くの場合に注入管と呼ばれる中央管131は、試料をプラズマに供給するために使用される。
【0066】
プラズマトーチ130は、誘導コイル115内の中央に位置決めされている。RF電力が誘導コイル115に加えられると、強度の電磁場が誘導コイル115の内部に生じる。高電圧スパークを使用して誘導コイル115の内部の気体の一部をイオン化させ、RF電磁場によって電子及びイオンを加速させることで、プラズマを維持することができる。コイルとプラズマとの間の結合は誘導的で、すなわち、エネルギーの移動は、大部分が誘導コイル内の振動電流によって生じる磁場によって起こり、誘導コイルに沿った電場によってわずかにだけ起こる。
【0067】
試料は、重力の作用下において中央管(注入管)131を通じてプラズマ内へ導入される。プラズマは、漸進的に試料を蒸発させ、試料を解離させ、試料内に含有される元素をイオン化させるのに十分に熱い。
【0068】
質量分析計200に対するインターフェース210は、いわゆるサンプラーコーン212内に小さな開口を有する第1のバッフル211と、いわゆるスキマーコーン214内に小さな開口を有する第2のバッフル213との間に形成されている。機械式ポンプは、第1のバッフル211と第2のバッフル212との間の空間を排気するために接続されている。サンプラーコーン212及びスキマーコーン214の両方を通過したイオンは、高真空となった空間に進入し、イオン光学ユニット215によって質量分析器内へ焦点を合わせられる。
【0069】
図2は、フローサイトメーター310に接続される静電細胞選別機320に対して本発明のICP-MSシステムをどのように接続できるのかを更に概略的に示す。細胞選別機と協働するフローサイトメーターのこのような組み合わせは、当該技術においては、蛍光活性化細胞選別機として既知である。フローサイトメーター310において、細胞懸濁液311はノズル312に供給される。単一細胞を含有する液滴は、ノズル312によって作られる。各液滴は、1つ以上のレーザー313によって作られる1つ以上のレーザービームによって調べられる。照明の方向に沿った光及び液滴から発せられる蛍光は、光検出システム314によって検出され、分析器315によって分析される。分析の結果に応じて、分析器315は、正又は負の電荷をノズル先端又は帯電電極に印可することで、ノズルから排出される前に液滴に所定の符号の電荷を印可する。細胞選別機320において、液滴は、DC電圧が印可された偏向板321によって帯電状態に応じて偏向される。帯電状態に応じて、液滴は、収集容器322内又は試料入口323内に行きつく。試料入口323から、液滴は、直接プラズマトーチ130の注入管131内へ下方に移送され、ここで液滴は重力の作用下において鉛直に落下する。
【0070】
細胞選別機320は省略することもでき、フローサイトメーター310を出た液滴は、ICP源の入口をフローサイトメーターの出力ノズルの直下に設置することで、プラズマ内へ直接導入することができる。追加の噴霧システムは不要であり、100%の輸送効率を得ることができる。
【0071】
液滴が選別されているか否かに関わらず、各個別の液滴について、フローサイトメーター310から得られた結果は質量分析計200からの結果と関係付けることができる。現在提案されている構成においてフローサイトメトリーを質量分析と組み合わせることにより、フローサイトメトリー単独又は質量分析単独と比較した場合、同時に定量化できる細胞パラメーターの数が増加する。そのために、分析器315は、フローサイトメトリーと質量分析の結果の間の関係付けを実施するように構成することができる、又は別個の関係付け器を設けることができる。
【0072】
図3は、冷却板140及び鉛直な金属パネル141をより詳細に示す。冷却板140は、冷却板が設置されたときにプラズマトーチを収容する切り欠き142を有する。鉛直なパネルには、冷却板を積極的に冷却するために、冷たい空気又は水等の冷却流体を通すための複数のチャネル又は穿孔143が設けられ、これらは、パネルのそれぞれの面内に延在する。
【0073】
図4は、プラズマトーチ130’が、別個のエアロゾル化装置を必要とせずにプラズマ内への直接的な試料導入を可能にする、いわゆる直接注入高効率噴霧器(DIHEN)として構成される変形例を示す。高効率噴霧器134は、プラズマトーチ130’内の注入管と置き換えられる。これにより、試料は、事前のエアロゾル化を必要とせずにプラズマ内へ直接導入することができる。これにより、100%の輸送効率が得られる。このような直接注入噴霧器は、それ自体が既知である(A. Montaser, “Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry”, Wiley-VCH: Washington DC, 1998)。ただし、通常は水平構成で動作するが、本発明において、直接注入噴霧器は鉛直構成で動作する。
【0074】
図5図8は、図1に示されるICP源のプラズマトーチ130に接続されるエアロゾル化装置の4つの例を示す。これらの図は概略的であり、これらの図に示されている構成部品の相対寸法は縮尺通りではない。
【0075】
図5において、液滴送達及び低温脱溶媒和システム410が示される。液滴ディスペンサー411は、いわゆる落下管413の上部に載置したフローアダプター412に接続されている。落下管413は、内径が4mmである長さ40cmのステンレス鋼管である。落下管413の内部の液滴に対する脱溶媒和のためにアルゴンとヘリウムの混合気が使用される。液滴の脱溶媒和は、プラズマの局所冷却の減少につながる。更なる詳細については、非特許文献2を参照されたい。先行技術においては、落下管413を離れるエアロゾル化した試料がキャリアガス流を用いてICP源へ水平に輸送されるが、本例においては、エアロゾル化した試料は、追加のキャリアガス流を必要とすることなく、プラズマトーチの注入管131内へ下方向に直接導入される。これにより、落下管413を離れる全ての試料液滴又は粒子は、それらのサイズに関係なく、また、気体流量に関係なく、プラズマに到達する。
【0076】
図6において、エアロゾル化は、いわゆる全量消費型試料導入システム420によって実施される。通常は10μL/分未満の液体流量で動作する低流噴霧器421は、小容量の噴霧室422に接続されている。噴霧室422は、噴霧器421によって生成された液滴を中心軸に沿って下方に押し出すとともに、噴霧室422の壁に液滴が付着することを防止する。噴霧室422は、下部が開いており、出口を形成する。出口は、プラズマトーチ130の注入管131に直接接続されている。
【0077】
図7において、固体試料432は、レーザー431を用いてレーザーアブレーションセル430内においてエアロゾル化される。レーザー431は、強度のパルスレーザービームを、ICP源から離れる方向に面する試料432の後方側に照射する。誘起衝撃波により、試料材料の放出を引き起こし、試料材料は、プラズマトーチ130の注入管131内に落下する(「後方側アブレーション」)。
【0078】
図8は、米国特許第9,922,811号に係るレーザーアブレーションセル440を用いたエアロゾル化を示す。レーザー441は、固体試料442の表面にレーザー光を照射し、試料材料をより小さくする。小さくなった材料は、流路443に進入し、ここからプラズマトーチ130の注入管131内へ直接下方に移送される。レーザーアブレーションセル440及びその動作の態様についての更なる詳細については、米国特許第9,922,811号を参照されたい。先行技術においては流路443が水平に配向され、レーザービームが試料表面に鉛直に衝突するが、本例においては、流路443が鉛直に配向され、レーザービームが水平に配向されている。
【0079】
現在提案されているICP源は、任意のタイプ及び構成の質量分析計と使用することができる。例えば、図9は、図1及び図2に示されるICP源と合わせて使用することができるTOF質量分析計200’を示す。インターフェース210は、図1及び図2と同様に構成されている。インターフェース210を介してICP源から抽出されたイオンは、ノッチフィルター260及び抽出器270を通過してTOF質量分析器280内に入る。任意の他のタイプ及び構成の質量分析計を採用することができる。例えば、四重極型質量分析計、セクターフィールド質量分析計、又はイオントラップ質量分析計を代わりに使用することができる。必要な場合、静電ミラー及び/又は偏向磁石を使用してイオンを質量分析計内へ偏向することができる。
【0080】
図10は、鉛直な試料導入のために構成されたマイクロ波誘導結合大気圧プラズマ(MICAP)源500を示す。MICAP源は、磁電管の形態のRF生成器(マイクロ波生成器)510を備える。ファン511は、磁電管510の冷却をもたらす。アンテナ512は、マイクロ波場をトーチボックス520の内部に結合する。環状の誘電共振器515は、マイクロ波場内に置かれる。共振器は、マイクロ波の周波数で振動するリングの周りにバルク分極電流を示す。プラズマトーチ530は、共振器515の上方に配置される。プラズマトーチ530は、図2とともに説明したプラズマトーチ130と同じ態様で構成されている。窒素ガスは共振器530の中心の領域へ通過する。窒素プラズマは、誘導結合によって共振器515の中心における電磁場によって維持される。詳細については、特許文献5及び非特許文献8を参照されたい。先行技術においては、MICAP源のプラズマトーチは水平に配向されているが、本例においては、プラズマトーチ530は鉛直に配向されており、重力ベクトルの方向に中央管531を通じて試料が導入される。
【0081】
図11図16は、図1に示される構成で得られた実験結果を示す。
【0082】
図11及び図12は、133Cs(図11)及び232Th(図12)を含有する単分散液滴の時間分解ICP-MSピークトレースを示す。液滴生成器を用いて、それぞれ20ppbの133Cs及び232Thの両方を含む溶液から、20Hzで、66μmの直径を有する液滴を生成した。全ての吐出された液滴が、プラズマに到達し、ICP-MSによって検出するのに成功した。なお、133Csは3.89eVのイオン化エネルギーを有し、232Thは6.31eVのイオン化エネルギーを有する。これらの結果は、本発明のICP-MSシステムが容易に100%の輸送効率を実現できることを証明している。
【0083】
図13及び図14は、133Cs(図11)及び232Th(図12)を含有する液滴についての検体質量に対するイオン信号の依存性を示す図である。これらの結果は、133Cs及び232Thの両方について、2ppb(最も左のデータ点)、5ppb、10ppb、及び20ppb(最も右のデータ点)という異なる検体濃度を有する単分散液滴を調査することによって得た。両図は、検体質量とイオン信号との間に線形関係を示し、本発明の鉛直なプラズマ構成を用いた液滴の完全な脱溶媒和、蒸発、解離、及びイオン化を示している。
【0084】
図15は、Cdを多く含んだチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のリン酸緩衝生理食塩水懸濁液についての時間分解ICP-MSピークトレースを示す。図16は、Pbを多く含んだチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の水懸濁液についての時間分解ICP-MSピークトレースを示す。これらのトレースは、本発明の鉛直構成を用いて細胞がうまくプラズマ内へ導入できることを示す。100%の輸送効率が期待されることから、「失われた」ピークは、細胞を含有していない液滴によるものであると考えられる。他方、他の液滴が複数の細胞を含むことは除外できない。
【0085】
図17は、試料前処理装置610を備えた連続試料供給システムに対する本発明の実施形態に係るICP-MSシステムの接続を概略的に示す。試料前処理装置610は、分離装置、例えば、HPLC若しくはGC装置等のクロマトグラフィ装置、又はCE装置等の電気泳動装置とすることができる。他の実施形態において、試料前処理装置は、試料を含む流入流体流に対して何らかの分析又は処置を行う任意の他の装置とすることができる。
【0086】
試料前処理装置610は、入口611と出口612とを有する。試料前処理装置は、その入口611において連続的な流入流体流Finを受ける。試料前処理装置610は、その出口612において、連続的な流出流体流Foutを提供する。試料前処理装置610が分離装置である場合、流出流体流Foutは時間的に変化する構成を有することができ、分離装置は、当該技術において既知であるように、この組成についての情報を判定するように構成することができる。
【0087】
分流装置620は、試料前処理装置610の出力に接続される。分流装置620は、連続的な流出流体流Foutを試料流Fsampleと残流体流Fresとに分流する。試料流Fsampleの流量は、残流体流Fresの流量よりもかなり小さいものであり得る。流量が異なることを除いては、これら2つの流体流の組成は同一であり得る。
【0088】
試料流Fsampleは、本例においては図5とともに上記したような液滴送達及び脱溶媒和システムとして構成される、試料導入システムに入る。一方、流体試料の小さな連続流をICP源のプラズマ内へ導入することを可能とする任意の他の試料導入システムを採用することもできる。特に、試料導入システムは、図6のように全量消費型システムとすることができる、又は図4のようにDIHENの噴霧器を備えることができる。試料導入システムは、ICP源と一体化することで単一のユニットを構成することができる。
【0089】
いくつかの試料前処理装置、特に、HPLC装置等の分離装置の出口における流量は一般的に試料導入システムに必要とされる流量(例えば、1000Hzで液滴生成装置を用いて0.1μl/分~10μl/分)よりもかなり大きいことから、分流装置620が設けられる。いくつかの他の試料前処理装置、例えば、いくつかのCE装置においては、分流装置620は必要でない場合があり、省略することができる。
【0090】
試料導入システムは、鉛直方向下向きG(すなわち、重力の方向)に試料がICP源に導入されるように、ICP源の上方に配置される。
【0091】
関係付け器630は、試料前処理装置610を出る様々な画分についての分離情報を受信する。さらに、関係付け器630は、この画分における質量分布についての質量情報をICP源に接続される質量分析計から受信する。関係付け器630は、当該技術において既知であるように、例えば、LC/MS情報、GC/MS情報、又はCE/MS情報の形態で、分離情報を質量情報と関係付ける。
【0092】
本発明の範囲を逸脱することなく多くの変更が可能である。特に、上記の2つのタイプ以外の他のタイプのICP源を採用することができる。試料は、上記の方法以外で小さな液滴又は粒子に分けることができる。任意のタイプ及び配向の質量分析計を採用することができる。
【符号の説明】
【0093】
100 ICP源
110 RF生成器
112 板コンデンサ
113 鉛直な金属棒
114 水平な金属棒
115 誘導コイル
116 PTFE支持部
120 トーチボックス
121 排気グリッド
122 出口端
130、130’ プラズマトーチ
131 中央管(注入管)
132 中管
133 外管
134 噴霧器
140 冷却板
141 鉛直なパネル
142 切り欠き
143 穿孔
150 エレベーター
200 四重極型質量分析計
200’ TOF質量分析計
210 インターフェース
211 第1のバッフル
212 サンプラーコーン
213 第2のバッフル
214 スキマーコーン
215 イオン光学ユニット
220 入口バッフル
230 四重極型質量分析器
240 出口バッフル
250 検出器
260 ノッチフィルター
270 抽出器
280 TOF質量分析器
261 機械式ポンプ
262 ターボ分子ポンプ
310 フローサイトメーター
311 スラリー
312 ノズル
313 レーザー
314 検出システム
315 分析器
320 細胞選別機
321 偏向板
322 収集容器
323 試料入口
410 液滴送達及び脱溶媒和システム
411 液滴ディスペンサー
412 フローアダプター
413 落下管
420 全量消費型試料導入システム
421 噴霧器
422 噴霧室
430 レーザーアブレーションセル
431 レーザー
432 試料
440 レーザーアブレーションセル
441 レーザー
442 試料
443 流路
500 MICAP源
510 RF生成器(磁電管)
511 ファン
512 アンテナ
515 共振器
520 トーチボックス
530 プラズマトーチ
531 注入管
610 試料前処理装置
611 入口
612 出口
620 分流装置
h 高さ
G 重力の方向
in 流入流
out 流出流
sample 試料流
res 残流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】