(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-18
(54)【発明の名称】脛骨顆の表面再建プロテーゼ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/38 20060101AFI20220511BHJP
A61D 1/00 20060101ALI20220511BHJP
A61B 17/86 20060101ALI20220511BHJP
A61B 17/68 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
A61F2/38
A61D1/00
A61B17/86
A61B17/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555458
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(85)【翻訳文提出日】2021-11-01
(86)【国際出願番号】 EP2020059092
(87)【国際公開番号】W WO2020201268
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518374468
【氏名又は名称】キュオン アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Kyon AG
【住所又は居所原語表記】Hardturmstrasse 103, 8005 Zuerich, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】テピック スロボダン
(72)【発明者】
【氏名】ブレシナ シュテフェン
【テーマコード(参考)】
4C097
4C160
【Fターム(参考)】
4C097AA07
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC03
4C097CC06
4C097DD06
4C097DD07
4C097DD10
4C097FF05
4C160LL28
4C160LL29
4C160LL32
4C160LL42
(57)【要約】
本発明は、イヌおよびヒトにおける膝の内側コンパートメントの骨を温存する表面再建外科的処置の主な問題を解決する。インプラント(100)の、ADLCまたは熱分解炭素のような、硬い、低摩滅、低摩擦のコーティングを用いて、関節の片側のみを表面再建することが可能である。この場合、その大腿骨に対向する表面上に凹面の凹部を有する脛骨プラトー表面再建は、痛みのない可動性を提供するだけでなく、欠損十字靭帯を有する関節の必要な安定性も提供する。表面再建を伴ってまたは伴わずに内側顆の平面骨切り術を用いて、後膝関節の内側コンパートメントに制限されたTPLO手順をエミュレートすることもできる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝関節の半関節形成術のための、内側脛骨顆の表面再建(resurfacing)インプラント100。
【請求項2】
大腿骨顆に対向するインプラント100の上側表面19に、大腿骨顆の安定した関節接合(articulation)のための凹部20が設けられている、請求項1の内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項3】
前記凹部20の形状が、矢状面および前額面において大腿骨顆の形状と合う、請求項2の内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項4】
大腿骨顆に対向するインプラントの上側表面が、ADLCおよび/または熱分解炭素のような炭素系材料によってコーティングされている、請求項1から3のいずれか一項の内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項5】
セメントレス固定に適合された、請求項1から4のいずれか一項の内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項6】
請求項5の内側脛骨顆の表面再建インプラント100であって、その骨に対向する表面18の多孔質性コーティングによってセメントレス固定に適合された、内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項7】
固定手段、例えば少なくとも2つの骨スクリューによって固定されるセメントレス固定に適合された、請求項5または6の内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項8】
セメント固定に適合された、請求項1から4のいずれか一項の内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項9】
ヒト医学に適合された、請求項1から8のいずれか一項の内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項10】
獣医学、特にイヌに適合された、請求項1から8のいずれか一項の内側脛骨顆の表面再建インプラント100。
【請求項11】
必要とする対象における前十字欠損の後膝関節(stifle)の安定化のための、内側脛骨顆の骨切り術エミュレーティング(emulating)手順。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトおよび獣医学での使用のための、膝関節の半関節形成術のための内側脛骨顆の表面再建(resurfacing)インプラントに関する。さらに、本発明は、ヒトおよび動物の膝における前十字欠損の後膝関節(stifle)の安定化のための、内側脛骨顆の骨切り術エミュレーティング(emulating)手順に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおいて、またイヌにおいても、脛骨および大腿骨の内側顆は、他の可能性のある原因の中でも十字靭帯断裂または骨格変形の結果として、変性関節炎リスクが高く、内側膝コンパートメントの負荷の増大を生じさせる。
【0003】
ヒト整形外科では、通常の手法は、人工膝関節全置換を行なうことであり、または、影響を受けた関節のより小さな領域のみを置換することに次第になりつつある。
【0004】
ヒト整形外科では、膝の内側コンパートメントは一般に、足の内反変形に起因する過負荷によっても影響を受ける。軟骨がまだ負荷を支持することが可能な場合は、好ましい外科的介入は、近位脛骨の内側のオープニング-ウェッジ(opening-wedge)骨切り術である。軟骨が変性中に失われている場合は、通常の介入は、例えば、金属で裏打ちされた(metal-backed)ポリエチレンの脛骨コンポーネント上に関節接合する(articulating)大腿骨の内側顆の金属インプラントを用いる、完全な膝プロテーゼまたは部分的置換である。
【0005】
獣医整形外科では、現在利用可能な唯一の解決方法は、完全な膝プロテーゼである。コストが高いことと、外科的実行が複雑であることに起因して、人工膝関節(total knee)を用いて手術されるイヌは非常に少ない。
【0006】
獣医整形外科の外科的処置では、最も一般に処置される状態の1つは前十字靭帯(CrCL)の断裂である。信頼性のある概算では、米国において毎年約100万の処置事例数が報告されている。これらの介入の約10%は、いわゆる幾何学的改変(geometry modifying)外科的処置であり、その最も一般的なものは、脛骨プラトー水平化骨切り術(TPLO)および脛骨粗面前進術(TTA)である。残りの90%は、関節に何らかの安定性を提供することを目的とする関節外縫合の異なるバージョンによって処置されるが、それらは全ての場合において一時的な性質である。これらの年間約900,000事例のほとんどは、幾何学的改変手順によって処置される多くのものと同様に、主に半月板が断裂している内側において、外科的処置の前または後に、膝の関節症を生じる。これらの患者には、痛みをコントロールする薬剤以外に与えるものがほとんどない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、動物、例えばイヌおよびヒトにおける、膝の内側コンパートメントの骨を温存する表面再建外科的処置の主な問題を解決する。インプラントの、ADLCまたは熱分解炭素のような、硬い、低摩滅、低摩擦のコーティングを用いて、関節の片側のみを表面再建することが可能である。この場合、その大腿骨に対向する表面上に凹面の凹部を有する脛骨プラトー表面再建は、痛みのない可動性を提供するだけでなく、欠損十字靭帯を有する関節の必要な安定性も提供する。表面再建を伴ってまたは伴わずに内側顆の平面骨切り術を用いて、後膝関節の内側コンパートメントに制限されたTPLO手順をエミュレートする(emulate)こともできる。
【0008】
本発明において開示される脛骨顆(頻繁に、「プラトー」と呼ばれる)の表面再建による膝の内側コンパートメントの半プロテーゼ置換は、外科的に相対的に単純かつ安全であり、非常に単純な器具を用いて行なうことができる。インプラントは、その上側表面が皿形状であり、内側半月板によって覆われた顆部の形状を模倣している。このことは、インプラントの凹面の凹部の内側で大腿骨顆がスライドするときに膝に安定性を提供する。大腿骨顆を受け入れるインプラントの表面は、十分にポリッシュされていて、好ましくは、アモルファス・ダイヤモンド・ライク・カーボン(ADLC)および/または熱分解炭素のような炭素系材料でコーティングされている。そのようなコーティングは、骨を含む多くの異なる材料と対になって(paired to)非常に低い摩擦を示す。それらはまた、金属またはセラミックスと比較した場合、非常に低い骨摩耗をもたらす。インプラントの骨に対向する表面は、骨インテグレーション(boney integration)のために、例えば多孔質性チタンおよびヒドロキシアパタイトの層によってコーティングされる。固定手段、例えば数個の骨スクリューを用いて、骨の内部成長(ingrowth)が十分な界面強度を提供するまでインプラントを安定化させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の第1の態様は、膝関節の半関節形成術のための内側脛骨顆の表面再建インプラントである。本発明のインプラントは、ヒト医学または獣医学、例えばイヌに適合される。
【0010】
インプラントは、上側表面および下側表面を備える。特定の実施態様では、大腿骨顆に対向するインプラントの上側表面には、大腿骨顆の安定した関節接合(articulation)のための凹部、例えば凹面の凹部が備わっている。凹部の形状は、矢状面および前額面において大腿骨顆の形状と合っていてよい。下側表面は、顆部への固定に適合され、例えば、多孔質性コーティングおよび/または多孔質性構造を有することによって骨インテグレーションに適合される。特定の実施態様では、下側表面は、実質的に平らな形状を有しており、安定化のための突出を備えてもよい。
【0011】
大腿骨顆に対向するインプラントの上側表面は、任意の適切な材料によって、例えばADLCおよび/または熱分解炭素のような炭素系材料によってコーティングされてよい。
【0012】
本発明のインプラントは、例えば、その骨に対向する表面上に多孔質性コーティングを提供することによって、および/または、固定手段、例えば少なくとも2つの骨スクリューを提供することによって、セメントレス固定に適合され得る。また他方では、インプラントは、セメント固定に適合され得る。
【0013】
本発明のさらなる態様は、それを必要とする対象、例えばヒトまたは非ヒト動物対象における、前十字欠損の後膝関節を安定化するための内側脛骨顆の骨切り術エミュレーティング手順、特にTPLO手順に関する。この手順によれば、本発明に係るインプラントは、それを必要とする患者の膝関節内に置かれてよい。
【0014】
本発明は、2つの平面骨切り術の後に脛骨の内側顆のみが表面再建されて、インプラントの固定のためのアクセスしやすさを提供し、さらに内側側副靭帯の挿入を維持するという点で独特である。
【0015】
ほとんどの場合において、大腿骨内側顆は軟骨が損傷しているので、大腿骨の顆部のために低摩擦、低摩滅表面を提供して関節接合することが最も重要である。現時点で知られている最良の選択肢は、ダイヤモンド・ライク・カーボン・コーティングまたは熱分解炭素コーティングである。ダイヤモンド・ライク・コーティングのうち、アモルファス・ダイヤモンド・ライク・カーボン(ADLC)コーティングが非常に開発されており、医療機器において用いられている。それは異なる基材上に沈着させることができる。本発明については、チタンまたはコバルトクロム合金が基材として好ましい選択である。熱分解炭素は通常、グラファイト基材上に沈着され、そしてそれを、骨インテグレーションのために、例えばチタンおよび/またはヒドロキシアパタイトによってコーティングすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】イヌにおける右後膝関節(膝)の斜視図を示す。
【
図3】顆部から内側プラトーを除去するための第2の骨切り術を示す。
【
図7】TPLOエミュレーション(emulation)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
イヌ後膝関節(膝)の正面斜視図(
図1)は、本発明に関する基本的な解剖学的特徴を示す。脛骨の近位面(proximal aspect)1は、外側および内側に広がり、内側顆2および外側顆3による幅広いプラトーを作っている。プラトーに対して頭側に(Cranially to the plateau)、骨は狭まって脛骨粗面4を形成する。後膝関節の接合部は、大腿骨の内側顆5および外側顆6を含み、それらが脛骨のそれぞれの顆部と関節接合する。大腿骨顆と脛骨顆の間に、関節半月7および8が挟まれている。凸形状の2つの骨により、関節は本質的に不安定である。関節にかかっている靭帯は脱臼を防ぐ。2つの主なペアが存在する:(i)関節内の十字靭帯9および10が、矢状面における並進による脱臼を防止し、脛骨の内旋を制限し;(ii)側副靭帯11および12が、前額面における内反-外反の角形成を防止し、脛骨の外旋も制限する。
【0018】
イヌにおける最も頻繁な整形外科の問題は、ヒト解剖学的構造では前十字靭帯(anterior cruciate ligament)(ACL)と呼ばれる、前十字靭帯(cranial cruciate ligament)(CrCL)9の断裂である。CrCL断裂により、大腿骨顆は尾側にスライドする傾向があり、そうすることで、内側半月板の障害を生じさせ、最終的には両方の内側顆の軟骨の障害を生じさせる。CrCL断裂を修正する外科的介入は通常、何週および何ヶ月も遅れて行なわれて、したがって、処置される全事例の約50%において、内側半月板は、完全に破壊されないとしても著しく損傷される。関節変性の進行は、脛骨プラトー水平化骨切り術(TPLO)のような複雑かつ高価な介入によって処置される事例でさえ、CrCL断裂の結果として、完全には受け入れられないとしても一般に認識されている。
【0019】
本発明において提案される相対的に単純な平面骨切り術13(
図2)は、関節の重要なスタビライザーである内側側副靭帯11を維持しながら、内側脛骨顆2のプラトーに対するアクセスを可能にする。ガイドワイヤー14は、前内側(craniomedial)から尾外側(caudolateral)の方向に、関節を横切って挿入されて、脛骨の顆間隆起15へ内側に渡される。骨切り術は、そのガイドワイヤーと、脛骨から遠位のその出口16によって完全に規定される。出口16は、内側側副靭帯11の挿入に対して遠位に位置する。
【0020】
第1の骨切り術13の後の内側顆2は、ひっくり返すことができ(
図3)、その近位面へのアクセスを得て、したがって、顆部の軟骨下骨のちょうど下に、第2の平面骨切り術17のためのアクセスを可能にする。
【0021】
表面再建インプラント100(
図4)は、顆部2に固定される平底表面18および上側表面19を有する。上側表面19は、安定した関節接合のために大腿骨顆5を受け入れるための顕著な(prominent)凹面の凹部20を有する。凹部20は、矢状面における大腿骨顆の曲率22の半径とほぼ合っている矢状面における曲率21の半径を有する。前額面における凹部20の輪郭23は、前額面における大腿骨顆5の形状24に合う。それ故に、インプラント100の上側表面における凹部20は、半月板によって覆われる脛骨顆の形状に合う形状をしている。インプラント100は、凹部20に制限される関節接合の領域の外側に、固定手段、例えば少なくとも2つのネジ穴25および26を備えている。上側表面は、特に凹部20において、非常にポリッシュされていてよく、例えばADLCまたは熱分解炭素の、硬い、低摩擦、摩滅耐性層でコーティングされていてよい。下側の、インプラント100の骨に対向する表面は、例えば多孔質性チタンによって、およびさらに、例えばヒドロキシアパタイトの層によって、骨インテグレーションのためにコーティングされている。
【0022】
あるいは、インプラント100は、付加製造によって製造することができ、したがって、骨インテグレーションのためのポアによって提供される。上側表面19は完全に閉じられ(closed)、機械加工され、ポリッシュされ、およびコーティングされる。
【0023】
内側顆へのインプラント100の固定(
図5)は、固定手段、例えば少なくとも2つの骨スクリュー27および28の配置によって達成される。この固定は、骨の内部成長が界面において動かずに進行することができるために必要である。界面のさらなる安定化は、インプラント100の下側表面18から突き出ている突出、例えば小さなスパイク29によって提供され得る。あるいは、海綿骨の貯蔵が少ないなどの特別な事例では、インプラント100は、骨セメントによって脛骨顆に固定され得る。
【0024】
インプラント100が内側顆2に固定された時点で、顆部は、インプラント100とともに、脛骨の近位面1に対して固定され得る。スクリュー30および31による固定は十分であり得るが(
図6a)、さらなる安定性のために骨プレート32(
図6b)を用いるべきである。
【0025】
脛骨への顆部2の固定は、例えば内反変形を補うために、その近位-遠位(proximal-to-distal)の位置をわずかに修正することによって、その元々の位置から変更することができる。さらに、表面再建された脛骨顆は、矢状面においてそれを回転させることによって、大腿骨内側顆の尾部脱臼に対するさらなる安定性のために、脛骨へ固定することもできる。
【0026】
本明細書において開示される骨切り術の別の使用は、内側コンパートメントのみであるが、TPLO介入をエミュレートすることである(
図7)。この手順は、仮に内側コンパートメント(内側半月板を含む)の状態が満足なものであるならば、インプラント100を用いずに行うことさえできる。死骸の後膝関節に対するインビトロ試験は、そのような少ないモービディティ(reduced-morbidity)のTPLOの、後膝関節の安定性に対する有効性を示した。
【0027】
これまではイヌに対する外科的処置に重点が置かれていたが、同様の手法および同等のインプラント設計をヒトの膝に用いることができ(
図8)、2つの平面骨切り術13および17を行なって、
図4および5でイヌ脛骨について示したのと同じくインプラントの固定のために内側顆2が準備される。同一の手順を外側顆に対して行なうことができる。
【国際調査報告】