(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-18
(54)【発明の名称】レーザ超音波(LUS)測定機器を用いて物体の材料特性を推定する方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
G01N29/24
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021571898
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(85)【翻訳文提出日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2020065142
(87)【国際公開番号】W WO2020245082
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511126992
【氏名又は名称】エスエスアーベー テクノロジー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ミーケル・マールムストレーム
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AC05
2G047BC03
2G047CA04
(57)【要約】
本開示は、発生レーザ(210)、検出レーザ(220)および検出器(230)を含むレーザ超音波(LUS)測定機器(200)を用いて物体(2)の材料特性を推定する方法であって:
- 超音波パルスが物体で発生するように、また超音波振動が表面で直ちに発生するように、発生レーザによって物体の表面にレーザパルスを提供すること(S1)と、
- 検出レーザおよび検出器を用いることによって、物体からの少なくとも第1の後続超音波エコーを測定すること(S2)であって、超音波エコーは物体で発生する超音波パルス由来のエコーであることと、
- 検出レーザおよび検出器を用いることによって、表面で直ちに発生する超音波振動を測定すること(S3)と、
- 測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づいて、超音波減衰パラメータを用いることによって材料特性を推定すること(S5)であって、材料特性は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに対する基準として、表面で直ちに発生する測定される超音波振動を用いて推定されることと
を含む方法に関する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生レーザ(210)、検出レーザ(220)および検出器(230)を含むレーザ超音波(LUS)測定機器(200)を用いて物体(2)の材料特性を推定する方法であって:
超音波パルスが物体で発生するように、また超音波振動が表面で直ちに発生するように、発生レーザによって物体の表面にレーザパルスを提供すること(S1)と、
検出レーザおよび検出器を用いることによって、物体からの少なくとも第1の後続超音波エコーを測定すること(S2)であって、超音波エコーは物体で発生する超音波パルス由来のエコーであることと、
を含み、
該方法は、さらに:
検出レーザおよび検出器を用いることによって、表面で直ちに発生する超音波振動を測定すること(S3)と、
測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づいて、超音波減衰パラメータを用いることによって材料特性を推定すること(S5)であって、材料特性は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに対する基準として、表面で直ちに発生する測定される超音波振動を用いて推定されることと
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
基準は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づくスペクトル振幅と、表面で直ちに発生する測定される超音波振動に基づくスペクトル振幅とを比較することによって提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
物体は、レーザパルスが物体の表面に提供されるときに600℃以上の温度を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
レーザパルスが物体の表面に提供されるときに、温度は、800~1200℃、例えば850~950℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、該方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供すること(S4)をさらに含み、物体の材料特性は、3~200MHz、好ましくは3~100MHz、例えば3~40MHzの周波数範囲にある変換済み信号の値に基づいて推定される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、該方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供することをさらに含み、物体の材料特性は、スペクトル振幅閾値を超える変換済み信号の周波数範囲内の値に基づいて推定され、スペクトル振幅閾値は、(LUS)測定機器のノイズフロアを定義し、該ノイズフロア下では、変換済み信号はノイズと区別することはできない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
物体は金属の物体、好ましくは鋼合金であり、材料特性は粒径である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鋼圧延プロセスを制御する方法であって:
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法を用いることによって、鋼圧延プロセス中に鋼物体の粒径のその場での測定を行うこと(S10)と、
推定された粒径に基づいて、鋼圧延プロセスを制御すること(S20)と
を含む前記方法。
【請求項12】
物体(2)の材料特性を測定するための装置(100)であって:
発生レーザ(210)、検出レーザ(220)および検出器(230)を含むレーザ超音波(LUS)測定機器(200)と、
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法の工程を実行するように構成された制御ユニット(300)と
を含む前記装置。
【請求項13】
発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられ、かつ/または発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される、請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載の装置を含む鋼圧延機(1)。
【請求項16】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき請求項1~11のいずれか一項に記載の工程を実行するプログラムコード手段を含む、前記コンピュータプログラム。
【請求項17】
コンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体であって、コンピュータプログラムは、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき請求項1~11のいずれか一項に記載の工程を実行するプログラムコード手段を含む、前記コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発生レーザ、検出レーザおよび検出器を含むレーザ超音波(LUS)測定機器を用いて物体の材料特性を推定する方法に関する。本開示はさらに、鋼圧延プロセスを制御する方法、物体の材料特性を測定する装置、コンピュータプログラムおよび/またはコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼を製造するための熱間圧延は、一般的に知られている金属加工プロセスであり、加熱された鋼材料を1対またはそれ以上のローラ間に通して、材料の厚さを小さくし、厚さをより均一にする。熱間圧延は、圧延プロセス中の鋼の温度が再結晶温度を超えていることを特徴とする。このプロセスでは、一般に板金などの細長い鋼板/鋼帯が得られ、これはスチールコイルになるように巻き取られる。
【0003】
高品質の鋼を製造可能にするには、熱間圧延プロセスを制御することが重要である。これは例えば、鋼材料の温度、ローラによって鋼に与えられる圧力、圧延プロセスの速度などを制御することによって行われる。鋼の特性、したがって鋼の品質に影響を与える鋼の1つのパラメータは粒径である。したがって、熱間圧延プロセス中に鋼の粒径を測定および推定し、それを用いて鋼が所望の粒径または所望の粒径範囲になるようにプロセスを制御可能であることが有益である。
【0004】
粒径を測定する1つの公知の方法は、鋼材料に超音波パルスを発生させるためにレーザが使用される、いわゆるLUS測定機器を用いたものである。鋼において発生した超音波パルスは、材料を通って伝播し、超音波エコーをもたらし、それによって、その超音波エコーの超音波減衰量が測定される。この超音波減衰量は、鋼の粒径を推定するために使用される。
【0005】
粒径などの物体の材料特性を推定する1つの公知の方法は、特許文献1に開示されている。その記述によれば、これは超音波減衰量を用いて材料特性を決定する方法を開示しており、超音波検出器から相互作用信号を受信することを含む。相互作用信号は、超音波パルスが物体内を伝播した後に、物体の検出位置に衝突する広帯域超音波パルスの少なくとも1つの顕在化したものを捕捉する。物体を通って伝播するときに、超音波パルスは1つまたはそれ以上の物理的メカニズムによって減衰する。減衰した超音波パルスに対応する相互作用信号の一部を時間領域から周波数領域に変換し、振幅スペクトルを得る。振幅スペクトルが得られると、それを基準振幅スペクトルと比較して減衰スペクトルを得る。次いで、減衰スペクトルを減衰モデルに当てはめて減衰パラメータを導き、この減衰パラメータを材料特性の計算のために用いる。
【0006】
さらに、基準振幅スペクトルは、基準片を用いることによって、振幅スペクトルと同様に生成される。基準片は、広帯域超音波パルスに関して物体と等しい回折特性を有するが、基準振幅スペクトルは実質的に減衰していない。これは、基準片が、基準片の振幅スペクトルの減衰を補正するために使用される既知の減衰パラメータを有しているか、または基準片が無視できる程度の減衰をもたらすように選択されるためである。
【0007】
そのため、上記の公知の方法では、材料特性を推定するために基準片を使用することを必要とする。別の例として、複数のエコーを活用して材料特性を推定することも知られている。したがって、計算に基準片を使用する代わりに、材料特性を計算するために2つの超音波エコーが比較される。
【0008】
上記の方法は、鋼の粒径の推定など、材料特性の推定には有効であると思われるが、生産環境、特に鋼の熱間圧延中の、より効率的で有用な方法を開発することが依然として試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第2007/0006651号A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記を考慮して、本発明の目的は、物体の材料特性を推定するための改善された方法および装置を提供することである。さらに、本発明の目的は、鋼圧延プロセス中に粒径のその場での測定を行うことによって、鋼圧延プロセスの改善された制御を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様によれば、この目的は、請求項1で定義される方法によって達成される。第2の態様によれば、この目的は、請求項11で定義される方法によって達成される。第3の態様によれば、この目的は、請求項12で定義される装置によって達成される。第4の態様によれば、この目的は、請求項15で定義される鋼圧延機によって達成される。第5の態様によれば、この目的は、請求項16で定義されるコンピュータプログラムによって達成される。第6の態様によれば、この目的は、請求項17で定義されるコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体によって達成される。本開示のさらなる実施形態は、従属請求項ならびに添付の説明および図面に見出される。
【0012】
その第1の態様によれば、その目的は、発生レーザ、検出レーザおよび検出器を含むレーザ超音波(LUS)測定機器を用いて物体の材料特性を推定する方法によって達成される。本方法は:
- 超音波パルスが物体で発生するように、また超音波振動が表面で直ちに発生するように、発生レーザによって物体の表面にレーザパルスを提供することと、
- 検出レーザおよび検出器を用いることによって、物体からの少なくとも第1の後続超音波エコーを測定することであって、超音波エコーは物体で発生する超音波パルス由来のエコーであることと、
- 検出レーザおよび検出器を用いることによって、表面で直ちに発生する超音波振動を測定することと、
- 測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づいて、超音波減衰パラメータを用いることによって材料特性を推定することであって、材料特性は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに対する基準として、表面で直ちに発生する測定される超音波振動を用いて推定されることと
を含む。
【0013】
本発明の第1の態様による方法を提供することによって、材料特性は改善された方法で推定および決定される。実際、本発明は、LUS測定機器を使用するときに、発生事象自体、すなわち、表面で直ちに発生する超音波振動が測定され、金属であることが多く、好ましくは鋼である物体の材料特性を効率的に推定および決定するために使用されるという、本発明者の認識に基づいている。一般的な理解では、発生事象、すなわち、レーザパルスが発生レーザによって物体の表面に提供されるときは、発生レーザによる光害があまりに多く、また表面での熱膨張によって発生する振動があまりに多く含まれるため、信頼できる基準としては使用できないというものであった。発生事象を基準として用いることによって、従来技術で知られているような基準片または複数の超音波エコーの使用と比較して、より効率的な測定および材料特性の推定が行われる。より具体的には、いかなる基準片に対しても測定を行う必要がなくなる。さらに、発生事象を基準として用いることにより、複数のエコー法を用いたときと比較して、より大きな粒径が測定および決定されることが認識されている。すなわち、粒径が大きくなると超音波減衰レベルが大きくなるため、1つの超音波エコーしか十分な精度(SB比)で測定することができなくなり得る。
【0014】
したがって、本明細書に使用する場合、表面で直ちに発生する超音波振動とは、発生事象、すなわち、レーザパルスが物体の表面に提供されるときの事象を意味する。これは発生振動を意味することもできるが、材料特性の推定のために測定され使用される。換言すれば、発生事象は、レーザパルスが物体の表面に提供される時点に対応する。さらに、以下でも理解されるように、表面で直ちに発生する測定される超音波振動は、物体の表面にわたり、または表面上を移動する超音波パルスとは異なる。
【0015】
好ましくは、基準は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づくスペクトル振幅と、表面で直ちに発生する測定される超音波振動に基づくスペクトル振幅とを比較することによって提供される。
【0016】
場合により、物体は、レーザパルスが物体の表面に提供されるときに600℃以上の温度を有することができる。実際、600℃以上の高温では、発生の熱的部分によって誘発される超音波が、これらの温度では表面のアブレーションによる部分よりも小さくなるため、発生現象は、より容易に測定および評価されることが認識されている。さらに場合により、レーザパルスが物体の表面に提供されるときに、温度は、800~1200℃、例えば850~950℃であることができる。
【0017】
場合により、表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、本方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供する工程をさらに含むことができ、物体の材料特性は、3~200MHz、好ましくは3~100MHz、例えば3~40MHzの周波数範囲にある変換済み信号の値に基づいて推定される。さらに、上記の周波数範囲で発生事象を基準として用いるとき、従来技術のようにいくつかの基準片を使用することなく、厚さの異なるさまざまな物体の粒径を測定することが可能であることが認識されている。したがって、本明細書に開示されている方法は、生産環境、特に鋼圧延機において有益であることが示されている。さらに、変換済み信号は、表面に直ちに発生する測定される超音波振動および/または測定される少なくとも第1の後続超音波エコーを、テューキー窓などのアポダイゼーション関数またはテーパリング関数としても知られる窓関数を使用して分離することによって提供される。一例として、テューキー窓は、0.7のパラメータαを有することができ、窓は、表面で直ちに発生する測定される超音波振動および/または測定される少なくとも第1の後続超音波エコーのFWHM(半値全幅)の2倍、典型的には3倍よりも大きくなり得る。
【0018】
場合により、表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、本方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供する工程をさらに含むことができ、物体の材料特性は、スペクトル振幅閾値を超える変換済み信号の周波数範囲内の値に基づいて推定され、このスペクトル振幅閾値は、(LUS)測定機器のノイズフロアを定義し、このノイズフロア下では、変換済み信号はノイズと区別することはできない。したがって、ノイズフロア下では、超音波信号を区別することができない。さらに、ノイズフロアを超える、すなわち無視できる程度のノイズパターンが存在する場合の測定値を用いることが有益であることが認識されている。ノイズパターンとは、不規則パターンおよび/または確率的パターンを示す信号パターンと定義される。場合により、物体の材料特性は、好ましくは、スペクトル振幅閾値の少なくとも10倍以上、例えばスペクトル振幅閾値の25倍以上、すなわちノイズフロアを超える変換済み信号の周波数範囲内の値に基づいて推定される。さらに場合により、物体の材料特性は、好ましくは、下限周波数が変換済み信号の最大スペクトル振幅値の少なくとも60%、例えば最大スペクトル振幅値の少なくとも75%である変換済み信号の値に基づいて、周波数範囲内で推定される。すなわち、上記の周波数範囲の測定値を用いたときに、材料特性のより信頼性の高い推定を行えることが認識されている。代替として、または補足として、結果として得られる減衰曲線の下限周波数における測定される超音波減衰量の傾きが負である場合、回折に依存する超音波減衰量が多すぎることを意味し得る。その場合は、下限周波数は、回折依存性が無視できる程度だと考えられる最小減衰量の反対側に移動される。
【0019】
場合により、物体は金属の物体、好ましくは鋼合金であることができ、ここで、材料特性は粒径である。物体の粒径とは、本明細書では物体の平均粒径を意味する。粒径は、鋼などの材料の個々の粒の直径として定義される。
【0020】
場合により、発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられる。「同じ位置」とは、本明細書では、レーザビームが、表面上で互いから1mm(ミリメートル)以下の距離で提供されることを意味することができる。換言すれば、発生および検出は、好ましくは、表面上で重なり合うことができる。さらに場合により、発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている。発生レーザおよび検出レーザを互いに対して角度分離して提供することによって、発生レーザが、一実施形態では干渉計であり得る検出器において障害を引き起こすことが少なくなるため、測定がさらに改善される。しかし、本明細書で開示される方法は、レーザビームが整列している、すなわち同軸である発生レーザおよび検出レーザによって使用することもできることに留意すべきである。
【0021】
場合により、発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される。例えば、検出レーザは、発生レーザによって提供されるレーザビーム波長よりも大きなレーザビーム波長を提供するように構成される。一例として、発生レーザは532nm(ナノメートル)のレーザビーム波長を提供するように構成され、検出レーザは1064nmのレーザビーム波長を提供するように構成される。
【0022】
その第2の態様によれば、本目的は、鋼圧延プロセスを制御する方法であって、
- 第1の態様の実施形態のうちのいずれか1つによる方法を用いることによって、鋼圧延プロセス中に鋼物体の粒径のその場での測定を行うことと、
- 推定された粒径に基づいて、鋼圧延プロセスを制御することと
を含む方法によって達成される。
【0023】
第2の態様によって提供される利点および効果は、第1の態様の実施形態による方法によって提供される利点および効果にほぼ類似している。第2の態様のすべての実施形態は、第1の態様のすべての実施形態に適用可能で、組み合わせることができ、逆もまた同様であることにさらに留意すべきである。
【0024】
鋼圧延プロセスの改善された制御は、本明細書に開示されている第1の態様による方法を使用することによってもたらされることが認識されている。より詳細には、鋼圧延プロセス中に測定される鋼の粒径は、プロセスをより効率的に制御するために、および/または所望の平均粒径に達するように鋼の品質を向上させるために、フィードバック情報および/またはフィードフォワード情報として使用される。鋼圧延プロセスは、好ましくは熱間圧延プロセスである。推定された粒径は、例えば、鋼の温度、鋼圧延機のローラによって鋼に与えられる圧力、鋼圧延プロセスの速度などを制御するために使用される。さらに、圧延プロセス中に測定される鋼の粒径は、プロセスの制御パラメータとして温度を使用することの補完または代替として用いられる。さらに、推定された粒径は、例えば、鋼圧延プロセスにおける変形分布を制御するために使用される。
【0025】
その第3の態様によれば、本目的は、物体の材料特性を測定するための装置であって:
- 発生レーザ、検出レーザおよび検出器を含むレーザ超音波(LUS)測定機器と、
- 第1の態様の実施形態のうちのいずれか1つによる方法の工程を実行するように構成された制御ユニットと
を含む装置によって達成される。
【0026】
第3の態様によって提供される利点および効果は、第1の態様および第2の態様の実施形態による方法によって提供される利点および効果にほぼ類似している。第3の態様のすべての実施形態は、第1の態様および第2の態様のすべての実施形態に適用可能で、組み合わせることができ、逆もまた同様であることにさらに留意すべきである。
【0027】
場合により、発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられ、かつ/または発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている。
【0028】
場合により、発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される。
【0029】
その第4の態様によれば、本目的は、本発明の第3の態様の実施形態のうちのいずれか1つによる装置を含む鋼圧延機によって達成される。鋼圧延機は、好ましくは、鋼熱間圧延機である。
【0030】
第4の態様によって提供される利点および効果は、第1の態様および第2の態様の実施形態による方法によって提供される利点および効果にほぼ類似している。第4の態様のすべての実施形態は、第1の態様、第2の態様および第3の態様のすべての実施形態に適用可能で、組み合わせることができ、逆もまた同様であることにさらに留意すべきである。
【0031】
その第5の態様によれば、本目的は、コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき本発明の第1の態様および第2の態様の実施形態のうちのいずれかの工程を実行するプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラムによって達成される。その第6の態様によれば、本目的は、コンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体であって、コンピュータプログラムは、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき本発明の第1の態様および第2の態様の実施形態のうちのいずれかの工程を実行するプログラムコード手段を含む、コンピュータ可読媒体によって達成される。
【0032】
第4の態様および第5の態様によって提供される利点および効果は、第1の態様および第2の態様の実施形態による方法によって提供される利点および効果にほぼ類似している。第5および第6の態様のすべての実施形態は、第1、第2、第3および第4の態様のすべての実施形態に適用可能で、組み合わせることができ、逆もまた同様であることにさらに留意すべきである。
【0033】
添付図面を参照して、例として挙げた本開示の実施形態のより詳細な説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の第1の態様の例示的実施形態による方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の第2の態様の例示的実施形態による方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の例示的実施形態による、時間領域における超音波減衰量の測定振幅のグラフである。
【
図4】本発明の例示的実施形態による周波数領域におけるスペクトル振幅のグラフである。
【
図5】本発明の第1の態様の例示的実施形態に従って計算されたスペクトル振幅減衰のグラフである。
【
図6】本発明の第1の態様の例示的実施形態に従って計算されたパラメータbのグラフである。
【
図7】本発明の第1の態様による方法を用いた測定から得られる計算された検量線を示す図である。
【
図8】本発明の第3の態様の例示的実施形態による鋼圧延機および装置の例示的実施形態を示す図である。
【
図9】本発明の例示的実施形態によるLUS測定機器を含む装置の例示的実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面は、本開示の図により例示する実施形態であり、したがって、必ずしも原寸に比例して描かれていない。図示され、説明された実施形態は例示的なものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されないことを理解すべきである。特定の実施形態をより良く説明し、図示するために、図中のいくつかの詳細が誇張されていることにさらに留意すべきである。別途述べられていない限り、本明細書を通して、同じ参照符号は同じ要素を意味する。
【0036】
図1では、
図9に示すようなレーザ超音波(LUS)測定機器200を用いた物体2の材料特性を推定する方法のフローチャートが示されている。LUS機器200は、発生レーザ210と、検出レーザ220と、検出器230(
図9参照)とを含む。本方法は:
- S1:超音波パルスが物体2で発生するように、また超音波振動が表面で直ちに発生するように、発生レーザ210によって物体2の表面にレーザパルスを提供する工程と、
- S2:検出レーザ220および検出器230を用いることによって、物体2からの少なくとも第1の後続超音波エコーを測定する工程であって、この超音波エコーは物体2で発生する超音波パルス由来のエコーである、工程と、
- S3:検出レーザ220および検出器230を用いることによって、表面で直ちに発生する超音波振動を測定する工程と、
- S5:測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づいて、超音波減衰パラメータを用いることによって材料特性を推定する工程であって、材料特性は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに対する基準として、表面で直ちに発生する測定される超音波振動を用いて推定される、工程と
を含む。
【0037】
本方法は、好ましくは、信号を時間領域から周波数領域に変換するモデルを提供する工程S4をさらに含む。この工程は、
図1の破線のボックスS4で示されているように任意である。信号は、フーリエ変換モデルを用いて変換される。
【0038】
図2では、第2の態様の例示的な実施形態による鋼圧延プロセスを制御する方法のフローチャートが示されている。本方法は:
- S10:本発明の第1の態様による実施形態のうちのいずれか1つに記載の方法を用いることによって、鋼圧延プロセス中に鋼物体2の粒径のその場での測定を行う工程と、
- S20:推定された粒径に基づいて、鋼圧延プロセスを制御する工程と
を含む。
【0039】
特に
図3~
図7を参照して、本発明の第1の態様による本発明の実施例および実施形態を説明する。
【0040】
まず、全体の超音波減衰量には3つの要因があり、次のように表される:
【数1】
式中、α_absorptionは内部摩擦による材料の吸収であり、α_diffractionは回折による減衰であり、α_scatteringは散乱による信号の減衰である。さらに、fは周波数であり、
【数2】
は、物体の平均粒径であり、Tは物体の温度である。そのため、例示的実施形態によれば、物体の温度Tも、鋼圧延プロセス中にその場で測定される。例えば、温度は一般に、鋼圧延機のいくつかの異なる位置で測定され、これらの測定値は本発明に用いられる。代替として、物体の温度Tは、概算され、かつ/または所定のものである。
【0041】
図3は、レーザパルスが鋼物体2の表面に提供された後に、LUS測定機器200の検出器230を用いて行われる測定の一例を示す。縦軸は振幅を定義し、横軸はμs単位での時間である。測定される信号は、位相シフト補償付きで、3~100MHzの間で3dB制限されたデジタル4次バターワースフィルタを用いて帯域フィルタにかけられている。レーザパルスが表面に提供されると直ちに発生する最初の比較的大きな振幅変動GEは、表面で直ちに発生する超音波振動、すなわち発生事象である。その後、第1の超音波エコーE1が検出器230によって観測され、続いてより小さなエコーE2~E3が観測される。発生事象GEおよび後続するエコー由来の観測結果が、次いで例えば上記で述べたようなフーリエ変換モデルを用いて、時間領域から周波数領域に変換される。
【0042】
スペクトル成分は、エコーE1~E3および発生事象GEを含む
図4に示されている。値「+」は、スペクトル減衰に対して選択され、その値は、
図4に示すように、好ましくは、ノイズフロアNF(一点短鎖線によって示す)の約25倍であることができる。値「x」は、最大スペクトル振幅値の75%として選択される。
【0043】
測定される発生事象を基準として用いることにより計算されたスペクトル減衰の例を
図5に示す。計算は、例えば、以下の式で行われる:
【数3】
式中、A
GEは、発生事象GEの測定値によるスペクトル成分であり、A
nは、エコーE1~E3のうちの1つの測定値によるスペクトル成分である。さらに、Δdは発生事象GEからエコー番号nまでの移動距離である。好ましくは,時間領域において最大の振幅変動を示す、第1のエコーE1のスペクトル成分A
E1が使用される。
【0044】
粒界散乱による超音波減衰量は、超音波の波長および粒のサイズに依存する。一般式は次のように書かれる:
α~Γ(T)Dn-1fn
式中、nは散乱レジーム(レイリー数n=4、確率的数n=2)に依存し、Γ(T)は、温度に依存する異方性と、温度に依存する速度による見かけ上の波長とを考慮する。ここで考慮される波長範囲では、n~3は、次式のようになる:
α=a+b*f3
【0045】
次に、上記の3次多項式は、α
GE-nのスペクトルに関連する部分、すなわち
図4の値「x」と値「+」との間に当てはめられ、ここでは、下限周波数「x」は、最小二乗法を用いて、回折が無視できる領域に合わせて調整することができ、
図5に破線として表示される。当てはめられたパラメータbを金属組織の粒径(試料を急冷し、顕微鏡によって見出される)に対してプロットし、粒径に対する測定されるスペクトル減衰と相関する検量線の当てはめが行われる。上記で述べられた式の慣例に従うと、金属組織の平均粒径
【数4】
とパラメータbとの相関関係は次のように書くことができる。
【数5】
式中、δは、材料の異方性に依存する材料パラメータである。δの値が大きいほど、隣接する2つの粒子間の音響インピーダンスの不整合が大きく、エネルギーの散乱部分が大きくなることを意味する。
【0046】
本発明の第1の態様に従って発生事象を基準として用いることによって計算されたパラメータbの例を
図6に示す。この例では、鋼は25℃の室温にあった。鋼の温度が900℃であった鋼圧延機による事前に記録された発生事象を用いて計算されたパラメータbから、粒径の推定を行った。より具体的には、
図7では、粒径に対してプロットされたパラメータbを用いて計算された検量線の例を示す。
【0047】
図示された例では、7つのステンレス鋼(SAE304)試料を本発明に従ってLUSを用いて特性評価し、二重(twin)試料は、試料を半分に切断し、光学顕微鏡(LOM)および電子後方散乱回折顕微鏡(EBSD)で断面の粒界を撮像することによって破壊的に調べた。粒径は,超音波伝播の横断方向および伝播方向における平均2点間距離(mean linear intercept length)の平均値としてとられた。線形当てはめは、粒径推定およびパラメータbの計算の両方においてスプレッドにより重み付けした。
【0048】
図8は、本発明の第3の態様によるLUS測定機器200を有する装置100を含む鋼熱間圧延機1を示す。鋼熱間圧延機は、例えば連続熱間圧延機であることができる。図の左側から、鋼スラブ2はスラブ炉21で特定の圧延温度、例えば約1250℃に加熱される。次の工程では、鋼スラブ2は粗圧延機3に入り、ここでは、鋼スラブの厚さは、例えば約200mmから30mmに減少し、長さが増加して、鋼トランスファーバー(transferbar)となる。その後、鋼トランスファーバー2をコイル状にする。その後、鋼トランスファーバー2は、熱間圧延機1に入り、そこでは、まず、圧延皮膜を除去するために洗浄機器4で洗浄される。続く工程では、鋼トランスファーバー2は、対向して位置する1対またはそれ以上の対のローラ5によって圧延される。図示される例では、6対のローラがある。ローラ5の対は、鋼トランスファーバーの厚さを、例えば1.8~16mmに減少させる。熱間圧延機1の端部での圧延速度は、15m/sと高くてもよい。その後、薄い鋼帯2を、冷却セクションROT(ランアウトテーブル)機器6で冷却し、コイル状にし、かつ/または特定の長さに切断する。
【0049】
熱間圧延プロセスは、熱間圧延プロセス中の鋼板2の平均粒径を推定することによって、制御される。例えば、本発明の第1の態様の実施形態の工程を実行するコンピュータプログラムを含む制御ユニット300に接続されているLUS測定機器200は、
図8に示すように、ローラ5の対の前および/もしくは後、ならびに/または、隣接する2対のローラの間に配置される。制御は、フィードバック制御および/またはフィードフォワード制御であることができる。上記で述べたように、完成した鋼帯の所望の粒径に到達するために、速度、ローラ圧、温度などが制御される。
【0050】
図9は、鋼圧延プロセスにおいて、
- 発生レーザ210、検出レーザ220および検出器230を含むLUS測定機器200と、
- 本発明の第1の態様の実施形態のうちのいずれか1つによる方法の工程を実行するように構成された制御ユニット300と
を含む、鋼物体2の材料特性を測定するための装置100の概略図である。
【0051】
本発明の実施形態のうちのいずれか1つによる方法を実行するために、制御ユニット300は、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ、または他のプログラマブルデバイスを含むことができる。さらに、または代わりに、制御ユニットは、特定用途向け集積回路、プログラマブルゲートアレイもしくはプログラマブルアレイ論理回路、プログラマブル論理デバイス、またはデジタルシグナルプロセッサを含むことができる。制御ユニットが、上述したマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、またはプログラマブルデジタルシグナルプロセッサなどのプログラマブルデバイスを含む場合、プロセッサは、プログラマブルデバイスの作動方法を制御するコンピュータ実行可能コードをさらに含むことができる。
【0052】
LUS測定機器200は、1つまたはそれ以上の固定および/または可動ミラー240、レンズ250、およびファンネル付き保護スクリーン260をさらに含むことができ、構成要素のすべてまたはほとんどがハウジング270内に設けられる。発生レーザ210および検出レーザ220のレーザビームの、鋼帯2の表面への方向は、
図9に示すように、非同軸であることができる。レーザビームは、さらに、壁290の開口部280から照射される。
【0053】
本開示は、上述され、図面に示した実施形態に限定されるものではないと理解すべきであり;むしろ、添付の請求項の範囲内で多くの変更および修正が行われることを当業者は理解するであろう。
【手続補正書】
【提出日】2021-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発生レーザ、検出レーザおよび検出器を含むレーザ超音波(LUS)測定機器を用いて物体の材料特性を推定する方法に関する。本開示はさらに、鋼圧延プロセスを制御する方法、物体の材料特性を測定する装置、コンピュータプログラムおよび/またはコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼を製造するための熱間圧延は、一般的に知られている金属加工プロセスであり、加熱された鋼材料を1対またはそれ以上のローラ間に通して、材料の厚さを小さくし、厚さをより均一にする。熱間圧延は、圧延プロセス中の鋼の温度が再結晶温度を超えていることを特徴とする。このプロセスでは、一般に板金などの細長い鋼板/鋼帯が得られ、これはスチールコイルになるように巻き取られる。
【0003】
高品質の鋼を製造可能にするには、熱間圧延プロセスを制御することが重要である。これは例えば、鋼材料の温度、ローラによって鋼に与えられる圧力、圧延プロセスの速度などを制御することによって行われる。鋼の特性、したがって鋼の品質に影響を与える鋼の1つのパラメータは粒径である。したがって、熱間圧延プロセス中に鋼の粒径を測定および推定し、それを用いて鋼が所望の粒径または所望の粒径範囲になるようにプロセスを制御可能であることが有益である。
【0004】
粒径を測定する1つの公知の方法は、鋼材料に超音波パルスを発生させるためにレーザが使用される、いわゆるLUS測定機器を用いたものである。鋼において発生した超音波パルスは、材料を通って伝播し、超音波エコーをもたらし、それによって、その超音波エコーの超音波減衰量が測定される。この超音波減衰量は、鋼の粒径を推定するために使用される。
【0005】
粒径などの物体の材料特性を推定する1つの公知の方法は、特許文献1に開示されている。その記述によれば、これは超音波減衰量を用いて材料特性を決定する方法を開示しており、超音波検出器から相互作用信号を受信することを含む。相互作用信号は、超音波パルスが物体内を伝播した後に、物体の検出位置に衝突する広帯域超音波パルスの少なくとも1つの顕在化したものを捕捉する。物体を通って伝播するときに、超音波パルスは1つまたはそれ以上の物理的メカニズムによって減衰する。減衰した超音波パルスに対応する相互作用信号の一部を時間領域から周波数領域に変換し、振幅スペクトルを得る。振幅スペクトルが得られると、それを基準振幅スペクトルと比較して減衰スペクトルを得る。次いで、減衰スペクトルを減衰モデルに当てはめて減衰パラメータを導き、この減衰パラメータを材料特性の計算のために用いる。
【0006】
さらに、基準振幅スペクトルは、基準片を用いることによって、振幅スペクトルと同様に生成される。基準片は、広帯域超音波パルスに関して物体と等しい回折特性を有するが、基準振幅スペクトルは実質的に減衰していない。これは、基準片が、基準片の振幅スペクトルの減衰を補正するために使用される既知の減衰パラメータを有しているか、または基準片が無視できる程度の減衰をもたらすように選択されるためである。
【0007】
そのため、上記の公知の方法では、材料特性を推定するために基準片を使用することを必要とする。別の例として、複数のエコーを活用して材料特性を推定することも知られている。したがって、計算に基準片を使用する代わりに、材料特性を計算するために2つの超音波エコーが比較される。
【0008】
その要約によれば、特許文献2は、物体の表面上の第1の位置でパルスレーザ発生器を用いて広帯域超音波を発生させ、別の位置で表面上の波をレーザ検出器で観測することによって、例えばシートにある粒径が監視される粒径測定に関する。
【0009】
参考記事の非特許文献1は、鉄鋼業におけるレーザ超音波に関する。この記事は、粒径評価が超音波減衰量の測定によって行われることを開示している。粒径評価を行う間、超音波レーザ計測機器は、調査される物体の一方の面に発生レーザを、調査される物体の反対側の面に検出レーザに置いて使用した。
【0010】
特許文献3は、超音波減衰量測定装置に関する。例えば、非接触レーザ超音波法が開示されている。これは、抽出される各エコーの周波数解析を行うことを開示している。
【0011】
特許文献4は、レーザ超音波法における熱弾性効果を用いて、試験物体の表面を損傷することなく超音波を発生させてポアソン比を測定する方法に関する。
【0012】
特許文献5は、ライン上の結晶粒径を測定するシステムおよび方法に関し、より詳細には、パルスレーザビームを鋼板に照射して超音波を発生させる、ライン上の結晶粒径を測定するシステムおよび方法に関する。
【0013】
上記の方法は、鋼の粒径の推定など、材料特性の推定には有効であると思われるが、生産環境、特に鋼の熱間圧延中の、より効率的で有用な方法を開発することが依然として試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願第2007/0006651号A1
【特許文献2】国際公開第02/103347号A2
【特許文献3】特開平05-333003号A
【特許文献4】韓国特許出願第2012 0113161号A
【特許文献5】韓国特許第100 643 351号B1
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】MONCHALIN J-P ET AL:“LASER-ULTRASONIC DEVELOPMENT TOWARDS INDUSTRIAL APPLICATIONS”,PROCEEDINGS OF THE ULTRASONIC SYMPOSIUM.CHICAGO,OCT 2-5,1988;[PROCEEDINGS OF THE ULTRASONIC SYMPOSIUM],NEW YORK,IEEE,US,vol.1,2 OCTOBER 1988(1988-10-02),pages 1041-1044,XP000077087
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記を考慮して、本発明の目的は、物体の材料特性を推定するための改善された方法および装置を提供することである。さらに、本発明の目的は、鋼圧延プロセス中に粒径のその場での測定を行うことによって、鋼圧延プロセスの改善された制御を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様によれば、この目的は、請求項1で定義される方法によって達成される。第3の態様によれば、この目的は、請求項9で定義される装置によって達成される。第4の態様によれば、この目的は、請求項12で定義される鋼圧延機によって達成される。第5の態様によれば、この目的は、請求項13で定義されるコンピュータプログラムによって達成される。第6の態様によれば、この目的は、請求項14で定義されるコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体によって達成される。本開示のさらなる実施形態は、従属請求項ならびに添付の説明および図面に見出される。
【0018】
その第1の態様によれば、その目的は、発生レーザ、検出レーザおよび検出器を含むレーザ超音波(LUS)測定機器を用いて物体の材料特性を推定する方法によって達成される。本方法は:
- 超音波パルスが物体で発生するように、また超音波振動が表面で直ちに発生するように、発生レーザによって物体の表面にレーザパルスを提供することと、
- 検出レーザおよび検出器を用いることによって、物体からの少なくとも第1の後続超音波エコーを測定することであって、超音波エコーは物体で発生する超音波パルス由来のエコーであることと、
- 検出レーザおよび検出器を用いることによって、表面で直ちに発生する超音波振動を測定することと、
- 測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づいて、超音波減衰パラメータを用いることによって材料特性を推定することであって、材料特性は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに対する基準として、表面で直ちに発生する測定される超音波振動を用いて推定されることと
を含む。
【0019】
本発明の第1の態様による方法を提供することによって、材料特性は改善された方法で推定および決定される。実際、本発明は、LUS測定機器を使用するときに、発生事象自体、すなわち、表面で直ちに発生する超音波振動が測定され、金属であることが多く、好ましくは鋼である物体の材料特性を効率的に推定および決定するために使用されるという、本発明者の認識に基づいている。一般的な理解では、発生事象、すなわち、レーザパルスが発生レーザによって物体の表面に提供されるときは、発生レーザによる光害があまりに多く、また表面での熱膨張によって発生する振動があまりに多く含まれるため、信頼できる基準としては使用できないというものであった。発生事象を基準として用いることによって、従来技術で知られているような基準片または複数の超音波エコーの使用と比較して、より効率的な測定および材料特性の推定が行われる。より具体的には、いかなる基準片に対しても測定を行う必要がなくなる。さらに、発生事象を基準として用いることにより、複数のエコー法を用いたときと比較して、より大きな粒径が測定および決定されることが認識されている。すなわち、粒径が大きくなると超音波減衰レベルが大きくなるため、1つの超音波エコーしか十分な精度(SB比)で測定することができなくなり得る。
【0020】
したがって、本明細書に使用する場合、表面で直ちに発生する超音波振動とは、発生事象、すなわち、レーザパルスが物体の表面に提供されるときの事象を意味する。これは発生振動を意味することもできるが、材料特性の推定のために測定され使用される。換言すれば、発生事象は、レーザパルスが物体の表面に提供される時点に対応する。さらに、以下でも理解されるように、表面で直ちに発生する測定される超音波振動は、物体の表面にわたり、または表面上を移動する超音波パルスとは異なる。
【0021】
好ましくは、基準は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づくスペクトル振幅と、表面で直ちに発生する測定される超音波振動に基づくスペクトル振幅とを比較することによって提供される。
【0022】
場合により、物体は、レーザパルスが物体の表面に提供されるときに600℃以上の温度を有することができる。実際、600℃以上の高温では、発生の熱的部分によって誘発される超音波が、これらの温度では表面のアブレーションによる部分よりも小さくなるため、発生現象は、より容易に測定および評価されることが認識されている。さらに場合により、レーザパルスが物体の表面に提供されるときに、温度は、800~1200℃、例えば850~950℃であることができる。
【0023】
場合により、表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、本方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供する工程をさらに含むことができ、物体の材料特性は、3~200MHz、好ましくは3~100MHz、例えば3~40MHzの周波数範囲にある変換済み信号の値に基づいて推定される。さらに、上記の周波数範囲で発生事象を基準として用いるとき、従来技術のようにいくつかの基準片を使用することなく、厚さの異なるさまざまな物体の粒径を測定することが可能であることが認識されている。したがって、本明細書に開示されている方法は、生産環境、特に鋼圧延機において有益であることが示されている。さらに、変換済み信号は、表面に直ちに発生する測定される超音波振動および/または測定される少なくとも第1の後続超音波エコーを、テューキー窓などのアポダイゼーション関数またはテーパリング関数としても知られる窓関数を使用して分離することによって提供される。一例として、テューキー窓は、0.7のパラメータαを有することができ、窓は、表面で直ちに発生する測定される超音波振動および/または測定される少なくとも第1の後続超音波エコーのFWHM(半値全幅)の2倍、典型的には3倍よりも大きくなり得る。
【0024】
場合により、表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、本方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供する工程をさらに含むことができ、物体の材料特性は、スペクトル振幅閾値を超える変換済み信号の周波数範囲内の値に基づいて推定され、このスペクトル振幅閾値は、(LUS)測定機器のノイズフロアを定義し、このノイズフロア下では、変換済み信号はノイズと区別することはできない。したがって、ノイズフロア下では、超音波信号を区別することができない。さらに、ノイズフロアを超える、すなわち無視できる程度のノイズパターンが存在する場合の測定値を用いることが有益であることが認識されている。ノイズパターンとは、不規則パターンおよび/または確率的パターンを示す信号パターンと定義される。場合により、物体の材料特性は、好ましくは、スペクトル振幅閾値の少なくとも10倍以上、例えばスペクトル振幅閾値の25倍以上、すなわちノイズフロアを超える変換済み信号の周波数範囲内の値に基づいて推定される。さらに場合により、物体の材料特性は、好ましくは、下限周波数が変換済み信号の最大スペクトル振幅値の少なくとも60%、例えば最大スペクトル振幅値の少なくとも75%である変換済み信号の値に基づいて、周波数範囲内で推定される。すなわち、上記の周波数範囲の測定値を用いたときに、材料特性のより信頼性の高い推定を行えることが認識されている。代替として、または補足として、結果として得られる減衰曲線の下限周波数における測定される超音波減衰量の傾きが負である場合、回折に依存する超音波減衰量が多すぎることを意味し得る。その場合は、下限周波数は、回折依存性が無視できる程度だと考えられる最小減衰量の反対側に移動される。
【0025】
場合により、物体は金属の物体、好ましくは鋼合金であることができ、ここで、材料特性は粒径である。物体の粒径とは、本明細書では物体の平均粒径を意味する。粒径は、鋼などの材料の個々の粒の直径として定義される。
【0026】
場合により、発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられる。「同じ位置」とは、本明細書では、レーザビームが、表面上で互いから1mm(ミリメートル)以下の距離で提供されることを意味することができる。換言すれば、発生および検出は、好ましくは、表面上で重なり合うことができる。さらに場合により、発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている。発生レーザおよび検出レーザを互いに対して角度分離して提供することによって、発生レーザが、一実施形態では干渉計であり得る検出器において障害を引き起こすことが少なくなるため、測定がさらに改善される。しかし、本明細書で開示される方法は、レーザビームが整列している、すなわち同軸である発生レーザおよび検出レーザによって使用することもできることに留意すべきである。
【0027】
場合により、発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される。例えば、検出レーザは、発生レーザによって提供されるレーザビーム波長よりも大きなレーザビーム波長を提供するように構成される。一例として、発生レーザは532nm(ナノメートル)のレーザビーム波長を提供するように構成され、検出レーザは1064nmのレーザビーム波長を提供するように構成される。
【0028】
本開示の第2の態様によれば、鋼圧延プロセスを制御する方法であって:
- 第1の態様の実施形態のうちのいずれか1つによる方法を用いることによって、鋼圧延プロセス中に鋼物体の粒径のその場での測定を行うことと、
- 推定された粒径に基づいて、鋼圧延プロセスを制御することと
を含む方法が提供される。
【0029】
第2の態様によって提供される利点および効果は、第1の態様の実施形態による方法によって提供される利点および効果にほぼ類似している。第2の態様のすべての実施形態は、第1の態様のすべての実施形態に適用可能で、組み合わせることができ、逆もまた同様であることにさらに留意すべきである。
【0030】
鋼圧延プロセスの改善された制御は、本明細書に開示されている第1の態様による方法を使用することによってもたらされることが認識されている。より詳細には、鋼圧延プロセス中に測定される鋼の粒径は、プロセスをより効率的に制御するために、および/または所望の平均粒径に達するように鋼の品質を向上させるために、フィードバック情報および/またはフィードフォワード情報として使用される。鋼圧延プロセスは、好ましくは熱間圧延プロセスである。推定された粒径は、例えば、鋼の温度、鋼圧延機のローラによって鋼に与えられる圧力、鋼圧延プロセスの速度などを制御するために使用される。さらに、圧延プロセス中に測定される鋼の粒径は、プロセスの制御パラメータとして温度を使用することの補完または代替として用いられる。さらに、推定された粒径は、例えば、鋼圧延プロセスにおける変形分布を制御するために使用される。
【0031】
その第3の態様によれば、本目的は、物体の材料特性を測定するための装置であって:
- 発生レーザ、検出レーザおよび検出器を含むレーザ超音波(LUS)測定機器と、
- 第1の態様の実施形態のうちのいずれか1つによる方法の工程を実行するように構成された制御ユニットと
を含む装置によって達成される。
【0032】
第3の態様によって提供される利点および効果は、第1の態様および第2の態様の実施形態による方法によって提供される利点および効果にほぼ類似している。第3の態様のすべての実施形態は、第1の態様および第2の態様のすべての実施形態に適用可能で、組み合わせることができ、逆もまた同様であることにさらに留意すべきである。
【0033】
場合により、発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられ、かつ/または発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている。
【0034】
場合により、発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される。
【0035】
その第4の態様によれば、本目的は、本発明の第3の態様の実施形態のうちのいずれか1つによる装置を含む鋼圧延機によって達成される。鋼圧延機は、好ましくは、鋼熱間圧延機である。
【0036】
第4の態様によって提供される利点および効果は、第1の態様および第2の態様の実施形態による方法によって提供される利点および効果にほぼ類似している。第4の態様のすべての実施形態は、第1の態様、第2の態様および第3の態様のすべての実施形態に適用可能で、組み合わせることができ、逆もまた同様であることにさらに留意すべきである。
【0037】
その第5の態様によれば、本目的は、コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき本発明の第1の態様および第2の態様の実施形態のうちのいずれかの工程を実行するプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラムによって達成される。その第6の態様によれば、本目的は、コンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体であって、コンピュータプログラムは、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき本発明の第1の態様および第2の態様の実施形態のうちのいずれかの工程を実行するプログラムコード手段を含む、コンピュータ可読媒体によって達成される。
【0038】
第4の態様および第5の態様によって提供される利点および効果は、第1の態様および第2の態様の実施形態による方法によって提供される利点および効果にほぼ類似している。第5および第6の態様のすべての実施形態は、第1、第2、第3および第4の態様のすべての実施形態に適用可能で、組み合わせることができ、逆もまた同様であることにさらに留意すべきである。
【0039】
添付図面を参照して、例として挙げた本開示の実施形態のより詳細な説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の第1の態様の例示的実施形態による方法のフローチャートである。
【
図2】
第2の態様の例示的実施形態による方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の例示的実施形態による、時間領域における超音波減衰量の測定振幅のグラフである。
【
図4】本発明の例示的実施形態による周波数領域におけるスペクトル振幅のグラフである。
【
図5】本発明の第1の態様の例示的実施形態に従って計算されたスペクトル振幅減衰のグラフである。
【
図6】本発明の第1の態様の例示的実施形態に従って計算されたパラメータbのグラフである。
【
図7】本発明の第1の態様による方法を用いた測定から得られる計算された検量線を示す図である。
【
図8】本発明の第3の態様の例示的実施形態による鋼圧延機および装置の例示的実施形態を示す図である。
【
図9】本発明の例示的実施形態によるLUS測定機器を含む装置の例示的実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図面は、本開示の図により例示する実施形態であり、したがって、必ずしも原寸に比例して描かれていない。図示され、説明された実施形態は例示的なものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されないことを理解すべきである。特定の実施形態をより良く説明し、図示するために、図中のいくつかの詳細が誇張されていることにさらに留意すべきである。別途述べられていない限り、本明細書を通して、同じ参照符号は同じ要素を意味する。
【0042】
図1では、
図9に示すようなレーザ超音波(LUS)測定機器200を用いた物体2の材料特性を推定する方法のフローチャートが示されている。LUS機器200は、発生レーザ210と、検出レーザ220と、検出器230(
図9参照)とを含む。本方法は:
- S1:超音波パルスが物体2で発生するように、また超音波振動が表面で直ちに発生するように、発生レーザ210によって物体2の表面にレーザパルスを提供する工程と、
- S2:検出レーザ220および検出器230を用いることによって、物体2からの少なくとも第1の後続超音波エコーを測定する工程であって、この超音波エコーは物体2で発生する超音波パルス由来のエコーである、工程と、
- S3:検出レーザ220および検出器230を用いることによって、表面で直ちに発生する超音波振動を測定する工程と、
- S5:測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づいて、超音波減衰パラメータを用いることによって材料特性を推定する工程であって、材料特性は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに対する基準として、表面で直ちに発生する測定される超音波振動を用いて推定される、工程と
を含む。
【0043】
本方法は、好ましくは、信号を時間領域から周波数領域に変換するモデルを提供する工程S4をさらに含む。この工程は、
図1の破線のボックスS4で示されているように任意である。信号は、フーリエ変換モデルを用いて変換される。
【0044】
図2では、第2の態様の例示的な実施形態による鋼圧延プロセスを制御する方法のフローチャートが示されている。本方法は:
- S10:本発明の第1の態様による実施形態のうちのいずれか1つに記載の方法を用いることによって、鋼圧延プロセス中に鋼物体2の粒径のその場での測定を行う工程と、
- S20:推定された粒径に基づいて、鋼圧延プロセスを制御する工程と
を含む。
【0045】
特に
図3~
図7を参照して、本発明の第1の態様による本発明の実施例および実施形態を説明する。
【0046】
まず、全体の超音波減衰量には3つの要因があり、次のように表される:
【数1】
式中、α_absorptionは内部摩擦による材料の吸収であり、α_diffractionは回折による減衰であり、α_scatteringは散乱による信号の減衰である。さらに、fは周波数であり、
【数2】
は、物体の平均粒径であり、Tは物体の温度である。そのため、例示的実施形態によれば、物体の温度Tも、鋼圧延プロセス中にその場で測定される。例えば、温度は一般に、鋼圧延機のいくつかの異なる位置で測定され、これらの測定値は本発明に用いられる。代替として、物体の温度Tは、概算され、かつ/または所定のものである。
【0047】
図3は、レーザパルスが鋼物体2の表面に提供された後に、LUS測定機器200の検出器230を用いて行われる測定の一例を示す。縦軸は振幅を定義し、横軸はμs単位での時間である。測定される信号は、位相シフト補償付きで、3~100MHzの間で3dB制限されたデジタル4次バターワースフィルタを用いて帯域フィルタにかけられている。レーザパルスが表面に提供されると直ちに発生する最初の比較的大きな振幅変動GEは、表面で直ちに発生する超音波振動、すなわち発生事象である。その後、第1の超音波エコーE1が検出器230によって観測され、続いてより小さなエコーE2~E3が観測される。発生事象GEおよび後続するエコー由来の観測結果が、次いで例えば上記で述べたようなフーリエ変換モデルを用いて、時間領域から周波数領域に変換される。
【0048】
スペクトル成分は、エコーE1~E3および発生事象GEを含む
図4に示されている。値「+」は、スペクトル減衰に対して選択され、その値は、
図4に示すように、好ましくは、ノイズフロアNF(一点短鎖線によって示す)の約25倍であることができる。値「x」は、最大スペクトル振幅値の75%として選択される。
【0049】
測定される発生事象を基準として用いることにより計算されたスペクトル減衰の例を
図5に示す。計算は、例えば、以下の式で行われる:
【数3】
式中、A
GEは、発生事象GEの測定値によるスペクトル成分であり、A
nは、エコーE1~E3のうちの1つの測定値によるスペクトル成分である。さらに、Δdは発生事象GEからエコー番号nまでの移動距離である。好ましくは,時間領域において最大の振幅変動を示す、第1のエコーE1のスペクトル成分A
E1が使用される。
【0050】
粒界散乱による超音波減衰量は、超音波の波長および粒のサイズに依存する。一般式は次のように書かれる:
α~Γ(T)Dn-1fn
式中、nは散乱レジーム(レイリー数n=4、確率的数n=2)に依存し、Γ(T)は、温度に依存する異方性と、温度に依存する速度による見かけ上の波長とを考慮する。ここで考慮される波長範囲では、n~3は、次式のようになる:
α=a+b*f3
【0051】
次に、上記の3次多項式は、α
GE-nのスペクトルに関連する部分、すなわち
図4の値「x」と値「+」との間に当てはめられ、ここでは、下限周波数「x」は、最小二乗法を用いて、回折が無視できる領域に合わせて調整することができ、
図5に破線として表示される。当てはめられたパラメータbを金属組織の粒径(試料を急冷し、顕微鏡によって見出される)に対してプロットし、粒径に対する測定されるスペクトル減衰と相関する検量線の当てはめが行われる。上記で述べられた式の慣例に従うと、金属組織の平均粒径
【数4】
とパラメータbとの相関関係は次のように書くことができる。
【数5】
式中、δは、材料の異方性に依存する材料パラメータである。δの値が大きいほど、隣接する2つの粒子間の音響インピーダンスの不整合が大きく、エネルギーの散乱部分が大きくなることを意味する。
【0052】
本発明の第1の態様に従って発生事象を基準として用いることによって計算されたパラメータbの例を
図6に示す。この例では、鋼は25℃の室温にあった。鋼の温度が900℃であった鋼圧延機による事前に記録された発生事象を用いて計算されたパラメータbから、粒径の推定を行った。より具体的には、
図7では、粒径に対してプロットされたパラメータbを用いて計算された検量線の例を示す。
【0053】
図示された例では、7つのステンレス鋼(SAE304)試料を本発明に従ってLUSを用いて特性評価し、二重(twin)試料は、試料を半分に切断し、光学顕微鏡(LOM)および電子後方散乱回折顕微鏡(EBSD)で断面の粒界を撮像することによって破壊的に調べた。粒径は,超音波伝播の横断方向および伝播方向における平均2点間距離(mean linear intercept length)の平均値としてとられた。線形当てはめは、粒径推定およびパラメータbの計算の両方においてスプレッドにより重み付けした。
【0054】
図8は、本発明の第3の態様によるLUS測定機器200を有する装置100を含む鋼熱間圧延機1を示す。鋼熱間圧延機は、例えば連続熱間圧延機であることができる。図の左側から、鋼スラブ2はスラブ炉21で特定の圧延温度、例えば約1250℃に加熱される。次の工程では、鋼スラブ2は粗圧延機3に入り、ここでは、鋼スラブの厚さは、例えば約200mmから30mmに減少し、長さが増加して、鋼トランスファーバー(transferbar)となる。その後、鋼トランスファーバー2をコイル状にする。その後、鋼トランスファーバー2は、熱間圧延機1に入り、そこでは、まず、圧延皮膜を除去するために洗浄機器4で洗浄される。続く工程では、鋼トランスファーバー2は、対向して位置する1対またはそれ以上の対のローラ5によって圧延される。図示される例では、6対のローラがある。ローラ5の対は、鋼トランスファーバーの厚さを、例えば1.8~16mmに減少させる。熱間圧延機1の端部での圧延速度は、15m/sと高くてもよい。その後、薄い鋼帯2を、冷却セクションROT(ランアウトテーブル)機器6で冷却し、コイル状にし、かつ/または特定の長さに切断する。
【0055】
熱間圧延プロセスは、熱間圧延プロセス中の鋼板2の平均粒径を推定することによって、制御される。例えば、本発明の第1の態様の実施形態の工程を実行するコンピュータプログラムを含む制御ユニット300に接続されているLUS測定機器200は、
図8に示すように、ローラ5の対の前および/もしくは後、ならびに/または、隣接する2対のローラの間に配置される。制御は、フィードバック制御および/またはフィードフォワード制御であることができる。上記で述べたように、完成した鋼帯の所望の粒径に到達するために、速度、ローラ圧、温度などが制御される。
【0056】
図9は、鋼圧延プロセスにおいて、
- 発生レーザ210、検出レーザ220および検出器230を含むLUS測定機器200と、
- 本発明の第1の態様の実施形態のうちのいずれか1つによる方法の工程を実行するように構成された制御ユニット300と
を含む、鋼物体2の材料特性を測定するための装置100の概略図である。
【0057】
本発明の実施形態のうちのいずれか1つによる方法を実行するために、制御ユニット300は、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ、または他のプログラマブルデバイスを含むことができる。さらに、または代わりに、制御ユニットは、特定用途向け集積回路、プログラマブルゲートアレイもしくはプログラマブルアレイ論理回路、プログラマブル論理デバイス、またはデジタルシグナルプロセッサを含むことができる。制御ユニットが、上述したマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、またはプログラマブルデジタルシグナルプロセッサなどのプログラマブルデバイスを含む場合、プロセッサは、プログラマブルデバイスの作動方法を制御するコンピュータ実行可能コードをさらに含むことができる。
【0058】
LUS測定機器200は、1つまたはそれ以上の固定および/または可動ミラー240、レンズ250、およびファンネル付き保護スクリーン260をさらに含むことができ、構成要素のすべてまたはほとんどがハウジング270内に設けられる。発生レーザ210および検出レーザ220のレーザビームの、鋼帯2の表面への方向は、
図9に示すように、非同軸であることができる。レーザビームは、さらに、壁290の開口部280から照射される。
【0059】
本開示は、上述され、図面に示した実施形態に限定されるものではないと理解すべきであり;むしろ、添付の請求項の範囲内で多くの変更および修正が行われることを当業者は理解するであろう。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生レーザ(210)、検出レーザ(220)および検出器(230)を含むレーザ超音波(LUS)測定機器(200)を用いて金属物体(2)の粒径を推定する方法であって:
超音波パルスが物体で発生するように、また超音波振動が表面で直ちに発生するように、発生レーザによって物体の表面にレーザパルスを提供すること(S1)と、
検出レーザおよび検出器を用いることによって、物体からの少なくとも第1の後続超音波エコーを測定すること(S2)であって、超音波エコーは物体で発生する超音波パルス由来のエコーであることと、
を含み、
該方法は、さらに:
検出レーザおよび検出器を用いることによって、表面で直ちに発生する超音波振動を測定すること(S3)と、
測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づいて、超音波減衰パラメータを用いることによって粒径を推定すること(S5)であって、粒径は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに対する基準として、表面で直ちに発生する測定される超音波振動を用いて推定され、基準は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づくスペクトル振幅と、表面で直ちに発生する測定される超音波振動に基づくスペクトル振幅とを比較することによって提供されることと
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
物体は、レーザパルスが物体の表面に提供されるときに600℃以上の温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レーザパルスが物体の表面に提供されるときに、温度は、800~1200℃、例えば850~950℃である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、該方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供すること(S4)をさらに含み、物体の粒径は、3~200MHz、好ましくは3~100MHz、例えば3~40MHzの周波数範囲にある変換済み信号の値に基づいて推定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、該方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供することをさらに含み、物体の粒径は、スペクトル振幅閾値を超える変換済み信号の周波数範囲内の値に基づいて推定され、スペクトル振幅閾値は、(LUS)測定機器のノイズフロアを定義し、該ノイズフロア下では、変換済み信号はノイズと区別することはできない、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
金属物体(2)の粒径を測定するための装置(100)であって:
発生レーザ(210)、検出レーザ(220)および検出器(230)を含むレーザ超音波(LUS)測定機器(200)と、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法の工程を実行するように構成された制御ユニット(300)と
を含む前記装置。
【請求項10】
発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられ、かつ/または発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される、請求項9または10に記載の装置。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の装置を含む鋼圧延機(1)。
【請求項13】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき請求項1~8のいずれか一項に記載の工程を実行するプログラムコード手段を含む、前記コンピュータプログラム。
【請求項14】
コンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体であって、コンピュータプログラムは、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき請求項1~8のいずれか一項に記載の工程を実行するプログラムコード手段を含む、前記コンピュータ可読媒体。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生レーザ(210)、検出レーザ(220)および検出器(230)を含むレーザ超音波(LUS)測定機器(200)を用いて金属物体(2)の粒径を推定する方法であって:
超音波パルスが物体で発生するように、また超音波振動が表面で直ちに発生するように、発生レーザによって物体の表面にレーザパルスを提供すること(S1)と、
検出レーザおよび検出器を用いることによって、物体からの少なくとも第1の後続超音波エコーを測定すること(S2)であって、超音波エコーは物体で発生する超音波パルス由来のエコーであることと、
を含み、
該方法は、さらに:
検出レーザおよび検出器を用いることによって、表面で直ちに発生する超音波振動を測定すること(S3)と、
測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づいて、超音波減衰パラメータを用いることによって粒径を推定すること(S5)であって、粒径は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに対する基準として、表面で直ちに発生する測定される超音波振動を用いて推定され、基準は、測定される少なくとも第1の後続超音波エコーに基づくスペクトル振幅と、表面で直ちに発生する測定される超音波振動に基づくスペクトル振幅とを比較することによって提供されることと
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
物体は、レーザパルスが物体の表面に提供されるときに600℃以上の温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レーザパルスが物体の表面に提供されるときに、温度は、800~1200℃、例えば850~950℃である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、該方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供すること(S4)をさらに含み、
物体の粒径は、3~200MHz、好ましくは3~100MHz、例えば3~40MHzの周波数範囲にある変換済み信号の値に基づいて推定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
表面で直ちに発生する測定される超音波振動、および測定される少なくとも第1の後続超音波エコーは、時間領域において振幅変動を有する信号をもたらし、該方法は、信号を時間領域から周波数領域に変換するためのモデルを提供することをさらに含み、物体の粒径は、スペクトル振幅閾値を超える変換済み信号の周波数範囲内の値に基づいて推定され、スペクトル振幅閾値は、(LUS)測定機器のノイズフロアを定義し、該ノイズフロア下では、変換済み信号はノイズと区別することはできない、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
金属物体(2)の粒径を測定するための装置(100)であって:
発生レーザ(210)、検出レーザ(220)および検出器(230)を含むレーザ超音波(LUS)測定機器(200)と、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法の工程を実行するように構成された制御ユニット(300)と
を含む前記装置。
【請求項10】
発生レーザおよび検出レーザのレーザビームは、物体の表面上の同じ位置に向けられ、かつ/または発生レーザのレーザビームの方向および検出レーザのレーザビームの方向は、互いに対して角度分離されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
発生レーザおよび検出レーザは、異なるレーザビーム波長を提供するように構成される、請求項9または10に記載の装置。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の装置を含む鋼圧延機(1)。
【請求項13】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき、請求項9~11のいずれか1項に記載の装置に、請求項1~8のいずれか一項に記載の工程を実行させるプログラムコード手段を含む、前記コンピュータプログラム。
【請求項14】
コンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体であって、コンピュータプログラムは、前記プログラムがコンピュータで実行されるとき、請求項9~11のいずれか1項に記載の装置に、請求項1~8のいずれか一項に記載の工程を実行させるプログラムコード手段を含む、前記コンピュータ可読媒体。
【国際調査報告】