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特表2022-525737ポーラス炭素質材料の製造方法、ポーラス炭素質材料および該材料で製造された触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-19
(54)【発明の名称】ポーラス炭素質材料の製造方法、ポーラス炭素質材料および該材料で製造された触媒
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20220512BHJP
【FI】
C01B32/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552235
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(85)【翻訳文提出日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2020057622
(87)【国際公開番号】W WO2020200812
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】19166727.8
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】518364218
【氏名又は名称】ヘレウス バッテリー テクノロジー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マルクス クローゼ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン オーシンハ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリー ミチャウド-バーンロックナー
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ザミュリス
(72)【発明者】
【氏名】イェルク ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フッケ
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン クリューナー
(72)【発明者】
【氏名】エフゲニーア コマロヴァ
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC05B
4G146AC06B
4G146AC07B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AD11
4G146AD23
4G146AD24
4G146AD31
4G146BA18
4G146BC02
4G146BC23
4G146BC32A
4G146BC32B
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146BC34A
4G146BC34B
4G146BC37B
4G146CB09
4G146CB20
4G146CB34
(57)【要約】
ポーラス炭素質材料の既知の製造方法は、溶媒または中和剤を伴う長い重合および洗浄ステップを必要とする。細孔形成剤を多量に使用すると炭素収率が低下してコストが高くなり、硫酸を使用すると最終材料の硫黄汚染が生じるだけでなく腐食および腐食性の副生成物が生じ、プロセスの取扱いがより複雑になる。大きな細孔容積を有するポーラス炭素質材料の製造を可能にしつつ既知の方法の欠点を回避するために、a)少なくとも1つの炭素供給源および少なくとも1つの両親媒性種を準備するステップとb)少なくとも前記炭素供給源と前記両親媒性種とを合一して前駆体材料を得るステップとc)前記前駆体材料を少なくとも15分間にわたって300℃~600℃の範囲の温度に加熱してポーラス炭素質材料を取得し、次いでこれを冷却して最頻細孔径および細孔容積および骨格密度を有するポーラス炭素質材料を形成するステップとを含む方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つの炭素供給源および少なくとも1つの両親媒性種を準備するステップと、
b)少なくとも前記炭素供給源と前記両親媒性種とを合一して前駆体材料を得るステップと、
c)前記前駆体材料を少なくとも15分間にわたって300℃~600℃の範囲の温度に加熱して、ポーラス炭素質材料を得るステップと、
d)最頻細孔径および細孔容積および骨格密度を有する前記ポーラス炭素質材料を冷却するステップと、
e)前記ポーラス炭素質材料を粉砕して、破砕されたポーラス炭素質材料粒子を得るステップと、
f)前記粉砕されたポーラス炭素質材料粒子を700~1500℃の範囲の温度に加熱するステップと
を含む、ポーラス炭素質材料の製造方法。
【請求項2】
加熱ステップc)の間に、前記前駆体材料を少なくとも15分間にわたって350℃~550℃の範囲の温度に、さらにより好ましくは450~550℃の範囲の温度に加熱する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記破砕されたポーラス炭素質材料が、10mm未満、好ましくは5mm未満、最も好ましくは3mm未満のメジアン粒径(D50値)を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
加熱ステップc)における前記前駆体材料の加熱が、酸化段階を含み、前記酸化段階において、前記前駆体材料を酸化性雰囲気中で加熱することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記酸化段階中に前記前駆体材料を加熱する間の前記酸化性雰囲気が、酸素含有雰囲気であり、好ましくは25体積%未満の酸素含有率を有する雰囲気であり、特に好ましくは空気であることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記酸化段階中の前記前駆体材料の加熱を、150℃~470℃、好ましくは200℃~400℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記酸化段階が、60~360分の範囲、好ましくは120~300分の範囲の持続時間を有することを特徴とする、請求項4から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記炭素供給源が、ノボラック型フェノール系ホルムアルデヒド樹脂、特にノボラック型レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、あるいはノボラック型フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、加水分解性タンニン酸、リグニン、セルロース樹脂からなる群から選択される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの両親媒性種が、ブロックコポリマーおよび/または界面活性剤からなる群から選択され、好ましくは、少なくとも1つの両親媒性種が、両親媒性化合物を含み、前記両親媒性化合物が、2つ以上の隣接するエチレンオキシドベースの繰返し単位を含み、好ましくは5つ以上、より好ましくは7つ以上、より好ましくは20個以上、または30個以上、または50個以上でかつ1000個以下の隣接するエチレンオキシドベースの繰返し単位を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ブロックコポリマーが、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンの構造を有するトリブロックコポリマー、乳化剤、例えばポリエチレンポリプロピレングリコール、界面活性剤、例えばポリエチレングリコールモノアルキルエーテルおよび他の変性ポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
1.2g/cm~1.8g/cm、好ましくは1.3g/cm~1.7g/cmの範囲の骨格密度を有し、さらには相互接続された連続細孔を含む細孔を備えた、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法により得ることができる、ポーラス炭素質材料。
【請求項12】
前記細孔が、50~280nmの範囲の最頻細孔径を有する、請求項11記載のポーラス炭素質材料。
【請求項13】
前記細孔が、単峰性細孔径分布を有する、請求項11または12記載のポーラス炭素質材料。
【請求項14】
前記ポーラスカーボン材料が、モノリス体または粉末として存在する、請求項11から13までのいずれか1項記載のポーラス炭素質材料。
【請求項15】
金属粒子が分配された表面領域を有する触媒担体を備えた触媒であって、前記触媒担体が、請求項11から14までのいずれか1項記載のポーラス炭素質材料から製造されている、触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ポーラス炭素質材料の製造方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、ポーラス炭素質材料、および金属粒子が分配された表面領域を有する触媒担体を備えた触媒に関する。
【0003】
また本発明は、少なくとも1つの成分を含むガスを、該少なくとも1つの成分を選択的に吸収する吸収材料と接触させることを含む、ガス吸収方法に関する。
【0004】
ポーラス炭素質材料は、例えば燃料電池の電極、スーパーキャパシタ、電気蓄電池(二次電池)において、また液体および気体の吸収剤として、ガスの貯蔵媒体として、クロマトグラフィー用途または触媒プロセスにおける担体材料として、および医療技術または機械工学で使用される材料として、例えば航空宇宙用途の軽量材料として使用されている。
【0005】
従来技術
ポーラスカーボンフォームの成分は、古くから知られている。このフォームは、有機出発物質を不活性ガス下で1000~1500℃の温度に加熱することによって得られる。米国特許出願公開第2015/0284252号明細書に開示されたアプローチによれば、グラファイト性と、マクロポアおよび秩序化メソポアを有する二峰性構造とを有するカーボンフォームが、重合型プロセスにより得られる。
【0006】
米国特許出願公開第2015/0284252号明細書の方法では、ポリマーフォーム(例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレン)が犠牲テンプレートまたは足場として使用され、これは、大きなボイドおよび界面を伴う三次元相互接続マクロポーラス構造を提供する。このテンプレートには、フェノールまたは(レゾルシノールおよびノボラック樹脂も含む置換フェノール)およびアルデヒド(樹脂の架橋および形成用)、ポリ(アルキレンオキシド)、特にPluronic F127、P123およびF108、有機溶媒および水の混合物に含浸される。次に、含浸されたテンプレートをオートクレーブで1~4日間熱水処理する。加熱中、蒸発によって自己集合が引き起こされる。
【0007】
得られたカーボンフォームは、材料を1,000℃に処理するだけで高度の黒鉛化を示すが、大半のカーボン材料は、2,000℃を超える処理温度を必要とする。
【0008】
長時間の蒸発ステップを回避するもう1つの方法が、米国特許第8,227,518号明細書で提案されている。この方法では、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂および細孔形成剤としてのエチレングリコール、ならびに触媒または架橋剤が必要とされる。混合物を部分的に架橋させ、次いで102℃で熱油に注いで架橋ステップを完了させ、メソポーラスビーズを生成する。次に、架橋された樹脂ビーズを洗浄し、直接炭化させてメソポーラスカーボンビーズを生成することができる。架橋されたポーラス樹脂には、最終的なカーボン材料の細孔構造が既に存在する。報告された細孔容積は、約0.2~1.0cm/gの範囲である。
【0009】
より詳細には、記載された方法は、ノボラックフェノール-ホルムアルデヒド樹脂と、溶媒として使用される細孔形成剤との使用を含む。この方法は、溶液(溶媒としての細孔形成剤)中で行われ、ノボラック、修飾剤(必要な場合)、架橋剤および触媒(必要な場合)、ならびに細孔形成剤を含む混合物を加熱して架橋反応を開始させて固体樹脂を生成する。ポーラス樹脂は、モノリスであってもよいし、ミル処理により粉末(粒径1~1,000μm)にしてもよい。樹脂粉末を炭化して、メソポーラスおよびマクロポーラス範囲の細孔サイズを有するポーラスカーボンを得ることができる。
【0010】
重要なステップの1つは、細孔形成剤を除去するための洗浄ステップである。洗浄は、水または真空蒸留により低温で行われ、中和ステップを含む場合がある。炭化プロセスは400℃で始まり、700℃までに大部分が完了する。ただし、表面積は600℃を超える温度で増加し始める。700℃超で処理された材料について、材料の有意な導電率が測定される。
【0011】
このカーボン材料は、液相触媒担体、血液濾過、炭素が流動床で使用される用途、薬物送達またはキラル担体における用途などの高い物理的強度および高い耐摩耗性が要求される用途に有利である。
【0012】
Takahito Mitomea, Yuichiro Hirota, Yoshiaki Uchida, Norikazu Nishiyamaらは、“Porous structure and pore size control of mesoporous carbons using a combination of a soft-templating method and a solvent evaporation technique”; Colloids and Surfaces A: Physicochem. Eng. Aspects 494 (2016) 180-185, doi:10.1016/j.colsurfa.2016.01.009 ;において、トリブロックコポリマーとレゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂との複合材の自己集合プロセスによって製造されたメソポーラスカーボンについて説明している。通常、レゾルシノールは水/エタノール混合物に溶解され、次に3ブロックコポリマーであるPluronic F127が添加され、撹拌される。レゾルシノールおよびPluronic F127を完全に溶解させ、室温で溶媒を蒸発させた後、生成物を90℃で96時間加熱し、得られた複合材を、窒素雰囲気下で400℃で1.3℃/分の加熱速度で3時間炭化させ、次いで、800℃で1.7℃/分の加熱速度で3時間さらに炭化させる。このようにして得られたカーボン材料の細孔径は、6.8nm~56nmの範囲で調整可能である。
【0013】
Wannes Libbrecht, An Verberckmoes, Joris W. Thybaut, Pascal Van Der Voort, Jeriffa De Clercqは、“Tunable Large Pore Mesoporous Carbons for the Enhanced Adsorption of Humic Acid”; Langmuir, vol. 33, no. 27, 28 (June 2017); 6769-6777; doi:10.1021/acs.langmuir.7b01099;において、ソフトテンプレート法によるメソポーラスカーボンの製造方法について説明している。レゾルシノールおよび様々な量のF127(Sigma-Aldrich)を、エタノールおよびHClに溶解させる。均質化後、エタノールを室温で蒸発させ、次いでこの材料をマッフル炉で60℃で12時間硬化させる。硬化した樹脂を、管状炉内で窒素下でか焼し、炭化させる。1℃/分の加熱速度で350℃まで(保持時間2時間)の第1の加熱ステップにおいて、界面活性剤を除去する。第2の加熱ステップにおいて、材料を2℃/分の加熱速度(保持時間3時間)で400、800または1200℃の温度に加熱して、さらに炭化させる。次に、カーボンモノリスを粉砕し、150メッシュのフィルターでふるいにかける。このようにして得られたカーボン材料の細孔径は様々であり、4~40nmの範囲である。
【0014】
Kimberly M. Nelson, Shannon M. Mahurin, Richard T. Mayes, Ben Williamson, Craig M. Teague, Andrew J. Binder, Loic Baggetto, Gabriel M. Veith, Sheng Daiらは、“Preparation and CO2 adsorption properties of soft-templated mesoporous carbons derived from chestnut tannin precursors”; Microporous and Mesoporous Materials 222 (2016) 94-103, doi:10.1016/j.micromeso.2015.09.050;において、カーボン前駆体としてポリフェノール不均一バイオマスである栗タンニンを使用したメソポーラスカーボンのソフトテンプレートアプローチについて説明している。栗タンニン抽出物と構造指向剤であるPluronic F127とを酸性エタノール中でその場で自己集合させることにより、メソポーラスカーボンを合成した。溶液をペトリ皿にキャストして溶媒を一晩蒸発させ、続いてオーブンに移して80℃で24時間硬化させた。次に、試料を600℃で2時間、5℃/分の勾配速度で炭化させた。
【0015】
米国特許出願公開第2016/102187号明細書には、従来のポリアミドと比較して官能基1つあたりの芳香族含有量の水準が増加したモノマーから製造されたポーラスポリアミドエアロゲルが記載されている。
【0016】
技術的目標
米国特許出願公開第2015/0284252号明細書から知られている方法では、カーボンフォームが得られる。一般にカーボンフォームは、0.1g/cm未満の非常に低い密度と、不活性ガス下での高温耐久性とを特徴とする。しかし多くの用途では、一般的な最小細孔径は約50μmであり、この材料では得られない大きな比表面積の、ナノメートル範囲の細孔が必要である。テンプレート材料としてポリマーフォームを使用すると、プロセスの全体的な収率が低下し、反応容器において大容量が必要となる。自己集合ステップを行うには、オートクレーブ内で長時間の水熱処理が必要である。
【0017】
米国特許第8,227,518号明細書の方法は、混合物を部分的に架橋させ、次いでキャストしてブロックとしてモノリスを形成するか、または油に滴下してビーズを形成し、その後これをさらに処理する前に洗浄する必要がある多段階プロセスを含む。重合ステップは長く、洗浄ステップには溶媒または中和剤が必要である。細孔形成剤を多量に使用すると、炭素収率が低下してコストが高くなり、硫酸を使用すると、最終材料の硫黄汚染が生じるだけでなく、腐食および腐食性の副生成物が生じ、プロセスの取扱いがより複雑になる。
【0018】
本発明の目的は、大きな細孔容積を有するポーラス炭素質材料の製造を可能にしつつ、既知の方法の欠点を回避する方法を提供することである。
【0019】
本発明のもう1つの目的は、特に粉砕に必要なエネルギーが減少するといった、さらなる処理に向けた利点を提供するポーラスカーボン材料を提供することである。
【0020】
本発明のもう1つの目的は、廉価な電気化学的エネルギー貯蔵デバイスおよび廉価な触媒担体を提供することである。
【0021】
発明の概要
上記の目的のうちの少なくとも1つを達成するための寄与は、独立請求項によってなされる。従属請求項は、本発明の好ましい実施形態を提供するが、これらも上記の目的のうちの少なくとも1つを達成する役割を果たす。
【0022】
本発明によれば、ポーラス炭素質材料の製造方法は、
a)少なくとも1つの炭素供給源および少なくとも1つの両親媒性種を準備するステップと、
b)少なくとも前記炭素供給源と前記両親媒性種とを合一して前駆体材料を得るステップと、
c)前記前駆体材料を少なくとも15分間にわたって300℃~600℃の範囲の温度に加熱して、ポーラス炭素質材料を得るステップと、
d)平均細孔径および細孔容積および骨格密度を有する前記ポーラス炭素質材料を冷却するステップと、
e)前記ポーラス炭素質材料を粉砕して、破砕されたポーラス炭素質材料粒子を得るステップと、
f)前記粉砕されたポーラス炭素質材料粒子を700~1500℃の範囲の温度に加熱するステップと
を含む。
【0023】
このポーラス炭素質材料の製造方法では、ソフトテンプレートアプローチが用いられる。両親媒性種は、加熱ステップc)の間に炭素供給源からの3次元構造体の形成を指示する役割を果たす。両親媒性種に含まれる炭素原子は、最終的なマクロポーラスカーボン材料の一部となり、その方法には、テンプレート材料は不要である。これにより、プロセスがより廉価になり、規模の変更がより容易になる。
【0024】
混合物を、300~600℃の範囲の温度で、好ましくは350~550℃の範囲の温度に、さらにより好ましくは450~550℃の範囲の温度に処理することにより、ポーラス炭素質材料を生成する。
【0025】
前駆体材料を少なくとも15分間にわたって300℃~600℃の範囲の温度に加熱することによって自己集合プロセスが始まり、炭素供給源が架橋および/または固化する。好ましくは、自己集合プロセスは、炭素前駆体が架橋および/または固化する点の前に終了する。両親媒性種は、特定の温度、例えば170℃で始まる温度または280~320℃で分解するため、両親媒性分子は部分的または完全に分解される。両親媒性分子の分解によって相互接続されたボイドが残り、これが、結果として生じるカーボン材料のマクロ多孔性に寄与する。600℃未満の加熱温度での処理は、完全な炭化よりも低く、またはさらには黒鉛化が生じるため、所望の細孔構造と低い骨格密度とを備えたポーラス炭素質材料が得られる。
【0026】
低温、特に50℃未満、好ましくは40℃未満、そして通常は室温に冷却した後に、低骨格密度、高多孔性でかつ軽量であることを特徴とするポーラス炭素質材料が得られる。このポーラス炭素質材料は、相互接続された連続細孔を含むマクロ細孔を含み、1.2g/cm~1.8g/cm、好ましくは1.3g/cm~1.7g/cmの範囲の骨格密度を有することが好ましい。得られた材料は、例えばガス収着を含む多くの様々な用途に適した多孔性をすでに示している。
【0027】
単純なオーブン技術で達成可能な300℃~600℃の温度で炭素質材料を合成できることが本方法の利点であり、これにより処理のコストが削減される。本発明によれば、完全に炭化も黒鉛化もされていないポーラス炭素質材料が合成される。その後、これを多くの様々な方法で処理および/または改質することができ、またその製造方法はさほどコストがかからない。
【0028】
600℃までの低い温度への合成ステップですでにオフガスの大半を放出することができ、したがって、残りの材料を、その後のステップ、例えばさらなる熱処理において、その質量減少ゆえにより速く処理することができ、これによりこれらのステップのスループットが向上し得る。さらに、600℃以下の温度を使用して合成された炭素質材料の場合、より高い温度で処理された同等の材料よりも、材料の表面での酸素含有官能基の含有量が高くなる。このことは、そのような酸素含有官能基の少ない他の炭素または炭素質材料と比較して、追加の官能基の結合に有益である。また、合成中の最終温度が低いと、加熱ステップの場合のエネルギー消費が著しく減少し、その温度に到達するまでに要する時間が短縮される。
【0029】
本発明のアプローチによって、マクロ多孔性が調整可能でありかつ骨格密度が低い炭素質のポーラス材料の合成が可能となると総括することができる。その最も単純な形態では、記載された材料を得るために、合成には炭素供給源および両親媒性分子のみが必要であり、架橋剤、溶媒、熱油浴は不要である。「細孔形成剤」は、低温加熱プロセス中に両親媒性種から生成され、純粋な炭素が残り、これが炭素質生成物の一部を形成する。したがって、コストのかかるプロセスで細孔形成剤を除去する必要はない。合成は、400℃ほどの低温で短時間で行うことができ、完了まで日数を必要としない。また、本方法には、不活性化が可能なオーブンであればすでに十分であり、従来技術に記載されているものとは対照的に、ソルボサーマルまたは水熱処理のためのオートクレーブは不要である。
【0030】
炭素供給源は、好ましくは、ノボラック型フェノール系ホルムアルデヒド樹脂、特にノボラック型レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、あるいはノボラック型フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、または加水分解性タンニン酸、リグニンまたはセルロース樹脂である。炭素供給源は、単一の材料であるか、または2つ以上の炭素供給源材料の混合物を含む。
【0031】
両親媒性分子は、好ましくは、ブロックコポリマーおよび/または界面活性剤である。最も好ましくは、ブロックコポリマーは、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンの構造を有するトリブロックコポリマー、乳化剤、例えばポリエチレンポリプロピレングリコール、界面活性剤、例えばポリエチレングリコールモノアルキルエーテルおよび他の変性ポリエチレングリコールからなる群から選択される。
【0032】
前駆体の成分が液体またはペースト状である場合、炭素質材料は、前駆体材料を表面または注型用金型に注ぐことによってモノリスとして得ることができる。したがって、本明細書に記載の炭素質材料のモノリシック体を製造することが可能である。モノリスは、三次元の物体または平らな層であり得る。好ましい一実施形態において、粒子の形態またはモノリスの形態のポーラス炭素質材料を、さらなる処理に供する。ステップd)により冷却した後、次のステップe)においてポーラス炭素質材料を粉砕して、粉砕されたポーラス炭素質材料粒子を得る。
【0033】
そのような粒子は破断面を有し、しばしば非球形の形態を示し、これは多くの用途にとって望ましい。ポーラス炭素質材料の骨格密度が低いことによって、粉砕に必要なエネルギーが減少し、かつ高密度カーボン材料の高力粉砕プロセスと比較してそのような低力粉砕プロセスのための追加の媒体が利用可能となるという利点が、処理に対して提供される。
【0034】
本明細書に記載のポーラス炭素質材料の骨格密度は低く、粉砕、例えばミル処理および/または破砕において材料が必要とするエネルギー投入量は比較的少なく、より多くのミル処理媒体が使用可能である。
【0035】
このアプローチは、2ステップの方法を含み、炭素質材料を生成するための第1のステップにおいて、両親媒性種の分解と炭素供給源の架橋とによる自己集合が行われ、冷却および粉砕、ならびに任意に他の前処理が行われた後に、続いて炭化ステップまたは他の後処理を行うことができる。
【0036】
本発明の方法によって製造されたポーラス炭素質材料は、不活性条件下で追加の熱処理を用いることにより、ポーラスカーボン生成物の前駆体材料として特に適している。
【0037】
これを考慮して、破砕されたポーラス炭素質材料粒子を、次のステップf)で、700~1500℃の範囲の温度に加熱する。
【0038】
不活性ガス雰囲気下での700℃を上回る追加の熱処理を適用することによって、ポーラス炭素質材料を、ミクロポア含有量が少なく内部表面積が大きい多孔性の導電性カーボンに変換することができ、これを、例えば電解質の拡散を改善するためのエネルギー貯蔵デバイスに使用することができる。
【0039】
本方法の好ましい一変更形態では、破砕されたポーラス炭素質材料は、10mm未満、好ましくは5mm未満、最も好ましくは3mm未満のメジアン粒径(D50値)を有する。
【0040】
好ましい一実施形態において、架橋剤がステップb)で前駆体材料に添加される。架橋剤は、好ましくはポリアミン化合物から選択され、好ましくは、架橋剤は、ヘキサメチレンテトラミンである。
【0041】
架橋剤を添加することにより、カーボン材料の多孔性および比重を調整することができる。
【0042】
その間に、炭素供給源(例えばフェノール系樹脂)および両親媒性種の架橋および熱分解が生じる。炭素供給源は熱処理中に分解して、典型的には30~50重量%の範囲の収率で炭素を形成する。両親媒性種はほぼ完全に分解して細孔形成剤として機能し、これにより混合物の総炭素収率が(例えば15~33重量%に)減少する。架橋および熱分解ステップは、典型的には不活性雰囲気中で、大気圧でまたはわずかに大気圧を下回って行われる。これは、高温の酸化性雰囲気が炭素のバーンオフにつながる可能性があると想定されるためである。架橋および熱分解ステップを、低圧下または真空下で、例えば500ミリバール未満、好ましくは300ミリバール未満の絶対圧下で行うことも可能である。
【0043】
驚くべきことに、加熱ステップc)が酸化段階を含み、該段階において、酸化剤を含む雰囲気中で前駆体材料を処理すると、前駆体材料における炭素収率(%で表される)を約10%(絶対値)まで増加させ得ることが判明した。酸化剤は酸素を含むことができ、好ましくは、酸化剤は、酸素、二酸化炭素および水からなる群の成分のうち少なくとも1つを含む。この収率向上についての考え得る(しかし拘束力のない)説明は、酸化剤由来の酸素がポリマーネットワークに組み込まれるということである。しかしこの組込みは、生成物がCOまたはCOとして去ることによりさらなる炭化の間に酸素が除去され、これにより総炭素収率が減少するというように行われるのではなく、組み込まれた酸素が架橋中にポリマーネットワークを安定化させ、この安定化によりさらなる炭素損失が減少するというように行われる。
【0044】
したがって、好ましい一実施形態において、ステップc)における前駆体材料の加熱は、酸化段階を含み、該段階において、酸化剤を含む雰囲気中で前駆体材料を加熱する。
【0045】
酸化段階中に前駆体材料を加熱する間の酸化剤を含む雰囲気が、酸素を分子形態でOとして含む雰囲気であってよく、好ましくは25体積%未満の酸素含有率を有する雰囲気であってよく、特に好ましくは空気であってよい場合、有利であることが判明した。
【0046】
雰囲気の「酸化効果」によって、前駆体材料の酸化、特に炭素供給源の酸化が生じる。酸化反応の強度(速度)は、温度に依存する。上記の下限温度では、強度は十分に高く、長い加熱時間を回避できる。上限温度では、酸化剤を含む雰囲気が変更され、さらに加熱は不活性ガス下で行われる。これと同時に、上限温度は、低温処理の「第1の温度」に一致し得る(しかしこれは必須ではない)。
【0047】
酸化段階中の前駆体材料の加熱は、好ましくは150℃~520℃、より好ましくは200℃~470℃の温度範囲で行われる。
【0048】
酸化の程度は、酸化性雰囲気中の酸化剤、例えば分子形態の酸素の含有量、および酸化段階の持続時間にも依存する。
【0049】
酸化段階が、60~360分の範囲、好ましくは120~300分の範囲の持続時間を有する場合に有益であることが判明した。
【0050】
ポーラスカーボン材料に関しては、該材料が、1.2g/cm~1.8g/cmの範囲の低い骨格密度を有し、さらには相互接続された連続細孔を含む細孔を備えたポーラス炭素質材料であるという点で、上記の目的が達成される。
【0051】
ポーラス炭素質材料の骨格密度が低いことによって、粉砕に必要なエネルギーが減少するという処理に対する利点、およびそのような低力粉砕プロセスのための追加の媒体が提供される。そのようなポーラス炭素質材料は、上記の本発明の方法によって得ることができる。
【0052】
ポーラス炭素質材料は、好ましくは、モノリスの形態または粉末の形態で存在する。相互接続された細孔は、モノリスの表面にまたは粉末粒子の表面に開口している。相互接続された連続細孔は、液体、気体、分子、原子およびイオンをモノリスまたは粒子を通して輸送するのに適している。
【0053】
好ましい一実施形態において、ポーラス炭素質材料は、50~280nmの範囲の最頻細孔径を有し、最も好ましくは、単峰性細孔径分布を組み合わせて有する。最頻細孔径が50~280nmであることの利点は、イオンが大きな細孔ネットワークを有し、もはや壁効果がイオンの輸送を妨げないことにある。より小さな細孔は、イオン輸送を提供するには小さすぎることが多く、非常に屈曲性の高い細孔ネットワークを形成することが多い。より大きな細孔は、利用可能な細孔の数を制限し、粒子の機械的強度を低下させるおそれがある。
【0054】
本発明の方法によって製造されたポーラス炭素質材料を含む本発明のポーラス炭素質材料は、ポーラス炭素質材料が一般的に使用されるすべての用途に適している。上記の用途に加えて、電気化学的エネルギー貯蔵デバイスのセパレータの製造に、電極を通じた電解質の拡散の改善を可能にする連続多孔性を維持するための電気化学的エネルギー貯蔵デバイスにおける添加剤として、触媒用途の金属粒子を固定するための触媒担体として、特にろ過液用のメカニカルフィルタ材料として、液体および気体、特にCOの貯蔵材料として、分離すべき材料を選択的に吸収するクロマトグラフィーの固定相として、低圧または真空下での断熱材として、特に適している。
【0055】
電気化学的エネルギー貯蔵デバイスの添加剤に関しては、電気化学的貯蔵デバイスが正および負の電極層を含み、該電極層が、活物質と、結合剤と、他の炭素質材料と、本発明によるポーラス炭素質材料とから製造されるという点で、上記の目的が達成される。製造時に、電極層は圧縮に供される。ポーラス炭素質材料は、本発明により機械的に安定した様式で設計されているため、相互接続された連続細孔は、圧縮後も電極内に存在したままである。
【0056】
電気化学的エネルギー貯蔵デバイスに関しては、電気化学的エネルギー貯蔵デバイスがセパレータを含み、該セパレータが、本発明によるポーラス炭素質材料から製造されるという点で、上記の目的が達成される。
【0057】
触媒に関しては、触媒担体が本発明によるポーラス炭素質材料でできているという点で、上記の目的が達成される。
【0058】
金属粒子は、単体金属もしくは金属合金から製造されるか、または金属含有前駆体を形成する。金属粒子は、例えば触媒用途で活性金属部位を導入するために使用される。金属含有前駆体が出発材料の初期混合物に含まれるというアプローチとは対照的に、炭素質ポーラス材料の表面に該金属粒子が分配されることで、該金属粒子を細孔内の到達可能な表面に配置することが保証され、その後それが、到達不可能と考えられ得る箇所で構造物の内部に組み込まれ得る。
【0059】
ガス吸収のプロセスに関しては、吸着材料が本発明によるポーラス炭素質材料を含むという点で、上記の目的が達成される。
【0060】
試験方法および定義
以下の試験方法が使用される。試験方法が記載されていない場合には、本出願の最も早い出願日の前に直近で公開された、測定すべき特徴に関するISO試験方法が適用される。明確な測定条件が記載されていない場合には、298.15K(25℃、77°F)の温度および100kPa(14.504psi、0.986atm)の絶対圧力としての標準周囲温度および圧力(SATP)が適用される。
【0061】
水銀ポロシメトリー(細孔径および細孔容積)
異なる細孔径についての特定の細孔容積と、累積細孔容積と、多孔度とを、水銀ポロシメトリーによって測定した。この試験では、反対の表面張力に対する外圧の作用下で、水銀がポーラス材料の細孔に押し込まれる。必要な力は細孔径に反比例するため、累積総細孔容積だけでなく、試験体の細孔径分布も決定できる。
【0062】
水銀ポロシメトリー分析は、ISO 15901-1(2005)に従って行った。Thermo Fisher Scientific PASCAL 140(4バール以下の低圧)およびPASCAL 440(4000バール以下の高圧)およびSOLID Version 1.6.3 (26.11.2015)ソフトウェア(いずれもThermo Fisher Scientific, Inc.製)を、最頻細孔径が140.2nm、細孔容積が924.4mm/gのポーラスガラス球(BAM製ERMFD122参照材料)を使用して校正した。測定中、圧力を連続的に増加または減少させ、PASCALモードで、侵入の場合は8、排出の場合は9に設定された速度で動作する機器によって自動的に制御した。評価にはウォッシュバーン法を採用し、Hgの密度を実際の温度に合わせて補正した。表面張力の値は0.48N/mであり、接触角は140°であった。試料サイズは約25~80mgであった。測定を開始する前に、試料を真空中で1時間かけて150℃に加熱した。
【0063】
水銀ポロシメトリーは、比較的大きな細孔(メソポアないしマクロポア)の測定に適している。メソポアとは、細孔径が2~50nmの範囲にある細孔を意味し、マクロポアとは、細孔径が50nmを超える細孔を意味し、ミクロポアとは、細孔径が2nm未満の細孔を意味する。
【0064】
「最頻細孔径」は、ソフトウェアにより決定される。これは、グラフ上でlog微分細孔容積の最大値を示す細孔径を定めたものであり、log微分細孔容積(dV/d(logD)、ここで、Vは水銀浸透体積、Dは細孔径を表す)は、水銀ポロシメータで測定された細孔径に対してプロットされ、体積ベースである。dV/d(logD)曲線は、細孔径の確率密度関数である。「最頻細孔径」とは、最も存在度の高い細孔径に相当する。典型的な細孔径範囲は、1nm~10000nmである。
【0065】
ガス吸着(全比表面積(BET total )および外部表面積(BET ext ))
粒子の比表面積を決定するためのBET測定は、DIN ISO 9277:2010に従って行われる。測定には、SMART法(Sorption Method with Adaptive dosing Rate、適応的分注速度による収着法)に従って動作するNOVA 3000(Quantachrome製)を使用する。基準物質として、Quantachromeより入手可能なQuantachrome Alumina SARMカタログ番号2001(BET多点法で13.92m/g)およびSARMカタログ番号2004(BET多点法で214.15m/g)を使用する。デッドボリュームを減らすために、参照キュベットおよび試料キュベットにフィラーロッドを追加する。これらのキュベットをBET装置に取り付ける。窒素ガス(N 4.0)の飽和蒸気圧を調べる。フィラーロッドを備えたキュベットが完全に満たされて、生じるデッドボリュームが最小となる量の試料を、ガラスキュベットに秤り入れる。試料を乾燥させるために、試料を真空下で200℃で1時間保持する。冷却後、試料の重量を記録する。試料が入ったガラスキュベットを測定装置に取り付ける。試料を脱気するために、選択したポンプ速度で排気し、最終圧力10ミリバールまで材料がポンプに吸い込まれないようにする。
【0066】
脱気後の試料の重量を、算出に使用する。データ分析には、NovaWin 11.04ソフトウェアを使用する。5つの測定点を使用した多点分析を行い、得られる全比表面積(BETtotal)をm/gで示す。各試料セルのデッドボリュームを、ヘリウムガス(He 4.6、湿度30ppmv)を使用して測定前に1回調べる。ガラスキュベットを、液体窒素浴を使用して77Kに冷却させる。吸着のために、77Kで0.162nmの分子断面積を有するN 4.0を算出に使用する。
【0067】
経験的なtプロット手法を、ISO 15901-3:2007に従って使用して、0.1を超える相対圧力でのミクロポアによる寄与と残りの多孔性(すなわち、メソポーラス、マクロポーラスおよび外部表面積の寄与)による寄与とを区別し、ミクロポア表面積(BETmicro)およびミクロポアの容積を算出する。tプロットの線形部分を決定するために、カットオフp/p以下、典型的には0.1p/p以下の低圧等温線のデータ点を選択する。正のC定数を得ることによって、データ点の選択を検証する。ミクロポアの容積を、縦座標の切片から求める。ミクロポア比表面積(BETmicro)は、tプロットの傾きから算出できる。
【0068】
骨格密度(材料密度またはバックボーン密度ともいう)
骨格密度の測定は、DIN 66137-2に従って行った。0.49g~0.51gの粉試料を試料セルに量り取り、測定前に真空下で200℃で1時間乾燥させた。算出には乾燥後の質量を使用した。測定には、Thermo Fisher Scientific, Inc.のPycnomatic ATC Helium Pycnometerを使用し、「小さい」試料体積および「小さい」参照体積を使用した。このピクノメーターを、約3cmの周知の体積を有する「極小」球を使用して毎月校正する。測定は、DIN規格に準拠して、純度4.6のヘリウムを使用し、温度20.0℃、ガス圧約2バールで行った。
【0069】
熱重量分析(TGA)
熱重量分析は、Netzsch Proteusソフトウェアを使用してNetzsch TG 209F1 Libra熱分析装置で行った。TG209標準試料ホルダおよび試料温度測定用の標準タイプK熱電対を使用した。典型的な初期試料重量は、約15~30mgであった。測定前に試験準備ステップを行わなかった。
【0070】
測定チャンバ内の温度が、20cm/分の流量でアルゴン雰囲気(純度5.0)中で5℃/分の加熱速度で25℃から1000℃に上昇したときに、Alるつぼ内の試料の重量を記録する。
【0071】
実験中の浮力の変化を補正するために、類似の体積の不活性Al粉末で満たされたAlるつぼの見かけの重量を同等の条件下で別々に記録し、測定シグナルから差し引く。
【0072】
収集したデータを、[{(温度Tにおける試料重量-温度Tでの浮力からの見かけの重量)/初期試料重量}×100]を[%]で表したものにより定められる、測定した残りの重量パーセントとして(第1のy軸上に)、また熱電対により得られた試料温度Tを(第2のy軸上に)、時間の関数としてプロットする。あるいはプロットは、温度を直接x軸として有することもできる。
【0073】
XPSによる表面上の酸素含有率
材料の表面上の酸素含有率を取得するために、Physical Electronics社製 X-ray Photoelectron Spectrometer (XPS) machine PHI-5800 ESCAを使用した。直径1.5cmのリング状の粉末試料ホルダに粉末材料をタッピングすることにより、約10mgの量の試料を準備した。1253.6eVのエネルギを有する非単色MgKα線を使用し、0~1200eVの光電子エネルギについてスペクトルを得た。分析した面積は、0.5×0.5mmであった。他の機器パラメータはいずれも、標準値に設定した。スペクトルを、ソフトウェアMultipak 9.6.1を使用して炭素の1sピークおよびフィットによって校正した。酸素の原子百分率を、得られたスペクトルの(O1sピーク)のフィットから導き出す。
【0074】
粒径
粒径分布のD50値は、累積粒子体積の50%が達しない粒径(粒径のメジアン値)を特徴づける。
【0075】
315μm未満の粒径および対応するサイズ分布を、ISO 13320に準拠した分散試料のレーザ回折によって決定した。使用した測定機器は、He-Neレーザ、青色LEDおよび周囲温度(23℃)で測定するための湿式分散ユニットを備えたMalvern製Mastersizer 3000であった。粒径分布のD50値は、21 CFRデバイスソフトウェアを使用して形状係数1で決定した。
【0076】
315μmを超える粒径および対応するサイズ分布は、「Air Jet RHEWUM LPS 200 MC」ふるい装置(RHEWUM GmbH)を使用したふるい分析により決定した。
【0077】
ここで、本発明につき、図面を参照してさらに説明する。図面および図面の説明は例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】試料の熱重量分析のグラフを示す。
図2】第1の試料の細孔径分布のグラフを示す。
図3】第2の試料の細孔径分布のグラフを示す。
図4】第3の試料の細孔径分布のグラフを示す。
図5】第4の試料の細孔径分布のグラフを示す。
図6】比較例の細孔径分布のグラフを示す。
図7】複数の試料の骨格密度のグラフを示す。
図8】アルゴン中および合成空気中の双方における1000℃以下に加熱された特定の前駆体材料の熱重量分析(TGA)の結果を示す。
【0079】
実施例
好ましい一実施形態において、水性レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂(ノボラック樹脂)またはレゾルシノール-ホルムアルデヒド/フェノール系ホルムアルデヒド樹脂(ノボラック型)の固形ペレットと、両親媒性分子(ブロックコポリマーまたは界面活性剤または(非イオン性)乳化剤または両親媒性分子の組合せのいずれか)とを合一することにより、ポーラスカーボン材料を製造する。各成分を混合して、均質な前駆体材料を取得し、これをるつぼに充填する。このるつぼを、熱処理のためにオーブンに入れる。
【0080】
この熱処理を、室温から300~600℃の範囲の高温まで加熱することにより窒素雰囲気中で1ステップで行う。加熱プログラムは、次のとおりである:
1K/分で25℃から250℃まで、250℃で60分間保持、0.5K/分で250℃から400℃まで、400℃で60分間保持、次いで(400℃が最終処理温度でない場合には)1K/分で最終温度まで加熱し、この最終温度で30または60分間保持。このようにして得られたポーラス炭素質材料を冷却し、オーブンから取り出し、機械的に破砕/ミル処理して所望の粒径にする。
【0081】
表1に、試験した配合および熱処理の条件を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
4列目に示されている「重量比」は、各物質の総重量の比を示す。例えば、779 W 50 Askofen樹脂は、ノボラック型の水性レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂であり、50重量%の固体樹脂および50重量%の液相を含む。したがって、この物質の5重量部は、2.5重量部の樹脂に相当する。
【0084】
結果の再現性を確認するために、各配合について複数の実験を行った。
【0085】
米国特許第8227518号明細書による比較例
100gのAskofen 779 W50と60gのエチレングリコールとの混合物;窒素雰囲気下で500℃に熱処理。両親媒性種を細孔生成剤として使用する代わりに、非両親媒性分子であるエチレングリコール(CAS:107-21-1)を使用した。
【0086】
使用した材料の商業的供給元を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
図1のグラフは、配合1により製造された炭素質材料の1000℃以下のアルゴン中での熱重量分析の結果を示す(400℃での熱処理)。試料の重量損失Δm(%)が、加熱時間t(分)の関数として第1の縦座標にプロットされている。測定チャンバ内の温度が第2の縦軸にプロットされており、これは1000℃の終了温度に達するまで一定の加熱速度(5℃/分)を示し、その後30分間の等温線が保持される。
【0089】
図1の曲線Aは試料の質量損失を示し、曲線Bは加熱温度を示し、曲線Cはアルゴンフラッシングの質量流量を示している。したがって、ポーラス炭素質材料は、500℃以下の処理で、その初期重量の最大で約10%を失う。より高い温度では著しい重量損失が起こり、これは、材料の温度安定性が低いことを示している。このことは、ポーラス炭素質材料の継続的な炭化プロセスによって説明できる。一方、ポーラス炭素質材料の安定性が低いため、二次温度処理をより速く行うことができる。
【0090】
図2図6のグラフは、ポーラス炭素質材料の分布を示している(図2は、試料1について、図3は、試料2について、図4は、試料3について、図5は、試料4について、図6は、米国特許第8,227,518号明細書による比較例について)。
【0091】
細孔径D[nm]に対して、累積細孔容積V[cm/g]が左側の縦座標にプロットされており、微分値dV/d(logD)が右側の縦座標にプロットされている。本発明による試料はいずれも、約50nm~280nmのマクロポア範囲に細孔径の最大値を有する単峰性細孔径分布を有することが分かる。約10,000nmまでのD値を有するいくつかのより大きな細孔も存在するが、これらは粒子間細孔と解釈され、粒子の細孔構造に属するものではない。
【0092】
これとは対照的に、比較例の結果として得られた炭素質材料は、図6に示すように、所望の範囲の適切な多孔性を示していない。この細孔径分布は、約0.002cm/gという小さな細孔容積を示しており、つまり、この材料は非多孔性である。図の曲線Dは、累積細孔容積を示し、2つの曲線EおよびFは、細孔径導関数を細孔径の関数として示したものである(曲線Fは、測定されたデータ点の平滑化された曲線である)。これらはいずれも、1つの材料に対して1回の測定で得られたものである。
【0093】
表3に、窒素吸着、Hgポロシメトリーおよびヘリウムピクノメトリーから得られた炭素質材料の特性を列挙する。
【0094】
【表3】
【0095】
炭素質材料の合成に使用したそれぞれの前駆体の個々の種類および比率に応じて、1.3cm/gから最大1.7cm/gまでの骨格密度を達成することができる。これを図7に示す。x軸上の分布は、個々のデータ点を示すための単なる散布図である。グループ化は、材料のクラスに対応する。参照符号「1」で示された点のグループは、炭素供給源「Askofen 779 W 50」を使用した20回の測定に基づくものである。算出された骨格密度の平均値は、1.47g/cmである。点「2」のグループは、炭素供給源「Alnovol PN320」を使用した23回の測定に基づくものである。算出された骨格密度の平均値は、1.34g/cmである。点「3」のグループは、炭素供給源「Penacolite B-16S」を使用した4回の測定に基づくものである。算出された骨格密度の平均値は、1.37g/cmである。灰色の帯「4」は、900℃の高温で処理された前駆体材料について測定された骨格密度値に相当する。そこに示される値は、47個の試料全体の骨格密度範囲に対して与えられたものである(値の平均ではない)。
【0096】
表4に、試料番号4および5についての、窒素吸着、Hgポロシメトリー、ヘリウムピクノメトリー、熱重量分析およびX線光電子分光法から得られた追加の材料特性を列挙する。
【0097】
【表4】
【0098】
「質量損失」の欄には、ポーラス炭素質材料を不活性ガス下で1000℃に加熱した際の質量損失が列挙されている。
【0099】
表面上の酸素含有率は、材料の比表面積の指標である。酸素含有率は、XPS法を使用して測定したものである。
【0100】
表3および表4に示すように、炭素質材料のマクロ多孔性は、400℃という低い最終合成温度ですでに確立されており、温度を600℃に上げても大きく変化することはない(配合1と配合4とを比較)。最終合成温度を600℃に上げた場合の主な違いは、比表面積の増加、逆にいえば表面上の酸素含有率の減少である。したがって、材料の所望の仕様に応じて、炭素質材料の特性を調整することができる。さらに、材料が最初に得られる温度に応じて、さらに不活性ガス雰囲気下で1000℃まで加熱した際の質量損失が影響を受け得る。これにより、合成後の所望の後処理に応じて材料特性を追加的に調整することが可能となる。すなわち、例えば合成温度(例えば400℃または600℃)に応じて、このような後処理中の材料からのガス放出を低減することができる。このことは、例えば600℃の合成温度を使用することにより、400℃で得られた材料と比較して、後処理ステップでより高いスループットを達成できることを意味する。
【0101】
表5に、配合番号6についての、窒素吸着、Hgポロシメトリー、ヘリウムピクノメトリーおよび熱重量分析から得られた追加の材料特性を列挙する。
【0102】
【表5】
【0103】
表5に示すように、炭素質材料のマクロ多孔性は、加水分解性タンニン酸カーボン前駆体を用いても達成可能である。したがって、炭素質材料の特性は、材料の所望の仕様に応じて炭素供給源を選択することによっても調整できる。
【0104】
また本明細書に記載の炭素質材料は、電流を伝導せず、すなわち電気絶縁体である。このような多孔質絶縁体は、例えば電気化学的エネルギー貯蔵デバイスのセパレータとして機能するのに非常に適している。またこれらの材料は、低い周囲圧力または真空下で断熱材として使用することができる。
【0105】
前駆体材料混合物は、典型的にはノボラック樹脂および両親媒性界面活性剤を含む。ノボラック樹脂の一例は、Alnovol(登録商標)PN320(Allnex)および界面活性剤Genapol(登録商標)PF20(Clariant)またはSynperonic(登録商標)PE/L64(Croda)である。樹脂と界面活性剤との比は、総じて5:(1.5~9)である。
【0106】
図8に、Alnovol PN320とGenapol(登録商標)PF20 Synperonic PE/L64との5:5の比での混合物を用いて行った熱重量分析(TGA)の結果を示す。この混合物は、アルゴン(曲線81)雰囲気中および合成空気(曲線82)雰囲気中の双方で1000℃以下で別々に加熱したものである。図1と同様に、試料の元の試料質量と比較した残りの質量Δm(%)が、加熱温度T(℃)の関数として縦座標にプロットされている。加熱温度は加熱速度の関数であり、加熱速度は、600℃の温度に達するまでは3℃/分であり、1000℃の終了温度に達するまでは5℃/分である。約400℃までは、異なる雰囲気で加熱された試料のTGA曲線81、82は、かなり類似したプロファイルを有する。400℃では、アルゴンで熱分解された試料(81)はより大きな質量損失を示し、その後、その傾きが減少する。空気で熱分解された試料(82)は、約400~450℃の温度範囲でプラトーを有し、ここで、炭素の質量損失は、アルゴンで熱分解された試料(81)の質量損失よりも約10重量%低い。しかし、450℃を超える温度で酸化が生じると、質量損失は大幅に増加する。450℃での炭素収率の相違は、距離バー83で示される。
【0107】
同様の熱重量分析の結果が、Alnovol(登録商標)PN445およびGenapol(登録商標)PF20(5:5)の混合物から製造された前駆体材料から明らかになった。450℃の温度では、アルゴン雰囲気中で架橋させた試料の質量損失は、合成空気中で架橋させた試料と比較して、約15重量%大きかった。
【0108】
これらの熱重量分析の結果に基づき、熱分解中の炭素収率の増加(炭素質量損失の減少)を、本発明の方法によってポーラスカーボン材料の合成へと移行させ得ることを証明するための実験を設計した。Alnovol(登録商標)PN320およびGenapol(登録商標)PF20の5:5の比の混合物を架橋させ、以下の加熱勾配プロファイルで600℃以下で熱分解させた:20~350℃:平均で0.5℃/分→350~450℃:1℃/分→450~600℃:2℃/分。450℃の温度で両親媒性物質の分解は十分に完全であり、雰囲気を、酸化剤を含むものから不活性ガスのみを含むものに変更する。この温度(450℃)は、酸化剤を含む雰囲気中で前駆体を加熱する酸化段階の最高温度であると同時に、低温処理の「第1の温度」でもある。
【0109】
第1の試行では、混合物を窒素雰囲気中で熱分解させた。第2の試行では、混合物を開放したレトルト中で加熱して、熱分解中に酸化剤(空気)を含む空気が450℃まで確実に達するようにした。その温度に達したらすぐにレトルトを閉鎖し、窒素流のスイッチを入れて、より高温(450~600℃)での空気によるさらなる酸化から炭素質材料を保護した。表6は、窒素中および(450℃までの)空気中での熱分解後のポーラスカーボン材料の収率の比較を示す。
【0110】
【表6】
【0111】
窒素中で処理した試料が、600℃で30.3重量%の収率を有するのに対して、空気で架橋させた試料は、32.7重量%という、より高い収率を有する。この収率の統計誤差は、典型的には0.5重量%である。実際には、空気で架橋させた炭化試料の収率は、窒素で架橋させた試料と比較して3.4重量%大きい。この改善は、600℃で認められた2.4重量%の収率の向上よりもさらに大きい。このことは、酸素がポリマーネットワークを安定化させ、この改善を保存し得ることを暗示している。この第1の実験では、空気を、470℃の温度で窒素に置き換えた。他の実験によって、プロセスの最適化により、例えば400℃以下の温度で不活性雰囲気に切り替えることにより、さらにより高い炭素収率が得られる可能性があることが判明し得た。
【0112】
前駆体材料混合物の架橋および熱分解によって、0.4cm/gを超える累積細孔容積および50~280nmの範囲の最頻細孔径を有するマクロポーラスカーボンが得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】