(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-19
(54)【発明の名称】青色光及び白色光に曝露した子供の眼の健康を保護する方法
(51)【国際特許分類】
A61F 9/00 20060101AFI20220512BHJP
【FI】
A61F9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555235
(86)(22)【出願日】2020-03-14
(85)【翻訳文提出日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 US2020022856
(87)【国際公開番号】W WO2020190817
(87)【国際公開日】2020-09-24
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500462328
【氏名又は名称】ケミン、インダストリーズ、インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】KEMIN INDUSTRIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ラスラド,ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,ブランドン
(72)【発明者】
【氏名】マシ,サマンタ
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ,リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ヘルリンガー,ケリー
(57)【要約】
本発明は、ルテイン及び/又はゼアキサンチンでの補給を通して、子供における有害な光線への曝露に起因する視覚性能への影響を低減する方法、特に、青色光及び/又は白色光への曝露に起因して発生する損傷から眼を保護する方法全般に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテイン及び/又はゼアキサンチンを子供に経口投与することを含む、光線への曝露に起因する視覚性能に対する影響を低減又は最小化するための方法であって、前記光線は、青色光及び/又は白色光である、方法。
【請求項2】
前記白色光が、380~750nmの範囲内の波長を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記青色光が、380~500nmの範囲内の波長を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記白色光又は前記青色光が、天然光源又は人工光源由来であってよい、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記子供が、幼児から10代の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記子供が、2~18歳の年齢範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記子供が、7~12歳の年齢範囲内である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
視覚性能に対する前記影響が、少なくとも部分的に、白色光又は青色光への曝露後の眼のストレス及び/又は眼の疲労に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
視覚性能に対する前記影響が、少なくとも部分的に、白色光又は青色光への曝露後の光に対する感度に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
視覚性能に対する前記影響を低減又は最小化することが、グレア回復の改善を意味する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ルテイン及び/又はゼアキサンチンを子供に経口投与することを含む、青色光及び/又は白色光を含む光線への曝露後の眼のストレス及び/又は眼の疲労を低減又は最小化するための方法。
【請求項12】
前記白色光が、380~750nmの範囲内の波長を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記青色光が、380~500nmの範囲内の波長を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記光線が、天然光源又は人工光源由来であってよい、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記子供が、幼児から10代の範囲内である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記子供が、2~18歳の年齢範囲内である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記子供が、7~12歳の年齢範囲内である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ルテイン及び/又はゼアキサンチンを子供に経口投与することを含む、光線への曝露によって引き起こされる損傷から子供の眼を保護するための方法。
【請求項19】
青色光及び/又は白色光を含む前記光線が、天然光源又は人工光源由来であってよい、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
子供が、幼児から10代の範囲内である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月15日に出願された「METHODS OF PROTECTING THE EYE HEALTH OF CHILDREN EXPOSED TO BLUE AND WHITE LIGHT」と題する、その開示内容が参照により本明細書に援用される米国特許仮出願第62/819,279号の優先権の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
青色光は、中でも太陽光、並びにスマートフォン、コンピュータ、及び多くのTV画面などのデジタルデバイスからのLED技術で一般的に見られる発光放射線であり、網膜にとって最も有害な波長の1つである。青色光への曝露の長期的な影響については、特に授業時間中にコンピュータ画面で、さらには晩や週末にも起こり得るさらなる画面を見る時間に青色光に曝露する可能性がある就学年齢の子供の場合について、ほとんど分かっていない。
【0003】
可視光又は白色光は、電磁スペクトルの400~700nmの波長範囲内の光の領域を含む。青色光は、可視領域中の電磁スペクトルの、400~500nmの波長範囲の部分である。青色光の波長は、典型的にはUVAスペクトル(315~400nm)と称される長い方の紫外線波長に近く、可視スペクトルの青色領域は、それが(UVよりは低いものの)依然として高いエネルギーを有し、UV光よりも深くまで組織を透過し得るより長い波長を有することから、特に重要である。Godley B.F., Shamsi F.A., Liang F.Q., Jarrett S.G., Davies S. and Boulton M., Blue light induces mitochondrial DNA damage and free radical production in epithelial cells, J. Biol. Chem. 280 (2005) 21061-21066;Oplander C., HiddingS., Frauke B., WernersF.B., Born M., Pallua N. and SuschekC.V. Effects of blue light irradiation on human dermal fibroblasts. Journal of Photochemistry and photobiology B: Biology. 2011. 103: 118-125。
【0004】
青色光の様々な細胞株に対する有害な影響は、これまでに様々な研究グループによって研究され、そのうちの一部を、Oplander et al.が簡潔にまとめた。特に、網膜細胞への青色光の透過が重点的に扱われ、加齢黄斑変性の発症に対するその影響が、多くの研究グループによって研究された。しかし、青色光及び白色光に曝露された子供の短期的及び長期的な影響についてより良く理解することが依然として求められている。10歳までの子供に対して行われたある断面調査から、ビデオゲーム機の長時間の使用が、眼精疲労及び屈折異常の報告に対して影響を及ぼし得ることが示唆されているが、本発明者らの知るところでは、青色光及び白色光への曝露の視覚機能に対する影響をこの人口統計学特性で評価した介入研究はない。Rechichi C, De Moja G, Aragona P., Video Game Vision Syndrome: A New Clinical Picture in Children? J. PediatrOphthalmol Strabismus. 2017 Nov 1; 54(6):346-355。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、有害な光線、特に青色光及び白色光への曝露に起因する視覚性能に対する影響を低減し、同時に眼を保護する方法全般に関する。可視光は、ヒトの眼によって知覚される400~780nmの範囲の電磁スペクトルの部分である。この光は、可視スペクトルのすべての波長から構成される場合、「白色」に見える。青色光は、可視スペクトルの400~500nmの波長を含有しており、それはUVAスペクトルに近い。青色領域(400~500nm)は、UVよりは低いものの可視スペクトルの他の波長と比較して高いエネルギーであることから、高エネルギー可視(HEV)光とも称される。このことは重要であり、なぜなら、UVよりもエネルギーが低いものの、青色波長がUV光よりも長く、組織により深く透過し得るからである。
【0006】
太陽は、白色光及び青色光の主要な光源である。太陽のスペクトルは、可視光範囲にわたってピークがあり、可視スペクトルのほぼ30%が青色光に相当する。さらに近年になって、ヒトの眼は、スマートフォン、タブレット、ラップトップ、及びビデオゲーム機などの白色光LED発光デバイス(青色LED及び黄色蛍光体)からの青色光にもますます曝されるようになってきた。Scientific Committee on Health, Environmental and Emerging Risks (SCHEER) Preliminary opinion on potential risks to human health of light emitting diodes (LED), European Union 6 July 2017。
【0007】
植物由来のカロテノイドであるルテイン及びゼアキサンチンは、眼組織に取り込まれ、そこで可視光を吸収するように機能することで、網膜を保護する。本発明者らは、驚くべきことに、18歳未満の子供、例えば幼児(2又は3歳)から青年期又は10代などの子供に、及び少なくとも1つの実施形態では7~12歳の子供にルテイン及びゼアキサンチンを補給すると、青色光又は白色光のいずれかへの曝露に起因する視覚性能への影響を低減し、したがってこの曝露に起因する考え得る損傷を軽減するというある程度の保護を提供可能であることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、青色光曝露直後のプラセボ群及びルテイン群に対する眼のストレス及び眼の疲労についてのビジュアルアナログスケール(VAS)におけるすべての質問の合計を示す。
【
図3】
図3は、白色光曝露直後のプラセボ群及びルテイン群に対する眼のストレス及び眼の疲労についてのビジュアルアナログスケール(VAS)におけるすべての質問の合計を示す。
【
図4】
図4は、青色光曝露直後のプラセボ群及びルテイン群に対する「光に敏感ですか」という質問における、眼のストレス及び眼の疲労についてのビジュアルアナログスケール(VAS)からの報告された素点を示す。
【
図5】
図5は、ルテイン/ゼアキサンチン補給又はプラセボ(n=12)による112日間にわたる補給における、3回のグレア回復(秒数)測定の平均のベースラインからの変化を示す。値は平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ルテイン及び/又はゼアキサンチンを含有する組成物を、光への曝露に起因する視覚性能への影響を低減又は最小化し、結果として眼に対する保護も提供する目的で、例えば経口投与を介して投与することに関する。
【0010】
ヒトの眼は、生活のあらゆる面に影響を与える高度に複雑な器官である。自然の太陽光は、視覚にとって不可欠であり、多くの心理学的及び生理学的有益性を提供する。しかし、太陽光からの紫外(UV)放射線は、眼を損傷する可能性があることから、注意する必要がある。Berman K, Brodaty H. Psychosocial effects of age-related macular degeneration. Int Psychogeriatr. 2006;18(3):415-428。眼に到達するUV放射線の多くは、自然の保護形態としての角膜をフィルターとして除去される。UVAは、UV放射線のうちの最も低いエネルギー帯であり、可視光範囲に最も近い。この範囲は、角膜を透過して眼の水晶体及び網膜に到達することが知られている。成人の場合は、すべてのUVAが角膜又は水晶体をフィルターとして除去される一方で、9歳頃までの子供の場合、水晶体は、320nmのUVの2~5%を網膜まで透過させる。Scientific committee on emerging and newly identifies health risk (SCENHIR). Health effect of artificial Light. European Union, 2012. http://ec.europa.eu/health/scientific_committees/policy/index_en.htm。有害なUVA帯に近い最も高いエネルギーを持つ可視光は、青-紫色範囲である。これらの波長範囲(UVA及び青-紫色光)への眼の過剰な曝露は、黄斑変性症への寄与因子であり得ると考えられる。UVでの観察に類似して、青色光に対する子供の脆弱性は、400nmの光のおよそ15%及び460~480のおよそ65%が網膜に到達することを、それぞれ僅かに1%及び40%である年齢の高い成人の場合と比較して考えると、特に高いものである。
【0011】
青色光の波長は、視覚性能にとって特に有害であることが示されてきた。視覚性能は、グレア光が眼に入ると損なわれる。中心窩に像を投影する強い光が不快感を引き起こすことから、中心視野が最も影響を受け得る。中心窩は、視覚パラメータのほとんどすべてに対して最も高い視覚性能を担うことから、中心窩に負の影響を与えるいずれの因子も、視覚性能の低下を引き起こすことになる。周辺部の強い光も、中心窩上で透光体によって散乱され、中心で視認している物体に対するコントラストが低下する結果となる場合があり、したがって、背景内の物体を見る能力が低下する。
【0012】
黄色フィルターが、特に青色光条件下で、コントラストを含む視覚のいくつかの面を改善することが示されている。このため、眼内黄色フィルターは、多くの動物種に先天的に見られ得る。例えば、霊長類の場合、中心窩の中心に黄斑(班)として知られる黄色い点が存在する。この黄班は、網膜の中心領域の僅かに4%であるが、錐体視細胞の密度が高いために明所視を担っている。Coleman H, Chan C, Ferris F 3rd, Chew E. Age-related macular degeneration. Lancet. 2008;372 (9652):1835-1845。眼の黄班領域は、黄斑色素として知られる酸素化カロテノイドのルテイン及びゼアキサンチンを含有し、これらは、青色光フィルター及び抗酸化剤として働いて、視覚機能の向上及び光受容細胞の有害青色光からの保護を補助する。成人にルテイン及びゼアキサンチンを補給して明るい光源に曝露させる研究では、黄班色素の光学密度が大きく増加し、グレア、コントラスト感度、及び光ストレスの回復時間が改善することが示された。
【0013】
青色光への曝露は、技術の進歩と共に日々の生活の中でエネルギー効率の高い光源及びコンピュータ処理が非常に求められていることに起因して、より関心を集めてきた。Tosini G, Ferguson I, Tsubota K. Effects of blue light on the circadian system and eye physiology. Mol Vis. 2016;22:61-72。青色光源は、多くの新しい高エネルギー効率のLED電球に見られる、色が白又は青である高輝度の発光ダイオード(LED)中に存在する。この光源はまた、固体照明素子(SSL)からも作製され、スマートフォン、ラップトップコンピュータ、iPad、タブレット、電子書籍リーダー、及び大型フラットスクリーンテレビに見出すことができる。これらのデバイスから発光される青色光の量がヒトの光受容細胞への短期的な損傷を引き起こすのに充分であるかどうかについては、文献で議論があるが、現在の社会は、これらのデバイスを広く使用しており、長期にわたる使用に伴う長期的な損傷の可能性は存在する。実験的な生体外研究から、急性の影響を引き起こすレベル未満の青色光及び白色光への曝露の蓄積も、光化学的網膜損傷を誘導し得ることが示唆されている。さらに、青色遮断フィルターと共に強い光に曝露した動物では、フィルターなしの光に曝露した動物よりも視覚応答、網膜構造、及び光受容細胞の生存が大きく保存されることを示す。Tejedor et al PLoS One. 2018 Mar 15;13(3)。しかし、LEDが、ちらつき、目の眩み、注意散漫、不快感、及びグレアに関する問題を実際に引き起こすことは確認されている。子供は、青色光放射線に対する感度がより高いため、青色光は、小さい子供にとって非常に眼が眩むものであり得る。一部のLED発光スペクトルは、光化学的な網膜症を引き起こす可能性があり、これは、特に3歳未満の子供にとって懸念される。
【0014】
太陽光は、青色光の最も顕著な光源であるが、可視スペクトルのこれらの波長への曝露は、デジタルデバイスへの曝露が増加することに一部起因して、米国ではこれからの4年間でおよそ800%増加すると考えられている。American Optometric Association. Eye-Q Survey (Internet). American Optometric Association; 2015; http://www.aoa.org/documents/newsroom/2015_AmericanEye-Q_surveyresults.pdfで閲覧可能。子供の半数以上が(65%)、1日に2時間以上をデジタルデバイスで費やしている。さらに、毎日3時間以上を子供にデジタルデバイスで過ごさせている親の70%が、デジタルデバイスが眼の健康に及ぼす影響について非常に又はある程度懸念していると回答した。The Vision Council. Eyes Overexposed: The Digital Device Dilemma [Internet]. The Vision Council; http://www.thevisioncouncil.org/sites/default/files/2416_VC_2016 EyeStrain_Report_WEB.pdfで閲覧可能。この曝露は、子供を持つ親の15%がそのデバイス時間を制限していない場合、一部の子供においてより高くなる可能性があり、これについては、http://wintergreenresearch.com/reports/LED%202013%20press%20release.pdfで閲覧可能なEustis S. LED Lighting-Markets at $4.8 Billion in 2012 Reach $42 Billion by 2019 [Internet]. Lexington, MA: Wintergreen Research Inc.; 2013を参照されたく、並びに子供の24%及び26%が、それぞれ6~8歳又は9~11歳で最初のスマートフォン又はタブレットを手に入れる。American Optometric Association. Eye-Q Survey (Internet). American Optometric Association; http://www.aoa.org/documents/newsroom/2015_AmericanEye-Q_surveyresults.pdfで閲覧可能。このような青色光への曝露の著しい変化は、この10年間で進んできたものであり、指数関数的に増加しているが、子供の青色光への曝露によって引き起こされる損傷に対して保護するための方法についての、特に、子供の青色光曝露への視覚応答を保護するためのルテイン補給の考え得る有益性についての入手可能な情報は依然としてほとんど又はまったくない。
【実施例】
【0015】
実施例1
本発明者らは、青色光及び白色光への曝露後の子供の視覚性能に対するルテイン補給の効果について評価した。これは単一施設無作為二重盲検プラセボ対照並行パイロット試験であった。この試験は、単一の112日間の試験期間から成っていた。
【0016】
試験責任者は、以下の因子を考慮した。(1)青色光又は白色光曝露直後の眼のストレス及び眼の疲労についてのビジュアルアナログスケール(VAS)スコアにおける、プラセボ群とルテイン群との間の112日間の補給に対するベースラインからの変化の相違;(2)プラセボ群及びルテイン群での、眼のストレス及び眼の疲労についてのVASスコアにおける、青色光曝露後の112日間の補給に対するベースラインからの変化及び白色光曝露後の112日間の補給に対するベースラインからの変化の相違、並びに(3)グレア回復の時間における、プラセボ処理群とルテイン処理群との間の112日間の補給に対するベースラインからの変化の相違。
【0017】
物質及び方法
これは単一施設無作為二重盲検プラセボ対照並行試験であった。12人の健康な就学年齢の子供を無作為化するように計画し、6人の被験者を、1:1の比で二重盲検の形で2つの試験アームの各々に等しく無作為化した。各群の中で、被験者を、
図1に記載のように、それぞれ白色光→青色光及び青色光→白色光の2つの異なる曝露順序に等しく無作為化した。
【0018】
無作為化比較試験は、偏りを制御し、交絡因子を抑えることによって試験評価項目に対する調査品の影響を調べることができるようにした、厳密な研究デザインである。被験者及び試験責任者は、試験測定及び解釈に対するいかなる影響も最小限に抑えるために、盲検化した。
【0019】
コントロール群は、すべての選択規準を満たしすべての除外規準に当てはまらない同じ募集プールから抽出した志願者から構成した。プラセボ品は、盲検化を確実にするために、調査品と合致させ、類似の賦形剤を含有させた。
【0020】
スクリーニング時、被験者は、病歴及び健康診断、バイタルサイン、血液検査、及び臨床化学検査によって健康であると見なした。食物摂取頻度調査を行ってカロテノイド摂取に基づく適性を判定し、検眼士による視力評価を行った。適格な被験者は、ベースラインのために再度来院し、ルテイン/ゼアキサンチン補給アーム又はプラセボアームのいずれかに無作為化した。視覚性能の評価を行った。青色光及び白色光への配置後に、ビジュアルアナログスケール(VAS)調査による眼のストレス及び眼の疲労を、被験者の自己申告で得た。光ストレス回復時間を、二重グレア源への10秒間の曝露後に評価した。評価の間に、視力を再確立させた。コンプライアンスを確保して、被験者がその試験スケジュールを確実に完了するように、コンプライアンスのための電話連絡を行った。第112日に、被験者を、VAS眼のストレス及び眼の疲労及びグレア回復時間について評価した。
【0021】
この試験のための予定したサンプルサイズは、12人の被験者であり、6人の被験者を、ルテイン/ゼアキサンチン群及びプラセボ群の各々に無作為化した。13人の健康な就学年齢の子供を募集し、試験を完了した。すべての個人を安全性分析に含めた。しかし、1人の個人によるコンプライアンスが不良であったことから、プロトコル遵守者のみの統計分析には、12人だけを含めた。前もって考えたプロトコル遵守者のみ(PP)の集団の定義は、いずれかの試験品の用量の少なくとも80%を摂取し、重大ないかなるプロトコル違反(評価項目に影響を与え得ると見なされるもの)も行っておらず、すべての試験来院を完了した被験者から構成される評価を行うことであった。サンプルサイズが小さいこと、及び本試験が「パイロット試験」という状況であることから、本発明者らは、p<0.1を考慮すべき有意差と考えた。
【0022】
試験に含めることを考慮するためには、子供は、8~12歳で健康であり、検眼士が評価した20/20の視力を両眼に有し、年齢別体型指数パーセンタイル値が3%~97%である必要があった。加えて、子供は、食物摂取頻度調査によって評価したカロテノイド摂取を有し、それが低い(<2mg/日として定義)ことも必要である。
【0023】
被験者は、2つの群に分け、第一の群には、調査品又は試験品を投与し、第二の群はプラセボを受けた。製品及びプラセボは、経口投与した。調査品のルテインソフトジェルは、表1に示す成分から成る。
【0024】
【表1】
非活性成分:カラメル、ゼラチン、グリセリン、ベニバナ油、及び水
プラセボは、カラメル、ゼラチン、グリセリン、ベニバナ油、及び水を含んでいた。2つの製品間で、サイズ、色、味、食感、又は包装に区別可能な相違はなかった。すべての試験品は、被験者及び試験担当者が区別することができないように、同じ外観で作製した(サイズ、色、味、食感、及び包装)。
【0025】
スクリーニング時の人口統計学特性:
被験者は、7~12歳の範囲で、58%が女子であった。被験者は、主に非ヒスパニック系白人であった(67%)。被験者はすべて健康と見なした。スクリーニング時に、安全性評価項目で観察される群間の他の有意な差はなかった。
【0026】
コンプライアンス:
平均コンプライアンスは、ルテイン/ゼアキサンチン群で98.82%、プラセボ群で90.74%であり、群間に有意差はなかった。
【0027】
結果:
青色光及び白色光で評価した眼のストレス及び眼の疲労
子供を青色光に曝露した場合のVAS眼のストレス及び眼の疲労の全体スコアの総合計は、改善が見られた被験者がいなかったプラセボ群と比較して、試験品を摂取した子供6人中4人で低下した(低下は改善を示す)(
図2)。さらに、試験品を摂取した子供が白色光に曝露された場合も、VAS眼のストレス及び眼の疲労の全体スコアの総合計が観察された(低下は改善を示す)。この低下/改善は、2人だけで改善が見られたプラセボ群と比較して、試験品摂取群の子供では、6人中5人で見られた(
図3)。VAS眼のストレス及び眼の疲労での質問の評価から、被験者が青色光曝露後に「光に敏感ですか」と尋ねられた場合、プラセボ群での1人だけと比較して試験品群では6人中4人が、光に対する感度が低いと申告した(
図4)。
【0028】
副次評価項目:グレア回復
ルテイン/ゼアキサンチン群では、第112日において64%のグレア回復時間の有意な改善(p=0.094、
図5)があったが、ベースラインからの変化の大きさでは、群間で有意差 はなかった。さらに、ルテイン群の6人被験者すべてが、グレア回復を改善した。
【0029】
考察:
子供は、子供の眼の透明な水晶体の透過性が、成人の眼よりも広い波長帯の光を網膜に到達させることから、成人よりも青色光の影響に対して感度が高い。Behar-Cohen F, Martinsons C, Vienot F, Barlier-Salsi A, Cearini J, Enouf O, Garcia M, Picaud S, and Attia D (2011). Light-emitting diodes (LED) for domestic lighting: Any risk for the eye? Prog Retin Eye Res. 30: 239-257。この光のより広い波長帯は、より長い波長の紫外光(すなわち、一部のより長いUVA波長)、及びより短い波長の可視光(紫色及び青色波長)を含み、これらは、成人の場合に見られる眼の水晶体の黄色によって典型的には低減される。Behar-Cohen, et al. (2011)同書、及びDillon J, Zheng L, Merriam J, and Gaillard E (2004). Transmission of light to the aging human retinal: possible implications for age related macular degeneration. Exp Eye Res. 79: 753-759。さらに、成人の眼と比較した場合に、子供の眼の眼軸長がより短いことが、少なくとも可能性として、これらの有害であり得る光の波長が網膜に到達する前の光エネルギー/強度の消散を低下させている可能性もある。しかし、子供の眼における光の影響を実証するための研究は、非常に限られた数しか行われてきていない。この情報の不足及び研究の欠如が、子供の眼における光の影響の理解に大きなギャップを残している。小児の健康な眼の発達のために推奨されるよりも長く画面を見る時間を過ごす傾向に子供があることを考えると、その光の影響の理解、特に子供における青色波長の光への曝露から生ずる影響の理解は、かつてない程に重要である。Anderson S, Economos C, Must A (2008). Active play and screen time in US children aged 4 to 11 years in relation to sociodemographic and weight status characteristics: a nationally representative cross-sectional analysis. BMC Publ Health. 8: 366。
【0030】
黄班色素は、その抗酸化及び抗炎症能により、また同時に後部組織へ到達する網膜の損傷を引き起こし得る光の波長の一部を、特に可視スペクトルの青色領域の光波長を吸収することによって、光誘導損傷から網膜を保護することを補助する。Kijlstra A, Tian Y, Kelly E, Berendschot T (2012). Lutein: more than just a filter of blue light. Prog RetinEye Res. 31: 303-315、Tosini G, Ferguson I, and Tsubota K (2016). Effects of blue light on the circadian system and eye physiology. Mol Vis 22: 61-72。生体外及び生体内で行われた研究から、ルテイン及びゼアキサンチンによる補給が、光の、特に光の青色波長の負の影響から網膜組織を保護する補助となることが実証されている。Bian Q, Gao S, Zhou J, Qin J, Taylor A, Johnson E, Tang G, Sparrow J, GierhartD, and Shang F (2012). Lutein and zeaxanthinsupplementation reduces photooxidative damage and modulates the expression of inflammation-related genes in retinal pigment epithelial cells. Free Radic BiolMed. 53: 1298-1307、Barker F, SnodderlyD, Johnson E, Schalch W, Koepcke W, Gerss J, and Neuringer M (2011).
Nutritional manipulation of primate retinas, V: effects of lutein, zeaxanthin, and n-3 fatty acids on retinal sensitivity to blue-light-induced damage. Invest Ophthalmol Vis Sci. 52: 3934-3942。
【0031】
ルテイン及びゼアキサンチンによる補給のいくつかのさらなる有益性は、成人の対象で実証されており、デジタルデバイスの画面などの青色光源に曝露して非常に長い時間を過ごしている対象の視覚パラメータの改善を含む。Stringham J, Stringham N, and O'Brien K (2017). Macular Carotenoid Supplementation Improves Visual Performance, Sleep Quality, and Adverse Physical Symptoms in Those with High Screen Time Exposure. Foods. 6: pii: E47。これらの有益性は、コントラスト感度、グレア、及び光ストレス回復における改善を含む。さらに、頭痛頻度、眼のストレス及び眼の疲労の低減も、ルテイン及びゼアキサンチンの補給を受けた対象に見られた。この成人集団において、コントラスト感度、グレア、及び光ストレス回復で見られた改善は、眼疾患のいかなる証拠もない若年成人で行われたこれまでの研究で既に示されていたことから、予測されたものであった。Stringham J and Hammond B (2008). Macular pigment and visual performance under glare conditions. Optom Vis Sci. 85: 82-88、Hammond B, Fletcher L, Roos F, Wittwer J, and Schalch W (2014). A double-blind, placebo-controlled study on the effects of lutein and zeaxanthinon photostress recovery, glare disability, and chromatic contrast. Invest Ophthalmol Vis Sci. 55: 8583-8589。しかし、これらのカロテノイドによって特異的に誘導される効果に確定的に関連し得る頭痛頻度、眼のストレス、又は眼の疲労に対するルテイン及びゼアキサンチンの補給の効果に関する研究はこれまでに実施されてこなかった。
【0032】
若年成人から高齢者の眼で評価した場合に、黄班色素(眼のルテイン及びゼアキサンチン)が多様な有益性を示したという効果に関する現時点の知識にも関わらず、これらの結果は、いくつかの理由から子供の眼に拡張することができない。まず最初には、子供の眼、特に小さい子供の眼は、まだ充分に成熟していないため、いかなる種類の外挿も困難である。第二には、恐らく同様に重要であるが、上記で述べたものに類似の研究は、子供の集団ではまだ実施されていない。実際、18歳未満の個人に対する視覚に関連する研究は行われたことがない。この情報の不足が、本発明者らが無作為化二重盲検プラセボ対照パイロット試験を実施する動機となり、予想外で驚くべき結果を得た。
【0033】
本発明者らは、青色光又は白色光への曝露に伴う視覚性能及び関連する眼のパラメータに対するルテイン補給が就学年齢の子供に対して有する効果について評価した。試験の開始時に専門家による眼の検査によって示される健康な眼を持ち、7~12歳でBMIが15.12~22.12kg/m2である13人の健康な子供を登録し、試験を完了した。被験者を、主に西ヨーロッパ系の非ヒスパニック系白人であった。無作為化によって、人口統計学特性、血圧、BMI、又はベースライン時心拍数に違いのない2つの試験群とした。被験者には、毎朝1つのルテイン/ゼアキサンチンソフトジェル(ルテイン/ゼアキサンチン)又はプラセボを、朝食と共に4ヶ月間(112日間)の試験期間にわたって摂取してもらった。
【0034】
デジタルデバイス画面を継続的に見ることの長期的な影響については現時点で分かっていないが、このような発光画面の前で非常に長い時間を過ごすことと合わせてこのような画面が眼に近いことが、視力及び視覚の質に負の影響を及ぼし得るという懸念が高まっている。恐らくより重要なことには、これらの影響は、より多くの有害な光を網膜まで透過させる眼の水晶体の透明度のために、成人よりも子供の方が大きい可能性がある。光の青色波長は、スマートフォン、コンピュータ、及び多くのTVで一般的に見られる発光であり、可視スペクトルの中のいずれの波長の中でも最大の損傷を起こす可能性を呈する。Sheppard A and Wolffsohn J (2018). Digital eye strain: prevalence, measurement and amelioration. BMJ Open Opthalmology. 3: e000146。研究から、青色光への長期間にわたる曝露は、網膜細胞の損傷を引き起こし得ることが示唆されている。そのような経時での損傷は、黄斑変性症及び白内障などの視覚障害を引き起こし得る。ここで、植物由来のカロテノイドであるルテイン及びゼアキサンチンが重要となる。これらは、眼組織中に生理学的に取り込まれ、そこで可視光を吸収するように機能することで、ヒトの眼の光学的特性に影響を与える。Hammond B. Carotenoids. Adv Nutr. 2013;4(4):474-476。
【0035】
年齢の高い成人でのルテイン及びゼアキサンチン補給に関する科学文献は非常に多く、若年成人に関する刊行物の数も増加しているが、これらのカロテノイドが子供の眼に有する可能性のある効果についてのデータは少ない。本発明者らの発見は、子供の光曝露後における眼のストレス及び眼の疲労についてのVAS合計スコア(青色光及び白色光)、コントラスト感度(青色光)、及びグレア回復(青色光)の改善を示す最初の試験として、知識ベースに価値の高いデータを追加するものである。
【0036】
いくつかの望ましくない結果は、過剰な画面を見る時間と関連しており、補給による黄班色素の増大が、視覚性能を改善し、成人における有害な結果を回復させることが提案された。時間的コントラスト感度特性(temporal contrast sensitivity function)(tCSF)として評価される視覚処理速度が、4ヶ月間のルテイン/ゼアキサンチン補給期間の後、18~32歳の健康な若年成人で増加することが見出された。Bovier E and Hammond B (2015). A randomized placebo-controlled study on the effects of lutein and zeaxanthin on visual processing speed in young healthy subjects. Arch Biochem Biophys. 572: 54-57。さらに、6ヶ月間にわたる毎日のカロテノイド補給は、プラセボに対して黄班色素の光学密度及び視覚性能尺度の有意な改善をもたらす結果となった。Stringham J, Stringham N, and O’Brien K (2017). Macular Carotenoid Supplementation Improves Visual Performance, Sleep Quality, and Adverse Physical Symptoms in Those with High Screen Time Exposure. Foods. 6: pii: E47。この改善の基礎を成す機構は、ルテイン及びゼアキサンチンによる黄班色素の増大が視覚性能を高める結果をもたらしたものとして確認された。両試験において健康な若年成人を選択したことが特に重要であり、なぜなら、この年齢群の視覚は、従来から能率的にピークであると見なされており、したがって、天井効果のために、変化に対する回復力を示すものと考えられるからである。Bovier E and Hammond B (2015). A randomized placebo-controlled study on the effects of lutein and zeaxanthin on visual processing speed in young healthy subjects. Arch Biochem Biophys. 572: 54-57。眼内のルテイン及びゼアキサンチンの量と視覚パラメータ(tCSF及び視覚性能)との間の関係は、黄班色素(眼内のルテイン及びゼアキサンチン)の能力及び網膜の光受容細胞に衝突する青色光の量の結果である。Renzi L and Hammond B (2010). The effect of macular pigment on heterochromatic luminance contrast. Exp Eye Res. 2010 Dec;91(6):896-900、Renzi L and Hammond B (2010). The relation between the macular carotenoids, lutein and zeaxanthin, and temporal vision. Ophthalmic Physiol Opt. 30: 351- 357。
【0037】
子供における本発明のルテイン/ゼアキサンチン試験の結果は、グレア回復時間が、ルテイン/ゼアキサンチン補給により、ベースラインから第112日までで64%と大きく改善したことを示した(
図5)。これは、子供でのグレア/光ストレス回復がこれまでに報告されたことがないことから、新しく独自の発見である。グレア/光ストレス回復時間は、成人において、被験者の年齢、並びにグレア源からの距離及びグレア源の波長組成に基づいて大きく変動し得る。Stringham J and Hammond B (2007). The glare hypothesis of macular pigment function. Optom Vis Sci. 84: 859-864、Stringham J and Hammond B (2008). Macular pigment and visual performance under glare conditions. Optom Vis Sci. 85: 82-88、Stringham J, Garcia P, Smith P, McLin L, and Foutch B (2011). Macular Pigment and Visual Performance in Glare: Benefits for Photostress Recovery, Disability Glare, and Visual Discomfort. Invest Ophthalmol Vis Sci. 52: 7406-7415。しかし、本試験での子供におけるグレア回復時間は、文献に報告されているものと一致しており、そこでは、平均光ストレス回復時間は、8~70秒と報告されている。Stringham J and Hammond B (2007). The glare hypothesis of macular pigment function. Optom Vis Sci. 84: 859-864。
【0038】
米国小児科学会は、子供が画面を見る時間について、1日あたり2時間以下を推奨している。しかし、国全体を表す米国の断面調査によると、4~11歳の子供の5%が、平均して1日あたり2時間を超えてコンピュータ画面又はテレビ画面の前で過ごしている。Anderson S, Economos C, and Must A (2008). Active play and screen time in US children aged 4 to 11 years in relation to sociodemographic and weight status characteristics: a nationally representative cross-sectional analysis. BMC Publ Health. 8: 366。発光画面の前でより多くの時間を過ごす子供の割合は、子供が10歳に到達する時までには非常により高くなり、男女共に子供の70%超であることが見出されている。年齢と画面を見る時間との間の関係は、幼児期にレベルが上昇し、9~12歳ごろにピークとなり、青年期にレベルが低下することによって描かれる曲線を成している。Marshall S, Gorely T, Biddle S (2006). A descriptive epidemiology of screen-based media use in youth: a review and critique. J Adolesc. 29: 333-349。これは、眼の損傷に対する保護の重要性を強調するものであり、なぜなら、社会的に及び/又は教育と関連して画面の前で過ごす時間は、技術が進歩するに従って、この集団で低下する可能性は低いと考えられるからである。
【0039】
眼の疲労、眼の衰弱、又は眼のストレスは、眼精疲労として分類される主観的感覚である[Vilela M, Pellanda L, Fassa A, Castagno V (2015).Prevalence of asthenopia in children: a systematic review with meta-analysis. J Pediatr. 91: 320-325]。症状は、通常は一過性のものであるが、この状態は、患者にとって、頻繁に発生し、場合によっては著しいものである不快感を引き起こし得る。集団ベースの有病率調査の最近の系統的レビュー及びメタ分析から、子供における眼精疲労の有病率は19.7%と推計された。加えて、3~10歳で1日あたり30分を超えてビデオゲーム機の画面の前で過ごした子供は、1日あたりの過ごした時間が30分未満である子供よりも眼精疲労を経験する可能性が著しく高かったという報告が成されている。Rechichi C, De Moja G, and Aragona P (2017), Video Game Vision Syndrome: A New Clinical Picture in Children? J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 54: 346-355。就学年齢の子供での本発明の試験から、青色光及び/又は白色光への曝露に続いて4ヶ月間のルテイン/ゼアキサンチンの補給後に、ルテイン/ゼアキサンチン群の被験者で、調査票によって評価した自己申告の眼のストレス及び眼の疲労における改善を報告した数の増加が示された。さらに、ルテイン及びゼアキサンチンを摂取した被験者において、青色光曝露後に光に対する感度が低下した。これらのデータは、ルテイン補給の結果として、画面を見る時間と関連する光曝露後に、子供の不快感が低減されることを示唆している。
【0040】
デジタル眼精疲労(Digital eye strain)は、様々な眼及び視覚の症状、並びに調節性の挙動を特徴とする。推計から、コンピュータユーザーでの有病率は、50%以上であり得ることが示唆されている。Sheppard A and Wolffsohn J (2018). Digital eye strain: prevalence, measurement and amelioration. BMJ Open Opthalmology. 3: e000146。画面を見る時間が過剰であることの他の指標で、成人ではより多く調べられているが、小児集団でも興味深いものであり得る指標としては、黄班色素の光学密度及び視覚性能尺度の改善に加えて、頭痛、かすみ目、及び首の凝りである。Stringham et al. (2017)は、6ヶ月間にわたる毎日のカロテノイド補給により、若年成人において、過剰な画面を見る時間の指標である全体的な睡眠の質、頭痛頻度、眼のストレス、及び眼の疲労の著しい改善を報告した。Stringham J, Stringham N, and O’Brien K (2017). Macular Carotenoid Supplementation Improves Visual Performance, Sleep Quality, and Adverse Physical Symptoms in Those with High Screen Time Exposure. Foods. 6: pii: E47。Vision Councilが公開したデジタル眼精疲労についての報告によると、一度に2時間を超えて画面を使用した後の個人が、身体的不快感を感じると申告している。Barlow S and Expert Committee (2007). Expert committee recommendations regarding the prevention, assessment, and treatment of child and adolescent overweight and obesity: summary report. Pediatrics. 120 Suppl 4:S164-92。就学年齢の子供の場合の連続して2時間を超える画面を見る時間による長期的な影響については、依然として完全には理解されていないが、このパターンは、この年齢群では特別なものではない。したがって、そのような問題が子供にも存在し得る可能性が高いことにより、回復の方法が求められている。
【0041】
視覚性能尺度は、親や子供が血液採取などの侵襲的手順を要する試験に参加することをためらうことから、小さい子供を調べるための論理パラメータである。成人集団の結果からは、生物学的マーカーと視覚性能尺度との間の興味深い関係が明らかとなっている。Hammond et al. (2014)は、1年間にわたる健康な若年成人におけるルテイン/ゼアキサンチン補給の有益性を、これら2つのカロテノイドの血清中レベルの増加、さらには黄班色素の光学密度の変化によって測定して示した。この研究では、ルテイン/ゼアキサンチンの血清中レベル及び黄班色素の光学密度の有益性と、コントラスト感度、光ストレス回復、及びグレア耐性を含む視覚性能パラメータとの間の正の関係が見出された。Hammond B, Fletcher L, Roos F, Wittwer J, and Schalch W (2014). A double-blind, placebo-controlled study on the effects of lutein and zeaxanthinon photostress recovery, glare disability, and chromatic contrast. Invest Ophthalmol Vis Sci.55: 8583-8589。
【0042】
Nolan et al. (2016)は、12ヶ月間までの補給では、コントラスト感度の有意な変化は観察されないが、血清中のルテイン、ゼアキサンチン、及びメソゼアキサンチン、並びに黄班色素の統計的に有意な増加は、3ヶ月間までに観察されることを見出した。Nolan J, Power R, Stringham J, Dennison J, Stack J, Kelly D, et al (2016). Enrichment of Macular Pigment Enhances Contrast Sensitivity in Subjects Free of Retinal Disease: Central Retinal Enrichment Supplementation Trials - Report 1. Invest OphthalmolVis Sci. 57: 3429-3439。これらの結果は、ルテイン/ゼアキサンチンによる12ヶ月間の補給が、グレア耐性、光ストレス回復、及び色コントラストと共に血清中カロテノイドレベル及び黄班色素の光学密度を上昇させたことを見出したHammond, et al. (2014)の結果と対照的である。Hammond B, Fletcher L, Roos F, WittwerJ, and Schalch W (2014). A double-blind, placebo-controlled study on the effects of lutein and zeaxanthin on photostress recovery, glare disability, and chromatic contrast. Invest Ophthalmol Vis Sci.55: 8583-8589。成人集団で見出された結果に関わらず、これらのパラメータは、いかなる年齢層の集団においても、コントラスト感度などの視覚性能尺度の改善に先立つ変化の初期指標として利用可能であり、補給が最も有益であり得る個人を識別する補助にもなり得る。視覚バイオマーカーが性能尺度とどのように相関しているかについての我々の知識が、小児集団において適切に調べられてこなかったことを認識することが重要である。
【0043】
過剰な画面を見る時間は、子供を初期の眼の損傷リスク下に置くことに加えて、小さい子供の身体的、社会的、情緒的、及び認知的発達に影響を与える可能性があることに留意することも重要である。睡眠の質及び継続時間は、時間と共に低下しており、断眠という有害な健康上の結果を伴う。Chang A, Aeschbach D, Duffy J, and Czeisler C (2015). Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proc Natl AcadSci U A. 112: 1232-1237。文献は、子供及び青年期において、画面を見る時間と睡眠の結果との間に有害な関係性があることを支持している。Magee C, Lee J, and Vella S (2014). Bidirectional relationships between sleep duration and screen time in early childhood. JAMA Pediatr. 168: 465-470、Hale Land Guan S (2015). Screen Time and Sleep among School-Aged Children and Adolescents: A Systematic Literature Review. Sleep Med Rev. 21: 50-58。さらに、アメリカ全国健康栄養調査(NHANES)の断面調査によると、画面を見る時間は、カフェイン摂取と正に相関している。Ahluwalia N, Frenk S, and Quan S (2018). Screen time behavioursand caffeine intake in US children: findings from the cross-sectional National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES). BMJ PaediatrOpen. 2: e000258。これはまた、画面を見る時間の睡眠の質に対する負の影響、さらには栄養の質という面での負の影響をより強くするものでもあり、なぜなら、カフェインを摂取したいという考えは、画面を見る時間の長い人で最も高いからである。
【0044】
上記で述べたように、子供における光への曝露、画面を見る時間、及び眼の健康の間の関係を調べた研究は少なく、したがって、過剰な青色光又は白色光への曝露が子供の視覚発達に及ぼす影響についての合理的な結論には、さらなる研究が必要である。本発明者らは、小児期が、発達中の網膜にはっきりとした損傷が起こる前に、補給による介入を行うための重要なタイミングに相当し得ることを見出した。
【0045】
結論:
本明細書で考察したように、青色光及びさらには白色光に曝露した後に4ヶ月間のルテイン及びゼアキサンチン補給を行うと、ルテイン/ゼアキサンチンで補給した子供は、主観的尺度の眼の疲労、眼のストレス、光感度、及び客観的尺度のグレア回復時間の著しい改善を示した。これらの知見は、そのような補給が子供の間での視覚性能パラメータの改善をもたらし得ることを示すための研究がこれまでに行われてこなかったという点で、新しくて新規なものである。成人対象(すなわち、18歳超の個人)で類似の効果が見られたことを、子供に外挿することはできず、なぜなら、成人の眼は完全に発達しているが、子供の眼は完全には発達していないからである。現在の世界で、人々が、特に子供が画面を見て過ごす時間の長さを考えると、そのような眼を損傷する可能性のある曝露に対する保護を提供することは重要である。
【0046】
上記の記述及び図面は、本発明の例示的実施形態を含む。上記の実施形態及び本明細書で述べる方法は、当業者の技能、経験、及び選択に基づいて変動してよい。方法の工程をある特定の順序で単に列挙していることは、方法の工程の順序に関していかなる制限も構成するものではない。上記の記述及び図面は、本発明を単に説明し、例示するものであり、本発明は、請求項がそのように制限されていない限りにおいて、それに制限されない。本開示を前にした当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、それに改変及び変更を成すことができる。
【国際調査報告】