IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アーの特許一覧

特表2022-525799骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用
<>
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図1
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図2
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図3
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図4
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図5
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図6
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図7
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図8
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図9
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図10A
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図10B
  • 特表-骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用 図10C
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-19
(54)【発明の名称】骨格筋調節のための新規デプシド二量体化合物、その方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/92 20060101AFI20220512BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220512BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220512BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220512BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220512BHJP
【FI】
C07C69/92
A61K31/216
A61P21/00
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P9/04
A61P11/00
A61P31/18
A61P37/06
A61P29/00
A61P1/16
A61P1/18
A61P3/00
A61P25/28
A61P43/00 121
A61K45/00 101
A23L33/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556656
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(85)【翻訳文提出日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2020058050
(87)【国際公開番号】W WO2020193495
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】19165736.0
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】バーロン, デニス, マーセル
(72)【発明者】
【氏名】ブリノン, ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ファイギ, ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】カラズ, ソニア
(72)【発明者】
【氏名】ミショー, ジョリス
(72)【発明者】
【氏名】ラティノー, ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ステュエルサッツ, パスカル
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD10
4B018MD18
4B018MD27
4B018ME14
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZA151
4C084ZA361
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA751
4C084ZA811
4C084ZA941
4C084ZB081
4C084ZB111
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZC211
4C084ZC751
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206DB18
4C206DB57
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZA36
4C206ZA59
4C206ZA66
4C206ZA75
4C206ZA81
4C206ZA94
4C206ZB08
4C206ZB11
4C206ZB21
4C206ZB26
4C206ZB33
4C206ZC21
4C206ZC75
4H006AA01
4H006AB25
4H006AB28
4H006BJ50
4H006BN30
4H006BP30
4H006BS30
(57)【要約】
本発明は、骨格筋可塑性再生を改善して、筋幹細胞を調節することによって筋機能及び/又は筋量を維持又は向上させるための新規デプシド二量体化合物に関する。例えば、本発明は、対象の筋肉修復の促進に、並びに/又は前悪液質、悪液質、サルコペニア、ミオパチー、ジストロフィーに罹患している対象、及び/又は筋損傷若しくは手術後の回復中の対象に有用である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の骨格筋機能及び/若しくは骨格筋量を維持若しくは向上させるための、並びに/又は対象の筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、式(I)によって表される式(I)のデプシド化合物。
【化1】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、各々独立して、H;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール、第二級アルコール、又は第三級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;第一級アミン、第二級アミン、又は第三級アミン;第一級アミド又は第二級アミド;シアノ;ニトロ;スルホネート;スルフェート;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルキニル、又は任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルキニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【請求項2】
対象の骨格筋機能及び/若しくは骨格筋量を維持若しくは向上させるための、並びに/又は対象の筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、式(II)によって表される請求項1に記載の化合物。
【化1】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、各々独立して、H;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェート;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【請求項3】
対象の骨格筋機能及び/若しくは骨格筋量を維持若しくは向上させるための、並びに/又は対象の筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、式(III)によって表される請求項1に記載の化合物。
【化2】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;前記アルキル鎖、アルケニル鎖、及びポリアルケニル鎖は、オキソ基が介在していてもよく、R2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;Me;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェートであり;かつ、R10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【請求項4】
対象の骨格筋機能及び/若しくは骨格筋量を維持若しくは向上させるための、並びに/又は対象の筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、式(IV)によって表される請求項1又は2に記載の化合物。
【化3】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;CH3、C2H5:CH-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1~17];CH-CO-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1~16];C(CH3)=CH-CH3分枝状アルキル鎖であり;
かつR2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立して、H;Me;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェートであり;
かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【請求項5】
対象の骨格筋機能及び/若しくは骨格筋量を維持若しくは向上させるための、並びに/又は対象の筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、式(V)によって表される請求項1又は2に記載の化合物。
【化4】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;Me;CH-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1、5、7、9、11、13、15、又は17);CH-CO-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=2、4、6、8、10、12、14、又は16];C(CH3)=CH-CH3分枝状アルキル鎖であり;
かつR2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立して、H;Me;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;塩素;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;スルフェートであり;
かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【請求項6】
ジフラクタ酸(安息香酸,2,4-ジメトキシ-3,6-ジメチル-,4-カルボキシ-3-ヒドロキシ-2,5-ジメチルフェニルエステル(CAS番号436-32-8)):
【化5】

又は
バルバチン酸(安息香酸,2-ヒドロキシ-4-[(2-ヒドロキシ-4-メトキシ-3,6-ジメチルベンゾイル)オキシ]-3,6-ジメチル(CAS番号17636-16-7)):からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【化6】
【請求項7】
筋幹細胞の機能を調節することで、対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させ、かつ/又は対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させ、かつ/又は対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物を含む栄養組成物。
【請求項9】
悪液質若しくは前悪液質;サルコペニア、ミオパチー、ジストロフィー、及び/又は筋損傷若しくは手術後の回復を予防又は治療するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物を含む栄養組成物。
【請求項10】
悪液質が、癌、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、代謝性アシドーシス、及び/又は神経変性疾患から選択される疾患に関連するものである、請求項9に記載の栄養組成物。
【請求項11】
悪液質又は前悪液質が、癌に関連するものである、請求項9又は10に記載の栄養組成物。
【請求項12】
癌に関連する悪液質の前記治療が、膵臓癌、食道癌、胃癌、腸癌、肺癌、及び/又は肝癌から選択される、請求項9~11のいずれか一項に記載の栄養組成物。
【請求項13】
抗癌治療用の化合物又は組成物と別々に又は一緒に投与するためのものである、請求項9~12のいずれか一項に記載の栄養組成物。
【請求項14】
運動又は身体活動と組み合わせて、対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させ、かつ/又は対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物を含む、請求項8~12のいずれか一項に記載の栄養組成物。
【請求項15】
対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させ、かつ/又は対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための医薬組成物として製剤化された、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物を含む組成物。
【請求項16】
有効量の請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項8~14のいずれか一項に記載の栄養組成物、又は請求項15に記載の医薬組成物をヒト又は動物対象に投与する工程を含む、悪液質又は前悪液質の治療方法。
【請求項17】
悪液質又は前悪液質が、癌、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、代謝性アシドーシス、及び/又は神経変性疾患から選択される疾患に関連するものである、請求項16に記載の悪液質又は前悪液質の治療方法。
【請求項18】
癌悪液質の治療が、膵臓癌、食道癌、胃癌、腸癌、肺癌、及び/又は肝癌から選択される癌に関連するものである、請求項17に記載の治療方法。
【請求項19】
癌悪液質の治療が、体重減少を低減すること、体重減少を予防すること、体重を維持すること、又は体重を増加させることによって評価される、請求項16~18のいずれか一項に記載の治療方法。
【請求項20】
癌悪液質が化学療法剤による癌治療の結果である場合の治療方法における、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物の使用、又は請求項8~14のいずれか一項に記載の栄養組成物の使用、又は請求項15に記載の医薬組成物の使用。
【請求項21】
高カロリー食、高タンパク質食、高炭水化物食、ビタミンB3、ビタミンB12、及び/若しくはビタミンD補給食、抗酸化剤、ω脂肪酸、並びに/又はポリフェノールによる食事介入と組み合わせた悪液質の予防又は治療方法における、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物の使用、又は請求項8~14のいずれか一項に記載の栄養組成物の使用、又は請求項15に記載の医薬組成物の使用。
【請求項22】
ヒト以外の動物において、骨格筋量及び/又は骨格筋機能を向上させることによって肉の生産を最適化するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物の使用、又は請求項8~14のいずれか一項に記載の栄養組成物の使用、又は請求項15に記載の医薬組成物の使用。
【請求項23】
悪液質又は前悪液質の予防又は治療のためのキットであって、抗癌治療薬と別々に又は共に投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項8~14のいずれか一項に記載の栄養組成物、又は請求項15に記載の医薬組成物を含む、キット。
【請求項24】
対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させるための、かつ/又はサルコペニア、ミオパチー、ジストロフィー、及び/若しくは筋損傷若しくは手術後の回復を有する対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するためのキットであって、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項8~14のいずれか一項に記載の栄養組成物、又は請求項15に記載の医薬組成物を含む、キット。
【請求項25】
前記キットが、高カロリー食、高タンパク質食、高炭水化物食、ビタミンB3、B12、及び/若しくはビタミンD補給食、抗酸化剤、ω脂肪酸、並びに/又はポリフェノールによる食事介入及び毎日の投与のための指示を更に含む、請求項23又は24に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋幹細胞を調節することによって、骨格筋可塑性を改善して、筋機能及び/又は筋量を維持又は向上させるための新規デプシド二量体化合物に関する。例えば、本発明は、対象の筋肉修復の促進に、並びに/又は前悪液質、悪液質、サルコペニア、ミオパチー、ジストロフィーに罹患している対象、及び/又は筋損傷若しくは手術後の回復中の対象に有用である。
【背景技術】
【0002】
骨格筋の再生は、生涯にわたって筋量及び機能を修復及び維持するための重要な機構である。骨格筋の再生は、筋幹細胞又はサテライト細胞として知られる筋前駆細胞の関与を主に必要とする。
【0003】
非増殖性の休止状態にあり、平静時の骨格筋に密着しているサテライト細胞は、筋鞘と基底膜との間に局在すること、核/細胞質体積比が高いこと、オルガネラ(例えば、リボソーム、小胞体、ミトコンドリア、ゴルジ複合体)が少ないこと、核サイズが小さいこと、及び筋核に対して核ヘテロクロマチンが多量であること、によって特定することができる。一方で、活性化されたサテライト細胞は、多数のカベオラ、細胞質オルガネラ、及び低レベルのヘテロクロマチンを有する。
【0004】
これらの筋サテライト細胞は、成体幹細胞ニッチの一部をなし、筋肉の正常な成長、及び損傷又は疾患後の再生に関与する。したがって、これらは、健康な状態及び疾患状態の両方において筋再生を増強することに関し有望な標的である。骨格筋再生は、発達段階を再現する一連の工程に従うものである。筋肉前駆細胞は、休止の状態を脱し、活性化し、増殖し、及び筋分化にコミットする必要がある。
【0005】
サテライト細胞は、筋形成及び増殖の異なる段階で遺伝子マーカーを発現する。Pax7及びPax3は、サテライト細胞のマーカーであると考えられている。例えば、Pax7の発現が低レベルであり活性化されているサテライト細胞は、より分化にコミットしている。一方でPax7が高レベルであることは、細胞がさほど分化していない状態であることに関連し、そのような細胞はより未分化な幹細胞の性質を有している。筋形成の活性化及び誘導は、典型的には、MyoD、Myf5、ミオゲニン、及びMRF4などの筋分化制御因子によって調整される。ミオスタチン及びTGFbによる負の調整では、サテライト細胞の分化が阻害される(Almeida et al.,2016)。
【0006】
事前の筋芽細胞の移植を含む実験的な療法では、筋芽細胞は筋幹細胞と比較してよりコミットされておりかつ分化が進んでおり、再生能が低くなっていることから、満足の行く結果は得られていない。
【0007】
したがって、筋肉の健康を維持し、筋再生を改善するための、筋幹細胞を直接調節する化合物、組成物、及び方法を特定することが、依然として非常に必要とされている。このような化合物、組成物、及び治療方法は、筋機能及び/又は筋量の維持を促進し、向上させることにより、筋幹細胞の機能不全を有する対象、及び/又は悪液質又はサルコペニアなどの筋肉疾患及び筋肉状態に罹患している対象を補助することができる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、損傷後の筋肉の修復を改善するため、又は多くの病的状態、特に悪液質及びサルコペニアで発生する筋消耗に対抗するために、骨格筋機能を調節し、骨格筋再生を改善するための新規デプシド化合物及び組成物を特定した。
【0009】
一実施形態では、本発明は、一般式(I)の化合物に関する。
【化1】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール、第二級アルコール、又は第三級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;第一級アミン、第二級アミン、又は第三級アミン;第一級アミド又は第二級アミド;シアノ;ニトロ;スルホネート;スルフェート;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルキニル、又は任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルキニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【0010】
別の実施形態では、本発明は、一般式(II)の化合物に関する。
【化2】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェート;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【0011】
別の実施形態では、本発明は、一般式(III)の化合物に関する。
【化3】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;アルキル鎖、アルケニル鎖、及びポリアルケニル鎖は、オキソ基が介在していてもよく、R2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;Me;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェートであり;かつ、R10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【0012】
別の実施形態では、本発明は、一般式(IV)の化合物に関する。
【化4】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;CH3;C2H5;CH-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1~17);CH-CO-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1~16);C(CH3)=CH-CH3分枝状アルキル鎖であり;
かつR2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;Me;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェートであり;
かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【0013】
別の実施形態では、本発明は、一般式(V)の化合物に関する。
【化5】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;CH3;CH-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1、3、5、7、9、11、13、15、又は17);CH-CO-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=2、4、6、8、10、12、14、又は16);C(CH3)=CH-CH3分枝状アルキル鎖であり;
かつR2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;Me、OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;塩素;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;スルフェートであり;
かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【0014】
一実施形態では、当該化合物は、ジフラクタ酸(安息香酸,2,4-ジメトキシ-3,6-ジメチル-,4-カルボキシ-3-ヒドロキシ-2,5-ジメチルフェニルエステル(CAS番号436-32-8))である。
【化6】
【0015】
一実施形態では、当該化合物は、バルバチン酸(安息香酸,2-ヒドロキシ-4-[(2-ヒドロキシ-4-メトキシ-3,6-ジメチルベンゾイル)オキシ]-3,6-ジメチル(CAS番号17636-16-7))である。
【化7】
【0016】
本発明の化合物及び組成物は、筋幹細胞の機能を調節して、対象における骨格筋機能及び/又は骨格筋量を維持若しくは向上させ、並びに/又はにおける筋消耗を実質的に予防若しくは低減するのに有用であり得る。特に、筋幹細胞の数、筋幹細胞の機能、筋形成、及び筋成長を強化する。
【0017】
本発明の化合物及び組成物は、筋肉の再生を促進し、筋消耗若しくは筋肉の損傷から回復させるため、及び/又はサルコペニア若しくは悪液質;若しくは前悪液質を予防若しくは治療するために有用であり得る。特に、サルコペニアは、老化に関連した筋量及び/又は筋力の低下であり、悪液質は、例えば、癌、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、代謝性アシドーシス、及び/又は神経変性疾患に関連する場合、疾患に関連するものである(Von Haehling et al.2014)。
【0018】
本発明の化合物及び組成物は、肉の生産を最適化するために、ヒト以外の動物において筋量及び筋機能を促進するのに有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】筋幹細胞の筋分化へのコミットメント。ドナー8に対するのバルバチン酸化合物を表す。図1Aは、Pax7+細胞の割合を表し、図1Bは、MyoD+細胞の割合を表す。
図2】筋幹細胞の筋分化へのコミットメント。ドナー4に対するバルバチン酸化合物を表す。図2Aは、Pax7+細胞の割合を表し、図2Bは、MyoD+細胞の割合を表す。
図3】筋幹細胞の筋分化へのコミットメント。ドナー8に対するジフラクタ酸化合物を表す。図3Aは、Pax7+細胞の割合を表し、図3Bは、MyoD+細胞の割合を表す。
図4】筋幹細胞の筋分化へのコミットメント。ドナー4に対するジフラクタ酸化合物を表す。図4Aは、Pax7+細胞の割合を表し、図4Bは、MyoD+細胞の割合を表す。 2名の異なるドナー(ドナー8及びドナー4)由来のヒト初代筋芽細胞を、1ウェル当たり1,000個の細胞密度で、384ウェルプレートの骨格筋増殖培地(SKM-M,AMSbio)に播種した。処理のために、最初の播種から16時間後に、筋芽細胞培養物に化合物を直接添加した。 次に、全ての培養物を96時間増殖させた。Pax7及びMyoDに対する抗体を使用して、Pax7及びMyoDの発現について細胞を染色し、Hoechst 33342で対比染色して細胞核を可視化した。筋芽細胞(MyoD+)は、Pax7は発現していないがMyoDは発現している細胞として定義される。ImageXpress(Molecular Devices)プラットフォームを使用して画像取得を行った。定量には、MetaXpressソフトウェアのMulti-Wavelength Cell Scoringに基づくカスタムモジュール分析を使用した。各条件について、細胞の総数を決定して化合物の毒性を評価した。MyoD+細胞集団の割合を評価するため、MyoD+細胞数を総細胞数に対して正規化した。*********は対照からの差を示しており、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、p<0.0001の一元配置分散分析である。データは平均±SEMとして表した。
図5】筋芽細胞分化アッセイ。バルバチン酸化合物によるドナー8の治療を示す。図5Aは、筋管における核の割合(%)による融合指数(fusion factor)を表し、図5Bは、筋管のサイズ(μm)を表す。
図6】筋芽細胞分化アッセイ。バルバチン酸化合物によるドナー4の治療を示す。図6Aは、筋管における核の割合(%)による融合指数を表し、図6Bは、筋管のサイズ(μm2)を表す。
図7】筋芽細胞分化アッセイ。ジフラクタ酸化合物によるドナー8の治療を表す。図7Aは、筋管における核の割合(%)による融合指数を表し、図7Bは、筋管のサイズ(μm2)を表す。
図8】筋芽細胞分化アッセイ。ジフラクタ酸化合物によるドナー4の治療を表す。図8Aは、筋管における核の割合(%)による融合指数を表し、図8Bは、筋管のサイズ(μm2)を表す。 *********は対照からの差を示しており、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、p<0.0001の一元配置分散分析である。 データは平均±SEMとして表した。
図9】化合物の安全性について、非発癌性であることを示す。 化合物の安全性を、ATCCから購入した2通りの異なるヒト癌細胞株で試験した。図9Aの細胞株PC-3は、62歳の白人男性由来の前立腺/腺癌のもの、図9Bの細胞株PANC-1は、56歳の白人男性由来の膵管上皮癌腫(pancreatic duct epitheloid carcinoma)由来のものである。 *********は対照からの差を示しており、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、p<0.0001の一元配置分散分析である。データは平均±SEMとして表した。
図10A】Pax7+細胞の数を表す。ジフラクタ酸は生体内での筋再生プロセスを促進することができる。
図10B】ミオゲニン+細胞の数を表す。ジフラクタ酸は生体内での筋再生プロセスを促進することができる。
図10C】新しく形成された筋線維の平均サイズを表す。ジフラクタ酸は生体内での筋再生プロセスを促進することができる。 筋幹細胞の初期増殖期及びその後の筋分化期は、それぞれPax7+細胞(A)の数及びミオゲニン+細胞(B)の数を計数することによって評価した。データは、損傷した筋肉のエリア当たりの細胞数として表す。新しく形成された各筋線維のサイズ(C)は、これらの新生筋線維を識別して描出することを可能にするeMHC及びラミニンの発現に基づいて測定した。結果は、筋線維の断面積(μm2)の平均として示されている。 *********は対照からの差を示しており、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、p<0.0001の一元配置分散分析である。データは平均±SEMとして表した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の様々な好ましい特徴及び実施形態を、非限定的な例により記載する。
【0021】
本発明の化合物
本発明の化合物は、デプシドである。
【0022】
一実施形態では、本発明は、一般式(I)の化合物に関する。
【化8】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール、第二級アルコール、又は第三級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;第一級アミン、第二級アミン、又は第三級アミン;第一級アミド又は第二級アミド;シアノ;ニトロ;スルホネート;スルフェート;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルキニル、又は任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルキニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;かつR10は、H;Me;糖、又は糖アルコールである。]
【0023】
別の実施形態では、本発明は、一般式(II)の化合物に関する。
【化9】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェート;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【0024】
別の実施形態では、本発明は、一般式(III)の化合物に関する。
【化10】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC1~C19アルキル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC2~C19アルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19ポリアルケニル;任意選択的に置換された及び/若しくは任意選択的に分枝状のC4~C19多価不飽和鎖であり;アルキル鎖、アルケニル鎖、及びポリアルケニル鎖は、オキソ基が介在していてもよく、R2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;Me;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェートであり;かつ、R10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである]。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、一般式(IV)の化合物に関する:
【化11】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;CH3;C2H5;CH-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1~17);CH-CO-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1~16);C(CH3)=CH-CH3分枝状アルキル鎖であり;かつR2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;Me、OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;ハロゲン;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;エステル;スルフェートであり;
かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【0026】
別の実施形態では、本発明は、一般式(V)の化合物に関する。
【化12】

[式中、R1及びR6は、各々独立してH;CH3;CH-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=1、3、5、7、9、11、13、15、又は17);CH-CO-(CH-CH非分枝状アルキル鎖(式中、n=2、4、6、8、10、12、14、又は16);C(CH3)=CH-CH3分枝状アルキル鎖であり;
かつR2、R2、R3、R4、R5、R7、R8、及びR9は、各々独立してH;Me;OH;OMe;O-グリコシド;C-グリコシド;アシル化O-グリコシド;アシル化C-グリコシド;硫酸化O-グリコシド;硫酸化C-グリコシド;塩素;第一級アルコール;ケトン;アルデヒド;カルボン酸;スルフェートであり;
かつR10は、H;Me;糖;又は糖アルコールである。]
【0027】
一実施形態では、当該化合物は、ジフラクタ酸(安息香酸,2,4-ジメトキシ-3,6-ジメチル-,4-カルボキシ-3-ヒドロキシ-2,5-ジメチルフェニルエステル(CAS番号436-32-8))である。
【化13】
【0028】
一実施形態では、当該化合物は、バルバチン酸(安息香酸,2-ヒドロキシ-4-[(2-ヒドロキシ-4-メトキシ-3,6-ジメチルベンゾイル)オキシ]-3,6-ジメチル(CAS番号17636-16-7))である。
【化14】
【0029】
一般的な化学用語
用語「アルキル」は、1~19個の炭素原子、又は1~15個の炭素原子、又は1~9個の炭素原子、又は1~7個の炭素原子、又は1~5個の炭素原子、又は1~3個の炭素原子を有する分枝状又は非分枝状の飽和炭化水素鎖を指す。この用語は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソ-プロピル基、n-ブチル基、イソ-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-デシル基、テトラデシル基などの基によって例示される。
【0030】
用語「置換アルキル」は、以下を指す:
1)アルキル基;アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、アミノ基、置換アミノ基、アミノカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アジド基、シアノ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、ケト基、チオカルボニル基、カルボキシ基、カルボキシアルキル基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、ヘテロシクリルチオ基、チオール基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、アミノスルホニル基、アミノカルボニルアミノ基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロシクリル基、ヘテロシクロオキシ基、ヒドロキシアミノ基、アルコキシアミノ基、ニトロ基、-S(O)-アルキル基、-S(O)-シクロアルキル基、-S(O)-ヘテロシクリル基、-S(O)-アリール基、-S(O)-ヘテロアリール基、-S(O)2-アルキル基、-S(O)2-シクロアルキル基、-S(O)2-ヘテロシクリル基、-S(O)2-アリール基、及び-S(O)2-ヘテロアリール基からなる群から選択される1個、2個、3個、4個又は5個の置換基(いくつかの実施形態では、1個、2個又は3個の置換基)を有する上記定義によるアルキル鎖。定義によって特に制約されない限り、全ての置換基は、任意選択的に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシ基、カルボキシアルキル基、アミノカルボニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、CF3基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基、ヘテロアリール基、及び-S(O)nR<a>基[式中、R<a>はアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基であり、nは0、1、又は2である]から選択される1個、2個、又は3個の置換基によって更に置換され得る;又は
2)酸素、硫黄、及びNR<a>[式中、R<a>は、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びヘテロシクリル基から選択される]から独立して選択される1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個又は5個の原子)が介在する、上記定義によるアルキル鎖。全ての置換基は、任意選択的に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシ基、カルボキシアルキル基、アミノカルボニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、CF3基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基、ヘテロアリール基、及び-S(O)nR<a>[式中、R<a>はアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基であり、nは0、1、又は2である]によって更に置換され得る;又は
3)1個、2個、3個、4個、又は5個の上記定義による置換基を有し、かつ上記定義による1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個又は5個の原子)が更に介在する、の両方である、上記定義によるアルキル鎖。
4)メチレン基のうちの1つがカルボニル基で置換されてオキソ基を与える、上記定義によるアルキル鎖。非限定的な例には、-CH2-CH2-CO-CH2-CH3、-CH2-CO-(CH2)n-CH3[式中、n=2、4、又は6]が含まれる。
5)メチレン基のうちの1つがカルボニル基で置換されてオキソ基を与え、かつ1個、2個、3個、4個、若しくは5個の上記定義による置換基を有する、又は上記定義による1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個若しくは5個の原子)が介在する、又は1個、2個、3個、4個、若しくは5個の上記定義による置換基を有する、かつ上記定義による1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個若しくは5個の原子)が介在する、の両方である、上記定義によるアルキル鎖。
【0031】
用語「アルケニル」は、鎖中の2つの原子が、芳香族基の一部ではない二重結合を形成するタイプの、アルキル鎖を指す。すなわち、アルケニル鎖は、パターンR-C(R)=C(R)-Rを含む[式中、Rは、同じであっても異なっていてもよい、アルケニル鎖の残りの部分を指す]。アルケニル鎖の非限定的な例には、-C(CH3)=CH-CH3、-CH=CH2、-C(CH3)=CH2、-CH=CH-CH3、-C(CH3)=CH-CH3、-CH2-CH=C(CH3)2、及び-C(CH3)2-CH=CH2が含まれる。アルケニル部分は、分枝状、直鎖状、又は環状(この場合、該部分は「シクロアルケニル」基としても知られる)であってもよい。アルケニル鎖は、任意選択的に置換されていてもよい。
【0032】
上記定義によるアルケニル鎖には、酸素、硫黄、及びNR<a>[式中、R<a>は、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びヘテロシクリル基から選択される]から独立して選択される1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個又は5個の原子)が介在し得る。全ての置換基は、任意選択的に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシ基、カルボキシアルキル基、アミノカルボニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、CF3基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基、ヘテロアリール基、及び-S(O)nR<a>[式中、R<a>はアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基であり、nは0、1、又は2である]によって更に置換され得る。
【0033】
上記定義によるアルケニル鎖には、オキソ基が介在し得る。
【0034】
上記定義によるアルケニル鎖のメチレンの1つは、オキソ基で置き換えることができ、鎖は、1個、2個、3個、4個、若しくは5個の上記定義による置換基を有し得る、若しくは上記定義による1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個若しくは5個の原子)が介在し得る、のいずれかである、又は1個、2個、3個、4個、若しくは5個の上記定義による置換基を有し得る、かつ上記定義による1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個若しくは5個の原子)が介在し得る、の両方である。
【0035】
用語「アルキニル」は、鎖中の2つの原子が三重結合を形成するタイプの、アルキル鎖を指す。すなわち、アルキニル鎖は、パターンR-C≡C-Rを含む[式中、Rは、同じであっても異なっていてもよい、アルキニル鎖の残りの部分を指す]。アルキニル鎖の非限定的な例には、-C≡CH、-C≡C-CH3、及び-C≡C-CH2-CH3が含まれる。アルキニル部分の「R」部分は、分枝状、直鎖状、又は環状であってもよい。アルキニル鎖は、任意選択的に置換されていてもよい。
【0036】
上記定義によるアルキニル鎖には、酸素、硫黄、及びNR<a>[式中、R<a>は、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びヘテロシクリル基から選択される]から独立して選択される1~8個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個又は5個の原子)が介在し得る。全ての置換基は、任意選択的に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシ基、カルボキシアルキル基、アミノカルボニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、CF3基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基、ヘテロアリール基、及び-S(O)nR<a>[式中、R<a>はアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基であり、nは0、1、又は2である]によって更に置換され得る。
【0037】
上記定義によるアルキニル鎖は、オキソ基が介在し得る。
【0038】
上記定義によるアルキニル鎖のメチレンのうち1つは、オキソ基で置き換えることができ、鎖は、1個、2個、3個、4個、若しくは5個の上記定義による置換基を有し得る、若しくは上記定義による1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個若しくは5個の原子)が介在し得る、のいずれかである、又は1個、2個、3個、4個、若しくは5個の上記定義による置換基を有し得る、かつ上記定義による1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個若しくは5個の原子)が介在し得る、の両方である。
【0039】
用語「多価不飽和」は、以下を指す。
【0040】
1)アルキル鎖の2つ以上の原子対が、芳香族基の一部ではない二重結合を形成する、ポリアルケニルとして知られる鎖。すなわち、ポリアルケニル鎖は、2~8個のR-C(R)=C(R)-Rパターンを含む[式中、Rは、同じであっても異なっていてもよい、アルケニル鎖の残りの部分を指す]。ポリアルケニル鎖の非限定的な例には、-CH=CH-CH=CH-CH3、-(CH2)2-CH=CH-CH=CH-(CH2)2-CH3、-CH2-CH=C(CH3)-CH2-CH2-CH=C(CH3)2、及び-CH2-CH=C(CH3)-CH2-CH2-CH=C(CH3)-CH2-CH2-CH=C(CH3)2が含まれる。ポリアルケニル部分は、分枝鎖でも直鎖でもよい。2つの二重結合を含有するポリアルケニル部分は、環状(この場合、該部分は「シクロジアルケニル」基としても知られる)であってもよい。シクロジアルケニル基の非限定的な例としては、シクロペンタジエン基及びシクロヘキサジエン基が挙げられる。ポリアルケニル鎖は、任意選択的に置換されていてもよい。
【0041】
2)アルキル鎖の2つ以上の原子対が三重結合を形成するポリアルキニルとして知られる鎖。すなわち、ポリアルキニル鎖は、2~8個のR-C≡C-Rパターンを含む[式中、Rは、同じであっても異なっていてもよい、アルキニル鎖の残りの部分を指す]。ポリアルキニル鎖の非限定的な例には、-CH2-CH2-C≡C-C≡CHが含まれる。ポリアルキニル部分の「R」部分は、分枝状、直鎖状、又は環状であってもよい。アルキニル鎖は、任意選択的に置換されていてもよい。
【0042】
3)アルキル鎖の少なくとも1対の原子が二重結合を形成し、アルキル鎖の1対の原子が三重結合を形成するタイプのアルキル鎖。すなわち、多価不飽和鎖は、R-C(R)=C(R)-R及びR-C≡C-Rパターンの両方を含む[式中、Rは、同じであっても異なっていてもよい、多価不飽和鎖の残りの部分を指し、不飽和結合の総数は2~8まで変化し得る]。この種の多価不飽和鎖の非限定的な例としては、-CH2-CH=CH-C≡CHが挙げられる。多価不飽和部分の「R」部分は、分枝状、直鎖状、又は環状であってもよい。多価不飽和鎖は、任意選択的に置換されていてもよい。
【0043】
4)酸素、硫黄、及びNR<a>[式中、R<a>は、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びヘテロシクリル基から選択される]から独立して選択される1~5個の原子(例えば、1個、2個、3個、4個又は5個の原子)が介在する、上記段落1~3の定義による多価不飽和鎖。
【0044】
5)メチレン基のうちの1つがカルボニル基で置換されてオキソ基を与える、上記段落1~3の定義による多価不飽和鎖。
【0045】
本明細書で使用するとき、用語「環」は、共有結合により閉鎖されている任意の構造を指す。環には、例えば、炭素環(例えば、アリール及びシクロアルキル)、複素環(例えば、ヘテロアリール及び非芳香族複素環)、芳香族(例えば、アリール及びヘテロアリール)、並びに非芳香族(例えば、シクロアルキル及び非芳香族複素環)が含まれる。環は、任意選択的に置換されていてもよい。環は、環系の一部を形成し得る。本明細書で使用するとき、用語「環系」は、環のうちの2つ以上が縮合している、2つ以上の環を指す。用語「縮合」は、2つ以上の環が1つ以上の結合を共有する構造を指す。
【0046】
用語「ハロゲン」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を指し得る。
【0047】
用語「グリコシド」は、少なくとも1つの糖がグリコシド結合を介して別の官能基に結合している化合物を指す。典型的には、グリコシド鎖は、1~4個の糖単位を含み得る。
【0048】
用語「グリコシド結合」は、糖のヘミアセタール基又はヘミケタール基と化合物の化学基との間に形成される結合を指す。化学基は、-OH(O-グリコシド)、又は-CR1R2R3(C-グリコシド)であり得る。
【0049】
用語「アシル化O-グリコシド」及び「アシル化C-グリコシド」は、グリコシド鎖の少なくとも1つのヒドロキシルが有機酸によってエステル化された化合物を指す。有機酸の典型的な例は、酢酸、置換安息香酸、ケイ皮酸(カフェー酸、フェルラ酸、p-クマル酸)、及び/又はフェニルプロパン酸(ジヒドロカフェー酸)を含み得る。
【0050】
用語「硫酸化O-グリコシド」及び「硫酸化C-グリコシド」は、グリコシド鎖の少なくとも1つのヒドロキシルが硫酸によってエステル化された化合物を指す。
【0051】
用語「メチレンジオキシ」は、構造式R-O-CH2-O-R’を有し、2つの化学結合によって分子の残りの部分に連結された官能基を指し得る。
【0052】
本明細書で使用するとき、用語「類似体」は、ある化合物と類似の構造を有しているものの、当該化合物とは特定の構成成分に関して異なっている化合物を指すものと理解される。「誘導体」は、1つ以上の原子を別の原子又は原子の群で置換することによって、親化合物から発生すると想像できる、又は実際に合成され得る化合物である。
【0053】
本発明の一実施形態では、本発明の化合物は、筋幹細胞の機能を調節して、対象における骨格筋機能及び/又は骨格筋量を維持若しくは向上させ、並びに/又はにおける筋消耗を実質的に予防若しくは低減し、及び/又は例えば、筋線維の修復を加速することによって、若しくは線維症及び筋硬直を低減させることによって、若しくは筋肉の脂肪浸潤を減少させることによって、損傷後の筋肉修復を強化する。
【0054】
本発明の別の実施形態では、本発明の化合物は、骨格筋幹細胞の増殖及び/又は分化によって筋幹細胞の機能を調節する。
【0055】
本発明の更なる実施形態では、本発明の化合物は、筋形成によって筋幹細胞の機能を調節する。
【0056】
本発明の組成物
組成物は、本発明の1つ以上の化合物を含む。本発明の組成物は、例えば、栄養組成物又は医薬組成物であり得る。栄養組成物は、本発明の好ましい実施形態である。
【0057】
栄養組成物
一実施形態では、組成物は栄養組成物である。栄養組成物は、ヒト及び/又は動物の摂取に好適な任意の種類の組成物であり得る。別の実施形態では、本発明の栄養組成物は、本発明の化合物が豊富である、又は本発明の化合物により強化された植物抽出物を含み得る。
【0058】
例えば、本組成物は、食品組成物、ダイエタリーサプリメント、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又は乳で再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬品、飲料及びドリンクからなる群から選択され得る。
【0059】
一実施形態では、本組成物は、経口栄養補助食品(ONS)、完全栄養配合物、医薬品、薬剤又は食品製品である。好ましい実施形態では、本組成物は個体に飲料として投与される。本組成物は粉末としてサシェに保存され、次に使用の際に水などの液体中に懸濁されてもよい。
【0060】
経口又は経腸投与が不可能であるか、又は推奨されない一部の場合には、本組成物はまた、非経口投与されてもよい。
【0061】
一部の実施形態では、本組成物は単回投与剤形で個体に投与され、すなわち、食事と一緒に個体に与えられる1つの製剤中に全ての化合物が存在している。他の実施形態では、組成物は別個の剤形で同時に投与され、本発明の1種以上の化合物は、組成物の他の成分からは別々に分かれている。例えば、本発明の化合物を含む食品組成物は、本発明の化合物を含む飲料組成物とは別々に投与され得る。
【0062】
「食品組成物」又は「飲料組成物」は、ヒト又は動物などの個体による摂取を意図した、その個体に本発明の少なくとも1つの化合物を与える製品又は組成物を意味する。本明細書に記載の多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に記載の必須成分(essential elements)及び制限に加え、本明細書に記載の、又は食事療法に有用な、任意の追加の若しくは任意選択的な成分、構成成分、又は制限を含んでよく、これらから構成されてよく、又は本質的にこれらから構成されてよい。
【0063】
栄養組成物は、「完全栄養組成物」であるとみなされ得る。これは、栄養組成物が、組成物を投与される個体の唯一の栄養源とするのに十分な種類及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂肪、及び炭水化物)と、十分な微量栄養素とを含有することを意味する。個体は、このような完全栄養組成物から、個体が必要とする栄養分の100%を受容可能である。
【0064】
栄養組成物は、1食当たり、0.01mg~約1g、好ましくは0.1mg~1g、更により好ましくは1mg~約1gの量の本発明の化合物を含有し得る。
【0065】
治療効果の実現に必要とされる本発明による組成物の有効量は、具体的な組成物、投与経路、投与を受ける対象者の年齢及び状態、並びに治療する具体的な障害又は疾患によって異なり得る。特定の種類のこれらの栄養組成物は、特定の国又は地域の規制法に応じて、医薬品として規制され得る。
【0066】
例示として、RTD(レディ・トゥ・ドリンク)組成物は、各有効成分を、1食当たり0.01mg~500mg、より好ましくは1食当たり約250mg含有する。
【0067】
本発明の1種以上の化合物に加えて、組成物は、動物又は植物由来のタンパク質源、例えば、乳タンパク質、大豆タンパク質、及び/又はエンドウ豆タンパク質を更に含み得る。好ましい実施形態において、タンパク質源は、ホエイタンパク質;カゼインタンパク質;エンドウ豆タンパク質;大豆タンパク質;小麦タンパク質;トウモロコシタンパク質;米タンパク質;マメ科植物、禾穀類及び穀粒類由来のタンパク質;及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。それに加えて又は代えて、タンパク質源は、堅果類及び/又は種子類由来のタンパク質を含み得る。
【0068】
タンパク質源はホエイタンパク質を含み得る。ホエイタンパク質は加水分解を受けていても受けていなくてもよい。ホエイタンパク質は任意のホエイタンパク質であってよく、例えばホエイタンパク質は、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、ホエイタンパク質ミセル、ホエイタンパク質加水分解物、酸ホエイ、スイートホエイ、変性スイートホエイ(カゼイノ-グリコマクロペプチドが除去されたスイートホエイ)、ホエイタンパク質の画分、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。好ましい実施形態において、ホエイタンパク質はホエイタンパク質分離物及び/又は変性スイートホエイを含む。
【0069】
上述のとおり、タンパク質源は動物又は植物由来であってもよく、例えば、乳タンパク質、大豆タンパク質、及び/又はエンドウ豆タンパク質であり得る。一実施形態において、タンパク質源はカゼインを含む。カゼインは任意の哺乳類から得ることができるが、好ましくは牛乳から、及び好ましくはカゼインミセルとして得られる。
【0070】
本発明の一実施形態では、栄養組成物は、タンパク質の摂取量、好ましくは乳清の摂取量が、1日当たり5~50gのタンパク質、例えば1日当たり12~40gのタンパク質、好ましくは1日当たり15~30gのタンパク質、例えば1日当たり16~25gのタンパク質、更により好ましくは1日当たり20gのタンパク質となるような量のタンパク質を含む。
【0071】
栄養組成物は、1種以上の分枝鎖のアミノ酸を含み得る。例えば、本組成物は、ロイシン、イソロイシン及び/又はバリンを含み得る。本組成物のタンパク質源は、遊離形態のロイシン、並びに/又はペプチド及び/又は乳タンパク質、動物性タンパク質若しくは植物性タンパク質などのタンパク質として結合したロイシンを含み得る。一実施形態において、本組成物は、組成物の乾燥物質の最大10重量%の量のロイシンを含む。ロイシンは、D-ロイシン又はL-ロイシンとして、好ましくはL型として存在し得る。本組成物がロイシンを含む場合、本組成物は、体重1kg当たり0.01~0.04gのロイシン、好ましくは体重1kg当たり0.02~0.035gのロイシンを提供する1日用量で投与することができる。かかる用量は、特に完全栄養組成物に適当なものであるが、当業者は、経口栄養補助食品(ONS)に合わせて用量を調節する方法を容易に認識するであろう。
【0072】
一実施形態では、本発明の1種以上の化合物を含む組成物は、脂肪酸を更に含む。脂肪酸は任意の脂肪酸であってよく、脂肪酸の組み合わせなど、1種以上の脂肪酸であり得る。脂肪酸は好ましくは、必須多価不飽和脂肪酸、すなわち、リノール酸(C18:2n-3)及びα-リノレン酸(C18:3n-3)など、必須脂肪酸を含む。脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(C20:5n-3)、アラキドン酸(C20:4n-6)、ドコサヘキサエン酸(C22:6n-3)、又はこれらの任意の組み合わせなど、長鎖多価不飽和脂肪酸を含み得る。好ましい実施形態において、脂肪酸はn-3(ω3)脂肪酸及び/又はn-6(ω6)脂肪酸を含む。脂肪酸は好ましくは、エイコサペンタエン酸を含む。
【0073】
脂肪酸は、ヤシ油、ナタネ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ベニバナ油、パーム油、ヒマワリ油又は卵黄など、脂肪酸を含有する任意の好適な供給源に由来し得る。脂肪酸の供給源は、好ましくは魚油である。
【0074】
本発明によるn-3脂肪酸は、通常、総脂肪含量に基づき少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%である。好ましい実施形態では、一日量は、500mg~2.5g/日、好ましくは1g~1.5g/日のn-3脂肪酸である。
【0075】
本発明の少なくとも1つの化合物を含む本発明の組成物は、抗炎症化合物又は抗酸化化合物を更に含んでもよい。例えば、追加の抗酸化物質が、抗酸化物質が豊富に含まれる食品組成物として、又はその抽出物として提供され得る。「抗酸化物質が豊富に含まれる」食品組成物は、ORAC(酸素ラジカル吸収能)の評点が組成物100g当たり少なくとも100のものである。
【0076】
一実施形態では、組成物は、本発明の化合物と、少なくともタンパク質源と、アミノ酸と、n-3脂肪酸とを含む。
【0077】
別の実施形態では、組成物は本発明の化合物を含み、抗酸化化合物を更に含む。
【0078】
一実施形態では、組成物は、本発明の化合物と、ビタミンD又はビタミンB複合体などの少なくとも1種のビタミンと、を更に含む。本発明による組成物は、例えば、1食当たり800~1200IUの量のビタミンDを含んでもよい。
【0079】
本発明の栄養組成物は、治療に有効な用量で、ヒト、例えば高齢者などの個体に投与することができる。治療に有効な用量は当業者により決定され得るものであり、状態の重症度並びに個体の体重及び全身状態など、当業者に公知のいくつもの因子に応じて異なり得る。
【0080】
本発明の一実施形態では、栄養組成物は、運動又は身体活動のレジメンと組み合わせて対象に投与される。
【0081】
本発明の栄養組成物は、動物に投与するように、動物用のトリート(例えば、ビスケット)、又はダイエタリーサプリメントの形態で製剤化することができる。組成物は、ドライ組成物(例えば、キブル)、セミモイスト組成物、ウェット組成物、又はそれらの任意の混合物であってよい。別の実施形態では、栄養組成物は、グレイビー(gravy)、飲料水、飲料、ヨーグルト、粉末、顆粒、ペースト、懸濁液、噛むもの(chew)、一口で食べるもの(morsel)、トリート、スナック、ペレット、丸薬(pill)、カプセル、錠剤、又は他の適切な送達形態などのダイエタリーサプリメントである。
【0082】
含水率は、組成物の性質に応じて様々であり得る。一実施形態では、組成物は、完全なものでありかつ栄養的にバランスのとれたペットフードであり得る。この実施形態では、ペットフードは、「ウェットフード」、「ドライフード」、又は中間含水率の食品であり得る。「ウェットフード」は、典型的には、缶又はホイルバッグに入れられて販売され、含水率が典型的には約70%~約90%の範囲であるペットフードのことを述べている。「ドライフード」は、ウェットフードと同様の組成のものであるが、典型的には約5%~約15%又は20%の範囲の限定された含水率を含むペットフードを表し、そのため、例えば、小さいビスケット状のキブルとして提供される。一実施形態において、組成物の含水率は約5%~約20%である。ドライフード製品は、保管時に比較的安定であり、微生物又は真菌による劣化又は汚染に対して耐性を有するような様々な含水率の様々な食品を含む。また、ペットフードなどの押出食品製品、又はヒト若しくはコンパニオンアニマル用のスナック食品である、ドライフード組成物も含まれる。
【0083】
栄養組成物は、個体においてサルコペニアの状態がまだ発症していない場合に、疾患若しくは状態であるサルコペニアを発症するリスクを予防するのに、又はそのリスクを少なくとも部分的に軽減するのに十分な量で個体に投与され得る。かかる量は「予防に有効な用量」と定義される。この場合もまた、正確な量は、体重、健康状態及び筋機能(例えば筋力、歩行速度等)がどの程度低下しているかなど、個体に関連するいくつもの要因によって異なる。
【0084】
栄養組成物は、好ましくは個体の食事に対する栄養補給剤として毎日又は少なくとも週2回投与される。一実施形態において、本組成物は、個体に数日間にわたり連続的に、好ましくは投与前と比較して筋機能(例えば筋力、歩行速度等)の向上が達成されるまで投与される。例えば、本組成物を、少なくとも30日間、60日間又は90日間連続で毎日個体に投与することができる。別の例として、本組成物を、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10年の期間など、より長期間にわたって個体に投与することができる。
【0085】
好ましい実施形態では、栄養組成物は、少なくとも3ヵ月間、例えば3ヵ月~1年の期間、好ましくは少なくとも6ヵ月間にわたって個体に投与される。
【0086】
上記の投与例は、間断のない連日投与を必要とするものではない。それよりむしろ、投与期間中の2~4日間の中断など、投与には何回かの短期間の中断があってもよい。本組成物の理想的な投与継続期間は当業者により決定され得る。
【0087】
好ましい実施形態では、本組成物は、個体に経口投与又は経腸投与(例えば経管栄養法)される。例えば、本組成物は、飲料、カプセル、錠剤、散剤又は懸濁液剤として個体に投与することができる。
【0088】
医薬組成物
本発明の組成物は、医薬組成物、又は医薬組成物として調整される(regulated)栄養組成物として製剤化され得る、本発明の少なくとも1つの化合物を含む。
【0089】
医薬組成物は、例えば、本発明の活性化合物を約10%~約100%、好ましくは約20%~約60%含有する。経腸又は非経口投与のための医薬製剤は、例えば、糖衣錠、錠剤、カプセル剤又は坐剤、及び更にアンプルなどの単位剤形の製剤である。別段の指示がない場合、これらは、例えば、従来の混合プロセス、造粒プロセス、糖コーティングプロセス、溶解プロセス又は凍結乾燥プロセスによるものなどのそれ自体は既知である方法で調製される。必要な有効量は、複数の投薬単位の投与によって達成され得るため、各剤形の個々の用量に含まれる単位含有量はそれ自体が有効量を構成するものである必要はないことが理解されるであろう。
【0090】
特に、治療有効量の本発明の化合物は、同時に又は任意の順序で連続的に投与されてよく、組み合わせる場合は、成分は別々に、又は固定された組み合わせとして投与されてもよい。例えば、本発明による、癌に対する化学療法に関連する悪液質の治療方法において使用される場合、併用による治療有効量、好ましくは相乗効果的な量で、例えば、本明細書に記載される量に対応する1日投与量での、同時又は任意の順序での連続的な、(i)遊離又は薬学的に許容される塩の形態における組み合わせパートナ(a)の投与、及び(ii)遊離又は薬学的に許容される塩の形態の組み合わせパートナ(b)の投与を含み得る。
【0091】
本発明の個々の配合組み合わせは、治療過程の間に別々の時間に別々に投与されてもよく、又は分割された形態若しくは単一の組み合わせ形態で同時に投与することができる。本発明は、同時又は交互の治療に関するこのようなレジメンを全て包含し、用語「投与する」は、これに従って解釈されるべきである。
【0092】
有効用量は、用いられる具体的な化合物又は医薬組成物、投与様式、治療される状態、治療される状態の重症度によって様々であり得る。したがって、投与レジメンは、投与経路並びに患者の腎機能及び肝機能を含む様々な因子に従って選択される。当業者である医師、臨床医又は獣医師は、病状の進行を防止、無効化(counter)、又は停止するのに必要な有効量の単一の有効成分を容易に決定し、処方することができる。毒性なく有効性をもたらす範囲内の有効成分濃度を達成するにあたって精度を最適なものにするには、標的部位による有効成分の利用能に関する動態に基づいたレジメンが必要とされる。
【0093】
本発明の化合物は、経口、非経口、例えば、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内、又は直腸、又は経腸を含む任意の経路によって投与することができる。好ましくは、本発明の化合物は、経口的に、体重1kg当たり好ましくは1~300mg/kgの1日投与量で、又はほとんどの大型霊長類の場合、50~5000mg、好ましくは500~3000mgの1日投与量で投与される。好ましい経口1日投与量は、体重1kg当たり1~75mg、又はほとんどの大型霊長類の場合、1日投与量10~2000mgで、単回投与として投与するか、又は1日2回投与などの複数回投与に分割する。
【0094】
本発明の化合物は、好ましくは約100~2000mg/日の範囲、より好ましくは500~1500mg/日(例えば、1000mg/日)、及び最も好ましくは750mg/日~1500mg/日の用量でヒトに経口投与される。
【0095】
本発明の一実施形態では、本発明の組成物は、対象における骨格筋機能及び/又は骨格筋量を維持若しくは向上させ、並びに/又はにおける筋消耗を実質的に予防若しくは低減するように使用するために提供される。
【0096】
本発明の別の実施形態では、組成物は、対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させ、かつ/又は対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するために提供される栄養組成物である。
【0097】
本発明の別の実施形態では、組成物は、筋幹細胞の機能の調節が、筋幹細胞及び/又は筋芽細胞及び/又は筋管の数の増加によって評価される、本発明の化合物を含む栄養組成物である。
【0098】
本発明の一実施形態では、栄養組成物は、対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させ、かつ/又は対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するために提供される。
【0099】
本発明の別の実施形態では、悪液質若しくは前悪液質;サルコペニア、ミオパチー、ジストロフィー、及び/又は筋損傷若しくは手術後の回復を予防又は治療するための、栄養組成物を提供する。
【0100】
本発明の更なる実施形態では、本発明の栄養組成物は、悪液質の予防又は治療への使用のために提供され、悪液質は、癌、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、代謝性アシドーシス、及び/又は神経変性疾患から選択される疾患に関連するものである。
【0101】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の栄養組成物は、癌に関連する悪液質又は前悪液質の予防又は治療への使用のために提供される。
【0102】
発明の別の好ましい実施形態では、本発明の栄養組成物は、膵臓癌、食道癌、胃癌、腸癌、肺癌、及び/又は肝癌から選択される癌に関連する悪液質の治療への使用のために提供される。
【0103】
本発明の別の実施形態では、本組成物は、対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させ、かつ/又は対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するために提供される本発明の医薬組成物である。
【0104】
本発明の別の実施形態では、本組成物は、筋幹細胞の機能の調節が、筋幹細胞及び/又は筋芽細胞及び/又は筋管の数の増加によって評価される、本発明の化合物を含む医薬組成物である。
【0105】
本発明の一実施形態では、医薬組成物は、対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させ、かつ/又は対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するために提供される。
【0106】
本発明の別の実施形態では、悪液質若しくは前悪液質;サルコペニア、ミオパチー、ジストロフィー、及び/又は筋損傷若しくは手術後の回復を予防又は治療するための、医薬組成物を提供する。
【0107】
本発明の更なる実施形態では、本発明の医薬組成物は、悪液質の予防又は治療への使用のために提供され、悪液質は、癌、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、代謝性アシドーシス、及び/又は神経変性疾患から選択される疾患に関連するものである。
【0108】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、癌に関連する悪液質又は前悪液質の予防又は治療への使用のために提供される。
【0109】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、膵臓癌、食道癌、胃癌、腸癌、肺癌、及び/又は肝癌から選択される癌に関連する悪液質の治療への使用のために提供される。
【0110】
本発明の更なる実施形態では、本発明の化合物又は組成物は、悪液質の予防及び/又は治療のための薬剤の製造における使用のために提供される。
【0111】
癌を治療するための化学療法剤との組み合わせ
本発明の組み合わせは、本発明の少なくとも1種の化合物と、癌を治療するための化学療法剤と、を含む。一実施形態では、本発明の栄養組成物は、癌を治療するための化学療法剤と共に投与される、又は別々に投与される。
【0112】
組み合わせの投与は、薬学的な有効成分のうちの1種のみを適用する単剤療法と比較して、筋消耗の進行を遅くする、阻止する、又は、逆転させることについて、例えば、悪液質の減少、生活の質の改善、並びに死亡率及び罹患率の低下について驚くべき有益な効果をもたらす。
【0113】
本発明の一実施形態では、本発明の栄養組成物は、治療用の抗癌化合物と組み合わせて投与され得る。
【0114】
本発明の別の実施形態では、本発明の栄養組成物は、治療用の抗癌化合物の投与前又は投与後に、別々に又は連続的に投与され得る。
【0115】
パーツキット
組み合わせ製剤は、独立して、又は区別された量の組み合わせでもって様々な固定の組み合わせを使用することによって(すなわち同時に又は異なる時点で)投与され得るという意味で、「パーツキット」として定義することができる。次に、パーツキットのパーツは、例えば、パーツキットの任意のパーツに対して、同時に、又は時間をずらして、すなわち、異なる時点で、かつ等しい又は異なる時間間隔で、投与することができる。非常に好ましくは、時間間隔は、パーツの併用により治療される疾患に対する効果が、組み合わせパートナ(a)及び(b)のいずれか1つのみを使用することによって得られる効果よりも大きくなるように選択される。例えば、治療を受ける患者の部分集団のニーズ、又は患者個人のニーズ、すなわち患者の具体的な疾患、年齢、性別、体重などに起因し得る様々なニーズ、に対処するために、組み合わされた製剤として投与される、組み合わせパートナ(a)の総量の、組み合わせパートナ(b)の総量に対する比率を変えることができる。好ましくは、少なくとも1つの有益な効果、例えば、組み合わせパートナの効果の相互強化がある。
【0116】
本発明の一実施形態では、悪液質又は前悪液質の予防又は治療のための、本発明の化合物又は組成物を含むパーツキットが提供される。
【0117】
本発明の別の実施形態では、悪液質又は前悪液質の予防又は治療のための、抗癌治療薬と別々に又は共に投与される本発明の化合物を含むパーツキットが提供される。
【0118】
本発明の別の実施形態では、対象における筋機能及び/若しくは筋量を維持若しくは向上させるための、かつ/又はサルコペニア、ミオパチー、ジストロフィー、及び/若しくは筋損傷若しくは手術後の回復を有する対象における筋消耗を実質的に予防若しくは低減するための、本発明の化合物又は組成物を含むパーツキットが提供される。
【0119】
本発明の更なる実施形態では、パーツキットが提供され、このキットは、毎日投与を行う、高カロリー食、高タンパク質食、高炭水化物食、ビタミンB3、B12、及び/若しくはビタミンD補給食、抗酸化剤、ω脂肪酸、並びに/又はポリフェノールによる食事介入についての指示を更に含む。
【0120】
本発明の化合物及び組成物と食事介入との組み合わせ
用語「食事介入」は、対象に与えられ、対象の食生活に変化をもたらす、外部因子を指す。一実施形態では、食事介入は、高カロリー食である。別の実施形態では、食事介入は、高タンパク質食及び/又は高炭水化物食である。別の実施形態では、食事介入は、ビタミン及びミネラル、特にビタミンB12及び/又はビタミンDを補給した食事である。別の実施形態では、食事介入では、酸化防止剤、例えばN-アセチル-システインが補給される。更なる実施形態では、食事介入ではω脂肪酸が補給される。更なる実施形態では、食事介入では、例えばニコチンアミドリボシドなどの、ミトコンドリア活性を増加させるポリフェノール又はビタミンB3が補給される。
【0121】
規定食は、対象の初期体重に合わせて調整したものであってよい。
【0122】
食事介入には、少なくとも1つの規定食製品の投与が含まれていてもよい。規定食製品は、食事代替製品又は栄養補給製品(例えば対象の食欲を増強し得るもの)であってよい。規定食製品は、食品製品、飲料、ペットフード製品、栄養補助食品、ニュートラシューティカルズ、食品添加物、又は栄養配合物を含み得る。経口栄養補助食品の例としては、Nestle Boost、Resource及びMeritene製品が挙げられる。
【0123】
本発明の一実施形態では、本発明の化合物又は組成物は、高カロリー食、高タンパク質食、高炭水化物食、ビタミンB3、ビタミンB12、及び/若しくはビタミンD補給食、抗酸化剤、ω脂肪酸、並びに/又はポリフェノールによる食事介入と組み合わせて、悪液質の予防若しくは治療方法に使用することができる。
【0124】
悪液質及び関連疾患
本発明は、骨格筋幹細胞を調節することによって、悪液質又は骨格筋消耗症候群を予防及び/又は治療する化合物、組成物、及び方法を提供する。悪液質は、基礎疾患に関連する複雑な代謝症候群であり、筋肉の減少を特徴とし、脂肪量の減少を伴う場合も伴わない場合もある。悪液質に顕著な臨床的特徴は、成人における(体液貯留分を補正した)体重減少又は小児の成長障害(内分泌障害を除く)である。
【0125】
悪液質は、癌、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、並びに/又は代謝性アシドーシス及び神経変性疾患などの疾患を有する患者においてしばしば見られる。
【0126】
特定の種類の癌、例えば、膵臓癌、食道癌、胃癌、腸癌、肺癌、及び/又は肝臓癌では、悪液質が特に一般的に見られる。
【0127】
悪液質について国際的に認められている診断基準は、制限された期間での、例えば、6か月間での5%を超える体重減少、又は現在の体重及び身長(体格指数[BMI]が20kg/m未満である)若しくは骨格筋量(DXA、MRI、CT、又は生体インピーダンスによって測定される)により消耗を既に示している個体における2%を超える体重減少、というものである。悪液質は、様々なステージを経て、すなわち前悪液質から悪液質、難治性悪液質へと徐々に進行し得る。重篤度は、エネルギー貯蔵及び身体タンパク質(BMI)の消耗度に応じて、進行中の体重減少と組み合わせて分類することができる。
【0128】
特に、癌悪液質は、過去6ヶ月間(単純な飢餓のない状態で)での体重減少が5%超であること;又はBMIが20未満でありかつ体重減少が2%超のいずれかの度合いであること;又は体肢除脂肪量が、低筋量(男性で7.26kg/m未満、女性で5.45kg/m未満)であることに相当し、かつ任意の体重減少が2%超のいずれかの度合いであること、として定義されている(Fearon et al.2011)。
【0129】
前悪液質は、拒食症及び代謝の変化と併せて体重減少が5%以下であることとして定義され得る。現在、更に進行する可能性が高い前悪液質の患者、又は前悪液質が進行する速度、を特定するための強力なバイオマーカーは存在しない。難治性悪液質は、本質的に患者の臨床的特性及び状況に基づいて定義される。
【0130】
本発明の化合物、組成物、及び方法は、前悪液質及び悪液質の状態の予防及び/又は治療に、特に骨格筋量及び/又は筋機能の維持又は向上に有益であり得ることが理解され得る。
【0131】
本発明の一実施形態では、本発明は、有効量の本発明の化合物をヒト又は動物対象に投与する工程を含む、悪液質又は前悪液質を治療する方法を提供する。
【0132】
本発明の別の実施形態では、本発明は、有効量の本発明の化合物をヒト又は動物対象に投与する工程を含む、悪液質又は前悪液質を治療する方法であって、悪液質又は前悪液質が、癌、慢性心不全、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、AIDS、自己免疫障害、慢性炎症性障害、肝硬変、拒食症、慢性膵炎、代謝性アシドーシス、及び/又は神経変性疾患から選択される疾患に関連するものである、方法を提供する。
【0133】
本発明の好ましい実施形態では、本発明は、膵臓癌、食道癌、胃癌、腸癌、肺癌、及び/又は肝癌から選択される癌に関連する癌悪液質の治療方法を提供する。
【0134】
本発明の更に別の実施形態では、本発明は、癌悪液質の治療が、体重減少を低減すること、体重減少を予防すること、体重を維持すること、又は体重を増加させることによって評価される、治療方法を提供する。
【0135】
本発明の別の実施形態では、本発明の化合物又は組成物は、癌悪液質が化学療法剤による癌の治療により生じたものである、治療方法において使用され得る。
【0136】
本発明の更なる実施形態では、本発明の化合物又は組成物は、高カロリー食、高タンパク質食、高炭水化物食、ビタミンB3、ビタミンB12、及び/若しくはビタミンD補給食、抗酸化剤、ω脂肪酸、並びに/又はポリフェノールによる食事介入と組み合わせて、悪液質の予防若しくは治療方法において、使用することができる。
【0137】
サルコペニア及び関連疾患
サルコペニアは、筋量低下、筋力低下、及び身体パフォーマンス低下のうちの1つ以上によって評価することができる。
【0138】
対象において、サルコペニアは、例えばChen et al.,2014に記載のように、AWGSOP(Asian Working Group for Sarcopenia in Older People)の定義に基づいて診断できる。低筋量は、一般に、身長の二乗に対して正規化した体肢除脂肪量(ALM指数)が低いこと、特に男性の場合は7.00kg/m2未満、女性の場合は5.40kg/m2未満のALM指数であることに基づくものとすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で26kg未満及び女性で18kg未満の握力を基準とすることができる。
【0139】
対象において、サルコペニアは、例えばCrutz-Jentoft et al.,2010.に記載のように、EWGSOP(European Working Group for Sarcopenia in Older People)の定義に基づいて診断できる。低筋量は、一般に、身長の二乗に対し正規化した体肢除脂肪量(ALM指数)が低いこと、特に男性の場合は7.23kg/m2未満、女性の場合は5.67kg/m2未満のALM指数であることに基づくものとすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で30kg未満及び女性で20kg未満の握力を基準とすることができる。
【0140】
対象において、サルコペニアは、例えばStudenski et al.,2014に記載のように、FNIH(Foundation for the National Institutes of Health)の定義に基づいて診断することができる。低筋量は、一般に、体格指数(BMI;kg/m2)に対して正規化した体肢除脂肪量(ALM指数)が低いこと、特にALM対BMIが、男性の場合は0.789未満、女性の場合は0.512未満であることに基づくものとすることができる。身体パフォーマンスの低下は、概ね、歩行速度、具体的には0.8m/秒未満の歩行速度を基準とすることができる。筋力低下は、概ね、握力低下を基準とすることができ、具体的には男性で26kg未満及び女性で16kg未満の握力を基準とすることができる。筋力低下はまた、概ね、握力対体格指数の低下を基準とすることができ、具体的には男性で1.00未満及び女性で0.56未満の握力対体格指数を基準とすることができる。
【0141】
筋量を測定する別のアプローチにはD3クレアチン希釈法がある。この方法は、ロバストな標準であり、将来的にはDXAの代替法となり得る方法として、より広く受け入れられている。D3クレアチン希釈法は、これまでにClark et al.(1985)及びStimpson et al.(2013)によって説明されている。
【0142】
本発明の化合物、組成物、及び方法は、サルコペニア及び/又は関連する状態の予防及び/又は治療に、特に骨格筋量及び/又は筋機能の維持又は向上に有益であり得ることが理解され得る。
【0143】
ミオパチー及び関連する状態
ミオパチーは、筋線維の機能不全に起因する筋力低下が一次症状である神経筋障害である。ミオパチーの他の症状としては、筋肉痙攣、硬直、及び痙縮が挙げられ得る。ミオパチーは、遺伝性(筋ジストロフィーなど)、又は後天性(一般的な筋痙攣など)であり得る。
【0144】
ミオパチーは以下のように分類される:
(i)先天性ミオパチー:運動技能の発達遅延を特徴とし;出生時に骨格異常及び顔面異常が明白である場合がある
(ii)筋ジストロフィー:随意筋の進行性の衰弱を特徴とし、出生時に認められる場合がある
(iii)ミトコンドリアミオパチー:エネルギーを制御する細胞内構造体ミトコンドリアの遺伝子異常に起因し、カーンズ・セイヤー症候群、MELAS及びMERRF筋型糖原病を含み、グリコーゲン及びグルコース(血糖)を代謝する酵素を制御する遺伝子の変異に起因し、ポンペ病、アンダーソン病及びコリ病を含む
(iv)ミオグロビン尿症:筋肉の働きに必要な燃料(ミオグロビン)の代謝障害に起因し;マッカードル病、タルイ病及びディマウロ病を含む
(v)皮膚筋炎:皮膚及び筋肉の炎症性ミオパチー
(vi)骨化性筋炎:筋組織で骨が成長することを特徴とする
(vii)家族性周期性四肢麻痺:腕及び脚の筋力低下に関するエピソードを特徴とする
(viii)多発性筋炎、封入体筋炎、及び関連するミオパチー:骨格筋の炎症性ミオパチー
(ix)神経筋緊張症:ひきつり及び硬直の交互のエピソードを特徴し;及びスティッフパーソン症候群:硬直及び反射性痙縮のエピソードを特徴とする一般的な筋肉痙攣及び硬直
(x)テタニー:腕及び脚の痙縮が長引くことを特徴とする。(参照:https://www.ninds.nih.gov/disorders/all-disorders/myopathy-information-page)。
【0145】
本発明の化合物、組成物、及び方法は、上述の疾患又は状態の予防及び/又は治療に、特に骨格筋量及び/又は筋機能の維持又は向上に有益であり得ることが理解され得る。
【0146】
筋ジストロフィー
筋ジストロフィーは、運動を制御する骨格筋又は随意筋の進行性の衰弱及び変性を特徴とする遺伝疾患群である。主な種類の筋ジストロフィーとしては、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、エメリー・ドレイフス筋ジストロフィー、及び筋緊張性ジストロフィーが挙げられる。
(参照:https://www.medicalnewstoday.com/articles/187618.php)
【0147】
本発明の化合物、組成物、及び方法は、上述の疾患若しくは状態の予防及び/又は治療に、特に骨格筋量及び/又は筋機能の維持又は向上に有益であり得ることが理解され得る。
【0148】
手術及び筋肉外傷による筋損傷後の回復

筋損傷は、筋、腱、又はこれらの両方における急性又は慢性軟組織損傷を引き起こす、挫傷、伸張、又は裂傷によって引き起こされ得る。筋損傷は、筋肉の疲労、酷使、又は不適切な使用の結果として生じ得る。筋損傷は、肉体活動中の落下、骨折、又は酷使などの肉体外傷後に生じ得る。筋損傷はまた、関節置換関節鏡手術などの手術後にも生じ得る。
【0149】
本発明の化合物、組成物、及び方法は、手術及び/又は筋肉外傷後の回復に関する上述の状態の予防及び/又は治療に、特に骨格筋量及び/又は筋機能の維持又は向上に有益であり得ることが理解され得る。
【0150】
治療方法
本明細書において「治療」についてなされる全ての言及は、治癒的、緩和的、及び予防的治療を含むものの、本発明の文脈においてなされる「予防」についての言及は、より一般的には予防的治療に関連することは認識されるであろう。治療には、疾患の重症度の進行を抑止することも含まれ得る。
【0151】
任意の疾患又は障害に関し、「治療する」、「治療している」、又は「治療」なる用語は、一実施形態では、疾患又は障害を改善させることを指す(すなわち、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つの発症を遅らせる、又は阻止する、又は減らす)。別の実施形態では、「治療する」、「治療している」、又は「治療」は、患者により認識され得ないものを含む少なくとも1つの肉体的パラメーターを緩和又は改善することを指す。更に別の実施形態では、「治療する」、「治療している」、又は「治療」は、肉体的に(例えば、認識可能な症状の安定化)、生理学的に(例えば、肉体的パラメーターの安定化)、又はこれらの両方のいずれかで、疾患又は障害を調節することを指す。更に別の実施形態では、「治療する」、「治療している」、又は「治療」は、疾患又は障害の始まり又は発症又は進行を予防又は遅延させることを指す。本明細書で使用するとき、対象がそのような治療により生物学的な利益、医学的な利益、又は生活の質に対する利益を得る場合、そのような対象は「治療を必要とする」。
【0152】
対象
用語「対象」は、ヒト及びコンパニオンアニマルを含む任意の動物を意味する。概して、対象動物は、ヒト、又は鳥類、ウシ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、ネズミ、ヒツジ若しくはブタである。対象は、ウマ又はコンパニオンアニマル、例えば、ネコ又はイヌであり得る。好ましくは、対象は、ヒトである。
【0153】
哺乳動物、特にヒトの治療が、好ましい。しかしながら、ヒト及び動物の治療の両方が、本発明の範囲内である。
【0154】
獣医学的な対象に関しては、対象はイヌ、ネコ、及びウマであることが好ましい。
【0155】
本発明はまた、鳥類、ウシ、ヒツジ又はブタ動物などのヒト以外の動物対象において、骨格筋量及び/又は機能を向上させることによって肉の生産を最適化するためにも有用であり得る。
【0156】
筋幹細胞
本明細書で用いる用語「筋幹細胞」は、サテライト細胞を、好ましくは休止しており、かつ分化運命が決定されていないサテライト細胞を指し得る。
【0157】
サテライト細胞は、骨格筋細胞の前駆体である。成人の筋肉では、サテライト細胞は通常は休止しているが、疾患、又は損傷若しくは運動などの機械的ひずみに応答して活性化し、筋形成し得る。サテライト細胞はまた、筋肉の正常な成長にも関与する。活性化により、サテライト細胞は筋分化の前に増殖し、最終的には既存の筋線維と融合する、又は組織外傷の程度に応じて新しい筋線維を形成する。分化した、筋形成能のある子孫細胞を生成することに加えて、少なくともいくつかのサテライト細胞は自己複製することができ、それにより、正真正銘の常在幹細胞について定義されている基準を満たす。
【0158】
Pax7は、筋幹細胞が発現する、最もよく知られており、特性が明らかになっているマーカーである。すなわち、筋幹細胞は、ペアードボックス転写因子Pax7の発現に基づいて確実に識別できる。筋幹細胞はまた、NCAM、CD56、CD29、及び/又はCD82を発現し得る。すなわち、筋幹細胞は、NCAM+、CD56+、CD29+、及び/又はCD82+であり得る。
【0159】
MyoD+は、休止状態のサテライト細胞と、コミットしたサテライト細胞とを区別するために使用できるコミットメントマーカーである。
【0160】
筋機能及び筋量
本明細書で開示される化合物、組成物、使用、及び方法は、筋機能の維持若しくは向上及び/又は筋量の維持又は向上を提供することができる。
【0161】
用語「筋機能」は、対象の生活に悪影響を及ぼさない様式で筋肉が機能する能力を指し、筋力、筋収縮、筋持久力、筋弾力性、筋疲労に耐える筋肉の能力、並びに/又は階段を上る、椅子から降りる、及び他の日常生活動作などの身体的な日常生活動作のパラメーターを包含する。
【0162】
筋機能を評価する好適な試験としては、握力計を用いた握力測定、レッグプレス、チェストプレス、又は脚部伸展における1回最大反復測定(one repeat maximum)、歩行速度、6分間歩行検査、TUG(time up and go)テスト、簡易身体能力バッテリー、Friedによるフレイル基準、並びに段差を上る時間の測定(stair climbing time assessments)が挙げられる。他の好適な試験としては、筋力、筋持久力、及び筋疲労までの時間が挙げられる。
【0163】
筋量(筋体積、筋肉厚、又は筋線維のサイズと同等であり得る)は、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)又は生体インピーダンス試験によって測定することができる。同様にして、筋体積の評価にはMRIを使用でき、筋肉の厚み及び羽状角の評価には超音波を使用できる。
【0164】
「筋消耗」とは、筋量の減少であり、例えば筋肉量の低下により衰弱段階に至るまでの減少があり得る。一実施形態では、対象は、10%、5%、4%、3%、2%、又は1%を超えて自身の筋量が低下することはない。
【0165】
好ましくは、本明細書で開示される化合物、組成物、使用、及び方法は、筋量の維持又は向上を提供する。
【0166】
用語「維持」は、筋機能及び/又は筋量などの特定のパラメーターがある程度の期間にわたり(例えば、5、10、15、20、25、30、40、又は50年以上)実質的に変化なく保たれることを指す。
【0167】
一実施形態では、筋量は少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、又は20%増大する。
【0168】
別の実施形態では、筋量は1~2.5%、1~5%、1~10%、又は1~20%増大する。
【0169】
好ましくは、筋肉は骨格筋である。
【実施例
【0170】
実施例1:筋幹細胞を調節する化合物の選択
ヒト骨格筋筋芽細胞の選択
本発明者らは、インビトロでヒトの初代成人筋細胞に対して化合物を試験するためのハイコンテントスクリーニングを開発した。ヒト骨格筋筋芽細胞(HSMM)はLonza(https://bioscience.lonza.com)から購入した。これらの細胞は、正常ドナーの上腕又は脚筋組織から単離し、2回目の継代後に使用した。数名のドナーを試験して細胞の生存率及び純度を確認した後、最終的なドナーである36歳の白人女性(ドナー8)及び20歳の白人女性(ドナー4)を選択した。
【0171】
筋幹細胞のコミットメントについてのアッセイ
一次スクリーニングアッセイは、免疫蛍光による、2つの重要な筋分化調節因子(Pax7及びMyoD)のハイコンテント検出に基づくものとした。Pax7及びMyoDは、筋幹細胞の幹細胞性及びコミットメントについての主要な特徴であり、筋幹細胞の子孫細胞をモニタリングするために使用することができる。特に、筋分化へのコミットメントに関し、Pax7は早期に増幅を示すのに対し、MyoDは後期のマーカーであり、これらのマーカーの組み合わせにより、増殖、分化、及び自己再生に関する異なる状態が定義される。
【0172】
ヒット選択は、主に筋分化(Pax7-/MyoD+細胞)に向かうコミットメントを強化できる化合物に基づくものとした。このコミットメントは、筋分化へのコミットメントにおける欠陥が筋消耗の原因である可能性があることが明らかにされている癌悪液質の状況において特に重要である(He et al.2013)。Pax7+細胞に対する化合物の効果を更に評価して、化合物が当該細胞の増殖を増加させることによって筋幹細胞機能を調節することもできるかを決定した。
【0173】
ヒト初代筋芽細胞を、1ウェル当たり1,000個の細胞密度で、384ウェルプレートの骨格筋増殖培地(SKM-M,AMSbio)に播種した。処理のために、最初の播種から16時間後に、筋芽細胞培養物に化合物を直接添加した。次いで、全ての培養物を96時間増殖させた。Pax7及びMyoDに対する抗体を使用して、Pax7及びMyoDの発現について細胞を染色し、Hoechst 33342で対比染色して細胞核を可視化した。MyoD+細胞は、Pax7は発現していないがMyoDは発現している細胞として定義される。Pax7+細胞は、MyoD発現は考慮せず、Pax7を発現する細胞として定義される。ImageXpress(Molecular Devices)プラットフォームを使用して画像取得を行った。定量には、MetaXpressソフトウェアのMulti-Wavelength Cell Scoringに基づくカスタムモジュール分析を使用した。図1図4は、それぞれ好ましい化合物であるバルバチン酸及びジフラクタ酸の各々についての結果を示しており、筋分化へのコミットメントを評価するために、MyoD+細胞を総細胞数に正規化している。
【0174】
実施例2:筋芽細胞の分化アッセイ
2名の異なるドナー(ドナー8及びドナー4)由来のヒト初代筋芽細胞を、ウェル当たり3,000個の細胞密度で、384ウェルプレートの骨格筋増殖培地(SKM-M,AMSbio)に播種した。1日後、培地を交換することで分化を誘導する。処理のために、筋芽細胞培養物に化合物を直接添加して96時間置いた。トロポニンTに対する抗体を使用して、トロポニンTの発現について筋管を染色し、Hoechst 33342で対比染色して細胞核を可視化した。ImageXpress(Molecular Devices)プラットフォームを使用して画像取得を行った。定量には、MetaXpressソフトウェアのMulti-Wavelength Cell Scoringに基づくカスタムモジュール分析を使用した。各条件について、細胞数を計算して化合物の毒性を制御した。分化レベル及びその形態を評価するために、複数の読み取り値をもとに筋管の特徴を評価した。
【0175】
実施例3:非発癌性についの化合物の安全性。
【0176】
化合物の安全性を、ATCCから購入した2通りの異なるヒト癌細胞株で試験した。図9Aの細胞株PC-3は、62歳の白人男性由来の前立腺/腺癌のものであり、図9Bの細胞株PANC-1は、56歳の白人男性由来の膵管上皮癌腫(pancreatic duct epitheloid carcinoma)由来のものであった。それぞれの細胞株を、低密度で、384ウェルプレートの増殖培地に播種した。翌日、増殖培地を除去し、無血清培地に交換した。処理のために、最初の播種から16時間後に、細胞培養物に化合物を直接添加した(最終濃度3μM)。次いで、培養物を96時間増殖させた。細胞をHoeschst 33342で染色し、細胞核を可視化してカウントした。定量には、MetaXpressソフトウェアのCell Scoringに基づくカスタムモジュール分析を使用した。各条件に関して、細胞の総数を決定して細胞の増殖を評価した。これらの結果により、化合物は非発癌性であるとして安全性が示される。
【0177】
実施例4:ジフラクタ酸は生体内での筋再生プロセスを促進することができる
成体の骨格筋において損傷又は疾患に反応して生じる筋再生の生理的プロセスを再現するため、本発明者らは、マウスの後肢筋にカルディオトキシンを筋肉注射した。筋肉損傷の誘発の1週間前に、マウスにはジフラクタ酸(100mg/kg体重)か、対照として水を強制経口投与した。実験の終了まで、マウスには1日1回強制投与した。筋再生の効率を評価するため、前もって損傷させた筋肉を損傷から5日後に採取し、凍結切片を作製した。次に、いくつかの筋分化マーカーを測定した。特異的な抗体を使用して、凍結切片をPax7、ミオゲニン、ラミニン、及びeMHC(embryonic Myosin Heavy Chain)の発現について染色し、Hoechst 33342で対比染色して細胞核を可視化した。ジフラクタ酸は、生体内での筋再生プロセスを促進することができる。
【0178】
図10は、筋幹細胞の初期増殖期及びその後の筋分化期を、それぞれPax7+細胞(図10A)の数及びミオゲニン+細胞(図10B)の数を計数することによって評価したことを示す。データは、損傷した筋肉のエリア当たりの細胞数として表される。新しく形成された各筋線維(図10C)のサイズは、これらの新生筋線維を識別して描出することを可能にするeMHC及びラミニンの発現に基づいて測定した。結果は、平均筋線維断面積(μm2)として示されている。
【0179】
*********は対照からの差を示しており、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、p<0.0001の一元配置分散分析である。データは平均±SEMとして表した。
【0180】
参照文献
Almeida et al. (2016) Muscle SatelliteCells: Exploring the Basic Biology to Rule Them, Stem Cells International, Vol.2016, ID 1078686.
Chen, L.K., et al. (2014).Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian Working Group for Sarcopenia.Journal of the American Medical Directors Association 15, 95-101.
Clark RV, Walker AC, O'Connor-Semmes RL,Leonard MS, Miller RR, Stimpson SA, Turner SM, Ravussin E, Cefalu WT,Hellerstein MK, Evans WJ (1985). Total body skeletal muscle mass: estimation bycreatine (methyl-d3) dilution in humans. J Appl Physiol. Jun15;116(12):1605-13.
Cruz-Jentoft, A.J., Baeyens, J.P., Bauer,J.M., Boirie, Y., Cederholm, T., Landi, F., Martin, F.C., Michel, J.P.,Rolland, Y., Schneider, S.M., et al. (2010). Sarcopenia: European consensus ondefinition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia inOlder People. Age Ageing 39, 412-423.
Fearon et al. (2011) Definition andclassification of cancer cachexia: an international consensus. LancetOncology,12, 489-495.
He WA, Berardi E, Cardillo VM, Acharyya S,Aulino P, Thomas-Ahner J, Wang J, Bloomston M, Muscarella P, Nau P, Shah N,Butchbach ME, Ladner K, Adamo S, Rudnicki MA, Keller C, Coletti D, Montanaro F,Guttridge DC (2013). NF-κB-mediated Pax7 dysregulation in the musclemicroenvironment promotes cancer cachexia. J Clin Invest. Nov;123(11):4821-35.
Studenski SA, Peters KW, Alley DE, CawthonPM, McLean RR, Harris TB, Ferrucci L, Guralnik JM, Fragala MS, Kenny AM, KielDP, Kritchevsky SB, Shardell MD, Dam TT, Vassileva MT (2014). The FNIHsarcopenia project: rationale, study description, conference recommendations,and final estimates. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 69(5), 547-558.
Stimpson SA, Leonard MS, Clifton LG, PooleJC, Turner SM, Shearer TW, Remlinger KS, Clark RV, Hellerstein MK, Evans WJ.(2013) Longitudinal changes in total body creatine pool size and skeletal musclemass using the D<sub>3</sub>-creatine dilution method. J CachexiaSarcopenia Muscle. Jun 25.
von Haehling, S. and S.D. Anker,Prevalence, incidence and clinical impact of cachexia: facts and numbers-update(2014). J Cachexia Sarcopenia Muscle, 5(4): p. 261-3 (2014).
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
【国際調査報告】