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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(54)【発明の名称】感染性心内膜炎を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20220513BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220513BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20220513BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20220513BHJP
   A61K 31/43 20060101ALI20220513BHJP
   A61K 31/431 20060101ALI20220513BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K45/00
A61P9/00
A61P31/04
A61P43/00 121
A61K38/08
A61K38/10
A61K31/43
A61K31/431
A61K31/5377
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556394
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 US2020024051
(87)【国際公開番号】W WO2020198073
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】62/898,379
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/965,720
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/832,708
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/822,386
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/849,093
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514284475
【氏名又は名称】コントラフェクト コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シューフ レイモンド
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA25
4C084BA27
4C084BA34
4C084CA04
4C084DC50
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZB322
4C084ZB351
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC73
4C086CC01
4C086CC04
4C086GA09
4C086GA12
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示は、S.アウレウス等のグラム陽性細菌による感染性心内膜炎を治療又は予防する方法であって、1つ以上の抗生物質(任意に、最小発育阻止濃度(MIC)レベル未満)とPlySs2溶解素(MICレベル未満のPlySs2溶解素の単回用量等)との組合せを治療有効量で投与することを含み、1つ以上の抗生物質及びPlySs2溶解素を、それを必要とする被験体に同時に又は任意の順序で順次投与する、方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体においてグラム陽性細菌による感染性心内膜炎を治療又は予防する方法であって、
1つ以上の抗生物質と、配列番号18、配列番号2のアミノ酸配列を含むPlySs2溶解素、又は配列番号2に対して少なくとも80%の同一性を有するその変異体との組合せを治療有効量で投与することを含み、前記変異体が、グラム陽性細菌に対する殺菌及び/又は静菌活性を含み、前記1つ以上の抗生物質及び前記PlySs2溶解素を、それを必要とする被験体に同時に又は任意の順序で順次投与する、方法。
【請求項2】
前記PlySs2溶解素又はその変異体を最小発育阻止濃度(MIC)用量未満の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上の抗生物質をMIC用量未満の用量で投与する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記PlySs2溶解素及び/又はその変異体と、前記1つ以上の抗生物質とを最小発育阻止濃度(MIC)用量未満の用量で投与する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記PlySs2溶解素又はその変異体を単回用量にて前記被験体に投与する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の抗生物質が、ベータ-ラクタム、アミノグリコシド、グリコペプチド、オキサゾリジノン、リポペプチド、及びスルホンアミドの1つ以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の抗生物質が、グリコペプチド、リポペプチド、オキサゾリジノン、及びベータ-ラクタムの1つ以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の抗生物質の活性が、前記PlySs2溶解素の存在によって相乗的に増強される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記変異体PlySs2溶解素が配列番号3~17のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記変異体PlySs2溶解素が、配列番号2のポリペプチドに対して少なくとも80%の同一性を有し、前記1つ以上の抗生物質の存在下で前記グラム陽性細菌に対する静菌活性有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記グラム陽性細菌がストレプトコッカス属種である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記グラム陽性細菌が抗生物質耐性グラム陽性細菌である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記心内膜炎が右心系心内膜炎である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記心内膜炎が人工弁心内膜炎である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記投与工程が、前記1つ以上の抗生物質を1日当たり複数回投与することを更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記治療が、前記グラム陽性細菌の増殖を阻害することを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記被験体が静脈内薬物使用者である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記感染性心内膜炎がバイオフィルムを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記1つ以上の抗生物質がグリコペプチドであり、該グリコペプチドがバンコマイシンである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の抗生物質がベータ-ラクタムであり、該ベータ-ラクタムがペニシリンである、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記1つ以上の抗生物質がペニシリンであり、該ペニシリンがオキサシリンである、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記1つ以上の抗生物質がリポタンパク質であり、該リポタンパク質がダプトマイシンである、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記1つ以上の抗生物質がオキサゾリジノンであり、該オキサゾリジノンがリネゾリドである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記グラム陽性細菌がブドウ球菌を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記グラム陽性細菌がコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記CoNSが、スタフィロコッカス・エピデルミディス、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス、スタフィロコッカス・ヘモリチカス、スタフィロコッカス・カピティス、スタフィロコッカス・ホミニス、及びスタフィロコッカス・ワルネリの1つ以上を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記グラム陽性細菌が、メチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス(MSSA)、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)、スタフィロコッカス・シュードインターメディウス、スタフィロコッカス・シウリ、スタフィロコッカス・シミュランス、及びスタフィロコッカス・ハイカスの1つ以上を含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記グラム陽性細菌がスタフィロコッカス・アウレウスを含む、請求項1~24及び27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記グラム陽性細菌がメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウスを含む、請求項1~24及び27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記グラム陽性細菌がメチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウスを含む、請求項1~24及び27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記グラム陽性細菌がスタフィロコッカス・ヘモリチカスを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記グラム陽性細菌がスタフィロコッカス・ワルネリを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記グラム陽性細菌が連鎖球菌を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記グラム陽性細菌が、ストレプトコッカス・ゴルドニ、ストレプトコッカス・ミティス、ストレプトコッカス・オラリス、ストレプトコッカス・インターメディウス、ストレプトコッカス・サリバリウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、ストレプトコッカス・アガラクティエ、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ、ストレプトコッカス・ニューモニエ、及びストレプトコッカス・サングイニスの1つ以上を含む、請求項1~23及び33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記グラム陽性細菌が、ストレプトコッカス・インターメディウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス(ランスフィールドA群)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(ランスフィールドB群)、及びストレプトコッカス・ディスガラクティエ(ランスフィールドG群)の1つ以上を含む、請求項1~23、33、及び34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記グラム陽性細菌が抗生物質耐性グラム陽性細菌である、請求項1~28又は31~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記グラム陽性細菌が抗生物質感受性グラム陽性細菌である、請求項1~28又は31~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記PlySs2溶解素を単回用量の分割用量として前記被験体に投与する、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
各分割用量を1日8時間ごとに投与する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
各分割用量を1日12時間ごとに投与する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記被験体が抗生物質治療を受けている又は受けていたことがあり、該治療が配列番号18、配列番号2のアミノ酸配列を含むPlySs2溶解素又はその変異体を治療有効量で投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
前記PlySs2溶解素又はその変異体を単回用量にて静脈内投与する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記投与量が0.1mg/kg~約0.3mg/kgの範囲である、請求項42に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年3月22日付で出願された米国仮特許出願第62/822,386号、2019年4月11日付で出願された米国仮特許出願第62/832,708号、2019年5月16日付で出願された米国仮特許出願第62/849,093号、2019年9月10日付で出願された米国仮特許出願第62/898,379号、及び2020年1月24日付で出願された米国仮特許出願第62/965,720号の利益を主張し、これら出願日に依拠し、それらの開示それぞれの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
[配列表]
本願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。2020年3月20日付けで作製された上記ASCIIコピーの名前は0341_0005-00-304_SL.txtであり、42690バイトのサイズである。
【0003】
本開示は、概して、溶解素(複数の場合もある)及び1つ以上の抗生物質を連続して用いた、メチシリン感受性スタフィロコッカス・アウレウス(MSSA:methicillin-sensitive Staphylococcus aureus)及びメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA:methicillin-resistant Staphylococcus aureus)等のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)を含むグラム陽性細菌による感染性心内膜炎の治療及び予防に関するものである。
【背景技術】
【0004】
感染性心内膜炎は、心室の内部を覆い、弁の表面を形成する薄くて滑らかな内皮膜である心内膜の感染症である。この疾患は、典型的には、細菌が血流に入り、次いで心臓に定着することによって生じる。健康な心筋及び心臓弁の内膜は一般に細菌による感染に対して抵抗性があるが、損傷した内膜はしばしば血小板-フィブリン血栓の形成と関連し、これは、細菌が付着してコロニー形成する部位として機能し、フィブリン、血小板、白血球、赤血球の残骸及び高濃度の細菌を含む疣贅の成長をもたらす。
【0005】
感染性心内膜炎を引き起こす最も一般的な病原体は、スタフィロコッカス・アウレウス等のグラム陽性細菌であることから、細菌の死滅を促進するためにβ-ラクタム系抗生物質及びバンコマイシン等の細胞壁阻害剤を、例えば相乗的用量のゲンタマイシンと組み合わせることが多い。しかしながら、ほとんどの病原体は、多くの抗生物質が効果的に浸透することができない細胞外マトリックス中に細菌を含むバイオフィルムを生成する。したがって、有効な抗生物質濃度を達成するには、典型的には、高い抗生物質血漿濃度が長期にわたって必要とされる。残念なことに、副作用、特に腎毒性によって、感染性心内膜炎の治療における抗生物質の使用が制限される場合がある。さらに、集中的な薬物療法が許容される場合でも、感染を根絶することは依然として困難であることが多く、手術を必要とする。
【0006】
感染性心内膜炎に関連する高い死亡率(6ヶ月で22%~27%)を考えると、この疾患を治療するには新規な戦略が必要である。これらの戦略には、バイオフィルムの構造を破壊し、及び/又は長期間にわたる高レベルの抗生物質の必要性を減らすことができる薬物及び/又は生物製剤を含めるべきである。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、被験体においてグラム陽性細菌(例えば、メチシリン耐性S.アウレウス(MRSA)を含む、スタフィロコッカス・アウレウス)に起因する感染性心内膜炎を治療又は予防する方法であって、1つ以上の抗生物質と、配列番号2を含むPlySs2溶解素又は配列番号2に少なくとも80%の同一性を有するその変異体との組合せを治療有効量で投与することを含み、1つ以上の抗生物質及びPlySs2溶解素を、それを必要とする被験体に任意の順序で連続して投与する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】発明を実施するための形態に記載される、溶解素のアミノ酸配列(配列番号2)及び溶解素をコードするポリヌクレオチド(配列番号1)を表す図である。配列番号2は、DNA配列に基づいて予測されるアミノ酸配列である245アミノ酸ポリペプチドを表す。予測されるアミノ酸配列には、翻訳後プロセシング中に除去される開始メチオニン残基が含まれ、244アミノ酸ポリペプチドが残る。
図2】実施例に記載される、心臓弁、腎臓、及び脾臓における細菌負荷に対するダプトマイシンの用量応答を示す図である。
図3】実施例に記載される、ダプトマイシンと比較した、種々の時点で本開示の溶解素で治療した後の標的組織におけるメチシリン耐性S.アウレウス(MRSA)密度を示す。
図4】実施例に記載される、種々のダプトマイシン及び溶解素の用量投与戦略を示す図である。
図5図5A図5Dは、実施例に記載される、ダプトマイシンに加えて、種々の溶解素投与戦略に従う心臓(心臓弁)疣贅における細菌負荷を示す図である。投与量は以下の通りである:0.7mg/kgのCF-301の分割用量にダプトマイシンを加えたもの(図5A)、0.35mg/kgのCF-301の分割用量にダプトマイシンを加えたもの(図5B)、0.09mg/kgのCF-301の分割用量にダプトマイシンを加えたもの(図5C)及び0.06mg/kgのCF-301の分割用量にダプトマイシンを加えたもの(図5D)。
図6】発明を実施するための形態に記載される、PlySs2のCHAPドメイン(配列番号2)とPlyCのCHAPドメイン(配列番号21)との間のアライメントの図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
本明細書において使用される場合、以下の用語及びその同語源語は、文脈上そうでないことが明示されない限り、下記の意味を有するものとする。
【0010】
「担体」は、活性化合物と共に投与される溶媒、添加剤、賦形剤、分散媒、可溶化剤、コーティング剤、保存料、等張剤及び吸収遅延剤(absorption delaying agent)、界面活性剤、噴射剤、希釈剤、ビヒクル等を指す。かかる担体は、滅菌液、例えば水、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール水溶液、及び石油、動物、植物又は合成起源のものを含む油、例えばラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等であり得る。
【0011】
「薬学的に許容可能な担体」は、生理学的に適合するあらゆる溶媒、添加剤、賦形剤、分散媒、可溶化剤、コーティング剤、保存料、等張剤及び吸収遅延剤、界面活性剤、噴射剤、希釈剤、ビヒクル等を指す。担体(複数の場合もある)は、薬剤中で通常使用される量で治療対象の被験体に有害でないという意味で「許容可能」でなくてはならない。薬学的に許容可能な担体は、組成物をその意図される目的に不適なものにすることなく組成物の他の成分に適合する。さらに、薬学的に許容可能な担体は、過度の有害な副作用(毒性、刺激及びアレルギー応答等)なしに本明細書に提示される被験体への使用に適している。副作用は、それらのリスクが組成物によってもたらされる利益を上回る場合に「過度」である。薬学的に許容可能な担体又は賦形剤の非限定的な例としては、任意の標準的な医薬担体、例えばリン酸緩衝生理食塩水、水、並びに油/水エマルション及びマイクロエマルション等のエマルションが挙げられる。好適な医薬担体は、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences by E.W. Martin, 18th Editionに記載されている。薬学的に許容可能な担体は、自然に存在しない担体であってもよい。
【0012】
「殺菌」又は「殺菌活性」は、細菌の初期集団において18時間~24時間にわたって少なくとも3log10(99.9%)以上の減少の程度まで細菌の死滅を引き起こす特性を有するか、又は細菌を死滅させることが可能であることを指す。
【0013】
「静菌」又は「静菌活性」は、細菌細胞の増殖を阻害し、それにより細菌の初期集団において18時間~24時間にわたって2log10(99%)以上かつ最大3log弱の減少を引き起こすことを含む、細菌増殖を阻害する特性を有することを指す。
【0014】
「抗菌剤」は、静菌剤及び殺菌剤の両方を指す。
【0015】
「抗生物質」は、細菌に致死性又は増殖の低減等の負の影響を与える特性を有する化合物を指す。抗生物質は、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌又はその両方に負の影響を与えることができる。例としては、抗生物質は、細胞壁ペプチドグリカンの生合成、細胞膜の完全性、又は細菌におけるDNA若しくはタンパク質の合成に影響を及ぼし得る。
【0016】
「薬物耐性」は、概して薬物の抗菌活性に耐性を示す細菌を指す。或る特定の方法で使用される場合、薬物耐性は、特に抗生物質耐性を指し得る。場合によっては、一般に特定の抗生物質の影響を受けやすい細菌は、抗生物質に対する耐性を発現し、それにより薬物耐性微生物又は株となる可能性がある。「多剤耐性」(「MDR」)病原体は、各々が単剤療法として使用される少なくとも2つのクラスの抗微生物薬に対する耐性を発現した病原体である。例えば、S.アウレウスの或る特定の株は、メチシリン及び/又はバンコマイシンを含む幾つかの抗生物質に耐性を示すことが見出されている(Antibiotic Resistant Threats in the United States, 2013, U.S. Department of Health and Services, Centers for Disease Control and Prevention)。当業者は、薬物又は抗生物質に対する細菌の感受性又は耐性を決定する日常的な実験技術を用いて、細菌が薬物耐性であるかを容易に決定することができる。
【0017】
「有効量」は、適切な頻度又は投与計画で適用又は投与した場合に、細菌増殖若しくは細菌負荷を予防、低減、阻害若しくは解消するか、又は治療される障害(本明細書においては、グラム陽性細菌病原体の増殖又は感染)の発症、重症度、期間若しくは進行を予防、低減若しくは改善するか、治療される障害の進展を予防するか、治療される障害の退行を引き起こすか、又は抗生物質若しくは静菌療法等の別の療法の予防効果若しくは治療効果(複数の場合もある)を高める若しくは改善するのに十分な量を指す。
【0018】
「同時投与する」は、順次的な2種類の作用物質、例えば溶解素及び抗生物質又は任意の他の抗菌剤の投与、並びに実質的に同時の、例えば単一の混合物/組成物中での、又は別個に与えられるが、それでも実質的に同時に、例えば同日又は24時間中に異なる時点で被験体に投与される用量でのこれらの作用物質の投与を指す。2種類の作用物質、例えば溶解素と1つ以上の付加的な抗菌剤とのこのような同時投与は、最大数日、数週間又は数ヶ月続く継続的な治療として行うことができる。さらに、用途に応じて、同時投与は、継続的又は同延的(coextensive)である必要はない。例えば、用途が全身性抗菌剤として、例えば細菌性潰瘍又は感染した糖尿病性潰瘍を治療することがであった場合、溶解素を初めのみ、追加の抗生物質の使用の24時間以内に投与することができ、その後、追加の抗生物質の使用を溶解素の更なる投与なしに継続してもよい。
【0019】
「被験体」は、哺乳動物、植物、下等動物、単細胞生物又は細胞培養物を指す。例えば、「被験体」という用語は、細菌感染、例えばグラム陽性細菌の影響を受けやすい又はそれを患う生物、例えば原核生物及び真核生物を含むことを意図する。被験体の例としては、哺乳動物、例えばヒト、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット及びトランスジェニック非ヒト動物が挙げられる。或る特定の実施形態において、被験体はヒト、例えばかかる感染が全身性であるか、局所性であるか、又は別の形で特定の器官若しくは組織に集中若しくは限局しているかに関わらず、グラム陽性細菌による感染を患う、それを患うリスクがある又はその影響を受けやすいヒトである。
【0020】
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基から作られ、一般に、少なくとも約30個のアミノ酸残基を有するポリマーを指す。本明細書において、「ポリペプチド」という用語は、「タンパク質」及び「ペプチド」という用語と区別なく使用される。この用語は、単離形態のポリペプチドだけでなく、その活性フラグメント及び誘導体も含む。「ポリペプチド」という用語は、溶解素ポリペプチドを含み、例えば溶解素機能を維持する融合タンパク質又は融合ポリペプチドも包含する。文脈に応じて、ポリペプチド又はタンパク質又はペプチドは、自然発生ポリペプチド、又は組換え、改変若しくは合成的に作製されたポリペプチドであり得る。例えば、特定の溶解素ポリペプチドは、例えば酵素的若しくは化学的切断によって天然タンパク質から得るか若しくは取り出しても、又は従来のペプチド合成法(例えば、固相合成)若しくは分子生物学的手法(例えば、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)に開示されるもの)を用いて調製しても、又は戦略的に切断若しくはセグメント化して、例えば、同じ若しくは少なくとも1つの一般的な標的細菌に対する溶解素活性を維持する活性フラグメントを得てもよい。
【0021】
「融合ポリペプチド」は、通例、異なる特性又は機能性を有する2つ以上のドメイン又はセグメントを有するのが通例である融合発現産物を生じる、2つ以上の核酸セグメントの融合から得られる発現産物を指す。より特定の意味では、「融合ポリペプチド」という用語は、直接、又はアミノ酸若しくはペプチドリンカーを介して共有結合的に連結した2つ以上の異種ポリペプチド又はペプチドを含むポリペプチド又はペプチドも指す。融合ポリペプチドを形成するポリペプチドは通例、C末端からN末端に連結されるが、C末端からC末端、N末端からN末端又はN末端からC末端に連結されてもよい。「融合ポリペプチド」という用語は、「融合タンパク質」という用語と区別なく使用される場合もある。よって、或る特定の構造「を含むポリペプチド」というオープンエンドの表現は、融合ポリペプチド等の列挙される構造よりも大きい分子を含む。
【0022】
「異種」は、天然では隣接しないヌクレオチド又はポリペプチドの配列を指す。例えば、本開示の文脈において、「異種」という用語は、融合ポリペプチドが通常は天然に見られない2つ以上のポリペプチドの組合せ又は融合、例えば増強した溶菌活性を有し得る、溶解素ポリペプチド、及びカチオン性及び/又はポリカチオン性ペプチド、両親媒性ペプチド、sushiペプチド(Ding et al. Cell Mol Life Sci., 65(7-8):1202-19 (2008))、ディフェンシンペプチド(Ganz, T. Nature Reviews Immunology 3, 710-720 (2003))、疎水性ペプチド、及び/又は抗微生物ペプチドを記載するために使用することができる。この定義には、2つ以上の溶解素ポリペプチド又はその活性フラグメントが含まれる。これらは、溶菌活性を有する融合ポリペプチドを作るために使用することができる。
【0023】
「活性フラグメント」は、フラグメントが得られた単離ポリペプチドの1つ以上の機能又は生物活性、例えば、S.アウレウス等の1つ以上のグラム陽性細菌に対する殺菌活性を保持するポリペプチドの部分を指す。
【0024】
「相乗的」又は「超相加的」は、独立して働く2つの作用物質の効果の総和を超える、組合せでの2つの物質によってもたらされる有益な効果を指す。或る特定の実施形態において、相乗又は超相加的効果は、独立して働く2つの作用物質の効果の総和を有意に、すなわち統計的に有意に超える。一方又は両方の有効成分を閾値下レベル、すなわち活性物質が個別に用いられる場合に効果を生じないか、又は非常に限られた効果しか生じないレベルで用いることができる。効果は、本明細書に記載されるチェッカーボードアッセイ等のアッセイによって測定することができる。
【0025】
「治療」は、ヒトを含む被験体が、直接的又は間接的に、障害を治癒するか、又は病原体を根絶するか、又は被験体の状態を改善する目的で医療を受ける任意のプロセス、行為、適用、療法等を指す。治療は、発生率の低減、症状の軽減、再発の解消、再発の予防、発生の予防、発生リスクの低減、症状の改善、予後の改善、又はそれらの組合せも指す。「治療」は、被験体における細菌の集団、増殖速度又は病原性を低減することで、被験体における細菌感染、又は器官、組織若しくは環境の細菌汚染を制御又は低減することを更に包含し得る。このため、発生率を低減する「治療」は、例えば、被験体であるか又は環境であるかを問わず、特定のミリュー(milieu)での少なくとも1つのグラム陽性細菌の増殖を阻害するのに効果的となり得る。一方、既に確立された感染の「治療」は、感染又は汚染の原因となるグラム陽性細菌の集団を減少させるか、それを死滅させるか、その増殖を阻害するか、及び/又はそれを根絶することを指す。
【0026】
「予防する」は、細菌感染等の障害の発生、再発、拡大、発症又は確立の予防を指す。本開示が感染の完全な予防又は感染の確立の予防に限定されることは意図されない。幾つかの実施形態において、発症を遅らせるか、又は続いて発症した(contracted)疾患の重症度若しくは疾患の発症の可能性を低減すること等が予防例を構成する。
【0027】
「発症した疾患」は、発熱、敗血症又は菌血症の検出等の臨床症状又は不顕性(subclinical)症状が現れた疾患、並びにかかる病理と関連する症状が未だ現れていない場合の細菌病原体の増殖(例えば、培養物中での)によって検出され得る疾患を指す。
【0028】
ペプチド又はポリペプチド又はその活性フラグメントとの関連での「誘導体」は、例えば、溶菌活性等のポリペプチドの活性に実質的に悪影響を与えない若しくは溶菌活性等のポリペプチドの活性を損なわない、アミノ酸以外の1つ以上の化学的部分を含有するように修飾されたポリペプチドを包含することを意図する。化学的部分は、例えばアミノ末端のアミノ酸残基、カルボキシ末端のアミノ酸残基又は内部アミノ酸残基を介してペプチドに共有結合的に連結することができる。かかる修飾は、天然であっても又は非天然であってもよい。或る特定の実施形態において、非天然修飾は、反応性部分への保護基若しくはキャップ基(capping group)の付加、抗体及び/又は蛍光標識等の検出可能な標識の付加、グリコシル化の付加若しくは修飾、又はPEG(ペグ化)等の嵩高基(bulking group)の付加、並びに当業者に既知の他の変化を含み得る。或る特定の実施形態において、非天然修飾は、N末端アセチル化及びC末端アミド化等のキャップ修飾であり得る。溶解素ポリペプチドに付加することができる、例示的な保護基としては、t-Boc及びFmocが挙げられるが、これらに限定されない。限定されるものではないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)及びmCherry等の一般に使用される蛍光標識タンパク質は、細胞タンパク質の正常機能に干渉することなく、ポリペプチドに共有結合的若しくは非共有結合的に結合するか、又はポリペプチドに融合させることができる小型のタンパク質である。或る特定の実施形態において、蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドをポリヌクレオチド配列の上流又は下流に挿入する。これにより、細胞機能又はそれが結合した溶解素ポリペプチドの機能を妨げない融合タンパク質(例えば、溶解素ポリペプチド::GFP)が生じる。タンパク質へのポリエチレングリコール(PEG)のコンジュゲーションが、多くの医薬タンパク質の循環半減期を延長する方法として使用されている。このため、溶解素ポリペプチド誘導体等のポリペプチド誘導体との関連で、「誘導体」という用語は、1つ以上のPEG分子の共有結合によって化学修飾された溶解素ポリペプチド等のポリペプチドを包含する。ペグ化溶解素等の溶解素ポリペプチドは、生物活性及び治療活性を保持した上で非ペグ化ポリペプチドと比較して延長された循環半減期を示すことが予想される。
【0029】
「パーセントアミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を達成するように配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入した後に、任意の保存的置換を配列同一性の一部とみなさない、参照ポリペプチド配列、例えば溶解素ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一の候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージを指す。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的でのアラインメントは、当業者の能力の範囲内の様々な方法で、例えばBLAST等の公開されているソフトウェア、又は例えばDNASTARにより市販されているソフトウェアを用いて達成することができる。2つ以上のポリペプチド配列は、0%~100%の間のいずれか、又はその間の任意の整数値で同一であり得る。本開示の文脈において、2つのポリペプチドは、アミノ酸残基の少なくとも80%(典型的には、少なくとも約85%、少なくとも約90%であり、典型的には、少なくとも約95%、少なくとも約98%又は少なくとも99%)が同一である場合に「実質的に同一」である。本明細書に記載される「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」という用語は、ペプチドにも当てはまる。このため、「実質的に同一」という用語は、本明細書に記載されるような単離ポリペプチド及びペプチドの突然変異型、切断型、融合型、又は別の形で配列が修飾された変異体、及びその活性フラグメント、並びに参照(野生型又は他の無傷)ポリペプチドと比較して相当の配列同一性(例えば、1つ以上の上記の方法によって測定される、例えば少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%の同一性、少なくとも98%の同一性、又は少なくとも99%の同一性)を有するポリペプチドを包含する。2つのアミノ酸配列は、アミノ酸残基の少なくとも約80%(典型的には、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%の同一性、又は少なくとも約99%の同一性)が同一であるか、又は保存的置換を示す場合に「実質的に相同」である。本開示のポリペプチドの配列は、ポリペプチド、例えば本明細書に記載の溶解素ポリペプチドのアミノ酸の1つ以上、又は幾つか、又は最大10%、又は最大15%、又は最大20%が同様の又は保存的アミノ酸置換で置換され、得られるポリペプチド、例えば本明細書に記載の溶解素が、参照ポリペプチド、例えば本明細書に記載の溶解素の少なくとも1つの活性、抗菌効果、及び/又は細菌特異性を有する場合に実質的に相同である。
【0030】
本明細書において使用される場合、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が同様の電荷を有する側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられる置換である。同様の電荷を有する側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野で規定されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。
【0031】
「バイオフィルム」は、表面に付着し、細菌及び/又は宿主に由来する成分で構成され得る水和したポリマーマトリックス中に凝集した細菌を指す。バイオフィルムは、生物表面又は非生物表面上で細胞が互いに接着した微生物の凝集物である。これらの接着細胞は、限定されるものではないが、細胞外高分子物質(EPS)で構成されるマトリックス中に埋め込まれることが多い。バイオフィルムのEPSは、スライム(スライムと記載されたもの全てがバイオフィルムという訳ではない)又はプラークとも称され、一般に細胞外DNA、タンパク質及び多糖で構成されるポリマー集塊である。
【0032】
或る特定の細菌に対する使用に適した抗生物質との関連での「適した、好適な(Suitable)」は、耐性が後に発現する場合であっても、これらの細菌に対して効果的であることが見出された抗生物質を指す。
【0033】
感染性心内膜炎
本開示は、本明細書に記載されるように、従来の抗生物質及び溶解素、特にMIC量未満の溶解素を用いて、スタフィロコッカス・アウレウス等のグラム陽性細菌による感染性心内膜炎又は感染性心内膜炎の再発を治療又は予防する方法に関する。
【0034】
或る特定の実施形態において、本発明の方法の感染性心内膜炎は、バイオフィルムの存在を特徴とする。in vivoで形成されたかかるバイオフィルムは、宿主防御機構への曝露のために、少なくとも一部は複雑な構造を示すことが多い。この構造を貫通することが困難であるため、多くの抗生物質及び生物製剤は、感染性心内膜炎等のバイオフィルムの存在に関連する慢性疾患の治療に有効ではない。しかしながら、本発明の方法は、実施例で証明されるように、バイオフィルム形成グラム陽性細菌によって引き起こされるものを含む感染性心内膜炎の治療に有効に使用され得る。
【0035】
本明細書において使用される場合、「感染性心内膜炎」は、心室及び心臓弁の内膜である心内膜の感染を指す。感染性心内膜炎は、一般に、口等の身体の別の部位からの細菌が血流を介して広がり、心臓の損傷領域に付着して、そこでバイオフィルムを形成し得る場合に生じる。
【0036】
心内膜炎は、当該技術分野で既知の任意の方法で診断され得る。典型的には、修正デューク基準が使用される(Cahill et al., Lancet, 2016, 387:882-893による表1、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)。診断は、2つの大基準、3つの小基準を伴う1つの大基準、又は5つの小基準が観察される場合に示される。或いは、手術により病理標本を入手することができる場合、病理学的基準、すなわち疣贅又は膿瘍組織の組織学又は陽性培養物を用いて診断を行うことができる。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明の方法は、スタフィロコッカス・アウレウス等の表1に列挙される原因物質による心内膜炎の治療又は予防に使用され得る。本発明の方法は、実施例に記載される感染性心内膜炎の原因物質による心内膜炎の治療又は予防にも使用され得る。代表的な原因物質としては、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌種(CoNS)等のブドウ球菌(Staphylococcus)属の成員が挙げられる。当該技術分野で知られているように、CoNSは不規則な「ブドウのような」クラスターに分裂するグラム陽性球菌であり、コアグラーゼを産生してウサギ血漿を凝固することができないことから、S.アウレウスと区別される。CoNS種は、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、スタフィロコッカス・カピティス(Staphylococcus capitis)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominus)、及びスタフィロコッカス・ワルネリ(Staphylococcus warneri)を含む。
【0039】
更なる典型的なスタフィロコッカス剤としては、スタフィロコッカス・シュードインターメディウス(Staphylococcus pseudintermedius)、スタフィロコッカス・シウリ(Staphylococcus sciuri)、スタフィロコッカス・シミュランス(Staphylococcus simulans)及びスタフィロコッカス・ヒカス(Staphylococcus hyicus)が挙げられる。メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)、バンコマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(VRSA)、ダプトマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(DRSA)、及び/又はリネゾリド耐性スタフィロコッカス・アウレウス(LRSA)を含む抗生物質耐性細菌、並びにバンコマイシン中間感受性スタフィロコッカス・アウレウス(VISA)を含む抗生物質感受性が改変された細菌も企図される。
【0040】
加えて、本発明の方法を用いて、表1に記載のストレプトコッカス種、並びに例えばストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptocococcus gordonii)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptocococcus mitis)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptocococcus oralis)、ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptocococcus intermedius)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptocococcus salivarius)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptocococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptocococcus agalactiae)、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptocococcus dysgalactiae)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptocococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptocococcus mutans)、ストレプトコッカス・アンギノサス(Streptocococcus anginosus)及びストレプトコッカス・サングイニス(Streptocococcus sanguinis)等による心内膜炎を治療又は予防することができる。典型的なストレプトコッカス種としては、ストレプトコッカス・インターメディウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス(ランスフィールドA群)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(ランスフィールドB群)及びストレプトコッカス・ディスガラクティエ(ランスフィールドG群)が挙げられる。
【0041】
本発明の方法は、人工弁心内膜炎、心臓用デバイス感染症及び右心系心内膜炎を含む任意の種類の感染性心内膜炎を治療又は予防するために使用され得る。幾つかの実施形態において、感染性心内膜炎は、人工弁心内膜炎である。人工弁心内膜炎は、典型的には、人工弁手術から5年以内に3%~4%の患者に発生し、機械弁及び/又は生体弁に影響を及ぼす感染症を指す。幾つかの実施形態において、人工弁心内膜炎は医療関連感染症である。早期人工弁心内膜炎(初回手術後1年未満)は、主に手術後最初の2ヶ月間に発生し、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌又はS.アウレウスによるものが最も多い。1年を超えると、人工弁心内膜炎を引き起こす生物の範囲は、固有弁心内膜炎と同じである。
【0042】
幾つかの実施形態において、感染性心内膜炎は、心臓用デバイス感染症である。心臓用デバイスとしては、永久ペースメーカー、心臓再同期療法、及び植込み型除細動器が挙げられる。感染は、ジェネレーターポケット、デバイスのリード、又は周囲の心内膜表面を含む場合がある。心臓用デバイス感染の危険因子としては、切開部位での血腫形成、腎不全、(永久ペースメーカーと比較して)複雑なデバイスの植え込み、及び抗生物質による予防がない場合の置換処置が挙げられる。ジェネレーターポケット感染の徴候としては、局所蜂巣炎、分泌物、離開、又は疼痛が挙げられる。リード又は心内膜を含む感染は、発熱、倦怠感、及び敗血症を引き起こす場合がある。
【0043】
幾つかの実施形態において、感染性心内膜炎は右心系心内膜炎である。右心系感染性心内膜炎は、典型的には、静脈内薬物使用者、心臓用デバイス感染症を有する被験体、中心静脈カテーテルを使用する被験体、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を有する被験体、及び先天性心疾患を有する被験体に関連する。幾つかの実施形態において、三尖弁は右心系心内膜炎の影響を受ける。敗血症を含む菌血症の特徴に加えて、患者はしばしば肺塞栓症、肺炎、及び肺膿瘍形成に起因する呼吸器症状を有する。幾つかの実施形態において、静脈内薬物使用者等の右心系心内膜炎を有する患者は、標準治療への低い適応性を示す。
【0044】
幾つかの実施形態において、本発明の方法は、感染性心内膜炎に罹るリスクのある被験体を治療するために使用される。感染性心内膜炎に罹るリスクのある被験体としては、以前に感染性心内膜炎と診断された患者、人工心臓弁を有する被験体、本明細書において規定される心臓用デバイスを有する被験体、60歳超の被験体、静脈内薬物使用者及び/又はリウマチ性心疾患を有するものが挙げられる。
【0045】
溶解素
再発の予防を含む、感染性心内膜炎を治療及び/又は予防する本発明の方法は、本明細書に記載される溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体を、それを必要とする被験体に、本明細書にまた記載される1つ以上の抗生物質と組み合わせて投与することを含む。溶解素は、バクテリオファージにコードされた加水分解酵素であり、細胞内部からペプチドグリカンを分解することによって感染細菌から子孫ファージを解放し、宿主細菌の溶解を引き起こす。本発明の溶解素は、細菌細胞の外側からペプチドグリカンを攻撃することにより、病原菌を溶解する抗微生物剤として使用され得る。典型的には、溶解素は細菌種に特異性が高く、共生性腸内細菌を含む非標的生物を溶解することはまれであり、消化管の恒常性を維持する上で有益である可能性がある。
【0046】
幾つかの実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、グラム陽性細菌に対する殺菌及び/又は静菌活性を示す。幾つかの実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体はまた、耐性についての低い傾向を示し、抗生物質耐性を抑制し、及び/又は従来の抗生物質との相乗作用を示す。他の実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、細菌凝集、バイオフィルム形成を阻害する、及び/又はバイオフィルム(感染性心内膜炎を有する被験体におけるバイオフィルムを含む)を減少させる若しくは根絶する。
【0047】
本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の殺菌活性は、当該技術分野で既知の任意の方法を用いて決定することができる。例えば、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体を、例えば、Mueller, et al., 2004, Antimicrob Agents Chemotherapy, 48:369-377(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載される、タイムキルアッセイを用いてin vitroで評定することができる。
【0048】
本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の静菌活性も、当該技術分野で既知の任意の方法を用いて評定することができる。例えば、増殖曲線は、例えば最終濃度50%までヒト血清を添加したカチオン調整ミューラー・ヒントンIIブロス(caMHB/50%HuS)又は100%血清において作成してもよい(performed)。グラム陽性細菌を溶解素と共に懸濁し、培養濁度を、例えば、SPECTRAMAX(商標)M3マルチモードマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)を用いて、例えば、24℃で11時間撹拌しながら1分ごとに読み取って、600nmの光学密度で測定することができる。倍加時間は、Saito et al, 2014, Antimicrob Agents Chemother 58:5024-5025(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載される方法に従い、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体がない状態の培養物の倍加時間と比較して、フラスコ内にて通気させながら増殖させた培養物の対数増殖期において計算することができる。
【0049】
細菌凝集の阻害は、当該技術分野で既知の任意の方法を用いて評定することができる。例えば、Walker et al.、すなわちWalker et al., 2013, PLoS Pathog, 9:e1003819(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載される方法を使用してもよい。
【0050】
溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体が、in vitroでバイオフィルム形成を阻害又は減少させる能力を評定する方法は、当該技術分野でよく知られており、微量液体希釈最小発育阻止濃度(MIC)法を修正した変法が挙げられる(Ceri et al., 1999, J. Clin Microbial. 37:1771-1776(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)、及びSchuch et al., 2017, Antimicrob.Agents Chemother. 61, pages 1-18(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい)。最小バイオフィルム根絶濃度(MBEC)を評定するこの方法では、例えばS.アウレウス株の新鮮なコロニーを媒体、例えばリン酸緩衝液(PBS)に懸濁し、例えばTSBg(0.2%グルコースを添加したトリプシンソイブロス)で100倍希釈し、例えば0.15mlアリコートとしてCalgary Biofilm Device(96個のポリカーボネートペグを備える蓋を有する96ウェルプレート;lnnovotech Inc.)に添加し、例えば37℃で24時間インキュベートする。次いで、バイオフィルムを洗浄し、例えばTSBg中の例えば2倍希釈系列の溶解素によって、例えば37℃で24時間処理する。処理後に、ウェルを洗浄し、例えば37℃で風乾し、例えば0.05%クリスタルバイオレットで10分間染色する。染色後に、バイオフィルムを、例えば33%酢酸で脱染し、例えば抽出されたクリスタルバイオレットのOD600を決定する。各サンプルのMBECが、クリスタルバイオレット定量化によって評定される、バイオフィルムのバイオマスの95%超を除去するのに必要とされる最小溶解素濃度である。
【0051】
本発明の方法での使用に適した溶解素としては、国際公開第2013/170015号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているPlySs2溶解素が挙げられる。本明細書において使用される場合、「PlySs2溶解素」、「PlySs2溶解素(複数)」、「PlySs2」及び「CF-301」という用語は、区別なく使用され、本明細書において配列番号2として記載されるPlySs2溶解素(開始メチオニン残基の有無にかかわらず)、又は国際公開第2013/170015号に記載されるその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体を包含する。PlySs2は、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)ゲノムのプロファージ内にコードされる抗ブドウ球菌溶解素として同定され、例示される以下の細菌に対して殺菌及び静菌活性を示す。
【0052】
【表2】
【0053】
本発明の方法で使用される特に典型的な溶解素は、配列番号2のPlySs2溶解素であり、又はより典型的には、配列番号18に記載される開始メチオニン残基を含まないPlySs2の成熟形である。配列番号2及び配列番号18のPlySs2溶解素は、ほとんどのバクテリオファージ溶解素に特徴的なドメイン配置を有し、細胞壁結合型C末端ドメイン(配列番号20)に連結された触媒N末端ドメイン(配列番号19)によって規定される。N末端ドメインは、溶解素及び他の細菌細胞壁修飾酵素に共通するシステインヒスチジン依存性アミドヒドロラーゼ/ペプチダーゼ(CHAP)ファミリーに属する。C末端ドメインは、典型的には溶解素の細胞壁結合要素を形成するSh3bファミリーに属する。図1は、配列番号2のPlySs2溶解素を示し、N末端ドメイン及びC末端ドメインを太字の領域として示す。N末端CHAPドメインは、LNNで始まる1つ目の太字アミノ酸配列領域に対応し、C末端SH3bドメインはRSYで始まる2つ目の太字領域に対応する。
【0054】
幾つかの実施形態において、本発明の方法は、変異体溶解素を、それを必要とする被験体に投与することを含む。本発明の方法での使用に適した溶解素変異体としては、参照溶解素の少なくとも1つの生物学的機能を保持する、配列番号2又は配列番号18に対して少なくとも1つの置換、挿入及び/又は欠失を有するポリペプチドが挙げられる。幾つかの実施形態において、変異体溶解素は、S.アウレウスを含む広範囲のグラム陽性細菌に対する溶菌効果及び/又は静菌効果、並びに凝集を阻害する、バイオフィルム形成を阻害する、及び/又はバイオフィルムを減少させる能力を含む抗菌活性を示す。幾つかの実施形態において、本発明の溶解素変異体は、グラム陽性細菌を抗生物質の影響を受けやすいものにする。
【0055】
幾つかの実施形態において、本発明の方法での使用に適した溶解素変異体は、配列番号2又は配列番号18と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%の配列同一性を有する単離されたポリペプチド配列を含み、変異体溶解素は、1つ以上の生物学的活性、例えば、触媒活性、ブドウ球菌又は連鎖球菌等の細菌細胞壁に結合する能力、殺菌又は静菌活性(本明細書に記載される配列番号2又は配列番号18のアミノ酸配列を有するPlySs2溶解素のバイオフィルム中のブドウ球菌及び/又は連鎖球菌等のグラム陽性細菌を死滅させる能力を含む)を保持する。
【0056】
溶解素変異体を、国際公開第2013/170015号(その全体が引用することで本明細書の一部をなす)に記載されるように、当該技術分野で既知の任意の方法により、例えば、配列番号2若しくは配列番号18のPlySs2溶解素を部位特異的突然変異誘発により改変するか、又は配列番号2若しくは配列番号18のPlySs2溶解素を産生する宿主の突然変異を介して形成することでき、これらの溶解素変異体は本明細書に記載される生物学的機能を1つ以上保持する。例えば、当業者は、例えば、配列番号2又は配列番号18のPlySs2溶解素のCHAPドメイン及び/又はSH3bドメインの置換又は置き換えを合理的に作製し試験することができる。Genbankデータベースとの配列比較を、例えば、置換するアミノ酸を同定するために、CHAP及び/又はSH3bドメイン配列のいずれか又は両方、又は配列2若しくは配列番号18のPlySs2溶解素の全長アミノ酸配列を用いて行うことができる。例えば、配列番号2又は配列番号18のPlySs2アミノ酸配列中のバリンアミノ酸残基19でバリンをアラニンに置き換えた突然変異体又は変異体は活性であり、配列番号2のPlySs2溶解素と同様の方法で、また同じくらい効果的にグラム陽性細菌を死滅させることができる。
【0057】
さらに、図1に示すように、CHAPドメインは、種々のポリペプチドのCHAPドメインに特徴的で保存されている、保存されたシステイン及びヒスチジンのアミノ酸配列(CHAPドメインの最初のシステイン及びヒスチジン)を含む。例えば、保存されたシステイン残基及びヒスチジン残基は、活性又は能力を維持するために、PlySs2の突然変異体又は変異体で維持されなくてはならないと予測することは妥当である。したがって、本開示の溶解素変異体で保持するために特に望ましい残基は、配列番号2のCHAPドメイン内の活性部位残基Cys26、His102、Glu118、及びAsn120を含む。特に望ましい置換として、正電荷が維持され得るようにArgからLysへの置換及びその逆、負電荷が維持され得るようにAspからGluへの置換及びその逆、遊離-OHを維持できるようにThrからSerへの置換、並びに遊離NHを維持できるようにAsnからGlnへの置換が挙げられる。その他の適切な変異体としては、本発明の配列番号2のCHAPドメインと、例えばSchmitz, 2011, "Expanding the Horizons of Enzybiotic Identification" Student Theses and Dissertations, paper 138(その全体が引用することで本明細書の一部をなし、本明細書の図6に示される)に示すPlyCのCHAPドメインとの間等、他の既知の溶解素間で共有されないCHAP及び/又はSH3ドメインの領域における配列番号2又は配列番号18中の置換が挙げられる。
【0058】
好適な変異体溶解素は、PCT出願公開番号である国際公開第2019/165454号(国際出願第PCT/US2019/019638号、その全体が引用することで本明細書の一部をなす)にも記載されている。特に、好適な変異体溶解素としては、本明細書に配列番号3~配列番号17として記載されているもの、並びに配列番号3~配列番号17のいずれか1つと少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%の配列同一性を有する変異体溶解素が挙げられ、変異体溶解素は、本明細書に記載される配列番号2のアミノ酸配列を有するPlySs2溶解素の1つ以上の生物学的活性を保持する。
【0059】
配列番号3~配列番号17は、抗菌活性及び有効性を維持しながら、対応する野生型PlySs2溶解素(配列番号2)に対して少なくとも1つのアミノ酸置換を有する改変溶解素ポリペプチドである。配列番号3~配列番号17を、下記表Aに示すように、配列番号2に対するそれらのアミノ酸置換を参照して記載することができる。改変溶解素ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号2との相違及びそのアミノ酸残基の位置を参照する)を、以下のように一文字アミノ酸コードを使用してまとめる。
【0060】
【表3】
【0061】
幾つかの実施形態において、本発明の方法は、溶解素の活性フラグメントを、それを必要とする被験体に投与することを含む。好適な活性フラグメントは、本明細書に記載される本実施形態のタンパク質又はペプチドフラグメントの生物学的に活性な部分を保持するものを含む。かかる変異体は、溶解素タンパク質の全長タンパク質よりも少ないアミノ酸を含むアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、対応する全長タンパク質の少なくとも1つの活性を示す。典型的には、生物学的に活性な部分は、対応するタンパク質の少なくとも1つの活性を有するドメイン又はモチーフを含む。PlySs2溶解素のN末端CHAPドメインの例示的なドメイン配列を図1及び配列番号19に提供する。PlySs2溶解素のC末端SH3bドメインの例示的なドメイン配列を図1及び配列番号20に提供する。本開示のタンパク質又はタンパク質フラグメントの生物学的に活性な部分は、例えば、長さが10、25、50、100のアミノ酸であるポリペプチドであり得る。タンパク質の他の領域が欠失される他の生物学的に活性な部分は、組換え技術によって調製され、本実施形態のポリペプチドのネイティブ形態の1つ以上の機能的活性について評価することができる。
【0062】
幾つかの実施形態において、好適な活性フラグメントとしては、配列番号19又は配列番号20を含む本明細書に記載される活性フラグメントと、少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも98%、又は例えば少なくとも99%の配列同一性を有する活性フラグメントが挙げられ、その活性フラグメントはCHAP及び/又はSh3bドメインの少なくとも1つの活性を保持する。
【0063】
本発明の方法で使用される、本明細書に記載の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、特定のバクテリオファージに感染した後に細菌生物によって産生され得るか、又は組換えにより若しくは合成的に製造若しくは調製され得る(例えば、化学的に合成されるか、又は無細胞合成系を使用して調製される)。溶解素ポリペプチド配列及び溶解素ポリペプチドをコードする核酸が本明細書に記載され、参照される限り、本発明の溶解素は、例えば、国際公開第2013/170015号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されるような当該技術分野の標準的な方法を用いて、ファージゲノムからの溶解素に対する単離された遺伝子を介して、該遺伝子を導入ベクターに入れ、該導入ベクターを発現系にクローニングすることにより産生され得る。本発明の溶解素変異体は、切断型、キメラ型、シャッフル型又は「天然型」であってもよく、例えば、米国特許第5,604,109号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているように組合せであってもよい。
【0064】
置換されたアミノ酸を含む配列を得るために特定のコドンが異なるアミノ酸をコードするコドンに変更されるか、又は1つ以上のアミノ酸が欠失若しくは付加されるように、アミノ酸配列において、又は配列番号2、配列番号18に記載される溶解素配列を含む本明細書に記載されるポリペプチド及び溶解素をコードする核酸配列において、又はそれらの活性なフラグメント若しくは切断型において、突然変異を作製することができる。
【0065】
かかる突然変異は、一般的には可能な限りヌクレオチド変化を少なくすることによって行われる。この種の置換突然変異は、非保存的な方法(例えば、特定のサイズ又は特性を有するアミノ酸の分類に属するアミノ酸から別の分類に属するアミノ酸へとコドンを変化させることによる)又は保存的な方法(例えば、特定のサイズ又は特性を有するアミノ酸の分類に属するアミノ酸から同じ分類に属するアミノ酸へとコドンを変化させることによる)で、得られるタンパク質中のアミノ酸を変化させることができる。かかる保存的変化は、概して、得られるタンパク質の構造及び機能の変化を少なくする。非保存的な変化は、得られるタンパク質の構造、活性又は機能を変更する可能性がより高い。本開示は、得られるタンパク質の活性又は結合特性を著しく変化させない保存的変化を含む配列を含むように考慮されるべきである。そのため、当業者は、本明細書に提供されるPlySs2溶解素ポリペプチドの配列の再検討、また他の溶解素ポリペプチドに利用可能なそれらの知識及び公開情報に基づいて、溶解素ポリペプチド配列においてアミノ酸の変化又は置換を行うことができる。本明細書に提供される溶解素(複数の場合もある)の配列内の1つ以上、1つ又は数個、1つ又は幾つか、1個~5個、1~10個又は他のその数のアミノ酸を置き換えて又は置換して、それらの突然変異体又は変異体を生成するため、アミノ酸の変化を行うことができる。それらのかかる突然変異体又は変異体を、機能について予測するか、又は例えば、ブドウ球菌、連鎖球菌、又は腸球菌に対する本明細書に記載される抗菌活性についての機能若しくは能力、及び/又は本明細書に記載され、特に提供されている溶解素(複数の場合もある)に匹敵する活性を有することについて試験してもよい。そのため、溶解素の配列に対して行われる変化、及び本明細書に記載される突然変異体又は変異体を、当該技術分野で既知であり、本明細書に記載されるアッセイ及び方法を用いて試験することができる。当業者は、本明細書の溶解素(複数の場合もある)のドメイン構造に基づいて、合理的で保存的又は非保存的な置換を含む、置換若しくは置換えに適した1つ以上の、1つ若しくは幾つかのアミノ酸、及び/又は置換若しくは置換えに適さない1つ以上のアミノ酸を予測することができる。
【0066】
抗生物質
本明細書に記載される感染性心内膜炎を治療又は予防する方法は、1つ以上の抗生物質とPlySs2溶解素とを治療有効量で同時投与することを含む。幾つかの実施形態において、溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体と、本明細書に記載される1つ以上の抗生物質との同時投与は、S.アウレウス等のグラム陽性細菌に対する相乗的な殺菌及び/又は静菌効果をもたらす。典型的には、同時投与は、静菌及び/又は殺菌活性に対する相乗効果をもたらす。他の実施形態において、同時投与は、バイオフィルム形成及び/又は凝集を含む病原性の表現型を抑制するために使用される。幾つかの実施形態において、同時投与は、被験体におけるバイオフィルムの量を減少させるために使用される。
【0067】
本発明の方法での使用に適した抗生物質としては、種々の種類及び分類の抗生物質、例えばペニシリン(例えば、メチシリン、オキサシリン)、セファロスポリン(例えば、セファレキシン及びセファクロル)、モノバクタム(例えば、アズトレオナム)及びカルバペネム(例えば、イミペネム及びエルタペネム)を含むβ-ラクタム;マクロライド(例えば、エリスロマイシン、アジスロマイシン)、アミノグリコシド(例えば、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン)、グリコペプチド(例えば、バンコマイシン、テイコプラニン)、オキサゾリジノン(例えば、リネゾリド及びテジゾリド)、リポペプチド(例えば、ダプトマイシン)、並びにスルホンアミド(例えば、スルファメトキサゾール)が挙げられる。
【0068】
典型的には、バンコマイシン、ダプトマイシン、リネゾリド及びオキサシリンが、本発明の方法で使用される。更に典型的には、ダプトマイシンが使用される。
【0069】
投与量及び投与
本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の、それを必要とする被験体に投与される投与量は、治療されている感染の活動性、治療対象の被験体の年齢、健康及び総合的な健康状態、特定の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の活性、本開示による溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体と対になり、かかる対による併用効果を有する抗生物質が存在する場合には、その抗生物質の性質及び活性を含む多くの要因に依存する。一般に、投与される本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の有効量は、0.1mg/kg~50mg/kg(又は1mcg/ml~50mcg/ml)の範囲内に収まることが予想される。本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、任意の所望の頻度又は持続時間に従って投与され得る。例えば、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、14日までの期間、1日1回~4回投与することができる。典型的には、単回投与量のみが投与される。抗生物質は、標準的な投与計画で、又は相乗作用を考慮してより少ない量で投与され得る。しかしながら、(溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体、又はそれに伴って投与される任意の抗生物質に関わらず)かかる投与量及び投与計画はいずれも、最適化の対象となる。最適な投与量は、当業者が備えている技能の範囲内であるが、本開示を考慮に入れて、in vitro及びin vivoでのパイロット有効性実験を行うことにより決定され得る。
【0070】
典型的には、溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の投与量は、約0.000025mg/kg~約1.8mg/kg、例えば約0.0.05mg/kg~約0.5mg/kg又は約0.1mg/kg~約0.3mg/kgの範囲である。より典型的には、健康な個体では、投与量の範囲は約0.2mg/kg~約0.3mg/kgであり、例えば0.25mg/kgである。幾つかの実施形態において、例えば、中等度及び重度の腎機能障害を有する個体では、投与量はより低くてもよく、例えば、0.1mg/kg~0.2mg/kg、例えば、0.12mg/kgである。幾つかの実施形態において、単回投与量等の投与量は、例えば2時間かけて静脈内投与される。
【0071】
本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は殺菌を提供し、より少量で使用すると静菌作用が得られ、或る範囲の抗生物質耐性菌に対して活性であり、耐性の発現と関連しないことが企図される。本開示に基づいて、臨床現場では、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、或る特定の抗生物質(耐性が生じた抗生物質であっても)と併用して、薬剤耐性細菌及び多剤耐性細菌から生じる心内膜炎感染を治療するための組成物の強力な代替(又は添加剤若しくは成分)である。グラム陽性細菌に対する既存の耐性機構は、本発明のポリペプチドの溶菌活性に対する感受性に影響を与えないはずである。
【0072】
本開示の任意のポリペプチドでは、治療有効用量は、細胞培養アッセイ又は動物モデル(通常はマウス、ウサギ、イヌ、又はブタ)のいずれかで最初に推定され得る。望ましい濃度範囲及び投与経路を達成するために動物モデルを使用することもできる。次いで、得られた情報を、ヒトにおける有効用量及び投与経路を決定するために使用することができる。しかしながら、典型的には、全身投与、特に静脈内投与が用いられる。十分なレベルの有効成分を提供するか、又は所望の効果を維持するように、投与量及び投与を更に調整することができる。考慮され得る追加の要因としては、疾患状態の重症度、患者の年齢、体重及び性別;食餌、望ましい治療期間、投与方法、投与の時間及び頻度、薬物の組合せ(複数の場合もある)、反応感受性、並びに治療法に対する忍容性/応答及び治療医の判断が挙げられる。
【0073】
治療計画は、毎日(例えば、毎日1回、2回、3回等)、隔日(例えば、1日おきに1回、2回、3回等)、半週毎、毎週、2週間に1回、1ヶ月に1回等の投与を必要とし得る。一実施形態において、治療を、持続点滴として与えることができる。単位用量を複数回で投与することができる。また、臨床症状を監視することによって指示されるというように、間隔が不規則であってもよい。代替的には、単位用量を持続放出製剤として投与することができ、その場合、必要な投与頻度はより少なくなる。投与量及び頻度は、患者によって異なる可能性がある。限局性の(localized)投与、例えば、鼻腔内、吸入、直腸等、又は全身投与、例えば経口、直腸(例えば、浣腸による)、i.m.(筋肉内)、i.p.(腹腔内)、i.v.(静脈内)、s.c.(皮下)、経尿道等に対してかかるガイドラインを調整することが当業者に理解される。
【0074】
幾つかの実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、MIC量でそれを必要とする被験体に投与される。当該技術分野で知られているように、MIC値は、対照と比較して細菌増殖の少なくとも80%を抑制するのに十分なペプチドの最小濃度を指す。理論によって制限されるものではないが、MICレベル以上で投与された場合、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、1つ以上の従来の抗生物質と同時投与した場合、感染性心内膜炎に対して有効であり、本明細書に記載されているように、S.アウレウスを含む広範囲のグラム陽性細菌に対する殺菌効果を示し得ると考えられる。また、幾つかの実施形態において、被験体においてバイオフィルムを根絶するために、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体のMICレベル以上での投与を用いることができる。
【0075】
MICは、任意の好適な方法で決定され得る。例えば、MIC値は、Clinical and Laboratory Standards Institute methodology (CLSI), 2018, Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically, 11th Edition, Clinical and Laboratory Standards Institute, Wayne, PAによる微量液体希釈法を使用して決定することができる。幾つかの実施形態において、in vivo環境に適したMIC値を決定するため、100%ヒト血清、又はウマ血清を最終濃度25%まで、ジチオレイトール(DTT)を最終濃度0.5mMまで添加したカチオン調整ミューラー・ヒントンIIブロスを用いて、溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体のMIC値を試験する。
【0076】
幾つかの実施形態において、溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体を、かかる生物製剤をMICレベル未満、例えば、0.9×MIC~0.0001×MICの範囲のMICレベル未満で投与することにより、その再発を含む感染性心内膜炎の治療又は予防に有効に使用することもできる。かかるMICレベル未満では、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、典型的には、グラム陽性細菌の増殖を阻害し、凝集を減少させ、及び/又はバイオフィルム形成を阻害するか、又はバイオフィルムを減少若しくは根絶するために使用される。
【0077】
理論によって制限されるものではないが、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体のMIC未満の投与量は、溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体のペプチドグリカン加水分解活性によって媒介される細胞エンベロープへの非致死的損傷をもたらす。幾つかの実施形態において、細胞エンベロープに生じる物理的及び機能的な変化が増殖の遅延を説明する。かかる物理的及び機能的変化としては、例えば、細胞壁の不安定化、膜透過性の増加及び膜電位の消失が挙げられる。本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は細菌の細胞膜に直接作用しないが、細胞膜透過性及び静電ポテンシャルに対するいかなる影響も、非常に低い濃度の溶解素のペプチドグリカン加水分解活性によって誘発される浸透圧ストレス(及び細胞エンベロープの不安定化)の結果である可能性が高い。また、局所的な細胞壁加水分解は、内膜の押し出し及び細孔の形成、並びに細胞合成の離脱(uncoupling)及び加水分解、細胞壁の厚さの変化をもたらし、その後の増殖停止をもたらす可能性があると仮定されている。
【0078】
幾つかの実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体のMIC未満の濃度は、細菌細胞エンベロープを損傷し、MIC未満の用量の本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体がない場合よりも従来の抗生物質の影響を受けやすい細菌をもたらす。
【0079】
幾つかの実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体のMICレベル未満の有効性は、例えば、Jun Oh及びRaymond Schuchによるルイジアナ州ニューオーリンズで2017年6月2に米国微生物学会(ASM)Microbeで"The Sub-MIC Effect of Lysin CF-301 on Staphylococcus aureus (S. aureus)"と題したポスター発表において記載されるように、in vitroでの薬力学(PD)パラメーターを用いて決定され得る。www.contrafect.com/technology/publications-posters?page=2も参照されたい。前述のポスター発表は、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0080】
簡潔に述べると、抗生物質後効果(PAE)、PA MIC未満効果(PA-SME)及びMIC未満効果(SME)を含むin vitro薬力学(PD)パラメーターは、細菌の増殖に対する短期間及び/又はMIC未満の曝露の影響の決定を可能にする。定義上、PAEは細菌増殖の抑制段階であり、抗微生物剤への最初の曝露後(しばしばMICを超えるレベル)、抗菌剤の除去後に正常な細菌増殖が再開するまで持続する。PA-SMEは、PAE相のMIC未満への曝露中に増殖が抑制されるため、PA-SMEは、PAEに加えて、MIC未満によって増殖が抑制される追加の時間を含む時間間隔を表す。阻害濃度未満は、治療現場で投与した後に存在することがあるため、PA-SMEは、PAEよりもin vivoでの状況をより密接に反映することができる。PA-SMEとは対照的に、SMEは、以前に例えば溶解素又は抗生物質に曝露されていない細菌の増殖に対する阻害レベル未満の影響の尺度である。
【0081】
in vitro PAEは、グラム陽性細菌培養物を、例えばMICの4倍の対象とする溶解素に、例えば37℃で1時間、撹拌しながら供することにより決定することができる。曝露後、例えば新たに調製した培地に1:1000に希釈することによって溶解素を除去し、次いで、更に37℃にて200rpmで24時間撹拌しながらインキュベートする。PAE試験培養ごとに、希釈直前及び希釈直後の定量的プレーティングによって細菌濃度を決定し、次いで、増殖させ、続けて、例えば24時間にわたって1時間間隔で定量的プレーティングを行うことができる。PAEはT-Cと定義され、ここで、Tは抗生物質又は溶解素曝露培養物の生存率カウントが、溶解素除去直後のカウントより1log10超増加するのに必要な時間であり、Cは溶解素に曝露されない増殖対照に対応する時間である。
【0082】
in vitro PA-SMEは以下のように決定され得る。PAEを溶解素で1時間誘導した後、培養試料を4つの異なるMIC未満の濃度の溶解素を含む培地のアリコートに例えば1:1000で希釈し、更に37℃にて225rpmで24時間撹拌しながらインキュベートする。in vitroでのPAE決定に対して上記したように、生存率を決定する。PA-SMEはTpa-Cと定義され、ここで、Tpaは、以前に溶解素に曝露され、その後異なるMIC未満の濃度で曝露された培養物が溶解素除去直後に1log10超増加するのに必要な時間であり、Cは溶解素に曝露されていない増殖対照に対応する時間である。
【0083】
in vitro SMEは、PAEの事前誘導なしに、PA-SMEと同じ方法で誘導され得る。1時間の増殖期(溶解素なし)の後、培養サンプルを異なるMIC未満の濃度の溶解素を含む100%ヒト血清に1:1000で希釈し、次いで、更に37℃にて225rpmで最大24時間撹拌しながらインキュベートする。in vitroでのPAE決定に対して上記したように、生存率カウントを決定することができる。SMEはT-Cと定義され、ここで、Tは、MIC未満の濃度のみで曝露された培養物が希釈直後に1log10超のカウントまで増加するのに必要な時間であり、Cは非曝露対照に対応する時間である。
【0084】
幾つかの実施形態において、例えば、好中球減少症マウス大腿モデルを用いて、in vivoでPA-SME値を決定することにより、溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体のMIC値未満での有効性を評定することができる。このモデルは、溶解素レベルがMICを下回った後のグラム陽性細菌の再増殖阻害を試験し、主に、in vivoでのバイオフィルム形成を含むin vivo感染条件によって更に影響を受けるMIC未満の効果の説明を提供すると考えられている。PA-SMEは、次の等式PAE=T-C-Mを用いて決定することができ、ここで、Mは血清レベルがMICを超える時間を表し、Tは治療したマウスの大腿のCFUが時間Mでのカウントより1log10を超えて増加するのに必要な時間であり、Cは未治療対照の大腿のCFUがT=0時間で生存カウントより1log10超えて増加するまでの所要時間である。
【0085】
幾つかの実施形態において、MIC未満及び/又はMICレベルの用量での本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、バイオフィルム、特にin vivoバイオフィルムを減少させることができる。当該技術分野で知られているように、in vivoバイオフィルムは、in vitroバイオフィルムとは構造的に異なる場合がある。典型的には、in vitroバイオフィルムとin vivoバイオフィルム(慢性感染症に関連するもの等)との違いは、in vitroバイオフィルム系における防御機構曝露の欠如によるものである。ほとんどのin vivoバイオフィルム生育環境では、膿、並びに他の排泄された液体及びポリマーの存在と共に、食細胞、更にはバクテリオファージが存在する場合がある。かかる変数は、制御又は再現が困難なin vitroモデル系では一般的に回避される。幾つかの実施形態において、本発明の方法は、有利には、より構造的に複雑なin vivoバイオフィルムを根絶又は減少させるために使用される。
【0086】
幾つかの実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、殺菌及び/又は静菌活性に必要な抗生物質のMICを減少させる。MICを評定するための任意の既知の方法が使用され得る。幾つかの実施形態において、チェッカーボードアッセイは、抗生物質濃度に対する溶解素の効果を決定するために使用される。チェッカーボードアッセイは、本明細書に記載される微量液体希釈によるMIC決定のためのCLSI法の修正に基づく。
【0087】
チェッカーボードを、初めに横軸に沿って、例えば各ウェルが同量の2倍希釈した抗生物質を含む96ウェルポリプロピレンマイクロタイタープレートの列を作成することによって構築する。別のプレートに、縦軸に沿って各ウェルが同量の、例えば2倍希釈した溶解素を有する比較用の行を作成する。次いで、各列が一定量の抗生物質及び溶解素の2倍希釈物を含み、各行が一定量の溶解素及び抗生物質の2倍希釈物を含むように、溶解素及び抗生物質の希釈物を組み合わせる。これにより、各ウェルは、溶解素と抗生物質との独自の組合せを有する。例えば、細菌を、例えばウマ血清を最終濃度25%まで、ジチオレイトール(DTT)を最終濃度0.5mMまで添加したカチオン調整ミューラー・ヒントンIIブロス中、1×10CFU/mlの濃度で薬物の組合せに添加する。次いで、単独及び組合せでの各薬物のMICを、例えば周囲空気中にて37℃で16時間の後に記録する。部分発育阻止濃度の総和(ΣFIC)を各薬物について算出し、最小のΣFIC値(ΣFICmin)を用いて溶解素/抗生物質の組合せの効果を決定する。
【0088】
幾つかの実施形態において、本開示の1つ以上の抗生物質を、1×MIC、2×MIC、3×MIC、及び4×MICのように、MICレベルで又はMICレベル超で、それを必要とする被験体に投与する。他の実施形態において、抗生物質はMICレベル未満で、例えば0.9×MIC~0.0001×MICの範囲で投与される。
【0089】
幾つかの実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体と、本発明の方法の1つ以上の抗生物質、例えば、ダプトマイシンとが同時に投与される。他の実施形態において、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体と、本発明の方法の1つ以上の抗生物質、例えば、ダプトマイシンとが任意の順序で連続して、例えば順次投与される。幾つかの実施形態において、溶解素は、標準治療抗生物質処置、例えば、オキサシリン及びゲンタマイシン又はダプトマイシンの2週間のコースの投与中又はその後に投与される。本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体と、本発明の1つ以上の抗生物質とを、単回用量又は複数回用量で、単独で又は組み合わせて投与することができる。
【0090】
本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体と、1つ以上の抗生物質とを、同じ投与様式又は異なる投与様式によって投与してもよく、1回、2回又は複数回で、1つ以上を組み合わせて又は個別に投与してもよい。したがって、本発明の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体を、特に応答、例えば、殺菌及び/又は静菌効果及び/又は凝集に対する効果及び/又はバイオフィルムの形成若しくはその減少に応じて、初回用量、その後に続く用量(複数の場合もある)にて投与することができ、抗生物質の用量(複数の場合もある)と組み合わせ又はそれと交互に行ってもよい。典型的には、溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、単回ボーラスで投与され、その後本開示の1つ以上の抗生物質の従来の用量及び投与様式が続く。
【0091】
より典型的な実施形態において、本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の単回ボーラスを被験体に投与し、その後、従来の投与計画、例えば、標準治療(SOC)投与量のダプトマイシン等の本開示の1つ以上の抗生物質が続く。他の典型的な実施形態において、ダプトマイシン等の本開示の1つ以上の抗生物質を被験体に投与し、その後に本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の単回ボーラスが続き、その後に、従来の投与量のダプトマイシン等の本開示の1つ以上の抗生物質の追加の投与量が続く。更により典型的には、溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の単回のMIC未満の用量を被験体に投与し、その後、1つ以上の用量の本開示の1つ以上の抗生物質の従来の投与計画が続く。他の更に典型的な実施形態において、ダプトマイシン等の本開示の1つ以上の抗生物質を従来の投与量で被験体に投与し、その後にMIC未満の用量の本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の単回ボーラスが続き、その後に、従来の投与量のダプトマイシン等の本開示の1つ以上の抗生物質の追加の投与量が続く。
【0092】
他の実施形態において、本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の単回のMIC未満の用量を被験体に投与し、その後、ダプトマイシン等の本開示の1つ以上の抗生物質の1つ以上の用量が続き、ここで、抗生物質の用量(複数の場合もある)はMICレベル未満でも投与される。
【0093】
他の実施形態において、ダプトマイシン等の本開示の1つ以上の抗生物質をMIC未満の投与量で被験体に投与し、その後にMIC未満の投与量の本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体の単回ボーラスが続き、その後に、MIC未満の投与量のダプトマイシン等の本開示の1つ以上の抗生物質の1つ以上の追加の投与量が続く。
【0094】
製剤
本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体は、本明細書に記載される1つ以上の抗生物質と共に投与され得る。溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体及び抗生物質は、それぞれ単一の医薬製剤に含まれるか、又は溶液、懸濁液(a suspension)、エマルション、吸入用粉末、エアロゾル、又はスプレー(a spray)、錠剤、丸剤、ペレット、カプセル剤、液体を含有するカプセル剤、粉末、持続放出製剤、坐剤、タンポン用途エマルション、エアロゾル、スプレー(sprays)、懸濁液(suspensions)、ロゼンジ、トローチ、キャンディー、注射剤、チューインガム、軟膏、スメア(smears)、時間放出パッチ、液体を吸収したワイプ、及びそれらの組合せの形態で別々に製剤化され得る。
【0095】
幾つかの実施形態において、医薬製剤の投与は、全身投与を含み得る。全身投与は、経腸又は経口(すなわち、物質を消化管を介して与える)、非経口(すなわち、物質を注射又は吸入等の消化管以外の経路によって与える)とすることができる。したがって、本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体、及び/又は1つ以上の抗生物質を、経口的に、非経口的に、吸入により、局所的に、経直腸的に、経鼻的に、バッカルで若しくは留置されたリザーバーにより、又は任意の他の既知の方法により被験体に投与することができる。本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又は変異体若しくは誘導体、及び/又は1つ以上の抗生物質を、持続放出剤形を用いて投与することもできる。
【0096】
経口投与の場合、本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体、及び/又は1つ以上の抗生物質を、固体又は液体の調製物、例えば錠剤、カプセル剤、粉末、溶液、懸濁液及び分散液に製剤化することができる。幾つかの実施形態において、本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体及び/又は1つ以上の抗生物質を、例えば、ラクトース、スクロース、コーンスターチ、ゼラチン、ジャガイモデンプン、アルギン酸及び/又はステアリン酸マグネシウム等の賦形剤と共に製剤化することができる。
【0097】
錠剤及び丸剤等の固体組成物を調製するため、本開示の溶解素若しくはその活性フラグメント、又はその変異体若しくは誘導体、及び/又は1つ以上の抗生物質を薬学的賦形剤と混合して固体プレ製剤組成物を形成する。望ましい場合、標準的な手法によって錠剤を糖コーティング又は腸溶性コーティングしてもよい。錠剤又は丸剤を、長期作用の利点を与える剤形を提供するためにコーティングしてもよく、又は他の形で配合させてもよい。例えば、錠剤又は丸剤は、内部製剤(inner dosage)及び外部製剤(outer dosage)の成分を含むことができ、後者は前者を覆うエンベロープの形態である。2つの製剤成分を腸溶層によって分離することができ、胃内での崩壊に抵抗するようにはたらき、内側の成分が十二指腸をそのまま通過するか、又は放出が遅延することを可能にする。かかる腸溶層又はコーティング剤には様々な材料を使用することができ、かかる材料としては、多くのポリマー酸、並びにシェラック、セチルアルコール及び酢酸セルロース等の材料とのポリマー酸の混合物が挙げられる。
【0098】
他の実施形態において、本開示の医薬製剤は吸入可能な組成物として製剤化される。幾つかの実施形態において、本発明の医薬製剤は、有利には乾燥した吸入可能な粉末として製剤化される。具体的な実施形態において、本発明の医薬製剤は、エアロゾル送達用の噴射剤を用いて更に製剤化され得る。好適な噴射剤の例としては、限定されるものではないが、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン及び二酸化炭素が挙げられる。或る特定の実施形態において、製剤は、噴霧化されてもよい。
【0099】
幾つかの実施形態において、吸入用医薬製剤は、賦形剤を含む。好適な賦形剤の例としては、限定されないが、ラクトース、デンプン、中鎖脂肪酸のプロピレングリコールジエステル;中鎖、短鎖若しくは長鎖、又はそれらの組合せの脂肪酸のトリグリセリドエステル;パーフルオロジメチルシクロブタン;パーフルオロシクロブタン;ポリエチレングリコール;メタノール;ラウログリコール;ジエチレングリコールモノエチルエーテル;中鎖脂肪酸のポリグリコール化グリセリド;アルコール;ユーカリ油;短鎖脂肪酸;及びそれらの組合せが挙げられる。
【0100】
医薬品と噴射剤との間の表面張力及び界面張力を低下させるため、界面活性剤を本開示の吸入用医薬製剤に添加することができる。界面活性剤は、本発明のポリペプチドと非反応性である任意の好適な非毒性化合物であり得る。好適な界面活性剤の例としては、限定されないが、オレイン酸;ソルビタントリオレエート;塩化セチルピリジニウム;大豆レシチン;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート;ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル;ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル;ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンエチレンジアミンブロックコポリマー;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート;ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロックコポリマー;ひまし油エトキシレート及びそれらの組合せが挙げられる。
【0101】
幾つかの実施形態において、本開示の医薬製剤は、鼻腔製剤を含む。鼻腔製剤としては、例えば、鼻腔用スプレー、鼻腔用ドロップ、鼻腔用軟膏、鼻腔用洗浄液、鼻腔用注射剤、鼻腔用パッキング、気管支スプレー、及び吸入剤、又は咽喉ロゼンジ剤、洗口液若しくは含嗽剤の間接的な使用によるもの、又は鼻孔若しくは顔へ適用される軟膏の使用によるもの、又はこれらの及び類似の適用方法の任意の組合せが挙げられる。
【0102】
本開示の医薬製剤は、より典型的には注射によって投与される。例えば、医薬製剤は、グラム陽性細菌よる感染症、典型的には、メチシリン耐性S.アウレウス(MRSA)を含むS.アウレウスによって引き起こされる感染性心内膜炎を治療するために、筋肉内、髄腔内、皮膚下(subdermally)、皮下(subcutaneously)又は静脈内に投与することができる。薬学的に許容可能な担体は、蒸留水、生理食塩水、アルブミン、血清又はそれらの任意の組合せで構成され得る。さらに、非経口注射剤の医薬製剤は、pH緩衝液、アジュバント(例えば、防腐剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤)、リポソーム製剤、ナノ粒子、分散液、懸濁液又はエマルション、及び使用の直前に滅菌注射液又は分散液に再構成するための滅菌粉末を含むことができる。
【0103】
非経口注射が選択される投与様式である場合、典型的には、等張性製剤が用いられる。一般的には、等張性のための添加剤としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール及びラクトースを挙げることができる。場合によっては、リン酸緩衝生理食塩水等の等張溶液が好ましい。安定剤としては、ゼラチン及びアルブミンを挙げることができる。血管収縮剤を製剤に添加することができる。この種の用途に応じた医薬調製物は、滅菌されパイロジェンフリーで提供される。
【0104】
本開示の医薬製剤は、単位剤形で与えられ得て、当該技術分野で既知の任意の方法によって調製され得る。単一剤形を製造するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、治療対象の宿主、感染性細菌へのレシピエントの曝露期間、被験体の大きさ及び体重、並びに特定の投与様式によって異なる。単一剤形を製造するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に治療効果を生み出す各化合物のその量である。一般的には、100%のうち、有効成分の総量は約1%~約99%、典型的には約5%~約70%、最も典型的には約10%~約30%の範囲である。
【実施例
【0105】
実施例1.感染性心内膜炎に関連するブドウ球菌及び連鎖球菌種に対する本開示の溶解素のin vitroでの有効性
CF-301(エクセバカーゼ)及び比較抗生物質、例えばダプトマイシン及びバンコマイシンのin vitro活性を、本明細書に記載され、表2に示す感染性心内膜炎に最も一般的に関連する細菌種の範囲に対して評価した。米国、欧州、及びアジアのコレクション及びリポジトリから、様々な株及び分離株を取得した。株及び分離株を、各ソースによって種レベルで確認した。分離株の大部分は、菌血症(及び心内膜炎)、皮膚及び軟部組織の感染症、並びに呼吸器感染症を含む様々な種類の感染症から単離された。標的種ごとに十分な数の分離株を確保するため、様々な種類の感染症を含めた。
【0106】
ブドウ球菌に対するエクセバカーゼの最小発育阻止濃度(MIC)を、ウマ血清(Sigma Aldrich)及びジチオスレイトール(DTT;Sigma Aldrich)をそれぞれ25%及び0.5mMの最終濃度まで添加したカチオン調整ミューラーヒントンブロス(caMHB)で構成される非標準抗菌感受性試験(AST)培地を用いた微量液体希釈(BMD)によって決定した。caMHB-HSDと称されるこの培地は、米国臨床検査標準化委員会(CLSI)(CLSI. 2017, January 16-17. AST Subcommittee Working Group Meetings and Plenary. AST Meeting Files & Resources, clsi.org/education/microbiology/ast/ast-meeting-files-resources/)によってエクセバカーゼASTでの使用が承認されている。CLSIが推奨しているように、2.5%溶解赤血球(Remel(商標)、ThermoFisher)の追加の添加を連鎖球菌分離株の分析に含めた。CLSI, 2015. Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically, 10th Edition. Clinical and Laboratory Standards Institute, Wayne, PA.を参照されたい。
【0107】
ダプトマイシン(Sigma Aldrich)及び塩酸バンコマイシン(Sigma Aldrich)を、それぞれの基準BMD法に従って試験した。CLSI, 2015. Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically, 10th Edition. Clinical and Laboratory Standards Institute, Wayne, PA.を参照されたい。
【0108】
エクセバカーゼ活性は、73個のMSSA及び74個のMRSAの分離株のセットを用いて最初に確認され、これは、それぞれ0.5/0.5μg/mL及び0.5/1μg/mLのMIC50/90値、並びに0.25μg/mL~1μg/mL及び0.5μg/mL~2μg/mLの範囲を実証した(表3)。同様のレベルの活性を、次にS.エピデルミディス(S. epidermidis)(MIC50/90=0.5/0.5μg/mL)、S.ルグドゥネンシス(S. lugdunensis)(MIC50/90=1/1μg/mL)、S.ヘモリチカス(S. haemolyticus)(MIC50/90=0.5/1μg/mL)、S.カピティス(S. capitis)(MIC50/90=1/2μg/mL)、及びS.ワルネリ(S. warneri)(MIC50/90=0.5/1μg/mL)を含む、各コアグラーゼ陰性ブドウ球菌種について観察した。スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)は、IEとまれにしか関連しないが、試験すると(n=2株)、0.125μg/mL及び0.25μg/mLのエクセバカーゼMIC値を実証した(データは示されていない)。S.シュードインターメディウス(S. pseudintermedius)(MIC=0.25μg/mL、各々n=6分離株)、S.シウリ(S. sciuri)(MIC=2μg/mL、n=3分離株)、S.シミュランス(S. simulans)(MIC=0.125μg/mL、n=1分離株)、及びS.ヒカス(S. hyicus)(MIC=0.25μg/mL、n=1分離株)を含む、他のブドウ球菌種も試験した。ダプトマイシン及びバンコマイシンのMICは、予想される範囲と一致して、試験された全てのブドウ球菌について、それぞれ0.125μg/mL~2μg/mL及び0.5μg/mL~4μg/mLの範囲で観察された。Sader et al., 2019, J. Antimicrob. Chemother. doi:10.1093/jac/dkz006及びPfaller et al., 2018, Int.J. Antimicrob. Agents. 51:608-611.を参照されたい。
【0109】
試験したビリダンス連鎖球菌群の大部分は、S.ニューモニエ及びE.フェカリス(E. faecalis)(旧D群連鎖球菌)に加えて、エクセバカーゼに対する非常に変動しやすい低レベルの感受性を示し、MIC値は8μg/mL~512μg/mL超の高い範囲であった(表4)。特筆すべき例外として、S.インターメディウス(S. intermedius)、S.ピオゲネス(S. pyogenes)(ランスフィールドA群)、S.アガラクティエ(ランスフィールドB群)、S.ディスガラクティエ(ランスフィールドG群)が挙げられ、MIC範囲はそれぞれ0.06μg/mL~0.5μg/mL、0.5μg/mL~4μg/mL、0.25μg/mL~4μg/mL、及び1μg/mL~2μg/mLであった。主に亜急性IEを引き起こす多くのビリダンス連鎖球菌群及びE.フェカリスとは異なり、S.インターメディウス(ビリダンス群種)、及びS.アガラクティエとS.ディスガラクティエとの両方は、ブドウ球菌によって引き起こされるより侵襲性の急性疾患と関連しており、急速な心内膜の破壊をもたらすことが当該技術分野で知られている。
【0110】
全体的に、ここで提示されたデータは、全てのブドウ球菌種及び急性IEに関連するものを含む連鎖球菌のサブセットに対するエクセバカーゼの強力なin vitro活性を実証した。これらの知見は、ブドウ球菌IE感染の発生率の増加及びビリダンス連鎖球菌群に関連する感染症の発生率の低下を考慮すると、特に意義がある。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
実施例2.感染性心内膜炎ウサギモデルにおけるダプトマイシンとの連続投与によるCF-301投与の効果
材料及び方法
古典的なS.アウレウス「バイオフィルム」感染モデルに対するPlySs2(CF-301)のin vivoでの有効性を、ヒト治療用量(HTD)相当を下回るダプトマイシン用量の存在下で評価した。ダプトマイシンの用量の選択の合理性は以下の通りである。ダプトマイシンのパイロット用量反応実験を、MRSA株であるMW2によって引き起こされた後述の感染性心内膜炎ウサギモデルにおいて、1日1回、4日間、静脈内投与された1mg/kg~10mg/kgの範囲で実施した。図2は、log10 CFU/g組織に対する治療計画としてプロットされた個々の動物のデータを表す(平均±SEMを示す)。これらの研究から、ダプトマイシンの用量反応を規定した。ダプトマイシンに加えてCF-301療法の相乗的な利益を探求するため、HTD相当を下回る用量である4mg/kgのダプトマイシンを選択した。ウサギ感染性心内膜炎モデルでは、4mg/kgのダプトマイシン単独用量を静脈内投与すると、ビヒクル治療対照と比較して細菌負荷が約0.25log10~1.45log10減少した。治療動物は依然として約5log10~7log10の負荷を有しており、この治療計画におけるCF-301の潜在的な相加効果(added effects)を観察するためのダイナミックレンジを提供した。
【0115】
よく説明された大動脈弁感染性心内膜炎の留置経頸動脈から左心室カテーテル誘発モデル(indwelling transcarotid artery-to-left ventricle catheter-induced model)をウサギで使用した。Xiong et al., 2011, AAC, 55:P5325-5330を参照されたい。カテーテル配置から48時間後に約2×10CFUの静脈内接種によって感染性心内膜炎を誘発(このモデルにおいてMRSA株であるMW2のID95を誘発)した。感染から24時間後に動物を7群に無作為化した:i)バッファー対照;又はii)~iv)ダプトマイシン投与の1時間前若しくは4時間前、対ダプトマイシン投与直後又はダプトマイシン投与の2時間後若しくは4時間後(4mg/kg静脈内)に単回静脈内用量(5分間~10分間注入)として投与したCF-301(MIC未満の用量の0.09mg/kg)。ダプトマイシン投与を1日1回4日間続けた。ダプトマイシンの最終投与後24時間で、動物を人道的に安楽死させ、心臓の疣贅、腎臓、及び脾臓を無菌で取り出し、定量的に培養した。種々の治療群の各臓器の細菌密度を、平均log10 CFU/g組織(±95%信頼区間)として計算した。
【0116】
結果
試験した全ての時点(ダプトマイシンによる治療開始前又は開始後のいずれか)でのダプトマイシンへのCF-301の単回用量の追加投与計画は、対照及びダプトマイシン単独と比較して、3つの標的組織全てにおいてMRSA密度を有意に低下させた(図3及び表3)。CF-301とダプトマイシンとを併用して治療したいずれの群も統計的有意差は認められなかった(表4)。
【0117】
【表7】
【0118】
【表8】
【0119】
これらの結果は、このモデルにおける、様々な時点(ダプトマイシン前、対ダプトマイシンと同時及びダプトマイシン投与後4時間まで)でのダプトマイシンへのCF-301の単回用量の追加が、関連する全ての標的組織内のMRSA密度を有意に低下させたことを実証する。驚くべきことに、これらの結果は、CF-301とダプトマイシンとの同時投与が、in vivoバイオフィルム環境の状況でMRSAを効果的に治療するために使用され得ることを示す。これらのデータはまた、ダプトマイシン等の従来の抗ブドウ球菌抗生物質の投与と比較して、CF-301の最適で効果的な投与のための時間枠が比較的広いことを示唆する。
【0120】
実施例3.成人における心内膜炎を含むS.アウレウス菌血症の治療のためのCF-301及びバックグラウンド標準治療(SOC)抗菌療法
材料及び方法
確認されたS.アウレウス菌血症/心内膜炎を有する71名の患者は、バックグラウンドSOC抗菌療法に加えてCF-301の2時間の単回注入(CF-301治療群)、例えばバンコマイシン又はダプトマイシンの静脈内注入(1kgあたり6mg、1日1回の静脈内注入を6週間)を受け、確認されたS.アウレウス菌血症/心内膜炎を有する45名の患者は抗生物質単独の標準治療を受けた(プラセボ群)。これらの116名の患者は、第II相臨床試験の微生物学的治療意図(mITT)集団を構成し、主要有効性分析集団であった。主要有効性エンドポイントは、14日目の臨床奏効率(CRR)であった。診断及び臨床成績は、非公開判定委員会によって判断された。
【0121】
結果
平均的な患者は、年齢およそ56歳の白人男性(67.8%)であった。CF-301治療を受けた患者の合計38.8%及びプラセボ患者の35.5%がそれぞれMRSA感染を有していた。両方の治療群の患者の大多数は菌血症(治療群の77.5%及びプラセボ群の86.7%)を有していたが、治療群間で左心系心内膜炎を有する患者の分布が不均一であった。CF-301治療を受けた患者の合計15.5%が左心系心内膜炎を有したのに対し、プラセボ患者では6.7%であった。CRRは、CF-301治療群で70.4%及びプラセボ群で60%であった(p=0.314)。
【0122】
MRSA感染患者における事前指定分析では、CF-301及び標準治療抗生物質で治療された群のCRRは、標準治療抗生物質単独で治療された患者のCRRより約40%高かった(74.1%対31.3%;p=0.01)。菌血症/右心系心内膜炎のサブセットにおけるCRRは、CF-301治療群及びプラセボ群でそれぞれ80%及び59.5%であった(p=0.028)。菌血症単独を有する患者では、CRRはCF-301治療群及びプラセボ群でそれぞれ81.8%及び61.5%であった(p=0.035)。CF-301を受けた患者のうち、治療下で発現した有害事象(TEAE)の発生率は、重篤なTEAE(治療群の47.2%及びプラセボ群の51.1%)と同様に、群間(治療群の88.9%及びプラセボ群の85.1%)でバランスが取れていた。治療群の19.4%及びプラセボ群の14.9%は、試験薬物投与から標準治療抗生物質処置の終了後の28日間の間に死亡した。CF-301に対する過敏症の報告はなく、いずれの治療群でも試験薬物を中止した患者はいなかった。
【0123】
この実施例の結果は、標準治療抗生物質処置中にCF-301の単回用量を追加すると、心内膜炎を含むMRSA菌血症の治療において、抗生物質単独と比較して、奏効率において臨床的に有意義な改善をもたらすことを実証する。さらに、標準治療抗生物質投与計画へのCF-301の追加は忍容性が良好であった。
【0124】
本開示は、本明細書に記載されている特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。実際に、本明細書に記載されているものに加えて、そこで使用される方法及び構成要素の様々な修正は、前述の記載から当業者に明らかとなろう。
【0125】
本明細書において引用される全ての特許、出願、出版物、試験方法、文献、及びその他の資料は、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0126】
実施例4.MRSAによる実験的感染性心内膜炎(IE)モデルにおけるDAPに追加したCF-301の用量投与の影響
材料及び方法
ウサギにおけるMRSAによるカテーテル誘発左心系IEのモデル(Li et al. The Journal of infectious diseases 2018, 218, 1367-1377)を用いて、CF-301及びDAPの単独、並びにDAPと組み合わせたCF-301の有効性を調べた。この実施例で使用したMRSA株はMW2(CA-MRSA;USA400;MIC(μg/ml)-DAP(0.5)CF-301(1.0)、Indiani et al. Antimicrob.Agents Chemother.2019, 63 doi:10.1128/AAC.02291-18、及びSchuch et al. The Journal of infectious diseases 2014, 209, 1469-1478を参照)であった。
【0127】
簡潔に述べると、雌性ニュージーランド白ウサギ(Harlan Laboratories;体重2.3kg~2.5kg)は、経頸動脈-大動脈弁カテーテル法を受け、カテーテル挿入後48時間(h)に約1×10cfu~2×10cfuのMW2のIV感染によってIEを誘発した。感染後24時間で、動物を15群のうちの1つに無作為化した:1)対照;2)1日1回(QD)与えられるビヒクル対照;3)~15)DAP単独(4mg/kg iv QD×4日;この用量は、実験的IEにおけるMRSAの有意ではあるが中程度のクリアランスをもたらす);DAP+CF-301(DAP治療の初日にのみIV用量として5分~10分スローボーラスで与えられる(mg/kg):0.70QD、0.35Q12、0.23Q8h、0.35QD、0.175Q12h、0.117Q8h、0.09QD、0.045Q12h、0.03Q8h、0.06QD、0.03Q12h又は0.03QD。図4も参照されたい。
【0128】
5日目に動物を屠殺し、標的組織(心臓の疣贅、腎臓、及び脾臓)を取り出し、定量的に培養した。組織MRSAカウントは、平均log10 CFU/g組織±SD)として与えられる。
【0129】
両側スチューデントのt検定を、異なる群間の組織MRSAカウントを分析するために使用した。0.05未満のP値を有意であるとみなした。この研究で報告された全てのP値について調整は行わなかった。
【0130】
結果
DAP単独による治療は、ビヒクル対照と比べて、3つの標的組織全てにおけるMRSA密度の約2log10 cfu/g~3log10 cfu/gの減少をもたらした。DAPに加えて与えられる全てのCF-301用量は、DAP単独(約3log10 cfu/g)及びビヒクル対照群(約6log10 cfu/g)と比較して、最低のCF-301用量(0.03mg/kg)であっても、全ての標的組織においてMRSA密度を更に有意に低下させた。図5A図5D及び表5。一般に、DAP+単回用量(「SD」)として与えられたCF-301は、驚くべきことに、Q12h又はQ8hで与えられたCF-301よりも優れた微生物学的有効性の傾向があったが、この差は統計的に有意ではなかった。
【0131】
これらの結果は、致死量以下のDAPに加えて、複数の投与戦略で、異なる投与計画で与えられたCF-301が、IEモデルの関連する標的組織におけるMRSA密度の更なる減少に有意な有効性(対DAP単独及び未治療の対照)を有していたことを実証する。DAP+CF-301の単回用量は、分割投与戦略で投与された場合よりも優れた有効性の傾向があった。
【0132】
【表9】
【0133】
実施例5-心内膜炎を含むスタフィロコッカス・アウレウス(S.アウレウス)血流感染症(菌血症)を有する成人患者に対する最適用量を決定するためのCF-301の標的到達
集団薬物動態(PPK)モデルを、CF-301の最適用量の標的到達(TA)シミュレーションを決定するために、S.アウレウスの菌血症の感染を呈する72名のヒト患者からのデータを用いて開発した。患者には、標準治療抗生物質と共にCF-301を投与した。CF-301を、透析患者を含むクレアチンクリアランスが60mL/分未満の患者に対して、0.25mg/kg又は0.12mg/kgの単回の2時間注入として投与した。PPKモデルを、以下に説明するように、様々な静脈内注入投与計画のTAシミュレーションに使用した。
【0134】
3コンパートメントモデルをデータに最も適合するように決定し、パラメーターを十分に推定した。クリアランスは4.2リットル(L)/時間(hr)で、相対標準誤差(RSE)は5.5%、中央コンパートメント(V)は4.5LでRSEは8.2%であった。総容積分布は20.2リットルであった。値は健康な被験体で以前に推定された値よりも低く、CLは7.1L/hrであり、容積分布(V)は27.7Lであった。クレアチンクリアランスは臨床的に意味のある共変量であった。中等度及び重度の腎機能障害を有する患者は、正常な腎機能を有する患者よりもAUC0-24又はCmaxが1.3倍から2倍高いと予想される。年齢は末梢クリアランスで統計的に有意であったが、臨床的に意味のあるものではなかった(AUC0-24又はCmaxに対して4%未満の効果)。
【0135】
固定及び体重ベースの用量の範囲にわたって実施される腎機能によって、TAシミュレーションを層別化した。正常な腎機能又は軽度の機能障害を有する患者では、18mgの2時間IV注入の用量は、それぞれ1254ng/mlのCmax及び3026ng・hr/mLのAUC0-24をもたらす。血液透析を含む末期腎疾患(ESRD)患者では、8mgの2時間IV注入の用量は、それぞれ910ng/mLのCmax及び3109ng・hr/mLのAUC0-24をもたらす。これらの曝露により、99%を超える被験体が動物で確立されたAUC/MIC>0.2の期待される有効閾値を上回った。
【0136】
PPKモデルは、患者におけるCF-301のPKを適切に説明した。CL及びVは、健康な被験体よりもそれぞれ40%及び17%低いと推定された。CrClは、用量調整を必要とする唯一の臨床的に意味のある共変量であると決定された。TA評価は、最低限の有効性を達成する用量を特定した。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
【配列表】
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【国際調査報告】