(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(54)【発明の名称】ステンレス鋼表面上の安定なマンガノクロマイトスピネル
(51)【国際特許分類】
C23C 8/18 20060101AFI20220513BHJP
【FI】
C23C8/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556412
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(85)【翻訳文提出日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 IB2020052252
(87)【国際公開番号】W WO2020188426
(87)【国際公開日】2020-09-24
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513269848
【氏名又は名称】ノヴァ ケミカルズ(アンテルナショナル)ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マー、エヴァン
(72)【発明者】
【氏名】リュール、アレン
(72)【発明者】
【氏名】スタング、クリスタ
(57)【要約】
本発明は、鋼又はステンレス鋼基材上の外層を処理する方法である。より具体的には、本開示は、鋼又はステンレス鋼の最も外側の表面におけるマンガノクロマイトスピネル(Cr
2MnO
4)の量を増加させる方法を提供する。本開示は、鋼又はステンレス鋼基材上の外面を、蒸気及び空気又は合成空気(酸素と窒素やアルゴンなどの他の不活性ガスとの組合せ)の雰囲気にさらし、その基材を+7.0~14.0kVの静電荷にさらすことによって、鋼又はステンレス鋼基材上の外面の処理を準備するプロセスを提供することを目的とする。本開示はまた、コーティングされた基材を提供することを目的とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼基材の表面のマグノクロマイト含量を高める方法であって、200℃~750℃の温度で50~80重量%の蒸気と20~50重量%の空気とを含む処理雰囲気に前記表面をさらしながら、前記基材に+7.0~+14.0kVの静電荷を印加することによって、前記ステンレス鋼基材の表面上に混合金属酸化物を形成する、方法。
【請求項2】
前記処理雰囲気の成分が、0.05~0.10g・m
-2・秒
-1の空気量、0.5~1.0g・m
-2・秒
-1の蒸気量;及び0.55~1.10g・m
-2・秒
-1の全流量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材が、前記基材中のクロムの最小含量が15重量%以上であることを条件として、炭素鋼から、又は鍛造ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼及びHP、HT、HU、HW及びHXステンレス鋼、耐熱鋼、並びにニッケル系合金から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
処理後、前記処理された基材の前記表面が、2μm以上の厚さを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記処理された基材の前記表面が、9.8~20.0重量%の式Cr
2O
3の化合物、10.4~43.3重量%の式Cr
2MnO
4の化合物、及び0~22.3重量%の式Cr
1.7Fe
0.3O
3の化合物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基材上の正の静電荷が、+7.0~+14.0kVである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記処理された基材上の前記処理された表面が、前記処理された基材の70%以上を覆う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記処理が、700℃~750℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記処理された基材の前記処理された表面が、9.0~11.0重量%の式Cr
2O
3の化合物、40.0~44.0重量%の式Cr
2MnO
4の化合物、及び22.0~22.5重量%の式Cr
1.7Fe
0.3O
3の化合物を含み、当該成分の合計は100重量%になる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基材上の正の静電荷が、+9.0~+10.0kVである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記処理された基材の前記処理された表面の厚さが、2μm~5μmである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基材が、13~50重量%のCr、20~50重量%のNiを含み、残りが実質的にFeである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記基材が、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記基材が、約50~70重量%のNi、約10~20重量%のCr、約10~20重量%のCo、及び約5~9重量%のFe及び残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記基材が、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記基材が、40~65重量%のCo、15~20重量%のCr、13~20重量%のNi、4重量%未満のFe、最大20重量%のW、及び残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記基材が、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの表面上に処理された表面を有するステンレス鋼基材であって、当該処理された表面は、2μm以上の厚さを有し、26.1~69.6重量%の式Cr
0.10Fe
0.65Ni
0.25の化合物、9.8~20.0重量%の式Cr
2O
3の化合物、10.4~43.3重量%の式Cr
2MnO
4の化合物、及び0~22.3重量%の式Cr
1.7Fe
0.3O
3の化合物を含み、当該成分の合計は100重量%になる、ステンレス鋼基材。
【請求項19】
前記基材の前記処理された表面の厚さが、2μm~5μmである、請求項18に記載の基材。
【請求項20】
前記基材が、13~50重量%のCr、20~50重量%の、好ましくは25~50重量%のNiを含み、残りが実質的に鉄である、請求項19に記載の基材。
【請求項21】
前記基材が、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む、請求項20に記載の基材。
【請求項22】
前記基材が、約50~70重量%のNi、約10~20重量%のCr、約10~20重量%のCo、及び約5~9重量%のFe及び残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする、請求項19に記載の基材。
【請求項23】
前記基材が、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む、請求項19に記載の基材。
【請求項24】
前記基材が、40~65重量%のCo、15~20重量%のCr、13~20重量%のNi、4重量%未満のFe、最大20重量%のW、及び残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする、請求項19に記載の基材。
【請求項25】
前記基材が、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む、請求項24に記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼又はステンレス鋼基材上の外層を処理する方法に関する。より具体的には、本開示は、鋼又はステンレス鋼の最も外側の表面におけるマンガノクロマイトスピネル(Cr2MnO4)の量を増加させる方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
Benumらの名でNova Chemicalsに譲渡された特許は数多くあり、当該特許には、米国特許:6,436,202(2002年8月20日に発行);6,824,883(2004年11月30日発行);6,899,966(2005年5月31日発行);7,156,979(2007年1月2日発行);及び7,488,392(2009年2月10日発行)が含まれる。これらの特許は、高NiCr鋼上のクロム系スピネルの製造に関する。スピネルは、典型的には、式MnCr2O4のみを有するか、あるいはこれとMn又はSiの酸化物との組合せを有する。Benumのスピネルは、鋼又はステンレス鋼基材上に静的な正電荷を用いることなしに生成される。
【0003】
Kerberに発行され、Material Interface Inc.に譲渡された米国特許8,197,613(2012年6月12日発行)及び米国特許8,568,538(2013年10月29日発行)は、セリウム、チタン、ランタン、アルミニウム、シリコン、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、トリウム及び他の希土類元素の1つ以上の酸化物(例えば、これらの金属の酸化物)のナノ粒子の溶液又は分散液を塗布することを教示している。
【0004】
英国特許GB2159542(1988年3月16日公開、Zeilinger他)、及びGB2169621(1988年8月3日公開、Muhlratzer他)は、いずれも、MAN Maschinenfabrik Nurnberg AGに譲渡された特許であり、表面コーティングを生成するために、静電荷のない状態で基材に酸化性雰囲気を適用することを教示している。その基材上に生成された表面は、主に、MnCr2O4、Cr2O3、FeCr2O4、Fe3O4を含む。
【0005】
米国特許7,396,597(Nishiyama及びYamaderaに発行され、Sumitomo Metal Industries,Ltdに譲渡)は、制御された雰囲気中で加熱されて緻密な酸化物表面を生成する基材におけるクロムの欠乏を開示している。
【発明の概要】
【0006】
本開示の一実施形態は、ステンレス鋼基材の表面上に混合金属酸化物の処理された表面を形成して、その表面のマグノクロマイト(Cr2MnO4)含量を高める方法を提供するものであり、当該方法は、200℃~750℃の温度で50~80重量%の蒸気と20~50重量%の空気とを含む処理雰囲気に前記表面をさらしながら、その基材に+7.0~+14.0kVの静電荷を印加することによって行われる。
【0007】
本開示の一実施形態は、少なくとも1つの表面上に処理された表面を有するステンレス鋼基材を提供するものであり、当該処理された表面は、2μm以上の厚さを有し、26.1~69.6重量%の式Cr0.10Fe0.65Ni0.25の化合物、9.8~20.0重量%の式Cr2O3の化合物、10.4~43.3重量%の式Cr2MnO4の化合物、及び0~22.3重量%の式Cr1.7Fe0.3O3の化合物を含み、当該成分の合計は100重量%になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】200℃で処理した後のAISI310表面の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図2】740℃で処理した後のAISI310表面の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図3】200℃で処理した後のAISI310断面の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図4】740℃で処理した後のAISI310断面の走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
多くの産業、特に化学産業では、ステンレス鋼の基材が、ステンレス鋼の表面のコーキングを引き起こす可能性のある過酷な環境で使用される設備(例えば、炉管、蒸気改質反応器、熱交換器、及び反応器)を形成するために使用される。エチレン炉では、炉管は、コークスの蓄積又はコーキングを受ける可能性があるコイルを形成するために一緒に溶接された単一の管又は複数の管及び継手であってもよい。炭化水素改質装置では、反応器と配管は同様のコーキングの問題にさらされる。流動触媒クラッカー、特にダウンカマーでは、同様の問題がある。鉄鉱石還元プロセス、特に流動床鉄鉱石還元で発生するガスの配管にも同様の問題がある。ガス駆動タービン(ジェットエンジンなど)では、タービン内のコンポーネントにコークスが蓄積する問題もある。
【0010】
基材は、複合コーティングが結合する任意の材料であってもよい。基材は、典型的には15重量%以上のCrを含む炭素鋼又はステンレス鋼であってもよく、鍛造ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、HP、HT、HU、HW及びHXステンレス鋼、耐熱鋼、並びにニッケル系合金からなる群から選択され得る。基材は高強度低合金鋼(HSLA)、高強度構造用鋼又は超高強度鋼であってもよい。そのような鋼の分類及び組成は、当業者に知られている。
【0011】
一実施形態では、ステンレス鋼(好ましくは耐熱ステンレス鋼)は、典型的には18~50重量%、好ましくは20~50重量%、最も好ましくは22~38重量%のクロムを含む。ステンレス鋼は、15~50重量%、好ましくは25~50重量%、最も好ましくは25~48重量%、望ましくは約30~45重量%のNiをさらに含んでもよい。ステンレス鋼の残部は、実質的に鉄であり、以下に開示される少量の微量成分である。モル%で表すと、上記の組成範囲は、Crが25~35モル%、Feが15~50モル%、及びNiが18~42モル%である。
【0012】
本発明はまた、ニッケル及び/又はコバルト系の極限オーステナイト系高温合金(HTA)と共に使用することができる。典型的には、合金は、主たる量のニッケル又はコバルトを含む。典型的には、高温ニッケル基合金は、約50~70重量%、好ましくは約55~65重量%のNi、約15~20重量%のCr、約10~20重量%のCo、並びに約5~9重量%のFe及び以下に記載される残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする。典型的には、高温コバルト系合金は、40~65重量%のCo、15~20重量%のCr、13~20重量%のNi、4重量%未満のFe及び以下に示す残りの1つ以上の微量元素並びに最大20重量%のWを含む。その鋼はまた、以下に開示されるように少量の微量成分を含む。成分の合計は100重量%である。モル比で表される組成は以下の通りである。
a)高温ニッケル基合金の場合、56~60モル%のNi、20~22モル%のCr、10~18モル%のCo、5~8モル%のFe;
b)高温コバルト系合金の場合、48~60モル%のCo、22~24モル%のCr、14~20モル%のNi、4モル%未満のFe。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、基材は、少なくとも0.2重量%、最大3重量%、典型的には1.0重量%、最大2.5重量%、好ましくは2重量%以下のマンガン、0.3~2重量%、好ましくは0.8~1.6重量%、典型的には1.9重量%未満のSi、3重量%未満、通常は2重量%未満のチタン、ニオブ(典型的には2.0重量%未満、好ましくは1.5重量%未満のニオブ)及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量の炭素をさらに含んでもよい。
【0014】
保護コーティングは、基材の処理された表面の表面積の75%以上、好ましくは85%以上、望ましくは95%以上を覆うべきである。
【0015】
いくつかの実施形態では、表面層又はコーティングは、最大10ミクロンの厚さ、いくつかの例では7ミクロン、典型的には5ミクロン以下、いくつかの実施形態では、少なくとも1.5ミクロン、好ましくは2ミクロンの厚さを有する。その表面は、40%以上、好ましくは60%を超える結晶化度と、最大7ミクロン、好ましくは5ミクロン未満、典型的には2ミクロン未満の平均結晶サイズとを有する。その表面は、基材の表面の少なくとも約70%、好ましくは85%、最も好ましくは95%以上、望ましくは98.5%以上を覆う。
【0016】
基材は、工業的に有用な部品又はコンポーネント、例えば、チューブ又はパイプ、攪拌機、静的ミキサー、熱交換器、さらには圧縮機用のタービンブレード及び同様のそのような部品又はコンポーネントなどに成形することができる。
【0017】
処理の一部として、基材は、+7.0~+14.0kV、いくつかの実施形態では、+8.0~+11.5kV、さらなる実施形態では、+9.0~+10.0kVの正の静電荷にさらされる。静電発電機及びそれらの使用方法は、当技術分野でよく知られている。
【0018】
炭化水素環境にさらされる部品又はコンポーネントの表面は、蒸気と酸化性ガスとの混合物を通過させることによって処理され、前記酸化性ガスは、例えば、空気、あるいは酸素と不活性ガスとの混合物(15~25体積%又はモル%の酸素、75~85体積%又はモル%の不活性ガス(窒素又はアルゴン))である。蒸気と酸化性ガスとの比は、典型的には、50~80重量%の蒸気と20~50重量%の酸化性ガスとを含み、いくつかの実施形態では、60~90重量%の蒸気と10~40重量%の酸化性ガスとを含み、さらなる実施形態では、75~85重量%の蒸気と15~25重量%の酸化性ガスとを含む。
【0019】
蒸気と酸化性ガスとの混合物は、処理された表面を生成するために、基材の表面上を通過させる。処理された表面は、炭化水素又は他の材料と接触する表面である。例えば、パイプ又は容器の場合、処理された表面は内面である。熱交換器の場合、処理された表面は熱交換器の外面になる。
【0020】
蒸気と酸化性ガスとの混合物は、200℃~750℃の温度で基材上を通過させ、いくつかの実施形態では、700℃~750℃の温度で、さらなる実施形態では、700℃~740℃の温度で基材上を通過させる。
【0021】
酸化剤の投与量(流量)は、0.05~0.100g・m-2・秒-1(グラム/平方メートル/秒)の範囲であってもよく、いくつかの実施形態では、0.075~0.095g・m-2・秒-1、さらなる実施形態では、0.085~0.090g・m-2・秒-1の範囲であってもよく、望ましくは0.088g・m-2・秒-1であってもよい。
【0022】
蒸気の投与量(流量)は、0.500g・m-2・秒-1~1.000g・m-2・秒-1の範囲であってもよく、いくつかの実施形態では、0.850~0.95g・m-2・秒-1、さらなる実施形態では、0.870~0.900g・m-2・秒-1の範囲であってもよく、望ましくは0.881g・m-2・秒-1であってもよい。
【0023】
ガス流の全投与量(流量)は、0.550~1.100g・m-2・秒-1の範囲であってもよく、いくつかの実施形態では、0.925~1.045g・m-2・秒-1、さらなる実施形態では、0.955~0.990g・m-2・秒-1の範囲であってもよく、望ましくは0.969g・m-2・秒-1であってもよい。
【0024】
処理の時間は、温度、ガス組成、処理される表面の複雑さ(平坦からフィン付きまで)、及び生成される処理された表面の厚さなど、いくつかの要因に依存する。その処理は、表面1平方メートル当たり約2~40時間、典型的には表面1平方メートル当たり5~30時間の期間、実施することができる。
【0025】
得られた処理された表面には、基材上の表面コーティングが形成され、その厚さは2.0μm以上、いくつかの実施形態では厚さ10μmまで、さらなる実施形態では厚さ7μm未満、典型的には厚さ5μm未満、いくつかの実施形態では厚さが4μm未満である。
【0026】
得られた基材上の処理された表面は、処理された基材表面の70%以上を覆うべきであり、いくつかの実施形態では、処理された基材表面の85%以上を覆うべきであり、さらなる実施形態では、処理された基材表面の90%以上を覆うべきである。
【0027】
表1及び表2に示すように、下にある金属マトリックスを除く表面層の組成は、以下の組成を有し得る。いくつかの実施形態では、表面層は、実質的に約60~65重量%のCr2O4及び30~40重量%、いくつかの実施形態では30~35重量%のCr2MnO4を含み得る。このコーティングは、最大約5重量%、好ましくは3重量%未満の基材金属を含み得る。好ましくは、表面層は、Cr1.7Fe0.3O3をさらに含む。表面コーティングは、一般に、8~15重量%のCr2O3、40~60重量%のCr2MnO4、及び約18~30重量%のCr1.7Fe0.3O3を含む(当該成分の合計は100重量%になる)。いくつかの実施形態では、表面層は、9.5~14重量%のCr2O3、42~59重量%のCr2MnO4、及び約20~28重量%のCr1.7Fe0.3O3を含み得る(当該成分の合計は100重量%になる)。
【0028】
【0029】
【0030】
本開示の一実施形態は、ステンレス鋼基材の表面上に混合金属酸化物の処理された表面を形成して、その表面のマグノクロマイト(Cr2MnO4)含量を高める方法を提供するものであり、当該方法は、200℃~750℃の温度で50~80重量%の蒸気と20~50重量%の空気とを含む処理雰囲気に前記表面をさらしながら、その基材に+7.0~+14.0kVの静電荷を印加することによって行われる。
【0031】
さらなる実施形態では、処理雰囲気の成分は、0.05~0.10g・m-2・秒-1の空気量、0.5~1.0g・m-2・秒-1の蒸気量;及び0.55~1.10g・m-2・秒-1の全流量で投与される。
【0032】
さらなる実施形態では、基材は、基材中のクロムの最小含量が15重量%以上であることを条件として、炭素鋼から、又は鍛造ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼及びHP、HT、HU、HW及びHXステンレス鋼、耐熱鋼、並びにニッケル系合金から選択される。
【0033】
さらなる実施形態では、処理後、処理された基材の表面は、2μm以上の厚さを有する。
【0034】
さらなる実施形態では、処理された基材の表面は、9.8~20.0重量%の式Cr2O3の化合物、10.4~43.3重量%の式Cr2MnO4の化合物、及び0~22.3重量%の式Cr1.7Fe0.3O3の化合物を含む。
【0035】
さらなる実施形態では、基材上の正の静電荷は、+7.0~+14.0kVである。
【0036】
さらなる実施形態では、処理された基材上の処理された表面は、処理された基材の70%以上を覆う。
【0037】
さらなる実施形態では、処理は700℃~750℃の温度で行われる。
【0038】
さらなる実施形態では、処理された基材の処理された表面は、9.0~11.0重量%の式Cr2O3の化合物、40.0~44.0重量%の式Cr2MnO4の化合物、及び22.0~22.5重量%の式Cr1.7Fe0.3O3の化合物を含み、当該成分の合計は100重量%になる。
【0039】
さらなる実施形態では、基材上の正の静電荷は、+9.0~+10.0kVである。
【0040】
さらなる実施形態では、処理された基材の処理された表面の厚さは、2μm~5μmである。
【0041】
さらなる実施形態では、基材は、13~50重量%のCr、20~50重量%のNiを含み、残りは実質的にFeである。
【0042】
さらなる実施形態では、基材は、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む。
【0043】
さらなる実施形態では、基材は、約50~70重量%のNi、約10~20重量%のCr、約10~20重量%のCo、並びに約5~9重量%のFe及び残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする。
【0044】
さらなる実施形態では、基材は、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む。
【0045】
さらなる実施形態では、基材は、40~65重量%のCo、15~20重量%のCr、13~20重量%のNi、4重量%未満のFe、最大20重量%のW、及び残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする。
【0046】
さらなる実施形態では、基材は、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む。
【0047】
本開示の一実施形態は、少なくとも1つの表面上に処理された表面を有するステンレス鋼基材を提供するものであり、当該処理された表面は、2μm以上の厚さを有し、26.1~69.6重量%の式Cr0.10Fe0.65Ni0.25の化合物、9.8~20.0重量%の式Cr2O3の化合物、10.4~43.3重量%の式Cr2MnO4の化合物、及び0~22.3重量%の式Cr1.7Fe0.3O3の化合物を含み、当該成分の合計は100重量%になる。
【0048】
さらなる実施形態では、基材の処理された表面の厚さは、2μm~5μmである。
【0049】
さらなる実施形態では、基材は、13~50重量%のCr、20~50重量%の、好ましくは25~50重量%のNiを含み、残りは実質的に鉄である。
【0050】
さらなる実施形態では、基材は、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む。
【0051】
さらなる実施形態では、基材は、約50~70重量%のNi、約10~20重量%のCr、約10~20重量%のCo、及び約5~9重量%のFe、及び残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする。
【0052】
さらなる実施形態では、基材は、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む。
【0053】
さらなる実施形態では、基材は、40~65重量%のCo、15~20重量%のCr、13~20重量%のNi、4重量%未満のFe、最大20重量%のW、及び残りの1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする。
【0054】
さらなる実施形態では、基材は、少なくとも0.2重量%~最大3重量%のMn、0.3~2重量%のSi、3重量%未満のTi、2.0重量%未満のNb及び全ての他の微量金属、並びに2.0重量%未満の量のCをさらに含む。
【実施例】
【0055】
本開示は、以下の非限定的な例によって説明される。
【0056】
AISI310の0.5インチ外径の鍛造チューブを、チューブの外径に直接つながるワイヤリードを用いて、正の静電荷(+9.5kV)を直接印加することにより、帯電させた。体積で10:1の蒸気:空気を含む雰囲気を、200℃、710℃及び740℃の温度で30時間、帯電したパイプに通した。より高い温度、より多くのマンガノクロマイトが生成した。パイプの内面の結晶表面の組成を、エネルギー分散型X線分光法(EDS)でサポートされている(GI-XRD)分光法によって特定した。表3に、材料の表面の結晶相の組成を示す。
【0057】
【0058】
図1及び
図2は、酸化物表面が良好に分布し、より高い温度範囲でバルク合金の完全な被覆を提供することを示している。
図3及び
図4は、それぞれ、200℃で処理した場合に酸化物層が最大2μmの厚さ(
図3)であり、740℃で処理した場合に酸化物層が最大4μmの厚さ(
図4)であることを示す表面の断面画像を示している。
図4は、高温処理の特徴であるアニーリング双晶(annealing twins)も示している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示は、ステンレス鋼基材の表面のマグノクロマイト含量を高める方法に関する。本開示はまた、少なくとも1つの表面上に2μm以上の厚さを有する処理された表面を有するステンレス鋼基材に関する。
【国際調査報告】