(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(54)【発明の名称】低TPPフェノール塩を製造するための蒸留方法
(51)【国際特許分類】
C10M 177/00 20060101AFI20220513BHJP
C10M 135/30 20060101ALI20220513BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20220513BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20220513BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220513BHJP
【FI】
C10M177/00
C10M135/30
C10N10:02
C10N70:00
C10N40:25
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556519
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(85)【翻訳文提出日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 IB2020052119
(87)【国際公開番号】W WO2020188409
(87)【国際公開日】2020-09-24
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スパラ、ユージーン エドワード
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BG03C
4H104CA03A
4H104CA04A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104EA22C
4H104EB05
4H104EB06
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104EB11
4H104EB12
4H104EB13
4H104EB15
4H104FA02
4H104JA01
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
本明細書では、未硫化アルキル置換フェノール及びその塩の含有量が低減された硫化非過塩基性フェノールカルシウム塩洗浄剤の製造方法が開示される。上記方法のステップは、上記洗浄剤に、沸点が上記未硫化アルキル置換フェノールの沸点以上である有機溶媒を添加することと、上記洗浄剤から上記有機溶媒を留出させ、上記未硫化アルキル置換フェノールの含有量を低減することとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硫化アルキル置換フェノール及びその塩の含有量が低減された硫化非過塩基性フェノールカルシウム塩洗浄剤の製造方法であって、
(a)前記洗浄剤に、沸点が前記未硫化アルキル置換フェノールの沸点以上である有機溶媒を添加するステップと、
(b)前記洗浄剤から前記有機溶媒を留出させ、それによって前記未硫化アルキル置換フェノールの含有量を低減するステップと
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記硫化非過塩基性フェノールカルシウム塩洗浄剤がアルキル置換フェノール塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルキル置換フェノール塩が9~18炭素の範囲の長さのアルキル基を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルキル置換フェノール塩がプロピレンまたはブチレンオリゴマーによってアルキル化されている、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記プロピレンまたはブチレンオリゴマーが四量体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が中性油600である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記留出させることが1ミリバール以上で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記洗浄剤が促進剤の存在下で中和されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記促進剤が、アルコール、ジオール、またはカルボン酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
硫化アルキル置換フェノールの蒸留から得られる濃縮組成物であって、
未硫化フェノールまたは未硫化フェノール塩を実質的に含まない、プロピレンオリゴマーに由来するアルキル置換基を含む硫化非過塩基性フェノールカルシウム塩を含み、
前記未硫化フェノールまたはそのカルシウム塩が存在する濃度が、カルシウム含有量が4.25wt%以上の前記濃縮組成物の0.3wt%未満である、前記濃縮組成物。
【請求項11】
前記未硫化フェノールまたは未硫化フェノール塩が存在する濃度が、前記濃縮組成物の0.2wt%未満である、請求項10に記載の濃縮組成物。
【請求項12】
前記未硫化フェノールまたは未硫化フェノール塩が存在する濃度が、前記濃縮組成物の0.1wt%未満である、請求項10に記載の濃縮組成物。
【請求項13】
前記プロピレンオリゴマーがプロピレン四量体である、請求項10に記載の濃縮組成物。
【請求項14】
(空欄)
【請求項15】
前記硫化非過塩基性フェノールカルシウム塩が1つ以上の硫黄結合を含む、請求項10に記載の濃縮組成物。
【請求項16】
前記1つ以上の硫黄結合が平均1~7個の硫黄原子の間である、請求項15に記載の濃縮組成物。
【請求項17】
前記非過塩基性フェノールカルシウム塩のTBNが、油なしを基準として10~250の範囲である、請求項10に記載の濃縮組成物。
【請求項18】
基油と、
含まれる未硫化アルキル置換化合物及びその未硫化カルシウム塩の合計の質量の量が低減された硫化アルキル置換化合物のカルシウム塩であって、
(a)プロピレンオリゴマーを含む1種以上のオレフィンによるフェノール系化合物のアルキル化に由来するアルキル置換フェノール化合物を硫化及び中和して、硫化アルキル置換フェノールのカルシウム塩を得ることと、
(b)(a)由来の前記硫化アルキル置換フェノールのカルシウム塩に、沸点が未硫化アルキル置換フェノールの沸点以上である有機溶媒を添加することと、
(c)前記有機溶媒を留去して、前記未硫化アルキル置換フェノール化合物を実質的に含まない硫化アルキル置換フェノール化合物を得ることと
を含む方法によって製造され、
含まれる前記未硫化アルキル置換フェノール化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量が、カルシウム含有量が4.25wt%以上において、0.3%未満である前記硫化アルキル置換フェノール化合物のカルシウム塩と
を含む潤滑油組成物。
【請求項19】
抗酸化剤、分散剤、耐摩耗剤、洗浄剤、防錆剤、曇り防止剤(dehazing agent)、解乳化剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、粘度調整剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤(package compatibilizer)、腐食防止剤、着色剤、または極圧添加剤をさらに含む、請求項18に記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
含まれる未硫化アルキル置換化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量の量が低減された硫化アルキル置換化合物のカルシウム塩であって、
(a)プロピレンオリゴマーに由来する1種以上のオレフィンによるフェノール系化合物のアルキル化に由来するアルキル置換フェノール化合物を硫化及び中和して、硫化アルキル置換フェノールのカルシウム塩を得ることと、
(b)(a)由来の前記硫化アルキル置換フェノールのカルシウム塩に、沸点が未硫化アルキル置換フェノールの沸点以上である有機溶媒を添加することと、
(c)前記有機溶媒を留去して、前記未硫化アルキル置換フェノール化合物を実質的に含まない硫化アルキル置換フェノール化合物を得ることと
を含む方法によって製造され、
含まれる前記未硫化アルキル置換フェノール化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量が、カルシウム含有量が4.25wt%以上において、0.3%未満である前記硫化アルキル置換フェノール化合物のカルシウム塩。
【請求項21】
前記プロピレンオリゴマーがプロピレン四量体である、請求項20に記載の硫化アルキル置換フェノール化合物の塩。
【請求項22】
含まれる前記未硫化アルキル置換フェノール化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量が約0.2%未満である、請求項20に記載の硫化アルキル置換フェノール化合物の塩。
【請求項23】
含まれる前記未硫化アルキル置換フェノール化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量が約0.1%未満である、請求項20に記載の硫化アルキル置換フェノール化合物の塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概括的には、洗浄剤組成物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、硫化アルキル置換フェノール塩洗浄剤から未硫化アルキル置換フェノール及びフェノール塩化合物を除去するための蒸留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
潤滑油添加剤業界では、一般に、アルキルフェノール(例えば、テトラプロペニルフェノール、TPP)を使用して、硫化アルキルフェノール金属塩を含む洗浄剤を製造する。硫化アルキルフェノールの金属塩は、船舶用エンジン、自動車用エンジン、鉄道用エンジン、及び空冷エンジンなどのさまざまなエンジン用の潤滑油に洗浄力ならびに分散性を付与するだけでなく、上記潤滑油にアルカリ予備量(alkalinity reserve)も与える有用な潤滑油添加剤である。アルカリ予備量は一般的に、エンジンの運転中に発生する酸を中和するために必要とされる。このアルカリ予備量が存在しない場合には、上記のように生成した酸によって有害なエンジンの腐食が生じる可能性がある。しかしながら、上記硫化アルキルフェノール金属塩中、ならびに1種以上の上記硫化アルキルフェノール金属塩を含む潤滑油中には、ある量の、テトラプロペニルフェノールなどの未反応アルキルフェノールが存在する可能性がある。
【0003】
最近の、米国化学工業協会の石油添加剤委員会(Petroleum Additives Panel of the American Chemistry Council)による後援を受けた、ラットにおける生殖毒性の研究が、遊離のまたは未反応のTPPによってオス及びメスの生殖器官に有害作用が生じる可能性があることを示している。さらに、TPPは皮膚に対して腐食性または刺激性である可能性があると考えられている。
【0004】
潜在的な健康上のリスクを低減し、潜在的な規制の問題を回避するために、単純で費用対効果の高い方法で、硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族組成物の塩中の遊離の未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩の量を低減する必要がある。継続的に尽力がなされているが(例えばUS9688939)、残留TPPは依然として重大な技術的課題である。したがって、未硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物及びその金属塩が比較的に低レベルである硫化アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の金属塩の組成物の、改善された製造方法を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要約
本発明の一実施形態によれば、未硫化アルキル置換フェノール及びその塩の含有量が低減された硫化非過塩基性フェノールカルシウム塩洗浄剤の製造方法であって、
(a)上記洗浄剤に、沸点が上記未硫化アルキル置換フェノールの沸点以上である有機溶媒を添加するステップと、
(b)上記洗浄剤から上記有機溶媒を留出させ、それによって上記未硫化アルキル置換フェノールの含有量を低減するステップと
を含む、上記方法が提供される。
【0006】
本発明の別の実施形態によれば、硫化アルキル置換フェノールの蒸留から得られる濃縮組成物であって、
未硫化フェノールまたは未硫化フェノール塩を実質的に含まない、プロピレンオリゴマーに由来するアルキル置換基を含む硫化非過塩基性フェノールカルシウム塩を含み、
上記未硫化フェノールまたはそのカルシウム塩が存在する濃度が、カルシウム含有量が4.25wt%以上の上記濃縮組成物の0.3wt%未満である、上記濃縮組成物が提供される。
【0007】
本発明のさらに別の実施形態によれば、基油と、
含まれる未硫化アルキル置換化合物及びその未硫化カルシウム塩の合計の質量の量が低減された硫化アルキル置換化合物のカルシウム塩であって、
(a)プロピレンオリゴマーを含む1種以上のオレフィンによるフェノール系化合物のアルキル化に由来するアルキル置換フェノール化合物を硫化及び中和して、硫化アルキル置換フェノールのカルシウム塩を得ることと、
(b)(a)由来の上記硫化アルキル置換フェノールのカルシウム塩に、沸点が未硫化アルキル置換フェノールの沸点以上である有機溶媒を添加することと、
(c)上記有機溶媒を留去して、上記未硫化アルキル置換フェノール化合物を実質的に含まない硫化アルキル置換フェノール化合物を得ることと
を含む方法によって製造され、
含まれる上記未硫化アルキル置換フェノール化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量が、カルシウム含有量が4.25wt%以上において、0.3%未満である上記硫化アルキル置換化合物のカルシウム塩と
を含む潤滑油組成物が提供される。
【0008】
本発明のさらに別の実施形態によれば、含まれる未硫化アルキル置換化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量の量が低減された硫化アルキル置換化合物のカルシウム塩であって、
(a)プロピレンオリゴマーを含む1種以上のオレフィンによるフェノール系化合物のアルキル化に由来するアルキル置換フェノール化合物を硫化及び中和して、硫化アルキル置換フェノールのカルシウム塩を得ることと、
(b)(a)由来の上記硫化アルキル置換フェノールのカルシウム塩に、沸点が未硫化アルキル置換フェノールの沸点以上である有機溶媒を添加することと、
(c)上記有機溶媒を留去して、上記未硫化アルキル置換フェノール化合物を実質的に含まない硫化アルキル置換フェノール化合物を得ることと
を含む方法によって製造され、
含まれる上記未硫化アルキル置換フェノール化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量が、カルシウム含有量が4.25wt%以上において、0.3%未満である上記硫化アルキル置換フェノール化合物のカルシウム塩が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、異なる有機溶媒(デシルアルコール、100N基油、または600N基油)中でTPP除去の蒸留ステップに供しているフェノール塩洗浄剤製品中の残留TPPレベルをグラフで示し、比較する図である。
【0010】
【
図2】
図2は、600N溶媒を使用し、さまざまな圧力(0.13~4ミリバール)でTPP除去の蒸留ステップに供しているフェノール塩洗浄剤製品中の残留TPPレベルをグラフで示し、比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
用語「フェノール」とはフェノール系化合物またはその塩をいう。
【0012】
本明細書では、用語「TPP」とは、テトラプロペニルフェノールまたはその塩をいう。
【0013】
本明細書では、用語「石灰」とは、消石灰または水和石灰としても知られている水酸化カルシウムをいう。
【0014】
本明細書では、用語「全アルカリ価」すなわち「TBN」とは、等価なKOHのミリグラム数で表した、1グラムの試料中の塩基の量をいう。したがって、より高いTBNの数値はよりアルカリ性の製品であることを反映し、したがってより大きなアルカリ予備量を反映する。試料のTBNは、ASTM試験第D2896号または任意のその他の同等な手順によって測定することができる。
【0015】
本発明は、硫化反応後に硫化アルキル置換フェノールから望ましくない未硫化アルキル置換フェノールまたはそれらの塩を除去するための蒸留方法に関する。上記蒸留方法の間に、非過塩基性フェノール塩と共に比較的高い沸点の溶媒を利用することにより、未硫化生成物の除去を大幅に強化することができることを予想外に見出した。上記非過塩基性フェノール塩のTBNは、油なしを基準として10~250の範囲である。出発フェノール塩のTBNは約125である。従来のTPPの除去は通常、低沸点溶媒及び過塩基性フェノール塩を使用することに重点を置いてきた。
【0016】
本発明によれば、未硫化生成物の残留レベルは、約0.3wt%、0.2wt%、もしくは0.1wt%、またはそれ未満に低下させることが可能である。これは、未硫化アルキル置換フェノール及びそれらの塩の残留レベルが少なくとも1桁高くなる(約3wt%~7wt%)可能性があるいくつかの従来の蒸留除去方法よりも顕著に良好である。
【0017】
アルキル置換フェノールの硫化
上記硫化アルキル置換フェノールは、塩基の存在下でアルキル置換フェノールを硫化して、硫化アルキル置換フェノール反応生成物を生成させることによって得ることができる。例えば、上記アルキル置換フェノール化合物は、該アルキル置換フェノール化合物を、アルキル置換フェノール化合物間にSx架橋基(但し、xは1~7(またはより一般的には1もしくは2))を導入する硫黄源に接触させることによって硫化される。任意且つ適宜の硫黄源、例えば、元素状硫黄または一塩化硫黄もしくは二塩化硫黄などの硫黄のハロゲン化物などを使用することができる。
【0018】
上記塩基は上記反応を触媒して、上記アルキル置換フェノール化合物上に硫黄を導入する。好適な塩基としては、NaOH、KOH、Ca(OH)2など、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定はされない。上記塩基は一般的に、上記反応系において、上記アルキル置換フェノール化合物に対して約0.01~約1モルパーセントで使用される。硫黄は一般的に、上記反応系において、上記アルキル置換フェノール化合物のモル当たり約0.5~約4モルで使用される。上記硫化反応が行われる温度範囲は、一般的に約150℃~約220℃である。上記反応は、大気圧下(もしくはわずかに低い圧力)または加圧下で行うことができる。
【0019】
硫化アルキル置換フェノールの中和
次に、上記硫化アルキル置換フェノール化合物は中和され、上記硫化アルキル置換フェノール化合物の塩が得られる。硫化アルキル置換フェノール化合物を中和し、塩基源を導入することよって塩基性フェノール塩を生成させるための多くの方法が当技術分野で公知である。一般に、中和は、上記硫化アルキル置換フェノール化合物を反応性条件下で金属塩基に接触させて、上記硫化アルキル置換フェノール化合物の塩を生成させることによって実施することができる。
【0020】
好適な金属塩基性化合物としては、(1)アルカリ水酸化物、アルカリ酸化物、もしくはアルカリアルコキシドから選択される金属塩基から誘導されるアルカリ金属塩、または(2)アルカリ土類水酸化物、アルカリ土類酸化物、もしくはアルカリ土類アルコキシドから選択される金属塩基から誘導されるアルカリ土類金属塩などの、金属の水酸化物、酸化物、またはアルコキシドが挙げられる。水酸化物官能基を有する金属塩基性化合物の代表的な例としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、及び水酸化アルミニウムが挙げられる。酸化物官能基を有する金属塩基性化合物の代表的な例としては、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、及び酸化バリウムが挙げられる。上記アルカリ土類金属塩基は消石灰(水酸化カルシウム)であってもよく、これは、例えば酸化カルシウムに対するその取り扱いの利便性及びコストによるものである。
【0021】
中和は、トルエン、キシレンなどの適宜の溶媒または希釈油中で、且つ一般に、アルコール、例えば、メタノール、デシルアルコール、または2-エチルヘキサノールなどのC1~C16アルコール;ジオール、例えば、エチレングリコールなどのC2~C4アルキレングリコール;及び/またはカルボン酸などの促進剤を用いて実施することができる。好適な希釈油としては、ナフテン油及び、混合油、例えば、100中性(100N)油などのパラフィン油が挙げられる。使用される溶媒または希釈油の量は、最終製品中の溶媒または油の量が、当該最終製品の約25重量%~約65重量%、または約30重量%~約50重量%を構成するような量である。例えば、アルカリ土類金属の供給源が、スラリーとして(すなわち、アルカリ土類金属石灰の供給源、溶媒または希釈油の予備混合物として)過剰に添加され、次いで上記硫化アルキル置換フェノール化合物と反応する。
【0022】
上記金属塩基と上記硫化アルキル置換フェノール化合物との間の中和反応は、通常室温(20℃)を超える温度で行われる。上記中和反応自体を約5~約60分の間行う必要がある。所望であれば、上記中和反応は、エチレングリコール、ギ酸、酢酸等、及びそれらの混合物などの促進剤の存在下で実施される。上記硫化及び中和ステップが完結したところで、反応混合物は通常、真空下で200℃~230℃に加熱され、本方法で使用される低沸点溶媒ならびに残留水を除去する。いくつかの実施形態において、上記硫化反応及び中和反応を同時に行うこともできる。
【0023】
TPPを除去するための蒸留方法
本発明によれば、TPPが上記硫化アルキル置換フェノール塩から除去され、濃縮生成物を形成することができる。TPPの除去は、蒸留方法によって実施され、従来方法よりも実質的に低いTPP濃度が達成される。
【0024】
上記の硫化及び中和ステップの生成物を、沸点が上記未硫化アルキル置換フェノールよりも高い有機溶媒(例えば、600中性油すなわち600N)と配合してもよい。他の好適な有機溶媒としては、沸点が400℃以上であるオクタデシルシクロヘキサン及びオクタデシルベンゼンなどの、比較的に高分子量のアルキルシクロヘキサンならびにアルキルベンゼンが挙げられる。上記配合により、有機溶媒濃度は約10wt%~約30wt%となる。
【0025】
次いで、上記希釈された硫化アルキル置換フェノール塩は、薄膜蒸発器(WFE)などの適宜の装置中、適宜の温度及び圧力下で蒸留される。蒸留圧力は通常約0.1~10ミリバールであり、温度は正確なWFEの圧力に応じて150~250℃の範囲である。
【0026】
より高い沸点の有機溶媒を用いると、本方法の間に、一部の溶媒が上記フェノール塩中に確実に残留する。このことにより、低沸点溶媒が完全に留去された際に、粘度が過度に高くなることが回避される。次いで、上記有機溶媒が生成物から留出し、未硫化アルキル置換フェノール及びその塩の含有量が低下する。
【0027】
得られる硫化アルキル置換フェノール化合物の塩に含まれる未硫化アルキル置換フェノール化合物、その未硫化金属塩、及びいずれかの希釈油の合計の質量は約0.3%未満である。一実施形態において、上記硫化アルキル置換フェノール化合物の塩に含まれる上記未硫化アルキル置換フェノール化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量は約0.2%未満である。一実施形態において、上記硫化アルキル置換フェノール化合物の塩に含まれる上記未硫化アルキル置換フェノール化合物及びその未硫化金属塩の合計の質量は約0.1%未満である。
【0028】
潤滑油組成物
本発明の別の実施形態は、少なくとも、(a)潤滑粘度の油、及び(b)少なくとも1種の、潤滑油添加剤として有用な本発明の硫化アルキル置換フェノール化合物の塩を含む潤滑油組成物に関する。本潤滑油組成物は、従来の技法により、適宜の量の本発明の潤滑油添加剤を潤滑粘度の基油と混合することによって製造することができる。特定の基油の選択は、当該潤滑油の企図される用途及び他の添加剤の存在に依存する。一般に、本発明の硫化アルキル置換フェノール化合物の塩は、本潤滑油組成物中に、本潤滑油組成物の総重量を基準として約0.01~約40wt%の量で存在することとなる。一実施形態において、本発明の硫化アルキル置換フェノール化合物の塩は、本潤滑油組成物中に、本潤滑油組成物の総重量を基準として約0.1~約20wt%の量で存在することとなる。
【0029】
本発明の潤滑油組成物に使用するための潤滑粘度の油は基油とも呼ばれ、本潤滑油組成物の総重量を基準として約50重量%以下、50重量%を超える、好ましくは約70重量%を超える、より好ましくは約80~約99.5重量%、最も好ましくは約85~約98重量%の量で存在していてもよい。さらに、上記基油は、任意選択で、粘度指数向上剤、例えば、メタクリル酸アルキル重合体;オレフィン共重合体、例えば、エチレン-プロピレン共重合体またはスチレン-ブタジエン共重合体等;及びそれらの混合物を含んでいてもよい。
【0030】
上記基油の粘度は用途に依存する。したがって、本明細書で使用するための基油の粘度は、通常、摂氏100°(℃)で約2~約2000センチストークス(cSt)の範囲となる。一般に、エンジン油として使用される基油は、個別に、100℃において約2cSt~約30cSt、好ましくは約3cSt~約16cSt、最も好ましくは約4cSt~約12cStの動粘度範囲を有することとなり、所望のグレードのエンジン油、例えば、0W、0W-8、0W-16、0W-20、0W-30、0W-40、0W-50、0W-60、5W、5W-20、5W-30、5W-40、5W-50、5W-60、10W、10W-20、10W-30、10W-40、10W-50、15W、15W-20、15W-30、または15W-40のSAE粘度グレードを有する潤滑油組成物を与えるように、所望の最終用途及び完成油中の添加剤に応じて選択または配合されることとなる。ギア油として使用される油は、100℃において約2cSt~約2000cStの範囲の粘度を有していてもよい。
【0031】
上記潤滑粘度の油(「原料油」(base stock)または「基油」と呼ばれることもある)は潤滑油の主要な液体成分であり、これに添加剤及び場合によって他の油が配合され、例えば最終的な潤滑油(すなわち潤滑油組成物)が製造される。濃縮組成物の製造ならびに該濃縮組成物からの潤滑油組成物の製造に有用な基油は、天然潤滑油(植物油、動物油、または鉱油)、及び合成潤滑油、ならびにそれらの混合物から選択することができる。
【0032】
本開示における原料油及び基油の定義は、American Petroleum Institute (API) Publication 1509 Annex E(“API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils,” December 2016)に記載されているものと同一である。第I群の原料油は、90%未満の飽和分及び/または0.03%を超える硫黄を含み、粘度指数が80以上120未満である。第II群の原料油は、90%以上の飽和分及び0.03%以下の硫黄を含み、粘度指数が80以上120未満である。第III群の原料油は、90%以上の飽和物及び0.03%以下の硫黄を含み、粘度指数が120以上である。第IV群の原料油はポリアルファオレフィン(PAO)である。第V群の原料油には、第I、II、III、またはIV群に含まれない他のすべての原料油が含まれる。
【0033】
天然油としては、動物油、植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、ならびに鉱油が挙げられる。熱酸化安定性に優れた動植物油を使用することができる。天然油の中では鉱油が好ましい。鉱油は、当該の鉱油の原油の供給源に従って、例えば、パラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン系-ナフテン系が混合したもののいずれであるかなどに従って大幅に変化する。石炭またはシェールに由来する油も有用である。天然油は、当該の油の製造及び精製に使用される方法、例えば、該油の蒸留範囲、及び該油が直留であるか、またはクラッキング、水素化精製、もしくは溶媒抽出を受けたものであるかによっても変化する。
【0034】
合成油としては炭化水素油が挙げられる。炭化水素油としては、オレフィンの重合体及び共重合体(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレン共重合体、エチレン-オレフィン共重合体、及びエチレン-アルファオレフィン共重合体)などの油が挙げられる。ポリアルファオレフィン(PAO)油原料油は一般的に使用される合成炭化水素油である。例として、C8~C14オレフィン、例えば、C8、C10、C12、C14オレフィン、またはそれらの混合物に由来するPAOを利用することができる。
【0035】
基油として使用するための他の有用な流体としては、高性能特性を付与するために、処理(好ましくは接触的に)されたもしくは合成された、非従来型(non-conventional)または非従来型(unconventional)の原料油が挙げられる。
【0036】
非従来型(non-conventional)または非従来型(unconventional)の原料油/基油としては、1種以上のガス・ツー・リキッド(GTL)材料に由来する原料油の1種以上の混合物、ならびに、天然のワックスもしくはワックス状原料、スラックワックス、天然ワックス、及び軽油、ワックス状燃料油の水素化分解装置残油、ワックス状抽出残油、水素化分解生成物、熱分解生成物、または他の鉱油などの、鉱油、またはさらには非鉱油ワックス状原料、あるいは石炭液化またはシェール油から得られるワックス状材料などの非石油由来のワックス状材料由来の異性化生成物/異性化脱ロウ生成物である原料油、ならびにかかる原料油の混合物が挙げられる。
【0037】
本開示の潤滑油組成物に使用するための基油は、それらの並外れた揮発性、安定性、粘性、及び清浄性に関する特徴により、API第I群、第II群、第III群、第IV群、及び第V群の油、ならびにそれらの混合物、好ましくはAPI第II群、第III群、第IV群、及び第V群の油、ならびにそれらの混合物、より好ましくは、第III群~第V群の基油に相当する種々の油のいずれかである。
【0038】
一般的には、上記基油の動粘度は、100℃(ASTM D445)で2.5~20mm2/sの範囲(例えば、3~12mm2/s、4~10mm2/s、または4.5~8mm2/s)である。
【0039】
本発明の潤滑油組成物はまた、これらの添加剤が分散または溶解した、完成した潤滑油組成物を与えるための補助的機能を付与するための従来の潤滑油添加剤も含んでいてよい。例えば、本潤滑油組成物を、抗酸化剤、無灰分散剤、耐摩耗剤、金属洗浄剤などの洗浄剤、防錆剤、曇り防止剤(dehazing agent)、解乳化剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、粘度調整剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤(package compatibilizer)、腐食防止剤、着色剤、または極圧添加剤など、及びそれらの混合物と配合してもよい。さまざまな添加剤が公知であり、市販されている。これらの添加剤、またはそれらの類似化合物を、通常の配合手順による本発明の潤滑油組成物の製造に使用することができる。
【0040】
上述の添加剤のそれぞれは、使用される場合、本潤滑油に所望の特性を付与するために機能的に有効な量で使用される。したがって、例えば、ある添加剤が無灰分散剤である場合、この無灰分散剤の機能的に有効な量は、本潤滑剤に所望の分散特性を付与するのに十分な量となる。一般に、これらの添加剤のそれぞれの濃度は、使用される場合、別段の明示がない限り、約0.001~約20wt%、例えば約0.01~約10wt%の範囲であってよい。
【実施例】
【0041】
以下の非限定的な実施例は本発明の例証である。600N(基油)試料については、次のプロトコルを使用した。
【0042】
出発時のTPP含有量が、カルシウム含有量が4.25%で3.8%であるフェノール塩洗浄剤を600Nと配合した。17wt%の濃度に到達するように、十分な600Nを添加した。フェノール塩の製造に使用した100Nも通常の蒸留条件において留出する一方、600Nは留出しないことから、600Nを処理助剤として使用した。600Nを使用することにより、本フェノール塩洗浄剤から上記アルキルフェノールと100Nが共留出する際に、確実に、該フェノール塩中に一部の油が残留し、過度に高い粘度となることが回避される。蒸留生成物のTPPとカルシウムの両方の濃度を測定した。TPP濃度を4.25wt%のカルシウム含有量レベルに補正した。TPP含有量を測定する方法の詳細は、US8,772,209及びUS9,328,309に記載されており、これらの特許文献は本記載をもって援用される。
【0043】
実施例1
表1は、イソデカノール(DA)、中性油100N、中性油600N、ならびにTPPを含むさまざまな有機溶媒の大気圧での沸点データをまとめたものである。表1の5%及び95%沸点データは、ASTM 7169(ガスクロマトグラフィーによる模擬蒸留)によって測定した。表1に示すように、沸点範囲は概括的に、最も低い範囲のDAから最も高い範囲の600Nに向かう傾向がある。DAはTPPよりも低い温度で沸騰する一方、600Nの沸点範囲はより高い。
【表1】
【0044】
図1は、TPP除去の蒸留ステップの進行中に存在する残留TPPの量に対する有機溶媒の影響を示す。硫化及び/または中和ステップ中に100Nを使用するため、600N試料中にはある程度のレベルの100Nが存在することとなる。硫化/中和後に600Nを添加したが、これは既に存在する100Nと共溶媒として機能する。
図1に示すように、600N(最も沸点の高い溶媒)によって最も低い残留TPPレベル(約0.1wt%以下まで)を達成することができる。TPPの除去に関しては、600Nが最も効果的であり、100N及びイソデカノールがそれに続いた。
【0045】
実施例2
この実施例は、TPP除去の蒸留ステップの進行中のTPPの除去に対する圧力の影響を示す。この実施例では、600Nを有機溶媒として使用した。4つの異なる圧力、すなわち、0.13ミリバール、0.8ミリバール、1.3ミリバール、及び4ミリバールを試験した。
図2に示すように、より高い圧力の下でより低いTPPレベルが達成された。より高い圧で、蒸留レベルが20%を超えて増加すると、TPPは10分の1以下に減少した。やや意外なことに、より低い圧力は好ましくなかった。
【国際調査報告】