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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(54)【発明の名称】組換えアデノ随伴ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220513BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20220513BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220513BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220513BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220513BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220513BHJP
   C12N 5/079 20100101ALN20220513BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20220513BHJP
   C07K 14/015 20060101ALN20220513BHJP
   A61K 38/00 20060101ALN20220513BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/35 ZNA
C12N5/10
A61K35/76
A61K48/00
A61P25/00
C12N5/079
C12N5/077
C07K14/015
A61K38/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556643
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 US2020023877
(87)【国際公開番号】W WO2020191300
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】62/821,710
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520367197
【氏名又は名称】ストライドバイオ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】マッコイ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ベリー,ギャレット イー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084BA03
4C084NA13
4C084ZA021
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087ZA02
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
アミノ酸配列に修飾を含むAAVキャプシドタンパク質及び修飾されたAAVキャプシドタンパク質を含むウイルスベクターを記載する。また、このウイルスベクター及びウイルスキャプシドを細胞に、または対象にインビボで投与する方法も記載する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)前記キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記キャプシドタンパク質が、配列番号12~20のいずれか1つの配列を有するペプチドを含む、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項2】
前記カーゴ核酸が、5’及び3’AAV逆位末端反復を含む、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項3】
前記カーゴ核酸が、導入遺伝子を含む、請求項1または2に記載のAAVベクター。
【請求項4】
前記導入遺伝子が、治療用タンパク質またはRNAをコードする、請求項3に記載のAAVベクター。
【請求項5】
前記組換えキャプシドタンパク質が、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、または鳥類AAVキャプシドの天然配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項6】
前記組換えキャプシドタンパク質が、前記AAV9キャプシドの前記天然配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項5に記載のAAVベクター。
【請求項7】
前記ペプチドが、前記天然AAV9キャプシドのアミノ酸451~458、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVの同等のアミノ酸残基に対応するアミノ酸位置に位置し、前記ペプチドが、配列番号12~18のうちのいずれか1つから選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項8】
前記ペプチドが、前記天然AAV9キャプシドのアミノ酸587~594、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVにおける同等のアミノ酸残基に対応するアミノ酸位置に位置し、前記ペプチドが、配列番号19または20から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項9】
前記組換えキャプシドタンパク質が、
a)配列番号12~18のいずれか1つの配列を有する第1のペプチドと、
b)配列番号19~20のいずれか1つの配列を有する第2のペプチドと、を含む、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項10】
前記第1のペプチドが、アミノ酸位置451~458にあり、前記第2のペプチドが、アミノ酸587~594にあり、アミノ酸番号付けが、天然AAV9キャプシド、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVにおける同等のアミノ酸残基に基づく、請求項9に記載のAAVベクター。
【請求項11】
前記ペプチドが、少なくとも1つの抗体の、前記キャプシドタンパク質への結合を阻害する、請求項1~10のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項12】
前記ペプチドが、前記抗体による前記AAVベクターの感染力の中和を阻害する、請求項11に記載のAAVベクター。
【請求項13】
前記ペプチドが、中枢神経系(CNS)の細胞の表面に発現する受容体に選択的に結合する、請求項1~12のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項14】
前記細胞が、運動前野、視床、小脳皮質、歯状核、脊髄、または後根神経節にある、請求項13に記載のAAVベクター。
【請求項15】
前記ペプチドが、心臓の細胞の表面に発現する受容体に選択的に結合する、請求項1~14のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項16】
前記キャプシドタンパク質が、前記キャプシドのHIループを修飾するペプチドをさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項17】
(i)変異AAV9キャプシドタンパク質と、(ii)前記キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記キャプシドタンパク質が、天然AAV9キャプシドタンパク質配列のアミノ酸451~458にX-X-X-X-X-X-X-Xの配列(配列番号158)を有するペプチドを含み、前記ペプチドが、前記天然AAV9キャプシドタンパク質配列に存在しない、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項18】
がIではなく、XがNではなく、XがGではなく、XがSではなく、XがGではなく、XがQではなく、XがNではなく、及び/またはXがQではない、請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項19】
が、S、F、Q、G、K、またはRである、請求項18に記載のAAVベクター。
【請求項20】
が、C、G、R、D、T、またはQである、請求項18または19に記載のAAVベクター。
【請求項21】
が、Q、V、G、Y、R、F、またはDである、請求項18~20のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項22】
が、P、Q、A、またはRである、請求項18~21のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項23】
が、T、N、A、P、またはIである、請求項18~22のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項24】
は、V、Q、A、またはIである、請求項18~23のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項25】
が、M、P、R、Q、またはNである、請求項18~24のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項26】
が、N、L、F、E、H、またはAである、請求項18~25のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項27】
がSであり、XがCであり、XがQであり、XがPであり、XがTであり、XがVであり、XがMであり、XがNである、請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項28】
がFであり、XがGであり、XがVであり、XがPであり、XがNであり、XがQであり、XがPであり、XがLである、請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項29】
がQであり、XがRであり、XがGであり、XがQであり、XがAであり、XがAであり、XがPであり、XがFである、請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項30】
がGであり、XがDであり、XがYであり、XがAであり、XがPであり、XがIであり、XがRであり、XがEである、請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項31】
がKであり、XがTであり、XがRであり、XがRであり、XがIであり、XがVであり、XがQであり、XがHである、請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項32】
がFであり、XがGであり、XがFであり、XがPであり、XがNであり、XがQであり、XがPであり、XがLである、請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項33】
がRであり、XがQであり、XがDであり、XがQであり、XがPであり、XがIであり、XがNであり、XがAである、請求項17に記載のAAVベクター。
【請求項34】
(i)変異AAV9キャプシドタンパク質と、(ii)前記キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記キャプシドタンパク質が、天然AAV9キャプシドタンパク質配列のアミノ酸587~594にX-X-X-X-X-X-X-Xの配列(配列番号158)を有するペプチドを含み、前記ペプチドが、前記天然AAV9キャプシドタンパク質配列に存在しない、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項35】
がAではなく、XがQではなく、XがAではなく、XがQではなく、XがAではなく、XがQではなく、XがTではなく、及び/またはXがGではない、請求項34に記載のAAVベクター。
【請求項36】
がSである、請求項35に記載のAAVベクター。
【請求項37】
が、KまたはTである、請求項35または36に記載のAAVベクター。
【請求項38】
がVである、請求項35~37のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項39】
が、EまたはDである、請求項35~38のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項40】
がSである、請求項35~39のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項41】
が、WまたはIである、請求項35~40のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項42】
が、TまたはAである、請求項35~41のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項43】
が、EまたはIである、請求項35~42のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項44】
がSであり、XがKであり、XがVであり、XがEであり、XがSであり、XがWであり、XがTであり、XがEである、請求項34に記載のAAVベクター。
【請求項45】
がSであり、XがTであり、XがVであり、XがDであり、XがSであり、XがIであり、XがAであり、XがIである、請求項34に記載のAAVベクター。
【請求項46】
(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)前記キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記キャプシドタンパク質が、配列番号165~187のうちのいずれか1つと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項47】
前記キャプシドタンパク質が、配列番号165~187のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項46に記載のAAVベクター。
【請求項48】
前記キャプシドタンパク質が、配列番号175のアミノ酸配列を含む、請求項47に記載のAAVベクター。
【請求項49】
前記キャプシドタンパク質が、配列番号180のアミノ酸配列を含む、請求項47に記載のAAVベクター。
【請求項50】
前記AAVベクターが、前記カーゴ核酸を、中枢神経系の細胞または組織に選択的に送達する、請求項46~49のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項51】
前記中枢神経系の前記組織が、運動前野、視床、小脳皮質、歯状核、脊髄、または後根神経節である、請求項50に記載のAAVベクター。
【請求項52】
前記AAVベクターが、前記カーゴ核酸を脳に送達するが、前記AAVベクターを心臓に送達しない、請求項46~49のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項53】
前記AAVベクターが、前記カーゴ核酸を前記脳及び前記心臓に送達する、請求項46~49のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項54】
前記カーゴ核酸の送達が、前記心臓よりも前記脳に多い、請求項53に記載のAAVベクター。
【請求項55】
前記カーゴ核酸の送達が、前記心臓と前記脳でほぼ等しい、請求項53に記載のAAVベクター。
【請求項56】
請求項1~55のいずれか1項に記載のAAVベクターの組換えキャプシドタンパク質をコードする、核酸配列。
【請求項57】
前記核酸配列が、DNA配列である、請求項56に記載の核酸配列。
【請求項58】
前記核酸配列が、RNA配列である、請求項56に記載の核酸配列。
【請求項59】
請求項56~58のいずれか1項に記載の核酸配列を含む、発現ベクター。
【請求項60】
請求項56~58のいずれか1項に記載の核酸配列を含む、細胞。
【請求項61】
請求項59に記載の発現ベクターを含む、細胞。
【請求項62】
請求項1~55のいずれか1項に記載のAAVベクターを含む、薬学的組成物。
【請求項63】
前記組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項62に記載の薬学的組成物。
【請求項64】
請求項60または61に記載の細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項65】
前記組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項64に記載の薬学的組成物。
【請求項66】
治療を必要とする対象を治療する方法であって、治療有効量の請求項1~55のいずれか1項に記載のAAVベクターを、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項67】
前記対象が、中枢神経系の疾患または障害を有する、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記対象が、哺乳動物である、請求項66または67に記載の方法。
【請求項69】
前記対象が、ヒトである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
細胞に核酸分子を導入するインビトロ方法であって、前記細胞を、請求項1~55のいずれか1項に記載のAAVベクターと接触させることを含む、前記方法。
【請求項71】
薬剤として使用するための、請求項1~55のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項72】
治療を必要とする対象の治療方法で使用するための、請求項1~55のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【請求項73】
治療を必要とする対象におけるCNSの疾患または障害を治療または予防する方法で使用するための、請求項1~55のいずれか1項に記載のAAVベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月21日に出願された米国仮出願第62/821,710号の利益を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出されたテキストファイルの説明
本明細書と共に電子的に提出されたテキストファイルの内容は、参照によりその全体が組み込まれる、コンピュータ可読形式の配列表のコピー(ファイル名:STRD_013_01WO_SeqList_ST25.txt、記録日、2020年3月20日、ファイルサイズ、約350キロバイト)。
【0003】
本出願は、組換えキャプシドタンパク質を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに関する。いくつかの実施形態では、組換えAAVベクターは、形質導入効率を低下させることなく中和抗体を回避する。
【背景技術】
【0004】
AAVまたは組換えAAVベクターの自然な遭遇時に生成される宿主由来の既存の抗体により、ワクチンとしての、及び/または遺伝子療法のためのAAVベクターの初回投与及び反復投与が防止される。血清学的研究は、世界的にヒト集団における高い抗体保有率を明らかにし、約67%の人々がAAV1に対する抗体を有し、72%がAAV2に対する抗体を有し、約40%がAAV5~AAV9に対する抗体を有している。
【0005】
遺伝子療法において、遺伝子サイレンシングまたは組織変性を伴うある特定の臨床シナリオは、導入遺伝子の長期的な発現を維持するために、複数のAAVベクター投与を必要とし得る。したがって、当該技術分野において、抗体認識を回避する組換えAAVベクターの必要性が存在する。そのようなベクターは、a)AAVベースの遺伝子療法に好適な対象の適格なコホートを拡大し、b)AAVベースの遺伝子療法ベクターの複数の反復投与を可能にするのに役立つ。
【発明の概要】
【0006】
抗体認識を回避する、及び/またはCNSの組織を選択的に標的とする組換えAAVベクターが本明細書に提供される。
【0007】
いくつかの実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含み、キャプシドタンパク質は、配列番号12~20のうちのいずれか1つの配列を有するペプチドを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、(i)変異AAV9キャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含み、キャプシドタンパク質は、天然AAV9キャプシドタンパク質配列のアミノ酸451~458にX-X-X-X-X-X-X-Xの配列(配列番号158)を有するペプチドを含み、ペプチドは、天然AAV9キャプシドタンパク質配列に存在しない。
【0009】
いくつかの実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、(i)変異AAV9キャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含み、キャプシドタンパク質は、天然AAV9キャプシドタンパク質配列のアミノ酸587~594にX-X-X-X-X-X-X-Xの配列(配列番号158)を有するペプチドを含み、ペプチドは、天然AAV9キャプシドタンパク質配列に存在しない。
【0010】
いくつかの実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含み、キャプシドタンパク質は、配列番号165~187のうちのいずれか1つと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0011】
本明細書には、組換えキャプシドタンパク質をコードする核酸配列、及びそれを含む発現ベクターも提供される。
【0012】
本明細書に記載の核酸、発現ベクター、AAVベクター、またはAAVキャプシドを含む細胞も提供される。
【0013】
本明細書に記載される核酸、発現ベクター、AAVベクター、AAVキャプシド、または細胞を含む薬学的組成物も提供される。
【0014】
治療有効量の本明細書に記載のAAVベクターを対象に投与することを含む、治療を必要とする対象を治療するための方法も提供される。
【0015】
細胞に核酸分子を導入するインビトロ方法も提供され、本方法は、細胞を本明細書に記載のAAVベクターと接触させることを含む。
【0016】
薬剤として使用するための、本明細書に記載のAAVベクターも提供される。
【0017】
治療を必要とする対象の治療方法で使用するための、本明細書に記載のAAVベクターも提供される。
【0018】
CNSの疾患または障害の治療または予防を必要とする対象においてそれを行う方法で使用するための、本明細書に記載のAAVベクターも提供される。
【0019】
これら及び他の実施形態は、以下でより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】新規抗原フットプリントのライブラリ多様性の分析、指向進化、及び濃縮を示すバブルプロット。親(図1A)ならびに第1のラウンド(図1B)及び第2のラウンド(図1C)の進化からの進化したライブラリを、Illumina MiSeqプラットフォームを使用してハイスループット配列決定に供した。カスタムPerlスクリプトを用いた分析の後、濃縮アミノ酸配列をプロットした。各バブルは別個のキャプシドアミノ酸配列を表し、バブルの半径はそれぞれのライブラリにおけるそのバリアントの読み取り数に比例する。y軸は、配列決定実行の総読み取りのパーセンテージを表す。データは、可視化を容易にするためにx軸に沿って広がる。固有のクローンの減少パーセント(96.5%)は、多数の「適合していない」配列が、第1及び第2のラウンドの進化後に除去されたことを直接示す。主要分離株を、さらなる分析のために選択した。
図2】野生型AAV9と比較した、AAVキャプシドバリアントSTRD.101及びSTRD.102を含むAAVベクターの体積収率。バーは平均+/-95%信頼区間を表す。
図3】標準的なTCID50アッセイを使用して決定したAAV-STRD.101及び野生型AAV9の感染力値。データは、感染単位(P:I比)を生成するために必要な粒子の数の自然対数としてグラフ化される。エラーバーは、標準偏差を表す。
図4】STRD.101キャプシドを含む組換えAAVベクターによるU87細胞(図4A)、N2A細胞(図4B)、Sy5Y細胞(図4C)、及びU2OS細胞(図4D)の形質導入、ならびにルシフェラーゼ導入遺伝子を同様にパッケージングする野生型AAV9ベクターと比較した、ルシフェラーゼ配列のパッケージング。エラーバーは、標準誤差を表す。
図5】4%PFAでの固定から24時間後の冠状ビブラトーム切片におけるtdTomato発現を示す代表的な蛍光顕微鏡画像。各切片の厚さは25μmである。上部パネルは、天然tdTomato蛍光により4倍対物レンズを使用して得られた画像を示す。下部パネルは、天然tdTomato蛍光により10倍対物レンズを使用して得られた画像を示す。
図6】4%PFAでの固定から24時間後の冠状ビブラトーム切片におけるtdTomato発現を示す代表的な免疫組織化学画像。各切片の厚さは25μmである。
図7】4%PFAでの固定から24時間後のビブラトーム肝臓切片におけるTdTomato発現を示す代表的な蛍光顕微鏡画像。各切片の厚さは25μmである。パネルは、DAPI対比染色による天然tdTomato蛍光を示す。
図8】4%PFAでの固定から24時間後のビブラトーム心臓切片におけるTdTomato発現を示す代表的な蛍光顕微鏡画像。各切片の厚さは50μmである。パネルは、DAPI対比染色による天然tdTomato蛍光を示す。
図9】非ヒト霊長類における組換えAAVの生体内分布。横線は検出限界を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する当該技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書の発明を実施するための形態で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明する目的のためであり、限定することを意図するものではない。
【0022】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、GenBankまたは他の受託番号、及び他の参考文献は、全ての目的のために参照によりそれらの全体が組み込まれる。
【0023】
本開示及び添付の特許請求の範囲におけるAAVキャプシドタンパク質中のアミノ酸位置の指定は、VP1キャプシドサブユニット番号付けに関してである。当業者であれば、本明細書に記載の修飾は、AAV cap遺伝子に挿入された場合、VP1、VP2、及び/またはVP3キャプシドサブユニットにおける修飾をもたらし得ることを理解するであろう。代替的に、キャプシドサブユニットは、キャプシドサブユニットのうちの1つまたは2つのみ(VP1、VP2、VP3、VP1+VP2、VP1+VP3、またはVP2+VP3)で修飾を達成するために、独立して発現され得る。
【0024】
定義
以下の用語は、本明細書の説明及び添付の特許請求の範囲で使用される。
【0025】
単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈により明らかにそうではないと指示されない限り、複数の形態も含むことが意図される。
【0026】
さらに、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の長さの量、用量、時間、温度などの測定可能な値を指すとき、指定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらには±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0027】
また、本明細書で使用される場合、「及び/または」は、関連する列記される項目のうちの1つ以上のありとあらゆる可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、包含する。
【0028】
文脈が別途指示しない限り、本明細書に記載の様々な特徴を任意の組み合わせで使用することができることが具体的に意図される。さらに、いくつかの実施形態では、本明細書に示される任意の特徴または特徴の組み合わせは、除外または省略され得る。さらに例示すると、例えば、本明細書では、特定のアミノ酸がA、G、I、L、及び/またはVから選択され得ることが示されている場合、この用語はまた、各そのような部分的組み合わせが本明細書で明示的に示されているかのように、アミノ酸が、これらのアミノ酸(複数可)の任意のサブセット、例えば、A、G、I、またはL、A、G、I、またはV、AまたはG、Lのみなどから選択され得ることを示す。さらに、そのような用語はまた、特定のアミノ酸のうちの1つ以上が排除され得ることを示す。例えば、いくつかの実施形態では、アミノ酸は、各そのような可能な排除が本明細書に明示的に示されているかのように、A、G、またはIではない、Aではない、GまたはVではないなどである。
【0029】
本明細書で使用される場合、「低減する(reduce)」、「低減する(reduces)」、「低減」という用語、及び類似の用語は、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約35%、約50%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%以上の減少を意味する。
【0030】
本明細書で使用される場合、「増加する」、「改善する」、「増強する(enhance)」、「増強する(enhances)」、「増強」という用語、及び類似の用語は、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約50%、約75%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%以上の増加を示す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「パルボウイルス」という用語は、パルボウイルス及びディペンドウイルスを自律的に複製することを含む、Parvoviridae科を包含する。自律性パルボウイルスには、Protoparvovirus属、Erythroparvovirus属、Bocaparvovirus属、及びDensovirus亜科のメンバーが含まれる。例示的な自律性パルボウイルスには、限定されないが、マウス微小ウイルス、ウシパルボウイルス、イヌパルボウイルス、ニワトリパルボウイルス、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコパルボウイルス、ガチョウパルボウイルス、H1パルボウイルス、バリケンパルボウイルス、B19ウイルス、及び現在知られているか、または後に発見される任意の他の自律性パルボウイルスが含まれる。他の自律性パルボウイルスは、当業者に既知である。例えば、BERNARD N.FIELDS et al,VIROLOGY,volume 2,chapter 69(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers;Cotmore et al.Archives of Virology DOI 10.1007/s00705-013-1914-I)を参照されたい。
【0032】
本明細書で使用される場合、「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語は、限定されないが、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型及び3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、AAV13型、AAVrh32.33型、AAVrh8型、AAVrh10型、AAVrh74型、AAVhu.68型、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヘビAAV、ヒゲトカゲAAV、AAV2i8、AAV2g9、AAV-LK03、AAV7m8、AAV Anc80、AAV PHP.B、及び現在知られているか、または後に発見される任意の他のAAVを含む。例えば、BERNARD N.FIELDS et al.,VIROLOGY,volume 2,chapter 69(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)を参照されたい。いくつかのAAV血清型及びクレードが特定されている(例えば、Gao et al,(2004)J.Virology 78:6381-6388、Moris et al,(2004)Virology 33-:375-383、及び表2を参照されたい)。AAV1-9、AAVrh.10、及びAAV11の例示的なAAVキャプシド配列は、配列番号1~11に提供される。
【0033】
本明細書で使用される場合、「キメラAAV」という用語は、AAVの2つ以上の異なる血清型に由来する領域、ドメイン、個々のアミノ酸を有するキャプシドタンパク質を含むAAVを指す。いくつかの実施形態では、キメラAAVは、第1のAAV血清型に由来する第1の領域、及び第2のAAV血清型に由来する第2の領域からなるキャプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、キメラAAVは、第1のAAV血清型に由来する第1の領域、第2のAAV血清型に由来する第2の領域、及び第3のAAV血清型に由来する第3の領域からなるキャプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、キメラAAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、及び/またはAAV12に由来する領域、ドメイン、個々のアミノ酸を含み得る。例えば、キメラAAVは、以下に示される第1及び第2のAAV血清型(表1)からの領域、ドメイン、及び/または個々のアミノ酸を含み得、表中、AAVX+Yは、AAVX及びAAVYに由来する配列を含むキメラAAVを示す。
【表1】
【0034】
1つのキャプシドタンパク質に複数のAAV血清型からの個々のアミノ酸または領域を含めることにより、複数のAAV血清型に別々に由来する複数の所望の特性を有するキャプシドタンパク質を得ることができる。
【0035】
AAV及び自律性パルボウイルスの様々な血清型のゲノム配列、ならびに天然末端反復(TR)、Repタンパク質、及びキャプシドサブユニットの配列は、当該技術分野で既知である。そのような配列は、文献またはGenBankなどの公開データベースに見出すことができる。例えば、GenBank受託番号NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852、AY530579を参照されたい。これらの開示は、パルボウイルスならびにAAV核酸及びアミノ酸配列を教示するために参照により本明細書に組み込まれる。また、例えば、Srivistava et al.,(1983)J.Virology 45:555、Chiorini et al,(1998)J Virology 71:6823;Chiorini et al.,(1999)J.Virology 73:1309、Bantel-Schaal et al.,(1999)J Virology 73:939、Xiao et al,(1999)J Virology 73:3994、Muramatsu et al.,(1996)Virology 221:208、Shade et al,(1986)J.Virol.58:921、Gao et al,(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854、Moris et al,(2004)Virology 33:375-383、国際特許公開第WO00/28061号、第WO99/61601号、第WO98/11244号、及び米国特許第6,156,303号を参照されたい。これらの開示は、パルボウイルスならびにAAV核酸及びアミノ酸配列を教示するために参照により本明細書に組み込まれる。表2も参照されたい。自律性パルボウイルス及びAAVのキャプシド構造は、BERNARD N.FIELDS et al.,VIROLOGY,volume 2,chapters 69 & 70(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)により詳細に記載される。また、AAV2(Xie et al.,(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.99:10405-10)、AAV9(DiMattia et al.,(2012)J.Virol.86:6947-6958)、AAV8(Nam et al,(2007)J.Virol.81:12260-12271)、AAV6(Ng et al.,(2010)J.Virol.84:12945-12957)、AAV5(Govindasamy et al.(2013)J.Virol.87,11187-11199)、AAV4(Govindasamy et al.(2006)J.Virol.80:11556-11570)、AAV3B(Lerch et al.,(2010)Virology 403:26-36)、BPV(Kailasan et al.,(2015)J.Virol.89:2603-2614)、及びCPV(Xie et al,(1996)J.Mol.Biol.6:497-520及びTsao et al,(1991)Science 251:1456-64)の結晶構造の説明も参照されたい。
【表2-1】

【表2-2】
【0036】
「自己相補的AAV」または「scAAV」という用語は、自発的にアニーリングする二量体逆転反復DNA分子を形成し、従来の一本鎖(ss)AAVゲノムと比較してより早くかつより強固な導入遺伝子発現をもたらす組換えAAVベクターを指す。例えば、McCarty,D.M.,et al.Gene Therapy,8,1248-1254(2001)を参照されたい。従来のssAAVとは異なり、scAAVは、遺伝子発現の律速ステップである第2の鎖合成をバイパスすることができる。さらに、二本鎖scAAVは、ウイルス形質導入後にDNA分解されにくくなり、それにより、安定したエピソームのコピー数が増加する。特に、scAAVは、典型的には、従来のAAVベクターの半分のサイズである約2.4kbのゲノムのみを保持することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のAAVベクターは、自己相補的AAVである。
【0037】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」という用語は、短いアミノ酸配列を指す。ペプチドという用語は、AAVキャプシドアミノ酸配列の一部または領域を指すように使用され得る。ペプチドは、天然AAVキャプシド内に天然に存在するペプチド、または天然AAVキャプシド内に天然に存在しないペプチドであり得る。AAVキャプシド内の天然に存在するAAVペプチドは、非天然に存在するペプチドによって置換され得る。例えば、非天然に存在するペプチドをAAVキャプシド内に置換して、天然に存在するペプチドが非天然に存在するペプチドに置き換えられるように、修飾されたキャプシドを提供してもよい。
【0038】
本明細書で使用される場合、「向性」という用語は、ある特定の細胞または組織へのウイルスの優先的な侵入、任意選択で、続いて、例えば、組換えウイルスのための、細胞内でウイルスゲノムによって担持される配列(複数可)の発現(例えば、転写、及び任意選択で翻訳)、目的の導入遺伝子の発現を指す。
【0039】
本明細書で使用される場合、「全身向性」及び「全身形質導入」(及び同等の用語)は、本明細書に記載されるウイルスキャプシドまたはウイルスベクターが、それぞれ、全身の組織(例えば、脳、肺、骨格筋、心臓、肝臓、腎臓、及び/または膵臓)に向性を呈するか、または形質導入されることを示す。いくつかの実施形態では、筋肉組織(例えば、骨格筋、横隔膜、及び心筋)の全身形質導入が達成される。いくつかの実施形態では、骨格筋組織の全身形質導入が達成される。例えば、いくつかの実施形態では、全身にわたって実質的に全ての骨格筋が形質導入される(ただし、形質導入の効率は筋肉の種類によって異なり得る)。いくつかの実施形態では、四肢筋肉、心筋、及び横隔膜筋の全身形質導入が達成される。任意選択で、ウイルスキャプシドまたはウイルスベクターは、全身経路(例えば、静脈内、関節内、またはリンパ管内などの全身経路)を介して投与される。
【0040】
代替的に、いくつかの実施形態では、キャプシドまたはウイルスベクターは、局在的に(例えば、フットパッドに、筋肉内、皮内、皮下、局所的に)送達される。いくつかの実施形態では、キャプシドまたはウイルスベクターは、脳または脊髄などの中枢神経系(CNS)の組織に局在的に送達される。いくつかの実施形態では、キャプシドまたはウイルスベクターは、髄腔内、脳内、または脳室内注射によって投与される。
【0041】
別途指示されない限り、「効率的な形質導入」または「効率的な向性」、または同様の用語は、好適な対照(例えば、それぞれ、対照の形質導入または向性の少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%以上)を参照することによって決定することができる。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター(例えば、AVVベクター)は、骨格筋、心筋、横隔膜筋、膵臓(β島細胞を含む)、脾臓、消化管(例えば、上皮及び/または平滑筋)、中枢神経系の細胞、肺、関節細胞、及び/または腎臓に効率的に形質導入されるか、またはそれに効率的な向性を有する。好適な対照は、所望の向性プロファイルを含む様々な因子に依存する。例えば、AAV8及びAAV9は、骨格筋、心筋、及び横隔膜筋への形質導入に非常に効率的であるが、高い効率で肝臓に形質導入するという欠点も有する。したがって、AAV8またはAAV9は骨格筋、心筋、及び/または横隔膜筋への効率的な形質導入を示すが、肝臓に対してはるかに低い形質導入効率を示すウイルスベクターを特定することができる。さらに、目的の向性プロファイルは、複数の標的組織に対する向性を反映し得るため、好適なベクターはいくつかのトレードオフを表し得ることが理解されよう。例示すると、ウイルスベクターは、骨格筋、心筋、及び/または横隔膜筋への形質導入において、AAV8またはAAV9よりも効率が良くない場合があるが、肝臓への形質導入レベルが低いため、それでも非常に望ましい場合がある。
【0042】
同様に、好適な対照を参照することによって、標的組織または同様の用語に対して、ウイルスが「効率的に形質導入しない」か、または「効率的な向性を有しない」かを決定することができる。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、肝臓、腎臓、性腺、及び/または生殖細胞に効率的に形質導入しない(すなわち、効率的な向性を有しない)。いくつかの実施形態では、組織(複数可)(例えば、肝臓)の望ましくない形質導入は、所望の標的組織(複数可)(例えば、骨格筋、横隔膜筋、心筋、及び/または中枢神経系の細胞)の形質導入レベルの約20%以下、約10%以下、約5%以下、約1%以下、約0.1%以下である。
【0043】
本明細書で、AAVベクター(またはそのキャプシドタンパク質もしくはペプチド)と関連して使用される場合、「選択的に結合する」、「選択的結合」という用語、及び同様の用語は、AAVベクター(またはそのキャプシドタンパク質もしくはペプチド)の、特定の分子構造の存在に依存する様式での標的への結合を指す。いくつかの実施形態では、選択的結合は、他の標的への実質的または有意な結合を伴わない、主に特定の標的へのAAVの結合を指す。いくつかの実施形態では、AAVベクター(またはそのキャプシドタンパク質もしくはペプチド)は、目的の細胞または組織内の受容体に特異的に結合するが、他の受容体に実質的または有意な結合を呈さない。
【0044】
「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド塩基の配列であり、RNA、DNA、またはDNA-RNAハイブリッド配列(天然に存在する及び非天然に存在するヌクレオチドの両方を含む)であり得る。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖DNA配列のいずれかである。
【0045】
本明細書で使用される場合、「単離された」ポリヌクレオチド(例えば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)は、天然に存在する生物またはウイルスの他の構成成分の少なくともいくつか、例えば、細胞もしくはウイルス構造構成成分、またはポリヌクレオチドと関連して一般に見出される他のポリペプチドもしくは核酸から少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。いくつかの実施形態では、「単離された」ヌクレオチドは、出発材料と比較して少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍以上濃縮される。
【0046】
同様に、「単離された」ポリペプチドは、天然に存在する生物またはウイルスの他の構成成分の少なくともいくつか、例えば、細胞もしくはウイルス構造構成成分、またはポリペプチドと関連して一般に見出される他のポリペプチドもしくは核酸から少なくとも部分的に分離されたポリペプチドを意味する。いくつかの実施形態では、「単離された」ポリペプチドは、出発材料と比較して少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍以上濃縮される。
【0047】
本明細書で使用される場合、ウイルスベクターを「単離する」または「精製する」(または文法的等価物)とは、ウイルスベクターが出発材料中の他の構成成分の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されることを意味する。いくつかの実施形態では、「単離された」または「精製された」ウイルスベクターは、出発材料と比較して少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍以上濃縮される。
【0048】
「治療的」ポリペプチドまたはタンパク質は、細胞または対象におけるタンパク質の不在または欠損から生じる症状を軽減、低減、予防、遅延、及び/または安定化することができるものであり、及び/またはさもなければ、対象に利益、例えば、抗がん作用または移植生存率の改善をもたらすポリペプチドである。
【0049】
「治療する」、「治療すること」、または「~の治療」という用語(及びその文法的変形)は、対象の状態の重症度が低減し、少なくとも部分的に改善もしくは安定化されること、及び/または少なくとも1つの臨床症状におけるある程度の緩和、軽減、減少、もしくは安定化が達成されること、及び/または疾患もしくは障害の進行の遅延があることを意味する。
【0050】
「予防する」、「予防すること」、及び「予防」という用語(及びその文法的変形)は、本明細書に記載の組成物及び/または方法の不在下で生じるであろうものと比較して、対象における疾患、障害及び/または臨床症状(複数可)の発症の予防及び/または遅延、及び/または疾患、障害、及び/または臨床症状(複数可)の発症の重症度の低減を指す。予防は、完全、例えば、疾患、障害、及び/または臨床症状(複数可)の完全な不在であり得る。予防はまた、対象における疾患、障害、及び/または臨床症状(複数可)の発生、及び/または発症の重症度が、本明細書に記載の組成物及び/または方法の不在下で生じるであろうものよりも小さいように、部分的であり得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、疾患、または疾患の臨床症状のうちの少なくとも1つを治療するために対象に投与される場合、疾患またはその症状のそのような治療に影響を及ぼすのに十分な量を指す。「治療有効量」は、例えば、疾患及び/または疾患の症状、疾患の重症度及び/または疾患もしくは障害の症状、治療される患者の年齢、体重、及び/または健康状態、ならびに処方医師の判断に応じて異なり得る。任意の所与の症例における適切な量は、当業者によって確認され得るか、または日常的な実験によって決定することが可能であり得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「ウイルスベクター」、「ベクター」、または「遺伝子送達ベクター」という用語は、核酸送達ビヒクルとして機能し、ビリオン内にパッケージングされたベクターゲノム(例えば、ウイルスDNA[vDNA])を含むウイルス(例えば、AAV)粒子を指す。代替的に、いくつかの文脈では、「ベクター」という用語は、ベクターゲノム/vDNA単独を指すように使用され得る。いくつかの実施形態では、ベクターゲノム(例えば、AAVベクターゲノム)は、「カーゴ核酸」に含まれ得る。いくつかの実施形態では、ベクターゲノムは、自己相補的である(すなわち、二本鎖である)。いくつかの実施形態では、ベクターゲノムは、自己相補的ではない(すなわち、一本鎖である)。
【0053】
「rAAVベクターゲノム」または「rAAVゲノム」は、1つ以上の異種核酸配列を含むAAVゲノム(すなわち、vDNA)である。rAAVベクターは一般に、ウイルスを生成するためにシス内に逆位末端反復(複数可)(ITR(複数可))のみを必要とする。他の全てのウイルス配列は、分配可能であり、トランスで供給され得る(Muzyczka,(1992)Curr.Topics Microbiol.Immunol.158:97)。典型的には、rAAVベクターゲノムは、ベクターによって効率的にパッケージングすることができる導入遺伝子のサイズを最大化するために、1つまたは2つのITR配列のみを保持する。構造及び非構造タンパク質コード配列は、トランスで(例えば、プラスミドなどのベクターから、または配列をパッケージング細胞に安定的に組み込むことによって)提供され得る。いくつかの実施形態では、rAAVベクターゲノムは、少なくとも1つのITR配列(例えば、AAV ITR配列)、任意選択で2つのITR(例えば、2つのAAV ITR)を含み、これは典型的には、ベクターゲノムの5’及び3’末端(すなわち、5’ITR及び3’ITR)にあり、異種核酸に隣接するが、それに連続する必要はない。
【0054】
「逆位末端反復」または「ITR」という用語は、ヘアピン構造を形成し、逆位末端反復として機能する(すなわち、複製、ウイルスパッケージング、組み込み、及び/またはプロウイルス救出などの所望の機能を媒介する)任意のウイルス末端反復または合成配列を含む。ITRは、AAV ITRまたは非AAV ITRであり得る。例えば、他のパルボウイルス(例えば、イヌパルボウイルス(CPV)、マウスパルボウイルス(MVM)、ヒトパルボウイルスB-19)または任意の他の好適なウイルス配列(例えば、SV40複製起点として機能するSV40ヘアピン)のものなどの非AAV ITR配列は、切断、置換、欠失、挿入、及び/または付加によってさらに修飾され得る、ITRとして使用することができる。さらに、ITRは、米国特許第5,478,745号に記載される「二重D配列」などの部分的または完全に合成であり得る。
【0055】
「AAV逆位末端反復」または「AAV ITR」は、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13を含むがこれらに限定されない任意のAAV、または現在知られているか、もしくは後に発見される任意の他のAAVからであり得る(例えば、表2を参照されたい)。AAV逆位末端反復は、末端反復が所望の機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組み込み、及び/またはプロウイルス救出などを媒介する限り、天然末端反復配列(例えば、天然AAV ITR配列は、挿入、欠失、切断、及び/またはミスセンス変異によって改変され得る)を有する必要はない。
【0056】
本明細書に記載のウイルスベクターはさらに、国際特許公開WO00/28004及びChao et al,(2000)Molecular Therapy 2:619に記載されるように、「標的化」ウイルスベクター(例えば、指向された向性を有する)及び/または「ハイブリッド」ウイルスベクター(すなわち、ウイルスITR及びウイルスキャプシドが異なるウイルスからである)であり得る。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、CNSの細胞及び/または組織を標的とする。
【0057】
本明細書に記載のウイルスベクターはさらに、国際特許公開第WO01/92551号(その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、二本鎖ウイルス粒子であり得る。したがって、いくつかの実施形態では、二本鎖(二重鎖)ゲノムは、本明細書に記載のウイルスキャプシドにパッケージングされ得る。さらに、ウイルスキャプシドまたはゲノム要素は、挿入、欠失、及び/または置換を含む他の修飾を含有し得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、任意の天然に存在するアミノ酸、その修飾形態、及び合成アミノ酸を包含する。天然に存在する左旋性(L-)アミノ酸を表3に示す。
【表3】
【0059】
代替的に、アミノ酸は、修飾されたアミノ酸残基であり得(非限定的な例を表4に示す)、及び/または翻訳後修飾(例えば、アセチル化、アミド化、ホルミル化、ヒドロキシル化、メチル化、リン酸化、または硫酸化)によって修飾されるアミノ酸であり得る。アミノ酸を化学修飾する方法は、当該技術分野で既知である(例えば、Greg T.Hermanson,Bioconjugate Techniques,1st edition,Academic Press,1996を参照されたい)。
【表4-1】

【表4-2】
【0060】
さらに、非天然に存在するアミノ酸は、「非天然」アミノ酸であり得る(Wang et al.,Annu Rev Biophys Biomol Struct.35:225-49(2006)に記載されるように)。これらの非天然アミノ酸を有利に使用して、目的の分子をAAVキャプシドタンパク質に化学的に連結することができる。
【0061】
修飾されたAAVキャプシドタンパク質及びそれを含むAAVベクター
AAVベクター
本明細書では、(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸とを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターがさらに提供される。いくつかの実施形態では、組換えキャプシドタンパク質(VP1、VP2、及び/またはVP3)は、いずれの天然AAVキャプシド配列においても生じないそれらのアミノ酸配列のペプチドを含んでもよい。発明者らは、本明細書に記載のペプチドを含むキャプシドタンパク質が、中和抗体を回避する能力を含むがこれに限定されないウイルスベクターに1つ以上の所望の特性を付与することができることを示した。したがって、本明細書に記載のAAVベクターは、従来のAAVベクターに関連する制限に対処する。
【0062】
したがって、いくつかの実施形態では、本開示は、(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸とを含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供し、キャプシドタンパク質は、配列番号12~20のうちのいずれか1つの配列を有するペプチドを含む。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸は、5’及び3’AAV逆位末端反復を含む。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸は、導入遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸は、二本鎖である。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸は、一本鎖である。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、治療用タンパク質またはRNAをコードする。いくつかの実施形態では、組換えキャプシドタンパク質は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、または鳥類AAVキャプシドの天然配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。いくつかの実施形態では、組換えキャプシドタンパク質は、AAV9キャプシドの天然配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0063】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、天然AAV9キャプシドのアミノ酸451~458、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVにおける同等のアミノ酸残基に対応するアミノ酸位置に位置し、ペプチドは、配列番号12~18のいずれか1つから選択される。いくつかの実施形態では、ペプチドは、天然AAV9キャプシドのアミノ酸587~594、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVにおける同等のアミノ酸残基に対応するアミノ酸位置に位置し、ペプチドは、配列番号19または20から選択される。
【0064】
いくつかの実施形態では、組換えキャプシドタンパク質は、a)配列番号12~18のいずれか1つの配列を有する第1のペプチドと、b)配列番号19~20のいずれか1つの配列を有する第2のペプチドとを含む。いくつかの実施形態では、第1のペプチドは、アミノ酸位置451~458にあり、第2のペプチドは、アミノ酸587~594にあり、アミノ酸番号付けは、天然AAV9キャプシド、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVにおける同等のアミノ酸残基に基づく。
【0065】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、少なくとも1つの抗体の、キャプシドタンパク質への結合を阻害する。いくつかの実施形態では、ペプチドは、抗体によるAAVベクターの感染力の中和を阻害する。
【0066】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、中枢神経系(CNS)の細胞表面に発現する受容体に選択的に結合する。いくつかの実施形態では、細胞は、運動前野、視床、小脳皮質、歯状核、脊髄、または後根神経節にある。いくつかの実施形態では、ペプチドは、心臓の細胞表面に発現する受容体に選択的に結合する。
【0067】
いくつかの実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、(i)変異AAV9キャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含み、キャプシドタンパク質は、天然AAV9キャプシドタンパク質配列のアミノ酸451~458にX-X-X-X-X-X-X-Xの配列(配列番号158)を有するペプチドを含み、ペプチドは、天然AAV9キャプシドタンパク質配列に存在しない。いくつかの実施形態では、XはIではなく、XはNではなく、XはGではなく、XはSではなく、XはGではなく、XはQではなく、XはNではなく、及び/またはXはQではない。いくつかの実施形態では、Xは、S、F、Q、G、K、またはRである。いくつかの実施形態では、Xは、C、G、R、D、T、またはQである。いくつかの実施形態では、Xは、Q、V、G、Y、R、F、またはDである。いくつかの実施形態では、Xは、P、Q、A、またはRである。いくつかの実施形態では、Xは、T、N、A、P、またはIである。いくつかの実施形態では、Xは、V、Q、A、またはIである。いくつかの実施形態では、Xは、M、P、R、Q、またはNである。いくつかの実施形態では、Xは、N、L、F、E、H、またはAである。いくつかの実施形態では、XはSであり、XはCであり、XはQであり、XはPであり、XはTであり、XはVであり、XはMであり、XはNである。いくつかの実施形態では、XはFであり、XはGであり、XはVであり、XはPであり、XはNであり、XはQであり、XはPであり、XはLである。いくつかの実施形態では、XはQであり、XはRであり、XはGであり、XはQであり、XはAであり、XはAであり、XはPであり、XはFである。いくつかの実施形態では、XはGであり、XはDであり、XはYであり、XはAであり、XはPであり、XはIであり、XはRであり、XはEである。いくつかの実施形態では、XはKであり、XはTであり、XはRであり、XはRであり、XはIであり、XはVであり、XはQであり、XはHである。いくつかの実施形態では、XはFであり、XはGであり、XはFであり、XはPであり、XはNであり、XはQであり、XはPであり、XはLである。いくつかの実施形態では、XはRであり、XはQであり、XはDであり、XはQであり、XはPであり、XはIであり、XはNであり、XはAである。
【0068】
いくつかの実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、(i)変異AAV9キャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含み、キャプシドタンパク質は、天然AAV9キャプシドタンパク質配列のアミノ酸587~594にX-X-X-X-X-X-X-Xの配列(配列番号158)を有するペプチドを含み、ペプチドは、天然AAV9キャプシドタンパク質配列に存在しない。いくつかの実施形態では、XはAではなく、XはQではなく、XはAではなく、XはQではなく、XはAではなく、XはQではなく、XはTではなく、及び/またはXはGではない。いくつかの実施形態では、XはSである。いくつかの実施形態では、XはKまたはTである。いくつかの実施形態では、XはVである。いくつかの実施形態では、XはEまたはDである。いくつかの実施形態では、XはSである。いくつかの実施形態では、XはWまたはIである。いくつかの実施形態では、XはTまたはAである。いくつかの実施形態では、XはEまたはIである。いくつかの実施形態では、XはSであり、XはKであり、XはVであり、XはEであり、XはSであり、XはWであり、XはTであり、XはEである。いくつかの実施形態では、XはSであり、XはTであり、XはVであり、XはDであり、XはSであり、XはIであり、XはAであり、XはIである。
【0069】
いくつかの実施形態では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含み、キャプシドタンパク質は、配列番号165~187のうちのいずれか1つと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、配列番号165~187のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、配列番号175のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、配列番号180のアミノ酸配列を含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、AAVベクターは、カーゴ核酸を、中枢神経系の細胞または組織に選択的に送達する。いくつかの実施形態では、中枢神経系の組織は、運動前野、視床、小脳皮質、歯状核、脊髄、または後根神経節である。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、カーゴ核酸を脳に送達するが、AAVベクターを心臓に送達しない。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、カーゴ核酸を脳及び心臓に送達する。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸の送達は、心臓よりも脳に多い。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸の送達は、脳内及び心臓でほぼ等しい。
【0071】
AAVキャプシドタンパク質
いくつかの実施形態では、本開示は、天然AAVキャプシドタンパク質と比較して1つ以上のアミノ酸修飾(例えば、置換及び/または欠失)を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質を提供し、1つ以上の修飾は、AAVキャプシドタンパク質上の1つ以上の抗原部位を修飾する。1つ以上の抗原部位の修飾は、抗体による1つ以上の抗原部位への結合の阻害、及び/またはAAVキャプシドタンパク質を含むウイルス粒子の感染力の中和の阻害をもたらす。1つ以上のアミノ酸修飾(例えば、置換及び/または欠失)は、AAVキャプシドタンパク質を含有するAAV-抗体複合体のペプチドエピトープマッピング及び/または低温電子顕微鏡法研究によって特定される1つ以上の抗原フットプリント内にあり得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の抗原部位は、WO2017/058892(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載される一般的な抗原モチーフまたはCAMである。いくつかの実施形態では、抗原部位は、VR-I、VR-II、VR-III、VR-IV、VR-V、VR-VI、VR-VII、VR-VIII、VR-IXなどのAAVキャプシドタンパク質の可変領域(VR)にある。いくつかの実施形態では、1つ以上の抗原部位は、AAVキャプシドタンパク質のHIループ内にある。
【0072】
いくつかの実施形態では、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh8、AAVrh10、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh32.22、ウシAAV、または鳥類AAVキャプシドタンパク質は、以下の表5に特定される領域のうちの1つ以上においてアミノ酸修飾(例えば、置換または欠失)を含む。
【表5-1】

【表5-2】

【表5-3】

【表5-4】
【0073】
いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、以下の血清型:AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh8、AAVrh10、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh32.22、ウシAAV、または鳥類AAVのうちのいずれか1つからのAAVキャプシドタンパク質において任意の8つのアミノ酸を置き換える。例えば、アミノ酸置換は、上に列記したAAV血清型のいずれかにおける次のアミノ酸(VP1番号付け):355~362、363~370、371~378、379~386、387~394、395~402、403~410、411~418、419~426、427~434、435~442、443~450、451~458、459~466、467~474、475~482、483~490、491~498、499~506、507~514、515~522、523~530、531~538、539~546、547~554、555~562、563~570、571~578、579~586、587~594、595~602、603~610、611~618、619~626、627~634、635~642、643~650、651~658、659~666、667~674、675~682、683~690、691~698、699~706、707~714、715~722を置き換えてもよい。
【0074】
いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、配列番号19~20のうちのいずれか1つから選択される。いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、配列番号12~18のうちのいずれか1つと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列相同性を有する。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAV9キャプシドのアミノ酸587~594に対応するアミノ酸にある。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAV1キャプシドのアミノ酸587~594に対応するアミノ酸にある。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAV6キャプシドのアミノ酸587~594に対応するアミノ酸にある。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAV8キャプシドのアミノ酸589~596に対応するアミノ酸にある。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAVrh8キャプシドのアミノ酸587~594に対応するアミノ酸にある。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAVrh10キャプシドのアミノ酸589~596に対応するアミノ酸にある。
【0075】
いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、配列番号18~20のうちのいずれか1つから選択される。いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、配列番号18~20のうちのいずれか1つと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列相同性を有する。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAV9キャプシドのアミノ酸451~458に対応するアミノ酸にある。
【0076】
いくつかの実施形態では、アミノ酸欠失は、野生型キャプシドと比較して、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、または少なくとも10のアミノ酸の欠失を含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドは、1つ以上のアミノ酸置換及び1つ以上のアミノ酸欠失を含む。いくつかの実施形態では、キャプシドは、少なくとも1つのアミノ酸置換及び少なくとも1つのアミノ酸欠失を含む。いくつかの実施形態では、キャプシドは、少なくとも1つのアミノ酸置換及び少なくとも1つのアミノ酸欠失を含み、少なくとも1つのアミノ酸置換及び少なくとも1つのアミノ酸欠失は、キャプシドアミノ酸配列において互いに直接隣接する。
【0078】
いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、AAVウイルス粒子またはAAVウイルスベクター内に存在する場合、CNS(例えば、脳、脊髄)を選択的に標的とする表現型を有するAAVキャプシドを産生するように修飾される。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、AAVウイルス粒子またはAAVウイルスベクター内に存在する場合、中和抗体を回避する表現型を有するAAVキャプシドを産生するように修飾される。AAVウイルス粒子またはベクターは、中和抗体を回避する、及び/またはCNSを標的とする表現型に加えて、増強または維持された形質導入効率の表現型を有することもできる。
【0079】
いくつかの実施形態では、1つ以上の置換は、第1のAAV血清型のキャプシドタンパク質からの1つ以上の配列を、第1のAAV血清型とは異なる第2のAAV血清型のキャプシドタンパク質に導入することができる。
【0080】
修飾が付加される塩基AAVキャプシドタンパク質は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh.32.33、AAVrh74、ウシAAV、鳥類AAV、または現在知られているか、もしくは後に特定される任意の他のAAVから選択されるAAV血清型のキャプシドタンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、塩基AAVキャプシドタンパク質は、AAV9血清型のものである。いくつかの実施形態では、塩基AAVキャプシドタンパク質は、キメラである。いくつかの実施形態では、塩基AAVキャプシドタンパク質は、AAV8/9キメラである。
【0081】
修飾されたAAVキャプシドタンパク質のいくつかの例が本明細書に提供される。以下の実施例では、キャプシドタンパク質は、記載される特定の置換を含むことができ、いくつかの実施形態では、記載される置換よりも少ないまたは多い置換を含むことができる。本明細書で使用される場合、「置換」は、単一アミノ酸置換、または2つ以上の近接したアミノ酸の置換を指し得る。例えば、いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10などの単一アミノ酸置換を含み得る。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、または12の近接したアミノ酸の1つ以上の置換など、複数の近接したアミノ酸の1つ以上の置換を含み得る。
【0082】
さらに、アミノ酸残基が野生型または天然アミノ酸配列に存在するアミノ酸残基以外の任意のアミノ酸残基によって置換される本明細書に記載のいくつかの実施形態では、任意の他のアミノ酸残基は、当該技術分野で既知の任意の天然または非天然アミノ酸残基であり得る(例えば、表2及び3を参照されたい)。いくつかの実施形態では、置換は、保存的置換であってもよく、いくつかの実施形態では、置換は、非保存的置換であってもよい。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、1つ以上のアミノ酸置換を含み、アミノ酸置換はそれぞれ、表6.1に示される、配列番号12~18から個別に選択される。
【表6】
【0083】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、1つ以上のアミノ酸置換を含み、アミノ酸置換はそれぞれ、表6.2に示される、配列番号19~20から選択される。
【表7】
【0084】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、表6.1に列記される配列から選択される第1の置換及び表6.2に列記される配列から選択される第2の置換を含み得る。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、表6.3及び6.4に示される、第1の置換、第2の置換を含み得る。
【表8】
【表9】
【0085】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸修飾(例えば、置換及び/または欠失)を含み、アミノ酸修飾は、AAVキャプシドタンパク質上の1つ以上の表面暴露領域、例えば、抗原領域を修飾する。
【0086】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、1つ以上のアミノ酸置換を含み、アミノ酸置換のうちの少なくとも1つは、配列番号19~20のうちの1つを含む。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAV9キャプシドのアミノ酸587~594に対応するアミノ酸を置き換える。
【0087】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、1つ以上のアミノ酸置換を含み、アミノ酸置換のうちの少なくとも1つは、配列番号12~18のうちの1つを含む。いくつかの実施形態では、置換は、野生型AAV9キャプシドのアミノ酸451~458に対応するアミノ酸を置き換える。
【0088】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、天然キャプシドタンパク質配列に生じない8つのアミノ酸(X-X-X-X-X-X-X-X)(配列番号158)の配列を含む置換を含む。いくつかの実施形態では、XはIではなく、XはNではなく、XはGではなく、XはSではなく、XはGではなく、XはQではなく、XはNではなく、及び/またはXはQではない。いくつかの実施形態では、Xは、S、F、Q、G、K、またはRである。いくつかの実施形態では、Xは、C、G、R、D、T、またはQである。いくつかの実施形態では、Xは、Q、V、G、Y、R、F、またはDである。いくつかの実施形態では、Xは、P、Q、A、またはRである。いくつかの実施形態では、Xは、T、N、A、P、またはIである。いくつかの実施形態では、Xは、V、Q、A、またはIである。いくつかの実施形態では、Xは、M、P、R、Q、またはNである。いくつかの実施形態では、Xは、N、L、F、E、H、またはAである。いくつかの実施形態では、XはSであり、XはCであり、XはQであり、XはPであり、XはTであり、XはVであり、XはMであり、XはNである。いくつかの実施形態では、XはFであり、XはGであり、XはVであり、XはPであり、XはNであり、XはQであり、XはPであり、XはLである。いくつかの実施形態では、XはQであり、XはRであり、XはGであり、XはQであり、XはAであり、XはAであり、XはPであり、XはFである。いくつかの実施形態では、XはGであり、XはDであり、XはYであり、XはAであり、XはPであり、XはIであり、XはRであり、XはEである。いくつかの実施形態では、XはKであり、XはTであり、XはRであり、XはRであり、XはIであり、XはVであり、XはQであり、XはHである。いくつかの実施形態では、XはFであり、XはGであり、XはFであり、XはPであり、XはNであり、XはQであり、XはPであり、XはLである。いくつかの実施形態では、XはRであり、XはQであり、XはDであり、XはQであり、XはPであり、XはIであり、XはNであり、XはAである。
【0089】
いくつかの実施形態では、XはAではなく、XはQではなく、XはAではなく、XはQではなく、XはAではなく、XはQではなく、XはTではなく、及び/またはXはGではない。いくつかの実施形態では、XはSである。いくつかの実施形態では、XはKまたはTである。いくつかの実施形態では、XはVである。いくつかの実施形態では、XはEまたはDである。いくつかの実施形態では、XはSである。いくつかの実施形態では、XはWまたはIである。いくつかの実施形態では、XはTまたはAである。いくつかの実施形態では、XはEまたはIである。いくつかの実施形態では、XはSであり、XはKであり、XはVであり、XはEであり、XはSであり、XはWであり、XはTであり、XはEである。いくつかの実施形態では、XはSであり、XはTであり、XはVであり、XはDであり、XはSであり、XはIであり、XはAであり、XはIである。
【0090】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、1つ以上のアミノ酸欠失を含み、アミノ酸欠失は、野生型AAVキャプシドと比較して、少なくとも6つまたは少なくとも8つのアミノ酸の欠失を含む。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、天然キャプシドタンパク質配列と比較して8つの連続したアミノ酸の欠失を含む。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、天然キャプシドタンパク質配列と比較して6つの連続したアミノ酸の欠失を含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、配列LSKTQTLK(配列番号1374)または配列LSKTDPQTLK(配列番号1375)を含む。いくつかの実施形態では、配列番号1374または1375を含むAAVキャプシドタンパク質は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、AAVrh74、鳥類AAV、及びウシAAVから選択される血清型のものである。
【0092】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、配列番号12~18から選択される配列を含む第1の置換と、配列番号19~20から選択される配列を含む第2の置換と、を含む。
【0093】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸欠失及び置換を含み、置換は、配列番号12~20から選択される配列を含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、組換えキャプシドタンパク質は、配列番号9(AAV9)と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である配列を有し、以下のアミノ酸置換:I451S、I451F、I451Q、I451G、I451K、I451R、N452C、N452G、N452R、N452D、N452T、N452Q、G453Q、G453V、G453Y、G453R、G453F、G453D、S454P、S454Q、S454A、S454R、G455T、G455N、G455A、G455P、G455I、Q456V、Q456A、Q456I、N457M、N457P、N457R、N457Q、Q458N、Q458L、Q458F、Q458E、Q458H、Q458A、A587S、Q588K、Q588T、A589V、Q590E、Q590D、A591S、Q592W、Q592I、T593A、G594E、G594Iのうちの1つ以上を含む。
【0095】
本明細書に記載のAAVキャプシドのいずれも、HIループ内に修飾(例えば、置換または欠失)をさらに含み得る。HIループは、β鎖βHとβIとの間の、隣接する5倍のウイルスタンパク質(VP)に重複する各VPサブユニットから伸びる、AAVキャプシド表面上の顕著なドメインである。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドは、HIループ内に1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つのアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドは、HIループ内に以下の置換:P661R、T662S、Q666G、S667Dのうちの1つ以上を含み、番号付けは、野生型AAV8キャプシド(配列番号8)に対応する。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドは、HIループ内に以下の置換:P659R、T660S、A661T、K664Gのうちの1つ以上を含み、番号付けは、野生型AAV9キャプシド(配列番号9)に対応する。
【0096】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、1つ、2つ、3つ、または4つのアミノ酸置換を含み、各置換は、AAVキャプシドタンパク質上の異なる抗原部位を修飾し、アミノ酸置換のうちの少なくとも1つは、キャプシドタンパク質のHIループを修飾する。
【0097】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、第1、第2、第3、及び第4のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、置換のうちの少なくとも1つは、キャプシドタンパク質のHIループを修飾する。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドは、HIループ内に以下の置換:P661R、T662S、Q666G、S667D(番号付けは、野生型AAV8キャプシド(配列番号8)に対応する)、またはP659R、T660S、A661T、K664G(番号付けは、野生型AAV9キャプシド(配列番号9)に対応する)のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、配列番号185~187のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、配列番号165~187のいずれか1つに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を共有するアミノ酸配列を含む。
【0098】
本明細書に記載のAAVキャプシドタンパク質のうちの1つ以上をコードするヌクレオチド配列、またはそれを含む発現ベクターもまた、本明細書に提供される。ヌクレオチド配列は、DNA配列またはRNA配列であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、本明細書に記載の1つ以上のヌクレオチド配列または発現ベクターを含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドは、本明細書に記載されるAAVキャプシドタンパク質を含む。AAVキャプシドを含むウイルスベクター、ならびに薬学的に許容される担体にAAVキャプシドタンパク質、AAVキャプシド、及び/またはウイルスベクターを含む組成物が本明細書にさらに提供される。
【0100】
いくつかの実施形態では、1つ以上の抗原部位の修飾は、抗体による1つ以上の抗原部位への結合の阻害をもたらす。いくつかの実施形態では、1つ以上の抗原部位の修飾は、AAVキャプシドタンパク質を含むウイルス粒子の感染力の中和の阻害をもたらす。
【0101】
本明細書に記載されるように、いくつかのAAVからのキャプシドタンパク質の核酸及びアミノ酸配列は、当該技術分野で既知である。したがって、天然AAVキャプシドタンパク質のアミノ酸位置に「対応する」アミノ酸は、任意の他のAAVについて(例えば、配列アラインメントを使用することによって)容易に決定することができる。
【0102】
修飾されたキャプシドタンパク質は、現在知られているか、または後に発見される任意のAAVのキャプシドタンパク質を修飾することによって産生され得る。さらに、修飾される塩基AAVキャプシドタンパク質は、天然に存在するAAVキャプシドタンパク質(例えば、AAV2、AAV3aもしくは3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、またはAAV11キャプシドタンパク質、あるいは表2に示されるAAVのいずれか)であり得るが、それほど限定されない。当業者は、AAVキャプシドタンパク質に対する様々な操作が当技術分野で既知であり、本開示は、天然に存在するAAVキャプシドタンパク質の修飾に限定されないことを理解するであろう。例えば、修飾されるキャプシドタンパク質は、天然に存在するAAV(例えば、天然に存在するAAVキャプシドタンパク質、例えば、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、または現在知られているか、もしくは後に発見される任意の他のAAVに由来する)と比較して、既に改変を有し得る。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、キメラキャプシドタンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、AAV2i8、AAV2g9、AAV-LK03、AAV7m8、AAV Anc80、AAV PHP.Bなどの操作されたAAVであり得る。
【0103】
したがって、いくつかの実施形態では、修飾されるAAVキャプシドタンパク質は、天然に存在するAAVに由来し得るが、キャプシドタンパク質に挿入される、及び/または置換される、及び/または1つ以上のアミノ酸の欠失によって改変された1つ以上の外来配列(例えば、天然ウイルスに外因性である)をさらに含む。
【0104】
したがって、本明細書で特定のAAVキャプシドタンパク質(例えば、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、もしくはAAV11キャプシドタンパク質、または表2に示されるAAVのいずれかからのキャプシドタンパク質など)を指す場合、天然キャプシドタンパク質、ならびに本明細書に記載の修飾以外の改変を有するキャプシドタンパク質を包含することが意図される。そのような改変には、置換、挿入、及び/または欠失が含まれる。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、天然AAVキャプシドタンパク質配列と比較して、挿入された(本明細書に記載の挿入を除く)1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20、20未満、30未満、40未満、50未満、60未満、もしくは70未満のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、天然AAVキャプシドタンパク質配列と比較して、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20、20未満、30未満、40未満、50未満、60未満、もしくは70未満のアミノ酸置換(本明細書に記載のアミノ酸置換を除く)を含み、いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質は、天然AAVキャプシドタンパク質配列と比較して、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20、20未満、30未満、40未満、50未満、60未満、もしくは70未満のアミノ酸の欠失を含む。
【0105】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、天然AAVキャプシドタンパク質配列と少なくとも約90%、約95%、約97%、約98%、または約99%類似するかまたは同一であるアミノ酸配列を有する。
【0106】
2つ以上のアミノ酸配列間の配列類似性または同一性を決定する方法は、当該技術分野で既知である。配列類似性または同一性は、限定されないが、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2,482(1981)の局在的配列同一性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J Mol.Biol.48,443(1970)の配列同一性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,2444(1988)の類似検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータ実装(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA、Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,WI)によるもの、Devereux et al,Nucl.Acid Res.12,387-395(1984)により記載されるベストフィット配列プログラム、または検査によるものを含む、標準的な技法を使用して決定され得る。
【0107】
別の好適なアルゴリズムは、Altschul et al.,J Mol.Biol.215,403-410,(1990)、及びKarlin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,5873-5787(1993)に記載されているBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al.,Methods in Enzymology,266,460-480(1996);http://blast.wustl/edu/blast/README.htmlから得たWU-BLAST-2プログラムである。WU-BLAST-2は、いくつかの検索パラメータを使用し、任意選択でデフォルト値に設定される。パラメータは、動的値であり、特定の配列の組成及び目的の配列が検索される特定のデータベースの組成に応じて、プログラム自体によって確立される。しかしながら、値は、感度を増加させるために調整されてもよい。
【0108】
さらに、追加の有用なアルゴリズムは、Altschul et al,(1997)Nucleic Acids Res.25,3389-3402によって報告されるように、ギャップBLASTである。
【0109】
いくつかの実施形態では、ウイルスキャプシドは、本明細書に記載される修飾されたAAVキャプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、ウイルスキャプシドは、パルボウイルスキャプシドであり、これはさらに、自律性パルボウイルスキャプシドまたはディペンドウイルスキャプシドであってもよい。任意選択で、ウイルスキャプシドは、AAVキャプシドである。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドは、AAV1、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、ウシAAVキャプシド、鳥類AAVキャプシド、または現在知られているか、もしくは後に特定される任意の他のAAVである。AAV血清型の非限定的なリストは、表2に示される。AAVキャプシドは、表2に列記される任意のAAV血清型であり得るか、または1つ以上の挿入、置換、及び/または欠失によって前述のいずれかに由来し得る。修飾されたウイルスキャプシドによってパッケージングされ、細胞に移行され得る分子には、カーゴ核酸(例えば、異種DNAもしくはRNA)、ポリペプチド、有機小分子、金属、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0110】
異種分子は、AAV感染において自然に見出されないもの、例えば、野生型AAVゲノムによってコードされないものとして定義される。さらに、治療上有用な分子は、分子の宿主標的細胞への移行のために、キメラウイルスキャプシドの外側と会合することができる。そのような会合分子には、DNA、RNA、有機小分子、金属、炭水化物、脂質、及び/またはポリペプチドが含まれ得る。いくつかの実施形態では、治療上有用な分子は、キャプシドタンパク質に共有結合されている(すなわち、コンジュゲートされているか、または化学結合されている)。分子を共有結合させる方法は、当業者に既知である。
【0111】
修飾されたウイルスキャプシドはまた、新規キャプシド構造に対する抗体の産生にも用いられる。さらなる代替として、外因性アミノ酸配列は、細胞に対する抗原提示のために、例えば、対象に投与して外因性アミノ酸配列に対する免疫応答を生じさせるために、修飾されたウイルスキャプシドに挿入され得る。
【0112】
いくつかの実施形態では、ウイルスキャプシドは、目的のポリペプチドまたは機能性RNAをコードする核酸を送達するウイルスベクターの投与の前に、及び/またはそれと同時に(例えば、互いに数分または数時間以内に)、ある特定の細胞部位を遮断するように投与され得る。例えば、本発明のキャプシドは、肝細胞上の細胞受容体を遮断するように送達することができ、送達ベクターは、後で、または同時に投与することができ、これは、肝細胞の形質導入を低減し、他の標的(例えば、骨格筋、心筋、及び/または横隔膜筋)の形質導入を増強し得る。
【0113】
いくつかの実施形態によれば、修飾されたウイルスキャプシドは、本明細書に記載される修飾されたウイルスベクターの前に、及び/またはそれと同時に対象に投与され得る。さらに、本開示は、本発明の修飾されたウイルスキャプシドを含む組成物及び薬学的製剤を提供し、任意選択で、組成物は、本明細書に記載される修飾されたウイルスベクターも含む。
【0114】
いくつかの実施形態では、核酸(任意選択で、単離された核酸)は、本明細書に記載の修飾されたウイルスキャプシド及びキャプシドタンパク質をコードする。核酸を含むベクター、ならびに本明細書に記載の核酸及び/またはベクターを含む細胞(インビボまたは培養において)がさらに提供される。一例として、ウイルスベク`ターは、(a)本明細書に記載される修飾されたAAVキャプシドと、(b)少なくとも1つの末端反復配列を含む核酸と、を含み、核酸は、AAVキャプシドによりキャプシド形成される。
【0115】
他の好適なベクターには、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、ワクシニア、ポックスウイルス、バキュロウイルス、レンチウイルス、コロナウイルスなど)、プラスミド、ファージ、YAC、BACなどが含まれるが、これらに限定されない。そのような核酸、ベクター、及び細胞は、例えば、本明細書に記載される修飾されたウイルスキャプシドまたはウイルスベクターの産生のための試薬(例えば、ヘルパーパッケージング構築物またはパッケージング細胞)として使用され得る。
【0116】
本明細書に記載のウイルスキャプシドは、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して、例えば、バキュロウイルス系を使用することにより産生することができる(Brown et al.,(1994)Virology 198:477-488)。
【0117】
本明細書に記載されるAAVキャプシドタンパク質に対する修飾は、「選択的」修飾である。このアプローチは、AAV血清型間の全サブユニットまたは大域スワップに関する以前の研究とは対照的である(例えば、国際特許公開第WO00/28004号及びHauck et al.,(2003)J.Virology 77:2768-2774を参照されたい)。いくつかの実施形態では、「選択的」修飾は、約20、18、15、12、10、9つ、8つ、7つ、6つ、5つ、4つ、または3つ以下の近接したアミノ酸の挿入、及び/または置換、及び/または欠失をもたらす。
【0118】
本明細書に記載の修飾されたキャプシドタンパク質及びキャプシドは、現在知られているか、または後に特定される任意の他の修飾をさらに含み得る。例えば、AAVキャプシドタンパク質及びウイルスキャプシドは、例えば、国際特許公開第WO00/28004号に記載されるように、別のウイルス、任意選択で別のパルボウイルスもしくはAAVからのキャプシドサブユニットの全てまたは一部を含み得るという点でキメラであり得る。
【0119】
いくつかの実施形態では、ウイルスキャプシドは、所望の標的組織(複数可)上に存在する細胞表面分子と相互作用するようにウイルスキャプシドを指向する標的配列(例えば、ウイルスキャプシドに置換されるか、または挿入される)を含む標的化ウイルスキャプシドであり得る(例えば、国際特許公開第WO00/28004、及びHauck et al.,(2003)J.Virology 77:2768-2774)、Shi et al.,Human Gene Therapy 17:353-361(2006)[AAVキャプシドサブユニットの520位及び/または584位におけるインテグリン受容体結合モチーフRGDの挿入を記載する]、ならびに米国特許第7,314,912号[AAV2キャプシドサブユニットのアミノ酸447位、534位、573位、及び587位に続くRGDモチーフを含有するPIペプチドの挿入を記載する]を参照されたい)。挿入を許容するAAVキャプシドサブユニット内の他の位置は、当該技術分野で既知である(例えば、Grifman et al.,Molecular Therapy 3:964-975(2001)により記載される449位及び588位)。
【0120】
例えば、本明細書に記載されるウイルスキャプシドは、目的のある特定の標的組織(例えば、肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋、腎臓、脳、胃、腸、皮膚、内皮細胞、及び/または肺)に対して比較的非効率的な向性を有し得る。標的配列は、これらの低形質導入ベクターに有利に組み込まれ得、それにより、ウイルスキャプシドに所望の向性、及び任意選択で特定の組織(複数可)に対する選択的向性を付与する。標的配列を含むAAVキャプシドタンパク質、キャプシド、及びベクターは、例えば、国際特許公開第WO00/28004号に記載されている。別の例として、Wang et al.,Annu Rev Biophys Biomol Struct.35:225-49(2006)により記載されるものなどの1つ以上の非天然に存在するアミノ酸を、低形質導入ベクターを所望の標的組織(複数可)に再指向する手段として、直交部位で本明細書に記載されるAAVキャプシドサブユニットに組み込むことができる。これらの非天然アミノ酸は、限定されないが、グリカン(マンノース-樹状細胞標的)、特定のがん細胞型への標的化送達のためのRGD、ボンベシン、またはニューロペプチド、成長因子受容体、インテグリンなどの特定の細胞表面受容体を標的とするファージディスプレイから選択されるRNAアプタマーまたはペプチドを含む、目的の分子をAAVキャプシドタンパク質に化学的に連結するために有利に使用され得る。
【0121】
いくつかの実施形態では、標的配列は、特定の細胞型(複数可)に感染を指向するウイルスキャプシド配列(例えば、自律性パルボウイルスキャプシド配列、AAVキャプシド配列、または任意の他のウイルスキャプシド配列)であってもよい。
【0122】
別の非限定的な例として、ヘパリンまたはヘパラン硫酸結合ドメイン(例えば、呼吸器合胞体ウイルスヘパリン結合ドメイン)は、典型的にはHS受容体(例えば、AAV4、AAV5)に結合しないキャプシドサブユニットに挿入または置換されて、得られる変異体にヘパリン及び/またはヘパラン硫酸結合を付与し得る。
【0123】
B19は、グロボシドをその受容体として使用して、一次赤血球前駆細胞に感染する(Brown et al,(1993)Science 262:114)。B19の構造は、8Å分解能に決定されている(Agbandje-McKenna et al,(1994)Virology 203:106)。グロボシドに結合するB19キャプシドの領域は、アミノ酸399~406(Chapman et al.,(1993)Virology 194:419)、βバレル構造EとFとの間のループアウト領域(Chipman et al.,(1996)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:7502)にマッピングされている。したがって、B19キャプシドのグロボシド受容体結合ドメインは、AAVキャプシドタンパク質に置換されて、ウイルスキャプシドまたはそれを含むウイルスベクターを赤血球細胞に標的化することができる。
【0124】
いくつかの実施形態では、外因性標的配列は、修飾されたAAVキャプシドタンパク質を含むウイルスキャプシドまたはウイルスベクターの向性を改変するペプチドをコードする任意のアミノ酸配列であり得る。いくつかの実施形態では、標的ペプチドまたはタンパク質は、天然に存在するか、または代替的に、完全にもしくは部分的に合成され得る。例示的な標的配列には、細胞表面受容体及び糖タンパク質に結合するリガンド及び他のペプチド、例えば、RODペプチド配列、ブラジキニン、ホルモン、ペプチド成長因子(例えば、表皮成長因子、神経成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子I及びIIなど)、サイトカイン、メラノサイト刺激ホルモン(例えば、a、β、またはγ)、ニューロペプチド及びエンドルフィンなど、ならびに細胞をそれらの同族受容体に標的化する能力を保持するそれらの断片が含まれる。他の例示的なペプチド及びタンパク質としては、上述されるように、物質P、ケラチノサイト成長因子、ニューロペプチドY、ガストリン放出ペプチド、インターロイキン2、ニワトリ卵白リゾチーム、エリスロポエチン、ゴナドリブクリン(gonadolibcrin)、コルチコスタチン、β-エンドルフィン、leu-エンケファリン、リモルフィン、アルファ-ネオ-エンケファリン、アンジオテンシン、ニューマジン(pneumadin)、血管作動性腸管ペプチド、ニューロテンシン、モチリン、及びそれらの断片が挙げられる。またさらなる代替として、毒素(例えば、破傷風毒素またはアルファ-ブンガロトキシンなどのヘビ毒素)からの結合ドメインは、標的配列としてキャプシドタンパク質に置換され得る。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、Cleves(Current Biology 7:R318(1997)により記載される「非古典的」輸入/輸出シグナルペプチド(例えば、線維芽細胞成長因子-1及び-2、インターロイキン1、HIV-1 Tatタンパク質、ヘルペスウイルスVP22タンパク質など)の置換によって、AAVキャプシドタンパク質が修飾され得る。また、特定の細胞による取り込みを指向するペプチドモチーフ、例えば、肝細胞による取り込みを引き起こすFVFLP(配列番号22)ペプチドモチーフも包含される。
【0125】
ファージディスプレイ技法、ならびに当該技術分野で既知の他の技法を使用して、目的の任意の細胞型を認識するペプチドを特定することができる。
【0126】
標的配列は、受容体(例えば、タンパク質、炭水化物、糖タンパク質、またはプロテオグリカン)を含む、細胞表面結合部位を標的とする任意のペプチドをコードし得る。細胞表面結合部位の例には、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、及び他のグリコサミノグリカン、ムチンに見られるシアル酸部分、糖タンパク質、ならびにガングリオシド、MHC1糖タンパク質、膜糖タンパク質に見られる炭水化物構成成分(マンノース、N-アセチル-ガラクトサミン、N-アセチル-グルコサミン、フコース、ガラクトースなどを含む)が含まれるが、これらに限定されない。
【0127】
いくつかの実施形態では、ヘパラン硫酸(HS)またはヘパリン結合ドメインは、ウイルスキャプシドに(例えば、そうでなければHSまたはヘパリンに結合しないAAVキャプシドに)置換される。HS/ヘパリン結合は、アルギニン及び/またはリジンが豊富である「塩基性パッチ」によって媒介されることが当該技術分野で既知である。いくつかの実施形態では、「B」が塩基性残基であり、Xが中性及び/または疎水性残基である、モチーフBXXB(配列番号23)に続く配列を用いることができる。非限定的な例として、BXXBは、RGNR(配列番号24)であり得る。別の非限定的な例として、BXXBは、天然AAV2キャプシドタンパク質のアミノ酸位置262~265に、または別のAAV血清型のキャプシドタンパク質の対応する位置(複数可)で置換される。
【0128】
表7は、好適な標的配列の他の非限定的な例を示す。
【表10-1】

【表10-2】

【表10-3】

【表10-4】

【表10-5】

【表10-6】
【0129】
いくつかの実施形態では、標的配列は、細胞への侵入を標的とする別の分子への化学結合のために使用され得る(例えば、それらのR基を介して化学結合され得るアルギニン及び/またはリジン残基を含み得る)ペプチドであってもよい。
【0130】
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質またはウイルスキャプシドは、WO2006/066066に記載される変異を含み得る。例えば、キャプシドタンパク質は、天然AAV2キャプシドタンパク質のアミノ酸位置263、705、708、及び/または716に選択的アミノ酸置換、または別のAAV血清型からのキャプシドタンパク質において対応する変化(複数可)を含み得る。
【0131】
追加的または代替的に、いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターは、AAV2キャプシドタンパク質のアミノ酸位置264の直後に選択的アミノ酸の挿入、または他のAAVからのキャプシドタンパク質において対応する変化を含む。「アミノ酸位置Xの直後」とは、挿入が、指示されたアミノ酸位置のすぐ後に続くことを意図する(例えば、「アミノ酸位置264の後」は、265位の点挿入、またはより大きな挿入、例えば、位置265~268などを示す)。
【0132】
さらに、いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターは、PCT公開第WO2010/093784号(例えば、2i8)及び/またはPCT公開第WO2014/144229号(例えば、二重グリカン)などに記載されるアミノ酸修飾を含み得る。
【0133】
いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターは、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターが由来するAAV血清型の形質導入効率に対して等しい、または増強された形質導入効率を有し得る。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターは、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターが由来するAAV血清型の形質導入効率に対して低減した形質導入効率を有し得る。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターは、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターが由来するAAV血清型の向性に対して等しい、または増強された向性を有し得る。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターは、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターが由来するAAV血清型の向性に対して改変されたまたは異なる向性を有し得る。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターは、脳組織に向性を有するか、またはそれを有するように操作され得る。いくつかの実施形態では、キャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、またはベクターは、肝組織に向性を有するか、またはそれを有するように操作され得る。
【0134】
本明細書に記載のAAVベクターを使用して、異種核酸を細胞または対象に送達することができる。例えば、修飾されたベクターは、本明細書に記載される、ムコ多糖症障害(例えば、スライ症候群[β-グルクロニダーゼ]、ハーラー症候群[アルファ-L-イズロニダーゼ]、シャイエ症候群[アルファ-L-イズロニダーゼ]、ハーラー-シャイエ症候群[アルファ-L-イズロニダーゼ]、ハンター症候群[イズロン酸スルファターゼ]、サンフィリポ症候群(A[ヘパランスルファミダーゼ]、B[N-アセチルグルコサミニダーゼ]、C[アセチル-CoA:アルファ-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ]、D[N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ])、モルキオ症候群(A[ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ]、B[β-ガラクトシダーゼ])、マロトー-ラミー症候群[N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ]など)、ファブリー病(a-ガラクトシダーゼ)、ゴーシャー病(グルコセレブロシダーゼ)、または糖原貯蔵障害(例えば、ポンペ病、リソソーム酸アルファ-グルコシダーゼ)などの糖リソソーム貯蔵障害を治療するために使用することができる。
【0135】
当業者であれば、いくつかのAAVキャプシドタンパク質について、対応するアミノ酸位置がウイルスに部分的にまたは完全に存在するか、または代替的に完全に不在であるかに応じて、対応する修飾が挿入及び/または置換であることを理解するであろう。
【0136】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、本明細書に記載の修飾されたキャプシドタンパク質及びキャプシドを含む。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、パルボウイルスベクター(例えば、パルボウイルスキャプシド及び/またはベクターゲノムを含む)、例えば、AAVベクター(例えば、AAVキャプシド及び/またはベクターゲノムを含む)である。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、本明細書に記載される修飾されたキャプシド及びベクターゲノムを含む修飾されたAAVキャプシドを含む。
【0137】
例えば、いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、(a)本明細書に記載の修飾されたキャプシドタンパク質を含む修飾されたウイルスキャプシド(例えば、修飾されたAAVキャプシド)と、(b)末端反復配列(例えば、AAV TR)を含む核酸と、を含み、末端反復配列を含む核酸は、修飾されたウイルスキャプシドによってキャプシド形成される。核酸は、任意選択で、2つの末端反復(例えば、2つのAAV TR)を含み得る。
【0138】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、目的のポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を含む組換えウイルスベクターである。組換えウイルスベクターは、以下でより詳細に記載される。
【0139】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、(i)修飾されたキャプシドタンパク質を含まないウイルスベクターによる形質導入のレベルと比較して、肝臓の形質導入が低減し、(ii)修飾されたキャプシドタンパク質を含まないウイルスベクターにより観察されるレベルと比較して、動物対象におけるウイルスベクターによる全身形質導入の増強を呈し、(iii)修飾されたキャプシドタンパク質を含まないウイルスベクターによる移動のレベルと比較して、内皮細胞横断の増強を示し、及び/または(iv)筋肉組織(例えば、骨格筋、心筋、及び/または横隔膜筋)の形質導入における選択的増強を示し、(v)肝組織の形質導入における選択的増強を呈し、及び/または(vi)修飾されたキャプシドタンパク質を含まないウイルスベクターによる形質導入のレベルと比較して、脳組織(例えば、神経細胞)の形質導入が低減した。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、肝臓に対して全身形質導入を有する。
【0140】
当業者であれば、本明細書に記載の修飾されたキャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、及びウイルスベクターは、それらの天然状態の特定の位置に指示されたアミノ酸を有するそれらのキャプシドタンパク質、キャプシド、及びウイルスベクターを除外する(すなわち、変異体ではない)ことを理解するであろう。
【0141】
ウイルスベクターの産生方法
本明細書では、ウイルスベクターの産生方法も提供される。いくつかの実施形態では、中和抗体を回避するAAVベクターの産生方法は、a)AAVキャプシドタンパク質上に三次元抗原フットプリントを形成する接触アミノ酸残基を特定することと、b)(a)で特定された接触アミノ酸残基のアミノ酸置換を含むAAVキャプシドタンパク質のライブラリを生成することと、c)(b)のAAVキャプシドタンパク質のライブラリからキャプシドタンパク質を含むAAV粒子を産生することと、d)(c)のAAV粒子を、感染及び複製が生じ得る条件下で細胞と接触させることと、e)少なくとも1回の感染サイクルを完了し、対照AAV粒子と同様の力価に複製することができるAAV粒子を選択することと、1)(e)で選択されたAAV粒子を、感染及び複製が生じ得る条件下で中和抗体及び細胞と接触させることと、g)(f)の中和抗体によって中和されないAAV粒子を選択することとを含む。接触アミノ酸残基を特定するための方法の非限定的な例としては、ペプチドエピトープマッピング及び/または低温電子顕微鏡法が挙げられる。
【0142】
三次元抗原フットプリント内の抗体接触残基の分解能及び特定は、ランダム、合理的及び/または変性変異誘発を通じてそれらの後続の修飾を可能にして、さらなる選択及び/またはスクリーニングを通じて特定され得る、抗体を回避するAAVキャプシドを生成する。
【0143】
したがって、いくつかの実施形態では、中和抗体を回避するAAVベクターの産生方法は、a)AAVキャプシドタンパク質上に三次元抗原フットプリントを形成する接触アミノ酸残基を特定することと、b)ランダム、合理的及び/または変性変異誘発により、(a)で特定された接触アミノ酸残基のアミノ酸置換を含むAAVキャプシドタンパク質を生成することと、c)(b)のAAVキャプシドタンパク質からキャプシドタンパク質を含むAAV粒子を産生することと、d)(c)のAAV粒子を、感染及び複製が生じ得る条件下で細胞と接触させることと、e)少なくとも1回の感染サイクルを完了し、対照AAV粒子と同様の力価に複製することができるAAV粒子を選択することと、f)(e)で選択されたAAV粒子を、感染及び複製が生じ得る条件下で中和抗体及び細胞と接触させることと、g)(f)の中和抗体によって中和されないAAV粒子を選択することとを含む。
【0144】
接触アミノ酸残基を特定するための方法の非限定的な例としては、ペプチドエピトープマッピング及び/または低温電子顕微鏡法が挙げられる。ランダム、合理的及び/または変性変異誘発により、接触アミノ酸残基のアミノ酸置換を含むAAVキャプシドタンパク質を生成する方法は、当該技術分野で既知である。
【0145】
この包括的なアプローチは、任意のAAVキャプシドを修飾するために適用され得るプラットフォーム技術を提示する。このプラットフォーム技術の適用により、形質導入効率を損なうことなく、元のAAVキャプシドテンプレートに由来するAAV抗原バリアントが得られる。1つの利点及び利益として、この技術の適用により、AAVベクターによる遺伝子療法の対象となる患者のコホートが拡大される。
【0146】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターの産生方法は、細胞に、(a)少なくとも1つのTR配列(例えば、AAV TR配列)を含む核酸テンプレートと、(b)核酸テンプレートの複製及びAAVキャプシドへのキャプシド形成に十分なAAV配列(例えば、AAV rep配列及びAAVキャプシドをコードするAAV cap配列)と、を提供することを含む。任意選択で、核酸テンプレートは、少なくとも1つの異種核酸配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、核酸テンプレートは、異種核酸配列(存在する場合)の5’及び3’に位置する2つのAAV ITR配列を含むが、それらは、それに直接連続する必要はない。
【0147】
核酸テンプレートならびにAAV rep及びcap配列は、AAVキャプシド内にパッケージングされた核酸テンプレートを含むウイルスベクターが細胞内で産生されるような条件下で提供される。方法は、細胞からウイルスベクターを収集するステップをさらに含み得る。ウイルスベクターは、培地から、及び/または細胞を溶解することによって収集することができる。
【0148】
細胞は、AAVウイルス複製を許容する細胞であり得る。当該技術分野で既知の任意の好適な細胞を用いることができる。いくつかの実施形態では、細胞は、哺乳類細胞である。別の選択肢として、細胞は、複製欠損ヘルパーウイルス、例えば、293細胞または他のE1aトランス相補性細胞から欠失した機能を提供するトランス相補性パッケージング細胞株であり得る。
【0149】
AAV複製及びキャプシド配列は、当該技術分野で既知の任意の方法により提供され得る。現在のプロトコルは、典型的には、単一のプラスミド上にAAV rep/cap遺伝子を発現する。AAV複製及びパッケージング配列は、一緒に提供される必要はないが、そうするのが好都合であり得る。AAV rep及び/またはcap配列は、任意のウイルスまたは非ウイルスベクターによって提供され得る。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクター(例えば、欠失したアデノウイルスベクターのE1aまたはE3領域に挿入される)によって提供され得る。EBVベクターを用いて、AAV cap及びrep遺伝子を発現させてもよい。この方法の1つの利点は、EBVベクターがエピソームであるが、連続した細胞分裂を通じて高いコピー数を維持することである(すなわち、「EBVベースの核エピソーム」として指定される染色体外要素として細胞に安定的に組み込まれる、Margolski,(1992)Curr.Top.Microbiol.Immun.158:67を参照されたい)。
【0150】
さらなる代替として、rep/cap配列は、細胞に安定して組み込まれ得る。
【0151】
典型的には、AAV rep/cap配列は、これらの配列の救出及び/またはパッケージングを防止するために、TRに隣接しない。
【0152】
核酸テンプレートは、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して細胞に提供され得る。例えば、テンプレートは、非ウイルス(例えば、プラスミド)またはウイルスベクターによって供給され得る。いくつかの実施形態では、核酸テンプレートは、ヘルペスウイルスまたはアデノウイルスベクター(例えば、欠失したアデノウイルスのE1aまたはE3領域に挿入される)によって供給される。別の例示として、Palombo et al.,(1998)J.Virology 72:5025は、AAV TRに隣接するレポーター遺伝子を担持するバキュロウイルスベクターを記載している。EBVベクターを用いて、rep/cap遺伝子に関して上述されるように、テンプレートを送達してもよい。
【0153】
いくつかの実施形態では、核酸テンプレートは、複製rAAVウイルスによって提供される。いくつかの実施形態では、核酸テンプレートを含むAAVプロウイルスは、細胞の染色体に安定して組み込まれる。
【0154】
ウイルス力価を増強するために、産生性AAV感染を促進するヘルパーウイルス機能(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)を細胞に提供することができる。AAV複製に必要なヘルパーウイルス配列は、当該技術分野で既知である。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクターによって提供される。代替として、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス配列は、別の非ウイルスまたはウイルスベクター、例えば、Ferrari et al.,(1997)Nature Med.3:1295、ならびに米国特許第6,040,183号及び同第6,093,570号に記載される、効率的なAAV産生を促進するヘルパー遺伝子の全てを担持する非感染性アデノウイルスミニプラスミドとして提供され得る。
【0155】
さらに、ヘルパーウイルス機能は、染色体に埋め込まれたヘルパー配列を有するパッケージング細胞によって提供されるか、または安定した染色体外要素として維持され得る。一般に、ヘルパーウイルス配列は、AAVビリオンにパッケージングすることができず、例えば、TRに隣接していない。
【0156】
当業者であれば、単一のヘルパー構築物上にAAV複製及びキャプシド配列、ならびにヘルパーウイルス配列(例えば、アデノウイルス配列)を提供することが有利であり得ることを理解するであろう。このヘルパー構築物は、非ウイルスまたはウイルス構築物であり得る。1つの非限定的な例示として、ヘルパー構築物は、AAV rep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであり得る。
【0157】
いくつかの実施形態では、AAV rep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。このベクターは、核酸テンプレートをさらに含み得る。AAV rep/cap配列及び/またはrAAVテンプレートは、アデノウイルスの欠失領域(例えば、E1aまたはE3領域)に挿入され得る。
【0158】
いくつかの実施形態では、AAV rep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。本実施形態によれば、rAAVテンプレートは、プラスミドテンプレートとして提供され得る。
【0159】
いくつかの実施形態では、AAV rep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供され、rAAVテンプレートは、プロウイルスとして細胞に組み込まれる。代替的に、rAAVテンプレートは、染色体外要素として(例えば、EBVベースの核エピソームとして)細胞内に維持されるEBVベクターによって提供される。
【0160】
いくつかの実施形態では、AAV rep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーにより提供される。rAAVテンプレートは、別個の複製ウイルスベクターとして提供され得る。例えば、rAAVテンプレートは、rAAV粒子または第2の組換えアデノウイルス粒子によって提供され得る。
【0161】
前述の方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは、典型的には、アデノウイルス複製及びパッケージングに十分なアデノウイルス5’及び3’シス配列(すなわち、アデノウイルス末端反復及びPAC配列)を含む。AAV rep/cap配列、及び存在する場合、rAAVテンプレートは、アデノウイルス骨格に埋め込まれ、5’及び3’シス配列に隣接しているため、これらの配列は、アデノウイルスキャプシドにパッケージングされ得る。上述のように、アデノウイルスヘルパー配列及びAAV rep/cap配列は、これらの配列がAAVビリオンにパッケージングされないように、一般に、TRに隣接していない。Zhang et al.,((2001)Gene Ther.18:704-12)は、アデノウイルスとAAV rep及びcap遺伝子との両方を含むキメラヘルパーを記載している。
【0162】
ヘルペスウイルスは、AAVパッケージング方法におけるヘルパーウイルスとしても使用され得る。AAV Repタンパク質(複数可)をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、拡張可能なAAVベクター産生スキームを有利に容易にし得る。AAV-2 rep及びcap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターが記載されている(Conway et al.,(1999)Gene Therapy 6:986及びWO00/17377)。
【0163】
さらなる代替として、ウイルスベクターは、例えば、Urabe et al.,(2002)Human Gene Therapy 13:1935-43により記載されるように、rep/cap遺伝子及びrAAVテンプレートを送達するためにバキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞において生成され得る。
【0164】
汚染ヘルパーウイルスを含まないAAVベクターストックは、当該技術分野で既知の任意の方法によって得ることができる。例えば、AAV及びヘルパーウイルスは、サイズに基づいて容易に分化し得る。また、AAVは、ヘパリン基質に対する親和性に基づいて、ヘルパーウイルスから離れて分離されてもよい(Zolotukhin et al.(1999)Gene Therapy 6:973)。任意の汚染ヘルパーウイルスが複製能力を持たないように、欠失された複製欠損ヘルパーウイルスが使用され得る。さらなる代替として、AAVウイルスのパッケージングを媒介するのにアデノウイルスの初期遺伝子発現のみが必要であるため、後期遺伝子発現を欠くアデノウイルスヘルパーを用いてもよい。後期遺伝子発現欠損のアデノウイルス変異体(例えば、ts100K及びts149アデノウイルス変異体)は、当該技術分野で既知である。
【0165】
組換えウイルスベクター
本明細書に記載のウイルスベクターは、インビトロ、エクスビボ、及びインビボでの核酸の細胞への送達に有用である。特に、ウイルスベクターは、哺乳類を含む動物細胞に核酸を送達または移行するために有利に用いることができる。したがって、いくつかの実施形態では、核酸は、本明細書に記載のキャプシドタンパク質によりキャプシド形成され得る。いくつかの実施形態では、核酸は、カーゴ核酸である。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸は、ベクターゲノム(例えば、5’ITR、導入遺伝子、及び3’ITR)を含む。
【0166】
ウイルスベクターによって送達されるカーゴ核酸配列は、目的の任意の異種核酸配列(複数可)であり得る。目的の核酸としては、治療用(例えば、医療または獣医用)または免疫原性(例えば、ワクチン用)ポリペプチドまたはRNAを含む、ポリペプチドをコードする核酸が挙げられる。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸は、5’ITR及び3’ITRを含む。いくつかの実施形態では、カーゴ核酸は、5’ITR、導入遺伝子、及び3’ITRを含む。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、治療用タンパク質またはRNAをコードする。
【0167】
治療用ポリペプチドとしては、嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質(CFTR)、ジストロフィン(ミニ及びマイクロジストロフィンを含む、例えば、Vincent et al,(1993)Nature Genetics 5:130、米国特許公開第2003/017131号、国際公開第WO/2008/088895号、Wang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:1 3714-13719(2000)、及びGregorevic et al.,Mol.Ther.16:657-64(2008))、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビン11型可溶性受容体、IGF-1、アポリポタンパク質、例えば、アポA(アポA1、アポA2、アポA4、アポA-V)、アポB(アポB100、アポB48)、アポC(アポCI、アポCII、アポCIII、アポCIV)、アポD、アポE、アポH、アポL、アポ(a)、抗炎症性ポリペプチド、例えば、Ikappa B優性変異体、アミロイドベータ、タウ、サルコスパン、ユートロフィン(Tinsley et al,(1996)Nature 384:349)、ミニユートロフィン、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子など)、エリスロポエチン、アンジオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、プログラニュリン、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、アルファ-1-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、バテニン、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、フラタキシン、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、アルファ-インターフェロン、ベータ-インターフェロン、ガンマ-インターフェロン、インターロイキン-2、インターロイキン-4、アルファシヌクレイン、パーキン、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子、リンフォトキシンなど)、ペプチド成長因子、神経栄養因子及びホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様成長因子1及び2、血小板由来成長因子、表皮成長因子、線維芽細胞成長因子、神経成長因子、神経栄養因子-3及び-4、脳由来神経栄養因子、骨形成タンパク質[RANKL及びVEGFを含む]、グリア由来成長因子、トランスフォーミング成長因子-α及び-βなど)、ハンティンギン(huntingin)、リソソーム酸アルファ-グルコシダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼA、受容体(例えば、腫瘍壊死成長因子可溶性受容体)、S100A1、ユビキチンタンパク質リガーゼE3、パルバルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、カルシウム処理を調節する分子(例えば、SERCA2A、PP1の阻害剤1及びその断片[例えば、WO2006/029319及びWO2007/100465])、Gタンパク質結合受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子(切断された構成的に活性なbARKctなど)、抗炎症性因子(IRAPなど)、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、モノクローナル抗体(一本鎖モノクローナル抗体を含む、例示的なMabは、Herceptin(登録商標)Mabである)、ニューロペプチド及びその断片(例えば、ガラニン、ニューロペプチドY(U.S.7,071,172を参照されたい)、血管新生阻害剤、例えば、バソヒビン及び他のVEGF阻害剤(例えば、バソヒビン2[WO JP2006/073052を参照されたい])が挙げられるが、これらに限定されない。他の例示的な異種核酸配列は、自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、及び腫瘍壊死因子)、宿主因子の転写を増強または阻害するタンパク質(例えば、転写エンハンサーまたは阻害剤要素に連結されたヌクレアーゼ死滅Cas9、転写エンハンサーまたは阻害剤要素に連結された亜鉛フィンガータンパク質、転写エンハンサーまたは阻害剤要素に連結された転写活性化因子様(TAL)エフェクター)、がん療法で使用される薬物への耐性を付与するタンパク質、腫瘍抑制遺伝子産物(例えば、p53、Rb、Wt-1)、TRAIL、FAS-リガンド、及び治療を必要とする対象において治療効果を有する任意の他のポリペプチドをコードする。AAVベクターを使用して、モノクローナル抗体及び抗体断片、例えば、ミオスタチンに対して指向される抗体または抗体断片を送達することもできる(例えば、Fang et al.,Nature Biotechnology 23:584-590(2005)を参照されたい)。ポリペプチドをコードする異種核酸配列には、レポーターポリペプチド(例えば、酵素)をコードするものが含まれる。レポーターポリペプチドは、当該技術分野で既知であり、緑色蛍光タンパク質、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、及びクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を含むが、これらに限定されない。
【0168】
任意選択で、異種核酸は、分泌されたポリペプチド(例えば、その天然状態で分泌されたポリペプチドであるか、または例えば、当該技術分野で既知である分泌シグナル配列との動作可能な会合によって分泌されるように操作されたポリペプチド)をコードする。
【0169】
代替的に、いくつかの実施形態では、異種核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載される)、スプライソソーム媒介/ramスプライシングをもたらすRNA(Puttaraju et al,(1999)Nature Biotech.17:246、米国特許第6,013,487号、米国特許第6,083,702号を参照されたい)、遺伝子サイレンシングを媒介するsiRNA、shRNA、またはmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(Sharp et al,(2000)Science 287:2431を参照されたい)、及び他の非翻訳RNA、例えば、「ガイド」RNA(Gorman et al.,(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95 :4929、Yuanらの米国特許第5,869,248号)などをコードしてもよい。例示的な非翻訳RNAには、複数の薬剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAi(例えば、腫瘍を治療及び/または予防するため、及び/または化学療法による損傷を防ぐための心臓への投与のため)、ミオスタチンに対するRNAi(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのため)、VEGFに対するRNAi(例えば、腫瘍を治療及び/または予防するため)、ホスホランバンに対するRNAi(例えば、心血管疾患を治療するため、例えば、Andino et al.,J.Gene Med.10:132-142(2008)及びLi et al.,Acta Pharmacol Sin.26:51-55(2005)を参照されたい)、ホスホランバン阻害性または優性-陰性分子、例えばホスホランバンS16E(例えば、心血管疾患を治療するため、例えば、Hoshijima et al.Nat.Med.8:864-871(2002)を参照されたい)、アデノシンキナーゼに対するRNAi(例えば、てんかんのため)、ならびに病原性生物及びウイルス(例えば、B型及び/またはC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、CMV、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルスなど)に対するRNAiが含まれる。
【0170】
さらに、代替スプライシングを指向する核酸配列を送達することができる。例示すると、ジストロフィンエクソン51の5’及び/または3’スプライス部位に相補的なアンチセンス配列(または他の阻害配列)を、U1またはU7小核(sn)RNAプロモーターと共に送達して、このエクソンの読み飛ばしを誘導することができる。例えば、アンチセンス/阻害配列(複数可)の5’に位置するU1またはU7 snRNAプロモーターを含むDNA配列は、パッケージングされ、修飾されたキャプシドにおいて送達され得る。
【0171】
いくつかの実施形態では、遺伝子編集を指向する核酸配列を送達することができる。例えば、核酸は、ガイドRNAをコードし得る。いくつかの実施形態では、ガイドRNAは、crRNA配列及びtracrRNA配列を含む単一ガイドRNA(sgRNA)である。いくつかの実施形態では、核酸は、ヌクレアーゼをコードしてもよい。いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼは、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ、ホーミングエンドヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)、NgAgo(アルゴノートエンドヌクレアーゼ)、SGN(構造誘導エンドヌクレアーゼ)、RGN(RNA誘導ヌクレアーゼ)、またはそれらの修飾もしくは切断されたバリアントである。いくつかの実施形態では、RNA誘導ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12(a)ヌクレアーゼ(Cpf1)、Cas12bヌクレアーゼ、Cas12cヌクレアーゼ、TrpB様ヌクレアーゼ、Cas13aヌクレアーゼ(C2c2)、Cas13bヌクレアーゼ、またはそれらの修飾もしくは切断されたバリアントである。いくつかの実施形態では、Cas9ヌクレアーゼは、S.pyogenesまたはS.aureusから単離されるか、またはそれらに由来する。
【0172】
いくつかの実施形態では、遺伝子ノックダウンを指向する核酸配列を送達することができる。例えば、核酸配列は、siRNA、shRNA、マイクロRNA、またはアンチセンス核酸をコードし得る。ウイルスベクターはまた、宿主染色体上の遺伝子座と相同性を共有し、それと再結合する異種核酸を含み得る。このアプローチは、例えば、宿主細胞における遺伝的欠損を修正するために利用され得る。
【0173】
また、例えば、ワクチン接種のために免疫原性ポリペプチドを発現するウイルスベクターも提供される。核酸は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、インフルエンザウイルス、HIVまたはSIV gagタンパク質、腫瘍抗原、がん抗原、細菌抗原、ウイルス抗原などからの免疫原を含むがこれらに限定されない、当該技術分野で既知の任意の目的の免疫原をコードし得る。
【0174】
ワクチンベクターとしてのパルボウイルスの使用は、当該技術分野で既知である(例えば、Miyamura el al,(1994)Proc.Nat.Acad.Sci USA 91:8507、Youngらの米国特許第5,916,563号、Mazzaraらの米国特許第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulskiらの米国特許第5,863,541号を参照されたい)。抗原は、パルボウイルスキャプシドにおいて提示され得る。
【0175】
代替的に、抗原は、組換えベクターゲノムに導入された異種核酸から発現され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される及び/または当該技術分野で既知である任意の目的の免疫原は、本明細書に記載されるウイルスベクターにより提供され得る。
【0176】
免疫原性ポリペプチドは、免疫応答を誘発する、及び/または対象を、微生物、細菌、原虫、寄生虫、真菌、及び/またはウイルス感染ならびに疾患を含むがこれらに限定されない、感染及び/または疾患から保護するのに好適な任意のポリペプチドであり得る。例えば、免疫原性ポリペプチドは、オルトミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質などのインフルエンザウイルス免疫原、またはウマインフルエンザウイルス免疫原)またはレンチウイルス免疫原(例えば、ウマ感染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原、例えば、HIVまたはSIVエンベロープGP 160タンパク質、HIVまたはSIVマトリックス/キャプシドタンパク質、ならびにHIVまたはSIV gag、pol、及びenv遺伝子産物)であり得る。免疫原性ポリペプチドはまた、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルスヌクレオキャプシドタンパク質及びラッサ熱エンベロープ糖タンパク質などのラッサ熱ウイルス免疫原)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアウイルスLIまたはL8遺伝子産物などのワクシニアウイルス免疫原)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱ウイルス免疫原または日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、エボラウイルス免疫原、またはマールブルグウイルス免疫原、例えば、NP及びGP遺伝子産物)、ブニヤウイルス免疫原(例えば、RVFV、CCHF、及び/またはSFSウイルス免疫原)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質などの感染性ヒトコロナウイルス免疫原、またはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原、または鳥類感染性気管支炎ウイルス免疫原)であり得る。免疫原性ポリペプチドはさらに、ポリオ免疫原、ヘルペス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSV免疫原)、ムンプス免疫原、麻疹免疫原、風疹免疫原、ジフテリア毒素、または他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎など)免疫原、及び/または当該技術分野で現在知られているか、もしくは後に免疫原として特定される任意の他のワクチン免疫原であり得る。
【0177】
代替的に、免疫原性ポリペプチドは、任意の腫瘍またはがん細胞抗原であり得る。任意選択で、腫瘍またはがん抗原は、がん細胞の表面に発現する。
【0178】
例示的ながん及び腫瘍細胞抗原は、S.A.Rosenberg(Immunity 10:281(1991))に記載されている。他の例示的ながん及び腫瘍抗原としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない。BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、LAGE、NY-ESO-1、CDK-4、β-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、ΚΙΑA0205、HPVE、SART-1、FRAME、p15、黒色腫腫瘍抗原(Kawakami et al.,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515、Kawakami et al.,(1994)J.Exp.Med.,180:347、Kawakami et al.,(1994)Cancer Res.54:3124)、MART-1、gp100、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、CEA、TRP-1、TRP-2、P-15、チロシナーゼ(Brichard et al.,(1993)J Exp.Med.178:489)、HER-2/neu遺伝子産物(米国特許第4.968.603号)、CA 125、LK26、FB5(エンドシアリン)、TAG72、AFP、CA 19-9、NSE、DU-PAN-2、CA50、SPan-1、CA72-4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c-erbB-2タンパク質、PSA、L-CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制タンパク質(Levine,(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623)、ムチン抗原(国際特許公開第WO90/05142号)、テロメラーゼ、核マトリックスタンパク質、前立腺酸ホスファターゼ、乳頭腫ウイルス抗原、及び/または現在知られているか、もしくは以下のがんに関連すると後に発見される抗原:黒色腫、腺癌、胸腺癌、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺癌、肝臓癌、結腸癌、白血病、子宮癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳癌、及び現在知られているか、または後に特定される任意の他のがんもしくは悪性状態またはその転移(例えば、Rosenberg,(1996)Ann.Rev.Med.47:481-91を参照されたい)。
【0179】
さらなる代替として、異種核酸は、望ましくは、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで細胞において産生される任意のポリペプチドをコードすることができる。例えば、ウイルスベクターを培養した細胞に導入し、発現された遺伝子産物をそこから単離してもよい。
【0180】
当業者であれば、目的の異種核酸(複数可)が適切な制御配列と動作可能に会合し得ることを理解するであろう。例えば、異種核酸は、転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム侵入部位(IRES)、プロモーター、及び/またはエンハンサーなどの発現制御要素と動作可能に会合し得る。
【0181】
さらに、目的の異種核酸(複数可)の調節された発現は、例えば、特定の部位でのスプライシング活性を選択的に遮断するオリゴヌクレオチド、小分子、及び/または他の化合物の存在または不在によって異なるイントロンの選択的スプライシングを調節することにより(例えば、WO2006/119137に記載されているように)、転写後レベルで達成され得る。
【0182】
当業者は、所望のレベル及び組織特異的発現に応じて、様々なプロモーター/エンハンサー要素を使用することができることを理解するであろう。プロモーター/エンハンサーは、所望の発現パターンに応じて、構成的または誘導性であり得る。プロモーター/エンハンサーは、天然または外来であり得、天然または合成配列であり得る。外来とは、転写開始領域が、転写開始領域が導入される野生型宿主には見られないことを意図する。
【0183】
いくつかの実施形態では、プロモーター/エンハンサー要素は、標的細胞に対して天然であっても、または治療される対象であってもよい。いくつかの実施形態では、プロモーター/エンハンサー要素は、異種核酸配列に対して天然であり得る。プロモーター/エンハンサー要素は、一般に、目的の標的細胞(複数可)において機能するように選択される。さらに、いくつかの実施形態では、プロモーター/エンハンサー要素は、哺乳類プロモーター/エンハンサー要素である。プロモーター/エンハンサー要素は、構成的または誘導性であり得る。
【0184】
誘導性発現制御要素は、典型的に、異種核酸配列(複数可)の発現にわたって調節を提供することが望ましいそれらの用途において有利である。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサー要素は、組織特異的または優先プロモーター/エンハンサー要素であり得、筋肉特異的または優先(心筋、骨格筋、及び/または平滑筋特異的または優先を含む)、神経組織特異的または優先(脳特異的または優先を含む)、眼特異的または優先(網膜特異的及び角膜特異的を含む)、肝臓特異的または優先、骨髄特異的または優先、膵臓特異的または優先、脾臓特異的または優先、ならびに肺特異的または優先プロモーター/エンハンサー要素を含む。他の誘導性プロモーター/エンハンサー要素には、ホルモン誘導性及び金属誘導性要素が含まれる。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサー要素としては、Tetオン/オフ要素、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、及びメタロチオネインプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0185】
異種核酸配列(複数可)が転写され、次いで標的細胞内で翻訳されるいくつかの実施形態では、特異的開始シグナルは、一般に、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために含まれる。ATG開始コドン及び隣接配列を含み得るこれらの外因性翻訳制御配列は、天然及び合成の両方の様々な起源のものであり得る。
【0186】
本明細書に記載のウイルスベクターは、細胞の分裂及び非分裂を含む広範囲の細胞に異種核酸を送達するための手段を提供する。ウイルスベクターは、インビトロで目的の核酸を細胞に送達するために、例えば、インビトロでポリペプチドを産生するために、またはエクスビボ遺伝子療法のために用いることができる。ウイルスベクターは、核酸の送達を必要とする対象にそれを行う方法において、例えば、免疫原性もしくは治療用ポリペプチドまたは機能性RNAを発現するためにさらに有用である。このように、ポリペプチドまたは機能性RNAは、対象においてインビボで産生され得る。対象はポリペプチドの欠損を有するため、対象はポリペプチドを必要とし得る。さらに、この方法は、対象におけるポリペプチドまたは機能性RNAの産生が、ある程度の有益な効果をもたらし得るため、実施され得る。
【0187】
ウイルスベクターを使用して、目的のポリペプチドまたは機能性RNAを、培養した細胞において、または対象において産生することもできる(例えば、対象をバイオリアクターとして使用してポリペプチドを産生すること、または例えばスクリーニング方法に関連して対象に対する機能性RNAの効果を観察すること)。
【0188】
一般に、本明細書に記載のウイルスベクターは、ポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を送達して、治療用ポリペプチドまたは機能性RNAを送達することが有益である任意の疾患状態を治療及び/または予防するために用いることができる。例示的な疾患状態には、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質)及び肺の他の疾患、血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、サラセミア(β-グロビン)、貧血(エリスロポエチン)、及び他の血液障害、アルツハイマー病(GDF、ネプリリシン)、多発性硬化症(βインターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞株由来の神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(反復を除去するためのRNAi)、カナバン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん(ガラニン、神経栄養因子)、及び他の神経障害、がん(エンドスタチン、アンジオスタチン、TRAIL、FAS-リガンド、インターフェロンを含むサイトカイン、VEGFまたは多剤耐性遺伝子産物に対するRNAiを含むRNAi、mir-26a[例えば、肝細胞癌のための])、真性糖尿病(インスリン)、デュシェンヌ(ジストロフィン、ミニジストロフィン、インスリン様成長因子I、サルコグリカン[例えば、a、β、γ]、筋伸展性ミオスタチンポリペプチドに対するRNAi、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、抗炎症性ポリペプチド、例えば、Ikappa B優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、エクソン読み飛ばしを誘導するジストロフィン遺伝子のスプライス部位に対するアンチセンスまたはRNAi[例えば、WO/2003/095647を参照されたい]、エクソン読み飛ばしを誘導するためのU7 snRNAに対するアンチセンス[例えば、WO/2006/021724を参照されたい]、及びミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体断片)及びベッカーを含む筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー1または2、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)、ゴーシャー病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(a-L-イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠損症(アデノシンデアミナーゼ)、糖原貯蔵疾患(例えば、ファブリー病[a-ガラクトシダーゼ]及びポンペ病[リソソーム酸アルファ-グロシダーゼ])、及び他の代謝障害、先天性肺気腫(アルファ-1-アンチトリプシン)、レッシュ-ナイハン症候群(ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマン-ピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、テイ-サックス病(リソソームヘキソサミニダーゼA)、前頭側頭型認知症、メープルシロップ尿症(分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ)、網膜変性疾患(ならびに眼及び網膜の他の疾患、例えば、黄斑変性のためのPDGF及び/またはバソヒビンもしくは他のVEGFの阻害剤、または例えばI型糖尿病における網膜障害を治療/予防するための他の血管新生阻害剤)、脳などの実質臓器の疾患(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、及び/またはVEGFに対するRNAi]を含む)、膠芽腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、及び/またはVEGFに対するRNAi])、肝臓、腎臓、心臓(うっ血性心不全または末梢動脈疾患(PAD)を含む)(例えば、プロテインホスファターゼ阻害剤I(I-1)及びその断片(例えば、IlC)、serca2a、ホスホランバン遺伝子を調節する亜鉛フィンガータンパク質、Barkct、[32-アドレナリン作動性受容体、2-アドレナリン作動性受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3キナーゼ)、S100A1、パルバルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、切断された構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質結合受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、カルサルシン、ホスホランバンに対するRNAi、ホスホランバン阻害または優性-陰性分子、例えば、ホスホランバンS16Eなどを送達することにより)、関節炎(インスリン様成長因子)、関節障害(インスリン様成長因子1及び/または2)、内膜過形成(例えば、enos、inosを送達することにより)、心臓移植の生存の改善(スーパーオキシドジスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋消耗(インスリン様成長因子I)、腎不全(エリスロポエチン)、貧血(エリスロポエチン)、関節炎(I RAP及びTNFa可溶性受容体などの抗炎症性因子)、肝炎(a-インターフェロン)、LDL受容体欠損(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、バッテン病、SCA1、SCA2、及びSCA3を含む脊髄性脳性運動失調症、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書に開示される組成物及び方法は、臓器移植の成功率を増加させる、及び/または臓器移植もしくは補助療法の負の副作用を低減するために(例えば、サイトカイン産生を遮断するために免疫抑制剤または阻害核酸を投与することにより)、臓器移植後にさらに使用することができる。別の例として、骨形態形成タンパク質(BNP2、7など、RANKL及び/またはVEGFを含む)は、例えば、がん患者に休薬または外科的除去の後に、骨同種移植片と共に投与され得る。
【0189】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のウイルスベクターは、ポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を送達して、肝疾患もしくは障害を治療及び/または予防するために用いることができる。肝疾患または障害は、例えば、原発性胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、自己免疫性肝炎、B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝疾患、線維症、黄疸、原発性硬化性胆管炎(PSC)、バッド-キアリ症候群、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、アルコール性線維症、非アルコール性線維症、脂肪肝、ギルバート症候群、胆道閉鎖症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、アラジール症候群、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、B型血友病、遺伝性血管浮腫(HAE)、ホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)、ヘテロ接合性家族性高コレステロール血症(HeFH)、フォン・ギールケ病(GSD I)、A型血友病、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、ホモシスチン尿症、フェニルケトン尿症(PKU)、チロシン血症1型、アルギナーゼ1欠損症、アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症、カルバモイル-リン酸合成酵素1欠損症、シトルリン血症1型、シトリン欠損症、クリグラー-ナジャー症候群1型、シスチン症、ファブリー病、糖原病1b、LPL欠損症、N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、オルチニン転移酵素欠損症、原発性高シュウ酸尿症1型、またはADA SCIDであり得る。
【0190】
本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、人工多能性幹細胞(iPS)を産生することもできる。例えば、本明細書に記載のウイルスベクターを使用して、幹細胞関連核酸(複数可)を、成人線維芽細胞、皮膚細胞、肝細胞、腎細胞、脂肪細胞、心細胞、神経細胞、上皮細胞、内皮細胞などの非多能性細胞に送達することができる。
【0191】
幹細胞に関連する因子をコードする核酸は、当該技術分野で既知である。幹細胞及び多能性に関連するそのような因子の非限定的な例としては、Oct-3/4、SOXファミリー(例えば、SOX1、SOX2、SOX3、及び/またはSOX15)、Klfファミリー(例えば、Klfl、KHZ Klf4、及び/またはKlf5)、Mycファミリー(例えば、C-myc、L-myc、及び/またはN-myc)、NANOG、及び/またはLIN28が挙げられる。
【0192】
本明細書に記載の方法はまた、糖尿病(例えば、インスリン)、血友病(例えば、第IX因子または第VIII因子)、ムコ多糖症障害などの糖リソソーム貯蔵障害(例えば、スライ症候群[β-グルクロニダーゼ]、ハーラー症候群[アルファ-L-イズロニダーゼ]、シャイエ症候群[アルファ-L-イズロニダーゼ]、ハーラー-シャイエ症候群[アルファ-L-イズロニダーゼ]、ハンター症候群[イズロン酸スルファターゼ]、サンフィリポ症候群A[ヘパランスルファミダーゼ]、B[N-アセチルグルコサミニダーゼ]、C[アセチル-CoA:アルファ-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ]、D[N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ]、モルキオ症候群A[ガラクトース-硫酸スルファターゼ]、B[β-ガラクトシダーゼ]、マロトー-ラミー症候群[N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ]など)、ファブリー病(アルファ-ガラクトシダーゼ)、ゴーシャー病(グルコセレブロシダーゼ)、または糖原貯蔵障害(例えば、ポンペ病、リソソーム酸アルファ-グルコシダーゼ)などの代謝障害を治療及び/または予防するために実施することができる。
【0193】
遺伝子移入は、疾患状態を理解し、療法を提供するために実質的に有用である。欠陥遺伝子が既知であり、クローニングされている遺伝性疾患がいくつか存在する。一般に、上記疾患状態は、一般的には劣性様式で遺伝する通常酵素の欠損状態、及び調節または構造タンパク質を伴う場合があり、典型的には優性様式で遺伝する不均衡状態の2つに分類される。欠損状態疾患については、遺伝子移入を使用して、置換療法のために正常な遺伝子を患部組織にもたらし、またアンチセンス変異を使用して疾患の動物モデルを作成することができる。不均衡な疾患状態については、遺伝子移入を使用して、モデル系における疾患状態を作成することができ、次いで疾患状態に対抗するように使用することができる。したがって、本明細書に記載されるウイルスベクターは、遺伝性疾患の治療及び/または予防を可能にする。
【0194】
本明細書に記載のウイルスベクターは、インビトロまたはインビボで機能性RNAを細胞に提供するためにも使用され得る。機能性RNAは、例えば、非コードRNAであり得る。いくつかの実施形態では、細胞における機能性RNAの発現は、細胞による特定の標的タンパク質の発現を減少させることができる。したがって、機能性RNAを投与して、特定のタンパク質の発現の減少を必要とする対象においてそれを行うができる。いくつかの実施形態では、細胞における機能性RNAの発現は、細胞による特定の標的タンパク質の発現を増加させることができる。したがって、機能性RNAを投与して、特定のタンパク質の発現の増加を必要とする対象においてそれを行うができる。いくつかの実施形態では、機能性RNAの発現は、細胞における特定の標的RNAのスプライシングを調節することができる。したがって、機能性RNAを投与して、特定のRNAのスプライシングの調節を必要とする対象においてそれを行うことができる。いくつかの実施形態では、細胞における機能性RNAの発現は、細胞による特定の標的タンパク質の機能を調節することができる。したがって、機能性RNAを投与して、特定のタンパク質の機能の調節を必要とする対象においてそれを行うことができる。機能性RNAはまた、遺伝子発現及び/または細胞生理学を調節するために、例えば、細胞もしくは組織培養系を最適化するためにインビトロで、またはスクリーニング方法において細胞に投与され得る。
【0195】
加えて、本明細書に記載されるウイルスベクターは、診断及びスクリーニング方法において用いられ、それにより目的の核酸が細胞培養系、または代替的にトランスジェニック動物モデルにおいて一過性にまたは安定して発現される。
【0196】
ウイルスベクターはまた、当業者に明らかであるように、遺伝子標的化、クリアランス、転写、翻訳などを評価するためのプロトコルでの使用を含むがこれらに限定されない、様々な非治療目的に使用され得る。ウイルスベクターは、安全性(拡散、毒性、免疫原性など)を評価する目的で使用することもできる。例えば、そのようなデータは、臨床有効性の評価前の規制承認プロセスの一部として、米国食品医薬品局により検討される。
【0197】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、対象において免疫応答を産生するために使用され得る。本実施形態によれば、免疫原性ポリペプチドをコードする異種核酸配列を含むウイルスベクターを対象に投与することができ、免疫原性ポリペプチドに対して対象によって能動免疫応答が開始される。免疫原性ポリペプチドは、上述の通りである。いくつかの実施形態では、防御免疫応答が誘発される。
【0198】
代替的に、ウイルスベクターをエクスビボで細胞に投与し、改変した細胞を対象に投与してもよい。異種核酸を含むウイルスベクターを細胞内に導入し、細胞を対象に投与し、免疫原をコードする異種核酸を発現させ、対象において免疫原に対する免疫応答を誘導することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)である。
【0199】
「能動免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原との遭遇後の宿主組織及び細胞の参加」を特徴とする。これは、リンパ細網組織における免疫能のある細胞の分化及び増殖を伴い、抗体の合成または細胞媒介反応性の発達、またはその両方につながる。Herbert B.Herscowitz,Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation,in IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti ed.,1985)。換言すると、感染またはワクチン接種によって免疫原に曝露された後、宿主によって能動免疫応答が開始される。能動免疫は、能動免疫化宿主から非免疫宿主への予め形成された物質(抗体、トランスファー因子、胸腺移植片、インターロイキン-2)の移入によって獲得される受動免疫と対比され得る。
【0200】
本明細書で使用される場合、「防御」免疫応答または「防御」免疫は、免疫応答が、疾患の発生を予防または低減するという点で、対象にある程度の利益を付与することを示す。代替的に、防御免疫応答または防御免疫は、疾患、特にがんまたは腫瘍の治療及び/または予防において有用であり得る(例えば、がんまたは腫瘍形成を予防することにより、がんまたは腫瘍の退縮を引き起こすことにより、及び/または転移を予防することにより、及び/または転移性結節の成長を予防することにより)。治療の利点が任意のその欠点を上回る限り、防御効果は完全であっても部分的であってもよい。
【0201】
いくつかの実施形態では、異種核酸を含むウイルスベクターまたは細胞は、以下に記載されるように、免疫原的に有効な量で投与され得る。
【0202】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、1つ以上のがん細胞抗原(または免疫学的に類似の分子)を発現するウイルスベクター、またはがん細胞に対する免疫応答をもたらす任意の他の免疫原の投与によって、がん免疫療法のために投与され得る。例示すると、免疫応答は、例えば、がんを有する患者を治療するため、及び/または対象におけるがんの発症を予防するために、がん細胞抗原をコードする異種核酸を含むウイルスベクターを投与することによって、対象におけるがん細胞抗原に対してもたらされ得る。ウイルスベクターは、本明細書に記載されるように、インビボで、またはエクスビボ方法を使用することによって、対象に投与され得る。
【0203】
代替的に、がん抗原は、ウイルスキャプシドの一部として発現され得るか、または他の方法でウイルスキャプシドと会合し得る(例えば、上記のように)。
【0204】
別の代替として、当該技術分野で既知の任意の他の治療用核酸(例えば、RNAi)またはポリペプチド(例えば、サイトカイン)は、がんを治療及び/または予防するために投与され得る。
【0205】
本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、腫瘍形成がんを包含する。同様に、「がん組織」という用語は、腫瘍を包含する。「がん細胞抗原」は、腫瘍抗原を包含する。
【0206】
「がん」という用語は、当該分野におけるその理解される意味を有し、例えば、身体の遠隔部位に拡散する(すなわち、転移する)可能性のある制御されない組織の成長である。例示的ながんには、黒色腫、腺癌、胸腺癌、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺癌、肝臓癌、結腸癌、白血病、子宮癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳癌、及び現在知られているか、または後に特定される任意の他のがんもしくは悪性状態が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、腫瘍形成がんを治療及び/または予防する方法が提供される。
【0207】
「腫瘍」という用語はまた、例えば、多細胞生物内の未分化細胞の異常な塊として、当該分野で理解される。腫瘍は、悪性または良性であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、悪性腫瘍を予防及び治療するために使用される。
【0208】
「がんを治療する」、「がんの治療」という用語、及び同等の用語は、がんの重症度が低減するか、もしくは少なくとも部分的に排除されること、及び/または疾患の進行が遅くなる、及び/または制御されること、及び/または疾患が安定化することを意図する。いくつかの実施形態では、これらの用語は、がんの転移が予防もしくは低減されるか、または少なくとも部分的に排除されること、及び/または転移性結節の成長が予防もしくは低減されるか、または少なくとも部分的に排除されることを示す。
【0209】
「がんの予防」または「がんを予防すること」という用語、及び同等の用語は、方法が、がんの発症の発生率及び/または重症度を少なくとも部分的に排除もしくは低減する、及び/または遅延することを意図する。代替的に、対象におけるがんの発症は、可能性または確率が低減される、及び/または遅延され得る。
【0210】
いくつかの実施形態では、細胞は、がんを有する対象から除去され、本明細書に記載されるがん細胞抗原を発現するウイルスベクターと接触させられ得る。次いで、修飾された細胞を対象に投与し、それにより、がん細胞抗原に対する免疫応答が誘発される。この方法は、十分な免疫応答をインビボで開始させることができない(すなわち、十分な量の増強抗体を産生することができない)免疫不全の対象で有利に用いることができる。
【0211】
免疫調節性サイトカイン(例えば、アルファ-インターフェロン、ベータ-インターフェロン、ガンマ-インターフェロン、オメガ-インターフェロン、タウ-インターフェロン、インターロイキン-1-アルファ、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-8、インターロイキン-9、インターロイキン-10、インターロイキン-11、インターロイキン-12、インターロイキン-13、インターロイキン-14、インターロイキン-18、B細胞成長因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子-アルファ、腫瘍壊死因子-β、単球化学誘引物質タンパク質-1、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、及びリンフォトキシン)によって免疫応答が増強され得ることが当技術分野で既知である。したがって、免疫調節性サイトカイン(好ましくはCTL誘導サイトカイン)は、ウイルスベクターと共に対象に投与され得る。サイトカインは、当該技術分野で既知の任意の方法によって投与され得る。外因性サイトカインが対象に投与され得るか、または代替的に、サイトカインをコードする核酸が好適なベクターを使用して対象に送達され、サイトカインがインビボで産生され得る。
【0212】
対象、薬学的製剤、及び投与方法
本明細書に記載されるウイルスベクター及びキャプシドは、獣医学及び医療用途の両方で用いられる。好適な対象は、鳥類及び哺乳動物の両方を含む。本明細書で使用される場合、「鳥類」という用語には、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコなどが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「哺乳動物」という用語には、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギなどが含まれるが、これらに限定されない。ヒト対象には、新生児、幼児、青少年、成人、及び高齢対象が含まれる。
【0213】
いくつかの実施形態では、対象は、本明細書に記載の方法を「必要とする」。
【0214】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される担体中にウイルスベクター及び/またはキャプシド及び/またはキャプシドタンパク質及び/またはウイルス粒子を含み、任意選択で、他の薬剤、医薬品、安定化剤、緩衝剤、担体、アジュバント、希釈剤などを含む薬学的組成物が提供される。注射に関して、担体は典型的には液体である。他の投与方法に関して、担体は、固体または液体のいずれかであり得る。吸入投与に関して、担体は、呼吸可能であり、任意選択で、固体または液体粒子形態であり得る。
【0215】
「薬学的に許容される」とは、毒性がないか、またはさもなければ望ましくなくはない材料を意味し、すなわち、材料は、任意の望ましくない生物学的効果も引き起こすことなく、対象に投与することができる。
【0216】
本明細書では、インビトロで核酸を細胞に移行させる方法も提供される。ウイルスベクターは、特定の標的細胞に好適な標準的な形質導入方法により、感染の適切な多重度で細胞内に導入され得る。投与するウイルスベクターの力価は、標的細胞型及び数、ならびに特定のウイルスベクターに応じて異なってもよく、過度の実験なしに当業者によって決定することができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約10の感染単位、任意選択で少なくとも約10の感染単位が細胞に導入される。
【0217】
ウイルスベクターが導入される細胞(複数可)は、神経細胞(末梢及び中枢神経系の細胞、特に、神経細胞及び乏突起膠細胞などの脳細胞を含む)、肺細胞、眼の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮細胞、及び角膜細胞を含む)、上皮細胞(例えば、腸及び呼吸上皮細胞)、筋細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、及び/または横隔膜筋細胞)、樹状細胞、膵細胞(島細胞を含む)、肝細胞、心筋細胞、骨細胞(例えば、骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾細胞、角化細胞、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞などを含むが、これらに限定されない任意の型のものであり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、任意の前駆細胞であり得る。さらなる可能性として、細胞は、幹細胞(例えば、神経幹細胞、肝臓幹細胞)であり得る。またさらなる代替として、細胞は、がんまたは腫瘍細胞であり得る。さらに、細胞は、上述のように、任意の起源の種からのものであり得る。
【0218】
ウイルスベクターは、修飾された細胞を対象に投与する目的のためにインビトロで細胞に導入され得る。いくつかの実施形態では、細胞が対象から除去され、ウイルスベクターがそこに導入され、その後細胞が対象に再び投与される。エクスビボで操作するために対象から細胞を除去し、続いて対象に再び導入する方法は、当該分野で既知である(例えば、米国特許第5,399,346号を参照されたい)。代替的に、組換えウイルスベクターは、ドナー対象からの細胞、培養した細胞、または任意の他の好適な供給源からの細胞に導入され得、細胞は、それを必要とする対象(すなわち、「レシピエント」対象)に投与される。
【0219】
エクスビボ核酸送達に好適な細胞は、上述の通りである。対象に投与される細胞の投薬量は、対象の年齢、状態、及び種、細胞の種類、細胞によって発現される核酸、投与モードなどによって異なる。典型的には、薬学的に許容される担体において1用量当たり少なくとも約10~約10細胞または少なくとも約10~約10細胞を投与する。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターで形質導入された細胞は、薬学的担体と組み合わせて治療有効量で対象に投与される。
【0220】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターを細胞に導入し、細胞を対象に投与して、送達されたポリペプチドに対する免疫原性応答を誘導することができる(例えば、導入遺伝子としてまたはキャプシドにおいて発現される)。典型的には、薬学的に許容される担体と組み合わせて、免疫原的に有効な量のポリペプチドを発現する細胞の量が投与される。「免疫原的に有効な量」は、薬学的製剤が投与される対象におけるポリペプチドに対する能動免疫応答を誘発するのに十分である、発現したポリペプチドの量である。いくつかの実施形態では、投薬量は、(上記で定義されるように)防御免疫応答をもたらすのに十分である。免疫原性ポリペプチドの投与の利点が任意のその欠点を上回る限り、付与される防御の程度は完全であるか、または永続的である必要はない。
【0221】
したがって、いくつかの実施形態では、核酸を細胞に投与する方法は、細胞を、本明細書に記載されるウイルスベクター、ウイルス粒子、及び/または組成物と接触させることを含む。
【0222】
本明細書に記載されるウイルスベクター、ウイルス粒子、及び/またはウイルスキャプシドを対象に投与する方法も本明細書に提供される。いくつかの実施形態では、対象に核酸を送達する方法は、対象に、本明細書に記載されるウイルス粒子、ウイルスベクター、及び/または組成物を投与することを含む。投与を必要とするヒト対象または動物へのウイルスベクター、ウイルス粒子、及び/またはキャプシドの投与は、当該技術分野で既知の任意の手段によって行うことができる。任意選択で、ウイルスベクター、ウイルス粒子、及び/またはキャプシドは、薬学的に許容される担体において、治療有効量で送達される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター、ウイルス粒子、及び/またはキャプシドの治療有効量が送達される。
【0223】
本明細書に記載のウイルスベクター及び/またはキャプシドは、(例えば、ワクチンとして)免疫原性応答を誘発するためにさらに投与され得る。典型的には、免疫原性組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、ウイルスベクター及び/またはキャプシドの免疫原的に有効な量を含む。任意選択で、投薬量は、防御免疫応答をもたらすのに十分である(上記に定義される)。免疫原性ポリペプチドの投与の利点が任意のその欠点を上回る限り、付与される防御の程度は完全であるか、または永続的である必要はない。対象及び免疫原は、上述の通りである。
【0224】
対象に投与されるウイルスベクター及び/またはキャプシドの投薬量は、投与モード、治療及び/または予防される疾患もしくは状態、個々の対象の状態、特定のウイルスベクターもしくはキャプシド、ならびに送達される核酸などに依存し、日常的な様式で決定され得る。治療効果を達成するための例示的な用量は、少なくとも約10、約10、約10、約10、約10、約1010、約1011、約1012、約1013、約1014、または約1015の形質導入単位、任意選択で約10~1013の形質導入単位の力価である。いくつかの実施形態では、AAVの用量は、約2.0×1013vg/対象のkg体重~約4.0×1013vg/対象のkg体重、例えば、約2.0×1013vg/kg、約2.1×1013vg/kg、約2.2×1013vg/kg、約2.3×1013vg/kg、約2.4×1013vg/kg、約2.5×1013vg/kg、約2.6×1013vg/kg、約2.7×1013vg/kg、約2.8×1013vg/kg、約2.9×1013vg/kg、約3.0×1013vg/kg、約3.1×1013vg/kg、約3.2×1013vg/kg、約3.3×1013vg/kg、約3.4×1013vg/kg、約3.5×1013vg/kg、約3.6×1013vg/kg、約3.7×1013vg/kg、約3.8×1013vg/kg、約3.9×1013vg/kg、または約4.0×1013vg/kgであり得る。いくつかの実施形態では、AAVの用量は、約2×1013vg~約4.0×1013vg、例えば、約2.0×1013vg、約2.1×1013vg、約2.2×1013vg、約2.3×1013vg、約2.4×1013vg、約2.5×1013vg、約2.6×1013vg、約2.7×1013vg、約2.8×1013vg、約2.9×1013vg、約3.0×1013vg、約3.1×1013vg、約3.2×1013vg、約3.3×1013vg、約3.4×1013vg、約3.5×1013vg、約3.6×1013vg、約3.7×1013vg、約3.8×1013vg、約3.9×1013vg、または約4.0×1013vgであり得る。
【0225】
いくつかの実施形態では、2回以上の投与(例えば、2回、3回、4回以上の投与)を用いて、様々な間隔、例えば、毎日、毎週、毎月、毎年などの期間にわたって所望のレベルの遺伝子発現を達成してもよい。
【0226】
例示的な投与モードには、経口、直腸、経粘膜、鼻腔内、吸入(例えば、エアロゾルを介して)、頬(例えば、舌下)、膣、髄腔内、眼内、経皮、子宮内(または卵内)、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内[骨格筋、横隔膜筋、及び/または心筋への投与を含む]、皮内、胸膜内、脳内、及び関節内)、局所(例えば、気道表面を含む皮膚及び粘膜の両方への、ならびに経皮投与)、リンパ内など、ならびに組織または臓器直接注射(例えば、肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋、または脳への)が含まれる。投与は、腫瘍(例えば、腫瘍またはリンパ節内またはその付近)にも行うことができる。任意の所与の場合における最も好適な経路は、治療及び/または予防される状態の性質及び重症度、ならびに使用される特定のベクターの性質に依存するであろう。
【0227】
骨格筋への投与には、四肢(例えば、上腕、下腕、上腿、及び/または下腿)、背中、首、頭部(例えば、舌)、胸部、腹部、骨盤/会陰、及び/または指の骨格筋への投与が含まれるが、これらに限定されない。好適な骨格筋には、小指外転筋(手)、小指外転筋(足)、母指外転筋、第5中足骨外転筋(abductor ossis metatarsi quinti)、短母指外転筋、長母指外転筋、短内転筋、母指内転筋、長内転筋、大内転筋、母指内転筋、肘筋、前斜角筋、膝関節筋、上腕二頭筋、大腿二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、頬筋、烏口腕筋、皺眉筋、三角筋、口角下制筋、下唇下制筋、二腹筋、背側骨間筋(手)、背側骨間筋(足)、短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、小指伸筋、指伸筋、短趾伸筋、長趾伸筋、短母趾伸筋、長母趾伸筋、示指伸筋、短母指伸筋、長母指伸筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、短小指屈筋(手)、短小指屈筋(足)、短趾屈筋、長趾屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、短母趾屈筋、長母趾屈筋、短母指屈筋、母指屈筋、前頭筋、腓腹筋、オトガイ舌骨筋、大臀筋、中臀筋、小臀筋、薄筋、頸腸肋筋、腰腸肋筋、胸腸肋筋、腸骨筋、下双子筋、下斜筋、下直筋、棘下筋、棘間筋、横突間筋(intertransversi)、外側翼突筋、外直筋、広背筋、口角挙筋、上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋、上眼瞼挙筋、肩甲挙筋、長回旋筋(long rotators)、頭最長筋、頸最長筋、胸最長筋、頭長筋、頸長筋、虫様筋(手)、虫様筋(足)、咬筋、内側翼突筋、内直筋、中斜角筋、多裂筋、顎舌骨、下頭斜筋、上頭斜筋、外閉鎖筋、内閉鎖筋、後頭筋、肩甲舌骨筋、小指対立筋、母指対立筋、眼輪筋、口輪筋、掌側骨間筋、短掌筋、長掌筋、恥骨筋、大胸筋、小胸筋、短腓骨筋、長腓骨筋、第3腓骨筋、梨状筋、底側骨間筋、足底筋、広頸筋、膝窩筋、後斜角筋、方形回内筋、円回内筋、大腰筋、大腿方形筋、足底方形筋、前頭直筋、外側頭直筋、大後頭直筋、小後頭直筋、大腿直筋、大菱形筋、小菱形筋、笑筋、縫工筋、最小斜角筋、半膜様筋、頭半棘筋、頸半棘筋、胸半棘筋、半腱様筋、前鋸筋、短外旋筋、ヒラメ筋、頭棘筋、頸棘筋、胸棘筋、頭板状筋、頸板状筋、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、茎突舌骨筋、鎖骨下筋、肩甲下筋、上双子筋、上斜筋、上直筋、回外筋、棘上筋、側頭筋、大腿筋膜張筋、大円筋、小円筋、胸郭、甲状舌骨筋、前脛骨筋、後脛骨筋、僧帽筋、上腕三頭筋、中間広筋、外側広筋、内側広筋、大頬骨筋、及び小頬骨筋、ならびに当該技術分野で既知の他の好適な骨格筋が含まれるが、これらに限定されない。
【0228】
ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、四肢灌流、(任意選択で、脚及び/または腕の単離された四肢灌流、例えば、Arruda et al.,(2005)Blood 105:3458-3464)を参照されたい)、及び/または筋肉内直接注射によって骨格筋に送達され得る。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、四肢灌流、任意選択で単離された四肢灌流(例えば、静脈内または関節内投与)により、対象(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)または肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)などの筋ジストロフィーを有する対象)の四肢(腕及び/または脚)に投与される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、「流体力学的」技法を用いることなく有利に投与され得る。従来技術のベクターの組織送達(例えば、筋肉への)は、多くの場合、流体力学的技法(例えば、大量の静脈内/静脈内投与)により増強され、これは、血管系における圧力を増加させ、ベクターが内皮細胞バリアを通過する能力を容易にする。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、大量注入及び/または血管内圧の上昇(例えば、正常な収縮期圧力よりも大きく、例えば、正常な収縮期圧力に対して血管内圧の5%、10%、15%、20%、25%以下)などの流体力学的技法の不在下で投与され得る。そのような方法は、浮腫、神経損傷、及び/またはコンパートメント症候群などの流体力学的技法に関連する副作用を低減または回避し得る。心筋への投与には、左心房、右心房、左心室、右心室、及び/または中隔への投与が含まれる。ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、静脈内投与、大動脈内投与などの動脈内投与、心臓直接注射(例えば、左心房、右心房、左心室、右心室)、及び/または冠動脈灌流により心筋に送達され得る。
【0229】
横隔膜筋への投与は、静脈内投与、動脈内投与、及び/または腹腔内投与を含む任意の好適な方法によって行うことができる。
【0230】
標的組織への送達は、ウイルスベクター及び/またはキャプシドを含むデポーを送達することによっても達成することができる。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター及び/またはキャプシドを含むデポーは、骨格筋、心筋、及び/または横隔膜筋組織に移植されるか、または組織は、ウイルスベクター及び/またはキャプシドを含むフィルムまたは他のマトリックスと接触させられ得る。そのような移植可能なマトリックスまたは基質は、米国特許第7,201,898号に記載されている。
【0231】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクター及び/またはウイルスキャプシドは、適切に、骨格筋、横隔膜筋、及び/または心筋に投与される(例えば、筋ジストロフィー、心疾患[例えば、PADまたはうっ血性心不全]を治療及び/または予防するために)。
【0232】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、骨格筋、心筋、及び/または横隔膜筋の疾患または障害を治療及び/または予防するために使用される。筋肉の疾患または障害は、例えば、筋ジストロフィー、ミオパチー、運動ニューロン疾患、及び心筋症であり得る。筋肉の疾患または障害は、例えば、ジストロフィン異常症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー(例えば、筋緊張性ジストロフィー1及び2)、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FDHD)、エメリ-ドレフュス型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、若年性黄斑ジストロフィー、中心核ミオパチー、中心コアミオパチー、及び封入体筋炎であり得る。
【0233】
いくつかの実施形態では、筋ジストロフィーの治療及び/または予防を必要とする対象においてそれを行う方法が提供され、方法は、治療または予防有効量のウイルスベクターを哺乳類対象に投与することを含み、ウイルスベクターは、ジストロフィン、ミニジストロフィン、マイクロジストロフィン、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF-1、抗炎症性ポリペプチド、例えば、Ikappa B優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン、マイクロジストロフィン、ラミニン-a2、アルファ-サルコグリカン、ベータ-サルコグリカン、ガンマ-サルコグリカン、デルタ-サルコグリカン、IGF-1、ミオスタチンもしくはミオスタチンプロペプチドに対する抗体もしくは抗体断片、及び/またはミオスタチンに対するRNAiをコードする異種核酸を含む。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、本明細書の他の箇所に記載されるように、骨格筋、横隔膜筋、及び/または心筋に投与され得る。
【0234】
代替的に、本明細書に記載の方法は、核酸を、通常血液中を循環するポリペプチド(例えば、酵素)または機能性RNA(例えば、RNAi、マイクロRNA、アンチセンスRNA)の産生のための、または障害(例えば、糖尿病[例えば、インスリン]などの代謝障害、血友病[例えば、第IX因子または第Vlll因子]、ムコ多糖障害[例えば、スライ症候群、ハーラー症候群、シャイエ症候群、ハーラー-シャイエ症候群、ハンター症候群、サンフィリポ症候群A、B、C、D、モルキオ症候群、マロトー-ラミー症候群など]、またはリソソーム貯蔵障害、例えば、ゴーシャー病[グルコセレブロシダーゼ]もしくはファブリー病[a-ガラクトシダーゼA]、または糖原貯蔵障害、例えば、ポンペ病[リソソーム酸アルファ-グルコシダーゼ])を治療及び/または予防するための他の組織への全身送達のためのプラットフォームとして使用される、骨格筋、心筋、または横隔膜筋に送達するために実施され得る。代謝障害を治療及び/または予防するための他の好適なタンパク質は、本明細書に記載されている。目的の核酸を発現するためのプラットフォームとしての筋肉の使用は、米国特許公開第US2002/0192189号に記載されている。
【0235】
いくつかの実施形態では、代謝障害の治療及び/または予防を必要とする対象においてそれを行う方法は、治療または予防有効量のウイルスベクターを対象の骨格筋に投与することを含み、ウイルスベクターは、ポリペプチドをコードする異種核酸を含み、代謝障害は、ポリペプチドの欠乏及び/または欠損の結果である。例示的な代謝障害及びポリペプチドをコードする異種核酸は、本明細書に記載されている。任意選択で、ポリペプチド(例えば、その天然状態で分泌されたポリペプチドであるか、または、例えば、当該技術分野で既知である分泌シグナル配列との動作可能な会合によって分泌されるように操作されたポリペプチド)が分泌される。任意の特定の理論に限定されるものではないが、この実施形態によれば、骨格筋への投与は、ポリペプチドの全身循環への分泌及び標的組織(複数可)への送達をもたらし得る。ウイルスベクターを骨格筋に送達する方法は、本明細書でより詳細に記載される。
【0236】
本明細書に記載の方法はまた、全身送達のためのアンチセンスRNA、RNAi、または他の機能性RNA(例えば、リボザイム)などの非コードRNAを産生するために実施することができる。
【0237】
いくつかの実施形態では、先天性心不全またはPADの治療及び/または予防を必要とする対象においてそれを行う方法は、治療または予防有効量のウイルスベクターを哺乳類対象に投与することを含み、ウイルスベクターは、例えば、筋形質小胞体Ca2+-ATPase(SERCA2a)、血管新生因子、ホスファターゼ阻害剤I(I-1)及びその断片(例えば、I1C)、ホスホランバンに対するRNAi、ホスホランバン阻害もしくは優性陰性分子、例えば、ホスホランバンS16E、ホスホランバン遺伝子を調節する亜鉛フィンガータンパク質、ベータ-2-アドレナリン作動性受容体、ベータ-2-アドレナリン作動性受容体キナーゼ(BARK)、PI3キナーゼ、カルサルカン(calsarcan)、β-アドレナリン作動性受容体キナーゼ阻害剤(PARKct)、タンパク質ホスファターゼ1の阻害剤1及びその断片(例えば、I1C)、S100A1、パルバルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、切断された構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質結合受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、Pim-1、PGC-Ι α、SOD-1、SOD-2、EC-SOD、カリクレイン、HIF、チモシン-p4、mir-1、mir-133、mir-206、mir-208、及び/またはmir-26aをコードする異種核酸を含む。
【0238】
注射剤は、液体溶液もしくは懸濁液、注射前の液体の溶液もしくは懸濁液に好適な固体形態、またはエマルションのいずれかとして、従来の形態で調製され得る。代替的に、ウイルスベクター及び/またはウイルスキャプシドを、全身様式ではなく局在様式で、例えば、デポーまたは徐放性製剤において投与してもよい。さらに、ウイルスベクター及び/またはウイルスキャプシドは、外科的に移植可能なマトリックスに付着させて送達され得る(例えば、米国特許公開第US-2004-0013645-A1号に記載される)。
【0239】
本明細書に開示されるウイルスベクター及び/またはウイルスキャプシドは、任意の好適な手段により、任意選択で、対象が吸入するウイルスベクター及び/またはウイルスキャプシドからなる呼吸可能な粒子のエアロゾル懸濁液を投与することにより、対象の肺に投与することができる。呼吸可能な粒子は、液体または固体であり得る。ウイルスベクター及び/またはウイルスキャプシドを含む液体粒子のエアロゾルは、当業者に既知である、圧力駆動型エアロゾルネブライザーまたは超音波ネブライザーなどの任意の好適な手段により産生され得る。例えば、米国特許第4,501,729号を参照されたい。ウイルスベクター及び/またはキャプシドを含む固体粒子のエアロゾルは、同様に、薬学分野で既知の技法により、任意の固体粒子薬剤エアロゾル生成器で産生され得る。
【0240】
ウイルスベクター及びウイルスキャプシドは、CNSの組織(例えば、脳、眼)に投与することができ、本明細書に記載の組成物及び方法の不在下で観察されるよりも幅広いウイルスベクターまたはキャプシドの分布を有利にもたらし得る。
【0241】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の送達ベクターは、遺伝障害、神経変性障害、精神障害、及び腫瘍を含むCNSの疾患を治療するために投与され得る。CNSの例示的な疾患としては、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、アルツハイマー病、アンジェルマン症候群、前頭側頭型認知症、パーキンソン病、ハンチントン病、脆弱X症候群、カナバン病、リー病、レフサム病、トゥレット症候群、原発性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症、進行性筋萎縮症、ピック病、筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、ビンスワンガー病、脊髄または頭部損傷による外傷、テイサックス病(GM2ガングリオシドーシス)、レシュ-ナイハン病、MC4R肥満、異染性白質ジストロフィー(MLD)、MPS I(ハーラー/シェイエ)、MPS IIIA(サンフィリポA)、ニーマンピックC1、レット症候群、脊髄性筋萎縮症(SMA)、AADC欠損症、単性筋委縮性側索硬化症(ALS)、アルファマンノース症、アスパルチルグルコサミン尿症、ドラベ症候群、巨大軸索ニューロパチー、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ)、Glut 1欠損症、GM1ガングリオシドーシス、小児性神経セロイドリポフスチン沈着症(INCL、バッテン)、若年性神経セロイドリポフスチン症(JNCL、バッテン)、遅発型小児性神経セロイドリポフスチン沈着症(LINCL、バッテン)、MPS II(ハンター)、MPS IIIB(サンフィリポB)、MPS IIIC(サンフィリポC)、MPS IVA(モルキオ症候群)、MPS VI(マロトー-ラミー)、ペルオキシソーム形成異常症(ツェルウェーガー症候群スペクトラム)、サンドホフ病(GM2ガングリオシドーシス)、てんかん、脳梗塞、気分障害(例えば、うつ、双極性感情障害、持続性感情障害、続発性気分障害)を含む精神障害、統合失調症、薬物依存症(例えば、アルコール依存症及び他の物質依存症)、神経症(不安、強迫障害、身体表現性障害、解離症、悲しみ、産後うつ病)、精神病(例えば、幻覚及び妄想)、認知症、妄想症、注意欠陥障害、精神性的障害、睡眠障害、疼痛障害、摂食または体重障害(例えば、肥満、悪液質、神経性食欲不振症、及び過食症)、ならびにCNSのがん及び腫瘍(例えば、下垂体腫瘍)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0242】
CNSの障害としては、網膜、後路、及び視神経が関与する眼科疾患(例えば、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、及び他の網膜変性疾患、ブドウ膜炎、加齢黄斑変性、緑内障)が挙げられる。
【0243】
全てではないが、ほとんどの眼科疾患及び障害は、3つの種類の徴候:(1)血管新生、(2)炎症、及び(3)変性のうちの1つ以上に関連する。本明細書に記載のウイルスベクターは、抗血管新生因子、抗炎症性因子、細胞変性を遅延させる因子、細胞温存を促進する因子、または細胞成長を促進する因子、及び前述の組み合わせを送達するために用いることができる。
【0244】
例えば、糖尿病性網膜症は、血管新生を特徴とする。糖尿病性網膜症は、1つ以上の抗血管新生因子を、眼内(例えば、硝子体)または眼球周囲(例えば、テノン嚢下領域)のいずれかで送達することによって治療することができる。1つ以上の神経栄養因子も、眼内(例えば、硝子体内)または眼球周囲のいずれかで共送達され得る。
【0245】
ブドウ膜炎は炎症を伴う。1つ以上の抗炎症性因子は、送達ベクターの眼内(例えば、硝子体または前房)投与によって投与することができる。
【0246】
比較すると、網膜色素変性症は、網膜変性を特徴とする。いくつかの実施形態では、網膜色素変性症は、1つ以上の神経栄養因子をコードする送達ベクターの眼内投与(例えば、硝子体投与)によって治療され得る。
【0247】
加齢黄斑変性は、血管新生及び網膜変性の両方を伴う。この障害は、1つ以上の神経栄養因子を眼内(例えば、硝子体)及び/または1つ以上の抗血管新生因子を、眼内または眼球周囲(例えば、テノン嚢下領域)にコードする本発明の送達ベクターを投与することにより治療することができる。
【0248】
緑内障は、眼圧の増加及び網膜神経節細胞の喪失を特徴とする。緑内障の治療は、本発明の送達ベクターを使用して、興奮毒性損傷から細胞を保護する1つ以上の神経保護剤の投与を含む。そのような薬剤としては、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、サイトカイン、及び神経栄養因子が挙げられ、眼内、任意選択で硝子体内に送達される。
【0249】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、発作を治療するために、例えば、発作の発症、発生率、または重症度を低減するために使用され得る。発作に対する治療的処置の有効性は、行動(例えば、揺さぶり、目または口のダニ)及び/または電気記録手段(ほとんどの発作は、特徴的な電気記録異常を有する)によって評価され得る。したがって、経時的な複数回の発作を特徴とするてんかんも治療され得る。
【0250】
いくつかの実施形態では、治療を必要とする対象を治療する方法は、キャプシドタンパク質を含むAAVベクターを対象に投与することを含み、キャプシドタンパク質は、配列番号165~187のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、配列番号175のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも95%同一の配列を含むキャプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、配列番号175のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも95%同一の配列を含むキャプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、対象は、ドラベ症候群を有する。いくつかの実施形態では、対象は、レット症候群を有する。いくつかの実施形態では、対象は、アンジェルマン症候群を有する。いくつかの実施形態では、対象は、ニーマン-ピック病を有する。いくつかの実施形態では、対象は、脆弱X症候群を有する。いくつかの実施形態では、対象は、アルツハイマー病を有する。いくつかの実施形態では、対象は、ゴーシャー病を有する。いくつかの実施形態では、対象は、ハンチントン病を有する。いくつかの実施形態では、対象は、パーキンソン病を有する。いくつかの実施形態では、対象は、フリードライヒ運動失調症を有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、脳室内(ICV)注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、髄腔内(IT)注射によって対象に投与される。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、静脈内(IV)注射によって対象に投与される。
【0251】
いくつかの実施形態では、治療を必要とする対象を治療する方法は、キャプシドタンパク質を含むAAVベクターを対象に投与することを含み、キャプシドタンパク質は、配列番号175または180のアミノ酸配列を含み、対象は、ドラベ症候群、レット症候群、アンジェルマン症候群、ニーマン-ピック病、または脆弱X症候群を有し、AAVベクターは、ICVまたはIT注射によって対象に投与される。
【0252】
いくつかの実施形態では、治療を必要とする対象を治療する方法は、キャプシドタンパク質を含むAAVベクターを対象に投与することを含み、キャプシドタンパク質は、配列番号175または180のアミノ酸配列を含み、対象は、ゴーシャー病、ハンチントン病、パーキンソン病、またはフリードライヒ運動失調症を有し、AAVベクターは、ICVまたはIT注射によって対象に投与される。
【0253】
いくつかの実施形態では、ソマトスタチン(またはその活性断片)は、下垂体腫瘍を治療するために送達ベクターを使用して脳に投与される。この実施形態によれば、ソマトスタチン(またはその活性断片)をコードする送達ベクターは、下垂体への微量注入により投与される。同様に、そのような治療を用いて、先端巨大症(下垂体からの異常な成長ホルモン分泌)を治療することができる。ソマトスタチンの核酸(例えば、GenBank受託番号J00306)及びアミノ酸(例えば、GenBank受託番号P01166、処理された活性ペプチドソマトスタチン-28及びソマトスタチン-14を含有する)配列は、当該技術分野で既知である。
【0254】
いくつかの実施形態では、ベクターは、米国特許第7,071,172号に記載される分泌シグナルを含み得る。
【0255】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクター及び/またはウイルスキャプシドは、CNSに(例えば、脳または眼に)投与される。ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、脊髄、脳幹(延髄、脳橋)、中脳(視床下部、視床、視床上部、下垂体、黒質、松果腺)、小脳、終脳(線条体、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、及び前頭葉を含む大脳、皮質、基底核、海馬、ならびに扁桃体)、辺縁系、新皮質、線条体、大脳、及び下丘に導入され得る。ウイルスベクター及び/またはキャプシドはまた、網膜、角膜、及び/または視神経などの眼の異なる領域に投与され得る。
【0256】
ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、送達ベクターのより多くの分散投与のために、脳脊髄液中に(例えば、腰椎穿刺によって)送達され得る。ウイルスベクター及び/またはキャプシドはさらに、血液脳関門が撹乱されている状況(例えば、脳腫瘍または脳梗塞)において、CNSに血管内投与されてもよい。
【0257】
ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、髄腔内、眼内、脳内、脳室内、静脈内(例えば、マンニトールなどの糖の存在下で)、鼻腔内、耳内、眼内(例えば、硝子体内、網膜下、前房)、及び眼球周囲(例えば、テノン嚢下領域)送達、ならびに運動ニューロンへの逆行送達を伴う筋肉内送達を含むが、これらに限定されない当該技術分野で既知の任意の経路によって、CNSの所望の領域(複数可)に投与され得る。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、CNSにおける所望の領域もしくは区画への直接注射(例えば、定位注射)によって液体製剤で投与される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、所望の領域への局所適用により、またはエアロゾル製剤の鼻腔内投与により提供され得る。眼への投与は、液滴の局所適用によるものであり得る。さらなる代替として、ウイルスベクター及び/またはキャプシドは、固体徐放性製剤として投与され得る(例えば、米国特許第7,201,898号を参照されたい)。
【0258】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、運動ニューロンを伴う疾患及び障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)など)を治療及び/または予防するための逆行輸送に使用することができる。例えば、ウイルスベクターは、ニューロンに遊走することができる筋肉組織に送達され得る。
【0259】
番号付き実施形態
添付の特許請求の範囲にかかわらず、本開示は、以下の番号付き実施形態を記述する。
【0260】
1.(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)前記キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記キャプシドタンパク質が、配列番号12~20のいずれか1つの配列を有するペプチドを含む、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【0261】
2.前記カーゴ核酸が、5’及び3’AAV逆位末端反復を含む、実施形態1に記載のAAVベクター。
【0262】
3.前記カーゴ核酸が、導入遺伝子を含む、実施形態1または2に記載のAAVベクター。
【0263】
4.前記導入遺伝子が、治療用タンパク質またはRNAをコードする、実施形態3に記載のAAVベクター。
【0264】
5.前記組換えキャプシドタンパク質が、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、または鳥類AAVキャプシドの天然配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する、実施形態1~4のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0265】
6.前記組換えキャプシドタンパク質が、前記AAV9キャプシドの前記天然配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、実施形態5に記載のAAVベクター。
【0266】
7.前記ペプチドが、前記天然AAV9キャプシドのアミノ酸451~458、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVの同等のアミノ酸残基に対応するアミノ酸位置に位置し、前記ペプチドが、配列番号12~18のうちのいずれか1つから選択される、実施形態1~6のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0267】
8.前記ペプチドが、前記天然AAV9キャプシドのアミノ酸587~594、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVにおける同等のアミノ酸残基に対応するアミノ酸位置に位置し、前記ペプチドが、配列番号19または20から選択される、実施形態1~6のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0268】
9.前記組換えキャプシドタンパク質が、a)配列番号12~18のいずれか1つの配列を有する第1のペプチドと、b)配列番号19~20のいずれか1つの配列を有する第2のペプチドと、を含む、実施形態1に記載のAAVベクター。
【0269】
10.前記第1のペプチドが、アミノ酸位置451~458にあり、前記第2のペプチドが、アミノ酸587~594にあり、アミノ酸番号付けが、前記天然AAV9キャプシド、またはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV、もしくは鳥類AAVにおける同等のアミノ酸残基に基づく、実施形態9に記載のAAVベクター。
【0270】
11.前記ペプチドが、少なくとも1つの抗体の、前記キャプシドタンパク質への結合を阻害する、実施形態1~10のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0271】
12.前記ペプチドが、前記抗体による前記AAVベクターの感染力の中和を阻害する、実施形態11に記載のAAVベクター。
【0272】
13.前記ペプチドが、中枢神経系(CNS)の細胞表面に発現する受容体に選択的に結合する、実施形態1~12のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0273】
14.前記細胞が、運動前野、視床、小脳皮質、歯状核、脊髄、または後根神経節にある、実施形態13に記載のAAVベクター。
【0274】
15.前記ペプチドが、心臓の細胞表面に発現する受容体に選択的に結合する、実施形態1~14のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0275】
16.前記キャプシドタンパク質が、前記キャプシドのHIループを修飾するペプチドをさらに含む、実施形態1~15のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0276】
17.(i)変異AAV9キャプシドタンパク質と、(ii)前記キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記キャプシドタンパク質が、天然AAV9キャプシドタンパク質配列のアミノ酸451~458にX-X-X-X-X-X-X-Xの配列(配列番号158)を有するペプチドを含み、前記ペプチドが、前記天然AAV9キャプシドタンパク質配列に存在しない、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【0277】
18.XがIではなく、XがNではなく、XがGではなく、XがSではなく、XがGではなく、XがQではなく、XがNではなく、及び/またはXがQではない、実施形態17に記載のAAVベクター。
【0278】
19.Xが、S、F、Q、G、K、またはRである、実施形態18に記載のAAVベクター。
【0279】
20.Xが、C、G、R、D、T、またはQである、実施形態18または19に記載のAAVベクター。
【0280】
21.Xが、Q、V、G、Y、R、F、またはDである、実施形態18~20のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0281】
22.Xが、P、Q、A、またはRである、実施形態18~21のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0282】
23.Xが、T、N、A、P、またはIである、実施形態18~22のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0283】
24.Xは、V、Q、A、またはIである、実施形態18~23のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0284】
25.Xが、M、P、R、Q、またはNである、実施形態18~24のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0285】
26.Xが、N、L、F、E、H、またはAである、実施形態18~25のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0286】
27.XがSであり、XがCであり、XがQであり、XがPであり、XがTであり、XがVであり、XがMであり、XがNである、実施形態17に記載のAAVベクター。
【0287】
28.XがFであり、XがGであり、XがVであり、XがPであり、XがNであり、XがQであり、XがPであり、XがLである、実施形態17に記載のAAVベクター。
【0288】
29.XがQであり、XがRであり、XがGであり、XがQであり、XがAであり、XがAであり、XがPであり、XがFである、実施形態17に記載のAAVベクター。
【0289】
30.XがGであり、XがDであり、XがYであり、XがAであり、XがPであり、XがIであり、XがRであり、XがEである、実施形態17に記載のAAVベクター。
【0290】
31.XがKであり、XがTであり、XがRであり、XがRであり、XがIであり、XがVであり、XがQであり、XがHである、実施形態17に記載のAAVベクター。
【0291】
32.XがFであり、XがGであり、XがFであり、XがPであり、XがNであり、XがQであり、XがPであり、XがLである、実施形態17に記載のAAVベクター。
【0292】
33.XがRであり、XがQであり、XがDであり、XがQであり、XがPであり、XがIであり、XがNであり、XがAである、実施形態17に記載のAAVベクター。
【0293】
34.(i)変異AAV9キャプシドタンパク質と、(ii)前記キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記キャプシドタンパク質が、天然AAV9キャプシドタンパク質配列のアミノ酸587~594にX-X-X-X-X-X-X-Xの配列(配列番号158)を有するペプチドを含み、前記ペプチドが、前記天然AAV9キャプシドタンパク質配列に存在しない、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【0294】
35.XがAではなく、XがQではなく、XがAではなく、XがQではなく、XがAではなく、XがQではなく、XがTではなく、及び/またはXがGではない、実施形態34に記載のAAVベクター。
【0295】
36.XがSである、実施形態35に記載のAAVベクター。
【0296】
37.Xが、KまたはTである、実施形態35または36に記載のAAVベクター。
【0297】
38.XがVである、実施形態35~37のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0298】
39.Xが、EまたはDである、実施形態35~38のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0299】
40.XがSである、実施形態35~39のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0300】
41.Xが、WまたはIである、実施形態35~40のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0301】
42.Xが、TまたはAである、実施形態35~41のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0302】
43.Xが、EまたはIである、実施形態35~42のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0303】
44.XがSであり、XがKであり、XがVであり、XがEであり、XがSであり、XがWであり、XがTであり、XがEである、実施形態34に記載のAAVベクター。
【0304】
45.XがSであり、XがTであり、XがVであり、XがDであり、XがSであり、XがIであり、XがAであり、XがIである、実施形態34に記載のAAVベクター。
【0305】
46.(i)組換えキャプシドタンパク質と、(ii)前記キャプシドタンパク質によってキャプシド形成されたカーゴ核酸と、を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、前記キャプシドタンパク質が、配列番号165~187のうちのいずれか1つと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む、前記アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【0306】
47.前記キャプシドタンパク質が、配列番号165~187のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、実施形態46に記載のAAVベクター。
【0307】
48.前記キャプシドタンパク質が、配列番号175のアミノ酸配列を含む、実施形態47に記載のAAVベクター。
【0308】
49.前記キャプシドタンパク質が、配列番号180のアミノ酸配列を含む、実施形態47に記載のAAVベクター。
【0309】
50.前記AAVベクターが、前記カーゴ核酸を、中枢神経系の細胞または組織に選択的に送達する、実施形態46~49のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0310】
51.前記中枢神経系の前記組織が、運動前野、視床、小脳皮質、歯状核、脊髄、または後根神経節である、実施形態50に記載のAAVベクター。
【0311】
52.前記AAVベクターが、前記カーゴ核酸を脳に送達するが、前記AAVベクターを心臓に送達しない、実施形態46~49のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0312】
53.前記AAVベクターが、前記カーゴ核酸を前記脳及び前記心臓に送達する、実施形態46~49のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0313】
54.前記カーゴ核酸の送達が、前記心臓よりも前記脳に多い、実施形態53に記載のAAVベクター。
【0314】
55.前記カーゴ核酸の送達が、前記心臓と前記脳でほぼ等しい、実施形態53に記載のAAVベクター。
【0315】
56.実施形態1~55のいずれか1つに記載のAAVベクターの組換えキャプシドタンパク質をコードする、核酸配列。
【0316】
57.前記核酸配列が、DNA配列である、実施形態56に記載の核酸配列。
【0317】
58.前記核酸配列が、RNA配列である、実施形態56に記載の核酸配列。
【0318】
59.実施形態56~58のいずれか1つに記載の核酸配列を含む、発現ベクター。
【0319】
60.実施形態56~58のいずれか1つに記載の核酸配列を含む、細胞。
【0320】
61.実施形態59に記載の発現ベクターを含む、細胞。
【0321】
62.実施形態1~55のいずれか1つに記載のAAVベクターを含む、薬学的組成物。
【0322】
63.前記組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、実施形態62に記載の薬学的組成物。
【0323】
64.実施形態60または61に記載の細胞を含む、薬学的組成物。
【0324】
65.前記組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、実施形態64に記載の薬学的組成物。
【0325】
66.治療を必要とする対象を治療する方法であって、治療有効量の実施形態1~55のいずれか1つに記載のAAVベクターを、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0326】
67.前記対象が、中枢神経系の疾患または障害を有する、実施形態66に記載の方法。
【0327】
68.前記中枢神経系の疾患または障害が、ドラベ症候群である、実施形態67に記載の方法。
【0328】
69.前記中枢神経系の疾患または障害が、レット症候群である、実施形態67に記載の方法。
【0329】
70.前記中枢神経系の疾患または障害が、アンジェルマン症候群である、実施形態67に記載の方法。
【0330】
71.前記中枢神経系の疾患または障害が、ニーマン-ピック病である、実施形態67に記載の方法。
【0331】
72.前記中枢神経系の疾患または障害が、脆弱X症候群である、実施形態67に記載の方法。
【0332】
73.前記中枢神経系の疾患または障害が、ゴーシャー病である、実施形態67に記載の方法。
【0333】
74.前記中枢神経系の疾患または障害が、ハンチントン病である、実施形態67に記載の方法。
【0334】
75.前記中枢神経系の疾患または障害が、パーキンソン病である、実施形態67に記載の方法。
【0335】
76.前記中枢神経系の疾患または障害が、フリードライヒ運動失調症である、実施形態67に記載の方法。
【0336】
77.AAVベクターが、キャプシドタンパク質を含み、前記キャプシドタンパク質が、配列番号165~187のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、実施形態66~76のいずれか1つに記載の方法。
【0337】
78.AAVベクターが、キャプシドタンパク質を含み、前記キャプシドタンパク質が、配列番号175のアミノ酸配列を含む、実施形態66~76のいずれか1つに記載の方法。
【0338】
79.AAVベクターが、キャプシドタンパク質を含み、前記キャプシドタンパク質が、配列番号180のアミノ酸配列を含む、実施形態66~76のいずれか1つに記載の方法。
【0339】
80.前記AAVベクターが、脳室内(ICV)注射によって前記対象に投与される、実施形態66~79のいずれか1つに記載の方法。
【0340】
81.前記AAVベクターが、髄腔内(IT)注射によって前記対象に投与される、実施形態66~79のいずれか1つに記載の方法。
【0341】
82.前記AAVベクターが、静脈内(IV)注射によって前記対象に投与される、実施形態66~79のいずれか1つに記載の方法。
【0342】
83.前記対象が、哺乳動物である、実施形態66~82のいずれか1つに記載の方法。
【0343】
84.前記対象が、ヒトである、実施形態83に記載の方法。
【0344】
85.細胞に核酸分子を導入するインビトロ方法であって、前記細胞を、実施形態1~55のいずれか1つに記載のAAVベクターと接触させることを含む、前記方法。
【0345】
86.薬剤として使用するための、実施形態1~55のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0346】
87.治療を必要とする対象の治療方法で使用するための、実施形態1~55のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【0347】
88.治療を必要とする対象におけるCNSの疾患または障害を治療または予防する方法で使用するための、実施形態1~55のいずれか1つに記載のAAVベクター。
【実施例
【0348】
単に例示を目的として本明細書に含まれる以下の実施例は、限定することを意図しない。本明細書で使用される場合、用語STRD.101及びSTRD.102は、キャプシドタンパク質配列を説明するために使用され、AAV-STRD.101及びAAV-STRD.102は、キャプシドタンパク質を含むAAVベクターを説明するために使用される。しかしながら、STRD.101及びSTRD.102という用語は、当業者には明らかであるように、いくつかの文脈では、名付けられたキャプシドを含むAAVベクターを説明するために使用され得る。
【0349】
実施例1.コンビナトリアル工学及び抗体を回避するAAVベクターの選択
抗体を回避するAAV変異体の生成方法は以下の通りである。第1のステップは、例えば、低温電子顕微鏡法を使用した、AAVキャプシド表面上の立体構造3D抗原エピトープの特定を伴う。次いで、抗原モチーフ内の選択された残基は、ヌクレオチドNNKによって置換された各コドンと、ギブソンアセンブリ及び/またはマルチステップPCRによって一緒に組み合わされた遺伝子断片とを有する縮重プライマーを使用して、変異誘発に供される。変異抗原モチーフの縮重ライブラリを含有するキャプシドコード遺伝子を野生型AAVゲノムにクローニングして、DNA配列をコードする元のCapを置き換え、プラスミドライブラリを得る。次に、プラスミドライブラリを、アデノウイルスヘルパープラスミドで293産生細胞株にトランスフェクトして、AAVキャプシドライブラリを生成し、これを選択に供することができる。AAVライブラリの生成の成功は、DNA配列決定を介して確認される。
【0350】
中和抗体(NAb)を回避する、及び/または中枢神経系(CNS)を標的とすることができる新しいAAV株を選択するために、AAVライブラリを、非ヒト霊長類において複数ラウンドの感染に供する。各段階で、目的の組織は、動物対象から単離される。目的の組織から採取した細胞溶解物を配列決定して、抗体中和を回避するAAV分離株を特定する。非ヒト霊長類における複数ラウンドの感染の後、変異誘発された各領域からの単離された配列を、全ての順列及び組み合わせで組み合わせる。
【0351】
具体例として、AAVキャプシドタンパク質(VP1)上の共通抗原モチーフを上述のように変異誘発に供した。次いで、縮重ライブラリ(図1A)を、非ヒト霊長類において第1のラウンドの感染に供した(静脈内注射)。感染後7日目に組織を採取し、配列決定して、単一のAAV分離株を特定した。
【0352】
脊髄、後根神経節、前頭葉、側頭葉、後頭葉、被殻、淡蒼球、視床、扁桃体、海馬、黒質、脳橋、小脳、延髄を含む組織試料において、様々な組換えAAV分離株が特定された。この第1のラウンドの進化の結果を図1Bに示す。
【0353】
次いで、第1のラウンドの進化中に単離された組換えAAV(図1B)を、第2の非ヒト霊長類に再導入した。感染後7日目に組織を採取し、配列決定して、単一のAAV分離株を特定した。この第2ラウンドの進化の結果を図1Cに示す。
【0354】
最も高い頻度の組換えAAVを配列決定した。これらのAAVに存在する置換を表6.1及び6.2に示す。これらのデータは、表6.1及び6.2に列記される置換を含むキャプシドタンパク質を有する組換えAAVビリオンが、非ヒト霊長類においてインビボで中和抗体を回避し、所望の標的組織に対して向性を有することを示す。
【0355】
実施例2:組換えAAVベクターの製造可能性
実施例1で特定された様々な組換えAAVが大規模な系で製造することができるかどうかを決定するために、AAVを標準的な方法に従って製造し、収率を野生型AAVベクターの収率と比較した。
【0356】
標準的なトリプルトランスフェクションプロトコルに従って、AAVをHEK293細胞で産生した。簡潔に述べると、細胞を、(i)野生型AAV9キャプシド配列、STRD.101キャプシドバリアント配列(配列番号180)、またはSTRD.102キャプシドバリアント配列(配列番号175)のいずれかを含むプラスミド、(ii)5’ITR、導入遺伝子、及び3’ITR配列を含むプラスミド、ならびに(ii)AAV産生に必要なヘルパー遺伝子を含むプラスミドでトランスフェクトした。2つの異なる導入遺伝子を、各キャプシドと共に、自己相補的な構築物において使用した。その後、細胞を溶解し、ビリオンを、親和性カラム、CsCl密度超遠心分離、及び透析を使用して精製した。続いて、PCRベースの定量化アプローチを使用して、各AAVの収率を測定した。
【0357】
図2に示すように、STRD.101及びSTRD.102キャプシドを含む組換えAAVベクターは、野生型AAV9の収率と同様の収率を有した。このデータは、組換えキャプシドタンパク質を含む組換えAAVが商業的製造に好適であることを確認する。
【0358】
実施例3:組換えAAVウイルスベクターを使用したインビトロ形質導入
実施例1の組換えAAVベクターが一般に感染性であり、培養において細胞を形質導入することができるかどうかを確認するために、標準的なプロトコルに従って様々なAAVベクターを調製した。
【0359】
組換えAAVの感染力を、標準的なTCID50アッセイを使用して試験した。簡単に述べると、HeLaRC32細胞を、アデノウイルス(Ad5)の存在下で、5桁に及ぶ用量で組換えAAV粒子で感染させた。72時間後、DNAを抽出し、ベクターゲノム複製をqPCRにより定量化した。
【0360】
粒子対感染力比を計算して、感染力を決定した。図3に示すように、AAV-STRD.101ベクターの感染力比は、野生型AAV9の感染力比と比較して低かった。より低い感染力比はより高い効力につながるため、AAV-STRD.101は、野生型AAV9よりもより感染力が高い。
【0361】
個別に、様々な細胞株においても感染力を決定した。ルシフェラーゼ導入遺伝子をパッケージングする組換えAAVを生成し、1細胞当たり10,000ベクターゲノム(vg)の用量で培養において細胞と接触させた。感染の48時間後、細胞を溶解した。溶解物を生物発光基質と接触させ、相対的蛍光単位(RFU)を測定した。図4A~4Dに示すように、AAV-STRD.101ベクターは、野生型AAV9に匹敵するレベルで、U87細胞(ヒト膠芽腫細胞株、図4A)、N2A細胞(マウス神経堤由来細胞株、図4B)、SY5Y細胞(ヒト神経芽腫細胞株、図4C)、及びU2OS細胞(ヒト骨肉腫細胞株、図4D)に感染した。
【0362】
したがって、このデータは、実施例1の組換えAAVベクターが培養において細胞に効果的に形質導入され得ることを示す。
【0363】
実施例4:中枢神経系を標的とする組換えAAVのインビボでの特徴付け
2つの組換えキャプシドタンパク質、STRD.101及びSTRD.102をインビボでの特徴付けのために選択した。これらのキャプシドタンパク質を含み、天然tdTomato蛍光導入遺伝子をパッケージングする組換えAAVを生成した。組換えAAVを、0日目に脳室内注射によって新生仔マウスに投与した。注射の3週間後に、脳組織を採取し、固定して、tdTomato蛍光の視覚的評価により発現を評価した。図5は、4%PFAでの固定後から24時間後の冠状ビブラトーム切片におけるtdTomato発現を示す代表的な画像を提供する。これらの同じ切片も、免疫組織化学を使用して可視化した(図6)。図5及び図6の画像に示されるように、AAV9、AAV-STRD.102、及びAAV-STRD.101ベクターはそれぞれ、脳組織において異なる分布を有し、最も高い導入遺伝子発現は、注射部位の近くに局在した。まとめると、このデータは、試験した組換えAAVが、脳室内注射後にインビボで標的細胞への導入遺伝子の送達に成功したことを示す。
【0364】
tdTomatoをパッケージングするAAV-STRD.101及びAAV-STRD.102ベクターも、5.5×1013vg/kgの用量で静脈内注射により4匹の成体マウスに投与した。注射の3週間後に、肝臓及び心臓を採取し、固定して、tdTomato蛍光の視覚的評価により発現プロファイルを評価した。
【0365】
4%PFAでの固定後から24時間後のビブラトローム肝臓切片におけるTdTomato発現を示す1匹のマウスからの代表的な画像を、図7に提供する。特に、AAV-STRD.102及びAAV-STRD.101ベクターは、野生型AAV9と比較して肝臓に非標的化された。この望ましい特性は、肝臓におけるカウンタースクリーニングが進化の間に行われなかったため、予期しないものであった。
【0366】
4%PFAでの固定後から24時間後のビブラトローム心臓切片におけるTdTomato発現を示す1匹のマウスからの代表的な画像を、図8に提供する。特に、試験したベクターは、心臓に対して異なる向性を有した。具体的には、AAV-STRD.102ベクターは、AAV-STRD.101と比較して、心臓における感染性が低かった。進化中に心臓のスクリーニングが行われなかったため、この差次的形質導入は全く予期しないものであった。
【0367】
まとめると、このデータは、AAV-STRD.102及びAAV-STRD.101ベクターは、インビボでCNS組織を標的とし、肝臓によるクリアランスを回避するために使用することに成功する可能性があり、遺伝子療法のための強力なツールであることを示す。それらの異なる向性(すなわち、AAV-STRD.101は、AAV-STRD.102よりも心臓において感染性が高かった)を考えると、これらのベクターは、特定の所望の組織に対する遺伝子療法の治療を標的化するための強力なツールである。
【0368】
実施例5:非ヒト霊長類における組換えAAVの生体内分布
生体内分布を決定するために、組換えAAVを非ヒト霊長類に投与した。組換えAAVを、静脈内(IV)及び脳血管内(ICV)注射によって投与した(図9)。AAV-STRD.101を、IV注射により2.9×1013vg/kg、及びICV注射により2.1×1013vg(黒点)の用量で投与した。AAV-STRD.102を、IV注射により2.8×1013vg/kg、及びICV注射により3.0×1013vg(白点)の用量で投与した。30日後、動物を屠殺し、様々なCNS組織におけるウイルス負荷をqPCRにより測定した。
【0369】
図9に示されるように、AAV-STRD.102及びAAV-STRD.101の両方が、様々なCNS組織に感染した。加えて、AAVは高レベルの形質導入を示したため、このデータは、これらのAAVがインビボでAAVを中和することを回避する可能性が高いことを示唆する。
【0370】
実施例6:治療を必要とする対象を治療するための細胞療法方法
細胞を、エクスビボでAAVベクターを使用して形質導入する。いくつかの目的のために、細胞は、自家(すなわち、治療される対象に由来する)または同種異系(すなわち、異なる対象/ドナーに由来する)であり得る。AAVを使用した細胞の形質導入、及び導入遺伝子の発現が検証された後、細胞が、標準的な臨床方法を使用して対象に投与される。
【0371】
細胞は対象に1回投与され得るか、または投与は治療上有効な間隔で複数回繰り返され得る。投与される細胞の数は、例えば、治療される疾患または状態、対象の疾患/状態の重症度、ならびに対象の身長及び体重に応じて異なる。
【0372】
実施例7:治療を必要とする対象を治療するための遺伝子療法方法
本明細書に記載のAAVベクター(例えば、配列番号175または180の配列を有するキャプシドを含むAAVベクター)は、投与を必要とする対象に投与され、対象は、CNSの疾患または障害を有する。AAVベクターは対象に1回投与されるか、または投与は治療上有効な間隔で複数回繰り返され得る。投与は、静脈内(IV)、脳室内(ICV)、または髄腔内(IT)注射などの1つ以上の治療上有効な経路によって行われる。AAVベクターの用量は、例えば、治療される疾患または状態、対象の疾患/状態の重症度、ならびに対象の身長及び体重に応じて異なる。例えば、対象に投与されるAAVの用量は、AAVベクターがIV注射によって投与される場合、2.8×1013vg/kgまたは2.9×1013vg/kgであり得る。AAVベクターがICV注射によって投与される場合、用量は、2.1×1013vgまたは3.0×1013vgであり得る。いくつかのプロトコルでは、AAVベクターは、IV及びICV注射の両方によって対象に投与され得る。
【0373】
前述は本発明を例示するものであり、それらを限定するものとして解釈されるべきではない。本発明は、以下の特許請求の範囲によって定義され、特許請求の範囲の等価物がそこに含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2022525955000001.app
【国際調査報告】