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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(54)【発明の名称】ガラスセラミック物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/22 20060101AFI20220513BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20220513BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20220513BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C03C17/22 Z
C03C17/34 Z
C23C14/06 A
C23C14/58 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556996
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(85)【翻訳文提出日】2021-11-01
(86)【国際出願番号】 EP2020057562
(87)【国際公開番号】W WO2020193347
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】1903010
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504374919
【氏名又は名称】ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】テオ ジェゴレル
(72)【発明者】
【氏名】エルワン リュエ
【テーマコード(参考)】
4G059
4K029
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC16
4G059EA01
4G059EA12
4G059EB04
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA05
4G059GA12
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA35
4K029BA58
4K029BC02
4K029BD00
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC04
4K029DC34
4K029DC39
4K029EA01
4K029GA01
(57)【要約】
ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、前記基材が、窒化ジルコニウムケイ素SiZrを含む少なくとも1つの層で、少なくとも1つの領域においてコーティングされており、合計Si+Zrに対するZrの原子比率y/(x+y)が、10%~90%、好ましくは15%~50%、特に28%~33%である、ガラスセラミック物品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、前記基材が、窒化ジルコニウムケイ素SiZrを含む少なくとも1つの層で、少なくとも1つの領域においてコーティングされており、合計Si+Zrに対するZrの原子比率y/(x+y)が、10%~90%、好ましくは15%~50%、特に28%~33%である、ガラスセラミック物品。
【請求項2】
前記層が、ケイ素、ジルコニウム、及び窒素で本質的に(少なくとも85重量%まで)作られており、実際には、存在する可能性のある不純物を除いて、ケイ素、ジルコニウム、及び窒素のみで作られており、この場合、前記不純物が層の5%を超えない、窒化ジルコニウムケイ素層であることを特徴とする、請求項1に記載のガラスセラミック物品。
【請求項3】
前記層の厚さが、200~5000nm、特に700~2500nm、好ましくは1000~1500nmの範囲内にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガラスセラミック物品。
【請求項4】
前記層が、15GPa超、特に20GPa超、実際には30GPa超の硬さH、及び140GPa超、特に150GPa超の弾性率Eを示すことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項5】
前記層を含むコーティングが、窒化ジルコニウムケイ素を含む層を1つのみ含み、実際に前記層のみを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項6】
前記基材が、窒化ジルコニウムケイ素を含む前記層の上又は下に、エナメル及び/又は塗料、特に光沢タイプのエナメル及び/又は塗料の少なくとも1つの層でコーティングコーティングされていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項7】
前記層が、下にある他のコーティング層なしに、ガラスセラミック製の前記基材と直接接触していることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項8】
前記層、又は窒化ジルコニウムケイ素を組み込んだ少なくとも1つの層が、ガラスセラミック上に存在する窒化ジルコニウムケイ素を含むコーティングの外層を構成することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項9】
前記層が、0.25未満の摩擦係数を有する少なくとも1つの層でコーティングされていることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項10】
前記層が、特に4/3(x+y)~5/3(x+y)の範囲の窒素数zを示すことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項11】
使用されるターゲット、並びに前記層におけるドーパントの含有率、特にアルミニウムの含有率、又は前記層中の他の成分の含有率が、15重量%未満、好ましくは10重量%未満、実際にはゼロでさえあることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項12】
1つ又は複数の加熱要素を更に含む調理装置であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のガラスセラミック製の物品の製造方法であって、前記物品が、ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、
合計Si+Zrに対するZrの原子比率y/(x+y)が、10%~90%、好ましくは15%~50%、特に28%~33%である窒化ジルコニウムケイ素SiZrを含む少なくとも1つの層を、前記基材の少なくとも1つの領域に堆積させる、方法。
【請求項14】
このようにコーティングした前記基材に、750℃~900℃の温度で強化処理又は徐冷を施すことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記層の堆積を、カソードスパッタリング、特にマグネトロン強化カソードスパッタリングによって行われ、前記カソードスパッタリングが、好ましくはパルスDCタイプであることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックの分野に関する。より具体的には、本発明は、ガラスセラミック、特に家具表面として及び/又は調理表面として作用することを意図したガラスセラミックプレートで作られた物品又は製品に関する。用語「ガラスセラミック物品」又は「ガラスセラミック製の物品」は、ガラスセラミック材料製の基材(プレートなど)をベースとする物品を意味すると理解され、この基材には適切な場合には、その最終用途に必要とされる装飾的又は機能的な追加の付属品又は要素を備えることが可能であり、物品は、基材のみを示すことも、追加の取付具(例えば、制御パネルを備えたクックトップ、その加熱要素など)を備える基材を示すことも可能である。
【背景技術】
【0002】
ガラスセラミックは、前駆体ガラス又は母材ガラス又はグリーンガラスと呼ばれるガラスとして出発し、その特定の化学組成は、セラミック化処理と呼ばれる適切な熱処理によって、制御された結晶化を生じさせることを可能にする。この特定の部分的な結晶構造は、ガラスセラミックに固有の特性を付与する。
【0003】
現在、種々のタイプのガラスセラミックプレートが存在し、所望の特性に好ましくない影響を及ぼす危険性なしにこれらのプレート及び/又はこれらのプレートの製造方法を修正することが大きな問題であることを考慮すると、各々の変形態様は、主要な研究及び多数の試験の結果である。特に、クックトップとして使用できるようにするためには、ガラスセラミックプレートは、一般に、下にある加熱要素の少なくとも一部をオフにしたときに隠すのに十分に低く、かつ状況(放射加熱、誘導加熱など)に応じ、利用者が安全のために動作状態で加熱要素を視覚的に検出することができるのに十分に高い可視領域の波長の透過率を示さなければならない。また、ガラスセラミックプレートは、特に放射加熱要素を有するプレートの場合には、赤外線領域の波長の高い透過率を示さなければならない。ガラスセラミックプレートはまた、それらの使用分野において必要とされるような十分な機械的強度を示さなければならない。特に、家庭用電化製品分野のクックトップとして、又は家具の表面として使用するためには、ガラスセラミックプレートが圧力、衝撃(器具の支持及び落下など)などに対して良好な耐性を示さなければならない。
【0004】
従来、ガラスセラミックプレートは、クックトップとして使用されるか、又はガラスセラミックプレートは、例えば暖炉インサートを形成するために、他の用途において加熱要素と関連付けることもできる。最近、それらの使用は、日常生活の他の領域にまで拡張されており、ガラスセラミックプレートは、家具表面として、特に、ワークトップ、セントラルアイランド、コンソールなどを形成するために使用することができ、これらの新しい用途においてガラスセラミックプレートが占める表面積は、過去よりも大きい。
【0005】
それらの表面での器具(クックトップのためのソースパン又は加工面のための様々な家庭用品など)の繰り返しの使用により、ガラスセラミックプレートは、使用に伴って、これらの器具との摩擦の影響下で擦過されることがあり、実際に、金属との摩擦の影響下で着色されることもある。食品がそのプレートの表面に付着することがあり、又はこれらのプレートが指紋の問題を示すことがあるので、より研磨性のある研磨スポンジなどの洗浄製品の使用もまた、擦過のさらなる原因となり得る。
【0006】
プレートは更に、機能的及び/又は装飾的な目的を有する異なるコーティングを示すことができ、最も一般的なものは、ガラスフリット及び顔料をベースとするエナメル、並びに高温に耐性のある特定の塗料、例えばシリコーン樹脂をベースとする塗料である。他のコーティングもまた存在し、特に、コントラスト効果を得るために、反射層などの層又は層のスタックをベースとする層が存在するが、これらのコーティングは一般に、より高価であり、それらの製造はしばしば、より問題となる。コーティングを追加することは、プレートのメンテナンスを複雑にする可能性もある。なぜならば、コーティングが洗浄中に有害に変化するか、又はガラスセラミックの光学的若しくは機械的物性を有害に変化させる可能性があるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラスセラミックがコーティングされているか否かにかかわらず、ガラスセラミックの分野において現在も続いている関心事は、メンテナンスが容易であり、その外観及びその特性を長期間保持する製品を提供することができることに残っている。
【0008】
本発明は、器具の摩擦(擦過、金属摩擦による着色)に関連する損傷に関して、ガラスセラミックプレートの上記の欠点を克服することを試みている。この欠点の克服は、改善されたガラスセラミックプレート、特に、クックトップなどの1つ又は複数の加熱要素と共に使用されることを意図された、又は家具表面として作用することを意図された、新しいガラスセラミックプレートを提供することによるものである。このプレートは、その使用に望まれる他の特性を損なうことなく、又はその美的外観を損なうことなく、その日常的使用におけるその表面での擦過傷の出現を抑制することを可能にし、また、金属器具との摩擦による着色の出現を抑制することを可能にする。
【0009】
この目的は、本発明に従って開発されたガラスセラミック製品によって達成される。この製品では、特定のコーティングの適用によって擦過傷又は着色の出現が抑制される、このコーティングは、所望の効果を得るために正確な基準に従って選択される。これは、ガラスセラミックの表面に堆積された硬質材料(例えば、窒化ケイ素及び/又は窒化アルミニウムタイプの材料)の層中へのジルコニウムの添加、特に、特定の原子比率のジルコニウムを有する窒化ジルコニウムケイ素を含む層の、ガラスセラミックの表面(特に、器具と接触するように意図された面、一般に、プレートの上面)における堆積又は存在が、擦過傷の低減及び金属との摩擦作用による着色効果の低減に非常に好ましい効果を有することを、本発明者らが実証したためである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これによれば、本発明は、ガラスセラミック製の少なくとも1つの基材、例えばプレートを含み、前記基材は、窒化ジルコニウムケイ素SiZrを含む少なくとも1つの層で、少なくとも1つの領域においてコーティングされており、合計Si+Zrに対するZrの原子比率y/(x+y)が、10%~90%(又は、換言すれば、10%と90%との間で、境界が含まれるか、又は10%から90%まで及ぶ範囲内)、好ましくは15%~50%、特に28%~33%である、新規なガラスセラミック物品に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に従って堆積された層は、擦過傷の出現を大幅に抑制すること、及び金属器具(ソースパンなど)の摩擦作用による着色の出現を抑制することとの両方を可能にすることによって、プレートの耐久性を増大させる。
【0012】
本発明による製品はまた、ガラスセラミック基材、又は基材上に存在する可能性のある任意の隣接する層への、上記の層の良好な接着性(支持体の前処理及び/又は接着促進剤、結合層又はプライマーの使用を必要としない)を示す。この層/コーティングは特に、熱衝撃(例えば、600℃近傍)後に層間剥離を示さず、高温に耐える。コーティングされた基材は、良好な熱安定性を示し、異なる加熱源(誘導熱源、放射熱源など)と共に使用することができる。更に、層/コーティングは、ガラスセラミック基材を機械的に弱くしない。
【0013】
上述の層は、有利には、ケイ素、ジルコニウム及び窒素から本質的に(少なくとも85重量%まで)、実際にはケイ素、ジルコニウム及び窒素のみから(この場合、層の5%を超えない存在する不純物を除いて)作られており、この層は、その後、より単純に「窒化ジルコニウムケイ素層」と呼ばれる。「窒化ジルコニウムケイ素層」という名称は、適切な場合には、他の化学元素の存在を排除するものではなく、層の実際の化学量論を予断するものでもない。窒化ジルコニウムケイ素層は特に、それらの電子伝導性を増加させ、それによってマグネトロンカソードスパッタリング技術による堆積を容易にする目的で、使用されるターゲット中にドーパントとして添加される、少量の1種又は複数種の化学元素、典型的にはアルミニウム若しくはホウ素がドープされていてよく、又はこれらを含んでいてもよい。本発明により選択される層は特に、窒化ジルコニウムケイ素SiZrから作られた層(若しくは窒化ジルコニウムケイ素の層)、又はアルミニウムをドープした窒化ジルコニウムケイ素SiZr:Alから作られた層のいずれかである。しかしながら、ドーパント(特にアルミニウム)の含有率は、15重量%未満(ターゲット及び層中)、好ましくは10重量%未満、実際にはゼロでさえある。より一般的には、層中のケイ素、ジルコニウム及び窒素以外の成分の含有率は、15重量%未満、好ましくは10重量%未満、実際にはゼロでさえある。
【0014】
本発明により選択される窒化ジルコニウムケイ素層における、合計Si+Zrに対するZrの原子比y/(x+y)は、上述のように、10%~90%、好ましくは15%~50%、特に28%~33%である。このような層は特に、例えば、15原子%~40原子%のZrに対して85原子%~60原子%のSiを含むターゲットで堆積させることができ、このターゲットは、窒素含有雰囲気中でスパッタリングされる。
【0015】
本発明に従って選択された前記層は、特に4/3(x+y)~5/3(x+y)の範囲の窒素数zを更に示すことができる。
【0016】
前記ガラスセラミックの耐久性を改善する目的でガラスセラミックをコーティングするために使用される窒化ジルコニウムケイ素層(又は後で特定するように複数の窒化ジルコニウムケイ素層がある場合には各窒化ジルコニウムケイ素層)は、有利には厚い層であり、特に、マグネトロンによって通常堆積される薄い層(その(物理的)厚さが100nm程度を超えない)よりも厚く、前記層の(物理的)厚さは特に、200~5000nm、特に、700~2500nm、好ましくは1000~1500nmの範囲内にある。
【0017】
有利には、本発明による窒化ジルコニウムケイ素層は、14GPa超、特に20GPa超、実際には30GPa超の硬さHを発揮する。この層はまた、140GPa超、特に150GPa超、実際には200GPa以上でさえある弾性率Eを示す。硬さH及び弾性率Eは、CSM Instruments社によって販売されているDCMII-400タイプのナノインデンターを用い、標準規格NF EN ISO 14577による3面Berkovichタイプのピラミッドタイプダイヤモンドチップを用いて、ガラスセラミック上に濃淡のない色合い(100%の被覆度を有する)として堆積された層で測定する。
【0018】
本発明において、の窒化ジルコニウムケイ素層1つは特に、本発明による改善を得るのに十分である。「層」という用語は、前記層が、例えば1種の同じターゲットから出発する複数の経路で得られたとしても、1つの同じ材料の均一な層を意味すると理解される。これによれば、本発明に従って選択された層を含むコーティングは、有利には窒化ジルコニウムケイ素を含む層を1つのみを含有することができ、実際には前記層のみを含有することさえできる。
【0019】
しかしながら、本発明による改善された製品を得る目的のために、同じコーティング内に複数の窒化ジルコニウムケイ素層を使用すること、又は上述の層及び1つ若しくは複数の他の層(若しくは言い換えれば、上述の窒化ジルコニウムケイ素層の上若しくは下の1つ若しくは複数の他の層)を含む層のスタックを使用することは除外されず、これらの層によって作られたコーティング(又はスタック)は、本発明による窒化ジルコニウムケイ素層の存在によってプレートの耐久性を増大させる。
【0020】
本発明による少なくとも1つの窒化ジルコニウムケイ素層を含むコーティングは例えば、基材と上述の層との間に、少なくとも1つの層、又は層のスタックを含むことができる。これらの層又は層のスタックは例えば、プレートの反射の外観に影響を及ぼすか、又は可能性のあるイオンの移動を遮断するために使用することができ、又は接着層として作用することなどができる。このコーティングは、例えば、酸窒化ケイ素若しくは窒化ケイ素の層、又はシリカ又はSiOからなる接着層などを含むことができ、この層又はこれらの層の(物理的である)厚さは、好ましくは1~30nmに及ぶ範囲内にある。
【0021】
コーティングが複数の窒化ジルコニウムケイ素層(すなわち、窒化ジルコニウムケイ素SiZrを含む層)を含む場合、これらの層の各々についての、合計Si+Zrに対するZrの原子比y/(x+y)は、好ましくは10%~90%であるが、必ずしも、窒化ジルコニウムケイ素を含むこれらの層のすべてについて同じである必要はない(これによれば、比y/(x+y)は、窒化ジルコニウムケイ素SiZrを含む存在する2つの層について異なっていてもよい)。
【0022】
有利な実施形態では、本発明による窒化ジルコニウムケイ素層又は少なくとも1つの窒化ジルコニウムケイ素層は、下にある他のコーティング層なしに、その面の少なくとも1つ(好ましくは使用位置でユーザーに向けられるように意図されたその面、又は上面若しくは外面であり、他の面(下面又は内面)は使用位置で一般に隠されている)において、ガラスセラミックで作られた基材と直接接触して堆積されている(又は換言すれば、製品において、前記ガラスセラミックと(直接)接触している)。
【0023】
別の代替的又は累積的な実施形態では、本発明による窒化ジルコニウムケイ素層又は窒化ジルコニウムケイ素を組み込んだ少なくとも1つの層は、ガラスセラミック上に存在するコーティングの外側の層(又は外層、すなわち、大気側に位置するコーティングの層、若しくはガラスセラミックから最も離れた層、若しくは視認可能な層)を構成している。
【0024】
代替的には、上記の層は、1つ又は複数の他の層(大気側)でコーティングされ得る。特に有利な実施形態では、本発明によるガラスセラミック基材上に堆積されるコーティングは、これによれば、本発明による窒化ジルコニウムケイ素層に加えて、低摩擦係数(0.25未満)を有する少なくとも1つの層(特に外層)、例えば酸化チタンTiO又はTiZrO又はBN又はZrO(これらの層の一方又は他方もドープされることが可能である)などの層、又はこれらをベースとする層を含む。この層は、潤滑特性を示し、かつこの層の存在は、スタックの擦過及び着色に対する受けやすさを更に低減することを可能にする。この層の厚さは、好ましくは20nm未満、特に10nm以下、好ましくは2~10nmの間、特に4~8nm程度である。特に、本発明によるガラスセラミック基材上のコーティングは、以下の2つの層、すなわち、ガラスセラミックと接触している本発明によって定義される窒化ジルコニウムケイ素層と、0.25未満の摩擦係数を有する大気側の層との組合せのみからなることができ、この低摩擦係数を有する層は、本発明による窒化ジルコニウムケイ素層をコーティングしている。摩擦係数は、CSM Instrumentsが販売しているCSMマイクロスクラッチ装置を用いて測定される。この装置では、直径1Nの一定の力を、一定速度で2cmの距離を移動する直径1cmのステンレス鋼球に印加し、合計30回のパス(15回の往復運動)を実施する。摩擦係数は、センサーによって測定された法線力に対する接線力の割合である。
【0025】
当然、上述した異なる実施形態を互いに組み合わせることができる。好ましくは、本発明による改善された特性を得る目的で堆積されているコーティングは、本発明により規定された窒化ジルコニウムケイ素層1つのみからなるか、又は基材から連続的に開始して、上記のように、前記窒化ジルコニウムケイ素層及び低い摩擦係数(0.25未満)を有する層(例えば、TiO)からなる。
【0026】
コーティング(窒化ジルコニウムケイ素層及び任意選択の他の層を含む)の合計厚さは、好ましくは200~5000nmである。
【0027】
窒化ジルコニウムケイ素層又はこの層を組み込んだコーティング(若しくはスタック)は、基材の一部のみ、又は全面(特に主面)、例えば使用位置の上面を覆うことができ、この面は、特に洗浄を受けやすい。特に、ガラスセラミック製の基材には、その上面又は外面に、単独で、又は層のスタックの一部を形成して、本発明による前記窒化ジルコニウムケイ素層が設けられる。
【0028】
本発明によるガラスセラミック物品(又は製品)は特に、クックトップ、又は調理装置若しくは設備、又はガラスセラミック(材料)で作られた少なくとも1つの基材を組み込む(又はこれを含む、又はこれから作られている)任意の家具物品であり(基材は、最も一般的にはプレートの形態であり、家具の一部に組み込まれるか、又は組み立てられることになり、及び/又は家具の一部を形成するために他の要素と組み合わされることになる)、前記基材は、適切な場合には、表示特性を有する領域(例えば、発光源と組み合わせて)若しくは装飾領域を有する領域を示すこと、又は加熱要素と組み合わせることが可能である。その最も一般的な用途において、本発明による物品は、クックトップとして作用することが意図されており、このプレートは一般に、加熱要素、例えば、放射熱源若しくはハロゲン熱源又は誘導加熱要素も含むキッチンレンジ又は調理表面に組み込まれることが意図される。別の有利な用途では、本発明による物品は、ガラスセラミックで作られたワークトップ、又はセントラルアイランドであり、適切な場合には、異なる表示装置を有し、必ずしも調理領域を有さず、実際にはコンソールタイプの家具(基材は、例えば、上部を形成している)などでさえある。
【0029】
基材(又は本発明による物品自体が基材のみから形成されている場合は、この物品自体)は、一般にプレート(の形態)であり、特に、少なくとも1つの光源及び/若しくは1つの加熱要素とともに、特にこれを覆うか、若しくは受け入れるために使用されることが意図されており、又は家具表面として作用することが意図されている。この基材(又はこのプレートのそれぞれ)は一般に、幾何学的形状、特に長方形、実際には正方形、実際には円形又は楕円形などの形状であり、一般に、使用位置でユーザーに向けられた面(又は可視面若しくは外面、一般に使用位置における上面)、使用位置で、例えば家具の枠組み又はケーシング内に一般に隠れている別の面(又は内面、一般に使用位置における下面)、及び縁面(又はエッジ若しくは厚さ)を示す。上面又は外面は、概して平坦かつ滑らかであるが、少なくとも1つの突出領域及び/又は少なくとも1つの凹部領域及び/又は少なくとも1つの開口部及び/又は傾斜縁などを局所的に示してもよく、これらの形状の変化は、特にプレートの連続的な変化を構成する。下面又は内面はまた、平坦かつ滑らかであってもよく、又はピンを備えていてもよい。
【0030】
ガラスセラミック基材の厚さは、一般に少なくとも2mm、特に少なくとも2.5mm、有利には15mm未満、特に3~15mm程度、特に3~8mm程度、又は3~6mm程度である。基材は、好ましくは平坦な又は実質的に平坦なプレートである(特に、プレートの対角線から0.1%未満、好ましくはゼロの程度の撓みを有する)。
【0031】
基材は任意のガラスセラミックをベースとしていてもよいが、この基材は、有利には、ゼロ又は実質的にゼロのCTE、特に20~700℃の間で30・10-7-1未満(絶対値)、特に15・10-7-1未満、実際には20~700℃の間で5・10-7-1未満のCTEを有利に示す。
【0032】
本発明は、擦過がより容易に見られる暗い外観の基材に特に有利であり、これらの基材は、低い透過率及び弱い散乱を有し、特に、本質的に、厚さ6mmまでのガラスセラミックについて40%未満、特に5%未満、特に0.2%~2%の光透過率TL、及び可視領域内の625nmの波長について0.5%~3%の光学透過率(所与の波長での入射光強度に対する透過光強度の割合をとることによって既知の方法で決定される)を有する任意のガラスセラミックをベースとする。用語「本質的に」は、基材が任意の1つのコーティングの存在なしに、それ自体でそのような透過率を有することを意味すると理解される。光学的測定は、標準規格EN 410に従って行われる。特に、光透過率TLは、標準規格EN 410に従って、光源D65を使用して測定され、全透過率(特に、可視領域にわたって積分され、人間の目の感度曲線によって重み付けされる)であり、直接透過率及び可能な拡散透過率の両方を考慮に入れ、測定は例えば、積分球(特に、Perkin-Elmerによって参照番号Lambda 950で販売されている分光光度計)を装備した分光光度計を使用して行われる。
【0033】
特に、基材は、黒色又は褐色の外観の基材であり、下に配置された光源と組み合わせて、光領域又は装飾を表示しつつ、下にある可能性のある要素をマスキングすることを可能にする。基材は、特に、残留ガラス相内にβ-石英構造の結晶を含む黒色ガラスセラミックをベースとすることができ、その膨張係数の絶対値は、有利には15・10-7-1以下、実際には5・10-7-1以下でさえある。この基材は、例えば、ユーロケラ(Eurokera)によりKeraBlack+の名称で販売されているプレートのガラスセラミックである。それは特に、欧州特許出願公開第0437228号明細書又は米国特許第5070045号明細書又は仏国特許出願公開第2657079号明細書に記載されているような組成を有するガラスセラミック、又は例えば、国際公開第2012/156444号パンフレットに記載されているように、優先的に0.1%未満のヒ素酸化物の含有率を示すスズで精製されたガラスセラミック、又は国際公開第2008/053110号パンフレットに記載されているように、硫化物で精製されたガラスセラミックなどであってもよい。
【0034】
本発明は、基材がより軽い場合、例えば、透明な基材の場合にも適用することができ、適切な場合には、EurokeraによってKeralite(登録商標)の名称で販売されているプレートのように、その下側に、一般に塗料で作られた不透明化コーティングでコーティングされている基材の場合にも適用することができる。
【0035】
本発明によれば、検討中のガラスセラミック基材は、1つ又は複数の領域でコーティングされており(又は前記基材の少なくとも1つの領域がコーティングされており)、より詳細には表面で、面の少なくとも一部に、有利には使用位置でユーザーに向けられた面及び/又は擦過傷及び着色の視認性の低減を必要とする面の少なくとも一部にコーティングされており、一般に、使用位置での上面又は外面にコーティングされており、特に、前記面の全体にわたってコーティングされている。ガラスセラミック基材は、本発明に従って定義された少なくとも1つの層、又は前記層を含むコーティングでコーティングされている。
【0036】
本発明による基材は、適切な場合には、機能的効果及び/若しくは装飾的効果を有する他のコーティング若しくは層(溢流防止層、不透明化層など)、特に局所化されているコーティング若しくは層、例えばエナメルをベースとする通常のパターン(例えば、ロゴ又は単純なパターンを形成するために上面に)、又は基材の下面の不透明化塗料の層などでコーティングすることができる。特に、基材は、本発明により規定される層の上(特に大気側)若しくは下(特に基材と接触している)の少なくとも一部に若しくは全体を、又は本発明による前記層を含むスタックの上若しくは下(の少なくとも一部若しくは全体に)を、局所化されているか又はされていない、特に光沢タイプの、エナメル及び/又は塗料の少なくとも1つの層でコーティングすることができ、エナメル又は塗料/光沢の前記層が本発明による層と接触することが可能である。用語「光沢タイプの塗料」は特に、金属酸化物から作られており、顔料を含まない塗料を意味すると理解され、この塗料又は光沢は、特に、1.54超の屈折率を示す。このような塗料層の厚さは、特に10~100nmであることができる。
【0037】
本発明による物品は、一般に基材の下面に配置されている、1つ若しくは複数の光源及び/又は1つ若しくは複数の加熱要素(1つ若しくは複数の放射要素若しくはハロゲン要素及び/又は1つ若しくは複数の大気ガスバーナー及び/又は1つ若しくは複数の誘導加熱手段など)を、基材に関連して、又は基材と組み合わせて更に含むことができる。1つ又は複数の光源は、1つ又は複数のディスプレイタイプの構造、タッチ感受性デジタルディスプレイ電子制御パネルなどに組み込むか、又は結合することができる。1つ又は複数の光源は、有利には、任意選択で1つ又は複数の光ガイドに関連付けられて、多少広がっている発光ダイオードによって作られている。
【0038】
物品は、追加の機能要素(枠、コネクタ、ケーブル、制御要素など)を備える(又は関連付ける)こともできる。
【0039】
これによれば、本発明は、製品が様々な用途(特に、クックトップとしての使用のために)に必要とされる機械的強度を保持すると同時に、所望の位置(例えば、面の全体にわたって、又はほんの少数の領域、例えば、加熱領域などの取扱い作業又は擦過にさらされる領域)で擦過及び着色に対してより耐性のある表面を有するガラスセラミック製品の開発を可能にした。これによれば、本発明による解決策は、簡単かつ経済的な方法で、複雑な操作なしに(後述するように、カソードスパッタリングなどの減圧下での堆積技術によって層を堆積させることが可能である)、耐久性のある方法で、かつ高い順応性をもって、製品の任意の所望の領域における擦過及び着色に対してより大きな耐性の領域を得ることを可能にし、これは、これらの領域が高温にさらされることが意図される場合であっても当てはまる。本発明による物品は特に、様々な種類の加熱手順の使用に適合する良好な耐熱性を示し、メンテナンス上の問題を示さない。本発明による製品は特に、特にクックトップとしての使用などの用途において達成され得る400℃超の温度で熱分解を受けない。
【0040】
本発明はまた、本発明に従って選択される少なくとも1つの層を、前記基材の少なくとも1つの領域に堆積(又は適用)させる、ガラスセラミック製の基材から出発する、本発明によるガラスセラミック物品の製造方法に関する。
【0041】
本発明による窒化ジルコニウムケイ素の層(又は適切な場合には各層)の適用又は堆積は特に、このタイプの層の均一な層又は濃淡のない色合いを生成することを可能にする任意の適切かつ迅速な技法によって、特に、カソードスパッタリング、特にマグネトロン強化カソードスパッタリング、又は化学気相成長(CVD)、適切な場合にはプラズマ強化化学気相成長(PECVD)などの減圧下での堆積のための方法によって実施することができ、この適用は、好ましくはカソードスパッタリング、特にマグネトロン強化カソードスパッタリングによって実施される。この堆積は、良好な収量及び良好な堆積速度で実施される。同じコーティングの酸化物又は窒化物の他の任意の層も、適切な場合には、同じ堆積方法(堆積は特に連続的である)によって堆積させることができ、基材上に任意に存在する他の層(エナメル、光沢)は、任意の通常の技術(エナメルのためのスクリーン印刷又はインクジェット印刷など)によって独立して堆積される。
【0042】
優先的に用いられるカソードスパッタリングは、カソードを分極させるために採用される発電機のタイプに従って、AC(交流)タイプ若しくはDC(直流)タイプ、又は特に好ましい方法においてはパルスDCタイプである。ターゲットは例えば、平面状である。
【0043】
窒化ジルコニウムケイ素の層(又は各層)の堆積は特に、の合計Si+Zrに対して10%~90%のZrの原子比y/(x+y)を含むケイ素ジルコニウムターゲットを用いて、プラズマ生成用ガス(一般にアルゴン)及び窒素からなる雰囲気中で行う。特に、アルゴン及び窒素からなる雰囲気中で、ケイ素ジルコニウムターゲットを使用し、適切な場合には、電子伝導性を高めるために、アルミニウム又はホウ素をドープさせる。
【0044】
プラズマの活性成分は、ターゲットに衝撃を与えることによって、基材上に堆積されて所望の層を形成する上記の元素を剥ぎ取り、及び/又は前記層を形成するためにプラズマ中に含まれるガスと反応する。
【0045】
有利には、問題となっている堆積が行われているチャンバー内の堆積中の雰囲気(プラズマ生成用ガスから作られている)は、1体積%未満の酸素(チャンバー内に残留していてもよく、又は任意選択で供給されてもよい)を含み、実際には酸素を含まない。好ましくは、層の堆積中の酸素流量はゼロであり、言い換えれば、前記ターゲットのスパッタリング雰囲気中に意図的に導入される酸素はない。
【0046】
本発明による層の堆積(又は堆積中)の圧力は、特に最大で2.5μbarであり、好ましくは1.5μbar~2.3μbarの範囲内にある。用語「堆積圧力」は、この層の堆積が行われるチャンバー内に広がる圧力を意味すると理解される。関連する堆積チャンバー内で選択された圧力を印加することは、良好な機械的耐性及び耐摩耗性を示す層を得ることに寄与する。
【0047】
また、層の堆積の出力は、好ましくは前記層の堆積中、ターゲット1cm当たり2~10W/cmに及ぶ範囲内にあり、様々なターゲットの下方での基材の前進速度は、好ましくは0.1~3m/分に及ぶ範囲内にある。
【0048】
堆積は特に、プレセラミック化されておりかつ加熱されていない基材で行われる。特に好ましい実施形態によれば、コーティングされた基材には、その後、例えば750℃~900℃程度の温度で、約10分間、熱処理、特に強化処理又は徐冷を施す。この処理は、応力を緩和し、本発明による層の硬さを更に増大させることを可能にする。
【0049】
念のため、ガラスセラミックプレートの製造は、一般に次のように行われる。すなわち、ガラスセラミックを形成するために選択された組成を有するガラスを溶融炉で溶融し、次いで、圧延ロール間に溶融ガラスを通過させることにより、溶融ガラスを圧延して標準的なリボン又はシートを与え、そしてガラスリボンを所望の寸法に切断する。このように切断したプレートをその後、それ自体公知の方法でセラミック化させる。セラミック化は、ガラスを「ガラスセラミック」として知られている多結晶材料に変換するために選択された熱プロファイルに従ってプレートを焼成することからなる。ガラスセラミックの膨張係数は、ゼロ又は実質的にゼロであり、ガラスセラミックは、特に700℃までの範囲であり得る熱衝撃に耐える。セラミック化は一般に、温度を核形成範囲まで徐々に上昇させる段階、核形成間隔(例えば650℃~830℃)を数分間(例えば5~60分間)通過させる段階、結晶の成長を可能にするために温度を更に上昇させ、セラミック化固定相の温度を数分間(例えば5~30分間)維持する段階(例えば850℃~1000℃の範囲の間隔でセラミック化する)、及び次いで周囲温度まで急速に冷却する段階を含む。
【0050】
適切な場合には、方法はまた、切断操作(一般にセラミック化前)、例えば、水のジェットを使用すること、切断ホイールを使用する機械的マーキング等の切断操作を含み、その後、成形操作(研削、面取り等)が続く。
【0051】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0052】
これらの実施例では、ユーロケラ(Eurokera)によりKeraBlack+という呼称で販売されている、半透明の黒色ガラスセラミックから作られている同じ基材の小型20cm×20cmのプレートを使用した。これらの小型プレートは、滑らかな上面、及びピンを備えた下面を示し、厚さは4mmであった。
【0053】
厚さが1200nmのSiZrの厚い層を、パルスDCマグネトロン強化カソードスパッタリングにより、2μbar程度の低圧で6W/cm未満のターゲットの単位面積当たりの電力密度で、かつ55%~65%の窒素含有率で、これらの小さなプレート上に堆積させた。SiZrでは、合計Si+Zrに対するZrの原子比y/(x+y)は、32%であった。
【0054】
むき出しのガラスセラミック、及び次いで上記の窒化ジルコニウムケイ素層が設けられたガラスセラミックの硬さH及び弾性係数Eを、その後、DCMII-400タイプのナノインデンターを用い、標準規格NF EN ISO 14577によるBerkovichタイプ(3面)のピラミッドダイヤモンドチップを用いて測定した。
【0055】
むき出しのガラスセラミックは7.5GPaの硬さを有すること、及び窒化ジルコニウムケイ素の厚い層の堆積により、約14.5GPaまでの硬さの増加が可能にとなることを観察した。層の弾性係数(又は弾性係数)Eは、140GPaであった。
【0056】
その後、850℃で10分間の徐冷(又は強化)を、コーティングされたガラスセラミックに対して実施し、コーティングされた基材の硬さ及び層の弾性率Eの更に高い値、すなわちH=15.5~20.5GPa及びE=155GPaをもたらした。
【0057】
また、これらのサンプルの耐摩耗性は、Nortonが販売し、平均等価直径20μmの炭化ケイ素粒子を組み込んだP800タイプの研磨紙を用いて、ガラスセラミック(むき出し又はコーティングされている)の表面上に1分間に15回の往復運動及び5N/cmの印加圧力で、3.81cmの距離にわたって、紙を往復運動させることによって測定した。ライトボックス内の3色発光ダイオードを用いてサンプルを照射して撮影した写真から、擦過傷の数の測定を行いった。画像処理(白黒に2値化し、擦過傷を黒画素で、白画素の擦過されていない部分を白画素で見えるようにする)を行うことで、この撮影した写真の解析が可能となった。132000個の画素からなる画像に記録された黒画素の個数yを10000で割った値に対応する指数xを与える「擦過性指数」を評価した(x=y/10,000であり、指数xは、例えば10000個の黒画素がある場合には1であり、20000個の黒画素がある場合には2であるなど)。むき出しのガラスセラミックの指数が4であったのに対し、本発明に従ってコーティングされているガラスセラミックの指数は、徐冷処理前では2であり、850℃程度の温度で約10分の徐冷処理後では1であった。このことは、むき出しのガラスセラミックに比べて大幅な擦過傷の数の減少があったことを示している。
【0058】
また、CSM Instrumentsが販売しているCSMマイクロスクラッチデバイスを用いて、摩擦係数を測定した。1Nの一定の力を、2cmの距離にわたって一定速度で移動する1cmの直径を有するステンレス鋼ボールに印加し、合計30回のパスを実施した。測定した摩擦係数は、印加された法線力に対する印加された接線力の割合であり、これらの力は、センサーによって測定される。むき出しのガラスセラミック(ガラスセラミック/金属の接触)について測定した摩擦係数は0.3であり、コーティングされているガラスセラミックの摩擦係数は、0.2に低下した。比較として、コーティングとして、本発明による層の代わりに、SiN(ジルコニウムを含まない)をベースとする同じ厚さの硬質コーティングを使用することによって得られたものは、0.4に等しい、より高い係数を得た。
【0059】
これらの同じサンプルを、平らなステンレススチールワイパーを備えた型番5750のリニア摩耗試験機(Taber社が販売)で金属摩擦試験を行った。この試験機のアームは、2MPaの力を印加して、1分間に60周期の速度で3.81cm走行する上記のワイパーを保持している。試験は、往復運動を行い、表面に金属の堆積物が観察された周期数を決定することにある。この試験は、ガラスセラミックの表面におけるソースパンの動き、ソースパンから生じる金属堆積物の形態の傷、及びガラスセラミックの塑性変形又は亀裂又は摩耗の2つのタイプの損傷を発生するソースパンの動きをシミュレーションすることを可能にする。
【0060】
むき出しのガラスセラミック上で、ワイパーは、TiO又はTiZrOの(試験された本発明による層と同じ厚さの)堆積物のみを有するサンプルの場合と同様に、約20周期未満で表面を擦過し、サンプルは、約30周期後に金属堆積物をもたらすSiNの層を担持していた。
【0061】
本発明によるサンプル(SiZrNの上述の層を備える)は、約60周期、すなわち、先行する比較サンプルの最良の周期の2倍の周期からのみ擦過された。
【0062】
それぞれ0.17及び0.15の摩擦係数を有する5nmの厚さを有するTiO又はTiZrOの層を、上述のSiZrNの層に追加することにより、これらの結果を更に改善することができ、特に約100周期を超えることさえ可能にした。
【0063】
種々の家庭用製品(Reckitt BenckiserからのVitroClenブランド製品、又はKiravivからの誘導製品及びガラスセラミック洗浄製品など)を用いた、低温及び高温条件下で、コーヒー、ミルク、酢、燃焼トマトソースの痕跡を担持する表面上の種々の洗浄試験もまた、本発明に従って選択された層でコーティングされたガラスセラミックは、洗浄が容易であり、層が化学的に分解しないことを実証した。同様に、この層は、620℃での熱衝撃後に層間剥離せず、580℃で100時間後にも劣化を示さなかった。
【0064】
本発明による物品は特に、キッチンレンジ又は調理表面のための新規な範囲のクックトップ、又は新規な範囲のワークトップ、コンソール、クレデンザ、セントラルアイランドなどを製造するために有利に使用することができる。
【国際調査報告】