(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(54)【発明の名称】ロボットマニピュレータの安全速度の指定
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20220513BHJP
G05B 9/02 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
B25J19/06
G05B9/02 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558904
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(85)【翻訳文提出日】2021-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2020057573
(87)【国際公開番号】W WO2020200805
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】102019108390.7
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521181769
【氏名又は名称】フランカ エーミカ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FRANKA EMIKA GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】スペニンガー,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
3C707
5H209
【Fターム(参考)】
3C707BS09
3C707KS20
3C707KS28
3C707LU01
3C707LW03
3C707MS05
5H209AA06
5H209AA07
5H209BB09
5H209CC01
5H209GG01
5H209GG04
5H209JJ01
(57)【要約】
本発明は、ロボットマニピュレータ(1)の安全速度の指定方法に関する。この方法は、・データベースを与え(S1)、このデータベースは、ロボットマニピュレータ(1)上の複数の選択された表面点(5)のそれぞれについてデータ記録を有し、各データ記録は、ロボットマニピュレータ(1)の環境内のオブジェクト(3)の剛性および/または質量の複数の可能性のそれぞれについて、各表面点(5)の安全な常用速度を示すものであり、この常用速度は、各表面点(5)の表面と直交する各表面点(5)の速度ベクトルの成分であり、・予備知識、またはセンサー検出、または無限大と仮定することにより、ロボットマニピュレータ(1)の環境内のオブジェクト(3)の実際の剛性および/または実際の質量を検出し(S2)、・検出された実際の剛性および/または実際の質量を、各表面点(5)について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当て(S3)、・各表面点における常用速度が、割り当てられた安全な常用速度以下となるように、ロボットマニピュレータ(1)の現在または予定進路上の各表面点(5)の速度を指定する(S4)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットマニピュレータ(1)の安全速度の指定方法であって、
・データベースを与え(S1)、前記データベースは、前記ロボットマニピュレータ(1)上の複数の選択された表面点(5)のそれぞれについてデータ記録を有し、各データ記録は、前記ロボットマニピュレータ(1)の環境内のオブジェクト(3)の剛性および/または質量の複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点(5)の安全な常用速度を示すものであり、前記常用速度は、前記各表面点(5)において前記ロボットマニピュレータ(1)のローカルな表面と直交する前記各表面点(5)の速度ベクトルの成分であり、
・予備知識、またはセンサー検出、または無限大と仮定することにより、前記ロボットマニピュレータ(1)の環境内の前記オブジェクト(3)の実際の剛性および/または実際の質量を検出し(S2)、
・検出された実際の剛性および/または実際の質量を、前記各表面点(5)について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当て(S3)、
・前記各表面点における常用速度が、割り当てられた安全な常用速度以下となるように、前記ロボットマニピュレータ(1)の現在または予定進路上の各表面点(5)の速度を指定する(S4)、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
各データ記録は、また、前記ロボットマニピュレータ(1)の姿勢および質量分布の複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点(5)の安全な常用速度を示し、さらに、
・前記ロボットマニピュレータ(1)の現在または未来の姿勢および実際の質量分布を検出し、
・前記ロボットマニピュレータ(1)の前記現在または未来の姿勢および前記実際の質量分布を、前記各表面点(5)について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当てる、方法。
【請求項3】
請求項1から請求項2のいずれか一項に記載の方法であって、
各データ記録は、また、所定の表面点(5)が配置されている各構造要素の剛性および/または慣性モーメントの複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点(5)の安全な常用速度を示し、さらに、
・前記所定の構成部品の実際の剛性および/または実際の慣性モーメントを検出し、
・各前記構成部品の実際の剛性および/または実際の慣性モーメントを、前記各表面点(5)について前記所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当てる、方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法であって、
各データ記録は、また、前記所定の表面点(5)が配置される所定の構成部品の表面の表面形状と前記オブジェクト(3)の幾何学的形状との間の関係の複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点(5)の安全な常用速度を示し、さらに、
・前記所定の表面点(5)が配置される所定の構成部品の表面の表面形状と前記オブジェクト(3)の幾何学的形状との間の実際の関係を検出し、
・検出された実際の関係を、前記各表面点(5)について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当てる、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記所定の構成部品の表面の表面形状、および前記オブジェクト(3)の幾何学的形状は、それぞれ、
・曲率半径rの凸状に湾曲した表面、
・曲率半径rの凹状に湾曲した表面、
・楔状の表面、
・表面の鋭さ、
のカテゴリのうちの一つに示される、方法。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の方法であって、
前記所定の表面点(5)が配置される前記構成部品の剛性、および前記ロボットマニピュレータ(1)の前記表面点(5)の各位置における剛性は、それぞれ、
・弾性係数、
・硬度、
・降伏応力、
・塑性または弾性挙動、
・延性
の要素のうち少なくとも1つを含む、方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法であって、
前記データベースで指定される安全な常用速度のそれぞれが、前記所定の表面点(5)が配置される所定の構成部品に対する第1の被害程度、および/または前記ロボットマニピュレータ(1)の少なくとも1つの継ぎ手に対する第2の被害程度に割り当てられる、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記少なくとも1つの継ぎ手に対する前記第2の被害程度は、ギアリングに対する負荷を含み、前記ギアリングは、前記所定の継ぎ手のモータに接続されて、前記継ぎ手によって接続された2つのロボットリンクを前記継ぎ手の周囲で動かす機能を備える、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
前記ギアリングに対する負荷は、第1の特性値、および/または第2の特性値、または前記第1の特性値および前記第2の特性値の和を含み、
前記第1の特性値は、前記ロボットリンクの現在の速度に依存し、前記ロボットリンクが前記オブジェクト(3)と衝突するときに前記ロボットリンクの慣性によって引き起こされる前記ギアリングに対する運動量であり、
前記第2の特性値は、前記所定のギアリングが配置される前記所定の継ぎ手の電気モータの回転による角運動量であり、当該角運動量は前記衝突の間前記ギアリングに伝達される、方法。
【請求項10】
制御ユニット(7)を備えるロボットマニピュレータ(1)であって、前記制御ユニット(7)は、
・データベースを与え、前記データベースは、前記ロボットマニピュレータ(1)上の複数の選択された表面点(5)のそれぞれについてデータ記録を有し、各データ記録は、前記ロボットマニピュレータ(1)の環境内のオブジェクト(3)の剛性および/または質量の複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点(5)の安全な常用速度を示すものであり、前記常用速度は、前記各表面点(5)において前記ロボットマニピュレータ(1)のローカルな表面と直交する前記各表面点(5)の速度ベクトルの成分であり、
・予備知識、またはセンサー検出、または無限大と仮定することにより、前記ロボットマニピュレータ(1)の環境内の前記オブジェクト(3)の実際の剛性および/または実際の質量を検出し、
・検出された実際の剛性および/または実際の質量を、前記各表面点(5)について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当て、
・前記各表面点における常用速度が、割り当てられた安全な常用速度以下となるように、前記ロボットマニピュレータ(1)の現在または予定進路上の各表面点(5)の速度を指定するよう構成される、ロボットマニピュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットマニピュレータの安全速度の指定方法、および特にロボットマニピュレータの安全速度を指定するよう構成された制御ユニットを有するロボットマニピュレータに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明の目的は、ロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトとの予想外の衝突の際にロボットマニピュレータがわずかな被害しか受けないように、ロボットマニピュレータを操作することにある。
【0003】
本発明は、独立請求項の特徴により定義される。好都合な発展形および実施形態は、従属請求項の主題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の局面は、ロボットマニピュレータの安全速度の指定方法に関し、前記方法は、
・データベースを与え、前記データベースは、前記ロボットマニピュレータ上の複数の選択された表面点のそれぞれについてデータ記録を有し、各データ記録は、前記ロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトの剛性および/または質量の複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点の安全な常用速度を示すものであり、前記常用速度は、前記各表面点の速度ベクトルの前記各表面点において上記ロボットマニピュレータのローカルな表面と直交する成分であり、
・予備知識、またはセンサーによる取得、または無限大と仮定することにより、前記ロボットマニピュレータの環境内の前記オブジェクトの実際の剛性および/または実際の質量を検出し、
・検出された実際の剛性および/または実際の質量を、前記各表面点について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当て、
・前記各表面点における常用速度が、割り当てられた安全な常用速度以下となるように、前記ロボットマニピュレータの現在または予定進路上の各表面点の速度を指定する、方法である。
【0005】
ロボットマニピュレータは、特に、継ぎ手によって互いに接続された複数のリンクからなるマニピュレータを意味するものと理解される。また、特に、エンドエフェクタもロボットマニピュレータの一部である。ロボットマニピュレータのリンクは、密着した運動学的連鎖状に配置されている必要はない。また、本発明にかかる方法は、双腕システムおよび人型ロボットシステムにおいて用いることができる。
【0006】
ロボットマニピュレータの各表面点は、データベースサイズが必要以上に大きくならないように、しかしながらロボットマニピュレータとロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトとの可能性のある衝突にロボットマニピュレータの表面上に十分に多数の表面点が考慮に入るように、あらかじめ選択される。
【0007】
各表面点において表面と直交する速度ベクトルの成分は、特に、所定の表面点が配置されるロボットマニピュレータの構造部品のローカルな表面と直交する。表面点の位置は、好ましくは、接平面が各表面点の所定の位置においてロボットマニピュレータに対して明確に定義されるような、ロボットマニピュレータの表面上であると仮定される。
【0008】
データ記録は、剛性および/または質量の複数の可能性のそれぞれについて割り当てられた安全な常用速度を含んでいる。特に、剛性および/または質量の多数の可能性が、等間隔格子によって指定される。そのため、環境内のオブジェクトの実際に存在する剛性および/または質量を検出することにより、環境内のオブジェクトの実際に存在する剛性および/または実際の質量を所定のデータ記録の剛性および/または質量の複数の可能性と比較し、データ記録に指定されるような安全な常用速度に到達するために適切な入力を見つけるために、データ記録を用いることができる。オブジェクトの剛性が考慮に入れられるため、衝突が起きると、オブジェクトにぶつかると、そのオブジェクトの所定の抵抗によってロボットマニピュレータが移動可能な進路が、その速度が最低値に達するまで、考慮される。オブジェクトが固定オブジェクト――壁、鉄骨フレーム、大型車両などの質量が無限大に近似されるようなオブジェクト、またはそのほかのロボットマニピュレータの質量よりも質量が非常に大きいオブジェクト、または床にしっかりと埋め込まれた支柱などのロボットマニピュレータの環境に固定されたオブジェクトなど――ではなく、小型の運動オブジェクトである場合、衝突の結果は2つの質量の弾性または塑性衝撃となり、この2つの質量のうち、第1の質量は特にロボットの反射質量からなり、第2の質量はオブジェクトからなる。反射質量は、オブジェクトとの衝突の際に実際にその運動によりオブジェクトに運動量を生成するロボットマニピュレータの質量分率である。このような弾性または塑性衝撃は、通常、ロボットマニピュレータ全体を停止させるものではないが、衝撃がより塑性または弾性であるかどうかに応じて、ロボットマニピュレータをわずかに減速させることがあるかもしれず、これによりロボットマニピュレータのリンクおよびロボットマニピュレータの継ぎ手、特に継ぎ手の1つの歯車の負荷が大幅に低減される。したがって、オブジェクトの質量が考慮される弾性または塑性衝撃の場合、衝突の影響を正確に判断するために、オブジェクトの質量およびオブジェクトの剛性を考慮にいれなければならない。
【0009】
上記ロボットマニピュレータは、好ましくは、安全な常用速度、または各表面点における所定の安全な常用速度以下の速度でのみ運転される。この場合、安全な常用速度とは、三次元空間における各表面点の現在の速度ベクトルの成分に関し、この成分は所定の表面点が配置される表面に直交する。常用速度は、特に各表面点の接線速度に直交するが、ここでは考慮しない。
【0010】
ロボットマニピュレータとロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトとの予想外の衝突が起こる場合、ロボットマニピュレータは現在の速度から短時間で減速する。この過程で、ロボットマニピュレータは、ある程度の(負の)加速度を経験する。ロボットマニピュレータが減速する時間――すなわちロボットマニピュレータに作用する加速度――は、特に衝突の直前の速度に依存し、また、特にロボットマニピュレータの構造全体の剛性、特にオブジェクトに直接衝突する構成部品の素材およびオブジェクト自体の剛性に依存する。コンクリートの壁との衝突の際に、ロボットマニピュレータが軟材やプラスチックとの衝突よりかなり大きい加速度を経験することになることは、直感的に明らかである。
【0011】
ロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトの剛性は、特にオブジェクトの変形に対する抵抗を示し、この抵抗は、オブジェクトが作られる材料の物質定数、およびオブジェクトの形状から構成される。例えば、金属製の渦巻ばねは、通常、弾性係数が高く引張強度が高い材料からなるが、その形状ゆえに渦巻ばねの軸方向には比較的小さな力で変形させることができる。
【0012】
ロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトの剛性は、好ましくは、予備知識により知られている。ロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトの実際の剛性および/または実際の質量の予備知識による検出は、特に、ユーザの入力により行われる。特に運転の不確実性のため、変化の多いロボットマニピュレータの環境においては、これは常に可能であるわけではないため、ロボットの環境は、代替的また好ましくは、センサー、特にカメラで検出される。この検出から、所定のオブジェクトが、特に、ロボットマニピュレータの環境内で検出されたオブジェクトを複数の保存されたオブジェクトのうちの1つに割り当てることにより、識別される。上記の選択肢ではオブジェクトの剛性についての情報がない場合には、ロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトの実際の剛性にかかわらずロボットマニピュレータの安全速度を常に見いだせるように、オブジェクトの剛性が無限大と仮定されることが好ましく、好都合には極値として控えめに推定する。非常に高い剛性は、衝突の際のオブジェクトに全く柔軟性がないということであり、したがってロボットマニピュレータの弾性によってのみ衝突が和らげられる。非常に高い質量は、剛性または塑性衝突においていずれの質量も衝突後の速度を有する2つの質量を考慮する代わりに、第2の質量、すなわちオブジェクトが衝突後にも衝突前にも速度を有さないことを意味する。
【0013】
【0014】
【0015】
したがって、ある表面点の力は、ロボットマニピュレータの継ぎ手のギアリングに対するあらかじめ指定された最大許容常用トルクによって決定され、この力は、ロボットマニピュレータならびにオブジェクトの質量および剛性の機能としての最大許容常用速度を決定する。
【0016】
本発明の好都合な効果として、速度がロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトとの予想外の衝突によりロボットマニピュレータに被害を与えないような各表面点の速度で、ロボットマニピュレータが作動される。この場合、ロボットマニピュレータへの被害は、特に、ロボットマニピュレータのリンクの1つの変形、およびロボットマニピュレータの二つのリンクに接続された継ぎ手に配置されたギアリングの過負荷に関するものであり、過負荷がかかるとシャフトハブの接続が外れたり、第1の歯車が第2の歯車を飛ばしたりする。好都合には、常用速度、すなわち各表面点の表面と直交した各表面点の速度ベクトル全体の速度成分を考慮することにより、好都合には被害予測についてより正確な結果が得られる。これは、経験より、接線力は、各表面点に対して些細な影響しか与えることがなく、実質的に被害に寄与することがないことがわかっているためである。
【0017】
また、好都合な実施形態によれば、各データ記録は、前記ロボットマニピュレータの姿勢および質量分布の複数の可能性のそれぞれについて、前記所定の各表面点の安全な常用速度を示し、前記方法はさらに、
・前記ロボットマニピュレータの現在または未来の姿勢および実際の質量分布を検出し、
・前記ロボットマニピュレータの前記現在または未来の姿勢および前記実際の質量分布を、前記各表面点について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当てる。
【0018】
さらに好都合な実施形態によれば、各データ記録は、また、所定の表面点が配置されている所定の構成部品の剛性および/または慣性モーメントの複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点の安全な常用速度を示し、前記方法はさらに、
・前記所定の構成部品の実際の剛性および/または実際の慣性モーメントを検出し、
・前記各構成部品の実際の剛性および/または実際の慣性モーメントを、前記各表面点について前記所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当てる。
【0019】
所定の構成部品の慣性モーメントは、特に、その幾何学的に判断された変形への抵抗を示す。好都合には、本実施形態は、できるだけ速い安全な常用速度をより一層正確に指定ために、ロボットマニピュレータのさらに詳細を考慮する。
【0020】
さらに好都合な実施形態によれば、各データ記録は、また、前記所定の表面点が配置される所定の構成部品の表面の表面形状と前記オブジェクトの幾何学的形状との間の関係の複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点の安全な常用速度を示し、前記方法はさらに、
・前記所定の表面点が配置される所定の構成部品の表面の表面形状と前記オブジェクトの幾何学的形状との間の実際の関係を検出し、
・検出された実際の関係を、前記各表面点について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当てる。
【0021】
これらの幾何学的形状間の関係は、オブジェクトとの衝突の際のロボットマニピュレータに対する衝撃力の決定要因である。凸形状と凹形状との衝突と比較すると、剛性が同じならば、2つの凸形状間の衝突は、異なる衝撃力となる。これらの関係を考慮すると、好都合には、衝突の際の衝撃力をより正確に推定することができ、よりよい安全な常用速度の指定につながる。
【0022】
さらに好都合な実施形態によれば、前記所定の構成部品の表面の表面形状、および前記オブジェクトの幾何学的形状は、それぞれ、
・曲率半径rの凸状に湾曲した表面、
・曲率半径rの凹状に湾曲した表面、
・楔状の表面、
・表面の鋭さ、
のカテゴリのうちの一つに指定される。
【0023】
さらに好都合な実施形態によれば、前記所定の表面点が配置される前記構成部品の剛性、および前記ロボットマニピュレータの前記表面点の各位置における剛性は、それぞれ、
・弾性係数、
・硬度、
・降伏応力、
・塑性または弾性挙動、
・延性
の要素のうち少なくとも1つを含む。
【0024】
硬度は本体への穿通に対する抵抗対策を示すが、弾性係数は、特に材料が張力を受けたときの抵抗を意味する。降伏応力は、特に、材料が、一軸の引張応力下でねじれることなく永久的な塑性変形をしない応力を指す。材料の延性は、特に、材料に不具合が生じるまで材料がどのくらい塑性的に変形するかを示す。好都合には、所定の構成部品自体、特に表面近くの被害を考慮に入れるために、この変数もまた考慮される。
【0025】
さらに好都合な実施形態によれば、前記データベースで指定される安全な常用速度のそれぞれが、前記所定の表面点が配置される所定の構成部品に対する第1の被害程度、および/または前記ロボットマニピュレータの少なくとも1つの継ぎ手に対する第2の被害程度に割り当てられる。好都合には、本実施形態は、所定の構成部品、特にロボットマニピュレータのリンクに対するいずれの被害の可能性、またロボットマニピュレータの所定の継ぎ手に対する被害の可能性も、考慮に入れる。特に、所定の継ぎ手に対する被害の可能性を考慮することは、駆動部が通常ロボットマニピュレータの継ぎ手に配置され、また駆動部が通常ギアリングに接続されるため、好都合である。このようなギアリングは、衝突の際のロボットマニピュレータへの被害の原因として非常に頻繁なもののひとつである。
【0026】
さらに好都合な実施形態によれば、前記少なくとも1つの継ぎ手に対する前記第2の被害程度は、ギアリングに対する負荷を含み、前記ギアリングは、前記所定の継ぎ手のモータに接続されて、前記継ぎ手によって接続された2つのロボットリンクを前記継ぎ手の周囲で動かすために用いられる。
【0027】
さらに好都合な実施形態によれば、前記ギアリングに対する負荷は、第1の特性値、および/または第2の特性値、または前記第1の特性値および上記第2の特性値の和を含み、前記第1の特性値は、前記ロボットリンクが前記オブジェクトと衝突するときの、前記ロボットリンクの現在の速度の関数であり前記ロボットリンクの慣性によって引き起こされる前記ギアリングに対する運動量であり、前記第2の特性値は、前記ギアリングが配置される前記所定の継ぎ手の電気モータの回転による角運動量であり、前記角運動量は前記衝突の間前記ギアリングに伝達される。本実施形態において、ギアリングに有害な二負荷メカニズムが、好都合に考慮される。一方、これは一般的には、ロボットマニピュレータ自体、したがってロボットマニピュレータに分散された質量が、いまだある程度の運動量を持っておりその慣性により運動をし続ける傾向にある――そしてこのさらなる運動は、オブジェクトとの衝突によって停止される――瞬間に、特にロボットマニピュレータのエンドエフェクタまたは別のリンクがオブジェクトと衝突するときに、負荷モーメントを生み出すものである。他方で、ロボットマニピュレータの二つの移動リンクの間のロボットマニピュレータの各駆動部は、一般的に、角運動量、例えばオブジェクトとの衝突の際の急停止によって直接的にギアリングに伝達される電気モータのモータ角運動量を有する。したがって、モータ角運動量は、ロボットマニピュレータの慣性によって生じるモーメントと重複してもよく、ギアリングの過負荷トルクにつながり得る。したがって、本実施形態において、二種類の被害の一方だけが、および/または二種類の被害の和が、好都合にギアリングの過負荷を防止するために、好都合に考慮されることになる。
【0028】
本発明の別の局面は、制御ユニットを備えるロボットマニピュレータに関し、前記制御ユニットは、
・データベースを与え、前記データベースは、前記ロボットマニピュレータ上の複数の選択された表面点のそれぞれについてデータ記録を有し、各データ記録は、前記ロボットマニピュレータの環境内のオブジェクトの剛性および/または質量の複数の可能性のそれぞれについて、前記各表面点の安全な常用速度を指定するものであり、前記常用速度は、上記各表面点において表面と直交する前記各表面点の速度ベクトルの成分であり、
・予備知識、またはセンサー検出、または無限大と仮定することにより、前記ロボットマニピュレータの環境内の前記オブジェクトの実際の剛性および/または実際の質量を検出し、
・検出された実際の剛性および/または実際の質量を、前記各表面点について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当て、
・前記各表面点における常用速度が、割り当てられた安全な常用速度以下となるように、前記ロボットマニピュレータの現在または予定進路上の各表面点の速度を指定するよう構成される。
【0029】
提案されるロボットマニピュレータの利点および好適な発展形は、提案される方法との関連で上述された説明を類似の対応する転用から導き出すことができる。
【0030】
さらなる利点、特徴、および詳細は、必要であれば図面を参照し、少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する以下の説明から導き出すことができる。同一、類似、および/または機能的に同一の要素は同じ参照符号で示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
以下のとおり図に示す。
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態にかかる、ロボットマニピュレータの安全速度の指定方法である。
【
図2】
図2は、
図1に示す方法を実行する制御ユニットを備えるロボットマニピュレータである。
【0033】
図面の表現は、図式化されたものであり、縮尺通りではない。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、ロボットマニピュレータ1の安全速度の指定方法を示し、このロボットマニピュレータ1は、
・データベースを与えるS1。このデータベースは、ロボットマニピュレータ1上の複数の選択された表面点5のそれぞれについてデータ記録を有し、各データ記録は、ロボットマニピュレータ1の環境内のオブジェクト3の剛性および/または質量の複数の可能性のそれぞれについて、また、ロボットマニピュレータ1の姿勢および質量分布の複数の可能性のそれぞれについて、各表面点5の安全な常用速度を示すものであり、この常用速度は、いずれの場合にも、各表面点5の表面と直交する各表面点5の速度ベクトルの成分であり、所定の表面点5が配置される所定の構成部品に対する第1の被害程度に割り当てられ、およびロボットマニピュレータ1の少なくとも1つの継ぎ手に対する第2の被害程度に割り当てられ、少なくとも1つの継ぎ手に対する第2の被害程度は、ギアリングに対する負荷を含み、ギアリングは、所定の継ぎ手のモータに接続されて、継ぎ手によって接続された2つのロボットリンクを継ぎ手の周囲で動かすために用いられ、ギアリングに対する負荷は、第1の特性値および第2の特性値の和である。第1の特性値は、ロボットリンクの現在の速度に依存し、ロボットリンクがオブジェクト3と衝突するときにロボットリンクの慣性によって引き起こされるギアリングに対する運動量であり、第2の特性値は、所定のギアリングが配置される所定の継ぎ手の電気モータの回転による角運動量であり、角運動量は衝突の間ギアリングに伝達される。また、以下のステップが行われる。
・予備知識、またはセンサーによる取得、または無限大と仮定することにより、ロボットマニピュレータ1の環境内のオブジェクト3の実際の剛性および/または実際の質量、ならびにロボットマニピュレータ1の現在または未来の姿勢および実際の質量分布を検出しS2、
・検出された実際の剛性および/または実際の質量、およびロボットマニピュレータ1の現在または未来の姿勢および実際の質量分布を、各表面点5について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当てS3、
・各表面点における常用速度が、割り当てられた安全な常用速度以下となるように、ロボットマニピュレータ1の現在または予定進路上の各表面点5の速度を指定するS4。
【0035】
図2は、制御ユニット7を備えるロボットマニピュレータ1を示し、制御ユニット7は、
・データベースを与え、このデータベースは、ロボットマニピュレータ1上の複数の選択された表面点5のそれぞれについてデータ記録を有し、各データ記録は、ロボットマニピュレータ1の環境内のオブジェクト3の剛性および/または質量の複数の可能性のそれぞれについて、各表面点5の安全な常用速度を示すものであり、この常用速度は、各表面点5における表面と直交する各表面点5の速度ベクトルの成分であり、
・予備知識、またはセンサー検出、または無限大と仮定することにより、ロボットマニピュレータ1の環境内のオブジェクト3の実際の剛性および/または実際の質量を検出し、
・検出された実際の剛性および/または実際の質量を、各表面点5について所定のデータ記録の安全な常用速度に割り当て、
・各表面点における常用速度が、割り当てられた安全な常用速度以下となるように、ロボットマニピュレータ1の現在または予定進路上の各表面点5の速度を指定するよう構成される。
【0036】
以上、好適な実施形態を用いて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は開示された例に限定されるものではなく、ここから当業者によって本発明の保護の範囲を逸脱することなくその他の変形例を得ることも可能である。したがって、複数の変形例の可能性が存在することは明らかである。また、例示された実施形態は、実際に単なる例であり、例えば、保護の範囲、潜在的な利用可能性、または本発明の構成を限定するものとして理解されるべきではないことも明らかである。むしろ、上記の説明および図面の説明は、当業者に例示される実施形態を具体的に実施することを可能にするものであり、開示された発明概念の知識を持つ当業者には、例えば例示される実施形態に記載の個々の要素の機能または構成について、請求項、および、例えば明細書におけるさらなる説明など、請求項の法的な等価物に規定される保護の範囲を逸脱することなく、数多くの修正を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1:ロボットマニピュレータ
3:オブジェクト
5:表面点
7:制御ユニット
S1:与える
S2:検出する
S3:割り当てる
S4:指定する
【国際調査報告】