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特表2022-526032高出力の、拡張された温度範囲に対応可能な、誤用である過充放電に対する耐性を有する、再充電可能電池セル及び電池パック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-20
(54)【発明の名称】高出力の、拡張された温度範囲に対応可能な、誤用である過充放電に対する耐性を有する、再充電可能電池セル及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20220513BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220513BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220513BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20220513BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220513BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20220513BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220513BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220513BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20220513BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/66 A
H01M50/105
H01M4/48
H01M4/485
H01M4/505
H01M10/0569
H01M50/417
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560078
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 US2020027608
(87)【国際公開番号】W WO2020210585
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】16/383,079
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2019/027284
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518275567
【氏名又は名称】カムエクス パワー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CAMX Power LLC
【住所又は居所原語表記】35 Hartwell Avenue, Lexington, MA 02421, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】カーニー・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】マリク・ラフール
(72)【発明者】
【氏名】オーファー・デービッド
(72)【発明者】
【氏名】サヒン・ケナン
(72)【発明者】
【氏名】カプラン・ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】スリラムル・スレッシュ
【テーマコード(参考)】
5H011
5H017
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H011CC10
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017EE05
5H021EE04
5H029AJ02
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ07
5H029HJ02
5H029HJ07
5H029HJ14
5H029HJ17
5H029HJ18
5H029HJ19
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA09
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050DA08
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
極度の温度等での深放電及び過充電条件下で優れた誤用耐性を発揮し、堅牢性を維持し、優れた性能を有する電気化学的二次電池が提供される。本明細書で提供されるセルは、式Li1+xMO2+yを含んだ電気化学的に活性な多結晶カソード材料を含んだカソードであって、式中、-0.9≦x≦0.3、-0.3≦y≦0.3であり、MはMの全体に対して80原子パーセント以上のNiを含む、カソードと、対Li/Liで400mV以上の電気化学的酸化還元電位によって規定される電気化学的に活性なアノード材料を含むアノードとを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルであって、
式Li1+xMO2+yを含む電気化学的に活性な多結晶カソード材料を含むカソードであって、
式中、-0.9≦x≦0.3、-0.3≦y≦0.3であり、MはMの全体に対して80原子パーセント以上のNiを含み、
前記電気化学的に活性なカソード材料は、不均一な分布のCoを含む、
カソードと、
対Li/Liで少なくとも400mVの電気化学的酸化還元電位を有する電気化学的に活性な材料を含むアノードと、
を備える電気化学セルであって、
前記セルは、容量、面積、又はその両方においてアノード規制である、
電気化学セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
前記アノードの前記カソードに対する容量比が1未満であり、又は
前記アノードの前記カソードに対する面積比が1以下であり、又は
その両方を満たす、
電気化学セル。
【請求項3】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
1cm/秒の速度での先端が鈍な2mmの直径のステンレス鋼釘による釘刺しの後に電圧/容量プロファイルがほぼ不変であること、により特徴づけられる電気化学セル。
【請求項4】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
1000サイクル及びその後の0V条件下での33カ月間の保存の後に性能がほぼ不変であること、により特徴づけられる電気化学セル。
【請求項5】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
外部制約なしで45°Cの炉で2.43V及び1.33Vの間にて10Cの充電レートと10Cの放電レートとにおいて1000回サイクル動作した後に10Cでの容量の低下が10%未満であること、により特徴づけられる電気化学セル。
【請求項6】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
-50°Cで3.3Cのレートにおいて1.2Vまで放電された際に30%を上回る容量が伝達されること、により特徴づけられる電気化学セル。
【請求項7】
請求項1に記載の電気化学セルにおいて、
-50°Cで少なくとも1Cのレートにおいて充電可能である、電気化学セル。
【請求項8】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記アノード、前記カソード、又はその両方は、アルミニウムを含む集電体基板を備える、電気化学セル。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記アノード及び前記カソードはパウチセル内にある、電気化学セル。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学的に活性なアノード材料は、Nbの酸化物、Snの酸化物、Sbの酸化物、Tiの酸化物、Siの酸化物、又はこれらの元素の組み合わせの酸化物を含む、電気化学セル。
【請求項11】
請求項10に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学的に活性なアノード材料は、Nbの酸化物を含む、電気化学セル。
【請求項12】
請求項10に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学的に活性なアノード材料は、Tiの酸化物を含む、電気化学セル。
【請求項13】
請求項12に記載の電気化学セルにおいて、
前記Tiの酸化物は、式Li4+aTi12+bで表され、
式中、-0.3≦a≦3.3、-0.3≦b≦0.3である、
電気化学セル。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学的に活性なアノード材料は、対リチウム金属での電気化学的酸化還元電位が1V以上である、電気化学セル。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学的に活性なカソード材料は、複数の微結晶と前記複数の微結晶間の粒界とを含み、
コバルト、アルミニウム、又はその両方の、前記粒界における濃度は、隣接する前記微結晶の中心における濃度よりも高い、
電気化学セル。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記式Li1+xMO2+yにおけるMは、NiとMg、Sr、Co、Al、Ca、Cu、Zn、Mn、V、Ba、Zr、Ti、Cr、Fe、Mo、B、及びこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の金属とを含む、電気化学セル。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学的に活性なカソード材料は、Niと、Mg、Co、又はAlのうち1つ以上の元素とを含む、電気化学セル。
【請求項18】
電気化学セルであって、
式Li1+xMO2+yを含む電気化学的に活性な多結晶カソード材料を含むカソードであって、
式中、-0.9≦x≦0.3、-0.3≦y≦0.3であり、MはMの全体に対して80原子パーセント以上のNiを含み、
前記電気化学的に活性なカソード材料は、複数の微結晶と前記複数の微結晶間の粒界とを含み、
コバルト、アルミニウム、又はその両方の、前記粒界における濃度は、隣接する前記微結晶の中心における濃度よりも高い、
カソードと、
対Li/Liで少なくとも400mVの電気化学的酸化還元電位を有する電気化学的に活性なアノード材料を含む2つ以上のアノードと、
多孔質ポリオレフィンセパレータと、
リチウム塩とカーボネート溶媒とを含む電解質と、
を備える電気化学セルであって、
前記アノード及び前記カソードはさらに、それぞれ独立して、前記電気化学的に活性なアノード材料及び前記電気化学的に活性なカソード材料と混合されたバインダーを含み、
前記アノード及び前記カソードのそれぞれはさらに、独立して、アルミニウムを含む集電体基板を含み、前記カソードの前記集電体は、2つの側面において、それぞれの電気化学的に活性な材料で被覆されており、
前記2つ以上のアノードは電極積層体の末端層であり、
前記アノードの前記カソードに対する容量比が1未満である、
電気化学セル。
【請求項19】
請求項18に記載の電気化学セルにおいて、
1cm/秒の速度での先端が鈍な2mmの直径のステンレス鋼釘による釘刺しの後に電圧/容量プロファイルがほぼ不変であること、により特徴づけられる電気化学セル。
【請求項20】
請求項18に記載の電気化学セルにおいて、
1000サイクルおよびその後の0V条件下での33カ月間の保存との後に性能がほぼ不変であること、により特徴づけられる電気化学セル。
【請求項21】
請求項18に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学セルが制約されていない状態において、45°Cの炉で2.43V及び1.33Vの間にて10Cの充電レートと10Cの放電レートとにおいて1000回サイクル動作した後に10Cでの容量の低下が10%未満であること、により特徴づけられる電気化学セル。
【請求項22】
請求項18に記載の電気化学セルにおいて、
-50°Cで3.3Cのレートにおいて1.2Vまで放電されて-50°Cで1Cのレートにおいて充電された際に40%を上回る容量が伝達されること、により特徴づけられる電気化学セル。
【請求項23】
請求項18~22のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学的に活性なアノード材料は、Nbの酸化物、Snの酸化物、Sbの酸化物、Tiの酸化物、Siの酸化物、又はこれらの元素の組み合わせの酸化物を含む、電気化学セル。
【請求項24】
請求項23に記載の電気化学セルにおいて、
前記Tiの酸化物は、式Li4+aTi12+bで表され、
式中、-0.3≦a≦3.3、-0.3≦b≦0.3である、
電気化学セル。
【請求項25】
請求項18~22のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記式Li1+xMO2+yにおけるMは、Niと、Mg、Sr、Co、Al、Ca、Cu、Zn、Mn、V、Ba、Zr、Ti、Cr、Fe、Mo、B、及びこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の金属とを含む、電気化学セル。
【請求項26】
請求項18~22のいずれか一項に記載の電気化学セルにおいて、
前記電気化学的に活性なカソード材料は、Niと、Mg、Co、又はAlのうち1つ以上の元素とを含む、電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2019年4月12日に出願された米国特許出願第16/383,079号の一部継続出願である。本願は、2019年4月12日に出願された国際出願第PCT/US2019/027284号に従うものであり、この国際出願の優先権を主張する。これら米国特許出願及び国際出願のそれぞれの全内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、リチウムイオン二次電池とその使用とに関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、様々な理由から、数々の携帯可能な電子装置の主要電源となる。これらの理由は、本技術と関連付けられる、高いエネルギー密度と高い比エネルギーと長いサイクル寿命とを含む。しかし、市販のリチウムイオンセルには、特にそれらが機械的に誤用された際に、安全性の問題が生じる。リチウムイオンセルは、急速に充電したり極めて低い温度で充電したりできず、一般的に低温では性能が悪い。リチウムイオンセルは、特にそれらに内部短絡を生じさせる機械的誤用が行われた際に、重大な安全障害を生じ得る。リチウムイオンセルは、過充放電の影響を受けやすく、電池又は電池のセルが過充電又は過放電された場合に、望ましくない性能損失や可能性として危険な事象が発生し得る。
【0004】
リチウムイオン電池が過放電の影響を受けやすいため、リチウムイオン電池の長期保存又は輸送には問題がある。自己放電の限定されたレートにより、電池パックの長期保存の結果、電池パックの電圧がゆっくりと0Vに接近する。多数のセルを有する放電された電池パックにおいて、内在した又は引き起こされたセル間容量の不均衡によって、セルのサブセットが電圧反転又は過放電の状態になる。最も一般的なリチウムイオン電池セルの設計において、これらの電圧条件が、取り返しのつかないほどにセル性能を損なう有害な反応を引き起こし促進させる。
【0005】
理論に拘束されることを望むものではないが、現行のリチウムイオン電池が過放電の影響を受けやすいのは、グラファイトアノード材料と銅集電体材料との組み合わせが用いられることが原因であると理解される。銅は、グラファイトの酸化還元電位でリチウムとの電気化学的合金化の影響を受けにくく、高い電気伝導率を有しているため、用いられる。しかし、銅は、アノードが高い電位(対Li/Liで~3V)になった場合に酸化され得る。このような高い電位になり得るのは、セルが過放電された場合である。酸化銅は繊維状に再析出すると理解される。この再析出は寿命を制限し得、その後にセルが再充電された場合の潜在的な内部短絡に繋がり得る。さらに、寄生分解反応を緩和する不動態化フィルムであって電解質と電極材料との界面において形成された不動態化フィルムは、酸化過放電条件下で、特に昇温時に分解される可能性がある。セルがサイクル動作を再開すると、これらの不動態化フィルムが必ず再形成されるため、リチウムをさらに消費しセルの総容量を低下させる。
【0006】
グラファイトアノードの過放電安定性を増加させる一アプローチでは、銅集電体材料を、高電位での溶解に対する抵抗がより高いステンレス鋼又はチタンに置き換える。しかし、ステンレス鋼及びチタンは両方とも、銅よりも高い電子抵抗率を有する。この高い電子抵抗率により、より厚い集電体を伴うセル設計が求められるため、結局のところセルの電力性能が制限される。グラファイトアノードの過放電安定性を向上させる別のアプローチでは、アノードを事前にリチウム化し、これにより過放電状態でのアノード電位を銅溶解電位未満に下げる。しかし、このアプローチでは、分解を発生させる可能性のある過剰なリチウム化に相当する過放電において、カソード電位がより低い電位になり得、最大充電時におけるアノード上のLiメッキのリスク増加に繋がる可能性もある。
【0007】
これらの安全性の問題及びその他の安全性の問題を避けるため、現在利用可能なリチウムイオン電池におけるセルは、電子的に監視されてこれらのセルの充電状態が制御される。これらのタスクは、電池管理回路(BMC)を用いて行われ得る。リチウムイオンセルの過放電を避けて銅溶解等の分解メカニズムを避けることに加え、電池管理回路は過充電からの保護も提供し得る。現行のリチウムイオン電池に用いられるセルの監視及び充電状態の制御は、電池管理回路が多くの用途において省かれる可能性のある鉛蓄電池又はニッケル・水素充電池等のその他の再充電可能電池技術に用いられるセルの監視及び充電状態の制御にしばしば勝る。
【0008】
グラファイトアノードを用いて作成されたセルは、最もしばしば、充電中におけるアノード上へのリチウムメッキを避けるべく1よりも高い負極/正極容量比「n/p」を伴って設計される。グラファイトインターカレーション電位がリチウム金属のメッキ電位よりわずか~0.1V高いだけなので、一般的なモードの電池充電の最中に、アノードにおけるグラファイト内へのリチウムの好ましいインターカレーション反応とは対照的にリチウム金属析出反応が生じる可能性がある。この析出反応は、安全性についてのリスクを呈し致命的なセル故障を引き起こす恐れがある。Li金属メッキから保護する一般的な予防措置では、n/p>1(一般的には1.1~1.3の間)としてセルを設計する。これにより、セルにおけるリチウムの蓄えが、グラファイトアノード結晶構造におけるインターカレーション部位の数により規定される容量よりも確実に少なくなる。このセル構成では、満充電状態が、完全に脱インターカレーションされたカソード及び部分的にインターカレーションされたアノードとして規定される。そのようなセル設計では、促進されたカソード分解と関連付けられた上限電圧閾値を避けるべくBMCによる慎重な監視が求められる。一方、セルがn/p<1として設計された場合、充電中にセル電圧が増加するため、全てのグラファイトインターカレーション部位がLiで埋まった後にリチウム金属メッキ反応がアノードにおける熱力学上好ましい電気化学的反応となる点が存在する。そのようなセル設計では、Liメッキが生じるであろう上限電圧閾値を避けるべくBMCによる慎重な監視が求められる。これにより、1よりも小さいn/p比率において、Liメッキが致命的な故障に繋がるリスクが大きくなりすぎることが予想される。
【0009】
グラファイトアノードを用いて作成されたセルは、低温では十分に充電されなくなる。低い動作温度における低い変化速度によるセル分極の増加により、アノード電位はリチウムメッキ電位を下回りやすくなり得るが、下回るのはわずか0.1Vだけである。よって、セル分解が促進され、さらに、致命的な故障が引き起こされる。従って、そのような設計を用いて作成されたセルは、低温における充電電力性能に対する厳しい制限を有する。低温充電は、外部加熱装置を用いなければ全く行うことができないと思われ、低温における高レート充電を避けるべくBMCによる慎重な監視が求められる。
【0010】
Liイオンセルの保存及び動作中に、セル構成要素間の寄生相互作用がガス生成に繋がり、その結果、圧力が増加し電池性能が低下し得る。ガス処理は、昇温下や、しばしばセルが電解質酸化電位にされた際に、悪化する。角柱状及びパウチ状の両方において、セル内におけるガスの蓄積は、電池パックのケースの機械的歪みに繋がり得、電池パック内のセル間の接続を損ない得る。そのため、致命的な故障のリスクが増加する。さらに、過大な圧力が個々のセルシールを破り得、その結果、有毒ガスが放出され、セルが早期に故障する。
【0011】
現在は鉛(Pb-acid)蓄電池が、車両点火及びスタート―ストップ電池の用途、例えば、「starting-lighting-ignition」(SLI)用途、に用いられる。なぜなら、広範囲の温度に亘って電力を伝達するために、堅牢なセルが求められるからである。しかし、車両がますますハイブリッド化していることに伴い、追加的なエネルギー消費構成要素(つまり、空気調節、回生制動、シートウォーマー)がPb-acid電池によって電力供給されている。これにより、アクセスされる充電状態(SOC)がより高くなり且つ行われるサイクルの数がより多くなることに伴い、Pb-acid電池はそれらの理想的な動作窓から押し出されつつある。そのため、結果としてPb-acid電池は、性能が低下してより頻繁に交換される。
【0012】
よって、長いサイクル寿命等のリチウムイオン電池の望ましい特徴と高出力、急速再充電、及び低温性能等の現在鉛蓄SLI電池により提供される特徴とのうちいくつかを提供する電池技術が依然として必要とされている。さらに、例えば、過放電からの保護のための外部回路網無しで、極端な機械的誤用に安全に耐える能力であって0Vまで安全に動作する能力を含んだ向上した安全性を提供する技術が極めて望ましい。
【発明の概要】
【0013】
以下の概要は、本開示に特有の革新的な特徴のうちいくつかの理解を容易にするために提供され、完全な説明であることは意図していない。本開示の様々な態様の完全な理解は、全明細書、請求項、図面、及び要約書を全体として理解することによって得ることができる。
【0014】
開示されているのは、堅牢で極めて安全であり、高出力伝達及び受け入れ能力を発揮し、長いサイクル寿命と高温及び低温での優れた性能とを有し、機械的誤用に対する耐性が高く、長期間保存できる再充電可能リチウムイオンセル及びパックである。
【0015】
本開示の電気化学セルは、極端な機械的誤用に対して驚くほど耐性があり電気化学セルとして機能し続ける、つまり、そのような機械的誤用の後でも充放電を維持することが分かった。本明細書で提供されるいくつかの態様のセルはまた、極端な低温において充放電され得、損傷も無く長期間ゼロボルトで保存され得、本セルへの損傷も無く過充電に対して耐性があり、又はこれらの組み合わせである。
【0016】
本明細書で提供されるセルは、式Li1+xMO2+yで規定される又はこの式を含んだ電気化学的に活性な多結晶カソード材料からなるカソードを含む。式中、-0.9≦x≦0.3、-0.3≦y≦0.3であり、MはMの全体に対して80原子パーセント以上のNiを含む。電気化学的に活性なカソード材料はまた、粒子上、粒子内、又は粒子の至る所における不均一な分布のCoにより特徴づけられる。活性なカソード材料により、先行技術のLiイオンカソード材料と比較してレート性能とセル動作寿命との向上が可能になる。活性なカソード材料は、遷移金属の溶解を低減させるよう設計されてもよい。この溶解は、アノードにおける寄生分解及びガス処理反応を悪化させることが知られている。
【0017】
本明細書で提供されるセルは、対Li/Liで400mVよりも高い酸化還元電位によって規定される電気化学的に活性なアノード材料を含む。Li/Li酸化還元電位を少なくとも400mV上回って動作することにより、充電中にセルがリチウムメッキされる傾向が大幅に低減される。なぜなら、メッキの熱力学的電位に到達するには、電極は少なくとも400mVで分極しなければならないからである。本明細書で提供されるセルは、より低い温度での低い変化速度により生じる分極がリチウムメッキのリスクも無く克服され得るため、低温でも高出力伝達を達成し得る。Li/Liの酸化還元電位に近い酸化還元電位を有するアノードを含んだセルは、低い変化速度による大きな分極に耐えられない。なぜなら、これらの分極はアノード上へのリチウムメッキを発生させると考えられるためである。
【0018】
セルは、円筒又はパウチセル等いかなる構成であってもよい。
【0019】
アノード及びカソードは、セパレータにイオン接触しこのセパレータにより分離される。セパレータは、高分子セパレータを含んでもよいし、高分子セパレータであってもよい。いくつかの態様において、セパレータはポリオレフィンを含んでもよい。いくつかの態様において、セパレータは、セパレータ表面のうち1つ以上に被覆された又は(任意でセパレータ表面のうち1つ以上において)高分子内に埋め込まれたセラミックをさらに含んでもよい。セラミックは、セラミック酸化物等のセラミックであってもよい。いくつかの態様において、セパレータは、酸化アルミニウムであり、又は、酸化アルミニウムを含む。
【0020】
本開示のセルは、アノード規制の様式にて構成される能力を有する。従って、アノードのカソードに対する面積比が、任意で1以下である。加えて又は代替的に、電気化学的に活性なアノード材料の電気化学的に活性なカソード材料に対する容量比が1以下である。
【0021】
電解質が含まれてもよく、この電解質は溶媒と塩とを含んでもよい。任意で、溶媒は、カーボネート溶媒、又は、1つ以上のカーボネート溶媒とその他の適切な材料との組み合わせである。塩は、任意でリチウム塩、任意でプロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネートと酪酸メチルとの混合物におけるLiPF塩である。
【0022】
アノード及びカソードは、活性なアノード材料や活性なカソード材料と混合されたバインダーを含んでもよい。バインダーは、任意で高分子バインダーであり、任意でポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含み又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)のみからなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本開示に係る電気化学セルは、以下に、添付の図面を参照してより十分に記載されているであろう。図面では、様々な態様が示されている。ただし、本発明は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載された態様に制限されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの態様は、本開示が十分且つ完璧であり、当業者に本発明の範囲を十分に伝える、ように提供される。全体を通して、同様の参照番号は同様の要素を指す。本開示の上記及びその他の態様、利点、及び特徴は、添付の図面を参照してその例示的な態様をさらに詳細に説明することにより、より明らかになるであろう。図面は以下の通りである。
図1】右側に電極積層体が詳しく描かれた、リチウムイオンセルの一態様の模式図である。
図2】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、室温での様々なレートの充放電における容量(アンペア時(Ah))に対する電圧(ボルト(V))を図示する。
図3】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、-50°Cでの様々なレートの充放電における容量(アンペア時(Ah))に対する電圧(ボルト(V))を図示する。
図4】本明細書で提供されるいくつかの態様に係る2つのセルの、45°Cでの高レートのサイクル動作におけるサイクル数に対するセル放電容量(mAh)を図示する。
図5】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、室温における様々な定電力での、それぞれ充電(A)と放電(B)とにおける容量(mAh)に対する電圧(ボルト(V))を図示する。
図6】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、室温での電圧反転における経過時間(分)に対するセル電圧(ボルト(V))及び対Li基準での電極電圧(ボルト(V))を図示する。
図7】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルが転極された前後の室温での放電における容量(Ah)に対する電圧(ボルト)を図示する。
図8】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルが転極された前後の-18°Cでの繰り返される高レートのパルス放電における放電容量(mAh)に対する電圧(ボルト)を図示する。
図9】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、室温での10%過充電における経過時間(分)に対するセル電圧(ボルト(V))及び対Li基準での電極電圧(ボルト(V))を図示する。
図10】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルが過充電された前後の室温での放電における容量(Ah)に対する電圧(ボルト)を図示する。
図11】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルが過充電された前後の-18°Cでの繰り返される高レートのパルス放電における放電容量(mAh)に対する電圧(ボルト)を図示する。
図12】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルに拡張サイクル動作とその後の0V条件下での保存とが行われた前後の室温での様々なレートの充放電における容量(アンペア時(Ah))に対する電圧(ボルト(V))を図示する。
図13】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、先端が鈍な釘を貫通させる誤用試験中の経過時間(秒)に対する電圧(ボルト(V))及び温度(°C)を図示する。
図14】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルに丸棒破砕試験が行われた前後の室温での放電における容量(アンペア時(Ah))に対する電圧(ボルト(V))を図示する。
図15】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルに複数の極端な機械的誤用が行われた後に欠陥が無く機能し続ける様子を示す図である。
図16】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルに複数の極端な機械的誤用が行われた前後の室温での放電における容量(アンペア時(Ah))に対する電圧(ボルト(V))を図示する。
図17】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルに複数の極端な機械的誤用が行われた後の連続的サイクル動作におけるサイクル数に対するセル放電容量(Ah)を図示する。
図18】本明細書で提供されるいくつかの態様に係るセルの、本セルに複数の極端な機械的誤用と1000サイクルと0Vでの33カ月間の保存とが行われた前後の室温での放電における容量(アンペア時(Ah))に対する電圧(ボルト(V))を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
驚くべきことに、電気化学的に活性な多結晶カソード材料であって任意で不均一な分布のコバルト、アルミニウム、又はその両方を有する多結晶カソード材料を含んだ正極と、対Li/Liで400mV以上の電気化学的酸化還元電位により特徴づけられる電気化学的に活性な負極材料であってアルミニウム集電体上に被覆された負極材料を含んだ負極と、を備える本開示のリチウムイオンセルが、釘貫通及び丸棒破砕等の極端な機械的誤用に安全に耐え抜くことができることが分かった。意外なことに、本開示のセルは、そのような誤用の後も、性能における大幅な損失も無く電気化学的に機能し続ける。加えて、本開示のセルは、極めて高い充電レートに対応可能であるという独特な能力を有し、深放電状態(例えば、0V)での長期保存後の回復に優れ、-40°C以下等の極めて低い温度において高レート(例えば、1C)で充電され得る。よって、本開示のセルは、パウチセルを含む多くの種類のセル及び多くの異なる用途に用いられ得る格別に堅牢且つ安全な電池システムを提供することによって、その他の電池システム及び技術についての多くの問題に対処する。
【0025】
本明細書に用いられているように、「吸蔵」は、活物質に対するリチウムのインターカレーション又は挿入又は変換による合金化反応を意味し得る。本明細書では、吸蔵を「リチウム化」と呼ぶことがある。
【0026】
本明細書に用いられているように、「脱離」は、活物質に対するリチウムの脱インターカレーション又は脱挿入又は変換による脱合金化反応を意味し得る。本明細書では、脱離を「脱リチウム化」と呼ぶことがある。
【0027】
本明細書に用いられているように、リチウムイオンセルの文脈では、「カソード」は正極を意味し、「アノード」は負極を意味する。
【0028】
本明細書に用いられているように、「活物質」は、リチウムを吸蔵又は脱離すること等によって電気化学セルの電気化学的充放電反応に関与する材料である。
【0029】
本明細書に開示されたリチウムイオンセルは、それらの性能に影響を与えることなく0Vまで安全に放電され得る。これらのリチウムイオンセルは、程度の高い過充電及び電圧反転にも安全に耐え得、後者の特性により、直列に接続されたこれらのセルから作られた電池も個々のセルに対処することなく0Vまで放電され得る。開示されたリチウムイオンセル及び電池は0Vまで放電され得るため、数々の利点が提供される。例えば、開示されたリチウムイオンセル及び電池は、向上した安全性を提供すべく放電状態で保存及び/又は出荷されてもよい。過充放電に対するセルの高い耐性により、それらから作られた電池は、性能及び寿命を安全且つ有益なレベルに保持しつつ、電池管理における損失又は故障に耐え得る。また、本明細書で提供されるリチウムイオンセルは、それらの安全性、性能、又は寿命に影響を与えることなく、極めて急速に且つ低温で充電され得る。これにより、本リチウムイオンセルは、電気負荷平準化及びスタート―ストップ車両電池等の用途によく適するようになる。さらに、そのようなリチウムイオンセルは、高温で優れた安定性を、極めて低い温度で優れた性能を、有する。
【0030】
1つの特定の理論に制限されるものではないが、アノードの構造及び材料の選択が、本明細書で提供される電気化学セルの独特な特徴のうちいくつかを提供するのを大いに支援する、と考えられる。少なくとも一般的に用いられる銅集電体の分解を避けつつ0Vまで放電され得る又は放電状態で保存され得るリチウムイオン電池を提供する一の方策は、酸化の影響をより受けにくいチタン又はステンレス鋼等の金属を集電体において用いることである。しかし、チタン及びステンレス鋼は銅よりも導電率が低い。例えば、銅の導電率はチタンの導電率の20倍よりも高い。その結果、銅の代わりにチタン又はステンレス鋼を用いたセルのレート性能が、銅を用いた場合よりも低くなり得る。これにより、いくつかの用途については、チタン又はステンレス鋼の集電体を採用しているセルによって提供されるレート性能は不十分である。チタン又はステンレス鋼の集電体の使用により、向上した過放電性能が提供されると思われるが、チタン又はステンレス鋼を使用することで、セルが、高出力性能が望ましい用途に適さなくなると思われる。
【0031】
本明細書で説明されるように、一般的に集電体に用いられるその他の金属についての問題は、アルミニウム等の、対Li/Liで0.5V未満の電位(例えば、対Li/Liで0.1V~0.5V未満)でリチウムとの電気化学的反応性を有する金属を含んだ又はこの金属のみから作られた負極用の集電体を含んだ電気化学セルを提供することによって対処される。提供されたアルミニウム集電体は、対Li/Liで400mV以上の酸化還元電位によって規定される電気化学的に活性な負極材料と併せて用いられ得る。これは、電気化学的に活性な負極材料の電気化学的電位が、アルミニウムがリチウムと合金化する電位よりも高いためである。非限定的な例として、本明細書で提供されるいくつかの態様に係るLTOは、対Li/Liで1.55Vの電気化学的酸化還元電位を有し、この酸化還元電位は、アルミニウムがリチウムと合金化する電位(対Li/Liで0.4V)よりも高い。よって、対リチウムで1.55Vの電気化学的酸化還元電位を有するLTOが(一例として)用いられると、銅溶解等の銅に関連する課題が、負極の集電体にアルミニウムを用いることで避けられ得る。さらに、理論に拘束されることを望むものではないが、電解質還元生成物を含むと理解される固体電解質層(SEI)が、その電位がリチウムに対して高いため、本明細書に用いられている電気化学的に活性な負極材料上に形成されないと理解される。0Vまで安全に放電される能力と組み合わせたこれらの特性の結果、リチウムイオンセルの安全性及び安定性が意図せず向上する。
【0032】
さらに、対リチウムで400mVの電気化学的酸化還元電位を有する電気化学的に活性な負極材料を含む負極は、容易に達成できる電気化学的変化速度での高度に可逆的なLiインターカレーションを伴い、アルミニウムを含む集電体は比較的導電性が高いため、そのような負極を含むリチウムイオンセルは充放電の両方についての高レート性能と良好な寿命とを提供し得る。
【0033】
従って、本明細書で提供される電気化学セルは、対Li/Liで400mV以上の酸化還元電位を有する電気化学的に活性な負極材料を組み込んだ負極を含む。電気化学的に活性な負極材料は、アルミニウム集電体上に被覆される。いくつかの態様において、正極も、アルミニウム集電体上に被覆された電気化学的に活性な多結晶カソード材料を含む。アルミニウム集電体は、任意で、Al又はアルミニウム合金からなるシートの形状を有しており、箔、固体基板、多孔質基板、格子、発泡体、又はAlで被覆された発泡体の形状、或いは当分野で既知のその他の形状を有してもよい。いくつかの態様において、アルミニウム集電体は箔である。格子は、任意で、拡張金属格子と穿孔箔格子とを含んでもよい。
【0034】
正極も、集電体を含む。正極用の集電体は、アルミニウム合金等の、アルミニウムからなるものであってもよい。アルミニウム集電体は、任意で、シートの形状を有しており、箔、固体基板、多孔質基板、格子、発泡体、又はAlで被覆された発泡体の形状、或いは当分野で既知のその他の形状を有してもよい。いくつかの態様において、アルミニウム集電体は箔である。格子は、任意で、拡張金属格子と穿孔箔格子とを含んでもよい。
【0035】
アノード又はカソード用の集電体は、任意で、使用する回路にセルを電気的に接続するのに用いられ得るタブに関連付けられる。アノード集電体及びカソード集電体のそれぞれがタブと電気的に関連付けられてもよい。タブは、アルミニウム又は当分野で既知のその他の材料等の任意の適切な材料から作られてもよい。タブは、任意で、集電体の非被覆エリアである。複数のアノード及びカソードを有する積層されたセルについて、タブ同士は、外部回路との接続用の単一の正極タブ及び単一の負極タブを形成すべく溶接されてもよい。
【0036】
本明細書で提供される電気化学セルにおけるカソードは正極として働く。カソードは、Liを吸蔵及び脱離できる電気化学的に活性な多結晶カソード材料を含む。本明細書で提供される電気化学的に活性なカソード材料は、式Li1+xMO2+yで表される材料である。式中、-0.9≦x≦0.3、-0.3≦y≦0.3であり、MはMの全体に対して80原子パーセント以上のNiを含む。多結晶材料が、この多結晶材料を形成するための複数の微結晶の凝集体又は群集体を含む。多結晶材料内では、各微結晶は、電気化学的に活性なカソード材料の各二次粒子内で同一又は異なり得る任意の適切な形状を有してもよい。さらに、各微結晶の形状は、異なる粒子において同一又は異なり得る。微結晶の結晶的性質により、微結晶は切子面を有してもよく、微結晶は複数の平面を有してもよく、微結晶の形状は幾何学形状に近似してもよい。微結晶は、任意で、多面体であってもよい。微結晶は直線的形状を有してもよく、その断面図では、微結晶の一部分又は全体が直線的であってもよい。微結晶は、正方形、六角形、長方形、三角形、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0037】
電気化学的に活性なカソード材料は、M成分の主な部分としてNiを含む。第1組成物におけるNiの量は、任意で、Mの合計のうち80原子パーセント~100原子パーセント(at%)である。任意で、MのNi成分は80at%以上である。任意で、MのNi成分は85at%以上である。任意で、MのNi成分は90at%以上である。任意で、MのNi成分は95at%以上である。任意で、MのNi成分は、75at%以上、76at%以上、77at%以上、78at%以上、79at%以上、80at%以上、81at%以上、82at%以上、83at%以上、84at%以上、85at%以上、86at%以上、87at%以上、88at%以上、89at%以上、90at%以上、91at%以上、92at%以上、93at%以上、94at%以上、95at%以上、96at%以上、97at%以上、98at%以上、99at%以上、99.5at%以上、99.9at%以上、又は100at%である。
【0038】
いくつかの態様において、Mは、Ni単独又はNiと1つ以上の追加元素との組み合わせである。任意で、追加元素は金属である。任意で、追加元素はAl、Mg、Co、Mn、Ca、Sr、Zn、Ti、Y、Cr、Mo、Fe、V、Si、Ga、又はBのうち1つ以上を含んでもよいし、これらのうち1つ以上であってもよい。特定の態様において、追加元素はMg、Co、Al、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。任意で、追加元素はMg、Al、V、Ti、B、若しくはMn、又はこれらの組み合わせであってもよい。任意で、追加元素はMg、Al、V、Ti、B、又はMnのみからなる群から選択される。任意で、追加元素はMg、Co、及びAlのみからなる群から選択される。任意で、追加元素はCa、Co、及びAlのみからなる群から選択される。いくつかの態様において、追加元素はMn若しくはMg、又は、Mn及びMgの両方、である。任意で、追加元素はMn、Co、Al、又はそれらの任意の組み合わせである。任意で、追加元素はCo及びMnを含む。任意で、追加元素はCo及びAlである。任意で、追加元素はCoである。
【0039】
電気化学的に活性なカソード材料におけるMのうちの追加元素は、第1組成物におけるMの約0.1~約20at%、具体的には約5~約20at%、より具体的には約10~約20at%の量だけ存在してもよい。任意で、追加元素は、第1組成物におけるMの約1~約20at%、具体的には約2~約18at%、より具体的には約4~約16at%の量だけ存在してもよい。説明に役立ついくつかの例では、Mは、約80~100at%がNiで、0~15at%がCoで、0~15at%がMnで、0~10at%が追加元素である。
【0040】
本明細書で提供されるセルのカソードにおいて用いられる電気化学的に活性なカソード材料は、Coを含む。Coは、電気化学的に活性なカソード材料の二次粒子全体に渡って、この二次粒子上に、又はこの二次粒子内に、不均一に分布している。不均一な分布とは、いくつかの又は全ての二次粒子の至る所で変化するCoの分布である。いくつかの態様において、多結晶材料は、二次粒子内で隣接する微結晶間の粒界を含む。コバルト、アルミニウム、又はその両方の、粒界における濃度は、隣接する微結晶の中心における濃度よりも高い。そのような材料は粒界高濃度化材料であると考えられる。そのような粒界高濃度化材料の説明に役立つ例は、米国特許第9,391,317号及び米国特許出願第16/250,762号において見つけることができる。
【0041】
特定の態様において、電気化学的に活性なカソード材料として用いられる二次粒子は、Co、Al、又はその両方の高濃度化粒界を有する。任意で、この粒界におけるCo、Al、又はその両方のモル分率は、(任意で、各領域の和全体での平均で)微結晶におけるCo、Al、又はその両方のモル分率よりも高い。
【0042】
微結晶、粒界領域、又はその両方の組成は、任意で、層状α-NaFeO型構造、立方体構造、又はこれらの組み合わせを有する。粒界が層状α-NaFeO型構造を有する態様を具体的に述べる。粒界が欠損のあるα-NaFeO型構造を有する別の態様を具体的に述べる。粒界の一部分が立方体又はスピネル構造を有する別の態様を具体的に述べる。
【0043】
粒界は、任意で、式I、Li1+xMO2+y(式1)、で表される第2組成物からなる。式中、-0.9≦x≦0.3、-0.3≦y≦0.3であり、Mは、Co、Al、又はCo及びAlの組み合わせを含む。任意で、第2組成物におけるMはNiをさらに含む。任意で、第2組成物におけるMのNi成分は1at%以下である。任意で、MのNi成分は5at%以下である。任意で、MのNi成分は10at%以下である。任意で、MのNi成分は20at%以下である。任意で、MのNi成分は75at%以下である。任意で、MのNi成分は80at%以下である。任意で、MのNi成分は90at%以下である。任意で、MのNi成分は95at%以下である。任意で、MのNi成分は98at%以下である。任意で、MのNi成分は99at%以下である。
【0044】
電気化学的に活性な粒界強化カソード材料において、粒界領域を通して平均されたCo、Al、又はその両方の濃度は、微結晶領域を通して平均されたCo、Al、又はその両方の平均濃度よりも高い。従って、粒界におけるCo、Al、又はその両方のモル分率は、微結晶におけるCo、Al、又はその両方のモル分率よりも高い。微結晶の組成を規定するCo、Al、又はその両方が少しでも微結晶において存在する場合、第1組成物におけるCo、Al、又はその両方のモル分率は、ICPで決定される粒子組成全体における単独又は組み合わせでのCo又はAlの合計モル分率より低い。微結晶における単独又は組み合わせでのCo及びAlのモル分率は、ゼロであり得る。粒界を規定する第2組成物における単独又は組み合わせでのCo及びAlのモル分率は、ICPで測定される粒子全体における単独又は組み合わせでのCo及びAlのモル分率よりも高い。第2組成物は、Coが0at%若しくは8at%において又はその間で、任意でCoが3at%若しくは5at%において又はその間で、強化されてもよく、任意で0.01at%~10at%のAl、任意で1.5at%以下のAl、で補充され得る。
【0045】
任意で、第2組成物及び第1組成物(微結晶組成物)は、第1組成物と比べて第2組成物においてはCo、Al、若しくはその両方が存在している又はCo、Al、若しくはその両方の濃度(モル分率)が増加している点を除いて同一である。
【0046】
電気化学的に活性なカソード材料は、任意で、二次粒子内に不均一な分布のCoを含む。不均一な分布は、微結晶内、全二次粒子内、又はこれらの組み合わせにおけるCoの勾配状である。任意で、微結晶は、Co濃度の勾配を含む。この勾配において、微結晶の外周における又は当該外周の近傍のCoの量は、微結晶の中心における又は当該中心の近傍のCoの濃度よりも高い。そのような材料の説明に役立つ例を、Lim, et al., Adv. Funct. Mater. 2015; 25:4673-4680又はLee et al., Journal of Power Sources, 2015; 273:663-669において見つけることができる。
【0047】
いくつかの態様において、Coの不均一な分布が、米国特許第7,381,496号、米国特許出願公開第2016/0181611号、又はZuo, et al., Journal of Alloys and Compounds, 2017; 706:24-40等に記載されているように、Coでコアを被覆することにより達成される。
【0048】
正極は、リチウムニッケル酸化物と導電剤とバインダーとを組み合わせて、これらリチウムニッケル酸化物と導電剤とバインダーとを含む被膜を集電体上に設けることによって提供されてもよい。導電剤は、適切な特性を提供するいかなる導電剤であってもよく、非晶質、結晶質、又はこれらの組み合わせであってもよい。導電剤は、アセチレンブラック若しくはランプブラック等のカーボンブラック、メソカーボン、グラファイト、カーボンファイバー、単層カーボンナノチューブ若しくは多層カーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブ、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0049】
アノード又はカソードのいずれかにおいて用いられるバインダーは、適切な特性を提供するいかなるバインダーであってもよく、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンの共重合体、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ(ビニルブチラール-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体)、ポリ(メタクリル酸メチル-アクリル酸エチル共重合体)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(l-ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体)、酢酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、スルホン化スチレン/エチレン-ブチレン/スチレンのトリブロックポリマー、ポリエチレンオキシド、又はこれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0050】
正極は、リチウムニッケル酸化物と導電剤とバインダーとを、リチウムニッケル酸化物と導電剤とバインダーとの総重量に基づいて適切な比率(例えば、80~99重量パーセントのリチウムニッケル酸化物、0.5~20重量パーセントの導電剤、及び0.5~10重量パーセントのバインダー)で組み合わせることで製造されてもよい。リチウムニッケル酸化物と導電剤とバインダーとは、正極を提供すべく、N-メチルピロリジノン等の適切な溶媒又はその他の適切な溶媒において懸濁させられ、アルミニウム箔等の適切な基板上に配置され、空気中で乾燥されてもよい。
【0051】
本明細書で提供される電気化学セルは、負極をさらに含む。負極は、対Li/Liで400mV以上の酸化還元電位によって規定される電気化学的に活性な負極材料を含む。任意で、電気化学的に活性な負極材料の対Li/Liでの酸化還元電位は、400mV以上、任意で500mV以上、任意で600mV以上、任意で700mV以上、任意で800mV以上、任意で900mV以上、任意で1V以上、任意で1.1V以上、任意で1.2V以上、任意で1.3V以上、任意で1.4V以上、任意で1.5V以上、任意で1.55V以上、任意で1.6V以上である。
【0052】
電気化学的に活性な負極材料の説明に役立つ例は、この材料が対Li/Liで400mV以上の酸化還元電位によって規定される限り、数ある中で、Nbの酸化物、Snの酸化物、Sbの酸化物、Tiの酸化物、Siの酸化物、及びこれらの元素の組み合わせの酸化物を含むが、これらに限定されない。説明に役立つ具体例は、Han and Goodenough, Chemistry of Materials, 23, no. 15 (2011): 3404-3407において見つけられ得る。
【0053】
いくつかの態様において、電気化学的に活性な負極材料は、Nbの酸化物を含む。説明に役立つ例は、Nb1655、Nb181693、TiNb、TiNb、LiTiNbO、KNb13、及びKNb10.830を含むが、これらに限定されない。そのような材料は、任意で、Griffith, et al., Nature, 559, no. 7715 (2018): 556-563に記載されている材料である。
【0054】
電気化学的に活性な負極材料として用いられ得る酸化物のその他の例は、SnO、Sb、SiO、SiO及びコンバージョン型アノードを含む。尚、電気化学的に活性な負極材料は、対Li/Liで400mVの酸化還元電位によって特徴づけられる。
【0055】
いくつかの態様において、電気化学的に活性な負極材料は、Tiの酸化物を含む。Tiの酸化物は、任意の形状であってもよく、Armstrong, et al., Journal of Power Sources, 146, no. 1-2 (2005): 501-506に記載されているTiO-Bナノワイヤー等のナノワイヤーを任意で含む。
【0056】
チタンの酸化物の説明に役立つ一例は、リチウムチタン酸化物(LTO)であり、対Li/Liで1Vよりも高い(任意で、対Li/Liで約1.5Vの)電気化学的酸化還元電位を任意で有する。リチウムチタン酸化物は、スピネル型構造を有してもよい。アノードは、任意で式Li4+aTi12+b(2)で表される電気化学的に活性なアノード材料を含んでもよい。式中、-0.3≦a≦3.3、-0.3≦b≦0.3である。いくつかの態様において、リチウムチタン酸化物は式3で表されてもよい。
Li4+yTi12 (3)
式中、0≦y≦3、0.1≦y≦2.8、又は0≦y≦2.6である。
【0057】
代替的に、リチウムチタン酸化物は式4で表されてもよい。
Li3+zTi6-z12 (4)
式4において、0≦z≦1である。任意で、0≦z≦1、0.1≦z≦0.8、又は0≦z≦0.5である。上記リチウムチタン酸化物のうち少なくとも1つを含んだ電気化学的に活性なアノード材料の組み合わせが用いられてもよい。いくつかの態様において、電気化学的に活性なアノード材料は、対Li/Liで約1.55Vの電気化学的酸化還元電位を有するLiTi12を含み、又は、当該LiTi12である。
【0058】
電気化学的に活性なアノード材料は、0.1μm~100μm又は1μm~10μmの粒径等の任意の適切な粒径を有してもよい。
【0059】
電気化学的に活性なアノード材料は、4m/g~20m/g又は7m/g~13m/g等の高い比表面積(SSA)を有してもよい。
【0060】
負極は、集電体を含む。上記でさらに述べられているように(ただ、理論に拘束されることを望むものではないが)、以下のように理解される。電気化学的に活性なアノード材料の電気化学的電位が対Li/Liで400mV以上であるため、負極集電体は銅以外の金属を含んでもよい。なぜなら、アルミニウム及びチタン等のその他の金属は、対Li/Liで400mV以上の電気化学的酸化還元電位を有する電気化学的に活性なアノード材料が用いられる際に存在する電位において、適切な安定性を提供するためである。理論に拘束されることを望むものではないが、以下のように理解される。対リチウムで0.1V~0.5Vの電位において、アルミニウム等の金属がリチウムとの電気化学的反応性を有する一方、銅はそのような電気化学的反応性を有さない。この理由により、グラファイトがアノード材料として用いられる場合に、銅が集電体材料として用いられる。よって、対Li/Liで0.1V~0.5V、0.15V~0.45V、又は0.2V~0.4Vの電位においてリチウムとの電気化学的反応性を有する金属を含む集電体は、グラファイトアノード材料に用いることができないが、本明細書で提供されるアノード材料には用いられてよい。
【0061】
アノード、カソード、又はその両方の集電体は、アルミニウムを含んでもよい。アルミニウム又はアルミニウム合金が述べられている。代表的なアルミニウム合金は、アルミニウム合金1050、1100、1145、1235、1350、3003、3105、5052、及び6061を含む。
【0062】
負極は、電気化学的に活性なアノード材料と導電剤とバインダーとを組み合わせ、これら電気化学的に活性なアノード材料と導電剤とバインダーを含む被膜を負極用に選択された集電体上に設けることにより形成されてもよい。導電剤は、適切な特性を提供するいかなる導電剤であってもよく、非晶質、結晶質、又はこれらの組み合わせであってもよい。導電剤は、アセチレンブラック若しくはランプブラック等のカーボンブラック、メソカーボン、グラファイト、カーボンファイバー、単層カーボンナノチューブ若しくは多層カーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブ、又はこれらの組み合わせであってもよい。バインダーは、適切な特性を提供するいかなるバインダーであってもよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン、PVDF、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ(ビニルブチラール-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体)、ポリ(メタクリル酸メチル-アクリル酸エチル共重合体)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(1-ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体)、酢酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、スルホン化スチレン/エチレン-ブチレン/スチレンのトリブロックポリマー、ポリエチレンオキシド、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0063】
負極は、電気化学的に活性なアノード材料と導電剤とバインダーとを、電気化学的に活性なアノード材料と導電剤とバインダーとの総重量に基づいて適切な比率(例えば、80~98重量パーセントの電気化学的に活性なアノード材料、2~20重量パーセントの導電剤、及び2~10重量パーセントのバインダー)で組み合わせることで製造されてもよい。これら電気化学的に活性なアノード材料と導電剤とバインダーとは、負極を提供すべく、N-メチルピロリジノン等の適切な溶媒において懸濁させられ、アルミニウム、チタン、又はステンレス鋼等の適切な集電体上に配置されて、空気中で乾燥されもよい。
【0064】
正極及び負極は、具体的な用途で求められるレート性能と電圧範囲とに調整された充填率(集電体の単位面積あたりの被覆材料の質量)にて調製されてもよい。より高い電力(高レート)での用途であればあるほど、電極の界面表面積を最大化して電流密度を最小化するように、より低い充填率の電極が求められる。一方、より高いエネルギー密度を必要とする用途であればあるほど、セルにおける集電体及びセパレータ等の非活物質の含有量を最小化するように、より高い充填率の電極が求められる。
【0065】
対Li/Liで400mV以上の電気化学的酸化還元電位を有する電気化学的に活性なアノード材料のさらなる利点は、このアノード材料が、その電位がほぼ最も厳しい過充電条件下でのリチウム金属メッキの可能性を避けるのに十分なほど正であるため、アノード規制であるセル設計で実現され得ることである。そのようなアノード規制のセル設計は、具体的な用途において求められるセル当たりの電圧と同等のレベルにまで充電済カソードの脱リチウム化を制限することで、セルの耐過充電性及び安定性を改善し得る。従って、本明細書で提供される電気化学セルは、任意で、面積、充填率、又はその他のいずれかにおいて制限される。
【0066】
任意で、電気化学セルは、カソードの幾何学的表面積が任意でアノードの幾何学的表面積以上となるようにアノード規制される。従って、正極の面積で割った負極の面積に等しい面積比は、1以下である。任意で、アノードのカソードに対する面積比は、0.99以下、0.98以下、0.97以下、0.96以下、0.95以下、0.94以下、0.93以下、0.92以下、0.91以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下、0.65以下、0.60以下、0.55以下、又は0.50以下である。いくつかの態様において、正極及び負極の幾何学的面積は同一又はほぼ同一である。
【0067】
任意で、アノードのカソードに対する容量比は1以下である。電極容量比は、負極容量の正極容量に対する比率である。電極の容量は、しばしば、単位面積あたりの充電時間の積として与えられる。用いられる充電及び時間の単位は、比率計算においては重要でない。電極の容量は、電極の面積を乗じた単位面積あたりの容量に等しい。よって、2つの電極の同様の面積について、容量比は、2つの電極の単位面積あたりの静電容量の比率に等しい。任意で、アノードのカソードに対する容量比は、0.99以下、0.98以下、0.97以下、0.96以下、0.95以下、0.94以下、0.93以下、0.92以下、0.91以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下、0.65以下、0.60以下、0.55以下、又は0.50以下である。
【0068】
理想的なアノード/カソード(n/p)比率は、使用する特定のカソード材料と意図されたセルの用途とに依存する。本明細書に記載されるように、n/p容量比の最大値は1未満(例えば、0.99)である。なぜなら、n/p比率が1未満であると、利点が最大化されると考えられるためである。その他の極端な状況として、0.5未満のn/p比率によりセルの商業的実現可能性が大幅に制限される。なぜなら、0.5未満のn/p比率であるということは、カソード材料の容量の50%しか利用されないことを意味するからである。0.5~0.99の間において、セル設計者は、カソード材料の電圧終止上限値をどこで制限すべきかを容易に判断すると思われる。例えば、カソード不安定性、副反応、又は電解質分解は対Li/Liで4.2V付近で始まり得る。そこで、本明細書で提供されるセルでは、長寿命セルを達成すべく、電圧が対Li/Liで4.1Vに任意で制限される。所望のn/p比率は、以下の等式により決定されてもよい。
【数1】

【0069】
式中、QMax Voltageは充電中の最大電圧におけるカソード材料の容量であり、QVoltage Limitは充電中に設定される電圧制限におけるカソード材料の容量である。この等式から、最適なn/p容量比は、1未満、任意で0.5~0.99、任意で0.7~0.99、任意で0.8~0.99、任意で0.8~0.97、任意で0.8~0.96、任意で0.8~0.95、任意で0.85~0.99、任意で0.85~0.97、任意で0.85~0.95、任意で0.9~0.99、任意で0.9~0.97、任意で0.9~0.95である、と判断できる。
【0070】
提供される電気化学セルのいくつかの態様において、単位セルは、1つのアノードと、1つのカソードと、アノード及びカソードの間に位置するセパレータとを備え、アノード及びカソードとイオン接触するように電解質が設けられる。任意で、単位セルは、両面アノードを含む。電気化学的に活性なアノード材料は集電体の両側に被覆され、又は、カソードが両面カソードであり、電気化学的に活性なカソード材料が集電体の両側に被覆される。この二面電極は、2つの対向片面電極又は他の対向両面電極が両側に設けられてもよい。このように、電極積層体が設けられて単位セルを形成してもよい。いくつかの態様において、アルミニウム集電体上に被覆された電気化学的に活性なアノード材料を組み込んだ2つの片面アノード電極と、ポリオレフィンセパレータと、アルミニウム集電体の両側に被覆された両面カソード電極と、が設けられる。そのような単位セルが積層されて、電気化学セルを形成する。いくつかの態様において、片面アノード電極が、そのような積層体の末端に位置する。ただし、積層体の末端電極がカソードであってもよいと理解される。
【0071】
正極、負極、及びセパレータは、リチウムイオンセルを提供すべく筐体において組み合わされてもよい。この一態様が、図1で図示されている。リチウムイオンセル100は、正極タブ101’を有する正極101と、負極タブ102’を有する負極102と、正極101及び負極102の間に介在するセパレータ103と、を含む。本セルは、アノード及びカソードの両方とイオン接触する電解質を含んでもよい。イオン接触とは、電解質がアノードからカソードに又はカソードからアノードにイオンを伝達し得ることを意味する。
【0072】
電気化学セルは、単位セルにおけるアノード及びカソードの間に位置するセパレータを含む。セパレータは、微細孔膜、任意でポリプロピレン、ポリエチレン、又はこれらの組み合わせ等のポリオレフィンを含んだ多孔質フィルム、からなるものであってもよい。いくつかの態様において、セパレータは、セラミック酸化物材料、任意でアルミニウム酸化物、の被膜又は微粒子補強充填材をさらに含んでもよい。100cc当たり200秒未満のガーレー透気度を有する高浸透率セパレータが、高出力性能を有するセルを提供すべく選択されてもよい。
【0073】
アノード、カソード、セパレータ、及び電解質は、セルケース(例えば、筐体)に収容されてもよい。セルケース110は、金属缶であってもよいし、アルミニウムで被覆されたポリプロピレンフィルム等の、ヒートシール性アルミニウム箔等のラミネートフィルムであり得る。従って、本明細書で提供される電気化学セルは、任意の公知のセル形状を有してもよい。その例としては、ボタンセル、パウチセル、円柱状セル、又はその他の適切な構成がある。いくつかの態様において、筐体が、可撓性フィルム状、任意でポリプロピレンフィルム状である。そのような筐体は、パウチセルを形成するために一般的に用いられる。リチウムイオンセルは、任意の適切な構成又は形状を有してもよく、円柱状又は角柱状であってもよい。
【0074】
本明細書で提供されるセルは、任意で、電池管理回路等の任意の回路網、或いは、充電レート又は充電若しくは放電の度合いを規制可能であり当分野で用いられるその他の手段を除外する。
【0075】
リチウムイオンセルは、正極101と負極102とセパレータ103とに接触する電解質を含む。電解質は、有機溶媒とリチウム塩とを含んでもよい。有機溶媒は、環状カーボネートと直鎖状カーボネートとエステルとの混合物であってもよい。代表的な有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、又はこれらの組み合わせを含む。プロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネートと酪酸メチルとの混合物が述べられている。
【0076】
電解質において用いられる代表的なリチウム塩は、LiPF、LiBF、LiAsF、LiClO、LiCFSO、Li(CFSON、LiN(SO、LiSbF、LiC(CFSO、LiCSO、及びLiAlClを含むが、これらに限定されない。リチウム塩は、有機溶媒において溶解されてもよい。上記塩及び溶媒のうち少なくとも1つを含んだ組み合わせが用いられ得る。リチウム塩の濃度は、電解質において0.1~2モル(M)であり得る。1MのLiPFの溶液が述べられている。
【0077】
電解質は、高出力性能及び低温性能を提供すべく調製されてもよい。そのような電解質は、25°Cで8mS/cmより高く-40°Cで1mS/cmより高いイオン伝導率を有してもよい。
【0078】
本リチウムイオンセルから作られた電池は、任意の適切な数(例えば、1~50000個、2~25000個、4~15000個、8~5000個、16~2000個、又は32~1000個)のセルを含んでもよい。本セルは、直列接続、並列接続、又はこれらの組み合わせを含んだ任意の適切な構成で接続されてもよい。
【0079】
本セル及びそれらから作られた電池の充放電は、任意の適切な充放電方法で行われてもよく、100C以下、10C以下、0.01C~10C、又は0.1C~1Cのレート等の任意の適切なレートでの充放電であってもよい。Cレートとは、セルの放電レートであり、セルの総容量を総放電時間で割ることによって求められる。例えば、1.6アンペア時の放電容量を有する電池のCレートであれば、1.6アンペアとなる。放電は、1.4V以下、任意で1.3V以下、任意で1.2V以下、任意で1.1V以下、任意で1.0V以下、任意で0.9V以下、任意で0.8V以下、任意で0.7V以下、任意で0.6V以下、任意で0.5V以下、任意で0.4V以下、任意で0.3V以下、任意で0.2V以下、任意で0.1V以下、例えば、0.1V~0.001V、0.05V~0.005V、までの電池放電であってもよい。放電は、任意で0V以下までの放電であってもよい。
【0080】
本開示の様々な態様が、以下の非限定的な実施例によって例示される。実施例は、例示を目的とするものであり、本発明のいかなる実施も制限するものではない。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく変形及び変更が可能であると理解されるであろう。
【実施例
【0081】
実施例1
正極が、組成式Li1.01Mg0.025Ni0.88Co0.12Al0.0064で表されるコバルト粒界強化LNO型リチウムニッケル酸化物(CAMX Power, LLC、レキシントン、マサチューセッツ州)とアセチレンブラックとポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)との重量比率94:3:3での混合物をアルミニウム上に11.3mg/cmの活物質の充填率にて被覆することによって製造された。負極が、組成式LiTi12で表され且つ10m/gの比表面積を有するリチウムチタン酸化物とアセチレンブラックとPVDFとの重量比率90:3:7での混合物をアルミニウム上に12.7mg/cmの活物質の充填率にて被覆することによって製造された。100m/gの表面積を有するアセチレンブラック(Denka CarbonsからDenka AB-100として入手)と1000000~1200000mol/gの範囲内の分子量を有するPVDF(Solvay ChemicalsからSolef 5130として入手)とが、正極及び負極の両方に用いられた。
【0082】
正極及び負極は、幾何学的面積が等しく、72.7cmであった。12枚の両面正極層が、Z折りセパレータアセンブリにおいて、11枚の両面負極層及び2枚の片面負極層と共に積層された。セパレータは、110秒のガーレー透気度を有する厚さ21μmのアルミナ被覆ポリオレフィン材料であった。電極積層体アセンブリは、電極タブがパッケージの端部シールを通して給電している状態で、アルミニウム被覆ポリプロピレン外被に載置された。プロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネートと酪酸メチルとの重量比率1:1:2での混合物における1MのLiPFのみからなり、25°Cで11mS/cm且つ-40°Cで2mS/cmのイオン伝導率を有する、電解質がシール前に添加されて、重量が82gである3アンペア時(Ah)のラミネート梱包角柱状セルが得られた。
【0083】
様々なレートにおいて2.75V及び1.4Vの間にて室温で、本セルをサイクル動作させた。また、様々なレートにおいて3.0V及び1.2Vの間にて-50°Cでも、本セルをサイクル動作させた。
【0084】
図2は、容量(アンペア時(Ah))に対するセル電圧(ボルト(V))のグラフである。このグラフは、室温で行われた、0.6Aのレートでの本セルの第1充放電と3A及び9Aのレートでのその後の充放電との電圧プロファイルを図示する。0.6Aでの第1充電の電圧プロファイルでは、この設計のアノード規制された充電容量に特有の約2.55Vでの上昇が示されている。電流が0.6A(C/5)から9A(3C)まで増加する際の分極電圧における適度な増加によって表されるように、本セルは高レート性能を有する。
【0085】
図3は、容量(アンペア時(Ah))に対するセル電圧(ボルト(V))のグラフである。このグラフは、-50°Cで様々なレートにおいて充放電されている本セルの電圧プロファイルを図示する。この電圧プロファイルは、従来のリチウムイオン電池技術で利用できる範囲のはるか外における温度での高いレベルの性能を表す。この極端な低温においてより高い分極電圧に対応すべく、電圧制限は、室温でのサイクル動作用の電圧制限(図4)と比較して拡張されている。本セルは、0.6Aで放電された際はその容量の半分を超えて伝達し、10Cで放電された際はその容量の40%を超えて伝達する。顕著なことに、本セルは、3V充電電圧制限内で3A(1C)のレートにて、その容量のほぼ半分にまで充電され得る。
【0086】
実施例2
2つの120mAhラミネート梱包角柱状セルが、実施例1の材料及び方法を用いて作成された。ただし、以下の差異がある。
【0087】
活性正極材料の充填率は9.0mg/cmであり、活性負極材料の充填率は9.4mg/cmであった。個々のカソード片及びアノード片は、両方とも面積が10.2cmであり、5枚の両面正極層と4枚の両面負極層及び2枚の片面負極層とを有する積層体となるよう組み付けられた。2.43V及び1.33Vの間にて室温でまず本セルをサイクル動作させた。これは、14.6V及び8.0Vの間にて6直列セル電池をサイクル動作させることに相当する。次に、1.2A(10C)の充電レート及び1.2A(10C)の放電レートで45°Cの炉において2.43V及び1.33Vの間にて、それらのセルを1000回サイクル動作させた。本セルは、それらがガスを放出する場合に積層圧力を維持するための外部取付が成されることなく、このサイクル動作中は自立していた。サイクル動作が完了した後の本セルの検査及び測定では、本セルがガスを放出した形跡は見られなかった。
【0088】
図4は、45°Cでのサイクル動作中の、サイクル数に対する両セルの10Cでの放電容量のグラフである。図4は、セルによる伝達容量がこのアグレッシブなサイクル動作レジーム中に約5%だけしか低下しなかったことを示す。このことは、本セルが優れた昇温安定性を有し、繰り返される急速充電でも破損しなかった、ということを表す。
【0089】
実施例3
極めて高い電力性能用に設計された325mAhラミネート梱包角柱状セルが、実施例1の材料及び方法を用いて作成された。ただし、以下の差異がある。
【0090】
活性正極材料の充填率は3.6mg/cmであり、活性負極材料の充填率は3.7mg/cmであった。個々のカソード片及びアノード片は、面積が10.2cmであり、36枚の両面正極層と35枚の両面負極層及び2枚の片面負極層とを有する積層体となるよう組み付けられた。セパレータは、100秒のガーレー透気度を有する厚さ6μmのポリオレフィン材料であった。完成したセルは、重量が13.5gで、体積が7.2ccであった。
【0091】
様々な定電力レベルにおいて、2.59V及び1.31Vの間にて室温で本セルをサイクル動作させた。これは、28.5V及び14.4Vの間にて11直列セル電池をサイクル動作させることに相当する。図5は、本セルの、様々な電力レベルでの、それぞれ充電と放電とにおける容量(mAh)に対する電圧(ボルト(V))の2つのグラフを示し、本セルの著しく高い電力性能を示す。5kW/kgを超える一定の比電力と11kW/lを超える電力密度とに相当する80Wの定電力では、本セルは、30秒近く連続的充電を維持して約11秒間連続的放電を維持し、その容量の約45%及びその総エネルギー含有量の約35%をなす18.5Wh/kgを伝達する。
【0092】
実施例4
Li金属基準電極を含有する3電極130mAhラミネート梱包角柱状セルが、実施例1の材料及び方法を用いて作成された。ただし、以下の差異がある。
【0093】
活性正極材料の充填率は9.1mg/cmであり、活性負極材料の充填率は10.0mg/cmであった。個々のカソード片及びアノード片は、面積が10.2cmであり、5枚の両面正極層と4枚の両面負極層及び2枚の片面負極層とを有する積層体となるよう組み付けられた。
【0094】
本セルの性能は、室温及び-18°Cにおいて、2.59V及び1.31Vの間での定電流連続充放電とパルス充放電とのサイクル動作によって特徴づけられ、カソード電位は、本セルをサイクル動作させながらLi金属基準電極に対する正極電圧を測定することにより監視された。また、アノード(負極)電位は、カソード電位及びセル電圧の間の差異により算出された。本セルは次に、0Vまで放電されて、24時間その電圧に維持された。その後、本セルは、0.1Cのレートにおいて本セルをその容量の追加の5%(6.5mAh)だけ過放電(つまり、30分間で13mA放電)させることにより電圧反転された。転極された後、本セルは再充電され、その性能が再度特徴づけられた。
【0095】
図6は、30分間のセル過放電と開回路におけるその後の30分間の緩和とについての、時間(分)に対する電極電位(対Li基準でのV)及びセル電圧のグラフである。このグラフは、セル電圧が反転して約-3.5Vに到達したことと、カソード電位及びアノード電位がそれぞれ対Liで約1.9V及び対Liで約5.4Vに到達したことと、を示す。開回路においては、主に高いアノード電位の急速な減少により、セル電圧が急速に増加したが、低いカソード電位ははるかにゆっくりと上昇した。このことは、過放電及びセル転極中はアノードにおける分極電圧がカソードにおける分極電圧よりも高かったことを示し、過放電中にカソードによって通過させられた電荷が可逆的ファラデープロセスと結び付けられたことを表す。
【0096】
図7は、本セルの、それが転極された前後の室温での様々なレートの放電における容量(Ah)に対する電圧(ボルト)のグラフであり、室温での放電特徴に対する5%容量転極の影響が最小であったことを示す。
【0097】
図8は、本セルの、それが転極された前後の-18°Cでの10C(1.3A)における30秒間の連続的パルス放電における容量(mAh)に対する電圧(ボルト)のグラフである。本セルは、試験中において本セルに明らかな自己発熱が起きないことを確実にすべく、開回路で各パルスの後(次のパルスの前)に30分間静置された。本セルは、転極された前後両方で、その充電状態範囲(65mAh)の50%に亘ってこのアグレッシブな低温脈動を維持することができた。このことは、低温パルス電力性能に対する5%容量転極の影響が最小であったことを示す。
【0098】
実施例5
Li金属基準電極を含有する3電極130mAhラミネート梱包角柱状セルが、実施例4の材料及び方法を用いて作成された。本セルの性能は、室温及び-18°Cにおいて、2.59V及び1.31Vの間での定電流連続充放電とパルス充放電とのサイクル動作によって特徴づけられ、カソード電位は、本セルをサイクル動作させながらLi金属基準電極に対する正極電圧を測定することにより監視された。また、アノード(負極)電位は、カソード電位及びセル電圧の間の差異により算出された。本セルは次に、2.59Vまで充電された。その後、本セルは、0.1Cのレートにおいてその容量の追加の10%(13mAh)だけ過充電(つまり、60分間で13mA充電)された。過充電された後、本セルは放電されて、その性能が再度特徴づけられた。
【0099】
図9は、60分間のセル過充電と開回路におけるその後の30分間の緩和とについての、時間(分)に対する電極電位(対Li基準でのV)及びセル電圧のグラフである。このグラフは、過充電された本セルの電圧が約3.5Vに到達したことと、カソード電位及びアノード電位がそれぞれ対Li/Liで約4.1V及び対Li/Liで約0.6Vに到達したことと、を示す。開回路においては、セル電圧がアノード電位の増加により減少したが、カソード電位は不変であった。このことは、過充電中はアノードにおける分極電圧がカソードにおける分極電圧よりも高かったことを示し、約20%過剰のカソードを有するアノード規制されたセルの設計について期待されるように、過充電中にカソードによって通過させられた電荷がその通常可逆的ファラデープロセスと結び付けられたことを表す。
【0100】
図10は、本セルの、それが転極された前後の室温での様々なレートの放電における容量(Ah)に対する電圧(ボルト)のグラフであり、室温での放電特徴に対する10%過充電の影響が最小であったことを示す。25Cでの放電中の分極電圧は、過充電後のほうが過充電前よりも高かった。このことは、過充電により本セルのインピーダンスがわずかに増加したことを表す。
【0101】
図11は、本セルの、それが過充電された前後の-18°Cでの10C(1.3A)における30秒間の連続的パルス放電における容量(mAh)に対する電圧(ボルト)のグラフである。本セルは、試験中において本セルに明らかな自己発熱が起きないことを確実にすべく、開回路で各パルスの後(次のパルスの前)に30分間静置された。本セルは、過充電される前に65mAh深度の放電範囲に亘って、且つ、転極された後に50mAh深度の放電範囲に亘って、この低温脈動を維持することができ、その一方で、脈動中の分極電圧は過充電後のほうが高かった。これらのアグレッシブな低温脈動試験の結果は、本セルのインピーダンスが過充電によって増加したが、それでも本セルが高いレベルの性能を保持した、ことを示す。
【0102】
実施例6
2.5Ahラミネート梱包角柱状セルが、実施例1の材料及び方法を用いて作成された。ただし、以下の差異がある。
【0103】
活性正極材料の充填率は11.2mg/cmであり、活性負極材料の充填率は12.6mg/cmであった。個々のカソード片及びアノード片は、面積が72.7cmであり、10枚の両面正極層と9枚の両面負極層及び2枚の片面負極層とを有する積層体となるよう組み付けられた。
【0104】
本セルを、まず0.5Aにて2.75Vまで充電して、次に様々なレートにて2.75V及び1.4Vの間でサイクル動作させて、その性能を評価した。その後、2.5A(1C)の充電レート及び2.5A(1C)の放電レートにおいて室温で2.65V及び1.4Vの間にて、本セルを1000回サイクル動作させた。このサイクル動作中、本セルは2.2Ahの容量を連続して維持した。1000サイクルの後、本セルは0Vまで放電されて、33カ月間室温で保存された。この保存の後、開回路でのセル電圧が、0Vと測定され、本セルをその後、充電して、本セルが新品として組み立てられた際に本セルを特徴づけるために用いられたプロトコルと同じプロトコルによりサイクル動作させた。
【0105】
図12は、本セルの、それを1000回サイクル動作させて次に0V条件下で33カ月間保存した前後の室温での様々なレートの放電における容量(Ah)に対する電圧(ボルト)のグラフであり、本セルの性能はサイクル動作と0Vでの長期保存とによってはほとんど変化がなかったことを示す。これらの結果は、このセル技術に関するサイクル動作安定性と0V条件下での保存寿命とが格別であることを表す。この図は、0Vでの長期保存後の0.5Aにおける第1充電は、基本的に、新品として作成されたセルの0.5Aにおける第1充電と一致していたことも示す。このことは、0Vまで放電することで本セルがその新品の状態に戻ったことを表す。
【0106】
実施例7
2.7Ahラミネート梱包角柱状セルが、実施例1の材料及び方法を用いて作成された。ただし、以下の差異がある。
【0107】
活性正極材料の充填率は8.4mg/cmであり、活性負極材料の充填率は9.1mg/cmであった。個々のカソード片及びアノード片は、面積が72.7cmであり、15枚の両面正極層と14枚の両面負極層及び2枚の片面負極層とを有する積層体となるよう組み付けられた。
【0108】
本セルはまず、2.65Vまで充電された。その次に、先端が鈍な2ミリメートル(mm)の直径を有するステンレス鋼釘を1cm/秒の速度で本セル内に押し込んで、本セルの電圧及び表面温度を記録しながら本セル内でその釘を1分間保持することにより、カスタム設計装置において本セルに釘貫通試験が行われた。図13は、釘貫通試験前、中、及び後のセル電圧(V)及び表面温度(°C)のグラフである。この図は、釘が本セル内にある間、低レート放電(例えば、<C/10)での電圧変化と同様に本セルの電圧が極めてゆっくりと減少したことを示す。このことは、穏やかな短絡が起こったことを表す。この電圧変化は、釘が引き抜かれたときに止まった。このことは、短絡が取り除かれたことを表す。同様に、本セルの表面温度は、釘貫通中に極めてわずかしか増加しなかった。これらの結果は、貫通を伴う機械的誤用が行われた際の、本セル技術における高出力分散内部短絡の発生に対する顕著な耐性を表す。
【0109】
実施例8
4Ahラミネート梱包角柱状セルが、実施例1の材料及び方法を用いて作成された。ただし、以下の差異がある。
【0110】
活性正極材料の充填率は9.3mg/cmであり、活性負極材料の充填率は9.0mg/cmであった。
【0111】
個々のカソード片及びアノード片は、面積が124.9cmであり、12枚の両面正極層と11枚の両面負極層及び2枚の片面負極層とを有する積層体となるよう組み付けられた。
【0112】
本セルの性能はまず、様々なレートにおいて2.59V及び1.31Vの間にて室温で本セルをサイクル動作させることにより特徴づけられ、次に、本セルは2.75Vまで充電された。充電された本セルは次に、本セルの電圧及び表面温度を記録しながら、その10cm幅に亘って載置された1/2インチの直径のステンレス鋼バーの下においてカスタム設計装置で5分間破砕された。破砕試験中に、バーに対する力を35kN(3.8トン)まで増加させた。破砕装置によって測定された変位量は、最大破砕の方向における本セルの厚さが5mmから0.5mmまで低減したことを表した。破砕イベント中に、本セルの電圧が、2.556Vから2.552Vまで低レート放電のようにゆっくりと下がり、表面温度が1°Cだけ増加した。バー及びセル上の圧力が解放された際に、電圧の下降は止まり温度の増加も止まった。次に、2.59V及び1.31Vの間で本セルをサイクル動作させることによって、本セルの性能が再度特徴づけられた。
【0113】
図14は、本セルの、それに丸棒破砕が行われた前後の、室温での2つのレートにおける放電における容量(Ah)に対する電圧(ボルト)のグラフである。この図は、本セルの性能がこの破砕試験による影響を受けなかったことを示し、機械的誤用が行われた際の、本セル技術における高出力分散内部短絡の発生に対する顕著な耐性をさらに表す。
【0114】
実施例9
5Ahラミネート梱包角柱状セルが、実施例1の材料及び方法を用いて作成された。ただし、以下の差異がある。
【0115】
活性正極材料の充填率は9.5mg/cmであり、活性負極材料の充填率は9.1mg/cmであった。個々のカソード片及びアノード片は、面積が141.9cmであり、16枚の両面正極層と15枚の両面負極層及び2枚の片面負極層とを有する積層体となるよう組み付けられた。
【0116】
この実施例のセルは以下の重要な要素を有する。
a.アルミニウム集電体上に被覆されたリチウムチタン酸化物(LTO)を含む負極。被膜は、10m/gの比表面積を有するLTOと導電性添加剤としてのアセチレンブラックとバインダーとしてのPVDFとの重量比率90:3:7での混合物である。アセチレンブラック(DenkaからDenka AB-100として入手)は、100m/gの表面積を有する。PVDF(SolvayからSolef5130として入手)は、1000,000~1,200,000mol/gの範囲内の分子量を有する。アセチレンブラック導電性カーボンは、アノード電極の表面の5%未満を占める。アルミニウムの非被覆帯板が、負極タブを形成する。
b.アルミニウム集電体上に被覆された全体的な組成Li1.01Mg0.025Ni0.88Co0.12Al0.0064を有する高ニッケルカソード材料を含む正極。被膜は、アセチレンブラックとPVDFとの重量比率94:3:3での混合物である。アセチレンブラックは100m/gの表面積を有し、PVDFは1000,000~1,200,000mol/gの範囲内の分子量を有する。アルミニウムの非被覆帯板が正極タブを形成する。
c.アルミナが一方側に被覆され、110秒のガーレー透気度を有する、厚さ21μmのポリオレフィンセパレータ。アルミナ側は正極と反対側に位置する。
d.正極及び負極の幾何学的面積が等しい。
e.両面負極、セパレータ、及び両面正極の積層配置を用いて電気化学セルを組み立てた。
f.積層は、正極タブが互いに重複し、互いに且つ正極セルタブに超音波溶接され、負極タブが互いに重複し、互いに且つ負極セルタブに超音波溶接される、ようにする。
g.積層体の末端層は負極である。
h.プロピレンカーボネートとエチルメチルカーボネートと酪酸メチルとの重量比率1:1:2での混合物における1MのLiPFを有し、25°Cで11mS/cm且つ-40°Cで2mS/cmのイオン伝導率を有する、電解質。
【0117】
本セルの性能は、室温における2.65V及び1.5Vの間の、2Aでの充電サイクルと8Aでの放電サイクルとにより特徴づけられ、それから、本セルは2.65Vまで充電された。充電された本セルには次に、実施例7の手法で釘貫通試験が3回行われた。それに続き、本セルには、実施例8の手法で破砕試験が2回行われた。本セルの端子に跨って接触する3つの並列緑色LEDのアレイが、5回全ての誤用試験中点灯したままにされた。次に、誤用されたセルの性能が、2.65V及び1.5Vの間の、2Aでの充電サイクルと8Aでの放電サイクルとにより再度特徴づけられ、それから、5Aの充放電レートにおいて2.65V及び1.4Vの間で本セルを連続的にサイクル動作させた。
【0118】
図15は、誤用試験後の本セルの図であり、点灯したLEDは依然として本セルの端子に跨って接触している。図15は、本セルの顕著な誤用耐性を明白に表している。
【0119】
図16は、本セルの、それに5回の誤用試験が行われた前後の室温における8Aでの放電における容量(Ah)に対する電圧(ボルト)のグラフであり、本セルの性能が繰り返される機械的誤用による影響を受けなかったことを示す。
【0120】
図17は、5回の誤用試験後に周囲雰囲気において室温で本セルを5Aで充電サイクル動作させて5Aで放電サイクル動作させた際の、サイクル数に対する本セルの放電容量のグラフである。この図は、本セルによる伝達容量が最初の約5日(50+サイクル)で減少したことを示す。これは恐らく、釘貫通によってできた梱包内の穴を通して電解質が揮発性溶媒成分を失ったためである。その後、300回を超えるサイクルが経過する時点まで、さらなる大幅な容量損失もなく3週間近く約4Ah容量にて本セルを極めて安定的にサイクル動作させた。この時点における本セルの性能低下は恐らく、蓄積した大気中水分が梱包内の釘穴を通して徐々に浸透したことによるものである。これらの結果は、過酷な貫通及び破砕を伴う誤用がセル性能に与えた唯一の影響は梱包の損傷が原因であったことを示し、このセル技術の格別な堅牢性をさらに表す。
【0121】
実施例10
2.5Ahラミネート梱包角柱状セルが、実施例9の方法に従って作成された。本セルは、0.5A、2.5A、及び9.8Aの電流にて別々に、2.75Vまで充電されて次に1.4Vまで放電された。電圧-容量プロットが図18に見て取れる。この試験後、充電及び放電の両方において、2.5Aの電流にて1.4V及び2.75Vの間で本セルを1000回サイクル動作させた。次に、本セルは、0Vまで放電され、33カ月間非接続且つ非監視状態で保存された。保存後、本セルは、0.5A、2.5A、及び9.8Aの電流にて別々に、2.75Vまで充電されて1.4Vまで放電された。図18の電圧-容量プロット上において、実線は製造直後の本セルの性能を表し、破線は保存後の性能を表す。
【0122】
本明細書では用語「第1」、「第2」、「第3」等が様々な要素、成分、領域、層、及び/又はセクションを説明するために用いられてもよいが、これらの要素、成分、領域、層、及び/又はセクションはこれらの用語によって限定されるべきではない、と理解されるであろう。これらの用語は、一の要素、成分、領域、層、又はセクションを他の要素、成分、領域、層、又はセクションから区別するためにのみ用いられる。よって、以下で述べられている「第1要素」、「第1成分」、「第1領域」、「第1層」、又は「第1セクション」を、本明細書における教示から逸脱しなければ、第2要素、第2成分、第2領域、第2層、又は第2セクションと呼ぶことができる。
【0123】
本明細書で用いられる専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、限定を意図するものではない。本明細書に用いられているように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文書内容による明確な断りがない限り、「少なくとも1つの」を含んだ複数形を含むことを意図する。「又は」は「及び/又は」を意味する。本明細書に用いられているように、用語「及び/又は」は、関連する列挙項目のうち1つ以上のあらゆる組み合わせを含む。さらに、用語「を含む」及び/又は「を含む」或いは「を含む」及び/又は「を含んだ」は、本明細書で用いられる場合、述べられた特徴、領域、整数、工程、動作、要素、及び/又は成分の存在を明示するが、1つ以上のその他の特徴、領域、整数、工程、動作、要素、成分、及び/又はその群の存在又は付加を除外するものではないと理解される。用語「又はこれらの組み合わせ」は、上記要素のうち少なくとも1つを含む組み合わせを意味する。
【0124】
「下」、「下方」、「下側」、「上方」、「上側」等の空間的相対用語は、本明細書では、図面に図示されるような一の要素又は特徴の他の要素(複数可)又は特徴(複数可)との関係性を説明すべく、説明の容易化のために用いられてもよい。空間的相対用語は、図面に図示された向きに加えて、使用中又は動作中の装置の異なる向きを包含することを意図すると理解されるであろう。例えば、図面中の装置をひっくり返した場合、その他の要素又は特徴の「下方」又は「下」と記載されている要素は今度は、当該他の要素又は特徴の「上方」を向くことになる。よって、例示的な用語「下方」は、上方及び下方の向き両方を包含し得る。装置は異なって方向づけられて(90度又はその他の向きに回転して)もよく、本明細書で用いられる空間的相対記述語はそれに合わせて解釈される。
【0125】
異なって定義されない限り、本明細書で用いられる(技術用語及び科学用語を含む)全ての用語は、本開示の属する分野における当業者によって一般的に理解されている意味と同一の意味を有する。さらに、一般的に用いられる辞書において定義される用語等の用語が、関連分野及び本開示の文脈におけるそれらの意味と矛盾しない意味を有すると解釈されるべきであり、理想的な又は過度に形式的な意味として本明細書で明確に定義されない限りそのような意味で解釈されないと理解される。
【0126】
本明細書では、理想的な態様の模式図である断面図を参照して例示的な態様が述べられている。従って、例えば製造技法の結果生じる図の形状からの変更が予測される。よって、本明細書で記載されている態様は、本明細書で図示される領域の特定形状に限定されると解釈されるべきではなく、例えば製造の結果生じる形状における逸脱を含むものと解釈される。例えば、平坦なものとして図示又は記載されている領域が、でこぼこ及び/又は非線形の特徴を有してもよい。さらに、図示されている鋭角が丸みを帯びていてもよい。よって、図面に図示された領域は本質的に模式的であり、それらの形状が領域の正確な形状を図示することを意図するものではなく、また、本請求項の範囲を制限することを意図するものではない。
【0127】
本開示は例示的な態様を記載するが、開示された態様の範囲から逸脱することなく、様々な変更を成すことが可能でその要素に等価物を置き換えることが可能である、と当業者により理解される。加えて、特定の状況又は材料を本開示の教示に適応させるために、その範囲から逸脱することなく、多くの変形例を成すことが可能である。従って、本開示を実行するために考えられる最良の形態として開示された特定の態様に本開示が限定されない、ことを意図する。また、本明細書に開示された態様は説明的な意味においてのみ考慮されるべきであり、限定を目的としないと考慮されるべきであると理解されるべきである。各実施形態の特徴、利点、又は態様の記載は、その他の実施形態のその他の類似の特徴、利点、又は態様に利用可能である、とみなされるべきである。
【0128】
本明細書で図示且つ記載されている変形例に加えて、本開示の様々な変形例が、上記記載の当業者には明白であろう。そのような変形例も、添付の請求項の範囲内に含まれることが意図される。
【0129】
全ての試薬及び成分が、特に指定のない限り、当分野で既知の提供元から入手可能であると理解される。
【0130】
本明細書で言及される特許、公報、及び出願は、本発明が関連する分野の当業者の観点を示すものである。各特許、公報、又は出願が参照により詳細に且つ個々に本明細書に組み込まれるかのような程度で、これらの特許、公報、及び出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0131】
上記記載は本発明の特定の態様の説明に役立つものであるが、その実施にあたり制限的であることを意味しない。以下の請求項であってその全ての等価物を含んだ請求項は、本発明の範囲を規定することを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
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【国際調査報告】