(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(54)【発明の名称】耐切断性ポリエチレン原糸、その製造方法、およびこれを用いて製造された保護用製品
(51)【国際特許分類】
D01F 6/04 20060101AFI20220516BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20220516BHJP
D02G 3/38 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
D01F6/04 Z
D02J1/22 J
D02G3/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556307
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 KR2020003815
(87)【国際公開番号】W WO2020190070
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0032246
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0124129
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨン-ス
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン-モク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ,シン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ナム,ミン-ウ
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD15
4L035EE20
4L035HH01
4L035HH10
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA06
4L036PA01
4L036PA03
4L036PA09
4L036PA10
4L036PA18
4L036PA21
4L036PA47
4L036PA49
4L036RA25
4L036UA07
4L036UA08
(57)【要約】
本発明は、高い耐切断性を有しながらも優れた着用感を提供できる保護用製品の製造を可能にするポリエチレン原糸、その製造方法、およびこれを用いて製造された保護用製品に関する。本発明のポリエチレン原糸は、溶融紡糸により製造されるにも関わらず高い強度を持つことによって、高い耐切断指数を有する保護用製品の製造を可能にする。また、本発明のポリエチレン原糸は、低い初期モジュラス及び高い伸び率を持つことによって、優れた着用感を有する保護用製品の製造を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
80,000~180,000g/molの重量平均分子量、100~250g/dの初期モジュラス(initial modulus)、および6~10%の伸び率(elongation)を有する、
ポリエチレン原糸。
【請求項2】
前記初期モジュラス(initial modulus)は、120~200g/dである、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項3】
100℃での乾熱収縮率が2.5%超過6.0%以下である、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項4】
30℃での貯蔵弾性率に対する50℃での貯蔵弾性率の比率は、65~75%であり、
30℃での貯蔵弾性率に対する80℃での貯蔵弾性率の比率は、30~45%であり、
30℃での貯蔵弾性率に対する105℃での貯蔵弾性率の比率は、10~25%である、
請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項5】
1~3デニールの繊度をそれぞれ有する40~500本のフィラメントを含み、100~1,000デニールの総繊度を有する、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項6】
0.3~3g/10minの溶融指数(melt index、MI)(190℃で)を有するポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得る段階;
多数のノズルホールを有する口金を通して前記ポリエチレン溶融物を押し出す段階;
前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される多数のフィラメントを冷却させる段階;
冷却された前記多数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させる段階;
前記マルチフィラメント糸を8倍~20倍の総延伸比で延伸および熱固定する段階;および
延伸された前記マルチフィラメント糸を巻取る段階を含み、
前記延伸段階は、多段延伸で進行するのであり、前記多段延伸のうちの最後の延伸時における弛緩率は、3%~8%である、
請求項1に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項7】
前記ポリエチレンチップは、80,000~180,000g/molの重量平均分子量を有する、請求項6に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項8】
前記延伸段階は、複数のゴデットローラを用いて行われる、請求項6に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項9】
前記マルチフィラメント糸の熱固定が複数のゴデットローラによって行われる、請求項6に記載のポリエチレン原糸の製造方法。
【請求項10】
カバリング糸で編成された保護用製品において、
前記カバリング糸は、
請求項1に記載のポリエチレン原糸;
前記ポリエチレン原糸を螺旋状に囲むポリウレタン原糸;および
前記ポリエチレン原糸を螺旋状に囲むポリアミドまたはポリエステル原糸を含み、
前記保護用製品は、5.0以上の耐切断指数(cut index)および5.0gf以下の剛軟度(stiffness)を有する、
保護用製品。
【請求項11】
5.5~8.5の耐切断指数および2.0~5.0gfの剛軟度を有する、請求項10に記載の保護用製品。
【請求項12】
前記ポリエチレン原糸は、120~200g/dの初期モジュラス(initial modulus)を有する、請求項10に記載の保護用製品。
【請求項13】
前記ポリエチレン原糸は、100℃での乾熱収縮率が2.5%超6.0%以下である、請求項10に記載の保護用製品。
【請求項14】
前記ポリエチレン原糸の重量は、前記カバリング糸の全重量の45~85%であり、
前記ポリウレタン原糸の重量は、前記カバリング糸の全重量の5~30%であり、
前記ポリアミドまたはポリエステル原糸の重量は、前記カバリング糸の全重量の5~30%である、
請求項10に記載の保護用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐切断性ポリエチレン原糸、その製造方法、およびこれを用いて製造された保護用製品に関し、より具体的には、高い耐切断性を有しながらも優れた着用感を提供できる保護用製品の製造を可能にするポリエチレン原糸、その製造方法、およびこれを用いて製造された保護用製品に関する。
【背景技術】
【0002】
警察および軍人といったセキュリティ(security)分野に従事する人はもちろんのこと、他の多様な産業分野で鋭い切断ツールを扱う人たちも負傷の危険に常にさらされる。負傷の危険を最小化するためには手袋または衣服といった保護用製品が提供されていなければならない。
【0003】
前記保護用製品は、刃物といった凶器または鋭い切断ツールから人体を適切に保護するために耐切断性を有することが要求される。
【0004】
保護用製品に高い耐切断性を提供するために、高強度ポリエチレン原糸が前記保護用製品の製造に使用されている。例えば、高強度ポリエチレン原糸をそれ単独で原反の製造に使用するか、または、高強度ポリエチレン原糸と他の種類の原糸とが一緒に合撚糸を形成した後、前記合撚糸が原反の製造に使用される。
【0005】
高強度ポリエチレン原糸の一種類である超高分子量ポリエチレン(以下、「UHMWPE」と称する)原糸は、一般に600,000g/mol以上の重量平均分子量を有する線状ポリエチレンで形成された原糸であって、UHMWPEの高い溶融粘度(melt viscosity)によってゲル紡糸方式によってのみ製造できることが知られている。例えば、エチレンを有機溶媒内で触媒の存在下に重合させることによってUHMWPE溶液を作り、前記溶液を紡糸および冷却させることによって繊維形態のゲルを形成させ、前記繊維形態のゲルを延伸することによって高強度および高モジュラスのポリエチレン原糸を得ることができる。しかし、このようなゲル紡糸方式は有機溶媒の使用を要求するため、環境問題が引き起こされるだけでなく、有機溶媒の回収に多大な費用がかかる。
【0006】
一般に20,000~600,000g/molの重量平均分子量を有する線状ポリエチレンである高密度ポリエチレンは、UHMWPEに比べて相対的に低い溶融粘度を有するため溶融紡糸が可能であり、その結果、ゲル紡糸方式では避けられない環境問題および高費用の問題点が克服できる。しかし、UHMWPEに比べて相対的に低い分子量によって、高密度ポリエチレン原糸の強度はUHMWPE原糸に比べて低くならざるを得ない。
【0007】
したがって、高密度ポリエチレン原糸の強度を向上させようとする努力が続けられてきており、その結果、溶融紡糸により製造されたポリエチレン原糸としても満足すべき耐切断性を有する保護用製品を製造することが可能になった。
【0008】
しかし、強度の向上だけを強調して開発された前記高密度ポリエチレン原糸は、保護用製品に満足すべき耐切断性は提供できても、着用感(wearability)の低下という深刻な問題を誘発した。言い換えれば、前記ポリエチレン原糸で製造された保護用手袋または衣服が過度にごわついて着用者の動き(例えば、手袋の場合、指の動き)を妨げ、作業能率を低下させる。このような悪い着用感は保護用製品の着用回避を誘発して負傷の危険を増加させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の関連技術の制限およびデメリットに起因する問題点を防止できる耐切断性ポリエチレン原糸、その製造方法、およびこれを用いて製造された保護用製品に関する。
【0010】
本発明の一観点は、高い耐切断性を有しながらも優れた着用感を提供できる保護用製品の製造を可能にするポリエチレン原糸を提供することである。
【0011】
本発明の他の観点は、高い耐切断性を有しながらも優れた着用感を提供できる保護用製品の製造を可能にするポリエチレン原糸を製造する方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の観点は、高い耐切断性を有しながらも優れた着用感を提供できる保護用製品を提供することである。
【0013】
上記で述べた本発明の観点以外にも、本発明の他の特徴および利点が以下に説明されるか、または、そのような説明から本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一観点により、80,000~180,000g/molの重量平均分子量、100~250g/dの初期モジュラス(initial modulus)、および6~10%の伸び率(elongation)を有する、ポリエチレン原糸が提供される。
【0015】
前記ポリエチレン原糸は、初期モジュラス(initial modulus)が120~200g/dであってもよい。
【0016】
前記ポリエチレン原糸は、100℃での乾熱収縮率が2.5%超6.0%以下であってもよい。
【0017】
前記ポリエチレン原糸は、30℃での貯蔵弾性率に対する50℃での貯蔵弾性率の比率が65~75%であってもよく、30℃での貯蔵弾性率に対する80℃での貯蔵弾性率の比率が30~45%であってもよいし、30℃での貯蔵弾性率に対する105℃での貯蔵弾性率の比率が10~25%であってもよい。
【0018】
前記ポリエチレン原糸は、1~3デニールの繊度をそれぞれ有する40~500本のフィラメントを含むことができ、100~1,000デニールの総繊度を有することができる。
【0019】
本発明の他の観点により、
0.3~3g/10minの溶融指数(melt index:MI)(190℃で)を有するポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得る段階;
多数のノズルホールを有する口金を通して前記ポリエチレン溶融物を押出する段階;
前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される時に形成される多数のフィラメントを冷却させる段階;
冷却された前記多数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させる段階;
前記マルチフィラメント糸を8倍~20倍の総延伸比で延伸および熱固定する段階;および
延伸された前記マルチフィラメント糸を巻取る段階を含み、
前記延伸段階は、多段延伸で進行し、前記多段延伸のうち最後の延伸時の弛緩率は、3%~8%である、
前記ポリエチレン原糸の製造方法が提供される。
【0020】
前記ポリエチレンチップは、80,000~180,000g/molの重量平均分子量を有することができる。
【0021】
前記延伸段階は、複数のゴデットローラを用いて行われる。
【0022】
前記マルチフィラメント糸の熱固定が複数のゴデットローラによって行われる。
【0023】
本発明のさらに他の観点により、
カバリング糸で編織された保護用製品であって、
前記カバリング糸は、
前記ポリエチレン原糸;
前記ポリエチレン原糸を螺旋状に囲むポリウレタン原糸;および
前記ポリエチレン原糸を螺旋状に囲むポリアミドまたはポリエステル原糸を含み、
前記保護用製品は、5.0以上の耐切断指数(cut index)および5.0gf以下の剛軟度(stiffness)を有する、
保護用製品が提供される。
【0024】
前記保護用製品は、5.5~8.5の耐切断指数および2.0~5.0gfの剛軟度を有することができる。
【0025】
前記ポリエチレン原糸は、100℃での乾熱収縮率が2.5%超過6%以下であってもよい。
【0026】
前記ポリエチレン原糸の重量は、前記カバリング糸の全体の重量の45~85%であってもよく、前記ポリウレタン原糸の重量は、前記カバリング糸の全体の重量の5~30%であってもよいし、前記ポリアミドまたはポリエステル原糸の重量は、前記カバリング糸の全体の重量の5~30%であってもよい。
【0027】
上記のような本発明に関する一般的記述は本発明を例示または説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を制限しない。
【発明の効果】
【0028】
本発明のポリエチレン原糸は、溶融紡糸により製造されるにもかかわらず、11g/d以上の高い強度を有することによって、5以上、より好ましくは5.5~8.5の高い耐切断指数を有する保護用製品の製造を可能にする。
【0029】
また、本発明のポリエチレン原糸は、250g/d以下の低い初期モジュラスおよび6%以上の高い伸び率を有することによって、5gf以下、より好ましくは2~5gfの低い剛軟度を有する(つまり、優れた着用感を有する)保護用製品の製造を可能にする。
【0030】
添付した図面は、本発明の理解を助け、本明細書の一部を構成するためのものであって、本発明の実施例を例示し、発明の詳細な説明とともに本発明の原理を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施例によるポリエチレン原糸製造装置を概略的に示し、
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のポリエチレン原糸の多様な実施例を具体的に説明する。
【0033】
高い耐切断性が要求される保護用製品(例えば、保護用手袋)の製造に使用され、溶融紡糸により生産される本発明のポリエチレン原糸は、80,000~180,000g/molの重量平均分子量(Mw)、100~250g/dの初期モジュラス(initial modulus)、および6~10%の伸び率(elongation)を有することができる。
【0034】
保護用製品の耐切断性だけを過度に強調していた従来の研究は、ポリエチレン原糸の初期モジュラスを、例えば300g/d以上に高め、伸び率を、例えば6%未満に低下させることを提案した。
【0035】
しかし、本発明によれば、保護用製品の耐切断性は、前記ポリエチレン原糸の強度とともに、前記ポリエチレン原糸の滑り特性(slippiness)(つまり、刃物または鋭いツールがポリエチレン原糸の上を通過する際、前記原糸に引っかかることなくその表面に沿って滑るようにする特性)、および前記原糸を構成する繊維のローリング(rolling)特性(つまり、刃物または鋭いツールが前記原糸を通る際、前記原糸の長手方向軸を中心に、捩(よじ)れたり巻かれたりする前記繊維の特性)などによって主に決定されるのであり、ポリエチレン原糸の初期モジュラスおよび伸び率は、一旦、一定水準に到達すれば、保護用製品の耐切断性に実質的な影響をそれ以上与えないものと判断される。
【0036】
むしろ、前記ポリエチレン原糸の初期モジュラスが過度に高い、または/および、前記ポリエチレン原糸の伸び率が過度に低ければ、そのようなポリエチレン原糸を用いて製造される原反が高い剛軟度を有して保護用製品の着用感が顕著に低下し、悪いカバリング特性と編織性によって良品の歩留まりが低くなりうる。
【0037】
したがって、本発明者らは、ポリエチレン原糸の初期モジュラスが100~250g/dであり、伸び率が6~10%であり、80,000~180,000g/molの重量平均分子量を有する場合、優れた強度および耐切断指数を有するとともに、低い剛軟度を有するようになることから改善された着用感を有し得るという点を、実験を通して確認して、発明を完成した。
【0038】
前記実施形態のポリエチレン原糸は、80,000~180,000g/mol、あるいは120,000~160,000g/mol、あるいは140,000~160,000g/molの重量平均分子量を有するようになることから高強度を実現することができる。
【0039】
これとともに、前記実施形態のポリエチレン原糸は、100~250g/dの初期モジュラスおよび6~10%の伸び率を有することから、高い耐切断指数および優れた着用感の実現を可能にする。
【0040】
具体的には、前記ポリエチレン原糸は、100g/d以上、あるいは120g/d以上、あるいは150g/dであり、また、250g/d以下、あるいは230g/d以下、あるいは200g/d以下である初期モジュラスを有することができる。例えば、前記ポリエチレン原糸は、100~250g/d、あるいは100~230g/d、あるいは100~200g/d、あるいは120~250g/d、あるいは120~230g/d、あるいは120~200g/d、あるいは150~250g/d、あるいは150~230g/d、あるいは150~200g/dの初期モジュラスを有することができる。
【0041】
前記ポリエチレン原糸が250g/d超過の初期モジュラスまたは6%未満の伸び率を有する場合、前記ポリエチレン原糸を用いて製造された原反が5gf超過の高い剛軟度を有して、前記原反が過度にごわついて保護用製品の着用者が不便さを感じることがある。
【0042】
前記ポリエチレン原糸が100g/d未満の初期モジュラスまたは10%超過の伸び率を有する場合、前記ポリエチレン原糸を用いて製造された保護用製品を使用者が持続的に使用することによる耐切断性が低下し、原反に毛羽(pills(毛玉))が誘発され、ひいては原反の破損がもたらされうる。
【0043】
一方、本発明のポリエチレン原糸は、100℃での乾熱収縮率が2.5%超過6%以下であってもよい。
【0044】
具体的には、前記ポリエチレン原糸が示す100℃での乾熱収縮率は、2.5%超過、あるいは2.8%以上、あるいは3.0%以上;そして6.0%以下、あるいは5.0%以下、あるいは4.0%以下、あるいは3.5%以下であってもよい。例えば、前記ポリエチレン原糸が示す100℃での乾熱収縮率は、2.5%超過6.0%以下、あるいは2.5%超過5.0%以下、あるいは2.5%超過4.0%以下、あるいは2.5%超過3.5%以下、あるいは2.8~6.0%、あるいは2.8~5.0%、あるいは2.8~4.0%、あるいは2.8~3.5%、あるいは3.0~6.0%、あるいは3.0~5.0%、あるいは3.0~4.0%、あるいは3.0~3.5%であってもよい。
【0045】
前記乾熱収縮率が2.5%以下であれば、原糸の初期モジュラスが250g/dを超えて、保護用製品の着用感が低下しうる。これに対し、前記乾熱収縮率が6%を超えると、そのような原糸で製造された完成品(例えば、保護用手袋)が収縮によって変形する危険が高いという問題点がある。本発明の一実施例によれば、適切な分子量のポリエチレン原材料を選択し、延伸条件を適切に調節することによって、前記ポリエチレン原糸の乾熱収縮率を2.5%超過6%以下に調節することができる。
【0046】
本発明のポリエチレン原糸は、30℃での貯蔵弾性率に対する50℃での貯蔵弾性率の比率(以下、「50℃の貯蔵弾性維持率」)が65~75%、あるいは68~75%であってもよい。
【0047】
前記ポリエチレン原糸は、30℃での貯蔵弾性率に対する80℃での貯蔵弾性率の比率(以下、「80℃の貯蔵弾性維持率」)が30~45%、あるいは35~45%、あるいは37~45%であってもよい。
【0048】
そして、前記ポリエチレン原糸は、30℃での貯蔵弾性率に対する105℃での貯蔵弾性率の比率(以下、「105℃の貯蔵弾性維持率」)が10~25%、あるいは15~25%、あるいは20~25%であってもよい。
【0049】
適切な分子量のポリエチレン原材料を選択することによって、ポリエチレン原糸の前記貯蔵弾性維持率を、前記範囲内にそれぞれ調節することができる。
【0050】
前記50℃の貯蔵弾性維持率が65%未満であるか、前記80℃の貯蔵弾性維持率が30%未満であるか、あるいは前記105℃の貯蔵弾性維持率が10%未満であれば、原糸の強度が11g/d未満に低下して、満足すべき耐切断性を有する保護用製品を製造しにくい。
【0051】
これに対し、前記50℃の貯蔵弾性維持率が75%を超えたり、80℃の貯蔵弾性維持率が45%を超えたり、105℃の貯蔵弾性維持率が25%を超えると、原糸の初期モジュラスが250g/dを超えて、保護用製品の着用感が低下し、収縮率が低くなりうる。
【0052】
一方、本発明のポリエチレン原糸は、40~500本の連続フィラメント(continuous filaments)の束であるマルチフィラメント糸であってもよい。前記連続フィラメントそれぞれは、1~3デニールの繊度を有することができ、前記ポリエチレン原糸は、100~1,000デニールの総繊度を有することができる。
【0053】
一方、本発明のポリエチレン原糸は、原糸を用いて製造される保護用製品の着用のために、5超過9以下の多分散指数(Polydispersity Index:PDI)を有することができる。多分散指数(PDI)は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)であって、分子量分布指数(MWD)と称されたりもする。
【0054】
また、本発明のポリエチレン原糸は、原糸を用いて製造される保護用製品が5以上の耐切断指数を有し得るように、11g/d以上の強度、好ましくは11~18g/dの強度を有することができる。
【0055】
一方、発明の他の実施形態によれば、
0.3~3g/10minの溶融指数(melt index、MI)(190℃で)を有するポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得る段階;
多数のノズルホールを有する口金を通して前記ポリエチレン溶融物を押し出す段階;
前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される多数のフィラメントを冷却させる段階;
冷却された前記多数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させる段階;
前記マルチフィラメント糸を8倍~20倍の総延伸比で延伸および熱固定する段階;および
延伸された前記マルチフィラメント糸を巻取る段階を含み、
前記延伸段階は、多段延伸で進行するのであり、前記多段延伸のうちの、最後の延伸時の弛緩率は、3%~8%以下である、
前記ポリエチレン原糸の製造方法が提供できる。
【0056】
以下、添付した
図1を参照して、本発明の一実施例によるポリエチレン原糸の製造方法を具体的に説明する。
【0057】
前記実施形態のポリエチレン原糸の製造方法は、0.3~3g/10minの溶融指数(melt index、MI)(190℃で)を有するポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得る段階を含むことができる。
【0058】
例えば、まず、ポリエチレンチップ(chip)をエクストルーダー(extruder)100に投入して溶融させることによってポリエチレン溶融物を得る。
【0059】
本発明の方法において、原料として使用されるポリエチレン(以下、「ポリエチレンチップ」)は、0.3~3g/10minの溶融指数(MI)を有する。本明細書において、ポリエチレンチップの溶融指数は、190℃で測定した値である。
【0060】
ポリエチレンチップの溶融指数(MI)が0.3g/10min未満であれば、ポリエチレン溶融物の高い粘度および低い流れ性によってエクストルーダー100内にて円滑な流れ性を確保しにくいことから、紡糸装置に過負荷がかかり、工程の制御が適切に行われず原糸物性の均一性を確保しにくい。これに対し、ポリエチレンチップの溶融指数(MI)が3g/10minを超える場合、エクストルーダー100内でのポリエチレン溶融物の流れ性は相対的に良好であるが、ポリエチレンの低い分子量によって11g/d以上の高強度物性を有する原糸を得にくい。
【0061】
前記ポリエチレンチップは、80,000g/mol以上、または100,000g/mol以上、または120,000g/mol以上の重量平均分子量(Mw)を有することができる。前記重量平均分子量(Mw)が80,000g/mol未満であれば、最終的に得られる原糸が11g/d以上の強度を有しにくい。
【0062】
これに対し、溶融指数(MI)と一般に反比例の関係にある前記重量平均分子量(Mw)が180,000g/molを超えるほど過度に大きい場合、高い溶融粘度によって紡糸装置に過負荷がかかり、工程の制御が適切に行われず原糸の優れた物性が担保されにくい。したがって、前記ポリエチレンチップは、好ましくは180,000g/mol以下、または170,000g/mol以下、または160,000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0063】
ただし、前記ポリエチレンチップの重量平均分子量(Mw)の上限は、紡糸過程でポリエチレンの熱分解で分子量の減少が多少引き起こされる可能性があることを考慮して、ターゲット分子量(つまり、ポリエチレン原糸の重量平均分子量として、本発明では80,000~180,000g/molである)の上限よりやや高くてもよい。
【0064】
本発明のポリエチレンチップは、100~250g/dの初期モジュラスおよび6~10%の伸び率を有することができる。
【0065】
本発明のポリエチレンチップは、5超過9以下の多分散指数(PDI)を有することができる。
【0066】
一方、前記実施形態のポリエチレン原糸の製造方法は、多数のノズルホールを有する口金を通して前記ポリエチレン溶融物を押し出す段階を含むことができる。
【0067】
ポリエチレン溶融物は、前記エクストルーダー100内のスクリューによって多数のノズルホールを有する口金200に運搬された後、前記ノズルホールを通して押出される。前記口金200のノズルホールの個数は、製造される原糸のDPF(denier per filament)および総繊度に応じて決定可能である。本発明の一実施例によれば、1~3DPFおよび100~1,000デニールの総繊度を有する原糸を製造するために、前記口金200は、40~500個のノズルホールを有することができる。
【0068】
エクストルーダー100内での溶融工程および口金200を通した押出工程は、150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは260~290℃で行われる。つまり、エクストルーダー100および口金200が150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは260~290℃に維持されることが好ましい。本発明の一実施例によれば、ポリエチレンチップがエクストルーダー100に投入されて口金200のノズルホールを通して吐出されるまで移動する空間を複数個に分割して、それぞれの分割空間ごとに温度を制御することができる。例えば、150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは260~290℃の温度範囲内で、後段の分割空間の温度が前段の分割空間の温度以上となるように各分割空間の温度を制御することができる。
【0069】
前記紡糸温度が150℃未満の場合、低い紡糸温度によってポリエチレンチップの均一な溶融(melting)が行われず紡糸が困難になりうる。これに対し、紡糸温度が315℃を超える場合、ポリエチレンの熱分解が引き起こされて高強度発現が困難になりうる。
【0070】
前記口金200のホール径(D)に対するホール長(L)の比率であるL/Dは、3~40であってもよい。L/Dが3未満であれば、溶融押出時、ダイスウェル(die swell)現象が発生し、ポリエチレンの弾性挙動制御が困難になることで紡糸性が良くないものとなり、L/Dが40を超える場合には、口金200を通過するポリエチレン溶融物のネッキング(necking)現象による糸切れとともに圧力降下による吐出の不均一の現象が発生しうる。
【0071】
一方、前記実施形態のポリエチレン原糸の製造方法は、前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される時に形成される多数のフィラメントを冷却させる段階を含むことができる。
【0072】
ポリエチレン溶融物が口金200のノズルホールから吐出される際、紡糸温度と室温との間の差によってポリエチレン溶融物の固化が始まって半固化状態の多数のフィラメント11が形成される。本明細書では、半固化状態のフィラメントはもちろんのこと、完全に固化されたフィラメントのすべてを「フィラメント」と総称する。
【0073】
前記多数のフィラメント11は、冷却部(またはquenching zone)300で冷却されることによって完全に固化される。前記フィラメント11の冷却は、空冷方式で行われる。例えば、前記フィラメント11の冷却は、0.2~1m/secの風速の冷却風を利用して15~40℃で行われる。前記冷却温度が15℃未満であれば、過冷却によって伸度が不足して、後続の延伸過程で糸切れが発生しうるのであり、前記冷却温度が40℃を超えると、固化の不均一によってフィラメント11間の繊度偏差が大きくなり、延伸過程で糸切れが発生しうる。
【0074】
一方、前記実施形態のポリエチレン原糸の製造方法は、冷却された前記多数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させる段階を含むことができる。
【0075】
例えば、集束器400で前記冷却および完全固化されたフィラメント11を集束させて1つのマルチフィラメント糸(multifilament yarn)10を形成させる。
【0076】
図1に示されているように、前記マルチフィラメント糸10を形成させる前に、オイルローラORあるいはオイルジェット(oil jet)を用いて前記冷却されたフィラメント11に油剤を付与するオイリング工程(oiling process)がさらに行われる。前記油剤付与段階は、MO(metered oiling)方式により行われてもよい。
【0077】
選択的に、マルチフィラメント糸10を形成させるために、前記フィラメント11を集束させる時、前記オイリング工程が同時に行われてもよいし、追加的なオイリング工程が延伸工程中に、および/または巻取工程の直前に、さらに行われてもよい。
【0078】
一方、前記実施形態のポリエチレン原糸の製造方法は、前記マルチフィラメント糸を8倍~20倍の総延伸比で延伸および熱固定する段階を含むことができる。
【0079】
この時、前記延伸段階は、複数のゴデットローラを用いて行われ、前記マルチフィラメント糸の熱固定が前記複数のゴデットローラによって行われる。
【0080】
具体的には、前記マルチフィラメント糸10が8倍~20倍、より好ましくは10倍~15倍の総延伸比で延伸される。
【0081】
最終ポリエチレン原糸に11g/d以上の強度をもたせるためには、前記マルチフィラメント糸10が8倍以上の総延伸比で延伸されなければならない。ただし、延伸工程で20倍を超える総延伸比を適用する場合、フィラメント11の糸切れが発生する危険が高まる。
【0082】
一方、前記延伸段階は、多段延伸で進行し、多段延伸のうち最後の延伸時の弛緩率は、3%~8%以下であってもよい。
【0083】
本発明者らは、ポリエチレン原糸の初期モジュラスおよび伸び率が、原料として使用されるポリエチレンの紡糸時、多段延伸のうちの、最後の延伸時の弛緩率によって主に左右されることを確認した。
【0084】
前記最後の延伸時の弛緩率は、延伸後で巻取前の最後に行われる延伸の際の弛緩率を意味する。
【0085】
ポリエチレン原糸に250g/d以下の初期モジュラスおよび6%以上の伸び率をもたせるためには、前記ポリエチレン原糸の製造時、多段延伸のうちの、最後の延伸時の弛緩率が3~8%、または4~6%でなければならない。この時、前記最後の延伸時の弛緩率が過度に高ければ、11g/d以上の高強度を有するポリエチレン原糸を製造しにくいことがある。
【0086】
具体的には、前記最後の延伸時の弛緩率が3%以下の場合は、原糸のモジュラスが250g/d以上発生して柔軟性に問題が発生することがあり、8%以上の場合は、原糸のゴデットローラ上に糸流動が激しくて生産に困難が発生することがある。
【0087】
したがって、初期モジュラスを減少させ、高い伸び率を有し、着用感が向上したポリエチレン原糸を製造するためには、前記多段延伸時の最後の延伸の弛緩率を前記範囲で適用することが好ましい。
【0088】
本発明のポリエチレン原糸は、前記マルチフィラメント糸10を未延伸糸として一旦巻取った後、前記未延伸糸を解糸および延伸して製造され、
図1に示されているように、未延伸糸のマルチフィラメント糸10を、巻取らずに複数のゴデットローラGR1...GRnを含む延伸部500を用いて直接延伸して製造されてもよい。
【0089】
前記2つの工程のそのいずれを適用しても、前記マルチフィラメント糸10を8倍~20倍の大きな総延伸比で延伸する時、フィラメント11の糸切れの危険を最小化するために前記延伸工程が精密に制御される必要がある。また、先に述べたように、延伸時にゴデットローラの最後の延伸区間での弛緩率を3%から8%以下で付与することが好ましい。
【0090】
一方、前記実施形態のポリエチレン原糸の製造方法は、延伸された前記マルチフィラメント糸を巻取る段階を含むことができる。
【0091】
図1に示されているように、延伸された前記マルチフィラメント糸10がワインダ700に巻取られる前に、ポリエチレン原糸の集束性および製織性を向上させるために、交絡装置600による交絡工程がさらに行われる。
【0092】
上記のように製造された本発明のポリエチレン原糸は、優れた耐切断性が要求される保護用製品(例えば、保護用手袋、下着、カバンなど)の製造に使用できる。
【0093】
以下、本発明の一実施例による保護用製品を具体的に説明する。
【0094】
本発明の保護用製品は、カバリング糸(covered yarn)で編成された保護用製品であって、例えば、保護用手袋であってもよい。
【0095】
前記カバリング糸は、本発明のポリエチレン原糸、前記ポリエチレン原糸を螺旋状に囲むポリウレタン原糸(例えば、Spandex)、および前記ポリエチレン原糸を螺旋状に囲むポリアミド原糸(例えば、ナイロン6またはナイロン66原糸)を含む。目的とする製品の特性によって、ポリアミド原糸の代わりに、ポリエステル原糸(例えば、PET原糸)を含むこともできる。
【0096】
前記ポリエチレン原糸の重量は、前記カバリング糸の全重量の45~85%であってもよく、前記ポリウレタン原糸の重量は、前記カバリング糸の全重量の5~30%であってもよいし、前記ポリアミドまたはポリエステル原糸の重量は、前記カバリング糸の全重量の5~30%であってもよい。
【0097】
前述のように、本発明のポリエチレン原糸は、80,000~180,000g/molの重量平均分子量、100~250g/dの初期モジュラス、および6~10%の伸び率を有することができる。
【0098】
好ましくは、前記ポリエチレン原糸は、120~200g/dの前記初期モジュラス(initial modulus)を有することができる。
【0099】
また、前記ポリエチレン原糸は、100℃での乾熱収縮率が2.5%超過6%以下であってもよい。
【0100】
さらに、前記ポリエチレン原糸は、50℃の貯蔵弾性維持率が65~75%であってもよく、80℃の貯蔵弾性維持率が30~45%であってもよいし、105℃の貯蔵弾性維持率が10~25%であってもよい。
【0101】
本発明の保護用製品は、5以上の耐切断指数(cut index)および5gf以下の低い剛軟度(stiffness)を有することによって、耐切断性に優れていながらも優れた着用感を示すことができる。
【0102】
具体的には、前記保護用製品は、EN388:2016規格による5.0以上、あるいは5.5以上、あるいは5.7以上;そして8.5以下、あるいは8.0以下、あるいは7.5以下、あるいは7.0以下、あるいは6.8以下の前記耐切断指数を有することができる。例えば、前記保護用製品は、EN388:2016規格による5.0~8.5、あるいは5.0~8.0、あるいは5.0~7.5、あるいは5.0~7.0、あるいは5.0~6.8、あるいは5.5~8.5、あるいは5.5~8.0、あるいは5.5~7.5、あるいは5.5~7.0、あるいは5.5~6.8、あるいは5.7~8.5、あるいは5.7~8.0、あるいは5.7~7.5、あるいは5.7~7.0、あるいは5.7~6.8の前記耐切断指数を有することができる。
【0103】
これとともに、前記保護用製品は、5.0gf以下、あるいは4.5gf以下;そして2.0gf以上、あるいは3.0gf以上、あるいは3.5gf以上、あるいは3.8gf以上の剛軟度を有することができる。例えば、前記保護用製品は、2.0~5.0gf、あるいは2.0~4.5gf、あるいは3.0~5.0gf、あるいは3.0~4.5gf、あるいは3.5~5.0gf、あるいは3.5~4.5gf、あるいは3.8~5.0gf、あるいは3.8~4.5gfの剛軟度を有することができる。
【0104】
以下、具体的な実施例および比較例を通じて本発明を具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明の理解のためのものに過ぎず、これによって本発明の権利範囲が制限されてはならない。
【0105】
<ポリエチレン原糸の製造>
製造例1
図1に示された装置を用いて240本のフィラメントを含み、総繊度が400デニールのポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0106】
具体的には、150,000g/molの重量平均分子量(Mw)および1g/10minの溶融指数(MI)(at 190℃)を有するポリエチレンチップをエクストルーダー100に投入して溶融させた。ポリエチレン溶融物は、240個のノズルホールを有する口金200を通して押出された。
【0107】
口金200のノズルホールから吐出されつつ形成されたフィラメント11は、冷却部300で冷却された後、集束器400によってマルチフィラメント糸10に集束された。
【0108】
次に、前記マルチフィラメント糸は、延伸部500にて、70~130℃に設定されたゴデットローラによって12倍の総延伸比で延伸および熱固定された。
【0109】
前記延伸段階は、多段延伸で進行したのであり、多段延伸のうちの最後の延伸時における弛緩率は8%であった。
【0110】
次に、前記延伸されたマルチフィラメント糸は、交絡装置600にて、6.0kgf/cm2の空気圧で交絡された後、ワインダ700に巻取られた。巻取張力は0.6g/dであった。
【0111】
製造例2
150,000g/molの重量平均分子量(Mw)および1g/10minの溶融指数(MI)(at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、多段延伸のうちの最後の延伸時の弛緩率を5%にしたことを除けば、実施例1と同様の方法でポリエチレン原糸を得た。
【0112】
製造例3
180,000g/molの重量平均分子量(Mw)および0.8g/10minの溶融指数(MI)(at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、多段延伸のうちの最後の延伸時における弛緩率を3%にしたことを除けば、実施例1と同様の方法でポリエチレン原糸を得た。
【0113】
比較製造例1
200,000g/molの重量平均分子量(Mw)および0.6g/10minの溶融指数(MI)(at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、多段延伸のうちの最後の延伸時における弛緩率を2%にしたことを除けば、実施例1と同様の方法でポリエチレン原糸を製造した。
【0114】
比較製造例2
200,000g/molの重量平均分子量(Mw)および0.6g/10minの溶融指数(MI)(at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、多段延伸のうちの最後の延伸時における弛緩率を10%にしたことを除けば、実施例1と同様の方法でポリエチレン原糸を製造した。
【0115】
試験例1
製造例1~3および比較製造例1~2によりそれぞれ製造されたポリエチレン原糸の強度、初期モジュラス、伸び率、乾熱収縮率、貯蔵弾性維持率、重量平均分子量(Mw)を下記の方法によってそれぞれ測定し、その結果を表1に示した。
【0116】
(1)強度(g/d)、初期モジュラス(g/d)、および伸び率(%)
:ASTM D885方法により、インストロン社(Instron Engineering Corp、Canton、Mass)の万能試験機を用いてポリエチレン原糸の変形-応力曲線を得ることによって、ポリエチレン原糸の強度、伸び率および初期モジュラスを求めた。具体的には、サンプル長さは250mmであり、引張速度は300mm/minであり、初期ロード(load)は0.05g/dに設定した。原点付近の最大勾配を付与する接線から初期モジュラス(g/d)を求めた。それぞれのポリエチレン原糸ごとに5回測定後、その平均値を算出した。
【0117】
(2)乾熱収縮率
:ポリエチレン原糸を切断して70cmの長さのサンプルを得た後、前記サンプルの両端からそれぞれ10cm離れた地点に表示をした(つまり、表示地点間の距離=50cm)。
【0118】
次に、前記サンプルに荷重が印加されないようにジグにぶら下げた状態で、熱風循環型の加熱炉を用いて100℃で30分間加熱した。その後、加熱炉からサンプルを取り出して室温まで徐々に冷却させた後、前記表示地点間の距離を測定した。次に、次式1を用いてポリエチレン原糸の100℃での乾熱収縮率を算出した。
【0119】
-式1:乾熱収縮率(%)=[(l0-l1)/l0]×100
(ここで、l0は、加熱前の表示地点間の距離(つまり、50cm)であり、l1は、加熱後の表示地点間の距離である)
【0120】
2回の試験により得られた乾熱収縮率の平均値を求めた。
【0121】
(3)貯蔵弾性維持率
:10mmの長さのポリエチレン原糸サンプルを用意した後、固有粘弾性測定装置(T.A.インスツルメント社製造、「DMA Q800」)を用いて30℃、50℃、80℃および105℃での貯蔵弾性率をそれぞれ測定した。具体的には、測定途中にサンプルと装置との間の滑りやフィラメントの飛散が発生しないように、前記サンプルの両端を接着剤と両面テープを用いて厚紙の間に挟んだ。測定開始温度を-10℃、測定終了温度を140℃、昇温速度を1.0℃/minにした。変形量を0.04%にし、測定開始時の初荷重を0.05cN/dtexにし、測定周波数を11Hzにした。「T.A.Universal Analysis」(T.A.インスツルメント社製造)を用いてデータを解釈した。下記の式2によりポリエチレン原糸の50℃の貯蔵弾性維持率、80℃の貯蔵弾性維持率および105℃の貯蔵弾性維持率をそれぞれ算出した。
【0122】
-式2:T℃の貯蔵弾性維持率(%)=(T℃での貯蔵弾性率/30℃での貯蔵弾性率)×100(ここで、T℃=50℃/80℃/105℃)
【0123】
(4)重量平均分子量(Mw)(g/mol)および多分散指数(PDI)
:ポリエチレン原糸を下記の溶媒に完全に溶解させた後、次のゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いて前記ポリエチレン原糸の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散指数(Mw/Mn:PDI)をそれぞれ求めた。
【0124】
-分析機器:PL-GPC 220 system
-カラム:2×PLGEL MIXED-B(7.5×300mm)
-カラム温度:160℃
-溶媒:トリクロロベンゼン(TCB)+0.04wt%ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(after drying with 0.1% CaCl2(0.1% CaCl2での乾燥後))
-溶解条件:160℃、1~4時間、溶解後、ガラスフィルタ(0.7μm)を通過した溶液を測定
-Injector、Detector温度:160℃
-検出器(Detector):RI Detector
-流速:1.0ml/min
-注入量:200μl
-標準試料:ポリスチレン
【0125】
【0126】
<保護用手袋の製造>
実施例1
製造例1のポリエチレン原糸を140デニールのポリウレタン原糸(Spandex)、および140デニールのナイロン原糸で螺旋状に囲むことによってカバリング糸を製造した。前記ポリエチレン原糸の重量は前記カバリング糸の全体重量の60%であり、前記ポリウレタン原糸と前記ナイロン原糸の重量は、それぞれ、前記カバリング糸の全体重量の20%であった。前記カバリング糸を編成して保護用手袋を製造した。
【0127】
実施例2
製造例2のポリエチレン原糸を用いたことを除けば、実施例1と同様の方法で保護用手袋を得た。
【0128】
実施例3
製造例3のポリエチレン原糸を用いたことを除けば、実施例1と同様の方法で保護用手袋を得た。
【0129】
比較例1
比較製造例1のポリエチレン原糸を用いたことを除けば、実施例1と同様の方法で保護用手袋を得た。
【0130】
比較例2
比較製造例2のポリエチレン原糸を用いたことを除けば、実施例1と同様の方法で保護用手袋を得た。
【0131】
試験例2
実施例1~3および比較例1~2によりそれぞれ製造された保護用手袋の耐切断指数および剛軟度を下記の方法によってそれぞれ測定し、その結果を表2に示した。
【0132】
(1)耐切断指数(Cut Index、CI)
:保護用手袋の耐切断指数はEN388:2016規格により測定された。
【0133】
(2)剛軟度(Stiffness)(gf)
:
図2および
図3に示されているように、保護用手袋20の手の平の部分で試片(横:60mm、縦:60mm)21を採取した後、ASTM D885/D885M-10a(2014)のsection38により前記試片の剛軟度を測定した。測定装置は次の通りであった。
【0134】
(i)定速伸長形(CRE)引張試験機(CRE-type Tensile Testing Machine)(model:INSTRON3343)
(ii)ロードセル(Loading Cell)、2KN[200kgf]
(iii)試片ホルダー(Specimen Holder):section38.4.3に規定されたspecimen holder
(iv)試片ディプレッサー(Specimen Depressor):section38.4.4に規定されたspecimen depressor
【0135】
具体的には、前記試片21の手袋の外側面f1が上を向き、手袋の内側面f2が下を向き、手袋の指に隣接した側21aおよびその反対側(つまり、手袋の手首に隣接した側)21bが前記specimen holder31によって直接的に支持されるように、前記試片21をspecimen holder31の中央に載せた。前記試片21は曲がらずに平らな状態を維持した。この時、前記試片ホルダー(specimen holder)31の試片支持部(specimen supporting part)とspecimen depressor32のディプレッシング部(depressing part)との間の距離は5mmであった。次に、specimen depressor32を動かさずにそのまま置いた状態で、前記試片ホルダー(specimen holder)31を15mmまで上昇させながら最大強力を測定した。
【0136】
【0137】
前記表2によれば、製造例1~3によるポリエチレン原糸を用いて製造した実施例1~3の保護用手袋は、優れた耐切断指数を有しながらも低い剛軟度を有して、比較例1および2に比べて改善された着用感を有し得るという点を確認することができた。
【符号の説明】
【0138】
100:エクストルーダー
200:口金
300:冷却部
400:集束部
500:延伸部
600:交絡装置
700:ワインダ
20:保護用手袋
21:保護用手袋の試片
21a:手袋の指に隣接した側
21b:手袋の手首に隣接した側
f1:手袋の外側面
f2:手袋の内側面
31:Specimen holder
32:Specimen depressor
【国際調査報告】