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▶ ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフトの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(54)【発明の名称】気相薄膜堆積のための金属錯体
(51)【国際特許分類】
   C07F 17/02 20060101AFI20220516BHJP
   C07C 243/14 20060101ALI20220516BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20220516BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20220516BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20220516BHJP
【FI】
C07F17/02
C07C243/14
C23C16/18
C07F15/00 A CSP
C07F5/00 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556803
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2020058865
(87)【国際公開番号】W WO2020193794
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】19165935.8
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク・ズンダーマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリク・シューマン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ・ショルン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・ラウ
(72)【発明者】
【氏名】アニカ・フレイ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・カルヒ
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン・ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】アンゲリノ・ドッピウ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
4H050
4K030
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB82
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB99
4H048VA30
4H048VA86
4H048VB10
4H048VB40
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB99
4K030AA11
4K030BA01
4K030BA04
4K030BA05
4K030BA08
4K030BA09
4K030BA11
4K030BA15
4K030BA18
4K030BA25
4K030BA32
4K030FA10
(57)【要約】
式(I)の金属錯体であって、
[M(L(L (ヒドラ) 式(I)
式中、
M=範囲a)~c)から選択される原子番号を有する金属原子であり、
a)30を除く、12、21~34、
b)48を除く、39~52、
c)80を除く、71~83、
=中性又はアニオン性の配位子であり、x=0又は1であり、
=中性又はアニオン性の配位子であり、y=0又は1であり、
(ヒドラ)=アセトンジメチルヒドラゾンモノアニオンであり、z=1、2、又は3であり、
n=1又は2であり、
錯体の総電荷は0である、金属錯体が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の金属錯体であって、
[M(L(L(ヒドラ) 式(I)
式中、
M=範囲a)~c)から選択される原子番号を有する金属原子であり、
a)30を除く、12、21~34、
b)48を除く、39~52、
c)80を除く、71~83、
=中性又はアニオン性の配位子であり、x=0又は1であり、
=中性又はアニオン性の配位子であり、y=0又は1であり、
(ヒドラ)=アセトンジメチルヒドラゾンモノアニオンであり、z=1、2、又は3であり、
n=1又は2であり、
前記錯体の総電荷が0である、金属錯体。
【請求項2】
Mが、Ti、Co、Ga、Ge、As、Se、Ru、Pd、In、Sb、Te、Ir、Au、及びBiから選択され、好ましくはCo、Ga、Ge、Ru、In、及びIrから選択される、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
及びLが、独立して、Cl、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、シクロペンタジエニル、メチルシクロペンタジエニル、イソプロピルシクロペンタジエニル、アレーン、ホスフィン、イソニトリル、及びカルボニルから選択される、請求項1又は2に記載の金属錯体。
【請求項4】
x=y=1であり、任意選択で、z=1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項5】
M=Ruであり、
=アレーンであり、x=1であり、
=Cl、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチルであり、y=1であり
z=1であり、
n=1である、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項6】
前記アレーンが、1~6個の同一の若しくは異なるC~C炭化水素基で置換されたアレーンであるか、又は未置換のアレーンである、請求項5に記載の金属錯体。
【請求項7】
前記アレーンが、4-イソプロピルトルエン及びベンゼンから選択される、請求項6に記載の金属錯体。
【請求項8】
M=Inであり、
=Cl、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチルであり、x=1であり、
=Cl、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチルであり、y=1であり、
z=1であり、
n=2である、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項9】
が、メチル及びエチルから選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項10】
[RuCl(p-シメン)(ヒドラ)]、[RuMe(p-シメン)(ヒドラ)]、及び[InMe(ヒドラ)]から選択される、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項11】
(i)アセトンジメチルヒドラゾンをLi有機化合物と反応させて、Li(ヒドラ)を生成する工程と、
(ii)Li(ヒドラ)を、x=0、1、又は2、y=0、1、又は2、n=1又は2である式[ML x1 y1n1を有する化合物と反応させて、式[M(L(L(ヒドラ)の化合物を生成する工程と、を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の金属錯体を生成するための方法。
【請求項12】
が、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、若しくはtert-ブチルのいずれかであるか、又は工程(ii)に続いて、工程(iii)においてH、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、若しくはtert-ブチルに変換される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
CVDプロセス又はALDプロセスにおいて前記金属を堆積させるための、請求項1~10のいずれか一項に記載の金属錯体の、使用。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の金属錯体が、前記金属から層を生成するための前駆体として使用される、方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項に記載の金属錯体を含む気相から、表面上に金属を堆積させることによって得られる、メタライズ表面。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトンジメチルヒドラゾン配位子を有する金属錯体に関する。本発明はまた、金属錯体を生成するための方法並びにCVDプロセス及びALDプロセスにおける金属錯体の使用に関する。本発明は更に、金属錯体が前駆体として使用される方法及び金属錯体を用いて得られるメタライズ表面に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
基材の表面は、様々な方式でメタライズされ得る。基材の表面は、例えば、気相薄膜堆積によってメタライズされ得る。例示的な気相薄膜堆積は、CVD(化学気相堆積(chemical vapor deposition))プロセス及びALD(原子層堆積(atomic layer deposition))プロセスを含む。これらの方法では、金属は、気相から基材の表面上に堆積される。
【0003】
気相では、金属は、典型的には、ガス状の前駆体物質として存在する。そのような物質は、前駆体とも称される。気相における使用のために、前駆体は可能な限り揮発性であるべきである。金属錯体は、しばしば金属のための前駆体として使用される。
【0004】
例えば、ルテニウム又はインジウムの堆積のための好適な前駆体は、(メチルシクロペンタジエニル)Ru、(ジメチルペンタジエニル)Ru、(アレーン)Ru(1,4-ジアザ-1,3-ブタジエン)、MeIn、及び[3-ジメチルアミノ)プロピル]ジメチルインジウムを基本的に含む。既知の前駆体は、様々な欠点を有する。(メチルシクロペンタジエニル)Ruは、例えば、熱的に比較的安定しており、ルテニウムの高い堆積速度を可能にしない。これらの前駆体はまた、炭素の取り込みをもたらすことがある。
【0005】
全体として、気相薄膜堆積による基材表面上の金属の堆積のための前駆体は、依然として、改善を必要とする。既知の前駆体のうちのいくつかは、低すぎる合成容易性を有する。既知の前駆体のうちのいくつかは、高すぎる分解温度を有する。既知の前駆体のうちのいくつかは、薄い金属層の生成における炭素及び他の不純物の過度に高い取り込み速度を有する。既知の前駆体のうちのいくつかでは、弱く結合した配位子のみの好ましい分離が、存在する。したがって、これらの前駆体は、ALDプロセスに不適である。既知の前駆体のうちのいくつかは、室温で不十分に揮発性であり、及び/又は液体でない。
【0006】
工業用途では、金属のための前駆体の合成において、可能な限り少ない工程が、所望の生成物をもたらすこともまた、特に興味深い。過酷な反応条件は、合成において避けられるべきである。前駆体は、可能な限り高い収率で得られるべきである。前駆体は、室温で長時間耐久性であるべきである。前駆体は、蒸気圧を増加させるために最大100℃の温度までの、いわゆるバブラーなどの気相薄膜法のためのリザーバの加熱に耐えるべきである。前駆体は、気相薄膜法の典型的な条件下で、特に上昇した温度で、発熱的に分解するべきである。
【0007】
Fujisawaらは、カチオン種として、アセトンジメチルヒドラゾン配位子及びリチウム又はマグネシウム臭化物を有する銅酸化物を記載する(非特許文献1)。それらは、β-ビニル-β-プロピオラクトンとの反応による7-オキソ-(E)-3-アルカン酸の合成における反応物質としてインサイチュでのみ形成された。Cardenasらは、アセトフェノンジメチルヒドラゾン、トリフェニルホスフィン、及びハロゲン化物配位子とのパラジウム錯体を記載する(非特許文献2)。S.Javedらは、アセトンジメチルヒドラゾン配位子との亜鉛及びアルミニウム錯体を記載する(非特許文献3及び4)。特に熱分解における、これらの錯体の分解挙動は、分析されなかった。アセトンジメチルヒドラゾン配位子の他の金属との錯体は、アセトンジメチルヒドラゾン配位子の望ましくない還元的脱離を経ることができる。このことは、通常不安定な錯体をもたらす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】T.Fujisawa,M.Takeuchi,T.Sato,Chemistry Letters,1982,1521-1524
【非特許文献2】D.J.Cardenas,A.M.Echavarren,A.Vegas,Organometallics 1994,13,882-889
【非特許文献3】S.Javed,D.M.Hoffman,Inorganic Chemistry 2008,47,11984-11992
【非特許文献4】S.Javed,D.M.Hoffman,Eur.J.Inorg.Chem.2008,47,5251-5256
【非特許文献5】R.H.Wiley,S.C.Slaymaker,H.Kraus,J.Org.Chem.1957,22,204-207
【非特許文献6】C.Qi,F.Hasenmaile,V.Gandon,D.Laboef,ACS Catalysis 2018,8,1734-1739
【非特許文献7】E.J.Corey,D.Enders,Chem.Ber.1978,111,1362-1383.
【非特許文献8】P.Y.Geant,E.Grenet,J.Martinez,X.J.Salom-Roig,Tetrahedron Asymmetry 2016,27,22-30,
【非特許文献9】D.Enders,W.Dahmen,E.Dederichs,W.Gatzweiler,P.Weuster,Synthesis (Stuttg).1990,11,1013-1019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的
本発明の目的は、上記の欠点を、少なくとも部分的に、かつ可能な場合全体的に克服する、金属錯体を提供することである。
【0010】
本発明の根本的な目的は、特に、上述の有利な特性を有する金属錯体を提供することである。金属錯体は、高い揮発性を有するものとする。金属錯体は、室温で可能な限り液体であるものとする。金属錯体は、高温で依然として安定的であるものとする。金属錯体は、高すぎる分解温度を有するものでない。
【0011】
本発明の目的はまた、特に少ない工程を有する合成を介して、金属錯体の良好な合成容易性を確実にすることである。金属錯体の合成が、苛酷な反応条件を必要とせず、可能な限り高い収率を与えることもまた、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の開示
驚くべきことに、本発明の目的は、特許請求の範囲に記載の金属錯体によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の主題は、式(I)の金属錯体であり、
[M(L(L(ヒドラ) 式(I)
式中、
M=範囲a)~c)から選択される原子番号を有する金属原子であり、
a)30を除く、12、21~34、
b)48を除く、39~52、
c)80を除く、71~83、
=中性又はアニオン性の配位子であり、x=0又は1であり、
=中性又はアニオン性の配位子であり、y=0又は1であり、
(ヒドラ)=アセトンジメチルヒドラゾンモノアニオンであり、z=1、2、又は3であり、
n=1又は2であり、
錯体の総電荷は0である。
【0014】
化学において一般的なように、金属原子Mの原子番号は、元素の周期表における金属原子Mの位置を示す。したがって、範囲a)~c)で定義される原子番号又は金属は、以下の通りである:
a)12(Mg)、21(Sc)、22(Ti)、23(V)、24(Cr)、25(Mn)、26(Fe)、27(Co)、28(Ni)、29(Cu)、31(Ga)、32(Ge)、33(As)、及び34(Se);
b)39(Y)、40(Zr)、41(Nb)、42(Mo)、43(Tc)、44(Ru)、45(Rh)、46(Pd)、47(Ag)、49(In)、50(Sn)、51(Sb)、及び52(Te);
c)71(Lu)、72(Hf)、73(Ta)、74(W)、75(Re)、76(Os)、77(Ir)、78(Pt)、79(Au)、81(Tl)、82(Pb)、及び83(Bi)。
本発明によれば、金属原子Mは、原子番号30を有しない(Zn;Mは亜鉛でない)か、原子番号48を有しない(Cd;Mはカドミウムでない)か、又は原子番号80を有しない(Hg;Mは水銀でない)。
【0015】
金属原子Mは、異なる酸化状態、好ましくは酸化状態+I、+II、+III、+IV、+V、+VI、又は+VIIを有することができる。金属原子は、正式には正に荷電しており、Ma+によって示され得、式中、a=1、2、3、4、5、6、又は7である。本発明によれば、酸化状態は、+I、+II、+III、若しくは+IVであるか、又はa=1、2、3、若しくは4であることが、好ましい。本発明によれば、金属原子Mは、少なくとも2つの異なる酸化状態を有する標準条件下で安定的に存在し得ることが好ましい。
【0016】
及びLは、独立して中性又はアニオン性の配位子であるが、金属でなく、特に、Li又はMgでない。L又はLが中性配位子である場合、その酸化状態は、±0である。次いで、L又はLは、正式には荷電していない。L又はLがアニオン性配位子である場合、その酸化状態は、好ましくは-I又は-IIであり、より好ましくは-Iである。次いで、配位子L又はLは、正式には負に荷電し、(Lb1-又は(Lb2-で示され得、式中、b1、b2=1又は2であり、好ましくは1である。L、L、x、及びyは、式(I)の金属錯体が中性であるように、独立して選択される。
【0017】
n=1の場合、本発明による金属錯体は、1つの金属原子Mを有する単核金属錯体である。
【0018】
n=2の場合、本発明による金属錯体は、2個の金属原子Mを有する二核金属錯体である。2つの金属原子は、好ましくは同じ原子番号を有する。そのような場合、金属錯体は、ホモ二核金属錯体である。
【0019】
金属錯体の総電荷は0(ゼロ)であり、すなわち、金属錯体は電気的に中性である。金属錯体の中性は、角括弧に電荷表示が無いことによって反映される。
【0020】
配位子(ヒドラ)は、アセトンジメチルヒドラゾンモノアニオンである。したがって、(ヒドラ)は、脱プロトン化によってアセトンジメチルヒドラゾンから誘導されるモノアニオンである。モノアニオンの負電荷は、(ヒドラ)に非局在化される。(ヒドラ)はまた、本明細書で「[ヒドラ](1-)」又は「ヒドラ」と称されることもある。アセトンジメチルヒドラゾンはまた、本明細書で「H-ヒドラ」と称されることもある。
【0021】
(ヒドラ)以外の更なる配位子「R」が(ヒドラ)金属錯体中に存在する場合、このことは、還元的脱離をもたらし得る。その場合、Rと共に(ヒドラ)は、R-(ヒドラ)として分離される。残りの金属原子は、同時に還元される。その場合、2つの負電荷は、金属原子に移る。したがって、対応する金属は少なくとも2つの安定的酸化状態を有し、その差異は2つの電荷に達する。
【0022】
配位子(ヒドラ)との既知の金属錯体は、2つの安定的酸化状態を有しない金属であって、その差異が2つの電荷に達する金属、又はそのd殻が完全に占有された金属(Li、Al、及びZn)によって形成される。そのような(ヒドラ)金属錯体は、(ヒドラ)を還元的に脱離する傾向はない。したがって、そのような錯体の安定性が期待される。
【0023】
対照的に、2つの電荷の差を有し、及び/又は閉じていないd殻を有する少なくとも2つの安定的酸化状態を有する金属の(ヒドラ)金属錯体について、(ヒドラ)の還元的脱離への傾向が、予想される。したがって、そのような(ヒドラ)金属錯体について、調製の困難及び低安定性が、先行技術において予想されていた。
【0024】
驚くべきことに、範囲a)、b)、及びc)からの原子番号を有するそのような金属の(ヒドラ)金属錯体もまた容易に調製され得ることが、本発明の範囲内で見いだされている。驚くべきことに、本発明による(ヒドラ)金属錯体は安定的であり、特に、自然崩壊を受けないこともまた、本発明の範囲内で見いだされている。
【0025】
本発明による金属錯体について、還元的脱離はまた、金属錯体の、強制分解、特に、熱分解において役割を果たす。(メタ)安定的な金属錯体の配位子は、金属錯体の強制分解の場合には、ラジカルとして通常分離される。例えば、このことは、シクロペンタジエニル配位子の場合にたびたびある。他のフラグメンテーション経路が、配位子(ヒドラ)について予想される。理論に束縛されるものではないが、配位子(ヒドラ)は、本発明による金属錯体の分解時に、配位子骨格中のN-N結合の容易な分離を可能にすることが、本発明の範囲内で想定される。
【0026】
特に、配位子(ヒドラ)の還元的脱離は、本発明による金属錯体の分解時に期待される。配位子(ヒドラ)の還元的脱離は、特に、本発明による金属錯体の熱分解の場合に生じ得る。
【0027】
本発明による金属錯体において、配位子(ヒドラ)は、少なくとも1つの更なる配位子Rと共に存在する。(ヒドラ)は、少なくとも1つの更なる配位子Rと共に還元的に脱離され得る。Rは、好ましくは、H、アルキル、又は(ヒドラ)でもある。分解又は熱分解の場合には、R-(ヒドラ)の還元的脱離は、以下のスキームに従って生じ得る:
【化1】
【0028】
還元的脱離は、選択的な熱崩壊経路を形成する。R-ヒドラの還元的脱離は、Mを還元する。Mは、金属的に堆積され得る。この想定される崩壊経路のため、本発明による金属錯体は、基材表面を金属化するための気相薄膜法に特に好適である。
【0029】
本発明による金属錯体は、遷移金属の錯体を含む。そのような金属錯体は、21~29、39~47、又は71~79の原子番号を有する遷移金属原子Mによって形成される。特に好ましい金属原子は、Ti、Co、Ru、Pd、Ir、及びAuである。これらの遷移金属原子は、占有されていない又は部分的に占有されたd軌道を有する。このことは、遷移金属原子がd~dのd電子配置を有することを意味する。前述の遷移金属を有する本発明による錯体について、R-ヒドラの還元的脱離を介した選択的な熱崩壊が、期待される。
【0030】
完全に占有されたd殻を有する、すなわち、d10電子配置を有する遷移金属は、本発明に従って含まれない。理論に束縛されるものではないが、それらの閉じた安定的d10殻のために、d10電子配置を有する遷移金属の(ヒドラ)金属錯体は、第2及び第3の周期の典型金属、特に、Li及びAlの(ヒドラ)金属錯体と同様に挙動することが、考えられる。そのような(ヒドラ)金属錯体は、通常R-(ヒドラ)の還元的脱離を経ない。したがって、還元的脱離又は気相薄膜法における使用のいずれも、遷移金属亜鉛、M=d10電子配置を有するZnを有する(ヒドラ)金属錯体について既知でない。
【0031】
本発明による金属錯体はまた、特に、元素の周期表の第3、第4、第5、及び第6の周期の、pブロックの典型金属の錯体を含む。これらは、12、31~34、49~52、又は81~83の原子番号を有する典型金属原子Mによって形成される。特に好ましい金属原子Mは、Ga、Ge、As、Se、In、Sb、Te、及びBiである。本発明による配位子(ヒドラ)を有するこれらの典型金属の錯体について、R-(ヒドラ)の還元的脱離を介した選択的な熱崩壊が、期待される。
【0032】
対照的に、Li又はAlの(ヒドラ)金属錯体は、通常R-(ヒドラ)の還元的脱離を経ない。したがって、M=Li又はAlを有する(ヒドラ)金属錯体について、還元的脱離又は気相薄膜法における使用のいずれも、既知でない。
【0033】
本発明によれば、金属錯体において、Mは、Ti、Co、Ga、Ge、As、Se、Ru、Pd、In、Sb、Te、Ir、Au、及びBiから選択されることが好ましく、より好ましくは、Co、Ga、Ge、Ru、In、及びIrから選択される。そのような金属錯体は、特に有利な金属で基材表面をコーティングするように機能することができる。そのような金属錯体は、そのようなコーティングの場合、特に炭素及び他の不純物の低い取り込み速度をもたらすことができる。そのような金属錯体の場合、分解時に、Ti、Co、Ga、Ge、As、Se、Ru、Pd、In、Sb、Te、Ir、Au、又はBiの還元を用いる(ヒドラ)の還元的脱離が、より容易に行われ得る。
【0034】
本発明によれば、金属錯体において、L及びLは、互いに独立して、Cl、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、シクロペンタジエニル、メチルシクロペンタジエニル、イソプロピルシクロペンタジエニル、アレーン、ホスフィン、イソニトリル、及びカルボニルから選択されることが、好ましい。選択された配位子のために、そのような金属錯体は、揮発性であり得、室温で液体であり得る。そのような金属錯体は、選択された配位子によって安定化され得る。
【0035】
「アレーン」は、International Union of Pure and Applied Chemistryに従う芳香族炭化水素を意味する。アレーンはp-アジド化合物である。アレーンは、単環式及び多環式芳香族炭化水素の両方を含む。本発明に従って使用されるアレーンは、任意選択で、置換され得る。アレーンの任意選択の置換基は、本明細書で(Rと称されることもある。好ましくは、指数mは、0、1、2、3、4、5、又は6、より好ましくは0又は2、特に好ましくは2であり得る。本発明によれば、Rは、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、及びハロゲンから、より好ましくは炭化水素基から選択される。
【0036】
本発明の文脈において、炭化水素基は、通常通り、炭素及び水素のみからなる基を指す。本発明の文脈において、炭化水素基は、一般に、飽和又は不飽和であり得る炭化水素基を指す。飽和炭化水素基が好ましい。本発明の文脈において、炭化水素基は、一般に、直鎖、分岐鎖、又は環状であり得る炭化水素基を指す。直鎖及び分岐鎖炭化水素ラジカルが好ましい。
【0037】
本発明によれば、金属錯体において、x=y=1であり、任意選択で、z=1であることが、好ましい。そのような金属錯体は、合成的に、より容易にアクセス可能であり得る。そのような金属錯体において、配位子L及びLは、一方では金属錯体を安定化させ、他方ではその揮発性を確保するために、金属原子Mの機能として好適に選択され得る。そのような金属錯体の場合、分解時に、(ヒドラ)の還元的脱離は、より容易に行われ得る。
【0038】
本発明によれば、一態様では、式(I)の金属錯体に以下が適用されることが、好ましい:
M=Ruであり、
=アレーンであり、x=1であり、
=Cl、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチルであり、y=1であり、
z=1であり、
n=1である。
そのような好ましい金属錯体は、式(Ia)を有する。
【0039】
式(Ia)の金属錯体は、非常に揮発性であり、室温で液体であるが、より高い温度でさえも安定的であり得る。式(Ia)の金属錯体は、過度に高い分解温度を有することができない。式(Ia)の金属錯体は、合成的に、数段階を介してアクセス可能であり得る。式(Ia)の金属錯体の場合、分解時に、(ヒドラ)の還元的脱離は、より容易に行われ得る。
【0040】
本発明によれば、式(la)の金属錯体について、アレーンは、1~6(1、2、3、4、5、6)個の同一の若しくは異なるC1~8(C1、2、3、4、5、6、7、8)炭化水素基で置換されたアレーンであるか、又は未置換のアレーンであることが、好ましい。アレーンは、4-イソプロピルトルエン及びベンゼンから更に好ましく選択される。4-イソプロピルトルエンはまた、p-シメン又はパラ-シメンと称される。理論に束縛されるものではないが、特に、非対称置換4-イソプロピルトルエンは、式(Ia)の金属錯体の結晶化をより困難にし、室温でのその揮発性及び流動性を改善することが、期待される。
【0041】
本発明によれば、式(Ia)の金属錯体について、L=ベンゼン又は4-イソプロピルトルエンであり、L=H、メチル、又はエチルであることが、好ましい。
【0042】
本発明によれば、別の態様では、式(I)の金属錯体に以下が適用されることが、好ましい:
M=Inであり、
=Cl、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチルであり、x=1であり、
=Cl、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチルであり、y=1であり、
z=1であり、
n=2である。
そのような好ましい金属錯体は、式(Ib)を有する。
【0043】
式(Ib)の金属錯体は、非常に揮発性であり、室温で液体であるが、より高い温度でも依然として安定的であり得る。式(Ib)の金属錯体は、高すぎる分解温度を有することができない。式(Ib)の金属錯体は、合成的に、数段階を介してアクセス可能であり得る。式(Ib)の金属錯体の場合、分解時に、(ヒドラ)の還元的脱離が、より容易に行われ得る。
【0044】
本発明によれば、式(Ib)の金属錯体について、L=H、メチル、又はエチルであり、L=H、メチル、又はエチルであることが、好ましい。
【0045】
本発明によれば、金属錯体について、特に、式(Ia)及び(Ib)の金属錯体について、Lは、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチルのいずれかであることが、一般に好ましい。Lはメチル又はエチルのいずれかであることが、より好ましい。Lがエチルである場合、分解時のLは、ベータ-Hの分離を通じてインサイチュでヒドリド配位子(H)となり得る。L=H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチルである好ましい金属錯体の揮発性は、更に改善され得る。L=メチル又はエチルである好ましい金属錯体からの(ヒドラ)の還元的脱離は、更により容易に行われ得る。
【0046】
本発明による金属錯体は、好ましくは、式(Ia)の金属錯体又は式(Ib)の金属錯体である。
【0047】
本発明による特に好ましい金属錯体は、[RuCl(p-シメン)(ヒドラ)]、[RuMe(p-シメン)(ヒドラ)]、及び[InMe(ヒドラ)]である。
【0048】
本発明によれば、本発明による金属錯体中の金属原子M及び配位子(ヒドラ)は、環を形成することが、好ましい。ここで、(ヒドラ)は、単核金属錯体(n=1)の同じ金属原子Mに対してその原子のうちの2個を介して配位するか、又は(ヒドラ)は、二核金属錯体(n=2)の、第1の金属原子Mに対してその原子のうちの第1のものを介して配位し、かつ第2の金属原子Mに対してその原子のうちの第2のものを介して配位するかのいずれかである。
【0049】
理論に束縛されるものではないが、本発明による単核金属錯体において、(ヒドラ)は、Mに対してキレート化様式で配位する。理論に束縛されるものではないが、Mの硬度(Pearsonによって定義される硬度)又はMの半径に対する電荷の比に応じて、以下の3つの配位モードが生じることが、期待される:
【化2】
【0050】
図示されているものは、3つの異なるキレート化配位モードを有する金属Mの単核(ヒドラ)金属錯体である。1,4-C,N配位モード、1,3-C,N配位モード、及び1,2-N,N配位モードが、示されている。配位子(ヒドラ)は、揮発性及び/又は準安定性金属錯体を安定化させるのに役立ち得る。理論に束縛されるものではないが、配位子(ヒドラ)は、揮発性及び/又は準安定性金属錯体を、特に、C∩Nキレート環構成を介して、安定化することができることが、考えられる。増加した安定性は、対応する金属錯体の気相薄膜法への適合性を改善する。増加した安定性は、特に、CVD又はALDプロセスによって基材表面のメタライズに対する対応する金属錯体の適合性を改善する。
【0051】
本発明によれば、金属錯体において、(ヒドラ)は、sp-混成N原子を介してMに対して配位されることが、好ましい。本発明による金属錯体において、そのような配位は、C∩Nキレート環構成に好都合であり得る。C∩Nキレート環構成は、金属錯体を安定化させるのに役立ち得る。
【0052】
本発明によれば、金属錯体において、(ヒドラ)は、sp2-混成N原子を介してMに対して配位されることが、同時に又は代替的に好ましい。本発明による金属錯体において、そのような配位は、代替的なキレート環構成に好都合であり得る。代替的なキレート環構成は、より大きな構造的多様性に、したがって、本発明の金属錯体の物理化学的特性のより大きな変動性に寄与し得る。
【0053】
また、本発明に従って含まれるものは、上記の配位モードに加えて、それらに由来する、二核金属錯体であり、(ヒドラ)の(η-)配位モードを架橋する。例えば、(ヒドラ)は、好ましくは同じ原子番号を有する2つの金属原子Mに、同時に配位し得る。同じ原子番号の2つの金属原子Mの場合、ホモ二核二量体が得られる。そのような二核金属錯体において、2個の金属原子Mは、(ヒドラ)配位子と共に、例えば、八員環を形成することができる。
【0054】
本発明によれば、金属錯体は標準条件下で液体であることが、好ましい。標準条件は、25℃の温度及び1・10Paの絶対圧力である。凝集状態である「液体」は、金属錯体の油性の稠度を含む。標準条件下での金属錯体の流動性は、気相薄膜法に対する金属錯体の適合性を改善することができる。
【0055】
本発明によれば、金属錯体は、100~200℃の範囲、より好ましくは120~180℃の範囲、更に好ましくは140~160℃の範囲の温度で分解することが、好ましい。これらの温度での金属錯体の分解は、気相薄膜法に対する金属錯体の適合性を改善することができる。
【0056】
本発明によれば、本発明による金属錯体の分解の開始は、熱分析により決定されることが、好ましい。熱分析は、好ましくは熱重量分析(thermogravimetric analysis、TGA)である。熱重量分析は、温度及び時間の関数としてサンプルの質量変化を測定する分析方法である。熱重量分析では、サンプルをるつぼ内で加熱する。るつぼのホルダーを、加熱プロセス中の質量変化を記録するスケールに連結する。加熱プロセス中に質量減少が生じる場合、サンプルの崩壊を指すことができる。
【0057】
TGAは、例えば、25℃~800℃の温度範囲において行われる。TGAについての加熱速度は、典型的には10℃/分である。蒸発及び/又は分解によって引き起こされる質量減少は、好ましくは、TGAによって、及び同時示差熱分析(simultaneous differential thermal analysis、SDTA)によって追跡される。SDTAは、吸熱ピーク(例えば、融点、液相からの蒸発、融点未満での昇華)又は発熱ピーク(例えば、発熱分解反応)を使用して、熱流を決定する。質量の損失を伴わない吸熱ピークは、融点に規則的に対応する。質量の損失を伴う吸熱ピークは、通常蒸発に対応する。質量の損失を伴う発熱ピークは、通常分解に対応する。これらのパラメータは、開始値によって実験的に決定することができる。例えば、分析される金属錯体のサンプルの質量が3重量%減少する(3%減少)TGA/SDTAの温度を特定することが、可能である。例えば、3重量%と分析されたサンプルの質量の初期減少後、更なる質量減少が生じるTGA/SDTAの温度(TMA)を特定することが、追加的に可能である。
【0058】
本発明によれば、熱重量分析において、1・10Paでの金属錯体の第1の3重量%の質量減少の温度は、100~200℃の範囲、より好ましくは120~180℃の範囲、更により好ましくは140~160℃の範囲にあることが、好ましい。本発明によれば、TMA=160~200℃の範囲の1・10Paでの熱重量分析における3重量%の第1の質量減少に続いて、金属錯体の更なる質量減少が生じることが、好ましい。
【0059】
本発明はまた、本発明による金属錯体を生成するための方法であって、
(i)アセトンジメチルヒドラゾンをLi有機化合物と反応させて、Li(ヒドラ)を生成する工程と、
(ii)Li(ヒドラ)を、x=0、1、又は2、y=0、1、又は2、n=1又は2である式[ML x1 y1n1を有する化合物と反応させて、式[M(L(L(ヒドラ)の化合物を生成する工程と、を含む、方法に関する。
【0060】
本発明による方法は、穏やかな条件下での単純な合成において、かついくつかの段階を介して、高収率で工業規模で上記の所望の特性を有する本発明による金属錯体を提供することができる。
【0061】
本発明によれば、本発明による方法において、Lは、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、若しくはtert-ブチルのいずれかであるか、又は工程(ii)に続いて、工程(iii)において、H、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、若しくはtert-ブチルに変換されることが、好ましい。これらの場合、配位子Lは、本発明による金属錯体に合成的に容易に導入され得る。これらの場合、配位子Lは、分解時に還元的に(ヒドラ)を脱離するのに有利な傾向を有する金属錯体を提供し得る。
【0062】
本発明はまた、CVDプロセス又はALDプロセスにおいて金属を堆積させるための、本発明による金属錯体の使用に関する。
【0063】
本発明によるこの使用は、金属を薄層の形態で堆積させることを可能にする。ここで、炭素及び他の不純物の取り込みは、最小化又は回避され得る。
【0064】
本発明はまた、本発明による金属錯体が金属から層を生成するための前駆体として使用される方法に関する。
【0065】
本発明によるこの方法によって、金属の層は、薄層の形態で生成され得る。ここで、炭素及び他の不純物の取り込みは、最小化又は回避され得る。
【0066】
本発明はまた、本発明による金属錯体を含む気相から表面上に金属を堆積させることによって得られるメタライズ表面に関する。
【0067】
本発明によれば、このことは、炭素及び他の不純物の取り込みが最小化又は完全に回避されるメタライズ表面を提供することを可能にする。
【0068】
一般的な合成経路
アセトンジメチルヒドラゾン(H-ヒドラ)は、文献において既知である(非特許文献5~7)。H-ヒドラは、アセトンとN,N-ジメチルヒドラジンとの単純な縮合反応によって調製され得る。
【0069】
本発明において、H-ヒドラの調製は、例えば、MgSOを添加して生じるHOを捕捉することによる、等モル量のアセトン及びN,N-ジメチルヒドラジンを反応させることによって行うことができる。例えば、混合物は、還流条件下で7時間加熱され得る。
【化3】
【0070】
H-ヒドラは、非空気感受性で蒸留可能な液体及びCH酸である。本発明において、H-ヒドラは、好ましくは、脱プロトン化された(リチウム化された)配位子Li(ヒドラ)に変換される。H-ヒドラの脱プロトン化は、インサイチュで起こることができる。この目的のために、H-ヒドラは、例えば、最初にTHFに入れられる。次いで、H-ヒドラは、例えば、n-BuLiを用いて脱プロトン化され得る。そのようなインサイチュ反応は、既知である(非特許文献7~9)。
【0071】
本発明によれば、Li(ヒドラ)の調製は、nBuLi溶液の滴下を用いて0℃でのn-ヘキサンにH-ヒドラを最初に入れることによって達成されることが、好ましい。生じた固体は、濾過によって分離され、微小真空中で乾燥され得る。Li(ヒドラ)の異性体混合物は、通常得られる。
【化4】
【0072】
理論に束縛されるものではないが、以下に記載されるN-アミノエナミド形態又はエンヒドラジド(enhydrazide)形態は、異性体のそのような混合物に存在することが、本明細書に従って含まれる。
【化5】
【0073】
本発明によれば、脱プロトン化された(リチウム化された)配位子Li(ヒドラ)は、続いて、本発明によるヒドラ-金属錯体を調製するように機能する。
【0074】
式[(アレーン)RuCl(ヒドラ)]の金属錯体の調製は、例として記載される(アレーン配位子は、好ましくはベンゼン又はパラ-シメンである)。
【0075】
Li(ヒドラ)は、最初に0℃でトルエンに入れられる。化合物[RuCl(アレーン)]が、そこに添加される。処理は、溶媒を微小真空中で除去することによって行われる。残渣は、n-ヘキサン中で回収される。その後、Celite(登録商標)での濾過が、行われる。濾液は、微小真空中で乾燥される。目的化合物は、120℃で微小真空中で昇華することによって残渣から単離される。以下の例示的な反応スキームが、与えられ得る。
【化6】
【0076】
本発明によれば、ルテニウム上のクロリド配位子は、その後、好ましくは置換され得る。置換は、メチル基を導入するために等モル量のMeLiで行われ得る。置換は、ヒドリドリガンドを導入するために0.3当量のLiAlHで行われ得る。いずれの場合も、処理は、以下のように行われ得る:微小真空中の溶媒の除去、n-ヘキサン中の残渣の回収、Celite(登録商標)での濾過、微小真空(FV)中での濾液の乾燥、及び得られた残渣からの再縮合(FV/100℃)による目的化合物の単離。以下の例示的な反応スキームが、与えられ得る。
【化7】
【0077】
以下の錯体基及び錯体は、類似の方法で合成され得る。
[Ru(η-アレーン)R(ヒドラ)]
(式中、アレーン=置換アレーン、R=ヒドリド、メチル、エチル、クロリド)、
[Ru(η-Cp)L(ヒドラ)]
(式中、Cp=置換シクロペンタジエニル)、
=2電子中性配位子、好ましくはCO、CNMe、PH
[Co(ヒドラ)];[InMe(η-ヒドラ)]又は[MeIn(η-ヒドラ)InMe];[GeH(ヒドラ)];[Bi(ヒドラ)
【0078】
(ヒドラ)配位子を用いた、本発明に従って調製可能な金属錯体は、通常準安定性であり、揮発性であり、かつ容易に蒸発可能な錯体である。したがって、それらは、CVD及びALDなどの気相薄膜法における前駆体として特に好適である。本明細書の例として与えられる好ましい合成経路は、大規模で分析的に純粋な様式で単離され得る安価で容易にアクセス可能な金属錯体を提供する。
【0079】
本発明による錯体の用途
本発明による金属錯体は、金属又は金属層のための前駆体として使用される。それらは、特に、CVD及びALDなどの気相薄膜法によって金属からの薄層の生成において使用され得る。
【0080】
気相薄膜法は、基材の表面で、又はその付近で一般的に起こる気相反応を含む。反応に関与する反応物質又は前駆体は、コーティングされる基材に気体の形態で供給される。基材は、反応チャンバ内に配置され、加熱される。大部分が予熱された気体は、加熱された基材によって熱的に活性化され、互いに、又は基材と反応する。気体中に含まれる前駆体は、加熱された基材によって熱分解される。これにより、所望の材料が堆積され、化学的に結合される。所望の材料の化学吸着は、本発明において、範囲a)30を除く、21~33、b)48を除く、39~51、かつc)80を除く、71~83から選択される原子番号を有する金属について生じる。
【0081】
原子層堆積とも呼ばれるALDプロセスは、改変されたCVDプロセスである。ALDプロセスでは、表面における反応又は吸着は、表面の完全な占有後に停止する。この自己制限反応は、工程間のすすぎ工程によって制限されるいくつかのサイクルで実施される。このようにして、非常に正確な層厚が達成される。
【0082】
上述のように、本発明による金属錯体は、労力をほとんど必要としない技術的合成によって調製することができる。単純な技術的合成は、蒸着プロセスにおける本発明による金属錯体の工業用途において重要な利点である。CVD及び/又はALDプロセスに対する本発明による金属錯体の特定の適合性についての別の重要な理由は、本発明による金属錯体が、室温で部分的に液体である揮発性化合物であることである。加えて、それらは、対応する元素金属にうまく分解され得る。したがって、そのような元素金属の堆積に関して、それらは、対応する金属のための既知の前駆体に対する有利な代替物に相当する。
【実施例
【0083】
例示的な実施形態
以下の実施例中、
・H-ヒドラは、アセトンジメチルヒドラゾンを意味する
・ヒドラは、アセトンジメチルヒドラゾンアニオンを意味する
・p-シメンは、4-イソプロピルトルエンを意味する
【0084】
実施例1- H-ヒドラの調製
【化8】
最初に、MgSO(15.0g)をアセトン(50mL、exc.)に入れ、N,N-ジメチルヒドラジン(16.4g/20.6mL、272mmol、1.0当量)を撹拌しながら懸濁液に添加した。混合物を、還流条件下で7時間加熱し、次いで、折り畳まれたフィルタによって濾過した。アセトン(15mL)での固体の抽出後、濾液を真空中で溶媒から遊離させ、アセトンジメチルヒドラゾンを無色液体として得た(14.8g、147mmol、54%)。
【0085】
H-NMR CDCl,300.2MHz:δ/ppm=2.39(s,6 H,NMe),1.93(s,3 H,Me),1.88(s,3 H,Me)。
H-NMR C,300.2MHz:δ/ppm=2.39(s,6 H,NMe),1.70(s,3 H,Me),1.70(s,3 H,Me)。
13C-NMR C,75.5MHz:δ/ppm=163.5(C),47.2(NMe),24.9(Me),17.6(Me)。
HR-EI(+)-MS [M+H]に対する計算値=101.1073m/z、実測値:101.1071m/z。
【0086】
実施例2-Li(ヒドラ)の調製
【化9】
n-ヘキサン(100mL)をアセトンジメチルヒドラゾン(14.8g、147mmol、1.0当量)に添加し、混合物を0℃まで冷却した。nBuLi溶液(n-ヘキサン中2.43M、60.5mL、147mmol、1.0当量)を、滴下漏斗を介して2時間にわたって添加し、無色固体の沈殿が、観察された。混合物は、一晩撹拌され、室温まで温められることができた。生じた固体を、濾過によって分離し、n-ヘキサン(30mL)で洗浄し、最後に真空中で乾燥させた。Li(ヒドラ)は、無色固体として得られることができた。
【0087】
H-NMR (THF-d,300.2MHz):δ/ppm=1.98(s,6 H,NMe),1.56(s,2.5 H,CH2.5),1.48(s,2.5 H,CH2.5)。
H-NMR (トルエン-d,300.2MHz):δ/ppm=2.37(s,6 H,NMe),1.70(s,5 H,CH+CH)。
13C-NMR (THF-d,75.5MHz):δ/ppm=163.6(C),47.2(NMe),17.5(Me)。
Li-NMR (THF-d,116.7MHz):δ/ppm=1.37(s),0.53(s)。
元素分析 C11Li(106.10g/mol)
計算値: C:56.60%,H:10.45%,N:26.40%
実測値: C:54.29%,H:9.41%,N:24.21%。
【0088】
実施例3-[RuCl(p-シメン)(ヒドラ)]の調製
【化10】
最初に、Li(ヒドラ)(200mg、0.94mmol、2.0当量)を、0℃でトルエン(25mL)に入れ、次いで、[RuCl(p-シメン)](289mg、0.47mmol、1.0当量)を、添加した。混合物を16時間撹拌し、室温まで到達させ、深赤色を帯びるようにした。次いで、反応溶液をCelite(登録商標)を通して濾過し、濾過ケーキを更なる量のトルエン(10mL)で抽出し、得られた濾液を微小真空で全ての揮発性成分から除去した。最後に、昇華(FV/120℃)によって、暗赤色の固体(20.1mg、56.4μmol、12%)として残渣から[RuCl(p-シメン)(ヒドラ)]を単離することが、可能であった。
【0089】
H-NMR (C,300.2MHz):4.74(d,HH=5.6Hz,1 H,H-5),4.45(d,HH=5.8Hz,1 H,H-6),4.18(d,HH=5.6Hz,1 H,H-9),3.91(d,HH=5.8Hz,1 H,H-8),3.46(d,HH=15.6Hz,2 H,H-3),3.28(s,3 H,H-13),3.20(d,HH=15.6Hz,1 H,H-3),2.73(sept,1 H,H-10),2.24(s,3 H,NMe),2.01(s,3 H,H-1),1.71(s,3 H,NMe),1.16(d,HH=6.9Hz,3 H,H-11/12),1.07(d,HH=7.1Hz,3 H,H-11/12)。
13C-NMR (C,75.5MHz):δ/ppm=181.5(C-2),108.5(C-4),93.0(C-7),82.5(C-6/8),81.3(C-5/9),80.8(C-6/8),79.7(C-5/9),59.3(NMe),56.1(NMe),37.8(C-3),31.2(C-10),23.3(C-11/12),22.0(C-11/12),21.4(C-1),17.9(C-13)。
HR-EI(+)-MS [M]に対する計算値=370.0750m/z、実測値:370.0881m/z。
元素分析 C1525ClRu(369.90g/mol)
計算値: C:48.71%,H:6.81%,N:7.57%
実測値: C:49.50%,H:6.80%,N:8.67%。
TGA (T=25℃、T=800℃、10℃/分、m=5.05mg)段階:2、T=156.1℃(3%減少)、TMA=184.0℃(第1のプロセス)、TMA=262.0(第2のプロセス)、総質量減少3.73mg(73.8%)。
SDTA (T=25℃、T=800℃、10℃/分、m=5.05mg)T(開始)=88.4℃、T(最大)=98.4℃(吸熱)、TD1(開始)=163.2℃、TD1(最大)=180.3℃(発熱)、TD2(開始)=252.3℃、TD2(最大)=263.0℃(発熱)。
【0090】
実施例4-[RuMe(p-シメン)(ヒドラ)]の調製
【化11】
最初に、Li(ヒドラ)(200mg、0.94mmol、2.0当量)を、0℃でトルエン(25mL)に入れ、次いで、[RuCl(p-シメン)](289mg、0.47mmol、1.0当量)を、添加した。混合物を16時間撹拌し、室温まで到達させ、深赤色を帯びるようにした。MeLi(0.94mmol、2.0当量)を、0℃でインサイチュで添加した。16時間の反応時間の後、その間に混合物を室温まで到達させ、全ての揮発性成分を、微小真空中で除去した。得られた残渣を、n-ヘキサン(10mL)中で回収し、Celite(登録商標)を通して濾過し、濾過ケーキを更なる量のn-ヘキサン(10mL)で抽出した。濾液を小細真空中で乾燥させた後、黄色油として残渣から110℃での微小真空中で[RuMe(p-シメン)(ヒドラ)]を沈殿させることが、可能であった。
【0091】
H-NMR (C,300.2MHz):4.27-4.21(m,3 H,H-5,H-9,H-8),4.05(d,HH=5.5Hz,H-6),3.34(d,HH=16.5Hz,H-3),2.66(s,3 H,NMe),2.49(sept,1 H,H-10),2.48(s,3 H,NMe),2.11(d,HH=16.7Hz,H-3),2.06(s,3 H,H-1),1.89(s,3 H,H-13),1.12(d,HH=6.8Hz,H-11,H-12),0.46(s,3 H,RuMe)。
HR-EI(+)-MS [M]に対する計算値=370.0750m/z,実測値:370.0881m/z。
TGA (T=25℃、T=600℃、10℃/分、m=9.70mg)段階:1、T=146.1℃(3%減少)、TMA=179.8℃、総質量減少:6.12mg(63.0%)。
SDTA (T=25℃、T=600℃、10℃/分、m=9.70mg)T(開始)=161.9℃、T(最大)=178.2℃(発熱)。
【0092】
実施例5-[InMe(ヒドラ)]の調製
【化12】
Li(ヒドラ)(300mg、2.83mmol、1.0当量)及びInMeCl(510mg、2.83mmol、1.0当量)を、共に提供し、0℃まで冷却し、次いで、冷EtO(0℃、15mL)を添加した。混合物を、0℃で5時間撹拌し、次いで、16時間にわたって室温まで温めた。懸濁液をCelite(登録商標)を通して濾過し、濾過ケーキを更なる量のEtO(10mL)で抽出した。濾液を微小真空中で溶媒から除去し、残りの黄色油を数回凍結乾燥した。次いで、粘稠な油を、120℃での微小真空中で再凝縮させた。この場合も、粘稠な油を単離することができ、そこから二核標的化合物の無色結晶が結晶化した。
【0093】
H-NMR (C,300.2MHz):2.13(s,6 H,NMe),1.92(s,3 H,CH),1.28(s,2 H,CH),-0.11(s,6 H,InMe)。
HR-EI(+)-MS [InMeに対する計算値:m/z=144.9508,
実測値:m/z=144.9536。
[C14≡ヒドラ]に対する計算値:m/z=114.1157,
実測値:m/z=114.9082。
[CN≡NMeに対する計算値:m/z=44.0500、実測値:m/z=43.9963。
【0094】
単結晶X線構造分析は、それが架橋C、N配位モードを有するホモ二核インジウム錯体であると判定することができた。その構造によれば、本実施例の錯体はまた、以下の式:[MeIn(η-ヒドラ)InMe]で表され得る。
【国際調査報告】