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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220516BHJP
   F16H 57/029 20120101ALI20220516BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20220516BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/029
F16H57/04 Q
F16H57/04 L
F16H57/04 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560119
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 EP2020057834
(87)【国際公開番号】W WO2020207765
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】102019205338.6
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】オリバー ロクテ
(72)【発明者】
【氏名】アルフレッド キンツレ
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA22
3J027FA23
3J027GC06
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD08
3J027GD12
3J027GD13
3J027GE01
3J027GE05
3J027GE11
3J027GE14
3J027GE27
3J063AC01
3J063BB01
3J063BB11
3J063CA01
3J063CB01
3J063CB06
3J063CD02
3J063CD41
3J063XD02
3J063XD17
3J063XD32
3J063XD42
3J063XD48
3J063XD62
3J063XD72
3J063XE14
3J063XF01
(57)【要約】
【課題】本発明は、波動歯車装置に関する。
【解決手段】波動歯車装置(1)は、駆動部分(3)と、外歯(5)を備える弾性変形可能な伝達部分(4)と、内歯(7)を備えるギア部分(6)と、を備える。外歯(5)は、外歯(5)が内歯(7)と噛合可能であるように、駆動部分(3)によって変形される。伝達部分(4)およびギア部分(6)は、主軸受(8)によって互いに対して回転可能に支承されている。内歯(7)および外歯(5)は、等しくない数の歯を備え、そのため伝達部分(4)およびギア部分(6)は、駆動部分(3)の回転運動によって互いに対して回転可能である。伝達部分(4)および主軸受(8)は、少なくとも部分的に内部空間(12)を包囲する。伝達部分(4)は、内部空間(12)に開口する少なくとも1つの貫通開口(13、26)を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部分(3)と、外歯(5)を備える弾性変形可能な伝達部分(4)と、内歯(7)を備えるギア部分(6)と、を備える波動歯車装置(1)であって、
前記外歯(5)は、前記外歯(5)が前記内歯(7)と噛合可能であるように、前記駆動部分(3)によって変形され、
前記伝達部分(4)および前記ギア部分(6)は、主軸受(8)によって互いに対して回転可能に支承され、
前記内歯(7)および前記外歯(5)は、等しくない数の歯を備え、そのため前記伝達部分(4)および前記ギア部分(6)は、前記駆動部分(3)の回転運動によって互いに対して回転可能であり、
前記伝達部分(4)および前記主軸受(8)は、少なくとも部分的に内部空間(12)を包囲する波動歯車装置(1)において、
前記伝達部分(4)は、前記内部空間(12)に開口する少なくとも1つの貫通開口(13、26)を備えることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の波動歯車装置(1)であって、前記伝達部分(4)は、スリーブ部分(14)と、径方向に延在するフランジ部分(15)と、を備え、前記少なくとも1つの貫通開口(13)は、前記スリーブ部分(14)に配置されていることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の波動歯車装置(1)であって、前記伝達部分(4)は、スリーブ部分(14)と、径方向に延在するフランジ部分(15)と、を備え、前記少なくとも1つの貫通開口(26)は、前記フランジ部分(15)に配置されていることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の波動歯車装置であって、複数の貫通開口(13、26)は、前記伝達部分(4)の円周にわたって均等に分布して配置されていることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の波動歯車装置(1)であって、前記内部空間(12)に隣接する構成部分は、潤滑剤の流れを前記少なくとも1つの貫通開口(13、26)の方向に向ける輪郭(16)を備えることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項6】
請求項5に記載の波動歯車装置(1)であって、前記主軸受(8)の軸受内輪(11)は突起(17)を備え、前記突起(17)は、潤滑剤の流れを前記少なくとも1つの貫通開口(13、26)の方向に向けることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の波動歯車装置(1)であって、潤滑剤偏向要素(18)は前記内部空間(12)に配置され、前記潤滑剤偏向要素(18)が潤滑剤の流れを前記貫通開口(13、26)の方向に向けることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の波動歯車装置(1)であって、前記主軸受(8)の軸受隙間(19)は、少なくとも1つのインナーシールによって前記内部空間(12)からシールされていることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項9】
請求項2~8の何れか一項に記載の波動歯車装置(1)であって、潤滑剤リザーバ(20)は、前記スリーブ部分(14)の内側に配置されていることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の波動歯車装置(1)であって、前記内歯、前記外歯(5)、前記少なくとも1つの貫通開口(13)、および潤滑剤リザーバ(20)は、作動中に潤滑回路が生じるように配置され、前記潤滑回路では、潤滑剤は、前記内歯(7)と前記外歯(5)との間の屈曲運動によって、前記潤滑剤リザーバ(20)から、前記内歯(7)および前記外歯(5)、前記内部空間(12)ならびに前記少なくとも1つの貫通開口(13、26)を通って、前記潤滑剤リザーバ(20)に戻るよう搬送されることを特徴とする、波動歯車装置(1)。
【請求項11】
少なくとも1つの貫通開口(13、26)を備える伝達部分(4)であって、前記伝達部分(4)は、請求項1~10の何れか一項に記載の波動歯車装置(1)において使用するのに適している、伝達部分(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2018/157910A1号からは、実質的に3つの構成部分からなる波動歯車装置が既知である。第1構成部分は、楕円形の駆動部分である。これは、ウェーブジェネレータとも称される。第2構成部分は、フレクスプラインとも称される、可撓性で外歯が形成された伝達部分である。第3構成部分は、サーキュラスプラインとも称される、円形リング状の内歯を備えるギア部分である。楕円形の駆動部分は、可撓性の伝達部分を楕円形に変形させる。その結果、伝達部分の外歯は、ギア部分の内歯と、対向する領域で噛合する。駆動部分を回転させることによって、楕円長軸と、外歯と内歯との間の噛合領域とが移動する。ギア部分の内歯は、可撓性の伝達部分の外歯よりも歯が少ない。これによって、駆動部分を駆動する際に、駆動部分と可撓性の伝達部分との間に、高い伝達比を有する相対運動が生じる。伝達部分は、出力として機能し、例えば出力軸と相対回転不能に接続されている。駆動部分および伝達部分は、回転軸受によって互いに対して回転可能に取り付けられていれる。このような波動歯車装置は、例えば、産業用ロボットにおいて使用される。波動歯車装置は、産業用ロボットの個々の部分を動かすために、電気駆動装置によって駆動される。
【0003】
波動歯車装置には、生涯潤滑を目的とした量の潤滑剤が供給される。この量の潤滑剤は、特に、歯部と、上述の回転軸受を潤滑することを意図している。波動歯車装置の回転軸受に隣接する空間を、回転軸受の軸受隙間に対してシールするインナーシールが設けられている。このようにして、回転軸受は有害物質の侵入から保護されるべきであり、また回転軸受を通る漏れが防止されるべきである。漏れは、周囲の汚染に加えて、作動するフレクスプラインを乾燥させ、構成部分にダメージをもたらす可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/157910A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、特に、信頼性のある潤滑剤供給および可及的に長い耐用年数にわたる波動歯車装置の機能に関して、冒頭で述べたタイプの波動歯車装置を、さらに改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する波動歯車装置によって解決される。好適な実施形態は、従属請求項に示されている。
【0007】
駆動部分と、外歯を備える弾性変形可能な伝達部分と、内歯を備えるギア部分と、を備える波動歯車装置が提案される。ギア部分は、剛性部分として構成することが可能であり、また内周に内歯を備えることができる。内歯は、好適には、円形リングの形状に構成されている。駆動部分は、特に、駆動装置として電気機械と接続することができるように設計されている。
【0008】
弾性変形可能な伝達部分は、フレクスプラインと称されることが多く、通常、いわゆるハット形状またはいわゆるポット形状のいずれかで構成されている。両方の形状において、前述の外歯は、伝達部分の円筒形のスリーブ部分に配置することができる。円筒形のスリーブ部分は、弾性変形の少なくとも大部分を吸収する。外歯は、外歯が内歯と部分的に噛合可能であるように、または外歯が内歯と噛合するように、駆動部分によって変形される。伝達部分は、少なくとも外歯の領域で、通常は楕円形に変形される。2つの対向する噛合領域が、内歯と外歯との間に生じる。この噛合領域は、楕円形の主軸上にある。したがって、伝達部分の外歯は、内歯の円周における2点、すなわち噛合領域において、剛性のギア部分の内歯と噛合する。
【0009】
伝達部分およびギア部分は、主軸受によって互いに対して回転可能に支承されている。主軸受は、有利には、転がり軸受として、例えば、ころ軸受として構成することができる。
【0010】
内歯および外歯は、等しくない数の歯を備える。その結果、伝達部分およびギア部分は、駆動部分の回転運動によって互いに対して回転される。駆動部分は、駆動モータ、特に電気モータと接続可能である。駆動モータは、作動中に駆動部分を回転運動させる。
【0011】
内歯と外歯の数は、わずかな差だけ、典型的には2歯だけ異なる。これによって、入力と出力の間に高い伝達比が生じる。
【0012】
伝達部分および主軸受は、少なくとも部分的に内部空間を包囲する。換言すると、伝達部分と主軸受は、それらの間に内部空間を形成するように、互いに対して配置されている。
【0013】
冒頭に述べた課題を達成するために、伝達部分は、内部空間に開口する少なくとも1つの貫通開口を備える。すなわち、この1つの貫通開口、または複数の貫通開口を使用して、内部空間は、伝達部分の他方の側にある別の空間と接続されている。
【0014】
少なくとも1つの貫通開口によって、潤滑剤が内部空間から伝達部分を通って通過することが可能である。これによって、潤滑剤が内部空間に溜まることが防止される、または内部空間に圧力が構築されることさえも防止される。潤滑剤が波動歯車装置の内部空間へ流れる原因は、作動中に内歯と外歯との間で生じる屈曲運動にある。屈曲運動は、潤滑剤に特定のポンピング効果を及ぼす。これによって、潤滑剤は、内部空間に効果的にポンプ状に送り込まれる。本発明による貫通開口を通って、潤滑剤は、別の箇所で再び内部空間から出ることができる。
【0015】
少なくとも1つの貫通開口は、さらに、内部空間に溜まった潤滑剤が、さらに主軸受まで搬送されることを防止する。主軸受には、特別に主軸受に適した異なる潤滑剤が供給される場合が多い。異なる潤滑剤が混合されると、主軸受における潤滑効果が失われ、その結果、主軸受が故障する可能性がある。
【0016】
最後に、貫通開口を使用することによって、溜まった潤滑剤が波動歯車装置から漏れ、周囲の汚染のような不所望な結果を招くことを防止することができる。例えば、この種の従来の波動歯車装置は、主軸受の軸受外輪と軸受内輪との間にシールリングを備え、このシールリングによって、潤滑剤が周囲へ漏れないようにしていることが多い。実際には、前述のシールリングによっても、この位置での潤滑剤の漏れが完全には防止できないことが分かっている。しかしながら、本発明を用いれば、それが可能である。なぜなら、少なくとも、主軸受およびシールリングを通って周囲にまで到達するほど多量の潤滑剤は、内部空間に溜まることができないためである。
【0017】
弾性変形可能な伝達部分は、特に、その基本形状が回転対称であるように構成することができる。取り付けられた状態において、駆動部分による上述の変形によって、回転対称が打ち消される。伝達部分は、好適には、スリーブ部分と、径方向に延在するフランジ部分と、を備える。スリーブ部分は、少なくとも略円筒形に形成されている。しかしながら、スリーブ部分は、駆動部分による弾性変形のために、波動歯車装置が組み立てられた状態で、少なくとも外歯の領域で楕円形を呈する。フランジ部分は、主に、伝達部分を別の構成部分、例えば出力軸と接続するために使用される。フランジ部分は、その径方向の延長部によって、実質的に円盤状に構成されている。この目的のために、フランジ部分の一部は、機械加工された接触面を備えることができる。この接触面を介して、フランジ部分を、例えば、主軸受の軸受外輪に取り付けることができる。
【0018】
一実施形態によれば、少なくとも1つの貫通開口は、スリーブ部分に配置されている。これに対して代替的に、少なくとも1つの貫通開口をフランジ部分に配置することもできる。本発明は、また、貫通開口が、スリーブ部分およびフランジ部分に配置されている実施形態を含む。貫通開口の特定の配置、サイズ、形状および数によって、波動歯車装置における潤滑剤の分布および流れに、目標通りに影響を及ぼすことができる。
【0019】
少なくとも1つの貫通開口をスリーブ部分に配置することは、潤滑剤リザーバがスリーブ部分の内側に設けられる場合に特に有利である。この実施形態では、潤滑剤リザーバから内歯および外歯を通って導かれる潤滑剤を、最短経路で、潤滑剤リザーバに戻すことができる。
【0020】
潤滑剤の分配および潤滑剤の流れを改善するために、好適には、複数の貫通開口が伝達部分の円周にわたって分布して配置されている。例えば、12個の貫通開口を、伝達部の円周にわたって、それぞれ30度の角度間隔で配置することができる。貫通開口は、好適には、単純な円形の穴によって構成される。しかしながら、他の形状、例えば長穴も考慮可能である。
【0021】
潤滑剤の流れをさらに最適化するために、内部空間に隣接する構成部分は、潤滑剤の流れを少なくとも1つの貫通開口の方向に向ける輪郭を備えることができる。例えば、このために、主軸受の軸受内輪は突起を備えることができる。突起は、潤滑剤の流れを少なくとも1つの貫通開口の方向に向け、したがって少なくとも1つの貫通開口を通る潤滑剤の流れをサポートする。この目的のために、突起は、内部空間に突出することができる。
【0022】
一実施形態では、主軸受は、相対回転不能に伝達部分と接続されている軸受外輪と、相対回転不能にギア部分と接続されている軸受内輪と、を備えることができる。軸受外輪は、例えば、伝達部分のフランジ部分にねじ止めすることができる。軸受内輪は、例えば、内歯を備えるギア部分にねじ止めされる、またはそれと一体で製造することができる。最初に述べた選択肢では、この位置で内部空間を確実にシールするために、軸受内輪とギア部分との間にシールを、例えば紙製のシールリングを配置することができる。別の実施形態では、軸受内輪も、相対回転不能に伝達部分と接続することができる。一方、軸受外輪は、相対回転不能にギア部分と接続されている。
【0023】
有利には、外歯および内歯の歯列領域から軸受隙間へ至る潤滑剤の可能性のある経路を突起がブロックするように、または潤滑剤が少なくとも1つの貫通開口を通って導かれるよう突起が少なくとも狭めるように、突起を軸受内輪に配置することができる。特に、突起を、軸受内輪において、少なくとも1つの貫通開口に少なくともほぼ対向して配置することができる。この場合、突起は、潤滑剤が1つ以上の貫通開口を通って内部空間から流出するように、内部空間に突出することができる。これは、この経路上の流れの抵抗が、潤滑剤が軸受隙間の方向にさらに流れる場合よりも小さいためである。軸受隙間とは、例えば、転がり軸受として構成された主軸受の転動体が配置されている領域である。滑り軸受の場合、軸受隙間は、それぞれの滑り軸受面または接触面によって画定される。
【0024】
別の実施形態によれば、貫通開口を通る潤滑剤の流れは、潤滑剤偏向要素が内部空間に配置され、潤滑剤偏向要素が潤滑剤の流れを貫通開口の方向に向けることによって改善することができる。上述の突起とは対照的に、潤滑剤偏向要素は、別個の構成部分である。潤滑剤偏向要素は、例えば、円盤状とすることができる。円盤状の潤滑剤偏向要素は、その外周部分で、伝達部分のフランジ部分と軸受外輪との間にクランプされている。円盤状の潤滑剤偏向要素は、軸受内輪に当接することができる。そのため、潤滑剤は、円盤状の潤滑剤偏向要素によって、同様にフランジ部分に配置されている少なくとも1つの貫通開口の方向に向けられる。
【0025】
内部空間から主軸受の軸受隙間への潤滑剤の流れを完全かつ確実に防止するために、主軸受の軸受隙間を追加のインナーシールによって内部空間からシールすることができる。このようなインナーシールは、標準的な転がり軸受をシールするためにも使用されるような、例えば、いわゆるZディスクの形状で構成することができる。このようなインナーシールは、軸受外輪と軸受内輪との間の軸受隙間を、内部空間に対して完全にシールすることができる。このようにして、潤滑剤が内部空間から軸受隙間に到達しないことが保証される。その代わりに、内歯と外歯との間の屈曲運動によって発生する潤滑剤の流れ全体が、少なくとも1つの貫通開口を通って導かれる。
【0026】
潤滑剤リザーバは、好適には、スリーブ部分の内側に、すなわち、伝達部分の内径の領域に配置されている。潤滑剤リザーバは、軸方向に駆動軸受まで、または駆動軸受を通って延在できる。駆動軸受は、駆動部分の楕円形に形成された外周に配置され、好適には転がり軸受としても構成されている。駆動軸受の外輪は、伝達部分の内周に当接し、伝達部分の外歯がギア部分の内歯に押し付けられるように、伝達部分を変形させる。これによって、駆動軸受は、楕円形の変形を、駆動部分から弾性変形可能な伝達部分に伝達する。このために、駆動軸受は、少なくとも部分的に弾性変形可能であるように構成することができる。
【0027】
潤滑剤リザーバ、内歯、外歯、および少なくとも1つの貫通開口を適切に配置することによって、波動歯車装置において潤滑回路が発生する。内歯と外歯との間の屈曲運動に起因して、潤滑剤は、潤滑剤リザーバから、駆動軸受、内歯および外歯、内部空間ならびに少なくとも1つの貫通開口を通って、潤滑剤リザーバに戻るように搬送される。このようにして、駆動軸受、ならびに外歯および内歯の歯列領域への潤滑剤の、長期的で、かつ信頼性のある供給が保証される。波動歯車装置のこの領域における潤滑剤の不足は、もはや発生し得ない。これによって、駆動軸受23および歯列領域21への潤滑剤の継続的な供給が保証され、波動歯車装置の耐用年数が伸び、周囲への潤滑剤の漏れが防止される。
【0028】
最後に、本発明は、少なくとも1つの貫通開口を備える伝達部分であって、上述の波動歯車装置において使用するのに適している伝達部分を含む。
【0029】
以下で、添付の図面を参照して、本発明を例示的に詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明による波動歯車装置の第1実施形態の断面図である。
図2図1の波動歯車装置の伝達部分の図である。
図3】本発明による波動歯車装置の第2実施形態の断面図である。
図4図3の波動歯車装置の伝達部分の図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に示す第1実施形態において、波動歯車装置1の半分のみが示されている。波動歯車装置1は、回転軸2に対して実質的に回転対称に構成されている。本明細書で使用される径方向、軸方向および周方向の方向に関する記載は、特に明記されていない限り、回転軸2を参照する。波動歯車装置1の必須の構成部分は、駆動部分3、外歯5を備える弾性変形可能な伝達部分4、内歯7を備えるギア部分6、である。
【0032】
弾性変形可能な伝達部分4の外歯5は、外歯5が2つの対向する噛合領域で剛性のギア部分6の内歯7と噛合するように、駆動部分3によって楕円形に変形される。図1の断面図では、波動歯車装置1は、前述の楕円形の主軸に沿って切断されている。そのため、断面において、噛合領域が、内歯7および外歯5によって構成される歯列領域21において視認できる。駆動部分3の外周に配置された駆動軸受23は、駆動部分3に含まれている。駆動軸受23は転がり軸受として、この場合には玉軸受として構成されている。駆動軸受外輪24は、駆動部分3が回転すると楕円形に変形される。これによって、径方向外側に隣接する伝達部分4の内歯7も同様に楕円形に変形される。
【0033】
伝達部分4およびギア部分6は、主軸受8によって互いに対して回転可能に支承されている。主軸受8は、転がり軸受として、より正確には円筒形の転動体9を備える交差ころ軸受として構成されている。主軸受8は、さらに、軸受外輪10および軸受内輪11を備える。例示的な実施形態において、軸受外輪10は伝達部分4に固定されている。そのため、2つの構成部分は、互いに対して相対回転不能に配置されている。軸受内輪11は、相対回転不能にギア部分6に固定されている。軸受内輪11とギア部分6との間には、シールリングが配置されている。これによって、内部空間12は確実にシールされている。このようなシールリングは、好適には、Оリングとして構成することができる。Оリングは、例えば、このためにギア部分6に設けられた溝に配置されている。
【0034】
伝達部分4および主軸受8は、内部空間12を包囲する。したがって、内部空間12は、伝達部分4と主軸受8との間に配置されている。内部空間12は、歯列領域21から始まって、まず軸方向に伝達部分4の円筒形のスリーブ部分14の端部まで延在し、そこから径方向外側に主軸受8の軸受隙間19まで延びている。
【0035】
伝達部分4は、スリーブ部分14と、径方向に延在するフランジ部分15と、を備える。スリーブ部分14は、円筒状の基本形状を有する。スリーブ部分14には、内部空間12に開口する複数の貫通開口13が配置されている。したがって、貫通開口13は、内部空間12をスリーブ部分14の内側の空間と接続する。スリーブ部分14の内側のこの領域に、潤滑剤リザーバ20が設けられている。
【0036】
フランジ部分15は、スリーブ部分14の一端に接続し、径方向外側に延在する。弾性変形可能な伝達部分4のこの形状は、帽子形状とも称される。フランジ部分15は、その径方向外側領域において補強されている。これによって、軸受外輪10へ取り付けるための取り付けフランジとなっている。取り付けフランジと軸受外輪10との間の接触領域をシールするために、シールリング22が設けられている。Oリングの形状のシールリング22は、軸受外輪10の溝に配置されている。
【0037】
図示の配置によって、波動歯車装置1の作動中に潤滑回路が生じる。この潤滑回路では、潤滑剤は、内歯7と外歯5との間の屈曲運動によって、潤滑剤リザーバ20から、駆動軸受23、内歯7および外歯5を通り、内部空間12ならびに少なくとも1つの貫通開口13を通って、潤滑剤リザーバ20に戻るよう搬送される。
【0038】
軸受隙間19は、ラジアルシャフトシールリング25によって周囲に対してシールされている。このために、ラジアルシャフトシールリング25は、軸受外輪10と軸受内輪11との間で、軸受隙間19の内部空間12と反対側に配置されている。
【0039】
図2において、図1の第1実施形態の伝達部分4が斜視図で示されている。ここでは、複数の貫通開口13が、伝達部分4において、スリーブ部分14の円周に均等に分布して配置されていることを視認できる。
【0040】
図3は、波動歯車装置1の第2実施形態を断面図で示す。同様に、実質的に回転対称な波動歯車装置1の半分のみが示されている。第2実施形態は、複数の構成部分のみが、第1実施形態と異なる。したがって、図1および図3と同一の構成部分には同一の符号を付している。特に、第2実施形態の異なる特徴について、以下でより詳細に説明する。
【0041】
貫通開口26は、第2実施形態では、径方向に延在するフランジ部分15に配置されている。これによって、歯列領域21から内部空間12に搬送される潤滑剤は、内部空間12を軸方向に通過した後、貫通開口26を通って内部空間12を出ることができる前に、径方向外側に導かれる。
【0042】
さらに、第2実施形態において、潤滑剤の流れを貫通開口26の方向に向ける潤滑剤偏向要素18が、内部空間12に配置されている。潤滑剤偏向要素18は、偏向ディスクとして構成されている。偏向ディスクは、その外周部分で、伝達部分4のフランジ部分15と軸受外輪10との間にクランプされている。径方向内側では、円盤状の潤滑剤偏向要素18は、軸受内輪11に当接している。このようにして、潤滑剤は、潤滑剤偏向要素18によって貫通開口26の方向に向けられ、貫通開口26を通って押し出される。したがって、内部空間12には、軸受隙間19を通って押し出される程度にまで潤滑剤が溜まることがない。このようにして、例えば、駆動軸受23と主軸受8とにおいて異なる潤滑剤の分離を達成し、維持することができる。
【0043】
最後に、図4は、図3の第2実施形態の伝達部分4を斜視図で示す。ここでは、12個の貫通開口26が、伝達部分4において、フランジ部分15の円周に均等に分布して配置されていることを視認できる。レッジ部27によって、貫通開口26から流出する潤滑剤が、スリーブ部分14の内側の潤滑剤リザーバ20へと径方向内側に戻って流れることができる空間が生じる。
【符号の説明】
【0044】
1 波動歯車装置
2 回転軸
3 駆動部分
4 伝達部分
5 外歯
6 ギア部分
7 内歯
8 主軸受
9 転動体
10 軸受外輪
11 軸受内輪
12 内部空間
13 貫通開口
14 スリーブ部分
15 フランジ部分
16 輪郭
17 突起
18 潤滑剤偏向要素
19 軸受隙間
20 潤滑剤リザーバ
21 噛合領域
22 シールリング
23 駆動軸受
24 駆動軸受外輪
25 シャフトシールリング
26 貫通開口
27 レッジ部
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】