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特表2022-526210がんの処置のための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-24
(54)【発明の名称】がんの処置のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/19 20060101AFI20220517BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/231 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/185 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/138 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20220517BHJP
   C07K 14/535 20060101ALN20220517BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20220517BHJP
【FI】
A61K38/19
A61P43/00 121
A61P35/00 ZNA
A61K45/00
A61K31/23
A61K31/231
A61K31/185
A61K31/138
A61K31/675
A61K31/704
A61K31/7068
A61K31/7048
A61K33/243
C07K14/535
C12N5/09
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541567
(86)(22)【出願日】2019-01-16
(85)【翻訳文提出日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 IB2019000062
(87)【国際公開番号】W WO2020148562
(87)【国際公開日】2020-07-23
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516343099
【氏名又は名称】エンジーケム ライフサイエンシーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】ENZYCHEM LIFESCIENCES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ソン,キ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ ファ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ソン ヨン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB06
4B065BB19
4B065BB25
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC07
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA22
4C084BA44
4C084CA18
4C084DA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA38
4C086EA10
4C086EA11
4C086EA17
4C086HA12
4C086HA24
4C086HA26
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB06
4C206DB07
4C206DB48
4C206FA23
4C206JA52
4C206KA01
4C206KA12
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB26
4C206ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA55
4H045CA40
4H045DA10
4H045EA20
(57)【要約】
一態様では、固形腫瘍などの新生物を処置するための方法および組成物が提供され、該方法および組成物は、a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物;およびb)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)などのモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんに罹患している対象を処置するための方法であって、
前記対象に、
a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物、および
b)式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物:
【化1】
式中、R1およびR2は、独立して、14~20個の炭素原子を含む脂肪酸基である、
を投与することを含む、方法。
【請求項2】
固形腫瘍を有する対象において腫瘍体積を減少させる方法であって、
腫瘍を有する対象に、有効量の式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物:
【化2】
式中、R1およびR2は、独立して、14~20個の炭素原子を含む脂肪酸基である、
を投与することを含み、
前記腫瘍の体積が減少される、方法。
【請求項3】
前記モノアセチルジアシルグリセロール化合物が式IIの化合物:
【化3】
である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象が、G-CSF化合物で、但し式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物なしで以前に処置されたことがある、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物も前記対象に投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
さらに、a)G-CSF化合物およびb)式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物とは異なる、c)化学療法剤を投与することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記c)化学療法剤が、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、イホスファミド、メスナ、シスプラチン、ゲムシタビンおよび/またはタモキシフェンから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
がんの処置のためのキットであって、
a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物;および
b)式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物:
【化4】
式中、R1およびR2は、独立して、14~20個の炭素原子を含む脂肪酸基である、
を含む、キット。
【請求項9】
がんの処置のための指示書をさらに含む、請求項8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ASCIIファイルとして提出された、「配列表」、表、またはコンピュータプログラムリスト付属書類の参照
2019年1月16日に1,703バイトで作成された、機械フォーマットIBM-PC、MS Windowsオペレーティングシステムのファイル055312-578F01WO_SL.txtに記載されている配列表は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
一態様では、腫瘍などの新生物を処置するための方法および組成物が提供され、該方法および組成物は、a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物およびb)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG)などのモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む。
【背景技術】
【0003】
がんは、異常で、制御されない細胞増殖を特徴とする。がんは体内の任意の組織を巻き込むことができ、原発組織の外側に広がり得る。制御されない増殖およびその他の細胞異常は、がん性腫瘍の形成をもたらし得る。腫瘍は、腫瘍の起源となる組織の機能を破壊し、腫瘍の起源となる組織を破壊することができ、がん細胞が転移すると、二次性腫瘍が一次成長の部位の近くまたは遠くに発生し得る。がんの原因は、様々な化学物質、ウイルス、細菌および環境曝露に関連している。
【0004】
放射線処置および様々な化学療法などの現在のがん治療は、かなりの毒性およびその他の副作用をもたらしている。とりわけ、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の使用は、除去のために標的となっているがん性腫瘍の望ましくない増殖をもたらした。例えば、Voloshinら、Blood,118(12):3426-3435(2011)を参照されたい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Voloshinら、Blood,118(12):3426-3435(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、改善されたがん治療を有することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明者らは、がんに罹患している患者の処置および予防のための新しい治療法をここに提供する。
【0008】
特定の態様では、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物を投与された患者または投与される予定の患者を含む、患者中の腫瘍増殖を減少または抑制するための方法および組成物が提供される。
【0009】
一態様では、本方法は、腫瘍またはその他の新生物を有するヒトなどの対象に、治療有効量の、
a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物;および
b)式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物:
【化1】
式中、R1およびR2は、独立して、14~20個の炭素原子を含む脂肪酸基である、
を投与することを含む。a)G-CSF化合物およびb)式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、組み合わせてまたはその他の協調的な様式で患者に適切に投与される。
【0010】
好ましい態様では、b)モノアセチルジアシルグリセロールは、式IIの化合物:
【化2】
である。
【0011】
式(II)の化合物は、PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)またはEC-18とも呼ばれる。
【0012】
重要なことに、本発明者らは、今回、PLAGなどのモノアセチルジアシルグリセロール化合物の使用ががん腫瘍体積を減少させることができることを見出した。このような腫瘍体積のがんの減少は、患者がG-CSF化合物による処置を受けている間に起こり得、モノアセチルジアシルグリセロール化合物との併用投与の非存在下でのG-CSF化合物による処置で起こり得る腫瘍体積の増加とは対照的である。以下の実施例1の結果を参照されたい。
【0013】
さらなる態様では、対象はまた、a)G-CSF化合物およびb)式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物とは異なる、c)追加の化学療法剤を投与される。例えば、異なる化学療法剤は、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、イホスファミド、メスナ、シスプラチン、ゲムシタビンおよび/もしくはタモキシフェン、または1つもしくは複数の他の化学療法剤であり得る。
【0014】
特定の態様では、G-CSF化合物と一緒に式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物の協調(coordinated)投与の前に、対象は、G-CSF化合物で、但し式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物なしで以前に処置されたことがある。例えば、患者は、モノアセチルジアシルグリセロール化合物の投与の非存在下で、化学療法レジメンとともにG-CSF処置を受けていたことがあり得る。そのようなG-CSF療法の1、2、3、4、5、6もしくは7日後、または2、3もしくは4週間またはそれより後に、PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、継続的なG-CSF投与と協調して患者に投与され得る。
【0015】
さらなる態様では、a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物およびb)PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)などのモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む薬学的組成物が提供される。好ましい薬学的組成物は、対象における固形腫瘍を含むがんを処置するのに適している。
【0016】
なおさらなる態様では、固形腫瘍を含む新生物を処置または予防するために使用するためのキットが提供される。本発明のキットは、好適には、a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物;およびb)PLAG(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール)などのモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含み得る。好ましくは、キットは、治療有効量の、G-CSF化合物およびPLAGなどのモノアセチルジアシルグリセロール化合物のそれぞれを含む。好ましいキットは、固形腫瘍などのがんを処置するためのPLAGおよびG-CSF化合物の使用説明書も含み得る。説明書は、適切には、製品ラベルを含む、書面形式であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、担腫瘍マウスにおけるG-CSFと組み合わせたEC-18の効果を評価するための実験スキームである。対照群はPBS処置され(4匹のマウス、対照)、実験群は、G-CSF投与群(5匹のマウス、PEG-G-CSF)、ゲムシタビン投与群(5匹のマウス、ゲムシタビン)、G-CSFおよびゲムシタビン同時投与群(5匹のマウス、Gem+PEG)、およびEC-18同時投与群(5匹のマウス、Gem+PEG+EC-18)で処置された。
図1B図1Bは、図1Aの実験におけるマウスの体重、腫瘍重量、腫瘍重量対体重の比および脾臓重量の変化を示す。
図1C図1Cは、図1Aの実験における担腫瘍マウスからの腫瘍の写真を示す。
図2A図2Aは、図1Aの実験における担腫瘍マウスからの腫瘍サイズを示す。
図2B図2Bは、図2Aのグラフの数値を示す表である。
図3図3A~3Bは、PLAG処理によるTAN((腫瘍関連好中球)およびG-CSF共培養における乳癌細胞の異常な転移の阻害を示す。図3Aは、TANおよびG-CSF共培養環境において、乳癌細胞の運動性低下がPLAG処理で効果的であったことを示す。緑色蛍光は細胞骨格中で発現され、核はPIで染色された。図3Bは、TANおよびG-CSF共培養環境におけるPLAG処理によるがん細胞の異常な浸潤の阻害を確認するために、トランスウェル浸潤アッセイが使用されたことを示す。
図4図4A図4Dは、PLAG処理によるTANおよびG-CSF共培養における乳癌細胞の上皮間葉転換(EMT)マーカー発現の変化を示す。図4Aは、EMTマーカー遺伝子の発現を検証するために、ゲル分離法が使用されたことを示す。図4B図4Dは、Image Jを使用した標的遺伝子(図4B:スネイル/アクチン;図4C:ビメンチン/アクチン;および図4D:NCAD/アクチン)のバンド強度の定量を示す。
図5図5A図5Bは、PLAG処理によるTANおよびG-CSF共培養における乳癌細胞のサイトカイン発現の変化を示す。図5Aは、がん細胞の異常な転写活性化因子であるTGF-βの分泌がELISAによって確認されたことを示す。図5Bは、がん細胞活性化阻害剤であるIFN-γの分泌レベルがELISAによって定量的に確認されたことを示す。
図6図6A図6Bは、PLAG処理によるTGF-βシグナル伝達経路の変化を示す。図6Aは、PLAG処理によるSmadタンパク質活性の程度がウェスタンブロッティングによって確認されたことを示す。図6Bは、PLAG処理によるSmadの複合体形成の変化がIP法によって確認されたことを示す。
図7図7は、PLAG処理によるSmad2/3転位置変化を示す。PLAG処理によるSmad2/3タンパク質の核局在化が、共焦点を用いて定性的に検証された。
【発明を実施するための形態】
【0018】
PLAG、EC-18および1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロールという用語は、本明細書では互換的に使用され、本明細書では同一の化合物を指す。定義
【0019】
本明細書で使用される略語は、化学および生物学の分野における従来の意味を有する。本明細書に記載されている化学構造および式は、化学分野で知られている化学原子価の標準規則に従って構築される。
【0020】
本明細書に開示される特定の化合物は互変異性形態で存在し得、化合物のそのような互変異性形態はすべて本発明の範囲内であることが当業者には明らかであろう。
【0021】
本明細書で使用される「a」または「an」という用語は、1つまたは複数を意味する。例えば、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に反対の意味を示さなければ、複数形も含むものとする。「含む(comprise)」、「含む(include)」、「有する(have)」などの用語は、本明細書で使用される場合、記載された特徴、領域、整数、工程、過程、動作、要素および/または構成要素の存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴、領域、整数、工程、過程、動作、要素、構成要素および/またはこれらの組み合わせの存在または追加を排除するものではないことがさらに理解されよう。
【0022】
「薬学的に許容され得る賦形剤」および「薬学的に許容され得る担体」は、対象への活性因子の投与および対象による吸収を補助し、患者に対して有意な有害毒性作用を引き起こさずに本発明の組成物中に含めることができる物質を指す。薬学的に許容され得る賦形剤の非限定的な例としては、水、NaCl、通常の生理食塩水溶液、乳酸加リンガー液、通常のスクロース、通常のグルコース、結合剤、充填剤、崩壊剤、潤滑剤、コーティング、甘味料、香味剤、塩溶液(リンガー液など)、アルコール、油、ゼラチン、ラクトース、アミロースまたはデンプンなどの炭水化物、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース(hydroxymethycellulose)、ポリビニルピロリジンおよび着色剤などが挙げられる。そのような調製物は、滅菌することができ、所望であれば、本発明の化合物と有害に反応しない、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、緩衝剤、着色剤および/または芳香族物質などの補助剤と混合することができる。当業者は、その他の薬学的賦形剤が本発明において有用であることを認識するであろう。
【0023】
本明細書で使用される「処置する(treating)」および「処置(treatment)」は、予防的処置を含む。処置方法は、治療有効量の活性因子を対象に投与することを含む。投与工程は、単回投与からなってもよく、または一連の投与を含んでもよい。処置期間の長さは、症状の重症度、患者の年齢、活性因子の濃度、処置に使用される組成物の活性またはこれらの組み合わせなどの様々な要因に依存する。処置または予防のために使用される因子の有効投与量は、特定の処置または予防計画の経過にわたって増加または減少し得ることも理解されよう。投与量の変化は、当技術分野で公知の標準的な診断アッセイによって生じ、明らかになり得る。場合によっては、長期投与が必要とされ得る。例えば、組成物は、患者を処置するのに十分な量および期間で対象に投与される。「処置する」という用語およびその活用形は、傷害、病状、症状または疾患の予防を含み得る。複数の実施形態では、処置することは予防することである。複数の実施形態では、処置することは予防することを含まない。
【0024】
「予防する」という用語は、患者における疾患症状の発生の減少を指す。上記のように、予防は完全であり得(例えば、検出可能な症状が存在しない)、または処置なしの場合に起こるであろう症状より症状が少ないことが認められるように部分的であり得る。
【0025】
「患者」、「対象」、「それを必要とする患者」、および「それを必要とする対象」は、本明細書では互換的に使用され、本明細書で提供される薬学的組成物の投与によって処置することができる疾患または病態に罹患しているか、またはその傾向がある生物を指す。非限定的な例としては、ヒト、他の哺乳動物、ウシ、ラット、マウス、イヌ、サル、ヤギ、ヒツジ、ウシ、シカおよび他の非哺乳動物が挙げられる。いくつかの実施形態では、患者または対象はヒトである。
【0026】
「有効量」または「治療有効量」とは、ある化合物が、その化合物の不存在と比較して、定められた目的(例えば、そのために化合物が投与される効果を達成する、疾患を処置する、酵素活性を低下させる、酵素活性を増加させる、異化酵素活性を低下させる、または疾患もしくは病態の1つもしくは複数の症状を軽減する)を達成するのに十分な量である。「有効量」の例は、疾患の1つもしくは複数の症状の処置、予防または軽減に寄与するのに十分な量であり、「治療有効量」とも呼ばれ得る。1つまたは複数の症状(およびこの句の文法的等価物)の「軽減」は、1つまたは複数の症状の重症度もしくは頻度の減少、または1つもしくは複数の症状の除去を意味する。薬物の「予防有効量」は、対象に投与された場合に、意図された予防効果を有する、例えば、傷害、疾患、病理もしくは病態の発症(または再発)を予防しもしくは遅延させる、または傷害、疾患、病理もしくは病態、もしくはこれらの症状の発症(または再発)の可能性を低下させる薬物の量である。完全な予防効果は、必ずしも1用量の投与によって生じるわけではなく、一連の用量の投与後にのみ生じ得る。したがって、予防有効量は、1回または複数回の投与で投与され得る。本明細書で使用される「活性減少量」は、アンタゴニストの不存在と比較して酵素の活性を減少させるために必要とされるアンタゴニストの量を指す。本明細書で使用される「機能破壊量」は、アンタゴニストの不存在と比較して、酵素またはタンパク質の機能を破壊するために必要とされるアンタゴニストの量を指す。正確な量は、処置の目的に依存し、公知の技術を用いて当業者によって確認可能である(例えば、Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(vol.1-3,1992);Lloyd,The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(1999);Pickar,Dosage Calculations(1999);およびRemington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,2003,Gennaro,Ed.Lippincott,Williams&Wilkinsを参照)。
【0027】
本明細書で使用される場合、対象への治療の投与の文脈における「組み合わせて」という用語は、治療上の利益のための2つ以上の治療の使用を指す。投与の文脈における「組み合わせて」という用語は、少なくとも1つの追加の治療とともに使用される場合の、対象への治療の予防的使用を指すこともできる。用語「組み合わせて」の使用は、治療(例えば、第1および第2の治療)が対象に投与される順序を制限しない。第1の治療(例えば、i)G-CSF化合物またはii)PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物のいずれかの投与)は、第2の治療の投与(例えば、i)PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物またはii)G-CSF化合物のいずれかの投与)の前に(例えば、1分、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間または最長約1週間前)、投与と同時に、または投与の後に(例えば、1分、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間または最長約1週間後)、固形腫瘍と診断された対象などの、がんを有していた、がんを有する、またはがんにかかりやすい対象に投与することができる。治療は、治療が一緒に作用することができるような、順序でおよび時間間隔内で対象に投与される。特定の実施形態では、治療は、他の様式で治療が投与された場合よりも高い利益を提供するような、順序でおよび時間間隔内で対象に投与される。任意のさらなる治療を、他のさらなる治療とともに任意の順序で投与することができる。
【0028】
「増殖性障害」および「増殖性疾患」という用語は、がんなどの異常な細胞増殖に関連する障害を指す。
【0029】
本明細書で使用される「腫瘍」および「新生物」または同様の用語は、前がん性病変を含む良性または悪性のいずれかの、過剰な細胞成長または増殖から生じる組織の任意の塊を指す。
【0030】
論述されているように、本方法および組成物は、a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物;およびb)PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む。
【0031】
本方法および組成物は、患者、例えば、a)顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物およびb)PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物の治療を受けるがん患者において、腫瘍増殖を効果的に低減または抑制することができる。G-CSFおよびPLAGによる同時処置は、腫瘍体積の5、10、15、20、25、30、35、40、45または50%またはそれを超える低下をもたらし得る。
【0032】
多種多様なタイプのがんが、本発明の方法および組成物に従って処置され得る。例えば、処置されるべきがんは固形腫瘍であり得る。それに対して本発明を使用することができる例示的ながんには、膀胱癌、白血病(例えば、ケミア(kemia)、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、急性赤白血病、慢性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病)、真性多血症、リンパ腫(ホジキン病、非ホジキン病)、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病ならびに肉腫およびがん腫などの固形腫瘍(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、大腸(colon)癌腫、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、胃および食道癌、頭部および頸部癌、腎臓癌、扁平上皮細胞癌腫、基底細胞癌腫、腺癌、汗腺癌腫、皮脂腺癌腫、乳頭癌腫、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌腫、気管支原性肺癌腫、腎細胞癌腫、肝細胞腫、胆管癌腫(nile duct carcinoma)、絨毛癌腫、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、肺癌腫、小細胞肺癌腫、膀胱癌腫、上皮癌腫、神経膠腫、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫瘍、乏突起神経膠腫、シュワン細胞腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫)が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、コロニー刺激因子3(CSF3)としても知られ、骨髄中の造血前駆細胞を刺激して増殖させ、成熟した顆粒球および幹細胞に分化させ、それらを血流に放出させる糖タンパク質である。ヒトでは、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は2つの活性形態で存在し、そのうちより豊富なのは174アミノ酸長であり、他方は177アミノ酸長である。天然に存在するG-CSFの薬学的類似体は、ヒト174アミノ酸ペプチドの組換え形態(rhG-CSF)であり、大腸菌中で作製され、同じ活性を有するが、N末端メチオニン残基を有し、グリコシル化を欠く点で天然の糖タンパク質とは異なるフィルグラスチム(例えば、AmgenのNeupogen(登録商標));哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)中で作製され、したがって本質的にヒトG-CSFと区別することができないレノグラスチム(例えば、ChugaiのGranocyte(登録商標));フィルグラスチムのPEG化された形態(例えば、AmgenのNeulasta(登録商標)およびRocheのNeulastim(登録商標))であって、フィルグラスチムのN末端のメチオニル残基に共有結合された20kDのモノメトキシポリエチレングリコール部分を有し、これがフィルグラスチムと比較して溶解度および作用持続時間を増加させるペグフィルグラスチムが含まれる。
【0034】
本明細書で言及される顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、上記の形態のすべてを含むが、これらに限定されない。
【0035】
式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を調製するための化学合成方法は、例えば、韓国登録特許第10-0789323号および第10-1278874号に示されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。例えば、PLAGは、グリセロールのヒドロキシ基をアセチル、パルミトイルおよびリノレオイル官能基でアシル化することによって合成することができる。
【0036】
PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物の治療有効量は、細胞培養アッセイから最初に決定することができる。標的濃度は、本明細書に記載の方法または当技術分野で公知の方法を使用して測定される、本明細書に記載の方法を達成することができる活性化合物の濃度である。PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物の処置量も以前に報告されている。
【0037】
当技術分野で周知のように、ヒトで使用するための治療有効量は、動物モデルから決定することもできる。例えば、ヒトに対する用量は、動物において有効であることが分かっている濃度を達成するように調合することができる。ヒトにおける投与量は、上記のように、化合物の有効性をモニタリングし、投与量を上方または下方に調整することによって調整することができる。上記の方法およびその他の方法に基づいてヒトにおいて最大の有効性を達成するために用量を調整することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0038】
投与量は、患者および使用されている化合物の要件に応じて変えることができる。本発明の文脈において、患者に投与される用量は、時間とともに患者において有益な治療応答をもたらすのに十分であるべきである。用量の大きさは、有害な副作用の存在、性質および程度によっても決定される。特定の状況に対する適切な投与量の決定は、医療専門家(practitioner)の技能の範囲内である。一般に、処置は、化合物の最適用量未満のより少ない投与量で開始される。その後、状況下で最適な効果に達するまで、投与量を少しずつ増加させる。投与量および投与間隔は、処置されている特定の臨床適応症に対して有効な投与される化合物のレベルを提供するために個別に調整することができる。これにより、個体の疾患状態の重症度に見合った治療レジメンが提供される。
【0039】
本明細書で提供される教示を利用して、実質的な毒性を引き起こさないが、特定の患者によって呈される臨床症状を処置するのに有効である有効な予防的または治療的処置レジメンを計画することができる。この計画には、化合物の効力、相対的バイオアベイラビリティ、患者の体重、有害な副作用の存在および重症度、好ましい投与様式および選択された因子の毒性プロファイルなどの要因を考慮することによる活性化合物の慎重な選択が含まれるべきである。
【0040】
哺乳動物に投与される投与量および頻度(単回または複数回投与)は、様々な要因、例えば、その哺乳動物が別の疾患に罹患しているかどうか、およびその投与の経路;レシピエントの大きさ、年齢、性別、健康状態、体重、肥満度指数および食事;処置されている疾患症状の性質および程度、併用処置の種類、処置されている疾患からの合併症または他の健康関連の問題に応じて変化し得る。他の治療レジメンまたは因子を、本出願人の発明の方法および化合物とともに使用することができる。確立された投与量(例えば、周波数および持続時間)の調整および操作は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0041】
本発明の組成物の投与頻度は特に限定されないが、1日1回または分割された投与量で1日数回投与され得る。
【0042】
PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物は、局所接触、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、病巣内、髄腔内、鼻腔内もしくは皮下投与、または徐放装置、例えば小型浸透圧ポンプの対象への埋め込みなどの多数の経路のいずれによっても対象に投与することができる。非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、細動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内および頭蓋内が含まれる。
【0043】
薬学的組成物は、PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物PLAG化合物の一方または両方が治療有効量、すなわちその意図する目的を達成するのに有効な量で含まれる組成物を含み得る。特定の用途に有効な実際の量は、とりわけ、処置されている症状に依存する。疾患を処置するための方法において投与される場合、そのような組成物は、所望の結果、例えば標的分子の活性を調節すること、および/または疾患症状の進行を軽減、除去もしくは遅延させることを達成するのに有効な量の活性成分を含有する。
【0044】
薬学的組成物は、各製剤のための追加の薬学的に許容され得る担体を用いて製造され得る。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容され得る担体」という用語は、生物を刺激せず、注射された化合物の生物学的活性および特徴を阻害しない担体または希釈剤を指し得る。本発明において使用することができる担体の種類は特に限定されず、産業の分野において慣用されており、薬学的に許容され得る任意の担体が使用され得る。
【0045】
食塩水、滅菌水、IV流体、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールは、使用可能な担体の非限定的な例である。これらの担体は、単独で使用され得、または2種もしくはそれを超える組み合わせで使用され得る。担体には、天然に存在しない担体が含まれ得る。必要であれば、酸化防止剤、緩衝剤および/または静菌剤などの従来使用されているその他の添加剤を添加および使用し得る。担体は、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、水溶液のような注射溶液、懸濁液、エマルジョンおよび丸剤、カプセル、粒剤または錠剤などを作製するための潤滑剤とともに調合され得る。
【0046】
非経口適用が必要とされまたは所望される場合、薬学的組成物中に含まれる化合物のための特に適切な混合物は、注射可能な滅菌溶液、油性または水溶液、ならびに坐剤を含む懸濁液、エマルジョンまたはインプラントであり得る。特に、非経口投与用の担体としては、デキストロースの水溶液、生理食塩水、純水、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、落花生油、ゴマ油、ポリオキシエチレンブロックポリマーなどが挙げられる。アンプルは便利な単位投与量である。本明細書に提示される薬学的組成物中での使用に適した薬学的混合物には、例えば、Pharmaceutical Sciences(17th Ed.,Mack Pub.Co.,Easton,PA)および国際公開第96/05309号に記載されているものが含まれ得、これらの両教示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0047】
論述されたとおり、キットも提供される。例えば、この態様では、PLAGなどの式(I)のモノアセチルジアシルグリセロール化合物および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物PLAG化合物は、それぞれ、指定された処置に関してラベルが付された適切な容器の中に適切に包装することができる。容器は、PLAG化合物または組成物と、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物と、意図する用途に適した適切な安定剤、担体分子などの1つまたは複数を含むことができる。他の実施形態では、キットは、意図された処置のための1つまたは複数の治療試薬、例えば、1つまたは複数のさらなる化学療法剤をさらに含む。製品は、PLAG化合物もしくは組成物および/または顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物を含有する容器(例えば、バイアル、ジャー、瓶、袋など)を含むことができる。さらに、製造品またはキットは、例えば、予防または処置が必要とされる症状を処置または監視するための、包装材料、使用説明書、シリンジ、送達装置をさらに含んでもよい。
【0048】
製品は、説明文(例えば、製品の使用を記載する印刷されたラベルまたは挿入物またはその他の媒体(例えば、オーディオテープまたはビデオテープ))も含み得る。説明文は、容器と関連付けることができ(例えば、容器に貼り付けられる)、容器中の組成物が投与されるべき様式(例えば、投与の頻度および経路)、その適応症およびその他の用途を説明することができる。組成物は、直ちに投与することができ(例えば、用量が適切な単位で存在する)、1つもしくは複数の追加の薬学的に許容され得るアジュバント、担体もしくはその他の希釈剤および/または追加の治療薬を含み得る。あるいは、組成物は、例えば、希釈剤および希釈のための説明書とともに濃縮形態で提供することができる。
【0049】
論述されたとおり、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物およびPLAGなどのモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、化学療法剤などの抗新生物剤、例えばアルキル化剤(例えば、白金系薬物、テトラジン、アジリジン、ニトロソ尿素、ナイトロジェンマスタード)、代謝拮抗物質(例えば、抗葉酸剤、フルオロピリミジン、デオキシヌクレオシド類似体、チオプリン)、抗微小管剤(例えば、ビンカアルカロイド、タキサン)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、トポイソメラーゼIおよびII阻害剤)、細胞傷害性抗生物質(例えば、アントラサイクリン)および免疫調節薬(例えば、サリドマイドおよび類似体)の1つまたは複数と組み合わせて投与することができる。特定の態様では、化学療法剤は、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド、イホスファミド、メスナ、シスプラチン、ゲムシタビンおよび/またはタモキシフェンの1つまたは複数であり得る。
【0050】
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物およびPLAGなどのモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、適切には、協調的様式で、例えば同時にまたは順次に投与される。例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)化合物およびPLAGなどのモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、実質的に同時に対象に投与されてもよく、または代わりに因子は、異なる時間に、適切には数時間以内に対象に投与され得るが、別個の投与の間のより長い期間も適切であり得る。
【実施例
【0051】
前述のセクションは、理解を明確にするために例示および例としてある程度詳細に説明されているが、ある小さな変更および修正が上記の教示に照らして実施されることは当業者には明らかである。したがって、説明および実施例は、本明細書に記載の任意の発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0052】
特許出願および刊行物を含む本明細書で引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0053】
実施例1:異種移植マウスモデルにおけるヒト骨髄腫細胞に対するG-CSFと組み合わせたEC-18の抗がん効果
式2の化合物(EC-18)の投与がG-CSFの投与によって誘発された増加した腫瘍増殖を克服できることを実証するために、1×10細胞/100μLリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の4T1細胞株をBALB/c 7wマウス中に皮下注射によって投与することによって担腫瘍マウスを調製した(0日目)。2日目および3日目に、マウスに10mg/kgのゲムシタビンを2回投与した。4日目に、3μg/マウスのPEG-G-CSF(ペグフィルグラスチム)を皮下注射によってマウスに1回投与した。研究のすべての日に、PBSで希釈された50mg/kgのEC-18をマウスに経口投与した。表1および図1Aに要約されているように、合計24匹の担腫瘍マウスを、対照群(4匹のマウス、対照)、G-CSF投与群(5匹のマウス、PEG-G-CSF)、ゲムシタビン投与群(5匹のマウス、ゲムシタビン)、G-CSFおよびゲムシタビン同時投与群(5匹のマウス、Gem+PEG)、ならびにEC-18同時投与群(5匹のマウス、Gem+PEG+EC-18)からなる5つの群に分類した。

表1.マウス投与群。
【表1】
【0054】
8日目に、すべてのマウスを屠殺し、それらの腫瘍を取り出した。腫瘍のサイズおよび重量を測定した。結果が表2および3に示されており、腫瘍の写真が図1Cに示されている。

表2.腫瘍重量
【表2】


表3.腫瘍重量の増加%(+)または減少%(-)
【表3】
【0055】
データは、ゲムシタビン処置マウスの腫瘍重量が対照と比較して約25%減少したことを示し、ゲムシタビンによる処置の抗がん効果を実証している。データは、しかしながら、G-CSF(フィルグラスチン(Filgrastitn))を投与されたマウスの腫瘍重量が、対照と比較して約19.4%増加し、G-CSFによって腫瘍成長を促進するという副作用を示すことを示している。データは、ゲムシタビンとG-CSFを同時投与されたマウスでは、対照と比較して腫瘍重量の変化が観察されなかったことを実証し、好中球減少症に対する治療効果にかかわらず、G-CSFの同時投与によって化学療法の有効性が低下することを示唆している。
【0056】
データは、EC-18とゲムシタビンおよびG-CSFとの同時投与が腫瘍重量を最大41%有意に減少させることを実証し、これはゲムシタビンのみの投与によって達成される減少よりも大きな減少である。結果は、担腫瘍マウスの体重に対する腫瘍重量のパーセント変化(表3)および腫瘍組織の写真(図1C)と一致する。データは、EC-18(すなわち、PLAGまたは本出願の式2の化合物)が腫瘍増殖に対するG-CSFの副作用を最小限に抑えることを実証している。
【0057】
実施例2:PLAG処理によるTAN環境およびG-CSF共刺激におけるMDA-MB-231乳癌細胞の異常な転移の阻害
材料および方法
細胞培養
MDA-MB-231およびHL60細胞は、American Type Culture Collection(ATCC、Rockville、MD、USA)から入手した。10%ウシ胎児血清(HyClone、Waltham、MA、USA)、1%抗生物質(100mg/lストレプトマイシン、100U/mlペニシリン)および0.4% 2-メルカプトエタノール(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を含有するDMEM培地(WELGENE、Seoul、Korea)中でMDA-MB-231細胞を増殖させた。10%ウシ胎児血清および1%抗生物質(100mg/lストレプトマイシン、100U/mlペニシリン)を含有するDMEM培地中でHL60細胞を増殖させた。5%CO雰囲気中、37℃で細胞を増殖させた。HL60細胞を好中球様細胞に分化させるために、10%DMSO(Sigma Aldrich)を含む培地中で細胞を5日間増殖させた。
【0058】
創傷治癒アッセイ
カバーガラスを有する12ウェルプレート中にMDA-MB-231を播種し、ウェルで100%コンフルエンスまでインキュベートした。インキュベーション後、創傷細胞単層をウェルの中心に作製する。示された時間、PLAG処理ならびに好中球およびG-CSF共刺激。5%CO雰囲気中37℃で、示された時間および用量での処理後、3.7%ホルムアルデヒドで細胞を20分間固定し、0.2% Triton X-100で20分間透過処理し、0.1% Phalloidin-FITCで40分間染色した。共焦点(Carl Zeiss、Thornwood、NY、USA)によって蛍光を検出した。
【0059】
共焦点(免疫蛍光)
カバーガラスを有する12ウェルプレート中にMDA-MB-231を播種し、ウェルで60%コンフルエンスまでインキュベートした。インキュベーション後、示された時間、PLAG処理ならびに好中球およびG-CSF共刺激。5%CO雰囲気中37℃で、示された時間での処理後、3.7%ホルムアルデヒドで細胞を20分間固定し、0.2% Triton X-100で20分間透過処理し、0.1% Phalloidin-FITCで40分間染色した。PBSで細胞を2回洗浄し、4℃で一晩、特異的な抗体と反応させた。細胞をPBSで2回洗浄し、二次抗体を反応させた。核検出のために、これを1% Hoechst 33342で20分間染色した。共焦点(Carl Zeiss、Thornwood、NY、USA)によって蛍光を検出した。
【0060】
トランスウェル浸潤アッセイ
定量的マクロファージ化学誘引アッセイは、24ウェルプレート中のマトリゲルがコーティングされた8.0μm孔ポリカーボナート膜インサートを有する改変ボイデンチャンバー(SPL lifescience、Seoul、Korea)を使用して行った。化学誘引のために、チャンバー下部をアポトーシス性好中球で満たした。無血清培地中のMDA-MB-231細胞(5×10細胞/ml)をチャンバー上部中に添加し、PLAGで処理した。5%CO雰囲気中、37℃で、示された時間にわたって、細胞を化学誘引(好中球共培養上清)させた。綿棒でこすることによって膜の上面から非化学誘引細胞を除去し、化学誘引細胞をMTTアッセイによって計算した。
【0061】
結果
トランスウェルを使用するエクスビボ環境を使用して、TAN(腫瘍関連好中球)環境による乳癌細胞におけるMDA-MB-231異常転移阻害効果を同定するためにPLAGの効果を確認した。その結果、好中球刺激されたMDA-MB-231細胞の運動性が誘導されるのに対して、PLAG処理により運動性が低下することが確認された。また、本発明者らは、培養上清を用いてMDA-MB-231乳癌細胞のトランスウェル浸潤効果を確認し、好中球刺激された培養上清においては浸潤が増加するのに対して、がん細胞の浸潤はPLAG処理群で減少することを示している。他方、G-CSFおよび好中球共刺激は、好中球のみの群よりもがん細胞の転移を増加させた。共刺激群では、トランスウェル浸潤およびがん細胞の運動性がさらに増加したのに対して、PLAG処理群は好中球刺激群と同様にがん細胞の異常な転移を阻害した。

表4:図3Bの生データ。浸潤性細胞数(MTTアッセイ、%がん化)
【表4】

【0062】
実施例3:PLAG処理によるTAN環境およびG-CSF共刺激におけるEMTマーカー発現の阻害
材料および方法
細胞培養
MDA-MB-231およびHL60細胞は、American Type Culture Collection(ATCC、Rockville、MD、USA)から入手した。10%ウシ胎児血清(HyClone、Waltham、MA、USA)、1%抗生物質(100mg/lストレプトマイシン、100U/mlペニシリン)および0.4% 2-メルカプトエタノール(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を含有するDMEM培地(WELGENE、Seoul、Korea)中でMDA-MB-231細胞を増殖させた。10%ウシ胎児血清および1%抗生物質(100mg/lストレプトマイシン、100U/mlペニシリン)を含有するDMEM培地中でHL60細胞を増殖させた。5%CO雰囲気中、37℃で細胞を増殖させた。HL60細胞を好中球様細胞に分化させるために、10%DMSO(Sigma Aldrich)を含む培地中で細胞を5日間増殖させた。
【0063】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
製造者の説明書に従ってRiboEx(GeneAll biotechnology、Seuol、Korea)を使用して総RNAを抽出し、製造者の説明書に従ってReverseAids cDNA合成キット(Thermo Scientific、Waltham、WA、USA)を使用してcDNAを作製した。PCRは、以下の温度プロファイルで実施した:95℃で10分間の前変性工程、続いて95℃30秒間、アニーリング温度30秒間および72℃30秒間の35サイクル、ならびに10分間72℃への最終曝露。増幅のための特異的プライマー配列は表5であった。

表5:標的遺伝子の増幅のためのプライマー配列
【表5】
【0064】
結果
PLAG処理によるTAN環境およびG-CSFの刺激によるEMTマーカー発現に対するMDA-MB-231乳癌細胞の抑制効果を確認するために、PCRを実施した。その結果、EMT(Epithelial mesenchymal transition(上皮間葉転換))マーカーであるスネイルおよびNCAD、ビメンチンの発現レベルは好中球およびG-CSF共刺激群で増加したのに対し、PLAG処理により発現が減少した。

表6:(図4B図4D)の生データ:PCRバンド(bend)強度(相対強度)
【表6】
【0065】
実施例4:PLAG処理によるTAN環境およびG-CSF共刺激におけるサイトカイン分泌の変化
【0066】
材料および方法
【0067】
細胞培養
【0068】
MDA-MB-231およびHL60細胞は、American Type Culture Collection(ATCC、Rockville、MD、USA)から入手した。10%ウシ胎児血清(HyClone、Waltham、MA、USA)、1%抗生物質(100mg/lストレプトマイシン、100U/mlペニシリン)および0.4% 2-メルカプトエタノール(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を含有するDMEM培地(WELGENE、Seoul、Korea)中でMDA-MB-231細胞を増殖させた。10%ウシ胎児血清および1%抗生物質(100mg/lストレプトマイシン、100U/mlペニシリン)を含有するDMEM培地中でHL60細胞を増殖させた。5%CO雰囲気中、37℃で細胞を増殖させた。HL60細胞を好中球様細胞に分化させるために、10%DMSO(Sigma Aldrich)を含む培地中で細胞を5日間増殖させた。
【0069】
ELISA
【0070】
BD Bioscienceのサイトカイン専用酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を製造者のプロトコルに従って使用して、細胞上清または血漿中のサイトカイン分泌のレベルを分析した。EMax Endpoint ELISAマイクロプレートリーダー(Molecular Devices Corporation、Sunnyvale、CA、USA)を使用して、450nmで吸光度を測定した。
【0071】
結果
【0072】
TAN環境およびG-CSF共刺激によるがん細胞転移活性マーカーであるTGF-βの分泌レベルをELISAによって確認した。その結果、TANおよびG-CSF共刺激環境においてTGF-βの分泌レベルが増加した。しかしながら、TGF-βの発現は、PLAGで処理しても有意に減少しないことが確認された。
【0073】
抗がんサイトカインであるIFN-γの分泌はPLAG処理によって有意に増加されたが、PLAG処理はTGF-βの分泌は変化させなかった。対照的に、G-CSF共刺激群におけるIFN-γの分泌は、好中球のみの群よりも有意に低かった。

表7:TGF-βELISA(450nm OD)からの図5Aの生データ
【表7】


表8:IFN-γELISA(450nm OD)からの図5Bの生データ
【表8】
【0074】
実施例5:PLAG処理によるTGF-β依存性がん細胞転移シグナル経路の阻害
【0075】
材料および方法
【0076】
細胞培養
【0077】
MDA-MB-231およびHL60細胞は、American Type Culture Collection(ATCC、Rockville、MD、USA)から入手した。10%ウシ胎児血清(HyClone、Waltham、MA、USA)、1%抗生物質(100mg/lストレプトマイシン、100U/mlペニシリン)および0.4% 2-メルカプトエタノール(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を含有するDMEM培地(WELGENE、Seoul、Korea)中でMDA-MB-231細胞を増殖させた。10%ウシ胎児血清および1%抗生物質(100mg/lストレプトマイシン、100U/mlペニシリン)を含有するDMEM培地中でHL60細胞を増殖させた。5%CO雰囲気中、37℃で細胞を増殖させた。HL60細胞を好中球様細胞に分化させるために、10%DMSO(Sigma Aldrich)を含む培地中で細胞を5日間増殖させた。
【0078】
免疫沈降(IP)
【0079】
PLAGで処理され、5%CO雰囲気中、37℃で様々な時間、好中球およびG-CSFの共刺激を誘導するために刺激されたMDA-MB-231細胞を、氷冷IP溶解緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.4、150mM NaCl、1% NP-40、1mM EDTA、5%グリセロール)を使用して溶解した。抽出されたタンパク質を、Surebeads Protein G特異的抗体が結合された磁気ビーズ(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)とともにインキュベートした。Tween 20を含むPBS(PBST)でビーズを洗浄し、標的タンパク質を1×試料緩衝液中に溶出し、ウェスタンブロッティングによって分析した。
【0080】
共焦点(免疫蛍光)
【0081】
カバーガラスを有する12ウェルプレート中にMDA-MB-231細胞を播種し、ウェルで60%コンフルエンスまでインキュベートした。インキュベーション後、示された時間、PLAG処理ならびに好中球およびG-CSF共刺激。5%CO雰囲気中、37℃で、示された時間処理した後、3.7%ホルムアルデヒドで細胞を20分間固定し、染色のために0.2% Triton X-100で20分間、透過処理した。PBSTで細胞を2回洗浄し、特異的抗体(SMAD2/3)と4℃で一晩反応させた。PBSTで細胞を2回洗浄し、二次抗体を反応させた。核検出のために、これを1% Hoechst 33342で20分間染色した。共焦点(Carl Zeiss、Thornwood、NY、USA)によって蛍光を検出した。
【0082】
結果
【0083】
がん細胞転移に対するTGF-β依存性シグナル伝達経路の阻害効果が、PLAG処理によってTAN環境において確認された。その結果、TANおよびG-CSF共刺激により増加したTGF-βシグナル経路であるSMAD活性の増加が、PLAG処理により減少することが確認された。また、本発明者らは、核移行のためのSMAD 2/3-SMAD4複合体の形成がPLAG処理により減少することを確認した。本発明者らは、TANおよびG-CSF共刺激によって増加されたSMAD2/3およびSMAD4の核移行がPLAG処理により減少することを確認した。
【0084】
本明細書に記載されている実施例および実施形態は例示のみを目的としていること、これらの実施例および実施形態に照らして様々な修正または変更が当業者に示唆され、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書中で引用されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
【配列表】
2022526210000001.app
【国際調査報告】