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特表2022-526287ロスコビチン類似体および希少胆道疾患を治療するためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-24
(54)【発明の名称】ロスコビチン類似体および希少胆道疾患を治療するためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 473/16 20060101AFI20220517BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C07D473/16 CSP
A61K31/52
A61P1/16
A61P1/16 105
A61P35/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556366
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2020057833
(87)【国際公開番号】W WO2020188100
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】19305340.2
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518170446
【氏名又は名称】ソルボンヌ ウニベルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】514203362
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】516039480
【氏名又は名称】エーピーエイチピー(アシスタンス パブリック-オピトークス ド パリ)
(71)【出願人】
【識別番号】521431837
【氏名又は名称】マンロス セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ファルギエール,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヴォーティエ,ヴァージニー
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,ローレント
(72)【発明者】
【氏名】オウマタ,ナッシマ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZA77
4C086ZB21
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、式(I):
【化1】
(式中、Rは(C~C)アルキル基または(C~C)シクロアルキル基であり、Rはフェニルまたは1~3つの基で置換されたフェニルであるが、但しRがフェニルである場合、Rは(C~C)シクロアルキル基である)の化合物またはその薬学的に許容される塩のいずれかに関する。本発明はさらに医薬としての式(I)の化合物に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
の化合物であって、式中、
は、(C~C)アルキル基、または(C~C)シクロアルキル基であり、
は、フェニルであるか、または1~3つの基で置換されたフェニルであり、
但し、Rがフェニルである場合、Rは(C~C)シクロアルキル基である、
化合物、またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つ。
【請求項2】
は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルから選択される(C~C)アルキル基であり、好ましくはイソプロピルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
はシクロペンチルである、請求項1~2のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項4】
は、フェニルであるか、または1つもしくは2つの基で置換されたフェニルであり、前記基は、電子求引基およびハロゲンから選択され、好ましくはRは、フェニルであるか、または1つもしくは2つの基で置換されたフェニルであり、前記基はCF、F、ClおよびBrから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
は、1~3つの基で置換されたフェニルであり、少なくとも1つの基はメタ位にあり、好ましくは1つもしくは2つの基および少なくとも1つの基はメタ位にある、請求項1または4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
はシクロペンチル基であり、R基は、
【化2】

から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
前記化合物は、
【化3】

から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
少なくとも1種の請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物を含む、組成物。
【請求項9】
前記組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む医薬組成物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
医薬として使用するための、請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
医薬として使用するための、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項12】
肝内胆汁鬱滞性疾患などの希少胆道疾患の治療に使用するための、請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物あるいは請求項8または9に記載の組成物。
【請求項13】
前記肝内胆汁鬱滞性疾患は、肝細胞におけるホスファチジルコリン分泌の欠陥を特徴とするABCB4関連胆道疾患である、請求項12に記載の化合物または組成物。
【請求項14】
前記胆道疾患は、肝内胆汁鬱滞性疾患、進行性家族性肝内胆汁鬱滞症(PFIC3)、低リン脂質関連胆石症(LPAC)症候群、妊娠性肝内胆汁鬱滞症(ICP)、薬物性肝障害、一過性の新生児胆汁鬱滞症(TNC)、成人の胆管線維症と胆汁性肝硬変、または肝内胆管癌(IHCC)から選択される、請求項12または13に記載の化合物または組成物。
【請求項15】
肝内胆汁鬱滞性疾患は、進行性家族性肝内胆汁鬱滞症3型、LPAC症候群またはICPからなる群から選択される、請求項12~14のいずれか1項に記載の化合物または組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリン誘導体化合物、特にロスコビチン類似体、に関する。本発明は、医薬として使用するための本発明によるロスコビチン類似体にも関する。最後に、本発明は、肝細胞におけるホスファチジルコリン分泌の欠陥を特徴とする、肝内胆汁鬱滞性疾患(intrahepatic cholestatic diseases)のような希少胆道疾患(rare biliary diseases)、より具体的にはABCB4関連胆道疾患、を治療するためにそれらを使用するためのロスコビチン類似体に関する。
【背景技術】
【0002】
肝内胆汁鬱滞性疾患のような希少胆道疾患は、典型的には肝不全に至る進行性肝疾患を引き起こすことにより子供および大人の両方の肝臓の性能を冒す遺伝性疾患である。実際に、肝細胞はあまり胆汁を分泌することができず、従って肝内胆汁流量を減少させ、これは有毒な胆汁の形成に有利に働き、かつ罹患者において肝不全を生じさせる。一般に肝細胞破壊は肝内胆道閉塞によって引き起こされる場合もある。
【0003】
このような胆汁形成に影響を与える機能不全は、膜トランスポーターの欠乏および異常な機能に起因し得る。それらのうち、MDR3とも呼ばれるアデノシン三リン酸結合カセットトランスポーターのサブファミリーBメンバー4(ABCB4)は肝臓の性能において大きな役割を担っている。ATP結合カセット(ABC)スーパーファミリーのこのメンバーは主に肝細胞の小管膜において発現され、ここでのその機能は、ホスファチジルコリン(PC)を肝細胞の小管細胞膜の内葉から外葉に転座させ、このようにして胆汁内へのPC分泌を可能にすることである。分子レベルでは、分泌されたPCは胆汁酸塩およびコレステロールなどの他の同時に分泌された疎水性胆汁成分と混合されたミセルを形成するため、重要な役割を有する。実際に胆汁へのPC分泌の機能障害は、コレステロール結晶および胆石の形成ならびに胆管系の生体膜に対する遊離胆汁酸塩の界面活性作用からの保護の喪失を引き起こす。
【0004】
これらの臨床的特性は主として、進行性家族性肝内胆汁鬱滞症3型(PFIC3)、低リン脂質関連胆石症(LPAC)症候群または妊娠性肝内胆汁鬱滞症(ICP)などの希少胆道疾患を引き起こすABCB4遺伝子の遺伝的変異(ミスセンス変異)を有する患者について報告されている。ABCB4関連胆道疾患の場合、ABCB4トランスポーターによるPC分泌の機能障害を引き起こす理由の1つは、その成熟およびその細胞膜局在の両方を妨げる細胞内輸送の欠如である。従ってこれは、タンパク質の成熟に関与する細胞小器官における未成熟トランスポーターの保持およびPC分泌の欠乏の両方を引き起こす。
【0005】
ABCB4関連胆道疾患を有する患者のための唯一の薬理学的治療は、低疎水性を有する胆汁酸であるウルソデオキシコール酸(UDCA)の投与である。この治療法はより穏やかな形態の疾患においては効率的であるが、UDCAは、依然として代替法が肝臓移植だけである深刻な形態のABCB4関連疾患を有するホモ接合性もしくは複合ヘテロ接合性患者の大多数においては全く効率的でないかあまり効率的ではない。患者を治癒させるか少なくとも肝臓移植を遅らせることができる外科手術および効率的な薬理学的治療が存在しない状況では、平均余命は短い。従って薬理学的代替法が切望されている。
【0006】
検討されている第1選択薬の1つは、セリシクリブ(Seliciclib)またはCYC202としても知られている(R)-ロスコビチンであり、これを以後ロスコビチンと呼ぶ。この2,6,9-三置換プリンは、比較的強力かつ選択的なサイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤として同定された。ロスコビチンに対して、各種癌、関節リウマチ、緑内障および嚢胞性線維症における臨床段階の治験に至るまで、多くの適応症においていくつかの研究が行われてきた。興味深いことにロスコビチンは、嚢胞性線維症(EP2907514)に関与する別のABC担体ファミリーメンバーであるCFTRの細胞内局在およびチャネル活性を補正することが分かっている。従って、ロスコビチンはABCB4関連疾患のための興味深い治療薬候補であるように見えた。さらに研究は、100μMのロスコビチンによる治療が、3種類の小胞体(ER)保持されるABCB4バリアント(ABCB4-I541F/I490T/L556R)(未成熟および高マンノースグリコシル化タンパク質としてERに保持される)の成熟および再配置を高めることを示している。
【0007】
しかしロスコビチンは重要な用量依存的細胞毒性を示し、これは、HEK細胞におけるそのCDK阻害活性およびABCB4-WT媒介性ホスファチジルコリン分泌活性の阻害によって説明することができる。
【0008】
従って、PFICなどの肝内胆汁鬱滞性疾患の治療のためにロスコビチンと同じ活性を示すが細胞毒性を有しない化合物を開発することがなお必要とされている。
【0009】
細胞毒性を克服するために、本出願人は、毒性の低いロスコビチン構造的類似体を合成することによる代替戦略を開発した。これらの化合物は細胞内輸送を補正し、それによりABCB4バリアント(I541F/I490T/L556R)の成熟、小管の発現およびさらに重要なことには機能を修復することができた。
【発明の概要】
【0010】
従って本発明は、式(I):
【化1】

の化合物であって、式中、
は、(C~C)アルキル基、または(C~C)シクロアルキル基であり、
は、フェニルであるか、または1~3つの基で置換されたフェニルであり、
但し、Rがフェニルである場合、Rは(C~C)シクロアルキル基である、
化合物、またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つ、に関する。
【0011】
一実施形態によれば、Rは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルから選択される(C~C)アルキル基である。一実施形態によれば、Rはイソプロピルである。
【0012】
一実施形態によれば、Rはシクロペンチルである。
【0013】
一実施形態によれば、Rは、フェニルであるか、または1つもしくは2つの基で置換されたフェニルであり、前記基は電子求引基およびハロゲンから選択される。一実施形態によれば、Rは、フェニルであるか、または1つもしくは2つの基で置換されたフェニルであり、前記基はCF、F、ClおよびBrから選択される。
【0014】
本実施形態によれば、Rは、1~3つの基で置換されたフェニルであり、少なくとも1つの基はメタ位にある。本実施形態によれば、Rは、1~2つの基で置換されたフェニルであり、少なくとも1つの基はメタ位にある。
【0015】
一実施形態によれば、Rはシクロペンチル基であり、R基は、
【化2】

から選択される。
【0016】
一実施形態によれば、式(I)の化合物は、
【化3】

から選択される。
【0017】
本発明はさらに、少なくとも1種の式(I)の化合物を含む組成物に関する。
【0018】
一実施形態によれば、組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む医薬組成物である。
【0019】
本発明はさらに、医薬として使用するための式(I)の化合物に関する。
【0020】
本発明はさらに、医薬として使用するための本発明に係る組成物に関する。
【0021】
一実施形態によれば、本発明は、肝内胆汁鬱滞性疾患などの希少胆道疾患の治療に使用するための本発明に係る式(I)の化合物または組成物に関する。
【0022】
別の実施形態によれば、本発明は、肝細胞におけるホスファチジルコリン分泌の欠陥を特徴とする、ABCB4関連胆道疾患である肝内胆汁鬱滞性疾患の治療に使用するための本発明に係る式(I)の化合物または組成物に関する。
【0023】
別の実施形態によれば、本発明は、進行性家族性肝内胆汁鬱滞症(PFIC3)、低リン脂質関連胆石症(LPAC)症候群、妊娠性肝内胆汁鬱滞症(ICP)、薬物性肝障害、一過性の新生児胆汁鬱滞症(TNC)、成人の胆管線維症と胆汁性肝硬変、または肝内胆管癌(IHCC)の治療に使用するための本発明に係る式(I)の化合物または組成物に関する。
【0024】
別の実施形態によれば、本発明は、進行性家族性肝内胆汁鬱滞症3型、LPAC症候群またはICPからなる群から選択される肝内胆汁鬱滞性疾患の治療に使用するための本発明に係る式(I)の化合物または組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
【0026】
「フェニル」は、式Cを有する原子の環式芳香族基を指す。
【0027】
「置換されたフェニル」は、式(R)-Cを有する原子の環式芳香族基を指し、式中、Rは置換基であり、nは1~5に含まれ、Rは同じであっても異なってもよい。一実施形態では、nは1に等しい。一実施形態では、nは2に等しい。一実施形態では、nは3に等しい。一実施形態では、Rはフェニル基のメタ位にある。一実施形態では、Rはフェニル基のパラ位にある。一実施形態では、nは2に等しく、Rはフェニル基のパラ位およびメタ位にある。
【0028】
「ハロゲン」は、塩素、フッ素、臭素またはヨウ素を指し、特に塩素、フッ素、臭素を意味する。
【0029】
「(C~C)アルキル基」は、C~Cの直鎖状もしくは分岐鎖状の飽和炭化水素鎖を指す。例は、限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルである。
【0030】
「(C~C)シクロアルキル基」は、C~C環式飽和炭化水素を指す。例は、限定されるものではないが、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキサンである。
【0031】
「電子求引基」は、電子を引き付ける能力を有する官能基を指す。例は、限定されるものではないが、CN、NO、CFである。
【0032】
「小胞体(ER)」は、真核細胞の細胞質内に一連の扁平嚢を形成し且つ特にタンパク質の合成、折り畳み、修飾および輸送において重要な複数の機能を担う、連続した膜系を指す。全ての真核細胞は小胞体(ER)を含む。
【0033】
「野生型(WT)」は、天然の変異型または実施室変異型(laboratory mutant form)のものとは対照的に、生物の自然個体群または生物の菌株において優勢である表現型、遺伝子型または遺伝子を指す。
【0034】
本明細書で使用される「ABCB4-WT」は、天然に生じるようなABCB4トランスポーターの典型的な形態の表現型を指す。
【0035】
本明細書で使用される「ABCB4バリアント」は、異常な表現型のABCB4トランスポーターの変異型を指す。例えば、限定されるものではないが、ABCB4-I541F、ABCB4-I490T、ABCB4-L556Rである。
【0036】
「ER保持されるABCB4バリアント」は、未成熟タンパク質としてER中に保持されるABCB4バリアントを指し、従って、それらの生理学的機能を果たすために細胞膜に正確に配置されることができない。
【0037】
「ホモ接合性」は、相同染色体上の対応する遺伝子座(または位置)に、1つ以上の遺伝子座に関して同一である、2つの遺伝子を有する。
【0038】
「複合ヘテロ接合性」は、相同染色体上の対応する遺伝子座に、1つ以上の遺伝子座に関して異なっている、2つの対立遺伝子を有する。
【0039】
本明細書で使用される「治療」は、治療的および予防的処置の両方を指し、その目的は、標的となる病的状態または疾患を予防するか減速させる(和らげる)ことである。治療を必要とするものとしては、既に疾患に罹患しているものならびに疾患に罹患しやすいものまたは疾患が予防されるべきものが挙げられる。対象または哺乳類は、本発明に係る治療量の化合物または組成物が投与された後に、特定の疾患または病気に関連する1つ以上の症状に関する緩和、罹患率および死亡率の低下ならびに生活の質の問題の改善のうちの観察可能および/または測定可能な変化の1つ以上を示す場合に「治療」が成功となる。治療の成功および疾患の改善を評価するための上記パラメータは、医師が精通している通常の手順によって容易に測定可能である。
【0040】
本明細書で使用される「治療有効量」は、(1)標的となる病気または疾患の発症を遅らせるか予防する、(2)標的となる病気または疾患の1つ以上の症状の進行、増悪または悪化を減速または停止する、(3)標的となる病気または疾患の症状の寛解をもたらす、(4)標的となる病気または疾患の重症度または発生率を低下させる、および/または(5)標的となる病気または疾患を治癒させることを目的とした(但し、対象に対して有意なマイナスもしくは有害な副作用を引き起こさない)、本発明に係る化合物または組成物のレベルまたは量を指す。予防処置のために標的となる病気または疾患の発症前に治療有効量の本発明に係る化合物または組成物を投与してもよい。
【0041】
「薬学的に許容される賦形剤」は、動物、好ましくはヒトに投与した場合に副作用、アレルギー反応または他の有害反応を生じない賦形剤を指す。それは、ありとあらゆる分散媒および溶媒、コーティング剤、等張剤および吸収遅延剤、添加剤、防腐剤および安定化剤などを含む。ヒトへの投与のための製剤は、例えばFDAまたはEMAなどの規制当局によって要求される無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度基準を満たすものでなければならない。
【0042】
本明細書で使用される「対象」は、温血動物、好ましくはヒト、ペットまたは家畜を指す。本明細書で使用される「ペット」および「家畜」という用語は、限定されるものではないが、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマおよび家禽を含む。いくつかの実施形態では、当該対象は男性(雄)または女性(雌)の対象である。いくつかの実施形態では、当該対象は成人(例えば、18歳以上の対象(ヒトの年齢)または生殖能力が達成された後の対象)である。いくつかの実施形態では、当該対象は、医療的ケアを受けるのを待っているか受けている途中である、過去に本発明の方法に係る医療処置の対象であったか現在対象であるか今後対象になる、あるいは疾患の発生について監視されている「患者」すなわち対象であってもよい。
【0043】
詳細な説明
本発明は、式(I):
【化4】

の化合物であって、式中、
は、(C~C)アルキル基、または(C~C)シクロアルキル基であり、
は、フェニルであるか、または1~3つの基で置換されたフェニルであり、
但し、Rがフェニルである場合、Rは(C~C)シクロアルキル基である、
化合物、またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つ、に関する。
【0044】
一実施形態によれば、Rは(C~C)アルキル基である。一実施形態によれば、Rは(C~C)アルキル基である。一実施形態によれば、Rは、メチル、エチル、プロピルおよびイソプロピルから選択される。一実施形態によれば、Rはイソプロピルである。
【0045】
別の実施形態によれば、Rは(C~C)シクロアルキル基である。一実施形態によれば、Rは(C~C)シクロアルキル基である。一実施形態によれば、Rは(C~C)シクロアルキル基である。一実施形態によれば、Rは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキサンから選択される。一実施形態によれば、Rはシクロペンチルである。
【0046】
一実施形態によれば、Rはフェニル基である。
【0047】
別の実施形態によれば、Rは1~3つの基で置換されたフェニルである。一実施形態によれば、Rは、電子求引基およびハロゲンから選択される1~3つの基で置換されたフェニルである。一実施形態によれば、Rは、CN、NO、CF、F、Cl、BrおよびIから選択される1~3つの基で置換されたフェニルである。一実施形態によれば、Rは、CF、F、ClおよびBrから選択される1~3つの基で置換されたフェニルである。
【0048】
一実施形態によれば、Rは、電子求引基およびハロゲンから選択される1~2つの基で置換されたフェニルである。一実施形態によれば、Rは、CN、NO、CF、F、Cl、BrおよびIから選択される1~2つの基で置換されたフェニルである。一実施形態によれば、Rは、CF、F、ClおよびBrから選択される1~2つの基で置換されたフェニルである。
【0049】
一実施形態によれば、Rは、電子求引基およびハロゲンから選択される1つの基で置換されたフェニルである。一実施形態によれば、Rは、CN、NO、CF、F、Cl、BrおよびIから選択される1つの基で置換されたフェニルである。一実施形態によれば、Rは、CF、F、ClおよびBrから選択される1つの基で置換されたフェニルである。
【0050】
本実施形態によれば、Rが、1~2つの基で置換されたフェニルである場合、前記基の少なくとも1つはフェニル環のメタ位にある。
【0051】
一実施形態では、Rはシクロペンチル基であり、R基は、
【化5】

から選択される。
【0052】
一実施形態では、Rはイソプロピルであり、Rは、3-(トリフルオロメチル)フェニルである。
【0053】
一実施形態によれば、式(I)の化合物は、
【化6】

から選択される。
【0054】
一実施形態によれば、式(I)の化合物は、
【化7】

から選択される。
【0055】
一実施形態によれば、式(I)の化合物は、(R)-2-((9-シクロペンチル-6-((3-フルオロベンジル)アミノ)-9H-プリン-2-イル)アミノ)ブタン酸:
【化8】

である。
【0056】
一実施形態によれば、式(I)の化合物は、(R)-2-((6-((3-クロロベンジル)アミノ)-9-シクロペンチル-9H-プリン-2-イル)アミノ)ブタン酸:
【化9】

である。
【0057】
さらなる実施形態によれば、式(I)の化合物は、(R)-2-((6-((4-クロロ-3-フルオロベンジル)アミノ)-9-シクロペンチル-9H-プリン-2-イル)アミノ)ブタン酸:
【化10】

である。
【0058】
ChemBioDraw(登録商標)Ultraバージョン12.0(PerkinElmer社)を用いて、当該化合物を命名した。
【0059】
本発明の化合物は、遊離塩基または薬学的に許容される酸との付加塩の形態で存在してもよい。一実施形態によれば、本発明の化合物は遊離塩基の形態で存在する。一実施形態によれば、本発明の化合物は薬学的に許容される酸との付加塩の形態で存在する。
【0060】
式(I)の化合物の好適な生理学的に許容される酸付加塩としては、臭化水素酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アスコルビン酸塩、塩酸塩、トリフラート、マレイン酸塩、メシル酸塩、ギ酸塩、酢酸塩およびフマル酸塩が挙げられる。
【0061】
式(I)の化合物および/またはそれらの塩は、溶媒和物(例えば水和物)を形成していてもよく、本発明は、全てのそのような溶媒和物を含む。
【0062】
本発明の化合物は、当業者によって実践されている有機化学の従来の方法により調製することができる。特に出発物質は6-クロロ-2-フルオロプリンであってもよい。1つの可能なプロセスは以下の実施例1に例示されている。
【0063】
本発明のさらなる目的は、少なくとも1種の上述されている化合物を含むか(本質的に)それ(ら)からなる医薬である。
【0064】
本発明の別の目的は、少なくとも1種の上述されている化合物を含むか(本質的に)それ(ら)からなる組成物である。
【0065】
本明細書で使用される「本質的に~からなる」は組成物について言及する場合は、本発明に係る少なくとも1種の化合物またはそれらの組み合わせが前記組成物中で生物活性を有するたった1種の治療薬または薬剤であることを意味する。
【0066】
本発明の別の目的は、少なくとも1種の上述されている化合物と少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤とを含むか(本質的に)それらからなる医薬組成物である組成物である。
【0067】
薬学的に許容される賦形剤の例としては、限定されるものではないが、媒体、溶媒、コーティング剤、等張剤および吸収遅延剤、添加剤、安定化剤、防腐剤、界面活性剤、酵素分解を阻害する物質、アルコール、pH調節剤および噴射剤が挙げられる。
【0068】
薬学的に許容される媒体の例としては、限定されるものではないが、水、リン酸緩衝食塩水、生理食塩水または他の生理緩衝食塩水、または他の溶媒、例えばグリコール、グリセリンおよびオリーブ油などの油または注射可能な有機エステルが挙げられる。薬学的に許容される媒体はリポソームまたはミセルも含むことができ、かつポリペプチドまたはペプチド抗原を界面活性剤およびグリコシドと混合することにより調製される免疫刺激複合体を含むことができる。
【0069】
等張剤の例としては、限定されるものではないが、糖および塩化ナトリウムなどが挙げられる。吸収遅延剤の例としては、限定されるものではないが、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンが挙げられる。
【0070】
添加剤の例としては、限定されるものではないが、マンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトースまたはポリビニルピロリドンあるいはインビボ投与に適した抗酸化剤または不活性ガス、安定化剤または組換えタンパク質(例えばヒト血清アルブミン)などの他の添加剤が挙げられる。
【0071】
好適な安定化剤の例としては、限定されるものではないが、スクロース、ゼラチン、ペプトン、NZ-アミンまたはNZ-アミンASなどの消化タンパク質抽出物が挙げられる。
【0072】
別の態様によれば、本発明は、医薬として使用するための式(I)の化合物を扱う。
【0073】
別の態様によれば、本発明は、医薬として使用するための少なくとも1種の式(I)の化合物を含む組成物を扱う。より具体的な態様では、本組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬として使用するための医薬組成物である。
【0074】
本発明の化合物、組成物、医薬組成物または薬は、経口、非経口、腹膜内、吸入スプレー、局所、直腸内、経鼻、口腔内または膣内投与してもよく、埋込型容器を介して投与してもよい。
【0075】
一実施形態では、本発明の化合物、組成物、医薬組成物または薬を注射する。注射の例としては、限定されるものではないが、腫瘍内、皮内、皮下、静脈内、筋肉内、リンパ管内、関節内、関節滑液嚢内、胸骨内、クモ膜下腔内、膀胱内、膣内、肝内、病巣内および頭蓋内注射または注入技術が挙げられる。
【0076】
本発明のさらなる態様では、本化合物または本組成物を皮下、皮内、腹膜内または膣内経路を介して投与する。
【0077】
一実施形態では、本発明の化合物、組成物、医薬組成物または薬は経口投与に適した形態である。第1の実施形態によれば、経口投与に適した形態は、錠剤、丸剤、カプセル、軟ゼラチンカプセル、糖衣剤、口腔内崩壊錠、発泡錠または他の固体を含む群から選択される固体形態である。第2の実施形態によれば、経口投与に適した形態は、例えば飲用溶液、口腔内スプレーおよびリポソーム形態などの液体形態である。
【0078】
本発明に係る式(I)の化合物は、賦形剤および経口組成物のためによく使用される成分、例えば脂肪および/または水性成分、湿潤剤、増粘剤、保存料、質感向上剤、味向上剤および/またはコーティング剤、抗酸化剤、保存料と共に製剤化してもよい。
【0079】
経口組成物のための製剤化剤および賦形剤はこの分野では公知であり、本明細書において十分に詳細に説明することを目的とするものではない。経口組成物の多くの実施形態は、コーティング錠剤、ゲルカプセル、ゲル、制御放出ヒドロゲル、乳濁液、錠剤およびカプセルを製造するための通常のプロセスにより製剤化する。
【0080】
コーティング材料の例としては、限定されるものではないがレシチンが挙げられる。
【0081】
別の実施形態では、本発明の菌株、化合物、医薬組成物または医薬を直腸内もしくは膣内投与のために製剤化し、かつ坐薬、腟坐剤、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレーとして提供してもよい。
【0082】
直腸内組成物の製剤の例は、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤を含有する坐薬である。別の実施形態では、本発明の菌株、化合物、医薬組成物または薬は非経口投与に適した形態である。非経口投与に適した形態としては、限定されるものではないが、無菌かつ等張性の水性もしくは非水性溶液、分散液、懸濁液または乳濁液、あるいは使用直前に無菌注射溶液または分散液に再構成することができる無菌粉末が挙げられる。
【0083】
非経口投与は皮下、筋肉内および静脈内投与を含む。注射用製剤はアンプルなどの単回単位剤形または複数回用量容器で提供してもよい。本組成物は油性もしくは水性媒体中の懸濁液、溶液または乳濁液として製剤化してもよく、かつ防腐剤、乳化剤および/または安定化剤などのさらなる薬剤を含有していてもよい。あるいは、式(I)の化合物は分散性粉末として製剤化してもよく、これを使用直前に好適な媒体、例えば滅菌水により液体組成物として調製してもよい。
【0084】
別の実施形態では、本発明の化合物、医薬組成物または薬は、経鼻および呼吸器経路を介した局所送達に適した形態である。経鼻もしくは呼吸投与に適した製剤の例としては、限定されるものではないが、点鼻液、スプレー、エアロゾルおよび吸入薬が挙げられる。
【0085】
別の実施形態では、本発明の化合物、医薬組成物または薬は局所投与に適した形態である。局所投与に適した製剤の例としては、限定されるものではないが、軟膏、ペースト、点眼薬、クリーム、パッチ(例えば経皮パッチなど)、ゲルおよびリポソーム形態などが挙げられる。
【0086】
一実施形態では、本発明の組成物または製剤は、単位用量または複数回用量の密封容器、例えばアンプルおよびバイアルで提供してもよく、かつ使用直前に無菌の液体賦形剤、例えば注射用水の添加のみを必要とする凍結乾燥条件で貯蔵してもよい。即席注射溶液および懸濁液は無菌粉末、顆粒および錠剤から調製してもよい。
【0087】
式(I)の化合物は、液体溶液、液体懸濁液または粉末として製剤化してもよい。
【0088】
液体溶液または懸濁液については、担体は典型的には発熱物質非含有無菌物または希釈水性アルコール溶液であってもよい。液体溶液または懸濁液は好ましくは等張性であり、故に塩化ナトリウムを含んでいてもよい。任意の添加剤としては、例えばヒドロキシ安息香酸メチルなどの1種以上の防腐剤、1種以上の抗酸化剤、1種以上の着香料、1種以上の揮発性油、1種以上の緩衝剤および1種以上の界面活性剤が挙げられる。
【0089】
粉末製剤については、粉末状希釈液、例えば粉末状ラクトースおよび界面活性剤などのよく使用される成分を添加してもよい。
【0090】
好適な製剤は、例えばエタノールなどの1種以上の共溶媒、オレイン酸およびトリオレイン酸ソルビタンなどの1種以上の界面活性剤、1種以上の抗酸化剤および1種以上の好適な着香料も含んでいてもよい。
【0091】
投与のための正確な用量は、治療を必要とする対象に関連する因子を考慮して当業者によって決定することができる。投与量を調整して十分なレベルの本組成物を提供するか、あるいは標的となる病的状態または疾患の徴候または症状を減らすか、標的となる病的状態または疾患の重症度を低下させるという所望の効果を維持する。考慮に入れることができる因子としては、病状の重症度(例えば腫瘍体積または感染細胞数)、疾患の予後、腫瘍への局在化または到達性、対象の健康状態、対象の年齢、体重および性別、食事、投与の時間および頻度、薬物の組み合わせ、反応感受性ならびに治療法への寛容性/応答が挙げられる。
【0092】
一実施形態では、治療有効量の本発明の菌株、組成物、医薬組成物、薬またはワクチン組成物を対象に投与する(または投与することができる)。
【0093】
式(I)の化合物の投与に適した投与計画は当業者の技量の範囲内であり、複数のパラメータにより決まる。実際には、好適な投与計画は性別、年齢、体重および疾患の進行により決まる。本発明の範囲では、好適な投与計画は約1~500mgの活性化合物を包含していてもよい。
【0094】
例えば経口投与のために、薬物は約1~約500mgの活性化合物、例えば約20~約250mgの活性化合物、例えば約50~150mgの活性化合物を含んでいてもよい。
【0095】
本発明はさらに、それを必要とする対象における深刻な胆道疾患を予防および/または治療するのに使用するための化合物、組成物、医薬組成物または薬に関する。それは、それを必要とする対象に本発明に係る化合物、組成物、医薬組成物または薬を投与することによる深刻な胆道疾患を予防および/または治療する方法にも関する。
【0096】
一実施形態では、本菌株、組成物、医薬組成物、医薬またはワクチン組成物は、深刻な胆道疾患を治療するためのものである。
【0097】
一実施形態では、本化合物、組成物、医薬組成物または医薬は、肝内胆汁鬱滞性疾患を治療および/または予防するのに使用するためのものである。
【0098】
一実施形態では、本化合物、組成物、医薬組成物または医薬は、ABCB4関連胆道疾患を治療および/または予防するのに使用するためのものである。
【0099】
なおさらなる実施形態では、本化合物、組成物、医薬組成物または医薬は、肝内胆汁鬱滞性疾患、進行性家族性肝内胆汁鬱滞症(PFIC3)、低リン脂質関連胆石症(LPAC)症候群、妊娠性肝内胆汁鬱滞症(ICP)、薬物性肝障害、一過性の新生児胆汁鬱滞症(TNC)、成人の胆管線維症と胆汁性肝硬変、または肝内胆管癌(IHCC)を治療および/または予防するのに使用するためのものである。
【0100】
なおさらなる実施形態では、本化合物、組成物、医薬組成物または医薬は、進行性家族性肝内胆汁鬱滞症3型、LPAC症候群またはICPを治療および/または予防するのに使用するためのものである。
【0101】
一実施形態では、当該対象はヒトである。
【0102】
一実施形態では、当該対象は深刻な胆道疾患を有する。一実施形態では、当該対象は深刻な胆道疾患であると診断されているか診断されたことがある。
【0103】
別の実施形態では、本発明に係る医薬組成物は、限定されるものではないがウルソデオキシコール酸(UDCA)などのさらなる薬剤を含む別の医薬組成物の投与前、投与中または投与後に投与してもよい。
【0104】
さらなる実施形態では、本発明に係る医薬組成物はさらなる薬剤を含んでいてもよい。
【0105】
一実施形態では、当該対象は深刻な胆道疾患のために別の治療法で以前に治療されなかった(すなわち、本発明の方法が第一選択治療法である)。
【0106】
別の実施形態では、当該対象は、深刻な胆道疾患のための例えばUDCAを含む1種、2種以上の他の治療薬を以前に摂取した(すなわち、本発明の方法は第二選択法、第三選択法またはそれ以降である)。一実施形態では、当該対象は深刻な胆道疾患のための1種以上の他の治療薬を以前に摂取したが、これらの治療薬に応答性を示さず、すなわち適切に応答せず、これは、これらの治療薬によって引き起こされる治療効果は全くないか非常に低いことを意味する。
【0107】
別の実施形態では、当該対象は深刻な胆道疾患を発症するリスクがある。深刻な胆道疾患を発症する危険因子の例としては、限定されるものではないが、深刻な胆道疾患の家族歴または遺伝的素因が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
図1-1】図1は、ロスコビチンはABCB4-I541Fの成熟および輸送をレスキューするが、細胞毒性であり、かつABCB4活性について阻害性であることを示す。(A)ABCB4-I541FをHEK細胞において一過性に発現させた。溶媒(DMSO)、100μMのロスコビチン、10μMのCsAまたは27℃の細胞培地による処理から16時間後に細胞溶解液を調製し、指示されている抗体を用いる免疫ブロットにより分析した。同じ条件下で発現されるABCB4-WTは参照として示されている。成熟および未成熟形態のABCB4が示されている(矢印)。このパネルは6回の独立した実験の代表的なものである。(B)Aの濃度測定分析。成熟形態のABCB4の割合を定量化し、次いで溶媒で処理した細胞と比較した倍数変化として表した。6回の独立した実験の平均(±SEM)が示されている。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。(C)ABCB4-WTまたはABCB4-I541FをHepG2細胞において発現させた。溶媒(DMSO)または100μMのロスコビチンによる処理から16時間後に細胞を固定して透過処理した。間接免疫蛍光法の後に、異所的に発現させたABCB4(左の列)および内因性ABCC2(中央の列)を蛍光顕微鏡法により可視化した。マージ画像中に示されている核をヘキスト33342で標識した(右の列)。左のパネルの中のアスタリスクは毛細胆管を示す。このパネルは3回の独立した実験の代表的なものである。バー:10μm。(D)HEK細胞を漸増濃度のロスコビチンで3日間処理した。細胞生存率をMTTアッセイにより評価し、対照溶媒で処理した細胞の値の割合として表した。3連で行った4回の独立した実験の平均(±SEM)が示されている。***P<0.001;ns:有意でない。(E)ABCB4-WTの一過性の発現後に、HEK細胞を漸増用量のロスコビチンで処理した。次いでこれらの細胞のPCを分泌する能力を評価し、背景差分後に溶媒で処理した対照細胞(ABCB4-WTを発現している)の活性の割合として表した。試験条件ごとに3連で行った少なくとも3回の独立した実験の平均(±SEM)が示されている。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;ns:有意でない。
図1-2】同上。
図2図2は、ロスコビチンの構造的類似体がABCB4-I541Fの成熟を補正することを示す。(A)ロスコビチンおよびその構造的類似体の構造。(B)ABCB4-I541Fの一過性の発現および100μMの指示されている化合物(または溶媒としてのDMSO)による処理後に、HEK細胞を溶解し、細胞溶解液を指示されている抗体を用いる免疫ブロットにより分析した。成熟および未成熟形態のABCB4が示されている。このパネルは5回の独立した実験の代表的なものである。(C)Bの濃度測定分析。成熟形態のABCB4の割合を定量化し、次いで溶媒で処理した条件と比較した倍数変化として表した。5回の独立した実験の平均(±SEM)が表されている。**P<0.01;***P<0.001;ns:有意でない。
図3図3は、ロスコビチンの構造的類似体がHepG2細胞においてABCB4-I541Fの小管標的化を修復することを示す。ABCB4-WTまたはABCB4-I541Fの一過性の発現および対照としての溶媒(DMSO)または100μMの指示されている化合物による16時間の処理後に、間接免疫蛍光法および蛍光顕微鏡法のためにHepG2細胞を固定および処理して、ABCB4(左のパネル)およびABCC2(中央のパネル)を可視化した。マージ画像中に示されている核をヘキスト33342で標識した(右のパネル)。左のパネルの中のアスタリスクは毛細胆管を示す。この図は1つの条件ごとに少なくとも3回の独立した実験の代表的なものである。バー:5μm。
図4図4は、ロスコビチン類似体はロスコビチンよりも細胞毒性が低く、かつABCB4活性について阻害性が低いことを示す。(A)漸増濃度の指示されている化合物による3日間の処理後に細胞生存率を決定し、図1Dと同様に表した。1つの条件ごとに3連で行った少なくとも4回の独立した実験の平均(±SEM)が示されている。統計は、各試験濃度についてのロスコビチン処理と他の条件との比較を示す:**P<0.01;***P<0.001;ns:有意でない。(B)ABCB4-WTの一過性の発現後に、HEK細胞を漸増用量のロスコビチンまたは指示されているようなその類似体で処理した。次いでこれらの細胞のPCを分泌する能力を評価し、図1Eと同様に表した。試験条件ごとに3連で行った少なくとも3回の独立した実験の平均(±SEM)が示されている。統計は、各試験濃度についてのロスコビチンによる処理とその類似体による処理との比較を示す:P<0.05;**P<0.01;ns:有意でない。(C)Bに示されている結果がロスコビチンおよびその類似体について対数[濃度]の関数として表されている。
図5-1】図5は、ロスコビチン類似体がABCB4-I541Fの成熟、細胞膜標的化およびホスファチジルコリン分泌活性をレスキューすることを示す。(A)HEK細胞におけるABCB4-I541Fの一過性の発現および0(溶媒)、5、10もしくは25μMの指示されているロスコビチン類似体による処理後に、細胞溶解液を調製して図2Bと同様に分析した。矢印は成熟形態のABCB4を示す。これらの免疫ブロットは、条件ごとに少なくとも5回の独立した実験の代表的なものである。(B)Aの濃度測定分析。成熟形態のABCB4の割合を定量化し、次いで各試験化合物について溶媒で処理した条件(0μM)と比較した倍数変化として表した。ロスコビチン類似体ごとの少なくとも5回の独立した実験の平均(±SEM)が表されている。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;ns:有意でない。(C)ABCB4-I541Fの一過性の発現後に、HepG2細胞を25μMの指示されているロスコビチン類似体で16時間処理した。ABCB4(左の列)およびABCC2(中央の列)は図3と同様に免疫局在性であった。核がマージパネル(右の列)に示されている。左のパネルの中のアスタリスクは毛細胆管を示す。このパネルは3回の独立した実験の代表的なものである。バー:5μm。(D)ABCB4-I541Fを発現しているHEK細胞を25μMのロスコビチン類似体で処理し、ABCB4媒介性PC分泌を測定し、図1Eと同様に表し、ABCB4-WTを発現している細胞について最大活性を決定した。試験条件ごとに3連で行った少なくとも5回の独立した実験の平均(±SEM)が示されている。P<0.05;***P<0.001。
図5-2】同上。
図6図6は、ロスコビチン類似体が他のER保持されるABCB4バリアントの機能補正物質(functional correctors)であることを示す。(AおよびB)0(溶媒)、5、10もしくは25μMの指示されているロスコビチン類似体による処理後に、HEK細胞において発現されている(A)ABCB4-I490Tおよび(B)ABCB4-L556Rミスセンスバリアントの成熟を図5Aと同様に免疫ブロットにより評価した。これらのパネルは、条件ごとに少なくとも4回の独立した実験の代表的なものである。(CおよびD)図5Bにおいて行ったAおよびBそれぞれの濃度測定分析。1つの条件ごとに少なくとも4回の独立した実験の平均(±SEM)が表されている。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;ns:有意でない。(EおよびF)指示されているロスコビチン類似体なしでの(溶媒)処理または25μMの指示されているロスコビチン類似体による処理後に、(E)ABCB4-I490Tまたは(F)ABCB4-L556Rを発現しているHepG2細胞を図5Cに記載されている間接免疫蛍光法のために処理した。白色の四角形は、各マージ写真の右に示されている個々のフレーム内の拡大された領域を示す。アスタリスクは毛細胆管を示す。各パネルは3回の独立した実験の代表的なものである。バー:5μm。(GおよびH)(G)ABCB4-I490Tまたは(H)ABCB4-L556Rを発現しており、かつ25μMの指示されているロスコビチン類似体で処理したHEK細胞のABCB4媒介性PC分泌を図5Dと同様に分析した。試験条件ごとに3連で行った少なくとも4回の独立した実験の平均(±SEM)が示されている。P<0.05。
図7図7は、HEK細胞におけるABCB4-WTの細胞内局在を示す。ABCB4-WTの一過性の発現後に、HEK細胞を図4Bと同様に指示されている濃度のロスコビチン、MRT2-235、MRT2-237またはMRT-243で処理した。細胞の固定および透過処理後に、ABCB4-WTの局在を間接免疫蛍光法および共焦点顕微鏡法により評価した。この図は3回の独立した実験の代表的なものである。バー:5μm。
【実施例
【0109】
本発明を以下の実施例によりさらに例示する。
【0110】
実施例1:式(I)の化合物4の合成
【化11】

2,6-ジクロロプリンから開始する手順を用いて、化合物2および化合物3を6-クロロ-2-フルオロプリンから開始して調製した(Oumataら 2009)。
【0111】
化合物4の合成
1mLのDMSO中の化合物3(1.7mmol)および3-アミノブタン酸(12.26mmol)、KPO(3.50mmol)の混合物を160℃で5時間加熱した。20℃に冷却した後、この混合物を5mLのクエン酸(10%水溶液、m:v)で希釈した。この混合物をEtOAcで抽出し、1つにまとめた有機層を飽和NaClで洗浄し、NaSOで乾燥した。真空中で溶媒を蒸発させた後、粗製生成物をCHCl-EtOAc-THF(6:2:1)を用いてシリカゲル上で精製した。
【0112】
実施例2:材料および方法
DNA構築物および変異誘発
野生型(WT)ABCB4、アイソフォームA(NM_000443.3)のpcDNA3ベクターへのサブクローニングが記載されている(6)。I541F、I490TおよびL556RミスセンスABCB4バリアントは以前に報告および記載されていた(2、6、11)。QuikChange II XL部位特異的変異誘発キット(Agilent Technologies社、フランスのレ・ジュリス)を用い、製造業者の説明書に従い、かつ以下の表1に記載されているプライマー(Eurogentec社、フランスのアンジェ)を用いて部位特異的変異誘発を行った。全ての構築物の配列は自動化シークエンシングにより体系的に確認した。
【表1】
【0113】
細胞培養およびトランスフェクション
ヒト胎児腎(HEK-293、本明細書ではHEKという;ATCC(登録商標)-CRL-1573TM)細胞およびヒト肝細胞癌HepG2(ATCC(登録商標)-HB-8065TM)細胞はATCC(バージニア州マナッサス)から得た。本発明者らが以前に報告したように、HEKおよびHepG2細胞はどちらもABCB4を発現しない(2、12)。5%COを含む37℃のインキュベータ中、4.5g/LのD-グルコースを含有し、かつ10%の熱不活性化ウシ胎児血清(Sigma社、フランスのサンカンタンファラヴィエ)、2mMのL-グルタミン、2mMのピルビン酸ナトリウム、100単位/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシン(Gibco-Thermo Fisher scientific社)が添加されたダルベッコ変法イーグル培地(Gibco-Thermo Fisher scientific社、フランスのヴィルボンシュルイヴェット)において細胞を増殖させた。
【0114】
HEK細胞の一過性のトランスフェクションのために、それらをトランスフェクションの少なくとも6時間前に、適切な組織培養ウェルにサブコンフルエントなレベルで播種した。Turbofect(Thermo Fisher scientific社)を製造業者の説明書に従って2:1の試薬:DNA比で使用した。HepG2細胞の一過性のトランスフェクションのために、サブコンフルエントな培養物をトランスフェクションの24時間前に適切な培養ウェルに播種した。リポフェクタミン3000(Thermo Fisher scientific社)を製造業者の説明書に従って1.5:1の試薬:DNA比で使用した。トランスフェクションから少なくとも16時間後に、さらなる分析のために細胞処理およびプロセシングを行った。
【0115】
化学物質および細胞処理
シクロスポリンA(CsA)は、Santa Cruz Biotechnologies社(テキサス州ダラス)製であった。(R)-ロスコビチンおよびその市販されていない構造的類似体(Aftin-4、代謝産物M3、MRT2-163、MRT2-164、MRT2-235、MRT2-237、MRT2-239、MRT2-241、MRT2-243、MRT2-245、MRT2-248およびMRT2-249;図2を参照)は、ManRos Therapeutics社(フランスのロスコフ)により合成された。同じ希釈の対照溶媒としてDMSO(全ての条件のために0.1%のDMSO)を用いて細胞を5μM~100μMの最終濃度で処理するために、各化合物を1000×濃縮原液としてジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶化させた。これらの細胞をトランスフェクションから24時間後に、細胞を3日間処理した生存度アッセイは除いて、これらの薬物で16時間処理した。薬物処理後に細胞を免疫解析、細胞生存率アッセイまたはPC分泌アッセイのために使用した。
【0116】
タンパク質キナーゼおよびそれらの活性化因子または調節因子(表2を参照)を発現させて精製し、それらの触媒活性を以前に記載されているように(8、9、15)、様々な濃度の各ロスコビチン類似体の存在下でアッセイした。用量反応曲線からIC50値を計算した。
【0117】
免疫解析
以前に記載されているように(2、12)、ウェスタンブロットおよび間接免疫蛍光法を行った。免疫ブロット分析のために、全細胞溶解液を変性および還元試料緩衝液中で調製し(13)、7.5%SDS-PAGEで分離し、Trans-Blotシステム(Bio-Rad Laboratories社、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いてニトロセルロース膜に転写した。飽和した膜をマウスモノクローナル抗ABCB4(クローンP3II-26;Enzo Life Sciences社、フランスのヴィルールバンヌ)または抗αチューブリン(クローン1E4C11;ProteinTech社、イギリスのマンチェスター)抗体および次いでペルオキシダーゼ結合抗マウス二次抗体(Sigma社)と共にインキュベートした。シグナルをECL primeウェスタンブロット検出試薬(GE Healthcare社、フランスのヴェリジーヴィラクブレー)で検出し、ImageJ 1.50iソフトウェア(米国国立衛生研究所、メリーランド州ベセスダ)を用いて線形検出範囲内で定量化した。
【0118】
間接免疫蛍光法のために、HepG2細胞をカバーガラス上で増殖させ、トランスフェクションおよび処理後に、それらを固定して氷冷メタノール中-20℃で1分間透過処理した。次いで、ABCB4およびABCC2をそれぞれマウスモノクローナルPII-26(IgG2b)およびMI-4(IgG1)抗体(Enzo Life Sciences社)を用いて免疫標識した。AlexaFluor(登録商標)555およびAlexaFluor(登録商標)488に結合させたアイソタイプ特異的二次抗体(Thermo Fisher scientific社)およびヘキスト33342(Thermo Fisher scientific社)を使用してABCB4、ABCC2および核をそれぞれ標識した。UPLSAPO 60XS2シリコーン浸対物レンズを備えたOlympus社(フランスのランジス)製のIX83倒立蛍光顕微鏡およびHamamatsu社製 ORCA Flash4.0デジタルCMOSカメラを用いて画像を取得し、Olympus CellSens Dimension Desktopバージョン1.16およびAdobe Photoshopバージョン8.0.1を用いて分析した。各実験のために、全ての画像を一定の設定(取得時間およびシグナル強度の補正)で取得した。
【0119】
細胞生存率アッセイ
記載されているように(14)、生細胞によってMTT(3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5ジフェニルテトラゾリウム臭化物)をホルマザン結晶に変換することにより細胞生存率を評価した。簡単に言えば、対照(細胞なし、処理なし、溶媒による処理)を含めて、HEK細胞を試験条件ごとに3連で96ウェルプレートに播種した。上記のような(他の実験の実験条件を模倣するための)ABCB4-WTの一過性の発現および72時間の薬物処理後に、125μg/mlのMTT(最終濃度)を各ウェルに添加し、細胞を37℃で2時間再インキュベートした。ブランクのために540nmでの吸光度を0.1OD単位未満に維持し(陰性対照)、かつ未処理細胞のために540nmでの吸光度を1.0~1.3OD単位に維持する(陽性対照)ために、これらの条件を最適化した。次いで培養培地を穏やかに洗い流し、細胞を100μLの純粋なDMSOに溶解し、Tecan社(スイスのメンネドルフ)製のマルチプレート細胞蛍光計(a multiplate cytofluorimeter)であるSpectraFluorを用いて540nmでの吸光度を測定した。3連ごとに背景差分後に細胞生存率を計算し、溶媒のみで処理した細胞に対する平均の割合として表した。
【0120】
ABCB4媒介性ホスファチジルコリン分泌の測定
HEK細胞を1ウェル当たり10cm面積の0.01%ポリL-リジン(Sigma社)で予めコーティングした6ウェルプレートに播種した(1ウェル当たり1.3×10細胞)。空のベクター(対照)、ABCB4-WTまたはそのバリアントをコードするプラスミドへの一過性のトランスフェクション後に、細胞を0.5mMのタウロコール酸ナトリウム(Sigma社)および0.02%の脂肪酸非含有ウシ血清アルブミン(Sigma社)が添加された血清非含有培地において37℃で24時間インキュベートした。次いで分泌されたPCを以前に記載されているフルオロ酵素アッセイを用いて(12)、補正された培地から定量化した。各条件を背景差分後に3連で分析し、結果を対応する細胞溶解液の免疫ブロットによって決定されるABCB4の発現レベルに対して正規化した。
【0121】
統計
Prismバージョン7.00(GraphPadソフトウェア、カリフォルニア州ラ・ホーヤ)を用いてグラフィックスおよびノンパラメトリック分散分析試験(Kruskall-Wallis)試験を行った。0.05未満のP値を有意であるとみなした。図の説明文に明記がなければ、記号は対照(または溶媒処理した)と他の試験条件との比較を示す。
【0122】
実施例3:ロスコビチンはI541F(ER保持されるABCB4バリアント)の成熟および小管局在をレスキューする
この研究で本発明者らは、ホモ接合性PFIC3患者において最初に同定され(1)、かつ本発明者らの実施室でさらに特性評価された(3、6)、ABCB4-I541FすなわちABCB4の極めて典型的なER保持されるバリアントを使用した。実際にABCB4-I541Fは、WTタンパク質と比較して免疫ブロットにおいて成熟タンパク質バンドの非存在または低存在によって特徴づけられる未成熟かつ高マンノースグリコシル化タンパク質としてERに保持されることが分かっている(6)(図1A)。本発明者らは、ABCB4-I541Fの小管膜における成熟および局在化は、27℃の細胞培地の温度変化またはABCB1/MDR1基質CsAによる処理により部分的にレスキューすることができることを以前に実証している(3、6)。100μMのロスコビチンがF508del(ER保持されるCFTR/ABCC7バリアント)の機能を補正することが記載されているので(5)、本発明者らはこの分子によるABCB4-I541Fの潜在的な補正を調査した。免疫ブロットの定量化(図1B)によって示されているように、そのような処理によりHEK細胞においてABCB4-I541Fの成熟が補正された(図1A)。これらの結果を、HepG2細胞(細胞培地において疑似毛細胆管を形成する肝細胞癌由来細胞株)における間接免疫蛍光法分析により確認した(7)。実際にABCB4-I541Fの成熟の増加は、HepG2細胞における100μMのロスコビチンによる処理後の小管膜におけるその再局在化に関連づけられた(図1C)。しかしロスコビチンは、HEK細胞における重要な用量依存的細胞毒性(図1D)およびABCB4-WT媒介性ホスファチジルコリン分泌活性の阻害を示し(図1E)、これはさらなる調査に関してその関連性を排除し得る。
【0123】
実施例4:ロスコビチンの構造的類似体はABCB4-I541Fの成熟および小管局在をレスキューする
ロスコビチンによって引き起こされる細胞毒性効果はそのCDK阻害活性によって説明することができる(16)。従って本発明者らは、この特徴を潜在的に欠いている構造的類似体(図2A)を合成した。Aftin-4はキナーゼ阻害活性が低減されたメチル-ロスコビチンであり(8、9)、M3はロスコビチンの主要な肝臓代謝産物である。全ての他の生成物は親化合物であるロスコビチンと比較して非常に低いキナーゼ阻害を示すカルボキシル化類似体である(表2)。これは、ヒドロキシルレベルでのカルボキシル化および/またはN6位におけるメチル化(図2A)がこれらの分子のCDK阻害活性を強力に減少させることを示し得る。予想どおり、低減されたCDK阻害活性を有する全てのロスコビチン類似体は細胞毒性が低かった(以下の表2を参照)。
【表2】
【0124】
興味深いことにHEK細胞において、これらの類似体のいくつか(MRT2-235、-237、-239、-241、-243、-245および-249)は成熟形態のABCB4-I541Fの発現を有意に増加させるが、他の類似体(Aftin-4、M3、MRT2-163およびMRT2-164)は増加させることができなかった(図2B)。これらの結果の定量化により、100μMの最も強力なロスコビチン類似体による処理後に成熟形態のABCB4-I541Fの発現の約2.5倍の増加が示された(図2C)。次いで本発明者らは、HepG2細胞においてABCB4-I541Fの小管標的化を補正するための最も強力な類似体の有効性を分析した。100μMのこれらの化合物による16時間の処理後に、本発明者らは、ABCC2とのその部分的共局在によって示されているように、毛細胆管におけるABCB4-I541Fの部分的再局在化を観察した(図3)。全体的に見てこれらの結果は、ABCB4-I541Fの成熟および小管局在がロスコビチンの新しい構造的類似体によってレスキューすることができることを実証している。
【0125】
実施例5:ロスコビチンの構造的類似体はロスコビチンよりも細胞毒性が低く、かつABCB4活性について阻害性が低い
この研究を追求するために本発明者らは、ABCB4-I541Fの成熟および毛細胆管における部分的再局在化の有意なレスキューを示した3種類のロスコビチン類似体(MRT2-235、MRT2-237およびMRT2-243)に焦点を当てることを決定した(図2B図2Cおよび図3)。100μMよりも低い濃度では、これらの類似体はHEK細胞においてロスコビチンよりも細胞毒性が非常に低かった(図4A)。実際にその細胞生存率は25μMの類似体ではなお80%超で高かったが、ロスコビチンではこの濃度において60%未満まで減少した(図4A)。さらにHEK細胞におけるABCB4-WT媒介性PC分泌の測定は、3種類のロスコビチン類似体は10μMおよび25μMで使用した場合に元の分子よりも阻害性が低いことを示した(図4B)。ABCB4-WT活性に対するIC50はロスコビチンでは7.5μMであったが、その類似体では2.5~4.0倍高かった(図4Cおよび表3)。
【表3】
【0126】
10、25および100μMでのロスコビチンおよびこれらの3種類の類似体による処理はHEK細胞においてABCB4-WTの細胞膜局在を有意に変化させないことに留意することも重要である(図7)。従って、ロスコビチンおよびその類似体によるABCB4媒介性PC分泌の阻害は、ABCB4機能を有するこれらの化合物の直接的効果に起因しているかもしれない。全体的に見てこれらの結果は、ロスコビチン類似体がABCB4の低い細胞毒性および低い阻害活性を有する興味深いABCB4補正物質であり得ることを示している。
【0127】
実施例6:ロスコビチン類似体はABCB4-I541Fの成熟、局在および活性をレスキューする
100μMで使用した場合のMRT2-235、MRT2-237およびMRT2-243によって引き起こされるABCB4活性の阻害により、本発明者らはより低い濃度でこれらの類似体を調査することに至った。5、10および25μMの3種類の類似体による処理後に、本発明者らはHEK細胞におけるABCB4-I541F成熟の用量依存的補正を観察した(図5A図5Bにおける定量化)。25μMのこれらの類似体による処理により、HepG2細胞において毛細胆管へのABCB4-I541Fの部分的再局在化が生じた(図5C)。最後に本発明者らは、25μMのロスコビチン類似体による処理または未処理後のHEK細胞におけるABCB4-I541FのPC分泌活性を測定した。重要なことに、本発明者らは、対照処理(溶媒)による7.1±0.8%の残留活性から25μMのMRT2-235、MRT2-237およびMRT2-243による処理後のそれぞれ19.0±3.4%、13.0±3.5%および22.5±6.2%の残留活性へのABCB4-I541F活性の顕著な補正を認めた(図5D)。全体的に見て本発明者らの結果は、3種類の選択されたロスコビチン類似体がER保持されるABCB4-I541Fバリアントの成熟および小管局在を回復させ、かつそのPC分泌活性を有意に補正することができることを実証している。
【0128】
実施例7:ロスコビチン類似体は2種類の他のER保持されるABCB4バリアントの機能をレスキューする
この研究を広げるために、本発明者らは肝癌(10)またはPFIC3(1)を有する患者において同定された2種類の他のER保持されるミスセンスABCB4バリアント、I490TおよびL556Rに対するロスコビチン類似体の効果を分析した。未処理では、これらのバリアントは主にHEK細胞における免疫ブロットにより未成熟タンパク質として検出された(図6A図6B)。しかし5~25μMの3種類のロスコビチン類似体による処理後に、本発明者らはこれらの実験の定量化により確認されるように(図6C図6D)、これらの2種類のバリアントの成熟の用量依存的レスキューを観察した(図6A図6B)。これらの結果は、HepG2細胞における間接免疫蛍光法によりさらに検証した。I490TおよびL556Rバリアントはどちらも、25μMのMRT2-235、MRT2-237またはMRT2-243による処理により毛細胆管において部分的に再局所化されていた(図6E図6F)。予想どおり、HEK細胞におけるこれらの2種類のER保持されるバリアントのPC分泌活性は溶媒で処理した細胞では強く損なわれていた(図6G図6H)。しかし25μMの3種類のロスコビチン類似体による処理後に、本発明者らはこれらのバリアントの残留活性の有意な増加を観察した(図6G図6H)。これらの結果は、ロスコビチン類似体がいくつかのER保持されるABCB4バリアントの局在、成熟およびPC分泌活性をレスキューすることができるという証拠を提供している。
【0129】
参考文献
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図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
【国際調査報告】