(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-24
(54)【発明の名称】雄性不妊を判定するためのCatSper活性試験
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20220517BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20220517BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/483 C
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556717
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(85)【翻訳文提出日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2020057904
(87)【国際公開番号】W WO2020193446
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514070764
【氏名又は名称】ヴェストファーリッシュ ヴィルヘルム-ユニバーシテート ミュンスター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シファー クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ブレンカー クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ストリュンカー ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ヤング サミュエル ザチャリー
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045CB14
2G045DB07
2G045FA16
2G045FA19
4B063QA05
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QR41
4B063QR50
4B063QX01
(57)【要約】
本発明は、雄性対象の不妊を判定または診断するためのインビトロ方法に関し、該方法は、(a)該対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液と接触させる工程、(b)工程(a)の試験条件下での該サンプル中の精子の運動性を検出する工程、および(c)工程(b)で検出された運動性に基づいて雄性対象の不妊を判定する工程を含む。さらに、本発明は、雄性対象の不妊を判定または診断する方法で使用するためのキットに関し、該キットは、(a)カルシウムフリー試験液、および(b)カルシウム含有対照液を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄性対象の不妊を判定または診断するためのインビトロ方法であって、
a)該対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液と接触させる工程;
b)工程(a)の試験条件下での該サンプル中の精子の運動性を検出する工程;および
c)工程(b)で検出された該運動性に基づいて該雄性対象の不妊を判定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程(b)の試験条件下での運動精子の量に有意な変化がないことが、前記対象の不妊を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カルシウムフリー試験液が、約20nM未満の遊離カルシウムを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルシウムフリー試験液が、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質が、Ca
2+に結合する化学物質である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Ca
2+に結合する化学物質が、EGTA、EDTA、BAPTA、HEDTA、NTA、DiBrBAPTA、クエン酸、リン酸塩、またはCa
2+指示色素のいずれか1つであり、好ましくはEGTAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)が、少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を加えることをさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カルシウムフリー試験液を前記精子サンプルに加える前に、加えると同時に、または加えた後に、前記活性化刺激が加えられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記CatSper活性化刺激が、前記CatSperチャネルの活性を増強する任意の物質および/または条件である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記CatSperチャネルの活性を増強する物質がリガンドである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リガンドが、ステロイド、プロスタグランジン、ステロイドもしくはプロスタグランジンの作用を模倣する合成もしくは天然の化学物質、血清アルブミン、透明帯タンパク質、またはそれらの組み合わせのいずれか1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ステロイドがプロゲステロンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記CatSperチャネルの活性を増強する条件が、細胞内pHの上昇および/または膜電位の脱分極を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記精子サンプルを工程(a)の前記試験液と少なくとも約5分間接触させる、請求項7~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
運動精子が、不動精子と比較した何らかの動きを特徴とする、請求項2~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記精子の運動性が、光学顕微鏡を用いて測定される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
運動精子の量の測定が、工程(b)の試験条件下で少なくとも約10個の精子をカウントすることを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(b)で検出された精子の運動性を、カルシウム含有液を含む対照条件下で検出された前記対象由来の精子の運動性と比較する工程をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記試験条件下および前記対照条件下で検出された運動性の比較により、前記対象の不妊が示される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記試験条件下および前記対照条件下での精子の運動性の比較が、CatSper活性指数を決定することを含み、
a)i)該試験条件下およびii)該対照条件下での運動精子のパーセンテージ値を得る工程;
b)ii)の該対照条件下での運動精子のパーセンテージ値から、i)の該試験条件下での運動精子のパーセンテージ値を減算し、それによって減算スコアを得る工程;
c)ii)の該対照条件下での運動精子のパーセンテージ値に対する該減算スコアの比率を決定する工程;
d)工程c)の該比率に数100を掛けて、該CatSper活性指数を得る工程
を含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記指数を所定の基準値と比較する工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記指数が前記基準値を下回ることが、前記対象の不妊を示す、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記基準値が約20%である、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記雄性対象が脊椎動物である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記脊椎動物が哺乳動物である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記哺乳動物が、ヒト、ウシ、バッファロー、ウマ、ロバ、ラクダ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、またはマウスのいずれかであり、好ましくはヒトである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
雄性対象の不妊を判定または診断する方法における使用のためのキットであって、
(a)カルシウムフリー試験液、および
(b)カルシウム含有対照液
を含む、キット。
【請求項28】
使用説明書および/またはインプリントをさらに含む、請求項27に記載の使用のためのキット。
【請求項29】
CatSper阻害剤を含む検証液をさらに含む、請求項27または28に記載の使用のためのキット。
【請求項30】
前記カルシウムフリー試験液が、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含む、請求項27~29のいずれか一項に記載の使用のためのキット。
【請求項31】
前記遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質が、Ca
2+に結合する化学物質である、請求項30に記載の使用のためのキット。
【請求項32】
前記Ca
2+に結合する化学物質が、EGTA、EDTA、BAPTA、HEDTA、NTA、DiBrBAPTA、クエン酸、リン酸塩、またはCa
2+指示色素のいずれか1つであり、好ましくはEGTAである、請求項31に記載の使用のためのキット。
【請求項33】
前記カルシウムフリー試験液および/または前記カルシウム含有対照液が、少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含む、請求項27~32のいずれか一項に記載の使用のためのキット。
【請求項34】
前記活性化刺激が、リガンド、弱塩基、上昇したカリウム濃度を含む緩衝液、カリウムまたは塩化物イオンチャネル阻害剤、またはナトリウムイオノフォアのいずれか1つである、請求項33に記載の使用のためのキット。
【請求項35】
前記リガンドが、ステロイド、プロスタグランジン、ステロイドもしくはプロスタグランジンの作用を模倣する合成もしくは天然の化学物質、血清アルブミン、透明帯タンパク質、またはそれらの組み合わせのいずれか1つである、請求項34に記載の使用のためのキット。
【請求項36】
前記ステロイドがプロゲステロンである、請求項35に記載の使用のためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、雄性対象の不妊を判定または診断するためのインビトロ方法に関し、この方法は、(a)該対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液と接触させる工程、(b)工程(a)の試験条件下での該サンプル中の精子の運動性を検出する工程、および(c)工程(b)で検出された運動性に基づいて雄性対象の不妊を判定する工程を含んでなる。さらに、本発明は、雄性対象の不妊を判定または診断する方法で使用するためのキットに関し、該キットは、(a)カルシウムフリー試験液、および(b)カルシウム含有対照液を含んでなる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
意図的でないのに子供がいない状態は、約40~50%のケースで男性不妊が原因となっている深刻な問題である。しかし、不妊それ自体も、その根本的な原因も、しばしば診断に信頼性がない。男性患者の約30%において、それらは不明のままである(「特発性不妊」または「原因不明の精子機能不全」)。それは、適切でタイムリーな診断方法がないことに起因する。
【0003】
卵管の末端にある卵子に接近して受精するために、ヒトの精子には複雑な行動レパートリーがある。卵母細胞とその周辺の細胞は、例えばホルモンを分泌しており、それに精子が反応する。精子はホルモン勾配に沿って泳ぐ方向を調整し、走化性によって卵子を追いかけることができると考えられる(Ralt et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88(非特許文献1); Giojalas et al., 1998, Int. J. Androl., 21(非特許文献2); Eisenbach et al, 2006, Nat Rev Mol Cell Biol 7(4):276-285(非特許文献3); Publicover et al. 2008, Front Biosci 13: 5623-5637(非特許文献4))。卵細胞は、保護用の卵殻(透明帯(zona pellucida))と濃密な卵丘細胞の層 - 精子に対する機械的な障壁 - によって囲まれている。したがって、卵丘細胞層に侵入するために、精子はいわゆる「超活性」遊泳行動に変化する。つまり、長距離をカバーするための通常の対称的な鞭毛打ち(flagellar strike)が、非対称的な低頻度パターンに変化し、これにより、卵丘細胞層を通り抜けるために必要な機械的な力が加わる(Suarez et al., 1991, Biol Reprod, vol. 44(非特許文献5); Ren et al., 2001, Nature 413, 603-609(非特許文献6); Quill et al., 2003, Proc Natl Acad Sci USA, vol. 100(非特許文献7))。透明帯を乗り越える鍵は、超活性化(hyperactivation)に加えて、先体のエキソサイトーシス(acrosomal exocytosis)である。すなわち、透明帯との接触によって先体に蓄えられていた加水分解酵素が放出され(Tulsiani et al., 1998, Experimental Cell Research 240(非特許文献8); Gupta et al., 2011, American Journal of Reproductive Immunology 2011(非特許文献9))、透明帯の糖タンパク質を消化する。透明帯を乗り越えて初めて、精子は卵と融合し、それを受精させることができる(Wassarman et al., 2001, Nat. Cell Biol. 3(非特許文献10))。
【0004】
超活性遊泳、先体のエキソサイトーシス、および受精能獲得(capacitation)(精子が受精可能となるために不可欠な雌性生殖路内での成熟過程)は、細胞内Ca2+によって制御されている(Publicover et al., 2007, Nat Cell Biol, vol. 9(非特許文献11));また、卵管を通る精子のナビゲーションの成功には、[Ca2+]i変化も関与していると考えられる(Breitbart, 2002, Mol. Cell Endocrinol. 187: 139-144(非特許文献12); Publicover et al., 2008, Front Biosci 13(非特許文献4))。そのようなCa2+変化のきっかけには、外部から精子へのCa2+流入が極めて重要である。ヒトの精子では、Ca2+流入は、精子鞭毛の細胞膜に存在する精子固有のCa2+チャネルCatSper(cation channel of sperm)によって制御されている。CatSperチャネルは精子の機能と受精に必須である。CatSperを欠くマウスは生殖能力がない。CatSper欠損精子は、超活性化できないため、卵殻または卵丘細胞層を乗り越えられず(Ren et al., 2001, Nature 413(非特許文献6); Carlson et al., 2003, Proc Natl Acad Sci USA, 100(非特許文献13))、卵子に到達できない。しかし、CatSperは精子の生産とその基本的な運動性には大して必要でない。
【0005】
このように、受精の成功にはCatSper機能が不可欠であるにもかかわらず、アンドロロジー(男性病学)研究所のレパートリーには、CatSperチャネルの欠如または機能的欠陥を検出できる診断法が現在のところ存在しない。精子の機能は、精子の量、および前進運動性または形態学的変化を示す精子など、顕微鏡で容易に検出可能なパラメータに基づいてすでに測定されているが、この方法で診断できるのは、精子の運動性の容易に検出可能な変化のみである。さらに、これまで、精子のCatSper活性を調べるには、手間と費用のかかる蛍光光学的または電気生理学的な測定によってのみ安全であると考えられており、こうした測定をアンドロロジーの日常的な診断プロセスに組み込むことはできなかった。
【0006】
しかし、このことは、子供を望む患者のCatSper状態に関する診断情報の高い有用性とは対照的である。実際、CatSperチャネルが存在しないか、またはCatSperチャネルの重度の機能的欠陥がある場合、生殖医療の4つの標準的技術のうち、サイクル最適化(CO;ドイツ語ではVZO)、子宮腔内人工授精(IUI)、および古典的な体外受精(IVF)の3つは、初めから失敗がわかっている。活性なCatSperチャネルを持たない精子は、卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)の状況でのみ受精に成功しうるが、これは最も費用のかかる方法であるため、多くの場合、不妊治療歴の最後にだけ行われる。
【0007】
現在利用可能なあらゆる診断法を駆使した後でも、雄性不妊(男性不妊)の原因が解明されないままである場合、科学的根拠に基づいた不妊治療法の決定を下すことはできない。科学的根拠に基づく決定が「試行錯誤」の原則に置き換えられるならば、その治療は、関係するカップルにとって、運が左右するゲームを意味することになる。
【0008】
したがって、当技術分野では、特発性雄性不妊症の診断ギャップを埋め、それによって、安全で、信頼性のある、取り扱いが容易な方法を提供することが求められている。要するに、当技術分野では、精子数の減少、形態の変化、および/または著しく非定型的な遊泳行動を特徴としない雄性対象(男性対象)の不妊を診断または検出するのに役立つ新しい手段・方法を提供することが求められており、これにより科学的根拠に基づいた生殖補助療法が可能となる。したがって、本出願の根底にある技術的課題は、これらのニーズに応じることである。この技術的課題は、下記の特許請求の範囲に反映されており、詳細な説明に記載されており、実施例および図面に例示されている態様を提供することによって解決される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ralt et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88
【非特許文献2】Giojalas et al., 1998, Int. J. Androl., 21
【非特許文献3】Eisenbach et al, 2006, Nat Rev Mol Cell Biol 7(4):276-285
【非特許文献4】Publicover et al. 2008, Front Biosci 13: 5623-5637
【非特許文献5】Suarez et al., 1991, Biol Reprod, vol. 44
【非特許文献6】Ren et al., 2001, Nature 413, 603-609
【非特許文献7】Quill et al., 2003, Proc Natl Acad Sci USA, vol. 100
【非特許文献8】Tulsiani et al., 1998, Experimental Cell Research 240
【非特許文献9】Gupta et al., 2011, American Journal of Reproductive Immunology 2011
【非特許文献10】Wassarman et al., 2001, Nat. Cell Biol. 3
【非特許文献11】Publicover et al., 2007, Nat Cell Biol, vol. 9
【非特許文献12】Breitbart, 2002, Mol. Cell Endocrinol. 187: 139-144
【非特許文献13】Carlson et al., 2003, Proc Natl Acad Sci USA, 100
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、機能的なCatSperチャネルについて精子をスクリーニングするために、蛍光光学的または電気生理学的な方法と比較して、基本的に単純な新規のアッセイを開発した;このアッセイは、雄性対象の不妊の信頼できる検出または診断に使用することができる。それによって、雄性対象から得られた精子のCatSperチャネル活性を測定することで、例えば子供を望むカップルの主治医は、科学的根拠に基づいた治療法の決定が可能となる。実際、他の点では目立たない精子像(spermiogram)にもかかわらず、CatSperチャネル活性の欠落または重度の障害が明らかにされる場合、このことは、4つの一般的な生殖医療治療戦略のうちの3つ(CO、IUI、IVF)の除外基準となる。
【0011】
特に、本発明者らは、カルシウムフリーの環境で精子の運動性を検出することにより、雄性対象の不妊を判定または診断する、安全で、信頼性があり、取り扱いが容易なインビトロ試験アッセイを見出した。本発明のアッセイの単純さは、ネイティブ(未処理)射精液(native ejaculate)を用いてアッセイを直接行うことができるため、手間のかかる精子の精製を事前に行う必要がないという点で明らかである。さらに、本発明に従って雄性対象を不妊と判定または診断するために、特定のデバイスを使用する必要がない。最後に、精子自体の運動性を分析するための作業量が非常に限られている。それゆえ、本発明のアッセイを利用することによって、雄性対象が実際に不妊と判定または診断されようとされまいと、その成果または結果を極めて迅速に入手することが可能である。
【0012】
まとめると、本発明は、カルシウムフリーの環境で精子の運動性を検出してCatSperチャネル活性を決定し、雄性不妊を診断することに取り組むものである。
【0013】
したがって、第1の局面では、本発明は、雄性対象の不妊を判定または診断するためのインビトロ方法に関し、この方法は、以下の工程:
a)該対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液と接触させる工程;
b)工程(a)の試験条件下での該サンプル中の精子の運動性を検出する工程;および
c)工程(b)で検出された精子の運動性に基づいて雄性対象の不妊を判定する工程
を含んでなる。
【0014】
本発明はまた、工程(b)の試験条件下で運動精子の量に有意な変化がないことが、前記対象の不妊を示すことになる、本明細書の他の箇所に記載される前記方法を含み得る。
【0015】
さらに本明細書では、カルシウムフリー試験液が約20nM未満の遊離カルシウムを含む、本明細書の他の箇所に記載される前記方法が想定される。
【0016】
本発明はまた、カルシウムフリー試験液が遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含む、本明細書の他の箇所に記載される前記方法を含み得る。
【0017】
本発明はまた、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質が、Ca2+に結合する化学物質である、本明細書の他の箇所に記載される前記方法を包含し得る。好ましくは、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質である、Ca2+に結合する化学物質は、EGTA、EDTA、BAPTA、HEDTA、NTA、DiBrBAPTA、クエン酸、リン酸塩、またはCa2+指示色素のいずれか1つであり、より好ましくはEGTAである。
【0018】
また、工程(a)が少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激(activation stimulus)を加えることをさらに含む、本明細書の他の箇所に記載される前記方法も本発明に含まれ得る。
【0019】
さらに、本発明は、カルシウムフリー試験液を精子サンプルに加える前、加えると同時、または加えた後に、活性化刺激が加えられる、本明細書の他の箇所に記載される前記方法を包含し得る。
【0020】
また、本明細書では、CatSper活性化刺激が、CatSperチャネル活性を増強する任意の物質および/または条件である、本明細書の他の箇所に記載される前記方法も想定される。好ましくは、CatSperチャネル活性を増強する物質はリガンドである。より好ましくは、該リガンドは、ステロイド、プロスタグランジン、ステロイドもしくはプロスタグランジンの作用を模倣する合成もしくは天然の化学物質、血清アルブミン、透明帯タンパク質、またはそれらの組み合わせのいずれか1つである。最も好ましくは、該ステロイドはプロゲステロンである。
【0021】
さらに、本発明はまた、CatSperチャネル活性を増強する条件が、細胞内pHの上昇および/または膜電位の脱分極を含む、本明細書の他の箇所に記載される前記方法をも含み得る。
【0022】
本発明はまた、精子サンプルを工程(a)の試験液と少なくとも約5分間接触させる、本明細書の他の箇所で定義される前記方法を想定し得る。
【0023】
本発明はまた、運動精子が不動精子と比較した何らかの動きによって特徴づけられる、本明細書の他の箇所に記載される前記方法を包含し得る。
【0024】
また、本明細書では、精子の運動性が光学顕微鏡を用いて測定される、本明細書の他の箇所に記載される前記方法も含まれ得る。
【0025】
さらに、本発明は、運動精子の量を測定することが、工程(b)の試験条件下で少なくとも約10個の精子をカウントすることを含む、本明細書の他の箇所に記載される前記方法を含み得る。
【0026】
さらに、本明細書の他の箇所に記載される前記方法の好ましい態様では、この方法は、工程(b)で検出された精子の運動性を、カルシウム含有液を含む対照条件下で検出された該対象由来の精子の運動性と比較する、ことをさらに含むことができる。好ましくは、試験条件および対照条件下で検出された運動性の比較によって、該対象の不妊が示される。
【0027】
また、本発明に含まれ、かつ本発明の特定の態様について本明細書の他の箇所に記載されるように、試験条件および対照条件下での精子の運動性の比較は、CatSper活性指数(CatSper activity index)を決定することを含み、以下の工程:
a)i)試験条件下およびii)対照条件下での運動精子のパーセンテージ値を得る工程;
b)ii)の対照条件下での運動精子のパーセンテージ値からi)の試験条件下での運動精子のパーセンテージ値を減算し、それによって減算スコアを得る工程;
c)ii)の対照条件下での運動精子のパーセンテージ値に対する減算スコアの比率を決定する工程;
d)工程c)の比率に数100を掛けて、CatSper活性指数を得る工程
を含んでなる。
【0028】
本発明はまた、この特定の好ましい態様では、該指数を所定の基準値と比較することをさらに含むことを想定し得る。好ましくは、該指数が基準値を下回る場合、それは前記対象の不妊を示している。本発明の特定の態様によって得られる基準値は、約20%であり得る。
【0029】
本発明はまた、雄性対象が脊椎動物である、本明細書の他の箇所に記載される前記方法をも含み得る。好ましくは、本発明の方法で雄性対象として使用される脊椎動物は、哺乳動物である。より好ましくは、哺乳動物は、ヒト、ウシ、バッファロー、ウマ、ロバ、ラクダ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、またはマウスのいずれかであり、好ましくはヒトである。
【0030】
さらに、別の局面によれば、本発明は、(a)カルシウムフリー試験液、および(b)カルシウム含有対照液を含む、雄性対象の不妊を判定または診断する方法で使用するためのキットに関する。
【0031】
さらに、前記使用するためのキットは、使用説明書および/またはインプリントをさらに含むことが想定され得る。
【0032】
本発明はまた、CatSper阻害剤を含む検証液をさらに含む、前記使用するためのキットを含み得る。
【0033】
本発明はまた、カルシウムフリー試験液が遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含む、本明細書の他の箇所に記載される前記使用するためのキットを包含し得る。
【0034】
好ましくは、カルシウムフリー試験液に含まれる、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質は、Ca2+に結合する化学物質である。より好ましくは、Ca2+に結合する化学物質は、EGTA、EDTA、BAPTA、HEDTA、NTA、DiBrBAPTA、クエン酸、リン酸塩、またはCa2+指示色素のいずれか1つであり、最も好ましくはEGTAである。
【0035】
本発明はまた、カルシウムフリー試験液および/またはカルシウム含有対照液が、少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含む、本明細書の他の箇所に記載される前記使用するためのキットを想定し得る。
【0036】
好ましくは、カルシウムフリー試験液および/またはカルシウム含有対照液に含まれる活性化刺激は、リガンド、弱塩基、上昇したカリウム濃度を含む緩衝液、カリウムまたは塩化物イオンチャネル阻害剤、またはナトリウムイオノフォアのいずれか1つである。より好ましくは、該リガンドは、ステロイド、プロスタグランジン、ステロイドもしくはプロスタグランジンの作用を模倣する合成もしくは天然の化学物質、血清アルブミン、透明帯タンパク質、またはそれらの組み合わせのいずれか1つである。最も好ましくは、該ステロイドはプロゲステロンである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1A】
図1:インキュベーション(15分)後の精子懸濁液のビデオ記録からの連続的なフレーム。対照液(A)、活性CatSperを有する健康なドナー由来の非運動精子を描写する、プロゲステロン(10μM)の存在下でのCa
2+フリー試験液(B)、CatSper活性が薬理学的にブロックされた健康なドナー由来の運動精子を描写する、プロゲステロン(10μM)とCatSperブロッカーRU1968F1(30μM)の存在下でのCa
2+フリー試験液(C)。記録時間はグレースケールでコード化される:t=0秒,ライトグレー;1秒,ミディアムグレー;2秒,ダークグレー。非運動精子は、3つのグレー強度の重ね合わせで白く見える((B)を参照;ただし、円で強調されている運動精子を除く)。
【
図2A】
図2:インキュベーション(15分)後の精子懸濁液のビデオ記録からの連続したフレーム。対照液(A)、活性CatSperを有する健康なドナー由来の非運動精子を描写する、プロゲステロン(10μM)の存在下でのCa
2+フリー試験液(B)、CatSper活性が薬理学的にブロックされた健康なドナー由来の運動精子を描写する、プロゲステロン(10μM)とCatSperブロッカーRU1968F1(30μM)の存在下でのCa
2+フリー試験液(C)。記録時間は、t=0秒(左);2秒(中央);4秒(右)に対応している。
【
図3】
図3:試験液中でのインキュベーション後の精子の運動性。インキュベーションを開始してから約30秒後のカルシウム含有対照液中の精子の運動性(100%に設定)と比較した、異なる試験液(カルシウム含有対照液;カルシウムフリー試験液+プロゲステロン;カルシウムフリー試験液+プロゲステロン+CatSper阻害剤RU1968F1)中でのインキュベーション(15分)後の健康なドナー由来の精子の集団における相対的な運動性の変化。平均値と標準偏差を示す。対照液=Ca
2+,n=8;試験液=Ca
2+フリー+プロゲステロン(10μM),n=8;Ca
2+フリー+プロゲステロン(10μM)+CatSper阻害剤RU1968F1(30μM),n=6。
【
図4】
図4:CATSPER2欠損ヒト精子のCatSper活性指数による特性評価。n=467人の患者のCatSper活性指数。枠組みの三角形は、CatSper機能が失われているn=5人の患者を表す。
【
図5】
図5:CatSper活性指数により確認されたCATSPER2欠損ヒト精子の電気生理学的記録による検証。(A)CATSPER2
-/-精子(患者A~E)および健康なドナー由来の精子(対照)における、代表的な1価のCatSper電流と、それに対応する電流-電圧関係(右)。膜電圧を-80mVの保持電位から10mV刻みで-100mVから+100mVまで段階的に上げた。(B)CATSPER2
-/-精子(患者A~E)および健康なドナー由来の精子(対照)における、それぞれ+100mVおよび-100mVでの外向きおよび内向きの電流振幅(平均±SD)。
【
図6】
図6:CatSper活性指数により確認されたCATSPER2欠損患者のアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション解析(アレイCGH)。健康なドナー(WT)と、CatSper活性指数により確認された5人の患者(CATSPER2
-/- 1~5)におけるDNAコピー数多型(copy number variant:CNV)のアレイCGH解析。黒の四角は、健康なドナーまたは患者および対照(基準)の蛍光標識されたゲノムDNA断片のコハイブリダイゼーションの際の蛍光強度比(log2)を表す。遺伝子量の変動は蛍光比≠0で示される。<-1.5の比はホモ接合性欠失を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
雄性不妊の先行技術分野でこれまでに記載された手段の欠点のいくつかを克服するために、本発明者らは、カルシウムフリーの試験条件下で雄性対象から得られた精子の運動性を検出することに基づいて、該対象の不妊を判定または診断するための有望な新しい方法およびキットを本明細書で提供する。特に、本発明者らは、驚くべきことに、雄性不妊が本発明の方法によって確実に検出または診断され得ることを見いだした。
【0039】
要するに、本発明は、カルシウムフリーの試験条件下で雄性対象から得られた精子の運動性を検出することに基づいて、該対象の不妊を判定または診断することへの新たな道を開くものである。
【0040】
上述したように、本発明は、雄性対象の不妊を判定または診断するためのインビトロ方法に関し、この方法は、(a)該対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液と接触させる工程、(b)工程(a)の試験条件下での該サンプル中の精子の運動性を検出する工程、および(c)工程(b)で検出された精子の運動性に基づいて雄性対象の不妊を判定する工程、を含んでなる。
【0041】
用語「インビトロ(in vitro)」は、エクスビボ(ex vivo)を指す。
【0042】
本発明全体を通して使用される用語「判定する」または「診断する」は、「検出する」のようなバリエーションを含み、すなわち、これらの用語は交換可能に使用することができる。本発明によれば、判定/検出/診断という用語は、一般的に、雄性対象の不妊を指すと理解される。本発明の方法およびキットによれば、本明細書に記載の手段を用いて雄性対象の不妊を判定、診断または検出することによって、該対象が不妊症を患っているかどうかを見つけ出せる可能性がある。
【0043】
本発明全体を通して使用される用語「不妊(症)」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物が自然な手段で生殖できないことを指す。本発明では、雄性対象の不妊に焦点が当てられている。言い換えれば、不妊の雄性対象は生殖能力がないため、子をもうけられない可能性がある。
【0044】
本発明の方法を適用する場合、最初に、雄性対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液と接触させるが、これは、本発明に従って雄性対象の不妊を判定または診断する方法の工程(a)に相当する。
【0045】
これに関連して、本発明全体を通して使用される用語「接触させる」は、前記対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液に加えることを意味する。好ましくは、約50μlの精子サンプルをカルシウムフリー試験液に加える。より好ましくは、約50μlの精子サンプルを450μlのカルシウムフリー試験液に加えて、合計500μlの容量にする。本発明の好ましい態様に言及する場合は、約50μlの精子サンプルをカルシウム含有対照液にも加える。好ましくは、約50μlの精子サンプルを450μlのカルシウム含有対照液に加えて、合計500μlの容量にする。精子サンプルを、カルシウムフリー試験液またはカルシウム含有対照液を含むチューブ(もしくはバイアル)に加えた後、精子サンプルとカルシウムフリー試験液を含むチューブ(もしくはバイアル)、または精子サンプルとカルシウム含有対照液を含むチューブ(もしくはバイアル)は、反転および/または低速ボルテックスによって穏やかに混合され得る。
【0046】
本発明全体を通して、複数形の用語「精子(spermまたはspermatozoa)」は、1個より多い複数の精子細胞を指す。それゆえ、1個より多い精子細胞は本発明の精子を指す。
【0047】
これに関連して、「精子サンプル」は、精子を含むサンプルを指す。そのようなサンプルは、当業者に知られた任意の方法で、好ましくは射精によって、前記雄性対象から得ることができる。いわゆる射精とは、青年期または性的に成熟した雄性対象の、精子を含むオルガスム排出液を指す。雄性対象から射精によって得られた本発明の精子サンプルは、約90%以上の、例えば、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上、または約100%もの、不動精子(motionless sperm)を含まないことが好ましい。したがって、雄性対象から射精によって得られた精子サンプルであって、より多量の不動精子、例えば、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上、または約100%もの不動精子を含むものは、本発明の方法から除外される。言い換えれば、初期に、すなわち不妊検査を実際に開始する前に、不動精子を多量に持っているような特定の精子サンプルは、本発明の方法に使用することができず、使用しない。したがって、本明細書の他の箇所に記載される前記方法の工程(a)でカルシウムフリー試験液と接触させる精子サンプルは、少なくとも約10%以上、例えば、約15%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、または約95%以上の運動精子を含んでいる。初期の精子の運動性は、本明細書の他の箇所に記載される本発明の方法を開始する前に、カルシウム含有対照液またはネイティブ射精液と、前記対照液中の精子の運動性を検出する手段とを用いて、調べることができる。
【0048】
本発明全体を通して、精子と組み合わせて使用される「不動(motionless)」という用語は、「非運動(immotile)」精子を指し、精子細胞が「不動」または「非運動」と呼ばれる場合、それは全く動かないことを意味する。しかし、運動精子細胞(運動精子)は、不動精子細胞(精子)と比較した何らかの動きによって特徴づけることができる。本明細書で使用される何らかの動き(any movement)とは、精子細胞の鞭毛および/または頭部の何らかの検出可能な残留運動を意味する。当業者には知られるように、精子細胞の尾部は鞭毛とも呼ばれており、最も長い部分であって、泳ぐために精子を前へ進ませて卵子に侵入するのを助ける波のような動きが可能である。一般的に、精子の運動性は、尾部の4つの部分:連結部、中間部、主要部、および末端部に依存している。精子細胞の頭部は核を含み、雌卵に侵入するために使用される酵素を含む先体(アクロソーム)と呼ばれる薄い平らな袋によって囲まれている。要するに、本発明の方法で使用されるサンプル中の精子の運動性が検出される場合、精子細胞の鞭毛および/または頭部のあらゆる種類の独立した/自律的な動きは、精子細胞(精子)を運動精子細胞(精子)のカテゴリーに割り当てるのに十分な要件であり得る。
【0049】
本発明の方法およびキットによる「カルシウムフリー試験液」は、約20nM未満、好ましくは約15nM未満、より好ましくは約10nM未満、より好ましくは約5nM未満、例えば、約19nM未満、約18nM未満、約17nM未満、約16nM未満、約15nM未満、約14nM未満、約13nM未満、約12nM未満、約11nM未満、約10nM未満、約9nM未満、約8nM未満、約7nM未満、約6nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、または約1nM未満の遊離カルシウムを含んでいてよい。そのため、約20nM未満、約15nM未満、約10nM未満、または約5nM未満、例えば、約19nM、約18nM、約17nM、約16nM、約15nM、約14nM、約13nM、約12nM、約11nM、約10nM、約9nM、約8nM、約7nM、約6nM、約5nM、約4nM、約3nM、約2nM、または約1nMの遊離カルシウムを含む溶液は、本発明によるカルシウムフリー試験液として適格である。本発明の方法およびキットに従って使用するときの用語「試験液」は、カルシウム濃度が低下している溶液を指し、雄性対象から得られた精子サンプルに接触させて、カルシウムフリーの条件下で該精子の運動性を試験するために使用される。本明細書の他の箇所で述べたように、本発明による試験液は、好ましくは約20nM未満の遊離カルシウムを含み、それゆえ「カルシウムフリー試験液」と呼ばれる。
【0050】
本明細書で使用される用語「遊離カルシウム」は、アルブミンおよび/またはグロブリンなどのタンパク質に結合していないカルシウム、あるいは、例えば、重炭酸、乳酸、クエン酸および/またはリン酸などに(錯体)結合していないカルシウムを指す。これに関連して、本発明全体を通して使用される用語「カルシウム」は、Ca2+を意味する。
【0051】
本発明で使用される「カルシウムフリー試験液」は、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含み得る。用語「遊離カルシウム低下剤」は、「遊離カルシウム濃度を低下させる作用物質」という用語と交換可能に使用することができる。生理学的条件下では、精子細胞内のカルシウム濃度は、細胞外液に比べて約10,000分の1と低く、それは、約2mMに対して約200~500nMのオーダーである。この濃度勾配に沿って、CatSperはカルシウムの精子への流入を仲介することができる。精子膜のカルシウムポンプまたはカルシウム交換体がカルシウムイオンを外部に輸送しても、カルシウムの流入を補って、カルシウムのホメオスタシス(恒常性)を維持し得る。遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を用いて細胞外遊離カルシウム濃度を細胞内濃度よりも低く下げることで、CatSperを介したカルシウムの流入を抑制することによって、細胞内カルシウム濃度は、Ca2+イオンがCatSperチャネルを介して細胞外に流出するため低下し得る。このカルシウム濃度の低下は、精子にとって耐えられず、すなわち、精子は動けなくなる。このように、遊離カルシウム濃度を低下させることができる少なくとも1つの作用物質を用いて、細胞外カルシウム濃度を精子の細胞内カルシウム濃度よりも低く下げることが可能である。したがって、遊離カルシウム濃度を低下させるとは、溶液の遊離カルシウム濃度が、上記で定義されるように約20nM未満の遊離カルシウムに低下されることを意味し、それによって本明細書の他の箇所に記載される「カルシウムフリー試験液」が提供される。
【0052】
好ましくは、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質は、Ca2+に結合する化学物質である。これに関連して、本発明全体を通して使用される用語「Ca2+に結合する化学物質」とは、化学的方法で製造または使用されかつ遊離カルシウムに結合できる、明確な分子組成を有する任意の物質または分子のことである。より好ましくは、本発明のCa2+に結合する化学物質は、キレート剤、クエン酸、リン酸塩、またはCa2+指示色素のいずれかであり、好ましくはキレート剤である。さらに好ましくは、本発明のCa2+に結合する化学物質は、エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(略称:EGTA)、エチレンジアミン四酢酸(略称:EDTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(略称:BAPTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N',N'-三酢酸(略称:HEDTA)、ニトリロ三酢酸(略称:NTA)、ジブロモ-1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(略称:DiBrBAPTA)、クエン酸、リン酸塩、またはCa2+指示色素のいずれかであり、最も好ましくはEGTAである。また、本発明のCa2+に結合する化学物質は、EGTA、EDTA、BAPTA、HEDTA、NTA、またはDiBrBAPTAの任意の誘導体であってもよい。
【0053】
本明細書でCa2+に結合する作用物質として言及されるEGTA、EDTA、BAPTA、HEDTA、NTA、DiBrBAPTAまたはそれらの誘導体は、キレート剤を指す。用語「キレート剤」は、2つ以上のイオン対を持つ有機または無機化合物を指し、したがって、中心の(金属)イオンと2つ以上の配位結合を形成することができる。実際、前記キレート剤は、2価金属カチオンに高い親和性で配位し、それらをイオンチャネルで利用できないようにする。したがって、そのようなキレート剤には、2価または多価カチオンを安定した錯体(いわゆるキレート)に固定する能力があり得る。本明細書の他の箇所に記載されるキレート剤のいずれか1つが、Ca2+に結合する化学物質として使用される場合、少なくとも約2.5mM、少なくとも約3mM、少なくとも約3.5mM、少なくとも約4mM、少なくとも約4.5mM、少なくとも約5mM、少なくとも約5.5mM、少なくとも約6mM、少なくとも約6.5mM、少なくとも約7mM、少なくとも約7.5mM、少なくとも約8mM、少なくとも約8.5mM、少なくとも約9mM、少なくとも約9.5mM、または少なくとも約10mM、好ましくは、約2.5mM、約3mM、約3.5mM、約4mM、約4.5mM、約5mM、約5.5mM、約6mM、約6.5mM、約7mM、約7.5mM、約8mM、約8.5mM、約9mM、約9.5mM、約10mMの前記キレート剤を、本発明の方法およびキットに従って使用することができる。より好ましくは、約2.5mM~約10mM、約2.9mM~約8.8mM、約3.3mM~約7.5mM、または約4mM~約6mMの範囲内の前記キレート剤を、本発明の方法およびキットによるカルシウムフリー試験液中で使用することができる。最も好ましくは、本発明によるカルシウムフリー試験液中のCa2+に結合する化学物質として、約5mMのEGTAが使用される。
【0054】
本明細書で使用される「Ca2+指示色素」とは、金属イオン、ここではカルシウム、などの他の物質の有無または濃度を、特徴的な色の変化によって示す試薬を指す。したがって、Ca2+指示色素はカルシウムと複合体を形成して、試験液中の遊離カルシウムを少なくすることができる。その結果、Ca2+指示色素もまた、本発明のCa2+に結合する作用物質として使用することが可能である。
【0055】
本明細書に記載される雄性対象の不妊を判定または診断する方法によれば、工程(a)は、少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を加えることをさらに含み得る。用語「CatSper活性化刺激」は、「CatSperチャネルの活性化刺激」という用語と交換可能に使用することができる。
【0056】
本明細書中で本発明全体を通して使用される用語「CatSperチャネル」は、精子鞭毛の細胞膜に存在する、精子固有の精子カチオンチャネル(cation channel of sperm:CatSper)のCa2+チャネルを指す。CatSperチャネル複合体は、4つの相同性αサブユニット(CatSper 1~4)と、少なくとも5つの補助サブユニット:CatSperβ、CatSperγ、CatSperδ、CatSperεおよびCatSperζから構成されている。
【0057】
CatSperチャネルの活性化刺激は、本発明の方法の工程(a)において、カルシウムフリー試験液を精子サンプルに加える前、加えると同時、または加えた後に、加えることができる。したがって、雄性対象から精子サンプルを取得したら、工程(a)に記載されるカルシウムフリー試験液を加える前に、該精子サンプルに活性化刺激を加えてもよいし、活性化刺激とカルシウムフリー試験液の両方を本発明の方法の工程(a)で同時に該精子サンプルに加えてもよい。また、本明細書では、本発明の方法の工程(a)に記載されるカルシウムフリー試験液を加えた後に、該精子サンプルに活性化刺激を加えることも含まれる。本発明によれば、本明細書の他の箇所に記載されるCatSperチャネルの2つ以上の活性化刺激を組み合わせて、すなわち同時に、使用するまたは加えることも想定される。
【0058】
好ましい態様では、CatSper活性化刺激は、CatSperチャネル活性を増強する任意の物質および/または条件である。かくして、本明細書では、CatSper活性化刺激がCatSperチャネル活性を増強する1つまたは複数の物質であることも含まれる。また、本明細書では、CatSper活性化刺激がCatSperチャネル活性を増強する1つまたは複数の条件であることも含まれる。また、本明細書では、CatSper活性化刺激がCatSperチャネル活性を増強する任意の物質と任意の条件の組み合わせであることも包含される。
【0059】
これに関連して、本発明全体を通して使用される用語「CatSperチャネル活性を増強する」とは、本明細書に記載されているいずれかの物質および/または条件によって増強すことなしに、所定の膜電位でCatSperチャネルの細孔を通って単位時間あたりに流れるイオンの数と比較して、より多くの数のイオンが所定の膜電位でCatSperチャネルの細孔を通って単位時間あたりに流れることを意味する。CatSperチャネル活性を「増強する」という用語は、CatSperチャネル活性を改善する/高めるか、CatSperチャネル活性を刺激するか、またはCatSperチャネルを阻害から解放することをも指すことができる。また、CatSperチャネル活性を「増強する」という用語は、CatSperチャネル活性を活性化することも指すことができる。ある物質または条件がCatSperチャネル活性を刺激し得る場合、それは、その物質または条件が該チャネルを通るイオン流を刺激し得ることを意味する。ある物質または条件がCatSperチャネルを阻害から解放/解除し得る場合、それは、その物質または条件が、CatSperチャネルがもう阻害またはブロックされなくなるのに役立ち得ることを意味する。
【0060】
好ましくは、CatSperチャネル活性を増強する物質はリガンドである。本明細書および本発明全体を通して使用される「リガンド」とは、CatSperチャネルに直接結合するか、またはCatSperチャネルの活性に影響を与える受容体タンパク質に結合する、小さな有機分子、タンパク質、ペプチド、または化学物質を指す。このように、「リガンド」は、該チャネルまたは受容体タンパク質に結合することで、該チャネルの活性を増強することができる。より好ましくは、CatSperチャネル活性を増強するリガンドは、ステロイド、プロスタグランジン、ステロイドもしくはプロスタグランジンの作用を模倣する合成もしくは天然の化学物質、血清アルブミン、透明帯タンパク質、またはそれらの組み合わせのいずれか1つである。
【0061】
「ステロイド」は、一般に、特定の分子形態に配置された、4つの環中の17個の炭素原子のコア構造を含む、生物学的に活性な有機化合物である。本発明による好適なステロイドは、CatSperチャネル活性を増強するリガンドとしてのプロゲステロンである。特にヒトの精子では、ヒトCatSperチャネルを活性化する卵管の2つの化合物である、プロゲステロンとさらにプロスタグランジンである。
【0062】
本明細書で使用される用語「ステロイドもしくはプロスタグランジンの作用を模倣する合成の化学物質」とは、ステロイドまたはプロスタグランジンがするかもしれないことを追加的に模倣し得る、合成により生成または製造された任意の分子/物質を指す。「ステロイドもしくはプロスタグランジンの作用を模倣する天然の化学物質」は、ステロイドまたはプロスタグランジンがするかもしれないことを追加的に模倣し得る、自然界で形成された任意の分子/物質を指す。
【0063】
また、本発明の方法およびキットによれば、上述したリガンドの2つ以上の組み合わせも想定され、それらはその後CatSperチャネル活性を増強することができる。
【0064】
本明細書の他の箇所に記載される「CatSperチャネル活性を増強する条件」は、CatSperの活性化につながる細胞内pH値の上昇および/または膜電位の脱分極を含み得る。
【0065】
これに関連して、用語「細胞内pHの上昇」とは、弱塩基を用いて精子細胞の内側(細胞内)のpHを上げることを指す。言い換えれば、細胞内pHの上昇は、アルカリ性pHにすることを意味する。本発明全体を通して使用される弱塩基とは、水溶液中で部分的にのみイオン化されて、弱電解質を有する塩基を意味する。さらに、水との平衡反応において塩基がどの程度イオン化されるかを示すpKb値が8より大きい塩基は、弱塩基とみなすことができ、当業者に公知である。本発明の弱塩基は、塩化アンモニウム、トリエチルアミン(略称:TEA)、またはイミダゾールを含み得るが、これらに限定されない。細胞内pHの上昇のために使用できる当業者に公知の弱塩基はどれも、生理学的水溶液中に存在させることができる。細胞内pHの上昇は、(精子細胞の外側の)細胞外pHを上昇させることにより達成し得る。細胞外pHがアルカリ化されると、細胞内pHもアルカリ化(上昇)し得る。
【0066】
活性化刺激が細胞内pHの上昇という条件であり、かつ雄性対象の不妊を判定または診断する方法の工程(a)で定義される精子サンプルにカルシウムフリー試験液を加える前または加えた後に活性化刺激が加えられる場合、精子細胞の細胞内pHを上げるための弱塩基を含む生理学的水溶液は、カルシウムフリー試験液と同じでなくてもよい。活性化刺激が細胞内pHの上昇という条件であり、かつ雄性対象の不妊を判定または診断する方法の工程(a)で定義される精子サンプルにカルシウムフリー試験液と同時に活性化刺激が加えられる場合には、カルシウムフリー試験液が、細胞内pHを上げるための弱塩基を含んでいてもよい。
【0067】
用語「脱分極」とは、細胞が電荷分布のシフトを受け、その結果、細胞内の負電荷が少なくなる細胞内の変化を指す。細胞の内部と外部の電位の差が膜電位と呼ばれる。そのような膜電位は、当業者に知られるように、より一般的にはゴールドマン式として知られるゴールドマン・ホジキン・カッツ(Goldman-Hodgkin-Katz)電圧式(GHK式)を適用することによって決定され得る。膜電位が低下すると(つまり、負の値が少なくなると)、膜電位は脱分極しているとみなすことができる。
【0068】
このように、本明細書で使用される「脱分極する」とは、膜電位をより少ない負の値に、またはより多い正の値にシフトすることを指す。
【0069】
膜電位を脱分極させること、つまり膜電位の脱分極は、活性化刺激として用いられる溶液中のカリウム濃度を約30mMより高い濃度に上昇させることによって達成され得る。言い換えれば、「カリウム濃度を上昇させる」という用語は、カリウム濃度を約30mMを超える濃度に上昇させることを指す。活性化刺激として用いられる溶液中の「カリウム濃度を上昇させる」に関する以下の定義は、本発明に従って使用される「上昇したカリウム濃度を含む緩衝液」という用語にも適用され得る。
【0070】
膜電位の原因は、膜上のイオンの濃度勾配とそれらの選択的透過性である。細胞内には高濃度のタンパク分子(タンパク質)があり、それらは約7.2の細胞pHでアニオンとして存在している;さらに、ほぼ等モル濃度で正に帯電した(カチオンの)K+(カリウム)イオンとかなり低い濃度でNa+およびCl-(ナトリウムおよび塩素)が存在している。対照的に、細胞外液には完全に異なる状態が広がっている:それは、はるかに少ないタンパク分子を含み、他のイオンに関しては逆の比率を有し、つまり、Na+およびCl-イオンの濃度が高く、K+の割合が大幅に低い。膜電位は、様々なイオンに対する膜の相対的な透過性(pK、pNa、pCl)と、膜を通過するイオンの濃度差によって決まる。膜の相対的な透過性は、通常、pK:pNa:pCl=1:0.05:0.45である。膜電位は、本明細書の他の箇所に記載されるゴールドマン・ホジキン・カッツの式(GHK式)を用いて算出することができる。相対的なイオン透過性とGHK式を考慮すると、細胞外K+濃度の上昇が膜電位を脱分極させることは当業者には明らかである。
【0071】
活性化刺激として使用される溶液中のカリウム濃度を上昇させると、本明細書の他の箇所に記載されるCatSperチャネル活性を増強することができる。活性化刺激が膜電位の脱分極という条件であり、かつ雄性対象の不妊を判定または診断する方法の工程(a)で定義される精子サンプルにカルシウムフリー試験液を加える前または加えた後に活性化刺激が加えられる場合、膜電位の脱分極のためにカリウム濃度を上昇させた溶液は、カルシウムフリー試験液と同じでなくてもよい。活性化刺激が膜電位の脱分極という条件であり、雄性対象の不妊を判定または診断する方法の工程(a)で定義される精子サンプルにカルシウムフリー試験液と同時に活性化刺激が加えられる場合には、カルシウムフリー試験液が、膜電位の脱分極のために上昇したカリウム濃度を有していてよい。
【0072】
さらに、膜電位を脱分極させること、つまり膜電位の脱分極は、カリウムおよび/または塩化物イオンチャネル阻害剤を利用することによって、あるいはナトリウムイオノフォアを利用することによっても達成することができる。カリウムおよび塩化物イオンチャネル阻害剤は、それぞれpKとpClを低下させ、GHK式によれば膜電位を脱分極させる。本発明によるナトリウムイオノフォアは、pNaを上昇させることで精子を脱分極させる。
【0073】
これに関連して、本発明全体を通して使用される用語「阻害剤」とは、何かの活性を阻害することができるモジュレーターを意味する。特に、膜電位を脱分極させる「イオンチャネル阻害剤」は、カリウムまたは塩化物イオンチャネルのいずれかを阻害するものでも、両方のチャネルを阻害するものでもよい。
【0074】
これに関連して、本発明全体を通して使用される「イオノフォア」は、イオンに可逆的に結合できる化学分子を指す。イオノフォアは脂溶性であって、細胞膜を通してイオンを輸送する。イオノフォアはイオンキャリアと呼ばれることもある。また、イオノフォアは抗生物質であってもよい。イオノフォアは、特定のカチオンおよびアニオンに選択的であり得、それによってNa+またはK+などの異なるカチオン/アニオンに対して高い親和性を示す。それゆえ、本発明によれば、イオノフォアは、ナトリウムまたはカリウムなどの(選択された)イオン種に対する膜の透過性を高めることができる合成または天然の化合物である。本発明のナトリウムイオノフォアは、グラミシジン、フサファンギン、モネンシン、サリノマイシン、ナラシンを含み得るが、これらに限定されない;カリウムとナトリウムに選択的であるが、アニオンには不透過性であるグラミシジンが好ましい。本発明によるイオノフォアは、Na+に対する膜の相対的な透過性(pNa)を人工的に上昇させ、それによって、膜電位を脱分極させる。
【0075】
また、本明細書では、CatSperチャネル活性を増強する条件が、細胞内pHの上昇と膜電位の脱分極との組み合わせを含むことも想定される。かくして、CatSperチャネル活性を増強する条件が、塩化アンモニウムなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、少なくとも1つの活性化刺激として使用される溶液のカリウム濃度を上昇させることによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。また、CatSperチャネル活性を増強する条件が、TEAなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、少なくとも1つの活性化刺激として使用される溶液のカリウム濃度を上昇させることによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。さらに、CatSperチャネル活性を増強する条件が、イミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、少なくとも1つの活性化刺激として使用される溶液のカリウム濃度を上昇させることによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。
【0076】
また、CatSperチャネル活性を増強する条件が、塩化アンモニウムなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、カリウムおよび/または塩化物イオンチャネル阻害剤を利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。また、CatSperチャネル活性を増強する条件が、TEAなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、カリウムおよび/または塩化物イオンチャネル阻害剤を利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。さらに、CatSperチャネル活性を増強する条件が、イミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、カリウムおよび/または塩化物イオンチャネル阻害剤を利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。
【0077】
また、CatSperチャネル活性を増強する条件が、塩化アンモニウムなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、ナトリウムイオノフォア、好ましくはグラミシジンを利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。また、CatSperチャネル活性を増強する条件が、TEAなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、ナトリウムイオノフォア、好ましくはグラミシジンを利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。さらに、CatSperチャネル活性を増強する条件が、イミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、ナトリウムイオノフォア、好ましくはグラミシジンを利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせを含む、ことも想定される。
【0078】
塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、少なくとも1つの活性化刺激として使用される溶液のカリウム濃度を上昇させることによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する本発明の開示はまた、CatSperチャネル活性を増強する任意の物質と組み合わせることもできる。塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、カリウムおよび/または塩化物イオンチャネル阻害剤を利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する本発明の開示はまた、CatSperチャネル活性を増強する任意の物質と組み合わせることもできる。塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、ナトリウムイオノフォア、好ましくはグラミシジンを利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する本発明の開示はまた、CatSperチャネル活性を増強する任意の物質と組み合わせることもできる。特に、塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、少なくとも1つの活性化刺激として使用される溶液のカリウム濃度を上昇させることによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する特定の開示は、CatSperチャネル活性を増強する物質として、本明細書の他の箇所に記載される本発明のリガンドのいずれか1つと組み合わせることができる。特に、塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、カリウムおよび/または塩化物イオンチャネル阻害剤を利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する特定の開示は、CatSperチャネル活性を増強する物質として、本明細書の他の箇所に記載される本発明のリガンドのいずれか1つと組み合わせることができる。特に、塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、ナトリウムイオノフォア、好ましくはグラミシジンを利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する特定の開示は、CatSperチャネル活性を増強する物質として、本明細書の他の箇所に記載される本発明のリガンドのいずれか1つと組み合わせることができる。好ましくは、塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、少なくとも1つの活性化刺激として使用される溶液のカリウム濃度を上昇させることによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する本発明の開示は、CatSperチャネル活性を増強する物質として、プロゲステロンと組み合わされる。好ましくは、塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、カリウムおよび/または塩化物イオンチャネル阻害剤を利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する本発明の開示は、CatSperチャネル活性を増強する物質として、プロゲステロンと組み合わされる。好ましくは、塩化アンモニウム、TEAまたはイミダゾールなどの弱塩基を利用することによる細胞内pHの上昇と、ナトリウムイオノフォア、好ましくはグラミシジンを利用することによる膜電位の脱分極との組み合わせに関する本発明の開示は、CatSperチャネル活性を増強する物質として、プロゲステロンと組み合わされる。
【0079】
また、本発明では、好ましくは少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激が前記方法の工程(a)で加えられることを含む、本明細書に記載される雄性対象の不妊を判定または診断する方法によれば、精子サンプルを、工程(a)のカルシウムフリー試験液と、少なくとも約5分間、少なくとも約6分間、少なくとも約7分間、少なくとも約8分間、少なくとも約9分間、少なくとも約10分間、少なくとも約11分間、少なくとも約12分間、少なくとも約13分間、少なくとも約14分間、少なくとも約15分間、少なくとも約16分間、少なくとも約17分間、少なくとも約18分間、少なくとも約19分間、少なくとも約20分間、少なくとも約30分間、少なくとも約60分間、または好ましくは、約5分間、約6分間、約7分間、約8分間、約9分間、約10分間、約11分間、約12分間、約13分間、約14分間、約15分間、約16分間、約17分間、約18分間、約19分間、約20分間、約30分間、約40分間、約50分間、約60分間、または約5分~約60分間、好ましくは約10分~約25分間、好ましくは約12分~約19分間、好ましくは約13分~約17分間、接触させてから、前記方法の工程(b)で検出された運動性に基づいて雄性対象の不妊を判定することが想定される。本発明の好ましい態様では、精子サンプルを工程(a)のカルシウムフリー試験液と約15分間接触させてから、前記方法の工程(b)で検出された運動性に基づいて雄性対象の不妊を判定する。さらに好ましい態様では、精子サンプルを工程(a)のカルシウムフリー試験液と約37℃で約15分間接触させてから、前記方法の工程(b)で検出された運動性に基づいて雄性対象の不妊を判定する。
【0080】
これに特に関連して、「接触させる」という用語は、「インキュベートする」という意味でもある。好ましくは、「インキュベートする」は、反転および/または低速ボルテックスのような穏やかな混合によってインキュベートすることを意味する。
【0081】
雄性対象の不妊を判定または診断するための本発明の方法は、必然的に、2番目の工程(b)として、工程(a)の試験条件下での前記サンプル中の精子の運動性を検出し、3番目の工程(c)として、工程(b)で検出された運動性に基づいて雄性対象の不妊を判定することを含む。
【0082】
これに関連して、用語「運動性を検出する」とは、運動精子と非運動精子を区別するための任意の技術を用いて、該サンプル中の精子が本明細書の他の箇所に定義されるような運動性であるか非運動性であるかを判定することを意味する。したがって、「運動性を判定する」という用語は、運動性を検出するという用語と交換可能に使用することもできる。好ましくは、サンプル中の精子が本明細書の他の箇所に定義されるような運動性であるか非運動性であるかを検出/判定する場合には、光学顕微鏡が使用される。
【0083】
このように、精子の運動性は、本発明の方法の工程(b)において、光学顕微鏡を用いて判定/検出することができる。
【0084】
用語「光学顕微鏡」はまた、当業者に公知の、CASAと呼ばれる自動化コンピュータ支援精子運動解析を含むことができる。したがって、本発明はまた、精子の運動性が工程(b)においてCASAを用いて判定/検出され得る、本発明の方法を含むことができる。
【0085】
工程(a)の試験条件下で精子サンプル中の精子の運動性を検出して、該試験条件下での運動精子の量に有意な変化がない場合、これは、該対象の不妊を示し得る。言い換えれば、各対象は不妊とみなされる。
【0086】
本明細書の他の箇所で述べたように、カルシウムの流入は、細胞内および細胞外のカルシウム濃度の濃度勾配に沿って、該CatSperチャネルを介して起こる。ところが、CatSper欠損精子は、本明細書の他の箇所で述べたように細胞外カルシウム濃度の低下が起こっても、Ca2+イオンの出口がない;すなわち、それらの運動性は、カルシウムフリーの条件下でさえも、長時間にわたって維持される。本発明の精子サンプルに接触させたカルシウムフリー試験液中の運動精子と非運動精子の比率を比較することで、精子が機能的なCatSperチャネルを持っているか否かを判定することができる。精子が長時間にわたって運動性を維持できるならば、カルシウム依存性シグナル伝達プロセスにCatSper欠陥または他の重大な欠陥がある可能性があり、その雄性対象は不妊であり得るという結論につながる。精子が動けない場合は、CatSperチャネルが機能している可能性が高い。
【0087】
したがって、「運動精子の量に有意な変化がない」という用語は、雄性対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液と接触させたときに、運動精子の量が著しく減少しないこと、または運動精子の量がほぼ同じままであることを意味する。言い換えれば、用語「運動精子の量に有意な変化がない」を使用する場合、それは、運動精子の量が約20%以上減少しないことを意味する。それは、本明細書の他の箇所で定義される該サンプル中の精子の運動性が、本発明の方法による工程(b)の試験条件下で検出されたときに、運動精子の約20%未満、例えば、約19%以下、約18%以下、約17%以下、約16%以下、約15%以下、約14%以下、約13%以下、約12%以下、約11%以下、約10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、約1%以下、さらには0%が動けなくなることを意味する。
【0088】
つまり、雄性対象の不妊を判定または診断する本発明の方法の工程(a)で定義されるカルシウムフリー試験液に精子サンプルを接触させて、運動精子の量が減少しないか、または逆に運動精子の量が同じような状態のままであるならば、その雄性対象は不妊であるとみなすことができる(
図1Cおよび2C)。
【0089】
また、雄性対象の不妊を判定または診断する本発明の方法は、運動精子の量を測定すること、言い換えれば、精子の運動性を判定/検出することが、工程(b)の試験条件下で、例えば光学顕微鏡を用いて、少なくとも約10個、少なくとも約20個、少なくとも約30個、少なくとも約40個、少なくとも約50個、少なくとも約60個、少なくとも約70個、少なくとも約80個、少なくとも約90個、少なくとも約100個、少なくとも約110個、少なくとも約120個、少なくとも約130個、少なくとも約140個、少なくとも約150個、少なくとも約160個、少なくとも約170個、少なくとも約180個、少なくとも約190個、少なくとも約200個、少なくとも約210個、少なくとも約220個、少なくとも約230個、少なくとも約240個、少なくとも約250個、少なくとも約260個、少なくとも約270個、少なくとも約280個、少なくとも約290個、少なくとも約300個、少なくとも約350個、少なくとも約400個、少なくとも約450個、または少なくとも約500個、好ましくは、約10個、約20個、約30個、約40個、約50個、約60個、約70個、約80個、約90個、約100個、約110個、約120個、約130個、約140個、約150個、約160個、約170個、約180個、約190個、約200個、約210個、約220個、約230個、約240個、約250個、約260個、約270個、約280個、約290個、約300個、約350個、約400個、約450個、約500個またはそれ以上の精子をカウントすることを含み得る。好ましくは、運動精子の量を測定すること、言い換えれば、精子の運動性を判定することは、工程(b)の試験条件下で、例えば光学顕微鏡を用いて、約200個の精子をカウントすることを含む。したがって、本発明の雄性対象の不妊を判定または診断するために運動精子の量を測定し(これは、本発明の方法の工程(b)の試験条件下で少なくとも約10個の精子をカウントすることを含む)、かつ本明細書の他の箇所で定義される該サンプル中の精子の運動性が、本発明の方法による工程(b)の試験条件下で検出されたときに、運動精子の約20%未満、例えば、約19%以下、約18%以下、約17%以下、約16%以下、約15%以下、約14%以下、約13%以下、約12%以下、約11%以下、約10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、約1%以下、さらには0%が動けなくなる場合、それは、運動精子の量に有意な変化がないことを意味し、それゆえ該対象の不妊を示すことになる。
【0090】
あるいは、工程(b)の試験条件下で少なくとも10個の精子をカウントすることで単一の精子を評価する代わりに、全精子集団を、好ましくは画像変動(image fluctuation)を用いて、評価することもできる。この目的のために、サンプルからのタイムラプス画像(time-lapse image)における強度の時空間変動が分析される。こうした変動は、サンプルの平均的な運動性と直接相関している。
【0091】
好ましい態様では、本発明の雄性対象の不妊を判定または診断する方法は、工程(b)で検出された精子の運動性を、カルシウム含有液を含む対照条件下で検出された該対象の精子の運動性と比較することをさらに含む。この特定の態様では、本明細書の他の箇所で定義される雄性対象から得られた精子サンプルを、本発明の方法の工程(a)で定義されるカルシウムフリー試験液と接触させ(これを試験条件とみなす)、該精子サンプルをカルシウム含有液と別個に接触させる(これを対照条件とみなす)ことができる。この工程の後、再び試験条件および対照条件下での精子の運動性を検出して、互いに比較することができる(
図1A/2Aと
図1B/2Bとの比較、または
図1A/2Aと
図1C/2Cとの比較)。対照液下での精子の運動性と比較した、異なる試験液下での精子集団の相対的な運動性の変化が
図3に示されており、これは、CatSper阻害剤を含む精子サンプル(これはCatSper欠損の精子サンプルに対応する)では、カルシウムフリー試験液下で運動精子の量に有意な変化がないことをはっきりと示している。このように、試験条件および対照条件下で検出された運動性の比較は、該対象の不妊を示すことができ、言い換えれば、該対象が不妊であることを示すことになる。本明細書で述べたように、対照条件と比較して、試験条件下で運動精子の量に有意な変化がない場合、その雄性対象は不妊であるとみなされる。
【0092】
これに関連して、用語「カルシウム含有液」は、約1,000nMより多くの、約10,000nMより多くの、約100,000nMより多くの、約1mMより多くの遊離カルシウムを含む溶液を指す。本明細書では、カルシウム含有液を対照液と呼ぶこともある。それは、当業者に知られるようなHTF緩衝液(human tubular fluid:ヒト尿細管液)に対応し得る。本発明のカルシウム含有液は、遊離カルシウム濃度を低下させる作用物質を含んでもよいが、そのような場合には、前記溶液は、約1,000nMより多くの、約10,000nMより多くの、約100,000nMより多くの、約1mMより多くの遊離カルシウムを含む。本発明の方法の好ましい態様では、カルシウム含有対照液は、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激をさらに含む。
【0093】
こうして、好ましい態様によれば、本発明は、雄性対象の不妊を判定または診断するためのインビトロ方法に関し、この方法は、a)該対象から得られた精子サンプルをカルシウムフリー試験液と接触させる工程;b)該対象から得られた精子サンプルをカルシウム含有対照液と接触させる工程;c)(a)および(b)の条件下での精子の運動性を検出する工程;およびd)工程a)の試験条件下で検出された精子の運動性を、工程b)の対照条件下で検出された精子の運動性と比較する工程を含んでなり、この場合、試験条件および対照条件下で検出された運動性の比較により、該対象の不妊が示される。
【0094】
本発明の雄性対象の不妊を判定または診断する方法のさらに好ましい態様では、試験条件および対照条件下での精子の運動性の比較は、CatSper活性指数(CAI)を決定することを含む。
【0095】
特定のCatSper活性指数を決定する場合には、最初に、試験条件および対照条件下での運動精子のパーセンテージ値を得ることができる。これに関連して、「パーセンテージ値を得る」という用語は、実施例では、本明細書の他の箇所に記載される試験条件下および対照条件下でサンプル中にカウントされた全精子の量に対する、本明細書の他の箇所に記載される試験液に精子サンプルを接触させた後および本明細書の他の箇所に記載される対照液に精子サンプルを接触させた後の運動精子の量の割合/比率を算出することを意味する。本明細書で使用される用語「運動精子の量」とは、光学顕微鏡などの任意の利用可能な技術を用いてカウントしたときの、他の箇所に記載されるあらゆる検出可能な動きを有する精子の実際の量/数を指す。このように、用語「運動精子のパーセンテージ値」は、試験条件下および対照条件下でサンプル中にカウントされた全精子の量に対する、運動精子の量の割合/比率として表すことができる。試験条件(対照条件)下でサンプル中にカウントされた全精子に対する、試験液(対照液)に精子サンプルを接触させた後の運動精子の量は、パーセンテージで表すことができ、すなわち、試験液(対照液)に精子サンプルを接触させた後の運動精子の量を、試験条件(対照条件)下でサンプル中にカウントされた全精子で割った商により表される。
【0096】
第二に、CatSper活性指数を決定することを含む、試験条件および対照条件下での精子の運動性の比較の場合には、実施例では、本明細書に記載される対照条件下での運動精子のパーセンテージ値から、本明細書で定義される試験条件下での運動精子のパーセンテージ値を減算し得る。これに関連して、用語「減算する」とは、%で表された2つの数値の差を計算することを意味し、減算によって上記で定義されたパーセンテージ値が決定される。対照条件下での運動精子のパーセンテージ値から試験条件下での運動精子のパーセンテージ値を減算することで、減算スコアを得ることができる。これに関連して、「減算スコア」とは、対照条件下での運動精子のパーセンテージ値から、試験条件下での運動精子のパーセンテージ値を減算した結果を指す。この減算スコアも同様に、パーセンテージ(%)で表すことができる。
【0097】
第三に、CatSper活性指数を決定することを含む、試験条件および対照条件下での精子の運動性の比較では、対照条件下での運動精子のパーセンテージ値に対する減算スコアの比率が決定され得る(実施例参照)。特に、これに関連して、用語「決定する」は、計算すること、例えば、対照条件下での運動精子のパーセンテージ値に対する減算スコアの比率を計算することを指す。
【0098】
上記で定義される対照条件下での運動精子のパーセンテージ値に対する減算スコアの比率を決定するとは、減算スコアを対照条件下での運動精子のパーセンテージ値と比較すること、または減算スコアと対照条件下での運動精子のパーセンテージ値とを互いに関連付けることを意味する。かくして、対照条件下での運動精子のパーセンテージ値に対する減算スコアの比率を決定することも、本明細書に含まれ得る。したがって、この文脈において本明細書で使用される「に対する(in relation to)」または単に「に対する(to)」という用語、例えば「Bのレベル」に対する「Aのレベル」は、一般的に「A」と「B」を比較することを意味する。好ましくは、この比較は、AをBで割ることにより行われ、これによって比率が得られる。ここでは、「A」と「B」の関係は、「A」を「B」で割った商として表すことができ、これによっても比率が得られる。
【0099】
第四に、CatSper活性指数を決定することを含む、試験条件および対照条件下での精子の運動性の比較では、上記で決定された比率に数100を掛けることができる。上記で定義された比率に数100を掛けることによって、CatSper活性指数(略称:CAI)を得ることができる(実施例参照)。この文脈において、用語「掛ける」は、「A」掛ける「B」となり、それゆえ、上記で決定された「比率」掛ける「数100」となることを指す。
【0100】
さらに、CatSper活性指数の決定に関する本発明の方法の好ましい態様は、上記のように決定された前記指数を所定の基準値と比較するさらなる工程を追加的に含むことができる。
【0101】
「基準値」という用語は、一般に定性値または定量値を指すと理解される。したがって、基準値が定性値を指すと理解される場合、前記指数はその基準値を下回ってもよい。また、基準値が定量値を指すと理解される場合、前記指数はその基準値から逸脱してもよい。別の態様では、基準値が定量値を指すと理解される場合、前記指数はその基準値から約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1%、約1.5%、約2.0%、約2.5%、約3.0%、約3.5%、約4.0%、約4.5%、約5.0%、約5.5%、約6.0%、約6.5%、約7.0%、約7.5%、約8.0%、約8.5%、約9.0%、約9.5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%逸脱し得る。前記指数の基準値からの逸脱が大きいほど、本発明の対象が不妊である可能性が高くなる。
【0102】
基準値の選定には、とりわけ、条件付き確率の考慮、異なる試験基準での真偽判定の分布、および判定に基づく治療の結果(または治療の失敗)の推定が含まれる。適切な基準は様々な方法で決定することができる。したがって、「所定の基準値」は、例えば後述するように事前に取得することができ、その後、雄性対象が不妊である/不妊症を患っているかどうかを判定するための基準として使用され得る。
【0103】
例えば、基準値を選定するために集団研究を使用することができる。多くの場合、受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic:ROC)を用いて、良好に応答する亜集団(対照条件)と不良に応答する亜集団(試験条件)を最もよく区別できる基準が選定される。この場合の偽陽性は、人が陽性の試験結果(不妊である不良応答者(poor responder))であるのに、実際には受精能力があり得る良好応答者(good responder)である場合に発生する。一方、偽陰性は、人が陰性の試験結果(受精能力があり得る良好応答者)であるのに、実際には不妊である場合に発生する。ROC曲線を描くためには、判定基準を連続的に変化させながら、真陽性率(TPR)と偽陽性率(FPR)を決定する。TPRは感度と同等であり、FPRは1-特異度に等しいことから、ROCグラフは感度vs(1-特異度)プロットと呼ばれることもある。パーフェクトな試験は、ROC曲線下面積(AUC)が1.0になる;ランダムな試験では、面積が0.5になるだろう。好ましくは、本明細書に記載の試験は、0.5より大きい、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは0.7、さらに好ましくは少なくとも0.8、さらに好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも0.95のROC曲線面積を提供する。基準値は、許容できるレベルの特異度と感度をもたらすように選定される。基準は、対象の集団を、「第1」の亜集団(例えば、不妊である)、受精能力があり得る「第2」の亜集団などの「ビン」に分離する際に、許容できるレベルの特異度と感度を提供できるものである。基準値は、この第1および第2の集団を、以下の試験精度の尺度の1つまたは複数によって分離するために選定される:
オッズ比が1より大きく、好ましくは少なくとも約2以上または約0.5以下、より好ましくは少なくとも約3以上または約0.33以下、さらに好ましくは少なくとも約4以上または約0.25以下、さらにより好ましくは少なくとも約5以上または約0.2以下、最も好ましくは少なくとも約10以上または約0.1以下であること;
特異度が0.5より大きく、好ましくは少なくとも約0.6、より好ましくは少なくとも約0.7、さらに好ましくは少なくとも約0.8、さらにより好ましくは少なくとも約0.9、最も好ましくは少なくとも約0.95で、対応する感度が0.2より大きく、好ましくは約0.3より大きく、より好ましくは約0.4より大きく、さらに好ましくは少なくとも約0.5、さらにより好ましくは約0.6、さらにより好ましくは約0.7より大きく、さらに好ましくは約0.8より大きく、さらに好ましくは約0.9より大きく、最も好ましくは約0.95より大きいこと;
感度が0.5より大きく、好ましくは少なくとも約0.6、より好ましくは少なくとも約0.7、さらに好ましくは少なくとも約0.8、さらにより好ましくは少なくとも約0.9、最も好ましくは少なくとも約0.95で、対応する特異度が0.2より大きく、好ましくは約0.3より大きく、より好ましくは約0.4より大きく、さらに好ましくは少なくとも約0.5、さらにより好ましくは約0.6、さらにより好ましくは約0.7より大きく、さらに好ましくは約0.8より大きく、さらに好ましくは約0.9より大きく、最も好ましくは約0.95より大きいこと;
感度が少なくとも約75%であると同時に、特異度が少なくとも約75%であること;
陽性尤度比(感度/(1-特異度)として計算)が1より大きく、少なくとも約2、より好ましくは少なくとも約3、さらに好ましくは少なくとも約5、最も好ましくは少なくとも約10であること;または
陰性尤度比((1-感度)/特異度として計算)が1より小さく、約0.5以下、より好ましくは約0.3以下、最も好ましくは約0.1以下であること。
【0104】
基準比較に加えて、アッセイ結果を患者の選択または分類(例えば、良好応答者または不良応答者である可能性)に相関させるための他の方法として、決定木、ルールセット、ベイズ法(Bayesian method)、およびニューラルネットワーク法(neural network method)が挙げられる。これらの方法は、複数の分類の中から、対象が1つの分類に属する程度を表す確率値をもたらすことができる。
【0105】
上述したように、適切な試験は、これらの様々な尺度において、以下の結果の1つまたは複数を示す可能性がある:特異度が0.5より大きく、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7、さらに好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも0.95で、対応する感度が0.2より大きく、好ましくは0.3より大きく、より好ましくは0.4より大きく、さらに好ましくは少なくとも0.5、さらにより好ましくは0.6、さらにより好ましくは0.7より大きく、さらに好ましくは0.8より大きく、さらに好ましくは0.9より大きく、最も好ましくは0.95より大きい;感度が0.5より大きく、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7、さらに好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも0.95で、対応する特異度が0.2より大きく、好ましくは0.3より大きく、より好ましくは0.4より大きく、さらに好ましくは少なくとも0.5、さらにより好ましくは0.6、さらにより好ましくは0.7より大きく、さらに好ましくは0.8より大きく、さらに好ましくは0.9より大きく、最も好ましくは0.95より大きい;感度が少なくとも75%であると同時に、特異度が少なくとも75%である;ROC曲線面積が0.5より大きく、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは0.7、さらに好ましくは少なくとも0.8、さらにより好ましくは少なくとも0.9、最も好ましくは少なくとも0.95である;オッズ比が1と異なり、好ましくは少なくとも約2以上または約0.5以下、より好ましくは少なくとも約3以上または約0.33以下、さらに好ましくは少なくとも約4以上または約0.25以下、さらにより好ましくは少なくとも約5以上または約0.2以下、最も好ましくは少なくとも約10以上または約0.1以下である;陽性尤度比(感度/(1-特異度)として計算)が1より大きく、少なくとも2、より好ましくは少なくとも3、さらに好ましくは少なくとも5、最も好ましくは少なくとも10である;および/または陰性尤度比((1-感度)/特異度として計算)が1より小さく、0.5以下、より好ましくは0.3以下、最も好ましくは0.1以下である。
【0106】
基準値との比較は、手動、半自動、または全自動で行うことができる。いくつかの態様では、比較はコンピュータ支援されてもよい。コンピュータ支援による比較では、データベースに格納された値を、例えばコンピュータ実装アルゴリズムを介して、得られた値または測定された量を比較するための基準として採用することができる。同様に、基準測定との比較は、手動、半自動、またはコンピュータ支援を含む全自動で行うことができる。
【0107】
本発明によれば、前記指数が基準値を下回ることがあれば、それは前記対象の不妊を示し得る。また、本発明では、前記指数が基準値から逸脱することがあれば、それは前記対象の不妊を示し得る。好ましい態様では、前記指数が基準値から約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1%、約1.5%、約2.0%、約2.5%、約3.0%、約3.5%、約4.0%、約4.5%、約5.0%、約5.5%、約6.0%、約6.5%、約7.0%、約7.5%、約8.0%、約8.5%、約9.0%、約9.5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%逸脱することがあれば、それは前記対象の不妊を示し得る。前記指数の基準値からの逸脱が大きいほど、前記対象が不妊である/不妊症を患っている可能性が高くなる。
【0108】
好ましい態様では、基準値は約20%である。したがって、不妊について評価中の雄性対象から得られたCatSper活性指数が、約20%の基準値を下回る場合、それは該対象が不妊であることを示している(
図4)。CatSper活性指数により得られた不妊は、電気生理学的記録(
図5)と遺伝子解析(
図6)によって検証された。
【0109】
これに関連して、用語「基準値を下回る」とは、基準値の示された数値を下回る(その数値に等しくない)、好ましくは小数点以下2桁に切り上げられた、任意の数値を意味する。
【0110】
本明細書で本発明全体を通して使用される用語「雄性対象」は、雄性個体とも呼ばれ、脊椎動物を指す。好ましくは、脊椎動物は哺乳動物である。さらに好ましくは、哺乳動物は、ヒト、ウシ、バッファロー、ウマ、ロバ、ラクダ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、またはマウスのいずれかであり、最も好ましくはヒトである。
【0111】
さらなる局面では、本発明は、本明細書の他の箇所で定義されるカルシウムフリー試験液と、本明細書の他の箇所で定義されるカルシウム含有対照液とを含むキットを提供する。それぞれのキットは、本明細書の他の箇所に記載されるような、雄性対象の不妊を判定または診断する方法において使用することが想定される。したがって、本発明はまた、本明細書の他の箇所で詳細に説明されるような、雄性対象の不妊を判定または診断するためのインビトロ方法において、本明細書に記載のキットを使用することにも関する。
【0112】
本発明によれば、カルシウム含有対照液(略称:対照液)およびカルシウムフリー試験液(略称:試験液)は、それぞれ、1つの容器またはバイアルに入れてキット(医薬パック)として提供されることが好ましい。こうして、本発明は、対照液を入れた1つのバイアルまたは容器と、試験液を入れた1つのバイアルまたは容器から構成されたキットを含み得る。
【0113】
本発明のキットは、指示書/使用説明書(指示シート)および/またはインプリントの手段をさらに含むことができる。この「使用説明書」は、医薬品または生物学的製剤(例えば、本発明のキットの対照液と試験液)の製造、使用および/または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知を指すことができ、該製品の製造、使用および/または販売の政府機関によるヒト投与または診断のための承認を反映している。本明細書で使用される「インプリント」は、キットの製品/構成要素についての重要な情報と、雄性対象の不妊を判定または診断するために当業者がそれらをどのように使用できるかを説明するものであり得る。その説明は、キットに添付されたプリントで行うことができる。そのような情報は、キットの構成要素/製品の組成、保管条件、キットの製品/構成要素の貯蔵寿命および/または安定性を含み得る。
【0114】
本発明のキットは、CatSper阻害剤を含む検証液をさらに含むことができる。CatSperチャネルの活性を阻害/ブロックするために、どのようなCatSper阻害剤を使用してもよい。好ましくは、本発明のキットは、RU1968F1 CatSper阻害剤を含む検証液をさらに含み、この阻害剤は当業者に知られている(Rennhack et al., 2018 British Jorunal of Pharmacology)。この特定のRU1968F1阻害剤は、CatSper欠損の表現型を薬理学的に模倣することができる;つまり、RU1968F1 CatSper阻害剤を含むこのような検証液を利用する場合、これは、CatSperチャネルが存在しないかまたは機能的に欠損している不妊の雄性対象を本発明の方法に使用する場合と同じ効果に相当し得る。このようなCatSper阻害剤は、本発明の基準値を評価/定義するための内部較正に使用することができる。それゆえ、本発明は、対照液を入れた1つのバイアルまたは容器と、試験液を入れた1つのバイアルまたは容器と、CatSper阻害剤を含む、好ましくはRU1968F1 CatSper阻害剤を含む、検証液を入れた1つのバイアルまたは容器から構成されたキットを含み得る。
【0115】
さらに、本発明のキットは、本明細書の他の箇所に記載されるような、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含むカルシウムフリー試験液を含むことができる。かくして、本発明は、対照液を入れた1つのバイアルまたは容器と、本明細書の他の箇所で定義される遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含む試験液を入れた1つのバイアルまたは容器から構成されたキットを含み得る。
【0116】
好ましくは、本発明のキットのカルシウムフリー試験液に含めることができる、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質は、本明細書の他の箇所で定義されるCa2+に結合する化学物質である。より好ましくは、本発明のキットのカルシウムフリー試験液に含まれる遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質である該Ca2+に結合する化学物質は、キレート剤、クエン酸、リン酸塩、またはCa2+指示色素のいずれか1つであり、さらに好ましくはキレート剤である。最も好ましくは、本発明のキットのカルシウムフリー試験液に含まれる遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質である該Ca2+に結合する化学物質は、EGTA、EDTA、BAPTA、HEDTA、NTA、DiBrBAPTA、クエン酸、リン酸塩、またはCa2+指示色素のいずれか1つであり、最も好ましくはEGTAである。本発明のキットのカルシウムフリー試験液に含まれる遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質である該Ca2+に結合する化学物質は、EGTA、EDTA、BAPTA、HEDTA、NTA、またはDiBrBAPTAの任意の誘導体であってもよい。
【0117】
本発明のキットは、本明細書の他の箇所に記載されるような、少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含むカルシウムフリー試験液をさらに含むことができる。また、本発明のキットが、少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含むカルシウム含有対照液を含み得ることも包含され得る。本発明では、カルシウムフリー試験液とカルシウム含有対照液が少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含むキットも想定される。かくして、本発明はまた、対照液を入れた1つのバイアルまたは容器と、本明細書の他の箇所で定義される遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含みかつ本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含む試験液を入れた1つのバイアルまたは容器から構成されたキットをも含み得る。本発明はさらに、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含む対照液を入れた1つのバイアルまたは容器と、本明細書の他の箇所で定義される遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含みかつやはり本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含む試験液を入れた1つのバイアルまたは容器から構成されたキットを含み得る。また、本明細書では、対照液を入れた1つのバイアルまたは容器と、遊離カルシウム濃度を低下させる少なくとも1つの作用物質を含む試験液を入れた1つのバイアルまたは容器を含み、かつ少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含む溶液を入れた1つのバイアルまたは容器をさらに含むキットも含まれる。このように、本発明は、カルシウムフリー試験液とカルシウム含有対照液とを含み、かつ少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激を含む溶液をさらに含むキットを提供することもできる。
【0118】
本明細書の他の箇所で定義されるように、本発明のキットのカルシウムフリー試験液および/またはカルシウム含有対照液に含まれるか、あるいは上記で定義される本発明のキットの別の溶液に含まれる少なくとも1つの活性化刺激は、本明細書の他の箇所に記載されるリガンド、弱塩基、上昇したカリウム濃度を含む緩衝剤、カリウムまたは塩化物イオンチャネル阻害剤、またはナトリウムイオノフォアのいずれか1つであり得る。
【0119】
好ましくは、本発明のキットのカルシウムフリー試験液および/またはカルシウム含有対照液に含まれるか、あるいは本発明のキットの別の溶液に含まれる、少なくとも1つのCatSperチャネル活性化刺激として用いられるリガンドは、ステロイド、プロスタグランジン、ステロイドもしくはプロスタグランジンの作用を模倣する合成もしくは天然の化学物質、血清アルブミン、透明帯タンパク質、またはそれらの組み合わせのいずれか1つであり、さらに好ましくはリガンドはステロイドであり、最も好ましくはステロイドはプロゲステロンである。少なくとも1つの活性化刺激が使用され、それがカルシウムフリー試験液またはカルシウム含有対照液以外の本発明のキットの溶液中に別個に含まれる場合、該キットは、担体をさらに含むことができる。いくつかの態様では、該担体もまた、本明細書の他の箇所で定義される少なくとも1つの活性化刺激を含む溶液を入れた1つまたは複数の容器またはバイアルに含まれ得る。
【0120】
用語「担体」は、希釈剤、アジュバント、またはビヒクルを指し、少なくとも1つの活性化刺激が該担体と共に少なくとも1つの活性化刺激を含むキットの溶液中に配合/混合される。そのような担体は、無菌液、例えば、水、PBS、HTFなどの緩衝液、および石油、動物、植物または合成起源のものを含む油、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱物油、ゴマ油などであり得る。また、担体は、当業者に知られるような、DMSOまたはアルコール、好ましくはエタノール、メタノールなどの任意の有機溶媒であってもよい。水またはHTFが好ましい担体である。
【0121】
本発明の方法に関する上記の全ては、本発明のキットの局面およびそのようなキットの使用に適用することができる。
【0122】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他のことを示さない限り、複数形の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「試薬(a reagent)」への言及は、1つまたは複数の当該異なる試薬を含み、「方法(the method)」への言及は、本明細書に記載された方法を改変するか、または該方法に代わることができる、当業者に知られた同等の工程および方法への言及を含む。
【0123】
特に明記しない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、一連の全ての要素を指すと理解されるべきである。「少なくとも1つ」という用語は、1つまたは複数、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10以上を指す。当業者であれば、本明細書に記載された本発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識するか、日常的な実験を行うだけで確認できるであろう。そのような均等物は、本発明に包含されることが意図されている。
【0124】
本明細書で使用される用語「および/または」には、「および」と、「または」と、「前記用語によって接続された要素の全てまたは任意の他の組み合わせ」という意味が含まれる。
【0125】
「未満(less than)」または「より多い(more than)」という用語には、その具体的な数字は含まれない。
【0126】
例えば、20未満とは、表示された数字よりも小さいことを意味する。同様に、より多いまたはより大きいは、表示された数字より多いまたはより大きいことを意味し、例えば、80%より多いとは、表示された80%の数値より多いまたはより大きいことを意味する。
【0127】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通して、文脈上他に要求されない限り、「含む(comprise)」という語、および「含む(comprises)」、「含む(comprising)」などの変形語は、記載された整数もしくは工程、または整数もしくは工程のグループを含むことを意味するが、他の整数もしくは工程、または整数もしくは工程のグループを除外するものではない、と理解される。本明細書で使用する場合、「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」または「含む(including)」という用語で置き換えることができ、また、本明細書で使用する場合、「有する(having)」という用語で置き換えることもできる。本明細書で使用する場合、「からなる(consisting of)」は、指定されていない要素、工程、または成分を除外する。
【0128】
用語「を含む(including)」は、「を含むがこれらに限定されない(including but not limited to)」という意味である。「を含む」と「を含むがこれらに限定されない」は交換可能に使用される。
【0129】
用語「約」とは、プラスマイナス10%、好ましくはプラスマイナス5%、より好ましくはプラスマイナス2%、最も好ましくはプラスマイナス1%を意味する。
【0130】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通して、単数形は、文脈上他に要求されない限り、複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用されている場合、本明細書は、文脈上他に要求されない限り、単一性だけでなく複数性も想定していると理解されるべきである。
【0131】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬、物質などに限定されず、それゆえに変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0132】
本明細書の本文を通して引用された全ての刊行物(全ての特許、特許出願、科学出版物、説明書などを含む)は、上記(supra)または下記(infra)にかかわらず、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書中のいかなるものも、本発明が先行発明のおかげでそのような開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。参照により組み入れられた資料が本明細書と相反するか、または矛盾する場合には、本明細書がそのような資料に優先するものとする。
【0133】
本明細書で引用された全ての文書および特許文書の内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0134】
本発明およびその利点のより良い理解は、例示のみを目的として提供される以下の実施例から得られるであろう。実施例は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0135】
本発明で使用する材料
本発明の方法およびキットで使用される対照液は、精子を用いた研究で長年使用されてきたHTF緩衝液(ヒト尿細管液)に相当する(Struenker et al. 2011, Nature 471, 382-386)。カルシウムフリー試験液もこの緩衝液をベースにしたものである。この試験は、生理学的範囲内に保たれている限り、異なる組成の緩衝液を用いても実施できる可能性が高い。
【0136】
(表1)本発明の方法およびキットで使用する対照液と試験液の組成
【0137】
CatSper活性試験を行うためのフローチャート
以下に示すフローチャートは、本発明の方法を実施するためのガイダンスとみなされる。それは、本発明の方法の好ましい態様を表している。番号コード:1=カルシウム含有対照液;2=プロゲステロン(10μM)の存在下でのカルシウムフリー試験液。
【0138】
CatSper活性試験を実施するために、カルシウム含有対照液(「1」と表示)およびカルシウムフリー試験液(「2」と表示)をそれぞれ450μlずつ使用する(表1の上記の特定の組成を参照)。どちらの溶液もキット内に4℃で保存され、使用前に37℃に加温される。
【0139】
次いで、精子(精液)サンプルを雄性対象から採取する。初期の運動性を、標準的な精子分析のために確立された方法を用いて、ネイティブ射精液で測定する。運動精子が10%未満のサンプルは、この試験から除外する。50μlのネイティブ射精液を各マイクロリアクションチューブ内の緩衝液(1および2)に加える。これらのマイクロリアクションチューブを低速ボルテックス混合するか、または繰り返し反転することで、均質な精子懸濁液を得る。次に、両方のマイクロリアクションチューブを37℃で15分間インキュベートする。インキュベーション後、混合工程を繰り返し、合計200個の精子をカウントすることにより、両方の条件での精子の運動性を測定する。条件1(=カルシウム含有対照液、「1」と表示)が条件2(=カルシウムフリー試験液、「2」と表示)に先立ってカウントされる。最後に、他の箇所に記載されるようにCatSper活性指数(CAI)を算出する。このCatSper活性指数によるCATSPER2欠損ヒト精子の特性評価の結果を
図4に示す。
- 運動性が10%未満のサンプルはこの試験から除外する!
- 緩衝液を37℃に加温する(チューブ1、チューブ2;37℃)
- 50μlのネイティブ射精液を各チューブに加える(チューブ1に50μl、チューブ2に50μl)、各工程で新しいピペットチップを使用する!
- 穏やかに混合する(反転、低速ボルテックス)
- チューブを37℃で15分間インキュベートする(チューブ1、チューブ2;37℃、15分)
- 穏やかに混合する(反転、低速ボルテックス)
- 200個の精子をカウントすることで、各チューブにおける運動精子を測定する(カウントの順番:チューブ1、チューブ2)
- 「CatSper活性指数」(CAI)を算出する
【0140】
電気生理学的記録と遺伝子解析によるCatSper欠損の検証
CatSperの欠損を検証するために、CatSper活性試験を使用したときに「CatSper欠損」と確認された5人の患者(患者A~E)(
図4の白抜きの三角形)を電気生理学的記録によってさらに分析した(
図5)。比較のために、無傷のCatSperチャネルを有する対照被験者からの精子の記録を示す(対照)。パネルA(左)は、ホールセル誘導体(whole-cell derivatives)で測定された1価のCatSper電流を示す。これから誘導された電流-電圧曲線を右に示す。パネルBは、CatSper欠損患者(CATSPER
-/-)からの精子における内向きと外向きの最大電流振幅を示す。対照として、無傷のCatSperチャネルを有する7人の被験者からの精子の電流振幅を示す(対照)。CatSper欠損精子では、CatSper電流は測定できなかった。電気生理学的記録は、Struenker et al., 2011に記載されるように行った。
【0141】
さらに、これらの5人の患者の遺伝子解析を行った(
図6)。いわゆるアレイCGH解析(例えば、Tuettelmann et al.2011による)から、5人の患者全員にはCATSPER2遺伝子を含む染色体欠失があることがわかった(CatSper 2タンパク質はCatSperチャネル複合体の必須のサブユニットである)。まとめると、本発明の手段および方法に従って判定されたCatSper欠損は、電気生理学的記録ならびに遺伝子解析によって検証することができた。
【国際調査報告】