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特表2022-526366インフルエンザウイルスの伝播を予防するための化合物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-24
(54)【発明の名称】インフルエンザウイルスの伝播を予防するための化合物および方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 498/14 20060101AFI20220517BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/5383 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C07D498/14 CSP
A61P31/16
A61K31/5383 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557775
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2020058573
(87)【国際公開番号】W WO2020201019
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】19166228.7
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(71)【出願人】
【識別番号】000001926
【氏名又は名称】塩野義製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】熨斗 武志
(72)【発明者】
【氏名】野田 陽弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 立
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】馬場 薫
(72)【発明者】
【氏名】ハート,アーロン シー
(72)【発明者】
【氏名】リー,レオ イー ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルドゥム,シュテッフェン
(72)【発明者】
【氏名】クールブッシュ,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】クリンチ,バリー
(72)【発明者】
【氏名】ネベスキー,マイケル ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ルムヌエル-ディオ,アナベル
(72)【発明者】
【氏名】バークレイ,ウェンディ エス
(72)【発明者】
【氏名】シャロワン,ジャン-エリック
(72)【発明者】
【氏名】安藤 良徳
【テーマコード(参考)】
4C072
4C086
【Fターム(参考)】
4C072AA01
4C072BB03
4C072CC03
4C072CC11
4C072DD10
4C072EE07
4C072FF06
4C072GG07
4C072HH06
4C072UU01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB22
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA01
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、インフルエンザウイルスに感染した患者(本明細書では「初発患者」と呼ぶ)に有効量の、式(I)または(II)を有する化合物またはその薬学的に許容される塩を投与することを含んでなる、インフルエンザウイルスの伝播を予防するための方法に関する。本発明で使用される化合物は、初発患者のインフルエンザウイルスの感染力を低下させ、したがって、対照患者と比較して、初発患者がインフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを引き起こすリスクを低減する。したがって、本発明の一態様は、インフルエンザウイルスに感染した患者(初発者)に有効量の式(I)または(II)を有する化合物またはその薬学的に許容される塩を、都市または国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも10%に投与することを含んでなる、インフルエンザの流行(エピデミック)またはインフルエンザの世界的流行(パンデミック)を予防するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者(初発患者)のインフルエンザウイルス感染症の処置に使用するための化合物であって、
該化合物は、以下の式IおよびII:
【化1】
のいずれかを有する化合物またはその薬学的に許容される塩であり;
該化合物は、インフルエンザウイルスの伝播を防ぐ、
化合物。
【請求項2】
初発患者のインフルエンザウイルスの感染力を低下させる、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
初発患者からのインフルエンザウイルスの伝播率が、化合物の最初の投与から1時間から32時間以内に低下する、請求項1または2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
初発患者からのインフルエンザウイルスの伝播率が時間以内、化合物の最初の投与から2時間以内、4時間以内、6時間以内、8時間以内、10時間以内、12時間以内、14時間以内、16時間以内、18時間以内、20時間以内、22時間以内、24時間以内、26時間以内、28時間以内、30時間以内または32時間以内に低下する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
処置された初発患者からのインフルエンザウイルスの伝播率が、対照患者からのインフルエンザウイルスの伝播率と比較して、70%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下に低下する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
対照患者がインフルエンザウイルスに感染しており、該化合物を投与されていない、請求項5に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
対照患者に、式(I)または(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩を除く抗インフルエンザ薬が投与されている、請求項5または6に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
対照患者に抗インフルエンザ薬が投与されていない、請求項5~7のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
処置された初発患者または対照患者の少なくとも1人の接触者が、それぞれ、処置された初発患者とまたは対照患者と個人的に接触した後にインフルエンザウイルスに感染した場合に伝播が起こる、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
処置された初発患者の接触者が下記に該当する、請求項9に記載の使用のための化合物:
(i)化合物が初発患者に初めて投与された時点でインフルエンザウイルスに感染していなかった;または
(ii)初発患者のインフルエンザウイルス感染期間中に、処置を受けた初発患者と個人的に接触した。
【請求項11】
接触者が、初発患者への化合物の投与から10日以内に、処置された初発患者と個人的に接触していた、請求項10(ii)に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
接触者が、化合物の投与から投与後5~10日で終わる期間内に、処置された初発患者と個人的に接触していた、請求項10(ii)または11に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
対照患者の接触者が下記に該当する、請求項9~12のいずれか一項に記載の使用のための化合物:
(i)抗インフルエンザ薬が対照患者に初めて投与された時点で、または、抗インフルエンザ薬が対照患者に投与されなかった場合にインフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する時点で、インフルエンザウイルスに感染していなかった;
(ii)対照患者のインフルエンザウイルス感染期間中に、対照患者と個人的に接触した。
【請求項14】
接触者が、対照患者への抗インフルエンザ薬の投与から10日以内に、または、抗インフルエンザ薬が対照患者に投与されなかった場合にインフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する期間内に対照患者と個人的に接触した、請求項13(ii)に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
接触者が、対照患者への抗インフルエンザ薬の投与から投与後5~10日で終わる期間内に、または、抗インフルエンザ薬が対照患者に投与されなかった場合にインフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する期間内に、対照患者と個人的に接触した、請求項13(ii)または14に記載の使用のための化合物。
【請求項16】
(i)に定義した時点で、接触者がインフルエンザに対してPCR陰性であった、請求項10または13に記載の使用のための化合物。
【請求項17】
前記個人的接触が、空中伝播および/または直接接触伝播、好ましくは空中伝播のみが可能な接触である、請求項9~16のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項18】
処置された初発患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルスが検出できる場合に、処置された初発患者からの伝播が起きていた、請求項9~17のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項19】
化合物の投与から15日以内に処置された初発患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルスが検出できる場合に、処置された初発患者からの伝播が起きていた、請求項18に記載の使用のための化合物。
【請求項20】
インフルエンザウイルスが対照患者の少なくとも1人の接触者において検出できる場合、対照患者からの伝播が起きていた、請求項9~19のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項21】
他の抗インフルエンザ薬を対照患者に投与してから15日以内に、または抗インフルエンザ薬が対照患者に投与されなかった場合にインフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する期間内に、対照患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルスが検出できる場合に、対照患者からの伝播が起きていた、請求項20に記載の使用のための化合物。
【請求項22】
前記伝播率が、それぞれ、処置された初発患者または対照患者の少なくとも1人の接触者を、処置された初発患者への化合物の投与から10日以内に、または対照患者への他の抗インフルエンザ薬の投与から10日以内に、または抗インフルエンザ薬が対照患者に投与されなかった場合はインフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する時点から10日以内に、インフルエンザウイルス感染について試験することにより測定される、請求項3~21のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項23】
インフルエンザウイルスが検出できる場合にインフルエンザウイルス感染が存在する、請求項1~22のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項24】
インフルエンザウイルスがPCRを介して検出される、請求項23に記載の使用のための化合物。
【請求項25】
インフルエンザウイルスがインフルエンザ検査キットを使用することによって検出される、請求項23に記載の使用のための化合物。
【請求項26】
対照患者の少なくとも1人の接触者が対照患者のインフルエンザウイルス株と同一のインフルエンザウイルス株によるインフルエンザウイルス感染を有する場合に、対照患者からの伝播が起きており;
対照患者の少なくとも1人の接触者が対照患者のインフルエンザウイルス株と同一のインフルエンザウイルス株によるインフルエンザウイルス感染を有する場合に、対照患者からの伝播が起きている、
請求項1~25のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項27】
インフルエンザウイルスの伝播が直接接触伝播および/または空中伝播である、請求項1~26のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項28】
化合物の投与後であってインフルエンザウイルス感染中に、処置された初発患者がインフルエンザリスク群の少なくとも1人または社会の機能に不可欠な少なくとも一人と個人的に接触している、請求項1~27のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項29】
インフルエンザリスク群の少なくとも1人が、インフルエンザウイルスに感染するリスクが高いか、またはインフルエンザに関連する合併症になるリスクが高い少なくとも1人である、請求項28に記載の使用のための化合物。
【請求項30】
インフルエンザに関連する合併症が、入院、副鼻腔炎、中耳炎、気管支炎および肺炎からなる群から選択される少なくとも1つの合併症である、請求項29に記載の使用のための化合物。
【請求項31】
インフルエンザ関連合併症を発症するリスクが高い少なくとも1人が、インフルエンザウイルス感染のために死亡するリスクが高い、請求項29または30に記載の使用のための化合物。
【請求項32】
インフルエンザに関連する合併症を発症するリスクが高い少なくとも1人が、下記に該当する人である、請求項29~31のいずれか一項に記載の使用のための化合物:
(i)慢性心血管疾患、慢性肺疾患、慢性代謝性疾患、慢性腎疾患、心肺障害、および/または免疫不全を患っている;および/または
(ii)65歳以上、または5歳未満である。
【請求項33】
インフルエンザウイルスに感染するリスクが高い少なくとも1人がインフルエンザワクチン接種が禁じられている人である、請求項29~32のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項34】
社会の機能に不可欠な少なくとも1人が、消防職員、警察職員、医療職員、緊急応答サービスの職員、軍隊または政府を含む必須サービス提供者として働いている、請求項28~33のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項35】
化合物の投与後であってインフルエンザウイルス感染中に、処置された初発患者が多くの人と個人的に接触する、請求項1~34のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項36】
化合物の投与後であってインフルエンザウイルス感染中に、処置された初発患者が、
(i)ケア施設、教育施設、公的機関、輸送施設、車両、航空機および/またはショップを訪れ;
(ii)多くの人と個人的に接触する
請求項1~35のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項37】
前記個人的な接触の少なくとも1時間前に化合物が投与される、請求項35または36に記載の使用のための化合物。
【請求項38】
前記個人的な接触の少なくとも2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、10時間前、12時間前、14時間前、16時間前、18時間前、20時間前、22時間前、24時間前、26時間前、28時間前、30時間前または32時間前に化合物が投与される、請求項35~37のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項39】
化合物がインフルエンザの症状の発症から48時間以内に投与される、請求項1~38のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項40】
化合物が単一の処置として1回投与される、請求項1~39のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項41】
有効量が、80kg未満の患者に対して約40mgであり、80kg以上の患者に対して約80mgである、請求項1~40のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項42】
化合物が経口投与される、請求項1~41のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項43】
初発患者が少なくとも12歳である、請求項1~42のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項44】
処置された初発患者が、対照患者と比較して、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを引き起こすリスクが低い、請求項1~43のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項45】
インフルエンザウイルスがインフルエンザAウイルスまたはインフルエンザBウイルスである、請求項1~44のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項46】
インフルエンザウイルスがエピデミックインフルエンザウイルス株またはパンデミックインフルエンザウイルス株である、請求項1~45のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項47】
インフルエンザウイルスが、抗原ドリフトおよび/または抗原シフトの結果として親インフルエンザウイルス株と比較して抗原的に異なる、請求項1~46のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項48】
インフルエンザ株が、過去にエピデミックまたはパンデミックを引き起こしたリサイクルウイルスである、請求項1~47のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項49】
インフルエンザウイルス株が、I38T突然変異を含むI38X突然変異を持たない、請求項1~48のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項50】
インフルエンザウイルスに感染した患者(初発患者)の処置に使用するための化合物であって、該化合物は、都市または国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも10%に投与され、該化合物はインフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを防ぎ、該化合物が以下の式IおよびII:
【化2】
のいずれかを有する化合物またはその薬学的に許容される塩である、化合物。
【請求項51】
化合物がインフルエンザのエピデミックを防ぐためのものであり、都市または国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも10%が該化合物で処置される、請求項50に記載の使用のための化合物。
【請求項52】
化合物がインフルエンザのパンデミックを防ぐためのものであり、国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも25%が該化合物で処置される、請求項50に記載の使用のための化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスに感染した患者(以下、「初発患者」と呼ぶ)に有効量の、式(I)または(II)を有する化合物またはその薬学的に許容される塩を投与することを含んでなる、インフルエンザウイルスの伝播を予防するための方法に関する。本発明で使用される化合物は、初発患者のインフルエンザウイルスの感染力を低下させ、したがって、対照患者と比較して、初発患者がインフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを引き起こすリスクを低減する。したがって、本発明の一態様は、インフルエンザウイルスに感染した患者(初発者)に有効量の式(I)または(II)を有する化合物またはその薬学的に許容される塩を、都市または国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも10%に投与することを含んでなる、インフルエンザの流行(エピデミック)またはインフルエンザの世界的流行(パンデミック)を予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス感染症は、インフルエンザウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症であり、主に空気感染、特に飛沫感染によって広がる。A型およびB型インフルエンザウイルスは伝播性が高い(Vanderlinden, Med Res Rev 2014;34(2):301-339)。したがって、インフルエンザの流行は季節性インフルエンザウイルスから発生することが多く、世界的規模で人々の健康に大きな負担がのしかかっている。世界中で推定300万から500万の重症例があり、毎年約29~65万人がインフルエンザで亡くなっている(WHO News Release, Geneva, Switzerland, 14 December 2017;WHO Fact Sheet, Geneva, Switzerland, 31 January 2018;Baxter D, Hum Vaccin Immunother. 2016;12(10):2712-2717)。また、インフルエンザは、シーズンごとに医療サービスの需要が大きくなり、労働力の生産性低下を通じて社会に影響を与えている(WHO Fact Sheet, Geneva, Switzerland, 31 January 2018)。
【0003】
インフルエンザの流行は突然であり、現在でも避けられない出来事である。過去100年間にインフルエンザの流行による世界的な健康的緊急事態がいくつか起こった。最初で最も深刻なものは、世界中で4,000万から5,000万人以上の死者を出したと推定されている(Francis, Am J Hyg., 1945, 42:1-11)。専門家は、次のパンデミックは、高い死亡者数と入院を必要とする重度の疾患に関連し、医療資源にかなりの負担がかかると予想している。パンデミックはその性質上、世界的規模のものであり、免れる国はほとんどない。医療資源がすでに不足しており、健康状態や栄養状態が悪いために一般の人々が衰弱することの多い開発途上国では、その影響は甚大になる可能性がある。
【0004】
1997年の香港での「鳥インフルエンザ」の発生を取り巻く状況は、予測不可能で、複雑且つ急速に進化し、人々の大きな不安を伴うことが確実な健康に関する緊急事態への適切な対応を確実にするための事前計画の必要性を浮き彫りにしている。パンデミックが始まると、影響を最小限に抑えるために必要な多くの重要な活動を達成するには遅すぎた過去があった。したがって、準備活動の計画と実施はかなり前もって開始する必要がある。また、パンデミックに対する計画は、多大な予防的および処置的介入と、国民の恐怖を静めるのに役立つリスクコミュニケーション要素を含む強力な国家計画を必要とする、バイオテロの脅威を含む他の大規模な健康的緊急事態に対応する能力を高める。パンデミック・インフルエンザの影響は、通常のバイオテロのシナリオよりも桁違いに大きくなる可能性がある。他のほとんどの健康上の緊急事態とは異なり、パンデミックはいくつかの波で発生し1~2年は続く。したがって、対応への努力を長期間持続する必要がある。さらに、インフルエンザの流行に備えることで、毎年発生し、世界中で毎年50万人から100万人が死亡すると考えられているインフルエンザの流行への対応が強化される。したがって、パンデミック対策への投資には、特定の繰り返し発生する事象の影響を軽減するための手段として直接的かつ迅速な有用性がある。
【0005】
毎年のワクチン接種プログラムはインフルエンザ感染を予防する試みの基礎となるものであるが、これらプログラムの有効性は、ワクチン接種後の取り込みが最適ではなく、ワクチンと流行するインフルエンザ株との不一致に起因して変動する(Centers for Disease Control and Prevention “Vaccine effectiveness - how well does the flu vaccine work?” 3rd October 2017)。アマンタジンなどのM2阻害剤、およびオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害剤は、インフルエンザに対して使用される典型的な薬剤である。しかし、施設内でのアウトブレイク環境でのM2阻害剤使用のモデリング研究では、処置だけではアウトブレイクの推移に大きな影響は見られず、この抗インフルエンザ薬による処置では伝播の可能性が下がらないことを示している(Stilianakis, Journal of Infectious Diseases, 1998, 177:863-873)。現在、インフルエンザの伝播を減らすことが証明されている薬剤はない。したがって、インフルエンザウイルスの伝播を減らし、それによって季節性インフルエンザの流行(エピデミック)またはインフルエンザの世界的流行(パンデミック)の発生を予防または軽減する抗ウイルス薬を見出すことは、満たされていない重要な医学的必要性である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、社会の健康を保護するための手段および方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
技術的課題は、特許請求の範囲で特徴付けられる実施形態を提供することにより解決される。
【0008】
したがって、本発明は、以下の式IまたはII:
【化1】
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量をインフルエンザウイルスに感染した患者(初発患者)に投与することを含んでなる、インフルエンザの伝播を予防する方法に関する。
【0009】
したがって、本発明は、患者(初発患者)のインフルエンザウイルス感染症の処置に使用するための化合物に関するものであり、該化合物は、式(I)または(II)を有する化合物またはその薬学的に許容される塩であり、インフルエンザウイルスの伝播を防ぐ(例えば、減らす)。また、本発明には、式(I)または(II)の有する化合物、またはその薬学的に許容される塩を含み、場合により薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が含まれ、該医薬組成物は、インフルエンザウイルスの伝播を防止する(例えば、減少させる)。この医薬組成物は、インフルエンザに感染した患者(初発患者)の処置に特に有用であり、該患者のインフルエンザウイルスの伝播を防止する(例えば、減少させる)。
【0010】
添付の実施例に示されるように、本発明で使用される化合物は、伝播を低減するという有利な効果を有する。したがって、本化合物は、インフルエンザのエピデミックまたはパンデミックが発生する可能性を低減するか、または既存のインフルエンザのエピデミックまたはパンデミックの拡大を低減する。本発明で使用される化合物はまた、パンデミックインフルエンザウイルスの流行などのインフルエンザウイルス使ったバイオテロ攻撃の影響を弱めるための貴重なツールである。したがって、本化合物は、特定のタイプのインフルエンザウイルス感染症、すなわち、エピデミックまたはパンデミックの可能性があるインフルエンザウイルス株によって引き起こされる感染症の処置に特に有用である。インフルエンザウイルスの伝播を減少させるために本発明で使用される化合物の予想外の技術的効果は、明らかに新しい臨床的状況につながる。確かに、この有利な技術的効果を念頭に置いて、主治医は、その人の感染力が低下しなければ(例えば、経済的または社会的)損害を引き起こす可能性のある患者を特に本化合物で処置する。このような患者は、例えば、インフルエンザのリスクのあるグループの人(インフルエンザウイルスに感染するリスクが高い人など)と個人的に接触している患者や、インフルエンザに関連する重度の合併症を発症するリスクが高い患者(高齢者、幼児、重度の病気または免疫不全の人など)である。例えば、本発明で使用される化合物による処置は、感染期間中は家に居て、その間家族(例えば幼児)と接触する機会のあるインフルエンザ患者にとって非常に有益である。さらに、インフルエンザの伝播を減少させるその有利な特性によって、本発明の化合物は、社会が機能するのに不可欠な人々の処置に使用することができ、これらの人々がインフルエンザウイルス感染している間も、同僚や他の接触者に感染させることなく働き続けることを可能にする。例えば、本発明で使用される化合物は、特にインフルエンザのエピデミックまたはパンデミックが始まった段階で、医療従事者の処置に有利に使用され得る。本化合物は、その人がインフルエンザウイルスに感染している間(例えば、飛行機で飛ばなければならないために)多くの人と接触する患者の処置にも使用し得る。実際、過去に何度か、特に長距離飛行中に突然病気が発生したため、飛行機を隔離する必要があった。したがって、本明細書に記載される手段および方法によって、インフルエンザウイルス感染に関連する社会的および経済的影響は有利に低減する。
【0011】
ある薬物について伝播を減らす効果は、インフルエンザに対するその薬物の有効性(例えば、インフルエンザの症状、ウイルス量、ウイルス排出またはウイルスRNAを減少させる薬物の有効性)からでは結論付けることができないことが示されている。実際、添付の実施例は、一般的に知られている効果的な抗インフルエンザ薬であるオセルタミビルがインフルエンザウイルスの伝播を全く防止しないことを示している。添付の実施例はまた、インフルエンザ感染者の鼻洗浄液中に存在するウイルスRNAが、本発明の化合物(特にバロキサビルマルボキシル)、オセルタミビルまたはプラセボで処置した被験者のものと同一であることを示している(例えば、図6、9および12を参照)。しかし、理由は不明であるが、オセルタミビルまたはプラセボで処置された被験者と比較して、バロキサビルで処置された被験者ではウイルスの伝播が有意に減少した。
【0012】
抗インフルエンザ薬がインフルエンザの症状を軽減するという事実はかならずしも、この薬がインフルエンザウイルスの伝播の減少にも適していることを示すものではない。インフルエンザの症状は、ウイルス、ウイルス量、およびウイルス排出が解消した後も残る可能性があるため、ヒトのモデルを模倣する十分に組織化された非臨床実験がない限り、伝播を減らす効果を予測することはできない。伝播(例えば家庭内)は多くの要因の影響を受ける。したがって、ある薬物がウイルス排出またはウイルス量を減少させるという事実をもって、この薬物が伝播をも減少させると直接結論付けることはできない。
【0013】
さらに、鼻/喉でのウイルス排出と伝播との間に絶対的な相関関係はない。ヒトにおいて、例えばH5N1ウイルスは感染した患者では非常に高い力価に達するが、空気中や人と人の間では伝播しない。フェレットモデルでは、伝播性のタイトなウィンドウを示したがウイルス排出のピークのタイミングと必ずしも相関しなかった(Roberts, PLoS One 7.8 (2012):e43303)。さらに、本発明者らにより電線が臨床症状と相関しないことが示されたため、症状の減少によって伝播の減少が明らかになるわけではない。実際、インフルエンザは、多くは無症状か発症前に伝播するというコンセンサスがある(Fraser、Proceedings of the National Academy of Sciences 101.16(2004):6146-6151)。したがって、既知の薬剤がインフルエンザの処置に有効であるという事実は全くもって、この薬剤がインフルエンザウイルスの伝播の減少にも有効であることを示すものではない。しかしながら、本発明の文脈において、驚くべきことに、バロキサビルマルボキシルがインフルエンザウイルスの伝播を有意に減少させることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記のとおり、本発明は、感染性を予防または低減すべきインフルエンザ患者の処置に関する。実際、本発明によれば、「伝播を予防する」という用語は、本発明で使用される化合物が投与されていない対照患者と比較して、本化合物が「伝播を低減する」ことを含む。本明細書では、感染性を予防または低減すべきインフルエンザ患者を「初発患者」(または「患者ゼロ」)と称する。以下でさらに定義されるこの患者は、インフルエンザウイルスに感染しており、何らかの理由で感染性を予防または低減する必要があるすべての人である。
【0015】
本発明で使用される化合物は、初発患者のインフルエンザウイルスの感染性を低下させる。本明細書において、「感染性」という用語は、インフルエンザウイルスなどの病原体が別の宿主において感染を確立する能力を意味する。本明細書において、「感染性」および「伝播性」という用語は同じ意味を有し、親子関係にある宿主および親子関係にない宿主を含む宿主間で病原体が広がる頻度と定義する。したがって、本発明によれば、本化合物は、処置された初発患者のインフルエンザウイルスが別の宿主において感染を確立する能力を低下させる。あるいは、言い換えれば、本発明で使用される化合物は、初発患者のインフルエンザウイルスが他の宿主に感染する頻度を低下させる。
【0016】
添付の実施例は、驚くべきことに、本発明で使用される化合物の投与直後にインフルエンザウイルスの伝播を減少させることができることを示している。さらに、添付の実施例は、処置された初発患者の感染性が、本化合物の投与から24時間以内にさらに減少することを証明している。したがって、本発明の文脈において、初発患者は、本発明で使用される化合物の投与後1時間、または2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、26時間、28時間、30時間または32時間まで、他の人(すなわち、接触者)と個人的に接触しないことが好ましい。ここに記載した期間は最小の期間を指す。例えば、「投与後2時間」の期間には、投与後2.5時間などのより長い期間も含まれる。実際、本発明は、本発明で使用される化合物の投与後1日または2日(または1日と1晩または2晩)まで、初発患者が人との個人的な接触を持たないことを包含する。例えば、初発患者は、この期間中、他の人との個人的な接触が防止されるように、1日(または1日と1晩または2晩)病院に隔離されたままでいる可能性がある。
【0017】
これと一致して、本発明の一態様では、初発患者からのインフルエンザウイルスの伝播率は、化合物の最初の投与から1時間から24時間以内に減少する。初発患者からのインフルエンザウイルスの感染率はまた、化合物の最初の投与から2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、26時間、28時間、30時間、または32時間以内に低下し得る。したがって、期間を延長することができる。したがって、本発明によれば、初発患者からのインフルエンザウイルスの伝播率は、化合物の最初の投与から1時間以内から32時間以内(例えば、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、26時間、28時間、30時間、または32時間以内)減少する。
【0018】
したがって、本発明で使用される化合物は、処置された初発患者から、処置された初発患者の接触者へのインフルエンザウイルスの伝播率を低下させる。初発患者からのインフルエンザウイルスの伝播率は、対照の患者からのインフルエンザウイルスの伝播率と比較して、70%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下に低下させることができる。
【0019】
本明細書において、「伝播率」は、特定の期間内の、インフルエンザ感染患者の接触者(すなわち、それぞれ初発患者または対照患者)における感染者のパーセンテージに対応する。したがって、「伝播率」は、特定の期間内の新規症例数(それぞれ初発患者または対照患者に由来するインフルエンザウイルス株による感染の)をリスクのある集団で割ったものである。「リスクのある集団」とは、好ましくは、初発患者または対照患者のインフルエンザウイルス感染中に、それぞれ個人的に接触した人の数である。インフルエンザウイルスは通常、インフルエンザの症状が発生する1日前から、インフルエンザの症状が持続して病気が回復するまでの間、伝播する可能性がある。したがって、「リスクのある集団」は、インフルエンザ症状が発生する1日前からインフルエンザ症状が持続するまでに、それぞれ初発患者または対照患者と個人的に接触した人の数であり得る。好ましくは、「リスクのある集団」は、インフルエンザワクチン接種を受けた人を含まない。本明細書の上記および以下に記載されるように、「伝播率」は、本発明で使用される化合物の投与後に減少する。したがって、伝播率に対する化合物の効果は、化合物の投与後に測定される。特に、伝播率に対する化合物の影響を評価するために、「リスクのある集団」は、化合物の投与開始からインフルエンザの症状が終わるまでの期間に初発患者と個人的に接触した人(例えば、インフルエンザのワクチン接種を受けていない人)の数として定義することができる。これに沿って、対照患者の「リスクのある集団」は、本化合物以外の抗インフルエンザ薬の投与開始から、または抗インフルエンザ薬が投与されていない場合はインフルエンザの疾患プロセスを考慮して対応する時点から、インフルエンザの症状が終わり回復するまでの期間中に、対照患者と個人的に接触した人(例えば、インフルエンザのワクチン接種を受けていない人)の数として定義することができる。
【0020】
上記のとおり、本発明によれば、本化合物は、初発患者のインフルエンザウイルスの伝播率(すなわち、初発患者の感染性)を、本化合物で処置していない対照患者のインフルエンザウイルスの伝播率と比較して(すなわち、本化合物で処置していない対照患者の感染性と比較して)70%以下、好ましくは50%以下、より好ましく30%以下に低減する。インフルエンザエピデミックを含む季節性インフルエンザでは、インフルエンザウイルスは5日間で1人の患者から約1.35人に伝播する。したがって、初発患者が季節性インフルエンザのインフルエンザ株(エピデミック・インフルエンザ株を含むが、パンデミック・インフルエンザ株は含まない)に感染している場合、本化合物は、ウイルスが伝播する人数を、5日間で平均約0.945人(すなわち、伝播率にして70%)以下、好ましくは5日間で平均約0.675人(すなわち、伝播率にして50%)以下、より好ましくは5日間で平均約0.405人(すなわち、伝播率にして30%)以下に減少させる。パンデミック・インフルエンザでは、インフルエンザウイルスは6日間で1人の患者から約2.9人の被験者に伝播する。したがって、初発患者がパンデミック・インフルエンザのインフルエンザ株に感染している場合、本化合物は、ウイルスが伝播する人数を、6日間で平均約2.03人(すなわち、伝播率にして70%)以下、6日間で平均約1.45人(すなわち、伝播率にして50%)以下、より好ましくは、6日間で平均約0.87人(すなわち、伝播率にして30%)以下に減らす。
【0021】
他の同居人が感染のリスクにさらされるインフルエンザに感染しているほとんどの人は、少なくとも24時間熱が出なくなるまで家にいることを勧められる(Centers for Disease Control and Prevention. The flu:what to do if you get sick. 9th March 2018)。同居人の1人がインフルエンザに感染すると、同居する接触者への伝播率は最大38%になる可能性があり、発症は初発患者の発症から約3日遅れる(Tsang, Trends Microbiol 2016;24(2):123-133)。上記のとおり、本発明で使用される化合物は、処置された初発患者からのインフルエンザウイルスの伝播率を70%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下に減少させた。したがって、初発患者を本化合物で処置することにより、インフルエンザウイルスが同居する接触者に伝播するリスクが、約27%以下(すなわち70%)、好ましくは約19%以下(すなわち50%)、より好ましくは約11.4%以下(すなわち30%)に減少する。これは、インフルエンザのエピデミックまたはパンデミックの予防に大きな利点がある。
【0022】
本発明で使用される化合物が上気道に放出されるウイルス量を減少させることが、添付の実施例に示されている。したがって、本発明によれば、本化合物は、インフルエンザウイルスに感染しているが本化合物を投与されていない対照患者の上気道に放出されるウイルス量と比較して、初発患者の上気道に放出されるウイルス量を減少させる。
【0023】
対照患者は、インフルエンザウイルスに感染しているが、本発明で使用される化合物で処置されていない任意の患者であり得る。したがって、本発明によれば、対照患者はインフルエンザウイルスに感染しているが、本化合物は投与されていない。但し、対照患者は、式(I)または(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩以外の、抗インフルエンザ薬を投与され得る。例えば、対照患者はオセルタミビルを投与され得る。したがって、本発明の一態様では、対照患者は、式(I)または(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩以外の、任意の抗インフルエンザ薬を投与されている。例えば、対照患者はオセルタミビルを投与されていてもよい。本発明の別の態様において、対照患者は、抗インフルエンザ薬を投与されておらず、例えば、オセルタミビルを投与されていない。オセルタミビルは、75mgの用量を1日2回5日間にわたって投与することができる。ヒトでのオセルタミビルの用量は、当技術分野で一般的に知られている。例えば、成人および青年(13歳以上)の場合、75mgを通常1日2回5日間投与する。1~12歳の小児患者の用量は体重に基づいており、通常1日2回5日間投与する。生後2週間から1歳未満の乳児の用量としては、通常、3mg/kgを1日2回5日間投与する。対照患者は、対照患者が比較される初発患者のインフルエンザ株と同一のインフルエンザウイルス株を有する。例えば、初発患者がパンデミック・インフルエンザウイルス株を有する場合、初発患者が比較される対照患者は同一のパンデミック・インフルエンザウイルス株を有する。
【0024】
当業者は、(処置された)初発患者または対照患者からのインフルエンザウイルスの伝播が起こったかどうかを容易に認識する立場にある。例えば、伝播は、処置された初発患者または対照患者の少なくとも1人の接触者が、それぞれ、処置された初発患者または対照患者と個人的に接触した後にインフルエンザウイルスに感染したときに起こる。処置された初発患者の接触者は、好ましくは、
(i)本化合物が初めて初発患者に投与された時点でインフルエンザウイルスに感染しておらず、且つ
(ii)初発患者がインフルエンザウイルスに感染している期間に、処置を受けた初発患者と個人的に接触した
人である。
【0025】
上記(ii)については、初発患者への化合物投与から10日以内に、初発患者との個人的な接触が望ましい。したがって、上記の項目(ii)に関して、接触者は、化合物の投与開始から、化合物の投与後5~10日(例えば、9日または5日)までの期間に、処置された初発患者と個人的に接触したことが好ましい。
【0026】
対照患者の接触者は、好ましくは、
(i)抗インフルエンザ薬が初めて対照患者に投与された時点、または、対照患者に抗インフルエンザ薬が投与されなかった場合は、インフルエンザの疾患プロセスを考慮して対応する時点で、インフルエンザウイルスに感染しておらず、且つ
(ii)対照患者がインフルエンザウイルスに感染している期間に、対照患者と個人的に接触した
人である。
【0027】
上記(ii)については、対照患者への抗インフルエンザ薬の投与から10日以内に、または、対照患者に抗インフルエンザ薬が投与されなかった場合はインフルエンザの疾患プロセスを考慮して対応する期間に、接触者が対照患者と個人的に接触することが好ましい。したがって、上記(ii)に関して、接触者は、対照患者への抗インフルエンザ薬の投与開始から、または、対照患者に抗インフルエンザ薬が投与されなかった場合はインフルエンザの疾患プロセスを考慮して対応する時点から、抗インフルエンザ薬の投与後5~10日(例えば、9日または5日)までの期間、または、対照患者に抗インフルエンザ薬が投与されなかった場合はインフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する時点までの期間に、対照患者と個人的に接触することが好ましい。
【0028】
もちろん、接触者は、上記の10日の期間中、それぞれ、初発患者または対照患者と毎日、接触する必要はない。むしろ、接触者は、例えば、10日間のうちの1日のみ、それぞれ、初発患者または対照患者と個人的に接触していてもよい。例えば、接触者は、9日のうち約7日で初発患者または対照患者と個人的に接触していてもよい(例えば、共同世帯のため)。
【0029】
本明細書において、初発患者への化合物または対照患者への他の抗インフルエンザ薬の投与後の日数を数える場合、投与した日を「0日目」とする。したがって、1日目(すなわち、それぞれ化合物または他の抗インフルエンザ薬の投与の1日後)は、投与日の翌日である。したがって、化合物または他の抗インフルエンザ薬の投与後10日は、それぞれ、化合物または他の抗インフルエンザ薬の投与から約240時間である日を指す。
【0030】
上記のとおり、本発明によれば、処置された初発患者または対照患者の接触者は、下記に該当する人である:
(i)初発患者に関して:化合物が初発患者に初めて投与された時点でのインフルエンザウイルスに感染していなかった;または
対照患者に関して:抗インフルエンザ薬が対照患者に初めて投与された時点で、または、抗インフルエンザ薬が対照患者に投与されなかった場合にインフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する時点で、インフルエンザウイルスに感染していなかった;且つ
(ii)初発患者に関して:初発患者のインフルエンザウイルス感染期間中に、処置を受けた初発患者と個人的に接触した;または
対照患者に関して:対照患者のインフルエンザウイルス感染期間中に、対照患者と個人的に接触した。
【0031】
本発明によれば、インフルエンザウイルス感染がないということは、好ましくは、インフルエンザウイルスに対してPCR陰性(例えば、鼻咽頭スワブにおいて)であることを意味する。したがって、上記(i)で定義された時点で、接触者はインフルエンザに対してPCR陰性であったことが好ましい。
【0032】
インフルエンザウイルスのPCR検出および定量化は、当技術分野で一般的に知られている。例えば、インフルエンザマトリックス遺伝子のリアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)増幅は、インフルエンザRNAの存在または不在、または量を決定するための方法として使用される。インフルエンザウイルスのRNA抽出および精製は常套的な技術であり、例えば、MagNA Pure LC 1.0または2.0分離ステーション(Roche Applied Science、製品番号05197686001)を使用して行うことができる。テストを実行するには、MagNA PureLC分離ステーションとMagNAPure LC核酸抽出キットを製造元(Roche Applied Science)の指示書に従い使用して、綿棒検体のアリコートから核酸を抽出する。逆転写および増幅反応は、Taqman Fast VirusMastermixを使用して設定できる。臨床分析において、既知のウイルス粒子/mlの4ポイント(低、中、高)のインフルエンザAおよびB標準曲線をコントロールとして使用でき、すべての実行に用いることができる。分離からリアルタイム検出までのプロセス全体を監視するために、ユニバーサル内部コントロールであるPhocine Distemper Virus(PDV)を各分離に追加することができる。さらに、すべての分離でコンタミネーションを監視するために、作成されるすべてのPCRミックスに増幅なしコントロール(No Amplification Control:NAC)を含めることができる。ポジティブコントロールは、指定されたアクションリミットに存在するポジティブシグナルを与える必要がある。ポジティブコントロールの値がアクションリミットの外にある場合、同じPCRミックスでテストされたすべてのサンプルを再テストする必要がある。ネガティブコントロールがインフルエンザに対してポジティブシグナルを示す場合、同じPCRミックスで実行されたすべてのサンプルを再テストする必要がある。インフルエンザRT-PCRアッセイの出力は、サイクルしきい値またはCt値と呼ばれるものであり、Ct値はテスト毎に記録される。Ct値は、サンプルと同時に作成された標準曲線を使用して、定量的なウイルス粒子/ml値に変換される。
【0033】
インフルエンザA陽性の被験者の場合、インフルエンザAサブタイプPCRアッセイも実施できる。より具体的には、インフルエンザA陽性の被験者の場合、リアルタイムRT-PCRアッセイを使用して、被験者の綿棒サンプルから直接サブタイピングを実行できる。RNAは、Roche MagNA Pure Total Nucleic Acidキットを使用して上記のとおり臨床分離物から分離でき、インフルエンザAサブタイプ特異的プライマーを使用したワンステップRT-PCRにより増幅できる。適切なプライマー配列を含む特定のインフルエンザウイルスサブタイプを検出するためのさらなる方法は、当技術分野で一般に知られており、例えば、2017年7月の「WHO information of the molecular detection of influenza viruses」に記載されている。
【0034】
当業者は、インフルエンザウイルス感染中の、所与のインフルエンザの病状に対応した(すなわち、インフルエンザの疾患プロセスにおける所与の状態に対応した)タイムポイントを容易に決定することができる。より具体的には、インフルエンザの疾患プロセスを監視することができることは当技術分野で一般に知られている。例えば、インフルエンザの疾患プロセスは、臨床症状および/またはウイルス学的測定値を監視することによって監視することができる。臨床症状は次の方法で監視できる:
(i)咳および鼻の症状スコアを決定する(Canadian Acute Respiratory Illness and Flu Scale (CARIFS)の項目14および15)。
(ii)患者またはその介護者に、患者がデイケア/学校/仕事に戻ることができたか(いつか戻ることができたか)、またはインフルエンザウイルス感染症を発症する前と同じように通常の日常活動を再開できたかどうかを尋ねる;および/または
(iii)患者がすでに平熱に戻った(そして好ましくは少なくとも21.5時間その状態を維持した)場合、患者が最初に平熱に戻った時点(すなわち、鼓膜温度37.2℃以下)を決定する。
【0035】
CARIFSは当技術分野で一般に知られており、図18に示されている。
【0036】
ウイルス学的測定値は、例えば、ウイルス力価またはウイルス排出量を測定することによって監視することができる。
【0037】
本発明によれば、接触者と初発患者または対照患者との間の個人的接触は、それぞれ、インフルエンザウイルスの伝播を可能にする個人的接触である。例えば、個人的接触は、空気感染および/または直接接触感染、好ましくは空気感染のみを可能にする接触であり得る。接触感染とは、感染者から感受性の高い人への直接的なウイルス伝播(例えば、汚染された手(直接接触感染)または物体を介した間接ウイルス感染(媒介生物、間接接触感染)を介した)を意味する。空気を介したウイルスの伝播(すなわち、空気感染)は、飛沫またはエアロゾルを介して発生する可能性がある。一般的に受け入れられている、大きな液滴と小さなエアロゾルの間のカットオフサイズは5μmである(Kutter, Current opinion in virology, 28 (2018):142-151)。咳、くしゃみ、会話中に発生した飛沫は、空気中に浮遊したままにはならない。それらが空気中に留まるのは通常17分未満であり、1m未満を移動してから、近くの接触対象物(つまり、感染した患者と個人的に接触している人)の粘膜または周囲の表面に落ち着く。エアロゾルは沈降速度が遅く、空中に浮遊したまま1mより長い距離を移動できる(Kutter, Current opinion in virology, 28 (2018):142-151)。インフルエンザウイルスの伝播性を分析するための研究では、インフルエンザウイルスRNAは、エアロゾル(<5μm)に含まれるウイルスRNAの大部分を有する患者から最大3.7m離れた空気中による検出の結果(Kutter, Current opinion in virology, 28 (2018):142-151)。
【0038】
したがって、本発明によれば、直接接触による伝播が可能になる個人的接触は、インフルエンザに感染した患者(すなわち、それぞれ初発患者または対照患者)と接触者(例えば、握手など)との間の身体接触である。インフルエンザAウイルスは、紙幣に接種すると最大3日間生存することが示されている(Thomas, Appl. Environ. Microbiol. 74.10 (2008):3002-3007)。呼吸粘液の存在下での同じ接種物は、生存時間の著しい増加を示した(最大17日、Thomas, Appl. Environ. Microbiol. 74.10 (2008):3002-3007)。自然に感染した子供の鼻咽頭分泌物を使用した場合、インフルエンザウイルスは3分の1の症例で少なくとも48時間生存した(Thomas, Appl. Environ. Microbiol. 74.10 (2008):3002-3007)。したがって、本発明の文脈において、インフルエンザに感染した患者(すなわち、初発患者または対照患者)との間の個人的な接触は、間接的な接触感染を可能にし得る。間接的接触による伝播が可能になる前記の個人的接触は、インフルエンザ感染患者(すなわち、初発患者または対照患者)が媒介物に個人的に接触した後の、媒介物への接触者の身体接触であり得る。例えば、インフルエンザに感染した患者は、手で媒介物に触れたり、媒介物を吸い込んだりした可能性がある。インフルエンザ感染患者と媒介物との個人的な接触と、接触者と媒介物との個人的な接触との間の期間は、3日以下、好ましくは48時間以下であり得る。
【0039】
インフルエンザウイルスのような呼吸器ウイルスは気道で複製し、そこから排出され、空気感染により吸器分泌物を介して伝播する。本発明において、空気感染を可能にする個人的接触は、インフルエンザに感染した患者(すなわち、それぞれ初発患者または対照患者)と接触者との間の距離が最大3.7メートルである。インフルエンザは主に呼吸器飛沫感染を介して感染する。したがって、接触者と初発患者または対照患者との個人的な接触の間、これらの人(すなわち、それぞれ、接触者と初発患者または対照患者)の距離は、最大1メートル、より好ましくは1メートル未満であることが好ましい。
【0040】
強化された機器を使用すると、インフルエンザウイルスを感染直後に検出できる。通常、感染は感染してから1日後に検出される。本発明の一態様では、処置された初発患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルスが検出できる場合、処置された初発患者からの伝播が起こっている。本発明の好ましい態様では、化合物の初発患者への投与から15日以内に、処置された初発患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルスが検出できる場合、処置された初発患者からの伝播が起こっている。本発明の一態様では、初発患者への化合物の投与から10日以内に、処置を受けた初発患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルスが検出できる場合、処置された初発患者からの伝播が起こっている。伝播が起こった場合、インフルエンザウイルスは、より長い期間(例えば、初発患者への化合物の投与から15日以内)でも、接触者において検出される可能性がある。ウイルスが変異している場合、疾患のさらに長い経過(例えば3週間またはそれ以上)が特に予想される。
【0041】
本発明の一態様では、インフルエンザウイルスが対照患者の少なくとも1人の接触者において検出できる場合、対照患者からの伝播が起こっている。本発明の好ましい態様では、他の抗インフルエンザ薬の対照患者への投与から15日以内に、あるいは対照患者に抗インフルエンザ薬を投与しなかった場合インフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する期間内に、対照患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルスが検出できる場合、対照患者からの伝播が起こっている。本発明の一態様では、他の抗インフルエンザ薬の対照患者への投与から10日以内に、あるいは対照患者に抗インフルエンザ薬を投与しなかった場合インフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する期間内に、対照患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルスが検出できる場合、対照患者からの伝播が起こっている。上記のとおり、伝播が起こった場合、インフルエンザウイルスは、より長い期間(例えば、他の抗インフルエンザ薬を対照患者に投与してから15日以内、あるいは対照患者に抗インフルエンザ薬を投与しなかった場合インフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する期間内)でも、接触者において検出される可能性がある。また上記したように、ウイルスが変異している場合、疾患のさらに長い経過(例えば3週間またはそれ以上)が特に予想される。
【0042】
本発明の文脈において、伝播率は、インフルエンザウイルス感染について、それぞれ、処置された初発患者または対照患者の少なくとも1人の接触者を試験することによって測定され得る。伝播率は、初発患者への化合物の投与から10日以内、または対象患者への他の抗インフルエンザ薬の投与から10日以内に、あるいは対照患者に抗インフルエンザ薬を投与しなかった場合インフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する時点から10日以内に、それぞれ、処置した初発患者または対照患者の少なくとも1人の接触者を試験することによって測定され得る。
【0043】
インフルエンザは重篤な疾患であり、回復には数日から数週間かかる。したがって、本発明によれば、伝播率は、インフルエンザウイルス感染について、初発患者への化合物の投与から20日以内に、または対照患者への他の抗インフルエンザ薬の投与から20日以内に、あるいは対照患者に抗インフルエンザ薬を投与しなかった場合インフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する時点から20日以内に、それぞれ、それぞれ、処置された初発患者または対照患者の少なくとも1人(例えば、少なくとも2人)の接触者を試験することによって測定することもできる。例えば、接触者は、様々な時点で、例えば、初発患者への化合物の投与から、または対照患者への他の抗インフルエンザ薬の投与から、あるいは対照患者に抗インフルエンザ薬を投与しなかった場合インフルエンザの疾患プロセスを考慮した対応する時点から、約3日後、5日後、10日後、15日後、および/または20日後に、インフルエンザウイルス感染について試験され得る。
【0044】
本発明の一態様では、インフルエンザウイルスが検出できる場合(例えば、それぞれ初発患者または対照患者の接触者において)、インフルエンザウイルス感染が存在する。インフルエンザウイルスは、PCRを介して検出され得る。さらに、または別法として、インフルエンザウイルスは、インフルエンザ検査キットを使用することによって検出され得る。例えば、インフルエンザウイルスの検出には、Rapid Influenza Diagnostic Tests(RIDT)を使用できる。RIDTは、呼吸器検体中のインフルエンザAまたはBウイルス核タンパク質抗原の存在を識別し、その結果を定性的に(陽性対陰性)表示できるイムノアッセイである(Ali T, Clin Infect Dis. 2004 Mar 1;38(5):760-2)。RIDTアッセイは、PCRよりも精度が低いELISAベースのアッセイであるが、安価で高速であるという利点があり、特にエピデミックやパンデミックの状況で大きなメリットがある。
【0045】
インフルエンザウイルスは、Roche cobas(登録商標)Liat(登録商標)ポイントオブケア(POC)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システムを使用してさらに検出できる(Chen, Eur J Microbiol Immunol (Bp). 2015;5(4):236-245)。cobas(登録商標)Liat(登録商標)システムは、インフルエンザAまたはBの鼻咽頭スワブ検体の迅速かつ正確な診断が可能である。このシステムは、cobas(登録商標)Liat(登録商標)アナライザーとcobas(登録商標)インフルエンザA/Bアッセイで構成されている。インフルエンザウイルスの検出は、PCRベースの分子検査(Prodesse ProFlu+ assay, Chen, Eur J Microbiol Immunol (Bp). 2015;5(4):236-245)またはAlere i Influenza A&B ラピッドPCRシステム(Merckx, Ann Intern Med. 2017;167(6):394-409)を使用して行うこともできる。
【0046】
インフルエンザウイルスの検出は、例えば、ウイルス力価および/またはウイルス排出量を測定することによって、感染性ウイルス粒子が存在するかどうかを試験することによってさらに行うことができる。ウイルス力価(例えば、鼻粘膜内)は、プラークアッセイによって決定することができる(例えば、添付の実施例および以下に記載されるように)。
【0047】
ウイルスの感染力価の決定は、当技術分野で一般的に知られている。例えば、感染ウイルス力価は、定量的培養アッセイ、すなわち「プラークアッセイ」によって測定することができる。特に、ウイルスの感染力価は、ミリリットルあたりの組織培養感染量の中央値(TCID50)として存在するウイルスの量を表す定量的培養アッセイで決定することができる。所与のサンプルの感染力価を決定するために、臨床検体を段階希釈し、MDCK細胞上でインキュベートすることができる。このアッセイの第一の読取り値は、インフルエンザウイルスが赤血球上のシアル化グリカンに結合して凝集を引き起こす能力を利用している。次に、インフルエンザウイルスの希釈系列に赤血球を加えることによって媒介される凝集の測定値を使用して、ウイルス力価を定量化することができる。赤血球を凝集させる能力を失った循環ウイルス分離株(例えば、各シーズンの現在の分離株)については、インフルエンザ核タンパク質(NP)のELISAベースの読取り値を適用することができる。TCID50アッセイ法は、ウイルスが非凝集株である場合、同じアッセイプレートを使用してNP-ELISAが実行可能な統一プロトコルとして実行できる。臨床試験では、赤血球凝集反応の読取りを使用したアッセイ分析の後に、インフルエンザウイルスのサブタイプ(H3など)(および分類不可能なウイルス)のNP-ELISA読取りを行うことができる。プレートが有効であるためには、ネガティブコントロールはネガティブであり、ポジティブコントロールはポジティブである必要がある。Karber法(Karber, G., 1931, Beitrag zur kollektiven Behandlung Pharmakologischer Reihenversuche, Archiv fur Experimentelle Pathologie und Pharmakologie, 162, 480-487)を使用して、ウイルス力価(TCID50)を計算できる。
【0048】
例えば、ウイルス感染力価を決定するために、最初に鼻洗浄液サンプルからウイルスを増殖させ、その後、ウイルス感染力価を以下に記載するように測定することができる:
鼻洗浄液サンプルからのウイルスの増殖は、以下のように実施することができる。MDCK細胞を使用するまで細胞培養培地で維持することができる。アッセイの1日前に、MDCK細胞を96ウェル平底プレートにて、細胞培養培地中、ウェルあたり3.5×10細胞で播種することができる。培養フラスコから細胞を分離するためにトリプシン-EDTAが必要かもしれない。37℃、5%COで24時間インキュベートすると、80~100%のコンフルエンシーで細胞単層が得られる。20μLの解凍した鼻洗浄液サンプルを180μLの感染培地に加えて10倍段階希釈を3回行う。次に、MDCK単層をPBSで2回洗浄し、100μLの希釈サンプルを細胞に加えて37℃、5%COで2時間インキュベートする。プレートの最後の列は、ネガティブコントロールとしてサンプルなしとしてもよい。続いて、ウイルス接種物を取り除き、200μLの新鮮な感染培地と交換することができる。次に、プレートを37℃、5%COで96時間インキュベートすることができる。
【0049】
鼻洗浄液中のウイルス力価の測定は、以下のように行うことができる。96時間のインキュベーション後、MDCKプレートで培養した鼻洗浄液サンプルのウイルス力価を赤血球凝集アッセイで読み取ることができる。各ウェルからの25μLのMDCK上清を、新しい96ウェルU底プレートの対応するウェルに移し、軽くたたいて25μLの1%(v/v)七面鳥赤血球と混合する。プレートを室温で30分間インキュベートし、凝集パターンを記録する。ウイルス力価は、Reed および Muench(Reed, L.J. and H. Muench, American Journal of Epidemiology, 1938. 27(3):p. 493-497)に記載された方法を用いて計算でき、log10 TCID50/mLとして表すことができる。
【0050】
また、インフルエンザの症状が少なくとも1つ存在する場合は、インフルエンザウイルス感染が存在することを示している。したがって、本発明によれば、インフルエンザウイルス感染は、
(i)インフルエンザウイルスが検出できる;および/または
(ii)インフルエンザウイルス感染の症状が少なくとも1つ存在する
場合に存在する。
【0051】
本発明の一態様では、両方の特徴が当てはまる場合、すなわちインフルエンザウイルスを検出することができ、インフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状が存在する場合、インフルエンザウイルス感染が存在する。したがって、処置された初発患者または対照患者の伝播率(すなわち感染性)は、インフルエンザウイルスが検出できるかどうかをテストし、必要に応じて、それぞれ、処置された初発患者または対照患者と個人的に接触した人においてインフルエンザの症状が存在するかどうかをさらにテストすることによって測定することができる。例えば、インフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状が存在するかどうかを試験することができる。インフルエンザウイルス感染症の前記少なくとも1つの症状は、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛および/または関節痛、咳、倦怠感、喉の痛みおよび/または鼻づまりの突然の発症であり得る。インフルエンザの症状が現れてから24時間以内に体温が38℃~40℃に達するかどうかも検査し得る(Wright, Fields Virology. 5th ed. (2). Wolters Kluwer Health/Lippincott Williams & Wilkins;2007. P. 1691-1740;Monto, Arch Intern Med. 2000;160:3243-3247)。これらの症状に基づいて、インフルエンザウイルス感染は重篤な疾患になる傾向があり、一般的な風邪と区別することができる。
【0052】
本明細書において、インフルエンザの症状の発症は、次のいずれかとして定義される:
(i)体温が最初に上昇(通常の体温から少なくとも1℃の上昇)した時点;また
(ii)患者が少なくとも1つの一般的または呼吸器症状を経験した時点。
好ましくは、インフルエンザ症状の発症の時点は、上記(i)および(ii)の時点から24時間以内に体温が38℃から40℃に達したことを以て確認される。
【0053】
さらに、または別法として、インフルエンザの診断は以下のすべてによって確認し得る:
(i)解熱剤服用前の検査または解熱剤を服用した場合は解熱剤服用後4時間以上で38℃(腋窩)以上の発熱。
(ii)重症度が中等度以上のインフルエンザに関連する以下の一般的な全身症状の少なくとも1つ:
(ii)-1 頭痛;
(ii)-2 熱っぽさまたは悪寒;
(ii)-3 筋肉または関節の痛み;
(ii)-4 倦怠感

(iii)重症度が中等度以上のインフルエンザに関連する以下の呼吸器症状の少なくとも1つ:
(iii)-1 咳;
(iii)-2 喉の痛み;
(iii)-3 鼻づまり;
(iii)-4 P℃ PCRテストによって確認されたインフルエンザAまたはB感染。
【0054】
初発患者または対照患者から接触者へのインフルエンザウイルスの伝播は、別の方法で確認することができる。例えば、インフルエンザウイルスが接触者で(例えばPCRを介して)検出され、初発患者または対照患者が、接触者においてインフルエンザウイルスが検出される直前(例えば、接触者からインフルエンザウイルスが特定される直前の過去4週間以内(好ましくは過去2週間以内、より好ましくは過去7日以内))に個人的に接触した、最初の(または唯一の)インフルエンザ感染者であった場合に伝播が発生したと想定できる。本発明の一態様では、処置された初発患者からの伝播は、処置された初発患者の少なくとも1人の接触者においてインフルエンザウイルス株が検出され、そのインフルエンザウイルス株が、処置された初発患者のインフルエンザウイルス株と同一である場合
に起こったとされ、および対照患者からの伝播は、対照患者の少なくとも1人の接触者でインフルエンザウイルス株が検出され、そのインフルエンザウイルス株が対照患者のインフルエンザウイルス株と同一である場合に起こったとされる。したがって、本発明の一態様では、処置された初発患者からの伝播は、処置された初発患者の少なくとも1人の接触者が、処置された初発患者のインフルエンザウイルス株と同一のインフルエンザウイルス株によるインフルエンザウイルス感染を有する場合に起こったとされ、および対照患者からの伝播は、対照患者の少なくとも1人の接触者が、対照患者のインフルエンザウイルス株と同一のインフルエンザウイルス株によるインフルエンザウイルス感染を有する場合に起こったとされる。
【0055】
例えば、接触者(例えば、家庭内の接触)がPCRで確認されたインフルエンザAまたはBを発症した場合、接触者の鼻咽頭スワブを使用してウイルスゲノムを配列決定し、インフルエンザウイルスが、それぞれ、初発患者またはコントロール患者から由来するものであるかどうかを試験することができる。ウイルスゲノムを配列決定するための方法は、当技術分野で一般的に知られており、以下にも記載されている。当業者は、インフルエンザウイルスが初発患者または対照患者のそれぞれに由来するかどうかを容易に決定する立場にある。例えば、当業者は、接触者のインフルエンザウイルスのウイルスゲノムが、それぞれ、初発患者または対照患者のインフルエンザウイルスのウイルスゲノムと同一である場合に、感染が起こったことを認識するであろう。但し、インフルエンザウイルスは、初発患者または対照患者から接触患者への感染中または感染後に変異する可能性もある。したがって、接触者のインフルエンザウイルスのウイルスゲノムが、1~数個のヌクレオチドの違い(すなわち、点変異)を除いて、それぞれ、初発患者または対照患者のインフルエンザウイルスのウイルスゲノムと同一である場合にも、伝播が起こったとされる。
【0056】
初発患者のインフルエンザウイルスの接触者への伝播または対照患者の接触者への伝播が起こったかどうかを決定するために、系統樹および遺伝距離測定を実施することができる。より具体的には、伝播が起こったかどうかを決定するために、実施例4に記載の方法を使用することができる。
【0057】
例えば、系統発生分析(ツリートポロジーまたはクラスタリングのブートストラップサポートを備えた全ゲノムツリー)および/または対となる集団間の遺伝距離の測定(例えば、L1-Norm)を行ない、伝播対(transmission pairs)を特定することができる。2つの要因が分析の結果に影響する。第一に、利用可能なシーケンスデータの量である。この全ゲノムを最大化するために、次世代シーケンシング(WGNGS)を実行して、粒度と識別力を高めることができる(サンガーシーケンシングおよび/または単一遺伝子シーケンシングと比較して)。第二に、サンプリングしたコミュニティ/メタ個体群の多様性であり、世帯ペア内のウイルスが外の群と比較して互いに類似しているという評価を高い信頼性で行うことができる。コミュニティから取得したシーケンスが増えると、この群の多様性が高まり、現実の伝播対の識別が容易になる。
【0058】
例えば、McCrone, John T., et al. "Stochastic processes constrain the within and between host evolution of influenza virus." Elife 7 (2018):e35962に記載されているように、15人以上の初発患者(IP)、好ましくは少なくとも30~40人の初発患者(IP)でコミュニティの多様性を反映したペアワイズ距離のコミュニティ分布を作成し、真の伝播イベント(例:家庭内伝播イベント)を推測することができる。配列決定のために記載されている方法として、McCrone (Elife 7 (2018):e35962)に記載されている方法を使用することができる。本発明の文脈において、分析は、好ましくは、インフルエンザAウイルスサンプルの分析にフォーカスしている。
【0059】
疫学的な関連性とウイルスの遺伝的関連性(例えば、家庭内における)の両方を使用して、伝播ペアを定義し、コミュニティにおけるバックグラウンドの多様性から交絡を排除することができる。個人のペア(例えば、家庭内の)は、個人的な接触があり、互いに7日以内に同じサブタイプのインフルエンザウイルスに陽性である場合、疫学的に関連した伝播ペアと見なし得る。例えば、7日以内に症状が現れた(例えば家庭内で)互いに個人的に接触したすべての個人は、疫学的に関連していると見なすことができる。各推定ペアのドナーは、症状の発症が早い人として定義することができる。同じ日に症状が現れた可能性のあるドナーが複数いた場合、伝播イベントは無視され得る。ドナーとレシピエントは、両者とも初発患者でない限り(分析された世帯に関して)、同じ日に症状が現れることはないとすることができる。
【0060】
次に、配列データを使用して、疫学的に関連性のあるペアのどれが、同時の市中感染とは対照的に、真の伝播イベントを示すかを決定することができる。各推定伝播ペアからのインフルエンザ集団間の遺伝距離は、L1ノルムによって測定でき、これらの距離は、各シーズン内にランダムに割り当てられたコミュニティペアの距離と比較できる。ランダムに割り当てられたペアのコミュニティ分布の5パーセンタイル未満の遺伝距離がある場合、その人たちのみが真の伝播ペアと見なされ得る。
【0061】
上記のとおり、インフルエンザウイルスは主に空気感染、特に飛沫感染によって伝播する。したがって、本発明の一態様では、インフルエンザウイルスの伝播は、直接接触感染および/または空気感染、好ましくは空気感染である。より好ましくは、伝播は飛沫感染である。
【0062】
本明細書において記載されるように、本発明で使用される化合物は、インフルエンザウイルスの伝播を大幅に減少させるという有利な特性を有する。したがって、本化合物は、感染性を低減すべき特定のインフルエンザ感染患者の処置に特に有用である。例えば、インフルエンザウイルスの伝播により重大な(社会的または経済的な)損害を引き起こす可能性のある患者の感染性を減らすことが特に重要である。本発明の一態様では、処置された初発患者は、インフルエンザリスク群の少なくとも1人、または初発患者への化合物の投与後およびその人達のインフルエンザウイルス感染期間中に社会の機能に不可欠である少なくとも1人と個人的に接触する。インフルエンザリスク群の少なくとも1人は、インフルエンザウイルス感染のリスクが高い、またはインフルエンザに関連する合併症のリスクが高い少なくとも1人であり得る。該インフルエンザに関連する合併症は、入院、副鼻腔炎、中耳炎、気管支炎および肺炎からなる群から選択される少なくとも1つの合併症であり得る。インフルエンザに関連する合併症を発症するリスクが高い少なくとも1人は、インフルエンザウイルス感染のために死亡するリスクが高くなり得る。本発明の一態様では、インフルエンザに関連する合併症を発症するリスクが高い少なくとも1人は下記に該当する人である:
(i)慢性心血管疾患、慢性肺疾患、慢性代謝性疾患、慢性腎疾患、心肺障害、および/または免疫不全を患っている;および/または
(ii)65歳以上、または5歳未満である。
【0063】
さらに、または別法として、インフルエンザに関連する合併症を発症するリスクが高い少なくとも1人は、重病の(例えば、入院している)患者であり得る。
【0064】
上記のとおり、本発明の一態様では、処置された初発患者は、初発患者への化合物の投与後およびその人達のインフルエンザウイルス感染期間中に、インフルエンザリスク群の少なくとも1人と個人的に接触し、該インフルエンザリスク群の人は、インフルエンザウイルス感染のリスクが高い少なくとも1人の人であり得る。本発明の文脈において、該インフルエンザウイルス感染のリスクが高い少なくとも1人は、インフルエンザワクチン接種が禁じられている人であり得る。インフルエンザウイルス感染のリスクが高い少なくとも1人は、重大な健康上の脅威を有する人、幼児(例えば、5歳未満の子供)、高齢者(例えば、65歳以上の人)、または免疫力が低下している人であり得る。
【0065】
上記のとおり、初発患者の接触者は、社会の機能に不可欠な少なくとも1人であり得る。社会の機能に不可欠な人は、都市や州の機能に不可欠な人であり得る。本発明によれば、社会の機能に不可欠な少なくとも1人は、消防職員、警察職員、医療職員、緊急応答サービスの職員、軍隊または政府を含む必須サービス提供者として働いている。
【0066】
感染した患者が必須サービス提供者である場合、インフルエンザウイルス感染中に家にいることによる弊害が出ることがある。これは特に緊急事態の際に当てはまる。したがって、初発患者自身が社会の機能に欠かせない人であり得る。本発明で使用される化合物によるそのような初発患者の処置は、ウイルスが初発患者から他の人に伝播することを低減(または防止さえ)するので、初発患者はインフルエンザウイルスに感染している間在宅している必要はない。例えば、初発患者は、必須サービス提供者として働いており、例えば、消防職員、警察職員、医療職員、または緊急応答サービスの職員に属する者であり得る。
【0067】
初発患者は、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックの状況下にある人であり得る。初発患者はまた、インフルエンザウイルスがそれぞれバイオテロの脅威またはバイオテロの攻撃において役割を果たすバイオテロの脅威またはバイオテロの攻撃の状況下にある人であり得る。実際、パンデミックインフルエンザの影響は、通常のバイオテロのシナリオよりも桁違いに大きい可能性がある。したがって、インフルエンザの伝播を予防または軽減することは、エピデミック、パンデミック、またはバイオテロの状況で大きな利点となる。上記のとおり、専門家は、次のインフルエンザのパンデミックは、高い死者数と入院を必要とする重病に関連し、したがって医療資源に大きな負担がかかる予想している。したがって、初発患者は医療従事者であり得、化合物による初発患者の処置は、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミック期間中であり得る。また、前述のように、すでに医療資源が不足しており、健康状態や栄養状態が悪いために一般の人々が弱い立場にある開発途上国では、インフルエンザのパンデミックの影響が最も大きくなり得る。したがって、初発患者は発展途上国の人々であり得る。
【0068】
もちろん、インフルエンザに感染した初発患者が多くの人と個人的に接触している、または接触する可能性がある場合、伝播率を下げることは特に有利である(または必要ですらある)。好ましくは、初発患者は、本発明で使用される化合物の投与後に多くの人と個人的に接触する。本発明の一態様では、処置された初発患者は、多くの人と個人的に接触している(例えば、化合物の投与後(初発患者への)およびインフルエンザウイルスに感染している間に10人以上)。例えば、初発患者は、家庭内や仕事で多くの人と個人的に接触している。本発明の一態様では、処置された初発患者は、ケア施設(ナーシングホーム、保育園、または病院など)、教育施設(学校または大学など)、公的機関、輸送施設、車両、航空機および/またはショップを訪れ、多くの人と個人的に接触する(例えば、初発患者への化合物の投与後およびインフルエンザウイルスに感染している間に10人以上)。
【0069】
好ましくは、処置された初発患者から家庭内の接触者へのインフルエンザウイルスの伝播率は低下する。したがって、処置された初発患者は家庭内で接触することが好ましい。例えば、処置を受けた初発患者は、1世帯に子供(好ましくは5歳以下の子供)と住んでいる。さらに、または別法として、処置を受けた初発患者は、多くの人との接触を伴う仕事をしている。処置を受けた初発患者の家庭内接触者および/または仕事での接触者の少なくとも1人がインフルエンザのワクチン接種を受けていないことが好ましい。
【0070】
上記のとおり、処置された初発患者は、化合物の投与後およびインフルエンザウイルスに感染している間に、多くの人、例えば、10人を超える人(好ましくは30人を超える、より好ましくは50人を超える、さらにより好ましくは100人を超える)と個人的に接触して得る。添付の実施例は、本発明で使用される化合物の投与直後に、処置された対象において伝播率が低下することを示している。本発明によれば、化合物は、前記個人的接触の少なくとも1時間前に投与することができる。本発明の一態様では、化合物は、前記個人的接触の少なくとも2時間前、4時間前、6時間前、8時間前、10時間前、12時間前、14時間前、16時間前、18時間前、20時間前、22時間前、24時間前、26時間前、28時間前、30時間前、または32時間前に投与される。この点に関し、短い時間間隔よりも長い時間間隔が好ましい。本発明の文脈において、化合物は、インフルエンザ症状の発症から48時間以内、好ましくはインフルエンザ症状の発症から24時間以内に投与することができる。
【0071】
本発明は、本発明の化合物の特定の投与量に限定されない。化合物の有効量は、主治医がその経験や適用されるガイドラインに従って選択および/または調整することができる。しかしながら、化合物は、好ましくは、単一の処置として1回投与される。化合物は、適切な用量で患者に投与することができる。本化合物は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食事、投与時間、投与方法、排出速度、および疾患の重症度に応じて変わる用量範囲で投与することができる。投与レジメは主治医と臨床的因子によって決定される。医学の分野でよく知られているように、一人の患者の投薬量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間と経路、一般的な健康状態、同時に投与される薬物などを含む多くの因子に依存する。但し、本発明で使用される化合物の有効量は、好ましくは、80kg未満の患者では約40mg、80kg以上の患者では約80mgである。小児患者へのバロキサビルマルボキシルの投与は以下のとおりである。1歳未満の患者の場合:(a)患者が4週間未満の場合、有効量は約1mg/kg体重であり得る;(b)患者が4週間以上3か月未満の場合、有効量は約1mg/kg体重であり得る。(c)患者が3ヶ月以上12ヶ月未満の場合、有効量は約2mg/kg体重であり得る。1歳以上12歳未満の患者では、投与量は体重に基づき得る。日本では、6か月から12歳までの小児患者を対象に2つの第III相臨床試験が実施された(1618T0822試験および1705T0833試験)。最初の1618T0822試験では、バロキサビルマルボキシルの単一錠剤が、6か月から12歳未満のインフルエンザ小児患者に投与された。バロキサビルマルボキシルの投与量は以下のとおりである:40kg以上:40mg、20kg~40kg:20mg、10kg~20kg:10mg、5kg~<10kg:5mg。この投与量は、小児初発患者にも使用できる。
【0072】
本発明はまた、化合物の特定の投与経路に限定されない。主治医が有用または必要であると考えるすべての可能な投与経路は、本発明の範囲内である。例えば、化合物は、経口、直腸、鼻、局所、皮内、エアロゾルとして、膣、または筋肉内、静脈内、皮下、動脈内または心臓内などの非経口として投与することができる。化合物は経口投与されることが好ましい。経口投与の剤形としては、コーティング錠および非コーティング錠、ソフトゼラチンカプセル、ハードゼラチンカプセル、ドロップ、トローチ、溶液、エマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシル、再構成用の粉末および顆粒、分散性の粉末および顆粒、薬用ガム、咀嚼錠剤および発泡錠が挙げられる。非経口投与の剤形としては、溶液、エマルジョン、懸濁液、分散液、および再構成用の粉末および顆粒が含まれる。直腸および膣内投与の剤形としては、坐剤および膣座薬(ovula)が含まれる。経鼻投与の剤形としては、例えば定量吸入器により、吸入および吹送を介して投与することができる。局所投与の剤形としては、クリーム、ゲル、軟膏(ointments)、軟膏(salves)、パッチおよび経皮送達システムが挙げられる。但し、本発明で使用される化合物は、錠剤、より好ましくは経口用の錠剤の形態で投与されることが好ましい。例えば、本発明で使用される化合物は、20mgの錠剤および/または40mgの錠剤として投与され得る。本発明で使用される化合物はまた、顆粒の形態で投与され得る。例えば、子供や経鼻胃管を装着している人など、錠剤を飲み込むことができない人に化合物を投与する場合、顆粒は特に有利である。したがって、体重が80kg未満の人は、20mgの錠剤を2錠または40mgの錠剤を1錠、単回経口投与することができる。体重が80kg以上の患者は、20mg錠を4錠または40mg錠を2錠、単回経口投与することができる。
【0073】
初発患者は、インフルエンザウイルスに感染している任意のヒト対象であり得る。初発患者は少なくとも2歳であることが好ましい。初発患者は少なくとも12歳であることがより好ましい。例えば、初発患者は、好ましくは12歳以上64歳以下のヒト患者であり得る。処置された初発患者は、インフルエンザウイルスに感染していることを除いて健康であることが好ましい。上記のとおり、処置された初発患者には、インフルエンザのワクチン接種を受けていない少なくとも1人の接触者(例えば、家庭内の接触者)がいることが好ましい。処置された初発患者には、インフルエンザのワクチン接種を受けていない少なくとも2人の接触者(例えば、家庭内の接触者)がいることがより好ましい。該接触者は2歳以上であり得る。
【0074】
対照患者は、対照患者が本発明で使用される化合物で処置されていないことを除いて、初発患者と可能な限り類似しているインフルエンザ感染患者である。したがって、対照患者は、初発患者と同一または少なくとも類似した(すなわち、同等の)年齢および健康状態を有し、対照患者および初発患者は、同じインフルエンザウイルス株に感染している。
【0075】
インフルエンザウイルスは季節性の流行を引き起こし、ごくまれに世界的な大流行を引き起こす。パンデミックという言葉(ギリシャ語のパンはすべてを意味し、デモは人々を意味する)は、人口全体に影響を与える流行を表している。本発明で使用される化合物は、インフルエンザウイルスの伝播を低減し、したがって、処置された初発患者がインフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックの発生につながる(または寄与する)リスクを低減できるという利点を有する。したがって、本発明の一態様では、(初発患者の)処置は、処置された初発患者が、対照患者と比較して、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを引き起こすリスクが低いという効果を有する。したがって、本発明によれば、処置された初発患者は、対照患者と比較して、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを引き起こすリスクが低減されている。
【0076】
ここで、「インフルエンザのパンデミック」とは、ヒト集団において免疫がほとんどかまたはまったく存在しないインフルエンザウイルスによって引き起こされる世界的な流行である。パンデミックは、世界中、または国全体などの非常に広い地域で発生するエピデミックとして定義される。パンデミックはしばしば国際的な境界を越え、通常は多くの人々に影響を及ぼす。真のインフルエンザのパンデミックは、ほぼ同時に伝播が起こったときに発生する。インフルエンザの世界的な同時伝播は、インフルエンザのパンデミックを定義するのに十分であり、「世界中で発生するエピデミック」の古典的な定義と整合する。例えば、パンデミックは、既存のインフルエンザウイルス内の変化の結果である新しく出現したインフルエンザウイルスによって引き起こされ得る。このような変化については、以下で詳しく説明する。パンデミックは、比較的穏やかである場合もあれば、重症になる場合や死を引き起こす場合もある。季節性インフルエンザによる重症疾患のリスク群に対応し得る特定のリスク群で重症化する可能性がある。但し、健康な人は季節性インフルエンザよりも重症になる可能性がある。
【0077】
「インフルエンザのエピデミック」は、インフルエンザウイルス感染の症例数が通常予想される数を超えて突然増加することである。「インフルエンザのエピデミック」は、特定の時期に地域社会でインフルエンザが広範囲に発生することである。エピデミックは、病気の蔓延が盛んなイベントである。対照的に、パンデミックという用語は地理的な広がりに関連しており、国全体または世界全体に影響を与える病気の記載に使用される。
【0078】
インフルエンザウイルスには、A、B、Cの3種類がある。A型とB型は、ほぼ毎年インフルエンザの流行を引き起こす。インフルエンザCは、散発性の、しばしば無症状の感染に関連しており、死亡率はほとんどまたはまったくないため、公衆衛生上の懸念はない。パンデミックインフルエンザは、インフルエンザAウイルスでのみ発生する。ただし、B型インフルエンザウイルスはインフルエンザのエピデミックを引き起こす可能性がある。実際、インフルエンザBは、季節性インフルエンザのエピデミックの一部である。したがって、本発明によれば、インフルエンザウイルスは、インフルエンザAウイルスまたはインフルエンザBウイルス、好ましくはインフルエンザAウイルスであり得る。インフルエンザウイルスは、エピデミックインフルエンザウイルス株またはパンデミックインフルエンザウイルス株であることが好ましい。
【0079】
ヒトにおけるインフルエンザのパンデミックおよびエピデミックは、「抗原シフト」および「抗原ドリフト」として知られる表面糖タンパク質の変化の結果として発生する。
【0080】
特に、インフルエンザウイルスが変化する一つの手段は「抗原ドリフト」と呼ばれる。「抗原ドリフト」とは、インフルエンザウイルスが複製するにつれて、時間の経過とともに継続的に発生するインフルエンザウイルスの遺伝子の小さな変化である。これらの小さな遺伝的変化は通常、互いに非常に密接に関連しているウイルスを生成し、系統樹上のそれらの位置によって説明することができる。互いに密接に関連しているウイルスは通常、同じ抗原特性を共有し、同様のウイルスにさらされた免疫系は通常それを認識して応答する(これは交差防御と呼ばれることもある)。しかし、これらの小さな遺伝的変化は時間の経過とともに蓄積し、抗原的に異なるウイルスをもたらす可能性がある(つまり、系統樹の距離がさらに遠くなる)。これが発生すると、インフルエンザのエピデミックを引き起こす可能性のあるウイルスを、体内の免疫系が認識しない可能性がある。
【0081】
インフルエンザウイルスの別のタイプの変化は、「抗原シフト」と呼ばれる。パンデミックインフルエンザは抗原不連続変異の結果であり、A型インフルエンザウイルスでのみ発生する。抗原不連続変異は、インフルエンザAウイルスの突然の大きな変化であり、インフルエンザウイルスに新しい血球凝集素(HA)および/または新しいHAとノイラミニダーゼ(NA)タンパク質をもたらす。したがって、抗原不連続変異は、新しいインフルエンザAサブタイプ、またはヘマグルチニン(HA)を有する、またはヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の組み合わせを有するウイルスをもたらし、これは、ヒトの同じサブタイプとは大きく異なる動物集団から出現したものであり、ほとんどの人は新しいウイルスに対する免疫を持っていない。このような「シフト」は2009年の春に発生し、遺伝子の新しい組み合わせを持つH1N1ウイルスが出現して人々に感染し、急速に広がり、パンデミックを引き起こした。シフトが発生すると、ほとんどの人は新しいウイルスに対する保護がほとんどまたはまったくない。したがって、抗原の変化は、HAおよびおそらくNA抗原の突然の変化を伴い、これらは、ヒトにおいて長年循環していたものとはまったく異なる。抗原シフトは、以前のウイルスとは血清学的に異なり、それらウイルスの突然変異では出現し得ないまったく新しいウイルスをもたらす。パンデミックは、世界中の人口の大部分が新しいウイルスに対する免疫を欠いている場合(つまり、新しいウイルスのHAに対する抗体がないか、ほとんどない場合)に発生し、人から人へと容易に伝染し、深刻な病気を引き起こす。新しいウイルスが最初に特定されたコミュニティを超えて急速に広がると、パンデミックが差し迫っていると考えられる。インフルエンザウイルスは常に抗原ドリフトによって変化しているが、抗原シフトはたまにしか起こらない。タイプAウイルスは両方の変化を受ける。B型インフルエンザウイルスは、抗原ドリフトのより緩やかなプロセスによってのみ変化する。
【0082】
上記のとおり、インフルエンザのパンデミックは通常、抗原の「シフト」の結果であり、インフルエンザのエピデミックは通常、抗原の「ドリフト」の結果である。したがって、本発明の文脈において、インフルエンザウイルスは、抗原ドリフトおよび/または抗原シフト、好ましくは抗原シフトまたはその両方の結果として、親インフルエンザウイルス株と比較して抗原的に異なる。
【0083】
当業者は、所与のインフルエンザウイルスが抗原ドリフトまたは抗原シフトの結果であるかどうかを容易に決定することができる。上記のとおり、抗原シフトはインフルエンザAウイルスの突然の大きな変化であり、ヒトに感染するインフルエンザAウイルスに新しい血球凝集素とノイラミニダーゼタンパク質の組み合わせをもたらす。したがって、ヒトに感染するインフルエンザAウイルスが抗原シフトの結果であるかどうかを決定するために、前記インフルエンザAウイルスの血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)タンパク質の組み合わせを、ヒトに感染する既知のインフルエンザAウイルスの血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)タンパク質の組み合わせと比較することができる。問題のインフルエンザAウイルスの血球凝集素(HA)とニューラミニダーゼ(NA)タンパク質の組み合わせが、既知のヒト感染性インフルエンザAウイルスに存在しない場合、問題のインフルエンザAウイルスは抗原シフトの結果である。
【0084】
抗原ドリフトは、ウイルスのゲノム内の点突然変異である。当業者は、このインフルエンザウイルスのゲノムを配列決定し、得られた配列を既知のインフルエンザウイルスのウイルスゲノム配列と比較することにより、所与のインフルエンザウイルスが抗原ドリフトの結果であるかどうかを容易に決定することができる。したがって、ヒトに感染するインフルエンザウイルスが抗原ドリフトの結果であるかどうかを決定するために、前記インフルエンザウイルスのウイルスゲノム配列を、ヒトに感染する既知のインフルエンザウイルスのウイルスゲノム配列と比較することができる。問題のインフルエンザウイルスのウイルスゲノム配列が、既知のヒト感染性インフルエンザウイルスと比較してヌクレオチド変化(すなわち、点変異)を含む場合、問題のインフルエンザウイルスは抗原ドリフトの結果である。
【0085】
抗原ドリフトは、エラーが発生しやすいポリメラーゼに起因して、ウイルスゲノムが変異した(抗原ドリフトと比較してゆっくりと)場合の通常の進化過程である。これらの変異により、ウイルスの機能的特徴(例えば、特定の薬に対する酵素の耐性)が変わる可能性がある。したがって、ウイルスが抗原ドリフトの結果であるかどうかを決定するために、ウイルスの機能的特徴を調べることができる。
【0086】
抗原シフト以外に、パンデミックの可能性があるウイルスは、ウイルスのリサイクリングによっても出現する可能性がある。より具体的には、さまざまな年齢の人々からの血液サンプルを調べると、インフルエンザの特定のサブタイプが以前に流行したかどうか、もしそうなら、ほぼいつ流行しなくなったかを示すことができる。血清考古学と呼ばれるこの分析は、ウイルスのリサイクルの理論をサポートしている。血清考古学は、合理的な疑いの余地なく、H2およびH3サブタイプが19世紀および20世紀に人類においてリサイクルしていたことを立証した。さらに、1918年から1957年の間に人類で循環したH1サブタイプは、1978年に再出現すなわち「リサイクル」した。1977-78年の流行中に分離されたウイルスのRNAの分析は、このウイルスが、1950年に分離されたウイルスと、それ以降に分離された株より密接に関連していることを示した。抗原ドリフトのため、H1N1ウイルスは自然界または他の場所での凍結状態から再出現したはずであると推測された。しかし、インフルエンザウイルスはブタにおいて長期間不変のままで、ヒト感染の貯蔵場所になっている可能性があるという証拠がある。したがって、本発明の文脈において、インフルエンザ株は、過去にエピデミックまたはパンデミックを引き起こしたリサイクルウイルスであり得る。
例えば、リサイクルの可能性のあるウイルス株は、A/香港/97(H5N1)、A/ニュージャージー/8/76(H1N1)、A/USSR/90/77(H1N1)、A/香港/68(H3N2)、A/香港/68(H3N2)、A/香港/68(H3N2)、A/香港/68(H3N2)、A/USSR/77(H1N1)、A/USSR/77(H1N1)、またはA/USSR/77(H1N1)であり得る。
【0087】
上記のとおり、本発明によれば、インフルエンザウイルスは、インフルエンザAウイルスまたはインフルエンザBウイルス(例えば、B/ミネソタ/23/2015)であり得る。添付の実施例は、驚くべきことに、本発明で使用される化合物が、インフルエンザウイルス株インフルエンザA/パース/265/2009(H1N1pdm09)およびA/イングランド/195/2009の伝染を低減できることを示している。したがって、本発明によれば、インフルエンザウイルス株は、好ましくはインフルエンザAウイルスであり、より好ましくは、H1N1サブタイプ(例えば、A/パース/265/2009(H1N1pdm09)またはA/イングランド/195/2009)のインフルエンザA株である。ただし、インフルエンザAウイルスは、H2N2、H3N2、H5N1、またはH7N9サブタイプの場合もあり得る。
【0088】
本発明の好ましい態様では、インフルエンザウイルス株は、I38T突然変異を含むI38X突然変異を有しない。したがって、インフルエンザウイルス染色はI38T変異を有しないことが好ましい。I38T置換は、一部の変異インフルエンザA株のウイルス酸性ポリメラーゼ(PA)タンパク質内の変異である。I38T変異を有するインフルエンザAウイルスのPAタンパク質の配列は、配列番号4に示されている。即ち、本発明の好ましい態様では、インフルエンザウイルス株は、配列番号4の配列を有するPAタンパク質を含まない。また、インフルエンザウイルス株は、配列番号4の配列に対し、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列が同一であり、且つ、配列番号4の第38位に対応する位置にTを含む、PAタンパク質は含まない。I38T突然変異を含むインフルエンザAウイルスのPAタンパク質の画分は、配列番号5に示されている。したがって、本発明の好ましい態様では、インフルエンザウイルス株は、配列番号5に示される配列を含むPAタンパク質を含まない。
【0089】
上記のとおり、本発明で使用される化合物は、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを予防するために使用することができる。したがって、本発明は、インフルエンザウイルスに感染した患者(初発患者)に有効量の式(I)または(II)を有する化合物またはその薬学的に許容される塩を、都市または国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも10%に投与することを含んでなる、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを予防するための方法に関する。
【化2】
【0090】
したがって、本発明は、インフルエンザウイルスに感染した患者(初発患者)を処置に使用するための化合物に関し、該化合物は、都市または国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも10%に投与され、該化合物は、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを予防し、該化合物は、式(I)または(II)を有する化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【化3】
【0091】
本明細書において、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを「予防する」とは、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックのアウトブレイクを減らすこと(例えば、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックのアウトブレイクの影響を減らす)も意味する。
【0092】
添付の実施例は、人口の15%または30%をバロキサビルマルボキシルで処置すると、インフルエンザのエピデミックまたはパンデミックをそれぞれ予防することを実証するシミュレーションを提供する。また、添付の実施例において、本発明で使用される化合物は、伝染を低減し、したがって、エピデミックまたはパンデミックが発生する可能性を低減するという有利な効果を有することが示されている。したがって、本明細書に記載する手段および方法は、インフルエンザ感染に関連する経済的影響を有利に低減する。
【0093】
上記のとおり、1997年に香港で発生した「鳥インフルエンザ」のパンデミックを取り巻く状況は、予測不可能で、複雑且つ急速に進化し、人々の大きな不安を伴うことが確実な健康に関する緊急事態への適切な対応を確実にするための事前計画の必要性を浮き彫りにしている。パンデミックが始まると、影響を最小限に抑えるために必要な多くの重要な活動を達成するには遅すぎる過去があった。したがって、準備活動の計画と実施はかなり前もって開始する必要がある。したがって、インフルエンザのパンデミックを予防するためには、感染した患者を本発明で使用する化合物で早期に処置する必要がある。したがって、本発明によれば、インフルエンザのエピデミックでさえ、季節性インフルエンザの間にインフルエンザ感染者の数人(例えば、インフルエンザ感染者の少なくとも10%)を処置することによって予防されることが想定される。本発明の一態様では、上記の方法(すなわち、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを予防するための方法)は、インフルエンザのエピデミックを予防するためのものであり、都市または国の人口(好ましくは都市の人口)のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%が本化合物で処置される。これに沿って、本発明の一態様では、上記の化合物(すなわち、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを予防する化合物)は、インフルエンザのエピデミックを予防し、都市または国の人口(好ましくは都市の人口)のインフルエンザに感染したすべての人の少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%がこの化合物で処置される。例えば、本発明で使用される化合物は、人口の少なくとも20%が効果的なワクチン接種を受けており、感染しやすい人が人口の30%以下である場合、インフルエンザのエピデミック(例えば、季節性インフルエンザの期間中)を予防するために使用され得る。
【0094】
もちろん、エピデミック(例えば、季節性インフルエンザの期間の)またはパンデミックを予防するために本発明で使用される化合物の効果は、化合物で処置されるインフルエンザ感染者の割合とともに増加する。したがって、インフルエンザのエピデミック(季節性インフルエンザなど)を防ぐために、都市または国の人口(好ましくは都市の人口)の感染者の少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%が、本化合物で処置され得る。
【0095】
本発明の一態様では、上記の方法(すなわち、インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを予防するための方法)は、インフルエンザのエピデミックを予防するためのものであり、国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%が、本化合物で処置される。これに沿って、本発明の一態様では、上記の化合物(すなわち、インフルエンザの流行またはインフルエンザのパンデミックを予防する化合物)は、インフルエンザのパンデミックを予防し、国の人口のすべてのインフルエンザ感染者の少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、およびより好ましくは少なくとも35%が本化合物で処置される。例えば、本発明で使用される化合物は、有効なワクチン接種ができず、感染しやすい人が人口の30%以下である場合に、インフルエンザのパンデミックを予防するために使用され得る。上記のとおり、パンデミックを予防するために本発明で使用される化合物の効果は、化合物で処置されるインフルエンザ感染者の割合とともに増加する。したがって、インフルエンザのパンデミックを防ぐために、都市または国の人口の感染者の少なくとも45%、少なくとも55%または少なくとも65%が本化合物で処置され得る。
【0096】
本明細書に記載される手段および方法は、インフルエンザウイルス株が本発明で使用される化合物に対して耐性を有さない場合に特に有利である。ただし、インフルエンザウイルス株は、他の抗ウイルス薬(ペラミビル、ラニナミビル、オセルタミビル、ザナミビル、リマンタジン、ウミフェノビル、アマンタジンなど)に対して耐性があり得る。所与のウイルスが1つまたは複数の薬物に対して耐性を有するかどうかを決定するための試験は、当技術分野で一般に知られており、例えば、表現型耐性アッセイおよびNA-Starアッセイが挙げられ、これらは以下に記載される。
【0097】
表現型耐性アッセイは、以下に記載するとおり行うことができる:表現型耐性アッセイ(スポット/フォーカスリダクションアッセイ)は、マルチウェルマイクロタイタープレートでの古典的なウイルス培養と、自動化されたイメージングとBiospot分析ソフトウェアを備えたCTL Immunospot UVアナライザーを使用した感染細胞の検出による、ウイルス特異的免疫染色を組み合わせた高感度のVirospot検出技術を使用して実行できる。Virospotテクノロジープラットフォームは、IC50/IC90を測定する抗ウイルス薬に対するウイルス分離株の感受性を決定する。簡単に言えば、この方法は、ある薬物濃度範囲の存在下で、96ウェルプレートにてMDCK細胞単層に感染性ウイルスを接種することに基づく。インキュベーション後、細胞を固定し、ウイルス特異的抗体、次いでTrueBlue基質で免疫染色し、UVアナライザーを使用して画像をキャプチャする。
【0098】
NA-Starアッセイは、ノイラミニダーゼ阻害剤(オセルタミビルなど)に対する表現型耐性を決定するのに特に有用であり、次のように実行できる。このアッセイは、ノイラミニダーゼ酵素活性の高感度検出に化学発光基質を使用する。ノイラミニダーゼ活性は、リーダーを使用して定量化される発光化合物を生成する。ウイルスのノイラミニダーゼ活性は、ノイラミニダーゼ阻害剤の段階希釈の存在下で決定される。ノイラミニダーゼ阻害剤に対する感受性は、IC50/IC90値として表される。
【0099】
本発明に従って使用される化合物は、他の抗インフルエンザ薬と組み合わせることができる。現在、インフルエンザの予防と処置のために4つの抗ウイルス薬がEUで承認されている。M2イオンチャネル阻害剤のアマンタジンとNAIのオセルタミビルホスフェート、ザナミビル、ペラミビルである。別のM2阻害剤であるリマンタジンは、チェコ、フランス、ポーランドで販売承認を取得しているが、これらの国では販売されていない。したがって、本発明で使用される化合物は、アマンタジン、オセルタミビルホスフェート、ザナミビル、ペラミビル、および/またはリマンタジンとの併用療法として投与することができる。ノイラミニダーゼ阻害剤(NAI)は、インフルエンザ感染症処置の主力薬である。したがって、本発明で使用される化合物が併用療法として投与される場合、それは、好ましくは、オセルタミビルホスフェートまたはザナミビルと組み合わされる。オセルタミビルホスフェートとザナミビルはいずれも1日2回5日間投与される。
【0100】
上記のとおり、本発明は、インフルエンザウイルスの伝染を低減するための、すなわち、インフルエンザ感染患者(すなわち、初発患者)の感染性を低減するための手段および方法を提供する。これに沿って、本発明はまた、以下の態様に関する。上で説明されたすべての説明、定義、および好ましい態様はまた、適宜必要な変更を加えて、以下で説明される本発明の態様に関連する。
【0101】
本発明はまた、インフルエンザウイルス感染を処置するための方法であって、有効量の化合物をインフルエンザウイルスに感染した患者(初発患者)に投与することを含み、該化合物が式(I)および式(II)のいずれかを有する化合物またはその薬学的に許容される塩であり、該化合物は伝染を減少させる、方法に関する。また、本発明には、式(I)または式(II)のいずれかを有する化合物またはその薬学的に許容し得る塩を含んでなる医薬製剤に関する添付文書またはパッケージに記載の投薬指示を読むこと、および感染性を低減すべきインフルエンザ感染患者(初発患者)に該化合物の有効量を投与することを含んでなる、インフルエンザを処置するための方法が含まれる。本発明はまた、感染性を低減すべきインフルエンザ感染患者(初発患者)を治療するための医薬の製造のための、式(I)または式(II)のいずれかを有する化合物またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。また、本発明は、式(I)又は式(II)のいずれかを有する化合物またはその薬学的に許容し得る塩を含んでなる医薬製剤、および感染性を低減すべきインフルエンザ感染患者(初発患者)に該化合物の有効量を投与するための投薬指示をさらに含む、パッケージを提供する。
【0102】
上で説明したとおり、初発患者は、好ましくはインフルエンザウイルスに感染していることを除いて健康である。初発患者は、本発明で使用される化合物以外の薬剤での処置を受けないことが好ましい。例えば、初発患者は、試験的治療、全身への抗ウイルス薬投与(例えば、ペラミビル、ラニナミビル、オセルタミビル、ザナミビル、リマンタジン、ウミフェノビルまたはアマンタジン)、免疫抑制剤、コルチコステロイド、抗真菌薬、または目、鼻または耳に、または吸入により投薬による処置を受けないことが好ましい。
【0103】
「インフルエンザウイルス感染」という用語またはその変形の意味は、当技術分野で一般に知られており、インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患を指す。より具体的には、インフルエンザウイルス感染症は、オルトミクソウイルス科のウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症である。主にヒトに感染し、ヒトに病気を引き起こす2つの形態、インフルエンザAウイルスとインフルエンザBウイルスが知られている。インフルエンザウイルスは、セグメント化されたネガティブセンスの一本鎖の脂質カプセル化リボ核酸(RNA)ゲノムを持っており、サイズは80~100nmの範囲である。サブタイプは、ウイルスの脂質コートに存在するヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)糖タンパク質によって定義される。インフルエンザウイルスは、ウイルスのHAが細胞膜上のシアル酸含有受容体に付着し、続いてウイルスが酸性エンドソームに内在化することにより、呼吸器上皮細胞に侵入する。エンドソームの酸性環境で、HAはコンフォメーション変化を受けて融合ペプチドを遊離し、ウイルスエンベロープとエンドソーム膜の融合がもたらされる。同時に、マトリックス-2(M2)タンパク質はイオンチャネルとして機能し、水素イオンがエンドソームからビリオンに入るのを可能にする。これにより、ウイルス遺伝子セグメントがビリオンを離れて細胞質に入ることが可能になり、これは脱殻として知られるプロセスである。ウイルス遺伝子セグメントは核に輸送され、そこでタンパク質ポリメラーゼ塩基性タンパク質1(PB1)、ポリメラーゼ塩基性タンパク質2(PB2)、およびポリメラーゼ酸性タンパク質(PA)で構成されるウイルスポリメラーゼ複合体が、プラスセンスのメッセンジャーRNA(mRNA)の合成、ならびにプラスセンスの完全長相補RNAを介して、子孫ゲノムRNAとして機能するネガティブセンスの完全長コピーの合成を指示す。ポリメラーゼタンパク質はまた、宿主細胞タンパク質合成の破壊において役割を果たす。子孫ビリオンの集合が原形質膜で起こり、ウイルスのNAタンパク質は、表面のシアル酸の切断によって細胞表面からのウイルス放出において役割を果たす。
【0104】
本発明で使用される「化合物」は、以下の式IおよびII:
【化4】
のいずれかを有する化合物(すなわち、式(I)または(II)を有する化合物)またはその薬学的に許容される塩である。本発明で使用される化合物は、本明細書では、「化合物」、「使用のための化合物」、「使用される化合物(本明細書中/本発明において)」または「本発明の化合物」とも呼ばれる。
【0105】
本発明において使用される化合物は、選択的キャップ依存性エンドヌクレアーゼ(CEN)阻害剤として作用し、ウイルスmRNA転写のプライマーとして使用される宿主細胞のmRNAから5'キャップ構造を切断するために使用されるインフルエンザポリメラーゼのPAサブユニットの「キャップスナッチング」機能を阻害する。この本質的な機能を阻害することにより、本明細書で使用される化合物は、インフルエンザウイルスの複製を抑制する。
【0106】
本発明で使用される化合物は、季節性インフルエンザウイルス(例えば、A/H1N1、A/H3N2、およびB)および高病原性鳥インフルエンザウイルス(例えば、A/H5N1、A/H7N9)に対して広範囲の活性を有し、抗ウイルス活性は、他の一般的な抗インフルエンザ薬(オセルタミビル、ザナミビル、またはペラミビルなど)と比較して強力である(より低い50%阻害濃度[IC50])。単回投与として有効である化合物の能力は、ノイラミニダーゼ阻害剤(NAI)と比較して、処置を簡素化し、患者のコンプライアンスを改善する。好ましくは、化合物は、式(I)または(II)、最も好ましくは式(I)を有する。式(I)で示される化合物は、以下のとおり表示すことができる。
【化5】
【0107】
この化合物(すなわち、式(I)の化合物)の分子式は、C2723Sである。この化合物は、バロキサビルマルボキシルとして知られているプロドラッグである。バロキサビルマルボキシルは当技術分野で知られており、例えば、Noshi, Antiviral research 160 (2018):109-117に記載されている。
【0108】
バロキサビルマルボキシル(すなわち、式(I)の化合物)は、新しい作用機序を有する抗インフルエンザウイルス薬である。本化合物は塩野義製薬株式会社とF. Hoffman-La Roche, Ltd.が発見し開発を進めている。バロキサビルマルボキシル(S-033188)はプロドラッグであり、代謝(加水分解)により活性型(S-033447)に変換される。活性型は、本明細書では式(II)で示される。活性型(S-033447)は、インフルエンザウイルスの複製に必要なキャップ依存性エンドヌクレアーゼ(CEN)活性を選択的に阻害する(Omoto, Sci Rep. 2018;8(1):9633)。季節性インフルエンザウイルスおよびインフルエンザ症状の緩和効果に対する幅広い活性が、インフルエンザ患者を対象とした非臨床効果試験および臨床試験で示された。これら試験には、第2相proof of concept(POC)および用量設定試験、他の点では健康な患者における第3相二重盲検試験(Portsmouth S, Kawaguchi K, Arai M, Tsuchiya K, Uehara T. Cap-dependent endonuclease inhibitor S-033188 for the treatment of influenza:results from a phase 3, randomized, double-blind, placebo- and active-controlled study in otherwise healthy adolescents and adults with seasonal influenza. Abstract LB-2. Oral presentation at ID Week 2017, October 4-8 2017, San Diego, CA, USA)、および他の点では健康な小児患者における第3相オープンラベル試験が含まれる。
【0109】
式(II)に示される化合物は、バロキサビルマルボキシル(すなわち、式(I)で示されるプロドラッグ)の活性型である。式(I)の化合物は、次のように表示すこともできる。
【化6】
【0110】
式(II)の化合物は、バロキサビル酸としても知られている。バロキサビル酸は当技術分野で知られており、例えば、Noshi, Antiviral research 160 (2018):109-117に記載されている。
【0111】
本発明で使用される化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、バリウムなど)、マグネシウム、遷移金属(例えば、亜鉛、鉄など)、アンモニア、有機塩基(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メグルミン、エチレンジアミン、ピリジン、ピコリン、キノリンなど)またはアミノ酸との塩、あるいは無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、臭化水素酸、リン酸、ヨウ化水素酸など)または有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、マンデル酸、グルタル酸、リンゴ酸、安息香酸、フタル酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸など)との塩が挙げられる。特に、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等との塩が挙げられる。これらの塩は、通常の方法で形成することができる。
【0112】
本発明の化合物の製造は当技術分野でよく知られている。例えば、本発明の化合物は、WO2016/175224A1として公開されている特許出願PCT/JP2016/063139に記載されている方法で調製することができる。
【0113】
上記のとおり、本発明によれば、インフルエンザウイルス株は、配列番号4の配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する配列を有し、配列番号4の第38位に対応する位置にTを含む、PAタンパク質を含まないことが好ましい。特に、2つのウイルスPAタンパク質間の同一性の程度を評価するために、ウイルスPAタンパク質の2つの配列のFASTA配列を作成しアラインすることができる。2つの配列の同一性のパーセントを決定するために、配列は最適な比較目的のためにアラインされる(例えば、ギャップは、最適なアラインのために第1および第2のアミノ酸配列の一方または両方に導入し、非相同配列は、比較目的のために無視され得る)。2つの配列間の同一性のパーセントは、ギャップの数、および2つの配列の最適なアラインのために導入される必要がある各ギャップの長さを考慮に入れた、両配列が共有する同一の位置の数の関数である。2つのポリペプチド/アミノ酸配列間の同一性のパーセントは、例えば、Smith Waterman Alingent(Smith, T. F. and M. S. Waterman (1981) J Mol Biol 147:195-7);GeneMatcherPlus(商標)組み込まれた「BestFit」(Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics, 482 489 (1981))、Schwarz and Dayhof (1979);Atlas of Protein Sequence and Structure, Dayhof, M.O., Ed, pp 353-358;BLASTプログラム(Basic Local Alignment Search Tool;(Altschul, S. F., W. Gish, et al. (1990) J Mol Biol 215:403-10), BLAST-2, BLAST-P, BLAST-N, BLAST-X, WU-BLAST- 2, ALIGN, ALIGN-2, CLUSTAL、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの、公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当業者によって知られている様々な方法で決定される。さらに、当業者は、比較される配列の長さにわたって最大のアラインメントを達成するために必要なアルゴリズムを含め、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定することができる。好ましくは、ウイルスPAタンパク質配列は、それらの全長にわたって比較される。本発明の目的のために、配列の比較および2つの配列間の同一性のパーセントの決定は、Brossum 62スコアリングマトリックスを使用して実行し得る(ギャップペナルティ12、ギャップ拡張ペナルティ4、フレームシフトギャップペナルティ5)。
【0114】
上記のとおり、本発明の一態様は、式(I)および(II)のいずれかを有する化合物、またはその薬学的に許容される塩を含み、場合により薬学的に許容される担体を含む医薬組成物であって、インフルエンザウイルスの伝染を予防する(例えば、減らす)医薬組成物に関する。医薬組成物は、既知の方法により、薬学的に許容される担体と共に製剤化することができる。例えば、組成物は、成分を薬学的に許容される担体または媒体、具体的には、滅菌水または生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味料、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤などと、一般的に受け入れられている医薬品の実施に必要な単位用量および形態でそれらを混合することによって適切に組み合わせることにより製剤化することができる。担体の具体例としては、軽質無水ケイ酸、ラクトース、結晶性セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖トリグリセリド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、サッカロース、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などが挙げられる。製剤中の有効成分の含有量は、必要な範囲内の適切な用量が得られるように調整される。
【0115】
医薬組成物は、場合により、担体、希釈剤、充填剤、崩壊剤、潤滑剤、結合剤、着色剤、顔料、安定剤、防腐剤、酸化防止剤、または溶解増強剤などの1つまたは複数の薬学的に許容される添加剤を含み得る。また、医薬組成物は、例えば、約200~約5,000Daの範囲の分子量を有するポリ(エチレングリコール)を含むポリ(エチレングリコール)、エチレングリコール、プロピレングリコール、非イオン性界面活性剤、チロキサポール、ポリソルベート80、マクロゴール-15-ヒドロキシステアレート、リン脂質、レシチン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、シクロデキストリン、ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、ジヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、グルコシル-α-シクロデキストリン、グルコシル-β-シクロデキストリン、ジグルコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-α-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-γ-シクロデキストリン、マルトトリオシル-β-シクロデキストリン、マルトトリオシル-γ-シクロデキストリン、ジマルトシル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、カルボキシアルキルチオエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ビニルアセト共重合体、ビニルピロリドン、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、またはそれらの任意の組み合わせ、などの1つまたは複数の溶解促進剤を含み得る。
【0116】
医薬組成物は、本明細書に記載の手段および方法に限定されない。当業者は、適切な組成物を構築するために、当技術分野で利用可能な当業者の知識を用いることができる。具体的には、医薬組成物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、20th Editionに公開されている技術など、当業者に知られている技術によって製剤化することができる。
【0117】
本明細書の上記および下記で引用されているすべての文献の内容は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0118】
本発明は、以下の非限定的な図および実施例を参照することによってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0119】
図1】実施例1のタイムコースおよび試験デザイン。実施例1の実験のタイムコース。バロキサビルを皮下投与として1回投与した(1mg/kgの懸濁液をフェレットの背中の4つの異なる場所に)。オセルタミビルホスフェート(5mg/kg)を1日2回5日間経口投与した。詳細については、テキストを参照。DF、ドナーフェレット;SF、センチネルフェレット;DC、直接接触;RD、呼吸器飛沫。
図2】実施例1のプラークアッセイの結果。(A)対照フェレット。プラークアッセイによる検出の結果、対照フェレットはすべてインフルエンザ陽性であった(ドナー:4/4;センチネルDC:4/4;センチネルRD:3/4、ここではすべて(4/4)RT-PCRアッセイで陽性であった)。(B)オセルタミビルで処置されたフェレット。オセルタミビルで処置されたフェレットはすべて、プラークアッセイによる検出の結果インフルエンザ陽性であった(ドナー:4/4;センチネルDC:4/4;センチネルRD:3/4、ここではすべて(4/4)RT-PCRアッセイで陽性であった)。(C)バロキサビルで処置されたフェレット。プラークアッセイによる検出で、1匹のセンチネルバロキサビルフェレットのみ呼吸器飛沫感染により感染した(ドナー:3/4、ここではすべて(4/4)RT-PCRアッセイで陽性であった;センチネルDC:4/4;センチネルRD:1/4)。DF、ドナーフェレット;SF、センチネルフェレット;DC、直接接触;RD、呼吸器飛沫。
図3】実施例1のqRT-PCR結果。(A)対照フェレット。qRT-PCRによる検出の結果、対照フェレットはすべてインフルエンザ陽性であった(ドナー:4/4;センチネルDC:4/4;センチネルRD:4/4)。(B)オセルタミビルで処置されたフェレット。オセルタミビルで処置されたフェレットはすべて、qRT-PCRによる検出の結果インフルエンザ陽性であった(ドナー:4/4、センチネルDC:4/4、センチネルRD:4/4)。(C)バロキサビルで処置されたフェレット。qRT-PCRによる検出の結果、1匹のセンチネルバロキサビルフェレットのみ呼吸器飛沫感染により感染した(ドナー:4/4;センチネルDC:4/4;センチネルRD:1/4)。(D)qRT-PCR結果の要約。qRT-PCRによる検出の結果、1匹のセンチネルバロキサビルフェレットのみ呼吸器飛沫感染により感染した。DF、ドナーフェレット;SF、センチネルフェレット;DC、直接接触;RD、呼吸器飛沫。
図4】実施例2の実験1のタイムコース。バロキサビルは、1mg/kgの皮下注射からなる単一処置により投与された(フェレットの背中の4か所に注射(合計4mg/kg))。プラセボ(1mL/kgの懸濁液ビヒクルのみ)を同じ方法で投与した。オセルタミビルホスフェート(5mg/kg)を、エンドポイント(最終日を除く)まで1日2回経口投与した。ドナーフェレットの処置:ドナー接種の24時間後。レシピエントフェレットの共同飼育:ドナー接種の24時間後。詳細については、テキストを参照。BXA、バロキサビル;OST、オセルタミビル。
図5】実施例2の実験1におけるドナーフェレットのTCID50。3DPI(感染後3日)のエンドポイントで検出可能な感染性ウイルスを排出したバロキサビル処置ドナーは0/4であった。バロキサビル群の力価は、2DPI(*p≦0.05)および3DPI(***p≦0.001)でプラセボ群よりも有意に低かった。3DPIエンドポイントで感染性ウイルスを排出したオセルタミビル処置ドナーは4/4、およびプラセボ処置ドナーは4/4であった。オセルタミビル処置ドナーとプラセボ処置ドナーの間で観察された群力価に有意差はなかった。BXA、バロキサビル;OST、オセルタミビル。
図6】実施例2の実験1のドナーフェレットのqRT-PCRの結果。ウイルスRNAは、すべてのサンプリングポイントですべての動物の鼻洗浄液中に存在している。3DPIでのバロキサビル群(*)およびオセルタミビル群(+)のウイルスコピー数は、プラセボ群と比較して有意に減少した(p≦0.05)。陽性を検知するコピー数の閾値は、アッセイあたり35未満のCt値をもたらす最低のRNAコピー数標準に基づく。処置後48時間でのバロキサビル群の薬物動態(PK)は、血漿中のバロキサビル±SDが、10.2±2.8ng/mLであった。BXA、バロキサビル;OST、オセルタミビル。
図7】実施例2の実験1のレシピエントフェレットの結果。(A)TCID50の結果。ドナーへの接触曝露後に検出可能な感染性ウイルスを排出したフェレットは、オセルタミビル群で4/4およびプラセボ群で4/4に対し、バロキサビル群のレシピエントフェレットでは1/4であった。(B)qRT-PCRの結果。インフルエンザウイルスRNAが検出されたフェレットは、オセルタミビル群で4/4およびプラセボ群で4/4に対し、バロキサビル群のレシピエントフェレットでは2/4であった。BXA、バロキサビル;OST、オセルタミビル。
図8】実施例2の実験2のタイムコース。バロキサビルは、1mg/kgの皮下注射からなる単一処置により投与した(フェレットの背中の4か所に注射(合計4mg/kg))。プラセボ(1mL/kgの懸濁液ビヒクルのみ)を同じ方法で投与した。オセルタミビルホスフェート(5mg/kg)は、エンドポイント(最終日を除く)まで1日2回経口投与した。ドナーの処置:ドナー接種の24時間後。レシピエントの共同飼育:ドナー接種の48時間後。詳細については、テキストを参照。BXA、バロキサビル;OST、オセルタミビル。
図9】実施例2の実験2のドナーフェレットの結果。(A)TCID50の結果。4DPIのエンドポイントで検出可能な感染性ウイルスを排出したバロキサビル処置ドナーは0/4であった。バロキサビル群の力価は、2DPI(*p≦0.05)、3DPI(**p≦0.001)および4DPI(***p≦0.001)で、プラセボ群よりも有意に低かった。バロキサビル群の力価は、3~4DPIでオセルタミビル群の力価よりも有意に低かった(p≦0.01)。しかし、処置直前(すなわち1DPI)の力価は、プラセボ群よりもバロキサビル群で有意に高かった(p≦0.001)。4DPIエンドポイントで感染性ウイルスを排出したオセルタミビル処置ドナーは4/4、およびプラセボ処置ドナーは4/4であった。オセルタミビル群の力価は、1(DPI)でプラセボ群よりも有意に低かった(p≦0.05)が、2~4DPIでは差がなかった。(B)qRT-PCRの結果。ウイルスRNAは、すべてのサンプリングポイントですべての動物の鼻洗浄液中に存在していた。平均ウイルスコピー数は、3DPIのバロキサビル群で減少したが、他の日数では違いは観察されなかった。処置後72時間でのバロキサビル群の薬物動態(PK)は、血漿中のバロキサビル±SDが、12.5±2.4ng/mLであった。XA、バロキサビル;OST、オセルタミビル。
図10】実施例2の実験2のレシピエントフェレットの結果。(A)TCID50の結果。ドナーへの接触曝露後に検出可能な感染性ウイルスを排出したレシピエントフェレットは、オセルタミビル群で4/4およびプラセボ群で4/4に対して、バロキサビル群のレシピエントフェレットでは1/4であった。(B)qRT-PCR。インフルエンザウイルスRNAが検出されたレシピエントフェレットは、オセルタミビル群で4/4およびプラセボ群で4/4に対して、バロキサビル群のレシピエントフェレットでは1/4であった。(C)血清学。ドナーウイルスに対する抗体反応を示したレシピエントフェレットは、オセルタミビル群で4/4およびプラセボ群で4/4に対して、バロキサビル群のレシピエントフェレットでは2/4であった。TCID50陰性フェレットにおいて検出された抗体反応は、TCID50陽性フェレットと比較して減少(>32倍の変化)した。「-」:抗体応答は観察されなかった。
図11】実施例2の実験3のタイムコース。バロキサビルは、1mg/kgの皮下注射からなる単一処置により投与した(フェレットの背中の4か所に注射(合計4mg/kg))。プラセボ(1mL/kgの懸濁液ビヒクルのみ)を同じ方法で投与した。オセルタミビルホスフェート(5mg/kg)は、エンドポイント(最終日を除く)まで1日2回経口投与した。ドナーの処置:ドナー接種の48時間後。レシピエントの共同飼育:ドナー接種の48時間後。詳細については、テキストを参照。BXA、バロキサビル;OST、オセルタミビル。
図12】実施例2の実験3のドナーフェレットの結果。(A)TCID50の結果。バロキサビルで処置されたドナーは、4DPIエンドポイントで感染性ウイルスを排出していなかった(つまり、0/4)。バロキサビル群の群力価は、3および4DPIでプラセボ群よりも有意に低く(**p≦0.001)、4DPIでオセルタミビル群よりも低かった(p≦0.001)。すべて(すなわち4/4)のオセルタミビル処置ドナーとすべての(すなわち4/4)プラセボ処置ドナーは、4DPIエンドポイントで感染性ウイルスを排出した。オセルタミビル群の力価は、3DPIでプラセボ群の力価よりも有意に低かった(p≦0.05)。(B)qRT-PCTの結果。すべてのサンプリングポイントですべての動物の鼻洗浄液に存在するウイルスRNAが測定された。群の平均コピー数の間に有意差はなかった。処置後72時間でのバロキサビル群の薬物動態(PK)は、血漿中のバロキサビル±SDで24.5±4.03ng/mLであった。XA、バロキサビル;OST、オセルタミビル。
図13】実施例2の実験3のレシピエントフェレットの結果。(A)TCID50の結果。4DPIエンドポイントで感染性ウイルスを排出したドナーフェレットは、オセルタミビル群で4/4およびプラセボ群で4/4に対して、バロキサビル群では2/4であった。(B)qRT-PCR。ウイルスRNAが検出されたドナーフェレットは、オセルタミビル群で4/4およびプラセボ群で4/4に対して、バロキサビル群では3/4であった。(C)血清学。すべての群のレシピエントの血清はいずれも、ドナーウイルスに対する抗体反応を示した。TCID50陰性のバロキサビル群レシピエント(2/4)は、TCID50陽性フェレットと比較して抗体価の低下(>16倍の変化)を示した。「-」:抗体応答は観察されなかった。*フェレット11333(プラセボ)は4DPEで人道的なエンドポイントに到達したため、血清学分析から除外された。
図14】実施例2の実験1~3におけるドナーフェレットに対するバロキサビルの効果の要約。バロキサビル処置は、上気道における感染性ウイルスの排出を急速に減少させる。バロキサビルで処置されたフェレットは、各実験において、ドナーのエンドポイントで検出可能な感染性ウイルスを排出していなかった。
図15】実施例2の実験1~3における接触感染に対するバロキサビルの効果の要約。使用したモデルにおいて、プラセボ群は、ナイーブフェレットへのA/Perth/265/2009の接触感染の頻度が100%であることを示している。オセルタミビル処置群では、ナイーブフェレットへの接触感染が減少していない。オセルタミビルレシピエントの100%は、すべての実験条件下で、TCID50、qRT-PCR、および血清学による感染の証拠を示している。バロキサビル処置群では、オセルタミビル群またはプラセボ群と比較して、接触感染の頻度が減少している。1DPIでのバロキサビル処置は、レシピエントにおける感染性ウイルス排出の頻度が25%に減少している。レシピエントの共同飼育を24時間遅らせた場合の違いは観察されなかった。2DPIでのバロキサビル処置は、レシピエントにおける感染性ウイルス排出の頻度が50%に減少している。ただし、ウイルスコピーと血清抗体反応はバロキサビル群のレシピエントで検出され、上気道(URT)での感染性ウイルス排出を示す証拠は認められず、ウイルスに曝露しているが感染をもたらすものでないことを示している。
図16】バロキサビル処置による季節性インフルエンザのインフルエンザエピデミックの予防のシミュレーション。詳細については、テキストを参照。
図17】バロキサビル処置によるインフルエンザパンデミックの予防のシミュレーション。詳細については、テキストを参照。
図18】CARIFS スコア(Canadian Acute Respiratory Illness and Flu Scale)
【実施例
【0120】
実施例1:バロキサビルマルボキシルは呼吸器飛沫の伝播を防ぐ
試験デザイン
この実験の試験デザインを図1(A)および(B)に示す。この実験では、バロキサビルをフェレットに皮下投与した(背中の4か所に懸濁液1mL/kgを注射)。オセルタミビルホスフェート(5mg/kg)を1日2回5日間経口投与した。
実験は、バロキサビル、オセルタミビルおよび薬物なしの3アームで設計されており、各アームを4群とした。各群には、ドナー動物および直接接触または呼吸器飛沫経路のいずれかによって感染したドナーに曝露されたセンチネル動物がいた。
実験を以下のとおり実施した:
0日目:
すべての動物に温度モニタリング・識別チップを移植した。4匹のフェレット(ドナー)をインフルエンザAウイルスに感染させた。軽い麻酔下(ケタミン/キシアルジン)、野生型(RG)A/England/195/2009を、104pfuの用量にて、総量200マイクロリットルを鼻腔内投与した。

1日目:
感染から24時間後、感染した4匹のフェレットを鼻洗浄した。感染性ウイルスについては新鮮なMDCK細胞にプラークし、ウイルスRNA量についてはRT-PCRを実施することにより、鼻洗浄液を直ちにアッセイした。次に、各ドナーフェレットをバロキサビル、オセルタミビルホスフェート、またはビヒクルのみのいずれかで処置した。バロキサビルは、1回の注射につき1mg/1mL/kgを背中の4箇所に皮下投与した(合計4mg/4mL/kg)。バロキサビルの投与後、薬物動態(PK)分析のために、ドナー動物からそれぞれ48時間と144時間に血液サンプル(最低200μl)を採取した。

5mg/kgのオセルタミビルホスフェートを1日2回、5日間経口投与した(成人の標準的な処置用量75mgに相当すると考えられている(J Antimicrob Chemother 2014; 69: 2458-2469)。1日目の薬物投与後、1匹のセンチネル動物を各感染ドナーと同じケージに導入し(DC動物)、1匹のセンチネル動物を隣接するケージ(RD動物)に導入した。センチネル動物は薬物で処置しなかった。

2日目:
フェレットはすべて、2日目とその後実験が終了するまでの毎日鼻洗浄し、RD動物、次いでDC動物、そしてドナーで終了した。プラークアッセイは、鼻洗浄の直後に実施した。ウイルスRNAもRT-PCRによってモニターした。体温、体重減少、呼吸器症状などの臨床症状を毎日観察した。さらに、4匹のドナー動物からの呼気中に排出されたウイルスを、10分間チャンバー内に入れ、センチネルMDCK細胞を使用して空気をサンプリングすることによってモニターした。

4日目:
午前中、4匹のDC動物と4匹のRD動物を取り出し、別々に飼育した。したがって、センチネルはドナーの感染後1~4日目(72時間)まで曝露されていたことになる。

すべての動物の鼻洗浄液が2日間連続してウイルス陰性になったときに実験を終了した。
【0121】
材料および方法
動物実験
体重750~1000gのメスのフェレット(20~24週齢)を使用した。順応後、血清を採取し、HAIにより、A/England/195/09、パンデミックH1N1に対する抗体についてテストした。実験開始時、フェレットはすべてインフルエンザ抗体に対し陰性であった。体重は毎日測定した。動物間の異常なクロスコンタミネーションを防ぐために、厳格な手順に従った。センチネル動物は接種した動物の前に取り扱い、動物毎に作業面と作業者の手袋を除染した。接種のために、フェレットを、ケタミン(22 mg kg-1)およびキシラジン(0.9 mg kg-1)で軽く麻酔し、PBSで希釈したウイルス(鼻孔あたり0.1ml)を鼻腔内に接種した。すべての動物は、意識下で、2mlのPBSを鼻孔に注入することによって毎日鼻洗浄し、排出液を改変された250mlの遠心分離管に集めた。鼻洗浄排出液は、プラークアッセイによるウイルス滴定に使用した。プラークアッセイにおけるウイルスの検出限界は10p.f.u ml-1であった。
【0122】
フェレットのモニタリングと活動測定
フェレットは感染後毎日体重を測定した。体温は、皮下IPTT-300トランスポンダー(Plexx B.V、オランダ)を介して毎日測定した。フェレットの活動は、毎日同じ時間に手動で記録した。このスコアリングは、過去の出版物Oh DY, Barr IG, Hurt AC (2015) PLoS ONE 10(3): e0118780に基づいている。フェレットは、活動の乱れを最小限に抑えるため鼻洗浄の少なくとも4時間後にケージ内で観察した。
【0123】
細胞
MDCK細胞は、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Gibco、Invitrogen)中で維持した。
【0124】
プラークアッセイ
プラークアッセイは、MDCK細胞を使用して実施した。100μlの段階希釈サンプルを接種した細胞層に、2μg/mlのトリプシン(Worthington)を添加したDMEM中、0.6%アガロース(Oxoid)を重ね、37℃で3日間インキュベートした。
【0125】
リアルタイムPCRのサンプル調製
140μlのフェレット鼻洗浄液を使用し、Qiagen Viral RNAミニキット(カタログ番号/ID:52904)を製造元の指示に従い使用してRNAを抽出した。
【0126】
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRは、7500リアルタイムPCRシステム(ABI)を用い、AgPath-ID(商標)ワンステップRT-PCR試薬10μl RT-PCRバッファー(2X)(Thermo Fisher、カタログ番号4387391)、4μlのRNA、0.8μlのフォワードプライマー(5’ GACCRATCCTGTCACCTCTGA 3’、配列番号1)およびリバースプライマー(5’AGGGCATTYTGGACAAAKCGTCTA 3’、配列番号2)および0.4μlのプローブ(5’FAM-TCGAGTCCTCGCTCACTGGGCACG-BHQ1 3’、配列番号3)を20μlの反応液中で使用して実行した。逆転写は45℃にて10分間行った。PCR増幅条件は、95℃で10分間の最初の変性ステップの後、95℃で15秒間、60℃で1分間で構成した。合計40サイクルを実行した。各サンプルについて、ターゲットM遺伝子のCt値を決定した。M遺伝子は、2つのマトリックスタンパク質M1およびM2をコードするインフルエンザ遺伝子である。M遺伝子はPCRで検出され、インフルエンザウイルスの定量に使用できる。検量線に基づいて、フェレットがインフルエンザA型に陽性かどうかを確認するため、絶対コピー数を計算した。
【0127】
倫理ステートメント
実行した作業はすべて、インペリアルカレッジロンドンの地域の遺伝子操作(GM)安全委員会、セントメアリーズキャンパス(センター番号GM77)、および英国の健康安全局によって承認された。この試験において記載されている動物実験はすべて、英国内務省ライセンス、P48DAD9B4の下で実施された。
【0128】
上記のすべての方法は当技術分野で一般に知られており、例えば、Contact transmission of influenza virus between ferrets imposes a looser bottleneck than respiratory droplet transmission allowing propagation of antiviral resistance.” Frise R, Bradley K, van Doremalen N, Galiano M, Elderfield RA, Stilwell P, Ashcroft JW, Fernandez-Alonso M, Miah S, Lackenby A, Roberts KL, Donnelly CA, Barclay WS. Sci Rep. 2016 Jul 19;6:29793. doi: 10.1038/srep29793.PMID:27430528に記載されている。
【0129】
結果と考察
実施例1の結果を図2および図3に示す。これらの結果は、オセルタミビルまたはプラセボ処置した被験対象と比較して、バロキサビルで処置した被験対象では呼吸器飛沫の伝播がより少ない頻度で起こったことを示している(すなわち、伝播率100%に対し25%)。
さらに、対照と比較して、オセルタミビルまたはバロキサビルのいずれかで処置したドナーに曝露されたセンチネル動物では、排出までの時間の遅延が観察された。ウイルス排出までの平均時間4.25日に対し、オセルタミビルまたはバロキサビルのいずれかで処置されたドナーに曝露された直接接触センチネルは5.5日であった。呼吸器飛沫に曝露されたセンチネルの場合、未処置のドナー動物からの平均のウイルス排出時間が4。5日であったのに対し、オセルタミビル処置動物では9.3日、RD経路で感染した1匹のバロキサビル処置センチネルでは8日であった。
まとめると、これは、pH1N1 2009ウイルスに感染したドナーフェレットのバロキサビル処置が、共同飼育されたセンチネルフェレットへの伝染を遅らせ、呼吸器飛沫経路による伝染の可能性を減少させたことを示している。
【0130】
実施例2:バロキサビルマルボキシルは直接接触感染を防ぐ
材料および方法
抗ウイルス薬と薬物投与
活性型バロキサビル酸(S-033447、以下BXA)と、プロドラッグであるオセルタミビルホスフェート(以下OST)は、塩野義製薬株式会社から提供された。BXA送達用のビヒクルは、滅菌水で調製した0.5w/v%メチルセルロース(Sigma-Aldrich、オーストラリア)水溶液(以下、MC溶液)であった。MC溶液(1mg/mL)で懸濁したBXAは、乳鉢と乳棒を使用して調製し、可逆的に麻酔した動物に、背部の4箇所に4回皮下注射することからなる1回の処置で投与を行った(総用量4mg/kg動物)。プラセボ群の動物は、MC溶液(1mL/kg)のみを使用して同じように投与した。OST投与(10mg/mL)は、砂糖溶液(1g/mL)中で調製したものを、鎮静されていないフェレットに経口経路で1日2回(8時間間隔)投与した(総用量10mg/kg/日)。
【0131】
細胞およびウイルス
Madin-Darby Canine Kidney(MDCK)細胞は、10%(v/v)ウシ胎児血清、2mM GlutaMAX、0.05%炭酸水素ナトリウム、100μM MEM非必須アミノ酸、20mM HEPESおよびペニシリン-ストレプトマイシン50,000Uを添加したダルベコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)(「増殖培地」と称する完全混合物)中に維持した。
動物の接種にはインフルエンザA/パース/265/2009 H1N1pdm09ウイルスを使用した。このウイルスは、世界保健機関のインフルエンザ研究協力センター(WHOCCRRI、オーストラリア、メルボルン)の臨床検体(Lab#910894)から分離された。ウイルスはプラーク精製し、MDCK細胞中で増殖させた。
【0132】
動物
生後12週を超え、体重600~1800gの非近交系のオスのフェレット(Mustela purtorius furo)を独立したブリーダーから入手し、血球凝集抑制(HI)アッセイにより、最近流行しているインフルエンザ抗原(A/ミシガン/45/2015、A/シンガポール/INFIMH-16-0019/2016、B/プーケット/3073/2013、B/ブリスベン/60/2008)に対し血清学的に陰性であることを確認した。識別/体温モニタリングチップ(LifeChip、Bio-Thermo)を各フェレットの背側の領域に皮下移植した。動物は、体温と体重の変化について少なくとも1日1回モニターし、ペレット飼料(ユーカヌバ)と水を自由に摂取させ、倫理的に必要な場合(ベースライン重量の90%未満)に補足のウェットフード(Hill's Pet Nutrition、オーストラリア)を提供した。定期的にサンプル収集は、キシラジン(5mg/kg)(Troy Laboratories)の筋肉内注射を使用した鎮静下で行い、ウイルス接種と薬物の皮下投与は、ケタミン(10mg/kg)(Troy Laboratories)と、ミダゾラム(0.5mg/kg)(Troy Laboratories)およびアチパメゾール(0.01mg/kg)(Troy Laboratories)によって拮抗されたメデトミジン(0.02mg/kg)(Troy Laboratories)との組み合わせの筋肉内注射による可逆麻酔下で行った。エンドポイントでフェレットに対し、ケタミン(最大25mg/kg)とキシラジン(最大5mg/kg)からなる非可逆麻酔薬を筋肉注射し、心臓内注射によるペントバルビトンナトリウム(Troy Laboratories)の過剰投与(最大1,000mg/kg)により安楽死させた。
【0133】
フェレットの試験は、科学目的のための動物の飼育と使用に関するオーストラリア政府の国立健康医学研究評議会のオーストラリア行動規範(第8版)に従って、ピータードハティ研究所(オーストラリア、メルボルン)の生物資源施設(物理的封じ込めレベル2)で実施した。試験手順は、メルボルン大学の生化学および分子生物学、歯科科学、医学、微生物学および免疫学、および外科動物倫理委員会によって承認された(AEC#1714278)。
【0134】
ウイルス学
鼻洗浄液サンプルは、TCID50アッセイによるウイルス力価の測定前に、-80℃で1%w/vウシ血清アルブミン(BSA)とともに保存した。簡潔に説明すると、サンプルをTPCK処置トリプシン(4μg/mL;Sigma-Aldrich)を含む無血清増殖培地で10倍に段階希釈し、各ウェルにMDCK細胞のコンフルエントな単層を含む平底96ウェルプレートに添加した(3重)。感染後、細胞を無血清増殖培地(4μg/mL TPCK処置トリプシンを含む)中、37℃、5%COにて96時間維持した後、1%七面鳥赤血球(RBC)を使用する赤血球凝集アッセイによりウイルス増殖を評価した。TCID50力価は、Reed and Muench (1938) method (Reed, L.J., and Muench, H. (1938), American Journal of Epidemiology 27, 493-497)により計算した。
【0135】
定量的リアルタイムRT-PCR
KingFisher Flex(ThermoFisher Scientific)プラットフォーム上でNucleoMag VET分離キット(Macherey Nagel)を製造元の指示に従って使用し、200μLの鼻洗浄液サンプルからウイルスRNAを抽出した。4μLのRNAにおけるインフルエンザウイルスM遺伝子のコピー数は、ABI 7500リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)上でSensiFASTプローブLo-ROXワンステップqRT-PCRシステムキット(Bioline)を使用する定量的リアルタイムRT-PCRにより、以下の条件下で決定した:45℃で10分間、1サイクル;95℃で2分間、1サイクル;95℃で5秒間次に60℃で30秒間、40サイクル。サンプルRNAは、オーストラリアのSeqirusから提供された既知のコピー数のインフルエンザA RNA標準を使用して定量した。ユニバーサルインフルエンザAリアルタイムプライマー/プローブセットは、CDC Influenza Branch(Atlanta、USA)から提供された(シーケンスはリクエストに応じて入手可能)。結果を7500 Fast SystemSDSソフトウェアv1.5.1によって分析した。
【0136】
血清学
遠心分離によってエンドポイントのレシピエント血液サンプルから血清を回収し、製造元の指示に従って受容体破壊酵素(RDE)(Denka Seiken)で処理することにより、非特異的凝集阻害剤を除去した。処理した血清を、HIアッセイの前に七面鳥の赤血球に吸着させて、非特異的な凝集因子を除去した。簡単に説明すると、V底96ウェルプレートにて血清(初発1:20希釈)をPBSで2倍段階希釈した(最後の列はPBSネガティブコントロールとして残した)。25μL中4血球凝集単位に調整されたA/Perth/265/2009ウイルスをすべてのサンプルウェルに混合し、室温で1時間インキュベートした後、1%七面鳥RBCと45分間インキュベートした。陽性阻害は、PBS陰性対照に匹敵するランニング「ティアドロップ」パターンの出現として定義した。HI力価は、凝集が阻害された最も高い血清希釈率の逆数として計算した。
【0137】
抗ウイルス薬の動態分析
エンドポイントのBXAおよびプラセボ処置ドナー血液サンプルをヘパリン処置チューブに回収し、遠心分離により血漿を分離した。血漿サンプルは、塩野義製薬株式会社の分析施設に輸送するまで-80℃で保存した。
【0138】
統計分析
データ分析は、Graphpad Prism(GraphPad Software、v5.01)を使用して実施した。すべてのフェレットの接種/曝露後の毎日の鼻洗浄液のウイルス力価を、matched two-way analysis of variance (ANOVA)と、それに続くTukey’s多重比較検定によって比較した。検量線を作成するために、既知のコピー数のインフルエンザコントロールRNAに対して定量的リアルタイムRT-PCRを実行した(インフルエンザサイクル閾値(Ct)値 vs コピー数の線形回帰)。同じアッセイでの鼻洗浄液RNAサンプル中に存在するウイルスコピー数を、検量線の式を使用して計算した。フェレットの各群のインフルエンザAコピー数は、matched two-way analysis of variance (ANOVA)と、それに続くTukey’s多重比較検定によって比較した。p<0.05は統計的に有意であるとみなした。
【0139】
試験デザイン
実験1~3のタイムコースを図4、8、11に示す。
実験群と処置スケジュール
本試験は、抗ウイルス処置の異なるスケジュールとナイーブ動物の共同飼育のタイミングを使用した3つの別々の実験で構成した。各実験では、24匹のフェレットを、BXA、OST、プラセボの3つの群(n=8)にランダムに割り当てた。各群で、n=4のフェレットを処置するドナーフェレットとし、n=4をナイーブなレシピエントとした。各実験とも、0DPI(接種後の日数)で、すべてのドナーフェレット(それぞれ個別に収容)に、インフルエンザA/Perth/265/2009を、40μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、10の50%組織培養感染量(TCID50)にて鼻腔内接種した。上記のとおり、BXAおよびプラセボ群のドナーには一回の抗ウイルス処置を行い、OST群のドナーにはエンドポイントまで毎日処置を行った(cull dayを除く)。指定された時点で、ナイーブレシピエントフェレットを、処置したドナーフェレットと一緒に収容し(ケージあたり1:1)、48時間接触曝露させた。
【0140】
実験1:すべてのドナーの抗ウイルス処置は1DPIで開始し、ナイーブレシピエントフェレットは処置直後に共同収容した。すべての動物の体重と体温を毎日モニターした。毎日の鼻洗浄液サンプル(1mLのPBS)は、ドナー動物は1DPIから3DPIまで、レシピエント動物は曝露後1日(DPE)から10DPEまで採取した。ドナーは3DPI(2DPE)で安楽死させ、血液をBXA-およびプラセボ-処置フェレットから心臓穿刺によって採取した。レシピエントは10DPEで安楽死させた。
【0141】
実験2:抗ウイルス処置は1DPIで開始し、レシピエントの共同収容を処置後24時間(2DPI)まで延長した。すべての動物の体重と体温を毎日モニターした。毎日の鼻洗浄液サンプル(1mLのPBS)は、ドナー動物は1DPIから4DPIまで、レシピエント動物は1DPEから10DPEまで採取した。ドナーは4DPI(2DPE)で安楽死させ、血液をBXA-およびプラセボ-処置フェレットから心臓穿刺によって採取した。レシピエントは16DPEまで飼育し、その時点で心臓穿刺によって血液を採取した。
【0142】
実験3:抗ウイルス処置は2DPIで開始し、レシピエントをその直後に共同収容した。すべての動物の体重と体温を毎日モニターした。毎日の鼻洗浄液サンプル(1mLのPBS)は、ドナー動物は1DPIから4DPIまで、レシピエント動物は1DPEから10DPEまで採取した。ドナーは4DPI(2DPE)で安楽死させ、血液をBXA-およびプラセボ-処置フェレットから心臓穿刺によって採取した。レシピエントは16DPEまで飼育し、その時点で心臓穿刺によって血液を採取した。
【0143】
結果と考察
3つの独立した実験では、H1N1pdm09に感染したフェレットの1回のBXA処置により、プラセボおよびオセルタミビルと比較して、URTにおける感染性ウイルス力価が大幅に低下した(図14)。バロキサビル群の平均ウイルス力価は、すべての実験条件で処置の24時間後にプラセボ群と比較して有意に減少した(p≦0.05)。オセルタミビル群およびプラセボ群のドナーのドナーエンドポイントで高い感染力価が維持されたのに対し、バロキサビルで処置されたドナーは、すべての実験スケジュールのエンドポイントでTCID50陽性はなかった(即ち0/4)。バロキサビルの効果は、処置したドナーにおいてオセルタミビルよりも優れている(図15)。すべての(すなわち4/4)オセルタミビル処置ドナーは、いずれの条件でも、エンドポイントでTCID50陽性であった-いずれも(すなわち4/4)プラセボ処置ドナーと比較して減少はなかった。
【0144】
使用したフェレットモデルでは、プラセボ群のレシピエントは、ナイーブフェレットへのA/Perth/265/2009の接触感染の頻度が100%であることを示している(図14~15)。プラセボ群のレシピエントは、TCID50とqRT-PCRの両方で測定される強力なウイルス動態と、レシピエントのエンドポイントでの高い力価(>1280)の血清抗体反応を示している(図7、10、13)。オセルタミビル処置では、ナイーブフェレットへの接触感染が減少しないことが観察された。オセルタミビルレシピエントの100%は、抗ウイルス処置のタイミングに関係なく、プラセボと非常に類似した感染パラメーターを示した(図7、10、13)。対照的に、感染から24時間以内のバロキサビル処置は、感染の75%の減少をもたらした。実験1および実験2の両方で、バロキサビル群の1/4のレシピエントのみが、プラセボと同様の感染を示すTCID50ウイルス動態曲線を示した(図7、10)。感染の48時間後にバロキサビル処置を行った場合でも、感染の50%の減少が観察された(図13)。
【0145】
バロキサビルで処置されたフェレットのURTにおけるウイルスRNAが多く存在しても、細胞培養によって測定される感染性ウイルス力価の変化との相関はない。
【0146】
実験1においてバロキサビル群のレシピエントの2/4でウイルスRNAが検出されたが、コピー数は陽性検出のしきい値に近づいており、ウイルス動態はプラセボ群のウイルス曲線とは類似していない(図7)。
【0147】
qRT-PCRによって検出されたURTにおいてウイルス排出が存在するにもかかわらず、これらのウイルスは細胞培養で検出可能な感染を引き起こすことができないようである。
【0148】
実験2(図10、15563)および実験3(図13、96642、14779)においてTCID50陰性バロキサビル群のレシピエントで抗体反応が検出されたが、プラセボ群のレシピエントと比較して力価が16~32倍減少していた。
【0149】
バロキサビルの平均血漿濃度は、投与後3時間で最大(26.1ng/mL)に達し、その後、最後のサンプリングポイント(投与後168時間、9.08ng/mL)に向かって徐々に低下した。この結果は、バロキサビル懸濁液を4mg/kg(4箇所、1箇所あたり1mg/kg)で単回皮下投与すると、フェレットにおいて1週間以上バロキサビルの血漿中濃度を維持できることを示している。
【0150】
さらに、データは、バロキサビル処置が接触感染を減少させることを明確に示している。
【0151】
実施例3:バロキサビルのインフルエンザ伝播モデリング
バロキサビルマルボキシルがインフルエンザウイルスの伝播を防ぐことができるという驚くべき発見に基づいて、インフルエンザの感染拡大に対するバロキサビル処置の効果を示すシミュレーションを実施することができる。また、このシミュレーションでは、第3相臨床試験(NCT02954354)で観察されたウイルス排出の停止までの時間(Tshed)に対するバロキサビルの影響も考慮された。

シミュレーションは、
-インフルエンザ/社会の特徴
-種々の処置効果
から構成される具体的なモデルを開発することにより、インフルエンザのエピデミックおよびインフルエンザのパンデミックの間に感染した患者のパーセントを予想することによって行われる。
【0152】
モデルについて
上記の実施例1および2は、バロキサビル処置がウイルス排出を減少させるだけでなく、驚くべきことに伝播も減少させることを示している。バロキサビルマルボキシルが伝播を減らすために使用できるという驚くべき予想外の情報は、(新たな)インフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックの状況下でのバロキサビルマルボキシル処置の効果をシミュレートする、以下で実施するシミュレーションの前提条件である。
【0153】
このシミュレーションでは、疫学的SEIRモデルが使用されている。20世紀初頭に最初に記載された(Kermack and McKendrick)このモデルは、感受性の高い、曝露された、感染した、回復した人など、さまざまなタイプの個人を統合することにより、集団内の感染者数を特徴づけるものである。このようなモデルは、インフルエンザのパンデミックに対する計画、抗ウイルス薬の備蓄と開発に関する政策決定、およびその他の介入に実際に広く利用されており、例えば、Murillo, J Theor Biol. 2013. 332:267-290に記載されている。
【0154】
仮定
1)ウイルス排出は、ウイルス排出期間は一定した感染性で感染性と相関する。
2)第3相の結果は、バロキサビルおよびオセルタミビル処置での排出時間の正確な推定値を与える。
3)患者はすべて:
-同じ潜伏期間
-同じ疾患期間
-疾患期間にわたり同じ感染率
-処置以外の特定の介入はない
-感受性に対する年齢、地理、健康状態の影響はない
とする。
【0155】
結果と考察
季節性(図15を参照)とパンデミック(図16を参照)の両方のシナリオで、プラセボまたはオセルタミビルと比較して、バロキサビルで処置した場合の感染患者の割合は大幅に減少した。
結果は、感染患者の数を半分に減らすのに必要な、処置を受けた患者の割合は、それぞれエピデミックで約15%、パンデミックで約30%であることを示している。インフルエンザの感染拡大を「エピデミック」または「パンデミック」として分類するための正確なしきい値は、毎年変わる。しかし、得られた結果からみて、感染者の少なくとも15%または少なくとも30%をバロキサビルマルボキシルで処置することで、それぞれインフルエンザのエピデミックまたはインフルエンザのパンデミックを防ぐことができる可能性が高い。
【0156】
実施例4:配列ベースの伝染識別
系統発生分析(ツリートポロジーまたはクラスタリングのブートストラップサポートを備えた全ゲノムツリー)および/または対となる集団間の遺伝距離の測定(例えば、L1-Norm)を行ない、伝播対(transmission pairs)を特定することができる。2つの要因が分析の結果に影響する。第一に、利用可能なシーケンスデータの量である。この全ゲノムを最大化するために、次世代シーケンシング(WGNGS)を実行して、粒度と識別力を高めることができる(サンガーシーケンシングおよび/または単一遺伝子シーケンシングと比較して)。第二に、サンプリングしたコミュニティ/メタ個体群の多様性であり、世帯ペア内のウイルスが外の群と比較して互いに類似しているという評価を高い信頼性で行うことができる。コミュニティから取得したシーケンスが増えると、この群の多様性が高まり、現実の伝播対の識別が容易になる。試験に登録されていない人の配列決定は実施できないため、本発明者らは、適切な数の初発患者(IP)が登録されている固有の配列の部位にフォーカスして、患者のサブ群についてこの分析を行う。さらに、発明者らは、同じシーズンのコミュニティデータベースから配列の取得を試みる(このルートは成果が少ないことが予想されるが実施する)。
【0157】
HIVEコホートにおけるインフルエンザウイルスの進化を調べた過去の研究では、47の伝播ペアが分析され、配列に基づいて区別することができた。その34ペアは、1シーズンでのものであった(H3N2、2014/2015)。これらの結果に基づいて、15人以上の初発患者(IP)、好ましくは少なくとも30~40人の初発患者(IP)が、コミュニティの多様性を反映して、ペアワイズ距離のコミュニティ分布を作成するのに十分であると予想され、McCrone, John T., et al. "Stochastic processes constrain the within and between host evolution of influenza virus." Elife 7 (2018):e35962に記載されているように真の伝播イベント(例:家庭内伝播イベント)を推測することができる。配列決定のために記載されている方法として、McCrone (Elife 7 (2018):e35962)に記載されている方法を使用することができる。本発明の文脈において、分析は、好ましくは、インフルエンザAウイルスサンプルの分析にフォーカスしている。
伝播ペアを識別するために使用した方法と、この方法の背景にある考慮事項をより理解するために、この文献McCrone (Elife 7 (2018): e35962)の内容について以下に簡単に説明する。
McCrone (Elife 7 (2018): e35962)では、疫学的連鎖と家庭内でのウイルスの遺伝的関連性の両方を使用して、伝播ペアを定義し、コミュニティのバックグラウンドの多様性から交絡を排除した。
より具体的には、McCrone(Elife 7(2018):e35962)では、動物およびヒトの系におけるインフルエンザAウイルス(IAV)集団の研究は、ほとんどの宿主内一塩基多型(iSNV)はまれで、宿主内集団が強力な純化淘汰の対象になっていることを示唆していると説明されている。McCrone(Elife 7(2018):e35962)では、宿主内インフルエンザウイルス集団の次世代シーケンシングを使用して、ヒト宿主内および宿主間のIAVの進化のダイナミクスを定義した。ベンチマーク分析パイプラインを適用して、iSNVを特定し、インフルエンザのプロスペクティブ家庭内試験に登録された個人からパンデミック後の5シーズンにわたって収集されたH3N2およびH1N1集団の遺伝的多様性を特徴付けた。McCrone(Elife 7(2018):e35962)で、著者は、宿主内集団は動的で、遺伝的ドリフトと純化淘汰に制約されていることを見い出した。McCrone(Elife 7(2018):e35962)の研究では、正の淘汰がまれに有益なde novoバリアントを2%を超える頻度に増幅した。ヒトインフルエンザの伝染について過去に報告されたことに反するが、別の伝播様式を有する他の多くのウイルスで観察されたことと一致して、低頻度の変異体の伝播を制限する非常にタイトな効果的伝染のボトルネックがMcCrone(Elife 7(2018):e35962)において特定された。
【0158】
McCrone(Elife 7(2018):e35962)では、家庭内の個人は、互いに7日以内に同じサブタイプのインフルエンザウイルスに陽性であった場合、疫学的に関連した伝播ペアとみなされた。いくつかの世帯では、この1週間の期間内に症状を伴う3または4の症例があり、より長い伝播の連鎖があったことを示唆している。
【0159】
McCrone(Elife 7(2018):e35962)2014)において、経験的に検証された分析パイプラインを使用して、宿主内の一塩基多型(iSNV)が特定された。自然感染に関する過去の研究や他の研究と一致して、McCrone(Elife 7(2018):e35962)の著者は、季節性インフルエンザAウイルス(IAV)集団の宿主内多様性が低いことを見い出した。249のサンプルのうち243は、10未満の少数派のiSNVを有していた(中央値2、IQR 1-3)。特定された少数派のiSNVの数は、感染日、ウイルス量、サブタイプ、またはワクチン接種状況に影響されなかった。
【0160】
McCrone(Elife 7(2018):e35962)では、一塩基多型がゲノム全体に均等に分布していた。少数派の亜種が複数の個人で共有されることはまれであった。少数派のiSNVの98%は1回だけ検出され、2.3%は2人の個人で検出され、少数派のiSNVは3人以上の個人では検出されなかった。共有された多様性のレベルが低いことは、宿主内の集団が、並行進化のエビデンスがほとんどなく、配列空間の異なる領域を探索していることを示唆している。同義変異体に対する非同義変異体の比率は0.75であり、ゲノム全体およびHA遺伝子内の非同義部位が過剰であることを考えると、これらのデータは、宿主内での有意の純化淘汰を示唆している。
【0161】
McCrone(Elife 7(2018):e35962)で、別のサンプルで見られたiSNVの大部分(68%)は新たなものか、あるいは過去に2%検出限界に満たないものであった。まとめると、McCrone(Elife 7(2018):e35962)のデータは、上気道に存在する集団は安定したコンセンサスを維持しながら非常に動的であり、宿主内の新規な変異体の正の選択は非効率的で、新しく生じる変異体が2%を超える頻度に増幅することはまれであることを示唆している。
【0162】
McCrone(Elife 7(2018):e35962)の宿主内データは、正の適合効果を有する新たに生じたiSNVが、急性感染時に低頻度(<2%)で存在する可能性が高いことを示唆している。したがって、宿主集団におけるこれらの突然変異の維持は、伝播のボトルネックに大きく依存している。
【0163】
McCrone(Elife 7(2018):e35962)では、7日以内に発症した世帯における人全員が疫学的に関連しているとみなした。推定される各ペアの発症が早いほうの人をドナーとして定義した。同じ日に症状が現れた可能性のあるドナーが複数いた場合は、感染イベントとして無視した。両者がその世帯の初発患者でない限り、ドナーとレシピエントが同じ日に発症することはない。これらの基準に基づいて、McCrone(Elife 7(2018):e35962)のコホートには、5シーズンで推定される家庭内感染イベントが124件あった。これらのうち52ペアで、両方の個人からiSNVを確実に識別するのに十分な品質のサンプルが得られた。
【0164】
次に、McCrone(Elife 7(2018):e35962)では、シーケンスデータを使用して、これらの52の疫学的にリンクしたペアのどれが、同時の市中感染とは対照的に、真の家庭内感染イベントを示しているかが決定された。各世帯のペアからのインフルエンザ集団間の遺伝距離はL1ノルムによって測定され、これらの距離は各シーズンのランダムに割り当てられたコミュニティペアの距離と比較された。
【0165】
McCrone(Elife 7(2018):e35962)では、ランダムに割り当てられたペアのコミュニティ分布の5パーセンタイル未満の遺伝距離がある場合に、そのペアの人のみが真の伝播ペアであると見なされた。47の家庭内伝播イベントがこの基準を満たした。これら47の検証済み家庭内伝播ペアのうち3組はドナーにiSNVがなく、1人のさらなるドナーは混合感染しているように見えた。iSNVを有しないドナーは参考にならず、混合感染はサイトの独立性のモデルの仮定に反するため、これら4つの伝播イベントはボトルネック分析から削除された。残り43組の質の高いペア(37 H3N2、6 H1N1)の伝播ボトルネックが推定された。
【0166】
伝達ボトルネックは、ペアのメンバーの両者が共有する遺伝的多様性の量を制限する。McCrone(Elife 7(2018):e35962)において、ドナーとレシピエントの両方の集団で多型である少数派iSNVは少ないことがわかった。ドナーの少数派iSNVは、レシピエントにおいて存在しないか、固定されているかのいずれかで合った。共通する多型部位の欠如は、1つの対立遺伝子のみがドナーからレシピエントに渡るという厳格で効果的なボトルネックを示唆している。
【0167】
McCrone(Elife 7(2018):e35962)の著者は、急性インフルエンザ感染症は、多様性が低く、正の選択は限られており、伝播のボトルネックが厳しいことを特徴としていると結論付けている。プロスペクティブ世帯コホートに登録された人からインフルエンザの5シーズンにわたって収集されたウイルスが使用されたため、これらのダイナミクスは、温帯地域における多くの季節性インフルエンザ感染を広く代表していると思われる。McCrone(Elife 7(2018):e35962)のデータは、選択が検出レベルを下回ったとしても、そのようなまれな亜種が伝播する可能性は低いことを示唆している。推定されるボトルネックのサイズを考えると、伝播の確率は、1%の頻度の変異で約1.7%、2%の頻度の変異で約3.3%である。
【0168】
実施例5:フェレットの薬物動態分析
動物実験に関する材料、方法および結果
28ヶ月齢、体重650~802gの非近交系のメスのフェレットは、Japan SLC, Incから入手した。各ケージの前に連番をラベル付けすることによって識別した。臨床観察のため少なくとも1日1回動物をモニターし、ペレット飼料(LabDiet高密度フェレットダイエット、Lab Supply、米国)と水を自由摂取させた。エンドポイントのフェレットを、イソフルラン(ファイザー)の吸入による麻酔下での放血によって安楽死させた。フェレットの試験は、塩野義株式会社(大阪、日本)の施設内動物の飼育および使用に関する委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された動物実験プロトコルに従って、シオノギ製薬研究センターにおいて実施された。
【0169】
薬物投与と血液採取
活性型バロキサビル酸(S-033447、以下BXA)は、塩野義製薬株式会社の試験物質管理者から提供された。BXA送達のためのビヒクルは、滅菌水で調製された0.5w/v%のメチルセルロース(富士フイルム和光、日本)水溶液であった(以下、MC溶液)。乳鉢と乳棒を使用し、BXAをMC溶液(1mg/mL)で懸濁し、可逆的に麻酔した動物の背側領域の4か所に4回皮下注射する1回の処置で投与した(総投与量4mg/kg動物)。投与後、血液を採取するため、穿刺により後肢静脈から出血させ、ヘパリン処置した毛細管(Drummond Scientific Company、USA)を使用して、出血部分から血液(約60~100μL)サンプルを予定時間に採取した。遠心分離により血漿を得た。血漿サンプルは、タンデム質量分析(LC-MS/MS)システムを備えた液体クロマトグラフィーによる分析に使用するまで、約-80℃の冷凍庫に保管した。
【0170】
血漿中のBXAの測定
BXAの血漿中濃度は、LC-20Aシステム(島津製作所、日本)とAPI 5000(AB SCIEX、米国)で構成されるLC-MS/MSにより測定した。血漿サンプルはタンパク質沈殿によって調製した。クロマトグラフィーによる分離は、L-column 2 ODSメタルフリー(3μm、2.0mm i.d.×50mm、化学物質評価研究所、日本)を用いて40℃にて行った。二成分移動相(水中の0.1%ギ酸とアセトニトリル中の0.1%ギ酸)を、グラジエントモードで0.6 mL/minの総流量にて送液した。質量分析計は、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)を使用して、エレクトロスプレーイオン化(ESI)正極モードで操作した。484/247および490/247の前駆体/生成物遷移(m/z)を、BXAおよび内部標準BXA-ラセミ体-d 18Oについてそれぞれモニターした。BXAと内部標準のピーク面積比に基づいて計算した。分析法は、さまざまな条件下で選択性、回収率、正確さ(accuracy)、精度(precision)、および安定性に関して、0.5~500ng/mLのキャリブレーション範囲にわたって検証した。
【0171】
薬物動態分析
個々のフェレットのBXAの血漿中濃度は、Analystソフトウェア(AB SCIEX、USA)によって計算した。さらに、個々のデータを使用してMicrosoft Excel(Microsoft Co.、USA)により平均値と標準偏差を計算した。
【0172】
結果と議論
平均血漿中濃度は、投与後3時間で最大(26.1ng/mL)に達し、その後、最後のサンプリングポイント(投与後168時間、9.08ng/mL)に向かって徐々に低下した。この結果は、BXA懸濁液を4mg/kg(4箇所、1箇所あたり1mg/kg)で単回皮下投与すると、フェレットにおいてBXAの血漿中濃度を1週間以上維持できることを示している。
【0173】
本発明は、以下のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を参照する:

配列番号1:リアルタイムPCR用のフォワードプライマー
5’ GACCRATCCTGTCACCTCTGA 3’

配列番号2:リアルタイムPCR用のリバースプライマー
5’ AGGGCATTYTGGACAAAKCGTCTA 3’

配列番号3:リアルタイムPCR用のプローブ(「FAM」はフルオレセインアミダイト、すなわちオリゴヌクレオチドに対する蛍光色素を意味する。「BHQ1」はブラックホールクエンチャー1、すなわちクエンチャーを意味する。BHQ1とFAMは一緒に蛍光を発しない。プローブが切断された後、FAMは蛍光を発する)
5’ FAM-TCGAGTCCTCGCTCACTGGGCACG-BHQ1 3’
【0174】
配列番号4:インフルエンザAウイルス(A/WSN/1933(H1N1)):GenBank:X17336.1(I38T変異を含む)。I38T変異には下線が引かれ、太字で示されている。
MEDFVRQCFNPMIVELAEKAMKEYGEDLKIETNKFAATCTHLEVCFMYSDFHFIDEQGESIVVELGDPNALLKHRFEIIEGRDRTIAWTVINSICNTTGAEKPKFLPDLYDYKKNRFIEIGVTRREVHIYYLEKANKIKSEKTHIHIFSFTGEEMATKADYTLDEESRARIKTRLFTIRQEMASRGLWDSFRQSERGEETIEERFEITGTMRKLADQSLPPNFSSLENFRAYVDGFEPNGYIEGKLSQMSKEVNARIEPFLKSTPRPLRLPDGPPCSQRSKFLLMDALKLSIEDPSHEGEGIPLYDAIKCMRTFFGWKEPNVVKPHEKGINPNYLLSWKQVLAELQDIENEEKIPRTKNMKKTSQLKWALGENMAPEKVDFDDCKDVGDLKQYDSDEPELRSLASWIQNEFNKACELTDSSWIELDEIGEDAAPIEHIASMRRNYFTAEVSHCRATEYIMKGVYINTALLNASCAAMDDFQLIPMISKCRTKEGRRKTNLYGFIIKGRSHLRNDTDVVNFVSMEFSLTDPRLEPHKWEKYCVLEVGDMLLRSAIGHVSRPMFLYVRTNGTSKIKMKWGMEMRRCLLQSLQQIESMIEAESSVKEKDMTKEFFENKSETWPVGESPKGVEEGSIGKVCRTLLAKSVFNSLYASPQLEGFSAESRKLLLIVQALRDNLEPGTFDLGGLYEAIEECLINDPWVLLNASWFNSFLTHALR

配列番号5:インフルエンザAウイルスの配列フラクション(A/WSN/1933(H1N1)):GenBank:X17336.1(I38T変異を含む)。I38T変異には下線が引かれ、太字で示されている。
FAATCTH
図1
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【配列表】
2022526366000001.app
【国際調査報告】