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特表2022-526405肝向性の低減及び筋形質導入の増大を有するAAV9とAAVrh74とのペプチド改変ハイブリッド組換えアデノ随伴ウイルス血清型
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-24
(54)【発明の名称】肝向性の低減及び筋形質導入の増大を有するAAV9とAAVrh74とのペプチド改変ハイブリッド組換えアデノ随伴ウイルス血清型
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/35 20060101AFI20220517BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20220517BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220517BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220517BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220517BHJP
【FI】
C12N15/35
C07K14/015 ZNA
C12N15/62 Z
C07K19/00
C12N15/864 100Z
A61K48/00
A61P21/04
A61P21/00
A61P35/00
A61P37/06
A61P43/00 111
A61K31/7088
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558887
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(85)【翻訳文提出日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2019076958
(87)【国際公開番号】W WO2020200499
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/058560
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】520296842
【氏名又は名称】アソシエーション・アンスティトゥート・ドゥ・マイオロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュセッペ・ロンツィッティ
(72)【発明者】
【氏名】パトリス・ヴィダル
(72)【発明者】
【氏名】フレデリコ・ミンゴッツィ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA94
4C084ZB08
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZB08
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087NA14
4C087ZA94
4C087ZB08
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、RGDモチーフを含むペプチドの少なくとも1コピーを含む、AAV血清型9(AAV9)カプシドタンパク質とAAV血清型74(AAVrh74)カプシドタンパク質とのペプチド改変ハイブリッドである組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質であって、前記組換えペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質が、前記ペプチドを有しない組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質と比較して、肝向性の更なる低減及び筋形質導入の増大を有する、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質に関する。また、本発明は、目的の遺伝子をパッケージングする導出されたペプチド改変ハイブリッドAAV血清型ベクター粒子、及び特に神経筋遺伝病、特に筋遺伝病を治療するための、遺伝子療法におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RGDモチーフを含むペプチドの少なくとも1コピーを含む、AAV血清型9(AAV9)カプシドタンパク質とAAV血清型74(AAVrh74)カプシドタンパク質とのペプチド改変ハイブリッドである組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質であって、前記組換えペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質が、前記ペプチドを有しない組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質と比較して、肝向性の更なる低減及び筋形質導入の増大を有する、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質。
【請求項2】
AAV9カプシド配列又はAAVrh74カプシド配列の可変領域の、他のAAV血清型カプシド配列の対応する可変領域による置換から生じ、
AAV9カプシドの前記可変領域が、配列番号1のAAV9カプシドの331~493位のうちのいずれか1つから556~736位のうちのいずれか1つまでに位置する配列、又は配列番号1のAAV9カプシドの493~556位に位置する配列の少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55若しくは60個の連続アミノ酸の断片に対応し、且つ
AAVrh74カプシドの前記可変領域が、配列番号2のAAVrh74カプシドの332~495位のうちのいずれか1つから558~738位のうちのいずれか1つまでに位置する配列、又は配列番号2のAAVrh74カプシドの495~558位に位置する配列の少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55若しくは60個の連続アミノ酸の断片に対応する、
請求項1に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項3】
配列番号1のAAV9カプシドの449~609位、又は配列番号2のAAVrh74カプシドの450~611位に位置する配列に対応する可変領域の、他のAAV血清型カプシド配列の対応する可変領域による置換から生じる、請求項2に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項4】
配列番号3及び配列番号4の配列、並びに前記配列との少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列を含むハイブリッドAAVカプシドタンパク質に由来する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項5】
配列番号3、及び前記配列との少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列を含むハイブリッドAAVカプシドタンパク質に由来する、請求項4に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項6】
配列番号3の配列を含むハイブリッドAAVカプシドタンパク質に由来する、請求項5に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項7】
前記RGDモチーフを含む前記ペプチドが、最高で30個のアミノ酸のペプチドである、請求項1から6のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項8】
前記ペプチドが、RGDLGLS(配列番号8)、LRGDGLS(配列番号14)、LGRGDLS(配列番号15)、LGLRGDS(配列番号16)、LGLSRGD(配列番号17)及びRGDMSRE(配列番号18)のうちのいずれか1つを含むか又はからなる、請求項7に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項9】
前記ペプチドが、配列番号8を含むか又はからなる、請求項8に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項10】
配列番号8及び配列番号14~18の配列が、それらのN末端及び/又はC末端において最高で5個のアミノ酸と隣接している、請求項8又は9に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項11】
配列番号8及び配列番号14~18の配列が、ペプチドのN末端及びC末端において、それぞれ、GQSG(配列番号9)及びAQAA(配列番号10)と隣接している、請求項10に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項12】
前記ペプチドが、配列番号13を含むか又はからなる、請求項11に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項13】
前記RGDモチーフを含む前記ペプチドの最高で5コピーを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項14】
前記RGDモチーフを含む前記ペプチドの前記少なくとも1コピーが、AAVカプシド表面上露出する部位に挿入されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項15】
前記RGDモチーフを含む前記ペプチドの前記少なくとも1コピーが、配列番号3における番号付けによる261、383、449、575又は590位のうちのいずれかの周りに挿入されている、請求項14に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項16】
前記RGDモチーフを含む前記ペプチドの前記少なくとも1コピーが、配列番号3における番号付けによる449又は590位の周りに挿入されている、請求項15に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項17】
前記RGDモチーフを含む前記ペプチドの前記少なくとも1コピーが、配列番号3における番号付けによる590位の周りに挿入されている、請求項16に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項18】
前記RGDモチーフを含む前記ペプチドの前記少なくとも1コピーの挿入部位が、配列番号3における番号付けによる587~592位である、請求項17に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項19】
前記RGDモチーフを含む前記ペプチドが、配列番号3における番号付けによるAAVカプシドタンパク質の587~592位の全ての残基を置換する、請求項18に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項20】
配列番号5、及び前記配列との少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択される配列を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項21】
ハイブリッドVP1、VP2又はVP3タンパク質である、請求項1から20のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質。
【請求項22】
- (i)AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工AAV血清型からの配列を有するVP1特異的N末端領域と、(ii)AAV9、AAVrh74、又はAAV9及びAAVrh74以外の天然若しくは人工AAV血清型からの配列を有するVP2特異的N末端領域と、(iii)請求項21に規定のハイブリッドVP3タンパク質の配列を有するVP3 C末端領域とを含むキメラVP1タンパク質、並びに
- (i)AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工AAV血清型からの配列を有するVP2特異的N末端領域と、(ii)請求項21に規定のハイブリッドVP3タンパク質の配列を有するVP3 C末端領域とを含むキメラVP2タンパク質
からなる群から選択される組換えキメラAAVカプシドタンパク質。
【請求項23】
発現可能な形式の、請求項1から21のいずれか一項に記載の組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質、又は請求項22に記載の組換えキメラAAVカプシドタンパク質をコードし、究極的には発現可能な形式のAAVレプリカーゼタンパク質を更にコードするポリヌクレオチド。
【請求項24】
請求項23に記載のポリヌクレオチドを含む組換えプラスミド。
【請求項25】
請求項1から21のいずれか一項に記載のハイブリッド組換えAAVカプシドタンパク質、及び/又は請求項22に記載の組換えキメラAAVカプシドタンパク質、並びに究極的にはまた、AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工AAV血清型からの少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質を含む、目的の遺伝子をパッケージングするAAVベクター粒子。
【請求項26】
目的の前記遺伝子が、
(i)治療用遺伝子;
(ii)治療用タンパク質又はペプチド、例えば治療用抗体又は抗体断片、及びゲノム編集酵素をコードする遺伝子;並びに
(iii)治療用RNA、例えば干渉RNA、ゲノム編集のためのガイドRNA、及びエクソンスキッピングすることができるアンチセンスRNAをコードする遺伝子
からなる群から選択される、請求項25に記載のAAVベクター粒子。
【請求項27】
治療有効量の、請求項25又は請求項26に記載のAAVベクター粒子を含む医薬組成物。
【請求項28】
遺伝子療法における医薬としての使用のための、好ましくは筋組織に影響を及ぼす遺伝病、がん又は自己免疫疾患を治療するための、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、筋細管ミオパチー、ポンペ病及び糖原病IIIを含む群から選択される神経筋遺伝障害を司る遺伝子をターゲティングする、請求項28に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項30】
標的遺伝子が、DMD、CAPN3、DYSF、FKRP、ANO5、SMN1、MTM1、GAA及びAGL遺伝子を含む群から選択される、請求項29に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドを有しないハイブリッドアデノ随伴ウイルス(AAV:adeno-associated virus)カプシドタンパク質と比較して、肝向性の更なる低減及び筋形質導入の増大を有する、AAV血清型9(AAV9)カプシドタンパク質とAAV血清型rh74(AAVrh74)カプシドタンパク質とのペプチド改変ハイブリッドである組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドに関する。また、本発明は、目的の遺伝子をパッケージングする導出されたペプチド改変ハイブリッドAAV血清型ベクター粒子、及び特に神経筋遺伝病、特に筋遺伝病を治療するための、遺伝子療法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV:recombinant AAV)ベクターは、in vivo遺伝子導入のために広く使用されている。rAAVベクターは、20nmの直径のカプシドと4.7kbの一本鎖DNAとからなる非エンベロープベクターである。ゲノムは、末端逆位配列(ITR:Inverted terminal Repeat)と呼ばれる2つのパリンドローム領域と隣接している2つの遺伝子、rep及びcapを有する。cap遺伝子は、AAVカプシドを構成する3つの構造タンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする。VP1、VP2及びVP3は、VP3の全てである同じC末端を共有する。AAV2の使用には標準があり、VP1は735個のアミノ酸配列を有し(GenBank YP_680426)、VP2(598個のアミノ酸)はトレオニン138(T138)で開始し、VP3(533個のアミノ酸)はメチオニン203(M203)で開始する。AAV血清型は、それらのカプシドによって規定される。様々な血清型が存在し、それらの各々は、それ自体の組織ターゲティング特異性を示す。それゆえ、ある血清型を使用する選択は、形質導入する組織に依存する。骨格筋及び肝組織は、様々な血清型のAAVベクター、例えば、AAV8、AAV9及びAAV-rh74によって効率的に感染及び形質導入される。
【0003】
AAV形質導入効率を増大するため、又は目的の細胞の種類若しくは組織の種類へのAAV向性を増大するために、様々な天然AAV血清型のカプシド間でカプシド配列の断片を交換することによって、キメラ又はハイブリッドAAV血清型が生成されている。
【0004】
AAV8のカプシドの構造ドメインと霊長類の脳から単離したAAV血清型とを組み合わせることによって、ハイブリッドAAVカプシドが生成された。生じたAAVハイブリッド血清型は、ヒト及びマウスにおいて網膜組織に形質導入することができ、AAV2及びAAV5ベクターと比較して効率における増大はない(Charbel Issaら、PLOS ONE、2013、8、e60361)。しかしながら、ハイブリッドAAV血清型のうちの1つは、AAV1、AAV8及びAAV9と比較して脂肪組織についての形質導入効率の改善を示す(Liuら、Molecular Therapy、2014、1、8、doi:10.1038/mtm)。
【0005】
WO2015/191508は、様々な種(ヒト、霊長類、トリ、ヘビ、ウシ)のAAVカプシドの可変領域を交換することによって生成された組換えハイブリッドAAVカプシド、特に、CNS特異的キメラカプシドを生成するための中枢神経系向性を有するAAVカプシドを開示する。
【0006】
WO2017/096164は、ヒト骨格筋向性の向上を示す、AAV1、AAV2、AAV3b、AAV6及びAAV8血清型間の組換えハイブリッドAAVカプシドを開示する。
【0007】
しかしながら、今日までに試験された全ての天然AAV血清型及びバリアントは、肝臓内に蓄積する傾向を有する。このことは、特にAAVベクターが全身性経路によって投与される場合、問題を引き起こす。第一に、筋肉において発現されることを目的とする導入遺伝子は、肝臓に対して毒性効果を有し得る。第二に、肝臓へのAAVベクターの進入は、骨格筋が使用可能なベクター量を低減する。その結果、より高い用量のAAVベクターが必要とされる。これは、肝毒性を誘導する可能性及びベクター産生コストを増大する。
【0008】
組織特異的プロモーター及びマイクロRNAベースの遺伝子制御策は、異なる組織の種類間で遺伝子発現パターンを分離するために使用されている。しかしながら、そのような制御策は、全身性投与後の肝臓等のオフターゲット器官におけるAAVベクターゲノムの隔離を排除しない。
【0009】
カプシドタンパク質の塩基性残基R585又はR588を変異させることによるヘパリン結合の減衰は、AAV2由来ベクターのヘパリン硫酸結合を廃止し、肝向性を低減することが示された(Asokanら、Nat. Biotechnol.、2010、28、79~82頁)。しかしながら、この方策は、肝向性が塩基性残基のヘパリンへの結合によって決定されるAAV2及びAAV6のような血清型についてのみ働き得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2015/191508
【特許文献2】WO2017/096164
【特許文献3】WO2005/033321
【特許文献4】WO2012/112832
【特許文献5】WO2016049230
【特許文献6】米国特許出願公開第2014/0162319号
【特許文献7】WO2015/013313
【特許文献8】WO2006/110689
【特許文献9】WO2013/123503
【特許文献10】WO2013/158879
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Charbel Issaら、PLOS ONE、2013、8、e60361
【非特許文献2】Liuら、Molecular Therapy、2014、1、8、doi:10.1038/mtm
【非特許文献3】Asokanら、Nat. Biotechnol.、2010、28、79~82頁
【非特許文献4】Michelfelderら、PLoS ONE、2009、4、e5122
【非特許文献5】Kunzeら、Glia、2018、66、413~427頁
【非特許文献6】Genetics Computer Group、GCGパッケージのプログラムマニュアル、第7版、Madison、Wisconsin
【非特許文献7】Girodら、Nat. Med.、1999、5、1052~1056頁
【非特許文献8】Grifmanら、Molecular Therapy、2001、3、964~975頁
【非特許文献9】Rabinowitzら、Virology、1999、265、274~285頁
【非特許文献10】Wuら、J. Virol.、2000、74、8635~8647頁
【非特許文献11】Aponte-Ubillusら、Applied Microbiology and Biotechnology、2018、102:1045~1054頁
【非特許文献12】McCartyら、Gene Therapy、2003、12月、10(26)、2112~2118頁
【非特許文献13】Babi Ramesh Reddy Nallamilliら、Annals of Clinical and Translational Neurology、2018、5、1574~1587頁
【非特許文献14】Rohrら、J. Virol. Methods、2002、106、81~88頁
【非特許文献15】French and European legislation on animal care and experimentation (2010/63/EU)
【非特許文献16】Kienle EC (Dissertation for the degree of Doctor of natural Sciences, Combined Faculties for the Natural Sciences and for Mathematics of the Ruperto-Carola University of Heidelberg、Germany、2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それゆえ、肝向性の低減及び付随する筋形質導入の増大を有する新しいAAVベクターについての要求が存在している。
【0013】
AAVカプシド(VP1タンパク質番号付けに対してR588の位置)に挿入されているRGDLGLS(配列番号8)ペプチドをディスプレイするAAV2ベクターは、in vitroでマウス初代乳がん細胞に効率的に形質導入するが、in vivoでは乳がん腫瘍細胞に形質導入できない(Michelfelderら、PLoS ONE、2009、4、e5122)。同じ表面ペプチド(RGDLGLS又はP1)をディスプレイするAAV9は、in vitroでヒト星状細胞を効率的にターゲティングする(Kunzeら、Glia、2018、66、413~427頁)。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、筋組織及び肝組織に効率的に感染する2つの血清型、AAV9及びAAV-rh74の組合せを使用して新しいペプチド改変ハイブリッドAAV血清型を生成した。新しいペプチド改変ハイブリッドAAV血清型は、RGDモチーフを含むペプチドの、AAV9血清型とAAVrh74血清型とのcap遺伝子の可変領域への挿入によって生成された(図1)。発明者らは、RGDモチーフを含むペプチドの、ハイブリッドカプシドタンパク質への挿入は、筋形質導入を増大し、且つ肝脱ターゲティングを改善することを、驚くべきことに発見した(図2)。
【0015】
新しいペプチド改変ハイブリッドAAV血清型は、遺伝病、自己免疫疾患、神経変性疾患及びがんを含む、筋組織、特に骨格筋組織及び/又は心組織に影響を及ぼす疾患、例えば神経筋障害、特に筋障害の遺伝子療法において有用である。
【0016】
それゆえ、本発明は、筋形質導入の増大及び肝向性の低減を有する、AAV9カプシドとAAVrh74カプシドとのペプチド改変ハイブリッド組換えAAVカプシド、ペプチド改変ハイブリッド組換えAAVカプシドを含むAAVベクター粒子、ペプチド改変ハイブリッドAAV血清型ベクター粒子を含む組成物、並びに特に遺伝子療法において、前記ペプチド改変ハイブリッドAAV血清型ベクター粒子及び組成物を製造及び使用する方法を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】AAV9とAAVrh74とのハイブリッドAAV血清型におけるペプチド挿入の設計。A. AAV9、AAVrh74及びAAV9-rh74ハイブリッドカプシドのCap遺伝子(VP1)の略図(可変領域の配列を強調している)。B. AAV-MTカプシドのVP1タンパク質は、15個のアミノ酸(15マー)の、AAV9-rh74カプシドのVP1のアミノ酸586~593の間への挿入から派生する。
図2A】GSDIIIマウスにおけるAAV9-RH74及びAAV-MTの相対的体内分布。GSDIIIマウスの尾静脈に、2x1012個のベクターゲノム/マウスの示されるAAVベクターを注射した。注射の3カ月後、組織を収集した。PBSを注射したマウスを、対照として使用した。肝臓において、細胞当たりのベクターゲノムコピー数(VGCN:vector genome copy number/細胞)を測定した。データは、平均値±標準偏差として示した。統計解析を一元配置分散分析によって行った(*=PBSに対してp<0.05;1群当たりn=4~5匹のマウス)。
図2B】GSDIIIマウスにおけるAAV9-RH74及びAAV-MTの相対的体内分布。GSDIIIマウスの尾静脈に、2x1012個のベクターゲノム/マウスの示されるAAVベクターを注射した。注射の3カ月後、組織を収集した。PBSを注射したマウスを、対照として使用した。心臓において、細胞当たりのベクターゲノムコピー数(VGCN/細胞)を測定した。データは、平均値±標準偏差として示した。統計解析を一元配置分散分析によって行った(*=PBSに対してp<0.05;1群当たりn=4~5匹のマウス)。
図2C】GSDIIIマウスにおけるAAV9-RH74及びAAV-MTの相対的体内分布。GSDIIIマウスの尾静脈に、2x1012個のベクターゲノム/マウスの示されるAAVベクターを注射した。注射の3カ月後、組織を収集した。PBSを注射したマウスを、対照として使用した。横隔膜において、細胞当たりのベクターゲノムコピー数(VGCN/細胞)を測定した。データは、平均値±標準偏差として示した。統計解析を一元配置分散分析によって行った(§=全てに対してp<0.05;1群当たりn=4~5匹のマウス)。
図2D】GSDIIIマウスにおけるAAV9-RH74及びAAV-MTの相対的体内分布。GSDIIIマウスの尾静脈に、2x1012個のベクターゲノム/マウスの示されるAAVベクターを注射した。注射の3カ月後、組織を収集した。PBSを注射したマウスを、対照として使用した。四頭筋において、細胞当たりのベクターゲノムコピー数(VGCN/細胞)を測定した。データは、平均値±標準偏差として示した。統計解析を一元配置分散分析によって行った(§=全てに対してp<0.05;1群当たりn=4~5匹のマウス)。
図2E】GSDIIIマウスにおけるAAV9-RH74及びAAV-MTの相対的体内分布。GSDIIIマウスの尾静脈に、2x1012個のベクターゲノム/マウスの示されるAAVベクターを注射した。注射の3カ月後、組織を収集した。PBSを注射したマウスを、対照として使用した。長趾伸筋(EDL:extensor digitorum longus)において、細胞当たりのベクターゲノムコピー数(VGCN/細胞)を測定した。データは、平均値±標準偏差として示した。統計解析を一元配置分散分析によって行った(*=PBSに対してp<0.05;1群当たりn=4~5匹のマウス)。
図2F】GSDIIIマウスにおけるAAV9-RH74及びAAV-MTの相対的体内分布。GSDIIIマウスの尾静脈に、2x1012個のベクターゲノム/マウスの示されるAAVベクターを注射した。注射の3カ月後、組織を収集した。PBSを注射したマウスを、対照として使用した。腓腹筋において、細胞当たりのベクターゲノムコピー数(VGCN/細胞)を測定した。データは、平均値±標準偏差として示した。統計解析を一元配置分散分析によって行った(§=全てに対してp<0.05;1群当たりn=4~5匹のマウス)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ペプチド改変組換えハイブリッドAAVカプシドタンパク質
本発明の一態様は、RGDモチーフを含むペプチドの少なくとも1コピーを含む、AAV血清型9(AAV9)カプシドタンパク質とAAV血清型74(AAVrh74)カプシドタンパク質とのペプチド改変ハイブリッドである組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質であって、前記組換えペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質が、ペプチドを有しないハイブリッドAAVカプシドタンパク質と比較して、肝向性の更なる低減及び筋形質導入の増大を有する、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質に関する。
【0019】
本明細書で使用される場合、「向性」という用語は、特定の種類の細胞又は組織に感染又は形質導入することについての、AAVウイルス粒子において存在するAAVカプシドタンパク質の特異性を指す。
【0020】
特定の種類の細胞又は組織についてのAAVカプシドの向性は、当該技術分野において周知の標準のアッセイ、例えば本出願の実施例において開示されるアッセイを使用して、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質を含むAAVベクター粒子の、特定の種類の細胞又は組織に感染又は形質導入する能力を測定することによって決定することができる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「肝向性(liver tropism)」又は「肝性向性(hepatic tropism)」という用語は、肝細胞を含む、肝又は肝性組織及び細胞についての向性を指す。
【0022】
一部の実施形態では、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質の肝向性は、ペプチドを有しないハイブリッドAAVカプシドタンパク質の肝向性と比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%又はそれよりも多く更に低減される。
【0023】
本発明により、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、ペプチドを有しないハイブリッドAAVカプシドと比較して、筋細胞及び組織についての向性及び形質導入の増大を有する。
【0024】
筋組織は、特に心筋組織及び骨格筋組織を含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、「筋細胞」という用語は、ミオサイト、筋管、筋芽細胞及び/又は衛星細胞を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「又は」は「及び/又は」を意味する。
【0027】
一部の実施形態では、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質の筋向性又は筋形質導入は、ペプチドを有しないハイブリッドAAVカプシドタンパク質と比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%又はそれよりも多く;好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、99%、100%又はそれよりも多く増大される。
【0028】
一部の実施形態では、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、ペプチド改変ハイブリッドVP1、VP2又はVP3タンパク質である。
【0029】
一部の実施形態では、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、少なくとも骨格筋組織についての向性を有する。一部の好ましい実施形態では、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、骨格筋組織及び心筋組織の両方についての向性を有する。この種類のペプチド改変ハイブリッドの例は、配列番号5のペプチド改変ハイブリッドAAVカプシド(実施例においてAAV-MTと命名されている)である。この種類のペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドは、心筋障害及び骨格筋障害の治療のために有用である。
【0030】
本発明によるペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、任意のAAV9カプシドタンパク質配列及び任意のAAVrh74カプシドタンパク質配列に由来し得る;そのような配列は、当該技術分野において周知であり、公の配列データベースにおいて入手可能である。例えば、AAV9カプシドタンパク質は、ジェンバンク(GenBank)受託番号AY530579.1;WO2005/033321の配列番号123;WO2012/112832の配列番号1;WO2016049230のクレードF AAV;WO2012/112832で開示されている、271(D)、446(Y)及び470(N)位のネイティブ残基のうちの1つ又は複数が、別のアミノ酸、好ましくはアラニンで置換されているAAV9カプシドバリアント;米国特許出願公開第2014/0162319号で開示されている、K143R、T251A、S499A、S669A及びS490Aの位置のうちの1つ又は複数におけるAAV9カプシドバリアントに対応する。AAVrh74カプシドタンパク質は、WO2015/013313の配列番号1;WO2006/110689の配列番号6;WO2013/123503の配列番号1;WO2013/158879の配列番号4;並びにK137R、K333R、K550R、K552R、K569R、K691R、K695R、K709Rバリアント及びそれらの組合せに対応する。
【0031】
一部の実施形態では、本発明によるペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号1(ジェンバンクAY530579.1)のAAV9カプシドタンパク質、及び配列番号2のAAVrh74タンパク質に由来する。
【0032】
一部の実施形態では、本発明によるペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、AAV9カプシド配列又はAAVrh74カプシド配列の可変領域の、他のAAV血清型カプシド配列の対応する可変領域による置換から生じ、
AAV9カプシドの可変領域は、配列番号1(参照配列)のAAV9カプシドの331~493位のうちのいずれか1つから556~736位のうちのいずれか1つまでに位置する配列、又は配列番号1のAAV9カプシドの493~556位に位置する配列の少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55若しくは60個の連続アミノ酸の断片に対応し、且つ
AAVrh74カプシドの可変領域は、配列番号2(参照配列)のAAVrh74カプシドの332~495位のうちのいずれか1つから558~738位のうちのいずれか1つまでに位置する配列、又は配列番号2のAAVrh74カプシドの495~558位に位置する配列の少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55若しくは60個の連続アミノ酸の断片に対応する。
【0033】
本発明は、上記に定義される通り、AAV9カプシド配列又はAAVrh74カプシド配列の可変領域の、他のAAV血清型カプシド配列の対応する可変領域での置換による、任意のAAV9カプシドタンパク質配列及び任意のAAVrh74カプシドタンパク質配列に由来するペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質を包含する。本発明により、可変領域は、配列番号1のAAV9カプシド及び配列番号2のAAVrh74カプシドを参照として使用して定義される。当該技術分野において周知の標準のタンパク質配列整列プログラム、例えば、BLAST、FASTA、CLUSTALW等を使用した、任意の他のAAV9カプシド配列と配列番号1との配列整列、又は他のAAVrh74カプシド配列のうちのいずれかと配列番号2との配列整列後、当業者は、他のAAV9カプシド配列又はAAVrh74カプシド配列における可変領域の対応する位置を容易に得ることができる。
【0034】
一部の好ましい実施形態では、本発明によるペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号1のAAV9カプシド配列の449~609位、又は配列番号2のAAVrh74カプシド配列の450~611位に位置する領域に対応する可変領域の、他の血清型の対応する可変領域による置換から生じる。
【0035】
一部の好ましい実施形態では、本発明によるペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号3、配列番号4、及び前記配列との少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択されるハイブリッドAAVカプシドに由来する。配列番号3は、AAV9可変領域(配列番号1の449~609位)の、AAVrh74カプシドタンパク質の可変領域(配列番号2の450~611位)での置換により、配列番号1のAAV9カプシドタンパク質に由来し;対応するハイブリッドは、実施例においてHybrid Cap9-rh74と命名されている。VP2は、配列番号3のT138~末端のアミノ酸配列に対応する。VP3は、配列番号3のM203~末端のアミノ酸配列に対応する。配列番号4は、rh74可変領域(配列番号2の450~611位)の、AAV9カプシドタンパク質の可変領域(配列番号1の449~609位)での置換により、配列番号2のAAVrh74カプシドタンパク質に由来し;対応するハイブリッドは、実施例においてHybrid Caprh74-9と命名されている。VP2は、配列番号4のT138~末端のアミノ酸配列に対応する。VP3は、配列番号4のM204~末端のアミノ酸配列に対応する。
【0036】
一部の好ましい実施形態では、本発明によるペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、上記に定義される、AAV9カプシド配列の可変領域の、AAVrh74カプシド配列の対応する可変領域での置換により、AAV9カプシドタンパク質に由来し、好ましくは、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号1のAAV9カプシドの449~609位に位置する領域に対応する可変領域の、配列番号2のAAVrh74カプシドの450~611位に位置する領域に対応する可変領域での置換を含む。一部のより好ましい実施形態では、本発明によるペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号3、及び前記配列との少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択されるハイブリッドAAVカプシドタンパク質;好ましくは配列番号3に由来する。
【0037】
「同一性」という用語は、2つのポリペプチド分子間、又は2つの核酸分子間の配列類似性を指す。比較される両方の配列におけるある位置が同じ塩基又は同じアミノ酸残基によって占有されている場合、各々の分子は、その位置において同一である。2つの配列間の同一性の割合は、2つの配列によって共有される適合位置の数を、比較した位置の数で割り、100倍した数に対応する。一般的に、比較は、2つの配列が最大同一性を与えるように整列させて、行われる。同一性は、例えば、GCG(Genetics Computer Group、GCGパッケージのプログラムマニュアル、第7版、Madison、Wisconsin)パイルアッププログラム、又は配列比較アルゴリズムのうちのいずれか、例えば、BLAST、FASTA若しくはCLUSTALWを使用した整列によって計算することができる。
【0038】
RGDモチーフを含むペプチドは、好ましくは最高で30個のアミノ酸のペプチドである。
【0039】
一部の実施形態では、最高で30個のアミノ酸のペプチドは、RGDLGLS(配列番号8)、LRGDGLS(配列番号14)、LGRGDLS(配列番号15)、LGLRGDS(配列番号16)、LGLSRGD(配列番号17)及びRGDMSRE(配列番号18)のうちのいずれか1つ;好ましくは配列番号8を含むか又はからなる。配列番号8及び配列番号14~18の配列は、それらのN末端及び/又はC末端において最高で5個又はそれよりも多いアミノ酸と隣接し、例えば、ペプチドのN末端及びC末端において、それぞれ、GQSG(配列番号9)及びAQAA(配列番号10)と隣接し得る。
【0040】
本発明のペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、RGDモチーフを含むペプチドの最高で5コピー、好ましくは前記ペプチドの1コピーを含み得る。ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、同じペプチドの複数コピー、又は異なるペプチドの1コピー若しくは複数コピーを含み得る。
【0041】
本発明のペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、AAVカプシド表面上に露出する部位に挿入されている、RGDモチーフを含む1つ又は複数のペプチドを含む。カプシド表面上に露出し、且つペプチド挿入を許容する、すなわち、ウイルスカプシドのアセンブリー及びパッケージングに影響を及ぼさないAAVカプシド上の部位は、当該技術分野において周知であり、例えば、AAVカプシド表面ループ又は抗原性ループを含む(Girodら、Nat. Med.、1999、5、1052~1056頁;Grifmanら、Molecular Therapy、2001、3、964~975頁);他の部位は、Rabinowitzら、Virology、1999、265、274~285頁;Wuら、J. Virol.、2000、74、8635~8647頁において開示されている。
【0042】
特に、RGDモチーフを含むペプチドは、配列番号3における番号付けによる261、383、449、575又は590位のうちのいずれかの周りに、好ましくは449又は590位の周りに、より好ましくは590位の周りに挿入されている。これらの位置は、配列番号3を参照して示され、当業者は、配列番号3との整列後に別の配列における対応する位置を容易に発見し得る。
【0043】
挿入部位は、有利には、配列番号3における番号付けによる587~592位又は588~593位、好ましくは587~592位である。ペプチドの挿入は、挿入部位の残基の一部又は全ての欠失を引き起こしてもよく、引き起こさなくてもよい。ペプチドは、有利には、配列番号3における番号付けによるAAVカプシドタンパク質の587~592位又は588~593位の全ての残基;好ましくは587~592位の残基の全てを置換する。
【0044】
一部の好ましい実施形態では、ペプチドは、配列番号3における番号付けによるAAVカプシドタンパク質の587~592位の全ての残基を置換する。好ましくは、前記ペプチドは、RGDLGLS(配列番号8)、LRGDGLS(配列番号14)、LGRGDLS(配列番号15)、LGLRGDS(配列番号16)、LGLSRGD(配列番号17)及びRGDMSRE(配列番号18)のうちのいずれか1つ;好ましくは配列番号8を含む。より好ましいペプチドは、そのN末端及びC末端において、それぞれ、GQSG(配列番号9)及びAQAA(配列番号10)と隣接しているRGDLGLS(配列番号8)(GQSGRGDLGLSAQAA(配列番号13)に対応する)である。
【0045】
一部の好ましい実施形態では、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号5、前記配列との少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列、及びVP2又はVP3カプシドタンパク質に対応するそれらの断片からなる群から選択される配列を含むか又はからなる。VP2は、配列番号5のT138~末端のアミノ酸配列に対応する。VP3は、配列番号5のM203~末端のアミノ酸配列に対応する。一部の好ましい実施形態では、前記ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号5の配列、又はVP2若しくはVP3カプシドタンパク質に対応するその断片を含む。配列番号5は、配列番号8のペプチドの挿入による配列番号3のハイブリッドCap9-rh74に由来する。
【0046】
一部の好ましい実施形態では、前記ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号5の配列、前記配列との少なくとも85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列、及びVP2又はVP3カプシドタンパク質に対応するそれらの断片からなる群から選択される配列を含む。VP2は、配列番号5のT138~末端のアミノ酸配列に対応する。VP3は、配列番号5のM203~末端のアミノ酸配列に対応する。一部の好ましい実施形態では、前記ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質は、配列番号5の配列、又はVP2若しくはVP3カプシドタンパク質に対応するその断片を含む。
【0047】
また、本発明は、本発明によるペプチド改変AAV9/rh74ハイブリッドVP3カプシドタンパク質に由来するAAV VP1及びVP2キメラカプシドタンパク質を包含し、VP1特異的N末端領域及び/又はVP2特異的N末端領域は、AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工AAV血清型からの領域である。
【0048】
一部の実施形態では、ペプチド改変AAV VP1キメラカプシドタンパク質は、
(i)AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工AAV血清型からの配列を有するVP1特異的N末端領域と、
(ii)AAV9、AAVrh74、又はAAV9及びAAVrh74以外の天然若しくは人工AAV血清型からの配列を有するVP2特異的N末端領域と、
(iii)本発明によるペプチド改変ハイブリッドVP3タンパク質の配列を有するVP3 C末端領域と
を含む。
【0049】
一部の実施形態では、AAV VP2キメラカプシドタンパク質は、
(i)AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工AAV血清型からの配列を有するVP2特異的N末端領域と、
(ii)本発明によるペプチド改変ハイブリッドVP3タンパク質の配列を有するVP3 C末端領域と
を含む。
【0050】
AAVベクター産生のためのポリヌクレオチド、ベクター及び使用
本発明の別の態様は、発現可能な形式の、組換えペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドは、DNA、RNA又は合成若しくは半合成核酸であり得る。
【0051】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、本発明によるペプチド改変ハイブリッドVP1、VP2及びVP3カプシドタンパク質をコードするAAV9/rh74ハイブリッドcap遺伝子である。一部の好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号6の配列(配列番号5のペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質をコードする)を含む。
【0052】
一部の他の実施形態では、ポリヌクレオチドは、本発明によるペプチド改変AAV9/rh74ハイブリッドVP3カプシドタンパク質、及びキメラVP1カプシドタンパク質、並びにことによるとまたキメラVP2カプシドタンパク質をコードするキメラcap遺伝子であり、VP1特異的N末端領域、及びことによるとまたVP2特異的N末端領域は、AAV9及びAAVrh74以外の天然又は人工AAV血清型からの領域である。そのようなキメラcap遺伝子は、選択された異なるAAV血清型、同じAAV血清型の非隣接部分から、非ウイルスAAV源から、又は非ウイルス源から得られ得る異種の配列と組み合わせた、本発明によるペプチド改変AAV9/rh74ハイブリッドVP3カプシドタンパク質のコード配列を使用して、任意の好適な技法によって生成することができる。
【0053】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、発現可能な形式のAAVレプリカーゼ(Rep:Replicase)タンパク質、好ましくはAAV2からのRepを更にコードする。
【0054】
ポリヌクレオチドは、非限定的な様式で、染色体核酸、非染色体核酸、合成又は半合成核酸からなる直鎖状又は環状DNA又はRNA分子を含む組換えベクター、例えば特に、ウイルスベクター、プラスミド又はRNAベクターに有利に挿入される。
【0055】
目的の核酸分子を真核宿主細胞に導入するため、及び目的の核酸分子を真核宿主細胞において維持するために、目的の核酸分子が挿入され得る多くのベクターは、それ自体公知であり;適切なベクターの選択は、このベクターについて想起される使用(例えば、目的の配列の複製、この配列の発現、この配列の染色体外形式での維持、そうでなければ宿主の染色体物質への組込み)に、及びまた、宿主細胞の性質に依存する。
【0056】
一部の実施形態では、ベクターは、プラスミドである。
【0057】
本発明における使用のための組換えベクターは、ペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質、及びことによるとまたAAV Repタンパク質の発現のための適切な手段を含む、発現ベクターである。通常、各コード配列(ハイブリッドAAV Cap及びAAV Rep)は、同じベクターにおいて又は別々に、別々の発現カセットに挿入されている。各発現カセットは、対応するタンパク質のAAV産生細胞における発現を可能にする制御配列、例えば、特にプロモーター、プロモーター/エンハンサー、開始コドン(ATG)、停止コドン、転写終止シグナルに機能的に連結されたコード配列(オープンリーディングフレーム又はORF(open reading frame))を含む。或いは、ハイブリッドAAV Cap及びAAV Repタンパク質は、2つのコード配列間に挿入されている配列内リボソーム進入部位(IRES:Internal Ribosome Entry Site)、又はウイルス2Aペプチドを使用する独特な発現カセットから発現され得る。加えて、ハイブリッドAAV Cap及び存在する場合、AAV Repをコードするコドン配列は、AAV産生細胞、特にヒト産生細胞における発現のために有利に最適化される。
【0058】
ベクター、好ましくは組換えプラスミドは、当該技術分野において周知の標準のAAV産生法を使用して、本発明のペプチド改変ハイブリッドAAVカプシドタンパク質を含むハイブリッドAAVベクターを産生するために有用である(Aponte-Ubillusら、Applied Microbiology and Biotechnology、2018、102:1045~1054頁において概略されている)。
【0059】
コトランスフェクション後、細胞を、AAVベクター粒子の産生を可能にするのに十分な時間インキュベートし、その後、細胞を回収し、溶解し、AAVベクター粒子を、標準の精製法、例えば、親和性クロマトグラフィー又は塩化セシウム密度勾配超遠心分離によって精製する。
【0060】
AAV粒子、医薬組成物及び治療的使用
本発明の別の態様は、本発明のペプチド改変ハイブリッド組換えAAVカプシドタンパク質を含むAAV粒子である。AAV粒子は、本発明によるハイブリッドcap遺伝子によってコードされるペプチド改変ハイブリッドVP1、VP2及びVP3カプシドタンパク質を含み得る。或いは又は加えて、AAV粒子は、キメラVP1及びVP2カプシドタンパク質、並びに本発明によるキメラcap遺伝子によってコードされるペプチド改変ハイブリッドVP3タンパク質を含み得る。
【0061】
一部の実施形態では、AAV粒子は、AAV9及びAAVrh74血清型以外の天然又は人工AAV血清型からの別のAAVカプシドタンパク質を更に含むモザイクAAV粒子であり、モザイクAAV粒子は、AAV9及びAAVrh74血清型と比較して肝向性の低減を有する。人工AAV血清型は、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド又はヒト化AAVカプシドであり得るが、これらに限定されない。そのような人工カプシドは、選択された異なるAAV血清型、同じAAV血清型の非隣接部分から、非ウイルスAAV源から、又は非ウイルス源から得られ得る異種の配列と組み合わせた、選択されたAAV配列(例えば、VP1カプシドタンパク質の断片)を使用して、任意の好適な技法によって生成することができる。
【0062】
好ましくは、AAV粒子は、AAVベクター粒子である。AAVベクターのゲノムは、一本鎖又は自己相補的二本鎖ゲノムのいずれかであり得る(McCartyら、Gene Therapy、2003、12月、10(26)、2112~2118頁)。自己相補的ベクターは、AAV末端反復のうちの1つから末端解離部位(trs:terminal resolution site)を欠失させることによって生成される。これらの改変ベクターは、その複製ゲノムが野生型AAVゲノムの長さの半分であり、DNA二量体にパッケージングする傾向を有する。AAVゲノムは、ITRと隣接している。特定の実施形態では、AAVベクターは、偽型ベクターである、すなわち、そのゲノム及びカプシドは、異なる血清型のAAVに由来する。一部の好ましい実施形態では、偽型ベクターのゲノムは、AAV2に由来する。
【0063】
一部の好ましい実施形態では、AAVベクター粒子は、目的の遺伝子をパッケージングする。
【0064】
本発明の組換えAAVベクター粒子を産生する方法を使用して、AAV粒子を得ることができる。
【0065】
「目的の遺伝子」によって、特定の適用、例えば非限定的に、診断、レポート、改変、治療及びゲノム編集に有用な遺伝子を意味する。
【0066】
例えば、目的の遺伝子は、治療用遺伝子、レポーター遺伝子又はゲノム編集酵素であり得る。
【0067】
「治療のための目的の遺伝子」、「治療目的の遺伝子」又は「目的の異種の遺伝子」によって、治療用遺伝子、又は治療用タンパク質、ペプチド若しくはRNAをコードする遺伝子を意味する。
【0068】
目的の遺伝子は、特に筋細胞において、標的遺伝子又は標的細胞経路を改変することができる任意の核酸配列である。例えば、遺伝子は、標的遺伝子の発現、配列若しくは制御、又は細胞経路を改変し得る。一部の実施形態では、目的の遺伝子は、遺伝子又はその断片の機能型である。前記遺伝子の機能型は、野生型遺伝子、バリアント遺伝子、例えば同じファミリー及びその他に属するバリアント、又はコードされるタンパク質の機能を少なくとも部分的に保存する切断型を含む。遺伝子の機能型は、患者において欠損しているか又は非機能的である遺伝子を置換するための置換又は付加遺伝子療法に有用である。他の実施形態では、目的の遺伝子は、常染色体性優性遺伝病を引き起こす優性対立遺伝子を不活性化する遺伝子である。遺伝子の断片は、ゲノム編集酵素と組み合わせた使用のための組換え鋳型として有用である。
【0069】
或いは、目的の遺伝子は、特定の適用のための目的のタンパク質(例えば、抗体又は抗体断片、ゲノム編集酵素)又はRNAをコードし得る。一部の実施形態では、タンパク質は、治療用抗体若しくは抗体断片又はゲノム編集酵素を含む治療用タンパク質である。一部の実施形態では、RNAは、治療用RNAである。目的の遺伝子は、疾患の標的細胞、特に筋細胞において、コードされるタンパク質、ペプチド又はRNAを産生することができる機能的遺伝子である。
【0070】
AAVウイルスベクターは、心筋細胞及び骨格筋細胞を含む筋細胞において発現可能な形式の目的の遺伝子を含む。特に、目的の遺伝子は、筋細胞において機能的である普遍的な組織特異性プロモーター又は誘導性プロモーターに作動可能に連結される。目的の遺伝子は、ポリA配列を更に含む発現カセットに挿入され得る。
【0071】
RNAは、有利には、標的DNA若しくはRNA配列に相補的であるか、又は標的タンパク質に結合する。例えば、RNAは、干渉RNA、例えばshRNA、マイクロRNA、ゲノム編集のためのCas酵素若しくは同様の酵素と組み合わせた使用のためのガイドRNA(gRNA:guide RNA)、エクソンスキッピングすることができるアンチセンスRNA、例えば改変核内低分子RNA(snRNA:small nuclear RNA)、又は長鎖非コードRNA(long non-coding RNA)である。干渉RNA又はマイクロRNAは、筋疾患に関与する標的遺伝子の発現を制御するために使用することができる。ゲノム編集のためのCas酵素又は同様の酵素と組み合わせたガイドRNAは、標的遺伝子の配列を改変するために、特に、変異遺伝子/欠損遺伝子の配列を修正するために、又は疾患、特に神経筋疾患に関与する標的遺伝子の発現を改変するために使用することができる。エクソンスキッピングすることができるアンチセンスRNAは、特に、リーディングフレームを修正し、破壊されたリーディングフレームを有する欠損遺伝子の発現を回復するために使用される。一部の実施形態では、RNAは、治療用RNAである。
【0072】
本発明によるゲノム編集酵素は、特に筋細胞において、標的遺伝子又は標的細胞経路を改変することができる任意の酵素又は酵素複合体である。例えば、ゲノム編集酵素は、標的遺伝子の発現、配列若しくは制御、又は細胞経路を改変し得る。ゲノム編集酵素は、有利には、操作されたヌクレアーゼ、例えば非限定的に、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN:zinc finger nuclease)、転写アクチベーター様エフェクターベースヌクレアーゼ(TALEN:transcription activator-like effector-based nuclease)、CRISPR(clustered regularly interspaced palindromic repeats)-CasシステムからのCas酵素及び同様の酵素である。ゲノム編集酵素、特に操作されたヌクレアーゼ、例えばCas酵素及び同様の酵素は、標的ゲノム遺伝子座において二本鎖切断(DSB:double-strand break)を生成し、非限定的に、遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子ノックイン、遺伝子ノックアウト、変異誘発、染色体転座、染色体欠失等を含む部位特異的ゲノム編集適用に使用される機能的ヌクレアーゼであり得る。部位特異的ゲノム編集適用のために、ゲノム編集酵素、特に操作されたヌクレアーゼ、例えばCas酵素及び同様の酵素は、二本鎖切断(DSB)誘発相同組換えによって標的ゲノム遺伝子座を改変する相同組換え(HR:homologous recombination)マトリックス又は鋳型(DNAドナー鋳型とも呼ばれる)と組み合わせて使用され得る。特に、HR鋳型は、好ましくは神経筋疾患を引き起こす異常な遺伝子又は欠損遺伝子において、目的の導入遺伝子を標的ゲノム遺伝子座に導入するか、又は標的ゲノム遺伝子座の変異を修復することができる。或いは、ゲノム編集酵素、例えばCas酵素及び同様の酵素は、ヌクレアーゼ欠損になるように操作され、様々なゲノム操作適用、例えば非限定的に、転写活性化、転写抑制、エピゲノム改変、ゲノム画像化、DNA又はRNAプルダウン等のためのDNA結合タンパク質として使用され得る。
【0073】
本発明の別の態様は、本発明のペプチド改変ハイブリッド組換えAAVカプシドタンパク質を含む治療有効量のAAV粒子、好ましくは目的の治療用遺伝子をパッケージングしているAAVベクター粒子を含む医薬組成物である。
【0074】
本発明の一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、特に遺伝子療法における、医薬としての使用のためである。本発明は、特に遺伝子療法による疾患の治療のための、医薬としての本発明の医薬組成物の使用を包含する。
【0075】
遺伝子療法は、核、ミトコンドリアに含まれる配列、又は共生核酸としての配列、例えば非限定的に、細胞に含有されるウイルス配列を含む、細胞における任意のコード配列又は制御配列の遺伝子導入、遺伝子編集、エクソンスキッピング、RNA干渉、トランススプライシング又は他の任意の遺伝子改変によって行われ得る。
【0076】
遺伝子療法の2つの主要な種類は、以下のものである:
- 欠損遺伝子/異常遺伝子について機能的置換遺伝子を提供することを目的とする治療:これは、置換又は付加遺伝子療法である;
- 遺伝子又はゲノム編集を目的とする治療:そのような場合、目的は、機能的遺伝子が発現されるか、又は異常な遺伝子が抑制(不活性化)されるように、細胞に、配列を修正するか、又は欠損遺伝子/異常遺伝子の発現若しくは制御を改変するのに必要なツールを提供することである:これは、遺伝子編集療法である。
【0077】
付加遺伝子療法では、目的の遺伝子は、例えば、遺伝病における場合のように、患者において欠損又は変異している遺伝子の機能型であり得る。そのような場合、目的の遺伝子は、機能的な遺伝子の発現を回復する。
【0078】
遺伝子又はゲノム編集は、1つ又は複数の目的の遺伝子、例えば:
(i)上記に定義される治療用RNA、例えばshRNAのような干渉RNA若しくはマイクロRNA、Cas酵素若しくは同様の酵素と組み合わせた使用のためのガイドRNA(gRNA)、又はエクソンスキッピングすることができるアンチセンスRNA、例えば改変核内低分子RNA(snRNA)をコードする遺伝子と、
(ii)上記に定義されるゲノム編集酵素、例えば、メガヌクレアーゼのような操作されたヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターベースヌクレアーゼ(TALEN)、Cas酵素若しくは同様の酵素をコードする遺伝子;又はそのような遺伝子の組合せ、及びことによるとまた、上記に定義される組換え鋳型としての使用のための遺伝子の機能型の断片と
を使用する。
【0079】
遺伝子療法は、非限定的に、遺伝病、特に神経筋遺伝障害、例えば筋遺伝障害;がん;神経変性疾患及び自己免疫疾患を含む、様々な疾患を治療するために使用される。
【0080】
一部の実施形態では、遺伝子療法は、筋組織、特に骨格筋組織及び/又は心組織に影響を及ぼす疾患、例えば非限定的に、神経筋遺伝障害、特に例えば筋遺伝障害を治療するために使用される。
【0081】
本発明の医薬組成物を使用する遺伝子療法によってターゲティングされ得る、筋遺伝障害を含む神経筋遺伝障害における変異遺伝子の例を、以下の表に列挙する:
筋ジストロフィー
【0082】
【表1A】
【0083】
【表1B】
【0084】
先天性筋ジストロフィー
【0085】
【表2】
【0086】
先天性ミオパチー
【0087】
【表3】
【0088】
遠位型ミオパチー
【0089】
【表4】
【0090】
他のミオパチー
【0091】
【表5】
【0092】
筋強直症候群
【0093】
【表6】
【0094】
イオンチャネル筋疾患
【0095】
【表7】
【0096】
悪性高熱症
【0097】
【表8】
【0098】
代謝性筋疾患
【0099】
【表9】
【0100】
遺伝性心筋症
【0101】
【表10A】
【0102】
【表10B】
【0103】
【表10C】
【0104】
先天性筋無力症候群
【0105】
【表11】
【0106】
運動ニューロン疾患
【0107】
【表12A】
【0108】
【表12B】
【0109】
遺伝性運動感覚性ニューロパチー
【0110】
【表13A】
【0111】
【表13B】
【0112】
遺伝性対麻痺
【0113】
【表14A】
【0114】
【表14B】
【0115】
他の神経筋障害
【0116】
【表15】
【0117】
上記に列挙する遺伝子のうちのいずれかは、置換遺伝子療法においてターゲティングすることができ、目的の遺伝子は、欠損遺伝子又は変異遺伝子の機能型である。
【0118】
或いは、上記に列挙する遺伝子は、遺伝子編集の標的として使用することができる。遺伝子編集は、筋細胞において機能的遺伝子が発現されるように、変異遺伝子の配列を修正するか、又は欠損遺伝子/異常遺伝子の発現若しくは制御を改変するために使用される。そのような場合、目的の遺伝子は、治療用RNA、例えば干渉RNA、ゲノム編集のためのガイドRNA、及びエクソンスキッピングすることができるアンチセンスRNAをコードする遺伝子から選択され、治療用RNAは、上記遺伝子リストをターゲティングする。CRISPR/Cas9のようなツールを、その目的のために使用してもよい。
【0119】
したがって、遺伝子編集又は遺伝子置換によって、この遺伝子の正しい型が、罹患者の筋細胞において提供され、これは、この疾患に対する有効な治療に寄与し得る。
【0120】
一部の実施形態では、遺伝子療法(付加遺伝子療法又は遺伝子編集)のための標的遺伝子は、上記に列挙する神経筋疾患のうちの1つの原因である遺伝子、好ましくはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD(Duchenne muscular dystrophy)遺伝子)、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD:Limb-girdle muscular dystrophy)(CAPN3、DYSF、FKRP、ANO5遺伝子及びその他)、脊髄性筋萎縮症(SMN1遺伝子)、筋細管ミオパチー(MTM1遺伝子)、ポンペ病(GAA遺伝子)及び糖原病III(GSD(Glycogen storage disease)3)(AGL遺伝子)を含む群から選択される遺伝子である。
【0121】
ジストロフィン異常症は、タンパク質ジストロフィンをコードするDMD遺伝子の病原性バリアントによって引き起こされるある範囲のX連鎖筋疾患である。ジストロフィン異常症は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD:Becker muscular dystrophy)及びDMD関連拡張型心筋症を含む。
【0122】
肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)は、DMDと臨床的に類似しているが、常染色体劣性遺伝及び常染色体優性遺伝の結果として両方の性において起こる一群の障害である。肢帯型ジストロフィーは、ジストロフィンと相互作用する、サルコグリカン及び筋細胞膜と関連付けられる他のタンパク質をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる。LGMD1という用語は、優性遺伝(常染色体優性)を示す遺伝子型を指し、一方で、LGMD2は、常染色体劣性遺伝を有する型を指す。50個超の遺伝子座における病原性バリアントが報告されている(LGMD1A~LGMD1G;LGMD2A~LGMD2W)。カルパイノパチー(Calpainopathy)(LGMD2A)は、遺伝子CAPN3の変異によって引き起こされ、450個超の病原性バリアントが記載されている。LGMD表現型に寄与する遺伝子には、アノクタミン5(ANO5)、blood vessel epicardial substance (BVES)、カルパイン3(CAPN3)、カベオリン3(CAV3)、CDP-L-リビトールピロホスホリラーゼA(CRPPA)、ジストログリカン1(DAG1)、デスミン(DES)、DnaJ heat shock protein family (Hsp40) homolog, subfamily B, member 6 (DNAJB6)、ジスフェリン(DYSF)、fukutin related protein (FKRP)、フクチン(FKT)、GDP-mannose pyrophosphorylase B (GMPPB)、heterogeneous nuclear ribonucleoprotein D like (HNRNPDL)、LIM zinc finger domain containing 2 (LIMS2)、lain A:C (LMNA)、ミオチリン(MYOT)、プレクチン(PLEC)、protein O-glucosyltransferase 1 (PLOGLUT1)、protein O-linked mannose N-acetylglucosaminyltransferase 1 (beta 1,2-) (POMGNT1)、protein O-mannose kinase (POMK)、protein O-mannosyltransferase 1 (POMT1)、protein O-mannosyltransferase 2 (POMT2)、サルコグリカン(sarcoglycan)・アルファ(SGCA)、サルコグリカン・ベータ(SGCB)、サルコグリカン・デルタ(SGCD)、サルコグリカン・ガンマ(SGCG)、タイチン・キャップ(titin-cap)(TCAP)、トランスポルチン3(TNPO3)、torsin 1A interacting protein (TOR1AIP1)、trafficking protein particle complex 11 (TRAPPC11)、tripartite motif containing 32 (TRIM 32)及びタイチン(TTN)が含まれる。LGMD表現型に主に寄与する遺伝子には、CAPN3、DYSF、FKRP及びANO5が含まれる(Babi Ramesh Reddy Nallamilliら、Annals of Clinical and Translational Neurology、2018、5、1574~1587頁)。
【0123】
脊髄性筋萎縮症は、運動に使用される筋肉における筋力低下及び消耗(萎縮)によって特徴付けられる、Survival Motor Neuron 1 (SMN1)遺伝子における変異によって引き起こされる遺伝障害である。
【0124】
X連鎖筋細管ミオパチーは、運動に使用される筋肉(骨格筋)に影響を及ぼし、且つほぼ排他的に男性において起こる、ミオチューブラリン(myotubularin)(MTM1)遺伝子における変異によって引き起こされる遺伝障害である。この状態は、筋力低下(ミオパチー)及び筋緊張の低減(筋緊張低下)によって特徴付けられる。
【0125】
ポンペ病は、酸性アルファグルコシダーゼ(GAA)遺伝子における変異によって引き起こされる遺伝障害である。GAA遺伝子における変異は、酸性アルファグルコシダーゼがグリコーゲンを有効に破壊することを妨げ、そのため、この糖がリソソーム内で毒性レベルまで蓄積する。この蓄積は、身体全体を通して器官及び組織、特に筋肉を損傷し、ポンペ病の進行性の徴候及び症状をもたらす。
【0126】
糖原病III(GSD3)は、グリコーゲン脱分枝酵素をコードするAmylo-Alpha-1, 6-Glucosidase, 4-Alpha-Glucanotransferase (AGL)遺伝子におけるホモ接合又は複合ヘテロ接合変異によって引き起こされ、外部短鎖を有する異常なグリコーゲンの蓄積を伴う、常染色体劣性代謝障害である。臨床的に、GSD IIIを有する患者は、乳児期又は幼児期に肝腫大、低血糖及び発達遅延を示す。IIIaを有する患者の筋力低下は、小児期には最小限であるが、成人においてはより重度になり得る;一部の患者は、心筋症を発症する。
【0127】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、肝損傷を伴わずに、筋疾患(すなわち、ミオパチー)又は筋傷害、特に神経筋遺伝障害、例えば:筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、他のミオパチー、筋強直症候群、イオンチャネル筋疾患、悪性高熱症、代謝性筋疾患、遺伝性心筋症、先天性筋無力症候群、運動ニューロン疾患、遺伝性対麻痺、遺伝性運動感覚性ニューロパチー及び他の神経筋障害を治療するための使用のためである。一部の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、肝損傷を伴わずに、上記に定義される筋疾患(すなわち、ミオパチー)又は筋傷害、特に筋遺伝障害、例えば:筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、他のミオパチー、筋強直症候群、イオンチャネル筋疾患、悪性高熱症、代謝性筋疾患、遺伝性心筋症及び先天性筋無力症候群;より特に、上記に定義される筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、イオンチャネル筋疾患、悪性高熱症、代謝性筋疾患及び遺伝性心筋症を治療するための使用のためである。
【0128】
置換又は付加遺伝子療法は、がん、特に横紋筋肉腫を治療するために使用され得る。がんにおける目的の遺伝子は、腫瘍細胞の細胞周期若しくは代謝及び遊走を制御し得るか、又は腫瘍細胞死を誘導し得る。例えば、誘導性カスパーゼ9は、好ましくは持続的な抗腫瘍免疫応答を誘発するための組合せ療法において、筋細胞で発現して、細胞死を誘発し得る。
【0129】
遺伝子編集は、自己免疫又はがんの場合、筋細胞における遺伝子発現を改変するために、又はそのような細胞におけるウイルス周期を乱すために使用され得る。そのような場合、好ましくは、目的の遺伝子は、ガイドRNA(gRNA)、部位特異的エンドヌクレアーゼ(TALEN、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、Casヌクレアーゼ)、DNA鋳型及びRNAi成分、例えば、shRNA及びマイクロRNAをコードする遺伝子から選択される。CRISPR/Cas9等のツールは、この目的のために使用され得る。
【0130】
一部の実施形態では、遺伝子療法は、筋組織における治療用遺伝子の発現によって、他の組織に影響を及ぼす疾患を治療するために使用される。これは、特に肝炎等の肝障害の併発を有する患者において、肝臓における治療用遺伝子の発現を避けるために有用である。治療用遺伝子は、好ましくは治療用タンパク質、ペプチド又は抗体をコードし、それは、筋細胞から血流へ分泌され、血流において他の標的組織、例えば肝臓へ送達され得る。治療用遺伝子の例には、非限定的に、第VIII因子、第IX因子及びGAA遺伝子が含まれる。
【0131】
肝向性の低減を有するAAVベクター粒子を含む本発明の医薬組成物は、線維症、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、ウイルス性肝炎若しくは中毒性肝炎、又は肝変性を誘導する根底にある遺伝障害等の肝変性の併発を有する患者に投与され得る。
【0132】
本発明の文脈において、治療有効量とは、そのような用語が適用される障害若しくは状態の進行を後退、緩和若しくは阻害するか、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ若しくは複数の症状の進行を後退、緩和若しくは阻害するのに十分な用量を指す。
【0133】
有効用量は、性別、年齢及び体重、併用投薬、並びに医療分野の当業者が認識する他の因子等の考慮の下、使用される組成物、投与経路、個体の身体的特徴等の因子に依存して決定及び調節される。
【0134】
本発明の様々な実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容できる担体及び/又は媒体を含む。
【0135】
「薬学的に許容できる担体」とは、適宜、哺乳動物、とりわけヒトに投与された場合、有害な反応、アレルギー反応又は他の不都合な反応を産生しない媒体を指す。薬学的に許容できる担体又は賦形剤とは、任意の種類の非毒性固形、半固形又は液体充填剤、希釈剤、封入材料又は配合補助剤を指す。
【0136】
好ましくは、医薬組成物は、注射することができる配合物について薬学的に許容できる媒体を含有する。これらは、特に、等張滅菌食塩水(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウム等、又はそのような塩の混合物)、又は場合によって、滅菌水若しくは生理食塩水の添加に際して、注射可能な溶液の構成を可能にする乾燥、とりわけ凍結乾燥組成物であり得る。
【0137】
注射可能な使用に好適な医薬形態には、滅菌水溶液又は懸濁液が含まれる。溶液又は懸濁液は、ウイルスベクターと適合性であり、且つ標的細胞へのウイルスベクター粒子進入を妨げない添加物を含み得る。全ての場合において、形態は、無菌でなければならず、シリンジ性能が容易な程度まで流動性でなければならない。それは、製造及び保存条件下で安定でなければならず、混入微生物、例えば細菌及び真菌の作用に対して保存されなければならない。適切な溶液の例は、緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS:phosphate buffered saline)又は乳酸リンゲル液である。
【0138】
また、本発明は、患者に、治療有効量の上記に説明する医薬組成物を投与する工程を含む、筋組織、特に骨格筋組織及び/又は心組織に影響を及ぼす疾患を治療するための方法を提供する。
【0139】
また、本発明は、患者に、治療有効量の上記に説明する医薬組成物を投与する工程を含む、筋組織における治療用遺伝子の発現による疾患を治療するための方法を提供する。
【0140】
本明細書で使用される場合、「患者」又は「個体」という用語は、哺乳動物を意味する。好ましくは、本発明による患者又は個体は、ヒトである。
【0141】
本発明の文脈において、「治療すること」又は「治療」という用語は、本明細書で使用される場合、そのような用語が適用される障害若しくは状態の進行を後退、緩和若しくは阻害するか、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ若しくは複数の症状の進行を後退、緩和若しくは阻害することを意味する。
【0142】
本発明の医薬組成物は、患者において治療効果を誘導するのに有効な投与量及び期間で、一般的に公知の手技に従って投与される。
【0143】
投与は、非経口、経口、局部又は局所領域であり得る。非経口投与は、有利には、注射又は点滴、例えば、皮下(SC:subcutaneous)、筋内(IM:intramuscular)、血管内、例えば静脈内(IV:intravenous)、腹腔内(IP:intraperitoneal)、皮内(ID:intradermal)又はその他による。好ましくは、投与は、全身、すなわち、横隔膜及び心臓を含む患者の全ての筋肉において全身作用を産生する。好ましくは、投与は、全身性、より好ましくは非経口である。
【0144】
本発明の実施は、別に示さない限り、当該技術分野の技術の範囲内である従来技法を使用する。そのような技法は、文献において完全に説明されている。
【0145】
本発明は、ここで、附属の図面を参照して、限定的ではない以下の実施例により例示される。
【実施例
【0146】
ペプチド改変ハイブリッドAAV9-rh74血清型ベクター
1.材料及び方法
新しい血清型のためのプラスミド構築
AAV2 Rep配列及びハイブリッドCap 9-rh74を含有するプラスミドを構築するために、AAV9 Cap配列断片と隣接しているAAV-rh74 Capの超可変部分、並びに5'のBsiWI及び3'のEco47III制限酵素部位を含有する1029ntの断片を合成した(GENEWIZ社)。その後、この断片を、AAV2 Rep及びAAV9 Capを含有するプラスミドpAAV2-9において、挙げられる制限酵素部位を使用して挿入して、AAV9 Cap対応配列を置換した。AAV9-rh74カプシドのQQNAAPヘキサペプチド(配列番号11)を、
【0147】
【化1】
【0148】
(配列番号13)アミノ酸配列で置換することによって、ペプチドエングラフメントを行った。
【0149】
AAV産生
HEK293T細胞を、250mLの血清非含有培地中の懸濁液において増殖させた。細胞に、3種のプラスミド:i)発現カセットに隣接するAAV2 ITRを含有する導入遺伝子プラスミド、ii)AAV産生に必要なアデノウイルス配列を含有するヘルパープラスミドpXX6、並びにiii)AAVの血清型を規定するAAV Rep及びCap遺伝子を含有するプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクション2日後、細胞を溶解して、AAV粒子を放出させた。
【0150】
ウイルス溶解物を、親和性クロマトグラフィーによって精製した。ウイルスゲノムを、AAVベクターゲノムのITRに対応するプライマー及びプローブを使用してTaqManリアルタイムPCRアッセイによって定量した(Rohrら、J. Virol. Methods、2002、106、81~88頁)。
【0151】
in vivo研究
全てのマウス研究を、French and European legislation on animal care and experimentation (2010/63/EU)に従って行い、現地の倫理委員会によって承認された(プロトコール番号2016-002C)。雄の3カ月齢のGDEノックアウトマウスに、AAVベクターを、尾静脈を介して静脈内投与した。PBS注射した同腹仔を、対照として使用した。ベクター注射の3カ月後、組織を回収し、Fastprep管を使用してDNアーゼ/RNアーゼ非含有水中でホモジナイズした(6.5m/秒;60秒間)。
【0152】
ベクターゲノムコピー数(VGCN:vector genome copy number)定量
試料中のベクターゲノムコピー数(VGCN)定量のために、MagNA Pure 96 Instrument (Roche社)を使用して試料からDNAを抽出した。リアルタイムPCRを、上記に説明するAAVベクター滴定についてのプロトコールを使用して、1μLのDNAについて行った。タイチン遺伝子のエクソンMex5を、ゲノムDNAローディング対照として使用した。
【0153】
2.結果
AAV9-rh74ハイブリッドカプシドを、配列番号3の586位のQと593位のIとの間に、VP1、VP2及びVP3間の共通領域のペプチドを挿入することによって操作した(図1)。AAVカプシド改変を、Kienle EC (Dissertation for the degree of Doctor of natural Sciences, Combined Faculties for the Natural Sciences and for Mathematics of the Ruperto-Carola University of Heidelberg、Germany、2014)に従って、Michelfelderら(PLoS ONE、2009、4、e5122)で開示されるペプチドを使用して行った。簡潔に説明すると、ハイブリッドCap9-rh74のVP1、VP2及びVP3間の共通領域に存在するヘキサペプチドQQNAAP(配列番号11)(配列番号3の587位~592位)を、オクタペプチドGQSGAQAA(配列番号12)に変異させ、ペプチドP1(RGDLGLS;配列番号8)を、4位のグリシンと5位のアラニンとの間に挿入する。ペプチドP1の挿入を有するペプチド改変ハイブリッドCap9-rh74は、配列番号5のアミノ酸配列を有し、対応するコード配列は、配列番号6である。ベクターを、実施例1で説明する通り懸濁液中で増殖させたHEK293細胞の三重トランスフェクションによって産生し、親和性クロマトグラフィーによって精製する。AAV-Muscle Transducer (AAV-MT)と呼ばれる、得られるAAVベクターを、GSDIIIの動物モデルであるGDEノックアウトマウスに、2x1012vg/マウスの用量で、AAV9-rh74と並行して注射した。注射3カ月後に組織を得、ベクターゲノムコピー数(VGCN)を定量的PCRによって測定して、組織ターゲティングを査定した(図2)。肝臓において、AAV9-rh74の注射は、PBSを注射したマウスと比較してベクターゲノムコピーの有意な増大をもたらし(p<0.05;図2A)、一方で、AAV-MTを形質導入した肝臓は、PBS群と比較してVGCNの有意な増大を示さなかった。概して、AAV-MTは、親カプシドAAV9-rh74と比較した場合、筋肉においてより優れた形質導入効率を示した(図2B図2F)。重要なことに、横隔膜、四頭筋及び腓腹筋において、AAV-MTは、親カプシドより優れていた(AAV9-rh74群に対してp<0.05)。最後に、心臓及び長趾伸筋(EDL)において、PBS注射したマウスと比較した場合、AAV-MTカプシドの注射後に有意により高いVGCNが測定されたが、AAV9-rh74の注射後には測定されなかった。これらのデータは、AAV-MTカプシドが、筋形質導入においてAAV9-rh74より優れており、親カプシドについて観察された明白な肝脱ターゲティングを維持するか、又は更には改善することを示す。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
【配列表】
2022526405000001.app
【国際調査報告】