IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エンコーデッド セラピューティクス, インコーポレイテッドの特許一覧

特表2022-526425治療剤の投与のための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-24
(54)【発明の名称】治療剤の投与のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20220517BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220517BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20220517BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20220517BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220517BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20220517BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20220517BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220517BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220517BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20220517BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20220517BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20220517BHJP
【FI】
A61K48/00
A61P25/28
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/14
A61K31/711
A61K31/7105
A61K49/00
A61K35/763
A61K35/76
C12N15/85 Z ZNA
C12N15/55
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
C12N15/867 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559784
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(85)【翻訳文提出日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 US2020027682
(87)【国際公開番号】W WO2020210633
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】62/833,447
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】519354980
【氏名又は名称】エンコーデッド セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ベル, アルチャナー
(72)【発明者】
【氏名】タグリアテラ, ステファニー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA06
4C084ZA16
4C085HH01
4C085JJ01
4C085KB91
4C085LL13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZA16
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA06
4C087ZA16
(57)【要約】
細胞型選択的調節エレメントを含むベクターを投与するための方法が、本明細書で提供される。そのような投与方法は、脳室内投与、髄腔内投与、または静脈内投与などの方法を使用した、1つまたは複数の核酸分子の中枢神経系への投与を含む。本発明は、例えば、ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを前記霊長類に投与する方法であって、前記ベクターが細胞型選択的調節エレメントを含む、方法などを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを前記霊長類に投与する方法であって、前記ベクターが細胞型選択的調節エレメントを含む、方法。
【請求項2】
ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを前記霊長類に投与する方法であって、前記ベクターが、調節エレメントを含み、前記調節エレメントが、CMVプロモーターに作動可能に連結された場合の導入遺伝子の発現と比較して少なくとも2倍の前記導入遺伝子発現の増加をもたらす、方法。
【請求項3】
ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを前記霊長類に投与する方法であって、前記ベクターが片側に投与される、方法。
【請求項4】
ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを前記霊長類に投与する方法であって、前記ベクターが自己相補性AAVではない、方法。
【請求項5】
前記霊長類がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記霊長類が非ヒト霊長類である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記非ヒト霊長類が、旧世界ザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、カニクイザル、アカゲザルまたはブタオザルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ベクターが、調節エレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記調節エレメントが、神経細胞中で選択的に発現される、請求項1、2または8に記載の方法。
【請求項10】
前記神経細胞が、単極ニューロン、双極ニューロン、多極ニューロンまたは偽単極ニューロンからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記神経細胞が、GABA作動性ニューロンである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記調節エレメントが、グリア細胞中で選択的に発現される、請求項2または8に記載の方法。
【請求項13】
前記グリア細胞が、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、およびサテライト細胞からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記調節エレメントが、非神経細胞中で選択的に発現される、請求項2または8に記載の方法。
【請求項15】
前記ベクターが、1より多い脳室に投与される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ベクターが、両側に投与される、請求項1から2または4から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ベクターが、同時的に投与される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記ベクターが、逐次的に投与される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項19】
前記ベクターのそれぞれの用量が、少なくとも24時間空けて投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ベクターが、1つの脳室に投与される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記霊長類が、前記ベクターの静脈内投与をさらに受ける、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記霊長類が、前記ベクターの髄腔内投与をさらに受ける、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記髄腔内投与が、髄腔内脳槽投与または髄腔内腰部投与を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ベクターが、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリペプチドが、DNA結合タンパク質である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記DNA結合タンパク質が、亜鉛フィンガータンパク質(ZFP)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)からなる群より選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ヌクレオチド配列が、コドン最適化されたバリアントおよび/またはその断片である、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ベクターが、ガイドRNA(gRNA)をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ベクターが、標的遺伝子の発現を低下させる干渉RNA(RNAi)をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記RNAiが、SOD1、HTT、タウ、またはアルファ-シヌクレインからなる群より選択される標的遺伝子の発現を低下させる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ベクターが、標的遺伝子の発現を低下させるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記ベクターが、レンチウイルス、レトロウイルス、プラスミド、または単純ヘルペスウイルス(HSV)からなる群より選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項1から3または5から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記AAVが、一本鎖AAVである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記AAVが、自己相補性AAVである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記アデノ随伴ウイルスベクターが、AAV1、scAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、scAAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、scAAV9、AAV10、AAV11、AAV12、rh10、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAV、もしくはヒツジAAV、またはその任意のハイブリッドのいずれか1つである、請求項33から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記AAVベクターが、AAV5である、請求項33から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記AAVベクターが、AAV9である、請求項33から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記ベクターが、5’AAV逆方向末端反復(ITR)配列および3’AAV ITR配列を含む、請求項33から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記ベクターが、薬学的に許容される担体中で投与される、請求項1から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記ベクターが、造影剤と組み合わせて投与される、請求項1から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記ベクターが、造影剤と組み合わせて投与されない、請求項1から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記投与が、注射の経路による、請求項1から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記投与が、輸注の経路による、請求項1から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
目的の遺伝子またはその生物活性バリアントおよび/もしくは断片を発現させるための方法であって、霊長類に、前記目的の遺伝子をコードする治療有効量のアデノ随伴ウイルス1(AAV1)ベクターまたはアデノ随伴ウイルス5(AAV5)ベクターを投与することを含み、投与経路が、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、実質内投与、またはその組合せからなる群より選択される、方法。
【請求項46】
前記霊長類が、ヒトである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記霊長類が、非ヒト霊長類である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記非ヒト霊長類が、旧世界ザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、カニクイザル、アカゲザルまたはブタオザルである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記AAV1ベクターまたはAAV5ベクターが、調節エレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む、請求項45から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記調節エレメントが、細胞型選択的である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記調節エレメントが、神経細胞中で選択的に発現される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記神経細胞が、単極ニューロン、双極ニューロン、多極ニューロンまたは偽単極ニューロンからなる群より選択される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記神経細胞が、GABA作動性ニューロンである、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記調節エレメントが、グリア細胞中で選択的に発現される、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記グリア細胞が、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、およびサテライト細胞からなる群より選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記調節エレメントが、非神経細胞中で選択的に発現される、請求項49に記載の方法。
【請求項57】
前記AAV1またはAAV5が、1より多い脳室に投与される、請求項45から56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記AAV1またはAAV5が、両側に投与される、請求項45から57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記AAV1またはAAV5が、同時的に投与される、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
前記AAV1またはAAV5が、逐次的に投与される、請求項57または58に記載の方法。
【請求項61】
前記AAV1またはAAV5のそれぞれの用量が、少なくとも24時間空けて投与される、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記AAV1またはAAV5が、1つの脳室に投与される、請求項45から56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記AAV1またはAAV5が、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項45から62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記ポリペプチドが、DNA結合タンパク質である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記DNA結合タンパク質が、亜鉛フィンガータンパク質(ZFP)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)からなる群より選択される、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記ヌクレオチド配列が、コドン最適化されたバリアントおよび/またはその断片である、請求項63から65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記ベクターが、ガイドRNA(gRNA)をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項45から66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記AAV1またはAAV5が、標的遺伝子の発現を低下させる干渉RNA(RNAi)をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項45から68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記RNAiが、SOD1、HTT、タウ、またはアルファ-シヌクレインからなる群より選択される標的遺伝子の発現を低下させる、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記AAV1またはAAV5が、標的遺伝子の発現を低下させるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項45から69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記ベクターが、レンチウイルス、レトロウイルス、プラスミド、または単純ヘルペスウイルス(HSV)からなる群より選択される、請求項45から70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記AAV1またはAAV5が、薬学的に許容される担体中で投与される、請求項45から71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記ベクターが、造影剤と組み合わせて投与される、請求項45から72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
前記ベクターが、造影剤と組み合わせて投与されない、請求項45から72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記投与が、注射の経路による、請求項45から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記投与が、輸注の経路による、請求項45から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
神経疾患と関連する1つまたは複数の症状の阻害または処置を必要とする霊長類における神経疾患と関連する1つまたは複数の症状を阻害または処置する方法であって、アデノ随伴ベクター1(AAV1)またはアデノ随伴ベクター5(AAV5)からなる群より選択されるアデノ随伴ベクター(AAV)を前記霊長類に投与することを含み、投与経路が、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、実質内投与、またはその組合せからなる群より選択される、方法。
【請求項78】
前記神経疾患が、リソソーム蓄積症、ドラベ症候群、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、てんかん、神経変性、運動不全、運動障害、または気分障害からなる群より選択される、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記霊長類が、ヒトである、請求項77または78に記載の方法。
【請求項80】
前記霊長類が、非ヒト霊長類である、請求項77または78に記載の方法。
【請求項81】
前記非ヒト霊長類が、旧世界ザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、カニクイザル、アカゲザルまたはブタオザルである、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを前記霊長類に投与する方法であって、前記ベクターが導入遺伝子を含み、ICV投与が、中枢神経系(CNS)中での導入遺伝子発現の増加をもたらす、方法。
【請求項83】
ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを前記霊長類に投与する方法であって、前記ベクターが導入遺伝子を含み、ICV投与が、前記ベクターが任意の他の投与経路によって投与される場合の前記導入遺伝子の発現と比較して少なくとも1.25倍の中枢神経系(CNS)での導入遺伝子発現の増加をもたらす、方法。
【請求項84】
ICV投与が、前記ベクターが任意の他の投与経路によって投与される場合の前記導入遺伝子の発現と比較して、少なくとも1.5倍、1.75倍、2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、または75倍高い、中枢神経系(CNS)中での前記導入遺伝子配列の発現をもたらす、請求項82または83に記載の方法。
【請求項85】
ICV投与が、前記ベクターが任意の他の投与経路によって投与される場合の前記導入遺伝子の発現と比較して、少なくとも20~90倍、20~80倍、20~70倍、20~60倍、30~90倍、30~80倍、30~70倍、30~60倍、40~90倍、40~80倍、40~70倍、40~60倍、50~90倍、50~80倍、50~70倍、50~60倍、60~90倍、60~80倍、60~70倍、70~90倍、70~80倍、80~90倍高い、中枢神経系(CNS)中での前記導入遺伝子配列の発現をもたらす、請求項82または83に記載の方法。
【請求項86】
ICV投与が、脳全体での遺伝子導入をもたらす、請求項1から44または82から85のいずれか一項に記載の方法。
【請求項87】
前記遺伝子導入が、前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質、海馬、髄質、および後頭皮質で起こる、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記遺伝子導入が、用量依存的である、請求項86または87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記ベクターが、細胞型選択的調節エレメントをさらに含む、請求項82から85のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記調節エレメントが、脳内で選択的に発現される、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記調節エレメントが、前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質、海馬、髄質、および/または後頭皮質中で選択的に発現される、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記調節エレメントが、脊椎中で選択的に発現される、請求項89に記載の方法。
【請求項93】
前記調節エレメントが、脊髄および/または後根神経節中で選択的に発現される、請求項92に記載の方法。
【請求項94】
前記調節エレメントが、神経細胞中で選択的に発現される、請求項89に記載の方法。
【請求項95】
前記神経細胞が、単極ニューロン、双極ニューロン、多極ニューロンまたは偽単極ニューロンからなる群より選択される、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記神経細胞が、GABA作動性ニューロンである、請求項94に記載の方法。
【請求項97】
前記調節エレメントが、非神経細胞中で選択的に発現される、請求項89に記載の方法。
【請求項98】
前記調節エレメントが、グリア細胞中で選択的に発現される、請求項89に記載の方法。
【請求項99】
前記グリア細胞が、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、およびサテライト細胞からなる群より選択される、請求項98に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2019年4月12日に出願された米国仮特許出願第62/833,447号に対する優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子療法およびアンチセンスオリゴヌクレオチド療法は、神経学的疾患または障害のための処置としてのその大きな可能性について長く認識されてきた。神経学的疾患または障害の症状のみを処置する外科手術または薬物に依拠する代わりに、患者、特に、基礎となる遺伝的因子を有する患者を、基礎疾患/障害の原因を直接標的化することによって処置することができる。さらに、神経学的疾患または障害の基礎となる遺伝的原因を標的化することによって、遺伝子療法およびアンチセンスオリゴヌクレオチドに基づく治療手法は、標準的な薬物療法よりも長期間にわたって持続的な処置を提供することができ、患者を有効に治癒させる可能性を有する。しかし、これにも拘わらず、神経学的障害に対する遺伝子療法およびアンチセンスオリゴヌクレオチドに基づく治療手法の臨床適用は、いくつかの態様において依然として改善を要する。これらの療法に関する1つの関心領域は、中枢神経系への治療剤の有効な送達である。AAV9などのベクターは、マウスにおいて静脈内投与された場合、血液脳関門を横断することが示されているが、より大きい動物におけるこれらのベクターの静脈内送達は、有効性にとって必要とされる極端に高いベクター用量および毒性と関連し得る末梢臓器における高い形質導入のため困難である。別の投与経路である実質内注射は、より低用量のベクターを必要とし、中枢神経系(CNS)の標的化された領域の形質導入において有効である。しかしながら、実質内注射は、CNS全体でのベクターの送達を必要とする障害の処置にとっては好適ではないかもしれない。
かくして、オフターゲット効果を減少させ、標的組織および/もしくは細胞型における治療有効性を増大させ、ならびに/または有効性を達成するのに必要とされる有効用量を低下させることによって患者の安全性および忍容性を増加させることができる、CNS中の目的の組織または細胞型に遺伝子療法または遺伝子発現を標的化するためのエレメントおよびその使用方法を同定することが必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一部の実施形態では、ドラベ症候群などの神経疾患の処置のために使用することができる組成物および方法が本明細書で提供される。
【0004】
一部の実施形態では、本開示は、ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを霊長類に投与する方法であって、ベクターが細胞型選択的調節エレメントを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを霊長類に投与する方法であって、ベクターが、調節エレメントを含み、調節エレメントが、CMVプロモーターに作動可能に連結された場合の導入遺伝子の発現と比較して少なくとも2倍の導入遺伝子発現の増加をもたらす、方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを霊長類に投与する方法であって、ベクターが片側に投与される、方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを霊長類に投与する方法であって、ベクターが自己相補性AAVではない、方法を提供する。ある特定の実施形態では、霊長類は、ヒトである。ある特定の実施形態では、霊長類は、非ヒト霊長類である。ある特定の実施形態では、非ヒト霊長類は、旧世界ザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、カニクイザル、アカゲザルまたはブタオザルである。ある特定の実施形態では、ベクターは、調節エレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、神経細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、神経細胞は、単極ニューロン、双極ニューロン、多極ニューロンまたは偽単極ニューロンからなる群より選択される。ある特定の実施形態では、神経細胞は、GABA作動性ニューロンである。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、グリア細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、グリア細胞は、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、およびサテライト細胞からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、非神経細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、ベクターは、1つより多い脳室に投与される。ある特定の実施形態では、ベクターは両側に投与される。ある特定の実施形態では、ベクターは同時に投与される。ある特定の実施形態では、ベクターは逐次的に投与される。ある特定の実施形態では、ベクターの各用量は、少なくとも24時間空けて投与される。ある特定の実施形態では、ベクターは、1つの脳室に投与される。ある特定の実施形態では、霊長類は、ベクターの静脈内投与をさらに受ける。ある特定の実施形態では、霊長類は、ベクターの髄腔内投与をさらに受ける。ある特定の実施形態では、髄腔内投与は、髄腔内脳槽投与または髄腔内腰部投与を含む。ある特定の実施形態では、ベクターは、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、ポリペプチドは、DNA結合タンパク質である。ある特定の実施形態では、DNA結合タンパク質は、亜鉛フィンガータンパク質(ZFP)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、ヌクレオチド配列は、コドン最適化されたバリアントおよび/またはその断片である。ある特定の実施形態では、ベクターは、ガイドRNA(gRNA)をコードするヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、ベクターは、標的遺伝子の発現を低下させる干渉RNA(RNAi)をコードするヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、RNAiは、SOD1、HTT、タウ、またはアルファ-シヌクレインからなる群より選択される標的遺伝子の発現を低下させる。ある特定の実施形態では、ベクターは、標的遺伝子の発現を低下させるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、ベクターは、レンチウイルス、レトロウイルス、プラスミド、または単純ヘルペスウイルス(HSV)からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。ある特定の実施形態では、AAVは、一本鎖AAVである。ある特定の実施形態では、AAVは、自己相補性AAVである。ある特定の実施形態では、アデノ随伴ウイルスベクターは、AAV1、scAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、scAAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、scAAV9、AAV10、AAV11、AAV12、rh10、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAV、もしくはヒツジAAV、またはその任意のハイブリッドのいずれか1つである。ある特定の実施形態では、AAVベクターは、AAV5である。ある特定の実施形態では、AAVベクターは、AAV9である。ある特定の実施形態では、ベクターは、5’AAV逆方向末端反復(ITR)配列および3’AAV ITR配列を含む。ある特定の実施形態では、ベクターは、薬学的に許容される担体中で投与される。ある特定の実施形態では、ベクターは、造影剤と組み合わせて投与される。ある特定の実施形態では、ベクターは、造影剤と組み合わせて投与されない。ある特定の実施形態では、投与は、注射経路による。ある特定の実施形態では、投与は、輸注経路による。
【0005】
一部の実施形態では、本開示は、目的の遺伝子またはその生物活性バリアントおよび/もしくは断片を発現させるための方法であって、霊長類に、目的の遺伝子をコードする治療有効量のアデノ随伴ウイルス1(AAV1)ベクターまたはアデノ随伴ウイルス5(AAV5)ベクターを投与することを含み、投与経路が、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、実質内投与、またはその組合せからなる群より選択される、方法を提供する。ある特定の実施形態では、霊長類は、ヒトである。ある特定の実施形態では、霊長類は、非ヒト霊長類である。ある特定の実施形態では、非ヒト霊長類は、旧世界ザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、カニクイザル、アカゲザルまたはブタオザルである。ある特定の実施形態では、AAV1ベクターまたはAAV5ベクターは、調節エレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、細胞型選択的である。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、神経細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、神経細胞は、単極ニューロン、双極ニューロン、多極ニューロンまたは偽単極ニューロンからなる群より選択される。ある特定の実施形態では、神経細胞は、GABA作動性ニューロンである。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、グリア細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、グリア細胞は、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、およびサテライト細胞からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、非神経細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、1つより多い脳室に投与される。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、両側に投与される。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、同時に投与される。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、逐次的に投与される。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5の各用量は、少なくとも24時間空けて投与される。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、1つの脳室に投与される。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、ポリペプチドは、DNA結合タンパク質である。ある特定の実施形態では、DNA結合タンパク質は、亜鉛フィンガータンパク質(ZFP)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、ヌクレオチド配列は、コドン最適化されたバリアントおよび/またはその断片である。ある特定の実施形態では、ベクターは、ガイドRNA(gRNA)をコードするヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、標的遺伝子の発現を低下させる干渉RNA(RNAi)をコードするヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、RNAiは、SOD1、HTT、タウ、またはアルファ-シヌクレインからなる群より選択される標的遺伝子の発現を低下させる。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、標的遺伝子の発現を低下させるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、ベクターは、レンチウイルス、レトロウイルス、プラスミド、または単純ヘルペスウイルス(HSV)からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、AAV1またはAAV5は、薬学的に許容される担体中で投与される。ある特定の実施形態では、ベクターは、造影剤と組み合わせて投与される。ある特定の実施形態では、ベクターは、造影剤と組み合わせて投与されない。ある特定の実施形態では、投与は、注射経路による。ある特定の実施形態では、投与は、輸注経路による。
【0006】
一部の実施形態では、本開示は、それを必要とする霊長類における神経疾患と関連する1つまたは複数の症状を阻害または処置する方法であって、アデノ随伴ベクター1(AAV1)またはアデノ随伴ベクター5(AAV5)からなる群より選択されるアデノ随伴ベクター(AAV)を霊長類に投与することを含み、投与経路が、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、実質内投与、またはその組合せからなる群より選択される、方法を提供する。ある特定の実施形態では、神経疾患は、リソソーム蓄積症、ドラベ症候群、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、てんかん、神経変性、運動不全(motor disorder)、運動障害、または気分障害からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、霊長類は、ヒトである。ある特定の実施形態では、霊長類は、非ヒト霊長類である。ある特定の実施形態では、非ヒト霊長類は、旧世界ザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、カニクイザル、アカゲザルまたはブタオザルである。
【0007】
一部の実施形態では、本開示は、ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを霊長類に投与する方法であって、ベクターが導入遺伝子を含み、ICV投与が、ベクターが任意の他の投与経路によって投与される場合の導入遺伝子の発現と比較して少なくとも1.25倍の中枢神経系(CNS)での導入遺伝子発現の増加をもたらす、方法を提供する。ある特定の実施形態では、ICV投与は、ベクターが任意の他の投与経路によって投与される場合の導入遺伝子の発現と比較して少なくとも1.5倍、1.75倍、2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、もしくは75倍、または少なくとも20~90倍、20~80倍、20~70倍、20~60倍、30~90倍、30~80倍、30~70倍、30~60倍、40~90倍、40~80倍、40~70倍、40~60倍、50~90倍、50~80倍、50~70倍、50~60倍、60~90倍、60~80倍、60~70倍、70~90倍、70~80倍、80~90倍高い中枢神経系(CNS)での導入遺伝子配列の発現をもたらす。一部の実施形態では、ICV投与は、脳全体での遺伝子導入をもたらす。ある特定の実施形態では、遺伝子導入は、前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質、海馬、髄質、および後頭皮質で起こる。ある特定の実施形態では、遺伝子導入は、用量依存的である。ある特定の実施形態では、ベクターは、細胞型選択的調節エレメントをさらに含む。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、脳内で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質、海馬、髄質、および後頭皮質中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、脊椎中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、脊髄および後根神経節中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、神経細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、神経細胞は、単極ニューロン、双極ニューロン、多極ニューロンまたは偽単極ニューロンからなる群より選択される。ある特定の実施形態では、神経細胞は、GABA作動性ニューロンである。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、グリア細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、グリア細胞は、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、およびサテライト細胞からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、非神経細胞中で選択的に発現される。
【0008】
本発明の新規特徴は、特に、添付の特許請求の範囲と共に記載される。本開示の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理を利用する、例示的実施形態を記載する以下の詳細な説明、および添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、脳試料から収穫された組織スラブの例示的表示を示し、前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質、海馬、小脳、髄質、および後頭皮質のそれぞれについて得られる組織パンチの位置および数を示す。それぞれの型の組織試料について、組織パンチを右半球と左半球の両方から取得し、一部の場合、2つのスラブに由来するパンチを取得した。
【0010】
図2図2は、片側脳室内(ICV)、大槽内(ICM)および髄腔内腰部(IT-腰部)投与経路によって高用量(1E+13ベクターゲノムコピー(vg)/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する様々な組織スラブおよびパンチにわたる組織分布を示す。データは、2倍体ゲノムあたりのベクターコピー数(VCN/2倍体ゲノム)として表される。冠状切片(CS)2Lはスラブ2の左半球に由来する組織パンチを表し、CS 2Rはスラブ2の右半球に由来する組織パンチを表し、CS 8Lはスラブ8の左半球に由来する上のパンチに由来する組織パンチを表し(図1を参照)、CS 8L2はスラブ8の左半球に由来する下のパンチに由来する組織パンチを表す(図1などを参照)。
【0011】
図3図3は、片側ICV、ICMおよびIT-腰部投与経路により高用量(1E+13vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する脳内の平均VCN/2倍体ゲノムを示す。それぞれのデータポイントは、それぞれの組織パンチのVC/2倍体gDNAを表し、水平のバーは、それぞれの投与経路に関する全ての組織パンチの平均VCN/2倍体ゲノムを表す。片側ICV投与について得られたVCN/2倍体ゲノムは、ICMまたはIT-腰部投与のいずれかについて得られたVCN/2倍体ゲノムよりも統計的に有意に高かった。
【0012】
図4図4は、片側ICV、ICMおよびIT-腰部投与経路により高用量(1E+13vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する、様々な脳領域(例えば、前頭皮質(FC)、頭頂皮質(PC)、側頭皮質(TC)、後頭皮質(OC)、海馬(Hip)、小脳(Cb)、および髄質(Med))にわたるVCN/2倍体ゲノムを示す。
【0013】
図5図5は、片側ICV、ICMおよびIT-腰部投与経路により高用量(1E+13vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する、脊髄(SC)、後根神経節(DRG)、心臓、肝臓、腎臓および脾臓組織試料中のVCN/2倍体ゲノムを示す。脊髄の、C2は頸部レベル2を指し、T1およびT8は胸部レベルT1およびT8を指し、L4は腰部レベル4を指す。
【0014】
図6図6は、片側脳室内(ICV)、大槽内(ICM)、髄腔内腰部(IT-腰部)、および静脈内(尾静脈注射)投与経路により低用量(2.4E+12vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHまたはAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置された動物に関する様々な組織スラブおよびパンチにわたる組織分布を示す。データは、VCN/2倍体ゲノムとして表される。片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。組織パンチは、図2について上記のように標識される。スラブ12中の髄質組織から得られた1つのパンチ(図面上に注記される)は、非常に高レベルのVCN/2倍体ゲノムを有し、これはICM投与の部位に対するパンチの近接性に起因すると考えられた。
【0015】
図7図7は、片側ICV、ICM、IT-腰部およびIV投与経路により低用量(2.4E+12vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHまたはAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置された動物に関する脳内の平均VCN/2倍体ゲノムを示す。それぞれのデータポイントは、それぞれの組織パンチのVCN/2倍体ゲノムを表し、水平のバーは、それぞれの投与経路に関する全ての組織パンチの平均VCN/2倍体ゲノムを表す。片側ICV投与について得られたVCN/2倍体ゲノムは、ICM、IT-腰部、およびIV投与について得られたVCN/2倍体ゲノムよりも統計的に有意に高かった。片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。非常に高レベルのVCN/2倍体ゲノムを示すICMパンチ(図6に注記される)を、このデータセットから除外した。
【0016】
図8図8は、片側ICV、ICMおよびIT-腰部投与経路により低用量(2.4E+12vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHまたはAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置された動物に関する、様々な脳領域(例えば、前頭皮質(FC)、頭頂皮質(PC)、側頭皮質(TC)、後頭皮質(OC)、海馬(Hip)、小脳(Cb)、および髄質(Med))にわたるVCN/2倍体ゲノムを示す。片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。
【0017】
図9図9は、片側ICV、ICM、IT-腰部およびIV投与経路により低用量(2.4E+12vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHまたはAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置された動物に関する、脊髄(SC)、後根神経節(DRG)、心臓、肝臓、腎臓および脾臓組織試料中のVCN/2倍体ゲノムを示す。片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。
【0018】
図10図10は、片側脳室内(ICV)または両側ICV投与により高用量(1E+13vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する様々な組織スラブおよびパンチにわたる組織分布を示す。データは、VCN/2倍体ゲノムとして表される。組織パンチは、図2について上記のように標識される。
【0019】
図11図11は、片側脳室内(ICV)または両側ICV投与により高用量(約2.4E+13vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHまたはAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置された動物に関する様々な組織スラブおよびパンチにわたる組織分布を示す。データは、VCN/2倍体ゲノムとして表される。片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。組織パンチは、図2について上記のように標識される。
【0020】
図12図12は、片側ICVまたは両側ICV投与経路により1E+13vg/動物の高用量(ICV-H)または2.4E+12vg/動物の低用量(ICV-L)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHまたはAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置された動物に関する脳内の平均VCN/2倍体ゲノムを示す。それぞれのデータポイントは、それぞれの組織パンチのVCN/2倍体ゲノムを表し、水平のバーは、それぞれの投与経路に関する全ての組織パンチの平均VCN/2倍体ゲノムを表す。片側ICV投与について得られたVCN/2倍体ゲノムは、高用量と低用量の両方で両側ICVについて得られたVCN/2倍体ゲノムよりも高かった。低用量(ICV-L)での片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。
【0021】
図13図13は、片側ICVまたは両側ICV投与経路により1E+13vg/動物の高用量(ICV-H)または2.4E+12vg/動物の低用量(ICV-L)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHまたはAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置された動物に関する、様々な脳領域(例えば、前頭皮質(FC)、頭頂皮質(PC)、側頭皮質(TC)、後頭皮質(OC)、海馬(Hip)、小脳(Cb)、および髄質(Med))にわたるVCN/2倍体ゲノムを示す。片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。
【0022】
図14図14は、片側ICVまたは両側ICV投与経路により1E+13vg/動物の高用量(ICV-H)または2.4E+12vg/動物の低用量(ICV-L)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASHまたはAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置された動物に関する、脊髄(SC)、後根神経節(DRG)、心臓、肝臓、腎臓および脾臓組織試料中のVCN/2倍体ゲノムを示す。低用量(ICV-L)での片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。
【0023】
図15図15は、免疫組織化学アッセイを使用して決定された、皮質、小脳、脊髄、後根神経節(DRG)、肝臓および心臓における、AAV9を投薬した4週間後の緑色蛍光タンパク質(GFP)のタンパク質発現を示す。高用量(HD=1E+13vg/動物)または低用量(LD=約2.4E+12vg/動物)力価のAAV9を、片側または両側脳室内(ICV)、大槽内(ICM)注射、髄腔内(IT-腰部)または静脈内(IV)によって投与した。図示の画像を、同じ量にコントラスト調整した。白色の100μmのスケールバーを、左上の動物IDと共に各画像の左下に示す。
【0024】
図16図16は、片側脳室内(ICV)投与により低用量(約2.4E+12vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASH、AAV9-配列番号76-eGFP-WPRE、AAV5-CBA-eGFP-KASHまたはAAV1-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する様々な組織スラブおよびパンチにわたる組織分布を示す。データは、VCN/2倍体ゲノムとして表される。AAV9を用いた片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。組織パンチは、図2について上記のように標識される。
【0025】
図17図17は、片側脳室内(ICV)投与により低用量(約2.4E+12vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASH、AAV9-配列番号76-eGFP-WPRE、AAV5-CBA-eGFP-KASHまたはAAV1-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する、脳内の平均VCN/2倍体ゲノムを示す。それぞれのデータポイントは、それぞれの組織パンチのVCN/2倍体ゲノムを表し、水平のバーは、それぞれの血清型(例えば、AAV9、AAV5およびAAV1)に関する全ての組織パンチの平均VCN/2倍体ゲノムを表す。AAV9を用いた片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。
【0026】
図18図18は、片側脳室内(ICV)投与により低用量(約2.4E+12vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASH、AAV9-配列番号76-eGFP-WPRE、AAV5-CBA-eGFP-KASHまたはAAV1-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する、様々な脳領域(例えば、前頭皮質(FC)、頭頂皮質(PC)、側頭皮質(TC)、後頭皮質(OC)、海馬(Hip)、小脳(Cb)、および髄質(Med))にわたるVCN/2倍体ゲノムを示す。AAV9を用いた片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。
【0027】
図19図19は、片側脳室内(ICV)投与により低用量(約2.4E+12vg/動物)で投与されたAAV9-CBA-eGFP-KASH、AAV9-配列番号76-eGFP-WPRE、AAV5-CBA-eGFP-KASHまたはAAV1-CBA-eGFP-KASHで処置された動物に関する、脊髄(SC)、後根神経節(DRG)、心臓、肝臓、腎臓および脾臓組織試料中のVCN/2倍体ゲノムを示す。AAV9を用いた片側ICV投与について、データポイントは、3匹の処置された動物の平均を表す。1匹の動物を、実施例1に記載されるAAV9-CBA-eGFP-KASHで処置し、2匹の動物を、実施例2に記載されるAAV9-配列番号76-eGFP-WPREで処置した。
【0028】
図20図20は、免疫組織化学アッセイを使用した、皮質、小脳、脊髄、後根神経節(DRG)、肝臓および心臓における様々なAAV血清型を投薬した4週間後のGFP発現を示す。示されたような片側脳室内(ICV)注射によって投与されたAAV9、AAV5またはAAV1ベクターを、動物に投薬した。図示の画像を、同じ量にコントラスト調整した。白色の100μmのスケールバーを、左上の動物IDと共に各画像の左下に示す。
【0029】
図21図21は、片側脳室内(ICV)投与により4.8E+13または8E+13vg/動物で投与されたGABA選択的調節エレメント(AAV9-REGABA-eTFSCN1A)の制御下のeTFSCN1Aをコードする発現カセットを含有するAAV9で処置された動物に関する、前頭皮質(FC)、吻側頭頂皮質(吻側PC)、側頭皮質(TC)、尾側頭頂皮質(尾側PC)、海馬(Hip)、髄質(Med)、および後頭皮質(OC)組織試料中でのVG/2倍体ゲノムを示す(実施例3および実施例4)。それぞれのデータポイントは、組織試料に関するVG/2倍体ゲノムを表し、水平のバーは、それぞれの動物に関する全ての組織試料の平均VG/2倍体ゲノムを表す。
【0030】
図22図22は、片側脳室内(ICV)投与により4.8E+13または8E+13vg/動物で投与されたAAV9-REGABA-eTGSCN1Aで処置された動物に関する、前頭皮質(FC)、吻側頭頂皮質(吻側PC)、側頭皮質(TC)、尾側頭頂皮質(尾側PC)、海馬(Hip)、髄質(Med)、および後頭皮質(OC)組織試料中での転写物/μg RNAを示す(実施例3および実施例4)。それぞれのデータポイントは、組織試料に関するVG/2倍体ゲノムを表し、水平のバーは、それぞれの動物に関する全ての組織試料の平均VG/2倍体ゲノムを表す。ARFGAP2に関する平均転写物は1.85E+6/μg RNAであり、破線の上側境界線によって示される。検出限界は、破線の下側境界線によって示される。
【0031】
図23図23は、脳の外側の末梢組織試料中でのベクター生体内分布(VG/2倍体ゲノム)および導入遺伝子発現(転写物/μg RNA)を示す。示される末梢組織試料は、脊髄C2/L4(SC C2/L4)、後根神経節C2/L4(DRG C2/L4)、肝臓、脾臓、心臓、腎臓、肺、膵臓、および精巣/卵巣である。霊長類の脳における平均VCN(ベクター生体内分布)および転写物(導入遺伝子発現)は、破線で示される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
A.一般的な技術
本明細書で別途定義しない限り、本明細書で記載される科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。一般に、本明細書に記載される、薬理学、細胞および組織培養、分子生物学、細胞およびがん生物学、神経生物学、神経化学、ウイルス学、免疫学、微生物学、遺伝学ならびにタンパク質および核酸化学に関連して使用される命名法、およびそれらの技術は、当該分野で周知かつ一般的であるものである。矛盾する場合、定義を含む本明細書が支配する。
【0033】
本開示の実施は、別途指定されない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学の慣例的な技術を使用し、これらは、当技術分野の技術内である。そのような技術は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition (Sambrook et al., 1989) Cold Spring Harbor Press; Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984); Methods in Molecular Biology, Humana Press; Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press; Animal Cell Culture (R.I. Freshney, ed., 1987); Introduction to Cell and Tissue Culture (J.P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press; Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-1998) J. Wiley and Sons; Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987); Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel et al., eds., 1987); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994); Sambrook and Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd. ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (2001); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY (2002); Harlow and Lane Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (1998); Coligan et al., Short Protocols in Protein Science, John Wiley & Sons, NY (2003); Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999)などの文献中で完全に説明されている。
【0034】
酵素反応および精製技術は、製造業者の明細書に従って、当該分野で一般的に達成されるように、または本明細書に記載のように実施される。本明細書に記載の分析化学、生化学、免疫学、分子生物学、合成有機化学、ならびに医薬品化学および薬化学と関連して使用される命名法、ならびにそれらの実験手順および技術は、当該分野で周知であり、一般的に使用されているものである。標準的な技術は、化学合成、および化学分析のために使用される。
【0035】
B.定義
本明細書および実施形態全体にわたって、単語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」もしくは「含むこと(comprising)」などの変形は、述べた整数または整数の群の含有を暗示するが、任意の他の整数または整数の群の除外を暗示しないことが理解されるであろう。
【0036】
実施形態が言い回し「含む(comprising)」を用いて本明細書で記載されている場合は必ず、「からなる(consisting of)」および/または「から本質的になる(consisting essentially of)」の観点から記載される別途類似する実施形態も提供されることが理解される。
【0037】
用語「含む(including)」は、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」を意味するために使用される。「含む(including)」と、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」とは、互換的に使用される。
【0038】
用語「例えば(e.g.)」または「例えば(for example)」に続く任意の例は、網羅的または限定的であることを意味しない。
【0039】
本文により別途要求されない限り、単数形の用語は、複数を含むものとし、複数形の用語は、単数形を含むものとする。
【0040】
例えば、「要素(an element)」は、1つの要素または1つより多い要素を意味する。
【0041】
本開示の広い範囲を記載する数値範囲およびパラメーターは近似値であるにも拘わらず、特定例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、任意の数値は、その対応する検査測定値に見出される標準偏差から必ず生じるある特定の誤差を本質的に含有する。さらに、本明細書に開示される全ての範囲は、その中に含まれる任意かつ全ての部分的範囲を包含することが理解されるべきである。例えば、「1~10」の記述された範囲は、1の最小値と、10の最大値との間(およびそれを含む)の任意かつ全ての部分的範囲;すなわち、1またはそれより大きい最小値、例えば、1~6.1で始まり、10またはそれより小さい最大値、例えば、5.5~10で終わる全ての部分的範囲を含むと考えられるべきである。
【0042】
本開示の態様または実施形態がマーカッシュ群または他の選択肢群に関して記載される場合、本開示は、群の全部であるが、それぞれ個々のメンバーおよび主群の全ての可能なサブグループとして列挙される群全体だけでなく、主群に存在しない1つまたは複数の群のメンバーも包含する。本開示は、本開示における群メンバーのいずれかの1つまたは複数を明確に除外することも想定する。
【0043】
本明細書で使用される場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、本文が別途明確に示さない限り、複数形を同様に含むことが意図される。さらに、用語「含む(including)」、「含む(includes)、「有する(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」、またはそのバリアントが詳細な説明および/または特許請求の範囲で使用される程度で、そのような用語は、用語「含む(comprising)」と類似する様式で包括的であることが意図される。
【0044】
用語「AAV」は、アデノ随伴ウイルスの省略形であり、そのウイルス自体またはその誘導体を指すために使用することができる。この用語は、別途要求される場合を除いて、全ての血清型、サブタイプ、および天然に存在する形態と組換え形態との両方を包含する。省略形「rAAV」とは、組換えアデノ随伴ウイルスを指す。用語「AAV」は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、rh10、およびそのハイブリッド、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAV、およびヒツジAAVを含む。AAVの種々の血清型のゲノム配列、ならびに天然の末端反復(TR)、Repタンパク質、およびカプシドサブユニットの配列が当該分野で公知である。そのような配列を、文献中またはGenBankなどの公共のデータベース中に見出すことができる。本明細書で使用される場合、「rAAVベクター」とは、AAV起源ではないポリヌクレオチド配列(すなわち、AAVに対して異種であるポリヌクレオチド)、典型的には、細胞の遺伝子形質転換のための目的の配列を含むAAVベクターを指す。一般に、異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つの、一般的には2つの、AAV逆方向末端反復配列(ITR)によって隣接される。ITR配列は、当該分野ではよく理解されている用語であり、反対の向きにあるウイルスゲノムの末端に見出される比較的短い配列を指す。rAAVベクターは、一本鎖(ssAAV)または自己相補性(scAAV)であってもよい。「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質と、カプシドに包まれたポリヌクレオチドrAAVベクターとから構成されるウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは典型的には、「rAAVウイルス粒子」または単に「rAAV粒子」と称される。
【0045】
用語「約」または「およそ」は、当業者によって決定される特定の値に関する許容される誤差の範囲内であることを意味し、その値がどのように測定または決定されるか、すなわち、測定系の限界に一部依存するであろう。例えば、「約」は、当該分野における実務あたり、1または1を超える標準偏差以内を意味してもよい。あるいは、「約」は、所与の値の上および/または下20%まで、15%まで、10%まで、5%まで、または1%までの範囲を意味してもよい。
【0046】
用語「決定すること」、「測定すること」、「評価すること(evaluating)」、「評価すること(assessing)」、「アッセイすること」、「分析すること」、およびそれらの文法的等価物は、任意の形態の測定を指すために本明細書で互換的に使用することができ、ある要素が存在するか、または存在しないかどうかを決定すること(例えば、検出)を含む。これらの用語は、定量的および/または定性的決定の両方を含んでもよい。評価することは、相対的または絶対的であってもよい。
【0047】
「発現カセット」とは、発現のためのコード配列(例えば、遺伝子または複数の遺伝子)に作動可能に連結された1つまたは複数の調節エレメントを含む核酸分子を指す。
【0048】
用語「有効量」または「治療有効量」とは、限定されるものではないが、以下に定義されるような疾患処置を含む、意図される適用に影響するのに十分なものである、本明細書に記載の組成物の量を指す。治療有効量は、意図される処置適用(細胞中もしくはin vivo)、または処置される被験体および疾患状態、例えば、被験体の体重および年齢、疾患状態の重症度、投与の様式などに応じて変化してもよく、当業者であれば容易に決定することができる。この用語はまた、標的細胞中で特定の応答を誘導する用量にも適用される。特定用量は、選択される特定の組成物、従うべき投薬レジメン、それが他の化合物と共に投与されるかどうか、投与のタイミング、それが投与される組織、およびそれが運搬される物理的送達系に応じて変化するであろう。
【0049】
ヌクレオチドまたはペプチド配列の「断片」は、完全長または参照DNAまたはタンパク質配列よりも短い配列の断片を指す。
【0050】
タンパク質、ポリペプチド、核酸、および/またはポリヌクレオチドなどの分子を指す場合に本明細書で使用される用語「生物学的に活性な」とは、その分子が、完全長または参照タンパク質、ポリペプチド、核酸、および/またはポリヌクレオチドの生物活性と実質的に類似する少なくとも1つの生物活性(機能的または構造的)を保持することを意味する。
【0051】
用語「in vitro」とは、被験体の体外で起こる事象を指す。例えば、in vitroアッセイは、被験体の外部で実行される任意のアッセイを包含する。in vitroアッセイは、生きている、または死んでいる細胞が用いられる細胞に基づくアッセイを包含する。in vitroアッセイはまた、インタクトな細胞が用いられない無細胞アッセイも包含する。
【0052】
用語「in vivo」とは、被験体の体内で起こる事象を指す。
【0053】
「単離された」核酸とは、その天然の環境の成分から分離されている核酸分子を指す。単離された核酸は、通常は核酸分子を含有する細胞中に含有される核酸分子を含むが、核酸分子は染色体外、その天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在するか、またはコード配列のみを含有する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「作動可能に(operably)連結された」、「作動可能な連結」、「作動可能に(operatively)連結された」またはその文法的等価物は、遺伝子エレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化配列などの並置を指し、それらのエレメントは、期待される様式で作動するのを可能にする関係にある。例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー配列を含んでもよい調節エレメントは、調節エレメントがコード配列の転写の開始を助ける場合、コード領域に作動可能に連結されている。この機能的関係が維持される限り、調節エレメントと、コード領域との間に介在残基が存在してもよい。
【0055】
「薬学的に許容される担体」とは、被験体にとって非毒性的である、活性成分以外の、医薬製剤または組成物中の成分を指す。薬学的に許容される担体としては、限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定剤、または保存剤が挙げられる。
【0056】
用語「医薬製剤」または「医薬組成物」とは、そこに含まれる活性成分の生物活性が有効であることを可能にするような形態にあり、製剤が投与される被験体にとって許容できないほどに毒性であるさらなる成分を含有しない調製物を指す。
【0057】
用語「調節エレメント」とは、遺伝子などの、作動可能に連結された配列の発現に影響する(例えば、増加させる、減少させる、またはモジュレートする)ことができる核酸配列または遺伝子エレメントを指す。調節エレメントとしては、限定されるものではないが、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー、サイレンサー、インスレーター配列、イントロン、UTR、逆方向末端反復(ITR)配列、長い末端反復配列(LTR)、安定性エレメント、翻訳後応答エレメント、もしくはポリA配列、またはその任意の組合せが挙げられる。調節エレメントは、DNAおよび/またはRNAレベルで、例えば、遺伝子発現の転写段階、転写後段階、もしくは翻訳段階で遺伝子発現をモジュレートすることによって;翻訳(例えば、翻訳のためのmRNAを安定化する安定性エレメント)、RNA切断、RNAスプライシング、および/もしくは転写終結のレベルをモジュレートすることによって;転写因子を、遺伝子発現を増加させるコード領域に動員することによって;RNA転写物が産生される速度を増大させる、産生されるRNAの安定性を増加させる、および/もしくはRNA転写物からのタンパク質合成の速度を増大させることによって;ならびに/またはタンパク質合成を容易にするためにRNA分解を防止する、および/もしくはその安定性を増加させることによって機能してもよい。一部の実施形態では、調節エレメントは、エンハンサー、リプレッサー、プロモーター、またはその任意の組合せ、特に、エンハンサー+プロモーターの組合せまたはリプレッサー+プロモーターの組合せを指す。一部の実施形態では、調節エレメントは、ヒト配列に由来する。
【0058】
用語「被験体」および「個体」は、脊椎動物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトを指すように本明細書では互換的に使用される。本明細書に記載の方法は、ヒト治療剤、獣医学的適用、および/または疾患もしくは状態の動物モデルにおける前臨床試験において有用であり得る。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」、「処置」、「療法」などは、限定されるものではないが、疾患または障害を軽減すること、その進行を遅延させること、または減速させること、その効果または症状を低減させること、その開始を防止すること、その再発を防止すること、その開始を阻害すること、改善すること、疾患、障害、または医学的状態に関する有益な、または望ましい結果、例えば、治療利益および/または予防利益を得ることを含む、望ましい薬理学的および/または生理学的効果を得ることを指す。本明細書で使用される場合、「処置」は、哺乳動物、特に、ヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、(a)疾患の素因があるか、または疾患を獲得するリスクがあり得るが、それを有するとまだ診断されていない被験体において疾患の発生を防止すること;(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発達を停止させること;および(c)疾患を緩和すること、すなわち、疾患の退縮を引き起こすことを含む。治療利益は、処置される基礎障害の根絶または改善を含む。また、治療利益は、被験体が基礎障害に依然として罹患していてもよいにも拘わらず、改善が被験体において観察されるような、基礎障害と関連する1つまたは複数の生理学的症状の根絶または改善と共に達成される。一部の場合、予防利益のために、組成物は、特定の疾患の診断が行われていない場合であっても、この疾患を発症するリスクがある被験体、または疾患の1つもしくは複数の生理学的症状を報告する被験体に投与される。本開示の方法を、任意の哺乳動物と共に使用することができる。一部の場合、処置は、症状の減少または停止をもたらしてもよい。予防効果は、疾患もしくは状態の出現を遅延させること、もしくは除去すること、疾患もしくは状態の症状の開始を遅延させること、もしくは除去すること、疾患もしくは状態の進行を減速させること、停止させること、もしくは逆転させること、またはその任意の組合せを含む。
【0060】
ヌクレオチド配列の「バリアント」とは、最も一般的な野生型DNA配列(例えば、cDNAもしくはそのGenBank受託番号によって参照される配列)または特定の参照配列と比較して、遺伝的変更または変異を有する配列を指す。
【0061】
本明細書で使用される場合、「ベクター」とは、それが複製または発現され得る細胞中への、それが連結される別の核酸分子の送達を媒介するために使用することができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製する核酸構造としてのベクターならびにそれが導入された宿主細胞のゲノム中に組み込まれるベクターを含む。ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結された核酸の発現を方向付けることができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。ベクターの他の例としては、プラスミド、ウイルスベクター、およびコスミドが挙げられる。
【0062】
一般に、互換的に使用することができる、「配列同一性」または「配列相同性」とは、それぞれ、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の、正確なヌクレオチド間またはアミノ酸間の対応を指す。2つまたはそれより多い配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)を、「相同性パーセント」とも称される、それらの「同一性パーセント」を決定することによって比較することができる。参照配列(例えば、核酸またはアミノ酸配列)に対する同一性パーセントを、2つの最適に整列された配列間の正確な一致を参照配列の長さで除算し、100を掛けた数として算出することができる。保存的置換は、配列同一性のための一致数を決定する場合に一致として考えない。第1の配列(A)の長さが、第2の配列(B)の長さと等しくない場合、A:B配列の同一性パーセントは、B:A配列の同一性パーセントとは異なることが理解されるであろう。同一性パーセントを評価するためなどの配列アラインメントを、限定されるものではないが、Needleman-Wunschのアルゴリズム(例えば、ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/のワールドワイドウェブ上で入手可能なEMBOSS Needle alignerを参照されたい)、BLASTアルゴリズム(例えば、blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiのワールドワイドウェブ上で入手可能なBLASTアラインメントツールを参照されたい)、Smith-Watermanのアルゴリズム(例えば、ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_water/のワールドワイドウェブ上で入手可能なEMBOSS Water alignerを参照されたい)、およびClustal Omegaアラインメントプログラム(例えば、clustal.org/omega/のワールドワイドウェブおよびF. Sievers et al., Mol Sys Biol. 7: 539 (2011)を参照されたい)を含む、任意の好適なアラインメントアルゴリズムまたはプログラムによって実施することができる。最適なアラインメントを、デフォルトパラメーターを含む、選択されたアルゴリズムの任意の好適なパラメーターを使用して評価することができる。BLASTプログラムは、Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268 (1990)の、ならびにAltschul, et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990);Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877 (1993);およびAltschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997)に考察されたアラインメント方法に基づくものである。
【0063】
別途指摘しない限り、本明細書で使用される全ての用語は、それらが当業者に対するものであるのと同じ意味を有し、本発明の実施は、当業者の知識の範囲内にある、分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術の従来の技術を用いるであろう。
【0064】
C.核酸構築物
一部の実施形態では、本開示は、細胞型選択的調節エレメントを含むベクターを投与する方法に関する。一部の実施形態では、ベクターは、調節エレメントを含む。一部の実施形態では、調節エレメントは、CMVプロモーターに作動可能に連結された場合の導入遺伝子の発現と比較して、導入遺伝子発現の少なくとも2倍の増加をもたらす。一部の実施形態では、方法は、調節エレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列(例えば、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列)を含むベクター(例えば、AAV9)を投与することを含む。かくして、一部の態様では、本開示の方法を実行するのに有用な核酸成分および組成物が、本明細書で提供される。
【0065】
一部の実施形態では、核酸は、DNA分子である。一部の実施形態では、核酸は、RNA分子である。一部の実施形態では、核酸は、本明細書に開示されるベクターのいずれかの中のDNA分子である。一部の実施形態では、核酸分子は、本明細書に開示される導入遺伝子のいずれかを含む。一部の実施形態では、核酸分子は、本明細書に開示される調節エレメントのいずれかを含む。一部の実施形態では、核酸は、本明細書に開示される導入遺伝子のいずれかと、本明細書に開示される調節エレメントのいずれかとを含むDNA分子である。一部の実施形態では、核酸分子は、本明細書に開示される導入遺伝子のいずれかを含むRNA核酸分子である。一部の実施形態では、RNA分子は、本明細書に開示されるDNA分子(例えば、本明細書に開示される導入遺伝子および調節エレメントのいずれかを含むDNA分子)のいずれかから転写される。一部の実施形態では、RNA分子は、本明細書に開示されるDNA分子(例えば、本明細書に開示される導入遺伝子および調節エレメントのいずれかを含むDNA分子)のいずれかから転写され、RNA分子は、導入遺伝子配列を含む。
【0066】
1.導入遺伝子
一部の実施形態では、本発明の方法に従って使用することができる、本明細書で提供される核酸分子のいずれかは、本明細書に開示される方法における使用のための調節エレメントに作動可能に連結された導入遺伝子配列を含む。一部の実施形態では、本発明の組成物および方法の導入遺伝子を使用して、神経疾患(例えば、ドラベ症候群)と関連する1つまたは複数の症状を阻害または処置することができる。
【0067】
目的の任意の導入遺伝子を設計し、本発明の方法において使用することができる。一部の実施形態では、導入遺伝子は、参照ヌクレオチド配列と比較した場合、改変ヌクレオチド配列(例えば、代替コドン)を含む。一部の実施形態では、例えば、発現される導入遺伝子が、疾患(例えば、アルツハイマー病)と治療的に関連する細胞のサブセット中で特異的に発現する、ある特定の有益な特性を有するように、導入遺伝子を設計することができる。一部の実施形態では、導入遺伝子は、DNA核酸分子である。一部の実施形態では、導入遺伝子は、本明細書に記載のDNA核酸分子のいずれかから転写されたRNA核酸分子である。
【0068】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、治療タンパク質をコードする。一部の実施形態では、被験体(例えば、霊長類)中での治療タンパク質の発現は、疾患または障害(例えば、神経学的疾患または障害)を発症するリスクを低下させる。一部の実施形態では、導入遺伝子は、野生型バージョンのタンパク質をコードし、変異体バージョンのタンパク質を発現する被験体に投与することができる。一部の実施形態では、導入遺伝子は、野生型バージョンのタンパク質をコードし、被験体中での野生型バージョンのタンパク質の発現レベルを増加させるために被験体に投与することができる。一部の実施形態では、導入遺伝子は、変異体タンパク質が野生型バージョンのタンパク質と比較して増大した活性または構成的活性を伴う、変異形態のタンパク質をコードする。一部の実施形態では、導入遺伝子は、被験体中での特異的タンパク質アイソフォームの発現が、疾患または障害の発症のリスクの低下と関連する、特異的なアイソフォームのタンパク質(例えば、ヒトアポリポタンパク質E2)をコードする。一部の実施形態では、特異的タンパク質アイソフォームは、同じタンパク質の有害なアイソフォーム(例えば、ヒトアポリポタンパク質E4)を発現する被験体に投与される。
【0069】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、ポリペプチドをコードする配列を含む。一部の実施形態では、導入遺伝子は、遺伝子編集ポリペプチドをコードする配列を含む。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるポリペプチドは、DNA結合タンパク質である。一部の実施形態では、DNA結合タンパク質は、亜鉛フィンガータンパク質(ZFP)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)からなる群より選択される。一部の実施形態では、導入遺伝子は、コドン最適化されたバリアントおよび/またはその断片であるヌクレオチド配列を含む。
【0070】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、ガイドRNA(gRNA)をコードする配列を含む。一部の実施形態では、導入遺伝子は、調節エレメントに作動可能に連結されたgRNAをコードする配列を含む。一部の実施形態では、ガイドRNAを、RNAによりガイドされるDNA結合剤(例えば、Casヌクレアーゼ)およびドナー構築物と組み合わせて使用することができる。一部の実施形態では、ドナー構築物を、遺伝子編集系(例えば、CRISPR/Cas系;ZFN系;TALEN系)と共に使用することができる。
【0071】
本明細書で使用される場合、用語「ガイドRNA」および「gRNA」は、crRNA(CRISPR RNAとしても公知である)、またはcrRNAとtrRNA(tracrRNAとしても公知である)との組合せのいずれかを指すように本明細書では互換的に使用される。crRNAおよびtrRNAは、単一のRNA分子(単一ガイドRNA、sgRNA)として、または2つの別々のRNA分子(二重ガイドRNA、dgRNA)中で結合していてもよい。「ガイドRNA」または「gRNA」は、単一ガイドRNAまたは二重ガイドRNA形式の両方を指す。trRNAは、天然に存在する配列、または天然に存在する配列と比較して改変もしくは変化を有するtrRNA配列であってもよい。sgRNAまたはdgRNAなどのガイドRNAは、本明細書に記載される改変RNAを含んでもよい。
【0072】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする配列を含む。一部の実施形態では、導入遺伝子は、調節エレメントに作動可能に連結されたアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする配列を含む。一部の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的遺伝子の発現を低下させる。一部の実施形態では、導入遺伝子は、例えば、電位依存性イオンチャネルまたはそのサブユニットなどの、CNS障害と関連する遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする。電位依存性イオンチャネルとしては、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル、カリウムチャネル、およびプロトンチャネルが挙げられる。電位依存性ナトリウムチャネルサブユニットの例としては、SCN1B(NM_001037.4)、SCN1A(NM_001165963.1)、SCN2B(NM_004588.4)、SCN2A、SNC8A、KV3.1、KV3.2、またはKV3.3が挙げられる。一部の実施形態では、導入遺伝子は、SCN1AもしくはSCN8AのプレmRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド、またはSCN1Aの天然のアンチセンスポリヌクレオチドをコードする。
【0073】
一部の実施形態では、本出願は、神経伝達物質調節因子を標的とするか、またはそれを上方調節することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする導入遺伝子を提供する。神経伝達物質調節因子は、CNS中での神経伝達物質の産生または放出の調節に関与してもよい。例えば、神経伝達物質調節因子は、シナプス融合を補助して、神経伝達物質を放出させることができる。神経伝達物質調節因子の例は、STXBP1(NM_001032221.3)である。
【0074】
一部の実施形態では、本出願は、細胞型選択的調節エレメントに作動可能に連結されたアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、電位依存性イオンチャネルまたはそのサブユニットなどの目的の遺伝子の発現または機能を上方調節することができる、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする導入遺伝子を提供する。一部の実施形態では、本出願は、保持されたイントロンを有する電位依存性ナトリウムチャネルのプレmRNAのスプライシングを促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする導入遺伝子を提供する。別の実施形態では、本出願は、電位依存性ナトリウムチャネルのプレmRNAのスプライシングをモジュレートするアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする導入遺伝子を提供する。別の実施形態では、本出願は、電位依存性ナトリウムチャネルの天然のアンチセンスポリヌクレオチドに標的化されるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする導入遺伝子を提供する。一部の実施形態では、導入遺伝子は、SCN1Aの発現または機能を上方調節することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする。一部の実施形態では、導入遺伝子は、SCN8Aの発現または機能を下方調節することができるアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする。
【0075】
一部の実施形態では、本出願は、エクソンスキッピング、エクソン含有、保持されたイントロンの除去、または標的遺伝子の有害なmRNAの根絶、分解もしくは不活化、または標的遺伝子の天然のアンチセンスポリヌクレオチドの根絶、分解もしくは不活化を促進するアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする導入遺伝子を提供する。一部の実施形態では、標的遺伝子は、SCN1AまたはSCN8Aである。本明細書に開示される組成物および方法に関連する使用にとって好適な種々のアンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば、US2017/0240904、US9,771,579、WO2017/106377、US9,976,143、およびWO2017/106382に見出すことができる。
【0076】
本明細書で使用される場合、用語「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、オリゴヌクレオチド(例えば、RNA、DNA、その模倣物質(mimetic)、キメラ、アナログまたはホモログ)、リボザイム、外部ガイド配列(EGS)オリゴヌクレオチド、短い干渉RNA(siRNA)、マイクロ干渉RNA(miRNA)などの一本鎖または二本鎖RNA干渉(RNAi)化合物、小さい一時的RNA(stRNA)、短いヘアピンRNA(shRNA)、小さいRNAにより誘導される遺伝子活性化(RNAa)、小さい活性化RNA(saRNA)、またはU1もしくはU7 snRNAなどの低分子核内RNA(snRNA)、および標的核酸の少なくとも一部にハイブリダイズし、その機能をモジュレートする他のオリゴマー化合物を指す。そのため、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、DNA様、RNA様、もしくはその混合物であってよく、またはこれらの1つもしくは複数の模倣物質であってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖、二本鎖、環状またはヘアピンオリゴマー化合物であってもよく、内部または末端バルジ、ミスマッチまたはループなどの構造エレメントを含有してもよい。2つの鎖をハイブリダイズさせて、全体的もしくは部分的に二本鎖のオリゴヌクレオチドを形成させることによって、または完全に、もしくは部分的に二本鎖のオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションおよび形成を可能にするために十分な自己相補性を有する一本鎖によって、二本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドを形成させることができる。2つの鎖を、遊離3’もしくは5’末端を残して内部で連結するか、または連続ヘアピン構造もしくはループを形成するように連結することができる。ヘアピン構造は、一本鎖特性の伸長をもたらす5’または3’末端上の突出部を含有してもよい。二本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドは、必要に応じて、末端上に突出部を含んでもよい。一方の鎖からのみ形成される場合、dsRNAは、それ自体で折り畳んで二重鎖を形成する自己相補性ヘアピン型分子の形態を採ってもよい。かくして、dsRNAは、完全に、または部分的に二本鎖であってもよい。トランスジェニック細胞系中での、または遺伝子療法によるアンチセンスRNAオリゴヌクレオチドの安定な発現によって、遺伝子発現の特異的モジュレーションを達成することができる。2つの鎖、または二重鎖を形成するためにそれ自体で折り畳んだ自己相補性ヘアピン型分子の形態を採る一本鎖から形成される場合、2つの鎖(または一本鎖の二重鎖形成領域)は、ワトソン・クリック様式で塩基対を形成する相補性RNA鎖である。一部の実施形態では、本明細書で提供されるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖RNAオリゴヌクレオチドである。ある特定の実施形態では、一本鎖アンチセンスRNAは、改変huU7 snRNA分子の一部として提供される。
【0077】
種々の実施形態では、本明細書で提供される導入遺伝子によってコードされるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的遺伝子または配列と完全に、または部分的に相補的であってもよい。ある特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、標的配列との間の相同性、配列同一性または相補性は、約40%~約60%である。一部の実施形態では、相同性、配列同一性または相補性は、約60%~約70%である。一部の実施形態では、相同性、配列同一性または相補性は、約70%~約80%である。一部の実施形態では、相同性、配列同一性または相補性は、約80%~約90%である。一部の実施形態では、相同性、配列同一性または相補性は、約90%、約92%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約100%である。
【0078】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、RNA(RNAi)をコードする配列を含む。一部の実施形態では、導入遺伝子は、調節エレメントに作動可能に連結されたRNAをコードする配列を含む。一部の実施形態では、RNAiは、標的遺伝子の発現を低下させる。一部の実施形態では、RNAiは、SOD1、HTT、タウ、またはアルファ-シヌクレインからなる群より選択される標的遺伝子の発現を低下させる。本明細書で使用される場合、用語「RNAi」とは、RNA干渉を指令するのに十分な、標的RNAに対する配列相補性を有する、RNA(またはそのアナログ)を指す。
【0079】
2.調節エレメント
調節エレメントは、DNAおよび/またはRNAレベルで機能することができる。調節エレメントは、目的の細胞型において遺伝子発現選択性をモジュレートするように機能することができる。調節エレメントは、遺伝子発現の転写段階、転写後段階、または翻訳段階で遺伝子発現をモジュレートするように機能することができる。調節エレメントとしては、限定されるものではないが、プロモーター、エンハンサー、イントロン、または他の非コード配列が挙げられる。RNAレベルでは、調節は、翻訳(例えば、翻訳のためのmRNAを安定化する安定性エレメント)、RNA切断、RNAスプライシング、および/または転写終結のレベルで起こってもよい。一部の場合、調節エレメントは、目的の細胞型において遺伝子発現選択性を増加させるコード領域に転写因子を動員することができる。一部の場合、調節エレメントは、RNA転写物が産生される速度を増大させる、産生されるRNAの安定性を増大させる、および/またはRNA転写物からのタンパク質合成の速度を増大させることができる。
【0080】
調節エレメントは、1つまたは複数の細胞型または組織中で遺伝子(例えば、EGFPもしくはルシフェラーゼなどのリポーター遺伝子;導入遺伝子;または治療遺伝子)の発現に影響する(例えば、増加させる)ことができる核酸配列または遺伝子エレメントである。一部の場合、調節エレメントは、導入遺伝子、イントロン、プロモーター、エンハンサー、UTR、逆方向末端反復(ITR)配列、長い末端反復配列(LTR)、安定性エレメント、翻訳後応答エレメント、もしくはポリA配列、またはその組合せであってもよい。一部の場合、調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、イントロン配列、またはその組合せである。一部の場合、調節エレメントは、ヒト配列(例えば、hg19)に由来する。
【0081】
一部の場合、本開示の調節エレメントは、作動可能に連結された導入遺伝子の高いか、または増加した発現をもたらし、高いか、または増加した発現は、対照、例えば、構成的プロモーター、CMVプロモーター、CAG、スーパーコアプロモーター(SCP)、TTRプロモーター、Proto1プロモーター、UCL-HLPプロモーター、minCMV、EFS、またはCMVeプロモーターと比較して決定される。本明細書に開示される調節エレメントによる高いか、または増加した導入遺伝子発現を決定するために使用することができる他の対照は、緩衝液のみ、またはベクターのみを含む。一部の場合、陽性対照とは、比較のために使用することができる、配列番号39などの、既知の発現活性を示すREを指す。一部の場合、調節エレメントは、陽性対照(例えば、配列番号39または導入遺伝子に作動可能に連結された既知のプロモーター)と比較して、同等な、またはより高い導入遺伝子発現を駆動する。
【0082】
ある特定の実施形態では、ベクターは、調節エレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、ヌクレオチド配列は、400塩基対(bp)、300bp、250bp、200bp、150bp、140bp、130bp、120bp、110bp、100bp、70bp、または50bpより小さい、またはそれと等しい調節エレメントに作動可能に連結される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、配列番号1~29のいずれか1つ、CBA、CMV、SCP、SERpE_TTR、Proto1、minCMV、UCL-HLP、CMVe、CAG、またはEFSのいずれか1つまたは組合せである。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、配列番号31、配列番号33、CBA、またはminCMVのいずれか1つまたは組合せである。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、配列番号33である。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、CBAである。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、minCMVである。ある特定の実施形態では、本明細書に開示されるベクターは、任意の導入遺伝子、例えば、DNA結合タンパク質に作動可能に連結された配列番号1~40(以下の表5および表6に示される)のいずれか1つを有するプロモーターを含む。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、細胞型選択的である。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、神経細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、単極ニューロン、双極ニューロン、多極ニューロンまたは偽単極ニューロンからなる群より選択される神経細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、GABA作動性ニューロン中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、グリア細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、グリア細胞は、以下のグリア細胞型:アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、またはサテライト細胞のいずれか1つである。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、ミクログリア細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、非神経細胞中で選択的に発現される。
【0083】
一部の実施形態では、調節エレメントは、ヒト調節エレメントに由来する。一部の実施形態では、配列は、それがヒト配列に対する少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の同一性を有する場合、ヒト由来であると見なされる。一部の場合、調節エレメントは、全体として、調節エレメントがヒトゲノムに対する低い配列同一性を有するが、調節エレメントの一部がヒトゲノム中の配列に対する100%の配列同一性(または局所配列同一性)を有するような、ヒト由来配列および非ヒト由来配列を含有する。
【0084】
ある特定の実施形態では、本開示は、CNS、例えば、PVニューロン中での導入遺伝子発現の選択性を増加または改善するための任意の導入遺伝子に作動可能に連結することができる、複数の調節エレメントを提供する。本明細書に開示される1つまたは複数の調節エレメントを使用して遺伝子発現の選択性を増加させることによって、遺伝子療法の有効性を改善する、治療効果をもたらすのに必要とされる有効用量を減少させる、有害効果もしくはオフターゲット効果を最小化する、ならびに/または患者の安全性および/もしくは忍容性を増加させることができる。
【0085】
一態様では、1つまたは複数の非標的細胞型または組織(例えば、非PV CNS細胞型)よりも、標的細胞型または組織(例えば、PV細胞)中での導入遺伝子の発現を標的化することなどの、細胞中での遺伝子発現をモジュレートするために、1つまたは複数の調節エレメントを、発現カセット中の任意の導入遺伝子に作動可能に連結することができる。一部の場合、標的細胞型または組織中での導入遺伝子の発現を標的化することは、標的細胞型または組織中での遺伝子発現の増加を含む。
【0086】
一部の場合、1つまたは複数の調節エレメントを遺伝子に作動可能に連結することは、パルブアルブミン(PV)ニューロンなどの、CNS中の標的組織または細胞型中での遺伝子の標的化された発現をもたらす。一部の場合、1つまたは複数の調節エレメント(例えば、配列番号41~75、またはその機能的断片もしくは組合せ、またはそれに対する少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列)は、PVニューロンなどの、CNS中の標的組織または細胞型中での遺伝子発現の選択性を増加させる。一部の場合、遺伝子療法は、本明細書に開示される1つまたは複数の調節エレメントを含み、調節エレメントは、導入遺伝子に作動可能に連結され、PVニューロン中での導入遺伝子の選択的発現を駆動する。
【0087】
一部の場合、PVニューロン中での遺伝子の選択的発現は、内因性遺伝子におけるハプロ不全および/または遺伝的欠陥と関連する疾患または状態を処置するために使用され、ここで、遺伝的欠陥は、遺伝子中の変異または遺伝子の調節異常であってもよい。そのような遺伝的欠陥は、遺伝子産物のレベルの低下ならびに/または機能および/もしくは活性が損傷された遺伝子産物をもたらし得る。一部の場合、発現カセットは、遺伝子、サブユニット、バリアントまたはその機能的断片を含み、発現カセットからの遺伝子発現は、遺伝的欠陥、機能および/もしくは活性の損傷、ならびに/または内因性遺伝子の調節異常と関連する疾患または状態を処置するために使用される。一部の場合、疾患または状態は、ドラベ症候群、アルツハイマー病、てんかん、神経変性、タウオパチー、ニューロン過少興奮性(neuronal hypoexcitability)および/または発作である。
【0088】
一部の場合、本明細書に開示される任意の1つまたは複数の調節エレメントは、パルブアルブミン細胞中での遺伝子発現における選択性の増加をもたらす。一部の場合、本明細書に開示される調節エレメントは、PV細胞選択的である。一部の場合、PV細胞選択的調節エレメントは、非PV CNS細胞型中での発現よりも多い、PV細胞中での選択的遺伝子発現と関連する。一部の場合、PV細胞選択的調節エレメントは、非PV CNS細胞型中での遺伝子発現の低下と関連する。調節エレメントの非限定例としては、表7に提供される、配列番号41~75が挙げられる。
【0089】
ある特定の実施形態では、ベクターは、CMVプロモーターに作動可能に連結された場合の導入遺伝子の発現と比較して、導入遺伝子発現の少なくとも2倍の増加をもたらす調節エレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態では、プロモーター配列は、同じ型の哺乳動物細胞中でのCMVプロモーターからの同じ導入遺伝子配列の発現のレベルと比較して、哺乳動物細胞中で少なくとも5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、もしくは75倍、または少なくとも20~90倍、20~80倍、20~70倍、20~60倍、30~90倍、30~80倍、30~70倍、30~60倍、40~90倍、40~80倍、40~70倍、40~60倍、50~90倍、50~80倍、50~70倍、50~60倍、60~90倍、60~80倍、60~70倍、70~90倍、70~80倍、80~90倍高い導入遺伝子配列の発現をもたらす。ある特定の実施形態では、プロモーター配列は、高いパーセンテージの神経細胞において導入遺伝子配列の発現を駆動する、例えば、ベクターを含有するGABA作動性細胞のうち少なくとも20%、25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくはそれより高い、または少なくとも20~90%、20~80%、20~70%、30~90%、30~80%、30~70%、40~90%、40~80%、40~70%、50~90%、50~80%、50~70%、60~90%、60~80%、60~70%、70~90%、70~80%、80~100%、80~95%、80~90%、90~100%、もしくは90~95%が、導入遺伝子を発現する。ある特定の実施形態では、プロモーター配列は、高いパーセンテージのグリア細胞において導入遺伝子の発現を駆動する、例えば、ベクターを含有するオリゴデンドロサイトのうち少なくとも20%、25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくはそれより高い、または少なくとも20~90%、20~80%、20~70%、30~90%、30~80%、30~70%、40~90%、40~80%、40~70%、50~90%、50~80%、50~70%、60~90%、60~80%、60~70%、70~90%、70~80%、80~100%、80~95%、80~90%、90~100%、もしくは90~95%が、導入遺伝子を発現する。
【0090】
一部の態様では、AAV発現カセットは、少なくとも3kbの導入遺伝子に作動可能に連結された120bp以下のヒト由来調節エレメントであって、CMVプロモーターに作動可能に連結された場合の導入遺伝子の発現と比較して、導入遺伝子発現の少なくとも2倍の増加をもたらす、調節エレメントを含む。一部の場合、導入遺伝子発現の増加は、少なくとも50倍である。一部の場合、導入遺伝子発現の増加は、少なくとも100倍である。一部の場合、導入遺伝子発現の増加は、少なくとも2つの異なる細胞型(例えば、興奮性ニューロンおよび抑制性ニューロン)において起こる。一部の場合、導入遺伝子発現の増加は、少なくとも3つの異なる細胞型(例えば、興奮性ニューロン、抑制性ニューロン、および肝臓細胞)において起こる。
【0091】
一部の場合では、細胞中またはin vivoでの導入遺伝子のそのような高い発現は、前記調節エレメントを有しない導入遺伝子の発現との比較であり、調節エレメントを有する導入遺伝子の発現は、調節エレメントを有しない導入遺伝子の発現と比較して、または陰性対照(例えば、緩衝液のみ、ベクターのみ、もしくは発現活性を有しないことが知られる配列を含むベクター)による導入遺伝子発現と比較して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも150倍、少なくとも200倍、少なくとも250倍、少なくとも300倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、少なくとも600倍、少なくとも700倍、少なくとも800倍、少なくとも900倍、少なくとも1000倍、少なくとも1010倍、少なくとも1020倍、少なくとも1030倍、少なくとも1040倍、または少なくとも1050倍である。
【0092】
一部の場合、1つまたは複数の調節エレメントは、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、または少なくとも10の異なる細胞型において高い導入遺伝子発現をもたらす。一部の場合、本開示の1つまたは複数の調節エレメントは、全身投与のために適合された遺伝子療法処置のための導入遺伝子に作動可能に連結される。一部の場合、本開示の1つまたは複数の調節エレメントは、中枢神経系への投与のために適合された遺伝子療法処置のための導入遺伝子に作動可能に連結される。一部の場合、本開示の1つまたは複数の調節エレメントは、脳脊髄液への投与のために適合された遺伝子療法処置のための導入遺伝子に作動可能に連結される。一部の場合、本開示の1つまたは複数の調節エレメントは、ニューロンまたはグリアでの発現のために適合された遺伝子療法処置のための導入遺伝子に作動可能に連結される。
【0093】
D.ベクター
一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示される核酸分子のいずれかを含むベクター(例えば、本明細書に開示されるベクターのいずれか)を提供する。一部の実施形態では、ベクターは、ウイルスベクター(例えば、アデノ随伴ウイルスベクター)である。一部の実施形態では、ベクターは、ウイルス粒子である。一部の実施形態では、ベクターは、非ウイルスベクターである。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法のいずれかを使用して、本明細書に開示されるベクターのいずれかを被験体(例えば、霊長類)に投与することができる。
【0094】
一部の実施形態では、本明細書に記載の核酸分子は、当該分野で利用可能な種々の公知かつ好適な方法を使用して、in vitroまたはin vivoで、細胞または組織に提供される(または送達される)。一部の実施形態では、本明細書に記載の核酸分子は、本明細書に記載の方法を使用して、in vitroまたはin vivoで、細胞または組織に提供される(または送達される)。従来のウイルスおよび非ウイルスに基づく遺伝子送達方法を使用して、本明細書に開示される核酸分子を細胞(例えば、神経細胞)および標的組織中に導入することができる。非ウイルス発現ベクター系は、例えば、線状オリゴヌクレオチドおよび環状プラスミドなどの核酸ベクター;ヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、および細菌人工染色体(BACまたはPAC)などの人工染色体;エピソームベクター;トランスポゾン(例えば、PiggyBac);ならびにコスミドを含む。ウイルスベクター送達系は、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクターなどの、DNAおよびRNAウイルスを含む。本明細書に記載の核酸分子を、非ウイルスおよびウイルス発現系のいずれかに組み込む方法は、当業者には公知である。
【0095】
物理的および化学的方法を含む、核酸の非ウイルス送達のための方法および組成物は、当該分野で公知である。物理的方法とは一般に、遺伝物質の細胞内送達を容易にする際に細胞膜障壁に対抗する物理的な力を用いる送達方法を指す。物理的方法の例としては、針、弾道DNA、電気穿孔、ソノポレーション、フォトポレーション、マグネトフェクション、およびハイドロポレーションの使用が挙げられる。化学的方法とは一般に、化学的担体が核酸分子を細胞に送達する方法を指し、無機粒子、脂質に基づく担体、ポリマーに基づく担体およびペプチドに基づく担体を含んでもよい。
【0096】
一部の実施形態では、非ウイルス発現ベクターは、無機粒子を使用して標的細胞に投与される。無機粒子は、細網内皮系から逃れるか、または捕捉された分子を分解から保護するために様々なサイズ、形状、および/または多孔性について操作されたナノ粒子などのナノ粒子を指してもよい。無機ナノ粒子を、金属(例えば、鉄、金、および銀)、無機塩、またはセラミックス(例えば、カルシウム、マグネシウム、もしくはケイ素のリン酸塩もしくは炭酸塩)から調製することができる。これらのナノ粒子の表面をコーティングして、DNA結合または標的化された遺伝子送達を容易にすることができる。磁気ナノ粒子(例えば、超磁性酸化鉄)、フラーレン(例えば、可溶性炭素分子)、カーボンナノチューブ(例えば、円筒状フラーレン)、量子ドットおよび超分子系を使用することもできる。
【0097】
一部の実施形態では、非ウイルス発現ベクターは、陽イオン脂質(例えば、陽イオン性リポソーム)を使用して標的細胞に投与される。例えば、脂質ナノエマルジョン(例えば、乳化剤によって安定化された、1つの非混和性液体の別のものへの分散物である)または固体脂質ナノ粒子などの、様々な型の脂質が遺伝子送達のために調査されている。一部の実施形態では、非ウイルス発現ベクターを、脂質ナノ粒子(LNP)を使用して送達することができる。一部の実施形態では、LNPは、陽イオン脂質を含む。一部の実施形態では、LNPは、3-((4,4-ビス(オクチルオキシ)ブタノイル)オキシ)-2-((((3-(ジエチルアミノ)プロポキシ)カルボニル)オキシ)メチル)プロピル(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエノエートとも呼ばれる、(9Z,12Z)-3-((4,4-ビス(オクチルオキシ)ブタノイル)オキシ)-2-((((3-(ジエチルアミノ)プロポキシ)カルボニル)オキシ)メチル)プロピルオクタデカ-9,12-ジエノエートまたは別のイオン化可能な脂質を含む。例えば、WO2017/173054、WO2015/095340、およびWO2014/136086、ならびにその中で提供される参考文献の脂質を参照されたい。
【0098】
一部の実施形態では、非ウイルス発現ベクターは、ペプチドに基づく送達ビヒクルを使用して標的細胞に投与される。ペプチドに基づく送達ビヒクルは、送達される遺伝物質を保護する、特定の細胞受容体を標的化する、エンドソーム膜を破壊する、および遺伝物質を核に送達する利点を有し得る。一部の実施形態では、非ウイルス発現ベクターは、ポリマーに基づく送達ビヒクルを使用して標的細胞に投与される。ポリマーに基づく送達ビヒクルは、天然タンパク質、ペプチドおよび/もしくは多糖または合成ポリマーを含んでもよい。一実施形態では、ポリマーに基づく送達ビヒクルは、ポリエチレンイミン(PEI)を含む。PEIは、DNAを凝集させて、陰イオン性細胞表面残基に結合し、エンドサイトーシスによって細胞中にもたらされる、正に荷電した粒子にすることができる。他の実施形態では、ポリマーに基づく送達ビヒクルは、ポリ-L-リシン(PLL)、ポリ(DL-乳酸)(PLA)、ポリ(DL-ラクチド-co-グリコシド)(PLGA)、ポリオルニチン、ポリアルギニン、ヒストン、プロタミン、デンドリマー、キトサン、デキストランの合成アミノ誘導体、および/または陽イオン性アクリルポリマーを含んでもよい。ある特定の実施形態では、ポリマーに基づく送達ビヒクルは、例えば、PEGおよびPLLなどのポリマーの混合物を含んでもよい。
【0099】
一部の実施形態では、本明細書に開示される核酸分子のいずれかを、例えば、レトロウイルス(例えば、A型、B型、C型、およびD型ウイルス)、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルスまたはAAV)、コロナウイルス、オルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルスおよび水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹ウイルスおよびセンダイウイルス)などのマイナス鎖RNAウイルス、ピコルナウイルスおよびアルファウイルスなどのプラス鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、鶏痘ウイルスおよびカナリア痘ウイルス)を含む二本鎖DNAウイルスを含む、任意の公知の好適なウイルスベクターを使用して送達することができる。レトロウイルスの例としては、トリ白血病・肉腫ウイルス、ヒトTリンパ好性ウイルス1型(HTLV-1)、ウシ白血病ウイルス(BLV)、レンチウイルス、およびスプーマウイルスが挙げられる。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが挙げられる。ウイルスベクターを、宿主ゲノム中に組み込まれるその能力に従って2つの群-組込み型および非組込み型に分類することができる。オンコレトロウイルスおよびレンチウイルスは、宿主細胞クロマチンに組み込まれ得るが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびヘルペスウイルスは、主に染色体外エピソームとして細胞核中で持続する。
【0100】
一部の実施形態では、好適なウイルスベクターは、レトロウイルスベクターである。レトロウイルスとは、レトロウイルス科のウイルスを指す。レトロウイルスの例としては、マウス白血病ウイルス(MLV)などのオンコレトロウイルス、およびヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)などのレンチウイルスが挙げられる。レトロウイルスゲノムは、一本鎖(ss)RNAであり、cisまたはtransで提供することができる種々の遺伝子を含む。例えば、レトロウイルスゲノムは、遺伝子発現、逆転写および宿主染色体への組込みのためのエレメントと共に、2つの長い末端反復配列(LTR)などのcis作用性配列を含有してもよい。他の成分としては、新しく形成されたビリオンへの特異的RNAのパッケージングのためのパッケージングシグナル(プサイまたはΨ)および逆転写中のプラス鎖DNA合成の開始部位であるポリプリントラクト(PPT)が挙げられる。さらに、一部の実施形態では、レトロウイルスゲノムは、gag、polおよびenv遺伝子を含んでもよい。gag遺伝子は構造タンパク質をコードし、pol遺伝子はssRNAに付随し、ウイルスRNAのDNAへの逆転写を実行する酵素をコードし、env遺伝子はウイルスエンベロープをコードする。一般に、gag、polおよびenvは、ウイルスの複製およびパッケージングのためにtransに提供される。
【0101】
一部の実施形態では、本明細書で提供されるレトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターであってもよい。レンチウイルスの少なくとも5つの血清群または血清型が認識されている。異なる血清型のウイルスは、ある特定の細胞型および/または宿主に示差的に感染してもよい。レンチウイルスは、例えば、霊長類レトロウイルスおよび非霊長類レトロウイルスを含む。霊長類レトロウイルスとしては、HIVおよびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。非霊長類レトロウイルスとしては、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)およびビスナウイルスが挙げられる。レンチウイルスまたはレンチベクターは、静止細胞に形質導入することができる。オンコレトロウイルスベクターに関して、レンチベクターの設計は、cisおよびtrans作用性配列の分離に基づくものであってよい。
【0102】
一部の実施形態では、本開示は、最適化された治療用レトロウイルスベクターによる送達のために設計された発現ベクターを提供する。レトロウイルスベクターは、左側(5’)のLTR;ウイルスのパッケージングおよび/または核輸送を補助する配列;プロモーター;必要に応じて、1つまたは複数のさらなる調節エレメント(例えば、エンハンサーまたはポリA配列など);必要に応じて、レンチウイルス逆応答エレメント(lentiviral reverse response element)(RRE);必要に応じて、インスレーター;ならびに右側(3’)のレトロウイルスLTRのうちのいずれか1つまたは複数を含むレンチウイルスであってもよい。
【0103】
一部の実施形態では、本明細書で提供されるウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVは、ヒトおよび一部の他の霊長類種に感染する小さい、複製欠損、非エンベロープ動物ウイルスである。AAVは、ヒト疾患を引き起こさないことが知られており、軽度の免疫応答を誘導する。AAVベクターはまた、宿主細胞ゲノム中に組み込まれることなく、分裂細胞と静止細胞との両方に感染することができる。
【0104】
AAVゲノムは、天然では約4.7kbの長さである線状一本鎖DNAからなる。このゲノムは、約145bpの長さである逆方向末端反復(ITR)配列によって隣接された2つのオープンリーディングフレーム(ORF)からなる。ITRは、5’末端のヌクレオチド配列(5’ITR)と、パリンドローム配列を含有する3’末端に位置するヌクレオチド配列(3’ITR)とからなる。ITRは、第2鎖合成のためのDNA複製の開始中にプライマーとして機能する相補的塩基対合によってT型のヘアピン構造を形成するようにフォールディングすることによってcisに機能する。2つのオープンリーディングフレームは、ビリオンの複製およびパッケージングに関与するrepおよびcap遺伝子をコードする。一部の実施形態では、本明細書で提供されるAAVベクターは、repもcap遺伝子も含有しない。そのような遺伝子を、以下にさらに記載されるようにビリオンを産生するためにtransに提供することができる。
【0105】
一部の実施形態では、AAVベクターは、スタッファー核酸(stuffer nucleic acid)を含んでもよい。一部の実施形態では、スタッファー核酸は、緑色蛍光タンパク質またはカナマイシンもしくはアンピシリンなどの抗生物質に対する耐性を提供する抗生物質耐性遺伝子をコードしてもよい。ある特定の実施形態では、スタッファー核酸は、ITR配列の外側に位置してもよい(例えば、5’および3’ITR配列の間に位置する、導入遺伝子配列および調節配列と比較した場合)。
【0106】
一部の実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAV-DJ、AAV-DJ8、AAV-DJ9またはキメラ、ハイブリッド、もしくはバリアントAAVのいずれか1つである。AAVはまた、自己相補性AAV(scAAV)であってもよい。これらの血清型は、その向性、またはそれらが感染する細胞の型において異なる。一部の実施形態では、AAVベクターは、複数の血清型(例えば、偽型)に由来するゲノムおよびカプシドを含む。例えば、AAVは、血清型5または血清型9に由来するカプシドにパッケージングされた血清型2のゲノム(例えば、ITR)を含んでもよい。偽型は、形質導入効率を改善する、ならびに向性を変更することができる。一部の実施形態では、AAVは、AAV9血清型である。ある特定の実施形態では、AAVによる送達のために設計された発現ベクターは、5’ITRおよび3’ITRを含む。
【0107】
一部の実施形態では、AAV血清型6またはAAV血清型9のITRを、本明細書に開示されるAAVベクターのいずれかにおいて使用することができる。しかしながら、他の好適な血清型に由来するITRを選択することができる。本開示のAAVベクターを、様々なアデノ随伴ウイルスから生成することができる。ベクターの向性を、ある血清型の組換えゲノムを、別のAAV血清型に由来するカプシド中にパッケージングすることによって変更することができる。一部の実施形態では、rAAVウイルスのITRは、AAV1~12のいずれか1つのITRに基づくものであってよく、AAV1~12のいずれか1つ、AAV-DJ、AAV-DJ8、AAV-DJ9または他の改変血清型から選択されるAAVカプシドと組み合わせることができる。特定の実施形態では、AAV ITRおよび/またはカプシドは、AAVベクターを用いて標的化しようとする細胞または組織に基づいて選択される。
【0108】
一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示される核酸のいずれかを含むベクターであって、AAVベクターまたはAAVウイルス粒子、またはビリオンである、ベクターを提供する。一部の実施形態では、AAVベクターまたはAAVウイルス粒子、またはビリオンを使用して、in vivo、ex vivo、またはin vitroで、本明細書に開示される導入遺伝子のいずれかに作動可能に連結された本明細書に開示される調節エレメントのいずれかを含む、本明細書に開示される核酸分子のいずれかを送達することができる。一部の実施形態では、そのようなAAVベクターは、複製欠損である。一部の実施形態では、AAVウイルスは、それがヘルパー因子の存在下でのみ複製し、ビリオンを生成することができるように操作または遺伝子改変される。
【0109】
一部の実施形態では、AAVによる送達のために設計された発現ベクターは、5’ITR、プロモーター、導入遺伝子(例えば、SMNA1をコードする導入遺伝子)に作動可能に連結された調節エレメントを含む核酸分子、および3’ITRを含む。一部の実施形態では、AAVによる送達のために設計された発現ベクターは、5’ITR、エンハンサー、プロモーター、導入遺伝子(例えば、SMNA1をコードする導入遺伝子)に作動可能に連結された調節エレメントを含む核酸分子、ポリA配列、および3’ITRを含む。
【0110】
一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示される核酸のいずれかを含むウイルスベクターを提供する。用語「ウイルス粒子」および「ビリオン」は、本明細書では互換的に使用され、カプシド内にパッケージングされたウイルスゲノム(例えば、ウイルス発現ベクター)と、場合によっては、例えば、レトロウイルスについては、カプシドを取り囲む脂質エンベロープとを含む、感染性および典型的には、複製欠損性のウイルス粒子に関する。「カプシド」とは、ウイルスゲノムがパッケージングされる構造を指す。カプシドは、タンパク質製のいくつかのオリゴマー構造サブユニットからなる。例えば、AAVは、3つのカプシドタンパク質:VP1、VP2およびVP3の相互作用によって形成される正二十面体カプシドを有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるビリオンは、タンパク質殻中に、本明細書に記載のような、導入遺伝子およびバーコード配列に作動可能に連結された候補調節エレメントを含むAAVベクターをパッケージングすることによって得られる組換えAAVビリオンである。
【0111】
一部の実施形態では、本明細書で提供される組換えAAVビリオンを、同じ特定の血清型のAAVに対応する天然Capタンパク質によって形成されるウイルス粒子中に、特定のAAV血清型に由来するAAVゲノムをカプシドで包むことによって調製することができる。他の実施形態では、本明細書で提供されるAAVウイルス粒子は、異なる血清型に由来するタンパク質中にパッケージングされた所与のAAV血清型のITRを含むウイルスベクターを含む。例えば、Bunning H et al. J Gene Med 2008; 10: 717-733を参照されたい。例えば、所与のAAV血清型に由来するITRを有するウイルスベクターを、a)同じか、もしくは異なるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質から構成されるウイルス粒子(例えば、AAV2 ITRとAAV9カプシドタンパク質;AAV2 ITRとAAV8カプシドタンパク質など);b)異なるAAV血清型もしくは変異体に由来するカプシドタンパク質の混合物から構成されるモザイクウイルス粒子(例えば、AAV2 ITRと、AAV1およびAAV9カプシドタンパク質);c)異なるAAV血清型もしくはバリアントの間でのドメイン交換によってトランケートされたカプシドタンパク質から構成されるキメラウイルス粒子(例えば、AAV2 ITRと、AAV9ドメインを有するAAV8カプシドタンパク質);またはd)標的細胞特異的受容体とのストリンジェントな相互作用を可能にする、選択的結合ドメインを提示するように操作された標的化されたウイルス粒子(例えば、AAV5 ITRと、ペプチドリガンドの挿入によって遺伝的にトランケートされたAAV9カプシドタンパク質;もしくはペプチドリガンドのカプシド表面へのカップリングによって非遺伝的に改変されたAAV9カプシドタンパク質)中にパッケージングすることができる。
【0112】
当業者であれば、本明細書で提供されるAAVビリオンが任意のAAV血清型のカプシドタンパク質を含んでもよいことを理解するであろう。一実施形態では、ウイルス粒子は、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV8、およびAAV9からなる群より選択されるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質を含む。
【0113】
トランスフェクション、安定細胞系産生、ならびにアデノウイルス-AAVハイブリッド、ヘルペスウイルス-AAVハイブリッド(Conway, J E et al., (1997) J. Virology 71(11):8780-8789)およびバキュロウイルス-AAVハイブリッドを含む感染性ハイブリッドウイルス産生系を含む、組換えAAV(rAAV)ビリオンの産生のためのいくつかの方法が当該分野で公知である。一部の実施形態では、rAAVウイルス粒子の産生のためのrAAV産生培養物は、1)例えば、HeLa、A549、もしくは293細胞などのヒト由来細胞系、またはバキュロウイルス産生系の場合、SF-9などの昆虫由来細胞系を含む、安定宿主細胞;2)野生型もしくは変異型アデノウイルス(温度感受性アデノウイルスなど)、ヘルペスウイルス、バキュロウイルス、またはヘルパー機能を提供するプラスミド構築物によって提供される、好適なヘルパーウイルス機能;3)AAV repおよびcap遺伝子ならびに遺伝子産物;4)AAV ITR配列によって隣接された、導入遺伝子に作動可能に連結された候補調節エレメントを含む核酸分子(例えば、本明細書に記載のリポーター遺伝子配列に作動可能に連結された核結合ドメインをコードするヌクレオチド配列)であって、1つまたは複数のバーコード配列を含む、核酸分子、ならびに5)rAAV産生を支援するための好適な培地および培地成分を含む。
【0114】
一部の実施形態では、産生細胞系は、RepおよびCapタンパク質を提供するバキュロウイルス発現ベクターを感染させた昆虫細胞系(典型的には、Sf9細胞)である。この系は、アデノウイルスヘルパー遺伝子を必要としない(Ayuso E, et al., Curr. Gene Ther. 2010, 10:423-436)。
【0115】
本明細書で使用される用語「capタンパク質」とは、天然AAV Capタンパク質(例えば、VP1、VP2、VP3)の少なくとも1つの機能的活性を有するポリペプチドを指す。capタンパク質の機能的活性の例としては、カプシドの形成を誘導する、一本鎖DNAの蓄積を容易にする、AAV DNAのカプシドへのパッケージング(すなわち、カプシド形成)を容易にする、細胞受容体に結合する、およびビリオンの宿主細胞への進入を容易にする能力が挙げられる。原理的には、任意のCapタンパク質を、本発明の文脈において使用することができる。
【0116】
Capタンパク質は、AAVウイルスの宿主指向性、細胞、組織、または臓器特異性、受容体使用、感染効率、および免疫原性に対する効果を有すると報告されている。したがって、rAAVにおける使用のためのAAV capを、例えば、被験体の種(例えば、ヒトもしくは非ヒト)、被験体の免疫学的状態、長期的もしくは短期的処置のための被験体の好適性、または特定の治療適用(例えば、特定の疾患もしくは障害の処置、または特定の細胞、組織、もしくは臓器への送達)を考慮に入れて選択することができる。ある特定の実施形態では、capタンパク質は、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV8、およびAAV9血清型からなる群のAAVに由来する。
【0117】
一部の実施形態では、本明細書で提供される方法における使用のためのAAV Capを、上記AAV capの1つまたはそのコード核酸の変異誘発によって(すなわち、挿入、欠失、または置換によって)生成することができる。一部の実施形態では、AAV capは、上記のAAV capのうちの1つまたは複数と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、もしくは99%またはそれより高く類似する。
【0118】
一部の実施形態では、AAV capは、上記AAV capのうちの2つ、3つ、4つ、またはそれより多くに由来するドメインを含むキメラである。一部の実施形態では、AAV capは、2つもしくは3つの異なるAAVまたは組換えAAVを起源とするVP1、VP2、およびVP3単量体のモザイクである。一部の実施形態では、rAAV組成物は、1より多い上記capを含む。
【0119】
一部の実施形態では、rAAVビリオンにおける使用のためのAAV capは、異種配列または他の改変を含有するように操作される。例えば、選択的標的化または免疫回避を提供するペプチドまたはタンパク質配列を、capタンパク質中で操作することができる。あるいは、またはさらに、rAAVの表面がポリエチレングリコール化(すなわち、PEG化)され、免疫回避を容易にすることができるように、capを化学的に改変することができる。capタンパク質を、変異誘発することもできる(例えば、その天然受容体結合を除去する、または免疫原性エピトープを隠すため)。
【0120】
本明細書で使用される用語「repタンパク質」とは、天然AAV repタンパク質(例えば、rep40、52、68、78)の少なくとも1つの機能的活性を有するポリペプチドを指す。repタンパク質の機能的活性の例としては、認識によるDNAの複製の促進、DNA複製のAAV起点の結合およびニッキングならびにDNAヘリカーゼ活性を含む、タンパク質の生理学的機能と関連する任意の活性が挙げられる。さらなる機能としては、AAV(または他の異種)プロモーターからの転写のモジュレーションおよびAAV DNAの宿主染色体への部位特異的組込みが挙げられる。一部の実施形態では、AAV rep遺伝子は、血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10またはAAVrh10に由来してもよい。
【0121】
一部の実施形態では、本発明の方法における使用のためのAAV repタンパク質を、上記AAV repの1つまたはそのコード核酸の変異誘発によって(すなわち、挿入、欠失、または置換によって)生成することができる。一部の実施形態では、AAV repは、上記のAAV repのうちの1つまたは複数と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、もしくは99%またはそれより高く類似する。
【0122】
本明細書で使用される場合、「ヘルパー機能」または「ヘルパー遺伝子」という表現は、AAVが複製のために依存するウイルスタンパク質を指す。ヘルパー機能は、限定されるものではないが、AAV遺伝子転写の活性化、段階特異的AAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、cap発現産物の合成、およびAAVカプシドアセンブリーに関与するタンパク質を含む、AAV複製にとって必要とされるタンパク質を含む。ウイルスに基づくアクセサリー機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型以外)、およびワクシニアウイルスなどの公知のヘルパーウイルスのいずれかに由来するものであってもよい。ヘルパー機能としては、限定されるものではないが、アデノウイルスE1、E2a、VA、およびE4またはヘルペスウイルスUL5、ULB、UL52、およびUL29、ならびにヘルペスウイルスポリメラーゼが挙げられる。好ましい実施形態では、AAVが複製のために依存するタンパク質は、アデノウイルスに由来する。
【0123】
一部の実施形態では、AAVが本発明の方法における使用のための複製のために依存するウイルスタンパク質を、上記のウイルスタンパク質のうちの1つまたはそのコード核酸の変異誘発によって(すなわち、挿入、欠失、または置換によって)生成することができる。一部の実施形態では、ウイルスタンパク質は、上記のウイルスタンパク質のうちの1つまたは複数と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、もしくは99%またはそれより高く類似する。
【0124】
capタンパク質、repタンパク質およびAAVが複製のために依存するウイルスタンパク質の機能をアッセイするための方法は、当該分野で周知である。
【0125】
一部の実施形態では、ウイルス発現ベクターは、標的細胞に投与するための脂質送達ビヒクル(例えば、本明細書に記載される陽イオン性リポソームまたはLNP)と関連してもよい。
【0126】
本明細書に記載の、または当該分野で公知の核酸分子を含有する様々な送達系を、in vivoでの細胞への送達のために生物に投与するか、またはex vivoで細胞もしくは細胞培養物に投与することができる。投与は、限定されるものではないが、注射、輸注、局所的適用および電気穿孔などの、ある分子を、血液、流体、または細胞との最終的な接触に導入するために通常使用される任意の経路による。そのような核酸を投与する好適な方法は、当業者には利用可能であり、公知である。
【0127】
核酸分子を、様々な細胞および/または組織を標的とするために、in vivoで、またはex vivoで送達することができる。一部の実施形態では、送達を、様々な臓器/組織および対応する細胞、例えば、脳、心臓、骨格筋、肝臓、腎臓、脾臓、または胃に標的化することができる。一部の実施形態では、核酸分子は、神経細胞またはグリア細胞の一方または両方に送達される。一部の実施形態では、送達を、例えば、腫瘍またはがん細胞などの、疾患細胞に標的化することができる。一部の実施形態では、送達を、幹細胞、血液細胞、または免疫細胞に標的化することができる。
【0128】
一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれか、または本明細書に開示される核酸のいずれかの混合物を提供する。一部の実施形態では、混合物または核酸分子は、約10、約50、約100、約250、約500、約750、約1000、約1250、約1500、約1750、約2000、約2500、約3000、約3500、約4000、約4500、約5000、約5500、約6000、約6500、約7000、約7500、約8000、約8500、約9000、約9500、約10000の、またはそれより多い異なる調節エレメントを含む。
【0129】
E.医薬組成物
ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書に開示される核酸構築物、発現ベクター、ウイルスベクター、ウイルス粒子のいずれかを含む組成物を提供する。一部の実施形態では、本開示は、調節エレメントに作動可能に連結されたヌクレオチド配列を含むウイルスベクターまたはウイルス粒子を含む組成物を提供する。特定の実施形態では、そのような組成物は、遺伝子療法適用にとって好適である。医薬組成物は、好ましくは、製造および保存の条件下で無菌性であり、安定である。滅菌溶液を、例えば、滅菌濾過膜を介する濾過によって達成することができる。
【0130】
医薬組成物中の許容される担体および賦形剤は、好ましくは、用いられる投与量および濃度でレシピエントにとって非毒性的である。許容される担体および賦形剤は、リン酸、クエン酸、HEPES、およびTAEなどの緩衝液、アスコルビン酸およびメチオニンなどの酸化防止剤、塩化ヘキサメトニウム、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、レゾルシノール、および塩化ベンズアルコニウムなどの保存剤、ヒト血清アルブミン、ゼラチン、デキストラン、および免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、ヒスチジン、およびリシンなどのアミノ酸、ならびにグルコース、マンノース、スクロース、およびソルビトールなどの炭水化物を含んでもよい。本開示の医薬組成物を、好ましくは、注射可能製剤の形態で非経口的に投与することができる。注射のための医薬組成物を、ビヒクルとしての滅菌溶液または任意の薬学的に許容される液体を使用して製剤化することができる。薬学的に許容されるビヒクルとしては、限定されるものではないが、滅菌水および生理食塩水が挙げられる。
【0131】
本開示の医薬組成物を、ヒドロキシメチルセルロースなどのマイクロカプセルまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリメチルメタクリレートマイクロカプセル中で調製することができる。また、本開示の医薬組成物を、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセルなどの他の薬物送達系中で調製することもできる。遺伝子療法のための医薬組成物は、許容される希釈剤中にあってもよいか、または遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれた遅延放出マトリックスを含んでもよい。
【0132】
本明細書で提供される医薬組成物を、非経口投与、皮下投与、静脈内投与、全身投与、筋肉内投与、動脈内投与、実質内投与、髄腔内投与、髄腔内脳槽投与(大槽内投与としても知られる)、髄腔内腰部投与、脳室内投与、または腹腔内投与のために製剤化することができる。特定の実施形態では、医薬組成物は、脳室内投与のために製剤化される。一実施形態では、医薬組成物は、髄腔内投与のために製剤化される。一実施形態では、医薬組成物は、髄腔内脳槽投与のために製剤化される。一実施形態では、医薬組成物は、髄腔内腰部投与のために製剤化される。一実施形態では、医薬組成物は、静脈内投与のために製剤化される。一実施形態では、医薬組成物は、全身投与のために製剤化される。
【0133】
医薬組成物を、鼻、スプレー、経口、エアロゾル、直腸、または膣投与のために製剤化するか、またはそれによって投与することができる。組織標的は、例えば、中枢神経系に特異的であってもよく、またはそれはいくつかの組織の組合せ、例えば、中枢神経系および肝臓組織であってもよい。例示的な組織または他の標的は、肝臓、骨格筋、心筋、脂肪沈着物、腎臓、肺、血管内皮、上皮、造血組織、神経細胞、グリア細胞、中枢神経系および/またはCSFを含んでもよい。特定の実施形態では、本明細書で提供される医薬組成物は、CSFに、すなわち、脳室内注射、髄腔内脳槽注射または髄腔内腰部注射によって投与される。これらの方法の1つまたは複数を使用して、本開示の医薬組成物を投与することができる。
【0134】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供される医薬組成物は、「有効量」または「治療有効量」を含む。本明細書で使用される場合、そのような量は、所望の治療結果を達成するのに必要な投与量で、必要な期間にわたって有効な量を指す。
【0135】
本開示の医薬組成物の投与量は、投与経路、処置しようとする疾患、および被験体の身体的特徴(例えば、年齢、体重、一般的健康)を含む因子に依存する。投与量を、最適な治療応答を提供するように調整することができる。典型的には、投与量は、有意な毒性を誘導することなく疾患を有効に処置する量であってもよい。一実施形態では、本明細書で提供されるAAVベクターを、5×1010~1×1014gc/kg(患者体重1キログラムあたりのゲノムコピー数(gc/kg))の範囲内の量または用量で、神経疾患(例えば、ドラベ症候群を含む)の処置のために患者に投与することができる。より具体的な実施形態では、AAVベクターは、約5×1010gc/kg~約1×1013gc/kg、または約1×1011~約1×1015gc/kg、または約1×1011~約1×1014gc/kg、または約1×1011~約1×1013gc/kg、または約1×1011~約1×1012gc/kg、または約1×1012~約1×1014gc/kg、または約1×1012~約1×1013gc/kg、または約5×1011gc/kg、1×1012gc/kg、1.5×1012gc/kg、2.0×1012gc/kg、2.5×1012gc/kg、3×1012gc/kg、3.5×1012gc/kg、4×1012gc/kg、4.5×1012gc/kg、5×1012gc/kg、5.5×1012gc/kg、6×1012gc/kg、6.5×1012gc/kg、7×1012gc/kg、7.5×1012gc/kg、8×1012gc/kg、8.5×1012gc/kg、9×1012gc/kg、9.5×1012gc/kg、1×1013gc/kg、1.5×1013gc/kg、2.0×1013gc/kg、2.5×1013gc/kg、3×1013gc/kg、3.5×1013gc/kg、4×1013gc/kg、4.5×1013gc/kg、5×1013gc/kg、5.5×1013gc/kg、6×1013gc/kg、6.5×1013gc/kg、7×1013gc/kg、7.5×1013gc/kg、8×1013gc/kg、8.5×1013gc/kg、9×1013gc/kg、または9.5×1013gc/kgの範囲内に含まれる量で投与される。gc/kgを、例えば、qPCRまたはデジタル液滴PCR(ddPCR)によって決定することができる(例えば、M. Lock et al, Hum Gene Ther Methods. 2014 Apr; 25(2): 115-25を参照されたい)。別の実施形態では、本明細書で提供されるAAVベクターを、1×10~1×1011iu/kg(ベクターの感染単位(iu)/被験体または患者の体重(kg))の範囲内の量または用量で神経疾患(例えば、ドラベ症候群を含む)の処置のために患者に投与することができる。ある特定の実施形態では、医薬組成物を、必要に応じて単位用量で形成させることができる。そのような単一投与量単位は、約1×10gc~約1×1015gcを含有してもよい。
【0136】
本開示の医薬組成物を、それを必要とする被験体に、例えば、毎日、毎週、毎月、年2回、毎年、または医学的に必要に応じて、1回または複数回(例えば、1~10回またはそれより多く)投与することができる。例示的な実施形態では、単回投与で十分である。一実施形態では、医薬組成物は、ヒト被験体における使用にとって好適であり、脳室内投与によって投与される。一実施形態では、医薬組成物は、ヒト被験体における使用にとって好適であり、脳室内投与、静脈内投与、髄腔内投与、実質内投与、またはその組合せによって投与される。一実施形態では、医薬組成物は、ボーラス注射によって末梢静脈を介して送達される。他の実施形態では、医薬組成物は、約10分(±5分)かけて、約20分(±5分)かけて、約30分(±5分)かけて、約60分(±5分)かけて、または約90分(±10分)かけて輸注により末梢静脈を介して送達される。一実施形態では、医薬組成物は、ボーラス注射によってCSFに送達される。他の実施形態では、医薬組成物は、約10分(±5分)かけて、約20分(±5分)かけて、約30分(±5分)かけて、約60分(±5分)かけて、または約90分(±10分)かけて輸注によりCSFに送達される。
【0137】
別の態様では、本開示は、1つまたは複数の容器中に本明細書に記載の核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、または医薬組成物を含むキットをさらに提供する。キットは、キット内に含有される核酸分子、ベクター、またはビリオンを患者に投与する方法を記載する指示または包装材料を含んでもよい。キットの容器は、任意の好適な材料、例えば、ガラス、プラスチック、金属などのものであってよく、任意の好適なサイズ、形状、または構成のものであってもよい。ある特定の実施形態では、キットは、好適な液体または溶液形態の核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、または医薬組成物を含有する1つまたは複数のアンプルまたはシリンジを含んでもよい。
【0138】
F.投与方法
一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかを、それを必要とする被験体(例えば、霊長類)に、本明細書に開示される投与経路のいずれかによって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、方法は、脳室内投与によって本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかを投与することを含む。一部の実施形態では、方法は、静脈内投与によって本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかを投与することを含む。一部の実施形態では、方法は、髄腔内投与によって本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかを投与することを含む。一部の実施形態では、方法は、実質内投与によって本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかを投与することを含む。本明細書に開示されるベクターのいずれかを投与する方法は、以下でより詳細に考察される。これらの方法を、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかを投与するために使用することもできる。
【0139】
本開示は、ベクターの脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを霊長類(例えば、ヒト)に投与する方法を企図する。また、目的の遺伝子またはその生物活性バリアントおよび/もしくは断片を発現させるための組成物および方法であって、霊長類に、目的の遺伝子をコードする治療有効量のアデノ随伴ウイルス1(AAV1)ベクターまたはアデノ随伴ウイルス5(AAV5)ベクターを投与することを含み、投与経路が、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、実質内投与、またはその組合せからなる群より選択される、組成物および方法も本明細書に記載される。さらに、それを必要とする霊長類における神経疾患と関連する1つまたは複数の症状を阻害または処置するための組成物および方法であって、AAV1またはAAV5からなる群より選択されるAAVを霊長類に投与することを含み、投与経路が、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、実質内投与、またはその組合せからなる群より選択される、組成物および方法が本明細書に記載される。
【0140】
一部の実施形態では、本開示は、髄腔内投与または脳室内投与によって、本明細書に開示されるベクターのいずれかを被験体(例えば、霊長類)に投与する方法を提供する。髄腔内投与の場合に本発明のベクターが送達される髄腔内空間は、脊髄の周囲に位置し、脳脊髄液で満たされた空間である。この空間は、くも膜と硬膜とからなる二重層膜によって取り囲まれている。髄腔内空間は、くも膜、二重層膜の内層の下にある空間であり、したがって、髄腔内投与は、くも膜下腔への投与を意味する。脳の周囲の空間および脊髄の周囲の空間は両方とも、CSFで満たされており、脳室もCSFで満たされている。脳室、脳周囲空間および髄腔内空間は、接続されて1つの連続空間を形成し、その中でCSFが循環する。したがって、脳室内投与および髄腔内投与は、本明細書に開示されるベクターのいずれかをCSFに投与する方法であることが企図される。
【0141】
一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを被験体(例えば、霊長類)に投与する方法を提供する。一部の実施形態では、ベクターは、CNSに送達される。一部の実施形態では、ベクターは、脳脊髄液に送達される。一部の実施形態では、ベクターは、脳実質に投与される。一部の実施形態では、ベクターは、脳室内投与によって霊長類に送達される。一部の実施形態では、ベクターは、静脈内投与によって被験体(例えば、霊長類)に送達される。一部の実施形態では、ベクターは、髄腔内投与、例えば、髄腔内脳槽または髄腔内腰部投与によって被験体(例えば、霊長類)に送達される。一部の実施形態では、ベクターは、くも膜下槽、例えば、大槽に送達される。一部の実施形態では、ベクターは、脊髄神経の周囲の腰椎くも膜下腔に送達される。一部の実施形態では、ベクターは、実質内投与によって被験体(例えば、霊長類)に送達される。中枢神経系内での、本明細書に記載されるベクターの広い分布を、実質内投与、髄腔内投与、または脳室内投与を用いて達成することができる。
【0142】
一部の実施形態では、本明細書に開示されるベクターのいずれかは、造影剤、例えば、ガドリニウムまたはガドテリドールと組み合わせて被験体(例えば、霊長類)に投与される。他の実施形態では、ベクターは、造影剤、例えば、ガドリニウムまたはガドテリドールと組み合わせて投与されない。
【0143】
一部の実施形態では、本明細書に開示されるベクターのいずれかは、脳室内(ICV)投与によって任意の1つまたは複数の脳室に投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって片側的に一方の脳室、例えば、左側脳室または右側脳室に投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって片側的に、左側脳室に投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって片側的に、右側脳室に投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって両側的に、例えば、左側および右側脳室に投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって一方の脳室に、例えば、左脳室のみに投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって、左側脳室のみに投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって、右側脳室のみに投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって、第3脳室のみに投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって、第4脳室のみに投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって、1つより多い脳室に、例えば、左脳室、右脳室、および第3脳室に投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって同時的に、例えば、左脳室および右脳室に同じ時点で投与される。一部の実施形態では、ベクターは、ICV投与によって逐次的に、例えば、左脳室および右脳室に異なる時点で投与される。一部の実施形態では、ベクターのそれぞれの用量は、ICV投与によって少なくとも24時間空けて投与される。
【0144】
一部の実施形態では、本開示は、ベクターの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、ベクターを霊長類に投与する方法であって、ベクターが導入遺伝子を含み、ICV投与が、ベクターが任意の他の投与経路によって投与される場合の導入遺伝子の発現と比較して少なくとも1.25倍の中枢神経系(CNS)での導入遺伝子発現の増加をもたらす、方法を提供する。ある特定の実施形態では、ICV投与は、ベクターが任意の他の投与経路によって投与される場合の導入遺伝子の発現と比較して少なくとも1.5倍、1.75倍、2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、もしくは75倍、または少なくとも20~90倍、20~80倍、20~70倍、20~60倍、30~90倍、30~80倍、30~70倍、30~60倍、40~90倍、40~80倍、40~70倍、40~60倍、50~90倍、50~80倍、50~70倍、50~60倍、60~90倍、60~80倍、60~70倍、70~90倍、70~80倍、80~90倍高い中枢神経系(CNS)での導入遺伝子発現の発現をもたらす。一部の実施形態では、ICV投与は、脳全体での遺伝子導入をもたらす。ある特定の実施形態では、遺伝子導入は、前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質、海馬、髄質、および後頭皮質で起こる。ある特定の実施形態では、遺伝子導入は、用量依存的である。ある特定の実施形態では、ベクターは、細胞型選択的調節エレメントをさらに含む。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、脳内で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質、海馬、髄質、および後頭皮質中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、脊椎中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、脊髄および後根神経節中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、神経細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、神経細胞は、単極ニューロン、双極ニューロン、多極ニューロンまたは偽単極ニューロンからなる群より選択される。ある特定の実施形態では、神経細胞は、GABA作動性ニューロンである。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、グリア細胞中で選択的に発現される。ある特定の実施形態では、グリア細胞は、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、およびサテライト細胞からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、調節エレメントは、非神経細胞中で選択的に発現される。
【0145】
一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、複数の投与経路によって被験体(例えば、霊長類)に投与することを提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、1つの投与経路(例えば、脳室内投与)によって投与し、また、同じベクターも、別の投与経路(例えば、静脈内投与)によって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、脳室内投与によって、また、同じベクターも静脈内投与によって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、髄腔内投与によって、また、同じベクターも静脈内投与によって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、1つの投与経路(例えば、脳室内投与)によって、およびさらなる治療剤(例えば、本明細書に開示されるさらなる治療剤のいずれか)を別の投与経路(例えば、静脈内投与)によって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、脳室内投与によって、およびさらなる治療剤を静脈内投与によって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、髄腔内投与によって、およびさらなる治療剤を静脈内投与によって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、静脈内投与によって、およびさらなる治療剤を脳室内投与によって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、静脈内投与によって、およびさらなる治療剤を髄腔内投与によって投与する方法を提供する。一部の実施形態では、髄腔内投与は、髄腔内脳槽投与を含む。一部の実施形態では、髄腔内投与は、髄腔内腰部投与を含む。一部の実施形態では、投与経路は、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、または実質内投与のいずれか1つまたは組合せである。一部の実施形態では、投与経路は、皮下投与、筋肉内投与、動脈内投与、腹腔内投与、または頭蓋内投与のいずれか1つまたは組合せである。
【0146】
一部の実施形態では、投与は、注射を介した投与を含む。一部の実施形態では、投与は、カニューレを介した投与を含む。一部の実施形態では、ベクターは、ボーラスとして、例えば、単回注射として投与される。一部の実施形態では、ベクターは、連続的に、例えば、シリンジポンプを使用する輸注により投与される。
【0147】
一部の実施形態では、脳室内(ICV)投与は、頭蓋骨の穴を通して、脳組織を通して、カニューレをCSFで満たされた脳室に挿入することを含む。一部の実施形態では、単一のカニューレを挿入する(例えば、2つの側脳室のいずれかに)。一部の実施形態では、2つのカニューレを挿入してもよい(両側脳室に)。一部の実施形態では、カニューレを、1回投与のためのシリンジもしくは輸注ポンプ、またはOmmayaリザーバーなどの制御デバイスに接続することができる。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に開示されるベクターのいずれかの、被験体の1つまたは複数の側脳室への投与を提供する。神経血管傷害および頭蓋内出血に対する懸念のため、脳室の反復的「穿刺」は、日常的には実施されない。この規則の例外は、病態中に非常に大きい脳室、薄い皮質外套、および開いた泉門を有することが多い未熟な新生児におけるものであってよく、この集団では反復的穿刺の累積リスクを低くする。
【0148】
髄腔内脳槽内輸注は、極めて重要な脳組織への槽の近接性のため、ヒトにおいてはめったに実施されない。しかしながら、一部の実施形態では、髄腔内輸注デバイス(例えば、Medtronicデバイス)を、腰椎くも膜下腔に挿入し、投与のために頭蓋に向かって上方にカテーテルを伸長させることができる。一部の実施形態では、人間への髄腔内投与は、L4/L5間空あたりにカテーテルを外科的に挿入すること、および(i)ボーラス用量(シリンジもしくはOmmayaリザーバーによる)、(ii)短期輸注(ポンプによる)、または(iii)長期輸注(ポンプが腹部領域などの体内のどこかの皮下ポケット中に配置される、埋込み型のプログラム可能なポンプシステム、例えば、Synchromed II、Medtronicによる)のいずれかを投与することを含む。例えば、Hamza M, et al. Neuromodulation, 2015;18(7):636-48を参照されたい。
【0149】
一部の実施形態では、本明細書に開示されるベクターのいずれかの髄腔内投与は、ベクターを、腰椎穿刺によって腰部槽に投与することを含む。一部の実施形態では、脊椎穿刺を、無菌条件下で局部麻酔を用いてベッドサイドで実施することができる。一部の実施形態では、くも膜下穿刺針(spinal needle)を、下部腰椎中の層間空間を介して髄腔嚢(thecal sac)に進める。一部の実施形態では、腰部槽へのアクセスは、CSFが得られる時に確認される。例えば、Cook AM, et al. Pharmacotherapy. 2009;29(7):832-45を参照されたい。
【0150】
一部の実施形態では、本明細書に開示されるベクターのいずれかは、くも膜下穿刺針を介してベクターを注射することによって被験体(例えば、霊長類)に投与される。この技術は、化学療法薬の投与のためによく使用される。この技術の利点は、その比較的低いリスクおよび局部麻酔下、ベッドサイドでの実施可能性を含む。この技術の主な欠点は、用量が与えられる度に毎回、別々の穿刺を実施しなければならないことであり、感染を導入する、皮膚-CSF瘻を生じる、神経根を傷害する、および脊髄内出血を引き起こす累積リスクをもたらす。一部の実施形態では、この問題を回避するために、一時留置カテーテルを、より大きいTouhy針を用いた同様の技術を使用することによって配置することができる。
【0151】
一部の実施形態では、本明細書に開示されるベクターのいずれかを、針の中心を通って被験体の髄腔嚢にカテーテルを進めた後、針を引き抜くことによって被験体(例えば、霊長類)に投与することができる。一部の実施形態では、次いで、カテーテルを、皮膚を介して皮下的にトンネルを作り、そこで選択された髄腔内薬物のスケジュールされた用量に無菌的にアクセスすることができる。この技術の主な欠点は、長期的なカテーテル留置に伴う感染および閉塞、よじれ、またはずれに由来するカテーテルの機能不全のリスクを含む。しかしながら、この欠点は、数日(例えば、1~4日)後にカテーテルを除去するか、または交換することによって軽減することができる。
【0152】
一部の実施形態では、本明細書に開示されるベクターのいずれかは、カテーテルに基づくデバイスによって投与される。一部の実施形態では、永続的なカテーテルに基づくデバイスが埋め込まれる。一部の実施形態では、一時的なカテーテルに基づくデバイスが埋め込まれる。一部の実施形態では、永続的アクセスのために、皮下リザーバー(例えば、Ommayaリザーバー)に接続されたカテーテルが埋め込まれる。一部の実施形態では、カテーテルは、Ommayaリザーバーに接続される。Ommayaリザーバーには、25ゲージの針を使用することによってリザーバー中で頭皮を介する無菌穿刺を用いてベッドサイドで反復的にアクセスすることができる。一部の実施形態では、治療剤を注射する前に数ミリリットルのCSFが引き出される。Ommayaリザーバーの汚染および感染はリスクであるが、脳室内区画にアクセスする他の方法よりは低いようである(最終的には約10%の患者のCSFが細菌で汚染される)。感染率は、他のより一時的なアクセスデバイスと比較して、埋込みの持続期間(1年を超えることが多い)のため、Ommayaリザーバーに関する感染合併症を報告する症例シリーズにおいて、より高く見えることが多い。Ommayaリザーバーに関して起こり得る他の稀な合併症としては、白質脳症、白質壊死、および脳内出血が挙げられる。
【0153】
CSF空間への限定的アクセスを必要とする状況では、脳室吻合術を置くことができる。この技術に関して、カテーテルは、穿頭孔から遠い皮膚の下でトンネルを作る。カテーテルは通常、滅菌収集チャンバーに接続される。カテーテルは、本明細書に開示されるベクターのいずれかの投与のために必要に応じて無菌的にアクセスすることができる。一部の実施形態では、脳室吻合術の最近位のポートに溶液を注入すること、および少量の生理食塩水(3~5ml)を用いて脳内の溶液を洗い流すことによって、ベクターを投与することができる。この点滴の後、典型的には、脳室吻合術チューブを少なくとも15分間クランプして、ドレーンを再開する前に注入溶液をCSF中で平衡化させる。頭蓋内圧の持続的上昇を示す患者は、CSFドレナージの突然の中止を忍容できないため、警告および患者の密接なモニタリングと共に、脳室吻合術クランピングを行うべきである。脳室吻合術は、限定された期間のCSFドレナージまたは本明細書に開示されるベクターのいずれかの脳室内投与を必要とする状態にとっては理想的である。
【0154】
一部の実施形態では、本開示は、霊長類である被験体に、本明細書に開示されるベクターのいずれかを投与する方法を提供する。一部の実施形態では、霊長類は、ヒトである。一部の実施形態では、霊長類は、非ヒト霊長類である。一部の実施形態では、非ヒト霊長類は、旧世界ザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、カニクイザル、アカゲザルまたはブタオザルである。
【0155】
G.処置方法
本開示は、それを必要とする被験体(例えば、ヒトまたはカニクイザルなどの霊長類)を処置する方法であって、被験体に、本明細書に開示される核酸、ベクター、ウイルス粒子、および/または組成物のいずれかを投与することを含む、方法を企図する。
【0156】
一部の実施形態では、本開示は、霊長類(例えば、ヒトまたはカニクイザル)を処置する方法であって、本明細書に開示されるベクターのいずれかの霊長類への脳室内(ICV)投与を含む、方法を提供する。特定の実施形態では、本開示は、目的の遺伝子またはその生物活性バリアントおよび/もしくは断片を発現させるための組成物および方法であって、それを必要とする霊長類(例えば、ヒトまたはカニクイザル)に、治療有効量の、目的の遺伝子をコードするアデノ随伴ウイルス1(AAV1)ベクターおよび/またはアデノ随伴ウイルス5(AAV5)ベクターを投与することを含む、組成物および方法を提供する。一部の実施形態では、AAV1またはAAV5ベクターは、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、実質内投与、またはその組合せによって霊長類に投与される。本開示はさらに、それを必要とする霊長類(例えば、ヒトまたはカニクイザル)における神経疾患または障害と関連する1つまたは複数の症状を阻害または処置するための組成物および方法であって、アデノ随伴ベクター1(AAV1)またはアデノ随伴ベクター5(AAV5)からなる群より選択されるアデノ随伴ベクター(AAV)を前記霊長類に投与することを含む、組成物および方法を提供する。一部の実施形態では、AAV1またはAAV5ベクターは、静脈内投与、髄腔内投与、脳室内投与、実質内投与、またはその組合せによって霊長類に投与される。
【0157】
一部の実施形態では、本開示は、神経疾患または障害を処置するための方法を提供する。処置にとって適切な神経疾患または障害としては、限定されるものではないが、ドラベ症候群、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、てんかん、神経変性障害、運動不全、運動障害、気分障害、運動ニューロン疾患、進行性筋萎縮症(PMA)、進行性球まひ、仮性球まひ、原発性側索硬化症、AIDSの神経学的結果、発達障害、多発性硬化症、神経遺伝疾患、脳卒中、脊髄傷害および外傷性脳傷害が挙げられる。
【0158】
ある特定の実施形態では、本開示は、それを必要とする被験体(例えば、霊長類)における神経疾患または障害を処置するための方法であって、被験体に、治療有効量の、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかを投与することを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、そのような被験体は、ドラベ症候群、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、てんかん、神経変性障害、運動不全、運動障害、気分障害、運動ニューロン疾患、進行性筋萎縮症(PMA)、進行性球まひ、仮性球まひ、原発性側索硬化症、AIDSの神経学的結果、発達障害、多発性硬化症、神経遺伝疾患、脳卒中、脊髄傷害および外傷性脳傷害のうちのいずれか1つまたは複数である、神経疾患または障害と診断されているか、またはそのリスクがある。
【0159】
一部の場合、本明細書に記載の核酸構築物、ベクター、ウイルスベクター、ウイルス粒子、または医薬組成物を使用する処置は、神経疾患または障害と関連する症状の改善をもたらす。例えば、パーキンソン病患者を、処置に対する正の応答を示す、運動機能の改善について症状的にモニタリングすることができる。神経障害を発症するリスクがある被験体への本明細書に記載の方法を使用する療法の投与は、1つまたは複数の症状の発症を防止するか、またはその進行を減速させることができる。
【0160】
ある特定の実施形態では、本開示の方法および組成物を使用して、神経疾患、例えば、ドラベ症候群を有すると診断された被験体を処置することができる。種々の実施形態では、本明細書に開示される神経疾患または障害のいずれかは、公知の遺伝的事象(例えば、当該分野で公知のSCN1A変異のいずれか)によって引き起こされるか、または未知の原因を有する。
【0161】
ある特定の実施形態では、本開示の方法および組成物を使用して、疾患または障害を発症するリスクがある被験体を処置することができる。一部の実施形態では、被験体は、疾患、例えば、神経疾患(例えば、ドラベ症候群)の素因があることが知られていてもよい。一部の実施形態では、被験体は、遺伝的事象に起因する、または既知の危険因子に起因する疾患の素因があってもよい。例えば、被験体は、ドラベ症候群と関連するSCN1A中に変異を担持してもよい。
【0162】
ある特定の実施形態では、1つまたは複数のさらなる治療剤(例えば、医薬化合物)は、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと同時投与される。ある特定の実施形態では、さらなる治療剤は、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと同じ疾患、障害、または状態を処置するために設計される。ある特定の実施形態では、さらなる治療剤は、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかとは異なる疾患、障害、または状態を処置するために設計される。ある特定の実施形態では、さらなる治療剤は、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかの1つまたは複数の望ましくない副作用を処置するために設計される。ある特定の実施形態では、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかは、さらなる医薬品の望ましくない効果を処置するためにさらなる医薬品と組み合わせて投与される。ある特定の実施形態では、1つまたは複数の治療剤は、併用効果をもたらすために、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと同時投与される。ある特定の実施形態では、1つまたは複数の治療剤は、処置される被験体(例えば、霊長類)における相乗効果をもたらすために、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと同時投与される。
【0163】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと、さらなる治療剤とは、同じ時間に投与される。ある特定の実施形態では、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと、さらなる治療剤とは、異なる時間に投与される。ある特定の実施形態では、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと、さらなる治療剤とは、単一の製剤中で一緒に調製される。ある特定の実施形態では、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと、さらなる治療剤とは、別々に調製される。
【0164】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかと同時投与することができる治療剤としては、例えば、ハロペリドール、クロルプロマジン、クロザピン、クエタピン、およびオランザピンなどの抗精神病剤;例えば、フルオキセチン、セルトラリン塩酸塩、ベンラファキシンおよびノルトリプチリンなどの抗鬱剤;例えば、ベンゾジアゼピン、クロナゼパム、パロキセチン、ベンラファキシン、およびベータ遮断剤などの精神安定剤;例えば、リチウム、バルプロエート、ラモトリジン、およびカルバマゼピンなどの気分安定剤;例えば、ボツリヌス毒素などの麻痺剤;ならびに/または限定されるものではないが、テトラベナジン(Xenazine)、クレアチン、コエンザイムQ10、トレハロース、ドコサヘキサエン酸、ACR16、エチル-EPA、アトモキセチン、シタロプラム、ジメボン、メマンチン、フェニル酪酸ナトリウム、ラメルテオン、ウルソジオール、ジプレキサ、キセナシン、チアプリド、リルゾール、アマンタジン、[123I]MNI-420、アトモキセチン、テトラベナジン、ジゴキシン、デトロメトルファン、ワルファリン、アルプロザム、ケトコナゾール、オメプラゾール、コリンエステラーゼ阻害剤、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、レボドパ、およびミノサイクリンなどの他の実験的薬剤が挙げられる。
【0165】
ある特定の実施形態では、1つまたは複数の、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物は、オスモライト、例えば、マンニトールまたはソルビトールと組み合わせて投与される。一部の実施形態では、オスモライトは、ポリオール/多価アルコール、例えば、マンニトールおよびソルビトールである。一部の実施形態では、オスモライトは、糖、例えば、スクロースまたはマルトースである。一部の実施形態では、オスモライトは、アミノ酸またはその誘導体、例えば、グリシンまたはプロリンである。ある特定の実施形態では、オスモライトは、注射または輸注によってCSFに同時投与される。一部の実施形態では、オスモライトは、血管内注射もしくは輸注、脳室内注射もしくは輸注、髄腔内脳槽注射もしくは輸注、または髄腔内腰部注射もしくは輸注によって導入される。一部の実施形態では、オスモライトの導入は、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかの投与と同時的であってもよい。一部の実施形態では、オスモライトを、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかの投与前にCSF中に導入することができる。一部の実施形態では、オスモライトを、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれかの投与後にCSF中に導入することができる。
【0166】
一部の実施形態では、オスモライト(例えば、マンニトール)および治療剤(例えば、本明細書に開示される核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物のいずれか)が、被験体への投与のために溶液として調製されたら、それはCSF中に投与される。一部の実施形態では、調製された溶液は、血管内注射もしくは輸注、脳室内注射もしくは輸注、髄腔内脳槽注射もしくは輸注、または髄腔内腰部注射もしくは輸注などの経路によって投与される。一部の実施形態では、注射または輸注は、特定の核酸構築物、ウイルスベクター、ウイルス粒子、および/または医薬組成物にとって適切な期間および流量である。一部の実施形態では、治療剤が髄腔内投与される前に局部環境に対して作用することができるように、オスモライト(例えば、マンニトール)溶液を髄腔内に予め輸注することがより望ましい場合がある。
【実施例
【0167】
H.実施例
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用する遺伝子療法は、中枢神経系に影響する障害を処置するための形質転換能力を有する。小動物モデルにおける試験により、AAVベクターの脳脊髄液(CSF)中への送達が、脳および脊髄全体での細胞への遺伝子導入を上手くもたらすことができ、神経学的疾患を遺伝子療法手法に適するようにすることが示された。この手法の診療所への移転に不可欠なことは、大きい動物モデルのCSFへのAAVの送達のための安全かつ有効な経路の同定である。
【0168】
この試験では、本発明者らは、若年の中和抗体(NAb)陰性雄カニクイザル(Macaca fascicularis)における、制御された用量でのCSF送達の5つの異なる経路:片側脳室内(ICV)、両側ICV、髄腔内腰部(IT-腰部)、および大槽内(ICM)経路にわたるAAV9の生体内分布および形質導入効率を直接比較した。CSF内経路を、同様の用量の静脈内(IV)注射とさらに比較した。本発明者らはまた、ICV投与による、AAV血清型9(AAV9)、AAV血清型5(AAV5)およびAAV血清型1(AAV1)を含む、臨床的に検証されたAAV血清型の生体内分布および形質導入効率を体系的に定量した。
【0169】
本発明者らは、HEK293細胞の三重トランスフェクションによりニワトリベータアクチンプロモーター(CBA)によって駆動される緑色蛍光タンパク質(eGFP)を発現するAAVベクターを使用した。ベクターを、デジタル液滴PCR(ddPCR)によって滴定した。生体内分布を、CNS組織および末梢臓器にわたって評価した。
【0170】
かくして、この多層試験において、本発明者らは、様々な脳構造へのウイルス送達を標的化するための様々な投与経路の有効性およびAAV血清型の有効性を実証する。本発明者らの知見は、CNSに向けられた遺伝子療法の臨床移転のためのCSF内投与経路の選択およびAAVカプシド血清型選択に関する情報を提供する。
【0171】
(実施例1:カニクイザルにおける投与経路試験)
この試験の目的は、5つの異なる投与経路:片側脳室内(ICV)、両側ICV、髄腔内(IT)腰部、大槽内(ICM)、または静脈内(IV)注射にわたってカニクイザルの中枢神経系(CNS)における生体内分布を比較することであった。それぞれの動物に、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーターの制御下のeGFP-KASHをコードする発現カセット(AAV9-CBA-eGFP-KASHと呼ばれる)を含有するAAV9を注射した。AAV9粒子を、PBS+0.001%PF-68中で製剤化し、高用量(1.0E+13vg/動物)または低用量(2.4E+12vg/動物)のいずれかで投与した。2ml容量の製剤化されたウイルス粒子を、投与経路に関係なく、それぞれの動物に投与した。試験設計は、以下の表1に記載される。
【0172】
表1:投与経路試験のための試験設計
【表1】
【0173】
実験的にナイーブな雄のカニクイザル(Macaca fascicularis)を、この試験において使用した。投薬の開始時に、動物は10~11カ月齢であり、体重は1.4±0.2kgであった。動物を、単純無作為化手順によって試験群に割り当てた。試験の開始前に、動物由来の血液試料を、AAV9、AAV5、およびAAV1に対する中和抗体(Nab)価のレベルについて検査した。抗体に関する低いか、または陰性の結果を示す動物を、試験のために選択した。
【0174】
脳室内投与
動物を麻酔し、手術のために準備し、MRI準拠定位固定フレーム(Kopf)中に載せた。ベースラインMRIを実施して、標的座標を確立した。切開を行い、標的位置上で頭蓋骨に1個の穴をドリルで開けた。針を所定の位置に下げ、AAV9-CBA-eGFP-KASHベクターを、側脳室に輸注した。造影媒体注射および蛍光透視法を使用して、脳室中での針の配置を検証した。AAV9-CBA-eGFP-KASHを、左および右のそれぞれの両側ICV処置のために0.1mL/分の速度で10分間ならびに片側ICV処置のために0.1mL/分の速度で20分間輸注した。輸注の完了後、1~2分間にわたって針を所定の位置に残した。投薬の完了後、標準的な様式で皮膚を閉じ、動物を回復させた。
【0175】
髄腔内(IT)腰部注射
動物をイソフルランで麻酔し、横臥位に置いた。腰部槽に、経皮針刺しによりアクセスした。針を、造影色素蛍光透視法によって検証されるようにL3/L4間に挿入した。針を入れた後、陽性のCSF流を確認した。AAV9-CBA-eGFP-KASHを含有するシリンジを針に取り付け、1分かけて手でゆっくりとベクターを注入した。注射の完了後、シリンジを除去し、CSF流を確認した。投薬の完了後、10分にわたって、動物をトレンデレンブルグ体位に置いた。
【0176】
大槽内(ICM)注射
動物をイソフルランで麻酔し、横臥位に置いた。大槽に、経皮針刺しによりアクセスした。針を、頭蓋骨基部とC1との間に挿入した。AAV9-CBA-eGFP-KASHを含有するシリンジを針に取り付け、1分かけて手でゆっくりとベクターを注入した。注射の完了後、シリンジを除去し、CSF流を確認した。
【0177】
静脈内注射
尾静脈へのボーラス注射を使用して、動物にAAV9-CBA-eGFP-KASHを注射した。
【0178】
投薬後、試験期間を通して動物を日常的にモニタリングし、血液試料を毎週採取した。以下のパラメーターおよび評価項目を評価した:死亡、臨床観察、体重、身体検査、臨床病理パラメーター(臨床化学)、中和抗体試料分析、PBMC、CSF、生体内分布および遺伝子発現分析、肉眼での検所見、および組織病理学的検査。
【0179】
この試験の結果により、被験物質の投与が、何らかの予想外の死亡、臨床所見、体重変化、または巨視的観察と関連しないことが示された。臨床化学評価項目の評価の際に、投与経路に関係なく、AAV9-CBA-eGFPを投与された全ての動物は、個々のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、および/またはグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GLDH)活性の増加を示し、これはAAVベクターと関連し、肝細胞効果を示すと考えられた。
【0180】
全ての動物が、スケジュールされた剖検まで生存した。安楽死および食塩水かん流の後、脳を取り出し、4~5mmの冠状切片に切断し(図1を参照されたい)、8mmの生検パンチを使用して、両側的に、平らなスラブからqPCR試料を収集した。新しいパンチを、それぞれの部位について使用した。それぞれの生検パンチを、半分に切断した(一方の半分はqPCR用であり、他方の半分はRT-qPCR用である)。脳から収集された組織試料は、4つの皮質領域(可能な場合、(前頭、頭頂、側頭、および後頭)の2つの切片)、海馬(可能な場合、2つの切片)、髄質、および小脳を含んでいた。
【0181】
qPCRを使用する生体内分布試験のために、組織試料(脾臓を除いて、組織試料あたり100~200mg)を、心臓、肝臓、肺、腎臓(両方)、脳、脊髄(SC)、後根神経節(DRG)、精巣、および脾臓(50~100mg)から収集した。脊髄およびDRGは、頸部(C2)、胸部(T1およびT8)、および腰部(L4)領域から収集した。試料を、個々に予め標識されたクライオチューブ中に収集し、液体窒素中で瞬間凍結し、ドライアイス上に置いた。試料を、-60℃~-90℃で凍結保存した。
【0182】
RT-PCRを使用する遺伝子発現試験のために、組織試料を、心臓、肝臓、肺、腎臓(両方)、脾臓、リンパ節、脳、脊髄、DRG、および精巣から収集した。脊髄およびDRGは、(C3、C4、T2、T3、T9、T10、L2、およびL5)から収集した。試料を、RNA-Laterを含有する予め標識されたクライオチューブ中に個々に入れ、24~48時間、冷蔵(2℃~8℃)した。試料を、冷蔵庫から取り出し、-60℃~-90℃で凍結保存した。
【0183】
組織病理組織収集。qPCRおよびRT-qPCR試料収集後、全ての残存する脳組織、脊髄、およびDRG、末梢臓器(4%膨張した肺)を、室温で24~48時間、4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で固定した後、70%エタノールに移した。
【0184】
ベクターコピー数アッセイ
ベクターコピー数(VCN)を、様々な脳領域、脊髄、後根神経節、心臓、肝臓、腎臓および脾臓において決定した。脳試料については、様々な脳領域、例えば、前頭皮質(1つがスラブ2の各半球に由来する、2つのパンチ)、頭頂皮質(1つがスラブ4およびスラブ8の各半球に由来する、4つのパンチ)、側頭皮質(1つがスラブ6の各半球に由来する、2つのパンチ)、海馬(1つがスラブ8およびスラブ10の各半球に由来する4つのパンチ)、小脳(1つがスラブ12の各半球に由来する、2つのパンチ)、髄質(1つがスラブ12の各半球に由来する、2つのパンチ)、ならびに後頭皮質(1つがスラブ14の各半球に由来する、2つのパンチ)に由来する組織パンチ(図1を参照されたい)を使用した。全ての組織試料を、以下に記載されるように加工した。
【0185】
組織DNAを、DNeasy Blood & Tissuesキット(Qiagen)を用いて単離した。DNA量を、UV分光光度計を使用して決定および正規化した。100ngの組織DNAを、TaqPath ProAmp Multiplex Master Mix(Thermo Fisher Scientific)ならびにeGFPの領域に対するTaqManプライマーおよびプローブと共に、50μlの反応に添加した。制限酵素線状化およびDNA Clean & Concentratorキット(Zymo Research)を用いる精製により、プラスミド標準曲線を調製した。線状化DNAをUV分光光度計により定量し、10μlあたり10から50コピーまで10倍連続希釈した。組織試料に関して50μlの反応に希釈された標準曲線を添加した。TaqMan qPCRを、Lightcycler 96システム(Roche、Life Science)を使用して実施して、2段階サイクリングプロトコール(初期変性/酵素活性化:95℃で10分間、40サイクル:95℃で15秒、60℃で60秒)を使用して、生体内分布試験のために組織中のベクターコピー数を決定した。サルゲノムアルブミン(Alb)配列を、ゲノムDNA含量に関する内部対照として使用し、別の反応において増幅させた。AlbのCt値が26未満であった場合、試料を適格と考えた。
【0186】
eGFPプライマープローブ配列:
【0187】
FW:AACCGCATCGAGCTGAAGG;
【0188】
RV:GCCATGATATAGACGTTGTGGC;
【0189】
プローブ:AGGAGGACGGCAACATCCTGGGGCA
【0190】
カニクイザルアルブミン配列:
【0191】
FW:GCTGTTATCTCTTGTGGGCTGT
【0192】
RV:AAACTCATGGGAGCTGCCGGTT
【0193】
プローブ:CCACACAAATCTCTCCCTGGCATTG
【0194】
ベクターコピー数アッセイの結果は、ICV投与が、ICM投与よりも脳へのAAV送達において効率的であり、ICVがIT-腰部またはIV投与よりも脳へのAAV送達において有意に効率的であることを示す(図2~9を参照されたい)。さらに、結果は、片側ICV投与が、両側ICV投与に対して、脳へのAAVの送達において同等であるか、またはより効率的であることを示す(図10~14を参照されたい)。
【0195】
非ヒト霊長類血清における抗AAV中和抗体(NAb)価の決定
ウイルスベクターを用いた処置の前後の中和抗体の力価を決定した。293AAV細胞系を、Cell Biolabs,Inc.(San Diego、CA)から購入し、10%熱不活化FBSを添加したDMEM中で培養した。Nano-Glo(登録商標)Luciferase Assay SystemおよびGloMax(登録商標)-Multi+Microplate Multimode Reader(Promega(Madison、WI))を使用した。NHP血清を、投薬前ならびに投薬後1、14および28日目に得られた採血から取得した。血清試料を、使用前に56℃で30分間、熱不活化した。
【0196】
アッセイの1日目に、293AAV細胞を、1×10/100μl(AAV1およびAAV5)または1.5×10/100μl(AAV9)で96ウェル平底培養プレート中に播種し、37℃、5%COで一晩インキュベートした。2日目に、試料をAAV-CMV_NLucベクターと混合する前に、NHP血清試料の連続希釈物を作製し、37℃で1時間インキュベートした。100%のベクター形質導入対照および0%の形質導入(シグナルバックグラウンド)対照も、各プレートについて生成した。最後に、同時インキュベートされた混合物を、96ウェル平底培養プレートに移して、それぞれ、AAV1、AAV5およびAAV9について、1000、2000および10000のMOI(感染多重度)を達成した。37℃で48時間インキュベートした後、Nano-Glo(登録商標)Luciferase Assay Reagentを、製造説明書に従って調製し、プレートに添加し、Greiner Bio-One White Polystyrene LUMITRAC 200 Microplate(Greiner Bio-One)中で発光を測定した。
【0197】
アッセイの結果を、以下の表2に示す。抗AAV中和抗体価は、AAV形質導入が陰性対照と比較して50%を超えて減少した最も高い血清希釈の逆数と定義される。
【数1】
【0198】
AAV9ベクター投与後、全ての動物は、測定可能な抗AAV9カプシド中和抗体を有し、試験の終わりまで持続した(表2を参照されたい)。
表2:AAV9ベクターで処置された動物の中和抗体価
【表2】
【0199】
投与経路試験のための免疫組織化学アッセイ
様々な組織中の緑色蛍光タンパク質(GFP)発現のレベルを、AAV投与後に決定した。食塩水かん流後、組織を48時間にわたって4%パラホルムアルデヒド中で固定し、70%エタノールに移し、パラフィン包埋し、5μmで切片化した。キシレンおよびアルコールを用いてパラフィンを除去した後、95℃で20分間、クエン酸緩衝液(pH6)中で熱賦活化(heat retrieval)を実施した。ニワトリ抗GFP(Aves Labs GFP1020)を用いた一次抗体染色を、1:5000で一晩実施した後、1:1000で1時間、ヤギ抗ニワトリHRP(Thermo A16054)を用いて検出した。TSA-FITC(PerkinElmer)を、1:100で10分間使用した後、DAPI染色を行った。10倍対物レンズを使用するPE Vectra3を用いてスライドを画像化し、DAPIおよびFITC染色の画像を、それぞれ4および40msで撮った。
【0200】
図15に示されるように、異なる投与経路により投与したAAV9ベクターを投薬した動物は、脳領域、脊髄および後根神経節において異なる程度のGFP発現を示す。
【0201】
(実施例2:カニクイザルにおけるAAV血清型試験)
この試験の目的は、3つの異なるAAV血清型:AAV1、AAV5およびAAV9を使用するカニクイザルの中枢神経系(CNS)における生体内分布を比較することであった。ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーターの制御下にeGFP-KASHをコードする発現カセットを含有するAAVベクター(AAV1、AAV5もしくはAAV9)(AAVX-CBA-eGFP-KASHと呼ばれる)または配列番号76を有するプロモーターの制御下にeGFPをコードする発現カセットを含有し、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含有するAAV9ベクター(AAV9-配列番号76-eGFP-WPREと呼ばれる)を、動物に注射した。AAV粒子を、PBS+0.001%PF-68中で製剤化し、以下の表に列挙される用量で投与した。2ml容量の製剤化されたウイルス粒子を、各動物に投与した。試験設計は、以下の表3に記載される。
表3:AAV血清型試験のための試験設計
【表3】
【0202】
動物に、片側ICV注射のために実施例1に記載のように投薬した。動物を、実施例1に記載のように日常的にモニタリングし、血液試料を毎週採取した。動物3002を除いて、全ての動物が、スケジュールされた剖検まで生存した。14日目に、動物3002は、活動の低下および異常を示す運動失調であることがわかった。動物は衰弱し続け、安楽死させた。
【0203】
投与経路またはロットに関係なく、AAV9-CBA-eGFPを投与された全ての動物、およびAAV5-CBA-eGFPまたはAAV1-CBA-eGFPを投与された数匹の個体は、個々のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、および/またはグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GLDH)活性の増加を示し、これは、AAVベクターと関連し、肝細胞効果を示すと考えられた。同様の効果は、AAV9-配列番号76-eGFP-WPRE投与後には観察されなかった。
【0204】
安楽死後、組織を、実施例1に記載されたようにqPCR、RT-qPCRおよび組織病理のために加工した。ベクターコピー数を、実施例1に記載のように決定した。結果は、AAV1、AAV5およびAAV9が、脳においては同等のベクター形質導入を示したが、AAV9レベルがわずかにより高かったことを示す(図16~19を参照されたい)。
【0205】
また、中和抗体価を、実施例1で上記されたように血清型試験のために決定した。AAV9ベクターに関する結果は、上の表2に示されており、AAV5およびAAV1ベクターに関する結果は、以下の表4に示される。
表4:AAV5およびAAV1ベクターで処置された動物の中和抗体価
【表4】
【0206】
AAV1、AAV5およびAAV9ベクター投与後、全ての動物は、測定可能な抗AAVカプシド中和抗体を有し、試験の終わりまで持続した(表2および表4を参照されたい)。
【0207】
GFP発現レベルのIHC分析も、実施例1に上記されたようにAAV1、AAV5およびAAV9で処置した動物について決定した。図20に示されるように、変化する程度のGFP発現が、脳および脊髄組織中で3つ全ての血清型にわたって観察された。
【0208】
(実施例3:eTFSCN1Aの生体内分布)
この試験の目的は、片側脳室内(ICV)注射により4.8E+13vg/動物または8E+13vg/動物の用量で投与した場合の若年カニクイザルの中枢神経系(CNS)中のeTFSCN1Aの生体内分布を比較することであった。各動物に、GABA選択的調節エレメントの制御下にeTFSCN1Aをコードする発現カセット(REGABA-eTFSCN1A)を含有するAAV9を注射した。AAV9粒子を、PBS+0.001%プルロニック酸中で製剤化し、4.8E+13vg/動物または8E+13vg/動物の用量で投与した。2ml容量の製剤化されたウイルス粒子を、各動物に投与した。試験設計は、以下の表8に記載される。
【0209】
24カ月齢のカニクイザルを、表8に示されるようにグループ化した。試験の開始前に、動物に由来する血液試料を、上記のNAb力価アッセイを使用して、AAV9に対する中和抗体価のレベルについて検査した。抗体に関する低いか、または陰性の結果を示す動物を、試験のために選択した。試料を、標準的な外科的手順を使用するICV注射により投与した。解凍された投薬材料を、濡れた氷上で短時間保存し、投薬の直前に室温まで温めた。動物を麻酔し、手術のために準備し、MRI準拠定位固定フレーム(Kopf)中に載せた。ベースラインMRIを実施して、標的座標を確立した。切開を行い、標的位置上で頭蓋骨に1個の穴をドリルで開けた。36’’のマイクロボア延長セットに取り付けた3mLのBDシリンジを、試料と共に調製し、輸注ポンプに入れた。延長線(extension line)を予備刺激した(prime)。硬膜を開き、投薬針を軟膜から13.0~18.1mmの深さまで進行させた。造影媒体の注射および蛍光透視法を使用して、右側脳室へのくも膜下穿刺針の配置を確認した。3.0’’の22gのQuinke BD huberくも膜下穿刺針に造影剤を充填して、予備刺激した延長線およびシリンジを取り付ける前に配置を決定した。ポンプの設定は、19~20分にわたる0.1mL/分であった。投薬後、緩衝液を手で押して延長線を清浄した。輸注の完了後、1~2分間、所定の位置に針を残した後、針を引き抜いた。ビヒクルおよび被験物質を1日目に1回投与し、被験体を27または29日の回復期間にわたって維持した。
表8:生体内分布試験設計
【表8】
【0210】
投薬後、試験期間を通して動物を日常的にモニタリングし、血液試料を定期的に採取した。eTFSCN1A投与は、予想外の死亡、臨床所見、または巨視的観察とは関連しなかった。AAV9-REGABA-eTFSCN1A処置動物は、28±2日目でのスケジュールされた剖検まで生存した。毎日または毎週の身体検査中に、臨床もしくは行動徴候、体温上昇、または体重低下は観察されなかった。AAV9-REGABA-eTFSCN1A処置動物において肝臓トランスアミナーゼ(ALTおよびAST)の一過的上昇が観察されたが、免疫調節がなくても試験の終わりまでに完全に消散し、血清ビリルビンまたはアルカリホスファターゼの付随的上昇は認められなかった。他の測定された臨床化学評価項目に目立ったものはなかった。肝臓組織病理試験において顕微鏡的観察は報告されなかった。CSF白血球は、処置前の値と比較して最終収集物中で上昇していたが、対照と、AAV9-REGABA-eTFSCN1A処置動物との間で同等であった。AAV9-REGABA-eTFSCN1Aと関連する髄液細胞増加は観察されなかった。全ての動物にわたって非神経組織の巨視的観察および詳細な微小組織病理検査に目立ったものはなかった。組織は、主な末梢臓器(すなわち、心臓、肺、脾臓、肝臓および性腺)を含んでいた。神経組織の巨視的観察および詳細な微小組織病理は、いかなる顕著な所見も示さなかった。組織は、脳、脊髄、および関連する後根神経節(頸部、胸部および腰部領域に由来する)を含んでいた。試験は、特化した神経病理部門の者を含む3人の独立した病理学者によって行われた。
【0211】
抗AAV9カプシド中和抗体を投薬後4週間観察した時、AAV9のICV投与は、血清中での投薬後免疫応答を防止しなかった。しかしながら、CSF中の中和抗AAV9抗体レベルは、未変化のままであり、投薬前のレベルと同等であった(表9)。
表9:AAV9血清NAb価
【表9】
【0212】
スケジュールされた剖検中に、主な臓器(心室、肝葉、肺心葉、腎臓、脾臓、膵臓、および頸部リンパ節)から、投薬後27~29日で試料を収集した。パンチを、8ミリメートルの穿孔器により収集し、以下でさらに考察されるようにさらに加工した。
【0213】
(実施例4:脳におけるeTFSCN1Aの生体内分布)
ddPCRを使用して、脳におけるeTFSCN1Aの生体内分布を測定した。カニクイザル脳組織の様々な領域(FC:前頭皮質;PC:頭頂皮質;TC:側頭皮質;Hip:海馬;Med:髄質;OC:後頭皮質)に由来する試料を、ベクターコピー数について測定して、片側ICVによりAAV9中で投与した場合のGABA選択的調節エレメントの制御下のeTFSCN1A(REGABA-eTFSCN1A)の生体内分布を評価した。組織DNAを、DNeasy Blood & Tissuesキット(Qiagen)を用いて単離した。DNA量を、UV分光光度計を使用して決定および正規化した。20ナノグラムの組織DNAを、ddPCR Super Mix for Probes(dUTPなし)(Bio-Rad)ならびにeTFSCN1A配列の領域に対するTaqManプライマーおよびプローブと共に、20マイクロリットルの反応に添加した。自動化液滴生成装置およびサーモサイクラー(Bio-Rad)を使用して液滴を生成し、鋳型を増幅した。PCRステップ後、プレートをロードし、QX2000 Droplet Readerによって読み取り、組織中のベクターコピー数を決定した。サルアルブミン(MfAlb)遺伝子を、ゲノムDNA含量を正規化するための内部対照として使用し、同じ反応において増幅させた。eTFSCN1AおよびMfAlbのためのプライマーおよびプローブを、表10に記載する。
表10:eTFSCN1AおよびMfAlbのためのプライマーおよびプローブ
【表10】
【0214】
eTFSCN1Aは、1.3~3.5VG/2倍体ゲノムの平均で動物1匹あたり4.8E+13ウイルスゲノムで投薬した場合、脳全体で広く分布した(図21)。さらに、動物1匹あたり4.8E+13ウイルスゲノムで投薬したREGABA-eTFSCN1Aの脳全体での遺伝子導入と、様々な用量でICVにより投薬したeGFPの脳全体での遺伝子導入とを比較した場合、VG/2倍体ゲノムの増加が、用量の増大と共に観察された。これは、脳における遺伝子導入が、ICVによりAAV9中で投与された場合、用量依存的様式で起こることを示していた。
【0215】
(実施例5:脳におけるeTFSCN1Aの転写)
GABA選択的調節エレメントREGABAの制御下でのeTFSCN1A(REGABA-eTFSCN1A)の転写を、ddPCRに基づく遺伝子発現アッセイを使用してeTFSCN1A mRNAを測定することによって評価した。組織RNAを、RNeasy Plus Miniキット(Qiagen)または脳組織についてはRNeasy Lipid Tissue Miniキット(Qiagen)を用いて単離した。UV分光光度計を使用してRNA量を決定および正規化し、RNA品質(RIN)をBioanalyzer RNAチップを使用してチェックした。1マイクログラムの組織RNAを、ezDNase(商標)Enzymeキット(Thermo Fisher)と共にSuperScript VILO cDNA合成キットを用いるDNase処理およびcDNA合成のために使用した。50マイクログラムのRNAをcDNAに変換した。cDNAを、ddPCR Super Mix for Probes(dUTPなし)(Bio-Rad)ならびにeTFSCN1A配列の領域に対するTaqManプライマーおよびプローブと共に20マイクロリットルの反応に添加した(表11)。自動化液滴生成装置およびサーモサイクラー(Bio-Rad)を使用して液滴を生成し、鋳型を増幅した。PCR増幅後、プレートをロードし、QX2000 Droplet Readerにより読み取って、組織中での遺伝子発現レベルを提供した。サル遺伝子ARFGAP2(MfARFGAP2)(Thermo Fisher Scientific)を、遺伝子発現レベルを正規化するための内因性対照として使用し、同じ反応において増幅させた。ARFGAP2に関する平均転写物は、1.85E+6/μgのRNAであった(図22、上側境界)。検出限界を下側境界に示した。
【0216】
eTFSCN1A mRNAは全ての動物において脳全体で観察されたが、これは、GABA選択的プロモーターであるREGABAが、全てのAAV9-REGABA-eTFSCN1A処置マカクザルについて脳組織中で転写的に活性であったことを示している(図22)。FC:前頭皮質;PC:頭頂皮質;TC:側頭皮質;Hip:海馬;Med:髄質;OC:後頭皮質。
表11:eTFSCN1A配列の領域に対するTaqManプライマーおよびプローブ
【表11】
【0217】
(実施例6:末梢組織におけるeTFSCN1Aの生体内分布および転写)
様々な臓器中でベクターコピー数をさらに測定して、片側ICVによりAAV9中で投与された場合の身体中の組織におけるREGABA-eTFSCN1Aの形質導入を評価した。eTFSCN1Aの転写物レベルも、ddPCRにより測定して、片側ICVによりAAV9中で投与された場合の身体中の組織におけるGABA選択的調節エレメントREGABAの制御下のeTFSCN1Aの転写活性を評価した。両方法を、上で概して記載されたように実施した。脊髄(SC)および後根神経節(DRG)におけるREGABA-eTFSCN1A形質導入およびeTFSCN1Aの転写は、脳において観察されたレベルと同等であった。肝臓を除いて、REGABA-eTFSCN1A形質導入は、脳の外部の末梢組織においてはより低かった(図23)。肝臓におけるREGABA-eTFSCN1Aの形質導入は、脳におけるものよりも高かった。eTFSCN1Aの転写は、心臓、肺および性腺を含む末梢組織において検出されなかった。しかしながら、肝臓におけるeTFSCN1A転写物レベルは、脳において測定されたeTFSCN1Aのレベルと同等であった。さらに、肝臓におけるeTFSCN1A転写は、存在するベクターコピー数に対して正規化した場合、極端に低い(脳におけるeTFSCN1Aの転写と比較して約1000分の1)。全体として、これは、GABA選択的調節エレメントREGABAの制御下でのeTFSCN1Aの転写がCNSに限定されることを示していた。
I.配列
表5:例示的な調節エレメント核酸配列の一覧
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
表6:本明細書に開示されるさらなる核酸配列
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
表7:本明細書に開示されるさらなる核酸配列の一覧
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
【表7-5】
【表7-6】
【表7-7】
【表7-8】
【表7-9】
【表7-10】
【表7-11】
【表7-12】
【表7-13】
【0218】
参照による組込み
本明細書に記載の全ての刊行物、特許、および特許出願は、あたかもそれぞれ個々の刊行物、特許、または特許出願が具体的かつ個々に参照により組み込まれると示されたのと同程度まで参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
2022526425000001.app
【国際調査報告】