(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(54)【発明の名称】植物性機能性材料
(51)【国際特許分類】
C08L 89/00 20060101AFI20220518BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20220518BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220518BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20220518BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20220518BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20220518BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20220518BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20220518BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220518BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20220518BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220518BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20220518BHJP
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A23L 5/00 20160101ALI20220518BHJP
A23L 29/206 20160101ALI20220518BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20220518BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20220518BHJP
B01J 13/22 20060101ALI20220518BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C08L89/00
A61K9/50
A61K9/70
A61K9/06
A61K9/16
A61K9/00
A61K47/42
A61K8/64
A61K8/02
A61K8/97
A61L27/52
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A61Q19/00
A23L5/00 C
A23L29/206
A23J3/14
A23L5/00 M
A23L5/00 B
C12N5/00
B01J13/22
C08L101/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021553093
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(85)【翻訳文提出日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2020056117
(87)【国際公開番号】W WO2020178448
(87)【国際公開日】2020-09-10
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/064711
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ロドリゲス・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】トゥオマス・ノールズ
(72)【発明者】
【氏名】アヴィアド・レヴィン
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 彩花
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
4B065
4C076
4C081
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4G005
4J002
【Fターム(参考)】
4B035LC16
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(57)【要約】
本発明は、植物性材料、その製造のための方法、及び植物性材料を取り込んだ生物材料に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場、生体支持体、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜である植物性構造化材料。
【請求項2】
マイクロカプセルである、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項3】
マイクロビーズである、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項4】
生体足場又は生体支持体である、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項5】
スポンジ又はマイクロスケールスポンジである、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項6】
硬カプセルである、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項7】
フィルム又は薄膜である、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項8】
マイクロパターンフィルム、マイクロパターン薄膜、又はマイクロ若しくはナノ構造化薄膜である、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項9】
マイクロゲルである、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項10】
機能性被膜である、請求項1に記載の植物性構造化材料。
【請求項11】
植物タンパク質βシート結晶を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の植物性構造化材料。
【請求項12】
少なくとも40%のβシート結晶、少なくとも50%のβシート結晶、少なくとも60%のβシート結晶、少なくとも70%のβシート結晶、少なくとも80%のβシート結晶、又は少なくとも90%のβシート結晶を含む、請求項11に記載の植物性構造化材料。
【請求項13】
少なくとも40%の分子間βシート、少なくとも50%の分子間βシート、少なくとも60%の分子間βシート、少なくとも70%の分子間βシート、少なくとも80%の分子間βシート、又は少なくとも90%の分子間βシートを有する二次構造を有する植物性タンパク質を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の植物性構造化材料。
【請求項14】
10rad/sにおいて、500Paを超える、1000Paを超える、2500Paを超える、3000Paを超える、4000Paを超える貯蔵弾性率(G')を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の植物性構造化材料。
【請求項15】
20MPaを超える、好ましくは50MPaを超える、80MPaを超える、100MPaを超える、200MPaを超える、300MPaを超える、400MPaを超える、500MPaを超える、又は600MPaを超えるヤング率を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の植物性構造化材料。
【請求項16】
200nm未満、好ましくは150nm未満、125nm未満、100nm未満、90nm未満、80nm未満、70nm未満、60nm未満、50nm未満、40nm未満、又は30nm未満の平均サイズのタンパク質凝集体を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の植物性構造化材料。
【請求項17】
熱可逆的にゲル化することができる、請求項1から16のいずれか一項に記載の植物性構造化材料。
【請求項18】
昇温で加熱する場合及び/又は機械的撹拌を適用することによって、250Pa未満、好ましくは100Pa未満、50Pa未満、又は10Pa未満の貯蔵弾性率を有するタンパク質溶液を形成するようになる、請求項17に記載の植物性構造化材料。
【請求項19】
熱可逆性冷却固化ゲル化法を介して形成される、請求項1から18のいずれか一項に記載の植物性構造化材料。
【請求項20】
植物性熱可逆性ヒドロゲル。
【請求項21】
成形されるか、マイクロ流体デバイスにより形成されるか、又はそうでなければ構造化形状に形成され、任意選択でその後乾燥される、請求項20に記載の植物性熱可逆性ヒドロゲル。
【請求項22】
請求項1から19のいずれか一項に記載の植物性材料と、1種又は複数種の更なるバイオポリマー、例えばタンパク質及び/又は多糖とを含む複合材料。
【請求項23】
請求項1から19のいずれか一項に記載の植物性構造化材料、請求項20若しくは21に記載の植物性熱可逆性ヒドロゲル、又は請求項22に記載の複合材料を取り込んだ、食品、化粧品、医薬品、医療機器、又は生物材料。
【請求項24】
植物性材料を生産する方法であって、
a)溶媒系に1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、及び
b)溶液中のタンパク質にゾル-ゲル転移を起こさせて、植物性タンパク質ヒドロゲルを形成する工程
を含む、方法。
【請求項25】
c)植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料を形成する工程
を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ゾル-ゲル転移前、前記転移中、又は前記転移後に植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料が形成される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
植物性タンパク質ヒドロゲルが構造化材料に成形されるか、又はマイクロ流体デバイスを使用して植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料が形成される、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
構造化材料、例えば、フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場、生体支持体、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜を生産するために使用される、請求項24から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
植物タンパク質が、ダイズ、エンドウ、イネ、ジャガイモ、コムギ、トウモロコシゼイン、又はソルガムから得られる、好ましくは植物タンパク質が、ダイズタンパク質、エンドウタンパク質、ジャガイモタンパク質、及び/又はイネタンパク質から選択される、請求項24から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
第1の共溶媒が有機酸、好ましくは酢酸及び/又はα-ヒドロキシ酸であり、α-ヒドロキシ酸が、好ましくはグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、及び/又は酒石酸から選択することができ、特に好ましい有機酸が酢酸及び/又は乳酸である、請求項24から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
第2の又は更なる共溶媒が水性緩衝液であり、好ましくは水、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、2-プロパノール、1-ブタノール、1-プロパノール、ヘキサノール、t-ブタノール、酢酸エチル、又はヘキサフルオロイソプロパノール、特に好ましくは水及び/又はエタノール、更に特に好ましくは水から選択される、請求項24から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
溶媒系が、約20~80%v/v、好ましくは約20~60%v/v、約25~55%v/v、約30~50%v/v、約20%、約30%、約40%、約50%、又は約60%v/v、最も好ましくは約30~50%v/vの共溶媒比を含む、請求項24から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
機械的剪断、好ましくは1種又は複数種の植物性タンパク質と溶媒系とを含む前記タンパク質溶液の超音波処理を更に含む、請求項24から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
タンパク質溶液が、1種又は複数種の植物性タンパク質のゾル-ゲル温度を超える第1の温度に加熱され、次いで1種又は複数種の植物性タンパク質のゾル-ゲル温度未満の第2の温度に低下されて、ヒドロゲルを形成する、請求項24から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項24から34のいずれか一項に記載の方法を使用して形成される植物性ヒドロゲル。
【請求項36】
植物性材料を得る熱可逆性方法であって、
a)溶媒系に1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、及び
b)溶液中のタンパク質にゾル-ゲル転移を起こさせて、植物性タンパク質ヒドロゲルを形成する工程
を含む、方法。
【請求項37】
その後、植物性タンパク質ヒドロゲルが熱可逆性特性を有しなくなるように溶媒系が除去される、請求項36に記載の熱可逆性方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性材料(plant based materials)、その製造のための方法、及び本発明の植物性材料を取り込んだ生物材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック等の合成ポリマーは、優れた機械的及び化学的特性を呈し、過去60年の間幅広く使用されている。しかしながら、これらのポリマーは生分解性ではなく、環境中に蓄積するおそれがあり、経済的損害を引き起こし、食物連鎖及び大気を通じてヒトの健康に影響を及ぼす可能性が高い。
【0003】
高レベルの機能性並びに高度の生分解性及び生物適合性を呈する材料の開発は、包装から医薬品に及ぶ範囲における材料性能の改善に関する社会的必要性を満たす重要な目的である。
【0004】
自己組織化はそのような材料の製作に対する魅力的な手段として現れたが、今日まで活用されているビルディングブロックの大半は合成起源である。
【0005】
新たな機能性材料を生成するためのビルディングブロックとして役割を果たし得る様々な種類のバイオポリマーのうち、タンパク質は、機能的構造に自己組織化する能力を考慮すると、興味深い候補である。
【0006】
現在、これらの材料の商業的用途のための使用は高度に可溶性の動物由来タンパク質に制限されている。食料品に一般的に使用される動物性タンパク質、例えば乳清タンパク質は、良好な生物適合性、生分解性、両親媒性、並びに機能特性、例えば、水溶性、乳化能、及び泡沫化能を呈する。しかしながら、環境に対するより小さい影響という理由だけでなく、より低いアレルゲン性及び費用の削減という理由からも、動物由来タンパク質を植物性タンパク質に置き換える要求は高まっている。
【0007】
ヒドロゲルが多様な実験条件下においてダイズ及びエンドウタンパク質から得ることができる、植物性タンパク質由来の自己組織化材料の形成が報告されている。しかしながら、構造化植物性材料(structured plant-based materials)から得られる機械的特性は全般的に、動物由来材料から得られる機械的特性と比較して低く、植物タンパク質は、少なくとも部分的には植物タンパク質に固有の水に対する低い溶解性のために、加工することがより困難である。
【0008】
したがって、今日まで、植物性タンパク質は生物材料として成功裏に利用されておらず、再生可能且つ費用対効果の高い原料由来の構造化タンパク質材料を環境的に持続可能な方法を用いて生成することは依然として課題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tran, T. M.、Cater, S. & Abate, A. R. Coaxial flow focusing in poly(dimethylsiloxane) microfluidic devices. Biomicrofluidics 8、1~7頁(2014)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様においては、植物性材料を生産する方法であって、
a)溶媒系に1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、及び
b)溶液中のタンパク質にゾル-ゲル転移を起こさせて、植物性タンパク質ヒドロゲルを形成する工程
を含む、方法が提供される。
【0011】
更なる実施形態では、方法は、
c)植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料(structured material)を形成する工程
を含む。
【0012】
植物性タンパク質ヒドロゲルから構造化材料を形成する工程は、構造化材料、例えば、ゲル、フィルム、マイクロゲル、マイクロカプセル等の形成を可能にする。好ましい実施形態では、タンパク質ヒドロゲルは、成形によって特定の形状に形成され得る。更に好ましい実施形態では、タンパク質ヒドロゲルは、マイクロ流体デバイスを使用して特定の形状に形成され得る。
【0013】
本発明は、植物性タンパク質由来の機能性材料を製造する新規の方法を同定した。共溶媒混合物を利用することによって、再生可能な植物タンパク質原料由来の構造的に堅牢な材料の形成を可能にする、ゾル-ゲル転移に対する制御を発揮することが可能である。方法は、ヒドロゲル、フィルム、マイクロカプセル、マイクロゲル、マイクロスケールスポンジ等を含む多くの構造化材料の作出を可能にする。構造化材料は、構造化材料を人体との接触に好適にするクロスリンカーも任意の他の有害材料も必要とせず、確実に形成することができる。材料はまた、再生可能な原料に由来し、したがって合成類似体よりも環境に対する影響を低減する。
【0014】
更なる態様では、溶液中の植物性タンパク質の特性を改変してゾル-ゲル条件を制御し、それによって植物性材料を形成するための、共溶媒混合物の使用が提供される。
【0015】
複数種の混和性共溶媒であって、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、混和性共溶媒を含む溶媒系を選択することによって、ゾル-ゲル条件を制御することが可能である。
【0016】
第1の共溶媒の第2の共溶媒に対する比は、約20~80%v/v、約20~60%v/v、約25~55%v/v、約30~50%v/v、約20%、約30%、約40%、約50%、又は約60%v/v、最も好ましくは約30~50%v/vまで変動し得る。そのような比は機能的に有用な材料をもたらす。
【0017】
溶媒系は、1種若しくは複数種の第1の共溶媒及び/又は1種若しくは複数種の第2の共溶媒を含有し得る。
【0018】
植物性材料は初めて、大規模に実現可能な方法を使用して確実に且つ再現性よく形成することができる。ゾル-ゲル条件を制御することが可能となることによって、結果として得られる材料の特性を調整すること、及び/又は有用な生物材料の生産を可能にする製造プロセスを調整することが可能となる。
【0019】
本発明の方法は、熱可逆性冷却固化ゲル化法を介して形成される植物性構造化材料の形成を可能にする。植物性構造化材料は、植物性タンパク質超分子構造であってもよく、凝集して絡み合った植物性タンパク質超分子構造の3次元ネットワークであってもよい。
【0020】
熱可逆性冷却固化ゲル化法は、植物性タンパク質分子が所望の構成に加工することができる液体溶液を形成する温度を超える温度に加熱された後に、液体溶液を冷却して、非共有結合性分子間相互作用によって保持される自己組織化タンパク質凝集体のネットワークを形成するゾル-ゲル転移を可能にすることができる方法と考えることができる。したがって、本発明のゲル化法は共有結合性化学架橋を必要とせず、したがって可逆性である。本発明は熱可逆性冷却ゲル化法を含む。
【0021】
したがって、更なる態様では、熱可逆性冷却固化ゲル化法を介して形成される植物性構造化材料であって、任意選択で、フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場(bioscaffold)、生体支持体(bio-support)、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜であり得る、植物性構造化材料が提供される。
【0022】
更なる態様では、植物性熱可逆性ゲルが提供される。
【0023】
更なる態様では、植物性熱可逆性ヒドロゲルが提供される。
【0024】
更なる態様では、本発明の植物性材料と、1種又は複数種の更なるバイオポリマー、例えば、タンパク質、多糖等とを含む複合材料が提供される。
【0025】
更なる態様では、本発明の方法に従って作製される材料が提供される。
【0026】
本発明の植物性材料及びそれを製造するための方法は、ゾル-ゲル転移の精密な制御を可能にし、それによって、今日まで動物由来タンパク質を使用する場合のみ成功裏に製造されていた生物材料を形成するための植物性タンパク質の使用を開拓する。好適な生物材料としては、フィルム、マイクロビーズ、マイクロカプセル、足場、ゲル、スポンジ等が挙げられる。
【0027】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むマイクロビーズが提供される。
【0028】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むマイクロカプセルが提供される。
【0029】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含む硬カプセルが提供される。
【0030】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むスポンジ又はマイクロスケールスポンジが提供される。
【0031】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むフィルム、好ましくは薄膜が提供される。
【0032】
更なる態様では、本発明の植物性材料を含むナノパターン又はマイクロパターンフィルムが提供される。
【0033】
更なる態様では、本発明の植物性ヒドロゲルを含む生体足場が提供される。
【0034】
更なる態様では、本発明の植物性ヒドロゲルを含む機能性被膜が提供される。
【0035】
更なる態様では、本発明の植物性材料を取り込んだ、食材、化粧品、医薬品、又は医療機器が提供される。
【0036】
更なる態様では、植物性材料を得る熱可逆性方法であって、
a)溶媒系に1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、及び
b)溶液中のタンパク質にゾル-ゲル転移を起こさせて、植物性タンパク質ヒドロゲルを形成する工程
を含む、方法が提供される。
【0037】
材料が得られると、熱可逆性特性は材料から取り除かれ得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】種々の酢酸/DI水共溶媒比下で形成したダイズタンパク質単離物(SPI)ヒドロゲルを示す図である。
【
図2】30%v/v共溶媒比を使用して生産したヒドロゲルのSEM(走査型電子顕微鏡検査)画像である。
【
図3】水(a)、pH10のNaOH(b)、pH2のHCl(c)、及び30%酢酸(d)におけるSPI分散体に関する、動的光散乱法(DLS)によるSPI粒子の推定サイズ分布を示すグラフである。各溶媒に関して、サンプルは、95℃で30分間加熱すること(加熱と表記)又は30分間超音波処理すること(超音波処理と表記)のいずれかを介して調製した。全ての測定は0.1%タンパク質濃度で実施し、2回繰り返した。挿入グラフは各条件の生相関グラフを示す。
【
図4a】SPIヒドロゲルのレオロジー特性をH2O:酢酸共溶媒比の関数として示すグラフである。
【
図4b】様々な濃度で調製したSPIヒドロゲルの剪断減粘挙動を示すグラフである。
【
図4c】様々な温度でのSPIヒドロゲルの熱可逆性レオロジー挙動を示すグラフである。
【
図5a】FTIRスペクトルにおけるアミドIバンドから算出した、様々なH2O:酢酸共溶媒比下でのSPIヒドロゲル二次構造の構造変化を示すグラフである。
【
図5b】FTIRスペクトルにおけるアミドIバンドから算出した、様々なH2O:酢酸共溶媒比下でのSPIヒドロゲル二次構造の構造変化を示すグラフである。
【
図5c】FTIRにおけるアミドIバンドから算出した、様々な温度下でのSPIヒドロゲル二次構造の構造変化を示すグラフである。
【
図6】酢酸の量を増加した場合にタンパク質加水分解の程度の増加を示すSDS-PAGE電気泳動図である。
【
図7】本発明のヒドロゲルを使用して形成したマイクロビーズを示す図である。
図7aはマイクロビーズ形成の概略図を示す図であり、
図7bは水性溶液(pH=2)に懸濁された安定したマイクロビーズを示す図であり、
図7cは超臨界点乾燥によって調製したマイクロビーズのSEM画像であり、
図7dはマイクロビーズの表面のゲルネットワークのSEM画像である。
【
図8】
図8aは、親油性コアと親水性コアとの両方を有するコアシェルマイクロカプセルを生成するために使用した多層3Dマイクロ流体液滴生成装置の概略図である。
図8bは、水性溶液に懸濁された親油性コアを含有するコアシェルマイクロカプセルを示す図である。
【
図9】可溶性有効成分(リボフラビン)の懸濁液を含有する親水性コアを含有するコアシェルマイクロカプセルを示す図である。
【
図10】
図10aは、水性溶液中のマイクロカプセルを示す、模擬分解の結果を示す図である。
図10bは、SGF(模擬胃液)中の60分後のマイクロカプセルを示す、模擬分解の結果を示す図である。
図10cは、SIF(模擬腸液)中の120分後のマイクロカプセルを示す、模擬分解の結果を示す図である。
【
図11】
図11aは、1%(w/w)HMPペクチン中のリボフラビン溶液で構成されるコアを含有するコアシェルマイクロカプセルを示す図である。
図11bは、模擬条件下でのリボフラビンの累積放出を示す、HPLC分析によって生じる2段階in vitro消化性研究の結果を示すグラフである。
【
図12】
図12aは、芳香油担持植物性タンパク質マイクロスケールスポンジの分布を示す図である。
図12bは、タンパク質マイクロゲルシェルが容易に観察可能である、より高い倍率(20倍)での単一の香料担持植物性タンパク質マイクロスケールスポンジを示す図である。
【
図13】安定したタンパク質フィルムを生成する一例の概略図である。
【
図14】
図14aは、本発明に従って作製したフィルムの応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
図14bは、ヤング率を示すグラフである。
図14cは、伸長破断%を示すグラフである。
【
図15】グリセロールを使用せずに調製したSPIフィルムのFTIRスペクトル、及び商業的なSPI乾燥サンプルのスペクトルを示すグラフである。
【
図16】
図16aは、相当量のβシート結晶の存在を確認する、TEMグリッド上で乾燥させた希釈SPI溶液のTEM画像である(スケールバー:5nm)。
図16bは、SPIフィルムβシート結晶の近接画像である(スケールバー:2nm)。
【
図17a】非マイクロパターン対照サンプルと比較して水滴の接触角を有意に増加させる(99°)、ダイズタンパク質フィルム表面への等間隔マイクロピラーアレイのマイクロパターニングを示す図である。
【
図17b】ダイズタンパク質フィルムをDVDディスクに注入することによって得た等間隔ナノチャネルアレイのナノパターニングを示す図である。ダイズタンパク質フィルムのナノ構造化モチーフは光子特性(ミー散乱)を呈する。
【
図18】ダイズタンパク質フィルム被膜を厚紙基材に作製する概略的なプロセスを示す図である。ダイズタンパク質フィルム被覆基材は、被覆されていない対照サンプルと比較した場合、吸水量の50%の減少を示す。
【
図19】
図19aは、2mlエッペンドルフチューブ基材の周囲への3次元ヒドロゲル薄層の形成を示す図である。
図19bは、成形した3次元ヒドロゲルを乾燥させ、基材から取り外した後に得たダイズタンパク質硬カプセルを示す図である。
【
図20】
図20aは30%v/v共溶媒比を使用して生産したエンドウタンパク質ヒドロゲルを示す図であり、
図20bは30%v/v共溶媒比を使用して生産したエンドウタンパク質ヒドロゲルのSEM(走査型電子顕微鏡検査)画像であり、
図20cはエンドウタンパク質単離物フィルムを示す図である。
図20dは水性溶液(pH=2)に懸濁された安定したエンドウタンパク質マイクロゲルを示す図である。
【
図21】30%(v/v)水性酢酸溶液中100mg/mlジャガイモタンパク質単離物溶液から調製したジャガイモタンパク質ヒドロゲルを示す図である。
【
図22】本発明に従って作製した更なるフィルムの応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
【
図23】本発明の酢酸、及びHCl又はNaOHを使用したゲル化の光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下の特徴は本発明の全ての態様に適用される。
【0040】
いかなる好適な植物性タンパク質も本発明に使用することができる。好適な植物原料としては、ダイズ、エンドウ、イネ、ジャガイモ、コムギ、トウモロコシゼイン、ソルガム等が挙げられる。特定の植物タンパク質としては、ダイズタンパク質及びエンドウタンパク質が挙げられる。
【0041】
好適な植物性タンパク質としては、
- アブラナ属、例えば、ブラッシカ・バレアリカ(Brassica balearica):マヨルカキャベツ、ブラッシカ・カリナタ(Brassica carinata):アビシニアガラシ又はアビシニアンキャベツ、ブラッシカ・エロンガタ(Brassica elongata):エロンゲーテッドマスタード(elongated mustard)、ブラッシカ・フルチキュロサ(Brassica fruticulosa):地中海キャベツ、ブラッシカ・ヒラリオニス(Brassica hilarionis):聖ヒラリオンキャベツ(St. Hilarion cabbage)、カラシナ(Brassica juncea):インディアンマスタード、ブラウンマスタード、及びタカナ、サレプタマスタード、セイヨウアブラナ(Brassica napus):ナタネ、キャノーラ、ルタバガ、ブラッシカ・ナリノーサ(Brassica narinosa)、タアサイ(broadbeaked mustard)、ブラッシカ・ニグラ(Brassica nigra):クロガラシ、ブラッシカ・オレラセア(Brassica oleracea):ケール、キャベツ、コラードグリーン、ブロッコリー、カリフラワー、カイラン、メキャベツ、コールラビ、コマツナ(Brassica perviridis):テンダーグリーン(tender green)、マスタードスピナッチ(mustard spinach)、ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)(別名ハクサイ(B. campestris)):ハクサイ(Chinese cabbage)、カブ、ラピニ、コマツナ、ブラッシカ・ルペストリス(Brassica rupestris):ブラウンマスタード、ブラッシカ・トウルネフォルティ(Brassica tournefortii):アジアンマスタード、
- ナス科、例えば、トマト、ジャガイモ、ナス、ピーマン、及びトウガラシ、
- 穀物、例えば、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ソルガム、キビ、エンバク、ライムギ、ライコムギ、フォニオ、
- 擬穀類、例えば、アマランス(ヒモゲイトウ、レッドアマランス、プリンス・オブ・ウェールズ・フェザー(prince-of-Wales-feather))、パンの木、ソバ、チア、ケイトウ(クエイルグラス(quail grass)又はソコ(soko)とも称される)、ピスシードグースフット(pitseed goosefoot)、カニワ、キノア、及びワトルシード(アカシアシードとも称される)、
- マメ科植物、例えば、アカシア・アラタ(Acacia alata)(ウィングワトル(Winged Wattle))、アカシア・デシピエンス(Acacia decipiens)、アカシア・サリグナ(Acacia saligna)(クージョン(coojong)、ゴールデンリースワトル、オレンジワトル、ブルーリーフワトルを含む様々な名称によって一般的に知られている)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)(ピーナッツ)、アストラガルス・ガレジフォルミス(Astragalus galegiformis)、シティサス・ラブルナム(Cytisus laburnum)(一般的なキバナフジ(laburnum)、キングサリ、又はゴールデンレイン)、シティサス・スピナス(Cytisus supinus)、フジマメ(Dolichos lablab)(一般名としては、フジマメ、ラブラブマメ(lablab-bean)、ボナビストビーン/マメ(bonavist bean/pea)、ドリコスマメ、セイムマメ(seim bean)、ラブラブマメ、エジプトインゲンマメ、インドマメ、バタウ(bataw)、及びオーストラリアエンドウが挙げられる)、Ervum lens(レンズマメ)、ジェニスタ・ティンクトリア(Genista tinctoria)(一般名としては、ダイヤーズウィン(dyer's whin)、ヒトツバエニシダ、及びワクセンウッド(waxen wood)が挙げられる)、ダイズ(Glycine max)(ダイズ)、ラシラス・クリメヌム(Lathyrus clymenum)(ピーバイン又はレンリソウ)、スイートピー(Lathyrus odoratus)(ピーバイン又はレンリソウ)、グラスピー(Lathyrus sativus)(ピーバイン又はレンリソウ)、ラシラス・シルベストリス(Lathyrus Sylvestris)(ピーバイン又はレンリソウ)、ロータス・テトラゴノロブス(Lotus tetragonolobus)(シカクマメ又はハネミササゲ(winged pea))、シロバナルーピン(Lupinus albus)(ルピナス)、ルピナス・アングスティフォリウス(Lupinus angustifolius)(ルピナス)、キバナノハウチワマメ(Lupinus luteus)(ルピナス)、ルピナス・ポリフィラス(Lupinus polyphyllus(ルピナス)、ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa)(アルファルファ)、ヤエナリ(Phaseolus aureus)(ヤエナリ)、ベニバナインゲン(Phaseolus coccineus)(ベニバナインゲン)、ファセオラス・ナヌス(Phaseolus nanus)(インゲンマメ/サヤインゲン)、ファセオラス・ブルガリス(Phaseolus vulgaris)(インゲンマメ/サヤインゲン)、エンドウ(Pisum sativum)(エンドウ)、トリフォリウム・ヒブリドゥム(Trifolium hybridum)(クローバー)、トリフォリウム・プラテンセ(Trifolium pretense)(アカツメクサ)、ソラマメ(Vicia faba)(ソラマメ)、カラスノエンドウ(Vicia sativa)(ベッチ)、ササゲ(Vigna unguiculate)(ササゲ)、
- 非マメ科植物、例えば、アカントシシオス・ホリダ(Acanthosicyos horrida、
Acanthosicyos horrida)、アエスクルス・ヒポカスタヌム(Aesculus hyppocastanum)(セイヨウトチノキ/ウマグリ)、カシューナッツ(Anacardium occidentale)(カシューナッツの木)、バラニテス・アエジプティカ(Balanites aegyptica)、ブラジルナッツ(Bertholletia excels)(ブラジルナッツの木)、サトウダイコン(Beta vulgaris)(テンサイ)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)(ナタネ)、カラシナ(Brassica juncea)(ブラウンマスタード)、ブラッシカ・ニグラ(Brassica nigra)(クロガラシ)、シロガラシ(Brassica hirta)(ユーラシアマスタード(Eurasian mustard))、タイマ(Cannabis sativa)(アサ)、スイカ(Citrullus vulgaris)(スイカの一種)、シトラス・オーランチアカ(Citrus aurantiaca)(柑橘類)、セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)(カボチャ)、ソバ(Fagopyrum esculentum)(タデ)、ゴシッピウム・バーバデンス(Gossypium barbadense)(超長綿)、ヒマワリ(Helianthus annuus)(ヒマワリ)、タバコ属種(Nicotiana sp.)(タバコ)、セイヨウミザクラ(Prunus avium)(サクランボ)、スミミザクラ(Prunus cerasus)(スミノミザクラ)、セイヨウスモモ(Prunus domestica)(セイヨウスモモ)、アーモンド(Prunus amygdalus)(アーモンド)、トウゴマ(Ricinus communis)(ヒマシ/トウゴマ)、ゴマ(Sesamum indicum)(ゴマ)、シロガラシ(Sinapis alba)(ホワイトマスタード)、テルファイリア・ペダタ(Telfairia pedata)(オイスターナッツ(Oyster nut))
が更に挙げられる。
【0042】
誤解を避けるために記すと、本発明の植物性構造化材料は天然状態の植物を包含しない。例えば、天然に形成される植物細胞、細胞小器官、又は小胞は、本発明の植物性構造化材料ではない。
【0043】
植物由来タンパク質の特徴は、植物由来タンパク質に固有の水に対する不十分な溶解性である。今日まで、このことは生物材料を生成することにおける植物由来タンパク質の使用を限定していた。しかしながら、本発明はそのようなタンパク質に関連するこれまでの限定を克服している。
【0044】
本発明の方法では、材料は植物性タンパク質を溶媒系に添加することによって形成され、溶媒系は本明細書で定義される2種以上の混和性共溶媒を含む。
【0045】
第1の共溶媒は植物性タンパク質の溶解性を増加させる。第1の共溶媒は可溶化共溶媒と考えることができる。1種又は複数種の可溶化共溶媒が存在してもよく、可溶化共溶媒は植物性タンパク質を完全に可溶化しても部分的に可溶化してもよい。
【0046】
可溶化共溶媒の例は有機酸である。有機酸とは、酸性特性を有する有機化合物である。好適な有機酸としては酢酸又はα-ヒドロキシ酸が挙げられる。好適なα-ヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、及び酒石酸が挙げられる。好ましい有機酸は酢酸及び乳酸である。有機酸を使用することは、植物タンパク質の可溶化を可能にし、タンパク質の穏やかな加水分解も可能にする。例えば、理論に拘束されることを望むものではないが、有機酸への植物性タンパク質の溶解は、i)タンパク質のプロトン化、及びii)疎水性相互作用の減少に寄与する陰イオン溶媒和層の存在のために可能である。初めに有機酸に溶解されると、植物性タンパク質のプロトン化は、その非溶媒、例えば水中の植物性タンパク質を安定化するのに役立ち得る。
【0047】
好ましい実施形態では、第1の共溶媒は有機酸である。
【0048】
第2の共溶媒は、第1の共溶媒と比較して減少した植物性タンパク質の溶解性を有する。第2の共溶媒は脱可溶化(de-solubilising)共溶媒と考えることができる。1種又は複数種の脱可溶化共溶媒が存在してもよい。
【0049】
脱可溶化性の第2の共溶媒の例は水性緩衝溶液である。更なる実施形態では、第2の共溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、2-プロパノール、1-ブタノール、1-プロパノール、ヘキサノール、t-ブタノール、酢酸エチル、又はヘキサフルオロイソプロパノールであり得る。特に好ましい実施形態では、第2の共溶媒は水及びエタノールである。更に特に好ましい実施形態では、第2の共溶媒は水である。
【0050】
好ましい実施形態では、溶媒系における植物性タンパク質の濃度は25~200mg/ml、好ましくは50~150mg/mlである。有機酸の比は、タンパク質濃度に応じて、例えばタンパク質濃度の増加に伴うより高い有機酸比を使用して変動させてもよい。
【0051】
好ましい実施形態では、タンパク質加水分解の程度は、結果として得られるヒドロゲルの特性を改変するために制御される。例えば、形成中に存在する酸濃度を増加させることは、タンパク質加水分解の程度を増加させることになる。より高度のタンパク質加水分解は、硬質性がより低いヒドロゲルの形成をもたらす。
【0052】
1種又は複数種の植物性タンパク質を含む溶液を形成するために、物理的刺激をタンパク質/溶媒系混合物に加えて、タンパク質の溶解を可能にすることが必要である場合がある。好適な物理的刺激としては、超音波処理、撹拌、高剪断混合、又は他の物理的技法が挙げられる。好ましい技法は超音波処理である。
【0053】
一実施形態では、溶液は、約5分、10分、15分、20分、25分、30分、又は30分を超える期間、超音波処理に供される。好ましい超音波処理時間期間は約30分である。
【0054】
タンパク質溶液は、液体溶液がタンパク質のゾル-ゲル転移超に保持されるように加熱される。溶媒系を改変することによって(例えば、有機酸の選択候補からの選択、有機酸の更なる溶媒に対する比、又は更なる手段を介して)、タンパク質のゾル-ゲル転移温度を変更することが可能である。条件の適切な選択により、タンパク質のゾル-ゲル転移を慎重に制御し、それによってヒドロゲルの形成を制御することが可能となる。
【0055】
一実施形態では、タンパク質溶液は約70℃又は70℃を超える温度に加熱される。更なる実施形態では、タンパク質は、約75℃若しくは75℃を超える温度、約80℃若しくは80℃を超える温度、約85℃若しくは85℃を超える温度、又は約90℃に加熱される。好ましい実施形態では、タンパク質は85℃に加熱される。
【0056】
タンパク質溶液は、約5分、10分、15分、20分、25分、30分、45分、又は1時間の時間期間、昇温で保持され得る。好ましい時間期間は、タンパク質が完全に可溶化することを可能にする少なくとも30分である。タンパク質溶液をより長い期間昇温で保持することが可能である。このことは、タンパク質溶液をより長期間液体形態に保持することが必要である商業的なバッチ法又は流体加工工程における使用の場合に有用であり得る。
【0057】
タンパク質溶液をタンパク質のゾル-ゲル転移温度を超える温度に加熱した後、タンパク質溶液の温度は、ヒドロゲルの形成を容易にするゾル-ゲル転移温度未満の第2の温度に低下させることができる。第2の温度は室温であり得る。タンパク質溶液は、約5分、10分、15分、20分、25分、又は約30分の時間期間、降温で保持され得る。特定の低下時間期間は約5分である。しかしながら、本発明の方法は、タンパク質が長い期間溶液に留まることを可能にする。したがって、必要に応じて、タンパク質溶液は、タンパク質を液体形態に保持するために必要とされる限り、ゾル-ゲル転移温度を超える温度に保つことができる。これは数時間、数日、又はそれ以上であり得る。また、反応は可逆性であるため、溶液は例えば、ヒドロゲルが形成し得る低温(例えば室温)に保たれるが、その後ゾル-ゲル転移温度を超える温度に加熱して、溶液を更なる加工のために液体状態に戻してもよい。この方法では、タンパク質ヒドロゲルは、長時間安定のままであるため、数時間、数日、数週間、数か月、又は数年保存され得る。
【0058】
特定の温度は、タンパク質原料の特性、使用される溶媒条件、及びしたがってゾル-ゲル転移温度に依存し得る。或いは、昇温及び降温は比較的固定されていてもよく(例えば約85℃、次いで約室温)、共溶媒混合物条件は、選択された植物性タンパク質に好適なゾル-ゲル転移温度を保証するように調整される。
【0059】
したがって、一実施形態では、植物性材料を形成するための方法であって、以下を含む方法が提供される:
a)1種又は複数種の植物性タンパク質と溶媒系とを含むタンパク質溶液を形成する工程であり、溶媒系が複数種の混和性共溶媒を含み、第1の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を増加させ、第2の共溶媒が植物性タンパク質の溶解性を減少させる、工程、
b)タンパク質溶液をある期間機械的撹拌、例えば超音波処理に供する工程、
c)タンパク質溶液の温度をある期間ゾル-ゲル転移温度を超える第1の昇温に上昇させる工程。前記温度上昇は、b)の機械的撹拌によって引き起こされても、外部熱源由来であってもよい、
d)タンパク質溶液の温度を植物性タンパク質がヒドロゲルに自己凝集するようなゾル-ゲル転移温度未満に低下させる工程、及び、任意選択で
e)ヒドロゲルを、画定された形状、例えばマイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロスケールスポンジ、フィルム等に形成する工程。形成工程は成形工程、すなわちヒドロゲルを画定された形状に成形する工程であってもよい。形成工程はマイクロ流体デバイスを使用してもよい。
【0060】
タンパク質溶液は、所望の最終形状に合致させる間、工程c)の昇温で保持され得る。例えば、マイクロ流体デバイスでは、タンパク質溶液は昇温c)でデバイスのリザーバー内に保持され得るが、溶液がデバイスから排出される場合、溶液の温度が低下し、それによってマイクロゲル又はマイクロカプセルシェルを形成する。或いは、タンパク質溶液は好適な型において形作られる間昇温で保持され得、その後、温度が低下されて、タンパク質がヒドロゲルを形成することを可能にする。
【0061】
理論に拘束されることを望むものではないが、植物タンパク質が溶媒系に添加される場合、植物タンパク質は不溶性コロイドタンパク質凝集体の高度に粘性の分散体を形成すると考えられる。
【0062】
更に、機械的撹拌、例えば超音波処理の適用は、大きなコロイドタンパク質凝集体を破壊してより小さな凝集体にし、タンパク質分子間相互作用を破壊すると考えられる。この手法を使用すると、タンパク質凝集体のサイズは100nm未満の粒径に有意に減少させることができる。一実施形態では、本発明は、200nm未満、好ましくは150nm未満、125nm未満、100nm未満、90nm未満、80nm未満、70nm未満、60nm未満、50nm未満、40nm未満、又は30nm未満の平均サイズのタンパク質凝集体を含む。
【0063】
更に、共溶媒系の存在下のタンパク質溶液をゾル-ゲル温度を超える温度に加熱する場合、植物タンパク質は部分的にアンフォールドされ、結果として、初めはタンパク質天然構造の内部に埋もれていた疎水性アミノ酸の露出を生じると考えられる。部分的にアンフォールドすると、共溶媒がアンフォールドされたタンパク質分子と相互作用することができる。例えば、有機酸は、アミノ酸残基をプロトン化するより多くの機会を有し、疎水性相互作用を安定化する陰イオン塩架橋の形成を可能にする。また、昇温で加熱する場合、タンパク質間の非共有結合性分子間接触が破壊される。
【0064】
更に、タンパク質溶液をゾル-ゲル温度未満に冷却する場合、タンパク質間の非共有結合性分子間接触が可能となり、したがって、植物タンパク質分子の、超分子凝集体のネットワークへの自己組織化を促進すると考えられる。
【0065】
本発明の方法は、植物タンパク質が凝集して、特にβ鎖間の分子間水素結合相互作用によって保持される超分子構造になることを可能にすると考えられる。
【0066】
本発明の方法は、高レベルのβシート分子間相互作用が存在する材料が形成されることを可能にする。これは、これまでに作製されたことのない新規の材料をもたらす。
【0067】
一実施形態では、本発明の植物性材料は、少なくとも40%の分子間βシート、少なくとも50%の分子間βシート、少なくとも60%の分子間βシート、少なくとも70%の分子間βシート、少なくとも80%の分子間βシート、又は少なくとも90%の分子間βシートを有するタンパク質二次構造を有する。一実施形態では、植物性材料はフィルムである。一実施形態では、植物性材料は乾燥材料、例えば乾燥ヒドロゲルである。一実施形態では、植物性材料はヒドロゲル、又は本明細書に記載される他の材料である。植物性タンパク質原料から作製されるこれまでのゲルはより少量の分子間βシートを二次構造に有し、先行技術の不都合な特性をもたらす場合があると考えられる。
【0068】
本発明の植物性材料はβシート結晶を含む。本発明の植物性材料は高度のβシート結晶構造を実証し得る。植物性材料は、少なくとも40%のβシート結晶、少なくとも50%のβシート結晶、少なくとも60%のβシート結晶、少なくとも70%のβシート結晶、少なくとも80%のβシート結晶、又は少なくとも90%のβシート結晶を含み得る。一実施形態では、植物性材料はフィルムである。一実施形態では、植物性材料は乾燥材料、例えば乾燥ヒドロゲルである。一実施形態では、植物性材料はヒドロゲル、又は本明細書に記載される他の材料である。
【0069】
前記高度分子間βシート二次構造を有する植物性材料及びβシート結晶を含む前記植物性材料は、構造化材料、例えば、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場、生体支持体、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜等を含む、本発明に記載される材料のいずれであってもよい。それらは、フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、又はマイクロゲル等であってもよい。
【0070】
したがって、本発明は、例えば、少なくとも40%の分子間βシート、少なくとも50%の分子間βシート、少なくとも60%の分子間βシート、少なくとも70%の分子間βシート、少なくとも80%の分子間βシート、又は少なくとも90%の分子間βシートを有するタンパク質二次構造を有する植物性フィルムを包含する。同じことは本発明の他の材料に適用される。
【0071】
更に、本発明は、例えば、少なくとも40%のβシート結晶、少なくとも50%のβシート結晶、少なくとも60%のβシート結晶、少なくとも70%のβシート結晶、少なくとも80%のβシート結晶、又は少なくとも90%のβシート結晶を含む植物性βシート結晶を含む植物性フィルムを包含する。同じことは本発明の他の材料に適用される。
【0072】
本発明は、フィルム、薄膜、マイクロパターンフィルム(若しくは薄膜)、マイクロ若しくはナノ構造化薄膜、マイクロゲル、マイクロカプセル、マイクロビーズ、生体足場、生体支持体、スポンジ、マイクロスケールスポンジ、硬カプセル、又は機能性被膜を含む植物性構造化材料を提供する。
【0073】
本発明の材料は好都合な機械的特性を有する。例えば、温度変化時にゲルから液体へ可逆的に変化する能力は、好都合な製造能力を与える。
【0074】
一実施形態では、本発明に従って生産されるヒドロゲルは、10rad/sにおいて、500Paを超える、1000Paを超える、2500Paを超える、3000Paを超える、4000Paを超える貯蔵弾性率(G')を有する。
【0075】
一実施形態では、ヒドロゲルは、剪断速度を増加させる場合に粘度が減少する剪断減粘挙動を呈する。
【0076】
一実施形態では、本発明に従って生産されるヒドロゲルは特有の熱可逆性ゲル化挙動を呈する。昇温で加熱する場合及び/又は機械的撹拌を適用することによって、タンパク質ゲルは液体形態に戻る。これは、加熱した場合に完全に液体の状態には戻らなかった以前のヒドロゲルでは見られなかった特有の特性である。対照的に、本発明に従って作製されるゲルは可能である。一実施形態では、昇温で加熱する場合及び/又は機械的撹拌を適用することによって、タンパク質溶液は250Pa未満、100Pa未満、50Pa未満、10Pa未満の貯蔵弾性率を有し得る。このことは、本発明の材料と方法との両方が特有の製造能力を有することを可能にする。
【0077】
同様に、所望される場合、熱可逆性は本発明の溶媒系を除去することによって取り除くことができる。例えば、植物性マイクロカプセルは本発明の方法を使用して作製することができる。形成されると、溶媒系は洗浄除去されて、マイクロカプセルの熱可逆性特性を停止することができる。したがって、マイクロカプセルがその後加熱されるとしても、マイクロカプセルは安定のままであり、再融解し得ない。このことは、例えば、本発明のマイクロカプセルが高温プロセスに供されるが依然として損なわれずに安定のままであることを可能にする。
【0078】
したがって、本発明に従って形成されるヒドロゲルは、以前の植物性ヒドロゲルには見られなかった特有の特性を有する。これらとしては、市販の原料由来の高濃度(すなわち5%~15%w/w)の植物性タンパク質からヒドロゲルを形成する能力、及びそのような高濃度タンパク質溶液を熱変性時に液体状態に保ち、十分に画定した物体に成形することを可能にする能力が挙げられる。
【0079】
本発明の材料の特徴は、植物タンパク質がヒドロゲルを自己形成することができるために架橋剤を提供する必要がないことである。したがって、本発明の一実施形態では、架橋剤を含有しないか又は実質的に含有しない植物タンパク質材料(例えばヒドロゲル)が提供される。
【0080】
しかしながら、代替的な実施形態では、本発明のヒドロゲルは架橋剤を含んでもよい。好適な架橋剤としては、微生物トランスグルタミナーゼ、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキサール、フェノール化合物、エポキシ化合物、ゲニピン、又はジアルデヒドデンプンが挙げられる。
【0081】
ヒドロゲルの多孔質ネットワークのため、ヒドロゲル内の溶媒混合物は、ヒドロゲルの機械的安定性を損なうことなく別の溶媒混合物と交換することができる。溶媒交換プロセスは、有機酸をヒドロゲル多孔質ネットワークから除去するために実施され得る。
【0082】
本発明の一実施形態では、方法は、植物性タンパク質ヒドロゲルが形成された溶媒系を代替溶媒系と交換する工程を含む。更なる実施形態では、これは溶媒交換プロセスを使用して実施される。この工程は、ヒドロゲルの形成後に実行され得るが、ヒドロゲルから構造化材料が形成された後(例えば本発明の方法の工程b)又はc)の後)に実行されてもよい。好ましい実施形態では、水性緩衝液がヒドロゲル多孔質ネットワーク内の有機酸共溶媒混合物に取って代わるために使用される。
【0083】
一実施形態では、ヒドロゲル内の溶媒混合物を、乾燥材料、例えば、薄膜、マイクロ構造化/ナノ構造化薄膜、又はマイクロビーズを生成するために蒸発させる。更なる実施形態では、溶媒系における1種又は複数種の共溶媒は揮発性溶媒である。好ましい実施形態では、第1の共溶媒は揮発性有機酸、例えば酢酸である。好ましい実施形態では、第2の又は更なる共溶媒は揮発性アルコール、例えばエタノールである。更に好ましい実施形態では、第1の共溶媒と第2の又は更なる共溶媒との両方は揮発性溶媒である。
【0084】
一実施形態では、本発明の材料は1種又は複数種の可塑剤を取り込んでいてもよい。考えられる可塑剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、脂肪酸、グルコース、マンノース、フルクトース、スクロース、エタノールアミン、尿素、トリエタノールアミン;植物油、レシチン、ワックス、及びアミノ酸が挙げられる。
【0085】
取り込まれる可塑剤の量は、フィルム等の材料の使途に依存し得る。一実施形態では、組成物は、約1%の可塑剤、約2%、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、又はそれ以上を含み得る。更なる実施形態では、ヒドロゲルは約5~50%の間の可塑剤、約10~50%、約20~40%、約15~35%、又は約20%の可塑剤を含み得る。
【0086】
可塑剤を添加することは材料の機械的特性に影響を与え得る。典型的には、可塑剤を添加することは材料の弾性を高め得るが、反対に、これは典型的には、結果として得られる材料の強度を低下させる。
【0087】
本発明のヒドロゲルは、多様な有用な植物性生物材料の形成を可能にする。植物性材料を使用することは、これまで使用されていた動物又は石油化学原料に対していくつかの利点を有する。第1に、植物原料は再生可能であり、環境的に効率的な方法で効率的に得ることができる。第2に、植物原料は生分解性であり、したがって他のプラスチックに対する環境に優しい代替原料である。第3に、動物由来タンパク質と対照的に、植物性タンパク質は、動物由来タンパク質をヒトに導入しないという有意な利点を有する。このことは、動物に由来する材料は有害な要素が存在しないことを保証する厳格な点検及びプロセス(例えばプリオンを除去する等)を受けなければならないという薬理学的及び薬学的観点から、更に製品がベジタリアン/ビーガンに好適であるために、良い影響を及ぼす。
【0088】
植物性タンパク質はヒト(又は他の動物)の食事に天然に存在するため、本発明に従って作製される生物材料は、多糖(例えばアルギン酸又はキトサン)等の他のバイオポリマーと比較して高度の消化性を呈する。このことは、生物材料を医薬品、食品、及び/又は化粧品使用に特に好適にする。
【0089】
一実施形態では、本発明のヒドロゲルはフィルム、例えば薄膜を形成するために使用することができる。植物タンパク質由来フィルムは、食品包装用途のため又は埋込型デバイスを含む医療機器との使用のための生分解性可撓性フィルムを形成することを含む多くの用途を有する。
【0090】
本発明の植物性材料の動物性材料(又はデンプン性/セルロース材料)に対する利点は、植物性材料に固有の水に対する不溶性である。大半のバイオポリマーフィルムは水に容易に溶解し、したがってそれらは単独では食品包装用途に使用不可能となり、合成ポリマーを含む追加の被膜層を必要とする。これらの問題は本発明を用いて克服される。
【0091】
フィルムは、1~1000μm、1~100μm、10~100μm、20~60μm、30~50μm等の典型的な薄さを有し得る。
【0092】
フィルムは、20MPaを超える、50MPaを超える、80MPaを超える、100MPaを超える、200MPaを超える、300MPaを超える、400MPaを超える、500MPaを超える、600MPaを超える、又はそれ以上のヤング率を有し得る。
【0093】
フィルムは、10%を超える、20%を超える、30%を超える、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える、80%を超える、90%を超える、100%を超える、又はそれ以上の伸長破断百分率を有し得る。
【0094】
ヤング率/伸長破断百分率の数値は、植物性機能性材料を使用して作製されるフィルムを説明する。前記特性は、前記材料を使用する本明細書に記載される全ての構造化材料において再現され得る。
【0095】
フィルムは、新規の機能特性、例えば超撥水性(蓮の葉効果)又は構造色(ミー散乱に起因する)を与える、100nm~1000μmに及ぶ特徴を有するようにマイクロパターニングすることができる。
【0096】
機能性複合フィルムは、無機ナノ粒子、例えばそれぞれ可撓性電子機器又は抗菌特性を有するフィルムの生成のための金ナノ粒子又は銀ナノ粒子を包埋することによって生産することができる。
【0097】
更なる実施形態では、本発明のヒドロゲルはマイクロビーズを形成するために使用することができる。植物性原料由来のマイクロビーズを形成することは、現在のプラスチック製マイクロビーズに関する環境問題を克服する。マイクロビーズは典型的には、最大寸法において1ミリメートル未満の直径を有する固体粒子である。
【0098】
一実施形態では、本発明のマイクロビーズは、最大寸法において1mm未満、900μm未満、800μm未満、700μm未満、600μm未満、500μm未満、400μm未満、300μm未満、200μm未満、又は100μm未満のサイズを有する。
【0099】
更なる実施形態では、本発明のヒドロゲルはマイクロカプセルを形成するために使用することができる。マイクロカプセルは、多様な物質を封入するために使用することができ、化粧品、食品使用、家庭用品使用、農業用化学薬品使用、及び医薬品使用における用途を含む様々な産業用途を見出すことができる。
【0100】
本発明に従って作製されるマイクロカプセルは、標準的な合成ポリマーマイクロカプセル化シェル材料に対する完全に生分解性の代替材料を提供する。
【0101】
本発明に従って作製されるマイクロカプセルは、植物性材料がマイクロ流体的に組織化することを特有な様式で可能にする。
【0102】
本発明に従って作製されるマイクロカプセルは、例えば不都合な保存条件に対して優れた安定性を実現し、有効成分、例えば、食品使用におけるビタミン、必須脂肪酸、若しくは酸化防止剤、又は小分子と大分子との両方を含む医薬活性剤を保存するためのより安全な食品又は医薬品グレードの溶液となる。
【0103】
本発明に従って作製されるマイクロカプセルはまた、高い再現性、すなわち複雑な構造(コアシェル)を生成する能力を保証するマイクロ流体技術を使用して生成することができる、及び/又は穏やかな加工に関する条件を使用して作製し、それによって、封入する活性剤を保護することができるという利点を有し得る。
【0104】
堅牢なマイクロカプセルもまた、クロスリンカー又は任意の他の有害物質の非存在下において、タンパク質凝集体の自己組織化を制御することによって植物性タンパク質から生成することができる。
【0105】
一実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、内側疎水性組成物を封入し得る。更なる実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、内側親水性組成物を封入し得る。更なる実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、生きた生物の組成物を封入し得る。更なる実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、粉末組成物を封入し得る。更なる実施形態では、本発明のマイクロカプセルは、水中油型、油中水型、油中水中油型、又は水中油中水型エマルション等を封入し得る。
【0106】
本発明の植物性ヒドロゲルはマイクロカプセルシェルを形成することができる。一実施形態では、シェルは、約100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、11μm、12μm、13μm、14μm、15μm、16μm、17μm、18μm、19μm、20μm、25μm、30μm、30μm、35μm、40μm、又は50μm等の厚さを有し得る。更なる厚さとしては、10nm~50000μmの間、10μm~100μmの間、10μm~50μmの間、1μm~10μmの間等が挙げられる。
【0107】
本発明の植物性マイクロカプセルは、ビタミン、必須脂肪酸、酸化防止剤、小分子、親水性小分子、疎水性小分子、タンパク質、抗体、抗体-薬物コンジュゲート、香料、及び他の大分子を含む、栄養補助食品、化粧品、医薬品、又は農業用化学薬品に好適な任意の活性剤を封入し得る。
【0108】
封入される好適な薬剤としては、
エラストマー配合物、ゴム配合物、塗料配合物、コーティング剤配合物、接着剤配合物、又は封止剤配合物の重合のためのクロスリンカー、ハードナー、有機触媒、及び金属系触媒(例えば、プラチナ、パラジウム、チタン、モリブデン、銅、又は亜鉛の有機錯体及び無機錯体);
インク、パーソナルケア製品、エラストマー配合物、ゴム配合物、塗料配合物、コーティング剤配合物、接着剤配合物、封止剤配合物、又は紙配合物のための色素、着色剤、顔料;
洗剤、家庭掃除用品、パーソナルケア製品、テキスタイル(いわゆるスマートテキスタイル)、コーティング剤配合物のための香料。本発明に有用な香料は、国際香粧品香料協会(IFRA)によって公開及び更新されている標準品のリストに属する化合物のいずれかである;
食料及び食料品のための芳香物質、香味料、ビタミン、アミノ酸、タンパク質、必須脂質、プロバイオティクス、酸化防止剤、保存料;
洗剤及びパーソナルケア製品のための柔軟剤及びコンディショナー;
パーソナルケア製品、テキスタイル(いわゆるスマートテキスタイル)のための生理活性化合物、例えば、酵素、ビタミン、タンパク質、野菜抽出物、保湿剤、消毒剤、抗菌剤、サンスクリーン剤、薬物。これらの化合物としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、パラアミノ安息香酸、アルファヒドロキシ酸、樟脳、セラミド、エラグ酸、グリセリン、グリシン、グリコール酸、ヒアルロン酸、ヒドロキノン、イソプロピル、イソステアリン酸、パルミチン酸イソプロピル、オキシベンゾン、パンテノール、プロリン、レチノール、パルミチン酸レチニル、サリチル酸、ソルビン酸、ソルビトール、トリクロサン、チロシンが挙げられるが、これらに限定されない;並びに
農業用化学薬品のための肥料、除草剤、殺虫剤、農薬、殺真菌剤、忌避剤、及び殺菌剤
から選択される1つ又は複数の薬剤が挙げられる。
【0109】
本発明の植物性マイクロカプセルは、診断及びハイスループットスクリーニングにおいても有用であり得る。
【0110】
本発明の植物性ヒドロゲルは、マイクロゲル又はマイクロスケールスポンジを製造することにおいても有用であり得る。マイクロゲルとはマイクロスケールヒドロゲルである。マイクロスケールスポンジは、物質、例えば有効成分を担持するマイクロゲルと考えることができる。
【0111】
本発明の植物性ヒドロゲルは、生体足場及び生体支持体を製造することにおいても有用であり得る。そのような材料は、in vitroとin vivoとの両方において細胞及び組織を成長させるのに有用であり得る。ヒドロゲルは、医療機器及び埋込剤を被覆することにおいても有用であり得る。
【0112】
本発明の植物性タンパク質は、タンパク質の特性を変化させるために官能基付加及び/又は誘導体化され得る。
【0113】
次に、本発明は以下の非限定的な例を参照して記載される。
【0114】
材料
- ダイズタンパク質単離物(SPI)(92%タンパク質)はMP Biomedicals社から購入した。
- エンドウタンパク質単離物(PPI)(80%タンパク質)はCambridge Commodities Ltd社から購入した。
- 酢酸(氷)、及び乳酸(天然、≧85%)、ダイズ油(Glycine max由来のソヤ油)、(-)-リボフラビン、グリセロール、及びPFO(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール)は、Sigma Aldrich社から購入した。ペクチンはCargill社の好意により提供された。
- フロリナート(Fluorinert)(FC-40)はFluorochem社から購入した。
- 008-フッ素系界面活性剤はRAN Biotechnologies社から購入した。
【実施例1】
【0115】
自立型ヒドロゲルを以下のプロセスに従って調製した。
【0116】
氷酢酸を脱イオン水と様々な比(10%v/v、30%v/v、50%v/v、70%v/v、及び90%v/v)で混合した。ダイズタンパク質単離物を100mg/mlの最終タンパク質濃度でDI水/酢酸溶液に添加した。非可溶性タンパク質の分散体を得た。タンパク質の可溶化のために、混合物を超音波処理に30分間曝露した(高周波電源出力=70W、周波数=20KHz、振幅=90%)。このプロセスの間、サンプル温度を85℃~90℃に保った。30分後、完全に半透明の液体溶液を得た。サンプルを室温で5分間放冷した。このプロセスの間に、液体サンプルは、バイアル反転後に観察可能な半透明の自立型ヒドロゲルになる。
【0117】
実施例1に従って作製した種々の酢酸/DI水比のヒドロゲルを
図1に示す。
【0118】
自立型ヒドロゲルは10%~70%v/v酢酸/DI水比の場合に見られた。30%v/v以上の溶液の場合に自立型ヒドロゲルを急速に形成した完全に半透明の溶液が生じたことに注目した。ゲルが完全に半透明であったという事実は、ゲルが大きな不溶性凝集体ではなく小さな可溶性凝集構造体、例えばタンパク質冷却固化ゲルにおいて通常見出される構造体で構成されていたことを示唆した。
【0119】
本発明に従って作製したヒドロゲルは安定であり、水とエタノールとの両方における複数回の洗浄工程後にその構造を保持した。
【0120】
走査型電子顕微鏡検査
SEM(走査型電子顕微鏡検査)を、30%v/v共溶媒比を使用して作製したヒドロゲルに関して実行し、
図2に示す。ヒドロゲルマイクロ構造は、微細鎖状タンパク質凝集体の高密度に詰まったネットワークの存在を確認した。図は、ゲルネットワークが酢酸の除去後に依然として損なわれていないことも示す。
【0121】
したがって、熱可逆性の植物性ゲルが初めて調製された。
【0122】
ダイズタンパク質ヒドロゲル及びマイクロゲルを最後の工程において100%無水エタノールを使用してエタノール中で脱水した。サンプルが移行中に乾燥するのを予防するために100%無水エタノールに浸漬してそれを部分的に満たした微孔性試料カプセル(78μm孔径、Agar Scientific社)にサンプルを移行した。次いで、サンプルを、液体CO2を用いた4~5回のフラッシュ洗浄と各フラッシュ洗浄間の少なくとも15分のインキュベーションとを使用するQuorum E3100臨界点乾燥装置を使用して臨界点乾燥した。サンプルを、導電性カーボン粘着パッド(Agar Scientific社)を使用してアルミニウム製SEMスタブに乗せ、Quorum K575Xスパッタコーターを使用して15nmイリジウムで被覆した。サンプルを、2keV及び25~50pAのプローブ電流において運転させたFEI Verios 460走査型電子顕微鏡を使用して検査した。二次電子画像を、フィールドフリーモードのEverhard-Thornley検出器(低分解能)又は完全界浸モードのスルーレンズ検出器(高分解能)のいずれかを使用して獲得した。
【0123】
粒径分析
SPI凝集体のサイズを特徴付けるために、SPI分散体を様々な溶媒系:a)脱イオン水、b)NaOHを用いてpH=10に調整した脱イオン水、c)HClを用いてpH=2に調整した脱イオン水、及びd)30%(v/v)酢酸水性溶液において調製し、3つの異なる方法:(1)未処理、(2)水浴中95℃で30分間加熱、又は(3)95℃で30分間の超音波処理を用いて処理した。粒径(流体力学的直径)を、Zetasizer Nano(Malvern社)を使用して測定した。全てのサンプルを、超音波処理直後に0.1%(v/v)に希釈し、その後測定を実施した。
【0124】
動的光散乱法(DLS)分析(
図3)は、30%(v/v)酢酸溶液において調製し、95℃で30分間の超音波処理を行ったタンパク質凝集体が、異なる条件下で調製した可溶化しなかったタンパク質凝集体と比較して有意に小さい粒径(29±9.1nm)を有することを明らかにした。
【0125】
レオロジー特徴付け
SPIヒドロゲルのレオロジー特性の特徴付けのために、実施例1を介して作製したサンプルをRTで1時間放冷し、次いで4℃で12時間保管した。
【0126】
レオロジー測定を、ARES制御ひずみレオメーターを使用して実施した。試験を、25mm滑面平行平板を使用して20℃の温度で実行した。ひずみ及び周波数掃引を、漸増量の酢酸を含有するSPIヒドロゲルサンプルに関して実行した。ひずみ掃引は、10rad/sの周波数を使用して0.01~100%のひずみまで実行した。周波数掃引は、1%のひずみ(線形粘弾性領域内)を使用して0.1~100rad/sまで実行した。全てのレオロジー測定は温度制御下(20±0.25℃)で実施した。
【0127】
H2O:酢酸共溶媒比の関数としてのSPIヒドロゲルのレオロジー特性を
図4aに示す。少量の酢酸(10%v/v)の添加が弱いヒドロゲルの形成をもたらすことが分かり、この原因はタンパク質の不完全な可溶化及びより大きな不溶性凝集体の存在に帰することができた。他方、大量の酢酸もまた弱いヒドロゲルの形成をもたらした(90%v/v)。30~70%v/vの共溶媒比を用いて形成したヒドロゲルはより強いヒドロゲルをもたらし、30及び50%酢酸(v/v)を用いて調製したヒドロゲルは2500Paを超えるG'を示した。
【0128】
SPIヒドロゲル(75mg/ml SPIが30%v/v酢酸水性溶液に分散)の熱可逆性ゲル化特性の決定のために、レオロジー測定を、Discovery HR-2(TA Instruments社)レオメーターを使用して実施した。試験は20mm滑面平行平板を使用して実行した。試験は、10rad/sの角周波数を使用して、様々な温度のSPIヒドロゲルサンプルに関して実行した。初めに、超音波処理したSPI溶液を90℃の予熱したレオメータープローブに担持した。500秒後、温度を5℃/分の速度で10℃に下げた。サンプルの温度が10℃に達したら、温度を500秒間10℃に維持した。最後に、サンプルを5℃/分の速度で90℃に加熱した。SPIヒドロゲルの熱可逆性レオロジー特性の結果を
図4cに示す。
【0129】
これは、ゲルがゲル状態と液体状態との間を熱可逆的に完全に移動したため、本発明の材料の特有の製造能力を示す。そのような熱可逆性はこれまで見られたことがない。
【0130】
FTIR
様々な溶媒比下でのヒドロゲル二次構造の変化を検討した。SPIヒドロゲルの構造分析を、FTIR-Equinox 55分光計(Bruker社)を使用することによって実施した。ヒドロゲルサンプルを、更なる前処理を行わずに使用し、FTIRホルダーに担持させ、50%v/v(DI水/酢酸)基準を減算することによって分析した。大気補正スペクトルを最初のFTIRスペクトルから減算し、二次導関数を更なる分析のために適用した。各FTIR測定をあらゆるサンプル複製物(サンプル1つ当たり平均で9つの複製物)に対して3回繰り返した。機器の感度は5%と検出された。ダイズタンパク質単離物の天然構造の超分子凝集体への変換を解析するために、タンパク質二次構造と厳密に相関するアミドIの振動変化を追跡した。
【0131】
FTIR測定の結果を
図5aに示す。SPIヒドロゲルが高含量のαヘリックス(1656cm
-1)及び分子間平行βシート(1625cm
-1)二次構造を有することは二次導関数分析から明確である。
【0132】
図5bに示す様々な溶媒比を使用して調製したSPIヒドロゲルサンプルのFTIR測定は、漸増量の酢酸を使用することが分子間逆平行及び平行βシート(1620cm-1)の含量に対するαヘリックス構造(1654cm-1)の増加を引き起こすことを明らかにする。
【0133】
様々な温度でのヒドロゲル二次構造の変化もまた検討した。SPIヒドロゲルサンプル(SPI 100mg/mlが30%v/v酢酸に分散)のFTIR測定を、サンプルをFTIRサンプルホルダーにおいて様々な温度(90℃、55℃、及び20℃)でインキュベートすることによって実施した。サンプルを90℃で加熱する場合は分子間平行βシート構造の量が減少するのに対し、サンプルを20℃に冷却する場合は平行βシート含量が大きく増加することは、
図5cにおいて明確に観察することができる。
【0134】
これは、この好都合な特性をタンパク質二次構造と相関させる本発明の熱可逆性によって証明される。
【実施例2】
【0135】
ヒドロゲルを、乳酸を共溶媒として使用して以下のプロセスに従って調製した。
【0136】
乳酸を脱イオン水と様々な比(10%v/v、30%v/v、50%v/v、70%v/v、及び90%v/v)で混合した。ダイズタンパク質単離物を100mg/mlの最終タンパク質濃度でDI水/乳酸溶液に添加した。非可溶性タンパク質の分散体を得た。タンパク質の可溶化のために、混合物を超音波処理に30分間曝露した(高周波電源出力=70W、周波数=20KHz、振幅=90%)。このプロセスの間、サンプル温度を85℃~90℃に保った。30分後、完全に半透明の液体溶液を得た。サンプルを室温で5分間放冷した。
【0137】
ゲル電気泳動
様々な水:乳酸比(0~90%v/vまで)の様々な加水分解タンパク質断片の分析を、MES緩衝液と共にNuPAGE 4~12%ゲルを使用するドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって実施した。
【0138】
結果を
図6に示し、乳酸の量を増加させることがより高度のタンパク質加水分解をもたらしたことが分かる。
【0139】
本発明の方法を使用して安定なヒドロゲルが形成可能であることを立証したため、そのようなヒドロゲルの使用をマイクロ流体手法に用いて、別々の一様な顕微鏡物体、例えばマイクロゲル及びマイクロカプセルを形成した。
【実施例3】
【0140】
マイクロゲルの製作
マイクロ流体デバイス(液滴生成装置)を、ネガ型原盤フォトレジスト(SU8 3050)を用いる標準的なソフトリソグラフィ技法を使用して製作した。連続油相(フロリナートFC-40中2% 008-フッ素系界面活性剤)を2mlチューブに充填する一方で、分散液体SPI相(85℃に保った、40%v/v酢酸中85mg/ml SPI)を1.5mlチューブに充填し、85℃の加熱ブロックに迅速に置いた。マイクロ流体デバイスへの輸送中のSPI溶液のゲル化を予防するために、内径1/32インチのステンレス鋼管を備える特注のシリコーンヒーター(Holroyd Components社)を使用して、SPIリザーバーとマイクロ流体デバイスの入口とを接続するPTFE管の温度を維持した。シリコンヒーター温度を特注の温度制御装置によって制御した。約100μmの直径の液滴を、両方の溶液を圧力駆動システム(Elveflow OB1)によって標準的なフローフォーカシング液滴生成装置にポンプ注入することによって生成した。様々な圧力速度を、微小液滴の単分散集団の一様且つ連続的な生成を達成するまで試験した。最終圧力速度は、分散水性相では175mbarであり、連続油相では200mbarであった。生成した液滴を、1mlピペットチップに回収し、室温で12時間保管して、ゲル化法が完了したことを保証した。次いで、形成したマイクロゲルを標準的な脱乳化手順によって洗浄した。最初に、フッ素系界面活性剤を含有する連続油相をバイアルから除去した。500ulのマイクロゲルに関して、等容量のフロリナートFC-40中10%PFO溶液を添加し、30秒間徹底して混合した。次いで、フロリナートFC-40中10%PFO溶液を除去し、その後の2回の油洗浄を、等容量の純粋フロリナートFC-40を添加することによって実施した。最後に、500μlの脱イオン水をバイアルに添加し、マイクロゲルの油から水性相への移行をもたらした。マイクロゲル懸濁液を含有する上清を別個のバイアルに移行した。その後の一連の洗浄工程を実施して、HClを用いてpH=2に調整した500μlの脱イオン水をマイクロゲル懸濁液に添加することによってマイクロゲル懸濁液から酢酸を除去し、続いて1000rpmで1分間遠心分離を行った。上清を除去し、マイクロゲルを、HClを用いてpH=2に調整した500μlの脱イオン水を添加することによって再懸濁した。総計3回の洗浄工程を実施して、酢酸をマイクロゲル懸濁液から除去した。脱イオン水(pH=2)に懸濁した機械的に安定なマイクロゲルを最終洗浄工程後に得た。SEM分析のためのマイクロゲルサンプルを調製するために、マイクロゲルを、100%エタノールを用いて3工程手順において洗浄した。最初に、マイクロゲルを25%v/vエタノール-水性溶液に懸濁し、一定の撹拌下(100rpm)で3時間放置した。遠心分離及び上清の除去後、マイクロゲルを次いで50%v/vエタノール-水性溶液に再懸濁し、一定の撹拌下(100rpm)で3時間放置した。最後に、遠心分離及び上清の除去後、マイクロゲルを次いで100%v/vエタノール-水性溶液に再懸濁し、一定の撹拌下(100rpm)で12時間放置した。
【0141】
この実験の結果を
図7に示す。
図7aはマイクロビーズ形成の概略図を示す。
図7bは水性溶液(pH=2)に懸濁された安定なマイクロゲルを示す。
図7cは超臨界点乾燥によって調製したマイクロビーズのSEM画像を示す。
図7dはマイクロビーズの表面のゲルネットワークのSEM画像を示す。
【0142】
結果として得られたマイクロゲルは、酸性条件下の水性溶液、及び100%エタノールの存在下において安定であった。自己組織化すると、タンパク質凝集体は溶液に完全に不溶性となり、したがってマイクロゲルの安定性が生じる。
【0143】
これらの結果は、機械的に堅牢なマイクロゲルが、ナノスケールにおいて、及びクロスリンカー又は任意の有害物質の完全な非存在下において、タンパク質凝集体の自己組織化を単に制御することによって植物性タンパク質から生成可能であることを実証する。
【実施例4】
【0144】
コアシェルマイクロカプセルの製作
機械的に堅牢なマイクロゲルが生成可能であることを立証したため、マイクロカプセル化のためのヒドロゲルの使用を探索した。
【0145】
同軸型フローフォーカシングマイクロ流体デバイスの製作に関して、多工程フォトリソグラフィ法に従った。フォトリソグラフィ法は、Tran, T. M.、Cater, S. & Abate, A. R. Coaxial flow focusing in poly(dimethylsiloxane) microfluidic devices. Biomicrofluidics 8、1~7頁(2014)に説明されているが、以下に簡潔に説明する。
【0146】
2つのSU8フォトレジスト原盤を必要とした。第1の原盤において、内部チャネルのための25μmフォトレジスト層を製作し、続いて中間チャネルのための50μm層、及び外部チャネルのための75μm層を製作した。第2の原盤は、中間チャネルのための25μm層と外部チャネルのための50μm層とを含有した。最終的な同軸型フローフォーカシングデバイスを製作するために、2枚の異なるPDMS平板を原盤から剥離し、その後、プラズマ酸化によって位置合せ及び接合した。少量の噴霧された水滴をプラズマ酸化後の2枚のPDMS平板の間に配置して、マイクロ流体チャネルの位置合せを可能にした。位置合せした最終的なPDMSデバイスを65℃のオーブンで一晩焼き、2つの層の接合を完了した。
【0147】
コアシェルマイクロカプセルを生成するマイクロ流体プロセスは、実施例3において用いたマイクロビーズを生成するプロセスと同等であった。しかしながら、内相(コア)のための追加の入口をシステムに付加した。親油性活性剤を含有するコアシェルマイクロカプセルの製作のために、450μlのダイズ油を550μlのSPIタンパク質溶液(20mg/ml、30%v/v酢酸)に予備乳化した。ダイズ水中油型エマルション(内相)、SPI溶液(85mg/ml、40%v/v酢酸、中間相)、及びFC-40(2%v/v 008-フッ素系界面活性剤、外相)を、圧力駆動システム(Elveflow OB1)によって同軸型フローフォーカシングマイクロ流体デバイスにポンプ注入した。様々な圧力速度を、約120μmの直径を有するコアシェルマイクロカプセルの単分散集団の一様且つ連続的な生成を達成するまで試験した(内相圧力(100mbar)、中間相圧力(150mbar)、及び外相圧力(100mbar))。コアシェル比は、内相と中間相との間の相対圧力を単に制御することによって調整することができた。マイクロカプセルを回収し、その後、前節に記載されているように洗浄した。
【0148】
内部コア材料はこの実施例においてシェル材料と別個であり続け、有効成分をマトリックス材料と事前に混合する標準的なマイクロカプセル化マトリックス手法と異なることが分かる。この手法の理由は、出発タンパク質溶液のpHが初めに存在する多量の酢酸のために非常に低く、またタンパク質溶液を液体状態に保つために高温が必要とされるというものである。代わりに、封入された成分の安定性を損なうことなくコアシェル構造の容易な生産を可能にする3D同軸型マイクロ流体デバイスを使用した。
【0149】
マイクロ流体液滴生成装置の概略図を、3Dフローフォーカシングマイクロ流体デバイスを示す
図8aに示す。本発明に従って生産した、水性溶液に懸濁された親油性コアを含有するコアシェルマイクロカプセルを
図8bに示す。マイクロカプセルシェルは自己組織化SPIタンパク質を単独で含み、コアは油中水型マイクロエマルション(親油性)である。
【実施例5】
【0150】
活性剤を封入するコアシェルマイクロカプセルの製作
実施例4に記載されているマイクロ流体プロセスを繰り返して、親水性コアを含むマイクロカプセルを生成した。コアは、可溶性有効成分(リボフラビン)の懸濁液を含有する1%(w/w)HMPペクチン溶液を含んでいた。
【0151】
本発明に従って作製した、水性溶液に懸濁された親水性コアを含有するコアシェルマイクロカプセルを
図9に示す。マイクロカプセルシェルは自己組織化SPIタンパク質を単独で含み、コアは活性剤、この場合はリボフラビンの親水性懸濁液である。
【実施例6】
【0152】
放出制御型マイクロカプセル
タンパク質シェルは単独でタンパク質凝集体で構成されるため、積荷の放出が消化酵素の存在下でのタンパク質シェルの分解によって惹起され得るかを確認する実験を、2段階in vitro消化性試験を介して実行した。
【0153】
1LのSGF(模擬胃液)電解液の原液を、0.257gのKCl、0.061gのKH2PO4、1.05gのNaHCO3、1.38gのNaCl、0.122gのMgCl2(H2O)6、及び0.024gの(NH4)2CO3を1lの脱イオン水に溶解することによって調製した。1lのSIF(模擬腸液)電解液の原液を、0.253gのKCl、0.054gのKH2PO4、3.57gのNaHCO3、1.12gのNaCl、0.335gのMgCl2(H2O)6、0.44gのCaCl2・2H2O、及び0.23gの胆汁抽出物を1lの脱イオン水に溶解することによって調製した。1mlのSGFを、8mgのペプシンをSGF電解液に溶解することによって調製し、pHを、少量の1M HClを添加することによってpH=2に調整した。
【0154】
実施例4に従って作製した50μlのコアシェルマイクロカプセルを、実施例4に記載した方法を使用することによって油相から洗浄した(pH=2の150μlの脱イオン水を添加した)。次いで、200μlのSGFをマイクロカプセル懸濁液と混合し、続いてサーモシェーカーにおいて37℃及び300rpmで60分間インキュベーションを行った。模擬腸相のために、3mgのパンクレアチンを1mlのSIF電解液に溶解した。400μlのSIFをSGF溶液中の以前のマイクロカプセルに添加した。pHを、少量の1M NaOHを添加することによって7に調整した。次いで、マイクロカプセルを37℃で120分間インキュベートした。
【0155】
実験の結果を
図10に示し、
図10aは水性溶液中のマイクロカプセルを示し、
図10bはSGF中の60分後の依然として損なわれていないマイクロカプセルを示し、
図10cはSIF中の120分後のマイクロカプセルの放出を示す。
【0156】
実験は、SGF条件下(8mg/mlペプシン、pH=2)でのインキュベーションがマイクロカプセルの内部に留まった親油性コアの安定性を損なうことなくタンパク質シェルの緩慢な分解を惹起したことを実証する。その後のSIF(1.5mg/mlパンクレアチン、pH=7)中でのインキュベーションは、タンパク質シェルの著しい分解及び親油性コアの完全な放出をもたらした。酵素の非存在下だが同じpH条件下の対照実験は、タンパク質シェル分解が主に酵素消化によって惹起されたことを示した。
【0157】
したがって、マイクロカプセルは模擬胃条件下では依然として損なわれなかったが、模擬腸条件下では急速に崩壊したことが分かり、このことは、本発明のマイクロカプセルが栄養補助食品又は医薬品有効成分の送達制御のために使用可能であることを実証する。
【実施例7】
【0158】
活性剤を含む放出制御型マイクロカプセル
実施例6の実験を繰り返したが、実施例5に従って作製した、活性剤リボフラビンを含有する親水性コアを含有するマイクロカプセルを使用した。
【0159】
リボフラビンマイクロカプセルを
図11aに示す(すなわち親水性コア(1%HMPペクチン+リボフラビン)を有するマイクロカプセル)。
図11bは、模擬条件下でのリボフラビンの累積放出を示す、HPLC分析によって生じる2段階in vitro消化性研究の結果を示す。模擬胃及び小腸条件下において、親水性有効成分の植物性タンパク質マイクロカプセルシェル内への封入によって可能となったリボフラビンの放出制御が存在することが分かる。封入はリボフラビンの急速な拡散を予防し、放出制御を促進することが示される。
【実施例8】
【0160】
マイクロスケールスポンジの調製
ダイズタンパク質マイクロスケールスポンジを本発明に従って調製した。実施例2に記載したマイクロ流体プロセスを繰り返して、ダイズタンパク質マイクロゲル(直径100μm)を生成した。マイクロゲルを、100%エタノールを用いて3工程手順において洗浄した。最初に、マイクロゲルを25%v/vエタノール-水性溶液に懸濁し、一定の撹拌下(100rpm)で1時間放置した。遠心分離及び上清の除去後、マイクロゲルを次いで50%v/vエタノール-水性溶液に再懸濁し、一定の撹拌下(100rpm)で1時間放置した。最後に、遠心分離及び上清の除去後、マイクロゲルを次いで100%v/vエタノール-水性溶液に再懸濁し、一定の撹拌下(100rpm)で1時間放置した。この時点で、エタノールはマイクロゲル多孔質ネットワーク内において完全に水に取って代わっているはずである。マイクロゲル懸濁液を遠心分離し(1000rpm、1分)、エタノール上清を除去した。次いで、250μlのゼラニウム油(天然)をマイクロゲルに添加した。マイクロゲルを、エッペンドルフバイアルを穏やかに振盪することによって油溶液に懸濁した。この段階で、エタノール混和性油相はマイクロゲル多孔質ネットワークに浸透した。500μlの脱イオン水の油-マイクロゲル懸濁液への添加後、油担持SPIマイクロスケールスポンジを次いで水性相に移行した。残りの油相をエッペンドルフチューブから除去した。
【0161】
図12aは、芳香油担持植物性タンパク質マイクロスケールスポンジの分布を示す。
図12bは、タンパク質マイクロゲルシェルが容易に観察可能である、より高い倍率(20倍)での単一の香料担持植物性タンパク質マイクロスケールスポンジを示す。
【0162】
この手法を使用することによって、芳香油等の水非混和溶媒を植物性タンパク質マイクロスケールスポンジに担持させることができる。この方法は、コアシェル構築等の複雑なマイクロカプセル生成手法を使用することを必要とせずに高担持効率を可能にする。
【実施例9】
【0163】
フィルムの調製
ダイズタンパク質フィルムを本発明に従って調製した。500mgのダイズタンパク質単離物を5mLの30%(v/v)酢酸に溶解した(100mg/mlのタンパク質濃度)。次いで、溶液を超音波処理に30分間曝露した(高周波電源出力=70W、周波数=20KHz、振幅=90%)。超音波処理プロセスを終了する数分前に、125mgのグリセロールをSPI溶液に添加し、超音波処理工程の残りの時間で混合した。超音波処理工程の直後、溶液をガラスペトリ皿に注入してヒドロゲルを形成した(2mm厚)。ガラスペトリ皿を100℃前後に加熱して、注入プロセス中のあらゆるゲル化を回避した。次いで、ガラス皿を加熱板から下ろし、一晩風乾した。乾燥後、薄膜をガラスペトリ皿から剥がし、後の使用まで50%湿度チャンバーに保存した。ガラスペトリ皿の底面を、フィルムを容易に剥離することができるようにテフロンシートで被覆した。
【0164】
実施例9のプロセスの概略図を、結果として得られたフィルムと一緒に
図13に示す。機械的に堅牢な透明薄膜が生成されることが分かる。
【0165】
引張特性
実施例9において生成した薄膜の引張特性を、添加した可塑剤の量の関数として試験した。フィルムを、10%、20%、30%、40%、及び50%(w/w)グリセロールを使用して製造した。
【0166】
フィルムの引張特性を、10Nロードセルを備えるTinius Olson 5kNを使用して試験した。フィルムを5mm幅の細長い切片に切断し、フィルムの両端を、1mmのギャップ長を有するペーパーホルダーに接着剤で貼り付けた。ホルダー及びフィルムを機械試験機に乗せ、次いでペーパーホルダーを測定前に切断して、確実に負荷がフィルムのみに加わるようにした。測定を2mm/分の速度で実施した。フィルム厚を、個々のサンプルに関してデジタルノギスを使用して測定した。典型的なフィルム厚は30~50umであった。
【0167】
本発明のフィルムの応力-ひずみ曲線を
図14aに示す。フィルムのヤング率を
図14bに示し、可塑剤の量を増加させることはフィルムのヤング率を低下させることが分かる。破断伸長百分率を
図14cに示し、最大の伸長が30%可塑剤において示される。
【0168】
この手法によって得たフィルムの機械的性能は、商業的なダイズタンパク質から作製されたこれまでに報告されているフィルムの機械的性能よりも優れている。これは、高濃度のカオトロピック剤(すなわち8M尿素)中の単量体ダイズタンパク質を注入することによって生産されるダイズタンパク質フィルムに通常存在する弱い分子間相互作用と対照的な、高度の分子間相互作用及びその後のタンパク質分子の自己組織化のためである。
【0169】
FTIR
フィルムにおける二次構造及び分子間相互作用を検討するために、FTIR分析を、添加グリセロールを用いずに調製したSPIフィルムに関して実施した。
【0170】
データを、4cm-1の分解能での128回の積算を背景減算と共に使用して収集した。タンパク質の構造分析のために、スペクトルを、二次7点窓枠Savitzky-Golayフィルタを用いて平滑化し、正規化した。アミドIバンド(1600~1700cm-1)における二次導関数を平滑化データから算出して逆畳み込みを行い、二次及び四次構造寄与率を定量した。
【0171】
生成したフィルムのFT-IR分析は、出発ダイズタンパク質単離物と比較して多い量の分子間βシート構造(65%)がフィルムに存在することを示した(
図15)。
【0172】
透過型電子顕微鏡検査(TEM)分析
TEM分析を実施して、フィルムに存在するタンパク質自己組織化構造の形態を検討した。透過型電子顕微鏡検査(TEM)イメージングのために、実施例9に詳述したフィルムの形成のために使用したSPIサンプルを0.02%の濃度に希釈し、TEMグリッド(C400Cu、EM resolutions社)に置き、酢酸ウラニルを用いて染色した。
図16は、FTIRによって決定した多量の分子間βシート構造と相関する大きな割合のβシート結晶の存在を示す。
【0173】
βシート結晶は、植物タンパク質材料ではこれまで見られたことがない。そのような結晶は、強度を含む増強した機械的特性を有することが公知である絹材料との類似性を共有する。理論に拘束されることを望むものではないが、前記βシート結晶は本発明によって記載される方法のために形成されると考えられる。そのようなβシート結晶は、先行技術に記載されている植物性ゲルと対照的に本発明の植物性材料では見られる増強した機械的特性に寄与し得る。βシート結晶データは、FTIRと一緒に、本発明に従って作製した材料が高度の分子間相互作用を有し、これにより材料が植物材料に関して以前に報告されたことのない特性(例えばフィルムに関する引張強度)を有することが可能になることを明確に示す。
【0174】
したがって、結果として得られた本発明の植物性材料は公知の植物性ゲルと異なり、これらの差は顕著に改善した特性をもたらす。
【実施例10】
【0175】
マイクロ構造及びナノ構造パターニング
実施例9に従って作製したフィルムを以下のプロセスに従ってマイクロパターニングした。
【0176】
マイクロピラー等のマイクロ構造をタンパク質フィルムにパターニングするために、20μm×20μmマイクロピラーアレイのネガ型パターンを、SU-8 3025をフォトレジストとして使用する標準的なフォトリソグラフィ技法によりシリコンウェハに製作した。ポリジメチルシロキサンエラストマーと硬化剤(Sylgard 184、Dow Corning社)との10:1の比での混合物をウェハに注ぎ、65℃で1時間硬化した。硬化PDMSをウェハから剥離し、ダイズタンパク質フィルムのネガ型パターンとして使用した。実施例9において調製したダイズタンパク質溶液をPDMSに注入し、一晩乾燥させた。SPI薄膜をPDMS原盤から剥離し、結果として得たマイクロパターン構造を、プラチナの10nm被膜を用いる走査型電子顕微鏡検査(SEM)(MIRA 3 FEG-SEM、TESCAN社)を使用して観察した。フィルムの接触角を、First Ten Angstroms社のFTA1000Bを使用して測定した。
【0177】
超音波処理したダイズタンパク質溶液をマイクロパターン基材に単に注入することによって、等間隔マイクロピラーアレイをフィルム表面に製作することが可能である。マイクロパターンフィルムの接触角は99°であり、これは非マイクロパターン表面を有する対照フィルムサンプルに基づくと有意に高い(
図17a)。このことは、マイクロピラー、例えば蓮の葉に天然に存在するマイクロピラーを植物性タンパク質フィルムの表面に単にパターニングすることによって、疎水性表面特性を大きく増強することができることを明確に示す。
【0178】
光子特性を有するナノ構造化タンパク質フィルムを生成するために、DVDディスクを成形基材として使用した。最初に、プラスチック外層をDVDディスクから慎重に除去し、残りの中間層を使用した。PDMSをDVD基材に注ぎ、65℃で1時間硬化した。パターンPDMSをDVD基材から剥離し、実施例9において調製したフィルム形成ダイズタンパク質溶液をPDMS基材に注入し、室温で一晩乾燥させた。SPI薄膜をPDMS原盤から剥離し、結果として得たナノパターン構造を、プラチナの10nm被膜を用いる走査型電子顕微鏡検査(SEM)(MIRA 3 FEG-SEM、TESCAN社)を使用して観察した。フィルムの光子特性(ミー散乱)は肉眼で容易に観察することができた(
図17b)。
【実施例11】
【0179】
被膜の調製
植物性タンパク質フィルムの被膜特性を試験するために、厚紙の小片(2×2cm)を、可塑剤の非存在下で、実施例9において調製したフィルム形成SPI溶液に浸した。厚紙をフィルム形成溶液におよそ5秒間浸した後、厚紙を溶液から取り出し、室温で一晩風乾した。完全な乾燥の後、タンパク質被覆厚紙を10mLの脱イオン水に沈めて、厚紙の吸水量を測定した。吸水量は、様々な時間間隔で脱イオン水に沈めた場合の厚紙の質量増加を測定することによって算出した。
【0180】
対照サンプルとして、被覆されていない厚紙片、及びダイズタンパク質単量体被覆厚紙(厚紙をアルカリ条件下(pH=9)で調製したダイズタンパク質溶液に浸すことによって調製した)を試験した。吸水量を、厚紙サンプルを水に浸漬する前に測定した初期質量を用いて正規化した。
【0181】
図18に観察されるように、非被覆厚紙対照サンプルは、水に10秒間沈めた後非常に高い吸水量を呈する。SPI被覆厚紙における吸水の量は、非常に低い耐水性も呈した被覆されていない対照サンプル又はアルカリ条件下で調製したダイズタンパク質溶液で被覆した厚紙サンプルと比較してほぼ50%減少した。これらの結果は、高度の分子間相互作用を有するタンパク質から組織化した植物性タンパク質フィルムから生成した被膜が増強した遮水特性を呈することを強調する。
【実施例12】
【0182】
硬カプセルの製造
ダイズタンパク質硬カプセルを本発明に従って製造した。最初に、100mg/ml SPI溶液を、酢酸を含有する50mlの水性溶液(40%v/v)に5gのSPIを溶解することによって調製した。タンパク質分散体を95℃で30分間加熱し、続いて超音波処理に5分間曝露した(高周波電源出力=70W、周波数=20KHz、振幅=90%)。溶液を85℃に保ち、ゲル化を予防した。2mlエッペンドルフチューブを加熱した溶液に浸し、次いで液体溶液中に5秒間保ち、その後取り出した。SPIヒドロゲルの薄層が、2mlエッペンドルフチューブを液体SPI溶液から取り出して数秒以内に2mlエッペンドルフチューブの外表面の周囲に形成された(
図19a)。次いで、バイアルを、ヒドロゲル層内の水/酢酸溶媒画分の蒸発を保証するために45℃のオーブンに1時間入れて、3次元薄膜を生成した。溶媒の蒸発後、硬カプセルをエッペンドルフチューブから取り外した(
図19b)。
【0183】
これは、植物性タンパク質から生産される硬カプセルの形成を示す最初の例である。このプロセスは、薄い3次元ヒドロゲルの基材への形成を可能にするこれらの植物性材料の熱可逆性特性によって初めて可能となった。
【実施例13】
【0184】
エンドウ及びジャガイモタンパク質材料
実施例1、実施例3、及び実施例9に記載した手順に従って、エンドウタンパク質単離物(80%)及びジャガイモタンパク質単離物を出発材料として使用することによってタンパク質ヒドロゲル、マイクロゲル、及びフィルムを生産した。
【0185】
図20aは、バイアル反転後に観察可能な半透明の自立型エンドウタンパク質ヒドロゲルを示す。
【0186】
本明細書に記載したものと類似した特性が、
図21に示すようにジャガイモタンパク質の場合にも見られ、
図21は、30%(v/v)水性酢酸溶液中100mg/mlジャガイモタンパク質単離物溶液から調製したジャガイモタンパク質ヒドロゲルを示す。
【0187】
実施例13は、多様な植物性タンパク質原料にわたって有効である本発明の方法の汎用性を示す。
【実施例14】
【0188】
応力ひずみフィルム分析
本発明のフィルムの応力-ひずみ曲線を
図22に示す。
図22aは本発明に従って作製したフィルムの応力-ひずみ曲線を示す。自己組織化サンプルのひずみ-応力曲線(青色)は、30%グリセロール(w/w、乾燥タンパク質質量に対する)の存在下において30%(v/v)酢酸水性溶液から調製したSPIフィルムに対応する。非構造化サンプルのひずみ-応力曲線(赤色)は、30%グリセロール(w/w、乾燥タンパク質質量に対する)の存在下においてNaOHを使用してpH=10に調整したアルカリ水性溶液において調製したSPIフィルムに対応する。
【0189】
図22bは、可塑剤としての様々な量のグリセロール(20%~40%w/w、乾燥タンパク質質量に対する)の存在下において30%(v/v)酢酸水性溶液から調製したSPIフィルムのひずみ-応力曲線を示す。
【0190】
30%(w/w)グリセロールを用いて調製した自己組織化SPIフィルムは高い引張強度(15.6±2.07MPa)及びヤング率(209±39.1MPa)を呈する。
【0191】
グリセロールの量を変動させることがヒドロゲルの機械的性能の調整を可能にすることが分かる。例えば、機械的性能は、グリセロールの濃度を20~40%(w/w)まで変動させた場合、ヤング率に関しては483±58.4MPa~92.7±25.3MPaまで、引張強度に関しては25.0±3.49MPa~6.18±0.98MPaまで変化した。30w/w%グリセロールを含有する自己組織化フィルムの引張強度及びヤング率は、30%(w/w)グリセロールを含有する非構造化フィルムの値(ヤング率及び引張強度それぞれに関して131±22.6MPa及び9.30±1.53MPa)よりも高いことが見出された。
【0192】
実施例14におけるサンプルは以下のように調製した:
500mgのSPIを5mLの30%(v/v)酢酸水性溶液に分散し、混濁した高度に粘性の分散体が得られるまで十分に振盪した。次いでこれを、超音波ホモジナイザー(Bandelin社、HD4200)を使用して、25%の出力で30分間超音波処理した(オン時間0.7秒及びオフ時間0.3秒のパルス幅)。超音波処理後、グリセロール(≧99.5%、Sigma-Aldrich社)を可塑剤として様々な濃度(20、30、又は40w/w%)で添加し、溶液を更に1分間超音波処理した。高温液体溶液を、90℃で予熱した7cmガラスペトリ皿に直ちに注入した。次いで、注入した溶液を室温(19~22℃)及び周囲湿度(典型的には50~70%)で3日間乾燥させた。次いで、乾燥フィルムを型から剥がし、後の使用まで湿度制御チャンバー(50%)に保存した。
【0193】
対照実験として、フィルムをアルカリ水性溶液においても調製し、ここでは、100mg/ml SPI分散体をpH=10(NaOHを用いて調整)の水性溶液において調製し、超音波処理を行わずに95℃で30分間加熱した(非構造化SPIと称す)。次いで、30%(w/w)グリセロールを添加し、高温液体溶液をガラスペトリ皿に注入し、3日間乾燥させた。
【実施例15】
【0194】
酢酸とHClとNaOHとの比較
本発明に従って酢酸を用いて作製したヒドロゲルと、HCl又はNaOHを使用する方法(ゾル-ゲル転移を起こさない)に従って作製したヒドロゲルとの差を評価する比較実験を行った。結果を
図23に示す。
【0195】
図23は、昇温での超音波による処理を介して異なる水性溶液において調製した100mg/ml SPI分散体の光画像を示す。30分の超音波処理後の、(a)30%(v/v)酢酸水性溶液におけるSPI分散体(左)、HClを使用してpH=2に調整した酸性水性溶液(中央)、及びNaOHを使用してpH=10に調整したアルカリ水性溶液(右)。(b)ガラスバイアルを反転して、ゲル化が30%(v/v)酢酸において調製したSPI溶液の場合にのみ観察されることを示す。HCl及びNaOHバイアルは、ゾル-ゲル転移が生じないことを示す。
【0196】
結論として、本発明は、分子間相互作用を高温及び高剪断力において破壊する方法を可能にする、本明細書に記載される溶媒系を実現した。これは、温度変化に応じた分子間相互作用の形成の選択的促進を可能にする。そのような手法は、材料の様々な形状への成形を可能にする。これは今まで、植物由来材料に関しては可能ではなかった。
【0197】
したがって、本発明は、本明細書に記載した方法を含む、植物由来材料を成形する方法を対象とすることができる。
【0198】
加えて、本発明は、より多量の分子間βシート構造(タンパク質出発材料と比較して)を有する自己組織化材料のタンパク質二次構造を作出する。そのような新規の材料は既存の植物由来材料には見られなかった。この新規の二次構造は特有の特性、より高い引張フィルム強度を材料に与える。
【0199】
確実に、当業者であれば多くの他の効果的な代替形態を思い付くであろう。本発明が、記載された実施形態に限定されず、当業者に明らかな、本明細書に添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内にある修正形態を包含することは理解されるであろう。
【0200】
【国際調査報告】