(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(54)【発明の名称】VEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220518BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220518BHJP
C07K 16/22 20060101ALI20220518BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220518BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220518BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220518BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220518BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220518BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220518BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220518BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220518BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220518BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C07K16/22
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P27/02
A61P27/06
G01N33/53 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556346
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(85)【翻訳文提出日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 CN2020079690
(87)【国際公開番号】W WO2020187202
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】201910204246.3
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】510166892
【氏名又は名称】ジエンス ヘンルイ メデイシンカンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU HENGRUI MEDICINE CO.,LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】508209602
【氏名又は名称】シャンハイ ヘンルイ ファーマスーティカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI HENGRUI PHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】イン ファ
(72)【発明者】
【氏名】シ チンピン
(72)【発明者】
【氏名】マオ ランヨン
(72)【発明者】
【氏名】グォ フー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シャオイン
(72)【発明者】
【氏名】タオ ウェイカン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB12
4C085CC23
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045EA50
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA15
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、VEGFに特異的に結合する抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントと、ANG2に特異的に結合する抗ANG2単一ドメイン抗体とを含むVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、抗ANG2単一ドメイン抗体が、直接的に若しくは間接的に抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントに接続されている二重特異性抗体を提供する。本開示はさらに、抗ANG2単一ドメイン抗体及びその抗原結合フラグメント、並びに前記抗体の調製及び投与を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VEGFに特異的に結合する抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントと、ANG2に特異的に結合する抗ANG2単一ドメイン抗体とを含むVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗ANG2単一ドメイン抗体が、ペプチド結合を介して直接的に若しくはリンカーを介して間接的に前記抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントに共有結合で接続されている、二重特異性抗体。
【請求項2】
請求項1に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗ANG2単一ドメイン抗体が、ペプチド結合を介して直接的に若しくはリンカーを介して間接的に前記抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖のカルボキシル末端に接続されており、好ましくは、前記リンカーが(G)
n(n>=1)である、二重特異性抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗ANG2単一ドメイン抗体が、配列番号5に示されるCDR1又はそれと比較して多くて3個のアミノ酸置換変異を有するCDR1と、配列番号6に示されるCDR2又はそれと比較して多くて6個のアミノ酸置換変異を有するCDR2と、配列番号7に示されるCDR3領域又はそれと比較して多くて3個のアミノ酸置換変異を有するCDR3領域とを含む、二重特異性抗体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗ANG2単一ドメイン抗体が、配列番号14に示されるCDR1と、配列番号15に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3とを含む、二重特異性抗体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗ANG2単一ドメイン抗体が、以下のいずれか1つに示されるCDR1とCDR2とCDR3とを含む、二重特異性抗体:
i)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
ii)配列番号8に示されるCDR1と、配列番号9に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
iii)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;又は
iv)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号11に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗ANG2単一ドメイン抗体がラマ抗体又はヒト化抗体である、二重特異性抗体。
【請求項7】
請求項6に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記ヒト化抗体が、ヒト抗体に由来する重鎖フレームワーク領域又はそのフレームワーク領域バリアントを含み、前記フレームワーク領域バリアントが、前記ヒト抗体の重鎖フレームワーク領域に多くて10個のアミノ酸復帰突然変異を有し;
好ましくは、前記復帰突然変異(単数又は複数)が、5Q、30N、83K、84P、93N及び94Aからなる群より選択される1つ又は複数である、二重特異性抗体。
【請求項8】
請求項6に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗ANG2単一ドメイン抗体が、以下のいずれか1つに示される配列を含む、二重特異性抗体:
v)配列番号16に示される配列、好ましくは、配列番号3、配列番号4、配列番号12若しくは配列番号13に示される配列、又は
vi)配列番号27に示される配列、好ましくは、配列番号17、18、19、20、21、22、23、24、25若しくは26に示される配列。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントが以下を含む、二重特異性抗体:
配列番号32、配列番号33及び配列番号34にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3;並びに配列番号35、配列番号36及び配列番号37にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3。
【請求項10】
請求項9に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号28に示される軽鎖可変領域と、配列番号30に示される重鎖可変領域とを含む、二重特異性抗体。
【請求項11】
請求項10に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号29に示される軽鎖と、配列番号31若しくは54に示される重鎖とを含む、二重特異性抗体。
【請求項12】
配列番号38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、55若しくは56からなる群のいずれか1つから選択される第1ポリペプチド鎖、及び/又は配列番号29に示される第2ポリペプチド鎖を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体。
【請求項13】
配列番号5に示されるCDR1又はそれと比較して多くて3個のアミノ酸置換変異を有するCDR1と、配列番号6に示されるCDR2又はそれと比較して多くて6個のアミノ酸置換変異を有するCDR2と、配列番号7に示されるCDR3領域又はそれと比較して多くて3個のアミノ酸置換変異を有するCDR3領域とを含む、抗ANG2単一ドメイン抗体。
【請求項14】
配列番号14に示されるCDR1と、配列番号15に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3とを含む、請求項13に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体。
【請求項15】
以下に示されるCDR1とCDR2とCDR3とを含む、請求項14に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体:
i)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
ii)配列番号8に示されるCDR1と、配列番号9に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
iii)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;又は
iv)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号11に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3。
【請求項16】
ラマ抗体及びヒト化抗体から選択される、請求項15に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体。
【請求項17】
請求項16に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体であって、前記ヒト化抗体が、ヒト抗体に由来する重鎖フレームワーク領域又はそのフレームワーク領域バリアントを含み、前記フレームワーク領域バリアントが、前記ヒト抗体の重鎖フレームワーク領域に多くて10個のアミノ酸復帰突然変異を有し;
好ましくは、前記復帰突然変異(単数又は複数)が、5Q、30N、83K、84P、93N及び94Aからなる群より選択される1つ又は複数である、抗ANG2単一ドメイン抗体。
【請求項18】
以下に示される配列を含む、請求項16に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体:
v)配列番号16に示される配列、好ましくは、配列番号3、配列番号4、配列番号12、若しくは配列番号13に示される配列を含む配列、又は
vi)配列番号27に示される配列、好ましくは、配列番号17、18、19、20、21、22、23、24、25若しくは26に示される配列を含む配列。
【請求項19】
請求項13~18のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体又はその抗原結合フラグメントと競合してヒトANG2に結合する、抗ANG2単一ドメイン抗体。
【請求項20】
配列番号3、配列番号4、配列番号12又は配列番号13に示される前記単一ドメイン抗体と同じCDR1とCDR2とCDR3領域配列とを含む、抗ANG2単一ドメイン抗体。
【請求項21】
請求項13~20のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体。
【請求項22】
請求項13~20のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体を含む二重特異性抗体。
【請求項23】
治療有効量の、請求項1~12のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体、又は請求項13~20のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は請求項21に記載のモノクローナル抗体、又は請求項22に記載の二重特異性抗体に加えて、1つ若しくは複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、緩衝剤若しくは賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項24】
請求項1~12のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体、又は請求項13~20のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は請求項21に記載のモノクローナル抗体、又は請求項22に記載の二重特異性抗体をコードする核酸分子。
【請求項25】
請求項24に記載の核酸分子で形質転換された宿主細胞であって、原核細胞及び真核細胞からなる群より選択される、宿主細胞。
【請求項26】
請求項1~12のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体、若しくは請求項13~20のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体、若しくは請求項21に記載のモノクローナル抗体、若しくは請求項22に記載の二重特異性抗体を使用することを含む、in vitroにおけるヒトANG2の検出又は測定方法。
【請求項27】
請求項1~12のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体、又は請求項13~20のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は請求項21に記載のモノクローナル抗体、又は請求項22に記載の二重特異性抗体を含むキット。
【請求項28】
治療有効量の、請求項1~12のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体、若しくは請求項13~20のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体、若しくは請求項21に記載のモノクローナル抗体、若しくは請求項22に記載の二重特異性抗体、若しくは請求項23に記載の医薬組成物を被験体に投与することを含む、VEGF媒介性及び/又はANG2媒介性血管新生に関連する疾患の治療方法。
【請求項29】
治療有効量の、請求項1~12のいずれか一項に記載のVEGF及びANG2に特異的に結合する二重特異性抗体、若しくは請求項13~20のいずれか一項に記載の抗ANG2単一ドメイン抗体、若しくは請求項21に記載のモノクローナル抗体、若しくは請求項22に記載の二重特異性抗体、若しくは請求項23に記載の医薬組成物を被験体に投与することを含む、がん又は血管新生眼疾患の治療方法であって;好ましくは、前記がんが、乳がん、副腎腫瘍、卵管がん、扁平上皮がん、卵巣がん、胃がん、大腸がん、非小細胞肺がん、胆管がん、膀胱がん、膵臓がん、皮膚がん及び肝臓がんからなる群より選択され;前記血管新生眼疾患が、血管新生緑内障、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫、角膜血管新生、角膜移植片血管新生、角膜移植片拒絶反応、網膜/脈絡膜血管新生、虹彩角膜血管新生(ルベオーシス)、眼内新生血管疾患、血管再狭窄及び動静脈奇形(AVM)からなる群より選択される、治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオ医薬品の分野に属するものである。具体的には、本開示は、抗ANG2単一ドメイン抗体又はそれらの抗原結合フラグメント、抗VEGF抗体又はそれらの抗原結合フラグメント、並びに抗ANG2単一ドメイン抗体と抗VEGF抗体との融合によって形成される二重特異性抗体の調製及び投与に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書の記述は、本開示に関連する背景情報を提供するに過ぎず、必ずしも先行技術を構成するものではない。
【0003】
血管新生は、腫瘍細胞に酸素と栄養を供給し、腫瘍細胞が増殖優位性を得て、血管のない状態の遅い増殖期から、血管のある状態の急速な増殖期に入ることを可能にする。そのため、血管新生を抑制することで腫瘍の増殖を抑制することは、比較的有望で効果的な戦略である。血管新生を促進する数多くの因子の中でも、血管内皮増殖因子VEGFは、血管新生を促進する非常に重要な因子である。VEGFは、VEGF受容体に結合して細胞の増殖、遊走を促進し、血管透過性を高めることにより、腫瘍細胞の血管新生を促進することができる。したがって、VEGFを遮断することで、腫瘍の血管新生を抑制し、腫瘍の増殖及び転移を抑制するという目的を達成することができる。抗VEGFモノクローナル抗体「アバスチン」、VEGFを中和する可溶性VEGF受容体、及びVEGF受容体に対するモノクローナル抗体など、様々な戦略でVEGFを遮断する臨床生物学的因子が多数存在し、いずれも比較的良好な活性を示している。しかし、腫瘍の血管新生は、多くの分子と複数のシグナル伝達経路が関与する複雑なプロセスである。1つの経路を遮断しても、腫瘍を完全に抑制するという目的を達成することはできず、他の血管新生関連因子を同時に遮断する必要がある。
【0004】
Tie2は、血管内皮細胞に特異的なチロシンキナーゼ受容体として2番目に同定されたもので、リガンドであるアンジオポエチン-1(ANG1)及びアンジオポエチン-2(ANG2)との結合も血管新生に重要な役割を果たしている。ANG1とANG2はともにTie2に結合するが、そのうちANG1は内皮細胞(EC)の生存をサポートし、血管の完全性と安定性を促進する一方、ANG2は内皮細胞から末梢細胞を剥離させるという逆の効果があり、内皮細胞の透過性を高め、VEGFが新生血管を促進する効果を発揮できるようにする。ANG2とVEGFとは互いに補完・協調し、腫瘍の血管新生の過程で一緒に作用する。したがって、VEGFとANG2とを同時に遮断することでより効果的に血管新生を抑制し、血管の正常化を促進し、腫瘍の増殖及び転移を抑制するという目的を達成することができる。
【0005】
現在、VEGF及びANG2のシグナル伝達経路を同時に遮断する二重特異性抗体が4つ報告されている。その中でも、VEGFとANG2とを標的とするRoche社のクロスマブ「バヌシズマブ」は最も進捗が早く、臨床第2相に入っている。
【0006】
現在、ANG2-VEGF二重特異性抗体又はVEGF抗体は、特許出願WO1998045332、WO2007095338A2、WO201004058、CN102250247A、WO2011117329などに開示されているが、新規で効果の高い腫瘍治療用ANG2-VEGF二重特異性抗体及び腫瘍治療方法の開発がなお求められている。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、ANG2及びVEGFに特異的に結合する二重特異性抗体を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、VEGFに特異的に結合する抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントと、ANG2に特異的に結合する抗ANG2単一ドメイン抗体とを含み、ここで、抗ANG2単一ドメイン抗体は、ペプチド結合を介して直接的に又はリンカーを介して間接的に抗VEGF抗体に共有結合で接続されている。好ましくは、抗VEGF抗体はモノクローナル抗体である。
【0009】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体は、抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖アミノ末端、重鎖カルボキシル末端、軽鎖アミノ末端、又は軽鎖カルボキシル末端に接続されている。
【0010】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体は、抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖カルボキシル末端に接続されている。
【0011】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の抗ANG2単一ドメイン抗体は、配列番号5に示されるCDR1又はそれと比較して多くて3、多くて2若しくは1個のアミノ酸置換変異を有するCDR1と、配列番号6に示されるCDR2又はそれと比較して多くて6、多くて5、多くて4、多くて3、多くて2若しくは1個のアミノ酸置換変異を有するCDR2と、配列番号7に示されるCDR3又はそれと比較して多くて3、多くて2若しくは1個のアミノ酸置換変異を有するCDR3とを含む。例示的には、配列番号5(DFGMS)の第1アミノ酸DはSで置換され、第2アミノ酸FはYで置換される。
【0012】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体は、配列番号14に示されるCDR1と、配列番号15に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3とを含み、それらの配列はそれぞれ以下の通りである:
【化1】
ここで、X
1はD又はSから選択される;X
2はF又はYから選択される;X
3はG又はAから選択される;X
4はS又はTから選択される;X
5はT又はNから選択される;X
6はW又はSから選択される;X
7はN、G又はSから選択される;X
8はR又はSから選択される;及びX
9はY又はGから選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体は、それぞれ以下に示されるCDR1とCDR2とCDR3とを含む:
i)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
ii)配列番号8に示されるCDR1と、配列番号9に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
iii)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;又は
iv)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号11に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3。
【0014】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体は、ラマ抗体又はヒト化抗体である。
【0015】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体は、配列番号16に示されるVHHを含むか、又はからなり、好ましくは、配列番号3、配列番号4、配列番号12、又は配列番号13に示されるVHHを含むか、又はからなり、ここで、配列番号16は以下に示される通りである:
【化2】
ここで、X
1はD又はSから選択される;X
2はF又はYから選択される;X
3はG又はAから選択される;X
4はS又はTから選択される;X
5はT又はNから選択される;X
6はW又はSから選択される;X
7はN、G又はSから選択される;X
8はR又はSから選択される;X
9はY又はGから選択される;X
10はD又はNから選択される、及びX
11はV又はLから選択される。
【0016】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体の配列は、配列番号3、配列番号4、配列番号12又は配列番号13に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0017】
他の実施形態では、二重特異性抗体に含まれるヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒト抗体に由来する重鎖フレームワーク領域又はそのフレームワーク領域バリアントを含み、ここで、フレームワーク領域バリアントは、ヒト抗体の重鎖フレームワーク領域に多くて10個のアミノ酸復帰突然変異を有し;
好ましくは、復帰突然変異(単数又は複数)は、5Q、30N、83K、84P、93N及び94Aからなる群より選択される1つ又は複数であり、ここで、5Qは、カバットの基準によれば、VHHの5位のアミノ酸がQ(Gln、グルタミン)であることを表しており、他も同様である。
【0018】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体は、以下に示されるCDR1とCDR2とCDR3とを含む:
i)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
ii)配列番号8に示されるCDR1と、配列番号9に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
iii)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;又は
iv)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号11に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
これらのフレームワーク領域は、5Q、30N、83K、84P、93N及び94Aからなる群より選択される1つ又は複数の復帰突然変異を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2ヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号27に示される配列を含むか、又はからなり、好ましくは、配列番号17、18、19、20、21、22、23、24、25又は26に示される配列を含むか、又はからなり、ここで、配列番号27の配列は以下に示される通りである:
【化3】
ここで、X
1はD又はSから選択される;X
2はF又はYから選択される;X
3はG又はAから選択される;X
4はS又はTから選択される;X
5はT又はNから選択される;X
6はW又はSから選択される;X
7はN、G又はSから選択される;X
8はR又はSから選択される;X
9はY又はGから選択される;X
12はV又はQから選択される;X
13はS又はNから選択され、X
14はR又はKから選択され、X
15はA又はPから選択され、X
16はA又はNから選択され、X
17はK又はAから選択される。
【0020】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗ANG2単一ドメイン抗体の配列は、配列番号17、18、19、20、21、22、23、24、25又は26に対して、それぞれ少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントは以下を含む:
配列番号32、配列番号33及び配列番号34にそれぞれ示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3;並びに配列番号35、配列番号36及び配列番号37にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3。
【0022】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号28に示される軽鎖可変領域と、配列番号30に示される重鎖可変領域とを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗VEGF抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号29に示される軽鎖と、配列番号31若しくは54に示される重鎖とを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、配列番号38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、55若しくは56に示されるいずれか1つから選択される第1ポリペプチド鎖、及び/又は配列番号29に示される第2ポリペプチド鎖を含む。
【0025】
本開示は、抗ANG2単一ドメイン抗体のクラスも提供する。
【0026】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体は、配列番号5に示されるCDR1又はそれと比較して多くて3、多くて2若しくは1個のアミノ酸変異を有するCDR1と、配列番号6に示されるCDR2又はそれと比較して多くて6、多くて5、多くて4、多くて3、多くて2若しくは1個のアミノ酸変異を有するCDR2と、配列番号7に示されるCDR3又はそれと比較して多くて3、多くて2若しくは1個のアミノ酸変異を有するCDR3とを含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体は、配列番号14に示されるCDR1と、配列番号15に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3とを含み、CDR配列は以下に示される通りである:
【化4】
ここで、X
1はD又はSから選択される;X
2はF又はYから選択される;X
3はG又はAから選択される;X
4はS又はTから選択される;X
5はT又はNから選択される;X
6はW又はSから選択される;X
7はN、G又はSから選択される;X
8はR又はSから選択される;及びX
9はY又はGから選択される。
【0028】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体は、それぞれ以下に示されるCDR1とCDR2とCDR3とを含む:
i)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
ii)配列番号8に示されるCDR1と、配列番号9に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
iii)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;又は
iv)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号11に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3。
【0029】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体は、ラマ抗体又はヒト化抗体から選択される。
【0030】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体は、配列番号16に示される配列を含むか、又はからなり、好ましくは、配列番号3、配列番号4、配列番号12又は配列番号13に示される配列を含むか、又はからなり、ここで、配列番号16は以下に示される配列を有する:
【化5】
ここで、X
1はD又はSから選択される;X
2はF又はYから選択される;X
3はG又はAから選択される;X
4はS又はTから選択される;X
5はT又はNから選択される;X
6はW又はSから選択される;X
7はN、G又はSから選択される;X
8はR又はSから選択される;X
9はY又はGから選択される;X
10はD又はNから選択される、及びX
11はV又はLから選択される。
【0031】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体の配列は、配列番号3、配列番号4、配列番号12又は配列番号13に対して、それぞれ少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0032】
いくつかの実施形態では、抗ANG2ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する重鎖フレームワーク領域又はそのフレームワーク領域バリアントを含み、フレームワークバリアントは、ヒト抗体の重鎖フレームワーク領域に多くて10個のアミノ酸復帰突然変異を有し、
好ましくは、復帰突然変異は、5Q、30N、83K、84P、93N及び94Aからなる群より選択される1つ又は複数である。
【0033】
いくつかの実施形態では、抗ANG2ヒト化抗体の配列は、配列番号22に示される通りであるか、又は配列番号22に基づいて5Q、30N、84P、93N及び94Aからなる群より選択される1つ又は複数の変異を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体は、以下に示されるCDR1とCDR2とCDR3とを含む:
i)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号6に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
ii)配列番号8に示されるCDR1と、配列番号9に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
iii)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号10に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;又は
iv)配列番号5に示されるCDR1と、配列番号11に示されるCDR2と、配列番号7に示されるCDR3;
これらのフレームワーク領域は、5Q、30N、83K、84P、93N及び94Aからなる群より選択される1つ又は複数の復帰突然変異を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号27に示される配列を含むか、又はからなり、好ましくは、配列番号17、18、19、20、21、22、23、24、25又は26に示される配列を含むか、又はからなり、ここで、配列番号27は、以下に示される配列を有する:
【化6】
ここで、X
1はD又はSから選択される;X
2はF又はYから選択される;X
3はG又はAから選択される;X
4はS又はTから選択される;X
5はT又はNから選択される;X
6はW又はSから選択される;X
7はN、G又はSから選択される;X
8はR又はSから選択される;X
9はY又はGから選択される;X
12はV又はQから選択される;X
13はS又はNから選択され、X
14はR又はKから選択され、X
15はA又はPから選択され、X
16はA又はNから選択され、X
17はK又はAから選択される。
【0036】
いくつかの実施形態では、抗ANG2単一ドメイン抗体の配列は、配列番号17、18、19、20、21、22、23、24、25又は26に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0037】
本開示はまた、前述の抗ANG2単一ドメイン抗体と競合してヒトANG2に結合する抗ANG2単一ドメイン抗体を提供する。
【0038】
本開示はまた、抗ANG2単一ドメイン抗体であって、配列番号3、配列番号4、配列番号12又は配列番号13に示される単一ドメイン抗体と同じCDR1とCDR2とCDR3配列とを含む単一ドメイン抗体を提供する。
【0039】
本開示はまた、上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体を提供する。
【0040】
本開示はまた、前述のいずれか1つに記載の抗ANG2単一ドメイン抗体を含む二重特異性抗体を提供する。
【0041】
本開示は、治療有効量の、上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体に加えて、1つ若しくは複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、緩衝剤若しくは賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0042】
本開示はまた、上述の二重特異性抗体若しくは抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体をコードする単離された核酸分子を提供する。
【0043】
本開示はまた、上述の核酸分子を含むベクターを提供する。
【0044】
本開示はまた、前述のベクターで形質転換された宿主細胞であって、原核細胞及び真核細胞からなる群より選択され、好ましくは真核細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞又は昆虫細胞である宿主細胞を提供する。
【0045】
本開示はまた、上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を製造する方法であって、上述の宿主細胞を培地で培養して上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を形成し、及び蓄積するプロセスと、培養物から上述の二重特異性抗体、又は抗ANG2単一ドメイン抗体若しくはその抗原結合フラグメントを回収するプロセスとを含む方法を提供する。
【0046】
本開示は、上述の抗ANG2単一ドメイン抗体又は上述の二重特異性抗体を使用することを含む、in vitroにおけるヒトANG2の検出又は測定方法を提供する。
【0047】
本開示は、ヒトANG2の検出又は測定用の試薬を調製する際の、上述の抗ANG2単一ドメイン抗体又は二重特異性抗体の使用を提供する。
【0048】
本開示はまた、上述の抗ANG2単一ドメイン抗体又は二重特異性抗体を含むキットを提供する。
【0049】
本開示はまた、治療有効量の上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体、又は上述の医薬組成物を被験体に投与することを含むVEGF媒介性及び/又はANG2媒介性血管新生作用に関連する疾患の治療方法を提供し;好ましくは、治療有効量は、0.1~3000mgの上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体を含む組成物の単位用量である。
【0050】
本開示はまた、治療有効量の上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一可変ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体、又は上述の医薬組成物を被験体に投与することを含むがん又は血管新生眼疾患の治療方法を提供し;好ましくは、前記がんは、乳がん、副腎腫瘍、卵管がん、扁平上皮がん、卵巣がん、胃がん、大腸がん、非小細胞肺がん、胆管がん、膀胱がん、膵臓がん、皮膚がん及び肝臓がんからなる群より選択され;前記血管新生眼疾患は、血管新生緑内障、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫、角膜血管新生、角膜移植片血管新生、角膜移植片拒絶反応、網膜/脈絡膜血管新生、虹彩角膜血管新生(ルベオーシス)、眼内新生血管疾患、血管再狭窄及び動静脈奇形(AVM)からなる群より選択される。
【0051】
本開示はまた、VEGF媒介性及び/又はANG2媒介性血管新生作用に関連する疾患の治療用医薬品を調製する際の、上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体、又は上述の医薬組成物の使用を提供する。
【0052】
本開示はまた、がん又は血管新生眼疾患の治療用医薬品を調製する際の、上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体、又は上述の医薬組成物の使用を提供し;好ましくは、前記がんは、乳がん、副腎腫瘍、卵管がん、扁平上皮がん、卵巣がん、胃がん、大腸がん、非小細胞肺がん、胆管がん、膀胱がん、膵臓がん、皮膚がん及び肝臓がんからなる群より選択され;前記血管新生眼疾患は、血管新生緑内障、加齢黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、角膜血管新生、角膜移植片血管新生、角膜移植片拒絶反応、網膜/脈絡膜血管新生、虹彩角膜血管新生(ルベオーシス)、眼内新生血管疾患、血管再狭窄及び動静脈奇形(AVM)からなる群より選択される。
【0053】
本開示はまた、上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体を使用する工程を含む、in vitroにおけるヒトANG2の検出又は測定方法を提供する。
【0054】
本開示はまた、医薬品として使用するための、上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体を提供し、前記医薬品は、VEGF媒介性及び/又はANG2媒介性血管新生作用に関連する疾患の治療のためのものであり、好ましくは、がん又は血管新生眼疾患の治療のためのものである。
【0055】
本開示はまた、医薬品として使用するための、上述の二重特異性抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体、又は上述の抗ANG2単一ドメイン抗体を含むモノクローナル抗体を提供し、前記医薬品は、がん又は血管新生眼疾患の治療のためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】本開示の二重特異性抗体の構造を示す模式図である。
【
図2A】単一ドメイン抗体のヒトANG2に対する結合活性を示す図である。
【
図2B】単一ドメイン抗体のヒトANG1に対する結合活性を示す図である。
【
図3】二重特異性抗体が、細胞表面のTie2に結合するANG2の活性を阻害することを示す図である。
【
図4】二重特異性抗体が、ANG2によって誘導されるTie2のリン酸化を抑制した結果を示す図である。
【
図5】VEGFによって誘導されるVEGFRのリン酸化を抑制する二重特異性抗体の活性を示す図である。
【
図6】VEGFによって誘導されるHUVECの増殖を抑制する二重特異性抗体の活性を示す図である。
【
図7】ヒト結腸がん細胞の皮下移植腫瘍の増殖抑制に対する二重特異性抗体の効果を示す図である。
【
図8A】非小細胞肺がんの皮下移植腫瘍の増殖抑制に対する当該抗体の効果を示す図である。
【
図8B】マウスにおいて非小細胞肺がんの肝転移を観察した結果を示す図である。
【
図9A】ヒトA431マウス移植腫瘍モデルの抑制における当該抗体の薬理効果を示す図である。
【
図9B】ヒトPC-3マウス移植腫瘍モデルの抑制における当該抗体の薬理効果を示す図である。
【
図10A】アカゲザルの目の蛍光漏出面積の二重特異性抗体の改善率を示す図である。
【
図10B】アカゲザルの目のレベル4蛍光スポット数に対する二重特異性抗体の効果を示す図である。
【
図11】眼球投与した28日後のアカゲザルの房水中のVEGF濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本開示の理解を容易にするために、特定の技術的及び科学的用語を以下に具体的に定義する。本明細書において別段の定めが明確にない限り、本明細書において使用される他の全ての技術的及び科学的用語は、本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解される意味を有する。
【0058】
本開示で使用されるアミノ酸の3文字コード及び1文字コードは、J.biol.chem, 243, p3558 (1968)に記載されている通りである。
【0059】
「ANG-2」という用語は、アンジオポエチン-2(ANG-2)(又は、ANGPT2若しくはANG2と略記される)を指し、これは、例えば、Maisonpierre, P.C. et al., Science 277 (1997) 55-60及びCheung, A.H. et al., Genomics 48 (1998) 389-91に記述されている。アンジオポエチン-1及び-2は、Tie(すなわち、血管の内皮に選択的に発現されるチロシンキナーゼファミリー)のリガンドであることが判明している(Yancopoulos, G.D. et al., Nature 407 (2000) 242-48)。現在、アンジオポエチンファミリーに属するメンバーが4つ確認されている。アンジオポエチン-3及び-4(ANG-3及びANG-4)は、マウス及びヒトの同じ遺伝子座の広範な領域の対応物となることができる。Kim, I. et al., FEBS Let 443 (1999) 353-56; Kim, I. et al., J Biol Chem 274 (1999) 26523-28。ANG1及びANG2は、当初、組織培養実験において、それぞれアゴニスト及びアンタゴニストとして同定された(ANG1については、Davis, S. et al., Cell 87 (1996) 1161-69を参照;ANG2については、Maisonpierre, P.C. et al., Science 277 (1997) 55-60を参照)。全ての既知のアンジオポエチンは主にTie2に結合し、ANG1と2の両方が3nM(Kd)の親和性でTie2に結合する(Maisonpierre, P.C. et al., Science 277 (1997) 55-60)。
【0060】
「VEGF」という用語は、ヒト血管内皮増殖因子(VEGF/VEGF-A)を指し、これは、例えば、Leung, D.W. et al., Science 246 (1989) 1306-9; Keck, P.J. et al., Science 246 (1989) 1309-12,及びConnolly, D.T. et al., J. Biol. Chem. 264 (1989) 20017-24に記述されている。VEGFは、正常及び異常な血管新生の制御並びに腫瘍及び眼内疾患に伴う血管新生に関与している(Ferrara, N., Endocr. Rev. 18 (1997) 4-25; Berkman, R.A., J. Clin. Invest. 91 (1993) 153-159; Brown, L.F. et al., Human Pathol. 26 (1995) 86-91; Brown, L.F. et al., Cancer Res. 53 (1993) 4727-4735; Mattern, J. et al., Brit. J. Cancer. 73 (1996) 931-934; and Dvorak, H.F. et al., Am. J. Pathol. 146 (1995) 1029-1039)。VEGFは、内皮細胞の有糸分裂を促進することができるホモ二量体糖タンパク質である。
【0061】
「二重特異性抗体」とは、2つの異なる抗原(又は同じ抗原の異なるエピトープ)に対して結合活性を有する抗体のことである。本開示の抗体は、2つの異なる抗原、すなわち、第1抗原としてのVEGF及び第2抗原としてのANG2に特異的である。
【0062】
「結合部位」又は「抗原結合部位」という用語は、リガンドが実際に結合する抗体分子内の領域を指す。「抗原結合部位」という用語は、抗体重鎖可変ドメイン(VH)と抗体軽鎖可変ドメイン(VL)とを含むか、又は抗体重鎖可変ドメイン若しくは軽鎖可変ドメインのいずれかを含む。
【0063】
「単一ドメイン抗体」とは、単一ドメインのFvユニットからなる抗体フラグメントのことである。全抗体と同様に、抗原に選択的かつ特異的に結合することができる。単一ドメイン抗体の分子量はわずか12~15kDaであり、2本の重鎖と2本の軽鎖からなる一般的な抗体(150~160kDa)よりもはるかに小さく、Fabフラグメント(約50kDa、1本の軽鎖と重鎖の半分)又は単鎖可変フラグメント(約25kDa、2つの可変ドメイン、1つは軽鎖から、もう1つは重鎖から)よりもさらに小さい。本開示における単一ドメイン抗体には、重鎖抗体(VHHなどの軽鎖をもともと欠く抗体)、従来の4本鎖抗体に由来する単一ドメイン抗体、改変抗体、及び抗体由来のものとは異なる単一ドメイン抗体が含まれるが、これらに限定されない。単一ドメイン抗体は、当該技術分野に存在する、又は将来発見される任意の単一ドメイン抗体であり得る。単一ドメイン抗体は、マウス、ヒト、ラクダ、ヤマ、ラマ、グアナコ、ヤギ、ウサギ、ウシ、サメなどを含むがこれらに限定されない任意の種に由来し得る。
【0064】
「単一ドメイン抗体」の抗原結合部位は、単一の免疫グロブリンドメイン上に存在し、単一の免疫グロブリンドメインによって形成されている。これにより、「単一ドメイン抗体」は、「従来の」免疫グロブリン又はそれらのフラグメント(Fab、scFv等)(2つの免疫グロブリンドメイン、特に2つの可変ドメインが相互作用して抗原結合部位を形成する)と区別される。一般に、従来の免疫グロブリンでは、重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)が相互作用して抗原結合部位を形成する。この場合、VHとVLの両方の相補性決定領域(CDR)が抗原結合部位に寄与することになり、すなわち、合計6つのCDRが抗原結合部位の形成に関与することになる。対照的に、単一ドメイン抗体の抗原結合部位は、単一のVH又はVLドメインによって形成される。したがって、免疫グロブリンの単一可変ドメインの抗原結合部位は、3つ以下のCDRによって形成される。
【0065】
「VHHドメイン」は、VHH又はVHH抗体フラグメントとしても知られているが、当初は「重鎖抗体」(すなわち、「軽鎖を欠く抗体」)の抗原結合免疫グロブリン(可変)ドメインとして記述されていた(Hamers-Casterman C, Atarhouch T, Muyldermans S, Robinson G, Hamers C, Songa EB, Bendahman N, Hamers R.: “Naturally occurring antibodies devoid of light chains”; Nature 363 (1993) 446-448)。「VHHドメイン」という用語は、これらの可変ドメインを、従来の4本鎖抗体に存在する重鎖可変ドメイン(本明細書では「VHドメイン」又は「VH」と呼ぶ)、及び従来の4本鎖抗体に存在する軽鎖可変ドメイン(本明細書では「VLドメイン」又は「VL」と呼ぶ)と区別している。VHHドメインは、他の抗原結合ドメインが存在しない場合に、エピトープに特異的に結合することができる(対照的に、従来の4本鎖抗体のVH又はVLドメインについては、VHドメインとともにVLドメインによってエピトープが認識される)。VHHドメインは、単一の免疫グロブリンドメインによって形成された、小型で安定した高効率の抗原認識ユニットである。
【0066】
本開示の文脈では、VHHドメイン、VHH、VHH抗体フラグメント、VHH抗体、並びに「ナノボディ」及び「単一ドメイン抗体」という用語は、交換可能に使用され、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4構造を有する免疫グロブリン単一可変ドメインであって、他の免疫グロブリン可変ドメインなしでエピトープに特異的に結合するものを指す。
【0067】
「抗体(Ab)」という用語は、特定の抗原(例えばANG2)と特異的に結合又は相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む抗原結合分子又は分子複合体を含む。
【0068】
「抗体」という用語は、ジスルフィド結合で相互に連結された2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖との4本のポリペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子及びそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)と重鎖定常領域(CH)とを含む。この重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つの領域(ドメイン)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)と軽鎖定常領域(CL)とを含む。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分化することができ、フレームワーク領域と呼ばれるより保存的な領域(FR、フレームワーク領域とも呼ばれる)が散在している。各VH及びVLは、3つのCDRと4つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、以下の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本開示の異なる例では、抗ANG2抗体(又はその抗原結合フラグメント)のFRは、ヒト生殖細胞系列と同じであり得るか、天然又は人工的に改変され得る。抗体は、異なるサブクラスの抗体、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4サブクラス)、IgA1、IgA2、IgD、IgE又はIgM抗体であり得る。
【0069】
「抗体」という用語には、完全な抗体分子の抗原結合フラグメントも含まれる。抗体の「抗原結合部位」、「抗原結合ドメイン」、「抗原結合フラグメント」などの用語には、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、天然の、酵素的に産生された、合成された、若しくは遺伝子操作されたペプチド又は糖タンパク質が含まれる。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、全抗体分子から、任意の適切な標準技術、例えばタンパク質分解消化又は抗体の可変領域及び(必要に応じて)定常領域をコードするDNAの操作並びに発現を伴う組換え遺伝子工学技術を用いて得ることができる。そのようなDNAは既知であり、及び/又は、例えば、市販の供給源、DNAデータベース(例えば、ファージ抗体データベースを含む)から容易に入手することができ、若しくは合成することができる。そのようなDNAは、例えば、1つ又は複数の可変及び/若しくは定常領域を適切な構成に配置し、又はコドンを導入し、又はシステイン残基を生成し、及びアミノ酸を修飾し、追加し、若しくは削除するなど、化学的に又は分子バイオテクノロジーを使用して配列を決定し、操作することができる。
【0070】
抗原結合フラグメントの非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;及び(vii)抗体の超可変領域を模倣したアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば単離された相補性決定領域(CDR)、例えばCDR3ペプチド)又は制限的FR3-CDR3-FR4ペプチド。他の人工分子、例えば領域特異的抗体、単一ドメイン抗体、領域欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小モジュール免疫医薬品(SMIP)及びサメ可変IgNAR領域も、本明細書で使用される「抗原結合フラグメント」という用語に包含される。
【0071】
抗原結合フラグメントは、通常、少なくとも1つの可変領域を含む。可変領域は、任意のサイズ又はアミノ酸組成の領域であり得、一般に、1つ若しくは複数のフレームワーク配列のフレームワークに隣接するか、又はその中にあるCDRを含む。
【0072】
特定の例では、抗原結合フラグメントの可変領域及び定常領域の任意の構成において、可変領域と定常領域は互いに直接連結し得るか、又はインタクト若しくは部分的なヒンジ又はリンカー領域を介して連結し得る。ヒンジ領域は、少なくとも2個(例えば、5、10、15、20、40、60個又はそれ以上)のアミノ酸からなり得るため、単一のポリペプチド分子内の隣接する可変領域及び/又は定常領域の間に柔軟性及び半柔軟性のある接続を作り出す。本開示における「マウス抗体」という用語は、当該技術分野の知識と技能に従って調製されたマウス又はラット由来のモノクローナル抗体である。調製の際には、被験体に抗原を注射した後、所望の配列又は機能特性を有する抗体を発現するハイブリドーマを単離する。注射を受けた被験体がマウスの場合、産生される抗体はマウス由来の抗体であり、注射を受けた被験体がラットの場合、産生される抗体はラット由来の抗体である。
【0073】
「キメラ抗体」とは、第1種(マウス等)の抗体の可変領域と、第1種の抗体によって誘発される免疫反応を緩和することができる第2種(ヒト等)の抗体の定常領域とを融合して形成される抗体のことである。キメラ抗体を樹立するには、まず第1種の特定のモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを樹立し、次にハイブリドーマ細胞から可変領域遺伝子をクローニングし、必要に応じて第2種の抗体定常領域遺伝子をクローニングし、マウスの可変領域遺伝子と第2種の定常領域遺伝子とを連結してキメラ遺伝子を形成し、発現ベクターに挿入し、最終的に真核生物系又は原核生物系でキメラ抗体分子を発現させる必要がある。CDR移植抗体を含む「ヒト化抗体」という用語は、動物(例えばマウス)由来の抗体のCDR配列を、ヒト抗体の可変領域のフレームワーク領域に移植して産生された抗体を指す。ヒト化抗体は、多量の異種タンパク質成分を含むキメラ抗体によって引き起こされる不均一反応を克服することができる。そのようなフレームワーク配列は、生殖細胞系列の抗体遺伝子配列を含む公開DNAデータベース又は公開参考文献から得ることができる。例えば、ヒト重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子の生殖細胞系DNA配列は、「VBase」ヒト生殖細胞系配列データベース(インターネットhttp://www.vbase2.org/で入手可能)、並びにKabat, E. A., et al., 1991, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th editionにおいて見つけることができる。免疫原性の低下に伴う活性の低下を回避するために、ヒト抗体可変領域のフレームワーク配列に最小限の逆突然変異又は復帰突然変異を加えて活性を維持することができる。また、本開示のヒト化抗体は、CDRがさらなるファージディスプレイによる親和性成熟を受けたヒト化抗体も含む。
【0074】
抗原の接触残基のために、CDR移植化は、抗原と接触しているフレームワーク残基のために、生産された抗体又はその抗原結合フラグメントの抗原に対する親和性の低下をもたらす可能性がある。そのような相互作用は、体細胞の超変異の結果であり得る。したがって、そのようなドナーフレームワークアミノ酸をヒト化抗体のフレームワークに移植することが依然として必要である場合がある。抗原結合に関与する、非ヒト抗体又はそれらの抗原結合フラグメント由来のアミノ酸残基は、動物モノクローナル抗体の可変領域の配列及び構造を調べることによって同定することができる。生殖細胞系列と異なるCDRドナーフレームワークの残基は、関連性があると見なすことができる。最も近い生殖細胞系列を特定できない場合、その配列をサブクラスのコンセンサス配列又は類似度の高い動物抗体配列と比較することができる。希少なフレームワーク残基は、体細胞の超変異の結果であると考えられており、したがって結合において重要な役割を果たしている。
【0075】
本開示の一実施形態では、抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒト若しくはマウスのκ鎖、λ鎖又はそのバリアントの軽鎖定常領域をさらに含み得るか、又はヒト若しくはマウスのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4又はそのバリアントの重鎖定常領域をさらに含み得る。
【0076】
ヒト抗体重鎖定常領域及びヒト抗体軽鎖定常領域の「従来のバリアント」とは、従来技術で開示されているヒト由来の重鎖定常領域又は軽鎖定常領域のバリアントであって、抗体可変領域の構造及び機能を変更していないものを指す。例示的なバリアントとしては、重鎖定常領域に部位特異的修飾及びアミノ酸置換を施したIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4重鎖定常領域バリアントが挙げられる。具体的な置換としては、YTE、L234A及び/若しくはL235A、又はS228P変異、又は当該技術分野で知られているknob-into-hole構造を得るための変異(抗体重鎖がknob-Fcとhole-Fcの組み合わせを持つようにする)などが挙げられる。これらの変異は、抗体に新たな特性を持たせることが確認されているが、抗体可変領域の機能を変えるものではない。
【0077】
「ヒト抗体」及び「ヒト由来抗体」は、交換可能に使用することができ、ヒト由来の抗体又は抗原刺激に応答して特異的ヒト抗体を産生するように「操作」されたトランスジェニック生物から得られた抗体であり得、当該技術分野で知られている任意の方法で産生することができる。いくつかの技術では、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子座のエレメントを、内因性重鎖及び軽鎖遺伝子座が標的破壊された胚性幹細胞株に由来する生物の細胞株に導入する。トランスジェニック生物は、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、この生物を用いてヒト抗体分泌ハイブリドーマを産生することができる。ヒト抗体は、重鎖及び軽鎖がヒトDNA起源に由来する1つ又は複数のヌクレオチド配列によってコードされている抗体でもあり得る。完全ヒト抗体は、遺伝子又は染色体トランスフェクション法及びファージディスプレイ技術によって構築することも、in vitroで活性化されたB細胞によって構築することもでき、これらは全て当該技術分野で知られている。
【0078】
「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、考え得るバリアント抗体(例えば、天然に存在する変異又はモノクローナル抗体調製物の製造中に生じた変異を含み、これらのバリアントは通常少量しか存在しない)を除いて、個々の抗体からなる集団が同じエピトープを認識し、及び/又は同じエピトープと結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、モノクローナル抗体調製物(調製物)の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向される。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られた抗体の特性を示すものであり、抗体の製造に特定の方法を必要とすると解釈すべきではない。例えば、本開示に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、並びに完全又は部分的なヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むが、これらに限定されない様々な技術によって調製することができる。モノクローナル抗体を調製するためのそのような方法及び他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。本開示のモノクローナル抗体は、完全長の抗体である。
【0079】
「全長抗体」、「インタクト抗体」、「完全抗体」及び「全抗体」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、以下に定義される抗原結合フラグメントとは区別される、実質的に無傷の形態の抗体を指す。これらの用語は、具体的には、重鎖がVH領域、CH1領域、ヒンジ領域及びFc領域を順にアミノ末端からカルボキシル末端に含み、軽鎖がVL領域及びCL領域を順にアミノ末端からカルボキシル末端に含む抗体を指す。
【0080】
さらに、Fvフラグメントの2つのドメインVL及びVHは別々の遺伝子にコードされているが、組換え法を用いてそれらを合成リンカーで連結することにより、それらをVL領域とVH領域とが対になって一価分子を形成する単一タンパク質鎖として製造することができる(一本鎖Fv(scFv)と呼ばれる;例えば、Bird et al. (1988) Science 242: 423-426;及びHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci USA 85: 5879-5883を参照)。そのような一本鎖抗体も、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語に含まれることが意図されている。そのような抗体フラグメントは、当業者に知られている従来技術を用いて得られ、そのフラグメントは、インタクト抗体の場合と同様の方法で機能性についてスクリーニングされる。抗原結合部位は、組換えDNA技術によって、又はインタクトな免疫グロブリンの酵素的若しくは化学的フラグメント化によって製造することができる。
【0081】
抗原結合フラグメントは、一対のタンデムFvフラグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む一本鎖分子に組み込むこともでき、これは、相補的な軽鎖ポリペプチドと一緒になって一対の抗原結合領域を形成する(Zapata et al., 1995, Protein Eng. 8(10): 1057-1062; and U.S. Patent No. 5,641,870)。
【0082】
Fabは、分子量約50,000Daの抗体フラグメントであり、IgG抗体分子をプロテアーゼパパイン(H鎖の224位のアミノ酸残基を切断する)で処理することによって得られ、抗原結合活性を有し、N末端側のそのH鎖の約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で連結している。
【0083】
F(ab’)2は、分子量約100,000Daの抗体フラグメントであり、IgGのヒンジ領域にある2つのジスルフィド結合の下部をペプシンで消化することによって得られる。それは抗原結合活性を有し、ヒンジ位置で連結した2つのFab領域を含む。
【0084】
Fab’は、抗原結合活性を有する分子量約50,000Daの抗体フラグメントであり、前述のF(ab’)2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することによって得られる。Fab’は、例えばジチオスレイトールなどの還元剤を使用して、抗原を特異的に認識して結合するF(ab’)2を処理することにより製造することができる。
【0085】
さらに、抗体のFab’フラグメントをコードするDNAを原核生物発現ベクター又は真核生物発現ベクターに挿入し、そのベクターを原核生物又は真核生物に導入してFab’を発現させることにより、Fab’を製造することができる。
【0086】
「一本鎖抗体」、「一本鎖Fv」又は「scFv」という用語は、リンカーで連結された抗体重鎖可変ドメイン(すなわち領域;VH)と抗体軽鎖可変ドメイン(すなわち領域;VL)とを含む分子を指す。そのようなscFv分子は、一般構造:NH2-VL-リンカー-VH-COOH又はNH2-VH-リンカー-VL-COOHを有することができる。先行技術の適切なリンカーは、反復GGGGSアミノ酸配列又はそれらのバリアントからなり、例えば、1~4(1、2、3又は4を含む)の反復バリアントを使用する(Holliger et al. (1993), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448)。本開示で使用することができる他のリンカーは、Alfthan et al. (1995), Protein Eng. 8:725-731、Choi et al. (2001), Eur. J. Immunol. 31:94-106、Hu et al. (1996) , Cancer Res. 56:3055-3061、Kipriyanov et al. (1999), J. Mol. Biol. 293:41-56及びRoovers et al. (2001), Cancer Immunol Immunother. 50:51-59に記載されている。
【0087】
「リンカー」は、ポリペプチド(タンパク質ドメインなど)を接続するために使用されるポリペプチド配列を指し、通常、ある程度の柔軟性を持っている。リンカーを使用することで、タンパク質ドメインの本来の構造及び機能が失われることはない。
【0088】
ダイアボディは、二量体化したscFvの抗体フラグメントを指し、二価の抗原結合活性を持つ抗体フラグメントである。二価の抗原結合活性では、2つの抗原は同じであっても異なっていてもよい。
【0089】
dsFvは、VH及びVLのそれぞれの1つのアミノ酸残基がシステイン残基で置換されているポリペプチドを、システイン残基間のジスルフィド結合を介して接続することにより得られる。システイン残基で置換されるアミノ酸残基は、抗体の三次元構造予測に基づく既知の方法(Protein Engineering. 7:697 (1994))に従って選択することができる。
【0090】
本開示のいくつかの例における抗原結合フラグメントは、以下の工程によって製造することができる:抗原を特異的に認識して結合する本開示のモノクローナル抗体のVH及び/又はVL並びにその他の必要なドメインをコードするcDNAを取得し、抗原結合フラグメントをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物発現ベクター又は真核生物発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物又は真核生物に導入して抗原結合フラグメントを発現させる。
【0091】
「Fc領域」は、ネイティブFc領域配列又はFc領域バリアントであり得る。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化する場合があるが、ヒトIgG重鎖のFc領域は、通常Cys226位又はPro230位のアミノ酸残基からそのカルボキシル末端まで延びていると定義される。Fc領域の残基のナンバリングは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991に記載されているEUインデックスのナンバリングに従っている。免疫グロブリンのFc領域は、通常CH2とCH3の2つの定常領域ドメインを持つ。本開示の「knob-Fc」とは、抗体のFc領域に含まれる点変異T366Wにより、ノブ状の空間構造を形成したものを指す。これに対応して、「hole-Fc」とは、抗体のFc領域に含まれる点変異T366S、L368A、及びY407Vが、ホール状の空間構造を形成したものを指す。Knob-Fcとhole-Fcは、立体障害のためにヘテロ二量体を形成しやすい。ヘテロ二量体の形成をさらに促進するために、点変異S354CとY349Cをそれぞれknob-Fcとhole-Fcに導入し、ジスルフィド結合を介してヘテロ二量体の形成をさらに促進することができる。同時に、抗体Fcによって引き起こされるADCC効果を排除する、又は弱めるために、置換変異234A及び235AをFcに導入することもできる。例えば、本開示の好ましいknob-Fc及びホール-Fcは、それぞれ配列番号69及び70に示す通りである。二重特異性抗体では、knob-Fc又はホール-Fcは、第1ポリペプチド鎖のFc領域又は第2ポリペプチド鎖のFc領域のいずれかとして使用することができる。1つの二重特異性抗体において、第1ポリペプチド鎖のFc領域と第2ポリペプチド鎖のFc領域とが同時にknob-Fc又はホール-Fcであることはできない。
【0092】
「アミノ酸差」又は「アミノ酸変異」という用語は、元のタンパク質又はポリペプチドと比較して、タンパク質又はポリペプチドバリアントがアミノ酸の変化若しくは変異を有することを意味し、元のタンパク質又はポリペプチドを基準として、1つ又は複数のアミノ酸の挿入、欠失若しくは置換が挙げられる。
【0093】
抗体の「可変領域」とは、抗体軽鎖可変領域(VL)又は抗体重鎖可変領域(VH)単独若しくはそれらを組み合わせたものを指す。当該技術分野で知られているように、重鎖及び軽鎖の可変領域はそれぞれ、3つの相補性決定領域(CDR)(超可変領域とも呼ばれる)によって連結された4つのフレームワーク領域(FR)で構成されている。各鎖のCDRはFRによって強固に保持されており、他の鎖のCDRとともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与している。CDRを決定する手法としては、少なくとも2つの手法がある:(1)異種間配列変動性に基づく方法(すなわち、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, (5th edition, 1991, National Institutes of Health, Bethesda MD));及び(2)抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づく方法(Al-Lazikani et al., J. Molec. Biol. 273:927-948 (1997))。本明細書で使用される場合、CDRは、いずれかの方法又は2つの方法の組み合わせによって決定されるCDRを指すことができる。
【0094】
「抗体フレームワーク」又は「FR領域」という用語は、可変ドメインVL又はVHの一部を指し、これは可変ドメインの抗原結合ループ(CDR)の足場として機能する。基本的に、これはCDRのない可変ドメインである。
【0095】
「相補性決定領域」及び「CDR」という用語は、抗体の可変領域に存在する超可変領域のうち、主に抗原結合に寄与する領域を指す。一般に、各重鎖可変領域には3つのCDR(HCDR1、HCDR2、HCDR3)が存在し、各軽鎖可変領域には3つのCDR(LCDR1、LCDR2、LCDR3)が存在する。様々な周知のスキームのいずれかを使用してCDRのアミノ酸配列境界を決定することができ、これには、「Kabat」のナンバリング規則(Kabat et al. (1991), "Sequences of Proteins of Immunological Interest", 5th edition, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MDを参照)、「Chothia」のナンバリング規則(Al-Lazikani et al., (1997) JMB 273:927-948)及びImMunoGenTics(IMGT)のナンバリング規則(Lefranc M. P., Immunologist, 7, 132-136 (1999); Lefranc, M. P. et al., Dev. Comp. Immunol., 27, 55-77 (2003))などがある。例えば、古典的な形式では、Kabatの規則に従うと、重鎖可変ドメイン(VH)のCDRアミノ酸残基番号は、31-35(HCDR1)、50-65(HCDR2)及び95-102(HCDR3)であり;軽鎖可変ドメイン(VL)のCDRアミノ酸残基番号は、24-34(LCDR1)、50-56(LCDR2)及び89-97(LCDR3)である。Chothiaの規則に従うと、VHのCDRアミノ酸番号は、26-32(HCDR1)、52-56(HCDR2)及び95-102(HCDR3)であり;VLのアミノ酸残基番号は、26-32(LCDR1)、50-52(LCDR2)及び91-96(LCDR3)である。Kabat、Chothiaの両方のCDR定義を組み合わせると、CDRは、ヒトVHのアミノ酸残基26-35(HCDR1)、50-65(HCDR2)及び95-102(HCDR3)と、ヒトVLのアミノ酸残基24-34(LCDR1)、50-56(LCDR2)及び89-97(LCDR3)とからなる。IMGTの規則に従うと、VHのCDRアミノ酸残基番号は、おおよそ26-35(CDR1)、51-57(CDR2)及び93-102(CDR3)であり、VLのCDRアミノ酸残基番号は、おおよそ27-32(CDR1)、50-52(CDR2)及び89-97(CDR3)である。IMGTの規則に従うと、IMGT/DomainGap Alignというプログラムを使って、抗体のCDR領域を決定することができる。
【0096】
「HCDR1、HCDR2及びHCDR3領域又はその任意のCDRバリアント」における「その任意のCDRバリアント」とは、HCDR1、HCDR2及びHCDR3領域のうち、いずれか1つ、又は2つ、又は3つの領域にアミノ酸変異を与えて得られるバリアントを指す。
【0097】
「抗体定常領域ドメイン」は、抗体の軽鎖及び重鎖の定常領域に由来するドメインを指し、様々なタイプの抗体に由来するCL及びCH1、CH2、CH3及びCH4ドメインが含まれる。
【0098】
「エピトープ」又は「抗原決定基」は、免疫グロブリン又は抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す。エピトープは通常、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14若しくは15個の連続又は非連続アミノ酸を含み、固有の空間的構造をしている。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, G. E. Morris, Ed. (1996)を参照。
【0099】
「特異的に結合する」、「選択的に結合する」、「選択的に結合する」及び「特異的に結合する」という用語は、抗体が所定の抗原上のエピトープに結合することを指す。
【0100】
「競合」という用語が、同じエピトープをめぐって競合する抗原結合タンパク質(例えば、中和抗原結合タンパク質又は中和抗体)の文脈で使用される場合、それは抗原結合タンパク質間の競合を意味し、これは、試験対象の抗原結合タンパク質(例えば、抗体又はその抗原結合フラグメント)が、参照抗原結合タンパク質(例えば、リガンド又は参照抗体)の共通抗原に対する特異的結合を阻止又は阻害する(例えば、低減させる)アッセイによって測定される。多数のタイプの競合結合アッセイを使用して、ある抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどうかを測定することができ、これらのアッセイは、例えば、固相直接又は間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接又は間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(例えば、Stahli et al., 1983, Methods in Enzymology 9:242-253を参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Kirkland et al., 1986, J. Immunol. 137:3614-3619を参照)、固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(例えばHarlow and Lane, 1988, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Pressを参照)、I-125標識による固相直接標識RIA(例えばMorel et al., 1988, Molec. Immunol. 25: 7-15を参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えばCheung, et al., 1990, Virology 176: 546-552を参照);及び直接標識RIA(Moldenhauer et al., 1990, Scand. J. Immunol. 32:77-82)である。一般に、このアッセイでは、非標識試験抗原結合タンパク質及び標識参照抗原結合タンパク質に結合することができる精製抗原(抗原は固体表面又は細胞表面上にある)の使用を伴う。競合阻害は、試験対象の抗原結合タンパク質の存在下で、固体表面又は細胞に結合した標識の量を測定することによって測定される。通常、試験対象の抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイによって同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)には、参照抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質;及び参照抗原結合タンパク質の結合エピトープに十分に近い隣接エピトープに結合し、2つのエピトープが立体的に互いの結合を妨げる抗原結合タンパク質が含まれる。競合的結合を測定するために使用される方法に関する追加の詳細は、本明細書の実施例に記載されている。通常、競合抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合、それは、参照抗原結合タンパク質の共通抗原に対する特異的結合のうち、少なくとも40~45%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、又は75%以上を阻害する(例えば、減少させる)。場合によっては、結合は少なくとも80~85%、85~90%、90~95%、95~97%、又は97%以上阻害される。
【0101】
「親和性」という用語は、単一エピトープにおける抗体と抗原間の相互作用の強さを意味する。各抗原部位内で、抗体「アーム」の可変領域は、弱い非共有結合力を介して複数のアミノ酸部位で抗原と相互作用する;その相互作用が大きいほど、親和性は強くなる。本明細書で使用される場合、抗体又はその抗原結合フラグメント(例えばFabフラグメント)の「高親和性」という用語は、一般的にKDが1E-9M以下(例えば、KDが1E-10M以下、KDが1E-11M以下、KDが1E-12M以下、KDが1E-13M以下、KDが1E-14M以下等)の抗体又は抗原結合フラグメントを指す。
【0102】
「KD」又は「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指す。一般的に、抗体は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を用いたBIACORE装置で測定した解離平衡定数(KD)が、約1E-8M未満、例えば約1E-9M未満、1E-10M又は約1E-11M以下の抗原に結合する。KD値が小さいほど、親和性が高い。
【0103】
「核酸分子」という用語は、DNA分子及びRNA分子を指す。核酸分子は、一本鎖又は二本鎖のDNA分子又はRNA分子でもよいが、好ましくは二本鎖のDNA又はmRNAである。核酸が別の核酸配列と機能的関係に置かれると、その核酸は「作動可能に連結している」。例えば、プロモーター又はエンハンサーがコーディング配列の転写に影響を与える場合、プロモーター又はエンハンサーはコーディング配列に作動可能に連結している。
【0104】
「ベクター」という用語は、1つ又は複数の標的遺伝子又は配列を送達することができ、好ましくは宿主細胞内でそれを発現させることができる構築物を意味する。ベクターの例としては、ウイルスベクター、裸のDNA又はRNA発現ベクター、プラスミド、コスミド又はファージベクター、カチオン性凝集剤と会合したDNA又はRNA発現ベクター、リポソームにカプセル化されたDNA又はRNA発現ベクター及び産生細胞などの特定の真核細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
抗体及び抗原結合フラグメントの製造・精製方法は、Antibody Experiment Technical Guide, Cold Spring Harbor, Chapters 5-8 and 15などの先行技術においてよく知られている。例えば、マウスを抗原又はそのフラグメントで免疫し、得られた抗体を復元して精製し、従来の方法を使用してアミノ酸配列決定を行うことができる。抗原結合フラグメントも、従来の方法を使用して調製することができる。本開示による抗体又は抗原結合フラグメントは、非ヒトCDR領域に1つ又は複数のヒトFR領域を付加するように遺伝子操作されている。ヒトFR生殖細胞系配列は、ウェブサイトhttp://www.imgt.org/ <http://www.imgt.org/>から、IMGTヒト抗体可変領域生殖細胞遺伝子データベースとMOEソフトウェアを比較することにより入手することができ、 <http://www.imgt.org/>又はThe Immunoglobulin Facts Book, 2001ISBN012441351から入手することができる。
【0106】
「宿主細胞」という用語は、発現ベクターが導入された細胞を指す。宿主細胞には、細菌、微生物、植物又は動物の細胞が含まれ得る。容易に形質転換できる細菌としては、腸内細菌科のメンバー、例えば大腸菌又はサルモネラ菌株;バシラス科、例えば枯草菌;肺炎球菌;連鎖球菌及びインフルエンザ菌などが挙げられる。適切な微生物には、サッカロミセス・セレビシエ及びピキア・パストリスが挙げられる。適切な動物宿主細胞株には、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、HEK293細胞(HEK293E細胞などの非限定的な例)及びNS0細胞が挙げられる。
【0107】
改変抗体又は抗原結合フラグメントは、従来の方法で調製及び精製することができる。例えば、重鎖及び軽鎖をコードするcDNA配列をクローニングし、GS発現ベクターに組み換えることができる。組換え免疫グロブリン発現ベクターは、CHO細胞を安定してトランスフェクトすることができる。代替となる先行技術として、哺乳動物の発現系は、特にFc領域の高度に保存されたN末端部位において、抗体のグリコシル化をもたらす可能性がある。抗原と特異的に結合する抗体を発現させることで、安定したクローンが得られる。陽性クローンは、バイオリアクターの無血清培地で増殖して抗体を産生する。抗体が分泌された培養液は、従来技法で精製することができる。例えば、精製には、調整された緩衝液を含むプロテインA又はプロテインGセファロースFFカラムを用いる。非特異的に結合した成分は洗い流される。その後、結合した抗体をpHグラジエント法で溶出し、抗体フラグメントをSDS-PAGEで検出して回収する。この抗体を従来の方法で濾過し、濃縮することができる。可溶性混合物及びポリマーも、例えばモレキュラーシーブ及びイオン交換などの従来の方法で除去することができる。得られた生成物は、-70℃などで直ちに凍結するか、凍結乾燥する必要がある。
【0108】
「投与する」、「投与」、「与える」及び「処理する」は、動物、ヒト、実験被験体、細胞、組織、器官又は生体液に適用される場合、外因性医薬品、治療剤、診断薬、組成物又は手動手術(例えば、実施例では「安楽死」)を、動物、ヒト、被験体、細胞、組織、器官又は生体液に提供することを意味する。「与える」及び「処理する」は、例えば、治療、薬物動態、診断、研究及び実験方法を意味し得る。細胞の処理には、試薬を細胞に接触させること、及び試薬を流体に接触させることが含まれ、その際、流体は細胞と接触する。「与える」及び「処理する」は、例えば、試薬、診断、結合組成物によって、又は別の種類の細胞によってin vitro及びex vivoで細胞を処理することも意味する。「処理する」は、ヒト、獣医又は研究対象に適用される場合、治療的処理、予防又は予防措置、研究及び診断用途を意味する。
【0109】
「治療」は、内用又は外用治療剤、例えば本開示の化合物のいずれか1つを含む組成物を、当該治療剤が治療効果を有することが知られている1つ又は複数の疾患症状を有する(又は有することが疑われる、又は罹患しやすい)被験体に与えることを意味する。一般に、治療剤は、治療を受ける患者又は集団の1つ又は複数の疾患症状を緩和するのに有効な量で投与され、そのような症状の退行を誘導するか、そのような症状の発現を臨床的に測定される程度まで抑制する。任意の特定の疾患症状を緩和するのに有効な治療剤の量(「治療有効量」とも呼ばれる)は、様々な要因、例えば患者(又は被験体)の病状、年齢及び体重並びに被験体において所望の治療効果をもたらす医薬の能力などによって異なる場合がある。疾患の症状が緩和されたかどうかは、医師又は他の医療専門家によって一般的に使用されて、症状の重症度又は進行度を評価する任意の臨床試験方法によって評価することができる。本開示の実施形態(例えば、治療方法又は製品)は、各標的疾患症状を緩和する効果はない場合があるが、スチューデントのt検定、カイ二乗検定、マン・アンド・ホイットニーのU検定、クラスカル・ウォリス検定(H検定)、ヨンクヒール・タプストラ検定及びウィルコクソン検定などの当該技術分野で知られている任意の統計的検定方法に従って判断すると、それらは統計的に有意な数の被験体において標的疾患症状を軽減するはずである。
【0110】
「アミノ酸の保存的修飾」又は「アミノ酸の保存的置換」とは、タンパク質又はポリペプチド中のアミノ酸を、同様の特性(例えば、電荷、側鎖のサイズ、疎水性/親水性、主鎖の構造及び剛性等)を有する他のアミノ酸で置換することで、タンパク質又はポリペプチドの生物活性又は他の必要な特性(例えば、抗原親和性及び/若しくは特異性)を変えることなく頻繁な変更を可能にすることを指す。当業者は、一般に、ポリペプチドの非必須領域における単一のアミノ酸置換が生物活性を実質的に変化させないことを知っている(例えば、Watson et al., (1987) Molecular Biology of the Gene, The Benjamin/Cummings Pub. Co., Page 224, (4th edition)を参照)。さらに、類似の構造又は機能を有するアミノ酸の置換は、生物活性を破壊する可能性が低い。例示的なアミノ酸の保存的置換を以下の表に示す:
【0111】
【0112】
「有効量」及び「有効用量」は、1つ又は複数の有益な若しくは所望の治療結果を得るために必要な医薬、化合物又は医薬組成物の量を指す。予防的用途の場合、有益な又は所望の結果には、リスクの排除若しくは低減、重症度の低減又は疾患の生化学的、組織学的及び/若しくは行動学的症状、それらの合併症並びに疾患の発症中に現れる中間的な病理学的表現型を含む疾患の発症の遅延が挙げられる。治療用途の場合、有益な又は所望の結果には、例えば、本開示の様々な標的抗原関連障害の発生率を低減させる、又は障害の1つ若しくは複数の症状を改善する、障害の治療に必要な他の薬剤の用量を低減させる、別の薬剤の治療効果を増強させる、及び/又は被験体における本開示の標的抗原関連障害の進行を遅らせる臨床結果が含まれる。
【0113】
「外因性」とは、状況に応じて生物、細胞又は人体の外部で生成される物質を指す。「内因性」とは、状況に応じて細胞、生物又は人間の内部で生成される物質を指す。
【0114】
「相同性」及び「同一性」は、本明細書では交換可能であり、2つのポリヌクレオチド配列間又は2つのポリペプチド間の配列類似性を指す。比較した2つの配列の位置が同じ塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子の各位置がアデニンによって占められている場合、分子はその位置で相同である。2つの配列間の相同性の割合は、2つの配列に共通して一致する又は相同な位置の数を、比較した位置の数で割った値×100の関数である。例えば、最適な配列アラインメントでは、2つの配列の10の位置のうち6つの一致又は相同性がある場合、2つの配列は60%の相同性を有する;2つの配列の100の位置のうち95の一致又は相同性がある場合、2つの配列は95%の相同性を有する。一般的に、2つの配列をアラインする際には、相同性の割合が最大になるように比較を行う。例えば、BLASTアルゴリズムを用いて比較を行うことができ、この場合、アルゴリズムのパラメータは、各参照配列の全長にわたって各配列間の一致が最大になるように選択される。
【0115】
以下の参考文献は、配列解析によく用いられるBLASTアルゴリズムに関するものである:BLAST ALGORITHMS: Altschul, S.F. et al., (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410; Gish, W. et al., (1993) Nature Genet. 3:266-272; Madden, T.L. et al., (1996) Meth. Enzymol. 266:131-141; Altschul, S.F. et al., (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Zhang, J. et al., (1997) Genome Res. 7:649-656。NCBI BLASTが提供するような他の従来のBLASTアルゴリズムも当業者にはよく知られている。
【0116】
「単離された」とは、元の状態からの分離を意味し、この状態にあるということは、指定の分子が他の生体分子、例えば核酸、タンパク質、脂質、炭水化物又は他の物質、例えば細胞残屑及び増殖培地を実質的に含まないことを意味する。一般に、「単離された」という用語は、本明細書に記載されている化合物の実験的又は治療的使用を著しく妨げる量で存在しない限り、これらの物質が完全に存在しないこと、又は水、緩衝剤若しくは塩が存在しないことを意味するものではない。
【0117】
「任意選択の」又は「任意選択で」とは、後述する事象又は状況が発生する可能性はあるが、必ずしも発生する必要はないことを意味し、本記述には、事象又は状況が発生する場合又は発生しない場合が含まれる。
【0118】
「医薬組成物」は、本開示に記載されている1つ若しくは複数の化合物、又はその生理学的/薬学的に許容される塩若しくはプロドラッグ、並びにその他の化学組成物、例えば生理学的/薬学的に許容される担体及び賦形剤を含む混合物を意味する。医薬組成物の目的は、生物への投与を促進することで、有効成分の吸収を容易にし、それによって生物活性を発揮することである。
【0119】
「薬学的に許容される担体」という用語は、抗体又は抗原結合フラグメントの送達用製剤に使用するのに適した任意の不活性物質を指す。担体は、付着防止剤、結合剤、コーティング剤、崩壊剤、充填剤又は希釈剤、防腐剤(酸化防止剤、抗菌剤若しくは抗真菌剤等)、甘味料、吸収遅延剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝剤等であり得る。適切な薬学的に許容される担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロパンジオール、ポリエチレングリコール等)、デキストロース、植物油(例えばオリーブオイル)、生理食塩水、緩衝剤、緩衝生理食塩水及び等張剤、例えば糖、ポリオール、ソルビトール及び塩化ナトリウムが挙げられる。
【0120】
さらに、本開示の別の態様は、標的抗原を特異的に認識して結合する本開示のモノクローナル抗体又は抗体フラグメントを有効成分として含む、標的抗原陽性細胞に関連する疾患を診断するための、標的抗原の免疫検出又は判定方法、標的抗原の免疫検出又は判定試薬、標的抗原を発現する細胞の免疫検出又は判定方法及び診断薬に関するものである。
【0121】
本開示において、標的抗原の量を検出又は測定するために用いられる方法は、任意の既知の方法であり得る。例えば、免疫検出又は測定方法が挙げられる。
【0122】
免疫検出法又は測定方法は、標識された抗原若しくは抗体を用いて、抗体若しくは抗原の量を検出又は測定する方法である。免疫検出又は測定方法の例としては、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素イムノアッセイ(EIA又はELISA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、発光イムノアッセイ、ウェスタンブロッティング、物理化学的方法等が挙げられる。
【0123】
本開示のモノクローナル抗体又は抗体フラグメントを用いて、標的抗原を発現している細胞を検出又は測定することにより、標的抗原陽性細胞に関連する前述の疾患を診断することができる。
【0124】
ポリペプチドを発現している細胞を検出するために、既知の免疫検出法を用いることができ、好ましくは、免疫沈降法、蛍光細胞染色法、免疫組織化学的染色法などを用いる。さらに、FMAT8100HTSシステム(Applied Biosystem社製)を利用した蛍光抗体染色法を用いることもできる。
【0125】
本開示において、標的抗原の検出又は測定に用いる生サンプルは、標的抗原を発現する細胞を含む可能性のあるものであれば特に限定されず、例えば、組織球、血液、血漿、血清、膵液、尿、糞便、組織液又は培養液などが挙げられる。
【0126】
必要な診断方法によれば、本開示のモノクローナル抗体又はその抗体フラグメントを含む診断薬は、抗原抗体反応を行うための試薬又は反応を検出するための試薬も含み得る。抗原抗体反応を行うための試薬としては、緩衝剤、塩等が挙げられる。検出に用いる試薬としては、免疫検出法又は測定法に一般的に用いられる試薬、例えば、モノクローナル抗体、その抗体フラグメント又はそのコンジュゲートを認識する標識された二次抗体及びその標識に対応する基質等が挙げられる。
【0127】
「がん」及び「がん性」という用語は、一般的に無秩序な細胞成長/増殖を特徴とする哺乳動物の生理的状態を指す、又は説明する。本開示の二重特異性結合分子で治療することができるがんの例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病が挙げられるが、これらに限定されない。US2008/0014196においてVEGFアンタゴニストでの治療が示唆されているこれらのがんのより具体的な例としては、扁平上皮細胞癌、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん、肺扁平上皮細胞癌、腹膜がん、肝がん、消化管がん、膵臓がん、膠芽細胞腫、子宮頸がん、卵巣がん、膀胱がん、肝がん、乳がん、結腸がん、大腸がん、子宮内膜がん又は子宮体がん、唾液腺がん、腎臓がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝がん、胃がん、黒色腫、皮膚がん及び各種頭頸部がんが挙げられる。血管新生の異常な制御は、本開示の組成物及び方法によって治療することができる多くの状態をもたらし得る。これらの状態には、非腫瘍性症状と腫瘍性症状の両方が含まれる。腫瘍性症状には前述の症状が含まれるが、これらに限定されない。
【0128】
非腫瘍性状態には、US2008/0014196に記載されているようなVEGFアンタゴニストで治療される以下の状態が含まれるが、これらに限定されない:望ましくない又は異常な肥大、関節炎、リウマチ性関節炎(RA)、乾癬、乾癬性プラーク、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化症、アテローム性動脈硬化性プラーク、糖尿病性及びその他の増殖性網膜症(未熟児網膜症、水晶体後線維増殖症、血管新生緑内障、加齢黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫、角膜血管新生、角膜移植片血管新生、角膜移植片拒絶反応、網膜/脈絡膜血管新生、虹彩角膜血管新生(ルベオーシス)、眼球血管新生疾患、血管再狭窄、動静脈奇形(AVM)、髄膜腫、血管腫、血管線維腫、甲状腺過形成(バセドウ病を含む))、角膜及びその他の組織の移植、慢性炎症、肺炎、急性肺損傷/ARDS、敗血症、原発性肺高血圧症、悪性肺滲出液、脳浮腫(例えば、急性脳梗塞/閉鎖性頭部外傷/外傷に関連するもの)、滑膜炎、関節リウマチ(RA)のパンヌス形成、骨化性筋炎、肥大性骨形成、変形性関節症(OA)、難治性腹水、多嚢胞性卵巣疾患、子宮内膜症、体液のサードスペーシング疾患(膵炎、コンパートメント症候群、熱傷及び腸疾患)、子宮筋腫、早産、IBD(クローン病及び潰瘍性大腸炎)などの慢性炎症、腎同種移植片拒絶反応、炎症性腸疾患、ネフローゼ症候群、望ましくない又は異常な組織増殖(非がん性)、血友病性関節、肥厚性瘢痕、発毛抑制、オスラー・ウェーバー症候群、化膿性肉芽腫水晶体後線維増殖症、強皮症、トラコーマ、血管癒着、滑膜炎、皮膚炎、子癇前症、腹水、心嚢液貯留(例えば、心膜炎に関連する心嚢液貯留)並びに胸水。本開示は、実施例と組み合わせて以下にさらに説明されるが、これらの実施例は本開示の範囲を限定するものではない。本開示の実施例において具体的な条件を指定していない実験方法は、通常、Antibodies: A Laboratory Manual and Molecular Cloning Manual, Cold Spring Harborなどの従来の条件に従うものであるか;又は原料若しくは商品のメーカーが推奨する条件に従うものである。具体的なの供給源が明記されていない試薬は、市場で購入した従来試薬である。
【0129】
(実施例1.ANG2及びANG2受容体Tie2の発現)
ヒトIgG1-Fcタグ付きのヒトANG2及びヒトANG2受容体Tie2の細胞外領域をコードする配列をphrベクターに挿入して発現プラスミドを構築し、これをHEK293にトランスフェクトした。具体的なトランスフェクション工程は以下の通りである:トランスフェクションの1日前に、HEK293E細胞をfreestyle発現培地(1%FBS含有、Gibco、12338-026)に1×106/mlで播種し、37℃の恒温シェーカー(120rpm)に乗せて24時間連続培養した。24時間後、トランスフェクションプラスミド及びトランスフェクション試薬PEIを0.22μmフィルターで滅菌した後、トランスフェクションプラスミドを100μg/100ml細胞に調整し、PEI(1mg/ml)とプラスミドの質量比を2:1とした。Opti-MEM10ml及び200μgのプラスミドを取り、よく混合して5分間静置した;さらにOpti-MEM10ml及び400μgのPEIを取り、よく混合して5分間静置した。プラスミド及びPEIをよく混合し、15分間静置した。プラスミド及びPEIの混合液を200mlのHEK293E細胞にゆっくりと加え、8%CO2、120rpm、37℃のシェーカーに載せて培養した。トランスフェクション3日目に、培養液に10%容量の補助培地(20mMグルコース+2mM L-グルタミン酸)を補充した。トランスフェクション6日目までサンプルを採取し、4500rpmで10分間遠心分離して細胞上清を回収した。組換えANG2又はTie2受容体タンパク質を含む上清を、実施例2に記載のように精製した。精製したタンパク質は、以下の実施例又は試験例で使用することができる。
【0130】
その中でも、ヒトANG2のアミノ酸配列は配列番号1に示す通りであり、Tie2細胞外領域Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は配列番号2に示す通りである。
【0131】
関連する配列は以下の通りである:
・ ヒトFcタグ付きヒトANG2のアミノ酸配列
【化7】
注:下線部はANG2タンパク質の全長配列を表し、点線はリンカーを表し、イタリック体部分はヒトIgG1Fcタグを表す。
(2)ヒトFcタグ付きTie2のアミノ酸配列
【化8】
注:下線部はTie2の細胞外領域を表し、イタリック体部分はヒトIgG1 Fcタグを表す。
【0132】
(実施例2.プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによるFcタグ付き組換えタンパク質又は抗体の精製)
細胞で発現した抗体又はANG2及びTie2の上清サンプルを高速で遠心分離して不純物を除去し、プロテインAカラムで精製した。A280の読み取り値がベースラインに下がるまでPBSでカラムを洗浄した。標的タンパク質を100M酢酸緩衝液(pH3.5)で溶出し、1Mトリス-HCl(pH8.0)で中和した。溶出したサンプルを適切に濃縮し、PBS平衡化ゲルクロマトグラフィーSuperdex200(GE)を用いてさらに精製した。電気泳動、ペプチドマップ及びLC-MSを経て、得られたタンパク質を正しいものと同定し、後で使用するために分注した。
【0133】
(実施例3.組換えANG2受容体Tie2を発現する細胞株の構築及び同定)
本開示では、機能性抗体のスクリーニング用に、Tie2を発現するCHO-K1/Tie2細胞株を構築した。
【0134】
ヒトTie2完全長遺伝子を哺乳動物細胞発現ベクターpBABEにクローニングした。HEK293T細胞(ATCC、CRL-3216)に3つのプラスミドpVSV-G、pGag-pol及びpBABE-Tie2をコトランスフェクトし、ウイルスをパッケージ化した。トランスフェクションから48時間後、ウイルスを回収してCHOK1細胞(ATCC、CRL-9618)に感染させた。
【0135】
感染から72時間後、10μg/mlのピューロマイシンを用いて加圧下で選択した。コロニーを拡大・増殖させた後、細胞を消化し、FACSで発現量を検出した。陽性率は約40%であり、その後モノクローナル細胞を選別し、Tie2を発現する単一クローン1B11を得た。
【0136】
(実施例4.抗ヒトANG2単一ドメイン抗体の調製及びスクリーニング)
本開示では、ラマを免疫して免疫ライブラリーを得た後、その免疫ライブラリーを濃縮し、ヒトANG2に対するラマ由来モノクローナル抗体をスクリーニングした。得られた抗体は、ANG2に特異的に結合することができ、cyno及びマウスAng2と交差反応性を示し、ANG2とその受容体との結合を阻害することができ、ANG2を介したTie2のリン酸化を阻害することができる。
【0137】
具体的には、フロイントアジュバントと混合したヒトAng2-Fcタンパク質でのラマの免疫を、1回の免疫に250μgのタンパク質を使用して、3週間に1回行った。合計4回の免疫後、200mlの血液を採取してPBMCを分離し、PBMCから全RNAを抽出してcDNAに逆転写し、このcDNAを鋳型として使用して抗体遺伝子配列を増幅した。この抗体遺伝子を制限酵素消化及びライゲーションによりファージミドベクターに連結し、TG1コンピテント細胞に電気形質転換した。5nM及び2nMのビオチン-hAng2-His(sinobiological、10691-H07H)による2回の濃縮後、濃縮したライブラリを、ヒトANG2へのELISA結合(試験例1を参照)、ANG2及びTie2の結合の遮断(試験例2、試験例3を参照)、並びにマウスANG2との交差結合(試験例1を参照)によってスクリーニングした。優れた活性を有する様々な単一ドメイン抗体、例えばナノ14及びナノ15をスクリーニングし、それらの具体的な配列を、それぞれ配列番号3及び配列番号4に示す。
ラマ由来単一ドメイン抗体ナノ14
【化9】
ラマ由来単一ドメイン抗体ナノ15
【化10】
【0138】
本開示におけるラマ由来単一ドメイン抗体のCDR配列は、Kabat基準によって決定され、アノテーションされたものであり、その具体的な配列を表1に記載する。
表1.ラマ由来抗体のCDR領域配列
【表2】
【0139】
(実施例5.抗ヒトANG2単一ドメイン抗体のCDR変異及びヒト化)
(1.CDR変異の設計)
単一ドメイン抗体ナノ14のCDR2を変異させ、以下に示すような新しいCDR2配列を含む単一ドメイン抗体ナノ14.1及びナノ14.2を得た。
表2.変異後に得られた単一ドメイン抗体のCDR配列(Kabat基準によって決定)
【表3】
【0140】
変異後に得られたナノ14.1及びナノ14.2の完全長配列は、以下の通りである:
ラマ ナノ14.1:
【化11】
ラマ ナノ14.2:
【化12】
【0141】
以上のことから、本開示における抗ANG2単一ドメイン抗体のCDR配列は非常に類似していることが分かり、その一般式配列は以下の通りである:
【表4】
表3.ラマ単一ドメイン抗体のCDR一般式
【0142】
得られたラマ抗ANG2単一ドメイン抗体の一般式は以下の通りである:
【化13】
ここで、X
1はD又はSから選択される;X
2はF又はYから選択される;X
3はG又はAから選択される;X
4はS又はTから選択される;X
5はT又はNから選択される;X
6はW又はSから選択される;X
7はN、G又はSから選択される;X
8はR又はSから選択される;X
9はY又はGから選択される;X
10はD又はNから選択される、及びX
11はV又はLから選択される。
【0143】
(2.ラマ由来抗ヒトANG2単一ドメイン抗体のヒト化)
ラマ由来抗体の免疫原性を低下させるために、本開示では、優れたin vivo及びin vitro活性を有するスクリーニングされた抗体をヒト化した。
【0144】
ラマ由来抗ヒトANG2単一ドメイン抗体のヒト化は、当該技術分野の多くの文献に掲載されている方法に従って行った。簡潔に言えば、ラクダ由来単一ドメイン抗体は重鎖可変領域を1つしか持たないため、それらのCDRを最も相同性の高いヒト重鎖鋳型に移植し、同時にFR領域に復帰突然変異を施した。「移植」とは、ラマ由来抗体のCDR領域を鋳型配列のFRに移植することを表し、復帰突然変異の位置はKabat基準に従って決定した。
【0145】
(2.1 ナノ14のヒトFR領域の選択及び主要アミノ酸の復帰突然変異)
ナノ14のVHの鋳型としてIGHV3-23*04を選択し、J領域の鋳型としてIGHJ6*01を選択した(FR4)。ナノ14のCDRをヒト鋳型に移植し、MOEソフトウェアを用いて埋め込み残基及びCDR領域と直接相互作用する残基を見つけ、復帰突然変異を起こし、表4に示すように異なる重鎖可変領域を持つヒト化抗体を設計した。
【表5】
注:例えば、A93Nは、Kabat基準に従い、93位のAがNに変異したことを表す。移植は、ラマ抗体のCDRがヒト生殖細胞系列のFR領域配列に移植されたことを表す。
【0146】
ラマ抗ANG2ナノ14抗体のヒト化後に得られた抗体配列は以下の通りであり、CDR領域のアミノ酸残基の決定はKabat基準によって決定され、アノテーションされたものである。
【化14】
【0147】
前述のVHHを、配列番号31に示すラニビズマブ重鎖可変領域+IgG1重鎖定常領域のC末端に融合させ、二重特異性抗体の重鎖を形成した。
【0148】
(2.2 ナノ15のヒトFR領域の選択及び復帰突然変異)
ナノ15のVHの鋳型としてIGHV3-23*04を選択し、J領域の鋳型としてIGHJ6*01を選択した(FR4)。ナノ15のCDRをヒト鋳型に移植し、MOEソフトウェアを用いて埋め込み残基及びCDR領域と直接相互作用する残基を見つけ、復帰突然変異を起こし、表5に示すように異なる重鎖可変領域を持つヒト化抗体を設計した。
【表6】
注:例えば、A93Nは、Kabat基準に従い、93位のAがNに変異したことを表す。移植は、ラマ抗体のCDRがヒト生殖細胞系列のFR領域配列に移植されたことを表す。
【0149】
ヒト化ナノ15抗体の可変領域の具体的な配列は以下の通りである:
【化15】
【0150】
ヒト化後に得られた単一ドメイン抗体の完全長一般式配列は以下の通りである:
【化16】
ここで、X
1はD又はSから選択される;X
2はF又はYから選択される;X
3はG又はAから選択される;X
4はS又はTから選択される;X
5はT又はNから選択される;X
6はW又はSから選択される;X
7はN、G又はSから選択される;X
8はR又はSから選択される;X
9はY又はGから選択される;X
12はV又はQから選択される;X
13はS又はNから選択され、X
14はR又はKから選択され、X
15はA又はPから選択され、X
16はA又はNから選択され、X
17はK又はAから選択される。
【0151】
(実施例6.抗VEGF/ANG2二重特異性抗体の調製及び同定)
本開示の二重特異性抗体中に存在する抗VEGF抗体は、アバスチン、RAZUMAB(Axxiom社)、GNR-011(Affitech A/S)、R-TPR-024(Reliance Life Sciences Grou)、ラムシルマブ(ImClone Systems)などの、VEGFに対する任意の現在入手可能な抗体であってよい。例示的な抗体は、Genentech社のFab抗体ラニビズマブ(ルセンティス)であり、その軽鎖可変領域配列は配列番号28に示す通りである(WO1998045332又はCAS登録番号:347396-82-1を参照)。抗VEGF抗体の重鎖は、ラニビズマブの重鎖可変領域(配列番号30に示す、WO1998045332を参照)とヒトIgG1定常領域を組み合わせて形成された完全IgG1重鎖であり、末端のKはGに変異している。その具体的な配列は配列番号31に示す通りである。関連する配列は以下の通りである:
(1)ラニビズマブの軽鎖可変領域
【化17】
(2)ラニビズマブの軽鎖
【化18】
(3)ラニビズマブの重鎖可変領域
【化19】
(4)ラニビズマブの重鎖可変領域+IgG1定常領域(重鎖)
【化20】
(5)ラニビズマブの重鎖可変領域+IgG1定常領域バリアント(重鎖)
【化21】
注:順序は、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4である。配列中、イタリック体はFR配列を表し、下線はCDR配列を表し、点線は定常領域配列を表す。
【表7】
【0152】
本開示の抗ANG2単一ドメイン抗体のN末端アミノ酸を、相同組換え技術を用いて、抗VEGF抗体重鎖のC末端アミノ酸に直接的に(ペプチド結合を介して)又はリンカー(GGなど)を介して間接的に接続し、従来は293発現系を介して発現させて、二重特異性抗体を得た。
図1に二重特異性抗体の概略構造を示す。
【表8】
*注:Abは、任意の種類の抗VEGF抗体であり得る。
【0153】
抗ANG2単一ドメイン抗体は、抗VEGF抗体の重鎖のアミノ末端若しくはカルボキシル末端、又は抗VEGR抗体の軽鎖のアミノ末端に接続することができる。抗ANG2単一ドメイン抗体を抗VEGF抗体の重鎖のカルボキシル末端に接続して得られた二重特異性抗体は、より良好な安定性を持つことが確認されている。
【0154】
例として、異なる抗ANG2単一ドメイン抗体を、アミノ末端でラニビズマブの重鎖のカルボキシル末端に、(G)
n(n>=1)リンカーなどのリンカーを介して接続し、以下の二重特異性抗体を形成した。
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【表9-4】
【表9-5】
【表9-6】
【表9-7】
注:第1鎖の順序は、ラニビズマブFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4-CH-リンカー-単一ドメイン抗体FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4である。配列中、通常の書式部分はラニビズマブの可変領域のFR配列を表し、波状の下線はラニビズマブのCDR配列を表し、点線はIgG1重鎖の定常領域配列を表し、二重下線はリンカーを表し、イタリック体部分は単一ドメイン抗体配列を表し、下線はCDR配列を表す。
【0155】
実施例2の精製方法によれば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーを用いた精製により、純度>98%の二重特異性抗体分子を得ることができる。
【0156】
同時に、Roche社のVEGF/ANG2二重特異性抗体クロスマブ(バヌシズマブ)を陽性対照として使用し、その配列は配列番号48及び配列番号49、配列番号50及び配列番号51に示す通りである(WHO Drug Information, Vol. 29, No. 1, 2015を参照)。さらに、アバスチンを陽性対照として使用し、その重鎖配列は配列番号52に示す通りであり、軽鎖配列は配列番号53に示す通りである(CAS登録番号:216974-75-3を参照)。
>クロスマブ抗ANG2重鎖
【化22】
>クロスマブ抗ANG2軽鎖
【化23】
>クロスマブ抗VEGF重鎖
【化24】
>クロスマブ抗VEGF軽鎖
【化25】
注:下線は可変領域配列を表し、それ以外は定常領域配列を表す。
>アバスチン重鎖
【化26】
>アバスチン軽鎖
【化27】
>RG7716(CN105143262AのVEGFang2-0016を参照して調製):
抗VEGF重鎖(Knob)
【化28】
抗Ang2重鎖(Hole)
【化29】
抗VEGF軽鎖
【化30】
抗Ang2軽鎖
【化31】
【0157】
さらに、本開示で用いられる陰性対照(NC)とは、HIVに対するIgG型モノクローナル抗体を指す。
【0158】
(In vitro活性の生物学的評価)
(試験例1.ANG2及びその同族タンパク質であるANG1に対するANG2抗体の親和性のELISA判定)
(1)ヒトANG2-His結合ELISA
プレートにストレプトアビジン(abcam、ab123480)を1ng/μlの濃度で1ウェルあたり100μl、4℃で一晩コーティングした後、その上清を除去した。250μlの5%脱脂粉乳を加えて37℃で1時間ブロッキングした後、プレートを洗浄機で3回洗浄した。0.5ng/μlのビオチン-hAng2-His(sinobiological、10691-H07H)を加え、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄機で3回洗浄し、100μlの1:1希釈ファージ上清を加え、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄機で3回洗浄し、1:10000に希釈した抗M13-HRP(GE、27-9421-01)100μlを各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄機で3回洗浄した後、100μlのTMBを各ウェルに加えて発色させた。5~10分後、100μlの1M H
2SO
4を各ウェルに添加して発色を停止させ、マイクロプレートリーダーでOD450値を測定した。その結果を
図2Aに示す。
【0159】
(2)ANG1結合ELISA
プレートにヒトANG1(RD、923-AN)を1ng/μlの濃度で1ウェルあたり100μl、4℃で一晩コーティングした。上清を除去し、250μlの5%脱脂粉乳を加えて37℃で1時間ブロッキングした。プレートを洗浄機で3回洗浄し、100μlの1:1希釈ファージ上清を加え、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄機で3回洗浄し、1:10000に希釈したM13-HRP100μlを各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄機で3回洗浄し、100μlのTMBを各ウェルに加えて発色させた。5~10分後、100μlの1M H
2SO
4を各ウェルに添加して発色を停止させ、マイクロプレートリーダーでOD450値を測定した。その結果を
図2Bに示す。
【0160】
結果は、ナノ14及びナノ15がヒトANG2に対して非常に強い結合能力を示すが、ヒトANG1には結合しないため、良好な選択性を有することを示した。
【0161】
(試験例2.異なる種のVEGF/ANG2とのVEGF/ANG2二重特異性抗体の親和性のBiacore測定)
ヒト、cyno及びマウスVEGF並びにANG2に対する試験対象のヒト化VEGF/ANG2二重特異性抗体の親和性を、Biacore T200(GE)装置を用いて測定した。
【0162】
これら抗体をプロテインAバイオセンサーチップを用いてアフィニティキャプチャーした後、それらの抗原、すなわちヒトVEGF(R&D、293-VE)、cyno VEGF(sinobiological、11066)、マウスVEGF(sinobiological、51059)、ヒトANG2(sinobiological、10691-H08H)、cyno ANG2(sinobiological、90026-C07H)及びマウスANG2(sinobiological、50298-M07H)をチップ表面に流した。反応シグナルをBiacore T200装置を用いてリアルタイムで検出し、結合曲線及び解離曲線を得た。各実験サイクルの解離が完了した後、バイオセンサーチップを洗浄し、10mMグリシン-HCl再生緩衝液(pH1.5)で再生した。BIA評価バージョン4.1、GEソフトウェアを用いてデータを(1:1)Langmuirモデルに当てはめ、表9に示すように、親和性の値を得た。
【表10】
【0163】
結果は、hu15.E-V及びhu14.2B-Vが、試験した全ての種のVEGF(マウスVEGFを除く)及びANG2と比較的高い親和性を有することを示している。
【0164】
(試験例3.ANG2のTie2受容体への結合を遮断する抗体のELISAベースの実験)
ANG2は、血管内皮細胞の表面にあるANG2受容体Tie2に結合し、Tie2細胞のチロシンキナーゼのリン酸化を誘発し、血管内皮細胞から末梢細胞を剥離させるシグナルを伝達し、血管を不安定で増殖しやすい状態にする。したがって、ANG2とTie2の結合を抗体で遮断することで、血管をより安定させ、新生血管を抑制することができる。この実験の同定結果は、二重特異性抗体が、組換え発現したTie2タンパク質の細胞外ドメインへのANG2の結合を遮断できることを示している。
【0165】
具体的方法:ELISAプレートにTie2-Fc(配列番号2、PBSに溶解した3μg/ml、100μl/ウェル)を4℃で一晩コーティングした後、コーティング溶液を除去し、PBSで希釈した5%脱脂粉乳ブロッキング溶液を200μl/ウェル添加し、37℃のインキュベーターで2時間インキュベートしてブロッキングを行った。ブロッキングが完了した後、ブロッキング溶液を廃棄し、プレートをPBST緩衝液(0.05%tween-20を含むPBS、pH7.4)で5回洗浄した。次に、1%BSAで希釈したビオチン標識キット(同仁化学研究所、LK03)で標識したhuANG2-Fc(配列番号1、bio-huANG2-Fc、最終濃度0.15μg/ml)50μlと、試験対象抗体50μl(初期濃度10μg/ml、3倍段階希釈)を加えた。この溶液をよく混合した後、37℃で15分間インキュベートし、ELISAプレートに添加し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションが完了した後、ELISAプレート内の反応液を廃棄し、プレートをPBSTで5回洗浄した。その後、1:4000に希釈したストレプトアビジン-ペルオキシダーゼポリマー(Sigma、S2438-250UG)を100μl/ウェル添加し、37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄した後、TMB発色基質(KPL、52-00-03)を100μl/ウェル添加し、室温で3~10分間インキュベートし、1M H
2SO
4を100μl/ウェル添加して反応を停止させた。NOVOStarマイクロプレートリーダーを用いて450nmの吸収値を読み取り、ANG2とTie2の結合を遮断する抗体のIC50値を算出した。結果は、ANG2単一ドメイン抗体及び二重特異性抗体の両方が、ANG2とTie2の結合を強力に阻害できることを示している(表10及び表11を参照)。
【表11】
【表12】
【0166】
(試験例4.ANG2とTie2の結合を遮断する二重特異性抗体のFACSベースの実験)
選択した二重特異性抗体が細胞表面のTie2受容体を遮断できることを確認するために、Tie2を高度に発現するCHOK1組換え細胞株を構築した。この実験により、二重特異性抗体が、CHOK1細胞株の表面にある組換えTie2へのANG2の結合を遮断できることが確認された。
【0167】
具体的な方法は以下の通りである:
細胞実験中、2%FBSを含むPBSを実験緩衝液として使用した。安定的にトランスフェクトされTie2を過剰発現する株CHO-Tie2#1B11を消化して再懸濁した後、細胞を2%FBS/PBSで1回洗浄し、再懸濁し、密度を2.0×10
6細胞/mlに調整し、細胞を96ウェル丸底培養プレートに50μl/ウェルで、すなわち1.0×10
5細胞/ウェルでプレーティングした。Bio-huANG2-Fc、抗体及び陰性対照をそれぞれ2%FBS/PBSで希釈し、等量ずつ十分に混合した。37℃で15分間インキュベートした後、50μlの抗原-抗体混合物を細胞懸濁液に加えた。混合系のbio-huANG2-Fcの最終濃度は0.20μg/mlであり、試験した抗体の初期濃度を3倍段階希釈で10nMとした。この混合液を4℃で1時間インキュベートした。細胞を200μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。1:1000に希釈したPE-ストレプトアビジン(BD Pharmingen、Cat# 554061)を100μl/ウェルで添加し、4℃で40分間インキュベートした。細胞を200μl/ウェルのPBSで2回洗浄した。2%FBS/PBSを100μl/ウェルで加えて細胞を再懸濁した後、フローサイトメーターで検出し、1ウェルあたり10,000個の細胞のデータを解析した。ANG2とTie2の結合を遮断する二重特異性抗体のIC50値を、蛍光シグナル値に応じて算出した。結果は
図3の通りである。
【0168】
結果は、抗体hu15.E-V及びhu14.2B-Vが細胞表面のTie2へのANG2の結合を遮断する能力が、陽性抗体よりもそれぞれ強いことを示している。
【0169】
(試験例5.ANG2誘導性Tie2リン酸化を阻害する二重特異性抗体)
ANG2は、血管内皮細胞の表面に存在するANG2受容体Tie2に結合し、Tie2細胞のチロシンキナーゼのリン酸化を誘発し、血管内皮細胞から末梢細胞を剥離させるシグナルを伝達することで、血管を不安定で増殖しやすい状態にする。この実験は、二重特異性抗体がANG2誘導性Tie2リン酸化を阻害できることを確認するためのものであった。
【0170】
具体的な実験方法は以下の通りである:
安定的にトランスフェクトされhuTie2を過剰発現する株CHO-Tie2#1B11-1を消化して再懸濁した後、その密度を完全培地で2.5×10
5細胞/mlに調整し、細胞を96ウェル培養プレートに100μl/ウェルで、すなわち2.5×10
4細胞/ウェルでプレーティングした。4~5時間後に培地を交換し(DME/F-12、HyClone、Cat#SH30023.01+0.1%BSA+20μg/mlピューロマイシン、Gibco、Cat# A1113803)、細胞を一晩飢餓状態にした。プレートに4.0μg/mlの抗huTie2キャプチャー(R&D Systems、Cat# DYC2720E)を100μl/ウェルで、室温で一晩かけてコーティングした。コーティング溶液を除去し、プレートを1%BSA+0.05%NaN
3ブロッキング溶液で、250μl/ウェルで、室温で2時間かけてブロッキングした。25μlのhuAng2-Fc(最終濃度2.5μg/ml)と、3倍段階希釈した試験対象抗体25μl(最大濃度50.0nM)を等量ずつ混合し、37℃で15分間インキュベートした。その後、Na
3VO
4(1.0mM、Sigma、Cat# S6508)を加えてよく混合した。細胞を一晩培養し、培養上清50μlを廃棄し、調製した抗原抗体混合物50μlを加え、37℃で10分間インキュベートした。細胞を200μl/ウェルの洗浄液(PBS+2.0mM Na
3VO4)で2回洗浄し、90μlの溶解緩衝液((1倍溶解緩衝液+10μg/mlロイペプチンヘミ硫酸塩(Tocris、Cat# 1167)+10.0μg/mlアプロチニン(Sigma、Cat# SRE0050))を加えて、氷上で10~15分かけて細胞を溶解した。細胞溶解物を4000gで5分間遠心分離して回収し、遮断したELISAプレートに加え、室温で2時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄した。1:1000に希釈した二次抗体抗PY-HRP(R&D Systems、Cat# DYC2720E)を加え、室温で1~2時間インキュベートした。プレートをPBSTで5回洗浄した。TMBで15~30分発色させた後、1M H
2SO
4で停止させた。Versa Maxマイクロプレートリーダーを用いてOD450を読み取り、IC50を算出した。結果(
図4を参照)は、抗体hu15.E-V及びhu14.2B-Vが、ANG2媒介性Tie2リン酸化を阻害する非常に強い能力を有することを示している。
【0171】
(試験例6.VEGF誘導性VEGFRリン酸化を阻害する二重特異性抗体)
VEGFは、血管内皮細胞に存在するVEGFRに結合して、VEGFR細胞内のキナーゼをリン酸化し、内皮細胞の増殖を促進して新しい血管を形成することで、腫瘍細胞の増殖及び転移を促進する。この実験は、二重特異性抗体がVEGF誘導性VEGFRリン酸化を阻害できることを確認するためのものであった。
【0172】
具体的には:HUVEC細胞(PromoCell/MT-Bio、C-12205)を消化した後、その細胞密度を完全培地で1.5×10
5細胞/500μlに調整し、細胞を24ウェルプレートに1ウェルあたり500μlずつ添加した。37℃のインキュベーターで一晩培養した後、培地を廃棄した。細胞を500μlの氷冷DPBS(Gibco、14190-250)で1回洗浄し、0.1%BSAを含む最小培地200μlを各ウェルに加えて30分間飢餓培養した。試験対象抗体を最小培地で10nM、1nM及び0.1nMに希釈した(クロスマブは20nM、2nM及び0.2nM)。VEGF(R&D system、Cat#293-VE)を、最小培地で400ng/mlに希釈した。希釈したVEGFと抗体を同量ずつ取り、よく混合し、200μlの混合液を培養プレートの対応するウェルに加え、37℃で5分間インキュベートした。4倍溶解緩衝液#1(cisbio、63ADK041PEG)をdd H
2Oで1倍に希釈した。ブロッキング溶液を1倍溶解緩衝液で100倍に希釈し、溶解溶液を調製した。細胞培養プレートを取り出し、その中の培地を廃棄した。500μlの氷冷PBSを加え、少し振ってから廃棄した。調製した溶解緩衝液50μlを直ちに加え、プレートをシェーカーに乗せて、室温で30分間インキュベートした。2400gで10分間遠心分離して上清を回収した。上清中のp-VEGFRの検出には、ホスホ-VEGFR2(Tyr1175)キット(cisbio、63ADK041PEG)を用いた。検出方法は以下の通りである:10μlのホスホ-VEGFR2(Tyr1175)d2抗体を取り、200μlの検出用緩衝液を加えて作業溶液を調製した。10μlのホスホ-VEGFR2(Tyr1175)クリプテート抗体を取り、200μlの検出用緩衝液を加えて作業溶液を調製した。d2抗体作業溶液とクリプテート抗体作業溶液を等量ずつ混合した。細胞溶解液16μl、及びd2抗体とクリプテート抗体との混合液4μlをHTRF 96ウェルマイクロタイタープレートに加え、封入膜でプレートを封入し、遠心分離機で1分間遠心分離した後、室温で4~24時間、暗所でインキュベートした。波長340nmで励起し、波長665nm及び620nmで放出された蛍光値を、PHERAstar多機能マイクロプレートリーダーを用いて読み取った。データ処理:比率=シグナル665nm/シグナル620nm×10000、Graphpad Prism 5を用いてヒストグラムをプロットした。結果は
図5の通りである。
【0173】
結果は、hu15.E-V及びhu14.2B-Vが、VEGFによって引き起こされるHUVEC細胞におけるリン酸化VEGFRレベルの上昇を有意に抑制できることを示している。
【0174】
(試験例7.VEGF誘導性HUVEC増殖を阻害する二重特異性抗体)
VEGFは、HUVECに存在するVEGFRに結合して、VEGFR細胞内のキナーゼをリン酸化し、HUVECの増殖を促進する。この実験は、二重特異性抗体がVEGF誘導性HUVEC増殖を阻止できることを確認するために利用した。
【0175】
具体的な方法は以下の通りである:
T75細胞フラスコにHUVECを5×10
4細胞/mlの密度で播種し、細胞を約2~3日で対数増殖期まで増殖させた。対数増殖期のHUVEC細胞を0.08%トリプシンにより室温で約1~2分消化し、10%FBSを加えて消化を停止させた。消化したHUVECを回収し、800rpm/分で5分間遠心分離し、PBSで3回洗浄し、HUVECの増殖を刺激し得る培地中のサイトカインを除去した(800rpm/分、5分間遠心分離)。このHUVEC細胞を6%FBS培地に再懸濁した。細胞の計数後、細胞を白色96ウェル細胞培養プレートに4000細胞/50μl/ウェルで播種し、インキュベーターで2時間培養した。VEGFを初期濃度が300ng/mlになるように調整し、滅菌した96ウェルプレートに120μl/ウェルで添加した。試験対象抗体は、600nMの初期濃度から4倍段階希釈で段階希釈し、上記96ウェルプレートに等量ずつ添加し、室温で30分間インキュベートした。インキュベーション後、付着したHUVEC細胞に、抗体と抗原の混合物を100μl/ウェル添加し、インキュベーターで5日間培養した。培養が終了した後、CellTiter-Glo(登録商標)(G7573、PROMEGA)を50μl/ウェルで添加し、室温で10分間、暗所でインキュベートし、Cytation5細胞イメージャーのLuminescenceプログラムを用いて検出した。その結果は
図6の通りである。結果は、hu15.E-V及びhu14.2B-Vが、VEGFによって引き起こされるHUVECの増殖を有意に抑制できることを示している。
【0176】
(In vivo活性の生物学的評価)
(試験例8.COLO205腫瘍を移植されたヌードマウスにおける二重特異性抗体のin vivo有効性)
この実験では、ヒト結腸がん細胞COLO205を移植されたヌードマウスに腹腔内注射した後のANG2/VEGF二重特異性抗体及び対照抗体アバスチンの有効性を評価した。
【0177】
Balb/cヌードマウス(SPF、16~18g、♀)を、Beijing Vital River Laboratory Animal Technology株式会社から購入した。Colo205細胞(ATCC(登録商標)CCL-222(商標))を100匹のBalb/cヌードマウスの右肋骨に3×106細胞/マウス/100μlで皮下接種した。担がんマウスの腫瘍体積が約120mm3に達した時点で、マウスを無作為に4グループに分けた:すなわち、ビヒクル(PBS)グループ、アバスチン3mpkグループ、hu15.E-V 3.5mpkグループ及びhu14.2B-V 3.5mpkグループ(それぞれ8匹ずつ)。グルーピングの日を実験の0日目とした。各抗体の腹腔内投与は、グルーピングの日に開始し、週2回続けて、合計8回投与した。腫瘍の体積及び動物の体重を週2回モニターし、データを記録した。腫瘍体積が1500mm3を超えたとき、又はほとんどの腫瘍が破裂したとき、又は体重が20%減少したとき、実験のエンドポイントとして、担がん動物を安楽死させた。全てのデータは、Excel及びGraphPad Prism 5ソフトウェアを用いてプロットし、統計的に分析した。腫瘍体積(V)の計算式は以下の通りである:V=1/2×a×b2(式中、a及びbはそれぞれ縦及び幅を表す)。
相対腫瘍増殖率T/C(%)=(T-T0)/(C-C0)×100(式中、T及びCは実験終了時の治療グループ及びPBS対照グループの腫瘍体積を表す;T0及びC0は実験開始時の腫瘍体積を表す)。
腫瘍増殖抑制率(TGI)(%)=1-T/C(%)。
【0178】
結果は、表12及び
図7に示す通りである。
【表13】
【0179】
本開示の候補二重特異性抗体hu15.E-V及びhu14.2B-Vの実験結果は、以下のことを示している:ビヒクルグループと比較して、VEGFモノクローナル抗体アバスチン及び各試験抗体を含む本実験の全ての抗体が、Balb/cヌードマウスに皮下移植されたColo205腫瘍の増殖を抑制することができ、投与を終了した27日目には、いずれもビヒクルグループと比較して非常に有意な差を示している(表12及び
図7)。腫瘍増殖抑制率に関して、投与プロセス全体を通じて、hu15.E-Vは、VEGFモノクローナル抗体アバスチン-hIgG1よりも常に高い腫瘍増殖抑制率を示し、6回投与後、投与終了時まで、腫瘍体積のアバスチングループとの統計的差異を示している(投与終了時、p=0.0081)。
【0180】
(試験例9.転移性の高い非小細胞肺がんH460-Luc細胞株を皮下移植したBALB/cヌードマウスモデルにおける二重特異性抗体の有効性)
この実験では、腹腔内注射後のANG2/VEGF二重特異性抗体及び対照抗体のアバスチン、ラニビズマブ-hIgG1及びクロスマブが、ヒト非小細胞肺がんH460移植腫瘍の増殖及び転移を抑制する効果を評価した。
【0181】
BALB/cヌードマウス(雌、4~5週、18~20g)を、Shanghai Lingchang Bio-tech株式会社から購入した。ヒト非小細胞肺がんH460-Luc(ルシフェラーゼ遺伝子で安定的にトランスフェクトしたもの)を、10%FBSを補充したRPMI1640培地で、5%CO
2を含む37℃のインキュベーター内で培養した。この細胞を5世代連続培養し、マウスの皮下に接種した。接種前にマウスを3~4%イソフルランで麻酔した。約1×10
6個のH460細胞を無血清培地及びマトリゲルを含む懸濁液(培地:マトリゲル=50%:50%)に再懸濁し、200μLの接種量で100匹のマウスに皮下注射で接種した。腫瘍が平均約100~150mm
3に成長した時点で、適切な腫瘍サイズのマウス72匹を、腫瘍サイズ及び体重に応じて無作為に8グループに分け、各グループにマウス8匹とした。グルーピング及び投与日を0日目とした。グルーピング及び投与計画は、表13の通りである。
【表14】
【0182】
グルーピング後、週2回、3週間連続で腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(V)の算出方法は以下の通りである:
V=(縦×横2)/2。
【0183】
各マウスの相対腫瘍体積(RTV)の算出方法は以下の通りである:
RTV=Vt/V0(式中、Vtは毎日測定した体積であり、V0は治療開始時の体積である)。
【0184】
実験終了時には、全ての担がん動物の写真を撮り、全ての腫瘍を取り出し、重量を測定し、写真を撮った。
【0185】
(統計解析)
結果を平均値±S.E.M.として表した。2グループ間の比較はダネットの多重比較検定によって試験した。p<0.05の場合、その差は統計的に有意であると見なした。
【0186】
(肝転移及び肺転移の検出法)
H460細胞株にはルシフェラーゼ標識が含まれていたため、マウスを安楽死させた後、各グループのマウスの肝臓を解剖し、蛍光イメージングにより肝転移病変を収集し、蛍光シグナルの強度により転移の程度を算出した。
【0187】
【0188】
図8Aは、本候補分子hu15.E-Vが、H460腫瘍の成長を有意に抑制できることを示している。また、hu15.E-Vは、用量依存的効果を示す。3.5mpk hu15.E-Vは、同一モルの3mpkアバスチン及びラニビズマブ-hIgG1と比較して、腫瘍増殖を抑制する効果が強く、腫瘍増殖抑制率に統計的差異がある。
図8Bは、同一モルのアバスチン及びラニビズマブ-hIgG1の両方でより重度の肝転移及び肺転移が見られるのに対し、二重特異性抗体hu15.E-Vは腫瘍の肝転移及び肺転移を有意に抑制することができ、本グループのどのマウスにも転移が検出されなかったことを示している。
【0189】
(試験例10.ヒト皮膚がん細胞及び前立腺がん細胞を皮下移植したマウスモデルに対する二重特異性抗体の有効性)
2×106細胞/マウス/100μlのA431細胞又は5×106のPC-3細胞をBalb/cヌードマウスの右肋骨に皮下接種した。担がんマウスの腫瘍体積が約100mm3に達した時点で、マウスを無作為にそれぞれ3グループに分けた:ビヒクル(PBS)、hu15.E-V 3.5mpk及びhu14.2B-V 3.5mpk(各グループに8匹ずつ)。グルーピングの日を0日目とした。各抗体は、グルーピングの日に腹腔内注射を開始し、週2回、合計6回投与した。腫瘍体積及び動物の体重を週に2回モニターし、データを記録した。腫瘍体積が1000mm3を超えたとき、又はほとんどの腫瘍が破裂したとき、又は体重が20%減少したとき、実験のエンドポイントとして、担がん動物を安楽死させた。全てのデータは、Excel及びGraphPad Prism 5ソフトウェアを用いてプロットし、統計的に分析した。腫瘍体積(V)の計算式は以下の通りである:V=1/2×a×b2(式中、a及びbはそれぞれ縦及び幅を表す)。
相対腫瘍増殖率T/C(%)=(T-T0)/(C-C0)×100(式中、T及びCは実験終了時の治療グループ及び対照グループの腫瘍体積を表す;T0及びC0は実験開始時の腫瘍体積を表す)。
腫瘍増殖抑制率(TGI)(%)=1-T/C(%)。
【0190】
グルーピング及び投与計画は表14に示す通りである。腫瘍増殖曲線は、
図9A及び
図9Bに示す通りである。
【表15】
【0191】
その結果は表14並びに
図9A及び
図9Bに示しており、これらは本開示における二重特異性抗体hu15.E-V及びhu14.2B-Vの両方が、A431腫瘍及びPC-3腫瘍の増殖を有意に抑制できることを示している。
【0192】
(試験例11.アカゲザルにおけるレーザー誘起脈絡膜血管新生に対する二重特異性抗体の抑制機能の試験)
本試験例は、アカゲザルにおけるレーザー誘起脈絡膜血管新生の漏出及び成長に対する眼球硝子体内注射投与の効果を通じて、本願の二重特異性抗体が硝子体内注射による加齢黄斑変性症(AMD)などの疾患の治療に使用され得ることを検証するものである。具体的な方法は以下の通りである:
アカゲザルの眼底の黄斑中心窩周辺にレーザー光凝固術を行い、眼底に脈絡膜血管新生を誘発することで、ヒトの脈絡膜血管新生に類似した動物モデルを構築した。光凝固前及び光凝固後20日目にフルオレセイン眼底血管造影を行い、モデリングの状況を確認した。16匹のアカゲザルの成功モデル(Sichuan Greenhouse Biotech株式会社、生産ライセンス番号:SCXK(Sichuan)2014-013、実験動物品質証明書番号:No:0022202)を選択し、無作為に溶媒対照グループ、ラニビズマブ(96μg、4μM)グループ、RG7716(292μg、2μM)グループ及びhu15.E-V1(170μg、1μM)グループの合計4グループに分け、各グループにサル4匹とした。
【0193】
光凝固から21日後、ラニビズマブグループ、RG7716 292グループ及びhu15.E-V1グループに、それぞれ96μg、292μg及び170μg/眼球を基準に、ラニビズマブを1.92mg/mL、RG7716を5.84mg/mL及びhu15.E-V1を3.4mg/mLの濃度で50μL、両眼に硝子体内注射した。溶媒対照グループには等量の溶媒を投与した。各グループの動物について、投与後7、14及び28日目に、眼圧検査、眼底カラー写真、フルオレセイン眼底血管造影及び光干渉断層撮影(OCT)により、抗体による脈絡膜血管新生の抑制を観察した。投与後28日目に、100~200μLの房水を収集し、そのうちの100μLを房水中のVEGFの測定に使用した。投与後29日目に安楽死させた後、各グループから3つの眼球を採取し、HE染色による組織学的検査を行った。その結果は以下の通りである:
【0194】
(AMDモデリング)
レーザーモデリングから20日後、実験に含まれた16匹のサルにおいて、両眼の黄斑部周辺に9個のレーザースポットを眼底のカラー写真で確認した。全ての動物において、眼底の黄斑部周辺に蛍光性の高いレーザースポットが存在し、蛍光スポットの縁を超える明らかなフルオレセインの漏出が見られる。レーザーモデリングから20日後(投与前)、ビヒクル対照グループ、ラニビズマブグループ、RG7716グループ及びhu15.E-V1グループのレベル4蛍光スポットの数は、それぞれ46、42、40及び40であった。上記の変化は、臨床的な脈絡膜血管新生(CNV)の変化と類似しており、モデリングが成功したことを示唆している。
【0195】
(フルオログラフィー検査)
ラニビズマブグループ、RG7716グループ及びhu15.E-V1グループでは、投与後7、14及び28日目に蛍光スポットの面積がある程度減少した。各グループの蛍光漏出面積の改善率及び蛍光漏出面積の減少量は、いずれも溶媒対照グループよりも優れており、各グループのレベル4蛍光スポットの数は溶媒対照グループよりも有意に少ない。1μMの用量のhu15.E-V1グループ、4μMの用量のラニビズマブグループ及び2μMの用量のRG7716グループでは、各時点での蛍光漏出面積の改善率は同等であった。その結果を
図10A及び
図10Bに示す。
【0196】
(房水のVEGF)
投与後28日目のラニビズマブグループ、RG7716 292グループ及びhu15.E-V1 170グループの房水中のVEGF発現量は、溶媒対照グループよりも有意に低い。RG7716グループ及びhu15.E-V1グループの両方の房水中のVEGF発現量は、ラニビズマブグループよりも有意に低い。その結果を
図11に示す。
【0197】
要約すると、170μg/眼球の用量のhu15.E-V1は、本実験の条件下のサルのCNVに対して、すなわち、170μg/眼球の用量のhu15.E-V1を両眼に単回硝子体内注射で投与し、網膜蛍光血管造影法、光干渉断層撮影並びに房水VEGF及び眼球組織病理学検査で検査したレーザーCNVアカゲザルモデルに対して、有意な抑制効果がある。
【配列表】
【国際調査報告】