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特表2022-526533発光分光分析のための改良型発光スタンド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(54)【発明の名称】発光分光分析のための改良型発光スタンド
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/67 20060101AFI20220518BHJP
   C09D 5/20 20060101ALI20220518BHJP
   C09D 201/04 20060101ALI20220518BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20220518BHJP
   C09D 125/18 20060101ALI20220518BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20220518BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220518BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20220518BHJP
   C08L 27/24 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
G01N21/67 C
C09D5/20
C09D201/04
C09D127/12
C09D125/18
C09D127/18
C09D7/61
C08L27/12
C08L27/24
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557476
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(85)【翻訳文提出日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2020057232
(87)【国際公開番号】W WO2020200757
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】1904395.9
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511141744
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (エキュブラン) エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】ランキューバ パトリック
【テーマコード(参考)】
2G043
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA01
2G043BA02
2G043BA03
2G043CA05
2G043DA06
2G043DA08
2G043EA09
2G043JA04
2G043KA03
2G043KA04
2G043LA03
2G043MA01
2G043MA04
2G043MA06
4J002BD121
4J002BD151
4J002BD181
4J002GH00
4J002GH02
4J002GR00
4J002GT00
4J038CC101
4J038CD101
4J038CD121
4J038HA066
4J038HA216
4J038NA10
4J038PB14
4J038PC02
(57)【要約】
発光分光分析のための発光スタンドであって、放電チャンバーと、ガスを放電チャンバーの中に流入させるためのガス注入口と、放電チャンバーからガスを送り出すためのガス排出口と、を備え、放電チャンバー、ガス注入口および/またはガス排出口の1つ以上の内面は、付着防止材を含む、発光スタンドを提供する。付着防止材は、金属ダストなどの剥離物質が、例えば、発光スタンド内の表面に付着することを低減することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光分光分析のための発光スタンドであって、
分析対象の固体試料を受け入れるための開口部を有し、前記固体試料が前記開口部を覆っているテーブルと、
内部に電極を有する放電チャンバーであって、前記開口部がその上方に位置している放電チャンバーと、
ガスを前記放電チャンバーの中に流入させるためのガス注入口と、
前記放電チャンバーからガスを送り出すためのガス排出口と、を備え、
前記放電チャンバー、前記ガス注入口および/または前記ガス排出口の1つ以上の内面は、付着防止材を含む、発光スタンド。
【請求項2】
前記付着防止材は、0.5以下、0.4以下、または0.3以下の動摩擦係数および静摩擦係数を有する、請求項1に記載の発光スタンド。
【請求項3】
前記付着防止材は、ポリマー材料を含む、請求項1または2に記載の発光スタンド。
【請求項4】
前記ポリマー材料は、フッ素化ポリマー材料を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の発光スタンド。
【請求項5】
前記フッ素化ポリマー材料は、フッ素化ポリアルキレン、フッ素化官能性アルカンポリマー、およびフッ素化パリレンポリマーのうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の発光スタンド。
【請求項6】
前記フッ素化ポリマー材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化プロピレンエチレン(FPE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パリレンF-AF4およびパリレンF-VT4のうちの少なくとも1つを含む、請求項5に記載の発光スタンド。
【請求項7】
前記フッ素化ポリマー材料は、過フッ素化ポリマー材料を含む、請求項4~6のいずれか1項に記載の発光スタンド。
【請求項8】
前記付着防止材は、2つ以上の異なるポリマー材料の混合物を含む、請求項3~7のいずれか1項に記載の発光スタンド。
【請求項9】
前記付着防止材は、セラミック材料を含む、請求項1または2に記載の発光スタンド。
【請求項10】
前記付着防止材は、被覆材として設けられる、請求項1~9のいずれか1項に記載の発光スタンド。
【請求項11】
前記付着防止材は、材料ブロックとして設けられる、請求項1~9のいずれか1項に記載の発光スタンド。
【請求項12】
前記付着防止材は、前記発光スタンドの基材を構成する、請求項1~9のいずれか1項に記載の発光スタンド。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の発光スタンドを備えた発光分光分析計。
【請求項14】
発光分光分析方法であって、
放電チャンバーと、ガスを前記放電チャンバーの中に流入させるためのガス注入口と、前記放電チャンバーからガスを送り出すためのガス排出口とを有する発光スタンドを設けるステップと、
前記放電チャンバーおよび/または前記ガス注入口および/または前記ガス排出口の1つ以上の内面に、付着防止材を設けるステップと、を備える発光分光分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパーク発光分光分析の分野に関する。特に、本発明は、発光分光分析計(optical emission spectrometer)のための改良型発光スタンド(spark stand)、それを備えた発光分光分析計、および発光分光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパーク発光分光分析は、固体試料の分析に用いられる周知の技術である。発光分光分析は、例えば、スパーク放電またはアーク放電のいずれかを用いて行うことができる。便宜上、本明細書において使用される場合、スパーク発光分光分析という用語は、例えばスパーク放電やアーク放電など、試料の励起に放電を採用するあらゆる発光分光分析を意味し、放電チャンバーという用語は、あらゆる放電を起こさせるためのチャンバー(箱)を意味する。固体試料は一般に、発光スタンドのテーブル上に取り付けられる。発光スタンドは放電チャンバーをさらに含み、その中には、先細の端が試料の表面に向かうように配向された電極がある。発光スタンドのテーブルは、通常は気密シールが設けられた放電チャンバーの壁の開口部を有し、その開口部の上方に試料が取り付けられる。電極は、その先細の端を除き、絶縁体で取り囲まれている。一連の放電が電極と試料との間で開始され、試料は、カウンタ電極として作用する。絶縁体は、放電がチャンバーの壁ではなく、試料に向けられるようにする。放電が向けられた部分の試料物質は蒸発し、蒸発した原子物質の一部が励起状態となる。緩和すると、原子物質が光子を放出し、そのエネルギーは物質中の元素ごとに特有である。放出された光子の分光分析によって、試料物質の組成を推定することができる。したがって、この放電によって引き起こされた発光の一部が、放電チャンバーから分光分析のための分析器に送られる。分光分析は光学分析器を用いて行われ、通常は回折格子などの分散手段を利用して、光をその波長に応じて空間的に分散させる。例えば、アレイ検出器などの検出器は、分散度の関数として光の量を測定するために使用される。
【0003】
試料中の多様な元素に関する情報を得るために、計器は、発光スタンドから検出器へと190nm未満の光子を送ることが可能でなければならず、これは、元素の中には、より低いエネルギー準位に緩和する際、紫外線(UV)波長範囲の光子を放出するものがあるためである。空気によるこれらのUV光子の吸収を回避し、ガスの屈折率の変化(これはガスの圧力とガスの組成により変化する)に伴う波長シフトを回避するために、試料物質は、少なくとも一連のスパーク放電が開始される間に放電チャンバーに供給される不活性ガス、一般的にはアルゴンガスの存在下で励起される。
【0004】
放電によって物質が試料表面から剥離し、この物質の一部は霧状ではない。物質の非常に大きな凝集体や粒子の一部は試料表面から剥離、すなわち除去されるが、これらは分光プロセスには無用であるために、本明細書においてはデブリまたはダストと呼ぶことにする。この剥離したものは、毎回の放電時に蒸発した原子物質と共に試料表面から遊離する。交差汚染、いわゆるメモリ効果を防止するために、好ましくは、1つの試料から剥離した物質のすべてを放電チャンバーから除去してから、次の試料を分析し、前回の試料からの物質が次の試料に再び堆積することが一切ないようにし、このような物質が放電経路内に一切存在しないようにすべきである。流れるアルゴンガスは、試料と放電経路を取り囲み、連続的または半連続的プロセスにおいて、金属デブリを含む剥離物質を放電チャンバーから掃き出すために使用される。剥離物質は一般に、アルゴンガスの流れの中でチャンバーから下流のフィルタに送り出される。
【0005】
特許文献1(サーモフィッシャーサイエンティフィック)は、より良好なデブリ洗浄性を有する放電チャンバーを開示している。しかし、デブリは完全には除去されず、時間の経過とともに、剥離した試料物質が放電チャンバー内の表面およびガス導管に沿って堆積および蓄積される。これにより、分光分析計の分析性能が低下し、これが発生した場合、放電チャンバーの洗浄中に分光分析計をシャットダウンする必要があり、保守コストと計器のダウンタイムが増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2012/028484号公報
【発明の概要】
【0007】
上記の問題に鑑みて、本発明がなされた。
【0008】
本発明の一態様によれば、発光分光分析計のための発光スタンドであって、
放電チャンバーと、
ガスを放電チャンバーの中に流入させるためのガス注入口と、
放電チャンバーからガスを送り出すためのガス排出口と、を備え、
放電チャンバーおよび/またはガス注入口および/またはガス排出口の1つ以上の内面は、付着防止材を含む、発光スタンドが提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、発光スタンドを備えた発光分光分析計が提供される。発光分光分析計は一般に、放電チャンバーからの光をその波長に応じて分析および検出するための光学分析器をさらに備える。例えば、発光分光分析計は、その波長によって光を分離し、分離された光を検出するための分光器を備えてもよい。光は、放電チャンバー内の励起された試料物質によって放出される。このようにして、放出された光の光スペクトルを得ることができ、これにより、試料物質の組成を推定することができる。発光スタンドと発光分光分析計は、発光分光分析を行うために使用できる。
【0010】
本発明のさらなる態様によれば、発光分光分析方法であって、放電チャンバーと、ガスを放電チャンバーの中に流入させるためのガス注入口と、放電チャンバーからガスを送り出すためのガス排出口とを有する発光スタンドを設けるステップと、放電チャンバーおよび/またはガス注入口および/またはガス排出口の1つ以上の内面に、付着防止材を設けるステップと、を備える発光分光分析方法が提供される。
【0011】
本発明の方法は、発光分光分析の他の周知のステップ、例えば、以下のいずれかのステップ、すなわち、分析のために固体試料を供するステップであって、試料は一般に、試料の表面が放電チャンバーの電極の端に向かうように取り付けられ、かつ/または一般に、電極の端と対向する、通常は気密シールが設けられた放電チャンバーの壁の開口部の上方に置かれるようにするステップ、電極と試料との間で、試料がカウンタ電極として作用する、1回以上の放電、一般には一連の放電を起こさせるステップ、試料から物質を蒸発させ、蒸発した物質の少なくとも一部を励起させ、それによって励起された物質に、物質中の元素ごとに特有のエネルギーを有する光子を放出させるステップ、および、放出された光子の分光分析を行って、試料物質の組成を推定できるようにするステップであって、分析中に、ガス、好ましくはアルゴンガスなどの不活性ガスがガス注入口を介してチャンバーの中に供給されるステップ、を含んでいてもよい。
【0012】
本発明は、金属ダストなどの剥離物質が、例えば、発光分光分析計の発光スタンド内の表面に付着することを低減することができる。これは、一般に金属である発光スタンドの従来の内面と比較して、発光スタンド内の1つ以上の表面の特性を改質することによって達成される。表面改質には一般に、内面に付着防止材を設けることが含まれる。内面は、ガス流と接触している。一般に、放電チャンバーおよび/またはガス注入口および/またはガス排出口の1つ以上の内面は、付着防止材を含む。いくつかの実施形態において、放電チャンバー、ガス注入口およびガス排出口の内面はそれぞれ、付着防止材を含む。付着防止材は、好ましくは、金属ダスト粒子などの金属粒子に対して付着防止特性を有する。これは、発光分析中、スパークが与えられたときに試料から剥離されるこのような粒子が発光スタンドの内面に付着する傾向を減少させる。付着防止材は、好ましくは、発光スタンドの従来の金属表面と比較して、粒子の付着を低減させる。付着防止材は、一般に非金属である。表面改質は、表面に1つ以上の機能性被覆材を設けること、および/または、表面または表面が設けられる基材の化学組成を改質または選択することを含む、多くの方法で達成することができる。本発明は、金属ダストの蓄積を減少させ、長期間の運転において分光分析計の分析性能を安定化し、発光スタンドの洗浄などの予防保守に関連するコストを削減する。表面に付着防止材が存在することによって洗浄の容易さおよび速度が改善され得る。
【0013】
付着防止材は一般に、非金属材である。付着防止材は一般に、摩擦係数が低い物質であり、例えば、静摩擦係数および動摩擦係数が0.5以下、0.4以下、または0.3以下である。焦げ付き防止コーティングなどは、例えば食品産業で使用されてきたが、発光分光分析計の放電チャンバーで見られるものに相応する用途または条件下では使用されていない。フルオロポリマーを含む食品産業用の焦げ付き防止コーティングの例は、WO01/49424A2に開示されている。
【0014】
付着防止材は、ポリマー材料(ポリマー)を含み得る。ポリマー材料は、好ましくは、フッ素化ポリマー材料(すなわち、フルオロポリマー)を含み得る。フッ素化ポリマー材料は、過フッ素化ポリマー材料(すなわち、パーフルオロポリマー)を含み得る。過フッ素化ポリマーは、C-F結合およびC-C結合のみを含み(すなわち、C-H結合を含まない)、任意に1つ以上のC-ヘテロ原子結合(1つ以上の官能基から)を含む、有機フッ素ポリマーである。過フッ素化ポリマーの一般的な官能基には、OH、CO2H、Cl、Br、O、およびSO3Hが含まれる。好適な付着防止材には、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびフッ素化プロピレンエチレン(FPE)のようなフッ素化(特に過フッ素化)ポリアルキレンなどのポリマー、テトラフルオロエチレンとパーフルオロエーテルのコポリマーである、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)などのフッ素化アルコキシアルカンのようなフッ素化(特に過フッ素化)官能性アルカンポリマー、パリレンF-AF4およびパリレンF-VT4などのフッ素化パリレンが含まれる。付着防止材は、前述のタイプのうちの任意の2つ以上のポリマーなどの、任意の2つ以上の(異なる)タイプのポリマーの混合物であり得る。
【0015】
いくつかの実施形態において、付着防止材は、セラミック材料、例えば二酸化ジルコニウム(ZrO2)またはボロンアルミニウムマグネシウム合金(BAM)を含み得る。
【0016】
いくつかの実施形態において、付着防止材は、被覆材として設けることができる。被覆材は一般に、発光スタンドの下部基材の表面に設けることができる。被覆材の厚さは、好ましくは10μm~1mmまたは10μm~500μm、より好ましくは10μm~200μmまたは10μm~100μmである。ただし、厚さは、例えば1μm~2mmのように、上記の厚さより薄くても、厚くてもよい。被覆材は、接着剤として、または化学蒸着(CVD)あるいは他の任意の適切な方法によって、すなわち表面または基材に塗布することができる。CVD方式では、制御された厚さに薄膜化することができる。
【0017】
いくつかの実施形態において、付着防止材は、1つ以上の材料ブロックとして設けることができる。これは、放電チャンバーおよび/または注入口および/または排出口を取り囲んでいる、一般的には金属である発光スタンドの基材の一部を、1つ以上の付着防止材のブロックで置き換えることによって実現することができる。いくつかの実施形態において、付着防止材は、発光スタンドの材料、すなわち発光スタンドの基材を構成する。
【0018】
放電チャンバーは通常、ガス、例えばアルゴンガスなどの不活性ガスを放電チャンバーの中に供給するために、一般的に放電チャンバーの第1の面の放電チャンバーの壁に配置されたガス注入口を備える。ガス注入口は一般に、導管(本明細書ではガス注入口導管と呼ばれる)を備え、それを介してガスが放電チャンバーの中に流れる。いくつかの実施形態において、ガス注入口導管の1つ以上の内面は、付着防止材を含む。また、放電チャンバーは通常、一般的に放電チャンバーの第2の面の放電チャンバーの壁に、一般的に第1の(注入口)面の反対側に配置され、放電チャンバーからガスを運ぶように配置されたガス排出口を備える。ガス排出口は一般に、導管(本明細書ではガス排出口導管と呼ばれる)を備える。ガス排出口導管は一般に、ガスを放電チャンバーから、例えば排気口または通気口に送る。いくつかの実施形態において、ガス排出口導管の1つ以上の内面は、付着防止材を含む。したがって、付着防止材を含むガス注入口および/またはガス排出口の1つ以上の内面は、ガス注入口導管および/またはガス排出口導管の1つ以上の内面であってもよい。
【0019】
ガス注入口は通常、放電チャンバーの第1の面に1つ以上のオリフィスを有し、一般的には、ガスを供給する導管がそこに接続される。好ましくは、ガス注入口は放電チャンバーの第1の面の1つのオリフィスを有し、ガスを供給する導管がそこに接続される。ガス排出口は通常、放電チャンバーの第2の面に1つ以上のオリフィス、好ましくは1つのオリフィスを有し、一般的にはそこに、通常、ガスをチャンバーから運ぶための排出口導管が接続される。ガス注入口とガス排出口のためのオリフィス、および注入口導管と排出口導管は、任意の適切な断面形状であってもよい。例えば、1つ以上のオリフィスまたは導管は、円形、卵形、正方形または長方形であってもよい。1つ以上のオリフィスは、注入口および/または排出口のそれぞれにおける放電チャンバーの高さと実質的に等しい高さを有し得る。
【0020】
一般に伸長方向に沿った電極軸を有する細長い電極は、一般に放電チャンバー内に配置される。使用中、一般に、ガス注入口とガス排出口との間の放電チャンバーを通るガス流がある。好ましくは、放電チャンバーの壁、すなわち半径方向の(電極と半径方向に対面する)壁は湾曲しており、それによって、湾曲した外形、好ましくは円筒形を有する放電チャンバーの内部容積を画定し、すなわち、放電チャンバーの壁は円筒形を画定する。このような壁の表面は、付着防止材を含んでもよい。好ましくは、放電チャンバーは実質的に円筒形であり、電極はほぼ円筒の軸上に配置されている。好ましくは、ガス注入口およびガス排出口は、円筒の湾曲した内壁に配置され、円筒の対向する側に、より好ましくは実質的に直径方向に対向する側に配置される。好ましくは、ガス注入口とガス排出口は、チャンバーの壁上で直径方向に互いに対向している。
【0021】
細長い電極は、任意の断面形状(すなわち、電極軸を横切る断面)であってよいが、放電チャンバー内で試料位置に向かって延びる先細の円錐形の端を有する円筒形であることが好ましい。好ましくは、細長い電極はピン形状の電極である。細長い電極は、本明細書では電極軸と呼ばれる軸を有し、軸は一般に、伸長方向に沿って延在し、電極は、軸が試料位置に向かうように放電チャンバー内で配向される。電極軸は、放電チャンバーの実質的に半径方向中央に配置されることが好ましい。好適な実施形態において、電極軸はまた、放電チャンバーの軸方向を画定し、ガスは、放電チャンバーの第1の面の注入口から放電チャンバーの第2の面の排出口までほぼ半径方向に流れる。好ましくは、放電チャンバーの内部形状および構成要素は、例えばWO2012/028484に記載されているように、ガス流の乱流が実質的に排除されるようなものであり、その内容は、全て本明細書に組み込まれている。発光スタンドは一般に、放電チャンバーを覆うテーブルを備え、テーブルは、放電チャンバーの上方に位置する開口部を有する。テーブルは、試料が開口部を覆うことによって表面が電極に向かうように試料を受け入れ得るため、その表面を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】発光スタンドの断面図を模式的に示す。
図2】実施例において表面被覆材として用いられるフッ素化ポリマーの化学構造を示す。
【0023】
図1は、発光分光分析計の一部を構成する発光スタンド1の概略断面図を示す。発光スタンドは、ほぼ円筒形状の、すなわち円筒形のチャンバーの壁を有する放電チャンバー11を備える。放電チャンバーは、ピン形状の端を有する円筒形電極7を収容し、これは、チャンバーの壁への放電を防ぐために絶縁体4によって取り囲まれている。絶縁体4は、電極7を中心に回転対称である。発光スタンド1の図は、発光分光分析計の他の部分から切り離されている。例えば、光導管5を介して放電チャンバーからの発光を受け取る分光器は示されていない。
【0024】
発光スタンドは、放電チャンバー11の上方に位置する開口部3を有する上部テーブル1Aを備える。使用中、金属試料(図示せず)は、試料の面が開口部3を覆うようにテーブル上に取り付けられる。スパークは、電極7と、電極と対面する試料の表面との間で点火される。これによって、プラズマが生成され、試料から物質が剥離および蒸発され、その後、噴霧化、励起、および発光が行われる。光は分光器(図示せず)によって分析され、試料の組成に関する情報が判定される。
【0025】
スパーク点火は、ガス注入口導管22に接続されたガス注入口オリフィス20を通って放電チャンバー11の中にアルゴンガスが流れることにより与えられる、アルゴンガス(Ar)の雰囲気下で行われる。ガス注入口導管22には、上流のアルゴンガス源からアルゴンガスが供給される。ガスは矢印2で示される方向に流れる。例えば、試料の分析中、99.997%より高い純度のアルゴンガスが、ガス注入口を介して放電チャンバーの中に5slpm(1分あたりの標準リットル)の速度で供給されてもよい。剥離したものは、放電チャンバーからガス流によってガス排出口オリフィス30およびガス排出口導管32を通って排気管6に送られる。ガス注入口オリフィス20とガス排出口オリフィス30とは、放電チャンバー11の対向する側にある。ガス注入口導管22およびガス排出口導管32は、一緒に積み重ねられた2つのモジュール式金属部品である、下部テーブル1Bおよび上部テーブル1Aの一方または両方に形成されたチャネルによって設けられる。下部テーブル1Bは一般に、所定の位置に固定されており、上部テーブル1Aは取り外し可能である。したがって、上部テーブル1Aを取り外して、放電チャンバー、ガス注入口導管およびガス排出口導管を洗浄することができる。下部の固定テーブル1Bは、取り外し可能なネジ(図示せず)によって所定の位置に固定されており、必要に応じてテーブル1Bの取り外しおよび排気管の洗浄が可能である。複数回の分析、すなわち多くのスパーク放電を繰り返すことによって、剥離したものの一部が電極7を取り囲んでいる絶縁体4に付着し、放電チャンバーの壁および導管32の表面に蓄積され、性能低下を引き起こし、絶縁体4、放電チャンバー11、固定(1B)テーブルおよび可動(1A)テーブルの洗浄による定期的な保守が必要になる。
【0026】
本発明によれば、放電チャンバー11および/またはガス注入口22および/またはガス排出口32の1つ以上の内面は、付着防止材を含む。一実施形態において、少なくとも放電チャンバー11および/またはガス排出口導管32の1つ以上の内面は、付着防止材を含む。好ましくは、放電チャンバー11およびガス排出口導管32の少なくとも内面は、付着防止材を含む。ガス流の方向により、剥離物質が注入口から排出口に向かって掃き出されるため、ガス注入口の内面は、剥離物質が蓄積されにくい。しかしながら、いくつかの実施形態において、注入口20に隣接する導管の一部などのガス注入口22の内面も、付着防止材を含むことができる。
【0027】
いくつかの実施形態において、付着防止材は、被覆材、すなわち、被覆されていない表面と比較して粒子の付着を低減する機能を有する被覆材として設けられる。被覆材は、ポリマーコーティング、特にフッ素化ポリマーコーティングとして設けることができる。被覆材は、粉末コーティング(高性能粉末コーティング)および/またはドライフィルムコーティングとして設けることができる。
【0028】
付着防止材の好適な特性には、i)静摩擦係数および動摩擦係数が低く、好ましくはそれぞれが0.5以下であり、機械的な力によって剥離したダストの蓄積が最小限に抑えられること、ii)強力な耐摩耗性、例えば、<0.001mm3/(N*m)の摩耗率を有すること、iii)スパーク/アーク光源の近くで重要な高真空紫外線(VUV)耐性、例えばa)高い化学結合解離エネルギー(炭素-フッ素は約546kJ/mol)およびb)低い光子の侵入深さ(<200nm)を有すること、iv)電極の近くでスパーク/アークの安定性を維持するために重要な高い絶縁耐力、例えば少なくとも50MV/mであること、v)保守手順中の洗浄に使用される化学溶剤に対する高い耐性を有すること、のいずれか1つ以上が含まれる。付着防止材の表面粗さは、基材の表面に依存し得る。付着防止材の表面粗さは10μm以下とすることができる。付着防止材の他の望ましい特性は、少なくともR50のロックウェル硬さ、例えば>R54(PTFE)を有することである。
【0029】
被覆材は、化学蒸着(CVD)などの方法で塗布でき、薄いコンフォーマルなフィルムを選択した表面に選択的かつ制御可能に成長させる。好適な付着防止材には、フッ素化ポリマーおよび過フッ素化ポリマーなどのポリマーが含まれる。例えには、フッ素化ポリアルキレン(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびフッ素化プロピレンエチレン(FPE)のコポリマー)、フッ素化官能性アルカンポリマー(例えば、テトラフルオロエチレン(C24)とパーフルオロエーテルのコポリマーである、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)ポリマーなどのフッ素化アルコキシアルカンポリマー)、並びに、フッ素化アリーレンポリマー(例えば、パリレンF-AF4およびパリレンF-VT4などのパリレン)が挙げられる。付着防止材は、任意の2つ以上のタイプのポリマーの混合物であり得る。
【0030】
他の実施形態において、固定(1B)テーブルおよび可動(1A)テーブル、またはそれらの一部の組成は、剥離した金属ダストに対して本質的に付着防止性を有するように改質または置換され得る。したがって、発光テーブルの基材により、放電チャンバー、ガス注入口、ガス排出口の内面はダストに対して付着防止性を有する。プラズマを取り囲む領域は非常に高温(数千ケルビン)で動作するため、チャンバー、注入口および/または排出口を取り囲んでいるテーブル1Aおよび1Bの従来の金属基材の一部を、例えば、フッ素化ポリマーなどの付着防止性の材料で置き換え可能であってもよい。フッ素化ポリマーなどの付着防止性の材料は、ブロックとして設けられてもよい。これは、例えば、チャンバー、注入口および/または排出口を取り囲んでいるテーブルの金属基材の一部を付着防止性の材料ブロックに機械的に置き換えることによって達成することができる。
【0031】
他の実施形態において、発光スタンドの固定テーブル(1B)および/または可動テーブル(1A)の全組成は、付着防止材で作成することができ、すなわち、使用される従来の金属材料の代わりに、テーブルは、例えば、付着防止ポリマーまたはセラミック材料で作ることができるであろう。これは、例えば、ポリマー、または酸化ジルコニウム(ZrO2)やボロンアルミニウムマグネシウム合金(BAM)などのセラミック材料でテーブルを設計することによって実現できる。
【0032】
(実施例)
試料から剥離した金属ダストが堆積することが知られている、図1に示すタイプの発光スタンドの内面にさまざまな組成の被覆材を塗布するテストを実施した。発光スタンドは、サーモフィッシャーサイエンティフィック(商標)製のARL(商標)iSpark(商標)発光分光分析計の一部であった。各被覆材は、放電チャンバー11と排気管6との間の排出口導管32に塗布した(図1に示される影付きの領域)。フッ素化ポリマーは、摩擦係数が低く(優れた非粘着性)、a)VUV光、b)摩耗、およびc)化学溶剤に対する耐性が高いため、テストを行った。
【0033】
4種類のフッ素化ポリマーをテストした。
1)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、
2)パリレンF-AF4、
3)パリレンF-VT4、
4)フッ素化プロピルエチレン(FPE)。
【0034】
(a)PTFE、(b)パリレンF-AF4、(c)パリレンF-VT4、および(d)FPEの化学構造を図2に示す。
【0035】
テストは、鉄(Fe)と銅(Cu)でもテストを行った以下の場合を除いて、アルミニウム(Al)の試料を分析することによって実施された。各テストは、2500回の実行で構成され、実行毎に単一の試料位置を対象とした。各実行は、数千回のスパークで構成された。スパーク周波数は300Hzで、各実行の持続時間は28.2秒であった。
【0036】
被覆材の有効性の評価は、1)発光スタンドの状態を目視検査すること、2)表面に付着した排気ダストの重量を測定すること、3)被覆された部位の洗浄に要求される難易度および時間を評価することによって行った。
【0037】
各テストは、参照として表面を被覆せずに行った対照テストと、それに続く表面を被覆して行ったテストで構成された。
【0038】
結果
(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
図1に示すように、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の接着剤を排出口導管32(影付きの領域)に塗布した。この層は被覆された接着剤からなり、その厚さは1mmであった。テスト後、被覆された発光テーブル(1Aおよび1B)の目視検査では、排気ダストで覆われた厚さと面積の両方が著しく減少したことが示された。排気ダストの重量は、被覆材なしで行ったテストと比較して84%減少した。イソプロピルアルコールと紙で被覆材を洗浄するのに数秒かかり、表面にダストはほとんど残っていなかった。
【0039】
(b)パリレンF-AF4
化学蒸着(CVD)プロセスにより、厚さ10μmのパリレンF-AF4の被覆材を表面に塗布した。テスト後、被覆された発光テーブルの目視検査では、排気ダストが付着していることが示されたが、付着したダストの重量は30%減少した。イソプロピルアルコールと紙で被覆材を洗浄するのに数秒かかり、表面にダストはほとんど残っていなかった。
【0040】
(c)パリレンF-VT4
化学蒸着(CVD)プロセスにより、厚さ50μmのパリレンF-VT4の被覆材を塗布した。パリレンテスト後、被覆されたテーブルの目視検査では、排気ダストで覆われた厚さと面積の両方が明らかに減少したことが示された。付着したダストの重量は、77%減少した。イソプロピルアルコールと紙で被覆材を洗浄するのに数秒かかり、表面にダストはほとんど残っていなかった。
【0041】
厚さ20~25μmのパリレンF-VT4の別の被覆材では、付着したダストの重量が64%減少したことが示された。パリレンF-VT4は化学的に不活性であり、静摩擦係数は0.39、動摩擦係数は0.35であり、ロックウェル硬さはR80である。
【0042】
(d)フッ素化プロピルエチレン(FPE)
化学蒸着(CVD)プロセスにより、厚さ50μmのFPEの被覆材を塗布した。しかし、付着したダストの重量は、53%減少した。イソプロピルアルコールと紙で被覆材を洗浄するのに数秒かかり、表面にダストはほとんど残っていなかった。
【0043】
厚さ80~90μmのFPEの別の被覆材では、付着したダストの重量が56%減少したことが示された。厚さ80~90μmのFPEの同じ被覆材で、鉄(Fe)と銅(Cu)の試料を用いてもテストを行った。Feを用いたテストでは、付着したダストの重量が64%減少し、Cuを用いたテストでは、付着したダストの重量が30%減少したことが示された。FPEは化学的に不活性であり、静摩擦係数は0.25、動摩擦係数は0.20であり、ロックウェル硬さはR54である。
【0044】
この結果は、付着防止材を被覆することにより、洗浄操作の間隔が長くなり(よって、計器の保守性が向上)、洗浄時間が短縮され、分析条件が付着した排気ダストの影響を受けにくいため、プラズマ条件が改善されることを証明している。
【0045】
本発明の前述の実施形態に対する変形は、依然として本発明の範囲内にあるものとして、行われ得ることが認識されるであろう。
【0046】
本明細書におけるあらゆる例、または例示的な言い回し(「例えば(for instance)」、「など(such as)」、「例えば(for example)」、および同様の言い回し)の使用は、単に、発明をより良く例示するためのものであり、よって、別段の主張のない限り、発明の範囲に対する限定を示すものではない。本明細書におけるどの言い回しも、本発明の実施に不可欠なものとして任意の特許請求されない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0047】
特許請求の範囲内を含む、本明細書において使用される際、特に文脈が示さない限り、本明細書における用語の単数形は、複数形を含むものとして解釈され、逆の場合も同様である。例えば、特に文脈が示さない限り、特許請求の範囲内を含む本明細書における単数形の指示語、例えば、「a」または「an」などは、「1つ以上」を意味する。
【0048】
本明細書の記載および特許請求の範囲全体を通して、単語「備える(comprise)」、「含む」、「有する」、および「含有する」、ならびにそれらの単語の変形、例えば、「備えている(comprising)」および「備える(comprises)」等は、「限定されるものではないが、~を含む」を意味し、他の構成要素を排除することを意図されない(および排除しない)。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
【国際調査報告】