IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイの特許一覧

<>
  • 特表-低速早期点火を低減するための方法 図1
  • 特表-低速早期点火を低減するための方法 図2
  • 特表-低速早期点火を低減するための方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(54)【発明の名称】低速早期点火を低減するための方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/06 20060101AFI20220518BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20220518BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220518BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20220518BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20220518BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220518BHJP
【FI】
C10L1/06
C10M169/04
C10N10:04
C10N10:12
C10N40:25
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558914
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 EP2020058745
(87)【国際公開番号】W WO2020201104
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】62/827,535
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】カール,アビシェーク
(72)【発明者】
【氏名】プラカーシュ,アルジュン
(72)【発明者】
【氏名】アラディ,アレン・アンベレ
(72)【発明者】
【氏名】クラックネル,ロジャー・フランシス
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104EB08
4H104FA02
4H104FA06
(57)【要約】
火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火(LSPI)の発生を低減するためのガソリン燃料組成物の使用であって、ガソリン燃料組成物が、ガソリンベース燃料を含み、1.4以下のPM指数を有する、使用。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火(LSPI)の発生を低減するためのガソリン燃料組成物の使用であって、前記ガソリン燃料組成物が、ガソリンベース燃料を含み、1.4以下のPM指数を有する、使用。
【請求項2】
前記火花点火内燃エンジンが、直接噴射火花点火内燃エンジンである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ガソリン燃料組成物が、1.0以下のPM指数を有する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記ガソリン燃料組成物が、0.8以下のPM指数を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記火花点火内燃エンジンが、総潤滑剤組成物に基づいて、500ppmw以上のカルシウムを含む潤滑剤組成物で潤滑される、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記潤滑剤組成物が、前記総潤滑剤組成物に基づいて、1000ppmw以上のカルシウムを含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記潤滑剤組成物が、前記総潤滑剤組成物に基づいて、1500ppmw以上のカルシウムを含む、請求項5または6に記載の使用。
【請求項8】
前記潤滑剤組成物が、前記総潤滑剤組成物に基づいて、1000ppmまたはマグネシウム以下を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記潤滑剤組成物が、前記総潤滑剤組成物に基づいて、1200ppmw以下の量で亜鉛ベースの耐摩耗添加剤を含む、請求項5~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記潤滑剤組成物が、前記総潤滑剤組成物に基づいて、1000ppmw以下のレベルでモリブデンベースの摩擦低減剤を含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火の発生を低減するための方法であって、ガソリンベース燃料を含み、1.4以下のPM指数を有するガソリン燃料組成物を前記エンジンに供給することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火を低減するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
理想的な条件下では、従来の火花点火エンジン内での平常の燃焼は、燃料と空気との混合物がスパークプラグに起因する火花の生成によってシリンダ内部の燃焼室内で点火されるときに発生する。一般に、そのような平常の燃焼は、燃焼室を横切る火炎前面が規則的かつ制御されて拡がることを特徴とする。
【0003】
しかし、場合によっては、燃料/空気混合物は、スパークプラグの発火前に時期尚早に点火することがあるか、またはスパークプラグが発火した後、そして未燃のエンドガスを圧縮および加熱する次の火炎前面、それによって、早期点火として知られる現象をもたらす。早期点火は、通常、燃焼室内で大幅に温度および圧力を上昇させることになり、エンジンの全体的な効率および性能に重大な悪影響を及ぼすことがあるため望ましくない。早期点火は、エンジン内のシリンダ、ピストン、およびバルブに損傷を引き起こし得る、場合によっては、エンジン故障に至ることさえもあり得る「メガノック」につながることがあり得る。
【0004】
最近、低速早期点火(「LSPI」)は、多くの相手先ブランド製造業者(「OEM」)の間で、高度にブーストされた小型火花点火エンジン、特に、高圧縮比直接噴射火花点火エンジンの潜在的な問題として認識されている。50年代後半に、高速時に観察された早期点火現象とは対照的に、通常、LSPIは低速および高負荷で発生する。LSPIは、低エンジン速度でのトルクの改善を制限する拘束になり、燃費および運転性に影響を与えることがある。LSPIの発生は、いわゆる「モンスターノック」または「メガノック」に最終的につながることがあり、場合によっては、破壊的な圧力波がピストンおよび/またはシリンダに深刻な損傷をもたらし得る。そのため、LSPIを含む早期点火のリスクを軽減することができる技術が非常に望ましい。
【0005】
文献で論じられるLSPI事象につながるメカニズムは複数ある。これらのメカニズムのうちの1つは、LSPI事象を引き起こす燃焼室内部(例えば、ピストンクレビス領域の周囲、またはスパークプラグの後ろのインジェクタおよびクーラ領域上)に存在する剥離した堆積物の発火に関係する一方、別のメカニズムは、燃焼室内部の油滴の発火に基づく。これらの2つのメカニズム(堆積物および油滴)の組み合わせが、LSPIまたは未確定のメカニズムをもたらすことがある。
【0006】
LSPIは、高カルシウム含有量を有するエンジンオイルおよび市場平均ガソリン燃料を使用して動作する最新の小型ターボ過給火花点火エンジンなどのエンジンにおいて、より一般的であることが見出された。市場で現在入手可能なほとんどの市販エンジンオイルは、一般に1200ppm~3000ppmの範囲の高カルシウム含有量を有する。通常、前述のように、このLSPI現象は、高トルクの低速動作条件で一般的である。ほとんどの相手先ブランド製造業者(OEM)は、LSPIの発生を防止するために、エンジン管理システムを調整して、これらのレジームでのエンジン動作を制限している。しかし、これらのレジームで動作することによって、OEMは、燃料消費量を削減するさらなる機会を得るかもしれない。
【0007】
LSPIの問題に対する1つの解決策は、エンジンオイルが新しい組成物を有するように配合することである。これらの方法の例は、WO2015/171978A1、WO2016/087379A1、WO2015/042341A1に見出すことができる。1つのそのような解決策が、非常に低いカルシウム含有量(500ppm未満)を有するエンジンオイルを配合することである。LSPIの発生を低減する際のエンジンオイル中のより低いカルシウム含有量の影響は、SAE 2016-01-2275に記載されている。LSPIにつながる油滴の点で、場合によっては、そのような配合が化学経路を修正する。しかし、現在のほとんどの市販エンジンオイルは、中~高のカルシウム含有量を有しており、したがって、エンジンオイル配合物を再配合する必要なしに、LSPIの問題に対する代替解決策を見つけ出すことが望ましい。
【0008】
米国特許出願第62/573723号は、特に、高レベルのカルシウムを有するエンジンオイルで潤滑されるエンジン内で使用される場合に、特定のタイプの清浄添加剤パッケージおよび/または特定の清浄添加剤成分を含むガソリン配合物を使用することにより、低速早期点火を低減するための方法に関する。
【0009】
2010年10月25日に刊行されたSAE International Paper SAE-2010-01-2115は、ガソリンの特性と、車両の粒子状物質排出量との間の関係の調査に関連する。その中に記載されている調査では、さまざまな化学種が、インドレンベース燃料と個別にブレンドされ、各ブレンドからの固体粒子数(PN)排出量が、新欧州ドライビングサイクル(NEDC)にわたって測定された。「PM指数」と呼ばれる予測モデルが、燃料の各成分の重量分率、蒸気圧、および二重結合等価(DBE)値に基づいて構築された。PM指数は、エンジンのタイプまたは試験サイクルに関係なく、全体的なPNの傾向だけでなく、粒子状物質(PM)の総質量も、正確に予測し得ることが確認された。
【発明の概要】
【0010】
今回、(SAE International Paper 2010-01-2115で公表されたPM指数式に従って計算された)特定の最大粒子状物質(PM)指数を有するガソリン配合物を使用することによって、特に高レベルのカルシウムを有するエンジンオイルで潤滑されるエンジン内で使用される場合に、LSPI事象の驚くべき低減が達成され得ることが、本発明者らにより見出された。
【0011】
本発明によれば、火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火(LSPI)の発生を低減するためのガソリン燃料組成物の使用であって、ガソリン燃料組成物が、1.4以下のPM指数を有する、使用が、提供される。
【0012】
本発明によれば、火花点火内燃エンジンにおける低速早期点火(LSPI)の発生を低減するための方法であって、1.4以下のPM指数を有するガソリン燃料組成物をエンジンに供給することを含む、方法が、さらに提供される。
【0013】
本発明の特徴および利点は、当業者には明らかであろう。多くの変更が当業者によって行われてよいが、そのような変更は本発明の精神の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面は、本発明のいくつかの実施形態の特定の態様を示し、本発明を限定または定義するために使用されるべきではない。
【0015】
図1】以下の実施例でエンジン試験に使用された試験手順を示す。
図2】以下の表6の結果のプロットである。
図3】以下の表7の結果のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で使用するための燃料組成物は、一般に、ガソリンベース燃料、および任意選択で1つ以上の燃料添加剤を含む。したがって、ガソリンベース燃料を含む燃料組成物は、ガソリン燃料組成物である。本明細書のガソリン燃料組成物は、最大PM指数を有する。
【0017】
本明細書では、ガソリン燃料組成物のPM指数は、(SAE-2010-01-2115に開示された)以下の式(1)を使用して計算され得る。
【数1】
【0018】
式(1)
式(1)では、ガソリン組成物の各ガソリン成分に番号、すなわちiが割り当てられ、DBEは、成分iの二重結合等価値であり、V.P(443K)は、443Kでの成分iの蒸気圧であり、Wtは、ガソリン組成物中の成分iの重量分率である。
【0019】
PM指数を計算するためのこの式の起源のさらなる詳細は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるSAE論文SAE-2010-01-2115に見出すことができる。
【0020】
本発明で使用するためのガソリン燃料組成物は、1.4以下、好ましくは、1.3以下、より好ましくは、1.2以下、さらにより好ましくは、1.1以下、特に、1.0以下のPM指数を有する。本明細書の好ましい実施形態では、燃料組成物は、0.9以下、好ましくは、0.8以下、より好ましくは、0.7以下、さらにより好ましくは、0.6以下、特に、0.5以下のPM指数を有する。
【0021】
本明細書の一実施形態では、燃料組成物は、0.4~1.4の範囲のPM指数を有する。
【0022】
火花点火エンジンにおける早期点火の発生レベルは、任意の適切な方法を使用して評価することができる。そのような方法は、関係する燃料および/または潤滑剤組成物を使用し、その燃焼サイクル中のエンジン圧力の変化、すなわち圧力対クランク角度の変化を監視する火花点火エンジンを動作させることを伴い得る。早期点火事象は、スパーク前、またはスパーク後でさえ、エンジン圧力の上昇をもたらし、シリンダにわたって進行する火炎前面が、未燃のエンドガスを、自然発火点まで過度に圧縮および加熱するが、これは、一部のエンジンサイクル中に発生し、他のサイクルでは発生しないことがある。その代わりに、またはそれに加えて、例えば、スパーク前の初期燃焼サイクル開始時、または燃焼開始時(SOC)に、クランク角度位置が監視されてもよい。その代わりに、またはそれに加えて、例えば、達成可能な最大ブレーキトルク、エンジン速度、吸気圧力、および/または排気温度によって、エンジン性能の変化を監視することができる。その代わりに、またはそれに加えて、適切に経験を積んだ運転者は、火花点火エンジンが駆動する車両を試運転し、例えば特定の燃料および/または潤滑剤組成物がエンジンノックの程度またはエンジン性能の他の態様に及ぼす影響を評価することができる。その代わりに、またはそれに加えて、早期点火による、例えば関連するエンジンノックによるエンジン損傷のレベルは、火花点火エンジンが関係する燃料および/または潤滑剤組成物を使用して動作している間、一定時間にわたって監視されてもよい。
【0023】
早期点火の発生の低減は、早期点火事象が発生するエンジンサイクル数の低減、またはエンジン内で早期点火事象が発生する割合の、および/または発生する早期点火事象の深刻度(例えば、早期点火事象が起因する圧力変化の程度)の低減であってもよい。それは、早期点火がエンジン性能、例えばブレーキトルクの低下またはエンジン速度の阻害に及ぼし得る1つ以上の影響を低減することによって明らかになることがある。それは、エンジンノックの量または深刻度の低減によって、特に「メガノック」の低減または排除によって明らかになることがある。好ましくは、本発明では、早期点火の発生の低減は、早期点火事象が発生するエンジンサイクル数の低減である。
【0024】
早期点火は、特に、早期点火が頻繁に発生して「メガノック」に至る場合、重大なエンジン損傷を引き起こす可能性があるため、本明細書に開示される燃料組成物は、エンジン損傷を低減する目的、および/またはエンジン寿命を延ばす目的でも使用され得る。
【0025】
本発明の使用および方法は、ゼロまで低減すること(すなわち、早期点火を排除すること)を含む、エンジン内での早期点火の発生の任意の程度の低減を達成するために使用され得る。それは、早期点火の副作用、例えば、エンジン損傷を任意の程度低減することを達成するために使用することができる。それは、発生または副作用の望ましい目標レベルを達成する目的で使用することができる。本明細書の方法および使用は、好ましくは、エンジン内での早期点火の発生を5%以上低減する、より好ましくはエンジン内での早期点火の発生を10%以上低減する、さらにより好ましくはエンジン内での早期点火の発生を15%以上低減する、特にエンジン内での早期点火の発生を30%以上低減することを達成する。特に好ましい実施形態では、本明細書の方法および使用は、エンジン内での早期点火の発生の50%以上の低減を達成する。別の特に好ましい実施形態では、本明細書の方法および使用は、エンジン内での早期点火の発生を完全に排除する。
【0026】
低速早期点火事象を測定するための適切な方法の例は、以下のSAE論文、すなわち、SAE2014-01-1226、SAE2011-01-0340、SAE2011-01-0339、およびSAE2011-01-0342に見出され得る。低速早期点火事象を測定するための適切な方法の別の例は、以下の実施例に記載されている試験方法である。
【0027】
本明細書のガソリン燃料組成物は、ガソリンベース燃料を含む。ガソリンベース燃料は、自動車エンジン、ならびに、例えば、オフロードおよび航空機エンジンなどの他のタイプのエンジンを含む、当技術分野で知られている火花点火(ガソリン)タイプの内燃エンジンでの使用に適した任意のガソリンベース燃料であり得る。本発明の液体燃料組成物にベース燃料として使用されるガソリンはまた、便宜上「ベースガソリン」とも称され得る。
【0028】
ガソリンは、通常、25~230℃(EN-ISO 3405)の範囲で沸騰する炭化水素の混合物を含み、通常、最適な範囲および蒸留曲線は、その年の気候および季節によって変化する。ガソリン中の炭化水素は、当技術分野で知られている任意の手段によって導出され得、便宜的には、炭化水素は、直留ガソリン、合成的に生成された芳香族炭化水素混合物、熱的もしくは接触分解炭化水素、水素化分解もしくは水素異性化石油留分、接触改質炭化水素、またはこれらの混合物から任意の既知の方法で得ることができる。最終ガソリン中の硫黄および窒素のレベルは、例えば、慎重な水素化処理によって、それぞれの地域市場の規制仕様内に最小化されるべきである。これらのガソリン成分はすべて、化石炭素または再生可能エネルギーに由来し得る。
【0029】
ガソリンの特定の蒸留曲線、炭化水素組成、リサーチオクタン価(RON)、およびモータオクタン価(MON)は、本発明には重要ではない。
【0030】
便宜的には、ガソリンのリサーチオクタン価(RON)は、少なくとも80、例えば、80~110の範囲であってもよく、好ましくはガソリンのRONは、少なくとも90、例えば、90~110の範囲であり、より好ましくはガソリンのRONは、少なくとも91、例えば、91~105の範囲であり、さらにより好ましくはガソリンのRONは、少なくとも92、例えば、92~103の範囲であり、さらにより好ましくはガソリンのRONは、少なくとも93、例えば、93~102の範囲であり、最も好ましくはガソリンのRONは、少なくとも94、例えば、94~100の範囲である(EN 25164);ガソリンのモータオクタン価(MON)は、便宜的には、少なくとも70、例えば、70~110の範囲であってもよく、好ましくはガソリンのMONは、少なくとも75、例えば、75~105の範囲であり、より好ましくはガソリンのMONは、少なくとも80、例えば、80~100の範囲であり、最も好ましくはガソリンのMONは、少なくとも82、例えば、82~95の範囲である(EN 25163)。
【0031】
通常、ガソリンには、以下の群のうちの1種類以上から選択される成分が含まれる:飽和炭化水素、オレフィン系炭化水素、芳香族炭化水素、および酸素化炭化水素。便宜的には、ガソリンには、飽和炭化水素、オレフィン系炭化水素、芳香族炭化水素、および任意選択で酸素化炭化水素の混合物が含まれてもよい。
【0032】
典型的には、ガソリンのオレフィン系炭化水素含有量は、ガソリンに基づいて0~40体積パーセントの範囲であり(ASTM D1319)、好ましくは、ガソリンのオレフィン系炭化水素含有量は、ガソリンに基づいて0~30体積パーセントの範囲であり、より好ましくは、ガソリンのオレフィン系炭化水素含有量は、ガソリンに基づいて0~20体積パーセントの範囲である。
【0033】
通常、ガソリンの芳香族炭化水素含有量は、ガソリンに基づいて0~70体積パーセントの範囲であり(ASTM D1319)、例えば、ガソリンの芳香族炭化水素含有量は、ガソリンに基づいて10~60体積パーセントの範囲である;好ましくはガソリンの芳香族炭化水素含有量は、ガソリンに基づいて0~50体積パーセントの範囲であり、例えば、ガソリンの芳香族炭化水素含有量は、ガソリンに基づいて10~50体積パーセントの範囲である。
【0034】
ガソリンのベンゼン含有量は、ガソリンに基づいて、最大で2体積パーセント、より好ましくは、最大で1体積パーセントである。
【0035】
ガソリンは、例えば、最大で1000ppmw(重量百万分率)、好ましくは500ppmw以下、より好ましくは100以下、さらにより好ましくは50以下、および最も好ましくはさらに10ppmw以下の低いまたは非常に低い硫黄含有量を有することが好ましい。
【0036】
また、ガソリンは、好ましくは最大で0.005g/lなどの低い総鉛含有量を有し、最も好ましくは鉛を含んでいない、鉛化合物がガソリンに添加されていない(すなわち、無鉛)。
【0037】
ガソリンが酸素化炭化水素を含む場合、非酸素化炭化水素の少なくとも一部が、酸素化炭化水素に置換される。ガソリンの酸素含有量は、ガソリンに基づいて、最大35重量パーセント(EN 1601)(例えば、エタノール自体(すなわち、純粋な無水エタノール))であり得る。例えば、ガソリンの酸素含有量は、最大25重量パーセント、好ましくは最大10重量パーセントであってもよい。便宜的には、酸素化物濃度は、0ならびに5重量パーセントのうちのいずれか1つから選択される最小濃度、および30、20、10重量パーセントのうちのいずれか1つから選択される最大濃度を有するであろう。好ましくは、本明細書の酸素化物濃度は、5~15重量パーセントである。
【0038】
ガソリン中に組み込むことができる酸素化炭化水素の例には、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、およびそれらの誘導体、ならびに酸素含有複素環式化合物が含まれる。上記の酸素化物のすべては、飽和および/または不飽和炭化水素骨格、ならびに芳香族部分を含み得る。好ましくは、ガソリン中に組み込まれ得る酸素化炭化水素は、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、イソ-ブタノール、プレノール、イソプレノール、および2-ブタノールなど)、エーテル(好ましくは、1分子当たり5個以上の炭素原子を含有するエーテル、例えば、メチルtert-ブチルエーテルおよびエチルtert-ブチルエーテル)、ならびにエステル(好ましくは、1分子当たり5個以上の炭素原子を含有するエステル)から選択され、特に好ましい酸素化炭化水素は、エタノールである。
【0039】
酸素化炭化水素がガソリン中に存在するとき、ガソリン中の酸素化炭化水素の量は、広範囲にわたって変化してもよい。例えば、主要な割合の酸素化炭化水素を含むガソリン、例えば、エタノール自体およびE85、ならびにわずかな割合の酸素化炭化水素を含むガソリン、例えば、E10およびE5は、現在、ブラジルおよび米国などの国々で市販されている。したがって、ガソリンは、最大100体積パーセントの酸素化炭化水素を含有していてもよい。また、ブラジルで使用されているようなE100燃料も本明細書に含まれる。好ましくは、ガソリン中に存在する酸素化炭化水素の量は、ガソリンの所望の最終配合に応じて、最大85体積%、最大70体積%、最大65体積%、最大30体積%、最大20体積%、最大15体積%、および最大10体積%の量のうちの1つから選択される。便宜的には、ガソリンは、少なくとも0.5、1.0、または2.0体積パーセントの酸素化炭化水素を含有していてもよい。
【0040】
適切なガソリンの例には、0~20体積パーセントのオレフィン系炭化水素含有量(ASTM D1319)、0~5重量パーセントの酸素含有量(EN 1601)、0~50体積パーセントの芳香族炭化水素含有量(ASTM D1319)、および最大で1体積パーセントのベンゼン含有量を有するガソリンが含まれる。
【0041】
また、本明細書での使用に適しているものは、生物源に由来し得るガソリンブレンド成分である。そのようなガソリンブレンド成分の例は、WO2009/077606、WO2010/028206、WO2010/000761、欧州特許出願第09160983.4号、同第09176879.6号、同第09180904.6号、および米国特許出願第61/312307号に見出され得る。
【0042】
本発明にとって重要ではないが、好都合には、本発明のベースガソリンまたはガソリン組成物は、1種類以上の任意選択の燃料添加剤を含んでもよい。本発明で使用されるベースガソリンまたはガソリン組成物に含まれてもよい任意選択の燃料添加剤の濃度および性質は重要ではない。本発明で使用されるベースガソリンまたはガソリン組成物に含まれ得る適切なタイプの燃料添加剤の非限定的な例には、酸化防止剤、腐食防止剤、耐摩耗性添加剤または表面改質剤、火炎速度添加剤、洗浄剤、濁り防止剤、アンチノック添加剤、金属不活性化剤、バルブシートリセッション防止剤化合物、染料、溶媒、キャリア流体、希釈剤、マーカが含まれる。適切なそのような添加剤の例は、米国特許第5,855,629号に全般的に記載されている。エンジンおよび燃料供給システムの堆積物を最小限に抑えるための適切な洗浄剤/分散剤は、PIB-アミン、マンニッヒ、ポリエーテルアミン、スクシンイミド、およびそれらの混合物の誘導体から選択され得る。
【0043】
好都合には、燃料添加剤は、1種類以上の溶媒とブレンドされて、添加剤濃縮物を形成することができ、次いで、この添加剤濃縮物は、本発明のベースガソリンまたはガソリン組成物と混和することができる。
【0044】
本発明のベースガソリンまたはガソリン組成物中に存在するすべての任意選択の添加剤の(活性物質)濃度は、好ましくは最大1重量パーセント、より好ましくは5~2000ppmwの範囲、有利には300~1000ppmwなどの300~1500ppmwの範囲である。
【0045】
好都合には、燃料組成物は、1種類以上のベース燃料を1種類以上の性能添加剤パッケージおよび/または1種類以上の添加剤成分と混和することにより、従来の配合技法を使用して調製することができる。
【0046】
本明細書に記載の火花点火エンジンで使用するための潤滑剤組成物は、一般に、基油および1種類以上の性能添加剤を含み、火花点火内燃エンジンでの使用に適しているべきである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の潤滑剤組成物は、ターボ過給火花点火エンジン、より具体的には、少なくとも1バールの入口圧力で動作する、または動作し得る、もしくは動作することが意図されたターボ過給火花点火エンジンで特に有用であり得る。
【0047】
オイル中の高カルシウム含有量は、低速早期点火を悪化させることがしばしば見出され、したがって、本発明は、高カルシウムエンジンオイル環境で特に有用であることが見出されたが、本発明は、エンジンが、オイルのカルシウム含有量に関係なく、低速早期点火の傾向があるあらゆる状況において有用であろう。したがって、本明細書で使用するための潤滑剤組成物は、ASTM D5185に従って測定したときに、0ppmw以上、好ましくは、500ppmw以上、より好ましくは、1000ppmw以上、さらにより好ましくは、1200ppmw以上、さらにより好ましくは、1500ppmw以上、特に、2000ppmw以上のカルシウム含有量を有し得る。
【0048】
本発明の一実施形態では、潤滑組成物は、総潤滑組成物に基づいて、1200ppmw~3000ppmwを含む。本明細書の別の実施形態では、潤滑剤組成物は、ASTM D5185に従って測定したときに、総潤滑組成物に基づいて、1500ppmw~2800ppmw、好ましくは、2000ppmw~2800ppmw、より好ましくは、2500ppmw~2800ppmwのカルシウム含有量を有する。
【0049】
本明細書の潤滑組成物に含まれ得る任意選択の潤滑剤添加剤は、耐摩耗剤、消泡剤、洗浄剤、分散剤、腐食防止剤、防錆添加剤、酸化防止剤、極圧添加剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤などを含む。
【0050】
本明細書の潤滑剤組成物は、好ましくは、総潤滑剤組成物に基づいて、1~1000ppmw、好ましくは、200~800ppmwのマグネシウム含有量を有する。
【0051】
本明細書の潤滑剤組成物内で使用するための好ましい添加剤は、ジチオリン酸亜鉛化合物などの亜鉛ベースの耐摩耗添加剤である。亜鉛ベースの耐摩耗添加剤は、潤滑組成物の技術分野で周知である。潤滑剤組成物中に存在する亜鉛のレベルは、総潤滑剤組成物に基づいて、0~1200ppmwの範囲、好ましくは、600~1200ppmwの範囲であることが好ましい。
【0052】
本明細書で使用するための別の好ましい潤滑剤添加剤は、モリブデンジチオカルバメートなどのモリブデンベースの摩擦低減添加剤である。モリブデンベースの摩擦低減添加剤は、潤滑組成物の技術分野で周知である。本明細書の潤滑剤組成物中に存在するモリブデンのレベルは、総潤滑剤組成物に基づいて、0~1000ppmwの範囲、好ましくは、0~900ppmwの範囲、より好ましくは、0~500ppmwの範囲であることが好ましい。
【0053】
本発明のより良い理解を促すために、いくつかの実施形態の特定の態様の例を以下に示す。以下の実施例は、本発明の範囲全体を制限するまたは定義するように決して読み取られるべきではない。
【実施例
【0054】
本実施例では、3つの異なる燃料が使用された(燃料A、燃料B、および燃料C)。これらの燃料の化学組成および特性が、以下の表1に示されている。すべての燃料は、同じRON、MON、およびエタノール含有量を有するようにブレンドされ、燃料BおよびCは、同じ芳香族含有量を有するようにブレンドされた。燃料の各々のPM指数は(2010年10月25日に刊行されたSAE 2010-01-2115に公開されている)上記の式(1)に従って計算された。
【表1】
【0055】
本実施例で使用された潤滑剤のタイプは、ASTM D5185に従って測定したときに、2763ppmのカルシウム含有量を有する5W-30粘度グレードのGF-5認定高カルシウム含有潤滑剤であった。以下の表2は、潤滑剤の化学的および物理的特性を示す。
【表2】
【0056】
燃料A、B、およびCは、LSPI事象およびその頻度を測定するために、以下の試験方法に供された。
【0057】
LSPIを測定するための試験方法
本実施例においてLSPI事象を測定するために使用される試験プロトコルが、以下に説明される。使用されたエンジンは、GEM-T4エンジンであった。
【0058】
LSPI検出のために共通して使用された変数は、以下である。
(1)スパーク前の初期燃焼サイクル開始時、すなわち、2%燃焼質量割合(MFB)でのクランク角度位置。
(2)早期点火および燃焼中のピーク圧力(100MPa以上、もしくは平均ピーク圧力と標準ピーク圧力の4.7倍との合計を超える。
(3)LSPI検出アルゴリズムを使用するFEVの後処理ソフトウェア(詳細は、’Influence of Ethanol Blends on Low Speed Pre-Ignition in Turbocharged,Direct-Injection Gasoline Enginesと題されたHaenel et al,SAE Int.J.Fuels Lubr.,Volume 10,Issue 1(April 2017)、’Analysis of the Impact of Production Lubricant Composition and Fuel Dilution on Stochastic Pre-Ignition in Turbocharged,Direct-Injection Gasoline Engines’と題されたSAE論文2019-01-0256、US9869262B2、およびUS10208691B2に見出され得る)を介しての燃焼開始時(SOC)のクランク角度位置。圧力レベルは、LSPI検出アルゴリズムに暗黙的に含まれており、通常の燃焼圧力条件の範囲外である必要がある。
【0059】
本方法でLSPI検出に使用される変数は、燃焼開始時のクランク角度位置である(上記の方法番号(3))。
【0060】
要約すると、LSPIを検出するための段階的なアプローチは、以下のとおりである。
-圧力トレースおよびSOCを決定するために、早期点火なしの平均燃焼サイクルの計算。
-サイクルSOCの定義:燃焼遅延を考慮して、スパークがトリガーを設定する前に、平均を±2%上回る圧力(図ではPmaxで表されている)。
-上記の2つの要素からの入力に基づいて、LSPIおよびノックの特性を計算し、圧力トレースを継続的に保存する。
【0061】
これらの実験には、マルチエンジンダイナモメータが使用された。別の試験手順が明示的に言及されていない限り、図1aの定常状態、すなわち、定速および定負荷の試験手順が、本明細書のエンジン試験に使用された。定常状態試験は、エジンを160,000サイクルにわたって、各4000エンジンサイクル後に、エンジンを周囲条件まで冷却するために、同じ速度であるがより低い負荷で惰性走行させる2分間のインターバルを伴って、4時間30分の合計持続時間動作することで構成される。図1に示されるサイクルの10回の繰り返しが、1つのエンジン試験を構成する。LSPI事象が、初めに、160,000サイクルに対してカウントされ、次いで、100万サイクルにスケーリングされ、最終的に100万分の1(ppm)単位(または100万あたりの事象数(epm))でLSPI事象が報告される。
【0062】
現実の運転条件を反映するために、過渡状態試験が、試験手順に組み込まれた。
【0063】
必要に応じて、負荷ステップ法が、長い定常状態試験手順に組み込まれた。図1bおよび図1cは、非常に高い負荷(通常、21バール超のBMEP)でのさまざまな潤滑剤および較正の変更の応答のための迅速な「スクリーナ」として機能する負荷ステップ法を示す。試験手順は、各負荷ポイントで、エンジンサイクル数の半分(すなわち、80,000サイクル)にわたって定常状態LSPI試験を実行してから、より高い負荷に移動することを含んだ。そのようなプロセスは、LSPI事象が、高くかつ潜在的に損傷を与える可能性のあるシリンダ内圧力値(Pmax)をもたらす可能性がある、非常に高い負荷での応力をエンジンに受けさせることなく、比較的より短い時間で、エンジン条件または作動流体の変化からLSPI応答への影響を判断するのに役立った。負荷ステップ手順は、最小量のLSPI事象で、特定のエンジン条件下で達成可能な最大BMEPを調査することが目的である場合に、使用された。速度-負荷動作戦略の急激な変動(すなわち、現実の運転条件に近い)に対するエンジンの応答性を理解するために、過渡状態でもいくつかの試験が実行された。図1dに示されるように、これらの条件は、数秒間の負荷の急激な増加と、それに続く惰性走行とを含んだ。これらのサイクルが、約5~10秒間、合計50,000サイクルにわたって繰り返された。
【0064】
試験方法の重要な側面が、フラッシングオイルを循環させるために30分間のエンジン動作によって中断される4回のオイル交換およびフィルタ交換からなるオイルフラッシング手順である。
【0065】
LSPI測定手順
LSPI事象の後には、一般に、いずれもホットスポットまたはノック事象によって誘発される早期点火事象であり得る、大きな「アフターショック」(または後続の)事象が続く。しかし、これらのアフターショック事象は、それらが、最初の早期点火事象によって引き起こされるシリンダ内の圧力波反射が原因で発生するため、一般に、明確なLSPI事象とはみなされ得ない。これらの事象をLSPIサイクルと区別するために、アフターショック事象は、先行する早期点火事象から3サイクル以内の早期点火事象として定義される。後続の現象が3サイクル以内に発生する場合、2番目の後続の事象の時間枠は、再び、最初の後続の事象後3サイクルである。したがって、独立した事象は、最低4サイクル離れている必要がある。表3は、本実験で、各LSPI事象がどのように報告されるかの例を示す。
【表3】
【0066】
本実施例で使用されたエンジン仕様が、以下の表4に示されている。
【表4】
【0067】
このエンジンのためのPM/PN形成およびLSPIに敏感な試験条件が、以下の表5に示されている。PM/PNの記録には、AVL Microsootセンサーが使用された。
【表5】
【0068】
以下の表6は、燃料A~Cの各々について、粒子数(PN)、LSPI事象数、および(SAE論文SAE-2010-01-2115に従って決定された)PM指数を示す。図2は、表6の結果のプロットである。
【表6】
【0069】
以下の表7は、燃料A、B、およびCの試験ごとのLSPI事象数、ならびに燃料A~Cの各々に対する(SAE-2010-01-2115で定義された)PMおよびPM指数を示す。図3は、表7に示された結果のプロットである。
【表7】
【0070】
考察
表6および7、ならびに図2および3の結果は、最も高いPM指数を有する燃料(燃料C)は、最も高いLSPI事象数も有することを示す。さらに、最も低いPM指数を有する燃料(燃料A)は、最も低いLSPI事象数を有する。2.83のPM指数を有する燃料Cは、それぞれ1.36および0.49のPM指数を有する燃料Bおよび燃料Aと比較して、大幅に高いレベルのLSPI事象数を示す。
図1
図2
図3
【国際調査報告】