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特表2022-526603鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減
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  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図1
  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図2
  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図3
  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図4
  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図5
  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図6
  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図7
  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図8
  • 特表-鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(54)【発明の名称】鋼シート/プレート間の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面における酸化物形成の低減
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/16 20060101AFI20220518BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20220518BHJP
【FI】
B23K9/16 M
B23K31/00 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559246
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(85)【翻訳文提出日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 US2020026494
(87)【国際公開番号】W WO2020206194
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】62/829,741
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503404132
【氏名又は名称】クリーブランド-クリフス スティール プロパティーズ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンズ、ジェームズ、フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ストレイビック、スティーブン ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】テイト、スティーブン、ブライアント
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001BB08
4E001CA01
4E001DD02
4E001DD03
(57)【要約】
【要約】
【解決手段】 連続溶接システムに使用される装置は、平行移動する複数の鋼シートまたは鋼プレートに対して固定位置を維持するように構成されている溶接ヘッドを含む。前記装置は、細長い中空本体部と、吸気口とを含む。前記本体部は2つの閉端部の間に延長する。前記吸気口は非酸化性ガス供給源に連結され、前記本体部と連通する。前記本体部は、複数の開口部を画成する。前記複数の開口部は非酸化性ガスを前記複数の鋼シートまたは鋼プレートに向けて流動させるように構成され、これにより前記溶接ヘッドによって形成された接合部が大気から遮断されると同時に冷却される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ヘッドを含む連続溶接システムに使用される装置であって、前記溶接ヘッドは平行移動する複数の鋼シートまたは鋼プレートに対して固定位置を維持するように構成されているものであり、この装置は、
2つの閉端部の間に延長する細長い中空本体部と、
非酸化性ガス供給源に連結され、前記本体部と連通する吸気口と
を有し、
前記本体部は複数の開口部を画成し、当該複数の開口部は非酸化性ガスを前記複数の鋼シートまたは鋼プレートに向けて流動させるように構成されているものであり、これにより前記溶接ヘッドによって形成された接合部が大気から遮断されると同時に冷却されるものである、
装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、前記本体部によって画成された前記複数の開口部は、前記本体部の長手方向軸に沿って配置されるものである、装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、前記本体部によって画成された前記複数の開口部の各々は、互いに隣接する開口部から等間隔で離間されているものである、装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置おいて、前記複数の開口部の各々は第1の面積を画定し、前記本体部は第2の面積を画定するものであり、各開口部によって画定される前記第1の面積の合計により第3の面積が画定されるものであり、前記第2の面積は前記第3の面積よりも大きいものである、装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、前記第2の面積は、2~20の間の所定の倍数だけ前記第3の面積よりも大きいものである、装置。
【請求項6】
請求項1記載の装置において、前記本体部は所定の長さを有し、当該長さは前記接合部を500°Cまたは500°C未満に冷却するように構成されているものである、装置。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、前記本体部は所定の長さを有し、当該長さは1メートルまたは1メートルよりも大きいものである、装置。
【請求項8】
鋼シートまたは鋼プレートを連続溶接するシステムであって、
溶接ヘッドであって、1若しくはそれ以上の鋼シートまたは鋼プレートと当該溶接ヘッドとの間の相対移動により当該1若しくはそれ以上の鋼シートまたは鋼プレートに接合部を形成するように構成されているものである、前記溶接ヘッドと、
中空本体部を有し、前記溶接ヘッドの溶接方向から離れる方向に向かって延長するヘッダーであって、前記本体部は前記接合部に向かって配置された複数の開口部を画成し、当該複数の開口部は非酸化性ガスを前記接合部に向けて流動させるように構成されているものであり、これにより前記接合部が大気から遮断されると同時に冷却されるものである、
システム。
【請求項9】
請求項8記載のシステムにおいて、さらに
非酸化性ガス供給源を有し、
前記ヘッダーは前記本体部と連通する吸気口を含むものであり、前記非酸化性ガス供給源と前記吸気口との間に延長する管部により非酸化性ガスが前記本体部に供給されるものである、
システム。
【請求項10】
請求項9記載のシステムにおいて、さらに、バルブを有し、当該バルブは前記管部と連通して前記本体部に供給される非酸化性ガスの圧力を制御するものである、システム。
【請求項11】
請求項9記載のシステムにおいて、前記非酸化性ガス供給源は1若しくはそれ以上のアルゴンまたは窒素を提供するように構成されているものである、システム。
【請求項12】
請求項8記載のシステムにおいて、前記本体部は所定の長さを有し、前記複数の開口部は前記本体部の前記長さに沿って前記本体部に画成されるものである、システム。
【請求項13】
請求項12記載のシステムにおいて、前記本体部の前記長さは、前記接合部を500°Cまたは500°C未満に冷却するように構成されているものである、システム。
【請求項14】
請求項12記載のシステムにおいて、前記本体部の前記長さは、1メートルまたは1メートルよりも大きいものである、システム。
【請求項15】
接合部を遮蔽および冷却する方法であって、
複数の金属シートまたは金属プレート間に接合部を形成するために当該金属シートまたは金属プレートを溶接ヘッド対して第1の方向に移動させる工程と、
前記接合部を遮蔽すると同時に冷却するために、前記複数の金属シートまたは金属プレートが前記第1の方向に移動する際に前記接合部に近接して非酸化性ガスを堆積させる工程と、
を有する、方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記非酸化性ガスを堆積させる工程は、前記接合部を冷却するために前記接合部の長さに沿った所定の距離に対して継続されるものである、方法。
【請求項17】
請求項15記載の方法において、前記非酸化性ガスを堆積させる工程は、前記接合部を所定の温度に冷却するために前記接合部の長さに沿って実行されるものである、方法。
【請求項18】
請求項15記載の方法において、前記非酸化性ガスを堆積させる工程は、前記接合部を500°Cまたは500°C未満に冷却するために前記接合部の長さに沿って実行されるものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年4月5日付で出願した、「SHIELDING AND COOLING A CONTINUOUS WELD IN HOT STAMPED STEEL USING A NON-OXIDIZING ATMOSPHERE TO REDUCE THE FORMATION OF OXIDE ON THAT CONTINUOUS WELDING SURFACE 2-2(ホットスタンプした鋼鉄の連続接合部を非酸化性雰囲気を利用して遮蔽および冷却することによる連続接合部表面2-2における酸化物形成の低減)」と題する、米国特許仮出願第62/829,741号に対して優先権を主張するものであり、その開示内容がこの参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
鋼プレートおよび/または鋼シートは、様々な溶接法を利用して、また様々な用途において接合される。一部の用途では、溶接後の鋼シート/プレートの1若しくはそれ以上の表面に様々な金属被膜を付着させるために溶融めっき処理が行われるが、一部の用途では、接合部分またはその付近において酸化物が形成されることによって鋼基板と金属被膜の付着が困難となる。
【0003】
溶接工程中、当接した鋼シート/プレートは比較的高温に加熱される。特定の状況下では、鋼シート/プレートの1若しくはそれ以上の部分が周囲の大気中の酸素に反応して表面酸化物または表面スケールが生成されるまで温度が高温になることもある。溶接後に鋼シート/プレートの表面にこのような酸化物が残留している場合、後続工程で接合部分に溶融めっきによる被覆処理を行う際に被膜部分の完全性および/または付着性の維持が困難となる。例えば、溶融めっきによる被覆処理中に接合部分が金属被膜によって完全に被覆されない場合もある。このような問題は、焼なまし、ホットスタンプなどの後続の処理工程においてさらに深刻となる。したがって、溶接時における鋼シート/プレートの酸化傾向を低減させる装置および方法が必要とされる。製鋼業の用途において、いくつかの装置および方法が考案および使用されてきたが、本発明者以前に添付の特許請求の範囲に係る発明の考案または使用はなされなかったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1図1は、例示的な連続シーム溶接システムの斜視図を示す。
図2図2は、図1の連続シーム溶接システムの例示的なヘッダーの斜視図を示す。
図3図3は、図1の線3-3に沿った、図2のヘッダーの断面図を示す。
図4図4は、図2のヘッダーによって処理された第1の溶接試験片の3つの断面の顕微鏡写真を示す。
図5図5は、遮断および/または冷却工程を行わずに処理された第2の溶接試験片の3つの断面の顕微鏡写真を示す。
図6図6は、被覆工程後に鋼板コイルの第1の外径で撮像された第3の溶接試験片の断面の顕微鏡写真を示す。
図7図7は、被覆工程後に鋼板コイルの第2の外径で撮像された第3の溶接試験片の断面の顕微鏡写真を示す。
図8図8は、被覆工程後に鋼板コイルの第1の内径で撮像された第3の溶接試験片の断面の顕微鏡写真を示す。
図9図9は、被覆工程後に鋼板コイルの第2の内径で撮像された第3の溶接試験片の断面の顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
図1は、例示的な連続シーム溶接システム(10)を示す。溶接システム(10)では、2つのシートおよび/またはプレート(20)は、固定溶接ヘッド(30)に対して連続移動される。したがって、本実施形態の溶接システム(10)は、ローラーなどによってシート/プレート(20)が様々な材料加工領域を通過する連続材料加工システムに容易に一体化することができることを理解されたい。但し別の実施形態では、溶接システム(10)は、独立型システムとして使用することができ、他の材料加工システムに一体化されないことを理解されたい。すなわち、本図ではシート/プレート(20)が固定溶接ヘッド(30)に対して移動することを示しているが、別の実施形態では、シート/プレート(20)を固定して固定溶接ヘッド(30)が移動するように構成することも可能である。当然のことながら、当業者であれば本明細書の教示から様々な代替構成を使用することができることが自明である。
【0006】
本実施形態のシート/プレート(20)は、炭素鋼またはその他の鋼製品を含んでもよい。シート/プレート(20)は同一材料から構成されてもよいが、いくつかの実施形態では各プレート(20)の材料は異なっていてもよい。例えばいくつかの実施形態では、シート/プレート(20)はカスタマイズされた溶接コイルの形成に利用することができ、そのようなコイルは後続工程においてカスタマイズされた様々な溶接ブランク材に形成することができる。このような実施形態では、シート/プレート(20)は、材料、寸法、および材料特性の点で異なるものであってよい。このような構成は、鋼ブランク材の断面積に亘って異なる特性を提供するのに好適である。
【0007】
本実施形態の溶接ヘッド(30)は、様々な溶接作業を実行するように構成されている。例えばいくつかの実施形態では、溶接ヘッド(30)は、ガスタングステンアーク溶接(GTAW)を実行するように構成することができる。別の実施形態において、溶接ヘッド(30)は、レーザー溶接を実行するように構成することができる。さらに別の実施形態において、溶接ヘッド(30)は、抵抗溶接を実行するように構成することができる。さらにまた別の実施形態において、溶接ヘッド(30)は、ガスメタルアーク溶接(GMAW)を実行するように構成することができる。さらに別の実施形態において、溶接ヘッド(30)は、シールドアーク溶接(SAW)を実行するように構成することができる。さらに別の実施形態において、当然のことながら、当業者であれば本明細書の教示から、溶接ヘッド(30)は、その他の様々な代替溶接作業、またはその組み合わせを実行するように構成することができることが自明である。
【0008】
図示していないが、溶接ヘッド(30)は、溶接に関連したその他の様々なコンポーネントを備えることができることを理解されたい。例えば溶接ヘッド(30)は、電源、ガス供給源、溶加材供給源などの1若しくはそれ以上を備えることができる。それに加えて、または代替的に、溶接ヘッド(30)は、システム(10)の1若しくはそれ以上のコンポーネントと連動して溶接作業を行うための1若しくはそれ以上の制御装置を備えることもできる。例えば1実施形態において、1若しくはそれ以上の制御装置は、電流および/または電圧などの溶接動作パラメータをシート/プレート(20)などの送給速度と連動させるのに使用することができる。さらに、当業者であれば本明細書の教示からこのような制御装置のその他の使用用途が自明である。
【0009】
本実施形態の溶接ヘッド(30)は、シート/プレート(20)間に下向き姿勢での突合わせ接合部を形成するように、シート/プレート(20)に対して配置されていることが示されている。しかしながら、別の実施形態においては、溶接ヘッド(30)を様々な代替位置に配置することができる。例えば、いくつかの実施形態において、溶接ヘッド(30)を横向き姿勢、立向き姿勢、または上向き姿勢に配置することができる。それに加えて、または代替的に、いくつかの実施形態において、溶接ヘッド(30)は複数の溶接ヘッドを含むことができ、これにより1回の通過で複数の位置(例えば、下向きおよび上向き位置)に接合部を形成することが可能となる。
【0010】
本実施形態の溶接システム(10)は、さらに、溶接ヘッド(30)が通過した方向、すなわち溶接ヘッド(30)から離れる方向に向かって延長するヘッダー(50)またはシュラウド(shroud)を含む。本実施形態のヘッダー(50)は、溶接ヘッド(30)によって新たに形成された接合部が一定時間冷却されている間、当該接合部を大気から遮断するように構成されている。この遮断および冷却の同時作用は、ヘッダー(50)内においてシート/プレート(20)および/または接合位置に向かって設けられた1若しくはそれ以上の開口部、気孔、および/またはオリフィスによって実現される。したがって、ヘッダー(50)は、その長さに対応したシールドガスを一定時間接合部の表面に向かって供給するように構成されていることを理解されたい。
【0011】
本実施形態のヘッダー(50)は、細長い中空構造として構成されている。以下詳細に説明するように、ヘッダー(50)の中空構造は通常、ヘッダー(50)を通過するガス流を接合部に向けて流動させるように構成されている。本実施形態のヘッダー(50)は、管状または円筒状を有するように図示しているが、別の実施形態において、異なる構造を採用してもよいことを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態において、ヘッダー(50)は、正方形または長方形の断面を有するように構成することができる。別の実施形態において、ヘッダー(50)は、楕円形状の断面を有するように構成することができる。さらに別の実施形態において、ヘッダー(50)は、c字形状または平坦な断面など、不規則な形状を有するように構成することができる。当然のことながら、当業者であれば本明細書の教示からヘッダー(50)の様々な代替形状が自明である。
【0012】
図2において最も明瞭なように、ヘッダー(50)は、細長い本体部(52)と、閉前端部(54)と、閉後端部(56)と、吸気口(58)とを含む。以下詳細に説明するように、本体部(52)および閉端部(54、56)の組み合わせの作用によって、ガスは吸気口(58)からヘッダー(50)を通過してシート/プレート(20)間の接合部に向けて送給される。本実施形態のヘッダー(50)は通常、本体部(52)および閉端部(54、56)が単一材料から成るように、単一の材料から形成されるが、別の実施形態において、ヘッダー(50)は、共に固定された複数の異なる材料から形成されてもよい。さらに、本実施形態のヘッダー(50)は通常、炭素合金鋼(carbon steel alloy)などの金属から形成される。ヘッダー(50)は新たに形成された接合部に隣接して配置されるため、耐熱性を提供するために金属構造を有することが望ましいい。しかしながら、別の実施形態では様々な代替材料を使用できることを理解されたい。
【0013】
ヘッダー(50)は、さらに、本体部(52)によって画成された複数の開口部(60)を含む。複数の開口部(60)は通常、ガスを吸気口(58)から接合部に向けて流動させるように構成されている。そのため、開口部(60)は通常、ヘッダー(50)の底部側の接合部に近接した位置に配置される。本実施形態の開口部(60)の各々は通常、円形状または円筒状形状を有する。いくつかの実施形態では、各開口部(60)を通過するガスが乱流となるのを抑制するためにこのような形状が望ましい場合がある。
【0014】
図2において最も明瞭なように、本実施形態の開口部(60)は、一直線上に配置され、かつ互いに等間隔を置いて離間されている。この構成により、ガスが開口部(60)を通って流動する際に接合部が均一に遮蔽および冷却される。別の実施形態では、開口部(60)は、様々な代替形態を有することを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態において、開口部(60)は、等間隔または一定間隔ずれた、2つ、3つ、または4つの平行線に構成することができる。別の実施形態では、開口部(60)は、本体部(52)の長さに沿って等間隔で離間された様々な群(例えば、対、3組、4組など)に構成することができる。さらに別の実施形態では、開口部(60)は、非酸化性雰囲気を新たに形成された接合部に向けて流動させる1若しくはそれ以上の切れ長のスリットで代替することができる。当業者であれば本明細書の教示から開口部(60)のさらなる別の実施形態が自明である。
【0015】
図3において最も明瞭なように、本実施形態の開口部(60)は通常直径Dを画定する。一方、本体部(52)は直径Dを画定する。本実施形態において、DおよびDは、各開口部(60)を通過するガス流の均一性が促進されるように、互いに対して一定の関係を有する。例えば、Dは面積A1を有することができ、一方Dは面積Aを有することができる。いくつかの実施形態において、面積Aは、全開口部(60)の面積A1の合計の一定倍よりも大きくすることができる。本実施形態では、この一定倍は2である。しかしながら別の実施形態において、この一定倍は20であってもよい。すなわち、本体部(52)によって画定された面積Aは、全開口部(60)の面積A1の合計の2~20倍よりも大きくすることができる。
【0016】
本実施形態の吸気口(58)は、管部(72)またはホースを介して非酸化性ガス供給源(70)に接続されている。非酸化性ガス供給源(70)は通常、所定の圧力で非酸化性ガスをヘッダー(50)に提供する。本実施形態において、バルブ(74)は管部(72)に沿って含まれ、非酸化性ガス供給源(70)からのガス流を制御する。使用される特定の圧力は、非酸化性ガス供給源(70)自体、またはバルブ(74)のいずれかによって制御することができる。いずれの場合も、ガスが吸気口(58)および管部(72)から開口部(60)を通って流動する際に当該ガスによって接合部が覆われるように制御される。
【0017】
非酸化性ガス供給源(70)は、様々なガスまたは混合ガスを提供するように構成することができ、提供されたガスは実質的に非酸化性ガスである。単なる一例ではあるが、当該非酸化性ガスの例は、窒素、ヘリウム、および/またはアルゴンを含む。それに加えて、または代替的に、当該非酸化性ガスは、能動的に酸素を消費する還元ガスを含んでもよい。このような還元ガスは、水素、一酸化炭素、および/または硫化水素を含む。当然のことながら、当業者であれば本明細書の教示から様々な代替的ガスが自明である。
【0018】
本実施形態におけるヘッダー(20)は、必要とされる冷却量に応じて特定の長さに決定することができる。例えば、ヘッダー(50)によって提供される非酸化性雰囲気を取り除く前に、新たに形成された接合部を500°Cまたはそれより低い温度に冷却して酸化物形成を低減することが望ましい。当該温度に冷却することで肉厚の酸化被膜の形成が低減されることが分かっている。いくつかの実施形態において、酸化被膜は、1μmよりも大きい場合、「肉厚」と考えられる。したがって、ヘッダー(20)の長さは通常接合部を500°Cまたはそれより低い温度に冷却するのに十分な長さに構成されている。ヘッダー(50)の長さは、結果的には、ヘッダー(50)に対するシート/プレート(20)の移動速度、シート/プレート(20)の冷却速度、シート/プレート(20)の厚さ、溶接ヘッド(30)によって提供される入熱などの様々な要因に依存する。本実施形態では、好適な長さは8フィートまたはそれ以上であってもよい。別の実施形態において、好適な長さは3.28フィート(1メートル)であってもよい。いくつかの実施形態において、好適な長さは、最大移動速度(例えば、0.05m/秒~1.5m/秒)で最も厚いシート/プレート(20)(厚さ0.5mm~2.5mm)の鋼鉄を冷却および遮蔽し、スケール形成を低減するために必要とされる滞留時間に基づいて決定される。
【実施例1】
【0019】
ガスタングステンアーク溶接法(GTAW)により下向き姿勢で2つの炭素鋼を突合わせ溶接して接合部を作製した。第1の接合部(接合部A)は、当該接合部形成後に遮蔽および冷却を行うために上述したヘッダー(50)使用して作製した。第2の接合部(接合部B)はヘッダー(50)を使用せずに作製したため、完成した接合部は溶接後直ちに大気に晒された。
【0020】
溶接および冷却後、各接合部を3つの位置で区分した。各区画部について顕微鏡写真を準備した。各顕微鏡写真は、EpiPhot(顕微鏡写真内の特徴を測定する機能を有するユーティリティソフトウェア)を使って分析した。当該分析は、各顕微鏡写真で確認された酸化被膜またはスケール層の総合的な膜厚測定を含む。
【0021】
図4は、ヘッダー(50)によって処理された試験片の顕微鏡写真を示す。一方、図5は、ヘッダー(50)を使用せずに処理された試験片の顕微鏡写真を示す。以下の表1および表2に示すように、様々な酸化物またはスケールの測定値を取得して酸化物またはスケールの厚さの平均値を算出した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
上記の表1および表2の比較よって分かるように、ヘッダー(50)を使用せずに溶接を行なった場合と比べると、ヘッダー(50)の存在により酸化物の厚さが1.46μm減少した。したがって、ヘッダー(50)を使用せずに処理された接合部と比べると、ヘッダー(50)の存在により酸化スケールの厚さに30%を超える減少が見られた。実際の作業では、特定の接合部に対してより完全かつ均一な覆いが提供されるとともにヘッダー(50)の様々なパラメータがカスタマイズされるため、ヘッダー(50)を使用している間に形成される酸化被膜は実質的により肉薄になると考えられる。さらに、実際の作業では、図5の覆いを施していない接合部はより肉厚のスケールを有するものと考えられる。このようなスケールの存在は、後続の焼なましおよび金属被覆処理工程中に均一的な被覆率を減少させるため、望ましくないと考えられる。
【実施例2】
【0025】
連続アルミメッキ処理ライン(continuous aluminizing line)を使用してさらなる試験を行った。完全にアルミメッキ処理されたコイルを作製するために、連続アルミメッキ処理ラインに一体化させた、上記で詳述の溶接システム(10)を使用して溶接を行った。ヘッダー(50)を備える溶接システム(10)を使用して炭素鋼シート/プレートを接合した。溶接後、接合されたシート/プレートにアルミメッキ処理を行った。
【0026】
試験終了後、完成したコイルの外径および内径の双方で試験片を採取した。各試験片について顕微鏡写真を準備した。図6および図7は、コイルの外径で採取した試験片の顕微鏡写真を示す。また、図8および図9は、コイルの内径で採取した試験片の顕微鏡写真を示す。図6~9はいずれも合格品質を有する接合部を示す。
【0027】
次に、前述の試験片に対して機械的特性試験を行った。特に接合部に対して垂直方向の引張試験を行った。以下の表3に引張試験の結果を示す。
【0028】
【表3】
【0029】
上記に示す引張試験は接合部が合格品質であることを示す。いずれの試料においても、破断が生じたのは熱影響部(HAZ:heat-affected zone)または母材(BM:base metal)のいずれかであった。本明細書において、用語「熱影響部」は通常、溶接時に直接溶接されないが、溶接によって微細構造または材料特性が変化した接合部の領域を指すことを理解されたい。より肉薄の材料においては欠陥が予測される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2021-11-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
溶接工程中、当接した鋼シート/プレートは比較的高温に加熱される。特定の状況下では、鋼シート/プレートの1若しくはそれ以上の部分が周囲の大気中の酸素に反応して表面酸化物または表面スケールが生成されるまで温度が高温になることもある。溶接後に鋼シート/プレートの表面にこのような酸化物が残留している場合、後続工程で接合部分に溶融めっきによる被覆処理を行う際に被膜部分の完全性および/または付着性の維持が困難となる。例えば、溶融めっきによる被覆処理中に接合部分が金属被膜によって完全に被覆されない場合もある。このような問題は、焼なまし、ホットスタンプなどの後続の処理工程においてさらに深刻となる。したがって、溶接時における鋼シート/プレートの酸化傾向を低減させる装置および方法が必要とされる。製鋼業の用途において、いくつかの装置および方法が考案および使用されてきたが、本発明者以前に添付の特許請求の範囲に係る発明の考案または使用はなされなかったものと考えられる。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 米国特許第5388753号明細書
(特許文献2) 米国特許第5641417号明細書
(特許文献3) 独国特許出願公開第102009025260号明細書
(特許文献4) 西独国特許出願公開第2525268号明細書
【国際調査報告】