(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(54)【発明の名称】広範囲及び持続性のインフルエンザワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/145 20060101AFI20220518BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220518BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220518BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20220518BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220518BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220518BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220518BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220518BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220518BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220518BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20220518BHJP
C07K 14/11 20060101ALN20220518BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20220518BHJP
C12N 15/44 20060101ALN20220518BHJP
C07K 16/10 20060101ALN20220518BHJP
C12N 15/861 20060101ALN20220518BHJP
【FI】
A61K39/145
A61K35/761
A61K48/00
A61K9/08
A61K9/12
A61K47/18
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/26
A61P31/16
G01N33/53 N
G01N33/569 L
G01N33/53 D
C07K14/11
C12N7/01
C12N15/44
C07K16/10
C12N15/861 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559607
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(85)【翻訳文提出日】2021-12-01
(86)【国際出願番号】 US2020026841
(87)【国際公開番号】W WO2020210149
(87)【国際公開日】2020-10-15
(32)【優先日】2019-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520384367
【氏名又は名称】アルティミューン インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ,スコット
(72)【発明者】
【氏名】タスカー,シビル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA12
4C076AA24
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB25
4C076CC06
4C076DD09
4C076DD23
4C076DD37
4C076DD49
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4C076FF11
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4C087NA03
4C087NA14
4C087ZB33
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA22
(57)【要約】
インフルエンザウイルスに対してマルチアーム(粘膜性、体液性及び細胞媒介性の)免疫応答及びワクチン接種から少なくとも12カ月間の長期血清防御を誘導するための一価医薬組成物(ワクチン組成物)及び方法が本明細書で提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適なインフルエンザ医薬製剤であって、
ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原(HA)を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも10
11個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を誘導する有効量、並びに
薬学的に許容される希釈剤又は担体
を含む、前記医薬製剤。
【請求項2】
粘膜性免疫応答が抗血球凝集素(HA)IgA ELISAによって決定され、体液性免疫応答が血球凝集阻止アッセイ(HAI)力価及び/又は微量中和アッセイを使用して決定され、必要に応じて幾何平均力価(GMT)、幾何平均比(GMR)、血清転換率(SCR)、血清陽性率(SPR)の1つ以上を使用して測定される中和抗体の存在によって決定され、及び/又は
T細胞免疫応答がγ-インターフェロンELISpotを使用して決定される、
請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答が防御的である、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
インフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40を少なくとも12カ月間有する対象によって決定されるような、ヒト対象への血清防御を提供するように構成される、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適な医薬製剤であって、
ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原(HA)を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも10
9個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、インフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40を少なくとも12カ月間有する対象によって決定されるような、ヒト対象への血清防御を提供するように構成される、複合的な粘膜性及び体液性の防御免疫応答を誘導する有効量、並びに
薬学的に許容される希釈剤又は担体
を含む、前記医薬製剤。
【請求項6】
有効量が少なくとも10
10個のウイルス粒子(vp)である、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
有効量が少なくとも10
11個のウイルス粒子(vp)であり、且つ、T細胞応答をさらに誘導する、請求項5に記載の製剤。
【請求項8】
HAI抗体価が少なくとも50である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項9】
アジュバントを含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項10】
HA抗原がインフルエンザA型ウイルス、インフルエンザA型ウイルスサブタイプH1N1又はインフルエンザA型ウイルスサブタイプH3N2に由来する、請求項1~9のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項11】
トリスHCl(pH7.4)、ヒスチジン、スクロース、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、ポリソルベート80、エチレンジアミン四酢酸及びエタノールを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項12】
約1×10
9vp、約1×10
10vp又は約1×10
11vpの単回用量を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項13】
冷凍される、請求項1~12のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項14】
周囲温度で最大約3カ月間安定している、請求項1~13のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項15】
周囲温度が約15~30℃、又は約20~25℃である、請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
季節性インフルエンザウイルスのHA抗原を含む季節性インフルエンザワクチンとして構成される、請求項1~15のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項17】
パンデミックインフルエンザウイルスのHA抗原を含むパンデミックインフルエンザワクチンとして構成される、請求項1~16のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項18】
複製欠損アデノウイルスベクターがヒトアデノウイルス血清型5(Ad5)である、請求項1~17のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項19】
容器の中に置かれる、請求項1~18のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項20】
容器がガラスバイアル、鼻スプレイヤー、液滴ディスペンサー、噴霧器及びアトマイザーからなる群から選択される、請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
容器が周囲温度で最大約3カ月間、製剤を含有していた、請求項1~20のいずれか一項に記載の製剤を含む容器。
【請求項22】
周囲温度が約15~30℃、又は約20~25℃である、請求項21に記載の容器。
【請求項23】
製剤が容器の中で周囲温度で約3カ月後に少なくとも約0.5logの感染性ウイルス粒子を保持するように構成される、請求項21又は22に記載の容器。
【請求項24】
製剤が、周囲温度で1カ月未満同じ種類の容器の中に置かれたマッチさせた製剤と比較して、存在する感染性ウイルス粒子の少なくとも約0.5logを含む、請求項21又は22に記載の容器。
【請求項25】
容器がガラスバイアル、鼻スプレイヤー、液滴ディスペンサー、噴霧器及びアトマイザーからなる群から選択される、請求項21~24のいずれか一項に記載の容器。
【請求項26】
容器が使い捨ての容器であるか若しくは複数の用量を含み、及び/又は製剤の鼻腔内投与のために構成される、請求項21~25のいずれか一項に記載の容器。
【請求項27】
対象でインフルエンザによる感染を予防及び/又は処置するための、ヒト対象への投与のための医薬の調製における、請求項1~20のいずれか一項に記載の製剤の使用。
【請求項28】
対象でインフルエンザによる感染を予防及び/又は処置するための、ヒト対象への投与のための医薬の調製における、請求項21~26のいずれか一項に記載の容器の使用。
【請求項29】
対象でインフルエンザによる感染を予防及び/又は処置するための、ヒト対象への投与のための医薬の調製のためのキットであって、請求項21~26のいずれか一項に記載の少なくとも1つの容器を含む、前記キット。
【請求項30】
インフルエンザウイルスに対してヒト対象で複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を誘導する方法であって、
ヒト対象へ請求項1~20のいずれか一項に記載のインフルエンザ医薬製剤の単回用量を鼻腔内に投与するステップを含み、
前記投与がインフルエンザウイルスに対して複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を誘導する、
前記方法。
【請求項31】
粘膜性免疫応答が抗血球凝集素(HA)IgA ELISAによって決定され、体液性免疫応答が血球凝集阻止アッセイ(HAI)力価、及び/又は微量中和アッセイを使用して決定され、必要に応じて幾何平均力価(GMT)、幾何平均比(GMR)、血清転換率(SCR)、血清陽性率(SPR)の1つ以上を使用して測定される中和抗体の存在によって決定され、及び/又は
T細胞免疫応答がγ-インターフェロンELISpotを使用して決定される、
請求項30に記載の方法。
【請求項32】
複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答がインフルエンザウイルスに対して防御的である、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
ヒト対象が前記投与から少なくとも12カ月間、少なくとも13カ月間又は少なくとも14カ月間インフルエンザウイルスによる感染から血清防御される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
インフルエンザウイルスがインフルエンザA型及び/又はインフルエンザB型ウイルスである、請求項30~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
インフルエンザA型ウイルスがサブタイプH1N1又はH3N2である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
インフルエンザウイルスが季節性インフルエンザウイルスである、請求項30~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
複合的な免疫応答がインフルエンザA型ウイルスサブタイプ及びインフルエンザB型ウイルスに対する防御を提供する、請求項30~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
投与が少なくとも50のHAI抗体価を投与後の少なくとも12カ月間誘導する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
対象が鼻腔内投与の前に抗アデノウイルスベクター免疫を示し、前記免疫は血球凝集素阻止アッセイ、微量中和アッセイ、IgA ELISA及び/又はELIspotアッセイによって決定される、請求項30~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記複製欠損アデノウイルスベクターがヒトアデノウイルス血清型5(Ad5)である、請求項40に記載の方法。
【請求項41】
製剤の投与が、投与前の対象に存在するものと比較して6倍を超えて対象の抗アデノウイルスベクター免疫を増強することはなく、前記免疫は血球凝集素阻止アッセイ、微量中和アッセイ、IgA ELISA及び/又はELIspotアッセイによって決定される、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項42】
対象が投与前にヒトアデノウイルスに血清陽性である、請求項30~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
以前に投与されるインフルエンザ医薬製剤の少なくとも1用量の投与から約11~14カ月後に第2のインフルエンザ医薬製剤の単回用量を投与することをさらに含む、請求項30~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
第2のインフルエンザ医薬製剤が、以前に投与されるインフルエンザ医薬製剤に含まれるものと同じであるか又は異なる季節性インフルエンザの抗原を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項45】
ヒト対象が成人である、請求項30~44のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2019年4月6日に出願の米国特許出願第62/830,442号への優先権を主張し、それはその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
開示の分野
本出願は、ヒト対象で複合的な粘膜性、体液性及び細胞媒介性の防御免疫応答を誘導し、インフルエンザA型及びインフルエンザB型サブタイプに対する血清防御を長期間提供する鼻腔内投与のための一価のインフルエンザ医薬製剤に一般的に関係する。
【背景技術】
【0003】
インフルエンザは最も一般的なウイルス性呼吸器感染症の1つであり、顕著な罹患率及び死亡率につながる。米国疾病管理予防センターは、米国の6カ月齢を超える者は誰でも毎年インフルエンザワクチン接種を受けるよう推奨する。ワクチンの有効性は年によって大きく異なる可能性があり、多くの年では全体的防御は貧弱である。
【0004】
インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス(Orthomyxoviridae)科に属するエンベロープ型のリボ核酸ウイルスであり、内部構造タンパク質の抗原性の違いに基づいて3つの異なる型に分類される(Lamb RA、Krug RM. Orthomyxoviridae: The Viruses and Their Replication.、Fields Virology, Editors-in-Chief: Knipe DM and Howley PM. 第4版、Philadelphia、PA: Lippincott Williams and Wilkins,出版社;2001;1487-1531)。2つのインフルエンザ型、A型及びB型は、ヒトにおける呼吸器疾患の毎年の流行病発生の原因であり、2つの主要な外部糖タンパク質、血球凝集素(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)の構造に基づいてさらに分類される。ヒト宿主に主に限定されるB型ウイルスは、単一のHA及びNAサブタイプを有する。対照的に、A型インフルエンザの多数のHA及びNAサブタイプが今まで特定されている。A型株は、多種多様の鳥類及び哺乳動物種に感染する。
【0005】
A型及びB型インフルエンザ変異株は、主にHA及びNA糖タンパク質における突然変異からの頻繁な抗原性変化の結果として出現する。これらの変異株は、2つの機構の1つを通して生じることができる:ウイルスゲノムにおける選択的点突然変異(Palese P、Garcia-Sastre A. Influenza vaccines: present and future. The Journal of Clinical Investigation. 2002;110:9-13;Nakajima S、Nobusawa E、Nakajima K. Variation in response among individuals to antigenic sites on the HA protein of human influenza virus may be responsible for the emergence of drift strains in the human population. Virology. 2000;274:220-231)又は2つの同時循環株の間の再集合から(Holmes EC、Ghedin E、Miller N、Taylor J、Bao Y、St. George K、Grenfell BT、Salzberg SL、Fraser CM、Lipman DJ、Taubenberger JK. Whole-genome analysis of human influenza A virus reveals multiple persistent lineages and reassortment among recent H3N2 viruses. PLoS Biology. 2005;3:1579-1589;Barr IG、Komadina N、Hurt AC、Iannello P、Tomasov C、Shaw R、Durrant C、Sjogren H、Hampson AW. An influenza A(H3) reassortant was epidemic in Australia and New Zealand in 2003. Journal of Medical Virology. 2005;76:391-397)。
【0006】
1977年以来、インフルエンザA型ウイルスのサブタイプH1N1及びH3N2、並びにインフルエンザB型ウイルスは、ヒトにおいて地球規模で循環している。現行の米国の認可された不活化三価及び四価の(インフルエンザB型ウイルスの2つの株系統を含有する)ワクチンは、これらのインフルエンザウイルスによって引き起こされるインフルエンザ病を予防するように製剤化される。新規のインフルエンザ変異株の頻繁な出現のために、インフルエンザワクチンの抗原性組成物は毎年評価する必要があり、インフルエンザワクチンはほとんど毎年再製剤化される。以前のワクチン接種によって導き出された免疫応答は、新規の変異体に対して防御できない可能性がある。
【0007】
季節性インフルエンザ感染症と関連する顕著な罹患率及び死亡率から公衆を保護するために、インフルエンザウイルスの製剤及び製造の変化が必須である。The National Institute of Allergy and Infectious Diseases(NIAID)は、より有効なインフルエンザワクチンの基礎的な研究開発をガイドする戦略プランを最近開発した(Erbelding EJら、A universal influenza vaccine: The strategic plan for the National Institute of Allergy and Infectious Diseases. J Infect Dis. 2018;218:347-54)。このプランは、卵継代によって悪化する株ミスマッチ、免疫応答の不十分な持続性、貧弱な細胞性免疫応答及び不十分な組織常在免疫を含む、今日利用できるワクチンの複数の弱点を鮮明にした(Erbeldingら、2018)。卵で生成されるワクチンは、組織培養で生成されるワクチンより循環中の対応する株に抗原的に異なる可能性がより高いだけでなく(Seqirusは第6回年次IDWeekでアジュバント加三価インフルエンザワクチン(FLUAD(登録商標))の良好な転帰データを提示する。Seqirisウェブサイト)、より長い製造タイムライン及びサプライチェーンリスクとも関連し、多くの個体でアレルギー性応答を誘導する。
【0008】
現在認可されているほとんどのワクチンは、ニワトリ卵で増殖するのに適している循環インフルエンザ株に基づく。一般に、これらのワクチンは忍容性が良好であり、ワクチン株にあまりマッチしていないインフルエンザウイルスに限定的な防御を提供する。鼻腔内生弱毒化インフルエンザウイルス(LAIV)ワクチンは2003年以来認可されているが、その使用はより年長の小児及び49歳までの成人に限定されている。鼻腔内ワクチンは、投与の容易さ及び投与と関連した不快の減少のために非経口ワクチンより好まれる可能性がある。米国民のかなりの割合が、針に対する恐怖を明らかにしている(McLenon J.ら、The fear of needles: A systematic review and meta-analysis (2019;Jan) J. Adv. Nurs.;75(1):30-42)。近年の市販後試験は有効性の低下を示しており、それは2016~2017年及び2017~2018年のインフルエンザシーズンで使用することが推奨されなかった(CDCウェブサイト)。2010~2011年から2016~2017年のデータは、LAIVが米国でH1N1pdm09インフルエンザウイルス(2009 H1N1)に対して2歳から17歳の間で有効性がなかったことを示したが、LAIVはインフルエンザB型ウイルスに対して有効であり、H3N2ウイルスに対して不活化インフルエンザワクチンと同じように有効であった。2018~2019年のシーズンでは、LAIV4の製造業者は新規のH1N1ワクチン構成成分を含めた。一部のデータは、これがH1N1に対してLAIV4の向上した有効性をもたらすことを示唆する。しかし、H1N1ウイルスに対するこのワクチン構成成分の有効性推定値に関して公開されたものはまだない。
【0009】
さらに、最近公開された2013~2014年のLAIVワクチンの研究は、弱い全身抗体応答を示した(King JP、McLean HQ、Meece JKら、Vaccine failure and serologic response to live attenuated and inactivated influenza vaccines in children during the 2013-2014 season. Vaccine. 2018;36:1214-9)。全てのタイプのインフルエンザワクチンについて、有効性は年によって大きく異なる可能性があり、多くの年では全体的防御は貧弱である。CDCによると、インフルエンザシーズンの平均の全体的な調整されたワクチン有効性は、2005~2015年で概ね40%であり、2014~2015年のインフルエンザシーズンでは<20%であった。
【0010】
インフルエンザへの細胞性免疫は感染者において疾患の重症度及び伝染性を低減することができ、粘膜免疫応答は感染の最初の部位でインフルエンザに対する防御を提供し、両方とも血清HAI抗体の血清防御レベルの不在下で感染から防御することができる(Gould VMW、Francis JN、Anderson KJら、Nasal IgA provides protection against human influenza challenge in volunteers with low serum influenza antibody titre. Front Microbiol. 2017;8:900;McMichael AJ、Gotch FM、Noble GRら、Cytotoxic T-cell immunity to influenza. N Engl J Med. 1983;309:13-7;Seibert CW、Rahmat S、Krause JCら、Recombinant IgA is sufficient to prevent influenza virus transmission in guinea pigs. J Virol. 2013;87:7793-804;Wilkinson TM、Li CK、Chui CSら、Preexisting influenza specific CD4+ T cells correlate with disease protection against influenza challenge in humans. Nat Med. 2012;18:274-80)。しかし、インフルエンザA型及びインフルエンザB型サブタイプに対する長期血清防御を提供するために、単一のインフルエンザワクチンで免疫系アームの複合的応答を誘導するものは全くない。したがって、長期血清防御を粘膜性、体液性及び細胞媒介性のタイプの複合的免疫応答と一緒に誘導するインフルエンザワクチンの必要性がまだある。
【発明の概要】
【0011】
本明細書で、提供される一部の実施形態は、ヒト対象でインフルエンザA型及びインフルエンザB型ウイルスサブタイプに対する長期全身免疫防御を誘導するための組成物及び方法を含む。
【0012】
実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適な一価のインフルエンザ医薬製剤が本明細書で提供される。ある特定の実施形態では、製剤は、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも1011個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、好ましくはインフルエンザ感染から防御する複合的な粘膜性、体液性(すなわち、例えば血液又は血清中の粘膜外抗体)及びT細胞免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む。実施形態では、製剤は、インフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40の血清防御をヒト対象へ少なくとも12カ月間提供するように構成される。
【0013】
ある特定の実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適なインフルエンザ医薬製剤であって、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、好ましくは防御的であり、好ましくはインフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40の血清防御をヒト対象へ少なくとも12カ月間提供するように構成される、複合的な粘膜性及び体液性の免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む製剤が本明細書で提供される。ある特定の実施形態では、HAI抗体価は少なくとも50である。
【0014】
ある特定の実施形態では、インフルエンザウイルス血球凝集素抗原はインフルエンザA型ウイルスに由来する。実施形態では、インフルエンザA型ウイルスはサブタイプH1N1である。
【0015】
ある特定の他の実施形態では、好ましくはインフルエンザウイルスに対してヒト対象で防御的である複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を誘導する方法が本明細書で提供される。好ましい実施形態では、本方法はヒト対象へ本インフルエンザ医薬製剤の単回用量を鼻腔内に投与するステップであって、投与がインフルエンザウイルスに対して血清抗体、粘膜抗体及びT細胞を誘導し、それによってヒト対象は少なくとも12カ月間血清防御されるステップを含む。
【0016】
好ましい実施形態では、血清防御は少なくとも13カ月間、少なくとも14カ月間、又はそれより長く持続する。実施形態では、投与は少なくとも50のHAI抗体価を投与後の少なくとも12カ月間誘導する。
【0017】
一部の実施形態では、本開示は、好ましくはインフルエンザA型ウイルスに対して防御的である複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を提供する方法を提供する。実施形態では、インフルエンザA型ウイルスはサブタイプH1N1及び/又はH3N2である。実施形態では、本方法は、好ましくはインフルエンザB型ウイルスに対して防御的である複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を提供する。ある特定の実施形態では、本方法は、好ましくはインフルエンザA型ウイルスサブタイプ及びインフルエンザB型ウイルス感染に対して防御的である複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を提供する。
【0018】
本明細書に組み込まれてその一部を構成する添付の図面は、本開示の1つ以上の実施形態を例示し、詳細な記載及び実施例のセクションと一緒に、本開示の原理及び実行例を説明する役目をする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】インフルエンザウイルスHA遺伝子を含有するアデノウイルスベクターの概略図を示す図であり、ここで、数字は野生型Ad5配列、GenBank ID AY339865.1における塩基対の番号を指す。
【
図2】2つの用量レベルにおいて100%の血清防御を有する本一価インフルエンザワクチン組成物の単回投与の後に誘導された、投与後29日目の血清抗体(血球凝集阻害抗体、HAI)(体液性)応答を示す図であり、ここで、抗体はインフルエンザウイルスによる感染症を予防するのに十分である。Fluzoneは、不活性化四価の高用量季節性インフルエンザワクチンである。
【
図3】本一価インフルエンザワクチン組成物の投与後29日目に測定した血清抗体(HAI、MN)を表フォーマットで示す図であり、ここで、血清中和抗体は微量中和(「MN」)アッセイで測定され、HAIアッセイで測定された血清血球凝集阻害抗体は幾何平均力価(「GMT」)で提示される。
【
図4】本一価インフルエンザワクチン組成物の単回投与の後に誘導されたT細胞免疫(細胞媒介免疫)応答を示す図である。
【
図5】本一価インフルエンザワクチン組成物の単回投与の後に誘導された粘膜性IgA抗体(粘膜)応答を示す図である。
【
図6】インフルエンザウイルスによる感染症を予防するのに十分な量での血清抗体(HAI)の測定を通した長期血清防御を示す図である。図は、本一価インフルエンザワクチン組成物の投与によるエンドポイント181日目までのインフルエンザA型/California/07/2009(H1N1)に対する幾何平均(95%信頼区間)血球凝集阻止力価を示す。
【
図7】本一価インフルエンザワクチン組成物の投薬によるエンドポイント181日目までのインフルエンザA型/California/07/2009(H1N1)に対する幾何平均(GMR)(95%信頼区間)微量中和力価を示す図である。
【
図8】用量別の本一価インフルエンザワクチン組成物への細胞性免疫応答を示す図である。略記号:CI=信頼区間;GM=幾何平均力価;LS=最小二乗;SFU=点形成単位;vp=ウイルス粒子。a.共分散分析は、対数変換レベルを従属変数として、用量群を因子として、及びベースライン対数変換分析を共変量として使用する。LS平均推定値の差及び95%CIを元のスケールに後方変換し、幾何平均の比をもたらした;b.事後解析;c.ベースラインから3倍の上昇を有しベースラインより25SFU/10
6細胞大きい対象の数及びパーセンテージ;及びd.フィッシャーの正確確率検定から。
【
図9】投与後29、91及び181日目の11×10
11vpの用量の本一価インフルエンザワクチン組成物(例えば、NasoVAX)及びFluzone(登録商標)群によって誘導された体液性免疫応答を示す図であり、血清転換率(「SCR」)及び≧1:40のHAI力価(「a」)を有する対象のパーセンテージ及び血清防御率(「SPR」)と一緒にHAIを幾何平均比(「GMR」)で示し、ここで、ベースラインHAI力価1:10及びワクチン接種後力価≧1:40(「b」)(アッセイ定量下限の4倍)のいずれかを有する対象のパーセンテージが最終行に含まれる。
【
図10A】本一価インフルエンザワクチン組成物(例えば、NasoVAX)によって誘導された13カ月にわたるHAI力価(「GMT」)を示す図であり、ここで、高用量群(11×10
11vp)の8/15人の対象は評価のために約13カ月後に戻り、投与からHAI力価の測定まで平均13.5カ月であった。
【
図10B】本一価インフルエンザワクチン組成物(例えば、NasoVAX)によって誘導された血清防御及び血清転換率を示す図であり、試験の15日目と400日目(本一価インフルエンザワクチン組成物の投与後の日数)の間で血清防御及び血清転換率が同一であることを実証する。免疫応答は13カ月後も損なわれておらず、血清防御率及び血清転換率も不変であった。
【
図11】(本一価インフルエンザワクチン組成物(例えば、NasoVAX)の)投与の2週間後に存在していない用量依存性ベクターシェディングを示す図であり、複製コンピテントウイルスは見出されず(ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)アッセイを通して決定される)、抗ベクター抗体はベースラインに対して29日目のGMRとして提示され、最高用量で1カ月後に2.3倍の誘導だけが実証された。本一価インフルエンザワクチン組成物は一時的シェディング(Advector)を実証し、抗ベクター(Ad-ベクター)免疫応答は限定的である。
【
図12】体液性(29日目の「HAI」又は微量中和「MN」)、粘膜性(29日目の「IgA」)及び細胞性(8日目の「ELISpot」)について測定された、既存の抗ベクター(Ad5)免疫のNasoVAX免疫原性に及ぼす影響を示す図であり(高用量;11×10
11vp)、ここで、Ad5血清陰性又はAd5血清陽性対象の間で免疫応答の差は観察されなかった。Ad5+対象(血清陽性)の力価中央値は、定量下限(LLOQ)の22倍高く、血清転換はバックグラウンド又はLLOQアッセイより典型的に約4倍上である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
序論
本発明は、ヒト対象でインフルエンザA型ウイルスサブタイプ及びインフルエンザB型ウイルスに対する長期全身免疫防御を誘導するための組成物及び方法を提供する。ある特定の実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適なインフルエンザ医薬製剤(好ましくは一価)が本明細書で提供される。実施形態では、本製剤は、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも1011個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、好ましくはインフルエンザ感染に対して防御的である複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む。
【0021】
他の実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適なインフルエンザ医薬製剤であって、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、好ましくはインフルエンザ感染に対して防御的であり、一部の好ましい実施形態ではインフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40の血清防御をヒト対象へ少なくとも12カ月間提供するように構成される、複合的な粘膜性及び体液性の免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む製剤が提供される。
【0022】
ある特定の実施形態では、好ましくはインフルエンザウイルスに対してヒト対象で防御的である複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を誘導する方法が提供される。ある特定の実施形態では、本方法は、ヒト対象へ本インフルエンザ医薬製剤の単回用量を鼻腔内に投与することを含み、投与はインフルエンザウイルスに対して血清抗体、粘膜抗体及びT細胞を誘導し、それによってヒト対象は少なくとも12カ月間血清防御される。
【0023】
出願人はアデノウイルスベクター(例えば、Ad5ベクター)、組織培養で生成される鼻腔内インフルエンザワクチン(NasoVAX)を開発した。アデノウイルスは、遺伝物質を細胞内に導入するベクターとして頻繁に使用されている天然に存在する呼吸器ウイルスである。インフルエンザHA遺伝子を複製欠損(RD)アデノウイルス(Ad-HA)に組み込んで、Ad-HAを鼻の中に(鼻腔内投与経路)適用することによって、アデノウイルスベクターは鼻粘膜の細胞にHA遺伝子を形質導入させることができ、コードされたHAタンパク質の一時的発現をもたらす。NasoVAXは鼻腔内に送達され、ここで本発明者らはワクチン組成物が局所及び持続性の全身免疫応答を誘導したことを実証する。実施例3を参照されたい。正常なヒト上皮細胞におけるHA抗原の以降の産生は、それが天然の循環するインフルエンザウイルスで起こるときにHA抗原に対する免疫応答を可能にする。さらに、鼻腔内に投与される場合、アデノウイルスベクターの使用はAd5に血清陽性の対象においてさえ対象のアデノウイルス免疫を回避し、それによって、その効果はベクターに対する既存の免疫応答による悪影響を受けないことを出願人は示した。
図13を参照されたい。実施形態では、本鼻腔内インフルエンザワクチン(アデノウイルスベクターを含む)は、ウイルスベクターに対して有意な免疫応答を誘導することなく繰り返し投与することができる(例えば、11~14カ月おきに約1回投与される季節性インフルエンザワクチンとして)。
【0024】
本明細書に開示される臨床試験は、NasoVAXの一価のA/California/04/2009(H1N1)様株バージョンの安全性及び免疫原性を評価するように設計された。抗体応答の幅並びに細胞性及び粘膜性免疫応答を誘導するNasoVAXの能力を評価するために、調査エンドポイントが含まれた。実施例2及び3を参照されたい。本明細書に開示される試験結果は、本一価インフルエンザ医薬製剤がNIAIDによって特定された満たされていない必要性を満たすことを実証する(Erbeldingら、2018)。
【0025】
当業者が理解するように、HAI抗体の測定が防御の代用物として使用され、ここでワクチン接種後の血清で測定された≧40のHAI抗体価は、投与されたインフルエンザワクチンによって誘導された血清防御を実証する(Trombetta CM.ら;Overview of Serological Techniques for Influenza Vaccine Evaluation: Past, Present and Future Vaccines (Basel) (2014) Dec. 2(4):707-734)。「防御の代用物」は、臨床エンドポイントの代わりをすることができ、したがってワクチンの有効性を確実に予測するために使用することができる免疫マーカーを意味する。インフルエンザワクチンの場合、血球凝集阻止(HAI)アッセイで測定される抗体は防御の代用物であり、ここでHAIアッセイは、血清中に存在するならば抗体の赤血球とウイルス血球凝集素の間での凝集を防止する能力に基づく。≧40のHAI抗体価を有する対象は表されたインフルエンザA型ウイルスサブタイプ及びインフルエンザB型ウイルスから防御されると一般的に理解される。言い換えると、40の(又はそれより大きな)HAI抗体価は、「防御的」閾値レベルと一般的にみなされ、それを超える場合、インフルエンザ感染症にかかる可能性の50%以上の低減がある。40以上のHAI力価は防御の免疫学的相関物として使用され、パンデミックのインフルエンザのワクチンのためのFDAガイドラインにより、天然感染からの防御を予測するための今日利用できる最良のパラメータと考えられている(Noahら、Qualification of the hemagglutination inhibition assay in support of pandemic influenza vaccine licensure. Clin. Vaccine Immunol. 2009;16:558-566)。
【0026】
別々の試験において、出願人は本鼻腔内インフルエンザワクチン(NasoVAX)が周囲温度、例えば室温(例えば15~30℃、好ましくは20~25℃)で約3カ月間安定していることを示した。実施例7を参照されたい。実施形態では、本鼻腔内インフルエンザワクチンは、冷蔵も特定の保存条件の必要性もなしで保存又は運送することができる。ある特定の実施形態では、本鼻腔内インフルエンザワクチンはインフルエンザA型パンデミックウイルス株に存在するインフルエンザ抗原を含み、鼻腔内投与のためにユーザー、すなわちワクチン被接種者へ直接的に運送することができる。
【0027】
定義
本明細書で使用されるように、用語「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、特許文書で一般的であるように、「少なくとも1つ」又は「1つ以上」のいかなる他の場合又は使用と関係なしに、1つ又は複数を含むものとして使用される。
【0028】
本明細書で使用されるように、用語「又は」は、別途指示がない限り非排他的な又はを指し、例えば、「A又はB」は「Aであるが、Bでな」、「Bであるが、Aでない」及び「A及びB」を含む。
【0029】
本明細書で使用されるように、用語「約」は、明記される量に概ね、ほぼ、ほとんど等しいか、又はその近くであるか若しくはそれに等しいこと、例えば、明記される量プラス/マイナス約5%、約4%、約3%、約2%又は約1%を指すものとして使用される。
【0030】
本発明の組成物、製剤及び方法は、本発明の構成成分及び成分並びに本明細書に記載される他の成分を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなることができる。本明細書で使用されるように、「から本質的になる」は、組成物、製剤及び方法が追加のステップ、構成成分又は成分を含むことができることを意味するが、追加のステップ、構成成分又は成分が特許請求される組成物、製剤及び方法の基本的及び新規の特徴を実質的に変更しない場合だけである。
【0031】
この明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、用語「構成される」は、特定の作業を実行するか又は特定の構成を採用するように構築若しくは構成される系、装置又は他の構造を記載することにも注意すべきである。用語「構成される」は、他の類似の語句、例えば配置される、並びに構成、構築及び配置される、調整及び構成される、調整、構築、製造及び配置される、などと互換的に使用することができる。
【0032】
本明細書で使用されるように、「アジュバント」は、抗原への身体の免疫応答を増強する物質を指す。実施形態では、本一価インフルエンザ医薬製剤は、非アジュバント加ワクチン組成物である。
【0033】
「投与」は、本開示のワクチン組成物を対象に導入することを意味する。それは、本開示の組成物を対象に提供する(例えば、処方することによって)行為を指すこともできる。本明細書で使用される用語「治療有効量」は、複合的な粘膜性、体液性及び細胞媒介性の免疫応答を誘導する、投与される化合物の量を指す。この用語は、処置する状態の症状の1つ以上をある程度軽減又は予防する本組成物の量も指す。本開示の組成物で直接的に処置することができる状態/疾患に関して、治療的有効量は、疾患への素因があり得るが状態/疾患の症状をまだ経験していないか又は示していない哺乳動物で状態/疾患が起こることを予防する(予防的処置)、状態/疾患の症状の軽減、状態/疾患の程度の減少、状態/疾患の安定化(例えば、悪化しないこと)、状態/疾患の広がりを予防する、状態/疾患の進行を遅らせるか又は遅くする、状態/疾患状態の改善又は緩和、及びその組合せの効果を有する量を指す。用語「有効量」は、その化合物がない場合に起こるだろう反応と異なる反応をもたらす、投与される化合物の量を指す。
【0034】
実施形態では、本一価インフルエンザ医薬製剤の有効量は、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個の感染単位(ifu)を含む。
【0035】
本明細書で使用されるように、用語「周囲温度」は、本一価インフルエンザ医薬製剤を保存するための気温である。実施形態では、周囲温度は室温であり、例えば約15~30℃、好ましくは約20~25℃の範囲内の任意の温度から選択される。
【0036】
本明細書で使用されるように、用語「ヒトアデノウイルス」は、マストアデノウイルス(Mastadenovirus)属のメンバーを含むアデノウイルス(Adenoviridae)科の全てのヒトアデノウイルスを包含するものである。今まで、アデノウイルスの51を超えるヒト血清型が同定されている(例えば、Fieldsら、Virology 2, Ch. 67(第3d版、Lippincott-Raven Publishers)を参照)。アデノウイルスは、血清群A、B、C、D、E又はFのものであってよい。ヒトアデノウイルスは、血清型1(Ad1)、血清型2(Ad2)、血清型3(Ad3)、血清型4(Ad4)、血清型5(Ad5)、血清型6(Ad6)、血清型7(Ad7)、血清型8(Ad8)、血清型9(Ad9)、血清型10(Ad10)、血清型11(Ad11)、血清型12(Ad12)、血清型13(Ad13)、血清型14(Ad14)、血清型15(Ad15)、血清型16(Ad16)、血清型17(Ad17)、血清型18(Ad18)、血清型19(Ad19)、血清型19a(Ad19a)、血清型19p(Ad19p)、血清型20(Ad20)、血清型21(Ad21)、血清型22(Ad22)、血清型23(Ad23)、血清型24(Ad24)、血清型25(Ad25)、血清型26(Ad26)、血清型27(Ad27)、血清型28(Ad28)、血清型29(Ad29)、血清型30(Ad30)、血清型31(Ad31)、血清型32(Ad32)、血清型33(Ad33)、血清型34(Ad34)、血清型35(Ad35)、血清型36(Ad36)、血清型37(Ad37)、血清型38(Ad38)、血清型39(Ad39)、血清型40(Ad40)、血清型41(Ad41)、血清型42(Ad42)、血清型43(Ad43)、血清型44(Ad44)、血清型45(Ad45)、血清型46(Ad46)、血清型47(Ad47)、血清型48(Ad48)、血清型49(Ad49)、血清型50(Ad50)、血清型51(Ad51)又はその組合せであってよいが、これらの例に限定されない。ある特定の実施形態では、アデノウイルスは血清型5(Ad5)である。
【0037】
本明細書で使用されるように、「薬学的に許容される担体」は、ヒト対象に有意な刺激を引き起こさず、投与されるワクチン組成物の生物学的活性及び特性を抑止しない担体又は希釈剤を指す。
【0038】
ここで使用されるように、用語「血清転換」は、ワクチン接種の後に血清血球凝集素阻止(HI)力価の少なくとも4倍の増加を有する、ワクチン接種をした(本ワクチン製剤を投与された)個体のパーセンテージと規定される率である。本明細書で使用されるように、「転換係数」は、ワクチン接種の後の血清HI幾何平均力価(GMT)における増加倍率と規定される。
【0039】
本明細書で使用されるように、用語「血清防御」は、ワクチン接種後のヒト対象からの血清で測定される40以上のHAI抗体価を指す。本明細書で使用される用語「防御率」は、ワクチン接種の後に1:40以上の血清HAI力価を有する、ワクチン接種をした個体のパーセンテージと規定され、防御を示すものと通常受けとられる。
【0040】
本明細書で使用されるように、用語「季節性インフルエンザウイルス」は、循環し、毎年の季節性流感の原因であるインフルエンザA型及び/又はB型ウイルスを指す。インフルエンザA型ウイルスはウイルス表面の2つのタンパク質に基づいてサブタイプに分類される:血球凝集素(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)。18の異なる血球凝集素サブタイプ及び11の異なるノイラミニダーゼサブタイプがある(それぞれ、H1からH18及びN1からN11)。潜在的に198の異なるインフルエンザA型サブタイプ組合せがあるが、131のサブタイプだけが天然に検出されている。ヒトにおいて普通に循環するインフルエンザA型ウイルスの現行のサブタイプにはA(H1N1)及びA(H3N2)が含まれる。インフルエンザB型ウイルスは2つの系統にさらに分類される:B/Yamagata及びB/Victoria。インフルエンザA型及びB型ウイルスの両方は特定のクレード及びサブクレード(時には群及び亜群と呼ばれる)にさらに分類することができる。現在循環しているインフルエンザA型(H1N1)ウイルスは、2009年の春に出現し、流感のパンデミックを引き起こしたパンデミックの2009 H1N1ウイルスに関係している。「A(H1N1)pdm09ウイルス」及びより一般的に「2009 H1N1」と呼ばれるこのウイルスは、毎年循環して季節性インフルエンザ流行病に寄与し続ける。普通に循環して人々で病気を引き起こす全てのインフルエンザウイルスのうち、インフルエンザA型(H3N2)ウイルスは遺伝子的及び抗原的により速やかに変化する傾向がある。インフルエンザA型(H3N2)ウイルスは、同時に循環し続ける多くの別々の遺伝子的に異なるクレードを近年形成した。
【0041】
本明細書で使用されるように、用語「パンデミックインフルエンザウイルス」は、地球規模で循環し、地球規模の流感のパンデミックの原因であるインフルエンザA型ウイルスを指す。パンデミックは、人々に容易に感染し、人から人に効率的及び持続的に広がることができ、地球規模で蔓延する新しい(新規の)インフルエンザA型ウイルスが出現する場合に起こる。
【0042】
用語「処置する」、「処置すること」及び「処置」は、有益な又は所望の臨床結果を得るためのアプローチである。具体的には、有益な又は所望の臨床結果には、限定されずに、症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の安定化(例えば、悪化しないこと)、疾患進行を遅らせるか又は遅くすること、疾患の拡散を実質的に予防すること、疾患状態の改善又は緩和、及び検出可能であるか検出不能であるかを問わず寛解(部分的又は全体的)が含まれる。さらに、「処置する」、「処置すること」及び「処置」は、処置を受けない場合の予想される生存と比較して生存を延長することを意味することもでき、及び/又は、疾患及び/若しくは疾患に起因する有害作用の部分的であるか若しくは完全な治癒という点で治療的であってもよい。本明細書で使用されるように、用語「予防的に処置する」又は「予防的に処置すること」は、宿主で疾患/状態又はその1つ以上の症状を完全に、実質的に又は部分的に予防することを指す。同様に、「状態の発症を遅らせること」も「予防的に処置すること」に含まれてもよく、状態の素因を有する患者における状態の実際の発症までの時間を増加させる行為を指す。
【0043】
本明細書で使用されるように、「ワクチン」は、インフルエンザ抗原を含有し発現するアデノウイルスベクターを、例えばアジュバント、徐放性化合物、溶媒等を含むワクチン製剤の他の構成成分と一緒に含む組成物を指す。本発明の実施形態では、ワクチンは抗原供与源又はその機能に関係なく、任意の抗原への免疫応答を向上させる。
【0044】
本明細書で言及されるように、「ベクター」は、それ自体抗原でなくても、抗原の遺伝子コード又はその一部を有する。例示的な態様では、ベクターはウイルスベクター又は細菌ベクターを含むことができる。本明細書で言及されるように、「抗原」は、ヒト及び/又は動物を含む対象で特異的免疫応答を誘導する物質を意味する。抗原は、死んでいるか、弱毒化されているか又は生きている全生物体;生物体のサブユニット又は一部;免疫原性特性を有する挿入断片を含有する組換えベクター;宿主動物への提示の後に免疫応答を誘導することが可能なDNAの一片又は断片;ポリペプチド、エピトープ、ハプテン又はその任意の組合せを含むことができる。様々な態様では、抗原はウイルス、細菌、生物体のサブユニット、自己抗原又はがん抗原である。
【0045】
ワクチン製剤
ヒト対象への単回用量鼻腔内投与のために好適である及び/又は構成された、本明細書でワクチン製剤とも呼ばれるインフルエンザ医薬製剤が本明細書で提供される。実施形態では、本製剤は、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素(ヘマグルチニン)抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個のウイルス粒子(vp)の有効量、並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む。例示的な実施形態では、製剤は一価インフルエンザ医薬製剤である。ある特定の実施形態では、アデノウイルスベクターは、10mM TRIS、75mM NaCl、0.2%ポリソルベート80、5%スクロース、1mM MgCl2、0.1mM EDTA、0.5%エタノール、10mM L-ヒスチジンを含む製剤緩衝液中に存在する。
【0046】
代替の実施形態では、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する本複製欠損アデノウイルスベクターは、多価インフルエンザ医薬製剤を形成するために、他のインフルエンザ抗原(例えば、ウイルスベクター発現抗原)と組み合わせることができる。他の構成成分は、インフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有する本アデノウイルスベクターで提示されるものと異なるエピトープに対する抗体と体液性応答を誘導するように含まれてもよい。他の実施形態では、他の構成成分は、免疫系の異なる武器、例えばインフルエンザ抗原への細胞媒介性又は粘膜性免疫応答を誘導するように含まれてもよい。
【0047】
例示的実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適な一価インフルエンザ医薬製剤であって、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも1011個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、インフルエンザウイルスに対して血清防御をヒト対象へ少なくとも12カ月間提供するように構成される、複合的な粘膜性、体液性及びT細胞の防御免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む製剤が本明細書で提供される。
【0048】
他の例示的実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適なインフルエンザ医薬製剤であって、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、インフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40の血清防御をヒト対象へ少なくとも12カ月間提供するように構成される、複合的な粘膜性及び体液性の防御免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む製剤が本明細書で提供される。
【0049】
ある特定の実施形態では、非複製アデノウイルスのウイルスベクターは、ヒトアデノウイルスである。代わりの実施形態では、アデノウイルスはウシアデノウイルス、イヌアデノウイルス、非ヒト霊長類アデノウイルス、ニワトリアデノウイルス又はブタ(porcine)若しくはブタ(swine)アデノウイルスである。例示的実施形態では、非複製ウイルスベクターは、ヒトアデノウイルスである。
【0050】
実施形態では、非複製アデノウイルスベクターは、真核生物細胞への遺伝子導入及びワクチン開発のために、及び動物モデルにおいて特に有益である。
【0051】
実施形態では、インフルエンザ抗原を含んで発現することができ、哺乳動物への投与のために調製される当業者に公知である任意のアデノウイルスベクター(Ad-ベクター)を、本出願の組成物で、及び本出願の方法に使用することができる。そのようなAd-ベクターには、米国特許第6,706,693号、第6,716,823号、第6,348,450号、又は米国特許出願公開第2003/0045492号、第2004/0009936号、第2005/0271689号、第2007/0178115号、第2012/0276138号の中のもののいずれも含まれる(参照により本明細書に完全に組み込まれる)。
【0052】
ある特定の実施形態では、組換えアデノウイルスベクターは、複製のためにE1活性を補うことを必要とする非複製又は複製欠損であってよい。実施形態では、組換えアデノウイルスベクターは、E1欠陥、E3欠陥及び/若しくはE4欠陥のアデノウイルスベクター、又はウイルス遺伝子が欠失している「ガットレス」アデノウイルスベクターを含むことができる。E1欠陥アデノウイルス突然変異体は非許容細胞で複製不能であるので、E1突然変異はベクターの安全マージンを上げる。E3突然変異は、アデノウイルスがMHCクラスI分子を下方制御する機構を破壊することによって、抗原の免疫原性を増強する。E4突然変異は、後期遺伝子発現を抑制することによってアデノウイルスベクターの免疫原性を低減し、このように、同じベクターを利用した反復再ワクチン接種を可能にすることができる。例示的な実施形態では、組換えアデノウイルスベクターは、E1及びE3欠陥ベクターである。
【0053】
「ガットレス」アデノウイルスベクター複製は、ヘルパーウイルス並びにE1a及びCreの両方を発現する特別なヒト293細胞系を必要とし、これは天然の環境に存在しない状態である。このベクターはウイルス遺伝子が喪失し、したがってワクチン担体としてのベクターは非免疫原性であり、再ワクチン接種のために複数回接種することができる。「ガットレス」アデノウイルスベクターは導入遺伝子を収容するために36kbの空間も含有し、このように、細胞中への多数の抗原遺伝子の同時送達を可能にする。特異的配列モチーフ、例えばRGDモチーフは、その感染性を増強するためにアデノウイルスベクターのH-Iループに挿入することができる。アデノウイルス組換え体は、下に記載されるものなどのアデノウイルスベクターのいずれかに特異的導入遺伝子又は導入遺伝子の断片をクローニングすることによって構築することができる。アデノウイルス組換えベクターは、免疫化剤として使用するために非侵襲的モードで脊椎動物の表皮細胞を形質導入するために使用される。アデノウイルスベクターは、侵襲的投与方法、例えば、静脈内、筋肉内又は皮下注射のために使用することもできる。
【0054】
組換えウイルス及びそれからの発現生成物のための投薬量、投与経路、製剤、アジュバント及び使用に関して、本発明の組成物は、好ましくは皮内、皮下、鼻腔内又は筋肉内経路による非経口又は粘膜投与のために使用することができる。粘膜投与が使用される場合、経口、目又は経鼻経路を使用することが可能である。例示的な実施形態では、本ワクチン製剤は鼻腔内投与される。
【0055】
目的のアデノウイルスベクターを含む製剤は、医薬又は獣医学の分野の当業者に周知である標準技術により調製することができる。実施例1を参照されたい。そのような製剤は、年齢、性別、体重及び投与経路のような因子を考慮して、臨床分野の当業者に周知である投薬量で及び技術によって投与することができる。製剤は単独で投与することができるか、又は組成物、例えば「他の」免疫学的組成物又は弱毒化、不活性化、組換えワクチン若しくは治療組成物と同時投与若しくは逐次投与することができ、それによって本発明の多価又は「カクテル」又は複合組成物及びそれらを用いる方法を提供する。実施形態では、製剤は凍結保護物質としてスクロースを及び非イオン性界面活性剤としてポリソルベート-80を含むことができる。ある特定の実施形態では、製剤は、フリーラジカル酸化阻害剤エタノール及びヒスチジン、金属イオンキレーターエチレンジアミン四酢酸(EDTA)又は同等の活性(例えば、金属イオン触媒フリーラジカル酸化をブロック又は防止する)を有する他の薬剤をさらに含む。
【0056】
製剤は、粘膜投与、例えば、経口、経鼻、眼等のための液体調製物、懸濁液などの製剤、及び非経口、皮下、皮内、筋肉内、静脈内(例えば、注射投与)のための調製物、例えば無菌の懸濁液又は乳剤の中に存在してもよい。そのような製剤では、アデノウイルスベクターは好適な担体、希釈剤又は賦形剤、例えば、無菌水、生理的食塩水などと混合されてもよい。製剤は、凍結乾燥又は冷凍されてもよい。製剤は、投与経路及び所望の調製物により、補助物質、例えば、湿潤又は乳化剤、pH緩衝剤、アジュバント、保存剤などを含有することができる。製剤は、少なくとも1つのアジュバント化合物を含有することができる。例示的な実施形態では、本ワクチン製剤は非アジュバント加である。
【0057】
不相応な実験なしで好適な調製物を調製するために、標準のテキスト、例えば参照により本明細書に組み込まれる"REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE"、第17版、1985を参考にすることができる。
【0058】
実施形態では、アデノウイルスベクターの有効量(例えば、複合的な粘膜性、体液性及び細胞媒介性免疫応答を誘導する量)は、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個の感染単位(ifu)である。当業者によって理解されるように、コドン最適化は宿主生物体において異種遺伝子の発現を向上させる。本インフルエンザ抗原は、ヒト対象を含む哺乳動物宿主のためにコドン最適化された。
【0059】
ある特定の実施形態では、本一価インフルエンザ製剤は、複製欠損アデノウイルスベクターの約109個のウイルス粒子(vp)の有効量を含む。例示的な実施形態では、本一価インフルエンザ製剤は、複製欠損アデノウイルスベクターの約1010個のウイルス粒子(vp)の有効量を含む。ある特定の他の例示的実施形態では、本一価インフルエンザ製剤は、複製欠損アデノウイルスベクターの約1011個のウイルス粒子(vp)の有効量を含む。
【0060】
実施形態では、本ワクチン製剤中のアデノウイルスベクターの有効量は、インフルエンザウイルスに対して複合的なインフルエンザ特異的粘膜性(IgA測定を通して実証される)、体液性(血清HAI及び微量中和抗体を通して実証される)及び細胞媒介性(インフルエンザHA抗原特異的T細胞活性化を通して実証される)の免疫応答をヒト対象において誘導する。実施形態では、血清抗体は、少なくとも6カ月間、少なくとも12カ月間、少なくとも13カ月間又は少なくとも14カ月間血清防御的である。
【0061】
実施形態では、複合的な免疫応答はインフルエンザA型ウイルスに対する防御を提供する。ある特定の実施形態では、本一価インフルエンザ医薬製剤によって誘導される複合的免疫応答は、インフルエンザB型ウイルスに対する防御を提供する。実施形態では、インフルエンザA型ウイルス及び/又はインフルエンザB型ウイルスは、大部分は冬季の数カ月の間に季節性流行病を引き起こす「季節性」インフルエンザウイルスである。他の実施形態では、インフルエンザA型ウイルスは「パンデミック」インフルエンザウイルスであり、それはウイルス中に存在する新規で異なる抗原性エピトープのために広範囲にわたる病気を引き起こすことができる。
【0062】
インフルエンザA型ウイルスはウイルス表面の2つのタンパク質に基づいてサブタイプ:血球凝集素(H)及びノイラミニダーゼ(N)に分類される。少なくとも18の異なる血球凝集素サブタイプ及び少なくとも11の異なるノイラミニダーゼサブタイプがある。(それぞれ、H1からH18及びN1からN11)。インフルエンザA型ウイルスは、異なる株にさらに分解することができる。人々で見出されるインフルエンザA型ウイルスの現行のサブタイプは、インフルエンザA型(H1N1)及びインフルエンザA型(H3N2)ウイルスである。インフルエンザB型ウイルスはサブタイプに分類されないが、系統及び株にさらに分類することができる。現在循環しているインフルエンザB型ウイルスは2つの系統のうちの1つに属する:B/Yamagata及びB/Victoria。インフルエンザウイルスの命名規則は複数の構成要素を含み、以下のアプローチに従う:抗原性タイプ(例えば、A、B、C);起源宿主(例えば、ブタ、ウマ、ニワトリ等。ヒト起源ウイルスでは、起源宿主の指名は与えられていない。);地理的起源(例えば、デンバー、台湾等);株番号(例えば、15、7等);単離年(例えば、57、2009等);及びインフルエンザA型ウイルスの場合、括弧中の血球凝集素及びノイラミニダーゼ抗原の記載(例えば、(H1N1)、(H5N1)。
【0063】
例示的な実施形態では、本アデノウイルスベクターは、A/California/04/2009(H1N1)ウイルスからのHA表面タンパク質抗原をコードする遺伝子挿入断片を含む。ある特定の実施形態では、本アデノウイルスベクターは、H1N1インフルエンザA型ウイルスサブタイプからの血球凝集素抗原を含有し、発現する。ある特定の他の実施形態では、本アデノウイルスベクターは、H3N2インフルエンザA型ウイルスサブタイプからの血球凝集素抗原を含有し、発現する。他の実施形態では、本アデノウイルスベクターは、インフルエンザB型ウイルスからの血球凝集素抗原を含有し、発現する。ある特定の実施形態では、本アデノウイルスベクターは、パンデミックのインフルエンザA型ウイルスからの血球凝集素抗原を含有し、発現する。ある特定の他の実施形態では、本アデノウイルスベクターは、季節性インフルエンザウイルスからの血球凝集素抗原(HA)を含有し、発現する。
【0064】
使用方法
本明細書では、インフルエンザウイルスに対してヒト対象で複合的な粘膜性、体液性及びT細胞防御免疫応答を誘導し、それによってヒト対象は少なくとも6カ月間、少なくとも12カ月間、少なくとも13カ月間又はそれより長く血清防御される方法が提供される。実施形態では、本方法はヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個のウイルス粒子(vp)の有効量の単回用量を鼻腔内投与することを含み、投与はインフルエンザウイルスに対して血清抗体、粘膜抗体及びT細胞を誘導する。
【0065】
実施形態では、本一価インフルエンザ医薬製剤は、季節性インフルエンザウイルスに対して防御を提供するために使用される。ある特定の他の実施形態では、本一価インフルエンザ医薬製剤は、パンデミックのインフルエンザウイルスに対して防御を提供するために使用される。
【0066】
実施形態では、本方法は、インフルエンザA型ウイルスサブタイプによる感染に対して防御を提供する。ある特定の実施形態では、本方法は、インフルエンザA型ウイルスサブタイプH1N1及び/又はH3N2による感染に対して防御を提供する。他の実施形態では、本方法は、インフルエンザB型ウイルスによる感染に対して防御を提供する。
【0067】
実施形態では、血清防御は少なくとも約13カ月間持続する。ある特定の実施形態では、血清防御は少なくとも約14カ月間、又はそれより長く持続する。
【0068】
実施形態では、本(一価)インフルエンザ医薬製剤の単回用量を投与するステップは、50以上の力価のHAI抗体を少なくとも6カ月間、少なくとも12カ月間、少なくとも13カ月間、少なくとも14カ月間又はそれより長く誘導する。実施形態では、ヒト対象におけるワクチン接種(本インフルエンザ医薬製剤の投与)から12カ月後のHAI抗体の力価は、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90又は少なくとも100である。
【0069】
したがって、本明細書で及び下の実施例で議論されるように、NasoVAXが血清防御的であり、市販のインフルエンザワクチン(例えばFluzone(登録商標))に類似している中和抗体応答率、少なくとも1年間永続する抗体応答、強力な粘膜性(IgA)及び細胞性(例えば、ELISspotによって測定されるT細胞)応答、既存のベクター(例えば、Ad5)抗体にほとんどか又は全く影響を受けないように、試験した全ての用量レベルで十分忍容性があるように、及び周囲温度(例えば、約20~25℃)で約3カ月の後に安定している(すなわち、ウイルス粒子の有効量を含む)ように抗ベクター(例えば、Ad5)抗体の最小限の誘導の生成を誘導することが驚くべきことに見出された。
【0070】
したがって本開示は、一部の実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適なインフルエンザ医薬製剤(例えば、一価)であって、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原(HA)を含有し発現する複製欠損アデノウイルスベクターの、例えば少なくとも約106vp、107vp、108vp、109vp、1010vp又は1011vpのいずれか、好ましくは少なくとも109vp又は1011vpの有効量であって、好ましくは防御的である複合的な粘膜性、体液性及びT細胞免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む、製剤を提供する。一部の実施形態では、好ましくは単独で又は他の免疫応答と共同で防御的である粘膜免疫応答は抗血球凝集素(HA)IgA ELISAによって決定され、好ましくは単独で又は他の免疫応答と共同で防御的である体液性免疫応答は、血球凝集阻止アッセイ(HAI)力価、及び/又は微量中和アッセイを使用して決定され、必要に応じて幾何平均力価(GMT)、幾何平均比(GMR)、血清転換率(SCR)、血清陽性率(SPR)の1つ以上を使用して測定される中和抗体の存在によって決定され;及び/又は好ましくは単独で又は他の免疫応答と共同で防御的であるT細胞免疫応答はγ-インターフェロンELISpotによって決定される。一部の実施形態では、製剤は、インフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40を少なくとも12カ月間有する対象によって決定されるような、ヒト対象への血清防御を提供するように構成される。一部の実施形態では、本開示は、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適な医薬製剤であって、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原(HA)を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、インフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40(又は一部の実施形態では≧50)を少なくとも12カ月間有する対象によって決定されるような、ヒト対象への血清防御を提供するように構成される、複合的な粘膜性及び体液性の防御免疫応答を誘導する有効量、並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む医薬製剤を提供する。一部の実施形態では、有効量は少なくとも約1010個のウイルス粒子(vp)又は少なくとも約1011個のウイルス粒子(vp)であり、さらなる実施形態ではT細胞応答を誘導する。好ましい実施形態では、製剤はアジュバントを含まない。一部の実施形態では、製剤はアジュバントを含まない。好ましい実施形態では、HA抗原はインフルエンザA型ウイルス(一部の好ましい実施形態ではサブタイプH1N1又はH3N2)又はインフルエンザB型ウイルスに由来する。一部の実施形態では、製剤はトリスHCl(pH7.4)、ヒスチジン、スクロース、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、ポリソルベート80、エチレンジアミン四酢酸及びエタノールを含む。一部の実施形態では、製剤は約1×109vp、約1×1010vp又は約1×1011vpの単回用量、好ましくは鼻腔内用量を含む。一部の実施形態では、製剤は冷凍される。好ましい実施形態では、製剤は周囲温度で少なくとも約3カ月間安定している。実施形態では、周囲温度は約15~30℃、好ましくは約20~25℃の室温である。一部の実施形態では、製剤は、周囲温度での保存が要求されるかもしれない流通まで、約-20℃又は約4~8℃で保存される。一部の実施形態では、製剤は、季節性インフルエンザウイルスからの抗原を含む季節性インフルエンザワクチンとして構成される。一部の実施形態では、製剤は、インフルエンザA型パンデミックウイルス株からの抗原を含むパンデミックインフルエンザワクチンとして構成される。好ましい実施形態では、複製欠損アデノウイルスベクターは、ヒトアデノウイルス血清型5(Ad5)である。一部の実施形態では、製剤は、一部の実施形態ではガラスバイアル、鼻スプレイヤー(sprayer)、液滴ディスペンサー、噴霧器(aerosolizer)及びアトマイザーからなる群から選択することができる容器の中に含有される。一部の実施形態では、バイアルは、例えば、パンデミックの状況でピペット及び/又は点眼器と組み合わせて使用して対象に滴下投与することができる多回投与バイアル(すなわち、製剤の複数用量を含むバイアル(例えば、各用量はウイルス粒子の有効用量を含む))であってよい。一部の実施形態では、容器は周囲温度(例えば室温)で少なくとも約3カ月間製剤を含有していた。一部の実施形態では、製剤は、周囲温度(例えば室温)で約3カ月の後に少なくとも約33%(すなわち、約0.5対数の減少(約3分の1への減少)を可能にする)、好ましくは一部の実施形態では約50%の感染性ウイルス粒子を容器内に含有するように構成される。一部の実施形態では、製剤は、周囲温度で1カ月未満同じ種類の容器の中に置かれたマッチさせた製剤と比較して、存在する感染性ウイルス粒子の少なくとも約33%、好ましくは約50%を含む(例えば、一部の実施形態では約0.5対数の減少(約3分の1の減少)を可能にする)。一部の実施形態では、容器は使い捨ての容器であり、及び/又は製剤の鼻腔内投与のために構成される。一部の実施形態では、本開示は、対象でインフルエンザウイルスによる感染を予防及び/又は処置するための、ヒト対象への投与のための医薬の調製におけるそのような製剤の使用を提供する。一部の実施形態では、本開示は、対象でインフルエンザによる感染を予防及び/又は処置するための、ヒト対象への投与のための医薬の調製におけるそのような容器の使用を提供する。一部の実施形態では、本開示は、対象でインフルエンザによる感染を予防及び/又は処置するための、ヒト対象への投与のための医薬の調製のためのキットであって、そのような製剤及び/又は容器の少なくとも1つを含むキットを提供する。
【0071】
一部の実施形態では、本開示は、インフルエンザウイルスに対してヒト対象で複合的な粘膜性、体液性及びT細胞防御免疫応答を誘導する方法であって、ヒト対象へ本明細書に開示されるインフルエンザ医薬製剤の少なくとも単回用量を鼻腔内に投与するステップであって、投与がインフルエンザウイルスに対して複合的な粘膜性、体液性及びT細胞防御免疫応答を誘導するステップを含み、ヒト対象が前記投与から少なくとも12カ月間インフルエンザウイルスによる感染から血清防御される方法も提供する。一部の実施形態では、粘膜性防御的免疫応答は抗血球凝集素(HA)IgA ELISAによって決定され、体液性防御的免疫応答は血球凝集阻止アッセイ(HAI)力価、及び/又は微量中和アッセイを使用して決定される、必要に応じて幾何平均力価(GMT)、幾何平均比(GMR)、血清転換率(SCR)、血清陽性率(SPR)の1つ以上を使用して測定される中和抗体の存在によって決定され;及び/又はT細胞防御的免疫応答はγ-インターフェロンELISpotを使用して決定される。一部の実施形態では、方法は製剤の複数の用量の投与(例えば、流行又はパンデミックの状況の間に)を含むことができる。好ましい実施形態では、血清防御は少なくとも約13カ月間、又は少なくとも約14カ月間持続する。一部の実施形態では、インフルエンザウイルスはインフルエンザA型(一部の好ましい実施形態ではサブタイプH1N1又はH3N2)及び/又はインフルエンザB型ウイルスである。一部の実施形態では、複合的な免疫応答はインフルエンザA型ウイルスサブタイプ及びインフルエンザB型ウイルスに対する防御を提供する。一部の実施形態では、インフルエンザウイルスは季節性インフルエンザウイルスである。一部の実施形態では、投与は少なくとも50のHAI抗体価を投与後の少なくとも12カ月間誘導する。一部の実施形態では、対象は鼻腔内投与の前に抗アデノウイルスベクター免疫を示し(好ましくは、複製欠損アデノウイルスベクターはヒトアデノウイルス血清型5(Ad5)である)、前記免疫は血球凝集素阻止アッセイ、微量中和アッセイ、IgA ELISA及び/又はELIspotアッセイによって決定される。好ましい実施形態では、製剤の投与は対象の抗アデノウイルスベクター免疫を有意に増強せず(例えば、製剤の投与の前に存在する対象の抗アデノウイルスベクター免疫より約3倍、4倍、5倍又は6倍以下高い)、前記免疫は、好ましい実施形態では、血球凝集素阻止アッセイ、微量中和アッセイ、IgA ELISA及び/又はELIspotアッセイによって決定される。一部の実施形態では、対象は投与の前にヒトアデノウイルスに血清陽性である。一部の実施形態では、方法は、以前に投与されるインフルエンザ医薬製剤の少なくとも1用量の投与から約1年後に第2のインフルエンザ医薬製剤の単回用量を投与することをさらに含むことができる。一部のそのような実施形態では、第2のインフルエンザ医薬製剤は、以前に投与されるインフルエンザ医薬製剤に含まれるものと同じであるか異なる季節性インフルエンザの抗原を含む。一部の実施形態では、ヒト対象は成人である。
【0072】
当業者によって理解される通り、他の実施形態も本明細書で企図される。
【実施例】
【0073】
以下の実施例は、本明細書で提供される実施形態の使用方法についての完全な開示及び記載を当業者に提供するために示され、本開示の範囲を限定するものではなく、それらは、下の実施例が実行された実験の全てであること又は実行された実験だけであることを表すものでもない。使用される数字(例えば、量、温度等)に関して正確性を確保するように努めたが、多少の実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。別途指示されない限り、部は体積部であり、温度は摂氏温度である。実施例によって例示されるものである基本的な態様を変更することなく、記載される方法に変更を加えることができることを理解すべきである。
【0074】
[実施例1]
一価インフルエンザ医薬製剤(NasoVAX)の調製
ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する複製欠損アデノウイルスベクターを、(Lui J.ら;A protocol for rapid generation of recombinant adenoviruses using the AdEasy system; Nat. Protoc. (2007) 2(5):1236-47)に詳述される手順に従って調製した。
【0075】
本アデノウイルスベクターは、呼吸上皮細胞中の目的のタンパク質(例えば、インフルエンザHA)を発現するE1/E3欠失複製欠損(RD)-Ad5ベクターである。NasoVAXの場合、ベクターは、インフルエンザA型又はB型からのHA表面タンパク質抗原をコードする遺伝子挿入断片を含有する。組換えAd5ベクターはウイルスゲノムのE1領域(ヌクレオチド343~3511)が欠如し、そのことはウイルスをRDにし、宿主細胞に侵入した後に感染性ウイルス粒子を産生することを不可能にする。ベクターのE3領域中のヌクレオチド28132~30813の追加の欠失は、宿主免疫応答の回避に関与し、ウイルス複製のために重要でない遺伝子を除去する。HA遺伝子の発現を作動させるサイトメガロウイルス転写エンハンサー/プロモーター、生体工学によって作られたHA遺伝子及びシミアンウイルス40ポリアデニル化シグナルからなる発現カセットを、E1遺伝子配列の代わりに挿入した。
図1はRD-Ad5ベクターの模式図を提供し、ベクターに保持される親アデノウイルスゲノム由来の配列を特定する。
【0076】
本開示では、ベクターは、インフルエンザのA/California/04/2009(H1N1)様株(AdcoCA09.HA)からのHA表面タンパク質抗原をコードする遺伝子挿入断片を含有していた。
【0077】
NasoVAXは、複製許容PER.C6細胞でのRD-Ad5ベクターの増殖と、続く感染細胞収穫物からのウイルスの精製によって製造し、最終生成物は以下の賦形剤を含んでいた:トリスHCl(pH7.4)、ヒスチジン、スクロース、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、ポリソルベート80、エチレンジアミン四酢酸及びエタノール。
【0078】
NasoVAXは、1×109vp(バッチ番号:17142001)、1×1010vp(バッチ番号:17143001)又は1×1011vp(バッチ番号:17144001)の名目上の用量を送達するように製剤化されたワクチンの無菌の凍結懸濁液の0.7mLの名目上の量を各々含有する、使い捨てのガラスバイアルで供給された。
【0079】
[実施例2]
試験プロトコール:NasoVAXの免疫原性の単一増加用量試験
本明細書では、健康な成人60人をウイルス粒子数109、1010若しくは1011の用量のA/California 2009をベースとした一価NasoVAX(本一価ワクチン組成物)製剤又は食塩水プラセボに無作為化し、全ては各鼻孔に概ね0.25mlの経鼻噴霧として分割される0.5mL用量として与えられた臨床試験プロトコールが提供される。
【0080】
【0081】
この試験の目的には以下のものが含まれた:1)1×109、1×1010又は1×1011vpの単回用量での鼻腔内噴霧によって投与された場合のNasoVAXへの体液性免疫応答を評価すること;2)1×109、1×1010又は1×1011vpの単回用量での鼻腔内噴霧によって投与された場合のNasoVAXへの細胞性免疫応答を評価すること;3)1×109、1×1010又は1×1011vpの単回用量での鼻腔内噴霧によって投与された場合のNasoVAXへの粘膜性免疫応答を評価すること;及び4)NasoVAX投与の後の示されていないインフルエンザ株に対する体液性免疫応答を評価すること。
【0082】
対象は、要請された局所及び全身性副作用を含む安全性について追跡した。免疫測定には、1、15、29、90及び180日目の血球凝集阻止(HAI)及び中和抗体(MN)、並びに1及び8日目のγ-インターフェロンELISpotが含まれた。類似の対象20人の並行コホートにA/California 2009構成成分を含有するFluzone(登録商標)注射用インフルエンザワクチンを投与し、同じ時点で調査をした。
【0083】
この試験は、18~49歳の健康な成人でNasoVAX(一価のAdco.CA.HA)、すなわちNasoVAXの安全性及び免疫原性を評価するためのフェーズ2a無作為化二重盲検プラセボ対照試験であった。対象は、無作為化(1日目)から28日以内にスクリーニングした。全ての組入れ判定基準を満たし、除外判定基準を満たさずインフォームドコンセント書を提供した60人の対象を、ワクチン用量(1×109、1×1010及び1×1011vp)で各々規定された20人の対象の3つの連続コホートに登録した。各コホート及びその監視コホートの中で、対象は1日目にNasoVAX又はプラセボの1回の鼻腔内投与を受けるために3:1の比で無作為化された。
【0084】
各コホートからの5人の対象の監視コホートに投薬した。各コホートの残りの投薬は、中止判定基準を満たす事象が起こらなかった場合、最後の監視対象が8日目を終了した後に続行した。インフルエンザA型/California/07/2009(H1N1)(NasoVAX(一価のAdcoCA.09.HA)のために使用したものと同種の株)に対するHAI及び微量中和アッセイのために、血清試料を投薬前の1日目に、並びに4、8、15、29、91及び181日目に各対象から収集し;示されないインフルエンザ株に対するAd5抗体及びHAI及び微量中和アッセイも1日目及び29日目の試料で実行した。投薬前の1日目及び8日目にELISpotによるT細胞応答の評価のために、全血試料を各対象から収集、処理してPBMCを単離した。
【0085】
定量的ポリメラーゼ連鎖反応アッセイによるワクチンベクターのシェディングの調査のために、Ad5ベクターの濃度を測定するために、スクリーニング時(投与前の時点)並びに4、8、15、29及び91日目に鼻咽頭スワブ試料を各対象から収集した。陰性結果が所与の対象で得られた場合、後の試料は試験しなかった。粘膜性免疫応答の評価のために、スクリーニング及び29日目からのスワブ試料についてIgAの測定のためのELISAも実行した。
【0086】
免疫原性:一次分析集団としてプロトコール(PP)集団を使用して、免疫分析を実行した。任意の1用量群の対象の>5%がPP集団から排除された場合だけ、包括解析(ITT)集団に基づく分析を行い、提示した。
【0087】
ベースライン後の各診察時の抗体価の分析において、共分散分析(ANCOVA)を使用し、対数変換抗体価を従属変数とし、用量群を因子とし、及びベースライン対数変換レベルを共変量とした。プラセボ群に対して、及び適用可能である場合はFluzone(登録商標)群に対して、ベースライン後の対数変換抗体価の比較を各NasoVAX用量群について実行した。ANCOVA分析から、用量群の最小二乗(LS)平均及びLS平均の95%CI、LS平均の差及びLS平均の差の95%CIが得られた。LS平均推定値の差及びそれらの95%CIを元のスケールに後方変換することは、幾何平均の比をもたらす。これらの比は、概要で報告した。
【0088】
アッセイデータ(例えば、SPR、SCR、応答者率)に由来するカテゴリーデータは、用量群ごとのカウント数及びパーセンテージ、並びにパーセンテージの95%クロッパー-ピアソン正確CIによって表にした。さらに、プラセボ群に対する、及び適用可能である場合はFluzone(登録商標)群に対する各NasoVAX用量群における応答者の比較は、フィッシャーの正確確率検定を使用して実行した。
【0089】
8日目のELISpot SFUのためのベースラインからの中央変化値の分析を加えたが、その理由は、中央値が生のELISpotデータの記述的分析のための、及び異なるベースライン群平均値を説明するための通常のパラメータであるからである。
【0090】
x軸に沿ったベースラインAd5抗体レベルの散布図は、y軸に沿った以下の変数の各々と示した:29日目のHAI抗体価、8日目のELISpot応答及び29日目のIgA力価。NasoVAX免疫原性に及ぼす既存のAd5血清抗体レベルの影響の散布図分析は、情報価値がなかったので、29日目のHAIアッセイGMR、29日目の微量中和アッセイGMR、ELISpot SFUにおける8日目のベースラインからの変化中央値、及び29日目のIgA GMRのベースラインAd5 血清状態(陽性、力価≧LLOQと定義される、又は陰性)による事後サブグループ分析を実行した。
【0091】
[実施例3]
一価インフルエンザ医薬製剤(NasoVax)によって誘導される複合的粘膜性、体液性及び細胞媒介性免疫応答
実施例2に記載の通り、1×109、1×1010又は1×1011vpの単回用量での鼻腔内噴霧によって投与されたNasoVAX(一価AdcoCA09.HA)は複合的体液性及び粘膜性免疫応答を導き出し、1×1011の用量では細胞性応答(例えば、T細胞)を含む複合的免疫応答を導き出した。
【0092】
ある特定の実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適な一価インフルエンザ医薬製剤であって、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも1011個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、複合的な粘膜性、体液性及びT細胞防御的免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む製剤が本明細書で提供される。
【0093】
ある特定の他の実施形態では、ヒト対象への単回用量鼻腔内投与に好適なインフルエンザ医薬製剤であって、ヒト対象のためにコドン最適化されたインフルエンザウイルス血球凝集素抗原を含有し発現する、複製欠損アデノウイルスベクターの少なくとも109個のウイルス粒子(vp)の有効量であって、インフルエンザウイルスに対してHAI抗体価≧40の血清防御をヒト対象へ少なくとも12カ月間提供するように構成される、複合的な粘膜性及び体液性の防御免疫応答を誘導する有効量;並びに薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む製剤が本明細書で提供される。
【0094】
ある特定の実施形態では、インフルエンザウイルスに対してヒト対象で複合的な粘膜性、体液性及びT細胞防御免疫応答を誘導し、それによってヒト対象は少なくとも6カ月間血清防御される方法も提供される。実施形態では、本方法は、ヒト対象へ任意の本インフルエンザ医薬製剤の単回用量を鼻腔内に投与することを含み、投与はインフルエンザウイルスに対して血清抗体、粘膜抗体及びT細胞を誘導する。
【0095】
NasoVAX(一価AdcoCA09.HA)は1×10
9、1×10
10又は1×10
11vpの単回用量での鼻腔内噴霧によって投与され、インフルエンザA型/California/07/2009(H1N1)へ体液性免疫応答を導き出すことが見出された。NasoVAX群における全てのワクチン接種後の免疫学結果は、15日目から181日目にかけてプラセボ群より優れていた。例えば、HAIアッセイ幾何平均力価(GMT)、幾何平均比(GMR)、血清転換率(SCR)及び血清防御率(SPR);並びに微量中和GMT、GMR及び応答者率(2倍及び4倍)に関して、明白な用量効果がNasoVAX群で観察された。全体の群におけるHAI SCRを除いて、29日目のNasoVAXの1×10
11vp及び全体の群における全ての結果は、プラセボ群(P<0.05)のものより統計学的に有意に高かった。微量中和アッセイについては、1×10
11vp NasoVAX群における29日目の結果は、Fluzone(登録商標)群のものと類似していた。HAIアッセイでは、Fluzone(登録商標)群における29日目の結果は、NasoVAX群より一般的に高かった。しかし、NasoVAX群の平均GMTは経時的に安定していたが、Fluzone(登録商標)群のそれらは181日目にかけて実質的に低下している。ベースラインAd5血清状態によるHAI及び微量中和GMTの事後サブグループ分析は、2つのより低い用量でAd5ベクター中の血球凝集素遺伝子挿入断片への免疫応答の多少の抑制を示したが、この影響は最高用量群では見かけ上克服された。
図2~9を参照されたい。
【0096】
NasoVAXは、HA特異的細胞性免疫応答を導き出した。NasoVAX群の8日目のELISpot結果はプラセボ群より高く、その差は1×1011vp群(LS GM SFU比対プラセボの95%CI:3.5、102.2;ベースラインからの変化中央値の非オーバーラップ95%CI;応答者率ではP=0.0028)及びNasoVAX群全体(LS GM SFU比対プラセボの95%CI:1.6、24.5;応答者率ではP=0.0351)で統計的に有意だった。1×109vp及び1×1010vp用量群における結果はFluzone(登録商標)群よりわずかに低かったが、1×1011vp用量群における結果はFluzone(登録商標)群より実質的に高かった。
【0097】
NasoVAXは、Fluzone(登録商標)を受けた対象で見られないHA特異的粘膜免疫原性を導き出した。29日目のGMRは全てのNasoVAX群で粘膜応答を示し、Fluzone(登録商標)又はプラセボ群では応答を示さなかった。その差は、1×1010vp及び1×1011vp用量群で統計的に有意だった(95%CI:それぞれ1.6、3.3及び1.2、2.9)。既存のAd5免疫原性は、粘膜免疫原性に明らかな影響を及ぼさなかった。
【0098】
体液性免疫応答
HAIによって測定されたインフルエンザHAタンパク質への体液性免疫応答(すなわち、血液又は血清中の抗体)は、インフルエンザの防御の認識された相関物である(2007年5月の季節性不活性化インフルエンザワクチンの免許下付を裏付ける臨床データが必要)。防御は、ワクチンに含まれるウイルス株への血球凝集阻止(HI)抗体応答を通して実証することができ、ここではGMT及びSCR(ワクチン接種前HI力価<1:10及びワクチン接種後HI力価≧1:40又はワクチン接種前HI力価≧1:10及びワクチン接種後HI抗体価の最小4倍の上昇を有する対象のパーセンテージと規定される)が非劣性試験又はプラセボ対照試験で測定される。非劣性試験の免疫原性試験(認可されたインフルエンザワクチンと比較した新規のワクチンへのHI抗体応答)では:1)GMTの比(新規のワクチンのGMTによって割った米国認可ワクチンのGMT)の上の両側95%CIの上部の限界は1.5を超えるべきでない;及び2)SCRの間の差(米国認可ワクチンのSCRから新規ワクチンのSCRを引く)の上の両側95%CIの上部の限界は10パーセンテージポイントを超えるべきでない。
【0099】
プラセボ対照免疫原性試験については、新規のワクチンへのHI抗体応答は、対象のパーセンテージがHI抗体価≧1:40を達成する場合に防御を実証することができる。
【0100】
体液性応答の評価のために、-28日目から-1日目、1、2、4、8、15、29、91及び181日目に各対象から血液試料を血清分離管に収集した。収集した全ての試料で、A/California/07/2009(H1N1)に対するHAI及び微量中和アッセイを実行した。収集の後、遠心分離の前に試料を室温で30分~1時間凝固させた。生じた血液の血清構成成分はクリオバイアルの中に一定分量移し、24~48時間-80℃で保存後、ドライアイスに入れて試験室に運んだ。試料は、試験まで-80℃で保存した。
【0101】
HAIアッセイについては、各96ウェルV底マイクロタイタープレート(試験プレート)の上で、最大9試料を陽性(参照抗血清)、陰性、ウイルス及び細胞品質対照からなる各プレートの上の品質(QC)対照と共に分析した。単一のQCプレートが各アッセイに含まれ、96ウェルV底マイクロタイタープレートの上のウイルス濃度を確認するために、品質対照及びウイルス逆力価(VBT)を含有していた。研究所標準の操作手順によって、試料を受容体破壊酵素で処理した。試験プレート及びQCプレートの両方を覆い、室温(15℃~30℃)で120~140分間インキュベートした。次に全てのプレートの各ウェルに50μLの1%ウマ赤血球を加え、室温で30~60分間インキュベートした。各ウェルは次に凝集又は非凝集について読み、以下の判定基準によって評価した:1)力価は、非凝集を示し、その希釈溶液の逆数の値を割り当てられたカラムの最後のウェルによって決定した。血清の希釈は1:10~1:1280と指定された。負の力価は、5の力価を割り当てられた。≧1280の力価は、GMT計算で使用するために1280の力価を割り当てられた;及び2)QCプレートの上のVBTは、有効なアッセイのために4HA単位/25μL±1の希釈でなければならなかった。全てのアッセイのために試料は3反復で分析した。
【0102】
微量中和アッセイについては、各96ウェル平底マイクロタイタープレート(試験プレート)の上で、最大9試料を陽性(参照抗血清)、ウイルス及び細胞対照からなる各プレートの上のQCと共に分析した。少なくとも3つのQCプレートが各アッセイに含まれ、96ウェル平底マイクロタイタープレートの上のウイルス濃度を確認するために、品質対照及びVBTを含有していた。50マイクロリットル(50μL)の希釈ウイルス(1.17~9.38×TCID50(感染宿主の50%を死滅させるのに、又は接種組織培養細胞の50%で細胞変性効果をもたらすために必要とされるウイルスの量)/50μLの範囲内のVBTを目標にするために希釈された)を、血清を含有する全てのカラムの中の全てのウェルに加え、これらのウェルはウイルス対照と指定し、細胞対照ウェルにはウイルスを加えなかった。試験プレート及びQCプレートの両方を、CO2が0%~5%の37℃±2℃で2~2.5時間インキュベートした。100マイクロリットル(100μL)のMDCK細胞(希釈液中に1.5×105細胞/mL、50%~99%集密)を、あらゆるプレートの全てのウェルに加えた。プレートは、CO2が5%±1%の37℃±2℃で19~21時間インキュベートした。全てのプレートから培地を除去し、各ウェルを100μLのダルベッコのリン酸緩衝食塩水(DPBS、1x濃度)で洗浄した。DPBSを除去し、固定剤100μLを各ウェルに加えた。プレートを覆い、室温(15℃~30℃)で10~15分間インキュベートした。固定剤を除去し、プレートを空気乾燥させた後、200μL/ウェルの洗浄緩衝液で3回洗浄した。100mLの希釈した一次抗体を各ウェルに加え、プレートを室温で1~1.25時間インキュベートした。200mL/ウェルの洗浄緩衝液でプレートを4回洗浄し、100mLの希釈した二次抗体を各ウェルに加えた。プレートは室温で1~1.25時間インキュベートした。200mL/ウェルの洗浄緩衝液でプレートを4回洗浄し、100mLの希釈した二次抗体を各ウェルに加えた。100mLの新鮮な基質を各ウェルに加え(低光量下で)、続いて低光量下の室温で15~25分間インキュベートした。停止溶液(100mL)を各ウェルに直ちに加え、吸光度を490~495nmで読み取った。得られたデータは、以下の判定基準によって評価した:1)各プレートのためのプレートカットオフ値は、以下の式によって計算した:(ウイルス対照ウェルの平均-細胞対照ウェルの平均)/2;及び2)プレートカットオフ未満の吸光度値を有する血清試料は中和抗体が陽性であったが、プレートカットオフより上のものは中和抗体が陰性であった。プレートカットオフより上の吸光度値を有するVBT値はウイルス複製が陽性であった。プレートカットオフ未満の吸光度値を有するVBT値は、ウイルス複製が陰性であった。力価は、陽性と評価された最高希釈の逆数として計算した。負の力価(プレートカットオフより上の全吸光度値)は、5の値を割り当てた。希釈は1:10~1:1280と指定した。>1280の力価はGMT計算で使用するために1280の力価を割り当てたが、データ表では>1280と報告した。例外は以下を含んだ:プレートカットオフ値の上へ交差した(値がカットオフを下回る、それを上回り(「フラグ」と記される)、その後下に戻る)吸光度値は、吸光度の最初の下降とそれが再びそれを上回ったときとの間に≧2倍の差がない限り、プレートカットオフ値を下回った最終吸光度値に割り当てられた力価を有した;複数のフラグを有する試料は、データ評価で機械的問題が記されない限り、又は最終吸光度値が最後のフラグから2希釈を超えない限り受け入れられなかった;VBTでプレートカットオフの上へ交差した値は、交差前の力価として報告された;並びに、全てのプレートで吸光度値を評価する場合、機械的問題(例えば、予想より高いか低い吸光度値をもたらすかもしれない部分的又は完全に詰まったチップ)の指標を探すために、データの傾向をプレートの下で及び全体で評価した。試料の最終力価を評価して割り当てるとき、これらの値が考慮された。
【0103】
以下の判定基準が満たされた場合、試験プレート及びアッセイは許容された:1)個々の試験プレートでの正のQC値がアッセイの計算された中央値の(±)1希釈の範囲内であったか、又は個々のプレートが拒絶された;2)アッセイの全ての許容されたQCプレートについて決定されたVBT中央値が1.17~9.38の範囲内であったか、又はアッセイが拒絶された;及び3)試験プレートの上の9つの血清試料のうちの少なくとも5つがそれらのそれぞれの反復の少なくとも1つにマッチするか、又は全ての9つの試験試料が再分析された。全てのアッセイのために試料は3反復で分析した。
【0104】
NasoVAX群における全てのワクチン接種後の結果は、15日目から181日目にかけてプラセボ群より高かった。測定した全てのエンドポイントについて、NasoVAX群で明白な用量効果が見られた。全体の群におけるHAI SCRを除いて、29日目のNasoVAXの1×10
11vp及び全体の群における全ての体液性免疫原性結果は、プラセボ群のものより統計学的に有意に高かった。
図2、3、6及び7を参照されたい。
【0105】
【0106】
細胞性免疫応答
ELISpotによるHA特異的T細胞応答の評価のために、-28日目から-1日目、1、2、4、8、15、29、91及び181日目に各対象から血液試料をヘパリン処理した管に収集した。
【0107】
標準のFicoll-Hypaque勾配密度技術によってPBMCを単離し、遠心分離ステップは部位装置で最適な収量及び生存能力を得るように調整した。PBMCは107細胞/mLの密度で低温保存し、ドライアイスに入れて試験室へ運ぶまで-80℃で保存した。試料は、試験まで液体窒素で保存した。
【0108】
解凍後、捕捉インターフェロンガンマ(IFN-γ)抗体でコーティングした96ウェルポリビニルジフルオリド膜ELISpotプレートに、1ウェルあたり0.2×106細胞の濃度でPBMCを加えた。PBMCは、7つのプールされたHA由来のペプチド、陽性及び陰性対照の存在下で18時間刺激した。A/California/04/2009(H1N1)株のHA配列に由来する139の短いペプチド(長さ14又は15アミノ酸、11アミノ酸の重複)から、HA由来のペプチドプール(各々19~20ペプチド)を調製した。陽性対照は、CEF(サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス及びインフルエンザウイルス)ペプチドプール及び植物性凝集素を使用した。陰性対照は、無関係なヒトミエリン希突起膠細胞糖タンパク質ペプチドプール及び培地だけに基づいた。6反復で試験した培地単独以外、全ての条件を3反復で試験した。IFN-γELISpotプレートの顕色後、スポットの数を自動ELISpotカウンターで数え、SFU/106 PBMCで表した。
【0109】
図4及び8は、8日目の細胞性免疫応答(ELISpotからのSFU)を要約する。ベースライン幾何平均SFU/10
6細胞は用量群の間で大きく異なり、したがって、ベースラインからの変化の事後分析を加えた。NasoVAX群におけるワクチン接種後の結果はプラセボ群より高く、その差はLS GM SFU及び応答者率に関しては1×10
11vp、全体的NasoVAX群で、ベースラインからの変化中央値に関しては1×10
11vp群で統計的に有意であった。
【0110】
粘膜免疫応答
スクリーニング時及び29日目に収集され、抗HA IgA ELISAによる粘膜応答の評価のために使用された鼻咽頭スワブ試料。鼻咽頭スワブ試料の収集の後、スワブを-80℃で冷凍し、その後ドライアイスに入れて試験施設に運び、使用前まで-20℃で保存した。
【0111】
インフルエンザA型/California/04/2009(H1N1)HAタンパク質をマイクロタイターウェルの表面に吸着させた。鼻スワブ抽出液(すなわち、試料)をHAとインキュベートし(すなわち、HAに結合させ)、捕捉されたIgA(すなわち、粘膜IgA)を検出するためにビオチン化検出抗体をウェルに加えた。抗HA IgA力価は、カットオフ吸光度に基づく方法を使用して決定した。ヒトIgA ELISA定量化セット、E80-102(Bethyl Laboratories; Montgomery、TX)を使用して試料あたりの全IgAも定量化した。異なる鼻スワブ試料の間の直接比較を可能にするために、結果はHA特異的IgA(U/mL)と全IgA(μg/ml)との比として報告した。結果は、試験データベースに電子的に移した。
【0112】
表2及び
図5は、29日目のワクチン株HAタンパク質への粘膜免疫応答(ELISAによるIgA)を要約する。体液性抗体(すなわち、血液中に存在する抗体)の場合と違い、粘膜IgA GMTはベースライン時に全ての群にわたって類似していた(範囲:1.8~3.0)。29日目のGMRはプラセボ群で粘膜応答を示さず、全てのNasoVAX群で粘膜応答を示した。プラセボとの差は、1×10
10vp及び1×10
11vp用量群で統計的に有意だった。
【0113】
【0114】
考察
1×109、1×1010又は1×1011vpの単回用量で鼻腔内噴霧によって投与されたNasoVAX(一価のAdcoCA09.HA)によって導き出された体液性、細胞性及び粘膜性の免疫原性は、近年のNIAIDレビュー(Erbelding EJら、(2018))に記された現行のインフルエンザワクチンオプションの欠点の一部、具体的には免疫応答の不十分な持久性、乏しい細胞性応答、及び組織常在(すなわち、粘膜性)免疫の欠如に対処する能力を示した。この試験では、体液性免疫応答(HAIアッセイによって測定されたものを含む、防御の標準の相関物)は投薬後の6カ月を通してNasoVAX群で安定していたが、Fluzone(登録商標)群での応答はその期間中に激減した。
【0115】
細胞性及び粘膜性の免疫原性は、インフルエンザの持続期間、重症度及び伝播性の低減で役割を果たすことができ(Gouldら、Nasal IgA provides protection against human influenza challenge in volunteers with low serum influenza antibody titre. Front Microbiol. 2017;8:900;McMichaelら、Cytotoxic T-cell immunity to influenza. N Engl J Med. 1983;309:13-7;Seibertら、Recombinant IgA is sufficient to prevent influenza virus transmission in guinea pigs. J Virol. 2013;87:7793-804;Wilkinsonら、Preexisting influenza specific CD4+ T cells correlate with disease protection against influenza challenge in humans. Nat Med. 2012;18:274-80)、パンデミックインフルエンザの場面で特に重要な特徴である。これらの試験で観察された粘膜性免疫応答は、感染部位でインフルエンザをブロックすることによって体液性及び細胞性の応答経路へ付加的効果を提供する能力を有する。この試験では、NasoVAXによって導き出された細胞性応答はFluzone(登録商標)からのものよりも優れていて、粘膜性免疫応答はNasoVAXによって導き出されたがFluzoneによって導き出されなかった。
【0116】
この試験での免疫原性結果は、1×1011vp用量が強力な体液性、細胞性及び粘膜性の免疫原性を導き出すことを明らかに示す。おそらくこの群における異常に高いベースラインHAI及び微量中和力価のために、1×1010vp用量の効果はより不明確だった。
【0117】
[実施例4]
一価インフルエンザ医薬製剤(NasoVax)及びFluzone(登録商標)による誘導された免疫応答の比較
体液性、細胞性及び粘膜性免疫応答を誘導する能力を含む免疫原性を本一価インフルエンザ医薬製剤について評価し、Fluzone(登録商標)と比較した。Fluzone(登録商標)は、ワクチンに存在するインフルエンザA型及びインフルエンザB型サブタイプのために注射により投与される高用量四価インフルエンザワクチンである。29、91及び181日目にHAI抗体を測定し、結果をHAIアッセイ、血清転換率及び血清防御について報告した。
図9を参照されたい。
【0118】
微量中和(MN)アッセイについては、
図3に示すように、1×10
11vp NasoVAX群における29日目の結果は、Fluzone(登録商標)群のものと類似していた。HAIアッセイでは、Fluzone群における29日目の結果は、NasoVAX群より一般的に高かった。しかし、NasoVAX群での両アッセイによる平均GMT、並びにHAI GMR、SCR及びSPR値は経時的に安定したままだったが、Fluzone(登録商標)群におけるものは181日目にかけて激減した。
図9を参照されたい。
【0119】
1×109、1×1010又は1×1011vpの単回用量で鼻腔内噴霧によって投与されたNasoVAX(一価AdcoCA09.HA)は、インフルエンザA型/California/07/2009(H1N1)へ体液性免疫応答を導き出した。NasoVAX群における全てのワクチン接種後の結果は、15日目から181日目にかけてプラセボ群より高かった。例えば、HAIアッセイGMT、GMR、SCR及びSPR、並びに微量中和GMT、GMR及び応答者率(2倍及び4倍)について、明白な用量効果がNasoVAX群で見られた。全体の群におけるHAI SCRを除いて、29日目のNasoVAXの1×1011vp及び全体の群における全ての結果は、プラセボ群のものより統計学的に有意に高かった(P<0.05)。微量中和アッセイについては、1×1011vp NasoVAX群における29日目の結果は、Fluzone(登録商標)群のものと類似していた。HAIアッセイでは、Fluzone(登録商標)群における29日目の結果は、NasoVAX群より一般的に高かった。しかし、NasoVAX群の平均GMTは経時的に安定していたが、Fluzone(登録商標)群のそれらは181日目にかけて実質的に低下している。
【0120】
細胞性免疫原性アッセイ(ELISpot)では、1×10
9vp及び1×10
10vp用量群における結果はFluzone(登録商標)群よりわずかに低かったが、1×10
11vp用量群における結果はFluzone(登録商標)群より実質的に高かった。
図8を参照されたい。
【0121】
NasoVAXは、株特異的細胞性免疫応答を導き出した。NasoVAX群における8日目のELISpot結果はプラセボ群より高く、その差は1×10
11vp群(LS GM SFU比対プラセボの95%CI:3.5、102.2;ベースラインからの変化中央値の非オーバーラップ95%CI;応答者率ではP=0.0028)、及びNasoVAX群全体(LS GM SFU比対プラセボの95%CI:1.6、24.5;応答者率ではP=0.0351)で統計的に有意であった。1×10
9vp及び1×10
10vp用量群における結果はFluzone(登録商標)群よりわずかに低かったが、1×10
11vp用量群における結果はFluzone(登録商標)群より実質的に高かった。
図8を参照されたい。
【0122】
粘膜免疫原性アッセイ(鼻咽頭スワブ試料におけるIgA ELISA)では、29日目のGMRは全てのNasoVAX群で粘膜応答を示し、Fluzone(登録商標)群では粘膜応答を示さなかった。その差は、1×10
10vp及び1×10
11vp用量群で統計的に有意だった(GMT及びGMRの95%CIはFluzone群の95%CIと重複しなかった)。
図5を参照されたい。
【0123】
NasoVAXは、Fluzone(登録商標)を受けた対象で見られない株特異的粘膜免疫原性を導き出した。29日目のGMRは全てのNasoVAX群で粘膜応答を示し、Fluzone(登録商標)又はプラセボ群では応答を示さなかった。その差は、1×1010vp用量及び1×1011vp用量群で統計的に有意だった(95%CI:それぞれ1.6、3.3及び1.2、2.9)。
【0124】
[実施例5]
持久性:一価インフルエンザ医薬製剤(NasoVAX)によって誘導された13カ月間の血清防御
実施例2及び3で開示された上記の試験はさらに6カ月間延長され、そこでは、体液性応答の評価のために、403日目から433日目の間に各有効対象から血液試料を血清分離管に収集した。1×10
11vp用量群の15人の対象のうち合計で8人が、1年後に評価のために戻った。収集した全ての8試料で、A/California/07/2009(H1N1)に対するHAI及び微量中和アッセイを実行した。延長試験に参加した全ての対象は、本一価インフルエンザワクチンによる投与から少なくとも13カ月後に血清防御を実証した。表3及び
図10を参照されたい。
【0125】
【0126】
[実施例6]
NasoVAXシェディング及び抗NasoVAXベクター抗体
NasoVAXは、10
9vp、10
10vp又は10
11vpの単一の鼻腔内用量としてヒト対象に投与した。投薬から4、8及び15日後に、鼻咽頭スワブ試料を各対象から収集し、各時点で排出されたAd5ベクターの濃度をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイによって定量化した。
図11に示すように、投与されたNasoVAXベクター用量の用量依存性シェディングが、投薬後8日目まで検出され、15日目には検出されなかった。複製能のあるウイルスは検出されなかった。
【0127】
対象で抗アデノウイルス抗体を決定するために、アデノウイルス微量中和(MN)アッセイを実行した。ヒト血清の希釈溶液をヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターから緑色蛍光性タンパク質(GFP)を発現する複製欠損Ad5ベクター(Ad5.CMV-GFPと呼ぶ)の一貫した量とミックスしてインキュベートし、潜在的中和を起こさせた。これらの混合物を次に96ウェルプレートの中のVERO E6細胞に接種し、概ね3日間インキュベートした。このインキュベーションの間、中和されないAd5.CMV-GFPは細胞に感染してGFPを産生し、それはアッセイのためのリードアウトとして使用した。生じた中和のレベルを決定するために、試験試料とウイルスだけを接種したかウイルスを接種しなかった対照との間でGFP蛍光の強度を比較した。このアッセイの報告できる値はMN50値であり、インプットされたAd5.CMV-GFPの50%の中和をもたらす血清希釈の逆数に対応する。
図11は、NasoVAXの10
9vp、10
10vp又は10
11vpの単一の鼻腔内用量の投与の後の、NasoVAX(Ad5)のアデノウイルスベクター構成成分に対する抗体のGMRも例示する。その中で示されるように、最高用量(10
11vp)の投与は、驚くべきことに対照と比較して対象で抗Ad5ベクター抗体の約2.3倍の誘導をもたらしただけだった。このことは、鼻腔内投与経路をNasoVAX又は潜在的に他のAd5ベースのベクターの反復投薬のために使用することができることを示すので重要な知見である。
【0128】
図12は、対象へのNasoVAXの単一の鼻腔内用量(10
11vp)の投与の後のAd5血清状態に及ぼす既存の抗Ad5免疫の影響を示す。その中で示されるように、既存の抗Ad5免疫(「Ad5血清陽性」(力価中央値は定量下限(LLOQ)より22倍高い))は、NasoVAXの鼻腔内用量の投与の後に、体液性(HAI)、微量中和(MN)、粘膜性(IgA)、又は細胞性(ELISpot)抗Ad5免疫にほとんど影響を及ぼさなかった。このことは、Ad5への既存の免疫を有する対象へさえNasoVAXを鼻腔内投与することができることを示しているので、別の重要な知見である。
【0129】
[実施例7]
室温でのNasoVAX安定性
この実施例は、室温における液体製剤中のNasoVAXの長期安定性を記載する。室温での長期安定性は、製剤を安定させるための冷蔵又は他の手段が利用可能でないような状況で使用することができるワクチンの望ましい特性である。これは、製剤を低温に維持する装置がない離れた地域へワクチンを運ぶ必要がある流行病又はパンデミックの状況で重要になるだろう。下の表4及び5に示すように、低用量(2×109vp/mL用量)及び高用量(2×1011vp/mL用量)製剤をそれぞれ調製し、ガラスバイアル中に25℃で1、3及び6カ月間維持した。NasoVAXベクターの生存能力は、アデノウイルス蛍光フォーカス単位(FFU)アッセイを使用して決定した。簡潔には、細胞単層を適当なNasoVAX希釈溶液で感染させ、24~48時間インキュベートすることによってFFUアッセイを実行する。細胞を次に洗浄し、検査し、固定し(例えば、氷冷90%メタノールで4分間)、再び洗浄した。次に抗Ad5抗体を様々な希釈で加え(対照試料では抗体は省略された)、続いて検出薬(例えば、NCL-アデノ(Novocastra、Newcastle、UK))を適当な条件下で(例えば、振盪させながら室温で10分間)加えた。細胞を次に洗浄し、感染性粒子の総数を決定した(例えば、デジタル光散乱(DLS)によって)。表4及び5に示すように、低用量及び高用量NasoVAX製剤は、室温で少なくとも3カ月間安定していた。
【0130】
【0131】
【0132】
ある特定の実施形態が好ましい実施形態に関して記載されたが、当業者には変更及び修正が思いつくことが理解される。したがって、添付の特許請求の範囲は、以下の特許請求の範囲内に来る全てのそのような同等の変形形態を包含することが意図されている。
【国際調査報告】