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特表2022-526758良好な耐食性および高い引張強度を有するニッケル合金、および半製品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(54)【発明の名称】良好な耐食性および高い引張強度を有するニッケル合金、および半製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20220519BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20220519BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220519BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20220519BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20220519BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C22C19/05 L
C22F1/10 H
C22C19/05 E
B22F1/00 M
B22F1/05
B22F9/08 A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691C
C22F1/00 691B
C22F1/00 685Z
C22F1/00 683
C22F1/00 622
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 602
C22F1/00 630M
C22F1/00 626
C22F1/00 621
C22F1/00 630C
C22F1/00 686A
C22F1/00 686B
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 641B
C22F1/00 640D
C22F1/00 640E
C22F1/00 640F
C22F1/00 687
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556671
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(85)【翻訳文提出日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 DE2020100210
(87)【国際公開番号】W WO2020187368
(87)【国際公開日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】102019106776.6
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020106433.0
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516236078
【氏名又は名称】ファオデーエム メタルズ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VDM Metals International GmbH
【住所又は居所原語表記】Plettenberger Strasse 2, D-58791 Werdohl, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユリア ボティーニャ
(72)【発明者】
【氏名】ボード ゲーアマン
(72)【発明者】
【氏名】エレナ アルベス
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA03
4K017BB01
4K017BB04
4K017BB08
4K017BB09
4K017CA01
4K017CA07
4K017FA03
4K017FA04
4K017FA14
4K018BA04
4K018BB03
4K018BB04
(57)【要約】
以下(重量%):Ni 50~55%、Cr 17~21%、Mo >0~9%、W 0~9%、Nb 1~5.7%、Ta >0~4.7%、Ti 0.1~3.0%、Al 0.4~4.0%、Co 最大3.0%、Mn 最大0.35%、Si 最大0.35%、Cu 最大0.23%、C 0.001~0.045%、S 最大0.01%、P 0.001~0.02%、B 0.001~0.01%、Fe 残部、およびプロセスに起因する通常の不純物を含むニッケル合金であって、以下の関係:Nb+Ta 1~5.7% (1)、Al+Ti >1.2~5% (2)、Mo+W 3~9% (3)が成り立ち、ここで、Nb、Ta、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものである、ニッケル合金。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(重量%):
Ni 50~55%
Cr 17~21%
Mo >0~9%
W 0~9%
Nb 1~5.7%
Ta >0~4.7%
Ti 0.1~3.0%
Al 0.4~4.0%
Co 最大3.0%
Mn 最大0.35%
Si 最大0.35%
Cu 最大0.23%
C 0.001~0.045%
S 最大0.01%
P 0.001~0.02%
B 0.001~0.01%
Fe 残部、およびプロセスに起因する通常の不純物
を含むニッケル合金であって、以下の関係:
Nb+Ta 1~5.7% (1)
Al+Ti >1.2~5% (2)
Mo+W 3~9% (3)
が成り立ち、ここで、Nb、Ta、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものである、ニッケル合金。
【請求項2】
コバルト含有量が17~20%、特に17~19%である、請求項1記載の合金。
【請求項3】
モリブデンおよび/またはタングステン含有量が3~8%、特に3~7%である、請求項1または2記載の合金。
【請求項4】
ニオブとタンタルとの間に、以下の関係:
Nb+Ta=2~4.5%、
特に
Nb+Ta=2~4%
が成り立ち、ここで、NbおよびTaは、当該元素の濃度を重量%で表したものである、請求項1から3までのいずれか1項記載の合金。
【請求項5】
チタン含有量が、0.5~3.0%、特に1.0~3.0%、有利には1.0~2.0%である、請求項1から4までのいずれか1項記載の合金。
【請求項6】
アルミニウム含有量が、0.6~2.5%、特に0.6~2.0%、有利には0.6~1.5%である、請求項1から5までのいずれか1項記載の合金。
【請求項7】
炭素含有量が、0.001~最大0.035%、特に最大0.025%である、請求項1から6までのいずれか1項記載の合金。
【請求項8】
アルミニウムとチタンとの間に、以下の関係:
Al+Ti=1.4~4%、
特に
Al+Ti=1.6~4%
が成り立ち、ここで、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものである、請求項1から7までのいずれか1項記載の合金。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載のニッケル基合金から粉末を製造する方法であって、
- VIM炉で合金を溶融し、
- 液体溶融物を5分~2時間保持して均質化し、
- 密閉式アトマイズ装置にガスを供給して、露点を-10℃~120℃に調整し、
- 前記溶融物を、ノズルにより2qm/min~150qmの流量のガス流に吹き込み、
- 固化した粉末粒子を気密式容器に回収し、その際、
- 前記粒子は、5μm~250μmの粒径を有し、
- 前記粉末の粒子は、球状であり、
- 前記粉末は、評価対象物の総面積に対して0.0~4%の細孔面積(細孔>1μm)のガス包有物を有し、
- 前記粉末は、2g/cm~合金の密度である約8g/cmのかさ密度を有し、
- 前記粉末を、アルゴンを含む保護ガス雰囲気下で気密包装する
ことによる、方法。
【請求項10】
以下(重量%):
Ni 50~55%
Cr 17~21%
Mo >0~9%
W 0~9%
Nb 1~5.7%
Ta >0~4.7%
Ti 0.1~3.0%
Al 0.4~4.0%
Co 最大3.0%
Mn 最大0.35%
Si 最大0.35%
Cu 最大0.23%
C 0.001~0.045%
S 最大0.01%
P 0.001~0.02%
B 0.001~0.01%
Fe 残部、およびプロセスに起因する通常の不純物
を含み、以下の関係:
Nb+Ta 1~5.7% (1)
Al+Ti >1.2~5% (2)
Mo+W 3~9% (3)
が成り立ち、ここで、Nb、Ta、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものであるニッケル合金の製造方法であって、
前記合金を真空誘導炉(VIM)で溶融し、鋳造してインゴットとし、
前記VIMインゴットを、500~1250℃の温度範囲で最大110時間にわたって応力除去アニールに供し、
その後、前記インゴットを、エレクトロスラグ再溶解法(ESR)および/または真空アーク再溶解法(VAR)で処理し、必要に応じて、前記合金を、再度、エレクトロスラグ再溶解法(ESR)または真空アーク再溶解法(VAR)での処理で再溶解し、
前記再溶解したインゴットに、500℃~1250℃の温度範囲で最大150時間にわたって均質化アニールを施し、
次いで、前記アニールしたインゴットを熱間および冷間変形加工して半製品とし、
その後、900℃~1150℃の温度範囲で0.1~60時間にわたる溶体化熱処理を少なくとも1回行い、その後、空気中、撹拌アニール雰囲気中、不活性ガス中、水中、ポリマー中、または油中で冷却を行うことによる、方法。
【請求項11】
以下(重量%):
Ni 50~55%
Cr 17~21%
Mo >0~9%
W 0~9%
Nb 1~5.7%
Ta >0~4.7%
Ti 0.1~3.0%
Al 0.4~4.0%
Co 最大3.0%
Mn 最大0.35%
Si 最大0.35%
Cu 最大0.23%
C 0.001~0.045%
S 最大0.01%
P 0.001~0.02%
B 0.001~0.01%
Fe 残部、およびプロセスに起因する通常の不純物
を含み、以下の関係:
Nb+Ta 1~5.7% (1)
Al+Ti >1.2~5% (2)
Mo+W 3~9% (3)
が成り立ち、ここで、Nb、Ta、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものであるニッケル合金の製造方法であって、
前記合金を開放系で溶融し、その後、VODまたはAOD装置で処理し、鋳造してインゴットとし、
前記インゴットを、必要に応じて、500~1250℃の温度範囲で最大110時間にわたって応力除去アニールに供し、
その後、VAR再溶解法を少なくとも1回、特に2回行い、
前記再溶解したインゴットに、500℃~1250℃の温度範囲で最大150時間にわたって均質化アニールを施し、
次いで、前記アニールしたインゴットを熱間および冷間変形加工して半製品とし、
その後、900℃~1150℃の温度範囲で0.1~60時間にわたって少なくとも1回の溶体化熱処理を行い、その後、空気中、撹拌アニール雰囲気中、不活性ガス中、水中、ポリマー中、または油中で冷却を行うことによる、方法。
【請求項12】
前記半製品を、600~900℃で0.1時間~60時間にわたって、特に600~850℃で0.1時間~60時間にわたって、必要に応じて600~750℃で0.1時間~60時間にわたって、必要に応じて700~900℃で0.1時間~60時間にわたって、必要に応じて750~900℃で0.1時間~60時間にわたって、時効硬化アニールに供する、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記半製品を、第2段階で、550~900℃で0.1時間~60時間にわたって、必要に応じて550~750℃で0.1~60時間にわたって、必要に応じて800~900℃で0.1~60時間にわたって、必要に応じて750~900℃で0.1~60時間にわたって、さらなる時効硬化アニールに供する、請求項10または11記載の方法。
【請求項14】
以下の特性:
サワーガス試験における破断伸度の比が75%超、好ましくは90%超であり、空気中での降伏強度が>100ksi、好ましくは120ksiである
が達成される、請求項10から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
ロッド、ワイヤ、ストリップ、シートメタル、長手方向に溶接された管、シームレス管、粉末の製品形態での、請求項1から14までのいずれか1項記載の合金の使用。
【請求項16】
石油・ガス産業または化学プロセス産業における部品への、請求項1から15までのいずれか1項記載の合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卓越した耐水素脆性および非常に良好な機械的特性を有するニッケル合金に関する。
【0002】
時効硬化性ニッケル合金は、より高い強度が要求される石油・ガス採掘産業で長い間使用されている。この用途では、特にHSやClを含む雰囲気での良好な耐食性と、良好な機械的特性とを兼ね備えていることが求められる。また、降伏強度、ノッチ付衝撃値、および強度も材料選定の重要な基準である。表1に、従来技術による例を示す。
【0003】
この用途に用いられるのが、特にAlloy 718という材料であり、これは以下の一般的な化学組成(重量%)を有する:クロム18.5%、炭素<0.1%、鉄18%、チタン0.9%、アルミニウム0.6%、モリブデン3%、ニオブ+タンタル5%、Ni 残部、および溶融に起因する不純物。この材料の需要の高まりにより、特性を改善したニッケル合金の新規開発が必要となっている。
【0004】
合金Alloy 718は、極めて高い機械的強度値が要求される用途に選択される材料である。その際、使用温度は約200℃以下である。この材料は、水素脆化や応力腐食割れに対する良好な腐食特性と、高い機械的強度とを有している。材料Alloy 718の使用が代表的であることから、この合金は、さらなるまたは新規の開発の基礎と考えられている。
【0005】
【表1】
【0006】
合金Alloy 718は、H.Eiselsteinによって開発された塑性の時効硬化性ニッケルクロム合金であり、1962年に米国特許第3,046,108号を取得した。Alloy 718は、広い温度範囲で高強度特性と良好な延性とを兼ね備えている。この材料は、良好な耐食性と良好な機械的特性とを兼ね備えていることから、航空宇宙産業向けに開発され、数年後には石油・ガス採掘分野にも導入された。
【0007】
米国特許第3,160,500号明細書には、広い温度範囲での良好な機械的特性と、高温での破断や応力に対する高い耐久性とを兼ね備えたマトリックス強化型ニッケルクロム合金が開示されており、これが後に合金Alloy 625の開発につながった。その強度と耐食性との魅力的な組み合わせゆえに、この材料は幅広く使用されている。クロムおよびモリブデンが多く含まれているため、耐食性および強度が良好であり、鉄およびニオブがさらに強度を高めている。アルミニウムおよびチタンの添加は、主に冶金的な目的であり、溶接性を向上させるために低く抑えられている。この合金は以下の組成を有する:Cr 21.44~21.68%、C 0.02~0.03%、Mn 0.11~0.12%、Si 0.04~0.11%、Mo 8.83~9.1%、W 5.32%以下、Nb 4.19~4.35%、Al 0.16~0.23%、Ti 0.13~0.20%、Fe 1.92~6.89%、Mg 0.02%以下、Ni 残部。
【0008】
独国特許出願公開第102015016729号明細書には、
- VIMにより電極を製造し、
- 電極を、炉内で400~1250℃の温度範囲で10~336時間にわたる熱処理に供して、応力およびオーバーエイジングを低減し、
- 電極を、空気中または炉内で、寸法に応じて、特に直径に応じて室温から1250℃未満、特に900℃未満の温度に冷却し、
- 冷却された電極を、次いでVARで3.0~10kg/minの再溶解速度で再溶解させてVARインゴットを形成し、
- VARインゴットを、炉内で400~1250℃の温度範囲で10~336時間にわたって熱処理し、
- VARインゴットを、空気中または炉内で、寸法に応じて、特に直径に応じて室温から1250℃未満、特に900℃未満の温度に冷却し、
- VARインゴットを、再度3.0~10kg/minの再溶解速度で再溶解させ、
- 再溶解されたVARインゴットを、400~1250℃の温度範囲で10~336時間にわたる熱処理に供し、
- VARインゴットを、次いで熱間および/または冷間変形加工によって所望の生成物形状および寸法とする
ことによるニッケル基合金の製造方法が記載されている。
【0009】
Ni基合金は、以下の組成を有することができる:
C 最大0.25%、S 最大0.15%、Cr 17~32%、Ni 45~72%、Mn 最大1%、Si 最大1%、Ti 最大3.25%、Nb 最大5.5%、Cu 最大5%、Fe 最大25%、P 最大0.03%、Al 最大3.15%、V 最大0.6%、Zr 最大0.12%、Co 最大28%、B 最大0.02%、および製造に起因する不純物。
【0010】
Alloy 625およびAlloy 718をベースに、合金Alloy 625 Plusが開発された。Alloy 625 Plusは、Alloy 625の代替となる高強度合金であり、チタン含有量を増やすことで同等の耐食性を達成している。
【0011】
時効硬化性合金Alloy 925の用途は、Alloy 718の用途と非常によく類似している。この用途には、油井用ロッドおよびチュービング、ガス井用部品、バルブ、ドリル・カラー、接続要素、ならびにパッカーが含まれる。Alloy 925は、要求される強度がAlloy 718に比べてやや低い場合に使用される。
【0012】
Nicorros Alloy K-500(N05500)は、γ’相の形成により時効硬化が可能なニッケル銅合金である。これは、硫化水素の負荷がさほど高くない海上産業で使用されている。サワーガス媒体における耐食性や機械的強度は、Alloy 718やAlloy 925などの合金に比べて低い。
【0013】
Alloy 725は、Alloy 718と同程度の高強度で、Alloy 625と同程度の耐食性を有している。
【0014】
時効硬化相の割合および存在は、耐水素脆性に明確かつ直接的な影響を与える。文献によれば、析出相ではなく、したがって時効硬化性ではない材料は、析出相を含む時効硬化性材料に比べて、明らかに良好な耐水素脆性を示す。
【0015】
本発明は、サワーガス腐食および水素脆化に対する耐久性が改善され、さらにはより高い降伏強度および高強度をも達成できるAlloy 718ベースの合金を開発するという課題に基づいており、その際、δ相およびγ”相の割合が比較的少なく、γ’相の割合が比較的多いことが好ましい。
【0016】
本発明は、Alloy 718ベースの合金の製造方法であって、該方法によって、より高い降伏強度および高強度を達成することができ、その際、δ相およびγ”相の割合が比較的少なく、γ’相の割合が比較的多いものとする方法を提供するという課題にも基づく。
【0017】
最初の課題は、以下(重量%):
Ni 50~55%
Cr 17~21%
Mo >0~9%
W 0~9%
Nb 1~5.7%
Ta >0~4.7%
Ti >0~3.0%
Al 0.4~4.0%
Co 最大3.0%
Mn 最大0.35%
Si 最大0.35%
Cu 最大0.23%
C 0.001~0.045%
S 最大0.01%
P 0.001~0.02%
B 0.001~0.01%
Fe 残部、およびプロセスに起因する通常の不純物
を含むニッケル合金であって、以下の関係:
Nb+Ta 1~5.7% (1)
Al+Ti >1.2~5% (2)
Mo+W 3~9% (3)
が成り立ち、ここで、Nb、Ta、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものであるニッケル合金により解決される。
【0018】
本発明によるニッケル合金の有利なさらなる実施形態は、付属の具体的な従属請求項に記載されている。
【0019】
さらなる課題は、一方では、ニッケル基合金から粉末を製造する方法であって、
- VIM炉で合金を溶融し、
- 液体溶融物を5分~2時間保持して均質化し、
- 密閉式アトマイズ装置にガスを供給し、露点を-10℃~120℃に調整し、
- 溶融物を、ノズルにより2qm/min~150qmの流量のガス流に吹き込み、
- 固化した粉末粒子を気密式容器に回収し、その際、
- 粒子は、5μm~250μmの粒径を有し、
- 粉末の粒子は、球状であり、
- 粉末は、評価対象物の総面積に対して0.0~4%の細孔面積(細孔>1μm)のガス包有物を有し、
- 粉末は、2g/cm~合金の密度である約8g/cmのかさ密度を有し、
- 粉末を、アルゴンを含む保護ガス雰囲気下で気密包装する
ことによる方法によって解決される。
【0020】
他方では、さらなる課題は、以下(重量%):
Ni 50~55%
Cr 17~21%
Mo >0~9%
W 0~9%
Nb 1~5.7%
Ta >0~4.7%
Ti >0~3.0%
Al 0.4~4.0%
Co 最大3.0%
Mn 最大0.35%
Si 最大0.35%
Cu 最大0.23%
C 0.001~0.045%
S 最大0.01%
P 0.001~0.02%
B 0.001~0.01%
Fe 残部、およびプロセスに起因する通常の不純物
を含み、以下の関係:
Nb+Ta 1~5.7% (1)
Al+Ti >1.2~5% (2)
Mo+W 3~9% (3)
が成り立ち、ここで、Nb、Ta、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものであるニッケル合金の製造方法であって、
合金を真空誘導炉(VIM)で溶融し、鋳造してインゴットとし、
これらのVIMインゴットを、500~1250℃の温度範囲で最大110時間にわたって応力除去アニールに供し、
その後、インゴットを、エレクトロスラグ再溶解法(ESR)および/または真空アーク再溶解法(VAR)で処理し、
再溶解したインゴットに、500℃~1250℃の温度範囲で最大150時間にわたって均質化アニールを施し、
次いで、アニールしたインゴットを熱間および/または冷間変形加工して半製品とし、
その際、必要に応じて、900℃~1150℃の温度範囲で0.1~60時間にわたる中間アニールを少なくとも1回を行い、その後、空気中、撹拌アニール雰囲気中、不活性ガス中、水中、ポリマー中、または油中で冷却を行うことによる方法によっても解決される。
【0021】
あるいはこの課題は、以下(重量%):
Ni 50~55%
Cr 17~21%
Mo >0~9%
W 0~9%
Nb 1~5.7%
Ta >0~4.7%
Ti 0.1~3.0%
Al 0.4~4.0%
Co 最大3.0%
Mn 最大0.35%
Si 最大0.35%
Cu 最大0.23%
C 0.001~0.045%
S 最大0.01%
P 0.001~0.02%
B 0.001~0.01%
Fe 残部、およびプロセスに起因する通常の不純物
を含み、以下の関係:
Nb+Ta 1~5.7% (1)
Al+Ti >1.2~5% (2)
Mo+W 3~9% (3)
が成り立ち、ここで、Nb、Ta、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものであるニッケル合金の製造方法であって、
合金を開放系で溶融し、その後、VODまたはAOD装置で処理し、鋳造してインゴットとし、
これらのインゴットを、必要に応じて、500~1250℃の温度範囲で最大110時間にわたって応力除去アニールに供し、
その後、VAR再溶解法を少なくとも1回、特に2回行い、再溶解したインゴットに、500℃~1250℃の温度範囲で最大150時間にわたって均質化アニールを施し、
次いで、アニールしたインゴットを熱間および冷間変形加工して半製品とし、
その後、900℃~1150℃の温度範囲で0.1~60時間にわたって少なくとも1回の溶体化熱処理を行い、その後、空気中、撹拌アニール雰囲気中、不活性ガス中、水中、ポリマー中、または油中で冷却を行うことによる方法によっても解決される。
【0022】
本発明によるこれらの方法の有利なさらなる実施形態は、付属の方法の従属請求項に記載されている。
【0023】
目下、選択的な溶融方法により、以下の組み合わせが得られている:
VIM/(ESRまたはVAR)/任意に(ESRまたはVAR)
EF/(VODまたはAOD)/VAR/VAR
【0024】
本発明による合金は、好ましくは、
- ロッド、
- ワイヤ、
- ストリップ、
- シートメタル、
- 長手方向に溶接された管、
- シームレス管、
- 粉末
の製品形態で使用することができる。
【0025】
この半製品/部品は、有利には、石油・ガス産業または化学プロセス産業で使用される。
【0026】
各析出相の存在を分析し、単位格子内の異なる位置を水素原子が占有した際の水素原子と結晶構造との相互作用をよりよく理解するための試験を行った。相境界やマトリックス材料において水素が捕捉される好ましい部位を、この部位が占有された際の水素のエンタルピーエネルギーを考慮して算出した。これらの結果をもとに、数値的な引張試験を行い、相境界近傍の金属原子間の結合状態を調べた。
【0027】
本発明によれば、γ/γ’相境界の最も安定な位置に水素原子が存在しても、水素原子が存在しない系と比較して、引張強度には何ら影響がない(図1)。それに対して、水素原子がγ/γ”相境界の最も安定な位置にある場合は原子の再配列がより多く生じ、この系は、水素が存在しない系に比べて引張強度の低下を示しており(図2)、このことは、水素脆化が生じている可能性を示唆している。δ相は、石油・ガス用途の合金Alloy 718中には主要量が存在しておらず、この相は、機械的作用に関して主要な影響を及ぼさない(図3)。
【0028】
Alloy 718には、要求される降伏強度が異なる3種類の異なるバリエーションで得られる。120Kタイプは、774~802℃の温度での時効硬化によって達成される120ksiの最小降伏強度を有する。140Kタイプは、760~802℃の温度での時効硬化によって達成される140ksiの最小降伏強度を有する。150Kは、700~750℃の第1の温度と、次いで600~659℃の第2の温度との2段階の時効硬化によって生成され、150ksiの最小降伏強度を有するタイプである。
【0029】
異なる熱処理プロセスにおいて異なる微細構造を生成することができ(図4)、これを調べて、水素脆性に対する挙動と比較した。γ’相は点状の粒子の形態で析出し、γ”相は、針状の形状を示す。
【0030】
γ’/γ”相の重量割合の比を小さくすると、水素脆化に対する挙動が非常に悪化するのに対して、γ’/γ”相の重量割合の比を大きくすると、耐水素脆性が向上する。この情報を、表2にまとめた。
【0031】
耐水素脆性を、2014年のNACEによる刊行物3948に準拠して、カソード分極下での低速負荷試験によって試験した。試料を、不活性環境下(脱イオン水、窒素パージ、40℃)および攻撃的環境下(0.5M硫酸溶液、40℃、電流密度5mA/cmの印加によりカソード分極を得る)で試験し、攻撃的環境と不活性環境との間での破断伸度の比を求めた。破断伸度の比が大きいと、耐水素脆性も高くなることが考えられる。
【0032】
【表2】
【0033】
γ’析出物およびγ”析出物の粒径は、ニッケル合金の機械的特性や腐食特性にも影響を与え得る。
【0034】
水素脆化が生じる典型的な条件は、原子状または分子状の水素が材料に接触し、それに材料の応力が加わることである。
【0035】
石油・ガス産業での使用が増えている現在のニッケル合金Alloy 718において、合金元素の添加は、以下の理由による:
鉄は、金属コストの削減に効果的であるが、材料特性の劣化ゆえに過剰な合金化は不可能である。
【0036】
クロムは、常温での強度を高めると同時に、全体的な耐食性を保証するために用いられる。クロムは炭素と結合して炭化クロムを形成し、高温強度を高める。
【0037】
一般的に、塩化物を含む媒体での耐孔食性は、モリブデンの含有量が増えるほど向上することに留意すべきである。モリブデンの含有量が増えると、より高温での耐応力腐食割れ性も向上する。必要に応じて、モリブデンをタングステンで代用することも可能である。
【0038】
γ相からのオーステナイトマトリックスは、Ni(Al/Ti)の秩序あるfcc相であるγ’と、正方晶系のNiNb相であるγ”の金属間析出物によって時効硬化するため、アルミニウム、チタン、およびニオブが合金化される。必要に応じて、ニオブをタンタルで代用することも可能である。金属のコストの理由から、ニオブを利用することが好ましい。AlおよびTiの量を増やすとγ’が多くなり、Nbの量を減らすとγ”の形成が制限される。
【0039】
δ相は、析出硬化性のγ”相(NiNb)の平衡相であり、機械的特性や腐食特性に悪影響を及ぼすため、所定の仕様に従って組織中にごく少量しか存在してはならない。δ相の形成は、δソルバス温度を上回る溶体化熱処理温度を適用することにより回避される。
【0040】
還元性雰囲気では、水素が材料に浸透して水素脆化を生じる場合がある。材料の結晶構造中に水素原子が存在すると、原子の結合が弱くなる。これにより引張強度が低下し、機械的応力を受けて材料が破損しかねない。
【0041】
本発明によるニッケル合金は、チタン、アルミニウム、モリブデン、およびニオブの含有量が十分に高く、所定の熱処理と組み合わせることで卓越した耐水素脆性を有するが、これと同時に、
・良好な強度
・良好な耐腐食割れ性および耐孔食性
・良好な相安定性
・良好な加工性
をも有する。
【0042】
ニッケルの含有量は50~55%であり、好ましい範囲は以下のように調整することができる:
- 51~55%
- 52~55%
- 53~55%
【0043】
ニッケルの割合が比較的低ければコバルトで代用することができるが、金属のコストの理由から、ニッケルを使用することが好ましい。
【0044】
コバルトは、合金中に最大3%の含有量で含まれている。好ましい含有量は、以下のとおりとすることができる:
- 0.01~1%
- 0.01~最大0.8%
- 0.01~最大0.6%
- 0.01~最大0.4%
【0045】
クロム元素の分布範囲は17~21%であり、好ましい範囲は以下のように調整することができる:
- 17~20%
- 17~19%
- 18~19%
【0046】
モリブデンの含有量は>0~9%であり、ここでも、合金の適用範囲に応じて、好ましいモリブデンの含有量を以下のように調整することができる:
- 0.01~8.5%
- 0.1~8.0%
- 3~8%
- 3~7%
- >3.3~9%
- 3.73~9%
【0047】
必要に応じて、タングステンが独立した元素として前述の限度内で与えられていない限り、モリブデン元素を少なくとも部分的にタングステンで代用することができる。また、用途に応じてMo+Wの組み合わせも可能である。この場合、タングステンは0~9%の含有量に調整することができる。好ましくは、Wは、合金中で以下のような分布範囲内に調整することができる:
- >0~9%
- 0.001~9%
- 0.01~9%
- 0.1~9%
- 1~9%
- 1~8%
- 3~7%
- 3~8%
- >3.3~9%
【0048】
ニオブの含有量は1~5.7%であり、用途に応じて、元素の好ましい含有量を以下の分布範囲内に調整することができる:
- 2~4.5%
- 2~4%
- 2~3.5%
【0049】
チタンの含有量は、>0~3.0%である。好ましくは、Tiは、合金中で以下のような分布範囲内に調整することができる:
- 0.5~3.0%
- 1.0~3.0%
- 1.0~2.0%
- >1.15~3%
- 1.18~3%
【0050】
元素アルミニウムについても同様であり、合金中に0.4~4.0%含まれていてよい。また、以下のような分布範囲も考えられる:
- 0.6~4.0%
- 0.6~1.5%
- 0.8~4%
- 0.9~4.0%
- 1.0~4.0%
- 1.0~3.3%
- 1.5~3.0%
【0051】
マンガン元素は、合金中で以下のように与えられている:
- 最大0.35%
【0052】
ケイ素元素は、合金中で以下のように与えられている:
- 最大0.35%
【0053】
銅は、合金中に以下の含有量で含まれている:
- 最大0.23%
【0054】
炭素の含有量は、最大0.045%である。好ましくは、Cは、合金中で以下のような分布範囲内に調整することができる:
- 0.001~最大0.035%
- 0.001~最大0.025%
- 0.001~最大0.015%
【0055】
0.01%の硫黄の最大含有量が、合金中で許容される。
【0056】
合金は、さらにリンを0.001~0.02%の含有量で含む。好ましいさらなる含有量は、以下のように与えられ得る:
- 0.001~0.015%
【0057】
ホウ素の含有量は、0.001~0.01%であるが、代替として以下の分布範囲も考えられる:
- 0.003~0.01%
- 0.005~0.01%
残部の鉄、およびプロセスに起因する不純物。
【0058】
γ”の析出物を十分に、しかし限定的に含有させるためには、ニオブとタンタルの間に以下の関係が満たされなければならない:
Nb+Ta=1~5.7%、
ここで、NbおよびTaは、当該元素の濃度を重量%で表したものである。
【0059】
好ましい範囲は、以下のように調整することができる:
Nb+Ta≦4.75%
Nb+Ta=1~4.75%
Nb+Ta=1~5.0%
Nb+Ta=2~4%
Nb+Ta=2~3.5%
Nb+Ta=1.6~4%
Nb+Ta=1~4%
【0060】
また、十分なγ’相安定性を得るためには、以下の関係が満たされなければならない:
Al+Ti≧1.2~5%、
ここで、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものである。
【0061】
好ましい範囲は、以下のように調整することができる:
Al+Ti=1.5~5%
Al+Ti=1.8~5%
Al+Ti=1.8~3.5%
Al+Ti≧1.95%
Al+Ti≧1.95~5%
【0062】
Mo+W 3~9%の関係が成り立つ。必要に応じて、ここでは以下のような制限も想定できる:
Mo+W≧3.3%
Mo+W≧3.3~9%
【0063】
η相での形成が予定される場合、以下の関係が満たされなければならない:
Ti/Al>2、または
Al/Ti>2、
ここで、AlおよびTiは、当該元素の濃度を重量%で表したものである。
【0064】
本発明による合金を、真空誘導炉(VIM)で溶融し、鋳造した後、エレクトロスラグ再溶解法(ESR)または真空アーク再溶解法(VAR)で処理するのが好ましい。必要に応じて、エレクトロスラグ再溶解法(ESR)または真空アーク再溶解法(VAR)で再び合金を再溶解する。
【0065】
あるいは本発明による合金を開放系で溶融し、その後、真空酸素脱炭法(VOD)またはアルゴン酸素脱炭法(AOD)で処理し、その後、真空アーク再溶解法(VAR)を2回行う。
【0066】
製造した合金インゴットを、必要に応じて500℃~1250℃の温度で最大150時間のアニール時間にわたって熱処理し、その後、必要に応じて800℃~1270℃で0.05時間~100時間にわたって中間アニールを行ってから熱間および冷間変形加工して、ビレット、ロッド、ワイヤ、シートメタル、ストリップ、およびホイルなどの所望の半製品とする。材料表面を、必要に応じて、途中でかつ/または最後にクリーンアップするために化学的かつ/または機械的に(例えば、剥離、旋削、研磨により)除去することが可能である(数回行うことも可能である)。その後、必要に応じて溶体化熱処理を、必要に応じて例えばアルゴンや水素などの保護ガス下で、970℃~1150℃の温度範囲で0.1分~60時間にわたって行い、その後、冷却を、空気中で、必要に応じて撹拌アニール雰囲気中で、不活性ガス中で、水中で、ポリマー中で、または油中で行う。
【0067】
その後、必要に応じて、時効硬化アニールを、600℃~900℃の温度範囲で0.1時間~60時間にわたって行い、必要に応じて第2段階で、550℃~900℃で0.1時間~60時間にわたるさらなる時効硬化アニールを行う。
【0068】
時効硬化アニールは、600℃~900℃の温度範囲で0.1時間~60時間にわたり、その際、好ましい範囲は、以下のように調整することができる:
- 600℃~800℃、0.1時間~60時間
- 600℃~750℃、0.1時間~60時間
- 700℃~900℃、0.1時間~60時間
- 750℃~900℃、0.1時間~60時間
【0069】
必要に応じて、時効硬化アニールは2段階の時効硬化で行われ、550℃~900℃で0.1時間~60時間にわたるさらなる時効硬化アニールが行われ、その際、好ましい範囲は、以下のように調整することができる:
- 600℃~800℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第1段階の時効硬化を行い、550℃~750℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第2段階の時効硬化を行う
- 600℃~800℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第1段階の時効硬化を行い、800℃~900℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第2段階の時効硬化を行う
- 750℃~900℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第1段階の時効硬化を行い、550℃~750℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第2段階の時効硬化を行う
- 750℃~900℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第1段階の時効硬化を行い、750℃~900℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第2段階の時効硬化を行う
【0070】
必要に応じて、最後のアニールの間および/または後に、(例えば、剥離、旋削、研磨により)材料表面の化学的かつ/または機械的なクリーンアップを行うことができる。
【0071】
本発明による合金は、ロッド、ワイヤ、ストリップ、シートメタル、長手方向に溶接された管、およびシームレス管の製品形態に良好に変形加工して使用することができる。
【0072】
必要に応じて、合金を粉末の製品形態で製造し、(例えば、付加製造法に)使用することができる。この場合、粉末は、VIGA(真空誘導ガスアトマイザー)粉末アトマイズ装置内で、またはその他の方法で製造され、所望の範囲の粉末粒径に関して選別またはフィルタ処理が施される。
【0073】
本発明による合金は、例えばコンプレッションツール、パッカー、ポンプシャフト、ハンガー、バルブ、保持クリップ、ボトル、磁気測定プローブ(Measure While Drilling、MWD)のハウジング材など、水素を含む媒体を対象とする分野で使用することが好ましい。
【0074】
化学組成と熱処理との組み合わせにより、本発明による合金は、有利には、1.3超、有利には1.5超のγ’/γ”の割合を有する。また、この組み合わせにより、120ksi超の降伏強度を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】水素原子が存在しない(黒線)および存在する(赤線)γ/γ’系についての数値的な引張試験でのエネルギーをひずみの関数として示す図。
図2】水素原子が存在しない(黒線)および存在する(赤線)γ/γ”系についての数値的な引張試験でのエネルギーをひずみの関数として示す図。
図3】水素原子が存在しない(黒線)および存在する(赤線)γ/δ系についての数値的な引張試験でのエネルギーをひずみの関数として示す図。
図4】Alloy 718の120K、140K、および150Kタイプに対応する材料のSEM画像を示す図。
図5図5は、LB250643の時効硬化温度に応じた機械的特性を示す図であり、図5’は、LB250643の分析の相図。
図6】LB250643の分析のTTT(Time Temperature Transformation)図。
図7】化学組成物LB250643を用いて2段階で時効硬化させた後の機械的特性の算出結果を示す図。
図8】650℃での時効硬化における化学組成物LB250643の等温線図。γ’析出物の割合は赤色の丸で表されており、γ”析出物の割合は青色の四角で表されている。
図9】730℃での時効硬化における化学組成物LB250643の等温線図。γ’析出物の割合は赤色の丸で表されており、γ”析出物の割合は青色の四角で表されている。
図10】化学組成物LB250643について、時効硬化温度に応じた実験上の硬度曲線を示す図。
図11図11a~図11abは、異なる合金タイプについて、時効硬化温度に応じた機械的特性を示す図。
【0076】
算出/試験の実施
Thermotech社のプログラムJMatProを用いて、さまざまな合金タイプについて、平衡状態で生じる相を算出した。算出用データベースとして、Thermotech社のニッケル合金データベースを使用した。JMatProソフトウェアの「熱処理」モードで、対応する化学組成の材料を異なる時効硬化温度でアニールした場合の相の割合、粒径、および想定される機械的特性(例えば、降伏強度、引張強度、硬度)を算出した。
【0077】
特性の説明
本発明による合金は、卓越した耐水素脆性に加えて、同時に以下のような特性を有することが望ましい:
・良好な強度
・良好な耐腐食割れ性および耐孔食性
・良好な相安定性
・良好な加工性
【0078】
ニッケル・クロム・アルミニウム・鉄・チタン・ニオブ系では、合金の含有量が異なると、例えば、γ’相、γ”相、δ相、およびη相などの異なる相が形成され得る。最初に算出した化学組成の平衡割合の算出結果を、表3.1および3.2に示す。算出はすべて、時効硬化温度が790℃の場合について行った。
【0079】
化学組成物LV1、8、9、および39は、本発明によらない合金の例である。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
上記の結果に基づいて、該当する他の化学組成について、温度に応じた平衡相割合の算出を行った。析出が最適化され、その結果より高い機械的特性が達成される温度を見出すために、異なる時効硬化温度で算出を行った。化学組成物LB250643について、算出結果を表4および図5に示す。化学組成物LB250643の場合、690℃がピーク温度である。
【0083】
【表5】
【0084】
他のすべての化学組成についても同様の算出を行った(図11a~11abのグラフ)。最適な析出温度を見出すために、温度をさまざまに上げて実験を行った。
【0085】
なお、算出上の温度は、実験上の温度からの偏差を示す場合があることに留意すべきである。
【0086】
表5.1、表5.2、および表5.3に、該当する他の化学組成の特性を、そのピーク温度とともにまとめた。
【0087】
必要に応じて、合金を粉末の製品形態で製造することができる。付加製造法では、合金の変形加工性は重要ではないため、アルミニウムの含有量に関して化学組成の範囲が拡張されている。付加製造法の場合には、粉末のアルミニウム含有量を最大4%まで高めることが可能である。粉末合金の可能な化学組成を表6に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
【表8】
【0091】
【表9】
【0092】
この算出結果によれば、チタンおよびアルミニウムの含有量を一定にした場合、ニオブの含有量を約3.5%から5%に増やすことで、γ”相の割合が2倍となり得る。アルミニウムおよびニオブ(タンタル)の含有量を一定に保ち、チタンの含有量を増やすと、より多くのγ’相が形成され、機械的特性の向上が期待される。アルミニウムを増加させるとともに、TiおよびNbの含有量を(Alloy 718と比較して)同等かそれより少なくすることで、より多くのγ’相が析出する。
【0093】
ニオブ(タンタル)の含有量が極めて少なく(<1%)、かつアルミニウムの含有量が一定(約0.6%)である場合には、γ”相が形成されないため、算出上、機械的特性は満足のいくものではない。
【0094】
モリブデン、タングステン、ホウ素、およびリンの含有量を変化させても、γ’相およびγ”相の析出には直接かつ主要な影響が生じない。
【0095】
図5および図6は、化学組成物LB250643(チタンおよびアルミニウムの含有量が多く、ニオブ(タンタル)の含有量が少ない)について、919℃未満でのγ’相の析出、および880℃未満でのγ”相の析出を示す相図を含む。
【0096】
図5の相図は、919℃未満での析出相の形成を算出によって示したものであり、熱力学的な安定性のみを考慮している。そのため、この相図ではγ”相は考慮されていない。δ相は、熱力学的に最も安定した析出相となるが、析出キネティクスによりゆっくりと形成される。熱力学的な算出によれば、この組成ではη相の含有量は大きくない。
【0097】
化学組成物LB250643のTTT(Time Temperature Transformation)図を、図6に示す。ここでは、γ”相の存在が考慮されている。予想通り、δ相およびη相は、時効硬化温度でのアニール時間が長くなると析出するため、これらの相の析出は時効硬化のアニール時間に影響を受ける。γ/δ系の数値的な引張試験では、水素の有無による違いは見られなかったが、原子結合エネルギーが低いため、γ/δ相境界の全般的な挙動は依然として重要となり得る。したがって、δ相の形成を避けるためには、時効硬化のアニール時間を最大60時間に制限することが望ましい。
【0098】
ホウ素およびリンの含有量は、γ’およびγ”の相割合に影響を与えない。アルミニウム、ニオブ(タンタル)、およびチタンの含有量の変化は、γ’およびγ”の形成に直接影響を及ぼす。
【0099】
時効硬化相の形成を定量的に理解するために、化学組成物LB250643について算出を行った。対応する化学組成物の算出を、第1段階の時効硬化温度を650℃(ピーク温度未満)として行った。その後、温度を変えて第2段階の時効硬化を行った。ピーク温度を第1段階の時効硬化温度とした場合と、(ピーク温度を上回る)730℃を第1段階の時効硬化温度とした場合についても同様の算出を行い、その際、第2段階の温度を20度刻みで変化させた。結果を、表7および図7に示す。
【0100】
時効硬化時間が相割合に影響を与えることに留意すべきである。図8に、化学組成物LB250643の例を示す。図8は、この化学組成物を650℃で時効硬化させた場合の等温線図であり、約7時間以降にγ’の最大相割合に達している。730℃まで温度を上げると、γ’相の割合が最大に達するまでの時間が短くなる。図9は、この化学組成物を730℃で時効硬化させた場合の等温線図である。
【0101】
算出上のピーク温度と実験上のピーク温度とに差があることは予想されており、既知のことである。これらの分析限界の偏差を知るために、熱処理および硬度試験によってピーク温度を検証した。化学組成物LB250643の実験で得られた硬度値のグラフを図10に示す。この化学組成物では80℃の偏差があり、この差を考慮して熱処理設計を行う必要がある。
【0102】
【表10】
【0103】
実験結果
水素脆化の機序を確認するために、LB 250646、LB 250647、LB 250650、およびLB 250642による化学分析により実験用溶融物について実験室試験を行った。NACEによる2014年の刊行物3948に準拠して、カソード分極下での低速負荷試験を上記の溶融物で行った。結果を表8に補足する。
【0104】
【表11】
【0105】
この低速負荷試験は、γ”の存在または優勢が材料の耐水素脆性に悪影響を及ぼすという理論的な機序を証明している。なぜならば、Nb不含またはNbの含有量が少ない合金(すなわちγ’が優勢である合金)は、破断伸度の比がより高いことに示されているように、水素脆性の影響をまったくまたはほとんど受けないためである。
【0106】
γ”のみが析出したバッチ(LB 250650、Alを含まない)は、耐水素脆性が最も低い。
【0107】
したがって、特許請求された本発明による合金の限界について、以下のように詳細に根拠付けることができる:
鉄によってコストが下がるため、これを使用することが望ましい。そのため、12%が鉄の下限となる。しかし、材料特性が低下することから、鉄の過剰な導入は不可能である。したがって、24%を上限とすべきである。必要に応じて、鉄をコバルトで代用することも可能である。
【0108】
クロムの最小含有量を17%とすることで、室温での強度が向上すると同時に、全般的な耐食性も保証される。炭素と結合して炭化クロムが形成され、これにより高温強度を高めることができる。過剰なクロムの含有は、合金の相安定性を低下させ、有害な相の形成を助長し、延性や靭性に悪影響を及ぼすため、クロム含有量は21%を上限とする。
【0109】
モリブデンの含有量が多いほど、塩化物を含む媒体での耐孔食性が向上する。モリブデンの最小含有量を0.001%から3%に増やすと、より高温での耐応力腐食割れ性が向上する。金属コストはモリブデンの添加によっても明らかに影響を受けるため、上限を9%とする。
【0110】
モリブデンの代替元素としてタングステンを使用することができ、その場合にも>0~9%に制限される。
【0111】
また、モリブデンとタングステンの組み合わせも考えられ、その際、W含有量は、少なくとも0.01%に設定される。
【0112】
時効硬化した金属間析出相γ’の形成は、Al+Tiの量を増やすことで増加する。そのため、アルミニウムの最小含有量は0.4%とすることが必要である。しかし、アルミニウムの含有量が多すぎると、粒界でγ’相が凝集および粗大化して、機械的特性が劇的に損なわれ、熱間変形加工性が低下する。付加製造法用の粉末合金では、付属のプロセスには熱間変形加工が不要であることから、Al含有量を比較的高く設定することができる。そのため、アルミニウムは4.0%に制限されている。
【0113】
チタンはアルミニウムやニッケルと結合してγ’相を形成し、合金の析出強度に寄与する。しかし、チタンを過剰に配合するとη相が形成され、機械的特性が損なわれる。そのため、チタンは最大3.0%添加することが可能である。
【0114】
ニオブ(またはタンタル)は、γ’相を安定化し、かつ強度の向上に寄与する。そのため、1%の最小含有量が必要である。しかし、ニオブ(またはタンタル)は、耐水素脆性に有害なγ”相の形成にも関与しているため、これを制御する必要がある。そのため、ニオブ(またはタンタル)は1%~5.7%に制限されている。
【0115】
ホウ素およびリンは、相境界や粒界での水素の過剰な蓄積を抑制する効果を有する。これにより、水素脆化の感度を下げることができる。しかし、ホウ素およびリンを過剰に使用すると、粒界偏析が強くなりすぎて、水素脆化を抑制する効果が失われる。変形加工性も制限されかねないため、ホウ素は、0.001%~最大0.01%、リンは、0.001%~最大0.02%に制限される。
【0116】
コバルトはニッケルを代替することができ、高温での特性向上につながる。合金は、最大3%のコバルトを含むことができる。
【0117】
炭素は、最大0.045%に制限される。なぜならば、この元素は、この含有量で炭化物の過剰な形成により加工性を低下させるためである。
【0118】
銅は、最大0.23%に制限される。なぜならば、この元素は、耐酸化性を低下させるためである。
【0119】
合金の残部はニッケル(50~55%)であり、残部には、合金の特性を大きく変えない少量の不純物が含まれていることに留意すべきである。したがって、硫黄などの不純物が総量で0.01%存在し得る。マンガンおよびケイ素は、最大0.35%に制限されている。
【0120】
相析出を制御しモデル化するためには、熱処理の設計が非常に重要である。したがって、本発明による合金の熱処理パラメータの限界について、以下のように詳細に根拠付けることができる:
析出相は、化学組成の可能な限界である970℃未満で形成されるため、すべての相を溶体化するために、製品形態の寸法に応じて0.1分~60時間にわたって合金を溶体化熱処理する。結晶粒の成長を抑えるために、溶体化熱処理の温度は最大1150℃に制限されている。溶体化熱処理後に析出物が形成されるのを防ぐために、撹拌アニール雰囲気中で、不活性ガス中で、水中で、ポリマー中で、または油中で急冷することが推奨される。
【0121】
その後、析出相を形成し、良好な機械的特性を得るために、時効硬化アニールを行う。そのために、600℃~900℃の温度範囲で0.1時間~60時間にわたって材料をアニールする。時効硬化時間をこれよりも長くするとδ相やη相が析出するため、避けることが望ましい。
【0122】
必要に応じて、550℃~900℃の温度範囲で0.1時間~60時間かけて第2段階の時効硬化を行うことができる。
【0123】
用途に応じて、時効硬化温度を選択する。より高い機械的特性が要求される用途には、機械的特性を最適化する時効硬化方法が採用される。より高い耐水素脆性が要求される用途には、相割合の比γ’/γ”を最適化する時効硬化方法が用いられる。
【0124】
1段階での時効硬化では、γ’/γ”相の比が高くなり、機械的特性が低下する。
【0125】
2段階での時効硬化は、第1段階の温度および第2段階の温度の選択によって、異なる機械的特性を有する異なる構造が生じ得る。
【0126】
第1段階の温度が前述のピーク温度と同じであれば、算出上の相割合の比γ’/γ”は低くなるものの、時効硬化により高い機械的特性が得られる。
【0127】
第1段階の温度がピーク温度より高い2段階の時効硬化では、中程度の機械的特性になる。この場合、相割合の比γ’/γ”が低くなるため、耐水素脆性が低下する。
【0128】
第1段階の温度がピーク温度未満であり、かつ第2段階の温度が第1段階の温度よりも低い場合には、機械的特性は、1段階での時効硬化で達成可能な特性よりも低くなる。しかし、相割合の比γ’/γ”はより高くなり得るため、この熱処理は、耐水素脆性をより高度に要求することを主な目的とする用途に利用されることになる。一方で、第1段階の温度がピーク温度未満であり、かつ第2段階の温度が第1段階の温度よりも高い場合には、より高い機械的特性を得ることが可能である。相割合の比γ’/γ”は、同一の水準に保たれる。
【0129】
また、時効硬化時間にも留意すべきである。低温での時効硬化ではすべての析出物を析出させるために長い時効硬化時間が必要であるのに対し、高温での時効硬化では短い時効硬化時間で十分である。
【0130】
本発明による合金および本発明による熱処理(溶体化熱処理および時効硬化アニール)により、以下の特性を得ることができる:サワーガス試験(NACEによる刊行物3948)における破断伸度の比が75%超、好ましくは90%超であり、空気中での降伏強度は>100KSI、好ましくは120KSIである。
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【国際調査報告】