(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(54)【発明の名称】イミノスチルベン(Iminostilbene)の心臓・脳虚血再灌流損傷の予防・治療における使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/55 20060101AFI20220519BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220519BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220519BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220519BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A61K31/55
A61P9/00
A61P9/10
A61K9/20
A61K9/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556977
(86)(22)【出願日】2020-12-29
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 CN2020140577
(87)【国際公開番号】W WO2021136226
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】201911393436.0
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520101410
【氏名又は名称】中国医学科学院薬用植物研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫暁波
(72)【発明者】
【氏名】孫桂波
(72)【発明者】
【氏名】盧珊
(72)【発明者】
【氏名】許旭東
(72)【発明者】
【氏名】田瑜
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA36
4C076BB01
4C076BB11
4C076CC11
4C076FF11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC32
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA35
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
(57)【要約】
本発明は、心臓・脳血管疾患、特に心臓・脳虚血再灌流損傷を治療する医薬品の製造における、イミノスチルベンの使用を提供し、イミノスチルベンは、虚血再灌注時の3種類の心筋酵素、及び炎症性因子を低減させ、虚血再灌注時の細胞アポトーシスを軽減させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓・脳血管疾患を治療する医薬品の製造におけるイミノスチルベンの使用。
【請求項2】
前記心臓・脳血管疾患は虚血再灌流損傷である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記心臓・脳血管疾患は脳虚血再灌流損傷である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
イミノスチルベンは脳梗塞面積を減少させる、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記心臓・脳血管疾患は心筋虚血再灌流損傷である、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
前記心臓・脳血管疾患は虚血性心疾患である、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
イミノスチルベンは心筋梗塞面積を減少させ、及び/又はLDH、AST和CKレベルを低減させ、及び/又は炎症性因子を低減させ、及び/又は心筋アポトーシスを減少させる、請求項5又は6に記載の使用。
【請求項8】
心筋保護薬の製造における、イミノスチルベンの使用。
【請求項9】
前記医薬品の最小単位に含まれる活性成分であるイミノスチルベンの量が、0.5~10mgである、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記医薬品は錠剤又は水溶性注射剤である、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
心臓・脳虚血再灌流損傷を治療する医薬品であって、
イミノスチルベンを有効成分として含む、医薬品。
【請求項12】
イミノスチルベンは唯一な有効成分である、請求項11に記載の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓・脳血管疾患の分野に属し、より具体的には、本発明は、イミノスチルベン(Iminostilbene)の心臓・脳虚血再灌流損傷の予防・治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の高齢化と都市化の加速に伴い、住民の不健康な生活様式が多くなり、心臓・脳血管疾患の危険因子が普遍的に出現しており、多発性疾患を引き起こす。血栓、血管破裂などの原因による心臓・脳虚血性疾患は非常によく見られ、その処置は一般的に抗血栓によるうっ血除去治療を主とする。虚血となった心筋と脳は血液再灌流を回復した後、あらゆる面で損傷がさらに悪化する現象、すなわち虚血再灌流損傷が発生し、虚血性疾患を治療する大きな障害となり、再灌流損傷の起因はまだ完全に明確ではなく、フリーラジカルの蓄積、細胞カルシウムの過負荷、膜損傷などはすべてその発生の原因である可能性があり、現在治療の方法と薬物はまだ限られており、しかも効果も高める余地がある。
【0003】
イミノスチルベンIminostilbene(ISB)はジベンザゼピン系化合物であり、現在知られている医薬用途は抗肝炎及び抗てんかん薬であるカルバマゼピン合成中間体のみであり、また、この化合物は排ガス触媒及びトランジスタにのみ応用されている。心臓・脳虚血再灌流損傷の予防・治療に応用した報告はまだない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
新規な心臓・脳虚血再灌流損傷医薬品を開発するために、研究したところ、イミノスチルベンが心筋及び脳虚血に対して保護作用を有することを見出し、イミノスチルベンが上記保護作用を発揮する作用メカニズムをさらに研究し、イミノスチルベンの心臓・脳血管疾患の治療における使用のために実験資料や理論的根拠を提供する。
【0005】
一態様では、本出願は、心臓・脳血管疾患を治療する医薬品の製造におけるイミノスチルベンの使用を提供する。
【0006】
さらに、前記心臓・脳血管疾患は虚血再灌流損傷である。
【0007】
さらに、前記心臓・脳血管疾患は脳虚血再灌流損傷である。
【0008】
さらに、イミノスチルベンは脳梗塞面積を減少させる。
【0009】
さらに、前記心臓・脳血管疾患は心筋虚血再灌流損傷である。
【0010】
さらに、前記心臓・脳血管疾患は虚血性心疾患である。
【0011】
さらに、イミノスチルベンは心筋梗塞面積を減少させ、及び/又はLDH、AST和CKレベルを低減させ、及び/又は炎症性因子を低減させ、及び/又は心筋アポトーシスを減少させる。
【0012】
別の態様では、本出願は、心筋保護薬の製造における、イミノスチルベンの使用を提供する。
【0013】
さらに、前記医薬品の最小単位に含まれる活性成分であるイミノスチルベンの量が、0.5~10mgである。
【0014】
さらに、前記医薬品は錠剤又は水溶性注射剤である。
【0015】
別の態様では、本発明は、イミノスチルベンを有効成分として含む心臓・脳虚血再灌流損傷を治療する医薬品を提供する。
【0016】
さらに、イミノスチルベンは唯一な有効成分である。
【0017】
本発明の前記心臓・脳血管疾患は、様々な血栓、血液レオロジー、血管の原因による疾患を含み、血栓、梗塞、血管破裂などを含むが、これらに限定されない。
【0018】
本発明の前記最小単位は、剤形に応じて、1錠、1カプセル、1袋の顆粒、又は1本の注射剤などを含むが、これらに限定されない。
【0019】
本発明の前記医薬品は、経口投与形態及び胃腸外投与形態の様々な剤形を含む、臨床的に許容される任意の剤形であり得る。経口に用いる場合、錠剤、カプセル、ソフトカプセル、経口液、シロップ、顆粒、滴丸、口腔内崩壊錠、徐放錠、徐放カプセル、放出制御錠、放出制御カプセルであってもよく、胃腸外投与経路に用いる場合、水溶性注射剤、凍結乾燥粉末注射剤、無菌粉末注射剤、輸液であってもよい。
【0020】
医薬品中の薬学的に許容される担体又は賦形剤には、充填剤、バインダ、潤滑剤、崩壊剤、溶解助剤、界面活性剤、吸着担体、溶剤、酸化防止剤、共溶媒、吸着剤、浸透圧調節剤、pH調整剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
医薬品には、スーパーオキシドジスムターゼ、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、エダラボン、抗炎症薬、トウサンカ抽出物、丹参滴丸などを含むが、これらに限定されない、心臓・脳血管疾患を治療するその他の既知の中西薬物を含めることができ、又は本出願の薬物はこれらの漢方薬や西洋薬と併用してもよい。
【0022】
本発明の剤形は、医薬製剤プロセスにおいて当業者に公知の慣用的に使用されている任意の方法を用いて製造することができる。例えば、本発明の錠剤は、当技術分野で公知の適切な方法を用いて、造粒して乾燥させ、主剤、賦形剤及びバインダなどをふるい分け、得た混合物に潤滑剤などを加えて混合し、錠剤を形成することができる。造粒は、湿式造粒、乾式造粒や加熱造粒のような、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって行うことができる。適切な非限定的な例としては、高速撹拌造粒機、流動造粒乾燥機、押出造粒機、又はドラムプレスを使用したような造粒方法が含まれる。さらに、例えば乾燥及びふるい分けの方法は造粒のニーズに応じて行うことができる。主剤、賦形剤、バインダ、潤滑剤などの混合物は直接錠剤に形成することもできる。フィルムコーティングが必要な場合、当技術分野で知られているフィルムコーティング装置のいずれかを使用することができ、フィルムコーティングマトリックスとして好適な例としては、糖衣系、親水性フィルムコーティング系、腸溶性フィルムコーティング系、及び徐放性フィルムコーティング系が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】心筋虚血再灌流損傷ラットの心筋梗塞面積へのISBの影響である。
【
図2】心筋虚血再灌流損傷のラットの心臓組織の病理学的変化へのISBの影響である。
【
図3】心筋虚血再灌流損傷ラットの心臓機能へのISBの影響である。
【
図4】心筋虚血再灌流損傷ラットの心筋酵素へのISBの影響である。
【
図5】ラット心筋虚血再灌流損傷の炎症性因子IL-10及びIL-6へのISBの影響である。
【
図6】ラット心筋虚血再灌流損傷の心筋アポトーシスへのISBの影響である。
【
図7】ラット脳虚血再灌流損傷の脳梗塞面積へのISBの影響である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
以下、特定の実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明のさらなる制限を構成するものではない。
【0025】
実施例1
ISBによる心筋虚血再灌流損傷ラットの心筋梗塞面積の検出
正常群、モデル群、ISB低用量群(0.625mg/kg)、ISB高用量群(1.25mg/kg)、ジルチアゼム塩酸塩群(16mg/kg)の5群に動物をランダムに分けた。ISBの各用量群とジルチアゼム塩酸塩群は術前に3日間連続して胃内投与した。実験動物を30min虚血、24h再灌流後、ラットを麻酔し、開胸して心臓を採取し、生理食塩水に入れて洗浄し、-80Cで7min放置した後に取り出し、心尖から結紮線方向に心臓を1~2mm厚さで横切断した薄片5~7枚とした。2%TTC溶液に入れ、37℃の水浴で12min加熱し、中性ホルマリンに入れて固定し、室温で一晩静置し、翌日、実体顕微鏡で撮影した。心臓切片の梗塞領域は灰白色、切片の非梗塞領域は赤色であり、Image-Pro Plusソフトウェアを用いて梗塞を検出し、心筋梗塞率=梗塞領域面積/心筋切片領域総面積×100%であった。
結果を
図1に示し、図に示すように、Sham群は梗塞面積がなく、I/R群ラットはSham群と比較して心筋梗塞面積が有意に増加した。I/R群と比べ、I/R+ISB(0.625、1.25mg/kg)は心筋組織梗塞面積を有意に改善した。
【0026】
実施例2
心筋虚血再灌流損傷ラットの心臓組織の病理学的変化へのISBの影響
実験終了後、開胸して心臓を採取し、パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン切片、HE染色を行った。
図2に示した結果のように、偽手術群では、心筋細胞の形態構造が正常であり、心筋細胞膜が完全であり、組織間隙が正常であり、炎症性細胞浸潤がなく、心筋繊維の配列は規則的であった。モデル群では、心筋細胞の組織間隙が増大し、その間に浮腫が出現し、好中球浸潤が明らかで、心筋繊維の向きがはっきりしておらず、一部の領域では心筋繊維が断裂し、心内膜壊死が認められた。ISB群では、細胞間隙がモデル群より軽減し、炎症性細胞浸潤がある程度減少し、このことから、ISBは心筋組織損傷程度を明らかに改善できることを示した。
【0027】
実施例3
心筋虚血再灌流損傷ラットの心臓機能へのISBの影響
7日再灌流後、イソフルランで動物を麻酔し、VisualSonics Vevo770超音波高分解能小動物超音波画像システムを用いて各群のラットの心臓構造と機能を評価し、主要な検出指標はLVEFとLVFSであった。
図3に示すように、偽手術sham群と比較して、IRモデル群では、EF、FSが有意に低下したが、ISBはEFとFSを有意に増加し、心臓機能を改善した。
【0028】
実施例4
ISBによる心筋虚血再灌流損傷ラットの心筋酵素の検出
実験動物を24時間再灌流し、3%ペントバルビタールナトリウム溶液(30mg/kg)で麻酔してラットの腹部大動脈から採血し、3500rpmで15min遠心分離し、血清を分離し、全自動生化学計を用いて心筋酵素CK、LDH、ASTの活性を測定した。
図4に示すように、I/R群は、Sham群と比較して血清中LDH、CK、AST活性が有意に上昇し、このことから、心筋虚血再灌流時に組織が損傷を受けたことを示し、ISBはI/R群と比較してLDH、CK、ASTのリークを有意に低下させた。
【0029】
実施例5
ISBによるラット心筋虚血再灌流損傷の炎症因子IL-10及びIL-6の検出
実験動物を24時間再灌流し、3%ペントバルビタールナトリウム溶液(30mg/kg)でラット麻酔して腹部大動脈から採血し、3500rpmで15min遠心分離し、血清を分離し、キットの取り扱い書に従って血清IL-10、IL-6の含有量を検出し、そしてマイクロプレートリーダによる450nm波長測定値を採用して、検量線によりサンプル血清中のIL-10、IL-6の含有量を計算した。
図5に示すように、偽手術sham群と比較して、ラット脳虚血再灌流損傷の場合、血漿TNFαとIL-6の含有量は有意に上昇した(P<0.01)。TAB(5、10mg/kg)はモデル群と比較してTNFαとIL-6の含有量を有意に低下させた(P<0.05)。
【0030】
実施例6
ラット心筋虚血再灌流損傷の心筋アポトーシスへのISBの影響
実験終了後、開胸して心臓を採取し、パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン切片、TUNEL染色を行った。
図6に示すように、偽手術sham群ではTUNEL陽性細胞はほとんど認められなかったが、IRラット心臓ではTUNEL陽性心筋細胞は多く認められ、ISB投与群ではTUNEL陽性心筋細胞は有意に減少した。
【0031】
実施例7
ラット脳虚血再灌流損傷の脳梗塞面積へのISBの影響
正常群、モデル群、ISB低用量群(5mg/kg)、ISB高用量群(10mg/kg)、アスピリン群(10mg/kg)の5群に動物をランダムに分けた。ISB各用量群とアスピリン群は術前に3日間連続して胃内投与した。実験動物を30min虚血、24h再灌流後、ラットを麻酔し、脳を採取し、生理食塩水に入れて洗浄し、-80Cで7min放置した後に取り出し、脳を1~2mm厚さで横切断した薄片5~7枚とした。1%TTC溶液に入れ、37℃の水浴で12min加熱し、中性ホルマリンに入れて固定し、室温で一晩静置し、翌日、実体顕微鏡で撮影した。脳切片の梗塞領域は灰白色、切片の非梗塞領域は赤色であり、Image-Pro Plusソフトウェアを用いて梗塞を検出し、梗塞率=梗塞領域面積/心筋切片領域総面積×100%であった。
図7に示すように、偽手術sham群と比較して、MCAOによるモデル作成後、ラットの脳梗塞面積は有意に増加し、ISB投与3日後に脳梗塞面積は有意に減少した。
【0032】
明らかに、本発明の上記実施例は、本発明を明確に説明するための例示に過ぎず、本発明の実施形態を限定するものではない。当業者にとっては、上記した説明に基づいて、他の異なる形態の変更又は変更が行われてもよい。ここでは、全ての実施形態を網羅する必要はなく、また、不可能なことである。本発明の主旨から導出する自明な変化又は変動は、本発明の特許範囲に含まれるものとする。
【国際調査報告】