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特表2022-526787脊椎内に埋め込まれる埋め込み型超音波発生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(54)【発明の名称】脊椎内に埋め込まれる埋め込み型超音波発生装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 7/00 20060101AFI20220519BHJP
【FI】
A61N7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557520
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2020058833
(87)【国際公開番号】W WO2020193782
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】19305406.1
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】カルパンティエ,アレクサンドル
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ34
4C160JK10
4C160LL24
(57)【要約】
【課題】
【解決手段】 本発明は、脊椎動物の脊椎内に移植するための埋め込み型超音波(US)発生装置であって、この埋め込み型US発生装置は、脊柱の長手方向の軸に対して斜めの方向にUSビームを照射するのに適した少なくとも1つのUS発生トランスデューサを備えている、埋め込み型超音波(US)発生装置に関する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊柱の長手方向の軸に対して斜めの方向に超音波(US)ビームを照射する少なくとも1つのUS発生トランスデューサを備える、脊椎動物の脊椎内に埋め込まれる埋め込み型超音波発生装置。
【請求項2】
前記US発生トランスデューサは、脊椎の前記長手方向の軸に対して45°から65°の角度でUSビームを出射する、請求項1に記載の埋め込み型装置。
【請求項3】
椎骨の後方部分の一般的な形状である、請求項1又は2に記載の埋め込み型装置。
【請求項4】
前記US発生トランスデューサは、前記埋め込み型装置内で斜めに配置された平面USトランスデューサである、請求項1から3のいずれか1項に記載の埋め込み型装置。
【請求項5】
前記US発生トランスデューサは、前記埋め込み型装置内で長手方向に配置された平面USトランスデューサであり、前記埋め込み型装置は、前記USビームを前記脊椎の長手方向の軸に対して斜め方向に偏向させる少なくとも1つのレンズをさらに備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の埋め込み型装置。
【請求項6】
前記US発生トランスデューサは、0.3~3MHz、好ましくは0.5~2MHz、より好ましくは1~1.5MHz、さらに好ましくは約0.75MHzの共振周波数でUSビームを発生させるように構成されている、請求項1から5のいずれか1項に記載の埋め込み型装置。
【請求項7】
前記US発生トランスデューサは、0.3~2MPaの圧力レベルでUSビームを発生するように構成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の埋め込み型装置。
【請求項8】
前記US発生トランスデューサは、非集束USビームを発生するように構成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の埋め込み型装置。
【請求項9】
前記埋め込み型装置は、脊椎の長手方向に対して斜めの向きでUSビームを出射する2つ以上のUS発生トランスデューサを備えている、請求項1から8のいずれか1項に記載の埋め込み型装置。
【請求項10】
第1のUS発生トランスデューサは、USビームを上向きに出射し、第2のUS発生トランスデューサは、USビームを下向きに出射する、請求項9に記載の埋め込み型装置。
【請求項11】
前記US発生トランスデューサは順次起動させることができる、請求項9又は10に記載の埋め込み型装置。
【請求項12】
少なくとも1つのUS発生トランスデューサは、複数のトランスデューサのアレイを備えている、請求項1から11のいずれか1項に記載の埋め込み型装置。
【請求項13】
前記埋め込み型装置は、電気供給器に接続される経皮接続手段を備えている、請求項1から12のいずれか1項に記載の埋め込み型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎動物の脊椎内に移植するのに適した、脊髄障害の治療に特化した埋め込み型超音波発生装置に関するものである。本発明の装置は、脊椎動物、特にヒトの血液脊髄関門を一過性に破壊するのに特に適している。
【背景技術】
【0002】
脊髄は、脊髄腫瘍、脊髄変性症、脊髄炎症など、様々な形態の病理を引き起こす様々な生理的障害を受ける可能性がある。利用可能な治療法の中には、脊髄に薬剤を作用させるものがあり、一般的には静脈注射で投与される。しかしながら、血液脊髄関門(以下、BSCB)により、治療薬の脊髄や神経組織への浸透が制限されたり、妨げられたりする。この現象を回避するために、脊髄薬物デリバリーカテーテルを脊柱管内に挿入し、薬物が脊髄周辺に直接配置されるようにすることが知られている。しかし、この方法では流体を注入する必要がある。さらに、流体が脊髄や脊髄神経の組織に浸透する範囲は通常限られており、十分でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、本発明者らは、パルス超音波の照射と造影剤の静脈内注入を同時に行うことで、脊椎動物の血液脊髄関門を一過性に破壊することができる方法を提案した。この方法はBSCBを安全に開くことができる。しかし、対象となる組織を損傷する可能性のあるアレルギー性毒性の問題が観察された。
【0004】
この状況を理解するために、本発明者らはインシリコ治療シミュレーションによる超音波音場の解析を行った(図1)。治療中に送出される公称治療圧力振幅は、非減衰性の自由音場条件(水)で送出されたであろう圧力として定義される。シミュレーションの結果、音場内に遠位の骨が存在すると、超音波の反射と定在波が発生することがわかった。定在波は、放出された波と、脊柱管の周囲の骨で反射された波が重なり合った結果である。脊髄の前方にある椎体に近接しているため、超音波の反射が起こり、信号強度が増幅され、予期せぬ音圧の上昇により髄内血腫が発生し、安全性が留意される。
【0005】
他の脊椎骨(C6,T4,T9,L2)のシミュレーションでも、同様の音圧場パターンが見られた。全体として、脊柱管ROI体積の34±6%(評価した4椎体の平均±標準偏差)が公称圧力の0~0.5倍の音圧を受け、0.5~1倍が47±5%、1~1.5倍が17±3%、1.5倍以上が2%±1%であった。比較のために、超音波の反射と減衰を無視した場合(自由音場条件)、脊柱管ROI容積の48%は公称圧力の0~0.5倍の圧力で、ROIの52%は公称圧力の0.5~1倍の圧力にさらされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この問題を解決するために、本発明者らは、脊椎動物の脊椎内に埋め込むのに適した超音波(US)発生装置を開発した。この装置は、超音波を放射状(脊柱管の長手方向に直交する方向)ではなく、脊柱管内で斜めに放射する。このように角度をつけることで、超音波ビームが入射ビームを避けて骨に斜めに反射するため、定在波を大幅に減らすことができる。これにより、脊髄内の音圧を取り除くことができ、過剰な治療領域を回避して、副作用の発生を防ぐことができる。角度が大きくなればなるほど、ホットポイントの振幅は減少する。有利には、角度は、脊椎の長手方向の軸に対して、45°から65°の間で構成される。別の言い方をすれば、角度は、脊椎の直交軸に対して、25°から45°の間で構成される。
【0007】
本発明の目的は、脊椎動物の脊椎内に埋め込むための埋め込み型超音波(US)発生装置であって、この埋め込み型US発生装置は、脊椎の長手方向の軸に対して斜めの方向にUSビームを照射するのに適した少なくとも1つのUS発生トランスデューサを備えていることである。
【0008】
特定の実施形態では、US発生トランスデューサは、埋め込み型装置内で斜めの方向を持つ平面USトランスデューサである。あるいは、US発生トランスデューサは、埋め込み型装置内で長手方向に配置された平面USトランスデューサであり、埋め込み型装置は、脊椎の長手方向の軸に対して斜め方向にUSビームを偏向させる少なくとも1つのレンズをさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、厚さ2cmの音響透過性ゼラチンパッドを介して椎弓切除後のウサギのT4椎体に超音波を照射したときの音圧場のシミュレーションを示す。
図2図2は、1kgのウサギのT4椎体(グレースケールの背景:CTスキャン)でシミュレーションした音圧場(カラーオーバーレイ)を示す。A)CTデータから得られた音響特性と骨の形状を用いて、実験条件(ゲルカップリングパッド、椎弓切除、軟組織での減衰、骨の界面からの反射を考慮)を模倣した場合にシミュレーションされた音圧の矢状プロファイル、B)対応する2Dの横方向プロファイル、C)自由音場条件(水)に対する音圧の1次元軸方向プロファイル。
図3図3は、埋め込み型US発生装置の一実施形態を示す図であり、この埋め込み型装置は、椎骨弓の一般的な形状をしており、椎骨の前記後方部分を置き換えるものである。埋め込み型US発生装置は、埋め込み型装置内に斜めに配置された平面USトランスデューサを備える。
図4図4は、図3に示した埋め込み型US発生装置を被験者の脊椎内に設置し、USビームを被験者の脊髄に衝突させたときの向きを示す。
図5図5は、被験者の脊椎内の埋め込み型US発生装置の別の実施形態と、被験者の脊髄に衝突する際のUSビームの向きを示しており、平面USトランスデューサは長手方向の配置を有し、埋め込み型装置はさらに斜レンズを備えている。
図6図6は、被験者の脊椎内の埋め込み型US発生装置の別の実施形態と、被験者の脊髄に衝突する際のUSビームの向きを示しており、平面USトランスデューサは長手方向の配置を有し、埋め込み型装置はさらに、2つの対向する斜辺面を持つ2つの斜レンズを備えている。
図7図7は,直交軸に対して0°,30°,45°の3つの異なる角度(脊椎の長手方向に対して90°,60°,45°に相当)でシミュレーションした音圧音場(カラーオーバーレイ)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、以下の定義を参照することで最もよく理解される。
【0011】
定義
本発明の内容において、「BSCBを破壊する」、「BSCBを開く」、「BSCBの透過性を高める」という用語は、脊髄や背骨の検出可能な損傷を伴わずに起こる、BSCBの分子の通過に対する影響の受けやすさの増加を意味する。
【0012】
「超音波ビーム」、「超音波の波」、「超音波」という用語は、20kHz以上の周波数を持つ音波を指定するために使用される。超音波エネルギーは、BSCBの大きなゾーンを治療するために、集束超音波または非集束超音波であってもよい。
【0013】
本明細書では、「被験者」とは、任意の脊椎動物の被験者、特に哺乳類、特に「ヒト」、すなわち、男性、女性、子供、出生前段階のヒトを含むホモ・サピエンスという種の人間を指す。一実施形態では、被験者は、医療を受けるのを待っているか、医療を受けているか、医療処置の対象になったか、なるか、または病気の診断または発症を監視されている「患者」であってもよい。
【0014】
本開示にわたって、本発明の様々な態様を範囲形式で示すことができる。範囲形式での説明は、便宜上、簡潔にするためのものであり、本発明の範囲を柔軟に制限するものとして構成されるべきではないことを理解すべきである。したがって、範囲の記述は、その範囲内の個々の数値だけでなく、可能なすべてのサブレンジを具体的に開示しているとみなされるべきであり、範囲の値は含まれる。
【0015】
埋め込み型装置
本発明の目的は、脊椎動物の脊椎内に移植するための埋め込み型超音波(US)発生装置であって、この埋め込み可能なUS発生装置は、脊椎の長手方向の軸に対して斜めの方向にUSビームを照射するのに適した少なくとも1つのUS発生トランスデューサを備えている。
【0016】
本発明の内容において、「脊椎内に埋め込むための」という表現は、US発生トランスデューサが脊柱管内で放電し、USビームが脊髄に衝突するように、埋め込み型装置が被験者の背骨に挿入できることを意味する。特定の実施形態では、埋め込み型装置は、椎骨の後方部分、すなわち椎弓の一般的な形状をしている。したがって、US発生装置は、被験者の椎骨を部分的に置き換えることができる(図3参照)。あるいは、US発生装置は、椎骨内に、好ましくは椎骨の後方部分に挿入されてもよい。
【0017】
本発明によれば、埋め込み型装置は、被験者の椎骨のいずれか1つを置換し得る、又はその中に挿入され得る。特に、被験者がヒトである場合、埋め込み型装置は、33個の椎骨のうちの少なくとも1つの中に置換または挿入されてもよい。好ましくは、埋め込み型装置は、頸部脊髄に対応するための頸椎(C1~C7)、菱形脊髄に対応するための胸腰椎(T7~L1)の少なくとも1つの椎体の中に置換または挿入されてもよい。
【0018】
本発明によれば、US発生トランスデューサは、USビームが、当該装置が埋め込まれた脊椎の長手方向軸に対して斜めの向きで照射されるように、埋め込み型装置の本体内に配置される。有利には、脊椎の長手方向に対して45°から65°の間の角度でUSビームが出射される。
【0019】
図4は、本発明の一実施形態を示す図であり、US発生装置が椎骨の後方部分を置換することを示す。本実施形態によれば、US発生トランスデューサは、平面であり、埋め込み型装置の本体内に、当該本体の長手方向の軸に対して斜めに配置されている。USビームはトランスデューサの長手方向の軸に対して放射状に照射されるが、前記トランスデューサが脊椎の長手方向の軸に対して傾斜しているため、USビームは脊髄にも斜めに衝突する。
【0020】
別の実施形態では、US発生トランスデューサは、埋め込み型装置内で長手方向に配置された平面USトランスデューサであり、埋め込み型装置は、脊椎の長手方向の軸および埋め込み型装置の長手方向の軸の両方に対してUSビーム(複数可)を斜め方向に偏向させる少なくとも1つのレンズをさらに備えている(装置が1つの斜レンズを備えている図5、及び装置が反対の傾斜を持つ2つの斜レンズを備えている図6参照)。
【0021】
特定の実施形態では、埋め込み型装置は、脊椎の長手方向の軸に対して斜めの向きでUSビームを照射するのに適した2つ以上のUS発生トランスデューサを備える。好ましくは、このような装置は、2つのUS発生トランスデューサを備える。有利なことに、第1US発生トランスデューサは、脊椎の方向に対して、USビームを上向きに照射するのに適しており、第2US発生トランスデューサは、USビームを下向きに照射するのに適している。
【0022】
埋め込み型装置に複数のUS発生トランスデューサがある場合、US発生トランスデューサは、好ましくは順次起動することができる。別の実施形態では、ビーム間の干渉を回避する目的で、US発生トランスデューサを同時に、および/または順次と同時に起動することができる。
【0023】
特定の実施形態では、少なくとも1つのUS発生トランスデューサは、複数のトランスデューサのアレイを備える。アレイ内のトランスデューサは、単一のトランスデューサに比べて寸法が小さくなっている。有利なことに、これらのトランスデューサは、トランスデューサのアレイを支持する支持軸受上に一様に配置されている。本実施形態は、被験者の脊髄内での出射周波数および/または出射ステージおよび/またはビームステアリングおよび/または斜め出射を適応させるのに有用である。
【0024】
特定の実施形態では、埋め込み型装置は、外部電気供給器に接続される経皮接続手段を備える。この目的のために、装置は、経皮電気接続を受けるための接続チャンバを含むことができる。内部または外部の電気供給器(すなわち、電池)は、治療の活性化のために遠隔制御できる埋め込み型装置への接続に使用することができる。
【0025】
脊椎内に複数の埋め込み型装置が埋め込まれる場合(例えば、より広い脊髄領域をカバーするため)、経皮接続手段を備えるマスター埋め込み型装置を使用し、他の埋め込み型装置からは経皮接続手段を取り去り、マスター埋め込み型装置に接続することが可能である。このような実施形態では、すべての埋め込み型装置が同時にUSビームを照射することになる。あるいは、少なくとも2つの埋め込み型装置が経皮接続手段を備えることも可能である。有利なことに、脊髄の異なるレベルに複数の埋め込み型装置がある場合、トランスデューサ間の超音波の波の重ね合わせ/干渉を避けるために、連続する装置を非同期に(すなわち、順次に)作動させることができる。外部または内部のジェネレータは、このような順序付けを管理することができる。
【0026】
別の実施形態では、定在波を低減するために、同じトランスデューサから周波数変調を伴うUSビームを照射することができる。
【0027】
別の実施形態では、脊髄エコー画像を取得するためにフェーズドアレイヤートランスデューサかによってUSビームを出射し、位相や周波数を変更して斜めに出射し、電子ビームステアリングを可能にして、超音波を焦点化して出射することができる。
【0028】
超音波ビーム
本発明の目的は、BRSCを破壊するために、それを必要とする被験者の脊髄にUSビームを照射するのに適した埋め込み型装置を提供することである。また、本発明の埋め込み型装置は、局所的な免疫を刺激するための微弱なハイパーサーミアの発生、および/または、神経細胞の再生を刺激するために使用することも可能である。
【0029】
有利なことに、本発明のインプラント装置のUS発生トランスデューサは、非集束ビームを出射することができる。実際、本発明者らは、非集束ビームは、トランスデューサからある距離のところに自然なホットスポットの焦点があることを示した。この距離dは、以下の式で計算できる。
Lは超音波の開口部の寸法(すなわち直径)、λは波長(音速/周波数)である。例として、直径10mmの非集束平面トランスデューサが1MHzで出射されている場合、自然焦点のホットスポットはトランスデューサから15mmの位置にある。脊髄内での超音波照射の安全性を確保し、定在波を避けるためには、ホットスポットが骨反射の場所(骨の表面)で起こることを避ける必要がある。理想的には、ホットスポットは脊髄の中央部に選ばれるべきである。そして、トランスデューサの脊髄からの距離をこの要件に合わせる必要がある。
【0030】
有利なことに、超音波放射の周波数は0.3~3MHzの間で選択される。周波数を下げることで(例えば、約0.5MHz)、軸方向の放射で骨の反射を減らすことができるだけでなく、ビームの焦点化が少なくなり、治療領域が広くなる。その結果、音圧がより分散され、骨に到達する強度が小さくなり、反射強度が再び小さくなる。
【0031】
本発明によれば、非集束USビームは、0.3~2MPaの範囲の圧力レベルで、被験者の脊髄に適用することができる。本発明の文脈では、「圧力レベル」とは、水中のエミッタの音場で測定された最大音圧のことである。有利には、非集束USビームは、0.5MPa~1.25MPaの圧力範囲内、好ましくは0.8MPa~1MPaの圧力範囲内で印加される。
【0032】
本発明の内容において、圧力レベルの値は、エミッタから出てくる圧力レベルの値に対応する。脊髄への圧力は、介在する組織の潜在的な減衰のため、より低い可能性がある。一般的には、その減衰はせいぜい30%程度である。本発明の目的は、骨置換を導入することでこの現象を軽減することである。一方で、骨が反射する可能性があるため、脊髄への圧力は高くなる可能性があります。一般的には、増幅率は最大でも30%程度であると考えられる。本発明の目的は、斜めの発光を導入することにより、この現象を軽減することである。
【0033】
脊髄疾患の治療
本発明の埋め込み型装置は、脊椎動物、特にヒトの血液脊髄関門(BSCB)を一過性に破壊することにより、脊髄障害を治療する際に使用することが特に好ましい。
【0034】
この目的のために、埋め込み型装置は、超音波(US)造影剤と一緒に使用することができ、この造影剤は、USビームを被験者の脊髄に照射する前または照射中に投与される。また、USの造影剤を使用せずに、埋め込み型装置を使用することも可能である。
【0035】
US造影剤は、注射によって投与されてもよく、好ましくは全身注射によって投与される。全身投与(例えば、静脈内投与)とは、全身に影響が及ぶように薬剤を循環系に投与する経路である。
【0036】
いくつかの実施形態では、超音波造影剤を被験者の血流中に注入する。
【0037】
好ましくは、超音波造影剤は、USビームの照射の直前または直後にボーラスとして投与される。好ましくは、US造影剤はUSビーム照射の直後に投与される。より好ましくは、US造影剤は、USビームの照射後0~10秒の間に投与される。有利なことに、US造影剤の投与は15秒から30秒の間に行われる。USビームは数分間、通常は4分間持続する。連続してUSビームを照射する場合、超音波造影剤は最初のUSビームを照射する直前に1回だけ投与するのが好ましいが、連続してUSビームを照射する際に連続的に注入してもよい。
【0038】
本発明によれば、超音波造影剤は、ガス状の気泡、高濃度のガス、超音波に反応して気化するように構成された固体粒子、超音波に反応して気化するように構成された液体、キャビテーション部位として作用するように構成された微小粒子、所望の領域の組織よりも高い音響インピーダンスを有する固体粒子、および/または高い音響吸収係数を有する液体を含んでいてもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、超音波造影剤はマイクロバブル造影剤であり、好ましくは、六フッ化硫黄マイクロバブル(SonoVue(登録商標))、アルブミンシェルとオクタフルオロプロパンガスコアからなるマイクロバブル(Optison(登録商標))、パーフレキサンマイクロバブルを脂質の外殻に封入したもの(Imagent(登録商標))、オクタフルオロプロパンガスコアを脂質の外殻に封入したマイクロバブル(Definity(登録商標))、若しくは脂質の外殻に封入したパーフルオロブタインと窒素ガス(BR38-Schneider et al.,2011)からなる群から選択される。好ましくは、超音波造影剤は、六フッ化硫黄のマイクロバブルからなる。
【0040】
マイクロバブルは、1μmから10μmの範囲の平均直径を有していてもよい。いくつかの実施形態では、マイクロバブルは、4μmから5μmの範囲の平均直径を有する。他のいくつかの実施形態では、マイクロバブルは、2から6μmの範囲の平均直径を有する。
【0041】
いくつかの実施形態では、超音波造影剤の投与量は、被験者の総重量を基準にして0.2~0.4ml/kgの範囲である。
【0042】
いくつかの実施形態では、治療的活性剤が超音波造影剤と共に使用される。治療活性剤は、患者の脊髄に送達されなければならない薬剤である。治療活性剤は、注射によって、好ましくは全身注射によって投与される。
【0043】
特定の実施形態では、治療活性剤と超音波造影剤(および/またはUSビーム)とが順次投与される。超音波造影剤および/またはUSビームは、治療活性剤の投与に先立って、適切な時間枠内で投与されてもよい。例えば、超音波造影剤は治療活性剤の投与に先立って1時間以内に投与される。好ましくは、超音波造影剤は、治療活性剤の投与の5~60分前(例えば、10~60分、10~50分、10~40分、10~30分、10~20分、10~15分、30~40分、30~50分、または30~60分)に投与される。いくつかの実施形態では、超音波造影剤および/またはUSビームは、治療的活性剤の投与の10分前、15分前、20分前、25分前、30分前、35分前、40分前、45分前または50分前に投与される。一例では、超音波造影剤は治療活性剤の投与の10分前に投与される。あるいは、治療活性剤は、超音波造影剤および/またはUSビームの投与の前に投与される。
【0044】
あるいは、超音波造影剤と治療活性剤を同時に、あるいは同時に(例えば、同じ溶液を用いて)投与してもよい。
【0045】
本明細書で使用される「治療活性剤」には、任意の薬物医薬品、抗体、糖タンパク質、溶解化合物、RNAやDNAなどの遺伝物質、幹細胞、タンパク質またはペプチド、リポソーム、脂質、合成または天然のポリマーまたはポリマーコンジュゲート、高分子、ナノキャリア、カプセル化された薬物分子、医薬製剤、治療作用をもたらすことができるその他の物質、およびそれらの混合物が含まれる。特定の実施形態では、治療活性剤は、成長因子、抗体、幹細胞、ナノ粒子およびリポソームから選択される。
【0046】
一般的に、超音波造影剤を被験者に注射で投与し、USビームを前記被験者の脊髄に照射すると、BSCBを介して多くの薬剤(内因性または外因性の薬剤)の送達が容易になる。
【0047】
本発明の埋め込み型装置は、本発明の埋め込み型装置を使用して、超音波造影剤を必要としている被験者の脊髄にUSビームを照射するのと同時に、超音波造影剤を投与することを含む、被験者のBSCBを越えた薬剤(例えば、内因性または外因性の薬剤)の送達を促進する方法に使用することができる。
【0048】
超音波造影剤とUSビームを併用することで、内因性分子(例えば、被験者の血流中に自然に存在する分子)を、BSCBを介して送達することが容易になるだけでなく、外因性分子(例えば、脊髄を標的とする目的で患者に投与される治療活性剤)を、BSCBを介して送達することも可能になる。被験者の脊髄にUSビームを照射すると同時に超音波造影剤を全身に投与すると、BSCBのこれらの薬剤に対する透過性が一時的に高まり、脊髄への薬剤の送達が促進される。
【0049】
したがって、本明細書では、超音波造影剤とUSビーム、および任意に治療活性剤を併用することで脊髄障害の治療を強化する方法であって、本発明の埋め込み型装置を使用してUSビームを脊髄に照射する方法を提供する。
【0050】
脊髄障害を患っている被験者を治療する方法も提供され、この方法は、本発明の1つ以上の埋め込み型装置を使用して、被験者の脊髄にUSビームを適用するのと同時に、被験者に超音波造影剤を投与することを含む。このような方法は、脊髄障害の治療や予防に適した治療活性のある薬剤を、超音波造影剤と順番に、または併用して投与することと組み合わせてもよい。
【0051】
本発明は、血流中に存在する薬剤の送達によって治療可能なあらゆる種類の脊髄障害の治療に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】