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特表2022-526820間葉系幹細胞およびそのエクソソームによる微小血管障害の治療
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  • 特表-間葉系幹細胞およびそのエクソソームによる微小血管障害の治療 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞およびそのエクソソームによる微小血管障害の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20220519BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/00
A61P43/00 121
A61P9/14
A61K9/127
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559664
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(85)【翻訳文提出日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 US2020027278
(87)【国際公開番号】W WO2020210363
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】62/830,807
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518082356
【氏名又は名称】シンバイオセルテック・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ウェステンフェルダー
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・マドック・グーチ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB11
4C076CC11
4C076FF11
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA02
4C087MA24
4C087MA55
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA44
4C087ZC75
(57)【要約】
本開示は、微小血管疾患の治療のための組成物に関する。そのような組成物は、間葉系および/もしくは脂肪幹細胞、ならびに/または間葉系および/もしくは脂肪幹細胞から単離されたエクソソームを含み得る。組成物を使用して微小血管疾患を治療する方法および組成物を作製する方法がさらに含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小血管疾患の治療のための組成物であって、
間葉系および/もしくは脂肪幹細胞、ならびに/または
間葉系および/もしくは脂肪幹細胞から単離されたエクソソームを含む、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物を生成する方法であって、
間葉系および/または脂肪幹細胞を拡大培養することと、
培養中の前記間葉系および/または脂肪幹細胞によって放出されたエクソソームを収集することと、を含む、方法。
【請求項3】
微小血管疾患に罹患している対象を治療する方法であって、
前記対象に、治療有効量の間葉系および/または脂肪幹細胞を投与することを含む、方法。
【請求項4】
前記対象を、間葉系および/または脂肪幹細胞から単離されたエクソソームで治療することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象が、前記間葉系および/または脂肪幹細胞、ならびに前記間葉系および/または脂肪幹細胞から単離されたエクソソームで併用治療される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が、前記間葉系および/または脂肪幹細胞、ならびに前記間葉系および/または脂肪幹細胞から単離されたエクソソームで順次治療される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記間葉系および/または脂肪幹細胞が、損傷した微小血管系由来の血管系において非経口的に、全身的に、または上流に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記間葉系および/または脂肪幹細胞が、前記対象に対して同種異系である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記微小血管疾患が、糖尿病関連微小血管疾患である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記微小血管疾患が、血管炎、自己免疫疾患、敗血症、急性もしくは慢性腎臓疾患、心血管疾患、神経疾患、固形臓器移植、血管性拒絶反応、創傷治癒、アテローム性動脈硬化、加齢、および/または変性網膜疾患と関連している、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
微小血管疾患に罹患している対象を治療する方法であって、
前記対象に、治療有効量の間葉系および/または脂肪幹細胞から単離されたエクソソームを投与することを含む、方法。
【請求項12】
前記エクソソームが、損傷した微小血管系由来の血管系において非経口的に、全身的に、または上流に投与される、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、概して、併用または個別に投与される間葉系幹細胞およびそのエクソソームによる広範囲の微小血管障害の治療に関する。多数の急性および慢性疾患は、早期および進行期の両方において、進行性の臓器損傷、臓器喪失、罹患および死亡を媒介する微小血管症状の発症を特徴とする。本明細書に開示される技術の治療標的には、1型および2型の両糖尿病ならびにそれらの多臓器合併症(例えば、腎臓、目、心臓、神経学的およびその他)、血管炎、自己免疫疾患、敗血症、急性および慢性腎臓疾患、心血管および神経系の疾患、固形臓器移植、血管性拒絶反応、創傷治癒、アテローム性動脈硬化、加齢、ならびに種々の変性網膜疾患が含まれる。より具体的には、開示される実施形態は、対象の罹患した微小血管系を修復、保護、および安定化し、それによって転帰および生存を改善するために、種々の供給源からの間葉系幹細胞およびそれらのエクソソームを組み合わせてまたは個別で治療的に使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
多くのよく見られる急性および慢性の疾患は、早期および進行期の両方において、進行性の臓器損傷、臓器喪失、罹患、および死亡につながる同様の微小血管症状の発症を特徴とする。すべての臓器および組織の本質的な毛細血管/微小血管ネットワークは、それらの生理機能および健康全般にとって重要である。毛細血管は、血液供給、酸素化、すべての臓器からの代謝産物の除去を促進する。解剖学的に、毛細血管は、一般に、内皮細胞、平滑筋細胞、および周皮細胞から構成される。周皮細胞は、すべての毛細血管の機能および解剖学的完全性を「監視」し、維持する。
【0003】
糖尿病、炎症性、自己免疫性、変性性、加齢関連、外傷および他の傷害などの病理学的プロセスが、毛細血管複合体の機能に影響を及ぼすと、血液供給、組織酸素化、および罹患臓器からの代謝産物の除去が障害され、機能の永続的な喪失ならびに全身の罹患および死亡につながる。
【0004】
骨髄、脂肪、臍帯および他の供給源からの間葉系幹細胞または間質細胞(MSC)は、非胚性の「成人」幹細胞であり、種々の急性および慢性疾患ならびに臓器損傷の有望な治療に使用されている、強力な抗炎症性、抗アポトーシス、免疫調節、血管新生および血管保護性、抗線維性ならびに抗血栓性パラクリン活性を有する。培養中のMSCは、それらの多面的効果を媒介する有益なサイトカインおよび成長因子を放出する。加えて、MSCは、本質的にすべての細胞と同様に、隣接する細胞に取り込まれるそれらの微小環境にエクソソーム(直径30~100nm)を放出し、次いで、標的細胞におけるパラクリンシグナル伝達をもたらす。シグナル伝達は、mRNA、miRNA、タンパク質、脂質の横方向への転移によって起こり、これらは一緒になって、インタクトなMSCのものに対応する有益な効果を発揮することが知られている。
【0005】
それらの小さなナノメートルサイズおよび治療量を容易に収集する能力により、エクソソームは、より大きなMSC(直径約100μm)を送達することができず、かつ送達するべきでない罹患した微小血管系の治療に特に適している。管腔が病理学的に減少しているために、血流が著しく損なわれる毛細血管へのMSCなどの大きな細胞の強制送達は、微小梗塞および組織損傷の加速をもたらすことが知られている。本明細書に開示される技術は、上記の疾患および障害における罹患した毛細血管系を修復および保護するために、必要に応じて、臓器およびMSCの血管保護機能、ならびに適切な場合には、それらのエクソソームを利用する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載されるのは、a)間葉系および/または脂肪幹細胞、ならびにb)間葉系および/または脂肪幹細胞由来エクソソームである。
【0007】
微小血管疾患を有する対象を治療する方法も記載されており、本方法は、間葉系および/もしくは脂肪幹細胞またはエクソソームを個別にまたは組み合わせて、対象に(例えば、注射によって)投与することを含む。
【0008】
本開示では、間葉系幹細胞という用語は、間葉系および/または脂肪幹細胞、ならびにb)間葉系および/または脂肪幹細胞由来エクソソームを意味し、それらを包含する。
【0009】
「治療する」または「治療」は、完全な治癒を必要としない。それは、基礎疾患の症状が少なくとも低減されること、ならびに/または症状を引き起こす基礎細胞の、生理学的、もしくは生化学的原因もしくは機序のうちの1つ以上が低減、および/もしくは排除されることを意味する。この文脈で使用される場合、低減は、疾患の生理学的状態だけでなく、疾患の分子状態を含む疾患の状態に関して意味することが理解される。
【0010】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、上記で定義されるような治療として作用するのに十分な量である。これは、例えば、特定の疾患状態を監視および/または診断するために使用される標準的な技術によって決定され得る。
【0011】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する」、「特徴とする」、およびその文法的等価物は、追加の、列挙されていない要素または方法ステップを除外しないが、より制限的な用語「からなる」および「から本質的になる」も含む、包含的または非限定的な用語である。
【0012】
本明細書で使用される場合、「対象」は、典型的には、哺乳動物である。
【0013】
本開示は、特定の実施形態を特に指摘し、明確に特許請求する特許請求の範囲で締め括るが、本開示の範囲内の実施形態の種々の特徴および利点は、添付の図面と併せて読むと、以下の説明からより容易に確認され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】上パネルは、特許毛細血管が比較的大きな間葉系幹細胞(直径約100μm)を収容することができる一方で、微小血管疾患を有する毛細血管は、罹患した毛細血管床の直径が病理学的に減少することに恐らく起因して収容しない(下パネル)という事実を示す。基礎となる病理機序を多面的に調節するこれらの間葉系幹細胞由来の非常に小さなエクソソーム(直径約40~100nm)を導入して、罹患した微小血管系を安定化および修復することができる。この療法は、次いで、糖尿病関連末端臓器損傷、血管炎、毒性および虚血性臓器損傷、敗血症、加齢、アテローム性動脈硬化、網膜症、ならびに/またはその他を有する対象における臓器機能の改善につながる。
【実施例
【0015】
以下の実施例は、例示のみの目的で提供され、その中に具体的に開示される実施形態に開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0016】
1型および2型の両糖尿病は、徐々に広範囲の末端臓器損傷をもたらし、内皮および周皮細胞の機能障害、微小血管閉塞および炎症、血管収縮、血管漏出、凝固障害、ならびに線維症を介してこれらの臓器の毛細血管床を損傷する微小血管疾患を介して、網膜、冠動脈、神経系、腎臓、および他の臓器に影響を及ぼす。この微小血管損傷は、膵臓のランゲルハンス島の毛細血管にも影響を及ぼす。この病理機序は、インスリン産生細胞の破壊を加速させ、それによって内因性インスリン産生の完全な喪失を早めることができ、すなわち、患者における糖尿病状態を大幅に悪化させ得る。したがって、進行性糖尿病を有するdb/dbマウスへの間葉系および/または脂肪由来エクソソームの非経口投与が、血糖コントロールを改善するかどうかを試験した。これを、糖尿病性腎疾患の改善とともに観察した。
【0017】
種々の血管炎、自己免疫疾患、敗血症、急性および慢性腎臓疾患、心血管および神経系の疾患、固形臓器移植、血管性拒絶反応、創傷治癒、アテローム性動脈硬化、加齢、ならびに種々の変性網膜疾患のほとんどの病理学的特徴を共有する糖尿病の微小血管疾患と同様に、間葉系および/もしくは脂肪幹細胞を単独で、またはそれらのエクソソームを単独で、もしくはそれらの親幹細胞と組み合わせての治療が、この大きな微小血管疾患群における転帰に好ましい影響を及ぼすことが予期される。
【0018】
2型糖尿病男性対象は、慢性腎臓疾患を呈する。MSCを対象から単離し、拡大培養する。拡大培養したMSCを、対象が罹患している微小血管系の問題に関連する症状を改善するのに十分な量で、対象に投与する。
【0019】
MSC/ASCの単離および拡張のためのプロトコルについての参照文献(参照により本明細書に組み込まれる):
1.Toegel F,Hu Z,Weiss K,Isaac J,Lange C,Westenfelder C:Administered mesenchymal stem cells protect against ischemic acute renal failure through differentiation-independent mechanisms.Am J Physiol Renal Physiol.2005 Jul;289(1):F31-42.Epub 2005 Feb 15
2.Togel F,Weiss K,Yang Y,Hu Z,Zhang P,Westenfelder C:Vasculotropic,paracrine actions of infused mesenchymal stem cells are important to the recovery from acute kidney injury.Am J Physiol Renal Physiol.2007 May;292(5):F1626-35.Epub 2007 Jan 9.
【0020】
MSC/ASC由来エクソソームの単離のためのプロトコルについての参照文献(参照により本明細書に組み込まれる):
3.Lotvall J,Hill AF,Hochberg F et al.:Minimal experimental requirements for definition of extracellular vesicles and their functions:a position statement from the International Society for Extracellular Vesicles.Journal of Extracellular Vesicles 2014,3:26913-http://dx.doi.org/10.3402/jev.v3.26913
4.Bang C,Thum T:Exosomes:New players in cell=cell communication.Int J Biochem Cell Biol 2012;44:2060-2064.
5.Kholina S,Ranghino A,Garnieri P et al.:Extracellular vesicles as new players in angiogenesis.Vasc Pharmacol 2016;S1537-1891:30105-3-101.
図1
【国際調査報告】