(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(54)【発明の名称】水産物および水産養殖廃棄物から得られたヒドロキシアパタイトまたは改変ヒドロキシアパタイトを含む物理的サンスクリーン、その生産のためのプロセスおよびそれを含む光保護組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/24 20060101AFI20220519BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20220519BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20220519BHJP
A61Q 1/10 20060101ALI20220519BHJP
A61Q 1/04 20060101ALI20220519BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220519BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20220519BHJP
A61Q 3/00 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A61K8/24
A61K8/98
A61Q17/04
A61Q1/10
A61Q1/04
A61Q19/00
A61Q5/00
A61Q3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560235
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 EP2020058694
(87)【国際公開番号】W WO2020193750
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】102019000004673
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521439914
【氏名又は名称】コンシグリオ ナチオナレ デレ リシェルシェ
【氏名又は名称原語表記】CONSIGLIO NAZIONALE DELLE RICERCHE
【住所又は居所原語表記】Piazzale Aldo Moro 7,00185 Roma,Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】イアフィスコ,ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】アダミアノ,アレッシオ
(72)【発明者】
【氏名】ピッチリーロ,クラーラ
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA071
4C083AA072
4C083AB281
4C083BB01
4C083BB11
4C083BB41
4C083BB48
4C083CC13
4C083CC14
4C083CC19
4C083CC28
4C083CC31
4C083EE12
4C083EE17
4C083EE21
(57)【要約】
任意にリン酸三カルシウムおよび金属酸化物と混合された、ヒドロキシアパタイトまたは金属イオンで置換されたヒドロキシアパタイトの粒子により形成された、物理的タイプの太陽光フィルターおよび光保護ブースト剤の特性を有する材料を生産するための、魚の骨から出発するプロセスが記載される。また、本プロセスで得られた材料、および前記材料を含む化粧用組成物または植物サンスクリーン組成物についても記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚の骨から出発する粉末の形態において、場合によっては、リン酸三カルシウムおよび金属酸化物と組み合わせた、ヒドロキシアパタイトまたは改変ヒドロキシアパタイトの生産のためのプロセスであって、以下のステップ:
a)任意に、改変ヒドロキシアパタイトを生産することが望ましい場合、Zn、Ti、Mg、Mn、Sn、SeおよびAnの中から選択される1以上の元素のイオンを含有する溶液に魚の骨を15分~24時間の時間浸漬し、これに続いて前記溶液から骨を抽出するステップ;
b)未処理の、またはステップ
aに由来する魚の骨を105~110℃で終夜乾燥するステップ;
c)1リットルあたり12g以下の、魚の骨の分量とオーブンチャンバーの容積との比率を有するような量で、ステップ
bに由来する魚の骨を、開放または換気オーブンに置き、魚の骨を1cm以下の厚さで層上に配置するステップ;
d)30分~8時間の時間、700℃~1000℃の温度で、酸化性雰囲気中、魚の骨を処理して、粒の成長と合体を促進し、250nm超の粒子を得るステップ;
e)200℃未満の温度に冷却後、ステップ
dの熱処理から得られた生成物を粉砕し、250nm~50μmのサイズの粉末の画分を選択するステップ;
を含む、前記プロセス。
【請求項2】
機械的処理によって、または熱水または化学薬品の水溶液での数時間の期間の処理によって、魚の骨を有機組織の残留物から事前に洗浄する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
任意のステップaにおいて、前記溶液が、1以上の前記元素の可溶性酢酸塩、塩化物、硝酸塩、または有機金属化合物を溶解して得られ、1~10g/Lの濃度の1以上の前記元素を有し、溶液中に最初にある1以上の前記元素の総量と、骨との重量比率が0.1~50%であるような体積で使用される、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップeの粉末の画分の選択が、ふるい分け、空気分級、または微細化によって行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
- 25.0~44.0wt%、好ましくは28~40wt%、より好ましくは30~36wt%のカルシウム;
- 14.0~22.0wt%、好ましくは15~18wt%のリン;
- 15wt%未満の亜鉛、チタン、マグネシウム、マンガン、スズ、セレンおよび銀の含量;
を含み、
- 42m
2/cm
3未満の体積比表面積;
- 以下の範囲:+93.0~+100.0のL、-3.00~+3.00のa、および-3.00~+3.00のbのCIELab座標;
により特徴付けられる、
Zn、Ti、Mg、Mn、Sn、Se、およびAgから選択される1以上の元素の1以上の酸化物と組み合わせた、請求項1に記載の、場合によっては改変された、ヒドロキシアパタイトまたはヒドロキシアパタイトおよびベータ-リン酸三カルシウムの混合物。
【請求項6】
-20℃~40℃の温度の範囲において液体であるビヒクル中に分散させた、0.5~50wt%、好ましくは0.5~30wt%、およびより好ましくは0.5~20wt%の請求項5に記載の粉末を含む、化粧用光保護組成物。
【請求項7】
有機または無機UVフィルター、日焼け剤、レオロジー添加剤、緩衝剤、抗微生物剤、抗発熱剤、帯電防止剤、着色剤、皮膚コンディショニング剤、防腐剤、カバーリング剤、変性剤、脱色素剤、デタングリング剤、エモリエント剤、乳化剤、フィルム形成剤、保湿剤、およびウォータープルーフ構成要素の中から選択される1以上の化粧用成分をさらに含む、請求項6に記載の化粧用光保護組成物。
【請求項8】
老化防止剤および抗酸化剤から選択される少なくとも1つの活性成分をさらに含む、請求項6または7に記載の化粧用光保護組成物。
【請求項9】
化粧用組成物が、サンスクリーン製品、アイメイクアップ製品、フェイシャルメイクアップ製品、リップケア製品、ヘアケア製品、ヘアスタイリング製品、ネイルケア製品、ハンドケア製品、スキンケア製品、またはそれらの組み合わせ製品である、請求項6~8のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項10】
請求項5に記載の粉末が、薬学的に活性な剤、生物学的に活性な剤、消毒剤、防腐剤、香味剤、界面活性剤、油、フレグランス、精油、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの活性剤を伴う、請求項6~9のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項11】
UV-Aおよび/またはUV-B保護を有し、少なくとも1つの無機または有機UVフィルターおよびそれらの混合物を含む、化粧用組成物のサンプロテクションファクター(SPF)をブーストするための請求項5に記載の粉末の使用。
【請求項12】
0℃~40℃の温度の範囲において液体であるビヒクル中に分散された、0.5~95wt%の請求項6に記載の粉末を含む、植物のための光保護組成物。
【請求項13】
湿潤剤、分散剤、乳化剤、防腐剤および/または殺生物剤、ならびに紫外線、可視および/または近赤外線の放射線の透過を低減させる、植物上にフィルムを形成するための粒子のうちから選択される少なくとも1の構成要素をさらに含む、請求項12に記載の植物のための光保護組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、ヒドロキシアパタイトまたは純粋なヒドロキシアパタイトの元素とは異なる元素のイオンで改変されたヒドロキシアパタイトの粒子により形成され、任意にリン酸三カルシウムとおよび前記元素の酸化物と混合された、物理的タイプの太陽光フィルターおよび光保護ブースト剤の機能を有する材料の、魚の廃棄物から出発する、生産のためのプロセスに関する。本発明はまた、上記に示した材料およびそれを含む化粧用組成物にも言及する。その上、材料は、植物の光保護のための製剤において活性成分として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
技術水準
太陽放射線、とりわけこの放射線のスペクトルの紫外線構成要素(UV)は、様々な種類の光化学的分解の原因であることが知られている。ヒトにおいては、とりわけ、UV線への急性および慢性曝露は、皮膚の発疹、熱傷、光老化、光免疫抑制、および潜在的な皮膚がんの発症(光発癌)につながり得る。植物においては、実例として、特許出願WO2009/064450Alに記載されるように、過剰な量のUV放射線が葉および果実の漂白、二酸化炭素固定および酸素発生の減少、乾燥重量、デンプンおよびクロロフィルの含有量の減少、植物成長の著しい減少、および潜在的に深刻な酸化ストレスを決定し得る。
【0003】
UV放射線は、約100~400nmの波長スペクトルの部分を含み、UVC(100~280nm)、UVB(280~320nm)、UVA(320~400nm)にさらに分けられる。280nm未満の波長は大気中のオゾンにより吸収されて地表に到達しないため、UVC放射線は実用上あまり関心がない一方で、UVAとUVBへの暴露は避けられないと考えられている。
UV暴露の悪影響を防止または軽減するために、いわゆるサンスクリーン、つまり、保護すべき部分に分配することができ、一般に太陽光フィルターと称される、1つ以上の構成要素が分散したビヒクルによって形成される液体組成物が使用されており、それは、当該部分それ自体に到達するUV放射線の量を減少させることができる。
【0004】
太陽光フィルターは、2つの主なクラス:光保護における活性構成要素がUV線を吸収することができる有機分子である化学的または有機的なフィルター、および、放射線を反射する物理的な障壁を含む物理的または無機的なUVフィルター、に分けられる。
化学的なタイプの光保護構成要素のなかでは、名称アボベンゾンと一般的に称される、1-(4-メトキシフェニル)-3-(4-tert-ブチルフェニル)-プロパン-1,3-ジオンなる化合物が最も広く使用されている一方で、もっとも一般的に使用される物理的な化合物の中では、TiO2およびZnOを特に言及することができる。
しかしながら、現在市販されている太陽光フィルターは重大な問題から免れていない。
【0005】
化学的なフィルターに観察される問題は、それらの光触媒活性であり、それらの光化学的な分解および/またはサンスクリーン製剤中の他の構成要素の分解および、フリーラジカルおよび他の反応種の生成を導く可能性があり、これらの反応種自体がUV曝露に伴う健康問題の原因となる可能性がある;この点に関しては、例えば、論文“Current Sunscreen Controversies: A Critical Review” M. E. Burnett et al., Photodermatology Photoimmunology and Photomedicine, 2011, 27(6): 58-67を参照のこと。
【0006】
物理的なフィルターに関しては、それらの使用の増大に起因して、環境中(特に沿岸水域中)におけるTiO2およびZnOナノ粒子の濃度の増大が近年検出されており、これらのナノ粒子は、水生および陸生種の両方に生態毒性効果を発揮している;これらのナノ粒子はまた、それらの光触媒活性に起因する悪影響も有する;この点に関しては、例えば、論文“Ecotoxicity of manufactured ZnO nanoparticles - A review” H. Ma et al., Environmental Pollution, 2013, 172, 76-85を参照のこと。
【0007】
無機ナノ粒子ベースのUVフィルターの使用に関する別の問題は、損傷したまたは疾患を有する皮膚の場合において、サンスクリーンの局所適用後の後者の表皮浸透である;この現象は、クリーム自体の望ましくない白色効果を避けるために採用されている、クリーム中のこれらの酸化物の粒子のナノメートル寸法によって支持されている;この点に関しては、例えば、論文“Toxicity and penetration of TiO2 nanoparticles in airless mice and porcine skin after subchronic dermal exposure”, Jianhong Wu et al., Toxicology letters 191 (2009) 1-8を参照のこと。
【0008】
これらの問題を克服するために、上記のもの以外の化合物、とりわけ単純なまたは改変されたヒドロキシアパタイトをベースとした材料に基づく物理的な太陽光フィルターが近年提案されている。
ヒドロキシアパタイトは、式Ca5(PO4)3(OH)の化合物であり、本記載においてもまた使用される略語HAによって、文献においても言及されている。本記載における「改変ヒドロキシアパタイト」とは、基本式のCa2+、PO4
3-またはOH-イオンの一部が他のイオンで置き換えられているHAを意味する。
【0009】
特許EP2410974B1は、化学的なフィルターおよびカルボン酸の金属塩からなる第3の構成要素を組み合わせた、サンスクリーンにおけるナノ構造HAの使用を開示している。この文書によれば、サンスクリーン中に存在するHAは、好ましくは1~200nmの範囲、より好ましくは5~95の粒子サイズを有する;これらの範囲の粒子サイズのHAは、サンスクリーンが使用される化粧用組成物中のヒドロキシアパタイトのより優れた分散を可能にし、よって、適用の際に皮膚上でのその分布および吸収を有意に改善し、同時に有利に白色効果を低減する。この文書は、HAの供給源または調製の方法について言及していない;そのうえ、HAは活性フィルターとしてではなく、サンスクリーンの他の構成要素の太陽保護効果(SPF、太陽保護係数)のブースターとしてのみ示されている。
【0010】
論文“Effect of Zn2+, Fe3+ and Cr3+ addition to hydroxyapatite for its application as an active constituent of sunscreens”, Journal of Physics: Conference Series 249 (2010)、および“Phosphates nanoparticles doped with zinc and manganese for sunscreens”, Materials Chemistry and Physics 124 (2010) 1071-1076(いずれもT.S. de Araujoらの名前で)は、サンスクリーンにおいて使用のために、カルシウムの示されたイオンでの部分的な置換を有する改変HAの生産を報告している。これらの2つの記事において、材料の調製は、合成的に、すなわち、改変されたHA仕様の前駆体化合物として、カルシウムおよび言及された他の金属の硝酸塩、およびリン酸アンモニウムを含有する溶液から出発する共沈によって行われる。この論文は、物理的なサンスクリーンの典型的なサイズ範囲が70~200nmであることを報告している。
【0011】
特許出願WO2017/153888A1には、de Araujoらによる2つの引用記事と同様の合成ルートが記載されておる;得られた生成物は、カルシウムの代わりに鉄、リンの代わりにチタンが同時に置換されている化合物である。結論として、この論文は、サンスクリーンに適用するために好適な粒子は、120nm未満のサイズを有することが報告されている。
したがって、これらの文書に記載されているHAは、化学合成によって得られ、これはときには化粧品消費者に容易に受け入れられない;他方でグリーン化合物および/または天然起源の化合物の使用は、一般大衆にとってはるかに許容される。
【0012】
特許出願US2017/0119636A1および論文“A hydroxyapatite-Fe2O3 based material of natural origin as an active sunscreen filter”, C. Piccirillo et al., J. Mater. Chem. B, 2014, 2, 5999-6009は、鉄イオンの溶液で処理され、その後にか焼されたタラの骨から生産された、カルシウムイオンの鉄およびFe2O3(ヘマタイト)での部分的に置換による改変HAを含む混合物の生産を記載している。この調製ルートは、特別に生産された化学化合物の使用を回避でき、水産業の廃棄材料を原材料として使用するという利点を提供する;しかしながら、これらのサンスクリーンは、赤色を有し、その強度がHA/ヘマタイト構成要素の比率に依存し、最終的な化粧用製品への適用が制限されるという不利益な点がある。この文書に記載されている改変HAは、粒子の大多数のサイズがほぼ150nmであり、本質的に50~200nmの範囲にある粒サイズを有する粉末の形態である(段落[0072]を参照のこと)。
【0013】
植物のための光保護組成物については、一般的に、ナノ粒子の形態で物理的なサンスクリーンを含有するか、または鉛、カドミウム、フッ化物、ヒ素、アルミニウム、および/またはケイ素などの望ましくない夾雑物を含有する化学物質および/または成分を含む。
その他、いくつかのサンスクリーン製剤は、サンスクリーン製剤をより疎水性にするために合成成分を採用する場合がある。
【0014】
UVフィルターの基本的な特徴はその色であり、最終的な製剤の色、ひいてはサンスクリーンクリームを局所的に適用したときの皮膚の色が変化しないような白色でなければならない。肌の不自然な色調は不快であり、さらに重要なことに、上昇する日焼けの形成などの太陽光への過度な暴露による影響をカバーすることができるため、これは消費者の知覚および安全性の両方に関わる極めて重要な特色である。
したがって、この分野において、化粧用組成物に使用するためにも、植物の光保護のためにも、上記に概説される問題のない、利用可能なサンスクリーンを入手する必要性がある。
【0015】
本発明の目的は、太陽光フィルターとして有用な材料を提供するとともに、その生産のためのプロセス、およびそれを含む化粧用または植物光保護組成物を提供することである。
【発明の概要】
【0016】
本発明の概要
これらの目的は、第1の側面において、リン酸三カルシウムのおよびヒドロキシアパタイトを改変するために使用される元素の酸化物の粉末と任意に組み合わせた、魚類副産物から出発する、粉末の形態におけるヒドロキシアパタイトまたは改変ヒドロキシアパタイトの生産のための、プロセスであって、以下のステップ:
a)任意に、改変ヒドロキシアパタイトを生産することが望ましい場合、Zn、Ti、Mg、Mn、Sn、SeおよびAnの中から選択される1以上の元素のイオンを含有する溶液に魚の骨を15分~24時間の時間浸漬し、これに続いて前記溶液から骨を抽出するステップ;
b)未処理の(pristine)、またはステップaに由来する魚の骨を105~110℃で終夜乾燥するステップ;
c)1リットルあたり12g以下の、魚の骨の分量とオーブンチャンバーの容積との比率を有するような量で、ステップbに由来する魚の骨を、開放または換気オーブンに置き、魚の骨を1cm以下の厚さで層上に配置するステップ;
d)30分~8時間の時間、700℃~1000℃の温度で、酸化性雰囲気中、魚の骨を処理して、粒の成長と合体を促進し、250nm超の粒子を得るステップ;
e)200℃未満の温度に冷却後、、ステップdの熱処理から得られた生成物を粉砕し、250nm~50μmのサイズの粉末の画分を選択するステップ;
を含む、前記プロセス
に関する、本発明により達成される。
【0017】
この第2の側面において、本発明は、ヒドロキシアパタイト、または0.1~15%の重量パーセンテージでZn、Ti、Mg、Mn、Sn、SeおよびAgから選択される1以上の元素で改変されたヒドロキシアパタイトの粉末に関し、場合によっては、リン酸三カルシウムおよび/または1以上の前記元素の酸化物と組み合わされ、250nm~50μmの範囲のサイズの粒子を有し、白色を有することにより特徴付けられ、ここで、この特徴は、以下の範囲:+93.0~+100.0の範囲のL、-3.00~+3.00の範囲のa、および-3.00~+3.00の範囲のbのCIELab座標を有することにより定義される。
【0018】
この第3の側面において、本発明は、上記の粉末を含む化粧用サンスクリーン組成物に関する。
最終的に、その最後の側面において、本発明は、上記の粉末を含む植物のためのUV光保護組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面の簡単な説明
【
図1】
図1は、種々の温度における処理後の、本発明の材料の6つの試料のX線粉末回折パターンを示し、そのうち3つはイワシの骨から得られ、3つはサケの骨から得られた。
【
図2】
図2は、種々の温度で処置後のイワシおよびサケから得られた本発明の材料の様々な試料の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【
図3】
図3は、本発明の材料の試料、および比較として酸化亜鉛のもののUV放射線の反射スペクトルを示す。
【
図4】
図4は、本発明の材料の水/エタノール懸濁液、ならびに比較として酸化亜鉛のものおよび鉄をドープしたヒドロキシアパタイトのもののUV放射線の吸光スペクトルを示す。
【
図5】
図5は、酸化亜鉛、本発明の材料、およびそれらの混合物(ブースターとして標識される)の水/エタノール懸濁液の吸光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の詳細な説明
本発明は、図を参照して以下に詳細に説明される。
本文中に示されているすべてのパーセンテージおよび濃度は、別様に明記されていない限り、重量によるものである。
本発明で生産および使用される材料は、式Ca5(PO4)3(OH)のヒドロキシアパタイトであり(しばしば、その二量体Ca10(PO4)6(OH)2としても報告され、これは、結晶の基本のセル中の2つの基本的な式単位の存在を反映する)、場合によっては、カルシウムが、Zn、Ti、Mg、Mn、Sn、Se、およびAgから選択される1以上の元素によって部分的に置き換えられている、および/またはリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンが同じ元素の1以上のオキシアニオンによって部分的に置き換えられている、改変された形態であり、および場合によっては、リン酸三カルシウム、Ca3(PO4)2、および1以上の前記元素の酸化物と混合されている。リン酸三カルシウムは、存在する場合、一般にそのβ多形の形態であり、低温において安定である:この化合物はまた多形αおよびα’の形態でも存在するが、それらの形成には本発明のプロセスのものよりも高い温度が必要である。化合物β-Ca3(PO4)2は、文献では略語β-TCPとも称され、本説明においても使用される。したがって、用語「本発明の材料」は、別様に特定されない限り、上記の1以上の元素で改変されているまたはされていないヒドロキシアパタイト、β-Ca3(PO4)2、および場合によっては少量の前記元素の1以上の酸化物の混合物として一般的に理解され;これらの1以上の元素は、「ドーピング元素(単数または複数)」とも称される。本発明の改変HA中のドーピング元素の量は、0.1~15%の範囲であり得る。
【0021】
本発明のプロセスにおいて、海水および淡水の両方の本質的にあらゆる種類の魚、例えば、スズキ、タイ、ヒラマサ、タラ、ティラピア、コイ、および好ましくは油性魚、サバ、マグロ、メカジキ、マス、サケ、イワシ、ニシン、およびカタクチイワシを含む魚類の広いクラスなどの骨を使用することが可能である。
【0022】
ステップb、またはaおよびbを行う前に、魚の骨は、任意で、例えば機械的処理によって、または熱水(例として80℃)もしくは化学薬品、例えば次亜塩素酸ナトリウムの水溶液での数時間の期間の処理によって、有機組織の残渣を事前に洗浄してもよく、および好ましくはそのようにする;そのように洗浄された骨は、次いで、即時に使用され、またはその後行われる処理の調製において乾燥および保管される。
任意のステップaは、改変HAを生産することが所望される場合に行われる。このステップは、Zn、Ti、Mg、Mn、Sn、Se、およびAgまたはそれらの混合物から選択される1以上のドーピング元素のイオンを含有する溶液に、4℃~80℃の範囲の温度で、15分~24時間の時間、魚の骨を浸漬することからなる。
【0023】
溶液の溶媒は完全に水性でなくてもよく、実例として、ヒドロアルコール溶液でもよい;しかしながら、水溶液(すなわち、水が唯一の溶媒である)が通常および好ましくは採用される。溶液は、最終的なHAを改変することが所望される1つ以上のドーピング元素の室温で可溶性な化合物を用いて生産される;この目的に好適な可溶性の化合物は、例えば、引用した元素の塩または有機金属化合物である。塩の中でも、酢酸塩または他の有機酸の塩、ほとんどの元素(例えば銀を除く)の塩化物および硝酸塩を使用することができ;好ましい塩は硝酸塩および塩化物である。好ましい有機金属化合物は、引用した元素のアルコキシドである。溶液は、1以上のドーピング元素に関して、好ましくは1~10g/Lの濃度を有し、魚の骨を完全に覆うような体積で、最初の溶液中のドーピング元素の総量と骨との重量比率が0.1~50%になるように使用される。元素化合物の溶液中での骨の浸漬は、4~80℃の温度、好ましくは室温で、15分~24時間の時間で延長される。この処理の後、次のステップで使用するために、骨は溶液から抽出される。
【0024】
ステップb、すなわち、終夜、105~110℃の温度での、未処理の、またはステップaに由来する魚の骨の乾燥は、試料の含水量を減少させるために行われる。
続くステップcは、開放または換気オーブンの内部に魚の骨を配置することからなる。オーブンに置く魚の骨の分量は、オーブンチャンバーの容積に比例し、魚の骨の分量とオーブンの容積との比率が1リットルあたり12gを超えないように維持しなければならない。
【0025】
材料は、魚の骨の内部および中の有機物を完全に燃焼させ、白色材料を得ることを確実にするために、1cm未満の厚さの層の形態でオーブンに置く。魚の骨が粉末形態である場合、0.2mm未満の画分をふるいにより分離する。有機物の完全な酸化を達成し、白色の材料を得るために、この画分を0.5cm未満の厚さの層の形態でオーブンチャンバーに置かなければならない。
【0026】
本発明者らは、骨または骨粉末のサイズに応じて、上記の厚さ値を有するベッドに魚の骨を敷くことが、所望の色(上述のCIELab座標で定義される白色度)を有する最終的な粉末を得るための必須条件であることが観察された。
【0027】
これに続くステップdは、酸化雰囲気のオーブンで、30分~8時間の時間、700℃~1000℃の温度で骨をか焼することからなる。この熱処理は、静的な雰囲気下で、または酸化ガス、一般に空気の流れの下で行うことができる。この熱処理の間、魚の骨は、有機物の酸化と250nm超の粒サイズの粒子への鉱物粒子の合体からなる構造変化を受ける。
【0028】
本発明者らは、ステップdの熱処理を700℃未満または1000℃超の温度で行った場合、得られる材料のUV吸収特性が悪化し、効率的でないサンスクリーン効果を導くことを観察した。
初期温度、通常は室温から、選択された最終温度までの加熱は、好ましくは、例えば2℃/分の一定の昇温で行われ、最終温度で30分~8時間の時間維持され、最終的に200℃以下の温度、好ましくは室温で自然または強制的に冷却される。
【0029】
所望の最終冷却温度に達した後、ステップeでは、か焼された骨を、いずれかの既知の方法、例えば手動で(乳棒を使用した乳鉢で)、ボールミルで、または同種のものなどで粉砕する。粉砕後、得られた粉末を機械式ふるいでふるいにかけ、50μm未満のサイズの粉末の画分を選択する。機械式ふるいは市販されており、一般的に「メッシュ」という単位で示され:50μm未満の粒子サイズを有する粉末の画分は、270メッシュの市販のふるいでのふるい分けにより回収される。このステップは、粉末をならし、大きな凝集体を取り除くのに役立つ;他方で、250nmの下限サイズは、骨が供される熱処理により保証される。
【0030】
代替的に、材料は、微粉化または空気分級によって、50μm未満の粒子サイズを有する粉末の形態で還元(reduced)することができる。
その第2の側面において、本発明は、以下で「本発明の材料(単数または複数)」とも称される、上述のプロセスの結果として得られる粉末に関する。
【0031】
これらの粉末は、一般に、プロセスの任意のステップaが行われない場合、骨が使用される魚のタイプとか焼温度に従って種々の比率のHAおよびβ-TCPを含む相の混合物により構成される;代替的に、ステップaが行われた場合、これらの粉末は、一般に、改変HA、β-TCP、およびステップaで使用されたドーピング元素の少量の酸化物を含む相の混合物により形成される。
本発明の材料は、以下の平均化学組成を有する:
- 25.0~44.0wt%、好ましくは28~40wt%、より好ましくは30~36wt%のカルシウム;
- 14.0~22.0wt%、好ましくは15~18wt%のリン;
- 亜鉛、チタン、マグネシウム、マンガン、スズ、セレン、および銀のうちの1つ以上のドーピング元素が存在する場合、前記ドーピング元素の総量は15wt%未満である。
【0032】
一般に、使用する骨のタイプおよびHAが改変されているか否かに関わらず、β-TCP/HA比率はか焼温度の上昇とともに増大する;同様に、別の相としてのドーピング元素の酸化物の量もか焼温度の上昇とともに増大する。使用する骨のタイプの最終生成物に与える影響に関して、本発明者らは、例えば、イワシの骨の場合、1200℃までのすべてのか焼温度において、HA相が大部分を占めたままであり(約85重量%の最小分量)、一方、サケの骨を使用すると、最も低い試験温度ですでにβ-TCPが優勢な相として得られ(例えば、600℃での処理後、約54%)、β-TCP/HA比率はか焼温度の上昇とともに安定したままであることを観察した。
【0033】
材料の化学組成は、使用する魚の骨のタイプおよび種々のか焼温度の違いによって変化する。サケの骨の場合、本発明者らは、か焼温度の上昇に伴い、材料内部のカルシウムおよびリン濃度が徐々に増大することを観察した。イワシの骨の場合、この増大は、600℃~700℃のか焼温度でのみ観察され、一方、700℃~1000℃の温度では、カルシウムとリンの濃度はほぼ一定のままであった。
【0034】
使用される魚の骨の種類に関わらず、か焼から得られる粉末の体積比表面積(VSSA)は、か焼温度の上昇とともに減少する。一例として、イワシの骨の600℃でのか焼から得られた粉末は20.13±3.10m2/cm3のVSSAを有し、一方で、1000℃で得られた粉末は7.20±2.05m2/cm3のVSSAを有した。同様に、サケの骨の600℃および1000℃でのか焼から得られた粉末のVSSA値は、夫々21.12±3.52m2/cm3および8.92±1.93m2/cm3であった。
【0035】
本発明の材料は色に特徴があり、この特徴は以下の範囲:+93.0~+100.0の範囲のL、-3.00~+3.00の範囲のa、-3.00~+3.00の範囲のbのCIELab座標を有すると定義される。これらの色座標の達成は、本発明のステップbに記載されるオーブン内部の魚の骨の配置、つまり、魚の骨の量とオーブンの容積との比率を1リットル当たり12g未満に維持することにより、および魚の骨を1.0cmよりも薄い層に、0.2mmよりも小さいサイズの微細な魚の骨粒子の場合には、0.5cmよりも薄い層にアレンジすることにより確実となる。
【0036】
第3の側面において、本発明は、少なくとも1つの液体ビヒクルおよび本発明の材料を含む化粧用組成物に関する。ビヒクルは、これらの化粧用組成物への適用に典型的な温度の範囲、およそ山中での使用のために約-20℃から約40℃で液体のままであるか、または少なくとも手で広げられる状態でなければならない;これらの特徴を有する液体ビヒクルは、化粧用組成物の分野において当業者に周知である。
【0037】
これら2つの主な必要な構成要素に加えて、化粧用組成物は、好ましくは1以上の好適な化粧用成分を含み、これらの組成物の処方の分野で知られている広範囲の添加剤から選択することができ、その中には、いくつかの例を挙げるだけでも、他の有機または無機のUVフィルター、日焼け剤、レオロジー添加剤、緩衝剤、抗微生物剤、抗発熱剤、帯電防止剤、着色剤、皮膚コンディショニング剤、防腐剤、カバーリング剤、変性剤、脱色素剤、デタングリング剤、エモリエント剤、乳化剤、皮膜形成剤、および保湿剤がある;水に浸漬した場合に、組成物に耐性を与える防水構成要素を添加することもできる。
【0038】
好ましい態様によれば、前記化粧用組成物は、有機および無機のUVフィルター、抗老化剤および抗酸化剤から選択される少なくとも1の活性成分をさらに含む。
一態様によれば、化粧用組成物は、サンスクリーン製品、アイメイクアップ製品、フェイシャルメイクアップ製品、リップケア製品、ヘアケア製品、ヘアスタイリング製品、ネイルケア製品、ハンドケア製品、スキンケア製品、またはそれらの組み合わせ製品である。別の態様によれば、本発明の材料は、薬学的な活性剤、生物学的な活性剤、殺菌剤、防腐剤、香味剤、界面活性剤、油、フレグランス、精油、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの活性剤を伴う。
【0039】
前記化粧用組成物において、本発明の材料は、化粧用組成物の総重量に基づいて、0.5~50wt%、好ましくは0.5~30wt%、より好ましくは0.5~20wt%の量で存在する。この範囲の組成物中の本発明の材料の量は、要求されるSPFレベルに応じて、高いUV遮蔽能力および皮膚への最小限の白色効果との間の良好な妥協を確実にする。
【0040】
本発明の材料を含有する化粧用組成物は、クリーム、ゲル、乳液、スプレー、エマルジョン、ローション、保護マスク、ファンデーション、オイル、または皮膚への適用のための化粧品分野で知られている他の製剤の形態であり得る。好ましくは、化粧用組成物はエマルションの形態である。乳液は、高いパーセンテージの水を含有し、容易に広げることができるが、他の製品よりも頻繁に再適用しなければならない。クリームは高い粘着性を有し、広げるのがより困難であり、一般に顔に使用される;それらはしばしば油分が多く(greasy)、この理由のためにこれらはすべての皮膚タイプに好適ではない。親水性のゲルは、太陽光フィルター製品が分散されているビヒクルが、皮膚に油分を与える脂肪性物質を含有しないため、オイリー皮膚の人により好適である。
【0041】
最終的に、その最後の側面において、本発明は、少なくとも1つの液体ビヒクルおよび本発明の材料を含む植物サンスクリーン組成物に関する。これら2つの主に必要な構成要素に加えて、植物用サンスクリーン組成物は、好ましくは、以下の成分の1以上を含む:(i)他の有機および無機の光保護剤;(ii)界面張力を低下させ、サンスクリーン製剤の成分の効率的な混合を可能にし、サンスクリーン製剤による植物組織の表面の均一な被覆を容易にする湿潤剤;(iii)分散体の状態を保持し、水性懸濁液の再凝集を防止する分散剤;(iv)水性懸濁液を安定化するための乳化剤;(v)微生物集団を減少させるか、または微生物の成長を防ぐための防腐剤および/または殺生物剤;および(vi)紫外(UV)、可視光(VIS)および/または近赤外(NIR)放射線の透過を低下させるフィルムを形成するための有効濃度の粒子。
【0042】
前記植物用サンスクリーン組成物において、本発明の材料は、組成物の総重量の5~95%、好ましくは5~80%の量で存在する。
本発明は、特徴付け試験を行うための方法の説明、および本発明の材料の様々な形態の生産およびそれらの特性の測定の例を含む、以下の実験部分によってさらに説明される。
【0043】
方法および器械
化学分析
生産された試料中のCa、ドーピング元素、およびPの含量を、Liberty 200分光計(Agilent Technologies 5100 ICP-OES, Santa Clara, CA)を用いた誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により決定した。
ICPアッセイ溶液は、両者ともにSigma-Aldrichから購入した、2%HNO3(純度分析グレード=65%)または2%HCl(純度分析グレード=37%)の50mLの水溶液中に20mgの試料を溶解することにより調製した。
【0044】
回折分析
各試料の相組成を、40kVおよび40mAで生成されたCu Kα放射線(λ=1.54178Å)を使用したLynx-eye位置感知検出器を備えたD8 Advance回折計(Bruker, Karlsruhe, Germany)を用いたX線回折(XRD)により決定した。XRDスペクトルは、0.02°のステップ(2θ)および0.5秒のカウント時間で、2θフィールド10~60°で記録した。
【0045】
SEM分析
試料の形態を、走査電子顕微鏡(SEM)(FE-SEM, Carl Zeiss Sigma NTS GmbH Oberkochen, Germany)を使用して分析した。
【0046】
DLS分析
材料の流体力学的直径分布を、Zetasizer Nano ZS(Malvern Ltd., Worcestershire, UK)で動的光散乱(DLS)によって測定し、z平均値として報告した。各材料について安定した懸濁液を、各試料のアリコートを1.0mg/mlの濃度で再蒸留水に分散させることにより得られた溶液をチップソニケーターにより超音波処理することによって得た。超音波処理の間に試料を冷却するために懸濁液を氷浴に置き、最後にDLSにより分析した。各測定について30秒の10回の実行を行い、4回の測定を1時間の期間にわたって各試料について行った。
【0047】
色決定
試料の色を、CM-700d分光光度計(Konica-Minolta, Japan)で測定し、座標L=97.59、a*=0.07、b*=1.89を有する標準的な白色プレートで校正した。データをCIELabシステムに従って表現した。
【0048】
UV-可視反射率および吸光度
試料の紫外-可視反射スペクトルを、積分球を備えたCary Bio分光光度計(Varian, Palo Alto, USA)を用いて得て;装置はSpectralon standard(Labsphere SRS-99-010)を用いて較正した。
【0049】
本発明の材料を20wt%含有する仮想的なサンスクリーンの太陽保護係数(SPF)の直接的な推定を得るために、論文“Reliable and simple spectrophotometric determination of sun protection factor: A case study using organic UV filter‐based sunscreen products”, S.I. Yang et al., Journal of cosmetic dermatology 17(3), 518-522 (2018)に記載されている方法にいくつかの修正を加えた方法を使用して吸光プロファイルを取得した。
手短に言えば、200mgの本発明の材料を100mLのメスフラスコに移し、クエン酸緩衝液0.1M、pH6.2で容量まで希釈し、5分間超音波処理した。5.0mLのアリコートを50mLのメスフラスコに移し、水/エタノールの混合物で容量まで希釈した。
【0050】
得られた溶液の吸光度を、キュベットモードで行った、反射率測定に使用したのと同じ分光光度計により記録した。記録されたデータを式によってサンスクリーンのin vitroSPFを推定するために使用した:
【数1】
式中:
-EE(λ):紅斑効果スペクトル;
-I(λ):太陽光強度スペクトル;
-Abs(λ):サンスクリーン製品の吸光度;
-CF:補正因子(=10);
-6.65は、補正係数である。
【0051】
式は、論文“Determinacaao do fator de protecaao solar por espectrofotometria”, J.D.S. Mansur et al., An. Bras. Dermatol., 61, 121-124, 1986で提案されたものに由来し、8%のホモサレート(3,3,5-トリメチルシクロヘキシル-2-ヒドロキシベンゾアート)を含有する標準的なサンスクリーン製剤が4のSPF値を示すように考案された。
EE×I値は定数であり、論文“A comparison of in vivo and in vitro testing of sunscreening formulas”, R.M. Sayre et al., Photochemistry and Photobiology 29(3), 559-566 (1979)において、それらの合計が1となるように決定された。
【0052】
体積比表面積(vSSA)
試料のVSSAを液体窒素温度(-196℃)でCONTROL 750(CE Instruments)装置を用いて、Brunauer-Emmett-Teller(BET)モードを使用して測定した。分析前に試料を30分間、100℃で空気乾燥させた。
【0053】
例1
この例は、イワシおよびサケの骨から出発するHAをベースとした材料の調製についてである;これらには、本発明による材料と本発明によらない材料の両方が含まれる:後者は、魚の骨の700℃未満または1000℃超の温度でのか焼により生産された材料であり、比較の目的のために調製されている。
【0054】
300gのイワシの骨を100mLの80℃の熱水に2時間浸漬した。次いで、材料を開放オーブンで、105℃で終夜乾燥させた。このようにして得られた材料を、1cm未満の厚さの層の形態で、25Lの容積を有する開放オーブンの内部に置き、大気条件下で熱処理した。
使用した熱プログラムは、室温から600℃まで2℃/分で昇温し、この温度で1時間維持し、次いでシステムを室温まで冷却した。
オーブンから回収した材料をメノウ乳鉢で粉砕し、50μmでふるいにかけ、150gの最終生成物の分量を得た。この材料は、以下の表1において、SDnCaP-6と名付ける。
【0055】
上述の手順をイワシの骨とサケの骨で繰り返し、か焼温度を600~1200℃で変更した。生産された材料はすべて、魚の骨を、1cm未満の厚さ(0.2mm超の魚の骨の場合)または0.5cm未満の厚さ(0.2mm未満のサイズの魚の骨粉末の場合)を有する層上でオーブン内部に置いて得られた。イワシの骨とサケの骨から得られた試料は、表1に報告されるように、夫々SDnCaP-6~SDnCaP-12、およびSMnCaP-6~SMnCaP-12であった。
【0056】
改変HAの試料を得るために、300グラムの魚の骨を100mLの80℃の熱水で2時間洗浄した。次いで、材料を紙の上で乾燥させ、所望の元素の化合物の80℃で維持された200mLの溶液に2時間浸漬した。
亜鉛ドーピングの場合、水溶液の調製に硝酸亜鉛(ZnNO3)を使用した。チタンドーピングの場合、80℃に維持した200mLのイソプロパノール中チタンイソプロポキシド(Ti(OCH(CH3)2)4)の溶液に魚の骨を2時間浸漬した。これらの溶液の濃度は、以下の表1の最後の列で報告されているように、溶液中の金属/骨の重量比率(g/g)を提供するようなものであった。
【0057】
次いで、材料を105℃で終夜乾燥させ、1cm未満の厚さの層の形態で開放オーブンに置き、大気圧条件下で熱処理を行った。
使用した熱プログラムは、室温から1000℃まで2℃/分で昇温し、次いで、システムを室温で冷却させる前に2時間安定させた。
オーブンから回収した材料を、メノウ乳鉢で粉砕し、50μmのふるいにかけた。
【0058】
上述の手順を、以下の表1にしたがって、種々の条件で繰り返した。
【表1】
【0059】
このように調製した試料のいくつかについて、ICP-OESによる化学分析を行った。その結果を表2に報告する。
【表2】
【0060】
表のデータから気づくように、一般に、ドーピングしていない試料において、化学組成のばらつきは、天然起源の骨(魚の種類)に主に起因するものであり、第2に処理の温度に依存している。700℃および900℃で処理されたサケおよびイワシの骨では、前者は後者に比べてCaとPの高い含量、およびHAの化学量論的な値である1.67に近いCa/P比率を示している。一般的に言えば、両方の種類の魚の骨において、か焼温度の増大とともに、CaおよびPの量が増大した。改変HA(他の可能なドーピング元素の代表としてZnを使用)の場合、1.42~1.47の狭い範囲のCa/P比率が見出され、ドーピング元素の供給源として使用した亜鉛塩の量との相関は見られなかった。しかしながら、材料内部のZn量は(Ca+Zn)/P比率の観点から、ドーピング溶液中のZn2+の量に比例して増大する。
【0061】
例2
例1で調製したいくつかの試料の色を測定し、相対的なCIELab座標を表3に報告する。表3に報告されているCIELab座標は、サケの骨の1000℃でのか焼により得られた試料の明るい白色から、600℃で得られた試料の薄い(tenuous)白色まで、すべての材料が白色を有していることを示す。
【表3】
【0062】
上の表で*および**で示された試料は、夫々、1cmの層の形態でオーブンに配置した0.2mm未満のサイズの粉末の形態の魚の骨から、および1cm超の層の形態でオーブンに配置した0.2mm超の魚の骨から得られた。
300g超の魚の骨を25Lの容積のオーブンに置いた場合、または魚の骨が1cm超の厚さの層で配置された場合、最終的な材料は灰色がかった色をしていた。例として、800℃および1000℃でか焼した、1.2cmの厚さの層に配置されたサケの骨で測定したL CIELAB座標は、他の試料よりもはるかに低い値を有した。
【0063】
例3
例1で調製した試料のいくつかをXRD分析に供し、これに続き、得られたデータをリートベルト法で精密化し、それらの相組成を評価した。これらの試験の結果を以下の表4にまとめた。
【表4】
【0064】
表のデータから、イワシの骨からのドーピングしていない材料の場合、HAが常に優勢な相であり、か焼温度の増大とともにβ-TCPの量が増大することが観察できる。この傾向は、
図1に報告する3つの重ね合わせたスペクトルでも見ることができ、黒色の三角形はHA相のピークを示し、黒色の円はβ-TCP相のピークを示す。サケの骨からのドーピングしていない材料の場合、
図1に報告するスペクトルからも観察することができるように、か焼温度にかかわらず、優勢な相は常にβ-TCPである。最終的に、(亜鉛をドーピングしたサケの骨からの)改変HAの場合、別の相として検出可能なZnOの量は、処理温度の増大とともに増大する。
【0065】
例1のいくつかの試料は、か焼温度に応じた形態の傾向を評価するためにSEMでも研究した。種々の温度で処理された種々の魚の骨から得られた試料のいくつかの顕微鏡写真が
図2に再現される:図では、左側の3つの顕微鏡写真(a、c、e)はイワシから得られた材料についてであり、一方、右側の3つの顕微鏡写真(b、d、f)はサケから得られた材料についてである;写真aおよびbは600℃での処理後に得られた試料のものであり、写真cおよびdは900℃での処理後に得られた試料のものであり、写真eおよびfは1200℃での処理後に得られた試料のものである。600℃ではイワシとサケ由来の粒子材料は両者とも球形であり、同様のサイズ(数十ナノメートル)であることが顕微鏡写真から見ることができる。温度を900℃に増大する場合、イワシの骨から得られた材料は、サケの骨から得られたものよりもはるかにサイズが増大し、一方で、1200℃では両者の粉末も焼結する。材料の体積比表面積(VSSA)は、それらの密度が3.14g/cm
3であることを考慮してBETにより測定した。ECの勧告(European Commission 2011/696/UE)によれば、VSSAが60m
2/cm
3超である場合、材料はナノ材料に分類することができる。分析は、600℃未満の温度で処理した骨は、60m
2/cm
3超のVSSAを有し、ナノ材料に分類できることが明らかとなった。他方、700℃超の温度で処理した骨から得られた材料は、一般的に42m
2/cm
3未満のVSSA値を有し、よってマイクロメートルサイズであることを示す。
【0066】
例4
超純水に懸濁した材料のz平均値を表5に報告する。得られた値から見ることができるように、主な粒子の平均サイズは、600℃で処理したイワシの骨の176nmから1000℃で処理したイワシの骨の755nmまでの範囲である。SEMにより観察されたサイズものよりも小さい粒子が存在は、上述したように、水に粒子を良好に分散させるために、測定前に懸濁液を超音波処理しているという事実により;この処理は、本発明のプロセスから得られる粒子を脱凝集することができる。魚の骨の起源に起因する材料のサイズの特定のばらつきが観察され;例として、サケの骨から得られた材料のz平均は、同じ温度のイワシの骨から得られた材料と比較して一般的に小さく、主な粒子の平均サイズは、600℃で処理されたサケの骨の132nmから1000℃で処理されたものの487nmまでの範囲であった。
【0067】
【0068】
例5
例1で調製したいくつかの試料の反射率および吸光特性を測定した。これらの試験の結果を、反射率については
図3に、吸光度測定については
図4に示す;これらの図において、比較のために、ZnOの類似したスペクトルが報告されている。
図3に見ることができるように、本発明の材料のすべての試料は、一般に、UVA-UVB領域においてZnOと比較して有意に高い反射率を示している。より詳細には、この図で報告されているすべての反射スペクトルの中で、900℃でか焼されたドーピングされていないサケおよびイワシの骨のものは、これらの2つのウィンドウ内でより高い値を有している。
【0069】
図4は、ZnOの懸濁液、M. Teixeiraらによる論文、Materials Science Engineering C, 71, 141 (2017)に従って生産されたFe-HAと示される鉄ドーピングHAの試料;本文中でCl5B_Mと示されている、ならびに水緩衝液およびエタノールの混合液に懸濁した本発明の材料のいくつかの試料のUV吸光スペクトルを示す。イワシの骨から得られた試料の懸濁液の吸光スペクトルは図の左側に報告されており、一方、サケの骨から得られたものは右側に報告されている。これらの試験は、ZnOおよびFe-HAの光保護能力を本発明の材料のそれと評価および比較するために行われた;様々な試験材料を用いて得られた理論上のUV保護ローションのin vitro SPFを測定するために、前出のYangらの方法を適用した。ZnO懸濁液のスペクトルは最も高い吸光値を示し、UVA領域の380nmの吸光ピークにより特色付けられる特異な形状を有していた。本発明の材料のスペクトルは、すべて同様の平坦な吸光プロファイルを有し、すべてがFeHAと比較してはるかに高い吸光値を有する。試料SDnCaP-7および試料SDnCaP-8の吸光強度は、記録されたものの中で最も高かった。900℃および1000℃で処理された試料では、UVA領域では軽い減少とともUVB領域での吸光値の減少が観察されたが、材料は依然として良好な光保護特性を示した。
種々の温度で処理されたサケの骨で観察された傾向は、イワシで説明したものと同じであった。
【0070】
図4に示されるスペクトルのデータから方程式(1)を使用して算出されるSPF値を表6に報告する。予想されるとおり、ZnO溶液が最も高いSPF値を示し、18に近い値であった。本発明の材料で最も高いSPF値は、ZnOのそれに匹敵するSPF値を有する試料SDnCaP-8において見出され、SDnCaP-10とSDnCaP-9が続いた。比較のために、FeHAのSPF値も表に報告する。600℃でのイワシの骨から得られたSPFは、観察された中で最も低かった。700~1000℃の範囲でか焼された材料で観察されるものと比較したSPFの低下は、低いUV吸光値が記録された1100℃および1200℃で処理した試料において観察された(8.0~10.0の範囲のSPF)。また、種々の温度で処理されたサケの骨で観察された傾向は、イワシについて記載したものと同じであった。
【0071】
これは、材料が700℃未満または1000℃超の温度で調製された場合、採用する魚の骨のタイプに関わらず、材料の光保護性能が大きく低下することを示唆する。
【表6】
【0072】
例6
天然の供給源から得られた本発明のHA/β-TCP材料の、ZnOの吸光特性をブーストする能力を評価するために、100ppmのZnOおよび100ppmのSDnCaP-8を含有する懸濁液のSPF値を測定した。相対的なスペクトルを、
図5に報告する。
本発明のZnOおよびHA/β-TCPの混合物(
図5ではブースターと標識される)は、最も高い吸光値を有し、18の相対的SPF値を有することが見出された。この懸濁液において、200ppmのSDnCaP-8の懸濁液と200ppmのZnOの懸濁液とを1:1で混合して得たように、ZnOの濃度はSPF17.9のZnO懸濁液の濃度(
図5のスペクトル)の半分であったことに留意されたい。
【0073】
結果に対するコメント
例5および6で得られた結果は、本発明の材料が、単独で使用した場合には物理的な太陽光フィルターとして、またZnOなどの一般的に使用されている物理的フィルターの特性のブースターとして、拡大すると有機フィルターの特性のブースターとして有効である;水産業の廃棄物のリサイクルから得られるこれらの材料は、サンスクリーン組成物の生産において、既知の物理的フィルターの有効な代替物となり得ることを確認する。
【国際調査報告】