IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マサチューセッツ・アイ・アンド・イア・インファーマリーの特許一覧 ▶ スケペンス アイ リサーチ インスティテュートの特許一覧

特表2022-526858アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/66 20060101AFI20220519BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220519BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20220519BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20220519BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220519BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220519BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220519BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20220519BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20220519BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20220519BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20220519BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C12N15/66 Z
C12N5/10
C12Q1/68 100Z
C12N15/864 100Z
C12N15/12
C07K14/47
C12N15/54
C12N9/12
C12Q1/02
C12N5/071
A61K35/76
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560682
(86)(22)【出願日】2020-04-13
(85)【翻訳文提出日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 US2020028015
(87)【国際公開番号】W WO2020210839
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】62/833,595
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596114853
【氏名又は名称】マサチューセッツ・アイ・アンド・イア・インファーマリー
(71)【出願人】
【識別番号】516106623
【氏名又は名称】ザ スケペンス アイ リサーチ インスティテュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ファンデンベルヘ,ルク・ハー
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD07
4B050EE10
4B050KK07
4B050LL10
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS38
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB40
4B065CA60
4C084AA13
4C084NA20
4C087AA03
4C087CA12
4C087CA20
4C087NA20
4H045AA10
4H045CA40
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書中において、アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善する目的で細胞を改変するための方法および組成物が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法であって、
細胞内でのHsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/またはサイクリン依存性キナーゼ2の発現または活性を増大させることにより改変細胞を産生する工程と、
前記改変細胞にAAVベクターを感染させることにより感染改変細胞を産生する工程と、
前記感染改変細胞を培養する工程と、
アセンブリされたAAVを集める工程とを含む、方法。
【請求項2】
集めた前記アセンブリされたAAVの量は、前記改変を有さない細胞をAAV感染させた後で集めた、アセンブリされたAAVの量よりも多い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法の結果として、AAVの力価が著しく増加する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法であって、
AAVを有する改変細胞から前記AAVを産生する工程であって、前記細胞が、CHMP7、CEP72、CNOT6、SLC9A6、PPHLN1、ATF7IP、SETDB1、GPR89B、KIF16B、ATAD3A、BAG2、STUB1、DNAJA1、DNAJC7、HSPA8、HSPA1A、CDK1、CDK2、CHCHD2、C1QBP、DPYSL5、FXR1、FXR2、IPO5、LBR、MTPN、NPM3、NPM1、PPL、SNX3、UBE2O、SAE1、CCDC124、GNB1、RAB1A、GNB4、RPL23、CKB、SRP9、UCHL1、およびTBCBから選択される1種もしくは複数種の遺伝子またはこれによりコードされるタンパク質の増加または減少を呈するように改変されている、工程と、
アセンブリされた前記AAVを集める工程と、を含む、方法。
【請求項5】
前記改変細胞は遺伝子操作細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子操作細胞は、ノックアウト、ノックダウン、過剰発現、またはこれらの組み合わせを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記改変細胞は、前記1種もしくは複数種の遺伝子またはこれによりコードされるタンパク質を増加または減少させる化学化合物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記化学化合物は、Cdk1阻害剤IV、Cdk2阻害剤II、アポプタゾール、ML-792、BML282、NSC348884、FDNB、およびバフィロマイシンA1からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アデノ随伴ウイルスをアセンブリするための無細胞培養系であって、
培養基と、
CHMP7、CEP72、CNOT6、SLC9A6、PPHLN1、ATF7IP、SETDB1、GPR89B、KIF16B、ATAD3A、BAG2、STUB1、DNAJA1、DNAJC7、HSPA8、HSPA1A、CDK1、CDK2、CHCHD2、C1QBP、DPYSL5、FXR1、FXR2、IPO5、LBR、MTPN、NPM3、NPM1、PPL、SNX3、UBE2O、SAE1、CCDC124、GNB1、RAB1A、GNB4、RPL23、CKB、SRP9、UCHL1、およびTBCBから選択される少なくとも2種のタンパク質、または前記少なくとも2種のタンパク質をコードする核酸と、を含む、無細胞培養系。
【請求項10】
少なくとも3種(たとえば、少なくとも4種、少なくとも5種など)のタンパク質、または前記少なくとも3種のタンパク質をコードする核酸を含む、請求項9に記載の無細胞培養系。
【請求項11】
Hsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2における1つもしくは複数の変異、ならびに/または
Hsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2を発現する1つもしくは複数の外因性コンストラクト
を含む細胞株。
【請求項12】
前記変異はノックアウト変異を含む、請求項11に記載の細胞株。
【請求項13】
前記変異はノックダウン変異を含む、請求項11に記載の細胞株。
【請求項14】
前記1つまたは複数の外因性コンストラクトは組換えコンストラクトである、請求項11に記載の細胞株。
【請求項15】
細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための製品であって、(a)、(b)、または(c)のうちの少なくとも2通りの中からの少なくとも1つの要素を含む、製品:
(a)Hsc/Hsp70もしくはその補因子、Hsc/Hsp70もしくはその補因子をコードする核酸、またはHsc/Hsp70もしくはその補因子を調節する化合物;
(b)液胞特異的H+ ATPアーゼ、液胞特異的H+ ATPアーゼをコードする核酸、または液胞特異的H+ ATPアーゼを調節する化合物;および
(c)サイクリン依存性キナーゼ2、サイクリン依存性キナーゼ2をコードする核酸、またはサイクリン依存性キナーゼ2を調節する化合物。
【請求項16】
前記Hsc/Hsp70またはその補因子を調節する化合物は、アポプタゾールである、請求項15に記載の製品。
【請求項17】
前記液胞特異的H+ ATPアーゼを調節する化合物は、バフィロマイシンA1である、請求項15に記載の製品。
【請求項18】
前記サイクリン依存性キナーゼ2を調節する化合物は、Cdk2阻害剤IIである、請求項15に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)に準拠して、2019年4月12日に出願された米国出願第62/833,595号に基づく優先権の利益を主張するものである。
【0002】
技術分野
本開示は、概して、アデノ随伴ウイルスおよびアデノ随伴ウイルスを産生する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝子療法において使用するための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)は、これまで、主に、たとえば293細胞、COS細胞、HeLa細胞、KB細胞、およびその他の哺乳類細胞株などの哺乳類細胞株において産生されている(たとえば、米国特許第6,156,303号、米国特許第5,387,484号、米国特許第5,741,683号、米国特許第5,691,176号、米国特許第5,688,676号、US20020081721号、WO00/47757号、WO00/24916号、およびWO96/17947号を参照)。しかしながら、こうした哺乳類細胞培養系のほとんどにおいて、細胞1個あたり産生されるrAAV粒子の数は10E4個程度であり、これよりも大きなスケールでのrAAVの産生が、臨床研究において求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
rAAVの産生を改善する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
本開示は、培養細胞内で調節することにより組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の産生および/またはアセンブリを増大させ得る見込みのある複数の遺伝子およびタンパク質を提供する。本明細書中において記載される方法を用いることにより、遺伝子療法分野を含む臨床または実験用途に使用するための産生力価を最大限にすることができる。本明細書中において記載されるように、調節は、産生細胞株中での選択遺伝子のノックアウト、ノックダウン、もしくは過剰発現、培養基に添加される化学化合物による選択遺伝子の阻害/活性化、またはこれらの組み合わせを含み得る。
【0006】
一態様において、細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法が提供される。このような方法は、典型的には、細胞内でのHsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/またはサイクリン依存性キナーゼ2の発現または活性を増大させることにより改変細胞を産生する工程と、改変細胞にAAVベクターを感染させることにより感染改変細胞を産生する工程と、感染改変細胞を培養する工程と、アセンブリされたAAVを集める工程とを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、集めた上記アセンブリされたAAVの量は、改変を有さない細胞をAAV感染させた後で集めた、アセンブリされたAAVの量よりも多い。いくつかの実施形態において、当該方法の結果として、AAVの力価が著しく増加する。
【0008】
別の一態様において、アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法が提供される。このような方法は、典型的には、改変細胞にAAVを感染させる工程であって、細胞が、CHMP7、CEP72、CNOT6、SLC9A6、PPHLN1、ATF7IP、SETDB1、GPR89B、KIF16B、ATAD3A、BAG2、STUB1、DNAJA1、DNAJC7、HSPA8、HSPA1A、CDK1、CDK2、CHCHD2、C1QBP、DPYSL5、FXR1、FXR2、IPO5、LBR、MTPN、NPM3、NPM1、PPL、SNX3、UBE2O、SAE1、CCDC124、GNB1、RAB1A、GNB4、RPL23、CKB、SRP9、UCHL1、およびTBCBから選択される1種もしくは複数種の遺伝子またはこれによりコードされるタンパク質の増加または減少を呈するように改変されている、工程と、アセンブリされたAAVを集める工程とを含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、改変細胞は遺伝子操作細胞である。代表的な遺伝子操作細胞は、ノックアウト、ノックダウン、過剰発現、またはこれらの組み合わせを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、改変細胞は、上記1種もしくは複数種の遺伝子またはこれによりコードされるタンパク質を増加または減少させる化学化合物を含む。代表的な化学化合物は、Cdk1阻害剤IV、Cdk2阻害剤II、アポプタゾール(apoptazole)、ML-792、BML282、NSC348884、FDNB、およびバフィロマイシンA1を含むが、これらに限定されない。
【0011】
さらに別の一態様において、アデノ随伴ウイルスをアセンブリするための無細胞培養系が提供される。このような系は、典型的には、培養基と、CHMP7、CEP72、CNOT6、SLC9A6、PPHLN1、ATF7IP、SETDB1、GPR89B、KIF16B、ATAD3A、BAG2、STUB1、DNAJA1、DNAJC7、HSPA8、HSPA1A、CDK1、CDK2、CHCHD2、C1QBP、DPYSL5、FXR1、FXR2、IPO5、LBR、MTPN、NPM3、NPM1、PPL、SNX3、UBE2O、SAE1、CCDC124、GNB1、RAB1A、GNB4、RPL23、CKB、SRP9、UCHL1、およびTBCBから選択される少なくとも2種のタンパク質、またはこれら少なくとも2種のタンパク質をコードする核酸とを含む。いくつかの実施形態において、この物品は、少なくとも3種(たとえば、少なくとも4種、少なくとも5種など)のタンパク質、またはこれら少なくとも3種(たとえば、少なくとも4種、少なくとも5種など)のタンパク質をコードする核酸を含む。
【0012】
また別の一態様において、細胞株が提供される。このような細胞株は、典型的には、Hsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2における1つもしくは複数の変異、ならびに/またはHsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2を発現する1つもしくは複数の外因性コンストラクトを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、変異はノックアウト変異を含む。いくつかの実施形態において、変異はノックダウン変異を含む。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の外因性コンストラクトは、組換えコンストラクトを含む。
【0014】
別の一態様において、細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための製品が提供される。このような製品は、典型的には、(a)、(b)、または(c)のうちの少なくとも2通りの中からの少なくとも1つの要素を含む:(a)Hsc/Hsp70もしくはその補因子、Hsc/Hsp70もしくはその補因子をコードする核酸、またはHsc/Hsp70もしくはその補因子を調節する化合物;(b)液胞特異的H+ ATPアーゼ、液胞特異的H+ ATPアーゼをコードする核酸、または液胞特異的H+ ATPアーゼを調節する化合物;および(c)サイクリン依存性キナーゼ2、サイクリン依存性キナーゼ2をコードする核酸、またはサイクリン依存性キナーゼ2を調節する化合物。
【0015】
いくつかの実施形態において、Hsc/Hsp70またはその補因子を調節する化合物は、アポプタゾールである。いくつかの実施形態において、液胞特異的H+ ATPアーゼを調節する化合物は、バフィロマイシンA1である。いくつかの実施形態において、サイクリン依存性キナーゼ2を調節する化合物は、Cdk2阻害剤IIである。
【0016】
一態様において、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法を、特徴として有する。このような方法は、典型的には、遺伝子操作細胞にAAVを感染させる工程であって、細胞が、CHMP7、CEP72、CNOT6、SLC9A6、PPHLN1、ATF7IP、SETDB1、GPR89B、KIF16B、ATAD3A、BAG2、STUB1、DNAJA1、DNAJC7、HSPA8、HSPA1A、CDK1、CDK2、CHCHD2、C1QBP、DPYSL5、FXR1、FXR2、IPO5、LBR、MTPN、NPM3、NPM1、PPL、SNX3、UBE2O、SAE1、CCDC124、GNB1、RAB1A、GNB4、RPL23、CKB、SRP9、UCHL1、および/もしくはTBCBから選択される1種もしくは複数種の遺伝子またはこれによりコードされるタンパク質の増加または減少を呈するように遺伝子操作されている、工程と、アセンブリされたAAVを集める工程とを含む。
【0017】
別の一態様において、本開示は、細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法を、特徴として有する。このような方法は、典型的には、Hsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、サイクリン依存性キナーゼ2、およびこれらの組み合わせから選択される1種または複数種の因子の存在下において、細胞にAAVを感染させる工程と、アセンブリされたAAVを集める工程とを含む。
【0018】
さらに別の一態様において、本開示は、細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法を、特徴として有する。このような方法は、典型的には、細胞内において1種または複数種の因子を調節する工程であって、因子が、Hsc/Hsp70またはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、およびサイクリン依存性キナーゼ2から選択される工程と、調節された細胞にAAVを感染させる工程と、アセンブリされたAAVを集める工程とを含む。
【0019】
概して、本明細書中において記載される方法を用いた後には、集めた上記アセンブリされたAAVの量は、遺伝子操作または調節をしていない細胞をAAV感染させた後で集めたAAVの量よりも多い。概して、本明細書中において記載される方法は、AAVの力価の増加をもたらす。概して、本明細書中において記載される方法は、AAVベクター調製物の質および性能の増大をもたらす。
【0020】
いくつかの実施形態において、遺伝子操作は、ノックアウト、ノックダウン、および/もしくは過剰発現のうちの1種もしくは複数種、またはこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、調節は、ノックアウト、ノックダウン、過剰発現、またはこれらの組み合わせを用いて行なわれる。いくつかの実施形態において、調節は、たとえば培養基への化学化合物の添加による、選択遺伝子の阻害および/または活性化を用いて行なわれる。
【0021】
また別の一態様において、本開示は、細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための製品を提供する。このような製品は、典型的には、(a)、(b)、または(c)のうちの少なくとも2通りの中からの少なくとも1つの要素を含む:(a)Hsc/Hsp70もしくはその補因子、Hsc/Hsp70もしくはその補因子をコードする核酸、および/またはHsc/Hsp70もしくはその補因子を調節する化合物;(b)液胞特異的H+ ATPアーゼ、液胞特異的H+ ATPアーゼをコードする核酸、および/もしくは液胞特異的H+ ATPアーゼを調節する化合物;ならびに/または(c)サイクリン依存性キナーゼ2、サイクリン依存性キナーゼ2をコードする核酸、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2を調節する化合物。
【0022】
別の一態様において、Hsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2における1つもしくは複数の変異(たとえば、ノックアウト、ノックダウン);ならびに/または、Hsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2を発現する1つもしくは複数の外因性(たとえば組換え)のコンストラクト、を含む細胞株が提供される。
【0023】
別の一態様において、本開示は、アデノ随伴ウイルスをアセンブリするための無細胞培養系を、特徴として有する。この系は、培養基と、CHMP7、CEP72、CNOT6、SLC9A6、PPHLN1、ATF7IP、SETDB1、GPR89B、KIF16B、ATAD3A、BAG2、STUB1、DNAJA1、DNAJC7、HSPA8、HSPA1A、CDK1、CDK2、CHCHD2、C1QBP、DPYSL5、FXR1、FXR2、IPO5、LBR、MTPN、NPM3、NPM1、PPL、SNX3、UBE2O、SAE1、CCDC124、GNB1、RAB1A、GNB4、RPL23、CKB、SRP9、UCHL1、およびTBCBから選択される少なくとも2種(たとえば、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種など)のタンパク質、またはこれら少なくとも2種のタンパク質をコードする核酸とを含む。
【0024】
特に定義がなければ、本明細書中において使用されるすべての科学技術用語は、本発明に係る方法および組成物が属する技術分野において通常の知識を有する者により一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似または同等の方法および材料を診療所または当該方法および組成物の試験において使用できるが、好適な方法および材料が以下に記載される。また、材料、方法、および例示は、例証することのみを目的とし、限定を意図しない。本明細書中において言及されるすべての出版物、特許出願、特許、およびその他の参考資料の全体を、引用により本明細書に援用する。
【0025】
図面の説明
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本明細書中において使用されるCRISPRスクリーニングの手順の流れを示す概略図である。
図2A】トランスフェクションの18時間後におけるsgRNA存在量を示すプロットである。
図2B】トランスフェクションの18時間後におけるsgRNA存在量を示すプロットである。
図3A】トランスフェクションの24時間後におけるsgRNA存在量を示すプロットである。
図3B】トランスフェクションの24時間後におけるsgRNA存在量を示すプロットである。
図4】トランスフェクション法がベクター力価に及ぼす影響を示すグラフである。グラフは1回の実験を表わし、は混入が確認されたことを示す。
図5A】ベクター産生に及ぼすsiRNAプレトランスフェクションおよびコトランスフェクションの影響を、ヒトゲノム中の配列を標的としないsiRNAを使用する平行トランスフェクションに対する比率として示すグラフである。デュプリケート(duplicate)で実施した実験の平均を表す。
図5B】ベクター産生に及ぼすsiRNAプレトランスフェクションおよびコトランスフェクションの影響を、平行偽トランスフェクションに対する比率として示すグラフである。デュプリケートで実施した実験の平均を表す。
図6A】番号付き長円の中に示される発現コンストラクトでトランスフェクションしたHEK293細胞の概略図である。
図6B】2回行なった同じ実験((レーンの上に)AおよびBで示す)からの抗HA(VP餌(bait))プルダウンおよび抗FLAG(AAP餌)プルダウン(図6A中に番号で示される)のために使用した溶解物からの免疫共沈降を示すゲルの画像である。図6BはSYPRO Rubyで染色して総タンパク質を示し、図6CはウェスタンブロットによりVPおよびAAPについて調べたものである。
図6C】2回行なった同じ実験((レーンの上に)AおよびBで示す)からの抗HA(VP餌(bait))プルダウンおよび抗FLAG(AAP餌)プルダウン(図6A中に番号で示される)のために使用した溶解物からの免疫共沈降を示すゲルの画像である。図6BはSYPRO Rubyで染色して総タンパク質を示し、図6CはウェスタンブロットによりVPおよびAAPについて調べたものである。
図6D図6A中に示される通りに調製した等体積の溶解物に対して行なった免疫沈降を示すゲルである。各レーンに等体積の溶出液を載せて電気泳動し、SYPRO Rubyで染色して総タンパク質を示した(図6Dおよび図6F)、またはウェスタンブロットによりVPおよびAAPについて調べた(図6Eおよび図6G)。
図6E図6A中に示される通りに調製した等体積の溶解物に対して行なった免疫沈降を示すゲルである。各レーンに等体積の溶出液を載せて電気泳動し、SYPRO Rubyで染色して総タンパク質を示した(図6Dおよび図6F)、またはウェスタンブロットによりVPおよびAAPについて調べた(図6Eおよび図6G)。
図6F図6A中に示される通りに調製した等体積の溶解物に対して行なった免疫沈降を示すゲルである。各レーンに等体積の溶出液を載せて電気泳動し、SYPRO Rubyで染色して総タンパク質を示した(図6Dおよび図6F)、またはウェスタンブロットによりVPおよびAAPについて調べた(図6Eおよび図6G)。
図6G図6A中に示される通りに調製した等体積の溶解物に対して行なった免疫沈降を示すゲルである。各レーンに等体積の溶出液を載せて電気泳動し、SYPRO Rubyで染色して総タンパク質を示した(図6Dおよび図6F)、またはウェスタンブロットによりVPおよびAAPについて調べた(図6Eおよび図6G)。
図7A】共沈したタンパク質を質量分析により同定したものを示すヒートマップである。
図7B】共沈したタンパク質を質量分析により同定したものを示すヒートマップである。
図8A】トランスフェクション直前に添加した場合の、選択された宿主因子の薬理学的阻害がベクター産生に及ぼす影響を示す棒グラフである。
図8B】トランスフェクションの4時間後に添加した場合の、選択された宿主因子の薬理学的阻害がベクター産生に及ぼす影響を示す棒グラフである。
図9】トランスフェクションの4時間後におけるサイクリン依存性キナーゼ1の阻害の影響を示す実験データ(下)に基づく棒グラフ(上)である。
図10】トランスフェクションの4時間後におけるサイクリン依存性キナーゼ2の阻害の影響を示す実験データ(下)に基づくグラフ(上)である。
図11】トランスフェクションの4時間後における熱ショックタンパク質70の阻害の影響を示す実験データ(下)に基づくグラフ(上)である。
図12】トランスフェクションの4時間後におけるsumo活性化酵素1の阻害の影響を示す実験データ(下)に基づくグラフ(上)である。
図13】トランスフェクションの4時間後におけるユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼアイソザイムL1の阻害の影響を示す実験データ(下)に基づくグラフ(上)である。
図14】トランスフェクションの4時間後におけるヌクレオフォスミンの阻害の影響を示す実験データ(下)に基づくグラフ(上)である。
図15】トランスフェクションの4時間後におけるクレアチンキナーゼBの阻害の影響を示す実験データ(下)に基づくグラフ(上)である。
図16】トランスフェクションの4時間後における液胞型H+ ATPアーゼの阻害の影響を示す実験データ(下)に基づくグラフ(上)である。
図17】AAVアセンブリの仮説モデルを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
ゲノムおよびプロテオミクスのアプローチを使用して、アデノ随伴ウイルス(AAV)の産生および/またはアセンブリに関与する複数の宿主タンパク質を同定した。本明細書中において記載されるように、細胞内でのAAVの産生および/またはアセンブリを増大させるために、このようなタンパク質の1種もしくは複数種、またはこのようなタンパク質の1種もしくは複数種をコードする核酸を改変することができる。同様に、AAVの産生および/またはアセンブリを増大させるために、このようなタンパク質の1種もしくは複数種、またはこのようなタンパク質の1種もしくは複数種をコードする核酸を、無細胞系に含めることができる。本明細書中において記載される方法を用いることにより、遺伝子療法分野を含む臨床または実験用途に使用するためのウイルスベクターの産生力価を最大限にすることができる。
【0028】
本明細書中において記載されるように、細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための方法は、典型的には、細胞内でのHsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/またはサイクリン依存性キナーゼ2の発現または活性を増大させる工程を含む。細胞がこのように改変されていれば、この改変細胞にAAVベクターを感染させて、続いて培養して、アセンブリされたAAVを集めることができる。
【0029】
以下の宿主タンパク質は、AAVのアセンブリに関与することが示されており、したがって、これらタンパク質のうちのいずれか1種、または2種以上の組み合わせ、または当該タンパク質をコードする核酸を、本明細書中において記載される通りに改変することによって、AAVの産生および/またはアセンブリを改善することができる:荷電多胞体タンパク質7(charged multivesicular body protein 7;CHMP7)、中心体タンパク質72kDa(CEP72)、CCR4-NOT転写複合体サブユニット6(CNOT6)、溶質キャリアファミリー9のメンバー6(SLC9A6)、ペリフィリン(periphyllin)1(PPHLN1)、活性化転写因子7相互作用タンパク質(ATF7IP)、setドメインタンパク質バイファーケイテッド1(set domain protein bifurcated 1;SETDB1)、Gタンパク質共役型受容体89B(GPR89B)、キネシンファミリーメンバー16B(KIF16B)、ATPアーゼファミリーAAAドメイン含有タンパク質3A(ATAD3A)、BAGファミリー分子シャペロンレギュレーター2(BAG2)、E3ユビキチン-タンパク質リガーゼCHIP(STUB1)、DnaJホモログサブファミリーAメンバー1(DNAJA1)、DnaJホモログサブファミリーCメンバー7(DNAJC7)、熱ショック70kDaタンパク質8(HSPA8)、熱ショック70kDaタンパク質1A(HSPA1A)、サイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)、コイルドコイルヘリックスコイルドコイルヘリックスドメイン含有タンパク質2(CHCHD2)、補体成分1Qサブコンポーネント結合タンパク質(ミトコンドリアの)(C1QBP)、ジヒドロピリミジナーゼ関連タンパク質5(DPYSL5)、脆弱X精神遅滞症候群関連タンパク質1(FXR1)、脆弱X精神遅滞症候群関連タンパク質2(FXR2)、インポーチン-5(IPO5)、ラミン-B受容体(LBR)、ミオトロフィン(MTPN)、ヌクレオプラスミン-3(NPM3)、ヌクレオフォスミン(NPM1)、ペリプラキン(PPL)、ソーティングネキシン-3(SNX3)、E3非依存性E2ユビキチン結合酵素(UBE2O)、SUMO活性化酵素サブユニット1(SAE1)、コイルドコイルドメイン含有タンパク質124(CCDC124)、グアニンヌクレオチド結合タンパク質G(I)/G(S)/G(T)サブユニットベータ-1(GNB1)、Ras関連タンパク質Rab-1A(RAB1A)、グアニンヌクレオチド結合タンパク質サブユニットベータ-4(GNB4)、60Sリボソームタンパク質L23(RPL23)、クレアチンキナーゼB型(CKB)、シグナル認識粒子9kDaタンパク質(SRP9)、ユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼアイソザイムL1(UCHL1)、および/またはチューブリンフォールディングコファクターB(TBCB)。
【0030】
本明細書中において記載されるように、宿主細胞を改変し、Hsc/Hsp70、またはVPフォールディングに関係するHsc/Hsp70経路の補因子(たとえば、Bag2、STUB1、DnaJC7、またはDnaJA1)、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/またはサイクリン依存性キナーゼ2の発現または活性を増大させることによって、その宿主細胞内でのAAVの産生および/またはアセンブリを改善(または増大)できる。
【0031】
本明細書中において記載されるように、用語「改変」または「改変される」は、本明細書中において記載される宿主タンパク質のうちの1種または複数種の発現または活性の増大または減少をもたらす、細胞に対する任意の種類の操作を含むものとして理解される。したがって、本明細書中において使用される場合、細胞の改変は、(たとえば変異誘発を用いて)内因性の核酸配列の発現をノックアウトもしくはノックダウンすること、または外因性の核酸配列(たとえば、組換え核酸分子を含有するコンストラクトまたはベクター)を過剰発現させることを含み得るが、これらに限定されない。また、細胞の改変は、1種または複数種の化学化合物に細胞を(たとえば培養基中において)曝露して本明細書中において記載される内因性の宿主タンパク質の1種または複数種の活性を直接的または間接的に増大または阻害することを含み得るが、これらに限定されない。
【0032】
1種もしくは複数種の遺伝子またはこれによりコードされるタンパク質を増大または減少させるために使用できる代表的な化学化合物。代表的な化学化合物は、Cdk1阻害剤IV、Cdk2阻害剤II、アポプタゾール、ML-792、BML282、NSC348884、FDNB、およびバフィロマイシンA1を含むが、これらに限定されない。
【0033】
タンパク質の発現または活性を増大させる方法が知られている。たとえば、タンパク質をコードする核酸を宿主細胞内で過剰発現させることができる。核酸を過剰発現させるための核酸コンストラクトが当技術分野において知られており、市販されている。また、化学化合物を使用してタンパク質の発現または活性を刺激できることも理解されており、このような活性を呈する化合物のスクリーニング方法が当技術分野において知られている。
【0034】
タンパク質の発現または活性を減少させる方法が知られている。たとえば、タンパク質の発現または活性をノックアウトまたはノックダウンするために、このタンパク質をコードする核酸を変異させることができる。変異誘発方法が当技術分野において知られており、一般的に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して行なわれる。また、化学化合物を使用してタンパク質の発現または活性を阻害できることも理解されており、このような活性を呈する化合物のスクリーニング方法が当技術分野において知られている。
【0035】
また、Hsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2における1つもしくは複数の変異;ならびに/または、Hsc/Hsp70もしくはその補因子、液胞特異的H+ ATPアーゼ、および/もしくはサイクリン依存性キナーゼ2を発現する1つもしくは複数の外因性コンストラクト、を含む細胞株が提供される。
【0036】
本明細書中において記載されるように細胞が改変されると、この改変細胞を使用して、適切な条件下で1つまたは複数のAAVベクターを産生することができる。AAVベクター(たとえば、AAV粒子の産生およびアセンブリに必要な最小限のウイルスタンパク質をコードするベクター)は、野生型AAVまたは組換えAAV(rAAV)であり得る。AAVを産生する方法およびその哺乳類細胞を適切に培養する方法が当技術分野において知られており、必要なAAV成分をトランスフェクションする方法、AAV産生成分を安定的に発現する細胞株の使用、および/または、Sandovalら(2019, Viral Vectors for Gene Therapy)により記載されるように単純ヘルペスウイルスもしくはアデノウイルスなどの異種のウイルスベクター系を使用して細胞に感染させることによる細胞へのAAV成分の運搬を含む。
【0037】
宿主タンパク質またはこのような宿主タンパク質をコードする核酸を改変することによって、AAVのアセンブリを改善できる。AAVのアセンブリの改善とは、改変なしでアセンブリされたAAVと比較した場合の、アセンブリされたAAVの数の増大、またはアセンブリの割合もしくは効率の増大を指す。本明細書中において記載される方法は、得られるAAVの力価の増大(たとえば、著しい増大)をもたらす。いくつかの場合において、本明細書中において記載される方法は、改変なしで産生されたAAVと比較して、AAVの質および性能を向上させる(たとえば、収量が増加する、生存率が増大する、および/または感染性が改善される)。
【0038】
本明細書中において同定されるタンパク質、またはこのようなタンパク質をコードする核酸を、無細胞AAV産生方法の開発において使用できる。たとえば、無細胞系を設計して、実際の細胞の非存在下でAAV粒子を産生するために使用できる。このような無細胞系は、たとえば、このようなタンパク質の1種もしくは複数種(たとえば、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種)をコードする核酸、または当該タンパク質自体を含み得る。たとえば、以下のタンパク質の1種もしくは複数種、または1種もしくは複数種のタンパク質をコードする核酸を、無細胞系において提供できる:CHMP7、CEP72、CNOT6、SLC9A6、PPHLN1、ATF7IP、SETDB1、GPR89B、KIF16B、ATAD3A、BAG2、STUB1、DNAJA1、DNAJC7、HSPA8、HSPA1A、CDK1、CDK2、CHCHD2、C1QBP、DPYSL5、FXR1、FXR2、IPO5、LBR、MTPN、NPM3、NPM1、PPL、SNX3、UBE2O、SAE1、CCDC124、GNB1、RAB1A、GNB4、RPL23、CKB、SRP9、UCHL1、および/またはTBCB。
【0039】
本明細書中において記載される方法の使用の後で集めた、アセンブリされたAAVの量は、典型的には、改変を有さない細胞をAAV感染させた後で集めた、アセンブリされたAAVの量よりも多い(たとえば、有意に多い)。いくつかの場合において、本明細書中において記載される方法は、AAVの力価の著しい増加をもたらす。
【0040】
また、細胞内でのアデノ随伴ウイルス(AAV)のアセンブリを改善するための製品も提供される。このような製品は、典型的には、(a)、(b)、または(c)のうちの少なくとも2通りの中からの少なくとも1つの要素を含む:(a)Hsc/Hsp70もしくはその補因子、Hsc/Hsp70もしくはその補因子をコードする核酸、またはHsc/Hsp70もしくはその補因子を調節する化合物;(b)液胞特異的H+ ATPアーゼ、液胞特異的H+ ATPアーゼをコードする核酸、または液胞特異的H+ ATPアーゼを調節する化合物;および(c)サイクリン依存性キナーゼ2、サイクリン依存性キナーゼ2をコードする核酸、またはサイクリン依存性キナーゼ2を調節する化合物。
【0041】
Hsc/Hsp70またはその補因子を調節する代表的な化合物はアポプタゾールであり、液胞特異的H+ ATPアーゼを調節する代表的な化合物はバフィロマイシンA1であり、サイクリン依存性キナーゼ2を調節する代表的な化合物はCdk2阻害剤IIである。
【0042】
本発明においては、本分野の通常の知識の範囲内において、従来の分子生物学、微生物学、生化学、および組換えDNAの技術が使用され得る。このような技術は、文献中において十分に説明されている。本発明が以下の実施例中でさらに説明されるが、これらは、請求項中に記載される方法および組成物の範囲を限定しない。
【実施例
【0043】
実施例1-最適なAAVアセンブリに関連する因子のスクリーニング
簡潔には、AAVのアセンブリおよび/またはDNAのパッケージングに関与するHEK293細胞中の因子を特定するために、2通りの異なるスクリーニングアプローチを実施した。これら2つの特性が組み合わさって製造が構成されるものであり、これらの因子のうちの1種または複数種を調節することによって、AAVの製造収量を増大させることができる。2通りのスクリーニングアプローチは、以下のように設計した。
【0044】
免疫共沈降および質量分析
アセンブリに関与することが知られる様々なウイルスタンパク質にタンパク質タグを付け、HEK293をトランスフェクションした後で、免疫共沈降を行なった。複合体でプルダウンされたタンパク質を、質量分析で分析した。これらのタンパク質について、これらと様々なウイルス成分との免疫共沈降、これらの生物学、およびこれらがバックグラウンドである可能性の低さ(たとえば、コントロールとコントロール質量分析データセットとに基づく)に基づいて、最も確実なヒットを記録した。この方法では、主に、タンパク質粒子のアセンブリ(たとえば、タンパク質粒子が集まること)の何らかの局面に関与するタンパク質と、これらのアセンブリタンパク質に関連する細胞補因子とをスクリーニングした。
【0045】
試料の調製
以前(Maurer et al., 2019, J. Virol., 93:93(7): doi: 10.1128/JVI.02013-18)に記載された通りに試料を調製したが、ブロッキング工程と洗浄工程での界面活性剤とを割愛した、というのはこうした試薬はLC-MS/MSおよび下流の分析との相性が悪いためである。
【0046】
ペプチドの消化
免疫沈降の後、ビーズに結合したタンパク質を、50μLの50mM Tris中において-80℃にて凍結させた。試料を解凍し、尿素、ジチオトレイトール(DTT、Thermo Scientific、20291)、トリプシン(Promega、V511X)、およびTrisの溶液を添加することによって、20個の試料の各々について、ビーズを、80μLの2M尿素、50mM Tris HCL(pH8)、5μg/mLトリプシン、および5mM DTT中に懸濁した。試料を25℃において振とうしながら1時間インキュベートした。上清を新しいチューブに移し、ビーズを60μLの5.33M尿素、50mM Tris HCL溶液で2回洗浄して、各試料について洗浄バッファーと上清とを合わせた。この溶液を5000rcfで2分間遠心分離し、次いで新しいチューブに移した。タンパク質を4mM DTTで25℃にて30分間かけて還元し、次いで、10mMヨードアセトアミド(Sigma、A3221)で45分間、暗所において25℃にてアルキル化した。その後、各試料に0.5μgのトリプシンを添加し、その試料を一晩かけて25℃にて振とうしながら消化した。1%ギ酸(FA;Fluka、56302)で消化を停止させた。Empore C18パンチ(3M,2315)を2つ含むステージチップ(stage tip)を使用して、試料を脱塩した。スピンはいずれも、1,500rcfにて2分間ずつ行なった。ステージチップは、1×50μLの50%アセトニトリル(ACN)/0.1%FAと2×50μLの0.1%FAとを用いて条件付けした。次いで、試料をステージチップにのせて、スピンさせた。その後、2×50μLの0.1%FAで試料を洗浄して、1×50μLの50%ACN/0.1%FAでステージチップから溶出させて、乾燥させた。
【0047】
TMT標識および強カチオン交換分画
TMT標識のために、各試料を100μLの50mM HEPES中で再構成した。次いで、41μLの100%ACN中の0.8mgのTMT10 Isobaric Mass Tag(Thermo Fisher)を各試料に添加した。試料を25℃において1時間かけて標識した。標識効率をチェックして、適切かつ完全に標識されていることを確かめた。また、試料のTMT 10-plexの各々について混合コントロールを行なうことによって、すべての試料が1:1で混合されていることを確めた。8μLの5%ヒドロキシルアミンを用い、25℃にて15分間かけて、標識反応を停止させた。その後、各10-plexの試料を、すべての試料が互いに1:1の比率となる量にて混合し、乾燥させた。各10-plex試料を1mLの0.1%FA中に再懸濁し、Sep-Pak C18カラム(Waters、100mg WAT023590)を使用して脱塩した。1×1mLの100%ACN、1×1mLの50%ACN/0.1%FA、および4×1mLの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を用いて、カラムを条件付けした。各試料をカラムに載せて、3×1mLの0.1%TFAおよび1×1mLの1%FAで洗浄した。2×0.6mLの50%ACN/0.1%FAを用いてカラムからペプチドを溶出させて、乾燥させた。
【0048】
試料を200μLの3%ACN/0.1%FA中で再構成した。各試料の半分をとって乾燥させたものを、HPLC-HCD-MS/MSを用いて分析した。残りの半分を乾燥させて250μLの0.5%酢酸(AcOH)中に再懸濁し、強カチオン交換を用いて分画した。下に3つのSCXパンチ(3M、2251)を有し上に2つのC18パンチを有するステージチップを使用して、試料を分画した。スピンはいずれも、3,500rcfで2分間ずつ行なった。1×100μLのメタノール(MeOH)、1×100μLの80%ACN/0.5%AcOH、1×100μLの0.5%AcOH、1×100μLの20%ACN/0.5%AcOH/500mM NH4AcO、および1×0.5%AcOHを用いて、ステージチップを条件付けした。試料を載せてスピンさせた。2×100μLの0.5%AcOHでステージチップを洗浄した。1×100μLの80%ACN/0.5%AcOHを用いて、C18パンチからSCXパンチへとペプチドを横断溶出させた。次いで、1×50μLの20%ACN/50mM NH4AcO(pH5.15)、1×50μLの20%ACN/50mM NH4HCO(pH8.25)、および1×50μLの20%ACN/0.1%NH4AcO(pH10.3)を用いて、ステージチップからペプチドを溶出させて、3つの画分とした。次いで、200μLの0.5%AcOHを用いて各溶出画分を希釈し、2パンチC18ステージチップを使用して脱塩した。1×100μLのMeOH、1×100μLの80%ACN/0.5%AcOH、2×100μLの0.5%AcOHを用いて、ステージチップを条件付けた。試料を載せてスピンさせた。その後、ステージチップを2×100μLの0.5%AcOHで洗浄した。60μLの80%ACN/0.5%AcOHを用いて、ステージチップから試料を溶出させた。各画分を乾燥させて、LC-MS-MS分析のために9μLの3%ACN/0.1%FA中に再懸濁した。分画していない半分の試料も、LC-MS-MS分析のために9μLの3%ACN/0.1%FA中に再懸濁した。
【0049】
LC-MS/MSおよびスペクトル分析
Orbitrap Fusion Lumos質量分析計およびEasy-nLC 1200システムを備えたナノフローHPLC-HCD-MS/MSを使用して、すべての試料を分析した。各試料4μLずつを、1.9μmのC-18ビーズがセルフパックされたPicofritカラムを50℃に加熱したものの上から、流量500nl/分にて注入した。LC-MS/MSの勾配および流量は、以前に記載された通りとした(Mertins et al., 2016, Nature, 534:55-62)。スペクトルを110分間にわたって取得した。MS1走査を、解像度60k、走査範囲350~1800m/z、最大注入時間50msにて取得した。衝突エネルギー38%でイオンをフラグメント化した。MS2走査を、解像度50k、最大注入時間105ms、0.7単離ウィンドウ(isolation window)にて取得した。
【0050】
ウイルスタンパク質が後ろに記載されているUniprotヒトデータベースを使用して、Spectrum Mill(Agilent)でデータを検索した。フィックスド・モディフィケーション(fixed modification)であるシステインのカルバミドメチル化と、バリアブル・モディフィケーション(variable modification)であるN末端タンパク質アセチル化、メチオニンの酸化、およびTMT 10plex標識とを検索した。酵素特異性(enzyme specificity)はLysC/トリプシンに設定し、ミス・クリーベージ(missed cleavage)は多くて3つとして、検索した。プレカーサーイオンの最大の荷電状態(maximum precursor ion charge state)は6に設定した。プレカーサーイオンおよびプロダクトイオンの質量の誤差範囲は20ppmに設定した。ペプチドおよびタンパク質の誤同定率を計算したところ、1%未満であった。1つのペプチドスペクトルのみのマッチにより同定された非ヒトタンパク質およびヒトタンパク質は、いずれも、下流で実施する分析から除外した。モデレートT検定(moderated T-test)(ワールドワイドウェブのsoftware.broadinstitute.org/cancer/software/genepattern/を参照)を使用して、個々の各実験において統計学的に富化されているタンパク質を特定した。多重比較のための補正(Benjamini-Hochbergの手順)の後、補正後のp値が0.05未満である任意のタンパク質を、統計学的に富化されているとみなした。個々の実験の各々における餌タンパク質の量を基準とした富化タンパク質の標準化を、各富化タンパク質の値から餌のlog2倍数富化値を差し引くことによって行なった。データをまとめ、ワールドワイドウェブのsoftware.broadinstitute.org/morpheus/を使用して、4通りの実験条件の全体にわたる平均の相対的富化を可視化した。
【0051】
CRISPR/Cas9の使用
CRISPR/Cas9を発現していて、かつ周知のすべてのヒト遺伝子のgRNAを含むgRNAライブラリでトランスフェクションしたHEK293細胞において、AAVを産生させた。アセンブリしたカプシドタンパク質(すなわち、モノマーではない)のみを検出する抗AAV抗体を使用するFACSソーティングによって、AAV産生細胞を選択した。選択された細胞中で富化されたgRNAは、このgRNAの標的がノックアウト時にAAV産生を改善したということを示す。(a)コントロールに対する富化の有意性、(b)この作用を示す同じ遺伝子に対するgRNAの数(これらのライブラリは、1つの標的遺伝子について6つのgRNAを有する場合が多いという点で重複している)、および(c)AAVアセンブリ/パッケージングとの関連があり得る遺伝子/タンパク質ヒットの生物学に基づいて、統計学的に最も有意なヒットを記録する。この方法は、アセンブリとパッケージング(たとえば、前もって形成された粒子中へのウイルスDNAの侵入)との両方を調べるものである。
【0052】
図1は、CRISPRスクリーニングパイプラインの概略図である。各タンパク質をコードする遺伝子を標的とするガイドを平均4つ有するレンチウイルスCas9+sgRNAライブラリであるBrunelloライブラリを用いて、MOI<1で、HEK293細胞の形質導入を行なった。形質導入していない細胞を抗生物質選択により除去して、得られたノックアウト細胞ライブラリを培養して増殖させた。アデノウイルスヘルパー(dF6)およびrep2-cap8 AAV産生プラスミドで細胞をトランスフェクションした。3通りの時点(12時間、18時間、および24時間)の各々において、約8億個の細胞を集めた。細胞を穏やかに固定して透過処理し(カプシド抗体が核に到達するように)、次いで、アセンブリしたカプシド中にのみ存在する構造的エピトープを認識するADK8モノクローナル抗体で染色し、続いて蛍光二次抗体を添加した。染色された細胞をFACSソーティングに供して、非生産細胞(NEG)から生産細胞(POS、カプシドを含有する)を分けた。次いで、ゲノムDNAを抽出し、組み込まれたガイド配列をPCRで増幅してIlluminaでシーケンシングした。
【0053】
次世代シーケンシングデータ分析
差次的に富化されたsgRNAを、バージョン0.5.7のMAGeCKソフトウェアパッケージ(Li et al., 2014, Genome Biology, 15:554)を用いて確認した。簡潔には、sgRNAをシーケンシングし、マッピングして、定量した後(Sanson et al., 2018, Nat. Commun., 9:5416)、下記式に従って100万あたりのリード数を基準として標準化した:sgRNAあたりのリード数/各条件での総リード数10。sgRNA存在量に対するソーティングの影響を制御するために、陽性細胞由来のsgRNA存在量を、同じソートからの陰性細胞由来のものと比較した。次いで、遺伝子レベルでのsgRNAの差次的富化を、MAGeCKで構築されるRobust Ranking Aggregation(RRA)によって確認した。
【0054】
NGS分析の可視化
sgRNAの差次的富化についての統計学的分析の結果を、Pythonで構築されるMatplotlib可視化ライブラリ(Hunter, 2007, Comp. Science & Eng., 9:90-95)によって可視化した。遺伝子同士の関連を可視化するために、遺伝子を、表1中に列記される遺伝子オントロジー用語(Ashburner et al., 2000, Nat. Genet., 25:25-29; The Gene Ontology C., 2017, Nuc. Acids Res., 45:D331-8; Carbon et al., 2009, Bioinform., 25:288-9)で分類した。上記遺伝子オントロジー用語に関連するヒト遺伝子の全リストに、2018年9月13日にAmigo2.5.2によってアクセスしてダウンロードした。
【0055】
次いで、上位1000個の遺伝子(ランク付けは富化の有意性による)を、y軸上では、これらの多重検定の未補正p値に従ってドットでプロットし、x軸上では、そのカテゴリ内で無作為に分散させた。プロット中でのドットの大きさは、5×Ne3という式に従って異なっており、式中、Nは、上流の分析により差次的に富化されたと判断されたsgRNAの数である。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例2-全ゲノムスクリーニングによるアセンブリおよび制限因子の同定
ベクターを産生する細胞の数、各細胞が産生したベクターの量、またはこれらの両方、のうちのいずれかを最大限にできる細胞株または培養条件を創製することを最終目的として、ゲノム全体における摂動を示す細胞がプールされたライブラリからの生産細胞を選択した。CRISPRaライブラリでスクリーニングを繰り返すことを意図して、最初のスクリーニングにCRISPRノックアウトBrunelloライブラリ(Doench et al., 2016, Nat. Biotechnol., 34:184-91)を選択した。AAV2は、最もよく研究されている血清型であるが、他のユニークな表現型のなかで唯一、厳密な核小体のアセンブリを示す血清型である。新たな知見を得る機会を最大にする目的でAAV8を選択したが、さらには、AAV8は多くの天然バリアントに系統学的にさらに近いため、多くの血清型の産生に向けて上記知見を広く応用できる可能性が高くなる。実験手順の流れが図1に示されるが、そこで、ガイド配列は、生産細胞と関連する遺伝子ノックアウトのためのリードアウトとしての役割を果たす。
【0058】
実際には、カプシドに特異的な抗体で陽性染色される細胞は、トランスフェクションの12時間後よりも前には観察されなかった。12時間の時点で、カプシド陽性染色は集団の1%に満たなかった。12時間での陽性集団の中には、未ソート集団との比較において、統計学的に富化された遺伝子はみられなかった。18時間および24時間の試料はそれぞれ6.25%および6.29%が陽性染色され、これらの試料中で富化または枯渇したガイド配列の分析が、図2および図3中に示される。
【0059】
陰性集団との比較においてトランスフェクションの18時間後(図2)および24時間後(図3)に陽性選別された集団中で、富化または枯渇の有意性によってランク付けした上位1000個の遺伝子を、y軸上では、これらの多重検定の未補正p値に従ってドットでプロットし、x軸上では、これらの遺伝子オントロジーカテゴリ(プロットの下に色分けして列記)内で無作為に分散させた。プロット中でのドットの大きさは、5×Ne3という式に従って異なっており、式中、Nは、上流の分析により差次的に富化されたと判断されたsgRNAの数である。
【0060】
いくつかの統計学的に有意なガイドが1つの時点(18時間または24時間)のみに固有であったが、9つの統計学的に有意なガイドが両セットに重複していた(図2および図3中の太字)。ATF7IPおよびSETDB1という2つの遺伝子が、両試料において特に高い有意性を示した。
【0061】
これらの遺伝子についてさらに調べるために、siRNAノックダウンを選択した、というのは、これによれば、HEK293細胞のトランスフェクションが容易であり、かつ、遺伝的摂動を有する安定な細胞株を作製するよりもsiRNAの方が時間、労力、およびコストの点で有利であるためである。18時間および24時間の試料の両方において富化された上位9つの遺伝子からなるサブセットを選択した、というのは、両試料においてこれらが上位65ヒット内に含まれ、このことが、機能上妥当である可能性が高いことを示唆しているためである(図2および図3中で太字)。
【0062】
siRNAトランスフェクションのための調製において、PEIおよび無血清DMEM以外のトランスフェクション試薬および培地について、ベクター産生に対するそれらの影響を調べた。トランスフェクション効率が高いことが知られており小さな核酸のトランスフェクションに一般的に使用されるリポフェクタミンおよびOptiMEMを、平行して、かつPEIとDMEMのあらゆる順列にて、試験した(図4)。細胞を6ウェルプレート中においてDMEM+10%FBS中で増殖させて90%コンフルエントとした後、トランスフェクションした。各条件においてプラスミドの量は同じとし、x軸上に示されるようにAAV2/2もしくはAAV2/8 rep/capプラスミドまたは空のプラスミド(NEG)を用いた。
【0063】
すべての条件にわたり、(トランスフェクション試薬のμg):(DNAのμg)の比率を1.375:1に維持した(x軸、PEI Maxおよびリポフェクタミン)。トランスフェクション混合物を、100μLの無血清DMEM中(濃いバー)または100μLのOptiMEM中(薄いバー)にて調製した。インキュベーション後、2通りの方法のうちの一方によってトランスフェクション混合物を細胞に添加した:(a)ウェルから培養基を吸引し、適切な培地1.9mLをトランスフェクション混合物に添加し、混合して、ウェルに添加(無地のバー)、または(b)ウェルから培養基を吸引し、適切な培地1.9mLで置き換え、次いでトランスフェクション混合物を各ウェル中の培地の上に滴下(模様付きバー)。NEG条件では、混合方法と共にPEI Maxを使用した。48時間後に粗ベクター調製物を回収して、qPCRによってDRPを定量した。試料の1つに混入があることが確認された(アスタリスクで示される)。
【0064】
リポフェクタミンを用いると初期のトランスフェクション効率が非常に優れていたが(GFP陽性細胞の数および強さの視覚評価による)、AAV2およびAAV8ベクターの力価はリポフェクタミンを使用した場合の方が有意に低く、いくつかの場合においては100分の1以下であった。PEIは、非常に低コストであるためにベクター産生で用いるのに好ましかったが、本明細書中において記載される知見によると、リポフェクタミンに基づくトランスフェクションは産生に対する阻害作用があることが示唆される。こうした不都合な作用を考慮に入れて、トランスフェクション効率の低いPEIを、siRNA実験では使用した。
【0065】
上位遺伝子のいくつかを重複して標的とするsiRNAを、ベクター産生プラスミドでのトランスフェクションよりも24時間前にトランスフェクションすることによって、産生の開始前にノックダウンを生じさせた。次いで、産生プラスミドおよびsiRNAを一緒にトランスフェクションして、2回目のトランスフェクションの48時間後に粗調製物を回収して滴定した(図5)。簡潔には、x軸上に示される遺伝子を標的とするSmartPOOL siRNAを、ドリップ法(drip method)とDMEM+5%FBSとを使用することによって、HEK293細胞中にトランスフェクションした。24時間後、細胞をsiRNAで再度トランスフェクションして、ヘルパー、rep-cap、およびITR.cmv.EGFP.T2A.ルシフェラーゼ.ITRプラスミドを添加した。48時間後に、粗ベクター調製物を回収した。
【0066】
DRPをqPCRによって定量し、以下の2通りの様式で記録した、すなわち、ヒトゲノム中の配列を標的としないsiRNAを使用する平行トランスフェクションに対する比率として(図5A)、および平行偽トランスフェクションに対する比率として(図5B)。コントロールとしては、siRNAプレトランスフェクションおよびコトランスフェクションの影響に対するコントロールとして1つのウェルを標的のないsiRNAで平行してトランスフェクションし、もう1つのウェルについては、siRNAでのトランスフェクションを行なわなかった(すなわち、産生プラスミドのみ)。
【0067】
AAV2およびAAV8の粗調製物の力価を、標的のないsiRNAコントロールの力価に対する比率として記録したところ(図5A)、対象とした遺伝子のいずれをノックダウンした際にも、ベクター力価の著しい増大は観察されなかった。しかしながら、siRNAなしのコントロール(図5B)に対する比率として記録した場合には、AAV2は著しい力価の増大を示し、CNOT6ノックダウンでは6.5倍も増大したが、AAV8はこれを示さなかった。おそらく、最も興味深い観察は、標的のないsiRNAでさえもベクター力価を少し増大させたということであり、このことは、RNAi経路の活性化によりどういうわけか産生が増大したことを示唆している。
【0068】
実施例3-アセンブリの文脈におけるウイルスと宿主タンパク質とのタンパク質相互作用
アセンブリプロセスと、直接関与している機構とについて、そのメカニズムを理解するために、二十面体へのアセンブリ前およびアセンブリ中にAAPおよびカプシドモノマーと物理的に相互に作用する宿主因子を同定した。以前の報告によると、HAタグVP1を餌として用いたVP-VP-AAP複合体の免疫沈降では、完全にアセンブリしたカプシドは沈降しない(Maurer et al., 2018, Cell Resp., 23:1817-30)。また、AAPは、アセンブリしたカプシドの一部だとは考えられていないが、しかし、もしそうであれば、内部にある可能性があり、よって、抗体に到達して共沈する可能性はないと考えられる。よって、FLAG-AAPまたはHA-VP1によって共沈したタンパク質は、カプシドのアセンブリ前およびアセンブリ中に生じる相互作用を象徴していると推察された。こうして考えられたメカニズムについての洞察を最大とする目的で、多くの異なる相互作用をプローブするためにプルダウンを設計した(図6)。
【0069】
簡潔には、図6A中に示される発現コンストラクトでHEK293細胞をトランスフェクションした。細胞溶解物を調製し、総タンパク質をBCAによって測定し、次いで、全試料中での総タンパク質濃度が等しくなるように希釈した。枠は、抗HA(VP餌)プルダウン(図6B)および抗FLAG(AAP餌)プルダウン(図6C)に使用した溶解物を示す。2回行なった同じ実験(レーンの上に「A」および「B」で示す)でインプットした各溶解物(図6A中に番号をつけてある)の2%を電気泳動し、SYPRO Rubyで染色することにより総タンパク質を示した(図6B)、またはウェスタンブロットによりVPおよびAAPについて調べた(図6C)。次いで、等体積の溶解物について免疫沈降を行なった(図6A中に記載)。溶出液を等体積ずつ各レーンに載せて電気泳動し、SYPRO Rubyで染色することにより総タンパク質を示した(図6Dおよび図6F)、またはウェスタンブロットによりVPおよびAAPについて調べた(図6Eおよび図6G)。
【0070】
これらの実験により、VPモノマーに結合する細胞タンパク質(試料2)、AAPに結合するもの(試料6)、およびVP-AAP複合体またはVPオリゴマーに結合するもの(試料3)を調べることができた。また、これらの実験によって、VPの相互作用の相手がAAPの存在下または非存在下においてどのように変わるのかについて、そしてその逆の場合についても調べることができた(試料2または試料6と試料3との比較)。
【0071】
AAPのN末端から3分の1(AAPN)は、疎水性領域と、保存されているコアとを含んでおり、また、AAPとVPとが一緒に機能するために重要であることが示されており(Maurer et al., 2018, 上述; Tse et al., 2018, J. Virol., 92(14):doi:10.,1128/JVI.00393-18)、また、AAPのC末端部分(AAPC)は核小体シグナルおよび核移行シグナルを含む(Earley et al., 2015, J. Virol., 89:3038-48)。よって、AAP、さらにはVPの核移行を担う細胞タンパク質がAAPCと結合し、主にAAPNがVPとの直接的な結合を担っているのではないかと推察した。この点について調べるために、切断型AAP(AAPNおよびAAPC)にFLAGタグをつけたものをトランスフェクションおよびプルダウンに含めた(図6、それぞれ試料4および試料5)。HA-VP1またはFLAG-AAPを餌として用いて免疫共沈降を両方向にて行ない、また、タグを付けていないVPおよびAAPをコントロール試料中で発現させたものについて抗HAおよび抗FLAGのプルダウンを行なって非特異的結合タンパク質を評価し(試料1および試料7)、これをバックグラウンドとして、その他の試料から差し引くこととした。
【0072】
これらの実験において、AAV8のVP1を使用した、というのは、CRISPRスクリーニングにおいてAAV8を使用しており、両方法において可能性のあるヒットを比較できたためである(たとえば、2種の異なる血清型を比較することは適切でないと考えられる)。AAP2を使用したが、その理由は、これがAAV8産生をロバストにトランスコンプリメンテーション(trans-complement)するためであり(Maurer et al., 2018, 上述; Earley et al, 2017, J. Virol., 91(3):doi: 10.1128/JVI.01980-16; Grosse et al., 2017, J. Virol., 91(20):doi: 10.1128/JVI.01198-17; Sonntag et al., 2011, J. Virol., 85:12686-97)、かつ、過去にはどの血清型からもAAPの細胞結合相手が特定されていないことからAAP2を非常に詳細に研究したので、AAPと細胞タンパク質との相互作用についての結論および仮説を報告するのがよいと考えたためである。
【0073】
生物学的デュプリケート(Biological duplicates)でトランスフェクションおよび免疫沈降の各々(図6)を行なったところ、複数のプルダウン同士の間に差次的なバンド形成を観察でき(図6Dおよび図6F)、このことは、各条件において固有の細胞タンパク質が存在していることを示す。溶出物に対してLC-MS/MSを行ない、各条件下で統計学的に有意に富化されたタンパク質を餌タンパク質を基準として標準化したものを、ヒートマップとして、図7A中(HA-VP1についてプルダウンされたタンパク質、よって、VP1の結合相手を示す)、および図7B中(FLAG-AAP2についてプルダウンされたタンパク質、よってAAP2の結合相手を示す)にまとめた。図7Aおよび図7B中の行の名称は、Uniprot受入番号、遺伝子記号、タンパク質名称、およびその遺伝子産物に対して特定された固有のペプチドの数を含む。図7Aおよび図7B中のカラムの識別名は、各条件(図6中に記載される)において発現したタグ付き餌タンパク質およびその他のウイルスタンパク質を含む。
【0074】
特定された複数の結合相手は、ベクター調製物において以前に特定されたもののうちの、固有の複数のタンパク質である。また、VPにより共沈したタンパク質は、AAPプルダウンにおけるものとは異なっており、この一連の組は、ウイルスタンパク質の共発現に依存して変わる。たとえば、全長AAPまたはAAPNが共発現している場合を除いて、VP1はBag2、STUB1、およびDnaJC7と共沈する。逆に、VP1が共発現している場合にのみ、AAPはDnaJA1と共沈し、このことは、DnaJA1とVP1との結合がAAPに依存することを示す。これらの4種のタンパク質は、タンパク質の折りたたみを直接触媒する必須のシャペロンタンパク質である、広範囲に発現している熱ショック類似70(heat shock cognate 70)および熱ショックタンパク質70(Hsc/Hsp70)の補因子である。Hsp70がプルダウンにおいて検出されたが、特異的プルダウンにおける真の富化は判定が困難である、というのは、HEK293細胞中でのHsp70の発現レベルが非常に高く、バックグランドレベルを押し上げて非特異的結合事象をさらに頻繁に引き起こすためである。
【0075】
また、タンパク質とVPまたはAAPとの相互作用が互いの存在にそれほど影響されないタンパク質もある。完全なカプシドと相互作用すること(Dong et al., 2014, PLoS One, 9:e86453)および感染中における核/核小体への移行にとって必要であること(Bevington et al., 2007, Virology, 357:102-13; Johnson and Samulski, 2009, J. Virol., 83:2632-44)が示されている、核小体が富化されたタンパク質ヌクレオフォスミンを、VP1の存在下および非存在下、全長AAP2によって、より具体的にはAAPNによってではなくAAPCによって、共沈させた。核膜孔複合体を介して移行に介在するインポーチン-ベータファミリーに属するインポーチン-5が、VPが存在していてもAAP(およびAAPC、AAPNではなく)に結合するという、ヌクレオフォスミンに類似するパターンを示した。インポーチン-ベータは、入ってくるAAV2粒子と共存することが示されているが、このファミリーに属する特定のメンバーについては調ベられていない(Nicolson and Samulski, 2014, J. Virol., 88:4132-44)。これらの結果は、核小体におけるアセンブリのためのAAPの核/核小体輸送およびVPタンパク質の共輸送にAAPのC末端配列が介在していることを示唆する。実際、AAP2について記載される核および核小体の局在シグナルはC末端部分にある(Earley et al., 2014, J. Virol., doi:10.1128/jvi.03125-14)。クレアチンキナーゼBおよびミオトロフィンなどの、AAPにより共沈する別のクラスのタンパク質は、VP1が共発現している場合を除いて、プルダウンされなかった。本明細書中において記載されるMSアプローチによって同定したこれらのおよびその他の多くのタンパク質は、これまで、AAVの複製サイクルとの関連が明らかにされていなかった。同定した結合相手のうちいくつかは、FXR1およびFXR2などの、十分に特徴付けされていない遺伝子/タンパク質である。
【0076】
実施例4-選択されたヒットについての、化学的阻害による機能評価
ベクター産生に及ぼす結合相手の影響を実証するための第1段階として、対応する化学的阻害剤が市販されているすべてのヒットについて試験した。また、バフィロマイシンA1についても試験し、バフィロマイシンA1は液胞特異的H+ ATPアーゼ(これの5つのサブユニットがCRISPRスクリーニングにおいて大幅に枯渇していることを確かめた(図2および図3))を阻害する。また、バフィロマイシンA1は、AAPの非存在下においてVPタンパク質をレスキューすることも示されている(Maurer et al., 2018, 上述)。
【0077】
阻害剤を、培養細胞用途で製造元が推奨する添加量を中心とした濃度範囲にて、培地中に段階希釈した。阻害剤を含有する培地をウェルに添加し、AAV2(薄いバー)またはAAV8(濃いバー)産生プラスミドのいずれかを含有するトランスフェクション混合物を上に滴下して、48時間後にベクターを回収した(図8A)。最も多い添加量でのHsc/Hsp70、ヌクレオフォスミン、およびクレアチンキナーゼBの阻害、ならびにすべての添加量でのバフィロマイシンA1の阻害によって、ベクター産生がバックグランドレベルにまで低下した。これらのうちで、カプシドアセンブリの直接的な阻害のためではなく不良なトランスフェクション効率の結果として生じたものがあるか否かを調べるために、上流ではあるがベクター産生にとって重要な因子について、トランスフェクション混合物の添加によりトランスフェクション工程を開始させた4時間後に、阻害剤を添加して、実験を繰り返した(図8B)。
【0078】
X軸は、DMEM+10%FBS中における阻害剤の濃度(μM)を示す。アッセイのバックグラウンド(NEG)を評価するために、ポジティブコントロールトランスフェクションにはcap遺伝子の代わりにDMSOのみを与え(DMSO)、ネガティブコントロールにはDMSOおよび空のプラスミドを与えた。トランスフェクションして48時間後に粗ベクター調製物を回収して、qPCRによってDRPを定量した。48時間においてCell Titer Glowキットを用いて生細胞をアッセイし、値を、同じプレート中に2倍希釈で播種した細胞の検量線を用いてプロットした。総トランスフェクション効率をEGFP陽性細胞のイメージングによって視覚的に評価し(EGFPは、導入遺伝子がITR間に挟まれているプラスミドの中に存在)、細胞の健康状態を、明視野イメージングによって視覚的に、かつ薬剤処理ウェル中でのATPレベルによって定量的に、評価した(薄い陰影付き、図8B)。さらに、いくつかの阻害剤濃度については、1回目の実験で有効でなかったために調整を加えたが、これらの濃度のうちのいくつかは、標的酵素の特異性を保証する濃度よりも高かった可能性がある。
【0079】
2回行なった実験のうち2回目の実験の結果を、各阻害剤のそれぞれについて、生細胞数を基準として標準化して、対応する顕微鏡画像と共に、図9図16中に示す。これらの実験において、産生プラスミドをHEK293細胞中にトランスフェクションし、適切な阻害剤を段階希釈して、4時間後にx軸上に示される濃度で添加した。阻害剤は、平行して実施したプレートに同濃度で添加し、Cell Titer Glo(登録商標)を用いてATPレベルを定量することによって、48時間のインキュベーション後の細胞生存率を評価した。ウェルからベクターを回収する直前に、48時間の時点で、顕微鏡法によって、総トランスフェクション効率(EGFP;導入遺伝子がITR間に挟まれているプラスミドにおいて存在)および細胞形態(明視野)を、x軸上に示される濃度にて評価した。AAV2(薄いバー)およびAAV8(濃いバー)ベクターの力価を、DRPに対するqPCRによって定量した。各調製物中のゲノムのコピー数(GC)を、各条件について調べた生細胞の数を基準として標準化して、生細胞1個あたりのGCを、阻害剤を与えていないポジティブコントロールトランスフェクション(DMSO)に対する比率として記録した。これらの実験についての標準化前のデータが、図9B中に示される。
【0080】
Cdk1阻害剤IVによるCdk1の阻害はベクター力価に影響を及ぼしたが、これに付随して、細胞の健康状態とトランスフェクション効率との両方が低下した(図9)。よって、Cdk1がベクター産生に関与している可能性は、これらの実験からは、確認も否認もできない。細胞生存率への影響を伴わないAAV8力価の著しい低下は、トランスフェクションの4時間後に阻害剤を添加した場合にのみ、AAV8について6.25μMでみられたが、この濃度ではAAV2産生への影響はなかった。AAV8のVP1を餌として用いた際にCdk1が有力な結合相手として特定されたことを考慮すると、これは、血清型特異的に、AAV2とよりもAAV8と優先的に相互作用することを示唆し得る。
【0081】
Cdk2阻害剤IIによるCdk2の阻害が、細胞生存率(ATPによりアッセイ)または総トランスフェクション効率(EGFP可視化により)に影響を及ぼさずに、AAV2の産生およびAAV8の産生の両方に対して、高濃度にて、特に90~270μMにて、添加量依存性の影響を示した(図10)。細胞形態は添加量270μMにて影響を受け、外見からして生きているGFP+ 細胞が各ウェルの中央へと凝集した。AAV8の力価が10分の1近くまで低下したことから、Cdk2が産生に関与していることが示唆されるが、こうした高い薬剤濃度での非特異的な影響を完全に除外するためにはさらなる実験が必要である。
【0082】
Bag2、STUB1、DnaJC7、またはDnaJA1に対する阻害剤は市販品がないが、しかしながら、アポプタゾールはシャペロンであるHsc70およびHsp70を阻害し、これによって上記4種のコシャペロンのすべてが機能していることが記録される。アポプタゾールによるHsc/Hsp70の阻害は、添加量に大いに依存するベクター産生の低下(AAV8で5%に低下)を示し、明らかなトランスフェクション効率の低下はみられなかったが、細胞形態は劇的に変化した(図11)。300μMにおいて、細胞がウェルの中央へと集まったが、それでもEGFPのロバストな発現を示し、ATPの存在量によってアッセイしたところ著しい細胞死は示さなかった。言うまでもなく、細胞タンパク質の大部分の折りたたみにとって重要であるこのシャペロンの阻害は、産生に必要なその他のメカニズムに対して、間接的に影響を及ぼしている可能性がある。VPの折りたたみにおけるHsc/Hsp70の直接的な関与を確かめるためにはさらなる研究が必要であるが、これらの結果から、Hsc/Hsp70に関連する機能が産生にとって重要だということが明らかとなった。
【0083】
ML-792によるSAE1の阻害(図12)、またはBML282によるUCHL1の阻害(図13)は、ベクター力価に対して著しい影響を及ぼしたが、これに付随して、EGFPの発現が劇的に低下した。よって、力価に対するこの影響は不良なトランスフェクションの結果として生じた可能性がある。
【0084】
ヌクレオフォスミン(NPM1)は、特にリボソームの新生の文脈において、折りたたみおよび核/核小体輸送のシャペロンとしての役割を有する。NPM1はRepタンパク質およびアセンブリしたカプシドと相互作用することが以前に示されているが、これらの研究の実験設計はAAP-NPM1の相互作用に対処していなかったと考えられる(Dong et al., 2014, PLoS One, 9:e86453; Bevington et al., 2007, Virology, 357:102-13)。トランスフェクション直前にNSC348884によりNPM1を薬理学的に阻害するとベクター力価が大きな影響を受けたが(図8A)、この影響は、トランスフェクションの4時間後に添加した場合にはみられなかった(図8Bおよび図14)。このことは、NPM1に対しての役割が非常に初期のものであることを示唆している。
【0085】
クレアチンキナーゼB(CKB)は、代謝において、特に、細胞ATPが急速に消費される部位でこれをin situにて再生するという重要な役割を果たしている。FDNBによるCKBの阻害は細胞のベクター産生に依って増大するようであるが(図15)、これは、生細胞の定量をATPレベルの測定により間接的に行なったことと関連する可能性がある、つまり、ATP再生の阻害により生細胞数が人為的に小さくなり、そのために生細胞1個あたりのゲノムコピー数が多くなった可能性がある。
【0086】
液胞特異的H+ ATPアーゼ(V-ATPアーゼ)は複数のサブユニットからなる酵素複合体であり、細胞内区画の膜を越えるプロトンの移行を触媒して内部pHに影響を及ぼす。V-ATPアーゼは、リソソーム、エンドソーム、およびオートファゴソームの酸性化にとって重要であり、バフィロマイシンA1によりV-ATPアーゼを阻害するとAAV感染が阻害される(Bartlett et al., 2000, J. Virol., 74:2777-85; Sonntag et al., 2006, J. Virol., 80:11040-54)。また、バフィロマイシンA1は、PEIが介在するプラスミドDNAのトランスフェクションをも阻害し(You and Auguste, 2010, Biomater., 31:6859-66)、このことから、トランスフェクション直前にV-ATPアーゼを阻害した際にみられたベクター産生の停止(図8A)と、全ゲノムCRISPRノックアウトスクリーニングからのサブユニットの枯渇(図2および図3)とが説明される。トランスフェクションの4時間後にバフィロマイシンA1を少量添加した場合にはベクター力価の10分の1への低下が観察され、トランスフェクション効率への著しい影響は視覚的には認められなかった(図16)。バフィロマイシンA1での処理は、AAPの非存在下においていくつかの血清型のVPタンパク質の分解をレスキューするが(Maurer et al., 2018, 上述)、このことは、消化小器官の酸性化がAAV産生に対する拮抗作用を有することを示唆している。しかしながら、(Sonntag et al., 2011, J. Virol., 85:12686-97)などにおけるように、AAPの存在下では、この酸性化も産生にとって重要であるようである。これらの結果は、エンドソーム、リソソーム、および/またはオートファゴソームの区画が、AAV複製サイクルの全局面と組換えベクター産生の場とおいて複雑な役割を有していることを示唆する。
【0087】
実施例5-提案されるモデル
図17は、対象とする複数のタンパク質を組み込んだAAVアセンブリの仮説モデルを示す概略図である。新生VPタンパク質(最も左)が、細胞質中において翻訳されて、AAPの非存在下においてプロテアソームによって分解される。AAPが存在する場合には、VPがオリゴマー化してアセンブリ中間体となり、核内に輸送されて完全なカプシドアセンブリとなる。AAPがVPをモノマーまたはオリゴマーのどちらとして共輸送するのはわかっていない。図中に示される他のタンパク質はいずれも一連のプルダウンで特定され、ここで、試料中にこれらが存在するか存在しないかに基づき(たとえば、図7)、かつ文献から周知されるこれらの機能に基づき、仮説的な機序においてアセンブリされた。
【0088】
全ゲノムCRISPRノックアウトスクリーニングにより、18時間の試料および24時間の試料の両方において、少なくとも2つのヒット(ATF7IPおよびSETDB1)が得られ、統計学的有意性が非常に高かった。これらのタンパク質は、H3K9をトリメチル化して活性座を転写的にサイレンシングする抑制性クロマチン調節因子であるHUSH複合体の中で一緒に存在しており、これらのタンパク質は機能的に共依存の関係にある(24)。HUSH複合体がトランスフェクションされたプラスミドからのウイルスタンパク質の発現をサイレンシングするモデルが考えられ得る、または、HUSHがカプシドアセンブリを促進するその他の因子の発現をサイレンシングしている可能性もある。
【0089】
こうしたプロテオミクス研究によって、CRISPRスクリーニングよりも多くのヒット(統計学的有意性あり)が得られ、また、ウイルスタンパク質に差次的に結合するいくつかのヒットは、DnaJA1、DnaJC7、BAG2、およびSTUB1などの同じ経路の異なる支流に供給されるという役割を有する。Hsc/Hsp70の活性は、Hsc/Hsp70によるATP加水分解を刺激して基質結合親和性を増大させるJ-タンパク質などのコシャペロンと、ヌクレオチド交換因子として機能するBAGファミリーのタンパク質とに依存する。また、J-タンパク質はその基質に直接結合するが、このことはDnaJタンパク質がHsp70基質選択性に関与していることを示す。これらのコシャペロンとHsc/Hsp70とは、一緒に、基質の折りたたみを駆動できるが、また、基質の分解にも関与している可能性がある。STUB1は、不完全または不適切に折りたたまれたHsc/Hsp70基質をユビキチン化してプロテアソーム分解の標的とすることによってタンパク質安定性の負の制御因子として働く、E3リガーゼである。BAG2は、DnaJタンパク質と共にHsp70のATPアーゼ活性を刺激し、STUB1のユビキチン化活性を阻害する。DNAJC7は、プロテアソームによる基質の分解を阻害することにより安定化するという役割を有することが示唆されており、不適切に折りたたまれた基質を折りたたみ経路の初期段階に戻すことによる再利用シャペロンとしての働きが提案されている。VP1がAAPの存在下および非存在下においてDNAJA1、BAG2、およびSTUB1と差次的に結合することは、コシャペロンとHsc/Hsp70との選択性、相互作用、および機能性に対してAAPが直接関与していることを示唆する。さらに、このことは、AAPが上流で作用してプロテアソームによるVPタンパク質の分解を阻害するという機能的ネットワークを提案する。
【0090】
その他の実施形態
方法および組成物が、複数の異なる態様と共に本明細書中において記載されているが、これら様々な態様について上述される記載は例証を意図しており当該方法および組成物の範囲の限定を意図しないということが理解される。その他の態様、利点、および改変は、特許請求の範囲に含まれる。
【0091】
開示されるのは、開示される方法および組成物の産物の調製のために使用できる、もしくはこの調製と併用して使用できる、もしくはこの調製において使用できる方法および組成物、またはこうした産物である。これらのおよびその他のものが本明細書中において開示されており、これらの方法および組成物の組み合わせ、サブセット、相互作用、グループなどが開示されていることが理解される。すなわち、これらの組成物および方法の個々についての、またはこれらの様々な集合的な組み合わせおよび並び替えについての、具体的な言及が明白に開示されていない場合があるかもしれないが、これらの各々は具体的に意図されており、本明細書中において記載されている。たとえば、特定の組成物または特定の方法が開示および議論され複数の組成物または方法が議論されている場合、これら組成物および方法の組み合わせおよび並び替えのひとつひとつが、そうではないと具体的に示されている場合を除いて、具体的に意図されている。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせも具体的に意図および開示されている。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】