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特表2022-526955動脈および静脈用の経カテーテル塞栓防止フィルタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-27
(54)【発明の名称】動脈および静脈用の経カテーテル塞栓防止フィルタ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/01 20060101AFI20220520BHJP
   A61B 17/22 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
A61F2/01
A61B17/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557526
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(85)【翻訳文提出日】2021-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2020059601
(87)【国際公開番号】W WO2020201524
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】19167599.0
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520085578
【氏名又は名称】アオルティクラブ エスアールエル
【氏名又は名称原語表記】AORTICLAB SRL
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】パスキノ, エンリコ
(72)【発明者】
【氏名】オスタ, フランコ
(72)【発明者】
【氏名】オスタ, ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】バイ, イー ペン
(72)【発明者】
【氏名】パリギ, ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ボネッティ, フランセスコ
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160MM37
(57)【要約】
塞栓を捕捉し除去して末梢塞栓を防止する脈管内経カテーテルフィルタ装置1であって、管状フィルタ2および支持構造アセンブリ8を備え、フィルタが、可撓性多孔質材料を含み、本体3と漏斗4によって形成され、本体が、適当な脈管区間内に延びる長さを有し、本体が、装置の作動構成において、区間に径方向に結合されて区間に封着する遠位端5であって、遠位端が、選択的に作動可能な閉鎖手段を備え、遠位端が、作動構成において開き、装置の引き込み前に閉じる、遠位端と、近位端6とを含み、漏斗が、本体の延長部を形成し、漏斗の基部が近位端に配置され、支持構造アセンブリが、本体内に延びる支持カテーテル11と、遠位端に固定され、径方向に拡張可能な遠位構造9と、近位端に対応する位置に配置され、径方向に拡張可能な近位構造10とを含み、遠位構造および近位構造が、一端で支持カテーテルに固定される、脈管内経カテーテルフィルタ装置。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塞栓を捕捉し除去して末梢塞栓を防止するようになっている脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)であって、管状フィルタ(2)および支持構造アセンブリ(8)を備え、
前記管状フィルタ(2)が、可撓性多孔質材料を含み、遠位要素と近位要素、すなわち本体(3)と漏斗(4)によって形成され、
i.前記本体(3)が、適当な脈管区間内に延びるのに適した長さを有し、前記本体(3)が、
a)前記装置が作動構成にあるときに、前記区間に径方向に結合されて前記区間に封着するように適合された遠位端(5)であって、前記遠位端(5)が、選択的に作動可能な閉鎖手段を備え、その結果、前記遠位端が、前記装置が作動構成にあるときに開き、前記装置の引き込み前に閉じるようになっている、遠位端(5)と、
b)近位端(6)と
を含み、
ii.前記漏斗(4)が、前記本体(3)の延長部を形成し、前記漏斗の基部が前記近位端(6)に配置され、
前記支持構造アセンブリ(8)が、
i.前記本体(3)内に延びる支持カテーテル(11)と、
ii.前記遠位端(5)に固定され、径方向に拡張可能な1つの遠位構造(9)と、
iii.前記近位端(6)に対応する位置に配置され、径方向に拡張可能な1つの近位構造(10)と
を含み、
前記遠位構造(9)および前記近位構造(10)が、少なくとも一端で前記支持カテーテル(11)に固定される、脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項2】
前記本体(3)と略同じ断面積を有する前記漏斗(4)が、前記漏斗の頂部が前記本体(3)の外部に配置される第1の位置と、前記漏斗の頂部が前記本体(3)の内部に配置される第2の位置との間、すなわち前記遠位端(5)と前記近位端(6)との間で、前記本体(3)に対して移動可能である、請求項1に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項3】
前記漏斗(4)が前記本体(3)に対して固定され、前記漏斗の頂部が、前記遠位端(5)と前記近位端(6)との間で前記本体(3)の内部に固定的に配置される、請求項1に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項4】
前記フィルタ(2)の前記可撓性多孔質メッシュ材料の孔が、150ミクロンよりも小さく、好ましくは40~70ミクロンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項5】
前記遠位端(5)および前記近位端(6)の両方に、選択的に作動可能な閉鎖機構が設けられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項6】
前記フィルタが、低摩擦かつ可撓性のポリマー材料または複合材料で作られ、好ましくは、非限定的に布で作られる、請求項1~5のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項7】
前記フィルタが、親水性コーティング、低摩擦性コーティング、または抗血栓形成コーティングのいずれか、またはこれらの組み合わせで被覆される、請求項1~6のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項8】
前記遠位構造(9)および前記近位構造(10)が、リング形状を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項9】
前記構造(9、10)の少なくとも一方が、互いに結合される2つのリングを備える、請求項8に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項10】
前記遠位構造(9)が、前記選択的に作動可能な閉鎖機構の一部である、請求項1~9のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項11】
前記漏斗(4)の先端にカテーテルアクセスポートが設けられ、その結果、前記漏斗(4)が、前記漏斗(4)を横切る作業カテーテルのための移送装置として機能するようになっている、請求項1~10のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項12】
前記カテーテル(11)が、他の作業カテーテルまたは器具の関連するルーメンの内部を辿るように適合され、その一方で塞栓を保持することが可能である、請求項1~11のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項13】
脈管内手術に適した形状を有し、前記フィルタの本体の長さが、適当な脈管区間内に延びるように適合され、例えば、大動脈内手術の場合は、上行大動脈(23)から下行大動脈(26)まで延びるように適合させるために、概ね10cm~30cmである、請求項1~12のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項14】
人工弁(18)を備える、請求項1~13のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項15】
行き止まり部分を有する中間構造(34、35)を備え、前記中間構造(34、35)が、血流によって運ばれる塞栓を捕捉するように適合される、請求項1~14のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項16】
前記管状フィルタ(2)が、前記漏斗(4)、行き止まり部分を有する中間構造(34、35)、または前記遠位構造(9)の流路などの特定の領域を画定する、1つまたはいくつかの縫い目線を備える、請求項1~15のいずれか一項に記載の脈管内経カテーテルフィルタ装置(1)。
【請求項17】
請求項1に記載の経カテーテル装置を使用する、脈管内手術中の塞栓防止方法であって、
支持カテーテル(11)と、外部シャフト(13)内に収納され、ガイドワイヤ(29)に沿って移動する拡張可能な支持構造(9、10)とを備える、塞栓防止管状フィルタ(2)を、適切なアクセス(27)を経由して挿入するステップと、
放射線不透過性マーカおよび適切な撮像技術を補助的に使用して、前記フィルタの前記遠位端を、意図した位置、すなわち大動脈内手術の場合は一般に、非限定的に、無名動脈の上流の上行大動脈内に配置するステップと、
前記フィルタを前記遠位端から前記近位端まで完全に展開するために、前記外部シャフトを近位方向に回収するステップであって、これによって前記フィルタに、2つの概ね開いている端部、すなわち大動脈壁を封止する前記遠位端(5)と、前記漏斗(4)の基部として機能する前記近位端(6)とを有する構成を与える、ステップと、
前記漏斗(4)の先端を横切って特定の作業器具を前記フィルタ内に入れることを可能にするステップであって、前記漏斗および前記本体が、塞栓が下流に放出されるのを防止するように構成される、ステップと、
手術全体を通じて近位閉鎖システムを使用可能にし、かつフィルタ回収前に遠位閉鎖システムを使用可能にするステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に経カテーテル塞栓防止フィルタに関し、特に、生じ得る塞栓の伝播から、脳血管および末梢血管を防護するために使用される大動脈内フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
経カテーテル心臓人工弁(TAVI)の植え込みに関連する臨床的合併症は、主に、これが罹患した自己弁と重なり合うことと関連している。組織の石灰化の程度が重いと、弁装置および周辺組織を含めて、人工的補填物の正しい配置に影響を及ぼし、塞栓症の条件が生まれる。
【0003】
TAVI植え込み術中(事前拡張中、植え込み中、または事後拡張中)に、手術による塞栓事象、いわゆる「マクロ塞栓脳事象」が生じており、これは主に、通常は脳(卒中)、冠状動脈、または末梢器官を標的とした、弾性繊維粒子におけるカルシウムのマクロデブリスの塞栓形成に関連している。しかしながら、卒中はもっとも恐れられている臨床的事象であり、今日では、前世代のTAVIの3.3%に対し、2.7%の確率で発生している。この卒中の減少は、TAVI植え込み中に事前拡張および事後拡張を行う必要性が少ないことに関連しているが、石灰化の程度が軽い大動脈弁を参照しているため、このデータは不明確である。調査に参加した患者の少なくとも8%に術後微小脳塞栓事象が見られたことが立証されている。TAVI後の新しい脳病変の発生率が高いことから、神経認知機能の長期的な評価が必要とされている。
【0004】
3か月という短期の観察期間にわたって行われたこの調査では、臨床的に神経認知機能の障害は観察されず、3か月後のMRIでは病変の大部分(80%)が消失していた。しかしながら、TAVIの適応が余命の長い若年の患者にまで広げられた場合、周術期の脳塞栓とそれが神経認知機能に潜在的な影響を及ぼす問題は、臨床的により重大な意味を持つようになる可能性がある。
【0005】
したがってTAVIの分野における将来の研究は、塞栓形成のリスクを低減する方法(例えば、外傷がより少なく、より穴の小さいカテーテルシステム、塞栓のリスクがある患者や脳保護装置を使用する可能性の識別の改善)の開発に向けられるべきである。
【0006】
一部の臨床研究では、TAVIの植え込みを受けた患者の少なくとも10%が、心理測定試験中に、検出可能な神経認知機能の障害を示した。この発生率は、高リスクおよび高齢の患者集団では許容できるが、より低リスクの若年の患者では許容しがたいことは明白である。この臨床状況をより詳しく調査するために、いくつかの臨床研究が進められている。
【0007】
別の種類の塞栓事象は、術後すぐに発生する、亜急性かつ慢性的な微小塞栓事象である。自己大動脈石灰化弁は表面がいぼ状で起伏があり、固定化してアテローム潰瘍性プラークのように作用する。これは微小塞栓が形成されやすい状態であり、後に脳その他の末梢器官に塞栓が形成される。微小塞栓源として元の場所に残された自己大動脈弁は、いくつかの臨床研究では、血管由来の認知症を発症させる役割を果たすものとして考慮されている。これを根拠として、TAVIが若年の患者に植え込まれる際に血管性認知症が増加すると、社会的コストに深刻な影響を与えかねない懸念が生じている。
【0008】
要約すると、TAVI植え込み後の周術期の臨床的合併症は、重度に石灰化した大動脈弁が元の場所に残っていることと強い関係がある。これは急性的に、マクロ塞栓脳事象(卒中)、ならびにさまざまな重症度の大動脈弁閉鎖不全症の原因となるPVLなどの血行力学的結果の発生につながる。このような満足とは言えない臨床結果は、高度に石灰化した大動脈自己弁に付随する、経カテーテル人工弁の不規則な展開と密接に関係している。
【0009】
長期的な臨床的合併症は、元の場所に残された自己大動脈弁尖によって生成された脳微小塞栓を特徴とし、これは血管性認知症の原因となる塞栓源になる。
【0010】
TAVIにおける臨床的合併症の全体的な確率は、5%~12%の範囲である。この発生率は、高度に石灰化した自己弁や、二尖自己弁を有する患者が含まれていないため、過小評価されている可能性が高い。
【0011】
このようなことを根拠に、末梢器官、特に脳や心臓を、TAVI手術中に発生する塞栓形成から防護することの重要性が強調されている。
【0012】
SAVRに比べてTAVIの全般的な使用が増加していること、ならびにTAVIを植え込まれた中等度リスクの患者の割合が高いことは、その両方が、このような患者の長期的生存および生活の質を最適化するために、塞栓防止策を採用すれば好都合なことを示している。
【0013】
AKI(急性腎障害)はTAVI後に頻繁に起きる合併症であり、8.3%~58%の範囲と報告されている。結果に差があることは、一部には、AKIに使用される定義の違いで説明できるであろう。一般に、この合併症は、並存疾患、アクセス経路(経大腿、経心尖その他)、および術中に使用される造影液の量と相関する。TAVI術中に発生する塞栓形成プロセスとAKIとの相関については臨床研究が存在せず、これは腎領域で直接塞栓を捕捉できる装置がないことにもよるが、術中に弁から剥離した塞栓の塊がこの合併症を発生しやすくしている可能性があると考えられる。
【0014】
上述したTAVI術関連の合併症は、(TAVIに関連しない)弁形成術、自己弁修復、および心臓回復術などの他の経カテーテル術にも当てはまり、このような状態はすべて、心室、自己弁、胸部大動脈からの塞栓放出につながる可能性がある。さらに、石灰化した大動脈に沿ったカテーテルナビゲーション自体によって、石灰化が除去され塞栓が放出される可能性がある。
【0015】
さらに、塞栓合併症は大動脈内手術以外の経カテーテル術でも見られるため、他の部位に対しても塞栓防止を行うことが強く推奨される。
【0016】
実際に、塞栓防止を開示する特許出願が長年にわたって出願されており、例えば、米国特許第6,361,545号明細書には、SAVRおよび心肺バイパス術の枠組みで使用可能な灌流フィルタカテーテルが示され、またはオーストラリア特許出願第2011202667号明細書では、塞栓フィルタ装置、および心臓弁を置換する方法を開示している。
【0017】
今日では、経カテーテル心臓手術および大動脈手術の枠組みで脳および末梢循環を防護する、臨床で使用される装置がわずかしかない。
【0018】
偏向器は、塞栓を腕頭動脈および左総頚動脈から末梢循環の方へ偏向させ、これによって脳血管に進入したデブリスのみを妨害し、デブリスを末梢循環へ迂回させる。さらに、意図した位置から外れた場合は、迂回機能は失われる。
【0019】
市販の塞栓防止フィルタは、その主な特徴が米国特許出願公開第2018/177582号明細書に開示されており、実際にメッシュで塞栓を捕捉するが、3つの脳血管のうちの2つをカバーするのみで、末梢循環はカバーしない。
【0020】
米国特許出願公開第2014/0005540号明細書および米国特許出願公開2016/0235515号明細書などの他の特許は、脳循環および体循環を防護できる塞栓防止装置フィルタを開示しているが、フィルタを展開する前に配置する必要がある、TAVI装置を支えるカテーテルなどの他の作業カテーテルとの相互作用に関していくつかの問題点を示しており、さらに、TAVIの配置中に、そのカテーテルがフィルタ防護から外れ、その結果、大動脈の狭い領域が防護されていない状態になり、最終的に、TAVIを下行大動脈内に再配置することが必要な場合は、フィルタ防護を一時的に解除する必要がある。
【0021】
米国特許出願公開第2018/0110607号明細書は、脳循環および体循環を防護できる塞栓防止装置フィルタを開示し、この装置は、捕捉した塞栓を閉じ込めるための収集室を有し、その円筒形の本体の内部を他のカテーテルが通れるようにする。不利な点として、メッシュ孔の大きさが約1mm~約0.1mmの範囲で規定されていること、および閉鎖時に塞栓が上流に放出されるのを本来防止する、遠位閉鎖機構がないことがわかる。
【0022】
国際公開第2017/042808号は、交差可能な少なくとも1つのフィルタポケットを含む近位塞栓収集器に接続された、脳血管を覆う遠位多孔質偏向器を含む、塞栓防止装置を開示している。遠位偏向器は、完全なフィルタ構成に対して邪魔にならない点で好適なことは明白であるが、実際には他の作業カテーテルと相互作用するときに欠点が見られ、偏向器の動きが小さい場合は、脳が防護されない結果になる可能性がある。
【0023】
国際公開第2015/185870号および国際公開第2018/211344号はともに、大動脈に挿入されるようになっている、一時的な人工弁を含むフィルタ装置を開示している。これらの装置はともに、他の従来技術の装置に対して改善されている。しかしながら、自己弁に対して近位に配置することなどいくつかの欠点があり、これによって自己弁を直接操作する可能性が制限され、またカテーテル寸法の制約のために、人工的補填物を通して別の装置を挿入するのが困難である。
【発明の概要】
【0024】
前章で述べたような臨床的事象の発生は、特許請求の範囲で定義されている通り、本発明による装置で防止される。
【0025】
本発明による装置は、概ね閉じているフィルタポートに作業カテーテルを通せるようにする近位漏斗を含み、その一方で下流で収集された塞栓の放出を防止する、塞栓防止フィルタを備え、これにより付属品の作業カテーテル、および/または経カテーテル装置を、後で血管に直接接触することなくフィルタ内部で追跡でき、血管壁の損傷、およびこれに関連する石灰化剥離を防止しながら、塞栓の放出を防止するのに役立つ。また、フィルタは遠位閉鎖機構を有し、装置を回収する前に使用されて、閉鎖時に塞栓が上流に放出されるのを防止する。さらに、適切なフィルタメッシュ孔を選択することによって、脳循環および末梢循環が、マクロ塞栓および微小塞栓の両方から確実に防護される。
【0026】
好ましくは、本発明による装置は、血管(特に大動脈)用の経カテーテル術中フィルタ人工的補填物を備え、これは、管状フィルタと、拡張可能な遠位支持構造および近位支持構造とを含み、前記管状フィルタは、展開されると管状の形状を形成し、通常は開いている遠位端と、通常は閉じている近位ポートとを有する。フィルタの完全な収納および展開は、内部支持カテーテルに対する、外部シャフトの相対的な直線移動によって可能になる。
【0027】
特定の大動脈内の実施形態では、展開されたフィルタの遠位端は、無名動脈の上流の上行大動脈内に配置され、近位端は、大動脈弓の終端の下流にある下行大動脈に配置される。
【0028】
別の特定の実施形態では、漏斗構成は、その先端を下流側に維持するか、フィルタ本体の内部に戻すか、または中間位置にすることによって、手術中に変更することができる。
【0029】
装置は、再配置するために、手術中は完全にまたは部分的に収納することができる。手術終了時は、遠位閉鎖機構および近位閉鎖機構の両方が作動され、次に装置が収納されてシャフトの内部に格納され、患者から完全に回収される。
【0030】
フィルタ装置は、他の経カテーテル術を開始する前に挿入され、他の経カテーテル装置が除去された後で回収されることを意図している。
【0031】
要約すると、本明細書で説明するフィルタ装置は塞栓防止を確実に行うのに適しており、他の作業カテーテルをフィルタの中に入れるナビゲーション、近位端の固定的な閉鎖、およびフィルタ回収前の遠位端の閉鎖を確実に行うことにより、既存の装置および方法に比べて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明は、いくつかの図示されている例と関連する以下の説明で、よりよく理解できるであろう。
図1】フィルタ-構造-カテーテルアセンブリ(12)と、外部シャフト(13)と、ハンドル(16)とを備える、作動構成のフィルタ装置アセンブリを示す。
図1a】フィルタ装置の構成要素の名称を示す。
図1b】いくつかの形状(a)円筒形、b)円錐形、c)円筒円錐形、d)両円錐形、e)多角度形状)の例を含む、フィルタの本体(3)を示す。
図1c】支持構造アセンブリの例(8)を示す。
図2】作動構成における、遠位リングが2つの構造の実施形態(9b)の例を示す。
図2a】遠位リングが2つの構造の実施形態が、適合する仕組みを示す。
図2b】遠位リング構造が2つの実施形態が、引き込まれる仕組みを示す。
図3】作動構成における、遠位リング構造が1つの実施形態(9a)の例を示す。
図3a】遠位リングが1つの構造の実施形態が、適合する仕組みを示す。
図3b】遠位リング構造が1つの実施形態が、引き込まれる仕組みを示す。
図4】可動近位漏斗の実施形態(4)を示す。
図4a】非作動構成における可動漏斗を示す(漏斗が下流側にある)。
図4b】作動構成における可動漏斗を示す(漏斗が本体内部に戻されている)。
図5】「8」の字型の近位構造(10)を有する、固定漏斗の実施形態(4)の例を示す。
図6】リング型の近位構造(10)を有する、固定漏斗の実施形態(4)の例を示す。
図7a】遠位閉鎖機構(15)の例を示す。
図7b】近位閉鎖機構(14)の例を示す。
図8】リング構成の例を示す。
図9】遠位構造(9b)と漏斗(4)との可動機構の一体化を示す。
図10】外部シャフト(13)、放射線不透過性マーカ(19)、および 先端(17)といった、追従性ツールおよびナビゲーションツールの例を示す。
図11a】塞栓防止の方法であって、大動脈内手術の例における、 ガイドワイヤ(29)を含む上行大動脈を示す。
図11b】塞栓防止の方法であって、大動脈内手術の例における、収納されたフィルタ装置(1)の大動脈弓(25)に沿ったナビゲーションを示す。
図11c】塞栓防止の方法であって、大動脈内手術の例における、意図した場所での装置の展開を示す。
図11d】塞栓防止の方法であって、大動脈内手術の例における、装置と、ピッグテールその他の作業カテーテル(31)との相互作用を示す。
図11e】塞栓防止の方法であって、大動脈内手術の例における、装置を通した塞栓捕捉および血流の方向を示す。
図11f】近位閉鎖機構(14)および遠位閉鎖機構(15)の作動を示す。
図11g】手術後に回収されたフィルタ装置を示す。
図12a】1つ以上の縫い目線で形成された漏斗構成を有する、フィルタの例を示す。
図12b】1つ以上の縫い目線で形成された漏斗構成を有する、別のフィルタの例を示す。
図12c】1つ以上の縫い目線で形成された漏斗構成を有する、さらに別のフィルタの例を示す。
図12d】1つ以上の縫い目線で形成された漏斗構成を有する、さらに別のフィルタの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
一実施形態において、塞栓防止フィルタ装置は、血流を許容しながら塞栓を保持するように適合された管状フィルタ2を含むアセンブリ12、フィルタを支えて血管と結合させる構造アセンブリ8、前記アセンブリの収納/追従/展開/回収を行う外部シャフト13、および特定のコマンドで前記の動作を可能にするハンドル16といったマクロ要素を備える(図1)と同時に、血管を最適に封止し他の装置と最適に相互作用する。
【0034】
図1に示すように、管状フィルタ2は構造アセンブリ8の外部に配置され、このアセンブリは、図1cに示すように、血流方向に対して上流に配置され、フィルタを血管に対して漏れのないように結合することを意図した、遠位支持構造9と、塞栓が集められ、かつ他の装置が関連するポート7を通ってフィルタの内部を通過する領域を画定する、近位支持構造10と、支持カテーテル11とを備える。特定の実施形態では、前記管状フィルタ2と、構造アセンブリ8と、外部シャフト13と、ハンドル16とは固定的に結合されている。
【0035】
特定の実施形態(図2図3)において、前記フィルタ装置は、大動脈内防護として使用されるように適合され、無名動脈24に対して上流の上行大動脈23から、下行大動脈26まで延びている。
【0036】
図1aは、前記フィルタ装置1の主な構成要素を示し、本明細書では以下、管状フィルタ2の構成要素から開始して、構造8、シャフト13、ハンドル16の順で説明する。
【0037】
管状フィルタ2は、好ましくは低摩擦性の多孔質で可撓性のポリマー材料または複合材料で作成され、ここではポリエステルまたはポリアミドを含み、好ましくは150ミクロンより小さいメッシュ孔を有する。これは、親水性コーティング、低摩擦性コーティング、または抗血栓形成コーティングのいずれか、あるいはこれらを組み合わせて被覆することができる。フィルタ材料は、挿入時および回収時の両方において、経カテーテル装置を体内に入れるナビゲーションを容易にするように被覆され形成され、血管壁を損傷する可能性がある、これに関連した血管壁との直接接触を防止する。特定の実施形態は、穿孔された膜および布を含む。一実施形態では、経糸および緯糸がマルチフィラメント糸またはモノフィラメント糸のいずれかで作られ、織パターンが一定あるいは可変の織布を選択でき、その結果、正方形および円形の形状、一定あるいは可変のメッシュ孔、ならびに長手方向および円周方向にフィルタに沿った開放領域から構成された、孔が得られる。
【0038】
管状フィルタ2は、遠位要素と近位要素、すなわち本体3と漏斗4とによって形状が確定される(図1a)。本体3は、遠位端5と、近位端6とを有し、前記遠位端5は、装置が作動構成のときは開くように適合され、密閉するように血管と結合され、かつ装置の引き込み前に閉じられ、前記近位端6は、作動構成では開くように適合され、前記漏斗4は、前記本体3の延長部を形成し、漏斗基部は前記近位端(6)に配置される。
【0039】
フィルタ本体3の実施形態(図1b)は、円筒形の本体、円錐形の本体、およびこれらの組み合わせを含む。大動脈内手術のための特定の実施形態は、大動脈と結合する遠位の円筒形部分3-1、進むにつれて直径が小さくなる中間の円錐形部分3-2、および近位の円筒形部分3-3の3つの領域からなる本体3e(図1b)を備え、前記中間部分は、関連する血液循環の圧力低下を低減し、かつ大動脈弓25の内側に沿ってフィルタ全体が妨げられるのを低減するように形成され、前記近位の円筒形部分の形状は、下行大動脈内で部分的に再度収納されたTAVIを回収する場合でも、作業カテーテルの前後遊動を可能にすることが意図されている。本体の長さは、無名動脈24の上流にある上行大動脈23から下行大動脈26まで、保護すべき血管の全長にわたって延びるように適合させるために、概ね10~30cmで構成される。
【0040】
漏斗4の実施形態は、可動漏斗および固定漏斗を含み、対称あるいは非対称の形状を有する。
【0041】
図4は可動漏斗4の実施形態を示し、漏斗は、漏斗の先端が本体3の近位の近位開放端6にある第1の位置(図4bに詳細を示す)と、漏斗の先端が前記本体内の、前記本体3の遠位端と近位端の間に配置されている第2の位置(図4aに詳細を示す)との両極の構成になる。作動構成では、漏斗頂部は本体の内部に概ね配置されて、ここを横切る作業カテーテルのための摺動する移送装置として機能し、その一方で、本体と漏斗4cとの隙間にある塞栓を収集し、これによって、作業カテーテルと漏斗ポートとの間の相互作用が、本来の塞栓のない状態になる。この実施形態では、漏斗は、先端を操作することによって向きが変わる、すなわち図4bおよび図4aで詳細に説明されているように、ハンドルによって指示されるプッシュプル方式で配向され、この実施形態によって、作業カテーテルを通しているときにも漏斗を動かすことが可能になる。
【0042】
漏斗の第2の実施形態(図5)は、遠位先端を有する固定漏斗要素4-2を備え、作業カテーテルを通すことが可能であり、固定漏斗要素4-2は、塞栓を収集するように適合された近位先端4-1を有する、本体3の近位部分になっている固定円錐要素に横方向に結合し、漏斗および収集円錐要素の基部を形成する、「8」の字型に形成された近位リング10に結合し、遠位端基部がフィルタ本体3あるいは支持カテーテル11に接続され、かつ近位端が少なくとも一点で漏斗4-2に接続されたフラップ4-3に結合し、このフラップは、漏斗を交差可能にしながら、塞栓が下流に放出されるのを防止する。
【0043】
漏斗の第3の実施形態(図6)では、作動構成において基部が近位端で開き、移送装置として機能する、向きが固定された漏斗要素を備え、この漏斗は、本体3の近位部分になっている、先端が近位端で閉じられた固定円錐要素に横方向に、かつ径方向に拡張可能な近位構造(10)に少なくとも結合され、前記近位構造は手動で作動される、あるいは自己拡張する。
【0044】
漏斗要素は、作業カテーテルが確実にその先端を通りやすくなるように、血管の直線部分に概ね配置される。漏斗は本体より短く、漏斗から本体までの長さの比率は、特定の血管中心線の長さ、形状、および血管の直径に応じて、概ね1/10~1/3になる。特定の大動脈内における実施形態の漏斗長さは、概ね2~10cmになる。
【0045】
漏斗4の先端に配置される、塞栓が下流に放出されるのを防止する近位閉鎖システム14は、フィルタ近位ポート7と呼ばれ、これは、先端が血流に対して下流側を向くように形成された漏斗形状からなる、あるいは折り返された頂部またはこれらのシステムの組み合わせからなる、あるいは実際の閉鎖システムからなり、閉鎖システムの例は、伸縮するワイヤによって、手動14bで、あるいは自動的14aに作動される、ワイヤ作動のラズーシステムによって構築される。図7bは、可動漏斗システムに適用された近位ポートの例を示し、上の2つの図では、開位置b1および閉位置b2の機械式閉鎖機構が示され、下の2つの図では、2つの別の自己封止自動閉鎖型の実施形態が、a-a、a-bで示されている。
【0046】
手術終了時に上流側が外れるのを防止するために使用される遠位閉鎖システム15は、装置(図7a)を再度収納する前に作動され、これはラズーシステム、手動による作動、あるいは自動伸縮システムであり、作動構成においては手動で非作動にされる。
【0047】
支持構造アセンブリ8の具体的な実施形態が図1cに示されており、少なくとも、本体内に延びる支持カテーテル11と、前記本体遠位端に結合された、1つの径方向に拡張可能な遠位構造9と、前記本体近位端レベルに配置された、1つの径方向に拡張可能な近位構造10とを備え、前記遠位構造9と前記近位構造10は、前記支持カテーテル11に固定されている。
【0048】
図2および図3は、作動構成にあるフィルタ装置1の、2つの大動脈内の実施形態を示し、遠位構造9の要素が異なっている。両方の事例において、フィルタ装置の機械的安定性は、独立した状態であっても、あるいは他の作業カテーテルを通しているときでも保証され、それは少なくとも、遠位構造9が上行大動脈血管と結合すること、および支持カテーテル11が大動脈弓と結合することによる。
【0049】
遠位構造の径方向に拡張可能な特徴によって、サイズを縮小したフィルタ装置で広範な形状(上行大動脈の直径は概ね20~40mmの範囲)および解剖学的構造を確実にカバーし、装置が外れたり移動したりする危険性をなくす。
【0050】
図2に示す特定の実施形態では、遠位構造9は、ここではより近位の要素、およびより遠位の要素と呼ばれる、互いに結合された2つのリング要素9bを備え、より遠位のリング要素は、その遠位端がカテーテル11に結合され、その近位端は、より近位のリング要素に結合され、かつ本体3の外周に沿って本体の遠位端に結合され、より近位の要素は、支持カテーテル11のルーメンの内部を通過するロッドによって、その近位端が特定のハンドル封止コマンドに結合さる。この構造は、円形部分、楕円形部分、または長方形部分、あるいはこれらの組み合わせのいずれかを有する単一のワイヤあるいは複数のワイヤで構築でき、構成要素間の結合部は、圧着、溶接、接着、結合、またはワイヤ要素の場合はねじり、あるいはこれらを組み合わせた方法で作成することができる。
【0051】
遠位リング要素は、作動構成において大動脈と適合するように、径方向に拡張可能になっており、これによって漏れのない結合を保証し、このことは、使用されている材料(これに限定されないがニチノールが好ましい)の弾性限度の高さ、外周が大動脈血管より大きいその形状、大動脈の中心線に対して傾斜した、関連する軸線のない自在な配向、ならびにハンドルによって指示される関連する変形機構によって確実になる。例として、ハンドル封止コマンドを能動的に押すことによって(図2aのコマンド16bによる前進させる動き)、近位リング要素が遠位リング要素を押し、これによって関連するリング面が部分的に傾斜し、その結果、大動脈壁を径方向に圧迫する。この実施形態では、特定のコマンドを使用せずにフィルタ本体の遠位端を閉じるために、ハンドルを引くコマンド(図2bのコマンド16bによって引き込む動き)を使用することができる。図9に示す別の特定の構成では、遠位リングと漏斗コマンドとの相互連絡が、フィルタ遠位端の閉鎖機構と、漏斗の先端の動きとに同時に作用できるため、ハンドルの仕組み、ならびに装置を回収する前に実施するべき操作が簡素化される。
【0052】
図3に示す実施形態では、遠位構造9は1つのリング要素9aを備え、近位端がカテーテル11に結合され、周囲が本体3の遠位端で結合され、遠位端が、フィルタの内部を通過して特定のハンドル封止コマンドに接続する単一または複数のワイヤに結合される。この例では、リング(図3a)の径方向拡張は、図2aで参照した遠位リング要素と同様の考察が当てはまり、システムを押すコマンドではなく、システムを引くコマンドによって確実に行われる。
【0053】
近位構造10の特定の実施形態が図4に示されており、リングとして形成された構造を有し、支持カテーテルに接続されている。リングは漏斗4の基部を形成し、ハンドルに接続された特定のコマンドで先端を傾斜させることによって、近位方向にも遠位方向にも向けられるようになっている。図示されている実施形態では、リングは下行大動脈には結合されない。他の実施形態では、近位構造10は、遠位構造9と同様に形成できるため、大動脈血管と径方向に結合することが可能になる。
【0054】
装置の安定性を高め、管状フィルタ本体を十分に拡張させるのに役立つように、遠位部9と近位部10との中間にある構造物を支持カテーテル11に接続することによって、特定の実施形態を構築することができる。
【0055】
遠位構造および近位構造の両方、そして場合によっては中間構造については、形状全体を平面視で楕円形にすることができるが、図8に示すようにさまざまな形状にすることもでき、同様に側面視では、平面構造だけでなく、図8に図示されているような、大動脈弓を辿って漏れ防止を強化する、「S」字型の横断面図も示すことができる。
【0056】
支持カテーテル11は、遠位構造9および近位構造10と、管状フィルタ2とに結合され、作動構成では大動脈弓の背面に適合し、手術で生じる全負荷を支え(図11参照)、この目的のために、ここでは金属編組ポリマーを含む、可撓性ポリマー材料または複合材料で作成でき、これは、高伸張性/高圧縮性/高ねじり剛性、ならびに非常に高い可撓性の中の最良の妥協点として選択される。支持カテーテル11の側面は、フィルタ2を圧着/展開するコマンドを特定のルーメンの内部に収容し、遠位構造9および近位構造10、ならびにフィルタ閉鎖システムの遠位および近位に作用し、かつ場合によっては、ここではガイドワイヤ、ピッグテール、バルーンカテーテルなどの他の付属品/作業カテーテルを収容するように適合され、ここでは手術全体を簡素化するのに役立っている。
【0057】
図10および図11に詳しく示す外部シャフト13は、多腔カテーテルに対して前後に摺動させることによって、収納されたフィルタアセンブリ12を所定の位置に導き、装置の展開/回収を可能にするように適合される。外部シャフト13は、可撓性ポリマー材料または複合材料で、好ましくは金属編組ポリマーで作成され、すなわち引張り伸張および圧縮伸張が小さく、大動脈弓に沿ってフィルタ装置を移動させるときに最適な押し出し性を確保する十分な曲げコンプライアンスを有し、これによって無理に押し付けることなく大動脈の背面の湾曲に適応でき、フィルタを圧着/展開するために支持カテーテルと相互作用している間の食い込みを最小限にする。
【0058】
先端17は、十分にプライミングでき、イントロデューサを通しやすく、かつ大動脈内へのナビゲーションがスムーズになるように、前記の構造9、11、または外部シャフト13その他の構造のいずれかに含めることができる(図2および図10)。
【0059】
図10図11bに詳しく示す放射線不透過性マーカ19は、十分な撮像によって、装置(1)、および装置に通すことが意図される他の作業カテーテルの位置決めを容易にするために、特定の位置11、13、9、10または他の構造に結合することができる。
【0060】
ハンドル16(図1a)は、必要な場合は、外部シャフト13と支持カテーテル11との間を摺動してフィルタの圧着または展開を可能にする16a、遠位閉鎖機構を作動させる16e、近位閉鎖機構14を作動させる16d、および遠位閉鎖機構15を作動させる16e、遠位支持構造9を引っ張る16b、漏斗を移動させる16c、ガイドワイヤのポートを洗浄する16f、外部シャフトのポートを洗浄する16g、ガイドワイヤおよび/またはピッグテールカテーテルに限定されない他の装置または付属器具の直接装填、ならびに必要な場合は、人工弁18を有効/無効にするなどの、特定のコマンドを可能にする。ハンドル構造は、これに限定されないがポリマー材料で作成されることが好ましく、ロッドあるいはワイヤで作成されたすべてのコマンド、ならびに支持カテーテル11および外部シャフト13の近位終端部を直接的に、あるいは金属チューブを介入させて収容する。ハンドルは、線形機構/回転機構のいずれかを使用して、上記の動きを可能にし、必要な場合は、ハンドルを所定の位置に固定するためにシステムを遮断することができる。
【0061】
以下、塞栓防止フィルタ装置1を使用する経カテーテル術について詳しく説明し、ここでは、脳および全身の塞栓防止を可能にする、TAVIを含む大動脈内手術に関する具体的な特徴を示す。
【0062】
この例では、塞栓防止フィルタ装置1は、人工的補填物、または大動脈弁を治療するための装置に使用される作業カテーテル31がアクセスする大腿動脈(主)とは反対側にある、大腿動脈(従)からアクセスする(図11d)。以下、関連する手術の詳細を記載する。
【0063】
a)大腿動脈アクセス27内に、イントロデューサ28が挿入される。
【0064】
b)イントロデューサ28の中にガイドワイヤ29が挿入され、大動脈弓まで上方にナビゲートされる(図11a)。オプションとして、ピッグテールを挿入して上行大動脈まで上方にナビゲートすることで、フィルタ装置を挿入する前に透視撮像を参照することが可能になる。
【0065】
c)フィルタ装置は、動脈血管の中に導入する前に、収納され、プライミングされ、気泡除去されて外部シャフトカテーテル13の中に入れられる(図11b)。
【0066】
d)装置は、血管に沿って移動し、放射線不透過性マーカおよび適切な撮像技術を補助的に使用しながら、無名動脈24に対して上流に配置され、装置は、外部シャフトカテーテル13を引き込むことによって、展開され上行大動脈に結合される(図11c)。
【0067】
e)装置が展開されると、全血液および生じ得るデブリスを漏斗の中に移送するために、フィルタ5の遠位端が、支持構造9に補助されて大動脈壁に密着し(図11e)、遠位フィルタ面5を大動脈壁に対して円周方向に押す。
【0068】
f)これで、漏斗4を通して他の作業カテーテルをフィルタ内部に誘導することが可能になり、その一方で、漏斗4およびポート7の構成により、デブリスが前方に流出するのが防止される。図11dは、フィルタ装置と、通常TAVI術に使用される他の作業カテーテルとの相互作用を示す。
【0069】
g)手術終了時は、装置の近位端で収集された塞栓のデブリスが上流に流出するのを防止するために、装置が再度収納される前に、拡張構成において開いたままになっているフィルタ5の遠位端を閉じることができる(図11f)。
【0070】
h)図11gに示すように、外部シャフトカテーテル13を遠位方向へ押すことによって、装置は再度完全に収納される。このようにして、装置構造は、捕捉した凝血またはカルシウムのデブリスのすべてを安全に内部に保持しながら、装置の遠位端に達するまで徐々に収納される。
【0071】
i)最後に、装置全体が回収される。
【0072】
特定の手術では、さまざまなレベル(例えば、上行大動脈接合部から下行大動脈まで)での部分的な閉鎖、再配置、および再展開、そして最終的には、異なる支持カテーテル配置が必要になる可能性がある。
【0073】
さらに、大動脈内手術とは異なる手術を行う場合は、上述した概念とは異なる幾何学的配置が必要とされる場合があり、そのためにこのフィルタ装置は、原理上は、塞栓防止を必要とするあらゆる動脈系または静脈系に適用することができる。
【0074】
この方法により、図11dに示すように、フィルタ装置を他の作業カテーテル31の前に展開し、他のすべての作業カテーテルの後で回収することができるため、以下のことが可能になる。
【0075】
a)経カテーテル術中に放出された塞栓を収集して保持し、最終的には、作業装置はフィルタに沿って移動する。
【0076】
b)血管壁に直接接触することなく、フィルタ内部で作業カテーテルを追跡する。
【0077】
c)手術全体を通じてフィルタの近位ポート14を略閉鎖し、かつフィルタ装置が再度収納されて回収される前に遠位ポート15を閉鎖し、これによって塞栓が下流および上流に放出されるのを防止する(図11f)。
【0078】
図12a~図12dは、手術中に生成された塞栓を捕捉するための漏斗4および行き止まり部分のさまざまな構成を示す。図12aの漏斗4の境界の画定は、管状フィルタ2の2つの壁を結合する、2つの縫い目線32、33で得られる。特に、上部縫い目線33は、カテーテル本体11の全長にわたって延びている。上部縫い目線33と支持カテーテル11との間の空間は、遠位構造9b専用とされる。
【0079】
別の実施形態(図12b)では、漏斗4は、図12aの実施形態にあるように境界を確定されるが、管状フィルタ2は、塞栓を捕捉するための中間構造34をさらに含む。中間構造34は、2つの縫い目線32’と32’’との間で形成された円錐形を有する。円錐形の基底部分は遠位側に配置され、剛性リングで作成された塞栓流入口を形成する。
【0080】
図12cは、図12aと同様の解決策を示し、漏斗4の遠位ポートは剛性リング7である。
【0081】
図12dの実施形態では、管状フィルタ2は、2つの剛性リングで作成された「8」の字型の要素を含み、上リング7は、漏斗4の遠位ポートを形成し、下リングは、塞栓捕捉中間構造35の基底部分を形成する。
【符号の説明】
【0082】
装置関連の項目
1 経カテーテルフィルタ装置
2 管状フィルタ
3 管状フィルタの本体
4 漏斗
5 管状フィルタの遠位端
6 管状フィルタの近位端
7 管状フィルタのポート(漏斗先端と一致)
8 構造アセンブリ
9 遠位構造
a.リングが1つの実施形態
b.リングが2つのアセンブリを含む実施形態
10 近位構造
11 支持カテーテル
12 フィルタ-構造-カテーテルアセンブリ
13 外部シャフト
14 近位閉鎖システム
a.自己封止型自動閉鎖機構(a-a、a-bは2つの異なる実施形態)
b.機械式閉鎖機構(b1は開、b2は閉)
15 遠位閉鎖システム
16 a.外部シャフト(13)を移動させるコマンド
b.遠位構造(9)を調整するコマンド
c.漏斗(4)を移動させるコマンド
d.近位ポート(7)を作動させるコマンド
e.遠位ポート(7)を作動させるコマンド
f.ガイドワイヤ(29)のポートの洗浄
g.外部シャフト(13)のポートの洗浄
の要素を含み得る、ハンドルおよび関連コマンド
17 先端
18 人工弁
19 放射線不透過性マーカ
大動脈の参照符号
20 大動脈弁
21 管状動脈入口部
22 洞管状接合部
23 上行大動脈
24 無名動脈
25 大動脈弓
26 下行大動脈
27 大腿動脈アクセス
作業カテーテルその他の付属品
28 イントロデューサ
29 ガイドワイヤ
30 ピッグテール
31 作業カテーテル
32 漏斗下部縫い目線
33 漏斗上部縫い目線
34 中間構造(例A)
35 中間構造(例B)
図1
図1a
図1b
図1c
図2
図2a
図2b
図3
図3a
図3b
図4
図4a
図4b
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
図11a
図11b
図11c
図11d
図11e
図11f
図11g
図12a
図12b
図12c
図12d
【国際調査報告】