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特表2022-526965キャプチャー前の凝集の使用による免疫グロブリンのアフィニティークロマトグラフィーの改善
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-27
(54)【発明の名称】キャプチャー前の凝集の使用による免疫グロブリンのアフィニティークロマトグラフィーの改善
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20220520BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20220520BHJP
   C07K 1/30 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K1/34
C07K1/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558539
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(85)【翻訳文提出日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 EP2020058439
(87)【国際公開番号】W WO2020200980
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】P1900112
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】310008859
【氏名又は名称】リヒター ゲデオン ニュイルヴァーノシャン ミューコェデー レースヴェーニュタールシャシャーグ
【氏名又は名称原語表記】Richter Gedeon Nyrt.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ケゼイ、ジュジャンナ
(72)【発明者】
【氏名】シュテー、ゾルターン
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA06
4H045GA10
4H045GA15
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、細胞培養採取物から免疫グロブリンを精製する新規な方法に関する。この方法は、最初のキャプチャークロマトグラフィーステップに先行する洗浄ステップを特徴とする。好ましくは、最初のキャプチャークロマトグラフィーはアフィニティークロマトグラフィーであり、キャプチャー前の洗浄効果は、凝集及び濾過によって得られる。このようなキャプチャー前の洗浄ステップを用いることにより、キャプチャーマトリックスから溶出される免疫グロブリンの品質が向上する。さらに、細胞培養液の清澄化が促進されると、アフィニティークロマトグラフィー中の沈殿が減少するため、高価なアフィニティー樹脂の寿命が延びる。これは、大規模生産における免疫グロブリン精製にとって重要な改善である。本発明はさらに、キャプチャークロマトグラフィーの下流の連続するポリッシングクロマトグラフィー及び濾過ステップに関連し、高純度の免疫グロブリンを生成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養液からの免疫グロブリンのキャプチャーアフィニティークロマトグラフィーの過程での沈殿を防止する方法であって、以下のステップを以下の順序で含む方法:
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;及び
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること。
【請求項2】
ステップ(a)は以下のステップを含む、請求項1に記載の方法:
(a1)細胞培養液の遠心分離及び/又は濾過;
(a2)ステップ(a1)で得られた上清又は濾液に凝集誘導化合物を添加すること。
【請求項3】
凝集誘導化合物はカチオン性化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
カチオン性化合物は、二価金属イオン塩、水溶性有機ポリマー、及び水不溶性有機ポリマーからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
二価金属イオン塩はCaClである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水不溶性有機ポリマーはキトサンである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
水溶性有機ポリマーはポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)は、10kDa~10,000kDaの分子質量を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)は、0.01~1.0%(w/v)の最終濃度で、好ましくは0.02~0.1%(w/v)の最終濃度で、より好ましくは0.03~0.08(w/v)の最終濃度で添加される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
凝集を実施するために、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)以外のさらなる物質は添加されない、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)による凝集は、pH又は導電率をさらに調整することなく行われる、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
凝集は、室温で撹拌しながら、少なくとも5分間、好ましくは少なくとも15分間行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アフィニティークロマトグラフィーはプロテインAクロマトグラフィーである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
プロテインAクロマトグラフィー媒体は、リガンドとして、架橋アガロースマトリックスに結合したアルカリ耐性プロテインA誘導体、好ましくは、プロテインAのドメインBのアルカリ安定化テトラマーバリアントを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(b)における深層濾過用のフィルターは、複数の層、好ましくは2つの層を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(b)と(c)との間で精密濾過が行われる、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(c)は、ステップ(b)の最大8時間後、好ましくはステップ(b)の最大3時間後に行われる、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
細胞培養液は、免疫グロブリンを発現する組換えCHO細胞から得られる、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
免疫グロブリンは、IgG1又はIgG2である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
IgG1又はIgG2のFc部分はヒトである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
免疫グロブリンを精製する方法であって、請求項1~20のいずれか一項において定義される各ステップを含み、かつ、ウイルス不活化、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、ナノ濾過、及び限外濾過/ダイアフィルトレーションから選択される、アフィニティークロマトグラフィーに続く1つ以上のさらなるステップを含む方法。
【請求項22】
前記1つ以上のさらなるステップは、(f)ステップ(e)の溶出液を、ウイルス不活化のために、2.5~4.5の低pH値で少なくとも10分間インキュベートすることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1つ以上のさらなるステップは、
(f)ステップ(e)の溶出液を、ウイルス不活化のために、2.5~4.5の低pH値で少なくとも10分間インキュベートすること;
(g)陽イオン交換クロマトグラフィーを行うこと;
(h)混合モードクロマトグラフィー又は陰イオン交換クロマトグラフィーを行うこと;
(i)ステップ(h)の溶出液、又はそれから誘導され、ステップ(h)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物をナノ濾過に曝露すること;及び
(j)ステップ(i)の濾液、又はそれから誘導され、ステップ(i)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物を限外濾過/ダイアフィルトレーションに曝露すること
を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
陽イオン交換クロマトグラフィー(g)は結合-溶出モードで行われ、任意選択で1つ以上の洗浄ステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(h)における混合モードクロマトグラフィーは結合-溶出モードで行われ、任意選択で1つ以上の洗浄ステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
クロマトグラフィー(h)はフロースルーモードで行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(g)の陽イオン交換クロマトグラフィーは、強陽イオン交換媒体を含む媒体で、好ましくはリガンドとしてスルホプロピル(-CH2CH2CH2SO3-)を用いて行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
スルホプロピル(-CH2CH2CH2SO3-)は架橋ポリ(スチレンジビニルベンゼン)マトリックスに結合している、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(h)の混合モードクロマトグラフィー媒体は、正に帯電した混合モード媒体で行われ、好ましくは、リガンドとして、架橋アガロースマトリックスに結合したN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
ステップ(h)の陰イオン交換クロマトグラフィー媒体は、強陰イオン交換媒体を含む媒体で、好ましくは、リガンドとして、架橋アガロースマトリックスに結合したトリメチルアンモニウム(-N(CH)を用いて行われる、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフィニティーキャプチャークロマトグラフィー前の凝集(flocculation)及び濾過ステップ、ならびに抗体を精製するためのキャプチャーステップに続くさらなるポリッシングステップを用いて、細胞培養由来の組成物からの抗体のアフィニティークロマトグラフィー中の沈殿を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えDNA技術によって生成されたポリペプチドを精製するための効率的で経済的な下流手順の選択は、治療用途を目的としたすべての新しいバイオ医薬品の開発における重要なステップである。最近では、モノクローナル抗体(mab)の医療用途での治療用量が非常に高いため、より高い細胞密度、より高い発現率、そして目的の組換え抗体の>10g/Lなどのより高い力価をもたらす改善された細胞培養法の使用により、モノクローナル抗体(mab)の大規模な精製プロセスの必要性がさらに高まっている。生成物及び混入物の培養液中の濃度の増加は、キャプチャークロマトグラフィー、その前のサンプル洗浄ステップ、及びその後のポリッシングクロマトグラフィーに対してより高い要求を設定する。下流プロセス全体は、(i)増加した生成物の質量を管理し、(ii)増加したプロセス及び生成物関連の不純物を定義された許容基準以下に効率的に除去し、(iii)経済的収率を維持し、(iv)mabの十分な品質を保証する必要がある。通常、下流のプロセスは、治療用抗体の総製造コストの大部分を占める。
【0003】
粗画分のmabは通常、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA(HCDNA)、エンドトキシン、インスリン、ウイルス、凝集体、その他の望ましくない生成物変異体、及びプロセス材料からの様々な浸出液などの不純物を伴う。これらの不純物の存在は、患者にとって潜在的な健康上のリスクであり、したがって、これらは最終生成物に存在しないことが規制要件である。非常に低い残留量のみが許容される。
【0004】
細胞培養由来のポリペプチドを精製するための古典的な手順は、キャプチャークロマトグラフィー-中間クロマトグラフィー-ポリッシングクロマトグラフィーの順序に従い、下流の手順の様々な位置で濾過、濃縮、又は透析ステップを伴う。近年、プラットフォームアプローチは、mab精製の分野で成功裏に確立されている。mabは、共通の物理化学的特性を持つ十分に定義されたクラスの糖タンパク質であるため、一般的なプラットフォームプロセスの使用は合理的である(Kelly B 2009)。生成物固有の適応を多かれ少なかれ伴うそのような普遍的なプロセスは、多くのmab、特に同じクラス又はサブクラスの免疫グロブリン、例えばIgG1又はIgG2に適用することができる。
【0005】
mab精製に最も頻繁に使用されるキャプチャーステップの1つは、プロテインAを使用したアフィニティークロマトグラフィーである。このキャプチャーは、Fc含有分子に対して並外れた選択性を提供し、それによって1回のステップで混入物の99.5%超を除去する。しかし、その利点以外に、2つの欠点についても言及する必要がある。1つの欠点は、毒性があることが知られているプロテインA又はプロテインAのフラグメントの望ましくない浸出である(Gagnon P 1996)。もう1つの欠点は、特に十分な量の治療用抗体を精製するために必要な工業規模では、この種の樹脂のコストが高いことである。プロテインA樹脂は、イオン交換樹脂よりも約30倍高価である。10mの細胞培養物の下流処理の場合、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーのコストは約400万から500万米ドルであると計算された(Farid SS 2009)。
【0006】
多くの場合、キャプチャーステップは粗投入(ロード)材料を使用して行われる。これにより、アフィニティーカラム樹脂の汚染(不純物の蓄積)が発生する可能性がある。適切な再生ステップがない場合、これは捕捉樹脂の再利用の成功を妨げる可能性がある。脂質、酸化剤、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA(HCDNA)、凝集体又は粒子、金属イオン、その他の物質などの粗培養液中の混入物は、樹脂の汚れを促進し、低pH溶出中に沈殿や濁りを引き起こす可能性がある(Shukla AA 2005)。結合部分への直接的な影響に加えて、マトリックスも不可逆的に汚染される可能性がある。その結果、背圧が上昇し、実行ごとに容量と流量が減少する。この問題はプロテインA樹脂に限定されない。クロマトグラフィー樹脂の動作寿命全体にわたる汚損は、商業的なバイオセパレーションにとって一般的に重大な問題である。疎水性相互作用クロマトグラフィー及び混合モードクロマトグラフィーに使用される疎水性リガンドは、細胞培養由来の免疫グロブリンのキャプチャーステップとして使用される場合、培養液から親油性混入物を捕捉するのに特に影響を受けやすくなる。実行後の洗浄ステップのための高度なプロトコルにもかかわらず、キャプチャーカラムの寿命は制限されており、サイクル数、実行と洗浄の操作条件、及びサンプルの組成と純度に依存する。
【0007】
ひどく汚染された培養液を清澄化し、プレクリーニングするために、細胞の破片や凝集体のほとんどを除去する機械的分離ステップが採用されている。遠心分離及び濾過トレインは、サンプルを捕捉樹脂にロードする前に行われる最も一般的な前処理ステップである。大量の場合、細胞分離器を使用して連続遠心分離が行われ、続いてデプスフィルター及び/又はマイクロフィルターを使用した濾過ステップが行われる。得られた培養液は、「清澄化細胞培養上清(clarified cell culture supernatant)」と呼ばれる(Liu HF 2010)。採取した培養液をプロテインA樹脂に直接ロードする方法がよく選択されるが(Fahrner RL 2001)、他のプラットフォーム技術では、キャプチャーカラムを保護するために、遠心分離、深層濾過、及び/又は精密濾過などの様々な清澄化ステップを利用する(Liu HF 2010、国際公開第9522389号、国際公開第2001150110号)。これにより、固形物や粒子による樹脂の汚染が減少し、キャプチャー溶出液中の抗体の純度が向上する。遠心分離/濾過ステップに加えて、フロースルーモードで実行されるプレキャプチャークロマトグラフィーは、免疫グロブリンの大規模精製において成功裏に実証された(国際公開第2015135884号)。キャプチャークロマトグラフィーの上流に追加の陰イオン交換クロマトグラフィーステップを組み込むことにより、精製プロセスの全体的な費用を大幅に削減できることが見出された。キャプチャー前の陰イオン交換フロースルークロマトグラフィーステップは、コストのかかるキャプチャークロマトグラフィー材料がさらされる不純物の量を減少させた。
【0008】
プロテインAクロマトグラフィーにおける酸性pHによるmabの溶出中は、一般に溶出プールは濁り、カラム背圧は高くなる。調査では、この現象は、タンパク質の自己会合の結果としての液-液相分離に関連していた。pH、温度、イオン強度、タンパク質濃度などの複数の要因がこの効果に影響を与える。プロテインA溶出中に、温度、流速、バッファー、塩などのプロセスパラメータを注意深く選択すると、濁り及びカラム背圧の両方を低減できる(Luo H 2017)。プロテインA溶出プールの濁りに現れる凝集と粒子形成の問題を回避するために、同様の戦略が取られている(Shukla AA 2005)。溶出バッファーに添加される塩、尿素、アミノ酸などの安定化物質、低温、洗浄及び溶出バッファーのpH値の適応、又は細胞培養採取物の前処理を行って、低pHで沈殿する可能性のある特定の不純物を除去することが提案された。前処理方法には、陰イオン交換クロマトグラフィー、濾過、及び汚染物質の酸による沈殿が含まれていた(Shukla AA 2005)。
【0009】
凝集は、化学及び食品産業だけでなく、廃水処理でも広く実施されているプロセスである。沈殿と凝集は両方とも、細胞培養液の清澄化に問題なく使用されている。沈殿は、固体粒子を作成するために標的溶質の溶解度を下げることに依存するのに対し、凝集は、凝集剤によって誘導される架橋効果によって引き起こされる粒子(細胞、細胞破片、又は哺乳類細胞培養におけるコロイド)の集塊である。凝集剤は、分散した粒子を付着させ、より大きなサイズのクラスターにすることによってバイオコロイド懸濁液の不安定化を引き起こし、その結果、平均粒子サイズ分布が増加する(Felo M 2015、Singh N 2016)。凝集法は、陰イオン凝集、陽イオン凝集、及び混合型凝集に分類できる(Singh N 2016)。
【0010】
具体的には、単純な酸、二価カチオン、ポリカチオン性ポリマー、カプリル酸、及び刺激応答性ポリマーなどの凝集剤が、細胞培養物の清澄化を促進し、DNA、宿主細胞タンパク質(HCP)、及びウイルスのレベルを低下させる能力について評価されている(Felo M 2015)。約10年前から、モノクローナル抗体の大規模製造における凝集法の有用性についても集中的に研究されてきた。
【0011】
細胞の存在下で、pH調整の有無にかかわらず、様々な陽イオンと陰イオンの組み合わせによる凝集は、モノクローナル抗体の精製に問題なく適用された(国際公開第2007035283号)。最も好ましいのは、Ca2+とリン酸塩の組み合わせであった。非凝集の対照と比較して、プロテインA溶出ピークにおいてHCP及び濁度の顕著な減少が強調された。
【0012】
他の方法は、採取された細胞培養液中の不純物の沈殿のために、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルスルホナート、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリリジン、又はポリアルギニンなどの高分子電解質を利用する(国際公開第2008091740号)。凝集剤としてカプリル酸を使用する同様の方法が、混入物を沈殿させるために開発された(国際公開第2010151632号)。不純物の沈殿又は凝集には、多くの場合、追加のpH操作が必要である。このことは、Co2+又はNi2+などの二価カチオンによる沈殿(国際公開第2008127305号)及びデキストランによる沈殿(国際公開第2016153983号)について開示された。
【0013】
刺激応答性ポリマーと呼ばれるベンジル化ポリ(アリルアミン)を使用する別の凝集プロセスが、CHO細胞培養物からのモノクローナルIgG1精製のために開発された。刺激はリン酸ナトリウムを加えることによって設定された(Kang YK 2013)。抗体の細胞培養採取物の清澄化において刺激応答性ポリマーとして作用するさらなる化合物が知られている(国際公開第2011146394号)。
【0014】
細胞含有採取物にアラントインを添加し、続いてエタクリジンを添加することによる凝集ステップは、その後の吸着及びクロマトグラフィーステップの前のコンディショニング方法として説明された(国際公開第2014133459号)。
【0015】
別の凝集法は、C~C10脂肪酸を、細胞培養採取物の清澄化のためのさらなる機能的な基質と組み合わせて使用する(国際公開第2014196926号)。C~C10脂肪酸とアラントインの組み合わせに基づく同様のプロセスが適用された(国際公開第2015130222号)。
【0016】
より複雑な凝集法は、細胞含有採取物中の混入物を除去するためのアラントイン、カチオン性ポリマー、及び脂肪酸の組み合わせによって開示された。3つの凝集剤、アラントイン、キトサン、及びカプリル酸の混合物が最も成功した(国際公開第2017217930号)。
【0017】
抗体又は他の標的分子を精製し、(i)混入物を除去するための沈殿ステップ、(ii)プロテインAクロマトグラフィーとそれに続く(iii)1つ又は2つのフロースルークロマトグラフィーを含む全プロセスが記載された(国際公開第2014004281号)。沈殿剤は細胞培養採取物に追加され、凝集剤も含み、追加の刺激応答要素はあってもなくてもよい。
【0018】
カチオン性水溶性ポリマーであるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)の適用が、mab産生CHO細胞培養の採取物の清澄化について調査された(McNerney T 2015)。著者らは、凝集剤を培養ブロスに直接加えた。濾過トレインを優先して遠心分離を省略した。毒性のあるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)は、その後のプロテインAキャプチャークロマトグラフィー後に検出不可能なレベルに減少したことが示された。
【0019】
細胞の存在下での最初の凝集ステップからなり、ポリ(ジアリルメチルアンモニウムクロリド)に基づく大規模な細胞培養採取法が開発された(国際公開第2013090820号)。好ましい凝集方法は、凝集のさらなる促進剤、すなわち、ポリエチレングリコール及びトリトン(Triton)(登録商標)X-100を利用する。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、アフィニティーキャプチャークロマトグラフィー媒体からの細胞培養物からの免疫グロブリンの低pH溶出中の沈殿の防止に関する。本発明はさらに、効率的かつ費用効果が高く、十分な純度及び収率で免疫グロブリンを精製する方法を提供する。特に、本発明は、キャプチャークロマトグラフィー樹脂から溶出される免疫グロブリン溶液の純度を改善することを目的とし、したがって、最終生成物の改善された品質をもたらす。
【0021】
さらに、本発明は、かなりコストのかかるクロマトグラフィー材料の再利用の点について、特に、下流プロセスのキャプチャーステップで使用されるアフィニティークロマトグラフィー材料の寿命について、及び、精製プロセスの技術的な複雑さを抑えつつ、これをどのように長期化させるかについて対処する。
【0022】
細胞培養液から免疫グロブリンを精製するための従来の下流クロマトグラフィープロセスは、通常、アフィニティーキャプチャークロマトグラフィーステップから始まる。このステップでは、免疫グロブリンを不純物と共に含むサンプルから免疫グロブリンを捕捉しなければならない。免疫グロブリンは、主にキャプチャークロマトグラフィー樹脂の親和性リガンドへの免疫グロブリンの選択的結合によって不純物から分離されるが、不純物は樹脂に結合しないためフロースルーで得られ、免疫グロブリンは溶出液中で得られる。
【0023】
アフィニティーキャプチャークロマトグラフィーは通常、免疫グロブリンの精製において最も費用のかかるステップであり、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使用する場合、下流プロセス全体のコストの40~50%に相当する。同じことが、免疫グロブリンの精製におけるキャプチャークロマトグラフィーステップとして使用され得る代替のアフィニティークロマトグラフィーカラムにも当てはまる。
【0024】
大量の細胞培養液及び発酵ブロスからの、ならびにそのような液又はブロスに由来する清澄化されたサンプルからの免疫グロブリンの費用効果の高い精製に対する継続的な必要性が存在する。特に、費用効果が高く、しかも効率が高く、純度と収率の点で満足のいく簡単な精製方法が必要である。
【0025】
キャプチャークロマトグラフィーの上流に追加のクロマトグラフィーステップを組み込むことにより、精製プロセスの全体的な費用を大幅に削減できることが見出された。この追加のクロマトグラフィーステップにより、コストのかかるキャプチャークロマトグラフィー材料がさらされる不純物の量が軽減される。このいわゆる「プレクリーニング」ステップは、陰イオン交換又は混合モードクロマトグラフィー材料を使用して行われる。これは、後続のキャプチャーステップで使用されるクロマトグラフィー材料と比較して安価かつ強靭であり、再生が容易である(国際公開第2015135884号)。精製プロセスを可能な限り簡素に保つために、プレクリーニングクロマトグラフィーはフロースルーモードで行われる。つまり、精製される免疫グロブリンは樹脂に結合せず、フロースルー画分で得られるが、不純物は主に樹脂上に保持され、それによって免疫グロブリンから分離される。プレクリーニング陰イオン交換カラムとプロテインAキャプチャーカラムを直接接続することにより、プレクリーニングステップのフロースルーは一時的に収集容器に保存されず、すぐにキャプチャークロマトグラフィー樹脂に送られ、この方法をさらに簡略化する(国際公開第2015135884号)。
【0026】
それにもかかわらず、プレキャプチャー清澄化ステップとして使用される陰イオン交換フロースルークロマトグラフィーのそのようなプロセスは、大規模生産で成功裏に確立されたものの、依然としてさらなる改善の対象である。陰イオン交換クロマトグラフィーは、HCDNAやHCPなどの主に負に帯電した物質を、カラムに保持されている非特異的に吸着された細胞片、凝集体、脂質などとともに枯渇させる。しかし、正に帯電したHCP及び非帯電分子の大部分はプレクリーニングカラムを通過できる。これにより、プロテインAの溶出ピークに望ましくない濁りが生じる可能性がある。さらに、高い細胞密度、複雑な培地供給戦略、及び最先端の哺乳類細胞培養物の高い発現率に起因する需要の増加により、プレクリーニングカラムには、プロテインAカラムの効率的な保護シールドとして作用するためのかなりの寸法が求められている。これには費用がかかる。最後に、陰イオン交換樹脂は、過酷で時間のかかる洗浄及び再生手順を経る必要がある。これは、一連のシリアルバッチで優先的に行われる通常の生産では歓迎されない。
【0027】
本発明は、クロマトグラフィーによるプレクリーニングの前述の問題を克服するために、プレキャプチャーステップとして使用される凝集ステップの実現可能性を研究した。治療用途を目的とした免疫グロブリンの必要な高純度を達成するために、2つ以上のクロマトグラフィーポリッシングステップが凝集ステップ及びキャプチャークロマトグラフィーステップの後に続く。
【0028】
本発明の根底にある問題は、細胞培養液から免疫グロブリンを精製する方法を提供することによって解決され、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;及び
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること。
【0029】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)は、以下のステップを含む。
・細胞培養液の遠心分離及び/又は濾過;
・凝集誘導化合物を上清又は濾液に添加すること。
【0030】
凝集は、凝集剤としてカチオン性化合物を添加することによって実施することができる。カチオン性化合物は、二価金属イオン塩、水溶性有機ポリマー、及び水不溶性有機ポリマーからなる群から選択することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、二価金属イオン塩はCaClである。
いくつかの実施形態において、水溶性有機ポリマーは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)である。他の実施形態では、水不溶性有機ポリマーはキトサンである。
【0032】
特定の実施形態において、凝集は、凝集剤としてポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を用いて実施される。より具体的には、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)は、10kDa~10,000kDaの分子質量を有する。
【0033】
典型的には、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)は、0.01~1.0%(w/v)の最終濃度で、好ましくは0.02~0.1%(w/v)の最終濃度で、より好ましくは0.03~0.08(w/v)の最終濃度で添加される。
【0034】
いくつかの実施形態において、凝集を実施するために、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)以外のさらなる物質は添加されない。
いくつかの実施形態では、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)による凝集は、pH又は導電率をさらに調整することなく行われる。
【0035】
特定の実施形態では、凝集は、室温で撹拌しながら、少なくとも5分間、好ましくは少なくとも15分間行われる。
好ましい実施形態では、アフィニティークロマトグラフィーはプロテインAクロマトグラフィーである。プロテインAクロマトグラフィー媒体は、リガンドとしてアルカリ耐性プロテインA誘導体、好ましくは、架橋アガロースマトリックスに結合したプロテインAのドメインBのアルカリ安定化テトラマーバリアントを含み得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、深層濾過後に精密濾過が実施される。
通常、アフィニティークロマトグラフィーは、深層濾過の最大8時間後、好ましくは深層濾過の最大3時間後に行われる。
【0037】
いくつかの実施形態において、細胞培養液は、免疫グロブリンを発現する組換えCHO細胞から得られる。好ましくは、免疫グロブリンは、IgG1又はIgG2である。より好ましくは、IgG1又はIgG2のFc部分はヒトである。
【0038】
本明細書に記載の方法は、前述の実施形態のいずれか1つで定義されたステップであって、ウイルス不活化、イオン交換クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、ナノ濾過、及び限外濾過/ダイアフィルトレーションから選択される、アフィニティークロマトグラフィーに続く1つ以上のさらなるステップを含み得る。
【0039】
好ましくは、上記の方法は、以下のステップをさらに含む:
(f)ステップ(e)の溶出液を、ウイルス不活化のために、2.5~4.5の低pH値で少なくとも10分間インキュベートすること;
(g)陽イオン交換クロマトグラフィーを行うこと;
(h)混合モードクロマトグラフィー又は陰イオン交換クロマトグラフィーを行うこと;
(i)ステップ(h)の溶出液、又はそれから誘導され、ステップ(h)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物をナノ濾過に曝露すること;及び
(j)ステップ(i)の濾液、又はそれから誘導され、ステップ(i)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物を限外濾過/ダイアフィルトレーションに曝露すること。
【0040】
さらに好ましい方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;及び
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること、
(f)ステップ(e)の溶出液を、ウイルス不活化のために、2.5~4.5の低pH値で少なくとも10分間インキュベートすること;
(g)陽イオン交換クロマトグラフィーを行うこと;
(h)混合モードクロマトグラフィー又は陰イオン交換クロマトグラフィーを行うこと;
(i)ステップ(h)の溶出液、又はそれから誘導され、ステップ(h)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物をナノ濾過に曝露すること;及び
(j)ステップ(i)の濾液、又はそれから誘導され、ステップ(i)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物を限外濾過/ダイアフィルトレーションに曝露すること;
ここで、ステップg)は結合-溶出モードで行われ、ステップh)は結合-溶出モード又はフロースルーモードで行われる。
【0041】
本発明は、免疫グロブリンの製造プロセスにおけるウイルスの安全性を高めるという問題をさらに解決する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1-1】免疫グロブリンの従来の精製方法のプロセススキームを示す。図1Aは、大量の細胞培養物から免疫グロブリンを精製するための普遍的なプロセススキームを示す。採取した培養液の遠心分離及び/又は濾過後に得られた清澄化されたバルク材料から始まったプロセスは、プロテインAキャプチャーステップとそれに続く2つのポリッシングステップで構成される。このスキームには、2つの典型的なウイルス安全ステップも含まれている。プロテインA溶出液を低pHに保つことによりウイルス不活化ステップが行われ、最後のポリッシングステップの後にウイルス除去のためのナノ濾過ステップが行われる。最終ステップは通常、タンジェンシャルフロー限外濾過及び/又はダイアフィルトレーション(UF/DF-TFF)であり、免疫グロブリン及び製剤成分の濃度を設定する。
図1-2】図1Bは、3つのクロマトグラフィーからなる大量の細胞培養物から免疫グロブリンを精製するための古典的なプロセススキームを示す(例えば、Fahrner R.L.2001又はKelly B.2009による)。ポリッシングステップは、陽イオン交換クロマトグラフィー(ポリッシングステップ1)とそれに続く陰イオン交換クロマトグラフィー(ポリッシングステップ2)であると開示されていることを除き、図1Aと同じプロセスである。陽イオン交換クロマトグラフィーは結合モードで行われるのに対し、陰イオン交換クロマトグラフィーはフロースルーモードで行われることを強調する必要がある。この古典的なスキームの頻繁に適用される同等の変形は、単にポリッシングステップ1及び2の順序の変更であることに注意する必要がある。
図2-1】プレクリーニングステップを使用した本発明の例示的なプロセススキーム。図2Aは、採取時に細胞の存在下で直接プレキャプチャー凝集ステップを伴う大規模なプロセススキームを示す。次に、凝集した物質を遠心分離、続いて深層濾過及び精密濾過によって除去する。凝集ステップは、カチオン性化合物を添加することによって行われる。清澄化された培養液は、プロテインAであるキャプチャークロマトグラフィーカラムにロードされる。2つのポリッシングステップは、陽イオン交換クロマトグラフィー(ポリッシングステップ1)とそれに続く混合モードクロマトグラフィー(ポリッシングステップ2)である。陽イオン交換クロマトグラフィーは、結合及び溶出モードで行われる。混合モード樹脂は正に帯電したリガンドを有し、結合及び溶出モード又はフロースルー(FT)モードで実施できる。中間のウイルス安全手順と最終的なUF/DF-TFFは、図1Aに記載されているとおりである。
図2-2】図2Bは、細胞を分離した後に細胞の存在しない状態で凝集ステップが行われることを除き、図2Aのプロセスと同様の代替の大規模プロセススキームを示す。他のすべてのステップは、図2Aで説明したとおりである。
図2-3】図2Cは、最終ポリッシングクロマトグラフィーがフロースルー(FT)モードの陰イオン交換クロマトグラフィーであることを除き、図2Bのプロセスと同様の、別の代替の大規模プロセススキームを示す。他のすべてのステップは、図2B及び図2Aで説明したとおりである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
本明細書で使用される場合、「細胞培養液」という用語は、採取された細胞培養液、細胞培養上清又は前処理された細胞培養上清を指す。細胞培養液は、免疫グロブリンを産生する宿主細胞又は生物から直接得ることができる。細胞培養液は、遠心分離及び/又は濾過、例えば、精密濾過、ダイアフィルトレーション、限外濾過及び深層濾過によって部分的に清澄化又は精製されている場合がある。
【0044】
本明細書で使用される場合、「前処理された」という用語は、例えば、本発明の方法で使用されるクロマトグラフィーステップのために、例えば、サンプルをバッファー交換、希釈、塩、洗浄剤、カオトロピック物質、又は有機化合物の添加、pH滴定又は濾過によりpH及び/又は導電率範囲及び/又は緩衝能力を調整して所望のクロマトグラフィー性能を達成し、免疫グロブリンを安定化することからなる1つ以上の調整に供することによって調製された細胞培養上清を指す。哺乳類細胞から発現した免疫グロブリンは通常、培養プロセス中に細胞培養液中に分泌されるため、培養プロセスの最後に生成物を回収するには、細胞培養液を細胞から分離する。細胞破片の増加や、免疫グロブリン生成物の品質に影響を与える可能性のあるプロテアーゼやその他の分子の放出を回避するために、細胞分離法は細胞破壊を最小限に抑えるために穏やかでなければならない。通常、哺乳類細胞培養からの採取物は、遠心分離とそれに続く濾過を受ける。拡張床吸着クロマトグラフィーは、遠心分離/濾過法を回避するための代替方法である。クロマトグラフィーステップによる精製前のサンプルの他の処理は、細胞培養上清を、特定の免疫グロブリン濃度、pHの範囲、導電率、及びバッファー種濃度に濃縮及び/又はダイアフィルトレーションすることであり得る。
【0045】
本明細書で使用される場合、「凝集」(同義語「凝結」及び「凝塊」)という用語は、流体中の懸濁物質が凝集誘導剤と相互作用して、より大きいサイズの凝集体又はフロックの形成をもたらすクラスター化反応を含む。「凝集剤」及び「凝集誘導剤」という用語は、本明細書で交換可能に使用することができ、カチオン性又はアニオン性化合物であり得る。好ましくは、凝集剤はカチオン性化合物である。より好ましくは、凝集剤はカチオン性水溶性ポリマーである。本発明で適用される「凝集ステップ」は、キャプチャークロマトグラフィーの上流のプレクリーニングステップとして機能する。凝集は細胞の存在下で行うことができ、これは、凝集剤が培養の最後に細胞培養液に直接添加され、細胞を含む凝集物質が遠心分離及び/又は濾過によって細胞培養液から除去されるか、又は、遠心分離によって細胞が除去された後、凝集剤が細胞培養液に添加され、その後、凝集物質が濾過によって除去されることを意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「カチオン性化合物」という用語は、金属イオン及びカチオン性ポリマー(ポリカチオン)を含む。「カチオン性ポリマー」は、水溶性ポリマー又は水不溶性ポリマーであり得る。「水溶性ポリマー」は、水に溶解して水系の物理的特性を変化させる有機物質を含む。「水不溶性ポリマー」は、水への溶解度が限られている。それらは水中で分散又は膨潤し、好ましくは親水性ポリマーを含み、これは水性懸濁液中で凝集剤として機能する。水不溶性ポリマーは、非常に低い又は非常に高いpHでは水に溶解し得る。凝集剤として使用されるカチオン性化合物は、水性媒体中で様々な機能を果たす。水溶性又は水不溶性の有機ポリマーは、天然資源又は化学合成に由来する幅広い物質を含む。天然の水溶性又は水不溶性の有機ポリマーの例は多数あるが、中でも多糖類(例えば、ペクチン、デキストラン、デンプン、キトサン、及びヒアルロン酸)、キサンタンガム、カラギーナンである。化学合成された有機ポリマーの例は多数あるが、中でもポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PPA)、ポリアクリルアミドである(レビューについてはKadajii VG 2011を参照)。本発明の過程において、水溶性ポリマーは、最も好ましい凝集剤として機能する。
【0047】
「不純物」及び「混入物」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、目的の免疫グロブリンとは異なる任意の物質を指す。例としては、細胞培養培地成分、細胞破片、宿主細胞タンパク質、エンドトキシン、ウイルス、脂質、DNA、RNA、プロセス材料からの浸出液、及びそれらの凝集体又は断片がある。また、不純物としてみなされるのは、凝集体、チャージバリアント、ミスフォールディングされた分子、又は精製対象の免疫グロブリンのフラグメントなどの生成物関連物質である。
【0048】
「沈殿」という用語は、不溶性の及び/又は不溶性状態にある不純物を指す。沈殿はサンプルの濁りをもたらし得る。
本明細書で使用される場合、「クロマトグラフィー媒体」という用語は、ビーズ、プレート、結晶、モノリス、膜、繊維、繊維の網目構造又は任意の他の固相の形態のクロマトグラフィー材料又は媒体として理解されなければならない。「媒体」は、直接又はスペーサーを介して、「マトリックス」と呼ばれる骨格に結合した「リガンド」と呼ばれる官能基を有する。例外は、サイズ排除クロマトグラフィー用のゲルクロマトグラフィー樹脂で、通常はリガンドが付着していない。「媒体」という用語は、本発明の方法を、クロマトグラフィー樹脂を使用するカラムクロマトグラフィーのみに限定するものではなく、他のタイプのクロマトグラフィー、例えば、膜吸着剤を使用する膜クロマトグラフィーも含む。特に、イオン交換クロマトグラフィーでは、イオンクロマトグラフィー交換樹脂又はイオン交換クロマトグラフィー膜吸着剤の両方が本発明に含まれる。
【0049】
「樹脂」とは、タンパク質又は少なくとも1つの混入物と相互作用し得る結合官能基(リガンド)を有するマトリックスを含むビーズの形態の任意のクロマトグラフィー材料又は媒体を意味する。例外は、サイズ排除クロマトグラフィー用のゲルクロマトグラフィー樹脂で、通常はリガンドが付着していない。樹脂は、様々なサイズのビーズとして供給され、カラムに詰められる。あるいは、プレパックカラムを購入することもできる。
【0050】
「マトリックス」又は「固相」という用語は、リガンドが付着することができる非水性マトリックスを意味する。本願で対象となるマトリックスは、概して、ガラス、セラミック、シリカ、セルロース、アガロース、メタクリレートポリマー又はポリスチレンを含むものである。
【0051】
「リガンド」とは、タンパク質又は少なくとも1つの混入物と相互作用し、「マトリックス」に共有結合している任意の官能基を意味する。
「結合モード」又は「結合及び溶出モード」という用語は、精製される免疫グロブリンを含むサンプルがクロマトグラフィー媒体に適用され、そこで免疫グロブリンがクロマトグラフィー媒体に結合するクロマトグラフィー条件を指す。したがって、免疫グロブリンはクロマトグラフィー媒体に保持されるが、サンプルの不純物は、フロースルー画分とも呼ばれる非結合画分に存在し得る。クロマトグラフィーステップが結合モードで行われる場合、免疫グロブリンがクロマトグラフィー媒体に結合した後、かつ媒体から免疫グロブリンを溶出する前に、1つ以上の洗浄ステップを行うことができる。次に、免疫グロブリンを得るために、免疫グロブリンが溶出され、溶出液中で得られ、これは、必要に応じて、さらなるクロマトグラフィーステップでさらに精製され得る。免疫グロブリンの溶出は、免疫グロブリンが溶出されている間、混入物が媒体に結合したままであることを可能にする選択的条件を使用して行われ得る。
【0052】
「結合モード」でクロマトグラフィーステップを行うことは、必ずしも目的の免疫グロブリンの100%が結合することを意味するわけではない。本発明の文脈において、「クロマトグラフィー樹脂に結合した」又は「クロマトグラフィー媒体に結合した」とは、樹脂又は媒体に、免疫グロブリンの少なくとも50%が結合し、好ましくは免疫グロブリンの少なくとも75%が結合し、より好ましくは少なくとも免疫グロブリンの85%が結合し、最も好ましくは免疫グロブリンの95%以上が結合することを意味する。
【0053】
本発明の文脈において、キャプチャークロマトグラフィーステップ及び中間陽イオン交換クロマトグラフィーステップは両方とも結合モードで行われ、キャプチャーステップは、結合モードで行われる第1のクロマトグラフィーステップと見なされることが理解される。本発明の最終ポリッシング混合モードクロマトグラフィーステップは、結合及び溶出モード又はフロースルーモードのいずれかで行われる。さらに、混合モードクロマトグラフィーの代わりに、フロースルーモードの陰イオン交換クロマトグラフィーを最終ポリッシングステップとして使用できることが理解される。
【0054】
「フロースルーモード」という用語は、目的の免疫グロブリンを含むサンプルがクロマトグラフィー樹脂又は媒体に適用され、そこでは免疫グロブリンはクロマトグラフィー樹脂に結合せず、主に、樹脂又は培地に結合しない画分に存在するため、フロースルーに含まれるクロマトグラフィー条件を指す。本発明の開発された中間クロマトグラフィーは、フロースルーモードを使用しない。しかしながら、本発明の方法は、フロースルーモードでの追加のポリッシングクロマトグラフィーによって補足することができる。このモードでは、不純物が樹脂又は媒体に結合することができる。
【0055】
「洗浄ステップ」は、サンプルがクロマトグラフィーカラムにロードされた後であるが、タンパク質がカラムから溶出される前に、結合モードのクロマトグラフィーで行われるステップである。洗浄ステップはさらに、樹脂から目的の免疫グロブリンをあまり溶出させることなく、マトリックス、免疫グロブリン、及び/又はリガンドにより弱く又は非特異的に結合した混入物を除去する。洗浄ステップでは、樹脂を所望の洗浄バッファーで洗浄する(例えば、カラムの出口で測定されるUV吸収がベースラインに戻るまで、洗浄バッファーをクロマトグラフィーカラムに通す)。
【0056】
「溶出」という用語は、バッファー成分がクロマトグラフィー樹脂上のリガンド部位に対して目的の分子と競合するように溶液条件を変えることによって、クロマトグラフィー樹脂から目的の免疫グロブリンを脱着させるプロセスとして理解される。例えばプロテインAを使用するアフィニティークロマトグラフィーでは、別の溶出モードが生じる。この場合、溶出バッファーはリガンド又は免疫グロブリンのコンフォメーションを変化させ、それによって結合を緩める可能性がある。移動相の緩衝イオンがイオン交換樹脂の荷電イオン部位に対して分子と競合するように、イオン交換材料を取り巻くバッファーのイオン強度を変えることによって、目的の免疫グロブリンがイオン交換樹脂から溶出され得る。あるいは、pHの変化は両性タンパク質に影響を及ぼし、タンパク質のpIを超えるpHの上昇は、以降、陽イオン交換樹脂への結合を防ぎ、タンパク質が溶出する。pHがタンパク質のpI未満に低下すると、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂でも同じ効果が生じる。理解されるように、本明細書における「溶出」という用語は、先行する洗浄ステップの有無にかかわらず、アイソクラティック溶出、シングルステップ溶出、及びグラジエント溶出を含む。目的の免疫グロブリンの溶出は、移動相のイオン強度又は導電率を上げることによって行うことができ、これは、緩衝液中の塩濃度の増加によって影響を受ける。あるいは、pH値の上昇又は低下が適切であり得る。不連続なステップ勾配、線形勾配、非線形勾配、又はそのような勾配の適切な組み合わせを使用することができる。
【0057】
洗浄及び溶出に適したバッファーは、酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、トリス-HCl、トリス-酢酸塩、トリス-グリシン、リン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩、MES、MOPS、PIPES、PHEPES、ビストリス、グリシン、及び、リン酸塩、硫酸塩、又は塩化物(例えばNaClやKC1)などの塩を添加した他の適切な緩衝液から選択できる。溶出が達成されるイオン強度及び塩濃度は、緩衝液のpH値とタンパク質のpIに依存する。洗浄バッファーは、界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、溶媒(例えば、ヘキシレングリコール、イソプロパノール、又はエタノール)、又はポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)をさらに含み得る。さらに、洗浄バッファーは、カオトロピック試薬(例えば、尿素又はアルギニン)及び/又はプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA)を含み得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、「バッファー」という用語は、酸塩基共役成分の作用によりpHの変化に抵抗する溶液を指す。
「免疫グロブリン」及び「抗体」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。免疫グロブリンは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び所望の抗原結合活性を示すそれらのフラグメントであり得る。天然に存在する抗体は、様々な構造を持つ分子である。例えば、天然IgG抗体は、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、ジスルフィド結合によって連結された2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖で構成されている。N末端からC末端まで、各重鎖には可変ドメイン(VH)があり、これは可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインと呼ばれ、その後に3つ又は4つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3、及び場合によりCH4)が続く。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖には可変軽鎖(VL)があり、これは可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれ、その後に定常軽鎖(CL)ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのいずれかに割り当てられる。
【0059】
「抗体フラグメント」は、全長抗体の一部、大抵はその抗原結合領域又は可変領域を含む。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)、及びFvフラグメント;一本鎖抗体分子;ダイアボディ;線状抗体;及び抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0060】
好ましくは、免疫グロブリンはモノクローナル抗体である。本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得る自然発生的突然変異を除いて同一である。通常、異なる決定基(エピトープ)に指向性を有する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に指向性を有する。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特徴を示し、特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。
【0061】
免疫グロブリンは、マウスクラスIgG1、IgG2a、IgG2b、IgM、IgA、IgD又はIgE、ヒトクラスIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD又はIgE、又はそれらの組み合わせ又はフラグメントであり得る。
【0062】
免疫グロブリンは、以下の抗原を含むがこれらに限定されないタンパク質のいずれか1つ又は組み合わせを認識し得る:CD2、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD14、CD18、CD19、CD20、CD22、CD23、CD25、CD33、CD40、CD44、CD52、CD80(B7.1)、CD79b、CD86(B7.2)、CD147、CD152、IL-1a、IL-1β、IL-1、IL-2、IL-3、IL-7、IL-4、IL-5、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-23、IL23a、IL-2受容体、IL-4受容体、IL-6受容体、IL-12受容体、IL-13受容体、IL-18受容体サブユニット、PDGF-β、及びそれらのアナログ、PLGF、VEGF、TGF、TGF-β2、TGF-p1、EGF受容体、PLGF受容体、VEGF受容体、血小板受容体gpIIb/IIIa、トロンボポエイチン受容体、アポトーシス受容体PD-1、肝細胞増殖因子、オステオプロテゲリンリガンド、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、Bリンパ球刺激因子BLyS、T細胞活性化レギュレーターCTLA-4、C5補体、IgE、腫瘍抗原CA125、腫瘍抗原MUC1、PEM抗原、ErbB2/HER-2、患者の血清中に高レベルで存在する腫瘍関連エピトープ、乳房、結腸、扁平上皮細胞、前立腺、膵臓、肺、及び/又は腎臓のがん細胞及び/又はメラノーマ、グリオーマ、又は神経芽細胞腫細胞で発現するがん関連エピトープ又はタンパク質、腫瘍の壊死性コア、インテグリンアルファ4ベータ7、インテグリンVLA-4、B2インテグリン、α4β1及びα4β7インテグリン、TRAIL受容体1、2、3、及び4、RANK、RANKリガンド(RANKL)、TNF-α、接着分子VAP-1、上皮細胞接着分子(EpCAM)、細胞間接着分子-3(ICAM-3)、ロイコインテグリンアドヘシン、血小板糖タンパク質gpIlb/IIIa、心臓ミオシン重鎖、副甲状腺ホルモン、スクレロスチン、MHC I、癌胎児性抗原(CEA)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、α-フェトタンパク質(AFP)、腫瘍壊死因子(TNF)、Fc-y-1受容体、HLA-DR10ベータ、HLA-DR抗原、L-セレクチン、カリクレイン、キリン、及びIFN-γ。
【0063】
免疫グロブリンは、例えば、アフェリモマブ、アブシキシマブ、アダリムマブ、アドトラスツズマブ、アデュカヌマブ、アレムツズマブ、アリロクマブ、アニフロルマブ、アルシツモマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ブリナツモマブ、ボコジズマブ、ブラジクマブ、ブレンツキシマブ、ブロダルマブ、ブロルシズマブ、カナキヌマブ、カプラシズマブ、カプロマブ、セミプリマブ、セルトリズマブ、セツキシマブ、クレノリキシマブ、クラウディキシマブ、クリザリズマブ、デクリズマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エドレコロマブ、エロツズマブ、エミシズマブ、エプティネズマブ、エレヌマブ、エビナクマブ、エボロクマブ、フレマネズマブ、フォラビルマブ、ガルカネズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブ、ゴリムマブ、グセルクマブ、イバリズマブ、イブリツモマブ、イムシロマブ、イダルシズマブ、イネビリズマブ、インフリキシマブ、イノツズマブ、イピリムマブ、イクセキズマブ、ケリキシマブ、ラナデルマブ、レブリキズマブ、レキサツムマブ、マブリリムマブ、メポリズマブ、ミリキズマブ、モガムリズマブ、モスネツズマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、ノフェツモマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ポラツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラブリズマブ、レスチズマブ、リサンキズマブ、リツキシマブ、ロモソズマブ、ロバルピツズマブ、サシツズマブ、サリルマブ、サトラリズマブ、セクキヌマブ、シルクマブ、タネクマブ、テゼペルマブ、テゾリズマブ、トシリズマブ、トシツモマブ、トラロキヌマブ、トラスズマブ、トレメリムマブ、ウブリツキシマブ、ウステキヌマブ、及びベドリズマブであり得る。
【0064】
本発明の免疫グロブリンは、好ましくは、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4分子などのIgG分子である。より好ましくは、免疫グロブリンは、IgG1又はIgG2である。さらにより好ましくは、免疫グロブリンは、少なくともFc部分がヒトであるIgG1又はIgG2である。免疫グロブリンは、IgG1のFc部分がヒトであるマウス-ヒトキメラIgG1であり得る。最も好ましくは、キメラ免疫グロブリンはリツキシマブ又はインフリキシマブである。
【0065】
リツキシマブはキメラ抗CD20抗体であり、例えば、国際公開第9411026号に詳細に記載されている。
インフリキシマブはキメラ抗TNFα抗体であり、例えば、国際公開第9216553号に詳細に記載されている。
【0066】
免疫グロブリンは、マウスプロジェニターからのヒト化IgG1であり得る。最も好ましくは、ヒト化抗体はトラスツズマブ又はベバシズマブである。
トラスツズマブは、ヒト化抗HER2抗体であり、例えば、国際公開第9222653号に詳細に記載されている。
【0067】
ベバシズマブは、ヒト化抗VEGF抗体であり、例えば、国際公開第9845331号に詳細に記載されている。
免疫グロブリンは、完全ヒトIgG1又はIgG2抗体であり得る。最も好ましくは、ヒト抗体は、アダリムマブ(IgG1)又はデノスマブ(IgG2)である。
【0068】
アダリムマブは、ヒト抗TNFα抗体であり、例えば、国際公開第9729131号に詳細に記載されている。
デノスマブは、ヒト抗RANKL抗体であり、例えば、国際公開第03002713号に詳細に記載されている。
【0069】
一実施形態では、免疫グロブリンは、ベバシズマブ、トラスツズマブ、又はデノスマブである。
本願でのモノクローナル抗体は、特定の種に由来するか又は特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と重鎖及び/又は軽鎖の一部が同一又は相同であり、鎖の残りの部分は、別の種に由来するか又は別の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびにそれらが所望の生物学的活性を示す限り、そのような抗体のフラグメントを具体的に含む。
【0070】
さらに、本願におけるモノクローナル抗体は、「ヒト化」抗体も含む。そのような抗体は、非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」によって得られ、動物免疫グロブリンに由来する最小限の配列のみを含む。分子のほとんどはヒトの配列である。ヒトレシピエント抗体の超可変領域からの残基は、所望の結合特性を有する非ヒトドナー抗体の超可変領域からの残基によって置き換えられる。
【0071】
最後に、本願におけるモノクローナル抗体はまた、完全ヒト抗体を含み、これは、ヒト抗体遺伝子ライブラリーのスクリーニングによって得られ得る。
好ましい実施形態では、サンプルは、組換えCHO細胞培養から得られる細胞培養液に由来する。好ましくは、細胞培養液は、増殖期の組換え細胞培養物から得られる。
【0072】
本発明の方法は、小規模及び大規模での免疫グロブリン精製に使用することができる。好ましくは、この方法は大規模に実施される。
「小規模」は「実験室規模」とも呼ばれ、50g未満の免疫グロブリン、10g未満の免疫グロブリン、又は1g未満の免疫グロブリンを含むサンプルの精製を指す。「小規模」はまた、キャプチャーステップのカラムから溶出されたタンパク質が、50g未満の免疫グロブリン、10g未満の免疫グロブリン、又は1g未満の免疫グロブリンに達する精製プロセスを指す。
【0073】
「大規模」は、「生産規模」又は「製造規模」又は「商業規模」とも呼ばれ、50gを超える免疫グロブリン、100gを超える免疫グロブリン、200gを超える免疫グロブリン又は300gを超える免疫グロブリンを含むサンプルの精製を指す。「大規模」はまた、キャプチャーステップのカラムから溶出されたタンパク質が、50gを超える免疫グロブリン、100gを超える免疫グロブリン、200gを超える免疫グロブリン、又は300gを超える免疫グロブリンに達する精製プロセスを指す。
【0074】
「さらなる処理ステップ」という用語は、濾過、透析、ウイルス不活化、希釈、濃縮、pHの調整、導電率の調整、中間クロマトグラフィーステップ又は任意の目的のホールドステップなどの、タンパク質精製プロトコルにおいて一般的に適用される任意のステップを指す。さらなる処理ステップは、本発明のすべてのクロマトグラフィーステップの間で適用することができる。中間クロマトグラフィーステップは、任意のクロマトグラフィーステップの間で適用することができる。特に、「さらなる処理ステップ」という用語は、キャプチャークロマトグラフィーと陽イオン交換クロマトグラフィーとの間に適用される中間クロマトグラフィーステップを指す。中間クロマトグラフィーステップは、任意のモードで任意のクロマトグラフィー媒体を用いて実施することができる。中間クロマトグラフィーステップは、カラムクロマトグラフィー及び膜クロマトグラフィーを含む任意のクロマトグラフィータイプを使用することができる。
【0075】
さらなる中間ステップ又はポリッシングステップとして、他のクロマトグラフィータイプも使用することができる。例えば、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー及び陰イオン交換膜クロマトグラフィーをポリッシングステップとして使用することができ、最も好ましいのはフロースルーモードである。別の可能性は、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、特に結合モードのセラミックヒドロキシアパタイトを適用することである。
【0076】
本発明の第1の態様は、細胞培養液からの免疫グロブリンのキャプチャーアフィニティークロマトグラフィーの過程での沈殿を防止する方法を指し、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;及び
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること。
【0077】
プレクリーニングステップ:凝集
本発明につながる実験において、無細胞採取材料(清澄化された上清)は、精製される免疫グロブリンとともに、捕捉樹脂に強く結合するいくつかの物質を依然として含むことが確認された。これは、樹脂の再利用と、捕捉樹脂からの溶出後の免疫グロブリンの品質に影響する。これは、フロースルーモードでの陰イオン交換クロマトグラフィーに基づく追加のプレクリーニングクロマトグラフィーによって改善できる可能性がある(国際公開第2015135884号)。HCDNA及びHCPレベルの著しい低下にもかかわらず、さらなる改善が依然として求められていた。プロテインA溶出液は依然として濁る傾向があり、これは免疫グロブリン自体ではなく不純物によって引き起こされることが確認された。溶出に必要な低pH、不純物の相対量、及び高タンパク質濃度が濁りを促進する。濁った溶出プールに加えて、カラム背圧の増加が確認された。粘度の増加がこれを最もよく説明している。さらに、プレクリーニング陰イオン交換クロマトグラフィーカラムは、混入物の非常に高い負荷のために比較的大きいサイズが求められるため、歓迎されないコスト要因である。後者は、より高いmab力価、したがって経済的生産に必要な発酵時間の延長によって強化される。陰イオン交換樹脂のフィルター効果は主に負に帯電した分子の保持に限定され、濁りの原因となる不純物の一部は依然としてすり抜けるため、より簡素でより効果的なキャプチャープレクリーニング戦略が求められていた。本発明の結果によれば、適切なプレクリーニング凝集法の挿入は、驚くべきことに、採取された培養液の迅速かつ簡単な精製のための良好な解決策を表す。開発された凝集法は、さらに不純物を除去することにより、サンプルの純度を向上させ、捕捉媒体の低pH溶出中の濁りを促進する重大な汚染を減らし、高価なアフィニティーカラムを保護する。本発明の凝集方法は、簡素、迅速であり、生成物の損失がなく、そして手頃な価格である。さらに、凝集方法は、(i)細胞が細胞培養液から除去される前、つまり細胞の存在下、又は(ii)細胞が細胞培養液から除去された後、つまり細胞の非存在下のいずれでも実施できることが判明した。プロテインAステップの前後の免疫グロブリンの純度は、両方の方法で同等である。前者の方法では、細胞を含む凝集物質も遠心分離によって分離され、上清は濾過トレインによってさらに清澄化される。後者の方法では、細胞は遠心分離によって沈殿し、上清が凝集を受ける。次に、濾過トレインが凝集した物質を除去する。最も単純なモードの濾過トレインは、深層フィルターで構成されている。しかしながら、より好ましいのは、直列の深層フィルター及びマイクロフィルターである。スケールアップからフルスケール生産への過程で、細胞分離後の凝集が最善の方法であることが判明した。凝集が細胞培養物で直接行われた場合、発酵槽及びセパレータからの全細胞塊を含むフロックの除去には非常に時間がかかった。
【0078】
様々な凝集剤を使用する多数の異なる凝集方法が知られており、モノクローナル抗体を発現する哺乳類細胞培養物の清澄化に効果的であることが実験的に証明された。ほとんどの方法は、物質の組み合わせ及び/又は培養液のpH適応などのさらなる操作を必要とする。さらに、公開されている多くの方法では、遠心分離ステップの代わりに凝集を利用している。対照的に、本発明は培養液を最適に清澄化するために、1)遠心分離又は濾過による細胞分離、2)凝集、及び3)深層濾過の3つの方法を、この順に組み合わせている。
【0079】
培養液のpHが精製する抗体のpI未満の場合、抗体は正味の正電荷を帯びる。これらの条件下では、カチオン性電解質が不純物、残留細胞及び細胞破片を凝集又は沈殿させ、抗体を溶液中に残すことができる。次に、フロックを、遠心分離及び/又は深層濾過、任意選択でさらに精密濾過によって除去することができる。
【0080】
本発明は、凝集を誘導するために、二価金属イオン、水溶性有機ポリマー、又は水不溶性有機ポリマーなどの単一のカチオン性化合物を利用する。本発明の凝集ステップを実施するために、刺激応答性ポリマー又は塩などのさらなる物質は必要ない。同様に、本発明の凝集方法は、pH又は導電率をさらに調整することなく実施される。
【0081】
「以下の順序で」という用語は、言及されたプロセスステップが挙げられた順序で行われることを意味すると理解されるべきである。挙げられたプロセスステップの前、後、及び間に、さらなるプロセスステップを組み込むことができる。
【0082】
クロマトグラフィー媒体は、使い捨てでもよいし、再利用可能なものでもよい。一実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は再利用可能である。特定の実施形態では、ステップ(b)、(c)、及び(d)のクロマトグラフィー樹脂は再利用可能である。
【0083】
再利用可能なクロマトグラフィー媒体は、使い捨て用に構成されたクロマトグラフィー媒体と比較して費用効果が高い。特に、キャプチャークロマトグラフィーには、大量のクロマトグラフィー媒体が使用される。したがって、再利用可能なクロマトグラフィー媒体、例えば、キャプチャーステップのために頻繁に再利用可能なアフィニティークロマトグラフィー樹脂を使用することは特に有利である。本発明のプレクリーニングステップの使用は、高価なアフィニティーキャプチャーカラムのある種のダウンスケーリングを可能にし、寿命を延ばし、したがって、商品の全体的なコストを削減する。
【0084】
本明細書で使用される「再利用可能」という用語は、媒体又は樹脂が、複数の精製サイクル、すなわち、少なくとも2、5、10、50、100、200、300、400、500又はそれ以上の精製サイクルで再利用されるように構成されていることを意味する。各サイクルの間に、クロマトグラフィー媒体又は樹脂は、洗浄及び/又は再生及び/又は滅菌及び/又は保存され得る。
【0085】
好ましい実施形態では、凝集剤として使用されるカチオン性化合物は、二価金属イオン塩、水溶性有機ポリマー、及び水不溶性有機ポリマーから選択される。より好ましいのは水溶性有機ポリマーである。
【0086】
二価金属イオン塩は、例えば、CaClであり得る。水溶性有機ポリマーは、例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)であり得る。水不溶性有機ポリマーは、例えばキトサンであり得る。さらにより好ましくは、凝集剤はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)である。
【0087】
一実施形態では、水溶性有機ポリマーは、0.01~1.0%(w/v)、好ましくは0.02~0.15%(w/v)、より好ましくは0.025~0.090%(w/v)の最終濃度で適用される。好ましい実施形態では、水溶性有機ポリマーは、0.0375~0.075%(w/v)の最終濃度で添加される。さらに好ましい実施形態では、水溶性有機ポリマーは、0.015~0.05%(w/v)の最終濃度で添加される。
【0088】
好ましい実施形態では、凝集を誘導するために使用される水溶性有機ポリマーは、10kDa~10,000kDaの分子質量を有するポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)である。別の好ましい実施形態において、凝集ステップは、撹拌下、室温で、少なくとも10分間、少なくとも15分間、又は少なくとも20分間、好ましくは少なくとも30分間行われる。本発明における室温とは、15~25℃、20~25℃、好ましくは18~22℃を意味する。撹拌とは、適切な機械的装置を使用した連続的なアジテーション及び/又は撹拌を意味する。
【0089】
さらに好ましい実施形態では、凝集を誘導するために培養液に添加されるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)出発溶液は、5~15%(w/v)、好ましくは9~11%(w/v)、より好ましくは10%(w/v)の濃度を有する。最も好ましいのは、中性pHであり、塩化ジアリルアンモニウムが0.1%未満であり、微生物数が10CFU/ml未満であり、塩化ナトリウムを含まない溶液である。
【0090】
本発明の一実施形態では、凝集ステップは、培養期間の終わりに凝集剤を発酵槽に直接加えることによって細胞が細胞培養液から除去される前に行われる。言い換えれば、そのような実施形態では、凝集ステップの前に、さらなる遠心分離及び/又は濾過ステップは行われない。次に、細胞を含むフロックは、遠心分離機、好ましくは大容量に適したディスクスタック遠心分離機での沈降によって除去される。得られた上清は、深層濾過、任意選択でさらに精密濾過によって、より清澄化することができる。
【0091】
他の実施形態では、ステップ(a)は、以下のステップを含む:
(a1)細胞培養液の遠心分離及び/又は濾過;及び
(a2)ステップ(a1)で得られた上清又は濾液に凝集誘導化合物を添加すること。
【0092】
換言すれば、凝集ステップは、遠心分離及び/又は濾過ステップが行われた後、凝集剤を上清に添加することによって細胞培養液から細胞が除去された後に行われる。
したがって、特定の実施形態では、本発明の方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
(a1)細胞培養液の遠心分離及び/又は濾過;
(a2)ステップ(a1)で得られた上清又は濾液に凝集誘導化合物を添加すること;
(b)ステップ(a2)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;及び
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること。
【0093】
好ましくは、ステップ(a2)のフロックは、深層濾過により、任意選択でその後精密濾過により除去される。
好ましくは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を除いて、凝集を実施するためのさらなる物質は添加されない。換言すれば、ステップ(a)において、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)以外にさらなる凝集誘導化合物は添加されない。
【0094】
好ましくは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)による凝集は、pH又は導電率をさらに調整することなく行われる。これは、アフィニティークロマトグラフィーの前の凝集ステップ及び次の濾過ステップ、特に凝集ステップ(a2)では、pH又は導電率が調整されないことを意味する。
【0095】
したがって、特定の実施形態では、本発明の方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
(a1)細胞培養液の遠心分離及び/又は濾過;
(a2)ステップ(a1)で得られた上清又は濾液に凝集誘導化合物を添加すること;
(b)ステップ(a2)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;及び
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること、
ここで、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を除き、凝集を行うためのさらなる物質は添加されず、
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)による凝集は、pH又は導電率をさらに調整することなく行われる。
【0096】
アフィニティーキャプチャークロマトグラフィーステップ:プロテインAクロマトグラフィー
「キャプチャーステップ」という用語は、結合モードで実施される第1のクロマトグラフィーステップとして理解される。培養液から免疫グロブリンを精製するためのキャプチャーステップは、通常、アフィニティークロマトグラフィーステップとして行われる。プロテインA又はその誘導体又はアナログは、主にアフィニティーキャプチャーとして使用される。本発明によれば、アフィニティークロマトグラフィーを使用したところ、免疫グロブリンの捕捉に成功した。本発明の「アフィニティークロマトグラフィー」という用語は、リガンドと免疫グロブリンとの間の非常に特異的な相互作用に基づいて、培養液から免疫グロブリンを選択的に結合させる方法を意味する。
【0097】
本明細書で使用される場合、「免疫グロブリン結合タンパク質/ペプチドアフィニティークロマトグラフィー」という用語は、リガンドとして、微生物起源(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、レンサ球菌(Streptococcus)、ペプトストレプトコッカスマグナス(Peptostreptococcus magnus))の組換えタンパク質又はそれらに由来する変異体、又は免疫グロブリンに結合する能力を有する微生物起源のものであってもよい合成ペプチドを使用するアフィニティークロマトグラフィーを指す。例示的な免疫グロブリン結合タンパク質は、プロテインA、プロテインG、プロテインL、又はプロテインA/Gであり得る。この微生物起源の結合タンパク質に加えて、FcガンマA受容体に由来するタンパク質又はペプチド(FcR-IIIA)も例示的な親和性リガンドである。好ましくは、免疫グロブリン結合タンパク質又はペプチドはプロテインAである。リガンドは、プロテインAのE、D、A、B及びCドメインのうちの1つ以上を含み得る。より好ましくは、リガンドは、プロテインAのドメインB又は改変されたプロテインZを含む。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いて組換え技術により産生された14kDペプチドをリガンドとして使用する例示的な樹脂は、IgSelect(GE Healthcare)である。このリガンドについてこれ以上の情報は入手できないが、ヒトIgG-Fcのすべてのサブクラスへの高い親和性のために特別に設計された。
【0098】
プレクリーニング凝集ステップ後のキャプチャーステップとしてプロテインAアフィニティークロマトグラフィーステップを使用することにより、本発明の方法は、免疫グロブリンの精製におけるプロテインAアフィニティークロマトグラフィーの顕著な結合特異性を利用しながら、費用効果の高い免疫グロブリン精製方法を提供する。
【0099】
好ましい実施形態において、本発明は、免疫グロブリン及び少なくとも1つの不純物を含むサンプルから免疫グロブリンを精製する方法を提供し、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をプロテインAクロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはプロテインAクロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してプロテインAクロマトグラフィー媒体を洗浄すること;及び
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること。
【0100】
好ましい実施形態では、キャプチャーステップに使用されるプロテインAクロマトグラフィー樹脂は、高度に架橋されたアガロースに結合した、アルカリ耐性プロテインA誘導体をリガンドとして含む。より好ましい実施形態では、アルカリ耐性プロテインA誘導体は、プロテインAのドメインBのアルカリ安定化四量体バリアントである。
【0101】
プロテインAアフィニティークロマトグラフィー樹脂を過酷なクリーニング条件に対してより耐性にし、実施の合間の(inter-run)相互汚染効果に対する保護を提供するために、アルカリ耐性、高い結合能力、及び低いリガンド漏出を確保するために特別に設計されたリガンドを有する改良されたプロテインAアフィニティー樹脂を使用することが今日では一般的である。ただし、これらの改良された樹脂の主な欠点の1つは、従来のプロテインA樹脂よりも大幅にコストがかかることである。従来のプロテインA樹脂と、より最近の新世代のプロテインA樹脂製品の両方を使用できることは、本発明の方法の重要な利点である。プロテインA樹脂にさらされる不純物量が少ないため、穏やかな再生条件に制限されているにもかかわらず、従来の安価なプロテインA樹脂が許容できるようになる。しかしながら、本発明のプレクリーニングステップの結果として、及び選択されたプロテインA樹脂とは独立して、従来の樹脂と新世代の樹脂の両方をより長い寿命にわたって使用することができる。さらに、プロテインAカラムのクリーニングが容易になるため、プロセスがより経済的になる。
【0102】
本発明の目的に使用できる一般的なプロテインA樹脂の例には、限定するものではないが、Unosphere SUPrA(Bio-Rad)、Protein A Ceramic HyperD F(Pall Corporation)、Poros MabCapture A(Applied Biosystems)、ProSep HC、ProSep Ultra、及びProSep Ultra Plus(EMD Millipore)、Protein A Sepharose FF、rProtein A Sepharose FF、rmp Protein A Sepharose FF、IgSelect、MAbSelect、MAbSelect SuRe、MAbSelect SuRe LX、MabSelect Xtra、MabSelect PrismA(GE Healthcare)、Praesto A、Praesto AP、Praesto APc、Praesto Jetted A50(Purolite Life Sciences)、及びToyopearl rProtein A(Tosoh Bioscience)が含まれ得る。
【0103】
本明細書で使用される場合、「プロテインA」という用語は、その天然源から回収されたプロテインA、合成により又は生合成により(例えば、ペプチド合成又は組換え技術によって)生成されたプロテインA、及びCH2/CH3及び/又はFc領域を有するタンパク質に結合する能力を保持するそのバリアントを包含する。好ましくは、高い結合能力及び/又はアルカリ安定性を有する樹脂が使用され得る。例えば、プロテインA、プロテインA誘導体、又はアルカリ安定化プロテインA由来の親和性媒体を使用することができる。好ましくは、アルカリ安定化プロテインA由来(大腸菌、出芽酵母)リガンドが使用され得る。アルカリ安定化されたプロテインA由来のリガンドは、高度に架橋されたアガロースマトリックスに結合することができ、好ましくは化学的に安定なチオエーテル結合で固定化され得る。一例として、GE Healthcare Life SciencesのMabSelect SuReがある。これは、最大0.5M NaOHでの実施後に迅速かつ効率的にクリーニングできる。MabSelect SuReのアルカリ安定化リガンドはプロテインAのBドメインに由来し、本質的にVH3結合ドメインを欠いており、より高い溶出pHを提供する。好ましい製品は、MabSelect SuReよりも高い結合能力を有するMabSelect SuRe LXである。
【0104】
プロテインAアフィニティーカラムへのサンプルロードとプロテインAカラムからの免疫グロブリンの溶出との間に、特別な洗浄バッファーを使用する1つ又は複数の洗浄ステップを含めてもよい。洗浄バッファーは、プロテインAに結合した目的の免疫グロブリンをあまり大量に除去することなくプロテインA樹脂から不純物を除去するために使用されるバッファーである。洗浄緩衝液は、塩及び界面活性剤(例えば、ポリソルベート);塩及び溶媒(例えば、ヘキシレングリコール);高濃度の塩(例えば、高モル濃度のトリス緩衝液);又は塩及びポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)を含み得る。さらに、洗浄バッファーは、カオトロピック試薬(例えば、尿素又はアルギニン)及び/又はプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA)を含み得る。最後に、洗浄バッファーは、ローディングバッファーとしてより低いpH及び/又は溶出バッファーとしてより高いpHを有し得る。
【0105】
プロテインAカラムから目的の免疫グロブリンを溶出するために、溶出バッファーが適用される。好ましくは、溶出バッファーは低いpHを有することで、タンパク質のコンフォメーションを変化させることにより、プロテインAと目的の免疫グロブリンとの間の相互作用を破壊する。好ましくは、低pH溶出バッファーは、約2~約5の範囲、最も好ましくは約3~約4の範囲のpHを有する。この範囲内でpHを制御するバッファーの例には、リン酸バッファー、酢酸バッファー、クエン酸バッファー、グリシンバッファー、及びアンモニウムバッファー、ならびにこれらの組み合わせが含まれる。
【0106】
そのような好ましいバッファーはクエン酸バッファー及び酢酸バッファー、最も好ましくはクエン酸ナトリウムバッファー又は酢酸ナトリウムバッファーである。高pHバッファー(例えば、9以上のpHを有するもの)又は目的の免疫グロブリンを溶出するためのMgCl(2mM)などの化合物又は組成物を含むバッファーを含む、他の溶出バッファーも企図される。
【0107】
プロテインAアフィニティークロマトグラフィー樹脂は、0.1~0.5NaOHを用いて、好ましくはカラム内で再生され得る(定置洗浄)。
中間/ポリッシングクロマトグラフィーステップ:陽イオン交換クロマトグラフィー
本明細書に記載の方法は、陽イオン交換クロマトグラフィーステップをさらに含み得る。
【0108】
陽イオン交換クロマトグラフィーは、サンプル中のタンパク質と樹脂に固定化された電荷との間の電荷-電荷相互作用に依存している。陽イオン交換クロマトグラフィーでは、結合させる分子は正に帯電し、固定化された官能基(リガンド)は負に帯電している。一般的に使用される陽イオン交換樹脂は、S樹脂(スルホナート)、SP樹脂(スルホプロピル)、SiB樹脂(スルホイソブチル)、SE樹脂(スルホエチル)、及びCM樹脂(カルボキシメチル)である。
【0109】
しかしながら、全般的には、陽イオン交換クロマトグラフィーステップは、すべての一般的な市販の陽イオン交換樹脂又は膜を使用して行うことができる。陽イオン交換樹脂は、官能基、例えば、スルホン酸が固定されたプレパックカラム又は膜の形態で使用することができる。あるいは、樹脂をバルク材料として購入し、ユーザがカラムに詰めることもできる。カラムの容量や寸法には、通常とは異なる特別な制限はない。陽イオン交換樹脂の量及び使用されるカラムのサイズは当業者に知られている。これは、プロセスの全体的な規模によって異なる。
【0110】
典型的な市販品には、例えば、Macro-Prep High S、Macro-Prep CM、Unosphere Rapid S、Unosphere Rapid S40、Nuvia S、及びNuvia HR-S(Bio-Rad、米国カリフォルニア州)、Toyopearl CM、Toyopearl SP、Toyopearl Sulfate 650F、及びToyopearl GigaCap S(Tosoh Bioscience、ドイツ)、Millipore ProRes S、Fractogel EMD COO-、Fractogel EMD SO3-、Fractogel EMD SE Hicap、Eshmuno CPX(Merck KGaA、ドイツ)、Biosepra CM Ceramic HyperD、Biosepra S Ceramic HyperD、S HyperCel(Pall Corperation、米国ニューヨーク州)、Poros HS、Poros XS(Applied Biosystems、ドイツ)、BioPro IEX SmartSep S、BioPro IEX S75(YMC 欧州)、Praesto SP、Praesto Jetted SP35(Purolite Life Sciences、欧州)、CM-Sepharose FF、SP-Sepharose FF、S-Sepharose FF、SP-Sepharose HP、SP-Sepharose XL、SP-Sepharose Big Beads、CM-Sephadex、Capto S、Capto SP ImpRes、及びSource S(すべてGE Healthcare、ドイツ)が含まれる。
【0111】
一般的に、陽イオン交換クロマトグラフィーは、4~7のpH値のバッファーを使用して行われる。
本発明の好ましい陽イオン交換樹脂は、スルホン酸、スルホプロピル、又はスルホイソブチルリガンドを使用する強陽イオン交換樹脂である。最も好ましいのは、高度に架橋されたアガロース(例えば、Nuvia HR-S)、又はポリ(スチレンビニルベンゼン)(例えば、Poros 50 HS)、又はポリメタクリラート(例えば、Fractogel EMD S03)などの硬いマトリックスに連結されたスルホン酸又はスルホプロピルリガンドである。最も好ましい陽イオン交換樹脂は、架橋ポリ(スチレンジビニルベンゼン)マトリックスに結合したスルホプロピル(-CHCHCHSO )リガンドを有するPoros HS 50である。
【0112】
陽イオン交換クロマトグラフィーは、約pH4~約pH8のpHを有するバッファーで平衡化することができる。バッファー濃度は、10mM~100mMの範囲、好ましくは20mM~50mMの範囲であり得る。
【0113】
陽イオン交換クロマトグラフィーに使用されるバッファーの例は、クエン酸、乳酸、コハク酸、ギ酸、ブタン二酸、酢酸、マロン酸、グリシン、MES、PIPES、リン酸、ビストリス、又はそれらの混合物である。
【0114】
陽イオン交換クロマトグラフィーステップは、免疫グロブリンのチャージバリアントを分離し、残留宿主細胞タンパク質、DNA、凝集体、フラグメント、ウイルス、エンドトキシン、凝集剤、及び浸出プロテインAを枯渇させることができる。
【0115】
免疫グロブリンは、免疫グロブリンの等電点(pI)より低いpH値及び低い導電率で樹脂に結合し得る。
タンパク質の等電点すなわちpIは、タンパク質の正味の全体電荷がゼロに等しいpH、つまりタンパク質の正電荷と負電荷の数が等しいpHを指す。pIの決定は、等電点電気泳動などの従来技術で確立された技術に従って達成することができる。
【0116】
低い導電率とは、2mS/cm未満であることを意味する。
溶出には、シングルステップ又はグラジエントのいずれかによって提供される溶出バッファーのイオン強度の増加を使用することができる。陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出に使用される例示的な塩は、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、又は酢酸塩である。好ましくは、NaCl又はKClが使用される。イオン強度は最大1Mまで上げることができる。
【0117】
あるいは、シングルステップ又はグラジエントのいずれかによって提供される、溶出バッファーのpHの増加を使用することができる。
陽イオン交換クロマトグラフィーの性能のための好ましい実施形態は、4~6の間のpH作業範囲、より好ましくは、4.5~5.5の間のpH範囲である。緩衝物質としては炭酸又はアミノ酸のいずれを使用することもでき、クエン酸又はグリシンが最も好ましい。
【0118】
さらに好ましい実施形態において、陽イオン交換樹脂に結合した免疫グロブリンの溶出は、pH値の変化、すなわち、pHの増加によって行われる。これは、2つの異なる緩衝液の混合によって提供される低pHから高pHへの勾配によって達成することができる。低pH用のクエン酸バッファー及び高pH用のリン酸バッファーが好ましい。好ましい実施形態では、pH勾配は、約pH5~6のクエン酸バッファーを約pH7~9のリン酸バッファーと混合することによって形成される。バッファーは、10~50mMの濃度の酸のナトリウム塩を使用することによって調製することができる。pH勾配の好ましい範囲は5.0~7.5の間である。別の好ましい実施形態では、pH勾配は、pH8.7及びpH10.5のグリシンバッファーを混合することによって形成される。任意選択で、溶出プールのpHを、最終的なクロマトグラフィーカラムにロードする前に、例えば酢酸で調整する。
【0119】
あるいは、シングルステップ又はグラジエントのいずれかによって提供される溶出バッファーのpH及びイオン強度の両方の増加を、溶出に使用することができる。
一実施形態では、プロテインAクロマトグラフィーの溶出液は、陽イオン交換クロマトグラフィーに曝露される。
【0120】
通常、プロテインAクロマトグラフィーの溶出液は、ウイルス不活化ステップとそれに続く陽イオン交換クロマトグラフィーにさらされる。
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、以下のステップを以下の順序で含み得る。
【0121】
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;
(f)ステップ(e)の溶出液を、ウイルス不活化のために、2.5~4.5の低pH値で少なくとも10分間インキュベートすること;及び
(g)陽イオン交換クロマトグラフィーを行うこと。
【0122】
陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、3~5カラム容量の1M NaClで再生することができる。さらに、以下のステップを含む定置洗浄手順を適用することができる:(a)1~5カラム容量の1M NaOH、1M NaClでの洗浄、(b)1~5カラム容量の1M酢酸又はTFAでの洗浄、(c)再平衡化。
【0123】
ポリッシングクロマトグラフィーステップ:混合モードクロマトグラフィー
本発明の方法は、ポリッシングステップとして混合モードクロマトグラフィーステップをさらに含み得る。すなわち、それは、アフィニティークロマトグラフィーの後に続いて(単一の又はいくつかのステップのうちの1つとして)行われる。
【0124】
混合モード媒体又は樹脂と呼ばれる媒体は、荷電疎水性イオン交換リガンド、又は、ヒドロキシアパタイト又はフルオロアパタイトなどの結晶性鉱物のいずれかからなる官能基を有するクロマトグラフィー媒体である。「混合モードクロマトグラフィー」の代わりに、「マルチモーダルクロマトグラフィー」という用語や、特定の手順に関連して「疎水性電荷誘導クロマトグラフィー」が使用されることがある。混合モードクロマトグラフィーは、疎水性相互作用とイオン交換、又は、金属親和性相互作用とイオン交換の少なくとも2つの原理の相互作用である。混合モードクロマトグラフィーは、それぞれイオン交換や疎水性相互作用クロマトグラフィーなどのシングルモードクロマトグラフィー法では再現できない、予測しにくい選択性を提供する。正に帯電した疎水性リガンドは陰イオン交換体混合モード(例えば、CaptoAdhere)のグループに属し、負に帯電したリガンドは陽イオン交換体混合モード(例えば、Capto MMC)に属する。一部の混合モード媒体は、双性イオン特性を有する(例えば、Bakerbond ABx)。他の混合モード媒体は、イオン化可能であり、pHを下げることによって非荷電から正荷電に変換する疎水性リガンドを有する(例えば、MEP HyperCel)。最後に、ヒドロキシアパタイト及びフルオロアパタイト媒体は、正に帯電したカルシウムイオン及び負に帯電したリン酸基を有することにより、より複雑な混合モード機能を有する。
【0125】
好ましい実施形態では、ポリッシングステップとして使用される混合モードクロマトグラフィーは、疎水性及び陰イオン交換機能を有する樹脂を利用する。より好ましいのは、高度に架橋されたアガロースマトリックスに結合している、正に帯電したN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンドを含む混合モード樹脂である。
【0126】
いくつかの実施形態では、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;
(f)ステップ(e)の溶出液を、ウイルス不活化のために、2.5~4.5の低pH値で少なくとも10分間インキュベートすること;
(g)陽イオン交換クロマトグラフィーを行うこと;及び
(h)混合モードクロマトグラフィーを行うこと。
【0127】
好ましくは、混合モードクロマトグラフィーステップは、陽イオン交換クロマトグラフィーの後に続く。より好ましくは、陽イオン交換クロマトグラフィーに続く混合モードクロマトグラフィーステップは、正に帯電したリガンドを含む媒体を用いて行われる。より好ましくは、正に帯電したリガンドはN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンであり、リガンドは高度に架橋されたアガロースに結合している。
【0128】
正に帯電した混合モードクロマトグラフィー樹脂を結合及び溶出モードでロードする場合、以下の条件を適用することができる:pH6~pH9、好ましくはpH7.0~8.5;導電率0.5~10mS/cm、好ましくは1~4mS/cm。1つ以上の洗浄ステップを使用してもよい。条件は免疫グロブリンのpIに依存し、目的の分離に応じて具体的に調整できる。
【0129】
ポリッシングステップ(d)に使用される最も好ましい混合モード樹脂は、CaptoAdhere(GE Healthcare Life Science)である。
結合モードでのCaptoAdhereクロマトグラフィーの好ましいローディング条件は次のものであり得る:樹脂を0.5Mリン酸ナトリウム(pH8.2)、続いて20mMリン酸ナトリウム(pH8.2)で平衡化する。サンプル(陽イオン交換プール)を、pH8.0~8.5及び導電率1~4mS/cmに調整し、カラムにロードする。平衡化バッファー20mMリン酸ナトリウム、pH8.2で洗浄した後、目的の免疫グロブリンが、例えば20mMリン酸ナトリウム、pH5~7、優先的にpH5.5~6.5を用いてCaptoAdhere樹脂から溶出され得る。
【0130】
あるいは、CaptoAdhereクロマトグラフィーをフロースルーモードで行うことができる。それにより、pHとイオン強度は、免疫グロブリンが混合モードリガンドに結合せず、除去されるべき残留混入物(DNA、凝集体、浸出プロテインA、宿主細胞タンパク質)は結合したままであるように調整する必要がある。上記条件は免疫グロブリンのpIに依存する。好ましくは、リン酸バッファー又はトリスバッファーは、6.5~8.5のpH範囲、より好ましくはpH7~8の間で使用される。導電率は、NaClなどの塩又はバッファー濃度によって調整される。最も好ましいのは、50~200mMの濃度範囲のNaClを添加した10~50mMの濃度範囲のリン酸ナトリウムバッファーである。高塩濃度は、イオン相互作用を脱着するが、リガンドとの疎水性相互作用を促進することを考慮する必要がある。
【0131】
混合モード樹脂の再生(定置洗浄)は、例えば10~200mMのクエン酸、0.5~2MのNaCl、及び10mM~1MのNaOHを使用して、低pH、高塩、及び高pHで実施できる。
【0132】
好ましい再生手順は、溶液A~Dで順番に洗浄することによって実施される:溶液A:100mMクエン酸、2M NaCl;溶液B:2M NaCl;溶液C:1M NaOH;溶液D:10mM NaOH。樹脂の貯蔵は、溶液Dで行うことができる。
【0133】
さらに好ましい実施形態では、本発明の方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
・凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
・深層濾過;
・アフィニティークロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
・pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
・pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;及び
・強陽イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは強陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合し、強陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;及び
・正に帯電した混合モードクロマトグラフィーであって、このステップで、樹脂はpH8~8.5のリン酸バッファーで平衡化され、免疫グロブリンは正に帯電した混合モードクロマトグラフィー樹脂に結合し、免疫グロブリンの溶出はpH5~7のリン酸バッファーで行われること。
【0134】
ポリッシングクロマトグラフィーステップ:陰イオン交換クロマトグラフィー
本発明の方法は、ポリッシングステップとして陰イオン交換クロマトグラフィーステップをさらに含み得る。すなわち、それは、アフィニティークロマトグラフィーの後の順序で(単一の、又はいくつかのステップのうちの1つとして)実施される。
【0135】
陰イオン交換媒体又は樹脂と呼ばれる媒体は、正に帯電したイオン交換リガンドからなる官能基を有するクロマトグラフィー媒体である。陰イオン交換クロマトグラフィー媒体は、陰イオン交換膜を含む、強い又は弱い陰イオン交換クロマトグラフィー媒体であり得る。
【0136】
陰イオン交換クロマトグラフィーでは、結合する分子は負に帯電し、固定化された官能基(リガンド)は正に帯電する。一般的に使用される陰イオン交換クロマトグラフィー媒体は、Q媒体(第4級アミンリガンド)、TMAE樹脂(トリメチルアミノエチルリガンド)、及びDEAE樹脂(ジエチルアミノエチルリガンド)である。しかしながら、大抵の場合、陰イオン交換クロマトグラフィーステップは、すべての一般的な市販の陰イオン交換媒体を用いて行うことができる。陰イオン交換媒体は、プレパックカラムの形態で、又は膜として使用できる。あるいは、樹脂をバルク材料として購入し、ユーザがカラムに詰めることもできる。カラムの容量や寸法には、通常とは異なる特別な制限はない。陽イオン交換樹脂の量及び使用されるカラムのサイズは当業者に知られている。これは、プロセスの全体的な規模によって異なる。
【0137】
特に、強陰イオン交換クロマトグラフィー媒体は、残留不純物を除去するのに効果的であることが見出された。
好ましくは、第四級アミノエチル(QAE)部分、第四級アンモニウム部分及びトリメチルアンモニウム部分からなる群から選択されるリガンドを含む強陰イオン交換クロマトグラフィー媒体が使用される。
【0138】
本発明の目的のために使用することができる典型的な強陰イオン交換クロマトグラフィー媒体は、以下のような官能基を含む:第四アミノエチル(QAE)部分、樹脂は、例えば、Toyopearl QAE(Tosoh Bioscience、ドイツから入手可能)、Selectacel QAE(セルロースの四級アミノエチル誘導体、Polysciences Inc.、米国ペンシルベニア州から入手可能)、QAE Sephadex(GE Healthcare、ドイツから入手可能)などを含む;第四級アンモニウム(Q)部分、樹脂は、例えば、Q Sepharose XL、Q Sepharose FF、Q Sepharose HP、Q Sepharose CL-4B、Q Sepharose Big Beads、Source Q、Source Q、Capto Q、Capto Q ImPres(すべてGE Healthcare、ドイツから入手可能)、Poros HQ(Applied Biosystems、ドイツ)、Q HyperCel、Biosepra Q Ceramic HyperD(Pall、米国ニューヨーク州から入手可能)、Macro Prep High Q(Bio-Rad、カリフォルニア、米国)、Toyopearl Super Q(Tosoh Bioscience、ドイツから入手可能)、UNOsphere Q(Bio-Rad、米国カリフォルニア州から入手可能)、BioPro IEX SmartSep Q(YMC 欧州)、Praesto Q、Praesto Jetted Q35(Purolite Life Sciences、欧州)、例えばFractogel EMD TMAE(Merck KgaA、ドイツ)を含むトリメチルアンモニウムエチル(TMAE)、及びトリメチルアンモニウム樹脂は、例えばNuvia Q(Bio-Rad、米国カリフォルニア州から入手可能)を含む。
【0139】
より好ましくは、陰イオン交換クロマトグラフィーは、高度に架橋されたアガロース(例えば、GE Health Care、ドイツから入手可能なCaptoQ)、又は同様の特性を有する媒体に結合した-N(CH (トリメチルアンモニウム)を有する強陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を使用して行われる強陰イオン交換クロマトグラフィーであり得る。
【0140】
いくつかの実施形態では、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;
(f)ステップ(e)の溶出液を、ウイルス不活化のために、2.5~4.5の低pH値で少なくとも10分間インキュベートすること;
(g)陽イオン交換クロマトグラフィーを行うこと;及び
(h)陰イオン交換クロマトグラフィーを行うこと。
【0141】
別の好ましい実施形態は、結合モードでの陽イオン交換クロマトグラフィーステップに続くフロースルーモードでの陰イオン交換クロマトグラフィーを含む。
したがって、本発明の好ましい実施形態は、以下のステップを以下の順序で伴う方法を提供する。
【0142】
・凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
・深層濾過;
・アフィニティークロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合するすること;
・pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/1の洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄する。
【0143】
・pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;及び
・強陽イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは強陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合し、強陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;及び
・強陰イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは強陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合せず、フロースルーで免疫グロブリンを取得すること。
【0144】
最も好ましい陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、Capto Q(GE Health Care、ドイツ)である。フロースルーモードでのCapto Qクロマトグラフィーの好ましいローディング条件は以下のものであり得る:樹脂は25mMトリスバッファーpH8で平衡化され、クロマトグラフィーは同じバッファーで行われる。
【0145】
好ましい再生手順は、溶液A~Cで順番に洗浄することによって実施される:溶液A:2M NaCl;溶液B:1M NaOH;溶液C:10mM NaOH。樹脂の貯蔵は、溶液Cで行うことができる。
【0146】
深層濾過
さらに、本発明の方法は、1つ以上の深層濾過ステップを含み得る。膜の表面に粒子を保持することによって分離する膜フィルターとは対照的に、深層フィルターは繊維又はビーズのマトリックスで構成され、分離はその表面ではなくマトリックス全体で行われる。
【0147】
デプスフィルターの例には、限定するものではないが、Pall SXLシリーズ(例えば、SXLP700416及びSXLPDE2408SPフィルターカプセル、Pall HPシリーズ(例えば、PDD1、PDE2、PDH4、PDK5、PERM)(Pall Corporation)、Millistakシリーズ(例えば、XOHC、FOHC、DOHC、AlHC、及びBlHC Podフィルター)、HC-Proシリーズ、Clarisolveシリーズ(例えば、40MS)(EMD Millipore)、又はZeta Plusシリーズ(90ZB08、30ZA/60ZA、60ZN90ZA、デリピッド、VR07、及びVR05フィルターカプセル)(3M)が含まれる。
【0148】
好ましくは、デプスフィルターは、事前に抽出された無機濾過助剤、セルロース、及び例えば英国の3M製のZeta Plusのような、フィルターマトリックスに強い正電荷を与える樹脂系から構成される。
【0149】
別の好ましいフィルターモジュールは、陰イオン交換機能を備えたデプスフィルターであるEmphaze AEX ハイブリッド精製器(3M)である。
本発明に使用される最も好ましいデプスフィルターは、Pall Corporation製のPDE2、PDH4及びP700シリーズのフィルターカプセルである。
【0150】
深層濾過を実施するためのプロセスパラメータは、100~2000L/m、好ましくは200~1500L/m2、より好ましくは1200L/m未満、最も好ましくは400~1000L/mの体積負荷、20~200kPa(0.2~2.0バール)、好ましくは40~60kPa(0.4~0.6バール)の圧力及び室温を含む。
【0151】
さらなる実施形態において、精製は、第1のクロマトグラフィーステップに先行する1つ以上の濾過ステップを含み得る。好ましい実施形態では、精製は、1つの遠心分離ステップ及び1つ以上の濾過ステップを含み得る。別の好ましい実施形態では、第1のクロマトグラフィーステップに先立ち、凝集後に深層濾過及び精密濾過ステップが行われる。より好ましい実施形態では、第1のクロマトグラフィーステップの前に、細胞分離ステップ、凝集ステップ、深層濾過ステップ、及び精密濾過ステップが行われる。正及び/又は負に帯電した膜を使用する追加の濾過ステップは、凝集後及びキャプチャークロマトグラフィーステップの前にサンプルを清澄化する濾過トレインに含まれ得る。帯電及び非帯電の異なる材料を組み合わせたフィルターモジュールもまた、好ましい実施形態に含まれる。
【0152】
好ましくは、深層濾過フィルターは複数の層を含む。例えば、深層濾過には二層フィルターを使用することができる。
限外濾過、ウイルス濾過、精密濾過
さらに、本発明の方法は、1つ以上の精密濾過、限外濾過、及び/又はナノ濾過のステップを含み得る。限外濾過は、圧力が液体を半透膜に押し付ける膜濾過の一形態である。浮遊固体と高分子量の溶質は保持されるが、水と低分子量の溶質は膜を通過する。限外濾過は、高分子溶液、特にタンパク質溶液を分離、精製、及び濃縮するために一般的に使用される方法である。限外濾過は、ダイアフィルトレーションと組み合わせることができる。このモードは、繰り返される又は連続的な希釈と再濃縮によって溶液から塩や他の微小種を除去するためのバッファー交換に適している。限外濾過は、特に大量のサンプルを処理する場合に、積み重ねられた膜を用いて、タンジェンシャルフロー又はクロスフロー濾過システム(TFF又はTF-UF)で実施され得る。あるいは、限外濾過には中空繊維システムが一般的に使用される。膜のカットオフサイズの範囲は約1~300kDである。免疫グロブリンの場合、限外濾過膜の典型的なカットオフは10~100kDである。本発明の枠組み内では、UF膜について30又は50kDの分子量カットオフが好ましい。
【0153】
精密濾過は、ポアサイズが約0.1~10μmの膜を使用する粒子濾過法である。環境に特別な要件を課す滅菌濾過では、ポアサイズが約0.2μmの滅菌済みマイクロフィルターを使用する。より大きいポアサイズ(0.45μm、3μm)を有する追加のプレフィルターを使用するのが一般的である。これにより、小さいポアサイズのフィルターが急速にブロックされて流量が減少してしまうのを防止する。
【0154】
最後に、バイオ医薬品の製造では、ナノ濾過は主にウイルスの濾過に使用され、哺乳類細胞培養で製造された治療用タンパク質の安全性に必要である。ナノ濾過ステップは通常、精製された免疫グロブリンの大部分の充填に近い下流の終わりに行われる。よく使用されるナノフィルターのポアサイズは15~35nmの範囲である(Planova、旭化成、日本、又はViresolve、EMD-Millipore、ドイツ)。
【0155】
本発明の範囲内で、「ナノ濾過」及び「ウイルス濾過」という用語は同義語として使用される。
本発明は、免疫グロブリン及び少なくとも1つの不純物を含む細胞培養液から免疫グロブリンを精製するためのさらなる方法を提供し、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
・細胞培養液の遠心分離及び/又は濾過;
・凝集誘導化合物を上清又は濾液に添加すること;
・深層濾過;
・精密濾過;
・アフィニティークロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
・pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;及び
・pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること。
【0156】
本発明の好ましい実施形態では、精製のプロセスは、1つ以上の限外濾過/ダイアフィルトレーションステップ及び/又はナノ濾過ステップを含む。これらの濾過ステップは、市販の濾過装置、例えば、Pall Corporation、GE Healthcare、 EMD-Millipore、又はSartoriusから入手できるものを使用して行うことができる。
【0157】
さらなる実施形態では、この方法は、アフィニティークロマトグラフィー又はポリッシングステップから得られた溶出液、又はそれから誘導され、前記クロマトグラフィーステップの後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物をナノ濾過に曝露するさらなるステップを含む。好ましくは、パルボウイルスを保持することができるフィルター、最も好ましくは15~35nmのポアサイズを有するフィルターを、ナノ濾過に適用することができる。
【0158】
いくつかの実施形態において、本発明は、免疫グロブリン及び少なくとも1つの不純物を含む細胞培養液から免疫グロブリンを精製する方法を提供し、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
・凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
・深層濾過;
・アフィニティークロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
・pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
・pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;
・陽イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合し、陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;
・混合モードクロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは、混合モードクロマトグラフィー樹脂に結合し、混合モードクロマトグラフィー樹脂からタンパク質を脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得するか、又は、混合モードクロマトグラフィー樹脂に結合せず、フロースルーで免疫グロブリンを取得すること;及び
・ウイルスフィルターを通した溶出液の濾過、任意選択でそれに続く限外濾過/ダイアフィルトレーションステップ。
【0159】
さらなる実施形態において、本発明は、免疫グロブリン及び少なくとも1つの不純物を含む細胞培養液から免疫グロブリンを精製する方法を提供し、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
・凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
・深層濾過;
・アフィニティークロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
・pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
・pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;
・陽イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合し、陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;
・陰イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合せず、フロースルーで免疫グロブリンを取得すること;及び
・ウイルスフィルターを通した溶出液の濾過、任意選択でそれに続く限外濾過/ダイアフィルトレーションステップ。
【0160】
好ましい実施形態において、本発明は、免疫グロブリン及び少なくとも1つの不純物を含む細胞培養液から免疫グロブリンを精製する方法を提供し、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
・凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
・混合物の深層濾過;
・濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
・pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
・pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;
・陽イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合し、陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂からタンパク質を脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;
・混合モードクロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは混合モードクロマトグラフィー樹脂に結合し、混合モードクロマトグラフィー樹脂からタンパク質を脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;
・ナノ濾過;及び
・限外濾過/ダイアフィルトレーション。
【0161】
さらに好ましい実施形態において、本発明は、免疫グロブリン及び少なくとも1つの不純物を含む細胞培養液から免疫グロブリンを精製する方法を提供し、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:
・凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
・深層濾過;
・アフィニティークロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
・pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
・pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;
・陽イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合し、陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;
・陰イオン交換クロマトグラフィーであって、このステップで、免疫グロブリンは陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合せず、フロースルーで免疫グロブリンを取得すること;及び
・ナノ濾過;及び
・限外濾過/ダイアフィルトレーション。
【0162】
ウイルス不活化
細胞培養により産生されるモノクローナル抗体などの組換えタンパク質医薬品の製造過程には、原材料又は製造ステップからのウイルスによる偶発的な汚染の懸念があるため、ウイルスの除去及び/又は不活化が必要である。その結果、すべての製造プロセスのウイルスの安全性に対するかなりの規制上の要求があり、その結果、細胞培養物に由来する生物学的治療用タンパク質が得られる。
【0163】
ウイルス不活化ステップは、アフィニティーキャプチャークロマトグラフィーの後に、溶出液を低pHに保つことによって行われる。アフィニティーマトリックスからの低pH溶出を利用する。このような酸性の水性環境では、多くのウイルス、特にエンベロープタイプのウイルスは不安定で崩壊する。
【0164】
低pHとは、2~5の間、好ましくは2.5~4.5の間、より好ましくは3~4の間のpH値を意味する。
好ましい実施形態において、ウイルス不活化のためのインキュベーション時間は、10分~2時間であり、より好ましくは30分~90分であり、最も好ましくは45分~75分である。
【0165】
好ましい実施形態では、ウイルス不活化は、撹拌しながら室温で行われ、インキュベーション後にpHが上げられる。
本発明は、免疫グロブリン及び少なくとも1つの不純物を含む細胞培養液から免疫グロブリンを精製する方法を提供し、この方法は、以下のステップを以下の順序で含む:(a1)沈降により細胞培養液から細胞を分離すること;
(a)凝集誘導化合物を細胞培養液に添加すること;
(b)ステップ(a)の混合物の深層濾過;
(c)ステップ(b)で得られた濾液をアフィニティークロマトグラフィーに曝露することであって、このステップで、免疫グロブリンはアフィニティークロマトグラフィー媒体に結合すること;
(d)pH値が5~9及びイオン強度が0.1~5.0mol/lの洗浄バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー媒体を洗浄すること;
(e)pH値2.5~4.5の溶出バッファーを使用してアフィニティークロマトグラフィー樹脂から免疫グロブリンを溶出すること;
(f)ステップ(e)の溶出液を、ウイルス不活化のために、2.5~4.5の低pHで少なくとも10分間インキュベートすること;
(g)ステップ(f)でのウイルス不活化後の溶出液、又はそれから誘導され、ステップ(f)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物を陽イオン交換クロマトグラフィーに曝露し、免疫グロブリンを陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合させ、陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂からタンパク質を脱着することによって溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;
(h)ステップ(g)で得られた溶出液、又はそれから誘導され、ステップ(g)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物を混合モードクロマトグラフィーに曝露し、免疫グロブリンを混合モードクロマトグラフィー樹脂に結合させ、混合モードクロマトグラフィー樹脂からタンパク質を脱着することにより、溶出液中の免疫グロブリンを取得すること;
(i)ステップ(h)で得られた溶出液、又はそれから誘導され、ステップ(h)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物をナノ濾過に曝露すること;及び
(j)ステップ(i)の濾液又はそれから誘導され、ステップ(i)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物を限外濾過/ダイアフィルトレーションに曝露すること。
【0166】
さらなる実施形態では、ステップh)は以下のとおりである:
(h)ステップ(g)で得られた溶出液、又はそれから誘導され、ステップ(g)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物を混合モードクロマトグラフィーに曝露し、ここでは免疫グロブリンは混合モードクロマトグラフィー樹脂に結合せず、混合モードクロマトグラフィー樹脂からのフロースルーで免疫グロブリンを取得すること。
【0167】
又は、混合モードクロマトグラフィーの代わりに陰イオン交換クロマトグラフィーを使用することができ、ステップh)は以下のとおりである:
(h)ステップ(g)で得られた溶出液、又はそれから誘導され、ステップ(g)の後に行われた1つ以上のさらなる処理ステップの後に得られた組成物を陰イオン交換クロマトグラフィーに曝露し、ここでは免疫グロブリンは陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に結合せず、陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂からのフロースルーで免疫グロブリンを取得すること。
【0168】
好ましい実施形態では、限外濾過/ダイアフィルトレーションは、免疫グロブリンの精製の最後のステップであり、ステップ(c)、(g)、及び(h)へのさらなるクロマトグラフィーは行われない。
【0169】
実施例
免疫グロブリンを精製するための本発明の方法は、以下の例を参照することによって裏付けられ及び例示される。これらの例は、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを強調しておく。
【0170】
実施例1:免疫グロブリン及び細胞培養
本発明の方法は、免疫グロブリンの発現に使用される特定の抗体にも特定の宿主細胞にも依存しない。同じことが、採取物の最大収率のために最適化された発現様式及び選択された培養条件にも当てはまる。本発明の方法の開発中に、異なるモノクローナル抗体が使用された。それらは、本発明の方法に従って様々な規模で正常に精製された。表に示されている選択された実験のほとんどは、ヒト化抗VEGF、IgG1抗体であるベバシズマブを使用して実施された。さらに、他のいくつかの実験は、ヒト化抗HER2、IgG1抗体であるトラスツズマブ及び完全ヒト抗RANKL IgG2抗体であるデノスマブを使用して実施された。3つの抗体はすべてCHO細胞で組換え発現され、異なるスケールの流加培養で増殖した。開発段階での凝集実験のほとんどは、10Lの実験室スケール又は100L又は200Lのパイロットスケールからの培養液を使用して行われた。実施例で使用した生産スケール及び最大培養量は5000Lであった。いくつかの実験は、1000Lのより小さい生産スケールを使用して実施された。特に明記されていない限り、スケールは常に培養量を指す。
【0171】
実施例2:異なる凝集剤の比較(表1~3)
表1~3の凝集実験は、IgG1サブクラス(ベバシズマブ)のヒト化抗体を産生するCHO細胞のパイロットスケール(100L)培養を使用して、異なるシリーズで実施された。抗体の力価は1.16~1.52g/Lであった。凝集剤は、発酵の終わりに、細胞の分離前に、細胞培養ブロスの20mlアリコートに加えられた。3つの異なるカチオン性物質を異なる濃度で試験した。1)pDADMAC=ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、2)キトサン、及び3)塩化カルシウム。pDADMACは10%(w/v)溶液(EMD Millipore)として購入した。キトサンは固形物(Sigma)として購入し、1%(w/v)を0.1M酢酸に溶解した。キトサンのpH操作範囲は約4.5~5.0である。塩化カルシウムは、ストック水溶液を使用して追加された。
【0172】
実験は、以下の順序のステップに従って実施された。
・発酵ブロスから20mlのアリコートを収集する
・凝集剤を追加する
・撹拌しながら室温で15分間インキュベーション
・4600rpm/10分の遠心分離(Thermo Scientific Table Centrifuge)
・精密濾過(PVDF、0.2μm、EMD Millipore)
・濁度、HCDNA、及びHCPの分析
異なる濃度の異なる凝集剤の直接的な効果を評価するために、深層濾過は行われなかった。遠心分離ステップは、フロック、細胞、及び細胞片を除去する。その後の精密濾過は、残留する粒子を除去する。対照(ゼロ値)の場合、凝集剤は添加されず、インキュベーションは行われなかった。ただし、分析前にサンプルを遠心分離して濾過した。プロテインAベースのHPLC法により、抗体濃度を測定した。
【0173】
【表1a】
【0174】
【表1b】
【0175】
【表1c】
【0176】
表1a~1cは、3つの異なる凝集剤を使用したHCDNA及び濁度の低下に対する凝集の結果を示している。HCDNAは、Quant-iT(商標)高感度dsDNAアッセイキット(Thermo Fisher)及びqPCR(PrepSEQ(商標)残留DNAサンプル調製キット及びresDNASEQ(商標)定量CHO DNAキット、Thermo Fisher)によって決定された。濁度測定は、Hach Turbidimeter 2100Qで行われ、Formazin Nephelometric Units(FNU)として表された。この装置は、入射赤外光から90度の角度でサンプルからの散乱光を測定している。
【0177】
表1aは、0.09%(w/v)までのpDADMACの効果を示している。既に最低濃度(0.025%w/v)で、HCDNAはほぼ完全に除去された(99.9%、3桁の低下)。0.075%(w/v)pDADMACを使用すると、87%の濁度低下を達成できる。この実験では、pDADMAC濃度を高くしても、濁度をさらに下げることはできなかった。
【0178】
表1bに示すキトサンの結果は、効果的なHCDNA除去を示しているが、pDADMACで求められるよりも高い濃度であった。0.4%(w/v)で約91.5%の低下が得られた。濁度の低下に関しては、19%以下の低下が測定された。
【0179】
CaCl実験の結果を表1cに示す。この凝集剤についても、非常に効果的なHCDNA低下が得られた。70mMで99%の低下が測定され、120mM CaClで99.9%の低下が測定された。濁度の低下はキトサンの場合は大きかったが、pDADMACの場合は小さかった。120mMで約63%の低下を達成できた。より高いCaCl濃度は試験していない。
【0180】
結論(表1a~c):HCDNAの初期濃度(すなわち、凝集のない対照)は、それぞれ62.9μg/mlの細胞培養上清と51.1mg/gのIgGであった。総タンパク質又は抗体の損失は、試験したすべての凝集剤及び濃度で検出できなかった。同様に、凝集によって引き起こされる細胞破裂の増加は観察されなかった。驚くべきことに、HCDNAが濁度にほとんど寄与していないことは明らかである。例えば、0.4%(w/v)のキトサンでは、HCDNAの約91.5%が凝集して除去されたが、濁度はほとんど低下せず、対照の82%のままであった(表1b)。HCDNAと濁度の両方を低下させるには、凝集剤pDADMACが優れている。
【0181】
【表2a】
【0182】
【表2b】
【0183】
【表2c】
【0184】
表2a~2cは、3つの異なる凝集剤を使用したHCPの低下に対する凝集の結果を示している。HCPは、CHO HCP ELISA Kit、3G(Cygnus technologies)を使用して測定した。
【0185】
表2aは、HCPの除去に対するpDADMACの効果を示している。試験した最高濃度(0.09%w/v)でも、低下は約10.8%のみであった。
表2bに示すように、凝集剤としてのキトサンがHCPの低下に及ぼす影響はわずかであった。最も低下したのは0.2%(w/v)で測定された約8.1%であった。
【0186】
表2cに示すように、CaCl実験ではHCPのより良好な低下が得られた。70mMで29.1%の低下が測定された。より高い濃度はより良好な低下をもたらし得るが、試験はされなかった。
【0187】
結論(表2a~c):HCPの初期濃度は1.4~2.3mg/mlの間であった。質量で、これはHCDNAの負荷の約20倍から40倍高い。また、HCPも濁度にほとんど寄与しないことは明らかである。例えば、0.075%(w/v)pDADMACは濁度を約87%低下させるが(表1a)、HCPの低下は約9%のみであった(表2a)。凝集によるHCPの低下には、CaClが優れていた。以下の表3a~3cは、HCDNA、濁度、及びHCPの低下について試験した3つの凝集剤の好ましい濃度をまとめたものである。
【0188】
【表3a】
【0189】
【表3b】
【0190】
【表3c】
【0191】
3つの凝集剤はすべてカチオン性であるため、HCDNAを効率的に除去することができた。本発明の最初の問題は主にプロテインA溶出プールで観察された濁度に関連していたので、pDADMACが最も適切な凝集剤として選択された。このポリマーは低濃度で使用でき、驚くべきことに、既に試験された最低濃度でHCDNAがほぼ完全に除去される。
【0192】
実施例3:pDADMACを使用したさらなる凝集実験(表4~6)
その後のより拡張された一連の試験では、ベバシズマブを発現する6つの異なる細胞培養物からのサンプルを使用した並行実験で、HCDNA及び濁度の低下に対するpDADMACの影響を調査した。試験方法は、実施例2について記載したものと同じであった。凝集していない上清(対照)の範囲は、44.3~62.9μg/ml HCDNA、19.9~29.1FNU濁度、及び1.24~2.14mg/ml HCPであった。抗体価は1.16~1.52mg/mlであった。5つの異なるpDADMAC濃度を試験し、低下%の平均値を計算した。
【0193】
【表4a】
【0194】
表4aの結果は、HCDNAの凝集に対するカチオン性ポリマーpDADMACの高い可能性を再度確認している。既に試験された最低濃度(0.025%w/v)によって、6つの細胞培養物すべてでほぼ100%の低下が得られた。下流処理の初期段階でHCDNAをほぼ定量的に除去することは非常に有利であり、その後の濾過とキャプチャークロマトグラフィーの負担を軽減する。
【0195】
濁度の低下は、プレクリーニングステップの開発にとって最も重要な要求である。IgG1又はIgG2抗体(例えば、ベバシズマブ、トラスツズマブ、及びデノスマブ)を発現するいくつかの細胞培養物では、濁りはキャプチャークロマトグラフィーカラムから溶出された濃縮溶液で発生する。本発明の実験において、プレクリーニングステップにおける濁度の低下は、プロセスステップが中断することなく実行される場合、キャプチャークロマトグラフィー後の濁りも防止することが観察された。プロテインA溶出プールの濁りの再現は観察されなかった。
【0196】
【表4b】
【0197】
表4bに示す結果は、凝集剤としてのpDADMACの使用を裏付けている。0.05%(w/v)では、細胞培養物における低下平均値は80%を超えていた。0.075%(w/v)の濃度では、低下平均値は約88%であった。より高い濃度(0.09%w/v)ではそれ以上の増加はなかった。
【0198】
別の研究では、pDADMAC凝集(その後の深層濾過なし)を、高密度細胞培養フィードストリームの一次清澄化のために評価した。以前の実験とは対照的に、細胞培養サンプルは、ベバシズマブを発現する、選択された1000L発酵スケール(細胞密度9.3×10細胞/ml)のアリコートであった。
【0199】
実験は、以下の順序のステップに従って行った。
・発酵ブロス(50mlチューブ)から40mlのアリコートを収集する
・異なる濃度で凝集剤を追加する
・穏やかに撹拌しながら室温で15分間インキュベーション
・3000rpm/2000g/5分の遠心分離
・精密濾過(Millex Filter、0.2μm、EMD Millipore)
・濁度の即時分析
・その後のmab濃度、HCDNA、及びHCPの分析
表5は、この調査の結果をまとめたものである。濁度は、Hach Turbidimeter 2100Qで測定され、比濁法濁度単位(NTU)として表される以前の実験とは対照的である。この装置は、入射白色光から90度の角度でサンプルからの散乱光を測定している。
【0200】
【表5】
【0201】
表5に示す結果は、HCDNA、濁度、及びHCPの低下に関する以前の調査結果を裏付けている(表1a、2a、4a、及び4bを参照)。pDADMACの最適用量は、上清の濁度の有意な低下につながるポリマーの最小濃度として定義される。より高濃度のpDADMACを追加することは有益ではないかもしれない。濃度が高くなると、濁度レベルがわずかに低くなるだけであるか(表5、0.1%w/v pDADMACを参照)、又は上清中の目的生成物の濃度がわずかに低下する可能性があるか(0.1%w/v pDADMACまで観察されない)、又はより高速な濁度の回復を促進し得る(表6を参照)。より高い濃度はまた、より小さい凝集体の集団の生成につながる可能性があり、それはデプスフィルターを突破する可能性がある。最適なpDADMAC濃度は、0.0375~0.075%(w/v)の範囲である。これは、この実験の条件下で約40~80pg/細胞を指す。この範囲内で、HCDNAの減少は100%、濁度の減少は約92~97%、HCPの減少は7~8%であった。凝集がmabの検出可能な損失を引き起こさなかったことを強調しておく。
【0202】
表5の実験に使用したものと同じ出発物質を使用してさらなる実験を行い、凝集、遠心分離、及び精密濾過を実施した後の濁度の安定性をモニタリングした。実施例1に記載されたのと同じ方法が適用された。3つの濃度のpDADMAC(0.0375%w/v、0.075%w/v、及び0.09%w/v)で凝集させた後、滅菌濾過した上清の濁度を室温で24時間にわたり測定した。並行調査により、遠心分離と精密濾過では残留遊離pDADMACが除去されなかったことが判明した。対照的に、クロマトグラフィーステップ(例えば、プロテインA)はポリマーを定量的に除去した。表6に、安定性実験の結果と濁度の再現速度を示す。
【0203】
【表6】
【0204】
驚くべきことに、濁度レベルは3時間後に上昇し、沈殿が続いていることを示している。効果はpDADMAC濃度に強く依存する。3時間後の濁度の上昇は、0.0375%(w/v)では25%であるが、0.09%(w/v)では約78%である。24時間後、最高のpDADMAC濃度での濁度は、凝集していない(対照)値に達した(表4bを参照)。凝集による最初の濁度の低下は無効にした。
【0205】
これらの結果から、1)凝集及び濾過された上清は、迅速なさらなる処理(深層濾過、プロテインAクロマトグラフィー)が必要であり、2)pDADMACの最小有効量を選択する必要があると結論付けられた。0.075%(w/v)と比較して、0.0375%(w/v)の上清の安定性ははるかに優れており、8時間までほとんど上昇しない。これは、日常的な生産に適した時間枠である。
【0206】
実施例4:凝集がある場合とない場合の深層濾過実験
大規模(5,000L)の発酵液で0.0375~0.075%(w/v)pDADMACを使用して凝集を行うと、フロックと細胞を除去する細胞分離器に高い負荷がかかり、実行後のクリーニングに時間を要した。これは、残留するフロックから解放されなければならない発酵槽にも当てはまる。したがって、さらなる実験では、この欠点を克服するための代替のプレクリーニング戦略を試験した。
【0207】
最初に、凝集ステップを省略して、2ステップの深層濾過を含む様々な設定のデプスフィルターに置き換えることができるかどうかを調査した。プレフィルターを含むいくつかの確立されたフィルターシステムを多くの組み合わせで試験したが、結果は満足のいくものではなかった。すなわち、細胞分離及び深層濾過後の濁度は約10FNUを維持し、その後のプロテインA溶出プールの沈殿は、最適なフィルター設定で約30FNUの濁度であるように見えた。さらに、デプスフィルターはHCDNA及びHCPを低下させなかった。
【0208】
第二に、デプスフィルターのみを使用する場合、凝集後のセパレータを省略できるかどうかを調査した。実際、一部のフィルター設定は、凝集した細胞培養液を許容可能な低フロースルー濁度(1~2FNU)で十分に清澄化した。この戦略は有望なクリアランスをもたらすが、必要なフィルターサイズと処理時間はかなり高く、重要な経済的要因になった。この戦略は追求されなかった。
【0209】
実施例5:無細胞培養上清を用いた凝集実験
この例では、1つの好ましいプレクリーニング戦略を精査した。プレクリーニングステップの順序は以下のとおりである(図2Bも参照):
・細胞培養液の採取
・細胞分離/遠心分離
・pDADMACによる凝集(0.0375%w/v~0.075%w/v)
・深層濾過
・精密濾過(0.2μm)
・プロテインAクロマトグラフィー(MabSelect SuReLX)
実施例2及び3と比較して、凝集は、細胞分離/遠心分離の後に行われ、続いて深層濾過が行われた。この方法は、1L、10L、100L、及び5000Lの培養液(ベバシズマブ)を使用して行われ、深層濾過のいくつかのパラメータが比較され、最適化された。凝集前の上清の濁度は、5000Lスケールで30~100FNUの範囲であった。
【0210】
以下のタイプのデプスフィルターを調査した:
・Pall Supercap 50 PDH4
・Pall Supercap 50 PDE2
・Pall Supercap 50 PDD1
・Pall Supercap 50 PEKM
・Pall Supercap 50 PEKX
・3M BC25 90ZB08A
・3M BV8 Emphaze AEX ハイブリッド精製器
ここでも、HCDNA、濁度、HCP、及びmab濃度を分析し(方法は前の実施例を参照)、これらの結果によると、PEKM、PDD1、及びPDE2は、許容可能な速度で凝集した上清を清澄化するのに最も適している。PDD1及びPDE2は、二層構成であることから、PEKM(単層)よりもしっかりした処理を示したため、フロックの除去に好ましいデプスフィルターであった。デプスフィルターの後方のフロースルー濁度は1~2FNUであった。濾過時間は、250~500L/mの負荷で80~240分であった。PDD1とPDE2の両方の濾液は、24時間の間にわずかな濁度の増加しか示さず、両方の濾液は、プロテインAでさらに処理するのに十分安定していると見なされる。
【0211】
結論:無細胞上清を用いた凝集(分離/遠心分離後)は、好ましいプレクリーニング戦略であり、免疫グロブリンの大規模生産に適していることが判明した。濁度が30~100FNUの凝集した上清は、PDD1やPDE2などの二層デプスフィルターで正常に処理することができた。これらのタイプのフィルターには、少なくとも500L/m2をロードすることができる。濁度が高い(>100FNU)上清の場合、有効フィルター面積を増やして処理時間の延長を回避できる。最終的に選択されたpDADMAC濃度は0.0375%(w/v)であり、細胞が存在し、深層濾過がない場合の小規模凝集実験と完全に一致している(実施例1~3)。
【0212】
実施例6:様々なpDADMAC濃度を用いたより高いIgG濃度での細胞培養上清の凝集(表7)
この実験では、2つの異なる小規模細胞培養物を比較したところ、異なる量のIgG2抗体(デノスマブ)が蓄積された。培養量は10Lであり、出発物質のために2つの10L培養物を合わせた。培養物をそれぞれ8日及び10日後に採取した。プールされた8日目の培養物は、3.86mg/ml IgG、42.4μg/ml HCDNA、及び0.454mg/ml HCPであった。10日目の培養物は、5.79mg/ml IgG(+50%)、85.μg/ml HCDNA(+102%)、及び0.506mg/ml HCP(+11%)であった。細胞培養上清を、実施例1に記載されているように遠心分離し(4600rpmで10分間)、凝集させた(15分間のインキュベーション)。
【0213】
【表7】
【0214】
驚くべきことに、2つの非常に異なる培養物は、凝集実験でかなり類似した挙動を示した。ここでも、HCDNAの除去に対するpDADMACの高い可能性がもう一度確認された。0.025%pDADMACまでに、HCDNAの低下は既に100%(約5桁)であった。濁度を見ると、0.0375%及び0.075%のpDADMACで97~98%の低下に達する。この範囲では、HCPはそれぞれ22%及び28%低下した。驚くべきことに、凝集プレクリーニング戦略は、抗体の種類、細胞密度、及びmab力価に関してかなり安定していることが判明した。培養物に固有の化学量論的投与は必須ではない。
【0215】
実施例7:プロテインAによるアフィニティーキャプチャー後の不純物に対する凝集の影響(表8~10)
この実施例は、プロテインA溶出プール内の残留不純物に対する凝集の影響を示している。出発物質は、パイロットスケール(200L、表8)ではトラスツズマブ(IgG1)を発現する細胞培養物、フルスケール(5000L、表9)ではベバシズマブを発現する細胞培養物であった。実施例8.2に記載されているようにプロテインAクロマトグラフィーを実施した。pDADMAC濃度は0.0375%(w/v)であり、デプスフィルターはPall Supercap 50 PDE2であった。
【0216】
【表8】
【0217】
プロテインA溶出液中のIgG濃度は、凝集していない対照では20.36mg/mlであり、凝集プロセスでは23.32mg/mlであった。対照プロセスでは、凝集は行われず、遠心分離後の上清を直接深層濾過し、プロテインAでクロマトグラフィーにかけた。プロテインA溶出プールは、対照の約43FNUの濁度に関して有意な沈殿を示した。対照的に、pDADMAC凝集を伴うプロセスでは、濁度は約80%の大幅な低下を示した。HCDNAは90%以上低下し、ほとんど検出できない0.076ppmの非常に低いレベルになった。残留HCPはより顕著で、つまり204ppmであり、出発材料の2~3桁高い負荷を反映している。その濃度は対照と比較して約半分であった。これらの結果は、プロテインA溶出液の生成物純度に対するpDADMAC凝集の顕著な正の効果を明確に示している。
【0218】
以下の表9a及び9bには、2つの生産バッチ(5000Lベバシズマブ)の通常の工程内管理データが示され、プロテインAクロマトグラフィーの前後で不純物の減少が驚くほど大きいことをさらに実証している。プロテインAクロマトグラフィーは、高価な樹脂のカラム容量を減らすために、総量の50%で2回連続して行った。ウイルス不活化のためのその後のインキュベーションは、実施例9.3に記載されているように行った。
【0219】
【表9a】
【0220】
【表9b】
【0221】
HCDNAは、凝集後はほとんど検出できず、後続のステップで検出限界を下回った(表9a)。凝集及び深層濾過は、HCPを約15%しか低下させなかった(表9b)。しかし、プロテインAクロマトグラフィーは、IgG-Fcに対する選択性が高いため、HCP不純物を99.9%以上低下させた。それにもかかわらず、プロテインAクロマトグラフィー後の160~270ppmの残留HCP濃度は、少なくともヒト用の治療用抗体の場合、さらなるポリッシングステップが必要であることを示している。
【0222】
表10:様々なプロセスでの浸出プロテインAの比較
表10の元になっている実験では、プロテインA溶出プール中の浸出プロテインAについて3つの異なるプロセスを比較した。プロセスCは、実施例7/表8(200Lのトラスツズマブ)に記載されているのと同じ条件下で、pDADMAC凝集を利用する本発明によるプロセスである。2回の実験の結果を、プロテインAステップの前に陰イオン交換フロースルークロマトグラフィー(Nuvia Q)を利用する以前に確立されたプロセス(プロセスB)と比較した。プロセスAは、プレクリーニングステップなし(遠心分離及び濾過を除く)のさらなる対照である。プロセスA及びBは、国際公開第2015135884号に記載されている。すべてのプロセスは室温で行った。プロテインAクロマトグラフィーは、実施例8.2に記載されているように実施した。
【0223】
【表10】
【0224】
プロセスA:細胞分離→深層濾過→精密濾過→プロテインA
プロセスB:細胞分離→深層濾過→精密濾過→陰イオン交換クロマトグラフィー(Nuvia Q、フロースルー)→プロテインA(国際公開第2015135884号に記載)
プロセスC:細胞分離→凝集(pDADMAC)→深層濾過→精密濾過→プロテインA
プロセスCでの浸出プロテインAは、対照プロセスAと比較して浸出プロテインAを低くするために既に有益な改善となっているプロセスBよりも大幅に低いものであった。プロセスCでの浸出プロテインの減少は、プロセスBと比較して約48%、プロセスAと比較して約79%であった。したがって、HCDNA及び濁度の顕著な低下に加えて、pDADMAC凝集は、浸出プロテインAをさらに著しく減少させる。
【0225】
実施例8:下流プロセス-プレクリーニングした培養上清からの免疫グロブリンの精製
以下では、小規模で開発され、最初にベバシズマブ(IgG1)の100Lパイロットスケールプロセスに適用された方法について説明する。同じプロセスにわずかな改変のみ加えて、後に5000Lまでのスケールアップに成功した。さらにわずかな改変の後、このプロセスはトラスツズマブ(IgG1)及びデンソスマブ(IgG2)でも確立された。
【0226】
実施例8.1:クロマトグラフィー樹脂の選択(表11)
国際公開第2015135884号に開示された、キャプチャーステップ、中間ステップ、及びポリッシングステップのために一般的に使用されるクロマトグラフィー媒体の拡張スクリーニングに続いて、免疫グロブリンの下流プロセスのために以下のクロマトグラフィー樹脂が選択された(表11):
【0227】
【表11】
【0228】
クロマトグラフィーの実行は、Akta Purifier System(GE Healthcare)を使用して室温で行った。
実施例8.2:プロテインAクロマトグラフィー
プロテインAキャプチャークロマトグラフィーは、MabSelect SuRe LXを使用して行った(表11)。実施例5に記載されるように、凝集した上清の深層濾過及び精密濾過の後にサンプルを採取した。カラムの寸法は、直径20cm×ベッド高10.4cm(充填量約3.3L)であった。プロテインAカラムは、20mMトリス-酢酸バッファー、pH7.2で平衡化した。生成物溶液(約49.5L)を、15.8~40.6タンパク質/L樹脂でロードした。カラムを平衡化バッファー(2CV)で洗浄し、続いて40mMリン酸ナトリウム、1.5M NaCl、2M尿素、10mM EDTA、pH7.4で洗浄した。溶出は100mMクエン酸ナトリウム、pH3.5で行った。流量は210cm/hであった。MabSelect SuRe LX樹脂の再生は、(i)0.2M NaOH(2CV)、(ii)WFI(2CV)、3.5%酢酸、100mM硫酸ナトリウム(2CV)及び(iii)WFI(2CV)で連続して逆方向に洗浄することにより行った。カラムは次の実行のために再平衡化するか、20%エタノール中で保存した。収率は94~98%であった。
【0229】
実施例8.3:ウイルス不活化
図1及び2に示すように、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの後にウイルス不活化ステップが行われる。アフィニティーマトリックスからの低pH溶出物を利用する。このような酸性の水性環境では、多くのウイルス、特にエンベロープタイプのウイルスは不安定であり、崩壊する。本発明のために開発されたプロテインA法は、pHが3.5の溶出液を生成する(実施例8.2を参照のこと)。モノクローナル抗体は、100mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH3.5)中のプロテインAカラムからウイルス不活化タンクAに直接溶出された。溶出液はタンクAで直接WFIによって約2倍に希釈された。溶液のpHを制御し、必要に応じて100mMクエン酸で3.5に再調整し、続いて溶液をウイルス不活化タンクBに移し、65rpm、温度20~24℃で60分間撹拌した。次に、溶液のpHを100mM NaOHでpH4.5に調整し、後続の陽イオン交換クロマトグラフィーステップの開始条件を提供した。
【0230】
実施例8.4:Poros 50 HSを使用した陽イオン交換クロマトグラフィー
HCPや浸出プロテインAなどの混入物、及びチャージバリアントや凝集体などの生成物関連物質の分離は、中間ステップとして使用されるスルホプロピル(SP)リガンド(表11)を使用した強陽イオン交換クロマトグラフィーによって行われた。Poros 50 HS樹脂を充填したカラム(寸法=直径14cm×ベッド高41cm、充填量約6.3L)を、(i)WFI(注射用水、2CV)及び(ii)20mMクエン酸ナトリウム、pH4.9(2CV)で連続して平衡化した。実施例8.3に記載のウイルス不活化及びサンプル調整(pH4.5)後に得られた生成物溶液を、約7.3~17.1gタンパク質/L樹脂でカラムにロードし、それにより、0.45μmのKleenpak Novaプレフィルター(Pall Corporation)を通過させた。グラジエント溶出を行う前に、カラムをWFI(1CV)及び平衡化バッファー(2CV)で洗浄した。グラジエントは、勾配の異なる2つの部分で構成される。グラジエントは、20mMクエン酸ナトリウム、pH4.9(バッファーA)と40mMリン酸ナトリウム、pH7.2(バッファーB)とを次の比率と順序で混合することによって形成された:(i)100%A(0.2CV)、(ii)40%A+60%B(2CV)への線形勾配;(iii)100%B(10CV)への線形勾配;(iv)100%B(2CV)。グラジエント中の流量は75cm/h、それ以外は150cm/hであった。溶出液を画分に分けて、特定のプーリングを可能にした。グラジエント溶出中の画分の収集は、A280が0.1AUを超える値に上昇したときに開始した。画分体積は約2Lであった。合計で約20の画分を収集した。Poros 50 HS樹脂の再生は、(i)1M NaCl(2CV)及び(ii)1M NaOH(2CV)で連続して洗浄することにより行った。その後、カラムを10mM NaOHに保存した。選択したプールの収率は、生成物に関連する不純物が大量に枯渇したため、約62~68%であった。
【0231】
実施例8.5:CaptoAdhereを使用した混合モードクロマトグラフィー
最終ポリッシングステップは、N-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンドを使用するCaptoAdhere混合モード樹脂を使用して行われた(表11)。リガンドは正に帯電した基を有するため、疎水性相互作用のほかに陰イオン交換体機能も提供する。クロマトグラフィーは、HCDNA、HCP、塩基性チャージバリアントなどの残りの微量混入物を減らすことができる。残留浸出プロテインA、生成物凝集体、及び生成物断片もこのステップで除去することができる。CaptoAdhereポリッシングステップは結合モードで実施される。これにより、選択した最終バッファーへのバッファー交換の利点が得られる。
【0232】
実施例8.4に記載の手順の後に得られたPoros 50 HSプールのpHを、100mM NaOHを加えることによりpH7.2に調整した。充填カラムのサイズは、直径14cm×ベッド高23cm(充填容量約3.5L)であった。樹脂を50.48mMリン酸ナトリウム、pH7.2(3CV)で平衡化した。生成物溶液を、6.3~17.8gタンパク質/L樹脂でカラムにロードし、続いて平衡化バッファー(3CV)をロードした。溶出は50.48mMリン酸ナトリウム、pH5.0で行った。流量は240cm/hであった。収率は87~98%の範囲であった。カラムは、2M NaCl+100mMクエン酸(2CV)及び1M NaOH(2CV)を逆流させて再生した。
【0233】
実施例8.6:CaptoQを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー
この例では、混合モードクロマトグラフィーの代わりに、CaptoQ陰イオン交換クロマトグラフィーを最終ポリッシングステップとして行った。陰イオン交換クロマトグラフィーはフロースルーモードで実施した。カラムにロードする前に、陽イオン交換クロマトグラフィーのプールされた画分を酢酸でpH8.0に調整した。CaptoQカラムは、25mMトリスバッファー、pH8.0で平衡化した。サンプルをロードした後、同じバッファーでクロマトグラフィーを実施した。免疫グロブリンはクロマトグラフィー樹脂に結合せず、フロースルーで得られた。
【0234】
例8.7:ウイルス濾過
ナノ濾過は、最終的なウイルス除去ステップであり、ナノメートル範囲のサイズ排除に基づいて動作する最も要求が厳しく、最も信頼性の高いウイルス除去方法である。ウイルス濾過は、実施例8.5のCaptoAdhere溶出プール又は実施例8.6のCaptoQフロースループールを使用する混合モードクロマトグラフィーの直後に、リン酸ナトリウムでpHを6.2又は酢酸でpH5.0に適合させた後に行った。ウイルス除去濾過は、Viresolve Pro Modus 1.1デバイス(EMD Millipore)でQuattroFlow 150ダイアフラムポンプを使用して室温で行った。凝集体によるウイルスフィルターの目詰まりを避けるために、0.1μmのポアサイズのOpticap XL 150 PESフィルター(EMD Millipore)をウイルスフィルターの前に配置した。フィルターを、1.5Lの製剤用バッファー、例えば、50.48mMリン酸ナトリウムバッファーpH6.2又は18mM酢酸ナトリウムバッファーpH5.2でコンディショニングした。濾過プロセス中の圧力設定値は200±20kPa(2±0.2バール)であった。約500~600L/mでのローディング後、約0.5~1Lの製剤用バッファー、例えば50.48mMリン酸ナトリウムバッファーpH6.2を使用して、フィルタートレインから残留mabを洗い流した。340kPa(3.4バール)の圧力と1分のテスト期間でウイルスフィルターの完全性試験を行った。
【0235】
実施例8.8:タンジェンシャルフロー限外濾過/ダイアフィルトレーション(TF-UF/DF)
最終的な限外濾過/ダイアフィルトレーションステップの役割は、タンパク質溶液の濃度を調整し、必要に応じて医薬品バルク製剤へのバッファー交換を実施することである。最終ポリッシングステップが結合モードの混合モードクロマトグラフィーであった場合、結合モードによって可能になった混合モードクロマトグラフィーのレベルでバッファー交換は既に行われている(実施例8.5を参照)。さらに、バッファーに加えて、界面活性剤、安定剤及び/又は凍結保存剤などの最終バルク製剤の他の成分を、ダイアフィルトレーションを介して導入することができる。あるいは、濃縮mab溶液にこれらの物質を直接補充する。
【0236】
実施例8.7のナノ濾過された生成物溶液を、UF/DFスキッドのタンクに収集し、Omega Centrasetteメンブレンカセット(Pall Corporation、30kDカットオフ)を使用して約40+/-2g/Lに濃縮した。供給圧力は、QuattroFlow150ダイアフラムポンプで提供された。膜貫通圧力は100kPa(1バール)に設定され、供給圧力と保持液圧力はそれぞれ100kPa(1.0バール)及び60kPa(0.6バール)であった。このステップでは、mabの損失はなかった。濃縮された生成物溶液には、ポリソルベート20及びトレハロース又はソルビトールが補充された。mabの最終バルク濃度は、例えば30+/-2g/L又は80+/-5g/Lに調整された。最終的な精密濾過(滅菌濾過)は、0.2μm Mini Kleenpakフィルターカプセル(Pall Corporation)を使用して実施した。
【0237】
参考文献一覧
【0238】
【表12-1】
【0239】
【表12-2】

図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
【国際調査報告】