(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-27
(54)【発明の名称】アミエロイス由来のトランスポザーゼを用いた核酸コンストラクトの真核生物のゲノムへの転移
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20220520BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20220520BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20220520BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220520BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220520BHJP
C12N 15/65 20060101ALI20220520BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220520BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220520BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220520BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220520BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20220520BHJP
C12N 9/00 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/90 Z
C12N15/52 Z
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z
C12N15/65 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/02 C
C12N15/10 200Z
C12N9/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560152
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(85)【翻訳文提出日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 US2020027078
(87)【国際公開番号】W WO2020210237
(87)【国際公開日】2020-10-15
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521438629
【氏名又は名称】ディーエヌエー ツーポイントオー インク.
【氏名又は名称原語表記】DNA TWOPOINTO INC.
【住所又は居所原語表記】37950 Central Court Newark, California 94560 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ミンシュル, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ゴビンダラジャン, スリダール
(72)【発明者】
【氏名】リー, マギー
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050CC03
4B050CC04
4B050DD11
4B050EE10
4B050LL03
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA77X
4B065AA80X
4B065AA90Y
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA24
(57)【要約】
本発明は、異種遺伝子の高発現のためのポリヌクレオチドベクターを提供する。いくつかのベクターは、発現をさらに向上させる新規トランスポゾン及びトランスポザーゼをさらに含む。細胞のDNAに核酸を安定的に導入するための遺伝子導入システムに使用できるベクターがさらに開示される。遺伝子導入システムは、例えば、遺伝子発現、バイオプロセス、遺伝子治療、挿入型変異誘発、又は遺伝子発見などの方法に使用できる。
【選択図】1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種プロモーターに作動可能に連結している、配列番号18と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するトランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記トランスポザーゼが、配列番号18の配列に対して、表1のC列及びD列に示す変異を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記トランスポザーゼが、配列番号18の配列に対して、79、95、115、116、121、139、166、179、187、198、203、211、238、273、304、329、345、362、366、408、416、435、458、475、483、491、529、540、560、及び563から選択されるアミノ酸位置に変異を有する、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記トランスポザーゼが、配列番号18の配列に対して、D79N、R95S、L115D、E116P、H121Q、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、E238D、L273M、L273I、D304R、D304K、Q329G、T345L、K362R、T366R、L408M、S416E、S435G、L458M、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、S560K、及びS563Kから選択される変異を有し、前記トランスポザーゼが、前記群から選択された少なくとも2、3、4、又は5個を任意に有する、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記トランスポザーゼのアミノ酸配列が配列番号96~170から選択される、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記トランスポザーゼが、配列番号192からトランスポゾンを切除又は転移できる、請求項1~5のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記トランスポザーゼの切除活性又は転移活性が、配列番号39の活性の少なくとも2倍高く、任意に2~50倍高い、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記プロモーターがインビトロ転写反応において活性である、請求項1~7のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記プロモーターが真核細胞内で活性である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記真核細胞が哺乳類細胞であり、任意に、前記オープンリーディングフレームのコドンが哺乳類細胞の発現のために選択されている、請求項9に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
ポリペプチドをコードする単離されたmRNAであって、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号18と少なくとも90%同一であり、前記mRNAの配列は、mRNAと配列番号781との間の対応する位置において、配列番号929に対して少なくとも10個の同義語コドンの相違を含み、任意に、対応する位置のmRNAのコドンが哺乳類細胞の発現のために選択されている、単離されたmRNA。
【請求項12】
前記オープンリーディングフレームが、トランスポザーゼに融合した核局在化配列をさらにコードしている、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
前記オープンリーディングフレームが、トランスポザーゼに融合した異種DNA結合ドメインをさらにコードしている、請求項1~12のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
前記DNA結合ドメインが、クリスパーキャスシステム又はジンクフィンガー蛋白質、又はTALE蛋白質に由来する、請求項13に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
ポリペプチドをコードする非天然ポリヌクレオチドであって、前記ポリペプチドの配列は配列番号18と少なくとも90%同一であり、前記ポリヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチドと配列番号929との間の対応する位置において、配列番号929に対して少なくとも10個の同義語コドンの相違を含み、任意に、対応する位置におけるポリヌクレオチド中のコドンが哺乳類細胞の発現のために選択されている、非天然ポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項1~10及び12~15のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされる非天然ポリペプチド。
【請求項17】
異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含む、トランスポゾン。
【請求項18】
前記異種ポリヌクレオチドの一方の側に配列番号13と少なくとも90%同一の配列を、他方の側に配列番号16と少なくとも90%同一の配列をさらに含む、請求項17に記載のトランスポゾン。
【請求項19】
前記異種ポリヌクレオチドが、真核細胞で活性な異種プロモーターを含む、請求項17又は18に記載のトランスポゾン。
【請求項20】
前記プロモーターが、i)オープンリーディングフレーム、ii)セレクタブルマーカーをコードする核酸、iii)カウンターセレクタブルマーカーをコードする核酸、iii)制御蛋白質をコードする核酸、iv)阻害性RNAをコードする核酸のうち、少なくとも1つ以上と作動可能に連結している、請求項19に記載のトランスポゾン。
【請求項21】
前記異種プロモーターが、配列番号474~558から選択される配列を含む、請求項19に記載のトランスポゾン。
【請求項22】
前記異種ポリヌクレオチドが、真核細胞で活性な異種エンハンサーを含む、請求項17~21のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項23】
前記異種エンハンサーが、配列番号453~473から選択される、請求項22に記載のトランスポゾン。
【請求項24】
前記異種ポリヌクレオチドが、真核細胞でスプライシング可能な異種イントロンを含む、請求項17~23のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項25】
前記異種イントロンのヌクレオチド配列が、配列番号561~621から選択される、請求項24に記載のトランスポゾン。
【請求項26】
前記異種ポリヌクレオチドがインシュレーター配列を含む、請求項17~25のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項27】
前記インシュレーターの核酸配列が配列番号435~441から選択される、請求項26に記載のトランスポゾン。
【請求項28】
前記異種ポリヌクレオチドがセレクタブルマーカーを含むか又はコードしている、請求項17~27のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項29】
前記セレクタブルマーカーが、グルタミン合成酵素、ジヒドロ葉酸還元酵素、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ酵素、ブラストサイジンアセチルトランスフェラーゼ酵素、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ酵素、アミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ酵素及び蛍光蛋白質から選択される、請求項28に記載のトランスポゾン。
【請求項30】
ゲノムが、異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含む、真核生物細胞。
【請求項31】
前記細胞が動物細胞である、請求項30に記載の真核細胞。
【請求項32】
前記細胞が哺乳類細胞である、請求項31に記載の動物細胞。
【請求項33】
前記細胞がげっ歯類の細胞である、請求項32に記載の哺乳類細胞。
【請求項34】
前記細胞がヒト細胞である、請求項32に記載の哺乳類細胞。
【請求項35】
前記異種ポリヌクレオチドが2つのオープンリーディングフレームを含み、それぞれが別々のプロモーターに作動可能に連結している、請求項17~29のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項36】
前記異種ポリヌクレオチドが、配列番号745~928から選択される配列をさらに含む、請求項35に記載のトランスポゾン。
【請求項37】
トランスポゾンを真核細胞に組み込む方法であって、
a. 異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含むトランスポゾンを細胞に導入する工程、
b. 配列番号18と少なくとも90%同一の配列のトランスポザーゼを細胞内に導入する工程であって、ここで、前記トランスポザーゼがトランスポゾンを転移させて、異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含むゲノムを生成する、工程、
を含む、方法。
【請求項38】
前記トランスポザーゼが、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとして導入される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドがmRNA分子である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドがDNA分子である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記トランスポザーゼが蛋白質として導入される、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記異種ポリヌクレオチドがセレクタブルマーカーをコードし、
c. 前記セレクタブルマーカーを含む細胞を選択する工程、
を含む、請求項37~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記細胞が動物細胞である、請求項37~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞が哺乳類細胞である、請求項43に記載の動物細胞。
【請求項45】
前記細胞がげっ歯類の細胞である、請求項44に記載の哺乳類細胞。
【請求項46】
前記細胞がヒト細胞である、請求項44に記載の哺乳類細胞。
【請求項47】
ポリペプチドを発現させる方法であって、異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含むゲノムを有する真核細胞を培養する工程を含み、ここで、前記ポリヌクレオチドが発現する、方法。
【請求項48】
培地からポリペプチドを精製する工程をさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
精製されたポリペプチドを医薬組成物に組み込む工程をさらに含む、請求項47又は48に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2019年4月8日に出願された米国仮出願第62/831,097号、2019年7月12日に出願された米国仮出願第62/873,342号、及び2020年3月17日に出願された米国仮出願第62/990,568号の優先権を主張するものであり、それぞれは全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれる。
【配列表の参照】
【0002】
本願は、参照により組み込まれる2020年4月6日に作成された2,392,133バイトの546917SEQLST.TXTという名前のtxtファイルに開示された配列を参照する。
【技術分野】
【0003】
1. 発明の技術分野
本発明の分野は、標的細胞のゲノムを安定的に改変するためのDNAベクターの構成、及び非天然のトランスポゾンとトランスポザーゼの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
2. 背景技術
細胞のゲノムに組み込まれたポリヌクレオチドにコードされる遺伝子の発現量は、ポリヌクレオチド内の配列要素の構成に依存する。また、ポリヌクレオチドの導入効率、即ち各ゲノムに導入されるポリヌクレオチドのコピー数や、導入が行われるゲノム上の位置も、ポリヌクレオチドにコードされる遺伝子の発現レベルに影響を与える。ポリヌクレオチドを標的細胞のゲノムに組み込むことができる効率は、ポリヌクレオチドをトランスポゾンに配置することによってしばしば増加させることができる。
【0005】
トランスポゾンは、トランスポザーゼによって認識される2つのエンドを含む。トランスポザーゼはトランスポゾンに作用して、あるDNA分子からトランスポゾンを取り除き、別のDNA分子に組み込む。2つのトランスポゾンエンドの間にあるDNAは、トランスポゾンエンドと一緒にトランスポザーゼによって転移される。一対のトランスポゾンエンドで挟まれた異種DNAは、トランスポザーゼによって認識及び転移されるようになっており、本明細書では合成トランスポゾンと称する。合成トランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼを真核細胞の核に導入すると、トランスポゾンが細胞のゲノムに転移し得る。このような結果は、形質転換の効率を高め、また、組み込まれた異種DNAからの発現レベルを高めることができるため、有用である。従って、当技術分野では、高活性トランスポザーゼ及びトランスポゾンが必要とされている。
【0006】
piggyBacのようなトランスポザーゼによる転移は完全に可逆的である。トランスポゾンは、最初に、レシピエントDNA分子内の組み込み標的配列に組み込まれ、その間、標的配列はトランスポゾンのインバーテッドターミナルリピート(ITR)の各エンドでデュプリケートが起こる。その後、転移によってトランスポゾンが除去され、標的配列のデュプリケートとトランスポゾンが除去された状態で、レシピエントDNAが元の配列に戻る。しかし、この方法では、トランスポゾンが組み込まれたゲノムからトランスポゾンを除去するのに十分ではない。トランスポゾンは、最初の組み込み標的配列からは切除されるが、ゲノムの第2の組み込み標的配列にトランスポゾンが組み込まれる可能性が高いからである。一方、組み込み(又は転移)機能が欠損したトランスポザーゼは、トランスポゾンを第1の標的配列から切除することはできても、第2の標的配列に組み込むことはできないだろう。組み込み機能を欠損したトランスポザーゼは、トランスポゾンのゲノムへの組み込みを元に戻すのに有用である。
【0007】
トランスポザーゼの1つの用途は、真核生物ゲノムのエンジニアリングのためである。そのようなエンジニアリングは、ゲノムへの1つ以上の異なるポリヌクレオチドの組み込みを必要とする場合がある。これらの組み込みは、同時又は逐次的であってもよい。第1のトランスポザーゼによる第1の異種ポリヌクレオチドを含む第1のトランスポゾンのゲノムへの転移に続いて、第2のトランスポザーゼによる第2の異種ポリヌクレオチドを含む第2のトランスポゾンの同じゲノムへの転移を行う場合、第2のトランスポザーゼが第1のトランスポゾンを認識して導入しないことが有利である。なぜなら、ゲノム内のポリヌクレオチド配列の位置は、そのポリヌクレオチドにコードされる遺伝子の発現性に影響を与えるため、第2のトランスポザーゼによる第1のトランスポゾンの異なる染色体上の位置への転移は、第1の異種ポリヌクレオチドにコードされる任意の遺伝子の発現特性を変化させる可能性があるからである。従って、セット内のトランスポザーゼが、その対応するトランスポゾンのみを認識して転移し、セットの他のトランスポゾンは認識しないような、トランスポゾンとその対応するトランスポザーゼのセットが必要とされている。
【0008】
1983年に発見されて以来、ルーパーモス(looper moth)Trichoplusia ni由来のpiggyBacトランスポゾン及びトランスポザーゼは、多くの異なる生物からの標的細胞のゲノムに異種DNAを挿入するために広く使用されている。piggyBacシステムは、「幅広い生物での活性、複数の大きなトランスジーンを高効率で組み込みできること、活性を失わずにトランスポザーゼにドメインを追加できること、足跡変異を残さずにゲノムから切除できること」(Doherty et al., Hum. Gene Ther. 23, 311-320 (2012), at p. 312, LHC, ¶ 2)から、特に価値のあるトランスポザーゼシステムである。
【0009】
piggyBacシステムの価値と汎用性は、他のアクティブなpiggyBac様トランスポゾン(一般的にpiggyBac様要素、又はPLEsと呼ばれる)を特定するための重要な努力を促したが、これらはほとんど成功していない。「piggyBacはトランスジェネシスに使用される最もポピュラーなトランスポゾンの1つであるため、新たな活性PLEsの探索が注目されている。しかし、現在までに報告されている活性PLEはわずかしかない。」(Luo et al., BMC Molecular Biology 15, 28 (2014) http://www.biomedcentral.com/1471-2199/15/28. p.4 of 12, RHC, ¶ 1 "Discussion")。
【0010】
配列データベースには、piggyBacトランスポゾンやトランスポザーゼのホモログが多数存在するが、以下の抜粋で示されているように、大部分は宿主に有害な活性を避けるために宿主によって不活性化されているため、活性のあるものはほとんど同定されていない。「関連するpiggyBacトランスポサブルエレメントは、植物、菌類、そしてヒトを含む動物で発見されているが[125]、それらはおそらく変異により不活性化されている。」(Munoz-Lopez & Garcia-Perez, Current Genomics 11, 115-128 (2010) at p. 120, RHC, ¶ 1)。「トランスポゾンは、進化の過程でゲノムに侵入し、その後ゲノム全体に広がると考えられている。トランスポゾンの「利己的な」移動性は、宿主にとって有害である。そのため、自然選択によって宿主に排除されたり不活性化されたりする。無害なトランスポゾンであっても、保存的選択が行われないため、最終的には活性を失う。このように、一般的にトランスポゾンは宿主の中での寿命が短く、その後はゲノムの中で化石のようになってしまう。」(Hikosaka et al., Mol. Biol. Evol. 24, 2648-3656 (2007) at p. 2648, LHC, ¶ 1 "Introduction")。「転移可能要素がゲノム内で頻繁に移動することは有害である(Belancio et al., 2008; Deininger & Batzer, 1999; Le Rouzic & Capy, 2006; Oliver & Greene, 2009)。その結果、ほとんどの転移可能要素は、新しい宿主に侵入した直後に不活性化される。」(Luo et al., Insect Science 18, 652-662 (2011) at p. 660, LHC, ¶1)。
【0011】
piggyBac様要素は3つのクラスが見つかっている。(1)ルーパーモス由来のオリジナルpiggyBacに非常に似ているもの(典型的にはヌクレオチドレベルで95%以上の同一性)。(2)中程度の関係にあるもの(典型的には、アミノ酸レベルで30~50%の同一性)、及び(3)非常に遠い関係にあるもの(Wu et al., Insect Science 15, 521-528 (2008) at p. 521, RHC. ¶ 2)。
【0012】
ルーパーモスのトランスポザーゼに高度に関連したPiggyBac様トランスポザーゼがいくつかのグループによって記述されている。それらは極めて高度に保存されている。オリジナルpiggyBacと非常に類似したトランスポザーゼ配列(95~98%のヌクレオチド同一性)が、ミバエ(fruit fly)Bactrocera dorsalisの3つの異なる株で報告されている(Handler & McCombs, Insect Molecular Biology 9, 605-612, (2000))。比較的保存されたpiggyBac配列は、他のBactrocera種でも発見されている(Bonizzoni et al., Insect Molecular Biology 16, 645-650 (2007))。また、2種のノクツイドモス(noctuid moth)(Helicoverpa zea及びHelicoverpa armigera)及びルーパーモスTrichoplusia niの他の系統では、元のpiggyBac配列と93~100%のヌクレオチド同一性を有するpiggyBacトランスポザーゼのゲノムコピーが存在していた(Zimowska & Handler, Insect Biochemistry and Molecular Biology, 36, 421-428 (2006))。また、Zimowska & Handlerは、Helicoverpaの両種にpiggyBacトランスポザーゼのはるかに顕著な変異(及び切断)バージョンの複数のコピーを発見し、さらにアーミーワーム(armworm)Spodptera frugiperdaにもホモログを発見した。これらのグループはいずれも、これらのトランスポザーゼの活性を測定しようとはしなかった。Wuら(2008年)は、Macdunnoughia crassisignaから、ルーパーモスpiggyBacと99.5%の配列同一性を有すトランスポザーゼを単離したことを報告した。彼らはまた、切除と転移の両方を測定できることを示し、このトランスポゾンとトランスポザーゼが活性を有すことを示した。彼らの考察は、結果を次のようにまとめている。「他に報告されている近縁のIFP2クラスの配列は、様々なBactrocera種、T. niゲノム、Heliocoverpa armigera、H. zeaにあった(Handler & McCombs, 2000; Zimowska & Handler, 2006; Bonizzoni et al., 2007)。これらの配列は、piggyBac様要素の部分的なフラグメントであり、その多くはランダムな変異の蓄積によって切断されたり、不活性化されたりしていた。」(Wu et. al.,Insect Science 15, 521-528 (2008) at p. 526, LHC, ¶ 3.)。
【0013】
配列を見るだけでは、ルーパーモスの酵素と中程度の関係にある活性のあるpiggyBac様トランスポザーゼを特定することは非常に困難であることがわかった。必要とされることが知られている特徴の存在(完全長のオープンリーディングフレーム、触媒作用のあるアスパラギン酸残基、及びインタクトのITRs)は、活性の予測にはならないことが証明されている。「真核生物におけるPLEsの多様性は、ゲノム配列データのコンピュータ解析により明らかにされている(引用は省略)。しかし、機能と一致するインタクトの構造を持つ要素はほとんど単離されておらず、オリジナルIFP2 piggyBacのみが日常的なトランスジェネシスのためのベクターとして開発されている。」(Wu et al., Genetica 139, 149-154 (2011), at p. 152, RHC, ¶ 2.)。南京大学のWuらのグループ(以下「南京グループ」)は、6年の間にいくつかの論文を発表し、それぞれ中程度の関連性を有すpiggyBacのホモログを同定した。南京グループは、2008年にMacdunnoughia crassisignaトランスポゾンの対応するトランスポザーゼによる切除と転移の両方を測定できることを示し、その後の各論文では、新規の活性を有すpiggyBac様トランスポザーゼを同定したいと表明しているが、切除活性を示したのはAphis gossypii由来のトランスポザーゼ1つだけであった。彼らは、このトランスポザーゼの有用性について、「今後の実験で検討する必要がある」と結論づけている(Luo et. al. 2011, p. 660, LHC ¶ 2 "Discussion")。しかし、南京グループが発表した他の論文では、他のさまざまな昆虫からpiggyBac様配列が同定されているが、いずれも活性が見られなかった。カンザス州立大学のグループによって、他の推定活性piggyBac様トランスポザーゼを同定した3つの論文が発表された。これらの論文では、いずれも活性データが報告されていない。Wangらの論文(Insect Molecular Biology 15, 435-443 (2006))では、タバコバドウォーム(tobacco budworm)Heliothis virescensのゲノム中に複数のpiggyBac様配列のコピーを発見した。これらの多くには明らかな変異や欠失があり、著者らはこれらを活性トランスポザーゼの候補とは考えなかった。Wangらの論文(Insect Biochemistry and Molecular Biology 38, 490-498 (2008))において、レッドフラワービートル(red flour beetle)Tribolium castaneumのゲノム中に30以上のpiggyBac様配列が存在することが報告された。彼らは、「ここで同定されたTcPLEsは、TcPLE1を除いて、トランスポザーゼをコードする領域に複数の停止コドン及び/又はインデルが存在するため、明らかに欠陥がある」、とし、TcPLE1についても、「最近又は現在の動員イベントを裏付ける証拠はなかった」と結論づけている(p. 492, section 3.1, ¶ ¶ 2&3)。Wangら(2010年)は、PCR法を用いて、ピンクボルワーム(pink bollworm)Pectinophora gossypiellaからpiggyBacに類似した配列を同定した。ここでも、多くの明らかに欠陥のあるコピーと、活性があると思われる特徴を持つトランスポザーゼが1つ見った(179ページ, RHC, ¶ 2)。しかし、トランスポザーゼの活性を示すフォローアップの報告は見当たらない。他のグループも活性piggyBac様トランスポザーゼの同定を試みている。これらの報告は、同定されたpiggyBac様要素が活性のテストを行っているという記述で締めくくられているが、成功したという続報はない。例えば、Sarkar et al. (2003)は、新規の活性piggyBac様トランスポゾンの価値を改めて述べ、その同定に向けた現在の努力を記述することで「考察」を締めくくっている。「オリジナルT. ni piggyBac要素のさまざまな昆虫での移動は、piggyBacファミリーのトランスポゾンは昆虫以外の生物でも有用な遺伝学的ツールとなる可能性があることを示唆する。我々は現在、An. Gambiae由来のインタクトのpiggyBac要素(AgaPB1)を分離し、様々な生物での移動性をテストしている。」(Mol. Gen. Genomics 270, 173-180 at p. 179, LHC, ¶1)。この推定活性トランスポザーゼについては、これ以上の報告はないようである。Xuらは、カイコ(silkworm)のゲノムを解析し、piggyBac様配列を探した(Xu et al., Mol Gen Genomics 276, 31-40 (2006))。彼らは98個のpiggyBac様配列を発見し、推定トランスポザーゼ配列とITR配列の様々なコンピュータ解析を行った。彼らは以下のように結論づけている。「我々はB.mori由来のいくつかのインタクトのpiggyBac様要素を単離し、現在その活性と形質転換ベクターとしての使用の可能性を検証している。」(p 38, RHC, ¶3)。これらの推定活性トランスポザーゼについては、それ以上の公表された報告はないようである。
【0014】
遠縁の第三のクラスのpiggyBac様トランスポザーゼを論じた4つの発表論文がある。これらの最初の3つの論文は、反応の切除部分のみを示し、これが完全な転移とは異なることを認めている。Hikosakaらの論文(Mol Biol Evol 24, 2648-2656 (2007))は、「本研究では、Xtr- Uribo2 Tpaseが標的トランスポゾンに対して切除活性を有すことを示したが、切除された標的がゲノムに組み込まれた証拠は今のところない」と報告している(2654ページ、, RHC, ¶2)。Luoらの論文(Insect Science 18, 652-662 (2011))は、「これらの結果は、Ago-PLE1.1トランスポザーゼが要素のカット&ペースト移動の最初のステップを媒介する活性を示した」と報告している(658ページ, LHC, ¶1)。Daimonらの論文(Genome 53, 585-593 (2010))は、トランスポザーゼシステムyabusabe-1とyabusabe-Wについて論じている。DaimonらはPCRで切除イベントを検出したことを報告しているが、yabusame-1とyabusame-Wが切除された約10万個の回収プラスミドをスクリーニングしても、要素が切除された回収プラスミドは1つも確認できなかったと報告している。一方、Daimonは、野生型piggyBac酵素の転移頻度を約0.3~1.4と報告している。従って、Daimonらの報告によると、yabusabe-1又は-Wの切除頻度は0.001%(1:100,000)以下であるようである。これは、野生型piggyBac酵素で達成されるよりも少なくとも2~3桁低く、野生型よりも10倍高い転移を達成する遺伝子操作されたpiggyBacトランスポザーゼのバリアントよりもさらに低い。また、Daimonらが推定したyabasume-1の転移頻度は、哺乳類細胞におけるランダムな組み込み頻度(0.1%オーダー)よりも2桁低い。このように、Daimonらはyabusame-1が本質的に不活性であり、遺伝子操作のツールとしては役に立たないことを示している。このような見解は、Daimonら自身の結論の根底にあると思われる(「高感度のPCRベースのアッセイでは切除イベントを検出できたが、我々のデータは、両方のエレメントが切除活性をほぼ完全に失ったことを示している。」)。このことからも、Uribo2とAgo-PLE1.1の活性を示すために用いられたPCRベースの切除アッセイは、異種DNAを標的細胞のゲノムに挿入する際に有用となる転移活性を予測するものではないことが示唆される。Trichoplusia Ni由来のpiggyBacトランスポザーゼと遠縁の第三のカテゴリーに属する、完全に活性なpiggyBac様トランスポザーゼ(切除と組み込みの両方に能力がある)の唯一の報告は、コウモリ(bat)Myotis lucifugus由来のものである(Mitra et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. 110, 234-239 (2013))。これらの著者は、酵母のシステムを用いて、コウモリのトランスポザーゼの切除と転移の両方の活性を示した。ここで紹介した全ての研究は、多数の候補配列があるにもかかわらず、完全に活性化したpiggyBac様トランスポザーゼを同定することが極めて困難であることを示している。従って、新しいpiggyBac様トランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼが必要である。
【発明の概要】
【0015】
3. 発明の概要
標的細胞ゲノムに安定的に組み込むポリヌクレオチドコンストラクトからの異種遺伝子発現は、発現ポリヌクレオチドを一対のトランスポゾンエンド(トランスポザーゼによって認識され、転移される配列要素)の間に配置することによって向上できる。一対のトランスポゾンエンドの間に挿入されたDNA配列は、トランスポザーゼによって1つ目のDNA分子から切り出され、2つ目のDNA分子に挿入される。ルーパーモスTrichoplusia niに由来するものではない新規のpiggyBac様トランスポゾン-トランスポザーゼシステムが開示される。それは、ネーベルオレンジワームモス(naval orangeworm moth)Amyelois transitellaに由来するものである(アミエロイストランスポザーゼ)。アミエロイストランスポゾンは、トランスポゾンエンドとして機能する配列を含み、それらのトランスポゾンエンドを認識して作用する対応するアミエロイストランスポザーゼと組み合わせて、細胞のDNAに核酸を安定的に導入するための遺伝子導入システムとして使用できる。本発明の遺伝子導入システムは、真核細胞のゲノム工学、異種遺伝子発現、遺伝子治療、細胞治療、挿入変異誘発、又は遺伝子発見を含むがこれらに限定されない方法に用いることができる。
【0016】
転移は、配列番号18と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するアミエロイストランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを用いて、異種プロモーターに作動可能に連結された状態で行われてもよい。異種プロモーターは、真核細胞内で活性を有していてもよい。異種プロモーターは、哺乳類細胞において活性であってもよい。mRNAは、配列番号18と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するアミエロイストランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを、インビトロ転写反応において活性である異種プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドから調製されてもよい。トランスポザーゼは、配列番号18の配列に対して、表1のC欄及びD欄に示す変異を含んでもよい。トランスポザーゼは、配列番号18の塩基配列に対して、79、95、115、116、121、139、166、179、187、198、203、211、238、273、304、329、345、362、366、408、416、435、458、475、483、491、529、540、560、及び563から選択されるアミノ酸位置に変異を有していてもよい。トランスポザーゼは、配列番号18の配列に対して、D79N、R95S、L115D、E116P、H121Q、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、E238D、L273M、L273I、D304R、D304K、Q329G、T345L、K362R、T366R、L408M、S416E、S435G、L458M、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、S560K、及びS563Kから選択される変異を有し、トランスポザーゼが、上記群から選択された少なくとも2、3、4、又は5個を任意に有していてもよい。トランスポザーゼのアミノ酸配列は、配列番号96~170から選択できる。トランスポザーゼは、配列番号192からトランスポゾンを切除又は転移できる。トランスポザーゼの切除活性又は転移活性は、配列番号18の活性の少なくとも2倍高く、任意に2~10倍高い。トランスポザーゼのオープンリーディングフレームのコドンは、哺乳類細胞の発現のために選択されてもよい。単離されたmRNAは、ポリペプチドをコードしてもよく、そのアミノ酸配列は配列番号18と少なくとも90%同一であり、配列番号99に対して少なくとも10個の同義語コドンの相違を含み、及びmRNAの配列は、mRNAと配列番号929との間の対応する位置において、配列番号99に対して少なくとも10個の同義語コドンの相違を含み、任意に、対応する位置のmRNAのコドンが哺乳類細胞の発現のために選択されている。トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームは、トランスポザーゼに融合した異種核局在化配列をさらにコードしていてもよい。トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームは、トランスポザーゼに融合された異種のDNA結合ドメイン(例えば、クリスパーキャスシステム又はジンクフィンガー蛋白質、又はTALE蛋白質に由来する)をさらにコードしてもよい。非天然のポリヌクレオチドは、その配列が配列番号18と少なくとも90%同一であるポリペプチドをコードしてもよい。
【0017】
アミエロイストランスポゾンは、異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含む。トランスポゾンは、異種ポリヌクレオチドの一方の側に配列番号13と少なくとも90%同一の配列を、他方の側に配列番号16と少なくとも90%同一の配列をさらに含んでもよい。異種ポリヌクレオチドは、真核細胞で活性を有する異種プロモーターを含んでもよい。プロモーターは、以下の少なくとも1つ以上に作動可能に連結されていてもよい。i)オープンリーディングフレーム、ii)セレクタブルマーカーをコードする核酸、iii)カウンターセレクタブルマーカーをコードする核酸、iii)調節蛋白質をコードする核酸、iv)抑制性RNAをコードする核酸。異種プロモーターは、配列番号474~558から選択される配列を含んでもよい。異種ポリヌクレオチドは、真核細胞で活性を有する異種エンハンサーを含んでもよい。異種エンハンサーは、配列番号453~473から選択されてもよい。異種ポリヌクレオチドは、真核細胞でスプライシング可能な異種イントロンを含んでもよい。異種イントロンのヌクレオチド配列は、配列番号561~621から選択されてもよい。異種ポリヌクレオチドは、インシュレーター配列を含んでもよい。インシュレーターの核酸配列は、配列番号435~441から選択されてもよい。異種ポリヌクレオチドは、それぞれが別のプロモーターに作動可能に連結された2つのオープンリーディングフレームを含んでもよい。異種ポリヌクレオチドは、配列番号745~928から選択される配列を含んでもよい。異種ポリヌクレオチドは、セレクタブルマーカーを含むか、又はコードしていてもよい。セレクタブルマーカーは、グルタミン合成酵素、ジヒドロ葉酸還元酵素、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ酵素、ブラストサイジンアセチルトランスフェラーゼ酵素、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ酵素、アミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ酵素及び蛍光蛋白質から選択されてもよい。異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含むゲノムを有する真核細胞は、本発明の一実施形態である。この細胞は、動物細胞、哺乳類細胞、げっ歯類細胞又はヒト細胞であってもよい。
【0018】
トランスポゾンは、(a)異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含むトランスポゾンを細胞に導入する工程、(b)配列番号18と少なくとも90%同一の配列のトランスポザーゼを細胞内に導入し、トランスポザーゼがトランスポゾンを転移させて、異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含むゲノムを生成する工程によって、真核細胞のゲノムに組み込まれてもよい。トランスポザーゼは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとして導入されてもよく、ポリヌクレオチドは、mRNA分子又はDNA分子であってもよい。また、トランスポザーゼは、蛋白質として導入されていてもよい。また、異種ポリヌクレオチドは、セレクタブルマーカーをコードしていてもよく、本方法は、セレクタブルマーカーを含む細胞を選択する工程をさらに含んでもよい。細胞は、動物細胞、哺乳類細胞、げっ歯類細胞、又はヒト細胞であってもよい。ヒト細胞は、ヒト免疫細胞、例えば、B細胞又はT細胞であってもよい。異種ポリヌクレオチドは、キメラ抗原受容体をコードしていてもよい。真核細胞のゲノムに組み込まれたトランスポゾンから、ポリペプチドが発現してもよい。ポリペプチドは、精製されてもよい。精製されたポリペプチドは、医薬組成物に組み込まれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
4. 図面の簡単な説明
【
図1】アミエロイストランスポゾンの構造。アミエロイストランスポゾンは、異種ポリヌクレオチドを挟む左トランスポゾンエンドと右トランスポゾンエンドを含む。左トランスポゾンエンドは、(i)左標的配列、これはしばしば5'-TTAA-3'であるが、他の多くの標的配列が低頻度で使用される(Li et al., 2013. Proc. Natl. Acad. Sci vol. 110, no. 6, E478-487)。(ii)左ITR(例えば、配列番号9)、及び(iii)(任意に)追加の左トランスポゾンエンド配列(例えば、配列番号13)を含む。右トランスポゾンエンドは、(i)(任意に)追加の右トランスポゾンエンド配列(例えば、配列番号16)、(ii)左ITRの完全又は不完全なリピートであるが、左ITRに対して反転した向きの右ITR(例えば、配列番号10)、及び(iii)典型的には左標的配列と同じである右標的配列を含む。
【発明の詳細な説明】
【0020】
5. 発明の詳細な説明
5.1 定義
単数形の「a」、「an」、及び「the」の使用は、文脈が明らかに他を指示しない限り、複数の参照を含む。従って、例えば、「a polynucleotide(ポリヌクレオチド)」への言及は、複数のポリヌクレオチドを含み、「a substrate(基質)」への言及は、複数のそのような基質を含み、「a variant(バリアント)」への言及は、複数のバリアントを含む。
【0021】
「接続された」、「取り付けられた」、「連結された」、及び「結合された」などの用語は、本明細書では言い換え可能なものとして使用され、文脈が明らかに他を指示しない限り、直接的及び間接的な接続、取り付け、連結、又は結合を包含する。値の範囲が記載されている場合、その範囲の上限と下限の間に介在する各整数値及びその各端数も、そのような値の間の各小範囲とともに具体的に開示されていることが理解される。任意の範囲の上限及び下限は、独立してその範囲に含まれるか、又はその範囲から除外されることができ、いずれか、どちらでもない、又は両方の限界を含む各範囲も、本発明に包含されるものである。議論されている値が固有の限定を持つ場合、例えば、ある成分が0~100%の濃度で存在できる場合や、水溶液のpHが1~14の範囲である場合、それらの固有の限定が明確に開示されている。値が明示的に記載されている場合、記載されている値とほぼ同じ量又は量の値も本発明の範囲内であることが理解される。組み合わせが開示されている場合、それらの組み合わせの要素の各サブコンビネーションも具体的に開示されており、本発明の範囲内である。逆に、異なる要素や要素群が個別に開示されている場合は、それらの組み合わせも開示されている。また、本発明のいずれかの要素が複数の選択肢を有するものとして開示されている場合には、各選択肢が単独で又は他の選択肢と任意の組み合わせで除外される本発明の例もここに開示される。本発明の2つ以上の要素がそのような除外を有することができ、そのような除外を有する要素の全ての組み合わせがここに開示される。
【0022】
本明細書で特に定義されていない限り、本明細書で使用されている全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術者によって一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。Singleton, et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, 2nd Ed., John Wiley and Sons, New York (1994), 及びHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology, Harper Perennial, NY, 1991は、本発明で使用される多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供するものである。本明細書に記載されているものと類似又は同等の任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用できるが、一方で好ましい方法及び材料が記載される。特に明記しない限り、核酸は5'から3'の向きで左から右に書かれている。アミノ酸配列は、左から右へ、それぞれアミノからカルボキシの向きで書かれている。以下で直ちに定義される用語は、本明細書全体を参照することにより、より完全に定義される。
【0023】
ポリヌクレオチドの「構成」は、ポリヌクレオチド内の機能的な配列要素、並びにそれらの要素の順序及び方向を意味する。
【0024】
「対応するトランスポゾン」及び「対応するトランスポザーゼ」という用語は、トランスポザーゼとトランスポゾンの間の活性関係を示すために使用される。トランスポザーゼは、対応するトランスポゾンを転移させる。1つのトランスポゾンに多くのトランスポザーゼが対応することもあり、多くのトランスポゾンが単一のトランスポザーゼに対応してもよい。
【0025】
用語「カウンターセレクタブルマーカー」は、宿主細胞に選択的不利益(selective disadvantage)を与えるポリヌクレオチド配列を意味する。カウンターセレクタブルマーカーの例としては、sacB、rpsL、tetAR、pheS、thyA、gata-1、ccdB、kid、及びバルナーゼ(Bernard, 1995, Journal/Gene, 162: 159-160; Bernard et al., 1994. Journal/Gene, 148: 71-74; Gabant et al., 1997, Journal/Biotechniques, 23: 938-941; Gababt et al., 1998, Journal/Gene, 207: 87-92; Gababt et al., 2000, Journal/ Biotechniques, 28: 784-788; Galvao and de Lorenzo, 2005, Journal/Appl Environ Microbiol, 71: 883-892; Hartzog et al., 2005, Journal/Yeat, 22:789-798; Knipfer et al., 1997, Journal/Plasmid, 37: 129-140; Reyrat et al., 1998, Journal/Infect Immun, 66: 4011-4017; Soderholm et al., 2001, Journal/Biotechniques, 31: 306-310, 312; Tamura et al., 2005, Journal/ Appl Environ Microbiol, 71: 587-590; Yazynin et al., 1999, Journal/FEBS Lett, 452: 351-354)を含む。カウンターセレクタブルマーカーは、特定の文脈において選択的不利益をしばしば与える。例えば、宿主細胞の環境に加えることのできる化合物に対する感受性を付与したり、ある遺伝子型の宿主は殺すが、異なる遺伝子型の宿主は殺さないといったことがある。カウンターセレクタブルマーカーを持つ細胞に選択的不利益を与えない条件は、「寛容(permissive)」と表現される。カウンターセレクタブルマーカーを持つ細胞に選択的不利益を与える条件は「制限(restrictive)」と表現される。
【0026】
「カップリングエレメント」又は「翻訳カップリングエレメント」という用語は、第1のポリペプチドの発現を第2のポリペプチドの発現に連結することを可能にするDNA配列を意味する。内部リボソームエントリーサイト要素(IRES要素)及びシス作用性ヒドロラーゼ要素(CHYSEL要素)は、カップリング要素の例である。
【0027】
用語「DNA配列」、「RNA配列」又は「ポリヌクレオチド配列」は、連続する核酸配列を意味する。この配列は、長さ2~20ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドから、数千又は数十万の塩基対の全長ゲノム配列であり得る。
【0028】
用語「発現コンストラクト」は、RNAを転写するように設計された任意のポリヌクレオチドを意味する。例えば、下流の遺伝子、コーディング領域、ポリヌクレオチド配列(例えば、ポリペプチドや蛋白質をコードするcDNAやゲノムDNAフラグメント、又はRNAエフェクター分子、例えば、アンチセンスRNA、三重鎖形成RNA、リボザイム、人工的に選択された高親和性RNAリガンド(アプタマー)、二本鎖RNA、例えば、ステムループもしくはヘアピンdsRNA、又はバイフィンガーもしくはマルチフィンガーdsRNAを含むRNA分子、又はマイクロRNA、又は任意のRNA)に作動可能に連結している、又は連結され得る少なくとも1つのプロモーターを含むコンストラクトである。「発現ベクター」は、第2のポリヌクレオチドに作動可能に連結できるプロモーターを含むポリヌクレオチドのことである。発現コンストラクトのレシピエント細胞へのトランスフェクション又は形質転換により、その細胞は、発現コンストラクトによってコードされるRNAエフェクター分子、ポリペプチド、又は蛋白質を発現できる。発現コンストラクトは、例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルスなどに由来する、遺伝子操作されたプラスミド、ウイルス、組換えウイルス、又は人工染色体であってもよい。そのような発現ベクターは、バクテリア、ウイルス、ファージ由来の配列を含み得る。そのようなベクターには、染色体、エピソーム、ウイルス由来のベクターが含まれ、例えば、細菌のプラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体要素、及びウイルス、それらの組み合わせに由来するベクター、例えば、プラスミド及びバクテリオファージの遺伝子要素に由来するベクター、コスミド及びファージミドに由来するベクターなどを含む。発現コンストラクトは、生きている細胞内で複製することもできるし、合成的に作ることもできる。本願の目的上、「発現コンストラクト」、「発現ベクター」、「ベクター」、及び「プラスミド」という用語は、本発明の適用を一般的な例示的な意味で示すために言い換え可能なものとして使用され、本発明を特定のタイプの発現コンストラクトに限定することを意図していない。
【0029】
発現ポリペプチド」は、発現コンストラクト上の遺伝子によってコードされるポリペプチドを意味する。
【0030】
「発現システム」という用語は、ポリヌクレオチドによってコードされる1つ以上の遺伝子産物を生産するために使用される、任意のインビボ又はインビトロの生物学的システムを意味する。
【0031】
「遺伝子」は、プロモーター及びそこからRNA又は蛋白質として発現されるべき配列を含む転写単位を意味する。発現されるべき配列は、他の可能性の中でも、ゲノム又はcDNAであり得る。また、イントロンなどの他の要素や、他の制御配列が存在してもしなくてもよい。
【0032】
「遺伝子導入システム」は、ベクターもしくは遺伝子導入ベクター、又はベクターにクローニングされた導入すべき遺伝子を含むポリヌクレオチド(「遺伝子導入ポリヌクレオチド」又は「遺伝子導入コンストラクト」)を含む。また、遺伝子導入システムは、遺伝子導入のプロセスを促進するための他の特性を含んでもよい。例えば、遺伝子導入システムは、ベクターと、第1ポリヌクレオチドが細胞に入ることを可能にするための脂質又はウイルスパッケージングミックスとを含んでいてもよいし、トランスポゾンと、トランスポゾンの生産的なゲノム組み込みを高めるための対応するトランスポザーゼをコードする第2ポリヌクレオチド配列とを含むポリヌクレオチドを含んでもよい。遺伝子導入システムのトランスポザーゼ及びトランスポゾンは、同じ核酸分子上にあっても、異なる核酸分子上にあってもよい。また、遺伝子導入システムのトランスポザーゼは、ポリヌクレオチドとして提供されてもよいし、ポリペプチドとして提供されてもよい。
【0033】
2つの要素は、自然に関連していない場合、互いに「異種」である。例えば、異種プロモーターに連結された蛋白質をコードする核酸配列は、蛋白質の発現を自然に駆動するプロモーター以外のプロモーターを意味する。トランスポゾンエンド又はITRに挟まれた異種核酸は、それらのトランスポゾンエンド又はITRに自然には挟まれていない異種核酸を意味し、例えば、抗体重鎖又は軽鎖を含む、トランスポザーゼ以外のポリペプチドをコードする核酸を含む。核酸は、細胞内に天然に存在しない場合、又は細胞内に天然に存在するが、異なる場所(例えば、エピソーム又は異なるゲノムの場所)に存在する場合、細胞に対して異種である。
【0034】
用語「宿主」は、核酸のレシピエントとなり得る任意の原核生物又は真核生物を意味する。本明細書で使用される「宿主」には、遺伝子操作が可能な原核生物又は真核生物を含む。このような宿主の例については、Maniatisらの論文(Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y. (1982))を参照されたい。本明細書では、「宿主」、「宿主細胞」、「宿主システム」及び「発現宿主」という用語は、言い換え可能なものとして使用できる。
【0035】
「高活性」トランスポザーゼは、それが由来する天然に存在するトランスポザーゼよりも活性が高いトランスポザーゼである。「高活性」トランスポザーゼは、従って、天然に存在する配列ではない。
【0036】
「組み込み不良」又は「転移不良」は、対応するトランスポゾンを切除できるが、切除されたトランスポゾンを、対応する天然に存在するトランスポザーゼよりも低い頻度で宿主ゲノムに組み込むトランスポザーゼをいう。
【0037】
「IRES」又は「インターナルリボソームエントリーサイト」は、キャップ構造とは独立してリボソーム結合を直接促進する特殊な配列を意味する。
【0038】
「単離された」ポリペプチド又はポリヌクレオチドとは、自然環境から除去されたか、組換え技術を用いて生産されたか、又は化学的もしくは酵素的に合成されたポリペプチド又はポリヌクレオチドを意味する。本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドは、精製されたものであってもよく、即ち、他のポリペプチド又はポリヌクレオチド及び関連する細胞生成物又は他の不純物を本質的に含まないものであってもよい。
【0039】
用語「ヌクレオシド」及び「ヌクレオチド」は、既知のプリン及びピリミジン塩基だけでなく、修飾された他の複素環塩基も含むこれらの部分を含む。このような修飾には、メチル化されたプリン又はピリミジン、アシル化されたプリン又はピリミジン、又は他の複素環を含む。また、修飾されたヌクレオシドやヌクレオチドは、糖部分の修飾を含むことができ、例えば、1つ以上の水酸基がハロゲンや脂肪族基で置換されていたり、エーテルやアミンなどで官能化されていたりする。用語「ヌクレオチド単位」は、ヌクレオシド及びヌクレオチドを包含することが意図されている。
【0040】
「オープンリーディングフレーム」又は「ORF」は、アミノ酸に翻訳されたときに、停止コドンを含まないポリヌクレオチドの部分を意味する。遺伝コードは、3つの塩基対のグループでDNA配列を読み取るため、二本鎖DNA分子は、順方向に3つ、逆方向に3つの、6つの可能なリーディングフレームのいずれかで読み取ることができることになる。また、ORFには、翻訳を開始するための開始コドンが含まれている。
【0041】
「作動可能に連結された」という用語は、一方の配列が他方の配列の挙動を変更するような、2つの配列間の機能的連結を意味する。例えば、核酸発現制御配列(プロモーター、IRES配列、エンハンサー、又は転写因子結合部位のアレイなど)を含む第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドは、第1のポリヌクレオチドが第2のポリヌクレオチドの転写及び/又は翻訳に影響を与える場合、作動可能に連結される。同様に、分泌シグナル又は細胞内局在化シグナルを含む第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列は、第1のアミノ酸配列が第2のアミノ酸配列を細胞内に分泌又は局在化させる場合、作動可能に連結される。
【0042】
「直交(orthogonal)」という用語は、2つのシステムの間に相互作用がないことを意味する。第1のトランスポゾンとその対応する第1のトランスポザーゼ、及び第2のトランスポゾンとその対応する第2のトランスポザーゼは、第1のトランスポザーゼが第2のトランスポゾンを切除又は転移せず、第2のトランスポザーゼが第1のトランスポゾンを切除又は転移しない場合、直交している。
【0043】
「オーバーハング」又は「DNAオーバーハング」という用語は、二本鎖DNA分子のエンドにある一本鎖部分を意味する。相補的なオーバーハングとは、互いに塩基対合するものである。
【0044】
「piggyBac様トランスポザーゼ」は、TBLASTNアルゴリズムを用いて同定された、Trichoplusia ni由来のpiggyBacトランスポザーゼ(配列番号17)と少なくとも20%の配列同一性を有するトランスポザーゼを意味し、Sakar, A. et. al., (2003). Mol. Gen. Genomics 270: 173-180(Molecular evolutionary analysis of the widespread piggyBac transposon family and related 'domesticated' species)に記載されており、さらにDDE様DDDモチーフで特徴付けられ、最大アライメントではTrichoplusia ni piggyBacトランスポザーゼのD268、D346、D447に対応する位置にアスパラギン酸残基が存在する。PiggyBac様トランスポザーゼは、そのトランスポゾンを高頻度で正確に切除できるという特徴もある。「piggyBac様トランスポゾン」は、piggyBac様トランスポザーゼをコードする天然に存在するトランスポゾンのトランスポゾンエンドと同一又は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90、95、96、97、98又は99%又は100%同一であるトランスポゾンエンドを有するトランスポゾンを意味する。piggyBac様トランスポゾンは、各エンドに約12~16塩基のインバーテッドターミナルリピート(ITR)配列を含み、トランスポゾンの組み込み時にデュプリケートする組み込み標的配列に対応する4塩基の配列(標的部位デュプリケート又は標的配列デュプリケート又はTSD)が両側に挟まれている。PiggyBac様トランスポゾン及びトランスポザーゼは、広範囲の生物に自然に存在しており、その生物はArgyrogramma agnate (GU477713), Anopheles gambiae (XP_312615; XP_320414; XP_310729), Aphis gossypii (GU329918), Acyrthosiphon pisum (XP_001948139), Agrotis ypsilon (GU477714), Bombyx mori (BAD11135), Ciona intestinalis (XP_002123602), Chilo suppressalis (JX294476), Drosophila melanogaster (AAL39784), Daphnia pulicaria (AAM76342), Helicoverpa armigera (ABS18391), Homo sapiens (NP_689808), Heliothis virescens (ABD76335), Macdunnoughia crassisigna (EU287451), Macaca fascicularis (AB179012), Mus musculus (NP_741958), Pectinophora gossypiella (GU270322), Rattus norvegicus (XP_220453), Tribolium castaneum (XP_001814566)及びTrichoplusia ni (AAA87375)及びXenopus tropicalis (BAF82026)を含むが、これらのほとんどすべてについて転移活性が記載されていない。
【0045】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」及び「核酸分子」という用語は、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指すために言い換え可能なものとして使用され、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、それらのアナログ、又はそれらの混合物から構成されていてもよい。この用語は、分子の一次構造にのみ言及している。従って、この用語には、3本鎖、2本鎖及び1本鎖のデオキシリボ核酸(「DNA」)、並びに3本鎖、2本鎖及び1本鎖のリボ核酸(「RNA」)を含む。また、ポリヌクレオチドの、例えば、アルキル化によって、及び/又はキャッピングによって修飾された形態、及び未修飾の形態も含まれる。より詳細には、用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」及び「核酸分子」には、スプライスされているか否かにかかわらず、ポリデオキシリボヌクレオチド(2-デオキシ-D-リボースを含む)、tRNA、rRNA、hRNA、siRNA及びmRNAを含むポリリボヌクレオチド(D-リボースを含む)、プリン又はピリミジン塩基のN-又はC-グリコシドである他のタイプのポリヌクレオチド、及び非ヌクレオチド骨格を含む他のポリマー、例えば、ポリアミド(例えば、ペプチド核酸(「PNAs」))及びポリモルフォリノ(NeugeneとしてAnti-Virals, Inc., Corvallis, Oreg.から市販されている)ポリマー、及び他の合成配列特異的核酸ポリマーであって、DNAやRNAに見られるような塩基対及び塩基積層を可能にする構成の核酸塩基を含むものを含む。「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」及び「核酸分子」という用語の間には、長さの違いは意図されておらず、これらの用語は本明細書では言い換え可能なものとして使用されている。これらの用語は、分子の一次構造にのみ言及している。従って、これらの用語には、例えば、3'-デオキシ-2', 5'-DNA、オリゴデオキシリボヌクレオチドN3' P5'ホスホロアミデート類、2'-O-アルキル置換RNA、二本鎖及び一本鎖DNA、並びに二本鎖及び一本鎖RNA、及び例えば、DNAとRNAの間のハイブリッド、又はPNAとDNAもしくはRNAの間のハイブリッドを含むそれらのハイブリッドが含まれ、また、既知のタイプの修飾、例えば、標識、アルキル化、「キャップ」、ヌクレオチドの1つ以上のアナログへの置換、ヌクレオチド間の修飾、例えば、非荷電リンケージを持つもの(例えば、メチルホスホネート類、ホスホトリエステル類、ホスホロアミデート類、カルバメート類など)、負の電荷を持つリンケージを持つもの(例えば、ホスホロチオエート類、ホスホロジチオエート類など)、正の電荷を持つリンケージを持つもの(例えば、アミノアルキルホスホロラミデート類、アミノアルキルホスホトリエステル類など)を持つもの、例えば、蛋白質(酵素(例えば、ヌクレアーゼ)、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなどを含む)などのペンダント部位を含むもの、インターカレーター(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化性金属などの)を持つもの、アルキル化剤を含むもの、修飾されたリンケージ(例えば、αアノメリック核酸など)を持つもの、及びポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの未修飾の形態などを含む。
【0046】
「プロモーター」は、作動可能に連結された核酸分子の転写を誘導するのに十分な核酸配列を意味する。プロモーターは、プロモーターに依存した遺伝子発現を細胞型特異的、組織特異的、又は時間特異的に制御できるようにするのに十分な他の転写制御要素(例えば、エンハンサー)と一緒に、又はそうでなくても使用することができ、外部のシグナル又はエージェントによって誘導可能である。このような要素は、遺伝子の3'領域内にあっても、イントロン内にあってもよい。望ましくは、プロモーターは、核酸配列の発現を可能にするような方法で、核酸配列、例えば、cDNAもしくは遺伝子配列、又はエフェクターRNAコード配列に作動可能に連結しているか、又は、転写されるべき選択された核酸配列が便利に挿入される発現カセットにプロモーターが提供される。哺乳類細胞において活性なプロモーターなどの制御要素は、制御要素が導入された哺乳類細胞において、細胞あたり少なくとも1個の転写物の発現レベルになるように構成された制御要素を意味する。
【0047】
用語「セレクタブルマーカー」は、多くの場合、特定の条件下で、分子又はそれを含む細胞を選択又はアゲインストすることを可能にするポリヌクレオチドセグメント又はその発現産物を意味する。このマーカーは、RNA、ペプチド、又は蛋白質の生産などの活性をコードしたり、RNA、ペプチド、蛋白質、無機及び有機化合物、又は組成物の結合部位を提供できるが、これらに限定されない。セレクタブルマーカーの例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。(1)毒性のある化合物(例えば、抗生物質)に対する耐性を提供する生成物をコードするDNAセグメント、(2)レシピエント細胞に不足している生成物をコードするDNAセグメント(例えば、tRNA遺伝子、栄養要求性マーカー)、(3)遺伝子産物の活性を抑制する産物をコードするDNAセグメント、(4)容易に識別可能な生成物をコードするDNAセグメント(例えば、β-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)、細胞表面蛋白質などの表現型のマーカー)、(5)細胞の生存や機能に悪影響を及ぼす生成物に結合するDNAセグメント、(6)上記のNo.1~5に記載されたDNAセグメントのいずれかの活性を阻害するDNAセグメント(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドなど)、(7)基質を修飾する生成物に結合するDNAセグメント(例えば、制限エンドヌクレアーゼ)、(8)所望の分子を単離するために使用できるDNAセグメント(例えば、特定の蛋白質結合部位)、(9)機能しない可能性がある特定のヌクレオチド配列をコードするDNAセグメント(例えば、分子のサブ集団のPCR増幅のためのもの)、及び/又は、(10)存在しない場合、直接的又は間接的に特定の化合物に対する感受性を付与するDNAセグメント。
【0048】
配列同一性は、Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.のBESTFIT、FASTA、TFASTAなどのアルゴリズムを用いて、デフォルトのギャップパラメータを使用して、又は検査によって配列を整列させ、最良のアライメント(即ち、比較ウィンドウ上で最も高い配列類似性の割合をもたらす)を得ることによって決定できる。配列同一性の割合は、最適にアラインメントされた2つの配列を比較ウィンドウで比較し、両配列において同一の残基が出現する位置の数を決定して一致位置の数を求め、一致位置の数を比較ウィンドウのギャップを考慮しない一致位置及び不一致位置の総数(即ち、ウィンドウサイズ)で除算し、その結果に100を乗じて配列同一性の割合を算出する。特に断りのない限り、2つの配列間の比較のウィンドウは、2つの配列のうち短い方の長さ全体で定義される。
【0049】
「標的核酸」は、トランスポゾンが挿入される核酸のことである。この標的は、染色体、エピソーム又はベクターの一部であり得る。
【0050】
トランスポザーゼの「組み込み標的配列」又は「標的配列」又は「標的部位」は、トランスポザーゼによってトランスポゾンが挿入され得る標的DNA分子内の部位又は配列である。Trichoplusia ni由来のpiggyBacトランスポザーゼは、そのトランスポゾンを主に標的配列5'-TTAA-3'に挿入する。piggyBacトランスポゾンの他の使用可能な標的配列は、5'-CTAA-3'、5'-TTAG-3'、5'-ATAA-3'、5'-TCAA-3'、5'-AGTT-3'、5'-ATTA-3'、5'-GTTA-3'、5'-TTGA-3'、5'-TTTA-3'、5'-TTAC-3'、5'-ACTA-3'、5'-AGGG-3'、5'-CTAG-3'、5'-GTAA-3'、5'-AGGT-3'、5'-ATCA-3'、5'-CTCC-3'、5'-TAAA-3'、5'-TCTC-3'、5'-TGAA-3'、5'-AAAT-3'、5'-AATC-3'、5'-ACAA-3'、5'-ACAT-3'、5'-ACTC-3'、5'-AGTG-3'、5'-ATAG-3'、5'-CAAA-3'、5'-CACA-3'、5'-CATA-3'、5'-CCAG-3'、5'-CCCA-3'、5'-CGTA-3'、5'-CTGA-3'、5'-GTCC-3'、5'-TAAG-3'、5'-TCTA-3'、5'-TGAG-3'、5'-TGTT-3'、5'-TTCA-3'、5'-TTCT-3'、及び5'-TTTT-3'である(Li et al., 2013. Proc. Natl. Acad. Sci vol. 110, no. 6, E478-487)。PiggyBac様トランスポザーゼは、DNA分子に挿入される際に4塩基対の標的配列がデュプリケートされるカットアンドペーストのメカニズムを用いてトランスポゾンを転移する。このようにして、標的配列は組み込まれたpiggyBac様ランスポゾンの両側に見出される。
【0051】
用語「翻訳」は、リボソームがポリヌクレオチドの配列を「読む」ことによってポリペプチドが合成されるプロセスを意味する。
【0052】
「トランスポザーゼ」は、ドナーポリヌクレオチド、例えば、ベクターからの対応するトランスポゾンの切除を触媒し、(トランスポザーゼが組み込み欠損していないことを条件に)その後のトランスポゾンの標的核酸への組み込みを触媒するポリペプチドである。「アミエロイストランスポザーゼ」は、配列番号18と少なくとも80%、90、95、96、7、98、99又は100%の配列同一性を有するトランスポザーゼであり、配列番号18の高活性バリアントを含み、対応するトランスポゾンを転移できるトランスポザーゼを意味する。高活性なトランスポザーゼは、それが由来する天然に存在するトランスポザーゼよりも、切除活性、転移活性、又はその両方について、より活性が高いトランスポザーゼのことである。高活性トランスポザーゼは、好ましくは、それが由来する天然に存在するトランスポザーゼよりも少なくとも1.5倍の活性、又は少なくとも2倍の活性、又は少なくとも5倍の活性、又は少なくとも10倍の活性であり、例えば、2~5倍又は2~10倍である。トランスポザーゼは、核局在化配列やDNA結合蛋白質などの1つ以上の追加ドメインと融合していてもよいし、していなくてもよい。
【0053】
用語「転移(transposition)」は、本明細書において、1つのポリヌクレオチドからトランスポゾンを切除し、次に、同じポリヌクレオチドの異なる部位に、又は第2のポリヌクレオチドに、トランスポゾンを組み込むトランスポザーゼの作用を意味するために使用される。
【0054】
用語「トランスポゾン」は、対応するトランス作用のあるトランスポザーゼの作用によって、第1のポリヌクレオチド、例えば、ベクターから切除され、同じポリヌクレオチドの第2の位置に、又は第2のポリヌクレオチド、例えば、細胞のゲノムDNA又は染色体外DNAに組み込みできるポリヌクレオチドを意味する。トランスポゾンは、第1トランスポゾンエンドと第2トランスポゾンエンドを含み、これらは、トランスポザーゼによって認識され、転移されるポリヌクレオチド配列である。トランスポゾンは、典型的には、2つのトランスポゾンエンドの間に第1のポリヌクレオチド配列をさらに含み、第1のポリヌクレオチド配列がトランスポザーゼの作用により2つのトランスポゾンエンドとともに転移されるようになっている。天然トランスポゾンのこの第1ポリヌクレオチドは、トランスポゾンを認識して転移させる対応するトランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを含むことが多い。本発明のトランスポゾンは、異種ポリヌクレオチド配列を含む「合成トランスポゾン」であり、このポリヌクレオチド配列は、2つのトランスポゾンエンドの間に並置されていることにより転移可能となる。合成トランスポゾンは、トランスポゾンエンドの外側に、トランスポザーゼをコードする配列、ベクター配列、又はセレクタブルマーカーをコードする配列などの、フランキングポリヌクレオチド配列をさらに含んでいてもいなくてもよい。
【0055】
用語「トランスポゾンエンド」は、対応するトランスポザーゼによる認識及び転移に十分なシス作用ヌクレオチド配列を意味する。piggyBac様トランスポゾンのトランスポゾンエンドは、2つのトランスポゾンエンドにおけるそれぞれのリピートが互いに逆相補性であるような完全又は不完全なリピートを含む。これらは、インバーテッドターミナルリピート(ITR)又はターミナルインバーテッドリピート(TIR)と呼ばれる。トランスポゾンエンドは、転移を促進又は増強するITRの近位にある追加の配列を含んでいてもいなくてもよい。
【0056】
用語「ベクター」又は「DNAベクター」又は「遺伝子導入ベクター」は、別のポリヌクレオチドの「運搬」機能を果たすために使用されるポリヌクレオチドを指す。例えば、ベクターは、ポリヌクレオチドを生細胞内で増殖させるため、又はポリヌクレオチドを細胞内に送達するためにパッケージ化するため、又はポリヌクレオチドを細胞のゲノムDNAに組み込むためにしばしば使用される。また、ベクターは、トランスポゾンなどの付加的な機能要素を含んでもよい。
【0057】
5.2 説明
5.2.1 ゲノム組み込み
真核生物の宿主細胞における異種ポリヌクレオチドからの遺伝子の発現は、異種ポリヌクレオチドが宿主細胞のゲノムに組み込まれた場合に向上し得る。また、ポリヌクレオチドを宿主細胞のゲノムに組み込むことで、ゲノムDNAの複製や分裂が行われるのと同じメカニズムに供されることで、一般的に安定した遺伝性を有するようになる。このような安定した遺伝性は、長い成長期間にわたって良好で安定した発現を実現するために望ましい。このことは、遺伝子を改変した細胞を体内に入れる細胞治療において特に重要である。また、生体分子の生産にも重要であり、特に治療用途では、規制上、宿主の安定性と発現レベルの一貫性も重要である。従って、トランスポゾンベースの遺伝子導入ベクターを含む遺伝子導入ベクターをゲノムに組み込んだ細胞は、本発明の重要な実施形態である。
【0058】
異種ポリヌクレオチドは、それらがトランスポゾンの一部である(即ち、トランスポゾンITRの間に配置されている)場合、例えば、トランスポザーゼによって組み込まれ得るように、より効率的に標的ゲノムに組み込まれ得る。トランスポゾンの特定の利点は、トランスポゾンITRの間のポリヌクレオチド全体が組み込まれることである。異種ポリヌクレオチドを挟むITRを挟む標的部位を含むトランスポゾンは、ゲノムの標的部位に組み込まれ、その結果、標的部位に挟まれた、ITRに挟まれた異種ポリヌクレオチドを含むゲノムが得られる。これは、真核細胞に導入されたポリヌクレオチドが細胞内でランダムにフラグメント化されることが多く、ポリヌクレオチドの一部だけが標的ゲノムに取り込まれる、通常は低い頻度で起こるランダムインテグレーションとは対照的である。ルーパーモスTrichoplusia ni由来のpiggyBacトランスポゾンは、そのトランスポザーゼによって多くの生物の細胞内で転移することが示されている(例えば、Keith et al (2008) BMC Molecular Biology 9:72 "Analysis of the piggyBac transposase reveals a functional nuclear targeting signal in the 94 c-terminal residues"参照)。piggyBac様トランスポゾンに組み込まれた異種ポリヌクレオチドは、動物細胞、真菌細胞又は植物細胞を含む真核細胞に組み込まれてもよい。好ましい動物細胞は、脊椎動物又は無脊椎動物であり得る。好ましい脊椎動物の細胞には、ラット、マウス、ハムスターなどのげっ歯類を含む哺乳類、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの有蹄類、及び豚の細胞を含む。好ましい脊椎動物の細胞には、ヒト組織やヒト幹細胞の細胞も含まれる。標的細胞としては、肝細胞、神経系細胞、筋細胞、血液細胞、胚性幹細胞、体性幹細胞、造血系細胞、胚、接合子、精子細胞(いくつかはインビトロでの操作が可能)、及びT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞などのリンパ球、Tヘルパー細胞、抗原提示細胞、樹状細胞、好中球、及びマクロファージを含む免疫細胞を含む。好ましい細胞は、多能性細胞(子孫が造血幹細胞うあ他の幹細胞などのいくつかの制限された細胞タイプに分化できる細胞)又は全能性細胞(即ち、子孫が生物の任意の細胞タイプになることができる細胞、例えば、胚性幹細胞)であり得る。好ましい培養細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はヒト胚性腎臓(HEK293)細胞である。好ましい真菌細胞は、Saccharomyces cerevisiae及びPichia pastorisを含む酵母細胞である。好ましい植物細胞は、藻類、例えば、クロレラ、タバコ、トウモロコシ、ライスである(Nishizawa-Yokoi et al (2014) Plant J. 77:454-63 "Precise marker excision system using an animal derived piggyBac transposon in plants")。
【0059】
好ましい遺伝子導入システムは、トランスポゾンを転移する対応するトランスポザーゼ蛋白質と組み合わせたトランスポゾン、又は対応するトランスポザーゼ蛋白質をコードし、標的細胞で発現可能な核酸を含んでいる。好ましい遺伝子導入システムは、合成アミエロイストランスポゾンと対応するアミエロイストランスポザーゼを含む。
【0060】
トランスポザーゼ蛋白質は、蛋白質として、又はトランスポザーゼをコードする核酸として、例えば、mRNA又は細胞の翻訳機構によって認識されるポリヌクレオチドを含むリボ核酸として、DNAとして、例えば、エピソームDNAを含む染色体外DNAとして、プラスミドDNAとして、又はウイルス核酸として、細胞に導入できる。さらに、トランスポザーゼ蛋白質をコードする核酸は、プラスミドなどの核酸ベクターとして、あるいはウイルスベクターを含む遺伝子発現ベクターとして、細胞にトランスフェクションできる。トランスポザーゼをコードするmRNAは、トランスポザーゼをコードする遺伝子が、インビトロで活性のある細菌のT7プロモーターなどの異種プロモーターに作動可能に連結されたDNAを用いて調製できる。トランスポザーゼ蛋白質をコードするDNAは、構成的又は誘導的に発現させるために、細胞のゲノム又はベクターに安定的に挿入できる。トランスポザーゼ蛋白質が細胞にトランスフェクトされるか、又はDNAとしてベクターに挿入される場合、トランスポザーゼコード配列は、好ましくは異種プロモーターに作動可能に連結される。プロモーターには、構成的プロモーター、細胞型特異的プロモーター、生物特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターなど、様々なものがある。トランスポザーゼをコードするDNAがプロモーターに作動可能に連結され、標的細胞にトランスフェクションされる場合、プロモーターは標的細胞において作動可能であることが望ましい。例えば、標的細胞が哺乳類の細胞である場合、プロモーターは哺乳類の細胞で作動可能であるべきである。標的細胞が酵母細胞である場合、プロモーターは酵母細胞で作動可能であるべきである。標的細胞が昆虫細胞である場合、プロモーターは昆虫細胞で作動可能であるべきである。対象となる細胞がヒトの細胞である場合、プロモーターはヒトの細胞で作動可能であるべきである。標的細胞がヒトの免疫細胞である場合、プロモーターはヒトの免疫細胞で作動可能であるべきである。piggyBac様トランスポザーゼ蛋白質をコードする全てのDNA又はRNA配列が明示的に企図されている。あるいは、トランスポザーゼを蛋白質として直接細胞内に導入してもよい(例えば、細胞貫通ペプチドを用いたり(例えば、Ramsey and Flynn (2015) Pharmacol. Ther. 154: 78-86 "Cell-penetrating peptides transport therapeutics into cells"に記載)、塩とプロパンベタインを含む低分子を用いたり(例えば、Astolfo et al (2015) Cell 161: 674-690に記載)、エレクトロポレーションを用いる(例えば、Morgan and Day (1995) Methods in Molecular Biology 48: 63-71 "The introduction of proteins into mammalian cells by electroporation"に記載))。
【0061】
トランスポゾンを、様々な再現性のあるメカニズムを介して非相同組換えにより細胞のDNAに挿入することが可能であり、トランスポザーゼの活性がなくても挿入することが可能である。本明細書に記載されているトランスポゾンは、遺伝子導入メカニズムに関わらず、遺伝子導入に使用できる。
【0062】
5.2.5 遺伝子導入システム
遺伝子導入システムは、宿主細胞に導入されるポリヌクレオチドを含む。好ましくは、ポリヌクレオチドはアミエロイストランスポゾンを含み、ポリヌクレオチドは標的細胞のゲノムに組み込まれる。
【0063】
遺伝子導入システムの複数の構成要素、例えば、標的細胞で発現させるための遺伝子を含み、任意にトランスポゾンエンドを含む1つ以上のポリヌクレオチド、及びトランスポザーゼ(蛋白質として提供されても、核酸によってコードされてもよい)が存在する場合、これらの構成要素は、同時に、又は順次、細胞にトランスフェクトできる。例えば、トランスポザーゼの蛋白質又はそれをコードする核酸は、対応するトランスポゾンのトランスフェクションに先立って、同時に、又はそれに続いて、細胞にトランスフェクションできる。さらに、遺伝子導入システムのいずれかの構成要素の投与は、例えば、この構成要素を少なくとも2回投与することによって、繰り返し行われてもよい。
【0064】
本明細書に記載のトランスポザーゼ蛋白質のいずれも、RNA又はDNAを含むポリヌクレオチドによってコードされてもよい。同様に、本発明のトランスポザーゼ蛋白質又はトランスポゾンをコードする核酸は、プラスミドとして、又は組換えウイルスDNAとして、直鎖状のフラグメント又は環状のフラグメントとして細胞内にトランスフェクトできる。
【0065】
アミエロイストランスポザーゼは、標的細胞で発現可能なDNA分子として提供されてもよい。アミエロイストランスポザーゼをコードする配列は、標的細胞においてトランスポザーゼの発現を可能にする異種配列と作動可能に連結すべきである。アミエロイストランスポザーゼをコードする配列は、標的細胞で活性を有する異種プロモーターに作動可能に連結されていてもよい。例えば、標的細胞が哺乳類の細胞である場合、プロモーターは哺乳類の細胞で活性であるべきである。標的が脊椎動物の細胞である場合、プロモーターは脊椎動物の細胞で活性であるべきである。対象となる細胞が植物細胞である場合、プロモーターは植物細胞内で活性であるべきである。プロモーターが昆虫細胞である場合、プロモーターは昆虫細胞で活性であるべきである。また、アミエロイストランスポザーゼをコードする配列は、標的細胞での発現に必要な他の配列要素、例えば、ポリアデニル化配列、ターミネーター配列などと作動可能に連結していてもよい。
【0066】
アミエロイストランスポザーゼは、標的細胞で発現可能なmRNAとして提供されてもよい。mRNAは、好ましくはインビトロ転写反応で調製される。インビトロ転写のために、アミエロイストランスポザーゼをコードする配列は、インビトロ転写反応で活性を有するプロモーターに作動可能に連結される。例えば、T7 RNAポリメラーゼによる転写を可能にするT7プロモーター(5'-TAATACGACTCACTATAG-3')、T3 RNAポリメラーゼによる転写を可能にするT3プロモーター(5'-AATTAACCCTCACTAAAG-3')、SP6 RNAポリメラーゼによる転写を可能にするSP6プロモーター(5'-ATTTAGGTGACACTATAG-3')などを含む。また、これらのプロモーターのバリアントや、インビトロ転写に使用できる他のプロモーターは、アミエロイストランスポザーゼをコードする配列に作動可能に連結されていてもよい。
【0067】
アミエロイストランスポザーゼが、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(DNA又はmRNAのいずれか)として提供される場合、標的細胞におけるトランスポザーゼの発現性を向上させることは有益である。そのため、トランスポザーゼをコードするために、天然に存在する配列以外の配列を使用すること、言い換えれば、発現を行いたい細胞種のコドンプリファレンス(codon-preferences)を使用することが有益である。例えば、標的細胞が哺乳類の細胞であれば、コドンは哺乳類の細胞で見られるプリファレンスに偏らせるべきである。標的が脊椎動物の細胞である場合、コドンは特定の脊椎動物の細胞で見られるプリファレンスに偏らせるべきである。標的細胞が植物細胞である場合、コドンは植物細胞で見られるプリファレンスに偏らせるべきである。プロモーターが昆虫細胞である場合、コドンは昆虫細胞で見られるプリファレンスに偏らせるべきである。
【0068】
好ましいRNA分子には、真核細胞での翻訳を促進するための適切なキャップ構造、真核細胞でのmRNAの安定性を高めるポリアデニル酸及び他の3'配列、及び細胞への毒性影響を低減するための任意の置換(例えば、ウリジンのシュードウリジンへの置換、及びシトシンの5-メチルシトシンへの置換)を有するものを含む。アミエロイストランスポザーゼをコードするmRNAは、標的細胞での発現を向上させるために5'キャップ構造を有するように調製されてもよい。例示的なキャップ構造としては、キャップアナログ(G(5')ppp(5')G)、アンチリバースキャップアナログ(3'-O-Me-m7G(5')ppp(5')G)、クリーンキャップ(m7G(5')ppp(5')(2'OMeA)pG)、mCap(m7G(5')ppp(5')G)を含む。アミエロイストランスポザーゼをコードするmRNAは、いくつかの塩基が部分的又は完全に置換されているように調製されてもよく、例えば、ウリジンがシュード-ウリジンに、シトシンが5-メチル-シトシンに置換されていてもよい。これらのキャップと置換の任意の組み合わせを行ってもよい。
【0069】
遺伝子導入システムの構成要素は、粒子ボンバードメント、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、構成要素をカチオン性脂質ベシクルなどの脂質含有ベシクルと組み合わせること、DNA凝縮試薬(例えば、リン酸カルシウム、ポリリジン、ポリエチレンイミン)、及びその核酸である構成要素をウイルスベクターに挿入し、ウイルスベクターを細胞に接触させるなどの技術によって、1つ以上の細胞にトランスフェクションしてもよい。ウイルスベクターが使用される場合、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターを含む群から選択されるウイルスベクターを含む、当技術分野で知られている様々なウイルスベクターのいずれかを含み得る。遺伝子導入システムは、当該技術分野で知られているような適切な方法で、又は医薬組成物もしくはキットとして処方されてもよい。
【0070】
5.2.3 遺伝子導入システムにおける配列要素
アミエロイストランスポゾンを含むpiggyBac様トランスポゾンなどの遺伝子導入ポリヌクレオチドが宿主細胞ゲノムに組み込まれた場合の遺伝子の発現は、そのポリヌクレオチドが組み込まれるクロマチン環境にしばしば強く影響される。ユークロマチンに組み込まれたポリヌクレオチドは、ヘテロクロマチンに組み込まれたポリヌクレオチドや、組み込み後にサイレンシングされたポリヌクレオチドよりも高い発現レベルを示す。クロマチン制御要素を含んでいれば、異種ポリヌクレオチドのサイレンシングは軽減され得る。従って、遺伝子導入ポリヌクレオチド(本明細書に記載されたトランスポゾンのいずれかを含む)が、ヘテロクロマチンの広がりを防止する配列(インシュレーター)などのクロマチン制御要素を含むことは有益である。アミエロイストランスポゾンを含む有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号435~441の1つから選択される配列に対して少なくとも95%同一のインシュレーター配列を含み、それらはまた、組み込まれた遺伝子導入ポリヌクレオチドからの長期安定発現を増加させるために、ユビキタスに作用するクロマチンオープニング要素(UCOE)又は安定化及び抗リプレッサー要素(STAR)を含んでもよい。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、例えば、配列番号442~452のうちの1つから選択される配列に対して少なくとも95%同一である配列などのマトリックスアタッチメント領域をさらに含んでもよい。
【0071】
いくつかのケースでは、遺伝子導入ポリヌクレオチドが、発現される配列を含む異種ポリヌクレオチドの両側に1つずつ、且つトランスポゾンITR内に2つのインシュレーターを含むことが有益である。インシュレーターは同じであってもよいし、異なっていてもよい。特に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号440又は配列番号441のいずれかから選択された配列に対して少なくとも95%同一のインシュレーター配列と、配列番号435~439のいずれかから選択された配列に対して少なくとも95%同一のインシュレーター配列とを含む。インシュレーターはまた、発現制御要素を互いに遮蔽する。例えば、遺伝子導入ポリヌクレオチドが、それぞれが異なるプロモーターに作動可能に連結された2つのオープンリーディングフレームをコードする遺伝子を含む場合、転写干渉として知られる現象において、一方のプロモーターが他方からの発現を低下させることがある。配列番号435~441の1つから選択される配列に対して少なくとも95%同一であるインシュレーター配列を2つの転写ユニットの間に介在させることで、この干渉を軽減し、一方又は両方のプロモーターからの発現を増加させることができる。
【0072】
好ましい遺伝子導入ベクターは、高レベルの遺伝子発現を駆動できる発現要素を含んでいる。真核細胞において、遺伝子発現は、エンハンサー、プロモーター、イントロン、RNAエクスポート要素、ポリアデニル化配列、及び転写ターミネーターを含む、いくつかの異なるクラスの要素によって制御される。
【0073】
真核細胞への発現のための遺伝子の導入のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、異種遺伝子に作動可能に連結されたエンハンサーを含む。哺乳類細胞への発現用遺伝子の導入のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、ヒト、霊長類又は齧歯類のいずれかの細胞からのサイトメガロウイルス(CMV)の最初期遺伝子1、2又は3からのエンハンサー(例えば、配列番号453~471と少なくとも95%同一の配列)、アデノウイルス主要後期蛋白質エンハンサーからのエンハンサー(例えば、配列番号472と少なくとも95%同一の配列)、又はSV40からのエンハンサー(例えば、配列番号473と少なくとも95%同一の配列)を含み、異種遺伝子に作動可能に連結される。
【0074】
真核細胞への発現のための遺伝子の導入のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、異種遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む。哺乳類細胞への発現用遺伝子の導入のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ及びチャイニーズハムスターを含む任意の哺乳類又は鳥類種からのEF1aプロモーター(例えば、配列番号474~495のいずれか)、ヒト、霊長類、齧歯類のいずれかの細胞からのサイトメガロウイルス(CMV)の最初期遺伝子1、2又は3からのプロモーター(例えば、配列番号496~506のいずれか)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターを含む哺乳類又は鳥類のいずれかの種からの真核生物伸長因子2(EEF2)のプロモーター(例えば、配列番号507~517のいずれか)、任意の哺乳類又は酵母のGAPDHプロモーター(例えば、配列番号528~544のいずれか)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターを含む任意の哺乳類又は鳥類のアクチンプロモーター(例えば、配列番号518~527のいずれか)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ及びチャイニーズハムスターを含む任意の哺乳類又は鳥類種からのPGKプロモーター(例えば、配列番号545~551のいずれか)、又はユビキチンプロモーター(例えば、配列番号552)を含み、異種遺伝子に作動可能に連結される。プロモーターは、i)異種オープンリーディングフレーム、ii)セレクタブルマーカーをコードする核酸、iii)カウンターセレクタブルマーカーをコードする核酸、iii)制御蛋白質をコードする核酸、iv)抑制性RNAをコードする核酸に作動可能に連結されていてもよい。
【0075】
真核細胞での発現のための遺伝子導入のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的細胞においてスプライシング可能な異種ポリヌクレオチド内のイントロンを含む。哺乳類細胞での発現のための遺伝子導入に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、ヒト、霊長類、げっ歯類のいずれかの細胞から得られたサイトメガロウイルス(CMV)の最初期遺伝子1、2、3のイントロン(例えば、配列番号561~571のいずれかと少なくとも95%同一の配列)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターなどの哺乳類又は鳥類のEF1aからのイントロン(例えば、配列番号581~593のいずれかと少なくとも95%同一の配列)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターなどの哺乳類又は鳥類のEF2からのイントロン(例えば、配列番号613~620のいずれかと少なくとも95%同一の配列)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターを含む任意の哺乳類又は鳥類種のアクチンからのイントロン(例えば、配列番号594~607のいずれかと少なくとも95%同一の配列)、ヒト、ラット、マウス、ニワトリ、チャイニーズハムスターを含む任意の哺乳類又は鳥類種のGAPDHイントロン(例えば、配列番号608~610のいずれかと少なくとも95%同一の配列)、アデノウイルス主要後期蛋白質エンハンサーを含むイントロン(例えば、配列番号611~612と少なくとも95%同一の配列)、又は異種ポリヌクレオチド内のハイブリッド/合成イントロン(例えば、配列番号572~580のいずれかと少なくとも95%同一の配列)を含む。
【0076】
真核細胞での発現のための遺伝子導入のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、異種のコード配列に作動可能に連結されたエンハンサー及びプロモーターを含む。このような遺伝子導入ポリヌクレオチドは、1つの遺伝子からのエンハンサーが異なる遺伝子からのプロモーターと組み合わされた、即ちエンハンサーがプロモーターに対して異種である、エンハンサーとプロモーターの組み合わせを含んでいてもよい。例えば、哺乳類細胞で発現させるための遺伝子導入には、げっ歯類又はヒト又は霊長類由来の最初期CMVエンハンサー(配列番号453~471から選択される配列など)に、EF1a遺伝子からのプロモーター(配列番号474~495から選択される配列など)、又は異種CMV遺伝子からのプロモーター(配列番号496~506から選択される配列など)、又はEEF2遺伝子からのプロモーター(配列番号507~517から選択された配列など)、又はアクチン遺伝子からのプロモーター(配列番号518~527から選択された配列など)、又はGAPDH遺伝子からのプロモーター(配列番号528~544から選択された配列など)が有利に続き、異種配列に作動可能に連結している。
【0077】
真核細胞での発現のための遺伝子導入のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、異種のオープンリーディングフレームに作動可能に連結されたプロモーター及びイントロンを含む。このような遺伝子導入ポリヌクレオチドは、ある遺伝子のプロモーターと異なる遺伝子のイントロンが組み合わされた、即ちイントロンがプロモーターと異種である、プロモーターとイントロンの組み合わせを含んでもよい。例えば、哺乳類細胞で発現させるための遺伝子の導入には、げっ歯類、ヒト、霊長類からの最初期CMVプロモーター(配列番号496~506から選択された配列など)に、EF1a遺伝子からのイントロン(配列番号581~593から選択された配列に対して少なくとも95%同一の配列など)、又はEEF2遺伝子からのイントロン(配列番号613~620から選択された配列に対して少なくとも95%同一の配列など)、又はアクチン遺伝子からのイントロン(配列番号594~607から選択された配列に対して少なくとも95%同一の配列など)が有利に続き、異種配列に作動可能に連結している。
【0078】
真核細胞での発現のための遺伝子導入のための有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、エンハンサー及び/又はイントロンに作動可能に連結しているプロモーターを含む複合転写開始制御要素を含み、複合転写開始制御要素は異種配列に作動可能に連結している。哺乳類細胞での発現のための遺伝子導入のための遺伝子導入ポリヌクレオチドにおいて異種配列に作動可能に連結され得る有利な複合転写開始制御要素の例は、配列番号622~714から選択される配列である。
【0079】
単一のポリヌクレオチドからの2つのオープンリーディングフレームの発現は、各オープンリーディングフレームの発現を別個のプロモーターに作動可能に連結することによって達成することができ、その各々は、上述のようにエンハンサー及びイントロンに任意に作動可能に連結できる。これは、抗体の鎖や二重特異性抗体の鎖、あるいは受容体とそのリガンドなど、特定のモル比で相互作用する必要のある2つのポリペプチドを発現させる場合に特に有効である。例えば、第1のオープンリーディングフレームに作動可能に連結されたポリアデニル化配列の3'と、第2のポリペプチドをコードする第2のオープンリーディングフレームに作動可能に連結されたプロモーターの5'において、2つのオープンリーディングフレームの間に遺伝的インシュレーターを配置することによって、転写プロモーター干渉を防止することがしばしば有益である。転写プロモーターの干渉は、第1の遺伝子の転写を効果的に終了させることによっても防止できる。多くの真核細胞では、2つのオープンリーディングフレームの間に強力なポリAシグナル配列を使用することで、転写促進干渉を減らすことができる。転写を効果的に終了させるために使用できるpolyAシグナル配列の例は、配列番号715~744として与えられる。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、異種のオープンリーディングフレームに作動可能に連結された配列番号715~744から選択される配列に対して少なくとも95%同一の配列を含む。第1の遺伝子の転写の終了及び第2の遺伝子の転写の開始のための有利な複合制御要素は、配列番号745~928として与えられる配列を含む。哺乳類細胞での共発現のための第1及び第2のオープンリーディングフレームの導入のための特に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号745~928から選択される配列に対して少なくとも90%同一、又は少なくとも95%同一、又は少なくとも99%同一、又は100%同一の配列を含み、2つの異種のオープンリーディングフレームを分離している。
【0080】
5.2.4 遺伝子導入ポリヌクレオチドを含む標的細胞の選択
遺伝子導入ポリヌクレオチドがセレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームを含む場合、セレクタブルマーカーを発現する細胞に有利な条件(「選択条件」)に標的細胞を曝すことにより、ゲノムに安定的に組み込まれた導入ポリヌクレオチドを含む標的細胞を同定できる。遺伝子導入ポリヌクレオチドが、ネオマイシン(アミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ(例えば、配列番号262~265から選択される配列)によって付与される耐性)、ピューロマイシン(ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ(例えば、配列番号268~270から選択される配列)によって付与される耐性)、ブラストサイジン(ブラストサイジンアセチルトランスフェラーゼ及びブラストサイジンデアミナーゼ(例えば、配列番号272)によって与えられる耐性)、ハイグロマイシンB(ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(例えば、配列番号266~267から選択される配列)によって与えられる耐性)及びゼオシン(ble遺伝子によってコードされる結合蛋白質(例えば、配列番号259)によって与えられる耐性)などの抗生物質に対する耐性を付与する酵素などのセレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームを含むことは有益である。他のセレクタブルマーカーとしては、蛍光を発するもの(GFP、RFPなどをコードするオープンリーディングフレームなど)が挙げられ、従って、例えば、フローサイトメトリーを用いて選択できる。他のセレクタブルマーカーには、例えば、フローサイトメトリーを使用して膜貫通蛋白質の存在を選択できるように、蛍光標識できる第2の分子(蛋白質又は低分子)に結合できる膜貫通蛋白質をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0081】
遺伝子導入ポリヌクレオチドは、グルタミン代謝を介した選択を可能にするグルタミン合成酵素(GS、例えば、配列番号274~278から選択される配列)をコードするセレクタブルマーカーオープンリーディングフレームを含んでもよい。グルタミン合成酵素は、グルタミン酸とアンモニアからグルタミンを生合成する酵素であり、哺乳類細胞におけるグルタミン形成の唯一の経路の重要な構成要素である。培養液中にグルタミンが存在しない場合、GS酵素は培養中の哺乳類細胞の生存に不可欠である。一部の細胞株、例えば、マウスミエローマ細胞は、グルタミンを添加しないと生き残るのに十分なGS酵素を発現しない。このような細胞では、トランスフェクトされたGSオープンリーディングフレームが、グルタミンを含まない培地での増殖を可能にすることで、セレクタブルマーカーとして機能する。他の細胞株、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、外因的にグルタミンを添加しなくても生き残るのに十分なGS酵素を発現する。これらの細胞株は、クリスパー/キャス9などのゲノム編集技術を用いて、GS酵素の活性を低下又は除去できる。これらのいずれの場合も、メチオニンスルホキシミン(MSX)などのGS阻害剤を用いて、細胞の内因性GS活性を阻害できる。選択プロトコルには、第1ポリペプチドとグルタミン合成酵素セレクタブルマーカーをコードする配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを導入した後、メチオニンスルホキシミンなどのグルタミン合成酵素の阻害剤で細胞を処理することを含む。使用されるメチオニンスルホキシミンのレベルが高いほど、細胞が生き残るのに十分なグルタミンを合成できるようにするために必要なグルタミン合成酵素発現のレベルが高くなる。これらの細胞の一部はまた、第1のポリペプチドの発現の増加を示すだろう。
【0082】
好ましくは、GSオープンリーディングフレームは、本明細書に記載されているように、弱いプロモーター又は発現を減衰させる他の配列要素に作動可能に連結されており、遺伝子導入ポリヌクレオチドの多くのコピーが存在する場合、又は高レベルの発現が起こるゲノムの位置に組み込まれている場合にのみ、高レベルの発現が起こり得るようになっている。そのような場合には、阻害剤であるメチオニンスルホキシミンを使用する必要はないかもしれず、グルタミン合成酵素の発現が減衰されていれば、細胞の生存に十分なグルタミンを合成するだけで、十分に厳しい選択が可能になるかもしれない。
【0083】
遺伝子導入ポリヌクレオチドは、5,6-ジヒドロ葉酸(DHF)から5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(THF)への還元を触媒するのに必要なジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR、例えば、配列番号260~261から選択される配列)をコードするセレクタブルマーカーオープンリーディングフレームを含んでもよい。細胞株の中には、ヒポキサンチンとチミジン(HT)を加えないと生存できないほど十分なDHFRを発現していないものがある。このような細胞では、トランスフェクトされたDHFRのオープンリーディングフレームが、ヒポキサンチンとチミジンを含まない培地での増殖を可能にすることで、セレクタブルマーカーとして機能する。DHFR欠損細胞株(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)は、クリスパー/キャス9などのゲノム編集技術を用いて、内因性のDHRF酵素の活性を低下又は除去することで作製できる。DHFRは、メトトレキサート(MTX)に対する耐性を付与する。DHFRは、より高レベルのメトトレキサートによって阻害され得る。選択プロトコルには、第1のポリペプチドをコードする配列及びDHFRセレクタブルマーカーを含むコンストラクトを、機能的な内因性DHFR遺伝子を有する又は有さない細胞に導入し、次に、メトトレキサートなどのDHFRの阻害剤で細胞を処理することを含む。使用するメトトレキサートのレベルが高ければ高いほど、細胞が生存するのに十分なDHFRを合成するために必要なDHFRの発現レベルも高くなる。また、これらの細胞の一部は、第1のポリペプチドの発現の増加を示す。好ましくは、DHFRオープンリーディングフレームは、遺伝子導入ポリヌクレオチドの多くのコピーが存在するか、又は高レベルの発現が起こるゲノム内の位置に組み込まれている場合にのみ高レベルの発現が起こり得るように、弱いプロモーター又は上述のように発現を減衰させる他の配列要素に作動可能に連結している。
【0084】
高レベルの発現は、非常に転写活性の高いゲノムの領域に組み込まれているか、複数のコピーでゲノムに組み込まれているか、又は複数のコピーで染色体外に存在している遺伝子導入ポリヌクレオチドにコードされている遺伝子から得られ得る。セレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームを、遺伝子導入ポリヌクレオチドからのセレクタブルポリペプチドの発現量が低くなるような発現制御要素に作動可能に連結すること、及び/又はより厳しい選択を提供する条件を使用することは、しばしば有益である。これらの条件下で、発現細胞が選択条件に生き残るために遺伝子導入ポリヌクレオチドにコードされた十分なレベルのセレクタブルポリペプチドを生産するために、遺伝子導入ポリヌクレオチドが細胞のゲノム内の高レベルの発現に有利な位置に存在するか、又は遺伝子導入ポリヌクレオチドの十分に高いコピー数が存在し、これらの因子が発現制御要素のために達成可能な低レベルの発現を補償するようにできる。
【0085】
セレクタブルマーカーが、そのマーカーを弱くしか発現しない制御要素に作動可能に連結しているトランスポゾンのゲノム組み込みには、通常、トランスポザーゼによってトランスポゾンが標的ゲノムに挿入されることが必要である(例えば、セクション6.1.3参照)。セレクタブルマーカーを弱く発現する要素に作動可能に連結することで、トランスポゾンの複数のコピーを組み込んだ細胞、又はトランスポゾンが高発現に適したゲノム上の位置に組み込まれた細胞が選択される。トランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼを含む遺伝子導入システムを用いることで、トランスポゾンが複数コピー組み込まれた細胞や、トランスポゾンが高発現に適したゲノム上の位置に組み込まれた細胞が得られる可能性が高くなる。従って、トランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼを含む遺伝子導入システムは、トランスポゾンが弱いプロモーターに作動可能に連結されたセレクタブルマーカーを含む場合に特に有利である。
【0086】
RNA又は蛋白質として発現される核酸及びセレクタブルマーカーは、同じ遺伝子導入ポリヌクレオチド上に含まれるが、異なるプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。この場合、ホスホグリセロキナーゼ(PGK)プロモーター(例えば、配列番号545~551から選択されるプロモーター)、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)プロモーター(例えば、配列番号553~554から選択される配列)、MC1プロモーター(例えば、配列番号555)、ユビキチンプロモーター(例えば、配列番号552から選択される配列)などの弱い活性を有する構成的プロモーターを使用することにより、セレクタブルマーカーの低い発現レベルを実現することができる。他の弱い活性のプロモーターが意図的に構築され得、例えば、切断によって減衰されたプロモーター、例えば、切断されたSV40プロモーター(例えば、配列番号556~557から選択された配列)、切断されたHSV-TKプロモーター(例えば、配列番号553)、又はプロモーターとセレクタブルポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームとの間に、発現に不利な5'UTRを挿入することによって減衰させたプロモーター(例えば、配列番号559~560から選択された配列)を含む。特に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、セレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームに作動可能に連結された、配列番号545~558から選択されたプロモーター配列を含む。
【0087】
また、セレクタブルマーカーの発現レベルはセレクタブルマーカーのオープンリーディングフレームの後にSV40スモールt抗原イントロンを挿入するなどの他のメカニズムによって有利に低減され得る。SV40スモールt抗原イントロンは、異常な5'スプライス部位を受容し、これにより、スプライシングされたmRNAの一部において、先行するオープンリーディングフレーム内に欠失が生じ、それによりセレクタブルマーカーの発現が低下し得る。特に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、セレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームに作動可能に連結されたイントロン配列番号621を含む。この減衰のメカニズムが効果的であるためには、セレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームが、そのコード領域内にイントロンドナーを含んでいることが好ましい。DNA配列の配列番号279~282は、配列番号122746~277をそれぞれ有するグルタミン合成酵素配列をコードする例示的な核酸配列である。これらの核酸配列の各々は、イントロンドナーを含んでおり、このイントロンをグルタミン合成酵素オープンリーディングフレームの3'UTRに配置することによって、SV40スモールt抗原イントロンに作動可能に連結され得る。配列番号271は、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ配列番号270をコードする例示的な核酸配列であり、この配列は、イントロンドナーを含み、このイントロンをピューロマイシンオープンリーディングフレームの3'UTRに配置することによって、SV40スモールt抗原イントロンに作動可能に連結されてもよい。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号621に作動可能に連結された、配列番号279~282又は271の1つから選択された配列に対して少なくとも90%同一、又は少なくとも95%同一、又は少なくとも99%同一、又は100%同一の配列を含む。
【0088】
また、セレクタブルマーカーの発現レベルは例えば、配列番号559~560のような転写物内に阻害性5'-UTRを挿入するなどの他のメカニズムによって有利に減少させることができる。特に有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、セレクタブルマーカーをコードするオープンリーディングフレームに作動可能に連結されたプロモーターを含み、ここで、配列番号559~560と少なくとも90%同一、又は少なくとも95%同一、又は少なくとも99%同一、又は100%同一である配列が、プロモーターとセレクタブルマーカーとの間に介在している。
【0089】
哺乳類細胞で発現可能な制御配列に作動可能に連結されたグルタミン合成酵素コード配列を含む例示的な核酸配列には、配列番号300~370又は432~434を含む。配列番号300~370又は432~434から選択される配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的細胞のゲノムに組み込まれると、グルタミン合成酵素を発現し、それによって細胞が、添加されたグルタミンの非存在下又はMSXの存在下で成長することを助ける。これらの配列の制御要素は、グルタミン合成酵素が低レベルで発現するようにバランスが取られており、遺伝子導入ポリヌクレオチドが複数コピーされたゲノムを持つ標的細胞や、コード遺伝子の発現に有利なゲノム領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドがコピーされたゲノムを持つ標的細胞に対して、選択的な優位性をもたらす。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号300~370又は432~434から選択される配列を含み、それらはさらに、左トランスポゾンエンド及び右トランスポゾンエンドを含んでもよい。
【0090】
哺乳類細胞で発現可能な制御配列に作動可能に連結されたブラストサイジン-S-トランスフェラーゼコード配列を含む例示的な核酸配列には、配列番号371~377を含む。配列番号371~377から選択される配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的細胞のゲノムに組み込まれると、ブラストサイジン-S-トランスフェラーゼを発現し、それによって細胞が添加されたブラストサイジンの存在下で成長することを助ける。これらの配列の制御要素は、ブラストサイジン-S-トランスフェラーゼが低レベルで発現するようにバランスが取られており、遺伝子導入ポリヌクレオチドが複数コピーされたゲノムを持つ標的細胞や、コード遺伝子の発現に有利なゲノム領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドがコピーされたゲノムを持つ標的細胞に対して、選択的な優位性をもたらす。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号371~377から選択される配列を含み、それらは、左トランスポゾンエンド及び右トランスポゾンエンドをさらに含んでもよい。
【0091】
哺乳類細胞で発現可能な制御配列に作動可能に連結されたハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼコード配列を含む例示的な核酸配列は配列番号378~379を含む。配列番号378~379から選択される配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的細胞のゲノムに組み込まれると、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼを発現し、それによって細胞が添加されたハイグロマイシンの存在下で成長することを助ける。これらの配列の制御要素は、低レベルのハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼの発現をもたらすようにバランスされており、ゲノムが複数の遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーで構成されている標的細胞や、コード遺伝子の発現に有利なゲノム領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーが構成されている標的細胞に対して選択的な優位性をもたらす。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号378~379から選択される配列を含み、それらは、左トランスポゾンエンド及び右トランスポゾンエンドをさらに含んでもよい。
【0092】
哺乳類細胞で発現可能な制御配列に作動可能に連結されたアミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼコード配列を含む例示的な核酸配列には、配列番号380~382又は408~409を含む。配列番号380~382又は408~409から選択される配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的細胞のゲノムに組み込まれると、アミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼを発現し、それによって細胞が添加されたネオマイシンの存在下で成長することを助ける。これらの配列の制御要素は、低レベルのアミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼの発現をもたらすようにバランスされており、ゲノムが複数の遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーで構成されている標的細胞や、コード遺伝子の発現に有利なゲノム領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーが含まれている標的細胞に対して、選択的な優位性をもたらす。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号380~382又は408~409から選択される配列を含み、それらはさらに、左トランスポゾンエンド及び右トランスポゾンエンドを含んでもよい。
【0093】
哺乳類細胞で発現可能な制御配列に作動可能に連結されたピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼコード配列を含む例示的な核酸配列には、配列番号383~402又は410~434を含む。配列番号383~402又は410~434から選択される配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的細胞のゲノムに組み込まれると、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼを発現し、それによって細胞が添加されたピューロマイシンの存在下で成長することを助ける。これらの配列の制御要素は、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼを低レベルで発現させるようにバランスされており、遺伝子導入ポリヌクレオチドが複数コピーされたゲノムを持つ標的細胞や、コード遺伝子の発現に有利なゲノム領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドがコピーされたゲノムを持つ標的細胞に対して、選択的な優位性をもたらす。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号383~402又は410~434から選択される配列を含み、それらはさらに、左トランスポゾンエンド及び右トランスポゾンエンドを含んでもよい。
【0094】
哺乳類細胞で発現可能な制御配列に作動可能に連結されたble遺伝子コード配列を含む例示的な核酸配列は配列番号403~407を含む。配列番号403~407から選択される配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的細胞のゲノムに組み込まれると、ble遺伝子を発現し、それによって細胞が添加されたゼオシンの存在下で成長することを助ける。これらの配列の制御要素は、低レベルのble遺伝子産物の発現をもたらすようにバランスされており、ゲノムが複数の遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーで構成されている標的細胞や、コード遺伝子の発現に有利なゲノム領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーが存在する標的細胞に対して、選択的な優位性をもたらす。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号403~407から選択される配列を含み、それらはさらに、左トランスポゾンエンド及び右トランスポゾンエンドを含んでもよい。
【0095】
哺乳類細胞で発現可能な制御配列に作動可能に連結されたジヒドロ葉酸還元酵素コード配列を含む例示的な核酸配列は配列番号283~299又は408~431を含む。配列番号283~299又は408~431から選択される配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドは、標的細胞のゲノムに組み込まれると、ジヒドロ葉酸還元酵素を発現し、それによって細胞が、添加されたヒポキサンチン及びチミジンの非存在下で、又はMTXの存在下で成長することを助ける。これらの配列の制御要素は、低レベルのジヒドロ葉酸還元酵素の発現をもたらすようにバランスされており、ゲノムが複数の遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーからなる標的細胞や、コード遺伝子の発現に有利なゲノム領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドのコピーからなる標的細胞に対して選択的な優位性をもたす。有利な遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号283~299又は408~431から選択される配列を含み、それらはさらに、左トランスポゾンエンド及び右トランスポゾンエンドを含んでもよい。
【0096】
トランスポゾン及びトランスポザーゼを弱く発現したセレクタブルマーカーと組み合わせて使用することは、非トランスポゾンコンストラクトに比べていくつかの利点がある。1つは、トランスポゾンの場合、第1ポリペプチドの発現とセレクタブルマーカーとの間の連結が良好であることであり、これはトランスポザーゼが2つのトランスポゾンエンドの間にある配列全体をゲノムに組み込むからである。一方、異種DNAが真核細胞、例えば、哺乳類の細胞の核に導入されると、徐々にランダムなフラグメントに分解され、細胞のゲノムに組み込まれるか、分解されるかのどちらかになる。従って、第1のポリペプチドとセレクタブルマーカーをコードする配列を含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを細胞集団に導入した場合、一部の細胞はセレクタブルマーカーをコードする配列を組み込むが、第1のポリペプチドをコードする配列は組み込まない、又はその逆の場合がある。そのため、セレクタブルマーカーを多く発現している細胞の選択は、第1ポリペプチドも多く発現している細胞と多少の相関関係があるだけである。対照的に、トランスポザーゼはトランスポゾンエンドの間の全ての配列を組み込むので、高レベルのセレクタブルマーカーを発現する細胞は、高レベルの第1のポリペプチドも発現する可能性が高い。
【0097】
トランスポゾン及びトランスポザーゼの第2の利点は、DNA配列をゲノムに組み込むためにはるかに効率的であることである。従って、細胞集団のはるかに高い割合が、遺伝子導入ポリヌクレオチドの1つ以上のコピーをそれらのゲノムに組み込む可能性が高く、従って、セレクタブルマーカーと第1のポリペプチドの両方が良好に安定して発現する可能性が、それに応じて高くなる。
【0098】
piggyBac様トランスポゾン及びトランスポザーゼの第三の利点は、piggyBac様トランスポザーゼが、その対応するトランスポゾンを転写活性クロマチンに挿入することに偏っていることである。従って、各細胞は、遺伝子がよく発現しているゲノムの領域に遺伝子導入ポリヌクレオチドを組み込む可能性が高く、それに応じてセレクタブルマーカーと第1ポリペプチドの両方が安定して発現する可能性が高くなる。
【0099】
5.2.5 新規piggyBac様トランスポザーゼ
天然のDNAトランスポゾンは、トランスポゾンが第1のDNA分子から切り取られ、第2のDNA分子に挿入されるという「カットアンドペースト」方式の複製を行う。DNAトランスポゾンは、ITR(インバーテッドターミナルリピート)を特徴とし、要素にコードされたトランスポザーゼによって動員される。piggyBacトランスポゾン/トランスポザーゼシステムは、トランスポゾンの組み込みと切除が正確に行われるため、特に有用である(例えば、"Fraser, M. J. (2001) The TTAA-Specific Family of Transposable Elements: Identification, Functional Characterization, and Utility for Transformation of Insects. Insect Transgenesis: Methods and Applications. A. M. Handler and A. A. James. Boca Raton, Fla., CRC Press: 249-268"; 及び"US 20070204356 A1: PiggyBac constructs in vertebrates"及びその参考文献参照)。
【0100】
Trichoplusia ni由来のpiggyBacトランスポザーゼに配列類似性を有する多くの配列が、真菌から哺乳類までの系統的に異なる種のゲノム中に見出されているが、トランスポザーゼ活性を有することが示されているものは非常に少ない(例えば、Wu M, et al (2011) Genetica 139:149-54. "Cloning and characterization of piggyBac-like elements in lepidopteran insects"及びその参考文献参照)。
【0101】
ゲノム改変のために特に興味深いトランスポザーゼの2つの特性は、ポリヌクレオチドを標的ゲノムに組み込む能力と、ポリヌクレオチドを標的ゲノムから正確に切除する能力である。これらの特性はいずれも、適切なシステムを用いて測定できる。
【0102】
第1ポリヌクレオチドからのトランスポゾンの切除である転移の第1ステップを測定するためのシステムは、以下の構成要素を含む。(i)選択宿主において発現させる配列に作動可能に連結された第1のセレクタブルマーカーをコードする第1のポリヌクレオチド、及び(ii)トランスポザーゼによって認識されるトランスポゾンエンドを含むトランスポゾン。トランスポゾンは、第1のセレクタブルマーカーが活性化されないように、第1のセレクタブルマーカーの中に存在し、第1のセレクタブルマーカーのコード配列を中断している。トランスポゾンは、第1トランスポゾンの正確な切除によって第1セレクタブルマーカーが再構成されるように、第1セレクタブルマーカーに配置される。第1トランスポゾンを切除できる活性のあるトランスポザーゼを、第1ポリヌクレオチドを含む宿主細胞に導入すれば、宿主細胞は活性のある第1セレクタブルマーカーを発現する。トランスポゾンを切除するトランスポザーゼの活性は、第1セレクタブルマーカーが活性であることを必要とする条件下で、宿主細胞が増殖できるようになる頻度として測定できる。
【0103】
トランスポゾンが、選択宿主において第2のセレクタブルマーカーを発現可能にする配列に作動可能に連結された第2のセレクタブルマーカーを含む場合、第2のセレクタブルマーカーを宿主細胞のゲノムに転移させると、活性な第1及び第2のセレクタブルマーカーを含むゲノムが得られる。トランスポゾンを第2のゲノム位置に導入する際のトランスポザーゼの活性は、第1及び第2のセレクタブルマーカーが活性であることを必要とする条件下で、宿主細胞が増殖できるようになる頻度として測定できる。一方、第1のセレクタブルマーカーが存在し、第2のセレクタブルマーカーが存在しない場合は、トランスポゾンが第1のポリヌクレオチドから切除されたが、その後、第2のポリヌクレオチドにトランスポゾンが導入されなかったことを示していると考えられる。セレクタブルマーカーは、例えば、抗生物質耐性蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム、又は栄養要求性マーカー、又は他の任意のセレクタブルマーカーであってもよい。
【0104】
我々は、このようなシステムを用いて、セクション6.1に記載されているように、推定トランスポザーゼ/トランスポゾンの組み合わせの活性をテストした。コンピューターによる手法を用いて、公開されている配列決定済みのゲノムを検索し、既知の活性のあるpiggyBac様トランスポザーゼと相同性のあるオープンリーディングフレームを探した。活性piggyBac様トランスポザーゼに特徴的なDDDEモチーフを持つと思われるトランスポザーゼ配列を選択し、5'-TTAA-3'標的配列に隣接するインバーテッドリピート配列のためのこの推定トランスポザーゼを挟むDNA配列を検索した。その結果、配列番号216の推定左端と配列番号217の推定右端で挟まれている配列番号172の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するSpodoptera litura(ジーンバンクアクセッション番号MTZO01002002.1、蛋白質アクセッション番号XP_022823959)、配列番号218の推定左端と配列番号219の推定右端に挟まれた配列番号173の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するPieris rapae(NCBIゲノム参照番号NW_ 019093607.1、ジーンバンク蛋白質アクセッション番号XP_022123753.1)、配列番号220の推定左端と配列番号221の推定右端に挟まれた配列番号174の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するMyzus persicae(NCBIゲノム参照番号NW_019100532.1、蛋白質アクセッション番号XP_022166603)、配列番号222の推定左端と配列番号223の推定右端に挟まれた配列番号175の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するOnthophagus taurus(NCBIゲノム参照番号NW_019280463、蛋白質アクセッション番号XP_022900752)、配列番号224の推定左端と配列番号225の推定右端に挟まれた配列番号176の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するTemnothorax curvispinosus(NCBIゲノム参照番号NW_020220783.1、蛋白質アクセッション番号XP_024881886)、配列番号226の推定左端と配列番号227の推定右端に挟まれた配列番号177の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するAgrlius planipenn(NCBIゲノム参照番号NW_020442437.1、蛋白質アクセッション番号XP_025836109)、配列番号228の推定左端と配列番号229の推定右端に挟まれた配列番号178の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するParasteatoda tepidariorum(NCBIゲノム参照番号NW_018371884.1、蛋白質アクセッション番号XP_015905033)、配列番号230の推定左端と配列番号231の推定右端に挟まれた配列番号179の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するPectinophora gossypiella(ジーンバンクアクセッション番号GU270322.1、蛋白質ID ADB45159.1、Wang et al, 2010. Insect Mol. Biol. 19, 177-184. "piggyBac-like elements in the pink bollworm, Pectinophora gossypiella"にも記載)、配列番号232の推定左端と配列番号233の推定右端に挟まれた配列番号180の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するCtenoplusia agnata(NCBIアクセッション番号GU477713.1、蛋白質アクセッション番号ADV17598.1、Wu M, et al (2011) Genetica 139:149-54. "Cloning and characterization of piggyBac-like elements in lepidopteran insects"にも記載)、配列番号234の推定左端と配列番号235の推定右端に挟まれた配列番号181の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するMacrostomum lignano(NCBIゲノム参照番号NIVC01003029.1、蛋白質アクセッション番号PAA53757)、配列番号236の推定左端と配列番号237の推定右端に挟まれた配列番号182の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するOrussus abietinus(NCBIアクセッション番号XM_012421754、蛋白質アクセッション番号XP_012277177)、配列番号238の推定左端と配列番号239の推定右端に挟まれた配列番号183の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するEufriesea mexicana(NCBIゲノム参照番号NIVC01003029.1、蛋白質アクセッション番号XP_017759329)、配列番号240の推定左端と配列番号241の推定右端に挟まれた配列番号184の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するSpodoptera litura(NCBIゲノム参照番号NC_036206.1、蛋白質アクセッション番号XP_022824855)、配列番号242の推定左端と配列番号243の推定右端に挟まれた配列番号185の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するVanessa tameamea(NCBIゲノム参照番号NW_020663261.1、蛋白質アクセッション番号XP_026490968)、配列番号244の推定左端と配列番号245の推定右端に挟まれた配列番号186の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するBlattella germanica(NCBIゲノム参照番号PYGN01002011.1、蛋白質アクセッション番号PSN31819)、配列番号246の推定左端と配列番号247の推定右端に挟まれた配列番号187の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するOnthophagus taurus(NCBIゲノム参照番号NW_019281532.1、蛋白質アクセッション番号XP_022910826)、配列番号248の推定左端と配列番号249の推定右端に挟まれた配列番号188の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するOnthophagus taurus(NCBIゲノム参照番号NW_019281689.1、蛋白質アクセッション番号XP_022911139)、配列番号250の推定左端と配列番号251の推定右端に挟まれた配列番号189の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するOnthophagus taurus(NCBIゲノム参照番号NW_019286114.1、蛋白質アクセッション番号XP_022913435)、配列番号252の推定左端と配列番号253の推定右端に挟まれた配列番号190の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するMegachile rotundata(NCBIゲノム参照番号NW_003797295、蛋白質アクセッション番号XP_012145925)、配列番号254の推定左端と配列番号255の推定右端に挟まれた配列番号191の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するXiphophorus maculatus(NCBIゲノム参照番号NC_036460.1、蛋白質アクセッション番号XP_023207869)、及び配列番号1の推定左端と配列番号3の推定右端に挟まれた配列番号18の推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを有するAmyelois transitella(NCBIアクセッション番号XM_013335311、蛋白質アクセッション番号XP_013190765.1)からのインタクトなトランスポザーゼを有する推定トランスポゾンを同定した。
【0105】
5.2.5.1 アミエロイストランスポザーゼとそれに対応するトランスポゾン
酵母におけるトランスポジション活性によって同定された1つの活性トランスポザーゼ及びその対応するトランスポゾンは、6.1.2項に記載されているように、アミエロイストランスポザーゼであった。アミエロイストランスポザーゼは、配列番号18で示される配列に対して少なくとも80%、90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を含み、セクション6.1.2に記載されているように、トランスポザーゼレポーターコンストラクト配列番号192からトランスポゾンを転移させることが可能である。例示的なアミエロイストランスポザーゼには、配列番号18~170で示される配列を含む。
【0106】
アミエロイストランスポザーゼは、蛋白質として遺伝子導入システムの一部として提供されてもよいし、アミエロイストランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとして提供されてもよい。ポリヌクレオチドは、標的細胞で発現可能である。ポリヌクレオチドとして提供される場合、アミエロイストランスポザーゼは、DNA又はmRNAとして提供され得る。DNAとして提供される場合、アミエロイストランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームは、好ましくは、トランスポザーゼが標的細胞で発現可能となるように、標的細胞で活性化されるプロモーター、例えば、真核細胞、脊椎動物細胞又は哺乳類細胞で活性化されるプロモーターを含む異種制御要素に作動可能に連結される。mRNAとして提供される場合、mRNAは、アミエロイストランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームが、好ましくは、mRNAを調製するために使用されるインビトロ転写システムにおいて活性な異種プロモーター、例えば、T7プロモーターに作動可能に連結されたDNA分子からインビトロで調製されてもよい。
【0107】
アミエロイストランスポゾンは、配列番号9の配列を有する左ITRを含む左トランスポゾンエンドと、配列番号10の配列を有する右ITRを含む右トランスポゾンエンドとに挟まれた異種ポリヌクレオチドを含み、各ITRの遠位端が標的配列にすぐに隣接していることを特徴とする。ここ及び他の場所で、インバーテッドリピートが曖昧性コードによって定義されたヌクレオチドを含む配列によって定義される場合、そのヌクレオチドの同一性は、2つのリピートで独立して選択できる。好ましい標的配列は5'-TTAA-3'であるが、他の使用可能な標的配列を使用してもよい。好ましくは、トランスポゾンの一方の側の標的配列は、トランスポゾンの他方の側の標的配列のダイレクトリピートである。左トランスポゾンエンドは、ITRの近位にある追加の配列、例えば、配列番号7又は13から選択される配列に対して少なくとも90%同一、又は100%同一の配列をさらに含んでもよい。右トランスポゾンエンドは、ITRの近位にある追加の配列、例えば、配列番号8又は16から選択される配列に対して少なくとも90%同一、又は100%同一の配列をさらに含んでもよい。代表的なオリジアトランスポゾンの構造を
図1に示す。アミエロイストランスポゾンは、例えば、Gal1プロモーターに作動可能に連結された配列番号171の配列を有するポリヌクレオチドによってコードされるような、配列番号18のポリペプチド配列を有するトランスポザーゼによって転移させることができる。
【0108】
ITR及び標的配列を含むトランスポゾンエンドを異種ポリヌクレオチド配列のエンドに付加して、アミエロイストランスポザーゼによって標的真核生物ゲノムに効率的に転移され得る合成アミエロイストランスポゾンを作成してもよい。例えば、配列番号1及び2はそれぞれ、左の5'-TTAA-3'標的配列の後に左のトランスポゾンITRが続き、さらに、標的配列が異種ポリヌクレオチドに対して遠位になるように異種ポリヌクレオチドの片側に付加され得る追加のエンド配列が続き、合成アミエロイストランスポゾンを生成できる。配列番号3及び4はそれぞれ、追加のエンド配列の後に右トランスポゾンITR配列が続き、さらに、標的配列が異種ポリヌクレオチドに対して遠位になるように異種ポリヌクレオチドの他の側に付加され得る右の5'-TTAA-3'標的配列が続き、合成アミエロイストランスポゾンを生成できる。先のトランスポゾンエンド配列は、標的配列として5'-TTAA-3'を含んでいるが、配列番号5は、ITR配列を異種ポリヌクレオチドに対して遠位になるように異種ポリヌクレオチドの片側に付加され得る追加のエンド配列が続く左トランスポゾンITRを含み、配列番号6は、ITR配列を異種ポリヌクレオチドに対して遠位になるように異種ポリヌクレオチドの他の側に付加され得る右トランスポゾンITR配列が続く追加のエンド配列を含み、合成アミエロイストランスポゾンが生成し、これは後に代替の標的配列で挟まれる場合がある。
【0109】
アミエロイストランスポザーゼは合成アミエロイストランスポゾンを認識する。それらは、第1のトランスポゾンエンドの左端にある標的配列、及び第2のトランスポゾンエンドの右端にある標的配列でDNAを切断することにより、第1のDNA分子からトランスポゾンを切除し、第1のDNA分子の切断された端を再結合して、標的配列の単一のコピーを残す。切除されたトランスポゾン配列(トランスポゾンエンドの間にある異種DNAを含む)は、トランスポザーゼによって、標的細胞のゲノムなどの第2のDNA分子の標的配列に組み込まれる。ゲノムが合成アミエロイストランスポゾンを含む細胞は、本発明の一実施形態である。
【0110】
5.2.5.2 アミエロイストランスポザーゼは哺乳類細胞で活性である
ルーパーモスのpiggyBacトランスポザーゼは、非常に多種多様な真核細胞で活性があることが示されている。セクション6.1.2で我々は、アミエロイストランスポザーゼが対応するトランスポゾンを酵母Saccharomyces cerevisiaeのゲノムに転移させることができることを示す。セクション6.1.3で我々は、アミエロイストランスポザーゼが対応するトランスポゾンを哺乳類のCHO細胞のゲノムに転移させることができることを示す。これらの結果は、他の既知の活性piggyBac様トランスポザーゼと同様に、アミエロイストランスポザーゼも、対応するトランスポゾンをほとんどの真核細胞のゲノムに転移させる活性があることを示す証拠となる。アミエロイストランスポザーゼは幅広い真核細胞で活性を示すが、アミエロイストランスポザーゼをコードする天然に存在するオープンリーディングフレーム(配列番号929で示される)は、最適なコドンユーセージが細胞種間で大きく異なるため、同様に幅広い細胞でうまく発現するとは考えにくい。従って、トランスポザーゼをコードするために、天然に存在する配列以外の配列を使用すること、言い換えれば、発現を行いたい細胞種のコドンプリファレンスを使用することが有益である。同様に、プロモーターやその他の制御配列は、発現を行う細胞種で活性化するように選択される。アミエロイストランスポザーゼの発現のための有利なポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドと配列番号929との間の対応する位置において、配列番号929に対して少なくとも2、5、10、20、30、40又は50の同義語コドンの違いを含み、任意に、対応する位置のポリヌクレオチド中のコドンが哺乳類細胞の発現のために選択される。哺乳類細胞での発現のためにコドンが選択されている配列番号18、96及び170によって与えられるポリペプチド配列を有するアミエロイストランスポザーゼのための例示的なポリヌクレオチド配列が、それぞれ配列番号171、930及び931として与えられる。ポリヌクレオチドは、DNA又はmRNAであってもよい。
【0111】
5.2.6 高活性アミエロイストランスポザーゼ
個々の有利な変異は、例えば、「DNAシャッフリング」、米国特許8,635,029 B2、又は米国特許8,635,029 B2、及びLiaoらの論文(2007, BMC Biotechnology 2007, 7:16 doi:10.1186/1472-6750-7-16 "Engineering proteinase K using machine learning and synthetic genes")に記載されている方法によって、様々な異なる方法で組み合わせることができる。新しい標的配列に対する活性、又は既存の標的配列に対する活性の増加のいずれかのために、改変された活性を有するトランスポザーゼは、適切な対応するトランスポゾンを用いて、本明細書に記載された選択スキームのバリエーション(例えば、セクション6.1.6)を使用することによって得られ得る。
【0112】
既知の活性piggyBac様トランスポザーゼのアラインメントを使用して、増強された活性をもたらす可能性の高いアミノ酸変化を同定してもよい。トランスポザーゼはしばしば宿主にとって有害であるため、それを不活性化する変異を蓄積する傾向がある。しかし、異なるトランスポザーゼにおいて蓄積される変異は異なり、それぞれがランダムな確率で発生する。配列のアラインメントからコンセンサス配列を得ることができ、これを利用して活性を向上させることができる(Ivics et al, 1997. Cell 91: 501-510. "Molecular reconstruction of Sleeping Beauty, a Tc1-like transposon from fish, and its transposition in human cells.")。既知の活性piggyBac様トランスポザーゼをCLUSTALアルゴリズムを用いて配列し、各位置に見られるアミノ酸を列挙した。この多様性は、アミエロイストランスポザーゼ(配列番号18に関連する)と比較して表1に示されており、C列に示されているアミノ酸は既知の活性piggyBac様トランスポザーゼにおいてアラインメントにおける同等位置に見出されており、従って、アミエロイストランスポザーゼにおける許容可能な変化であると考えられる。D列は、アミエロイストランスポザーゼ以外の既知の活性piggyBac様トランスポザーゼで見つかったアミノ酸の変化を示し、この位置は、他のトランスポザーゼセットではよく保存されているが、アミエロイストランスポザーゼの配列のアミノ酸は異常値である。A欄に示す位置をD欄に示すアミノ酸に変異させると、特にトランスポザーゼ活性が増強される可能性が高い。
【0113】
アミエロイストランスポザーゼ配列番号18において、表1のD列から59個のアミノ酸置換を選択して行った。置換は、P65E、D79N、R95S、V100I、V106P、L115D、E116P、H121Q、V131E、K139E、T159N、V166F、G174A、G179N、W187F、P198R、L203R、I209L、N211R、A225R、P232A、E238D、V261L、L273M、L273I、D304R、D304K、Y310G、I323L、Q329G、Q329R、M336C、Y343I、T345L、K362R、T366R、C367E、T380S、L408M、E413S、S416E、I426M、K432Q、S435G、K442Q、N452K、L458M、N466D、T467M、A472S、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、D551R、S560K、T562K、及びS563Kであった。これらの置換の組み合わせを含むアミエロイストランスポザーゼバリアントをコードする遺伝子を合成し、セクション6.1.6に記載されているようにトランスポザーゼ活性をテストした。その結果、天然に存在する配列の配列番号18と比較して、切除や転位の活性が増加した70超のアミエロイストランスポザーゼバリアントを同定した。高活性なアミエロイストランスポザーゼバリアントの例示的な配列は、配列番号96~170として提供される。特に活性の高いアミエロイストランスポザーゼバリアントは、配列番号114~170として提供される。
【0114】
従って、天然に存在する配列ではないが、配列番号18と少なくとも99%98%97%96%95%90%、又は80%同一であるアミエロイストランスポザーゼを作製できる。そのようなバリアントは、配列番号18のトランスポザーゼの部分的な活性(転移及び/又は切除活性のいずれか又は両方によって決定される)を保持することができ、転移及び切除のいずれか又は両方において配列番号18のトランスポザーゼと機能的に同等であることができ、又は転移、切除活性、又は両方において配列番号18のトランスポザーゼに対して増強された活性を有し得る。そのようなバリアントには、本明細書で転移及び/又は切除を増加させることが示されている変異、本明細書で転移及び/又は切除に関して中立であることが示されている変異、及び転移及び/又は組み込みに有害な変異を含み得る。好ましいバリアントは、中立であることが示された変異、又は転移及び/又は切除を高めることが示された変異を含む。いくつかのそのようなバリアントは、転移及び/又は切除に有害であることが示された変異を欠く。そのようなバリアントの中には、転移を増強することが示された変異のみ、切除を増強することが示された変異のみ、又は転移と切除の両方を増強することが示された変異を含むものを含む。
【0115】
増強された活性とは、バリアントの由来となった参照トランスポザーゼの活性よりも実験誤差を超えて大きい活性(例えば、転移又は切除活性)を意味する。活性は、例えば、参照トランスポザーゼの1.2、1.5、2、5、10、15、20、50又は100倍のファクターで大きくなり得る。増強された活性は、参照トランスポザーゼの例えば、1.2~100倍、2~50倍、1.5~50倍又は2~10倍の範囲内にあることができる。ここ及び他の場所での活性は、実施例で実証されたように測定できる。
【0116】
機能的同等性とは、バリアントトランスポザーゼが、参照トランスポザーゼと同等の効率(実験誤差の範囲内)で、同じトランスポゾンの転移及び/又は切除を媒介できることを意味する。天然に存在するアミエロイストランスポザーゼ配列番号18と同等の転位頻度を持つバリアントアミエロイストランスポザーゼの代表的な17の配列は配列番号19~35である。
【0117】
さらに、配列番号18のバリアント配列は、表1のD列から選択された2つ、3つ、4つ、又は5つ以上の置換を組み合わせることによって作製できる。有益な置換、例えば、表1のD列に示されるものを組み合わせることで、配列番号18の高活性バリアントを得ることができる。我々は、天然に存在するアミエロイストランスポザーゼ配列番号18と比較して、転位又は切除頻度が約2倍よりも大きい70を超える数のトランスポザーゼ(配列番号96~170として示される配列を含む)を同定した。この好ましい高活性アミエロイストランスポザーゼは、D79N、R95S、L115D、E116P、H121Q、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、E238D、L273M、L273I、D304R、D304K、Q329G、T345L、K362R、T366R、L408M、S416E、S435G、L458M、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、S560K、及びS563Kの置換(配列番号18に対して)の1つ以上を含んでいた。いくつかの高活性アミエロイストランスポザーゼは、異種核局在化配列をさらに含んでもよい。
【0118】
我々は、Liaoらの論文(2007, BMC Biotechnology 2007, 7:16 doi:10.1186/1472-6750-7-16 "Engineering proteinase K using machine learning and synthetic genes")に記載されている機械学習法を用いて、様々なアミノ酸置換がアミエロイストランスポザーゼの切除及び転位活性に及ぼす影響を調べた。各置換は、少なくとも5つの異なる配列コンテクスト(即ち、他の異なるアミノ酸置換が存在する場合)で経験的にテストした。Liaoらの論文に記載されているように、ある置換の回帰重みの平均値は、複数の異なるアミエロイストランスポザーゼにおけるその置換の平均的な効果の指標となる。正の平均回帰重みを持つ置換は、平均してアミエロイストランスポザーゼの転位活性に正の効果を持つものである。正の平均回帰重みを持つ置換基を、まだそのような置換基を含んでいない活性のあるアミエロイストランスポザーゼに加えると、そのアミエロイストランスポザーゼの転移活性が向上すると予想される。表8は、アミエロイストランスポザーゼ内の32個の置換基のうち、転位に対して正の平均回帰重みを持つものを示している(D79N、R95S、L115D、E116P、H121Q、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、E238D、L273M、L273I、D304R、D304K、Q329G、T345L、K362R、T366R、L408M、S416E、S435G、L458M、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、S560K、及びS563K)。
【0119】
配列番号18~35又は96~170は、配列番号18に対して、アミノ酸79、95、115、116、121、139、166、179、187、198、203、211、238、273、304、329、345、362、366、408、416、435、458、475、483、491、529、540、560、及び563から選択される位置に置換を含んでいるものである。好ましくは、この置換は、表1のC列又はD列に示されるものである。好ましくは、高活性アミエロイストランスポザーゼは、配列番号18の配列に対してアミノ酸の置換を含み、それは、D79N、R95S、L115D、E116P、H121Q、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、E238D、L273M、L273I、D304R、D304K、Q329G、T345L、K362R、T366R、L408M、S416E、S435G、L458M、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、S560K、及びS563Kから選択されるか、又はこれらのうち、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はすべてを含む置換の組み合わせである。また、高活性アミエロイストランスポザーゼは、他の多くの位置にある、増強された転移とは関係のない置換、例えば、転移に関して中立的な効果を持つ保存的な置換を含んでもよい。
【0120】
好ましい高活性アミエロイストランスポザーゼは、天然に存在する蛋白質以外のアミノ酸配列(例えば、アミノ酸配列が配列番号18を含むトランスポザーゼではない)であって、配列番号18~35又は96~170のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であり、配列番号18に対してアミノ酸79、95、115、116、121、139、166、179、187、198、203、211、238、273、304、329、345、362、366、408、416、435、458、475、483、491、529、540、560、及び563から選択される位置に置換を含む。好ましくは、高活性アミエロイストランスポザーゼは、配列番号18の配列に対して、D79N、R95S、L115D、E116P、H121Q、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、E238D、L273M、L273I、D304R、D304K、Q329G、T345L、K362R、T366R、L408M、S416E、S435G、L458M、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、S560K、及びS563Kから選択されるアミノ酸置換、又はこれらの変異のうち少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はすべてを含むそれらの置換の任意の組み合わせを含む。
【0121】
天然に存在する又は高活性アミエロイストランスポザーゼを用いたトランスジェニック細胞の作製方法は本発明の一側面である。トランスジェニック細胞の作製方法は、(i)真核細胞に、天然に存在する又は高活性アミエロイストランスポザーゼ(蛋白質として、又はトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとして)及び対応するアミエロイストランスポゾンを導入する工程を含む。トランスジェニック細胞の作製は、(ii)アミエロイストランスポゾンが真核細胞のゲノムに組み込まれている細胞を特定する工程をさらに含んでもよい。アミエロイストランスポゾンが真核細胞のゲノムに組み込まれている細胞を特定する工程は、アミエロイストランスポゾンにコードされているセレクタブルマーカーについて真核細胞を選択する工程を含んでもよい。セレクタブルマーカーは、本明細書に記載されたものを含む、任意のセレクタブルポリペプチドであってよい。
【0122】
トランスポザーゼの活性は、トランスポザーゼの活性が保持される限り、トランスポザーゼ蛋白質のN-末端、C-末端、N-末端とC-末端の両方、又は内部領域に核局在化シグナル(NLS)を融合させることによっても高めてもよい。核局在化シグナル又は配列(NLS)は、細胞核にインポートするために、蛋白質と核輸送蛋白質との相互作用を直接又は間接的に「タグ付け」又は促進するアミノ酸配列である。使用される核局在化シグナル(NLS)は、コンセンサスNLS配列、ウイルスNLS配列、細胞NLS配列、及びそれらの組み合わせを含み得る。
【0123】
また、トランスポザーゼは他の蛋白質機能ドメインと融合していてもよい。そのような蛋白質機能ドメインには、DNA結合ドメイン、1つ以上のドメイン融合を促進できるフレキシブルヒンジ領域、及びそれらの組み合わせが含まれ得る。融合は、トランスポザーゼ活性が保持される限り、トランスポザーゼ蛋白質のN-末端、C-末端、又は内部領域のいずれかに行うことができる。DNA結合ドメインへの融合は、アミエロイストランスポザーゼを特定のゲノム遺伝子座又は遺伝子座に導くために使用できる。DNA結合ドメインは、ヘリックスターンヘリックスドメイン、ジンクフィンガードメイン、ロイシンジッパードメイン、TALE(転写活性化因子様エフェクター)ドメイン、クリスパー-キャス蛋白質、又はヘリックスループヘリックスドメインを含む。具体的なDNA結合ドメインとしては、Gal4 DNA結合ドメイン、LexA DNA結合ドメイン、Zif268 DNA結合ドメインを含み得る。フレキシブルヒンジ領域は、グリシン/セリンリンカー及びそのバリアントを含み得る。
【0124】
5.3 キット
また、本発明は蛋白質としての又は核酸によってコードされたアミエロイストランスポザーゼ、及び/又はアミエロイストランスポゾンを含むキット、又はアミエロイストランスポゾンと組み合わせた、本明細書に記載の蛋白質としての又は核酸によってコードされるアミエロイストランスポザーゼを含む、本明細書に記載の遺伝子導入システムを含むキットを特徴とし、任意に、薬学的に許容される担体、アジュバント又はビヒクル、及び任意に使用説明書を伴う。本発明のキットの構成要素のいずれも、後続の順序で又は並行して細胞に投与及び/又はトランスフェクションしてもよく、例えば、アミエロイストランスポゾンの投与及び/又はトランスフェクションに先立って、それと同時に、又はそれに続いて、アミエロイストランスポザーゼ蛋白質又はそのコード核酸を、上記で定義したように細胞に投与及び/又はトランスフェクションしてもよい。あるいは、アミエロイストランスポゾンは、アミエロイストランスポザーゼ蛋白質又はそのコード核酸のトランスフェクションに先立って、それと同時に、又はそれに続いて、上記で定義したように細胞にトランスフェクションされてもよい。並行してトランスフェクションを行う場合、トランスフェクション前の転移を避けるために、好ましくは両成分を分離した製剤で提供し、及び/又は投与前に直接相互に混合する。さらに、キットの少なくとも1つの成分の投与及び/又はトランスフェクションは、例えば、この成分を複数回投与することによって、時間をずらしたモードで行われてもよい。
【実施例】
【0125】
6. 実施例
以下の実施例は、本明細書に開示の方法、組成物、及びキットを例示するものであり、いかなる方法においても限定的に解釈されるべきではない。様々な等価物が以下の実施例から明らかになるであろう。そのような等価物はまた、本明細書に開示の発明の一部であることが企図される。
【0126】
6.1 新しいトランスポザーゼ
6.1.1 トランスポザーゼ活性の測定
セクション5.2.5に記載されているように、活性トランスポザーゼの転移頻度は、トランスポゾンがセレクタブルマーカーを中断するシステムを用いて測定できる。酵母Saccharomyces cerevisiae URA3オープンリーディングフレームのオープンリーディングフレームが、酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて発現可能であるようにプロモーター及びターミネーターに作動可能に連結された酵母TRP1オープンリーディングフレームによって中断されたトランスポザーゼレポーターポリヌクレオチドを構築した。TRP1遺伝子は、5'-TTAA-3'標的部位を持つ推定トランスポゾンエンドに挟まれており、推定トランスポゾンを切除すると、5'-TTAA-3'標的部位のコピーが1つ残り、URA3オープンリーディングフレームが正確に再構成されるようになっていた。酵母トランスポザーゼレポーター株は、トランスポザーゼレポーターポリヌクレオチドを、LEU2及びTRP1を補助するハプロイド酵母株のURA3遺伝子に組み込み、LEU2-、URA3-及びTRP1+となるようにして構築したものである。
【0127】
URA3オープンリーディングフレーム内からTRP1遺伝子を含むトランスポゾンを転移する能力についてトランスポザーゼを試験した。推定トランスポザーゼをコードする各オープンリーディングフレームを2ミクロン複製起点及びSaccharomycesで発現可能なLEU2遺伝子を含むSaccharomyces cerevisiae発現ベクターにクローニングした。各トランスポザーゼのオープンリーディングフレームはGal1プロモーターに作動可能に連結させた。クローニングされたトランスポザーゼのオープンリーディングフレームを酵母トランスポザーゼレポーター株に形質転換し、ロイシンを欠く最小培地でプレーティングした。2日後、プレートを擦ってLEU+コロニーをすべて回収した。ガラクトースで4時間培養してGalプロモーターを誘導した後、細胞を3つの異なるプレート(ロイシンのみを欠くプレート、ロイシンとウラシルを欠くプレート、及びロイシン、ウラシル、及びトリプトファンを欠くプレート)にプレーティングした。これらのプレートを2~4日間培養し、各プレート上のコロニーを数えて、生細胞数、トランスポゾンの切除イベント数、トランスポゾンの切除と再組み込み(即ち転移イベント)の数をそれぞれ測定した。
【0128】
6.1.2 活性アミエロイスPIGGYBAC様トランスポザーゼの同定
セクション5.2.5に記載されているように、21個の推定piggyBac様トランスポザーゼが、Trichoplusia ni由来のpiggyBacトランスポザーゼと少なくとも20%同一であることをGenbankから同定した。このトランスポザーゼは活性piggyBac様トランスポザーゼに特徴的なDDDEモチーフを含むように見える。隣接するDNA配列を分析し、piggyBac転移に特徴的な5'-TTAA-3'標的配列にすぐ隣接するインバーテッドリピート配列の存在を確認した。この隣接する配列から、5'-TTAA-3'標的配列と推定トランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームとの間の配列を含む推定左右トランスポゾンエンド配列を得た。これらのトランスポゾンエンドを、セクション6.1.1に記載の方法で構成したトランスポザーゼレポーターコンストラクトに組み込み、Saccharomyces cerevisiaeのゲノムに組み込んでトランスポザーゼレポーター株を作製した。各レポーター株に対応するトランスポザーゼ配列を逆翻訳して合成し、Saccharomyces cerevisiae発現ベクターにクローニングして、レポーター株を形質転換した。トランスポザーゼ活性は、セクション6.1.1に記載の方法で測定した。
【0129】
以下の20の組み合わせでは、切除も転移も見られなかった。レポーターコンストラクト配列番号196(推定左トランスポゾンエンド配列番号216及び推定右トランスポゾンエンド配列番号217を含む)とトランスポザーゼ配列番号172、レポーターコンストラクト配列番号197(推定左トランスポゾンエンド配列番号218及び推定右トランスポゾンエンド配列番号219を含む)とトランスポザーゼ配列番号173、レポーターコンストラクト配列番号198(推定左トランスポゾンエンド配列番号220及び推定右トランスポゾンエンド配列番号221を含む)とトランスポザーゼ配列番号174、レポーターコンストラクト配列番号199(推定左トランスポゾンエンド配列番号222及び推定右トランスポゾンエンド配列番号223を含む)とトランスポザーゼ配列番号175、レポーターコンストラクト配列番号200(推定左トランスポゾンエンド配列番号224及び推定右トランスポゾンエンド配列番号225を含む)とトランスポザーゼ配列番号176、レポーターコンストラクト配列番号201(推定左トランスポゾンエンド配列番号226及び推定右トランスポゾンエンド配列番号227を含む)とトランスポザーゼ配列番号177、レポータートランスポザーゼ配列番号202(推定左トランスポゾンエンド配列番号228及び推定右トランスポゾンエンド配列番号229を含む)とトランスポザーゼ配列番号178、レポーターコンストラクト配列番号203(推定左トランスポゾンエンド配列番号230及び推定右トランスポゾンエンド配列番号231を含む)とトランスポザーゼ配列番号179、レポーターコンストラクト配列番号204(推定左トランスポゾンエンド配列番号232及び推定右トランスポゾンエンド配列番号233を含む)とトランスポザーゼ配列番号180、レポーターコンストラクト配列番号205(推定左トランスポゾンエンド配列番号234及び推定右トランスポゾンエンド配列番号235を含む)とトランスポザーゼ配列番号181、レポーターコンストラクト配列番号206(推定左トランスポゾンエンド配列番号236及び推定右トランスポゾンエンド配列番号237を含む)とトランスポザーゼ配列番号182、レポーターコンストラクト配列番号207(推定左トランスポゾンエンド配列番号238及び推定右トランスポゾンエンド配列番号239を含む)とトランスポザーゼ配列番号183、レポーター構成物配列番号208(推定左トランスポゾンエンド配列番号240及び推定右トランスポゾンエンド配列番号241を含む)とトランスポザーゼ配列番号184、レポーターコンストラクト配列番号209(推定左トランスポゾンエンド配列番号242及び推定右トランスポゾンエンド配列番号243を含む)とトランスポザーゼ配列番号185、レポーターコンストラクト配列番号210(推定左トランスポゾンエンド配列番号244及び推定右トランスポゾンエンド配列番号245を含む)とトランスポザーゼ配列番号186、レポーターコンストラクト配列番号211(推定左トランスポゾンエンド配列番号246、及び推定右トランスポゾンエンド配列番号247を含む)とトランスポザーゼ配列番号187、レポーターコンストラクト配列番号212(推定左トランスポゾンエンド配列番号248及び推定右トランスポゾンエンド配列番号249を含む)とトランスポザーゼ配列番号188、レポーターコンストラクト配列番号213(推定左トランスポゾンエンド配列番号250及び推定右トランスポゾンエンド配列番号251を含む)とトランスポザーゼ配列番号189、レポーターコンストラクト配列番号214(推定左トランスポゾンエンド配列番号252及び推定右トランスポゾンエンド配列番号253を含む)とトランスポザーゼ配列番号190、レポーターコンストラクト配列番号215(推定左トランスポゾンエンド配列番号254と推定右トランスポゾンエンド配列番号255を含む)とトランスポザーゼ配列番号191。これは、Trichoplusia niのpiggyBacトランスポザーゼと相同性のある配列をコンピューターで認識するのは単純だが、これらの配列のほとんどは、インタクト末端リピートを持ち、トランスポザーゼが活性piggyBac様トランスポザーゼに見られるDDDEモチーフを含むように見えても、転移的には不活性であるという文献の報告と一致している。従って、新規の活性piggyBac様トランスポザーゼやトランスポゾンを同定するためには、切除及び転移活性を測定することが必要である。
【0130】
レポーターコンストラクトからその対応するトランスポゾンを切除し(URA+コロニーの出現により示される)、トランスポゾン中のTRP遺伝子をSaccharomyces cerevisiaeのレポーター株の別のゲノム位置に転移させるのに良好な活性を示したトランスポザーゼの1つは、トランスポザーゼ配列番号18であった。トランスポザーゼ配列番号18は、レポーターコンストラクト配列番号192からトランスポゾンを転移することができた。これは表2に示されている。URA+コロニーの出現によって測定した切除イベントの数をG列に示す。URA+ TRP+コロニーの出現によって測定したフル転移イベントの数をH列に示す。
【0131】
6.1.3 アミエロイストランスポザーゼは哺乳類細胞で活性である
PiggyBac様トランスポザーゼは、対応するトランスポゾンを、Pichia pastorisやSaccharomyces cerevisiaeなどの酵母細胞や、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞やチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳類細胞を含む真核細胞のゲノムに転移させることができる。哺乳類細胞におけるpiggyBac様トランスポザーゼの活性を調べるために、トランスポゾンエンドを含み、弱いグルタミン合成酵素の発現を与える制御要素に作動可能に連結された、配列番号282で示されるDNA配列にコードされる配列番号277で示されるポリペプチド配列を有するグルタミン合成酵素をコードするセレクタブルマーカーをさらに含む遺伝子導入ポリヌクレオチドを構築した。ここで、グルタミン合成酵素の配列及びその関連する制御要素は配列番号320で示される。遺伝子導入ポリヌクレオチドは、抗体の重鎖及び軽鎖をコードするオープンリーディングフレームをさらに含み、それぞれがプロモーター及びポリアデニル化シグナル配列に作動可能に連結している。遺伝子導入ポリヌクレオチド(配列番号256を有する)は、5'-TTAA-3'標的組み込み配列を含む左トランスポゾンエンドとその直後に、配列番号9の実施形態である配列番号11で示されるITR配列を有するアミエロイス左トランスポゾンエンドを含む。遺伝子導入ポリヌクレオチドは、配列番号12(配列番号10の実施形態である)で示されるITR配列を有するアミエロイス右トランスポゾンエンドとその直後に、5'-TTAA-3'標的組み込み配列をさらに含む。2つのアミエロイストランスポゾンエンドは、グルタミン合成酵素セレクタブルマーカーと、抗体の重鎖及び軽鎖をコードするオープンリーディングフレームを含む異種ポリヌクレオチドの両側に配置した。左トランスポゾンエンドは、左ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある配列番号7で示される配列をさらに含んでいた。右トランスポゾンエンドは、右ITRにすぐ隣接し、異種ポリヌクレオチドの近位にある配列番号8で示される配列をさらに含んでいた。
【0132】
遺伝子導入ポリヌクレオチドを、機能的なグルタミン合成酵素遺伝子を欠くCHO細胞にトランスフェクションした。細胞は、25μgの遺伝子導入ポリヌクレオチドDNAを、ヒトCMVプロモーターとポリアデニル化シグナル配列に作動可能に連結されたトランスポザーゼをコードする遺伝子を含む3μgのDNAとの共トランスフェクションの有無にかかわらず、エレクトロポレーションによってトランスフェクションした。エレクトロポレーション後、4mMグルタミンを含む培地で48時間培養し、その後、グルタミンを欠く培地で1mlあたり300,000個の細胞に希釈した。細胞は5日ごとにグルタミンを含まない新しい培地に交換した。各トランスフェクションの細胞の生存率はBeckman-Coulter Vi-Cellを用いてトランスフェクション後のさまざまな時点で測定した。生存細胞の総数も同じ装置で測定した。その結果を表3に示す。
【0133】
表3に示すように、遺伝子導入ポリヌクレオチドを導入したがトランスポザーゼを導入していない細胞の生存率は、導入後12日目までに約27%に低下した(B列)。生細胞の総数は、7日以内に1mlあたり50,000個未満にまで減少した(C列)。この密度以下の生細胞数では、生存率の測定は不正確になる。培養はリカバーしなかった。一方、配列番号256の遺伝子導入ポリヌクレオチドをアミエロイストランスポザーゼ配列番号18と共導入した場合、細胞は10日以内に90%以上の生存率にリカバーし(表3のD列)、その時には生細胞の密度は200万/mlを超えていた(表3のE列)。これは、左右のアミエロイストランスポゾンエンドを含む遺伝子導入ポリヌクレオチドが、対応するアミエロイストランスポザーゼによって哺乳類標的細胞のゲノムに効率的に導入され得ることを示している。
【0134】
ゲノムに組み込まれたpiggyBac様トランスポゾンを含むCHO細胞のリカバープールを、Sigma Advanced Fed Batch培地を用いて14日間のフェッドバッチで培養した。培養上清中の抗体価をオクテットで測定した。表4は、フェッドバッチ培養の7日目、10日目、12日目、14日目に測定した力価を示す。配列番号256を有する遺伝子導入ポリヌクレオチドを、アミエロイストランスポザーゼ配列番号18と共導入して組み込んだ細胞からの抗体の力価は、14日後に約2g/Lに達した。このことから、セクション5.2.5に記載したアミエロイストランスポゾンとそれに対応するトランスポザーゼは、哺乳類細胞で活性を示し、蛋白質を発現する細胞株の開発や哺乳類細胞のゲノムのエンジニアリングに有用な、新規のpiggyBac型トランスポゾン/トランスポザーゼシステムであることがわかった。
【0135】
6.1.4 アミエロイストランスポザーゼをコードするメッセンジャーRNAは哺乳類細胞で活性である
セクション6.1.3にその構成が記載されている配列番号256を有する遺伝子導入ポリヌクレオチドをさらに試験し、対応するトランスポザーゼがmRNAの形で提供された場合に、合成アミエロイストランスポゾンが哺乳類細胞のゲノムに組み込まれるかどうかを調べた。配列番号256を有する遺伝子導入ポリヌクレオチド354498は、配列番号277で示されるポリペプチド配列を有するグルタミン合成酵素をコードするセレクタブルマーカーを含み、配列番号282で示されるDNA配列によってコードされ、弱いグルタミン合成酵素の発現を与える制御要素に作動可能に連結していた。ここで、グルタミン合成酵素の配列及びその関連する制御要素は配列番号320によって示される。遺伝子導入ポリヌクレオチド配列番号256は、抗体の重鎖及び軽鎖をコードするオープンリーディングフレームをさらに含み、それぞれがプロモーター及びポリアデニル化シグナル配列に作動可能に連結していた。遺伝子導入ポリヌクレオチド配列番号256は、配列番号1で示される配列を有するアミエロイス左トランスポゾンエンドと、配列番号3で示される配列を有するアミエロイス右トランスポゾンエンドとをさらに含んでいた。
【0136】
アミエロイストランスポザーゼをコードするmRNAを、T7 RNAポリメラーゼを用いたインビトロ転写により調製した。このmRNAは、オープンリーディングフレームに先行する5'配列の配列番号257と、アミエロイストランスポザーゼ(アミノ酸配列の配列番号18、ヌクレオチド配列の配列番号171)をコードするオープンリーディングフレームと、オープンリーディングフレームの末端の停止コドンに続く3'配列の配列番号258とを含んでいた。このmRNAはアンチ-リバースキャップアナログ(3'-O-Me-m7G(5')ppp(5')Gを有していた。インビトロで活性な異種プロモーターに作動可能に連結されたトランスポザーゼをコードする配列を含むDNA分子は、トランスポザーゼmRNAの調製に有用である。トランスポザーゼをコードする配列を含む単離されたmRNA分子は、対応するトランスポゾンの標的ゲノムへの転移に有用である。
【0137】
遺伝子導入ポリヌクレオチド配列番号256を、機能的なグルタミン合成酵素遺伝子を持たないCHO細胞にトランスフェクションした。細胞はエレクトロポレーションによりトランスフェクションした。25μgの遺伝子導入ポリヌクレオチドDNAを、対応するトランスポザーゼ(アミノ酸配列の配列番号18、ヌクレオチド配列の配列番号171)をコードするオープンリーディングフレームを含むmRNA 3μgと共導入した。エレクトロポレーション後、4mMグルタミンを含む培地で48時間培養し、続いてグルタミンを欠く培地で1mlあたり300,000個の細胞に希釈した。細胞は5日ごとに新鮮なグルタミンを含まない培地に交換した。各トランスフェクションの細胞の生存率は、Beckman-Coulter Vi-Cellを用いて、トランスフェクション後のさまざまな時点で測定した。生存細胞の総数も同じ装置で測定した。その結果を表5に示す。
【0138】
配列番号256を有する遺伝子導入ポリヌクレオチドをアミエロイストランスポザーゼ配列番号18をコードするmRNAと共導入したところ、導入後9日目には生存率が約26%に低下し(表5B列)、その時点で生細胞の密度は約50,000/mlとなった(表5C列)。その後、細胞生存率と生細胞の密度は上昇し、導入後26日目には生存率は92%超、生細胞は1mlあたり100万個超になった。このことは、左右のアミエロイストランスポゾンエンドを含む遺伝子導入ポリヌクレオチドは、対応するアミエロイストランスポザーゼをコードするmRNAと共導入することで、哺乳類の標的細胞のゲノムに効率的に導入できることを示している。
【0139】
6.1.5 哺乳類細胞で活性なアミエロイストランスポゾンエンド配列
アミエロイストランスポゾンを最初にテストしたとき、5'-TTAA-3'標的配列とトランスポザーゼのオープンリーディングフレームの間の配列全体をトランスポゾンエンドとして使用した。しかし、他のpiggyBac様配列では、このような完全な配列は一般に転移活性には必要ないことがわかった。そこで、末端が切断された合成アミエロイストランスポゾンを作製し、これがアミエロイストランスポザーゼによって転移可能かどうかを調べた。配列番号370を有する異種ポリヌクレオチドは、配列番号278で示されるポリペプチド配列を有するグルタミン合成酵素をコードし、セレクタブルマーカーとして弱いグルタミン合成酵素の発現を与える制御要素と作動可能に連結していた。異種ポリヌクレオチドの一方の側には、配列番号9の実施形態である配列番号11を有するトランスポゾンITR配列が直後に続く5'-TTAA-3'組み込み標的配列を含む左アミエロイストランスポゾンエンドがあった。異種ポリヌクレオチドの他の側には、配列番号12(配列番号10の実施形態である)を有するトランスポゾンITR配列の直後に続く5'-TTAA-3'組み込み標的配列を含む右アミエロイストランスポゾンエンドがあった。トランスポゾンは左トランスポゾンITR配列にすぐ隣接する(後に続く)配列番号7又は13から選択される追加の配列をさらに含んでいた。トランスポゾンは右トランスポゾンのITR配列にすぐ隣接する(先行する)配列番号8又は16から選択される追加の配列をさらに含んでいた。トランスポゾンを機能的なグルタミン合成酵素遺伝子を持たないCHO細胞にトランスフェクションした。細胞はエレクトロポレーションによってトランスフェクションした。25μgの遺伝子導入ポリヌクレオチドDNAをトランスフェクションし、任意に、対応するトランスポザーゼ(アミノ酸配列の配列番号18、ヌクレオチド配列の配列番号171)をコードするオープンリーディングフレームを含む3μgのmRNAを用いて細胞を共導入した。エレクトロポレーション後、4mMグルタミンを含む培地で48時間培養し、その後、グルタミンを欠く培地で1mlあたり300,000個の細胞に希釈した。細胞を5日ごとにグルタミンを含まない新鮮な培地に交換した。各トランスフェクションの細胞の生存率は、Beckman-Coulter Vi-Cellを用いてトランスフェクション後のさまざまな時点で測定した。生存細胞の総数も同じ装置で測定した。その結果を表6に示す。
【0140】
表6のB列及びC列は、トランスポザーゼの非存在下で、完全長のトランスポゾンエンドを含むトランスポゾンを細胞にトランスフェクションした場合の、細胞生存率及び生存細胞密度の減少を示す。この実験では、細胞生存率と生存細胞密度がともに低下していることが確認された。一方、同じトランスポゾンをアミエロイストランスポザーをコードするmRNAと共導入した場合、細胞生存率と生存細胞密度は当初低下したが、18日目にはリカバーし始め、25日目から29日目の間には完全にリカバーした(表6列C及びD)。左トランスポゾンエンドを配列番号7で示される配列から配列番号13で示される配列に切断した場合にも、同様の結果が得られた(表6のE列及びF列とG列及びH列をそれぞれ比較)。また、右トランスポゾンエンドを配列番号8で示される配列から配列番号16で示される配列に切断した場合にも、同様の結果が得られた(表6のI及びJ列とK及びL列をそれぞれ比較)。このことは、配列番号9を有するトランスポゾンITR配列にすぐ隣接する5'-TTAA-3'組み込み標的配列に加えて、アミエロイス合成トランスポゾン左トランスポゾンエンドは、左トランスポゾンITR配列にすぐ隣接する配列番号7及び13から選択される追加配列をさらに含んでいてもよいこと、及びアミエロイス合成トランスポゾン右トランスポゾンエンドは、右トランスポゾンITR配列にすぐ隣接する配列番号8及び16から選択された追加配列を含んでもよいことを示す。
【0141】
6.1.6 高活性アミエロイストランスポザーゼの作製
配列番号18で示される天然に存在するアミエロイストランスポザーゼ配列に対して、転移活性の増加、又は切除活性の増加のいずれかにつながるアミエロイストランスポザーゼ変異を同定するために、活性piggyBac様トランスポザーゼのCLUSTALアライメントを分析した。表1のC列は、アミエロイスのトランスポザーゼの各位置(表1のA列に示された位置)に対して、活性piggyBac様トランスポザーゼに見られるアミノ酸を示している。配列番号18で示されるアミエロイストランスポザーゼに存在するアミノ酸は、表1のB列に示されている。トランスポザーゼは宿主にとって有害であることが多いため、トランスポザーゼを不活性化する変異が蓄積する傾向がある。異なるトランスポザーゼにおいて蓄積される変異は異なり、それぞれがランダムな確率で発生する。そのため、コンセンサス配列は、有害な変異が蓄積される前の祖先の配列を近似的に示すために使用できる。少数の現存する配列から祖先配列を正確に算出することは困難なため、私たちは活性トランスポザーゼがより高度に保存されている位置で、コンセンサスアミノ酸がアミエロイストランスポザーゼのものと異なる位置に注目した。これらのアミノ酸を、他の活性トランスポザーゼで見られるコンセンサスアミノ酸に変異させれば、アミエロイストランスポザーゼの活性を高めることができるかもしれないと考えた。これらの有益なアミノ酸置換の候補を表1のD列に示す。
【0142】
6.1.6.1 アミエロイストランスポザーゼバリアントの第1のセット
P65E、D79N、R95S、V100I、V106P、L115D、E116P、H121Q、V131E、K139E、T159N、V166F、G174A、G179N、W187F、P198R、L203R、I209L、N211R、A225R、P232A、E238D、V261L、L273M、L273I、D304R、D304K、Y310G、I323L、Q329G、Q329R、M336C、Y343I、T345L、K362R、T366R、C367E、T380S、L408M、E413S、S416E、I426M、K432Q、S435G、K442Q、N452K、L458M、N466D、T467M、A472S、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、D551R、S560K、T562K、及びS563Kから選択される1つ以上の置換を含むバリアントアミエロイストランスポザーゼをコードする95個の遺伝子のセット。各置換は96個のバリアントセットの中で少なくとも5回表現され、各置換ができるだけ多くの異なる配列コンテクストでテストされるように、置換の異なるペアワイズの組み合わせの数を最大にした。各バリアントの遺伝子は、ロイシンセレクタブルマーカーを含むベクターにクローニングした。トランスポザーゼバリアントをコードする各遺伝子を、Saccharomyces cerevisiaeのGal-1プロモーターに作動可能に連結した。その後、これらの各バリアントを、上述のように配列番号192の染色体上に組み込まれたコピーを含むSaccharomyces cerevisiae株に個別に形質転換した。48時間後、細胞をプレートからロイシンを欠き、ガラクトースを炭素源とする最小培地にスクレーピングした。各培養物のA600を2に調整した。ガラクトース中で4時間培養してトランスポザーゼの発現を誘導した後、1,00倍に希釈したアリコートをロイシン、ウラシル、トリプトファンを欠く培地にプレーティングし(転移をカウント)、1,00倍に希釈したアリコートをロイシンとウラシルを欠く培地にプレーティングし(切除をカウント)、25,000倍に希釈したアリコートをロイシンを欠く培地にプレーティングした(トータル生細胞をカウント)。2日後、コロニーを数え、転移(=-leu-ura-trp培地上の細胞数÷(250×-leu培地上の細胞数))及び切除(=-leu-ura培地上の細胞数÷(250×-leu培地上の細胞数))の頻度を測定した。その結果を表7に示す。我々は、天然に存在するアミエロイストランスポザーゼと比較して1.2倍から5倍高い活性を有す18個のアミエロイストランスポザーゼバリアント(配列番号96~113で示される配列を有す)を同定した。また、天然に存在するアミエロイストランスポザーゼと同等の活性を有す17個のアミエロイストランスポザーゼバリアント(配列番号19~35で示される配列を有す)を同定した。また、天然に存在するアミエロイストランスポザーゼよりも低い切除又は転移活性を有す45個のアミエロイストランスポザーゼバリアント(配列番号51~95で示される配列を有す)を同定した。95個のバリアントのうち15個(配列番号36~50で示される配列を有す)は本質的に不活性であるほど低い活性を有していた。
【0143】
転移頻度に対する配列変化の影響を、Liaoらの論文(2007, BMC Biotechnology 2007, 7:16 doi:10.1186/1472-6750-7-16 "Engineering proteinase K using machine learning and synthetic genes")及び米国特許8,635,029に記載されているように2つの異なる方法を使用してモデル化した。回帰重みの平均値と標準偏差を各置換基について計算し、表8に示した。トランスポザーゼ活性に対する個々の置換の効果は、状況(即ち、存在する他の置換)に応じて変化する可能性がある。正(positive)の平均回帰重みは、テストされた全ての異なる配列の状況を考慮すると、平均して、その置換が測定された特性に正の影響を与えることを示している。正の平均回帰重みを持つ置換を配列に組み込むと、通常、活性が改善されたバリアントが得られる(Liao et. al., ibid)。この状況依存の変動性のさらなる尺度は、回帰加重の標準偏差である。平均回帰重みに置換の回帰重みの標準偏差を加えた値がゼロ以上であれば、その置換が正の効果を持つ状況が存在することになる。置換の平均回帰重みがゼロ以上であれば、測定された全ての状況における置換の平均効果は正である(Liao et al, ibid)。置換の平均回帰重みから回帰重みの標準偏差を引いた値がゼロ以上であれば、その置換は大部分の配列状況で正の効果を持つ(Liao et al, ibid)。他のpiggyBac様トランスポザーゼのコンセンサスに対する変化を調べて選んだ59個の置換のうち33個(D79N、R95S、L115D、E116P、H121Q、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、E238D、L273M、L273I、D304R、D304K、Q329G、T345L、K362R、T366R、L408M、S416E、S435G、L458M、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、S560K、S563K)は、使用したいずれかの方法で決定した平均回帰重みが0以上であった。これは、有益な効果を持つ特定の置換を同定することに加えて、類似の置換が有益であり得る位置を提供する。例えば、304位の酸性アスパラギン酸を塩基性残基リシン又は塩基性残基アルギニンで置換すると、正の効果が得られる。これは、1つの位置で複数の異なる類似の置換が有益であることを示す証拠となる。類似の置換とは、アミノ酸の特性が保存されている置換のことである。例えば、グリシン及びアラニンは「小さい」アミノ酸群であり、バリン、ロイシン、イソロイシン、及びメチオニンは、「疎水性」のアミノ酸群群であり、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンは「芳香族」アミノ酸群であり、アスパラギン酸及びグルタミン酸は「酸性」のアミノ酸群であり、アスパラギン及びグルタミンは、「アミド」アミノ酸群であり、ヒスチジン、リシン、アルギニンは「塩基性」のアミノ酸群であり、システイン、セリン、スレオニンは「求核性」のアミノ酸群である。アミエロイストランスポザーゼ内のあるアミノ酸位置での置換が、切除又は転移活性に有益である場合、同じアミノ酸群から選ばれる同じ位置での他の置換も有益である可能性が高い。例えば、139位の塩基性残基であるリシンを酸性残基であるグルタミン酸に置き換えること(K139E)が有益であることから、酸性残基であるアスパラギン酸に置き換えること(即ちK139D)も有益であると考えられる。同様に、166位の疎水性残基であるバリンを芳香族残基であるフェニルアラニンに置き換えることが有益であることから、芳香族残基チロシン又はトリプトファンに置き換えること(即ち、V166Y又はV166W)も有益であると考えられる。有利な高活性アミエロイストランスポザーゼは、アミノ酸79、95、115、116、121、139、166、179、187、198、203、211、238、273、273、304、304、329、345、362、366、408、416、435、458、475、483、491、529、540、560、及び563から選択される1つ以上の位置にアミノ酸置換を含み、例えば、D79N、R95S、L115D、E116P、H121Q、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、E238D、L273M、L273I、D304R、D304K、Q329G、T345L、K362R、T366R、L408M、S416E、S435G、L458M、V475I、N483K、I491M、A529P、K540R、S560K、及びS563Kから選択される1つ以上の置換、又は同じ位置に類似の変更がある。
【0144】
選択された59のアミノ酸置換のうち、1つ(G174A)のみが本質的に不活性なトランスポザーゼに見られた。このことから、アミエロイストランスポザーゼの配列を活性のあるpiggyBac様トランスポザーゼのコンセンサス配列に近づけるアミノ酸変更によって、アミエロイストランスポザーゼに組み込み、転移及び切除活性を保持するバリアントを作ることができることを示している。これは表1のD列に記載されている変更である。置換の最初のセットから得られた正の結果は、表1のD列の他の変更もアミエロイストランスポザーゼに組み込んでその活性を向上させることができるという証拠となる。
【0145】
6.1.6.2 アミエロイストランスポザーゼバリアントの第2のセット
Liaoらの論文(2007, BMC Biotechnology 2007, 7:16 doi:10.1186/1472-6750-7-16 "Engineering proteinase K using machine learning and synthetic genes")、米国特許8,635,029、セクション5.4.2及び5.4.3に記載されているように、他の置換の異なる組み合わせの状況の中で何度もテストされた、蛋白質の「1つ以上の活性に対する相対的又は絶対的な貢献を示す正の回帰係数、重み、又は他の値」を持つ置換は、「目的の1つ以上の特性、活性、又は機能について向上した」蛋白質を得るために、蛋白質に有用に組み込まれる。表8に示した置換の重みに基づいて、最もポジティブな置換のいくつか(R95S、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、D304K、D304R、T345L、T366R、K540R)を組み合わせた57の新しいバリアント(配列番号114~170で示される配列を有す)をコードするオープンリーディングフレームのセットを設計した。各置換は57個のバリアントの中で少なくとも10回表現され、各置換ができるだけ多くの異なる配列状況でテストされるように、置換の異なるペアワイズの組み合わせの数を最大にした。各変バリアントのオープンリーディングフレームはロイシンセレクタブルマーカーを含むベクターにクローニングした。トランスポザーゼバリアントをコードする各オープンリーディングフレームを、Saccharomyces cerevisiae Gal-1プロモーターに作動可能に連結した。次に、この各バリアントを、セクション6.1.6.1に記載されているように、配列番号192の染色体上に組み込まれたコピーを含むSaccharomyces cerevisiae株に個別に形質転換した。48時間後、細胞をプレートからロイシンを欠き、ガラクトースを炭素源とする最小培地にスクレーピングした。各培養物のA600を2に調整した。培養物をガラクトース中で4時間培養してトランスポザーゼの発現を誘導した後、5,000倍に希釈したアリコートをロイシン、ウラシル、トリプトファンを欠く培地にプレーティングし(転移をカウントするため)、25,000倍に希釈したアリコートをロイシンを欠く培地にプレーティングした(全生細胞をカウントするため)。2日後、コロニーを数え、転移(=-leu -ura -trp培地上の細胞数÷(5 x -leu培地上の細胞数))の頻度を求めた。その結果を表9に示す。
【0146】
表9には、57の新しいアミエロイストランスポザーゼバリアントの活性に加えて、第1のセットで最も活性の高かった12のバリアントの活性も示されている。新しいセットのバリアントの半分超は、第1のセットからの最高のバリアントよりも高い転移活性を有し、新しいバリアントのすべてが、天然に存在するアミエロイストランスポザーゼよりも実質的に(50超以上)高い転移活性を有していた。好ましい抗活性アミエロイストランスポザーゼは、同じ位置にR95S、K139E、V166F、G179N、W187F、P198R、L203R、N211R、D304K、D304R、T345L、T366R、K540R、又は同じ位置の類似の変化から選択されるアミノ酸置換を含む。
【0147】
表の簡単な説明
表1. トランスポザーゼ活性の増強をもたらす可能性の高いアミノ酸変化
トランスポザーゼ活性を向上させる可能性のあるアミノ酸置換を、セクション5.2.6に記載したように同定した。A列はアミエロイストランスポザーゼにおける位置(配列番号18に対する)を示し、B列はネイティブな蛋白質におけるアミノ酸を示し、C列はアライメントにおける同等の位置にある既知の活性piggyBac様トランスポザーゼにおいて見出されるアミノ酸を示し、D列はアミエロイストランスポザーゼ以外の既知の活性piggyBac様トランスポザーゼにおいて、トランスポザーゼセットの残りの中で良好な保存性があるが、アミエロイストランスポザーゼの配列では異常値である位置において見出されるアミノ酸の変化を示す。これらのアミノ酸に変異が生じると、特にトランスポザーゼ活性が増強される可能性が高い。列の中に複数のアミノ酸の文字があるのは、それらの個々のアミノ酸の置換がそれぞれ許容されるか有益であることを意味し、ペプチドを表すことを意図していない。例えば、2番目の位置では、アミノ酸T、A、R、D又はNがすべて許容されるため、C列はこれを示すために「TARDN」を含む。
【0148】
表2. 酵母におけるトランスポゾンの切除及び転移
トランスポゾン及びトランスポザーゼの供給源は、A列に記載されている。列Bに示す配列番号を有する左の配列及び列Cに示す配列番号を有する右の配列は、セクション6.1.2に記載されるようにレポータープラスミドを構築するために使用した。このレポータープラスミドは、D列に示す配列番号で示されるインサート配列を有する。このレポータープラスミドをSaccharomyces cerevisiaeのTrp-株のUra3遺伝子に組み込んだ。E列に示される配列番号に示されるアミノ酸配列は、逆翻訳、合成し、そしてサッカロミセス・セレビシエで発現可能なLeu2遺伝子及び2ミクロン複製起点を含むプラスミドにクローンニングした。トランスポザーゼ遺伝子をGal1プロモーターに作動可能に連結させた。トランスポザーゼを含むプラスミドをレポーター株に形質転換し、発現を誘導した後、セクション6.1.1に記載の方法で細胞を培養した。誘導した培養液を25,000倍に希釈した後、Leuドロップアウトプレートに100μlをプレーティングし、さらに100倍に希釈した後、Leu ura又はLeu ura trpドロップアウトプレートに100μlをプレーティングした。F列は、leuドロップアウトプレート上のコロニー数を示す。G列は、leu uraドロップアウトプレート上のコロニー数を示す(レポーターのura遺伝子の途中からのトランスポゾンの切除を示す)。H列はleu ura trpドロップアウトプレート上のコロニー数を示す(レポーターのura遺伝子の途中からのトランスポゾンの切除、及びゲノム上の別の部位への転移を示す)。
【0149】
表3. CHO標的細胞のゲノムへのトランスポゾンの転移
セクション6.1.3に記載されているように、細胞をトランスポゾンとトランスポザーゼでトランスフェクションした。トランスポゾン配列番号は1行目に、共導入したトランスポザーゼ配列番号は2行目に示されている。各トランスフェクションについて、行3に示すように、生存率(生存している細胞の割合)及び総生存細胞密度(1mlあたり数百万個の細胞)を隣接する列に示す。行4~18は、トランスフェクション後の様々な時点でのこれらの測定値を示しており、経過した日数は列Aに示されている。
【0150】
表4. CHO標的細胞のゲノムに組み込まれたトランスポゾンからの抗体生産
セクション6.1.3に記載されているように、トランスポゾン(配列番号256を有す)と配列番号18のポリペプチド配列を持つトランスポザーゼをコードするDNAで細胞をトランスフェクションした。リカバリーを表3に示す。14日間のフィードバッチ抗体生産の実行中、培養上清は示された濃度の抗体を含んでいた。A列は7日目の抗体価を示す。B列は10日目の抗体価を示す。C列は12日目の抗体価を示す。D列は14日目の抗体価を示す。
【0151】
表5. mRNAにコードされたトランスポザーゼによるCHO標的細胞のゲノムへのトランスポゾンの転移
セクション6.1.4に記載されているように、配列番号256を有すトランスポゾンと配列番号18を有すトランスポザーゼをコードするmRNAで細胞をトランスフェクションした。生存率(生存している細胞の割合)及び全生存細胞密度(1mlあたり数百万個の細胞)を、1行目に示したように、それぞれB列とC列に示した。行2~12は、トランスフェクション後のさまざまな時点でのこれらの測定値を示しており、トランスフェクションからの経過日数は列Aに示されている。
【0152】
表6. CHO標的細胞のゲノムへの切断された末端配列を有するトランスポゾンの転移
セクション6.1.5に記載されているように、トランスポゾン及びmRNAにコードされたトランスポザーゼで細胞をトランスフェクションした。トランスポゾンは、2行目に示した配列番号を有する左エンド配列がすぐに隣接した配列番号11を有するITRの配列にすぐ隣接する5'-TTAA-3'組み込み標的配列を含む左トランスポゾンエンドを含んでいた。トランスポゾンはさらに、5'-TTAA-3'組み込み標的配列にすぐ隣接する配列番号12を有するトランスポゾンITR配列にすぐ隣接する3行目に示す配列番号を有する右エンド配列を含む右トランスポゾンエンドを含んでいた。2つのトランスポゾンエンドは配列番号370を有すグルタミン合成酵素レポーターの両側に配置した。1行目は、標的配列、ITRs、追加のトランスポゾンエンド配列、及びセレクタブルマーカーを含むトランスポゾンの配列番号を示している。4行目は、トランスフェクションされたmRNAがコードするトランスポザーゼの配列番号を示す。5行目の「V」と書かれた列には生存率(生存している細胞の割合)が示され、5行目の「VCD」と書かれた列には全生存細胞密度(1mlあたり数百万個の細胞)が示されている。6~15行目は、トランスフェクション後の様々な時点でのこれらの測定値を示し、トランスフェクションからの経過日数はM列に示されている。
【0153】
表7. アミエロイストランスポザーゼバリアントの転移及び切除活性
アミエロイストランスポザーゼバリアントをコードする遺伝子をセクション6.1.6.1に記載されているように設計、合成及びクローニングした。各バリアントの配列番号はA列に記載されている。遺伝子をトランスポザーゼレポーター配列番号192のシングルコピーをゲノムに持つSaccharomyces cerevisiae株に形質転換し、ロイシンを欠く培地にプレーティングした。48時間後、細胞をプレートからロイシンを含まず、ガラクトースを炭素源とする最小培地にスクレーピングした。各培養物のA600を2に調整した。ガラクトースで4時間培養し、トランスポザーゼの発現を誘導した。培養液をロイシンを欠く最小培地で1,00倍に希釈した。そして、1つの100μlのアリコートをロイシンとウラシルを欠く最小培地の寒天プレートにプレーティングした(トランスポゾン切除の測定のため)。別の100μlのアリコートをロイシン、トリプトファン、ウラシルを欠く最小培地の寒天プレートにプレーティングした(トランスポゾン転移の測定のため)。また、各培養液を25,000倍に希釈し、100μlのアリコートをロイシンを欠く最小培地の寒天プレートにプレーティングした(生細胞の測定のため)。48時間後、各プレート上のコロニーをカウントし、ロイシンを欠いたプレート上のコロニー数をB列に、ロイシン、ウラシル及びトリプトファンを欠いたプレート上のコロニー数をC列に、ロイシン及びウラシルを欠いたプレート上のコロニー数をD列に示した。E列は転移頻度を示す(C列の数をB列の数で割り、さらに250で割って算出)。F列は切除頻度を示す(D列の数字をB列の数字で割り、さらに250で割って算出)。G欄のアスタリスクは、ロイシンとウラシルを欠いたプレート、又はロイシン、トリプトファン及びウラシルを欠いたプレートにおいてコロニーが密集し正確にカウントできなかったバリアントを示す。これらのバリアントの再測定結果を表9に示す。
【0154】
表8. アミエロイストランスポザーゼバリアントにおけるアミノ酸置換のモデル重み
アミエロイストランスポザーゼの切除及び転移活性に対する配列変化の影響を、Liaoらの論文(2007, BMC Biotechnology 2007, 7:16 doi:10.1186/1472-6750-7-16 "Engineering proteinase K using machine learning and synthetic genes")及び米国特許8,635,029に記載されているようにモデル化した。回帰重みの平均値及び標準偏差を各置換について計算した。(配列番号18に対する)位置をA列に示し、配列番号18のこの位置に見出されるアミノ酸をB列に示す。テストされたアミノ酸の置換は、C列に示されている。ログデータ変換を用いた転移活性に関する置換の回帰重みをD列に示し、この回帰重みの標準偏差をE列に示す。ログデータ変換を用いた転移活性に関する置換の回帰重みをF列に、この回帰重みの標準偏差をG列に示す。
【0155】
表9. アミエロイストランスポザーゼバリアントの転移活性(第2のセット)
アミエロイストランスポザーゼバリアントをコードする遺伝子をセクション6.1.6.2に記載されているように設計、合成、及びクローンニングした。各バリアントの配列番号はA列に記載した。遺伝子をトランスポザーゼレポーター配列番号192のシングルコピーをゲノムに持つSaccharomyces cerevisiae株に形質転換し、ロイシンを欠く培地にプレーティングした。48時間後、細胞をプレートからロイシンを欠き、ガラクトースを炭素源とする最小培地にスクレーピングした。各培養物のA600を2に調整した。ガラクトースで4時間培養し、トランスポザーゼの発現を誘導した。培地をロイシンを欠く最小培地で5,000倍に希釈した。1つの100μlのアリコートをロイシン、トリプトファン及びウラシルを欠く最小培地の寒天プレートにプレーティングした(トランスポゾン転移の測定のため)。各培地を25,000倍に希釈し、100μlのアリコートをロイシンを欠く最小培地の寒天プレートにプレーティングした(生細胞の測定のため)。48時間後、各プレート上のコロニーを数え、ロイシンを欠くプレート上のコロニー数をB列に、ロイシン、ウラシル及びトリプトファンを欠くプレート上のコロニー数をC列に示した。D列は転移頻度を示す(C列の数値をB列の数値で割り、さらに5で割って算出)。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【0156】
7. 参考文献
本明細書で引用されている全ての文献は、個々の出版物又は特許もしくは特許出願が、全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。引用に関連する情報が時間とともに変化する可能性がある範囲では、本願の有効出願日に有効なバージョンを意味し、有効出願日とは引用が最初に言及された出願又は優先権のある出願の出願日を意味する。
【0157】
当業者にはわかるように、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、本発明の多くの改変及び変形を行うことができる。本明細書に記載されている特定の実施形態は、例としてのみ提供されており、本発明は、添付の特許請求の範囲の条件によってのみ限定されるものであり、そのような特許請求の範囲が権利を有する均等物の完全な範囲と共に提供されるものである。文脈から明らかでない限り、任意の実施形態、態様、要素、特徴、又は工程は、他の任意のものと組み合わせて使用できる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスポゾン
であって、左及び右トランスポゾンエンドの間にある異種ポリヌクレオチドを含み、前記左エンドは配列番号9を含み、且つ前記右エンドは配列番号10を含み、ここで、前記トランスポゾンは配列番号18の配列を有するトランスポザーゼによって転移可能である、トランスポゾン。
【請求項2】
前記左トランスポゾンエンドにすぐ隣接し、前記左トランスポゾンエンドと前記異種ポリヌクレオチドの間にある配列番号13と少なくとも90%同一の配列、
及び前記右トランスポゾンエンドにすぐ隣接し、前記右トランスポゾンエンドと前記異種ポリヌクレオチドの間にある配列番号16と少なくとも90%同一の配列
、をさらに含む、請求項
1に記載のトランスポゾン。
【請求項3】
前記異種ポリヌクレオチドが、真核細胞で活性な異種プロモーターを含む、請求項
1又は
2に記載のトランスポゾン。
【請求項4】
前記プロモーターが、i)オープンリーディングフレーム、ii)セレクタブルマーカーをコードする核酸、iii)カウンターセレクタブルマーカーをコードする核酸、iii)制御蛋白質をコードする核酸、iv)阻害性RNAをコードする核酸のうち、少なくとも1つ以上と作動可能に連結している、請求項
3に記載のトランスポゾン。
【請求項5】
前記異種プロモーターが、配列番号474~558から選択される配列を含む、請求項
3に記載のトランスポゾン。
【請求項6】
前記異種ポリヌクレオチドが、真核細胞で活性な異種エンハンサーを含む、請求項
1~
5のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項7】
前記異種エンハンサーが、配列番号453~473から選択される、請求項
6に記載のトランスポゾン。
【請求項8】
前記異種ポリヌクレオチドが、真核細胞でスプライシング可能な異種イントロンを含む、請求項
1~
7のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項9】
前記異種イントロンのヌクレオチド配列が、配列番号561~621から選択される、請求項
8に記載のトランスポゾン。
【請求項10】
前記異種ポリヌクレオチドがインシュレーター配列を含む、請求項
1~
9のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項11】
前記インシュレーターの核酸配列が配列番号435~441から選択される、請求項
10に記載のトランスポゾン。
【請求項12】
前記異種ポリヌクレオチドがセレクタブルマーカーを含むか又はコードしている、請求項
1~
11のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項13】
前記セレクタブルマーカーが、グルタミン合成酵素、ジヒドロ葉酸還元酵素、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ酵素、ブラストサイジンアセチルトランスフェラーゼ酵素、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ酵素、アミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ酵素及び蛍光蛋白質から選択される、請求項
12に記載のトランスポゾン。
【請求項14】
ゲノムが、
左及び右トランスポゾンエンドの間にある異種ポリヌクレオチドを含むトランスポゾンを含み、前記左エンドが配列番号9を含み、且つ前記右エンドが配列番号10を含み、ここで、前記トランスポゾンは配列番号18の配列を有するトランスポザーゼによって転移可能である、真核生物細胞。
【請求項15】
前記細胞が哺乳類細胞である、請求項
14に記載の細胞。
【請求項16】
前記細胞がげっ歯類細胞
又はヒト細胞である、請求項
15に記載の哺乳類細胞。
【請求項17】
前記異種ポリヌクレオチドが2つのオープンリーディングフレームを含み、それぞれが別々のプロモーターに作動可能に連結している、請求項
1~
13のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項18】
前記異種ポリヌクレオチドが、配列番号745~928から選択される配列をさらに含む、請求項
17に記載のトランスポゾン。
【請求項19】
トランスポゾンを真核細胞に組み込む方法であって、
a.
左及び右トランスポゾンエンドの間にある異種ポリヌクレオチドを含むトランスポゾンを細胞に導入する工程
であって、
前記左エンドが配列番号9を含み、且つ前記右エンドが配列番号10を含む、工程、及び
b. 配列番号18と少なくとも90%同一の配列のトランスポザーゼを細胞内に導入する工程であって、ここで、前記トランスポザーゼがトランスポゾンを転移させて、異種ポリヌクレオチドを挟む配列番号9及び配列番号10を含むゲノムを生成する、工程、
を含む、方法。
【請求項20】
前記トランスポザーゼが、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとして導入される、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドがmRNA分子である、請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
前記トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドがDNA分子である、請求項
20に記載の方法。
【請求項23】
前記トランスポザーゼが蛋白質として導入される、請求項
19に記載の方法。
【請求項24】
前記異種ポリヌクレオチドがセレクタブルマーカーをコードし、
c. 前記セレクタブルマーカーを含む細胞を選択する工程、
を含む、請求項
19~
23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
請求項
24に記載の
方法によって生産される細胞
であって、前記細胞が哺乳類細胞である、細胞。
【請求項26】
前記細胞がげっ歯類細胞
又はヒト細胞である、請求項
25に記載の哺乳類細胞。
【請求項27】
ポリペプチドを発現させる方法であって、
左及び右トランスポゾンエンドの間にある異種ポリヌクレオチドを含むゲノムを有する真核細胞を培養する工程を含み、ここで、
前記左エンドが配列番号9を含み、且つ前記右エンドが配列番号10を含み、前記トランスポゾンは配列番号18の配列を有するトランスポザーゼによって転移可能であり、前記ポリヌクレオチドが発現する、方法。
【請求項28】
培地から
前記ポリペプチドから発現されるポリペプチドを精製する工程をさらに含む、請求項
27に記載の方法。
【請求項29】
精製されたポリペプチドを医薬組成物に組み込む工程をさらに含む、請求項
27又は
28に記載の方法。
【請求項30】
異種プロモーターに作動可能に連結している、配列番号18と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するトランスポザーゼをコードするオープンリーディングフレームを含む、ポリヌクレオチド。
【請求項31】
前記トランスポザーゼが、配列番号18の配列に対して、表1のC列及びD列に示す変異を含む、請求項30に記載のポリヌクレオチド。
【請求項32】
前記プロモーターが真核細胞内で活性である、請求項30又は31に記載のポリヌクレオチド。
【請求項33】
前記真核細胞が哺乳類細胞であり、任意に、前記オープンリーディングフレームのコドンが哺乳類細胞の発現のために選択されている、請求項32に記載のポリヌクレオチド。
【請求項34】
ポリペプチドをコードする単離されたmRNAであって、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号18と少なくとも90%同一であり、前記mRNAの配列は、mRNAと配列番号781との間の対応する位置において、配列番号929に対して少なくとも10個の同義語コドンの相違を含み、任意に、対応する位置のmRNAのコドンが哺乳類細胞の発現のために選択されている、単離されたmRNA。
【請求項35】
請求項31~34のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドによってコードされる非天然ポリペプチド。
【国際調査報告】