(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-27
(54)【発明の名称】粘性物質中を移動するように構成されたマイクロロボット
(51)【国際特許分類】
A61B 34/32 20160101AFI20220520BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
A61B34/32
B81B3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560320
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2020058755
(87)【国際公開番号】W WO2020201108
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521440482
【氏名又は名称】ロビューテ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ドゥプラット,ベルトランド
(72)【発明者】
【氏名】オウルマス,アリ
(72)【発明者】
【氏名】フランコイズ,クエンティン
【テーマコード(参考)】
3C081
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA13
3C081BA21
3C081BA22
3C081BA25
3C081BA29
3C081BA42
3C081BA55
3C081EA32
3C081EA39
3C081EA41
(57)【要約】
粘性物質中、特に脳などの被検体の臓器中を移動するように構成されたマイクロロボットであって、そのマイクロロボットは、頭部、後部、および頭部と後部とを接続する変形可能部を備える推進構造体を有する。変形可能部は、頭部と後部とを接続する主軸に沿って伸長/収縮変形可能である。頭部は、その表面に少なくとも1つの推進繊毛を備え、少なくとも1つの推進繊毛の一端は、頭部に取り付けられ、少なくとも1つの推進繊毛の他端は、粘性物質中を自由に移動するように構成された自由端である。推進構造体はさらに、変形可能部の伸長/収縮サイクルを連続的に作動させるように構成されたモータを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性物質中、特に脳などの被検体の臓器中を移動するように構成されたマイクロロボットであって、前記マイクロロボットは、頭部、後部、および前記頭部と前記後部とを接続する変形可能部を備える推進構造体を有し、前記変形可能部は、前記頭部と前記後部とを接続する主軸に沿って伸長/収縮変形可能であり、前記頭部は、その表面に少なくとも1つの推進繊毛を備え、前記少なくとも1つの推進繊毛の一端は前記頭部に取り付けられ、前記少なくとも1つの推進繊毛の他端は、前記粘性物質中を自由に移動するように構成された自由端であり、前記推進構造体はさらに、前記変形可能部の伸長/収縮サイクルを連続的に作動させるように構成されたアクチュエータを備える、マイクロロボット。
【請求項2】
前記アクチュエータによって作動される前記変形可能部の各伸長/収縮サイクルについて、前記変形可能部の前記収縮相における前記粘性物質中での前記少なくとも1つの推進繊毛の自由端の経路は、前記変形可能部の前記伸長相における前記粘性材料中での前記少なくとも1つの推進繊毛の自由端の経路とは異なる、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項3】
前記少なくとも1つの推進繊毛は、繊毛本体を備え、前記繊毛本体は、前記繊毛本体の長手方向軸に対して横方向に見て非対称断面を有する、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項4】
前記少なくとも1つの推進繊毛は、繊毛本体と、前記少なくとも1つの推進繊毛の自由端を形成する拡大端部とを備え、前記繊毛本体の長手方向軸に対して横方向に取られた前記拡大端部の断面積は、前記繊毛本体の長手方向軸に平行な少なくとも1つの平面における前記拡大端部の断面積よりも小さい、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項5】
前記変形可能部は、前記頭部に取り付けられた前端と、前記後部に取り付けられた後端とを有するベローズ部材を備える、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項6】
前記ベローズ部材の周壁の山部および谷部の厚さの前記ベローズ部材の周壁の2つの連続する山部と谷部との間の接合部の厚さに対する比は、2より大きく、好ましくは5より大きく、より好ましくは10より大きい、請求項5に記載のマイクロロボット。
【請求項7】
前記前部は、前方に移動するときに主軸を中心とした前記マイクロロボットの回転運動を引き起こすように、螺旋状に前記前部上に配置された複数の推進繊毛を備える、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項8】
前記後部は、その表面に、前記頭部の少なくとも1つの推進繊毛と同様であるまたは異なる少なくとも1つの推進繊毛を備える、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項9】
前記変形可能部は、前記頭部に取り付けられた前端と、前記後部に取り付けられた後端とを有するばね部材を備える、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項10】
前記ばね部材は、互いに対して螺旋状に配置された少なくとも3つの脚部を備える、請求項9に記載のマイクロロボット。
【請求項11】
一列に位置決めされた少なくとも2つの推進構造体を備え、前記推進構造体のアクチュエータは、前記粘性物質中で前記マイクロロボットの非往復運動を発生させるように、所定の順序で前記推進構造体の変形可能部の伸長/収縮サイクルを作動させるように構成される、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項12】
前記アクチュエータは、圧電トランスデューサを備える、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項13】
前記アクチュエータは、ポンプ、特に電気浸透ポンプを備える、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項14】
前記アクチュエータは、前記変形可能部の一端に取り付けられた電磁コイルと前記変形可能部の他端に取り付けられた磁石との組み合わせを含む電磁トランスデューサを備える、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項15】
前記アクチュエータは、前記変形可能部に含まれる光反応性材料であって、光の影響下で収縮または伸長するように構成された光反応性材料と、特に光ファイバによって前記変形可能部の近傍に設けられた光源とを備える、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項16】
前記変形可能部は、0.1~10GPa、好ましくは0.5~2GPaのヤング率を有するポリマーで作製される、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項17】
前記少なくとも1つの推進繊毛は、前記変形可能部と同じ材料で作製される、請求項1に記載のマイクロロボット。
【請求項18】
前記マイクロロボットは、10
-5~10
-1のレイノルズ数Reを有する低レイノルズ数の流動性物質中を移動するように構成される、請求項1に記載のマイクロロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性物質中、特に脳などの被検体の臓器中を移動するように構成されたマイクロロボットに関する。このようなマイクロロボットは、低侵襲性外科手術、正確に標的化された治療などの種々の生物医学的動作を行うために使用され得る。
【背景技術】
【0002】
損傷を伴わずに深部構造および機能性構造に到達することができることは、低侵襲性手術、特に脳神経外科手術における主要な課題である。マイクロテクノロジーのおかげで、完全自律型マイクロロボットを脳などの被験体の臓器の内部に送ることが可能になる。しかしながら、脳のように、低レイノルズ数の環境の中のマイクロロボットの推進は、慣性がなく、マイクロロボットのサイズが小さいことで比較的高い抗力が存在するため、課題である。別の重要な要件は、マイクロロボットが臓器中を移動することができると同時に、マイクロロボットの通過が臓器に引き起こす生理学的損傷を可能な限り抑える必要があるということである。
【0003】
この文脈において、本発明は、変位される環境の完全性を可能な限り維持しながら、低レイノルズ数の流体環境において高効率の推進機構を有するマイクロロボットを提案することを目的とする。
【発明の概要】
【0004】
この目的のために、本発明の主題は、粘性物質中、特に脳などの被検体の臓器中を移動するように構成されたマイクロロボットであり、そのマイクロロボットは、頭部、後部、および頭部と後部とを接続する変形可能部を備える推進構造体を有し、変形可能部は、頭部と後部とを接続する主軸に沿って伸長/収縮変形可能であり、頭部は、その表面に少なくとも1つの推進繊毛を備え、少なくとも1つの推進繊毛の一端は頭部に取り付けられ、少なくとも1つの推進繊毛の他端は、粘性物質中を自由に移動するように構成された自由端であり、推進構造体はさらに、変形可能部の伸長/収縮サイクルを連続的に作動させるように構成されたアクチュエータを備える。
【0005】
本発明のマイクロロボットの特定の構造により、泳者の水泳サイクルと同様に、マイクロロボットの長手方向の推進運動が得られる。特に、アクチュエータによって制御される変形可能部の連続的な伸長/収縮サイクルは、粘性物質中での推進繊毛の変位を引き起こし、その結果、推進繊毛と粘性物質との相互作用による正味の推進力を誘発する。
【0006】
本発明の枠内では、マイクロロボットとは、外径が5ミリメートル未満、特に1~2ミリメートル以下程度のロボットである。
【0007】
一実施形態によれば、アクチュエータによって作動される変形可能部の各伸長/収縮サイクルについて、変形可能部の収縮相における粘性物質中での少なくとも1つの推進繊毛の自由端の経路は、変形可能部の伸長相における粘性材料中での少なくとも1つの推進繊毛の自由端の経路とは異なる。このような変形可能部の伸長相および収縮相に対する推進繊毛の実施態様により、マイクロロボットの非往復運動が可能であり、この非往復運動が低レイノルズ数の流動性物質中での効果的な移動を可能にする。特に、非限定的な例示的実施形態では、粘性物質中での少なくとも1つの推進繊毛の自由端の経路は、変形可能部の各伸長/収縮サイクルについて、楕円経路または円形経路とトポロジー的に同等である。直線線分とトポロジー的に同等な自由端の経路は、たとえ異なるダイナミクスが経路に沿って適用されたとしても、マイクロロボットの非往復運動を実現するのに適切ではないことに留意されたい。
【0008】
一実施形態によれば、少なくとも1つの推進繊毛は、繊毛本体を備え、繊毛本体は、繊毛本体の長手方向軸に対して横方向に見て非対称断面を有する。少なくとも1つの推進繊毛のそのような非対称構造は、マイクロロボットの非往復運動の実現に寄与する。より正確には、繊毛本体の非対称断面により、各々の推進繊毛は、変形可能部の各伸長/収縮サイクルにおいて、粘性物質の影響を受けて非対称に変形され、その結果、推進繊毛は屈曲し得る、またはねじれ得る。
【0009】
一実施形態によれば、少なくとも1つの推進繊毛は、繊毛本体と、少なくとも1つの推進繊毛の自由端を形成する拡大端部とを備え、繊毛本体の長手方向軸に対して横方向に取られた拡大端部の断面積は、繊毛本体の長手方向軸に平行な少なくとも1つの平面における拡大端部の断面積よりも小さい。一実施形態では、繊毛本体の長手方向軸に対して横方向に取られた拡大端部の断面積は、繊毛本体の断面積と実質的に等しいかまたはそれよりも小さく、一方、繊毛本体の長手方向軸に平行な少なくとも1つの平面における拡大端部の断面積は、繊毛本体の断面積よりも大きい。少なくとも1つの推進繊毛のそのような拡大端部は、マイクロロボットの非往復運動の実現に寄与する。具体的には、推進繊毛が変形する(例えば、屈曲するかまたはねじれる)と、最初は変位に対して平行に配向されていた拡大端部のより大きい断面積が変位に対して横方向に配向されるので、粘性物質によって加えられる力がより大きい断面積に加わるようになる。すると、推進繊毛の抵抗が大きくなり、粘性物質中での推進繊毛の自由端の経路が変化する。
【0010】
一実施形態によれば、後部は、その表面に少なくとも1つの推進繊毛を備える。本発明の枠内では、頭部のみに推進繊毛が存在すれば十分であることが理解される。しかし、後部にも推進繊毛が設けられた構成は、粘性物質中でのマイクロロボットの推進に寄与し得る。
【0011】
一実施形態によれば、後部がその表面に少なくとも1つの推進繊毛を備える場合、後部の少なくとも1つの推進繊毛は、頭部の少なくとも1つの推進繊毛と同一であり得る、または異なり得る。
【0012】
一実施形態によれば、前部は、前方に移動するときに主軸を中心としたマイクロロボットの回転運動を引き起こすように、螺旋状に前部上に配置された複数の推進繊毛を備える。このような実施態様は、長手方向の推進運動に加えて、マイクロロボットの粘性物質中への侵入を改善する効果と共に、主軸を中心としたマイクロロボットの回転運動を可能にする。後部が推進繊毛を備える場合、推進繊毛はさらに、前方に移動するときに主軸を中心としたマイクロロボットの回転運動を引き起こすように、後部にも螺旋状に配置されてもよい。
【0013】
一実施形態によれば、変形可能部は、頭部に取り付けられた前端と、後部に取り付けられた後端とを有するベローズ部材を備える。一実施形態では、ベローズ部材の周壁の山部および谷部の厚さのベローズ部材の周壁の2つの連続する山部と谷部との間の接合部の厚さに対する比は、2より大きく、好ましくは5より大きく、より好ましくは10より大きい。この厚さ変化により、薄い接合部は、各伸長/収縮サイクルにおいて厚い山部および谷部を圧迫することができ、このことは、変形可能部の変形の安定性および効率を高める。
【0014】
一実施形態によれば、変形可能部は、頭部に取り付けられた前端と、後部に取り付けられた後端とを有するばね部材を備える。一実施形態では、ばね部材は、螺旋状に配置された1つの脚部を備える。別の実施形態では、ばね部材は、互いに対して螺旋状に配置された少なくとも3つの脚部を備える。
【0015】
一実施形態によれば、変形可能部は、ベローズ部材とばね部材との組み合わせを備え、ベローズ部材の各々の谷部は、ばね部材の2つの連続する巻き間に配置される。
【0016】
一実施形態によれば、変形可能部は、0.001~10GPa、好ましくは0.1~10GPa、さらにより好ましくは0.5~2GPaのヤング率を有する材料で作製される。一実施形態では、頭部、後部、および変形可能部の全てが同じ材料で作製される。
一実施形態では、頭部、後部、および変形可能部の材料は、生体適合性ポリマーである。頭部、後部および/または変形可能部用に使用され得る材料の一例は、MICRO RESIST TECHNOLOGY GmbH社製のORMOCLEARなどのUV硬化性無機-有機ハイブリッドポリマーである。
【0017】
一実施形態によれば、頭部および/または後部の少なくとも1つの推進繊毛は、0.001~10GPa、好ましくは0.1~10GPa、さらにより好ましくは0.5~2GPaのヤング率を有する材料で作製される。一実施形態によれば、少なくとも1つの推進繊毛は、変形可能部と同じ材料で作製される。一実施形態では、少なくとも1つの推進繊毛の材料は、生体適合性ポリマーである。少なくとも1つの推進繊毛用に使用され得る材料の例としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコン、またはORMOCLEARなどのUV硬化性無機-有機ハイブリッドポリマーが挙げられる。
【0018】
一実施形態によれば、マイクロロボットは、一列に、特に端と端をつなぐ形で位置決めされた少なくとも2つの推進構造体を備え、推進構造体のアクチュエータは、粘性物質中でマイクロロボットの非往復運動を発生させるように、所定の順序で推進構造体の変形可能部の伸長/収縮サイクルを作動させるように構成される。このような構成は、低いレイノルズ数の流体中での効果的な移動を可能にするマイクロロボットの非往復運動を実現するための別の方法である。この構成は、単独で使用されてもよいし、上述したような非往復運動を発生させるための少なくとも1つの推進繊毛の形態と組み合わせて使用されてもよい。
【0019】
一実施形態によれば、アクチュエータは圧電トランスデューサを備える。
【0020】
一実施形態によれば、アクチュエータは、ポンプ、特に電気浸透ポンプを備える。この実施形態は、変形可能部がその内部容積内に流体を収容することができる場合、特に変形可能部が連続した周壁を有する場合に適している。一実施形態では、変形可能部はベローズ部材を備え、アクチュエータはポンプ、特に電気浸透ポンプを備える。
【0021】
一実施形態によれば、アクチュエータは、変形可能部の一端に取り付けられた電磁コイルと変形可能部の他端に取り付けられた永久磁石との組み合わせを含む電磁トランスデューサを備える。
【0022】
一実施形態によれば、アクチュエータは、変形可能部に含まれる光反応性材料であって、光の影響下で収縮または伸長するように構成された光反応性材料と、光反応性材料が光源から光を受け取ることができるように、特に光ファイバによって変形可能部の近傍に設けられた光源とを備える。好適な光反応性アクチュエータの一例は、特に酸処理によってヒドロキシアゾピリジウム(hydroxyazopyridinium)形態に局所的に変換されたアゾメロシアニン(azomerocyanine)色素を含有する、二重光応答性液晶系アクチュエータを備える。
【0023】
一実施形態によれば、マイクロロボットは、10-7~10-1、好ましくは10-5~10-1のレイノルズ数Reを有する低レイノルズ数の流動性物質中を移動するように構成される。周知のように、レイノルズ数Reは、所与の流れ条件に対する慣性力および粘性力の相対的重要性を定量化する無次元量である。レイノルズ数Reは、流体中の慣性力と粘性力との比:Re=uL/νとして表すことができ、式中、uは、物体に対する流体の平均速度であり、Lは、特性長さ寸法であり、νは、流体の動粘度である。
【0024】
本発明の特徴および利点は、単なる例として添付図面を参照しながら示されている、本発明のマイクロロボットのいくつかの実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ベローズ部材の形態の変形可能部と圧電アクチュエータとを備える、本発明の第1の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【
図2】粘性物質中を前方移動する
図1のマイクロロボットの4つの連続構成(I~IV)の図である。
【
図3】ベローズ部材の形態の変形可能部と、ベローズ部材に接続され、後側で開放するポンプの形態のアクチュエータとを備える、本発明の第2の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図であり、収縮相(A)および伸長相(B)を含む粘性物質中を前方移動するマイクロロボットの2つの連続構成を示す図である。
【
図4】前方ベローズ部材の形態の変形可能部と、前方ベローズと後方ベローズ部材との間に接続されたポンプの形態のアクチュエータとを備える、本発明の第3の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図であり、収縮相(A)および伸長相(B)を含む粘性物質中を前方移動するマイクロロボットの2つの連続構成を示す図である。
【
図5】前方ベローズ部材の形態の変形可能部と、可撓管を使用して前方ベローズと後方ベローズ部材との間に接続されたポンプの形態のアクチュエータとを備える、本発明の第4の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【
図6】前方ベローズ部材の形態の変形可能部と、前方ベローズと後方ベローズ部材との間に接続されたポンプの形態のアクチュエータとを備え、後方ベローズ部材が剛性筐体内に収容されている、本発明の第5の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【
図7】前方ベローズ部材の形態の変形可能部と、可撓管を使用して前方ベローズと後方ベローズ部材との間に接続されたポンプの形態のアクチュエータとを備え、後方ベローズ部材が剛性筐体内に収容されている、本発明の第6の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【
図8】ばね部材の形態の変形可能部と電磁アクチュエータとを備え、電磁アクチュエータの永久磁石がばね部材の外側に位置決めされている、本発明の第7の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【
図9】ばね部材の形態の変形可能部と電磁アクチュエータとを備え、電磁アクチュエータの永久磁石がばね部材の内部に収容されている、本発明の第8の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【
図10】ベローズ部材とばね部材の組み合わせによって形成された変形可能部とポンプの形態のアクチュエータとを備える、本発明の第9の実施形態に係るマイクロロボットの部分図である。
【
図11】ベローズ部材とばね部材の組み合わせによって形成された変形可能部と電磁アクチュエータとを備え、電磁アクチュエータの永久磁石が変形可能部の外側に位置決めされている、本発明の第10の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【
図12】ベローズ部材とばね部材との組み合わせによって形成された変形可能部と電磁アクチュエータとを備え、電磁アクチュエータの永久磁石が変形可能部の内部に収容されている、本発明の第11の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【
図13】本発明に係るマイクロロボットの推進繊毛の斜視図である。
【
図14】本発明に係るマイクロロボットのベローズ部材の概略断面図である。
【
図15】端と端をつなぐ形で位置決めされた2つの推進構造体を備える、本発明の第12の実施形態に係るマイクロロボットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマイクロロボット1の概略断面図である。マイクロロボット1は、マイクロロボット1に対して低レイノルズ数の流動性物質である被験体の脳の脳脊髄液や細胞外基質などの粘性物質M中を移動するように構成される。この目的のために、マイクロロボット1は、頭部3、後部5、および頭部3と後部5とを接続する変形可能部4を備える推進構造体2を有する。
図1に示されている第1の実施形態では、変形可能部4は、頭部3と後部5とを接続するマイクロロボット1の主軸X
1に沿って伸長/収縮変形可能なベローズ部材41である。推進構造体2はさらに、ベローズ部材41の伸長/収縮サイクルを連続的に作動させるように構成された圧電アクチュエータ7を備える。
【0027】
図1に見られるように、頭部3は、その表面に、粘性物質Mと相互作用するように構成された複数の推進繊毛6を備える。この第1の実施形態では、後部5も同様に、その表面に、頭部3の推進繊毛6と同じ複数の推進繊毛6’を備える。圧電アクチュエータ7によって作動されるベローズ部材41の連続的な伸長/収縮サイクルは、粘性物質M中での推進繊毛6、6’の変位を引き起こし、その結果、推進力を生成し、マイクロロボット1を移動させることになる。
図1に概略的に示される例では、圧電アクチュエータ7は、アクチュエータ7からベローズ部材41に主軸X
1に沿った伸長/収縮運動を伝達するように、ベローズ部材41上の支持点71と共に、ベローズ部材41の内部に収容される。一変形例として、圧電アクチュエータ7は、ベローズ部材41の後端に取り付けられてもよく、例えば、後部5に固定されてもよい。
【0028】
図14に示されているように、ベローズ部材41は、有利には、ベローズ部材41の周壁の山部42および谷部44が、連続する山部と谷部との間の接合部43よりも大きい厚さを有するように可変厚さを有する。有利には、接合部43の厚さt
43に対する山部42および谷部44の厚さt
42、t
44の比は、2よりも大きく、好ましくは5よりも大きく、より好ましくは10よりも大きい。この厚さの変化により、各伸長/収縮サイクルにおいて、薄い接合部43が厚い山部42および谷部44を圧迫することができ、このことが、ベローズ部材41の変形の安定性および効率を高める。
【0029】
図13に示されるように、各々の推進繊毛6、6’の一端62は、頭部3または後部5に取り付けられ、推進繊毛6、6’の他端64は、粘性物質M中で自由に移動するように構成された自由端である。
図13に示される実施形態では、各々の推進繊毛6、6’は、繊毛本体61と、推進繊毛の自由端64を形成する拡大端部63とを備える。繊毛本体61は、繊毛本体の長手方向軸X
6に対して横方向に見て非対称断面、例えば三角形形状の断面を有する。加えて、繊毛本体61の長手方向軸X
6に対して横方向に取られた拡大端部63の断面積S
63⊥は、繊毛本体61の断面積S
61と実質的に等しいかまたはそれよりも小さく、一方、繊毛本体61の長手方向軸X
6に平行な少なくとも1つの平面における拡大端部63の断面積S
63//は、繊毛本体の断面積S
61よりも大きい。
【0030】
繊毛本体61の非対称断面により、各々の推進繊毛6、6’は、ベローズ部材41の各伸長/収縮サイクルにおいて、粘性物質Mの影響を受けて非対称に変形される。したがって、推進繊毛6、6’は、粘性物質Mの影響を受けて屈曲する。推進繊毛6、6’が屈曲すると、最初は変位に対して平行に配向されていた拡大端部63のより大きい断面積S63//が変位に対して横方向に配向されるので、粘性物質Mによって加えられる力がより大きい断面積に加わるようになる。このとき、粘性材料Mに対する推進繊毛6、6’の抵抗が大きくなり、粘性物質M中での推進繊毛6、6’の自由端64の経路が変化する。
【0031】
図13に示されるような推進繊毛6、6’のこの特定の構造では、圧電アクチュエータ7によって作動されるベローズ部材41の各伸長/収縮サイクルについて、ベローズ部材41の収縮相における粘性物質M中での推進繊毛の自由端64の経路は、ベローズ部材41の伸長相における粘性物質中での自由端64の経路とは異なる。粘性物質M中での推進繊毛6、6’の自由端64の経路は、各伸長/収縮サイクルについて、楕円経路または円形経路とトポロジー的に同等であることが認められた。このようにして、脳脊髄液または脳の細胞外基質などの低レイノルズ数の流動性物質中でのマイクロロボット1の効果的な移動を可能にするマイクロロボット1の非往復運動が得られる。
【0032】
任意選択で、推進繊毛6、6’は、前方に移動するときに主軸X1を中心としたマイクロロボット1の回転運動を引き起こすように螺旋状に前部3および後部5に配置されてもよい。コルクスクリューと同様に、長手方向の推進運動に加えて、主軸X1を中心としたマイクロロボット1の回転運動が得られ、マイクロロボット1の粘性物質M中の侵入が改善される。
【0033】
図2は、ベローズ部材41の伸長/収縮サイクルに従って粘性物質M中を前方移動する
図1のマイクロロボット1の4つの連続する構成I、II、III、IVを示す。構成Iでは、ベローズ部材41は収縮状態にある。構成IIでは、圧電アクチュエータ7は伸長位置にあり、ベローズ部材41を伸長させる。この構成では、推進繊毛6、6’は粘性物質Mに圧迫し、マイクロロボット1を前方に推進させる。構成IIIでは、ベローズ部材41は再び収縮状態になり、マイクロロボット1の非常にわずかな後方移動を生じさせ得る。次に、構成IVにおいて、マイクロロボット1は、構成IIIにおける後方移動よりもはるかに大きな前方移動により、再び前方に移動する。
【0034】
非限定的な一例として、以下の特徴を有する本発明のマイクロロボット1は、低レイノルズ数の流動性物質中における推進性能を証明した。
・マイクロロボットの全長を3mm、マイクロロボットの直径を900μmとした。
・ベローズ部材41の長さを600μm、山部42および谷部44の厚さT42、t44を30μm、接合部43の厚さt43を3μmとした。
・各々の推進繊毛6、6’について、繊毛本体61の断面積S61を2500μm2、拡大端部63の横断面積S63⊥を2500μm2、拡大端部63の平行断面積S63//を15000μm2とした。
・頭部3、後部5およびベローズ部材41を、フォトレジストとしてUV硬化性無機-有機ハイブリッドポリマーであるORMOCLEARを使用して3Dレーザリソグラフィによって製造された一体ユニットとして形成した。フォトレジストをガラス基板上に塗布し、3D CAD設計に従ってレーザスポットがフォトレジストを選択的に重合させた。この特定の例では、推進繊毛6、6’を頭部3および後部5と一体的に製造し、すなわち、頭部3および後部5と同じ材料で作製した。
【0035】
図3に示される第2の実施形態において、第1の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第2の実施形態のマイクロロボット1は、アクチュエータがベローズ部材41に接続されたポンプ8の形態であり、後側が開口しているという点で、第1の実施形態とは異なる。非限定的な一例として、ポンプ8は電気浸透ポンプであり得る。この第2の実施形態では、粘性物質Mは、ポンプ8によってベローズ部材41の内外に圧送される。
図3(A)の矢印Fで示されているように、収縮相では、ポンプ8によって粘性物質Mがベローズ部材41から吐出され、ベローズ部材41が収縮する。
図3(B)に示される伸長相では、矢印F’で示されているように、ポンプ8によって粘性物質Mがベローズ部材41の内部容積内に圧送されて、ベローズ部材41を伸長させる。推進繊毛6、6’は粘性物質Mを圧迫し、マイクロロボット1を前方に推進させる。
【0036】
図4に示される第3の実施形態において、第2の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第3の実施形態のマイクロロボット1は、ポンプ8が一端側の前方ベローズ部材41と他端側の後方ベローズ部材53との間に接続されており、前方ベローズ部材41がマイクロロボットを推進させるために伸長/収縮サイクルが使用される変形可能部4であり、後方ベローズ部材53は、後部5の一部であるという点において、第2の実施形態とは異なる。第2の実施形態と比較して、この構成は、粘性物質Mが変形可能部4の内外に圧送されず、粘性物質Mへの衝撃を制限するという利点を有する。その代わりに、ポンプ8は、マイクロロボット1の内部の流体(例えば、水であり得る)を使用して、前方ベローズ部材41の伸長/収縮サイクルを生成する。
図4(A)に示される収縮相では、圧送された流体がポンプ8によって前方ベローズ部材41から吐出されて、後方ベローズ部材53の内部容積へ注入され、前方ベローズ部材41が収縮する。
図4(B)に示される伸長相では、圧送された流体がポンプ8によって後方ベローズ部材53から吐出されて、前方ベローズ部材41の内部容積へ注入され、前方ベローズ部材41を伸長させる。上述したように、推進繊毛6、6’は粘性物質Mを圧迫し、マイクロロボット1を前方に推進させる。
【0037】
図5に示される第4の実施形態において、第3の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第4の実施形態のマイクロロボット1は、ポンプ8が可撓管52を使用して前方ベローズ部材41と後方ベローズ部材53との間に接続されることにより、後部5が前方ベローズ部材41および前部3と整列状態で維持されるのではなく、前方ベローズ部材41および前部3に対して回転することができるという点において、第3の実施形態とは異なる。
【0038】
図6に示される第5の実施形態において、第3の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第5の実施形態のマイクロロボット1は、後方ベローズ部材53が剛性筐体55内に収容されているという点で、第3の実施形態とは異なる。このことにより、後方ベローズ53の伸長/収縮サイクルは、マイクロロボット1の所望の前方移動を妨げない。
【0039】
図7に示される第6の実施形態において、第5の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第6の実施形態のマイクロロボット1は、ポンプ8が可撓管52を使用して前方ベローズ部材41と剛性筐体55内に収容されている後方ベローズ部材53との間に接続されているという点で、第5の実施形態とは異なる。
図5の第4の実施形態に関して先に説明したように、そのような可撓管52を用いると、後部5は、前方ベローズ部材41および前部3と整列した状態で維持されるのではなく、前方ベローズ部材41および前部3に対して回転することができる。
【0040】
図8に示される第7の実施形態において、第1の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第7の実施形態のマイクロロボット1は、変形可能部がばね部材45の形態であり、アクチュエータが電磁コイル91とばね部材45の外側に位置決めされた永久磁石93とを備える電磁アクチュエータ9であるという点において、第1の実施形態とは異なる。より正確には、永久磁石93は、前部3の一部であり、ばね部材45の前端に取り付けられ、電磁コイル91は、後部5の一部であり、ばね部材45の後端に取り付けられる。電磁コイル91に印加される電流に応じて、永久磁石93が電磁コイル91に向かってまたは電磁コイル91から離れる方向に移動し、このことがバネ部材45を収縮または伸長させる。上述したように、推進繊毛6、6’は粘性物質Mを圧迫し、マイクロロボット1を前方に推進させる。
【0041】
図9に示される第8の実施形態において、第7の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第8の実施形態のマイクロロボット1は、電磁アクチュエータ9の永久磁石93がバネ部材45内に収容されているという点で、第7の実施形態とは異なる。この構成により、マイクロロボット1の設計はよりコンパクトになる。
【0042】
図10に示される第9の実施形態において、第1の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第9の実施形態のマイクロロボット1は、変形可能部4がベローズ部材41とばね部材45との組み合わせによって形成され、ベローズ部材41の各々の谷部44がばね部材45の2つの連続する巻き間に位置決めされているという点で、ポンプ8を伴う上述の実施形態(すなわち、
図3~
図7の実施形態)とは異なる。
【0043】
図11に示される第10の実施形態において、第7の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第10の実施形態のマイクロロボット1は、変形可能部4がベローズ部材41とばね部材45との組み合わせによって形成され、電磁アクチュエータ9の永久磁石93が変形可能部4の外側に位置決めされているという点で、第7の実施形態とは異なる。
【0044】
図12に示される第11の実施形態において、第8の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第11の実施形態のマイクロロボット1は、変形可能部4がベローズ部材41とばね部材45との組み合わせによって形成され、電磁アクチュエータ9の永久磁石93が変形可能部4の内部に収容されているという点で、第8の実施形態とは異なる。
【0045】
図15に示される第12の実施形態において、第8の実施形態の要素と同様の要素は、同一の参照符号を有する。第12の実施形態のマイクロロボット1は、端と端をつなぐ形で位置決めされた2つの推進構造体2を備えるという点で、第8の実施形態とは異なる。この実施形態では、2つの推進構造体2の電磁アクチュエータは、有利には、粘性物質M中でマイクロロボット1の非往復運動を発生させるように、所定の順序で変形可能部4の伸長/収縮サイクルを作動させるように構成される。このような構成は、推進繊毛6、6’の特定の構造に加えて、マイクロロボット1の非往復運動を実現することを可能にし、このことが粘性物質M中でのマイクロロボット1の推進効率をさらに高める。
【0046】
本発明は、説明され、図示されている例に限定されない。特に、上述した変形可能部およびアクチュエータのタイプおよび構成の任意の組み合わせが、明示的に記載されていないまたは図示されていなくても、本発明のマイクロロボット用に考えられる。例えば、本発明のマイクロロボットは、電磁アクチュエータに関連付けられたベローズ部材(ばね部材を有さない)を、この組み合わせが明示的に説明または図示されていなくても含むことができる。
【0047】
さらに、上述した変形可能部およびアクチュエータの他のタイプおよび構成も、本発明のマイクロロボット用に考えられる。例えば、本発明のマイクロロボットのアクチュエータは、光反応性アクチュエータ(例えば、変形可能部に含まれる光反応性材料であって、光の影響下で収縮または伸長するように構成された光反応性材料と、光反応性材料が光源から光を受け取ることができるように、特に光ファイバによって変形可能部の近傍に設けられた光源とを備える)であり得る。
【0048】
さらに、
図15の実施形態に示されるように、少なくとも2つの推進構造体が一列に位置決めされる構成、およびマイクロロボットの非往復運動を発生させるための所定のシーケンスの伸長/収縮サイクルの作動が、同様に非往復運動を発生させる推進繊毛の存在と組み合わせて説明されている。しかしながら、本発明のマイクロロボットでは、非往復運動を発生させるように少なくとも2つの推進構造体を有する構成は、上述したような推進繊毛の存在なしに、単独で使用されてもよい。
【国際調査報告】