(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-30
(54)【発明の名称】パイプライン接合部の継目金属の残留応力の計算方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
G01N29/07
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020573546
(86)(22)【出願日】2019-12-31
(85)【翻訳文提出日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 RU2019001052
(87)【国際公開番号】W WO2020204751
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518312460
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“ロスエネルゴアトム”
(71)【出願人】
【識別番号】521003472
【氏名又は名称】エルエルシー“インコツ”
(71)【出願人】
【識別番号】521003483
【氏名又は名称】ジョイント - ストック カンパニー“オール - ロシアン インスティテュート フォー ニュークリア パワー プランツ オペレーション”(ヴイエヌアイアイエーイーエス)
(71)【出願人】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】カミシェフ アルカディ ヴァディモヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】パスマニク リエフ アブラモヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ロヴィンスキー ヴィクトル ドナトヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ジェトマン アレクサンドル フェドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ガバ セルゲイ ヴァレレヴィチ
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB07
2G047BA03
2G047BC02
2G047CB01
2G047CB02
2G047GA14
2G047GG46
(57)【要約】
本発明のグループは、エンジニアリング材料の非破壊試験に関する。溶接継手の縦方向およびフープ残留溶接応力の計算に使用でき、残留応力のレベルの基準に従ってパイプライン溶接部の品質を評価してパイプライン強度計算のための初期パラメータを決定するために使用できる。本発明のグループの技術的成果は、縦方向及びフープ残留応力の独立した計算の可能性を提供することである。したがって、応力は、パイプライン溶接部のシーム金属で計算され、そこで最大値に達する。
第1の実施形態に係る発明の技術的成果は、パイプライン継手の継目金属における残留応力の計算方法であって、超音波エコー法により、試験下のパイプライン断面における縦波ならびにパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間を計測し、測定結果は溶接継手の応力状態の顕著な特徴量およびバランス係数値を規定し、特定タイプのパイプに対して数値モデリングにより断面のバランスの位置を予め定義し、前記バランスにおいてベース金属のフープ応力が最小値に達し、バランス係数値は、継目金属の最大残留引張膜フープ応力の値とベース金属の最小残留圧縮膜フープ応力の値との比率に等しい。溶接継手の完成前に、前記平衡断面における、縦波ならびにパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の初期値の計測を実施し、溶接継手の完成後に、同じ測定箇所における、同じ種類の波の伝播時間の性能値の計測を実施し、計測結果を次の二軸応力状態に関する音弾性方程式に適用し、
【数1】
【数2】
t
01、t
02、t
03は、初期値であり、t
1、t
2、t
3は、それぞれ、管の生成ラインに沿う方向および横切る方向に分かれた横波ならびに縦波の伝播時間の性能値であり、K
1およびK
2は、音響-弾性結合の係数であり、各測定断面における、縦方向の膜応力およびフープ膜応力の値並びに曲げモーメントを算出し、算出結果を用いて、膜応力を均衡させる原理に基づき、前記バランス係数を考慮に入れて、継目金属中の縦方向の残留応力および局所的なフープ残留応力の最大値を算出する。
第2の実施形態に係る発明の技術的成果は、音響的に等方性の金属からなる溶接されたパイプライン継手の継目金属における残留応力の計算方法であって、試験中のパイプライン断面のバルク波の伝播時間を超音波エコー法で測定し、測定結果は溶接継手の応力状態の顕著な特徴量およびバランス係数値を規定し、特定タイプのパイプに対して数値モデリングにより断面のバランスの位置を予め定義し、前記バランスにおいてベース金属のフープ応力が最小値に達し、バランス係数値は、継目金属の最大残留引張膜フープ応力の値とベース金属の最小残留圧縮膜フープ応力の値およびベース金属の固有音響異方性の値との比率に等しい。溶接継手の完成後、バランス断面における、パイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の性能値の測定を実施し、測定結果に基づき、縦方向の膜応力およびフープ膜応力の差に関する以下の音弾性方程式を用いて、測定点における指定された差を算出し、
【数3】
a
0は、ベース金属の固有音響異方性でありDは、弾性-音響結合係数であり、縦方向の膜応力およびフープ膜応力の分離は、追加の断面における縦方向の応力の定義の結果を使用して実施され、各測定断面における、縦方向の膜応力およびフープ膜応力並びに曲げモーメントを算出し、算出結果を用いて、膜応力を均衡させる原理に基づき、前記バランス係数を考慮に入れて、継目金属中の縦方向の残留応力および局所的なフープ残留応力の最大値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接されたパイプライン継手の継目金属における残留応力の計算方法であって、
超音波エコー法により、試験下のパイプライン断面における縦波ならびにパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間を計測し、
測定結果は溶接継手の応力状態の顕著な特徴量を規定し、
以下を特徴とする、
特定タイプのパイプに対して数値モデリングにより断面のバランスの位置を予め定義し、
そのバランスにおいて、ベース金属のフープ応力が最小値に達し、
バランス係数値は、継目金属の最大残留引張膜フープ応力の値とベース金属の最小残留圧縮膜フープ応力の値との比率に等しく、
溶接継手の完成前に、前記平衡断面における、縦波ならびにパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の初期値の計測を実施し、
溶接継手の完成後に、同じ測定箇所における、同じ種類の波の伝播時間の性能値の計測を実施し、
計測結果を次の二軸応力状態に関する音弾性方程式に適用し、
【数1】
【数2】
t
01、t
02、t
03は、初期値であり、
t
1、t
2、t
3は、それぞれ、管の生成ラインに沿う方向および横切る方向に分かれた横波ならびに縦波の伝播時間の性能値であり、
K
1およびK
2は、音響-弾性結合の係数であり、
各測定断面における、縦方向の膜応力およびフープ膜応力の値並びに曲げモーメントを算出し、
算出結果を用いて、膜応力を均衡させる原理に基づき、前記バランス係数を考慮に入れて、継目金属中の縦方向の残留応力および局所的なフープ残留応力の最大値を算出する。
【請求項2】
音響的に等方性の金属からなる溶接されたパイプライン継手の継目金属における残留応力の計算方法であって、
試験中のパイプライン断面のバルク波の伝播時間を超音波エコー法で測定し、
測定結果は溶接継手の応力状態の顕著な特徴量を規定し、
以下を特徴とする、
特定タイプのパイプに対して数値モデリングにより断面のバランスの位置を予め定義し、
前記バランスにおいてベース金属のフープ応力が最小値に達し、
バランス係数値は、継目金属の最大残留引張膜フープ応力の値とベース金属の最小残留圧縮膜フープ応力の値およびベース金属の固有音響異方性の値との比率に等しく、
溶接継手の完成後、バランス断面における、パイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の作業値の測定を実施し、
測定結果に基づき、縦方向の膜応力およびフープ膜応力の差に関する以下の音弾性方程式を用いて、測定点における指定された差を算出し、
【数3】
a
0は、ベース金属の固有音響異方性であり
Dは、弾性-音響結合係数であり
縦方向の膜応力およびフープ膜応力の分離は、追加の断面における縦方向の応力の定義の結果を使用して実施され、
各測定断面における、縦方向の膜応力およびフープ膜応力並びに曲げモーメントを算出し、
算出結果を用いて、膜応力を均衡させる原理に基づき、前記バランス係数を考慮に入れて、継目金属中の縦方向の残留応力および局所的なフープ残留応力の最大値を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業材料の非破壊試験に関する。特に、溶接継手の縦方向および環状の残留溶接応力の計算、および残留応力のレベルの基準に従ってパイプライン溶接部の品質を評価してパイプライン強度計算のための初期パラメータの決定に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
弾性がありアンローディングな主材料に基づくプロービングホールの機械的方法により継目金属の応力を計算する方法は既に知られている(文献1参照)。従来の方法は、ディジタルスペックル干渉法により変形応答を測定した結果に基づいて二軸表面応力を評価する手順から成る。変形応答は、継目金属の表面に非貫通孔をドリル加工した結果で識別される。継目金属における残留応力の直接的な計算の可能性は、本発明の本質的な特徴と一致する。
【0003】
従来の方法の欠点は、その実施のために制御される製品の完全性を破る必要があること、すなわち破壊的な制御方法であることにある。
【0004】
この欠点は、本溶接継手を制御する場合、破壊的方法の使用が許容できないという事実に起因する。
【0005】
本発明の本質的特徴のセットに最も近い特徴のセットは、パイプライン溶接部の残留応力の計算のための周知の超音波法に固有である。
【0006】
最も近い工学的解決策は、実用特許により知られている(文献2参照)。従来の方法(プロトタイプ)は、超音波エコー法により、縦波およびパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間(遅延)を、制御点で応力状態特性が計算された値から測定する手順を含む。この方法は、比例係数と測定点におけるポアソン係数間の相関パラメータの値の積として、溶接継手に隣接するパイプライン断面における縦方向および残留フープ応力の差の値を計算することを可能にする。超音波による溶接継手のベース金属における残留膜応力特性の計算の可能性は、本発明の本質的な特徴と一致する。
【0007】
しかし、プロトタイプに採用した従来の方法では、応力状態の顕著な特徴は溶接継手に隣接するベース金属の領域のみで計算され、応力状態の唯一の定義された特徴は、膜フープおよび縦方向応力との差である。
【0008】
指定された欠点は、一方では、縦方向およびフープ応力の別々の値を用いる必要があるため、溶接継手の品質の評価や強度計算には、従来の方法で得られた結果を用いてはいけないかもしれないという事実に起因する。他方、測定が行われる溶接継手に隣接するベース金属の領域では、残留応力は継ぎ目金属に比べて著しく少なく(文献3参照)、強度計算のために残留応力の最大値を使用する必要がある。
【0009】
従来の方法では、継ぎ目金属の残留応力の値つまり溶接継手の縦方向およびフープ残留応力の最大値を求めることができない。
【0010】
この制限は、従来の方法が、残留応力のない領域でしか実行できないキャリブレーション手続を含むという事実に起因する。弾性波伝播速度は応力と金属構造の特徴の両方に依存するので、測定点の金属と同一の金属構造である領域でのみキャリブレーションを行うことができる。継目金属の構造は、ベース金属の構造と異なるため、溶接金属における応力を評価するために、ベース金属におけるキャリブレーション結果を使用することは許容できない。同時に、残留溶接膜応力がないことが保証されている領域を識別することができないため、継目金属でのキャリブレーションを行うことができない。これにより、従来の方法を、継目金属中の応力を直接測定することに適用することができない。
【0011】
さらに、従来の方法では、測定された応力状態の特徴量から、縦方向およびフープ膜応力の独立した値を推論することができない。
【発明の概要】
【0012】
本発明のグループによって解決されるべき目的は、応力状態の非破壊試験の結果に基づいて、設置、修理及び運転中のパイプライン溶接部の実際の状態を評価することである。
【0013】
本発明のグループの技術的成果は、縦方向およびフープ残留応力の独立した計算の可能性を提供することである。したがって、応力は、応力が最大値に達するパイプライン溶接部の継目金属で計算される。
【0014】
第1の実施形態に係る発明の技術的成果は、パイプライン継手の継目金属における残留応力の計算方法であって、超音波エコー法により、試験下のパイプライン断面における縦波ならびにパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間を計測し、測定結果は溶接継手の応力状態の顕著な特徴量およびバランス係数値を規定し、特定タイプのパイプに対して数値モデリングにより断面のバランスの位置を予め定義し、前記バランスにおいてベース金属のフープ応力が最小値に達し、前記バランス係数値は、継目金属の最大残留引張膜フープ応力の値とベース金属の最小残留圧縮膜フープ応力の値との比率に等しい。溶接継手の完成前に、前記平衡断面における、縦波ならびにパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の初期値の計測を実施し、溶接継手の完成後に、同じ測定箇所における、同じ種類の波の伝播時間の性能値の計測を実施し、計測結果を次の二軸応力状態に関する音弾性方程式に適用し、
【0015】
【0016】
【0017】
t01、t02、t03は、初期値であり、t1、t2、t3は、それぞれ、管の生成ラインに沿う方向および横切る方向に分かれた横波ならびに縦波の伝播時間の性能値であり、K1およびK2は、音響-弾性結合の係数であり、各測定断面における、縦方向の膜応力およびフープ膜応力の値並びに曲げモーメントを算出し、算出結果を用いて、膜応力を均衡させる原理に基づき、前記バランス係数を考慮に入れて、継目金属中の縦方向の残留応力および局所的なフープ残留応力の最大値を算出する。
【0018】
第2の実施形態に係る発明の技術的成果は、音響的に等方性の金属からなる溶接されたパイプライン継手の継目金属における残留応力の計算方法であって、試験中のパイプライン断面のバルク波の伝播時間を超音波エコー法で測定し、測定結果は溶接継手の応力状態の顕著な特徴量およびバランス係数値を規定し、特定タイプのパイプに対して数値モデリングにより断面のバランスの位置を予め定義し、前記バランスにおいてベース金属のフープ応力が最小値に達し、前記バランス係数値は、継目金属の最大残留引張フープ応力の値とベース金属の最小残留圧縮膜フープ応力の値およびベース金属の固有音響異方性の値との比率に等しい。溶接継手の完成後、バランス断面における、パイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の性能値の測定を実施し、測定結果に基づき、縦方向の膜応力およびフープ膜応力の差に関する以下の音弾性方程式を用いて、測定点における指定された差を算出し、
【0019】
【0020】
a0は、ベース金属の固有音響異方性でありDは、弾性-音響結合係数であり、縦方向の膜応力およびフープ膜応力の分離は、追加の断面における縦方向の応力の定義の結果を使用して実施され、各測定断面における、縦方向の膜応力およびフープ膜応力並びに曲げモーメントを算出し、算出結果を用いて、膜応力を均衡させる原理に基づき、前記バランス係数を考慮に入れて、継目金属中の縦方向の残留応力および局所的なフープ残留応力の最大値を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、計算された応力分布を示すグラフである。
【
図5】
図5は、試験片の熱処理前の測定点における縦応力及びフープ応力の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、試験片の熱処理後の測定点における縦応力及びフープ応力の測定結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、熱処理前後の音響異方性値の測定結果(測定断面の平均値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
縦波およびパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の計測、およびベース金属の溶接接手の応力状態の特徴量の規定の手順を含む方法において、本発明は、さらに、以下の操作を含む。継目金属に隣接するベース金属の所定領域での計測を実施する。これらの領域は、継目金属中の最大引張フープ膜残留応力と釣り合う最小圧縮フープ膜残留応力の局所化の領域に対応する。膜応力に対して特に生じるバランス効果は、溶接金属内および溶接部に隣接する領域内のフープ膜残留応力間の1対1の相関を提供する。これは、それらの比率、すなわち、溶接部に隣接する領域での測定結果に基づいて、継目金属内の最大残留応力を計算するために使用されるバランス係数を計算することを可能にする。
【0023】
測定は、指定された領域に配置されたパイプラインの断面で行われる。これらの断面の位置およびバランス係数の値は、予備的な研究または計算の結果によって定義される。溶接継手の製作完了前後の弾性波の伝播時間を音弾性法により測定した結果によれば、測定断面内の縦膜応力およびフープ膜応力の値が得られる。
【0024】
継目金属内の縦残留応力およびフープ局所残留応力の最大値は、バランス係数を用いて、膜応力を平衡させる原理に基づいて、測定断面内の応力の得られた値から規定される。
【0025】
特に、音響的に等方性の材料で作られたパイプラインで測定を行う場合、溶接継手の製作完了前に作られた弾性波の伝播時間の測定は除外されるため、組立中だけでなく、稼働中のパイプライン上での残留応力の評価が可能となる。測定部の縦方向膜応力およびフープ膜応力の値は、溶接継手の製作完了後に実施した測定結果によってのみ決定される。この手順の顕著な特徴は、残留応力局所化領域の外側に位置する付加的な断面における応力測定結果を使用する。
【0026】
第1の選択肢による実施形態の方法は、以下のように実行される。
【0027】
パイプライン溶接部の継目金属における残留応力の計算方法は以下を含む。縦波およびパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間が超音波エコー法により計測される。その測定結果が特定タイプのパイプの溶接継目の応力状態の特徴を規定する。バランス断面の位置が計算モデル化により予め定義されている。ベース金属の平衡フープ応力は、指定された断面において最小値に達する。断面の位置は、残留溶接応力の計算モデル化の結果または溶接後熱処理前に行われた制御溶接継手に関する実験的研究の結果によって定義される。パイプ直径、パイプ肉厚および溶接技術により特徴づけられる溶接継手の種類ごとに研究が行われている。
【0028】
また、計算または実験研究の結果に基づいて、バランス係数(k)を以下のように定義した。バランス係数(k)は、継目金属中の最大引張膜フープ応力(σtmax)とベース金属中の最小圧縮膜フープ応力(σtmin)の値との比に等しい。
kの値は、以下の式に従って残留溶接応力を計算モデル化した結果によって定義される。
【0029】
【0030】
表面応力ではなく膜の測定を提供する唯一の非破壊的方法として、その測定には、超音波試験のエコー法を含む音弾性法を正確に適用することが要求される(文献4参照)。
【0031】
測定は、その測定方法を実施可能であり、一軸及び二軸の機械的応力の計測器として認定されている装置によって行われる。
【0032】
溶接継手の完成前に、縦波およびパイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の初期値をバランス断面で測定した。
【0033】
溶接継手の完成後、同じタイプの波の伝播時間の性能値を同じ測定点で測定した。
測定結果に基づく、二軸応力状態に対する音弾性方程式を以下に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
上式において、t01、t02、t03は初期値であり、t1、t2、t3はそれぞれパイプの生成ラインに沿う方向および横切る方向に分かれた横波および縦波の伝搬時間の性能値である。
【0037】
K1およびK2は、文献5により提供された標準手続きに従って計算された弾性-音響結合係数である(炭素および低合金鋼で作られた溶接元素については、K1およびK2の値を規定しないで、一般化された弾性-音響結合係数を適用することが認められている(文献6参照))。
【0038】
式(2)および式(3)による時間遅延の測定結果に基づき、測定位置の縦応力およびフープ応力の値を測定断面ごとに算定する。
【0039】
- 測定断面にわたって平均化されたフープ膜平衡応力:
【0040】
【0041】
- 測定断面にわたって平均された縦方向膜応力:
【0042】
【0043】
- 以下の計算式による全曲げモーメント:
【0044】
【0045】
ここで、MM.XおよびMM.Yは、文献7の式を用いて計算された、調査の対象について取られたデカルト軸におけるモーメントの成分である。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
式中、Wは薄肉パイプの抵抗モーメントであり、hはパイプ肉厚であり、Dinはパイプ内径であり、θは断面内の角度座標であり、縦方向応力の角度分布の関数σz(θ)は、測定点における縦方向応力の値の測定結果によって定義される。
【0050】
測定が継ぎ目の両側に位置する両断面で行われる場合、両断面にわたって平均された値
【0051】
【0052】
【0053】
およびMは、継目金属における応力を定義するために使用される。
【0054】
溶着金属における最大フープ引張応力は、溶接継手に隣接するベース金属の領域における最小平衡フープ膜応力の値によって決定される。バランス係数を用いた継目金属のフープ残留応力の最大値(σt.s)は、次式により算出した。
【0055】
【0056】
最大縦応力は、引張による応力と全曲げモーメントによる曲げ応力の重ね合わせとして定義した。継目金属における縦応力の最大値(σz.s)を次の式により算出した。
【0057】
【0058】
代表的な試験片を用いた溶接部材のベース金属に関する研究結果により、音響的に等方性である場合、すなわち、以下の式に従って定義されるベース金属の固有音響異方性の変動(a0)が0.0004を超えない場合、残留応力を定義する方法の第2の変形が実施される。
【0059】
【0060】
第2の選択肢による実施形態の方法は、以下のように実行される。
【0061】
研究中のパイプライン断面について、超音波エコー法を適用してバルク波伝播時間を測定し、測定結果に基づいて溶接継手の応力状態の特徴を定義した。特定のパイプの種類について、計算モデル化によって事前に決定された、音響的に等方性の金属で作られたパイプライン溶接金属の残留応力を規定する方法の第2の選択肢によると、ベース金属における平衡フープ応力が最小値に達するバランス断面の位置、および式(1)によるバランス係数の値(k)が定義される。
【0062】
ベース金属の固有音響異方性の値(a0)も定義される。
【0063】
バランス断面の位置は、溶接が行われた後、パイプラインの生成ラインに沿った地点で実施される予備測定中に指定されるべきである。
【0064】
溶接継手完了後、バランス断面における、パイプ軸に沿う方向および横切る方向に分かれた横波の伝播時間の性能値を測定する。縦応力とフープ膜応力の差について、音弾性方程式を用いて測定した結果に基づき、指定された差の値を測定点ごとに決定する。
【0065】
【0066】
ここで、Dは、文献5により提供された標準手続きに従って計算された一軸応力状態の弾性-音響結合係数である(炭素および低合金鋼で作られた溶接元素については、Dの値を規定しないで、一般化された弾性-音響結合係数を適用することが認められている(文献6参照))。
【0067】
縦方向膜応力およびフープ膜応力の分離は、追加の断面における縦応力の定義の結果を使用して実施する。残留溶接応力の領域外に位置する追加の断面の計測結果に基づいて、測定箇所における縦方向の膜応力(σz)の平均値
【0068】
【0069】
を算出する。値σzは、追加測定の断面における残留応力がない、すなわち、すべての測定箇所においてσt=0という条件で、式(10)に従って算出される。
【0070】
膜フープ応力の値は、断面内の曲げ縦応力の補償原理に従い、また、縦方向の膜応力の平均値が円筒形成分の全長に沿って同じであるという事実を考慮に入れて定義される。各測定断面において、
【0071】
【0072】
の値、すなわち、フープ膜応力(σt)の測定断面にわたる平均値を算出する。測定点におけるフープ膜応力は、式(10)に従い、次式により計算される。
【0073】
【0074】
全曲げモーメントMとその成分MxとMyは、それぞれ式(4)、(5)、(6)に従って計算される。
【0075】
測定が継ぎ目の両側に位置する両断面で行われる場合、両断面にわたって平均された値
【0076】
【0077】
【0078】
およびMは、継目金属における応力を定義するために使用される。
【0079】
継目金属の残留縦応力およびフープ局所応力の最大値σt.sおよびσz.sは、式(7)、(8)にバランス係数を適用することにより算出される。
【0080】
以下、特許請求の範囲に記載の発明群を実施例により説明する。
【0081】
[実施例1]
パイプビレットDN850x70(10GN2MFA鋼)製の分割設計コイルの溶接継手における最大残留溶接応力を計算した。
【0082】
音弾性パラメータは、IN-5101A装置を用いて測定した。この装置は、単一および二軸の機械的応力の計測器具として認定されている。測定は文献5の要件に従って実施した。
【0083】
バウマン記念モスクワ国立工科大学の溶接および計測技術部門で開発された「SVARKA」ソフトウェアパッケージを用いて、熱処理前の残留溶接応力の計算モデリングの結果に基づいて、パイプ種類に対する断面の位置とバランス係数の値を規定した。
【0084】
図1は、有限要素法による溶接継手のフープ膜応力の計算結果に基づいて測定断面(1A、1B)を規定したものである。
【0085】
計算結果(
図1)より、測定断面1A、1Bは、溶接中心軸から±50mmの距離に位置し、式(1)によるバランス係数k=-3.25をとっていることが分かる。
【0086】
さらに、測定点が示されている。
図2および
図3に、断面1Aおよび1Bにおける計測対象上の測定点のレイアウトを示す。
【0087】
溶接前に、全測定点で音響信号の伝播時間の初期値(t01、t02、t03)を計算した。
【0088】
性能値(t1、t2、t3)は、2回、すなわち、熱処理の前後に定義された。
【0089】
図4は、熱処理前(曲線a)および熱処理後(曲線b)の、測定点における、式(2)、(3)を適用した縦応力およびフープ応力の測定値の平均による断面の定義の結果を示す。
【0090】
応力を計算するために、10GN2MFA鋼に関する文献5の要件に従って得られた以下の弾性-音響結合係数を適用した。
【0091】
【0092】
応力測定の結果に基づいて、以下のパラメータが定義された。
熱処理前後の測定断面におけるフープ応力の平均値:
【0093】
【0094】
式(4)~(6)に従って計算される、熱処理前後の溶接断面の曲げモーメントの値:
【0095】
【0096】
分割設計コイルの端固定がないため、平均縦応力
【0097】
【0098】
はゼロに等しいと仮定され、これは平均縦応力が測定誤差限界内の測定結果に対応する。
【0099】
式(13)に従って計算される、熱処理前後の、溶接継手の最大フープ引張応力は、以下に等しい。
【0100】
【0101】
【0102】
式(14)に従って計算される、熱処理前後の、溶接継手の最大縦応力は、以下に等しい。
【0103】
【0104】
【0105】
[実施例2]
金属の音響特性の予備研究のため、パイプビレットDN850x70(10GN2MFA鋼)製の分割設計コイルの溶接継手における最大残留溶接応力の計算を行った。
【0106】
代表的な試験片を用いた溶接部材のベース金属に関する研究結果によれば、固有音響異方性の値が0.0001±0.0003の範囲内の場合、コイルのベース金属は音響的に等方性であると定義されている。固有音響異方性の初期値はa0=0.0001と仮定される。
【0107】
測定断面の位置を明確にするために、パイプラインジェネレータに沿った点(
図4参照。パイプラインの生成ラインIおよびII上の測定点(O1~4)の位置のレイアウトが示されている)で、音響異方性の追加測定が、溶接継手の製作完了後に実施された。
【0108】
測定結果に基づき、固有音響異方性の最小値は溶接線から50mmの距離に位置する点O2に対応し、これは計算モデリングの結果に対応することが分かった。
【0109】
従って、測定断面の位置1A及び1Bとバランス係数の値とは実施例1と同様である。応力測定点の位置も実施例1と同様である。
分割設計コイルの端固定がないため、平均縦応力
【0110】
【0111】
はゼロに等しいと仮定されたので、
【0112】
【0113】
の計算を意図した断面2の測定は実行されなかった。
【0114】
性能値(t1、t2、t3)は、2回、すなわち、熱処理の前後に定義された。
熱処理前後の測定点における音響異方性の値(測定断面にわたる平均)の計算結果を
図5、6に示す。
【0115】
音響異方性測定の結果に基づき、以下の値を算出した。
【0116】
式(10)に従う、熱処理前後の測定断面におけるフープ応力の平均値:
【0117】
【0118】
式(11)、(12)に従う、熱処理前後の溶接部の曲げモーメントの値:
【0119】
【0120】
式(13)に従って計算され、熱処理前後の溶接継手における最大フープ引張応力は、以下に等しい。
【0121】
【0122】
【0123】
式(14)に従って計算され、熱処理前後の溶接継手における最大縦応力は、以下に等しい。
【0124】
【0125】
【0126】
[文献リスト]
[文献1]Balalov V.V., Moshensky V.G., Odintsev I.N., Pisarev V.S. "The Study of Residual Stresses in Welded Pipes Based on the Method of Drilling Holes and Optical Interference Measurements." "Industrial Laboratory. Diagnostics of Materials", 2011, v. 77, No.5, pp. 43-49.
[文献2]Russian Patent No. 2598980 for the invention "Ultrasonic method for determination of residual stresses in welded joints of pipelines".
[文献3]Antonov A. A., Letunovsky A. P.. Possibilities for evaluating residual stresses in welded structures. "NDT World", 2018, v.21, No. 1, pp. 10-12.
[文献4]GOST R 52890-2007. "Non-destructive testing. Evaluation of stresses in material of pipelines by ultrasound. General requirements".
[文献5]"Components of NPP Equipment. Methodology for Measurement of Mechanical Stresses Produced by Technological Impacts with Application of Acoustic Elasticity Method". The Certificate of Attestation of measurements procedure No. 633/1700 dated 10.06.2009. Registered in the Federal Register of Measurement Procedures under the number FR.1.28.2009.06227.
[文献6]Kamyshev A.V., Makarov S. V., Pasmanik L. A., Smirnov V. A., Modestov V. S., Pivkov A.V. Generalized Coefficients for Measuring Mechanical Stresses by Acoustic Elasticity in Structures Made of Carbon and Low-Alloy Steels // Non-destructive testing. 2017. No. 1. Pp. 3-10.
[文献7]Kamyshev A.V., Pasmanik L. A., Smirnov V. A., Modestov V. S., Pivkov A.V. "Computational and Instrumental Procedure for Evaluating the Stress-Strain State with the Determination of Force Boundary Conditions by the Acoustic Elasticity Method and its Application for Failure Analysis". CC No. 111. "Heavy Engineering", 2016, No. 1-2, pp. 11-18.
【国際調査報告】