(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-30
(54)【発明の名称】プレカナチドを製造する改善された方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/113 20060101AFI20220523BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20220523BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220523BHJP
C07K 1/10 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
C07K1/113 ZNA
C07K1/20
C07K7/08
C07K1/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532828
(86)(22)【出願日】2019-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 IB2019052664
(87)【国際公開番号】W WO2020115566
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】201821046514
(32)【優先日】2018-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519139365
【氏名又は名称】エンゼン・バイオサイエンシズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ENZENE BIOSCIENCES LIMITED
【住所又は居所原語表記】PLOT NO. 165/1/26, BLOCK T, BHOSARI MIDC, PUNE, MAHARASHTRA 411 026, INDIA
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アダーク サンディップ
(72)【発明者】
【氏名】ボンテ マノージ
(72)【発明者】
【氏名】クルカルニー チャンドラカント
(72)【発明者】
【氏名】スワーミ ヴェラナラヤナ
(72)【発明者】
【氏名】ジョグダンド ニヴルッティ
(72)【発明者】
【氏名】ガドギル ヒマーンシュ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA17
4H045BA32
4H045EA25
4H045FA10
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は一般に、プレカナチドを製造する方法に関する。詳細には、本発明は、非線状の固相ペプチド合成を使用してプレカナチドを製造する改善された方法に関する。特に、本発明のプレカナチドを製造する方法は、2-クロロトリチルクロリド(2-ClTrt)樹脂を使用する5アミノ酸単位のペプチド断片及びWang樹脂を使用する11アミノ酸単位のペプチド断片の固相合成を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレカナチドを製造する方法であって、
(a)式(I):H
2N-Asn1-Asp2-Glu3-Cys4-Glu5-Leu6-Cys(Acm)7-Val8-Asn9-Val10-Ala11-Cys12-Thr13-Gly14-Cys(Acm)15-Leu16-OHの線状鎖を適切な試薬を用いて単環化して、式(VI):
【化1】
の単環式ペプチドを得る工程と、
(b)工程(a)で得られた式(VI)の単環式ペプチドを、逆相カラムクロマトグラフィーを使用して精製する工程と、
(c)工程(b)で得られた式(VI)の単環式ペプチドを適切な試薬を用いて二環化して、式(VII):
【化2】
の二環式ペプチドを得る工程と、
(d)工程(c)で得られた式(VII)の二環式ペプチドを、逆相カラムクロマトグラフィーを使用して精製して脱塩することで、純粋なプレカナチドを得る工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程(a)における前記式(I)の線状鎖は、
(a)断片AとWang樹脂に結合された断片Bとをカップリング試薬を使用してカップリングさせて、Wang樹脂に結合された保護されたペプチド断片を得る工程と、
(b)工程(a)で得られたWang樹脂に結合された保護されたペプチド断片を、トリフルオロ酢酸/トリイソプロピルシラン/DODT/水の試薬を使用して切断して脱保護することで、前記式(I):H
2N-Asn1-Asp2-Glu3-Cys4-Glu5-Leu6-Cys(Acm)7-Val8-Asn9-Val10-Ala11-Cys12-Thr13-Gly14-Cys(Acm)15-Leu16-OHの線状鎖を得る工程と、
を含む方法によって得られる、請求項1に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項3】
単環式ペプチドを精製する逆相カラムクロマトグラフィーは、カラムの仕様:250×80mm、媒体の仕様:C-18、10μ、100Å、移動相A:pH6.5の水中の0.02Mのリン酸トリエチルアンモニウム、及び移動相B:アセトニトリルを有する、請求項1に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項4】
前記式(VII)の二環式ペプチドを精製する逆相カラムクロマトグラフィーは、カラムの仕様:250×80mm、媒体の仕様:C-18、7μ~10μ、100Å、移動相A:pH6.5の水中の0.02Mのリン酸トリエチルアンモニウム、及び移動相B:アセトニトリルを有する、請求項1に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項5】
前記式(VII)の二環式ペプチドを脱塩する逆相カラムクロマトグラフィーは、カラムの仕様:250×80mm、媒体の仕様:C-18、10μ、100Å、移動相A:0.025%の水酸化アンモニウム、移動相B:アセトニトリル、移動相C:水中の0.1M~0.2Mの酢酸アンモニウム、及び移動相D:水中の0.1%のトリフルオロ酢酸を有する、請求項1に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項6】
前記式(VII)の二環式ペプチドを精製する逆相カラムクロマトグラフィーは、カラムの仕様:250×80mm、媒体の仕様:C-18、10μ、100Å、移動相A:水中の0.1%~0.2%のトリフルオロ酢酸、及び移動相B:アセトニトリルを有する、請求項1に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項7】
単環化工程における適切な前記試薬は、1%~2%のH
2O
2溶液である、請求項1に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項8】
二環化工程における適切な前記試薬は、2%のヨウ素溶液である、請求項1に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項9】
前記断片Aは、Fmoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-OH又はBoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-OHである、請求項2に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項10】
前記Wang樹脂に結合された断片Bは、H
2N-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂である、請求項2に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項11】
前記断片Aは、5アミノ酸単位以下の長さである、請求項2に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項12】
前記Wang樹脂に結合された断片Bは、11アミノ酸単位以下の長さである、請求項2に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項13】
前記断片A及び前記断片Bは、固相ペプチド合成を使用して製造される、請求項2に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項14】
前記トリフルオロ酢酸/トリイソプロピルシラン/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール/水の混合物は、それぞれ9:0.5:0.25:0.25の比(容量/容量)である、請求項2に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項15】
前記Wang樹脂に結合された断片B:H
2N-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂は、アミノ酸を25℃~65℃の範囲内の温度にて20分間~3時間の撹拌下でカップリングさせることによって製造される、請求項2に記載のプレカナチドを製造する方法。
【請求項16】
工程(a)における前記式(I)の線状鎖は、断片AとWang樹脂に結合された断片Bとをカップリング試薬を使用して25℃~65℃の範囲内の温度にて45分間~5時間の撹拌下でカップリングさせて、Wang樹脂に結合された保護されたペプチド断片を得ることを含む方法によって得られる、請求項1に記載のプレカナチドを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の非線状固相ペプチド合成を使用してプレカナチドを製造する改善された方法に関する。特に、本発明のプレカナチドを製造する方法は、Wang樹脂及び2-クロロトリチルクロリド(2-ClTrt)樹脂を使用して、5アミノ酸単位の断片及び11アミノ酸単位の断片の固相合成を含む。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記載には、本発明の理解に有用であり得る情報が含まれる。本明細書で与えられるあらゆる情報が従来技術若しくは本件で特許請求される発明に関連するものであること、又は明示的若しくは暗示的に言及されるあらゆる刊行物が従来技術であることは認められない。
【0003】
プレカナチドは、慢性特発性便秘症(CIC)及び便秘を伴う過敏性腸症候群の治療についてFDAによって承認された薬物である。プレカナチドはcGMPの増成を通じて腸管輸送及び腸液を増加させる。
【0004】
プレカナチドは、アミノ酸配列H-Asn1-Asp2-Glu3-Cys4-Glu5-Leu6-Cys7-Val8-Asn9-Val10-Ala11-Cys12-Thr13-Gly14-Cys15-Leu16-OHを有する、グアニル酸シクラーゼ-Cペプチドのアゴニストである16残基のペプチドである。プレカナチドは、Asp3がGlu3に置換されていることを除けば、ヒトのウログアニリンと構造的に同一である。Cys4とCys12との間と同様にCys7とCys15との間にもジスルフィド結合が存在する。
【0005】
特許文献1は、特許文献2に記載される液相及び固相ハイブリッドプロセスを介してペプチドを精製又は単離する方法を開示している。特に、特許文献1は、3つのペプチド断片A、B及びCの合成を開示しており、次いで、以下のように断片A、B及びCの縮合によって線状のペプチド配列が集成される:断片A:Boc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-Leu-OHを2-クロロトリチルクロリド樹脂からの固相により製造し、断片B:Fmoc-Cys(Acm)-Val-Asn-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(tBu)-Gly-OHを2-クロロトリチルクロリド樹脂からの固相により製造し、断片C:Cys(Acm)-Leu-OtBuを液相合成により製造し、断片B及び断片Cを液相中でカップリングさせて、断片B-Cを得て、断片A及び断片B-Cをカップリングさせて、線状のペプチドA-B-Cを得る。部分的に保護された線状のプレカナチド(HAA1-16OH)をH2O2によって酸化した後に、同時にS-Acm基を除去し、ヨウ素を用いてジスルフィドを形成して、粗製プレカナチドを得て、これをRP-HPLCクロマトグラフィーによって精製することで、精製されたプレカナチドが得られた。
【0006】
特許文献3は、ポリペプチド薬の製造を開示しており、特にプレカナチドの製造方法に関する。この方法は、以下の工程、すなわち、固相合成を実施して、Fmoc-Leu-樹脂を得る工程と、-Cys15、-Gly、-Thr、-Cys12、-Ala、-Val、-Asn、-Val、-Cys7、-Leu、-Glu、-Cys4、-Glu、-Asp、及び-AsnをFmoc-Leu-樹脂上でプレカナチドのペプチド配列に従って順番にカップリングさせてプレカナチド線状ペプチド樹脂を製造する工程と、分解してプレカナチド線状粗製ペプチドを製造する工程と、プレカナチド線状粗製ペプチドを取り出し、第1の環化及び第2の環化を実施してプレカナチドを得る工程とを含む。
【0007】
プレカナチドを製造する様々な方法が利用可能であるが、線状配列におけるVal8からのアミノ酸のカップリング効率は鎖長が増加するにつれて低下する。したがって、Cys7、Leu6、Glu5、Cys4、Glu3、Asp2、及びAsn1のカップリングが不完全なままとなり、関連する欠失不純物が形成される傾向がある。配列中のアミノ酸が1つだけ少ない不純物の生成は、精製の間に近接した溶出ピークをもたらす。これは複数回の精製サイクルにつながることから、最終生成物の単離収率が低下する。上述の不純物が存在する場合に、最終的な単離生成物の不純物プロファイルも取得する必要がある。
【0008】
したがって、単純で効率的かつ費用効果の高い方法であり、改善された収率及び純度で所望の化合物を提供する改善された方法を開発することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/197720号
【特許文献2】国際公開第2012/18972号
【特許文献3】中国特許出願公開第103694320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、単純で効率的かつ費用効果の高い方法であるプレカナチドを製造する改善された方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、改善された収率及び純度で所望の化合物を提供するプレカナチドを製造する改善された方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、大規模な運転に向けて商業的に拡張可能であるプレカナチドを製造する改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリペプチド薬の製造方法、特にプレカナチドの製造方法に関する。詳細には、本発明は、Wang樹脂及び2-クロロトリチルクロリド(2-ClTrt)樹脂を使用して、5アミノ酸単位の断片及び11アミノ酸単位の断片の固相合成を含む、プレカナチドの製造方法に関する。
【0014】
一態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、
(a)式(I):H
2N-Asn1-Asp2-Glu3-Cys4-Glu5-Leu6-Cys(Acm)7-Val8-Asn9-Val10-Ala11-Cys12-Thr13-Gly14-Cys(Acm)15-Leu16-OHの線状鎖を適切な試薬を用いて単環化して、式(VI):
【化1】
の単環式ペプチドを得る工程と、
(b)工程(a)で得られた式(VI)の単環式ペプチドを、逆相カラムクロマトグラフィーを使用して精製する工程と、
(c)工程(b)で得られた式(VI)の単環式ペプチドを適切な試薬を用いて二環化して、式(VII):
【化2】
の二環式ペプチドを得る工程と、
(d)工程(c)で得られた式(VII)の二環式ペプチドを、逆相カラムクロマトグラフィーを使用して精製して脱塩することで、純粋なプレカナチドを得る工程と、
を含む、方法に関する。
【0015】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、式(I)の線状鎖が、
(a)断片AとWang樹脂に結合された断片Bとをカップリングさせて、Wang樹脂に結合された保護されたペプチド断片を得る工程と、
(b)工程(a)で得られたWang樹脂に結合された保護されたペプチド断片を、トリフルオロ酢酸/トリイソプロピルシラン/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT)/水の試薬を使用して切断して脱保護することで、式(I):H2N-Asn1-Asp2-Glu3-Cys4-Glu5-Leu6-Cys(Acm)7-Val8-Asn9-Val10-Ala11-Cys12-Thr13-Gly14-Cys(Acm)15-Leu16-OHの線状鎖を得る工程と、
を含む方法によって得られる、方法に関する。
【0016】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、単環式ペプチドを精製する逆相カラムクロマトグラフィーが、カラムの仕様:250×80mm、媒体の仕様:C-18、10μ、100Å、移動相A:pH6.5の水中の0.02Mのリン酸トリエチルアンモニウム、及び移動相B:アセトニトリルを有する、方法に関する。
【0017】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、式(VII)の二環式ペプチドを精製する逆相カラムクロマトグラフィーが、カラムの仕様:250×80mm、媒体の仕様:C-18、10μ、100Å、移動相A:pH6.5の水中の0.02Mのリン酸トリエチルアンモニウム、及び移動相B:アセトニトリルを有する、方法に関する。
【0018】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、式(VII)の二環式ペプチドを精製する逆相カラムクロマトグラフィーが、カラムの仕様:250×80mm、媒体の仕様:C-18、10μ、100Å、移動相A:水中の0.1%~0.2%のTFA、及び移動相B:アセトニトリルを有する、方法に関する。
【0019】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、式(VII)の二環式ペプチドを脱塩する逆相カラムクロマトグラフィーが、カラムの仕様:250×80mm、媒体の仕様:C-18、10μ、100Å、移動相A:0.025%の水酸化アンモニウム、移動相B:アセトニトリル、移動相C:水中の0.1M~0.25Mの酢酸アンモニウム、移動相D:水中の0.1%のTFAを有する、方法に関する。
【0020】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、単環化工程における適切な試薬が1%のH2O2溶液から選択される、方法に関する。
【0021】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、二環化工程における適切な試薬が2%のヨウ素溶液から選択される、方法に関する。
【0022】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、断片Aが、Fmoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-OH又はBoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-OHである、方法に関する。
【0023】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、Wang樹脂に結合された断片Bが、H2N-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂である、方法に関する。
【0024】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、断片Aが5アミノ酸単位以下の長さである、方法に関する。
【0025】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、Wang樹脂に結合された断片Bが11アミノ酸単位以下の長さである、方法に関する。
【0026】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、断片A及び断片Bが固相ペプチド合成を使用して製造される、方法に関する。
【0027】
別の態様では、本発明は、プレカナチドを製造する方法であって、トリフルオロ酢酸/トリイソプロピルシラン/DODT/水が、それぞれ9:0.5:0.25:0.25の比(容量/容量)である、方法に関する。
【0028】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様及び利点は、下記の好ましい実施形態の詳細な説明からより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】プレカナチドの製造方法の一般的な方略の概略的説明を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下は、開示の実施形態の詳細な説明である。実施形態は、開示を明確に伝えるように詳細に記載されている。しかしながら、与えられる詳細な量は、実施形態の考え得る変形形態を限定するものとは意図されないどころか、添付の特許請求の範囲に規定される本開示の趣旨及び範囲内にある全ての変更形態、等価物及び代替形態を包含することが意図される。
【0031】
本明細書の全ての刊行物は、各個別の刊行物又は特許出願が引用することにより本明細書の一部をなすと具体的かつ個別に示されているのと同じ程度で、引用することにより本明細書の一部をなす。援用された参照における用語の定義又は使用が、本明細書に示されるその用語の定義と矛盾する又は対照的である場合に、本明細書に示されるその用語の定義が適用され、参照におけるその用語の定義は適用されない。
【0032】
本明細書全体を通して「一実施形態」("one embodiment" or "an embodiment")をいうとき、これは、その実施形態に関して説明される特定の特徴、構造、又は特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な箇所に語句「一実施形態では」("in one embodiment" or "in an embodiment")が登場するが、これらは、必ずしも全てが同じ実施形態を指しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の適した方法で組み合わせることができる。
【0033】
幾つかの実施形態では、本発明の或る特定の実施形態を説明する及び特許請求の範囲に記載するために使用される、成分の量、濃度、反応条件等の特性等を表す数字は、「約」という用語によって修飾される場合があると理解されるべきである。したがって、幾つかの実施形態では、発明の記述及び添付の特許請求の範囲に示される数値パラメーターは、特定の実施形態によって得られることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。幾つかの実施形態では、数値パラメーターは、報告された有効桁数を踏まえて、通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。本発明の幾つかの実施形態の広い範囲を示している数値範囲及びパラメーターは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例で示される数値は、実施可能なように正確に報告される。本発明の幾つかの実施形態に示された数値は、それぞれの試験測定に見られる標準偏差から必然的に生ずる特定の誤差を含み得る。
【0034】
本明細書の記載及び添付の特許請求の範囲に亘って使用される場合、数を特定しない単数形("a," "an," and "the")の意味は、文脈上、そうでないとする明確な指示がない限り、複数の参照物を包含する。また、本明細書の記載に使用される場合、「において、では(in)」の意味は、文脈上、そうでないとする明確な指示がない限り、「中に、内に(in)」及び「上に(on)」を包含する。
【0035】
文脈上他の意味に解すべき場合を除き、以下の明細書全体を通して、「~を含む(comprise)」という単語並びに「~を含む(comprises)」及び「~を含む(comprising)」等の別形は、「限定されるものではないが、~を含む(including, but not limited to)」のようなオープンで包括的な意味で解釈されるべきである。
【0036】
本明細書での値の範囲の列挙は、その範囲内に含まれるそれぞれの個々の値を個別に参照する簡潔な方法として機能することを目的としているにすぎない。本明細書に別段の記載がない限り、それぞれの個々の値は、本明細書に個別に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0037】
本明細書に記載の方法は全て、本明細書に別段の記載がない限り、又は文脈により明確に矛盾する記載が示されていない限り、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書の或る特定の実施形態について与えられるあらゆる例、又は例示の語(例えば、「等」)の使用は、単に発明をより良好に説明することを意図するものであり、明細書外での特許請求される発明の範囲についての限定を課すものではない。本明細書中の語は、発明の実施に必須である任意の特許請求されていない要素を示すとは解釈されるべきではない。
【0038】
本明細書に開示される本発明の代替的な要素又は実施形態のグループ化は、限定として解釈されるべきではない。各グループの成員は、個別に又はグループの他の成員若しくは本明細書に見られる他の要素と任意に組み合わせて、参照され、特許請求の範囲に記載され得る。利便性及び/又は特許性の理由から、グループの1つ以上の成員をグループに包含することも又はグループから削除することもできる。そのような包含又は削除が行われる場合、ここで本明細書は、変更されたグループを含むと考えられるため、その記述が満たされる。
【0039】
以下の詳細な説明及び本明細書に記載される実施形態は、本開示の原理及び態様の特定の実施形態の1つ以上の実施例の例示により提供される。これらの実施例は、これらの原理及び開示を説明することを目的として提供されるものであって、限定することを目的とするものではない。
【0040】
本開示は、システム、方法、又はデバイスとしての様式を含む多くの様式で実装され得ることも理解されるべきである。本明細書では、これらの実装又は本発明が採用し得る任意の他の形態は、方法と呼称され得る。概して、開示された方法の工程の順序は、本発明の範囲内で変更することができる。
【0041】
本明細書に示される本発明の見出し及び要約は、便宜上のものであるにすぎず、実施形態の範囲又は意味を説明するものではない。
【0042】
以下の議論は、本発明の主題の多くの例示的な実施形態を提供する。各実施形態は、発明要素の単一の組合せを表すが、本発明の主題は、開示された要素の全ての可能な組合せを含むとみなされる。したがって、一実施形態が要素A、要素B、及び要素Cを含み、2つ目の実施形態が要素B及び要素Dを含む場合に、本発明の主題はまた、明示的に開示されていなくても、A、B、C、又はDの他の残りの組合せを含むとみなされる。
【0043】
本明細書に使用される様々な用語を下記に示す。特許請求の範囲で使用される用語が下記に定義されていなければ、出願時点での刊行物及び発行済特許に反映されるように、当業者がこの用語に与える最も広い定義が与えられるものとする。
【0044】
本明細書で使用される「Wang樹脂」という用語は、好ましくはp-アルコキシベンジルアルコール又はp-アルコキシベンジルオキシカルボニルヒドラジドを基礎とする樹脂を含むポリエチレン系樹脂を指す。Wang樹脂は、典型的には強酸条件下で、例えば少なくとも50%のトリフルオロ酢酸溶液下で除去される。Wang樹脂の例としては、限定されるものではないが、H-Leu-Wang樹脂又は遊離樹脂が挙げられる。
【0045】
本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、一方のアミノ酸のカルボキシル基が他方のアミノ酸のアミノ酸基に連結されている(すなわち、2つのアミノ酸がペプチド結合によって連結されている)少なくとも2つのアミノ酸を含む化合物を指す。本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、カルボキシル基及び/又はアミノ基が保護されている又は保護されていないアミノ酸配列を包含する。アミノ酸のカルボキシル基に適した保護基としては、OtBu、OBzl、又はOFmが挙げられる。アミノ酸のアミノ基に適した保護基としては、Fmoc、Boc、Mmt、Mtt、Cbz、又はTrtが挙げられる。
【0046】
本明細書で使用される「断片」という用語は、プレカナチド中に存在する2つ以上のアミノ酸の配列を指す。断片中のアミノ酸は保護されていても又は保護されていなくてもよい。
【0047】
「保護されたペプチド」又は「保護されたペプチド断片」という用語は、別段の指定がない限り、アミノ酸の全ての反応性基が保護基によって遮られているペプチド又はペプチド断片を指す。N末端アミノ酸に適した保護基としては、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、tert-ブトキシカルボニル(Boc)、ベンゾイル(Bz)、アセチル(Ac)、及びベンジル(Bn)が挙げられる。好ましくは、N末端保護基は、Fmoc又はBocであり、より好ましくはFmocである。C末端アミノ酸に適した保護基としては、トリチル(トリフェニルメチル、Trt)及びO-tert-ブチル(OtBu)が挙げられる。チオールのための保護基の例としては、アセトアミドメチル(Acm)、tert-ブチル(tBu)、3-ニトロ-2-ピリジンスルフェニル(NPYS)、2-ピリジンスルフェニル(Pyr)、及びトリチル(Trt)が挙げられる。
【0048】
本開示の実施形態は、プレカナチドを製造する改善された方法に関する。
【0049】
本発明は、Wang樹脂及び2-クロロトリチルクロリド(2-ClTrt)樹脂を使用する固相合成によってプレカナチドを得る改善された方法に関する。本発明の方法は、適切な保護されたアミノ酸を所望の配列でカップリングさせ、切断し、脱保護した後に、酸化させ、精製することで、プレカナチドを得ることを含む。
【0050】
本発明の発明者らにより、単純で効率的かつ費用効果の高い方法であり、改善された収率及び純度で所望の化合物を提供し、従来技術で報告された方法に関連する問題に対処する改善された方法が開発された。本発明の方法は、毒性の及び/又は高価な溶剤の使用を一切含まず、より高価なカップリング剤及び試薬の使用も含まない。したがって、本発明は、単純で効率的で費用効果が高く、高純度であり、大規模な運転に向けて商業的に拡張可能であるプレカナチドを製造する方法を提供する。
【0051】
一実施形態では、本発明のプレカナチドを製造する方法は、5+11の断片をカップリングさせる方略に関連している。特に、本発明のプレカナチドを製造する方法は、断片Aと断片Bとをカップリングさせて、プレカナチドを得ることを含む。断片Aは2-クロロトリチルクロリド(2-ClTrt)樹脂を使用して合成され、断片BはWang樹脂を使用して合成される。単離された完全に保護された断片Aと、Wang樹脂に結合された断片Bとをカップリングさせて、Wang樹脂に結合された完全に保護されたペプチジル断片を得る。
【0052】
本発明の一実施形態では、Wang樹脂に結合された完全に保護されたペプチジル断片を、切断カクテル混合物、すなわちトリフルオロ酢酸/トリイソプロピルシラン/DODT/水(TFA/TIS/DODT/水)を使用して切断し、全体的に脱保護することで、線状の完全に脱保護されたペプチド鎖を得る。
【0053】
一実施形態では、本発明の断片Aは、5アミノ酸単位長さからなる。断片Aは、Fmoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-OH又はBoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-OHのペプチドから選択される。さらに、断片Aは、Fmoc-AA1-AA5-OH又はBoc-AA1-AA5-OHとして表される。
【0054】
一実施形態では、本発明の断片Bは、Wang樹脂と結合された11アミノ酸単位長さからなる。Wang樹脂に結合された断片Bは、H2N-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂として表される。断片Bは、H2N-AA6-AA16-O-Wang樹脂としても表される。
【0055】
一実施形態では、本発明のスキーム1は、プレカナチドの製造方法の一般的な方略の概略的説明を示す
図1に示されている。スキーム1に示されるプレカナチドの製造方法は、断片A及び断片Bを固相合成する工程と、ペプチド断片をカップリングさせる工程と、樹脂に結合されたペプチド断片を切断して脱保護する工程と、単環化する工程と、二環化する工程と、最後に二環式ペプチドを脱塩して、純粋なプレカナチドを得る工程とを含む。
【0056】
一実施形態では、プレカナチドの製造方法は、以下の工程:
(a)断片AとWang樹脂に結合された断片Bとをカップリングさせて、Wang樹脂に結合された保護されたペプチド断片を得る工程と、
(b)工程(a)で得られたWang樹脂に結合された保護されたペプチド断片を、トリフルオロ酢酸/トリイソプロピルシラン/DODT/水の試薬を使用して切断して脱保護することで、式(I):H
2N-Asn1-Asp2-Glu3-Cys4-Glu5-Leu6-Cys(Acm)7-Val8-Asn9-Val10-Ala11-Cys12-Thr13-Gly14-Cys(Acm)15-Leu16-OHの線状鎖を得る工程と、
(c)式(I):H
2N-Asn1-Asp2-Glu3-Cys4-Glu5-Leu6-Cys(Acm)7-Val8-Asn9-Val10-Ala11-Cys12-Thr13-Gly14-Cys(Acm)15-Leu16-OHの線状鎖を適切な試薬を用いて単環化して、式(VI):
【化3】
の単環式ペプチドを得る工程と、
(d)工程(a)で得られた式(VI)の単環式ペプチドを、逆相カラムクロマトグラフィーを使用して精製する工程と、
(e)工程(b)で得られた式(VI)の単環式ペプチドを、適切な試薬を用いて二環化して、式(VII):
【化4】
のプレカナチドを得る工程と、
(f)工程(e)で得られた式(VII)の二環式ペプチドを、逆相カラムクロマトグラフィーを使用して精製して脱塩することで、純粋なプレカナチドを得る工程と、
を含む。
【0057】
本発明の方法は、適切なペプチド断片を固相合成することと、引き続いて溶液中で断片を縮合して線状粗製ペプチドを形成することと、任意に線状粗製ペプチドのシステインアミノ酸残基を酸化的環化して環化された最終生成物を形成することとを含む。
【0058】
本発明の断片A及び断片Bは、それぞれ2-クロロトリチルクロリド(2-ClTrt)樹脂及びWang樹脂を使用する固相合成によって製造される。上記の断片は、第1のアミノ酸のアミノ基(すなわちNH2)と第2のアミノ酸のカルボキシ基(すなわちCOOH)との水分子の脱離を伴う直接的な縮合によってペプチドの連結を行う標準的な固相ペプチド合成技術によって製造され得る。
【0059】
一実施形態では、Wang樹脂は、25℃~65℃の範囲内の温度にて2時間~9時間の撹拌下でアミノ酸と結合される。好ましくは、温度は、7時間~9時間の撹拌下では25℃~30℃の範囲内であり、又は2時間~4時間の撹拌下では45℃~65℃の範囲内である。より好ましくは、温度は、3時間の撹拌下では45℃~50℃の範囲内である。
【0060】
一実施形態では、本発明のWang樹脂に結合された断片B:H2N-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂は、アミノ酸を25℃~65℃の範囲内の温度にて20分間~4時間の撹拌下でカップリングさせることによって製造される。好ましくは、温度は、2時間~4時間の撹拌下では25℃~30℃の範囲内であり、又は20分間~30分間の撹拌下では45℃~65℃の範囲内である。より好ましくは、温度は、20分間の撹拌下では45℃~50℃の範囲内である。
【0061】
一実施形態では、本発明の断片A及び断片Bのカップリングは、カップリング試薬の組合せを使用することを含む。適切なカップリング試薬の組合せの例としては、限定されるものではないが、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド-1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(DIC-HOBt)、ヘキサフルオロホスフェートベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム-ヘキサフルオロホスフェートアザベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム(HBTU-HATU)、ヘキサフルオロホスフェートベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム-1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HBTU-HOBt)、テトラフルオロボレートベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム-1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(TBTU-HOBt)が挙げられる。好ましくは、カップリング試薬の組合せは、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(DIC-HOBt)である。
【0062】
一実施形態では、本発明の断片A及びWang樹脂に結合された断片Bは、25℃~65℃の範囲内の温度で45分間~5時間の撹拌下でカップリングされる。好ましくは、温度は、3時間~5時間の撹拌下では25℃~30℃の範囲内であり、又は45分間~1時間の撹拌下では45℃~65℃の範囲内である。より好ましくは、温度は、45分間の撹拌下では45℃~50℃の範囲内である。
【0063】
一実施形態では、式(I)の線状ペプチドの単環化における反応物質の濃度は、0.5mg/mL~1.0mg/mLの範囲内である。好ましくは、反応物質の濃度は1.0mg/mLである。
【0064】
上記で本開示の様々な実施形態を記載しているが、その基本的な範囲から逸脱することなく、本開示の他の実施形態及び更なる実施形態を想到することができる。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって決定される。本発明は、記載の実施形態、形式、又は例に限定されず、これらは、当業者に利用可能な情報及び知識と組み合わせることで当業者が本発明を実施及び使用することができるように包含される。
【0065】
本発明を明瞭にし、本発明の理解の補助とする目的で、本明細書に開示され、特許請求の範囲に記載されるように、以下の用語及び略語を以下に定義する:
Boc:t-ブチルオキシカルボニル
Cbz:ベンジルオキシカルボニル
DCM:ジクロロメタン
DIC:N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド
DIPEA:ジイソプロピルエチルアミン
DMF:ジメチルホルムアミド
EDT:エタンジチオール
Fmoc:9-フルオレニルメトキシカルボニル
HATU:ヘキサフルオロホスフェートアザベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム
HBTU:ヘキサフルオロホスフェートベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム
HOAt:ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール
HOBt:N-ヒドロキシベンゾトリアゾール
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
MTBE:メチル-t-ブチルエーテル
OBt:O-ベンゾトリアゾール
OBzl:O-ベンジル
OtBu:tert-ブチルエステル
TBTU:テトラフルオロボレートベンゾトリアゾールテトラメチルウロニウム
tBu:tert-ブチル
TFA:トリフルオロ酢酸
Trt:トリチル
【実施例】
【0066】
本発明を、以下の実施例の形で更に説明する。しかしながら、以下の実施例は例示するものであるにすぎず、本発明の範囲に対する限定として解釈されるべきではないことが理解される。
【0067】
実施例1:断片A:Fmoc-AA1-AA5-OHの合成
H2N-Glu(OtBu)-O-2-ClTrtの合成:2-ClTrt樹脂(50g、置換=1.0mmol/g(樹脂))をペプチド合成フラスコに装入し、ジクロロメタン(500mL)で2回洗浄した。撹拌せずに樹脂をジクロロメタン(DCM)(500mL)中で30分間懸濁させた。樹脂にFmoc-Glu(OtBu)-OH(2.0当量)、DIPEA(3.0当量)及びDMF(500mL)の澄明な混合物を添加した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ25℃~30℃で2時間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜた。次いで、反応物質を排出し、樹脂をDMF(3×500mL)及びDCM(3×500mL)で洗浄した。得られた樹脂にメタノール中の10%のDIPEAの混合物を添加し、懸濁液を30分間撹拌し、溶剤を排出した。得られた樹脂をDMF(3×500mL)及びDCM(3×500mL)で洗浄した。
【0068】
上記で得られた樹脂にDMF(500mL)中の20%のピペリジンの澄明な混合物を添加した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ25℃~30℃で10分間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜ、溶剤を排出した。得られた樹脂にDMF(500mL)中の20%のピペリジンの澄明な混合物を更に添加し、懸濁液を25℃~30℃で10分間撹拌し、溶剤を排出し、樹脂をDMF(3×500mL)、IPA(500mL)及びDCM(3×500mL)で洗浄して、H2N-Glu(OtBu)-O-2-ClTrtを得た。Fmoc脱保護の完了はカイザーカラーテスト(Kaiser colour test)によって確認した。
【0069】
Fmoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-O-2-ClTrtの合成:DMF(500mL)中のFmoc-Cys(Trt)-OH(2.0当量)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.0当量)及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(2.0当量)の澄明な混合物をH2N-Glu(OtBu)-O-2-ClTrtに添加した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ25℃~30℃で3時間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜた。反応の完了をカイザーカラーテストによって監視した。反応が完了した後に、溶剤を排出し、樹脂をDMF(3×500mL)及びDCM(3×500mL)で洗浄した。Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH及びFmoc-Asn(Trt)-OH又はBoc-Asn(Trt)-OHについても、カップリング及びFmoc-脱保護の同じ方法に従って、式:Fmoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-O-2-ClTrt樹脂の2-ClTrt樹脂に結合されたペプチド鎖を得た。
【0070】
Fmoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-OHの合成:上記の工程で得られた2-ClTrt樹脂に結合された断片をペプチド合成フラスコに装入した。撹拌せずに樹脂をジクロロメタン(DCM)(500mL)中で10分間懸濁させ、DCM中の1.0%のTFA(4×250mL)を添加した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ25℃~30℃でそれぞれ10分間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜ、溶剤を丸底フラスコへと排出した。断片Aを含む収集された溶液を水で2回(2×1000mL)洗浄し、有機層を蒸発させた。蒸発後に得られた濃厚なシロップ状の物質をMTBE(25mL)中に溶解し、n-ヘキサン(150mL)の添加により沈殿させて、断片A:Fmoc-AA1-AA5-OHのオフホワイト色の沈殿物を得た。沈殿した固体を、ブフナー漏斗を通じて濾過し、n-ヘキサン(2×150mL)で洗浄した。次いで、固体を真空オーブン内において高真空下で35℃~40℃にて一定の重量になるまで乾燥させた。収率:90%、HPLCによる純度:95%。
【0071】
実施例2:断片B:H2N-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂の合成
H2N-Leu-O-Wang樹脂の合成:Wang樹脂(15g、置換=0.5mmol/g(樹脂))をペプチド合成フラスコに装入し、ジクロロメタン(500mL)で2回洗浄した。撹拌せずに樹脂をジクロロメタン(DCM)(500mL)中で30分間懸濁させた。DMF(75mL)中のFmoc-Leu-OH(3.0当量、8.0g)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(3.0当量、3.5mL)及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(3.0当量、3.5g)及びDMAP(0.1当量、0.09g)の澄明な混合物を添加した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ45℃~50℃で3時間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜた。反応が完了した後に、溶剤を排出し、樹脂をDMF(3×150mL)及びDCM(3×150mL)で洗浄した。得られた樹脂に無水酢酸:ピリジン:DCM(樹脂の重量に対して0.1:0.2:9.7)の混合物を添加した。懸濁液を30分間撹拌し、溶剤を排出した。樹脂をDMF(3×150mL)及びDCM(3×150mL)で洗浄した。
【0072】
上記工程で得られた樹脂にDMF(150mL)中の20%のピペリジンの澄明な混合物を添加した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ25℃~30℃で10分間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜ、溶剤を排出し、樹脂にDMF(150mL)中の20%のピペリジンの澄明な混合物を更に添加した。懸濁液を25℃~30℃で10分間撹拌し、溶剤を排出し、樹脂をDMF(3×150mL)、IPA(150mL)及びDCM(3×150mL)で洗浄して、H2N-Leu-O-Wang樹脂を得た。Fmoc脱保護の完了はカイザーカラーテストによって確認した。
【0073】
H2N-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂の合成:DMF(500mL)中のFmoc-Cys(Acm)-OH(2.0当量)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(2.0当量)及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(2.0当量)の澄明な混合物を樹脂に添加した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ45℃~50℃で20分間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜた。反応の進行をカイザーカラーテストによって監視した。反応が完了した後に、溶剤を排出し、樹脂をDMF(3×150mL)及びDCM(3×150mL)で洗浄して、H2N-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂を得た。
【0074】
Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Thr(OtBu)-OH、Fmoc-Cys(Trt)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Cys(Acm)-OH、及びFmoc-Leu-OHについても、カップリング及び脱保護の同じ方法に従って、断片B:H2N-AA6-AA16-O-Wang樹脂を得た。
【0075】
実施例3:断片A及び断片Bのカップリング
DMF(150mL)中のFmoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-OH(断片A)(2.0当量、22.2g)、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(3.0当量、3.5mL)及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(3.0当量、3.5g)の澄明な混合物を樹脂に添加した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ45℃~50℃で45分間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜた。反応の進行を、カイザーカラーテストによって監視した。反応が完了した後に、溶剤を排出し、樹脂をDMF(3×150mL)及びDCM(3×150mL)で洗浄して、Fmoc-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂を得た。得られた樹脂をDMF(150mL)中の20%のピペリジンの澄明な混合物で処理した。懸濁液を、窒素バブリングしつつ25℃~30℃で10分間穏やかに撹拌しながら優しく掻き混ぜ、溶剤を排出し、樹脂にDMF(150mL)中の20%のピペリジンの澄明な混合物を更に添加した。懸濁液を25℃~30℃で10分間撹拌し、溶剤を排出し、樹脂をDMF(3×150mL)、DCM(3×150mL)、IPA(150mL)、MTBE(3×150mL)で洗浄して、H2N-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂を得た。Fmoc脱保護の完了はカイザーカラーテストによって確認した。
【0076】
実施例4:式(I):H2N-Asn-Asp-Glu-Cys-Glu-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn-Val-Ala-Cys-Thr-Gly-Cys(Acm)-Leu-OHの合成
H2N-Asn(Trt)-Asp(OtBu)-Glu(OtBu)-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn(Trt)-Val-Ala-Cys(Trt)-Thr(OtBu)-Gly-Cys(Acm)-Leu-O-Wang樹脂をTFA:TIPS:DODT:水(9:0.5:0.25:0.25(容量)、220mL)の0℃~10℃の予冷された混合物に添加した。懸濁液を25℃~30℃で3時間穏やかに撹拌した。樹脂を、焼結漏斗を通じて濾過した。濾液を0℃~10℃の予冷されたメチル第三級ブチルエーテル(1100mL)へと添加した。反応混合物を0℃~10℃で30分間及び25℃~30℃で1時間撹拌した。次いで、得られた沈殿した固体を濾過し、MTBE(3×250mL)で洗浄した。次いで、吸引乾燥させた固体を真空オーブン内において35℃~40℃で一定の重量になるまで乾燥させて、乾燥したH2N-Asn-Asp-Glu-Cys-Glu-Leu-Cys(Acm)-Val-Asn-Val-Ala-Cys-Thr-Gly-Cys(Acm)-Leu-OHを得た。収率:80%、HPLCによる純度:50%。
【0077】
実施例5:式(VI)の単環式ペプチドの合成
実施例4で得られた式(I)の線状ペプチドを、反応物質の濃度を1mg/mLに維持しながら水中に添加した。水酸化アンモニウムを使用して、反応物質のpHを8.5~9.5に調整した。反応物質に1%のH2O2溶液を添加した。反応物質を25℃~30℃で2時間撹拌した。反応の進行をHPLCによって監視した。反応が完了した後に、酢酸又はTFAを使用して反応物質のpHを5.5~6.5に調整した。反応物質を1.2μの濾紙を通じて濾過した。得られた濾液を逆相カラムクロマトグラフィーにかけて精製する。HPLCによる反応物質の純度:55%。
【0078】
上記で得られた式(VI)の粗製単環式ペプチドを更なる希釈をせずにカラムにロードする。逆相カラムクロマトグラフィーの詳細は以下の通りである。
カラムの仕様:250×80mm
媒体の仕様:C-18、10μ、100Å~120Å
移動相A:pH6.5の水中の0.02Mのリン酸トリエチルアンモニウム。移動相B:アセトニトリル。
【0079】
75%以上のHPLC純度を有する画分から、式(VI)の単環式ペプチドが得られた。75%以下で45%以上のHPLC純度を有する画分をプールして、同じ方法を使用して再精製した。
【0080】
実施例6:プレカナチドの合成
実施例5で得られた単環式ペプチドを水で希釈して、反応物質の濃度を約0.5mg/mLに維持した。反応物質のpHを、10%のトリフルオロ酢酸水溶液を使用して1~2に調整した。反応物質の黄色が10分間超にわたって持続するまで、反応物質にメタノール溶液としてのヨウ素(2当量)を添加した。反応物質を25℃~30℃で2時間撹拌した。反応の進行をHPLCによって監視した。反応が完了した後に、過剰のヨウ素をアスコルビン酸でクエンチし、水酸化アンモニウムを使用して反応物質のpHを5.5~6.5に調整した。反応物質を1μ~1.2μの濾紙を通じて濾過することで、濾液として粗製二環化ペプチドが得られた。HPLCによる反応物質の純度:65%。
【0081】
上記で得られた粗製二環式ペプチドを逆相カラムクロマトグラフィーにかけて精製した。粗製二環式ペプチドを含有する濾液を水で希釈してアセトニトリルの濃度を2%以下に維持した後にカラムにロードした。逆相カラムクロマトグラフィーの詳細は以下の通りである。
カラムの仕様:250×80mm
媒体の仕様:C-18、10μ、100Å~120Å
移動相A:pH6.5の水中の0.02Mのリン酸トリエチルアンモニウム又は水中の0.1%のTFA。移動相B:アセトニトリル。
【0082】
94%以上のHPLC純度及び3%以下の単独最大不純物(single maximum impurity)を有する画分から二環式ペプチドが得られた。得られた二環式ペプチドをプールして脱塩した。94%以下で80%以上のHPLC純度を有する画分をプールして、同じ方法を使用して再精製した。
【0083】
脱塩:上記で得られた二環式ペプチドを等量の水で希釈した。溶液を逆相カラムクロマトグラフィーにロードして脱塩した。逆相カラムクロマトグラフィーの詳細は以下の通りである。
媒体の仕様:C-18、10μ、100Å~120Å
移動相A:0.05%の水酸化アンモニウム、移動相B:アセトニトリル、移動相C:水中の0.25Mの酢酸アンモニウム、移動相D:pH6.5の水中の0.02Mのリン酸トリエチルアンモニウム又は水中の0.1%のTFA。
【0084】
97.5%以上のHPLC純度及び1%以下の単独最大不純物を有する画分からプレカナチドが得られた。97.5%以下で85%以上のHPLC純度を有する画分をプールして、上記と同じ方法を使用して再精製した。
【0085】
凍結乾燥:脱塩から得られたプールされた画分を、0.2μフィルターを通じて濾過し、凍結乾燥して、乾燥プレカナチドを得た。
【0086】
上述の実施例は例示するものであるにすぎず、本発明の範囲に対する限定として解釈されるべきではない。開示された実施形態に対する様々な修正及び変更は、当業者には明らかであろう。本発明の範囲から逸脱することなく、そのような修正及び変更を加えることができる。
【0087】
本発明の利点
本発明は、単純で効率的かつ費用効果の高い方法であるプレカナチドを製造する改善された方法を提供する。
【0088】
本発明は、より高い収率及び純度が得られるプレカナチドを製造する改善された方法を提供する。
【0089】
本発明は、欠失不純物を最低限しか有しない又は全く有しない中間体及び粗製プレカナチドが得られるプレカナチドを製造する改善された方法を提供する。これは、最終的な単離されたプレカナチドの精製し易さ及び収率において有利となる。
【0090】
本発明は、連続的なカップリング方略に従う場合にそうでなければ課題となる粗製材料中のより良好なペプチド含有量をもたらす11+5の方略を使用することによってプレカナチドを製造する改善された方法を提供する。
【0091】
本発明は、二環化に続いて精製する間により良好な収率をもたらす高い純度及びペプチド含有量を有する精製された単環式中間体が得られるプレカナチドを製造する改善された方法を提供する。
【0092】
本発明は、カップリング反応が45℃で行われる場合に各アミノ酸のカップリング時間が30分未満である断片Bを製造する方法を提供する。これにより、反応時間が短縮されるだけでなく、配列中の全てのアミノ酸の完全なカップリングも保証される。
【国際調査報告】