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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-30
(54)【発明の名称】付加製造のための制御された環境
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/322 20210101AFI20220523BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220523BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220523BHJP
   B22F 12/53 20210101ALI20220523BHJP
   B22F 12/30 20210101ALI20220523BHJP
【FI】
B22F10/322
B33Y10/00
B33Y30/00
B22F12/53
B22F12/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556878
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 US2020023974
(87)【国際公開番号】W WO2020198050
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】62/822,285
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】518215530
【氏名又は名称】デスクトップ メタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DESKTOP METAL, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225543
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 真
(72)【発明者】
【氏名】マーク ガードナー ギブソン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン ベル
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018BA08
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
磁気流体力学噴射を用いて金属物体の付加製造をする制御された環境システム。シール板は、容積エンクロージャのペクレギャップシールに対して配置される。不活性ガス流は、容積エンクロージャの内部の高純度容積を維持するために使用される。プリントヘッドは、内部にアクセスし、シール版の穴を通じて造形材料を供給する。造形板は、物体を製造することができる容積エンクロージャの内部内で、シール板に対して移動可能である。
【選択図】図8A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気流体力学的噴射を使用して金属物体の付加製造をする制御された環境システムであって、
シール板と、
前記シール板に対して配置されるペクレギャップシールを含む容積エンクロージャであって、前記ペクレギャップシールは、前記容積エンクロージャの内容積内に高純度雰囲気を維持する不活性ガス流を含む容積エンクロージャと、
前記シール板の開口部を通じて造形材料を放出するように構成されるプリントヘッドと、
前記シール板に対して移動可能な前記容積エンクロージャの前記内容積内にある造形プラットフォームと、
を備える、制御された環境システム。
【請求項2】
前記ペクレギャップシールは、前記シール板に平行な外周棚部を含む、請求項1に記載の制御された環境システム。
【請求項3】
前記不活性ガス流は、前記容積エンクロージャの前記内容積内で発生し、前記シール板と前記外周棚部の間に形成されるギャップ内を流れる、請求項2に記載の制御された環境システム。
【請求項4】
前記ペクレギャップシールは、前記不活性ガスの排出を行う空気静圧要素を含む、請求項2に記載の制御された環境システム。
【請求項5】
前記空気静圧要素は、多孔質媒体から形成される分配器を含む、請求項4に記載の制御された環境システム。
【請求項6】
前記容積エンクロージャからの前記不活性ガスの前記排出および前記不活性ガス流は、共に、前記ペクレギャップシールを通る前記不活性ガス流に寄与する、請求項5に記載の制御された環境システム。
【請求項7】
前記ペクレギャップシールは、前記容積エンクロージャと前記シール板の間にベアリングを提供する3つの一次接触パッドによって維持される、請求項5に記載の制御された環境システム。
【請求項8】
前記分配器は、前記一次接触パッドに対して、前記シール板から窪んでいる、請求項7に記載の制御された環境システム。
【請求項9】
前記分配器は、前記一次接触パッドに対して、前記シール板から50~500ミクロンの距離だけ窪んでいる、請求項8に記載の制御された環境システム。
【請求項10】
前記造形プラットフォームは、シャフトを介して、プリントヘッドに対して移動可能であり、
前記シャフトは、前記シャフトと前記容積エンクロージャの間にあるペクレギャップシールで密封される、前記請求項1に記載の制御された環境システム。
【請求項11】
ある量の断熱材をさらに含み、前記断熱材は、前記容積エンクロージャの外側に配置される、請求項1に記載の制御された環境システム。
【請求項12】
移動システムをさらに備え、前記移動システムは、前記容積エンクロージャの外側に配置され、前記プリントヘッドに対して前記造形プラットフォームを移動させるように構成される、請求項10に記載の制御された環境システム。
【請求項13】
磁気流体力学的噴射を使用して金属物体の付加製造をする環境を制御する方法であって、
シール板を提供するステップと、
容積エンクロージャのペクレギャップシールを前記シール板に対して配置するステップと、
ペクレギャップシールで不活性ガス流を流して、前記容積エンクロージャの内容積内に高純度雰囲気を維持するステップと、
前記容積エンクロージャの前記内容積内にある前記シール板に対して、造形プラットフォームを移動させるステップと、
造形材料を前記シール板の開口部から造形板に供給するステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記ペクレギャップシールは、前記シール板に平行な外周棚部を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記不活性ガス流は、前記容積エンクロージャの前記内容積内で発生し、前記シール板と前記外周棚部の間に形成されるギャップを流れる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ペクレギャップシールは、前記不活性ガスの排出を行う空気静圧要素を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記空気静圧要素は、多孔質媒体から形成される分配器を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記容積エンクロージャからの前記不活性ガスの前記排出および前記不活性ガス流は、共に、前記ペクレギャップシールを通る前記不活性ガス流に寄与する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ペクレギャップシールは、前記容積エンクロージャと前記シール板の間にベアリングを提供する少なくとも3つの一次接触パッドによって維持される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記分配器は、前記一次接触パッドに対して、前記シール板から窪んでいる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記分配器は、前記一次接触パッドに対して、前記シール板から50~500ミクロンの距離だけ窪んでいる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記造形プラットフォームは、シャフトを介して、プリントヘッドに対して移動可能であり、
前記シャフトは、前記シャフトと前記容積エンクロージャの間にあるペクレギャップシールで密封される、前記請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記容積エンクロージャは、ある量の断熱材を外側に配置した、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記容積エンクロージャの外側に配置される移動システムを動作させて、前記プリントヘッドに対して前記造形プラットフォームを移動させるステップをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の主題は、一般的に環境条件を制御することに関し、より詳細には、磁気流体力学的印刷を使用して金属物体の付加製造をする制御された環境に関する。
【開示の背景】
【0002】
金属の付加製造を含む多くの付加製造及び3D印刷用途においては、部品が作成されている環境面を制御することが重要である。多くの場合、特定のガスの雰囲気を維持することが有利であり、または重要であり得る。例えば、付加製造用途において、ある金属粉末を用いて作業する場合、印刷物と反応する可能性がある汚染ガスの分圧が低い状態で不活性雰囲気を維持し、酸化物、炭化物、水素化物、金属間化合物などの望ましくない種の生成を回避することによって印刷物の品質を向上させ、及び粉末爆発の危険性を低減することが重要である。必要とされる純度のレベルは、用途によって異なるが、1PPM(百万分率)汚染レベルと同程度に低くてもよく、または他のプロセスではそれより低くてもよい。多くの場合、部品の周囲の環境における温度および熱流束を制御することによって作成されている部品の温度を制御することが有利になり得る。
【0003】
関心のある技術では、磁気流体力学的印刷(ここではMHD印刷、又はMHDと呼ぶ)として知られているプロセスにおいて、制御された磁気流体力学パルスを使用して、溶融金属の滴を個々に選択的に噴射し、3次元形状を付加的に造形し得る。このプロセスの一実施形態では、噴射装置(ここではノズルと呼ぶ)を用いて、固体金属原料がその液相線温度を超えるように加熱して溶融金属を生成し、溶融金属を含み、溶融金属がその液相線温度を超えるように保ち、磁場に対して溶融金属体を配置し、電流が溶融金属を通過して磁気流体力学的パルスを生成することを可能にし、溶融金属流を所望のターゲットに向ける。
【0004】
MHD印刷による付加製造では、部品周辺にあるガスの雰囲気を制御すること及び部品温度を制御することが、両方とも有利である。例えば、アルミニウム合金から部品を印刷する場合、部品の環境から、MHDプリントヘッドの環境から、及び溶融滴が横断する環境から酸素及び水蒸気を低減又は排除すると有利であることが判明している。これは、例えば、実質的に純粋なアルゴンの雰囲気を維持することによって達成し得る。アルミニウムのMHD印刷において、新たに印刷された溶融液滴を部品に適切に融合させるようにするには、部品を高温に維持することが有利であることも判明している。これは、部品がさらされるガスの環境の温度、および放射熱伝達に関連する状況を含む他の環境面を制御することによって達成することができる。
【0005】
しかしながら、不活性雰囲気の生成および維持は、困難である場合がある。良好な温度制御がされている環境の生成および維持もまた、困難な場合がある。最初に、所与の密封容積を精製することは、汚染物質をパージして置換するために非常に大量のガスを使用すること、および/または汚染物質を除去するために容積を真空に引くことが可能なように容積を設計することを必要とする場合がある。さらに、ポリマー、断熱材、陽極酸化被膜、および他の多くのものなどの、設計されるシステムにおいて一般的に使用される多くの材料は、気孔率が高く、表面積が大きく、水蒸気、酸素、および他のガス等の汚染物質が吸着している場合があり、次いでこれらのガス等は、環境が精製され及び濃度勾配がより急勾配になるにつれて、環境中に放出される。
【0006】
最後に、再循環ボールベアリングスライダ又はモータ巻線等の多くの一般的な機械的要素は、純粋な環境内でガスを保持し及び「見かけ上の漏れ」として作用する場合がある、曲がりくねった内部経路を含む。これらの不純物源はすべて、ある程度の頻度で開放しなければならない密封容積内においてより問題になり、システムが雰囲気に開放されるたびに、水および酸素が、表面に再吸着し、部分的に包囲されている「見かけ上の漏れ」に再導入される場合がある。一般的に、3D印刷システムは、例えばパーツの除去や定期メンテナンスを容易にするために、ユーザがアクセスできるように開いていなければならない。1つの方法は、グローブボックスにおいて一般的であるように、送風機を介して雰囲気を再循環させ、モレキュラーシーブ等を介して精製することによって、密封容積の純度を維持することである。モレキュラーシーブは、吸着能力が有限であり、汚染物質を除去する能力をリセットするために、フォーミングガス等の還元雰囲気流と組み合わされる特定の加熱ステップを介して、定期的に再生されなければならない。再生中は多くの時間を要し、システムはオフラインであり、3D印刷システムを事実上使用できない。ほとんどの場合、これらのシステムは、モレキュラーシーブの健全性を監視するために、雰囲気を連続的にサンプリングする高感度で高価な水蒸気センサおよび酸素センサと組み合わされている。このような構成において、ユーザは、真空ポンプ式ロードロックまたは他の工学的器具によって、必要な機能にアクセスし得る。さらに、密封容積内への汚染物質の進入を実質的に増加させる透過性エラストマーグローブの使用を必要とする場合がある。これらのシステムは、本明細書の開示とは対照的に、複雑性、コスト、および消耗品を増やしてきた。一般に、清浄な環境を維持することに関連する課題は、制御される必要がある容積が増加するにつれて、より厳しくなる。
【0007】
同様に、印刷中に部品の温度を高く維持することに関連する課題がある。清浄な環境を維持することと同様に、動きを発生させるために必要とされる機械的要素の多くは、本明細書で意図される高温に耐えることができず、またはディレーティング、熱膨張、耐用年数の減少若しくは他の考慮事項のせいで性能が劣化するであろう。敏感な構成要素を能動冷却し、水冷し、または断熱する等の解決方法は、3D印刷システムのコスト及び複雑性を増加する。多くの構成要素は、高温環境では容易に動作できず、システムのより低温の領域に配置されることが好ましい。さらに、清浄な環境の維持と同様に、加熱される環境に関連する問題は、環境の容積が増加するにつれてより深刻になる。
【発明の概要】
【0008】
付加製造される物体にとって良好な高純度不活性条態を維持する、制御された環境システムが開示される。エンクロージャが、シール板に対して配置されるペクレギャップシールを有する外部プラットフォームを有する。エンクロージャの内側から外側へのガス流は、エンクロージャがシール板に対して移動することを可能にする一方で、エンクロージャを密封するために使用される。噴射ノズルなどの付加製造システムは、シール板の開口部を通って突出し、造形面上に造形材料を堆積させ、エンクロージャ内に物体を形成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A及び1Bは、平面における密封容積及びペクレギャップシールの原理の詳細を概略的に示す。
図2】無次元ペクレ数に対する隔離度のプロットである。
図3図3A及び図3Bは、平面における分配器を使用して、密封容積および密封原理の詳細を概略的に示す図である。
図4図4A及び図4Bは、付加製造システムの文脈中における密封容積の実施形態を示す。
図5図5A~Cは、負荷支持型空気静圧ベアリングを含む密封容量の実施形態を示す。
図6図6A及び図6Bは、円筒面上のペクレギャップシールの実施形態を概略的に示す。
図7】シールギャップを通るガス膜の正規化平均速度の異なる挙動を2つプロットする。
図8図8Aは、外部負荷支持型空気静圧ベアリング及び2自由度ペクレギャップシールを備えるMHD印刷システムの開示について、実施形態の詳細を示す。図8Bは、図8AのMHDプリントヘッドの拡大図を示す。図8Cは、図8Aのシステムにおけるベアリング及びシールの配置の詳細を示す。図8D~8Gは、印刷プロセスの様々な段階における図8Aの実施形態を示す。
図9】分配器に供給するために密封容積からのガスを再利用する実施形態を示す。
【発明の詳細な説明】
【0010】
本開示の上記の概要、好ましい実施形態、および他の態様は、添付の図面と併せて読まれたときに、以下の特定の実施形態の詳細な説明を参照して最もよく理解されるであろう。
【0011】
磁気流体力学(MHD)噴射を使用して物体の付加製造と共に使用する制御された環境が開示されるが、当業者は、制御された環境が他の付加製造技術と共に使用されてもよいことを理解するであろう。
【0012】
不活性環境および/または加熱環境の生成を容易にする本開示の一態様は、密封容積からできるだけ多くの装置を除去し、同時に密封容積をできるだけ小さくすることである。付加製造の場合、不活性容積の外側に移動するはずである装置は、断熱材と同様に、部品及び/又はプリントヘッドを並進させる移動システムを含み得る。これは、汚染源を除去することによって、密封容積内で高純度不活性環境を達成するのに役立つ。移動システムは必要温度へさらされることに耐えられず、熱的に保護する必要があるため、当該装置は熱制御を実現するのに役立つ。この装置は、高温環境の内部で断熱および/または冷却される必要があるため、今度は高温環境の維持を複雑にするであろう。また、ハードウェアを不活性容積内から取り除くことは、この容積を低減させることを可能にし、同様に清浄度および高温を維持することを容易にし、ガス流量および電力要求量を低下させることを含む。しかしながら、ここで移動システムが密封容積の外側にあるので、密封容積は、その所望の純度レベルを維持しながら、ここでその構成要素の何らかの相対運動に適応することができなければならない。このことを説明するために、造形プラットフォームが3軸デカルト移動システムで静止プリントヘッドの下を移動する構成の3Dプリンタの実施例を考える。移動式造形プラットフォームは不活性容積の内部に存在し、一方、モータ、ねじ、ベルト、レール、ウェイ、ベアリング等の運動要素は容積の外部に存在する。明らかに、3つの運動軸(X、Y、およびZ)は、何らかの方法で不活性容積の障壁を破壊し、通過し、またはさもなければ結合して、造形プラットフォームが静止プリントヘッドに対して移動可能なようにしなければならない。このことを達成する多くの方法には、造形容積部分と移動システム部分との間にある動的シールが含まれるであろう。一般に、これらのシールは、潜在的に高温で、並びに、潜在的には高速及び高加速度で、大きな運動量に耐えなければならず、シールの寿命にわたって意図した通りに動作し続けなければならない。さらに、これらのシールは、2つ以上の軸における運動を可能にしなければならない場合がある。例えば、3D印刷では、部品の1つの層が印刷されると、X軸及びY軸はしばしば、時には同時に移動する。したがって、上記の構成におけるX軸及びY軸の間の任意のシールは、X-Y平面内における相対運動を可能にしながら密封することができ、これは、単一の軸を密封するよりもはるかに複雑であり、要求が大きい。
【0013】
本開示の態様は、付加製造用途におけるペクレギャップシールの使用および設計に関する。本明細書では、ペクレギャップシール(またはペクレシール)が、2つの構成要素の間を流れるガスの薄膜によって形成され及び維持されるシールとして定義され、ガス膜は、主に外部のガスの供給によって供給される。そのようなシールは、静的状態(2つの構成要素間に相対運動がない)、または動的状態(2つの構成要素間に相対運動がある)、またはそれらをいくらか組合せた状態で動作し得る。本開示では、ペクレギャップシールの説明を簡単に説明しているが、ペクレギャップシールを使用して、互いに対して移動可能なアセンブリにおける2つの構成要素の間を密封する。動的状態においては、2つの構成要素の相対運動によって作り出される、密封ガス膜へのいかなる寄与も、外部のガス供給からの寄与に対して、典型的には小さいことに留意されたい。加えて、密封境界にわたる圧力差は、典型的には非常に小さい。これは、大きな圧力勾配または粘性抗力効果を利用し得る他の流体シールと対照的である。
【0014】
ペクレギャップシールは、いかなる流れも妨げるという伝統的な意味のシールを形成しないかもしれないが、出願人は、それでもそのギャップをペクレギャップシールと呼び、容積外の雰囲気と密封容積内の雰囲気との間の隔離度が比較的高いことを強調する。例えば、外部の空気と内部の不活性環境との間で高い隔離度を達成することができる。本明細書に記載のペクレギャップシールは、ppmの隔離度を、又はppbの隔離度さえも提供することができるが、出口からの空気が密封容積の内側に到達しないように密封するという意味で、「密封」として説明することは妥当であると考えることができる。さらに、議論の多くは密封容積内に維持することができる雰囲気のタイプに関係するが、システム内の他の工学的手段と併せて、このシールを想起することが重要であり、内部の雰囲気の温度を外部から隔離するために利用され得る。
【0015】
平面表面実施形態におけるこのような動的ペクレギャップシールの動作原理は、断面図1Aおよび対応する詳細図1Bに概略的に示されている。ここで、外部雰囲気1001は、密封容積内の制御された雰囲気1002から隔離されている。この隔離は、1つのシールおよび2つの機械的要素によって達成される。密封容積は、容積エンクロージャ1003、対向するシール板1004、および、ペクレギャップシール1005の組み合わせによって実質的に画定され、ペクレギャップシール1005は、ここではギャップを通るガス流の単純な図を表す矢印によって示される。シールは、平坦なシール板1004の下面及びシーリング長さ1007にわたる容積エンクロージャ1003の上面の間である寸法1006の薄いギャップを通ってガスが流れることにより形成される。容積エンクロージャのこの形状は、シール板と実質的に平行な外周棚部(circumferential ledge)を作り出し、円周ギャップによって分離される。後述するように、このギャップに関する寸法は非常に重要であり、ここでは、図示されていない手段を介して、シール周辺部の周りで一定でなければならない。シールを形成する密封ガスは、例えば質量流量コントローラまたは圧力調整器といった供給源1008によって密封容積内に供給され、密封容積内で望ましい雰囲気および純度のものであることが好ましい。非限定的な例として、密封ガスを、アルゴン、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、またはそれらの混合物としてもよい。薄いギャップはガス流を妨げる流体抵抗を課し、密封容積に気体が入っていると、内部の圧力は、必然的に周囲の圧力を超えて上昇する。次いで、容積内のこの圧力は、薄いギャップを通ってガスを強制的に流させる駆動力として作用し、ペクレギャップシールを形成する。重要なことに、容積エンクロージャ1003は、シール板1004に対して左右方向に自由に並進移動する。また、容積エンクロージャは、シール板に対してページの内外の方向に平行移動し、及びシール板に対して回転することも可能である。したがって、このシールは、3自由度(2つの並進および1つの回転)を可能にすると言うことができるが、3自由度のすべてを利用する必要はなく、または3自由度のすべてを同時に利用する必要もない。重要なことに、シール板の範囲内にエンクロージャが残り(すなわち、ペクレギャップシールを画定する形状が変化しない)、供給源1008からの十分なガス流がある限り、密封容積の外側の雰囲気が、密封容積の内側の制御された雰囲気から実質的に隔離されたままであり得る。
【0016】
このようなペクレギャップシールを使用することの利点は、Oリングシール等の他のシール技術と対照的に無数あるが、決定的には、これらが非接触であり、シール部品の磨耗を取り巻く懸念を取り除き、いかなるヒステリシスもなしにシール部品間の摩擦運動を極めて低くすることを可能にし得る点である。さらに、ペクレギャップシールは、いかなるエラストマー要素またはポリマー要素にも依存しないので、いくつかの付加製造の応用例において遭遇する高温での使用に適するように設計され得る。同様に、ペクレギャップシールは、潤滑剤、シーラント、又は油などに依存しないので、微粒子の発生、熱安定性、および密封容積内の制御された環境へのガス放出に関する懸念を軽減する。
【0017】
図4A~4Bは、このようなペクレギャップシールが付加製造システムの文脈においてどのように利用することができるかを示す。重要なことに、印刷システムおよび補助システムに必要とされる様々なサブシステムが、構成要素間の必要な相対運動を可能にしながら、隔離性を損なわずに、密封容積内で必要に応じてどのように機能または作用し得るかを、この実施形態は示す。付加製造システムの1つの好ましい実施形態において、動作中、シール板4001は、シール板4001に取り付けられ又はシール板4001を貫通するプリントヘッド4002等の任意の構成要素とともに、シールの隔離性を損わずに、シール4003、シール周辺部4004、およびエンクロージャ4005に対して並進し得る。印刷される部品4009が製造される造形プラットフォーム4006は、密封容積内に収容され、一方で付加製造用のノズルは、視線を、シール板の中心付近の切抜部を通って印刷される部品へ向くように維持する。ノズルは、プリントヘッドアセンブリの一部を形成し、プリントヘッドアセンブリは、ヒーター、センサ、材料供給器等の他のハードウェアを含み得る。ノズルは、さらにプリントヘッドエンクロージャ容積内に収容される。プリントヘッドエンクロージャは、上板で気密性を維持し、したがって、密封環境の一部も形成する。密封容積全体は、上板の下のx-y平面内で平行移動し、ノズルが部品に対して並進することを可能にする。印刷中の通常の動作下において、プリントヘッドハウジング4007に収容されるプリントヘッドの切抜部は、ペクレギャップシールの周辺内にとどまり、密封容積の内側、したがって制御された環境の内側にノズルをとどめる。3番目の並進自由度は、印刷プラットフォームをノズルに対して移動させるZ軸を形成する。これは、例えばノズルを印刷プラットフォームに対して下方に移動させることによって達成されてもよい(この作動の詳細は図示しない)。このような単一自由度並進軸の好ましい実施形態を図6A~6Bおよび図8に示す。ノズルサービスステーション等の補助システムまたはハードウェア4008は、例えば密封容積内に存在してもよく、フィードスルーを使用することで、電力、信号、配管、または任意の他の必要な接続が供給されてもよく、その多くの様々な型が当該分野で知られている。このようなシステム又はハードウェアが密封容積を貫通する相対運動を必要とする場合、これらはまた、本明細書に記載されるペクレギャップシールの様々な実施形態を利用して、隔離を維持し得る。
【0018】
これらのペクレギャップシールが機能する原理は、無次元ペクレ数の助けを借りてデザインし、及び解析することができる。この数字は、流れにおいて拡散物質輸送に対する移流物質輸送の比を取得する。流れが1次元の場合、ペクレ数Peは、次式(1)のように定義される。
【数1】
ここで、Lは流れ方向に沿ったシール長さ(m)であり、vはシールギャップを通る平均ガス速度(m/s)であり、Dは動作温度および動作圧力でのあるガス種の別のガス種内における2元拡散係数(m^2/s)である。
【0019】
このペクレ数は、ペクレ数が大きいほど密封が向上する範囲に役立つことができる。シールギャップを通って清浄な容積の内側から外側へ移動するガスの速度が十分に高くなるにつれて、汚染物質が「上流」(密封容積の外側から内側)に拡散することは実質的に妨げられると考えることができる。具体的には、ペクレギャップシールの隔離度を、以下の式(2)に従って算出することができる
【数2】
ここで、Iは隔離度(単位なし)であり、密封容積内の汚染物質の濃度とその外側の汚染物質の濃度の比として定義される。
【0020】
前述の式は、密封容積からペクレギャップシールを通って外部へ流れる定常状態の1次元ガス流を想定しており、システムがペクレギャップシール自体以外に他の実際の漏れまたは見かけ上の漏れを有していない場合、密封容積内の汚染種の濃度の近似値をもたらし得る。それはさらに、容積内に入れられシールを形成するガスが完全に純粋であると仮定する。
【0021】
例えば、標準空気(酸素が約200×10^3 ppm)を伴う造形容積の外側を密封容積の内側(これは酸素が約2ppmに保たれることが望ましい)から隔離するために、必要な隔離度は約10^-5であると決定することができ、必要なペクレ数は約11.5である。これは、図2を参照してタイライン2001および2002上に図示され、ギャップシールのペクレ数に対する隔離度(シール内部の汚染物質濃度とその外部の濃度の比)で式(2)をプロットする。さらに図2は、ペクレ数をわずかに増加させることで、隔離度の桁数をさらに増やすことがたやすく達成できることの容易性を示している。例えば、Pe数を2倍の約25にするだけで、そのようなシールの理論的隔離度は、さらに5桁向上し、10^-10になる。
【0022】
本明細書に開示されているペクレギャップシールの多数の実施形態および実施例は、例えば、ペクレギャップシールが有効な技術であり得ることを理解するために、1次元モデルおよび近似を用いて理解することができ、その結果、理論的マージンが大きく、高度に変化する解決策を生成することができる。
【0023】
この一次元的取扱いは、容易に拡張されて平面状のペクレギャップシールをカバーし、当該平面上のペクレギャップシールは、シール長さLに対してシール外周部が大きいと仮定し、並びにシールの形状を単一の矩形流体経路に単に「切断」および「展開(unwrapping)」することで説明される。次いで、シールを通る平均流体速度は、式(3)によって求めることができる。
【数3】
ここで、Qは容積流量(m^3/s)、tはギャップの寸法(m)、wはシールの全幅(m)である。
【0024】
このような仮定を用いれば、当業者は、システムに必要な密封隔離度及び関連する拡散係数が与えられる場合、必要とされる全てのガス消費量及び圧力に注意を払いながら、シールギャップを通る必要な平均流体速度をもたらすために適切なギャップ寸法及びシール長さを選択することが、簡単な問題であると分かるはずである。
【0025】
上述のペクレ数に関する解析により、シールを通る形状のデザインおよび流れを準備することが可能になる。しかしながら、出願人は、上記の式が比較的単純な1次元モデルに対応することを認識している。このモデルは一般的に、適切なギャップ寸法及びシール外周に対して比較的少ないガス流量を用いて、ppmの隔離度を達成するように構成される物理システムに対応することができる。実験を通じて、理論値をわずかに上回るペクレ数で動作させれば、実用的な効果を作り出すのが簡単であり望ましいことが判明した。さらに、適切な設計のために、ペクレギャップシールの理論的設計を超えて、様々な実際的な考慮事項をさらに詳細に評価することが望ましい場合がある。このような実際的な考慮事項は、性能制限を支配する傾向があり、主な性能制限はギャップ寸法のばらつきである。表面の選択、構成要素の相対運動、および温度に関するさらなる示唆も提示されるであろう。
【0026】
図1に示すペクレギャップシールの実施形態を考えてみる。供給源1008が質量流量コントローラであり、その設定位置に固定されると仮定する場合、ギャップ寸法の変化がシールの隔離度に及ぼす影響を分析することが可能である。直感的には、ギャップ寸法が大きいほどシールの流路断面積が大きくなり、それによって所与の流量に対する平均速度が低くなり、したがって隔離度が減少する。実際、平均速度の感度は、そしてシール長さと拡散係数が一定であると仮定すると、したがってペクレ数は、次式(4)のようになることがわかる。
【数4】
【0027】
この感度の影響を説明するために、意図的ではないが、シール外周部の領域が公称ギャップ寸法の2倍であるが、同時に、別の領域が公称ギャップ寸法の2分の1倍(しかし、シールの全有効流体抵抗は変わらない)である場合の例を考える。公称ギャップが数十ミクロン又は数百ミクロンと測定される場合に、意図される長さ及び移動にわたって、2つの適度に平坦な表面の間が、このようなギャップ寸法の範囲になると考えられ得る。ギャップ寸法が小さいシール部では速度が不足し、シールの隔離を実質的に不利にするが、一方、公称ギャップより大きい領域では速度が過剰である。具体的には、局所流速は、公称流速の4倍から1/4倍の間で変化することができる。したがって、流速は2つの領域の間で16倍異なる。許容可能な全ガス流量に対して、この変動範囲は、許容できないほど低い局所ペクレ数をもたらす可能性が高く、したがって、ギャップが小さいシールの側面において分離をもたらす可能性が高い。これは、ペクレギャップシールの全外周部のまわりに、一貫して均一なギャップ寸法を維持することの重要性を強調している。
【0028】
典型的なシステムの寸法及び動作パラメータの例では、「超高純度」アルゴンとして商業的に販売されているものを密封容積に供給する場合、約20mmのシール長さ及び約100ミクロンのギャップ寸法に対してO及びHO汚染レベルを密封環境内で50ppm(容積)未満に維持するには、ペクレ数の範囲が10~100であれば充分であることが実験的に測定された。容積内の圧力の範囲は、約100~1000Paとすることができる。しかしながら、シール周長が増大するにつれて、必要とされる長さスケールにわたって対向する熱シール面のために、構成要素に必要とされる平坦性を生成し維持することがますます困難になる。この困難は、構成要素の温度の変動または2つの構成要素の相対運動などの外的要因によってさらに悪化する。平坦性がより緩い場合の公差に適応するには、シール面間の平均ギャップ寸法を増加させる必要があり、これは、構成要素間で同じ流速を生成し、したがって、同じ隔離度を生成するためにガス消費量を増加することを必要とする。さらに重要なことに、周辺部シール全体にわたって2つの構成要素間の変位が一貫するように確保することもますます困難になってきており、ガス流量に対してマージンが不十分な状態で動作すると、前述の分析が示すように、隔離にマイナスの影響を与える可能性がある。
【0029】
ペクレギャップシールを画定する構成要素が互いに相対的に移動する場合、別の実際的な効果がある。滑りなし境界条件のために、速度分布の形状及びその大きさの両方が、静的な場合から変化する。流れの正確な形状は、圧力差を持つ二つの平行平板間のクエット流れに関するよく知られた方程式で予測でき、放物線状の速度分布と線形状の速度分布を重ね合わせたものである。線形成分は、シールギャップを通るガス速度方向に対する構成要素の相対運動方向に応じて、(平均流速に関して)有利に又は不利に加えることができる。平面動的ペクレギャップシールは、シール周辺部の一部を有し、この部分は運動から利益を得る一方で、平均速度は不利になり、したがって他の領域における隔離は不利になるであろう。本明細書で意図される多くのシステムでは、意図されるシールガス速度が構成要素間の相対運動の大きさよりも大きくなく、実質的に大きくない場合、意図されるガス速度は典型的に類似する。最悪の場合の運動を考慮するためのさらなる動作マージンは、密封容積内へのガス流量を増加させることによって容易に達成することができる。再び留意すべきことは、シールを通る平均局所ガス速度であり、これが最も重要である。任意の一箇所における流線の一部は負の速度(つまり外側から内側に向かって逆流する)さえ持つかもしれないが、しかしながら、ギャップ寸法を通るすべての流線の平均流速が十分に正である限り、シールの隔離を損わないようにすることができる。これは、汚染種の、ギャップを通る流線に対して垂直方向の速度が、典型的には流速よりはるかに大きいためである。主要な流れ方向に対して垂直に拡散するために、ギャップ寸法を通る著しい混合が実質的に存在し得る。これは、先に示された1次元分析が大きな効果をもたらすために使用され得る別の理由である。回転自由度、特により高速での回転自由度については、さらなる分析が保証され得る。
【0030】
ペクレギャップシールを設計する際のもう1つの考慮事項は、温度である。流体の温度が上昇するにつれて、その密度が典型的に減少するが、その粘度は増加する傾向にある。さらに、2種類の拡散は、T^3/2に比例するはずである。このため、予想される動作条件で問題のシステムを分析することが重要である。
【0031】
均一なギャップ寸法を維持するという課題に戻り、ペクレギャップシールの第2の好ましい実施形態、すなわち空気静圧ベアリングを使用し、さらに好ましくは、多孔質媒体空気静圧ベアリングを、ペクレギャップシールの対向する面のうちの少なくとも一部として使用することを導入する。従来、このような空気静圧ベアリングは、エアベアリングとも呼ばれ、典型的には加圧ガスの薄膜(必ずしも空気とは限らないが)を用いて作動し、2つの面の間に反力を効果的に与え得る。1つ以上の要素が、小さな溝、直列オリフィス、または、好ましくは多孔質媒体中の曲がりくねった小さな経路を通る固有抵抗などの、高流体抵抗を提供する。
【0032】
エアベアリングの最も単純なモデルは、直列した2つの流体抵抗である。第1の抵抗R1は、エアベアリングの構成に固有のものである。従来のオリフィスエアベアリングの場合、この抵抗は、ベアリングのオリフィスを制限することによって与えられる。(この議論の残りの部分が注目する)多孔質媒体エアベアリングの場合、この抵抗は、低レイノルズ数におけるダルシーの法則によって、次式(5)のように近似的に記述することができる。
【数5】
ここで、μは流体の動粘度(Pa×s)、xは流体が流れる多孔質媒体を通る長さ(m)、kは特定の媒体の透過率(m^2)、Aは流れが発生する多孔質媒体の断面積(m^2)である。
【0033】
第2の抵抗R2は、エアベアリングからのガス流によって、及びエアベアリング面とシール面との間のギャップを通じて形成される。ハーゲン・ポアズイユ方程式を用いて、与えられた形状に対するこの抵抗を計算することができ、この抵抗は、ギャップ寸法の3乗の逆数に敏感であることが分かるであろう。
【0034】
これらの2つの抵抗を直列に配置する場合、これらの抵抗は、本質的に圧力分割器なるものを形成し、電気回路の分圧器に類似する。エアベアリング面に、この2つの抵抗の相対値に関連する圧力が発生するであろう。ギャップの抵抗は高度に非線形であり、ギャップ寸法に反比例して変化する。ギャップが大きい場合、ギャップの抵抗は非常に低く、ベアリング面で発生する圧力はゼロになる。同様に、ギャップが非常に小さくなるにつれて、抵抗は急激に大きくなり、ベアリング面における圧力はベアリングに供給される供給圧力に近づいていく。一方、エアベアリングのパラメータを調整して、具体的には、透過性媒体ベアリングの場合の流動長Lおよび透過率kを調整して、所与の負荷で所与のベアリング浮上高さを提供することができる。市販のエアベアリングにおける浮上高さは、一般に1~20μmの範囲になるように設計されており、サイズ、デザイン及び供給圧力に応じて、数十~数千ニュートン、又はさらに高い負荷を支持することができる。
【0035】
留意すべきことには、ギャップにおける抵抗が高度に非線形である結果、エアベアリングの剛性が、同様に高度に非線形であり、ベアリングのギャップが減少するにつれて極端に急激に大きくなる。その結果、エアベアリングが、エアベアリング面と対向するシール面との間で非常に一貫したギャップを本質的に維持する。またエアベアリングは、そのシール面に対してほぼ摩擦のない運動を可能にし、実質的に特定の負荷容量を有する。非常に小さなギャップ厚さで作動するように結合する場合、エアベアリングは、ペクレギャップシールとしての使用に良く適合する。
【0036】
最も重要なことは、ギャップの抵抗に対するベアリングの抵抗の相対的な大きさである。一般に、ベアリングの抵抗はギャップの抵抗よりも大きく、しばしば桁違いに大きい。したがって、ギャップの抵抗を無視することは、合理的な仮定であり得る。そうすることにより、ギャップを通る流れの速度は、ギャップ寸法に対して次式(6)の感度を有するように導出され得る。
【数6】
【0037】
この比例性は、後に空気静圧要素を有するペクレギャップシールの比例性と対比されるであろう。
【0038】
図3は、空気静圧要素を利用する平面ペクレギャップシールの実施形態を示す。図1のように、密封容積内の制御された環境1002は、矢印3001によるガス流の単純な表現によって示されるガスの薄膜によって外部雰囲気1001から隔離され、残りは、エンクロージャの壁1003およびシール板1004によって形成される気密境界によって形成される。ここで、空気静圧要素は、エンクロージャの一部に機械的に接合される多孔質媒体3002として表される。空気静圧要素の上面とシール板1003の下面との間の距離が、ギャップ寸法1006を形成する。図示されるように、ガスをシール内に放出する空気静圧要素部分は、シールの全長にわたって延在する必要はない。加圧ガスは、供給源1008からキャビティ3003に入り、次いで空気静圧ベアリング要素の高流体抵抗を通って流れる。この2次元図では、キャビティ及びシールがシール周辺部の周りに連続的で途切れないシールを形成することを理解されたい。導入されるガスは、矢印3001で示すように外向きに流れ、したがって密封機能に寄与し、または矢印3004で示すように清浄な容積に向かって流れることができる。内側に流れるガスが多くなるにつれて、外部雰囲気に対する密封容積内の圧力は増加する傾向にある。次いでこの圧力差は、先に説明した空気静圧要素を伴わないペクレギャップシールのように、ギャップを通るさらなる流れを押し流す役割を果たすことができる。このため、空気静圧ペクレギャップシールの多くの実用的な実施形態では、高抵抗要素に入れられたガスの大部分、またはほぼ全部、または全部が外向きに流れる傾向があり、シールに有益である。
【0039】
ペクレギャップシールに空気静圧空気静圧ベアリング要素を使用するには、ベアリングに、好ましくは純粋な環境にある同じガスを、要求される純度レベルで供給する。例えば、密封容積内の雰囲気に10ppm以下の酸素汚染物質を有するアルゴンを含むことが望まれる場合、エアベアリングには、10ppm以下の酸素汚染物質、又はできれば10ppm未満の酸素汚染物質を有するアルゴンを供給する必要がある。空気静圧ベアリング要素に供給されるガスの圧力は、密封容積内に存在する圧力よりも高くなり得ることが好ましい。空気静圧ベアリング要素に供給されるガスの圧力が密封容積の外側の雰囲気の圧力よりも高いと、さらに好ましい。上述したように、密封容積内の圧力を、シールギャップ内に存在する圧力よりも高くし、かつ密封容積外に存在する圧力よりも高くすることによって、密封容積内からのガスが密封容積からシールギャップを通って外部に流れるようにさせることができる。
【0040】
空気静圧ベアリング要素は、当業者に周知である既存の空気静圧ベアリング製造において一般的な多数の技術のいずれかを用いて構成し得る。先に説明したように、空気静圧ベアリング要素は、オリフィス空気静圧ベアリングと多孔質媒体空気静圧ベアリングを含む。オリフィス空気静圧ベアリングでは、ガスが、高圧下で単一の小さなオリフィスを通り、平らな環状部の上を流れてベアリング層を生成する。多孔質媒体空気静圧ベアリングでは、ガスが、グラファイト等の多孔質媒体を通って流れ、ベアリング面の上にクッションを形成する。
【0041】
ペクレギャップシールとして空気静圧ベアリングを使用することは、ガスの対応する高く均一な出口速度のおかげでペクレギャップシールが発達するため、非常に一貫性のある小さなギャップ寸法を維持するという重要な利益を提供する。エアベアリングからのガスの流出は、ギャップ内における移流による物質移動にも寄与し、ペクレギャップシールの性能を向上させる。この方法で空気静圧ベアリングを実施する際の主な課題は、エアベアリング面、特にシール面のために十分平坦な表面を生成することに関連する困難である。負荷支持を可能にするためにベアリング面で十分な圧力を発生させることにより、空気静圧ベアリングは、空気静圧ベアリングのないペクレギャップシールよりも、シール面との間の不慮の機械的接触の影響をはるかに受けにくくなるが、シール面の平坦性が十分に短い長さで十分に大きく変化すると、局所的なベアリング圧力が起こる可能性があり、当該局所的なベアリング圧力は、ベアリングの局所的な剛性に打ち勝ち、エアベアリングとシール面を衝突させる。これは、「衝突」または「突出部」と呼び得る。この課題に対処する1つの好ましい実施形態は、シール面に対向するどんな局所的な平坦性の変化にも適合することができる、多孔質金属媒体の薄板またはグラファイトの薄片から形成される多孔質媒体ベアリング等の非常に柔軟な空気静圧ベアリングである。第2の好ましい実施形態は、代わりに、実質的に剛性のある空気静圧ベアリングを有する、ガラスの薄板等の非常に柔軟なシール面を使用する。この形態では、シール面がエアベアリングに適合し、シール面におけるあらゆる平坦性の変化の影響を無効にする。多くの実施態様では、例えば、バネ、ガス若しくは流体シリンダ、磁石、または真空などの、当技術分野で周知の様々な技術によって、負荷支持空気静圧ベアリング及び負荷支持空気静圧ベアリングが乗る面が、互いに向かって「予圧」をかけている。適切に予圧を分配することにより、柔軟な要素のシール面が実質的に剛体要素のシール面に適合することを可能にする。
【0042】
別の実施形態では、空気静圧ガスが供給されていても、結果として発生するガスクッションが有意義な負荷または予圧を支持するのに不十分であるように、空気静圧ペクレギャップシールが設計され、又は動作してもよい。これは、例えば、不十分な流量または圧力でベアリングを運転すること、空気静圧要素の表面積を減少させること、又は、例えば大きすぎるギャップ寸法(すなわち、ベアリングがほとんど剛性を有しない)を維持することによって達成することができる。
【0043】
言い換えれば、この実施形態では、空気静圧が主にベアリングとして機能するものではない。むしろ、内部のチャネルまたは気孔は、ペクレギャップシール内にガス流量を放出する分配器として機能し、それらの間のギャップを維持する機能は、別の構成要素に当てはまる。
【0044】
実際、空気静圧ベアリングは、負荷支持容量のために設計され又は動作する必要はない。密封機能に関しては、空気静圧ベアリングとシールギャップの間で流体抵抗に桁違いの差があり、この差がシールの利益のかなりの部分を提供する。以下、出願人はガス分配器(または単に分配器)に言及する。このガス分配器は、ペクレギャップシールの周辺部付近に配置される任意の構成要素を意味し、反対側のシール面に有意義な反力を加えることができるか否かにかかわらず、または有意義な反力を加えるように動作するか否かにかかわらず、シールギャップを通る流れの流体抵抗に対して大きな流体抵抗を提供するように設計されると理解されるべきである。
【0045】
この実施形態では、変形例が図5Aに示されており、分配要素は、3つの一次接触パッドと結合し、分配器の面は、それらのパッドの下方にある程度の距離だけ変位している。この距離は、好ましくは50~500ミクロンの範囲である。これらの一次接触パッドは、分配器、一次接触パッド及び他に取り付けられる構成要素を含むアセンブリと、シール面との間に、ベアリングを提供する。一次接触パッドは、以下でさらに詳細に述べられる様々な技術を使用して実施されてもよい。更に好ましくは、一次接触パッドは、分配器の面から機械的に分離してもよく、それゆえ分配器の面の平面に対して回転及び/又は並進することができる。シール面の位置は、接触パッドによって規定される。3つのパッドがあり、その面積は分配要素によって囲まれる面積に比べて小さいので、シール面に要求される平坦度の公差は、分配器が上板表面の粗い部分に「衝突」または「突出部」を有する危険を冒すことなく、低減され得る。さらに、その面に一定の圧力を提供するためにもはや分配器を必要としないので、分配器への供給圧力、したがって分配器のガス消費量を、エアベアリングベースのギャップシールで使用されるものよりも実質的に低減することができる。
【0046】
図5Aに示す好ましい実施形態では3つの一次接触パッド5001が示されているが、他の好ましい実施形態では3つ以上の接触パッドを使用できることは、当業者には明らかであろう。さらに、図5Aに示されるギャップシールは平面的な実施形態で示されるが、一次接触パッドで支持される分配器の核心概念を円筒シール及び半球シール等を含む他の形状にも適用できることは、当業者には自明であろう。図5Bを参照すると、各接触パッド5001は、非ベアリング面5003よりもシール板に近いベアリング面5002を有する。ある実施形態では、ベアリング面が約10μmだけシール板から分離し、一方、非ベアリング面はおよそ50~500μmだけシール板から分離する。図5Cを参照すると、別の実施形態では、非ベアリング面5005をベアリング面から分離する分離ギャップ5004がある。
【0047】
ここで説明するペクレギャップシールの実施形態のいくつか、具体的には、平面シールの実施形態および分配器の実施形態は、一次接触パッドの使用に頼り、シール面に対向してベアリングを設け、対向するシール面を互いに定められた距離に配置する。一般的にこれらのパッドは、変形又はさもなければ故障したりせず、ペクレギャップシールの動作体制全体に、特に温度において耐えることができなければならない。また、ペクレギャップシールとシール面の間の運動に対する摩擦が最小限になるようにすべきである。好ましくは、使用されるパッドの数が、シール面に対してペクレギャップシールを厳密に制限するようになる。例えば、平面ペクレギャップシールの場合、3つのベアリングパッドは、1つの並進自由度と2つの回転自由度を制限することによって、シール面に対してシールを厳密に制限する。しかしながら、パッドの数が多いこと又は少ないことが好ましい特定の実施形態があってもよい。
【0048】
先に説明したように、全体的に一次接触パッドは平面の実施形態の文脈で示されてきたが、分離シール面を支持する一次接触パッドの概念を、多くの異なる形状のペクレギャップシールに適用できることが理解されるであろう。例えば、円筒ペクレギャップシールを、連続円筒ベアリングパッド又は分割円筒ベアリングパッドのいずれかによって、いずれかの端部で支持することができる。
【0049】
さらに、一次接触パッドは、それらが支持するペクレギャップシールから物理的に分離しているものとして既に説明したが、支持パッドをシール周辺部自体と一体的に実施することが好ましい実施形態もあり得る。例として、多孔質媒体から作られた分配器ペクレギャップシールは、図5Aに示すように、その中に機械加工された一次接触パッドを有していてもよい。この特定の実施態様では、これらのパッドのガス供給源が、分配器のガス供給源から流体的に分離されることがさらに好ましい。
【0050】
一次接触パッドは、多数の技術を用いて実施され得る。好ましい一実施形態では、パッドが摺動接触ベアリングを用いて実施される。例えば、低摩擦インターフェースを提供するために、テフロンパッドを鋼の表面に対して使用してもよい。
【0051】
別の好ましい実施形態では、パッドが、ボール移送ブロック等の転動接触ベアリングを用いて実施される。
【0052】
別の好ましい実施形態では、パッドが、静水圧ベアリングを使用して実施される。ペクレギャップシールは、静水圧ベアリングからの流体が高純度の密封容積内に入ることを防ぐために使用することができる。
【0053】
別の好ましい実施形態では、パッドが磁気浮上ベアリングを使用して実施される。
【0054】
さらに好ましい実施形態では、一次接触パッドが、ペクレギャップシール周辺部の実質的に外側に位置し、シールおよび密封容積から分離したガス供給源に接続する。さらに好ましくは、この分離したガス供給が、ペクレギャップシールおよび高純度容積で使用されるガスとは異なるガスであり、例えばポンプによって提供される周囲の空気であってもよい。一次接触パッドは、ペクレギャップシールの周辺部から実質的に変位しているので、パッドからの低純度ガスの放出は、シールの性能に影響を及ぼさない。このようにして、高純度ガスの全消費量を実質的に低減させることができる。
【0055】
空気静圧ペクレギャップシールの先の説明は、空気静圧要素を構築するために必要とされる具体的な材料に関しては判明していなかった。動作温度、密封容積内に存在するガス種、密封容積の外に留められるガス種または他の材料、アセンブリ及び製造性の問題などのシールに課される特定の要件に応じて、多種多様な材料を使用することができる。しかし一般的には、空気静圧ペクレギャップシールを形成するために使用される材料は、その動作体制全体を通して、寸法が、とりわけ温度に対して安定しているべきであり、汚染物質を過度に吸収せず又は汚染物質をパージする何らかの手段を提供すべきである。
【0056】
透過性媒体に基づく空気静圧ペクレギャップシールの場合、異なる機能性を提供するいくつかの興味深い実施形態が存在する。好ましい一実施形態では、透過性媒体が透過性半金属またはセラミックであり、とりわけグラファイト、多孔質炭化ケイ素、またはビスクアルミナ等である。特に、これらの材料の多くは、極めて高い温度において高強度および高い寸法安定性を維持しており、それらを高温用途に理想的に適したものにする。
【0057】
第2の好ましい実施形態では、透過性媒体は透過性金属マトリックスである。このような材料の実施例は、Mott Corporation(Farmington, CT)によって製造される焼結多孔質金属フィルタ材料である。この材料は、中程度の温度(T <=700℃)に耐えることができる。また、溶接、ろう付け、はんだ付けなどの多種多様な接合技術を用いて、他の金属部品と容易に接合する。
【0058】
上述の材料は、幅広い透過性を有する。ギャップシールの特定の設計次第で、所与の材料(他の理由で好ましい)の透過性が、その設計には適切でない場合がある。他の例では、空気静圧ペクレギャップシールのある部分を、他の部分よりも透過性を高くすることが望ましい場合がある。これらの場合、様々な技術を用いて材料の透過性を減少させることができる。より低い温度(約300℃未満)では、エポキシ、アクリルラッカーおよびポリイミド等のポリマー材料を透過性媒体に適用して、透過性を低減または排除することができる。より高い温度(約300℃を超える)では、プレセラミックポリマーとして知られる化合物群を使用して、グラファイト及びビスクアルミナ等の一定の透過性材料を密封することができる。このようなプレセラミックポリマーは、塗布後に焼成してセラミックに変換することができる。
【0059】
ガス流をギャップシール周辺部に直接導入するために分配器を使用することは、2つの対向するシール面の間のギャップ寸法に不均一性がある場合でも、完全に密封している周辺部の周りで最小ペクレ数を維持することにおいて有益である。これは、一例を用いて説明することができる。ギャップ寸法が2倍に変化すると、シール周辺部において、速度、従ってペクレ数に16倍の変化をもたらした実施例を思い出したい。ここで、式(6)を思い出し、シール面の1つが、オンになっている分配器に置き換えられ、このガスが流れる一次抵抗が分配器中にある(ギャップ自体の中にはない)ため、分配器から出る流量がギャップと共には変化しないと仮定しよう。ギャップが最も薄いところでは、分配器のガスからの流れの速度が、ギャップが厚いところの流れの速度よりも大きいことがわかる。これは、密封容積内で生じる流れについて起こることと反対である。したがって、これらの2つの効果は、互いに補うことができる。ギャップが目標より大きい場合、密封容積からくる流れは、ギャップ内の出口速度(およびペクレ数)が十分高いままであることを保証する役割を果たすことができる。
【0060】
これらの2つの相補的機構が共存することが、本開示の一態様である。これらの相補的機構は図7に示されており、この図は、ギャップを通るガス速度を設計速度に正規化して縦軸にプロットし、これに対してギャップ寸法を設計寸法に正規化して縦軸にプロットする。ペクレギャップシールについて、ギャップ寸法の2乗に対する速度の比例性は、点線曲線7001によって示され、ペクレギャップシールについて、ガス分配器がある場合のギャップ寸法の逆数に対する比例性は、実線7002によって示される。
【0061】
著者は、例えば計算流体力学または電気流体アナロジーを使用し、及び適切に離散化した抵抗器ネットワークおよび回路ソルバーを使用することによって、これらの混合モードのペクレギャップシールの性能を予測するために、より完全な分析を完了し得ることを認める。
【0062】
分配器から流出する流れの同じ利点は、前の実施形態において、すなわち空気静圧シールが負荷支持空気静圧ベアリングとしても機能する実施形態において、機能することが理解されるであろう。したがって、この空気静圧ベアリングの実施形態では、ペクレシールの有効性に関連し、しかし別個の3つの寄与がある。第1に、不活性容積内から流れるガスがシールを出る。第2に、空気静圧ベアリングは、ギャップを小さくかつ比較的一貫したものにし、したがって、所与の量のガス流の隔離を強化する。第3に、空気静圧ベアリングの流れは、ギャップ内から出て、上述したように、分配器からの流れの利益の多くを有する。
【0063】
これまでの説明は、ペクレギャップシールの平面的な実施形態を提示してきたが、当業者は、このようなシールの基本概念が、密封される面の形状に応じて、幅広い形状に適用され得ることを認識する。
【0064】
例えば、図6A~6Bは、エンクロージャを貫通するシャフト6001による環状シールの形状を示す。シャフトの外周は、円形、長方形、六角形、または他の任意の2次元形状であってもよい。他の実施形態と同様に、ペクレギャップシールは薄いギャップで出て行き、ここは、シャフトの外周と、密封容積の境界を形成する構成要素を通るわずかに大きいが同様の形状の穴と、の間にある環状ギャップであり、ここではエンクロージャの一部として示される。
【0065】
具体的には、清浄な容積内からのガスの圧力が、流動長6003に沿ってシールギャップ6002を通るようにガスを流す。このようにして、清浄な容積の内外間の隔離を維持するために使用される実施形態を、図6Aは示す。
【0066】
図6Bに示される代替の好ましい実施形態では、空気静圧要素が管状要素である。このような実施形態がどのように構成され得るかの例として、エアブッシングとして一般に知られている機械的構成要素が、幅広い商業的再販業者から入手可能である。エアブッシングは、エンクロージャの壁を貫通し、密閉容積に入るように取り付けられる。エアブッシングの外側ハウジング6002の内側に圧力が加えられ、エアブッシング流動要素6003の内面とシャフトの間に、ガスクッションまたはガス膜が形成される。次いでシャフトは、密封容積内の高純度環境内に汚染物質を入れることなく、シャフトの軸に沿ってエアブッシングを通って並進し、又はシャフトの軸の周りを回転する。注意すべきことに、空気ブッシングは、それを通って並進するシャフトに必ずベアリング支持部を提供するが、空気静圧要素は、必ずしも負荷支持機能を提供する必要はなく、非負荷支持分配器として作動することができる。
【0067】
ペクレギャップシールの設計及び動作の実用的な考慮事項をさらに説明する。
【0068】
平面ペクレギャップシールの設計は、幅広い材料からの製造に適し、その結果、同等の温度範囲にわたって用途を開く。より小さなスケールでは、2つの構成要素に必要な平坦性の公差が、一般的な製造技術で達成可能である。また、いくつかの他の実施形態とは対照的に、使用される全てのガスは、密閉容積内に入れられ、したがって混合する機会がある。この混合する機会は、あらゆる汚染物質を希釈し及び除去することによって、この環境の清浄度を向上させる助けになる。
【0069】
シール面は、幅広い材料で実施することができる。一般的に、シール面に使用される材料は、その動作体制全体を通して、特に温度に関して寸法的に安定でなければならず、透過性があってはならず、動作に必要な平坦性を提供するように容易に加工可能でなければならず、汚染物質を過度に収着してはならない。好ましくは、材料が、微細な表面仕上げを有し、汚染物質の収着を低減する。多くのステンレス鋼、セラミック及びガラスを含む幅広い一般的な工業材料が、これらの基準に適合する。
【0070】
1つの好ましい実施形態では、ガラスセラミックがシール面として使用される。Robax(登録商標)(Schott North America, Elmsford, NY)またはNeoceram(登録商標)(Nippon Electric Glass, Japan)等のガラスセラミックは、低い表面粗さ、不透過性、および元々高い平坦性等の、一般的にガラスに望ましい特性の多くを示す。さらに、使用温度が高く、耐熱衝撃抵抗性が高く、中程度の温度範囲(0~500℃)で熱膨張がほとんどゼロであるため、中程度の温度用途に適している。
【0071】
第2の好ましい実施形態では、シール面として炭化ケイ素材料が使用される。炭化ケイ素は、1000~1500℃の範囲で高い熱安定性を提供するため、高温用途向きの良い候補になる。
【0072】
表面部を有する構成要素があり、当該表面部は密封容積の一部を形成する場合があり、したがって表面部が内側にあってもよく、一方で他の場合には、この表面部と同じ部分が外部雰囲気に露出してもよいことに留意されたい。例として、図1に戻ると、シール板1004の下面部は、容積エンクロージャとシール板1004の相対位置に応じて、この定義を満たす。エンクロージャとシール板の相対運動によって密封容積に吸着し、次いで密封容積内に実質的に運ばれる可能性がある汚染物質の量を制限するために、この表面の材料および仕上げは、注意深く選択されるべきである。例えば、十分な量の水蒸気が表面の一部に吸着され、次いでこの部分が密封容積に移される場合、純度制御された雰囲気1002を劣化させる可能性がある。シール板1004自体は、対象となる汚染物質種に対して不透過性であるべきであり、その表面は、最小限の気孔率、最小限の粗さ(表面積)を有し、汚染物質を過度に吸着しない材料であるように選択されるべきである。例示的な表面は、研磨された金属、多くのガラス、セラミック、およびガラスセラミックを含む。ペクレギャップシールが長さ寸法1007を有するので、表面上に存在し密封容積に入るときに表面から離れる汚染物質は、ギャップ内のガス流によって掃き出され、密封容積内の制御された環境に放出される汚染物質をほとんどまたは全く残さない。さらに、シール板の表面を実質的に高温に維持することにより、いくつかの種の収着を防止または抑制することができる。
【0073】
図1に示されるこの平面シールの実施形態では、シールの一部として使用される対向面が、厳密に制御された平坦度を有し、好ましくは100μmのオーダー、より好ましくは10μm以下のオーダーである。空気静圧シール要素は、任意の数の材料から製造され得るが、好ましくは、シールがされる温度の範囲および他の動作条件の範囲を通じて、寸法的に非常に安定な材料から製造される。シール面(例えば、図1に示される板1004)は、少なくとも空気静圧シール要素の特性寸法にわたって厳密に制御された平坦度で同様に製造され、さらに、前述の特性を有する材料から製造される。次いで、空気静圧シール要素は、ある程度の距離だけシール面から変位し、好ましくは50~500ミクロンの範囲で変位する。変位は、シールの構成要素間の摺動要素又は転動要素によって達成することができる。変位は、マシンフレームと移動システムを組み合わせたものにシールの2つの構成要素の垂直位置を固定することによって、シールの移動構成要素間の接触なしに達成することができる。この実施形態では、わずかに高いガス圧(10~1000Paのオーダー)が、内部の高純度環境内へのガス流によって、内部の高純度環境内で発生する。このガス圧は、適切なペクレ数をもたらすのに十分な速度で、空気静圧シール要素とシール面の間にガスを流す。容積の内部と外部の間の圧力差および空気静圧シール要素とシール面の間の距離が組み合わさって、結果として生じる長方形のギャップを通る流れが拡散物質移動よりも移流物質移動を助長しやすく、汚染物質種が境界を横切って高純度環境に拡散して戻ることを妨げやすくなるように、ペクレ数の先の説明に従って、シールの面の幅は選択され得る。この面の幅は、式(1)に記載されているように、流れ方向に沿ったシール長さL、ペクレシールに対応することに留意されたい。
【0074】
当業者は、所望の相対運動の種類、アクチュエータの位置および他の考慮事項に応じて、様々な自由度を有する1つ以上のペクレギャップシールを利用することで、幅広いシステムアーキテクチャをどのように構成することができるか、ということを理解することができる。例として、図4に例示される2つの並進自由度を有する実施形態のような平面ペクレギャップシールが、単一の並進自由度のペクレギャップシールを2つ採用することによって、代替的に実施され得ることを考えてみる。
【0075】
ここで、溶融アルミニウムの磁気流体力学(MHD)噴射を用いたアルミニウム部品の3D印刷について、本開示のいくつかの態様を利用するシステムを、図8A~8Gに関連して説明する。移動システム807、809、840、841、807および809の構成要素並びに断熱材823は不活性容積から除去され、それによってその容積が劇的に減少する。システムは、x軸運動ステージ826及び関連するキャリッジ827と、z軸運動ステージ807及び関連するキャリッジ809が取り付けられているフレーム810を有する。
【0076】
z軸運動ステージは、フレーム808及びガラスセラミックシール板806を層毎に上向きに移動させて、部品を印刷する。これらの上向きの動きは、一般に、層が完成した後で、かつ後続の層が印刷を開始する前に行われる。図8dは、他の関連事項の中で、第1の層の最後の液滴が飛行中の時点におけるシール板の垂直位置を示す。図8Eは、他の関連事項の中で、完成部品の垂直方向中央付近にあるどこかの層の印刷の途中時点におけるシール板の垂直位置を示す。図8Fは、他の関連事項の中で、最後の液滴が部品に加えられているときのシール板の垂直位置を示す。
【0077】
図8Aおよび図8Bの詳細に見られるように、プリントヘッドエンクロージャ801内のプリントヘッド863は、シール板806と共に上下に移動する。ガスは、通常は不活性であり、ポート802を通ってプリントヘッドエンクロージャに入る。供給ワイヤ804は、入口803を通ってプリントヘッドエンクロージャに入る。入口803は、当技術分野で周知のペクレシール又は別のタイプのシールとすることができる。プリントヘッドエンクロージャ内には、MHD噴射に必要な磁場を作り出すために、磁石(図示せず)が収容されている。ワイヤ(図示せず)は、エンクロージャ801を貫通し、電流供給源861を通ってMHDプリントヘッドの内外に電流を伝達する。ノズルの本体805は、典型的にはセラミックであってもよい。本体には、供給ワイヤ804を溶融の結果である溶融金属862が充填される。本体はリザーバ865を含み、当該リザーバ865は、ワイヤが中に溶けた溶融金属を含み、ワイヤの溶融の温度衝撃を緩和する役割を果たすと共に、何らかの理由でワイヤの送給が瞬間的に停止している間に何らかの材料を供給して噴射させる役割を果たす。エンクロージャ801内には、固定具、ブラケット、および他のもの(図示せず)を含むいくつかの他の要素が収容される。溶融金属は、オリフィス860を通ってノズルの本体から出る。
【0078】
典型的には、シール板は厚さ5mmの適度に透明なガラスセラミックで製造される。このガラスセラミックを、密封容積内に熱を留めることを助けるインジウムスズ酸化物(ITO)などの可視光透過性IR光反射コーティングと共に選択してもよい。しかし、密封容積を高温に保つことを助けるために、断熱材829を追加してもよい。
【0079】
y軸運動ステージはx軸運動ステージのキャリッジに取り付けられ、その結果、x軸ステージ及びy軸ステージが一緒になって、印刷プラットフォーム811及びプリントヘッド863の下の部品について任意の2次元運動を作り出すことができるが、プリントヘッド863はx方向又はy方向に動かない。プリントヘッドのノズルは、部品に対してシール板の切抜部864を通る視線を有していてもよい。中空柱812はy軸のキャリッジ828に取り付けられる。印刷プラットフォーム811は柱の上部に取り付けられる。印刷プラットフォームは、造形プラットフォームを加熱するために、印刷プラットフォームの内部に配置される電気カートリッジヒータ813を有し、典型的には、アルミニウム合金を印刷するために500℃の温度まで加熱する。システムにフィードバックを提供して印刷プラットフォームの温度を制御する温度センサ(図示せず)がある。温度測定用のワイヤ及びヒーター813へのワイヤは、柱812の中心を通り、この柱を通り、当技術分野で周知である従来のフィードスルーシールを通って、密封容積の外側の領域へ移動する。柱の内容積の大部分は、断熱材(図示せず)で満たされてもよい。
【0080】
造形プラットフォームからの熱は密封容積831全体の熱源でもあり、そのため密封容積内の雰囲気も高温となり、当該雰囲気が部品を高温に維持するのに役立つ。部品を高温にすることにより、プリントヘッド内の液体金属を過剰に過熱することを必要とせずに、流入する溶融金属液滴の良好な融合がもたらされる。
【0081】
造形シート814は、典型的には印刷プラットフォームへ真空で押さえ付けることによって、印刷プラットフォームに取り付けられる。印刷プラットフォームに組み込まれた真空チャック用の真空ラインは、柱(図示せず)の中心を通って流れ落ちる。造形シートは、典型的には薄い金属シートまたは箔であり、造形シートの上に印刷材料の第1の層が付着し、固着し、または溶接する。箔をアルミニウム、ステンレス鋼又は他の金属とすることができる。
【0082】
x-y平面における部品の運動は、プリントヘッドの垂直方向の運動と組み合わさって、任意の形状の部品を画定するために必要とされる3つの運動軸を備える。運動の順序は、典型的にはx-y平面内で多数の運動を行って層を画定し、次いでシール板806のz位置を増加する。次に、x-y平面内の運動の別の順序によって、部品の次の層が印刷される。
【0083】
密封容積831は、不透過性材料822の薄いシェルまたはエンクロージャによって画定される。典型的には、これはステンレス鋼であり、例えばレーザー溶接または炉内ろう付けによって製造することができる。このシェルは、金属構造体819に密封して溶接され、金属構造体819は、シェル822の頂部によって画定される全周にわたって延在する。ガス(通常は不活性)をポート824で密封容積に入れることができる。密封容積の典型的な寸法は、x方向に約200mm、y方向に約250mm、z方向に約150mmであるが、大幅に大きな容積が可能である。密封容積831の外周は、正方形、長方形、円筒形または任意の他の形状であってもよい。長方形の形状は、長方形状の印刷プラットフォームを収容するので特に有利であり、この印刷プラットフォームは代替品よりも製造コストが低く、一般的に最も大きい部品を造形する能力をもたらす。シェル822は、密封容積を高温に維持することを助けるために、断熱材823によって囲まれる。適切な断熱材の例はパイロジェル(登録商標)XTE(Aspen Aerogels, Inc., Northborough, MA)であり、これはその質量に対して優れた断熱特性を有し、断熱材がシステムの移動質量体の一部を形成するので、重要な考慮事項であり得る。
【0084】
シール板806に対するペクレガスシールのタイプは、図8Aおよび図8Cの詳細に見られるように、典型的には不活性であるガスが、ディフューザから排出されるタイプである。ディフューザ818内のキャビティ850に注入されたガスは、次いで多孔質媒体を通って流れ、その上面851でディフューザを出て、ギャップシールに寄与する。分配器要素はグラファイトから製造されてもよく、例えば0.01~0.0001ダルシー(9.87e-15~9.87e-17m)の目標透過率を有するグラファイトから製造することができる。ガスは、入口816を通って分配器内に流入する。入口816は、可撓性チューブを介してマシン内のガス源に接続される。チューブは、x-y平面内の運動に適応するのに十分な可撓性を有していなければならない。分配器要素は、機械加工される参照構成、タイダウンクランプ、またはボルト等の他の機械的固定を使用して、金属構造体819に束縛される。動作温度および使用温度が許容する場合、接着剤および/または密封剤を使用して、エポキシ又は高温RTVシリコーン等のこれらの構成要素間を結合し、及び密封することができる。分配器のグラファイトおよび金属構造体のステンレス鋼は、室温から高温動作温度までの範囲で熱膨張ができるだけ密接にマッチするように選択され、高温動作温度は、ここでは密封容積内の部品の温度に近づく場合があり得る。当該部品の温度は、典型的には500℃前後である。例示的な組は、分配器についてACF-10Q(Poco Graphite, Inc., Decatur, TX)が、金属構造体について400シリーズステンレスがある。しかしながら、この選択であっても、いくらかのミスマッチが残る。グラファイト内に機械加工された湾曲要素852を使用して、このミスマッチを収容してもよい。グラファイトの弾性率は低く、したがって高品質のグラファイトは、示されるカンチレバーに適した1%以上の歪みに耐えることができる。また、このカンチレバー型たわみ要素を慎重に検討および設計しながら、316L等の300シリーズを使用してもよい。このカンチレバーの典型的な寸法は、厚さ1.3mm、長さ(図8Aの高さ)16mmである。分配器および金属構造体の寸法が最良に選択されると、室温から使用温度までの全ての温度で、シールの境界面853に締まり嵌めが存在する。典型的に、これらの要素の温度は、密封容積内のガスの温度よりいくらか低いが、依然として実質的に室温より高い。
【0085】
分配器要素は、エアベアリング817によって、シール板に対して、制御されたギャップ856で維持される。名目上、ギャップは、ディフューザの上面851およびシール板806によって画定されるように、密封容積の周辺部の周りにある外周棚の形状ある。また、これらのベアリングは、グラファイトから製造されてもよく、加圧される内部キャビティ857を有する。これらのエアベアリングパッドのうちの3つは、典型的にはギャップを運動学的に決定するように、密封容積の周囲に配置される(3つの点が平面を画定する)。エアベアリングは、典型的にはシール板から約5~10ミクロン乗り上げ、ガスポート815によって供給されるエアシリンダ820を介して、エアベアリングに対して予圧がかけられる。好ましくは、エアベアリングの剛性の中心またはできるだけ近くに、与圧がかけられる。一実施形態では、この1つのエアシリンダプリローダを、エアベアリング毎に使用することができる。分配器のシール板に対する典型的な目標ギャップは、100ミクロンである。エアベアリングは、薄いチューブ855の上に支持され、典型的には当該チューブ855は、ステンレス鋼の皮下チューブから製造される。このチューブは、弾性的に曲がることができるように選択され、それによって、エアベアリングが、完全に平坦でないシール板に乗り上げるときに、エアベアリングの角度の微調整が自動的に行われることを可能にする。角度偏差を許容する他の手段として、ボールソケットジョイント等の当技術分野で周知の手段を使用することができる。重要なことに、エアベアリング817によって画定される平面は、ディフューザ851の上面よりも高くなるべきである。これは、例えば金属構造体819の上方にあるチューブ855の長さを調節することによって達成することができる。
【0086】
エアベアリング817および分配器818へのガス供給は、共通するものとして示される。それらが共通する場合、それらは両方とも、典型的には不活性ガスを供給される。しかしながら、これらは異なる供給源から供給されてもよい。このことは、エアベアリング内へのガスが実際の空気であってもよいので有利となる場合があり、システム全体の運転コストの低減につながる。また、必要であれば別々に供給することによって、圧力を独立して制御することも可能である。
【0087】
密封容積831は、典型的には高純度に維持され、印刷される部品と飛行中の溶融金属の酸化及び他の好ましくない反応を低減し、並びに凍結前に印刷された部品の上に一時的に留まる。典型的には、酸素および水蒸気の両方が、それぞれ100ppm未満、好ましくはそれ未満になるよう制御されるべきである。加えて、フレーム810およびマシンエンクロージャが適度に密封される場合、内部容積832は、周囲の空間833内の空気よりもいくらか清浄になるであろう。これは、容積831から排出される清浄なガスが容積832に入り、造形開始時に容積832の中にあった空気を置換するためである。この効果は、空気ではなく、不活性ガスをエアベアリング817に使用することによって、増大し得る。容積832内の純度を向上し及び不純物を低減すれば、シールの内側とシールの外側との間の不純物濃度差を低減することによって、ペクレギャップシールに対する要求を低減する。
【0088】
図8D図8Fに戻り、図8Dで始まると、印刷プラットフォーム、部品、およびマシンの大部分が、その中心位置から右方向にずれていることが分かる。この画像は断面図であり、x軸に沿った運動のみを示す。運動はy軸に沿っても行われ得ることが理解されるであろう。プラットフォームが左から右に移動している間に、第1の層の最後の液滴が印刷されている。なお、図8Dに示す部品の層、並びに後の図8E及び8Fは、単に例示を目的とするものであり、当技術分野で知られているように、層毎の製造において典型的である階段形状を正確に表すものではないことに留意されたい。
【0089】
図8D図8Fのx-y運動は、フレーム810に対するx軸キャリッジ826の運動およびy軸スライダ840に対するy軸キャリッジの運動で始まる。印刷プラットフォームが柱812に取り付けられ、同様に柱812がキャリッジ841に強固に取り付けられるので、印刷プラットフォーム811、造形シート814および部品871は、x-y平面において所定の運動をする。
【0090】
シール842は、シェル822と柱812との間でガスの密封をもたらす。これは、oリングシール、PTFEシール又は他のタイプ等の、当技術分野で周知のペクレギャップシール又はシールであってもよい。シールがペクレギャップシールである場合、それは、エアベアリングをペクレギャップと組み合わせ、典型的には不活性ガスと共にポート825を通って供給され得る、先に記載されたタイプであってもよい。シール842は、密封容積の外部からの空気が密封容積831へ侵入することに対して、密封を提供する機能を有する。また、シール842は、シェル、断熱材823、金属組織819、分配器818、および空気ベアリング817をx-y平面内で移動させるために、柱からシェル822に横方向の力を伝達する機能を有する。
【0091】
シェル822、絶縁823、構造819、分配器818およびエアベアリング817、並びにシール842のアセンブリは、移動エンクロージャ890と呼ばれるであろう。シール842と柱812の間の横方向への力によって、移動エンクロージャのx-y運動に影響が与えられる場合がある。1つには、移動エンクロージャの質量が低いことが理由であり、1つには、移動エンクロージャが非常に低摩擦なエアベアリング上のシール板に乗り上げることが理由である。移動エンクロージャは、エアシリンダ820によって、シール板に対して能動的に押し上げられる。これらのシリンダは上向きの力を維持し、当該上向きの力は、移動エンクロージャの重量を超えるが、エアベアリング817がシール板に触れずに許容できる最大負荷未満である。これらのエアシリンダは、ポート815を介して制御された圧力で供給される。エアシリンダからの上向きの力は、エアベアリングからの下向きの力によって相殺され、移動エンクロージャ890の転倒に対する抵抗をもたらす。エアシリンダ820は、通常は溶接によって柱に固定されている板821を、下向きに押す。したがって、板821は、柱812とともにx-y平面内を移動する。
【0092】
図8Eでは、部品はほぼ半分造形されている。図8Dおよび図8Eに示す時点の間に、多くの層が完成している。移動エンクロージャ、印刷プラットフォーム、および部品は、図8Dのx軸に沿って中央の位置にある。噴射の左側に対して現在の層の既に完成した部分から分かるように、この層は加工中であり、エンクロージャおよび部品が右から左に移動する状態でほぼ半分完成している。図8Eからシール板が上昇し、そして、プリントヘッドと部品の間のギャップが変わらないように、エアピストン820の作用の下で移動エンクロージャ890が同じ量だけ上昇したことに留意されたい。入口824および825からのガスを運ぶチューブは、図8Eにおいて図8Eよりも長いように示される。実際、これらのチューブは、垂直方向の動きに適応するように柔軟である。
【0093】
図8Fでは、飛行中の1滴を除いて、部品は完成したものとして示されている。シール板および移動エンクロージャは、図8Eに示された位置からさらに上昇した。スライダ809上のキャリッジ807の動きによって、シール板が上方に移動した。エアシリンダ820の上向きの運動のせいで、移動エンクロージャ890はあとに続いていった。図8Fは、図8Dと同様に、移動エンクロージャおよび右にずれた部品を示すが、上部層全体を印刷するには、移動エンクロージャおよび部品も中心位置から左に変位しなければならないことが理解されるであろう。図8Gは、シール板が部品の端部にあった位置から上方に移動した状態を示す。しかしながら、移動エンクロージャ890は、シリンダ820内のガス圧の低下のせいで、上方に移動しない。これにより、部品871を回収することができる開口部が形成される。移動エンクロージャを自重で沈下させ、またはエアシリンダで引き下げることによって、部品へのアクセスをさらに高くできることが理解されるであろう。真空を適用することによって、または、当技術分野で知られているように、シリンダの頂部付近に圧力をかけて押し下げることができる2方向シリンダを使用することによって、エアシリンダにより下向きの力を生成することができる。部品へのアクセスは、シールを遅らせて上昇させること、および/または移動エンクロージャを下降させることの、いずれかまたは両方によって提供されてもよい。
【0094】
密封容積から断熱材を取り除く利益を再度強調ことが重要である。開示の態様は、断熱材を不活性容積の外側に配置することにより、使用可能なタイプの断熱材を使用できるようにすることである。例えば、多くの高温断熱材はシリカを含有するが、シリカは、その環境から水を吸収することでよく知られている。したがって、シリカベアリング断熱材が不活性容積の内側にある場合、容積を開いて部品を回収すると、当該シリカベアリング断熱材は水を集めることになる。次に、不活性容積及び断熱材が熱くなると、シリカゲルベアリング断熱材は、この水を不活性容積に放出し、それによって不活性環境を汚染する。したがって、不活性環境の外側に断熱材を配置することにより、密封容積内の制御された不活性環境の品質が実質的に向上する。
【0095】
約1mのシール周長および約150umの公称ギャップを有するこのような実施形態の典型的な流量は、造形容積に入れられる超高純度(UHP)アルゴン(2ppm未満の酸素および10ppm未満の水)が1.25SLPM、およびディフューザに入れられるアルゴンが1.25SLPMであり得る。典型的な圧力は、20~100Paであり得る。
【0096】
x-y平面における静止プリントヘッドに対する造形容積の典型的な移動速度は、100mm/sであり得る。密封容積内の平均ガス温度が400℃付近では、公称ガス速度が、約20mmのシール長さにわたって約300mm/sであり、システム内への他の可能性のある実際の漏れおよび見かけ上の漏れを含めて、数十ppmと測定される全酸素レベル及び全水汚染レベルを生じる。
【0097】
ここに存在する実施形態は、ペクレギャップシールが必要とされる場合、すなわち、おそらく印刷開始前の手順中、印刷プロセス中、及びおそらく印刷終了後の手順中にのみガスを利用する必要があることは明らかであろう。
【0098】
全ガス消費量を減少させることができる実施例を図9に示す。ここで、図8のように、ペクレギャップシールは、ガス供給9002から密封容積9001の内側に入れられる流れと、シール周辺部の付近の分配器を通って入れられる流れと、を組み合わせたものとして動作している。分配器のガスは、密封容積の外部にある別個の又は分岐している供給源から供給される代わりに、ポンプ9003を介して密封容積から吸い出され、次いでガスは、必要な圧力まで加圧され、その後、分配器に入れられ得る。重要なことに、密封容積の内部の圧力は環境に対して正のままでなければならず、さもなければ密封が損なわれる可能性がある。一般に、これは、供給源9002から密封容積内に入れられるガス流量の一部を分配器に供給することによって達成することができる。例として、2SLPMのアルゴンが供給源1008によって供給されている場合、1SLPMは密封容積内で混合するために残され、残りの1SLPMは、密封容積からポンプ9003を通って分配器内に流入するガス流とすることができ、内側と外側の間の圧力差によって、シールギャップを通って押し込まれる。このようにして、最高純度のガスは、最初に(例えば漏れ又はガス放出によって)密閉容積内に存在可能性がある任意の汚染物質を希釈するために使用され、次いで、ここでわずかに汚染されているガスの一部が、分配器を通じて再利用され、ペクレギャップシールを生成し得る。わずかに汚染されているガスは、例えば数十ppmの汚染物質でしか入る(register)ことはできず、したがって、内部の制御された雰囲気を外部の雰囲気から隔離するのに依然として有効である。任意選択で、このわずかに汚染されたガス流量を、分配器に入れる前に、モレキュラーシーブまたは当技術分野で周知の他の技術によって精製することができる。このようにして、この実施形態は、最小限の余分なハードウェアのみを用いて、密封容積内の雰囲気の純度を損なうことなく、システムの全ガス消費量を低減することができる。
【0099】
ガス消費量を低減する別の実施形態は、関連する構成要素に命令される相対運動に基づいて、ギャップシールに入れられるガスの量を変更することであろう。特に、平面ギャップシールを参照すると、シール領域は過剰な速度を有するが、他の領域は、シールを通る流れ方向に対する運動方向に基づくクエット流のせいで不利になることが示されている。構成要素間の相対速度を常に最大に充たすのに十分なマージンがある十分なガスを利用することは、例えば、構成要素がよりゆっくり移動している場合又は静止している場合であっても、無駄とみなすことができる。可変圧力コントローラまたは質量流量コントローラを利用して、構成要素の現在の相対運動に基づいて、ギャップシールのためにガスの受け入れをサーボ制御することができる。
【0100】
1つ以上の構成要素における工学的適合性に依存する実施形態は、非平面からのギャップ寸法の変動、および/または、1つ以上のシール面がそれらの平面性の維持を補助するために2軸引っ張り下にあるシール構成要素の場所の非平面性を軽減することができる。
【0101】
本明細書に記載される技術は、付加製造以外の文脈において適用されてもよいことは当業者には明らかであろう。例えば、不活性環境中で行われる必要がある化学合成プロセスを実施する自動化システムは、本明細書に記載されるようなペクレギャップシールを使用することによって、利益を得ることができる。半接触デバイスの製造は、説明した開示によって提供される環境および熱制御の両方によって、利益を得ることができる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9
【国際調査報告】