(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-30
(54)【発明の名称】製剤化された生物製剤製品のための、天然存在比での二次元(2D)核磁気共鳴技術によって治療用タンパク質をフィンガープリントする方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/08 20060101AFI20220523BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20220523BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20220523BHJP
A61K 38/02 20060101ALN20220523BHJP
A61K 47/10 20060101ALN20220523BHJP
A61K 47/26 20060101ALN20220523BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
G01N24/08 510Q
G01N24/00 530M
G01N24/00 530J
A61K39/395 N
A61K38/02
A61K47/10
A61K47/26
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557088
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 US2020025078
(87)【国際公開番号】W WO2020198538
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500203709
【氏名又は名称】アムジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ファン, ツァン-リン
(72)【発明者】
【氏名】ウィクストローム, マッツ エイチ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076DD38
4C076DD67
4C076FF70
4C084AA01
4C084NA05
4C084NA20
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA50
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
核磁気共鳴(NMR)を使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする方法が開示される。開示されたNMR法により、既存のNMR技術に対するいくつかの変更及び改良がもたらされる。いくつかの実施形態では、方法は、高周波(RF)パルスを印加することと、1000μs以下のパルス長を有する勾配パルスを印加することと、水抑制技術(WET)を適用することとを含む、シグナル処理工程のサイクルを適用することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、増強された組成物のシグナルを取得するために、サイクルを少なくとも3回繰り返すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、増強された組成物のシグナルに基づいて、特定の分子をフィンガープリントすることをさらに含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴(NMR)を使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする方法であって、
第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも含む前記組成物を提供することであって、前記シグナルの各々は、0ではない核スピンを有する前記それぞれの分子の各々から生じる、前記組成物を提供することと、
シグナル処理工程のサイクルを適用することであって、前記サイクルが、
高周波(RF)パルスを印加することと、
1000μs以下のパルス長を有する勾配パルスを印加することと、
水抑制技術(WET)を適用することであって、
前記第1のNMRシグナル、前記第2のNMRシグナル、及び前記第3のNMRシグナルは、
13Cメチルシグナルの定義されたppm範囲のNMRスペクトルの領域に位置することと
を含む、シグナル処理工程のサイクルを適用することと、
増強された前記組成物のシグナルを取得するために、前記サイクルを少なくとも3回繰り返すことと、
前記増強された前記組成物のシグナルに基づいて、前記特定の分子をフィンガープリントすることと、
を含む、方法。
【請求項2】
NMRスペクトルの前記領域が、約5ppm~約150ppmのNMRスペクトルウィンドウを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
NMRスペクトルの前記領域が、約5ppm~約100ppmのNMRスペクトルウィンドウを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
NMRスペクトルの前記領域が、約5ppm~約50ppmのNMRスペクトルウィンドウを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
NMRスペクトルの前記領域が、約7ppm~約35ppmのNMRスペクトルウィンドウを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記RFパルスが、Reburpパルス、広帯域反転パルス(BIP)及びガウシアン(G3)反転パルスの組み合わせ、又は非対称断熱パルスのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記Reburpパルスが、前記第1のNMRシグナルを励起する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記広帯域反転パルスが、前記NMRシグナルの各々を励起し、前記G3反転パルスが、前記第2のNMRシグナルを抑制する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記非対称断熱パルスが、前記第2のNMRシグナルを抑制しながら前記第1のNMRシグナルを励起する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のNMRシグナルが、
13Cメチルに関連するNMRシグナルであり、前記第2のNMRシグナルが、
13Cスクロースに関連するシグナルであり、前記第3のNMRシグナルが、
1Hアセテート、又はグルタメート、プロリン、アルギニン、若しくはマンニトールのうちの1つからなる他の賦形剤からの
1H/
13C NMRシグナルに少なくとも関連するシグナルである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
NMRを使用するための前記方法が、約100MHz~約2000MHzの周波数範囲で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記Reburpパルスが、約500μs~約1000μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記Reburpパルスが、約600μs~約900μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記Reburpパルスが、約600μs~約800μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約200μs~約2500μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約200μs~約2000μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項17】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約200μs~約1500μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約250μs~約1000μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項19】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約250μs~約750μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項20】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約620μs~660μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項21】
前記BIPが約120μs~160μsのパルス長を有し、前記G3反転パルスが約500μsのパルス長を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記非対称断熱パルスが、約50μs~約2500μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項23】
前記非対称断熱パルスが、約50μs~約2000μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項24】
前記非対称断熱パルスが、約50μs~約1500μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項25】
前記非対称断熱パルスが、約50μs~約1000μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項26】
前記非対称断熱パルスが、約100μs~約800μsのパルス長を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項27】
前記勾配パルスが、約50μs~約990μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記勾配パルスが、約50μs~約900μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記勾配パルスが、約50μs~約800μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記勾配パルスが、約50μs~約700μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記勾配パルスが、約50μs~約600μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記勾配パルスが、約50μs~約500μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記勾配パルスが、約50μs~約400μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記勾配パルスが、約50μs~約300μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記勾配パルスが、約50μs~約250μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記勾配パルスが、約50μs~約200μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記勾配パルスが、約50μs~約150μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
前記勾配パルスが、約50μs~約100μsのパルス長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項39】
前記勾配パルスの後に、同一のパルス長範囲を有する少なくとも1つの反転勾配パルスが続く、請求項27~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記少なくとも1つの反転勾配パルスの後に、同一のパルス長範囲を有する別の勾配パルスが続く、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記サイクルを少なくとも3回繰り返すことが、約10μs~約990μsの範囲の前記繰り返しにおける遅延を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
前記遅延が、約30μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約100μs~約600μs、約150μs~約500μs、又は約200μs~約300μsである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
核磁気共鳴(NMR)を使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする方法であって、
第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも含む前記組成物を提供することであって、前記シグナルの各々は、0ではない核スピンを有する前記それぞれの分子の各々から生じる、前記組成物を提供することと、
シグナル処理工程のサイクルを適用することであって、前記サイクルが、
高周波(RF)パルスを印加することと、
勾配パルスを印加することであって、
前記第1のNMRシグナル、前記第2のNMRシグナル、及び前記第3のNMRシグナルが、約5ppm~約150ppmのNMRスペクトルウィンドウの領域に位置することと
を含む、シグナル処理工程のサイクルを適用することと、
増強された前記組成物のシグナルを取得するために、前記サイクルを少なくとも3回繰り返すことと、
前記増強された前記組成物のシグナルに基づいて、前記特定の分子をフィンガープリントすることと、
を含む、方法。
【請求項44】
前記サイクルが、
前記第3のNMRシグナルを抑制するために水抑制技術(WET)シーケンスを適用すること
をさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
NMRスペクトルの前記領域が、約5ppm~約100ppm、約5ppm~約50ppm、又は約7ppm~約35ppmのNMRスペクトルウィンドウを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記RFパルスが、Reburpパルス、広帯域反転パルス(BIP)及びガウシアン(G3)反転パルスの組み合わせ、並びに非対称断熱パルスのうちの少なくとも1つを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項47】
前記Reburpパルスが、前記第1のNMRシグナルを励起する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記広帯域反転パルスが、広範囲のNMRシグナルを励起し、前記G3反転パルスが、前記第2のNMRシグナルを抑制する、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記非対称断熱パルスが、前記第2のNMRシグナルを抑制しながら前記第1のNMRシグナルを励起する、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記第1のNMRシグナルが、
13Cメチルに関連するNMRシグナルであり、前記第2のNMRシグナルが、
13Cスクロースに関連するNMRシグナルに関連するシグナルであり、前記第3のNMRシグナルが、
1Hアセテート、又はグルタメート、プロリン、アルギニン、若しくはマンニトールのうちの1つからの
13C NMRシグナルに少なくとも関連するシグナルである、請求項43に記載の方法。
【請求項51】
NMRを使用するための前記方法が、約100MHz~約2000MHzの周波数範囲で実行される、請求項43に記載の方法。
【請求項52】
前記Reburpパルスが、約500μs~約1000μs、約600μs~約900μs、又は約600μs~約800μsのパルス長を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項53】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約200μs~約2500μs、約200μs~約2000μs、約200μs~約1500μs、約250μs~約1000μs、又は約250μs~約750μsのパルス長を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項54】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約620μs~660μsのパルス長を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項55】
前記BIPが約120μs~160μsのパルス長を有し、前記G3反転パルスが約500μsのパルス長を有する、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記非対称断熱パルスが、約50μs~約2500μs、約50μs~約2000μs、約50μs~約1500μs、約50μs~約1000μs、又は約100μs~約800μsのパルス長を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項57】
前記勾配パルスが、1000μs以下のパルス長を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項58】
前記勾配パルスが、約50μs~約1000μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長範囲を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項59】
前記勾配パルスの後に、同一のパルス長又は同一のパルス長範囲を有する少なくとも1つの反転勾配パルスが続く、請求項57又は58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記少なくとも1つの反転勾配パルスの後に、同一のパルス長範囲を有する別の勾配パルスが続く、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記サイクルを少なくとも3回繰り返すことが、約10μs~約990μs、約30μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約100μs~約600μs、約150μs~約500μs、又は約200μs~約300μsの範囲の前記繰り返しにおける遅延を含む、請求項43に記載の方法。
【請求項62】
核磁気共鳴(NMR)を使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする方法であって、
第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも含む前記組成物を提供することであって、前記シグナルの各々は、0ではない核スピンを有する前記それぞれの分子の各々から生じる、前記組成物を提供することと、
前記第2のNMRシグナルを抑制しながら前記第1のNMRシグナルを励起するために、高周波(RF)パルスを前記組成物に印加することであって、前記RFパルスは、Reburpパルス、広帯域反転パルス及びガウシアン反転パルスの組み合わせ、並びに非対称断熱パルスのうちの少なくとも1つを含む、高周波(RF)パルスを前記組成物に印加することと、
1000μs以下のパルス長を有する勾配パルスを印加することと、
前記第3のNMRシグナルを抑制するために水抑制技術(WET)シーケンスを適用することと、
増強された前記組成物のシグナルを取得することと、
前記増強された前記組成物のシグナルに基づいて、前記特定の分子をフィンガープリントすることと、
を含む、方法。
【請求項63】
前記第1のNMRシグナル、前記第2のNMRシグナル、及び前記第3のNMRシグナルが、
13Cメチルシグナルの近傍のNMRスペクトルの領域に位置する、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記第1のNMRシグナル、前記第2のNMRシグナル、及び前記第3のNMRシグナルが、約5ppm~約150ppmのNMRスペクトルウィンドウに位置する、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
前記第1のNMRシグナル、前記第2のNMRシグナル、及び前記第3のNMRシグナルが、約5ppm~約100ppm、約5ppm~約50ppm、又は約7ppm~約35ppmのNMRスペクトルウィンドウに位置する、請求項62に記載の方法。
【請求項66】
NMRを使用するための前記方法が、約100MHz~約2000MHzの周波数範囲で実行される、請求項62に記載の方法。
【請求項67】
前記Reburpパルスが、約500μs~約1000μs、約600μs~約900μs、又は約600μs~約800μsのパルス長を有する、請求項62に記載の方法。
【請求項68】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約200μs~約2500μs、約200μs~約2000μs、約200μs~約1500μs、約250μs~約1000μs、又は約250μs~約750μsのパルス長を有する、請求項62に記載の方法。
【請求項69】
前記BIP及び前記G3反転パルスの前記組み合わせが、約620μs~660μsのパルス長を有する、請求項62に記載の方法。
【請求項70】
前記BIPが約120μs~160μsのパルス長を有し、前記G3反転パルスが約500μsのパルス長を有する、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記非対称断熱パルスが、約50μs~約2500μs、約50μs~約2000μs、約50μs~約1500μs、約50μs~約1000μs、又は約100μs~約800μsのパルス長を有する、請求項62に記載の方法。
【請求項72】
前記勾配パルスが、約50μs~約990μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長範囲を有する、請求項62に記載の方法。
【請求項73】
前記勾配パルスの後に、同一のパルス長範囲を有する少なくとも1つの反転勾配パルスが続く、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記少なくとも1つの反転勾配パルスの後に、同一のパルス長範囲を有する別の勾配パルスが続く、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記RFパルス、前記勾配パルス、及び前記WETシーケンスを前記印加することが、シグナル処理工程のサイクルを構成し、前記方法は、
前記増強された前記組成物のシグナルを取得するために、前記サイクルを少なくとも3回繰り返すことをさらに含む、請求項62に記載の方法。
【請求項76】
前記サイクルを少なくとも3回繰り返すことが、約10μs~約990μs、約30μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約100μs~約600μs、約150μs~約500μs、又は約200μs~約300μsの範囲の前記繰り返しにおける遅延を含む、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
13Cメチルに関連する前記第1のNMRシグナルが、抗CD33及び抗CD3 BiTE分子、抗BCMA及び抗CD3 BiTE分子、抗FLT3及び抗CD3 BiTE、抗CD19及び抗CD3 BiTE、抗EGFRvIII及び抗CD3 BiTE分子、抗DLL3及び抗CD3 BiTE、BLINCYTO(ブリナツモマブ)並びにソリトマブからなる群から選択されるBiTE(登録商標)分子;アダリムマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、セツキシマブ、コナツムマブ、デノスマブ、エクリズマブ、エレヌマブ、エボロクマブ、インフリキシマブ、ナタリズマブ、パニツムマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロモソズマブ、及びトラスツズマブからなる群から選択される抗体、並びに表Aから選択される抗体;並びにこれらの組み合わせからなる群から選択されるタンパク質によってもたらされる、請求項10又は50に記載の方法。
【請求項78】
前記第1のNMRシグナルが、
13Cメチルに関連するNMRシグナルであり、前記第2のNMRシグナルが、
13Cスクロースに関連するNMRシグナルに関連するシグナルであり、前記第3のNMRシグナルが、
1Hアセテート、又はグルタメート、プロリン、アルギニン、若しくはマンニトールのうちの1つからの
1H/
13C NMRシグナルに少なくとも関連するシグナルである、請求項62に記載の方法。
【請求項79】
NMRを使用するための前記方法が、約500MHz~約2000MHzの周波数範囲で実行される、請求項11、51又は66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
NMRを使用するための前記方法が、約500MHz~約1000MHzの周波数範囲で実行される、請求項11、51又は66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
NMRを使用するための前記方法が、約900MHzの周波数範囲で実行される、請求項11、51又は66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
NMRを使用するための前記方法が、約800MHzの周波数範囲で実行される、請求項11、51又は66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
NMRを使用するための前記方法が、約700MHzの周波数範囲で実行される、請求項11、51又は66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
NMRを使用するための前記方法が、約600MHzの周波数範囲で実行される、請求項11、51又は66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
NMRを使用するための前記方法が、約500MHzの周波数範囲で実行される、請求項11、51又は66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
前記第3のNMRシグナルが、グルタメート又はプロリンに関連する、請求項10、50又は78のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、電子フォーマットの配列表とともに出願されている。「041925-0924_SL.txt」という名称のファイルとして提出された配列表は、2020年1月6日に作成され、サイズは265KBである。電子フォーマットの配列表における情報は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
抗体などの医薬的に活性なタンパク質、及び組換え治療用タンパク質(部類としては「治療用タンパク質」)は、多くの場合、注射剤用などの液体溶液中で製剤化される。医薬組成物は、例えば、組成物のpH、モル浸透圧濃度、粘度、清澄度、色、等張性、匂い、無菌性、安定性、溶解若しくは放出速度、吸着又は浸透性を変更、維持又は保護するための作用物質を含み得る。
【0003】
一般に、賦形剤は、それにより様々な化学的及び物理的ストレスに対してタンパク質を安定化させる機序に基づいて分類され得る。一部の賦形剤は、特定のストレスの影響を緩和するか、又は特異的ポリペプチドの特定の感受性を調節する。その他の賦形剤は、タンパク質の物理的安定性及び共有結合の安定性に対してより一般的な効果を有する。医薬的液状タンパク質製剤の一般的な賦形剤は、例えば、Kamerzell TJ,Esfandiary R,Joshi SB,Middaugh CR,Volkin DB.2011,Protein-excipient interactions:Mechanisms and biophysical characterization applied to protein formulation development,Adv Drug Deliv Rev 63:1118-59に記載されている。
【0004】
医薬製剤/組成物の開発、製造、及び製剤化の際の治療用タンパク質の高次構造(例えば、二次構造、三次構造、及び四次構造;HOS)は、治療用タンパク質の有効性及び安全性を確保するために評価される。これは、HOSが品質、安定性、安全性及び有効性に影響を与え得る(HOSが経時的に変化すると、免疫原性が機能を損失する可能性が大きくなる)重要品質特性(CQA)であるためである。CQAは、特定の値又は範囲の値内に存在する化学的、物理的、又は生物学的特性である。ポリペプチドの治療用高分子において、物理的属性及びアミノ酸(ポリペプチドのビルディングブロック)の修飾は重要なCQAであり、製造中及び製造後(並びに薬物開発中)に監視される。同様に、HOSはCQAではあるが、製剤中の賦形剤(例えば、スクロース及びアセテート)が、(抗体若しくはそれらのフラグメント、又は誘導体及びそれらの類縁体などの)治療用タンパク質のメチルピークと強力に干渉するため、例えば核磁気共鳴(NMR)を使用して、製剤化された治療用タンパク質のHOSを検出することが困難な場合がある。
NMRに基づく方法及び技術は、タンパク質のHOSを検出するのに有用ではあるが、多成分溶液中の標的タンパク質のフィンガープリントを対象とする場合、実行することが困難な場合がある。特に、生成されたNMRスペクトルにおいて、特に治療用タンパク質によって生成されるシグナルと同一の検出領域でシグナルを生成するような、溶液中の他の分子からのシグナルに対して、標的分子(例えば治療用タンパク質)からの物標シグナルを検出するようにNMR技術を向上させるという課題が残されている。したがって、この課題を解決するための画期的な手法が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kamerzell TJ,Esfandiary R,Joshi SB,Middaugh CR,Volkin DB.2011,Protein-excipient interactions:Mechanisms and biophysical characterization applied to protein formulation development,Adv Drug Deliv Rev 63:1118-59
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
核磁気共鳴(NMR)を使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする例示的な方法が、本明細書に記載される。方法は、第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも有する組成物を提供することを含む。この方法では、シグナルの各々は、0ではない核スピンを有するそれぞれの分子の各々から生じる。方法は、シグナル処理工程のサイクルを適用することを含む。このサイクルは、高周波(RF)パルスを印加することと、1000μs以下のパルス長を有する勾配パルスを印加することと、水抑制技術(WET)を適用することとを含む。この方法では、第1のNMRシグナル、第2のNMRシグナル、及び第3のNMRシグナルは、NMRスペクトルの定義された領域に位置する。方法はまた、増強された組成物のシグナルを取得するために、サイクルを少なくとも3回繰り返すことを含む。方法は、増強された組成物のシグナルに基づいて、特定の分子をフィンガープリントすることをさらに含む。
【0007】
NMRを使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする別の例示的な方法が、本明細書に記載される。方法は、第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも有する組成物を提供することを含む。この方法では、シグナルの各々は、0ではない核スピンを有するそれぞれの分子の各々から生じる。方法は、シグナル処理工程のサイクルを適用することを含む。サイクルは、RFパルスを印加することと、勾配パルスを印加することとを含む。この方法では、第1のNMRシグナル、第2のNMRシグナル、及び第3のNMRシグナルは、約5ppm~約150ppmのNMRスペクトルウィンドウの領域に位置する。方法はまた、増強された組成物のシグナルを取得するために、サイクルを少なくとも3回繰り返すことを含む。方法は、増強された組成物のシグナルに基づいて、特定の分子をフィンガープリントすることをさらに含む。
【0008】
さらに、NMRを使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする別の例示的な方法が、本明細書に記載される。方法は、第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも有する組成物を提供することを含む。この方法では、シグナルの各々は、0ではない核スピンを有するそれぞれの分子の各々から生じる。方法は、第2のNMRシグナルを抑制しながら第1のNMRシグナルを励起するために、RFパルスを組成物に印加することを含む。RFパルスは、Refocusing Band-Selective Pulse with Uniform Response and Phase(Reburp)パルス、広帯域反転パルス(BIP)及びガウシアン(G3)反転パルスの組み合わせ、並びに非対称断熱パルスのうちの少なくとも1つを含む。方法はまた、1000μs以下のパルス長を有する勾配パルスを印加することと、第3のNMRシグナルを抑制するためにWETシーケンスを適用することとを含む。方法はまた、増強された組成物のシグナルを取得するために、サイクルを少なくとも3回繰り返すことを含む。方法は、増強された組成物のシグナルに基づいて、特定の分子をフィンガープリントすることをさらに含む。
【0009】
これら及び他の態様及び実装形態を、下記で詳細に述べる。前述の情報及び以下の発明を実施するための形態は、種々の態様及び実装形態の実例を含んでおり、開示される態様及び実装形態の性質及び特徴を理解するための概要又は機構を提供するものである。図面は、種々の様態及び実装形態の図解及び更なる理解を提供するものであり、本明細書の一部に組み込まれるとともに本明細書の一部をなすものである。
【0010】
添付図面は縮尺通りに描かれていることを意図していない。異なる図面における類似の参照番号及び表記は、類似の構成要素を示す。明確にするために、すべての図面にすべての構成要素を標記することは不可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来のプロトン-炭素(
1H-
13C)感度増強Heteronuclear Single Quantum Coherence(HSQC)実験と、本明細書に記載される実験スキームに基づく追加のシグナル処理工程との組み合わせを使用した、例示的なNMRシグナル増強技術を示す。
【
図2】本明細書に開示されるような
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づく、NMRシグナル増強技術の別の例を示す。
【
図3A-3F】
13Cスクロースシグナルを抑制するための、異なる形状を有するパルスの例示的な励起プロファイルを示す。
【
図4】
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づいて、スクロース、アセテート、及びメチルピークのシグナル強度を図で比較したものを示す。
【
図5】例示的なHSQC実験において異なるRFパルスを使用した、本明細書に開示される
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づいて、スクロース及びメチルピークのシグナル強度を図で比較したものを示す。
【
図6A】特定のNMR増強方法の有効性を比較するための、異なる
13C 2Dメチルフィンガープリントのプロットを示す。
【
図7】様々な実施形態による、
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づく、NMRシグナル増強技術の別の例を示す。
【
図8】実施例2のサンプル1中の10mMのグルタメート及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制していない状態(802)、及び抑制した状態(804)のHSQCデータの第1の増分からのスペクトルを示す。
【
図9A】実施例2のサンプル1中の10mMのグルタメート及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制していない状態のHSQCスペクトルの2Dメチル領域を示す。
【
図9B】実施例2のサンプル1中の10mMのグルタメート及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制した状態のHSQCスペクトルの2Dメチル領域を示す。
【
図10】実施例2のサンプル3中の15mMのグルタメートからのシグナルを抑制していない状態(1002)、及び抑制した状態(1004)のHSQCデータの第1の増分からのスペクトルを示す。
【
図11A】実施例2のサンプル3中の15mMのグルタメートからのシグナルを抑制していない状態のHSQCスペクトルの2Dメチル領域を示す。
【
図11B】実施例2のサンプル3中の15mMのグルタメートからのシグナルを抑制した状態のHSQCスペクトルの2Dメチル領域を示す。
【
図12】実施例2のサンプル2中の200mMのプロリン及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制していない状態(1202)、及び抑制した状態(1204)のHSQCデータの第1の増分からのスペクトルを示す。
【
図13】様々な実施形態による、ダブルWETスキームに基づく、NMRシグナル増強技術の別の例を示す。
【
図14A】実施例2のサンプル2中の200mMのプロリン及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制していない状態のHSQCスペクトルの2Dメチル領域を示す。
【
図14B】実施例2のサンプル2中の200mMのプロリン及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制した状態のHSQCスペクトルの2Dメチル領域を示す。
【
図15A-15E】
13Cスクロースシグナルを抑制するための、異なる形状を有するパルスの例示的な励起プロファイルを示す。
【
図16A】リフォーカシング要素として、トランスミッターオフセット16ppm、パルス長375μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=50、0.1Tp]、及び
1Hアセテートシグナルを抑制するためのWETシーケンスを使用した、HSQCスペクトルの2Dメチル領域を示す。
【
図16B】トランスミッターオフセット18ppm、パルス長750μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=70、0.1Tp]を使用した、HSQCスペクトルの2Dメチル領域を示す。
【
図17】800MHzのNMRシステムを使用して得られた、例示的なHSQC実験において異なるRFパルスを使用した
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づく、メチルピークのシグナル強度を図で比較したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般に、本開示は、化学的組成物の構造をマッピングするための2次元(2D)核磁気共鳴技術によって、複合体の治療用タンパク質をフィンガープリントする方法に関する。
【0013】
近年、モノクローナル抗体(mAb)などのタンパク質分子の構造をマッピングするために、2D 13C NMRメチルフィンガープリント法が導入されているが、現況技術のNMR技術又は方法は、スクロース及びアセテートなどの脂肪族化合物の賦形剤を高濃度に含有する、製剤化されたタンパク質のHOSを評価するためには適用されていなかった。これらの技術の適用は、これらの賦形剤によるスペクトル干渉によって阻まれている。この賦形剤の干渉は、賦形剤のシグナルが多くの場合タンパク質などの標的化学的組成物のシグナルよりも大きなオーダーである場合の適用に特に問題となる可能性があり、ベースラインの歪みが導入されることによって計量化学分析に負の影響を与えたり、又は賦形剤シグナルの近傍において選ばれたピークパラメータの忠実度に影響を与える可能性がある。
【0014】
開示されるNMR法は、既存のNMR技術に対して変更と改良とをもたらし、メチルピークに関するスクロース及びアセテートシグナルの強い干渉を克服するものである。記載されている変更されたNMR技術の使用についての有効性を評価するための、いくつかのサンプル及びサンプルの種類における各種実験の際に、上記で説明した干渉の問題が克服されていることが出願人によって発見された。
【0015】
このように、パルスプロファイルを変更することにより、驚くべきことに、様々なNMR領域のシグナル対雑音比に大幅な影響を与えることができるということが見出された。例えば、特定のパルスプロファイルを使用して、スクロースに由来するような13C賦形剤シグナルを抑制しながら、治療用分子からの13Cメチルシグナルを励起することができる。1ミリ秒(ms)未満のより短い勾配パルスを印加することによってシグナルをさらに増強し、13Cメチルシグナルの強度を増大させることができる。
【0016】
続いて、改良されたNMR法における各種特殊因子、並びに、これらの特に記載されている因子の各種組み合わせを利用して、関連する実施形態の評価についての考察及び有効性の検証を行う。
【0017】
開示されたNMR法の関連する実施形態によれば、方法は、Refocusing Band-Selective Pulse with Uniform Response and Phase(Reburp)パルス、広帯域反転パルス(BIP)及びガウシアン(G3)反転パルス、並びに非対称断熱パルスのうちの少なくとも1つを印加することを含み得る。3種類の異なるパルスのうちの少なくとも1つを印加することにより、スクロースに由来するシグナルなどの13C賦形剤シグナルが抑制される一方で、治療用分子の13Cメチルシグナルが励起される。方法はまた、水抑制技術(WET)シーケンスを適用して、13Cシグナルが3種類の異なるパルス(Reburp、BIP、G3、断熱)のうちの少なくとも1つによって抑制することができないメチル領域に当たる、1Hアセテートシグナル(及び/又は他の賦形剤からのシグナル)を抑制することができる。方法は、治療用分子の13Cメチルシグナルの強度を増大させるために、より短い勾配パルスを印加することをさらに含む。上述したパルスの印加は、医薬製剤などにおけるペプチド及びタンパク質を含む特定の組成物を検出するように、2D 13C NMRメチルフィンガープリントを実行するために使用することができる、開示されたNMR法において可能となる。
【0018】
ここで、図を参照すると、
図1は、いくつかの実施形態による、
1H-
13C感度増強HSQC実験及び追加のシグナル処理工程の組み合わせを使用する、例示的なNMRシグナル増強パルスプロファイル100を示す。
図2は、いくつかの実施形態による、
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づく、NMRシグナル増強パルスプロファイル200の別の例を示す。
図3A~3Fは、いくつかの実施形態による、
13Cスクロースシグナルを抑制するための、異なる形状を有するパルスの例示的な励起プロファイル300a、300b、及び300cをそれぞれ示す。
図1、2、及び3A~3Fに示される例示的なNMRシグナル増強技術は、例証を目的としたものにすぎない。
【0019】
図1は、mAbの2D
13C NMRメチルフィンガープリントに適用されているシグナル処理工程の特定のセットを使用して、現況技術の
1H-
13C感度増強HSQC実験に、追加のシグナル処理工程を実施したものを示している。図示されるように、特定のシグナルプロファイルを有するRFパルスである、
図1のパルスプロファイル100が印加され、プロトン(
1H)磁化を誘起し、続いてInsensitive Nuclei Enhanced by Polarization Transfer(INEPT)処理工程によって、直接結合した炭素(
13C)磁化に移行する。
図1において、Δ=1/2*J、δ=1/8*Jであり、ここで、Jを145Hz、φ
1=0,2;及びφ
rec=0,2に設定した。1msでG1=80%、及び1msでG2=20.1%(又は250μsでG1=80%、及び246μsでG2=20.1%)。1msでG7=-80%、1msでG8=-40%、1msでG9=-20%、1msでG10=-10%、1msでG11=50%、600μsでG5=5%、1msでG6=-2%。100%での最大勾配強度は約53.5G/cmであった(t1及びt2は、F1(t1データ点のフーリエ変換後の周波数1)及びF2(t2データ点のフーリエ変換後の周波数2)次元のそれぞれの時間領域データを取得するための期間である)。
【0020】
INEPT処理工程を適用すると、T
1展開期の後、炭素磁化の際に炭素周波数が符号化される。続いて、炭素磁化は、感度を増強した逆INEPT処理工程の適用による検出のために、再度プロトン磁化に移行する。様々な実装形態では、
1H-
13C磁化のコヒーレンス選択、(NMRアクティブでない)
12Cに結合するプロトン磁化の抑制、及び2Dデータにおける吸収線の形状は、Davis,A.L.;Keeler,J.;Laue,E.D.;Moskau,D.;Experiments for recording pure-absorption heteronuclear correlation spectra using pulsed field gradients,J.Magn.Reson.1992,98,207-216;Kay,L.;Keifer,P.;Saarinen,T.;Pure absorption gradient enhanced heteronuclear single quantum correlation spectroscopy with improved sensitivity,J.Am.Chem.Soc.1992,114,10663-10665;及びJ.Schleucher,J.;Schwendinger,M.;Sattler,M.;Schmidt,P.;Schedletzky,O.;Glaser,S.J.;Sorensen,O.W.;及びGriesinger,O.W.;A general enhancement scheme in heteronuclear multidimensional NMR employing pulsed field gradients,J.Biomol.NMR 1994,4,301-306に記載されるような、勾配パルス及びエコー/アンチエコースキームを併用することによって達成される。2D
13C NMRメチルフィンガープリント用の現在のNISTプロトコルでは、炭素帯域幅は7~35ppmに設定され、トランスミッター周波数は21ppmである。(
図3Aに示されるように)スクロースの炭素シグナルが60~103ppmの範囲であるため、このシグナルにより、HSQCスペクトルでは7~35ppmの範囲で折り返し現象が生じることとなる。場合によっては、折り返されたスクロースシグナルは、適切に位相合わせすることができず、F
2領域の末端領域においてシグナルが分散する結果となる。場合によっては、これらの折り返されたシグナルは、
図6Aに関してさらに詳細に説明するように、メチルピーク分析と干渉する。
【0021】
図1のスクロースシグナルの折り返しによる問題を解決するために、開示されるNMR法は、エコー/アンチエコースキームの符号化期間に
13Cスクロースシグナルを抑制しながら
13Cメチルシグナルを励起するように変更されたパルスプロファイルによってパルス設計を改良することを含む。関連する実施形態では、
13Cスクロースシグナルを抑制するようにパルスプロファイルを設計することができる。関連する実施形態では、
1Hスクロースシグナルを抑制するようにパルスプロファイルを設計することができる。関連する実施形態では、プロトンシグナルよりも炭素シグナルの方が分散されているために、
13Cスクロースシグナルの抑制は、
1Hスクロースシグナルの抑制よりも容易である可能性がある。
図1に示される励起バンドが7ppm~35ppmをカバーし、抑制バンドが60ppmを超えていることから、移行バンドを例えば60~35ppmに設定することができる。したがって、600MHzで動作するNMRシステムの場合、25ppmの帯域幅は3772.5Hzである(150.9Hz/ppm)。しかしながら、プロトン移行は、3.5~2ppm以下の、約1.5ppm(900Hz、600Hz/ppm)のみであってもよい。帯域幅はNMR動作周波数に応じて変更することができ、100MHz~2000MHzとすることができる。様々な実施形態によれば、NMRの動作周波数は、約100MHz~約2000MHz、約500MHz~約2000MHz、約500MHz~約1000MHz、約500MHz~約900MHz、約600MHz~約800MHzの範囲(それらの間のあらゆる周波数範囲を含む)に及ぶことができる。様々な実施形態によれば、NMRシステムは、約100MHz、約200MHz、約300MHz、約400MHz、約500MHz、約600MHz、約700MHz、約800MHz、約900MHz、約1000MHz、約1100MHz、約1200MHz、約1300MHz、約1400MHz、約1500MHz、約1600MHz、約1700MHz、約1800MHz、約1900MHz、約2000MHzの周波数(それらの間のあらゆる周波数を含む)で動作することができる。例証の目的のために、本明細書に記載される実施例1及び2の実験では600MHzのNMRシステムを使用し、実施例3の実験では800MHzのNMRシステムを使用する。他の磁場強度の場合は、Reburp及びG3の長さ、並びに非対称断熱パルス用のppmスケールでのトランスミッターオフセットの位置などの、下記に述べる様々なパルスの特定のパラメータを調整することができる。さらに、動作周波数に応じて、G2又はG4の長さなどの、様々なパルスの特定のパラメータを調整することができる。例えば、800MHzのNMRでは、勾配のパルス長は248μsとすることができ、G2は40.00%~40.50%とすることができ、G4は-40.00%~-40.50%とすることができる。しかしながら、非対称断熱パルスの性能は、磁界強度に依存する。
【0022】
図2に示される例では、開示されたNMR法は、例えば、Mandelshtam,V.A.;Hu,H.;Shaka,A.J.,Two-dimensional HSQC NMR spectra obtained using a self-compensating double pulsed field gradient and processed using the filter diagonalization method, Magn.Reson.Chem.1998,36,S17-S28;及びHu,H.;Shaka,A.J.,Composite pulsed field gradients with refocused chemical shifts and short recovery time.J.Magn.Reson.1999,136,54-62に記載されているようなCLUBサンドイッチ手法を、エコー/アンチエコースキームの符号化期間の間に使用することを含む。ダブルエコー手法を使用してリフォーカシングパルスを設計するとき、設計プロセスは、ダブルエコーシーケンスの終了時の位相がシーケンスの開始時の位相と同一である場合、ダブルエコーシーケンスに使用される要素の反転プロファイルを精査するために単純化される。この手法によって、リフォーカシングプロファイルは、例えば、Hwang,T.-L.;Shaka,A.J.,Water suppression that works.Excitation sculpting using arbitrary waveforms and pulsed field gradients.J.Magn.Reson.A 1995,112,275-279に記載されるように、二乗した反転要素を用いたスピンフリップの確率となる。これは、RFパルス及びオフセットの影響下における磁化の振幅及び位相応答の両方を考慮する必要がある、Reburp又は類似のリフォーカシングパルスの設計とは異なるものである。
【0023】
上記で説明したように、
図3A~3Fは、いくつかの実施形態による、
13Cスクロースシグナルを抑制するための、異なる形状を有するパルスの例示的な励起プロファイルを示す。測定に使用されるサンプルは、重水(D
2O)中に0.1mg/mlの塩化ガドリニウム(GdCl
3)を含む1%の水である。上述したように、
図3Aは、スクロース及びアセテートシグナル領域の
13Cシグナルのパルスプロファイル300aを示している。この図では、スクロース及びアセテートシグナルの両方の相対強度を観察することができる。
【0024】
図3Bは、関連する実施形態による、Reburpプロファイルのパルスプロファイル300bを示している。様々な実施形態では、開示されるNMR法は、メチル
13C領域の励起帯域幅をカバーする、トランスミッターオフセットが21ppmで750μsのReburpリフォーカシングパルスを従来のハードパルスと置き換えることによってスクロースシグナルを除去するための、
図3Bに示されるようなReburpリフォーカシングパルス300bを含む。励起したサイドローブが移行期間に存在するものの、
図3Bに示されるように、励起したピークの強度は小さく、60ppm領域近辺にある。
【0025】
図3Cは、関連する実施形態による、BIP及びG3を組み合わせたパルスプロファイル300cを示している。
図3Cに示された、このパルスを組み合わせた励起プロファイルにより、結果としてスクロースシグナルが良好に抑制される。
図2に図示されるように、第1のCLUBサンドイッチ要素は、広範囲の磁化を励起するために、55ppmに位置し、120μsの持続時間を有する広帯域BIPパルスと、スクロースシグナルを抑制するために、81.5ppmに位置し、500μsの持続時間を有するG3反転パルスとの組み合わせを使用する。
【0026】
NMR測定技術を使用したいくつかの実験では、帯域幅の一方の側の磁化を反転又は励起することが必要となる。様々な実装形態では、例えば、Hwang,T.-L.;van Zijl,P.C.M.;Garwood,M.,Asymmetric adiabatic pulses for NH selection.J.Magn.Reson.1999,138,173-177に記載されているような、異なるR値(R=パルス長(秒)*帯域幅(Hz))及びパルス長(Tp)を有するHS1/2及びtanh/tan変調関数に由来する2つの半通過(half passage)を含有する非対称断熱全通過(full passage)によって、スペクトルの一方の側で帯域幅の反転又は励起を達成しながら移行帯域幅を狭めることができる。
【0027】
図3D、3E及び3Fは、
13Cスクロースシグナルを抑制しながら
13Cメチルシグナルを反転するために、異なるパルス長によって最適化された、3つの例示的な非対称断熱パルス300d、300e及び300fをそれぞれ示している。各
図3D、3E及び3Fにおいて、T
xはトランスミッターオフセットであり、1ppmの間隔でオフセットを増分することによってプロファイルを生成した。
【0028】
図3Dは、例えば、Hwang,T.-L.;van Zijl,P.C.M.;Garwood,M.,Asymmetric adiabatic pulses for NH selection.J.Magn.Reson.1999,138,173-177に記載されるような、トランスミッターオフセット43ppm、パルス長1500μsの(1)[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=140、0.1Tp]として示されるパルスプロファイル300dを示している。結果として、スクロースの炭素シグナルを抑制しながら、励起バンドがメチル領域をカバーすることが可能となる。パルス長が1500μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=140、0.1Tp]の移行帯域幅は、約700Hzである(
図3D)。パルスプロファイル全体を、パルスのトランスミッターオフセットの位置に応じてその近辺に移動させることができるということに留意されたい。換言すれば、パルスのトランスミッターオフセットが21ppmに位置する場合、それに応じて励起バンドがより低いppm範囲に移動するが、この励起バンドはC
β炭素シグナルを抑制しながらも、なおメチル領域をカバーする。
【0029】
図3Eは、トランスミッターオフセット30ppm、パルス長750μsの(2)[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=70、0.1Tp]として示されるパルスプロファイル300eを示している。励起バンドは、スクロースの炭素シグナルを抑制しながら、治療用分子のメチル領域をカバーしている。
【0030】
図3Fは、トランスミッターオフセット2ppm、パルス長375μsの(3)[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=50、0.1Tp]として示されるパルスプロファイル300fを示している。同様に、励起バンドは、スクロースの炭素シグナルを抑制しながら、治療用分子のメチル領域をカバーすることができる。
図3Fでは、パルス長が375μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=50、0.1Tp]の移行帯域幅が非常に広い範囲となっているが、mAbの磁化のT
2及びT
1ρ緩和が極めて短いため、より短いパルス長でメチルピークの強度損失が低減される。
【0031】
図4は、時間領域の自由誘導減衰データを周波数領域データにフーリエ変換した結果であり、これによって異なるppmで現れるNMRピークを視角化したスペクトルのグラフ400である。X軸はppmとして表され、分光計周波数とは独立しており、これによって異なる磁界強度でスペクトルを比較することができる。
図4に示されるように、グラフ400は、関連する実施形態により、
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づいて、スクロース、アセテート及びメチルピークのシグナル強度を比較したものを示している。
1H-
13C HSQC実験における異なる成分の強度は、エコー/アンチエコーの符号化期間におけるハードリフォーカシングパルスを使用して測定する。
図4に示されるように、スクロースシグナルの強度は、メチルピークの強度よりもはるかに大きく、2Dスペクトルにおけるシグナル干渉問題の原因となる。
【0032】
図5は、時間領域の自由誘導減衰データを周波数領域データにフーリエ変換し、異なるppmで現れるNMRピークを視角化することができるスペクトルを示すグラフ500である。X軸はppmとして表され、分光計周波数とは独立しており、これによって異なる磁界強度でスペクトルを比較することができる。
図5に示されるように、グラフ500は、いくつかの実施形態により、エコー/アンチエコースキームの符号化期間において別に提示されたRFパルスを使用する本発明の
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づいて、スクロース及びメチルピークのシグナル強度を比較したものを示している。特に、
図5に示されるシグナルプロファイルは、エコー/アンチエコースキームの符号化期間において、新たに提案されたリフォーカシングパルス(すなわち、Reburp、BIP+G3、及び非対称断熱パルス)を使用した
1H-
13C HSQC実験により測定された、異なる成分のシグナル強度からのものである。様々な実施形態では、アセテートシグナルを抑制するために、水抑制技術(WET)スキームが適用される。様々な実施形態では、水シグナルをさらに除去するために、デジタルフィルタが適用される。
【0033】
また、
図5は、スクロースシグナルの強度がメチルピークの強度とほぼ同じオーダーであることを示している。2Dのスペクトルでは、これらのスクロースシグナルはT
1のノイズのように振る舞い、メチルピーク分析とは干渉しない(
図6B及び6Cに示される通り)。これらのスペクトルはまた、メチルピークの強度が、異なるパルス長を有するパルスに対してわずかに変動することを示している。例えば、21ppmに位置するパルス長1500μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=140、0.1Tp]のパルスプロファイルはC
βシグナルを励起せず、
図5に示されるように、対応する3ppm近辺のH
βピークが消失する。
【0034】
様々な実施形態では、小型のペプチドのシグナルのT2及びT1ρ緩和は、大型のmAbの緩和よりもはるかに遅くなる。逆に言えば、mAbのT2及びT1ρ緩和、並びに/又は拡散効果による強度損失は、パルス長のわずかな違いで重大なものとなり得る。その結果、パルス長のあらゆるわずかな違いは、mAbのメチルピークの強度に重大な影響を与え得る。開示されたNMR法の関連する実施形態によれば、エコー/アンチエコー期間の間に、勾配パルスを1000μsから250μsに短くすることによって、パルスシーケンスを改良することができる。この手法を、サンプル3を使用して実験する。CLUBサンドイッチにおける勾配の異なる極性により、渦電流を無効にすることができるため、勾配回復をさらに従来の200μsから50μsに低減することができる。これらの最適化された値を、-0.5~2ppmのメチルピーク面積を積分することによって、現行の及び新規の1H-13C HSQC実験に適用した際の、異なる実験による相対的な積分値を下記の表1で比較する。
【0035】
【0036】
表1のデータは、1ms(1000μs)の長さの勾配を有する本来のハードリフォーカシング実験が、0.73の最小の相対強度であることを示している。勾配パルス長を約250μsに短くした後、相対的なメチル強度は大幅に増加して1となった。
【0037】
図6A~6Cは、特定のNMR増強方法の有効性を比較するための、異なる
13C 2Dメチルフィンガープリントのプロット600a、600b、及び600cをそれぞれ示している。
図6Aは、3%D
2Oと混合した、mAb1、50mg/ml、9%スクロース、10mMのアセテート、0.01%ポリソルベート(PS)80をpH=5.2で含有するサンプルに対し、従来のNMR法(すなわちNISTプロトコル)を用いた実験結果を示している。スクロースシグナルはメチル領域に対して折り返し、アセテートシグナルのストリップは2ppm近辺に現れた。これらのアーチファクトはメチルピーク分析と干渉していた。対照的に、
図6Bは、スクロース及びアセテートシグナルからの干渉がなく、明確なメチル領域を表している。この結果は、リフォーカシング要素として、トランスミッターオフセット2ppm、パルス長375μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=50、0.1Tp]、及び
1Hアセテートシグナルを抑制するためのWETシーケンスを使用することによって得られる。
図6Cは、トランスミッターオフセット21ppm、パルス長1500μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=140、0.1Tp]を使用することによって、C
β領域をさらに抑制することができることを示している。
【0038】
治療用タンパク質
「治療用タンパク質」とは、治療的生物活性を示すあらゆるタンパク質分子を意味する。治療用タンパク質分子は、例えば、全長タンパク質であってよい。他の実施形態では、治療用タンパク質は全長タンパク質の活性フラグメントである。治療用タンパク質は、その天然源から作製及び精製してもよい。或いは、「組換え治療用タンパク質」という用語には、組換えDNA技術によって得られるあらゆる治療用タンパク質が含まれる。
【0039】
以下の1つ以上に結合するものを含むタンパク質を、開示される方法で使用することができる。これらには、受容体結合を妨害するものを含む、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD22、CD30及びCD34を含むCDタンパク質が含まれる。HER2、HER3、HER4及びEGF受容体を含むHER受容体ファミリータンパク質。細胞接着分子、例えば、LFA-I、MoI、pl50、95、VLA-4、ICAM-I、VCAM、及びα v/β 3インテグリン。成長因子、例えば、血管内皮増殖因子(「VEGF」)、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、ミュラー管阻害物質、ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP-I-α)、エリスロポエチン(EPO)、NGF-βなどの神経成長因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、例えば、aFGF及びbFGFを含む線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子(EGF)、特に、TGF-α及びTGF-βを含む、例えばTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4又はTGF-β5を含むトランスフォーミング増殖因子(TGF)、インスリン様成長因子I及びII(IGF-I及びIGF-II)、des(l-3)-IGF-I(脳IGF-I)、並びに骨誘導因子。インスリン、インスリンA鎖、インスリンB鎖、プロインスリン、及びインスリン様成長因子結合タンパク質を含むインスリン及びインスリン関連タンパク質。特に、第VIII因子、組織因子、フォン・ヴィレブランド因子、プロテインC、α-1-アンチトリプシンなどの凝固タンパク質及び凝固関連タンパク質、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子及び組織プラスミノーゲン活性化因子(「t-PA」)などのプラスミノーゲン活性化因子、ボンバジン(bombazine)、トロンビン及びトロンボポエチン;アルブミン、IgE及び血液型抗原を含むがそれらに限定されない他の血液タンパク質及び血清タンパク質。コロニー刺激因子及びその受容体、例えば以下のもの、特に、M-CSF、GM-CSF、及びG-CSF、並びにそれらの受容体、例えばCSF-1受容体(c-fms)。例えば、flk2/flt3受容体、肥満(OB)受容体、LDL受容体、成長ホルモン受容体、トロンボポエチン受容体(「TPO-R」、「c-mpl」)、グルカゴン受容体、インターロイキン受容体、インターフェロン受容体、T細胞受容体、c-Kitなどの幹細胞因子受容体及び他の受容体を含む、受容体タンパク質及び受容体関連タンパク質。例えば、OX40受容体のリガンドであるOX40Lを含む、受容体リガンド。骨由来神経栄養因子(BDNF)、及びニューロトロフィン-3、-4、-5、又は-6(NT-3、NT-4、NT-5、又はNT-6)を含む、神経栄養因子。リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、及びプロリラキシン;例えば、インターフェロン-α、-β、及び-γ、並びにそれらの受容体を含むインターフェロン及びインターフェロン受容体。IL-1~IL-33及びIL-1~IL-33受容体、例えば、特に、IL-8受容体を含む、インターロイキン及びインターロイキン受容体。AIDSエンベロープウイルス抗原を含む、ウイルス抗原。リポタンパク質、カルシトニン、グルカゴン、心房性ナトリウム利尿因子、肺界面活性物質、腫瘍壊死因子α及びβ、エンケファリナーゼ、ランテス(RANTES;regulated on activation normally T-cell expressed and secreted)、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、DNase、インヒビン及びアクチビン。インテグリン、プロテインA又はD、リウマチ因子、免疫毒素、骨形成タンパク質(BMP)、スーパーオキシドディスムターゼ、表面膜タンパク質、崩壊促進因子(DAF)、AIDSエンベロープ、輸送タンパク質、ホーミング受容体、アドレシン、調節タンパク質、イムノアドヘシン、抗体。ミオスタチン、TALL-I、アミロイドタンパク質、例えば、以下に限定されないが、アミロイドβタンパク質、胸腺間質性リンパ球新生因子(「TSLP」)、RANKリガンド(「OPGL」)、c-kitを含むTALLタンパク質、TNF受容体1型を含むTNF受容体、TRAIL-R2、アンジオポエチン及び前述のいずれかの生物活性フラグメント又はアナログ又は変異体。
【0040】
他の治療用タンパク質としては、Activase(登録商標)(アルテプラーゼ);アリロクマブ、Aranesp(登録商標)(ダルベポエチン-アルファ)、Epogen(登録商標)(エポエチンアルファ、又はエリスロポエチン);Avonex(登録商標)(インターフェロンβ-Ia);Bexxar(登録商標)(トシツモマブ);Betaseron(登録商標)(インターフェロン-β);ボコシズマブ(L1L3と呼ばれる抗PCSK9モノクローナル抗体、米国特許第8,080,243号明細書を参照のこと);Campath(登録商標)(アレムツズマブ);Dynepo(登録商標)(エポエチンデルタ);Velcade(登録商標)(ボルテゾミブ);MLN0002(抗α4β7 Ab);MLN1202(抗CCR2ケモカイン受容体Ab);Enbrel(登録商標)(エタネルセプト);Eprex(登録商標)(エポエチンアルファ);Erbitux(登録商標)(セツキシマブ);エボロクマブ;Genotropin(登録商標)(ソマトロピン);Herceptin(登録商標)(トラスツズマブ);Humatrope(登録商標)(ソマトロピン[rDNA由来]注射用);Humira(登録商標)(アダリムマブ);Infergen(登録商標)(インターフェロンアルファコン-1);Natrecor(登録商標)(ネシリチド);Kineret(登録商標)(アナキンラ);Leukine(登録商標)(サルグラモスチム);LymphoCide(登録商標)(エプラツズマブ);Benlysta(商標)(ベリムマブ);Metalyse(登録商標)(テネクテプラーゼ);Mircera(登録商標)(メトキシポリエチレングリコール-エポエチンベータ);Mylotarg(登録商標)(ゲムツズマブオゾガマイシン);Raptiva(登録商標)(エファリズマブ);Cimzia(登録商標)(セルトリズマブペゴル);Soliris(商標)(エクリズマブ);パキセリズマブ(抗C5補体);MEDI-524(Numax(登録商標));Lucentis(登録商標)(ラニビズマブ);エドレコロマブ(Panorex(登録商標));Trabio(登録商標)(レルデリムマブ);TheraCim hR3(ニモツズマブ);Omnitarg(ペルツズマブ、2C4);Osidem(登録商標)(IDM-I);OvaRex(登録商標)(B43.13);Nuvion(登録商標)(ビシリズマブ);カンツズマブメルタンシン(huC242-DMl);NeoRecormon(登録商標)(エポエチンベータ);Neumega(登録商標)(オプレルベキン);Neulasta(登録商標)(ペグ化フィルグラスチム、ペグ化G-CSF、ペグ化hu-Met-G-CSF);Neupogen(登録商標)(フィルグラスチム);Orthoclone OKT3(登録商標)(ムロモナブ-CD3)、Procrit(登録商標)(エポエチンアルファ)、Remicade(登録商標)(インフリキシマブ)、Reopro(登録商標)(アブシキシマブ)、Actemra(登録商標)(抗IL6受容体Ab)、Avastin(登録商標)(ベバシズマブ)、HuMax-CD4(ザノリムマブ)、Rituxan(登録商標)(リツキシマブ)、Tarceva(登録商標)(エルロチニブ)、Roferon-A(登録商標)(インターフェロンアルファ-2a)、Simulect(登録商標)(バシリキシマブ)、Stelara(商標)(ウステキヌマブ)、Prexige(登録商標)(ルミラコキシブ)、Synagis(登録商標)(パリビズマブ);146B7-CHO(抗IL15抗体、米国特許第7,153,507号明細書を参照のこと)、Tysabri(登録商標)(ナタリズマブ);Valortim(登録商標)(MDX-1303、抗炭疽菌(B.anthracis)防御抗原Ab);ABthrax(商標);Vectibix(登録商標)(パニツムマブ);Xolair(登録商標)(オマリズマブ)、ETI211(抗MRSA Ab)、IL-I Trap(ヒトIgG1のFc部分及びIL-I受容体成分の両方の細胞外ドメイン(I型受容体及び受容体アクセサリータンパク質))、VEGF Trap(IgG1のFcに融合されたVEGFR1のIgドメイン)、Zenapax(登録商標)(ダクリズマブ);Zenapax(登録商標)(ダクリズマブ)、Zevalin(登録商標)(イブリツモマブチウキセタン)、Atacicept(TACI-Ig)、抗α4β7 Ab(ベドリズマブ);ガリキシマブ(抗CD80モノクローナル抗体)、抗CD23 Ab(ルミリキシマブ);BR2-Fc(huBR3/huFc融合タンパク質、可溶性BAFFアンタゴニスト);Simponi(商標)(ゴリムマブ);マパツムマブ(ヒト抗TRAIL受容体-1 Ab);オクレリズマブ(抗CD20ヒトAb);HuMax-EGFR(ザルツムマブ);M200(ボロシキシマブ、抗α5β1インテグリンAb);MDX-010(イピリムマブ、抗CTLA-4 Ab及びVEGFR1(IMC-18F1);抗BR3 Ab;抗C.ディフィシル(C.difficile)毒素A及び毒素B C Ab MDX-066(CDA-I)及びMDX-1388);抗CD22 dsFv-PE38コンジュゲート(CAT-3888及びCAT-8015);抗CD25 Ab(HuMax-TAC);抗TSLP抗体;抗TSLP受容体抗体(米国特許第8,101,182号明細書を参照のこと);A5と呼ばれる抗TSLP抗体(米国特許第7,982,016号明細書を参照のこと);(抗CD3 Ab(NI-0401)を参照のこと;アデカツムマブ(MT201、抗EpCAM-CD326 Ab);MDX-060、SGN-30、SGN-35(抗CD30 Ab);MDX-1333(抗IFNAR);HuMax CD38(抗CD38 Ab);抗CD40L Ab;抗Cripto Ab;抗CTGF特発性肺線維症I期Fibrogen(FG-3019);抗CTLA4 Ab;抗エオタキシン Ab(CAT-213);抗FGF8 Ab;抗ガングリオシドGD2 Ab;抗スクレロスチン抗体(米国特許第8,715,663号明細書又は米国特許第7,592,429号明細書を参照のこと)、Ab-5と呼ばれる抗スクレロスチン抗体(米国特許第8,715,663号明細書又は米国特許第7,592,429号明細書を参照のこと);抗ガングリオシドGM2 Ab;抗GDF-8ヒトAb(MYO-029);抗GM-CSF受容体Ab(CAM-3001);抗HepC Ab(HuMax HepC);MEDI-545、MDX-1103(抗IFNα Ab);抗IGFIR Ab;抗IGF-IR Ab(HuMax-Inflam);抗IL12/IL23p40 Ab(ブリアキヌマブ);抗IL-23p19 Ab(LY2525623);抗IL13 Ab(CAT-354);抗IL-17 Ab(AIN457);抗IL2Ra Ab(HuMax-TAC);抗IL5 受容体Ab;抗インテグリン受容体Ab(MDX-Ol8、CNTO 95);抗IPIO潰瘍性大腸炎Ab(MDX-1100);抗LLY抗体;BMS-66513;抗マンノース受容体/hCGβ Ab(MDX-1307);抗メソセリンdsFv-PE38コンジュゲート(CAT-5001);抗PDlAb(MDX-1 106(ONO-4538));抗PDGFRα抗体(IMC-3G3);抗TGFβ Ab(GC-1008);抗TRAIL受容体-2ヒトAb(HGS-ETR2);抗TWEAK Ab;抗VEGFR/Flt-1 Ab;抗ZP3 Ab(HuMax-ZP3);NVS抗体#1;NVS抗体#2;並びに配列番号8及び配列番号6の配列を含むアミロイドβモノクローナル抗体(米国特許第7,906,625号明細書を参照のこと)が挙げられる。
【0041】
開示された方法において使用可能な抗体の例としては、表Aに示される抗体が挙げられる。好適な抗体のその他の例としては、インフリキシマブ、ベバシズマブ、ラニビズマブ、セツキシマブ、パリビズマブ、アバゴボマブ、アブシキシマブ、アクトクスマブ、アダリムマブ、アフェリモマブ、アフツズマブ、アラシズマブ、アラシズマブペゴル、ald518、アレムツズマブ、アリロクマブ、アルツモマブ、アマツキシマブ、アナツモマブマフェナトックス、アンルキンズマブ、アポリズマブ、アルシツモマブ、アセリズマブ、アルチヌマブ、アトリズマブ、アトロリムマブ、トシリズマブ、バピネウズマブ、バシリキシマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベルチリムマブ、ベシレソマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ビシロマブ、ビバツズマブ、ビバツズマブメルタンシン、ブリナツモマブ、ブロソズマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブリアキヌマブ、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カンツズマブメルタンシン、カプラシズマブ、カプロマブペンデチド、カルルマブ、カツマキソマブ、cc49、セデリズマブ、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、シタツズマブボガトックス、シクスツムマブ、クラザキズマブ、クレノリキシマブ、クリバツズマブテトラキセタン、コナツムマブ、クレネズマブ、cr6261、ダセツズマブ、ダクリズマブ、ダロツズマブ、ダラツムマブ、デムシズマブ、デノスマブ、デツモマブ、ドルリモマブアリトックス、ドロジツマブ、デュリゴツマブ、デュピルマブ、エクロメキシマブ、エクリズマブ、エドバコマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エフングマブ、エロツズマブ、エルシリモマブ、エナバツズマブ、エンリモマブペゴル、エノキズマブ、エノチクマブ、エンシツキシマブ、エピツモマブシツキセタン、エプラツズマブ、エルリズマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、エトロリズマブ、エクスビビルマブ、ファノレソマブ、ファラリモマブ、ファルレツズマブ、ファシヌマブ、fbta05、フェルビズマブ、フェザキヌマブ、フィクラツズマブ、フィギツムマブ、フランボツマブ、フォントリズマブ、フォラルマブ、フォラビルマブ、フレソリムマブ、フルラヌマブ、フツキシマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ガンテネルマブ、ガビリモマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゲボキズマブ、ギレンツキシマブ、グレムバツムマブベドチン、ゴリムマブ、ゴミリキシマブ、gs6624、イバリズマブ、イブリツモマブチウキセタン、イクルクマブ、イゴボマブ、イムシロマブ、イムガツズマブ、インクラクマブ、インダツキシマブラブタンシン、インフリキシマブ、インテツムマブ、イノリモマブ、イノツズマブオゾガマイシン、イピリムマブ、イラツムマブ、イトリズマブ、イキセキズマブ、ケリキシマブ、ラベツズマブ、レブリキズマブ、レマレソマブ、レルデリムマブ、レキサツムマブ、リビビルマブ、リゲリズマブ、リンツズマブ、リリルマブ、ロルボツズマブメルタンシン、ルカツムマブ、ルミリキシマブ、マパツズマブ、マスリモマブ、マブリリムマブ、マツズマブ、メポリズマブ、メテリムマブ、ミラツズマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モガムリズマブ、モロリムマブ、モタビズマブ、モキセツモマブパスドトックス、ムロモナブ-cd3、ナコロマブタフェナトックス、ナミルマブ、ナプツモマブエスタフェナトックス、ナルナツマブ、ナタリズマブ、ネバクマブ、ネシツムマブ、ネレリモマブ、ネスバクマブ、ニモツズマブ、ニボルマブ、ノフェツモマブメルペンタン、オカラツズマブ、オクレリズマブ、オデュリモマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オロキズマブ、オマリズマブ、オナルツズマブ、オポルツズマブモナトックス、オレゴボマブ、オルチクマブ、オテリキシズマブ、オキセルマブ、オザネズマブ、オゾラリズマブ、パジバキシマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、パノバクマブ、パルサツズマブ、パスコリズマブ、パテクリズマブ、パトリツマブ、ペムツモマブ、ペラキズマブ、ペルツズマブ、ペキセリズマブ、ピジリズマブ、ピンツモマブ、プラクルマブ、ポネズマブ、プリリキシマブ、プリツムマブ、PRO 140、クイリズマブ、ラコツモマブ、ラドレツマブ、ラフィビルマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レガビルマブ、レスリズマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロバツムマブ、ロレデュマブ、ロモソズマブ、ロンタリズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、サマリズマブ、サリルマブ、サツモマブペンデチド、セクキヌマブ、セビルマブ、シブロツズマブ、シファリムマブ、シルツキシマブ、シムツズマブ、シプリズマブ、シルクマブ、ソラネズマブ、ソリトマブ、ソネプシズマブ、ソンツズマブ、スタムルマブ、スレソマブ、スビズマブ、タバルマブ、タカツズマブテトラキセタン、タドシズマブ、タリズマブ、タネズマブ、タプリツモマブパプトックス、テフィバズマブ、テリモマブアリトックス、テナツモマブ、テネリキシマブ、テプリズマブ、テプロツムマブ、TGN1412、トレメリムマブ、チシリムマブ、チルドラキズマブ、チガツズマブ、TNX-650、トシリズマブ、トラリズマブ、トシツモマブ、トラロキヌマブ、トラスツズマブ、TRBS07、トレガリズマブ、トレメリムマブ、ツコツズマブセルモロイキン、ツビルマブ、ウブリツキシマブ、ウレルマブ、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ、バパリキシマブ、バテリズマブ、ベドリズマブ、ベルツズマブ、ベパリモマブ、ベセンクマブ、ビシリズマブ、ボロシキシマブ、ボルセツズマブマフォドチン、ボツムマブ、ザルツムマブ、ザノリムマブ、ザツキシマブ、ジラリムマブ、及びゾリモマブアリトックスが挙げられる。
【0042】
開示される方法における使用のための最も好ましい抗体は、アダリムマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、セツキシマブ、コナツムマブ、デノスマブ、エクリズマブ、エレヌマブ、エボロクマブ、インフリキシマブ、ナタリズマブ、パニツムマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロモソズマブ、及びトラスツズマブ、並びに表Aから選択される抗体である。
【0043】
【0044】
【0045】
ムテイン
ムテインとは、置換、欠失又は挿入などの核酸配列の突然変異による、少なくともアミノ酸の変異を有するタンパク質のことである。例示的なムテインは、野生型アミノ酸配列に対して、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は約90%(例えば、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%)を超える配列相同性を有する。加えて、ムテインは、上記で説明したような融合タンパク質であってよい。例示的な実施形態では、ムテインは、野生型アミノ酸配列に対して少なくとも1つのアミノ酸置換を含んだアミノ酸配列を含み、アミノ酸置換は保存的アミノ酸置換である。本明細書で使用する場合、「保存的アミノ酸置換」という用語は、あるアミノ酸を類似した性質、例えば、サイズ、電荷、疎水性、親水性、及び/又は芳香族性を有する別のアミノ酸に置換することを意味するものであり、以下の5つの群のうちの1つの範囲内における交換を含む:
I.小型で脂肪族の、無極性又は微極性残基:Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II.極性の負に帯電した残基、並びにそれらのアミド及びエステル:Asp、Asn、Glu、Gln、システイン酸及びホモシステイン酸;
III.極性の正に帯電した残基:His、Arg、Lys;オルニチン(Orn)
IV.大型で脂肪族の、無極性残基:Met、Leu、Ile、Val、Cys、ノルロイシン(Nle)、ホモシステイン
V.大型の芳香族残基:Phe、Tyr、Trp、アセチルフェニルアラニン。
【0046】
例示的な実施形態では、ムテインは、野生型アミノ酸配列に対して少なくとも1つのアミノ酸置換を含んだアミノ酸配列を含み、アミノ酸置換は非保存的アミノ酸置換である。本明細書で使用する場合、「非保存的アミノ酸置換」という用語は、あるアミノ酸を異なる性質、例えば、サイズ、電荷、疎水性、親水性、及び/又は芳香族性を有する別のアミノ酸に置換することとして本明細書では定義され、上記の5つの群の範囲外における交換を含む。
【0047】
例示的な態様では、ムテインは、野生型アミノ酸配列に対して少なくとも1つのアミノ酸置換を含んだアミノ酸配列を含み、置換アミノ酸は天然に生じるアミノ酸である。「天然に生じるアミノ酸」又は「標準アミノ酸(standard amino acid)」又は「標準アミノ酸(canonical amino acid)」とは、普遍的遺伝コードの、コドンによって直接コードされ、真核生物に見られる20個のαアミノ酸(Ala、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、Thr、Asn、Gln、Cys、Gly、Pro、Arg、His、Lys、Asp、Glu)のうちの1つを意味する。例示的な態様では、ムテインは、野生型アミノ酸配列に対して少なくとも1つのアミノ酸置換を含んだアミノ酸配列を含み、置換アミノ酸は非標準アミノ酸であるか、又は翻訳の際にタンパク質に組み入れられなかったアミノ酸である。非標準アミノ酸としては、セレノシステイン、ピロリジン、オルニチン、ノルロイシン、β-アミノ酸(例えば、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、β-フェニルアラニン、β-ホモフェニルアラニン、β-グルタミン酸、β-グルタミン、β-ホモトリプトファン、β-ロイシン、β-リジン)、ホモアミノ酸(例えば、ホモフェニルアラニン、ホモセリン、ホモアルギニン、モノシステイン、ホモシスチン)、N-メチルアミノ酸(例えば、L-アブリン、N-メチル-アラニン、N-メチル-イソロイシン、N-メチル-ロイシン)、2-アミノカプリル酸、7-アミノセファロスポラン酸、4-アミノけい皮酸、α-アミノシクロヘキサンプロピオン酸、アミノ-(4-ヒドロキシフェニル)酢酸、4-アミノ-ニコチン酸、3-アミノフェニル酢酸などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0048】
BiTE(登録商標)分子
二重特異性T細胞誘導(BiTE)分子とは、共に連結された2つの抗体結合ドメイン(又は標的領域)を含む、二重特異性抗体コンストラクト又は二重特異性融合タンパク質のことである。分子の一方のアームは細胞傷害性T細胞の表面に見られるタンパク質と結合するように改変され、もう一方のアームは、主に腫瘍細胞に見られる特定のタンパク質と結合するように設計されている。BiTE分子は、両標的に結合すると、細胞障害性T細胞と腫瘍細胞の間に架橋を形成し、これによってT細胞に腫瘍細胞を認識させ、有害分子を注入することで腫瘍細胞を撃退することができる。例えば、分子の腫瘍に結合するアームを変更して、異なる種類の癌を標的とする、異なるBiTE抗体コンストラクトを生成することができる。
【0049】
BiTE分子に関する「結合ドメイン」という用語は、標的分子(抗原)上の所与の標的エピトープ又は所与の標的部位と(特異的に)結合する/それらと相互作用する/それらを認識するドメインを意味する。第1の結合ドメインの構造及び機能(標的細胞の抗原を認識する)、また、好ましくは第2の結合ドメインの構造及び/又は機能(細胞障害性T細胞を認識する)は、抗体、例えば全長又は完全免疫グロブリン分子の構造及び/又は機能に基づく。
【0050】
「エピトープ」とは、抗体若しくは免疫グロブリン又は抗体若しくは免疫グロブリンの誘導体若しくはフラグメントなどの結合ドメインが特異的に結合する抗原上の部位を意味する。「エピトープ」は抗原性であり、したがって、エピトープという用語は、本明細書において「抗原性構造」又は「抗原決定基」と称する場合もある。したがって、結合ドメインは、「抗原相互作用部位」である。前記結合/相互作用はまた、「特異的認識」を定義するものと理解される。
【0051】
例えば、BiTE分子は、3つの軽鎖「相補性決定領域」(CDR)(すなわちVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)、並びに3つの重鎖CDR(すなわちVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)の存在によって特徴付けられる、第1の結合ドメインを含む。また、第2の結合ドメインは、標的結合を可能にする抗体の最小構造要件を含むことが好ましい。より好ましくは、第2の結合ドメインは、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわちVL領域のCDR1、CDR2及びCDR3)、並びに/又は3つの重鎖CDR(すなわちVH領域のCDR1、CDR2及びCDR3)を含む。第1及び/又は第2の結合ドメインは、既存の(モノクローナル)抗体由来のCDR配列を足場に移植する以外に、ファージディスプレイ又はライブラリスクリーニング法によって作製されるか又は得られることが想定される。
【0052】
結合ドメインは、典型的には、抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含み得るが、両方を含む必要はない。Fdフラグメントは、例えば、2つのVH領域を有し、多くの場合、インタクトな抗原結合ドメインの一部の抗原結合機能を保持している。(修飾された)抗原結合抗体フラグメントの例としては、(1)Fabフラグメント、VL、VH、CL及びCH1ドメインを有する一価フラグメント;(2)F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結される2つのFabフラグメントを有する二価フラグメント;(3)2つのVH及びCH1ドメインを有するFdフラグメント;(4)抗体のシングルアームのVL及びVHドメインを有するFvフラグメント、(5)VHドメインを有するdAbフラグメント(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);(6)単離された相補性決定領域(CDR)及び(7)1本鎖Fv(scFv)が挙げられ、好ましいのは後者(例えばscFv-ライブラリ由来)である。
【0053】
BiTE分子に関する「(特異的に)結合する」、「(特異的に)認識する」、「(特異的に)向けられる」及び「(特異的に)反応する」という用語は、結合ドメインが、標的タンパク質又は抗原上に位置するエピトープの1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ及び最も好ましくは少なくとも4つのアミノ酸と相互作用するか又は特異的に相互作用することを意味する。
【0054】
「可変」という用語は、配列内で可変性を示し、特定の抗体の特異性及び結合親和性の決定に関与する、抗体又は免疫グロブリンドメインの一部分(すなわち「可変ドメイン」)を意味する。可変重鎖(VH)と可変軽鎖(VL)との対がともに単一の抗原結合部位を形成する。VHに最も近接するCHドメインは、CH1と称される。各軽(L)鎖は、1つの共有結合性ジスルフィド結合によって重(H)鎖に連結される一方、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じた1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結される。
【0055】
可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布しているのではなく、重鎖及び軽鎖可変領域の各々のサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変領域」又は「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存的な(すなわち、非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRM)と呼ばれ、三次元空間において6つのCDRに足場を提供し、抗原結合表面を形成する。天然に存在する重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、大部分がβシート構造をとる4つのFRM領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)をそれぞれ含み、これらは、ループ接続を形成し、場合によりβシート構造の一部を形成する3つの超可変領域によって接続される。各鎖の超可変領域は、FRMによって近接して一体に保持されており、他の鎖の超可変領域とともに抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Public Health Service N.I.H.,Bethesda,MDを参照されたい)。定常ドメインは、抗原結合に直接関与しないが、例えば、抗体依存性の細胞媒介傷害及び補体活性化などの種々のエフェクター機能を示す。
【0056】
軽鎖のCDR3と、特に重鎖のCDR3とは、軽鎖及び重鎖可変領域内での抗原結合において最も重要な決定因子となり得る。いくつかの抗体コンストラクトでは、重鎖CDR3が抗原と抗体との間の主要な接触領域になると思われる。CDR3のみを変化させるインビトロ選択スキームを使用して、抗体の結合特性を変化させることができるか、又はどの残基が抗原の結合に寄与するかを決定することができる。したがって、CDR3は、典型的には抗体結合部位内における分子多様性の最大の供給源である。例えば、H3は、2個のアミノ酸残基程度の短いもの、又は26個超のアミノ酸であり得る。
【0057】
構築及び体細胞変異後の抗体遺伝子の配列は、極めて多様であり、これらの多様化した遺伝子は、1010個の異なる抗体分子をコードすると推定される(Immunoglobulin Genes,2nd ed.,eds.Jonio et al.,Academic Press,San Diego,CA,1995)。したがって、免疫系は、免疫グロブリンのレパートリーを提供する。「レパートリー」という用語は、少なくとも1つの免疫グロブリンをコードする少なくとも1つの配列に全体又は一部が由来する少なくとも1つのヌクレオチド配列を意味する。この配列は、重鎖のV、D、及びJセグメント、並びに軽鎖のV及びJセグメントのインビボでの再編成により生成され得る。或いは、この配列は、再編成を生じさせる、例えばインビトロ刺激に応答して細胞から生成され得る。或いは、この配列の一部又はすべては、DNAスプライシング、ヌクレオチド合成、変異誘発及び他の方法によって得てもよい(例えば、米国特許第5,565,332号明細書を参照されたい)。レパートリーは、1つの配列のみを含み得るか、又は遺伝的に多様なコレクション内のものを含む複数の配列を含み得る。
【0058】
本明細書で使用する場合、「二重特異性」という用語は、「少なくとも二重特異性」である抗体コンストラクトを意味し、すなわち、それは、少なくとも第1の結合ドメイン及び第2の結合ドメインを含んでおり、ここで、第1の結合ドメインは、1つの抗原又は標的に結合し、第2の結合ドメインは、別の抗原又は標的に結合する。したがって、BiTE分子内の抗体コンストラクトは、少なくとも2つの異なる抗原又は標的に対する特異性を備える。本発明の「二重特異性抗体コンストラクト」という用語は、多重特異性抗体コンストラクト、例えば3つの結合ドメインを含む三重特異性抗体コンストラクト又は4つ以上(例えば、4つ、5つ...)の特異性を有するコンストラクトも包含する。
【0059】
BiTE分子内の抗体コンストラクトの少なくとも2つの結合ドメイン及び可変ドメインは、ペプチドリンカー(スペーサーペプチド)を含んでも又は含まなくてもよい。「ペプチドリンカー」という用語は、本発明によれば、本発明の抗体コンストラクトの一方の(可変及び/又は結合)ドメイン及びもう一方の(可変及び/又は結合)ドメインのアミノ酸配列を相互に連結するアミノ酸配列を定義する。そのようなペプチドリンカーの極めて重要な技術的特徴は、前記ペプチドリンカーがいかなる重合活性も含まないことである。好適なペプチドリンカーには、米国特許第4,751,180号明細書及び同第4,935,233号明細書又は国際公開第88/09344号パンフレットに記載されるものがある。
【0060】
リンカーが使用される場合、このリンカーは、第1及び第2のドメインのそれぞれが互いに独立してその異なる結合特異性を確実に保持できる十分な長さ及び配列からなることが好ましい。BiTE分子内の抗体コンストラクトの少なくとも2つの結合ドメイン(又は2つの可変ドメイン)を接続するペプチドリンカーの場合、それらのペプチドリンカーは、数個のアミノ酸残基のみを含むもの、例えば12アミノ酸残基以下を含むものが好ましい。したがって、12、11、10、9、8、7、6又は5アミノ酸残基のペプチドリンカーが好ましい。5アミノ酸未満の想定されるペプチドリンカーは、4、3、2又は1アミノ酸を含み、ここでは、Glyリッチリンカーが好ましい。前記「ペプチドリンカー」に関連して特に好ましい「単一」アミノ酸は、Glyである。したがって、上記のペプチドリンカーは、単一アミノ酸Glyからなり得る。ペプチドリンカーの別の好ましい実施形態は、アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser、すなわちGly4Ser又はそのポリマー、すなわち(Gly4Ser)xを特徴とし、ここで、xは、1以上の整数である。二次構造を促進しないことを含む前記ペプチドリンカーの特徴は、当技術分野で知られており、例えばDall’Acqua et al.(Biochem.(1998)37,9266-9273)、Cheadle et al.(Mol Immunol(1992)29,21-30)、並びにRaag及びWhitlow(FASEB(1995)9(1),73-80)に記載されている。いかなる二次構造も促進しないペプチドリンカーが好ましい。前記ドメインの相互の連結は、例えば、実施例に記載される遺伝子操作によって提供することができる。融合されて作動可能に連結された二重特異性単鎖コンストラクトを調製し、それらを哺乳動物細胞又は細菌において発現させる方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、国際公開第99/54440号パンフレット又はSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001)。
【0061】
本開示のBiTE分子は、(scFv)2、scFv-単一ドメインmAbからなる群から選択される構成の抗体コンストラクト、上述の構成のいずれかのダイアボディー及びオリゴマーを含み得る。
【0062】
特に好ましい実施形態によれば、且つ添付の実施例において記述される通り、BiTE分子内の抗体コンストラクトは、「二重特異性単鎖抗体コンストラクト」、より好ましくは二重特異性「単鎖Fv」(scFv)である。Fvフラグメントの2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によりコードされているが、これらは、組換え法を使用して、VL及びVH領域が一価分子を形成するように対をなす単一のタンパク質鎖としてこれらを作製することを可能にする合成リンカーにより結合することができる。例えば、Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879-5883を参照されたい。これらの抗体フラグメントは、当業者に知られた従来技術を用いて得られ、且つそのフラグメントは、完全又は全長抗体と同じ様式で機能について評価される。したがって、単鎖可変フラグメント(scFv)は、通常約10~約25アミノ酸、好ましくは約15~20アミノ酸の短いリンカーペプチドによって接続される、免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)の融合タンパク質である。リンカーは通常、柔軟性のためにグリシン、並びに溶解性のためにセリン又はスレオニンに富み、VHのN末端をVLのC末端に連結するか又はその逆のいずれかであり得る。このタンパク質は、定常領域を除去し、リンカーを導入したにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。
【0063】
二重特異性単鎖分子は、当技術分野で知られており、国際公開第99/54440号パンフレット、Mack,J.Immunol.(1997),158,3965-3970、Mack,PNAS,(1995),92,7021-7025,Kufer,Cancer Immunol.Immunother.,(1997),45,193-197,Loeffler,Blood,(2000),95,6,2098-2103,Bruehl,Immunol.,(2001),166,2420-2426,Kipriyanov,J.Mol.Biol.,(1999),293,41-56に記載されている。単鎖抗体の作製に関して記載された技術(とりわけ米国特許第4,946,778号明細書、Kontermann and Duebel(2010),前掲及びLittle(2009),前掲を参照されたい)を、選出された標的を特異的に認識する単鎖抗体コンストラクトを作製するように適合することができる。
【0064】
二価(bivalent)(二価(divalent)とも呼ばれる)又は二重特異性単鎖可変フラグメント((scFv)2構成を有するbi-scFv又はdi-scFv)は、2つのscFv分子を連結することによって改変することができる。これらの2つのscFv分子が同じ結合特異性を有する場合、得られる(scFv)2分子を二価と呼ぶことが好ましい(すなわち、それは、同じ標的エピトープに対して2の価数を有する)。これらの2つのscFv分子が異なる結合特異性を有する場合、得られる(scFv)2分子を二重特異性と呼ぶことが好ましい。この連結は、2つのVH領域及び2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を作製して、タンデムscFvを生成することによってなされ得る(例えば、Kufer P.et al.,(2004)Trends in Biotechnology 22(5):238-244を参照されたい)。別の可能性としては、2つの可変領域を一緒に折り畳むには短すぎる(例えば約5アミノ酸の)リンカーペプチドを使用してscFv分子を作製し、このscFvを二量体化させることである。このタイプは、ダイアボディーとして知られている(例えば、Hollinger,Philipp et al.,(July 1993)Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 90(14):6444-8を参照されたい)。
【0065】
単一ドメイン抗体は、他のV領域又はドメインに非依存的に、特異抗原に選択的に結合可能である1つのみの(単量体の)抗体可変ドメインを含む。最初の単一ドメイン抗体は、ラクダにおいて見出される重鎖抗体から改変されたものであり、これらはVHHフラグメントと呼ばれる。軟骨魚類もまた重鎖抗体(IgNAR)を有し、そこからVNARフラグメントと呼ばれる単一ドメイン抗体を得ることができる。代替的な手法は、例えば、ヒト又はげっ歯類由来の一般的な免疫グロブリン由来の二量体可変ドメインを単量体に分割し、それによって単一ドメインAbとしてVH又はVLを得ることである。単一ドメイン抗体に関する大部分の研究は、現時点では重鎖可変ドメインに基づいているが、軽鎖由来のナノボディーも標的エピトープに特異的に結合することが示されている。単一ドメイン抗体の例は、sdAb、ナノボディー又は単一可変ドメイン抗体と呼ばれる。
【0066】
したがって、(単一ドメインmAb)2は、VH、VL、VHH及びVNARを含む群から個別に選択される、(少なくとも)2つの単一ドメインモノクローナル抗体から構成されるモノクローナル抗体コンストラクトである。リンカーは、ペプチドリンカーの形態であることが好ましい。同様に、「scFv単一ドメインmAb」は、上記に記載した少なくとも1つの単一ドメイン抗体と、上記に記載した1つのscFv分子とで構成されたモノクローナル抗体コンストラクトである。この場合もやはり、リンカーは、ペプチドリンカーの形態であることが好ましい。
【0067】
例示的なBiTE分子としては、抗CD33及び抗CD3 BiTE分子、抗BCMA及び抗CD3 BiTE分子、抗FLT3及び抗CD3 BiTE、抗CD19及び抗CD3 BiTE、抗EGFRvIII及び抗CD3 BiTE分子、抗DLL3及び抗CD3 BiTE、BLINCYTO(ブリナツモマブ)、並びにソリトマブが挙げられる。
【0068】
医薬組成物製剤及び成分
許容可能な医薬成分は、使用される投与量及び濃度において患者に無毒であることが好ましい。医薬組成物は、例えば、組成物のpH、モル浸透圧濃度、粘度、清澄度、色、等張性、匂い、無菌性、安定性、溶解若しくは放出速度、吸着又は浸透性を変更、維持又は保護するための作用物質を含み得る。
【0069】
一般に、賦形剤は、それにより様々な化学的及び物理的ストレスに対してタンパク質を安定化させる機序に基づいて分類され得る。一部の賦形剤は、特定のストレスの影響を緩和するか、又は特異的ポリペプチドの特定の感受性を調節する。その他の賦形剤は、タンパク質の物理的安定性及び共有結合安定性に対してより一般的な効果を有する。液体及び凍結乾燥タンパク質製剤の一般的な賦形剤を表Bに示す(Kamerzell TJ,Esfandiary R,Joshi SB,Middaugh CR,Volkin DB.2011.Protein-excipient interactions:mechanisms and biophysical characterization applied to protein formulation development.Adv Drug Deliv Rev 63:1118-59も参照されたい)。
【0070】
【0071】
【0072】
上記に記載したように、パルスプロファイルを変更することにより、驚くべきことに、様々なNMR領域のシグナル対雑音比に大幅な影響を与えることができるということが見出された。例えば、反転パルスを伴う特定のパルスプロファイルを使用して、スクロースに由来するような13C賦形剤シグナルを抑制しながら、治療用分子に由来する13Cメチルシグナルを励起することができる。これらのシグナルは、より短い勾配パルスによって増強することができる。シグナル増強及びシグナル抑制に影響を及ぼすこれらの各種要因は、さらに下記の実施形態において主張される。
【0073】
関連する実施形態によれば、NMRを使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする例示的な方法が、本明細書に記載される。方法は、第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも有する組成物を提供することを含む。この方法では、シグナルの各々は、0ではない核スピンを有するそれぞれの分子の各々から生じる。方法は、シグナル処理工程のサイクルを適用することを含む。このサイクルは、高周波(RF)パルスを印加することと、1000μs以下のパルス長を有する勾配パルスを印加することと、水抑制技術(WET)を適用することとを含む。この方法では、第1のNMRシグナル、第2のNMRシグナル、及び第3のNMRシグナルは、13Cメチルシグナルの定義されたppm範囲近傍のNMRスペクトルの領域に位置する。方法はまた、増強された組成物のシグナルを取得するために、サイクルを少なくとも3回繰り返すことを含む。方法は、増強された組成物のシグナルに基づいて、特定の分子をフィンガープリントすることをさらに含む。
【0074】
本実施形態及び関連する実施形態では、NMRスペクトルの領域には、約5ppm~約150ppmのNMR13Cスペクトルウィンドウが含まれる。NMRスペクトルの領域には、約5ppm~約100ppm、約5ppm~約50ppm、又は約7ppm~約35ppmのNMRスペクトルウィンドウが含まれる。さらに、例えば、酸化したmetを使用した場合、NMRスペクトルウィンドウは約7ppm~約40ppmとなり得る。
【0075】
RFパルスは、Reburpパルス、広帯域反転パルス(BIP)及びガウシアン(G3)反転パルスの組み合わせ、並びに非対称断熱パルスのうち少なくとも1つを含む。Reburpパルスの場合、このパルスにより第1のNMRシグナルが励起する。BIPの場合、BIPにより広範囲のNMRシグナルが励起され、G3反転パルスにより第2のNMRシグナルが抑制される。非対称断熱パルスの場合、このパルスにより第2のNMRシグナルを抑制しながら第1のNMRシグナルが励起される。
【0076】
第1のNMRシグナルは、治療用分子の13Cメチルに関連するNMRシグナルであり、第2のNMRシグナルは、13Cスクロースに関連するシグナルであり、第3のNMRシグナルは、1Hアセテート又は他の1H/13C NMRシグナルに少なくとも関連するシグナルである。
【0077】
NMRを使用するための例示的な方法は、現在商業的に利用可能な約100MHz~約2000MHz、例えば1200MHzの周波数範囲で実行することができる。
【0078】
Reburpパルスは、約500μs~約1000μsのパルス長を有する。Reburpパルスは、約600μs~約900μs、又は約600μs~約800μsのパルス長を有する。
【0079】
BIP及びG3反転パルスの組み合わせは、約200μs~約2500μsの総パルス長を有する。BIP及びG3反転パルスの組み合わせは、約200μs~約2000μs、約200μs~約1500μs、約250μs~約1000μs、又は約250μs~約750μsのパルス長を有する。BIP及びG3反転パルスの組み合わせは、約620μsのパルス長を有する。BIPは、約120μsのパルス長を有し、G3反転パルスは、約500μsのパルス長を有する。
【0080】
非対称断熱パルスは、約50μs~約2500μs、約50μs~約2000μs、約50μs~約1500μs、約50μs~約1000μs、又は約100μs~約800μsのパルス長を有する。
【0081】
勾配パルスは、約1500μs以下、又は約1000μs以下のパルス長を有する。勾配パルスは、約50μs~約1500μs、約50μs~約1200μs、約50μs~約1000μs、約50μs~約800μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する。
【0082】
勾配パルスの後に、約50μs~約990μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する少なくとも1つの反転勾配パルスが続く。
【0083】
少なくとも1つの反転勾配パルスの後に、約50μs~約990μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する別の勾配パルスが続く。
【0084】
NMRを使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする別の例示的な方法が、本明細書に記載される。方法は、第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも有する組成物を提供することを含む。シグナルの各々は、0ではない核スピンを有するそれぞれの分子の各々から生じる。方法は、シグナル処理工程のサイクルを適用することを含む。サイクルは、高周波(RF)パルスを印加することと、勾配パルスを印加することとを含む。この方法では、第1のNMRシグナル、第2のNMRシグナル、及び第3のNMRシグナルは、約5ppm~約150ppmのNMRスペクトルウィンドウの領域に位置する。方法はまた、増強された組成物のシグナルを取得するために、サイクルを少なくとも3回繰り返すことを含む。方法は、増強された組成物のシグナルに基づいて、特定の分子をフィンガープリントすることをさらに含む。
【0085】
サイクルは、水抑制技術(WET)シーケンスを適用することをさらに含む。
【0086】
NMRスペクトルの領域には、約5ppm~約100ppm、約5ppm~約50ppm、又は約7ppm~約35ppmのNMRスペクトルウィンドウが含まれる。
【0087】
RFパルスは、Reburpパルス、広帯域反転パルス(BIP)及びガウシアン(G3)反転パルスの組み合わせ、又は非対称断熱パルスのうちの少なくとも1つを含む。
【0088】
Reburpパルスの場合、このパルスにより第1のNMRシグナルが励起する。広帯域反転パルスは、広範囲のNMRシグナルを励起し、G3反転パルスは、第2のNMRシグナルを抑制する。非対称断熱パルスは、第2のNMRシグナルを抑制しながら第1のNMRシグナルを励起する。
【0089】
第1のNMRシグナルは、治療用分子の13Cメチルに関連するNMRシグナルであり、第2のNMRシグナルは、13Cスクロースに関連するシグナルであり、第3のNMRシグナルは、1Hアセテート又は他の1H/13C NMRシグナルに少なくとも関連するシグナルである。
【0090】
NMRを使用するための例示的な方法は、約100MHz~約2000MHz、例えば1200MHzなどの周波数範囲で実行することができる。
【0091】
Reburpパルスは、約300μs~約1000μs、約600μs~約900μs、又は約600μs~約800μsのパルス長を有する。
【0092】
BIP及びG3反転パルスの組み合わせは、約200μs~約2500μs、約200μs~約2000μs、約200μs~約1500μs、約250μs~約1000μs、又は約250μs~約750μsの総パルス長を有する。BIP及びG3反転パルスの組み合わせは、約620μs~660μsのパルス長を有する。BIPは、約120μs~160μsのパルス長を有し、G3反転パルスは、約500μsのパルス長を有する。
【0093】
非対称断熱パルスは、約50μs~約2500μs、約50μs~約2000μs、約50μs~約1500μs、約50μs~約1000μs、又は約100μs~約800μsのパルス長を有する。
【0094】
勾配パルスは、1000μs以下のパルス長を有する。いくつかの実装形態では、勾配パルスは、約50μs~約990μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する。
【0095】
いくつかの実装形態では、勾配パルスの後に、1000μs以下のパルス長を有する、少なくとも1つの反転勾配パルスが続く。勾配パルスの後に、約50μs~約990μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する少なくとも1つの反転勾配パルスが続く。
【0096】
少なくとも1つの反転勾配パルスの後に、1000μs以下のパルス長を有する、別の勾配パルスが続く。少なくとも1つの反転勾配パルスの後に、約50μs~約990μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する別の勾配パルスが続く。
【0097】
NMRを使用して、組成物中の特定の分子をフィンガープリントする別の例示的な方法が、本明細書に記載される。方法は、第1のNMRシグナルを有する第1の分子と、第2のNMRシグナルを有する第2の分子と、第3のNMRシグナルを有する第3の分子とを少なくとも有する組成物を提供することを含む。この方法では、シグナルの各々は、0ではない核スピンを有するそれぞれの分子の各々から生じる。方法は、第2のNMRシグナルを抑制しながら第1のNMRシグナルを励起するために、高周波(RF)パルスを組成物に印加することを含む。RFパルスは、Reburpパルス、広帯域反転パルス及びガウシアン反転パルスの組み合わせ、又は非対称断熱パルスのうちの少なくとも1つを含む。方法はまた、1000μs以下のパルス長を有する勾配パルスを印加することと、第3のNMRシグナルを抑制するために水抑制技術(WET)シーケンスを適用することとを含む。方法はまた、増強された組成物のシグナルを取得するために、サイクルを少なくとも3回繰り返すことを含む。方法は、増強された組成物のシグナルに基づいて特定の分子をフィンガープリントすることをさらに含む。
【0098】
第1のNMRシグナル、第2のNMRシグナル、及び第3のNMRシグナルは、13Cメチルシグナルの近傍のNMRスペクトルの領域に位置する。
【0099】
第1のNMRシグナル、第2のNMRシグナル、及び第3のNMRシグナルは、約5ppm~約150ppmのNMRスペクトルウィンドウに位置する。様々な実装形態では、第1のNMRシグナル、第2のNMRシグナル、及び第3のNMRシグナルは、約5ppm~約100ppm、約5ppm~約50ppm、又は約7ppm~約35ppmのNMRスペクトルウィンドウに位置する。
【0100】
NMRを使用するための例示的な方法は、現在商業的に利用可能な約100MHz~約2000MHz、例えば1200MHzの周波数範囲で実行することができる。
【0101】
Reburpパルスは、約300μs~約1000μs、約600μs~約900μs又は約600μs~約800μsパルス長を有する。
【0102】
BIP及びG3反転パルスの組み合わせは、約200μs~約2500μs、約200μs~約2000μs、約200μs~約1500μs、約250μs~約1000μs、又は約250μs~約750μsの総パルス長を有する。
【0103】
BIP及びG3反転パルスの組み合わせは、約620μs~660μsのパルス長を有する。BIPは、約120μs~160μsのパルス長を有し、G3反転パルスは、約500μsのパルス長を有する。
【0104】
非対称断熱パルスは、約50μs~約2500μs、約50μs~約2000μs、約50μs~約1500μs、約50μs~約1000μs、又は約100μs~約800μsのパルス長を有する。
【0105】
勾配パルスは、約50μs~約1500μs、約50μs~約1200μs、約50μs~約1000μs、約50μs~約800μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する。
【0106】
勾配パルスの後に、約50μs~約990μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する少なくとも1つの反転勾配パルスが続く。
【0107】
少なくとも1つの反転勾配パルスの後に、約50μs~約990μs、約50μs~約900μs、約50μs~約800μs、約50μs~約700μs、約50μs~約600μs、約50μs~約500μs、約50μs~約400μs、約50μs~約300μs、約50μs~約250μs、約50μs~約200μs、約50μs~約150μs、又は約50μs~約100μsのパルス長を有する別の勾配パルスが続く。
【0108】
様々な実装形態では、RFパルス、勾配パルス、及びWETシーケンスを印加することは、シグナル処理工程のサイクルを構成するものであり、方法は、このサイクルを少なくとも3回繰り返すことをさらに含む。
【0109】
方法は、サイクルを、1024回未満、512回未満、500回未満、400回未満、300回未満、256回未満、250回未満、200回未満、150回未満、128回未満、100回未満、96回未満、80回未満、70回未満、64回未満、60回未満、50回未満、48回未満、40回未満、36回未満、30回未満、25回未満、20回未満、又は16回未満繰り返すことを含む。
【0110】
他の賦形剤は、当技術分野において知られている(例えば、Powell MF,Nguyen T,Baloian L.1998.Compendium of excipients for parenteral formulations.PDA J Pharm Sci Technol 52:238-311を参照されたい)。当業者は、生物薬剤の安定性の保持を促進する生物薬剤組成物を得るために、どのような量又は範囲の賦形剤を任意の特定の製剤に含めてよいかを決定することができる。例えば、生物薬剤組成物に含めるべき塩の量及び種類は、最終溶液の所望のオスモル濃度(すなわち、等張性、低張性又は高張性)並びに製剤に含めるべきその他の成分の量及びオスモル濃度に基づいて選択され得る。
【0111】
【実施例】
【0112】
実験結果、材料及び方法
実施例1
実施例1の測定を実施するために、5mm CPTCIクライオプローブ1H{19F}-13C/15N/D-ZGRD zグラジエントを装備したBruker Avance III 600MHz NMR分光計(10040043)を使用して、310K(37℃)にてNMRデータを取得した。分光計ソフトウェア(TopSpin,Bruker BioSpin North America;Billerica,MA)及びMNovaソフトウェア(Mestrelab Research S.L.(USA);Escondido,CA)を使用してデータ処理を実行した。
【0113】
開示されたNMR法を評価するために、下記のサンプルを使用した。
【0114】
サンプル1:5%D2Oと混合した、50mMのアセテート、5%スクロース、0.01%PS80、pH=5を含む、42アミノ酸を有する、M.W.4651.38Da、30mg/ml、6mMのペプチド。NMR分析用の4mmの株式会社シゲミ社製チューブに、約200μlの溶液を入れた。
【0115】
サンプル2:3%D2Oと混合した、mAb1、50mg/ml、9%スクロース、10mMのアセテート、0.01%PS80、pH=5.2。NMR分析用の5mmのWilmad社製チューブに、約600μlの溶液を入れた。
【0116】
サンプル3:約1mLのD2O、99.9%D(Sigma-Aldrich;St.Louis,MO)に溶解させた、プロリン、32.22mg(約280mM)(Sigma-Aldrich)、スクロース、87.92mg(Sigma-Aldrich)。NMR分析用の5mmのWilmad社製チューブに、約600μlの溶液を入れた。
【0117】
サンプル4:D2O中0.1mg/mlのGdCl3を含む1%の水。
【0118】
実施例2
実施例2の測定を実施するために、5mm CPTCIクライオプローブ1H{19F}-13C/15N/D-ZGRD zグラジエント(S/N Z128744/0001)を装備したBruker Avance III 600MHz NMR分光計(S/N 10040043)を使用して、サンプル1及び2では310K(37℃)、並びにサンプル3では300K(27℃)にてNMRデータを取得した。
【0119】
本実施例では、(1)10mMのグルタメート、又は(2)200mMのプロリンを添加した、A52Suバッファ(10mMのアセテート、9%スクロース、pH:5.2)中のmAb1サンプル、及びG42Suバッファ(15mMのグルタメート、9%スクロース、pH:4.2)中の「タンパク質1」(標準的なBiTE分子構造を有する抗原結合タンパク質)の賦形剤シグナルを抑制するために、2Dメチルフィンガープリントパルスシーケンスを印加する。
【0120】
スクロース及びアセテートからのシグナルの抑制に加えて、グルタメート及びプロリンからのシグナルを抑制するNMRパルスシーケンスの能力を試験するために、次の3つのサンプルを作製した。
【0121】
サンプル1:10mMのグルタメート及び5%D2Oを添加した、mAb1、50mg/ml、9%スクロース、10mMのアセテート。
【0122】
サンプル2:200mMのプロリン及び5%D2Oを添加した、mAb1、50mg/ml、9%スクロース、10mMのアセテート。
【0123】
サンプル3:タンパク質1、10mg/ml、9%スクロース、15mMのグルタメート及び5%D2O。
【0124】
ここで、
図7を参照すると、スクロースからの賦形剤シグナルを抑制するための、
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づく例示的なNMRシグナル増強パルスシーケンス700が示されている。
図7に示されるように、パルスシーケンスのWET部分を使用してアセテートのプロトンシグナルを抑制する一方で、HSQC実験の途中で新規に形成されたパルスを使用して、治療用タンパク質のメチル領域からの炭素シグナルを励起しながらスクロースからの炭素シグナルを抑制する。本実施例では、シーケンスのWET部分で使用されるパルスを、グルタメート及びプロリンによって例示される、他の賦形剤からのシグナルを抑制するように再設計する。シーケンスのWET部分のパルスは、どのような賦形剤からのシグナルを抑制する必要があるのかに応じて、Bruker Topspinソフトウェアを使用して生成することができる。
【0125】
図8は、実施例2のサンプル1中の10mMのグルタメート及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制していない状態(802)、及び抑制した状態(804)のHSQCデータの第1の増分からのスペクトル800を示している。WETパルスは、特に、グルタメート及びアセテートからのシグナルを抑制するように設計した。2.418ppmにおけるピーク強度は、ベースラインレベルまで減少している。2.144ppm及び2.080ppmのピーク強度が約50%減少したにもかかわらず、これらのピークは、メチル領域のピークとだいたい同じ強度を有している。
【0126】
図9Aは、実施例2のサンプル1中の10mMのグルタメート及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制していない状態のHSQCスペクトル900aの2Dメチル領域を示している。
図9Bは、実施例2のサンプル1中の10mMのグルタメート及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制した状態のHSQCスペクトル900bの2Dメチル領域を示している。これらのスペクトルは、
図8に示されるように、賦形剤からのシグナル強度をメチルピークからのシグナル強度と比較することが可能である場合、これらのシグナルによって炭素次元に沿ったストリップが生じず、又は2Dスペクトルの位相合わせの問題が引き起こされる可能性がないということを立証するものである。ストリップ及び位置合わせの問題に由来するアーチファクトは、アーチファクト近傍のメチルピークのデータ解析と干渉する可能性がある。
【0127】
図10は、実施例2のサンプル3中の15mMのグルタメートからのシグナルを抑制していない状態(1002)、及び抑制した状態(1004)のHSQCデータの第1の増分からのスペクトル1000を示す。グルタメートからのピークは、WETシーケンスを使用することによって効率的に抑制されている。
【0128】
図11Aは、実施例2のサンプル3中の15mMのグルタメートからのシグナルを抑制していない状態のHSQCスペクトル1100aの2Dメチル領域を示している。
図11Bは、実施例2のサンプル3中の15mMのグルタメートからのシグナルを抑制した状態のHSQCスペクトル1100bの2Dメチル領域を示している。これらのスペクトルは、賦形剤からのシグナル強度がメチルピークからのシグナル強度よりもはるかに高い場合、これらのシグナルが炭素次元にストリップを生じさせ、これによってメチル領域のストリップ近傍のピークの分析と干渉する可能性があるということを明らかにするものである。
【0129】
図12は、実施例2のサンプル2中の200mMのプロリン及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制していない状態(1202)、及び抑制した状態(1204)のHSQCデータの第1の増分からのスペクトル1200を示す。200mMのプロリンからの強度は、メチル領域のピークからの強度よりはるかに大きい。
【0130】
図13は、様々な実施形態による、ダブルWETスキームに基づく、別の例示的なNMRシグナル増強パルスシーケンス1300を示している。
図13に示されるダブルWETスキームを使用して、プロリンシグナルをベースラインレベルまで抑制した。ダブルWETスキームは単一のWETスキームよりも効率的であり、
図14A及び14Bに示されるように、炭素次元のストリップをもたらすことなくプロリンからのピークを効果的に抑制することが示された。それでもなお、メチル領域のピークの強度は、ダブルWETスキームを使用した場合、単一のWETスキームから得られる強度と比較して約15%下落した。
【0131】
図14Aは、実施例2のサンプル2中の200mMのプロリン及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制していない状態のHSQCスペクトル1400aの2Dメチル領域を示している。
図14Bは、実施例2のサンプル2中の200mMのプロリン及び10mMのアセテートからのシグナルを抑制した状態のHSQCスペクトル1400bの2Dメチル領域を示している。プロリンからのピークを抑制していない状態では、
図14Aに示されるように、炭素次元及びプロトン次元に沿ったストリップが存在する。ダブルWETシーケンスを使用してプロリンシグナルを抑制する場合、
図14Bの2Dスペクトルは、メチル領域のピークの分析に好適である。
【0132】
実施例3
本明細書に記載されるように、異なる磁場強度を有するNMR分光計においてこれらのパルスを印加する場合、パルスをパルス長において調整することができるか、又はトランスミッターオフセットを別に配置することができる。この実施例の結果は、800MHzでのそのような印加を立証するものである。特に、実施例3は、次のパラメータを使用して実施した:3%D2Oに混合した、pH=5.2でmAb1、50mg/ml、9%スクロース、10mMのアセテート、0.01%ポリソルベート(PS)80における800MHzのNMRデータ。
【0133】
実験に同じ種類のプローブを使用する場合、800MHzのNMRシステムは、600MHzのNMRシステムと比較して、より高いスペクトル感度とより良好なスペクトル解像度とを有する。すなわち、例えば、炭素次元の1ppmは、800MHz及び600MHzのNMRシステムでそれぞれ200Hz及び150Hzである。したがって、800MHzのNMRシステムによるスペクトルでは、ピークがさらに広がる可能性がある。
【0134】
図15A~15Eは、
13Cスクロースシグナルを抑制するために800MHzで印加され得る、異なる形状を有するパルスの例示的な励起プロファイルを示している。
図15Aは、スクロースシグナル領域の
13Cシグナルのパルスプロファイル1500aを示している。
図15Bは、600MHzでの750μsのReburpパルスと同一の励起プロファイルを保持するように575μsへと調整された、Reburpプロファイルのパルスプロファイル1500bを示している。
図15Cは、パルスプロファイル1500cを示している。Hzでの炭素スペクトル幅が800MHzにおいて大きいため、
図15Cに示されるように類似した励起プロファイルを保持するため、600MHzで2ppmのトランスミッターオフセットの代わりに、800MHzでパルス長が375μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=140、0.1Tp]に対してトランスミッターオフセットを16ppmに配置する。
図15Dは、トランスミッターオフセット18ppm、パルス長750μsのパラメータ[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=70、0.1Tp]を有するパルスプロファイル1500dを示している。
図15Eは、トランスミッターオフセット27ppm、パルス長1500μsのパラメータ[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=1400、0.1Tp]を有するパルスプロファイル1500eを示している。このプロファイル1500d及び1500eを使用して、40ppmを超過するC
β炭素シグナルを抑制する。
【0135】
図16A及び16Bは、800MHzのNMR分光計で得られた特定のNMR増強方法の有効性を比較するための、異なる
13C 2Dメチルフィンガープリントのプロット1600a及び1600bを示している。
図16Aは、リフォーカシング要素として、トランスミッターオフセット16ppm、パルス長375μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=50、0.1Tp]、及び
1Hアセテートシグナルを抑制するためのWETシーケンスを使用することによって得られた、はっきりとしたメチル領域を示している。
図16Bは、トランスミッターオフセット18ppm、パルス長750μsの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=70、0.1Tp]を使用することによって、C
β領域を抑制することができることを示している。
【0136】
図17は、800MHzのNMRシステムを使用して得られた、例示的なHSQC実験において異なるRFパルスを使用した
1H-
13C感度増強HSQC実験スキームに基づいて、メチルピークのシグナル強度1700を図で比較したものを示している。パルス長750μs、トランスミッターオフセット18ppmの形成パルス[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=70、0.1Tp]と、パルス長1500μs、トランスミッターオフセット27ppmの[HS1/2、R=10、0.9Tp;tanh/tan、R=1400、0.1Tp]とを使用した場合、3ppm近辺のH
βシグナルが消失するということに留意されたい。
図17の-0.5~2ppmのピーク面積を積分することによる、相対的なメチル強度を表2に示す。表2の値を表1の値と比較するために、Reburpパルスを使用することによるメチルピーク面積の強度を0.88に正規化した。600MHzと800MHzとで得られた相対的なメチル強度は類似している。
【0137】
【0138】
本明細書は、多くの特定の実装形態の詳細を含むが、これらは、いかなる発明の範囲、又は請求され得るものに対する限定として解釈すべきではなく、むしろ、特定の発明の特定の実装形態に特有の特徴についての説明として解釈されるべきである。また、別個の実装形態との関連で本明細書で説明されるいくつかの特徴は、単一の実装形態において組み合わせで実装され得る。逆に、単一の実装形態との関連で説明される様々な特徴は、複数の実装形態において別個に、或いは任意の好適なサブコンビネーションにおいても実装され得る。さらに、特徴は、いくつかの組み合わせで機能するものとして上記で説明され、初めにそのように請求されることさえあるが、請求される組み合わせからの1つ以上の特徴は、場合によってはその組み合わせから削除され得、請求される組み合わせは、サブコンビネーション、又はサブコンビネーションの変形形態を対象とし得る。
【0139】
同様に、動作を特定の順序で図面に示すが、このことは、望ましい結果を達成するために、そのような動作を示された特定の順序若しくは連続した順序で実施することを、又はすべての図示された動作を実施することを要求するものとして理解されるべきではない。
【0140】
「又は」に対する言及は、「又は」を使用して説明される任意の用語が、説明される用語の1つ、2つ以上、及びそのすべてのいずれかを示し得るように、包括的なものとして解釈され得る。「第1の」、「第2の」、「第3の」などの標記は、必ずしも順序を示すことを意味するものではなく、同類又は類似の品目又は要素間を単に区別するために一般に使用される。
【0141】
本開示で説明する実装形態への様々な変更は、当業者には容易に明らかであり得、本明細書で定義した一般原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく他の実装形態に適用され得る。したがって、特許請求の範囲は、本明細書で示した実装形態に限定されることを意図するものではないが、本開示と、本明細書で開示する原理及び新規な特徴に一致する、最も広い範囲を与えられるべきである。
【0142】
許可された権限内で引用された参照文献はすべて、本明細書に参考として組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】