IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステート ユニバーシティ アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジの特許一覧

特表2022-527083ヘルニア形成を処置または防止する、方法。
<>
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図1
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図2
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図3
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図4
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図5
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図6
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図7-1
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図7-2
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図8
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図9
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図10
  • 特表-ヘルニア形成を処置または防止する、方法。 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-30
(54)【発明の名称】ヘルニア形成を処置または防止する、方法。
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/08 20060101AFI20220523BHJP
   A61P 41/00 20060101ALI20220523BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20220523BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220523BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20220523BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20220523BHJP
【FI】
A61F2/08
A61P41/00
A61K35/50
A61L27/36 100
A61L27/24
A61K35/51
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557382
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 US2020025165
(87)【国際公開番号】W WO2020198569
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】62/825,547
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520061826
【氏名又は名称】ザ ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステート ユニバーシティ アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ラウ, フランク ホ パク
(72)【発明者】
【氏名】ホジドン, イアン
(72)【発明者】
【氏名】クック, マイケル
【テーマコード(参考)】
4C081
4C087
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081AC03
4C081BA12
4C081CD34
4C081DA02
4C081DA11
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB58
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZC54
4C097AA21
4C097BB01
4C097BB04
4C097DD01
4C097DD05
4C097DD15
4C097EE01
4C097EE02
4C097EE06
4C097EE07
4C097EE08
4C097FF05
4C097MM09
(57)【要約】
ヘルニアを発達させるリスクにある被験体内のヘルニアの出現および/または発達を防止または低減する方法は、腹壁における開口部と接触した状態で移植材料を移植する工程を包含する。上記移植材料は、上記腹壁の治癒を促進し、胎盤組織または胎盤由来組織を含む。本発明は、例えば、ヘルニアを発達させるリスクにある被験体内でのヘルニアの出現および/または発達を低減する方法であって、前記方法は、移植材料を、腹壁における開口部と接触した状態で移植する工程であって、ここで前記移植材料は、前記腹壁開口部の治癒を促進し、胎盤組織を含む、工程、を包含する、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルニアを発達させるリスクにある被験体内でのヘルニアの出現および/または発達を低減する方法であって、前記方法は、
移植材料を、腹壁における開口部と接触した状態で移植する工程であって、ここで前記移植材料は、前記腹壁開口部の治癒を促進し、胎盤組織を含む、工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記移植材料を移植する工程は、前記移植材料と、前記腹壁における前記開口部とを整列させることを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記開口部は、外科的切開部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記開口部は、デブリドマンを施した筋膜を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記移植材料は、腹部筋膜縁部の治癒を促進する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記移植材料を移植する工程は、前記移植材料を前記腹壁に能動的に貼付しない、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記移植材料を移植する工程は、圧力、接着剤、クリップ、タック、縫合糸、ステープル、またはスクリューによって、前記移植材料を前記腹壁に係留することを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記移植材料を移植する工程は、前記腹壁開口部の上に、または前記腹壁開口部に対して腹側に、前記移植材料を移植することを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記移植材料を移植する工程は、前記腹壁開口部の下に、または前記腹壁開口部に対して背側に、前記移植材料を移植することを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記移植材料を移植する前または移植した後に、前記腹壁開口部を実質的にまたは完全に閉じる工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記腹壁開口部は、合成メッシュまたは生物学的メッシュで閉じられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記腹壁開口部は、外科的切開部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記外科的切開部は、腹部筋膜切開部を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記腹壁開口部は、外科手術によって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記外科手術は、開腹術(腹腔切開術)、腹腔鏡手術、またはストーマ手術を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ヘルニアは、瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、臍ヘルニア、上腹壁ヘルニア、腰部ヘルニア、鼠径ヘルニア、横隔膜ヘルニア、裂孔ヘルニア、スピゲリウスヘルニア、または傍ストーマヘルニアを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ヘルニアを発達させるリスクにある被験体は、肥満の被験体、感染症に罹患した被験体、腸切除を受けた被験体、結腸手術を受けた被験体、コルチコステロイドを投与中である被験体、喫煙する被験体、慢性閉塞性肺疾患を有する被験体またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記感染症は、手術部位感染症、腹腔内感染症、深部感染症、または表在性腹部感染症を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記胎盤組織は、胎盤由来組織、胎盤由来の膜、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記移植材料は、哺乳動物組織を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記胎盤由来組織は、羊膜、絨毛膜、臍帯静脈、ウォートンゼリー、またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記胎盤由来の膜は、羊膜、絨毛膜、またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記移植材料は、ヒト羊膜-絨毛膜を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記移植材料は、脱水した組織、脱細胞化した組織、架橋した組織、凍結した組織、凍結保存した組織、新鮮な組織、またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記移植材料は、シート、ナノ粒子、粉末、または注射物を含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記移植材料は、合成メッシュ、生物学的メッシュ、または組織足場をさらに含む、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記生物学的メッシュは、哺乳動物組織を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物組織は、真皮マトリクス、または膀胱マトリクスを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳動物組織足場は、コラーゲンマトリクスを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
腹壁における開口部の治癒を促進する方法であって、前記方法は、
移植材料を得る工程;および
前記移植材料を被験体の中に移植する工程であって、ここで前記移植材料は、前記腹壁における開口部と接触した状態で移植され、前記移植材料は、胎盤組織を含み、前記腹壁開口部の治癒を促進する、工程、
を包含する、方法。
【請求項31】
筋膜治癒を促進する方法であって、前記方法は、
移植材料を被験体の中に移植する工程であって、ここで前記移植材料は、胎盤組織を含み、前記筋膜における欠陥領域の付近に移植され、前記移植材料は、前記筋膜における欠陥の治癒を促進する、工程、
を包含する、方法。
【請求項32】
ヘルニアを修復する方法であって、前記方法は、
移植材料を、腹壁における開口部と接触した状態で移植する工程であって、ここで前記移植材料は、胎盤組織を含み、前記腹壁開口部の修復を促進する、工程、
を包含する、方法。
【請求項33】
ヘルニア再発を低減する方法であって、前記方法は、
移植材料を被験体の中に移植する工程であって、ここで前記移植材料は、胎盤組織を含み、腹壁における開口部と接触した状態で移植される、工程、
を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月28日出願の米国仮特許出願第62/825,547号(その内容は、本明細書に参考として援用される)の優先権および利益を主張する。
【0002】
技術分野
本開示は、ヘルニアの発達(development)を防止またはヘルニアの出現を低減するための方法に関し、より具体的には、本開示は、組織移植材料を使用して、ヘルニアの発達を防止するかまたはヘルニアの出現を低減することに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
米国では、年間200万件の開腹術が行われており、瘢痕ヘルニア(IH)は、主要な合併症である。IHの防止は、新たに発達した研究分野である。標準治療は、IHの防止に関しては採用されていない。ヘルニア(例えば、IH)は、医療制度、患者、および外科医に大きな負担をかける。瘢痕ヘルニア修復(IHR)を受ける患者は、手術部位感染症およびヘルニア再発を含む合併症のリスクがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
要旨
本開示は、ヘルニアを発達させるリスクにある被験体内のヘルニアの出現および/または発達を防止または低減する方法を提供する。上記方法は、移植材料を選択する工程および/または移植材料を、上記腹壁における開口部と接触した状態で移植する工程を包含し得る。上記移植材料は、胎盤組織を含み得る。上記移植材料は、上記腹壁開口部の治癒を促進し得、それによって、上記被験体におけるヘルニアの出現および/または発達を防止または低減し得る。いくつかの実施形態において、上記移植材料は、ヘルニアの再発またはヘルニア再発の発達を防止または低減するために、ヘルニア修復手順において移植され得る。
【0005】
上記胎盤組織は、1またはこれより多くの無傷のシート、微粒子化した形態、粉末形態、またはこれらの組み合わせを含み得る。上記胎盤組織は、胎盤由来組織を含み得る。上記胎盤組織は、処理済みもしくは非処理の羊膜、絨毛膜、臍帯静脈、ウォートンゼリー、またはこれらの組み合わせ(例えば、dHACM、凍結保存した臍帯および羊膜もしくは膜マトリクス、処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、または処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、ならびに処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜)を含み得る。
【0006】
1つの実施形態において、上記移植材料は、上記腹壁における開口部と整列され得る。
【0007】
1つの実施形態において、上記開口部は、外科的切開部を含む。
【0008】
1つの実施形態において、上記開口部は、デブリドマンを施した筋膜を含む。
【0009】
上記の実施形態または別の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記移植材料は、腹部筋膜縁部の治癒を促進するように構成される。
【0010】
1つの実施形態において、上記移植材料は、上記腹壁に能動的に貼付されなくてもよい。
【0011】
別の実施形態において、上記移植材料は、例えば、圧力、接着剤、クリップ、タック、縫合糸、ステープル、またはスクリューによって、上記腹壁に係留され得る。
【0012】
1つの実施形態において、上記移植材料は、腹壁開口部の上に、または上記腹壁開口部に対して腹側に移植され得る。
【0013】
1つの実施形態において、上記移植片組織は、腹壁開口部の下に、または上記腹壁開口部に対して背側に移植され得る。
【0014】
1つの実施形態において、上記移植片組織は、筋膜切開部が作製される前または作製された後のいずれかに、筋膜縁部の中にまたは筋膜縁部に沿って注射され得る。
【0015】
上記の実施形態または別の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記方法は、上記移植材料を移植する前に、上記腹壁開口部を実質的にまたは完全に閉じる工程をさらに包含し得る。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記方法は、上記移植材料を移植した後に、上記腹壁開口部を実質的にまたは完全に閉じる工程をさらに包含し得る。
【0017】
1つの実施形態において、上記腹壁開口部は、合成メッシュまたは生物学的メッシュで閉じられ得る。
【0018】
1つの実施形態において、上記腹壁開口部は、外科的切開部を含む。例えば、上記外科的切開部は、腹部筋膜切開部を含む。
【0019】
種々の実施形態において、上記腹壁開口部は、外科手術によって引き起こされる。例えば、上記外科手術は、開腹術(腹腔切開術(celiotomy))、腹腔鏡手術、ストーマ手術(stoma surgery)、または腹部ヘルニアの修復を含み得る。
【0020】
種々の実施形態において、上記ヘルニアは、瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、臍ヘルニア、上腹壁ヘルニア、ポートサイトヘルニア(port site hernia)、腰部ヘルニア、鼠径ヘルニア、横隔膜ヘルニア、裂孔ヘルニア、スピゲリウスヘルニア(spigelian hernia)、または傍ストーマヘルニアを含み得る。
【0021】
上記のまたは別の実施形態において、上記ヘルニアを発達させるリスクにある被験体は、過体重のまたは肥満の被験体、感染症に罹患した被験体、腸切除を受けた被験体、結腸手術を受けた被験体、コルチコステロイドを投与中である被験体、化学療法を施されている被験体、喫煙する被験体、慢性閉塞性肺疾患を有する被験体、栄養不良である被験体、高齢である被験体、コントロール不良の糖尿病を有する被験体、貧血を有する被験体、以前にヘルニアがあった被験体、妊娠している被験体、以前に2人より多くの子供を産んだことがある被験体、減少した治癒力を有する被験体、腹部筋膜切開部を作製した同日に上記切開部を縫合糸で閉じている、以前に「腹部開放(open abdomen)」をしたことがある被験体、またはこれらの任意の組み合わせを含む。例えば、上記感染症は、手術部位感染症、腹腔内感染症、深部感染症、または表在性腹部感染症を含む。
【0022】
上記の実施形態または別の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記移植材料は、哺乳動物組織を含む。
【0023】
さらなる実施形態において、上記哺乳動物組織は、内因性増殖因子を含む。
【0024】
上記の実施形態または別の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記移植材料は、胎盤組織またはその派生物を含み得る。例えば、上記胎盤組織は、胎盤由来組織、胎盤由来の膜、またはこれらの組み合わせを含み得る。例えば、上記胎盤由来組織は、羊膜、絨毛膜、臍帯静脈、ウォートンゼリー、またはこれらの任意の組み合わせを含む。例えば、上記胎盤由来の膜は、羊膜、絨毛膜、またはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0025】
1つの実施形態において、上記移植材料は、ヒト羊膜-絨毛膜を含む。
【0026】
1つの実施形態において、上記移植材料は、脱水した組織、脱細胞化した組織、架橋した組織、凍結した組織、凍結保存した組織、新鮮な組織、またはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0027】
1つの実施形態において、上記移植材料は、シート、ナノ粒子、粉末、または注射物として移植される。
【0028】
いくつかの実施形態において、上記移植材料は、合成メッシュ、生物学的メッシュ、または組織足場をさらに含む。例えば、上記生物学的メッシュは、哺乳動物組織を含む。例えば、上記哺乳動物組織は、真皮マトリクス、または膀胱マトリクスを含む。例えば、上記哺乳動物組織足場は、コラーゲンマトリクスを含む。
【0029】
本開示の局面はさらに、上記腹壁における開口部の治癒を促進する方法であって、上記方法は、移植材料を得る工程;および上記移植材料を被験体の中に移植する工程であって、ここで上記移植材料は、上記腹壁における開口部と接触した状態で移植され、上記移植材料は、上記腹壁開口部の治癒を促進する工程を包含する方法に関する。
【0030】
さらになお、本開示の局面は、筋膜治癒を促進する方法であって、上記方法は、移植材料を得る工程;および移植材料を被験体の中に移植する工程であって、ここで上記移植材料は、上記筋膜における欠陥領域の付近に移植され、上記移植材料は、上記筋膜における欠陥の治癒を促進する工程を包含する方法に関する。
【0031】
本開示の局面はさらになお、ヘルニアを修復する方法であって、上記方法は、移植材料を選択する工程;および上記移植材料を、上記腹壁における開口部と接触した状態で移植する工程であって、ここで上記移植材料は、上記腹壁開口部を修復する工程を包含する方法に関する。
【0032】
本開示の局面は、ヘルニア再発を防止する方法であって、上記方法は、移植材料を得る工程;および上記移植材料を被験体の中に移植する工程であって、ここで上記移植材料は、上記腹壁における開口部と接触した状態で移植され、上記移植材料は、ヘルニア再発を防止する工程を包含する方法に関する。
【0033】
本開示の他の目的および利点は、以下に続く説明から容易に明らかになる。
【0034】
記載される実施形態の新規な特徴は、特に、添付の請求項に示される。しかし、記載される実施形態は、組織化および作用様式の両方に関して、添付の図面を考慮して以下の説明を参照することによって理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、開腹術切開部の動物モデルを示す。
【0036】
図2図2は、dHACMシートが瘢痕ヘルニア形成を有意に低減することを示す。
【0037】
図3図3は、dHACMシートがヘルニアの直径を有意に低減することを示す。
【0038】
図4図4は、ヒトヘルニア防止研究の臨床データを示す。
【0039】
図5図5は、dHACMシートがIH形成を有意に低減したことを示す。群A(処置なし 対 シート)では、dHACMシートは、IH率を87.5%から62.5%へと有意に低減した(RR=0.71、p=0.039、χ2(2, N=17))。群B(生理食塩水 対 注射)では、IH率は、コントロール 対 処置の間で同一であった(77.8%)。
【0040】
図6図6は、dHACMシートがIH直径を有意に低減したことを示す。全体として、ラットの79.4%(34匹のうちの27匹)が、IHを発達させた。群A(処置なし 対 シート)では、dHACM シートは、処置なし 14.4±8.3mmと比較して、平均IH直径を6.9±6.0mmへと有意に低減した(p=0.039)。群B(生理食塩水 対 注射)では、IH直径は、生理食塩水 10.2±6.7mm 対 注射 11.7±8.8mmとの間で有意差はなかった(p=0.37)。
【0041】
図7-1】図7は、dHACM処理した筋膜が非処理の筋膜より弱くなかったことを示す。A)単一の腹壁サンプルの代表的張力測定試験。試験を、システムを白線に対して直交するように変位制御下で1サイクルにおいて10mm/秒で負荷する自動化システム(8841 Dynamite, Instron)を使用して行った。負荷変位データを、10Hzで記録した。各サンプルが耐えられたピーク張力を、記録した。B)ピーク張力を、サンプル横断面積に対して正規化した。群A(処置なし 対 シート)では、平均引張り強さは、処置なし 0.89N/mm 対 シート 1.02N/mmであった。群B(生理食塩水 対 注射)では、平均引張り強さは、注射 1.15N/mm 対 生理食塩水 1.55N/mmであった。
図7-2】同上。
【0042】
図8図8は、dHACM処置が、腹腔切開術の28日後に、炎症マーカーの筋膜瘢痕発現を有意に変化させなかったことを示す。発現レベルを、ハウスキーピング遺伝子β-アクチンに対して正規化した。A)群A(処置なし 対 シート)では、IL-6の平均筋膜瘢痕発現レベルは、以下であった: 処置なし 61.22±35.76 対 シート 40.81±15.57(p=0.31)。群B(生理食塩水 対 注射)では、その発現レベルは、生理食塩水 7.35±1.70 対 注射 21.58±9.01(p=0.07)であった。B)群A(処置なし 対 シート)では、MMP-1の平均筋膜瘢痕発現レベルは、以下であった: 処置なし 6.80±3.76 対 シート 2.77±1.17(p=0.16)。群B(生理食塩水 対 注射)では、その発現レベルは、生理食塩水 15.37±7.80 対 注射 3.36±1.26(p=0.07)であった。C)群A(処置なし 対 シート)では、MMP-13の筋膜瘢痕発現レベルは、以下であった: 処置なし 1.49±0.15 対 シート 1.47±0.19(p=0.16)。群B(生理食塩水 対 注射)では、その発現レベルは、生理食塩水 2.99±0.74 対 注射 2.69±0.15であった(p=0.07)。
【0043】
図9図9は、dHACM処置が、POD 2および5でのIL-6およびCRPの血漿レベルを有意に変化させなかったことを示す。レベルを、ELISAを使用して定量した。A)群A(処置なし 対 シート)では、POD 2でのIL-6の平均血漿レベルは、処置なし 765.9±130.5pg/mL 対 シート 2147.9±1978.9pg/mLであった(p=0.069)。POD 5では、平均血漿レベルは、処置なし 659.0±604.7pg/mL 対 シート 1883.4±2132.9pg/mLであった(p=0.09)。群B(生理食塩水 対 注射)では、POD 2でのIL-6の平均血漿レベルは、生理食塩水 825.5±789.4pg/mL 対 注射 649.8±242.5pg/mLであった(p=0.29);POD 5では、それらは、生理食塩水 870.5±787.8pg/mL 対 注射 750.9±615.3pg/mLであった(p=0.37)。B)群A(処置なし 対 シート)では、POD 2でのCRPの平均血漿レベルは、処置なし 264.2±245.2pg/mL 対 シート 201.2±108.7pg/mLであった(p=0.28)。POD 5では、平均血漿レベルは、処置なし 294.6±137.6pg/mL 対 シート 704.4±493.4pg/mLであった(p=0.069)。群B(生理食塩水 対 注射)では、POD 2でのCRPの平均血漿レベルは、生理食塩水 265.4±126.0pg/mL 対 注射 194.9±91.1pg/mLであった(p=0.13);POD 5では、それらは、生理食塩水 586.7±559.5pg/mL 対 注射 280.7±217.8pg/mLであった(p=0.11)。
【0044】
図10図10は、dHACM処置が、腹腔切開術の28日後の炎症マーカーの筋膜瘢痕発現を有意に変化させなかったことを示す。瘢痕組織の0.5×0.5cm領域からの総タンパク質を単離し、イムノブロッティングによって分析した。A)コラーゲンI、III、およびGAPDHのウェスタンブロット。B)定量のためにImage Jを使用した。コラーゲンレベルを、GAPDHに対して正規化し、コラーゲンI/III比を計算した。群A(処置なし 対 シート)では、平均コラーゲンI/III比は、処置なし 1.02±0.23 対 シート 1.67±0.77であった(p=0.513)。群B(生理食塩水 対 注射)では、平均比は、生理食塩水 1.18±0.19 対 注射 1.45±0.51であった(p=0.625)。
【0045】
図11図11は、腹腔切開術の28日後の腹壁標本配分の図解を示す。緑色の線は、正中線を示す。ヘルニアは、このバージョンでは目に見える。セグメントAは、長さ4cmであり、-80℃で即座に貯蔵し、最終的には張力測定のために送付した。セグメントBは、さらに半分に分けた;長さ0.5cmを、-80℃で即座に貯蔵し、最終的には、qRT-PCRおよびウェスタンブロッティングのために使用した。別の長さ0.5cmを、組織学用に10% ホルマリン中に即座に入れた。
【発明を実施するための形態】
【0046】
説明
米国では、年間200万件の開腹術が行われており、瘢痕ヘルニア(IH)は、主要な合併症である。開腹術とは、例えば、疾患もしくは状態の診断のための、または外科手術の準備における、腹腔への外科的切開に言及する。開腹術後のIHの発達率は、平均12%であるが、高リスク集団では、73%に達することが示されている。これは、1年に400,000万件もの新たなIHをもたらす。これらのヘルニアは、医療制度、患者、および外科医に大きな負担をかける。IH修復(IHR)には、1年に60~100億ドルのコストがかかる(Hernia Repair Devices and Consumables)。IHRを受ける患者には、手術部位感染症(20~30%)およびヘルニア再発(20~30%)を含む合併症のリスクがある(Goodenough C, Ko TC, Kao LS .「Development and Validation of a Risk Stratification Score for Ventral Incisional Hernia after Abdominal Surgery: Hernia Expectation Rates in Intra-Abdominal Surgery (The HERNIA Project).」 J Am Coll Surg. 2015. Apr;220(4):405-413)。IHRを行う外科医は、合成メッシュを頻繁に使用するが、これは、彼らをメッシュ関連医療過誤訴訟に曝す。
【0047】
IHの病因は、十分には理解されていない。最も頻繁に引用される機構は、機械的な欠損(例えば、縫合糸断裂)である。IHを有する患者は、腸閉塞、腸虚血、慢性疼痛および障害を含む主な合併症に直面する。従って、修復の必要が示されるが、クリーンで選択的な環境下であるとしても、修復関連合併症は、頻繁であり、ヘルニア再発、メッシュ感染症、慢性疼痛、腸および腹腔内器官傷害、拘束性換気および腹部病理、ならびに敗血症が挙げられる。IH修復が緊急に行われる場合(腸閉塞または絞扼のために必要とされる場合)、合併症の発達率はさらに上昇する。
【0048】
従って、一次IH出現を防止するおよび/または出現率を低減することは、重要であるが、開発が不十分なストラテジーである。これまでのところ、IH防止は、筋膜切開の機械的支援を最適化することに集中されてきた。許容された外科手術ガイドラインは、非正中切開を使用する、非吸収性モノフィラメント縫合糸を選択する、1本の連続する縫合糸で腹直筋筋膜を閉じる、および4:1の縫合糸 対 創傷長率を維持することを含む。高リスク患者では、予防的アンダーレイ合成メッシュが使用され得るが、その関連リスクに起因して、標準治療ではない。使用される場合であっても、このような予防的アンダーレイメッシュストラテジーは、胎盤組織(PT)(例えば、胎盤由来組織(PDT))の使用を含まない。
【0049】
本発明者らの研究の前に、IH形成率を低減する臨床的に証明されたストラテジーは特定されていない。
【0050】
本開示は、筋膜治癒を促進する、ヘルニアの出現および/もしくは発達を防止もしくは低減する、またはヘルニア再発もしくは再発性ヘルニアの発達を防止もしくは低減する方法を提供する。種々の実施形態において、方法は、移植材料(例えば、上記筋膜または腹壁における開口部と接触した状態で、その近位に、またはそこに隣接して移植するための胎盤組織(PT)を含むもの)を選択する工程を包含し得る。上記PTは、PDTを含み得る。さらなるまたは別の実施形態において、方法は、PTを含む移植材料を、上記筋膜または腹壁における開口部と接触した状態で、その近位に、またはそこに隣接して移植する工程を包含し得る。種々の実施形態において、PT(PDTを含み得る)、移植材料を使用するこのような方法は、個体(例えば、ヘルニアを発達させるリスクにある個体)においてヘルニア形成率および/または程度を大幅に低減するために利用され得る。本明細書で記載される実施形態は、ヘルニア(例えば、瘢痕ヘルニアおよび傍ストーマヘルニア)の出現、再発、および/または発達における防止または低減において、PT、PDT、膜、構成要素および医療用デバイスの使用を含み得る。
【0051】
1またはこれより多くの好ましい実施形態、例、および構成の詳細な説明は、本明細書で提供される。しかし、本発明が、種々の形態において具現化され得ることは、理解されるべきである。従って、本明細書で開示される具体的な詳細は、限定として解釈されるべきではなく、むしろ、請求項の根拠としておよび当業者が本発明を任意の適切な様式において使用する教示の代表的な根拠として解釈されるべきである。
【0052】
本開示の局面は、筋膜における開口部(例えば、切開またはヘルニア)を治癒する方法に関する。用語「筋膜」とは、身体または皮膚の下にある身体部分を包む線維性組織のシートに言及する。それはまた、筋または筋群を包む。実施形態において、筋膜における開口部または切開部は、本明細書で記載されるように防止または処置され得る。例えば、上記開口部は、例えば、切開または電気焼灼によって切断された筋膜の組織である切開された筋膜、および任意の手段によって除去された筋膜の組織である切除された筋膜を含み得る。
【0053】
本開示の局面はまた、上記腹壁における開口部(例えば、腹部切開部または腹部ヘルニア)を治癒する方法に関する。上記腹壁は、腹腔の境界を表し、後腹壁(後方)、側腹壁(側方)、前腹壁(前方)、上腹壁(上方または頭部方向)、および下腹壁(下方または骨盤方向)へと分けられる。ヒトの解剖学において、腹壁の層は、(表層から深部に向かって)皮膚、皮下組織;筋膜(カンペル筋膜およびスカルパ筋膜);筋(外腹斜筋;内腹斜筋;腹直筋;腹横筋;錐体筋;横筋筋膜);腹膜外脂肪(extraperitoneal fat);および腹膜である。それはまた、腹部の正中において剣状突起から恥骨結合へと走り、腹壁のいくつかの層の癒合である白線を含む。腹腔の上方の境界は、横隔膜から構成される。腹腔の下方の境界は、骨盤底から構成される。
【0054】
実施形態において、上記開口部(例えば、外科的切開または穿刺によって引きおこされる開口部)は、ヘルニアを生じ得る。ヘルニアは、先天的であり得るか、または外科手術の結果でなくても起こり得る。これらとしては、例えば、鼠径ヘルニア、スポーツヘルニア、およびスピゲリウスヘルニアが挙げられる。
【0055】
用語「ヘルニア」とは、ある部分または構造が、通常はそれを含む組織から突出することに言及し得る。ヘルニアは、代表的には、その突出が起こる領域にちなんで命名される。例えば、臍ヘルニアは、臍の高さで脂肪または内臓が腹壁から突出することである。別の例として、「腹部ヘルニア」は、腹壁の任意の部分からのまたは任意の部分の中への突出(例えば、腸が、腹壁の弱くなった領域から押し出される場合)に言及し得る。上記腹壁の境界は、上は横隔膜、下は骨盤、後ろは脊椎、側方および前方は腹壁の筋である。例えば、腹壁ヘルニアは、その境界からの腹部器官の突出または脂肪の突出に言及し得る。
【0056】
ヘルニアのうちの最も一般的なタイプは、鼠径ヘルニア(鼠径)、瘢痕ヘルニア(切開部から生じる)、大腿ヘルニア(鼠径)、臍ヘルニア(へそ)、傍ストーマヘルニア、および裂孔ヘルニア/横隔膜ヘルニア(上腹部)である。ヘルニアの他のタイプの非限定的な例は、腰部ヘルニア、横隔膜ヘルニア、腹壁ヘルニア、術後ヘルニア、上腹壁ヘルニア、スピゲリウスヘルニア、骨盤底が軟弱(例えば、閉鎖孔ヘルニア)、または概して任意の腹壁関連ヘルニアを含む。非瘢痕ヘルニアの非限定的な例は、鼠径ヘルニア、スピゲリウスヘルニア、スポーツヘルニア、腰部ヘルニア、大腿ヘルニア、横隔膜ヘルニア、裂孔ヘルニア、および/または閉鎖孔ヘルニアを含む。当業者は、最も一般的な解釈において、ヘルニアが、任意の中空身体器官、ならびに/または上記の天然のおよび/もしくは上記の人工的な開口部、ならびに/または上記の空間および/もしくは上記の術後の空間において起こり得ることを認識する。
【0057】
例えば、本開示の実施形態は、傍ストーマヘルニアの出現もしくは発達を防止する、低減する、および/または傍ストーマヘルニアを処置するために特に適切であり得る。傍ストーマヘルニアは、オストミー形成の間に作られる腹壁欠陥を通じて腹部の中身を突出させる瘢痕ヘルニア(IH)のタイプである。根本的な問題が近接した組織間での治癒である外科的切開部におけるヘルニア発達とは異なり、オストミー作製は、治癒が予期されない腹壁欠陥を導入する。傍ストーマヘルニアは、その欠陥が、その円周に対して接線方向に働く力によって連続して伸展される場合に形成する。この伸展は、さらなる腹部の内臓が、そのオストミーに隣接してヘルニアになることを許容する。傍ストーマヘルニアの報告された発達率は、広く変動し、構築されたオストミーのタイプ、オストミー構築後の追跡の継続期間、および傍ストーマヘルニアを特定するために使用される定義に関連する。傍ストーマヘルニアの発達率は、オストミーのタイプに依存して、0~50%の範囲に及ぶと報告される。
【0058】
本開示の実施形態は、瘢痕ヘルニア(IH)の出現および/もしくは発達を防止する、低減する、ならびに/または瘢痕ヘルニア(IH)を処置するために、特に適切である。IHとは、外科的切開部位においてまたは手術瘢痕の治癒時に形成する組織の突出に言及する。用語「外科的切開部位」とは、外科的切開が作製されることになるかまたは作製された身体または組織表面、ならびに切開に隣接するまたは切開に近接する周辺領域に言及し得る。「外科的切開部位」は、組織における「開口部」として言及され得る。この周辺領域は、その切開を超えた全ての方向に拡がる。例えば、その周辺領域は、その切開を超えて約2~12インチ程度拡がり得る。例えば、その周辺領域は、その切開を超えて2~12インチ拡がり得る。例えば、腹部ヘルニアは、上記腹壁における開口部を引きおこす切開から生じ得るので、瘢痕ヘルニアと言及され得る。IHを生じ得る外科手術は、例えば、開腹術(腹腔切開術)、腹腔鏡手術、ストーマ手術、または腹部ヘルニアの修復を含む。ヘルニアはまた、腹壁の脈管遮断または腹壁が弱くなることから(例えば、外科手術自体、または外科手術に二次的な手術部位感染症から)形成し得る。
【0059】
本開示の実施形態はまた、ヘルニアまたはヘルニアに近接した領域を処置するために適切であり得る。例えば、ヘルニアに近接した領域は、腹壁の筋組織および筋膜、横隔膜、および/または骨盤を含み得る。
【0060】
ヘルニアは、任意の被験体において起こり得るが、特定の個体群が、ヘルニア発達を特に受けやすい。種々の実施形態において、本明細書で記載される方法論は、ヘルニアを発達させるリスクのある被験体において、ヘルニアの出現および/もしくは発達を防止する、低減する、ならびに/またはヘルニアを処置するために有益な適用を見出し得る。例えば、ヘルニアを発達させるリスクのある被験体は、肥満であるおよび/または糖尿病に罹患した、感染症(例えば、手術部位感染症、腹腔内感染症、深部組織感染症、または表在性腹部感染症)に罹患した、栄養不良である、術前化学療法を受けている、高齢の、妊娠中の、結合組織疾患に罹患した、慢性的な咳に苦しんでいる、手術中に輸血を受けた、外科手術(例えば、腸切除、結腸手術、または緊急手術)を受けた、コルチコステロイドを投与中である、喫煙する、慢性閉塞性肺疾患を有する、肺気腫を有する、末梢血管疾患を有する、1型もしくは2型糖尿病を有する、またはこれらの任意の組み合わせである被験体を含み得る。他のリスク因子としては、うっ血性心不全、腎不全、肝不全(特に、腹水を伴う)、便秘またはBPHを有する患者(排泄または排便するための腹圧の意図的な増大)、上肢もしくは下肢の切断または虚弱を有する患者(体幹の筋組織への依存の増大を介する)が挙げられるが、これらに限定されない。重いものを持ち上げる必要があるか、または病身の家族をケアする必要がある役目のある患者はまた、ヘルニア形成の素因を有し得る。Mayoクリニックによれば、男性であることおよび白色人種であることは、ヘルニアの家族歴と同様に、ヘルニアのリスクを増大させる。
【0061】
上記で紹介されたように、本開示の種々の実施形態は、移植材料を被験体の中に投与、例えば、移植して、筋膜治癒を促進する;ヘルニアの出現、発達、および/もしくは再発を防止および/もしくは低減する;ならびに/またはヘルニア修復の失敗を防止することを含む。用語「移植材料」とは、身体上の部分に配置する、付着させる、または挿入することができる材料に言及し得る。上記移植材料は、組織および/または処理済みの組織を含む組織移植材料であり得る。上記組織移植材料は、本明細書で記載されるように、さらなる組成物(例えば、合成または生物学的組成物)をさらに含み得る。
【0062】
上記移植材料は、哺乳動物組織またはその派生物(例えば、PTまたはPDT)であり得る。組織派生物は、天然の組織を物理的および/または化学的に処理して、その天然の組織の天然の構造および/または基本的特性を保持する派生組織を生成することを通じて、組織(例えば、哺乳動物組織)から調製される。例えば、上記組織は、脱水され得る(例えば、化学的に脱水され得るかまたは凍結乾燥され得る);脱細胞化され得る;架橋され得る;凍結され得る;凍結保存され得る;新鮮であり得る;除染され得る;清浄にされ得る;またはこれらの任意の組み合わせであり得、それによって、組織派生物を生成する。組織派生物はまた、組織から単離された細胞から調製され得る(例えば、胎盤の細胞に由来するエキソソーム)。
【0063】
実施形態において、上記移植材料は、同種異系移植片を含み得る。用語「同種異系移植片」とは、レシピエントと同じ種のドナーに由来するが、遺伝的には同一でない組織移植片に言及し得る。例えば、上記同種異系移植片は、PTまたはPDTの同種異系移植片(例えば、脱水したヒト羊膜-漿膜(dHACM)同種異系移植片)を含み得る。他の実施形態において、上記移植材料は、自家移植片を含む。用語「自家移植片」とは、同じ個体の身体上の一方の点からもう一方の点への組織の移植片に言及し得る。
【0064】
実施形態において、上記移植材料は、胎盤組織(PT)移植片であり得る。例えば、米国特許出願公開第20130230561A1(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。用語「胎盤組織」(PT)とは、胎盤(しかし胎盤全体ではない)の個々の構成要素のうちの1またはこれより多くに言及し得る。このような構成要素は、当該分野で周知であり、胎盤の膜(例えば、羊膜および/または絨毛膜)、臍帯静脈、ウォートンゼリーおよびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。改変されていないおよび改変した羊膜は、用語「羊膜」の中に含まれる。改変した羊膜は、上皮層が除去された(機械的に、化学的にまたは酵素により)と同時に、線維芽細胞層を保持している羊膜、完全に脱細胞化した羊膜、および上皮層を保持すると同時に線維芽細胞層は除去されている羊膜を含む。用語「胎盤組織」(PT)は、その無傷の組織自体、またはその組織の構成要素(例えば、脱細胞化したマトリクス、細胞化したマトリクス、エキソソーム(例えば、胎盤由来肝細胞によって生成されるもの)、または細胞自体)に言及し得る。
【0065】
PTまたは「PT移植片」を含む移植材料とは、哺乳動物(例えば、ヒト)において状態を処置することにおける移植片としての使用に適した胎盤組織の1またはこれより多くの層に言及する。PT移植片は、それらの非処理の形態において移植され得るか、または代わりに、組織派生物へと処理され得る。例えば、上記PTは、その組織が増殖因子を溶離する能力を保存するか、または筋膜の治癒を促進する様式で細胞外マトリクスを保存する任意の様式で、PDTを生成するために処理され得る。例えば、上記PTは、脱水され得る(例えば、化学的に脱水され得るかまたは凍結乾燥され得る);脱細胞化され得る;架橋され得る;凍結され得る;凍結保存され得る;振電であり得る;除染され得る;清浄にされ得る;またはこれらの任意の組み合わせであり得る。
【0066】
PT(例えば、PDT)は、多くの形態において市販されており、広い範囲の外傷のための治癒補助物質(healing adjunct)として使用されてきた(例えば、糖尿病の足部創傷(Didomenico LA, Orgill DP, Galiano RDら. 「Aseptically Processed Placental Membrane Improves Healing of Diabetic Foot Ulcerations: Prospective, Randomized Clinical Trial.」 Plast Reconstr Surg Glob Open. 2016;4(10):e1095.; Zelen CM. 「An evaluation of dehydrated human amniotic membrane allografts in patients with DFUs.」 J Wound Care. 2013;22(7):347-351; Zelen CM, Serena TE, Denoziere Gら. 「A prospective randomised comparative parallel study of amniotic membrane wound graft in the management of diabetic foot ulcers.」 Int Wound J. 2013b;10(5):502-507; Zelen CM, Serena TE, Snyder RJ. 「A prospective, randomised comparative study of weekly versus biweekly application of dehydrated human amnion/chorion membrane allograft in the management of diabetic foot ulcers.」 Int Wound J. 2014;11(2):122-128; Zelen CM, Snyder RJ, Serena TEら. 「The use of human amnion/chorion membrane in the clinical setting for lower extremity repair: a review.」 Clin Podiatr Med Surg. 2015b;32(1):135-146; Zelen CM, Poka A, Andrews J. 「Prospective, randomized, blinded, comparative study of injectable micronized dehydrated amniotic/chorionic membrane allograft for plantar fasciitis--a feasibility study.」 Foot Ankle Int. 2013a;34(10):1332-1339)、足底筋膜炎(Zelenら, 2013a))、慢性の治癒しない創傷(Sheikh ES, Sheikh ES, Fetterolf DE. 「Use of dehydrated human amniotic membrane allografts to promote healing in patients with refractory non healing wounds.」 Int Wound J. 2014;11(6):711-7))、および下肢創傷(Zelenら, 2015)が挙げられる)。しかし、PTは、筋膜治癒を改善する。ヘルニア発達を防止する、またはヘルニア再発を防止することに関してこれまで使用されていない。
【0067】
種々の実施形態において、上記PT移植片は、脱水したヒト羊膜/絨毛膜(dHACM)であり得る。例えば、Lei, Jennifer, ら. 「Dehydrated human amnion/chorion membrane (dHACM) allografts as a therapy for orthopedic tissue repair.」 Techniques in Orthopaedics 32.3 (2017): 149-157(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。このPDTは、血小板由来増殖因子-AA(PDGF-AA)、PDGF-BB、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、TGFβ1、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮増殖因子(EGF)、胎盤増殖因子(PLGF)および顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)ならびにIL-4、6、8および10、ならびにTIMP 1、2および4を含む285を超える調節分子を溶離する。dHACMは、市販の治癒補助物質であり、少なくとも2つの形態において、1)調節性タンパク質を移植後に溶離し、多数の増殖因子の持続した送達を生じる移植用シートとして、および2)同様に多数の増殖因子を経時的に溶離する、筋膜切開部に沿って配置され得る微粒子化した注射として、現在市販されている。例示的なdHACM製品としては、Amniofix(登録商標)およびEpifix(登録商標)(MiMedx Group Inc.(Marietta, GA, USA.)製造)が挙げられる。
【0068】
1つの実施形態において、上記PTは、凍結保存した臍帯および羊膜マトリクスを含む。このPDTの例は、名称Neox 100(登録商標)(Amniox Medical Inc., Miami, FL)の下で市販されている。同様の凍結保存した臍帯および羊膜製品、Neox Cord 1K(登録商標)は、Amniox Medical Inc.によって製造されており、市販もされている。別の例示的な実施形態において、上記PTは、分離されていない羊膜および絨毛膜と無傷の中間層とから構成される3層の脱水した胎盤由来組織を含み、その例は、AminoWrap2TM(Direct Biologics LLC, St. Louis, MO)である。さらに別の例示的な実施形態において、上記PTは、脱水した3層の羊膜および絨毛膜を含み、その例は、NuShield(登録商標)(Organogenesis Inc., Canton MA)である。種々の実施形態において、上記移植材料が、天然の/非処理のおよび派生したPTの組み合わせを含むPTを含み得ることは、認識されるべきである。いくつかの実施形態において、上記移植材料は、PDTと、天然の/非処理のPTとのまたはなしの組み合わせを含むPTを含み得る。
【0069】
実施形態において、PTを含む上記移植材料は、種々の形態において上記被験体に適用され得る。例えば、上記移植材料は、膜形態において、例えば、シートまたはシート様として適用され得る。さらに、上記移植材料は、微粒子化した形態または粉末化した形態(例えば、膜組織を凍結粉砕し、微粒子物サイズ分けのために篩にかけた場合に生成される)において適用され得る。例えば、微粒子化した形態の移植片は、微粒子物サイズ分けのために180μmおよび25μmのシーブを使用して生成され得る。上記微粒子化したまたは粉末化した移植材料は、開口部(例えば、縫合糸で閉じた腹部筋膜切開部)の上に拡げられ得るかまたは散布され得る。あるいは、上記微粒子化した組織は、溶液(例えば、生理食塩溶液)中で再構成され、流動性のまたは注射可能な材料として患者に投与される。例えば、上記微粒子化した移植材料は、可溶化/溶解され得、縫合糸で閉じた腹部筋膜切開部から4cm以内に注射され得る。
【0070】
本明細書で考察されるように、PTを含む上記移植材料は、平らなシートもしくはシート様形態として(例えば、膜形態において)、またはナノ粒子もしくは粉末(これは、微粒子化した形態といわれ得る)として提供され得る。用語「シート(sheet)」または「シート様(sheet-like)」とは、本明細書で使用される場合、ある材料の広く、比較的薄い表面または層に概して言及する。このようなシートは、比較的可撓性であり得るが、そうでなくてもよく、平らまたは厚みが均一であってもよいし、それらの表面にわたって厚みが変動してもよい。シートは、単一の滑らかな表面であってもよいし、メッシュ状であっても穴が開いていてもよい。上記微粒子化した形態は、上記被験体への移植または投与の前に、溶液(例えば、水または生理食塩溶液)中で再懸濁され得る。上記再懸濁し、微粒子化した形態または粉末は、スラッシュ(slush)もしくはスラリーとして言及され得る。
【0071】
実施形態において、PTを含む上記移植材料は、増強された機械的特性、機能性、および/または構造を上記移植材料に提供する組成物をさらに含み得る。例えば、上記組成物は、上記移植材料および/または弱ったもしくは損傷した組織、あるいは内因性細胞が集合して治癒を促進するための足場に対して、さらなる支持を提供し得る。別の例として、上記組成物は、上記移植片が、上記組成物を含まない移植片より長く持続し、従って、機械的力に起因する移植片の欠損を防止することを可能にし得る。このような組成物は、合成メッシュ、生物学的メッシュ、または組織足場を含み得る。種々の実施形態において、上記移植材料は、合成もしくは生物学的メッシュまたは組織足場との組み合わせにおいて、PT(例えば、PDT)を含む。さらなる実施形態において、上記PTは、合成もしくは生物学的メッシュまたは組織足場と一体化され得る。一体化されるとは、例えば、上記PT内に配置される、上記PTと連結される、および/または上記PTで層化もしくは被覆される、を含み得る。
【0072】
合成メッシュは、種々のモノマーの重合によって形成される人造の組成物(例えば、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、ポリフマル酸などを含む高分子、ならびにそれらの塩形態(例えば、ナトリウム塩およびカリウム塩)である。合成ポリマーの限定的な例は、シアノアクリレートを含む。上記合成メッシュは、ポリグラクチン(例えば、Vicrylメッシュ)、e-PTFE、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリグリコール(polyglycolic)、ポリエステル/コラーゲン、ポリプロピレン/PG910、ポリプロピレン/e-PTFE、ポリプロピレン/セルロース、ポリプロピレン/PVDF、ポリプロピレン/ヒアルロン酸ナトリウム、ポリプロピレン/ポリグレカプロン(polyglecaprone)、ポリプロピレン/チタン、ポリプロピレン/ω3、BioAなどを含み得る。例えば、Gillern, Suzanne, and Joshua IS Bleier. 「Parastomal hernia repair and reinforcement: the role of biologic and synthetic materials.」 Clinics in colon and rectal surgery 27.04 (2014): 162-171(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0073】
合成材料から作製されるメッシュは、編まれたメッシュまたは編まれていないシート形態において見出され得る。上記使用される合成材料は、吸収性、非吸収性または吸収性および非吸収性材料の組み合わせであり得る。
【0074】
生物学的メッシュは、移植されるデバイスとしての使用に適切であるように、処理済みの、架橋した、化学的に処理した、および/または殺菌した、胎盤でない哺乳動物組織(例えば、皮膚、膀胱、または腸)から作製され得る。上記生物学的メッシュは、吸収性であってもそうでなくてもよい。これらのメッシュ移植物を生成するために使用される組織の大部分は、ヒト、ブタ(pig)(ブタ(porcine))またはウシ(cow)(ウシ(bovine))供給源に由来する。生物学的メッシュは、生物学的組成物(例えば、無細胞真皮マトリクスまたは膀胱マトリクス)を含み得る。例えば、Gillern, Suzanne, and Joshua IS Bleier. 「Parastomal hernia repair and reinforcement: the role of biologic and synthetic materials.」 Clinics in colon and rectal surgery 27.04 (2014): 162-171(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。例えば、上記生物学的メッシュは、ヒトまたは動物起源の生きている組織であった、無細胞にされた、および架橋もしくは非架橋いずれかのタンパク質から構成されたメッシュを含み得る。上記生物学的メッシュは、部分的にまたは完全に再吸収され得る。
【0075】
生物学的メッシュはまた、天然のポリマーの重合によって形成され得る。天然のポリマーは、自然の中に存在し、抽出され得る(例えば、ポリサッカリドまたはタンパク質)。ポリサッカリドの非限定的な例は、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、アルギン酸(アルギネート)、ヒアルロン酸、デルマタン、デルマタン硫酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、キトサン、メラニン(およびその誘導体(例えば、ユーメラニン、フェオメラニン、および神経メラニン))、アガー、アガロース、ゲラン、ガムなど、ならびにそれらの塩形態(例えば、ナトリウム塩およびカリウム塩)を含む。タンパク質の非限定的な例は、コラーゲン、アルカリ性ゼラチン(alkaline gelatin)、酸性ゼラチン(acidic gelatin)、遺伝子組み換えゼラチンなどを含む。
【0076】
組織足場とは、構造的足場(例えば、生細胞が容易に集合し得る足場)として作用し得る組成物に言及する。用語「生細胞(viable cell)」とは、生きておりかつ成長、増殖、移動、および/または分化の能力がある細胞に言及し得る。例えば、組織足場は、コラーゲンマトリクスのようなマトリクスを含み得る。上記移植材料は、上記マトリクスと混合され得、その得られた混合物は、縫合糸で閉じた開口部の上に適用され得る(オーバーレイ)。いくつかの実施形態において、天然の組織(例えば、宿主被験体)に由来する細胞は、組織足場へと移動し得、上記移植片に容易に再集合し得る(および従って、治癒を促進し得る)。実施形態において、上記移植片は、移植前に、上記移植片に上記生細胞を再集合させるように、生細胞が播種され得る。
【0077】
実施形態において、上記移植材料は、非吸収性または実質的に非吸収性である。これは、無期限に身体の中に残り、かつ永久的な移植物とみなされる。それは、修復されたヘルニアに永久的な補強を提供するために使用される。
【0078】
他の実施形態において、上記移植材料は、吸収性または実質的に吸収性である。これは、時間を経て分解する。それは、修復部位に長期間の補強を提供することが意図されない。その材料が分解するにつれて、新たな組織成長が、その修復に強さを提供することが意図される。
【0079】
さらなる実施形態において、上記移植材料は、1またはこれより多くの治療剤および/または薬物因子をさらに含み得る(例えば、このような治療剤および/または薬物の持続放出または制御放出のため)。このような薬剤は、疾患の進行および/または症状(例えば、本明細書で記載される疾患および症状)を、防止および/または処置するために使用され得、移植片の移植の不要な副作用を防止、処置、および/または緩和するためにも使用され得る。移植(implantation)または移植(grafting)の不要な副作用の非限定的な例は、例えば、免疫応答の合併症、疼痛、感染症、炎症、または瘢痕化を含む。このような不要な副作用は、上記ポリマーまたは上記移植材料からの薬物および/または治療剤の持続放出、制御放出、局所放出を通じて、防止、処置または軽減され得る。例えば、本明細書で記載される移植材料は、少なくとも1種の抗生物質、少なくとも1種の抗炎症剤、ならびに/または少なくとも1種の鎮痛剤(analgesic)および/もしくは麻酔剤の添加を含み得、これは、感染を防止する、局所的な炎症を低減する、ならびに手術部位および/または移植部位の疼痛を減少させることができ、従って、例えば、症状軽減を提供し得る。
【0080】
上記移植材料(例えば、PT移植材料)を、治療剤および/または予防剤と混合する、組み合わせる、それで層化する、被覆する、および/またはそれと一体化することができ、上記治療剤および/または予防剤の持続放出を可能にする。このような薬剤の非限定的な例は、抗生物質、鎮痛薬、抗炎症剤、またはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0081】
「抗生物質」とは、細菌、真菌、または類似の微生物の増殖を制御する薬剤であって、ここで上記物質は、細菌もしくは真菌によって生成される天然の物質であり得るか、または化学的に/生化学的に合成された物質(これは、天然の物質のアナログであり得る)、あるいは天然の物質の化学的に改変された形態であり得るものに言及し得る。当業者は、上記足場が、広く種々の抗生物質(例えば、ペニシリン、セファロスポリン、マクロライド、フルオロキノロン、スルホンアミド、テトラサイクリン、アミノグリコシドなど)で被覆され得ることを認識する。
【0082】
「鎮痛薬(pain reliever)」とは、疼痛からの解放を提供し得る薬剤に言及し得る。鎮痛剤は、痛覚脱失(すなわち、疼痛からの解放)を達成するために使用される薬物群の任意のメンバーである。例えば、上記鎮痛剤は、ピラゾロン誘導体(例えば、(アンピロン、ジピロン、アンチピリン、アミノピリン、およびプロピフェナゾン)、アスピリン、パラセタモール、非ステロイド系抗炎症剤(例えば、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、またはナプロキセンナトリウム)、オピオイド(例えば、コデインリン酸塩、トラマドール塩酸塩、モルフィン硫酸塩、オキシコドン)、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。麻酔剤とは、麻酔を誘導する-言い換えると、疼痛の感覚または自覚の一時的喪失を生じるために使用される薬物群の任意のメンバーに言及する。麻酔剤の非限定的な例は、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン、ラロカイン、ピペロカイン、プロポキシカイン、プロカイン、ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン、アメソカイン、アルチカイン、ブピバカイン、シンコカイン、ジブカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、リグノカイン、メピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカイン(trimecaine)を含む。
【0083】
「抗炎症剤(anti-inflammatory)」とは、炎症および/または腫脹を処置するかまたはその重篤度を低減する物質に言及する。抗炎症剤の非限定的な例は、ステロイド系抗炎症剤(例えば、コルチコステロイド)および非ステロイド系抗炎症剤(例えば、アスピリン、セレコキシブ、ジクロフェナク、ジフルニサル、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、ナブメトン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダク、トルメチン)を含む。
【0084】
持続放出移植材料は、それらの制御されない対応物によって達成されるものよりも処置および/または症状軽減を改善するという一般的目的を有し得る。医療処置における最適に設計された持続放出調製物の使用は、最小限の時間量で上記状態を治癒する、制御する、および/またはその軽減を提供するために使用される最小量の薬物物質によって特徴づけられ得る。例えば、上記持続放出移植片は、1日間、1週間、2週間、3週間、4週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、またはより長い過程にわたって、ある薬物の量を放出し得る。持続放出製剤の利点としては、長期間の薬物活性、低減した投与頻度、および増大した患者コンプライアンスが挙げられる。さらに、持続放出製剤は、作用開始の時間または他の特性(例えば、血中薬物レベル)に影響を及ぼすために使用され得、従って、副(例えば、有害)作用の出現に影響を及ぼし得る。
【0085】
大部分の持続放出製剤は、所望の治療効果を即座に生じる薬物(活性成分)の量を最初に放出し、治療効果もしくは予防効果のこのレベルを長期間にわたって維持する薬物の他の量を徐々にかつ継続して放出するように設計される。この一定の薬物レベルを身体において維持するために、上記薬物は、代謝されかつ身体から排出される薬物量を置き換える速度で放出されなければならない。活性成分の持続放出は、pH、温度、酵素、水、または他の生理学的条件もしくは化合物が挙げられるが、これらに限定されない種々の条件によって刺激され得る。
【0086】
上記移植材料は、増殖因子(例えば、内因性増殖因子)、サイトカイン、ケモカイン、およびプロテアーゼインヒビターを含み得、これらのうちの多くは、線維芽細胞、内皮細胞、および幹細胞における傍分泌応答を刺激して、組織治癒および修復を促進するように機能し得る。以前の研究は、226を超える増殖因子、サイトカイン、ケモカイン、およびプロテアーゼインヒビターを特定し、これらのうちの多くは、線維芽細胞、内皮細胞、および幹細胞における傍分泌応答を刺激して、組織治癒および修復を促進するように機能した。さらに、これらの生体活性因子(上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子-4(FGF-4)、およびTGF-β1を含む)が、増殖、移動、ならびに線維芽細胞、内皮細胞、および種々の成体幹細胞(骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞および造血幹細胞を含む)による傍分泌因子の分泌を促進することは公知である。マウス皮下移植モデルでは、増大された造血幹細胞動員および増強された血管新生は、dHACM移植に応答して示された。これらの研究は、dHACMが、活性な増殖因子、および例えば、創傷環境において内因性細胞を調節することによって、生物学的活性を方向付けるかまたは補充する能力を保持する他の生体分子を含むことを示す。このような増殖因子の非限定的な例は、例えば、EGF、FGF-4、およびTGF-β1である。
【0087】
上記で紹介したように、本開示の局面は、筋膜治癒を促進する;ヘルニアの出現、発達、および/もしくはヘルニア再発を防止および/もしくは低減する;ならびに/あるいはヘルニア修復の失敗を防止するまたはヘルニア修復の失敗の発達を遅らせるために、被験体の中に移植材料を移植する方法に関する。このような局面は、ヘルニアに苦しんでいる被験体およびヘルニアを発達させるリスクにある被験体に特に適用可能であり得る。
【0088】
用語「被験体」または「患者」とは、本開示の局面が、例えば、実験、診断、予防、および/または治療目的で投与され得る任意の生物に言及し得る。本開示の化合物が投与され得る代表的な被験体は、哺乳動物、特に霊長類、特にヒトである。獣医学的適用に関しては、広く種々の被験体が適切である(例えば、ウシ(cattle)、ヒツジ、ヤギ、ウシ(cow)、ブタなどのような家畜;ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウなどのような家禽;ならびに飼い慣らされた動物、特に、イヌおよびネコのようなペット)。診断または研究適用に関しては、広く種々の哺乳動物が適切な被験体である(齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター)、ウサギ、霊長類、およびブタ(例えば、同系交配したブタなど)が挙げられる)。用語「生きている被験体」とは、上記で注記した被験体または生きている別の生物に言及する。用語「生きている被験体」とは、被験体または生物全体に言及し、生きている被験体から切除された部分のみ(例えば、肝臓または他の器官)には言及しない。
【0089】
ヘルニアを発達させるリスクのある被験体とは、一般的な集団に由来する年齢および性別をマッチさせた個体の平均リスクより実質的に高いヘルニアを発達させるリスクを有する被験体に言及する。例えば、Ahn, Byung-Kwon. 「Risk Factors for Incisional Hernia and Parastomal Hernia after Colorectal Surgery.」 Journal of the Korean Society of Coloproctology 28.6 (2012): 280(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0090】
例えば、ヘルニアを発達させるリスクのある被験体は、肥満である、感染症(例えば、手術部位感染症、腹腔内感染症、深部組織感染症、または表在性腹部感染症)に罹患した、腸切除を受けた、結腸手術を受けた、コルチコステロイドを投与中である、喫煙する、慢性閉塞性肺疾患を有する、栄養不良、糖尿病、免疫抑制、貧血、低タンパク質血症、性別が男性、高齢、腹圧が増大している(例えば、咳、嘔吐、膨満、および腹水)、または任意の組み合わせである被験体を含み得る。例えば、ヘルニアを発達させるリスクのある被験体としては、腹壁の外科的切開を受けている被験体、先天性ヘルニアを有する被験体、および/またはヘルニアに罹りやすくする活動(例えば、スポーツヘルニアまたは過剰な咳)に関与する被験体が挙げられる。
【0091】
瘢痕ヘルニアの場合に、本明細書で記載される方法は、切開を必要とする手順の間に行われ得る。腹壁における切開を必要とする手順の場合、本明細書で記載される方法は、切開が行われた後に行われ得る。上記方法は、切開を閉じる前または切開を閉じた後に行われ得る。
【0092】
上記移植材料を移植する工程は、上記材料と上記腹壁における開口部とを整列させ得る。これは、上記移植材料がシートまたはシート様組成物として提供される場合に特に適切であり得る。例えば、上記移植材料は、上記開口部(例えば、外科的切開部)を概して反映するような位置において、概して配置されるかまたは配列され得る。従って、上記移植材料は、外科的切開部の治癒(例えば、腹部筋膜縁部の治癒)を促進し得る。
【0093】
1つの実施形態において、上記移植材料を移植する工程は、治癒を促進するために、上記組織に上記移植材料を能動的に貼付することを必ずしも含まなくてもよいが、代わりに、上記移植材料は、上記開口部と接触した状態でまたは近接してオーバーレイまたはアンダーレイとして配置され得る。例えば、上記移植材料は、腹壁開口部の上にまたは腹壁開口部に対して腹側に移植され得るので、上記開口部の治癒を促進し得る。他の実施形態において、上記移植材料は、腹壁開口部に対して表面に移植され得るので、上記開口部の治癒を促進し得る。特定の実施形態において、PTを含む移植材料(例えば、dHACMまたは他のPDT)は、縫合糸で閉じた腹部筋膜切開部の上に直接配置され(オーバーレイ)、上記dHACMまたは他のPDTは、固定されない。次いで、皮下脂肪および皮膚は、上記移植材料を覆って閉じられる。
【0094】
代替の実施形態において、上記移植材料またはその一部は、上記開口部(例えば、上記腹壁における開口部)に係留され得る。上記移植材料は、当業者に公知の留め具によって(例えば、圧力、接着剤(例えば、フィブリン接着剤)、クリップ、タック、縫合糸、ステープル、またはスクリューによって)上記組織開口部に係留され得る。例えば、上記移植材料は、腹壁開口部の下に、腹壁開口部に対して深部に、または腹壁開口部に対して背側に、例えば、縫合糸によって移植される。
【0095】
実施形態において、上記開口部(例えば、腹壁開口部)は、上記移植材料を移植する前に、実質的にまたは完全に閉じられ得る。特定の実施形態において、dHACMまたは他のPDTは、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで、縫合糸で閉じられた腹部筋膜切開部の下に固定される(アンダーレイまたはサブレイ(sublay))。次いで、皮下脂肪および皮膚は、上記切開部を覆って閉じられる。
【0096】
外科用メッシュ(例えば、合成メッシュまたは生物学的メッシュ)は、ヘルニア修復の現在利用可能なツールである;しかし、術後合併症の危険をはらんでいる。一般的な合併症としては、感染症、疼痛、癒着、漿液腫メッシュ押し出し(seroma mesh extrusion)およびヘルニア再発が挙げられる。メッシュ移植の合併症の低減は、ヘルニアが米国で年間数十万人もの患者において起こることを考慮すれば、最も重要である。従って、一実施形態において、上記開口部は、外科用メッシュで閉じられ、上記移植材料は、上記組織の治癒を促進し、不要な副作用を低減するために、上記外科用メッシュの上に配置もしくは貼付されるか、または上記外科用メッシュの下面に貼付される(「アンダーレイ」)。特定の実施形態において、ヘルニア欠陥は、合成メッシュで閉じられ、dHACMまたは他のPDT(無傷のシート、微粒子化した形態、もしくは粉末形態、またはこれらの組み合わせのいずれかとして)は、上記メッシュが上記筋膜と境界をなす領域の上に、または上記メッシュが上記筋膜と境界をなす領域の下に、または上記メッシュが上記腹腔およびその内容物(例えば、大腸/小腸/他の腹腔内器官(例えば、肝臓、胃、脾臓))と境界をなす領域の下に配置される。上記dHACMまたは他のPDTは、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで固定されてもよいし、されなくてもよい。次いで、皮下脂肪および皮膚は、上記dHACMまたは他のPDTおよびメッシュを覆って閉じられる。
【0097】
別の実施形態において、上記開口部(例えば、上記腹壁開口部)は、上記移植材料を移植した後に、実質的にまたは完全に閉じられ得る。例えば、上記移植材料は、上記開口部の下に配置または貼付され得、次いで、上記開口部は、実質的にまたは完全に閉じられ得、それによって、上記移植材料が上記組織の治癒を促進することを可能にし得る。
【0098】
ヘルニア修復の破綻は、再発性ヘルニアと称される。膨隆が、以前のヘルニアの部位またはその近くに再び起こる。再発性ヘルニアは、その後の修復の複雑さを大きく増大させる。処置されないままであれば、重篤な合併症が生じ得る(例えば、腸が閉じ込められる(嵌頓ヘルニア、消化管閉塞(digestive obstruction)として公知)、または腸への血液供給が失われる(絞扼性ヘルニアとして公知))。従って、本開示の局面は、ヘルニア再発を防止する方法に関する。
【0099】
本明細書で記載されるように、PTを含む移植材料は、瘢痕ヘルニア率を有意に低減するために利用され得る。例えば、腹腔切開術およびストーマ手術後にヘルニアを発達させるリスクが高かった10名のヒト被験体における実施形態を試験すると、PTは、全ヘルニアの発達を完全に防止した(0%のヘルニア形成)(以下の実施例10を参照のこと)。
【0100】
本開示のより完全な理解を促進するために、本明細書で実施例が提供される。実施例は、実験の検証、ならびに本開示を作製および実施する例示的様式を例証する。しかし、本開示の範囲は、これらの実施例で開示される具体的実施形態に限定されず、これらの実施例は、例証目的に過ぎない。なぜなら代替の方法が類似の結果を得るために利用され得るからである。
【実施例
【0101】
実施例1: PTシート
【0102】
1またはこれより多くのPTシートを含む移植材料を、以下の適用において使用し得る。上記PTは、処理済みもしくは非処理の羊膜、絨毛膜、臍帯静脈、ウォートンゼリー、またはこれらの組み合わせ(例えば、dHACM、凍結保存した臍帯および羊膜もしくは膜マトリクス、処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、ならびに処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜など)を含み得る。上記1またはこれより多くのPTシートは、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで固定されてもされなくてもよい。次いで、皮下脂肪および皮膚を、上記PT移植材料を覆って閉じ得る。いくつかの実施形態において、上記PT移植材料は、dHACMまたは本明細書で開示される任意の他のPDTを含む。
【0103】
1つの適用において、上記PT移植材料を、縫合糸で閉じられた腹部筋膜切開部の上に直接配置し得る(オーバーレイ)。
【0104】
別の適用において、上記PT移植材料を、縫合糸で閉じられた腹部筋膜切開部の下に、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで固定する(アンダーレイまたはサブレイ)。
【0105】
別の適用において、上記PT移植材料を、任意の手術用デバイスで完全には閉じられなかった腹部筋膜欠陥の上に直接配置し得る(オーバーレイ)。このような欠陥としては、ストーマ、オストミー、外科用ドレーン、栄養管などのための腹壁開口部が挙げられる。
【0106】
別の適用において、上記PT移植材料を、任意の手術用デバイスによって完全に閉じられたかまたは完全には閉じられなかったヘルニア欠陥の上に直接配置し得る(オーバーレイ)。
【0107】
別の適用において、上記PT移植材料を、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで、ヘルニア欠陥の下で固定し得(アンダーレイまたはサブレイ)。次いで、そのヘルニア欠陥を閉じる。
【0108】
実施例2: 微粒子化したまたは粉末化したPT
【0109】
移植材料は、微粒子化したまたは粉末化したPTを含む。上記PTは、処理済みもしくは非処理の羊膜、絨毛膜、臍帯静脈、ウォートンゼリー、またはこれらの組み合わせ(例えば、dHACM、凍結保存した臍帯および羊膜もしくは膜マトリクス、処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、ならびに処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜など)を含み得る。上記PT移植材料を、縫合糸で閉じられた腹部筋膜切開部の上に拡げるかまたは散布する。次いで、皮下脂肪および皮膚を、上記PT移植材料を覆って閉じる。1つの例において、上記PT移植材料は、微粒子化したもしくは粉末化したdHACMまたは任意の他のPDT(例えば、本明細書で記載されるもの)を含む。
【0110】
実施例3: 可溶化したまたは溶解したPT
【0111】
可溶化したまたは溶解したPTを含む移植材料を、以下の適用において使用し得る。上記PTは、処理済みもしくは非処理の羊膜、絨毛膜、臍帯静脈、ウォートンゼリー、またはこれらの組み合わせ(例えば、dHACM、凍結保存した臍帯および羊膜もしくは膜マトリクス、処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、ならびに処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜など)を含み得る。1つの例において、上記PTは、可溶化した/溶解したdHACMまたは任意の他のPDT(例えば、本明細書で記載されるもの)を含む。
【0112】
1つの適用において、PT移植材料を、例えば、縫合糸で閉じられた腹部筋膜切開部の約4cm以内に注射する。次いで、皮下脂肪および皮膚を、上記切開部を覆って閉じ得る。
【0113】
別の適用において、可溶化した/溶解したPTを、コラーゲンマトリクスと混合する。その得られた混合物を、縫合糸で閉じられた腹部筋膜切開部の上に適用し得る(オーバーレイ)。次いで、皮下脂肪および皮膚を、上記混合物を覆って閉じ得る。
【0114】
実施例4: PT合成メッシュ
【0115】
1またはこれより多くの無傷のシート、微粒子化した形態、粉末形態、またはこれらの組み合わせの形態にあるPTを含む移植材料を、以下の適用において合成メッシュとともに使用し得る。上記PTは、処理済みもしくは非処理の羊膜、絨毛膜、臍帯静脈、ウォートンゼリー、またはこれらの組み合わせ(例えば、dHACM、凍結保存した臍帯および羊膜もしくは膜マトリクス、処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、ならびに処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜など)を含み得る。1つの例において、上記PTは、dHACMまたは任意の他のPDT(例えば、本明細書で記載されるもの)を含み得る。適用において、ヘルニア欠陥を、合成メッシュで閉じ、上記PT移植材料を、上記メッシュが筋膜と境界をなす領域の上に配置する。
【0116】
別の適用において、ヘルニア欠陥を合成メッシュで閉じ、上記PT移植材料を、上記メッシュが筋膜と境界をなす領域の下に配置する。
【0117】
別の適用において、ヘルニア欠陥を縫合糸で閉じ、合成メッシュで補強する(オンレイまたはオーバーレイ)。上記PT移植材料を、上記メッシュが筋膜切開ラインと境界をなす領域の上に配置する。
【0118】
別の適用において、上記PT移植材料および合成メッシュを、ヘルニア欠陥を修復または処置するためよりむしろ、ヘルニアの出現またはヘルニアの発達を低減または防止するために、上記の適用のうちのいずれかに記載されるように使用し得る。例えば、ヘルニアを有しない患者は、腹部に銃創を示し得る。開腹術は、上記患者が、緊急時、肥満、血液喪失などに起因して、ヘルニア形成のリスクが高いと決定される場合に行われ得、上記PT移植材料および合成メッシュを、ヘルニア形成を防止するために同時に使用する。1つの例において、上記患者は、ヘルニアを発達させるリスクが高いと決定される。
【0119】
上記の適用において、上記PT移植材料は、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで固定されてもされなくてもよい。次いで、皮下脂肪および皮膚を、上記PT移植材料を覆って閉じる。
【0120】
実施例5: PT生物学的メッシュ
【0121】
PTを含む移植材料を、生物学的メッシュとともに利用し得る。上記PTは、1またはこれより多くの無傷のシート、微粒子化した形態、粉末形態、またはこれらの組み合わせを含み得る。上記PTは、処理済みもしくは非処理の羊膜、絨毛膜、臍帯静脈、ウォートンゼリー、またはこれらの組み合わせ(例えば、dHACM、凍結保存した臍帯および羊膜もしくは膜マトリクス、処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、処理済みおよび/もしくは非処理の臍帯、ならびに処理済みおよび/もしくは非処理の羊膜および/もしくは絨毛膜など)を含み得る。1つの例において、上記PTはまた、dHACMまたは任意の他のPDT(例えば、本明細書で記載されるもの)を含み得る。
【0122】
1つの適用において、ヘルニア欠陥を、生物学的メッシュで閉じる。上記PT移植材料を、上記メッシュが筋膜と境界をなす領域の上に配置し得る。上記PT移植材料は、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで固定されてもされなくてもよい。次いで、皮下脂肪および皮膚を、上記PT移植材料を覆って閉じる。
【0123】
別の適用において、ヘルニア欠陥を生物学的メッシュで閉じる。上記PT移植材料を、上記メッシュが筋膜と境界をなす領域の下に配置する。上記PT移植材料は、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで固定されてもされなくてもよい。
【0124】
別の適用において、ヘルニア欠陥を、縫合糸で閉じ、生物学的メッシュで補強する(オンレイまたはオーバーレイ)。上記PT移植材料を、上記メッシュが筋膜切開ラインと境界をなす領域の上に配置する。上記PT移植材料は、縫合糸、ステープル、スクリュー、または他の固定デバイスで固定されてもされなくてもよい。次いで、皮下脂肪および皮膚を、上記PT移植材料を覆って閉じる。
【0125】
別の適用において、上記PT移植材料および生物学的メッシュを、ヘルニア欠陥を修復または処置するためよりむしろ、ヘルニアの出現またはヘルニアの発達を防止または低減するために、上記の適用のうちのいずれかに記載されるように使用し得る。例えば、ヘルニアを有しない患者は、腹部に銃創を示し得る。開腹術は、上記患者が、緊急時、肥満、血液喪失などに起因して、ヘルニア形成のリスクがあると決定される場合に行われ得、上記PT移植材料および生物学的メッシュを、ヘルニア形成を防止するために同時に使用する。1つの例において、上記患者は、ヘルニアを発達させるリスクが高いと決定される。
【0126】
実施例6: 併用PT介入
【0127】
上記の実施例1~5および本明細書中の他の箇所で記載される方法論は、網羅的ではない。なぜなら種々の方法論が組み合わせて使用され得るからである。例えば、溶解した/可溶化したPTを、切開部にまたはその近くに注射し得、微粒子化したおよび/または粉末化したPTを、切開部(例えば、腹部筋膜切開部)、合成メッシュ、または生物学的メッシュの上に拡げ得るかまたは散布し得る。本明細書で記載される方法論は、予防的にまたはヘルニア修復に関して適用され得る。例えば、上記PT移植材料を、予防的に利用して、後に起こるヘルニアの出現またはヘルニアの発達を防止または制限し得る。上記PT移植材料を、元のまたは再発性のヘルニア修復においても利用して、ヘルニアの再発または再発性ヘルニアの発達を防止または制限し得る。
【0128】
実施例7
【0129】
二重盲検の前向き無作為コントロール試験(RCT)を使用して、検証済みの急性IHモデルを使用して、dHACMを含むPT移植材料が、IHの出現および/または発達を予防的に防止または低減する能力を試験した。そのモデルは、およそ83%のヘルニア率と関連する。
【0130】
方法: その試験のために、400グラム、20週齢の雄性Sprague-Dawleyラットを、4つの処置群のうちの1つに無作為化した(N=10/群):
1)微粒子化した注射用dHACM(dHACM注射)、
2)生理食塩水注射、
3)dHACMシート(dHACMシートオーバーレイ)(Amniofix(登録商標), Mimedx Group, Inc, Marietta, GA)、
4)コントロール(処置なし)。
【0131】
各ラットは、5cmの正中開腹切開を受容し、例示的な切開(続いて、閉じる)を図1に提供する。切開および閉鎖を、群割り当てに対して盲検化した外科医が行った。その切開部を、5-0プレーンガット縫合糸×3で、結節縫合で閉じた。別個の外科医が介入を施した。
【0132】
使用した主要エンドポイントは、群割り当てに対して盲検化した外科医によって術後(POD)28日目に測定したIH形成であった。IHサイズをまた、主要エンドポイントとして使用した。二次エンドポイントは、以下を含んだ: 筋膜引張り強さ、コラーゲンI/IIII比、血清炎症マーカー、および組織炎症マーカー発現。
【0133】
結果: 全体として、34匹のラットのうちの26匹(76.4%)は、IHを発達させた。図2を参照すると、dHACMシートのみが、IH形成を有意に低減した(62.5% 対 87.5% コントロール; p=0.04)。図3を参照すると、dHACMシートは、IHサイズ/直径を減少させた(6.9mm 対 14.4mm コントロール; p=0.04)。
【0134】
二次エンドポイントは、群間での統計的有意差が示されなかった。しかし、引張り強さは、シート群においてより強い傾向にあった(1.02N/mm 対 0.89N/mm コントロール; p=0.33)。血清CRPおよびIL-6レベルはまた、シートでより高い傾向にあったが、組織IL-6は、シートでより低い傾向にあった。
【0135】
これらの研究は、dHACMシートがヘルニア率を有意に低減し、実際に形成するヘルニアがPT介入処置なしで起こるものより小さいことから、PT移植材料が、発達を予防的に防止するかまたはIH形成の出現およびサイズを低減することを示す。
【0136】
実施例8
【0137】
以前に検証したラットモデルにおいて急性IHを防止するPTの二重盲検化した前向き無作為コントロール試験(RCT)を行った。試験のために使用したPT移植材料は、dHACMであった。dHACMは、2つの形態で入手可能である: 移植用シートおよび微粒子化した注射物。従って、介入およびマッチするコントロールの群は、以下であった:(A)処置なし 対 シート、および(B)生理食塩水 対 注射。
【0138】
方法: 全手順を、施設内動物管理使用委員会および施設内倫理委員会に従い、承認を受けて行った。本発明者らの研究において使用したラットIHモデルは、急性IHのモデルとして以前に検証されている(Franz MG. Kuhn MA, Nguyen K, ら. 「Transforming growth factor beta 2 lowers the incidence of incisional hernias.」 J Surg Res. 2001;97:109-116; Korenkov, M. ら. 「Local administration of TGF-β1 to reinforce the anterior abdominal wall in a rat model of incisional hernia.」 Hernia. 2005;9:252-258; Islam KN, Bae JW, Gao E, ら. 「Regulation of nuclear factor κB (NF-κB) in the nucleus of cardiomyocytes by G protein-coupled receptor kinase 5 (GRK5).」 J Biol Chem. 2013;288(50):35683-9)。
【0139】
体重400gの40匹の16週齢の雄性Sprague-Dawleyラット(Charles River)を、2週間にわたって実験条件に順応させた。ラットの飼料および水を、自由に提供した。各動物を、4つの外科手術処置のうちの1つ(N=10/処置)へと無作為化した(Research Randomizer Version 4.0): 1)シート: 5cm×1cm dHACMシートを、腹腔切開術の切開部にオーバーレイ、2)処置なし、3)注射: 10mg 微粒子化したdHACMを1mL 滅菌生理食塩水に溶解し、切開する前に筋膜切開部に沿って注射、または4)生理食塩水: 1mL 滅菌生理食塩水を、切開する前に筋膜切開部に沿って注射。
【0140】
二重盲検デザインを使用した。腹腔切開術および筋膜修復を行う外科医には、割り当てた処置を知らせなかった。介入を、第2の外科医が施した。ヘルニア形成および他の実験エンドポイントの評価を、処置を知らない個人が行った。
【0141】
麻酔を誘導し、ノーズコーンを介してイソフルランで維持した。腹部を、電気バリカンで毛刈りすることによって準備し、70% イソプロピルアルコール中の2% クロルヘキシジングルコン酸塩(Chloraprep)で殺菌した。全ての外科手術手順を、無菌技術を使用して行った。6cm 傍正中切開を、正中線に対して2cm側方に行った。皮弁を、無血管の前筋膜面(avascular prefascial plane)を解剖することによって引き上げ、白線を露出させた。次いで、5cm 腹腔切開術による切開を、下にある構造に傷を付けないように注意しながら行った。1mg/kgでのBuprenex SRの腹腔内用量を、痛覚脱失のために与えた。次いで、筋膜を、腹腔切開術による切開部にわたって等間隔に3箇所の5-0プレーンガット縫合糸での結節縫合を使用して閉じた。
【0142】
次いで、第2の外科医が、上記で詳述するように処置を行った。皮膚切開部を、内臓が飛び出すリスクを最小限にするために、3-0ナイロン連続輪止め縫合を使用して閉じた。その動物を、新しい清浄なケージの中で麻酔から回復させ、歩行が観察されるまで動物収容ユニットへと戻さなかった。術後、予防的スルファメトキサゾール/トリメトプリムを、160mg/36mgにおいて7日間経口で与えた。動物を、試験スタッフおよび獣医スタッフの両方が、術後第1週の間は毎日、および術後2~4週目の間は2週間に1回、不快感、病気、および内臓の飛び出し(evisceration)またはIHのような切開による合併症の発達に関してモニターした。
【0143】
術後(POD)28日目に、生存しているラットを、二酸化炭素を介して安楽死させた。腹側の腹壁を切開し、筋膜の腹膜表面および皮下表面を、IH形成に関して調べた。ヘルニア形成を、筋膜における2mm最小開口部として定義した。次いで、筋膜を、引張り強さ試験のための4cm幅の1枚のストリップおよび分子分析および組織学分析のために0.5cm幅の2枚のストリップに分けた(図11)。その4cmのストリップおよび1枚の0.5cmのストリップを即座に、それぞれ、張力測定試験および分子分析まで-80℃で貯蔵した。その残りの0.5cmのストリップを、組織学分析に為に10% ホルマリン中で固定した。サンプル調製、データ収集、および分析を、処置を知らない試験スタッフが行った。
【0144】
張力測定試験を行った。標本を、これらが室温(23℃)に達するまで、通常生理食塩水中で解凍した。腹腔切開術瘢痕および任意のヘルニアを含む腹壁のセグメントを、鋸歯状の面を有する空気式バーサグリップ(pneumatic versa grip)(Instron, Canton, MA)で15mm(白線の各側から7.5mm)離してクランプした。そのグリップの一方を、材料試験システム(8841 Dynamite, Instron)のロードセルに取り付けた。引っ張り荷重は、腹腔切開術瘢痕の方向に対して直交であった。サンプルに、矢状軸に沿って60秒間、1Nのインサイチュプレテンション(pretension)をかけた。次いで、サンプルを、変位制御によって0.5mm/秒で適用した10サイクルの6%垂直ひずみでプレコンディショニングした。プレコンディショニング後、1N 予荷重を60秒間にわたって再び適用し、次いで、サンプルに、変位制御下で、1サイクルにおいて10mm/秒で破損するまで負荷をかけた。荷重変位データ(load displacement data)を、10Hzで記録した。サンプルを、試験プロセスにわたって規則的な間隔で通常生理食塩水で湿らせた。張力負荷を、高精細度デジタルカメラ(Alpha 6500, Sony)で、デジタルで記録した。組織破損を、正中瘢痕の目に見える断裂として定義し、最大の記録された張力と相関した。1サンプルあたりの引張り強さを、サンプルの横断面積に対して正規化した。
【0145】
リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)、腹腔切開術周囲の瘢痕組織を分析して、炎症マーカーであるIL-6、メタロプロテイナーゼ(MMP)1および13の発現レベルを決定した。RNAを、ラットの腹腔切開術周囲の瘢痕組織から、Trizol RNA単離を介して調製した。
【0146】
サンプル濃度および純度を、NanoDrop(Thermo Fisher)を使用して評価した。全てのRT-qPCRを、QuantiTect SYBR Green RT-PCR Kit(QIAGEN)を使用して、iCycler(Bio-Rad)で行った。RNAを、10ng/反応という最終インプットになるように希釈した。サンプルに、10nM フルオレセイン(Sigma)を添加し、反応を、以下のプライマー配列とともに行った: IL-6(順方向 5’-ACTTCACAAGTCGGAGGCTT-3’; 逆方向 5’- AGTGCATCATCGCTGTTCAT-3’)、MMP 1(順方向 5’- GGAACAGATACGAAGAGGAAACA-3’; 逆方向 5’-TGTTTCCTCTTCGTATCTGTTCC-3’)およびMMP 13 (順方向 5’-TCTGCACCCTCAGCAGGTTG-3’; 逆方向 5’- CAACCTGCTGAGGGTGCAGA-3’); β-アクチン(順方向 5’-AGCCATGTACGTAGCCAT-3’; 逆方向 5’- CTCTCAGCTGTGGTGGTGAA-3’)。2ΔΔ サイクル閾値(Ct)を、分析のために使用した。
【0147】
POD 2および5で、200~300μL 血漿を、尾静脈または伏在静脈の瀉血を介して各ラットから集めた。麻酔下で収集を行って、急性IH、皮膚切開部離開、および内臓の飛び出しを誘導するリスクを低減した。炎症マーカーであるC反応性タンパク質(CRP)およびインターロイキン-6(IL-6)の血漿レベルを、ELISA(CRP: MyBiosource, カタログ番号MBS2508830; IL-6: MyBiosource, カタログ番号MBS 355410)を使用して定量した。
【0148】
腹腔切開術周囲の瘢痕組織のコラーゲンIおよびIIIレベルの半定量的分析を、ウェスタンブロットによって行った。コラーゲンを、瘢痕組織の0.5×0.5cm領域から抽出した。切り刻んだ組織を、150mM NaCl、50mM Tris-HCl(pH7.5)、1% SDS、1% nonidet p40、およびデオキシコール酸ナトリウムを含む緩衝液中で、2時間氷上で撹拌し、10分間遠心分離した。コラーゲンを含む上清を、コラーゲンI、コラーゲンIII(Abcam)、およびGAPDH(Santa Cruz Biotechnology)に対して特異的な抗体を使用するイムノブロッティングによって分析した。GAPDHを、ローディングコントロールとして使用した。タンパク質バンドの画像を可視化し、赤外線画像化システム(Odyssey)によってスキャンした。Image J(NIHで開発された画像処理ソフトウェア)を、スキャンした画像の定量のために使用した。
【0149】
カテゴリー変数を、χ2検定(SPSS)を使用して統計的有意性(p<0.05)に関して分析した。連続変数を、独立t検定(SPSS)を使用して、統計的有意性(p<0.05)に関して分析した。
【0150】
結果:全体で、40匹のラットのうちの34匹(85%)が、POD 28(実験エンドポイント)まで生存した。全6症例の死亡原因は、最初の5 POD以内での内臓の飛び出しであった。死亡率の数字は、処置間で有意差はなかった; 群A:シートおよび処置なしにおいて各々2匹の動物、ならびに群B:注射および生理食塩水において各々1匹の動物。
【0151】
主要エンドポイント:ヘルニア形成およびサイズに関して、全体的に、ラットのうちの79.4%(34匹のうちの27匹)がIHを発達させた(図5)。群Aでは、シート介入は、IH率を、処置なしコントロールにおける87.5%に対して62.5%へと有意に低減した(RR=0.71, p=0.039)。群Bでは、注射および生理食塩水は、同一のIH率(両方に関して77.8%)を生じた。群Aでは、平均ヘルニア直径は、処置なしコントロール(14.4mm±8.3mm; p=0.037, 図6)に対して、シートにおいて有意に低減した(6.9mm±6.01mm)。群Bでは、平均ヘルニア直径は、注射(11.67mm±8.78mm)と生理食塩水(10.22mm±6.67mm)との間では有意差がなかった。
【0152】
筋膜瘢痕の引張り強さを、筋膜が断裂し始めた1mmあたりの負荷として定義した(図7, パネルA)。群Aまたは群Bのいずれにおいても、処置間で引張り強さに統計的有意差は特定されなかった(図7, パネルB)。
【0153】
POD 28での筋膜瘢痕における炎症マーカーであるIL-6、MMP 1、MMP 13の発現レベルを、RT-qPCRによって測定した。群Aまたは群Bのいずれにおいても、処置間で統計的有意差は特定されなかった(図8)。
【0154】
炎症マーカーであるIL-6およびCRPの血漿レベルを、POD 2および5で測定した。群Aまたは群Bのいずれでも、いずれの時点でも、処置間で統計的有意差は特定されなかった(図9)。
【0155】
腹腔切開術瘢痕におけるコラーゲンIおよびIIIレベルのウェスタンブロットは、群Aまたは群Bのいずれにおいても、処置間で統計的有意差がないことを明らかにした(図10)。平均コラーゲンI/III比±SDは、以下であった: 処置なし 1.02±0.51 対 シート 1.67±2.16(群A)および生理食塩水 1.18±0.51 対 注射 1.45±1.36(群B)。
【0156】
このモデルを使用する以前の研究と一致して、この試験における非処置の動物のうちの87.5%が、IHを発達させた。この試験において、(dHACM)を含むPTシートで処置した動物は、28.5%の相対的リスク低減を獲得した。さらに、IHが形成した場合、その発達が制限され、ここでそのIHは、PT処置動物において77.0%小さかった(図6)。これは、注記すべきである。なぜならIHが大きいほど、修復はより困難であり、再発する可能性がより大きいからである。腹腔切開術瘢痕の分子特徴付けは、PT処置した瘢痕が、より大きな引張り強さ、より低い炎症マーカー、および改善されたコラーゲンI/III比に向かう傾向があったことを示す(図7、8、10)。まとめると、これらの肉眼データおよび分子データは、dHACMシートを含むPT移植材料が、瘢痕ヘルニア形成の出現および発達を低減することを示し、IHの新規で、安全なかつ効果的な予防的介入としての使用のためのPDTシートの使用を裏付ける。
【0157】
dHACM処置した筋膜瘢痕の本発明者らの分子特徴付けは、増大したより大きな引張り強さ、より低い炎症マーカー、および改善されたコラーゲンI/III比に向かう傾向があることを示した(図7、8、10)。筋膜の弱さの分子的な根拠は、エーラス-ダンロス症候群のような結合組織障害を有する患者における上昇したIH率に基づいて、コラーゲン代謝の欠陥として以前に特徴づけられた。いくらかの著者は、より低いコラーゲンI/III比が、ヘルニア関連筋膜に関連することを報告した。これは、治癒した筋膜組織が未熟であることおよび組織崩壊を示す。本発明者らの研究において、筋膜コラーゲンI/IIIタンパク質比は、dHACM処置した筋膜と処置されていない治癒した筋膜との間で有意差がなかった。この研究は、POD 28で採取した筋膜を試験した。理論によって束縛されることは望まないが、治癒プロセスにおいてより早期の筋膜の力学を調査すると、処置アーム間でのより大きな有意差を認めた可能性がある。以前の研究では、大部分の観察されたヘルニアは、POD 7までに起こった。例えば、Xingらは、ヒト羊膜由来前駆細胞で刺激した腹壁における破断強さが、POD 7でコントロールと比較した場合に増大するが、POD 14および28では増大しないことを見出した(Xing L, Franz MG, Marcelo CL, ら. 「Amnion-derived multipotent progenitor cells increase gain of incisional breaking strength and decrease incidence and severity of acute wound failure.」 J Burns Wounds. 2007;7:e5)。しかし、他の著者は、より遅い術後時間で引張り強さの持続性の増大を報告した(例えば、Tyrone JM, Marcus JR, Bonomo SR, ら. 「Transforming Growth Factor Beta 3 Promotes Fascial Wound Healing in a New Animal Model.」 Arch Surg. 2000;135:1154-1159を参照のこと)。
【0158】
実施例9
IHの出現および発達の低減に関するPT移植材料のより広い適用可能性を確認するために、4つのさらなるPT移植材料群を、実施例7および8に記載されるように、ラットモデルを使用して試験した。処置群は、以下を含んだ: 群A:凍結保存した臍帯および羊膜マトリクス(Neox 100(登録商標), Amniox Medical Inc., Miami, FL); 群B:未分離の羊膜および絨毛膜と無傷の中間層とから構成される3層の脱水した胎盤由来組織(AmnioWrap2TM, Direct Biologics LLC, St. Louis, MO); 群C:凍結保存した臍帯および羊膜(Neox Cord 1K(登録商標), Amniox Medical Inc., Miami, FL);および群D:脱水した3層の羊膜および絨毛膜(NuShield(登録商標), Organogenesis Inc., Canton MA)。
【0159】
結果: ラットモデルにおけるIH出現の割合は、コントロール群において観察された87.5%(n=8)(実施例7)と比較して、有意に低減され、dHACMシートで観察された62.5%(n=8)低減(実施例7)と一致した。具体的には、50%(n=8) IH出現が、群Aのラット(凍結保存した臍帯および羊膜マトリクス)において観察された;50%(n=6) IH出現が、群Bのラット(未分離の羊膜および絨毛膜と無傷の中間層とから構成される3層の脱水した胎盤由来組織)において観察された;50%(n=4) IH出現が、群Cのラット(凍結保存した臍帯および羊膜)において観察された;そして57.1%(n=7) IH出現が、群Dのラット(脱水した3層の羊膜および絨毛膜)において観察された。IH発達(サイズ)はまた、コントロールにおいて観察された14.4mm±8.3mm(実施例7)と比較して、IHが起こったラットにおいて有意に低減され、dHACMシートで観察された6.9mm±6.0mm(実施例7)と一致するヘルニアのサイズを有意に制限した。具体的には、観察されたヘルニアサイズは、以下のとおりであった: 群A:7.0mm±2.7mm; 群B:8.7mm±1.7mm; 群C:11.0mm±2.7mm;および群D:7.5mm±2.1mm。これらの所見は、全ての試験したPT移植材料の移植が、コントロールにおける87.5%から50~60%へと、匹敵する割合でIH形成を低減することを証明する。IHが形成した場合、その平均サイズは、全てのPT群においてより小さく、ヘルニアを、コントロールにおける14.4mmから、Neox 1K(平均11.0mm)を除いて全PDTの6.9~8.7mmへと低減した。
【0160】
実施例10
【0161】
実施例7および8は、試験したPT dHACMシートが、実施例9において証明されるように、他のPTと一致する様式で、動物モデルにおいてIH出現およびサイズの発達を有意に低減することを示す。この所見をヒト被験体へと拡げることを検証するために、腹部外科手術後にIHを発達させるリスクが高い患者の前向きコホート研究を行った。
【0162】
方法: 多施設品質改善試験において、腹部手術を受ける、IHの高リスクにある被験体を、彼らの筋膜切開部を慣用的に縫合糸で閉じた後に、オンレイdHACMシートで予防的に処置した。メッシュは使用しなかった。術前リスク因子を記録した。被験体を、IHの発達に関して最低5ヶ月間追跡した。予測されるIH数を、歴史的データを使用して計算した。
【0163】
結果: 8名の被験体が、11の腹壁切開を受けた。切開部を、術前リスク因子に基づいて高リスク(n=6)または極めて高リスク(n=5)にグループ分けした(図4)。本発明者らのコホートにおいて、1つのIHは、リスク因子が、高齢、結腸穿孔の緊急手術、および活発な喫煙を含む極めて高リスクの被験体において発達した(9.1%)。そのIHは、腹壁デブリドマンを必要とする壊死性の感染症後に形成した。予測されるIH数は、5.7(51.4%)であり、82.3%の相対的リスク低減を生じた。
【0164】
これらのデータは、dHACMシートを含むPT移植材料が、高リスク患者において、IH形成を82.3%低減することを示す。
【0165】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願および刊行物は、それらの全体において本明細書に参考として援用される。それらの全体におけるこれら刊行物の開示は、本明細書で記載されかつ特許請求される発明の日当時に当業者に公知であるとして、技術水準をより完全に記載するために、本出願に参考として援用される。
【0166】
単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」および「この、その、上記(the)」とは、文脈が別段明確に規定しなければ、複数形への言及を含む。請求項および/または明細書中での用語「含む、包含する(comprising)」とともに使用される場合の単語「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」の使用は、「1つの(one)」を意味し得るが、それはまた、「1またはこれより多い」、「少なくとも1」および「1または1より多い」の意味と一致する。
【0167】
語句「例えば(for example)」、「例えば、のような(such as)」、「含む、が挙げられる(including)」などのうちのいずれかが本明細書で使用される場合は常に、別段明示的に述べられなければ、次に語句「および限定なく(and without limitation)」が続くと理解される。同様に、「一例(an example)」、「例示的な(exemplary)」などは、限定ではないことが理解される。
【0168】
用語「実質的に(substantially)」とは、意図した目的に負の影響を与えない記述子からの逸脱を許容する。記述用語は、語句「実質的に」が明示的に記載されていないとしても、用語「実質的に」によって修飾されることが理解される。
【0169】
用語「含む、包含する」および「含む、包含する、が挙げられる(including)」および「有する(having)」および「包含する、が関わる(involving)」(および同様に「含む、包含する(comprises)」、「含む、包含する、が挙げられる(includes)」、「有する(has)」および「包含する、が関わる(involves)」)などは、交換可能に使用され、同じ意味を有する。具体的には、その用語の各々は、一般的な米国特許法の「含む、包含する」の定義と矛盾せずに定義され、従って、「少なくとも以下のもの」を意味する制限のない用語(open term)であると解釈され、同様に、さらなる特徴、限定、局面などを排除しないように解釈される。従って、例えば、「工程a、b、およびcを包含するプロセス」とは、そのプロセスが少なくとも工程a、bおよびcを含むことを意味する。用語「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」が使用される場合は常に、「1またはこれより多い」の解釈が文脈において無意味でなければ、「1またはこれより多い」が理解される。
【0170】
本明細書で使用される場合、用語「約(about)」とは、およそ(approximately)、だいたい(roughly)、周辺(around)、またはそのあたり(in the region of)」に言及し得る。用語「約」が数値範囲とともに使用される場合、それは、その境界を、その示される数値より上におよび下に拡げることによって、その範囲を修飾する。概して、用語「約」は、数値を、20%上または下(高いまたは低い)の変動によってその述べられた値の上または下に修飾するために本明細書で使用される。
【0171】
この明細書は、種々の非限定的および非網羅的な実施形態に言及して記載されている。しかし、開示される実施形態(またはその一部)のうちのいずれかの種々の置換、改変、または組み合わせが、この明細書の範囲内で行われ得ることは、当業者によって認識される。従って、この明細書は、この明細書に明示的に示されないさらなる実施形態を支持することが、企図されかつ理解される。このような改変は、この明細書で記載される種々の非限定的および非網羅的な実施形態の開示される工程、構成要素、要素、特徴、局面、特性、限定などのうちのいずれかを組み合わせる、改変する、または再組織化することによって得られ得る。
【0172】
本明細書で記載される種々の要素は、例えば、選択的な活性物、成分、または組成物のリスト中の、代替物としてまたは代替物の組み合わせとして記載されている。実施形態が任意のこのような要素のうちの1つ、より多く、または全てを含み得ることは、認識されるべきである。従って、この記載は、全てのこのような要素の実施形態を独立して、およびこのような要素を全ての組み合わせにおいて含む実施形態を含む。
【0173】
本明細書で記載される任意の数値範囲は、下の値から上の値までの全ての数値および範囲を含む。例えば、濃度範囲が1%~50%として述べられる場合、2%~40%、10%~30%、1%~3%、または2%、25%、39%などのような値は、この明細書の中に明示的に列挙されることが意図される。これらは、具体的に何が意図されるかの例に過ぎず、列挙される最低値と最高値との間のおよび最低値と最高値を含む数値および範囲の全ての可能な組み合わせは、本出願において明示的に述べられているとみなされるべきである。用語「約」によって修飾される数字は、その修飾された数字の±10%を含むことが意図される。
【0174】
本開示は、その趣旨または本質的な属性から逸脱することなく他の形態において具現化され得、よって、本発明の範囲を示すものとして、前述の明細書ではなくむしろ以下の請求項を参照しなければならない。さらに、本明細書で記載される取り合わせの例証は、種々の実施形態の一般的な理解を提供することが意図され、それらは、完全な記載として役立つことは意図されない。多くの他の取り合わせは、上記の説明を検討すれば当業者に明らかである。他の取り合わせが利用され得、上記の説明から導き出され得る。その結果、論理的な置換および変更が、本開示の範囲から逸脱することなく行われ得る。当業者は、慣用的な実験のみを使用して、本明細書で記載される具体的な物質および手順に対する多くの均等物を認識するかまたは確認し得る。このような均等物は、本開示の範囲内にあるとみなされ、かつ以下の請求項によって網羅される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2022527083000001.app
【国際調査報告】