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特表2022-527087タウオパチーを診断するためのpS396アッセイの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-30
(54)【発明の名称】タウオパチーを診断するためのpS396アッセイの使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220523BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220523BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/53 U
G01N33/543 541A
C07K16/18 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557487
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(85)【翻訳文提出日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2020058062
(87)【国際公開番号】W WO2020193500
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】PA201900377
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591143065
【氏名又は名称】ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】ペダーセン,ジャン,トルレイフ
(72)【発明者】
【氏名】カリカリ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ホグラン,キナ
(72)【発明者】
【氏名】ブレンナウ,カイ
(72)【発明者】
【氏名】ハルンダール,ミッケル ノーズ
(72)【発明者】
【氏名】ゼターバーグ,ヘンリク
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、サンプル中のリン酸化タウを測定するためのインビトロアッセイであって、i)タウ上のpS396に特異的な捕捉抗体と、ii)捕捉抗体と異なるエピトープ上のタウに結合する検出抗体との2つの抗体の使用を含むアッセイに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のリン酸化タウを測定するためのインビトロアッセイであって、i)タウ上のpS396に特異的な捕捉抗体と、ii)前記捕捉抗体と異なるエピトープ上のタウに結合する検出抗体との2つの抗体の使用を含む、アッセイ。
【請求項2】
前記検出抗体が、タウ上のアミノ酸1~20(例えば6~18)以内、タウ上のアミノ酸140~170(例えば159~168)以内、又はタウ上の400~441(例えば404~421)以内のエピトープに結合している、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
前記検出抗体が、ビオチン化される、請求項1~2に記載のアッセイ。
【請求項4】
前記捕捉抗体が、常磁性ビーズの表面に付着される、先行請求項のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項5】
β-ガラクトシダーゼコンジュゲートストレプトアビジンが使用され、シグナル読み取り値が生成される、先行請求項のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項6】
前記サンプルが、哺乳動物からのCSF、血漿又は他の生体液サンプルである、先行請求項のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項7】
前記サンプルが、アルツハイマー病、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺又は球状グリア性タウオパチーなどのタウオパチーを患っているヒトからのCSF又は血漿サンプルである、先行請求項のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項8】
前記CSFサンプルが、例えばスピン濾過カラム及びサイズ排除クロマトグラフィーの使用により、タウに対して濃縮されている、先行請求項のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項9】
アルツハイマー病、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺又は球状グリア性タウオパチーなどのタウオパチーを診断するための、先行請求項のいずれか一項に記載のアッセイの使用。
【請求項10】
サンプル中のリン酸化タウを測定するための方法であって、
a.常磁性ビーズに付着されたpS396に特異的な捕捉抗体をビオチン化検出抗体及びサンプルと混合するステップと、
b.前記混合物を、前記抗体の前記サンプル中のタウへの結合を可能にするのに十分な時間でインキュベートするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
c.任意選択的に、インキュベーション後、ステップb)における前記混合物を洗浄するステップと、
d.ストレプトアビジンコンジュゲートβ-ガラクトシダーゼを添加し、前記ストレプトアビジンコンジュゲート及び前記ビオチン化検出器抗体が反応することを可能にするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
e.任意選択的に、ステップd)後に前記得られた混合物を洗浄するステップと、
f.レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシドをステップd)又はe)における前記混合物に添加し、レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシドの加水分解を可能にするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
g.蛍光シグナルを読み取り、前記シグナルを標準と比較するステップと、
を含む、方法
【請求項11】
前記捕捉抗体が常磁性ビーズに付着され、及び少なくとも1000個の前記常磁性ビーズ、例えば少なくとも10000個、100,000個又はそれ以上のビーズが、前記サンプルに添加される、請求項10に記載の方法、
【請求項12】
前記検出抗体が、タウ上のアミノ酸1~20(例えば6~18)以内、タウ上のアミノ酸140~170(例えば159~168)以内、又はタウ上の400~441(例えば404~421)以内のエピトープに結合している、請求項10に記載の方法
【請求項13】
前記サンプルが、哺乳動物からのCSF、血漿又は生体液サンプルである、請求項10~12に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルが、アルツハイマー病、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺又は球状グリア性タウオパチーなどのタウオパチーを患っているヒトからのCSF又は血漿サンプルである、請求項10~13に記載の方法。
【請求項15】
前記サンプルが、例えばスピン濾過カラム及びサイズ排除クロマトグラフィーの使用により、タウに対して濃縮されている、請求項10~14に記載の方法。
【請求項16】
アルツハイマー病、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺又は球状グリア性タウオパチーなどのタウオパチーを診断するための、請求項10~15に記載の方法の使用。
【請求項17】
アルツハイマー病又はピック病を診断するため、前記検出器抗体が、タウ上のアミノ酸400~441(例えば404~421)以内のエピトープに結合している、請求項10~17に記載の方法の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なるタウ病理におけるタウ種を鑑別するためのアッセイにおける抗タウ抗体の使用に関する。本発明に従うアッセイは、即ち、アルツハイマー病、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺及び球状グリア性タウオパチーなどのタウオパチーを有する患者を診断するために使用可能である。
【背景技術】
【0002】
タウオパチーという用語は、微小管結合タンパク質タウの沈着によって特徴づけられる病理学的疾患のグループを定義する。沈着したタウは、異常にリン酸化され、細胞内封入体として蓄積する。いくつかの特定のタウオパチーが存在し、それらの各々は、タンパク質含有封入体の分布及び形態学的外観、並びにニューロン及びニューロンプロセス対グリア及びグリアプロセスに影響する病理の相対的負荷により変化する(Dickson et al.,2011)。最も一般的なタウオパチーは、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、ピック病、及び球状グリア性タウオパチー(tauphathy)(GGT)及び慢性外傷性脳症(CTE)である。ピック病以外の全ては、一般に運動障害に関連する(Keith A.Josephs,Chapter IX,in Movement Disorders(Second Edition),2015)。タウオパチーはまた、前頭側頭型認知症(FTD)、前頭側頭葉変性症(FTLD)を意味する。FTDの大部分の症例が、MAPT(タウ)又はGRN(グラニュリン)における遺伝子突然変異に関連する。FTDは、タウタンパク質の蓄積に関連する。
【0003】
これらの患者に対する正しい治療を診断し、発見するため、これらの患者を診断し、各疾患に特徴的であるタウ病理を鑑別することが可能な方法を有することは重要である。本発明の発明者は、これらの疾患の診断に役立ち得るいくつかのアッセイを提供している。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、サンプル中のリン酸化タウを測定するためのインビトロアッセイであって、i)タウ上のリン酸化(p)セリン(S)残基396(pS396)に特異的な捕捉抗体と、ii)捕捉抗体と異なるエピトープ上のタウに結合する検出抗体との2つの抗体の使用を含む、アッセイに関する。検出器抗体は、本明細書でさらに開示される通り、タウ上の非リン酸化残基に結合してもよい。
【0005】
第2の態様では、本発明は、サンプル中のリン酸化タウを測定するための方法であって、
a.常磁性ビーズに付着されたpS396に特異的な捕捉抗体をビオチン化検出抗体及びサンプルと混合するステップと、
b.混合物を、抗体のサンプル中のタウへの結合を可能にするのに十分な時間でインキュベートするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
c.任意選択的に、インキュベーション後、ステップb)における混合物を洗浄するステップと、
d.ストレプトアビジンコンジュゲートβ-ガラクトシダーゼを添加し、前記ストレプトアビジンコンジュゲート及びビオチン化検出器抗体が反応することを可能にするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
e.任意選択的に、ステップd)における得られた混合物を洗浄するステップと、
f.レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシドをステップd)又はe)における混合物に添加し、レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシドの加水分解を可能にするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
g.蛍光シグナルを読み取り、シグナルを標準と比較するステップと、
を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】pS396タウアッセイの略図。(A)完全長pS396(又はFL pS396)アッセイとしても知られる、Tau12-pS396アッセイでは、捕捉抗体として抗pS396抗体、且つ検出抗体としてTau12(アミノ酸6~18のエピトープ)が使用される。(B)HT7-pS396(中央領域pS396又はMR pS396)アッセイでは、中央領域(エピトープ159~168)から広がるタウ種上のpS396が測定される。このアッセイでは、捕捉抗体としてpS396抗体、且つ検出抗体としてHT7が使用される。(C)捕捉抗体として抗pS396抗体、且つ検出抗体としてTau46(エピトープ404~441)が使用される、pS396-Tau46(C末端pS396又はCT pS396)アッセイは、最末端のC末端領域(アミノ酸404~441)を有するpS396リン酸化タウに特異的である。
図2-1】図2 pS396リン酸化タウ種により、タウ病理を伴う神経変性疾患が鑑別される。臨床的に確認されたタウオパチーを有する個体からの前頭灰白質脳(frontal grey matter brain)単離物のTBS可溶性画分が、FL、MR及びCT pS396アッセイで試験された。アッセイ希釈剤で調製された、各検体(全体でn=24)の等モル濃度(0.46mg/ml)の500倍希釈物が、各pS396アッセイで分析された。希釈補正されたデータ(平均±平均値の標準誤差[SEM])がここに示されている。サンプルは、アルツハイマー病(AD,n=5)、ピック病(PiD,n=5)、大脳皮質基底核変性症(CBD,n=5)、進行性核上性麻痺(PSP,n=5)、球状グリア性タウオパチー(GGT,n=2)、及び健常対照(Ctrl,n=2[MRアッセイにおいてはn=1])から構成された。 (A)タウオパチー脳サンプルにおけるFL pS396の濃度。平均濃度±SEM:AD=5769±621pg/ml、PiD=4737±960pg/ml、CBD=10716±2452pg/ml、PSP=8888±1002pg/ml、GGT=10122±3955pg/ml、Ctrl=3326±73pg/ml。群間で統計学的有意差は記録されなかった(クラスカル・ウォリス検定、続いてダンの多重比較検定)。 (B)異なるタウオパチーからの脳検体におけるMR pS396濃度。平均レベル±SEM:AD=23432±4773pg/ml、PiD=29949±6938pg/ml、CBD=17434±9359pg/ml、PSP=5563±1047pg/ml、GGT=9830±3933pg/ml、Ctrl=1862pg/ml。群間で統計学的有意差は記録されなかった(一元配置分散分析[ANOVA])。 (C)対照と比較しての5つの異なるタウオパチー群からの脳サンプル中のCT pS396のレベル。平均濃度±SEM:AD=17692±2060pg/ml、PiD=12549±1701pg/ml、CBD=11203±5698pg/ml、PSP=4766±706pg/ml、GGT=7857±3097pg/ml、Ctrl=397±54pg/ml。ADにおけるCT pS396濃度は、PSP(p<0.05)及びCtrl(p<0.01)における場合と比較して有意により高かった。同様に、PiDにおけるCT pS396レベルは、対照(Ctrl)における場合よりも有意に高かった(p<0.05;クラスカル・ウォリス検定、続いてダンの多重比較検定)。 (D)MR/FL pS396レベルの比により、異なるタウオパチーが有意に分離された。ADにおけるMR/FL比は、PiD、CBD、PSP、GGT及び対照における場合と比較して有意に異なった(各々、p<0.01)。さらに、PiD患者におけるMR/FLの比は、CBD、PSP、GGT及び対照とは有意に異なった(各々、p=0.0001;一元配置分散分析、続いてダネット多重比較検定)。 (E)疾患群におけるCT/FL pS396濃度の比における有意差。CT/FL pS396レベルは、ADにおいて、CBD、PSP、GGT及び対照と比較して有意に異なり(各々、p<0.01)、またPiDにおいて、CBD、PSP、GGT及び対照と比較して有意に異なった(各々、p<0.01;一元配置分散分析、続いてダネット多重比較検定)。3つ全てのアッセイでは、ヒトタウオパチー脳サンプル中のタウpS396が測定される。結果によると、異なるタウオパチーにおけるpS396タウの集団が、存在するタウ種に対して有意に変化することが示され、pS396及びタウ断片化の組み合わせ測定が、これらの疾患間を区別するための有望な手法であることが示唆される。
図2-2】同上。
図2-3】同上。
図3】アルツハイマー病のrTg4510トランスジェニックタウマウスモデルにおける高レベルのpS396-Tau46(CT pS396)。(A)異なる動物からのCSFサンプルが、50倍又は75倍希釈時にCT pS396アッセイで分析された。測定され、希釈調整された濃度の双方が示される。(B)CT pS396のCSFレベルが(A)で示される場合を含む、6つの異なる動物からの血漿サンプルの10倍又は20倍希釈物中のCT pS396濃度。アッセイの検出限界=1.50pg/ml。CT pS396は、rTg4510トランスジェニックタウマウス動物のCSF及び血漿中に存在する。CT pS396アッセイは、このモデルにおけるCT pS396の処理における分子変化を試験するため、また薬剤有効性の前臨床評価のための重要なツールである。
図4-1】図4 ヒトCSFにおけるCT pS396の測定。15mlのヒトCSFにおけるCT pS396シグナルが、スピン濾過(Ultracel(登録商標)-YM3装置を使用;表1に示される条件)、続いて50mMトリス pH7.5、10%グリセロールのランニングバッファーにおけるS200 10/300GLカラムを用いるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により濃縮された。溶出画分は、Simoa CT pS396で直接的に分析された。 (A)水平軸に溶出体積及び垂直軸にUV吸光度を示す、スピン濾過されたヒトCSFのリテンテートの溶出特性。グリッド線は、分子量マーカーの溶出体積:青色デキストラン(空隙容量、2000kDa;7.76ml)、アルブミン(66kDa;13.45ml)、炭酸脱水酵素(29kDa;16.28ml)、チトクロム(12.4kDa;20.39ml)、アプロチニン(6.5kDa;24.36ml)を示す。 (B)水平軸に溶出画分ID及び垂直軸にUV吸光度を示す、スピン濃縮されたヒトCSFのクロマトグラム。グリッド線は、(A)で示される同じ分子量マーカーを指す。 (C)生の(未処理の)CSF、スピン濾過されたCSF(リテンテート)、及び溶出されたSEC画分におけるCT pS396の濃度。生のCSFにおいてCT pS396シグナルは検出されなかったが、シグナルを濃縮するため、前処理が必要であることが明らかである。CT pS396は、濾過生成物においても検出されなかった。しかし、CT pS396は、濾過生成物のSEC分画後、測定することができた。12.0~13.5mlの溶出体積及び約66kDaの分子量に対応する画分C1、C2及びC3において、CT pS396の最高濃度が見出された(このサンプル中、各々、6.1、9.9、及び6.1pg/ml)。これらの特性は、12.0~13.5mlで溶出する画分が、pS396及びTau46エピトープ双方を含有するタウ単量体中で濃縮されることを示唆する。 CT pS396は、未処置のヒトCSF中で測定可能でない。しかし、スピン濾過及びSECによる前分析処理により、CT pS396シグナルが濃縮され、12.0~13.5mlの最高濃度で溶出される。一貫した結果が、異なる性能及びモデル(表1)のスピンフィルターを使用し、CSF開始体積を変更することにより(表1)、また1画分あたりの収集されたSEC溶出体積を変更することにより記録されている。 スピン濾過、それに続くSEC分画によるCSFサンプルの逐次処理が、いずれかのステップの省略が大幅に低下した又は検出不能な量をもたらすことから、CT pS396シグナルの濃縮にとって必要である。
図4-2】同上。
【発明を実施するための形態】
【0007】
サンプル中の異なる種類の分子を分析する際、伝統的なELISAが長年にわたり使用されている。本発明は、アルツハイマー病、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、球状グリア性タウオパチー及び慢性外傷性脳症などのタウオパチーと診断された患者からのサンプル中のタウ種を検出するための単一分子アレイアッセイ(Simoa)ELISA技術の使用を対象とする。
【0008】
本発明において、タウは、メチオニンが番号1である以下の配列のヒトタウである。
【化1】
【0009】
単一分子イムノアッセイの第1のステップでは、捕捉抗体が、サンプル中のタウ分子の希薄溶液を濃縮するために使用されることになる常磁性ビーズ(約2.7umの直径)の表面に付着される。ビオチン化検出抗体が混合物に添加され、捕捉及び検出器抗体は、サンプル中のタウに反応することが可能になる。非特異的なタンパク質結合を除去するため、混合物は洗浄されてもよい。その後、β-ガラクトシダーゼ標識ストレプトアビジンが添加され、それに任意選択的な洗浄ステップが続き、レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシド(resorufin beta-D-galctopyranoside)が添加される。反応混合物は、反応し、適切な装置で読み取り及び分析されてもよい蛍光生成物を生成することが可能になる。
【0010】
本発明の発明者によって開発されたアッセイは、捕捉抗体及びビオチン化検出器抗体といった2つの抗体に基づく。捕捉抗体は、実施例1に記載のような常磁性ビーズにコンジュゲートされる。これらは、タウのリン酸化(p)S396に特異的である。かかる抗体の産生は、例えば国際公開第2017/009308号パンフレットに開示されており、これらの抗体は、下の表1にさらに記載される。本発明の実施例では、使用されるpS396特異抗体は、特許の国際公開第2018/011073号パンフレットからの「C10-2ヒト化」と名付けられ、下の表2に記載される抗体である。
【0011】
【表1-1】
【0012】
【表1-2】
【0013】
【表1-3】
【0014】
【表1-4】
【0015】
【表2-1】
【0016】
【表2-2】
【0017】
【表2-3】
【0018】
【表2-4】
【0019】
【表2-5】
【0020】
【表2-6】
【0021】
【表2-7】
【0022】
【表2-8】
【0023】
【表2-9】
【0024】
【表2-10】
【0025】
【表2-11】
【0026】
【表2-12】
【0027】
【表2-13】
【0028】
使用される検出/又は検出器(本明細書で互換可能に用いられる)抗体は、実施例2に記載のようにビオチン化されており、タウのC末端、中央又はN末端領域にpS396残基と異なる部位で結合してもよい。検出器抗体は、非リン酸化残基に結合してもよい。特に、タウ上のC末端のエピトープは、アミノ酸1~20(例えば6~18)であり、タウの中央領域は、アミノ酸140~170(例えば159~168)であり、且つタウのN末端は、400~441(例えば404~421)である。実施例において、以下の抗体が使用される:
Tau12(#806502,BioLegend)が使用され、タウのアミノ酸6~18に結合し、検出抗体は、HT7(#MN1000,Invitrogen)であり、中央領域159~168アミノ酸に結合し、且つTau46(#806601,BioLegend)は、C末端領域アミノ酸404~441に結合する。
【0029】
異なるタウ種に対してpS396を測定する3つのアッセイが開発されており(図1);各々、抗pS396捕捉抗体が使用され、検出抗体を除いて他の全ての実験条件が共有されることは、以下に説明されている。
1.完全長pS396(FLアッセイ):このアッセイでは、N末端領域から広がるpS396リン酸化タウ種が測定される。検出抗体のモノクローナルTau12(#806502,BioLegend)は、タウのアミノ酸6~18に結合する。
2.中央領域pS396(MRアッセイ):このアッセイでは、2つのエピトープ:pS396リン酸化及び中央領域の159~168アミノ酸を同時に保有しているタウ形態が測定される。検出抗体は、HT7(#MN1000,Invitrogen)である。
3.C末端pS396(CTアッセイ):該アッセイは、最末端のカルボキシル末端領域(アミノ酸404~441)を有するpS396リン酸化タウに特異的である。検出抗体は、Tau46(#806601,BioLegend)である。
【0030】
方法は、実施例4に記載の通り、
a.常磁性ビーズに付着されたpS396に特異的な捕捉抗体をビオチン化検出抗体及びサンプルと混合するステップと、
b.混合物を、抗体のサンプル中のタウへの結合を可能にするのに十分な時間でインキュベートするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
c.任意選択的に、インキュベーション後、ステップb)における混合物を洗浄するステップと、
d.ストレプトアビジンコンジュゲートβ-ガラクトシダーゼを添加し、前記ストレプトアビジンコンジュゲート及びビオチン化検出器抗体が反応することを可能にするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
e.任意選択的に、ステップd)後に得られた混合物を洗浄するステップと、
f.レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシドをステップd)又はe)における混合物に添加し、レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシドの加水分解を可能にするステップと(例えば、1分、2分、3分若しくは5分又はそれ以上)、
g.蛍光シグナルを読み取り、シグナルを標準と比較するステップと、
を含む。
【0031】
使用されるpS396コンジュゲート抗体ビーズの量は通常、少なくとも1000個のビーズ、例えば少なくとも10,000個、100,000個又はそれ以上のビーズである。サンプルは、哺乳動物からのCSF、血漿又は生体液サンプル、例えば、アルツハイマー病、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺又は球状グリア性タウオパチーなどのタウオパチーを患っているヒトからのヒトCSFサンプルであってもよい。タウに関連するサンプルを、例えば実施例3に示されるようなスピン濾過カラム及びサイズ排除クロマトグラフィーの使用により濃縮することが有利な場合がある。
【0032】
個別に又は組み合わせて使用されるアッセイの結果は、実施例4に示される通り、アルツハイマー病、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺及び球状グリア性タウオパチーなどのタウオパチーを診断又は鑑別するため、使用することが可能である。例えば、アルツハイマー病及びピック病を診断するため、CTアッセイを使用することが可能である。アルツハイマー病を他のタウオパチー及び対照に対して鑑別するため、MR/FL比を比較することによりそれを使用可能であり、さらにピック病は、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、球状グリア性タウオパチー及び対照とは有意に異なった。アルツハイマー病は、他のタウオパチー及び対照に対して鑑別するため、CT/FL比を使用することにより使用可能であり、ピック病は、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺及び球状グリア性タウオパチー及び対照と比較して異なった。
【実施例
【0033】
実験の詳細
実施例1:捕捉抗体(pS396)の常磁性ビーズへのコンジュゲーション
pS396抗体について、Ultracel 50Kスピン濾過カラム(#UFC505096,Amicon)を使用し、ビーズコンジュゲーションバッファー(BCB;50mM MES pH6.2)に緩衝液交換した。フィルターを最初に、14000×g、室温(RT)で5分間遠心分離し、フロースルーを廃棄することにより、450ulのBCBですすいだ。その後、1.6g/Lの抗体を、14000×g、RTで5分間遠心分離することによりBCBに緩衝液交換した。フロースルーを廃棄し、フィルターを収集管に戻した。BCBをリテンテートに添加し、体積を450ulにし、同じ条件下で再遠心分離した。フロースルーを廃棄後、このステップを1回繰り返した。その後、フィルターを40ulのBCBですすぎ、新しい収集管内に反転し、1000×g、RTで2分間遠心分離することにより抗体を回収した。抗体の濃度をNanodrop Lite(ThermoFisher Scientific)で評価し、使用まで4℃で貯蔵した。
【0034】
常磁性カルボキシル化シングルプレックスビーズ(#103207,Quanterix)をビーズ洗浄緩衝液(BWB;1×PBS+1%ツイーン20)で3回、次いでBCBで2回、磁気セパレーターを使用し、洗浄した。1.4×106個のビーズ/μLの濃度のビーズを、0.3g/Lの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(#A35391,Thermo Scientific)を添加することにより活性化し、4℃で30分間インキュベートした。その後、活性化されたビーズを氷冷BCBで1回洗浄し、上清を廃棄した。抗体(0.2g/L)をビーズに添加し、混合物を振盪しながらRTで2時間インキュベートし、抗体のビーズへの結合を可能にした。振盪は常に、HulaMixer Sample Mixer(#15920D,ThermoFisher Scientific)を用いて、各ステップが5秒続く、軌道=5rpm、往復=90°、振動/休止=5°という条件下で実施した。その後、上清を除去し、抗体コンジュゲートビーズをBWBで2回洗浄した。反応を、ビーズブロッキングバッファー(1×PBS中、1%BSA)で、振盪しながらRTで1時間ブロッキングした。最後に、ビーズをBWBで2回、次いでビーズ希釈剤(BD;50mMトリス pH7.8、50mM NaCl、10mM EDTA、1%BSA、0.1%ツイーン20)で1回洗浄した。磁気セパレーターで上清を除去後、ビーズをBDに再懸濁し、使用まで4℃で貯蔵した。
【0035】
実施例2:検出抗体へのビオチンコンジュゲーション
検出抗体について、Ultracel 50Kスピン濾過カラム(#UFC505096,Amicon)で、ビオチン化反応緩衝液(BRB;100mM PBS pH7.4)に緩衝液交換した。450ulのBRBを14000×g、RTで5分間遠心分離することによりカラムを洗浄後、フロースルーを廃棄し、抗体をフィルターに移した。BRBを添加し、体積を450ulにし、14000×g、RTで5分間遠心分離した。緩衝液交換はさらに2回繰り返し、各段階で、抗体体積をBRBで450ulにし、14000×g、RTで5分間遠心分離した。フィルターを40ulのBRBですすぎ、新しい収集管内に反転し、1000×g、RTで2分間遠心分離することにより抗体を回収した。抗体の濃度をNanodrop Liteを用いて評価した。40倍過剰なEZ-Link NHS-PEG4-Biotin(#21329,Thermo Scientific)を抗体に添加し、RTで30分間インキュベートした。ビオチン標識化前に実施の緩衝液交換プロセスを繰り返すことにより、遊離ビオチンを除去した。ビオチンコンジュゲート抗体を、使用まで4℃で貯蔵した。
【0036】
実施例3:サンプル及びキャリブレーターの解析前処理
適切な濃度のアッセイキャリブレーター(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(#TO8-50FN,SignalChem)によりインビトロでリン酸化された組換えタウ441)を、分析前にストック濃度をアッセイ希釈剤(Tau2.0希釈剤,#101556,Quanterix)で希釈することにより調製した。品質管理サンプルは、アッセイ希釈剤で500倍及び5000倍に希釈したTBS可溶性ヒトアルツハイマー病脳抽出物を含む。
【0037】
トリス緩衝生理食塩水(TBS)可溶性ヒト脳抽出物、rTg4510トランスジェニックマウスCSF及び血漿サンプルを、Tau2.0希釈剤で、図2及び図3並びにそれらのレジェンドに表される所望される濃度に希釈した。
【0038】
サンプルをスピン濾過カラムで濃縮し、Ethan LCシステム(GE Healthcare)上で稼動するSuperdex S200 10/300 GLカラム(#17-5175-01,GE Healthcare)上でのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によりリテンテートを分画することによって、ヒトCSF中のpS396タウのレベルを濃縮した。ランニングバッファーは、50mMトリス pH7.5+10%グリセロールであった。Simoa pS396アッセイを用いて、収集画分を直接的に分析した。この方法は、異なる性能及び特性のスピン濾過カラムを使用して検証された(表1)。
【0039】
【表3】
【0040】
実施例4:単一分子アレイ(Simoa)アッセイ
各pS396アッセイでは、Simoa HD-1機器(Quanterix,Lexington,MA,USA)上で2ステッププロトコルを使用する。このアッセイ構成では、pS396抗体コーティングビーズ及びヘルパービーズ(#103208,Quanterix)の各々、1000ビーズ/ulからなる100ulのビーズ混合物を反応キュベット内に吸引する。その後、20ulのビオチン化検出抗体(2ug/ml)及び100ulの目的の分析物を添加し、反応混合物を47ケイデンス(1ケイデンス=45秒)間インキュベートし、分析物と捕捉及び検出抗体との反応を可能にした。その後、ビーズを洗浄し、100ulの450pMストレプトアビジンコンジュゲートβ-ガラクトシダーゼ(SBG;#100439,Quanterix)を添加した。7ケイデンス間のさらなるインキュベーションとそれに続く洗浄の後、25μlのレゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシド(RGP;#103159,Quanterix)を添加した。RGPの加水分解をSBGにより触媒し、蛍光生成物レゾルフィンを生成した。ビーズを200,000ウェルのディスク上に移し、各々は1個のビーズを収容するのに十分に大きい程度に過ぎなかった。余分なビーズを除去し、ディスク表面を密封し、イメージングを行った。蛍光シグナルをビーズあたりの平均酵素(AEB)に変換し、サンプル濃度を、既知のタンパク質濃度を用いて作成した4パラメーターロジスティック較正曲線から外挿した。
【0041】
アッセイのセットアップ
異なるタウ種に対してのpS396を測定する3つのアッセイが開発されており(図1);各々は、抗pS396捕捉抗体を使用し、以下に説明する、検出抗体を除く他の全ての実験条件を共有している。
1.完全長pS396(FLアッセイ):このアッセイでは、N末端領域から広がるpS396リン酸化タウ種が測定される。検出抗体のモノクローナルTau12(#806502,BioLegend)は、タウのアミノ酸6~18に結合する。
2.中央領域pS396(MRアッセイ):このアッセイでは、2つのエピトープ:pS396リン酸化及び中央領域の159~168アミノ酸を同時に保有しているタウ形態が測定される。検出抗体は、HT7(#MN1000,Invitrogen)である。
3.C末端pS396(CTアッセイ):該アッセイは、最末端のカルボキシル末端領域(アミノ酸404~441)を有するpS396リン酸化タウに特異的である。検出抗体は、Tau46(#806601,BioLegend)である。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4-1】
図4-2】
【配列表】
2022527087000001.app
【国際調査報告】