(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-31
(54)【発明の名称】マクロファージの表現型を改変するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/61 20170101AFI20220524BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220524BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20220524BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220524BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20220524BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20220524BHJP
A61K 31/663 20060101ALI20220524BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20220524BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220524BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220524BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
A61K47/61
A61K47/36
A61K31/337
A61K31/704
A61K31/7068
A61K31/517
A61K31/663
A61K33/24
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 105
A61P43/00 107
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557633
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 US2020025326
(87)【国際公開番号】W WO2020198622
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594012483
【氏名又は名称】ナビディア、バイオファーマスーティカルズ、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NAVIDEA BIOPHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ、デイビッド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC26
4C076CC27
4C076EE30
4C076EE59
4C076FF67
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC46
4C086EA17
4C086GA02
4C086GA07
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB02
4C086ZB09
4C086ZB26
(57)【要約】
腫瘍関連マクロファージ(TAM)を、M2からM1へと再分極させるための方法および組成物が開示され、当該方法は、その必要のある対象に、デキストラン骨格およびそれに結合された一つ以上のCD206標的化部分を含む化合物の有効投与量を投与することを含む。特定の態様では、化合物は、パクリタキセル、ゲムシタビン、ラパチニブ、およびドキソルビシンから選択される治療剤をさらに含む。さらなる態様では、治療剤は、キレート剤および少なくとも一つの金属イオンを含む。特定の実装形態では、少なくとも一つの金属イオンは、少なくとも一つのCu(II)イオンを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍関連マクロファージ(TAM)を、M2からM1へと再分極させる方法であって、その必要のある対象に、デキストラン骨格およびそれに結合された一つ以上のCD206標的化部分を含む化合物の有効投与量を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記化合物が、以下の式(I)の化合物を含み:
【化1】
式中、
各Xは独立して、H、L1-A、またはL2-Rであり、
L1およびL2の各々は独立して、リンカーであり、
各Aは独立して、治療剤またはHを含み、
各Rは独立して、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分またはHを含み、
およびnは、ゼロより大きい整数であり、ならびに
少なくとも一つのRが、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンからなる群から選択されるマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分を含み、少なくとも一つのAが治療剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療剤が、パクリタキセル、ゲムシタビン、ラパチニブ、およびドキソルビシンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療剤が、ドキソルビシンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象への前記組成物の投与は、前記組成物に結合されていない前記治療剤の同等の投与量と比較して、毒性が低下している、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記治療剤が、ビスホスホネートである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ビスホスホネートが、ゾレドロン酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記治療剤が、キレート剤、および少なくとも一つの金属イオンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記治療剤が、約4個のCu(II)イオンを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも一つのCu(II)イオンは、約1個のCu(II)イオンから、キレート剤部分の数と等しい数のCu(II)イオンの間である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物が、少なくとも一つの他の治療法または治療と併用されて投与され、前記少なくとも一つの他の治療または治療法が、化学療法、放射線療法、または免疫療法である、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一つの他の治療または治療法が、抗CTLA4免疫療法である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物と前記少なくとも一つの治療または治療法の前記併用投与は、いずれか単独の投与と比較して相乗的な効果がある、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物が、治療剤を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
以下の式(I)の化合物を含み:
【化2】
式中、
各Xは独立して、H、L1-A、またはL2-Rであり、
L1およびL2の各々は独立して、リンカーであり、
各Aは独立して、治療剤またはHを含み、
各Rは独立して、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分またはHを含み、
およびnは、ゼロより大きい整数であり、ならびに
少なくとも一つのRが、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンからなる群から選択されるマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分を含み、少なくとも一つのAが治療剤を含み、前記治療剤は、キレート剤および少なくとも一つのCu(II)イオンを含む、TAMをM2からM1へと再分極させるための化合物。
【請求項16】
少なくとも一つのL1が、-(CH2)pS(CH2)-NH-を含み、式中、pおよびqは0~5の整数である、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
少なくとも一つのL2が、O、SおよびNからなる群から選択される最大で3個のヘテロ原子により任意で中断されるC2-12炭化水素鎖である、請求項15に記載の化合物。
【請求項18】
少なくとも一つのL2が、-(CH2)pS(CH2)-NH-を含み、式中、pおよびqは独立して、0~5の整数である、請求項15に記載の化合物。
【請求項19】
以下の式(I)の化合物を含み:
【化3】
式中、
各Xは独立して、H、L1-A、またはL2-Rであり、
L1およびL2の各々は独立して、リンカーであり、
各Aは独立して、治療剤またはHを含み、
各Rは独立して、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分またはHを含み、
およびnは、ゼロより大きい整数であり、ならびに
少なくとも一つのRが、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンからなる群から選択されるマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分を含み、少なくとも一つのAが治療剤を含み、前記治療剤は、ドキソルビシンを含み、
各L1はヒドラゾンリンカーであり、およびマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分とドキソルビシン部分との比率は、約18.5~約1.5である、TAMをM2からM1へと再分極させるための化合物。
【請求項20】
前記デキストラン骨格が、約10kDである、請求項19に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マクロファージの表現型を改変するための組成物および方法の分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
関連出願への相互参照
本出願は、米国特許法第119(e)に従い、2019年3月27日に出願され、「Altering the Phenotype of Macrophages with CD206 Targeted Drug Delivery Vehicles Carrying Appropriate Pharmacologically Active Payloads」という表題の米国仮特許出願第62/824,853号明細書に対する優先権を主張するものであり、当該出願はその全体で参照により本明細書に援用される。
【0003】
癌は、米国において第二位の死因であり、ほぼ4人に1人が癌により死亡している。癌は、癌細胞の非制御的な増殖と細胞分裂を特徴とする。しかし腫瘍に対する慢性的な不適応性免疫応答によって癌は大きな利益を得ており、マクロファージは、その不適応性応答の重要なメディエーターである。一般的にマクロファージは多くの遺伝子、潜在的には数百の遺伝子の発現パターンを変えることによって、その局所的な微小環境中の様々な刺激に応答する。そのように表現型を変化させたマクロファージは、活性化マクロファージと呼ばれる。マクロファージがどの刺激に応答するかに応じて、数多くの活性化の表現型状態が獲得され得る。マクロファージ活性化の際に特異的に発現される遺伝子には、細胞表面マーカー(マクロファージマンノース受容体、CD206など)および様々なサイトカイン、反応性酸素種(ROS:reactive oxygen species)の生成をもたらす酵素経路、ならびに例えばTリンパ球(T細胞)などの免疫系の他の構成要素の挙動を制御することができる他のシグナル伝達分子がある。最初に報告されたとき、活性化マクロファージは二つの表現型に分けられた。すなわち、古典的な活性化型であり、M1と呼ばれる、高度に炎症促進性である表現型。そして代替的な活性化型であり、M2と呼ばれる、免疫抑制性であり、創傷治癒を促進する表現型である。活性化マクロファージの表現型の厳密な二分類は過度に単純化しており、その微小環境からの刺激に対するマクロファージ応答の真の柔軟性を表すものではないことが現在では理解されているが、活性化マクロファージは、炎症促進性(M1様)または免疫抑制性(M2様)のいずれかであることによって局所免疫応答に影響を及ぼし得るという概念は、様々な病理状態におけるマクロファージの役割の解説の際に現在でも有用である。
【0004】
腫瘍関連マクロファージ(TAM:tumor associated macrophage)は、腫瘍中に豊富に存在し、癌と関連する不適応性の免疫応答に大きく貢献している。M1様のTAMおよびM2様のTAMの両方が公知であるが、定着腫瘍の内または近傍に滞留するTAMの大部分は免疫抑制性、すなわちM2様の活性化マクロファージである。重要なことは、これらのM2様のTAMはしばしば、CD206の高発現によって、腫瘍の免疫組織化学的な査定において頻繁に特定されていることである(すなわち、CD206+である)。M2様のTAMは、IL-10、TGF-β、およびPD-L1を発現することによりT細胞を抑制し、腫瘍の血管新生および転移を促進する。
【0005】
M2様のTAMからM1様のTAMへと表現型変化を誘導し、高い有効性と低い毒性で癌を治療する組成物および方法に対するニーズが当分野に存在する。
【発明の概要】
【0006】
本明細書において、腫瘍関連マクロファージ(TAM)をM2からM1へと再分極するための組成物および方法が開示される。ある実施形態では、方法は、その必要のある対象に、デキストラン骨格、および当該骨格に結合された一つ以上のCD206標的化部分を含む化合物の有効投与量を投与することを含む。ある例示的な実施形態では、
当該化合物は、以下の式(I)の化合物を含み:
【0007】
【0008】
式中、
各Xは独立して、H、L1-A、またはL2-Rであり、
L1およびL2の各々は独立して、リンカーであり、
各Aは独立して、治療剤またはHを含み、
各Rは独立して、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分またはHを含み、
およびnは、ゼロより大きい整数であり、ならびに
少なくとも一つのRが、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンからなる群から選択されるマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分を含み、少なくとも一つのAが治療剤を含む。
【0009】
特定のさらなる実施形態によると、治療剤は、パクリタキセル、ゲムシタビン、ラパチニブ、およびドキソルビシンから選択される。さらなる実施形態では、治療剤は、ドキソルビシンである。特定の態様では、対象への組成物の投与は、当該組成物に結合されていない治療剤の同等の投与量と比較して毒性を低下させた。
【0010】
特定の実施形態によると、治療剤は、ビスホスホネートである。さらなる実施形態では、ビスホスホネートは、ゾレドロン酸である。
特定の態様では、治療剤は、キレート剤および少なくとも一つの金属イオンを含む。特定の実装形態では、少なくとも一つの金属イオンは、少なくとも一つのCu(II)イオンを含む。さらなる態様では、少なくとも一つのCu(II)イオンは、約4個のCu(II)イオンを含む。さらなる態様では、少なくとも一つのCu(II)イオンは、約1個のCu(II)イオンから、キレート剤部分の数と等しい数のCu(II)イオンの間である。
【0011】
特定の態様では、化合物は、少なくとも一つの他の治療法または治療と併せて投与される。特定の実施形態では、少なくとも一つの他の治療または治療法は、化学療法、放射線療法、または免疫療法である。特定の実装形態によると、少なくとも一つの他の治療または治療法は、抗CTLA4免疫療法である。例示的な実装形態では、化合物と少なくとも一つの治療または治療法の併用投与は、いずれか単独の投与と比較して相乗的な効果がある。
【0012】
特定の代替的実施形態によると、化合物は、治療剤を含まない。
さらに本明細書において、以下の式(I)の化合物を含む、M2からM1へとTAMを再分極させるための化合物が開示される:
【0013】
【0014】
式中、
各Xは独立して、H、L1-A、またはL2-Rであり、
L1およびL2の各々は独立して、リンカーであり、
各Aは独立して、治療剤またはHを含み、
各Rは独立して、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分またはHを含み、
およびnは、ゼロより大きい整数であり、ならびに
少なくとも一つのRが、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンからなる群から選択されるマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分を含み、少なくとも一つのAが治療剤を含み、治療剤は、キレート剤および少なくとも一つのCu(II)イオンを含む。
【0015】
特定の実装形態では、少なくとも一つのL1は、-(CH2)pS(CH2)-NH-を含み、式中、pおよびqは、0~5の整数である。
さらなる態様では、少なくとも一つのL2は、O、SおよびNからなる群から選択される最大で3個のヘテロ原子により任意で中断されるC2-12炭化水素鎖である。
【0016】
またさらなる態様では、少なくとも一つのL2は、-(CH2)pS(CH2)-NH-を含み、式中、pおよびqは独立して、0~5の整数である。
さらに本明細書において、以下の式(I)の化合物を含む、M2からM1へとTAMを再分極させるための化合物が開示される:
【0017】
【0018】
式中、各Xは独立して、H、L1-A、またはL2-Rであり、
L1およびL2の各々は独立して、リンカーであり、
各Aは独立して、治療剤またはHを含み、
各Rは独立して、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分またはHを含み、
およびnは、ゼロより大きい整数であり、ならびに
少なくとも一つのRが、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンからなる群から選択されるマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分を含み、少なくとも一つのAが治療剤を含み、この場合において治療剤は、ドキソルビシンを含む。
【0019】
特定の実装形態では、各L1は、ヒドラゾンリンカーである。
さらなる実装形態によると、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分とドキソルビシン部分の比率は、約18.5~約1.5である。またさらなる実装形態では、デキストラン骨格は、約10kDである。
【0020】
さらに本明細書において、本明細書に開示される化合物のいずれかの有効量を、その必要のある対象に投与することを含む、感染性疾患を治療する方法が開示され、この場合において当該化合物は、M2マクロファージを誘導してM1マクロファージに再分極させるために充分な投与量で投与される。特定の実装態様では、感染性疾患は、以下から選択される:デング熱、結核、リーシュマニア症、およびヒト免疫不全ウイルス。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、Cu(II)-チルマノセプト(Cu(II)-Tilmanocept)の濃度を上昇させて23時間(ボランティアA)または48時間(ボランティアBおよびC)の曝露を行った後の、3名のボランティアに由来するM2マクロファージの幾何平均CD206の蛍光における減少のグラフを示す。
【
図2】
図2は、Cu(II)-チルマノセプトの濃度を上昇させて23時間または48時間の曝露を行った後の、3名のボランティアに由来する、Cu(II)-チルマノセプトと+0対照を比較した幾何平均CD206の比率のグラフを示す。
【
図3】
図3は、Cu(II)-チルマノセプトに23時間または48時間のいずれかの間、濃度上昇させて曝露を行ったときの、M2マクロファージによるCD80およびCD86の発現の変化を示す。
【
図4】
図4は、23時間または48時間のいずれかの期間、濃度を上昇させたCu(II)-チルマノセプトで処置されたCD206+M2マクロファージにおける、CD206発現の変化に対して正規化されたCD80およびCD86の発現の変化を示す。
【
図5】
図5は、4人のドナーに由来する6つの実験の正規化MO CD86発現データを示す。
【
図6】
図6は、4人のドナーに由来する7つの実験の正規化MO CD163発現データを示す。
【
図7】
図7は、4人のドナーに由来する5つの実験の正規化MO CD64発現データを示す。
【
図8】
図8は、5人のドナーに由来する8つの実験の正規化MO CD206制御データを示す。
【
図9】
図9は、6つの処置に対する4TI腫瘍の増殖を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において範囲は、「約」一つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値までとして表され得る。そのような範囲が表される場合、さらなる態様は、一つの特定の値から、および/または他の特定の値までを含む。同様に、値が近似値として表される場合、「約」という先行詞の使用によって、当該特定の値が、さらなる態様を形成することが理解されるであろう。各範囲のエンドポイントは、他のエンドポイントとの関連において、そして他のエンドポイントとは独立して、の両方において重要であることがさらに理解されるであろう。さらに、本明細書において多くの値が開示されており、そして各値はその値自体に加えて、「約」当該特定の値として本明細書に開示されることも理解される。例えば、値の「10」が開示される場合、「約10」も開示される。また、二つの特定の単位間の各単位も開示されることも理解される。例えば、10および15が開示される場合、11、12、13、および14も開示される。
【0023】
本明細書において、および結末の請求の範囲において使用される場合、化学種の残基とは、特定の反応スキーム、または後続の化学製品の製剤化において、当該部分が実際に当該化学種から取得されるかに関わらず、当該化学種の結果として得られた生成物である部分を指す。したがって、ポリエステル中のエチレングリコール残基とは、当該ポリエステルを調製するためにエチレングリコールが使用されたか否かに関わらず、当該ポリエステル中の一つ以上の-OCH2CH2O-単位を指す。同様に、ポリエステル中のセバシン酸残基とは、セバシン酸またはそのエステルを反応させて当該ポリエステルを取得することにより当該残基が得られるか否かに関わらず、当該ポリエステル中の一つ以上の-CO(CH2)8CO-部分を指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「置換された」という用語は、有機化合物の全ての許容可能な置換基を含むことが予期される。広範な態様では、許容可能な置換基は、有機化合物の非環状および環状、分岐および非分岐、炭素環式および複素環式、ならびに芳香族および非芳香族の置換基を含む。例示的な置換基としては、例えば、以下に記載されるものが挙げられる。許容可能な置換基は、適切な有機化合物に対して、一つ以上であってもよく、および同一または異なってもよい。本開示の目的に対し、例えば窒素などのヘテロ原子は、当該ヘテロ原子の価数を満たす水素置換基、および/または本明細書に記載される有機化合物の任意の許容可能な置換基を有し得る。本開示は、有機化合物の許容可能な置換基により、いかなる様式でも制限されることを意図するものではない。さらに、「置換」または「~で置換された」という用語は、そのような置換が、置換される原子および置換基の許容される価数に従っていること、および当該置換が、安定的な化合物、例えば、再構成、環化、除去などによる自発的な変換を行わない化合物を生じさせること、という暗黙的な条件を含む。さらに、特定の態様では、反対であることが明白に示されない限り、個々の置換基はさらに任意で置換され得る(すなわち、さらに置換されるか、または置換されない)ことも予期される。
【0025】
様々な用語の定義において、本明細書では、様々な特定の置換基を表すための一般記号として「A1」、「A2」、「A3」、および「A4」が使用される。これらの記号は、任意の置換基であり得、本明細書に開示されるものに限定されない。一例において特定の置換基であると定義されるときでも、別の例では、それらは何らかの他の置換基として定義され得る。
【0026】
「R1」、「R2」、「R3」、「Rn」は、式中、nは整数であり、本明細書で使用される場合、独立して、上記に列挙された基のうちの一つ以上を保有し得る。例えば、R1が直鎖アルキル基である場合、当該アルキル基の水素原子のうちの一つは、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルキル基、ハロゲン化物などで任意で置換され得る。選択される基に応じて、第一の基は、第二の基内に組み込まれてもよく、または代替的に、第一の基は、第二の基に対するペンダントであってもよい(すなわち付加されていてもよい)。例えば、「アミノ基を含むアルキル基」という文言があれば、アミノ基はアルキル基の骨格内に組み込まれてもよい。あるいは、アミノ基は、アルキル基の骨格に付加されてもよい。選択される基の性質によって、第一の基が第二の基に組み込まれるか、または付加されるかが決定される。
【0027】
本明細書に記載されるように、本発明の化合物は、「任意に置換される」部分を含有し得る。概して、「任意で」という用語が先行するか否かにかかわらず、「置換される」という用語は、指定された部分の一つ以上の水素が適切な置換基で置換されることを意味する。別段の示唆が無い限り、「任意で置換される」基は、当該基の置換可能な位置ごとで適切な置換基を有してもよく、任意の所与の構造中の複数の位置は、指定される基から選択される複数の置換基で置換されてもよく、当該置換基は、位置ごとに同じであっても異なってもよい。本発明により想定される置換基の組み合わせは、安定的または化学的に実現可能な化合物の形成をもたらす組み合わせであることが好ましい。さらに、特定の態様では、反対であることが明白に示されない限り、個々の置換基はさらに任意で置換され得る(すなわち、さらに置換されるか、または置換されない)ことも予期される。
【0028】
本明細書に開示される特定の材料、化合物、組成物、および構成要素は、購入して取得することができ、または当業者に公知の技術を使用して容易に合成することができる。例えば開示される化合物および組成物の調製に使用される開始材料および試薬は、例えば、Aldrich Chemical Co.、(ウィスコンシン州ミルウォーキー)、Acros Organics社(ニュージャージー州モリスプレインズ)、Fisher Scientific社(ペンシルベニア州ピッツバーグ)またはSigma社(ミズーリ州セントルイス)などの供給企業から入手可能であり、または例えば、Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,Volumes 1-17(John Wiley and Sons,1991);Rodd’s Chemistry of Carbon Compounds,Volumes 1-5 and Supplementals(Elsevier Science Publishers,1989);Organic Reactions,Volumes 1-40(John Wiley and Sons,1991);March’s Advanced Organic Chemistry,(John Wiley and Sons,4th Edition);およびLarock’s Comprehensive Organic Transformations(VCH Publishers Inc.,1989)などの参照文献中に記載される手順に従い、当業者に公知の方法により調製される。
【0029】
本発明の組成物を調製するために使用される構成要素、ならびに本明細書に開示される方法で使用される組成物それ自体が開示される。これら材料および他の材料が本明細書に開示されており、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などが開示される場合、これらの化合物のそれぞれの様々な個々の、および集団の組み合わせならびに配置に関する特定の参照は、明示的に開示することができないが、各々が本明細書に具体的に予期され、記述されることが理解される。例えば、特定の化合物が開示および検討され、当該化合物を含む多数の分子に対して行うことができる多数の改変が検討される場合、反対であることが具体的に示されない限り、可能性のある化合物および改変のあらゆる組み合わせおよび配置が具体的に予期される。したがって、分子A、分子B、および分子Cの一種、ならびに分子D、分子E、および分子Fの一種、ならびに組み合わせ分子の例のA-Dが開示される場合、各々が個別に列挙されていない場合でも、各々が個別におよび集合的に、A-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-EおよびC-Fの予期される意味のある組み合わせが開示されたとみなされる。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせも開示される。したがって、例えば、A-E、B-F、およびC-Eのサブグループが開示されるとみなされる。この概念は、本発明の組成物を作製および使用する方法の工程を含むがこれに限定されない、本出願のすべての態様に適用される。したがって、実施され得る様々な追加的な工程がある場合、これら追加的な工程の各々は、本発明の方法の任意の特定の実施形態、または実施形態の組み合わせを用いて実施され得ることが理解される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容可能な担体」または「担体」という用語は、滅菌された水性もしくは非水性の溶液、コロイド、分散液、懸濁液、またはエマルション、ならびに滅菌注射溶液または滅菌注射用分散液に使用直前に再構成するため滅菌粉末を指す。適切な水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒またはビヒクルの例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、カルボキシメチルセルロース、およびそれらの適切な混合物、植物油(例えば、オリーブオイル)および例えばオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。例えばレシチンなどのコーティング物質の使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持することにより、および界面活性剤の使用により、適切な流動性が維持され得る。これらの組成物はさらに、例えば保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などのアジュバントを含有してもよい。微生物の影響の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含有させることにより確保されてもよい。例えば、糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を含有させることが望ましい場合もある。注射用医薬品の持続的吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどの吸収を遅延させる剤を含有させることにより実現されてもよい。注射用デポ型は、例えばポリアクチド-ポリグリコリド、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)などの生分解性ポリマー中で薬剤のマイクロカプセル基質を形成させることにより作製される。剤とポリマーの比率、および採用される特定のポリマーの性質に応じて、薬剤放出速度を制御してもよい。デポ型注射用製剤は、身体組織との適合性があるリポソームまたはマイクロエマルション中に薬剤を封入することにより調製される。注射用製剤は、例えば細菌保持フィルターを通じたろ過により、または使用直前に滅菌水もしくは他の滅菌注射用媒体中に溶解または分散され得る滅菌固形組成物の形態で滅菌剤を組み込むことにより、滅菌されてもよい。適切な不活性担体としては、例えばラクトースなどの糖が挙げられる。活性成分の粒子の少なくとも95重量%は、0.01~10マイクロメートルの範囲の有効粒子サイズを有することが望ましい。
【0031】
本明細書において、「分極」という用語は、マクロファージの表現型の特性および機能的な特性を示すために使用される。表現型は、マクロファージにより発現される表面マーカーを通じて定義されてもよい。機能性は、例えば、マクロファージにより発現され、特に分泌される、ケモカインおよび/またはサイトカインの性質ならびに量に基づいて定義されてもよい。実際にマクロファージは炎症促進性のMl型マクロファージまたは抗炎症性のM2型マクロファージのいずれかの自身の状態に応じて、異なる表現型および機能の特性を呈する。M2型マクロファージは、例えば、CD206、CD11b、PD-Ll、およびCD200Rなどの表面マーカーの発現、次いでCCL17などのサイトカインの分泌によって特徴付けられ得る。Ml型マクロファージは、例えば、CD86およびCCR7などの表面マーカーの発現、ならびに例えば、IL-6、TNF-aおよびIL12p40などのサイトカインの分泌によって定義され得る。本開示の状況において、「再分極」は、M1マクロファージ集団の表現型変化を、M1型マクロファージへ誘導することである。
【0032】
本明細書で使用される場合、「癌」という用語は、自律的増殖の能力を有する細胞を指す。そのような細胞の例としては、急速に増殖する細胞増殖を特徴とする異常な過程または状態を有する細胞が挙げられる。当該用語は、組織病理学的な型または浸潤段階に関係なく、例えば、腫瘍;腫瘍形成プロセス、転移組織、および悪性形質転換された細胞、組織または器官などの癌性の増殖を含むことが意図される。また、例えば呼吸器系、心血管系、腎系、生殖系、血液系、神経系、肝臓系、消化器系、および内分泌系などの様々な器官系の悪性腫瘍、ならびに例えば大部分の結腸癌、腎細胞癌、前立腺癌ならびに/または精巣腫瘍、肺の非小細胞癌、小腸癌、および食道癌などの悪性腫瘍を含む腺癌も含まれる。「自然に生じる」癌は、対象への癌細胞の移植によって実験的に誘導されたのではない任意の癌を含み、例えば、自然発生的に発生する癌、発癌物質への患者の曝露によって引き起こされる癌、トランスジェニック癌遺伝子の挿入から生じる癌または腫瘍抑制遺伝子のノックアウトから生じる癌、および例えばウイルス感染などの感染によって引き起こされる癌を含む。「癌腫」という用語は、当分野で認識されており、上皮組織または内分泌組織の悪性腫瘍を指す。一部の実施形態では、本方法を使用して、例えば、肺、乳房、卵巣、前立腺、腎臓、膵臓または結腸の癌など、上皮起源の固形腫瘍などの上皮癌を有する対象を治療してもよい。
【0033】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、例えば動物などの投与の標的を指す。したがって、本明細書に開示される方法の対象は、例えば哺乳動物、魚類、鳥類、爬虫類、または両生類などの脊椎動物であってもよい。あるいは、本明細書に開示される方法の対象は、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ネコ、モルモット、または齧歯類であってもよい。当該用語は、特定の年齢または性別を示すものではない。したがって、成人および新生児の対象、ならびに胎児も範囲にあることが意図され、雄雌にかかわらない。一つの態様では、対象は、哺乳動物である。患者とは、疾患または障害に罹患した対象を指す。「患者」という用語は、ヒトおよび獣医学対象を含む。本開示の方法の一部の態様では、対象は、投与工程の前に一つ以上の癌障害の治療の必要があると診断されている。
【0034】
本明細書で使用される場合、「相乗効果的」という用語は、本発明の方法および組み合わせで達成される効果が、当該化合物、組成物、治療および/または方法、その薬学的に許容可能な塩を別個に使用することから生じる効果の合計よりも大きいことを意味する。そのような相乗効果は、同じ用量でより高い効果を提供し、および/または多剤耐性の発生を予防もしくは遅延させるという点で有益である。
【0035】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、疾患、病的状態、または障害を治癒、改善、安定化、または予防することを意図した、患者の医学的管理を指す。当該用語は、能動的治療、すなわち、特に疾患、病的状態、または障害の改善に向けられた治療を含み、また、因果関係のある治療、すなわち、関連する疾患、病的状態または障害の原因の除去に向けられた治療を含む。さらに当該用語には、緩和治療、すなわち疾患、病的状態または障害の治癒ではなく症状の軽減のために設計された治療、予防的治療、すなわち関連する疾患、病的状態または障害の発生を最小化する、または部分的もしくは完全に阻害することを目指した治療、および支持的治療、すなわち、関連する疾患、病的状態または障害の改善を目指した別の特定の治療法を補助するために採用される治療が含まれる。様々な態様では、当該用語は、哺乳動物(例えば、ヒト)を含む対象の任意の治療を範囲に入れており、および(i)疾患に罹患しやすいが、まだ疾患を有すると診断されていない対象において疾患が発生することを予防すること、(ii)疾患を阻害すること、すなわち、その進展を停止させること、または(iii)疾患を緩和すること、すなわち、疾患の退縮をもたらすこと、を含む。一つの態様では、対象は、例えば霊長類などの哺乳動物であり、さらなる態様では、対象は、ヒトである。「対象」という用語はまた、ペット(例えば、ネコ、イヌなど)、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、および実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ミバエなど)も含む。
【0036】
本明細書で使用される場合、「予防する」または「予防すること」という用語は、特に事前措置によって出来事を排除、回避、未然に防ぐ、防止、停止、または妨害することを指す。別段であることが具体的に示されない限り、本明細書において低下、阻害、または予防が使用される場合、他の二つの用語の使用も明示的に開示されることが理解される。
【0037】
本明細書で使用される場合、「診断される」という用語は、例えば、医師などの当業者による身体検査を受け、本明細書に開示される化合物、組成物もしくは方法により診断または治療され得る状態を有することが判明したことを意味する。例えば、「癌と診断される」とは、例えば医師などの当業者による身体検査を受け、腫瘍の大きさが低下し得る、または腫瘍増殖の速度を遅延させ得る化合物または組成物により診断または治療され得る状態を有することが判明したことを意味する。癌、腫瘍、または少なくとも一つの癌細胞もしくは腫瘍細胞を有する対象は、当分野で公知の方法を使用して特定されてもよい。例えば、癌細胞もしくは腫瘍の解剖学的位置、肉眼サイズ、および/または細胞組成は、造影MRIまたはCTを使用して判定されてもよい。癌細胞を特定するための追加的な方法としては、限定されないが、超音波、骨スキャン、外科生検、および生物学的マーカー(例えば、血清タンパク質レベルおよび遺伝子発現プロファイル)が挙げられる。本発明の細胞感受性組成物を含む撮像溶液を例えばMRIまたはCTと組み合わせて使用して、癌細胞を特定してもよい。
【0038】
本明細書で使用される場合、「投与すること」および「投与」という用語は、対象に医薬調製物を提供する任意の方法を指す。そのような方法は当業者に公知であり、限定されないが、経口投与、経皮投与、吸入による投与、経鼻投与、局所投与、膣内投与、眼投与、耳内投与、脳内投与、直腸投与、舌下投与、口腔投与および非経口投与が挙げられ、非経口投与には例えば静脈内投与、動脈内投与、侵襲を伴う特定の器官への投与、筋肉内投与、腫瘍内投与、および皮下投与などの注射が含まれる。投与は、連続的または断続的であってもよい。様々な態様では、調製物は、治療的に投与されてもよい。すなわち、既存の疾患または状態を治療するために投与されてもよい。さらに様々な態様では、調製物は、予防的に投与されてもよい。すなわち、疾患または状態の予防のために投与されてもよい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「有効量」および「有効な量」という用語は、所望の結果を実現するために充分な量、または望ましくない状態に対する効果を有するために充分な量を指す。例えば、「治療有効量」とは、所望の治療結果を実現するために充分、または望ましくない症状に対する効果を有するために充分であるが、しかし有害な副作用を生じさせるには概して不充分である量を指す。任意の特定の患者に対する具体的な治療有効投与量のレベルは、治療される障害、および障害の重大度、採用される特定の組成物、患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別および食事、投与時間、投与経路、採用される特定の化合物の排泄速度、治療の継続期間、採用される特定の化合物と組み合わせて使用される、または同時に使用される薬物を含む様々な因子、および医学分野に公知の同様の因子に依存する。例えば、所望の治療効果を実現するために必要とされるレベルよりも低いレベルで化合物の投与を開始して、所望の効果が実現されるまで用量を徐々に増加させることは、当分野の技術範囲内にある。望ましい場合には、有効一日投与量は、投与目的に対し、複数の投与量に分けられてもよい。その結果として、一回の投与組成物は、そのような量またはその約数を含有して、一日投与量を構成してもよい。用量は、何らかの禁忌が発生した場合に、個々の医師によって調整されてもよい。用量は、変化してもよく、一日または数日にわたり、毎日一つ以上の投与量の投与が投与されてもよい。所与の種類の医薬品に関する適切な用量についてのガイダンスは、文献中に見出すことができる。さらなる様々な態様では、調製物は、「予防的に有効な量」で投与されてもよい。すなわち、疾患または状態の予防に有効な量で投与されてもよい。
【0040】
有効な用量は、インビトロアッセイから最初に推定され得る。例えば、動物における使用のための初期用量は、インビトロアッセイで測定された特定の化合物のIC50以上の活性化合物の循環血液濃度または血清濃度を達成するように策定されてもよい。そのような循環血液濃度または血清濃度を達成する用量を計算し、特定の活性剤の生体利用効率を考慮に入れることは、当業者の技術範囲内にある。ガイダンスについては、Fingl & Woodbury,“General Principles,”In:Goodman and Gilman’s The Pharmaceutical Basis of Therapeutics,Chapter 1,pp.1-46、最新版、Pergamagon Pressと呼ばれており、当該文献およびその中で引用されている参照文献は、その全体で参照により本明細書に援用される。
【0041】
「抗癌組成物」という文言は、抗新生物効果、化学療法的効果、抗ウイルス効果、抗有糸分裂効果、抗腫瘍発生効果、抗血管新生効果、抗転移効果、および/または免疫療法的効果を発揮する組成物を含み得、例えば、細胞増殖抑制作用または殺細胞作用により腫瘍細胞に対して直接的に、および例えば生物応答の改変などのメカニズムを介して非間接的に、新生細胞の発生、成熟または拡散を阻害し得る。商業的使用、臨床評価、および前臨床開発において利用可能な多数の抗増殖剤が存在し、それらは併用薬剤化学療法により本出現に含まれ得る。検討の便宜上、抗増殖剤は、以下のクラス、サブタイプ、および種に分類される:ACE阻害剤、アルキル化剤、血管新生阻害剤、アンギオスタチン、アントラサイクリン/DNAインターカレーター、抗癌抗生物質または抗生物質型の剤、抗代謝剤、抗転移化合物、アスパラギナーゼ、ビスホスホネート、cGMPホスホジエステラーゼ阻害剤、炭酸カルシウム、シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤、DHA誘導体、DNAトポイソメラーゼ、エンドスタチン、エピポドフィロトキシン、ゲニステイン、ホルモン性抗癌剤、親水性胆汁酸(URSO)、免疫調節剤または免疫剤、インテグリンアンタゴニスト、インターフェロンアンタゴニストまたはインターフェロン剤、MMP阻害剤、混合型抗腫瘍剤、モノクローナル抗体、ニトロソウレア、NSAID、オルニチンデカルボキシラーゼ阻害剤、pBATT、放射線/化学療法剤の増感剤/プロテクター、レチノイド、内皮細胞の増殖および遊走の選択的阻害剤、セレン、ストロメライシン阻害剤、タキサン、ワクチン、およびビンカアルカロイド。
【0042】
一部の抗増殖剤が該当する主なカテゴリーには、抗代謝剤、アルキル化剤、抗生物質型の剤、ホルモン性抗癌剤、免疫剤、インターフェロン型の剤、および混合型の抗腫瘍剤のカテゴリーが含まれる。一部の抗増殖剤は、複数のメカニズムまたは未知のメカニズムを介して作用し、ゆえに複数のカテゴリーに分類される場合がある。
【0043】
「チルマノセプト(tilmanocept)」とは、LYMPHOSEEK(登録商標)診断剤の非放射標識性の医薬品有効成分(API)を指す。チルマノセプトは、マンノシルアミノデキストランである。チルマノセプトは、複数のアミノ末端鎖(amino-terminated leash)(-O(CH2)3S(CH2)2NH2)がコアグルコース要素に付加されるデキストラン骨格を有する。さらにマンノース部分が多数の鎖(leash)のアミノ基に結合され、キレート剤のジエチレントリアミン五酢酸(DTPA:diethylenetriamine pentaacetic acid)が、マンノースを含有しない他の鎖(leash)のアミノ基に結合され得る。チルマノセプトは概してデキストラン骨格を有し、その中で複数のグルコース残基が以下のアミノ末端鎖を含む:
【0044】
【0045】
マンノース部分は、アミジンリンカーを介して、鎖のアミノ基に結合される:
【0046】
【0047】
キレート剤のジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)は、アミドリンカーを介して鎖のアミノ基に結合される:
【0048】
【0049】
チルマノセプトは、化学名がデキストラン 3-[(2-アミノエチル)チオ]プロピル 17-カルボキシ-10,13,16-トリス(カルボキシメチル)-8-オキソ-4-チア-7,10,13,16-テトラアザヘプタデカ-1-イル 3-[[2-[[1-イミノ-2-(D-マンノピラノシルチオ)エチル]アミノ]エチル]チオ]プロピルエーテル錯体であり、チルマノセプト Tc99mは、以下の分子式を有する:[C6H10O5]n.(C19H28N4O9S99mTc)b.(C13H24N2O5S2)c.(C5H11NS)a。そして3-8個の結合DTPA分子(b);12-20個の結合マンノース分子(c);および0-17個のアミン側鎖(a)を含有し、遊離状態を維持する。チルマノセプトは、以下の一般構造を有する:
【0050】
【0051】
グルコース部分の一部は、付加されるアミノ末端鎖を有さない場合がある。
本開示は、活性化マクロファージの表現型を、免疫抑制性の表現型から炎症促進性の表現型へと変化または移行させること(本明細書において、「再分極」と呼称される)に関する有用性を有する組成物および方法を記述する。活性化マクロファージの表現型を免疫抑制性から炎症促進性へと変化させるまたは移行させる能力は、癌、様々な感染症、およびその他の医学的状態に対する治療モダリティの構成要素となる。本開示はさらに、TAMを再分極する目的を伴って、低分子および/または金属イオンをTAMに標的化送達することを可能にする薬剤送達ビヒクルおよび使用方法を記述する。TAM標的送達は、TAMに対し、より大量の低分子やイオンの投与を提供し、表現型変化の効果を高めつつ、標的外の細胞や組織への潜在的な毒物暴露を限定的にする。本開示の組成物および方法の使用を通して、M2様(免疫抑制性)の活性化マクロファージは、様々な低分子または金属イオンへの暴露により自身の表現型をM1様(炎症促進性)の活性化表現型にスイッチするよう誘導され得る。
【0052】
化合物
特定の態様では、本明細書に開示される化合物は、マンノース結合C-レクチン型受容体標的化部分(例えば、マンノース)と結合されたポリマー(例えば、炭水化物)骨格を含む担体構築物を採用して、一つ以上の活性治療剤を送達する。そのような構築物の例としては、マンノシルアミノデキストラン(MAD)が挙げられる。MADは、デキストラン骨格を含み、当該骨格のグルコース残基にマンノース分子が結合され、および当該骨格のグルコース残基に活性医薬成分が結合される。チルマノセプトは、MADの具体的な例である。DTPAが結合していないチルマノセプトであるチルマノセプト誘導体は、MADのさらなる例である。
【0053】
特定の実装形態では、本開示は、一つ以上のマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分と、それに付加される一つ以上の治療剤とを有するデキストランを基にした部分または骨格を含む化合物を提供する。デキストランを基にした部分は概して、米国特許6,409,990号(‘990特許)に記述されるものと類似したデキストラン骨格を含む。当該特許は、参照により本明細書に援用される。したがって骨格は、主にα-1,6グリコシド結合により結合される、複数のグルコース部分(すなわち、残基)を含む。例えば、α-1,4結合および/またはα-1,3結合などの他の結合も存在し得る。一部の実施形態では、すべての骨格部分が置換されているわけではない。一部の実施形態では、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分は、デキストラン骨格のグルコース残基の約10%~約50%、またはグルコース残基の約20%~約45%、またはグルコース残基の約25%~約40%に付加されている。一部の実施形態では、デキストランを基にした部分は、約50~100kDである。デキストランを基にした部分は、少なくとも約50kD、少なくとも約60kD、少なくとも約70kD、少なくとも約80kD、または少なくとも約90kDであってもよい。デキストランを基にした部分は、約100kD未満、約90kD未満、約80kD未満、約70kD未満、または約60kD未満であってもよい。あるいは一部の実施形態では、デキストラン骨格は、約1~約50kDaのMWを有し、一方で他の実施形態では、デキストラン骨格は約5~約25kDaのMWを有する。さらに他の実施形態では、デキストラン骨格は、約8~約15kDa、例えば約10kDaのMWを有する。他の実施形態では、デキストラン骨格は、約1kDa~約5kDa、例えば約2kDaのMWを有する。
【0054】
さらなる態様によると、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分は、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンから選択されるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、標的化部分は、デキストラン骨格のグルコース残基の約10%~約50%、またはグルコース残基の約20%~約45%、またはグルコース残基の約25%~約40%に付加されている。本明細書で参照されるMW、ならびにデキストラン骨格に付加される受容体基質、鎖および診断部分/治療部分の数および結合の程度は、合成技術によりいくらかの変動が生じるため、所与の数量の担体分子の平均の量を指す。
【0055】
特定の実施形態によると、一つ以上のマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分および一つ以上の治療剤は、リンカーによりデキストランを基にした部分に付加される。リンカーは、骨格部分の約50%~約100%、または約70%~約90%で付加されてもよい。リンカーは同一であっても異なっていてもよい。一部の実施形態では、リンカーは、アミノ末端リンカーである。一部の実施形態では、リンカーは、-O(CH2)3S(CH2)2NH-を含んでもよい。一部の実施形態では、リンカーは、炭素、酸素、硫黄、窒素およびリンから選択される1~20員の原子の鎖であってもよい。リンカーは、直鎖または分岐鎖であってもよい。またリンカーは、限定されないが、ハロ基、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、アルキル基、例えばC1-4アルキル、アルケニル基、例えばC1-4アルケニル、アルキニル基、例えばC1-4アルキニル、ヒドロキシ基、オキソ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アルコキシ基、ニトロ基、アジドアルキル基、アリール基またはヘテロアリール基、アリールオキシ基またはヘテロアリールオキシ基、アラルキル基またはヘテロアラルキル基、アラルコキシ基またはヘテロアラルコキシ基、HO-(C=O)-基、複素環基、シクロアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アリールカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、-NH-NH2、=N-H、=N-アルキル、-SH、-S-アルキル、-NH-C(O)-、-NH-C(=N)-などをはじめとする一つ以上の置換基で置換されてもよい。当業者には明らかであるように、他の適切なリンカーも可能である。
【0056】
一部の実施形態では、一つ以上の治療剤が、生分解性リンカーを介して付加される。一部の実施形態では、生分解性リンカーは、例えばヒドラゾンなどのpH感受性部分を含む。低い(より酸性の)pHでは、ヒドラゾンリンカーは、pHが低下するにつれて速い速度で自然に加水分解する。マンノシル化デキストランはCD206に結合すると、エンドソームに内部移行され、徐々に酸性化される。それに伴い治療剤搭載物は細胞内に放出される。
【0057】
特定の実施形態では、治療剤は、本明細書に開示されるMAD担体に付加されたとき、M2-マクロファージからM1-マクロファージへと再分極させることができる。さらなる実施形態では、治療剤は、T細胞活性化を誘導することができる。
【0058】
さらなる実施形態では、治療剤は、細胞障害剤である。またさらなる実施形態では、治療剤は、抗癌剤である。
特定の代替的な実施形態では、化合物は、ポリマー(例えば、炭水化物)骨格を含む担体構築物のいずれかであり、当該骨格には、本明細書に開示されるマンノース結合C-レクチン型受容体標的化部分が結合されるが、治療部分/治療剤は結合されない。これらの実施形態の例示的な実装形態では、そのような化合物は、以下で詳述される、一つ以上の治療法または治療と併せて投与される。
【0059】
特定のさらなる実施形態によると、治療剤は、パクリタキセル、ゲムシタビン、ラパチニブ、およびドキソルビシンから選択される。さらなる実施形態では、治療剤は、ドキソルビシンである。特定の態様では、対象への組成物の投与は、当該組成物に結合されていない治療剤の同等の投与量と比較して毒性を低下させた。
【0060】
特定の実施形態によると、治療剤は、ビスホスホネートである。これらの実施形態の例示的な実装形態では、ビスホスホネートは、ゾレドロン酸である。
特定の態様では、治療剤は、金属イオンである。特定の例示的な実施形態では、例えば、ヒ素、アンチモン銀、カドミウム、ガリウム、またはガドリニウムなどの金属が、治療剤である。
【0061】
例示的な実施形態では、金属イオンは、Cu(II)である。これらの実施形態の例示的な態様では、Cu(II)イオンは、一つ以上の鎖上のキレート剤(以下にさらに記述)に結合される。特定の態様では、治療剤は、1分子の化合物当たり一つ以上のCu(II)イオンから構成される。さらなる実施形態では、治療剤は、1個のCu(II)イオンから、キレート剤部分の数と等しい数のCu(II)イオンから構成される。またさらなる実施形態では、Cu(II)イオンの数は、1~12個のCu(II)イオンである。さらなる実施形態では、Cu(II)イオンの数は、3~8個のCu(II)イオンである。さらなる実施形態では、治療剤は、約4個のCu(II)イオンから構成される。
【0062】
特定の態様では、キレート剤は、開示される化合物に付加されてもよく、または組み込まれてもよく、そしてこれを使用して、例えばCu(II)などの治療剤をキレートしてもよい。例示的なキレート剤としては、限定されないが、DTPA(例えばMx-DTPA)、DOTA、TETA、NETA、またはNOTAが挙げられる。特定の例示的な実装形態によると、キレート剤は、DOTAである。
【0063】
さらに本明細書において、以下の式(I)の化合物を含む、M2からM1へとTAMを再分極させるための化合物が開示される:
【0064】
【0065】
式中、
各Xは独立して、H、L1-A、またはL2-Rであり、
L1およびL2の各々は独立して、リンカーであり、
各Aは独立して、治療剤またはHを含み、
各Rは独立して、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分またはHを含み、
およびnは、ゼロより大きい整数であり、ならびに
少なくとも一つのRが、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンからなる群から選択されるマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分を含み、少なくとも一つのAが治療剤を含み、治療剤は、キレート剤および少なくとも一つのCu(II)イオンを含む。
【0066】
特定の実装形態では、少なくとも一つのL1は、-(CH2)pS(CH2)-NH-を含み、式中、pおよびqは、0~5の整数である。
さらなる態様では、少なくとも一つのL2は、O、SおよびNからなる群から選択される最大で3個のヘテロ原子により任意で中断されるC2-12炭化水素鎖である。
【0067】
またさらなる態様では、少なくとも一つのL2は、-(CH2)pS(CH2)-NH-を含み、式中、pおよびqは独立して、0~5の整数である。
さらに本明細書において、以下の式(I)の化合物を含む、M2からM1へとTAMを再分極させるための化合物が開示される:
【0068】
【0069】
式中、各Xは独立して、H、L1-A、またはL2-Rであり、
L1およびL2の各々は独立して、リンカーであり、
各Aは独立して、治療剤またはHを含み、
各Rは独立して、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分またはHを含み、
およびnは、ゼロより大きい整数であり、ならびに
少なくとも一つのRが、マンノース、フコース、およびn-アセチルグルコサミンからなる群から選択されるマンノース結合C型レクチン受容体標的化部分を含み、少なくとも一つのAが治療剤を含み、この場合において治療剤は、ドキソルビシンを含む。
【0070】
特定の実装形態では、各L1は、ヒドラゾンリンカーである。
さらなる実装形態によると、マンノース結合C型レクチン受容体標的化部分とドキソルビシン部分の比率は、約18.5~約1.5である。またさらなる実装形態では、デキストラン骨格は、約10kDである。
【0071】
さらなる実施形態では、開示される組成物は、以下の式(II)の組成物である。
【0072】
【0073】
式中、*は、治療剤が付加される点を示す。特定の実施形態では、治療剤は、リンカーを介して付加される。
特定の実施形態によると、開示される化合物は、薬学的に許容可能な担体、および本明細書に開示される化合物または本明細書に開示される化合物の薬学的に許容可能な塩を含み得る。開示される化合物、またはその薬学的に許容可能な塩は、一つ以上の他の治療活性化合物と組み合わされて医薬組成物中に含まれてもよい。
【0074】
採用される薬学的担体は、例えば、固体、液体、または気体であってもよい。固体担体の例としては、ラクトース、白土(terra alba)、スクロース、滑石、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム、およびステアリン酸が挙げられる。液体担体の例としては、シュガーシロップ、ピーナッツオイル、オリーブオイル、および水が挙げられる。気体担体の例としては、二酸化炭素および窒素が挙げられる。
【0075】
経口剤形用の組成物の調製において、任意の便利な医薬媒体を採用してもよい。例えば、水、グリコール、油、アルコール、香味剤、防腐剤、着色剤等を使用して、懸濁液、エリキシル、および溶液などの経口液体調製物を形成してもよく、一方でデンプン、糖、微結晶セルロース、希釈剤、造粒剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤などの担体を使用して、粉末、カプセルおよび錠剤などの経口固体調製物を形成してもよい。投与の容易さから、錠剤およびカプセルが好ましい経口用量単位であり、したがって固体医薬担体が採用される。任意選択で、標準的な水性または非水性の技術により、錠剤をコーティングしてもよい。
【0076】
さらに本明細書において、開示される化合物を使用する方法が開示される。特定の実施形態では、腫瘍関連マクロファージ(TAM)をM2からM1に再分極する方法が開示され、当該方法は、本明細書に開示される化合物の有効量を、その必要のある対象に投与することを含む。
【0077】
特定の態様では、化合物は、治療有効量で投与される。さらなる態様では、化合物は、予防的有効量で投与される。
またさらなる態様では、方法は、化合物を静脈内、腹腔内、筋肉内、経口、皮下、眼内、腫瘍内に注射、または経皮的に投与、または侵襲的な技術により直接腫瘍器官に送達することをさらに含む。
【0078】
またさらなる態様では、方法は、組成物を、少なくとも一つの他の治療または治療法と併せて投与することをさらに含む。さらなる態様では、他の治療または治療法は、抗癌剤の同時投与を含む。さらなる態様では、他の治療または治療法は、化学療法である。特定の態様では、化合物は、単独で、または他の化学系治療剤と組み合わされて、または放射線療法もしくは温熱療法もしくは理学療法もしくは食事療法と組み合わされて、投与される。
【0079】
さらなる実施形態によると、少なくとも一つの他の治療または治療法は、例えば免疫調節剤の投与などの免疫療法である。特定の実装形態によると、少なくとも一つの他の治療または治療法は、抗CTLA4免疫療法である。特定の実装形態では、免疫調節剤は、免疫刺激剤である。一部の実施形態では、免疫調節剤は、グルココルチコイド、ヒドロコルチゾン(コルチゾール)、酢酸コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸デオキシコルチコステロン(doca)アルドステロン、非グルココルチコイドステロイド、細胞増殖抑制剤、アルキル化剤、ナイトロジェンマスタード(シクロホスファミド)、ニトロソウレア、白金化合物、抗代謝剤、プリンアナログ、アザチオプリン、メルカプトプリン、ミコフェノール酸、ピリミジン合成阻害剤、レフルノミド、テリフルノミド、葉酸アナログ、メトトレキサート、細胞傷害性抗生物質、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、抗体またはその融合物、抗胸腺細胞グロブリン、抗リンパ球グロブリン、抗IL-2受容体抗体、抗CD3抗体、OKT3(ムロモナブ)、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビシリズマブ、抗CD4抗体、クレノリキシマブ、ケリキシマブ、ザノリムマブ、抗CD11a抗体、エファリズマブ、抗CD18抗体、エリズマブ、ロベリズマブ、抗CD20抗体、アフツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、パスコリズマブ、リツキシマブ、抗CD23抗体、ルミリキシマブ、抗CD40抗体、テネリキシマブ、トラリズマブ、抗CD40L抗体、ルプリズマブ、抗CD62L抗体、アセリズマブ、抗CD80抗体、ガリキシマブ、抗CD147抗体、ガビリモマブ、B-リンパ球刺激因子(BLyS)阻害抗体、ベリムマブ、CTLA4-Ig融合タンパク質、アバタセプト、ベラタセプト、イピリムマブ、トレメリムマブ、抗エオタキシン1抗体、ベルチリムマブ、抗α4-インテグリン抗体、ナタリズマブ、抗IL-6R抗体、トシリズマブ、抗LFA-1抗体、オヅリモマブ(odulimomab)、抗CD25抗体、バシリキシマブ、ダクリズマブ、イノリモマブ、抗CD5抗体、ゾリモマブ、抗CD2抗体、シプリズマブ、ネレリモマブ、ファラリモマブ、アトリズマブ、アトロリムマブ、セデリズマブ、ドルリモマブアリトックス(dorlimomab aritox)、ドルリキシズマブ、フォントリズマブ、ガンテネルマブ、ゴミリキシマブ、レブリリズマブ、マスリモマブ、モロリムマブ、ペキセリズマブ、レスリズマブ、ロベリズマブ、タリズマブ、テリモマブアリトックス(telimomab aritox)、バパリキシマブ、ベパリモマブ、アフリベルセプト、アレファセプト、リロナセプト、イムノフィリン調節剤、ラパマイシン、カルシンクリン阻害剤、タクロリムス、シクロスポリン(サイクロスポリン)、ピメクロリムス、アベチムス、グスペリムス、リダホロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、TNF阻害剤、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ ペゴル、ゴリムマブ、エタネルセプト、サリドマイド、レナリドミド、ペントキシフィリン、ブプロピオン、クルクミン、カテキン、IL-1受容体アンタゴニスト、アナキンラ、抗IL-5抗体、メポリズマブ、IgE阻害剤、オマリズマブ、タリズマブ、IL12阻害剤、IL23阻害剤、ウステキヌマブ、オピオイド、IMPDH阻害剤、ミコフェノール酸、ミリオシン、フィンゴリモド、NF-κB阻害剤、ラロキシフェン、ドロトレコジンアルファ、デノスマブ、NF-κBシグナル伝達カスケード阻害剤、ジスルフィラム、オルメサルタン、ジチオカルバメート、プロテアソーム阻害剤、ボルテゾミブ、MG132、Pro1、NPI-0052、クルクミン、ゲニステイン、レスベラトロール、パルテノリド、サリドマイド、レナリドミド、フラボピリドール、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、三酸化ヒ素、デヒドロキシメチルエポキシキノマイシン(DHMEQ)、13C(インドール-3-カルビノール)/DIM(ジ-インドールメタン)(I3C/DIM)、Bay 11-7082、ルテオリン、細胞透過性ペプチドSN-50、IκBαスーパーリプレッサー過剰発現、NFκBデコイオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、またはそのいずれかの誘導体もしくは類似体である。
【0080】
例示的な実装形態では、化合物と少なくとも一つの治療または治療法の併用投与は、いずれか単独の投与と比較して相乗的な効果がある。
特定の実施形態によると、別の治療法または治療と併用された本明細書に開示される化合物の投与は、当該他の治療法または治療の単独の投与と比較して、毒性の低下と関連している。さらなる実施形態では、本開示化合物と他の治療法または治療の同時投与は、相乗効果を生じさせる。またさらなる実施形態では、本開示の化合物の同時投与は、他の治療法または治療よりも少ない有効投与量を提供する。
【0081】
本明細書に提供される方法は、アジュバント環境下で実施されてもよい。一部の実施形態では、方法は、ネオアジュバント環境下で実施される。すなわち、方法は、一次療法/根治療法の前に実行されてもよい。一部の実施形態では、方法は、過去に治療されている個体を治療するために使用される。本明細書に提供される治療方法のいずれかを使用して、過去に治療されていない個体を治療してもよい。一部の実施形態では、方法は、一次選択療法として使用される。一部の実施形態では、方法は、二次選択療法として使用される。
【0082】
特定の態様によると、対象は、メラノーマ、乳癌、肺癌、膵癌、腎癌、卵巣癌、前立腺癌もしくは子宮頸癌、グリア芽腫、もしくは結腸直腸癌、脳脊髄腫瘍、頭頸部癌、胸腺腫、中皮腫、食道癌、胃癌、肝癌、膵癌、胆管癌、膀胱癌、精巣癌、生殖細胞腫瘍、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、リンパ腫、急性白血病、慢性白血病、多発性骨髄腫、肉腫、またはそれらの任意の組み合わせと診断されている。
【0083】
特定の態様では、方法は、ボーラスとしての組成物の投与、および/または定期的な間隔での組成物の投与をさらに含む。特定の態様では、本開示の方法は、組成物を静脈内、腹腔内、筋肉内、経口、皮下、腫瘍内、または経皮で投与することをさらに含む。
【0084】
特定のさらなる実施形態によると、方法は、対象を癌と診断することをさらに含む。さらなる態様では、対象は、組成物の投与前に癌と診断される。またさらなる態様によると、方法は、組成物の有効性を評価することをさらに含む。またさらなる態様では、組成物の有効性の評価は、組成物を投与する前に腫瘍サイズを測定し、および化合物の投与後に腫瘍サイズを測定することを含む。さらなる態様では、組成物の有効性の評価は、定期的な間隔で行われる。特定の態様によると、本開示の方法は、方法の少なくとも一つの態様を任意に調整することをさらに含む。またさらなる態様では、方法の少なくとも一つの態様の調整は、組成物の投与量、組成物の投与頻度、または化合物の投与経路の変更を含む。
【0085】
特定の代替的な実施形態によれば、対象は、CD206+マクロファージおよび/またはMDSCのレベル上昇に関連する疾患と診断されている。そのような疾患または状態としては、限定されないが、以下が挙げられる:後天性免疫不全症候群(AIDS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、無ガンマグロブリン血症、アレルギー性疾患、円形脱毛症、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、抗シンテターゼ症候群、動脈プラーク障害、喘息、アテローム性動脈硬化症、アトピー性アレルギー、アトピー性皮膚炎、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性心筋症、自己免疫性腸疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺機能低下症、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、自己免疫性末梢神経障害、自己免疫性膵炎、自己免疫性多内分泌症候群、自己免疫性プロゲステロン皮膚炎、自己免疫性血小板減少性紫斑病、自己免疫性じんましん、自己免疫性ブドウ膜炎、バロ病/バロ同心性硬化症、ベーチェット病、ベルガー病、ビッカースタッフ脳炎、ブラウ症候群、水疱性類天疱瘡、キャッスルマン病、セリアック病、シャーガス病、慢性炎症性脱髄性多発性神経炎、慢性再発性多巣性骨髄炎、慢性閉塞性肺疾患、慢性静脈うっ滞性潰瘍、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素病、補体第二成分欠損、接触性皮膚炎、頭部動脈炎、CREST症候群、クローン病、クッシング症候群、皮膚白血球破砕性血管炎、ドゴー(Dego’s)病、ダーカム病、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、I型糖尿病、II型糖尿病、びまん性皮膚全身性硬化症、ドレスラー症候群、薬剤性紅斑性狼瘡、円板状紅斑性狼瘡、湿疹、気腫、子宮内膜症、腱付着部炎関連関節炎、好酸球性筋膜炎、好酸球性胃腸炎、好酸球性肺炎、後天性表皮水疱症、結節性紅斑、胎児赤芽球症、本態性混合型クリオグロブリン血症、エヴァンズ症候群、進行性骨化性線維異形成症、線維化性肺胞炎(または特発性肺線維症)、胃炎、胃腸類天疱瘡、ゴーシェ病、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン・バレー症候群(GBS)、橋本脳症、橋本甲状腺炎、心臓疾患、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、妊娠性疱疹(別名、妊娠性類天疱瘡)、化膿性汗腺炎、HIV感染、ヒューズ・ストヴィン症候群、低ガンマグロブリン血症、感染症(細菌感染症を含む)、特発性炎症性脱髄疾患、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病、IgA腎症、封入体筋炎、炎症性関節炎、炎症性腸疾患、炎症性認知症、間質性膀胱炎、間質性肺炎、若年性特発性関節炎(別名、若年性関節リウマチ)、川崎病、ランバート-イートン筋無力症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、線状IgA疾患(LAD)、ルポイド肝炎(別名、自己免疫性肝炎)、紅斑性狼瘡、リンパ腫様肉芽腫症、マジード症候群、癌を含む悪性腫瘍(例えば、肉腫、カポジ肉腫、リンパ腫、白血病、癌腫およびメラノーマ)、メニエール病、顕微鏡的多発性血管炎、ミラー-フィッシャー症候群、混合性結合組織病、限局性強皮症、ムッカ-ハーベルマン病(別名、急性痘瘡状苔癬状粃糠疹)、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、視神経脊髄炎(別名、デビック病)、ニューロミオトニア、眼部瘢痕性類天疱瘡、オプソクローヌスミオクローヌス症候群、オード甲状腺炎、回帰性リウマチ、PANDAS(連鎖球菌に関連する小児自己免疫性神経精神障害)、傍腫瘍性小脳変性症、パーキンソン障害、発作性夜間血色素尿症(PNH)、パリー・ロムベルグ症候群、パーソナージュ・ターナー症候群、扁平部炎、尋常性天疱瘡、末梢動脈疾患、悪性貧血、静脈周囲性脳脊髄炎、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、リウマチ性多発筋痛、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、進行性炎症性神経障害、乾癬、乾癬性関節炎、壊疽性膿皮症、赤芽球癆、ラスムッセン脳炎、レイノー現象、再発性多発性軟骨炎、ライター症候群、再狭窄、むずむず脚症候群、後腹膜線維化症、関節リウマチ、リウマチ熱、サルコイドーシス、精神分裂症、シュミット症候群、シュニッツラー症候群、強膜炎、強皮症、敗血症、血清病、シェーグレン症候群、脊椎関節症、スティル病(成人発症)、全身硬直症候群、脳卒中、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、スウィート症候群、シデナム舞踏病、交感神経性眼炎、全身性紅斑性狼瘡、高安動脈炎、側頭動脈炎(別名、巨細胞性動脈炎)、血小板減少症、トロサ-ハント症候群、移植(例えば、心臓/肺の移植)拒絶反応、横断性脊髄炎、結核、潰瘍性大腸炎、未分化型結合組織病、未分化型脊椎関節症、じんましん様血管炎、血管炎、白斑、およびウェゲナー肉芽腫症。
【0086】
実施例
以下の実施例は、当業者に、本明細書において特許請求される化合物、組成物、物品、デバイスおよび/または方法をどのように作製および評価するかに関する特定の例についての完全な開示と説明を提供するために記載されており、本発明の純粋な例示であることが意図され、本発明者らが自身の発明であるとみなす範囲を限定することは意図されていない。しかしながら、当業者であれば、本開示の観点から、開示される特定の実施形態において多くの変更がなされ得ること、そして本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、依然として同様のまたは類似の結果を得ることができることを認識するであろう。
【0087】
実施例1:銅(II)[Cu(II)]チルマノセプトは、M2-様マクロファージを、M1-様の表現型へと再分極させる。
CD206は、M1-様マクロファージ上よりも、M2-様TAMを含むほとんどのM2-様マクロファージ上で高レベルで発現される。したがって、チルマノセプトは、M2-様TAMに局在する。最初の実験では、チルマノセプトのDTPA部分へのキレート化を介して、チルマノセプト1分子当たり約3.9個の銅イオンの比率で、Cu[II]イオンをチルマノセプトに装填した。3名のヒトボランティアからのヒト末梢血単核球を、ウシ胎児血清を最終濃度10%で補充し、2.0g/Lのグルコース、0.3g/LのL-グルタミン、2.0g/LのNaHCO3、および1mLのピルビン酸ナトリウム(11g/L)を加えたRPMI-1640培地中に播種することにより、M2様表現型となるように誘導した。この培養培地に、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)も、50ng/mlの濃度で加えられた。この培養培地中に単核球を含有するフラスコを3日間インキュベートし、M2表現型を伴う、CD206発現マクロファージへの分化を誘導した。これらの細胞はさらに、骨髄細胞表面マーカーのCD14も発現する。
【0088】
次いで、CD14+ CD206+ M2マクロファージを、以下の様々な濃度のCu(II)-チルマノセプトを含む同じ培養培地中でインキュベートした:0、1、2、4、8、16(ug/ml)。これらのCu(II)-チルマノセプトの濃度は、約0、50、100、200、400、800nMに等しい。培養物を23時間または48時間インキュベートし、その後、CD206の発現について、およびCD80およびCD86のM1様表現型を有するマクロファージの細胞表面マーカーについて、フローサイトロジーにより評価した。
【0089】
Cu(II)-チルマノセプトを用いた処置により、マクロファージ上のCD206発現が減少した。
図1は、未処置の対照マクロファージにおけるCD206+マクロファージの幾何平均蛍光と比較した、三名のボランティアドナーに由来するマクロファージの間には差異が存在したが、Cu(II)-チルマノセプト曝露によって、CD206免疫蛍光の量が約40~60+%から減少したことを示す。このことから、これらマクロファージがM2-様表現型から、よりM1-様表現型へと移行したことが示された(
図1)。観察されたCD206発現の変化の大部分は、
図2に示されるように、1.0μg/mlまたは2.0μg/ml(50nmまたは100nm)のCu(II)-チルマノセプト濃度で発生したこと、およびこの変化の大部分は23時間以内に発生したことに留意されたい。
図2.濃度を上昇させたCu(II)-チルマノセプトで23時間または48時間のいずれかの期間、処置されたマクロファージで観察されたCD206発現の比率は、未処置対照と比較された。三名のドナーに由来するマクロファージを評価した。赤色;ボランティアドナーA(23時間)、青色および緑色;ボランティアドナーBおよびC(48時間)。これらの低濃度のCu(II)-チルマノセプト(50nmおよび100nm)では、Cu(II)-チルマノセプトは、同じ時間、同じ培地中でインキュベートされた未処置対照マクロファージで観察されたものよりも、細胞死の比率は有意に増加しなかった(データは示さず)。
【0090】
CD80およびCD86は、様々な免疫細胞によって発現され得る細胞表面マーカーである。M1-様の活性化マクロファージは、M2-様のマクロファージよりも高いレベルのCD80およびCD86を発現する。CD80およびCD86は受容体複合体を形成して、T細胞上に発現されたCD28に結合し、T細胞活性化を生じさせる。CD80およびCD86の両方の発現は、Cu(II)-チルマノセプトへの暴露により、特に48時間の曝露後に増加する(
図3)。
【0091】
CD80およびCD86の発現増加傾向は、CD206の発現低下で観察された傾向ほどは強くなかったが、発現増加のかなりの部分が、比較的低い濃度の2.0μg/ml(100nm)のCu(II)-チルマノセプトで観察された。
【0092】
M2-様マクロファージのM1-様マクロファージへの再分極は、M2マーカーの発現低下およびM1マーカーの発現増加として現れる。したがって、Cu(II)-チルマノセプトによる再分極の効率の尺度は、未処置対照(
図3)と比較した、Cu(II)-チルマノセプト処置マクロファージ上でのCD80およびCD86の発現の変化によって表すことができ、それらは同様に処置されたマクロファージ上でのCD206発現の変化(
図2)に対して正規化される。この分析の結果を
図4に示す。これらのCD206発現正規化解析の結果から、Cu(II)-チルマノセプトが、濃度依存性および時間依存性に、M2-様マクロファージを、よりM1-様のマクロファージ表現型へと再分極させることを示す。
【0093】
実施例2:ドキソルビシン搭載物を担持するマンノシル化デキストラン構築物は、M2-様マクロファージをM1-様の表現型へと再分極させる。
実施例1に記述される有望な治療戦略は、金属イオンをCD206発現マクロファージに送達することに限定されず、CD206+マクロファージに多種多様な低分子搭載物を送達して、それらを再分極させるか、またはその表現型を変化させるために採用され得る。第二の実験設定においては、細胞障害剤の搭載物であるドキソルビシンを担持するマンノシル化デキストランを合成し、評価した。実施例1のチルマノセプトのような当該構築物は、10kDのデキストラン骨格上で合成され、アミン末端鎖を介してマンノース部分が当該骨格に結合された。空のアミン末端鎖をヒドラゾンリンカーに結合させ、それにドキソルビシンを付加させた。ヒドラゾンリンカーは、中性pHよりも低いpHで、さらに迅速に搭載物を放出することが知られている。CD206が、例えばマンノシル化デキストランなどのリガンドに結合すると、受容体介在エンドサイトーシスによりエンドソームに内部移行される。これらのエンドソームは酸性化を経て、ヒドラゾンリンカーからの薬剤搭載物の放出を加速させる。本実施例に記載される実験で評価された構築物は、10kDのデキストラン骨格当たり平均18.5個のマンノース部分と1.5個のドキソルビシン部分を担持しており、簡便に本検討ではMT1001.8と称される。
【0094】
Cu(II)-チルマノセプトと同様に、GM-CSFが添加された補充RPMI-1640培地中で培養されたヒト末梢血単核球から分化したマクロファージを使用して、MT1001.8を評価した。次いで得られたマクロファージを、0(対照)~6.68μMの範囲の様々な濃度で、23時間、MT1001.8に曝露させた。遊離ドキソルビシン、およびドキソルビシン搭載物を含まないマンノシル化デキストラン構築物も、対照として評価された。薬剤構築物への23時間の曝露後、薬剤含有培地を取り除き、GM-CSFを含む新たな補充RPMI-1640と置き換え、さらに72時間インキュベートした。新鮮な培地中でのこの最後の72時間のインキュベーションは、マクロファージを薬剤処置から回復させ、当該薬剤構築物への曝露により誘導された可能性のある何らかの表現型の変化を発現させた。すべての実験は、5名の別個のドナーから取得された末梢血単核球を用いて5~8回重複して行われた。最後の72時間のインキュベーション後、培地を収集し、様々なサイトカインの濃度について分析した。細胞が回収され、様々な分化の細胞表面マーカーの発現(CD206、CD64、CD163、CD80およびCD86)、ドキソルビシンの用量依存的な取り込み、および細胞死について、フローサイトメトリーにより評価された。
【0095】
実施例1で観察された結果と同じように、異なるヒトドナーは、MT1001.8に対するその応答の程度が変化した分化マクロファージを提供した。しかし、すべてのドナーのマクロファージが、同じ方向性の用量依存性の応答を示した。例えば、CD86発現は、MT1001.8に曝露された全てのマクロファージ培養物中で上昇したが、最大応答は、最大濃度のMT1001.8で、2.5倍~3.2倍の発現増加の間で変化した。単純化および明確性を目的として、このデータは、各実験で観察された最大レベルと最小レベルに対する発現の変化として示され、最大変化のパーセントとして表示されている。遊離ドキソルビシンは、試験したすべての濃度で高レベルの細胞死を生じさせたため、遊離ドキソルビシン対照の結果は示されていない。MT1001.8は、マクロファージに対する毒性が著しく低く、最高濃度であっても、薬剤暴露インキュベーション後の72時間の終了時の細胞生存率は高かった。以下の段落で検討される二例を除き、ドキソルビシンを含まないマンノシル化デキストランは本実験で検証されたマーカーの発現を変化させなかったため、当該構築物からの結果も同様に示していない。また、MT1001.8が用量依存性に、およびCD206を発現していないリンパ球への非特異結合で観察された速度よりも約25倍速い速度で、CD206+マクロファージにより取り込まれることを実証する結果も示されていない。
【0096】
CD86とCD163の二つの細胞表面分化マーカーは、MT1001.8への曝露時に、用量依存性に、再現性を伴って、発現の有意な上昇を示した。試験された最高用量(6.68μM)では、CD86およびCD163は、全ての実験、および全てのヒトドナー由来のマクロファージ培養物でそれぞれおよそ2.9倍および2.5倍に発現レベルを上昇させた。これらの結果を
図5および
図6に要約する。それらの図において、MT1001.8の各用量で観察された各ドナーのマクロファージの最大変化の割合が示される。これらの図に示される用量反応曲線は、各実験で非常に類似しており、評価されたMT1001.8の濃度範囲にわたって、用量曝露のlog10に対し、ほぼ線形の応答を示している。
図5および
図6に示すように、何名かのドナーのマクロファージは、それぞれ二回評価された。同じドナーに由来するマクロファージの個別評価における差異は、ドナー間で観察された差異の大部分が、検査間での変動で説明され得ることを示唆しており、さらにマクロファージの用量応答が安定的で再現性がありこと、そして異なるドナーから取得されたマクロファージ間で非常に類似していることも示唆される。CD86とCD163とは対照的に、CD64は、MT1001.8への曝露時に、発現において用量依存性(約40%)の低下を示した(
図7)。
【0097】
予想外の結果では、薬剤搭載物を含まない薬剤フリーのマンノシル化デキストランが、CD206とCD80の二つの細胞表面分化マーカーの発現を変化させたことが観察された。CD80の発現レベルは、薬剤フリーのマンノシル化デキストランまたはMT1001.8のいずれかの最高濃度で、約60%まで発現が上昇した。このことから、CD80発現の変化の原因となったのは、MT1001.8のドキソルビシン搭載物ではなく、マンノシル化デキストランであったことが示唆される。CD80の発現上昇の程度は、MT1001.8への曝露時に観察された、CD86で感じられた上昇の程度よりもはるかに低かったことに留意することが重要である。しかし、CD80およびCD86の両方ともがCD28およびCTLA4に結合するということが重要である可能性がある。CD28に結合されると、T細胞の炎症促進性応答が活性化される。それらの競合リガンドであるCTLA4が結合されると、T細胞活性化が減弱される。CD206発現は、薬剤フリーのマンノシル化デキストランまたはMT1001.8のいずれかへの曝露によっても変化した。しかしCD80とは異なり、CD206発現は、いずれの構築物の最高濃度でも40~50%低下した。この効果はリガンド結合のシンプルな結果である可能性は低い。リガンド結合は、受容体-リガンド複合体の内部移行により細胞表面上に提示されるCD206受容体の量を減少させ得る。しかし、薬物含有培地を取り除いた後の72時間のインキュベーションにより、細胞表面へのCD206受容体の置換またはリサイクルのための時間は与えられていたであろう。このことから、CD206の発現低下は表現型の変化であり、受容体結合と内部移行による一過性の結果ではないことが示唆される。また実施例1と同様に、5つの表面マーカーに対する最大応答の50%が、1~2μMの濃度のMT1001.8、または必要に応じて薬剤フリーのマンノシル化デキストランの濃度で実現されたことも注目すべきである。
【0098】
最後の72時間のインキュベーションの終了時に、培地を回収し、様々なサイトカインの濃度について評価して、MT1001.8への曝露の結果として発現が増加したサイトカインを特定した。異なるドナーに由来するマクロファージ培養物中のサイトカイン発現の基準線(薬剤なし-生理食塩水対照)のレベルの間にはかなりの差異があった。したがって、データは、ドナー特異的な薬剤フリー対照(生理食塩水)において観察された濃度と比較した、薬剤処置培養物中のサイトカイン濃度の比率として解析された。濃度増加は、評価したサイトカインの一部に関しては、高い濃度のMT1001.8処置で観察された。これはMT1001.8マクロファージ培養物で観察された平均比率により示され、1.0を超える、1より大きい標準偏差であった。1.0は、サイトカイン発現に変化が起こらなかった場合に期待される比率である。インターフェロンガンマ(IFN-g)、インターロイキン2b(IL2b)、IL12p70、腫瘍壊死因子アルファ(TNFa)、IL8、およびIL10はすべて、この基準により発現レベルの増加が観察されたが、IL6は発現レベルは上昇していたが、データ内に高い分散があったため、1標準偏差の閾値を超えなかった。IL4、IL5、およびIL7の培地濃度は、増加が観察されなかった。
【0099】
IL10を除き、発現レベルの増加が観察されたサイトカインはすべて炎症促進性であり、リンパ球を含む様々な免疫細胞型の炎症促進性の活性化を促進することが予測される。観察された細胞表面分化マーカーの変化、特にCD86とCD80の発現増加と、CD206の発現低下は、より炎症促進性のパターンに向かってマクロファージの遺伝子発現が変化したことも示している。CD163の発現が増加し、CD206の発現が低下した腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、胃癌患者の転帰の改善と関連したことを示す最近の公開文献(62)を背景におくと、CD163の発現が増加したことは興味深いものである。まとめると、細胞表面マーカーとサイトカインの両方の発現の変化は、MT1001.8で処置されたマクロファージが、よりM1-様で炎症促進性となるように自身の全般的な表現型を変化させていることを示唆している。観察されたCD64の発現低下およびIL10の発現の増加は、炎症促進性の表現型と完全には一致しないが、発現が変化した多数の他の遺伝子は、MT1001.8で処置されたマクロファージにより、はるかに多くの炎症促進性の表現型への再分極が導入されていることが示される。
【0100】
炎症促進性性サイトカインの発現増加と併せ、CD80とCD86の発現増加は、ドキソルビシン搭載物を担持するMT1001.8または他の類似したマンノシル化デキストラン構築物が、抗癌免疫療法としての有効性を有し得ること、そしておそらくは特に他の癌療法との併用で有効性を有し得ることを示唆している。そのような併用療法としては、放射線療法、ドキソルビシン以外の他の細胞障害剤、およびおそらくは特にリンパ球を活性化するよう設計された他の癌免疫療法が挙げられる。抗CTLA4抗体は、T細胞リンパ球を活性化するよう設計された、当局に承認済みの抗癌免疫療法である。CD80とCD86、およびCTLA4とCD28との間の相互作用があるため、MT1001.8は抗CTLA4免疫療法の有効性を向上し得ると仮定された。この仮説を検証するために、Balb/cマウスにおける4T1同系乳癌モデルを使用して実験を実施した。4T1腫瘍モデルは抗CTLA4を用いた治療に対してほぼ抵抗性であり、MT1001.8はこの免疫療法の治療有効性を救済し得ると仮説が立てられた。4T1細胞をマウスに移植し、およそ50mm
3の腫瘍を形成させた。以下の6つの治療群が選択された:生理食塩水対照、薬剤フリーのマンノシル化デキストラン対照(ビヒクル)、MT1001.8、遊離ドキソルビシン、抗CTLA4抗体、または抗CTLA4とMT1001.8の組み合わせ。動物は、2日ごとに500μgのMT1001.8、ビヒクル対照、生理食塩水対照、または遊離ドキソルビシン(MT1001.8と等モル)の尾静脈注射を受けた。抗CTLA4抗体は、腹腔内(IP)注射として500μgの投与量で週に2回投与された。実験治療を13日間行った。各治療に対する4T1腫瘍の増殖を
図9に示す。
【0101】
図9に示されるように、抗CTLA4+MT1001.8の併用療法を除き、いずれの治療群も、生理食塩水対照群またはビヒクル対照群のいずれかと有意に異なる平均腫瘍体積を有しなかった。ビヒクル対照と比較して、抗CTLA4+MT1001.8で治療された群は、実験終了時のビヒクル対照の69%の平均腫瘍体積を有した。両側T検定において、この結果はp=0.02で有意であった。このことから、MT1001.8が、この典型的には屈折性の腫瘍モデルにおいて、抗CTLA療法の有効性を部分的に救済できたことが実証された。抗CTLA4とMT1001.8の間のこの協働的な効果は、抗CTLA4以外の他の癌治療にも広く適用可能であることが予測され、および例えば銅を積んだDTPAなどの他の低分子搭載物を送達する他のマンノシル化デキストラン薬剤送達ビヒクルにも広く適用可能であると予想される(実施例1)。
【0102】
感染症:
癌に加えて、CD206+ M2様マクロファージは、多数の感染性疾患の病理生物学上の重要な貢献因子である。M2様からM1様の活性化表現型へのマクロファージの再分極は、これらの疾患を有する人々において治療効果を有する可能性がある。例としては、ベクター媒介性のフラビウイルスが原因のデング熱、細菌感染症である結核、および原虫感染症であるリーシュマニアが挙げられる。これらの病原体はすべて、CD206+マクロファージ中で複製され、および/またはCD206との相互作用を介してこれらの細胞に侵入する。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、後天性免疫不全症候群(AIDS)を生じさせる。現行では、HIVウイルス血症およびAIDSの症状の多くは、混合抗レトロウイルス療法(cART)により制御することができる。しかし、cARTで治療された患者中に持続的なcART耐性細胞のレゼルボアが存在しており、cARTを用いた根治治療を妨げている。重要なcART耐性のレゼルボアは、CD206+マクロファージから構成される。さらに、CD206+マクロファージは、数種の寄生虫の病理生物学的な貢献因子である。
【国際調査報告】