(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-01
(54)【発明の名称】卵巣の悪性ラブドイド腫瘍および卵巣高カルシウム血症型小細胞がんを処置する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/426 20060101AFI20220525BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220525BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220525BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220525BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
A61K31/426
A61P35/00
A61K45/00
A61K39/395 T
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557611
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(85)【翻訳文提出日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 US2020024787
(87)【国際公開番号】W WO2020198401
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517405149
【氏名又は名称】トランスレイショナル・ドラッグ・ディベロップメント・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ゲイトリー,スティーヴン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA35
4C084MA52
4C084NA05
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE03
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示は、処置を必要とする対象の悪性ラブドイド腫瘍を処置する方法であって、治療上有効量の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドおよびその薬学的に許容される塩を対象に投与するステップを含む方法を提供する。この方法のある特定の実施形態では、悪性ラブドイド腫瘍が卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT)である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする対象の悪性ラブドイド腫瘍(MRT)、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)、および/または卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT)を処置する方法であって、
治療上有効量のN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは化学的に保護された形態を前記対象に投与するステップ
を含む方法。
【請求項2】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が経口投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が、1mg/kg/日~1600mg/kg/日の間の用量で投与される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態が、約100、200、400、800または1600mg/日の用量で投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記SCCOHTがSMARCA4陰性である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象がSMARCA4陰性である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
SMARCA4発現が、
(a)前記対象から生体試料を得るステップと;
(b)前記生体試料またはその一部を、SMARCA4に特異的に結合する抗体と接触させるステップと;
(c)SMARCA4に結合している前記抗体の量を検出するステップと
を含む方法によって評価される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
SMARCA4発現および/または機能が、
(a)前記対象から生体試料を得るステップと;
(b)前記生体試料またはその一部由来のSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列を配列決定するステップと;
(c)前記SMARCA4タンパク質をコードする前記少なくとも1つのDNA配列が前記SMARCA4タンパク質の発現および/または機能に影響を及ぼす突然変異を含むかどうかを決定するステップと
を含む方法によって評価される、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が、40歳未満、30歳未満、20歳未満、または20歳~30歳の間(終点を含む)である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態が、SCCOHT細胞の増殖を防止および/または抑制する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
処置を必要とする対象のSCCOHTを処置する方法であって、
治療上有効量のN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態を経口錠剤で前記対象に投与するステップ
を含む方法。
【請求項13】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が前記対象に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が、1mg/kg/日~1600mg/kg/日の間の用量で投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態が、約100、200、400、800または1600mg/日の用量で投与される、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
処置を必要とする対象のMRTおよび/またはMRTOを処置する方法であって、
治療上有効量のN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態を経口錠剤で前記対象に投与するステップ
を含む方法。
【請求項17】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が前記対象に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が、1mg/kg/日~1600mg/kg/日の間の用量で投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態が、約100、200、400、800または1600mg/日の用量で投与される、請求項16から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記MRTおよび/またはMRTOがINI1陰性、INI1欠損または類上皮肉腫である、請求項16から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩と;
PD-1の阻害剤、PD-L1の阻害剤、LAG-3の阻害剤、TIM-3の阻害剤、CEACAMの阻害剤、およびCTLA-4の阻害剤からなる群から選択される免疫チェックポイント分子と
を含む組合せ。
【請求項22】
前記免疫チェックポイント分子が抗PD-1抗体分子である、請求項21に記載の組合せ。
【請求項23】
前記免疫チェックポイント分子が抗PD-L1抗体分子である、請求項21に記載の組合せ。
【請求項24】
前記免疫チェックポイント分子が抗CTLA-4抗体分子である、請求項21に記載の組合せ。
【請求項25】
前記免疫チェックポイント分子が抗LAG-3抗体分子である、請求項21に記載の組合せ。
【請求項26】
前記免疫チェックポイント分子が抗TIM-3抗体分子である、請求項21に記載の組合せ。
【請求項27】
前記免疫チェックポイント分子が抗CEACAM抗体分子である、請求項21に記載の組合せ。
【請求項28】
前記免疫チェックポイント分子が、CEACAM-1、CEACAM-3またはCEACAM-5に対する抗体分子である、請求項27に記載の組合せ。
【請求項29】
前記(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩と前記免疫チェックポイント分子の、それを必要とする対象への投与が、がんの処置において相乗効果をもたらす、請求項21から28のいずれか一項に記載の組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2019年3月26日に出願された米国仮特許出願第62/824275号および2019年3月29日に出願された米国仮特許出願第62/826270号の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、低分子療法、がん、およびまれながん型を処置する方法の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
卵巣高カルシウム血症型小細胞癌(SCCOHT)は、若年女性で診断されるまれな侵襲性型の卵巣がんである。SCCOHTは一般に、卵巣を超えて広がると、致死性である。SCCOHTは、全卵巣がん診断数の1%未満に相当し、現在までに文献で報告されているのは300症例未満である。Estelら、Arch Gynecol Obstet 284:1277-82(2011)およびYoungら、Am J Surg Pathol 18:1102-16(1994)。診断時の平均年齢は23歳であり、より一般的な型の卵巣がんを有する患者とは異なり、これらの女性の大部分は早期疾患を呈する。Harrisonら、Gynecol Oncol 100:233-8(2006)。それにもかかわらず、疾患が診断時に卵巣に限局されている場合でさえ、ほとんどの患者は、病期にかかわらず、診断の2年以内に再発し、死亡し、長期生存率はわずか33%である。Seidman、Gynecol Oncol 59:283-7(1995)。転帰を改善する信頼のできる補助処置はないが、複数化合物の化学療法が生存を延ばすと考えられる。Estelら、Arch Gynecol Obstet 284:1277-82(2011)およびPautierら、Ann Oncol 18:1985-9(2007)。
【0004】
起源の組織は推測上のままであり、SCCOHTは依然として世界保健機関によってその他の腫瘍として分類されている。ほとんどの腫瘍は片側性であり、10cmを超えるサイズは、ステージマイグレーション(stage migration)をもたらす症状の早期発症により予後的に好ましい場合がある。Estelら、Arch Gynecol Obstet 284:1277-82(2011)。組織学的分類は困難であり得るが、CD10、WT1およびカルレチニンなどの一般的に発現される免疫組織化学マーカーが、組織学的模倣を除外するために、検出可能なインヒビン、S100およびクロモグラニン発現の喪失と合わせて有用となり得る。McCluggage, Adv Anat Pathol 11:288-96 (2004)。
【0005】
少なくとも7つのSWI/SNFサブユニットにおける頻繁な不活性化突然変異が様々ながんで特定されているので、近年の研究は、SWI/SNF(BAF)クロマチンリモデリング複合体を主要な腫瘍抑制因子として暗示している。SWI/SNF複合体の遺伝子は、同定すべき最初のクロマチンリモデリング複合体のうちの1つに関連していることが分かっており、そのサブユニットの多くは酵母からヒトまで保存されている。哺乳動物細胞では、SWI/SNF複合体が、SNF5(SMARCB1)、および2つの相互排他的なATPアーゼ、BRG1(SMARCA4)またはBRM(SMARCA2)のうちの1つを含む11~15個のタンパク質サブユニットを含む。SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットにおける遺伝子変異は、いくつかのがんの腫瘍形成における重要な機構である。これはラブドイド腫瘍によって例示され、ラブドイド腫瘍ではコアSWI/SNF遺伝子SMARCB1の頻繁な二対立遺伝子喪失が発癌の主な駆動因子である可能性がある。重要なことに、ラブドイド腫瘍を有する患者の最大20%が、SMARCB1における生殖系列ヘテロ接合性突然変異およびSMARCB1突然変異を欠く患者でSMARCA4の不活性化生殖系列突然変異を有する。しかしながら、体細胞レベルでは、SMARCA4が、がんで最も一般的に突然変異するSWI/SNFサブユニットである。
【0006】
SCCOHTの突然変異状況は未知であるが、SCCOHTとラブドイド腫瘍との間の類似性(共に原始的組織学的特徴、二倍体細胞遺伝学を有する高度に侵襲性の小児腫瘍であり、しばしば家族性である)は、これらが類似の分子遺伝学を有し得ることを示唆している。EZH2依存性発癌をもたらすSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットの遺伝子変異または機能喪失によって引き起こされ得るラブドイド腫瘍およびSCCOHTなどのある特定のがんのための有効な処置についての長い間の依然として満たされていないニーズが存在する。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)および類上皮肉腫などの、INI1陰性およびSMARCA4陰性腫瘍のための有効な処置を提供する。INI1およびSMARCA4は、SWItch/スクロース非発酵性(SWI/SNF)クロマチンリモデリング複合体の重要なタンパク質である。ある特定の実施形態では、MRTがINI1陰性、INI1欠損、SMARCA4陰性、SMARCA4欠損、SMARCA2陰性、SMARCA2欠損であり得る、またはSWI/SNF複合体の1つもしくは複数の他の成分の突然変異を含み得る。
【0008】
一部の実施形態では、本開示は、処置を必要とする対象の悪性ラブドイド腫瘍(MRT)、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)、および/または卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT)を処置する方法であって、治療上有効量のN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは化学的に保護された形態を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0009】
一実施形態では、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が対象に投与される。別の実施形態では、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が経口投与される。
【0010】
一部の実施形態では、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が、1mg/kg/日~1600mg/kg/日の間の用量で投与される。
【0011】
他の実施形態では、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態が、約100、200、400、800または1600mg/日の用量で投与される。
【0012】
一実施形態では、SCCOHTがSMARCA4陰性である。別の実施形態では、対象がSMARCA4陰性である。
ある特定の実施形態では、SMARCA4発現が、(a)対象から生体試料を得るステップと;(b)生体試料またはその一部を、SMARCA4に特異的に結合する抗体と接触させるステップと;(c)SMARCA4に結合している抗体の量を検出するステップとを含む方法によって評価される。
【0013】
他の実施形態では、SMARCA4発現および/または機能が、(a)対象から生体試料を得るステップと;(b)生体試料またはその一部由来のSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列を配列決定するステップと;(c)SMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列がSMARCA4タンパク質の発現および/または機能に影響を及ぼす突然変異を含むかどうかを決定するステップとを含む方法によって評価される。
【0014】
さらに他の実施形態では、対象が、40歳未満、30歳未満、20歳未満、または20歳~30歳の間(終点を含む)である。一実施形態では、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態が、SCCOHT細胞の増殖を防止および/または抑制する。
【0015】
他の実施形態では、本開示は、処置を必要とする対象のSCCOHTを処置する方法であって、治療上有効量のN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態を経口錠剤で対象に投与するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩が対象に投与される。
【0016】
一部の実施形態では、本開示は、処置を必要とする対象のMRTおよび/またはMRTOを処置する方法であって、治療上有効量のN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはそのエナンチオマー、薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくは化学的に保護された形態を経口錠剤で対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0017】
一実施形態では、MRTおよび/またはMRTOがINI1陰性、INI欠損または類上皮肉腫である。
本開示のある特定の実施形態では、MRTが、卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT)とも呼ばれる、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)である。本開示は、処置を必要とする対象のSCCOHTを処置する方法であって、治療上有効量の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、その薬学的に許容される塩、そのエステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0018】
本開示のある特定の実施形態では、MRTが類上皮肉腫である。本開示は、処置を必要とする対象の類上皮肉腫を処置する方法であって、治療上有効量の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、その薬学的に許容される塩、そのエステル、誘導体、アナログ、プロドラッグまたは溶媒和物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0019】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドは経口投与され得る。ある特定の実施形態では、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドが経口錠剤として製剤化され得る。
【0020】
処置を必要とする対象のがんを処置する本開示の方法は、治療上有効量の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドを対象に投与するステップを含む。開示される化合物の有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、当業者の能力の範囲内である。特定の目的ならびにその毒性、排出および全体的忍容性に影響を及ぼすために使用される医薬組成物の有効量は、当業者によって現在知られている薬学的および毒物学的手順によって、またはまだ開示されていない任意の同様の方法によって、細胞培養物または実験動物で決定され得る。一例は、細胞株または標的分子におけるインビトロでの医薬組成物のIC50(半数阻害濃度)の決定である。別の例は、実験動物における医薬組成物のLD50(試験動物の50%で死亡をもたらす致死用量)の決定である。有効量の決定で使用される正確な技術は、医薬組成物の種類および物理的/化学的特性、試験される特性、ならびに試験がインビトロで実施されるか、インビボで実施されるかなどの因子に依存する。医薬組成物の有効量の決定は、その決定を行うのに任意の試験から得られたデータを使用する当業者に周知である。がん細胞に添加するための開示される化合物の有効量の決定はまた、ヒトを含むインビボで使用するための有効用量範囲の製剤を含む、有用治療量の決定を含む。
【0021】
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)を処置することを含む、がんを処置する本開示の方法。好ましい実施形態では、本開示の方法が、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)を有する対象を処置するために使用される。MRTOはまた、卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT)とも呼ばれ得る。ある特定の実施形態では、MRTOもしくはSCCOHTおよび/または対象が、SMARCA4陰性、SMARCA4欠損、SMARCA2陰性、SMARCA2欠損、またはSWI/SNF複合体の1つもしくは複数の他の成分における突然変異もしくは欠損を有することを特徴とする。ある特定の実施形態では、MRTOもしくはSCCOHTおよび/または対象がSMARCA4陰性を特徴とする。ある特定の実施形態では、MRTOもしくはSCCOHTおよび/または対象がSMARCA4陰性またはSMARCA4欠損;およびSMARCA2陰性またはSMARCA2欠損を特徴とする。本明細書で使用される場合、SMARCA4陰性および/またはSMARCA4欠損細胞は、SMARCA4遺伝子の転写、SMARCA4転写産物の翻訳を防止する、および/またはSMARCA4タンパク質の活性を低下させる/抑制する、SMARCA4遺伝子、対応するSMARCA4転写産物(もしくはそのcDNAコピー)、またはSMARCA4タンパク質の突然変異を含み得る。本明細書で使用される場合、SMARCA4陰性細胞は、SMARCA4遺伝子の転写、SMARCA4転写産物の翻訳を防止する、および/またはSMARCA4タンパク質の活性を低下させる/抑制する、SMARCA4遺伝子、対応するSMARCA4転写産物(もしくはそのcDNAコピー)、またはSMARCA4タンパク質の突然変異を含み得る。
【0022】
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)を処置することを含む、がんを処置する本開示の方法。一部の好ましい実施形態では、本開示の方法が、類上皮肉腫を有する対象を処置するために使用される。ある特定の実施形態では、類上皮肉腫が、SMARCA4陰性、SMARCA4欠損、SMARCA2陰性、SMARCA2欠損、またはSWI/SNF複合体の1つもしくは複数の他の成分における突然変異もしくは欠損を有することを特徴とする。ある特定の実施形態では、類上皮肉腫および/または対象がSMARCA4陰性を特徴とする。ある特定の実施形態では、類上皮肉腫および/または対象が、SMARCA4陰性またはSMARCA4欠損;およびSMARCA2陰性またはSMARCA2欠損を特徴とする。
【0023】
本開示の方法は、SMARCA4陰性である、またはSMARCA4陰性であり得る1つもしくは複数の細胞を有する対象を処置するために使用され得る。SMARCA4発現および/またはSMARCA4機能は、当業者に周知のものを含む、蛍光および非蛍光免疫組織化学(IHC)法によって評価され得る。ある特定の実施形態では、本方法が、(a)対象から生体試料を得るステップと;(b)生体試料またはその一部を、SMARCA4に特異的に結合する抗体と接触させるステップと;(c)SMARCA4に結合している抗体の量を検出するステップとを含む。あるいは、またはさらに、SMARCA4発現および/またはSMARCA4機能は、(a)対象から生体試料を得るステップと;(b)生体試料またはその一部由来のSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列を配列決定するステップと;(c)SMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列がSMARCA4タンパク質の発現および/または機能に影響を及ぼす突然変異を含むかどうかを決定するステップとを含む方法によって評価され得る。SMARCA4発現またはSMARCA4の機能は、場合により、同じ対象由来の生体試料を使用して、SMARCA4に結合している抗体の量を検出することによって、およびSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列を配列決定することによって評価され得る。
【0024】
本開示の対象は女性であり得る。本開示の対象は、40、30または20歳未満であり得る。ある特定の実施形態では、本開示の対象が、20歳~30歳の間(終点を含む)であり得る。
【0025】
ある特定の実施形態では、本開示は、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩と;PD-1の阻害剤、PD-L1の阻害剤、LAG-3の阻害剤、TIM-3の阻害剤、CEACAMの阻害剤およびCTLA-4の阻害剤からなる群から選択される免疫チェックポイント分子とを含む組合せを提供する。
【0026】
一態様では、免疫チェックポイント分子が抗PD-1抗体分子である。別の態様では、免疫チェックポイント分子が抗PD-L1抗体分子である。別の態様では、免疫チェックポイント分子が抗CTLA-4抗体分子である。別の態様では、免疫チェックポイント分子が抗LAG-3抗体分子である。別の態様では、免疫チェックポイント分子が抗TIM-3抗体分子である。別の態様では、免疫チェックポイント分子が抗CEACAM抗体分子である。別の態様では、免疫チェックポイント分子が、CEACAM-1、CEACAM-3またはCEACAM-5に対する抗体分子である。
【0027】
一実施形態では、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはその薬学的に許容される塩と免疫チェックポイント分子の、それを必要とする対象への投与が、がんの処置において相乗効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドによる二重SMARCA2およびSMARCA4欠損細胞株(すなわち、A204、G401、G402、H522およびA427)の増殖阻害を示す図である。
【
図2】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)で処理されたBIN-67細胞における相対的SMARCA2遺伝子発現を示す図である。
【
図3】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)で処理されたBIN-67細胞におけるSMARCA2タンパク質発現を示す図である。
【
図4】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)による60日間のSCCOHT異種移植モデル(BIN-67)での腫瘍のインビボ処理を示す図である。
【
図5】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)による30日間の悪性ラブドイド腫瘍異種移植モデル(G401)での腫瘍のインビボ処理を示す図である。
【
図6】ヒトSCCOHT株BIN67、COV434およびSCCOHT-1に対する(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)の強力な抗増殖活性を示す図である。
【
図7】同系CT-26マウス結腸がんモデルにおける、単独での、ならびに抗mPD-1抗体および抗mPD-L1抗体と組み合わせた、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)の活性を示す図である。
【
図8】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)で処理されたBIN67細胞のRNA-Seq分析を示す図である。
【
図9】(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)で処理されたBIN67細胞におけるMHCクラスI/II遺伝子の発現増加の測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書で使用される場合、「(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド」、「(2S)-N-[5-(ヒドロキシカルバモイル)チアゾール-2-イル]-2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド」および「GB-3103」という用語は、同義語であり、以下の化学構造:
【0030】
【0031】
を有する化合物を示す。
本明細書で使用される場合、「処置すること」という用語は、それだけに限らないが、MRTO/SCCOHT細胞を含む、がん細胞の増殖を防止および/または抑制することを含み得る。
【0032】
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)および類上皮肉腫などのINI1陰性およびSMARCA4陰性腫瘍は、重篤な消耗性のがんである。主な世界市場で毎年およそ1400人の患者がこれらの腫瘍を発症しており、確立された標準治療はない。INI1およびSMARCA4は、SWI/SNF複合体の重要なタンパク質である。
【0033】
例示的ながんは、卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT)とも呼ばれる、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)を含む。
処置を必要とする対象のMRTO(SCCOHT)を処置する好ましい方法は、治療上有効量の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドを対象に投与するステップを含む。
【0034】
本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドは、例えば、SMARCA4の存在量および/または機能の低下を含む、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の成分の存在量および/または機能の低下によって引き起こされるがんを処置するのに有効である。発癌マーカーまたは駆動因子となり得るSWI/SNF複合体の他の成分は、ARID1A、ARID2、ARID1B、SMARCB1、SMARCC1、SMARCA2またはSMARCD1である。高レベルの観点では、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体は、クロマチンを開放して遺伝子転写のためのアクセスをもたらすためのエネルギー源としてATPを使用する。
【0035】
本開示の方法によると、「正常」細胞が、SMARCA4の発現および/または機能を含む、がん細胞の1つまたは複数の特性の比較の基礎として使用され得る。本明細書で使用される場合、「正常細胞」は、「細胞増殖性障害」の一部として分類することができない細胞である。正常細胞は、望ましくない状態または疾患の発症をもたらし得る、制御されない増殖もしくは異常な増殖、またはその両方を欠く。好ましくは、正常細胞は、SMARCA4遺伝子の野生型配列を含み、突然変異を含まないSMARCA4転写産物を発現し、正常な活性レベルで全ての機能を保持する、突然変異を含まないSMARCA4タンパク質を発現する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「細胞を接触させる」は、化合物または他の組成物が、細胞と直接接触している、または細胞で所望の生物学的効果を誘導するのに十分近い状態を指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、「処置すること」または「処置する」は、疾患、状態または障害と戦う目的での対象の管理およびケアを記載し、がんの症状もしくは合併症を緩和する、またはがんを排除するための本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝産物、多形もしくは溶媒和物の投与を含む。
【0038】
本明細書で使用される場合、「緩和する」という用語は、がんの徴候または症状の重症度が低減されるプロセスを記載することを意味する。重要なことに、徴候または症状は、排除されることなく、緩和され得る。好ましい実施形態では、本開示の医薬組成物の投与が、徴候または症状の排除をもたらすが、排除は要求されない。有効投与量は、徴候または症状の重症度を低減すると予想される。例えば、複数の位置で生じ得る、がんなどの障害の徴候または症状は、がんの重症度が複数の位置のうちの少なくとも1つで低減されれば、緩和される。
【0039】
本明細書で使用される場合、「重症度」という用語は、がんが前がん性または良性の状態から悪性状態に変換する能力を記載することを意味する。あるいは、またはさらに、重症度は、例えば、TNMシステム(国際対がん連合(UICC)および米国がん合同委員会(AJCC)によって受け入れられる)によって、または他の分野で認められた方法によって、がん病期を記載することを意味している。がん病期は、原発腫瘍の位置、腫瘍サイズ、腫瘍の数、およびリンパ節併発(がんのリンパ節への広がり)などの因子に基づく、がんの程度または重症度を指す。あるいは、またはさらに、重症度は、その分野で認められた方法による腫瘍悪性度を記載することを意味する(国立がん研究所参照)。腫瘍悪性度は、顕微鏡下でどれほど異常に見えるか、および腫瘍がどれほど速く成長し、広がる可能性があるかという点で、がん細胞を分類するために使用されるシステムである。腫瘍悪性度を決定する場合、細胞の構造および増殖パターンを含む多くの因子が考慮される。腫瘍悪性度を決定するために使用される具体的な因子は、各がん型によって変化する。重症度はまた、腫瘍細胞が同じ組織型の正常細胞にどれほど似ているかを指す、分化とも呼ばれる、組織学的異型度を記載する(国立がん研究所参照)。さらに、重症度は、腫瘍細胞の核のサイズおよび形状、ならびに分裂している腫瘍細胞のパーセンテージを指す、核異型度を記載する(国立がん研究所参照)。
【0040】
本開示の別の態様では、重症度が、腫瘍が増殖因子を分泌した、細胞外マトリックスを分解した、血管新生化した、隣り合った組織との接着を喪失した、または転移した程度を記載する。さらに、重症度は、原発腫瘍が転移した位置の数を記載する。最後に、重症度は、様々な型および位置の腫瘍を処置することの困難度を含む。例えば、手術不能な腫瘍、複数の身体系への大きなアクセスを有するがん(血液腫瘍および免疫学的腫瘍)、および伝統的な処置に最も耐性のがんが最も重篤と考えられる。これらの状況では、対象の平均余命を延長すること、および/または疼痛を低減すること、がん性細胞の割合を低下させること、または細胞を1つの系に制限すること、およびがん病期/腫瘍悪性度/組織学的異型度/核異型度を改善することが、がんの徴候または症状を緩和することとみなされる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「症状」という用語は、疾患、病気、傷害の指標、または体の正常でない何かとして定義される。症状は、症状を経験している個体によって感じられるまたは認められるが、他者によっては容易には認められ得ない。他者は、健康管理の専門家でないものとして定義される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「徴候」という用語はまた、何かが体で正常ではないことの指標として定義される。しかし、徴候は、医師、看護師または他の健康管理の専門家によって認識され得るものとして定義される。
【0043】
がんは、ほとんどいかなる徴候または症状も引き起こし得る疾患群である。徴候および症状は、がんが存在する場所、がんのサイズ、およびがんがどれほど近くの器官または構造に影響を及ぼすかに依存する。がんが広がる(転移する)と、症状は体の異なる部分に現れ得る。
【0044】
がんは、成長するにつれて、近くの器官、血管および神経を押し始める。この圧力が、がんの徴候および症状の一部を作り出す。がんは、極めて大きく成長するまで、いかなる症状も引き起こさない場所で形成し得る。卵巣がんは、腫瘍が大きくなるか、または転移するまで、医療介入を引き起こすのに十分に重篤な徴候も症状ももたらさないため、サイレントキラーとみなされる。
【0045】
がんはまた、発熱、疲労または体重減少などの症状も引き起こし得る。これは、がん細胞が体のエネルギー供給の多くを使い果たす、または体の代謝を変化させる物質を放出するためであり得る。あるいは、がんは、これらの症状をもたらす方法で免疫系を反応させ得る。上に列挙される徴候および症状はがんで見られるより一般的なものであるが、あまり一般的ではなく、ここに列挙されていないその他多くのものが存在する。しかしながら、がんの分野で認められた徴候および症状の全てが、本開示によって企図され、包含される。
【0046】
がんを処置することは、腫瘍サイズの減少をもたらし得る。腫瘍サイズの減少はまた、「腫瘍退縮」とも呼ばれ得る。好ましくは、本開示の方法による処置後に、腫瘍サイズが、その処置前のサイズと比較して5%以上減少し;より好ましくは、腫瘍サイズが、10%以上減少し;より好ましくは、20%以上減少し;より好ましくは、30%以上減少し;より好ましくは、40%以上減少し;さらにより好ましくは、50%以上減少し;最も好ましくは、75%超またはそれより多く減少する。腫瘍サイズは、任意の再現可能な測定手段によって測定され得る。腫瘍サイズは、腫瘍の直径として測定され得る。
【0047】
がんを処置することは、腫瘍体積の減少をもたらし得る。好ましくは、本開示の方法による処置後に、腫瘍体積が、その処置前のサイズと比較して5%以上減少し;より好ましくは、腫瘍体積が、10%以上減少し;より好ましくは、20%以上減少し;より好ましくは、30%以上減少し;より好ましくは40%以上減少し;さらにより好ましくは、50%以上減少し;最も好ましくは、75%超またはそれより多く減少する。腫瘍体積は、任意の再現可能な測定手段によって測定され得る。
【0048】
がんを処置することは、腫瘍の数の減少をもたらし得る。好ましくは、処置後に、腫瘍数が、処置前の数と比較して5%以上減少し;より好ましくは、腫瘍数が、10%以上減少し;より好ましくは、20%以上減少し;より好ましくは、30%以上減少し;より好ましくは、40%以上減少し;さらにより好ましくは、50%以上減少し;最も好ましくは、75%超減少する。腫瘍の数は、任意の再現可能な測定手段によって測定され得る。腫瘍の数は、裸眼で、または特定の拡大率で目に見える腫瘍を計数することによって測定され得る。好ましくは、特定の拡大率が2倍、3倍、4倍、5倍、10倍または50倍である。
【0049】
がんを処置することは、原発腫瘍部位から離れた他の組織または器官の転移性病変の数の減少をもたらし得る。好ましくは、本開示の方法による処置後に、転移性病変の数が、処置前の数と比較して5%以上減少し;より好ましくは、転移性病変の数が10%以上減少し;より好ましくは、20%以上減少し;より好ましくは、30%以上減少し;より好ましくは、40%以上減少し;さらにより好ましくは、50%以上減少し;最も好ましくは、75%超減少する。転移性病変の数は、任意の再現可能な測定手段によって測定され得る。転移性病変の数は、裸眼で、または特定の拡大率で目に見える転移性病変を計数することによって測定され得る。好ましくは、特定の拡大率が2倍、3倍、4倍、5倍、10倍または50倍である。
【0050】
有効量の本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝産物、多形もしくは溶媒和物は、正常細胞に有意に細胞毒性ではない。例えば、治療上有効量の本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドの投与が、正常細胞の10%超で細胞死を誘導しない場合、治療上有効量の本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドは、正常細胞に有意に細胞毒性ではない。治療上有効量の化合物の投与が、正常細胞の10%超で細胞死を誘導しない場合、治療上有効量の本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドは、正常細胞の生存率に有意に影響を及ぼさない。
【0051】
細胞を本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝産物、多形もしくは溶媒和物と接触させることは、がん細胞において選択的にHDAC活性を抑制することができる。本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝産物、多形もしくは溶媒和物を、それを必要とする対象に投与することは、がん細胞において選択的にHDAC活性を抑制することができる。
悪性ラブドイド腫瘍
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)は、最も一般的には腎臓ならびに脳で始まる、軟部組織で生じるまれな小児腫瘍である。ある特定の悪性ラブドイド腫瘍の顕著な特徴は、SMARCB1(INI1としても知られている)の機能喪失である。INI1は、EZH2に対抗して作用するクロマチンリモデラー(chromatin remodeler)であるSWI/SNF調節複合体の重要な成分である。INI1陰性腫瘍は変化したSWI/SNF機能を有する。この活性は、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドによって標的とされ得る。INI1陰性腫瘍は一般的に侵襲性であり、現在の処置が十分には働かない。例えば、十分に研究されているINI1陰性腫瘍である、MRTの現在の処置は、外科手術、化学療法および放射線療法からなり、限られた有効性および有意な処置関連罹患率を伴う。米国、欧州および日本を含む主な市場でのINI1陰性腫瘍および滑膜肉腫を有する患者の年間発生率は、およそ2400件である。SMARCB1/INI1の機能喪失はまた、別のまれな、侵襲性小児腫瘍である中枢神経系の非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(AT/RT)でも起こる。
卵巣の悪性ラブドイド腫瘍MRTO(卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT))
MRTO/SCCOHTは、小児および若年女性(診断時の平均年齢は23歳である)で発症する極めてまれな、侵襲性がんである。患者の65%超が、診断の2年以内にその疾患により死亡する。MRTと同様に、これらの腫瘍は、SWI/SNF複合体サブユニット、SMARCA4の遺伝子喪失を特徴とする。SMARCA4陰性卵巣がん細胞は、EZH2阻害に選択的に感受性であり、IC50値はMRT細胞で観察されるものと類似する。例えば、SCCOHTの現在の処置は、腫瘍減量手術および白金製剤併用化学療法からなり、高い再発率を示す。鑑別診断は広範であり、3つの卵巣癌亜型:顆粒膜細胞(性索間質性)腫瘍、未分化胚細胞腫、および高異型度漿液性腫瘍を含む。
【0052】
標準的なヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色は、SCCOHTが、小型の、密に詰まった、単形性の、高度増殖性の、低分化型細胞のシート状配置を有してラブドイド様であることを示したが、IHCは、SCCOHTが、タンパク質喪失をもたらすSMARCA4遺伝子の不活性化およびSMARCA2タンパク質の非突然変異サイレンシングを特徴とすることを示唆している(例えば、その各々の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、Karnezisら、J.Pathol.2016;238:389-400、Jelinicら、Nat Genet 2014、Witkowskiら、Nat.Genet.2014;46:424-426、Ramosら、Nat.Genet.2014;46:427-429、Kupryjanczykら、Pol.J.Pathol.2013;64:238-246参照)。本開示の一部の態様は、SMARCA4喪失(例えば、突然変異の結果として)およびSMARCA2喪失(例えば、タンパク質喪失の結果として)を示す、腫瘍細胞および腫瘍、例えばSCCOHT腫瘍が、HDAC阻害に感受性であり、よって、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドで有効に処置され得ることを提供する。
類上皮肉腫
類上皮肉腫は、全ての軟部組織肉腫の1%未満に相当するまれな軟部組織肉腫である。これは、1970年に初めて明確に特徴付けられた。類上皮肉腫で見られる最も一般的な遺伝子突然変異はINI-1の喪失である(約80~90%で)。類上皮肉腫の2つのバリアントが報告されている:遠位類上皮肉腫は、良好な予後を伴い、上部および下部四肢遠位部(指、手、前腕または足)で発症し、近位類上皮肉腫は、悪い予後を伴い、四肢近位部(上腕、大腿)および体幹で発症する。類上皮肉腫は、全ての年齢群で生じるが、若年成人で最も一般的である(診断時の中央年齢は27歳である)。
【0053】
類上皮肉腫は、初期処置後の高い再発率を伴い、転移性類上皮肉腫と診断された場合、生存期間中央値は2年未満である。局所再発および転移は患者の約30~50%で起こり、転移は典型的にはリンパ節、肺、骨および脳へのものである。類上皮肉腫の処置は、好ましい処置の方法として外科的切除を含む。手術不能な腫瘍または再発後については、従来の化学療法および放射線療法が、単独で、または組み合わせて、比較的低い成功率で使用される。腫瘍学者の約50%は、類上皮肉腫が化学療法非感受性であると考えている。
【0054】
本開示は、化合物(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、その薬学的に許容される塩、そのエステル、誘導体、アナログ、プロドラッグ、または溶媒和物に関する。
【0055】
本開示は、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドが想定し得る任意の生理化学的形態を包含する。生理化学的形態の非限定的な例としては、水和形態、溶媒和形態、結晶(公知のまたはまだ開示されていない)、多形性結晶、および非晶質形態等が挙げられる。このような生理化学的形態を調製する方法は当業者によって知られるだろう。
【0056】
本開示はまた、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を処置するための医薬組成物に関する。医薬組成物は、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびその薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグ、または溶媒和物からなる群から選択される少なくとも第1の有効成分を含む。
【0057】
一部の態様では、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、その薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグ、または溶媒和物が、第1の有効成分の80~100重量%、またはその間の任意のパーセント範囲、例えば、85~100%、85~99.99%、90~99.99%、90~99.9%、92.5%~99.9%、92.5%~99.5%、95~99.5%、95~99%、または97.5%~99%等である。他の態様では、番号1a、その薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグ、または溶媒和物が、第1の有効成分の少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、少なくとも92.5重量%、少なくとも95重量%、少なくとも97.5重量%、または少なくとも99重量%である。
【0058】
薬学的に許容される塩は、有機酸または無機酸から誘導される任意の塩を含む。このような塩の例としては、それだけに限らないが、以下が挙げられる:臭化水素酸、塩酸、硝酸、リン酸および硫酸の塩。有機酸付加塩は、例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、2-(4-クロロフェノキシ)-2-メチルプロピオン酸、1,2-エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、N-グリコリルアルサニル酸、4-ヘキシルレゾルシノール、馬尿酸、2-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ラクトビオン酸、n-ドデシル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、メチル硫酸、ムチン酸、2-ナフタレンスルホン酸、パモ酸、パントテン酸、ホスファニル酸((4-アミノフェニル)ホスホン酸)、ピクリン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、タンニン酸、酒石酸、テレフタル酸、p-トルエンスルホン酸、10-ウンデセン酸、または現在公知のもしくはまだ開示されていない任意の他のこのような酸の塩を含む。このような薬学的に許容される塩が、薬理学的組成物の製剤化で使用され得ることが当業者によって理解されるだろう。このような塩は、開示される化合物を適切な酸と当業者によって知られている方法で反応させることによって調製され得る。
【0059】
好ましい実施形態では、番号1aの薬学的に許容される塩が、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびAl3+からなる群から選択される。好ましい実施形態では、番号1の薬学的に許容される塩が、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Zn2+およびAl3+からなる群から選択される。
【0060】
医薬組成物がとる物理的形態は、いくつかの因子に依存する。例えば、所望の投与方法、本開示の化合物またはその薬学的に許容される塩によってとられる物理化学的形態である。物理的形態の非限定的な例としては、固体、液体、気体、ゾル、ゲル、エアロゾル等が挙げられる。一部の実施形態では、医薬組成物が、いずれの他の添加剤も含まず、開示される化合物またはその薬学的に許容される塩からなる。
【0061】
他の実施形態では、医薬組成物が、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドとは異なる化学式の第2の有効成分を含む。一部の態様では、第2の有効成分が、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドの標的と同じまたは類似の分子標的を有する。他の実施形態では、第2の有効成分が、1つまたは複数の生化学経路に関して、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドの分子標的の上流で作用する。さらに他の実施形態では、第2の有効成分が、1つまたは複数の生化学経路に関して、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドの分子標的の下流で作用する。開示される化合物を含む医薬組成物は、製薬分野で周知の方法論を使用して調製され得る。
【0062】
一部の実施形態では、医薬組成物が、投与単位の物理的形態を修正することができる材料を含む。非限定的な例では、組成物が、化合物を閉じ込めるコーティングを形成する材料を含む。材料の非限定的な例としては、糖、シェラック、ゼラチンおよび他の不活性コーティング剤が挙げられる。
【0063】
本発明は、対象のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)関連疾患を処置する方法であって、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドまたはN-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、およびその薬学的に許容される塩、エステル、誘導体、アナログ、プロドラッグ、または溶媒和物からなる群から選択される組成物を対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0064】
ヒストンアセチル化酵素(HAT)は、ヒストンの周りのDNAのコイリングおよびアンコイリングを制御することによって遺伝子発現に影響を及ぼす。ヒストンアセチル化酵素は、これをコアヒストンのリジン残基をアセチル化して、あまり密集していない、より転写的に活性なクロマチンをもたらすことによって達成する。対照的に、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、リジン残基からアセチル基を除去して、より凝縮した、転写的に抑制されたクロマチンをもたらす。コアヒストンの末端尾部の可逆的修飾が、高次クロマチン構造のリモデリングおよび遺伝子発現の制御の主要なエピジェネティック機構を構成する。HDAC阻害剤(HDI)は、この作用を遮断し、ヒストンの高アセチル化をもたらし、それによって遺伝子発現に影響を及ぼすことができる。Thagalingam S.、Cheng K H、Lee H Jら、Ann.N.Y.Acad.Sci.983:84-100、2003;Marks P A.Richon V M、Rifkind R A、J.Natl.Cancer Inst.92(15)1210-16、2000;Dokmanovic M、Clarke C.、Marks P A、Mol.Cancer Res.5(10)981-989、2007。
【0065】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は、細胞周期停止、分化および/またはアポトーシスを誘導することによって、培養物中およびインビボで腫瘍細胞の増殖を抑制するクラスの細胞分裂阻害剤である。アセチル化および脱アセチル化は、クロマチントポロジーの調節および遺伝子転写の調節において重要な役割を果たす。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、クロマチンの多くの領域で高アセチル化ヌクレオソームコアヒストンの蓄積を誘導するが、小さな遺伝子サブセットのみの発現に影響を及ぼし、一部の遺伝子の転写活性化をもたらすが、等しいまたはより多数の他の遺伝子の抑制をもたらす。転写因子などの非ヒストンタンパク質も、様々な機能的効果を有するアセチル化の標的である。アセチル化は、腫瘍抑制因子p53および赤芽球分化誘導因子GATA-1などの一部の転写因子の活性を増強するが、T細胞因子およびコアクチベーターACTRを含む他の転写活性を抑制し得る。近年の研究は、エストロゲン受容体アルファ(ERアルファ)が、ヒストン脱アセチル化酵素阻害に応じて高アセチル化され、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤により、リガンド感受性を抑制し、転写活性化を調節し得ることを示している。他の核内受容体のアセチル化ERアルファモチーフの保存は、アセチル化が多様な核内受容体シグナル伝達機能で重要な調節役割を果たし得ることを示唆している。いくつかの構造的に多様なヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が、動物モデルにおいてインビボでほとんど毒性なしに強力な抗腫瘍有効性を示した。いくつかの化合物は、現在、単独療法としてと細胞傷害剤および分化剤と組み合わせての両方の固形がんおよび血液がんのための潜在的な処置として早期臨床開発の段階にある。
【0066】
HDAC酵素ファミリーは、それぞれの酵母オルソログとの相同性に基づいて、クラスI~IVの4つのサブクラスにグループ分けされ得る18個の遺伝子のファミリーを構成する。クラスI、IIおよびIVに属するHDACは、一般的に古典的HDACと呼ばれる、11のメンバー、すなわちHDACアイソフォーム1~11を含み、金属依存性ヒドロラーゼである。サーチュインとして知られている、7つのメンバー、すなわちSirt1~7を含むクラスIIIのHDACはNAD+依存性ヒドロラーゼである。クラスI HDACは遍在的組織発現を有する核タンパク質である。クラスIIおよびIV HDACは、核と細胞質の両方に見られ、組織特異的発現を示す。クラスII HDACファミリーは、サブクラスIIAおよびIIBにさらに細分される。クラスIIAはアイソフォームHDAC4、HDAC5、HDAC7およびHDAC9を含み、クラスIIBはアイソフォームHDAC6およびHDAC10を含む。HDAC6は、2つのタンデム脱アセチル化酵素ドメインおよびC末端ジンクフィンガードメインを含む。HDAC10はHDAC6に構造的に関連するが、1つの追加の触媒ドメインを有する。表1は、古典的HDACの細胞内位置および組織発現を表す(Witt,O.ら、Cancer Lett.、277:8-21(2008)より)。
【0067】
【0068】
HDACは、正常細胞と異常細胞の両方の増殖および分化で重要な役割を果たす。HDACは、それだけに限らないが、様々な形態のがんなどの、細胞増殖性疾患および状態を含む、増殖を伴う一部の疾患状態に関連している(Witt,O.ら、Cancer Lett.、277:8-21(2008);およびPortella A.ら、Nat.Biotechnol.、28:1057-1068(2010)に概説)。クラスIおよびII HDACは、抗がん治療の魅力的な標的として特定されている。特に、別個のクラスIおよびクラスII HDACタンパク質が、卵巣がん(HDAC1~3)、胃がん(HDAC2)および肺がん(HDAC1および3)などを含む一部のがんで過剰発現している。また、HDAC8と急性骨髄性白血病(AML)との間の相関の可能性が示唆されている。クラスII HDACタンパク質に関して、HDAC6の異常な発現が一部の乳がん細胞で誘導される。その臨床効果に基づいて、腫瘍細胞増殖を抑制し、細胞分化を誘導し、抗がん効果に関連する重要な遺伝子を上方制御するHDAC阻害剤が特定されている。HDACはまた、様々な型のがん(Bali Pら、「Inhibition of histone deacetylase 6 acetylates and disrupts the chaperone function of heat shock protein 90:A novel basis for antileukemia activity of histone deacetylase inhibitors」、J.Biol.Chem.、2005 280:26729-26734;Santo L.ら、「Preclinical activity,pharmacodynamic and pharmacokinetic properties of a selective HDAC6 inhibitor,ACY-1215,in combination with bortezomib in multiple myeloma」、Blood、2012、119(11):2579-89)、自己免疫疾患または炎症性疾患(Shuttleworth,S.J.ら、Curr.Drug Targets、11:1430-1438(2010))、認知疾患および神経変性疾患(Fischer,A.ら、Trends Pharmacol.Sci.、31:605-617(2010);Chuang,D.-M.ら、Trends Neurosci.32:591-601(2009))、線維性疾患(Pang,M.ら、J.Pharmacol.Exp.Ther.、335:266-272(2010))、原虫症(例えば、米国特許第5922837号参照)、およびウイルス疾患(Margolis,D.M.ら、Curr.Opin.HIV AIDS、6:25-29(2011))にも関係している。
【0069】
近年、がん処置および/または補助療法としてHDAC阻害剤を開発する努力がなされている。Mark P A.ら Expert Opinion on Investigational Drugs 14(12):1497-1511(2005)。化合物が作用し得る正確な機構は不明確であるが、正確な生物学的経路を解明するのを助けるためにエピジェネティック経路が研究されている。Claude Monneret、Anticancer Drugs 18(4):363-370 2007。例えば、HDAC阻害剤は、p53の腫瘍抑制因子活性の調節剤であるp21(WAFI)発現を誘導することが示されている。Rochon V M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97(18):10014-10019、2000。HDACは、網膜芽細胞腫タンパク質(pRb)が細胞増殖を抑制する経路に関与している。pRbタンパク質は、HDACがヒストンを脱アセチル化するように、HDACをクロマチンに引き付ける複合体の一部である。Brehm A.ら、Nature 391(6667):597-601、1998。HDAC1は、直接相互作用を通して心血管転写因子であるクルッペル様転写因子5を負に調節する。Matsumura T.ら、J.Biol.Chem.280(13):12123-12129、2005。エストロゲンは、エストロゲン受容体アルファ(ERα)への結合を介して、乳がんの腫瘍形成および進行に関係する分裂促進因子として十分に確立されている。近年のデータは、HDACおよびDNAメチル化によって媒介されるクロマチン不活性化が、ヒト乳がん細胞を抑制するERαの重要な要素であることを示している。Zhang Z.ら、Breast Cancer Res.Treat.94(1):11-16、2005。
【0070】
一部の態様では、組成物が、10~400mg/kg、またはその間の任意の数値、例えば10~350mg/kg、20~350mg/kg、20~300mg/kg、30~300mg/kg、30~250mg/kg、40~250mg/kg、40~200mg/kg、50~200mg/kg、50~150mg/kg、60~150mg/kg、または60~100mg/kg等で投与される。
【0071】
他の態様では、組成物が、約4時間、8時間、12時間、16時間または24時間毎に投与される。さらに他の態様では、組成物が、1~24時間毎、またはその間の任意の数値、例えば2~24時間毎、2~18時間毎、3~18時間毎、3~16時間毎、4~16時間毎、4~12時間毎、5~12時間毎、5~8時間毎等に投与される。
【0072】
一部の実施形態では、組成物が、化学療法薬、EZH2阻害剤、受容体チロシンキナーゼ阻害剤、CDK4/6阻害剤、抗原提示を増強する薬剤(「抗原提示組合せ」)、エフェクター細胞応答を増強する薬剤(「エフェクター細胞組合せ」)、腫瘍免疫抑制を低減する薬剤(「抗腫瘍免疫抑制組合せ」)、およびこれらの組合せからなる群から選択される第2の有効成分をさらに含む。
【0073】
化学療法薬の非限定的な例としては、シス-ジアンミンジクロロ白金(II)(シスプラチン)、ドキソルビシン、5-フルオロウラシル、タキソール、およびトポイソメラーゼ阻害剤、例えばエトポシド、テニポシド、イリノテカンおよびトポテカン等が挙げられる。EZH2阻害剤の非限定的な例としては、タゼメトスタット(EPZ-6438)が挙げられる。受容体チロシンキナーゼ阻害剤の非限定的な例としては、ポナチニブが挙げられる。CDK4/6阻害剤の非限定的な例としては、リボシクリブ、パルボシクリブ(PD-0332991)、アベマシクリブ(LY2835219)、およびトリラシクリブ(G1T28)が挙げられる。
抗原提示組合せ
抗原提示を増強する薬剤の非限定的な例としては、抗原提示を増強する薬剤、腫瘍細胞の溶解を増強する薬剤、食細胞を刺激する薬剤、食細胞を脱抑制する薬剤、樹状細胞を活性化する薬剤、マクロファージ(例えば、マクロファージI)を活性化する薬剤、樹状細胞を動員する薬剤、またはマクロファージ(例えば、マクロファージI)を動員する薬剤、またはワクチン等が挙げられる。ある特定の非限定的な態様では、抗原提示を増強する薬剤が腫瘍抗原提示を増強する。
【0074】
ワクチンの非限定的な例としては、細胞ベースのワクチン(例えば、Provenge.RTMなどの樹状細胞ベースのワクチン)、または抗原ベースのワクチン(例えば、MUC1と組み合わせたIL-2)等が挙げられる。腫瘍細胞の溶解を増強する薬剤の非限定的な例は腫瘍溶解性ウイルスである。食細胞を刺激する薬剤の非限定的な例は、I型インターフェロン(IFN)活性化因子、例えばTLRアゴニスト、またはRIG-I様受容体アゴニスト(RLR)等である。樹状細胞またはマクロファージを活性化および/または動員する薬剤の非限定的な例としては、二重特異性細胞エンゲージャー(cell engager)または三重特異性細胞エンゲージャー等が挙げられる。
【0075】
一部の実施形態では、抗原提示を増強する薬剤が、インターフェロン遺伝子刺激因子のアゴニスト(STINGアゴニスト)、Toll様受容体(TLR)のアゴニスト、TIM-3モジュレーター、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)阻害剤、c-Met阻害剤、TGF-ベータ阻害剤、IDO/TDO阻害剤、A2ARアンタゴニスト、腫瘍溶解性ウイルス、ワクチン、二重特異性細胞エンゲージャー、三重特異性細胞エンゲージャー、二重特異性抗体分子、三重特異性抗体分子、IDO/TDO阻害剤、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0076】
TLRの非限定的な例としては、TLR-3、TLR-4、TLR-5、TLR-7、TLR-8またはTLR-9のアゴニスト等が挙げられる。TIM-3モジュレーターの非限定的な例は抗TIM-3抗体分子である。TGF-ベータ阻害剤の非限定的な例は抗TGF-ベータ抗体である。ワクチンの非限定的な例は足場ワクチンである。一部の態様では、腫瘍溶解性ウイルスが、サイトカイン、例えばGM-CSF、またはCSF(例えば、CSF1もしくはCSF2)等を発現する。二重特異性または三重特異性細胞エンゲージャーの非限定的な例としては、Fcドメインを有するまたは有さない、CD47およびCD19に対する二重特異性または三重特異性抗体分子が挙げられる。
エフェクター細胞組合せ
エフェクター細胞応答を増強する薬剤の非限定的な例としては、リンパ球活性化因子、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を活性化および/または脱抑制する薬剤、NK細胞モジュレーター、インターロイキンまたはインターロイキンバリアント、二重特異性または三重特異性細胞エンゲージャー、NK細胞療法、NK細胞および抗原/免疫刺激因子を誘導するワクチン、免疫調節剤、T細胞モジュレーター、二重特異性T細胞エンゲージャー、IAP(アポトーシスタンパク質の阻害剤)の阻害剤、あるいはラパマイシン標的(mTOR)の阻害剤等が挙げられる。
【0077】
リンパ球活性化因子の非限定的な例としては、NK細胞活性化因子、またはT細胞活性化因子等が挙げられる。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の非限定的な例としては、NK細胞、またはT細胞等が挙げられる。NK細胞モジュレーターの非限定的な例は、NK受容体のモジュレーター(例えば、抗体分子)、例えばNKG2A、KIR3DL、NKp46、MICA、CEACAM1のモジュレーター、またはこれらの組合せ等である。インターロイキンの非限定的な例としては、IL-2、IL-15、IL-21、IL-13R、IL-12サイトカイン、またはこれらの組合せ等が挙げられる。二重特異性または三重特異性細胞エンゲージャーの非限定的な例としては、NKG2AおよびCD138の二重特異性抗体分子、またはCD3およびTCRの二重特異性抗体分子等が挙げられる。免疫調節剤の非限定的な例としては、共刺激分子の活性化因子、または免疫チェックポイント分子の阻害剤等が挙げられる。
【0078】
一部の実施形態では、T細胞モジュレーターが、チェックポイント阻害剤の阻害剤から選択されるT細胞モジュレーターである。チェックポイント阻害剤の阻害剤(例えば、抗体)から選択されるT細胞モジュレーターの非限定的な例としては、PD-1の阻害剤、PD-L1の阻害剤、TIM-3の阻害剤、LAG-3の阻害剤、VISTAの阻害剤、ジアシルグリセロールキナーゼ(DKG)-アルファの阻害剤、B7-H3の阻害剤、B7-H4の阻害剤、TIGITの阻害剤、CTLA4の阻害剤、BTLAの阻害剤、CD160の阻害剤、TIM1の阻害剤、IDOの阻害剤、LAIR1の阻害剤、IL-12の阻害剤、またはこれらの組合せ等が挙げられる。
【0079】
他の実施形態では、T細胞モジュレーターが、共刺激分子のアゴニストまたは活性化因子から選択されるT細胞モジュレーターである。共刺激分子のアゴニストまたは活性化因子から選択されるT細胞モジュレーターの非限定的な例としては、GITR、OX40、ICOS、SLAM(例えば、SLAMF7)、HVEM、LIGHT、CD2、CD27、CD28、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、CD30、CD40、BAFFR、CD7、NKG2C、NKp80、CD160、B7-H3、またはCD83リガンド等のアゴニスト抗体、その抗原結合断片、または可溶性融合体等が挙げられる。二重特異性T細胞エンゲージャーの非限定的な例は、CD3および腫瘍抗原、例えば上皮成長因子受容体(EGFR)、PSCA、PSMA、EpCAMまたはHER2等に結合する二重特異性抗体分子である。
抗腫瘍免疫抑制組合せ
腫瘍免疫抑制を低減する薬剤の非限定的な例としては、Treg、マクロファージ2および/またはMDSCの活性および/またはレベルを調節する薬剤、M2極性化、Treg枯渇および/またはT細胞動員を増加させる薬剤が挙げられる。
【0080】
腫瘍免疫抑制を低減する薬剤の非限定的な例としては、免疫調節剤、CSF-1/1R阻害剤、IL-17阻害剤、IL-1ベータ阻害剤、CXCR2阻害剤、ホスホイノシチド3-キナーゼの阻害剤、BAFF-R阻害剤、MALT-1/BTK阻害剤、JAK阻害剤、CRTH2阻害剤、VEGFR阻害剤、IL-15もしくはそのバリアント、CTLA-4阻害剤、IDO/TDO阻害剤、A2ARアンタゴニスト、TGF-ベータ阻害剤、またはPFKFB3阻害剤、免疫チェックポイント分子の阻害剤等が挙げられる。
【0081】
免疫調節剤の非限定的な例としては、共刺激分子(例えば、GITRアゴニスト)の活性化因子、または免疫チェックポイント分子(例えば、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3もしくはCTLA-4等)の阻害剤等が挙げられる。CSF-1/1R阻害剤の非限定的な例は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)の阻害剤である。ホスホイノシチド3-キナーゼの阻害剤の非限定的な例は、PI3K、例えばPI3KガンマまたはPI3Kデルタ等である。免疫チェックポイント分子の阻害剤の非限定的な例としては、PD-1の阻害剤、PD-L1の阻害剤、LAG-3の阻害剤、TIM-3の阻害剤、CEACAM(例えば、CEACAM-1、CEACAM-3および/もしくはCEACAM-5等)の阻害剤、またはCTLA-4の阻害剤等が挙げられる。
【0082】
一部の実施形態では、第2の有効成分が、抗原提示を増強する1種または複数の治療剤、エフェクター細胞応答を増強する1種または複数の治療剤、および/または腫瘍免疫抑制を低減する1種または複数の治療剤を含む。
【0083】
ある特定の実施形態では、第2の有効成分が、STINGアゴニスト、TLRアゴニスト(例えば、TLR7アゴニスト)、TIM-3モジュレーター(例えば、TIM-3阻害剤)、GITRモジュレーター(例えば、GITRアゴニスト)、PD-1阻害剤(例えば、抗PD-1抗体分子)、PD-L1阻害剤、CSF-1/1R阻害剤(例えば、M-CSF阻害剤)、IL-17阻害剤、IL-1ベータ阻害剤、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
医薬製剤
本開示はまた、本明細書に記載される(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドを少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤または担体と組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0084】
「医薬組成物」は、本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドを対象への投与に適した形態で含有する製剤である。一実施形態では、医薬組成物がバルクまたは単位剤形である。単位剤形は、例えばカプセル剤、IVバッグ、錠剤、エアロゾル吸入器の単一ポンプ、またはバイアルを含む様々な形態のいずれかである。組成物の単位用量中の有効成分(例えば、開示される化合物、またはその塩、水和物、溶媒和物もしくは異性体の製剤)の量は、有効量であり、関与する特定の処置によって変化する。当業者であれば、患者の年齢および状態に応じて、投与量に日常的な変更を行うことがしばしば必要であることを理解するだろう。投与量は投与経路にも依存する。経口、肺、直腸、非経口、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、吸入、頬側、舌下、胸膜内、髄腔内、鼻腔内などを含む、様々な経路が企図される。本開示の化合物の局所または経皮投与用の剤形は、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤を含む。一実施形態では、活性化合物が、無菌条件下で、薬学的に許容される担体、および必要とされる任意の保存剤、緩衝剤または噴霧剤と混合される。
【0085】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」という句は、健全な医学的判断の範囲内で、合理的なベネフィット/リスク比に見合って、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適した化合物、材料、組成物、担体および/または剤形を指す。
【0086】
「薬学的に許容される賦形剤」は、一般的に安全で、非毒性で、生物学的にもその他の点でも望ましくないことがない医薬組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、獣医学的使用ならびにヒトの医薬使用に許容される賦形剤を含む。本開示で使用される「薬学的に許容される賦形剤」は、1種と2種以上の両方のこのような賦形剤を含む。
【0087】
本開示の医薬組成物は、意図した投与経路と適合するように製剤化される。投与経路の例としては、非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)および経粘膜投与が挙げられる。非経口、皮内または皮下施用に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含むことができる:注射用水、食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度を調節するための薬剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調節され得る。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回用量バイアルに封入され得る。
【0088】
本開示の化合物または医薬組成物は、化学療法処置に現在使用されている周知の方法の多くで対象に投与され得る。例えば、がんを処置するために、本開示の化合物は、腫瘍に直接注射され得る、血流もしくは体腔に注射され得る、または経口服用され得る、またはパッチで皮膚を通して施用され得る。選択される用量は、有効な処置を構成するのに十分であるが、許容されない副作用を引き起こすほど高くないものであるべきである。疾患状態(例えば、がん、前がんなど)および患者の健康の状態は、好ましくは処置の間および処置後の合理的な期間、綿密に監視されるべきである。
【0089】
本明細書で使用される「治療上有効量」という用語は、特定された疾患もしくは状態を処置、改善もしくは予防する、または検出可能な治療もしくは抑制効果を示すのに有効な(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、その組成物、または医薬組成物の量を指す。効果は、当技術分野で公知の任意のアッセイ方法によって検出され得る。対象にとっての正確な有効量は、対象の体重、サイズおよび健康;状態の性質および程度;ならびに投与のために選択される治療剤または治療剤の組合せに依存する。所与の状況にとっての治療上有効量は、臨床医の技能および判断の範囲内である日常的な実験によって決定され得る。好ましい態様では、処置される疾患または状態が、それだけに限らないが、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)、卵巣のMRT(MRTO)および卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT)を含むがんである。
【0090】
本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドについては、治療上有効量が、例えば新生物細胞の細胞培養アッセイ、または動物モデル、通常はラット、マウス、ウサギ、イヌもしくはブタのいずれかで最初に推定され得る。動物モデルは、適切な濃度範囲および投与経路を決定するためにも使用され得る。次いで、ヒトでの投与のための有用な用量および経路を決定するためにこのような情報が使用され得る。治療/予防有効性および毒性は、細胞培養物または実験動物での標準的な医薬手順、例えばED50(集団の50%で治療上有効な用量)およびLD50(集団の50%に致死性の用量)によって決定され得る。毒性効果と治療効果の間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比として表され得る。大きな治療指数を示す医薬組成物が好ましい。投与量は、使用される剤形、患者の感受性、および投与経路に応じて、この範囲内で変化し得る。
【0091】
投与量および投与は、十分なレベルの活性剤を提供する、または所望の効果を維持するように調節される。考慮され得る因子は、疾患状態の重症度、対象の健康全般、対象の年齢、体重および性別、食事、投与の時間および頻度、薬物組合せ、応答感受性、ならびに治療に対する耐性/応答を含む。長期作用性医薬組成物は、特定の製剤の半減期およびクリアランス速度に応じて、3~4日毎、1週間毎、または2週間毎に1回投与され得る。
【0092】
本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドを含有する医薬組成物は、一般的に公知の方法で、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠調製、湿式粉砕、乳化、カプセル化、捕捉、または凍結乾燥プロセスによって製造され得る。医薬組成物は、薬学的に使用され得る調製物への活性化合物の処理を促進する賦形剤および/または補助剤を含む1種または複数の薬学的に許容される担体を使用して、従来の方法で製剤化され得る。当然、適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。
【0093】
注射用途に適した医薬組成物は、無菌注射溶液または分散液の即時調製のための、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および無菌粉末を含む。静脈内投与については、適切な担体が、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、N.J.)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)を含む。全ての場合で、組成物は、無菌でなければならず、容易な注射可能性(syringeability)が存在する程度に流動性であるべきである。組成物は、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合、必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、および塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。注射用組成物の延長された吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによってもたらされ得る。
【0094】
無菌注射溶液は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙される成分のうちの1つまたはその組合せを含む適切な溶媒に組み込み、引き続いて濾過滅菌することによって調製され得る。一般的に、分散液は、活性化合物を、基礎分散媒および上に列挙されるものの必要な他の成分を含有する無菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。無菌注射溶液を調製するための無菌粉末の場合、調製方法は、その事前に無菌濾過された溶液から有効成分と任意の追加の所望の成分の粉末をもたらす真空乾燥および凍結乾燥である。
【0095】
経口組成物は一般的に、不活性希釈剤または食用の薬学的に許容される担体を含む。これらは、ゼラチンカプセルに封入または錠剤に圧縮され得る。経口治療投与の目的で、活性化合物は、賦形剤と共に組み込まれ、錠剤、トローチまたはカプセル剤の形態で使用され得る。経口組成物はまた、流体担体中の化合物が経口施用され、口の中でグチュグチュ回され(swished)、吐き出される、または飲み込まれる洗口液として使用するための流体担体を使用して調製され得る。薬学的に適合性の結合剤および/またはアジュバント材料が組成物の一部として含められ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチなどは、以下の成分、または同様の性質の化合物のいずれかを含有することができる:微結晶セルロース、トラガントガムもしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、Primogelもしくはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはSterotesなどの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの滑剤;スクロースもしくはサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチルもしくはオレンジ香味剤などの香味剤。
【0096】
吸入による投与については、化合物が、適切な噴霧剤、例えば二酸化炭素などのガスを含有する加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0097】
全身投与は経粘膜または経皮手段によることもできる。経粘膜または経皮投与については、透過されるバリアに適した浸透剤が製剤に使用される。このような浸透剤は、当技術分野で一般的に公知であり、例えば、経粘膜投与については、界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、点鼻薬または坐剤の使用を通して達成され得る。経皮投与については、活性化合物が、当技術分野で一般的に公知の軟膏、膏薬、ゲルまたはクリームに製剤化される。
【0098】
活性化合物(すなわち、本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド)は、化合物を体からの急速な排除から保護する薬学的に許容される担体、例えばインプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤を使用して調製され得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーが使用され得る。このような製剤を調製する方法は当業者に明らかであるだろう。材料はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incから商業的に入手され得る。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体により感染細胞に標的化されるリポソームを含む)も薬学的に許容される担体として使用され得る。これらは、例えば、米国特許第4522811号に記載されるように、当業者に公知の方法によって調製され得る。
【0099】
経口組成物または非経口組成物を、投与の容易さおよび投与量の均一性のために単位剤形で製剤化することが特に有利である。本明細書で使用される単位剤形は、処置される対象にとって単位投与量として適した物理的に離された単位を指し;各単位は、必要な医薬担体と合わせて所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性化合物を含有する。本開示の単位剤形についての詳述は、活性化合物の特有の特性および達成される特定の治療効果によって指示され、これらに直接的に依存する。
【0100】
治療用途では、本開示により使用される医薬組成物の投与量が、選択される投与量に影響を及ぼす数ある因子の中でも、薬剤、レシピエント患者の年齢、体重および臨床状態、ならびに治療を投与する臨床医または開業医の経験および判断に応じて変化する。一般的に、用量は、腫瘍の成長の遅延、好ましくは退縮をもたらす、およびまた好ましくはがんの完全な退縮を引き起こすのに十分であるべきである。医薬剤の有効量は、臨床医または他の資格のある観察者によって認められる客観的に特定可能な改善をもたらす量である。例えば、患者の腫瘍の退縮は、腫瘍の直径を参照して測定され得る。腫瘍の直径の減少は退縮を示す。退縮はまた、処置停止後に腫瘍が再発することができないことによっても示される。本明細書で使用される場合、「投与に有効な方法」という用語は、活性化合物が対象または細胞で所望の生物学的効果をもたらす量を指す。
【0101】
医薬組成物は、投与についての説明書と合わせて、容器、パックまたはディスペンサーに含められ得る。
本開示はさらに、開示される化合物が想定し得る任意の生理化学的形態または立体化学的形態を包含する。このような形態は、ジアステレオマー、ラセミ体、単離されたエナンチオマー、水和形態、溶媒和形態、全ての多形性結晶形態を含む、任意の公知のもしくはまだ開示されていない結晶または非晶質形態を含む。非晶質形態は、識別可能な結晶格子を欠き、したがって、構造単位の規則正しい配列を欠く。多くの医薬化合物は非晶質形態を有する。このような化学的形態を調製する方法は当業者に周知である。
【0102】
本開示の化合物は、可能な立体異性体を含み、ラセミ化合物だけでなく、個々のエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーも同様に含む。化合物が単一エナンチオマーまたはジアステレオマーとして望まれる場合、これは立体特異的合成によって、または最終生成物もしくは任意の好都合な中間体の分割によって得られ得る。最終生成物、中間体または出発物質の分割は、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって行われ得る。例えば、「Stereochemistry of Organic Compounds」、E.L.Eliel、S.H.WilenおよびL.N.Mander(Wiley-lnterscience、1994)を参照されたい。
【0103】
開示される化合物のラセミ体、個々のエナンチオマーまたはジアステレオマーは、現在公知のまたはまだ開示されていない任意の方法を通して特異的合成または分割によって調製され得る。例えば、化合物は、光学活性酸を使用した塩形成を通したジアステレオマー対の形成によってエナンチオマーに分割され得る。エナンチオマーは分別結晶され、遊離塩基は再生される。別の例では、エナンチオマーがクロマトグラフィーによって分離され得る。このようなクロマトグラフィーは、キラルカラムでのHPLCなどの、エナンチオマーを分離するのに適した現在公知のまたはまだ開示されていない任意の適切な方法であり得る。
【0104】
本開示の化合物は、塩をさらに形成することができる。これらの形態の全てもまた、特許請求される開示の範囲内で企図される。
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」は、親化合物がその酸塩または塩基塩を調製することによって修飾されている本開示の化合物の誘導体を指す。薬学的に許容される塩の例としては、それだけに限らないが、アミンなどの塩基性残基の鉱酸塩または有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機塩などが挙げられる。薬学的に許容される塩は、例えば非毒性無機酸または有機酸から形成される親化合物の従来の非毒性塩または第四級アンモニウム塩を含む。例えば、このような従来の非毒性塩は、それだけに限らないが、2-アセトキシ安息香酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、酢酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、炭酸、クエン酸、エデト酸、エタンジスルホン酸、1,2-エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリコリルアルサニル酸、ヘキシルレゾルシン酸、ヒドラバミン(hydrabamic)酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリルスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナプシル(napsylic)酸、硝酸、シュウ酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、ポリガラクツロン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、塩基性酢酸、コハク酸、スルファミン酸、スルファニル酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸、および一般的に生じるアミン酸、例えばグリシン、アラニン、フェニルアラニン、アルギニン等から選択される無機酸および有機酸から誘導されるものを含む。
【0105】
薬学的に許容される塩の他の例としては、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ピルビン酸、マロン酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、ケイヒ酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert-ブチル酢酸、ムコン酸などが挙げられる。本開示はまた、親化合物中に存在する酸性プロトンが、金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類イオンもしくはアルミニウムイオンによって置き換えられる;またはエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどの有機塩基と配位すると形成される塩を包含する。
【0106】
薬学的に許容される塩への全ての言及が、同塩の、本明細書で定義される溶媒付加形態(溶媒和物)または結晶形態(多形)を含むことが理解されるべきである。
本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドは、エステル、例えば薬学的に許容されるエステルとしても調製され得る。例えば、化合物中のカルボン酸官能基は、その対応するエステル、例えばメチルエステル、エチルエステルまたはその他のエステルに変換され得る。また、化合物中のアルコール基は、その対応するエステル、例えば酢酸エステル、プロピオン酸エステルまたはその他のエステルに変換され得る。
【0107】
本開示の(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドは、プロドラッグ、例えば薬学的に許容されるプロドラッグとしても調製され得る。「プロ-ドラッグ」および「プロドラッグ」という用語は、本明細書で互換的に使用され、インビボで活性親薬物を放出する任意の化合物を指す。プロドラッグは医薬品の多数の望ましい品質(例えば、溶解度、バイオアベイラビリティ、製造等)を増強することが知られているので、本開示の化合物はプロドラッグ形態で送達され得る。よって、本開示は、ここで特許請求される化合物のプロドラッグ、同プロドラッグを送達する方法および同プロドラッグを含有する組成物を網羅することを意図している。「プロドラッグ」は、このようなプロドラッグが対象に投与されると、インビボで本開示の活性親薬物を放出する任意の共有結合した担体を含むことを意図している。本開示のプロドラッグは、修飾が、日常的な操作で、またはインビボで、親化合物へと切断されるように、化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製される。プロドラッグは、ヒドロキシ、アミノ、スルフヒドリル、カルボキシまたはカルボニル基が、インビボで切断されて、それぞれ遊離ヒドロキシル、遊離アミノ、遊離スルフヒドリル、遊離カルボキシまたは遊離カルボニル基を形成し得る任意の基に結合している、本開示の化合物を含む。
【0108】
プロドラッグの例としては、それだけに限らないが、本開示の化合物中のヒドロキシ官能基のエステル(例えば、酢酸エステル、ジアルキルアミノ酢酸エステル、ギ酸エステル、リン酸エステル、硫酸エステルおよび安息香酸エステル誘導体)およびカルバメート(例えば、N,N-ジメチルアミノカルボニル)、カルボキシル官能基のエステル(例えば、エチルエステル、モルホリノエタノールエステル)、アミノ官能基のN-アシル誘導体(例えば、N-アセチル)N-マンニッヒ塩基、シッフ塩基およびエナミノン、ケトンおよびアルデヒド官能基のオキシム、アセタール、ケタールおよびエノールエステルなどが挙げられる。Bundegaard,H.、Design of Prodrugs、1-92頁、Elesevier、New York-Oxford(1985)を参照されたい。
【0109】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド、またはその薬学的に許容される塩、エステルもしくはプロドラッグは、経口、経鼻、経皮、肺、吸入、頬側、舌下、腹腔内、皮下、筋肉内、静脈内、直腸、胸膜内、髄腔内および非経口投与される。一実施形態では、化合物が経口投与される。当業者であれば、ある特定の投与経路の利点を認識するだろう。
【0110】
化合物を利用する投与レジメンは、患者の種類、種、年齢、体重、性別および医学的状態;処置される状態の重症度;投与経路;患者の腎機能および肝機能;ならびに使用される特定の化合物またはその塩を含む様々な因子によって選択される。通常の技能を有する医師または獣医師は、状態の進行を防止する、無効にするまたは停止するのに必要な薬物の有効量を容易に決定し、処方することができる。
【0111】
投与レジメンは、本開示の化合物の毎日投与(例えば、24時間毎)であり得る。投与レジメンは、連続日、例えば少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6または少なくとも7連続日にわたる毎日投与であり得る。投与は、1日(24時間の期間当たり)2回以上、例えば1日2回、3回または4回であり得る。投与レジメンは、毎日投与に投与のない少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日または少なくとも6日が続き得る。
【0112】
本開示の開示される化合物の製剤化および投与のための技術は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、19.sup.th edition、Mack Publishing Co.、Easton、Pa.(1995)に見出され得る。ある実施形態では、本明細書に記載される化合物、およびその薬学的に許容される塩が、薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせて医薬調製物で使用される。適切な薬学的に許容される担体は、不活性固体充填剤または希釈剤および無菌水溶液または有機溶液を含む。化合物は、本明細書に記載される範囲の所望の投与量をもたらすのに十分な量でこのような医薬組成物中に存在する。
【0113】
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)を処置することを含む、がんを処置する本開示の方法。好ましい実施形態では、本開示の方法が、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)を有する対象を処置するために使用される。MRTOは卵巣高カルシウム血症型小細胞がん(SCCOHT)とも呼ばれ得る。ある特定の実施形態では、MRTOもしくはSCCOHTおよび/または対象がSMARCA4陰性を特徴とする。本明細書で使用される場合、SMARCA4陰性細胞は、SMARCA4遺伝子の転写、SMARCA4転写産物の翻訳を防止する、および/またはSMARCA4タンパク質の活性を低下させる/抑制する、SMARCA4遺伝子、対応するSMARCA4転写産物(もしくはそのcDNAコピー)、またはSMARCA4タンパク質の突然変異を含む。細胞のSMARCA4陰性状態は、その細胞をEZH2駆動発癌に感受性にする。
【0114】
本開示の方法は、SMARCA4陰性である、またはSMARCA4陰性であり得る1つもしくは複数の細胞を有する対象を処置するために使用され得る。SMARCA4発現および/またはSMARCA4機能は、当業者に周知のものを含む、蛍光および非蛍光免疫組織化学(IHC)法によって評価され得る。ある特定の実施形態では、本方法が、(a)対象から生体試料を得るステップと;(b)生体試料またはその一部を、SMARCA4に特異的に結合する抗体と接触させるステップと;(c)SMARCA4に結合している抗体の量を検出するステップとを含む。あるいは、またはさらに、SMARCA4発現および/またはSMARCA4機能は、(a)対象から生体試料を得るステップと;(b)生体試料またはその一部由来のSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列を配列決定するステップと;(c)SMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列がSMARCA4タンパク質の発現および/または機能に影響を及ぼす突然変異を含むかどうかを決定するステップとを含む方法によって評価され得る。SMARCA4発現またはSMARCA4の機能は、場合により、同じ対象由来の生体試料を使用して、SMARCA4に結合している抗体の量を検出することによって、およびSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列を配列決定することによって評価され得る。
【0115】
本明細書で使用される全てのパーセンテージおよび比は、特に指示しない限り、重量による。
本開示の他の特徴および利点は様々な例から明らかである。提供される例は、本開示の実施で有用な様々な成分および方法論を例示する。これらの例は、特許請求される開示を限定しない。本開示に基づいて、当業者は、本開示を実施するのに有用な他の成分および方法論を特定し、使用することができる。
【実施例】
【0116】
本明細書に開示される本発明がより効率的に理解され得るために、例が以下で提供される。これらの例は単なる例示目的のものであり、本開示をいかなる方法でも限定するものと解釈されるべきではないことが理解されるべきである。
【0117】
実施例1
細胞生存率アッセイ
細胞生存率をPromega(Madison、WI)製のCellTiter-Glo(登録商標)細胞生存率アッセイによって測定した。CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assayは、代謝的に活性な細胞の存在を伝える、存在するATPの定量に基づいて、培養物中の生細胞の数を決定する均一法である。処理後、CellTiter-Glo(登録商標)を処理ウェルに添加し、37℃でインキュベートする。Molecular Devices Spectramaxマイクロプレートリーダーを使用して、発光値を測定した。
単一薬剤試験
細胞を70%コンフルエントまで増殖させ、トリプシン処理し、計数し、96ウェル平底プレートに最終濃度2.5×103~5×103細胞/ウェルで播種した(0日目)。細胞を増殖培地中で24時間インキュベートさせた。試験薬剤または標準薬剤による処理を1日目に開始し、72時間続けた。72時間時点で、処理剤含有培地を除去した。上記のCellTiter-Glo(登録商標)細胞生存率アッセイによって生細胞数を定量した。これらの試験の結果を使用して各化合物についてのIC50値(対照の50%まで細胞増殖を阻害する薬物の濃度)を計算した。
データ収集
単一薬剤および組合せ試験について、各実験のデータを収集し、以下の計算を使用して細胞増殖%として表した:
細胞増殖%=(f試験/fビヒクル)×100
式中、f試験は試験試料の蛍光であり、fビヒクルは薬物が溶解しているビヒクルの蛍光である。以下の式を使用して、Prism 6ソフトウェア(GraphPad)を使用して、用量反応グラフおよびIC50値を作成した:
Y=(上部-底部)/(1+10((logIC50-X)-ヒルスロープ))
式中、Xは濃度の対数であり、Yは反応である。Yは底部で始まり、シグモイド形状で上部まで行く。
結果
SCCOHTはSMARCA2およびSMARCA4喪失を特徴とする。試験した3種のSCCOHT細胞株(すなわち、BIN67、COV434およびSCCOHT-1)は、51~293nMのIC50値で(表2参照)、細胞増殖アッセイにおいて、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドに感受性であった。
【0118】
【0119】
二重SMARCA2およびSMARCA4欠損細胞株(すなわち、A204、G401、G402、H522およびA427)も、50~200nMのIC
50値で(
図1参照)、細胞増殖アッセイにおいて、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミドに感受性であることが分かった。
【0120】
実施例2
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)によるBIN-67細胞のインビトロ処理は、SMARCA2遺伝子再発現の濃度および時間依存的誘導を実証した(
図2参照)。
【0121】
(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)によるBIN-67細胞のインビトロ処理はまた、SMARCA2タンパク質発現の濃度および時間依存的誘導も実証した(
図3参照)。
【0122】
実施例3
SCCOHT異種移植モデル(BIN-67)における腫瘍のインビボ処理を評価した。SCCOHT細胞株BIN-67からのインビボ異種移植腫瘍に、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)を60日間投与した。処理された腫瘍は、ビヒクル対照腫瘍と比較して体積の統計学的に有意な減少を示した(
図4参照)。
【0123】
実施例4
悪性ラブドイド腫瘍異種移植モデル(G401)における腫瘍のインビボ処理を評価した。MRT株G401からのインビボ異種移植腫瘍に、(S)-N-ヒドロキシ-2-(2-(4-メトキシフェニル)ブタンアミド)チアゾール-5-カルボキサミド(すなわち、GB-3103)を30日間投与した。処理された腫瘍は、ビヒクル対照腫瘍と比較して体積の統計学的に有意な減少を示した(
図5参照)。
【0124】
実施例5
SWItch/スクロース非発酵性(SWI/SNF)複合体のSMARCA4/SMARCA2 ATPアーゼの二重喪失が、卵巣高カルシウム血症型小細胞癌(SCCOHT)およびその他の腫瘍で報告されている。SMARCA4の喪失は不活性化突然変異の結果であり、SMARCA2の喪失はmRNA発現の非存在から生じる。SMARCA4またはSMARCA2のいずれかの回復は、これらのがんの成長を阻害し得る。本発明者らは、SWI/SNF複合体が欠損したヒトSCCOHTおよびその他の細胞株に対する、新規な、構造的に強固で、強力なクラスI/IIb HDAC阻害剤、GB-3103の活性を評価した。GB-3103は、ヒトSCCOHT株BIN67(51nM)、COV434(35nM)およびSCCOHT-1(293nM)(
図6参照)、ならびにSWI/SNF欠損ラブドイドおよび肺腫瘍株A204(95nM)、A427(174nM)、G401(138nM)、G402(71nM)、H522(102nM)(
図1参照)に対して低いnM IC
50値で強力な抗増殖活性を示す。
【0125】
GB-3103によるヒトBIN67 SCCOHT細胞株の72時間の処理は、mRNAレベルとタンパク質レベルの両方でのSMARCA2発現の強力な濃度依存的および時間依存的誘導を明らかにした(
図2および
図3参照)。5mg/kg、QDでのGB-3103によるG401ヒト悪性ラブドイド腫瘍異種移植片を有するマウスの処置は、ビヒクル対照と比較して70%の腫瘍増殖抑制(TGI)をもたらした(P<0.05)(
図5参照)。5mg/kgおよび10mg/kg、QDでのGB-3103によるBIN67ヒト腫瘍異種移植片を有するマウスの処置は、処置開始後2週間で、それぞれ、26%および33%の平均腫瘍退縮をもたらした(
図4参照)。
【0126】
実施例6
GB-3103で処理されたBIN67細胞のRNA-Seq分析は、GB-3103がDNA複製およびmRNA安定性に影響を及ぼすと同時に、MHCクラスIIタンパク質の発現を誘導することを明らかにした(
図8および
図9参照)。
【0127】
実施例7
MHCクラスII発現およびチェックポイント阻害剤療法に対する応答の重要性を考えて、本発明者らは、同系CT-26マウス結腸がんモデルにおいて、単独でのならびに抗mPD-1抗体および抗mPD-L1抗体と組み合わせた、GB-3103の活性を試験した。GB-3103は、単一薬剤として93%TGIを誘導した。しかしながら、腫瘍成長は15日目に再開し、26日目まで増加し続けた(
図7参照)。驚くべきことに、GB-3103は、抗mPD-1または抗mPD-L1(すなわち、PD-1またはPD-L1に対する抗体)のいずれかと組み合わせると、確立されたCT-26腫瘍の退縮を引き起こし、GB-3103の強力な免疫調節活性および免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて達成される相乗活性を実証した。
【0128】
実施例8
GB-3103の活性をHDACアイソフォーム1~11で決定し、表3に示す。GB-3103は、HDAC3の強力なナノモル濃度以下阻害を示す強力なHDACアイソフォーム制限阻害剤およびHDAC6の不可逆的なナノモル濃度以下阻害剤である最新世代のエピジェネティック免疫調節剤である。汎HDAC阻害と対照的に、アイソフォーム制限HDAC阻害は免疫特権を無効にする。
HDAC3は以下の免疫機能を増強するための重要な標的として台頭してきた:
・Treg抑制機能の低下
・腫瘍上のナチュラルキラー細胞リガンド発現の増加
・マクロファージ宿主防御活性の増強
・PD-L1発現の上方制御および抗PD1処理に対する感受性増加
HDAC6阻害は以下を含む強力な免疫調節利点を有する:
・抗炎症性サイトカインIL-10の発現の低下
・MHCクラスI/II遺伝子の発現増強および公知の腫瘍抗原の発現増加
・黒色腫患者T細胞の免疫抑制の低減および免疫機能の増強
GB-3103は、DNA修復に対する強力な効果を発揮し、クラスI/II MHCタンパク質および多数の腫瘍抗原の発現を誘導する。GB-3103は、BIN67 SCCOHT腫瘍の強力な単一薬剤退縮を実証し、SMARCA4/SMARCA2二重喪失ATPアーゼを共に有するG-401腫瘍の成長を抑制する。GB-3103は、免疫無防備状態のマウスにおいて単独でおよび抗PD-1/抗PD-L1チェックポイントモジュレーターと組み合わせて強力な活性を示し、腫瘍の再成長を防止する腫瘍メモリー応答を作り出す。GB-3103は、SMARCA4/SMARCA2の二重喪失を有するものを含む、ゲノム的に定義されたがんを有する患者において、臨床開発のためのIND可能化研究に向けて前進している。
【0129】
GB-3103は、SWI/SNF欠損がんに対する強力な抗がん活性を有する新規なエピジェネティック免疫調節剤である。処置が現在存在しないこれらの遺伝的に定義されたまれながんにおけるGB-3103の臨床開発は、承認がより小さな単一群臨床試験に基づき得る画期的な治療薬の指定のための特有の臨床的な規制上の機会を提供する。
【0130】
【0131】
本明細書で引用される全ての刊行物および特許文献は、あたかもそれぞれのこのような刊行物または文献が参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別的に示されるように、参照により本明細書に組み込まれる。刊行物および特許文献の引用は、いずれかが関連する先行技術であることの自認として意図されているのではなく、その内容または日付についての自認も構成しない。本発明はここで書面による明細によって記載されているが、当業者であれば、本発明が様々な実施形態で実施され得ること、ならびに前記説明および以下の例が例示目的のものであり、以下の特許請求の範囲の限定ではないことを認識するだろう。特に明記されていない限り、または文脈から明らかでない限り、細胞株または遺伝子の名称が使用される場合、略語および名称は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)またはアメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)の命名法に準拠している。
【0132】
本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱することなく、他の具体的な形態で具体化され得る。したがって、前記実施形態は、全ての点で、本明細書に記載される本発明に対する限定ではなく例示的なものとみなされるべきである。よって、本発明の範囲は、前記説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の等価性の意味および範囲内に入る全ての変化がその中に包含されることが意図される。
【国際調査報告】